約 4,199,873 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5005.html
前ページ次ページPersona 0 Persona 0 第七話 「はぁ、はぁ、はぁ……」 使い魔たちの集会場として使われいる洗濯場でサイトは蹲っていた。 その顔は青を通り越して蒼白で、繰り返す嘔吐と体の震えはなにかの禁断症状にでも耐えているようにも見える。 「くそ、惑わされるな。この記憶は俺には関係ねぇんだ……!」 そう言って力任せにサイトは地面を叩く、手の皮が破れ血が滲むがそれでもサイトは全くそのことに気づいていないようだ。 苛立ちのままに頭から桶の水をぶちまける、春先のまだ寒い時期だと言うのにサイトの体からはまるで炎のように気化した湯気が立ち上っていた。 発作のような染みたが収まった後、サイトは地面にへたり込み乾いた笑みをこぼした。 「はっ、ざまぁねぇや」 自嘲するその瞳には以前の彼からは信じられないけど疲れた光が宿っている。 そんなだからサイトは気配を完璧に殺して近づいてきた相手に気付けなかった。 「動くな」 首筋にあたる冷たい感触にサイトはゆっくりと両手をあげた。 「サイトとか言ったか、ここ数日貴様の動きを監視させて貰った」 年若く、しかし恐ろしく鋭いものを感じさせる女性の声。 その声にサイトは聞き覚えがあった。 「――アニエスさん」 女性の声に若干驚いたような口調が混じり、そして若干ながらサイトの首筋を剣の刃先が切り裂く。 薄皮一枚の傷口からはたりと血が零れ、そのくたびれた青いパーカーを新たな血で汚した。 「貴様、何故私の名前を!?」 困惑するアニエス、そんな彼女の握った剣が大声でわめき始めたのは次の瞬間のことだった。 「おでれーた! おめぇ使い手のご同類かい。確か……」 「デルフ……?」 まるで死んだと思っていた親友に帰り道でばったりと会ったような顔をしながら、サイトはデルフリンガーの刀身を握り締めた。 当然刃はその掌を切り裂き傷を作ったがそんなことサイトは気づいてもいないよう。 その際右手に巻かれた包帯がぷつりと切れ、その下にあるものを曝け出させた。 淡く光を灯す使い魔のルーンは、こう読むことが出来る。 『ヴィンダールヴ』と。 「またまたおでれーた! 俺っちのことまで知ってるっておめぇ一体何者よ?」 剣は鍔を鳴らし、カタカタと声をあげる。 「うぅぅん」 夢の中で彼女は魘されていた。 今彼女のテンションは屋敷を蹂躙された子供の頃へと戻っている。 彼女は走っていた。 はぐれてしまった妹を探して、必死で迷宮のような屋敷のなかを走っていた。 何があったのかは分からないが、自分は絶対にテファの側にいてやらなければいけないと。 だがちょうど角を曲がったところで最も会いたく相手と鉢合わせしてしまった。 金髪の髪の王子と白髪の髪の王。 巨大な影を持つその二人は幼い彼女に向かって杖を構え、好色な視線を向けてくる。 逃げようと背後を見るといつの間にかそこは壁になっていた。 彼女は意を決すると、 「変身!」 しゃらんらーと言う効果音と共に彼女の体を光が包み、手足が伸び、その胸がばいんばいんになる。 光はやがて黒いローブとなり、持っていたペンシル型の杖は装飾過多の伝説のステッキになった。 「地に嘆きが満ちる時、あたしはいつでもやってくる! 腐れ貴族に天誅下す、当たって砕けろが身上さ! 盗みはいつでも力技!」 そしてマチルダは見栄を切り。 「怪盗フーケただいま参上!」 双子の月の月光を背負い、マチルダは塔の上から飛び降りた。 さっきまで屋敷に居たのでは? と言うのは深く突っ込んではいけない、所詮は夢だ。 そのまま杖を振ると地面から巨大なゴーレムが立ちあがり、マチルダはその肩に飛び乗った。 「セクハラは死刑!」 いつの間にかジェームズ一世はオールドオスマンことゲドウセクハラジジイに、プリンスウェールズは蝶の仮面をつけた青年になっていたがそんなことたぁマチルダの知ったことではない。 「やぁっておしまい!」 そう言うとゴーレムは二人を叩き潰した、拳をあげるとぺらんぺらんになった二人が見える。 「はっ、魔法学院もこの程度かい、てんで大したこと」 べちーんと思いっきり引っぱたかれた。 ゴーレムの上から無理やりに振り落とされる、何事かと見てみればそこにはさらに巨大化していくゴーレム。 その体を巨大にするための精神力が無理やりに吸われていくのが分かる、ゴーレムはその二つの瞳を金色に光らせるとマチルダを押しつぶそうと向かってきた。 「い、いや……」 マチルダは一歩後ずさる、ぎろりとゴーレムが笑った気がした。 「いやぁぁぁぁぁああああ」 そしてマチルダは全力で走りだした、森の中を小屋のそばをラグドリアンの湖を、逃げても逃げても追いかけてくるゴーレムを振り切ろうとするが、しかしゴーレムは影のようにぴたりと後ろからついてくる。 逃げて逃げて、逃げた先に居たのは…… 「テファ!?」 最近胸が苦しそうな愛しい愛しい妹の姿。 マチルダはためらいもせずその胸に飛び込んだ、豊満にて巨大な母なる胸に。 「会いたかったよ、テファ~」 そう言いながら頬ずりする。 けれど何かおかしい、あの顔を埋めれば窒息してしまいそうな胸がいつもよりどこか勢いがない。 「痩せたかい、ちゃんとご飯食べないと……」 「あ、ああ、あのミスロングビル?」 氷点下以下の戸惑いの言葉にマチルダは目を覚ました。 ゆっくりと瞼を開くと褐色の胸と、微妙に頬を染めた赤毛の娘の姿。 「すいませんがさすがのあたしも同性はちょっと」 「あ、え、ああああああああ!?」 寝ぼけた頭が一瞬で状況を理解し、それと同時にその場から飛びずさる。 当然狭いベットの上から飛びずさればどうなるかなど火を見るよりも明らかだった。 「あっ、痛っ!?」 頭から床とキス、たまったものではないミス。 そんなマチルダのことを呆れ顔で見るのは赤毛の娘とその仲間一同、皆一様に生暖かいにやけた表情をしている。 「知りませんでしたわミスロングビルにそのようなご趣味が……」 キュルケが言った言葉にマチルダは頭に疑問符を浮かべるが続く言葉にその疑問は氷解した。 ギーシュは薔薇を振るうと 「“大好きなテファ、もう絶対に離さないんだから!”ですか」 「ぶふぉ!?」 思いっきり咳きこんだマチルダは全力で赤面する。 もし彼女が部屋の隅を見ていたなら同じく赤面して自室の壁を睨みつけるルイズの姿が見えただろうが、それはそれ。 「な、なななな、な……」 「良いのですよミスロングビル、愛の形は人それぞれ、個人的には受け入れられませんが可愛い女の子が好きと言う気持ちはわかります。きっと始祖も祝福してくれるでしょう」 その日、霧の魔法学院に一つの悲鳴が木霊した。 ロングビルの悲鳴から三日が経った。 今日もまた三人はいつものようにテレビのなかへと来ている。 向かったのはついこの間見つけ出した硝子張りの真四角な石の塔が立ち並ぶ、奇妙な場所。 今の力量にちょうど良いシャドウが現れるのと、その割に手に入る宝があまり見たことないものなのでどうしていいか分からなくなったときは此処で腕を磨くのがルイズたちの最近の行動だった。 「しかし分からないね――シグルズ!」 ギーシュが出現させたペルソナがその右手の剣で鳥のようなシャドウを貫く、シャドウは暫くもがいていたがまるで霧のように溶け消えていった。 ヒートウェイブ、斬撃を得手とするギーシュのペルソナの得意技だ。 「分からないって何がよ? イドゥン!」 ギーシュが怯ませた敵をルイズが蹴散らす、悪くないコンビネーションだが出番を奪われたキュルケは不満そうだった。 二人とも余裕があるのは既に一度倒したことのあるシャドウばかりだからで、初めて戦った時と比べて随分と二人のペルソナも成長したからである。 ギーシュのシグルズは攻撃力を上昇させるタルカジャや敵の防御力を下げるラクンダを会得し、ルイズのイドゥンは仲間全員を回復させるメディアやメギドラを使えるまでになった。 だからこそ最初からずっと系統魔法でのみ戦い続けているキュルケは面白くない。 ペルソナは現実世界でこそほとんど力を発揮できないが、こちら側ではルイズやギーシュのペルソナはトライアングルクラスに匹敵しようかと言う特技や魔法を使いこなせるようになり、尚も成長を続けているのだから。 「マヨナカテレビもそうだし、ペルソナだってそうだ。何で僕とルイズには簡単に発現したのにキュルケからは出ないのかとかね? 基準は一体なんなのかな?」 そう言いつつ更にギーシュは貴婦人と踊る紳士のような姿をしたシャドウにパワースラッシュで一撃を加える、だが今度は倒しきれず逆にカウンターで“ダブルシュート”を食らって転んでしまったが。 「うわっ!?」 「何やってんのよあんたは!?」 咄嗟にルイズがギーシュを助け起こすが、その時にはもうシャドウの次の一撃が間近に迫っていた。 「――!?」 レイピアの一撃が来ようかと言う瞬間に燃え上がるシャドウ。 「油断は禁物よ、ヴァリエール」 わざわざ気取った様子でキュルケは言い、そして杖を振るった。 炎が弱点だったのか残りシャドウたちも簡単燃え尽きていく。 「わ、私のせいじゃないわよ!」 「はいはいクマクマ。ギーシュはいつも詰めが甘いクマね」 「おっと今日はモンモランシーと約束があるんだった、帰ることにしよう」 ――トラエスト! ギーシュのペルソナが蒼い光を発すると同時に意識が白くなり、気づけばルイズ達は入ってテレビから入ってすぐのエントランスに立っていた。 「しっかし便利ねぇ、あんたのペルソナ」 「ふふん、僕を仲魔――じゃない、仲間にして良かっただろう?」 「ええ、ワルキューレも雑用にもってこいだもの」 「酷っ!?」 そう言ってみんなで笑う。 いつの間にかキュルケと二人で始めたテレビのなかの探索は日課となり、体とペルソナを鍛えることはルイズたちのライフワークとなった。 もっとも雨の日が来ず、サイトの行方も分からない以上他にすることもないのだが。 みんな嫌だったのだ、もし今度何かあったと時何もできずに見ているだけしか出来ないと言うのは。 特にルイズとキュルケはギーシュの影に負けたと言う事実も探索に熱を入れる要因である。 もっともギーシュはただ子供のころから憧れた「英雄の理想像」とでも言うべき存在の力を自由に振るえる今の状況を楽しんでいるだけだが。 「ん? どうしたの? クマちゃん」 その時、キュルケはいつも騒がしいクマが押し黙っていることに気がついた。 クマは何時になく真剣な顔で、熱心に鼻をひくつかせている。 「クマたちが探検してる間に、誰か入ってきたみたいクマ」 クマの言葉に皆の顔に驚きの表情が浮かぶ。 「まだ匂いが残ってる、こっちクマ!」 クマに導かれて立ち入ったのは、今まで見たことない強力なシャドウが闊歩する迷宮。 雨の代わりに剣が降り注ぎ、あらゆる方向から雪風が吹きすさぶフィンブルヴェトル城であった。 すべてが凍てつき何もかもが白に染まるその世界は、まさしく異世界の伝説にある――“大いなる冬”の名に相応しい。 そんな迷宮の入口から何やら声が聞こえてくる 「おーい誰かいねぇのかい? 誰でもいいから俺っちを助けて!」 一本の剣がそこに突き刺さっている。 前ページ次ページPersona 0
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/789.html
前ページ次ページご立派な使い魔 ウェールズに連れられて、秘密港からニューカッスルへと侵入する。 砲撃に晒され、見るも痛々しい城は、その中も重い空気が流れていた。 それでも、一同を出迎えた老メイジは、ウェールズの戦果を聞いてたちまち感激で顔をほころばせた。 「硫黄とは! これで我々の名誉も守られるというものですな!」 「それだけではないぞ、パリー。見ろ、あの御姿を」 「なんと」 老メイジは、ほころんだ顔をたちまち引き締めた。 そして曲がりかけていた腰をしゃんと伸ばすと、一直線に立ち上がり、叫ぶ。 「男子の本懐、これに優るところなし! お見事でございます、殿下!」 気づけば他の者達も、そうやって敬礼している。 マーラが入城してきただけで、城が蘇ったかのようであった。 「窮地において、これ以上の激励はない。よく来てくれたものだ…… で、何の用事だったかな? ミス・ヴァリエール」 「……ですから、大使として……」 どうもおざなりになっているが、本来アンリエッタの依頼が目的なのだ。 というか、ルイズ以外の誰もがなんだかその辺をテキトーに流しているように見える。 ワルドもどうもあちらに集中してしまっているし。それは、頼もしくもあるからいいのだけど。 「そうだった。船の上でも聞いていたね」 「そうです」 「ではこちらへ来るといい。自室までご足労願おう」 流石に、アンリエッタからの手紙を読む時はウェールズも粛々とした顔になった。 遠い地よりの手紙に、思うところは大きいだろう。 「なるほど……アンリエッタは、私の可愛いあの人は……結婚するのか」 「殿下……」 しばし、ウェールズは天井を見上げ、目を閉じる。 ルイズも声がかけられず、思案していたが、ウェールズはすぐに戻った。 そしてある一点を見て、静かに語り始める。 「アンリエッタは、さぞや美しくなったのだろうね」 「はい、こちらに来る前にお会いしましたが……それは、もう」 「そうか。……出るところは出て、くびれるところはくびれているのだろうね」 「はい、それはもう……はい?」 どーもウェールズの目線がおかしいと思ったら。 ルイズの隣に向いている。つまりマーラを見て、でもって、色々、連想するのがアレという訳か。 ……まあ、まあ、この程度は、人間というのは生理的に、自然にそうなってしまうのだから仕方ない。 ルイズもぐっと我慢の子である。成長しているようだ。。 「いや失言だった。……了解した。あの手紙は私のナニよりも大切な宝だが、姫からの願いとあれば返さない訳にもいくまい」 すぐに元に戻った。これには安心である。 やはり、ウェールズくらいとなるとそう簡単には欲望には流されないのだ。 ギーシュみたいなのとは違う、とルイズは感心する。 「宝箱でね。……ほら、これだ」 何度も読み返されたらしく、すっかりボロボロになったその手紙を、ルイズは丁重に受け取った。 よほど大事にしていたのだろう、ボロボロでも、大事なところは綺麗なままだ。 この手紙の様子から、ルイズは薄々と感づく。 きっと、姫さまとウェールズ皇太子は…… 「……私はこの城を枕とするつもりだよ」 「え……?」 穏やかにルイズを見つめていたらしいウェールズは、先回りしてそんなことを言う。 「アンリエッタには、幸せになってほしいからね」 「殿下、それは……!」 「……しかし、ね」 ウェールズの表情がわずかに翳る。 どうしたのだろうと、ルイズが思う間もなく。 「……やっぱり綺麗なのだろうな、アンリエッタは。 一目見たかったというのは正直なところだ。そして……」 「で……殿下。でしたら……!」 「あ……ああ、いや……」 わりと見もふたもないことを言いかけたウェールズは、慌てて口をつぐむ。 そして苦笑いを浮かべると、困ったように続けた。 「どうもな。ラ・ヴァリエール嬢。君の使い魔どのは罪作りだな」 「は? マーラが?」 「この御姿を見ていると、ついつい……はは。いや。 ……男の誇りだとか、名誉だとか。そういうもののない、裸の言葉が出てしまうんだ」 「で、でしたら……!」 「……あくまで、これは裸の言葉だよ。裸で町を出歩く変人はいないように、この言葉も……出来れば、君の胸の沈めてほしい」 「そんな、殿下……!」 これ以上話を続けられては敵わないと、ウェールズは手を振って静止した。 そして時計を確認すると、咳払いして誤魔化してから告げる。 「さて、そろそろパーティの時間だ。 是非とも楽しんでいってほしい。それと……使い魔どのには是非とも中心となって頂きたい」 「任せておくがよいわな」 マーラは反り返って承諾する。 ルイズは、実に複雑な気分だった。 きっと今のウェールズの言葉は、決して表には出さないものだったはずなのに…… マーラのお陰で引き出した本音といっても、この後を思うとどうにも……切ない。 で、そんな感傷もパーティ会場で散々に打ち砕かれた。 「ご立派様、我らにご加護を!」 「何者をも貫く硬度を!」 「下から一気に喉まで貫くご立派を!」 パーティ会場にいた王党派の人間、尽くマーラに寄ってさすりまくっているのだ。 宗教儀式とも呼べるような勢いがあるが、どういうパーティだこれは。 「い、今までの雰囲気はどうなっちゃったのよ?」 「分からないのかい、ミス・ヴァリエール」 なのだが、ギーシュはどこか悲しい目で言ってきた。 「生の象徴に向かって、死の祝福を願っているのだ。 これほどに悲しい、しかし雄雄しい景色もないよ……」 「そ……そうなの。……そう、ね」 まあ彼らも必死なのだ。 強がって笑ったところで、迫り来る死を恐れぬものはいない。 だからこそ、マーラの如きあまりにも立派なモノに祈りを託し、せめて自分が最後まで立派でいられるようにと願う…… 切ない祈りであることは、ルイズにもどうにか理解はできた。 ただ絵面がいかにも悪い。 「もうちょっとシリアスにならないものかしら」 「先生の御姿あればこその光景さ。これ以上のシリアスはないね」 「……そうなのかもしれないけど……」 悲しい話なのに。 ルイズは今、生と死に潜む喜劇と悲劇、その全てを目の当たりにしている。 生命も死も、いつだって喜劇と悲劇は隣り合わせ。涙と笑いは背中合わせに存在する…… それが真理なのだというのだろうか。そんな真理が、あるのか。それが世の中だというのか。 「……わたし、今、少し大人になった気がする」 「ふっ……かもしれないね」 ギーシュは、何故か儚い微笑みでルイズを称えた。 一人、ワルドは空を見ていた。 使うべき手札は揃っている。後は勝負に出るだけだ。 既にウェールズにも、明日の話を打ち明けた。 彼らの生き様に感動したので、是非ルイズとの結婚式をあげさせてほしい、という。その願いだ。 本来ならばそれにはもっと色々な意味を用意するつもりだったのだが、今はそうではない。 「全てはあれに勝ってから、だな」 己の左手を確かめる。 昨日から摂り続けたたっぷりの栄養のお陰で、今にも爆発しそうなほど身体が熱い。 この熱さはきっと明日にピークを迎える。その時こそ、だ。 「ふん……随分と張り切ってるじゃない」 「……ああ。張り切るさ」 気づけば、隣にフードを被った女がいた。 「私にまで素顔をさらして……随分とまあ、気合を入れたものね? 白仮面さん?」 「はは……君に隠す余裕すらないんだよ、今の僕には。 君も一度、あれと戦ったのだろう? ならばこの緊張感は理解できるはずだ」 「私の場合は……あれは、まあ……あの決着はね……いや。 ……セ、セクハラしないでほしいわ!」 「セクハラ?」 見ると、女……フーケの顔が真っ赤に染まってる。 「これは珍しい。君がそんな顔を見せるとは」 「う、うるさいね……」 フーケは、やりづらそうに顔を背ける。 「しかしその調子で大丈夫かね。明日の決戦で、また同じ結末とならないとも限らない」 「それは……あんたが手を打ってくれるんだろう?」 「まあ、そうだ……」 ワルドの眼下には、旅を共にしてきたグリフォンがいる。 「振動が伝わらなければいいのだろう? なら、手はある」 「……だといいんだけどね。まったく……私にこの城に来させるなんて、正気じゃないよ……」 城自体にも思うところはあるらしく、それでフーケは黙ってしまった。 ワルドは、ただ空を見上げるだけだ。迫り来る決戦に向けて…… そして夜が明けた。 「さて、ではワルド子爵からの頼みだ。 ラ・ヴァリエール嬢と子爵の結婚式を、この私、ウェールズ・テューダーが勤めさせて頂きたい……と思うのだが…… なんだね、この状況は」 翌朝。礼拝堂に集ったのは、ウェールズ、ギーシュ、キュルケ、タバサ…… そしてワルドとルイズ。更にマーラであった。 マーラとワルドは、礼拝堂の中心で静かに視線を交錯させている。 「結婚式の前に決闘を行うのですよ。言っておりませんでしたかな、殿下」 「そういうことじゃわな」 「いや、聞いてないんだが……というか、決闘? 何故ラ・ヴァリエール嬢の使い魔と子爵が……え? 結婚するのはラ・ヴァリエール嬢と子爵なのだよな?」 混乱しているウェールズに、ギーシュがそっと近づき、耳打ちする。 「恐れながら殿下。この私、ギーシュ・ド・グラモンが説明致します」 「あ……ああ。どういうことだね」 ギーシュは、薔薇をかざしながら続けた。 「恐れながら、これはトリステインに伝わるメイジの結婚の儀式にございます。 夫となるべきモノは、自らこそが妻をもっとも守れるものであると示すべく、妻となるべきモノの使い魔に戦いを挑む。 そして妻の使い魔を打ち倒してこそ夫となる……このような伝統なのです」 「なんと……初耳だな」 「そうでしょう。私が今作りました」 「っておい!」 「殿方、手加減してあげてねー」 「……子爵が生き残れるかどうか」 キュルケとタバサは、例によって呑気なものだ。 わりと他人事だから、というのもあるのだろう。 「マーラどの。……思えば、こうなることは予想できていた。 ルイズとはずっと離れていたけれど……気にはしていたんだ。 そのルイズが、驚くべき使い魔を呼び出したと、そんな噂は聞いていたよ。 そして今……目の前にいる。なるべくしてなった、と思うべきなのだろうな」 「ふむ。小娘を気にかけておったのか?」 「ええ。僕は僕なりにルイズを愛していましたよ……」 静かに、杖を抜く。 「……そしてこの旅だ。 ルイズは、予想よりもずっと可愛らしく育ってくれていた。 しかもまったく理由はわからないのだが、予想よりもずっと…… 僕に、甘えてきてくれたのです。抱きついたりしがみついたりしてくれた…… この感動が、ご立派な貴方にご理解いただけるかは、わかりませんが」 「グワッハッハ! 理解できようとも! ワシは本来そのような存在なるがゆえに!」 「本来……?」 「他化自在天。我が名の一つなり」 「……恐れ入りました。他者の楽しみすら己の楽しみとするとは」 そして。 ワルドは、みなぎる力を杖に込めて、構える。 「では……我が全力を尽くしましょう。ユビキタス・デル・ヴィンデ……!」 呪文とともに、ワルドの姿が5つに増えた。 風の奥義、遍在の魔法である。 「例え五倍に増えようとも」 「そのご立派には及びませんが」 「しかし、我らは」 「硬度、持続力、発射回数において決してひけはとらない」 「……である以上……」 更に、本体らしきワルドが指を打ち鳴らす。 すると礼拝堂の外からグリフォンが入ってきた。 「な、なんだあれは?」 驚くウェールズ。更に驚くべきことには、グリフォンには誰か乗っているではないか。 フードで顔を隠しているが、どうやら女らしい。 というか。あの顔立ちにはどことなく、キュルケ、タバサ、ルイズには見覚えがあった。 「あれ……ひょっとして、よね?」 「…………」 キュルケとタバサが目を細めてそれを睨んでいる、と。 五人のワルドの前方に、突如として巨大なゴーレムが姿を現す。 「ほほう……」 マーラは感心しているようだが、これにはルイズも驚いた。 「え、ええ!? ちょ、ちょっと、ワルド!?」 「君のためだ! 勝つ為に僕は全力を尽くす! そう…… 全てを投げ打ってでも、だ!」 そのゴーレムのかたちには覚えがある。 「……ってフーケじゃないのよ! あれ!?」 まさしく、フーケのゴーレムだ。それは。 礼拝堂には固定化もかかっていたはずだが、それを打ち破ったというのだろうか。 ……というか。なんでフーケがそこにいる? 「うるさいね! こっちも仕事なんだよ! 誰が好き好んでこんな城に……!」 「どういうことよ……フーケは捕まったんじゃ……」 「脱獄?」 もう無茶苦茶な状況になってきたが、ワルドは声を張り上げた。 「僕はどんな手を使っても勝利する! 正々堂々たる決闘においても、だ! どんな手でも! 小細工ではなく! 全ての力で! 僕は貴方を倒す! ……ご覚悟を、マーラどの!」 「面白いわな! 来るがよいぞ……ワルド!」 最後の戦いが、始まる…… 「……私の可愛いアンリエッタ。今頃ナニをしてるかなー」 ウェールズはもう訳が分からないので、アンリエッタを思い出していたらしい。 前ページ次ページご立派な使い魔
https://w.atwiki.jp/numasei/pages/1101.html
名前:アセン(ミタマ) 種族:ヌケニン(テッカニン) 性別:-(♀) 年齢:28(発現して10年) 身長:170 胸囲:E 一人称:ワタクシ 二人称:アナタ 好き:書類仕事、血汐 苦手:セクハラ おや:ネルサメ 裁判所で血汐の部下として働く女性。常に浮いてる。 意思が薄く、フワーッと音もなく移動するため幽霊とよく間違われる。 意思が薄いのを良いことによく同僚(♀)からセクハラされるが、流石に撃退の意思を見せる。 不憫属性。 JKの頃の姿。 奢らされ系女子。 クソゲーをプレイさせられる。ピコピコは苦手です。 仕事はちゃんとしてますよ。 SSR+級の笑顔。
https://w.atwiki.jp/jiisan/pages/24.html
しかしこれは、痛風を越えた次の段階の病気と考えるべきで、痛風の原因は尿酸結晶を異物と認識して顆粒球が起こす炎症反応とみるのが正解でしょう。これらから痛風に対する治療法というか対策を考えてみましょう。 まず尿酸結晶を物理的に取り除く──患部に注射針を刺して体液をとるという超激烈な痛みを伴う治療法です。 私の場合は採取した体液がかなり濁っていたと、整形外科の先生は勝ちほこったようにおっしゃっていました。これは結晶ができているので濁っているということでしょう。本来なら透明な液ですので血液ではなく体液です。毛細血管から組織内にしみ出ていくリンパ液の循環が悪いため、ついには結晶ができるくらい濁った体液になるのです。 ここで血液のメカニズムに簡単に触れておくと、血液は動脈から毛細血管に入り、体液として各組織間に出ていきます。そして老廃物を含んだ体液はリンパ節から静脈に入り、腎臓などで老廃物が処理されます。 リンパ節より低い部分にある手足の先などにはこの老廃物が溜まりやすいため、このリンパ液の流れをスムーズにするために足を上げる運動は、少なくとも痛風の予防措置として良いと思います。 また、関節などの節目は老廃物の溜まりやすい場所なので、いわゆる関節の痛みや手足のシビレあるいはリューマチや痛風などの原因になるとも考えられ、老化の原因となるわけです。 つまり、リンパ液は血液と違って強制循環ではなく、重力による自然循環なので、手を肩より高く上げたり、足を腹より高く上げたりするなどの運動は、老化予防のためにも非常に効果が高いことのようです。 白血球中の顆粒球をあまり多くしない、つまり交感神経優位状態の割合を少なくするということも痛風の症状を緩和するためには有効だと思います。 要するにストレスをあまり持たずのんびりしなさい──ということですが、これがいうにやすく行なうはがたし。 とくにわれわれの世代は、社会的にも家庭においても強いストレスにさらされる年代でもあります。できるだけ上手にリラックスすることが、ここでも大切なことだとわかりました。 次に尿酸値を増やさないための食事療法という点からみると、プリン体を多く含む食物…つまり活発に分裂する細胞やタンパク質合成をしている細胞を多く含む食物は、とりすぎないことが痛風患者にとって大事なことです。 そもそも私たちの年代は織田信長にいわせれば、もう終わっているのです。生殖能力も免疫力も衰え、身体能力も衰えているのです。 たとえば私などが、もし痛風で歩行が困難になったら、人間以外の生物では確実に死を逃れられないでしょう。病気で死ぬより先に他の生物に食べられてしまうか餓死するかです。 “過ぎたるはおよばざるが如し”やはり必要以上の栄養は毒になるのでしょう。 もはや若いときのバイタリティーは無くなっています。今の自分に見合った満腹感を覚え、身体に良いものを必要な量だけとるような健康的な食生活をすることは、われわれの年代には特に大切なことだとは思います。 そうはいっても酒も飲みたいし、うまいもの(私的にはうまいものってプリン体が多いような気がします)も腹一杯食べたいですよネ。仙人みたいな生活をして、長生きだけを目標に生きていくのはどうも自分の性に合いません。 それならせめて身体が酸化していくのを少しでもくい止めるような努力をしてみようかと考えています。効酸化作用の強いサプリメントを少し試してみようかと思っています。 (2005年10月8日) 「その8」へ>
https://w.atwiki.jp/siomura/pages/3.html
今日: - 昨日: - 合計: - 編集用プラグイン一覧 人気ページ トップページ コピペ/36行 【妊娠詐欺】 ★★★ 塩村文夏 は とんでもない クズ女 だった! 【不倫疑惑】 コピペ 右メニュー 関連サイト/「オワコン女」等の関連ページ コピペ/2014-007-08 ★★塩村【画像】いや、自分で言っているから・・・相当な悪女だよこの女 コピペ/2014-007-08 塩村「男はヤるだけ口だけ最初だけ」という男性差別ツイートを秀逸と紹介 コピペ/2014-007-08 塩村議員語録 コピペ/2014-007-08 ヤジ捏造・不倫・整形・家賃未払い・逆セクハラ番組作製・慰謝料1500万円の女・塩村文夏議員の正体 塩村あやかについて 似てる人。ニュースまとめサイトとか 更新履歴 取得中です。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4907.html
前ページ次ページゼロの女帝 翌朝 アルビオンに出立する一行は、朝霧の中準備を整えていた。 「静かにしてね、シルフィード」「きゅい」 「保存食に、旅費に着替えに」 「ああ、ヴェルダンデ、なんて可愛いんだ僕の愛しいヴェルダンデ。 一緒にいこうね、君にとても珍しいものを見せてあげよう。 なんと浮かぶ大地なんだよ」 などとやっている一行の前に、一匹のグリフォンが舞い降りる。 「やあ、愛しいルイズ。久しぶりだね」 「貴方は・・・・・・・ワルド?」 キュピーン! キュルケの「いい男センサー」が発動する。 「アレは・・・・・・トリオステインの『ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド』ね。 爵位は子爵、トリステイン王国に3つある魔法衛士隊の1つ「グリフォン隊」の隊長にまで栄達し、マザリーニ枢機卿の 覚えもめでたい将来有望な殿方と聞くわ」 「えらく詳しいね」 「ゲルマニアは勿論トリステイン、ガリアロマリアまでいい男を漏れなく記した 『ハルケギニアナイスガイ辞典』から引用よ。 タバサ、貴方の国の男も載ってるわ。 例えば(パラパラ)コレね、『バッソ・カステルモール』 爵位は男爵。 かなりレベルの高い特殊な系統魔法を使いこなしオルレアン公にいまだ忠義を尽くす男」 「おいおい、それバレたらまずいんじゃないのかい」 「大丈夫。これがバレたら確かにこのカステルモールさん処刑だけど『いい男に不利益を与えない』 それがこの本を出版している『ハルケギニア淑女同盟』の心意気よ!」 「ちなみにボクはどう書いてあるんだい? 何で目をそらすのかな?」 「ワルド卿、なぜ貴方がここにいるのかしら?」 柔らかい目で、柔らかい口調で問いただす瀬戸。 そんな彼女にワルドは一通の書を差し出す。 「何々、『親愛なるルイズ。 勝手とは判っていますがこの作戦の成功度を上げるため、やはり本職の軍人を貴方達に同行させます。 聞けばワルド卿は貴方の婚約者なのだとか。 ならば情報の隠匿は勿論ですし信頼の置ける人物なのも間違い無いでしょう よく知らないけど そういう訳で、我が愛しき親友ルイズへ アンリエッタ』ふむふむ ?どうしたのセト」 「あの姫様・・・・・・・・こんな作戦は情報の秘匿が大事だってのに。 まあ彼女なりの努力ってことで。 この程度ならフォロー出来るし」 「それじゃあ出発しようか」 それを合言葉に出立する一行。 ちなみにワルドのグリフォンにルイズと瀬戸が、タバサのシルフィードにキュルケとギーシュが相乗りする、という状況だ。 「おや、どうしたんだい愛しいルイズ」 「いや、なんか忘れてるような気がするんです」 「忘れ物かい?」 「いえ、着替えにアレにコレに姫様からの手紙に身分証明のための水のルビー。 何も忘れてないはずなんですが・・・・・・何か忘れてるような・・・・・・」 「まあナンだ、アレだよ。 ここらで足洗ってカタギになるってのも悪くないかもね。 スケベじじぃのセクハラ我慢すればあの子達に仕送りできる位の給金貰えるし。 『拾った孤児達に仕送りしてるんです」とか言いながら嘘泣きの涙一滴たらしゃ もうちっと上げてくれっだろ」 「出るなり消されちまったり存在無視されたりした他所の俺に比べりゃマシだぁな。 この先ひょっとしたら出番あるかもしれねぇし」 駆けて行く彼女達を、窓からひっそり見つめるオールド・オスマンとマザリーニ枢機卿。 アンリエッタはお茶をすすりながら、その羽ばたきの音を聞いていた。 「あの娘ら大丈夫だろうか。 のうオスマン」 「大丈夫じゃよ枢機卿。 必ず使命を果たし、心身ともに一回りも二回りも成長して帰ってくるでしょうな」 「えらくかっておるな。 いってはナンだがたかが学生でしかないというのに」 「あの子らもだがそれ以上に、彼女を信頼しておるんじゃよ。 無限の可能性を秘めた、あの娘の傍に立つあの女性を」 「するとワシが同行させたワルド卿は無用だったか」 「・・・・・・・・・・・・無用程度ですめばよいのじゃが」 あの若き子爵の目の輝きに、言い知れぬ不安を感じるオスマンであった。 前ページ次ページゼロの女帝
https://w.atwiki.jp/jiisan/pages/52.html
子供は元気です。 時にいやになるほど。 ファミリーレストランなどで食事をしている時、たまに2~3家族の複合体とみえる一群が入店してくることがあります。 このような状況下においては、もはや食事をゆっくり楽しむという行為は不可能となります。 2~3家族の複合体の中には、たいてい子供が4~5人含まれています。 この時の子供は、まったくひと時もジットしていません。 そして移動するときには、必ずといっていいほど走って移動します。 対して我々初老の年齢にもなると、めったなことでは走りません。 たまに走るとしたら、信号が変わる寸前の時くらいでしょうか。 それも同じくらいの歳の人が走るのをみると、体重は完全に後ろに残り、足だけバタバタと動かしているだけです。 まったくサマになっていません。 もちろん私が走る姿を他の人がみても、同じことを思っているでしょう。 それに比べ、ファミレス内で走り回っている子供は実にサマになっています。 本当に腹が立つほどに・・・ いったいこの違いはどこからくるのでしょう? この章では、第4章 白血病でも少し考えた、子供の元気の謎について、つっこんで考えていきたいと思っています。 2006/05/16 (火) 21 36 さて前章で外胚葉の細胞が、原口背唇部からの誘導をうけ、神経細胞となり、これが一番最初に機能細胞として、完全分化するのではないかと考えました。 それ以降の発生の経過を、脊椎動物について、想像してみることにします。 神経細胞はどんどん増えていきます。 その数は分裂の際、全てテロメアハサミの酵素を使ったとしても(第5章 進化のビックバン参照)、体全体の細胞より、はるかに多い数が作られる可能性があります。 さて分化した神経細胞は、神経板から神経管を形成し、原口背唇部とともに、尾の方向にのびていきます。 原口背唇部は脊索に分化していきますが、脊椎動物では、成長につれ退化してなくなってしまいます。 そして頭の方がふくらんで脳が形成されていき、図①のような形になります。 これが中枢神経系となり、この形は脊椎動物の基本形です。 この頃には当然他の細胞も分裂を重ね、機能細胞になっているものもあります。 そして身体全体が形作られるわけですが、そのあたりのことを考えてみたいと思います。 まずテロメアが60あると仮定しましょう。 つまり受精卵から60回分裂したら、分裂能力を失い、機能細胞になるということです。 神経細胞系は最も分裂速度が早く、全ての分裂にテロメアハサミの酵素を使っていると考えます。 仮に全ての細胞の分裂速度が同じなら、60回分裂した時点で、細胞の総数は64京個にもなってしまいます。 つまり一個の受精卵には64京個もの細胞を作り出す能力があるということにもなります。 2006/05/18 (木) 8 45 他の体細胞系は、ハサミもノリも使わないとすると、神経細胞が完全分化した時点では、テロメアの数が30個位の細胞が。最も多くなることになります。 また神経細胞の数は、発生のどの時点で、神経細胞になる方向が決定したかによって、だいたい決まります。 胞胚期から(10回程度)原腸陥入して、原口背唇部の誘導をうけるのですから、15回程度でしょうか? そうするとその時の細胞の数は約30000個、そして神経細胞の数は、約35兆個にもなる計算です。 人間の成体の総細胞数は、約60兆個といわれているので、少し多すぎるような気もしますが、神経細胞はかなりの数がアポトーシスで消えることもあり、それ程不自然な数字ではないかもしれません。 私が考えたのは、完全分化した神経細胞が、他の体細胞系に対し、系統だった指令をだすようになるのではないか、ということです。 分裂速度とテロメアの減り具合により、この時点で細胞を三つの群にわけてみます。 一つ目はテロメアが順調に減り、もう少しで完全分化する細胞群(テロメア1~25くらい) 二つ目は平均して2回に1回テロメアが減る一般的な細胞群(テロメア25~35)。 そして三つ目はテロメアがなかなか減らず、おそらく分裂速度も遅い細胞群(テロメア35以上)。 この三つの細胞群に対し、①にはテロメアハサミの酵素をだす指令を、②には分裂を一時休みなさいという指令を、③にはアポトーシスして消えなさいという指令をだすのではないかと、想像してみました。 2006/05/23 (火) 22 25 ③から考えてみると、例えばテロメアの残が50の細胞からは、仮に全てハサミの酵素を使ったとしても、一千兆以上の細胞ができることになります。 もうそれ程の数の細胞は、必要ないという判断で、この群にはアポトーシスを指令するのです。 第4章 白血病で考えた、テロメアと分化度の関係が、ある程度正しいとすると、この群の細胞は、未分化度が強い、つまりなんにでもなれる要素のある細胞だと考えられます。 しかしこれが消えてしまうのですから、脊椎動物の再生能力が、あまり強くない説明になるかもしれません。 ②はいわゆる補充細胞です。 しかも分化の方向は、もうほとんど決定していると思います。 中にはかなりの能力を残した細胞もあるかもしれませんが、それでもせいぜいイモリの足程度で、それも少数派のようです。 そして①の細胞群が、その後の身体を形成していく、細胞群になると思います。 ①の細胞群も、分化の方向は、決定していると思いますので、テロメアがなくなるまでは、分裂に関する情報だけを発現して、その数を増やしていきます。 そして次々といろいろな種類の機能細胞が、増えていきます。 その様子を少し想像してみましょう。 神経管が形成され、脊索とともに伸びていきますが、脊索はすぐに退化を始めます。 その後をおうように、(原口背唇部の後ろあたりではないでしょうか?)脊椎骨が形成され始め、神経管をおおうような形で、成長をします。 神経管の前の部分が膨らみ始め、脳が形成されるとほぼ同時に、脊椎骨の前方にふくらみが生じ、頭蓋骨を形成していきます。 さらに脊椎骨の後ろのあたりから、筋肉細胞と血管が生じます。 2006/06/11 (日) 8 34 外胚葉からは、神経領域に引き続き、表皮の細胞も機能細胞となり、最も外側に層をなします。 魚類や両生類では、この時点で、呼吸器系(エラ)や消化器系もあらかたできて、いわゆる孵化をするのではないでしょうか。 爬虫類以降の脊椎動物では、陸上での生活に適合するため、呼吸器系もエラから肺に変化し、四肢も形成されだします。 そして消化器系も内胚葉から生じ、だいたいの原型ができあがります。 本によくあるあの図です。 この段階までは、とても素早く事が進むと思います。 それは比較的テロメアの残りの少ない細胞から、このような中心を作る、昨日細胞が生まれると考えられるからです。 そしてもう少しテロメアの残りが多い細胞も、じょじょに完全分化をしていきます。 しかしテロメアの残りが多い分、少しずつ時間が長くかかるようになると思います。 そして消化器系や感覚器系の、いろいろな器官が作られだし、手足も身体の中心と同様、神経、骨、血管、筋肉、表皮が、順序よく形成されていくと思います。 さらに、生殖器系や、内分泌系、血球の細胞も作られだし、それぞれの器官も、細かな組織ができあがり、全体として、昨日を持つようにもなります。 ここらへんまでで、だいたいの発生は一段落で、爬虫類や鳥類は、卵から孵化をするでしょう。 哺乳類では、もう少し母親の胎内で成長すると思います。 これは卵生の爬虫類や鳥類と違い、胎生の哺乳類は、母親から栄養補給ができるためだと考えられます。 その結果、子供が成体まで育つ確率は、哺乳類になり断然高くなっているでしょう。 しかし母親への負担から、子供の数自体は、少なくなる傾向にあると思います。 ここまでの力は、もっぱら遺伝子による、誘導と応答が、役割をこなしてきました。 卵の内部組成の不均質さにより、卵割期のすんだ細胞に、細胞質内の組成の違いにより、個性が生じます。 2006/06/11 (日) 22 39 それにより遺伝子の発現パターンに個性が生じ、誘導と応答の連鎖反応で、細胞の分化の方向が、次々と決まっていきます。 胚全体の形も、中胚葉誘導から、神経誘導がおこり、大きく変化していきます。 そして神経細胞が、最初に完全分化をはたし、神経管を形成し、それに続き他の細胞群も、次々と機能細胞化していきます。 細胞に個性が生じ、全体としての形が、大まかにできあがりました。 そしてここからが、本編の主題である成長期にはいります。 ここからは遺伝子にかわり、中枢神経が主役になるのではないかと、私は考えています。 もちろんその中枢神経も、遺伝子の情報を元に作られるのですから、遺伝子が主役であることには、かわりないのですが・・・ いうなれば、生物の身体を作る設計図は、遺伝子ですが、中枢神経が、現場監督として、働きだすのではないかと思うのです。 実際の建築でも、もちろん設計図を元に、建物は作られるのですが、細かな点は、現場監督の裁量によって、決定されることは少なくありません。 つまり同じ設計図からでも、現場監督の個性により、できあがる建物に、ある程度違いが生じることも、ありえるのです。 発生から成長期に移る時点では、膨大な数の神経細胞ができあがっていると思われます。 それらが複雑な神経ネットワークを、形成していくのです。 その全てを遺伝子の情報に書き込むことは、不可能でしょう。 神経ネットワークは、経験や環境によって、それぞれの個体間で変化が生じるのは、当然考えられることです。 つまり現場監督に、個性が生じるわけです。 実務にあたる職人さんは、設計図の全てを見て、仕事をするわけではありません。 自分にかかわりのある部分だけをみて、現場監督の指示により、仕事をします。 ほとんどの場合、設計士さんと直接会うことはありません。 そしてさらに細かな部分については、自分の裁量で決定することもあります。 2006/06/28 (水) 7 31 同じ種の生物のあいだで、個性が生じるというのは、こういう原理ではないでしょうか? 一卵性双生児の方の場合、設計図は全く同じはずですが、それでもよくみると、必ず個性があります。 これは全く同じ経験をし、同じ環境にいることは不可能なため、神経ネットワークに差が生じるのではないでしょうか? 神経細胞は、成長期の頃には、ほぼ一生分の細胞が、できあがっていると考えられています。 本にも神経細胞は、再生能力はないと、書かれています。 これは全ての分裂に、テロメアハサミの酵素を使ってきたので、全ての細胞が、完全分化をしたためと、考えられます。 補充用細胞がないのです。 神経細胞は、かなり早い時期に、全てが完全分化して、機能細胞になります。 ですから神経細胞の数としては、赤ちゃんの方が大人よりも多いはずです。 しかし生まれたばかりの赤ちゃんは、高度な精神活動をしているとは、思えません。 これは神経ネットワークが、未完成だからではないでしょうか? 神経細胞の数が多すぎて、不必要な接続が多く、混乱をしている状態だと、考えられます。 それが成長するに従い、不必要な部分を切り捨てて、整然とした、神経ネットワークになっていくのではないでしょうか? 経験した刺激に対し、スムーズに反応できるようになる、その数を増やしていくことが、心の成長ということに、なるような気がします。 もちろん生まれながらにして、スムーズに反応する刺激もあります。 例えばお腹がすけば、泣くという行動があります。 これは泣くことによって、母親が乳をくれるだろうという、知恵だと思います。 いわゆる本能とよばれる部分です。 人類誕生以来、数万年という、歴史的な集成が、泣くことによって、エサが与えられるという、知恵を作ってきたのです。 空腹という刺激に対し、泣くという反応の神経ネットワークは、生まれながらにして完成されている、人類の伝統であるといえます。 このような経験による成長や、本能的な知恵は、主に大脳を起点とするネットワークだと思います。 それ以外に、もっと生命に直結した反応もあります。 2006/07/01 (土) 21 49 例えば呼吸です。 呼吸の中枢は、延髄にあるといわれています。 生まれたばかりの赤ちゃんは、まず「オギャア」と泣きます。 これは母親の胎内からでて、初めて自分で呼吸するために、必要不可欠な行動です。 「オギャア」と、甲高い声を発することにより、呼吸が開始されるのです。 この神経ネットワークも、完成されていないことには、呼吸がスムーズにできず、たちまちのうちに、死をむかえることになるでしょう。 話はそれますが、それにしても赤ちゃんは、大きな声で泣きます。 他の動物で、誕生直後、あのような大きな声で、泣く動物はいるでしょうか? また、昔の人類や、原人・猿人なども、あのような大きな声をたてていたでしょうか? 大自然の中で、あのような大声をあげれば、たちまち他の動物たちの餌食になるような気もします。 母親も赤ちゃんも、ほとんど無防備な状態なのですから、生まれる場所、つまり巣が、絶対安全であるという保障がなければ、あのような大声をあげることは、できないと思います。 長い歴史的な経験の積み重ねが、文明という形で、巣を絶対安全な場所にし、それが神経ネットワークに、本能という形で、うめこまれているのでしょう。 私はこの本脳という部分は、遺伝子という設計図には、しるされていないと、考えます。 神経ネットワークが、種の歴史的な経験の積み重ねを元に、生まれながらにして、スムーズにいくよう、作られている部分だと思います。 熟練した現場監督が、設計図の内容をこえ、よりよい建物を作り出していくようなものではないでしょうか? このことも非常に興味深い問題なのですが、いずれ機会があれば、ゆっくり考えることにして、話を進めていこうと思います。 このような意識レベルの機能だけではなく、神経には、身体全体の調節という働きもあります。 自律神経とよばれるもので、これは中枢から抹消への、一方通行の神経です。 2006/07/05 (水) 21 53 この自律神経の中枢というべき場所で、調節とともに成長に関する大事な仕事が行われているのではないかと考えました。 ここから身体のいろいろな種類の補充細胞に、「分裂をしなさい」という指令をだしているのではないでしょうか? 発生の時に、テロメアがなくなりきらなかった細胞は、補充用細胞として、数多く残っているはずです。 そして分裂周期からはずれ、一時休止の状態にあると思われます。 そして分化の方向は、すでに決まっているはずです。 神経系は、この補充用細胞に、再び分裂をうながすような、指令をだすのではないでしょうか? 仮にテロメアが30個残っている細胞があるとすると、その1個の補充用細胞から作られる、機能細胞の数は、約10億個です。 白血病編 で考えたように、テロメアの残りの少ない補充用細胞から、分裂周期にはいるとすると、子供の頃の、補充用細胞のテロメアの残りは、少ないと考えられます。 そうすると短い時間で、機能細胞になれるということと、一度にできる機能細胞の数が、少なくなるという特徴があると思います。 そのため神経系からの、分裂の指令は頻繁にだされ、機能細胞はスムーズに増えていくことになります。 その数より、役目を終えアポトーシスをおこして、消えていく細胞の数が、少ないときが、成長期です。 骨を作る造骨細胞や、筋肉細胞の数が、増えていくのですから、当然身体は大きくなります。 また身体の各器官も、一様に成長をして、そのバランスを司る仕事をしているのが、神経系の器官ではないかと、考えています。 白血病編 で、なぜ子供は元気なのかを考えましたが、もう一つ要素があることを、思いつきました。 身体を大きくする(身長を伸ばす)には、まず骨が成長しなければなりません。 骨の成長は、他の身体の部分と比べ、遅いような気がします。 ということは子供の頃は、身体の大きさに比べ、細胞の数が多いことが、予想されます。 2006/07/08 (土) 22 04 つまり密度が濃いのです。 密度が濃ければ、細胞同士のコミュニケーションも、よりスムーズにとれるような気がします。(乳幼児の時は、逆に密度が濃すぎて、コミュニケーションが混乱している可能性もあります) これも子供が元気である、大きな要因であると考えられます。 そのような元気な子供にも、ガンは発生します。 私の娘も、そのうちの一人です。 子供のガンは、非上皮性のガンが多いようです。 骨や筋肉などに発生する、肉腫といわれるものや、白血病やリンパ腫のような、血液のガンのことです。 ガン細胞は一般に、活発に新陳代謝している細胞に、発生するといわれています。 2006/07/09 (日) 9 55 子供の骨や筋肉の細胞は、活発に新陳代謝しているので、ガンが発生しやすくなっていると、考えられます。 成人の方には、このような非上皮性のガンは、あまり多くないように思われます。 成人の方は、胃がんや大腸がんなど、上皮性のガンの発生率が、高くなっています。 消化器系や呼吸器系の細胞は、成人になっても、活発に新陳代謝するためでしょう。 しかし子供には、上皮性のガンが、あまり多いようには思えません。 考えてみれば、不思議な現象です。 骨や筋肉、血液はすべて、中胚葉から作られる細胞です。 対して、呼吸器系や消化器系は、内胚葉から分化をします。 どうもここいらへんに、多きなヒントがあるような気がします。 2006/07/09 (日) 13 38 「4. ガ ン 」へ >
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3650.html
前のページへ / 一覧へ戻る / 次のページへ 「隊長殿! ミスタ・ジャン・コルベール! 本当に久し振りだ!! しかし一体、今まで何をしていた? 貴様の噂を聞かなくなって、もう20年だぞ?」 冬の日の出前、大気は寒い。だが『火の塔』の傍らで、メンヌヴィルは熱く、狂ったようにまくしたてる。 「俺の噂は聞いているだろう? どれだけ俺が人を焼き殺し、多くの都市や村を滅ぼし、見違えるほど強くなったか……」 「せ、先生。こいつ、ヤバイわよ」 キュルケが思わず呟く。奴は伝説の傭兵、『白炎』のメンヌヴィル。 火のトライアングルとしての実力は理解できるが、これほどの異常な、怪しい火の気配を感じた事はなかった。 メンヌヴィルはそれを聞き、鼻息を吹いて大いに驚嘆する。 「ふはっ! 先生、先生だと? あの『炎蛇』のコルベールが、か? これほど似合わん話はない! 確かにここは魔法学院だが、貴様がいったい何を教えるのだ? 人殺しの簡単なやり方か? 武器の鍛造法か? まさか料理教室を開いているわけではあるまい?」 コルベールは無言のまま、眉間の皺を深めた。頭の中には今まで読んできた、『東方』の優れた思想がある。 火の本質は破壊と情熱。とても強力で、かつ扱いづらい系統だ。 土メイジは土壌を肥沃にし、都市や城壁を築き、金属を錬金し宝石を加工し、ゴーレムを操って活躍する。 水メイジは河川や湖を治水し、航海や漁業を助け、雨を降らし泉を湧かせて農地を潤し、心身を治癒して命を救う。 風メイジは天候を操り空を飛び、フネを飛ばし情報を聴き取り、恐ろしい竜巻や稲妻、『遍在』を用いて戦う。 では、火はどうか。 戦いではトロール鬼をも焼き殺し、硫黄などの秘薬を用いて恐ろしい砲火を放つ。 有害なゴミを焼き尽くし、疫病の瘴気を浄化するのも、確かに火だ。 一方で火は森を切り拓き、草木を焼いて土壌を肥沃にし、金属を熔かして精錬加工する。 炉に火のない家では料理も不味く、夜は暗闇に包まれ、冬場は凍え死んでしまうだろう。 火は罪深い戦争で使われるのみならず、暮らしを豊かにしている。貴族よりも平民の方が、それを理解できよう。 火は、文明そのものだ。全てを焼き尽くす危険性を孕みながら、 よく制御すれば優れた科学技術となり、人類の未来を熱く明るく照らし出す。 それはいつの世も変わらない。火こそは太陽の光であり、命であり、社会を動かす原動力なのだ。 進歩への情熱と理性の光。それこそが、我々に与えられた松明だ! 啓蒙と、教育。おおこれこそ、私に与えられた使命ではないか!! ついにコルベールは口を開き、眼鏡をギラリと光らせ、自らの理想を情熱的に話し始めた。 「……そう、火の本質は、破壊と情熱。この戦乱の時代、破壊ばかりが強調されるのはやむを得まい。 だが建設的な使い方をすれば、火の系統は他の如何なる系統より勝るかも知れない。 それは古い世界を改革し、無知の闇を松明で照らすように、新しい『理性の光』の時代をもたらすだろう!」 「「……はあ?」」 「火の鳥、フェニックスを知っているかね? 500年に一度、火の鳥は故郷に帰り、 わが身を炎で焼いて灰の中から復活するという。そこのキュルケくんの使い魔はサラマンダーだが、 これも欲望や苦難の炎に耐えて生命力に換え、汚れた金属を浄化するという……」 しかしメンヌヴィルもキュルケも、タバサもアニエスも、コルベールの話にまったくついて行けない。 戦いの空気が学院の講義でのそれに変わり、延々と熱苦しい演説は続いていた。まるで松下が彼に乗り移ったようだ。 やがて、しびれを切らしたメンヌヴィルが叫ぶ。 「何をごちゃごちゃぬかしてやがるんだ、学問のし過ぎで頭がいかれちまったか!? 俺は貴様と戦って、火炙りにしてやりたくてウズウズしているんだ! さっさと攻撃して来いよ! さあ!!」 コルベールは演説を止め、フルフルと首を横に振った。 「メンヌヴィル、私はもう二度と、人殺しはしたくない。たとえ異端の罪で火炙りにされても。 火の系統を破壊だけに用いるのは、間違っている。あの日から20年間、私はそう思って研究を続けてきた。 もうすぐそれが、現実味を帯びた実を結ぶかもしれないんだ」 「くそっ、坊主が生悟ったような事ばかり言いやがって、俺にはさっぱり分からん! もう任務なんぞどうでもいい、貴様を焼き殺せりゃあ俺は満足だ!!」 メンヌヴィルが杖を振るって炎を放ち、それをキュルケとタバサが魔法で掻き消す。コルベールも仕方なく杖を抜く。 いよいよ決戦だ。アニエスは拳銃に弾丸と火薬を込めると、後ろに下がった。 「奴らが、私の仇。ダングルテールを、故郷を、家族を焼いた奴ら」 《人間ってやつぁ、どうもやたら苦しんでおりますな。 この星のちっちゃな神さまは、いつもいつも妙なことばかり、それこそ天地開闢の日このかた繰り返しております。 ほんとうは、もっとましな生き方もできたんでしょうが、旦那(造物主)がお天道様のかけらなんぞ分けてやるからですぜ。 そいつを理性とやら名づけて振り回したあげく、犬畜生よりもっとひどいことをやらかす始末でさぁ》 (ゲーテ作『ファウスト』天上の序曲でのメフィストのセリフより) 一方、本塔のあった辺りでは、オスマンの操るスフィンクスが暴れていた。 フーケの巨大ゴーレムが、スフィンクスの放つメガトンパンチで叩き潰される! たまらず空を飛んで逃げ出すフーケに、スフィンクスはぷーーっと砂を吹きつけた! 砂は空中で身長何メイルものオールド・オスマンになり、尻でどすんとフーケを押し潰す! しかしフーケもさるもの、咄嗟に地面に穴を空け、地中に逃れた。 そこへバックベアードが大声で呼びかける。 「「こっちを見るのだ、オスマンじじい!! 私の『魔眼』にはいかなるものもかなわぬのだっ」」 「「わはははははは、ワルドに取り憑いちょる妖怪とやら、そんな大目玉で何をしようというんじゃ? 砂を吹きつければ、お前さんなぞひとたまりもないじゃろうが!!」」 ベアードにぷーーっと砂が吹きつけられる。だがベアードは煤煙となって霧散し、しゅるしゅると分裂する。 そしてたちまちスフィンクスの周囲に、5つの巨大な『魔眼』が出現したではないか! 「「我が『魔眼』の遍在、ようやく出せるようになったぞ!! そして食堂の奴らは、この私が催眠術で操ってくれよう!!」」 5つの『魔眼』はばらばらと無数の小ベアードに砕け、食堂へ殺到する! 「「させぬわあっ!!」」 スフィンクスも大量の砂塵に変化し、ごおおーーーっという砂嵐となってベアードどもを吹き飛ばす!! 再び合体して大魔眼となるバックベアードは、ぴかぴかと眼を光らせ、激しく笑い出した。 「「うわはははは、手ごたえのある相手は大好きだ! 今度は貴様に取り憑いて、女子生徒の私生活でも覗いてくれようぞ!!」」 「「このセクハラ妖怪が、うちの学院の女性にセクハラしてよいのは、このオールド・オスマンただ一人じゃああああ!!!」」 オールド・オスマンとワルド・ベアード、セクハラ妖怪スクウェアメイジの戦いは、どんどん激しさを増していく。 それにしてもその言動は、極めて不純であった。 「……付き合いきれないね、任務は失敗ってことにして、あたしはさっさとアルビオンに帰ろう。 テファたちも心配しているだろうしさ」 フーケ(マチルダ)はいち早く学院の外へ脱出し、一路ラ・ロシェールへ向かう。 変装してアルビオン侵攻軍への慰問団にでも紛れ込み、故郷サウスゴータへ行くつもりだ。 クロムウェルに仕えるのも、そろそろ潮時だろう。さあて、どうしようか。 その頃、コルベールたちはメンヌヴィル一人に苦戦していた。もうすぐ日の出だ。 「おいおいどうした、この程度か? まだまだ物足りないぞ? やはり人間の焼ける香りを吸わないと、俺の渇きは癒されないのだなあ」 「くっ、こいつ、強い!」 コルベールは防御シールドを張るのに徹し、その背後からキュルケとタバサが魔法を、アニエスが銃弾を放つ。 だが、魔法はメンヌヴィルの周囲で拡散し、銃弾もプチュッと蒸発する! 「ぐわはははは、効かないねぇ!! そおら『炎の蛇』を食らえ!!」 ぶおんと鉄の杖が振り回され、巨大な炎の帯が四人を襲う! 敵の放つ強力な魔法を防ぎながら、タバサは冷静に戦況を分析する。 「通用しない、というより、魔法を『吸っている』。 何らかの強力なマジックアイテムを所持しているか、『先住の魔法』の可能性がある」 「何それ、反則よ!! それになんか、あいつの周囲の空気が青白く見えるわよ!?」 「怒りの顔色と同じように、火は高熱になるほど、色が白く、青くなる。 あれは恐ろしい高熱の炎だ。情熱の赤は、まだまだ『微熱』というところだね」 「ご教授有難いわ、ミスタ・コルベール。不殺でいいから、あいつをどうにかしてよ!!」 「……では、炎には炎、杖には杖。出でよ『炎蛇』、トピ・テイ・バ・テア!!」 コルベールが懐からもう一本の杖を取り出し、地面に投げる。 すると杖はたちまち、体長20メイルはある巨大なキングコブラとなった! その体は滑らかな緑色の鱗に覆われ、眼や口からはチロチロと炎が出ている。 『私は、太陽神の娘にして額の聖眼、王者(ファラオ)の象徴、毒の炎にて悪を焼く偉大なる蛇。 私は「立ち上がるもの」、ウラエウスなり』 《アロンが自分の杖をファラオとその家来たちの前に投げると,それは大蛇となった。 そこでファラオは賢者や魔法使いたちを呼び出し、彼らもその魔術によって同じ事を行なった。 …しかし、アロンの杖は彼らの杖を呑み込んだ》 (旧約聖書『出エジプト記』第七章より) 「せ、先生! これが先生の使い魔!?」 「私はとある魔術結社に所属していてね、団員になるとそこから使い魔というか、『守護天使』を1体もらえるんだ。 彼女は私の守護天使、聖なる炎蛇ウラエウスちゃんだよ」 『私を「ちゃん」などと呼ばないで、ミスタ・コルベール。 けれど、危ないところでしたね。おお、なんという邪悪な男と戦っているのでしょう!』 ウラエウスは、がーーーーっと大きく口を開き、毒牙を光らせる。 『私の一番好きな食べ物は、お前のような神を冒涜する人間なのだ!』 「うおおッ!?」 メンヌヴィルの頭上からウラエウスが襲い掛かり、炎をものともせずに頭から丸呑みする! 彼女はぺロリと敵を平らげ、腹の中に収めてしまった。メンヌヴィルはなおも暴れていたが、やがて消化されたか、静かになる。 「……案外、あっさり片付いたわね」 「人殺しはしたくなかったが……まぁ、彼は魂を悪魔に売り渡したような男だったしなあ」 満腹したウラエウスは振り返り、コルベールに話しかける。 『ミスタ・コルベール。私はあなたの忠実な下僕、というわけではない。 あくまでもあなたを守護するために付けられた、目付けのようなもの。しかし、これだけは伝えておきましょう。 あなたは「東方の神童」松下一郎に、使徒の一人として召されている。彼に仕え、従いなさい。 そうすればあなたの罪は贖われ、共に天の国、パラダイスに入る事ができるでしょう』 「使徒……天の国……この、罪深い私が……」 「そうだ。貴様はわが故郷ダングルテールを焼き、罪なき人々を殺した大罪人。 命令を下したリッシュモンを殺す事は陛下から止められたが、私の気はおさまらぬ」 コルベールのすぐ背後に、いつの間にかアニエスが立っている。手に拳銃を握り締め、彼の後頭部に当てている。 「アニエス!」 「狡猾な蛇め、まむしの子め! こんな穴ぐらに身を潜めて、くだらん研究に耽っていようとはな!! きさまも善悪をわきまえる知恵はあろう、潔く死ね! ジャン・コルベール!!」 《お前はこの事をしたので、全ての家畜と全ての野獣のうち、最も呪われる。 お前は、腹で這いまわり、一生塵を食らうであろう。 私は敵意を置く、お前と女の間に、お前の子孫と女の子孫の間に。 彼はお前の頭を砕き、お前は彼のかかとを砕く》 (旧約聖書『創世記』第三章より) 咄嗟にキュルケとタバサが飛びかかり、間一髪アニエスを地面に押さえつける。 ウラエウスも、かーーっとアニエスに牙を向けた。 「アニエス! 私たちがいる限り、先生は殺させないわよ!」 「貴女の気持ちも分かる。でも、理性的に考えて」 「やかましい! きさまら安穏と育ってきた貴族の小娘なんぞに、私の何が分かる!!」 「私は安穏と育って来ていない。貴族もいろいろ、人生もいろいろ」 「そんな言葉で片付けられてたまるかああ!! 私の、私のこの20年間の労苦は……」 二人に押さえつけられ、半狂乱になるアニエス。やがてコルベールは目を閉じ、諦めた表情をする。 「いや、分かっているよミス・アニエス。私はやはり罪人だ。 ここで君に会ったのも神の裁きだろう、潔く復讐の銃弾を受けて贖罪としたい」 「せ、先生! そんな」「………!」 だが、ウラエウスの様子がおかしい。 『……うっ、ぐっ、これは何だ?! 私は何を呑み込んだのだ?!』 げっ、とウラエウスは何かを吐き出す。それはメンヌヴィルの死体ではなく、なんとも奇怪で異様な姿をしていた。 体は青黒い狼、頭はフクロウ、クチバシには牙が並んで火を吐き、後脚がなくて下半身は大蛇。 キュルケがうえっと口を押さえる。こんな出鱈目な幻獣は見たことがない。 「な、何これ!? まさか、悪魔!?」 《カム ナガ ラ ナム ア モ ン》 怪物の全身が炎に包まれ、空中に飛び上がって咆哮する! 《高く立ち昇る、芳しい供物の煙(ハンモン)よ!! おお、余は何者か!? 余は風、余は息吹、余は隠されたる、計り知れぬもの……》 ウラエウスが叫び声をあげる。 『あ、あなたは、アモンさま! エジプトの主なる神!』 彼こそはアモン、炎の侯爵、東方の王にして神の神。シリアではバアル・ハンモン(アンモン)と呼ばれた。 本来はテーベという都市の古い神に過ぎなかったが、さまざまな神々を『吸収』して最高神の地位に就いた。 のちに悪魔として地獄に落とされ、多くの魔神とともにソロモン王に使役された末、封印された。 今は同族のベリアルによってハルケギニアに召喚され、メンヌヴィルに取り憑いていたようだ。 《おお汝ら人の子よ、余は『東方』へ、日の昇る地へ行く! 余は太陽なれば! 知られざる、隠されし知識を追い求めよ! 『東方』の彼方、『神の門』へと!!》 炎を吹き上げ、ギャアギャアと騒ぎ立てるアモン。フクロウも蛇も知恵の象徴、しかし彼は狂っている! 狂った神アモンは、呆然とする一同を尻目に、暁光の差す『東方』へと飛び去った。 闇夜は過ぎ去り、バックベアードも敵わぬと見て退却したようだ。学院での攻防戦は、終わった。 「……あの、何? 何がどうしてどうなってるの? ひょっとして、アレがフェニックス?」 『いいえ。あの方こそは、偉大なる神アモンの堕とされし姿。 全知全能の神でありながら、唯一絶対の神とはなれず、地の底へ堕とされた古代の神。 けれど、あのお方は「東方」へ、「聖地」へ向かわれた』 「『東方』か。……まさか、『東方の神童』つながりですかな?」 『おそらくは。あの邪悪な男に取り憑いていたせいか、少しおかしくなっておられたようですが、 あの方が「東方の神童」の敵となるか味方となるかは、私にも分かりません』 アニエスは深く溜息をつき、立ち上がって拳銃を収める。気を削がれたし、ここで殺すのもなにかとまずい。 「……コルベール。復讐の権利は、ひとまず保留しよう。武人の礼だ。 火は破壊ばかりとは限らないし、私の武も殺しのためだけにあるのではない」 「武人としての礼儀、有難くお受けしよう。やはり私は、まだ死ねない。 この世界にあの太陽のような理性の光をもたらし、あらゆる人間のための理想郷を実現する時までは……」 『東方』から朝日が昇る。その輝きは、コルベールの禿頭をまばゆく照らし出した。 そこへ、オスマンがふわりと降りてきた。 「それではおぬし、永遠に死にきれんぞい、ミスタ・コルベール」 「オールド・オスマン!! ……どうするんですか、この惨状を!!」 学院の建物は、妖怪との決戦でボロボロだ。というか、スフィンクスによる破壊が大半を占めている。 「かーーっ、うるさいのう。わしが責任持って元通りに修復しておくわい! あのスフィンクスがなければ、おぬしらここに生きておれまいぞ。随分創造に手間はかかったがのう」 スクウェアメイジとはいえ、あれだけのパワーはそうそう振るえない。ベアードは強敵だ。 下準備をしてホームグラウンドに引き込んで、やっと撃退できたというところだった。 「それから、学院はしばらく休校じゃ。おぬしらにも休暇をやるから、じっくり研究に励みたまえ。 わしは千年王国も理想郷もどうでもよいが、夢は見れるうちに見ておきなさい。 ……ああ、だいぶくたびれた」 ふらふらとオスマンが膝をつく。一方キュルケは、コルベールに熱い視線を向けた。 「ねえ先生、いいえ『ジャン』、ゲルマニアへ来ない? 火と情熱と技術の国、新しくて熱気に満ちた国よ! 資金はツェルプストーからも出すわ。 それに『東方』へ行くのなら、ゲルマニアが一番近道じゃない!」 「ふうむ、ゲルマニアか。……確か『薔薇十字団』もゲルマニアから……」 希望に燃えるコルベールの懐で、ルビーの指輪が熱を帯び始めていた……。 (つづく) 前のページへ / 一覧へ戻る / 次のページへ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2364.html
前ページ次ページ最速の使い魔 (これは、夢。) 彼女は知っている。いつもの悪夢だ。 招かれた宴席。罠。 一人の男が幼い自分の前に現れる。 (……やめて) 呟く。目をそらそうとしてもそれはできない。 白い髪の男だ。黒い服の男だ。黒い色眼鏡をかけた男だ。 執事のように自分のグラスに飲み物を注ぐ。それは、毒。 (かあさまっ!) 何の疑問も持たず伸ばされた自分の手を、母の手が叩き落とす。何か粗相をしたのだろうか。不安げな自分の瞳に対して、母は少しだけ悲しそうに、さびしそうに笑って―― (だめっ!それは、だめっ!) ああ、その叫びは届くことなど無い。これはただの夢だからだ。 (あ……ああああ……ああああああああああああああっ!) グラスが、落ちる。目から生気が抜け、よだれが零れ落ちる。 ぼうぜんとする“私”。そして――、そして、私の代わりに毒を飲んだ母様に向けて、つまらないものを見るような目で見る男。小ばかにした笑みを浮かべる男。 (……っ!…………!!!!) あの時、自分が今の力を使えたら、怒りのままに奴に襲い掛かっただろう。今でもその思いはくすぶる。 ――っ!? 目が開く。現状把握。トリステイン魔法学院、寮の自室。それだけ確認する。そう、ここは安全な場所。 ……自分がそう考えたのがわかった瞬間。手が震える。とめようとしても止まらない。安全な場所だと考えた自分が許せない。だが、それよりも大きく、暗いものが。手の震えを止めてはくれない。 ――憎悪とともに、刻まれたものがある。後に、かの使い魔の戦闘に同行させられたとき。その時、自分に上書きされた感情の名は―― “恐怖” 最速の使い魔 第三話 ラディカル・グッドスピード 学園長室で謹慎処分が下されてから10日。 「――ってこと。まあ、知覚の同調は……試しては見たけど出来ないみたいだし……貴方に頼みたいのは秘薬の材料の採集と、護衛。この二つかしら」 夕焼けが窓を染める中、ルイズは自室で椅子に腰掛け、壁にもたれている男と向かい合っていた。 「でも、本当によかったの?」 「んん?」 話しかけた相手はストレイト・クーガー。異世界から召喚された男。立場は、“使い魔” 「正直に言うわ。私は貴方に残って欲しい。使い魔としてね。だけど……私には貴方を引き止めれる力なんて無い」 普通、使い魔には己の力量が反映される。例えばドットメイジ・ギーシュのジャイアントモール。トライアングルメイジ・キュルケのサラマンダー。はっきりと力量によって召喚されるものに違いがあるのが分かる。 さて、平民でありながらメイジを圧倒したクーガー。“ゼロ”のルイズと比べてみるとあまりにも差がある。 「貴方には契約の縛りなんて関係ないように見えるの。……クーガー、違うとは思うけど……私への同情で使い魔をやるなんていうことは無いわよね。」 キッ、とその目がとがる。そうだとすれば、それは侮辱に他ならない。自分の噂はいやでも耳に入るだろうし、決闘のときのあの無様な姿も見られているのだ。 が、見上げたその目はどこか面白がるような瞳に迎撃される。 「な、なに?」 「ヴェリエール様、俺はこう考えているんです!」 ずずい、と目と鼻の先にクーガーの顔が接近。顔を引くルイズ。 追う様に近づくクーガーの顔、さらに接近。あわてるルイズ。 「ヴァ、ヴァリエールよ!」 「ああすいません。人の名前を覚えるのが苦手でして」 「どこがよ!」 突っ込むルイズ。が―― 「人に何かをしてもらったらお礼をするのは至極当然であり、文化の基本法則だ!ありがとう、うれしいです、助かりました、等の言葉だけですますと言う問題じゃない!一方的に与えられたものにお礼をしないでいると、その内罪悪感になって自分に跳ね返ってくる!」 「え、え、え???」 「そう!お礼は早く返すことが重要なんだ!遅いことなら誰でもできる!猫でもできる!この際なんでもいいからお礼を最速で返すことこそ人間関係を円滑にするための物理的有効手段であり、俺の信条!そうは思いませんか!?ヴェリエール様!」 「え、えっと……? 」 ――そんな突っ込み、言葉の奔流に押し流されてしまう。自分の姓が間違えられていることへの突っ込みすら出来ないまま、なんとか思考だけはその中から拾い上げて。 「つ、つまり……恩返しがしたいからってこと?」 「そのとぉーりぃ!」 (な、なんというか……喋りだすと別人格ね、クーガー……) ルイズの中のクーガー株、最速の勢いで降下。とはいえ、それなりの好意度は残っているが。 「とにかく、こちらは命を助けられたわけです。それなりのことをしなけりゃならんでしょう」 「ん~……」 煮え切らないルイズ。――この光景、以前のルイズであれば『そう、じゃお願い』とでもなる場面なのだろう。それ以前に奴隷のように扱った可能性も高い。 だが、彼女は既にクーガーを“使い魔”でも、“平民”でもなく一人の人間として見てしまっている。それが平民に対する申し訳なさ、という珍しい現象を引き起こしている。 「そうね、明日は虚無の曜日……。つりあいが取れるとは思えないけど、貴方がこっちで生活するのに必要なものを揃えるわ」 「いいんですかぁ?」 「当然よ!これでも貴方のご主人様になったんだしね。それくらいのことはするわよ」 ――後に、この決断をルイズはとんでもなく後悔することになる。 「ところで、いい加減姓で呼ぶのも間違えるのもやめてくれないかしら」 「あぁ、すいませんユイズ様」 「ルイズよ!!!!」 賑やかな夜は過ぎていく―― 「――参ったね……これは」 闇の中をミス・ロングビル――土くれのフーケが歩く。彼女の目的はこの魔法学園の宝物庫にあるといわれる秘宝。だが、それにたどり着く前の障害が厄介だった。壁。単なる壁であるが、その強度が並ではないということが問題だった。 「――私のゴーレムでも、無理か。この厚さは……」 壊すだけではない。壊した後、秘宝を奪い無事に逃げること。それを考えると、例え壊せたとしても魔力が厳しいだろう。 「でも、ここで諦めるのも悔しいね」 何しろセクハラに耐え続けながら得た情報だ。なんとかして活かしたいもの、そう考えるのも無理は無い。だが―― (――きつい) フーケの冷静な部分が告げる。今の自分の手札に、壁を壊すことが確実なものは無い。諦めたほうがいいのではないか。教師たちも腑抜けているとはいえかなりの使い手だ。手間取れば身の破滅は免れない。 「ま、一応この秘書としての稼ぎもそれなり……。最後にあの爺への仕返しでもすればいいか」 史実がずれる。ミス・ロングビルは虚無の曜日に『実家で妹が倒れたので看病のために戻ります』という手紙を残して忽然と消える。 ちなみにミス・ロングビルに対するセクハラの数々を赤裸々に綴った書面が王室宛に送られたり、魔法学院の予備予算の一部が消えたりしたのは全くの余談である。 虚無の曜日。普通なら寮の一室にいるタバサにとっては休日であり、自室で本を読むのに格好の日。が、不運なのか幸運なのか。疲れた目を休ませるために窓の外に目をやって。妙な光景を見ることになる。 『本当に馬車だけでいいんですか?』 『えぇ!全く問題ありませんよ、お嬢さん』 『……なんか私と扱い違わないかしら?』 『え?そんなことないですよユイズ様』 『ルイズよっ!!!』 ルイズ。使い魔。メイド。そして、その前に置かれているのは馬車。正確には、馬車の本来馬がいるべきところに何もいないものが置いてあった。 (……??) タバサの疑問はおそらく全ての一般人に共通するものだろう。馬のいない馬車をどうしようというのか。 『まぁとにかく乗ってください。ああ、そこではなくこちらです』 『……私に御者台に座れって言うの?』 『いや~とんでもない!すぐにそこを特等席にして見せましょう!』 (……わからない) 抗議の声を上げるルイズをひょいと抱え上げ、御者台に乗せ、自らはその隣に座る。 『では、しゅっぱぁあああつっ!!!!』 『へ』 『は』 「っ!?」 馬車だったものの屋根が消え、周囲の大地が抉れ、七色に輝いた何かがそれに巻きついていく。車輪だったものが別の何かに変わり、車高が下がり、色が変わる。その変化は一瞬。 ピンクを基調とした、謎の物体がそこには出現していた。 『私のアルターの名は!』 生まれた静寂を破り、放たれたのは使い魔の声。 『ラディカル・グッドスピード!!!!!』 その声を合図としたかのように、その物体が動く。否、走り出す。加速、加速、加速。 『い、いやぁぁああぁあああぁああああああぁぁあぁっぁぁぁぁぁぁぁぁ……』 爆音と共にすさまじい悲鳴が響き――遠ざかる。残されたのはメイドだけ。そのメイドが、呆然とした調子で呟く。 『今のは……まさか……?』 だが、それを見ることも、聞くことも今のタバサには出来なかった。 「ごほっ……くう……っあぁぁぁああ」 (あれは、あれは、あれは――) 雪風。その二つ名のように、滅多にタバサは感情を外に出さない。その彼女が、苦しんでいた。呼吸が上手くできずに咳き込み、自分の体を抱き寄せる。 「タバサ!!タバサ!?」 ドアが乱暴にたたかれる音が耳に入るが、それに対応する余裕など無い。ついに体を支えるだけの酸素すら失い、彼女は倒れこむ。 「っ!?開けるわよ!!」 唱えられたのはアンロック。かぎ開けの術であり、校則違反の魔法でもあるが、唱えた本人――タバサにとって数少ない友人、キュルケ・フォン・ツェルプスト――はそんなことで微塵の躊躇もしなかった。 明らかに部屋の中では異変が起こっている。友人に何か危険があったのではないか。そう考えただけで体が勝手に動いたのだ。 そして、開け放たれた扉の奥。窓辺で倒れている彼女に駆け寄る。 「タバサ!?どうしたの!?」 「はっ……ふぅっ……」 小刻みに震える小さな体を抱き起こし、背中をゆっくりとたたく。こういった場合、慌ててゆすっても状況は何も好転しない。そういった意味でも最低限の知識があるキュルケが助けに来たのは、タバサにとって喜ぶべき事だった。 「落ち着いたかしら」 「……(コク)」 「で、なんで貴女があんなに取り乱したの?」 「なんでもn「ないわけないでしょうが!!!」……」 怒気すらはらんだその言葉にタバサはキュルケを見上げる。怒っていた。かなり怒っていた。髪の毛が逆立っているような、そんなオーラすら放っていた。 「あのね……事情を全部聞こうなんて思わない。あなたが色々背負っているの、少しは分かっているつもりだし」 「……」 「でもね……心配くらい、させて」 最後の言葉は、力なく放たれた。怒りは消え、さびしげな姿。 「……“アルター”」 「?」 「……ルイズの使い魔」 「……」 「……かなり、危険」 脈絡の無い言葉。しかし、タバサの目に込められたわずかな意思をキュルケは読み取る。 「……」 「……どうするの?」 「話を聞きに行く」 「わかったわ」 立ち上がり、窓辺によるタバサ。それに当然のようについてくるキュルケ。 「……?」 「当然、私もついていくわよ」 「……」 「だって、なかなか面白そうじゃない?」 ――実際、彼女達の間にあるのは、安っぽい言葉で片付けられるものではないのかもしれない。親友。言葉だけでは表せないモノがあるから、彼女たちはそうなのだ。 キュルケは面白そうだ、という理由だけでタバサの事情に近づく人間ではない。それが意味するところに気づいているから、タバサは少しだけうつむく。 「で、その使い魔はどこに向かったの?」 キュルケの疑問にタバサは少しだけ目を閉じ――すぐに結論を出した。 「多分、トリスタニア……」 前ページ次ページ最速の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4111.html
前ページ次ページゼロウォーズ 知らなかったんだ何もかもこの世界について…… 第4話 メイジVSナイツ トリステイン魔法学院・学院長室 今この場には、学院長オスマンと、学院長の秘書ミス・ロングビルと、コルベール先生が居る。 コルベールは訳あって訪ねたが、オスマンのセクハラを目撃したと言う方が良い。 「学院長、そいう事は、夜やって下さい」 この言葉にロングビルがすぐ反応した。 「夜でもイヤです!絶対に!!」 この言葉がオスマンのハートを傷つけたのは、言うまでも無い。 「そ、そんな……と、ところでミスタ・コルベール何か用かね?」 威厳を保とうと、コルベールに話を振る。 「はい。これを……」 書物を開いて、オスマンに見せる。 「ん? これは『始祖ブリミルの使い魔たち』ではないか」 「はい。そして……これを見てください」 コルベールは、兵真のルーンのスケッチを見せる。 「ミス・ロングビル。席を外しなさい」 ミス・ロングビルは出て行った。 「詳しく説明するんじゃ。ミスタ・コルベール」 コルベールが説明しようとしたその瞬間、生徒が入ってきた。 「た…大変です。決闘が始まります、止めてください」 コルベールがその生徒に言い寄る。 「誰だ?そんな事するのは!」 「はい。ギーシュ・ド・グラモンとルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの使い魔です」 オスマンは、生徒に言い放った。 「放っておきなさい」 「わかりました。失礼しました」 オスマンは、コルベールを見て、頷いた 「いい機会かもしれません」 オスマンは、杖を振り、大きな鏡に、ヴェストリの広場の様子が映し出された。 「諸君、決闘だーー!!」 ギーシュは、薔薇を空に向かって掲げている。 観衆もまた、ギーシュを称えるかのように歓声が巻き起こる。 「ギーシュが決闘するぞ!相手は、ルイズの平民だ!」 兵真はズボンのポケットに手を突っ込んでいた。 (外野…うるせぇ……) 薔薇を兵真の方に向け言い放った。 「とりあえず、逃げずに来た事を褒めようじゃないか」 兵真は、軽く挑発してみた。 「ああ、バカの相手はもうなれたから、ちなみに順位をつけると、お前は今二位。戦いが終わると一位確定」 この挑発に簡単に乗った。 「貴様ーー!!」 「怒るのも良いんだけど、早く始めて良い?」 そう言うと兵真は、ギーシュに向かって走り始めた。 しかし、ギーシュは全く動じず薔薇の花を振り、 花びらの一枚が舞うとそれは甲冑を着た女戦士のゴーレムとなった。 「おいおい、これ……何だよ」 「僕はメイジだ、だから魔法で戦う。文句をあるまいね」 と、ギーシュが言う、が……兵真の知っている魔法にこんな物は無く、兵真も黙っていなかった。 「ギーシュ、魔法は別に良い。だが…これは、魔法とは違うだろう?」 ギーシュは、笑みを浮かべ言う。 「魔法は良いのだろう?これは僕の魔法だ。言い忘れたが僕の二つ名は“青銅”。 青銅のギーシュだ。従って、青銅のゴーレム、ワルキューレがお相手するよ」 「なっっこれが、魔法?アリかよ!」 ワルキューレがパンチを放つが、兵真はサイドステップでかわす。 (動きが速い、それに相手は金属だ。多分、一発でKOだな。かなりヤバイ) その後もワルキューレの猛攻が続いたが、兵真も何とか避け続けた。 周りは、兵真が攻撃を避けるたびにギーシュへの声援が高まっていった。 しかしこの二人?の動き(おもに兵真)を観察している者が、このヴェストリの広場に二人いた。 一人は、キュルケである。そしてもう一人は、キュルケの親友でもある、蒼い髪の少女タバサである。 「ねえタバサ、〈使い魔クン〉どう?」 「このままだと、負ける……」 「あら、どうして?良い動きしてると思わない?」 「攻撃手段が無い、キュルケは?」 「全く同じよ」 なんて、二人が話していると……兵真は、ワルキューレの一撃をもらってしまった。 「使い魔、もう終わりか?」 「く…ぁ…はぁ…」 兵真は立ち上がろうとしているが、ダメージが大きすぎて、思うように体が動かない。 「ギーシュ!いい加減にして、大体ねえ、決闘は禁止じゃない」 と叫んだのはルイズだった。 「悪いな君の使い魔をちょっとお借りしているよ。 それに禁止されてるのは貴族同士の決闘だ。平民と貴族の決闘は誰も、禁止なんかされていない」 ルイズは、言い返せなかった。次に口を開いたのは、兵真だった。 「ルイズ、はぁ…、俺は【ナイツ】だ。信用しろ」 「兵真……まだそんなことを……」 ギーシュは、ルイズと兵真のやり取りを静観し、剣を兵真のすぐ側に刺した。 「まだ、戦うと言うのなら、その剣を取りたまえ」 兵真は迷わず剣を取った。すると、体中に力がみなぎる感覚を覚えた。 (なんだ?リアライズしていないのに、この感覚) 「そうか……戦うのだな。ワルキューレ!やれ!!」 ワルキューレは、兵真に向かっていった。しかし、兵真は一歩も動かなかった。 (落ちつけ…こんな物…一瞬の隙さえあれば…ここ) 「もらったーー!!虚空剣!!」 その場に居た者は、目を疑った。なんせ、一瞬でゴーレムが崩れ去ったのだから。 「タバサ、見えた?」 「見えない……」 本気になったのか、ギーシュは六体のゴーレムを作り、五体で兵真を囲った。 「同じ奴が六体か……本気出すか。もう、手加減しねぇからなーー!!」 兵真は剣を振り下ろした。すると……刀身が光の刃に変わった。 「なんだ?それは?」 「これか?これはな、可能性を具現化するための力だ」 「そ、そんなこけおとしに動じると思うな!やれ!」 一斉にゴーレム達が襲いかかる。 「よっと」 兵真は、後ろにジャンプした。そして……着地と同時に次のモーションに入った。 「くらえ!天翔流星爆!!」 五体のゴーレムは、炎に包まれた。しかし、兵真の猛攻はまだ止まらない。 兵真は、残りのゴーレムに接近し、剣を両手で持ち、頭上に掲げ、刀身をゴーレムに向けた。 「終わりだ!ギルティーー!!」 この声に呼応するかのように、剣が大きくなり、やがて兵真の手を離れ、空中に浮いた。 「ブレーーーイク!!」 そして彼は、まるで大きな荷物を投げる仕草をすると、大きな剣がゴーレムに刺さり、 そして剣は、元の大きさに戻り、兵真の手元に戻った。 「ギーシュ、どうする?続けるか?やめるか?選べ!」 「参った」 兵真は剣を元に戻し、ギーシュの足元に刺し、人ごみに戻ろうとした時、意識が無くなった。 前ページ次ページゼロウォーズ