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結果論から言えば、無事に依頼を成し遂げました。 その代償に僕が怪我をしました。 ~ 看病争奪戦 ~ 目を開けると照明の明るさで眩しく感じた。 「うゆぅ……意識が戻ってよかったですぅ」 その声のする方向に顔を向けると白いエプロンドレスを着た女の子が心配そうな顔で僕を見ていた。 姿から察するにここは病室で、目の前の人は看護士さんってところだろうか? 「えっと、ここって病院かな……?」 「いいえ。ここは学園の保健室よ」 「霧切さん……」 僕の問いに看護士さんとは反対側の方から聞き慣れた凛々しい声が聞こえた。 顔を向けると僕の左手をそっと握り続けていて、顔には安堵の表情が浮かんでいた。 ポーカーフェイスで何を考えているかわからない普段の姿とは異なり、どこか新鮮に感じる。 「あれ、どうして僕は保健室で横になっていたんだっけ?」 「それは依頼で留学生のソニア王女が誘拐されて救出した後に「お腹を銃弾で撃ち抜かれて重傷を負ったんですぅ」……そういうわけよ」 今にも泣きそうな顔の金髪の女性。 そして困惑顔の霧切さんが駆け寄ってくる光景がフラッシュバックする。 そうだ。学園長の依頼で交換留学生として来日したノヴォセリック王国の王女様が誘拐され、事件が表沙汰になる前に救出してほしいという依頼を受けたんだった。 霧切さんの推理のおかげで迅速に監禁場所を割り出し、王女様を救出したのはいいけど後ろの方から大きな音が聞こえて。 そしたらお腹の中が急に熱くなるような痛みを訴え、そのまま意識を手放したんだっけ――。 「ソニア王女ってあれからどうなったの……?」 「彼女は無事よ。今は学園の寄宿舎に入寮しているわ」 「依頼の方は……「事件は大事になる前に解決したわ。あなたが心配することはないの」……そう、よかった」 安心した途端、眠気が襲ってきたのだった。 しかし、お腹を撃たれて重症か。全治何ヶ月なんだろう――? 「あ、あの苗木さん……? え、えっと今日は一晩ここで安静にしてもらって明日の朝には自分のお部屋に戻っても大丈夫ですよぉ?」 「えっ! それ本当なの!?」 「ひぅう! ごめんなさい、大声を出させるくらい二人の邪魔をしちゃってぇ……!」 「いや、そうじゃなくて……。僕は重傷な筈なのに明日の朝には退院とかにわかに信じられなくてさ」 「はいぃ本当ですぅ。苗木さんは先ほどまで学園最新の医療カプセルに入ってコポコポ治療されていたんですよぉ……? だから私のいうことを信じられないからってぶたないでくださぁい!」 「いや、流石にぶたないよ……」 苦笑いをしながら掛け布団をめくり、撃たれたというお腹周りを見てみる。 銃創どころか傷一つなく、本当に僕が撃たれたのか怪しくなるくらい無傷の体がそこにあった。 何だか希望ヶ峰学園の医療設備は漫画の戦闘民族を短時間で治療できるくらいの技術があるのかな――? 「それとよく眠れるように痛み止めのおくしゅりを飲んでくださいね……?」 「あ、はい。わかりました」 「ふゆぅ? おくしゅり、苦手でしゅか?」 「いや、そういうわけでは……」 「そうですかぁ……良かったぁ……」 そういって看護士さん、左胸のネームプレートに書かれた"保健委員・罪木 蜜柑"もとい罪木さんが水差しからコップに水を移す。 そして錠剤の薬を僕に渡すのではなく自分の口に入れた。 何をしているんだろう、と頭の中で"?"を浮かべていたら罪木さんは一息でコップの水をあおった。 すると口元を手のひらで押さえて、ほっぺたを膨らませた罪木さんが僕の顔に手を添える。 「っ!?」 「な「んむ」……!?」 にするんですか、という続きの言葉が罪木さんの柔らかな唇によって遮られた。 ふうう、と水が口の中に流し込まれ、自然にそれを飲み込んでしまう。 「……んぐ、んぐっ」 味覚だけで考えればただの水と苦い薬であることは分かるけど、やけに美味しく感じられるのは何故だろう――? ちゅぽん、という擬音が聞こえるように僕らの唇は銀の糸を垂らしながら離れた。 「……んふ、ん……はぁ、おくしゅり、飲めましたね……?」 「お、おいしかったでしゅ」 気づいたら口調まで移っていた。 顔どころか体中が熱く感じるのは薬の効果だろうか――。 そんな風にボーッとしていたら右頬をバチーン!と張られた。 「痛っ! なにするのさ霧切さんっ!?」 「たかが口移しっていう医療行為じゃない。何よ、デレデレして」 僕をぶった霧切さんはまるで学園長を見るかのように絶対零度の眼差しで見つめていた。 その態度で体中の温度が急激に冷えていくような感覚に襲われた。 女の子と口移しするという出来事は、霧切さんに嫌われたという恐怖感によって悪い思い出に上書きされた。 「……ごめん」 「兎に角、明日の朝には苗木君の着替えを用意しているからここで安静にしてなさい。いいわね?」 「わかった……」 母親に悪戯がバレて罰が悪くなった子供のようにシュンとして、霧切さんの言うことに従う。 保健室から出ていく霧切さんの後ろ姿を見送っていると何故か掛け布団がめくられる。 「ちょ、ちょっと罪木さん!? 何やってるんですか!」 そして罪木さんが僕の布団の中に潜りこんでくるじゃないか! 「苗木さんは血液を消耗したことで基礎体温も低下しているからこうして体を温かくしているんですぅ。さぁ、私を肉布団のように扱って体を温めてくだしゃいね……」 「ぐ、ぐるじぃ……!」 僕の冷え切った体を温めるというより締め落とすくらい強い力で罪木さんは僕を抱きしめてくる。 腹上死って言葉はこういう場面でも当てはまるのかな? ――じゃなくて! 助けて、霧切さん!! 「ダメですよぅ動いちゃあ、くすぐったいですってばぁ……きゃあ!!」 拘束された体が一瞬で解かれるけど、すぐさま別の力で体中を拘束されたのであった。 視界を覆うジャケットとブラウス、髪を触る皮手袋の感触が霧切さんのものだと認識すると途端に顔中が熱くなった。 「苗木君は"私の"助手です。なので助手の看病は私が診ます。罪木さんは他のクランケでも診ていてください」 「でも私、苗木さんの「い・い・わ・ね?」ふえぇん……ごめんなさぁいぃ!」 そう言って涙を浮かべながら罪木さんは保健室から去っていった。 そして訪れる静寂。 さっきビンタをされたら今度は抱きしめられるというアメとムチに僕は混乱してしまう。 「霧切さん……その、ごめ「ごめんなさい、苗木君……」……えっ?」 「あなたを危険な目に遭わせてしまって……」 その言葉で幾分か冷静さを取り戻せた。 「それは……違うよ」 「えっ?」 「霧切さんは以前忠告したじゃないか。探偵の助手である限り、いつか僕の身にも危険が及ぶって……」 「そうね、確かに言ったわ」 「それでも僕は僕の意志で霧切さんの助手として行動したんだ、後悔はしてないよ。それに……」 「それに?」 「やっぱり"超高校級の幸運"って呼ばれる由縁が僕にもやっぱりあるのかな。一命を取り留めることができたし」 「苗木君……」 「僕の方こそ只の医療行為だっていうのに鼻の下伸ばしてデレデレしちゃって……。みっともないよね」 「もういいのよ……。私もついカッとなって頭に血が上ったせいで短絡的になってしまったわけだし」 霧切さんはそっと僕から離れて、保健室の入り口付近にある照明のスイッチを押して消灯する。 ジャケットをハンガーに掛けて再び布団の中に潜り僕を抱き締める。 僕もおずおずと腰から背中に腕を回し、抱き締めて霧切さんの体温を感じる。 ――って、霧切さん? ちょっと強く抱き締め過ぎじゃありませんか? これが山田君の言っていた"だいしゅきホールド"っていうヤツなのかな? むしろこれはさば折りじゃないかと――? 大好きなぬいぐるみを抱き締めて眠るように、霧切さんは割りと全力で僕を締め上げていったのだった――。 完
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ここを編集 ■劇場版メタルファイト ベイブレードVS太陽 灼熱の侵略者ソルブレイズ 制作進行 ■いちばんうしろの大魔王 演出 3 ■咲-Saki- 阿知賀編 episode of side-A 演出 10 ■恋と選挙とチョコレート 演出 11 ■薄桜鬼 黎明録 演出 9 ■PSYCHO-PASS サイコパス 演出 17 ■獣旋バトル モンスーノ 演出 8 14(日) 23(日) 演出協力 16 ■やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 演出 5 ■ダンガンロンパ The Animation アニメーションオシオキムービー アニメーション演出(猛多亜~は松本剛彦と共同) 演出 12 ■宇宙戦艦ヤマト2199 演出 25(大) ■機巧少女は傷つかない 演出 2 ■革命機ヴァルヴレイヴ <2nd SEASON> 演出 20 ■ウィザード・バリスターズ~弁魔士セシル 演出 9 ■棺姫のチャイカ 演出 5 ■ベイビーステップ 演出 13 ■精霊使いの剣舞 演出 5 ■棺姫のチャイカ AVENGING BATTLE 演出 1 ■クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 演出 4 11(福) ■暗殺教室 演出 5 ■忍たま乱太郎 (23期) 演出 1 6 14 29 30 32 44 45 49 ■SHOW BY ROCK!! 演出 11 ■モンスター娘のいる日常 演出 3 10 ■ノラガミ ARAGOTO 演出 7 ■俺がお嬢様学校に「庶民サンプル」としてゲッツされた件 演出 7 ■最弱無敗の神装機竜 演出 5(成) 9 ■暗殺教室 (第2期) 演出 7 ■忍たま乱太郎 (24期) 演出 6 7 55 ■ダンガンロンパ3 The End of 希望ヶ峰学園 絶望編 助監督 演出 OP ED ■ダンガンロンパ3 The End of 希望ヶ峰学園 絶望編 絵コンテ 4(宮・福) 演出 4 8 11 ■ダンガンロンパ3 The End of 希望ヶ峰学園 希望編 助監督(木野目優と共同) ■劇場版 暗殺教室 365日の時間 演出補佐(木野目優と共同) ■フリップフラッパーズ 演出 2 ■SHOW BY ROCK!!# 演出 10 ■殺せんせーQ! 演出 5 6 8(笹) 演出補佐 11 ■スーパーダンガンロンパ2.5 狛枝凪斗と世界の破壊者 監督 演出 ■クズの本懐 演出協力 8 ■銀の墓守り 演出 7 8 ■プリプリちぃちゃん!! 演出 10 18(山・中) 31 ■潔癖男子!青山くん 演出 9 ■魔法使いの嫁 演出 2 ■キノの旅 the Beautiful World the Animated Series 演出 6 12 ■ハクメイとミコチ 演出 6 11 ■ひそねとまそたん 演出 11 ■七星のスバル 演出協力 4(大) ■ラディアン 演出 3 14 ■爆丸バトルプラネット 演出 4 ■キャロル&チューズデイ 演出 5 11 13(高・宮) 17 23 ■ケンガンアシュラ 演出 3(別・間) ■SK∞ エスケーエイト 演出 3 ■IDOLY PRIDE 絵コンテ・演出 6 ■ゴジラS.P シンギュラポイント 演出 1(鈴) 3(鈴) 8(鈴・宮) 12(三・鈴) ■ヴァニタスの手記 演出 4 10 ■東京リベンジャーズ 演出 19 ■ヴァニタスの手記 (ジェヴォーダン編) 演出 14 19 23 ■リーマンズクラブ 演出 8 ■HIGH CARD 演出 4 ■ワールドダイスター 演出 3 8 ■青春ブタ野郎はおでかけシスターの夢を見ない 演出(高橋英俊、清水奏太郎、伊福覚志と共同) ■ザ・ファブル 演出 4 ■T・Pぼん 演出 12(安) ■関連タイトル ダンガンロンパ10th Anniversary Complete Blu-ray BOX rakuten_design= slide ;rakuten_affiliateId= 053df7e0.7c451bd1.0c852203.190c5695 ;rakuten_items= ctsmatch ;rakuten_genreId=0;rakuten_size= 468x160 ;rakuten_target= _blank ;rakuten_theme= gray ;rakuten_border= on ;rakuten_auto_mode= on ;rakuten_genre_title= off ;rakuten_recommend= on ; 随時更新! pixivFANBOX アニメ@wiki ご支援お待ちしています! ムック本&画集新刊/個人画集新刊/新作Blu-ray単巻/新作Blu-ray DVD-BOX アニメ原画集全リスト スタッフインタビューwebリンク集 最新登録アイテム Switch ゼルダの伝説 Tears of the Kingdom Switch 世界樹の迷宮Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ HD REMASTER Switch ピクミン 4 大友克洋 Animation AKIRA Layouts Key Frames 2 小説 機動戦士ガンダム 水星の魔女 1 ONE PIECE FILM REDデラックス・リミテッド・エディション 4K ULTRA HD Blu-ray Blu-ray 劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 冥き夕闇のスケルツォ 完全生産限定版 Blu-ray 映画『ゆるキャン△』 Blu-ray 【コレクターズ版】 Blu-ray ウマ娘 プリティーダービー 4th EVENT SPECIAL DREAMERS!! Blu-ray 天地無用!GXP パラダイス始動編 Blu-ray第1巻 特装版 天地無用!魎皇鬼 第伍期 Blu-ray SET 「GS美神」全話いっき見ブルーレイ Blu-ray ソードアート・オンライン -フルダイブ- メーカー特典:「イベントビジュアル使用A3クリアポスター」付 ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 5th Live! 虹が咲く場所 Blu-ray Memorial BOX 宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち Blu-ray BOX 特装限定版 地球へ… Blu-ray Disc BOX 完全生産限定版 神風怪盗ジャンヌ Complete Blu-ray BOX HUNTER×HUNTER ハンター試験編・ゾルディック家編Blu-ray BOX BLEACH Blu-ray Disc BOX 破面篇セレクション1+過去篇 完全生産限定版 MAZINGER THE MOVIE 1973-1976 4Kリマスター版 アニメ・ゲームのロゴデザイン シン・仮面ライダー 音楽集 テレビマガジン特別編集 仮面ライダー 完全版 EPISODE No.1~No.98 MOVIE リスアニ!Vol.50.5 ぼっち・ざ・ろっく!号デラックスエディション ヤマノススメ Next Summit アニメガイド おもいでビヨリ アニメ「魔入りました!入間くん」オフィシャルファンブック 『超時空要塞マクロス』パッケージアート集 CLAMP PREMIUM COLLECTION X 1 トーマの心臓 プレミアムエディション パズル ドラゴンズ 10th Anniversary Art Works はんざわかおり こみっくがーるず画集 ~あばばーさりー!~ あすぱら画集 すいみゃ Art Works trim polka-トリムポルカ- つぐもも裏 超!限界突破イラスト&激!すじ供養漫画集 開田裕治ウルトラマンシリーズ画集 井澤詩織1st写真集 mascotte 鬼頭明里写真集 my pace 内田真礼 1st photobook 「まあやドキ」 進藤あまね1st写真集 翠~Midori~ 声優 宮村優子 対談集 アスカライソジ 三石琴乃 ことのは 亀田祥倫アートワークス 100% 庵野秀明責任編集 仮面ライダー 資料写真集 1971-1973 金子雄司アニメーション背景美術画集 タローマン・クロニクル ラブライブ!サンシャイン!! Find Our 沼津~Aqoursのいる風景~ 機動戦士ガンダム 逆襲のシャア 友の会[復刻版] 梅津泰臣 KISS AND CRY 資料集 安彦良和 マイ・バック・ページズ 『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』編 氷川竜介 日本アニメの革新 歴史の転換点となった変化の構造分析 Blu-ray THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS 10th Anniversary Celebration Animation ETERNITY MEMORIES Blu-ray おいら宇宙の探鉱夫 ブルーレイ版 Blu-ray 映画 バクテン!! 完全生産限定版 アイカツ! 10th STORY ~未来へのSTARWAY~ Blu-ray BOX 初回生産限定版 はたらく細胞 Blu-ray Disc BOX 完全生産限定版 Blu-ray 長靴をはいた猫 3作品収録 Blu-ray わんぱく王子の大蛇退治 Blu-ray 魔道祖師 完結編 完全生産限定版 魔道祖師Q Blu-ray Disc BOX 完全生産限定盤 にじよん あにめーしょん Blu-ray BOX 【特装限定版】 Blu-ray 鋼の錬金術師 完結編 プレミアム・エディション Blu-ray付き やはりゲームでも俺の青春ラブコメはまちがっている。完 限定版【同梱物】オリジナルアニメ Blu-ray「だから、思春期は終わらずに、青春は続いていく。」
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今日はクリスマス。 とはいっても私、霧切響子にとってはクリスマス・イブもクリスマスも別に例年と大して変わりは無い。 何時も通りに過ごすだけの一日だ。 …まあ、今年のクリスマス・イブは学園のみんなと過ごしたので、例年に比べれば楽しかったのは認める。 ………苗木君がいなかった事を除けば、だが。 しかしそれは彼も別にわたし達の事を嫌ってとかではなく、ただ単純に家族に「クリスマスぐらい帰って来い」と 言われたからだ。 それならば仕方ないと諦められるし、現に彼は最後までどうするか悩んでくれていた。 しかし根っ子から優しい彼だから・・・家族を蔑ろになど出来るはずもなかっただけの話だ。 そして今日はそれから夜が明けて25日。世間一般の男女の感覚でいえば今日こそが本番といえるのだろう。 実際学園の皆も其々思い思いのクリスマスを過ごす様だ。 例えば葉隠君と桑田君は二人で街に繰り出してナンパして女の子ゲットだぜ!と息巻いていた。 ……普通に考えて今街はカップルの巣窟だと思うのだけれども、彼らは気付いているのだろうか? 舞園さんは自分達のアイドルグループメインのクリスマスコンサートがあると朝早くから出掛けていった。 彼女は自他共に認める超高校級のアイドルだ。こんな日に休ませてくれるほど事務所も甘くはない。 実際昨日パーティーに参加に出来たこと自体が奇跡に近いのだ。 ……まあ、それ故、苗木君が参加していないと聞いた時の彼女の顔には、さすがに同情を禁じえなかったが……; 大和田君と不二咲さんは二人でツーリング(といっても不二咲さんは大和田君の後ろに乗るだけだが)をすると言っていた。 二人はよく普段もそうやって遠出をすることが多い。だがその理由は不二咲さん曰く、 「大和田君・・・女の子に振られるとバイクをかっ飛ばしたくなるんだって・・;けど一人だと事故りそうだから一緒に乗ってくれって・・w あ、けどぼくも大和田君のバイク乗るの好きだから全然いいんだけどね?」 ということらしい。ここまで話だけをきけば只の友情話ですむのだが・・・・如何せん相手は不二咲さんだ。 ……本人等にその気はないのだろうが、そういう風な行動を取っているからそっちの気があるのではと学園の女性達の中で 噂されるのではないだろうか? 実際二人がそんなことをしている場面をみれば傍からには恋人同士にしか見えない・・・大和田君が振られる原因の一つは 不二咲さんとの関係(誤解)の所為もある気がしてならない。 石丸君と十神君は苗木君と一緒で実家に帰っていた。まあ二人とも苗木君とは違ってクリスマスを家族と楽しむ様には見えないが・・・・。 ちなみに腐川さんは十神君を追いかける為、朝早くから出掛けていった。たまに彼女の行動力には感心すら覚える。 ……決して真似したいとは思わないけど。 朝比奈さんと大神さんはクリスマスだというのに二人して強化合宿とやらに出掛けていた。こんな日ですら自らを鍛える事を止めない彼女らこそ 真ののスポーツマン(一人はスポーツの範疇を超えているけど)といえるのだろう。そこまで打ち込めるモノが無い私には羨ましさすら感じる。 江ノ島さんと戦場さんは昨日の深夜からどこかに出掛けていた。理由も聞いたが本人ら(主に発言したのは江ノ島さんだが)曰く、 「今日は私らにとって最高に「壊したい」日だから・・・まあ邪魔者は消えとこうってね・・・・♪」 とよく解からないことを言っていた。 ……何かクリスマスに嫌な思い出でもあったのだろうか? しかし確かに今思えば、昨日パーティーで見た彼女らは楽しんでいるようにも見えたが・・・・・・どこか不思議そうにしているようにも見えていた。 まるで、今感じている感情に何か・・・疑問というか納得できない・・・・そんな顔だったような・・・まあ推測でしかないのだけども。 一番意外なのはセレスさんと山田君のペアだろうか。何故なら二人は「二人っきり」で街に繰り出しているのだから。 まあ本人達は、 「只の荷物運びですわ(ニコ)」 「只の荷物運び役ですな・・・助けて皆さん!たえこ殿が我輩をいじめるのです!?」 「てめえぇぇぇ!その名で私を呼ぶなって言ってんだろうがあ、この腐れラードがあああああああああ!!??////」 「ひぃぃぃぃぃぃ、たえこ殿がご乱心!?ご乱心ですぞぉぉぉ!!????」 といいながら(叫びながら?)、寮を出て行ったが・・・なんだかんだであの二人はいいコンビな気がする。 まあそんな訳で、他の人と違い特に予定の無かった私は、普段の騒がしさが嘘のように静まり返った学園寮で久しぶりの独りを味わっていたのだ。 別に寂しいなどと子供のようなことは言わないし思いもしない。 元々私は独りでいることが嫌いではない。どちらかといえば独りの方が気楽だという人間だ。 しかし、それでも・・・この静かな寮にいる自分を違和感に感じるぐらいには、今の私は学園という「輪」の中にいたのだなと自覚する。 そんな風に思うようになったのは何時からだっただろうか・・・・・少なくともここにくる以前には感じなかったし、入学した当初も「騒がしい場所」ぐらい にしか思わなかった。 ……当時の私は「他人」という存在が信じられなかった。 いや、信じられなかった訳ではない。 ただ「信じる」のが怖かった。信じた時に裏切られるのが怖かったのだ。 今でも「この手」の原因となった事件は忘れられない。その為、当時の私は話しかけてきたクラスメイトにも素っ気無い態度しか取らなかった。 ―最初から「情」を持たなければあんな後悔をしないで済む。そう思っていたからだ。 しかし・・・他のクラスメイトがそんな私から離れる中・・・・ただ一人懲りずに話し掛け続ける人物がいた。 「ねえ霧切さん。今日寮まで一緒に帰らない?」 ……『苗木 誠』。私に初めての「感情」を教えてくれた人。. 【続く】
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霧切「苗木君、あなたに手伝って欲しいことがあるの」 苗木「うん、いいけど。それって、また探偵の仕事?」 霧切「その通りよ。引き受けてくれて助かるわ」 苗木「それで、今度は何をするの?」 霧切「潜入捜査というやつよ。 私が調べている事件の関係者があるパーティーに出席するのだけれど、そこに潜り込むのにあなたもついてきて欲しいの」 苗木「パーティーって、どんなパーティー?」 霧切「議員の主催する、よくあるものよ。まあ、それなりに大規模なものだれけどね」 苗木「それは……なんだか緊張するなあ。ボクなんか思いっきり場違いな気がするんだけど」 霧切「私がついているんだから、心配しないで。……いえ、むしろ自然な潜入を果たすためにはあなたの協力こそ必要なのよ」 苗木「そ、そうなの? ボクなんかで大丈夫かな」 霧切「ええ。不審を買わず会場に紛れ込めるよう、私達は若手実業家とその妻に扮して……」 苗木「ちょ、ちょっと待って。その設定、少し無理があるような……。ボクが若手実業家?」 霧切「そうかしら。私には何の問題も無いように思えるけれど」 苗木「ていうか本当に必要なのその設定?」 霧切「苗木君、私が今まであなたに必要の無いことを頼んだことがあったかしら?」 苗木「うーん……。無い……と、思う。多分」 霧切「そうよね。だから今回も疑問を挟むことはないのよ。いいわね?」 苗木「わ、わかったよ」 霧切「わかって貰えて良かったわ。それじゃあ、パーティーに備えて少し練習しておきましょう」 苗木「練習?」 霧切「そう、夫婦を演じる練習よ。『ねぇ、あなた?』」 苗木「う、うん? え?」 霧切「『響子さん』よ」 苗木「あ、ああ……。『何だい、響子さん?』」 霧切「そうね……さん付けでは少し硬いわね。『響子』にしましょうか。『ねぇ、あなた?』」 苗木「えーと、『何だい……響子』」 霧切「『愛してるわ』」 苗木「!!?? ボ、ボ……『僕も愛してるよ』……!」 霧切「よろしい。その調子でやってくれれば問題ないわ」 苗木(霧切さん……いつものポーカーフェイスで『愛してるわ』なんて言うんだから……ドキッとしちゃったよ) 霧切「当日もよろしく頼むわ。じゃあね」 苗木(そしていつも通り素っ気無く行っちゃった……でも何だか凄く嬉しそうに見えたのは気のせいだろうか) ・ ・ ・ 霧切「……ッシャァ!(ガッツポーズ)」
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>霧切さんと公園にやってきた。 「……ていうか、何この世界線」 海原が陽光を照りかえす、常夏の島。 画面の向こうによく見た世界の中に自分がいると思うと、違和感が果てしない。 状況を飲みこめずうろうろとしている僕に、いつものように彼女が呆れたような溜息を吐く。 「ジャバウォック島でしょう。貴方、もう仕事を忘れたのかしら?」 「えと…そういうことじゃないんだけど…」 「……相変わらず、適応力のないヒトね」 「いや、霧切さんが順応しすぎ…」 ジト目の彼女に背を向けて、いつの間にか手に持っていたファイルケースに目を通す。 何を隠そう、僕たちは今―― 「あの事件の事後処理のために、二人でプログラムの不備を見直しに来たんでしょう」 「ああ、うん…そうだっけ」 「……ちょっと。貴方が一人だと大変だと泣きを入れるから、手伝ってあげているのに」 ちなみに代償は高級芋焼酎でした。安くはない、けっして。 「それなのに、当の貴方がそんなに等閑だなんて…誠実さに欠けるんじゃないかしら?」 「う……ゴメンなさい」 「貴方の数少ない長所なのよ、それは。大切にした方がいいと思うけど」 さらりと酷い言葉を吐き捨て、霧切さんはそっぽを向いた。 彼女なりの、もう追求しないという、許してくれた合図だ。 その仕草を、というより霧切さんを、僕は少しも漏らさず目で追っている。 先程から僕が上の空なのは、実のところ、それが原因だったりする。 この電子空間の中で過ごすためには、アバターが必要だ。 そしてそのアバターは、必ずしも現実世界の姿を反映するワケではない。 僕と彼女は、あの日々の、すなわち超高校級の高校生時代の服装に、戻ってしまっているのだ。 「……なによ、ジロジロ見て」 「あ、いや…その、ゴメンなさい」 「あのね…何でもかんでも謝るその癖も、そろそろどうにかならない?」 手厳しさは、今も昔も変わらないのに。 見慣れた黒のスーツではなく、懐かしい濃紫色のジャケット。 少しだけ高く、幼くなった声色。 細いままの肩幅。華奢な肢体。 ……なんかちょっと、古臭い背徳的な感があるのは否めない。 イメクラ? と突っ込んでみたいけれど、多分死亡フラグだ。 「苗木君、背が伸びたんじゃない?」 「……昔はまだ霧切さんとそこまで身長差なかったからね」 自分で言って哀しくなるのに蓋をして、自分の姿にも目をやった。 よく見なれたはずの、自分自身の昔の姿だ。 ブレザーにパーカー、濃い色のジーンズ。いつものスーツよりホッとするというか、だいぶ着心地が良い。 ついでに、目線の高さは全然変わってなかったりする。ホント、哀しくも。 「それで、どうしてジロジロ見ていたのかしら?」 「ど、どうしてって…」 「……まさか、私の懐かしい姿に見惚れていた、だなんて言わないでしょうね」 口元に手を寄せ、クスリと笑う。 彼女が冗談を言う時のクセだ。 けれどその冗談は案外事実だったりするので、彼女の洞察力の鋭さにも改めて惚れ直してみたり。 「は、はは…やっぱバレちゃってるか。霧切さんには敵わないな」 「……え?」 「え?」 「あ、……」 と、笑うのを止めて、まじまじと僕を見る。 突然だったので当惑しながらもその瞳を見返すと、気まずそうに目を逸らされてしまった。 「……」 「……」 あれ、何だ、急に。 「…と、とにかく見回ろうか。といっても、どれくらいのレベルで調査をすればいいのか分からないんだけど」 「…細かいバグのようなものは、後々の調査で本格的に探すらしいわ」 気まずくなった空気を振り払うように、お互いが饒舌になる。 公園から見える遠い海が波を鳴らして、何かを急かしているようだ。 ……とにかく、調査調査。遊び出来ているワケじゃないんだから。 「つまり…目に見えるレベルの大きなバグ、違和感や異変を探せばいい、ということよ」 「気づけるほどの異常は、それほど危険で大きい異常ってことだもんね。じゃ、早速手分けを…」 しようか、と提案した所で、ジト目。 僕の台詞を遮るように、じっとりと睨めつける。 「…その、なんでしょうか」 「……手分け、ね。偉くなったものね、苗木君」 「な、何が?」 「助手たるべき人間が、探偵を放って独りで勝手に調査に臨もうだなんて。貴方、自分の役目を忘れたの?」 …えーと、色々突っ込みどころがあるのは放置だ。 いちいち突っ込んでいたら、いつものように日が暮れてしまうんだから。 「……探偵と手分けして自分も調査に出るタイプの助手って、結構定番だと思うんだけど」 「それは探偵のタイプに依るものでしょう。私は安楽椅子探偵を名乗った覚えはないわ」 ビシ、と、指を突き付ける霧切さん。 彼女がこのポーズをとると、割と他愛のない言葉でも決め台詞に聞こえてしまう、不思議。 「もう一度聞くわ。貴方、自分の役目を忘れたの?」 「え、えーと…」 「…言い方が悪いのかしら。じゃあ、この仕事を請け負うべきなのは誰?」 「そりゃ、諸々の言い出しっぺの僕だけど…」 「正解。なら、私が貴方についてきたのは何故?」 「…僕が、手伝ってくださいって頼んだから」 「そうね。私は『貴方の仕事を手伝いに』来たのであって、『雑用を任されに』来たのではないのよ」 ……あー。物凄く分かりにくいけど、分かった。 霧切さんの言わんとしていることは、つまりこうだ。 「……一緒に調査しよう、ってこと?」 「まあ、諸々の理由を端折って言えば、そういうことになるわ」 「うーん…でもそれだと、霧切さんに手伝ってもらう意味、なくなっちゃうんだよね」 一人でこの島を全部回るのは、中々の骨だ。 集中力も欠いていくだろうし、作業効率は悪い。 二人でやれば、時間は半分、効率は二倍。こういう仕事は人数が多ければ多いほどいい。 けれどもそれは、二人で別々の場所を分担しあう、というのが効率向上の大前提だ。 二人して同じ場所を見回るのなら、一人でやるのと大して変わりない。 だというのに霧切さんは、 「あら、そんなことはないわ」 軽い調子で、そう返した。 「私はともかく、苗木君。貴方一人の観察力で、果たして島の異常にどれくらい気づけるかしら」 「う……そ、そりゃ、霧切さんに比べたら、無いも同然だけど…」 「そうね。理解したかしら?」 つまり、僕は最初から見回り人員にカウントされていない、ということか。 それなら最初から、二人で回りましょう、と。 ……じゃあこれ、今更だけど、僕いらないよね。 「…早速初めましょうか。先ずは手始め、この中央の公園からになるわね」 どことなく楽しそうに声を弾ませ、背を向けてスタスタと歩き回る霧切さん。 僕は少し早足で、その背中を追いかけた。 楽しそうなのは僕を論破したからかな、たぶん。 ごちそうさま、だの、らーぶらーぶ、だの、空から気の抜けるような声が響いた気がした。 まあ、そんなわけで改めて。 >霧切さんと公園にやってきた。 と言っても、あるのは中央の大きな像だけ。 パッと見渡すけれど、他に見るべきところもなさそうだ。異常や違和感もない。 霧切さんは既に、見上げたり触ったりと、像の調査を始めている。 「えーと…どう?」 漠然とした、なんのセンスも感じない、無責任な質問。 いつもの霧切さんにならこれくらい言われるだろうけれど、今は探偵モードのようだ。 「見た目が変、という所以外は、見た感じに異常はないわ」 「そっか…この像に異常がなければ、ここにバグはなさそうだね」 何と言っても、広く見通しの良い空間だ。 異常があればすぐに分かるだろうし。 しかし、なんというか、こんなに心地良い快晴に、潮の匂いが届く公園にいると、どうも任務だという気がしない。 「なんか、昼寝でもしたくなっちゃうね」 「したら怒るわよ、流石に」 返す霧切さんの声も、どこか間延びている。 彼女もこの暖かな日差しに、心癒されているんだろう。 ぐ、と背を伸ばすと、同じタイミングで彼女も欠伸をかみ殺した。 「……ねえ、少しだけベンチで休憩していかない?」 「…やっぱり自覚が足りないようね。手伝って、と言った本人が、こんなに早く休憩を…」 「霧切さん、徹夜明けでしょ」 ぴく、と、眉を動かす。 彼女自身は僕にそれを隠そうとしていた節があるから、何故僕がそれを、と言いたげな目。 「徹夜した日の霧切さん、声が少しだけ高くなるんだよ。あと、喋り方がゆっくりに」 「……昨日、急に別の仕事が入ってしまったのよ。それほど面倒なものでもなかったんだけれど…」 「そういう理由があったなら、無理して手伝ってくれなくても」 「先約はこっちだったのよ。一度した約束を、私の都合で反故にするなんて、できないわ」 そういう、変な意地を張りたがる人だ。 「…それに、少しだけ楽しみにしていたのもあるし」 指を口元に当てて、少し目を伏せる。 言いにくいことや恥ずかしいことを言う時の彼女の仕草だ。 「楽しみ、って…この手伝いを?」 「見方の問題ね」 首を傾げた僕に、さも可笑しそうに霧切さんは、 「ねえ、苗木君。形はともかく、私は『常夏のリゾートに』『貴方と二人で』『貴方に誘われて』やって来たんだけど、この意味が分かるかしら」 そんなことを言ってのけた。 一瞬き。 「えっ、と……あの、それは、」 「……冗談よ」 してやったり、と言わんばかりに目を伏せる。 霧切さんのこの手のからかいは、何度も喰わされてきたけれど。 来ると分かってても顔が赤くなってしまうのは、たぶん、僕の気持ち的な問題です。 「ちょっと生意気だったから、オシオキよ……馬鹿正直の苗木君」 「そういうずるい冗談は止めてって言ってるじゃないか…」 「あら? 冗談じゃなくて本気なら、許してもらえるの?」 「だ、だからそういうんじゃなくて…」 「……『そういうんじゃない』、のね。告白してもいないのに振られちゃったのかしら」 クスクスと、笑いを堪えながら霧切さんがからかうので、今度は僕が目を逸らす番だった。 「…もしかしなくても、霧切さん、僕で遊んでるでしょ」 「あら、今更気が付いたの?」 「はぁ、もう。……少なくとも、そうやって僕で遊んで眠気を紛らわすくらいには、眠いんでしょ」 「……そうね」 認めるまではしぶといけれど、認めてからは素直な女の子だ。 手を引いて促すと、そのまま従って、大人しくベンチにちょこんと座る。 「…苗木君。依りかかるモノが欲しいんだけど」 「あ、えーと…」 なんて言われても、枕になりそうなものなんてないし。 パーカーを脱いで丸めようか、なんて的外れな事を考えて、 「……」 ふと、モノ言いたげな視線を投げかける、霧切さんの隣に、不自然な空きがあるのに気が付く。 こんこん、と、視線に気づいた僕に強調するように、隣の空きを指で叩く。 ああ、なるほど。 言わんとすることを介して、僕は彼女の隣に腰掛けた。 よろしい、と、眠たげな声。 ふわ、と、目の前で揺れる銀色。 「……ちょっと、そっち?」 「何よ、『そっち』って」 「いや、てっきり肩を貸すくらいだと…」 「……横になりたかったのよ。膝枕くらい、許してくれてもいいでしょう」 いや、僕はいいけど、色んな意味でダメだ。 膝、というより太ももにかかるもどかしい重みに、図らずも反応しそうになる。 「……その気になったら、手を出してもいいわよ。草食動物の苗木君」 僕の考えなんてお見通しらしく、もぞもぞと声を響かせて、数秒後には寝息を立てた。 ああもう、ちくしょう、しんらいされてるなあ。 >霧切さんと、もどかしいひとときを過ごした。
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「なんで苗木君の考えてることがわかるか、ですか?」 ある日、舞園さんと二人で話す機会を得たボクは、前々から疑問に思っていたことを聞いてみることにした。 「うん。あ、エスパーだからっていうのはナシね」 今にも『エスパーですから』と言われそうな気がして、予め釘を刺しておく。 案の定、口を「エ」の形に開きかけていた舞園さんは、綺麗な眉を寄せて考え込んでしまう。 「う~ん……それじゃ、手力――」 「ミスター栗間に怒られそうだからダメ」 「困りましたね……」 (困るほどのことなんだ……?) 舞園さんは瞑目して考えながら、言葉を選ぶように少しずつ語る。 「そうですね……なんとなく――本当になんとなくなんですけど、時々苗木君が何を言おうとしてるのかわかる事があるんですよ。理由は私にもわからないんですけど、こう、パッと」 「パッと、ね」 時たま舞園さんの言葉はインスピレーション気味になる。 「ふふ、おかしいですよね。苗木君と話すの、ここに来てからが初めてだっていうのに……」 「そうだね……」 「もしかして私たち、前世でも同じことしてたのかもしれませんね」 前世。 前の世界でも、ボクたちはこうして出会って。 そうして、同じような話をして。 ……やっぱり、同じような関係になっていたんだろうか。 「うふふ。そうじゃなかったら、私は苗木君専用のエスパーっていうことでどうですか?」 「せ、専用って……」 その響きは、ちょっと、問題なような……。 「問題なんかありませんよ」 そう言って、舞園さんはにっこりと笑みを浮かべる。ボクも思わず釣られて笑ってしまうような――そんな彼女の特上の笑顔だった。 「エスパーだから、ね」 そういうことにしておこう。 いつか、本当の事がわかるその日までは。
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モノクマ「オマエラはこの学園で一生共同生活をしてもらいます。」 舞園「いやです!!皆さん、私のそばに集まってください。」 モノクマ「何をする気なのかね?」 舞園「…テレポート!!」 ブゥン モノクマ「何ぃ!!舞園さんが皆と一緒にテレポートするなんて…!」 ブゥン 舞園「さぁ、皆さん脱出しましたよ。」 苗木「すごいね舞園さん。テレポートまで使えるなんて…」 舞園「…エスパーですから…」 ―――――――――――――――――――――――――――――――― 舞園「…はっ、夢か… …流石に本当のエスパーでもないのにテレポートなんて無理か…」 終わり
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PCSpeedScanPro(ピーシースピードスキャンプロ)とは ガンガンガン速(がんがんがんそく)のPCSpeedScanProはAscentive(アセンティブ)が開発したレジストリを修理するPC性能向上ソフトウェア Windowsのレジストリは、ユーザーのPCが円滑に実行できるように保っています。 そのレジストリのエラーが、目には見えない場所に蓄積することにより、PCの実行速度が徐々に遅くなってしまいます。 長い期間使い続ける事で、これらのエラーはシステム動作を不安定にし、最悪な場合は、プログラムがフリーズします。 早急に問題が、解決しないと、Windowsのレジストリエラーがシステムクラッシュを引き起こし、再起動しなくてはいけない事態に陥ります。 レジストリとは WindowsOSのシステムや、アプリケーションソフトの設定データが記録されているデータベース(格納庫)。 手動で誤った操作をするとシステムが起動しなくなったりアプリケーションの削除ができなくなったりします。 ガンガンガン速 PCSpeedScanProの主な機能 以下を検出して削除 レジストリエラー クラスIDエラー 欠落したWindowsショートカット 欠落したシェアファイル 欠落したアプリケーションパス 欠落したフォントやヘルプファイル 無効なファイル拡張子 デバイスドライバーエラー 使い方が簡単なUIエラーの脅威レベルを表示、ユーザー名&パスワードで簡単起動、自動スキャンをスケジュール、ワンクリックでレジストリバックアップと修復実行。
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843 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2011/05/11(水) 11 05 46.72 ID I2CWHNY6 苗木「○○さんクリームは生とカスタードどっちが好き?」 朝比奈「生!絶対生!あ~ん苗木が生がどうとか言うから食べたくなって来ちゃったじゃんか~!」 舞園「 無いなら生で良いからっ!. こんな事が聞きたいんですよね?わかっちゃいますよ。エスパーですから」 さくら「カスタード」 腐川「カスタ. ハッあんたわたしに生が良いって言わせて今夜のオカズにしるつもりでしょう!」 セレス「苗木君が山田君と同じ思考回路だったとはおもいもしませんでしたわ」 ちーたん「どっちかっていうとカスタードが好きだよ!苗木君は生が好きなの?」 霧切「なまが好きよ. あっ. エロスは程々にしておかないと身を滅ぼすわよ」 文才が無いなぁと思う わたしに
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「……よし、勝負だ! ……8と9のツーペア」 ボクが些か緊張しながら場に示した手札を見て、セレスさんは微かな笑みを浮かべる。 「うふふ、残念でしたわね。……こちらもツーペア。ただしジャックとクイーンです」 セレスさんの示した『役』は、当然ボクのそれよりも強いものだ。 ……また、負けた。これで15連敗か……。 ボクがため息をつくと同時に、背後で西園寺さんの無邪気な笑い声が上がる。 「あははっ。苗木おにぃったら、また負けたんだー? よわーい!」 傍観者ゆえのお気楽なコメントに、ボクは言い返す気力すら湧いてこない。やれやれ……。 ここは太平洋上に浮かぶリゾート地、ジャバウォック島。 そこに建つホテルの客室で、ボクとセレスさんはトランプゲームに興じていた。 ボクの後ろのベッドの上では、この島で知り合った日本舞踊家の西園寺日寄子さんが寝転がり、 時折適当なヤジを送りつつ勝負を観戦している。 「少し、疲れましたわね。ちょっと休憩にしましょうか。──ところで」 それまで楽しげだったセレスさんの声が、微かに不満の色を帯びる。 「どうして、わざわざ南の島まで来て、こんな状況になっているのですか? 苗木君」 ──それは、仕方のない事だ。だって、朝からずっと激しい雨が降り続いていたんだから。 時計を見れば、針は午後8時を回ろうとしている。 今頃になって、ようやく雨が上がったようだが……これじゃ、島内観光どころじゃない。 ボクらは観光の予定を全てキャンセルして、一日ホテル内に留まるハメになってしまった。 「……天気の事はしょうがないよ。明日また、出掛ければ──」 ボクの言葉を遮って、セレスさんは首を横に振る。 「違いますわ。わたくしが言いたいのは、どうして余計なお荷物が増えたのか、という事ですの……!」 お荷物……? と、疑問に思ったが、彼女の視線を追って合点がいった。 その先には、西園寺さんがいる。セレスさんは予定外の闖入者が気に入らないのだろう。 ──それは──それも、仕方がない事だ。多少の罪悪感を感じながら、ボクは小声で返した。 「西園寺さんのお父さんに頼まれちゃって、断れなかったんだよ。 ……いや、でも人数が多いほうがきっと楽しいし……その……ゴメン」 ホテルに着いて早々、ちょっとしたトラブルに巻き込まれたボクとセレスさんは、 結果、西園寺さんや、彼女のお父さんと知り合った。そして今朝、またも偶然顔を合わせる。 お父さん曰く──娘は気の会う友達になかなか恵まれず、いつも寂しい思いをしています。 自分たちは明日には日本に帰るんですが、ここで知り合ったのも何かの縁。 迷惑でなければ今日一日だけでも、娘と遊んでやって貰えませんか? ──人の良さそうなあのお父さんに懇願されて……ボクにはどうしてもNOと答える事が出来なかった。 背後でセレスさんが、露骨な舌打ちをしていたとしても……。 セレスさんが呆れたように鼻を鳴らすのに続いて、西園寺さんがまたもお気楽な声を上げた。 「ところでさー、セレスおねぇ。おねぇと苗木おにぃは二人で旅行に来たんだよねー? って事は────もしかして付き合っちゃったりしてるのかなー?」 ボクは……突然の言葉に、一瞬顔が熱くなるを感じた。 微妙な事を……あっさり言ってくれるな、この子は……。 セレスさんは──僅かな沈黙の後、平然とした口調で答える。 「付き合う……というのは意味がわかりませんが……彼は、わたくしの“ナイト”ですの。 わたくしに忠誠を誓う者として、常に傍に侍るのは当然の事ですわ」 「ナイトぉ……? それってさー、もしかしてイターい『設定』ってやつー?」 小馬鹿にしたように、クスクスと笑う西園寺さん。黙って聞いてるボクの方が無性に恥ずかしくなってくる。 一方のセレスさんは相変わらず、余裕の表情だ。 「設定ではありませんわ。事実ですもの」 西園寺さんは口を噤み、ボクとセレスさんの顔を見比べて、二度三度と瞬きを繰り返す。 それから小さく「なるほどねー」と呟いて、どこか意地の悪い笑みを浮かべた。 「……ふーん。じゃあ、わたしと同じだね。私にもいるよー。……『日向おにぃ』って“奴隷”がさー」 ど……奴隷!? どういう解釈でそうなるんだ……? ともあれ、話題を変えるチャンスだ。ボクはすかさず口を開く。 「そ、その日向おにぃって、どんな人なの?」 「日向おにぃはねー、わたし狙いのロリペドでー、何のとりえもないド凡夫なんだー」 め、滅茶苦茶言ってる……! 会った事もないその人に、少し同情する。 「だけど……とっても優しくて……一緒にいるとホッとするの。 お父さんとか……そうだね、苗木おにぃにも、ちょっと雰囲気が似てるかも……」 ……話しているうちに『日向おにぃ』の事を思い出したのか、西園寺さんは頬を緩める。 そうか……この子は……。……いつもひねくれた事ばかり言ってるけど、素直にしてると可愛いんだな。 ボクとセレスさんの視線に気づいてか、西園寺さんは頬を赤らめ、慌てて立ち上がった。 「──って、いいじゃん、そんな事はさー! もういい、行くよ!」 「え……どこに?」 「決まってるでしょ、お風呂だよー。苗木おにぃ達も来るでしょ? お、ん、せ、ん……」 まさか南の島まで来て温泉なんて単語を聞くとは思わなかった。 しかしよく考えてみれば、ハワイなんかも火山島で、温泉に入れると聞いた事がある。 現にこのジャバウォック島にも、立派な活火山があるらしい。 「温泉……それは、このホテル内ではありませんわよね? わざわざ出掛けなくても、こちらに立派なお風呂がありますのに……」 セレスさんはいかにも気乗りしない、という口調だ。すかさず西園寺さんが言い返す。 「言っとくけど、ただの温泉じゃないんだからね! わたしの踊りを観て、感激したホテルのオーナーが特別に招待してくれたんだから!」 ──詳しく話を聞いてみると、このホテルの裏山にVIP中のVIPだけが入れる『秘湯』があり、 今夜は西園寺さんだけの為に貸し切りにしてくれているんだとか──。 ……ボクは正直、興味をそそられたのだが、セレスさんは面倒くさそうに横を向いてしまう。 「嫌ですわ、秘湯だなんて。雨上がりの事ですし、きっと足元も悪いでしょう。 それにわたくし……夜8時以降は決して出歩かない主義ですの」 ……そんな主義、初めて聞いたぞ……。 セレスさんの頑な態度に、さすがに西園寺さんも不機嫌になってくる。 「このわたしがせっかく言ってあげてるのに……。いーよ、じゃあセレスおねぇは“フツーのお風呂”に入れば? わたしはその間に、“セレブ御用達の美肌の湯”でツルッツルになってやるもん! それはもう、苗木おにぃみたいな朴念仁でも目が釘付けになるぐらいツルッツルのスベッスベに──」 西園寺さんが言い終わるより早く、セレスさんはすっと立ち上がった。 「では、早速その秘湯とやらに参りましょうか。西園寺さんの、せっかくのお誘いですものね」 にっこり笑って、何事も無かったかのように一人で歩き出してしまう。 ボクと西園寺さんは、呆れる暇もなく──慌ててその後を追った。 西園寺さんがホテルの人に用意してもらったという、お風呂セットの袋を提げて夜道を歩く。 幸い、温泉への道はしっかり舗装されている上に街灯も整備されていて、歩くのは苦にならない。 一本道の緩やかな上り坂が、女性の足でも10分ほどで目的地に連れて行ってくれるそうだ。 「感謝してよねー、わたしのお陰でVIP専用の温泉に入れるんだから」 などと得意げな西園寺さんにほどほどに相槌を打ちつつ、歩き続ける。 満天の星空の下、爽やかな夜風が吹いてきてとても心地いい。 やがて道が開け、その秘湯がある建物が林の中に見えてきた。 舗装路が途切れ、木々の中に現れた広場の中央に、白い建物がぽつんと立っている。 ホテルと同じ真っ白い外壁は真新しくとても綺麗で、高級感さえ漂ってくる。 ……秘湯なんて言うから、何となく粗末な施設を想像していたのだが、思ったより近代的で安心した。 雨上がりの少しぬかるんだ地面に歩を進め、入り口に近づく。 ここで西園寺さんが、懐から金色のカードを取り出した。 「これ、カードキーね。夜中まで開いてるけど、従業員がずっといる訳じゃないんだってさ」 防犯対策にもぬかりはないようだ。西園寺さん、セレスさんに続いて横開きの自動ドアをくぐる。 玄関マットで靴についた泥をぬぐい、ホールの中へ。 ふと目をやると、端の方に真新しい長靴が揃えて置いてあるのが目についた。 「あれ……誰か先に来てるのかな?」 思わず口にしたボクの問いに、女子二人が答える。 「……どう見ても、VIPの履物には見えませんわ。従業員用の作業靴ではありませんか?」 「そうだねー、今の時間は誰もいないはずだもん。こんな所で靴を脱ぐのも訳わかんないしー」 つまり、従業員が片付け忘れた長靴か。納得して正面に目を向ける。 ホールの先ではすぐ、男性と女性で通路が分かれているようだ。 「じゃあ、こっちの青い袋が苗木おにぃの分で、こっちの赤い袋がわたしとセレスおねぇの分ね。 ……わかってると思うけど、日本と違って水着着用だからねー?」 ……ボクはわかっていなかった。言われてみれば、海外ではそういう習慣なんだった。 口には出さず、苦笑しながら頷く。 「それでは苗木君、また後でお会いしましょう」 セレスさんが上品な笑みを浮かべ、小さく手を振る。 ボクも手を上げて応じたところで、突然、西園寺さんが素っ頓狂な声を上げた。 「……アチャッ、いっけなーい!」 彼女は握り拳で自分の額を軽くコツンと叩き、舌まで出してみせる。 ……昔の漫画でよく見た光景だが、実際やると変な感じだ……。 「いきなり、どうしましたの? 車に轢かれた蛙のような声を出して」 西園寺さんは、赤い袋の中身を何気なく覗いてみたようだ。袋の方から顔を上げる。 「セレスおねぇの分の水着はあるけど、わたしの分が入ってない……。 ホテルに忘れちゃったのかなー。戻って取ってくるから、二人は先に入ってて」 ボクらが何か言う前に、西園寺さんは赤い袋をセレスさんに渡して駆け出した。 「わたしが戻ってくるまで、ゆっくり入っててね。先に出ちゃったら嫌だからねー!」 自動ドアの前で振り返った西園寺さんを見送って、ボクとセレスさんは顔を見合わせた。 「……えっと。じゃあ、先に入ってようか」 「そうですわね。お言葉に甘えて」 もう一度さっきと同じやりとりを繰り返し、ボクらは通路の前で一旦、別れた。 通路の先には小部屋があり、ここが男性用の脱衣所になっているようだ。 部屋の奥には個室のシャワーが設置されていたり、清潔なタオルやサンダルなども用意されている。 これらはお客が自由に使っていい、という事だろう。 大きなガラス戸の向こうでは湯煙がもうもうと立っており、温泉気分が高まる。 ボクは早速、水着に着替えて脱いだ服を棚に置き、温泉の方へと向かった。 湯煙に包まれた温泉は、屋外にあった。当然ながら目隠しの為の高い塀が巡らされており、 広々とした浴場が全面、石材を敷き詰めて作られているところは日本の露天風呂に良く似ている。 だが、こちらには洗い場がなかったり……見たところ、湯船は結構な深さがありそうだ。 欧米の感覚では、温泉はお風呂というよりプールに近いものなのだろう。 文化の違いに軽いカルチャーショックを受けつつ、足先からゆっくりと湯に入る。 湯船の中でも、端の方は浅く、腰掛けられるようになっていた。 まずは肩まで湯に浸かり、一人、大きなため息をつく。 ……ふぅ。……やっぱり、温泉ってのはこういうものだよな……。 しばらく目を閉じて身も心もリラックスしていると、どこか近くで「キィ」とドアの開く音がした。 ……誰か、入ってきたみたいだ。ボクらの後で別のお客さんが来たのか……。 構わず目を閉じたままでいたが……ボクのすぐそばで、お湯が大きく波立つ。 「なかなか、いいお湯ですわね」 聞き慣れた声が聞こえ、ボクは驚いて目を開けた。ボクのすぐ隣に座ったのは、セレスさんだ。 ……こ、混浴だったのか……! よく考えれば当然だ。その為の水着着用だろうし、海外では男女混浴が普通らしい。 セレスさんは、いつもの派手なウィッグを外した姿で……いや、そんな事よりも。 彼女の着ている水着にどうしても目がいってしまう。これは、どう見ても──布が少ない! シンプルな黒のビキニでありながら、卑猥な……とまではいかなくても、結構大胆な露出度だ。 おかげで、彼女の真っ白な肌が露になり──いや、詳しく表現するのは止めておこう……。 「……苗木君。そうジロジロ見ては、レディに対して失礼ではありませんか?」 視線に気づいたらしいセレスさんにたしなめられ、ボクは慌てて目を逸らした。 「ご、ごめん……」 「いえ。……まあ、この水着が少々人目を引いてしまうデザインなのは、わかりますが。 どうやら、西園寺さんにハメられたようですわね……」 ……西園寺さんがホテルで見せた、いじめっ子のような意地の悪い表情が目に浮かぶ。 もしかして、あの時すでに? こんなイタズラをするなんて……西園寺さん、ありがt──じゃない、困った子だな……。 「それにしても」 しばらくの沈黙の後、セレスさんが静かに口を開く。 「こうしてゆっくり過ごすのは、何だか久しぶりのような気がしますわ。 その点に関しては、ここに連れて来て下さった西園寺さんに、感謝しなくてはいけませんわね……」 「……そうだね。それを言ったら……ボクは、セレスさんにも感謝しないと。 多分、ボク一人じゃ一生こんな所には来られなかっただろうし……」 言うまでもなく、これは素直な感想だ。 “超高校級の幸運”なんて呼ばれているボクだが、自他共に認める『普通』の高校生でしかない。 “超高校級のギャンブラー”として、世界を飛び回るセレスさんにとっては、そう珍しい体験でも無さそうだが……。 「いいえ、それは違いますわ」 セレスさんは小さく首を横に振る。 「いくら海外を渡り歩き、高級なホテルに宿泊したとしても、わたくし一人では当然の事で、さほど価値がありません。 わたくしが感謝しなくては、と言ったのは……その……あなたとこうして……」 意外な言葉を聞いて、ボクは彼女の方を見ずにはいられなかった。 夜の温泉。照明はさほど強くなく、うっすらとボクらを照らしている。 セレスさんの白い肌は熱を帯びて紅くなり、その中でも頬はさらに上気して見えた。 ボク自身も……温泉の温度以上に、体が熱くなるのを感じる。 自然と彼女と視線が重なり、鼓動が急激に早くなる。そしてボクは────…………湯船から立ち上がった。 「ご、ごめん。ちょっとのぼせてきちゃったみたいだ……。一旦、上がるね」 セレスさんは無言で頷き、目を閉じる。 ……危なかった。本当に、あれ以上は、色んな意味で……。 ボクは頭を振って雑念を振り払い、熱を冷ます為に脱衣所のシャワーを目指した。 男性用の脱衣所で、ぬるめのシャワーを頭から浴びて、ほっと息をつく。 ……少しは、気持ちが落ち着いたようだ。だが、このままここに居続ける訳にもいかない。 気を取り直して浴場に戻ろうと振り返り──ボクは思わず声に出していた。 「あ……れ?」 脱いだ服を入れておいた棚が、空になっている。 何かの間違いだろうと辺りを見回すが、どこにもボクの荷物は見当たらない。 まさか、盗まれたのか──!? 一瞬、ホールの方に向かいかけたが、濡れた体ではそうもいかない。 体を拭くより、まずはセレスさんに異変を知らせるべく、ボクは浴場に足を向けた。 「大変だよ、セレスさん!」 ──セレスさんは、さっきと同じ湯船の端に腰掛けたままの格好でボクの話を聞き、ゆっくりと首を傾げる。 「苗木君の服を……? それは、ショボい……というか、おかしな泥棒ですわね……」 ボクも同感だが、実際に盗まれてしまったのだから仕方がない。 「ともかく、ホテルの方に連絡しましょうか。ホールに内線電話ぐらい置いているでしょうから。 ここはわたくしに任せて、苗木君は待っていて下さい」 セレスさんはそう言って立ち上がり、女性用の脱衣所の方に歩いていった。 ──が……5分と経たず、戻ってきた。 「……やられましたわ。こちらも同様です」 ……!! 予想外の展開に、声も出ない。 どうやら、ボクとセレスさん……一度に、二人分の着替えが盗まれてしまったようだ……。 ここで一旦、切ります。続きは1時間後ぐらいに投下させて下さい 「それで……電話は?」 「残念ながら、ざっと見た限りではホールには見当たりませんでした。 元々設置されていないのか、あるいは、それも犯人が盗んでいったのかも……」 電話まで……だとすると、事件の発覚を遅らせる為だろうか? 犯人は、なかなか周到な人物のようだ。ただ、それにしては盗んだ物が── 「そういえば、セレスさんの方は服以外に何か盗まれたの?」 ボクが着替えと一緒に置いていたのは、ホテルの部屋のキーぐらいのものだ。 十分迷惑だが、今のところは被害はさほどでもない。 セレスさんは、記憶を辿るように目を伏せながら答える。 「わたくしは──そうですわね。部屋のキー、携帯電話、化粧品類を少々。 お財布はホテルに置いてきたので無事ですが、後は……まあ、下着でしょうか」 下着……! それは、そうだ。ボクも着替えと一緒に盗まれているが、セレスさんとはまるで意味が違う。 だいたい男の下着なんて盗んでどうするんだ。女の子のならともかく……いや、世の中には変なマニアが……? ──って、今はそんな事はどうでもいい。今重要なのはこれからどうするか、だ。 「現実的な所では、歩いてホテルに戻って警察を呼んでもらう、でしょうね。 この格好を人目に晒すのは少々抵抗がありますが……背に腹は変えられませんわ」 セレスさんは胸の前で腕を組み、小さくため息をついた。 緊急事態にあって忘れていたが、彼女の無防備な格好を見て再び意識してしまう。──それは、ボクも嫌だ。 だが、セレスさん一人をここに残し、ボクだけホテルに戻るのも何だか心配な気がする。 「もう一つの手は、水着を取りに戻った西園寺さんが来るのを待って、彼女に連絡してもらう……ですわね。 彼女が来るのは、あと何分後でしょうか。5分後? 10分後?」 ……わからない。そんなに時間はかからないだろうけど、ただ待っているというのも落ち着かない。 そうだ、それまで水着姿のセレスさんと二人きりで……ボクは── ダメだ、また熱が上がってきた。こうなれば、やる事は決まっている。 「西園寺さんを待つ間、ボクらで犯人の足取りを追ってみよう。 もしかしたら、だけど……服なんてお金にならないわりにかさばるし、案外近くに捨ててあるかもしれない」 ボクの提案に、セレスさんは大きく頷く。……良かった。捜査に集中していれば、少しは落ち着いて── 「そうですわね。ですが、危険な犯人がまだ近くにいるとも考えられますわ。 苗木君。ナイトとして、しっかりわたくしを守って下さいね?」 そう言って彼女はボクの腕を掴み、ぴったりと寄り添った……。 ──とにかく。煩悩を振り払う意味でも、さっさと捜査に取り掛かる事にする。 脱衣所にはこれといって犯行の痕跡は見られないので、次はホールだ。 一応、犯人の襲撃を警戒して身構えつつ、ホールに入った。 セレスさんと二人で慎重に調べて……わかった事は2つ。 1つ、ホール内に電話機(と、ボクらの荷物)は存在しない。 2つ、ホールの隅に置いてあった長靴が無くなっている。 ……これは──これも、犯人が盗んでいったのだろうか。だからといって手当たり次第、という訳でもなさそうだ。 その証拠に、壁に飾られている絵や高級そうな花瓶などには手をつけていない。 つくづく、おかしな泥棒だな……。とりあえず頭の隅に置いておき、捜査を続ける。 さて、次は── 「……そういえば、犯人はどこから入ってきたのでしょうか?」 セレスさんのふいの質問に、「えっ」と聞き返す。 「こちらの入り口は……西園寺さんが持っていたカードキーを使わなくては入れませんわよね。 VIP専用の施設ですから、不審者が他の場所から楽々侵入できるとは思えません。 という事は、犯人は入り口から堂々と侵入した──カードキーを持っている人物に限られるのではありませんか?」 なるほど、一理ありそうだ。警察が調べれば、それだけでかなり容疑者が絞り込まれるかもしれない。 となれば、次に調べるべきなのは──。ボクらの目は、入り口のドアに吸い寄せられる。 自動ドアが閉まると厄介なのでセレスさんにドアの間に立ってもらい、ボク一人で外に足を踏み出す。 夜ではあるが、施設の照明と道路の街灯が辺りを照らしており、周囲はよく見渡せた。 その中で、まず目につくのは、足跡だ。 向こう側の道路と、こちらの施設の間のぬかるんだ地面に、複数の足跡が散らばっている。 これは──重要な証拠かもしれない。はっとして、すぐ後ろのセレスさんに声をかけた。 「ねえ、これ……この辺りの足跡は、ボクらが来た時の分だよね?」 ボクが指差した辺りには、ほぼ横並びに3人分の足跡が、道路側から温泉に向かってついている。 セレスさんは同じ位置に立ったまま、少し背伸びして頷いた。 「ええ、間違いありませんわ。わたくしのヒール、苗木君のスニーカー、それに西園寺さんの下駄の痕でしょうね」 三者三様、特徴的な形が綺麗に横一列に並んでいるので、わかりやすい。 問題なのは、それらを除いた足跡で── 1つは、温泉から道路に向かう、西園寺さんの物と思われる下駄の跡。 ホテルに水着を取りに戻った時についたのだろう。 そして──正体不明の靴跡が、きっちり一往復分だけ残されている。 それは明らかにボクのスニーカーとは別の靴跡で…… 道路側から温泉に向かう片道分は、他の靴跡とは離れた位置に、 温泉から道路側に向かう片道分は、同じ方向についた西園寺さんの靴跡と重なるように。 ボクらが温泉に来た時には、こんな足跡はついていなかったはずだ……! 「それは、きっと犯人の靴跡ですわね。道路側から温泉に来て、また帰った時の……。 周りに他の足跡がついていない事からすると、すでに目的を達成して逃げてしまったのでしょう」 だとすると、犯人は真っ直ぐ温泉施設に来て、正面のドアからカードキーを使って侵入した。 そして素早くボクらの服を盗んで、また真っ直ぐ道路の方に帰って行ったのか……。 確かに筋は通っている。だけど……ボクはどこか違和感を感じていた。 この足跡──何か変じゃないか? 「道路に出られては、その先は足跡を追えません。後は警察に任せるべきでしょうか……」 そんなセレスさんの声を背中で聞きつつ、しゃがみ込んで道路側に向かう犯人の足跡をよく観察してみる。 靴跡は……一部が同じ方を向いた西園寺さんの足跡に踏まれているものの、とても綺麗だ。 靴底が欠けているとか磨り減っているとかいった特徴は、それ自体にはない。 サイズから、大人の男性用の靴で間違いないだろう。見比べると、ボクの靴跡よりも一回り以上大きい。 だから、犯人は大人の男で……恐らくボクよりも背が高い……──ボクよりも……? それにしては……やけに歩幅が狭いような……。 頭の中に突然ある考えが閃いて、ボクは思わず「あっ!」と叫んでいた。 背後でセレスさんが聞き返す声にも答えずに、『──だとしたら?』という自問自答を繰り返す。 そして……ようやく結論が出た。 「セレスさん、犯人がどこにいるかわかったよ」 しゃがんだ体勢のまま、後ろを向く。 「まあ……! それは──どこですの?」 と──下から水着姿のセレスさんを見上げる格好になってしまい、ボクは慌てて目を逸らして答えた。 「多分……いや、間違いなく──ボクらがさっきまでいた、この温泉施設のどこかだよ……」 ボクの推理を証明する為に、もう一度温泉施設の中を見て回る。 ボクらが一度見た場所以外には、トイレとランドリー(客用のタオルを洗濯する部屋か)があった。 そして犯人は──苦もなく見つかった。ランドリーのタオルの山に埋もれ、すやすやと寝息を立てて…… 「西園寺さん……こんな所に隠れてたのか……」 そう……ホテルに水着を取りに戻ったはずの西園寺さんこそが、犯人だった。 彼女のそばに、盗まれたボクらの荷物が置いてあるのが動かぬ証拠だ。 「全く……隠れるのが好きな子ですわね。能天気な顔をして、よく眠っていますわ……」 何故、ボクが犯人の正体に気づいたのか──それは、不自然な靴跡のせいだ。 “犯行の前にホテルへ戻ったはずの西園寺さんの靴跡が、逃げた犯人の靴跡を踏んでいる” ……そんな馬鹿な事があるわけがない。 確かなのは、西園寺さんは犯行前にホテルへ戻っていない。つまり、彼女はホテルに戻ると嘘をついたのだ。 そしてボクらの荷物以外にも盗まれていた、ホールの長靴。 あの長靴を使って足跡を偽造したから、不自然な靴跡が出来てしまったのに違いない。 ボクは、頭の中で事件の流れを再現する。 まず、水着を忘れたフリをした西園寺さんが、一旦、施設の外に出てボクとセレスさんをやり過ごす。 (恐らく、最初はそれだけのつもりだったのが、自分達の足跡を見ているうちに、偽装工作を思いついたのだろう……) ボクらが脱衣所に入った頃合を見て、ホールに戻った西園寺さんは置いてあった長靴を持って再び外に。 そこから、長靴をスタンプのように使って足跡をつけながら道路まで歩いた。 これでホテルに戻る西園寺さんと、犯行を終えて立ち去る“犯人”……片道で二人分の足跡が出来る。 ただし、この時誤って長靴の跡を自分で踏んでしまう。 道路までたどり着いたら、下駄から長靴に履き替え、今度は下駄を手に持って施設側へ戻った。 これで温泉へ犯行に向かう“犯人”の足跡の完成だ。 最後に、ボクらが温泉に入っている間に脱衣所を回って荷物を盗み、ランドリーに身を隠す。 そして──隠れている間に居眠りしてしまった……。 「ちょっと、いつまで寝ていますの? 早く起きて下さいな。あなたのせいで──」 セレスさんが苛立ちを滲ませた口調で声をかけ、西園寺さんの肩をゆする。 やがて薄く目を開けた西園寺さんは、呑気に大きな欠伸をしてみせた。 「ふぁー…………あー、セレスおねぇだー……。温泉はもういいのぉ?」 この子は……大物だな。体は小さいけど……。 「『もういいのぉ?』、じゃありません……! 全く、タチの悪い悪戯ばかりして…… 今度ばかりは、しっかり反省しないとお仕置きしますわよ」 セレスさんの厳しい口調にも西園寺さんはまるで怯まず、口を尖らせて不満を露にする。 「むー、何でわたしがお仕置きされなきゃいけないの? セレスおねぇの為にやってあげたのにさー」 「セレスさんの為に、って……どういう事?」 不審に思って聞き返すと、彼女は得意げに胸を張った。 「だってさー、セレスおねぇは苗木おにぃともっと仲良くなりたいんでしょ? でも、セレスおねぇは素直じゃないしー、苗木おにぃはどっちつかずのヘタレだしー、 わたしが、二人の仲が進展するように、二人きりで“裸の付き合い”をさせてあげたんじゃん」 は、裸の付き合いって……! 当然、悪戯心もあったんだろうけど……それで、ボクとセレスさんを水着姿のまま温泉に閉じ込めたのか……。 さらに西園寺さんは、にやりと笑って続ける。 「で、手ぐらい握ったの? チューはした? それとも、もっとスゴイ事も……?」 ……!!!! こ、これは……どう答えれば……いや、ボクはもしかして、西園寺さんの言う通りに……── 色々な考えが頭を巡り、混乱を極める。救いを求めてセレスさんの方を見たが…… 彼女も無言のまま、赤い顔でこちらを見ていた。 結局、ボクらは西園寺さんをそれ以上責められず……逆に彼女にからかわれる事になってしまった。 こんな空気で温泉に入りなおす訳にもいかず、服に着替えて帰路につく。 その後、ホテルに帰り着くまで、セレスさんがボクと目も合わせてくれなかったのは、 照れのせいか、あるいは怒り……のせいだろうか? ──この旅行から帰る頃には……ボクの中に……答えが出るといいな……。