約 3,979,915 件
https://w.atwiki.jp/sousakurobo/pages/1114.html
次の日は祝日で学校が休みだったので、マコトは早速行動を起こした。 護身のため、ジャケットの内側に折り畳み式のナイフを忍ばせ、両親と顔を会 わせないように家を出る。 昨晩、マコトは家に帰ってからいろいろと考えを巡らせていた。 『タルタロスを潰してやるにはどうすればいいのか』 そして考えて、考え抜いて出した結論が、『警察に頼る』といったものだった 。 ……我ながら情けないと思う。昨日あんなタンカを切っておいて、結局は自分 では何もできないのだ。 だが、現実的に考えれば当然だった。タナトスはタルタロスの頂点。そんなや つを倒せるようになるまで、果たしてどれだけの時間を積み上げればいいのか? グラウンド・ゼロはもう普通のゲームセンターには無いし、タルタロスの練習 室では対人対戦はできないので練習にならない。 タルタロスに参加して対人の経験を積むのは……やはり、嫌だ。 そもそも、自分が『タナトスに挑む』と言った直後、あんなに嬉しそうな反応 を示したコラージュの期待に応えてやるのも癪だ。 だから俺は、俺自身では『なにもしない』ことに決めた。 タナトスとコラージュを失望させてやることが、マコトにできる唯一の反撃だ った。 だから警察に頼る。 そのためには、通報するか、直接警察署に行かなければならないのだが、これ らの行為がどれだけ危険な行為なのか理解できないほど、マコトは馬鹿でもなか った。 通報にするにしても、携帯電話は使えない。もし自分のケータイで110に電 話したなら即タルタロスにバレるだろう、そんな気がする。あのとき――携帯電 話を預けたとき――からそれは感じていた。単なる警告のためだけに携帯電話を いじくるわけがない。何らかのトラップが仕掛けられていると考えて間違いはな いだろう。 例えば、「1」「1」「0」を押した直後に携帯電話がボン!指が全部無くな る――奴らなら、やりかねない。 直接警察署に向かうのも危険が伴う。入るところを見られたらそれだけで終わ りだし、そもそも警察のがわにタルタロスの人間がいない保証もない。街のど真 中にあんな巨大な違法賭場が存在し続けているのだ。可能性はある。 まぁそれを言ってしまえばなにも行動ができなくなってしまうので、無理やり 考えないようにするが……。 そうして、マコトが出した結論は、公衆電話からの通報だった。 警察への通報の電話というものは全て警察によって録音されている。 だから仮に何か問題が起こっても何とかなりそうな気がするし、携帯電話から の通報の場合と違って、即バレする危険性も、『比較的』低いだろう。深めにか ぶったニット帽とだて眼鏡の変装もそのためだった。 ……などという正直自分でも頭悪いと言わざるをえないような理屈で、マコト は行動を起こしていたのだった。 とりあえず、公衆電話を探そう。 マコトは駅に向かった。 休日の駅にはいつも以上に多くの人々が行き交っている。 その間をすり抜けて、公衆電話に近づいた。 さりげなく辺りをうかがって、自分に注目する人間が居ないことを確認して、 受話器をとった。 ゆっくりと深呼吸をして、硬貨を数枚入れる。 ダイヤルする。 受話器を耳に。 すぐに電話は繋がった。 「こちら警視庁緊急通報センターです。ご用件をどうぞ。」 落ち着いた女性の声が聞こえてきた。 受話器を握る手に力がこもる。 「話したいことがあります。」 「どうぞ」 「違法賭場を見つけました。」 「……あなた様のお名前をうかがってもよろしいでしょうか?」 「マコト・アマギです。」 「アマギさんですね。」 一瞬の間。 「ではアマギさん、その賭場について詳しくお聞かせください。」 「はい。」 マコトはなるべく感情的にならないよう、ひとつひとつ、断片的にだが説明し ていく。 その中には自分がタルタロスに加担して、相手プレイヤーを殺した(ようなもの だ)ことも含まれていた。 話を一通り聞き終えた女性は最後に言う。 「――では、さらに詳しくお話を聞かせていただきたいので、アマギさん、お近 くの警察署へ出頭願えますでしょうか?」 マコトは言葉に詰まる。が、説明する。 「さっきも話しましたけど、俺は監視されてるかもしれないんです。もし警察署 に入っていくところを誰かに見られでもしたら……」 「……わかりました。ではこうしましょう。」 女性は言う。 「今からお時間大丈夫ですか?」 「はい。」 「では、なるべく人通りの多い――そうですね、アマギさんは今どこに?それと 、どんな格好をしていらっしゃいますか?腕時計はどちらの手に?」 「CJRの駅で、場所はカントウ第1の『シブヤ』です。腕時計は左手首にして います。格好は、ニット帽に、パーカーの、カーゴパンツです。それと眼鏡も。」 「そうですか、では……今からハチ公前に向かってください。」 「はい。」 「ハチ公前に着いたら、携帯電話を使って『電話しているフリ』をしてください 。そのときの手は『左手』で、『腕時計が見えるように』お願いします。」 「『腕時計が見える左手』で『通話する演技』ですね。」 「はい。そうしていただけたら、こちらから声をおかけします。」 「はい、わかりました。」 「では、お願いします。」 「はい。失礼します……」 マコトは受話器を置いた。電話の上に積んでいた小銭を財布に戻し、胸を撫で 下ろす。 これで、少し前に進めた。一番恐れていた『門前払い』もされず、キチンと話 を聞いてくれたのが嬉しかった。 マコトは電話から離れ、人ごみに紛れて目的地へ向かう。 駅を出た。ノドが渇いたので近くの自販機で飲み物を買う。 ハチ公前は、休日の午前中ということもあって、人で溢れていた。 主人の帰りを待ち続け、遂には息絶えたこの忠犬の像は実は三代目だ。初代の 像は第二次世界大戦の際に金属として国家に供出され、二代目はジャパンが地下 都市に移った時に、他の多くの人造物と共に大地震や巨大津波に耐えきれずに破 壊されてしまった。 そこまで人々に愛されるのも辛いだろうに。マコトはハチ公の顔を見て、そう 感じた。 近くの植え込みの、人と人の間のひとり分の隙間に入り込み、指示されたとお りに携帯電話を開き、左手で耳に当てる。ついでに飲み物も飲む。 果たして警察の人は自分を見つけられるのか不安になったが、それは余計な心 配だった。 数分の内に、『彼女』はマコトの前に現れた。 「久しぶり。」 突然そう声をかけられて、マコトは驚いた。 見ると、ジャケットを着て、黒い長髪を側頭部でまとめた女性が目の前に立っ ている。 一瞬呆けてしまったが、彼女はそんなマコトを見て微笑した。 「やだ、忘れちゃった?マコト君。私よ、親戚の――」 そこでようやくマコトは状況を把握し、適当に合わせて会話をする。 「じゃあ、行きましょう?」 彼女はそう言ってマコトをハチ公前から連れだし、近くの喫茶店へと向かう。 店に入り、席についてからも彼女はしばらく親戚のままでいたが、突然、表情 を変えた。 「……大丈夫ね。店内にこちらを窺っている人間は居ない。」 一変したその雰囲気にマコトは戸惑う。親戚のときの柔らかく明るい女性はも うどこにもおらず、マコトの目の前に座るのは氷のような空気を纏った女性だっ た。 「改めて、はじめまして、マコト・アマギさん。」 女性は名刺ケースをとりだし、開いて、長い指で一枚抜き出す。 差し出されたそれには『警視庁 刑事部 捜査第一課 巡査長』の肩書きと、名前 があった。 「巡査長さんですか……?」 マコトが訊く。彼女は至って事務的な態度で答えた。 「ええ。『刑事』のほうが言いやすい?」 「第一課って」 「『殺人』とかの重大犯罪を扱う部署。」 彼女はどこかはき捨てるようにそう言った。 「じゃあ、今日はお願いします。」 マコトは頭を下げる。そして、彼女の名前を呼んだ。 「――アヤカ・コンドウさん。」 彼女の鋭い目付きがマコトを射抜いた。 その女性の第一印象は、『剃刀のような人』だった。 黒い長髪を頭の側面で邪魔にならないようにまとめ、しかし自らの外見に合う ようにしっかりスタイルを作っているところに、彼女の隙の無さがうかがえる。 その体にはしなやかな筋肉がバランスよくついているのがマコトのような素人 にもはっきり判ったが、全体のシルエットはあくまで細身を保っている。きっと 毎日鍛えているのだろう。 鋭い目付きは相対する者に一切の嘘を許さない凄みを持っていて、マコトは少 し居心地が悪く感じた。 アヤカ・コンドウと名乗った刑事はテーブルの上に情報端末をおき、そのタッ チパネルを指でいじりながら注文したコーヒーを待っている。 マコトもコーヒーを待ちながら、頭の中で話すべきことをまとめていた。 しばらくして、店員がコーヒーをふたつ、2人の前に置く。アヤカは軽く息を ついて、マコトをまっすぐに見た。 「準備はできた?」 彼女の問いかけに、マコトはうなずく。 「はい、何でも話せます。」 「じゃあまず第1に――」 アヤカは端末の画面をマコトに差し出す。 「――君の言う『タルタロス』。私たちは、その存在を知っていました。」 マコトはそこまで驚きはしなかった。 タルタロスの規模、通報から直接の対話までの流れなどからすでに予想はつい ていた。 アヤカが差し出した画面には、何かの書類らしきものが映し出されている。 引き寄せて見ると、そこには【極秘】の文字がある。 「これは?」 「警察の捜査資料よ。ざっと目を通してくれれば、私たちのタルタロスに対する スタンスが解るでしょう。」 「俺が見ても?」 「最近寝不足で」 唐突に彼女は眉間を指で押さえる。そしてゆっくりと腕を組み、頭を垂らした 。 その様子を見てマコトは察して、端末を抱えこんで画面を指でいじる。 今度は、驚愕した。 記録によると、『タルタロス』が活動を始めたのは江戸時代中期――もちろん 当時はそんな名前では無かったが――何百年も前からだったのだ。 そしてその頃から確認されている2人の人物――タナトスと、コラージュ。 やはり時代と共に名前は変わっているが、資料に記されたその特徴は、明らか にあの2人のものだった。 しかし彼ら2人が率いるタルタロスを未だ警察が潰せていないのは、タルタロ スが『潰すほどの価値も無い』組織だったからだ。 よくよく資料を読み込むと、タルタロスが存在していたのは何百年も前からだ が、今の規模になったのは、ここ数年での急激な成長によるものだということが 判る。 「――だから、私たちも動き出したのよ。」 不意の声に顔を上げる。やはりアヤカは腕を組み、頭を垂らしていた。なんだ 、『寝言』か。 「具体的な策はあるんですか?」 無言で返された。 また視線を端末に落とす。 しばらく読んで、これ以上得るものが無いと感じて、マコトは端末をアヤカの 方へ押し戻した。と同時にアヤカは『目覚め』、端末を抱える。 「現在警察では、捜査方針を検討中よ。」 「検討中?」 「何もしていないということ。」 彼女は呆れたような、どこか自嘲するような、息をつく。 「組織が大きいと、煩わしいものが多くなるのよ……。」 そんなものだろうか、マコトは思った。 「そこで、君に訊きたいのだけれど。」 アヤカは指を組み、マコトをまっすぐに見据えた。 射抜かれて、マコトは萎縮する。背筋が凍りつくような瞳だった。 「君の覚悟はどの程度?」 マコトは息をのむ。 黙っていると、アヤカは続けた。 「『警察に通報して、それで終わり』にするつもりだった?だとしたら甘すぎる 。彼らは法律の枠外で生きている人間なのよ?仮に私たちが法にのっとって君を 保護したとて、彼らにそれは通用しない。『彼らは私たちとは別の倫理観で生き ている』から。」 目の前の女性が、あの忌々しいツギハギ男と同じセリフを吐いたのを、マコト は恐ろしく思う。 「電話機の『0』を押した瞬間、君は大きな悪を敵に回したの。そして同時に、 自らの今後の人生から『平穏』を無くした。その自覚はあるの?」 マコトは口を開けない。 「おとなしくタルタロスの下について、背徳的な快楽と血にまみれた札束に魂を 売っていればよかったのに、君は無謀にも反旗を翻した。『平穏』を代償に、私 たちに依頼した。……君は、理解してる?」 アヤカは一息おき、さらに続ける。 「もしこの反逆が失敗したら、彼らは何年かかろうが君を追うわ。君の体を使い 、君の想像も及ばない方法で、君の出した損失を補わせようとする。君はそこま で考えは及んでいた?」 「考えてた。」 ついにマコトが言った。 アヤカを見つめかえすその視線に迷いは無い。 「考えてたさ。」 「そう?だったら――」 アヤカはわずかに片側の口端をつり上げ、目を細める。 「――『相応の覚悟がある』と考えていいわね。」 アヤカのその挑発的な言にマコトの胸がヂリヂリと焦げる。 静かに、頷いた。 それを見て彼女は、今度ははっきりと微笑み、端末をいじった。 「プレッシャーには強いタイプ?……まぁいいわ。」 「俺にできることなら、なんでも協力しますよ。」 「頼りにしてる。」 空虚なセリフ。 アヤカは端末から指を離し、マコトを見た。その瞳には白々しいあたたかみが 戻っている。 マコトの頭に「もしかしたらこの人はコラージュと同類なんじゃないか」とい う考えがよぎる。が、無理やり思考の外に押しやる。 「……じゃあ、とりあえず、詳しい段取りが決まったらまた連絡するわ。携帯電 話の番号を教えておくわね。」 そうして彼女はメモ用紙に連絡の番号を書いてマコトに寄越す。 「君も同じように」 指示をうけて、そうした。 「この番号は携帯に登録したりしないこと。万が一にでもタルタロスがわに私と 君との繋がりを知られるわけにはいかないから、覚えなさい。」 「はい。」 「覚えたらメモは焼却し、灰はトイレに流すこと。いいわね。」 「はい。」 「それじゃあ、そろそろ」 「待ってください。」 席をたちかけたアヤカは横目でこちらを見た。 マコトはまだ一口も飲んでいないコーヒーの表面から立ち上る湯気を眺めてい る。 「俺はこれから、どうすれば?」 「ああ、そういえば言ってなかったわね。」 アヤカは再びマコトに向き合う。 「君は普段通りに生活してればいいわよ。学校に行って、友達と騒いで、タルタ ロスで荒稼ぎしててもいい。」 「は……!?」 彼女が何を言っているのか受け止めきれずに狼狽するマコトに、アヤカは見下 すような視線を送る。 「いい?君と私たちの繋がりは知られてはいけないのよ?なら、君の普段の生活 に微塵も変化があってはいけないのは当然でしょう?」 「それはわかってるけど」 「さっきも言ったけど」 アヤカは一度目をつぶり、それからまたマコトを見据える。 「『通報してそれで終わり、なんて甘すぎる』。君にはタルタロスの底まで付き 合ってもらうわ。」 乾いた風がビルの間を吹き抜ける。 辺りに人影は無い。この時間帯、大通りから外れたこんな道を歩く人間はそう そう居ない。 顔にかかった髪を指先ではらいながら、アヤカ・コンドウは携帯電話を取り出 した。 足を止めずに素早くダイヤルをし、耳に当てる。 すぐに相手は出た。 「お疲れ様、今ちょっといい?」 「あ、コンドウ『管理官』ですか?お疲れ様です。」 「2時間ほど前にあった通報の件だけど」 「えぇと、それでわざわざ出ていらっしゃるんでしたっけ。」 「ええ」 「『違法賭場』の件でしたね。どうでした?」 「結論から言えば」 ひと呼吸。 「無駄足だったわ。わざわざ私が行く必要もなかった。」 「イタズラだったんですか?」 「そう。『イタズラだった』。」 「珍しいですね。コンドウさんの勘が外れるなんて……」 ほんの少しの含み笑い。 「私はそんなデキた人間じゃないわ。」 「またまた」 「そういうわけで、今から戻るわ。仕事押し付けてごめんなさいね。」 「いえ」 「今度何かおごるわ。」 「じゃあ、ラーメンがいいです。」 「遠慮するそぶりくらいは見せなさい。」 2人は笑い、その後適当な挨拶を交わして電話を切る。 アヤカはそれをしまい、人通りの多いストリートに出た。 軽く、息を吐く。 「……嘘は嫌いなんだけどな……」 彼女の呟きは雑踏にかきけされた。 「クソッ!」 部屋に戻ったマコトは思い切り壁を殴りつけた。大きな音がして、少しだけ揺 れる。 だが当然倒すまでには至らない。その当たり前のことがさらにマコトを苛立た せ、また拳を振り上げそうになったが、そうして物にあたる自分が惨めに感じら れて、やめた。 マコトは帽子と眼鏡、上着を脱ぎ捨て、自分のベッドの上に身を投げ出す。 ……悔しかった。なぜだか無性に悔しかった。 あの、警察の女性――アヤカ・コンドウ――はマコトの甘ったれた部分を容赦 無く突いてきた。 彼女の言ったとおりだった。警察に通報すれば、あとは彼らが全てなんとかし てくれると思っていなかったか。 俺は最初から、戦おうとなんてしてなかった。 考えてみればそうだ。警察は軍隊じゃないんだ。彼らにはタナトスたちを逮捕 することはできても、殺害することはできない。刑務所にぶちこんで、それで終 わり。彼らはいつか解放されて、再び動き出すだろう。 コラージュとタナトス、あの2人が生きている限り、俺に安息は無いんだ。 ……そうだ、そもそも、今さら何を警察に頼っているんだ。『真っ当な手段』 に訴えているんだ。 『俺はすでに人をひとり殺してるんだぞ?』毒を喰らうなら皿までいくべきなん だろう。 でも、きっと世間の奴らは言う。『これ以上罪を重ねてはいけない』。 馬鹿野郎どもが。 人の命は尊いんだ。どんな人にもそれぞれの人生があって、その価値は『オリ ジナル』、かけがえのないものだ。 そのかけがえのないものを全く正当ではない手段で奪ったなら、その罪は計り 知れない。計り知れないのなら、ひとり殺すもふたり殺すも一緒じゃないか。『 足し算引き算で罪は計れない』?知るか。道徳的な答えなんてもうたくさんだ! マコトはベッドから立ち上がる。窓辺に寄って、外を見た。 街はだんだんと暗くなってきていた。太陽が消灯されはじめたのだ。追い払っ ていた闇が戻ってきているのだ。 マコトは何故か可笑しくなって、少しだけ笑う。 ……タルタロスへ参加しよう。 強くなって、タナトスを倒して、ユウスケの仇を討とう。 そのために他の人間が犠牲になろうが、知ったことじゃない。 そしてマコトは携帯電話を取り出した。
https://w.atwiki.jp/sousakurobo/pages/1213.html
――数日後。 警視庁内の廊下をアヤカ・コンドウは歩いていた。 いつものような一分の隙も無いブラックスーツ姿で、長い艶やかな黒髪を頭の脇で邪魔にならないようにまとめている。 歩く度に廊下を反響する硬質なヒールの音がよく似合っていた。 片手のタブレット型PCで簡単な作業をしつつ、廊下を曲がり、目的の部屋へ。 その部屋の前には『タルタロス特別対策本部』との貼り紙がしてあった。 「それで、人員確保はどうなったの?」 捜査の進展と方針の修正、それに関連するその他もろもろの事項の情報を捜査員全員で確認するためのちょっとした会議で、アヤカは部下に報告を求めた。 1人の中年男性が立ち上がって答える。 「はい。警備第一課に協力を要請しましたところ、警視庁特殊部隊の隊員を6名ほどこちらに貸していただけるとの返事をいただきました。 これに機動隊の人員を合わせれば、いつでもどんなときでも最低60名の武装警官を動かせます。」 「ふむ。武装の方は?」 「機動隊標準装備のものを使用する予定です。」 「……まあ、屋内だし、十分かしらね。ありがとう。」 頭を下げて、男性は再び腰をおろす。 アヤカは考えていた。 これでタルタロス施設を制圧するための武力も手に入れた。だがすぐに動かすことはできない。 今日の朝、アヤカは上司である課長から捜査方針の転換を提案されたのだ。その理由は「現在のやり方では進歩が見られないから」 というものだったが、もしその申し出を受け入れたらアヤカは別の案件の担当に回されてしまうだろう。 その提案がまだ『命令』でなかったのは幸いだった。奴らはまだ油断している。 警察上部にいる顔も名前もわからない『向こう側の人間』は、タルタロスがやられるわけはない、とたかをくくっている。 そろそろ、最後の詰めに入るころかな。 その人間の他に不安要素といえば―― 「……そうね。」 最後の報告が終わって、礼を述べたあとに、アヤカは言った。 「準備も順調だし、障害を排除する策も整ってきた。」 彼女は立ち上がる。 「決めましょう。2週間以内にすべてを終わらせる、と。」 チャイムが鳴った。 放課後のホームルームが終わって、マコトは帰り支度を始める。 久しぶりに学校へ来たが、何も変わっていなかった。 クラスの奴らは相変わらず下らないテレビ番組などの話題を楽しそうに喋っている。 何も変わっていない。そう、何も。 それは『彼』も同じだった。 「キムラ。」 マコトは彼に声をかける。 帰り支度をしていた彼はマコトを見て「やぁ」と言った。 その明るい表情や物腰からは『ケルベロス』の面影はこれっぽっちも感じられない。いつもの、成績優秀な、学級委員長だ。 「このあと何か用事ある?」 マコトは訊く。キムラは時間を確認し、答える。 「予備校があるけど、少しなら余裕あるよ。何か用事?」 「ちょっと、『ゲーム』のことで訊きたいことが。」 すると彼は意を得てくれたようで頷く。 「……じゃあ、屋上へいこう。あそこなら多分誰もいない。」 「で、何の話だい?」 キムラはフェンスに寄りかかって言った。 屋上には2人の他には誰もいない。柔らかな、乾いた風が吹き抜ける。 学校周りの道路のおかげでそこまで静かなわけでもないが、なぜかそれでも周囲の空間から隔絶されたような感覚が ある。それがいっそう寂しさに拍車をかけていた。 「キムラ、お前はタナトスについてどのくらい知っている?」 「タナトスについて?……ああ、そうか。君はそういえば、そうだったね。」 コラージュあたりから聞いたのだろうな、とマコトは思った。 「彼についてか。」 キムラはフェンスに指をかけ、片方の手でタバコをとりだし、くわえた。 火を点けて、煙を吐く。 「『タルタロス現ランク1位』、『仮面とローブで顔と体型を隠している』、『今のタナトスが現れたのは数年前』 ……そんなとこかな。」 「『今の』タナトス?」 「コラージュとタナトスは、その名前と外見を先代から受け継ぐんだよ。詳しくは知らないけど。」 「へぇ。」 「有益な情報はあった?」 キムラはマコトを見た。その眼差しにあたたかみはない。 「じゃあ、ひとつだけ。」 マコトはその目を見つめ返した。 「彼の『金の眼』については?」 「『金の眼』?」 キムラは一瞬眉をひそめたが、すぐに理解したようだった。 「そういえばタナトスの眼はそうだったね。仮面の奥からあれに睨まれるとちょっと怖いよね。」 「金の目って、金眼事件のテロリストの特徴だろ?」 「まぁ、そうだね。」 キムラは大きく口を開き、煙を押し出した。煙は輪の形を保ったまま、風に吹かれてかき消える。 「まさか君は、タナトスとそのテロリストたちの関連を疑っているのかい?」 「何かの手がかりになれば、とは思ってる。」 すると、キムラはハハと笑う。 「アマギくん、今日は早く家に帰って教科書を見直しな?」 「え?」 キムラはあきれたようにタバコの灰を落とした。 「金眼事件のテロリストたちは、リーダーを除いて全員殺されてるよ。教科書にも、資料集にも書いてある。」 「リーダーって、『ハヤタ・ツカサキ』か。」 「ああそうだよ。」 「じゃあ、タナトスはそのツカサキって奴なのかも。」 「君は頭が悪いのかな?」 「あ?」 「ツカサキはどっかの刑務所だよ。死刑の執行待ちだ。」 「じゃあ、そのテロリストたちの生き残り?」 「荒れ果てた地上からどうやって1人で生還するのさ?それに、仮にそうだったとしても、金眼事件が1年前で、 タナトスが代替わりしたのがその前――時期が合わない。」 マコトは沈黙した。 キムラは肩をすくめ、タバコを地面に落とす。 「僕は、タナトスの目の色は、そういった誤解を誘うための一種のワナだと踏んでるけどね。 結局、瞳の色なんてカラーコンタクトでも、手術でも変えられるんだし――」 「……ああ。」 「――それで、質問は終わりかな?」 キムラは落としたタバコの火を、踏みつけて消す。 マコトは無言で頷いた。 「お礼も無し?……まぁいいけど。」 そうして彼はフェンスから離れて歩きだし、出入口へと消えていった。 しかしマコトの胸にはまた新たな疑念が広がっていた。 それにしても、予想以上に下らない話だった。 キムラは校門を出て、駅への道を歩いていた。 もしかしたら自分が掴んでいない情報を手に入れたのかも、と思ってアマギの話に付き合ったのだが、 無駄な時間だったな。 だがしかし、言われて見ればどこか引っ掛かるものがある。 タナトスは何故、『金』を選んだのか。 瞳の色を変えたいのなら他にいくらでも選択肢はある。青でも赤でも、なんならその日の気分で変えてもいいはずだ。 まさかタナトスがファッションを気にするわけがないし、しかし逆にそんな彼が色を金に固定しているのには 何か理由があるはずだ。 ……もしかしたら、本当に、彼の瞳は金色なのかもしれない。 だとしたら、もしかして―― キムラははっとして、思わず足を止めた。 ――わかってしまったかもしれない。 タナトスの正体が。 ざわざわと体が総毛立つ。興奮のためだ。 いやまて、焦るな。まだ何一つ確証は無いんだ。まずはしっかり証拠を集めて、それから―― 「『ケルベロス』だね?」 ――一気に興奮が冷めた。 キムラは顔をあげる。目の前には大きなサングラスとマスクで顔を隠した男が立っている。 それでもキムラが一瞬でこの男が何者かを覚ることができたのは、その独特の声のためだった。 老人のようにしわがれた声―― 「……あなたがタルタロスの外に出るなんて、珍しいですね。」 「たまにはいいかな、なんてね。」 男はサングラスをずらした。つぎはぎだらけの額がのぞく。 「コラージュ……さん。」 「これから予備校?勉強熱心だね。」 コラージュの目元が歪む。笑っているようだ。 キムラは後退りした。コラージュがわざわざ会いにくるなんて、ろくな用事のはずがない。 「そんな警戒しなくても。」 コラージュは一歩、近づく。 「少し話を聞きたいだけだよ。怖がることはない。」 「じゃあ電話でいいじゃあないですか。」 「いやぁ、ちょっと気になる情報を手に入れてね。」 コラージュは上着の内側に手を入れた。身構えるキムラ。 「君が警察と繋がっているんじゃあないかってね。」 「……誰からそのことを?」 「匿名の投書。」 「ハッ」 キムラはわざとらしく鼻で笑った。 「そんな眉唾物の情報を信じるんですか。見損ないましたよ。」 「もちろん、それだけじゃ信じないよ。だけど――」 コラージュが手を抜く。キムラは思わず体を強ばらせたが、相手の指先に握られていたのは一枚の写真だった。 「――証拠写真が同封されていた。」 コラージュはそれを見せつける。キムラは目を凝らす。 その写真には、キムラが警官と一緒に写っていて、キムラが警官から何か平たいものを受けとる瞬間を とらえたものだった。 「君が警官からもらっているの、これ、グラウンド・ゼロのICカードだよね。」 「……みたい、だね。」 「巧妙な手口だ。」 コラージュは写真をしまう。 「まずは信用を得るために『ケルベロス』としての実績を積み、タルタロスに取り入る。 目的はタルタロスと他の組織との繋がりを弱めるためかな――トラブルが続けば、見限るとこも出てくるだろうから。」 キムラはまた一歩、下がる。 「サーバーへの、外部からのクラッキングの形跡は偽装だね?タナトスが、あの勝負の直前にパソコンで偽装工作を する君を見ているよ。」 コラージュが一歩近づく。 「アマギくんを助けたのは、今後も続く予定であるトラブルのスケープゴートになってもらうため――タルタロスに 恨みを持つ人間――適役だ。勝負前の妨害も、あれは自分をタルタロスがわの人間だとアピールするためだろう? 君が本気で妨害をしたなら、あの程度の怪我で済むわけがない。」 「ずいぶんと妄想たくましいね。」 「そう――妄想だ。今の時点ではね。だから君に話を聞きたい。一緒に来てもらおうか。」 「そんな合成写真に騙されるなんて、タルタロスのトップはとんだ間抜けだ。」 「合成でないことはタナトスが証明してくれている」 その言葉の直後、ついにキムラは踵を返し、反対方向へと走り出した。 コラージュは愉快そうに笑いながら、その背を見送っていた。 そして彼は街から消えた。 呼び鈴を鳴らした。 なんとなく周囲を気にしながらマコトはインターホンの呼び掛けに応える。 玄関の向こうからの小さな足音が聞こえ、扉は開いた。 「突然ごめん。」 マコトはそう彼女に言った。 ミコト・イナバはマグカップの紅茶を両手に持って「いえいえお気にナサラズ」と言った。 マグカップが1つ、マコトの前に置かれる。 礼を述べて一口すすると、それだけでも全身が温まるような気がした。 「それで」 ミコトは部屋着だろうか、だぼだぼのスウェットのポケットに手を入れて、リビングのソファーに腰かける。 「『知りたいこと』って?」 マコトは頷いた。 マコトが彼女に会いにきたのは、それがあるためだった。 「『タナトス』の正体について。」 「……そーいうこと。」 ミコトはマコトの目を見た。茶色の大きな瞳は普段とは違う光を奥に秘めていた。 「ごめんだけど」 紅茶を一口。 「それは無理。」 「……難しい、か。」 「いや、難しい、じゃなくて、無理。」 「タルタロスを敵にまわしたくない?」 「そうじゃなくて――」 彼女は困ったように腕を組んだ。 「タナトスの正体なんて、私だって知りたいよ。つまりはそういうこと。」 「……わかりました。」 やっぱり無理か。マコトはそう思った。 だけど予想はしてた。他にも知りたいことはある。 「じゃあ、『アヤカ・コンドウ』について。」 そう言葉を発した瞬間、イナバはぴくりと反応を見せた。 「――クライアントに、ついて?」 「はい。」 「理由は?」 「彼女の目的は知って?」 「『タルタロス壊滅』」 「『タナトスへの復讐』。」 「……へぇー」 「知らなかった?」 「……うん。けど、嘘といえる程度じゃないからいいや。」 イナバはまた、紅茶をすする。 「……お願いします。」 マコトは頭を下げた。 イナバはそんなマコトを一瞥し、しばらく無言でカップから立ち上る湯気を眺めていたが、にわかに口を開いた。 「……私はアマギくんの手助けをするように言われている」 彼女の口調は落ち着いていた。 「契約だから可能な限りその通りにするつもりだけど、それはコンドウさんからの指示の下でのサポートをする、 という意味での契約だよ。」 マコトはゆっくりと顔をあげた。 「君の指示に従うことは契約に含まれていないし、クライアントに無断でクライアントの情報を探ることは信義則に 反する。」 ダメか。 「……だけど、理由によっては、そのタブーは破ることもできるよ。」 沈黙。 「聞かせて。君は彼女の何を知りたいの?」 息を吸う。 「『コンドウさんと金眼事件の関係について』。彼女とタナトスを結ぶのは、その線くらいしかない。」 「……私はタナトスに直接会ったことは無いんだけど、なぜ『金眼事件』が彼らを結ぶと?」 「タナトスは『金眼』です。」 「じゃあ、なぜ彼女が金眼事件に関係があると?」 「コンドウさんは金眼事件の話題をあからさまに避けようとしています。」 「なるほど……」 イナバはそして紅茶を飲み干す。 「……たしかに、それは気になるね。」 立ち上がるイナバ。彼女は口の端をつり上げた。 「わかった。この『サイクロプス』、力になるよ。お代はサービスしてあげる。」 「ありがとうございます。」 また深く頭を下げると、イナバに軽くこづかれる。 「だから、敬語は禁止だって。」 長い階段を一段下りる度に、確実に冷たくなっていく空気にマコトは身を震わせた。 イナバの自宅の、物置部屋の奥の壁にある隠し扉を抜けた先には長い地下への階段があった。 イナバによると、サイクロプスの仕事場はこの階段を下りた先にあるらしい。 企業秘密だからあまり見せたくないのだけれど、と彼女は言っていたが、単純な好奇心からお願いしてみると、 案外すんなり彼女は折れてくれた。 そんなわけでマコトは彼女と共に階段を下りることになったのだが、周囲の空気が下に行くにつれて確実に寒く なっていくのがどうにも不可解だった。 「なんでこんなに寒いんだ……」 白い息を吐きながら思わず毒づくと、先を進むイナバの声が聞こえる。 「仕方ないんだよ、だって――」 階段の一番下にある扉の前で、彼女はマコトを待っていた。 マコトがたどり着くと、彼女は指紋認証の扉を開ける。 「――こんなものがあるんだから。」 開かれた扉から暖かい空気と、地響きのような下腹に響く音が飛び出してきた。 目を凝らして部屋の中を覗きこむと、大きなわけのわからない機械が並んでいる。 イナバは部屋の中心、巨大なディスプレイの前に置かれた椅子の背に手をかけ、マコトを振り向いた。 「スーパーコンピューター『ヘカトンケイル』。私の相棒だよ。」 「スパコン……?」 圧倒されかけるマコト。 うなずくミコト。 「すごいでしょ。私が作ったんだよ。」 「え、自作!?」 驚き、改めてヘカトンケイルを眺める。大きな地下室の天井近くまで敷き詰められたわけのわからない機械たちは 無機物でありながらどこか有機的な印象の外見をしている。 各所に輝く色とりどりのランプは怪物の目玉を連想させるし、飛び出た太いパイプは逞しい腕、 表面を這う配線は血管、冷却ファンとおぼしきものが出す音はこの怪物の息づかい、 それをかきけす発電機の轟音は心臓の鼓動だ。 この部屋周りの異常な寒さは、この怪物の体温を抑えるためなのだな、とマコトは直感で理解した。 と同時に今まで曖昧だったサイクロプスという存在が、少し解ったような気もする。そんなサイクロプスが 太刀打ちできないタナトスという存在のことも。 「あ、ちなみにこの部屋の機械には指一本触れないでね。末代まで破産するよ。」 冗談か本気かわからない。 「これで、いつも仕事を?」 「うん。プログラミングとかクラッキングとか、趣味にも使うけどね。」 「趣味?」 「これでYouTubeとか見ると快適なんだよ。」 「ハイスペックの無駄遣い!」 彼女は笑う。そして座席に腰かけた。 マコトは彼女の椅子のそばに立ち、ディスプレイを横から覗く。ヘカトンケイルはちょうど目覚めたところで、 画面が明るくなった。 イナバは慣れた手つきで変形キーボードをいじる。 それからヘッドセットマイクを身につけた。 「……さて、今から集中するからちょっとしばらく話しかけないでね。」 その言葉への返事すら、すでに彼女の耳には入っていないようだった。 そこからは一瞬だった。 画面に見慣れないウィンドウが開いたかと思うと、表示された文字もまるで読み取れない速度で次々と画面が 切り替わり、処理を行っていく。 イナバの指は精密機械のような正確さとスピードでキーボードを叩き続け、それに加えて彼女はマイクに向かって 音声で指示も出していた。 ……これが、天才。 マコトは圧倒され、同時にどこか悔しさを覚えた。 凡人には到底たどり着けないであろう境地……。 イナバの作業はしばらく続いていたが、やがて唐突に終わる。 キーボードを叩く最後の音がして、イナバはマイクに向かって最後の指示を出した。 「――全行程終了。ウイルスチェックのちトラップ等の確認。安全確保完了のちに使用回線の修復。 接続記録のコピー並び偽装のち無作為拡散が終了したら速やかに再起動のちスリープモードにて待機。 おつかれさま。」 そしてイナバは脱力する。ヘッドセットを置いた。 彼女は後ろを振り向き、マコトを見ると一瞬驚いたような反応を見せたが、すぐに納得して軽くうなずいた。 「……どうかしました?」 訊くと、ミコトは恥ずかしそうに苦笑いした。 「いや、ごめん、わすれてたよ。」 「それだけ集中してたんだ。」 「いけないよねー、こんなんじゃ。」 イナバはまた苦笑し、指のストレッチをする。 「大切にしてるんだな。」 マコトは言った。 「え?」 「普通、パソコンに『おつかれさま』なんて言わない。」 「ああ、それ?」 彼女はそ、とキーボードを撫でた。ディスプレイは丁度役割を終え、暗転する。 「……ヘカトンケイルは『私』だからね。」 「サイクロプスでもあり、ヘカトンケイルでもあるのか?」 彼女は笑う。 「そうじゃないよ。ヘカトンケイルの中には、私の思考を再現したサポートAIが2人分搭載されてるんだ。」 「へぇ」 「50の頭と100の腕を持つヘカトンケイルは3人いるんだ。そして、皆タルタロスに幽閉されている……」 「どういう意味だ?」 「ただの神話。意味は無いよ。」 イナバは顔をそらし、プリンターからそばに吐き出された紙たばを手にとった。 「はい、アヤカ・コンドウの略歴。……結構、ヤバいよ。」 差し出されたそれをマコトは受けとる。 「ヤバい?」 「想像以上に危険なとこまで潜らなきゃいけなかった。代金サービスなんてしなきゃよかったよ。」 不満げなイナバ。 マコトは肩をすくめた。 「ああ、そうだ。」 イナバは思い出して声をあげる。 「ICカード貸して」 マコトは何の、と訊いた。 「『グラウンド・ゼロ』のだよ。ついでに君に作ってあげるよ。専用のチート。」 事も無げにそう言い放ったイナバに、マコトは強い不快感を覚えた。 「俺にチートはいらない。」 「なんで?」 「そんなことしたら、俺はケルベロスや、他の奴らと同じになる。」 「……ん、立派。」 マコトの言葉にうなずくイナバ。 「でも君は勘違いしてる。チートを使うことは卑怯でもなんでもないよ。」 彼女はまたディスプレイに向かい、ヘカトンケイルを立ち上げた。 「前にも言ったけれど、命を賭けた勝負なんだから、プレイヤーが勝つために全力を尽くすのは当然だし、 その努力を怠ったために負けるなんて、ごめんだけど、『バカ』としか言いようがないよ。」 「だけど」 「悪いけど、これもコンドウさんとの契約内容に含まれてるの。破るわけにはいかない。」 揺るがない彼女の態度にマコトは折れ、しぶしぶ財布からICカードを取り出して、渡す。 イナバは満足げにうなずいて、「安心して、君にぴったりなのにするから」と言った。 少し時間がかかるから、とイナバに言われ、マコトはひとりリビングに戻った。 椅子に腰かけ、手渡されたアヤカ・コンドウに関する資料を眺める。 そこにはマコトの想像以上のことが書かれていた。
https://w.atwiki.jp/akatonbo/pages/1609.html
ブラインド 作詞/にゅる カタカタ……音が鳴っている 隣の個室から こんな時間にそんなスピードで叩く 君はねらーなのか 時たま息遣いが聞こえる 女の子のような優しい吐息 カチカチ クリックする音が2、3回鳴って聞こえなくなった 1畳程度の狭苦しい部屋 空調の音が何故か響いてる 明かりは心もとなくて やたらと寂しくなって でも急に話しかけたら 迷惑だよなそりゃ 試しに壁を叩いてみる トントントントントン ああ 店員呼ばれたあ そんなつもりは毛頭無かった いやすいません少しありました 僕は事務所まで連れて行かれた 「それでも僕はやってない」最近覚えたセリフだ 涙目で土下座して あわよくば靴も舐めて 無罪放免 今度は壁に耳をつけてみた ……男の声がした なんだ彼氏がいるのか ああ 耳は離さない トイレ行くとき、偶然鉢合わせ 全然タイプじゃなかったから 僕は舌打ちしたよ ああ 店員呼ばれたあ(ry
https://w.atwiki.jp/akatonbowiki/pages/3128.html
このページはこちらに移転しました ブラインド 作詞/にゅる カタカタ……音が鳴っている 隣の個室から こんな時間にそんなスピードで叩く 君はねらーなのか 時たま息遣いが聞こえる 女の子のような優しい吐息 カチカチ クリックする音が2、3回鳴って聞こえなくなった 1畳程度の狭苦しい部屋 空調の音が何故か響いてる 明かりは心もとなくて やたらと寂しくなって でも急に話しかけたら 迷惑だよなそりゃ 試しに壁を叩いてみる トントントントントン ああ 店員呼ばれたあ そんなつもりは毛頭無かった いやすいません少しありました 僕は事務所まで連れて行かれた 「それでも僕はやってない」最近覚えたセリフだ 涙目で土下座して あわよくば靴も舐めて 無罪放免 今度は壁に耳をつけてみた ……男の声がした なんだ彼氏がいるのか ああ 耳は離さない トイレ行くとき、偶然鉢合わせ 全然タイプじゃなかったから 僕は舌打ちしたよ ああ 店員呼ばれたあ(ry (このページは旧wikiから転載されました)
https://w.atwiki.jp/indiabusiness/pages/67.html
イギリス植民地時代 第一次世界大戦に際して、イギリス本国は英領インド帝国から2個師団100万人以上の兵力を西部戦線に動員し、食糧はじめ軍事物資や戦費の一部も負担させた。 1914年の大戦勃発時点でのインド軍の兵員数は、戦闘要員155,423名、非戦闘員45,660名の合計201,083名で構成されていた。1918年12月末までに、新たに戦闘要員として87.7万余名、非戦闘員として56.3万余名、合計約144万余名のインド人が,現地インドで戦争遂行の為に募集され,その兵力は開戦時の7倍強に拡張。 これらの戦費の負担については,開戦直後にインド政庁が、海外に派兵されるインド軍の通常維持経費を負担する提案を行いました。本国議会でもこの申し出は歓迎され、1914年9月と11月に本国議会両院は,1858年インド統治改善法第55条の国制上の規定に基づく、インド財政からの戦費支払いを認める決議を相次いで行った。 この結果,インド財政から海外派兵インド軍の通常経費を負担する事が確定し、インドにとっては約5,100万ポンドの負担になった。その他。臨時経費としてインドからの軍事力移動経費が、また、インド北西国境や海岸部の防衛費、エンパイア・ルートの拠点であり、慣例的にインドがその経費を負担していたアデンでの作戦活動に伴う諸経費など、約7,800万ポンドがインド財政から支出された。それに加え、1917年初めにはインド立法参事会の同意を得た上で、インド政庁は特別に本国に1億ポンドの献金を行い、総額2億2,900万ポンドの支出がインド財政から出て行った。 ■第一次世界大戦当時の同盟状況 - ロンドン条約(1839年 - Treaty of London) イギリスは第7条によりベルギー侵略の際に、その中立を守る。 - 二国同盟(1879年 - Dual Alliance Treaty ) ドイツ・オーストリア・ハンガリー帝国は、ロシア侵攻の際には相互に防衛。 以下、合わせて三国協商(Triple Entente) - 露仏同盟(1892年 - Franco-Russia Military Convention)一方の当事国が攻撃を受けた場合、他方の国が軍事的支援を行う。 - 英仏協商(1904年 - Entente Cordial) - 英露協商(1905年 - Angro-Russian Convention) 分離独立 そこでイギリス領インドの最後の総督ルイス・マウントバッテンはインドを一体とする計画を諦め、1947年6月4日、イギリス領インド帝国を「インド」と「パキスタン」に分割することによる独立(インド高等文官、インド軍、インド鉄道の分割を含む)を、同年8月15日をもって行う案を声明。 また、独立後の統治の暫定的な枠組みをイギリス議会が制定した1935年インド統治法によって行うことも含まれていた。7月18日に施行された1947年インド独立法は、イギリス領インドをインドとパキスタンの2つの新しい国に分割し、それぞれの国の憲法(インド憲法およびパキスタン憲法)が施行されるまでイギリス連邦の自治領(ドミニオン。カナダやオーストラリアと同じ地位で、国際法上の独立国)とすることを定めた。 大問題となったのは、イスラム教徒が多数を占める地域がイギリス領インド帝国の東西に分かれて位置していることであった。 このため、西のパンジャーブ地方と東のベンガル地方はそれぞれインド・パキスタン両国に分割され、パンジャブ地方はパンジャーブ州 (パキスタン)とパンジャーブ州 (インド)(後にそこからさらにハリヤナ州やヒマーチャル・プラデシュ州、チャンディガルが分割される)に、ベンガル地方は東パキスタンと西ベンガル州に分割されることとなった。この地理的分割の作業は、それまでインドに縁がなかったロンドンの法廷弁護士(バリスター)シリル・ラドクリフ(Cyril Radcliffe)にゆだねられ、このため分割線(分離独立後はそのまま国境となる)はラドクリフ・ライン(Radcliffe Line)と呼ばれるようになった。なお、この分割線は独立当日まで公表されなかった。 両地方ではヒンドゥー教徒地域のイスラム教徒はイスラム教徒地域へ、逆にイスラム教徒地域のヒンドゥー教徒(およびパンジャーブではシク教徒)はヒンドゥー教徒地域へ、それぞれ強制的な移動・流入による難民化を余儀なくされた。 このとき短期間での一千万人以上もの人口流入によって生じた大混乱のため、特にパンジャーブ地方では両教徒間に数え切れないほどの衝突と暴動、虐殺が発生、さらに報復の連鎖が各地に飛び火し、一説によると死者数は100万人に達したとされる。 またインドになだれ込んだヒンドゥー教徒およびシク教徒難民、パキスタンになだれ込んだイスラム教徒難民は、デリー、ボンベイ、カルカッタ、カラチ、ラホール、ダッカといった両国の大都市に巨大なスラムを生み、両国に膨大な都市貧困層を生じさせて社会の不安定要因となった。 印パ戦争 経済開放後
https://w.atwiki.jp/sousakurobo/pages/1073.html
あっというまに月曜日がやってきた。 時間に間に合わせるために、マコトは6限には出ず、駅前の、待ち合わせ場所 が見渡せる位置にあるCDショップで時間を潰していた。 そこで最近発売された、好きなアーティストのアルバムを見かけて、カネがあ ればなぁ、と思う。 と同時に数日前のユウスケの様子が頭に浮かんで、マコトはどうしようもなく 不安になった。 その不安を払うために試聴コーナーでそのアルバムを聴く。拭いきれない…… 。 ヘッドホンを置いて、店を出た。 近くのコンビニで好きなチューイングガムを買って、噛みつつ、かなり早いが 待ち合わせ場所へ。 意外だった。 ユウスケはすでにそこに居た。彼は車止めに腰かけて、軽くうつむいている。 時間を間違えたかと思って携帯で時間を確認したが、やはり約束した時間まで にはまだ30分もあった。 「早いな」 近づきつつ声をかけると、ユウスケは顔を上げた。 マコトはその顔を見て、病気なのかと思った。 彼の顔色は最後に会った時よりもさらに悪くなっていて、頬の肉も減ったよう に見える。髭は剃られておらず、不潔な印象だ。目の下のクマは濃く大きく、何 かのメイクなのかと思ってしまうほど。 「お前、帰れよ。」 まず、マコトはそう言った。それほど心配になった。 ユウスケは首を振る。 「いやいや、お前ヒデー顔してるからさ、マジで。」 またマコトは言うが、ユウスケは立ち上がった。 「いや……帰るわけにはいかねーから……」 「でもさー……」 言いかけて、マコトはやめる。どうせユウスケのことだ、言っても聞かないだ ろう。だったら、俺がなるべく早く用事を済ませてやればいいか。そう思ったの だった。 「早いけど、行けるか?」 マコトが訊くと、ユウスケは頷いた。 「あの人は時間には無頓着だから……いつ行っても、基本的には大丈夫。」 「あの人?」 ユウスケは答えず、歩き出していた。 そのゲームセンターは街の中心を少し外れた場所に、ドンと聳え立っていた。 広い駐車場を持つ、4階立ての派手に装飾された大きなビルで、大きな看板に は『エリュシオン』と書かれている。 見上げながら駐車場を横切り、二重の自動ドアをくぐって、中に入ると、賑や かな音の洪水がマコトたちを襲った。 ゲームセンターというよりか、パチンコ店に近いのかもしれない、とマコトは 感じた。 端が見渡せないほど大きなフロアには様々なアーケードゲームの筐体がズラリ と並んでいて、ゲームに興じる人々の中には小さな子供の姿も見えた。 入り口近くの案内板を見る。1階はファミリー向けの平和なゲームや、かわい らしい景品のクレーンゲーム、プリクラ等のためのフロアらしい。『1プレイ5 0円から!』の売り文句を見て、すぐそばの商店街で買い物を終えた家族連れや カップル等がやってくるのだろうと、そんなことを思った。 ユウスケに促されて、階段で2階へ上がる。 2階は普通のゲームセンターのような、少し薄暗い、白いお馴染みの筐体や、 音ゲー、暴力的なガンゲーが並ぶフロアだった。なんだかんだ言っても、このフ ロアが一番人が多いようにマコトは感じた。 3階は2階と同じような雰囲気ではあったが、1階のようにクレーンゲームが また増えていた。しかしよく見ると、景品はお菓子の詰め合わせや可愛いキャラ クターのぬいぐるみなどではなく、いわゆるギャルゲーの抱き枕や、中身の分か らないように色紙に包まれた映像ディスクなどの、マニアックなものが多い。あ まり長居はしたくないな。ぼんやり、マコトはそう思う。 そして4階への階段に目をやる。 その前には「関係者以外立ち入り禁止」の看板が立っていた。 マコトはユウスケを見るが、彼はそんな看板はお構い無しに階段を上がってい った。後を追う。 照明は薄暗くなり、小さくなった階下の音楽が、遥か彼方のもののように聞こ えた。 自分の足音がいやに大きくなる。踊り場を曲がって、理由のわからない焦燥と ともに階段を上りきった。 4階は、何もなかった。 階段下の看板から、マコトはてっきり事務室か、倉庫のようなものだと予想し ていたのだが、どちらでもなかった。 だだっ広い空間はろくに掃除もされていないようで、床に埃がたまっている。 しかしその埃についた足跡は一人二人のものではない。人の出入りは結構あるよ うなのに、なぜだろうか。 部屋の真ん中には事務机がひとつあって、そこに誰かが座っている――いや違 う。近づいて、マコトは気づいた。 机に座っていたのはマネキンだった。スーツとカツラを着けたその姿は人間そ っくりで、それが存在している空間の雰囲気も相まって、なんとも不気味な印象 を受ける。 マコトの前を行くユウスケは、臆せずその前に立った。 「スカウト、ユウスケ・コバヤシ。オーナーさんに会いたい。」 マネキンに向かってそう言うユウスケに、マコトは不思議に思ったが、マネキ ンがユウスケの言葉を聞いて頭をもたげるのを見て、少し驚いた。 「了解シマシタ。会員証ノ提示ト合言葉ヲオ願イシマス。」 マネキンからの機械的な音声を受け、ユウスケは財布からカードを取りだし、 マネキンに見せつける。それから、面倒くさそうに言った。 「『我は英雄に非ず。未だ此処に至るに値せず。』」 「声紋合致。本人ト確認――入場ヲ許可シマス。」 「連れが居るんだ。」 ユウスケはマネキンに言った。 すると、マネキンは首をマコトの方に向ける。作り物の目に射抜かれて、マコ トは少し恐ろしくなった。 「身分証明ヲオ願イシマス。」 言われて、少し戸惑いつつカバンから生徒手帳を取り出す。 「これでも?」 ユウスケに訊くと、彼は答えた。 「名前が判れば何でもいいよ。」 マコトはマネキンの前に立つ。マネキンの顔の前に生徒手帳を掲げると、マネ キンの目に仕込まれたカメラのピントが合わされる音がした。 「マコト・アマギ様デヨロシイデスネ?」 「……はい。」 「デハ、ゴ案内イタシマス。」 マネキンは丁寧に頭を下げ、それから言った。 「コノ部屋、私ノ後方ニエレベーターガ御座イマスノデ、ソレニオ乗リクダサイ 。速ヤカニ『タルタロス』ヘオ連レイタシマス。」 「『タルタロス』?」 「俺のバイト先。」 ユウスケが答えた。 「スグニ係リノ者ガオーナーノ元ニオ連レシマス。以降ハソノ指示ニ従ッテクダ サイ。」 「はい……わかりました。」 マネキン相手に敬語を使うことには違和感があったが、マコトは自然とそうな っていた。 生徒手帳をしまって、遠くの壁を見る。たしかにエレベーターの扉が数機分見 えた。 「行こう」 ユウスケはさっさと歩き出していた。マコトもついていく。 エレベーターの前に立って、ボタンを押した。 「ここまで階段で上がる必要無かったんじゃ?」 マコトが訊いた。 「このエレベーターは4階と地下のためだけにあるんだ。途中には止まらない。 」 「地下があるのか?」 「ああ、そこが――」 言いかけたその時、エレベーターの扉が開いた。 2人は中に入る。扉が閉まり、エレベーターは下降を始めた。 唸るような音と振動が2人を包む。 なんだか、扉が閉まる瞬間に見えた、マネキンの後ろ姿が頭に焼き付いて離れ なかった。 下降はしばらく続き、その間、ユウスケはマコトの方を見なかった。 やがて、静かにエレベーターが到着する。……扉が開いた。 扉の先は別世界だった。 エレベーターに乗る前の、あの寂しげな4階の光景とは対照的に、そこは多く の人間で賑わっていた。 床には赤い絨毯が敷かれ、壁には高級そうな絵画、天井には明るく輝くシャン デリアと、一見悪趣味だが、しかしそれらには紛れもなく本物の気品がある。き っと、どれかひとつでも傷をつけたら、一発で破産してしまうにちがいない―― マコトはそう思った。 広いフロアには多くの人間が居たが、その大半がどう考えてもこの空間には場 違いな格好の(それはマコトとユウスケもだが)、普通に街中で見かけるようなガ ラの悪い若者たちであることに、マコトは疑問を感じた。 「なぁ、ユウスケ――」 マコトが言いかけた時、1人のスーツ姿の、爽やかな美形の男が2人に近づい てきた。 「コバヤシ様とアマギ様でございますね?」 彼は微笑みを携えて2人の前に立つ。 ユウスケが肯定した。 すると、彼は深く丁寧なお辞儀をする。 「ようこそいらっしゃいました。早速オーナーの元へご案内いたします。」 彼はそう言ってくるりと背を向け、歩きだす。2人はついていった。 マコトはこの数分で、ユウスケ・コバヤシという人間がわからなくなっていた 。 特殊な方法でしか入れず、ガラの悪い若者たちがたむろする高級な施設。…… ヤバい匂いしかしない、と感じるのは、自分だけだろうか? そして、そこに普段から出入りしている様子のユウスケ……。 もしかして、俺はあいつのことをこれっぽっちも知らなかったんじゃないだろ うか。俺の知らないあいつが、今俺の前に居るんじゃないだろうか。 男について廊下を歩く間、マコトはユウスケの背中を見つつ、そんなことばか りを考えていた。 目の前の背中が不意に止まる。マコトも足を止めた。 横を見ると、長い廊下の壁に、大きな扉がある。横にかかった金属のプレート には「応接室」と刻まれている。 男が2人に代わって扉をノックした。 「オーナー、スカウトのコバヤシ様と、新規のアマギ様をお連れしました。」 「入っていいよ。」 扉の向こうから聞こえてきたその声を、マコトはどこか奇妙に感じた。 「失礼します。」 男が静かに扉を開ける。 マコトたちが中に入ると、やはり静かに扉は閉められた。 「やぁ、はじめまして」 やはり奇妙な声だ。そう思いつつマコトは、上座の前に立つその人間を見た。 まずマコトがその男に対して感じたのは「嫌悪」だった。はっきりとした理由 はわからないが、とにかく、その男を一目見たマコトは、胸がむかつくような嫌 悪感を覚えたのだった。 それは彼の声に原因があったのかもしれないし、もしかしたら外見にあったの かもしれない。彼の声は老人のようにしわがれていたが、口調は若者のようにフ ランクなものだった。そのイメージの不一致が、その男の声を耳障りなものにし ていた。 それに劣らず、男の外見も不快だった。 男は高級そうな趣味の良いスーツを着ていた。問題は男の顔だった。 マコトは正直、初めて男の顔を見た直後、思わず目を背けたくなってしまった 。 男の顔面には大きな手術跡だろうか、縫い目の様な線が何本も走っていて、そ してその縫い目を境に、皮膚の質や性別がバラバラな顔が同居しているのだ。そ のために果たして彼が老人なのか、若者なのか、男性なのか、女性なのか、はっ きりとは判らない。マコトは彼を男性だと思ったが、それもスーツが男性ものだ ったからそう思っただけで、本当は違うのかもしれない。相手に正体をつかませ ようとしないその様はまるでモザイクのようで、その一切の情報が読み取れない 顔が、マコトの目にはこの上なく醜悪なものに映ったのだった。 マコトは言葉を発さず、ただ軽く会釈をした。 そのツギハギ顔の男は微笑んで、2人に椅子に座るよう促す。 2人が席につくと、男も向かい合って座った。 「マコト・アマギくんは……君だね?」 男はマコトを見る。マコトは精一杯不快感を表さないようにつとめた。 「『タルタロス』へようこそ。」 彼は頭を下げ、それから胸に手を当てる。 「僕は『コラージュ』。ここのオーナーだよ。」 本名は?という疑問はマコトは口にこそしなかったが、どこか表情にでも表れ てしまったのか、コラージュに伝わってしまったらしかった。訊かれてもいない のに彼は答える。 「申し訳ないけれど、本名はひみつだよ。ちょっと事情があってね。」 彼は言った。「事情」というものがなんなのか、マコトは少し気になったが、 追及はしないことにした。 「えぇと、コバヤシくんの紹介だね。」 コラージュは用意してあった封筒から書類をひっぱり出し、マコトによこす。 受け取ったときに触れたコラージュの手も、彼の顔面と同じようにツギハギだら けだった。 「何をしてもらうかは聞いてる?」 はっとした。そういえばそうだ。色々と予想は立てていたが、マコトはまだは っきりとした答えをユウスケから聞いてはいなかった。 「いいえ」 「そう。じゃあ、説明するよ。」 コラージュはマコトを見て、また微笑む。 「これからアマギくんには専用の会場で『グラウンド・ゼロ』の、1対1の勝負 をしてもらう。君たちの周りには大勢の観客が居て、彼らは君と君の相手、どち らが勝つかを予想して、賭けをして楽しむ。」 「それって……」 言いかけるが、コラージュは先に答えた。 「そう、ぶっちゃけ『違法賭博』だよ。この『タルタロス』はそういったアング ラな娯楽を提供する場なんだ。あの面倒なセキュリティと、僕が本名を名乗れな い理由は、そこ。」 なるほど、これで色々と納得がいった。 「今なら引き返せるよ?」 コラージュはそう言った。 マコトは正直、ユウスケが違法賭博に関わっていたことが少なからずショック だったが、別に彼を責める気はおこらなかった。 それよりも、マコトは今、自分が今まで関わりのなかった未知の世界の危険な 臭いに、体がうずいていた。 目の前には『闇』が転がっている。それは一体どんな味がするのだろう。それ を自分も味わいたい、そう思っていた。 「……いえ、いいです、続きをお願いします。」 マコトはそう答えた。 ユウスケが横目で自分を見た気がする。 「思いきりいいね。いいことだ、うん。」 コラージュは満足げに頷いた。 「じゃあ、書類を見てくれるかな?」 マコトは書類に視線を落とす。 「報酬について説明するよ。まず基本的に5万円は保証されてるから、『勝負に 負けたから報酬0』ってことは無いから安心して。」 コラージュの説明を書類上で追う。 「まず基本が5万、それにプラスして、『君たちがどれ程観客を楽しませたか』 をこちらが判断して、その分を支払うよ。だから普通にやったらだいたい……6 から7万円ってとこかな。」 そんなに貰えるのか。 「だから重要なのは勝ち負けじゃなく、『どういう風に戦うか』だと思ってくれ た方がいい。プロレスと一緒だよ。遠距離からミサイルばっかり撃ってるような 臆病者には観客はしらけるけれど、そのミサイルを避けきって、必殺の一撃を命 中させるような戦い方なら観客は喜ぶ……そういうこと。」 「なるほど。」 「わかってくれた?」 マコトは頷く。 「じゃあ、このあと早速やってみる?ちょうど枠があるんだ。」 コラージュは腕時計をちらりと見た。 「え、今からですか?」 「うん。なんだったら、練習するかい?開始時間はいつも決めてないから、融通 はいくらでもきくけれど。」 「あぁー……できれば、練習したいです。」 さすがに1年も触れていなかったんだ。勘を取り戻しておきたい。 「そう。じゃあ、ついてきて……と、その前に。」 コラージュは一度立ち上がりかけて、また座った。 「契約書へのサインやらなにやら、しなくちゃね。」 コラージュは笑った。 ユウスケは終始無言だった。
https://w.atwiki.jp/sousakurobo/pages/1103.html
数日が経った。 マコトは普段通りの日常に戻っていた。 普通に起床し、普通に学校へ行き、普通に授業を受け、普通に帰宅し、普通に 眠る。 何も変わらなかった。 変化といえば、ユウスケの姿を見なくなったのと、明らかにマコトの口数が少 なくなったことくらいだった。 マコトはあの日から、常に誰かの視線を感じていた。 監視されている。 もしかしたら被害妄想かもしれない。そうであってほしいが、そうである証拠 はどこにもない。 だからマコトは他人との関わりを避けるようになり、最近は休み時間の度に誰 も居ない校舎裏などで1人、ただ時間が過ぎるのを待つようになったのだった。 「無為」が自衛の手段だった。 ときどき、マコトは恐ろしくなる。 あの、自分が殺した(も同然の)相手プレイヤー……もう、名前も忘れてしまっ た。 それだけじゃない。あれほど胸を締め付けたコラージュへの憤りも、好奇心か ら犯罪に手を貸したことへの罪悪感と、自らの愚かさに対する自責の思いも、時 間と共に確実に薄れていっている。 コラージュが言っていたのは、こういうことか。 ……静かな午後だった。 腕時計をちらりと見る。すでに5時限目が始まっているが、このままサボろう 。 目を閉じて、雀のさえずりを聞く。時折やさしく吹き抜ける風が木々の葉を奏 でる。 ……どうせ死ぬなら、こんな日に死にたい。 誰かの足音が耳に入る。 マコトは目を開け、そちらを見た。 「アマギくん、こんなところに居たの?」 そこに立っていたのは、マコトと同じ制服を着た、背の低い少年だった。 髪は黒く、アクセサリーも身につけていない彼はマコトのクラスの―― 「『委員長』……?」 「もう授業始まってるよ?」 そう言いながらキムラはマコトの隣に腰を下ろす。 彼の名前はコウタ・キムラ。マコトと同じクラスで、学級委員長をつとめてい る、成績優秀な生徒だ。 もしかしたら自分を探しに来たのだろうか。訊くと、彼は頷いた。 「うん。ちょっと訊きたいことがあって。」 「授業はいいのか?」 「別に大した授業じゃないし」 キムラは上着の内側から煙草を取りだし、口にくわえて火を点ける。勧められ たが、マコトは遠慮した。 キムラは、長く煙を吐く。 「……それで」 彼がそれきり何も話さないので、マコトの方から言う。 「『訊きたいこと』って?」 「……ああ、そうだった」 キムラは携帯灰皿に煙草の灰を落とす。 「アマギくん、コバヤシくんと仲良いよね?」 マコトは否定しなかったが、肯定もしなかった。 「最近コバヤシくん見かけないけどさ、どうしたのかなって。」 その言葉で、キムラがユウスケと仲が良かったのを思い出した。 キムラには難病を抱えた妹が1人いる。彼は彼女を本当に大切にしていて、ユ ウスケとはお互いのそういうところにシンパシーを感じているらしかった。 「さぁ……知らね」 マコトのその返答は本当が半分、嘘半分だった。 ユウスケが姿を現さない理由は、きっとマコトに顔を合わすのが気まずいとか 、そんな理由だろう。あいつは、逃げてるんだ。マコトはそう考えていたが、そ の考えに一番納得していないのも自分自身だった。 俺はあいつのことをこれっぽっちも解っちゃいない。 「ふぅん?……アマギくんなら、何か知ってる気がしたんだけどな」 キムラの言い回しに、マコトの心が身構える。 「なんで?」 「丁度コバヤシくんが来なくなったあたりから、君も様子が変わったように思え たから。」 マコトは苦笑する。 「そう見えるか?」 「もしかして、厄介ごと?」 「ああ――」 頷いて、気づく。 「ほら、嘘だ。」 キムラがしたり顔でこちらを見て笑うので、マコトは少し気分が悪くなった。 「――たしかに、トラブルだけどさ」 マコトは肩をすくめ、精一杯に事態の軽さをアピールする。 「別に、そんな大したことじゃない。」 自分の口ぶりが、あの日のアパートでのユウスケに被る。 「そう?じゃあ、いいけどさ。」 キムラはタバコを地面に落とし、靴の底で火を消す。 「困ったらいつでも相談してよ?少しは力になれるかもだから。」 「ああ……ありがとう。」 きっと相談することなんて、無い。言葉と裏腹にマコトはそう思っていた。 「……そういえば、妹さんはどう?」 マコトはふと気になって訊いた。 キムラは困ったような表情をする。 「いつも通り、良くないよ。」 「そうか……」 「でもこの間お医者さまが言ってたんだけど、新しい技術を使った手術をすれば 、治るかもだって。」 「へぇ、やったじゃん」 「ああ!でも……」 「ん?」 「いや、何でもない。」 キムラは立ち上がる。尻をはたいて、ノビをした。 「それじゃ、俺ちょっと抜けるから、教師に何か訊かれてもしらばっくれといて 。」 「オーケー。」 マコトは軽く手をふりながら、遠ざかるキムラを見送った。 それからマコトも立ち上がる。 キムラと話して、理解できた。 手を差しのべてくれる友達を、巻き込まないためにその手を払う苦しみ。あの アパートでユウスケがマコトと約束を交わしたとき、あいつも同じ気持ちだった んだ。 あの時かかってきた電話――きっとタルタロスからの――によってユウスケが マコトと約束をしたとき、彼はどれほど苦しんだのだろう。 ……ユウスケに謝ろう。結局、最終的にタルタロスに参加を決めたのは自分自 身なんだ。俺に、あいつを非難する資格はない。 マコトは立ち上がった。服をはたく。 学校に来ていないということは、きっと家に居るはずだ。行こう―― マコトは学校を出た。 マコトはアパートの部屋の呼び鈴を鳴らす。反応は無かった。 また居留守か?そう思って、前回と同様に声を出してノックをする。 ……反応は無い。 どうやら本当に留守みたいだ。また改めて来よう。 そうして爪先を別の方向へ向けたときだった。 「……アマギさん?」 目の前から歩いてきたのは中学生の女の子――ユウスケ・コバヤシの妹、エミ コバヤシだった。制服を着ているのをみると、学校帰りだろう。 マコトは「久しぶり」と返した。 「お久しぶりです。ウチに何か?」 エミはマコトのそばに立った。 「いや、ユウスケ最近見ないからさ、もしかしたら家に居るかもって」 「兄ですか……」 ふと、エミの表情が曇った。 マコトは訊く。 「あいつに何かあったのか?」 「いえ、何かあったといいますか……」 エミは軽く肩をすくめる。 「ただ、ここ最近帰ってきてないんですよね」 「え……?」 耳を疑った。 「帰ってないって……いつから?」 「たしか、2日くらい前からだったと思います。」 「2日……」 「無断外泊は前からありましたが、やっぱり少し心配ですね。」 「ああ」 『少し』じゃない。 小さな虫が集団で足を這い上がるような、そんな感覚に襲われる。 「どこへ行ったか、心当たりは?」 「そうですね……」 彼女は軽く考えて、首を振った。 「私には、ちょっと」 「そうか……」 しかし言いながらマコトには心当たりがあった。 もう二度とここに来るつもりは無かったのに。 マコトは階段を上りきり、歯噛みした。 埃まみれの広い部屋、その中心に座すマネキンの前にマコトは立った。 「『我は英雄に非ず、未だ此処に至るに値せず』。」 「会員証ノ提示ヲオ願イシマス。」 このためにわざわざ家から持ってきたカードを見せつける。 「声紋合致。マコト・アマギ本人ト確認――」 「ユウスケ・コバヤシは来てるか?」 「ソノヨウナ質問ニハオ答エデキマセン」 「誰に訊けばわかる?」 「オーナーニオ願イシマス」 「わかった。」 マコトはマネキンの横を過ぎ、エレベーターを呼ぶ。 すぐに到着したそれに乗って、タルタロスへと降りた。 足を踏み入れたエントランスの光景は以前来たときとほとんど変わっていない 。豪華絢爛な空間にガラの悪い若者たちがたむろしている。 その時の記憶からコラージュの部屋への道をひっぱり出し、歩む。 思ったより早くその部屋にはついた。 ノックをするつもりは無い。マコトは乱暴に扉を開いた。 「度胸は買うよ」 扉の向こうにはコラージュがすでにマコトを待ち構えていた。彼はくつろいで いる様子で、高級なソファーに寝そべるように座り、ホットドックなどをかじっ ている。 「だけど、僕の機嫌を損ねたら死んじゃうかもしれないってのに、わざわざそう するのはいただけない。」 コラージュは笑った。 マコトは構わずズカズカと部屋に踏み込み、彼の傍らに立つ。 「ユウスケをどうした。」 「どうもしてないよ。」 また、ホットドックをかじる。 「ただ僕たちは彼の希望を聞いただけ。」 「ユウスケは何を?」 「あれを見るといいよ。」 彼が指差した先には大きなモニターがあった。そこには檻と、多くの人間たち が俯瞰で映されている。 あの会場だ――マコトはピンときた。 「おい、まさか!」 「もっと詳しい映像はコチラ」 コラージュがリモコンをいじると映像が切り替わる。画面に大写しになったの は、グラウンド・ゼロをプレイする1人の少年―― 「――ユウスケッ!」 マコトは思わず叫んでいた。 画面の向こうから実況が聞こえる。 『――おおっとコバヤシ!粘る粘るねばねばネバネバァ!しかしやはり無謀だっ たぁ!?』 「なんでアイツが!」 「理由はコチラ」 また映像が切り替わる。今度画面に大写しになったのは、不気味な仮面を身に つけた人物だった。 あいつは、『タナトス』ッ! 「まさか、ユウスケ――!」 「そう」 コラージュが言った。 「哀れなコバヤシ少年は、自らが巻き込んだ親友を、このタルタロスから永遠に 解放するために、頂点に立つタナトスへと挑んだのでありマス。」 彼は芝居がかった口調でそう語る。 マコトはまたコラージュの方を向いた。 「止めさせろ!今すぐに!」 しかし直後、マコトの後方、モニター内からひときわ大きな歓声がまき起こる 。 『決ッ着ーッ!!当然すぎる結果に何も言えねーぜ!この挑戦はやっぱ無謀ッ! 蛮勇ッ!馬鹿の極みだったぁ!!』 再びモニターを見る。映像はまた俯瞰視点に戻っていた。 『んじゃあさっさとやっちまうぜ!身の程知らずの馬鹿野郎には、キツいオシオ キしなくちゃなあ!』 「やめろ……」 『レッツ、エクスキューションッ!!』 「やめろ!」 マコトの叫びが届くはずもなく、スムーズに檻は引き上げられ、観客とユウス ケを隔てるものが排除される。 あっという間に暴徒たちは、ユウスケを覆い隠した。 マコトはそれを確認する前にはすでに部屋を飛び出していた。 全力で通路を疾走する。途中何回か他人にぶつかったが、気にする暇は無い。 いくつかの角を曲がり、長いスロープを下りた先の、立派な扉。それを蹴破る ようにして開け、中に飛び込む―― ――しかし、会場内には誰も居なかった。 あの不吉な2つの檻と、グラウンド・ゼロの筐体だけは相変わらず中心の舞台 の上にどんと据えられているが、他に人の影はどこにもない。 この会場じゃなかったのか――? 辺りを見渡してそう思ったマコトがつま先を出口に向けたときだった。 「いいや、ここであってるよ。」 入り口のところに立ち、片手に食べかけのホットドッグを持ったコラージュが そう言った。 「……じゃあ、何で誰も……?」 「答えはシンプル」 狼狽えるマコトに構わず、コラージュは最後のひとかけらを口に押し込む。 「あれが『2日前』の映像だから。」 「『2日前』……ってことは」 「ユウスケ・コバヤシ君はとっくの昔にお亡くなりDEATH。」 信じられないほどにあっさりと、彼は言った。 「そんな……!」 思わず足から力が抜ける。床に両膝をついた。 うつ向くと、コラージュが言う。 「あっあっダメ、ダメだよ。顔は上げなきゃ。」 マコトはそんな言葉はもう聞いていなかった。が、近づいてきたコラージュが 目の前でしゃがみこんだので、ゆっくりと顔を上げて彼を見た。 するとコラージュはマコトの表情を見て、満足げに微笑む。 「そうそう、その表情。」 コラージュが何を言っているのか、マコトには理解できない。 彼は再び立ち上がると、何かを思い付いたような仕草のあと、言った。 「会わせてあげようか」 微笑むコラージュ。 「コバヤシくんに。」 マコトは勢いよく立ち上がった。するとその様子を見て、コラージュはハハと 笑う。 「食い付きいいね。……じゃあ、ついてきて。」 そうしてコラージュは踵を返し、出口へと向かう。 マコトもついていく。 部屋を出てすぐ横の、『従業員専用』とある扉を開けて薄暗い通路に入り、少 し行ったところの、ドアの無い広い部屋に入る。 そこには見上げるほどに大きな機械があった。それは今は稼働していないらし く、静かに空間を占有している。 マコトはそれに目をくれず、コラージュを急かす。 「今会わせてあげるよ……ほら、これだ。」 そうして彼が物陰から引き摺り出したのは、大きな缶だった。貼られたラベル には2日前の日付と、『6』の数字がある。 マコトの疑問の表情も無視し、コラージュは手際よくその蓋を開けた。 中を覗きこむと、ますますわけがわからない。コラージュに促されるまま、マ コトは缶のそばにかがみこんで、中に詰まっている黒い粉をつまんだ。 「それがコバヤシくんだよ」 コラージュが言う。 マコトは聞き返した。 「タルタロスはね、賭博以外にもいろいろやってるんだ。」 彼は機械に手をつく。 「ド変態どものための『食用糞尿の販売』、三つ編みフェチロリコンたちのため の『ビデオ撮影』、『人間家具の作成・販売』もある。……そして、ウチが業界 で最大シェアを持っているのが、『人肉食品の販売』。」 「『じんに……!』」 「例えばハンバーグだったりソーセージだったり、ケーキだったりプリンだった り、肉をそのまま使うタイプもあれば、加工して粉にしたものを混ぜこむタイプ もある。」 「おい、まさか」 「そう。」 コラージュは缶を指差した。 「それは、そのための『人肉粉』6人分だよ。」 言葉が出なかった。愕然とした。 指に付着した粉を見る。赤黒いそれはサラサラとしていた。 これが、もとは人間だった――? 想像がつかない。だからユウスケが、『あの』ユウスケがこれになったと言わ れても、実感が湧かなかった。 「想像つかない?」 思考を読み取ったかのように、コラージュはまた微笑む。機械から手を離した。 「まぁそうだろうね。……なんなら、詳しい加工方法を教えてあげようか。まず は手作業で腸内を洗浄――」 「やめろ!」 マコトは耳をふさいだ。これ以上聞いたら、実感が湧いてしまう。ユウスケが これになったと、認めてしまう。 「――したあと、各部位を切開してインプラントとかの不純物を摘出。その後ま るごと専用のミキサーにかけて骨も肉もドロドロに――」 しかしコラージュは楽しげに説明を続ける。その視線はマコトの顔に注がれて いて、彼が恐怖と不快感にマコトの表情が歪むのを楽しんでいるのははたから見 ても明らかだった。 「やめてやれ、コラージュ。」 だがそれは遮られる。 不満げな表情をするコラージュと共にマコトが声の聞こえた入り口を見やると 、そこには見覚えのある大きなシルエットがあった。 「お前のその悪趣味、見てて気持ちのいいものじゃない」 「だったら見なきゃいいのに」 部屋に足を踏み入れるその影は仮面をしていた。あの恐ろしげな風貌はマコト はさっき見たばかり。あの映像の中で―― 「――タナトス……」 タナトスはコラージュの前を横切り、マコトの声を無視して、缶の蓋を拾って またはめなおす。 その動作はゆったりとしたもので、マコトがタナトスが映像の中でしたことを 思い出し、心を怒りの炎で満たすには充分な余裕のあるものだった。 「よくもアイツを!」 マコトは叫び、立ち上がった。 しかしその恫喝はタナトスには無意味だったようで、彼は全く動じず、自らが 先ほど蓋をした缶の上に腰かける。 「『アイツを』……なんだ?」 彼のボイスチェンジャーを通した声がマコトに語りかける。 「よくもアイツを――」 「――『殺した』、か?」 死の神がこちらをまっすぐに見た。 マコトの手は怒りのために震えている。 「……勘違いしてもらっては困る。私は挑戦を受けたのだ。自ら命を捨てたのは 、彼だ。」 「だから何だ!それでも殺したのはお前たち――タルタロスだろう!」 「いいや違う。彼の死は……自殺だ。」 マコトはたじろぐ。 「……どういうことだ。」 「僕たちはちゃんと警告したんだよ」 コラージュが口を挟む。彼はどこか退屈そうにしていた。 「『君の実力じゃ万にひとつも勝ち目は無い』って。」 「だがそれでも彼は私と戦うことを選んだ。」 タナトスの言葉―― 「万にひとつも勝ち目は無いのに、『君をタルタロスから解放するため』と己を 無理やり納得させて、『逃げた』のだ。」 黙りこむマコト。 「彼は君への罪悪感に耐えられなかったのだ。君への罪を心に刻んで無様に生き るよりも、『悲劇のヒーロー』という己に酔って、美しく人生を終わらせること を選んだのだ。」 「なんて卑怯なナルシスト!」 コラージュが芝居がかったポーズをしながら叫ぶ。 「同じことを今まで何人にもしてきたというのに!いいやそもそも、そんなに心 優しい人間ならタルタロスになんか関わりやしなかっただろうに!」 「ユウスケ・コバヤシは……正真正銘のクズだった。」 「……だから、お前たちは悪くないっていうのか」 うつむくマコトの声は震えていた。 コラージュが耳障りな声で笑う。 「ここまできてまだ善悪を持ち出すの?」 「誰が悪い、じゃない」 対称的に静かなタナトス。 「誰が悪いかと言うならば、それは全員だ。私も悪い。コラージュも悪い。君も 悪い。ユウスケ・コバヤシも悪い。タルタロスに足を踏み入れた時点で、全員が 悪い。だが、そうじゃない。」 「そう――」 また、コラージュ。 「――僕たちはねぇ、アマギくん。君たちの信仰するそれとは根本的に違う倫理 観で生きてるんだよ。そこには君たちの世界の善悪ではくくれないものが山ほど ある!」 「それでも……!」 「『それでも』?」 「……ユウスケが死んで、悲しむ人が居るんだ!」 「だから言ったでしょ?コバヤシくんの死は自殺も同然、悲しませるのは――彼 自身だよ。」 コラージュはそう言った。 それから沈黙があった。 マコトは潤む両目を手のひらで押さえて、ただ立ち尽くしている。コラージュ はあくびをし、座したままのタナトスは静かにマコトを見ていた。 「……コラージュ」 マコトが呟くように言った。呼ばれたコラージュはもうこの空気に飽き飽きし ているらしく、面倒くさそうに返事をする。 「このタルタロスの頂点に立てば――タナトスを倒せば、願いが叶うんだよな? 」 コラージュは肯定し、ニヤリと口端をつり上げた。 「だけど、死者を生き返らせるのは、無理だよ。」 「わかってる。」 マコトは涙を拭う。ギッと力強く2人を睨み付けた。 「だけど例えば、『タルタロスを完全に消滅させる』と願えば、それが叶うんだ ろ。」 マコトのその言葉を聞いて、コラージュは心から嬉しそうな笑顔を浮かべた。 「もちろんだよ!君はタナトスに挑むつもりなんだね!」 頷く。 「ううん、良いねぇ!僕はそういうのは大好きだ!じゃあ、早速セッティングを ――!」 「――だけどそれは、今じゃない。」 コラージュの動きがピタリと止まる。 マコトはタナトスを見据えた。 「今の俺じゃあ、お前に勝てないだろ」 タナトスは頷く。 「そうだな。私には負ける要素がなにも無い。」 「だから」 マコトは足を部屋の出口に向けた。歩み出す。 「『強くなる』、このタルタロスで生き延びて。強くなってから、お前を倒す。 」 「自分の望みを叶えるために多くの他人を犠牲にするのか?それは君の言う『悪 』ではないのか?」 背後からの声に出口のそばで立ち止まって、振り向かずに言った。 「『善』とか『悪』とか……もう、わかんねーよ。」 タルタロスを出て、エリュシオンを出た。 駐車場を横切り、暗くなり始めた通りへ出る。 駅へと向かおうとして、ふと、足を止めた。 辺りを眺める。マコトの周囲では顔も知らない人々が先を急ぎ、道路には自動 車が絶え間なく行き交う。その向こうにもさらに数えきれない人々の姿……。 『街を歩いていてすれ違った人間が、次の日にはもうこの世に居ないかもしれ ない。』そんなこと、誰も考えていやしないんだ。 しかし確実にこの街では毎日のように人間が死んでいる。 人は死と共に生きているんだ。そんな当たり前のことに、俺は気づいていなか った。 ……虚しさがマコトの心を支配していた。 だが、同時にその隅でくすぶり始めたものがある。 ――よくも、ユウスケを。 たしかにタナトスやコラージュの言うとおりかもしれない。あいつの死は自殺 だったのかもしれない。 だけどそれ、違うだろう? そもそもタルタロスさえ無ければ、タナトスやコラージュが存在していなけれ ば、ユウスケは死ななかったんだ。 殺したのは、やはり『タルタロス』。 それ以上の余計なことを考えそうになって、マコトは頭の中で自分を殴り付け た。 駄目だ、やつらに与しては―― 頭を振って、マコトは雑踏の中へと消えた。
https://w.atwiki.jp/sousakurobo/pages/1255.html
それは少年が初めて経験した『真の勝利』だった。 「ついにタナトスvsオルフェウス、決着ゥウウウッ! アンビリバブルなことに、女神は挑戦者にほほ笑んだ!」 会場が震えるほどの歓声を、さらに上回るほどの大声で叫ぶ実況。そしてさらにそれをかき消すマコトの雄叫び。 マコトは全身に高圧電流を流されたような激しい感覚に酔っていた。努力と苦難の果てに掴んだ勝利は それほどの美酒だった。 しかしいつまでもそうしてはいられない。酔いが醒めたきっかけはスピーカーからの声だった。 「おめでとう、おめでとう」 いつもどこか人を小馬鹿にしたような、鼻につく、嗄れた声。コラージュだ。 「おめでとうオルフェウス。君はこれでタルタロスナンバーワンだ。」 その声にマコトの高揚した精神は一気に反転し、代わりにとてつもなく不快な感情が襲ってくる。 冷水を頭に被せられたような気分だった。 「さて、敗北の気分はどうだい、タナトス?」 コラージュの声が筺体の向こう側へ向く。マコトもモニター越しに彼女を見た。 「意外と悪くないな。途中あれだけ不愉快だった怒りもいつの間にか無くなっている。」 「それは良かった。」 するとモニターの画面が切り替わり、今度はコラージュの顔が大映しになる。その表情は笑っているように見えた。 「さてオルフェウス、君にはご褒美だ。権利をあげよう。『願いを叶える権利』を。」 途端に静まりかえる会場。マコトは乾いたノドを唾で湿らせた。 願いは決まっている――そのために戦ってきたんだから。 しかしマコトには引っかかることがあった。 (コラージュのあの余裕、どういうことだ……?) 画面のコラージュはいつもの通りで、とても今から自らの寄る辺を失う者には見えない。 まさか何かすでに対策を打ってあるのか。 不安が舌に絡みついてくる。疲労した神経が今さら腕をしびれさせる。 だがここまできて今さら他の選択肢も無い。マコトは力を振り絞って視線を上げた――そのときだった。 言葉を失った。 画面には笑顔のコラージュが映っている。彼はなぜか口に1枚の写真の端をくわえていた。 一瞬、マコトにはそれが意味するところが解らなかったが、すぐに理解した。 その写真はある少女の姿を撮影したものだった。見覚えがある……! 「それ……!」 するとコラージュは大げさな素振りで、まるで今気づいたかのような声をあげる。 「うわぁーなんだこの女の子はーオルフェウスくんこの娘知ってるー?」 マコトは奥歯を噛みしめ、敵意を剥き出しにしてコラージュを睨みつけた。 あの写真に写っているのは……ユウスケの妹だ。 「クソヤロウがッ!」 吠える。コラージュは嘲笑で返した。 「さて、どうするんだい?」 マコトはためらう。まさかここでコラージュが人質をとってくるとは。判断に困ったので目線を観客席にやって アヤカさんを探すが、見つからない。自分で決めるしかないのか。 ――いや、なにを弱気になっているんだ。ここまできて退くなんてない、そうさっきも思ったろう。 しかし…… 「だんまりかい? さぁ、はやく言いなって。」 コラージュは優しくそう語りかけてくる。マコトはイラつく感情を抑えてコラージュを睨み返し、 ついに願いを口にした――しようとした。 観客たちとマコトの目に飛び込んだのは理解しがたい映像だった。 「え」 コラージュはそう小さく言って、吐血した。背後からの手で押さえつけられた口元から、 鮮やかな血が溢れ出る。彼の左胸にはいつのまにかナイフが突き立てられていて、 そこから上等なスーツにじわじわと赤い染みを広げていた。 マコトたちは絶句する。 コラージュは最後の力で後ろを振り向こうとするが、その前に側頭部を背後の人間に思いきり肘でうたれ、 画面外に倒れて消えた。 背後の人物の姿はカメラの前に晒されたが、未だ顔は見えない。パーカーのフードを目深にかぶった下に、 更に犬のマスクをかぶっていたからだ。彼は無言でカメラを一瞥し、手を差し伸べる。マコトは直感的に、 今だ、と理解した。 筐体の向こう、佇むタナトスを指さして、マコトは宣言する! 「俺がタルタロスに望むのは、この犯罪組織の、永久の解散だ。 未来永劫にわたって、二度と姿を見せるんじゃない!」 それが崩壊の始まりだった。 画面の向こうの犬マスクは、コラージュから奪い取ったスイッチを押す。 それはタルタロスの終わりを告げるスイッチだった。 スイッチが押されると共に、タルタロスへ繋がる全てのネットワークが切断され、 コンピュータ内の記録媒体が焼ききれる。 ゲームの電源は落ち、照明はオレンジ色の非常灯に切り替わった。 同時に観客席の入り口から上がる威嚇する声。 「警察だ! ここにいる全員、違法賭博の現行犯で逮捕する!」 騒然とする会場。入り口を塞ぐように整列しているのは、私服警官たちと、 警察手帳を掲げたアヤカ・コンドウだった。 「発砲許可は下りている! 怪我が嫌なら這いつくばれ!」 号令と共に銃を構える警官たち。会場はパニックになった。 アヤカはさらにインカムで機動隊突入の支持を出す。すでにタルタロスの全ての出口の前に待機していた部隊は ついに突入した。 今までのとは異なる種類の怒号と悲鳴と絶叫の渦の中、マコトはどうしたらいいかわからなかったが、 混乱した観客たちが金網をやぶらんばかりの勢いでぶつかってくるのに危険を感じ、入場口に向かって走り出した。 タナトス――ミコト・イナバはコラージュが駄目になったことには少し驚いたが、 万一の想定通りにアクションを起こすことにした。 物憂げに首をかしげ、打ち鳴らされる金網と降り注ぐ侮蔑の言葉も無視し、 少女の死体のそばの小型拳銃を拾い上げて、いつもと変わらない様子で入場口へ歩いていく。 扉を開けると、長い廊下の先の曲がり角から大勢の人間の足音が近づいてきているのがわかった。 警察か暴徒か判らないが、どっちでも同じか。 ミコトは落ち着いた動作で廊下の角の小さな床板を持ち上げ、スライドさせた。 その下には細長い通路が開いている。これは万一を考えて作っておいた秘密の逃げ道のひとつで、 コラージュと自分しか知らない道だ。ミコトはそこに滑り込み、素早く入り口を塞いだ。 そばに備え付けの懐中電灯を拾って点ける。 暗く狭い通路を歩く間もミコトはこれっぽっちも焦ってはいなかった。望むものは手に入れたのだし、 もともとこの組織に愛着も無い。このまま逃げおおせて、どこか外国で静かに暮らそう。 彼女は歩きながらそんなことを考えていた。 隠し通路はやがて少し広い通路に繋がる。ここもやはり隠し通路で、地下都市建設当時の名残であり、 タルタロス施設の最深部のさらに下を通っている道だ。この道は様々な地下鉄や地下施設を繋ぎ繋ぎで伸びていて、 最果てはとある廃ビルの物置きに出るようになっている。 全長数十キロの道のりを歩くのはなかなかに辛いが、まぁ仕方がない。 足を踏み出したそのとき―― ミコトは何者かの気配を感じて立ち止まった。 通路の暗がりから何かがこちらを見ている。 警察か? いや、それならもう何らかの警告がされているはず。 それに……どうやら、相手はひとりのようだ。 「用があるなら手短にすませてくれない?」 そう言って懐中電灯を前方に放り、同時に拳銃を構えて臨戦態勢に入る。 床を転がる懐中電灯はやがて相手のつま先にぶつかって、その姿を照らし出した。 「手短に、はちょっと無理かな」 暗闇から現れたのは、先程コラージュを刺した、犬マスクの怪人だった。彼の手にはナイフが握られている。 ミコトはそれ以上は相手の言葉を待たずに発砲した。撃たれた衝撃で怪人の身体はぐるりと回る。 仰向けに倒れる怪人。ミコトは銃を下ろし、死体のそばに転がる懐中電灯を拾い上げようとする。 その瞬間だった。 いきなり怪人が動き出して伸ばした手を掴まれる! ミコトは反射的に銃を構えようとするが、その前に床に引き倒された。 体制を立て直す間もなく、怪人に馬のりにされるミコト。怪人はナイフを彼女の首に当てた。 「殺す判断に躊躇いがない……さすがタナトス」 怪人はナイフを当てたまま、マスクを脱ぎ捨てた。 「久しぶりだね」 「お前は……キムラ!」 マスクの下から現れた顔はコウタ・キムラだった。彼はポケットから眼鏡をとりだし、身につける。 そのときにパーカーの下に着込んだ防弾チョッキがミコトには見えた。 「ここでは『ケルベロス』、だろ?」 キムラは言う。 ミコトはもがいたが、膝で的確に関節を押さえつけられていて、とてもはねのけられそうにない。 「貴様、なぜ……?」 ミコトの問いにキムラは冷酷な微笑とともに答えた。 「知ってるだろ? ケルベロスは、タルタロスから逃れようとするものを決して逃さない……」 「だったら離せ。タルタロスはもう無い。」 「冗談に決まってるじゃん、馬鹿か。」 そう言ってキムラはポケットから今度は小さな瓶をとりだし、指で蓋を開けると、その口をミコトの口元に近づける。 「暴れたら首がスパッといくよ。」 しかしミコトは口を固く閉じ、瓶の中身を受け入れようとはしない。 それを見たキムラは仕方がないとばかりに中身を自分の口に含むと、瓶を投げ捨てて、 自由になった手でミコトの顎を無理やり開き、口移しで中の薬品を彼女に飲ませた。 すると、ミコトの意識は速やかに混濁していく。手足から力が抜けたことを感じてから、 キムラはミコトの上からどいた。 それから、通路のさらに奥から現れた、活躍の場が無くなって不満そうな様子の仲間たちに ミコトの身体を背負うように指示する。 最後にキムラは通信機を取りだした。 「――こちら『K』。目標は確保しました。」 「そう、ご苦労様。では後ほど。」 アヤカは通信機にそう返事しつつも歩みは止めない。 タルタロス内部の混乱は早くも鎮まりつつあった。それは機動隊や警官隊の的確な対応と、 タルタロスが解散したことによる精神的な打撃の効果が大きかったからなのだが、アヤカは不満だった。 (もう少し混乱は続くと思ったけれど……意外と根性無しばかりね) 彼女は通信機をしまって、目的の部屋に辿り着く。その部屋はすで警官たちに制圧されていた。 「コラージュは? 見つかった?」 「いいえ、我々が突入したときにはもぬけの殻でした。」 「そう……」 アヤカは辺りを見渡した。キムラがこの部屋でコラージュを刺したのは見ていたし、 それから警官たちがこの部屋にくるまで数分しか無かったはずだ。出入り口は封鎖しているし……となると、 やはりあそこか。 (この部屋にも隠し通路があるのね……) キムラとマコトの情報を合わせて彼女が独自に作った、正確なタルタロス施設の地図は、 部屋と部屋の間の不自然な空間を炙りだしていた。その空間がこの手の施設にはお決まりの隠し通路だということを 見抜いたアヤカは、あえて警官たちにはその情報を与えず、キムラを配置してタナトスを捕まえる場所としたのだった。 (隠し通路を教えたら私の目的が達成できないし……しかしコラージュを逃がすのは……) 少し彼女は悩む。だが直後入ってきた通信にアヤカは意識を向けた。 「こちらA班、アマギ少年を保護。指示を頼む。」 「少年は本部へ移送。制圧の完了度合いを報告せよ。」 「地上施設は全て制圧。地下施設は現時点で7割程度完了しています。」 「何か問題はあるか。」 「手錠の数が足りません、近くの交番からも引っ張ってきてください。」 「了解。通信終わる。」 「了解。」 小さく舌打ちするアヤカ。警官たちが優秀すぎて鎮圧までの時間が予想よりも短い。 これではコラージュをキムラに探してもらうことも無理そうだ。 コラージュのほうは諦めるしかないか。組織の頭を押さえられなかったのは痛いが、 これだけ大量の検挙者をあげられたんだ、問題は無いだろう。 部屋を出たアヤカは、ひとりになったときを見計らってキムラ用の通信機を踏みつぶす……。 マコト・アマギは警官に一度手錠をかけられ、他の大勢と同じように床に押しつけられそうになったが、 すぐに別の警官が気づいて開放された。 施設内の嵐は早くもおさまりつつある。マコトはふと、ミコトのことが気になった。 彼女も観客や職員たちと同様に手錠をかけられ、床に這わされているのだろうか。……想像がつかない。 だがこれで彼女もついに檻の中だ。刑務所できちんと罪を償って欲しい。 長くかかるだろうが、これでいいはずだ……。 マコトは警官に促され、タルタロスから連れ出される。 前線基地として使われているエリュシオン4階の、例の人形が居る広い空き部屋を抜け、 警官たちが走り回るゲームセンターを抜け、土砂降りの駐車場へ出る。 停車していた多くパトカーのうちの一台へ小走りで連れられ、乗せられた。そんな中、 ドアが閉まる瞬間に後ろを振り向いたマコトが見たタルタロスはまるで何かの抜け殻のようだった。 パトカーはすぐに動き出す。 ――駐車場から道路に出る瞬間、ガラス越しに目についたあの街灯の下には、誰も居なかった。 翌日。 留置場で一夜を過ごして、事情聴取を終えたマコトは、とりあえず家に帰れることになった。 迎えに来た両親は家につくまではほぼ無言だったが、リビングに入った途端、床に泣きくずれた。 父も母も、戸惑うマコトの頬を殴りつけ、大きな声でマコトを叱りつけてくる。 それはマコトにとっては予想できなかったことで、しばし呆然としていたが、状況が理解できてくると、 彼の目からも涙がこぼれた。 マコトはやっと気づいたのだった。 透明な箱の中、ハヤタ・ツカサキは退屈していた。 この何も無い日々は彼には苦痛でしかなかった。 ただ毎日起き、食事をして、筋トレでもして時間を潰し、規定の時間に寝る。 今のこの生活は、すでに生きる目的を達成した彼にとっては余生だ。 彼はそんなものをだらだらと送るつもりは無かった。 もしもできるなら今すぐにでも自殺したい。死刑の執行が待ち遠しくて仕方がない。 目的の無い人生なんて拷問だ。 ……こういうときに、ミコトが言っていた、生きることそれ自体の理由が分かっていたら、 違うのかもしれないが……。 そんなことを思っていると、突然監視カメラのスピーカーから面会を知らせる声がする。 唯一の楽しみと言えば、彼女をからかうくらいかな。 顔を上げ、ガラスに近づいて彼女――アヤカ・コンドウを迎える。 「よう、久しぶり。」 声をかけられて、彼女は微笑んだ。随分機嫌がいいようだ。ということは、もしかして…… 「まさか、タルタロスをやったのか?」 「ええ、苦労したわよ。」 「マジかよ! 信じられねぇ!」 ツカサキは興奮して飛び跳ねる。アヤカはそんな彼を見て眉をしかめた。 「この国の警察も捨てたもんじゃないな。どうやったんだ?」 「毒を征すには毒。」 「蛇の道は蛇ってか。違う犯罪組織のやつでも抱え込んだか? ああ、そうだ、この前あんたが話していたーー『キムラ』か? アイツを使ったのか?」 「相変わらず良くまわる頭ね。ネジが外れているのが残念だわ。」 「なるほど、タルタロスを倒す武器を手に入れるためにタルタロス自身すら利用したのか。 よくそんな外道な手段思いつくなぁ。俺にはとてもできねーぜ。」 「どの口で言うのかしらね。」 2人は笑う。しかしその眼だけはしっかりと相手を見据えている。 「……で、アイツはどうなった?」 「イナバのこと?」 挑発するような表情をするアヤカ。 「……まさか、アイツがすんなり警察に捕まるわけないだろ?」 「ええ、そうね。彼女は未だに行方不明。」 「そうか……」 肩をすくめるアヤカを見て、ツカサキは少し安堵する。その心理的に無防備な瞬間に、アヤカは牙をむいた。 「そうそう、あなたにプレゼントがあるの。」 「……プレゼント?」 「そう、あなたの大切な人から。」 アヤカがポケットからなにか小さなものを取り出し、ガラス箱の食事を受け渡す用の隙間に置く。 それは手のひらにすっぽり収まるほど小さな、透明な立方体で、中に球体が閉じ込められているのが見える。 受け取って、その球体の正体を知ったとき、ツカサキは驚愕した。 アヤカはまた微笑む。 「『あなたを待っている』だって。」 「うわあああああああッ!?」 絶叫するツカサキ。 その手の中にある立方体に閉じ込められていたのは、元々自分のもので、ミコトにあげたはずのもの――! 「おまえぇ!」 ガラス面を全力で殴りつけるツカサキ。だがガラスはビクともせず、なおも箱の内側と外側を隔て続ける。 「殺してやる! お前を殺してやる! なぜお前は生きている! 人殺し! クズ! ああ――! ミコトを返せ! アイツを――!」 叫びながらツカサキは殴り続けるが、拳の先の皮膚が破れ、飛び散った血で周囲が赤く染まっても、強化ガラスには傷ひとつつかない。 アヤカ・コンドウはそんな彼をいかにも愉快そうに見上げ、そして最後にこう言った。 「これが私の復讐よ。死刑執行の日まで、私への殺意に身を焦がしなさい……!」 ツカサキは、また、絶叫した……。
https://w.atwiki.jp/sousakurobo/pages/1251.html
マコトにはもう、どうすればいいのかわからなかった。 「どうしろ、と言うならこうしろ、と言うよ。」 そんな彼に優しく手を伸ばすように、タナトスは言う。 「降参しろ。そうすれば、全部終わる。」 「なに……?」 「今の君には殺す価値もない。今降参してくれたなら、私の権限で助けてあげよう。」 タナトスの提案はマコトよりも観客たちの心を乱した。怒号が舞う、野次が飛ぶ。 彼女はそれでもなお微笑んでいた。その表情はミコト・イナバのあの明るく優しげなものと同じだ。 その表情を見たマコトは、不覚にも一瞬、彼女は自分を見逃してくれるのかもしれないと信じてしまいそうになる。 だが、そんなことあるわけない、とすぐに考えなおす。 タナトスにとってもう俺を生かしておく意味なんてないはずだ…… でも…… 「本当に……助けてくれるのか……?」 もし本当に助けてくれるのなら…… このままでは俺に勝ち目は無い。 だけどタナトスの素顔を手に入れることはできた。これは全体的に見れば『勝ち』と言えるんじゃないのか。 俺が勝てなくても、アヤカさんなら上手くやってくれるはずだ……。 ユウスケの仇は直接に討てなかったけれども、俺は充分に頑張ったはずだ。 そうだよ、俺は頑張った。 だいたい、どこにでもいる高校生が犯罪組織と戦うなんて現実味が欠けているんだ。 勝てるわけないじゃないか、そんなの。 はじめから警察に任せておけばよかったんだ。アヤカさんに全部任せておけば、今ごろユウスケの仇も討てていたんだ。 結局俺は最後までタナトスのいいように利用されただけだ。 このまま殺されてしまうなんて嫌だ、冗談じゃない。死にたくない。死にたくない! いったいどこで間違ったんだ? 最初にタルタロスにきて、契約書にサインしたときか? アヤカさんの復讐計画に手を貸したときか? ケルベロス――キムラとの戦いを承諾したときか? イナバさんと初めて出会ったときか――? そこまで悔いたマコトの脳裏になぜか浮かんだのは、かつて覚えた違和感だった。 ……そういえば。 マコトはイナバと初めて出会ったあの部屋を思い出していた。 本来ならそんな悠長なことをしているヒマは無いのだが、もうすっかり精神を削られてしまったマコトは 現状にまっすぐ向き合うことにすら嫌気がさし始めていたのだった。 マコトはイナバの部屋をなるべく鮮明に頭に描く。 あの部屋、ウサギのグッズで飾られた、可愛らしい部屋。 机の上にはパソコンがあって、出窓の先にはエリュシオンが見える……。 その出窓に何かがあった気がする……。 ……そうだ、写真立てだ。 イナバさんが、男と写っていた。 あの男、たしかイナバさんの元カレだったっけ。 違和感の原因はここだ。 そうだ、初めてあの写真を見たとき、何かがおかしいと感じたんだ。 なんというか、何かが『違う』ような……。 マコトは気づいて、項垂れていた頭を上げた。 心拍数が上がる。目を見開く。頭の中でパズルのピースが組み上がっていく。 そうだ。 あの写真……、あの写真のイナバさんの外見は、その後自分と話していたイナバさんとまったく同じ外見だったのだ。 色の薄い髪に、茶色の大きな瞳―― だけど問題はそこじゃない。違和感の正体は男のほうだ。 ……そう、たしかに男の瞳は『金色』だったんだ! イナバさんは普通の瞳で、男は金眼。 ……もしそうなら、全てが繋がる。タルタロスも、アヤカさんの復讐も、金眼事件も、タナトスも、全てが。 マコトはぎっと相手を睨んで言い放った。 「その眼は――ハヤタ・ツカサキから貰ったんだな。」 同時に、どこかだらけた雰囲気すらあった空気が、緊迫したものに変わる。 それでマコトは確信した。 通りで写真の男をどこかで見たことがあったはずだ。 ハヤタ・ツカサキの顔はニュースでもネットでも散々見たことがあったんだから。 「アンタ、あいつとその目を――」 言うがはやいか、タナトスは高熱ナタを振り上げてマコトに迫った。 マコトは不意のタイミングで驚き、思わずライフルを乱射する――信じ難いことが起こった。 放たれたライフルの弾丸がタナトスの高機動型の手元を直撃し、そこに握られていた高熱ナタが 火花を散らしつつ根本からへし折れ、飛んだ刃が近くの地面に突き刺さったのだ。 この出来事にマコトはもちろん、コラージュを含むタルタロス全てが一瞬、驚愕のあまり沈黙した。 そのなかで唯一即時に思考の切り替えができたのはタナトスだけで、彼女は機体の軌道をねじ曲げ、 ライフルを数発撃ちつつ、サッカーグラウンドから飛び去っていく。 「追えぇッ!!」誰かが叫んだ。 マコトは応えて、スラスターを点火。瀑熱と轟音と共に三たび空中へ舞い上がった。 歓声があがる。口だけ男がマイクをつかむ。 「YEAH! なんだ今のは見まちがいかぁ!? いやちげぇ! なんとタナトスの武器をオルフェウスが壊しやがった! 俺もナゲーこと実況やってるが、こんなの見るのは初めてだぜ! 見ろよ、タナトスが後退してる!」 マコトはレーダーを見てタナトスを探す。しかしレーダー上に彼女を発見するよりもはやく銃撃が襲ってきた。 高度を低くし、建物を蹴る。機体を捻りつつ飛び上がって銃撃の方向を見るとそこには何もいない。 代わりに別の死角から銃撃が浴びせられる。HPゲージが順調に削られていく。 マコトはペダルを目一杯に踏みつけ、スラスター出力を全開にした。 障害物の多い都市部は不利だ。もっと見晴らしのいい――そうだ、海の方へ行こう。 『グラウンド・ゼロ』は究極までリアリティを追求しているが、所詮ゲームだ、そのマップ容量には限界がある。 この『東京』ステージの、街を走る電車等まであますとこなく再現したフィールドも埋立地から先は存在せず、 東京湾に飛び出した瞬間に反則負けになってしまう。 しかしその湾に浮かぶ埋立地は、大きな施設が数個あるだけなので、ギミックや建造物、 視覚的な障害に溢れた都市部よりも断然戦いやすい。それに…… ……もしかして、『あそこ』なら…… ひと筋の光を見た気がする。少し遠いが目指す価値はある。 東京タワーから南へ飛ぶマコト。タナトスは後を追ってビルの影からの飛び出してくる。 自分がどこに向かっているのか、さとられるべきじゃない――マコトはそう感じて、 振り返ってタナトスに狙いを定めた。が、また、彼女はすでにそこにいない。 ツカサキの話題を持ち出して、一瞬揺さぶられた心もすでにもう持ち直しているらしい。 ハヤタ・ツカサキは彼女にとってどれほどの人だったのだろう、 そのことを考えると少しだけ胸が苦しくなるような気がしたが、今はそれよりも戦いだ。 機体をときどきロールさせ、少しでもダメージを減らそうとする。 さっきの一撃でタナトスの高熱ナタが使えなくなったのは最上のラッキーパンチだった。 今のタナトスにとって、マコトの重装型の装甲を、唯一一撃で貫ける威力の武器はあのナタだけだったから。 残るライフルは、正面から受ける分にはそこまで脅威ではないが、 それでも連続で受けるのは危険だし、背後から銃撃を浴びせられたらあっという間にお陀仏だ。 おまけに機動力は向こうの方が圧倒的にまさっている。だから油断はできない。 日本電気本社ビルの横を過ぎる。遠目に海が見えてきた。 もう少しで着く――思ったそのとき、衝撃がくる! 「うお!?」 いきなりの振動で思わず操作を誤った。機体は制御を失い、田町駅を越えたところの道路に墜落した。 残りHPがもう半分をきっている。なんでいきなり――すぐにわかった。 機体の右肩メインスラスターが吹き飛んでいた。ライフルで撃ち抜かれて爆発したんだ。 周囲の状況を確認する。背の高いビルに挟まれたこのまっすぐな道路は交通量もあるが、 通る車はマコトが突っ込んできたせいで大規模な衝突・玉突き事故を起こしていて、完全に流れが止まっている。 マコトは立ち上がる。今の一瞬でまたタナトスを見失った。 相手はまた建物の影に入ったのだろう、レーダーにもうつらない。 マコトは地図を一瞥する。海はすぐそこだ。せめて海に出られれば、 タナトスも身を隠したままではいられないはずだが……逆に今のままのほうがマコトにとっては安全かもしれない。 タナトスは明らかに慎重になっている。それは重装型のライフルの威力を警戒しているのと、 さっきツカサキの話題を持ち出したときの精神的な動揺を反省してのことだろうが、 あの『擬似ギフテッド理論』――正直マコトにはギフテッドが何なのかよくわかっていなかったが――がある以上、 タナトスにとって、お互いの姿がよく見える状況はかえって望むところのはずだ。 だが、マコトのビジョンではタナトスに勝つには埋立地に行くしかない。 覚悟を決めるか。 使えなくなった右肩スラスターを切り離し、重さのバランスをとるために思い切って右腕の大剣をも捨てる。 ライフルの残弾はまだ余裕があるので問題はない、どうせハイスピードな高機動型にスローな大剣の攻撃は 当たりゃしないんだ。だったらいっそ捨てたほうが機体も軽くなる。 片腕となったマコト機は周囲を警戒しつつ、またアスファルトを蹴って空を飛んだ。 数秒のうちに、芝浦ポンプ所のある埋立地上空に出る。だけど目的地はもう少し先だ。 真下の東京モノレールの線路を目印にしてさらに南下する。おかしい――タナトスが追ってこない。 そう思った次の瞬間、建物の影からタナトスがいきなり進路を塞ぐように飛び出してきて、マコトは面食らった。 同時にマコトはライフルを構えたが、またタナトスは銃口の先にはおらず、すでにマコトの新たな死角、 右側にまわっていた。 輝くマズルフラッシュ、浴びせられる銃弾。いけない、下は海だ、落ちたら負けだ――! そんなマコトの思いもむなしく、HPはさらに減る。もう残りは3割だ。おまけにスラスターの熱も危険域に達している。 その上タナトスの銃撃。マコトは落ちるしかなかった。 マコトが落下するのを見てタナトスは銃を下げる。それはマコトが海中に没するのを見届けるためだったのかもしれないが、 マコトはその期待を裏切る。 埋立地には何隻かのクルーザーが停泊していた。マコトはその船体上に着地し、巻き上がった海水でめくらましをすると 共にそれを蹴り、陸地に上がったのだ。 よし、一瞬だがスラスターを休ませられた。急がなくては、まだ目的地にたどり着くまでは数秒かかるのだから。 スラスターを全開! 「しっぶってぇーぜオルフェウスッ!! 今のタナトスの奇襲喰らってまだ生き延びていやがる! しかし状況、依然不利! 否俄然不利!? バトルはウサギ狩りの様相を呈してきた!」 実況はあいかわらずの調子だ。 マコトはそれをうるさく感じた。こっちはタナトスのアクションの僅かなヒントも逃さないよう、 感覚器官に全神経を集中させているんだ、邪魔するな! そうしているうちに建物を蹴り、次の埋立地に飛ぶ。そこには背の高いビルが集中して建っていて、 マコトはそれを盾にしつつ足で蹴りながら、単純に二倍の負荷がかかっているスラスター を休ませつつ、それらの合間を縫うように飛んでいった。 エリアオーバーが近いことを示す警告表示が画面の真ん中に出る。だがもう目的地は目の前だ。 マコトは最後に一瞬だけ最高速を出し、埋立地の間の海を飛び越える。 辿り着いた先は最後の埋立地だった。広い道路と広い駐車場、コンテナが山積みになっている船の荷卸場に、 大きな工場。ここから先の海は作戦エリア外で、一歩でも飛び出したら反則負けになる。 マコトは一番近いセメント工場のタンクの上に着地した。レーダーを確認する。 タナトスは海の上を飛んで、マコトを追ってきていた。ライフルを向ける。 タナトスはわずかに軌道を変えつつこちらをなおも追ってくる。マコトは跳んだ。 それから近くにある、埋立地を南北に貫いて、東の荷卸場と西の工業地帯を分断している広く長い直線道路の交差点に 立ち止まり、やってくるタナトスを待ち構えた。 まもなく工場の屋根の上に姿を現したタナトスはマコトに向かって言った。 「もう鬼ごっこも終わり?」 言われたマコトは不敵に笑って―― 「なぜここまでお前を誘い込んだかわかるか?」 わざとらしく小首をかしげるタナトス。 「ううん」 「ここはエリアオーバーギリギリで、エリア外にツッコむ様に長く広い直線道路がある、唯一の場所だ、 そんなとこでやることといえば、ひとつだろ?」 「……チキンレース。」 「話が早いぜ。」 「いいだろう、やってやる」 予想外の展開に観客たちがまたにわかに興奮しはじめる。 「俺が右、あんたは左だ。海に向かって道路を南下して、相手より速く、 よりエリアオーバーに近いところで止まった方の勝ち。」 「いいだろう、しかしいいのか?」 「なにが」 「機体のスペック的に君の勝利は厳しいぞ」 「ああそうだ。だから誓え」 「なにを」 「正々堂々戦うことを」 「いいだろう、誓おう、この勝負に負けたら潔く負けることを。だから君も誓いたまえ」 「俺の誓いはこれだ。」 マコトはそう言って左腕に握られたライフルを地面に放った。これでマコト機に武装は無くなり、 もし攻撃されても逃げることしかできない。 「なるほど、了解した。」 「こりゃあまたまた予想外の展開だ! 圧倒的不利のオルフェウスが苦肉の策で持ち出したのは、エリア外へのチキンレース! タナトスが立場上挑戦を断れないことをふんで打ったであろう奇策だが、 単純な勝負よりかはいくらか望みがありそうだ! しかし機体のスペック的にはそれでも勝ち目は薄め!」 実はそうでもないんだけどな、とマコトは思う。右腕は肩から無くなっているし、 まだまだ切り捨てられるパーツはあるので、しようと思えばさらに機体を軽量化できるのだから。 「審判とスターターは俺がやってやるぜ!」 口だけ男はそう叫んだ。 マコトとタナトスは南を向いて横並びになる。 間髪入れず、口だけ男が号令を発する。 「Get ready? .........GO to HELL!!」 2機はスタートした!
https://w.atwiki.jp/skate360ps3/pages/16.html
PRO CHALLENGE 参考動画: [EA skate.] プロ・チャレンジまとめ [PS3 xbox360] http //www.nicovideo.jp/watch/sm2850608 Bomb the Bank(大きいランプで400点以上) Cole Gap to Grind/コールのグラインド (ブロックに乗る→ギャップを飛び越える→階段左手摺にグラインド) 車に轢かれない様に道を渡って、最初の段差はスピードを殺さないように下りる。 スピードと方向とオーリー位置が合ってれば、点数の縛りは無いので、とにかくレールの上に下りれれば成功。 TK s Rail Challenge/TK・レールチャレンジ (階段のレールをグラインド 600点以上) スピードのせすぎるとレールから下りる時にトリックを決めるのが難しいのでゆっくりやった方がいい。 乗る時はノーリーからのトリックで入った方が多少は楽かも。 Carroll s Challenge/キャロル・チャレンジ (3つの縁石でグラインド Lineスコア600点以上) フリップ→グラインド→フリップを3回やれば普通にクリア。 Line600以上(連続トリックでカウントされるトータル)はスピンやグラブを織り交ぜれば割と楽。 Hsu s Eduskate/スーの教え (本のオブジェを使って500点以上) 本のオブジェにただ乗っても500以上は難しい。 縁の部分を使ってフリップ→グラインド→フリップで楽勝。 Haslam Bump to Bar/ハスラムランプからバーへ (段差からフリップ→レールにグラインド→フリップ 550点以上) スピンは使わず早めのオーリーでレールに着地して、そのまま滑り降りずにレールの上で1度フリップ→さらにグラインドとする感じでいくと確実。 P-Rod Tech to Hubba/P・ロッドのハバ (階段上踊り場からNOLLIE 360 FLIP→グラインド) NOLLIE 360 FLIP を「FS(BS) NOLLIE 360」や「NOLLIE to FRONT(BACK)FLIP 360」などと勘違いしがちだが、NOLLIE 360 FLIPとは「NOLLIE 360 FLIP」という一つのFlipのこと(→トリック解説&操作)。縦回転/横回転は必要ありません。 NOLLIE 360 FLIPはNOLLIE VARIAL FLIPなどに化けやすく難しい技なので、要練習。 参考動画:http //jp.youtube.com/watch?v=062zrSyzF3A GALLANT STEP UP/ギャラント・ステップアップ (トレーラーの下をくぐる→段差の上に乗る 300点以上) トレーラーの下を潜ってその先の段差にトリックを決めながら飛び乗る。身をかがめるには、オーリーの体勢をとるかボードを手で掴むべし。 普通にやって点数が足りないようなら、ちょっと手前から踏み切って段差のエッジにグラインドすれば楽。 Smith Securigrind/スミス・セキュリティ (ガードマンに追われる→レールにグラインドして逃げる) ビルの入り口の No skate zone に上ってガードマンに発見されてから、階段のレールをグラインドして逃げればOK。 McKay s Grind n Flip/グラインド&フリップ (隅の坂を通過する→グラインド→フリップ 800点以上) 坂の上に上ってマーカーを設置し、そこから始めると楽 参考動画: EA skate. プロチャレンジ(グラインド&フリップ) http //www.nicovideo.jp/watch/sm2833289 Rattray Over the Board/飛び込み台を超えろ (プールの飛び込み台を超える) プール内でハーフパイプみたいにスピードあげて、飛び込み台をプールから出ないようにして超える プ飛プ ↑ ↓ プ=プール、飛=飛び込み台 こんな感じで、プールから飛び出して飛び込み台を超えてプールに戻る どうしても出来なければ、プールの外から加速して飛び越えてもクリアできる その場合、あらかじめ上級フリップで3倍にしておくか、飛んだ後縁でグラインドしないと規定点には届きづらい Chalmers Transfer/神ジャンプ (窓を通過し、反対側の坂へ着地 600点以上) 坂でジャンプし、窓を超えて反対の坂へ着地する。 行き過ぎて平地に着地すると失敗。 外からやるより、中からやったほうが簡単かも。 参考動画:http //jp.youtube.com/watch?v=kQpxY6FdUsk Technical Benchmark/「ベンチ」マーク (ベンチの上でFS5-0→FS TAIL) ベンチの方を向いて(レギュラーならSwitchになる)10度くらいの浅い角度でゆっくりと進入。 オーリーしてベンチの角でFS5-0 FS5-0になったら右スティックをじわっと 下から左に動かして左で止めて踏ん張るとボードがスライドしてFS TAILになる。 参考動画: PJ Ladd pro challenge http //jp.youtube.com/watch?v=Vp5aqgpi_X0 Rob and Big/ロブ&ビッグ (ベンチのエッジを使って360 FLIP→FS CROOKED) 最難関との呼び声高いチャレンジ。 なぜかベンチの周りをぐるぐる歩くBIG BLACKが邪魔なので、ベンチ前後にある三角の坂道にセッションマーカーを置いておくといい。BBのいないタイミングでスタートできる。スタンスに注意し、エッジに対してフロントサイドを向けておくのを忘れずに。 スピードが付きすぎると少し難しいかもしれない。坂道の途中にマーカーを置けば、ゆるやかに速度が付いて一石二鳥。 トリック解説&操作を参考に、360 FLIPがほぼ確実に出せるまで特訓。Flickitは慣れてくれば自在に操れるようになるので、街中を走りながらでも、楽しみながら感覚を捉えていこう。 一番の難関は、FS CROOKED。何度かOllie to FS CROOKEDを試して、どういった条件でFS CROOKEDが発動するか覚えよう。また、レギュラースタンスならベンチ側、グーフィーなら外側へ右スティックを傾けることになる(たぶん)。 書いてる俺自身も"なんとなく"でできてしまったのであまりアドバイスができないが(これきっとみんなそうだよね!)、いくつかポイントを挙げておく。 ベンチへの進入角は、エッジに対しほぼ平行。ナナメに入るとFS LIPやFS BOARDなどになりやすい。 ベンチとの距離が大切。デッキの頭をちょこんと乗せる技なので、近すぎるとFS BOARDやNOSEGRINDなどになってしまう。 右スティックの角度が非常に繊細。横へ深く入れすぎればBOARD、あまりに上すぎると50-50やNOSEGRINDになってしまう。30°でもまだ深いと感じた。 Glindのコントロールはやはり非常に難しい。運だと感じるかも知れない。でも、根気よくやればきっと大丈夫。突破して、X GAMES参戦を目指そう! Rob and Big 特集 ★基本 Big Black(以下、BB)は避ける。 左スティックはいじらない。 回転はしない。 スピードはそんな必要ない。 位置をマーカーで付けて何度もチャレンジする。 曲がらず一直線で滑ってOK。 一回足漕ぎ出来るくらいの近めの距離でチャレンジ。 ジャンプするタイミングはイメージ的にはジャンプしたあとに ベンチの角にボードのつま先が乗るぐらいがベスト。 左40°くらいから入るのがオススメ。ちなみに私はグーフィーです。 飛ぶ前に、突っ立った状態で"360 Flip"で感覚をつかむ。 BBが来そうになって、進んじゃったらジャンプせずに巻き戻し(LB+↓)てタイミングをずらす。 ★コツ 右スティックは親指の間接に当ててコントロールすると"360 Flip"が出しやすいと思う。(人による) Grindまでいくにはある程度高いジャンプが必要になる。 しかし、速い入力だと低いジャンプになる。 だから、Grindまで行く確率を高めるには、溜めのジャンプをする必要がある。 → "360 Flip"の高いジャンプは入力が難しくなっている 簡単にやるには、(グーフィーの場合は)→から↓へゆっくりと しゃがみ始めるポイントを見つけてそこから一気に左上へもっていき 高めの"360 Flip"を狙う。 Grind後、"FSCrooked"になったらすかさず"FSCrooked"の 方向を入力(グーフィーは右上)コケる前に速めに切り上げる。 Rob and Big ちょっとズルいかもな攻略法 まずベンチの上に乗り、マーカーをベンチ上にセット。 助走は一切つけず、ベンチ上から360Filp to Grind あとはじっくり360FlipからFSCrookedに移行できる角度を探すべし。 10分くらいやってたらできました。 参考動画: EA skate. プロチャレンジ(ロブ&ビッグ) http //www.nicovideo.jp/watch/sm2845503