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『ジオンの残光』 サモン・サーヴァントを行ったルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、この上なく困惑していた。 数度の爆発を経て召喚に成功したものの、現れた物は、この世界にある物とはかけ離れた物だったからだ。 「なに…?これ」 目の前に現れたのは80メイルはあろうかという巨大な緑色の物体。 だが、その巨体の半分以上を焼け焦がせ異臭を放ち、所々からは火花が巻き上がっている。 「これ…ゴーレム?」 脚は付いていない。ならば飛ぶのかとも思ったが、全く動く気配は無い。 初めはその巨体に驚いていた他の生徒達も、動かない物を召喚したルイズを笑い始めた。 「さすが『ゼロ』だな!壊れたゴーレムを召喚するなんて!」 「ミスタ・コルベール…あの!もう一度召喚させてください!」 「それはダメだ。ミス・ヴァリエール。春の使い魔召喚の儀式は神聖なものだ。好む好まざるに関わらず、これを使い魔にするしかないのだよ」 そうは言うが、コルベールの気は重い。 不名誉極まりない『ゼロ』という二つ名を持つ彼女が数度の爆発を経て召喚に成功したのだが、物が物だけに困っていた。 個人的には再召喚させてもいいという心情だったが、公平を期すためにはそれはできない。 「これは伝統なんだ。ミス・ヴァリエール…例外は認められない。これは…」 そう言って、その物体を指差すが、改めて息を呑む。 表面をかなりの高熱で焼かれたらしく、気泡が現れている部分もある。 こんな大質量の金属をどうやって焼いたのだろうかと、興味を持ったが、すぐに目の前の落ち込んでいる少女の事を考えて自己嫌悪に陥りかけた。 「…今は動かないかもしれないが、呼び出された以上、君の使い魔にならなくてはならない」 「そんなぁ…」 がっくりと肩を落としたルイズが『それ』に近付いたが、契約するにもどこにやればいいのかサッパリ分からない。 これが動いてくれれば、文句無しに喜んで契約するとこなのだが… とりあえず、『フライ』を使ったコルベールに掴まり、頭らしき方に近付いたのだが その時、沈黙していた頭部から一条の光が放たれた。 「あれは…目か?どうやらまだ動くようだね」 一つ目という特異な目だったが、動く事にほんの少し安堵した。 だが、安堵したのも束の間、頭部が後退し、すぐ下の部分が様々な動きを見せ内部が開け放たれた。 「…ミスタ・コルベール。あそこにいるのは一体…」 「私にもよく分からん…だが、怪我をしているようだ」 中に居たのは、妙なスーツで全身を覆った人。 だが、腹部から血を流していた。 (いいか…一人でも突破し…アクシズ艦隊へたどり着くのだ!) 周囲に浮かぶ、様々な巨人に向け言葉を放ち続ける男が一人。 (我々の真実の戦いを、後の世に伝えるために!) その言葉を合図として、周りの巨人が加速し一直線に突き進む。 ただ、ひたすらに、居並ぶ敵艦隊の向こうに存在するはずのアクシズ艦隊を目指して。 (我々が尽きようとも、いつの日か、貴様らに牙を剥くものが現れる!それを忘れるな!!) 壁というべき艦隊と突き抜け、周囲を見渡すが、すでに周りには自分しか存在していなかった。 (最後の…一人か…) そう思うと、声にならない叫びをあげ目の前の艦へと突き進む。 迷いなどあろうはずもない。成すべき事を成し、後に続く者が現れる事を信じて機を推し進めた。 視界が赤く染まり、全ての音が途切れる。 だが、その赤く染まっていた視界が再び開かれ、ぼやけた視界に入った物は…緑色の長い髪だった。 ミス・ロングビル。オールド・オスマンによって採用された秘書であり、理知的で物静かな姿勢から一部生徒達からも人気がある人だ。 もっぱらの悩みの種は、そのオスマンによるセクハラであるのだが 『ゼロ』の二つ名を持つルイズが召喚した大破したゴーレムの中の人の様子を見るようにとオスマンに言われて医務室にやってきている。 「まったく…こんな事する暇があるなら、宝物庫の事でも調べときたいんだけどね」 秘書にあるまじき言葉ではあるが、本職が秘書でないのだから仕方ない。 とりあえずは異常なしとして、戻る事にしたのだが、背後から恐ろしいまでの殺意と咆哮を受け固まった。 「シーマ!?貴様ァーーーーーーーーーー!!!閣下を殺害しておきながら、よく私の前にその姿を晒せたなッ!!」 なに?シーマ?誰?てか何で!? そう思うまもなく一気に組み伏せられる。早い。杖を抜く暇すら無かった。 「お、落ち着いてください!ここはトリステイン魔法学校で…」 必死こいて後ろへと顔を向ける。 長く纏められた銀髪が印象的だったが、おっそろしい程に怒り猛っている。 しばらく視線が交錯したが、手の力が少し緩んだ。 目覚めたてで、思考が鈍っており、そこに仇敵であるシーマ・ガラハウを彷彿とさせる緑の長い髪が目に入ったからなのだが よくよく考えてみれば、サラミスに特攻したはずの自分を、シーマが拾うはずもないと思い、とりあえず状況を掴む事にした。 あの状況で命があったとすれば、十中八九ここは連邦の艦だからだ。 「シーマではないようだが…捕虜というわけか?」 捕虜であるにしろ、このまま黙っているわけにはいかない。 このまま事が進めは、宇宙の晒し者になる事は確実なのだ。 最悪、目の前の女を人質にMSなり戦闘機なりを強奪する気でいた。 「一先ず、話を聞いてください。ここはトリステイン魔法学校で、あなたは捕虜などではありませんから」 「トリステイン…?艦の名か…?いや待て、学校だと。という事はコロニーか?だが、サイド3にもサイド6にもそのようなコロニーは無かったはずだが」 サイド1.2.4.5の修復されたコロニーのどれかとも思ったが、少なくとも、そんな名のコロニーは無い。 それ以前に『魔法』という単語も聞こえたのだが、あえて無視する。 もちろん、状況が掴めない以上は、離す気は無い。 連邦の勢力下だとして、星の屑の中心人物である『ソロモンの悪夢』を、そう簡単に逃がすはずは無いと判断した。 そうしていると、扉が開いて、明らかに軍人ではないような桃色の髪の少女が入ってきた。 「……この…!ミス・ロングビルになにやってんのよ!バカーーーーーー!!」 叫びと共に放たれる蹴り。 だが、間合いも遠い上に、素人の蹴りだ。 不意を付かれでもしない限り本職の軍人が食らうようなものではない。 軽くいなすと支えている脚を払い転倒させた。 「…ロングビルと言ったな。一つだけ聞こう。ここは連邦の勢力下か?」 「連邦…?少なくともトリステインは王国ですが」 「王国だと?ふざけた事を」 そう思うのも無理は無い。 地球の全域は、アフリカなどが影響が弱いぐらいで、全てが連邦の勢力下だ。 宇宙にしても、サイド3のジオン共和国。月のフォン・ブラウンとグラナダ。中立であるサイド6のリーア。そして遠く離れたアクシズ。 少なくとも王国などというものは一切無い。 「とにかく…離していただかない事には話もできませんので…できれば」 倒れて目を回している少女とロングビルと呼ばれる女を一瞥する。 少なくとも、軍関係の者ではないようなので、一先ず離す事にした。 そこで自分の状態に気付く。 無いのだ。ノーマルスーツの上半身部分が。 バイザーが砕けかかったヘルメットは側にあったが、上半身部分が綺麗に切り取られたかのように無くなっている。 そして、銃創と破片によって受けた傷も無い。 「怪我をされていて、着ていたものが脱がせず治療できないとのことでしたので、切り取らせていただきました」 訝しげにしていた様子に気付いたのか、ロングビルが答えるが、切り取ったというとこに納得がいかない。 宇宙にしろ地球にしろ、少なくとも医療関係者がノーマルスーツの着脱法を知らないはずが無い。 さすがに、妙だと思っていると、目を回していた少女が目を覚まし、起きるや否や叫んだ。 「へ、平民が…使い魔が…主人にいきなりなにすんのよ!!」 平民?使い魔?そんな疑問が浮かんだが、状況がサッパリ掴めない。 「名前は!?平民でも名前ぐらいあるんでしょ?」 そう聞かれたが、この規律の塊とも言うべき男からすれば、まず第一に口の利き方がなってない。 「人に名を聞くときは、聞くほうが先に名乗るべきだが」 ぐぅ!と言葉に詰まる。相手は平民だが正論だ。おまけに妙に威圧感がある。 「…ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ」 「アナベル・ガトーだ」 「アナベル?女みたいな名前」 アナベルが男の名前でなにが悪いんだ!俺は男だよ!! 最も信頼する部下の声でそんな言葉が聞こえたが多分幻聴か何かだろう。 少なくとも、名前関係で人と揉め事を起こした事は無い。 一応の自己紹介が済んだが、最も大事な事に気付いた。 「…ノイエ・ジールはどうなった」 どうも今一、記憶がハッキリしない。アクシズ艦隊目指し、追撃艦隊に突入したところまでは覚えているのだが。 「ノイエ・ジール?緑色の大っきいやつ?それなら、草原に転がってるけど、なんなのよあれ」 「馬鹿な!宙間戦闘用MAが転がっているだと!?」 草原というからには、ここが艦ではないという事は分かった。 ならば、コロニーという事になるのだが、転がっているというのは理解しがたい事だ。 漂流したのならば、少なくともノイエ・ジールはコロニーの外にあるのだから。 ルイズに案内され外に出たが、ここがコロニーではないという事を目にする。 コロニーにあるべき物が全く無いからである。 上空に見える地面も無ければ、河も無い。 そして、草原に転がっている半壊状態のノイエ・ジール。 さらに、その上を浮いている人。 「なん…だと!?」 さすがの、ソロモンの悪夢も、その光景には言葉が出ない。 まだ05が飛んでいるといった方が信じられるだろう。重力に囚われたような環境で人が飛ぶなどとは。 「おお、気が付いたのかね。三日も意識が無かったから、どうしたものかと思っていたのだが、無事なようでよかった」 上空から声がかけられたが、返事ができない。 「一体これは、なんなのかね!表面を見た事も無い金属で覆っている!実に興味深い!」 「…まずは、それから離れてもらおう」 ノイエ・ジールはアクシズから寄与された試作MAである。軍事機密の塊と言ってもいい。 ノーマルスーツの腰に付けられている拳銃を抜くと、その銃口を向けた。 だが、拳銃を向けても離れようとはしない。これが武器であるかとも分からないかのように。 一発、上空に向けトリガーを引く。威嚇だが、これで次は無い。 「うわ!な、なんの音だ!」 「次は無いと思え」 「銃…なのかね?それは」 至近距離で銃声を聞いた、ルイズが耳を押さえているが。関係無い。 不承不承の体でコルベールが降りてきたが、それに銃口を向ける。 「私を回収してくれた事には一応感謝しておく。だが…どういうわけだ?」 「きみは、そこのミス・ヴァリエールの使い魔として召喚されたのだよ。手に使い魔のルーンが刻まれているだろう?」 左手を見るが、確かになにやら文字のようなものが刻まれている。 おまけに、なにやら光っている。 さすがにこれは反応せざるを得ない。 「貴様…!私に何をした!」 改めて銃口を向け、手に力を込める。 MSで敵を撃破するか。生身で人を撃つか。形に違いはあれど失われる命に違いは無い。 この男が敵であり、なにか妙な事を施したとでもいうのであれば、トリガーを引くのに躊躇はしないだろう。 コルベールもそれに気付いたのか、幾分か緊張した面持ちになる。 メイジではないが、雰囲気から、この使い魔がどこかの国の軍人であると判断した。 平民が軍人になれる国…それは隣国『ゲルマニア』しかない。 基本的に、実力主義で戦果さえ挙げれば一平卒でも将官への昇進が連邦よりも容易なジオン公国軍。 実力と才能で稼いだ金で地位を買う事のできるゲルマニア。 まぁ似たようなとこはある。 「とりあえず、銃を降ろしたまえ。我々はきみの敵というわけではないよ」 なるべく穏やかに言ったが、ガトーは鋭い目をコルベールに向けたままだが、ゆっくりと銃をホルスターに仕舞った。 「まず、話をしよう。ここはトリステインだ。きみはどこから来たのか聞かせて欲しい」 そう問われたが、ぶっちゃけあまり聞いていない。 「ジオン公国」 短く答えたが、考えが纏まらない。 コロニーで無いなら、ここはどこになるという事だが、常識で考えれば地球しかない。 だが、それなら、ノイエ・ジールがこんなとこに転がっているはずもない。 八方塞というやつだ。 「ジオン公国…聞いた事が無いな」 ジオン公国を聞いた事が無い。 そんなはずはない。U.C0083に生きる人間にとって、ジオン公国は前大戦の主役の片割れを担っていたと言ってもいい存在だ。 ジャブローの原住民でも、ジオン公国という名前ぐらいは知っているはずだ。 埒があかないので、こちらから質問してみる事にした。 「先程、飛んでいたが…どういう技術だ?」 「『フライ』かね?魔法だが…知らないはずはないだろう?」 『魔法』その単語を聞いて、少し頭が痛くなったが、現実だ。 「…魔法学院とか言っていたな」 「そのとおりだ。ここは、貴族が魔法を学ぶための施設で、君はミス・ヴァリエールの使い魔となったのだ」 「使い魔?どういう事かは知らぬが、私は、そのようなものになった覚えは無い」 「そのルーンが何よりの証拠だ。コントラクト・サーヴァントは君が気を失っている間に済ませてしまったようだが」 話は変わるが、基本的にジオン軍人は、軍人より武人に近いと言われている。 宇宙攻撃軍だけにしても猛将と揶揄されるドズル・ザビ中将を筆頭に、白狼『シン・マツナガ』といった武人気質の人間が非常に多い。 もちろん、そのドズル中将麾下の302哨戒中隊を率いていたガトーも例外では無い。 そんな人間に、気を失っている間に契約しておいたから、使い魔になれ。と、一方的な事を言えばどうなるか。 ただでさえ、多大な圧力を掛けてくる地球連邦に反発し1/30以下の国力がありながら独立戦争を仕掛けたのだ。 当然、次の瞬間には銃を抜いていた。 「動くな。動けば即座に撃つ」 「な、何を…!」 「確か…ルイズと言ったな…私を元居た場所に戻してもらおう」 会話に付いていけず、半ば呆然としていたが、コルベールに銃を突きつけ、そう言ってきた事でやっと我に返った。 「へ…?ああ、無理ね。『サモン・サーヴァント』は呼び出すだけ。使い魔を元に戻す呪文なんて存在しないわ」 「っく…!ふざけるな!」 「わたしだって、あんたみたいな平民が使い魔なんてイヤよ!大体、大怪我してて、治癒の魔法の秘薬の代金だってわたしが出したんだから!」 「ぬう…」 先にも言ったが、アナベル・ガトーは武人気質の人間で、行動理念の大半は義だ。 確かに、コウ・ウラキに撃たれた傷は塞がっている。 つまりは、命を拾われたという事になるのだが…どうもいま一つ納得しがたい。 「確かめたい事がある。どういう理屈か知らんが、私をノイエ・ジールのコクピットまで運んでもらおうか」 「それは…構わないが、銃をだね…」 指示をしつつ、ノイエ・ジールのコクピットに運んで貰う。 ルイズも付いてきたので中に三人入る事になった。いかに巨大MAノイエ・ジールとはいえ狭い。 おまけに、倒れているため、非常に操作し辛い。これが宇宙なら関係無いのだが。 各部チェックを行うが、武装関係はほぼ全滅でIフィールドも働いていない。 ジェネレーター出力も辛うじて作動していると言っていいLvだ。 それでも、システムを動かすだけなら何とかなる範囲。 ハッチを閉じると、モノアイを通して外の風景が映し出される。 「なにこれ!閉まってるのに外が見える!」 「戦闘記録データ…U.C0083.11/13/00・34・38…このあたりか」 コンソールを動かし操作するとモニターが外の風景から漆黒の宇宙へと切り替わる。 そこに移るのは、大きく輝く地球と周りに浮かぶ、06.09.21などのMSだ。 何かを合図としたかのように、それが艦隊へと向け突き進んだが、映し出されるのは、ミサイルや機銃。護衛のジムの攻撃により次々と脱落していく姿。 しばらくすると、一隻の艦がモニターに映し出され、それが大きくなると、爆発に巻き込まれ画像が途絶えた。 コルベールは黙って見ていたが、ルイズはビームやミサイルがかすめる度に大声を上げている。 そして、ハッチを開け放つと核融合炉を停止させた。 地上である以上役には立たないし、この損傷だ。暴走して爆発でもしたら洒落にもならない。 ガトーが無言でノイエ・ジールの装甲の上に立つ。 「生き恥を晒したというわけではないだろうが…お前に拾われた命だ。好きにするがいい」 「君はいったい…どこから、いや、あれは一体…」 その問いには答えない。というより答える余裕が無い。 日が沈みかけ、ハルケギニアにソロモンの悪夢が降り立ってからの三日目が終わろうとしていた。
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私には関係の無いイベントだと思っていた《フリッグの舞踏会》――― あいつとは如何するんだろうか。 あまり騒ぐタイプではないのは間違いないけど。 仕方が無い。私が踊ってあげるしかないわね。 宵闇の使い魔 第捌話:万媚 学院長室で事の顛末を聞いたオスマンは、フーケ自身を捕えられなかった事を惜しみながらも、 「まぁ、なんにせよ――良く《破壊の杖》を取り戻してくれた」 といって、一人一人の頭を撫でた。 勿論、虎蔵は別だが。 ルイズは「もう使えなくなってしまいましたけど――」と申し訳無さそうにしていたのだが、コルベールが彼女をフォローした。 「もしこれがフーケに使われでもしていたら、魔法学院の面子が潰れる所ではなく、大変な責任問題になっていたでしょう。フーケに使われなかっただけでも十分な結果です」 「たしかに、アレが一発あればちょっとしたフネ程度なら落ちかねませんものね」 その威力を間近で見たキュルケが肩を竦める。 オスマンはそれに頷くと、 「君たちの《シュヴァリエ》の爵位申請を出しておいた。ミス・タバサには《精霊勲章》を。フーケは取り逃がしてしまったのは事実であるから、確実に受理されるとは限らんが――その場合でも学院からの褒美は保障しよう」 と告げる。 それを聞いたルイズとキュルケは顔を輝かせた。 ――完全に隠蔽すると思ったがな―― 虎蔵はそんなことを重いながら、オスマンの言葉を聴きく。 まぁ、あそこまで派手に盗まれてしまったのだから、潔く認めた上で奪還した功績をアピールするのが得策といったところだろうが。 「あッ――あの、オールド・オスマン―――トラゾウには何もないのですか?」 ルイズが相変わらず壁際に突っ立って、退屈そうにしている虎蔵をちらりと見る。 ゴーレムの拳から逃れられたのも、《破壊の杖》を使うことが出来たのも彼のお陰なのだ。 オスマンもこれまでの話から彼の功績が一番であるということは理解していたが―― 「残念ながら、彼は貴族ではないからのう」 と、立派な白髭を撫でながら言う。 それにはルイズだけでなくキュルケやタバサも残念そうな顔をするが、 「金くれ、金。危険手当みたいなもんだ。金ならそう面倒な記録も残らんのだろ?ついでに秘書のねーちゃんにも出したれや」 虎蔵自身はあっけらかんと言ってのけた。 彼にしてみれば、称号など貰った所で厠の紙程度の役にも立たないのだから、その方がよっぽどありがたい。 地獄の沙汰も何とやらと言うくらいなのだ。 「ふむ。それくらいなら、ま、良いじゃろう。ミス・ロングビル、君もそれで良いかね?」 「私は特に何もしてないのですけど――」 オスマンが鷹揚に頷き、ロングビルにも問う。 彼女は少し困ったように頷いた。 オスマンはそれに「では近いうちに用意させよう」と答えると、パンパンと手を打つ。 「さて、今宵は《フリッグの舞踏会》じゃ。この通り《破壊の杖》も戻ってきたことであるし、予定通り執り行うぞ。今日の主役は君たちじゃからな。用意をしてきたまえ。せいぜい、着飾るのだぞ」 オスマンに言われれば、三人は丁寧に礼をしてドアに向かった。 だが、虎蔵は壁際に立ったままだ。 ルイズがそれに気付き振り返るが、彼は「先に行ってな」と手を振った。 オスマンと話でもあるようだ。 恐らくは彼の故郷の武器であるらしい《破壊の杖》についてだろう。 「ふむ――で、何か話でもあるのかね?ミス・ヴァリエールの使い魔よ」 「あるにはあるが――そっちからで構わんぜ」 オスマンはドアが閉まるのを確認すると虎蔵を促すが、虎蔵は肩を竦めて答える。 「どうせその方が話が早い。違うか?」 と、互いを牽制するように睨み合う二人だったが――― 「ふぅ、まあその通りであろうな―――では、ミス・ロングビル。君は――」 オスマンがため息をついて頷いた。 そしてロングビルに退室を促そうとするが、 「秘書のねーちゃんも居て良いと思うぜ。ルイズ達にだって後で話すことだからな」 「ふむ。まぁ、学院側にも事情を知ったものが数人は必要か――では此処に居たまえ」 虎蔵に言われて考え直すと、ロングビルにも同席を許可した。 「さて、まぁ――お主の事だ。聞かれることは解っているとは思うのでな。端的に問う」 そういって一度黙り、重厚な机に肘を突いて目を閉じる。 次に目を開いたときには、その年に似合わぬ迫力、威圧感を宿している。 ロングビルとコルベールはそれに息を呑んだ。 「お主、何者じゃ」 「見慣れぬ服装、異常な身体能力、魔法も使わずに何も無い所から武器を取りだす業――そして何より、《破壊の杖》の使用方法を知っているということ」 オスマン以外の二人も小さく頷いた。 そう、ただの平民ではないことは勿論、仮にメイジだったとしても何から何まで―― 「異質なのだ。本音を言えば、私は《土くれ》などよりよっぽど君の事を警戒していたのだよ」 そういってため息をつくと、ゆっくりと椅子の背凭れに身体を戻した。 虎蔵はそれを聞くと「随分と正直なこったな」と笑う。 「あんた、異世界って信じるか?」 「異世界――じゃと?」 「そのまんま、此処とは違う世界って事だがね。俺は其処の人間で、その《破壊の杖》もその世界ではかなり量産されている。パンツァーファウスト言うてな」 虎蔵の説明を聞くと、オスマンはふむと声を漏らして白髭を撫でながら考え込み、ロングビルとコルベールは話の壮大さ――というよりも、荒唐無稽さに顔を見合わせている。 暫くするとオスマンはため息をつき、ゆっくりと話し始めた。 「《破壊の杖》以外にも我々の知る歴史の中で作られたとは考えにくい物が、世界には幾つかあってな。なるほど、異世界から漂着した物であると言うのならば頷ける」 「ほう――」 虎蔵は何か思う所でもあったのか、僅かに目を細めて頷く。 「それに、《破壊の杖》も――そう、30年も昔の事になるか。森の中を散策していた私は、ワイバーンに教われてな。そこを助けてくれた人物の持ち物じゃった」 「そいつは?」 「死んでしまったよ。その時既に重症でな――今際の際に「帰りたい、帰りたい」と言っていたのはそういう事だったのか――」 遠い目をして語るオスマンに、誰も声をかけずに静かに時が流れる。 暫くすると、オスマンはため息をついて、 「まぁ、その時使った《破壊の杖》の一本を彼の墓に、そしてもう一本は形見として宝物庫に――という事じゃ。年寄りの長話をしてしまったが、なに、お主が異世界から呼ばれたと言うことは信じよう」 と告げる。 「しかし、その世界ではお主のような実力が普通なのかのう?」 「いや、大抵はこっちの平民と似たようなもんだ。極稀に突き抜けちまってのが居るって位だな」 もっとも、その突き抜け具合が半端無いのだが――そこはまだ告げる必要は無いだろう。 「なるほど――確かに彼は、持っていた物以外は普通の人間じゃったな――まぁ、私が聞きたいのはこのくらいだが、おぬしからも何かあるのじゃろ?」 「ああ、そだ。これだよ、これ」 虎蔵はすっかり忘れていた、といった様子で彼らに左手を見せる。 使い魔のルーンだ。 「なにやらこれが付けられてから、随分と身体の調子が良くてな。困ることでもないんだが、気になるといえば気になるんでね」 「ガンダールヴの印――ありとあらゆる《武器》を使いこなしたという伝説の使い魔の印です」 その疑問には、最初にそのルーンに気付いた人物であるコルベールが答えた。 恐らく、今まで使ったことのない武器でも扱えるようになっているとの事だが、それ確かめる機会はあまり無さそうだ。 だが、調子の良さはこのルーンによる物だろう。 もしかしたら、デルフの言っていた《使い手》というのも関係がある可能性はある。 ――気が向いたら聞いてみるか―― 「なるほど―――しっかし、なんで俺がそんなご大層な物になってんだかなあ」 「残念ながらなんとも―――異世界から来たということと関連がある可能性はありますが」 ぷらぷらと左手を振る虎蔵にコルベールが答えると、 「自分の理解の及ばん所で色々起こるってのは、なんともシャキッとせんね」 彼はそういって肩を竦めるのだった。 「ところで―――帰る方法はあるのですか?」 それまで黙って話を聞くに留めていたロングビルが口を挟むが、その問いにはオスマンもコルベールもすぐには答えられなかった。 「一度呼び出した使い魔を送喚した事はないし、するという事態は想定されて居ない」 「そもそも人間を召喚したことが初めてですからな」 二人がそう答えれば、ロングビルは「そうですか――」とだけ答えたのだが、 彼女に何度かアピールを試みているコルベールには少し違って見えでもしたのか、 「あーいえ、しかしですね。召喚が出来て、送喚が出来ないということは無いと思うのですよ。私は。ですから時間をかけて研究すれば―――そもそも召喚のプロセスというのは―――」 と自らの薀蓄を語りだしたのだが、 「あー、そいつは――帰り方については気にせんでええよ。知り合いに、あんたらとは毛色の違う魔法使いが居てね。そのうち向こうから呼び戻されんだろうから」 と虎蔵に遮られてしまう。 しかし、その内容はロングビルに自分の知識をアピールできなかった事よりも衝撃的だったようで、オスマン共々驚きをあらわにした。 「自ら狙って異世界からの召喚が可能な者までおるのか!?」 「なんとも恐ろしい世界ですな――」 実際のところ、虎蔵にはその魔法使い――麻倉美津里にそれが可能であるか、可能であったとしてするかどうかはわからないのだが――― 「そうならなかったとしても、ま、別にたいして問題はないしな。どうしても帰らにゃならん理由も無い」 と肩を竦める。 それを聞いたオスマンはははっと楽しげに笑って、 「なるほどなるほど。確かに、それも悪くは無いじゃろう。住めば都というしな。なんなら嫁さんも探してやるぞ?」 と言ってくる。 虎蔵は「そいつは結構」と肩を竦めて、割と本気で拒否したのだった。 数時間後。 《アルヴィーズの食堂》の上にあるホールは大いに賑わいを見せていた。 着飾った生徒や教師たちが、豪華な料理が盛られたテーブルの周りで歓談している。 虎蔵はバルコニーの枠にもたれては、のんびりとウイスキーを味わっていた。 何処から《破壊の杖》奪還に虎蔵が大いに貢献したことを聞きつけたマルトーが持ってきた最高級の物だ。 「ま、娯楽が少ねえもんなあ――」 虎蔵の視線の先で、誰も彼もが今宵を謳歌している。 キュルケは何人もの男子生徒からのダンスの誘いを捌くのに手一杯になっている。 タバサはあの小さい体の何処に入っているのかという勢いで只管に料理を食べている。 そのテーブルに何往復もして料理を運んでいるメイドはシエスタのようだ。大変そうだが、生き生きとした表情をしている。 モンモランシーがギーシュの腕をがっちりと掴んでは、他の女を口説きに行かないようにキープしているのも見えた。 他にも名前も知らない生徒が、教師がこの《フリッグの舞踏会》を楽しんでいた。 此処で一緒に踊ったカップルは結ばれるという逸話だか噂だかがあるらしく、各所で恋の華が咲いたり散ったりしている。 だがそこで、ホールの一部がざわついた。 グラスにウイスキーを注ぎながらちらりと視線を向ける。 そこには、幾人もの教師の誘いを断りながら――中にはコルベールもいたようだが――こちらへと向かってくるロングビルがいた。 黒を貴重としたシンプルなドレスだが、深めのスリットに大胆に開いた背中から覗く素肌が艶かしい。 ドレスの生地を押し上げる双丘も十分すぎる程に男の視線をひきつける。 総じて"良い女"、であった。 更に数人の生徒や教師からの誘いを断って、ロングビルはようやくバルコニーにたどり着いた。 流石に彼女が虎蔵の前で足を止めてしまえば、誘いの言葉が聞こえてくることは無くなった。 「もてもてやな」 虎蔵がからかうように笑うと、彼女は近くには誰も居ないことを確認した上で、 「こまったものよ。馬鹿ばっかりでね。誰も彼もだまされて――」 とロングビルとフーケの間くらいの調子で答える。 「またぶっちゃけたな―――諦めたのか?」 「諦めるも何も、無くなってしまったものは盗めないわよ」 虎蔵が僅かに呆れたように言うと、彼女も肩を竦める仕草をして見せた。 バルコニーには誰もやってこない。 二人の雰囲気――色っぽい物でもなければ深刻そうなものでもない、独特の雰囲気に気後れするのかもしれない。 ロングビルは彼と同じように枠を背にして「何時から?」とだけ問いかける。 「夜に会ったときかね―――それに翌朝のもタイミングが良すぎるし、パッと見だと解らんが、ただの秘書がんなに引き締まった身体してるのも変だしな」 「――最後のは兎も角、もっとじっくりとやるべきだったか―――」 虎蔵の言葉を聞くと、はぁっと深いため息をついた。 もっとも、ルイズの魔法による皹が修復される前に実行したかったのだから、仕方が無い所もあるのだが。 「それで、如何するんだい?」 「つーと?」 「惚けないでほしいもんだね―――」 「怒んなよ―――しかしまぁ、どうしたもんかな」 ロングビルにすれば最も警戒していたことをどうでも良さそうに答えられて、ムッとした表情を見せる。 虎蔵はその表情を見るとニヤニヤと笑って、 「いやいや、実際本当にどうでも良いんだよ。貴族でも学院生徒でもなけりゃ、この世界のもんでもないんだからな」 「―――そう言う割には、最後には随分と煽られた気がするけど」 「面白かったもんでな」 と言い切った。嘘をついている様子は無い。 ロングビルは僅かに頬を引きつらせながら、ぐっと手を握る。 殴りたくて仕方が無い。 だがそれすらも虎蔵はニヤニヤと笑って眺める。 ―――なんて性質の悪い!――― ロングビルは思わず口に出しかけるが、ぐっと堪えた。 オスマンのセクハラもだが、この男と正面から向き合うのも胃を悪くしそうだ。 ふぅ、と大きくため息をついて気を取り直すと、 「まぁ、その辺りは良いんだけどね―――私としては余計な借りを作っておきたく無いんだよ」 「貸しを作ったつもりは無いが、まぁその気は分からんではないな」 「じゃあ何とかしておくれよ」 そう言って虎蔵の手からグラスを奪い、一口。 虎蔵が腕を組んで「うーむ」と考えていると、先程学院長室で《破壊の杖》――パンツァーファウストの来歴を聞いたときに僅かに気になったことを思い出した。 そう、この世界に来ているのが自分だけではない可能性である。 別に重火器やらなんやらが来る分には一向に構わないが――― 「そうだな―――ちょいと頼みがあるんだが、今此処で話す事でもないんでね。後で話しに行くわ。部屋は?」 虎蔵がそういうと、ロングビルは自室の場所を伝えて「―――一応、人に見られるのはよしておくれよ。変な噂が立っても困るからね」と言ってグラスを空けた。 その時、ホールの中からおぉと歓声が聞こえた。 視線を向ければ、ホワイトのパーティードレスに身を包んだルイズが注目されている。 胸元の開いたドレスがつくりの小さい顔を、宝石のように輝かせていて、隣のロングビルとは見事に対照的だった。 ロングビルはそれを見ると、「お姫様が来たみたいだね―――それじゃまた」と言って去っていった。 ロングビル同様、やはり幾つもの誘いを断りながら虎蔵の前へとやってきたルイズは、ややムッとした様子でロングビルの後姿を眺めてから彼へ声をかけた。 「お楽しみみたいね。邪魔しちゃったかしら」 刺々しい。 虎蔵は軽く肩を竦めて「別に。ちょっとした世間話だ」と答える。 そして「そういうお前こそ、随分と誘われてたじゃないか」と言ってからかおうとするのだが、 ルイズはその言葉を「五月蝿いわね。別にどうだって良いのよ、あんなの」とバッサリ斬って捨てると、彼に向けてすっと手を差し伸べた。 「でも、折角だから―――踊ってあげても、よくってよ」 目をそらして、僅かに浮かぶ照れを何とか隠そうとしながら言う。 虎蔵は思わずニヤニヤ笑いを浮かべてしまいながら「へいへい、お供するさ」と言って手を取った。 二人がバルコニーからホール入ってくるとすで楽師達によって音楽が奏でられていた。 ルイズは虎蔵の手を引いてフロアに飛び込み、音楽にあわせて優雅にステップを踏み始める。 虎蔵も見よう見まねでそれにあわせる。 「今日は色々と助けられたわね―――その、ありがとう」 ルイズは踊りながら、視線を合わせないようにしながらぼそぼそと感謝の言葉をつげた。 虎蔵は――なんとも素直になれん奴だな――と思ったのだが、 「それが使い魔の仕事なんだろ?」 といって笑うのだった。 しかし、後にこの虎蔵の言葉が、彼女の心に深く突き刺さってくることになる――――
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前ページ次ページゼロの赤ずきん ミスタ・コルベールは学院長室の扉を勢いよく空け、部屋の中へ飛び込んだ。 「オールド・オスマン!」 コルベールにオールド・オスマンと呼ばれた老人はトリステイン魔法学院の学院長であった。 白い口ひげと髪を揺らせていた。風もないのに揺れているのは、自分の秘書に対しセクハラを働き、 その秘書に頭を足蹴にされていたからだ。しかし、部屋に入ってきたコルベールの視界へと入る前に、 秘書は机に座って、オスマン氏は腕を後ろに組んで何事もなかったかのように振舞った。まさに早業であった。 「たた、大変です」 「大変なことなど、あるものか。全ては小事じゃ」 「ここ、これを見てください!」 コルベールはオスマン氏に自分が調べていた書物を手渡した。 「これは、『始祖ブリミルの使い魔たち』ではないか、まったく、これがどうしたというんじゃ。えーと?」 オスマン氏は首をかしげた。 「コルベールです!お忘れですか!それはともかく、これも見てください!」 コルベールはバレッタの手に現れたルーンのスケッチを手渡した。 それを見た瞬間、オスマン氏の表情が変わった。目が光り、厳しい色になる。 「ミス・ロングビル。席を外しなさい」 秘書のミス・ロングビルは席を立ち、理知的で凛々しい顔をオスマン氏たちに向け一礼し、そして部屋を出て行く。 彼女の退室を見届け、オスマン氏は口を開いた。 「詳しく説明するんじゃ、ミスタ・コルベール」 ルイズがめちゃくちゃにした教室が片付いたのは、昼休みが丁度終わるころであった。 罰で魔法を使わずやるように言われたことは、さして問題ではなかったが、 手伝ってくれる者がおらず、ルイズの細い腕で重労働をする羽目になったため、時間がかかってしまったのである。 ルイズはひとり、片付け終わった教室で席に座り、打ちひしがれていた。体中が痛い。 精神的にも、肉体的にもルイズは限界であった。 そこに、今のルイズとは対照的なバレッタが、厨房で昼食まで済ませてやってきた。 「ゴメンね♪ 美味しい道草食ってたら スッゲエ遅くなっちゃったのっ、みたいな?」 一度睨んでからルイズはそっぽを向いた。 その様子をみて、バレッタは言った。 「どーしたのぉ?ルイズおねぇちゃん、元気ないみたいだけど?」 誰のせいだ、誰の!! ルイズは心の中で盛大にツッコミをいれた。だが、それを表に出さず、バレッタと目を合わせないようにした。 反応を得られないのがわかると、バレッタは周りを見渡す。教室は確かに片付けられていたが、 魔法を使わずに、ルイズ一人が手作業でやっていたので、元通りとまではなっていなかった。むしろ、まだボロボロだった。 「さっきね、他の人がルイズおねぇちゃんのことを話しているところに通りかかったのね」 ピクリとルイズの肩が動く。 「“あいつは『ゼロ』なんだから魔法使わせるなっての、いっつも失敗して爆発するだけなんだからよ、 こっちはいい迷惑だぜ、今日は『錬金』で教室で爆発させたしな、ありえねーよ”って」 「これってー、ルイズおねぇちゃんがやったってことだよね」 教室の惨状に指をさし、バレッタはルイズに言った。 「魔法って色々なことが出来るんだねぇー。ちょっとうらやましぃーかなっ♪」 その言葉はルイズにとって嫌味にしか聞こえなかった。溜めていたものを全て吐き出すようにルイズは叫ぶ。 「悪かったわね!!どうせ私は『ゼロ』よ!!ああ、あんたは知らなかったはずよね、説明してあげるわよ!」 「私は貴族でメイジなのに、魔法がほとんど使えないのよ!!使おうとすると、いっつも爆発するだけだから『ゼロ』! 皆、私のことを『ゼロ』のルイズって呼ぶのよ!魔法が使えないから。そうね、ぴったりな二つ名じゃない! でもね、私も何も努力してきてないわけじゃないのよ!?あらゆる魔法に関する書物を読んで、 完璧に詠唱を唱えられるように、何度も練習して、杖の振り方だって、毎日の授業だって!!! 血のにじむような努力をしてきてこれよ!あんたにこの悔しさがわかる!!!!?」 「いや、ワカんねーよ」 たったそれだけの言葉しかくれない、自分の使い魔に目を見開いて顔を向けた。 バレッタは蟻にたかられている虫の死骸を見るような蔑んだ目でルイズを見下ろしていた。 「で?」 その場の空気が凍りついた。そのバレッタの言葉でルイズの怒りはどっかに飛んでいってしまっていた。 「で?……って、あんた、その、なんか、だって……もっと、あの……」 目を泳がせているルイズを見て、バレッタは何か閃いたのか手を叩いて笑顔で言った。 「あー、なーるほどー!バレッタわかったよ!」 ルイズの背中に手をやり、慰めるようにバレッタは語りかける。 「ルイズおねぇちゃん。ルイズおねぇちゃんなら、絶対魔法をちゃんと使えるようになるよ、だって一杯、一生懸命 努力して練習してるんだもの、報われないはずがないよぉー、バカにしている人は見る目がないだけなのっ、 だから元気だしてね、ルイズおねぇーちゃん♪」 言い終わるとすぐにルイズに背を向け歩きだした。ルイズはただ呆然とバレッタの言葉を聞いていただけだった。 扉の前まで来ると、バレッタは一度立ち止まった。そして舌打ちをしてから、何事もなかったように教室を出て行った。 「一体、なんなのよあいつ……」 このときのバレッタの真意を今のルイズには知ることはできなかった。 バレッタは教室を出た後、厨房に行くため食堂の前を歩いていた。そうすると生徒達が昼食を終え、 ぞろぞろと食堂から出てきた。そのなかの一団の中に、金色の巻き髪に、フリルのついたシャツを着た、 気障なメイジがいた。薔薇をシャツのポケットに挿している。周りの友人は口々に彼を冷やかしている。 「なあ、ギーシュ!今は誰とつきあってるんだよ!」 「だれが、恋人なんだギーシュ!」 気障なメイジはギーシュというらしい。彼はすっと唇の前に指を立てた。 「つきあう?僕にそのような特定の女性はいないのだ。薔薇は多くの人を楽しませるために咲くのだからね」 自分を薔薇に例えている。気障な見かけに相応しい、気障なセリフであった。 そのときギーシュのポケットから何かが落ちた。ガラスでできた小壜であった。中に紫色の液体が揺れている。 バレッタは迷わず、その落し物を拾ってギーシュに駆け寄った。 「おにーさんっ、落し物だよっ!」 ギーシュは振り返り、壜を目にすると苦々しげに、バレッタを見つめた。 「それは僕のじゃない。君は何を言っているんだね」 バレッタはカチンと頭に来た。善意で拾ったわけではなかったが、この態度はいただけなかった。 「あっ、!イヤーン♪」 こけるふりをして液体の中身をギーシュの顔めがけてぶちまけた。 「っっブッ!!なっ!!!なにをする!平民!」 ギーシュはバレッタに詰め寄ろうとしたが、友人の一言で歩を止めた。 「おお?それ香水じゃないか?しかもモンモランシーの香水だろう!それは!」 「そうだ!その鮮やかな紫色は、モンモランシーが自分のためだけに調合している香水だぞ!」 「そいつが、ギーシュ、お前が持っていたってことは、つまりお前はいまモンモランシーとつきあってる。そうだな?」 「違う、いいかい?彼女の名誉のために言っておくが……」 ギーシュが何か言いかけたとき、後ろから茶色のマントの少女が近づいてきた。 そしてボロボロと泣きながら、少女はギーシュに言った。 「ギーシュ様……やはりミス・モンモランシーと……」 「いや、彼らは誤解してるんだ、ケティ。いいかい、僕の心の中に住んでいるのは君だけ……」 しかし、ケティと呼ばれた少女は、思いっきりギーシュをひっぱたいた。 「見苦しい言い訳はよしてください、もう結構です!さようなら!」 ギーシュは叩かれた頬をさすった。すると、遠くから一人の見事な巻き髪の女の子が、いかめしい顔で彼に近づいてきた。 「モンモランシー。誤解だ。彼女とはただ一緒に、ラ・ロシェールの森に遠乗りをしただけで……」 ギーシュは首を振りながら言った。冷静な態度を装っていたが、冷や汗が一滴、額を伝わっていた。 「やっぱり、あの一年生に、手を出していたのね?男としてひどいと思わない?」 「そうよ!ひどいよっ!バレッタはギーシュ様にあんなことや!そんなことをさせてあげたのに!他に二人もいたなんてっ!」 突然話に加わってきた赤ずきんの少女をギーシュとモンモランシーは二人仲良く凝視した。 額に青筋を立てて、モンモランシーは拳を頭上高く持ち上げる。 「いや、え?ちょ、ちょっと待っておくれモンモランシー!僕にもよくわからないんだ!本当だっ!こんな平民知らない!」 「へえぇ。でも、このコにも、他の女の子がいるってバレたから、香水をぶっかけられたんじゃないの?」 「へぁあっ!?いやいやいや!!それはこの平民が勝手にコケて、僕に……!!!」 「黙りなさい!!このうそつき!変態!ロリコン!!三股!!!平民にも手を出すなんて、この見境なし!!!」 モンモランシーは拳を打ち下ろし、ギーシュの顔面を殴った。ギーシュはその場に尻餅をつき、鼻から血が垂らした。 そしてモンモランシーは怒気を漲らせたまま去っていった。 呆然としたままギーシュはハンカチを取り出すと、ゆっくりと鼻血を拭いた。そして、首を振りながら言った。 「前半はともかく、後半は意味がわからない……いや、ちょっと待ちたまえそこの平民!!!絶対待ちたまえ!!!」 何事もなかったかのように、その場を立ち去ろうとしていたバレッタは止まって振り返った。 「ぁあん?」 ギーシュは立ち上がり、勇ましく言った。 「随分なことをしてくれたじゃないか、何を思ってしてくれたかはわからないが、二人のレディの名誉が傷ついた、 それに僕のもだ!!特に僕のが重傷だ!!表を歩くのもままならぬ程にだ!!!どうしてくれる!!」 周りからクスクスと笑いが聞こえてくる。ギーシュの顔が真っ赤になった。バレッタは面倒くさそうに答える。 「青いケツのガキの青臭い恋愛のいざこざなんざ押し付けないでって感じかなっ♪」 笑いがドッと沸き、大きなものに変わる。ギーシュの中の何かが切れた。拳をわなわなと震わせる。 「よくよく見てみれば、あのゼロのルイズが呼び出した平民の使い魔じゃないか。 よかろう……、君に貴族への礼儀を教えてやろう。丁度いい腹ごなしだ。ヴェストリの広場に来るといい、決闘だ! まあ、来る勇気があればの話だが、いや、だからって逃げるんじゃないぞ!逃げるなよ!フリじゃないからな!!」 「うんっ。いいよ、待っててねっ」 相手の合意を得たのを確認すると、早歩きでギーシュは去っていった。ギーシュの友人もあとに続く。 その直後に、ことの終末をみていたシエスタが遠くから慌しく走ってきてバレッタを抱きかかえた。体をぶるぶると震わせている。 「ああ!!どうしましょう!?貴族を本気で怒らせてしまうなんて!!バレッタちゃんが殺されちゃう!!! 私が盾になっても、その後にバレッタちゃんもきっと……!!!どうすれば……!!!?」 バレッタはシエスタの頭に手をやり、落ち着かせるために撫でた。 「大丈夫よぉ、シエスタおねえちゃん。バレッタね、少しも怪我しないから」 その言葉にシエスタは驚愕した。 そんなわけがない、絶対無事には済まない、メイジは魔法を使い、 火や風、水や土を操る、平民に防ぐ方法皆無、一方的な暴力になる、最終的には殺されてしまう、と言った。 しかし、バレッタはシエスタの話に、さして興味を示さずに言う。 「あのガキ、見上げたことに、あんな目にあったのにもかかわらずにね、わたしのこと傷つけようとは一切思ってねーみたい、 戦いっていう体裁をとってるけどぉ、なんか魔法でちょろっと脅かして、 わたしにトラウマをつくってやろうってぐらいじゃねーの?反吐が出るぐらいのフェミニストつーかぁ……まぁーでも」 シエスタは言葉の終わり間際にバレッタの顔が豹変していくを息が詰まる思いで見つめていた。 「戦いって形をとっている以上ね、奪い奪われが常なの。だから戦いをする時は『覚悟』をしておかないとダーメっ。 でね、それがアイツにはないの。それは相手がわたしだろーからだけど。 知ってる?何も覚悟がないまま、何がなんだかわからないまま殺られるとね、これでもかってくらい目を見開いて 口をポカンと開けたまま死ぬのよ。それがホントーに滑稽に見えてオカシイのっ♪」 目の前のかよわく庇護されるべきであるはずの少女は、明らかに殺気を帯びていた。 何もかも無情に一刀両断してしまいそうな刃を抱いているような感覚襲われ、 シエスタは弾かれるように、バレッタから離れた。 少女は猛獣ですら死に至らしめることが出来そうな鋭い眼光に変わっており、 シエスタの、自分の知っている少女はどこにもいなくなっていた。 「あ、あなたは一体何者なの……?」 バレッタはおどけた風に人差し指を唇にあて、考えている真似をした。 「んー、説明すんのメーンドーイぃ。……だ・か・ら、わかりやすく例えで教えてあげるっ♪」 「わたしは進んで狼をくびり殺す羊」 バレッタが悪魔のような笑みを浮かべる。先ほどの貴族に対して以上の強い恐怖をシエスタは感じた。 シエスタは黙って、バレッタから逃げるように走って遠くへ去っていった。 「『羊の皮をかぶった狼』の間違いじゃないの、バレッタ」 その言葉を聞いたバレッタは話し主を見た。疲れきったルイズであった。 ルイズは、シエスタとの会話を始終聞いていた。呆れたように言う。 「決闘はやめておきなさい、怪我はしないっていってるけど、まず勝てないわ。相手は私じゃないのよ。 正々堂々、正面から戦ってドットとはいえメイジに勝てるワケがないでしょう?言っとくけどこれは優しさからの忠告よ」 この戦いが、どう転がろうが、ルイズにとってはマイナスになるに違いないと思ったから言ったことでもあった。 表情をにこやかなものにしたままバレッタは答えた。 「時たまね、“卑怯だぞ!貴様!正々堂々戦え!”って言う奴がいるけどさぁー、わたし思うのね、 自分が望む戦い方を相手に強要するのが正々堂々なのかってね♪そいつのが卑怯じゃないかなー。 戦うんだったら、背中から刺されても文句言わないで欲しいなぁー」 ルイズはため息をついた。この使い魔、退くつもりない、それだけはわかった。そして自分に止める術はない。 「わかったわよ、お願いだから、万が一勝つことがあっても相手を殺しちゃだめだからね?」 「え゛ーー、どーしよっかなー、殺っちゃおーかなー♪」 ルイズはその言葉に対し切り返さずに、黙ってヴェストリの広場の方向を指差した。 バレッタはお花畑に遊びに行くような軽やかな足取りで向かっていった。 騒ぎを聞きつけてやって来たキュルケがルイズに問いかける。 「ちょっといいワケ!?使い魔死んじゃうわよ!?なんで戦うのを許しちゃったの!?」 ルイズはバレッタが去っていった方向を見つめたまま動かない。 「もしかしてルイズ、自分の使い魔が勝つと思ってるの?そんなわけないでしょ、ドットとはいえ、 ギーシュはメイジなのよ。勝ち目なんてないでしょうに、しかもあんな小さな子に……」 ルイズはゆっくりと口を開いた。 「わからないわ、魔法についてなにも知らないみたいだし、ギーシュがどんな魔法を使うかも知らないはず……。 でもナイフが届く範囲でならギーシュが杖を抜く前になんとかできるんじゃないかしら」 キュルケは呆れたように言った。 「相手を近づけさせるメイジなんているわけないじゃない、大怪我するわよあなたの使い魔、最悪死ぬわよ」 そうね、まだバレッタのことほとんど何も知らないけど、多分それであってる、 でもね、いいの、むしろ心の奥底では怪我をしてくれることを私は望んでいるから。 私ね、バレッタが嫌いなのかもしれない。 前ページ次ページゼロの赤ずきん
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前ページ次ページゼロな提督 聖地。 この言葉を聴いて、ヤンは何を想像するだろうか。 宇宙暦800年、新帝国暦2年ごろの聖地といえば、地球そのもの。 貿易国家フェザーンの影の主であり、麻薬を使って信徒を洗脳しテロに利用する狂信的宗教集団『地球教』の本拠地のこと。 ハルケギニアと同じ文明レベルの時代の地球で言うなら、それはイスラム教徒を中心としたアラビア世界の宗教的中心地。 かつキリスト教とユダヤ教の聖地であり、長きに渡る泥沼の宗教戦争が行われた悲劇の舞台。 歴史家としてのヤンならば、中東戦争と呼ばれた20世紀前後の地獄のような戦争をも思い浮かべるだろう。 そして、テロの嵐が吹き荒れるパレスチナ。 21世紀のゲットーとも揶揄されるヨルダン川西岸の巨大分離壁【アパルトヘイト・ウォール】。 エルサレムの嘆きの壁で一心不乱に祈りの言葉をささげるユダヤ教徒達。 その壁の上にイスラム寺院アル=アクサー・モスクが建ってる図は、かなり悪趣味なジョークとして記憶の中に含んでいることだろう。 同時に、ハルケギニアの聖地の実情がいかなるものか彼は知らない。始祖ブリミルがらみの地とは知っているが、どんな地なのかまでは分からない。それは大方のハルケギニアの人々も同じことだ。 何しろハルケギニアの人間と聖地に暮らす亜人「エルフ」とは、極めて険悪な関係にあり、両者の接触は大方が戦争と言う形で行われているのだから。 それも、侵攻した人間側の度重なる惨敗という結果で。 ハルケギニアの聖地回復運動は『レコン・キスタ』という名称で現在も行われているようだが、6000年経過した現在に至るまで、一度も聖地を奪還したことはなかった。 ゆえに、すでに聖地がいかなる場所か、ハルケギニアの誰も知らなかった。 では、このヤンが召喚されたハルケギニアの聖地とは、いかなる場所なのだろうか? ヤンを含め、ハルケギニアの多くの人が、砂漠の中に浮かぶオアシス都市を、耳の長いエルフたちが住む石造りの町を思い浮かべるだろうか。 始祖ブリミルがらみの遺構や石碑の一つくらい残っていることを期待もしているだろう。 加えてヤンならモスクや尖塔が並ぶイスラム風の風景も。 いや、おそらくかつてはそういう姿をしていた時期もあったかもしれない。 ゆえに、彼らは驚愕とともに、失望するだろう。 この、聖地の実際を目にすれば。膝を地に付き天を仰ぎ、始祖の福音はハルケギニアから失われたのではないか、と絶望するだろう。ヤンもきっと、涙を滝のように流して悔しがるに違いない。 なぜなら、そこには、何もないのだから。 ここは夜の聖地。エルフに蛮人と蔑まれる人間が奪還を目指す場所。 確かに、何もなかった。 砂漠ですらなかった。 双月の下に、ただひたすら荒野が広がっていた。それも、大きく盆地状にえぐられた大地が。半径10リーグ以上の見事な円形の盆地が、赤茶けた土壌をさらしていたのだ。 そんな盆地の端、盛り上がった土手の上に数人のエルフが立っていた。彼等は盆地の中央を見つめている。 うち一人が盆地の中央を指さした。薄暗い、だだっぴろい大地の先を。 盆地の中央で、何かが光った。 光ると同時に、何かに包まれるように光が阻まれる。 だが、包もうとする『何か』より、『光』の方が強かったらしい。包もうとした『何か』は『光』に吹き飛ばされた。 盆地が光に満たされる。 そして次に盆地中央から、球形に『壁』が放たれた。 それは月明かりでもハッキリ分かるほどの圧倒的破壊力を持って、『光』を中心として盆地周囲へと広がっていく。 土煙を巻き上げて…いや、地盤そのものを巻き上げて、盆地の端にいたエルフ達へも襲いかかろうとしていた。 襲いかかろうとしているのは見えるのに、全てを破壊しながら向かってくるのに、僅かな地響きしか耳には届かない。 『壁』が音速に近いか、音速を超えているからだ。音より早くとどいた地盤経由の振動が足下から音へ変換されて届いたのだ。 「我と契約せし大地の精霊よ。古の盟約に従い我らに加護を」 エルフ達が呪文とも独り言ともつかない言葉を発する。とたんに彼等の眼前で大地が盛り上がり、巨大な土と岩の壁となって彼等を包んだ。エルフ達は月明かりも失い、暗黒の中に守られる。 遙か10リーグ以上彼方から届いた『壁』が、大地の精霊が生み出した壁に衝突する。 瞬間、中のエルフ達の耳に、いや全身に轟音が届いた。彼等の全身を震わせ、内臓をかき回し、鼓膜を破る程の振動が。 大地の精霊が加護してすらなお、エルフ達の命を守るのが精一杯だった。 『壁』が通り過ぎるまで、さほど長い時間ではなかったはずだ。だが彼等にとっては死を覚悟させる永劫の時といってよかった。 『壁』の名残である細かな振動も去り、静寂が再び闇の中に帰ってくる。 大地の精霊は契約を守りきり、エルフ達を双月の下へと解放した。 彼等は盆地を恐る恐る覗き込む。そこには、さっきとおなじ盆地があるだけだ。いや、先ほどより抉られた盆地がある。 『光』は既に消えていた。 「ビダーシャル!あれをっ!」 エルフの一人が天を指さした。ビダーシャルと呼ばれたエルフも天を仰ぎ見る。 星空の中、光が流れていた。 流れ星ではない。明らかに燃えさかる巨大な何かが放物線を描いて落下しているのだ、彼等の近くへ向けて。 それは爆発音を上げて大地と衝突した。 とたんに周囲の大地そのものが触手の如くわき上がり、燃えさかる何かを飲み込む。一瞬にして大地は落下してきた物体を地下深くへ飲み込んでいった。 カラン ビダーシャル達の近くで乾いた金属音がした。 彼が地面を見ると、先ほどの物体の破片が落ちていた。大地の精霊は無害と判断したのかもしれない。それは大地に飲み込まれはしなかった。 ヒョイとエルフの一人が金属片を手に取る。何かプレートの様な物が、爆発の衝撃で本体からはがれたようだ。 黒こげのプレートを袖で拭くと、そこには絵が描かれていた。赤・白・青の三本線、真ん中の白線中央には五稜星 それが自由惑星同盟の国旗であることは、エルフ達の知らない事だった。ほぼ全てが今夜と同じように地の底へ封じられているのだから。 第七話 聖地 ガリア王国。 トリステインとほぼ同じ文化形式を持つ国で人口約1500万人のハルケギニア一の大国。 魔法先進国ともいえる国で、王宮では様々な魔法人形(ガーゴイル)が使われている。王都の名はリュティス。 リュティスはトリステインとの国境部から1000リーグ離れた内陸に位置する。大洋に流れるシレ河の沿岸にある。 人口30万というハルケギニア最大の都市。河の中洲を中心に発展した大都市で、主たる都市機能に加えて魔法学校をはじめ貴族の子弟が通う様々な学校を内包しており、街並みは古いながらも壮麗なものとなっている。 その郊外には壮麗な大宮殿が見える。王族の居城、ヴェルサルテイル宮殿だ。王家の紋章は2本のラインが入ったねじくれ組み合わされた杖。宮殿中心には、薔薇色の大理石と青いレンガで作られた巨大な王城『グラン・トロワ』。そこから離れた場所に、薄桃色の小宮殿『プチ・トロワ』がある。 「――つまり、虚無が集うのを妨害してほしい、と?ビダーシャルとやら」 「そうだ。お前達が聖地と呼ぶ、忌まわしき『シャタイーン(悪魔)の門』、我らでも封じきれないのだ。 風と大地の精霊が奴等の生む嵐を聖地内に押さえ込もうと努力はしてくれている。だがもはや追いつかぬ」 『グラン・トロワ』の一室で椅子に座るガリア王ジョゼフは、異国からの客人を前にしていた。 当年45歳ながら、30歳前後にしか見えない美貌と逞しい肉体の男性は、薄茶色のローブをまとう長身で耳の長いエルフと相対している。 「ふぅむ…いささか信じがたい話だ。お前達エルフですら太刀打ち出来ない、聖地よりわき出す悪魔、か」 「いや、あれは恐らく悪魔ではない。 風と大地の精霊が言うには、あれらは湧きだしたとたんに粉々に砕け、火竜のブレスを上回る炎をまとい、風の精霊もかくやというほどの嵐で大地を抉り、そして死ぬ。しかも数十年に渡り消えぬ毒をまき散らしてから、だ。例え湧き出した瞬間に死ななくとも、直後に地面に叩き付けられて粉々になる。 我らエルフが総力を挙げ、大地の精霊の力を借り、全てを大地の奥底に封じているので、今以上の被害にはなっていない。だが、その毒を一身に受ける大地の嘆きと怒り、もはや収まらぬ。 しかし思うに、門から飛び出したがために、あれらは死んでしまうのだろう。門を通ったがために悪魔と呼ばれるほどの被害を周囲にまき散らすのだ。彼等とて死にたくはなかったろうにな」 「彼等?」 ガリア王家の象徴とも言える青い髪が揺れる。 「そう、彼等だ。ごくまれにだが、あれら『悪魔』には人が入っている事があるらしい。それも、お前達と同じ蛮人が」 「ほほう…それは、会ってみたいものだ」 エルフの長い金髪はサラサラと左右にゆらめく。 「無理だ。さっきも言ったとおり、門を通ると同時に、ほぼ全てが死ぬのだ。後に残るのは灰になった蛮人の遺体。それも残っていればの話だ」 「…なぜ死ぬのだ?しかも、そんな派手に」 「分からぬ。全ては地の底に封じてあるのでな。理由は私も知りたいが、そのためには地の底へ潜り、毒に冒される覚悟がいる」 ジョゼフはふぅ~むと息を吐きつつ、椅子に身を預ける。 「興味深い…実に面白い話だ。それら全てが『虚無』の力、シャタイーンの復活によるものだ、と?」 「うむ。テュリューク統領はじめ、我らネフテスにも懸念が広がっている。この数十年の活発な門の活動とも併せ、世界を滅ぼす大災厄が六千年の時を経て再来するのではないか、 と」 「なるほど、な」 ジョゼフは、ふと何かを思い出したように首を傾げた。 「待て。さっき『ほぼ全てが死ぬ』と言ったが、これまでに生きて門を越えた者はいないのか?」 ビダーシャルは、重々しげに答えた。 「うむ…実は無事に門を越えた先例がある」 「ほほう?詳しく話せ」 とたんにガリア王は身を乗り出す。 「私が知っているのは2例。 一つは60年程前だ。その時は門から光も嵐も起きなかった。それは門から湧き出すと、大地と風の精霊の手を振り切って、西の彼方へと飛び去ったそうだ。その後の事は分からぬ。 恐らく、お前達蛮人の世界へと向かったのだろう」 「ほう…もう一つは?」 「もう一つは、30年ほど前だ。その時も門から光も嵐も起きなかった。代わりに門から、鉄の馬車が走ってきたのだ。馬も無しに走り、車体全てを鋼に覆われたほろ馬車の様なものだ」 「…悪いが、想像がつかん」 王は首を傾げつつも、楽しげに口の端を歪ませている。 「すまんが、私にも上手く表現出来ぬ。それ程までに奇妙なものだったのだ。そしてそれは必死に大地と風の精霊の手から逃れようと、土煙を上げて走ってきた――聖地を囲む土手を乗り越え、砂漠を走り、我らエルフの集落に向けて」 「ほほう!それで、どうなった!?」 ジョゼフは更にエルフに向けて身を乗り出す。 詰め寄られるビダーシャルは、苦々しげに言葉を繋げた。 「その鉄の馬車は精霊に追われ、恐慌状態だったらしく、我らに向かって突っ込んできた。 我らは身を守るため、精霊の力を借り鉄の馬車を止めようとした。 すると、その馬車が火を噴いたのだ」 「火を?」 エルフはゆっくりと頷く。 「荷馬車には大砲が積まれていたのだよ…それも、大地の精霊の加護により築かれた岩の守りを、後ろの同胞ごと貫く脅威の威力を持つ大砲を。反射することも出来ぬほどの、な」 「な!?」 馬車に大砲を積む――もしハルケギニアでそれを行ったらどうなるか。 重くて馬車が動かない、という以前に重量で壊れる。 壊れないほど頑丈な馬車を作っても、重いので地面に沈んで動かない。馬でも引っ張れない。 よしんば岩で舗装した道を走らせたとしても、発砲した反動で馬車ごとひっくり返る。 だがそれでもエルフの先住魔法による防壁を貫けはしない程度の威力だ。いや、『反射(カウンター)』によって全て跳ね返されるだろう。 だが、その鉄の馬車は、全てを易々と実行したということだ。 「結果…その鉄の馬車を止める事は出来た。同時に、その集落は壊滅した」 ジョゼフの頬に、汗が一筋流れる。 「念のために聞くが…その集落には何人のエルフがいた?」 「500は下らぬ。戦える者は100ほどいた」 王は、もはや言葉を失った。 聖地回復運動をいくら行っても、エルフの10倍以上の兵力でもって戦ったとき以外勝てた試しは無い。つまり、その鉄の馬車一台で人間1000人以上の軍勢に匹敵するのだ。 「鉄の馬車を止めた後、数名の同胞がその中を調べてみると、やはり中には蛮人達がいて、その中に一人だけ生存者が気絶していたらしい」 「ほほぅっ!で、今その者はどこにいるのだ!?」 ジョゼフは椅子をひっくり返して立ち上がる。だが、ビダーシャルは残念そうに首を左右に振った。 「いたらしい、と言ったであろう?その者を見つけた同胞は、既に生きてはいないのだ。全員が、意識を取り戻した生存者に殺された。手負いの蛮人一人に、だ。しかも、止めたはずの馬車は再び動き出したのだ。 そして生存者は馬車を駆り、どこへともなく逃げ去った。我らには、もはや追う事は出来なかった」 ジョゼフは座り直し、顎に手を当てて考え込む。 「では、おそらくその者もハルケギニア、いやガリアに向かったやも…」 その言葉に、ビダーシャルは再び首を横に振った。 「期待はできまい。馬車自体が我らとの戦いでかなり破損した。走り去りはしたが、もはや使い物にはなるまい。そして中の生存者も、ただでは済まなかったろう」 「そう、か・・・」 エルフは苦しげに天井へ視線を上げる。 「今にして思えば、我らに否があったのだ。馬車を止めるのではなく、精霊達に彼等への追撃をせぬよう頼めばよかったのだから。だが、あの混乱の中ではもはや手遅れだった。 だからといって、精霊による聖地の封印を解く事も叶わぬ。聖地から湧き出す嵐と毒を最小限に抑えねばならんのだ。 悲しいが、今も聖地では悪魔達が断末魔をあげている。そしてそれはここ数十年、激しさを増している」 ガリア王は、眼を閉じて頭を傾け、じっくりと思索にふける。 しかる後、エルフに向き直った。 「なるほど、卿の話は実に興味深かった。だがまずは、お前達エルフと交渉するとなると、それなりの信用も対価も示してもらわねばならん」 「うむ、それは承知している。まずは交渉の権利を得なければなるまい」 ジョゼフとビダーシャルの会見は、その後もしばらく続いた。 所変わって、トリステイン魔法学院。『フリッグの舞踏会』から数日経った。 ゼッフル粒子発生装置は再び宝物庫で眠りについた…大穴が開いたままだが、もはや秘宝でも何でもないので、別に構わなかった。 斧は次の日、トリスタニアから飛んできたエレオノールと公爵に引き取られた。公爵はヤンの手柄を率直に讃え、エレオノールは高慢で高飛車ながらも、一応「よくやった、褒めてつかわす」と礼を言った。そして今度は騎士達の大部隊に囲まれて去っていった。 なぜ『破壊の壷』と『ダイヤの斧』を無事に取り戻せたのか、公爵もエレオノールも城の衛士達も首を傾げた。 結局、「壷が空と分かったので捨てた。斧はマジックアイテムではないし平民が所有していた物だったので返した」という結論で事件は収束した。 さて、使い魔を見ればメイジの格が分かるという。では今のヤンを見ると、ルイズの格はどうだろう? ダイヤの斧という神話級の逸品と共に、死亡した状態で召喚された。 公爵から箱一杯の金貨を受け取り、王室からの斧の代金も月々受け取る予定の彼は、もはや一介の平民と言うには裕福すぎた。並の貴族より金回りが良い。 アルヴィーズの食堂では、貴族の子弟達を前に怖じ気づく事もなく主を擁護した。 フーケに奪われた『破壊の壷』と『ダイヤの斧』も奪還した。 これだけ聞けば、伝説の英雄とは言えずとも、何かひとかどの人物が召喚されたかとも感じる。 にもかかわらず、彼女の魔法の成功率とも関係なく、あんまりルイズの評価は上がっていなかった。 「だーかーら!あんたはなんで毎朝毎朝主人と一緒に起きてるのよー!たまにはあたしを起こしなさいよー!」 「ルイズ…他力本願は良くないよ。人間、自らの努力を忘れては」 「あんたが努力しろーっ!」 「んじゃ、デル君に頼もうか」 「あ・ん・た・が!努力しろっつってんのよーーっ!!」 二人はそんな会話をしつつ、食堂へと走っていた。 こんな光景を毎朝見せる主人と使い魔では、どんなに上がった評価も次の瞬間には地の底まで落ちるだろう。 ルイズはこんなに寝坊する生徒ではなかったはずなのだが、すっかりヤンに毒されたらしい。 それでなくても、いつももダラダラしているとしか見えない態度で、半分寝ている目で、ちょっと猫背なのだ。見た目はもう、ホントに、冴えない中年男なのだから。 そんなヤンは一ついつもと異なる所がある。両手に白い薄手の手袋をはめている。オスマンから左手のルーンが『ガンダールヴ、伝説の使い魔の印』と知らされたヤンは、すぐルーンを隠す事にした。 さて、その日の午前。 本塔最上階の学院長室では、今日もオスマンが重厚な造りのセコイアのテーブルに肘をつき、鼻毛を抜いていた。 おもむろに「うむ」とつぶやいて引き出しを引き、中から水ギセルを取り出した。 すると部屋の隅に置かれた机に座ってデスクの上の書物を鞄に収めていた秘書が杖を振る。水ギセルが宙を飛び、秘書の手元までやってきた。 つまらなそうにオスマン氏がつぶやく。 「年寄りの楽しみを取り上げて、楽しいかね?ミス・ロングビル」 「オールド・オスマン。あなたの健康を管理するのも、私の仕事なのですわ」 秘書は鞄を手にして立ち上がり、部屋を出ようとする。だがその前に机の下へ杖を向けようとした。 オスマン氏は、顔を伏せた。悲しそうな顔で、呟いた。 「モートソグニル」 秘書の机の下から、小さなハツカネズミが現れた。オスマン氏の足を上がり、肩にちょこんと乗っかって、首をかしげる。 オスマン氏はネズミにナッツを与えつつ、ネズミに耳を寄せた。 「そうか…見えなかったか。残念じゃ」 秘書は鞄を自分のデスクに置き直し、しかるのち、無言で上司を蹴りまわした。 「ごめん、やめて、痛い、というか、最近老人いびりが、きついぞい」 「学院長には、ほとほと愛想が尽きそうですわ!ヤンの件で分かりました。老人といえど、甘い顔をしてはならないと!セクハラが全女性に対する侮辱であり犯罪だという事を、身を持って教えて差し上げますわっ!」 ロングビルにしてみれば、『破壊の壷』が単なるガラクタと分かった以上、もう学院に無理にいる必要はない。単にフーケ騒ぎのほとぼりが冷めるのを待っているだけだ。なので、学院長のセクハラに我慢する必要は無かった。 ゼーゼーと息をつきながら、改めて本を収めた鞄を手にする。 「それでは、私は図書館でヤンに講義をしてきます。学院長はちゃんと仕事をしてて下さい!」 「そ、その、ミス・ロングビルや…秘書の仕事は?」 ギロリ、と釣り上がった眼で睨まれた学院長が、ヘビに睨まれたカエルの如く縮こまる。 「今朝は急ぎの用はありません!全部、午後に済ませますわ」 ドカンッと盛大な音を響かせて扉を閉めたロングビルは、図書館に向かっていった。 ロングビルは図書館に向かう前に、女子トイレに入った。 手洗い場の鏡を前にして、学院長を蹴り回して乱れた髪を直す。そして口に紅をひく。 服装も正して、鏡の前で自分の姿を最終チェック。 そして改めて、鼻歌交じりに図書館へ向かった。 その姿を、朝食を片付ける二人のメイドが見かけた。 「あらー?あれってミス・ロングビルよね。鼻歌歌ってるなんて、珍しいわねぇ」 「ああ、あれよカミーユ。図書館でヤンさんにぃ…こ・じ・ん・じゅ・ぎょ・う!」 「ええー!マジマジ!?ドミニック、マジなのー!?」 「そーなのよぉ!ヤンさんったら、あんなぼんやりしてても、ホントはすっごいのねー」 「そうねー、ヤンさんって不思議な人よねぇ~。おまけに今や並の貧乏貴族より、よっぽどお金持ちだしねぇ」 二人のうわさ話は留まる所を知らない。更に通りがかった他のメイドも加わり、益々話は盛り上がる。 そんな感じで、ヤンは実力以外の所で評価、というか話のネタにされていた。 鼻歌交じりに図書館へやって来たロングビル。窓際のテーブルにヤンの姿を見つけるや、笑顔が僅かに引きつった。 なぜならヤンはお茶を片手に、お盆を手にして立ってるシエスタと楽しげに談笑していたからだ。 「へぇ~、タルブのワインって美味しそうなんだねぇ」 「そうなんですよ!とっても良質なブドウが沢山採れるんです。是非一度来て下さいな、ヤンさんも絶対気に入りますよ!」 こほん、とロングビルがわざとらしく咳をする。 慌ててシエスタが事務的なメイドの顔に戻り、秘書に向けて一礼した。 「それじゃ、ヤンさん。ミス・ヴァリエールのお部屋の掃除と洗濯はお任せ下さい」 「あ、いや、それは僕が後で」 いいんですよー、と一声残してシエスタは去っていった。 ロングビルは、周囲に誰もいなくなったのを確認してから、ヤンの前にどっかと腰を降ろした。 「さすが将軍様。英雄色を好む…てやつかい?」 睨まれたヤンは慌てて首を振る。 「おいおい、ちょっと世間話をしていただけだよ。第一、僕には妻も子もいるからね」 「どーだかねぇ…ま、気をつけな。あんたの手に入れた金を目当てに近寄ってくるヤツは、ゾロゾロ湧いてでるだろうからねぇ。この国に関しちゃ世間知らずなのを良い事に付け入ろうとするやつらが、ね」 「そうだね、気をつけるよ。ところで、その鞄の中身は頼んでおいた物かな?」 ヤンの視線は彼女がもつ鞄の方へと向いている。 「ああ。始祖ブリミル・ル・ルミル・ユル・ヴィリ・ヴェー・ヴァルトリと、ガンダールヴ伝説についてさ。といっても、おとぎ話程度くらいしか伝承が残ってないけどさ」 「それで構わないよ。簡単にでも教えてくれればいいから」 そんな感じで、二人はお昼まで授業を続けた。 お昼になり、ヤンは厨房で食事を取る。 ヤンは普段、食事の時間も惜しいくらいに図書館の本が読みたかった。なので昼食はほとんどサンドイッチのような軽食を頼んでいた。 パンに挟まれた食事を見てると、サンドイッチ、ハンバーガー、クレープと挟むものだけは得意と言っていた妻のフレデリカを思い出す。ハルケギニア召喚前になって、ようやくまともな食事を出してくれた気がするが、さて今頃はどうしているのだろう、と郷愁に囚われる。 その郷愁を生む原因になったアルジサマはどうしているのか、と気になって厨房から食堂を覗き込む。そこにはテーブルに座って昼食をとるルイズの姿があった。 テラスに教師はおらず、生徒達は皆、気楽に歓談しながら優雅な貴族の昼食を楽しんでいる。だがルイズは誰とも言葉を交わすことなく、黙々と食事をしている。そして食べ終わると、すぐに食堂を一人で去っていった。 後には学生達の談笑の輪が残る。 ヤンはかつて養子のユリアンに「運命は年老いた魔女のように意地の悪い顔をしている」と語った事がある。ハルケギニアの年老いた女性メイジ達は、普通に年をとった顔をしていたので、この点は間違っていたようだ。 だが運命がヤンに望みもしない軍人生活を10年以上強いたのは事実だ。そしてルイズにも『ゼロ』と蔑まれる生活を強いた。有力貴族に生まれた出来損ないメイジ。その苦痛はいかほどか、考えるだけでもヤンの心にさざ波が広がる。 「戦争孤児だったユリアンはトラバース法(軍人子女福祉戦時特例法)で僕の所に養子として来てくれて、色々僕の面倒を見てくれたっけ…というか、僕の面倒を押しつけられたという感じかもしれないなぁ」 そんな独り言をいいつつ、彼は一旦ルイズの部屋へ向かった。 「よー、お前さんの勉強は終わりかい?」 シエスタに掃除されて綺麗になったルイズの部屋。壁に立てかけられたデルフリンガーが鞘からピョコッと飛び出す。 「うん。ガンダールヴについて色々聞いてきたよ。それじゃ、改めて『使い手』について教えてもらおうかな?」 ヤンはロングビルから聞いた事をデルフリンガーに語って聞かせる。そして最後に「何か思い出さないか」と尋ねる。 剣の回答はいつもと同じだった。 「ぜーんぜん思いださねー!」 カクッとヤンの頭が垂れる。 「そんなこと言っても、君は六千年生きているんだろ?つまり、始祖と同時代。そして僕のルーンを懐かしいって感じるんだろ?だったら『伝説の使い魔ガンダールヴ』を知ってるってことじゃあないのかい?」 「いや、そうは言われてもなぁ…六千年前のことだぜ、覚えてるわけがないわな」 今度は溜め息をついてしまう。 「君って無駄に人間並のAI組まれてるんだねぇ」 「それ、褒めてんのか?」 「うん、褒めてる」 「嘘つけ」 「ばれたか」 コンピューターなら外付けの記憶装置をいくらでも付けれるが、この剣にはどう見ても端末だの端子だの付けれそうにない。なら、トコロテン方式で古い記憶を忘れていかないと新しい記憶を入れる容量が出来ない。 なにもそんな所だけ科学的にしなくても、と肩を落とすヤン。結局この日の午後は徒労で時間を潰したのだった。 そして放課後。 デルフリンガー片手のヤンは、また厩舎の前でルイズと落ち合った。 「おっそいわよ!さぁ、今日もみっちり特訓するからね!」 ルイズの持つ乗馬用のムチが、鬼教官の教鞭に見えたのは、多分、気のせいではない。 「ゲルマニアについて知りたい!?」 ヤンの馬と並走しながら、ルイズは素っ頓狂な声を上げた。 「バカ言わないでっ!なんであんな成り上がりの国の事なんか知りたいのよ!?」 相変わらずおっかなびっくり馬に乗りながら、ヤンは頑張って答えた。 「うん、そろそろ他の国の事も知りたいと思ってね。それに、今度お姫様が嫁ぐんだろ?お隣の国ってこともあるし、ヴァリエール家のすぐ隣がゲルマニアなんだってね」 ジロリ、とルイズがヤンを睨み付ける。 「そうよ…あのツェルプストーよ。先祖代々の仇敵よ」 「なら話は簡単だよ。孫子曰く『敵を知り、己を知れば、百戦危うからずや』。ああ、孫子というのは僕の国の兵法学者ね。敵の情報を集める事は政戦両略の基本だよ」 むぅ~、と不服げな声を上げるルイズ。渋い顔で手綱をさばいている。 「あんたの言いたい事は分かるけど、私はそれほどゲルマニアに詳しくないわよ」 待ってましたとばかりにヤンは声を上げた。 「んじゃ、講師を呼ぼうかな!」 ルイズの顔は、ますます渋くなった。 「なーるほどねぇ!よぉく分かってるじゃないのぉ。ま、ゲルマニアの事なら私にまっかせなさーい♪」 「では、よろしくお願い致します。ミス・ツェルプストー」 というわけで、日が暮れてからルイズの部屋にはキュルケが来てくれた。もちろんルイズは非常にイヤそうな顔だ。 そんなルイズの顔とは裏腹に、キュルケは満面の笑みを浮かべている。そして当然のように、キュルケの後ろにはタバサが付いてきている。 「全く、なんでキュルケなんかを私の部屋に入れなきゃいけないのよ!ご先祖様になんてお詫びすればいいの!?」 肩を震わせるルイズだが、キュルケはケロリとしたものだ。 「だぁってぇ~、今度うちの皇帝のアルブレヒト三世とトリステインのアンリエッタ姫が結婚するんでしょ?軍事同盟のために。 だったらぁ、私達も過去の怨恨は水に流さなきゃいけない、とは思わなぁい?」 むぐぐーっとルイズも反論出来ずに口を閉ざしてしまう。 「んじゃ、ヤンの要望通りゲルマニアについて教えてあげるわね。ありがたくよーっく聞きなさいよ!」 壁に立てかけられたデルフリンガーがいきなり声を上げる。 「おうおうヤンよ!若い娘に囲まれて、鼻の下伸ばしてんじゃねぇぞ!」 「デル君!バカな事を言わないでくれよ」 と言いつつもヤンは顔が赤くなる。 と言うわけでテーブルを囲み、キュルケのゲルマニア講座が開かれた。 タバサも黙って椅子に座る。キュルケの話を聞くつもりのようだ。 「・・・というわけで、あの皇帝ったら自分が戴冠するため、政敵の親族をぜーんぶ塔に幽閉しちゃったのよ! 頑丈な扉の付いた部屋に閉じこめて、食事はパン一枚に水一杯。薪の暖炉は週に二本っていう有様よ!」 「うわぁ、酷い事するわねぇ」 「相変わらず王族のやるこたぁえげつねぇなぁ」 キュルケの口から語られるのは、勢力争いの果てに皇帝の座を勝ち取った野心の塊のような男の悪事。デルフリンガーがうんざりした感想をつぶやく。聞かされるルイズも恐れ呆れるが、ついつい話にのめり込む。 タバサは相変わらず無表情。でもちゃんと聞いているらしい。 「どーお?ヤンもこーんな酷い皇帝は、なかなかお目にかからないでしょ」 キュルケに話を振られたヤンは、うーんと唸って天井を向いた。 「えーっと、僕の隣の国では、それと似たような事をして皇帝になった人がいるんだ」 ルイズが隣に座るヤンをチラリと見る。 「ふーん、それって例のフリー・プラネッツでの事?」 「いや、フリー・プラネッツは僕の国の名前。その皇帝は、えーっと、ローエングラム王朝を建てた、初代皇帝ラインハルト1世って言ってね」 ふとヤンは、こんな遠い異国の話なんて興味あるかな、と気になり3人に視線を戻す。 だが意外にも3人とも興味ありそうな視線を投げかけてくる。 なので、なるべくハルケギニアと共通する言葉を使って話を続けることにした。 ――帝国軍三長官を一身に集めた帝国軍最高司令官となり門閥貴族勢力を打倒。 帝国宰相を排除し、自らが帝国宰相を兼任。幼い皇帝の元で事実上の支配者となる。 門閥貴族の残党に幼帝を誘拐させ、同盟に亡命させる事で、戦端を開く口実とする。 ゴールデンバウム朝から皇帝位の禅譲を受ける。実態は簒奪であったが。 23歳にしてローエングラム王朝を建て、初代皇帝ラインハルト1世として即位する。 なお帝国宰相一族の女子供は辺境に流刑。10歳以上の男子は全て死刑―― ここまで話した所で、女性陣の反応は・・・ ルイズは、かなり嘘臭そうに顔をしかめていた。特に23歳の皇帝という辺りで。 キュルケは、素直に感心したような感じに見える。 タバサは、やっぱり無表情。でもちゃんと聞いているのだろう。 デルフリンガーは、さらにえげつねぇニーチャンだなぁ、と呆れた。 とりあえず最後まで聞いてもらえたので、ヤンは満足した。 「まぁそんなわけで、僕の国は最初から最後まで、その皇帝に負けっぱなしだったんだ」 最後まで聞いてもらえたのはいいけど情けない話だなぁ…と気が滅入りそうになる。 で、改めて女性達を見ると、ヤンの顔を真っ直ぐ見つめ、そして何かを納得したようにそろって頷いた。 何について全員頷いたのか、ヤンは聞く気にはなれなかった。 「へぇ~、凄い皇帝なのねぇ。ねぇねぇ!あなたのお国の話、もっと聞かせてくれないかしらぁ?」 そう言ってキュルケがヤンにずずずいと近寄り、胸をすり寄せる。 「いや、あの、僕はゲルマニアの話を・・・」 寄られるヤンはタジタジだ。自分の半分くらいの年齢の女性に戦略的撤退を余儀なくされてしまう――つまり、後ずさる。 ヤンを挟んで反対側にいたルイズがグイッとヤンを引っ張り寄せる。 「何してんのよあんたは!真面目にやんなさいよ!」 「あーら、いいじゃないのよぉ~。あたしの国ばっかりじゃなくてぇ、ヤンの国の事だって知りたいじゃないのぉ」 二人の若い女性に引っ張り合いをされるという、彼の人生で滅多に無かった体験。ヤンも大汗を流して困り果てる。その有様にデルフリンガーの笑い声が重なる。 タバサは講義が終了した物と判断し、鞄から本を取り出して読み始めた。 そんなこんなで、ルイズの部屋からは深夜まで黄色い声が響いていた。 夜も更けて、皆がアクビを出し始める。 「ふわぁ~。ありがとうございました、ミス・ツェルプストー」 「ああんもぉ~、いい加減キュルケって呼んでよねぇ~」 「呼ばせないわよ!さぁさぁ、もう帰りなさいよ!」 「はいはい、それじゃ、また明日ぁ~」 キュルケとタバサは自分の部屋に戻っていった。 「ふわぁ~…それじゃ、ルイズ。僕はトイレに行ってくるよ」 「…はふぅ…すぐ帰ってくるのよぉ」 ヤンは部屋を出て、寮塔からも出る。女子寮塔は女子だけなので、女子トイレしかない。 だから使用人用のトイレへと向かった。 「よぉ、見てたわよ」 トイレから帰る途中、ヤンは女性の声に呼び止められた。 寮塔の前に立っていたのはロングビル。 「おや、どうしたんだい、こんな夜更けに。新しい獲物の品定めかい?」 「よしとくれ。職業柄、夜型なのさ。だから軽く夜の散歩でもと思ってね。そしたら寮塔の窓にあんた達の姿が見えてねぇ」 そういってロングビルはヤンに歩み寄る。 「それにしても、意外だねぇ。あんた、あのアルジが嫌いだと思ってたよ」 「うん?何の事だい?」 とぼけたように肩をすくめるヤン。 だがロングビルは真面目な顔でヤンを見つめている。 しばし沈黙した後、ヤンは諦めたように息を吐き、月を見上げた。 「僕には息子がいたんだ。戦争孤児でね、ユリアンっていうんだ」 ロングビルは黙ったままヤンの話を聞く。 「あの子は国の政策で、僕の所に養子として来てくれてね。色々僕の面倒を見てくれたんだ…というか、僕の面倒を押しつけられたという感じだね」 「あんた、手間がかかりそうだもんねぇ」 「まぁね。無駄飯食いと呼ばれたのは伊達じゃないよ」 「いばッて言う事かい?」 クスクスと緑の髪を揺らして笑う。 ヤンも笑い出す。 「あの子は、政府に僕の所へ行けと命じられて、僕の息子という立場を押しつけられた。でも、あの子は文句を言うどころか、本当に僕の面倒をよく見てくれたよ。掃除も、洗濯も、食事に茶の入れ方まで、本当に完璧に家事をこなしてくれた。 それどころか、軍にまで入って、僕を必ず守ると言ってくれたんだ」 ロングビルは笑うのを止める。ヤンの瞳に寂寥が含まれているのが分かったから。 「で、自分を見てどうなんだろうって思ってね。 使い魔という立場を押しつけられた時、僕は即座にルイズの下を出て行こうとした。当然家事なんて出来やしない。ルイズを守ると言っても、彼女がこのハルケギニアの貴族制度の中で生きていくのを守るなんて、僕には難しいよ」 「…で、せめて、あの子に友達の一人でも…てか?」 「う、ん…まぁ、ね。我ながら、傲慢で身勝手な考えだと思うんだけど」 「あんたを奴隷にしようとした娘だよ?」 「でも僕は奴隷にならなかった。なら、その事は水に流していいんじゃないかな」 ヤンは恥ずかしげに頭をかく。 そして笑われるか、呆れられるかと思ってロングビルを見直した。 だが、彼女は微笑んでいた。 「あんた、本当に軍人らしくないねぇ」 感心したように、嬉しそうに言うロングビル。 「うん、自分でも向いてないと思う」 ヤンはロングビルの端正で知的な眼を見る。月明かりに照らされた緑の髪がキラキラと輝いている。 思わず赤面して、顔を下に向けて更に頭をかいてしまった。 そんなヤンの丸まった背を、ロングビルはバシッと叩いた。 「なーに縮こまってンだ!そんなんで、あの子を守れると思ってるのかい!?」 「ごふっ!い、いや。守るッて言われてもなぁ…僕はいつまでハルケギニアにいるかも分からない身だし」 「だったら!いる間はあの子を守ってやんなよ。どーせ迎えが来るかどうかさえ分からないんだろ?」 「うん、まぁ、そうだね」 「んじゃ、早くあの娘ンとこに帰りなよ。きっと寂しくて泣いてるぜ」 「それは無いと思うけど。それじゃ、おやすみ」 ヤンとロングビルは手を振ってそれぞれの寝床へ帰って行った。 二つの月は夜の闇の中でも学院を明るく照らし出している。 それは、何か聖なる場所のようにも見えた。 第七話 聖地 END 前ページ次ページゼロな提督
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誰にもわからない。わかるはずが無いんだよ、地球の馬鹿供め!!フハハハハハハ・・・・・ -- ヤプール人 (2010-02-21 17 22 35) 最近じゃ巨大ヤプールばっか有名で、こっちは忘れられてる様な・・・ -- 名無しさん (2010-02-21 21 31 52) よく考えればこの姿が元祖なんだよな -- 名無しさん (2010-02-21 22 29 08) 番組見てて思ったがこの映像はどうやって撮影しているのだろうか -- 名無しさん (2010-02-22 20 32 30) そんなに知りたくば教えてやろう。我々、異次元人ヤプールの映像は複数の着ぐるみを着たスーツアクターがTAC共の作戦会議室で動き回りフイルムの特性を生かしたソラリゼーション効果で撮影したものなのだぁぁぁ!! -- ヤプール人 (2010-02-22 21 52 25) なるほどなあ しかし雰囲気のよく出てる絵だ -- 名無しさん (2010-02-22 22 11 13) ヤプール人乙!雰囲気が出ていていい絵だなぁ。因みに俺はメビウス以降の玄田さんヤプールが好きだったり。玄田さんボイスでのアッハッハッハッハ!!って笑い方が個人的に大好き。 -- 名無しさん (2010-02-23 08 47 06) なんの作品の絵? -- 名無しさん (2010-02-23 11 57 27) 「ウルトラ5番目の使い魔」の異次元の悪魔を知らぬとはな、全く・・・愚かな人間共よ!! -- ヤプール人 (2010-02-23 14 11 47) ↑五個上の解説どうも、しかし全然わかりませんでした。 -- 名無しさん (2010-02-23 18 58 43) つまり撮影のセット自体は同じということでしょう。MAT~MACまで、基地のセットは部分的に改修して使いまわしてたらしいし。オイルショックでセットの維持費がままならくなったのが、MAC全滅の裏事情。 -- 名無しさん (2010-02-23 19 57 30) 不景気とは怪獣よりも恐ろしいものか…>MAC全滅 -- 名無しさん (2010-02-24 22 32 18) 特撮はいつの世も予算との戦いだ。着ぐるみを改造して新しい怪獣を作り、シーンやセットを流用し、他作品からも機材やミニチュアを借りてこないと到底間に合わない。そんな厳しい環境の中で数々の傑作を生み出し、今の基礎を築いた人こそ特撮の神様、円谷英二監督だ。 -- 名無しさん (2010-02-26 17 34 04) ↑よくぞ言ってくれた!最近の玩具会社の犬になり下がった腐れ東○どもにのしつけて言ってやりたい。金なんかなくても情熱と愛さえあれば素晴らしい作品は作れるんだと。 -- 名無しさん (2010-03-10 13 54 34) かつてスーパーマンを演じたクリオストファー・リーヴが本当のスーパーマンであったように、おそらく円谷英二監督はウルトラマンだったのだろう。 -- 名無しさん (2010-03-19 23 23 48) ヤプールの着ぐるみは後にレボール星人に改造されました。 -- 名無しさん (2010-04-25 18 57 52) そして巨大ヤプールの着ぐるみはそのままでウルトラマンタロウに再登場したのは有名な話 -- 名無しさん (2010-04-27 15 24 34) 劣化しまくりで別物にしか見えなかったがな。。 -- 名無しさん (2010-04-29 17 45 10) 劣化のし過ぎで別の怪獣にされてしまったテレスドンよりはましなほう。 -- 名無しさん (2010-04-30 22 39 54) 劣化した着ぐるみでもウルトラファイトのような人気作を生み出すことはできる。予算よりも大事なのは、表現と構想力だ。 -- 名無しさん (2010-07-05 13 32 35) ウルトラ史上最凶の悪魔。 -- 名無しさん (2010-10-23 12 25 29) マイナスエネルギーの集合体だから絶対悪、しかも完全に滅ぼすことはできないから無限に蘇ることができるという、まさに悪魔そのものと呼んでいい存在 -- 名無しさん (2010-12-01 18 26 46) 超8兄弟の黒い影法師の正体はヤプールだったのではなかろうかと思ってる -- 名無しさん (2010-12-02 00 41 09) ゆけぇーっベロクロン! -- 名無しさん (2011-02-12 03 01 07) 名前の元ネタは家畜人ヤプーだそうで。 -- 名無しさん (2011-04-09 17 02 44) 最近はすっかり空気ですけど。まぁいつか最悪のシナリオひっさげて現れるんでしょうけど -- 名無しさん (2011-04-11 00 48 08) ↑案の定期待を裏切らない最悪の形で復活してくれました! -- 名無しさん (2011-06-21 16 34 25) 何てこった。最近大人しくしていたと思ってたら、よりによって、聖地をエルフから奪い取って復活を遂げるとは… -- 名無しさん (2011-06-21 22 03 55) しかし、エンペラ星人、レイブラッド星人、ジュダには、うだつが上がらない。 -- 名無しさん (2011-08-04 14 26 52) ↑デスレム、グローザム、メフィラスといった同列の奴らには軽く見られてたしね -- 名無しさん (2011-08-04 14 39 47) ヤプールの声優してた人は今ではわからないらしい。あの憎憎しげな声はエースというドラマに不可欠なものだった -- 名無しさん (2011-11-30 17 37 33) 誰の心の中にでもいる悪魔、だからヤプールとの戦いは終わることはない -- 名無しさん (2012-08-18 03 32 57) しつっこさでは最近ベリアルが並んできたな -- 名無しさん (2013-02-15 00 24 19) 悪魔は地に伏してもいつか必ず蘇る -- 名無しさん (2013-11-11 23 56 36) 名前 コメント
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元スレURL 海未「すみません、遅れました」ストン ブゥー 概要 関連作 タグ ^高坂穂乃果 ^園田海未 ^南ことり ^西木野真姫 ^星空凛 ^小泉花陽 ^矢澤にこ ^東條希 ^絢瀬絵里 名前 コメント
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37ページ目 レッド「・・・マップ、マップ」ウィーン ジョーイさん「お疲れ様ですー」 レッド「あった」 レッド「・・・」 レッド(このアサギってとこに行ってみよう)ウィーン ジョーイさん「ありがとうございましたー」 アサギシティ レッド「ふぅ、はぁ・・・」 レッド「やっと、ついた・・・はぁー」 レッド「食堂・・・食堂で・・・水の一杯でももらおう・・・」 次へ トップへ
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朝からルイズはそわそわしていました。いつも寝坊するのにおとーさんが来る前から起きていました。もっとも殆ど寝てないという方が正解ですが。 いつものように支度を済ませ朝食をとり・・・と行動したかったのですが手が震えます。それでも着替えはおとーさんがいつも通りに手伝ってくれるおかげでなんとかなりました。 食堂に行くとおとーさんに色々な人が話しかけてきました。コック長のマルトーはおとーさんの事を我等が剣と言い、メイド達はなぜかおとーさんを触りまくっています。 ルイズはちょっと怒りながらおとーさんをメイド達から引き離しましたが、今度は生徒達が触りまくっています。 「な、何なのよいったい・・・」 ルイズが不審に思っているとギーシュが現れました。 「やぁ、ミス・ヴァリエール。君の使い魔は・・・あぁ、やはりそうか」 指で顔を掻きながらギーシュが少し困ったような顔をしています。 「ギーシュこれはどういうことよ?」 この事態の原因がギーシュだと直感したルイズは詰め寄ります。 「おお。怒らないでくれミス・ヴァリエール。実はあの決闘の後、僕はモンモランシーに許してもらえてね仲直りする事が出来たんだ。 君の使い魔に負けたことで真実の愛がわかったんだ!!僕はモンモランシーをこれからもずっと愛していく!!」 いつの間にかギーシュの横に来ていたモンモランシーが頬を赤く染めています。そんな彼女をギーシュは優しく抱き寄せるとこう言いました。 「君の使い魔は僕たちのキューピットなんだよ」 「ふんふん、それを皆に言いふらしたのね」 ルイズはすこし眉をひくつけせながら言いました。 「あ・・いや、言いふらしたつもりは無いんだが・・・どうも違った方向に話しが広まった・・・かな?」 ギーシュはもみくちゃにされているおとーさんを見ながら弁解しました。 「と、とにかく僕は君の使い魔を憎んだりとかは一切無いよ。むしろ感謝してるくらいなんだ。このお礼は改めてさせてもらうよ」 ギーシュはそう言うとバスケットを持ったモンモランシーとどこかへ行ってしまいました。 取り残されたルイズは、ほとほと困っていましたが先生達が騒ぎを治めてくれたおかげでなんとか落ち着きました。 ルイズは朝食を取ろうとした時、おとーさんの食事を昨日と同じ質素な食事のままにしている事を思い出し自分の食事を分けようとしました。 ところが、おとーさんの食事はなぜかはしばみ草のフルコースでした。 (ななな、何よこれ!! 完全な嫌がらせじゃないの~~~!!) ルイズは真っ青になっていましたが、目の前からタバサが声をかけます。 「それは私から」 ルイズはタバサを睨み付けましたが、タバサは涼しげにこう言いました。 「喜んで食べてる」 ルイズは何を言ってとばかりにおとーさんを見ますが嬉しそうに食べてました。 (なんでタバサがおとーさんの好みを知ってるのかしら・・・) 腑に落ちないルイズでしたが、おとーさんが嬉しそうなので今度からはしばみ草をメインにしようかなとか考えていました。 朝食が終わってまた騒ぎになる前にさっさと部屋に戻ったルイズとおとーさんは扉の前に立っています。 「じゃぁ、おとーさん案内してもらうわよ」 朝の緊張もどこへやら、ルイズは貴族の威厳をかもし出しながら扉を開けました。 「え?靴を脱ぐの?なんで???」 おとーさんから靴を脱ぐように言われたルイズは困惑してしまいましたが、そういう風習なのかと考えて渋々扉の前で靴を脱ぎました。 扉の向こうは色々変わった部屋でルイズの興味を大いにそそりました。 草を編んだ物を敷き詰めた床 足が低く丸い形をしたテーブルとその周りに置いてある四角いクッション 木組みに白い紙を張っただけの扉 食料と冷気を中に閉じ込める白い鉄の箱 小さなドアノブの様な物を捻るだけで火が出る台 ネジの様な物を捻ると水が出る管 ジリリリリリリ~ン 黒いものが突然音を出すとおとーさんが近づき徐にその一部を持ち上げ耳に当てています。しかも何やら独り言を言っているようです。 「お、おとーさんそれなに??」 ルイズは訝しげにおとーさんに尋ねましたが「デンワ」と答えて終わりでした。 (黒い物の名前だと思うけど、どんなものだか教えてくれないとわからないじゃない) ルイズが少し不機嫌になっていると、おとーさんがテーブルの前のクッションに座るように言いました。 飲み物を持ってくるから待ってて欲しいとの事でした。おとーさんはさっきの白い鉄の箱を開けると何やらグラスに注いで持ってきました。 「お、おとーさんこれ飲めるの??」 グラスの中の液体は真っ黒でブクブク泡が出ています。以前にコルベール先生の授業で見せてもらったビンに入った液体を思い出したルイズは飲むのをためらっていました。 おとーさんから美味しいからと説明され意を決したルイズは一気に飲もうとして口と鼻から盛大に吹き出してしまいました。 「ゴホッゲホッ・・・やっぱり飲めないじゃないのよ!!!!」 咳き込みながら目から涙と鼻からコーラをたらしおとーさんに詰め寄るルイズでした・・・ その頃、キュルケは「犬が・・・破裂・・・触手・・怖い・・」と魘されていました
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前ページ次ページゼロな提督 『ようこそタルブへ 道に迷った人は、オイゲン・サヴァリッシュをお尋ね下さい』 タルブの村の前、立て札にはそう書いてある。 内容は、オイゲン・サヴァリッシュという人が道案内をします、というだけ。タルブ村 の案内役の広告に見える。 ただ、問題はいくつかある。 ここが、どうやっても道に迷いそうにない村だということ。もう一つは、『ようこそタル ブへ』部分はハルケギニア語で書かれてるが、『道に迷った人は、オイゲン・サヴァリッシ ュをお尋ね下さい』という部分は銀河帝国の公用語で書かれている事。 これが示す事実、それはこの村にヤンやヨハネスの如く異世界から来た人がいるという こと。そして、その人は同じ世界から来た人に何らかのメッセージを送ろうとしているこ と。 そして、ヤンが知る限り、ヤン以外にハルケギニアへ来た異世界の存在は二つ。 一つは30年前、ヨハネスが乗車していた装甲車。ほとんどの乗員はエルフとの戦闘で 死亡。生き残ったヨハネスもオスマンの前で死去。 そしてもう一つは60年前、聖地から西へ飛び去った飛行物体。 ならば、この村にいる人物とは・・・。 第十八話 タルブ ヤンさーんっ!みなさーんっ! 遠くからヤン達を呼ぶ声がする。 村の方を見ると、草色の木綿のシャツに茶色のスカート、それに木の靴を履いたシエス タが手を振りながら笑顔で駆けてきていた。 「はぁっはぁ…お久しぶりです!ずっと待ってましたよ」 シエスタは、ヤン達の姿を見ると、笑顔がだんだんと真顔に変わっていった。 村の入り口の立て札と、顔を強張らせるルイズ達の間で視線を往復させる。何より、シ エスタを凝視するヤンを。 ヤンの半開きな口から、呻くように声が漏れる。 「・・・オイゲン・サヴァリッシュ・・・」 瞬間、シエスタの表情が変わった。 ヤン達が予想したのは驚きの表情。 だが、シエスタが実際に示した表情は、満面の笑顔。 「はいっ!曾祖父の名です!」 シエスタではなくヤンの顔が驚愕へと変化した。 「まさか…君は、最初から、全部知っていたのか!?」 「いえ、そんな事はないですよ。でも、曾祖父と近い国から来た、という事は気が付いて ました」 あんぐりと口を開けたヤン達に、シエスタは微笑みながら話し続ける。 「覚えてますか?ヤンさんが召喚された時、血で汚れて穴が開いた服を着てましたよね? 洗濯して穴を繕ったのは私達メイドですよ。その時、あなたの服に書き込まれていた文字 は、曾祖父が教えてくれた文字と沢山の共通点がありました。だけど、読めはしませんで した。 その時に気が付いたんです。ヤンさんは曾祖父の故郷と近い場所から来たんだって」 ヤンもルイズもロングビルも、二の句が継げなかった。 「お、おでれ~たぁ~」 デルフリンガーだけが継ぐ事が出来た。 「ただ、サヴァリッシュの掟で、その事実を部外者に語る事は許されませんでした。だか ら、その時点ではヤンさんにも話す事は出来なかったんです。 でも、その立て札を読めたなら話は別です。曾祖父の遺言ですから」 ヤンは、始祖ブリミルを呪う事にしていた。もし会ったらブラスターで穴だらけにして やると誓っていた。だが、もうそんな気すら失せてきた。 怒りを通り越して、呆れた。 一体、始祖ブリミルというのは偉人なのかバカなのか、意地悪なのか親切なのか。 ここまでご丁寧に、学院へ虚無の手掛かりを集めた上に、ヤンと同じ被召喚者の関係者 まで呼び寄せているとは。こんなもの、偶然なハズがない。明らかに故意だ。始祖の強大 な魔力によって仕組まれた運命の糸に、全てが引き寄せられたのだ。恐らくルイズは本当 に『虚無』の系統なのだ。 理由は薄々、予想が付く。強大な『虚無』の使い手に施された安全装置を、しかるべき 時期に「指輪と王家の秘宝」と接触させて解除しなければならないからだ。 これがティファニアのように王家の者であれば問題はない。自然と指輪にも秘宝にも触 れるだろう。だが、ルイズは王家に生まれなかった。このままでは指輪にも秘宝にも触れ る機会がない。 だから学院に全てを呼び寄せたのだ。明らかに物理法則を無視した『錬金』『召喚』すら も可能とする魔法。その起源たる始祖の力なら、この程度の網を数千年前から組む事すら 不思議ではないと認めるべきだ。 だが、だったらなんでこんな回りくどいやり方をするんだ!?おかげでどれ程の人がと んでもない迷惑をこうむっていると思うんだ!? と、ヤンは力の限りに文句を付けずにはいられない。 そんなヤンの煮えくりかえり過ぎて焦げ付いたはらわたに気付かぬように、シエスタは 話を続けた。 「その立て札を見て分かる通り、曾祖父は『自分と同じ国から来た人がいれば助けたい』 と話していたそうです。立て札の下の文は、『同じ国』から来たかどうかを見分けるための ものなのですよ。 そして、曾祖父の言葉は村の掟そのものです。この村に、曾祖父の言葉に逆らう者はい ません」 その言葉に、ようやくヤンは再び声を絞り出す事が出来た。 「それじゃ…まさか、君が、僕に、お茶の入れ方とか、洗濯の仕方とか、色んな事を教え て、くれたのは…」 「エヘヘ…サヴァリッシュの掟、というか教えなんです。ヤンさんのような異邦人には親 切にしてあげなさいっていう。おまけに曾祖父と近い国から来た人でしたから、多分曾祖 父と同じような苦労をしてるだろうなぁ、て」 ちょっと恥ずかしげに俯きペロッと小さな舌を出すシエスタ。 だがヤンには、そんな仕草を可愛いと思うような余裕はなかった。 「それじゃ!この、道に迷ったら尋ねてきなさいって!?僕に、何を伝えようと!!」 彼らしくない剣幕で詰め寄るヤンに、シエスタは笑顔を少し引きつらせてあとずさって しまう。 「あ、あの、その辺は村に言ってからしませんか?実は、ヤンさんの事は、恐らく村全体 にとって重要な話になると思うんです」 「分かったよ。すぐ行くよ!」 ヤンとシエスタは足早に村へと向かう。 取り残されたロングビルとルイズは、慌てて二人を追いかける。「こらー!俺を忘れてく なー!」というデルフリンガーの叫びを残して。 タルブの村は、見た目はごく普通の村だ。 ワインが特産というだけあって、山の斜面にはブドウ畑が延々と広がっている。その山 に囲まれた平地には緑の海のような草原が広がる。山の上にはちらほらと、オレンジ色の 屋根と白い壁の民家が見える。その麓には醸造所らしき、尖った屋根を持つ大きめの建物 も建っている。 ただ、それぞれの家は少し大きく、立派そうに見える。村の柵や道も整備が行き届いて る。なかなかに裕福らしい。 ヤン達がシエスタに案内された村の中心、広場では村長らしき初老の男が待っていた。 そして周囲の民家の間、窓から顔を出す人、家の前に並べた椅子に座る老婆が一行をみつ めている。彼等の視線は、明らかにヤンへ集中している。それは好奇心、疑惑、そして敬 意。だが表だって動こうとはしない。 村長が緊張した面持ちで一行の前に立った。 「初めまして、私はワイズと申します。このタルブ村の村長をしております」 村長は、貴族であるルイズやロングビルへ礼をする。だが、その視線だけは明らかにヤ ンへ向かっている。 そしてルイズにもロングビルにも、村長の貴族に対する非礼を気にしなかった。二人も ヤンへ視線を向けていたからだ。 彼は、村長の前に進む。 「初めまして、ヤン・ウェンリーです。こちらのミス・ヴァリエールの…執事見習い、を しています」 使い魔、と言わなかったのは彼のこだわりであり、人としてのプライド。 そのわりに「見習い」と言うのは気にしない。 「失礼ですが、村長の名は、本当はワイズ・サヴァリッシュですか?」 ヤンの問に、白髪混じりの村長は首を振った。 「平民ですので、家名はありません。この村の恩人たる父、オイゲン・サヴァリッシュも 生涯オイゲンとのみ名乗りました。この村で平凡な平民として暮らすため、父は家名を捨 てたのです」 「で、では、オイゲンという人は、一体どういう人物なのですか!?ここで何をしたので すかっ!?」 詰め寄るヤンを、ワイズはまぁまぁとなだめる。 「それについては長い話になると思います。ですので、まずは宿を決め荷物を運んでくる としましょう。では、シエスタよ」 「はい。ジュリアンに荷物を運ぶよう伝えて来ます。皆さんは、私の家でお泊まり下さい な。大したおもてなしは出来ませんけど、精一杯歓迎しますね!」 そう言ってシエスタは広場の隅で遠巻きに眺めていた子供達を呼び寄せ、その中の年長 らしい男の子に荷物を運んでくるよう言いつけた。彼がジュリアンなのだろう。兄弟らし き子供達は村の入り口へと飛んでいった。 そして一行はシエスタの家へと案内された。 ただの民家、というには少々大きく立派な家だった。シエスタを長女とする八人兄弟を 含め、サヴァリッシュ一族が十分に暮らせる広さを持っている。ルイズとロングビルに一 部屋、そしてヤンが泊まる部屋と、二部屋の余裕があるくらいだ。家に並んで立つ倉庫ら しき建物は恐らく、ワインの樽が並び、ワインの瓶を収める瓶架台と木箱が詰まっている 事だろう。 屋根も壁も綺麗で、ベッドも白く清潔なシーツをひいてある。使用人がいても不思議な い、というくらいだ。でもそういう人物は見えない。シエスタが学院でメイドをしている のだから、そこまでの富農ではないのだろう。 家のキッチン、というか食堂では家族がズラリと待っていた。 主人とおぼしき男が礼をする。 「ようこそいらっしゃいました。まさか、祖父が待ち続けた『迷い人』が、本当に来ると は…娘から聞かされた時には、全く驚かされました」 今度は明らかに無視された貴族二人は、やっぱり非礼を咎める気が湧かなかった。 ヤンも深々と礼をして、ルイズとロングビルを紹介する。ここでようやく主人は「おっ と、これは失礼しました」と二人に礼をする。 ハルケギニアの支配者階級であり、魔力を持たぬ平民の村人にとっては畏怖の対象であ るメイジすら失念させるサヴァリッシュと『迷い人』。その存在について、皆一様に疑念と 期待と好奇心を隠しきれない。 荷物を運び込んでもらった一行は、特にヤンは即座に部屋を飛び出した。置いて行かれ た事にブツブツと不満を呟くデルフリンガーを背負って。 家の前に立つ一行を見て、シエスタはちょっと困った顔をする。 「あの、この話はヤンさんにのみ、したいのですが…」 ルイズが肩をいからせて抗議する。 「何言ってンのよ!ヤンは私の執事であり、使い魔よ。主と使い魔は一心同体、ヤンの秘 密は私の秘密!」 ロングビルも鋭い視線でシエスタを睨み付ける。 「あたしらはもう、ヤンについて色々と知りすぎたのさ。今さら無関係と言われても通じ ないよ」 だが、ヤンはデルフリンガーを背から降ろし、ロングビルへ差し出した。 「ちょっちょっと待てよ!俺にも聞かせろよ!!」 だがヤンは、怒りと悲しみと不満で塗りつぶされた二人と一本に、強く言い聞かせる。 「これは、僕だけじゃなく村の秘密でもあるんだ。話が終わるまで、待ってて欲しい。話 せる事は後で僕から話すよ」 思いっきりふくれっ面なルイズ達を残し、シエスタとヤンは村を後にした。 山の斜面を埋め尽くすブドウ畑の中を、二人は歩いていた。 先を歩くシエスタが遠く見つめる先には、山の裾野から広がる草原がある。 「この草原、綺麗でしょう?ひいおじいさんは、この草原の彼方から、ふらりとやってき たんです」 そして視線を山並みへと移す。延々と続く、規則正しく並んだブドウの木が並ぶ斜面へ と。 「ひいおじいさんは、本当に変な人だったそうです。 文字をスラスラと読める学があるのに、厠の使い方が分からなかったり。 酔った荒くれ者を片手で投げ飛ばす腕っ節の元兵士なのに、馬に乗れなかったり。 町の商人が出来ない程の複雑なお金の計算を、あっという間にする方法を知っていて、 火を扱う方法を知らなかったり。 何より、メイジや魔法に関して、全くの無知でした。 つまりヤンさんと同じです」 ブドウ畑の間を歩きながら聞かされるオイゲンの話、全て自分にも当てはまる事だとヤ ンは納得した。 帝国だろうが同盟だろうが、トイレは水洗。汲み取り式便所なんて、古代を舞台にした 時代劇にしか出てこない。馬に乗る機会も無いから、馬の乗り方なんか知るはずない。学 校で連立方程式や三角関数は習っても、かまどの使い方は習わない。何より、魔法使いな んかいない。 シエスタは、両手を広げた。 「でも、沢山の知識を村に授けてくれました。その中の一つが、タルブの名産であるワイ ンなんです」 両手を広げたままクルリと回るシエスタ。ふわりと広がるスカートの周囲には、ブドウ 畑が彼方まで続いている。 彼女の細い、しかし田舎暮らしらしく華奢ではない指がブドウの葉を手に取る。 「ひいおじいさんは、遙か東から来たワイナリーだと言ってました。家を出て軍人になっ たけど、戦争中に道に迷い、放浪の末にここへたどり着いた。もう帰れなくなったので、 ここで雇って欲しいと。 そしてそのまま村で暮らし、家族を持ち、骨を埋めました」 「彼が来たのは、いつのことかな?」 うーん、と人差し指を顎に当てて考える。 「大体、60年くらい前の事だと思います」 シエスタの手の上のブドウの葉を見つめながら、ヤンは考える。 恐らくオイゲン・サヴァリッシュの家は帝国のワイナリーだったのだろう。ワイナリー というのは、ブドウ農家と醸造家を兼ねる職業。帝国と同盟の恒常的戦争状態が続く中、 彼は家業を継がず軍人になった。軍では当然ながら徒手格闘技術もナイフ術も学ぶのだか ら、酔っぱらいの素人では相手にならない。 そして60年前、運良く大気圏内での飛行が可能な機体に乗ったまま、聖地の『門』に 突っ込んだ。ビダーシャルの話とも一致する。問題は、その機体が今どうなっているかだ が。 シエスタは、手に取ったブドウの葉をヤンに示した。 「サヴァリッシュの教えは、あっと、ひいおじいさんの教えてくれた事を村の人はサヴァ リッシュの教えと呼んでいるんですけどね。それは本当に、もの凄く役に立つ知識ばかり でした。 例えばこの葉っぱです。ブドウ果への日照量をコントロールするために、葉っぱを間引 くんです。これによってカビの発生を防ぎ、着色が進むんですが、一房に何枚の葉が必要 なのか、すら細かく教えてくれました」 ヤンはブドウ農家でも醸造家でもないので、そこまでの知識はない。というか、かつて 酒と人類の歴史について論文を書こうとして、すぐに投げ出した記憶が有るような無いよ うな。酒好だけど、醸造家でもブドウ農家でもない。 と考えたところで、ヤンはある事を思い出して「あっ!」と声を上げた。 「そうだ!10日前くらいに、君が持ってきてくれたタルブのワインを飲んで、何か懐か しいと思ったんだ! そうか、あれはハルケギニアじゃなくて、僕らの世界の技術で作られたワインだったか らなのか…」 シエスタも頷く。 「恐らくそうだと思います。何しろ、サヴァリッシュの教えによって、この村のワインは 全く変わってしまったんですから」 そう言うと彼女は再びブドウ畑を見渡す。 「ブドウ畑は傾斜している方が日当たりが良い、土地が痩せている方が根を深くはりワイ ン用に向いたブドウが収穫できる、一年を通じての温度や雨の量、剪定の仕方に赤ワイン の色や味の変え方。スパークリングワインやロゼワインの作り方…。 これらサヴァリッシュの教えは、村の秘伝です。だから、ミス・ヴァリエールやミス・ ロングビルのような部外者には教えられないのです」 ヤンは納得しそうになって、ふと首を傾げた。 確かにワイナリーにとっては秘伝の技だろう。だが、それはワイン農家や醸造家として の教えだ。『道に迷った人は、オイゲン・サヴァリッシュをお尋ね下さい』という帝国公用 語でのメッセージが、まさか「一緒にワインを作りませんか?」という意味だというのだ ろうか。 その質問をぶつけると、黒髪を揺らいてシエスタはクスクス笑った。 「もちろんそんなワケありませんよ!ワイナリーとしての知識なんて、ひいおじいさんが もたらした物の、ごく一部にすぎないんです。 読み書き計算は言うに及ばず、債権債務の管理方法、水の魔法を使わない医療知識、そ のほか、本当に沢山の事を村にもたらしました。おかげで、町の商人に法外な利息の借金 で縛られた農奴の村は、見ての通りの繁栄を手にしたのです」 そう言ってシエスタが広げる腕の先、山の麓に村がある。大きく立派な家が並んだ、村 というより町に近いかも知れないタルブを 銀河帝国の教育水準は、貴族社会とはいえ平民でも最低限の水準は満たしている。ワイ ンの売買を通じ、信用買いや銀行からの融資とかも経験しただろう。まして士官学校出身 なら、戦場で必須となる救急医療術も学ぶ。ハルケギニアの医療を担う水系魔法は、科学 を超える効果を示すが、あまりにも高価で平民には縁がない。おまけに水魔法に頼ってし まうため医学が発展しない。 ならば、借金漬けの農村では水メイジに頼らない医学は重宝された事だろう。 再びクルリと振り向いた少女は、更に話を続ける。 「実は、曾祖父はワインの事業で成功してからは、書物を書き記したんです。それも、部 屋一杯の書棚を埋め尽くす程に。それらは村の秘伝として、なにより皆の安全のために秘 匿されました」 「安全?」 「ええ。農奴をすら富農に変える知識の山ですから、狙う者は数知れないでしょう。流れ 者の平民である曾祖父に後ろ盾はありません。書物の存在を村以外の者に知られたら、村 も終わりです。 曾祖父はサヴァリッシュの名を捨て、ただの平民を演じました。その知識はタルブの秘 伝です。記した書物は全て曾祖父の国の言語で書かれています。読み方は村長である祖父 や父、そして私達兄弟など、サヴァリッシュ直系にしか伝えてありません」 この地を治めるのはアストン伯。異教に目を光らす教会。徐々に富と力を付けるタルブ に嫉妬と警戒心を募らせる周辺の村々、ライバルのワイナリー達…。 ヤンにはルイズという強力な後ろ盾がいる。今なら枢機卿の保護を得る事も出来るだろ う。だがサヴァリッシュには無かった。 異邦人がここで生きる方法は少ない。有力者の後ろ盾を得るか、ただの平民としてひっ そりと生きるか。ヤンは召喚された時点で前者の立場にあった。サヴァリッシュは後者を 選んだ。 その平凡な平民の生活を持てる知識と能力で最大限改善した結果が、今のタルブ。そし てヤン達が村に来た時、村長以外誰も寄ってこなかった理由だ。再びサヴァリッシュと同 じ存在が来たとなれば、無視も派手な歓迎も出来ない。表向き、ただの平民として扱わね ばならない。 シエスタは村の民家へと指さした。それは、先ほど案内されたシエスタの生家だ。山の 上から見ると、村の大きくて立派な家々の中でも特に大きな建物が幾つも並んでいるのが わかる。 「私の家にサヴァリッシュの書が隠してあります。その中には、『迷い人が来たら読ませよ』 と言われた一冊の書があります。それは最後に記した書であり、サヴァリッシュから『迷 い人』へのメッセージです」 「君は、その書を読んだ事は?」 先に見える生家を見下ろしながらの問に、少女もそのまま頷く。 「あります。だからこそ私達は曾祖父と同じく『迷い人』を待ち続けました。本当に来る かどうかも分からない異邦人を。私達に書の内容を教えてくれる人を」 「内容を、教える?」 意味が分からず、ヤンはシエスタへ視線を向ける。サヴァリッシュは直系子孫に銀河帝 国公用語を教えたはず。なら全て読めるはずだ。 対するシエスタの説明は極めて単純明快。 「はい。なにしろ私達は、サヴァリッシュの書を読めるんですが、内容がわかんないんで す…難しすぎて」 てへっ、と恥ずかしそうに肩をすくめるソバカスの少女。言われたヤンはカクッと首が 斜めになった。 だけど、理解出来ないのは当然の事だろう。 例えばブドウ畑。最高品質のブドウを育てようと思えば、日照量・気温・降雨量・緯度 や経度まで正確に調べ、分析し、最良の世話をしなければならない。でも気象観測手段が ない、温度計がない、どの年にどのくらい雨が降ったかなんて正確には分からない。 これが医学になれば、さらに難しい問題だ。細菌やウィルスの知識がない人に、感染防 御は理解出来ない。免疫と炎症反応について記しても、白血球やT細胞と言われたって何 のことだか。 これらは口で教えても理解出来るものではない。顕微鏡が無い、気象衛星が無い、電池 もエンジンも何もない。これでは教えられるのは、基本的な知識だけ。サヴァリッシュの 教えを実現させるべき基礎科学が存在しないのだから、理解出来ないのは当前。そして既 にサヴァリッシュは死去し、彼の書に記された知識を紐解ける人物がいなくなった。 シエスタは胸の前に手を組み、正面から真っ直ぐヤンの目を見つめた。 「お願いします。サヴァリッシュ最後の書を読んで下さい」 少女は、深々と頭を下げた。 前ページ次ページゼロな提督
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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第25話 狙われたサハラからの使者 ロボット怪獣 ガメロット 登場! このハルケギニアと呼ばれる世界で、六千年の昔に大きな戦争があった。 それはエルフの伝承では大厄災と呼ばれ、一度世界中を完膚なきまでに破壊しつくしたと言われ、恐れられている。 しかし、それほどの大戦争がなにが引き金になったのか、何者が引き起こしたのについては今なお謎が多い。 時間軸を遡り、六千年前の過去に飛ばされてしまった才人はそこでヴァリヤーグと呼ばれていた光の悪魔を目の当たりにした。怪獣を次々と凶暴化させてしまうこのヴァリヤーグによって、世界が滅亡への道を辿ったのは間違いない事実であろう。 それでも、謎は残る。 六千年前、ヴァリヤーグという存在によって大厄災が引き起こされた。しかし、その前はどうなのかはほとんどの記録が沈黙している。 大厄災が起きる前のハルケギニアはどんな土地だったのか? どんな人々が住んでいたのか? どんな文化があったのか? 翼人のような亜人はどうしていたのか? エルフはどうだったのか? 不思議なことに、どんな記録や伝説を見ても、六千年前以前の歴史は切り落とされたかのように消滅しているのである。失われた古代史……エルフや翼人は、大厄災の混乱で記録が消失してしまったのだと結論づけているものの、いくつか残された古代の遺跡にも大厄災以前についての記述だけはないのだ。 だが、唯一六千年前より以前からハルケギニアで生き続けてきた水の精霊だけは、その秘密を知っていた。 当時、わずかな人間たちしか住んでいなかったラグドリアン湖に前触れもなくやってきた奇妙な異邦人たち。彼らは最初こそ友好的な態度を示したが、やがて本性を表した。 異邦人たちの目的は、自分たちの勢力拡大のための戦争に使う生きた駒として住民を利用することだった。 苦痛だけ与えられて、勝敗のつかない堂々巡り。そんな茶番劇が延々と続くと思われたが、これは悪夢の序章に過ぎなかった。 カトレアが語るのをためらい、キュルケでさえ聞いたことを後悔するような所業。それを水の精霊は見てきたのだという。 「こんなこと、絶対に世の中に知られちゃいけない。けど、このハルケギニアって世界は、いったい……」 話のあまりの重さに苦悩するキュルケ。だが、運命の潮流は彼女に迷っている時間を与えてくれなかった。 迷い込んだ墓地で突然襲ってきた亡霊たち。そして、続いて現れた、キュルケの見知らぬ砂漠の民の女。 「アディール? ネフテス? それって確か、ルクシャナの言っていたエルフの国の都と政府のこと? あなたが、エルフの国の使者だっていうの?」 「声のでかい蛮人だな。だが、あの変人学者のことも知っているならなお都合がいい。連中のいる場所までの案内を重ねて要請する。わたしはネフテスから全権を預かってきた者である」 警戒心を隠しもせずに睨みつけるキュルケと、尊大に命令するもう一人の女。しかし、この誰も予想していなかった邂逅が、彼女たちにとってもハルケギニアにとっても極めて重大な意味を持つことを、まだ彼女たちも知らない。 そして、墓場での戦いから十数分後、招かざる配役を交えて物語は再開される。 がたん、ごとんと馬車の車輪が道を踏み、車内の椅子に心地よい振動を伝えてくる。 しかし今、馬車の中は一種異様な空気が充満していた。 「なんであなたがわたしたちの馬車に乗っているかしら? ミス・ファーティマ」 「気にするな。命を救ってやった貸しを親切で安く取り立てているだけだ。正直歩き疲れていたのでな、乗り物が見つかったのはちょうどいい」 「あらあら、まあまあ」 「え? なに? なんなのこの眺め。シルフィーがお昼寝してるあいだに何があったというのね?」 まるで、鉢合わせしたドラコとギガスのように一触即発の空気。唖然としているシルフィードの目の前で、視線の雷がぶつかりあって見えない大戦争を繰り広げている。 キュルケと相対して、殺伐とした空気を振りまいている招かれざる同乗者の名はファーティマ。フルネームはファーティマ・ハッダードといい、元はエルフの水軍の少校を勤めていた。 もしここにティファニア本人がいたならば、喜んで歓迎の意を表しただろう。しかし、ティファニアの従姉妹だといい、エルフの評議会からの使者だというファーティマをキュルケは信用できないでいた。どうしてかといえば、確かに容姿は目つきの鋭さを除いてティファニアにそっくりではあるけれど、ティファニアや、百歩譲ってルクシャナと比べても、ファーティマの人間に対する蔑視は露骨であったのでキュルケも不快を禁じえなかったのだ。 「あなた、本当にテファのご親戚なの?」 「そう言っている。血統書でも見せなければ満足できんか? いいから黙ってあの娘たちのいるところへ連れて行け。それがなによりの証明になるとなぜわからん」 「怪しい相手を友人の下に連れて行くバカがどこにいるっていうんですの?」 そもそも、エルフの国からティファニアの元へと使者が送られてくるということ自体がキュルケにとっては寝耳に水だった。むろん、ティファニア個人に対してではないが、想像もしていなかったのは事実である。 なぜなら、才人たちが東方号ではるか東方の地のサハラへの遠征をしているちょうどその頃、キュルケはガリアに囚われて幽閉され、外部の情報からは完全に隔離されていたからである。だから東方号のことや、アディールで起こったヤプールとの一大決戦についても何も知らなかった。対してファーティマは、キュルケがそれらについてティファニアやルクシャナの知り合いならばわかっているだろうという前提で話しているので、両者が噛み合うはずがなかった。 キュルケは、図々しくも馬車に同乗を決め込んできたファーティマを苦々しく睨んでいる。シルフィードはあまりの空気にどうすることもできずにいて、カトレアだけが物珍しげに笑顔を浮かべていた。 「こんなところでお友達を連れてらっしゃるなんて、キュルケさんの交友関係はとても広いのですね」 「ミス・カトレア、わたくしは友人は選んで付き合っているつもりですのよ。と、いうより今日初めて会ったばかりの、こんな横柄なエルフを友人にする趣味なんて持ち合わせていませんわ」 「エルフエルフとうるさい女だ。サハラもハルケギニアも変わらぬと言いにきたのは貴様らだったろう。なら、エルフのわたしがどこにいてもそれは自然の摂理というものだ」 「それならば、海の上とか火山の噴火口でとかをおすすめしますわよ。サラマンダーと輪舞をなさるなら、極上のお相手を紹介いたしますわ」 互いに相手を牽制しあい、歩み寄りの気配など微塵もなかった。ファーティマに対し、キュルケは始めから機嫌が最悪だったこともあり、考えたいことがほかに山ほどあって、この無礼なエルフに対してとても愛想よくする気にはなれなかったのだ。 ファーティマは、どこへ向かっているのか聞いてもいない馬車に揺られながらも、特に焦ってはいないように見えた。大方、どうせ案内させることになったら方向転換させればいい、とでも思っているのであろうが、その図々しいまでの神経の太さだけは感心に値した。思えば、エルフが一人で堂々とハルケギニアに乗り込んでくることなど正気のさたではない。ルクシャナにしても、当初は念入りに正体を隠していたのだ。 人間のエルフへの恐怖はそれほど深く、同時にエルフの人間に対する侮蔑もまた深い。このふたりの対立は、まさに人間とエルフという二種族の縮図ともいえた。 しかし、その一方でキュルケの心の片隅では、先ほどカトレアから語られた伝承が消えずに繰り返されていた。あの伝承が正しいとすれば、その人間とエルフの対立自体、まったく意味のないものになるのではないだろうか。気に入らない女だが、そう思うと少しだけキュルケにも冷静さが戻ってきた。 「とりあえず、先ほど助けられた恩義だけはありますから、借りは返したいけれど……はぁ、まったく、乗ってきたものは仕方ないとしても、ミス・ファーティマ、わたしにはあなたを悠長にエスコートしている時間はないんですわよ」 「時間がないなら作ればよかろう。お前の用がなにかは知らないが、わたしの用より重要だとは思えん」 できるだけ柔和にお断りの意志を伝えてもファーティマはにべもなかった。そういえば、水軍の士官だと名乗っていたなと思い出した。軍人ならば居丈高な態度も納得できるというものだが、だからといって要求にこたえてやるわけにもいかないのも事実だ。 今の自分たちにはタバサを救うという大切な使命があるのだ。余計なことに関わっている時間はないと、キュルケは焦っていた。 すると、そんなキュルケのいらだちに気づいたのか、カトレアが両者をなだめるように、キュルケの抱いている疑問を代わりにファーティマに尋ねた。 「まあまあ、お二人とも。そんなに自分の意見ばかりを主張しては始まりませんわ。ところでファーティマさん、わたしは少し前にあなたのお国にお邪魔したお転婆娘の姉なのですが、よろしければそのときのことを少しお聞かせ願えませんか? お土産話を楽しみにしていたのに、あの子ったらとても忙しいらしくって」 カトレアの柔和な表情と声が、馬車の中の張り詰めた空気をやや解きほぐした。しかしなぜ彼女がこうした質問ができたかといえば、アンリエッタを通して以前のルイズたちの活躍をすでに知っていたからであった。 ファーティマは、カトレアの温和な空気に少し毒を抜かれたようで、軽く息を吐くと以前のアディールでの戦いを語って聞かせた。 サハラの地にやってきた人間たちの船『東方号』。人間とエルフの和睦を目指してやってきた彼らと、それを妨害せんとするヤプール。そしてアディールでおこなわれた大怪獣軍団との決戦。結ばれた、人間とエルフの間の確かな絆。 それらのことを、キュルケやシルフィードはこのときはじめて知ったのだった。 「ルイズやテファたちが、そんなことを……!」 「シルフィたちが捕まっているあいだに、あのちびっこたちすごいのね!」 このときの彼女たちの心境を地球流に表現すれば、浦島太郎というほかなかったろう。ほんの何ヶ月か牢の中にいただけだというのに、まるで何十年も時間が経ってしまったかのように思えた。とても信じられなかったが、つこうと思ってつけるような嘘ではないことは確かだった。 すると、ファーティマのほうもようやくキュルケたちとの意識の差を理解した。 「呆れたものだな。トリステインから来た蛮人たちのことは、今やサハラで知らない者はいないぞ。それなのに、こちらでは民はおろか連中の友人たちすら知らぬとは、どうなっているのだ」 「わたしたちは、少々込み入った事情があるんですのよ。ミス・カトレアはこのことを?」 「ええ、聞き及んでおります。しかし、事が事だけに、公にするにはいましばらくの用意がいると姫様からはうかがっておりましたが」 エルフに対して、悪鬼の印象を植え付けられているハルケギニアの民に、その意識を百八十度転換させるには上からの押し付けではとても無理なことをアンリエッタも理解していた。そのため、周到に根回しを進めていたのだが、まさかそれを始める前にこんなことになるとは予想だにできなかったことだろう。 キュルケとシルフィードは、自分たちが留守にしているうちに世界がめまぐるしく動いていたことを知った。ルイズや才人たち、クラスメイトや友人たちは自分がいないあいだにも世界を救おうと必死に努力していたのだ。 だが、引き換え自分はどうか、こんなところでつまらない問題につき合わさせられている。まあ、事情を最初から知っていたとしても、このファーティマというエルフは気に食わなかったであろうが、心の中の嵐が静まってくると、キュルケはある思いを持ってファーティマの顔をじっと見た。 「なんだ? わたしの顔になにかついているのか」 「いえ、失礼いたしました。そして、どうやらあなたのおっしゃることは正しかったようですわね。無礼を、お詫びいたしますわ」 相手はエルフ、ハルケギニアでの恐怖の象徴。しかし、今のキュルケはそのエルフを恐れる気持ちにはどうしてもなれなかった。 人間とエルフは不倶戴天の敵。しかしそれは宇宙が始まったときからの法則に記されているわけではなく、後年の誰かが勝手に決めたことだ。そしてその起源は……あの伝承が確かだとすれば、根底から無価値だったということになる。 ファーティマは、怪訝な様子で押し黙ってしまったキュルケを見ている。しかしその瞳には、侮蔑や傲慢とは違った光が少しだけ隠されていた。 ”おかしな女だ。怒ったと思ったら急に沈みこんだり。しかし、素直に謝罪の言葉が出るとはなかなかできた人物ではあるようだな。少なくとも、少し前のわたしにはできなかったことだ” 内心で自嘲したファーティマは、それまでキュルケたちに見せていた傲慢な態度とは裏腹な感想を抱いていた。 そう、一見して人間を見下している態度に徹しているかのように見えているファーティマだが、その本心ではかつてティファニアが命を懸けて灯した友情の炎が消えずに灯っていたのである。 が、ならばなぜファーティマはキュルケをあおるような態度を続けるのだろうか? いや、それはエルフが人間と変わらない心を持つ生き物だということをかんがみれば、察することもできると言えよう。そして彼女は、実はずっとキュルケたちを観察していたのだった。 ”ものわかりの悪い女だが、わたしの素性に確信がいくまでテファに会わせまいとするあたりは情のある人物ではあるようだな。不満は残るが、ようやく信用に足る人物を見つけられたか” 重ねて述べるが、トリステインはエルフにとってはいまだに敵地である。そこへ踏み込み、特定の任務を果たすためには一時の油断も許されないのだ。 実際、ここに来るまでにファーティマは誰も信じられない孤独な旅路を送っていた。ルクシャナの百倍は生真面目な彼女が、人間に対する態度を硬化させたとしても仕方がないであろう。 本当にキュルケたちを見下していたのであれば、キュルケに案内の役が務まらないことを知った時点で馬車を去っていればいい。しかしそれをしなかったのは、任務遂行の使命感と、かつて自分を救ってくれたティファニアを忘れていなかったからだ。 ただし、それらとは別に、彼女には使者としてのほかに、もうひとつ隠された目的があった。 ”魔法学院とやらで連中の行方を聞いても、どうにもわからず行き詰まっていたが助かった。しかし、この国をざっと見てみたが、やはりテュリューク統領やビダーシャル卿は変わり者だ。あのときやってきた連中はまだしも、まだ蛮人たちの大半は大いなる意思の加護も理解できず、この国も国内すら統一しきれていない。こんな連中と接触したところで、我々に害をなすだけではないのか? だがまあ、任務は任務だ、もうひとりの女は多少は話がわかるようだし、わたしの運もまだ尽きてはおらんだろう。ともかく、これをあの連中に渡すまで、万一のことがあってはいけない” ファーティマは心の中でつぶやき、懐の中に忍ばせた”あるもの”を確かめた。 それは、彼女がサハラから来るに際して、テュリューク統領とビダーシャルから厳命された任務だった。 「よいかね、ファーティマ上校。君にはネフテスの名代として人間たちの国へと向かってもらう。道筋は、以前ルクシャナ君の記したものがあるから海から回ってゆくとよいじゃろう。本来なら、ビダーシャル君にまた行ってもらいたいが、あいにく今は彼を欠いては蛮人、いや人間世界に詳しい人物がおらなくなってしまうからのう。君には苦労をかけるが、使者としてティファニア嬢と血縁関係にある君以上の適任がいないのじゃ」 「先のオストラント号の件で、歴史上はじめて人間がネフテスに来て以来、多くの者が人間と接触はした。だが、まだ大衆はあの船の人間だけしか知らず、ハルケギニアの人間の大多数が我らを恐れていることへの実感が薄い。今のうちに理想と現実の差を埋めておかねば、後で大変なことになるのは目に見えているからな。それから、使者としても当然だが、君に預けるそれは、恐らく今後の世界の命運を左右する可能性を秘めている。必ず、あの船の人間たちに届けてくれ」 「はっ! 鉄血団結党無き後、水軍を放逐されていておかしくなかったわたしに目をかけてくれた統領閣下方のためにも全力を尽くす所存です。ご安心ください」 ネフテスから人間世界への使者へと、もうひとつ、東方号へと、ある重要な物品を届けることがファーティマに課せられた使命であった。それを果たすまでは、些事にこだわって余計な遠回りをするわけにはいかない。 しかし、任務の重大さとは別に、ファーティマ自身はこの任務に必ずしも乗り気ではなかった。なぜなら、ファーティマは以前に才人たちがサハラに乗り込んだとき、反人間の過激派組織である鉄血団結党の一員であり、その手によってティファニアの命が脅かされたこともある。現在は鉄血団結党は解体したけれど、ファーティマ自身人間への偏見を完全に忘れたわけではないし、自分の素性を知っている向こうにしても少なくとも好んで顔を見たい類の相手ではないであろう。 ただし、今はそんなことまで口にする必要はない。ファーティマは、相手の警戒心を解くために、現在のサハラが今どうなっているのかを語った。それによれば、現在のサハラは先のヤプールとの決戦で甚大な被害を受けたアディールを一大要塞都市に作り変えて、反攻のために戦力を整えている。そして、そのリーダーシップをとっているのが、先の戦いで信望を深めたテュリューク統領なのだとキュルケたちは聞かされた。 「エルフは完全に戦うつもりなのね。それなのに、わたしたち人間ときたら、いまだに各国の意思の統一すらできていないんだから、うらやましい限りだわ」 「当たり前だ。我々砂漠の民は、滅ぼされるのを待ち続ける惰弱の民ではない。過去の人間たちとの戦い同様に、侵略は断固として迎え撃つ。しかし、先の戦いで敵の戦力がお前たちと戦うよりずっと強力であることがわかったのでな。お前たちのようなものでもいないよりはマシだろうと、来るべき決戦に参加させてやりにわたしが来たまでだ」 「そういう態度をこちらでは手袋を投げつけに来た、と言うのよ。けど、実際に的を射ているから頭が痛いとこなのよね。まったく、せめてジョゼフさえいなければねえ」 エルフの世界に比べて、ハルケギニアのなんというガタガタ具合かとキュルケは呆れたようにつぶやいた。 ベロクロンの戦いの後、現在のアンリエッタ女王はヤプールの侵略に対して各国で協力体制を作るよう呼びかけてきたが、それは一年以上経った現在でも成し得ていない。アルビオンとは友好国であるし、ゲルマニアは信頼関係こそ乏しいがアルブレヒト三世が現実主義者であるため同盟国という立場はとれている。ロマリアは立場上中立としてもいいが、問題はガリアであった。アンリエッタがいくら呼びかけても、のらりくらりと回答をかわして、今に至ってもまともな関係は築けていない。それがどうしてかというならば、キュルケにはもうわかりすぎるくらいわかっていた。 「ジョゼフがいる限り、ハルケギニアの一体化を邪魔し続けるでしょうね。しかしそれにしても、あなたみたいなのが使者に遣わされるなんて、統領さんはなにを考えているのかしら」 と、キュルケがつぶやくと、ファーティマはつまらなさそうに答えた。 「知らん。だが、とにかくわたしは自分に課せられた使命には忠実でいるつもりだ。お前たちに危害を加えるつもりならば、とうの昔にやっている。わたしがこの地に出向いてきた、テュリューク統領の意思は平和と友好のふたつにこそある」 そう言いながら、ファーティマは自分が言ってこれほど白々しい言葉もないなと自嘲していた。ほんの半年ほど前の自分には夢にも思わないことだ。あの頃の自分だったら、いずれ水軍の大提督になって人間世界へ攻め込むことを夢見ていただろう。 人間のことが気に食わないのは今でも変わっていない。しかし、あの頃の自分は今思えば血塗られた夢に酔っていたのかもしれない。砂漠の民の力があれば、蛮人など鎧袖一触と無邪気に思い込んでいた無知な自分。ただエスマーイルの言葉に踊らされて、鉄血団結党の一員であることに有頂天になっていた。それでいい気になって蛮人どもを襲撃したら、軽く返り討ちにあったあげくにその相手に助けられているのだからざまはない。 そして、奴らのひとりはこう言った。お前だけが不幸だなんて思うなよ、あんたみたいな復讐者は何人も見てきたと。あのときほどの屈辱は、それまでになかった。おまけに、あのシャジャルの娘ときたら、まったく心底自分の器の狭さを思い知らされた。 しかし夢は夢、覚めてしまえば夢は過去へと流れていく。表面は蛮人に対してとげとげしく取り繕って、内心では心を許せないもどかしさを感じていたファーティマだったが、その葛藤は意外な形で晴らされることになった。 「まあ、まあまあまあ! 素晴らしいですわ。ファーティマさん、私、小さいときからいつかエルフの国へ行ってみたいと夢見てましたの。エルフと人間の友好、こんなにうれしいことはありませんわ」 カトレアの、喜びに満ちた声が馬車の中のよどんだ空気を吹き飛ばし、思わずカトレアを見たキュルケとファーティマの目に、カトレアの満面の笑顔が太陽のように映り込んで来た。 驚いて、とっさの言葉が出てこないキュルケとファーティマ。しかし、カトレアは立ち上がってファーティマの手をとると、優しげに口を開いた。 「慣れない土地での旅、ほんとうにご苦労様でした。こうしてここであなたとめぐり合えたのは、始祖のご加護と、あなたには大いなる意思のお導きがあったからなのでしょう。これほど祝福された出会いはないと思いませんか?」 「あ、ああ、出会いに感謝を。このめぐり合わせは偶然ではない。正しきことを後押しする大いなる意思の見えざる手が導いてくれたのだ」 「でしたら、もっとうれしそうな顔をしましょう。あなたが正しいことをしにはるばる参られたのなら、わたくしたちは心から歓迎いたしますわ。さっ、あなたたちもこっちにいらして」 そうして、カトレアは唖然としているキュルケとシルフィードを呼び寄せると、彼女たちの手をとってファーティマの手に重ねた。 「今はわたくしたち四人だけですけど、エルフと人間と、韻竜も、こうして手を結び合うことができるのだと証明されましたわ。ファーティマさん、手を繋げばどんな種族でもこんなに近い。とてもすばらしいことですね」 「う、うむ。い、いや! 形は形だ。実際の交渉や同盟が、そんな甘いものではないことくらい承知している」 カトレアの優しすぎる笑みに、思わず納得してしまいそうになったファーティマは慌てて現実を盾に取り繕った。また、キュルケやシルフィードも、異なる種族がそう簡単に近くなれるものではないと、額にしわを寄せている。 だが、カトレアはわかりあうことへの抵抗を除けないでいる三人の手を両手で包み込むと、諭すように語り掛けた。 「では、まずはここにいる四人から友情をはじめていきましょう。すてきだと思いませんか? ハルケギニアがどんな種族でも仲良く生きられる世界になる第一歩をわたくしたちの足で踏み出すんですよ」 カトレアの言葉に、三人はしばらく呆然とするばかりだった。腹の探りあいと、どうしてもぬぐい得ない不信感をぶつけあっていたのに、カトレアの笑顔にはひとかけらの濁りもなかった。 この人は、いったい? 返す言葉がとっさに浮かんでこない三人。そのうちのキュルケが、どうしてそんな無防備な笑みができるのかと目で尋ねているのに気づいたカトレアは、そっとささやくように答えた。 「キュルケさん、あなたの言いたい事はわかりますわ。けれど、思い悩んだところで生まれを変えられる者などいません。わたしも、何度も自分の存在が世界にとってあっていいものだったのかを思い悩みました。でも、その度に思い出すことがあるんです」 「思い出す、こと?」 「ええ、皆さん、わたしは実は昔、大病をわずらって長くは生きられないと言われていました。でも、ともすれば自ら命を絶ってもおかしくなかった日々で、わたしを支えて生かしてくれた友達は、必ずしも人間ではありませんでした」 そう言うと、カトレアはシルフィードのほうを見た。するとシルフィードははっとして、いまさらながら気づいたように言った。 「そういえば、カトレアお姉さまからいろんな生き物のにおいがするの。こんなにたくさんの生き物のにおいを持ってる人、これまで見たこともないのね!」 驚くシルフィードにカトレアは語った。自分の住むラ・フォンティーヌ領では、多くの動物や、中には怪獣までもが仲良く住んでいることを。 シルフィードはそれで、自分がカトレアに対して不思議な安心感を持てていたわけを悟った。自分が鈍いからと言うだけではない、それほどに多くのにおいを持つカトレアは、人生のほとんどを自然の中で生きてきたシルフィードにとって、まるで故郷に帰ってきたかのように安らげる空気の持ち主だったからだ。 そう、カトレアにはラ・フォンティーヌ領で世話をしてきた数え切れないほどの生き物のにおいが染み付いている。それも、そのすべてがカトレアに対して好意を持っていることを示す香りであったために、シルフィードは疑問に思うことすらもなかったのだ。 「最初は、思うように動けない自分の代償のつもりだったかもしれません。けれど、病気が治った後も、彼らはずっとわたしの友達でいてくれました。そして気づいたんです。生き物が生きていく上で、共に生きるべき相手は必ずしも同族でなければいけないということはないということに」 「きゅい、シルフィも誇り高い韻竜だけど、人間とは仲良くしたいと思うの。ねえ赤いの、前にお姉さまといっしょに、人間と翼人を助けたのを思い出さないかね?」 「そうね。あれは、タバサとわたしたちでやった初めての冒険だったわね。もう、あれからずいぶん経つのねえ」 懐かしそうに、キュルケは思い出した。 エギンハイム村での、翼人と人間のいさかいから始まったあの事件のことは忘れない。軽い気持ちでタバサの手助けをしようとして、そのまま宇宙人と怪獣を交えての大決戦にまでなったあの事件では、人間と翼人の両方が力を合わせなければ勝てなかった。そしてその後誕生した人間と翼人の夫婦の幸せそうな顔。思えば、自分たちは一度すでにいがみあっていた異種族をつなげることに成功している。増して、ルイズたちは自らエルフの首都に赴いて帰ってくるという前代未聞な冒険を成功させているではないか。 異種族が共存することは、決して不可能ではない。その前例は、すでにたくさんあった。キュルケは、そのことを知っていたはずの自分を恥じて、しかしそれでも納得のいく答えを求めてカトレアに視線を移した。 「あなたにも、忘れてはいけない大切なことがあったのですね。ねえキュルケさん、さきほどの話の後で話そうと思っていたことがあるんです。ファーティマさんとシルフィードちゃんも聞いてください。確かにこの世界では、人間とそれ以外の生き物でバラバラに別れています。そして、わたしたちはそれぞれに簡単に相手を信用することのできない理由も抱えているでしょう。けれど、だからこそそのしこりをわたしたちの代で消し去っていこうと思うのです」 「しこりを……消し去る?」 「そうです。事はわたしたちだけの問題ではありません。わたしや、キュルケさん、ファーティマさん、シルフィードちゃん、それにあなたたちの知っているすべての人の子供や孫の世代にも関わっていくのです。率直に聞きますが、皆さんがいずれ子供や孫を持ったときに、友達を残してあげたいと思いますか? 敵を残してあげたいと思いますか?」 その答えは決まっていた。キュルケもシルフィードも、ファーティマでさえ言葉には出さなくても顔には同じ答えを浮かばせている。 「確かに世の中には、どうしても理解しあえないような卑劣で邪悪な相手もいます。けれども、人間やエルフの多くの人はそんなことはないということを、あなた方はもう知っているでしょう?」 カトレアの言葉に、三人はじっと考え込んだ。世に悪人は間違いなくいる。しかし、毎日を正しく一生懸命に生きている人はそれよりはるかに多くいることに。 かつて、ウルトラマンタロウは言った。少ない悪人のために、多くのいい人を見捨てることはできないと。カトレアも、数多くの命と向き合ううちに、本当に邪悪な相手はほんの一握りだと思うようになっていっていたのだ。 「わたしはこれまで、多くの生き物の生き死にを見てきました。動物の寿命は、人に比べればとても短いものもあります。けれど、そんな彼らも世代が進んで仲間が増えていくごとに、生き生きと力強く生きるようになっていくのです。それで思うようになりました。わたしたちはみんな、次の世代に幸せをつなぐために生きているのだと」 「次の、世代に……?」 「そうです。過去になにがあったにせよ、わたしたちの後に続く人たちが平和に楽しく暮らせる世の中が来るのならそれでよいではありませんか。そうして積み重ねていけば、大昔のことなんか笑い話ですむ時代がいずれやってきます。その一歩を、わたしたちの手で進める。この上ない名誉と幸福だと思いませんか?」 どこまでも純粋で優しいカトレアの笑顔を見て、三人はそれぞれ自分の中での葛藤を顧みてみた。だが、三人共に共通していたのは、いずれも今の自分たちのことしか考えていなかったということだった。 対して、カトレアは次の世代のそのまた先。十年後、百年後、いいや千年後まで視野に入れて考えている。三人は、それぞれ思うところは違いはしたけれど、カトレアの思う生き方に比べたら、自分たちのこだわりが笑えるほど小さなものに思えて口元がほぐれてきてしまう。 ただ、現実にハルケギニアの異種族同士はわかりあえずに六千年を過ごしてきている。それを忘れてはならないという風に、ファーティマは言った。 「お前の理想論、険しいという言葉では済まされない道だぞ」 「わかっています。今日初めて会ったばかりの相手を、すぐに信用できなくて当然ですわ。けど、今ここにいる四人はこれからきっといいお友達になれます。大丈夫ですよ、だってほら、誰の手のひらにも同じようにあったかい血が流れているんですから」 カトレアの重ねた四人の手からは、ゆっくりとそれぞれの体温が相手に伝わっていった。それは、熱くも冷たくもない、生きているものの発する生命の暖かさ。人間もエルフも韻竜も、魔物でも幽霊でもないことを示すぬくもりを感じて、キュルケ、シルフィード、それにファーティマは、言葉に表すことは難しいけれど、自分の中でのなにかが変わっていっているような不思議で、しかし快い感触を覚えていた。 人は、大きなものを見据えることで小さなこだわりを捨てることができる。そして、人と人は小さなこだわりを捨てることで友情を結ぶことができる。大自然の中で自由に心を育んできたカトレアの思いが伝わって、重なり合った手のひらに誰からともなく新しい力が加わっていった。 けれども、カトレアは豊かな心を持っていても、無知な野生児ではない。キュルケやファーティマが持っていた警戒心が薄れたことを確信すると、その瞳に鋭い知性の光を宿らせてファーティマに問いかけた。 「ところでファーティマさん。聞けば、先ほどはキュルケさんが亡霊に襲われて危ないところを助けていただいたとか。しかし、キュルケさんには亡霊などに襲われる所以はありませんし、そもそも亡霊などというものに早々お目にかかれるとは思えません。もしかすると、本来亡霊に追われていたのはあなたなのではないですか?」 その瞬間、ファーティマの背筋がびくりと震え、表情に明らかな動揺が見えた。 「そ、それは……」 「それに、最初から気になっていたのですが、サハラからトリステインへの大事な使者であるにも関わらず、あなたはたった一人でここまで来られたのですか? いくらエルフが人間に比べて強いとはいっても、普通なら水先案内や護衛のために、あと数人はいっしょにいておかしくないはず。ひょっとしてファーティマさん、あなたには他にまだ隠している役目があるのではないですか?」 ファーティマはすぐに肯定も否定もしなかったが、その短い沈黙だけでもシルフィードはまだしもカトレアやキュルケは過不足なく察することができた。 再び馬車の中に緊張が走る。しかし、対峙する姿勢に入りかかったキュルケとファーティマをカトレアはすぐに抑えた。 「落ち着いてください。キュルケさん、ファーティマさん。わたしは尋問をしようとしているわけではありません。ですがファーティマさん、わたしたちは今、大事な目的を持って旅をしています。もしかすると、この世界の行く末を左右するかもしれない重大な意味を持つ旅です。正直に言って、あまり時間はありません。けれども、できればあなたの望みもかなえてあげたい。ですからお互いに、隠し事はやめて打ち明けあいましょう。そうすれば、もっとあなたの助けにもなれるかもしれません」 カトレアに諭すように告げられて、ファーティマは金髪を伏してじっと考え込んだ。カトレアはキュルケとシルフィードに視線を移し、話してよいですかと目で尋ねた。キュルケは一瞬躊躇したけれど、意を決して自分から旅の目的をファーティマに語って聞かせた。 タバサのこと、ジョゼフのこと、異世界への扉を求めてラグドリアン湖に向かおうとしていることなどを、キュルケはすべて包み隠さず話した。そしてファーティマの反応をうかがうと、ファーティマは驚いたようではあったが、ふうとため息をついてからキュルケやカトレアを見返して言った。 「異世界へ、か。どうやら、わたしがお前たちとめぐり合ったのは本当に大いなる意思の導きらしい。わかった、わたしも全てを話そう。わたしのもうひとつの使命は、ある物をお前たちの仲間に届けることなのだ」 ファーティマは、懐から小さな小箱を取り出して、その中身を見せた。 「なんですの? 見たことない形の、カプセル……かしら?」 それを見てキュルケは首をかしげた。小箱の中身は、手のひらに収まるくらいの楕円形の金属でできたカプセルで、表面には焼け焦げた跡があった。 しかし、よく見てみると表面には細かな文字でなにかが書いてあり、それに汚れてはいるけれど、文字の上にはなにやら紋章のようなものが描かれていて、キュルケはふと既視感を覚えた。 「先日、我らの聖地の近辺で発見されたものだ。そのときは、もっと大きなケースに入っていたのだが、すでに何者かに攻撃された形跡があった。ともかく、その字を読んでみろ」 「ううん、かすれてて見にくいけど……あら? このマーク、どこかで同じものを見たような。それに、この文字は……えっ!」 キュルケは、カプセルに書かれていた文字を読んで愕然とした。それは、つたないトリステインの公用語で書かれていたが、その中に記されていた固有名詞や人物の名前は、キュルケにとってとてもよく知っているものだったからである。 「思い出したわ! この翼のようなマークは、確かタルブ村で……」 だが、キュルケが記憶の淵から呼び戻してきたそれを口にする前に異変は起こった。 突如、爆発音とともに激震が馬車を襲い、中にいた四人はもみくちゃにされた。頭をぶつけたシルフィードが悲鳴をあげ、馬車を引いていた馬の悲鳴もそれに重なって響く。 高級馬車の車軸でも吸収しきれない揺れにより、車内のランプが落ちて割れ、灯油がぶちまけられて刺激臭が鼻をつく。だが、そんなものに構っている者は一人もいなかった。それぞれが多寡は違えども戦いの中を潜ってきた経験を持つ者たちである、今の不自然な揺れと爆音が、自分たちを危機へと追い込む悪魔の角笛だということを理解していたのだ。 「なに! 今の爆発音は、まさか」 「そ、外なのね! うわっ! 森が燃えてる。きゅいぃぃぃ! みんな、空を見てなのね!」 頭のたんこぶを押さえながら窓から外を見たシルフィードの絶叫。続いて窓を開けて空を見上げた三人の目に映ってきたのは、空に浮かぶ三十メートルはあろうかという巨大な鉄の塊だったのである。 なんだあれは!? 異様すぎる浮遊物体の巨影に、キュルケやシルフィードは唖然とし、まさかジョゼフの放った刺客かと身を固めた。 しかし、それはジョゼフの刺客などではなかった。百メートルほど上空にとどまり、こちらを見下ろしてくるような鉄塊を見て、ファーティマが忌々しげに吐き捨てたのだ。 「くそっ! もう追いついてきたのか!」 「なに? あなたあれを知ってるの」 「今の話の続きで話そうと思っていた。サハラを出てからこれまで、ずっとあいつに付け狙われていたんだ。共にアディールから出た仲間はみんなあいつにやられた! まずい、攻撃してくるぞ、飛び降りろ!」 その瞬間、鉄塊に帯状についている無数の赤いランプが断続的に輝き、ランプからそれぞれ一本ずつのいなづま状の赤い光線が馬車に向かって発射された。七本の光線は一本に集約して馬車に直撃し、馬車は火の塊になって飛び散る。 だが、ファーティマの警告が一歩早かったおかげで、馬車から飛び降りた四人は間一髪で無事だった。 「きゅいいい、し、死ぬかと思ったのね」 「あと一瞬逃げ出すのが遅れてたら、わたしたちは丸焼けだったわね。ミス・カトレア、大丈夫ですの?」 「ご心配なく、こう見えて野山を駆け回るのが日課ですから。それよりも、ファーティマさんにお礼を言わなければいけませんね」 「勘違いするな。せっかくの大いなる意思の導きを台無しにしては冒涜だからだ。だがそれも、生き延びれたらの話ではあるが……下りてくるぞ! 気をつけろ」 燃える馬車の炎に照らされる四人の前に、空飛ぶ鉄塊がゆっくりと下りてきた。敵意を込めて、鉄塊を睨みつける四人。その眼前で、鉄塊は真の姿を現していく。 まず、上部の穴から頭がせり上がってきた。洗面器を裏返したようなツルツルの表面に、かろうじて目と口だと見えるくぼみが三つついている。 続いて、左右から腕が生え、下部から足が生えて地面に着地した。その胸元には、先ほど破壊光線を放ってきたランプが赤く輝いている。この人型の巨大ロボットこそが鉄塊の正体だったのだ。 「きゅいい! で、でっかい人形のおばけなのね!」 「なんて大きさ。こんなガーゴイルがこの世にいたなんて」 「いえ、これはガーゴイルじゃないわ。きっと、以前にトリステイン王宮を襲った機械竜と同じもの。そして、あのときの亡霊といい、そんなことができるものといえば」 「そういうことだ。こうなったらお前たちも一蓮托生だ。奴の思うとおりにさせたら、砂漠の民も蛮人もすべて滅び去る。だから知らせねばいかんのだ。ヤプールが再び動き出したのだということを!」 聞きたくなかった忌まわしい侵略者の名が吐き捨てられ、巨大ロボットは電子音と金属音を響かせながら動き始めた。 「モクヒョウヲカクニン。ケイコクスル、タダチニコウフクシテ、ソノソウチヲアケワタシナサイ、サモナケレバ、キミタチゴトハカイスル」 「断るわ!」 シルフィードがドラゴンに戻り、キュルケ、カトレア、ファーティマが魔法攻撃の体制に入る。 燃える馬車の炎に照らされ、逃げ去っていく馬の悲鳴を開幕のベルとして戦いが始まった。 だが、その一方で、始まったこの戦いを離れたところから見守っている目があった。 「あれはガメロット……確かあれはサーリン星のロボット警備隊に所属するロボット怪獣だったはずだが、やはりロボットだけでは星を維持できなくなってヤプールの手に落ちたか。しかし、このシグナルに従って来てみたが、リュウめ、相変わらず荒っぽい作戦を思いつくやつだ」 彼の手には、激しいシグナルを発し続けているGUYSメモリーディスプレイがあった。そして、ファーティマの持つカプセルにもまた、メモリーディスプレイに記されているのと同じ翼のシンボルが描かれていたのだ。 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔