約 495,205 件
https://w.atwiki.jp/fairy-waterfall/pages/153.html
566 :段階ならshort cut[sage] 投稿日:2011/11/15(火) 00 18 15.62 アイディア貰ったのに、エロ分と分裂しちゃって結局エロくないのですが、 プロバイダー規制で萌えスレには投下できないのでこちらで投下させてください。 連投規制はおそらく大丈夫ですが、万が一の場合は通常運転へお願いします。 護衛期間の日常の一コマ。 +++++++++++++++++ やっとまとまったオフらしい。 護衛について初めて聞いた気がする。 SPたるもの、護衛対象のオフにも付き添い護衛するのは当然だ。 「さあアルト、しっかりついてきなさい?ぼやぼやしてるとおいて行っちゃうんだから」 大口をたたく護衛対象は、昨日の遅くまで仕事だったらしく、ようやく朝食を済ませたところだった。 仕事の合間や移動時に、調べていたものはこれだったのかと、アルトは納得した。 「じゃあ早乙女君、シェリルの監視、お願いね」 「そうよ、アルト。しっかり仕事なさい。あんたがはぐれたせいで監視できませんでした、じゃ話にならないわ。 残念だったわね。今日はいつもよりハードかもね?」 (監視…護衛じゃないのかよ) うきうきとした瞳を見ると、お守りをダシに連れまわされた時のことを思い出した。 あの時みたいに、二人きりで、シェリルが俺を見て、笑いかけてくれる。 何気ない話をして、いろんなことをして、いろんな表情をシェリルが見せてくれる。 柔らかな手や髪が触れて…頬に触れた唇はもっと柔らかかったのを覚えている。 何ともいえない切なさと嬉しさが込み上げてくるのを、アルトはおぼろに感じた。 (何を浮かれてるんだ。いつどんな危険があるか分からないんだぞ) それこそ、隙をついてのスパイ活動だってあるかもしれない。 SMSの中でも経験の浅い自分の隙を突くことだって十分にあり得る。 冷静になろうと自分にそう言い聞かせると、シェリルがスパイのために自分に近づいたと思った時の心の痛みが甦った。 フォルモでのシェリルとの思い出を時々思い出しては、なんとなく浮き足たったり、 電話がかかってくるのを期待してみたりしていた気持ちが 隊長の命令で重く暗くなり、ランカを追いかけるシェリルを見たときに強い痛みになったあの時だ。 (俺はお前が何者か知らない…。でも、寂しくて泣いたりしてほしくない…) 「アルト、聞いてるの?」 シェリルがケータイに出した場所はフロンティアパークだった。 フロンティアの名を冠しているだけあって、フロンティア最大の遊園地だ。 こんなことろに二人でいくなんて、まるでデートみたいじゃないか。 「今日はちゃんと変装しろよ。見つかったらすぐ出るからな」 「は~~い。じゃああんたも、遊園地っぽい格好しなさいよね」 そんなんじゃまるでデートみたいじゃないか。 「服なんて持ってきてないし、ちゃんと護衛が出来る格好じゃなきゃだめだ」 「余計に目立っちゃうでしょ。仕方ないわ。せめて、そのSMSの方に着替えてらっしゃい」 「事前に言ってれば、ちゃんと準備して来たさ」 ちゃんとデートらしくて、武器も隠せる機能性のある服を準備したのに…。 「はいはい。ほら、早くなさい。30分後には出るわよ」 「俺はそんなにかからないからお前が急げよな?」 「ねえ、アルト!次はアレに乗るのよ!」 袖を引っ張ってシェリルが指差した先はコーヒーカップ。 アルトの心配を余所に、今のところは園内の客にシェリルの存在が悟られた様子はない。 「おい、待てよ」 はしゃぐシェリルを見て自然と笑みがこぼれたアルトは、銀河の妖精シェリル・ノームよりも 目の前の彼女の方が妖精のようだと思った。 「うえええ。お前回し過ぎだろ」 「あら、パイロットさん、大丈夫?」 「言ったな!」 降りようとするシェリルにアルトが手をさしだすと、シェリルは自然にその手を取った。 ただ、支えるだけなのに、柔らかな手にドキドキした。 どうせこいつはエスコートされ馴れてるんだろうけどさ。 「おい、そろそろ飯にしようぜ」 シェリルに引っ張りまわされて、一息つきたいアルトが提案する。 「ん。ちょっと待って」 園内地図を真剣にチェックするシェリルがかわいらしい。 いろんなことを余裕でこなすようでいて、何事にも一生懸命だ。 「いいわ。もちろん、あんたのおごりよ?」 「ったく。護衛に来てなんで俺のおごりなんだよ」 デートじゃあるまいし。 「その給料私が出してるんだからいいでしょ」 「いや、おかしいだろ」 護衛らしくないが、カモフラージュのために、向かい合って食事をして、 カップルみたいに笑い合って、なんだかこそばゆかった。 戦略上仕方ないのだが、スーパーパック分と思えば許せるかなと、結局俺の財布から出した。 これじゃまるで、普通にデートしてるみたいじゃないか。 カップルらしく腕を組んだりした方がイイのか、いやそこまでしなくても、とアルトが悶々としているうちに、 いつの間にか、日も沈んできた。 人工の空は、自然を摸して色を変える。 空の色に気づいたシェリルに釣られてアルトも目をやる。 吸い込まれそうなほどに複雑に鮮やかにその色を変える空がシェリルのようだと思った。 変装のためのサングラスが外せないため、正確にはその色が分からないだろうが、その変化を感じ取ったシェリルはかんでつぶやいた。 「きれいね」 破天荒なようで、シェリルは約束通りサングラスを外さずに1日回ってきた。 二人きりならサングラスも外せるだろう。 「パレードまであと少しだ。観覧車行くか」 「ええ」 観覧車に乗り込む頃には二人はごく自然に乗降時に手をとるようになっていた。 狭い箱の中、膝が触れあいそうになりながら、座った。 高いところはむしろ好きなはずなのに、アルトはなんだかそわそわとして落ち着かない。 観覧車が高度を上げると、シェリルがサングラスを外した。 「今日は、ありがとね」 遊園地に来てからようやく見れた細められたシェリルの青い瞳が、アルトの胸を貫いた。 「いや、仕事だからな」 アルトは動揺を悟られまいととっさに外を見る。 「空、きれいね」 「ああ」 人工の空でも、眩しく美しく見えた。 ちらりとのぞいた夕日に照らされたシェリルの頬はバラ色に染まっていた。 そして、アルトが動けなくなった長いようで短い時間を終えて、二人は地上へと戻った。 黄昏の闇にまぎれて、パレードのために二人は人込みにもぐりこんだ。 暗くなったのを確認してシェリルはサングラスを外す。 そこにいる人たちを照らすのはに賑やかなパレードの電飾だけ。 二人は肩を並べあって、毎日巡るであろうパレードを眺めた。 もう二人で見ることはないかもしれない。 そう思うと、別段パレードを楽しいとは思っていなかったが、かけがえのない一瞬に思えた。 「さあ、帰りましょう」 まだ、パレードの中盤と言ったところだが、珍しくアルトが言いだす前に、シェリルが切り出した。 アルトは現実に引き戻される。 「意外だな」 「みんなが帰りだす前に出た方がイイでしょ?」 「それはそうだが」 シェリルは、意外に冷静で一歩引いたところがある。 それで、つい、手を伸ばしたくなるのだ。 「あら、もっといたかった?」 「いや、それはない。何事もないまま一刻も早くホテルに帰り着きたいな」 「ふふ。グレイスもそろそろ迎えに来るから、出ましょ」 パレードを背に門へと歩くシェリルを追った。 ぴたりと立ち止まったシェリルの真後ろでアルトが様子をうかがう。 「なんだ?やっぱり…」 くるりと振り返ったシェリルが、アルトの頬にキスをした。 そして、再び門へをずんずんと歩みを進める。 惚ける間もなく、アルトはシェリルの後を追わざるを得ない。 後ろを追うアルトに、シェリルがぽつりと言った。 「お仕事お疲れ様。ボーナスよ」 シェリルの感触が残る頬に手を添えて、アルトがくすりと笑う。 まるでデートだったみたいじゃないか。 +++++++++++ 終わり ちっともショートカットせずに、恋を育むアルトのお話でした。
https://w.atwiki.jp/fairy-waterfall/pages/154.html
613:誕生日はいちゃいちゃしたようです[sage] 投稿日:2011/11/23(水) 22 00 44.07 官能の汗をまとって寄り添って眠るシェリルの頭を撫でながら、アルトがつぶやいた。 「お前、俺の芸見てくれてたんだな。『私の歌で銀河を震わせて見せるから』って…。覚えてたよ」 「うそ」 目をつぶったままシェリルがくすりとつぶやいた。 「起きてたのか。覚えてたって!お前だってわからなかっただけで」 「ふうん。私はすぐにあんただってわかったのに。…所詮は一ファンだものね。仕方ないわ」 仕方ないと言いながらも、不満なシェリルは唇を尖らせた。 「まさか、銀河の妖精が、とか普通なかなか思わないだろうが。お前が銀河を震わせる歌い手になってくれて嬉しいよ」 「何よ、偉そうに」 「元芸人としては、素晴らしい芸人が育つのは嬉しいもんだよ。うらやましくもある」 アルトはシェリルの汗で頬に張り付いた髪をよけてやった。 「あら、殊勝ね」 「俺が立ち続けられなかった舞台だからな」 いたずらな瞳でシェリルがアルトを覗きこむ。 「未練がある?」 「眩しくはあるけど、後悔はないよ」 すっきりしとした笑顔で答えるアルトに、シェリルはふわりとほほ笑んだ。 「残念。あんたの芸は、私の人生を変えるくらいに、美しかったわ」 「初耳だな。そんなに傾倒してくれてたのか」 「あらやだ。…そうよ。あんたの舞を目標にずっと歌ってきたの。言ったでしょ。銀河を震わせてみせるって。」 シェリルがまっかになりながら、アルトの胸に顔を見られまいとうずめた。 「お前…」 なんという爆弾発言だ。 幼いころから自分の事を心にずっと留めていてくれたなんて。 そんなシェリルが愛しくて、アルトはぎゅっとそのまま抱きしめる。 身も心も全部俺のものって思っちまっていいのか? 緩む顔を引き締めながらも、ふと、シェリルの憧れを消し去ったことに思い至った。 「悪かったな。歌舞伎やめちまって…。でも…」 「いいの!」 きゅっとシェリルが顔を上げた。 「あなたにはあなたの舞台で舞ってほしいの。…バジュラへの舞は素晴らしかったわ」 「お前たちの歌も」 命を歌と舞に懸けたあの輝いた瞬間を二人は思う。 先ほどまで、埋めあっていた体を、ぎゅうっと抱きしめあって再び存在を確かめあう。 「でも、もうどこかに行ったりしないで」 「お前だって」 鼻先をくっつけるように瞳を覗き合う二人。 いつ何があって二人が離れ離れになるかわからない。 この離れ難い気持ちを何というのか。 「シェリル…愛してる」 あの空での別れを思いだし、シェリルの涙がこぼれた。 「バカァ」 整った顔が涙でくしゃりと歪むが、そんな顔が見れることが嬉しくてアルトはほほ笑む。 「愛してる。ずっと一緒にいてくれ」 「うん…」 誓い合う心を唇に込めて二人は重ね合った。 異なる星の元で生まれた二人の運命が再び重なりあい、これからも歩んでいく道に、祝福を。 おわり ありきたり、つまりみんなが思ってることってことで! おめでとう、シェリル!
https://w.atwiki.jp/macrossf-eparo/pages/94.html
551 名無しさん@ピンキー sage 2008/07/02(水) 21 28 45 ID SDK4D9At アルト×シェリルで投下 たまには朝寝もよろしかろうと 552 三千世界の鴉を殺し主と朝寝がしてみたい sage 2008/07/02(水) 21 30 28 ID SDK4D9At シェリルは目覚めた。 窓からカーテン越しに入ってくる光は朝の陽光。 かたわらを見るとアルトが仰臥している。 寝顔をじっくり堪能する。 (まつげ長い。これだけのアップに耐えられるハンサムって、そうは居ないわよね。ここまで近づくと、アップって言うより接写。 アジア風の目、魅力的。起きている時も、もう少し明るい表情だったら良いのに。いつもいつも、しかめっつらなんだから。 まっすぐな黒髪も素敵。今度、私もストレートパーマあててみようかしら? 腕の良い美容師も見つけたし。 髭は薄いのね…でも剃り残し発見) とりとめのない事を考えながら、肘をついてアルトの顔を見下ろす。 (肌が綺麗) シェリルは、アルトの肩に唇をよせた。アルトの肌に触れるのは大好きだ。 ついばむように唇を動かして、滑らかさを感じる。ほんの少し舌を出して舐める。 (ちょっとヘンタイっぽいかしら?) 掌をアルトの胸に当てる。抜けるように白いシェリルの肌と、薄い琥珀色のアルトの肌は完璧に調和していると思う。 時々、この腕に抱かれている自分を想像してしまう。仕事の合間、ポッカリと空いた待ち時間に空想を始めると、ついつい耽ってしまう。空想の内容は時にはエスカレートして、一人赤面していることもある。 (アルトが悪いんだから) 自分でも理不尽な感情だと思いながら腹立たしさをおぼえる。 (悪戯してやるわ) アルトの首筋にキスして、思いっきり吸う。 「ん……っ」 アルトは目覚めた。 胸の辺りが重い。首筋に何かが押し当てられている。 「シェリル…?」 「起きちゃった?」 顔をのぞきこんでくるシェリル。唇は濡れていた。 「あ、お前……やったな」 アルトは自分の首筋に手を当てた。湿った感触。多分、キスマークがついているだろう。 「ふふっ。たまにはシャツのボタン、一番上まできちんとかけてみたら?」 マークの位置は絶妙で、襟つきシャツでボタンをかければ見えない所だ。 「シェリルっ」 小さく叫ぶと、アルトはがばと起き上がり、シェリルを組み敷いた。 「あん……ダメよ。変な所につけたら、コンシーラーでごまかしてもメイクさんが見つけるわ」 「お前なぁ」 シェリルの芸能活動やプロ意識は尊重しているので、そう言われるとアルトも無理強いできない。 「そうね…」 シェリルはアルトの下からするりと抜け出すと、素肌を惜し気もなく朝の光にさらした。 「ここだったら、誰も見ないわ」 ベッドのヘッドボードにもたれかかると、すらりとした足を広げた。指で指し示したのは、太ももの付け根。 「やーめた」 ごろんとベッドの上に転がるアルト。シェリルの思い通りに事が運ぶのが気に入らない。 「ね……つけて、キスマーク」 とっておきの甘い声でねだる。 アルトは黙って体の向きを変えた。うつぶせになってシェリルの足の間に顔を寄せる。 「がう」 きめ細かい肌に歯を立てるが、歯形を付けるほどではない。 「…ん」 シェリルは体の底からこみ上げてくる感覚に背筋を振るわせた。 アルトの唇が強く押し付けられ、きつく吸われる。 「は……」 「…っ、と」 白い肌に赤い斑。一片の花弁のようにも見える。 「これで、いいか?」 上目づかいに見上げるアルト。視線を重ねたシェリルは、うなずいた。 「イイ…わ」 アルトはシェリルの太ももを抱え込むと、脚の間に唇を押し付けた。 「…っ……ダメ」 脚を閉じて抗おうとするものの、深く顔を埋められているので閉じきれない。 むしろ太ももで挟んで、アルトの唇を自分に強く押し付けるようになってしまう。 「んっ…」 敏感な突起をアルトの唇が挟んだ。包皮の上から愛撫をくわえる。 「はっ……ん」 シェリルは唇を噛んで声をこらえた。こらえきれない声が呻きとして漏れるたびに、背筋が震える。 すぐに中が潤ってきた。 アルトの指が入ってくる。EXギアの倍力機能を繊細に操る指が。 シェリルの体がベッドの上に崩れ落ちた。 慣れた指は感じやすい箇所を探り当て、ゆっくりと高めてゆく。 「あっ……ぁっ…ああああ」 一度声が出ると、抑えが利かない。 滴る程にあふれる蜜の音が朝の光の中、リズムを刻んだ。 それが耳に入ると、シェリルの羞恥を加速し、更に潤う。 「だ……めっ……い…く…っ」 指と唇で頂を迎える。 シーツに大きな波をつくりながら、しなやかな肢体が踊った。 <終>
https://w.atwiki.jp/macrossf-eparo/pages/150.html
104 :とあるパラレル 歌をなくしたローレライ:2008/12/06(土) 08 58 08 ID ZWmIVxGE おそらく人魚姫を下敷きにしたパラレル キャラ崩壊はおそらくあり 恋愛要素はアルト×シェリル 脇でミシェル×クラン エロ描写はほぼなし お察しの通り魔女はグレイス NGは名前欄のとあるパラレル 歌をなくしたローレライでよろしく ローレライとは――海妖である。 上半身は若くて美しい女性の姿をしており、下半身は魚のそれである。 穏やかな凪いだ海に生息し岩礁に美しい姿を現しては若い船員を惑わし、 さらにその歌声で人を惑わし、遭難、難破させる。 シェリルはローレライの中でも最も力のある歌声でいくつもの船を沈めてきた。 もちろん、歌声だけでなくその容姿だけで沈めた船もある。 今夜もシェリルは船のよく見える岩に上がって獲物を物色していた。 おりしもその日は満月。 明るい月の光に照らされてシェリルの肌がよりいっそう輝く。 「おいでなさい。私の腕で、殺してあげる」 歌うようにそう呟くとそれに呼応するように小さく、船の影が見える。 「今日の、獲物がきたわ」 シェリルの瞳が妖しく光る。 船の上では祝宴が行われていた。 王子の婚約が決まったのだ。 今夜は無礼講とばかりに、男も女も酒に耽り、溺れている。 そんな様子に嫌気がさして、アルトは主役でありながら宴を抜け出していたのだ。 暗い甲板に立つと空に満月が光り輝いている。 外も内もあまりに煌びやかでため息を一つ吐くと海をみる。 と、岩の上に人影が見えた。 「こんな所に、人?」 満月の光に照らされて、はっきりと見えるそれは女性のようだった。 ストロベリーブロンドの長い髪。 整った目鼻立ち。 その視線を向けられると吸い込まれてしまいそうな…… 一瞬呆けたアルトは正気を取り戻すとシェリルに向かって声をかける。 「おいアンタ、船から落ちたのか?」 救命具を、と船の上を探り始めたアルトの耳に不思議な音が流れ込んでくる。 「なんだこれ……」 甲板に膝をつき頭を振るが意識がはっきりしない。 それどころか思考がどんどん鈍くなっていく。 舵を失った船の底が岩礁に突き当たり、長い時間をかけて海の底に沈んでいった。 動くもののいなくなった海面をみつめてシェリルはため息を吐いた。 いつものような達成感も高揚感もない。 それが、なぜなのかシェリルにはわかっていた。 「あの人間……」 ぽつりと口に出す。 自分を恐がらなかった。 ……この尾びれが見えなかっただけかもしれない。 たぶん、助けようとしてくれた。 ……私を人間だと勘違いしたから。 私は船を沈めようとしていたのに。 一瞬こちらに伸ばされた手。 そのことが、どうしようもなくシェリルの心を揺らす。 海の生き物は棲む世界を映す鏡のように情が深い。 シェリルは一度月を見上げると思い切ったように海に飛び込んだ。 目指すものはすぐに見つかった。 偶然、自分を見つけて、手を伸ばした人間。 目立った傷もなく、気を失っている。 甲板にいたのが幸いしたのだろうか? そんなことを考えながら抱えて海岸に向かう。 浜辺に人間の体を押し上げると水を吐かせる。 人間は陸でしか生きられない。 なんて不便な生き物なのかしら! そう考えながらアルトの呼吸を確かめると薄く曇っていた空が晴れる。 月明かりに照らされて今まで手探りだったアルトの顔を見て驚いた。 海の世界にはこんなに美しい男はいなかった。 シェリルの種族は女性は美しいが男で顔の美しいものはいない。 白い肌、通った鼻筋、まっすぐで、長い髪。 今は閉じられている目が開けば瞳はどんな色をしているのだろう? そう考えてアルトに手を伸ばすが、目に入ったのはうろこの生えた自分の体。 上半身は人間の女などよりも美しい自信があった。 だがウェストから、なだらかなラインを描く尾びれは人間にはありえないものである。 『化け物』 そう罵られるかもしれない。 考えると急に恐ろしくなった。 満潮でも息ができる範囲にアルトの頭があるのを確認するとシェリルは暗い海へ姿を隠した。 海の底に帰ってもシェリルの心は静まらなかった。 心臓が熱く脈打っている。 瞼を閉じるとよぎるのはアルトの面影ばかり。 「どうしてあんな人間なんか……」 打ち消そうと言葉にしてみても心がそれに反発する。 ――会いたい。 理性が負けるまでに三日。 彼女は心の内で戦い通してそう結論を出した。 次は具体的にどうするか、よね。 相手は陸の生き物で海では生きられない。 私は海の生き物で陸では生きられない。 もう一度船を沈める? 「そんなこと、できない」 海の中ではあの人は生きていけない。 あの人を危険にさらす事なんてできない。 では海岸で? 「あの人が冷たい瞳で私を蔑むなんて耐えられない」 今までなんでも一番だった。 船を沈めた数も、人間を惑わした数も、歌声も。 誰にも負けないはずのシェリルはこの日初めて自分を呪った。 シェリルは海の中でもあまり人が寄り付かないとされる忌み者の洞窟の前にいた。 悩んで悩んで悩みまくった彼女は海の魔女に縋るしかない所まできていた。 もう一度会いたい。 会って、できれば恐がらずに、優しくしてほしい。 そのためには魔女が作れるという尾びれを人間の足に変えるという薬がどうしても欲しかったのだ。 彼女はこれまでのいきさつを魔女、グレイスに語った。 「それで?」 「だから薬が欲しいの」 伝わらなかったのかとシェリルがもう一度説明しようとするとグレイスがそれを手で制す。 「私が聞きたいのはその代償よ。それにあなたに薬を飲む覚悟があるかしら?」 「どういう、意味…?」 眉根にしわを寄せて怯むシェリル。 グレイスは鼻で笑うと水煙草を吹かした。 「薬に見合う対価は?」 煙をシェリルに吐きかける。 顔をしかめるとさも可笑しそうにグレイスが笑う。 「それにそんな魔法みたいな薬なんてないわ。陸地を一歩踏みしめるごとに地獄のような苦しみを味わう薬ならあるけど」 グレイスの高笑いが響く。 言葉を失うシェリルに一瞥くれるとグレイスはさらに言葉を重ねる。 「そうね、もしアンタがそれでも薬を欲しいと言うならアンタの声をもらうわ」 目の前が真っ暗になる衝撃。 暗闇の中でグレイスの唇が楽しそうに弧を描いた。 「歌は私の命……それを失えと言うのね?」 「そう、永遠にね」 あまりにも代償が大きすぎる。 ローレライにとって歌うことは人間が息をするように自然な、ごく当たり前のことで。 中でもシェリルは歌うことが大好きだった。 『だった』 一瞬で過去のことと思い切る。 シェリルは命と同じくらい、大事な声を、歌を、失う決意をした。 「その条件でいいわ。薬をちょうだい」 それほど、アルトに会いたかった。 会ったあと、海に帰ってからの生活の事なんて考えられなかった。 ただ、会わないではいられなかったのだ。 「馬鹿ね」 その決意をもグレイスは切って捨てる。 まっすぐに自分を見上げてくる瞳に宿った強い力。 後先考えない無鉄砲な若さ。 決まり悪げにシェリルから視線を外すと諦めたようにため息を吐く。 「所詮馬鹿の考える事なんて私には理解できないわね」 グレイスはシェリルの声を奪うと尾びれを人間の足に変える薬をくれた。 「いい?」 シェリルを前にグレイスが薬の説明をする。 「効力は次に月が満ちるまで」 神妙な面持ちでいようとするシェリルだが、薬が手に入ったことが嬉しくて仕方がない。 「さっきも言った通り、一歩陸地を踏みしめるごとに地獄のような激痛があるわ」 薬に頬擦りするようにして聞き流す。 それくらい、耐えてみせる。 「他には…」 グレイスは仕事はきっちりこなす魔女だった。 聞いていないシェリルを前に説明すると、棲み家から追い出した。 「せいぜい海の中で薬を使うのだけはやめなさいよね!」 グレイスに何を言われようが平気だった。 あの人に会える、それだけで、幸せだった。 シェリルは誇るべき肉体の持ち主だったが今は海の中で漂っていた人間の女物の服を身につけていた。 人間はこんなものを着て窮屈じゃないのかと思うが、その分アルトに近付いた気がしてそれすら嬉しい。 水面に上がり、浜につくと魔女の薬を飲む。 見る見るうちにうろこがなくなり、真珠のような肌の二本足になった。 すごい、と感嘆の声を上げたつもりのシェリルだったが、耳には寄せて返す波の音だけ。 ああ、声がなくなったんだっけ、と思いながら立ち上がろうとする。 瞬間。 恐ろしいほどの痛みが襲う。 声にならない悲鳴をあげ、その場に倒れ伏す。 顔を砂にまみれさせながら涙を零す。 這うだけで激痛が走る。 それでも体を起こそうとするがどうにもならない。 地獄のような苦しみ、か。 思わず納得してしまいそうな痛みに力がでない。 いつからそうしていたか、わからないほどの時間が経った。 砂浜に小さな黒い影が見えた。 人間がくる、と思ったシェリルの瞳が驚きに開かれる。 月明かりにみえた顔は、シェリルがどうしても見たいと思った人物。 砂浜に倒れているシェリルを見つけてのか、影がどんどん近付いてくる。 「どうした、溺れたのか?」 すぐ横に膝をついてアルトがシェリルを抱き起こす。 もう一度、会いたかった人の腕の中にいる。 化け物だなんて言われなかった。 心配、してくれている。 痛みすら忘れ果ててアルトに手を伸ばすとシェリルは意識を手放した。 アルトはため息を吐いた。 前の満月の晩に船ごと何もかもが海に沈み、親しいものも船に乗っていたものは誰一人助からなかった。 ただ一人、アルトだけが浜辺に打ち上げられていた。 隣に、誰かいた気がするが宴の途中で抜け出した以降のことは覚えていない。 医師のミハエルが言うには誰か応急処置をした者がいるのでは、と。 国の王子だったアルトを助けたのだ、褒美を取らせると触れを出しても名乗りを上げる者はいなかった。 それで、という訳ではないが夜に海岸を歩くのが習慣になった。 何をするでもなく、ただ月夜の浜辺を散歩するだけである。 「王子はまるで恋わずらいでもしてるようですな」 「からかうなよ、ミシェル!」 反射的にそう返して辺りを見回す。 「あ、ああ。ミハエルだったか」 「二人のときはミシェルでも結構ですよ、アルト王子」 恭しくかしこまりながらミハエルが返す。 二人は学友で年も近いこともあり仲がよかった。 「じゃあお前も嫌みったらしく王子とか呼ぶなよ」 「ではお言葉に甘えて」 そう言うとミシェルは隣に並んで月を眺める。 「アルトは海の精霊に魅入られたのかもな」 確かに、何かを見た気はするのだ。 「もしくは亡霊か」 少しおどけて見せるミシェル。 「今日も出かけるならあんまり遅くなるなよ。侍従長に叱られても知らんからな」 ミシェルはやめろ、とは言わない。 心配をかけていると思いながら日課になっている月夜の散歩に出かけた。 そして――彼女を拾ったのだ。 シェリルを拾ったアルト。 拾ったという言い方には御幣があるかも知れないが溺れたらしき女性が倒れていてそのままにしておけるわけもない。 声をかけても返事のない彼女の息を確かめると抱きかかえて城の自分の部屋に戻った。 体を拭く布をたくさん敷いた上にそっと横たえると医師のミハエルをそっと呼びに行く。 「はーこれまたえらく美人さんだな」 開口一番ミシェルにそう言わせるほど目を瞑っていてもわかる美しさをシェリルは備えていた。 昔は女遊びの激かったミシェルがそういうことを言うからにはそうなんだろうとアルトは思うが直視できない。 「ん、どうした?」 ミシェルが聞くと「服が水に濡れててエロいんだよ!」という返事。 「純情だねーえ」 軽口を叩きながらも診察をしていくミシェル。 背を向けながらもこちらの様子が気になるらしいアルトを散々からかいながら診察を終えると振り向いた。 「外傷はなし、骨折もしてないし、水は飲んでない。呼吸は安定しているから目が覚めれば大丈夫だろ」 「そ、そうか」 「あとは体を拭いて着替えさせて――は、王子にお願いしようか?」 ニヤニヤと笑いながらミシェルが小突くとアルトは部屋を出て行く。 「クラン呼んでくるからお前は診てろ!」 「おっかねー…」 「お前、寝てる女に手ぇ出すなよっ!」 クランというのはミシェルを黙らせる呪文のようなつもりだったが女手がいるのも確かなのでそのまま実行に移す。 城に仕えてくれているミシェルの先輩のようなもの、だとアルトは認識している。 「さてこのお嬢さんが吉とでるか凶とでるか」 一向に目の覚めないシェリルの身の回りの世話をクランとミシェルに頼んで部屋を出る。 目が覚めないことにはどうしようもないので城内にはまだ秘密にしてある。 素材がいいからと飾り立て、ドレスに包まれたシェリルはとても綺麗だった。 「でも俺は浜辺で見たときの方がいいかな」 ぽつりと洩らした言葉のせいでミシェルとクランが示し合わせたようにニヤリとしたのが忘れられない。 「あああ、なんか悔しい~」 その場にしゃがみこんで頭を抱えるアルト。 まあ綺麗は綺麗だったけど…いや、何を考えてるんだ俺は。 「よしっ!」 切り替えると歩き出す。 アルトの仕事はたくさんある。 満月の晩に乗っていた船には国王もいたのだ。 母親はずいぶん前に亡くした。 それと、まだ顔も見せてもらえなかった婚約者だった姫。 姫の家のしきたりで嫁ぐ日まで夫に顔は見せられないという話で―― 結婚するんだと決まっても正直よくわからなかった。 いつか好きになれたらいいな、とだけ。 実質国王のようなものだが王になるには王妃が必要なのでアルトはまだ王子のままだ。 アルトはもう一度頭を振ると仕事に向かった。 瞼が開かないままシェリルは誰かの声を聞いていた。 「この子、王子とくっつけばいいのに」 「アルトもまんざらでもなさそうだったよな」 「でも本当に綺麗な子……どこかのお姫様だったりして」 「そりゃ良縁だ。アルトも果報者だなあ」 誰…? あの人の声じゃない。 もう一度、意識を手放しかけたときに声が聞こえた。 「おーまーえーらー人を肴に盛り上がってんじゃねーよ」 あの人! 「まだ意識は戻らないみたいだ」 「彼女の着替えも調達しておいたぞ!」 「そうか……」 近くに人の気配。 「おっそのままチューか?チューするのか?」 「キャー王子ぃーお邪魔だったら外に出てるぞ!」 開け、開け…まぶたがこんなに重いものだったなんて知らなかったわ! 「頭でも打ったのか、と」 ぼんやりと、視界が開けてくる。 目の前に、あの人の顔。 見たかった瞳が驚いたように私をみつめている。 こんな色、だったんだ。 「起きた…のか?」 口が動く、声をかけてくれる。 それがどうしようもなく嬉しい。 「大丈夫か?」 体、は動かない。 でも腕は動く。 「え、あ?うわっ!」 腕を伸ばして首を捕らえる。 バランスを崩したあの人の体が与える重みも苦にならない。 「わーお、情熱的」 「ミシェル、お邪魔だから外に出てるか」 「そうだなー」 「おっ、お前ら助けろぉ~」 あの人の発する音が耳を震わせたあと、がさがさと音がして、静まり返る。 ここにはあの人と私の二人しかいない。 それがまた嬉しくて腕に力をこめる。 幸せだった。 薄情者ーと二人が出て行くのを見送ってアルトは頭をフル回転させた。 とりあえず密着している体をどうにかしようとするが彼女は離してくれない。 手を解こうとすると逆に縋り付いてくる。 「あの……ちょっと苦しい」 アルトが言うとすぐに手が離れた。 言葉は通じるのか。 そう考えながら体を起こそうとすると腕を引かれる。 「えーと……逃げないから」 そう言っても彼女はアルトの腕を離さない。 視線も、アルトから離さない。 「困ったな……」 妥協案として彼女が寝ているベッドの端に腰掛けることにする。 「俺はアルト。君の名前は?」 すると彼女は口を開けてからはっとしたように口を抑えた。 「名前、わからない?」 再度聞くと首を傾げる。 おかしいな、と思いながらアルトは口を開く。 「じゃあ、合ってたらこうして頷いて、違ったらこう、首を振ってはできる?」 動作を交えてゆっくり話すと彼女はにっこり笑って頷いた。 「名前は、わかる?」 頷く。 「名前は言える?」 首を振る。 「どうして言えないか…は二択じゃないな」 困っているアルトを嬉しげにみつめるシェリル。 誓ってアルトが困っているから嬉しいのではないのだとは言えない。 向き会って、同じ空間を共有して、自分のことを考えてくれるから。 だから、嬉しい。 「あ、もしかして声が出ない?」 頷く。 「声が出ないのか…ってこれミシェルがやるべきじゃないのか?」 自分よりも医者がいいだろうと立ち上がろうとするアルトの手をシェリルが捕らえる。 アルトの指の間にシェリルが指を挟み、二人で手を組むようにする。 異性にそんなことをされた経験のないアルトは驚くが、シェリルは離さない。 「医者を、呼ぶだけだから……その、離して欲しい」 言うと首を振る。 「あーもう、ミシェルいるんだろ!早く出てこい」 しびれを切らしたアルトが叫んでからミシェルが姿を現すまではしばらくを要する。 「何で隣の部屋にいるはずなのにこんなに時間がかかるんだ?」 苛々しながらアルトが言うがミシェルはどこ吹く風である。 「いや、聞こえなかったからさ。しかしだいぶ仲がよさそうだねえ。お邪魔かな?」 話しかけてもシェリルはアルトに熱い視線を注いでいる上に見れば手まで繋いでいる。 「俺ももっとゆっくりしてこればよかったなあ」 わざとらしくため息を吐くミシェルにアルトの堪忍袋の緒が切れかける。 人命救助優先、人命救助優先そう唱えるようにして無理矢理自分を落ち着かせるとミシェルに違和感を感じる。 「お前……腰帯は?」 先程までつけていたはずの腰帯が一つ足りない。 「さあ、お姫様の診察を始めようか」 なんだか釈然としないが打って変わってやる気になったミシェルに任せようとするとシェリルの手が震えている。 どうしたのかとアルトがシェリルの方を向くと自分の背に隠れるようにして青い顔をしているシェリル。 「あ、ダメ?」 近付こうとしていたミシェルが動きを止める。 「あの、こいつは医者で、俺の友達なんだけど……」 シェリルが大きく首を振る。 ふむ、とミシェルが頷いて隣に声をかける。 「クラン、いいかー?」 「わかった、すぐ行く」 しばらくして部屋に入ってきたクランが近付こうとしてもシェリルは首を振る。 「だめか」 シェリルはただ大きな瞳に真珠のような涙をためてアルトをみつめている。 「嫌われたかな…」 ミシェルがそう呟くのを受けてアルトがミシェルを指差す。 「あれ、嫌い?」 大きく頷くシェリル。 「ク、クランもダメかなあ?」 ミシェルが聞くがシェリルはアルトをみつめたまま動かない。 もしかして、と思いながらアルトがクランを指差す。 「あれも、嫌い?」 再び大きく頷くシェリル。 「アルト、お前にしか反応しないわ、このお姫様」 「王子……どこで攫ってきたんだ?」 「おっ俺は何も知らん!」 向けられる疑いのまなざし×2。 「本当だぞ!!…なあ?」 シェリルに視線を向けると嬉しげにみつめ返してくる。 固まったアルトを見てクランとミシェルは少し笑うと口を開く。 「「じゃあ刷り込み?」」 「ヒヨコか!」 ハモった二人にツッコミを入れるとアルトは肩に重みを感じた。 「おー寝てますな」 「寝てるな」 「声が出ないだけで特に問題はないようだから今日は解散で」 「ちょっと待てぇ!どこに問題がないんだ!」 叫ぶアルトをよそに二人は部屋を出ようとしている。 「このあとクランの部屋行っていー?」 「しょ、しょうがないな!」 本気で自分を蚊帳の外に置いた会話を始めた二人の背に声をかける。 「じゃあ今日はもういいから、この手をはがすのだけ手伝ってくれ…ください」 少し赤くなるくらいに跡がついた手を漸くはがしてもらい、クランにシェリルのベッドを整えてもらう。 「おー色男だねえ。懐かれたな」 「初対面だ。……たぶん」 力なく添えられた『たぶん』を聞き逃してくれるミシェルではなかった。 「何か知っているのか?」 「いや、何しろ何もかも聞く前に終わったからな……疲れた」 「そうか。じゃあゆっくり休めよ」 二人が出て行くと窓から覗く月を見上げるアルト。 「そういえば、今夜は海岸に行かなかったな……」 そう呟いて、アルトは眠りに落ちた。 「あの足は靴を履きなれた、よく歩く足ではない気がするのだ!」 そのクランの発言でどこかのお嬢様や他国の姫の行方不明がないか秘密裏に捜索することになったが成果はなかった。 数日が経ち、ミシェルとクランが身の回りにいることにシェリルが慣れた頃。 一つの問題があがっていた。 シェリルをどうするか。 このまま置いていていいものかと思うが、起きているときはアルトから離れたがらない。 今のところクランとミシェルがうまく隠しているが見つからないとも限らない。 アルトに早く結婚し即位してもらいたい家臣に見つかれば即お妃にとなりかねない。 「嫁にもらっちゃえばいいのにー」 「なあ」 うっかりどころか積極的に手を滑らせそうな二人にアルトは消耗していた。 「疲れた」 自室で一人寝転びながら呟く。 彼女が嫌いなわけじゃない。 言葉にされたことはないが、好かれているのだと感じる。 でも即位するために、女性を道具にすることはおかしいと思う。 他人に強制されてするには…そこまで考えて、波の音に混じって何かを引き摺るような音に気付く。 「姫?」 名前はわからないし文字もかけないということでシェリルのことを三人の間では便宜上姫と呼ぶことにしていた。 こんな夜中に何も言わずここを訪れる人は他にいない。 その上、彼女はどこが悪いのかさっぱりわからないが立って歩くことに非常な痛みを感じるらしいのだ。 アルトはシェリルを迎えに行こうと立ち上がる。 音のする方に向かうとゆっくりと、シェリルが歩いてくるところだった。 痛みをこらえているらしく、額には汗がにじみ、目尻は光っている。 それが、アルトを認めた瞬間、喜びの色に変わる。 不意に先日歩く練習をしているところを通りがかったときに言われたことを思い出した。 『お前がいるのに気付いたときのお姫様の表情の変化にグっとこないのか?』 まあそんなことを言ったミシェルはクランに思いっきり足を踏まれていたわけだが。 確かにこれは――と思った瞬間、胸に衝撃を感じる。 シェリルがアルトのところまで辿り着いたのだ。 抱きついて見上げてくるシェリル。 「よく、頑張ったな」 アルトはシェリルを抱え上げると椅子に座らせた。 シェリルはアルトの腕の中にいるときは、苦痛を感じない。 苦痛を忘れるのではなく、本当に感じないのだ。 実際クランに抱えて運んでもらったときは自分の足で歩かなくとも痛みはあった。 アルトの腕の中では苦痛を感じることがない。 そのことが自分にとってアルトは特別なのだと、より強くシェリルに思わせた。 二人の間に会話はない。 ただ、シェリルが一方的にアルトをみつめて、アルトが困ったように視線を逸らす。 王子だから、他人に見られることには慣れていた、はずなのに。 目に焼きつきそうなくらい、熱心にみつめられるからなのか。 それとも――? アルトが口を開くと、というか動くとシェリルはより喜ぶ。 まあ、見ているだけでも喜ぶのだが、それがくすぐったくてアルトは困る。 「俺のこと、知ってるのか?」 何度も聞いた質問。 首は、大きく縦に振られる。 どこで見た?会ったことがあるのか?話したことは? 聞いてみたけどシェリルには答えられない。 アルトには覚えがない。 手を伸ばすシェリルに応えて手を出すと大事なものを包むように優しく触れられる。 シェリルの熱が、じわりとアルトに移る。 祈るように、少しだけ力を入れるとアルトを覗き込むシェリル。 二人の間には波の音しか聞こえない。 けれどその熱から、何かが伝わる気がした。 何か言おうと息を吸うシェリル。 だがその言葉が声になることはない。 それでも、シェリルは口を動かす。 『アルト好きよ。アルトが好き』 名前を、音にできなくても呼べるのが嬉しい。 何度も繰り返し、愛を告げて、名前を呼ぶ。 伝わらなくてもいい。 だけど、伝わったらもっといい。 会いたいだけのはずだったのに、その欲求が満たされるとより強い欲求が生まれる。 自分の欲の深さも陸から見る海のように底が見えないのかもしれない。 そんなことを微かに考えながらシェリルはアルトをみつめ続ける。 アルトの喉が動き、音になりかけた言葉が消える。 どうしたのか、とシェリルがアルトを心配そうに覗き込む。 「俺のこと、――好きなのか?」 ためらいがちに、そう発せられた言葉にシェリルは射抜かれた気がした。 伝わらなくても、と思ったのに伝わった。 それが嬉しくて涙が出る。 返事をしなくては、と硬直した体に鞭打つように思いっきり首を縦に振る。 何度も、何度も。 「そうか。俺も嫌いじゃないよ」 アルトの言葉に涙を零すシェリルを綺麗だと思った。 嫌いじゃない、というのは本当だ。 それでも好きなのか、と聞かれると困る。 ただ、不思議な引力を感じた。 前にも体験したことがあるような、不思議な引力。 ふと気付くと泣き疲れたのかシェリルが微かな寝息を立てている。 「不思議なやつ…」 そう呟くとシェリルのベッドまで運ぶと彼女の世話をクランに頼んだ。 ある晩シェリルが目を覚ますと男の声が聞こえた。 アルトじゃない、これは…? シェリルは薬の効力か、太陽のせいかあまり長い間起きていられないようだった。 水の中で暮らしていたからか人間の体になってからは少し体が熱い。 「あいつがお前のお手つきになったんじゃないかって噂になってる」 「はあ?!」 あ、アルトの声。 「俺は事情を知ってるが、毎晩呼べば噂にものぼるだろ」 いつも世話をしてくれている男とアルトが話しているようだ。 「クランをお前のお妃にって話も、もう出てきてる」 「そんな!」 クランというのはいつも世話をしてくれる小柄な女のことだったはずだ。 それが、お妃? 「誰でもいいから結婚してくれよ、とまでは言わないがあいつの立場も考えてくれ」 そのあとはもうよく聞こえなかった。 シェリルの耳が聞くことを拒否したのだ。 アルトが他の人間と結ばれる…? 嫌だ。 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。 そんなこと、許さない。 だけど、自分は海の生き物で、アルトは陸の生き物。 陸で生きられない私と海で生きられないアルト。 うまくなんて、いくはずがない。 私は多くを望み過ぎた。 幸せだったから。 最初は、会いたかっただけだったじゃない。 それは叶ったじゃない。 諦めるしか、ない。 外を見れば月は円に近い。 もうすぐ、薬の効力が切れる。 私は、海に還ろう。 ベッドで人知れずシェリルが涙を流していた頃。 アルトは一人悩んでいた。 「俺は王子だから結婚しなくちゃいけない、か」 しかも今、国には国王不在である。 婚約者も亡くした身であるからはっきりとは言わないが家臣たちはアルトに身を固めてもらいたがっている。 わからない話ではない。 一度は、婚約者がいたのだ。 即位して国を治めるには妃が必要だ。 そのために周りから固めようと両方と親しいミシェルにどうだろうと打診がいったというのだ。 最近、よくお召しになっているが二人は男女の仲か、と。 「しかしミシェルとクランがなあ……」 女遊びが止んだのはそのせいらしい。 どんな顔でクランは俺の女だと叫んだのか見てみたかった気もする。 少し笑うが、問題は何も解決していない。 ふと顔を上げると月明かりに照らされたシェリルに気付く。 「ああ、姫。ちょっと聞いてくれよ」 いつものように抱き上げて長椅子に座らせ、先程の話をする。 「そういう訳でクランはしばらく来れなくなったから他の方法を考えるよ」 優しい、声。 その声で、他の女の名前を呼ばないで。 私を、見て。 私だけを。 「でも、その……」 隣に座っていたアルトの口をシェリルが手のひらで塞ぐ。 シェリルがアルトと距離を置きたがらないので二人の距離は以前よりずっと近くなっていた。 手を伸ばせば、簡単に触れられるほど。 喋らないでと言うように首を振るとシェリルはアルトの手を取った。 すっとその手をシェリルは自分の頬に触れさせる。 うっとりと、目を閉じるシェリル。 アルトの頬に血が上る。 今までだって頬擦りだって抱きしめられたりだって、した。 それとは、違う。 ゆっくりとまぶたを上げたシェリルの瞳にははっきりとわかる欲情の色が浮かんでいた。 『あのお姫様を妃にもらうのだってありなんじゃないか?』 そう、去り際にミシェルが言ったことを思い出した。 唇に熱を感じる。 体の上に自分より少し高い彼女の体温。 ぎこちなく、舌がアルトの唇をなぞる。 押し倒されたのだと気付いたのは後頭部が長椅子に当たってからである。 角度を変えて、息をする間もなく何度も口付けられる。 と、アルトの顔が見る見る赤くなる。 酸欠である。 息の長いシェリルの口付けはアルトから鼻で息をするという思考を奪った。 アルトが尋常じゃなくもがくのを見てシェリルはやっと唇を離す。 名残惜し気に唇をなぞるシェリルの指にアルトの背中を何かが走りぬけた。 なんだ…今の? 荒く息を吐きながらとりあえずシェリルを自分の上から退けようとするが動かない。 アルトの体に力が入らないこともあるが、見た目は人間でも、シェリルは海妖である。 力は、それなりに強い。 私、アルトが好き。 全身でそう訴えるシェリルにアルトは気圧される。 言葉にされたわけでもないのに頭に血が上る。 「は、話を…」 しよう、と言おうとした口をまた塞がれる。 今度はアルトの息を気遣ってか、啄ばむような軽いキス。 それを顔中に降らせる。 いつも一つにまとめている髪紐を解かれてアルトの髪が広がる。 その感触を楽しむように髪に手を入れてより深く口付けようとするシェリル。 「ま、待てって!」 唇と唇の間に手を差し入れると、手のひらに唇が押し付けられる。 『お願い』 そう言うように。 何度も。 手のひらに口付けるのは懇願だというのはどこの風習だったか。 それでもこれをはっきりさせないことにはどうにもすすめない。 息を整えると頭を振る。 「俺と、その…子作りしたいのか?」 他の言い回しはシェリルが理解しなかったのでストレートに聞いてみる。 微笑んで、頷くシェリル。 「帰らなくて、いいのか?」 シェリルは何も答えず、アルトの胸にもたれかかる。 アルトはそれを肯定と受け取った。 シェリルを抱えて、自分のベッドにそっと降ろす。 自分の着ているものをアルトの手で剥ぎ取られる。 アルトの手で本来の自分の姿にされるのは少し誇らしい気持ちもある。 同じように、アルトの服にシェリルは手をかける。 お互いにあらわになっていく肌に息を呑む。 「いいか?」 アルトの問いに、ただ頷く。 シェリルは人間がどうやって交尾するのか知らない。 覆いかぶさってくるアルトを、ただ受け入れる。 二人の間に布一枚ないというのはこんなに幸せなのだ。 シェリルのストロベリーブロンドとアルトの青い髪が、混ざる。 月明かりに映るアルトはやはり綺麗だと思った。 相手の瞳に映る自分を見つけて、お互いに笑いあう。 ただ、早く、早く。 シェリルは急かした。 彼女には時間がなかった。 慣れない下半身への進入はかなりの苦痛を彼女にもたらした。 だがそれでもシェリルはアルトを求めた。 痛みさえ、刻み込むように。 精を注がれて果て、倒れ込むとほぼ同時にシェリルはアルトの重みを感じる。 息を整え、そのまま二人で手を繋いで眠った。 目が覚めると横にはアルトが寝ている。 みつめていると目を覚まして微笑む。 「おはよう」 それを受けてシェリルが笑う。 少し、気恥ずかしい気がして二人で笑いあった。 夜明けまでに間がある。 月が沈まないうちに。 シェリルはアルトに脱がされた服を拾うと身につける。 「どうした?どこか、行くのか?」 アルトが服を身につけながら聞く。 こくん、と頷くとシェリルは窓の外を指した。 外には暗い海が広がっている。 「海?」 もう一度頷くとシェリルは背中を向ける。 「どこか行くなら、俺が連れてってやるよ」 後ろからシェリルを抱きかかえるとアルトは城を抜け出した。 波打ち際を歩きながら月を探すシェリル。 よかった、まだ消えてない。 月が空から消えるまでに、太陽が顔を出す前に戻らなければ。 でも、この時間がずっと続けばいいのに。 終わらなければいいのに。 そう、思いながら。 二人で暗い海をみつめる。 「あの、昨日の話だけど」 アルトが視線を海からシェリルに戻し、言葉を紡ぐ。 「俺、俺と――」 途中で、遮るようにシェリルが口付ける。 空が、明けようとしている。 時間だ。 アルトの腕を振り解くと、沖に向かう。 海に腰まで浸かるとあっという間に海に潜った。 「おい!!」 それを追いかけて海に飛び込むアルト。 シェリルはすぐに見つかった。 こちらを見上げ、波間に広がるストロベリーブロンドの髪。 白い肩、腰。 視線を降ろすとそこには二本の足ではなく、海を泳ぐための尾びれがあった。 驚いて動きを止めたアルトの方を一度振り返るとシェリルは暗い海の底に見えなくなった。 「さよなら、アルト」 聞こえないはずの声が、聞こえた気がした。 それから、アルトは何も言わなかった。 ずぶぬれのまま城に帰り、いつも通りの仕事をした。 ただ、黙ってシェリルがいた間止んでいた夜の散歩をその夜から再開した。 「お姫様、いなくなっちゃったんだな」 「今回の恋煩いは本格的かもしれないな」 毎晩、闇に消えていくアルトの背中を見て、二人はため息をついた。 そしてアルトは思い出したのだ。 あの、沈没した船の甲板で、ローレライを見たこと。 不思議な引力を感じたこと。 慌てて声をかけたが、聞いたことのない音で、気を失ったこと。 気がつけば城でミシェルの手当てを受けていた。 それまでの記憶はない。 ただ、誰かがそばにいてくれたような気がしていた。 今にして思えば、それはおそらく…… 「姫」 欠けて行く月を見上げてシェリルを想った。 「来ると思ったわ」 シェリルは幾度か、日が昇って、月が出るのを見た。 海の生活には不満も苦痛もない。 その代わり、喜びもない。 歌も声も失くしたことを悔やんではいない。 ただ、あの人が、アルトがいない。 それだけでこんなに世界が色褪せるだなんて知らなかった。 シェリルが来るのを待ち構えていたようにグレイスが短剣を取り出す。 「この短剣をあげる」 囁かれた言葉の意味を知ろうとグレイスをみる。 「王子のことを忘れたいなら、あなたが王子を殺すしかないわ」 アルトを、殺す……? 「放っておけば必ず人間の女と結婚するのよ。お前のものにならない王子なんて殺しておしまいなさい」 私のものにならないなら、いっそ…? 銀色に鈍く光る剣をグレイスが弄ぶ。 「ただし、日が昇るまでにお前が王子を殺せなかったら海の泡になって消える」 シェリルに視線を寄越すと卓の上に短剣を置いた。 「それでもいいならこの剣を取りなさい」 震える手で、シェリルはその剣を掴んだ。 あの日と、同じように人間の服を身につけ、海岸で薬を飲む。 同じような苦痛。 同じような月。 なのに私の気持ちはどうして変わってしまったんだろう。 私のものにならないなら、アルトを殺す。 もう戻らないと思った城に足を踏み入れる。 あの日、アルトと共に抜け出した通路の逆を歩く。 誰にも会うことなく、アルトの部屋についた。 アルトはあの日のベッドに横たわっていた。 久しぶりに見るアルトは少しやつれたかもしれない。 思わず手を伸ばすとその手を取られる。 アルトは眠っていなかった。 「その剣。――俺を殺しにきたのか?」 首を振っても無駄だった。 さっき、アルトの顔を見るまではそう、思っていた。 「いいよ。ローレライは海に魅せられた男の生命を飲み込むものだ」 薄く笑うとベッドに身を投げ出すアルト。 知ってたの…それでも、それを知ってもあなたは奪っていいと言うの? シェリルの瞳から涙がこぼれる。 手から短剣が滑り落ちた。 床に当たって、鈍い音を立てる。 黙っていれば他の女のものになるとわかっていても、目の前にするとどうしようもなく愛しさが溢れた。 目を閉じているアルトに唇を落とす。 振り下ろされるはずの短剣の代わりに、冷たい唇が押し当てられる。 アルトは濡れるのも構わずシェリルを抱きしめた。 熱を重ねて、さらに離れ難くなった。 「今度は、帰さない。それでもいいか?」 シェリルは頷いて、アルトの首に腕を回す。 消えて、無くなってしまうその瞬間まで、アルトの腕の中にいたかった。 「相手のためにはどうなってもいいだなんて馬鹿らしいわ」 グレイスは呟く。 「私には理解できない」 真実の愛、とやらがあればシェリルは消えない。 そのときに消えるのはグレイスの渡した短剣だけ。 もしもそれまでに殺していれば王子の命は戻らない。 「別に……どっちでもいいけど」 言って酒を煽る。 ゆっくりと昇り始めた太陽がアルトとシェリル、二人を照らしていた。 終**
https://w.atwiki.jp/macrossf-eparo/pages/19.html
272 名無しさん@ピンキー sage 2008/05/13(火) 14 11 27 ID au4zqrcN アルトは一人静かに、脚本を読み込んでいた。 「ハイ、アルト」 声に視線を上げると、シェリルの姿が。 「何を読んでいるの?」 黙って、脚本の表紙を見せる。 「映画のホン?」 「スタントを引き受けたんだ」 「学生だったり、軍人だったり、忙しいのね。見せて」 シェリルは有無を言わせずアルトから脚本を取り上げて、ページを開いた。 「ふーん、付箋がついているのがアルトの出番ね」 軽やかな動作でアルトの隣に座る。 「なにこれ、キスシーンがあるじゃない」 「えっ」 そこまで脚本を読み込んでなかったアルトは、少し驚いてシェリルの手元を見た。 「相手の女優さんは誰?」 「ランカ……そうか、それで顔を赤くしてたんだ」 「かわいい」 シェリルはくすっと笑って、顔を赤らめているランカを思い浮かべた。 そして、じろりとアルトの横顔を見る。 「ちゃんと、できるの?」 からかうようなシェリルの声に憮然と答えるアルト。 「できるさ、キスぐらい」 「だめね、判ってないわ」 処置無しとばかりに首を横に振るシェリル。 「何が?」 「心配なのはランカちゃんよ。 アルトは舞台経験もあるし、無神経だから心配してないけど。 ランカちゃんにしてみたら仕事だけど、仮にもアルトとのキスよ。 きっとガチガチになるわ」 「俺とランカはなんでもない」 アルトが言い返すと、間髪入れずにシェリルに頬をつねられた。 「アルトの気持ちをきいてるんじゃなくて、ランカちゃんの気持ちが問題なのよ。 もう、運動神経いいし、顔もいいけど、絶望的なまでに無神経なんだから」 「無神経無神経って連呼するな」 「じゃあ、鈍感って言ってあげるわ。キスって、いろいろあるでしょ? 子供同士の無邪気なキスとか、家族同士のキスとか、 初恋の相手とぎこちないキス、大人同士の求め合うキス。 相手の気持ちをわかった上で、引っ込み思案のランカちゃんを リードしてあげないといけないのよ。 ただ、唇をくっつければいい、って言う訳にはいかないわ」 「ぐっ…ぅ……」 アルトは唸った。 (そう言えば、親父に怒鳴られたことがあったな。 舞台は自分一人で成り立ってるんじゃない。もっと相方の動きを見ろって…) 「ようやく分かってきたみたいね」 シェリルは微笑んでアルトの顔を見た。指導教官のように、重々しく言い渡す。 「練習しなさい」 「練習って……」 「ここに練習相手がいるわよ、銀河で最高の」 「!……お前、マジかよ?」 「お仕事の話は、いつだって真面目よ。ほら」 シェリルが顔をアルトに向け、瞼を閉じた。 アルトは、からかわれているんじゃないかと一瞬いぶかったが、 つややかな唇に誘われるように目を閉じて唇を重ねた。 「…ん」 吐息が妖精の唇から漏れる。 しっとりとした柔らかい唇。 甘い香り。 アルトは、ためらいがちに唇を離した。 「今のキスは、どんなキス?」 うっすらと瞼を開いたシェリルの声は、いつも以上に心に響く。 「ファーストキス、かな」 「ふふっ、いいわ、合格にしてあげる。じゃ、次は家族同士の挨拶のキス」 指示されると、かつて舞台の上で味わった緊張感を思い出した。 想像力をかき立て、今までの経験の仲からふさわしいシーンを頭に思い描く。 朝のダイニング。朝食を食べて、行ってきますのキス。 アルトは心持ち上体を離した。首だけをのばして、唇を合わせ、すぐに離す。 「……さすがに役に入り込むのが早いわ」 批評するシェリルの頬が上気している。 「次はどんなシチュエーションにしようかしら?」 「大人のキス」 短くつぶやいて、アルトは手を延ばしシェリルの細い腰を抱き寄せた。 「…っ」 驚きの声を上げようとする唇を唇で塞ぐ。 シェリルの手のひらがアルトの胸に当てられ、反射的に突き放そうとする。 その力に逆らって、唇を合わせながら顔の角度を変えて、 濃密な口づけを求める。 「あ…」 くぐもった声を漏らしたシェリルの唇。その隙間に舌を滑り込ませる。 舌先がシェリルの舌に触れると、一瞬シェリルの体が固くなる。 固くなったからだがほどけたと思った瞬間、 シェリルは腕をアルトの首にまわして引き寄せた。 「……んんぅっ」 積極的に舌を絡め始めるシェリル。 胸を合わせて、体を押し付け合う。 ため息と温もりを交換する。 どれほどの時間が過ぎただろうか。 どちらからともなく唇を離して、見つめ合う。 「今日は…ここまで……よ」 息をわずかに弾ませてシェリルが告げた。 「合格か?」 アルトの言葉に、シェリルは立ち上がってから少しだけ振り返った。 「ナイショ」 そして振り返らずにその場を去った。 アルトから見えなくなったところで、そっと指で唇に触れる。 唇は微笑みの形になっていた。 「お先に、ランカちゃん」 http //anime3.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1210486839/519 これみて、ヤキモチを妬くシェリルを見たくなったので書いてみました ヤキモチって言っても、シェリルならストレートに表現しないかと
https://w.atwiki.jp/macross-lily/pages/54.html
用意された控え室で衣装に着替えたシェリルは、撮影セットでランカと顔を合わせた。 以前、美星学園で束の間同級生であった時間を思い出させるような、制服風の姿。 それがどこか気恥ずかしくて、どちらからともなく笑い出す。 「何だか不思議な気分ね。こんな格好で並ぶ時が来るなんて」 「そうですね。でも嬉しいです!」 「ランカちゃん。それ、何回目の『嬉しい』かしら?」 「だって嬉しいんですもん!」 そもそも、2人で正式にデュエット曲を歌う、と決まった時からずっと、 ランカは事あるごとに、「嬉しい」と口にしていた。 「一緒に歌えて嬉しい」 「一緒に練習できて嬉しい」 「一緒に舞台に立てて嬉しい」 素直に喜ぶランカが可愛くて、シェリルは自然とその頭を撫でる。 「美星の制服も似合っていたけど。その服も似合っているわね」 「ありがとうございます! 私、シェリルさんとまたお揃いの服を着られると思うと嬉しくて……あれ?」 「どうしたの?」 「お揃い……じゃない?」 ランカが、自分の衣装とシェリルの衣装を交互に指差す。 改めてみると、2人の衣装は似ているようで違う点が多かった。 1つのイメージを元に作られた筈で、一目みればお揃いだいう印象を受けるのだが、 よくよく見ると、それぞれの雰囲気に合わせてか、異なる部分が少なくない。 「そうみたいね。リボンとネクタイ。上着の裾も違うし」 「……そんなぁ。お揃いだって聞いて、楽しみにしてたのに」 「でも、基本は同じなんでしょう? 衣装って、着る人の個性を強調するっていう一面もあるから、 それを考慮しての変更なんじゃないかしら?」 「お仕事だっていうのは、分かるんですけど……」 シェリルの言い分に、間違いはない。 それはランカも理解しているだろうが、期待を裏切られた感は否めないらしい。 つい先程まで、「嬉しい」とはしゃいでいたというのに、 今は、大袈裟な位に肩を落としてしまっている。 「この位で落ち込まないの。これから一緒に撮影なのよ? ジャケットに2人で映れるなんて嬉しいって、貴女言ってたじゃない?」 「は、はい! それは嬉しいです! 大好きなシェリルさんと、こんなに長い間一緒にいられるの、初めてですし」 「……だったら、そんな顔しないで。もっと笑って?」 「そ、そうですよね」 ランカは頷くが、そうして浮かべた笑顔は普段のそれよりややぎこちない。 それに気付いたシェリルは、心の内で全くこの子は、と呟いた。 「大好きなシェリルさん」と簡単に口にするほど大胆なのかと思えば、 こんな些細な事で、気を落としてしまう。 それら全てが、シェリルを思う気持ちから来るのは、シェリル自身もう知っていた。 だから、放っておけない。 シェリルは黙ってランカの横に並ぶと、その手をとって、指先を絡めた。 急な密着に驚いたのか、ランカのふわふわよく動く髪の毛が飛び上がる。 「シェリルさん!?」 「ジャケット、このポーズでとりましょう?」 「え、ええ?」 「衣装が少し違うくらい、なぁに? 服のデザインが多少違っても、私達の心は一緒なんだから。 それを、こうして見せ付けてやればいいだけの話よ」 片目を瞑りながら言うと、ランカがようやく、心からの笑みを見せる。 その笑顔に、シェリルの心も弾んだ。 ランカがシェリルに関わる事で気持ちを上下させるように。 シェリルもまた、ランカによって気持ちを左右されてしまうのだ。 それは、つまり。 「えへへ……嬉しいです。 普通に手を繋ぐより、もっとシェリルさんに近づいてる感じで」 「あら。じゃあ、もっと喜ばせてあげようかしら?」 「え、もっと?」 「私も大好きよ、ランカちゃん」 そういう事、だ。 シェリルの言葉に、ランカは最早「嬉しい」とも言えず、ただ顔を赤くしている。 やがて2人は視線を交わすと、セットの中へと歩き出した。
https://w.atwiki.jp/macrossf-eparo/pages/86.html
330 名無しさん@ピンキー sage 2008/06/21(土) 15 55 09 ID 0OsfIBiy アルト×シェリルで投下 コスプレエッチでGo! 331 死せる美姫 sage 2008/06/21(土) 15 56 45 ID 0OsfIBiy 映画監督ジョージ山森は、早乙女アルトという役者と出会って、触発されるものがあったらしい。 歌舞伎に復帰したアルトをかきくどき、実験的な短編映画で主演することを承諾させた。 映画のタイトルは『廃都』。 映画は、どことも、いつの時代とも知れぬ荒野を行く旅人のシーンから始まった。 馬に乗り、七弦の楽器をかき鳴らす。 音楽は聞こえるものの歌詞は聞こえず、画面に文字が浮かび上がる。 ああ、全く、休み場所でもあったらいいに、 この長旅に終点があったらいいに。 千万年をへたときに土の中から 草のように芽をふくのぞみがあったらいいに! 旅人の行く手を遮る砂塵の中から、おぼろげに浮かび上がってくる古代の遺跡。 人間の男の頭、牛の胴体、鷲の翼を背にした奇怪な彫像が二体、互いに向かい合って聳え立つ。 かつての都の大門でもあったろうか。 旅人は好奇心の赴くまま、彫像の間を通って遺跡に足を踏み入れる。 一編の詩が画面に浮かび上がる。 ああ、掌中の珠も砕けて散ったか。 血まみれの肺腑は落ちた、死魔の足下。 あの世から帰った人はなし、きく由もない―― 世の旅人はどこへ行ったか、どうなったか? 大門から通じる都の大路は荒れ果てていたものの、広く、往時の栄華をしのばせるには十分だった。 うずたかく積み上げられた瓦礫。 屋根が落ちて壁だけになった家々。 そうしたものの中をさまよいながら、旅人はいつしか墓地に足を踏み入れていた。 さまざまな形の墓碑に忘れ去られた文字で銘が刻まれている。 旅人は、とある霊廟の前で足を止めた。 白い大理石に繊細な装飾を刻んで作り上げられた霊廟は、その主が女性であることを思わせる。 だが、その表面には葉も花もない、枯れた蔦が執拗に絡み付いていた。 灼熱の太陽も西へと傾き、霊廟の彫刻に陰影を添える。 画面に浮かぶ一編の詩。 地の表にある一塊の土だっても、 かつては輝く日の面、星の額であったろう。 袖の上の埃を払うにも静かにしよう、 それとても花の乙女の変え姿よ。 旅人の奏でる楽の音に蔦が応じた。 ワサワサと乾いた音を立ててうごめき、霊廟の扉が開く。 中から現れたのは異国の美姫。 染めに織り、技巧の限りを尽くした服をまとい、歩くたびに黄金の装身具がチリチリと涼やかな音を立てる。 切れ長の目元から旅人へと注がれる眼差しは、悲しみの色を帯びている。 美姫は裳裾を翻し、緩やかに舞い始めた。 たたーん、たたーん、舞の足音が独特の拍子を刻む。 画面に浮かぶ一編の詩。 幽蘭の露 啼ける眼の如し 物の同心を結ぶ無く 煙花は剪るに堪えず 草は茵の如く 松は蓋の如し 風を裳と為し 水を珮と為す 油壁の車 夕ごとに相待つ 冷ややかなる翠あおき燭 光彩を労わずらわす 西陵の下 風 雨を吹く 霊廟に葬られた貴婦人の魂が顕現したのであろうか。 美姫の舞に合わせるように、旅人の楽器の弦をかきならす。 夕映えに染まった周囲にいくつもの影が現れ、在る者は歌に唱和し、在る者は手にした楽器を弾く。 かつての王宮で開かれた宴が、ひそやかに再現される。 やがて舞が終わると、影は薄れて消え、美姫は優雅に礼をする。 その体に蔦が巻きつき、霊廟へと引き戻していった。 美姫が悲しい一瞥を旅人に与えると、霊廟の扉が閉じる。 後は、冷えて乾いた風が吹きすさぶのみ。 映像はカット割りを廃し、長回しで撮り続ける。 ほとんどアップの無い画面作りは、今の時代の観客には、かえって目新しく感じられたようだ。 プレミアム試写会は、一瞬の沈黙の後、盛大な拍手が沸き起こった。 「これよ!」 目を輝かせているシェリルも拍手を惜しまない。 アルト演じる美姫に心奪われていた。 「と、言うわけでアルト、これを着て。着なさい」 部屋でシェリルは壁にかけた衣装を指差した。 「何が、と言うわけ、なんだよ」 呆れ気味のアルトは、それでも衣装を手に取った。 「これ、映画と同じの…」 「そうよ。アクセまで揃えたんだから」 「凝り性め…」 バングルを手首にはめた。キラキラと輝く歩揺を揺らしてみる。 「ご褒美上げるから、着て、ね」 シェリルはヴェールを手にとって、アルトの頭に被せた。 「なんで仕事でもないのに…」 一応、文句は言ってみたものの、生来、美しい装束には目が無い。衣装を手に取った。 「メイクは?」 アルトが尋ねると、シェリルはにっこりと笑って使い込んだメイクボックスを取り出した。 「オーケイ、着せ替えごっこに付き合ってやるよ」 「ええと、この色かしらね?」 鏡台の前に座ったアルトの顔と、映画雑誌のグラビアページを見比べながら、シェリルはアイラインを引いてゆく。 濃く引かれたラインは、アルトの顔を国籍不明の美女に変えた。 「うふふ、他の人にお化粧するって、楽しい。メイクさんの気分が少しわかったかも」 「そうだな。歌舞伎でも楽屋で顔を拵えていくのは、気分が浮き立つ」 「アルトは自分でもお化粧するのね」 「芝居用だから、普通のメイクとは違うけどな」 「そうね……ええと、後はカラーコンタクトをつけて……完璧っ」 緑の瞳の死せる美姫が再現された。 「踊ってみせて」 ソファに座ったシェリルに向かって、アルトは優美に頭を下げた。 長い裳裾を手に持ち、つま先から床に触れるステップでリズムを刻んだ。 たたーん、たた、たたーん。 動きとともに、アクセサリーが涼し気な音を奏でる。 ヴェールから流れ出た黒髪は細かな真珠のついたチェーンで飾られ、体の動きとわずかにずれて華やかさを強調した。 うっとりと眺めていたシェリルは、舞の終わりにアルトが一礼すると、拍手を送った。 「ここ、来て」 ソファの隣を手のひらでポンと叩く。アルトが座ると、膝を枕にして横になった。 「おとぎ話の王様になったみたい」 ご満悦のシェリル。 その前髪をかきあげて、アルトは額をつついた。 「銀河の妖精はfairy taleの主人公じゃなかったのか?」 シェリルは前髪を手で直した。 「おとぎ話の妖精は、美女をさらってきて侍らしたりしないわ……アルトの存在って、監督さんの創作意欲を刺激するみたいね。次回作のオファーも来ているんでしょう」 「なんで、それを?」 「映画音楽をやらないかって、話が来ているのよ。私の仕事は、やっぱり歌がメインだけど、歌なしの音楽もちょっと面白いかな、って考え始めたところ」 「そうだったのか」 アルトの手がシェリルのストロベリーブロンドを撫でている様子は、どこかおとぎ話めいていた。 シェリルがその手をとって、手のひらに唇を押し当てた。 キスの感触に目を細めるアルト。 「アルト主演なら、作ってみたい」 「お前はスクリーンに出ないのか?」 「私はシェリル・ノームだから。他の誰かを演じるなんてできない」 「じゃあ、シェリル・ノーム役なら出てもいいのか。時々あるだろ? 本人が本人役で出演するの」 「あ、それ面白いわ」 アルトは人差し指と中指を揃えて、シェリルの唇を撫でた。 「ん……イタズラしないの」 シェリルはアルトの手を両手で捕まえると、指先に軽く歯を立てた。 「イテ……ん」 噛んだすぐ後に、シェリルは指先を唇に含むと、吸って、舌で舐めた。 「イタズラなのは誰だよ」 アルトは指を唇から抜くと、濡れた指先でシェリルの首筋を愛撫した。 「は……ぁん」 シェリルの背中が軽くのけぞる。 指先は襟元から滑り、素肌をたどって胸へ。 下着の下へもぐりこむと、乳房の頂を摘んで刺激した。 「ぁ…ぁ…ぁ…」 自分の指を噛んで声をこらえるシェリル。 ソファの上で肌を重ねた。 生まれたままの姿のシェリルと、美姫姿のアルト。 アルトが中に入っていくと、シェリルは熱い吐息を漏らした。 「なにか…あ……すごくイケナイことしてるみたい」 アルトの頬を両の掌で挟んで唇を合わせる。 「イケナイ…って?」 「綺麗なお姫様に抱かれるなんて…ア……」 シェリルの指がクッションを掴んで、強く食い込んだ。 <終> 335 死せる美姫(補足) sage 2008/06/21(土) 16 04 49 ID 0OsfIBiy 話中の詩は下記から引用しました。 オマル・ハイヤーム『ルバイヤート』(小川亮作訳) 李賀『蘇小小の墓』 映画の筋立ては能『定家』を翻案。 343 死せる美姫・続 sage 2008/06/22(日) 23 28 42 ID hoSVHyb+ 最初の頂が訪れた。 シェリルの意識が白熱して、四肢から力が抜ける。 「あーっ……あ…はぁ」 うっすらと瞼を開くと、見おろしているアルトの顔。上気した肌は女であるシェリルから見ても凄艶で、あるかなしかの頬笑みを乗せた唇は体の熱で潤んでいる。 「アルト……」 シェリルは手を伸ばして抱き寄せた。幸せを感じるが、何か物足りない気もした。 「……どうしたの? 気持ち良く……なかった?」 体の奥でアルトの迸りを受け止めた感覚が無かった。 「良かった……」 アルトは上体を起こして、シェリルにキスした。 「たまにあるんだ……タイミングがズレたみたいなもんかな……」 「そうなの?」 その声は心配そうで、アルトは思わず抱きしめて頭を撫でる。 体を離そうとするアルトにシェリルは声を上げた。 「ん…ダメっ……」 脚をアルトの腰に絡めて引き留める。 「今度は、私が……良くしてあげるから」 狭いソファの上で、体を入れ替え、シェリルが上に。体の中心に収めた男性自身は、まだ固いままで、達したばかりの体に痺れるような衝撃を与える。ふっと力が抜けそうになるのをこらえて、目を開けてアルトを見つめた。 アルトの両手が胸を掴む。揉まれると声が漏れた。 「あ……ダメ、アルト、動かないで……私が……するの」 名残惜しさを感じながら、両手でアルトの手を掴んで胸から引き剥がす。その手をアルトが枕にしているソファに押し付けた。 「ん…ふふっ……今度は、私が綺麗なお姫様を……」 シェリルは自分の言葉で体が高ぶってきたのを感じた。 アルトは顔をそむけた。長い睫に縁取られた目を細く開けて、横目でシェリルを見る。羞恥に襲われた姫君もかくやという繊細な表情。 眼差しを受けて、シェリルは体の奥が潤った。 「ダメよ……そんな顔されたら……もっと激しくしたくなるじゃない……んっ」 アルトの手を拘束したまま、シェリルは体を揺らした。 アルトによって貫かれながら、幻想の中では自分がアルトを貫いている。 「んっ……」 下唇を噛んで声をこらえるアルト。 妖しい高揚を覚えながら、腰を激しく振るシェリル。心理学者が言うように、ひとりの人間の中に男女両性の一部が共存しているなら、今のシェリルの心は男の部分が膨れ上がっている。 つながっている部分がビクビクと震える。 「あ」 体の奥でアルトを受け止めた感覚。 征服欲が満たされた瞬間、シェリルの手足から力が抜けて、アルトの胸に顔を埋めた。 ぐっと力強い腕が、シェリルの手を振りほどいて抱きしめる。 「アルト」 そこにいるのは、美姫ではなくアルト。 立場が倒錯し、新しい官能のスイッチが入った。 アルトは体を起こすと、向かい合う形でソファに座った。 貫いたままのシェリルの体を、力強く突き上げる。 「アルト……ああっ……」 シェリルはアルトの腕の中で背筋をそらした。 アルトの唇が尖って揺れている乳首にむしゃぶりつく。 荒々しい快楽に身を委ねて互いを高めてゆく。 頂を極めた後、しばらくは二人とも息が荒くなって話すことさえままならなかった。 「あ……アルト…しながら、お芝居できるの……?」 「はぁ…はぁ…あ、ああ…ん?」 「だって…ああ……本当に、囚われのお姫様みたいな顔を……」 「着せ替えゴッコに付き合ってやるって言っただろ?」 互いの耳朶に唇を寄せながら、囁きをかわす二人。 「もう……」 シェリルはアルトの耳朶を甘噛みした。 「ドキドキした……初舞台に立つより」 アルトの囁きにシェリルは目を細めた。 「女形は女より女らしいって良く言うけど……実感したような気がするわ。ああ、ミリオンセラーのアルバムが二、三枚できそうなぐらい曲が溢れてきそう」 「すごいな……そのアルバムがご褒美か?」 笑いを含んだ声のアルトに、シェリルはきょとんとする。そして、自分が最初に言った言葉を思い出した。 「そうね、アルバムの収益があがったら、バルキリー買ってあげるわ」 「豪勢だな」 「二人で、銀河のどこにでも行くのよ」 シェリルはアルトの頬にキスして囁いた。 「今、バルキリーのかっこいい使い方思いついた」 「何だ?」 「コンサートでね、アンコールの後、客席の間の花道を通って退場するのよ。その先の扉が開くとバルキリーがスタンバイしてて、乗り込むの。劇的じゃない?」 「劇的だが…」 「何よ?」 「体の良いショーファー(お抱え運転手)をさせられている気がするな」 「ご不満?」 「いや、悪くない」 アルトはシェリルを抱き上げた。ベッドへ向かう。夜明けまで、ゆったりした時間を過ごすつもりだ。 <終>
https://w.atwiki.jp/macross-lily/pages/34.html
ようやく使い慣れてきたフライパンで、私は細かく刻んだ野菜を炒める。 前は、あの調味料どこだったっけって探す事が多かったけど。 今では、この台所の事は、私の方が良く知ってるんじゃないかな。 この部屋の主である、シェリルさんよりもずっと。 「娘々でバイトしてただけあって、料理姿が様になってるわね、ランカちゃんは」 「えへへ。店長に、影でこっそり教わってましたから!」 シェリルさんの誉め言葉を背中で聞きながら、私は火の通った具材にお米を加える。 後は、先に炒めておいた卵と、調味料を加えれば、出来上がり。 付け合せのスープと一緒にテーブルに並べ、私とシェリルさんとは向かい合う形で座った。 穏やかに始まった晩餐の途中で、不意にシェリルさんが言う。 「そう言えば、前にアルトにもこういう風に料理を作ってもらったわ」 「え、アルト君にですか!? い、いつの間に!」 「ああ、勘違いしないでね、ランカちゃん。 随分前……貴女がフロンティアを飛び出して、この星を目指している頃の事だから」 つまり、まだ私とこうしてこ……恋……恋人同士になる前だから。 浮気じゃないって事を、シェリルさんは言いたいみたい。 でも、気にならない方がおかしいよね? 「そ、それはどういう状況で?」 「私が歌姫として政府に祭り上げられて。アルトが軍所属になった時ね。 アルトが私の部屋に来て、ジャパニーズフードを作ってくれたのよ。 私もV型感染症とか色々あって、情緒不安定なところあったから。 ノンアルコールの飲み物なのに、飲み過ぎて酔っちゃって。 アルトに、ベッドまで抱っこして運んでもらったり……」 「べ、ベッドまで!」 私が大きな声を上げると、シェリルさんが笑い始めた。 だって、シェリルさんとアルトくんが、一緒にベッドに、だなんて……! 「うふふふふ、ランカちゃんってば。何やーらしい想像してるの?」 「ええ、だ、だって」 「ただ運んでもらっただけよ。ランカちゃんが想像してるような事は何も無いわ。 あはは。真っ赤になったランカちゃんも可愛い!」 私とは別の意味で顔を赤くして、シェリルさんがお腹を抱えて笑う。 もしかして、私、からかわれてる? ようやくその事に気付いて、私は唇を尖らせた。 「もぅ……シェリルさんの意地悪……」 「ごめんごめん。ランカちゃんって、色々な可愛がり方をしたくなっちゃうのよね。 それも貴女の事が好きな証拠なんだから。ふてくされないで?」 「からかったのはシェリルさんじゃないですか! それに……ちょっと、悔しいなって」 「悔しい? 何が?」 私の感想が意外だったのか、シェリルさんがこちらを覗き込んで来る。 その真っ直ぐな目と視線を合わせられなくて、視線を泳がせながら答えた。 「だって……私はシェリルさんより背も小さいし、子どもだし……。 体力には自信ありますけど。それでも、シェリルさんを抱き上げたりできないし」 言いながら、私は頭のてっぺんに手を伸ばす。 この頭は、どうしてもっと、高い空を目指さなかったんだろう。 同じ女の人でも、シェリルさんは私よりずっと背が高い。 アルト君みたいにとは言わないけど、せめてナナちゃんくらい身長があればよかったのにな。 そうしたら、シェリルさんを抱っこできたかもしれないのに。 「ランカちゃん、ちょっとこっちにいらっしゃい?」 「あ……はい」 手招きされるまま、私は立ち上がって、シェリルさんの側に行く。 すると、シェリルさんの手が伸びてきて、私はその膝の上に座らされた。 背中に柔らかなシェリルさんの胸が当たって、照れるというか、恥ずかしいというか。 私がその感覚に戸惑っている間に、シェリルさんの両腕が、私を包み込んだ。 「でもね、私はこうしている方がずっと心地良く感じるわよ?」 「それって……」 「アルトの腕のかたーい感触よりもずっと、貴女の柔らかさの方が、私の肌に合うって事。 だから、無理して背を伸ばそうなんて思わなくてもいいんだからね?」 「あ、ありがとうございます……」 「それに、キスする時、一生懸命背伸びする姿も可愛いんだから♪」 「……やっぱり、可愛がられてるというよりからかわれてるような気がします……」 「そんな事ないわよ。……大好きよ、ランカちゃん」 耳元で囁かれて、更に耳朶を甘く噛まれて。私はくすぐったさに身を捩じらせる。 背中から感じられるシェリルさんの体温が、少し上がった気がして。 私は、こんな感覚を味わえるなら、この身長のままでもいいかなって、思った。 END
https://w.atwiki.jp/macrossf-eparo/pages/188.html
215 :ふたりぼっち :2009/01/11(日) 20 23 18 ID kZXuGu0c その日の朝、早乙女家は慌ただしかった。 「いってきまーす」 子供達は、これから1週間の臨海学校に向かう。 アルトとシェリルは門の前で、迎えに来たスクールバスを見送った。 窓から手を振る子供達に、手を振って応える。 バスが角を曲がって見えなくなると、夫婦は家の中へ戻った。 キッチンで朝食の後片付けをしながら、シェリルがぽつりと言った。 「急に、静かになったわね」 ここ10年ほど、毎日子供達の声がして、賑やかな家だった。 たった1週間の外泊だとは判っているが、妙に寂しい。 さっきまで家族が揃っていたダイニングキッチンが、ガランとしているように感じられる。 「ああ」 アルトはテレビのスイッチを入れて、今朝のニュースを見た。 天気予報によると、臨海学校の期間中、快晴が続くらしい。きっと子供達は、うーんと日焼けして帰ってくるだろう。 シェリルが食器類をシンクですすいでから、食洗機に並べた。 (だいぶ、アルトに注意されたわね) 二人で暮らし始めた頃、食洗機に食器を入れるにあたって、効率の良い並べ方についてアルトから講釈されたものだ。 マグカップをすすごうとして、後ろからアルトに抱きしめられた。 「なぁに、もう寂しいの? あ…」 うなじに唇が押し当てられ、吸われる。 「アルト…ん」 エプロンの下に、アルトの手が入り込んだ。タンクトップの上から胸を掴まれる。 「ヤダ……いきなり……」 抗議しようと振り向いたところで、唇を奪われた。 その間、力強いくせに、繊細な指先が布地の上から乳首を探り当て、つまんで刺激した。 「んっ…んんっ……んっんっんっんっ」 アルトの舌が唇の間に滑り込んで来る。 その舌先を軽く噛んでから、自らも積極的に絡める。反撃のように、舌を尖らせてアルトの唇に侵入させた。 デニムのショートパンツに包まれた尻に、アルトの欲望が押し当てられたのを感じて、シェリルも潤ってくる。 こんな風に性急に求められるのも久しぶりだ。 洗いかけのマグカップをシンクの底に転がすと、へりを両手でつかんで尻を突き出した。 尻たぶの狭間に男を捕らえ、こねまわすようにして左右に動かし、挑発する。 アルトの手がパンツのボタンを外して、ショーツの下に手がねじ込まれた。 「そこっ」 きゅっと核をつままれて思わず声が出る。 潤った部分に指が触れると、シェリルの上体が崩れた。 「もう…」 肩越しに振り返って、軽く睨む。 アルトは上気した顔で笑って、一度そこから指を抜いた。もう一度、尻の側からショーツの下に手をねじ込んだ。 シェリルのボトムが脚を滑り落ちた。 濡れた場所に空気の流れを感じる。 「やだ…っ」 親指が濡れて狭い所に挿入され、人差し指と中指が敏感な突起を転がす。 (あ、こぼれる…) 指の動きは巧みで、もしかしたらシェリル以上に、そこを知り尽くしている。 かすかな音が漏れるほどに潤ってきて、蜜がアルトの掌を濡らしているだろう。 「シェリル」 名前を呼ばれる。声だけで背筋がゾクゾクした。 (くるっ…!) アルトの熱くて硬いものが分け入ってくる。 唇を結んで瞼を閉じる。暗い視界に火花のようなものが飛んだ。 シンクのふちを掴んだ指に力をこめて、尻を突き出す。 もっと深く繋がりたい。 アルトの手が腰が掴んだ、 (来る) 後ろから突き上げる動きが、シェリルの体を揺らす。濡れた場所への奥にも衝撃が伝わる。 「あっ…ああ……っん」 快感が声となって、唇からあふれ出る。 襞が不随意の動きでアルトに絡みつく。 乳房を絞るように掴む手が熱い。 朝の光で明るいキッチン、そこで抱かれるという事実そのものが、シェリルを昂ぶらせる。 背後から降ってくる、アルトの息遣いが荒くなる。 クライマックスに向けて、互いを駆り立てるように体をうねらせる。 体内に迸るものを受け止めて、シェリルは頬をシンクの淵に押し当てた。 (冷たい…) 火照った頬に、金属の肌ざわりが心地良い。 「どうしたの…アルト?」 甘くかすれた声で囁きながら、テーブルの上に仰臥した。 アルトがのしかかる。 「たまには、良いだろ?」 濡れそぼった場所は、スムーズにアルトを受け入れる。 シェリルは脚をアルトの腰に絡めた。 アルトが手を伸ばして、シェリルのトップスを脱がせる。両手で胸を隠そうとするシェリルの手首をつかんだ。 「やだ…」 「今更、隠さなくてもいいだろ」 笑みをたたえた唇が、乳房の頂を咥えた。琥珀色の瞳がシェリルを見上げた。 「だって、ちょっと垂れちゃってるから」 「子供二人も育てたんだ……でも、大きくなっただろ。揉み応えが良くなった」 右の乳首にキスされ、左を捏ねまわされる。 シェリルは眉を寄せて、ため息を漏らした。 「大きいのが好き?…んっ」 「お前のが好き」 アルトの動きが小さく小刻みな動きに変わった。 深い息を吐いて、手足をアルトに絡めるシェリル。 場所を寝室のベッドの上に移した。 素肌をさらしたシェリルが、同じように全裸で仰臥するアルトの腹にまたがる。 「今まで、よくも好き放題してくれたわね」 笑いを含んだ声で言いながら、シェリルが見下ろす。 「どうするつもりなんだ」 アルトも笑っている。 「そうね……まずは、こんなことしてみようかしら」 アルトの右手を両手で掴んで、唇のところまで持ちあげる。 空色の瞳で、アルトの表情を確かめながら、指を一本一本しゃぶってみる。 頬をくぼませ、唇で締め付けた。たまには、関節のあたりを甘噛みする。 たわむれに、くすぐったそうに首をすくめたアルト。空いている手で、シェリルのつややかな尻を愛撫した。 「だーめ、ジッとしてなさい」 命じてから、シェリルはキスした。舌をたっぷりからめてから、唇を離し、アルトの頬にキスを繰り返す。 項に舌を這わせ、鎖骨の窪みに舌先を滑らせる。 「ん…」 アルトが小さく声を漏らした。 シェリルの唇が胸板を滑り下り、乳首にキスした。軽く吸ってから、甘く噛む。上目使いで、アルトを見上げた。 「男でも気持ちいいのよね、ここ」 下腹部に触れる、屹立したアルトの欲望に微笑む。 唇はさらに、下へと。 臍にキスしてから、太ももの付け根を思い切り伸ばした舌で舐める。 横眼で勃起したものを見てから、ぎりぎりの場所を指先で撫でまわし、焦らす。 「シェリル…」 名前を呼ぶ声に切ない響き。 「ダメよ、もっと感じなさい」 シェリルは掌で腰の辺りを愛撫しながら、太ももにキスした。膝、脛へと唇を走らせ、足指をしゃぶって、指の股を舐める。 勃起したものが、刺激を欲しがって猛っているのを視界の隅で確かめながら、戯れを続ける。 「うつぶせになって」 アルトが言葉通りにすると、男の滑らかな踵にキスする。踝を擦り、脹脛にキスマークを残す。 引き締まった尻を両手でつかんで揉んだ。 「お尻もセクシーよ、アルト」 囁いて、シェリルは尻たぶ掴んで左右に広げた。 窄まりを昼間の光の下にさらす。 「ふふ…」 そこにキスすると、アルトは驚いた。 「おい……お前」 「アルトだって、たまにするじゃない……だからお返し」 シェリルは唇を押し当てながら、舌先で皺を濡らし、愛撫した。 「気持ち良くない?」 「微妙な感じだ 「そう? でも…」 シェリルは唇での愛撫を続けながら、手でアルトの腰を抱くように回した。手の中に屹立を収めると、両手で扱く。 「ここは興奮しているみたいだけど、ふふっ」 シェリルの体を組み敷いたアルトは、脚を大きく広げさせた。 「するの? 後ろで…」 「ああ。さっきの、お返し……さんざんいたぶられたから」 スキンに包まれた勃起を、シェリルの窄まりに押し当てる。 「ん…!」 異物感に目を閉じる。しっかりと詰まった肉をかき分けて固いものが侵入する。 「あ……入る…あ……」 「んっ」 強烈な締め付けに、アルトも熱い息を洩らす。 「気持ち良いの? ん」 一息ついて、シェリルはアルトの両肩に手をかけて引き寄せた。 唇を合わせてから、アルトが言う。 「前の方が気持ち良い。後は刺激が強いが…」 アルトがゆっくり動きだす。 「んっ……私も…ああ……普通にする方が良いけど……良いけど…ああ」 先端が壁をこすりたてると、それが感じやすい場所に響いてくる。 「あ……イきそう……ん……や……ああ」 アルトが両肩に、シェリルの足をかけるようにして、挿入する角度を変える。 「やだ……イきそうなのに……イけない……こんなのっ……」 シェリルの指がアルトの髪をかき乱す。 アルトの動きが徐々に速くなってくる。 潤滑剤の助けも得て、普通の交わりと変わらないほど滑らかな動きで突き上げる。 白い肌を薄桃色に染めて、シーツの波の間で体をうねらせるシェリル。 やがてアルトが思いを遂げると、シェリルは荒い息で大きく上下する胸にアルトの頭を抱いた。 「ね……お風呂、連れて行きなさい」 「汗かいたな」 「ええ……それに」 シェリルははにかみながら、微笑んだ。 「もう少し、お互いの体を探検してみたいって……ダメ?」 アルトは体を離すと、シェリルを横抱きにして笑った。 <終>
https://w.atwiki.jp/macross-lily/pages/60.html
「暇ねぇ……」 本日撮影のスケジュールが急遽変更されてしまい次の仕事まで時間が空いてしまった。 シェリルも以前だったらスタッフに我侭を通して強行させたかもしれないが、今は違う。 運良くランカも一緒の仕事だったので楽屋で待機中の今は二人で雑談に興じているところだ。 「んー、そうだなぁ…… あ、じゃあトランプやりませんか? シェリルさん」 シェリルのぼやきを聞いてからしばし逡巡していたようだが、何かを思い付いたのかランカは笑顔で提案してくる。 「トランプぅ?」 「はい! ババ抜きなんてどうでしょう?」 二人でババ抜き。 何故にトランプ?それにババ抜きだとジョーカーを誰が持ってるか分かってしまうし、あまり意味がないのでは…… シェリルは内心そう思いながらも、ランカがあまりに無邪気な笑顔だったのでつられて首を縦に振ってしまった。 既にランカはどこから取り出したのかトランプを配り始めている。 もしや普段から持ち歩いているのだろうか。 そんなことをシェリルがぼんやりと考えている内に、カードを配り終えたらしい。 「じゃあ始めましょう! あ、それでもし私が勝ったらシェリルさんが私のお願いを一つ聞いてくれるってのはどうですか?」 「お願い? 何かしら。じゃあ私が勝ったらもちろんランカちゃんが私の願いを叶えてくれるってことよね」 「もちろんです!」 ランカには自分が負けるという可能性は毛頭ないらしい。得意気な表情でシェリルの要求にも二つ返事で了承した。 シェリルはランカからの思いがけない提案に軽く驚きつつも、面白い展開になってきたことでババ抜きにも俄然やる気が沸いてきていた。 「はい、上がり~。また私の勝ちね」 からかうようなシェリルの声が室内に響く。 開始当初は得意気で雑談混じりだったランカだったが、口数も徐々に減っていき真剣さが増し、戸惑いと焦りの表情も見えてきた。 「そんなぁーーーー!」 ランカはもう何度目かも分からなくなってしまった悲鳴を上げて、最後に残った一枚のカードを手に持ったままテーブルに突っ伏した。 またジョーカーが最後まで手元に残ってしまった。ランカの負けである。何故かシェリルが一度もジョーカーを取ってくれない。 皆から表情がころころ変わって考えてることがすぐ分かると言われるから、必死にポーカーフェイスの練習をしたのに! 「なんで勝てないのー! シェリルさん、もう一回やってください!」 「また? 構わないけれども。貴女は私には勝てないと思うわよ?」 シェリルは勝者の余裕なのか、勝ち誇った笑みを浮かべつつ答える。 確かに先ほどから全く勝てそうにない。ゲームを始めた時は普通なのに、カードの枚数が少なくなってくるとことごとくジョーカーを避けられてしまう。なぜだろう……? 頭に疑問が沸いてくるがランカにはどうしても理由が分からない。 (私達は感覚を少し共有するようになったから?といってもカードまでは分からないだろうだし…… は、シェリルさんはもしやエスパー!?) おかしな方向に思考が飛んでいるランカを眺めているシェリルは一方でこんなことを考えていた。 (ランカちゃん見てると面白いわねー。本当かわいい) なぜランカは勝てないのか。シェリルがジョーカーを一度も引かない理由はここにあった。 ランカ自身はポーカーフェイスを装っているつもりのようだが、シェリルがジョーカーらしきカードを選んでしまいそうになると、余程嬉しいのか緑色の髪が跳ね上がるのだ。 それを見て隣のカードに手を移し、軽く引くような素振りをしてみると、髪がしおれるように元通りになる。 (ランカちゃんはまだ気付いていないようだし、かわいそうだけどこのことは絶対内緒ね) ランカの犬のような素直さに頬が緩みそうになっているシェリルだが、ランカに何を要求しようかと頭を巡らせる。 「さーて、負けたランカちゃんには何をしてもらおうかな~」 「うう……」 結局ババ抜きはシェリルの十六勝0敗という結果に終わった。二人だったので時間がかからず早かったとはいえ、もちろんその間にかなり時計の針は進んでいた。 余程勝ちたかったのかランカは何度も挑戦したし、シェリルもランカの姿を見るのが楽しくて対戦に応じていた。 「分かりました……約束ですから、ってわわっ」 「あら、何でもしていいのよね?」 臥せていたランカが気付かない内にシェリルはランカの背後に回り、抱きしめてランカの髪に顔を埋めながら耳元に息をふきかけ囁いた。 「何でも、って。それはまぁ言いましたけど……」 抱きしめられたランカは耳まで真っ赤に染まって呟くが、徐々に小声になり語尾が消えていく。心なしか体温も上がっているようだ。 「なぁに、何を想像したの?」 「な、なにも想像してません!」 「んっ、んぅっ」 慌てふためくランカをどこか悪戯めいた顔で眺め、シェリルは抱きしめた状態のまま左手だけで素早く顔だけ振り向かせ唇を奪う。テーブルから落ちた幾枚かのカードが床を滑る。 「ん……ふぅ。ランカちゃんは本当に可愛いわねー。これ以上は我慢出来なくなりそうだから続きは後でね」 「はぁっ…… え、続きって」 「あら? 当然勝った回数分、私の言うことを聞いてくれるのよね」 「ええっ!……わ、分かりました。」 シェリルは真っ赤になりながらも頷くランカを抱きしめたまま囁く。 ランカにとってはシェリルの言葉こそが『ジョーカー(切り札)』なのかもしれない。 こうして二人きりのつかの間の休息時間は過ぎていったのだった。 仕事後の『続き』は皆様のご想像にお任せします。 終わり。