約 495,193 件
https://w.atwiki.jp/macrossf-eparo/pages/81.html
285 バカップル・5年もの sage 2008/06/19(木) 03 05 25 P8rHPInh アルトは居間でくつろいでいた。 久しぶりののんびりとしたオフは、シェリルのオフとタイミングを合わせていた。 三日ほど、ゆっくり過ごせるはずだ。 シェリルお気に入りのシェリー酒(フロンティア産の天然物で貴重品!)を傍らに、ソファに座ってBGMに流しているジャズに 耳を傾ける。 窓の外は、都会の夜景。そろそろビルの照明が消えつつある。 サックスの音色が途切れたところで、玄関のロックが外れる音がした。 アルトは立ち上がって迎えに出た。 「お帰り……って、お前」 アルコールの匂いが開いた扉の向こうから漂ってきた。 「ただいま」 真紅のドレスをまとったシェリルは、明らかに不機嫌だった。その上、酔ってもいる。 足元はしっかりしていて、大またで部屋に入ってきた。 「どうした?」 その背中に向かって、アルトが呼びかけると、シェリルは大きな窓を背にくるりと振り返った。 袖を通していた、ボレロを勢いよく投げ捨てて、ポーズをとって見せる。 「アルト、見て」 「あ、ああ……この前、注文してたドレスだな。似合ってる」 控え目な室内の照明の中で、街の灯りを背にしたシェリルの輪郭線はハレーションを起こしているかのようだ。 豪奢なストロベリーブロンドの髪が金色に近い色で輝いている。 ドレスの胸元と背中は大胆に肌を見せている。 「お世辞はいいから、もっと見て」 アルトはシェリルの目の前に立った。 「目に焼き付けたぞ……何があった?」 先ほどまでシェリルは仕事関係のパーティーに出席していたはずだ。 「目が二つあるのは同じなのに……もぅ」 シェリルは一人がけのソファに、ストンと座った。 「イヤなヤツがいたのよ……あぁ、思い出すだけでも厭だわ」 アルトはボトルの栓を開けて、シェリー酒を二つのグラスに注いだ。 片方をシェリルに渡し、自分も手にとってシェリルの座っているソファのひじ掛けに、軽く腰かけた。 「もう、人のこといやらしい目で見て。本物の蛇には失礼だけど、爬虫類みたいな目って言うの? ……あら、お気に入りの銘柄、覚えていてくれたのね?」 アルトは黙ってボトルを掲げた。ラベルを見たシェリルは目を細めた。 「うふふ……それでね、アルトの視線で消毒してもらったの」 表情に柔らかさが戻ってきた。 「周囲を巻き込まなかっただろうな?」 アルトの質問に、シェリルは唇をへの字にした。 「失礼ね。ちょっとだけシャンパンぶっかけてやろうかって思ったけど、実行はしなかったわ」 「それなら、ヒールで踏んづけてやったか?」 「……さりげなくね」 シェリルはペロリと舌を出した。 「でも、どう? このドレス。アルトに見せるのが、今夜の楽しみの一つだったのよ」 「いい色だな……深みがあって。お前の髪によく似あう」 アルトはグラスを持ってない方の手でシェリルの髪を緩く絡めた。 「それだけ?」 シェリルが上目づかいでアルトを見上げた。 「このまま食べてしまいたい」 「きゃぁ」 シェリルは笑いながら首をすくめた。 アルトはかがんで、シェリーで濡れた唇に唇を重ねる。甘くて強い滴を舐めとって、舌を絡める。 「ん……」 シェリルも応えた。 唇を合わせたまま、アルトは互いの持っているグラスを手探りでサイドテーブルに置く。 グラスに残ったシェリーで人差し指の先を濡らし、それでシェリルの首筋をなぞった。 「あ…」 濡れた軌跡が間接照明にきらめく。 アルトは床に膝立ちになって顔を寄せ、素肌を濡らした酒精を舐めとった。 「もぅ…ドレスが汚れるわ」 笑いを含んだ声で詰るシェリル。 アルトは唇を、ドレスの胸元からのぞく谷間へと滑らせた。 「んっ……」 快い刺激に、身をすくめるシェリル。 アルトの手がドレスの裾をまくりあげると、色味を合わせたレースのガーターベルト。 その狭間から見える、眩しいほどに白い肌。 アルトは強引に、シェリルの足の間に顔を埋めた。 「やだ」 シェリルは身をよじり、手をアルトの頭に当てて押しのけようとした。 アルトの手が伸び、ドレスの上から胸を鷲掴みにする。 「ん…ぁ…」 力が緩んだ一瞬の間に、シェリルの脚は歪んだM字型に押し広げられ、 その中心にアルトがランジェリーの上から唇を押し当てた。 「くっ…ダメ……」 ヒールを履いたままのつま先が反り返った。 薄いレースの布地越しにアルトの唇と舌が蠢く。 背筋を駆け昇る刺激は、ほろ酔いのハートを踊らせた。 頬が上気するのを自覚するシェリル。 「ね、直接……」 シェリルの指がショーツのサイドストリングを解いた。 あらわれた花びら、その奥からトロリと滴る蜜。 アルトがディープなキスをし、啜りあげると、背筋が反り返った。 「あああああ」 いつの間にかシェリルの手は、アルトの頭を自分へと強く押し付けていた。 「あっ…あっ…あっ…あっ…」 過敏な芽を甘噛みされる鋭い刺激に、スタッカートを歌う。 アルトの唇と舌が花びらを愛撫し、密に濡れた指が芽を覆う包皮を剥いて愛撫する。 シェリルが、焦点が合わなくなってきた視線を下に向けると、見上げるアルトの視線と重なった。 「ベッドまで我慢できない」 囁きと同時に、芽がつままれる。 「ああっ……は…あ……いい…わ。汚してしまって……ドレス」 シェリルはソファの上で体の向きを変えた。 背もたれを掴んで、尻を突き出す。 見なくてもわかる。 アルトの手が裾を大きくまくりあげた。 濡れた場所に空気の流れを感じる。 そして、挿入。 「んっ……」 それだけで軽く達してしまう。腕から力が抜け、頬を背もたれに押し当てる。 横目で後ろを見ると、アルトがのしかかっていた。 アルトの手が体の前に回され、胸をもみしだかれる。 「あん……イイっ……」 ドレスの背中のホックが外され、あらわになった背中にアルトのキスが降る。 最初の高みは、すぐに訪れた。 ベッドの上に場所を移すと、シェリルはアルトの上に乗った。 上半身は生まれたまま、下半身はガーターベルトとストッキングをつけ、ヒールも履いたままだった。 左の足くびにサイドストリングのショーツが絡まっている。 「強引……もう…ン………愛する人にレイプされたみたい。桜姫だわ、まるで」 「そうか」 アルトの両掌が、シェリルのくびれた腰から胸へと滑る。 「そういうお話でしょ?……かぶき…ああっ……さくら…姫っ……て」 「そうかもな……っ」 アルトの手にシェリルの手が重ねられ、大きな動きで乳房を揉む。 「イヤだったか?」 アルトが腰をうねらせると、シェリルは甘いため息をついた。 「……わざわざ…聞かないのぉ……ああああ」 シェリルは自分の胸からアルトの手を外させると、ベッドのヘッドボードを握らせた。 「私が…ぁ……許すまで、手、放さないで……乱暴なぁ……あ、アルトにはお仕置きしないと」 息を弾ませながら、シェリルが微笑む。目には淫靡な光が宿る。 「それは、コワいな……っ」 シェリルはアルトの胸に顔を近寄せた。形よくすっきりと通った鼻筋で、アルトの胸板を愛撫する。 下半身からこみあげる快感のリズム以外に、胸を愛撫する微妙なタッチに小さく声を立ててしまったアルト。 シェリルはアルトの乳首に吸いつくと、軽く歯を立てた。 「アルトに触れるのも……ん…く……触れられるのもスキ……」 体位を入れ替え、シェリルを下に、アルトと向かい合う形で繋がる。 ストッキングの光沢に包まれた脚が、アルトの体に絡みつき、膝で脇腹辺りを愛撫した。 「きて、アルト……」 アルトは声を立てずに頷くと、徐々に腰の動きを速めていく。 短い呼吸と、ため息、かすかにきしむベッド。 朝までは、まだ十分に時間がある。 <終> 付き合って5年ぐらいたてば、こんな感じかなと。
https://w.atwiki.jp/fairy-waterfall/pages/182.html
828:fusianasan[sage] 2014/07/27 22 07 57 2060年7月27日、午後9時 「さ、いただきま~す」 ビュッフェから自分好みのワンプレーとを作ってようやく座ったシェリルは 目の前の美味しそうな品々に目を輝かせる。 元々、シェリル自身が選んだ店で、味は信頼している。 1次会、2次会は主催者として、あまり食事に手が付けられなかったため、 最大の調味料である空腹を手に入れていたシェリルにはこの上ないごちそうだった。 この3次会で役目も終わり。 ようやく落ちついて食事もとれる。 いざフォークを下ろそうとすると、さっと皿が何者かに奪われた。 どれから食べようかと料理に向かっていた視線を上げると、そこには本日の主役、 早乙女アルトが皿を持って立っていた。 「な、何よ!今から食べる所だったのよ?」 「ふ~ん」 憮然とした態度でアルトは皿の中身を確認している。 「同じもの食べたいなら、あっちに、沢山、あるわよ。最初にみんなに説明したでしょ」 せっかくのごちそうを奪われまいとシェリルがビュッフェ台を指差すと、 アルトは皿を返してはくれず、シェリルの腕を引いた。 どうやら、ビュッフェ台に連れて行くつもりらしい。 「しょうがないわね、誕生日だから、特別よ? こんなサービス滅多にしないんだからね?」 ビュッフェ台について行くと、アルトはあっさりと盛りつけてあった皿を返してくれた。 代わりに、新しい皿に盛りつけ始める。 「お前、これ食うよな?」 アルトはシェリルの好みを見事に把握しているようで、シェリルの食べたいと思う料理を色とりどりに盛りつけていく。 「なによ、一緒に食べたいなら、そう言ってくれれば良かったのに…」 シェリルは、終日、主催者として、主役のアルトとは付かず離れずの距離を保っていた。 アルトが楽しんでくれればと裏方に徹しており、パーティーを進行しながらその成功に満足してはいたが、 勿論、大好きなアルトの傍にいたい気持ちがあったのだ。 アルトも、同じように思ってくれているのなら嬉しい。 シェリルの言葉を効いているのか聞いていないのか、アルトはさっさと手を動かし続ける。 「ほら、飲み物選んどけ」 アルトはシェリルに持たせていた皿を取り上げると、さっさとその場を離れていった。 酒に強くないため、ノンアルコールカクテルメニューを見ながら悩んでいると、 アルトが帰って来た。 「違う。そんなの持って帰れないだろ?」 持って帰る・・・? 言葉の意味を考えているシェリルをよそに、アルトは何本かの瓶を選ぶ。 「余ったら、後で飲めばいいだろ。他にないか?」 カクテルが飲みたかったのに、と思いながらも、 美味しそうなスパークリングジュースがいくつか選ばれていて、特に問題はない。 ふるふると首を振ると、アルトはその瓶達とアルト自身が飲むのであろうワインをウエイターに渡した。 「じゃあ、これで」 きょとんとするシェリルをよそに、アルトは主役席まで戻っていき、マイクを手にとった。 「みなさん、俺の誕生日を祝うために集まって下さってありがとうございます」 すっかりで出来上がっている参加者たちから歓声が上がる。 「おかげさまで、今日は本当に楽しい一日でした。これからも宜しくお願いします。 俺は、これで失礼しますが、この会は俺の誕生日の24時まで開催されています。 ゆっくり楽しんでいって下さい」 わっと拍手と歓声が起きる。 おめでとーという誰かの声を聞きながら、シェリルは近づいてくるアルトの姿をぼんやりと見ていた。 「ほら、帰るぞ」 シェリルの手首を握ると、再び声が上がる。 いよっ、色男! 後は銀河一の恋人としっぽりだな! 銀河一の幸せ者~! そんな冷やかしには耳も貸さずに、シェリルの手を引いた。 「後は任せてある。心配ないよ」 引きずられるようにして、シェリルは会場を後にした。 $$$ $$$ 「やっぱり3次会までは疲れちゃったかしら?」 リビングのローテーブルでようやく食事にありついたシェリルは、フォークを置いてアルトに問いかけた。 まだドレス姿で食事にがっついているシェリルをよそに、アルトはシャワー上がりのラフな恰好でワインを傾けている。 「そんな事はないさ」 「なんだか口数も少ないし、怒ってる…? サプライズ・パーティー、気にいらなかった?」 予定は空けておいてくれとは言っていたが、パーティー事は秘密にしていた。 昨年は、大気のある星へ辿り着くためとはいえ、 ガリア4へのフォールド中に日付上の誕生日が丸1日が過ぎてしまっていたので 今年は皆に祝ってもらおうとシェリルが画策したのだった。 「いや、楽しかったよ。それに、ちょっと懐かしかったかな」 「去年は、移動中に誕生日迎えちゃったけど…、その前はどうだったの?」 家を出た年の誕生日はどうしたのだろう。 「それまで人に囲まれて育ったから、なんかやっぱり寂しくてさ、 ぎりぎりまで学校に残ってEXギアいじくってたんだけど、 家帰ったらさ、ミシェルとルカが押し掛けて来てさ。 ルカなんか今よりももっと小さかったのに…」 当時のアルトを思い描いて、シェリルは微笑んだ。 アルトが思い出話をしてくれるのが嬉しくて、アルト以上に素敵なプレゼントを貰ったような気さえする。 アルトとの二人きりの時間を味わいながら、料理に舌鼓を打った。 $$$ $$$ なにしろ、アルトの誕生日は後少ししかないのだ。 いつもよりも入浴時間を短くして、シェリルが風呂を出て来た。 アルトが好みそうだと思ってこの日のために買った淡い色のベビードールを身につける。 (着る前に洗濯してもらってるのでアルトはその存在を知っている) シェリルがそっと寝室に足を運ぶと、アルトがベッドの上でくつろいだ様子で雑誌を読んでいた。 すっかりこの部屋の主のように馴染んでいた。 雑誌だって、いくらか前にアルトがベッドサイドに置いていったシェリルが読みもしない雑誌だ。 キッチンの主は間違いなくアルトで、配置からキッチンツールまで全てアルト仕様である。 シェリルに気がつくと、雑誌をサイドテーブルにおいた。 「やっぱりそれ着て来たんだな。よく似合ってるよ。でも灯りはもう暗くするぞ」 「ふふん、この衣装はね、薄明かりにこそ生えるのよ。シェリル・ノームを甘く見るんじゃないわよ」 衣装じゃないだろ、と心の中で突っ込むアルトをよそに、 シェリルは見せつけるようにゆっくりと歩みを進めた。 白くセクシーな体がうっすらと透ける淡くふわふわしたベビードールを着るシェリルは、 確かに魅力的で、アルトは目を離せない。 シェリル本人は焦らしている自覚がないのだが、焦がれきったアルトの隣に座ると、 本日一番聞いた言葉をアルトの心臓を打ち抜く可憐な満面の笑みで贈った。 「アルト、誕生日おめでとう」 アルトは照れたように微笑み、ちゅっとシェリルの唇を啄んだ。 「ありがとう・・・もうお前にも何回も言われたけどな」 ぎゅっと抱きついて来たシェリルの耳元でささやくと、 何回言っても足りないわなんて笑う声が耳元に返ってくる。 鼻腔をくすぐる甘い香りと柔らかな体の感覚がしみ込んでくるように心地よい。 アルトが理性を総動員して身を離すと、そっと柔らかな頬を撫でて空色の瞳を見つめる。 「今日はありがとう。泊まっていっていいか?」 なし崩し的に泊まっていく事も多々あるのだが、今日は一応、家主に承諾を得る。 「ダメなんて言う訳ないでしょ。 明日は朝から学校に行って、その後も打ち合わせだけにしてるの」 照れ隠しに口づけて来たシェリルを抱き込んでそのまま深く口づけた。 甘い官能を貪るように、二人は深く激しくお互いを絡め合う。 「やっぱり少し怒ってたのかもしれない」 青い瞳を覗き込み、わき上がる喜びと切なさを感じて、自覚した。 「お前近くにいなかったし、当然こういう事も出来ないし」 深く口づけ、舌を触れ合わせると、甘い感触がアルトを痺れさせる。 「欲しいものはないって言ってたじゃない」 唇を話すと、シェリルが不満そうに呟く。 シェリルが自分のために休みを取ってくれているのを知っていたので、 それだけで充分だった、なんて恥ずかしくてとても言えない。 しかも、その後、プレゼントはわ・た・し作戦などを吹き込まれてるのを知ると、 尚更別のものを所望する気にはならなかった、なんて口が裂けても言えない。 「ちょっとくらい気を効かせればわかるだろ?」 「なによ、アルトが寂しがりやのどすけべなんて、知ってたけど!」 軽く抱きしめ合っていた体を離したシェリルが顔を背けた。 「いつも一緒にいるのに、私が独占していいのかしらって…」 いいんだよという気持ちを込めて、 顔を背けたままのシェリルの体をアルトは再びぎゅっと抱きしめた。 お互い少ない余暇をお互いのために費やしている事が確かに多いのだが、 それでも、絶対的に足りてない、とアルトは思っていた。 シェリルが自覚しているのか分からないが、アルトを見つければ目を輝かせて喜ぶし 離れる時にはとても残念そうにしているので、自分と同じ気持ちなんだとアルトは思っていた。 「『私と一緒にいられるんだからありがたがりなさい』ってなんで言えないんだろうなあ」 色々と自信家のシェリルが、こういう所では控えめで、可愛くて困る。 だから、もっともっと一緒にいたいんだ。 自分が知る限りのシェリルの今までの経験を考えると、仕方ないのかもしれないなと、 いっそう愛おしさがこみ上げる。 シェリルが大切で、一緒にいたくて、欲しくてたまらないんだって 態度で示して来たつもりだったが、伝わるまでにまだまだ時間がかかりそうだ。 「『ありがたがりなさい』よ!」 ぎゅっと抱きしめ返して来たのが、負けず嫌いのシェリルらしいと、苦笑い。 「ホント、ありがたいよ。 昨日は、今日の予定があるだろうって、手加減してたから、今晩がなかったら辛かったよ」 「え!? だって、昨日はあんたのせいで日付替わる時におめでとうって言えなくて!」 ちょうど0時ころのシェリルはアルトの腕の中で啼かされていた真っ最中だった。 折角の誕生日だし、日付が変わる時には繋がっていようと思っていたアルトは、 それまでシェリルを寝かせまいと頑張っていたのだった。 朴念仁に見えて、濃い恋愛物に馴れ親しんで育った男であるので、エロ・ロマンチストである。 当のシェリルは、誕生日を迎えるとともに、おめでとうと言いたかったのだが、 前日の晩には散々弄ばれ、日付が変わる頃にはアルトの愛を受け入れており、疲れてそのまま眠ってしまったので、 結局朝になってようやく、おめでとうを言えたのだった。 「俺のせいって、別に口塞いでた訳じゃないだろ」 「あんな状態で、時間なんて分かる訳ないでしょ!」 誕生日だろうが、夜が更けようが、痴話げんかは続く。 無事、誕生日が終わる瞬間も愛し合っていられたよう。 アルト、誕生日おめでとう。 生まれて来てくれて、ありがとう。
https://w.atwiki.jp/macrossf-eparo/pages/171.html
718 :アルシェリ妄想2-1:2008/12/28(日) 18 48 19 ID Vygxxfwl 予告なし勢いで投下でごめんニョロ 小説三巻364ページ~365ページ、食事後の妄想。文才ないけどたれ流しニョロ 「あ~、美味しかった!」 「今日は珍しく残さず食べたな」 「だって嬉し・・・お腹すいてたんだもん!」 「なら、良かった」 食器を流しに持っていくアルトにシェリルも手伝う 「疲れてるんだろ?ゆっくり座ってろよ」 「いいの、手伝う!今日はあたしが洗うわ」 「え…大丈夫か?」 「大丈夫、それくらい平気よ!」 アルトはその時、体調よりもシェリルのことだから 少ない食器を割られるんじゃないかと内心ヒヤっとして言ったのだが シェリルはまったくそんな様子に気づかなかった 鼻歌を歌いながら楽しそうに不器用な手つきで食器を洗うシェリルの後ろ姿を アルトは微笑ましいのと不安な気持ちが入り交じった目で眺めていたが ふいに、もし、この幸せなひとときが明日終わってしまったら・・・ シェリルがいなくなったら俺は・・・と胸が締め付けられる思いになり そっとシェリルを背中から抱きしめ、柔らかいストロベリーブロンドの髪に顔を埋めた 「ア、アルト??どうしたの?」 シェリルが驚いて真っ赤になって慌てるのを無視しながら 「…いや…ちょっと……なんだ…その…俺も手伝う」「え?」 アルトは気恥ずかしい気持ちを誤摩化そうと、その体勢のまま 後からシェリルの手に自分の手を重ね合わせ一緒に食器を洗い出す 「アルト~?洗いにくいし、なんかくすぐったいわよ」 「かまわない」 確かに泡で温んだお互いの手をすりあわせる行為はくすぐったいのだが それがやけにここちよく、気持ちがいい 手だけでこんなに気持ちがいいのなら…と、 (部屋に風呂があったら一緒に入って…) そんな考えが浮かんだことにアルトは赤面したが その衝動は考えを振り切る前にはっきりと体に現れてしまった 「あ…」シェリルは腰に当たる固くなったアルト自身に気づいて狼狽する 「す…すまん」恥ずかしさのあまり体を離そうとしても離れたくない 「もう、アルトのバカ!スケベ!」 そんなシェリルも自分が濡れているのに気づいていたが アルトに知られないよういつものように悪態をついたが目は潤み頬は熱い 「…シェリル…シェリル…」消え入りそうな声で何度も名前を囁く 「アルト…」シェリルの顔がアルトのほうへゆっくり向けられる アルトもまた、シェリルの顔に近づいてお互いそっと唇を重ねる 最初は軽く触れるだけ、何度も何度もくり返し次第に深く貪り合う くちゅ、ちゅ、ちゅる、 「ん、んふ…」苦しい体勢のままシェリルが吐息を漏らす その吐息さえ逃がさないようアルトは執拗に舌を絡め吸い上げる アルトはシェリルの体に手を這わせようとしたが泡だらけに気づいて いったん唇を名残惜しそうに離した 「手…泡だらけだったな」「う…うん」 二人で手の泡を流し、まだ冷えた手のままアルトはそっと太ももに触れる 「ひゃっ!冷たい!」シェリルは体をビクッと震わすが アルトは軽く首筋に唇を這わし舐め上げながら その手はそのままゆっくり太ももから内股を撫で上げ シェリルの固く閉ざされた場所へと入り込む 下着の上からでもわかるほど濡れている 「ここで…俺を温めてくれ」「あ…ん」 シェリルのそこは先ほどのキスで十分潤い、入ってきたアルトの指を柔らかく包み込んだ 二人の長く甘い夜が更けていく 終わり なんかすまん
https://w.atwiki.jp/fairy-waterfall/pages/156.html
647:fusianasan[sage] 投稿日:2011/12/04(日) 17 03 14.56 久しぶりの二人そろった休日。 昼食の片づけをするアルトの背中に抱きつき、シェリルはすりすりとアルトの体温を感じている。 アルトの背中にはふよふよと夢と希望の感触。 絶対夜にはベッドで堪能してやると、アルトは家事にいそしむ。 そこへシェリルの手がアルトの股間をなでなで。 なんだ、その気なのか、と家事も途中にアルトは手を洗うと振り向いてシェリルをベッドに連れて行こうと肩を掴む。 「やだ、アルト」 「お前から仕掛けてきたんだろ?」 「違うわよ。片づけしてくれてるあんたにいい子いい子する手がたまたま…」 「たまたま…っておい…」 それだけアルトに触れることにシェリルがなじんできたのだが、アルトとしては熱が治まらない。 アルトはエプロンも脱いでシェリルをベッドルームへ誘導する。 「ダメよ。まだ、お昼だもの。一日が無駄になっちゃうからだめだって」 グレイスに言われていた事をシェリルはアルトに言い訳する。 「俺と抱き合うのは、無駄なことか?」 「え…そ、そんなことないわ!」 シェリルが一生懸命否定する様子がかわいく、アルトがくすりと笑う。 「もう、生き急がなくていいんだ、シェリル」 レースのカーテンを通してもなお明るい陽の光が二人の戯れを照らした。 裸体や乱れる様が陽の光に晒されて恥ずかしがるシェリルもまた格別だったと 腕の中の恋人を抱きしめたアルトは余韻に浸るのだった。 「ねえ、アルト、明るいわ」 「そうだな」 (恥ずかしいっていうのが、恥ずかしい><) 「白くて、滑らかで、凄くきれいだ・・・」 (ああああんん///そんな本気でうっとりされたら拒めないじゃないの///) 「あ、ああ当たり前じゃない」 相変わらず初心なくせに意地っ張りだなと、愛しい気持ちになりながらも、 シェリルの動揺を見て見ぬふりしてアルトは自らの欲望に忠実に事を進めた。 シェリルの肌を堪能しながら、徐々に衣類を脱がしていくアルト。 戸惑いながらも、官能を享受して乱れていくシェリル。 (明るくてアルトの表情初めて見たけど・・・もうダメ・・・好きにして・・・) キス一つにしても、ベッドの上での行為は一つ一つがシェリルの理性を溶かしていく。 「大丈夫か?」 くすりと笑う優しい表情のアルトから、匂い立つ男の欲望。 切実にシェリルに向けられる男のそれである。 自分が見られることに抵抗もあったが、アルトの色気にやられてしまったシェリルは すっかりメロメロの言うがままになってしまったのだった。
https://w.atwiki.jp/macrossf-eparo/pages/131.html
514 名無しさん@ピンキー sage 2008/10/01(水) 17 52 32 ID 2D5TNOO/ アルシェリで後日談。 ↓こっちに前フリの話があるが、エロくないのでリンクではっときます。 http //extramf.blog39.fc2.com/blog-entry-126.html 515 小さな海 2008/10/01(水) 17 53 55 ID 2D5TNOO/ マクロス・ギャラクシー船団の高級住宅街。 シェリルの家は久しぶりに主と客を迎えていた。 「アルト、上陸休暇はいつまでなの?」 ソファに並んで座っているアルトを見た。 シェリルのライブビデオを観ていたアルトは、画面に顔を向けたまま言った。 「明日の12時まで」 「じゃあ、ディナー食べていくわよね?」 シェリルは立ち上がった。 「ああ、お言葉に甘えて、そうさせてもらおう」 アルトはシェリルを見上げた。 「ゆっくりしてて」 シェリルはリビングを出ると、寝室へ向かった。 携帯端末を通じてケータリングサービスを手配し、ウォークインクローゼットに入る。 部屋着を脱ぎ散らかしてから、下着のコーナーに向かう。 「イブニングドレス……うーんとセクシーなのを」 ギャラクシー特有の高度なホームオートメーションと円筒形のターレット式衣装ケースはリクエストを元に、いくつかのコーディネイトを作りあげ、ハンガーにかけた状態でシェリルの目の前に並べた。 黒シルクのランジェリーは、シンプルな形ながら、きわどいラインを描いている。 それを身につけて、シェリルは姿見に向かった。 「これ……悪くないけど、もうちょっとロマンチックなのを」 クローゼットは瞬時に反応して深い青のセットを出した。宇宙服の素材として使用されている繊維が作り出す独特の光沢が気に入っている。 「これでもないわ……他には?」 次々とクローゼットに向けて注文を出すシェリル。その脳裏には、別の事が渦巻いていた。 (どうやってアルトに伝えよう?) フロンティアでカナリア・ベルシュタインからもたらされた告知は、重大にしてデリケートな内容だった。 “V型感染症は無害化され、体液感染の心配も無くなった。シェリルの腸内には変異株のV細菌が生着し共生関係を作り上げている” 告知された時に、シェリルは静かな感動を覚えたものだ。念のために確認すると、カナリアは微笑んで頷いた。 “性交渉は問題ない。妊娠・出産も……子供は処置をしない場合、おそらくランカと同じように母子感染でV細菌のキャリアーとなるだろう” 恋愛も、子孫を残す事も、一度は諦めたものに可能性が見えた。 “長期的な影響に関しては、症例が少ない(事実上ランカのみ)のため注意深い経過観察が必要だが、V細菌とバジュラの作り出すネットワーク知性は、この問題に対して最適解を探して自らV細菌の遺伝的変異を制御している節がある” カナリアの説明は専門的過ぎる部分もあったが、悲観する要素は少ないと言ってくれていた。 シェリルは診察室を出て、まっ先に思い浮かべたのはアルトの面影だった。 レースをふんだんに用いた白いランジェリーを身につけて、シェリルはどんな言葉でアルトに伝えるのか、悩んでいた。 「寝てもいいわよ……って、なんか下手なお芝居みたいだし……大丈夫なカラダになったの……じゃバカみたいだし」 白いランジェリーも気に入らずに脱ぎ散らかした。次の候補に手を伸ばす。 「ああ、思いつかないっ」 携帯端末の時計表示を見れば、じきにケータリングがやってくる。 いつまでもクローゼットに閉じこもっているわけにもいかない。 結局、明るいパープルのランジェリーを身につけた。レースで大胆に透けるデザインで、肌の色を引き立ててくれる。 同系色のイブニングドレスを身にまとった。ストラップレスの肩に、深いスリットが脚を綺麗に見せる。 「おま…え」 シェリルの華麗なドレス姿にアルトは絶句した。 「ほら、冷めないうちにいただきましょ」 シェリルはアルトの手をとって、ダイニングへと導いた。 ロボット家政婦が給仕したフランス料理は、一流ホテルから配送させたもので味の方は保証付きだった。 いつか、フロンティアでそうしたように、差し向かいで座る。 アルトがワインを開けて互いのグラスに注いだ。自分のグラスを掲げる。 「乾杯、するんだろ?」 「ええ……これからのギャラクシーに、これからのフロンティアに……それから、これからの人間とバジュラの関係に」 「たくさん乾杯することがあるな……乾杯」 グラスの縁を触れ合せた。 ロボット家政婦がサーブし、空になった皿を下げる。 「アルト、このドレス、どう?」 テーブルに両肘をつけたシェリルが尋ねた。胸の谷間をさりげなくアピールする。 アルトは前菜を喉に詰まらせそうになった。 「あ……ああ、似合ってる。でも、なんで自分の家で、そんなかしこまったかっこうするんだ」 「それは…」 シェリルは伝えたかったことを、言葉にするきっかけを探していた。 「……ほら、久し振りでワードローブを見たから、はりきったのよ」 つい無難な言葉を選んでしまって、シェリルは心の中で舌うちした。 「ああ、お前って衣装持ちだもんな」 アルトは頷いた。 コースの最後はレモンのソルベ。ほのかな甘みと爽やかな酸味で口の中をすっきりとさせる。 「大丈夫か?」 アルトが顔を覗き込むほどに、シェリルは酔っていた。 食事は美味しく、会話は弾んでいたが、言いたいことを言い出せない苛立ちを紛らわせるために、つい飲みすぎていたようだ。 (しまった……考えがまとまらないわ) 酔いで染まった頬を掌で押さえながら、シェリルが言った。 「ねえ、アルト。あんた…私に聞いておかなくちゃいけないことがあるんじゃない?」 「ろれつが回ってないぞ……そうだな。お前、フロンティアに戻って来るんだよな?」 「もう、当たり前じゃない。ベクター・プロモーションと契約したし、それに……」 アルトが住む場所だから、と続けようとしてシェリルはハッとした。 「それじゃなくて、もっと他にあるでしょ」 「ええと……誕生日のプレゼント何が欲しい? ほら、あの手紙……隊長が見つけた手紙でお前の誕生日ってちゃんと確定できたんだろ」 シェリルの誕生日は、スラム街で消息不明になった時点でギャラクシー市民のデータベースから削除されていた。同じような経緯で公共サービスからは疎外されてしまったスラムの住人は多い。一度、疎外されると復帰するのが極端に難しくなる。 シェリルはアルトの言葉に微笑んだ。 「そうね、アルトが選んでくれたら何でもいいんだけど、どうせなら身につけられるものが……ってそうじゃなくて」 微笑んだかと思ったら、唇をへの字にしている。 アルトはシェリルのご機嫌が目まぐるしく変わる理由が分からずに困った。 「どうしたんだよ、お前らしくない。ズバっと言えよ、言いたいことがあるなら」 「もっと大切なことがあるでしょう? 大切なっ」 うっすらと染まっていたシェリルの頬が赤みを増した。青空のような瞳が潤んでいた。 アルトは記憶を探った挙句、恐る恐る言った。 「V型感染症…か?」 シェリルは頷いた。その弾みで涙がポロリとこぼれる。 「検査結果どうだった?」 シェリルは告げたかったことを言葉にできずに、頷くだけだった。 アルトは立ち上がって、シェリルの肩を抱いた。 「そうか…普通と同じでいいのか?」 シェリルはアルトの袖をつかんでギュっと引き寄せ、頷いた。 「恋人ごっこは終りにしていいんだな……ごっこじゃなくなっても」 アルトは囁いて、シェリルの目元から指で涙を拭った。おとがいに手をかけて軽く仰向かせると、唇を重ねる。 「あ……」 シェリルの唇から洩れた溜息を、アルトは吸った。自然な流れに任せて、舌を滑り込ませる。 舌が舌に触れると、シェリルはピクっと震えてからアルトの腕に身を任せ、重なった唇に夢中になった。 アルトは唇を合わせたまま抱き上げる。 寝室はどっちだと迷うと、シェリルがキスしたまま指で示した。 それを視界の隅で見ながら、ゆっくりと足を踏み出した。 広いベッドルームの中央に、天蓋付きのベッドがあった。 天蓋からはレースのカーテンが下げられていた。 シェリルをベッドの中央に横たえると、アルトは唇を離した。 首に絡まったシェリルの腕が、離れないでと言うように引き寄せる。 アルトは微笑んで、シェリルに額にキスした。並んで横たわると、もう一度唇を合わせた。 「ん…」 手探りでドレスを脱がせてゆく。ランジェリーの繊細な手触りを惜しみながら取り去って、素肌をあらわにした。 ワインの酔いでほんのり熱を帯びたシェリルの肌を指先でたどる。 うなじから、鎖骨のくぼみへ。 胸の頂に触れると、小さく震えた。 掌に胸の膨らみを納めて揉む。弾力と柔らかさを兼ね備えた手触りの虜になった。 夢中でこねまわしていると、シェリルが囁いた。 「アルト…」 アルトは体を離すと、自分の服を脱いでベッドの下に蹴り落とした。 女性と見まがう顔立ちからは意外なほど発達した筋肉が、寝室の控えめな照明で浮かび上がる。 高Gに耐えて激しい戦闘機動をするバルキリーパイロットには必要な筋肉だった。 目を細めてアルトを見上げるシェリル。その目線が、顔から胸へと降り、腹筋の盛り上がりを見て、さらに降りていく。 「あ」 思わず目を閉じて顔をそむけた。 アルトの男性は屹立していて、存在を主張していた。 そのまま瞼を閉じていると、胸の辺りに熱い息づかいを感じる。 予感に身をすくませていると、乳首にキスされた。 ふれあっている一点からもたらされる鋭い感覚に、思わず声が漏れる。 「っあ……」 アルトの指と唇は、シェリルの体を思うままに探っていった。 中心部に到達した時、反射的に身をすくめてしまう。 力強い手がシェリルを開き、貪った。未だかつて、誰の唇も触れてない花びらに、熱いキスが降り注ぐ。 体をうねらせると、まだ温まっていないシーツの感触が心地よい。手をのばしてシーツをつかんだ。 かすかに湿った音が耳と肌から伝わってくる。 「あ、アルト……」 切なく掠れた声で名前を呼ぶと、重い衝撃とわずかな痛み、引き裂かれるような感覚が意識を埋め尽くした。 「シェリル……もっと欲しい」 呼吸が落ち着いてきた。 アルトの腕の中で、シェリルはようやく実感できた。 (結ばれたのね) 胸板に顔を埋め、唇を押しあてる。軽く吸って、薄くキスマークを残した。 「シェリル…」 アルトが名前を呼んでくれるのは、何回目だろう。何度でも聞いていたい。何度でも言わせたい。 「カナリア中尉に診断を聞いてから、少し調べたの」 大きく、その割に繊細な手と指がシェリルのストロベリーブロンドを梳いている。 「病気のことか?」 「ううん、進化のこと」 アルトは瞼を閉じて、シェリルの言葉を待った。 「私たちの細胞の中にあるミトコンドリアって、最初は別の生き物で、一緒に共生している内に細胞に組み込まれたっていう話知ってる?」 「ああ、生物の時間に習ったな」 「バジュラと共生していかなければならない私たち………これも進化のカタチなのかなって」 現状、人類とバジュラは互いを軍事力で殲滅しようとすれば、大規模な消耗の果てに両者とも滅びてしまう可能性が高い。 「うん、そうだな」 アルトはシェリルの髪に鼻先を埋めた。 「調べていたら、面白い記事があったわ。私のね、女性のここは、海なんだって」 シェリルはアルトの手を自分の下腹部にいざなった。 「確かに、海の香りがする…」 アルトの言葉にシェリルは目を丸くした。 「そうなの?」 「ああ……それで?」 「現在の海じゃなくて、人類の先祖が陸に上がった頃の海。まだ塩の濃度は今より低くて、そんなにしょっぱくない、そんな話」 「そうか、シェリルは海を自分の中に持っているんだな」 アルトの掌が暖かい。 シェリルはアルトの手に自分の手を重ねて、体に押し付けた。 「なんか……初めてフロンティアを外側から見た時を思い出したわ。宇宙船の中の海……すっごく感動したけど、ここにもあったのね」 「そう、大切に、幾重にも守られて」 アルトはベッドの天蓋を見上げた。レースのカーテンを眺めている内に、古い詩を思い出した。 八雲立つ 出雲八重垣 妻蘢みに 八重垣作る その八重垣を 「守るからな」 アルトは呟いて腕に力を込めた。 甘い溜息とともに、シェリルの体がぴったりとアルトに寄り添った。 END 527 名無しさん@ピンキー 2008/10/01(水) 23 30 23 ID x1g+aBWP ↑はサイトの管理人自身がアップしました。 ブログの方でパスワードでロックしているのは、普通のサイトから来た人がいきなり18禁の記事を見て不快に思われないための措置です。 こっちは最初っからアダルトサイトなのでオープンに書き込んでいます。 ブログの方は拍手とコメントを送ってもらえると、キリ番をゲットした方からリクエストをもらって話を書いてます。 パスワード申請のための連絡先は捨てアドでもかまわないのでお気軽にどうぞ。
https://w.atwiki.jp/fairy-waterfall/pages/162.html
※注意※ 非エロ。ぎりぎりまで暗いだけ。 アルトがシェリルの事情を知ったならとのリクエストで、帰還後話になり、 エロの入る構成にはできなかったのですが、護衛中にエッチしてたらシリーズ文脈の話ですので、こちらに投下させていただきました。 『アルト先輩の面会許可が下りました』 ルカのメールを頼りに、療養カプセルからベッドに移されたシェリルが眠り続けるであろう病室へと 逸る足取りをなんとか抑えて歩みを進めた。 そしてたどり着いた病室の前で、アルトは息を吐く。 このドアを開けたら、シェリルがほほ笑んで迎えてくれたらいいのに。 『何そんな陰気くさい顔してるのよ?』なんて笑い飛ばしてくれたら、と、扉を開けた。 逆光が一瞬眩しい部屋の窓際にベッドがあり、そこには彼女がいた。 思わず駆け寄って、見下ろすと、昨日までカプセルの中でまるで人形のように横たえられていたシェリルが、 大気の中で「眠って」いた。 光を受けてきらきらと輝く横顔は記憶の中の美しさと変わりなく、 安堵した体は力を失って、危うく、アルトはベッドの隣に置かれている椅子に腰かけた。 ああ、彼女は眠っているんだ。 「シェリル…起きろよ」 寝顔見ていると、アルトは眠る母親の姿をじっと見守っていた心細さを思い出した。 あの時は、母を起こしてはいけないと息をひそめていたが、この金髪の少女は目を覚ましてもいいはずだった。 眠る人間相手にとしては不自然なほどに、アルトはごく自然に、恋い焦がれて語りかけていた。 「お前寝すぎだろ。何で起きないんだよ…」 彼女からはやはりなんの返答もない。 すやすやと眠り続けるだけだった。 『関係者』でない俺には詳しい病状は知らされていない。 カプセルを出た彼女は、すなわち延命されず緩やかに衰弱していくのだろう。 カプセルの中で大量のコードに繋がれていた彼女だが、すっきりと点滴一本に繋がるのみになっていた。 これが彼女をこの世界につなげるたった一筋なのか。 *** シェリルと俺を繋ぐものは何もなかった。 彼女の意思がはっきりしない限り、ゴシップ報道や護衛歴は彼女と関係を保障するものではなく、 ルカやランカが骨を折ってくれて、アルトはようやくカプセル越しの見舞いを許された。 そして、シェリルがカプセルから出て、直接触れるようになるということで、 再びアルトの面会の可否が問われたのだった。 「…つまり、シェリルの意思が分からない限り、面会は難しいと?」 「あなたの献身的なお見舞いはスタッフ一同、よく知っているのですが、シェリルさんは、特別な人なんです。 もしものことがありますので、面会は…」 「そんな…!」 アルトが口を開く前に、病室に居合わせた緑髪の小さな友人が声を上げた。 「ランカさんは、血液も提供していただいているドナーですので、今後もご面会は今まで通り可能です」 「そんなのおかしいよ!」 今にも泣かんばかりのランカが医者に縋りついた。 「だって!シェリルさんだってアルトくんに会いたがってるよ、絶対!」 「ですが、シェリルさんの意思が確かめようが・・・」 ランカは大きな目から大粒の涙を零しながら訴えた。 「シェリルさんが好きなのはアルト君だって、シェリルさんがそう言ってた!」 それは本当なんだろうか。 一瞬の疑念と、かすかに広がる甘さ。 ああ、俺の思い込みじゃなかったんだよな、と、こんな時なのにじわりと涙の膜が目を覆った。 「でも、もうすぐ死ぬから、二人だけの秘密って…!でも、でも、シェリルさんは死なないから! 先生、シェリルさんからアルトくんを奪わないで!アルトくん、やっと帰ってきたの!」 秘密だけでなく沢山の重荷を抱えながらも、前を向いて歌い続けたシェリルの姿が脳裏に浮かび離れないアルトは シェリルとの甘く切なく温かな思い出に浸ってしまい、泣き崩れんばかりのランカをなだめる医者を眺めるしか出来なかった。 「アルトくんが帰ってきたら、シェリルさんは目を覚ますって、ずっとそう…おもっ…!」 ぼんやりと湧いてきたにがく苦しい無力感が、アルトを縛り付けた。 バジュラクイーンとのフォールドから帰還したアルトを待っていたのは、病魔に侵され何も語らないシェリルだった。 彼女が俺を好いていてくれたというのに、全て一人で抱え駆け抜けた彼女には、 全て分かち合いたいという俺の想いは通じなかったんだろう。 触れ合える距離に甘んじず、はっきりと告げていれば何か変わったのだろうか、と追憶に後悔が募る。 幾度となく体を重ねては、俺は言葉にできない彼女への想いの丈をぶつけていた。 ようやく言葉にできた気持ちを彼女はどんな思いで聞いたのだろう。 今にも泣きだしそうだった彼女の悲壮な表情が胸に刺さる。 その俺の想いすら、そして、彼女自身の想いすら彼女の重荷となっていたんじゃないだろうか。 その重荷もすべて一人で背負っていくのが、シェリルの愛の形だったのだ。 答えを問うように、硝子の壁に隔てられた愛する女性を見つめるが、 人の世から開放された天女が心迷う人の情を失って、平安の月へと戻ってしまったかのように 今は、安らかな表情で眠り続けるだけだった。 「アルトくんが消えて、追うようにシェリルさんが倒れて、目を覚まさなくて…! 先生、シェリルさんにはアルトくんが必要なんだよ!歌を聴いたらわかるでしょ!?」 腹で感じると言わんばかりに、ランカが自分の腹に手を当てて何かを感じ取ろうとしていた。 俺もシェリルを感じられないかと、胸に下げたイヤリングに手を当てるが、それも虚しく、硬い感触だけが手を伝わる。 俺がぼんやりと場を動けないままに、 シェリルと同じく重要人物であるランカの訴えに負けたのか、病院長と相談しますといい医者はその場を離れた。 病室に残されたアルトたちは眠り姫のガラスのドームを見下ろしていた。 「…アルトくん、ごめんね」 まだ抑えきれていない涙をぬぐうランカが小さくつぶやいた。 「何がだよ」 アルトがおどけて返すと、申し訳なさそうに小さな友人が続ける。 「シェリルさんとの約束やぶって。シェリルさんから聞きたかったよね…。でも、…」 「いいんだよ。知ってたから」 「そうなの!?」 ぴょこりと髪が驚いて跳ねた。 「歌が…想いを伝えてくれた」 そして、こいつの瞳が、全身が、俺に教えてくれた。 愛すること。愛される事。 歌になって天に返ろうとしていたこいつにとっては、足枷だったかもしれない。 でも、俺にとっては翼を天まで届ける風だった。 風を受ればこそ、俺は空を飛べるんだ。 ** 世俗の時の流れも知らぬかのようにシェリルの寝顔は安らかだった。 「ったく、どんないい夢見てるんだ?俺は苦労して帰ってきたっていうのに…」 最後の戦いで俺たちを繋いでくれたイヤリングを胸元から取り出し、耳に付けた。 あの時、確かにイヤリングを通して、シェリルの想いを感じたのだ。 そして、そのシェリルの想いは俺に溢れんばかりの喜びを与えてくれた。 だから俺は、バジュラと共に旅立つ勇気が持てたし、必ず帰って来れると思った。 カプセルの中でも例外的にシェリルの身に付けられていたイヤリングは、今もシェリルの右耳から下げられていた。 カプセル内で眠る彼女に、イヤリングを通して語りかけても何の変化もなく落胆した日々を思い出すと、 イヤリングを以てしてもまた、なんの反応もないのが怖かった。 しかし、そんな些細な恐怖で躊躇しても、彼女は起きないのだ。 残された猶予がどれほどかわからない。 俺は覚悟を決めていた。 もしもお前が目を覚まさなくても、俺はお前を一人にしない。 意地を張って一人で行こうとするお前を、最期まで俺は追いかけよう。 舞台裏にだって、アルカトラズにだって忍び込んで追いかけて行ったんだ。出来るさ。 「起きろよ」 イヤリングを付けた俺は、声をかける。 「起きろって。お前、ほんと寝起き悪いよな」 朝一の護衛でシェリルがまだ眠っていた時の事を思い出した。 今思えば、彼女は病魔に侵される体を必死に起こしていたのだった。 「バカやろ…」 なんで、そうならそうと言ってくれなかったのだ。 知ってたら、もっと優しく起こしたってのに。 シェリルが政府に連れ去られて途方に暮れていた折に、ブレラが証言したというシェリルの病状を聞いた時は、 とても信じられずギャラクシーの罠かもしれないと思ったものだが、 無理をする彼女の体調を気遣い続けた心の奥では、やはりそうだったのかという気持ちもあった。 シェリルのどこか達観した姿勢や刹那的な行動、追い詰められた表情、俺を求める時の苦しそうな瞳が すとんと腑に落ちるのだ。 それでも、やはり、認めたくない俺は、監獄の中で折れるように細くなったシェリルを抱きしめるまで信じようとはしなかった。 カプセルの中を初めて覗いた時はシェリルはまるで人形のように白く、やはりシェリルが死病というのはブレラの嘘で、 本当のシェリルはカーテンの影にでも隠れてるんじゃないかとちらりと思ったものだが、 いざベッドで眠る姿を目の前にすると、やはり、シェリルでしかなかった。 小康状態から抜け出せないものの、アルカトラズで触れた時よりもややふっくらとした頬をつねるが、 ピクリと反応して、それきりだ。 温かな彼女の頬をごめんなと撫でると、ふわりと柔らかい手触りで、余計に胸が痛んだ。 彼女は生きてる。 懸命に生きてきたのに。 「シェリル!起きろよ!!」 声が荒がる。 俺はお前と生きたかった。 「こんなところで寝てる女じゃないだろ!?」 アルトは揺すり起こすようにシェリルの華奢な肩に手を掛けた。 監視カメラが設置されているのは知っていたが、溢れる感情を抑えることが出来なかった。 「お前は一人で逝くつもりでも、俺がお前を一人にしない。 飛べない俺は重いからな? お前一人じゃ絶対抱えきれないぞ」 いくら覚悟を決めていても、いくらシェリルの覚悟が決まっていても、 シェリルのいない空っぽの未来がいつか来るのは嫌だった。 「だから…また俺に空を与えてくれ、シェリル」 シェリルが人生を賭してバジュラとの一先ずの和解へと導いてくれたお陰で、もはや空は戦場ではなかった。 しかし、孤独に濡れた翼を必死に羽ばたかせたとしても、 路を照らす光を失った状態でこの自由の空を飛べば、きっと地上に帰ってくることはないだろうとアルトは予感していた。 涙腺から溢れた生ぬるい液体で頬が濡れた感触が気持ち悪い。 視界が遮られて彼女が見れないのが耐えられず、アルトはもっとよく見ようと、シェリルに近づくが、 覚えていた彼女の香りが異質な匂いに覆われてしまっていていて、強烈な違和感が襲った。 俺の知らない間にシェリルが変えられてしまう。 恐怖に駆られて縋りつくように彼女の上半身を抱き起し、腕に収めると、胸から伝わるかすかな鼓動を感じた。 くたりと体重を預けてくる柔らかな体を抱きしめ、彼女の体温と香りに包まれながら涙を流すと 孤独に凍える心が自然と落ち着いてきた。 シェリルを何度も失って知った己の痛烈な孤独に、アルトは諦めて身を浸した。 ただ、お前が笑いかけてくれないのがとてもとてもさみしい。 「お前のせいなんだからな…」 こんなに苦しくても離れられないようにしたのは。 愛おしい悪女の顔でも見てやりたいと、自分の涙をぬぐって顔を覗き込んだ。 妖精の二つ名にふさわしい透明な空気を纏う彼女の頬に触れると、下り続ける瞳にかかる長いまつげが揺れていた。 そして、唇がかすかに動く。 軽い寝言のような動きは、カプセルにいる時から見られていて、必死に声を聞こうと耳を寄せたものだった。 「言い訳しても無駄だぞ。悔しかったらなんか言ってみろよ」 確かめるように唇に指で触れると、重ねた記憶のそれよりも、乾いていた。 もう出入り禁止になるかもな、と頭の片隅で思いながらも、次の瞬間には、俺の唇が重なっていた。 愛しくて懐かしい幸せなその感触に身を浸しながら、シェリルと唇を重ねた時々の事を思い出していた。 あの短い時間で、二人とも気持ちを隠しながら、隠し切れずに、何度も重ねたのだ。 今、あの日々とは違う切なさが胸を締め付ける。 ずっと想いあってたのに、俺たちは。 「シェリル、愛してる」 自然と、口にしていた、飾りのない気持ち。 「ずっと、一緒にいよう」 ずっと言えなかった本当の望み。 重ねてかすかに開いた唇がわずかに動く。 「…メよ…」 目を耳を疑った。 「…れぃじょ…、…よ」 シェリルが、声を出している。驚いて俺はシェリルを揺すった。 「おい!シェリル!」 僅かに瞳が震え、眉根が寄る。 銀河を震わせた喉から、かすかな声が漏れていた。 「あ…しご……きょ…は、もぅ…」 俺は歓びと期待でまた泣きそうになりながらそのままシェリル抱えて、声をかけ続けた。 「ちょ……なら、ぃ…」 青い宝石を隠した瞼がうっすらと開いて、ぼんやりと俺をとらえる。 「アル、…どうし、…の?」 嬉しさのあまり、言葉にならなかった。 俺のぐしゃぐしゃになった顔を不思議そうに見つめていた瞳が、 俺に釣られるようにほんのりと弧を描いて、掠れた言葉を紡ぐ。 「アルト?どうしたの?」 シェリルを強く抱きしめると、柔らかな腕がそっと抱き返してくれた。 「いろいろあったんだよ」 抱き返すシェリルの腕の力は弱く、むしろその弱った体の健気さが愛おしかった。 「お前こそ、ずっと何の夢見てたんだよ」 「夢…?あ…、夢、だったのね」 シェリルの応えを待ってアルトが空色の瞳を覗き込むと、 ずっと望んでいた本物の空がそこにあった。 ******** アルトがまだ知らない事も多いので、ご期待にはあまり沿えなかったのではないかと思いますが、 多少なり皆様の萌えになれば幸いです。 2012/10
https://w.atwiki.jp/macross-lily/pages/89.html
「ねぇ、君。かわいいね。」 約束した待ち合わせ場所で、知らない男の人たちに声をかけられた。 「よく見たら、ランカに似てるね、君。」 「おー、ほんと、ほんと。」 「暇ならちょっとお茶でもしない?そこでさ。」 たたみ掛けるように話しかけられて、あわあわするだけで、何も言葉が出てこない。 (えっと・・・これ、たぶんナンパ・・・なのかな?) 怖いとかそういうんじゃないんだけど。 こんな経験まったくなかったから、こういう時にどう対処したらいいのかわからなくて。 どうしようかと考えていると、力強い手に手首を掴まれた。 「ね、いいでしょう?」 向けられた笑顔に曖昧に笑みを返してしまったのが悪かった。 それをOKととられたみたいで・・・ 掴まれた手首を強引に引っ張られて、囲まれるようにして連れて行かれそうになる。 それで、やっと声が出た。 「ちょ・・・ちょっとまってくだ・・・」 「勝手に人の相手を連れて行かないでくれる?」 自分の声に重なるように聞こえた声。 後ろから伸びてきた両腕が私の前で重なると、その身を少し引き寄せられた。 伝わってくる柔らかな感触と温もり。 「この子はあたしが先約してるの。悪いわね。」 耳元で聞こえた声に、勝手に顔が熱くなるのがわかる。 見上げればそこに、思っていた通りの人がいて。 サングラス越しの瞳が、優しく叱りつけるようにこちらを見た。 なぜだが胸が高鳴って。 嬉しいやら恥ずかしいやらで視線を泳がせると、声をかけてきた人たちが目に止まる。 (そうなっちゃうよね・・・) 顔を真っ赤に染めて呆然と魅入っている人たちを見て納得してしまう。 (だって、素敵だし、かっこいいし、綺麗だし、素敵だし・・・) 表現力が乏しいから同じことを言い続ける結果になっちゃうんだけど。 ほんとに、そうなんだもん。 言葉では言い表せないくらい、魅力的だし、かっこいいし、綺麗だし、素敵だし・・・ (・・・って、また同じことになっちゃってる。) そんなことを考えていたら、また声が聞こえてきた。 「その手、離してもらえないかしら?」 その声に顔を上げると、サングラスを外してニッコリと微笑んでいる顔が見える。 それは、反則なくらいに素敵な笑顔だった。 言われた人は、その通りに私を解放してくれる。 そうしたら、今度はさっきまでとは全く違う、透き通るようにしなやかで綺麗な手が、 すぐに私の手首を捕らえた。 「ありがとう。じゃ。」 掴んだ手首を引っ張られて、数歩進み、それから歩幅をいつものように合わせる。 前を行く背に声をかけようとしたら。 チラリとこちらを見た瞳に、ウィンクされた。 顔が熱くなるのを感じながら、その意味を理解した私は、その言葉を飲み込む。 “よくできました”と言うように、掴む手に少し力がこめられたことに気づいて笑みが零れた。 なんだかそれが嬉しくて、緩む頬が止められなかったり。 (こんなことだから、“犬みたい”って言われるんだよね、きっと・・・) でも、嬉しいものは嬉しいし・・・なんて思いながら歩いていたら。 その背が止まっていたことにも気づいていなかった私。 そのまま歩き続けて、その背にぶつかってしまう。 「わっ・・・」 「ボーっとしすぎよ・・・って、何?そのだらしない顔。」 「え・・・?」 「そんな顔してるから、ナンパなんてされちゃうのよ?ランカちゃん。」 足を止めた先の公園で。 クスクス笑いながら、叱りつけるようにそう言われて、軽く額を弾かれた。 弾かれた場所を両手でおさえて。 ずっと呼びたかった名前を口にする。 「シェリルさん。」 そう呼んだら、シェリルさんが私の目を見て笑ってくれる。 それが嬉しくて。 そしたら、不意に頬をやんわりとつねられた。 「にやけすぎ。」 「ふゃって・・・」 つねられても、ぜんぜん痛くなくて。 逆に相手してくれることが嬉しくて。 笑みが深くなってしまう。 それを見たシェリルさんが、いつもみたいに呆れて。 でも、優しく笑ってくれる。 「しょうがないわね、ほんとに。ランカちゃんは。」 つねっていた頬を解放してくれるシェリルさん。 そのまま頬を包まれて。 つねっていた場所を親指がやんわりと撫でてくれる。 それがとっても気持ちよくて、うっとりしてたらその手が離れていく。 「あ・・・」 それが寂しくて、思わず零れた声にシェリルさんが笑う。 「はい、おしまい。」 楽しそうに言って、頭を撫でてくれる手にまたうっとりしてしまいそうになった。 でも、それは、シェリルさんのからかうような笑みを見つけてなんとか堪えた。 「シェリルさん、遊んでますよね?」 「違うわ、かわいい愛犬をかわいがってるの。」 「だから、私、犬じゃありません。」 「知ってるわ。犬じゃなくて、犬っぽいってだけの話よ。」 「それって・・・やっぱり私のこと犬扱いしてるってことじゃ・・・」 「細かいことは気にしなくていいのよ。ランカちゃんはかわいいんだから。」 頭を撫でられて。 これでもかってくらいに優しい瞳で微笑まれて。 “かわいい”なんてシェリルさんに言われたら。 もう、ほんとにどうでもよくなってくる。 「お仕事の時はいいけれど、他ではあんまり飼い主以外にかわいさをふりまいちゃダメよ。」 「・・・そんなつもりは・・・」 「言ってるでしょ?ランカちゃんはかわいいのよ。だから、気をつけなさい。」 口調はなんだか冗談っぽく聞こえるけれど。 その視線が真剣なもので、ほんとに心配してくれているのがわかった。 仕事終わりに外で待ち合わせなんて、始めてで。 しかも、これからシェリルさんの家にお泊まりだったから。 ちょっとうかれすぎてた自分に反省して、素直に頷いてみせる。 そんな私に微笑んで。 シェリルさんがまた頭を撫でてくれた。 「そう、いい子ね。」 「だから、シェリルさん、私、犬じゃないです。」 「いいの、いいの。じゃあ、そろそろ、帰りましょうか?」 差し出された手に手を重ねて。 さっきは足早だったけど、今度はゆっくりと。 歩幅を合わせて歩く。 「晩ご飯、何か食べたいものありますか?」 「オムライス。」 「即答ですね。」 「ずっと考えてたから。ランカちゃんに何を作ってもらおうか。」 そう言って笑ったシェリルさんが、かわいくて、かわいくて。 また、頬が緩む。 「かわいいですね、シェリルさん。」 「かわいいのは、ランカちゃんでしょう?」 「違いますよ、シェリルさんがかわいいんです。」 「オムライスって言葉が子どもっぽく聞こえるだけよ。」 「あ、確かに。でも、オムライスって言わなくても、シェリルさんはかわいいですよ。」 「ランカちゃん、わかってて言ってるでしょう?」 「何がですか?シェリルさんは“かわいい”です。」 そう言ったら、シェリルさんが足を止めて、私の方を見た。 それに倣うように足を止めて、笑顔でシェリルさんを見上げる。 「かわいいですよ、シェリルさんは。だから、シェリルさんも気をつけて下さいね。」 そう言ったら、シェリルさんは大きく目を見開いて、その頬を赤くした。 そして、すぐに俯いて、私から視線を逸らす。 そんな姿がたまらなくかわいくて。 思わず手を伸ばして、その頭を撫でた。 「シェ~リルさん。」 「・・・ランカちゃんは、たまに意地悪になるわね・・・」 「ほんとのことを言ってるんです。シェリルさんは“かわいい”です。」 俯いたまま、撫でられるがままのシェリルさんに、またそう言った。 実は、“かわいい”って言われるのが苦手なシェリルさん。 そんなシェリルさんが、かわいくて、かわいくて。 そんなシェリルさんを知ってるのが、自分だけだと思うと。 嬉しくて、嬉しくて。 緩む頬は止まらない。 こんな“かわいい”シェリルさんを誰にも教えたくないから。 人前ではなるべく“かわいい”って、言わないようにしてる。 それは、私が密かに努力していることだったりする。 その分、2人の時にはいっぱい“かわいい”って言ってるんだけどね。 今みたいに、シェリルさんが困るくらい。 「シェリルさんは“かわいい”ですよ。」 「もういいの。ほら、行くわよ。」 恥ずかしいのを隠すみたいにそう言ったシェリルさんが、私の手を引く。 そんなシェリルさんの隣を歩く私。 かっこよくて。 綺麗で。 素敵な。 みんなが知ってるシェリルさんは、もちろん魅力的で大好きだけど。 同じくらい。 私はかわいいシェリルさんが大好きで。 それを、誰かに教えるなんてこと絶対にしないと。 今日も心に誓った、シェリルさんとの幸せな帰り道。 ぎゅっと握った手を、握りかえしてくれるその手に。 やっぱり、頬が緩むのを止める、なんてことはできなかった。 おわり
https://w.atwiki.jp/fairy-waterfall/pages/168.html
今日(6月の第1日曜日)が「プロポーズの日」だと聞いたので…オリンピア出向前のプロポーズ話を… えぇっと、前スレ帰還その後SSの補完補足…って言うか、そんな感じです こうだったらいいなって言う、脳内妄想ダダ漏れ、誰これSS 話を短くまとめることが出来ない自分にorz 1投 「お前、変わった訓練やってるみたいじゃないか」 「…オズマ隊長」 訓練を終え一息つこうと向かったカフェスペースで、アルトは休憩を切り上げるところだったらしいオズマに声を掛けられた。 「あぁ…変わった訓練って言うか。VF-25のフライトコントロールをエミュレートモードにしてEXギアの補助なしでマニュアル操縦してみたらどうだろう…って。昔の戦闘機乗りの操縦感覚ってのを知りたいと思って」 そう話すアルトはどこか子供のようにわくわくとした表情を浮かべていて、オズマは肩を竦める。 「相変わらず、この空バカは研究熱心だな」 「…空バカってなんだよ」 ムッとした顔をして、小声で呟くアルトにオズマは笑いながら言う。 「お前、アグレッサー目指してみたらどうだ?」 「………アグレッサー?」 キョトンとした顔で聞き返すアルトに、オズマは頷きながら話を続けた。 「そうだ。SMSの教導部隊だ。各船団の基地をまわって、現地のパイロットたちに実践に近い訓練を受けさせ戦技指導を行うのが、まぁ大まかな仕事内容だな。アグレッサーは、なりたいからって誰もがなれるわけじゃないが、やる気があるなら推してやるぞ」 「はぁ」 いきなり振られた話題に、アルトは目を瞬かせると間の抜けた返事をした。 そんなアルトに、オズマは笑って彼の肩を叩く。 「お前は、賢くて向上心のあるパイロットだ。まぁ…無鉄砲なのが玉に瑕、だが。悪い話じゃないはずだ、考えておけ」 そう言うと、オズマはアルトに向かって軽く手を上げると、カフェスペースをあとにした。 残されたアルトは、思案顔をしてオズマの背中を見送った。 「ねぇ…」 「ん…?」 情事のあとのシェリルの気だるげな声に、ベッドサイドに腰掛け、自身の後始末をしていたアルトはそっと彼女を振り返る。 「なにか、あった?」 じっと空色の瞳に見つめられ、アルトは驚いたように目を見開く。 「え…」 「いつもと違ってちょっと乱暴だったわ」 続くシェリルの言葉に、アルトは気まずそうに頬を赤らめる。 「…ご、ごめん。痛かったか?」 「うぅん。たまにはこう言うのも、刺激的で悪くないけど」 そう言ってシェリルは猫のように瞳を細め笑う。 その空色の瞳の奥に、自分を心配する色を見つけたアルトは苦笑した。 「なんでお前にはすぐに分かっちまうんだろうな…」 呟くように言うと、アルトはベッドに潜り込みシェリルを腕に抱きこむと、昼間のオズマとの会話を彼女に話した。 2投 「アグレッサー??」 アルトの話に、シェリルはキョトンとした顔で小首を傾げる。 昼間の自分と同じ反応に苦笑しながらアルトは続ける。 「そ。簡単に言うと……『鬼教官』?」 「はー?なにそれ。簡単に言いすぎじゃないの」 そう言って笑うシェリルに、アルトは「いや案外的を得てると思うけど」と呟く。 「………で?アルトは目指すの?その鬼教官…『アグレッサー』」 ひとしきり笑うと、シェリルはじっとアルトの目を見つめ問う。 「…迷っては、いる」 「ふぅん。でも、やりたい、でしょ?」 「…ん。そう言う道もあるのか、と思った。そう言う道に進むのも悪くないかなと、思った」 遠くを見つめるように、己の内側を見つめるようにして話すアルトに、シェリルは瞳を伏せ微笑む。 「そうね。誰もがなりたいからってなれる職種じゃないんでしょ?せっかくオズマにも認めてもらったんだし、目指す価値、あるわ」 こういうときは、たいていアルトの中で答えは出ているのだ。 だからそっと背中を押してあげるだけ。 だって、空に焦がれるあんたを地上に繋ぎとめる足枷にはなりたくないもの。 「空バカなあなたが好きよ」 そう言ってシェリルが笑うと、アルトは顔を顰めた。 「昼間、隊長にも言われた…」 「え、好きだって?」 あらモテモテね、と囃し立てるシェリルに、アルトは眉を上げ言う。 「ちょっ、なんでだよ!そうじゃなくって、空バカって」 「あらやだ。あたしオズマと気が合うわね」 いやーん、と黄色い悲鳴を上げるシェリルに、本気で機嫌を損ねたアルトは腕の中の彼女を再び組み敷くと、その身体に乗り上げ言う。 「お前がアイツと気が合ってたまるか!お前は俺との相性が抜群なだけでいいんだよ!」 無自覚で凄いことをさらっと言ってのけるアルトに、シェリルは頬を染め、眉を下げる。 「分かってるわよ。あんたのことは、あたしが誰よりも…。あんたが何を目指しても応援するわ」 優しい光をたたえる空色の瞳に、アルトは細く息を漏らす。 いつだって敵わない。たったこれだけの会話でも、シェリルは自分の心の深部を見抜いてしまう。 シェリルが自分の一番の理解者だ。これまでも、これからもずっと。 「シェリル……」 吐息のように名を呼び、アルトは再びシェリルの身体に沈んでいった。 3投 それから、アグレッサーを目指すアルトは、これまで以上にVFに関する知識や技術を身に付けるため、時にSMSに缶詰になりながら、試験対策に追われていた。時間はいくらあっても足りない。 仕事を再開していたシェリルとの生活も、擦れ違いも多くなってしまったが、それでもお互いどうにか時間を見つけては、貪るように二人の時間を大切にした。 そんな生活が続いたある日、シェリルの携帯に、無事アグレッサーの資格を取ったとアルトから連絡が入った。 仕事を終え、急いでマンションに戻ったシェリルは、リビングのソファに座っているアルトの思い悩むような表情に、ドアを開け立ち尽くす。 お祝いにと買って帰ったシャンパンのボトルが、鈍い音を立て床に転がった。 「どうしたのアルト……」 アルトに近づくことも出来ず、思わず唇から零れたシェリルの呟きに、彼はそっと顔を上げると徐に口を開いた。 「早速アグレッサーとしての、出向先が決まったんだ。オリンピア船団のガイノス3って言う惑星だ」 「出向……オリンピアに?」 シェリルの言葉が震える。 「そうだ」 そう答えて、アルトは再び顔を俯かせると、ひざの上で組んだ両手を見つめる。 たったそれだけで、シェリルは気付いてしまう。ガイノス3への出向はアルト自らが願い出たのだろう、と。 「………そう、ガイノス3かぁ。フロンティアからは遠いわね」 「…あぁ」 「……でもそこなら、飛べるわね。大気のある空」 そう言うシェリルの声は優しい。 「いいじゃない、素敵じゃない!あたしなら大丈夫よ、心配しないで行ってらっしゃいよ」 努めて明るく笑うシェリルに、アルトは顔を上げる。 「シェリル、俺は………」 「……いいから行きなさいよ!」 言いよどむアルトに、焦れたようにシェリルは声を張る。 「っなんだよ、その言い方!」 そんなシェリルの態度に、アルトはムッとして声を上げる。 「…あたしは、あんたの翼にはなりたくても、足枷になんてなりたくないの!」 アルトの声の強さに、シェリルはビクリと肩を跳ねさせるが、それでも負けじと言葉を続けた。 「シェリル!」 「……アグレッサーの任務なんて、目指したときから知ってたはずだわ。他の船団に出向して、現地パイロットの指導にあたるって、聞いてたはずだわ」 大きく息を吐いて、まるで自身に言い聞かせるように力無く呟くシェリルに、アルトは口を噤む。 「だったら、いまさらよ…。だって……あんたが、どれだけ頑張ってたのか、あたし知ってるもの」 そう言うシェリルの青い瞳が涙で滲む。 「………ごめんなさい。素直におめでとう、って言うつもりだったのに…」 笑おうとして、それが無理だと判断したシェリルは唇をかみ締め俯いた。 シェリルの空色の瞳から、堪え切れなかった涙が零れた。 「シェリル……」 痛みを滲ませるアルトの声色に、シェリルは慌てたように口を開く。 「ち、違うの、引き止めたりしない。ここで待ってるから。……だから、別れるとか言わないで…」 「えぇっ?」 驚いたように声を上げるアルトを見ていられず、こんなこと言うつもりじゃなかったのに、と呟くとシェリルはその場に座り込んで泣き出してしまった。 「ちょっ…ちょっと待てシェリル、なんでわか、別れるって…」 「あんたがガイノス3への出向願い出たんでしょ?分かるわよ、それくらい…。そしたら、あたしが居たら邪魔になるじゃない。邪魔なんて、しないから……」 離れてても我慢するから、さよならなんて言わないで、としゃくり上げるシェリルに、アルトは大慌てで駆け寄る。 鬱積した不安やストレスで、抑えきれなくなった心が爆発すると、シェリルは時々こうして子供のように泣き出してしまうことがある。 シェリルの性格を分かっていたはずなのに、アグレッサーの試験に忙しく、それに気付いてやれなかった自分に舌打ちをした。 きっと、アグレッサーの話を聞いたときから、いつか告げられる別れに怯えていたのかもしれない。 他人の心の深部は敏感に感じ取るくせに、そこに自分自身が関わっていると途端に頼りなくなってしまうのだ。 「シェリル……そうじゃなくて……」 座り込んでしまったシェリルの前に向かい合うように腰を下ろし、その顔を覗き込みながらアルトは言う。 4投 「…一緒に、行ってくれないのか?」 「え…」 告げられた言葉に、泣き濡れた瞳を見開くシェリルを見て、アルトは「あー」と声を上げた。 「ダメだ。ごめん、泣かせるつもりなんてなかったんだよ。ちゃんと言い出せなかった俺が悪い。ちょっと緊張してて…あぁ、もう。カッコいいことなんか言えやしない」 ぶつぶつと早口に捲くし立てると、アルトはガシガシと髪を掻き毟り、大きく息をつく。 「……シェリル」 「えっ、はい」 涙に濡れた青い瞳を、琥珀が真摯な光をたたえ見つめ返す。 「ずっと、そばにいてくれ、これからもずっと。………俺と、結婚して欲しい」 いつか告げた言葉と共に、やっと今口に出来た言葉をシェリルに。 「……っ」 再び涙を滲ませるシェリルに慌てながら、アルトはボトムのポケットをごそごそと漁る。 「あっ、や…。お前の仕事の都合もあるだろうし、結婚…今すぐは、無理かもしれない、けど……。一緒にオリンピアに来てくれないか?離れたくないのは、俺のほうだよ」 頬を染めて早口にそう言うと、アルトはシェリルの左手を取って、その手の平に取り出したシルバーのシンプルなリングをのせる。 「これ…」 「ん…。婚約指輪。……本当は、ずいぶん前から用意してあったんだけど」 「え…」 アルトの言葉に、シェリルは驚き弾かれたようにアルトを見る。 「…なんでそんなに驚いた顔するんだよ。前に言ったじゃないか。俺のためにお前に着てもらうって。ウェディングドレスも白無垢も」 頬を染めて拗ねたように言うアルトに、シェリルはさらに瞳を潤ませる。 「……アル、ト」 「なんせ相手は『銀河の妖精』だ。俺も自分に自信が持てるようになったらと思って…。結構時間かかっちまった」 そう言うとアルトは苦く笑う。 「アグレッサーになって、パイロットとしての自分に少しは自信が持てるようになった。お前と対等とまではいかないかもしれないけど」 指輪の内側に彫られた『#727→#1123』の数字に気付いたシェリルは顔をくしゃりと歪ませる。 「アルト………っ」 「シェリル。俺と結婚してくれませんか」 そう言うと、アルトはシェリルの手の平にのせたリングを手に取り、そっと彼女の左薬指に填めた。 「ばかっ…いろいろ、遅いんだから……!」 キラリと輝く左薬指のリングを見つめ、嬉し泣きの涙を零したシェリルは、勢いよくアルトの首に抱きついた。 5投 「父さん。シェリルと婚約、しました。シェリルは身寄りがないから、結納とか形式ばったことはしませんが…」 緊張に頬を引き攣らせ言うアルトの隣で、美与の振袖を身に纏ったシェリルが居住まいを正す。 「うむ」 「やっとプロポーズですか」 揶揄するような矢三郎の言葉に、アルトは唇を尖らせる。 「やっとって……。時期を見てたんだ…」 「あの…不束者ですが、よろしくお願いいたします」 畳にそっと指をつき、美しい所作で深く頭を下げるシェリルに、嵐蔵は表情を緩めた。 病気療養のためしばらく滞在していた早乙女家で、シェリルは少しでもアルトのルーツを知りたいと思い、着付けや日本舞踊を習っていた。 元々の勘がよかったのか、今では立派な腕前である。 そんなシェリルを、嵐蔵は息子のアルト以上に可愛がっていた。 「シェリルさん。あなたが娘になってくれて、本当にうれしく思う」 「お義父様…」 「頼りない息子だが、支えてやってください」 穏やかな声色で言うと、嵐蔵はシェリルに向かって頭を下げる。 「もちろんです!」 「父さん…」 思いがけない嵐蔵の父親らしい言葉に、アルトは一瞬言葉を詰まらせる。 「で、いつ式を挙げるおつもりで?」 相変わらずの笑顔のまま、それでもどこか嬉しげに矢三郎が問う。 「それは……まだ。俺の準備が整い次第、SMSのオリンピア支部へ出向、ガイノス3でアグレッサーの任務に就く。そっちでの仕事が一段落ついたらってところかな…。シェリルには、仕事の契約とかもろもろの手続きが全部済み次第、オリンピアへ活動拠点を移してもらうつもりなんだ」 「はい。アルト、さん、から出向の話を聞いて、すぐにあたしも動いたので、2~3ヵ月後にはオリンピアへ移れる予定です」 「婚約の発表は?」 二人の話を聞いて、矢三郎は頷きながらも矢継ぎ早に尋ねる。 「婚約に関しては内々で済ませる。マスコミに騒がれるのは好きじゃない。まぁ…結婚のときは、見せびらかしてやってもいいけど」 「おや、じゃぁオリンピアへついていってもらっても、堂々とは一緒にいられないのですか。寂しいですね、アルトさん」 笑いを含む矢三郎の声色に、シェリルが頬を染め言う。 「あたしの個人専用のVF護衛部隊を雇おうと思っています。SMSのオリンピア支部と雇用契約を結べばツアー中はSSとしてそばにいられるし…。専用のVF機も発注したの」 2機も!と笑うシェリルに、恐るべし銀河の妖精の財力、とアルトは苦笑いを浮かべる。 6投 「あの、お義父様…。お式はまだ先なんですが…是非、お義母様の白無垢をあたしに着させてください」 豪奢なストロベリーブロンドをゆるくまとめ、頬を染め微笑むシェリルの姿に、ふっと美与の姿がだぶって見えて、嵐蔵は目を細める。 短い結婚生活だったが、それでもお互いを必要とし慈しみ合っていた。 「あぁ、是非。きっと美与も喜ぶでしょう」 アルトにとって嵐蔵は父親と言うより芸の師匠なのだろう。父親らしいことは何もしてやれなかった。 それでも、たった一人の息子が、銀河一の嫁を連れてきた。 それを嬉しく思う自分は、やはり人の親なのだと、嵐蔵は笑う。出来れば、この光景を美与にも見せてやりたかったと思いながら。 「あ…っと、いけね。これからまたSMSに行かなきゃいけないんだ。父さん、兄さん慌しくて申し訳ないですが、俺はこれで失礼します」 慌てた様子で立ち上がるアルトを仰ぎ見てから、シェリルは嵐蔵と矢三郎に視線を移す。 「あ、あたしは今日こちらに泊めていただこうと思うのですが…」 「えぇいくらでも。あなたの実家になるのですから」 嵐蔵がそう言うと、シェリルは嬉しそうに笑みを浮かべる。 「じゃ、シェリルのこと頼みます。」 ジャケットに腕を通しながら、座敷を出て行こうとするアルトに、嵐蔵が声を掛ける。 「アルト」 張りのある声に、アルトは姿勢を正すと嵐蔵を見据える。 「…はい」 「全身全霊を持って、シェリルさんを幸せにしなさい」 嵐蔵のまっすぐな瞳に、親としての情を見つけて、アルトは一瞬目を見開き、ふっと愛想を崩した。 今なら分かる。離れの座敷で臥せっていた母は最期の瞬間まで、父を心の底から愛していたし、家庭を顧みないと思い込んでいた父は、母が亡くなった今でも忘れられずにいるのだと。 チラとシェリルを見、柔らかく微笑むと、アルトは嵐蔵に向き直り笑う。 「あぁ、もちろんだ。銀河一、幸せな花嫁にするよ」 照れくささを隠すようにそそくさと部屋を出て行くアルトに、座敷に残された三人は顔を見合わせて微笑んだ。 ひょいっと座敷から顔を覗かせ、足早に廊下を渡るアルトの背中に向かってシェリルが声を掛ける。 「いってらっしゃい、だんな様!」 子供のように無邪気な、嬉しげなシェリルの声に、アルトは盛大に赤面した。 END 毎週のように妄想垂れ流してすみませ… ネタが尽きたと思ってもいくらでも沸きあがってくるんだ、アルシェリってすげぇ
https://w.atwiki.jp/gotham/pages/185.html
感知した魔力を追尾した先で発見したのは、一体の白いサーヴァントであった。 聳え立つビル群の陰に立ち、右手に握った刀を振るう。 極彩色の小さな果実が、汁を飛び散らせながら崩れて消えゆくのを見つめる。 そのまま、十数秒に及んでじっと佇む。 おもむろに、白いサーヴァントがその肢体を揺らす。 身体の向きを少し動かし、ゆっくりと顔を上方へと向ける。 双眸がぎょろりと蠢く。 視線が、交錯する。 白いサーヴァントの姿は、一瞬のうちに消失している。 決して起こってはならない事態。観察など即刻中止。咄嗟に飛び退く。 奴は見つからない。補足出来ない。何処へ行った。 一瞬、魔力を感知する。二秒前よりも近くに。 すかさず奴のいるはずの方向へと向き直る。 辛うじて、白いサーヴァントの姿が小さく視界に映る。 奴の姿に重なるように現れた、幾つかの黒い光球を捉える。 迫る。 疾過ぎる。 もう躱せない。 黒一色に塗り尽くされる。 ぼん。 ぼん、ぼん。 ◇ ◆ ◇ サーヴァントによって野に放たれた使い魔――観察するかのように動きを止めていた様子から、そう考えても問題無いだろう――をランサーが発見したのは、幾つかの要因が合わさってのことだった。 十刃随一とまではいかずとも、高精度には変わりない『探査回路』の能力を持っていたこと。 人間を怪物へと変容させる果実の存在を知り、より意識的に周囲への魔力感知を張り巡らせていたこと。 ……ランサーには自覚の無いことだが、シェリル・ノームの護衛に徹していたために奇しくも強大な魔力量を持つ他の外敵とすれ違わずに済んでいたこと。 これらの要因が生んだ結果、ランサーは使い魔自体が発する魔力の感知及び居所を補足し、間を置かず『響転』で接近、数発の『虚弾』による撃墜を済ませた。 それでも、あの僅かな時間でこちらの情報の一つ二つは発信源の人物に伝播した可能性も否定し切れない。鬱陶しい話である。 朝方にシェリルと合流した後、ランサーは正体不明の果実に関わる一件についての事後報告を済ませていた。 果実を貪った人間は言葉の通じない理性無き怪物に成り下がる、ランサーからその情報を聞かされたシェリルは、何を思ったのか暫くの間黙りこくった。その後シェリルがランサーに告げたのは、今後その果実を発見した場合は誰かに口にされるよりも前に処分せよ、という指示であった。 そのシェリルはと言えば、今は付近に建つスタジオハウスの屋内だ。日課のボイストレーニングを終えた後、その場で音楽情報誌の取材を受けるという話だと聞かされている。 当分シェリルがその場から移動する見込みが無いことから、また彼女の下を離れ感知した微弱な魔力の下へと向かった。そう離れていない場所にて例の果実を発見、シェリルの指示通りに切り伏せた。 例の果実とは別の魔力を感じ取ったのは、丁度そのタイミングであった。明確にこちらを注視する気配。何らかの目的で、こちらを観察している。 必ずしも害意を以て使い魔を使役していると断言出来ない以上、使い魔を無視する選択肢もあった。 それでも排除を選んだのは、使い魔の主が敵対者であるリスクを考えてのことだ。協調出来る相手がいるわけでもない状態で、ランサーの戦力、ただでさえ目立つシェリルがマスターであるという情報を一方的に握られるのは、不都合としか言えない。 故に。 「失せろ、雑兵が」 振り向きざまに、また『虚弾』を撃ち出す。一直線に向かった遠く先の地点で、魔力の気配が一塊分消滅するのを感じ取る。 近付いていた微かな魔力の持ち主は、先刻ランサーに潰された使い魔に替わる補充要員としてこちら側に移動した別の使い魔だったのだろう。どうせこのような手合いがすぐに来るだろうと予想していたため別段驚きはしない、ただ迎撃するのみ。 姑息な手段は通用させない。これでランサーへの接触を諦めるなら、所詮その程度の関係というだけの話。攻めてくるなら、戦う。味方を求めるなら、恐れず勝手に来ればいい。 ランサーにとっては無軌道に暴れ回る怪物よりも、大方キャスターだろうサーヴァントの知略に基づいて放たれた使い魔の方が脅威である。しかし、これはランサーの視点での話だ。 思い返すのは、先刻シェリルと交わした短い念話。果実を排除するべきと主張する彼女の声色は、確かに不快感を帯びていたように思う。なればこそ、シェリルはやはりサーヴァントの生み出す使い魔よりも怪物を作り出す果実の方が脅威であると語る予感がした。 理性を失い、音色を嗜むための感性すら既に消し去られただろう元人間。シェリルがそれに対して何を思ったかを考えれば、悲哀に分類されるものだろうと想像するのは難しくなかった。 存在そのものが死の具現とでも言うべき虚であるランサー自身は、死と悲哀を結びつけるような感性を持たない。それでも、人間の感情の一つとして存在するという知識は持っている。 ただ、知識としてだけ。 「……哀しい、か」 シェリルは、人間は、豊かな彩りを見せる「心」を持っている。発話で、歌で、感情を表現する能力を持っている。いずれもランサーには未だ欠落したままのものだ。 ならば、それが如何なる物であったとしても、触れてみるべきなのだろうか。シェリルと何かを共有するのは、もしかしたらランサーにとっては有意義となり得ることかもしれないのだ。たとえ、何の情動も得られないとしても。 取材が終わったら次は会場を移し、夜のライブに向けたリハーサルという話だ。シェリル・ノームの本領が発揮される時間の始まりである。 今はただ、その声を聞き届けるのみ。そのためにも、速やかにシェリルと合流するのみ。 ◇ ◆ ◇ 懐かしい。 自らを取り巻く環境について、シェリルは二つの理由でそんな感想を抱いていた。 一つは、ゴッサムシティという都市そのものに対して。選ばれた者達に許される華々しく甘美な感覚と、打ち捨てられた者達の追いやられる掃き溜め特有の苦痛が、ゴッサムという一つの枠組みの内側に存在している。人間社会が持つ光と闇の双方向のベクトル、その先の全てが詰め込まれたと言える街。 ストリートチルドレンに始まり銀河の妖精に至るまで、遠い宇宙のギャラクシー船団で過ごしたシェリルの半生がまるで一纏めにされて再現されているようだった。 もう一つは、シェリルが多くの時間を共に過ごす面々に対して。思い出すのはフロンティア船団を訪れたばかりの頃。グレイスとブレラと、シェリル。シェリルの人生の最後の転機を迎える直前の時間は、この三者の関係で成立していた。その関係にも似た状況の中に、今のシェリルの身は置かれている。 シェリル・ノームに該当するのは、当然シェリル自身。 ブレラ・スターンの場合は、ランサー。くすりとも笑わない無愛想なボディーガード。ランサーの振る舞いにブレラを想起したのは、彼と出会った翌日のことだった。 そしてグレイス・オコナーの場合は、左側の座席でハンドルを握っている妙齢の女性だ。彼女は、シェリルの所属する芸能事務所の代表にして専属マネージャーという役割を宛がわれたNPCである。大手の事務所を離れ、たった二人だけで独立開業した零細事務所が目覚ましい活躍を見せるのは彼女によるシェリルへのサポートあってのもの、らしい。 またゴッサムシティでは数少ない、非公表とされているシェリルの寿命の短さを把握している人物でもあった。 「――……リル、シェリル。聞いてるの?」 「何?」 「リハーサル入りまで時間を空けてあるから、ちゃんと休むようにって話よ。あと、本番の前も。寝られる時は寝ておきなさい。ただでさえ朝のフリータイムに外出を許可したんだから」 「いいわよ。今眠くないもの」 繰り返すが、彼女はシェリルと苦楽を共にしたグレイス・オコナーとは全くの別人だ。聖杯によって用意された、グレイス・オコナーの代替品である。 「まったく。体調管理もプロの仕事だったのに」 「わかってるわよ」 「…………本当は、夜中の外出だって反対なのよ。いくらこの街のことを見聞きしたいからって、治安の悪い環境の中に出すのは私だって気が気じゃないんだから」 「……気を付けるわ、グレイス」 たとえ、同じフルネームを持っていようとも。 同じ顔を向けられ、同じ声でこちらに語りかけてこようとも。 彼女のそれに限りなく近い、気遣いの込められた眼差しを注がれようとも。 『この』グレイスは、シェリルの知るグレイス・オコナーではない。何処か別の宇宙から連れられた他人であり、機械の詰まっていない生まれたままの肉体の持ち主だ。 シェリルの知るブレラ・スターンが、愛する妹を護り爆炎の中に消えたように。シェリルを愛したグレイス・オコナーは、歌のための晴れ舞台を託して斃れた。シェリルと共に生きた彼女達は、もう、どの銀河を探しても見つけられない。 「少しでも長く歌いたいなら、危ない真似はしないで頂戴」 グレイスがNPCでしかないから、伝えるわけにはいかなかった。 ただ無意味に呆けてグレイスの忠告を聞き流していたのではなく、サガラを名乗る男からの通達の方に意識を集中させていたのだという事実も。ビル群の上を駆けながら、周囲の敵味方の有無に注意を向けているランサーの存在も。 ランサーから、サガラから知らされた、そこかしこに蠢く脅威の存在も。 こうして沈黙する度、三人の関係は全くの別物なのだと、また気付かされる。 彼女に真に愛されるべき『シェリル』が自分では無い事実に、胸の内がちくりと痛む。 「あら、また346の曲。精力的ね」 シェリルの面持ちに気を遣ったのだろう、グレイスがまた別の話題を振る。情報収集は大事だからとシェリルが好んで車内に流している、ラジオ放送の話であるようだ。 ――……IKA、Memories。反応が遅れつつも辛うじて聞き逃さずに済んだ幾つかの単語から察するに、とあるアーティストの曲が今からオンエアされるらしい。しかし集中力を散らしていたせいで、曲名は聞けたがアーティスト名を聞き損ねた。 艶めかしいDJの司会で送られる音楽番組、初めて触れるアーティストの曲。貴重な楽しみを阻害される大元の原因となったサガラに対して、この時シェリルは最も強い憤りを感じたのかもしれない。 「聴いたこと無い曲ね。新人?」 仕方が無いので、このアーティストが何者であるかはグレイスに尋ねる。グレイスが口にした346が何を指すかについては、既に知っている。 346プロダクション。シェリルにとって、ゴッサムシティで初めて知ることとなった名であった。米国ではなく、確か日本という東洋の島国における大手の芸能事務所だ。近頃になって米国内に支社を設け、事業展開を始めたという話だったはずである……この場合は、設定と述べる方が適切なのだろうか。 イントロも終わり、ヴァースが流れ始める。重なるように、グレイスの解説が続く。 「少し前に346が始めた企画の一環で組んだユニットだそうよ。日本の本社で進めている企画らしいからこっちじゃそこまで頻繁に触れる機会も無いし、実際この曲も私は初めて聴くけど」 「ふうん。でも、どうしてわざわざアメリカのラジオで流れるのかしら?」 「宣伝ってことでしょう。346のアメリカ進出の理由の一つが、アイドル事業の国外展開って聞いているわ。まずは日本でプロジェクトが実行中だとこうしてアピールして、それからこっちで人材発掘ってところじゃない?」 アイドル。本来の意味でのidolから発展し、日本という国で独自に確立した概念だ。 歌唱力は勿論だが、ビジュアルや愛嬌も含めたアーティストのキャラクター性そのものを主力とする、歌手の亜流となる活動スタイルという認識……で良かったはずだ。米国では皆無と言うほどではないにしても、日本と比較すれば定着しているとは言い難い売り出し方であり、それ故に346は開拓の余地を狙ったというところらしい。 だからと言って、歌の方をおろそかにしているなどということは無い。今ラジオから流れている二人組の歌声も、新人にしては中々悪くない歌唱力のように思える。宣伝の一歩目としては上々になるのだろう。 電波を介してシェリルが出会った彼女達は、今どのような活動をしているのだろうか。ハンドバッグから取り出したスマートフォンのブラウザ検索機能を立ち上げつつ、グレイスに尋ねる。 「グレイス。その企画って何ていう名前?」 「確か、シンデレラプロジェクトよ」 「シンデレラ……ふふっ」 聞いた途端、思わず含み笑いが漏れた。 面白い話もあるものね、と僅かに心を弾ませながら、346の公式サイトから目当てのページを見つけ、人差し指でタッチする。 米国向けに英語翻訳された、プロジェクトのコンセプトの説明文が表示される。PROJECT MEMBERSの文字列をタッチすると、画面いっぱいに少女達がずらりと並んだ。 UZUKI SHIMAMURA。ANASTASIA。RANKO KANZAKI。ANZU FUTABA。KIRARI MOROBOSHI。 十人十色の愛らしさを見せる、十人を超える少女達。その殆どが、シェリルよりも年下に見える。一人一人の顔写真をタッチすれば、ありありと綴られた各々のアイドル活動に懸けた思いの丈を読める。 シンデレラの寓話に則れば、夢へと駆け出したばかりの彼女達は皆、舞踏会に辿り着く前の段階だ。そして御伽話と違い、芸の道は血の滲むような苦痛に対しても能動的にならねばらない。 それ故に、彼女達の中の誰かがいつか煌びやかな花の舞台の上に立つ日が来たら、その姿はとても絢爛なのだろう、なんてことを考え、また気分が高揚する。 一流を見よと刷り込まれながら腕を磨き、今は自身が一流となったと自負するシェリルであるが、こうしてまだ芽吹いたばかりの才能に目を向けるのも今は良いものだと思っている。 「珍しいわね。あなたが新人に興味を持つなんて」 「だって、素敵な話じゃない」 聖杯に再現されたゴッサムシティの外側で生きるとされる彼女達が、果たして実際にシェリルと同じ地平の上、海の向こう側に存在しているのか観測する術は無い。もしかしたら、文字と画像だけの存在なのかもしれない。 それでも、少なくともシンデレラプロジェクトはきっと本当に何処かの銀河の、何処かの星で紡がれている物語なのだろうと信じていた。人に笑顔を与える、歌を楽しむ心の表現が、只の作り物で終わるわけがない。そう信じられるし、信じたい。 だから、アイドルに興味を示す自らの言動も無意味ではない。もし叶うならば、彼女達とも実際に出会い、心を通わせてみたかった。そう願う感情も、また。 「女の子がシンデレラになるのって、惹かれない?」 少女達の歩むかもしれない未来に思いを馳せ、シェリルは自らの感情を吐き出した。遠慮もせず、躊躇もせず、取り繕わず、グレイス・オコナーへと向けて。 星を掴む『シンデレラ』の物語に魅せられた人間の一人としての、正直な想いを。 「……まあ、少女趣味は誰にでもあるものね。そういう意味では、キャッチーなコンセプトと言えるでしょうね」 意見を聞き終えたグレイスは、ただの好奇心ゆえの発言と受け止めてふふふと笑っていた。 シェリルもまた、グレイスと同じように小さく笑った。「っ」と、グレイスの言葉に小さく息を呑んだ一瞬など、最初から存在していなかったかのように。 それきり会話は打ち切られ、二人はまたラジオから流れる音に耳を傾けた。暖房の良く効いた空気を、少女達の歌声だけが振るわせる。 奏でられる音楽が心地良いものであるとする感覚は、何者であっても、隣り合うのが誰でも分かち合えるものだ。その素晴らしさを知っているから、シェリルは歌を捨てられない。 ゆったりと、シェリルとグレイスはMemoriesを共有する。ハロー、グッバイ。そんなフレーズのすぐ後に曲のオンエアが終わってからも、余韻に浸るための時間が続いた。 シェリルがまたいつものように重苦しい声で咳き込む瞬間まで、続いた。 「やっぱり少しだけ寝ておくわ。浅い眠りにしかならないでしょうけど」 再び、シェリルは笑う。意識して形作った笑顔だった。 ◇ ◆ ◇ 『間違ってたらごめんなさい。でも、そんなシェリルさんが凄いって思ったんです』 『いつも強くて輝いているシェリルさんが、本当はさびしくて、かなしくて、ひとりぼっちで』 『でも、それに負けないように精一杯歌ってたんだって』 それは、夢の中でしか会えない彼女との記憶。 今はもう、遠い日の記憶。 ◇ ◆ ◇ 会場入りするより五分ほど前、「この機会だから話しておくわ」という前置きを挟んだグレイスが眠たげに眼を擦るシェリルに語った話だ。 昨日、事務所ごと346プロダクションに移籍しないかとの提案がグレイスに来たという。その相手というのが、本社から視察のためにはるばるゴッサムシティを訪れていた346プロの常務取締役であった。彼女は346プロの会長の親族で、ラストネームも美城というらしい。 24日に開催予定である大型ライブの会場の下見に行った際、偶然別の用事で美城もグレイスと同じ場所に来ていたそうだ。そして同業者同士の世間話へと流れ込む中で、スカウトの話になったとのことだ。 そもそも今の美城の管轄はアイドル部門であり、仮に346プロに入ったからと言って彼女と直接仕事上の関わりを持つわけではない。それにも関わらず「アーティスト部門なら346ではむしろアイドル部門より歴史が長い」と理由付けをしてまでシェリル達に食いついたのは、先月末に鑑賞したシェリルのバースデイライブに感銘を受けたためだという。 城の中、階段を昇った先の頂上に映える完成された輝き、別世界のような物語性。強かで煌びやかな在り方を見せるシェリル・ノームのような人間こそ、最高級の王冠(クローネ)を被るに相応しい。 そう語る美城の口調には、場を繋ぐための些細な冗談では終わらせられないような熱が籠っていたという。イメージに合致する組織からの十分なバックアップ体制を敷けるのは大いに利点となるはずだ、とグレイスに向けたアピールも含まれていた。 「一応聞くけど、興味ある?」 「やめとくわ。今更移籍とかする気も起きないし。第一、セルフプロデュースで売りたかったから独立したのに」 正式なオファーでもない以上、よくある出来事としてグレイスも自らの胸の内に留めたままにする気でいたようだ。実際に話をしたのは、シェリルが先程346プロに興味を示していたからというだけの理由でしかないと言っていた。 勿論、受ける理由が無かった。そんなものは、長期的にも短期的にも全く将来性の無いプランでしかない。 こんな話を聞く度に、シェリルは感じずにいられない。評価されたことへの誇らしさと、そのことに対するそっと胸を刺すような痛みを。 人々は、自らの注目する『シェリル』の本質を知らない。 「そうそう。美城さんも言っていたわ。あなたが儚げなイメージの曲を出したのが少し意外だったって」 シェリルの眼前には、橙色の淡い照明に照らされたホールが広がっている。 右に左にせわしなく動き回るスタッフ達、等間隔で並べられるのは純白のクロスを敷かれたテーブル。もうすぐ、シェフ渾身の色とりどりのディナーが上に乗せられることになる。 今夜のライブは、既にCDも発売済みである新曲をシェリルの生の歌声で披露する初めての場だ。折角ならドームに何万人も呼び込んでみたいところだったが、諸々の都合によりパーティー用のホールを借りてのディナーショー形式となった。 感傷的なイメージを与える曲調であるため、落ち着いた時間を提供できるという意味では合致した環境と言えなくも無いのかもしれない。プログラムの中に激しいパフォーマンスが含まれていないというのも、この身体には有情な方と言えるだろうか……もしかしたら、グレイスが今回のライブプランを了承したのはこの点にあるのかもしれない。 それでも、抽選で選ばれた数百人程度しか今夜の観客になれないのは惜しいと思った。この先何度でもライブを開催できる保証があるならば、今回縁の無かった者達がいることも気に病んだりしない。 しかし、今はもう状況が違うというのに。 観客に選ばれた者達は、今頃シェリルのライブを心待ちにしてくれていることだろう。今回の新曲が、遠からずシェリル・ノームの遺作として扱われることになると知らず。そして、その歌がシェリルではなく『シェリル』の歌だとも知らずに。 「私も、最後くらいもっと明るい歌を発表してほしかったと思うけど。言っても仕方無いわね」 シェリルが全ての記憶を取り戻してから、まだ一週間も経過していない。それにも関わらず、シェリルの音楽活動の過去だけは米国のゴッサムに確立されていた。トップアーティストとしての実績も、今日までに開催したとされる数々のライブも。そして、今回の新曲も。 作詞作曲に編曲、収録に宣伝、全て合わせればCDを一枚発売するという工程は一朝一夕で済むものでは無いのだ。シェリルが新曲をゴッサムシティに送り出せたのは、曲が既に完成形となって予め提示されていたからに過ぎない。 歌い方は、気付けばいつの間にか身体に染み着いている。それでも、シェリルが完全に自らの意識に基づいて生み出した歌とは言えないだろう。 これは『シェリル』に編み出された歌なのだから。 誰も知らない。知ることが出来ない。 ゴッサムシティで人気を博す『シェリル・ノーム』の正体は、ただの偶像。 シェリル・ノームの最後の歌は、『シェリル・ノーム』という役割の具現化。 それでも、『シェリル・ノーム』を只の偽物だとは言わない。 「シェリル、機材のセッティングが終わったそうよ」 「そう。じゃ行ってくるわね、グレイス」 『わたしは温もりなんてもう何もいらない、わたしはわたしを暖められるから』と。 そんなことを謳う、シェリルに与えられた『シェリルの歌』は当然シェリルの歌ったことの無い物だ。自分の口から誰かにサヨナラを言うための、泣いたりしないと強かに振る舞う歌。泣きたいけど泣かない、弱さを隠す強かさを演じるひとの歌。 皮肉だと思った。『シェリル』の姿が、痛ましい強がりが、そう在りたいと願う自らのイメージに重なっていたから。 共感を超えて、同期とでも言うべき感覚。 『シェリル』もまたシェリルの持つ、シェリルの演じる顔の一つだと理解してしまったから。 しかし、否、だからこそ。シェリルと『シェリル』は同一ではない。シェリルの内側には、『シェリル』の知らない経験が蓄積されている。 少女と肩を並べながらデュエットソングを歌う感覚。一人の異性への、命を燃やすほどの本気の恋。その果てに少しだけ肥大化した、人恋しさという名の感情。 これらを思い出した今、もう『シェリル』と同じようには歌えない。あらゆる感情に、『シェリル』以上の重みを込めて放たざるを得ないのだ。 だから、これから『シェリルの歌』を、今此処に居るシェリル・ノームの歌へと昇華する。人々の中の『シェリル』のイメージを、より情報量の多いシェリル・ノームへと塗り変える。敢えて『シェリルの歌』を歌うことが、シェリルなりの渾身の意趣返しだ。 (そういえば、ランサーにこの曲を聞かせるのも初めてよね。今はまだリハーサルだけど、あなたもしっかりと聞いていきなさい) 『……』 ギャラクシー船団だとかプロジェクト・フェアリーだとかV型感染症だとか、そんな小難しいバックボーンを説明する機会は無い。 しかし構わない。歌はもっと単純な楽しみであっても良いのだ。 明確でも、なんとなくでも良い。聞いて、何かを感じ取ってくれれば十分。 (ランサー?) ああ、早く歌わなきゃ。 今はこの無感動を絵に描いた男の胸にも届くように歌って、夜になったら来てくれた沢山のオーディエンスの前で歌って、明日、明後日、そしてクリスマスイブの夜を迎えられたならば、 『また魔力を感知した』 ランサーは、ただ事実だけを告げた。 シェリルの足が、止まる。 『場所はまだ遠いが、例の使い魔や怪物よりは大きい気配だ。より強力な使い魔か……恐らくはサーヴァントだ』 淡々と、シェリルに現実を突き付ける。 聖杯戦争のセオリーとして向き合うべき、他の勢力が接近していると。歌のための未来を阻害し、この僅かな生命をも脅かす仇敵であるかもしれない何者かが、すぐ近くにいると。 突然足を止めたシェリルを怪訝に思うスタッフ達の声が、耳から通り抜けていく。 時間にすれば精々数秒ほど。しかし、実感としては随分と長く思い詰めたような気がした。 『どうする? 向こうも既にこちらに気付いているかもしれないが』 (ランサー、会ってきて。もし通達にあったような外道だったら倒してしまってもいい。そうでなかったら……あなたに任せるわ。出来れば穏便に越したことはないけど。大丈夫よ、私に何かあったら令呪で即刻呼び戻すから) ランサーの声を遮ってでも、早急に方針を伝える。 念話であっても、その声は強かだ。 『そうか。ならば、ある程度はこちらの裁量でやらせてもらう』 (ええ。あと一つ、絶対帰ってきなさい。こんないい女に待ちぼうけさせるなんて、男の恥でしかない真似は許さないわよ) 『……』 最後の指示にはろくに答えないまま、ランサーはシェリルの下から消えた。 念話での指示で良かったと思う。攻めの姿勢を見せられたのも良し。 映画なんかだとお決まりのパターンである死への伏線を敢えて口にしたのも含めて、勝気な振る舞いを通せたのは成功だった。 「……私の歌の感想、あなたの口からまだちゃんと聞けてないのよ」 もしも自らの声で伝えていたら、それはきっと震えていた。 そんな弱みを、メロディに乗せない言葉で表現してしまうのは少しだけ癪だった。 「ごめんなさい、ちょっとした精神統一よ。すぐステージに上がるわ。リハーサルだからって聞き逃がさないでよね!」 声を張り上げるという行動が疲れるものだとは承知している。この身体には、毒だ、 ビートライダーズの少年達と違い、快活なだけではいられない。シンデレラプロジェクトの少女達と違い、未来はそう永くない。 それでも、止められないのだから仕方が無い。こういう疲れなら構わない。 歌う時、シェリルは彼ら彼女らと同じく自分に正直になれる。シェリルを聴いてくれる人がいたら、安心出来る。 だから舞台に立って、歌っているだけ。 こうして出会う人々に、声を届けているだけ。 私は今も強く輝けているでしょうかと、シェリルは今も問うている。 ランサーへ、数多の聴衆へ、そしてゴッサムシティへ。 早乙女アルトとランカ・リーが何処にもいない、この世界へ。 どうか私の声を聴いてと、シェリルは今も願っている。 ◇ ◆ ◇ 率直に言えば、シェリル・ノームはサーヴァントを従えるマスターとして決して優秀ではない。魔術師としての素養が皆無であるために、ランサーが自らの真価を発揮するのに伴う魔力消費にシェリルは対応しきれまい。 しかしそれだけならば、ゴッサムシティを舞台とする聖杯戦争では他者に大きく後れを取る要素であるとランサーは考えない。シェリル・ノームが意図せずしてマスターとなったように、同じく魔術師では無い者がマスターとなった事例がある可能性もあるためだ。 シェリルの抱える一番の欠点は、病。ただ快活に見せかけているだけで、実際は常人より衰弱している肉体だ。 ただ日常生活を営むだけならば大きな問題は無い……実際はそれだけでも問題があるのだろうが、一応は無いものとしておく。 しかし、ランサーに魔力を提供すればどうなるか。魔力の消費は、より簡単に言えば体力的な負担の発生だ。そして他の者より脆い肉体の持ち主であるシェリルには、その負担が重大な意味を持つ。それ故に、ランサーの戦闘行為はシェリルの生命維持という一点においてリスキーだ。 例の怪物や使い魔のような雑魚相手ならば、己の身体能力と、付け加えるとしても精々『響転』と『虚弾』だけで十分。ランサー自身の魔力だけ事足りる。 しかし中級上級のサーヴァントを相手にするならば話は別だ。『虚閃』の多用、『黒翼大魔』の解放、場合によっては『第二階層』や『超速再生』の必要も生じるだろう。 そのためのエネルギー源であることをシェリル一人に強いれば、彼女が文字通りに瀕死となるのは想像に難くない。言い換えれば、シェリルの生命に配慮するならばランサーは極力全力を出さずに戦わざるを得ない。 「何だろうな、この思考は」 己の耽る思考に、ふとランサーは奇異さを覚えた。 ランサーが聖杯戦争の舞台上に少しでも長く留まるためには、改めて優秀なマスターを持つのが最も手っ取り早い。幸いと言うべきかランサーには単独行動スキルが付与されており、仮にシェリルが命を落としたとしてもランサーは即刻消滅に至るわけではないのだから。 降りかかる火の粉を払うというお題目の下、シェリルをさっさと衰弱死させてしまうこともまた選択肢の一つなのだ。 この発想にランサーが至ったのは、たった今。こうして改めて考え直さなければ、ランサーはこの発想に至れなくなった。 間違いなく、シェリルのせいだ。 シェリル・ノームという人間に、彼女の歌に興味を持った。それは事実だ、認めよう。 不可思議なのは、ランサーの中でのシェリルの優先順位の高さだ。 考える、シェリルの何に引き付けられるのだ。歌が上手いだけの、特別な力の無い人間に、何故。 もっと明瞭な。言葉に出来る理由があるはずだ。 シェリル・ノームは、ゴッサムに生きる七桁を超える人間の中の一人に過ぎない。死が珍しくないこの街では、斃れゆく者達の中の一人であることすら―― 「ひとり……なのか、あの女は」 甦るのは、かつてランサーと触れ合ったあの少女の言葉。 独りで死ぬのが恐ろしいかと問うたランサーに、誰かと「心」を一つにしているから怖くないと少女は答えた。 シェリルは今、あの少女と同じ言葉を口にしている。 しかし、二人の間には差異がある。 あの少女は少年に、仲間達に護られた。他者と力を合わせ、目前に迫る死の可能性に打ち勝った。 シェリルはどうだ。身体を蝕む病を治す術は無く、聖杯を掴み取れる見込みも無い。終へと向かうシェリルの運命は変わらず、最早何者にも救われることが無い。 そうか、と確信する。 シェリル・ノームは、あの少女が辿り着くかもしれなかった別の可能性。少年に護られず命を落とす少女、それは即ち、シェリル。 だから、ランサーは興味を持ったのだ。彼女の最期の声を聴くまでの間に、何がのこされるのか知りたいと。 ランサーは、一際強く大地を蹴った。 行き着く先に待つ者が敵か味方かは未知だ。それでも、敵でなければ理想的だろうと思う。魔力を行使する必要が無ければ、それに越したことは無い。 勿論、ランサーは敵意を向ける者が相手であっても怯えるつもりなど毛頭ない。十刃の第四として、己の槍を振るうのみ。 ただそのためにシェリルが死の危機に瀕するのは、些か不都合だ。ランサー自身が消滅させられるのも同様。恐ろしくなど無い、しかし癪だ。 しかし、この思考にも結局意味は無い。まだ見ぬ彼奴に出会う瞬間まで運命は分からない。 故に、ランサーはただ懸けるしか出来ない。 巡り会う者に立ち向かうしか出来ないし、立ち向かわねばならない。 シェリルの下に、帰らねばならない。 この数日間で、シェリルの喉で奏でられる歌声を何度も聞いた。 街角に流れる電子音声で、シェリルの新たな曲を何度か聞いた。 シェリルの喉で奏でられるシェリルの新たな曲は、まだ一度も聞いていない。 『何もこわくない、忘れはしない』と。 そんなことを謳う彼女に、聞かねばならない。今夜の舞台で、聖杯戦争という名の舞台で確かめねばならない。 女よ。 シェリル・ノームよ。 「お前は本当に――――本当に、こわくないのか」 問わなければ、ならない。 【UPTOWN BAY SIDE/一日目 午後】 【シェリル・ノーム@劇場版マクロスF 恋離飛翼~サヨナラノツバサ~ 】 [状態]余命僅か、今のところ病状は比較的落ち着いている [令呪]残り三画 [装備]なし [道具]なし [所持金]豊潤 [思考・状況] 基本 命の限り、歌い続ける。 1.夜間(18時)からのライブに準備。今はリハーサル中。 2.何かを楽しむ人々への興味(ビートライダーズ、シンデレラプロジェクト等)。 3.24日まで身体が保ってくれたら嬉しい。 [備考] ※21日の夜間(18時頃)にディナーショー形式のライブを開催します。開催場所はUPTOWN BAY SIDEに建設されたイベント用ホールです。 ※22日以降の予定は後続の書き手さんにお任せします。少なくとも24日には大型ライブの開催予定があります。 【ウルキオラ・シファー@BLEACH】 [状態]健康 [装備]斬魄刀 [道具]なし [思考・状況] 基本 「心」をもう一度知る。 0.魔力の発信源へと向かう。 1.シェリル・ノームを守る。 2.白い怪物(インベス)と極彩色の果実(ヘルヘイムの果実)、キャスター(メディア)の使い魔を警戒。 [備考] ※インベスとヘルヘイムの果実、メディアの使い魔を視認しました。 ※サーヴァント若しくはそれに類する大きさの魔力を付近に感知しました。正体は後続の書き手さんにお任せします。 [全体備考] ※【UPTOWN WEST VILLAGE】と【UPTOWN BAY SIDE】の間の範囲で活動していたメディアの使い魔の数体が、ウルキオラ・シファーに撃破されました。 BACK NEXT 020 第一回定時通達-The Times They Are A-Changin - 投下順 022 Raging Spirit 時系列順 BACK 登場キャラ NEXT 011 虚無と歌姫 シェリル・ノーム 035 Black Onslaught ランサー(ウルキオラ・シファー) 022 Raging Spirit
https://w.atwiki.jp/fairy-waterfall/pages/116.html
352 名前:fusianasan[sage] 投稿日:2011/04/05(火) 02 35 52.06 護衛期間初Hです。 劇場版アルシェリは清らかじゃないとダメな人と、 アルトの恋愛自覚の時期がしっかりをイメージついてる人は、スルーをお願いします。 ** かなりセクシーでセンセーショナルな新曲が出来あがって、振付をスタッフと練っていた。 錬金術の異なるものの結合示すために、一人二役でそのことを示す絡みの動きを入れようと ダンスを考案していた。 しかし、絡みの動きに「色気」が足りない。 これは、シェリルとしても、認めざるを得ない。 VTRにとって何種類も考えてみたけれど、どれを見てみても「色気」がたりない。 滑らか妖しくは動けるの。 きれいな動きは訓練したもの。 でも、決定的に「色気」が足りない。 ふと、練習風景を見つめるアルトの目を感じた。 少し、体が火照る。 アルトを感じて、シェリルの体は少し不自由になった。 「あら、少し良いんじゃない?シェリル」 「お蔵入りかと思ってたけど、もう少しやってみたいの。越えてみせる」 ** 「グレイス達はもう出かけたの?」 「ああ、お目付け役がいないからって、お前大人しくしてろよ」 シャワーを浴びてリビングに戻ると、アルトが何やら読んでいた雑誌から顔をあげて微笑んだ。 飛行機の雑誌ね、本当に好きなんだから。 シェリルは、かわいらしいアルトの、ちょっと男らしい顔が好きだった。 「随分と難航してたな」 「はぁ、まあね。曲を作るときにはそういうこともあるわ。 他にもたくさんあるのよ、発表してない曲。 でも、まだ、もう少し・・・」 シャワーの後にシェリルが好んで飲むドリンクを、アルトが手渡してくれた。 「色気、か・・・」 「な、何よ~」 「うん、確かに艶めかしさがちょっと足りなかったな」 「なんか、あんたに言われるとムカつくわね」 アルトは、真面目に芸について思案してた様子だったけれど なんだか魅力ないって言われてるみたいで、少し傷ついた。 「私のどこが、色気がないですって?」 アルトの頬をつつと撫でて、近づいて息を吹きかける。 思いっきり赤面したアルトが、後ずさる。 「お前、そういうのやめろよな!」 「あら、アルトには刺激が強かったわね」 「今、二人きりなんだから!」 アルトが、しっぽを揺らして、床を見て訴える。 顔が赤い。 シェリルも、言われて気づいて、赤面してしまった。 べ、別に、何かあるわけじゃないわ。 「な、何よ。とって食ったりなんてしないわよ」 「お前・・・」 アルトが呆れたようにソファーにもたれかかると、さらりと黒髪が流れた。 逸らされた胸板が男を感じさせて、セクシーだった。 「とって食われる、とか考えないのかよ・・・」 「あ、え・・・」 アルトが、私を・・・? 一瞬で想像してしまったシェリルはアルトが直視できない。 何度も、妄想した事があるのだから。 肩を抱いた自分の手さえもアルトの手に思えて、体が震えてしまった。 「ア、アルトが!そんなこと出来るわけないでしょ!」 「そうだな」 彼の美しい顔が自嘲気味に歪んだ。 どうして、そんな顔するの? 「疲れたから、少し眠るわ」 傷つけた彼に背を向け、ベッドルームへと逃げ込んだ。 *************** ダンスが主だった今日は、少し歌い足りない。 ふと。 歌が口をついて出る。 『会えないとき これを聞いて』 この曲も未発表曲だ。 『大好きだから 時々意地悪したくなるの』 あまりに幸せな妄想から出来た歌。 『いろんなことシテ いろんなトコ触って』 今、アルトと一緒にいられて、夢みたいな生活を送っている。 彼が護衛に来るのを心待ちにして、彼といろんなことシテ、 彼の心に触って酔いしれている。 『困るところちょっと見たいな』 彼は今頃きっと、拗ねた私の扱いに困ってるだろう。 ごめんね。 あと少しだから。 『どうしよう 離れたくな・・・』 涙がこぼれおちた。 愛してる、なんて、言えない。 ********** 「シェリル」 ノックとともに、今一番聞きたくない声が聞こえてきた。 こんな顔は見せられない。 「来ないで」 震える胸が悟られないように声を張り上げた。 ドアの向こうからアルトが、すまなそうに話かける。 「シェリル、聞いてくれ。 俺は同意なしにお前を襲ったりしない。 だから、安心してほしい。 護衛は、どうしても、プライベートに踏み込んでしまうから、 どうしても心配なんだったら、女性隊員に・・・」 何を言い出すのだろう。 「待って!」 あわてて、涙をぬぐうと、ドアを開けた。 バツの悪そうなアルトが、しょんぼり立っていた。 「クライアントに怯えさせたら、護衛失格だな。すまない」 「そんなこと無いわ」 懸命に否定するシェリルにアルトはきょとんとしている。 「そうなのか?」 「ええ」 ほっとした様子で苦笑していたアルトが、ふと目の前の少女の涙の跡に気づいた。 アルトが何か言いかける前に、シェリルは慌てて話題を逸らした。 「い、色気って難しいわね。銀河の妖精シェリルノームですら、うまく出せないんだもの」 ギャラクシーでの「羽衣」の公演を見た後、アルトの舞台映像は全て見た。 とても、艶やかで、幼い少女でも、揺すぶられる色気があった。 それは、シェリルが銀河の妖精と呼ばれるようになった今見ると、さらに素晴らしい芸だった。 芸をやめてからも、彼女の心の中で沢山の歌を生み出してきた彼は、「男」の姿で、今、手の届く所にいる。 「そんなこと、ないさ」 目を逸らして、やはり、苦しそうにする彼はとても色っぽかった。 彼の熱い体に抱きしめられたい。 彼が近くにいるようになってから、ずっと心に抱いていた欲求が背中を押した。 アルトの熱い視線に気付かない程に疎いわけではないのだ。 シェリルは俯く彼の肩と顎に白い手をかけ、顔をあげさせた。 「アルト、私に『色気』を教えてちょうだい」 そう、あなたの手で女になりたいの。 戸惑いながらも色を含んだ彼の視線が体をぞくりと駆け上がり、 先ほどまで涙でぬれていた青い瞳が再び潤みを帯びてきてしまった。 切なさで爆発しそうな心が読まれないように、シェリルはアルトにふくよかな唇を近づけると、 アルトは迷うことなく噛みつくように、唇を重ねた。 アルトはだんだんとキツく抱きしめ、懸命に舌を絡めた。 彼の舌も、鼻先も、肩も、胸板も、全てがシェリルの深いところに刻みつけられる。 あまりの感覚と感情の波に呑み込まれて、シェリルはぼんやりとしてきた。 「感じる」ってこういうことなんだわ。 アルトが身を離すと、二人の唇の間に唾液の糸が引いた。 思考が追いつかず、シェリルはぼんやりとそれを眺める。 「十分、『色っぽい』さ。俺が惑わされるくらいには」 少しだけ悲しそうに笑ったアルトが、シェリルの唇から糸をぬぐい、 そのまま首から耳を撫で、イヤリングを揺らした。 「ぁっ」 体の中心に響く刺激に、シェリルは身をすくませた。 「どうする?」 お腹の奥に響く声で、瞳で、愛しい人が問う。 瞳も濡れているし、体も熱いし、きっと情けない顔をしていると思う。 「あなたの、好きにして」 唇をちゅっと重ねて、アルトはシェリルを抱えた。 ********* 「お前、本当にいいのか?」 この期に及んで、真面目なアルトらしい。 ムードはぶち壊しなわけだが。 「怖くなったの?」 シェリルは精一杯妖艶に、ブーツとコートを脱ぐアルトの背中に投げかけた。 「いや、そういうの、似あわないからさ」 虚勢が見透かされているのが分かり、シェリルは顔を赤らめ次の言い訳が思いつかない。 「おれだって、誰とでもこういうことする男じゃないからな」 少し照れているのか、アルトはシェリルを見ることが出来ないでいる。 「な。何よ!私だって!」 アルトじゃなきゃ嫌なの。 そんな可愛い答えは言わない。 でも、とっさに応えたシェリルの叫びを聞いて、振り向いたアルトがにやりと笑った。 「ああ、知ってるさ」 ベッドに上がり込んできたアルトの欲をはらんだ瞳がシェリルは鼓動を速めた。 なによ、いつもは初心いくせに、生意気よ! いつものように強気な事を考えようとしても、シェリルは獲物となった自分を感じていた。 ******** ぎこちなく手を這わせながら、唇で感じながら、アルトはシェリルの身体に火をともしていった。 仰臥した白い裸体が恥じらいながらびくりびくりと震える。 蕾を弄んでいた指が、シェリルの中へと入ってきた。 誰も触ったことのない、体の奥をまさぐられて、内股に力が入ってしまう。 それを難なく、押し開いているアルトの力が、逞しく感じられてシェリルはますます蕩けてしまう。 アルトのことが見ていたいのに、変な反応をしてる自分が恥ずかしくて、シェリルは目をつぶってしまう。 「俺だって色々不安なんだ。もう少し楽にしてくれよ」 まだ、痛くはないんだろ?っとシェリルの頬を心配げに撫でるアルトが、なんともおかしく シェリルは体から力を抜いた。 シェリルの緊張が解けたのを感じて、アルトも、少し緩んだようだ。 お互いの呼吸を感じて、徐々にほぐされていった。 シェリルは体を起こすと、愛おしげにアルトの身体や髪を撫でた。 アルトもシェリルの頬を撫で、髪を梳き、二人、目を合わせて、微笑みあった。 「好き」が膨らんで体を満たしていくのを感じた。 少し戸惑っていたアルトからも衣服を全て除かせたシェリルは 全身でアルトを感じようと、精一杯抱きついた。 熱い肌を、唇を、熱の中心を懸命に相手に触れさせて、愛おしさを伝えあった。 様々な声を操るシェリルから、出したことのないため声が零れ落ちた。 絡みあう二人はしっとりとお互いの肌を濡らし、更なる高みを求めて堕ちていった。 「シェリル、そろそろ」 「ん?」 「挿れたい」 この期におよんで恥じらうアルトを見てシェリルも再び恥ずかしさが湧きあがって来た。 「遅いわよ、バカ」 「すまん。でも、まだ」 「いいから」 アルトは途中、シェリルを指で広げようとしていたが、 未通のシェリルがどうやっても、狭いままだったのが気になるらしかった。 しぶしぶと、しかし、いそいそとズボンの中からスキンを取り出すアルトをみて、シェリルがぽつりとつぶやいた。 「やっぱり、持ち歩いてるものなのね」 まだ、装着できていないアルトが、振り返って懸命に抗議をした。 「ちがう!これは・・・」 あれこれと言いたげな言葉を飲み込んで、ひとことだけ。 「たまたま、もらったんだよ」 納得のいかない様子のシェリルを押し倒し、アルトは入口にあてがった。 「多分、辛いと思う」 「うん」 ぬるぬると、入口をさまよう。 「出来るだけ、優しくするから」 「許してあげるわ」 シェリルを焦がれてかすれた声に、他になんと返答できるだろう。 熱い塊がシェリルの中に、分け入ってくる。 痛みと異物感でさっきまでの夢見心地が吹き飛んだような気分だ。 ぼんやりと一体感を感じていた彼とシェリルは別の人間で、「境界線」がはっきりと感じられた。 「大丈夫か?」 情けない声で声をかけてくれる、気持ち良さそうなアルトを見て、 シェリルはもう何をされても良いと思った。 **************************** 「ホテルスタッフにしてもらっていいのよ?」 「いや、俺がしたいんだ」 上に下に揺さぶった後のシーツはめちゃくちゃだった。 シーツの交換をしているアルトは、破瓜の薄紅色を確認して、苦笑した。 その頬笑みには目いっぱいの愛おしさが込められている。 「証拠隠滅してるつもり?」 「そんなわけじゃないさ。はずかしいだろ?」 「どうせ、グレイスにはすぐわかるわよ。体をスキャンすれば一発」 「え、俺、護衛から・・・」 「外されたりはしないわ」 むしろ、おめでとうって言われちゃうかもしれないわね・・・。 グレイスは、私が、アルトにずっと思いを寄せてること知ってるもの。 そう思うと、気恥ずかしくなり、シェリルはもじもじとしてしまう。 そんなシェリルに気づいたのか、ソファーに座り眺めていたシェリルの前に、見下ろすようにアルトが近づいた。 「『色気』、少しは参考になったか?」 「どうかしら?」 小首をかしげるシェリルは、小憎らしいほどにキュートだった。 「俺のこと思い出せよ」 まさにその例のダンスのように、アルトはシェリルの首から胸を通り、足、つま先まで手と唇を這わした。 アルトとの熱の交換を思い出し、シェリルは自然と息が漏れそうになった。 「なんだか出来そうな気がするわ」 「公衆の面前で見せていいものの限界を超えてしまいそうだな」 アルトは少し、嫉妬している様子だった。 どうやら、アルトからは合格点のようだ。 「でも、この曲は内容がセクシー過ぎるから、衣裳はコケティッシュで結構控えめなのよ」 「ふ~ん」 シェリルの非常識さを理解しつつあったアルトは、半信半疑で返事をした。 「ほら!」 無邪気に自信満々に見せられた衣裳は、見せる肌こそ少ないものの、あまりにエロティックだった。 衣裳に込められた意味に赤面したアルトを見て、シェリルは不思議そうに小首を傾げた。 (ダメだ、コイツ・・・) おわり