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クリフトのアリーナへの想いはPart5 89 :【姫さまの手作りケーキ】 ◆cbox66Yxk6 :2006/04/27(木) 12 22 57 ID By/mwePC0 今年もこの日がやってきた。 クリフトは神官衣の襟を正すと、鏡の中の自分に向けて叱咤する。 「大丈夫だ、クリフト。あの辛い旅でさえ切り抜けてきたおまえじゃないか。大丈夫。おまえは十分強い。大丈夫・・・」 なにやら面妖なことを呟き続ける不審神官だったが、これは致し方ないことだったのかもしれない。 今日は、クリフトの誕生日。そしてそれはアリーナの手作りケーキが届く日。 毎年毎年、クリフトはこの日を複雑な思いで迎えていた。誕生日ということもあってか、この日ばかりは王もブライも、アリーナがクリフトとふたりっきりで過ごすことを黙認してくれている節がある。それは正直嬉しい。邪魔が入らず、愛しい者と過ごせる時間はとても貴重だから。 ただ、同時に試練の日でもある。それはアリーナの手作りケーキ。過去これを食べて無事でいられたためしがない。大抵はそのあまりのまずさに「失神」してしまうのだ。 それをアリーナは喜びのあまり気を失った、もしくは疲れのたまっているクリフトが眠ってしまったと思っているようだが、断じてそれはない。 あの気の遠くなるような味、否、実際に気が遠くなるのだが、どうしたらあのような味になるのか。世界最大の謎とされてきた「進化の秘法」が明らかとなった今でさえクリフトの前に立ちはだかる大いなる謎である。 だが・・・。 「今年こそは・・・今年こそは耐え抜いてみせる!」 そして今年こそは姫様と・・・。 (らぶらぶな時間を過ごしてみせる!!) 神官にあるまじき煩悩といえるかもしれないが、若い男としてこの願望は普通だったのかもしれない。 クリフトが鼻息荒く気合を入れなおしていると、部屋の扉が小さく鳴っていまだエプロン姿のアリーナが姿をみせた。手には少し形の崩れたお手製ケーキ。 クリフトは湧き上がる恐怖心を無理矢理煩悩で押し込め、笑顔で出迎える。 「ようこそおいでくださいました」 クリフトの運命や如何に!! 90 :【姫さまの手作りケーキ】 ◆cbox66Yxk6 :2006/04/27(木) 12 24 39 ID By/mwePC0 (バージョン・1) 「おいしゅうございました」 さりげなく紅茶でケーキの塊を流し込んだクリフトが、青ざめた顔で笑う。胃が悲鳴をあげ、背筋をいやな汗が伝うのを自覚していたが、食べてしまったものは仕方がない。あとは運を天に任せるのみだ。食前に飲んだパデキアの効力に期待しつつ、クリフトは早急に事を推し進めようとする。 「姫様・・・」 真摯な顔を作り、アリーナの手を取る。いざらぶらぶタイムへと意気込んだ矢先、世界が反転するようなめまいが襲ってきた。 思わずよろけたクリフトは弾みでアリーナを押し倒してしまう。 「え、ちょっと、クリフトったら」 展開早すぎ!! 焦るアリーナだったが、クリフトの身体が不自然に弛緩するのを感じ、恐る恐る目を開けた。 と、そこには綺麗な青い瞳を伏せたクリフトの顔。 「やだぁ、また寝ちゃったの?」 毎年毎年、仕方のない人ね。 不満半分といった表情で呟いたアリーナだったが、ごそごそとクリフトの身体の下から這い出すと、人形のように端正なクリフトの顔をじっと眺めた。 「でも、あなたの寝顔を見るのも悪くないわ」 好きよ、クリフト。 アリーナは顔をそっと近づけると、己の唇をクリフトのそれに重ね合わせた。 91 :【姫さまの手作りケーキ】 ◆cbox66Yxk6 :2006/04/27(木) 12 25 23 ID By/mwePC0 (バージョン・2) ややいびつなケーキを切り分け、意を決して口に運んだ瞬間、クリフトは目を瞠った。 「おいしい・・・」 それはまさに奇跡。アリーナのケーキはいままで食べたどんなケーキよりおいしかった。 クリフトが思わず呟いた賛辞にアリーナは、少し照れたように笑った。 「実はね、今日は料理長にアドバイスしてもらいながら作ったの」 いつも焦がしちゃってたから。 いままでの作品の数々を思い出したのか、アリーナが少し遠い目をした。そして目の前のケーキに視線を戻す。 「相変わらず、形は変だけどね」 来年はもっと上手に作るから。 はにかむアリーナにクリフトの胸が高鳴った。 「姫様」 思わずアリーナの手を握り、距離を詰める。 いつもと違うクリフトの様子に戸惑ったアリーナだったが、真摯な瞳にまっすぐに応える。 「姫様・・・私は幸せ者です」 僅かに瞳を潤ませながら呟くクリフトに、「いやね、大げさよ」と笑ったアリーナだったが、クリフトの胸に頭をもたれさせると緋色の瞳を伏せた。 「料理長が教えてくれたの。ケーキにいろいろなものを入れる必要はありません、て」 必要なのは、相手に対する愛情だけでいい、と。 「だからね、あのケーキ」 私の愛情純度100%よ。 囁かれた言葉に、クリフトは嬉しさのあまり気が遠くなった。
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クリフトのアリーナの想いはPart12.5 614 1 名前 悲しみをにんじんに込めて 1 Mail sage 投稿日 2012/12/30(日) 04 35 35.48 ID 8UEu6zPa0 サントハイムではにんじんが大豊作。 育てやすい品種が開発され、農家が一斉に植えたせいで、にんじんが供給過剰になっていた。 どうにかにんじんを消費しようと、国を挙げてにんじん料理コンテストを開催中。 サントハイム城の教会を訪れたソロは、クリフトと部屋でティータイム。 「悪いな、デザートまで作らせてさ。」 「いえ、有り合わせで作っただけですので。」 にんじんの素揚げに塩を振り、融かしたチョコとバニラアイスを絡めたデザート。 「にんじんだけでも甘いんだな…砂糖でも加えたのか?」 「いえ、素揚げにすると甘みが増すんですよ。」 「へぇ、さすが、にんじんの魅力を引き出してるな!」 ソロのはじけるような笑顔に、クリフトの顔が曇った。 「今回はこのデザートで応募するのか?」 「ソロさん…勘弁してください…応募なんてしませんよ。」 うんざりした様子のクリフトに、上機嫌のソロが続ける。 「にんじんと言えばアリーナの色だろ。みんな期待してるぜ?」 クリフトは、深いため息をついた。 「きゅうりクッキーの件で、周囲の視線がおかしくなっているんです。 姫様ご自身も、よそよそしくなられて…」 頭を抱えるクリフト。 「気のせいじゃないのか?」 「町を歩いていると見知らぬ人から、がんばれとか声をかけられますし。 兵士や侍女は、姫様と私が近づくと寄って来ますし。」 「寄って来る?」 「ふたりっきりにさせないよう、命令を受けているのでしょうね。 教会の入り口にも兵士さんがいたでしょう? 私、一人で出歩けないんですよ。」 「そりゃ、ほとんど軟禁だな」 「ええ、そうですね。」 クリフトは、疲れたような乾いた笑みを見せた。 「そっか…大変なんだな…」 ソロはクリフトの境遇を聞いて、心が痛んだ。 「万が一、私が姫様のお心を惑わせたら、国益を損ねますからね… 私ごときが姫様のお心を惑わせることなど、ないと思いますが。」 「……」 紅茶を飲みながら、ソロはクリフトの表情を見ていた。 クリフトは、本当にアリーナの気持ちに気づいていないらしい。 いや、脈がないと自分に言い聞かせてるんだろうな… 教会を後にしたソロは、泣きそうな気持ちになっていた。 クリフトの恋を応援してやりたい。 でも、それはクリフトを追いつめるだけなのかも知れない。 現実的に考えたら、叶うわけのない恋でしかないから。 クリフトの悲しげな表情が、まぶたを離れない。 俺、親切のつもりで、すごく残酷なことをしてるんだろうな… クリフトにもアリーナにも幸せになって欲しいのに。 「シンシア……お前なら、どうする?」 問いかけた空は、どこまでも澄みきっていた。 暫く後。 「はあ…」 アリーナのため息に、ブライもため息をつく。 「少しは元気をお出しくだされ。」 「私は元気よ…」 クリフトに会いづらくなって、アリーナはぼーっとすることが増えていた。 理由を察しているブライには、どうすることもできなかった。 「今日のお茶請けは、にんじんのアイスですぞ」 「へえ、そう…」 上の空のアリーナの前に、ブライはデザートのお皿を置いた。 アリーナの耳に届いているかはともかく、ブライはデザートの説明を始める。 「にんじんのアイスをミルクアイスと層にして、ハチミツのソースをかけたものです。 にんじんの素揚げを添えておりますので、お好みでアイスを付けてお召し上がりください。 にんじん料理コンテストの入賞作品ですじゃ。」 「やっぱり今日もにんじんかー」 「仕方がないですな。」 スプーンを手に取ったアリーナが、ふとつぶやいた。 「料理コンテストかぁ…」 「……」 ブライが黙っていると、アリーナはアイスを口にした。 「…優しい味ね。」 「マーマレードを加えておるそうですな。」 「ふーん…」 「クリフトに会いたいな…」 「急にどうされましたかな?」 アリーナのつぶやきに、ブライはそっと問いかけた。 クリフトに会いづらくなってから、アリーナは会いたいと言わなかった。 ずっと我慢してきたことを、ブライはよく分かっていた。 だから、会いたいと呟いたアリーナを、ブライは心配した。 「クリフトは遠くに転勤になるみたいね。 最近はソロと一緒に他の国に出かけての仕事が多いみたいだし。」 「確かにソロ殿との出張が多いようですな。 転勤の話もあるようですが、何も分かりませぬわ。」 「そう…」 表情を見せないアリーナに、ブライはさらに心配になった。 「このデザート、応募したのって、クリフトじゃない?」 「…そうですが、何故そう思われたのですかな?」 「うーん、なんとなくねー」 ぼーっと窓の外を見るアリーナを見ながら、ブライは深いため息をついた。 「ソロ!」 サントハイム城の教会から出てきたソロを呼び止めたのは、アリーナだった。 「よう、アリーナ、元気か?」 「元気に見える?」 暫く会わないうちに覇気がなくなっていたアリーナに、ソロは戸惑った。 「うーん、なんか落ち込んでるみたいだな。」 「ちょっと話を聞いて欲しいんだけど…」 「いいぜ、俺で良ければ。」 広い中庭に2人きり。 少しの沈黙の時間も、ソロには重苦しく感じられる。 アリーナが口を開いた。 「最近、クリフトと全然会えないのよ…」 「そうらしいな。」 「あのね、クリフトと会えなくなって気づいたの。 私、クリフトに恋してるんだって。」 「へ、へぇ…」 ソロは驚いていた。 恋愛関係に鈍いアリーナが、自分の恋愛感情に気づくなんて。 「でも分かってるよ。 どれだけ好きでも、結ばれることは許されないの。 いつか私は国のために、知らないどこかの王子と結婚しなきゃいけない。 クリフトも、いつか他の誰かと結ばれるんだろうなって。」 「…クリフトは聖職者だから、結婚しないかも知れないけどな。」 話が重くなって、ソロの気も重くなってきた。 「クリフトがコンテストに応募したにんじんのデザート、見た?」 「ああ、また入賞してたな。」 「にんじんを、緑じゃなくて白と合わせてたよね。」 「…そうだな。」 アリーナは黙り込んだ。 その様子から、ソロはクリフトのメッセージが伝わっていることを知った。 「諦めなきゃと思ってるけど、難しいの。 私、クリフトのこと、相当好きになってるんだもの。 他の女の人と一緒にいることを想像するだけで、泣けてきちゃうの。 その場に出くわしたら私、殴りかかっちゃうかも。」 「怖ぇー」 話が重すぎて、ソロは気の利いた言葉を返せない。 「だいたい、クリフトに見合う女の人なんて、いるわけないじゃない。」 「ああ、そうかもな。」 「私、クリフトが出かけるとき、よく窓から見てるの。 ちょっと前は元気なかったけど、最近はソロと一緒で楽しそうで、安心してる。 クリフトを元気づけてくれて、ありがとね。」 不意にお礼を言われ、ソロは照れてしまった。 「そんなんじゃねーよ…」 ソロの顔が赤くなる。 こんなところをクリフトに見られたら、ザキられるかもな… 「これからもずっと、私の分までクリフトを笑顔にしてあげてね。」 アリーナが見せた精一杯の笑顔に、ソロの胸が締め付けられる。 必死でクリフトのことを諦めようと、心の整理をつけようとしてるんだな… 「おう、クリフトのことは任せとけ。」 泣きそうな気持ちのまま、ソロは精一杯の笑顔を返した。 「ソロには感謝してるの。 私、ソロなら仕方ないって、諦めがつきそうなんだ。」 ソロには、その言葉の意味が分からなかった。 「ソロだったらクリフトに見合う相手だもの。 それに、女の人に取られるくらいなら、男の人の方が諦めがつくわ。」 「へっ?」 話についていけていないソロをよそに、アリーナは言葉を続ける。 「さっきの約束、忘れないでね。 これからもずっと、私の分までクリフトを笑顔にしてあげてね。 ずっと一緒にいて、幸せにしてあげてね。」 「おい…」 焦ったソロがアリーナの顔を見ると、アリーナは泣きそうだった。 ソロは、それ以上の言葉を続けられなかった。 「ありがとう、ソロのおかげで吹っ切れそうだよ。 私のためにも、クリフトと幸せになってね!」 一方的に言葉を残し、アリーナは猛ダッシュで走り去っていった。 ソロは後を追うこともできず、その場で固まっていた。 「シンシア……お前なら、どうする?」 問いかけた空は、どこまでも澄みきっていた。
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クリフトのアリーナへの想いはPart6 917 :828ペギー ◆XJ3Ut0uuQQ :2007/02/10(土) 12 01 21 ID x91RMrEZ0 ここは、モンバーバラの劇場。 パノンをスタンシアラ王のところに連れて行きたいと頼む一行に、座長は、ある条件を出した。 その条件とは。 勇者一行のうち、地元であるマーニャ・ミネア以外の誰かが、劇場で拍手喝采を浴びたら、パノンを連れて行っても良い、というのだ。 「しかし、あのおやっさんの考えてることは分かんないよなぁ。 素人の俺らに芸をさせて、どうしようってんだ?」 楽屋で首をかしげる勇者に、マーニャはひらひらと手を振った。 「いつものことよ。新しい才能の発掘が座長の道楽なのよ。」 そして、にんまりと楽しそうに皆を見回した。 「…で?誰が芸をやるわけ?」 「はいはいはーーい!」 アリーナが元気良く手を上げた。 「私が、大岩を空手で割ってみせると良いと思う~!!」 「お、それいいな!」 身を乗り出す勇者に、クリフトが慌てて叫ぶ。 「だめです!姫様にこのようなみだらなところで芸をさせるなど!」 「ちょっと!今の言葉は聞き捨てならないわね。」 目を三角にしたマーニャに、トルネコがおずおずと声をかけた。 「マーニャさん、私に駄洒落ショーをさせていただけませんか?」 「…は?」 「私の駄洒落、スタンシアラ王には通じませんでしたが、ここならばっ!」 「…。」 無言のマーニャに代わってクリフトが答えた。 「いいですね。トルネコさんの駄洒落は面白いですから、きっと受けますよ。」 「…面白がってたのはお前だけだ、クリフト。」 勇者が小さい声でつぶやいた。 案の条、トルネコの駄洒落は全く受けなかった。 「皆さん、私のお腹のことばっかり言って、聞いてくれやしない…。 ねえ、私って、みんなが言うほど太って見えますかね。」 うなだれて戻ってきたトルネコの肩を、ブライがぽんぽんと叩いた。 「気にされるなトルネコ殿。かくなる上は、わしが高等魔法で客をあっと言わせてみせようぞ!」 「…どうしてこう、オヤジ連中ばかりが出たがるのかしら…。」 胸を張ったブライに、マーニャはひそかにため息をついた。 ブライは運が悪かった。 最前列に酔っ払いの集団がいて、舞台に出たブライにブーイングの嵐をかませたのだ。 「かえれ!かえれ!」「ブーブー!」 「…っこの、無礼者!」 ブライの杖の先から氷の柱がほとばしった。 「何考えてるのよ、じーさん!ヒャドでお客さんなぎ倒すなんて、この劇場が閉鎖になっちゃったらどうすんのよ!」 怒り心頭、といった感じのマーニャだったが、ブライは全く聞いていなかった。 「このブライ、こんなはずかしめを受けたのは、初めてですぞ!」 「ちょっと、人の話しを聞きなさいよー!!」 「姉さん落ち着いて!ここでドラゴラムはだめよ!!」 うなだれるトルネコ、怒りに体を震わすブライを遠くから見守る若者3人組。 「ねえ、クリフト、やっぱり私が大岩割を・・・。」 「だよなあ、アリーナ。」 「だめですったら、だめです!」 そこへ、先ほどから部屋の隅で静かに座っていたライアンが声をかけた。 「どうだろう、クリフト殿。我々2人で剣舞を踊るというのは。」 「けんまい…?何それ?」 はてなマークを顔に貼り付けた勇者に、クリフトが説明した。 「剣を使って行なう舞のことですよ。『けんぶ』とも言います。 …そうですね…私の剣舞は、本来、神に捧げるものですが…。」 クリフトは、顎に手をあてて考えんでいたが、ややするとライアンに向き直った。 「…神学的な解釈の部分を除けば、こちらで踊っても許されるかと思います。」 よし、とライアンが、腰を上げながら言った。 「拙者の方は、宮廷の典礼用のものだが、何、基本は変わらん。 拙者とクリフト殿なら、ぶっつけ本番でも大丈夫だろう。」 ライアンとクリフトは、多少の打ち合わせを行なったのみで、舞台に上がった。 筋骨隆々の堂々たる戦士と、すらりと端正な神官の取り合わせに観客は沸いた。 「おお!新顔だー!」「なんかやれー!」「とりあえず脱いどけ!」 盛り上がる観客の声援とやじに、ライアンは顔をしかめた。 「男に向かって脱げとは、今日の客は趣味が悪すぎる。」 「仕方ありません、はじめましょう、ライアンさん。」 2人は剣を抜くと、切っ先を合わせた。 演技が始まると、観客は、2人の息のあった舞に釘付けになった。 ライアンは猛々しく直線的な動きで、迫力のある太刀筋を残し、クリフトの優美で繊細な剣の動きが、柔らかくそれに絡む。 「わー、クリフト達、かっこいいね!ソロ!」 舞台裾でこれを見ていたアリーナは、隣の勇者に囁いた。 勇者は目を輝かせて2人の演技に見入っていたが、次第にそわそわし始め、とうとう、「俺もやりたーーい!」と、剣をひっつかむと舞台に飛び出した。 クリフトは、いきなり飛び出てきた勇者に、ぎょっと目を見張った。 一瞬注意が逸れたところに、ライアンの剣が斜め上から舞い降りてきた。 クリフトは、はっと体をそらせたが、間に合わない。 ライアンの剣の切っ先が、神官服を斜めに切り裂いた。 ざすっ。 アリーナの悲鳴が上がった。 ライアンは、剣を振り下ろした格好のまま、固まっていた。 クリフトも、体をのけぞらせた姿勢のまま、動かない。 勇者は、蒼白な顔で凍りついたように棒立ちになっていた。 観客席は静まり返り、咳一つ聞こえてこない。 そのとき。 ばさ。 クリフトの肩から神官服が滑り落ちた。 クリフトは、ぎりぎりのところでライアンの刀をかわしていた。 並みの人間であれば、完全に袈裟切りになっていたところだ。 しかし、体さえ傷つかなかったものの、ライアンの鋭い剣先は、クリフトの服を右肩から左裾にかけて、アンダーシャツに届くまで、ざっくりと切り破っていた。 神官服は重い。 切られた神官服は、その重みに耐えかね、アンダーシャツもろともクリフトの体を滑り落ち、クリフトは、片肌脱ぎの状態になった。 「!!!!」 観客席はどよめいた。 「なななっ!」 クリフトはパニックになって服をかき集めようとしたが、そのとき、アリーナの心配そうな声が耳に入った。 「クリフト、大丈夫!?」 振り向くと、アリーナが今にも舞台裾から飛び出しそうにしている。 それを見て、クリフトの頭は一瞬にして冷えた。 このまま、クリフト達が演技途中で引っ込めば、一行の目ぼしい演し物は、あとはアリーナの大岩割くらいしか残っていない。 クリフトは、ぐっと歯を食いしばると、ライアンに言った。 「ライアンさん、このまま続けましょう!」 …勇者はこっそり舞台裏に消えていた。 「…なーんか、客が前よりエキサイトしてない?」 再開した演技を、客席の後方で見ていたマーニャがミネアに尋ねた。 「そりゃあやっぱり、ストイックな神官服からのチラ見せっていうのは万人共通のそそるコンセプトですもの♪」 クリフトさんお肌も綺麗だし、と嬉しそうに言うミネアに 「…ミネア、あんたって一体…。」 マーニャは呆れた視線を向けたのだった。 2人の演技が終わった後は、拍手喝采、アンコールの嵐が鳴り止まなかった。 座長は2人を絶賛し、クリフトとライアンに対し、旅が終わったら是非戻ってきて劇団に参加して欲しいと言ったが、 毛布を体に巻きつけたクリフトは、涙目で答えた。 「二度とゴメンですっ。私は人前で踊ったり脱いだりするのはイヤですよ。」 この後しばらくは、勇者はクリフトに口を聞いてもらえなかったらしい。
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クリフトとアリーナの想いはPart7 39 :トルネコさんと1/5 ◆XJ3Ut0uuQQ :2007/03/07(水) 11 56 57 ID JBc0rd1S0 クリフトは、トルネコと2人、星空の下、無言でレイクナバの街を歩いていた。 古い友人と共に教会に行く、と言うトルネコに付き合ったクリフトだったが、その古い友人の息子が、教会のシスターと結婚していることを知り、驚愕した。 神に仕える身でありながらこの人を愛してしまったと、しかし、幸せそうに夫を見つめて微笑むシスターの姿は、いつまでもクリフトの脳裏を離れなかった。 沈黙をやぶって、トルネコがクリフトに話しかけた。 「クリフトさんは…結婚なさらないのですか?」 トルネコも、先ほどの夫婦のことを考えていたらしい。 「私は、神に仕える身で…。」 クリフトは、その種の質問に対し、いつも用いている常套句を口にしかけて、今回に限ってはそれが通用しないことに気づいた。 トルネコは、顔をしかめたクリフトにくすくす笑った。 「そうそう、だめですよ、クリフトさん。今回はいつもの決まり文句では逃げられませんよ。 たった今、神に仕えながら素晴らしい家庭を築いている人にお会いしてきたばかりですからね。」 「…私は、不器用ですから…。信仰と家庭の両立などできません…。」 クリフトはトルネコから顔をそらすと、苦しげに言った。 トルネコは、笑い顔を引っ込めた。 再び2人の間に沈黙が落ちる。 夜のレイクナバには人影もなく、石畳に、2人の足音だけが響いた。 トルネコは、しばらく無言で歩いていたが、やがてポツリと呟いた。 「…家庭を持つと言うことは、いいものですよ。」 さっきの話を蒸し返すつもりか。 クリフトは、逆にトルネコに質問することで攻撃をかわすことにした。 「だったら、トルネコさんは、なぜご家族を置いて旅に出ていらっしゃるのですか。」 実際のところ、以前から不思議だった。 エンドールの大商人であるトルネコが、どうしてこんな危険な旅に出たのか。 街にいれば、愛する妻と子と、何不自由なく豊かな生活が送れるというのに。 「そうですね、もし、私とネネだけだったら、旅に出てなかったかもしれません。 でも、ポポロが生まれたから…だから、私は旅に出たんです。」 クリフトは不思議そうな顔をした。 逆ではないのか。家族が増えれば、逆に家を離れられなくなるのが普通だろう。 トルネコは、満天の星空を仰ぐように上を向いた。 「私はね、ポポロに、平和な世の中を残してやりたいと思ったんですよ。 そのために、勇者さんたちと一緒に旅をすることにしたんです。」 「…でも、それだったら、他の方法だって…。何も、こんな危険な旅をしなくても。」 「おや、私はこのパーティでは、お役に立ってませんか?」 「いえ、そんなことは…。」 確かに、トルネコは戦闘能力こそ低いものの、その宝を探す能力、武器の目利き、行く先々の街での人脈など、今の一行にはなくてはならない人物であった。 「私は、世界を良くするために、自分を一番効率的に使える方法を選んだだけなんですよ。」 効率は大事ですよ、と商人の顔でトルネコは笑った。 「子供のために、親は、世界をより平和に、住みやすいようにしようと自分の持てる力を尽くす。 そうやって世界は少しずつ良い方向に変わっていくと思うんです。」 そう言って、トルネコは、クリフトを正面から見据えた。 トルネコは、もう笑っていなかった。 「クリフトさん。確かに、神様にお仕えすることも、大事なお仕事です。 でも、自分の子供に平和な世界を残してやるという喜びは、親にしか経験できません。 私は、クリフトさんにも、その喜びを経験して欲しいんです。」 クリフトは、トルネコの真剣さに気圧されたように顎を引いた。 「どうして、私に…?」 「クリフトさんだけじゃない、ソロさんもアリーナさんも、マーニャさん、ミネアさん…、お若い皆さんには、全員、幸せになってほしいんです。 傷ついて、戦って、その先には、あなたたち皆に、幸せな生活が待っていると信じたいんです。」 「トルネコさん…。」 「私の夢は、クリフトさん、あなた達が、いつかは愛する人と結婚して幸せな家庭を作る、 そんな平和な世界が来ることなんです。」 「…トルネコさんの夢……いつかは、私も、愛する人と…。」 クリフトは、トルネコの言葉をつぶやくように繰り返していたが、やがて、静かに首を振った。 「トルネコさん、ありがとうございます。」 「…。」 「でも、私は…。 …トルネコさんは、私の気持ちをご存じだから、こんなことを言われるのでしょう?」 トルネコは驚いたようにクリフトを見た。 クリフトが自分の想いを他人にあからさまにすることは今までなかったことだ。 クリフトの表情は、星明りの下、どこか儚げに見えた。 「確かに、私は、姫様をお慕いしております。」 トルネコは、言葉もなくうなずいた。 「でも、だからと言って、私は自分が姫様と結ばれたいとは思っておりません。」 何か言いたそうに口を開けたトルネコを、クリフトはさえぎった。 「いや、それは、私も弱き人間ですから、そうなったらどんなにか…と夢見ることはあります。 しかし、姫様には、誰もが祝福するふさわしい相手と、幸せな結婚をしていただきたいのです。」 そして、それは私ではあり得ないんです、とつぶやいた。 「だから、アリーナさんとの結婚は望まないと…?クリフトさんは、それでいいんですか?」 「胸が全く痛まないと言ったら嘘になりますが…。」 クリフトは、以前、勇者とアリーナのことを誤解したときのことを思い出し、苦笑した。 「でも、これは、私の、偽らざる気持ちです。」 きっぱりといった。 「…そうですか。」 トルネコは、それ以上クリフトを追及することはなかった。 十字路に来た。 クリフトは、トルネコに向き直った。 「トルネコさん、やはり、私はもう少し教会で祈りを捧げてから帰ります。」 そして、分かれ道を、ゆっくりと丘に向かって登っていった。 トルネコは、そのクリフトの後姿を愛情溢れる表情で見つめると、独り言を言った。 「クリフトさん。あなたは、アリーナさんが幸せになるために一番大切なことを忘れてますよ。」 一番大切なのは、アリーナの気持ち。 そして、トルネコは、アリーナ自身、気づいていないかもしれないその気持ちが、 誰に向かっているのか、分かっているような気がした。 「私は、アリーナさんの父上のような予知能力はないですがね。」 ―――ここ一番というときの、私の勘は、外れたことはないんですよ。 トルネコは微笑むと、ゆっくりと宿への道を向かった。
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クリフトとアリーナの想いは Part4.2 833 :【桜の木の下で】1/8 ◆cbox66Yxk6 :2006/04/07(金) 14 42 21 ID tNxAZEZ70 サントハイム城から少し離れたところに、少し遅咲きの桜の木がある。 早朝、ひょっこりと現れたアリーナは満開まであと少しといったその桜の木に、ぎゅっと抱きついた。 「ただいま・・・お母様」 この桜の木は、アリーナの母が生まれた日に植えられたものだと、父王から聞いていた。 そしてここで母と知り合い、ここでプロポーズをしたとも。 アリーナが母をなくしたのは3歳の時のこと。おぼろげながらに覚えている母の記憶は、なんとなく淡い桜の花を連想させた。だからアリーナはこの木を母と思い、毎年この時期になるとやってくる。そして根元に腰を下ろしてその1年にあったことを母に語るのだ。 そして語りつくした頃、父王が迎えに来て、すっかり疲れ果てたアリーナを背負って城へ帰る。 温かい父の背中、そしてそれを見送る母桜。幼いアリーナは何度となく、その瞬間が続けばいいと思ったものだ。それがアリーナと家族の桜の思い出。 アリーナは桜の木を見上げ眩しげに目を細めた。 「4年も、来られなくてごめんなさい。・・・話したいこと、いっぱいありすぎて、何から話したらいいか、わからないわ」 ざぁっと風が吹き、薄紅色の花びらを舞い上げる。それがまるで母の返事のように思え、アリーナはとても嬉しそうに微笑んだ。 「そうだ。ねぇ、お母様。私にも好きな人、できたのよ」 桜の根元に腰を下ろし、母に背を預けるかのように幹にもたれた。 そして幼子のように頬を少し赤らめながら、今までにあったことをぽつりぽつりと話し始めた。 春の穏やかな日差し、さわやかな風。 アリーナの髪に何枚もの花びらが降りそそぐ。 木にもたれたまま、いつの間にか寝入ってしまったアリーナに近づくと、彼は自分の外套を 脱ぎ、そっとかけた。 そして優しげな微笑を残すと、静かにその場から立ち去っていった。 ガサッ・・・。 草を掻き分ける音で、アリーナは目を覚ました。 日は既に西に傾き、あたりはひんやりとした空気に包み込まれようとしている。 「寝ちゃったのね」 木の幹にもたれたまま、どうやらかなり長い時間を寝て過ごしたらしい。 少しこわばった体をほぐすために立ち上がると、足元に何かが落ちた。 「あれ、この外套・・・」 薄暗くてよく見えないが、どうやら2枚あるらしい。 (誰がかけてくれたのかしら?) 首を捻ると、そっと取り上げた。 その時、間近で草を踏む音が響き、アリーナは反射的に振り返った。 そしてそこに佇む人物の姿を見て目を見開いた。 「え、クリフト?」 てっきり、父王が迎えにきたものと思っていたアリーナは、意外な人物の姿を見つけ、不思議そうに呟いた。 「どうしてここへ?」 クリフトはこの問いに逡巡しつつ、答えた。 「陛下に・・・陛下に申し付けられました。姫様が目を覚ましたら、一緒に帰ってくるように、と」 「お父様が?」 手にした外套をよくみると一枚は父が愛用しているものであった。 そしてもう一枚のそれは・・・。 「これクリフトのよね? あれ、でも、この外套の方が下にかかっていたようなんだけど」 お父様に言いつけられたのだったら、お父様の外套の方が先のはずよね? 首を傾げるアリーナに、クリフトは少し頬を赤らめ俯いた。 「申し訳ございません、姫様。いくら魔物の数が少なくなったとはいえ、おひとりでの長時間の 外出は危険かと思いまして」 差し出がましいとは思ったのですが、ずっとその草陰におりました。 クリフトの言葉に今度はアリーナが詰まった。 「え、じゃ、あとを追ってきたの?」 クリフトのさす草陰に視線を送る。 「いえ、私は姫様がお城を出られたのを確認してから少し遅れて来ました。焦って追いかける必要性は なったのです。行き先はわかっていましたし」 そこまで言うと言葉を切り、クリフトは桜を見上げた。 「毎年、この時期になるとここへいらっしゃいますから」 アリーナは、はっとした。 「もしかして、毎年、ついていてくれたの?」 クリフトが肯くのをみて、アリーナは息を呑んだ。 (ぜんぜん気がつかなかった) この桜をお母様と思っていたから、笑ったり、怒ったり、それからよく泣いた気がする。 ちらりとクリフトを見やると、目と目が合った。 恥ずかしさで、顔が赤くなるのがわかる。 クリフトはちょっと戸惑ったように微笑んだ。 「姫様、私をお許しいただけますか?」 「え?」 突然の言葉にアリーナは思わず聞き返した。 クリフトは困ったような表情をしながら、視線を桜に向けた。 「私はずっと姫様を影から見守ることしかできませんでした。姫様が怒っていらっしゃる時も、 涙を流していらっしゃる時も・・・」 訥々と語りだしたクリフトの声に、アリーナは耳を傾ける。 「本当は何かして差し上げなくてはと思っていたのですが、勇気がなくて・・・」 ずっと、できなかったのです。 クリフトはアリーナの髪についた淡い桜の花びらをそっと指で取り上げた。 「そして、今日も・・・私はただ、そこにいただけで・・・」 手にした桜の花びらを手のひらに包み込みながら、クリフトはため息をついた。 「陛下に、『そなたはアリーナの騎士になりたいのか』などと、言われてしまいました」 見守るだけなら、そなたでなくてもできよう、とも。 うなだれたクリフトにアリーナは微笑みかけた。 「馬鹿ね」 ずっと見守っているだけだって、相当大変なのに。 まじめなクリフトのことだ。職務を放棄してここにいるだけでも、どれほど大切に思ってくれているかがわかろうというもの。 アリーナの言葉に、ぴくりとからだを震わせたクリフトだったが、地面に片膝をつき、意を決したように口を開いた。 「姫様。私は、あなた様をずっとお慕い申し上げておりました。願わくば、その傍らに立つことをお許しください」 突然のプロポーズの言葉に、アリーナが目を丸くする。 冷たい夜風に吹かれた桜の木が、アリーナの胸のうちのようにざわめいた。 「愛しております。アリーナ様」 私に、あなたの人生を背負わせてください。 そういって顔を上げたクリフトは、とても大人びた顔をしていた。 アリーナはドキドキと高鳴る胸を押さえながら、クリフトの手を取った。 そして桜の木に向かって微笑んだ。 「お母様。私・・・」 アリーナはクリフトに向き直ると艶やかに笑った。 「私も、あなたのことが好きよ。今日ね、私、桜に・・・お母様に好きな人ができたって報告したの。でも、まさか、その日のうちに相手を紹介できるとは思ってもみなかったわ」 クリフトは頬を紅潮させた。 「姫様・・・」 感極まったクリフトがアリーナをその腕に抱きしめた。 「愛しております。愛して・・・」 アリーナはうんうんと頷きながら繰り返される言葉を聞いていた。 桜の花びらがライスシャワーのように、ふたりに降り注いでいた。 どれくらいそうしていたのだろう。 すっかり暗くなってしまったことに気づいた二人は、どちらともなく体を離すと桜の木を見上げた。 「また来年、来るね」 今度はお父様も、クリフトも一緒よ。 その言葉にクリフトが驚いたようにアリーナを見た。 「いいのですか」 家族の語らいの場なのでしょう? そう呟いたクリフトの髪を一房つかみ、アリーナは引っ張った。 「家族・・・だからでしょ!」 一瞬にしてクリフトの顔が赤く染まった。 「ちがうの?」 まごまごするクリフトに口を尖らせたアリーナが詰め寄る。 「あ、いえ、光栄です・・・」 クリフトの言葉に、よしと頷くとアリーナはにっこり笑った。 「ね、クリフト。おんぶして」 ここからの帰り道はね、いつもおんぶだったから。 クリフトはそうでしたねと微笑むと、アリーナに背を向けしゃがんだ。 「いいですか。行きますよ」 そう言ってクリフトが立ち上がると、アリーナの視界が一転した。 「わぁ、高い」 これがクリフトの見ている世界なのね。 父の背中はがっしりしていて、温かかった。そしてクリフトの背中も・・・。 おてんば姫といわれてきた自分。でも、それはこんな背中を持つ優しい人々に支えられてのことだった。 「ふふ、気持ちいい」 クリフトの肩口に頭をもたれさせる。そして、ふと思ったことを口にした。 「ねぇ、お父様はいつからあなたのことを知っていたの?」 「最初から、だと思います」 クリフトの答えに、アリーナはため息を漏らす。 「私、ぜんぜん気がつかなかった」 お父様ってすごいわね。 アリーナの声にクリフトはうっすらと笑う。 「えぇ。でも、姫様は敵の気配には鋭いですけど、ご自分が気を許した相手には無頓着ですよね」 それだけ、私に気を許してくださっているかと思うと嬉しいですよ。 背中越しに伝わる声。穏やかで優しくてアリーナの大好きな声。 「ねぇ、クリフト」 「なんでしょう?」 「お母様に、お父様とあなたと一緒って言ったけど、もしかしたらもうひとり増えるかもね」 クリフトの動悸が早まり、体が熱を帯びた。 アリーナはクリフトにわからないように含み笑いをした。 「だって、ブライを仲間はずれにしちゃ悪いでしょ?」 「あ、そ、そうですね」 ちょっと残念そうな様子に今度は声を立てて笑った。 「姫様、私をからかったのですね」 恨みがましい声が聞こえる。アリーナは目に浮かんだ涙を拭いながら謝った。 「ごめんね。でも、そういう増え方ならお母様も許してくれるわよね」 アリーナの桜の思い出。それは毎年違ったものになっていくのだろう。 「いつか・・・みんなでお花見したいね」 大切な人たちと一緒に。 「陛下!」 ひとりで戻ってきたサントハイム王にブライが驚いて駆け寄ってきた。 「姫様はどうなされたのですか」 ブライの言葉に王は肩を落とすと、深々とため息をついた。 「のう、ブライや。父親というものは辛いものだな」 あの時、アリーナに自分の外套を掛けるため近寄った。そして、自分が耳にした言葉は。 『クリフト・・・』 そろそろ潮時なのかもしれん。父から夫へ。 いつまでも手放したくないと思っていた。だが、あんな寝言を聞いてしまっては、自分の役目が終わったのだと否が応でも痛感させられる。 サントハイム王は、疲れたように玉座に腰掛けた。 「おまえも、それでいいというのだろうな」 ブライは黙っていた。それは彼にかけられた言葉ではないとわかっていたから。 アリーナの母、亡き王妃がこの場にいたらきっと微笑みながら諭したであろう。 「あの子が結婚しても、私たちが親であることにはかわりがないのですよ」 開かれていた窓から桜の花びらが舞いこんできた。 「のう、ブライや。ちと付き合ってくれんか?」 桜を肴に飲み明かそうじゃないか。 王の言葉にブライは相好を崩した。 「では久しぶりに花見酒をすることにしましょうか、陛下」 (終)
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クリフトのアリーナの想いはPart11 455 :従者の心主知らず さえずりの塔 中編 1/7 :2010/12/12(日) 14 41 09 ID IGxLLnPj お父さま。声が出せないだなんてすごくつらいはずよ。助けられるのは私たちだけよ。絶対にご病気を治してみせるわ! 「さえずりの蜜ならもしかしたらお父さまの病気も治せるかもしれない。さあ 急ぎましょう!」 「では行きますぞ!」 私たちはじいの魔法ルーラで再び砂漠のバザーに舞い戻った。夕方だったせいかやっぱり片づけ始めてるお店もあった。 「さえずりの蜜はどこ?早く手に入れてお城にもどらなくちゃ!」 私たちは急いでお店の人たちに聞いて回った。 「さえずりの蜜?うーん、そんなのあったかなあ」 「さえずりの蜜?ああ、昔あったかねえ。向こうの道具屋で聞いてみておくれ」 「道具屋?ほら、あそこでシートをかけてるとこだよ」 私たちはやっと道具屋さんへ! 「さえずりの蜜?ああ、この店にも昔1つだけあったっけ」 「1つだけ?今は置いてないの?」 「今はないのよ。あれはたまたま手に入ったものだったからねえ」 …………。 「あー、でもエルフが来るという西の塔に行けば今も手に入るかもね」 「西の塔?そこに行けばあるの!?」 「前もあそこで手に入れたものって聞いてたからねえ。でも昔と違ってあの塔には魔物が住み始めたしやめたほうがいいと思うよ」 「魔物が何よ!そんなの私が恐がるとでも思ってるの!?行きましょう西の塔へ。そしてさえずりの蜜を手に入れるのよ!」 「フム。ここより西にある塔。そこにさえずりの蜜があると。ならば決まっております。魔物が出ようが塔にのぼりさえずりの蜜をこの手に!」 じいも賛成してくれた。やった!じいが賛成してくれるって初めてじゃないかしら。私はクリフトに振り返る! 「ええ、行きましょう」 クリフトも力強くうなずいた。初めてみんなの意見がいっしょになった!どうしよう、ワクワクしてきたわ。 「目的地もはっきりしたところで少し腹ごしらえをしますか。腹が減ってはなんとやらですからな」 「あ」 じいに言われたらなんだか一気におなかがすいてきた。そういえば今日のお昼まともに食べてなかったんだわ。 「そうね!ひとまずごはんにしましょう!」 「あ!姫さま!王様はいかがでしたか?もう心配で心配で……」 振り返ると兵士が。私たちにお父さまのことを伝えに来てくれた兵士だわ。私は思わず口ごもる。 「フム、この度はご苦労だったの。王はずっと過労が続いていたようじゃ。今は安静にしておるゆえじきによくなるじゃろう」 「そ、そうですか……」 「姫さまの長期不在もたたっておったようでの、一度顔を見たらまあ落ち着きよったわ。そう心配しなくてもよいぞい」 「はい……」 すかさずじいがごまかした。じいってごまかすの本当に上手だわ。 兵士は持ち場に戻ってった。テンペの件があってから見回りをたくさんするようになったみたいでしばらくここにいるみたい。 もっと早くこうなってればテンペもあんなになるまで苦しまずにすんだのにね。でも…… 「私、うそをつくのはあんまり好きじゃないの。でも、この人に本当の事を知らせたほうがいいのか、それとも……?」 私は兵士を見ながら考える。だめ。言えないわ。お父さまがあんなに苦しそうなお顔をしてたなんて、私とても言えない……。 「王のご病気についてはなるべくご内密に」 「クリフト……」 まるでクリフトが私の心を読んだみたいに言ってきた。勘の鋭いクリフトっていや。でも言えないのは事実であって……。 「そうですよ!だって私たちがすぐに治してしまうんですから」 …………。 「うん。そうよね。すぐに治るんだもんね!」 「むむ……。そうですな。ここは黙っておきましょう」 ちょっと悔しい。またクリフトに先を越された気がする。でもすぐ治るって言われて少し気が楽になったのも事実であって……。 クリフトって不思議。 私たちはやっと落ち着いてごはんを食べた。スパイスのきいたシチューとそのままでも味のあるおっきなパン。 「西の塔かー。どんな魔物が出るのかしら」 「エルフが来る塔。さぞかし高い塔なのでしょうね。……っ」 クリフトが少し身震いした気がする。 「高さがなによ、何階でものぼってやるわ!さえずりの塔!」 「な、なんですかその名前は」 「え?さえずりの蜜があるからさえずりの塔!」 「いやはや、安価なネーミングじゃのう」 「い、いいじゃない!さえずりの塔なの!今日から西の塔はさえずりの塔!」 ごはんも終わってひと休み。じいはお手洗いに行ってる。なんとなくクリフトを見たらうつむいてた。 あれ、確かさっきまで地図を見てたはずだけど。よく見たら地図を持ったままうつむいてた。あ、また寂しそうな顔してる……? 「クリフト、どうしたの?」 「え?あ、どうかしましたか?」 「私がクリフトに聞いてるのよ」 「そ、そうでしたか」 「そうよ。どうかしたの?」 「…………」 黙っちゃった。でももう慣れたわ。なんでもありませんって言ったらもっと聞いてやるの。私はクリフトの返事を待った。 「姫さま……」 「なあに?」 「一つ、お伺いしてもよろしいでしょうか……」 「え、なによそんなに改まって。いいわよ、なんでも聞いて」 地図をテーブルに置いて私のほうに向き直る。今回はなんでもありませんって言わなかったわね。 クリフトは少しだけうつむいたまま小声でぼそっとしゃべった。 「……もう少しだけ、とは、どういう意味だったのでしょうか……」 「え?」 「その、神父様とお話されていたとき、もう少しだけクリフトをお借りしていきますと……」 「えーと。私そんなこと言ったっけ?」 「え?」 神父さまとお話してたとき? 確か神父さまは、クリフトは奥にいますよ、早く準備をなさい、眠れません、お気をつけて行ってらっしゃい神のご加護のあらんことを。 んーいつ言ったんだっけ。もしかしてどっか抜けてる?今日はいろんなことがありすぎてぜんぶ覚えてないわ。 「いえ、あの……覚えていらっしゃらないのならいいのです。おかしなことを聞いて申し訳ありませんでした」 「んー……」 なんか気になるわ。こういうのがもやもやしていやなのよ。 「ねえクリフトー」 「は、はい」 「私はクリフトみたいに難しいこと考えてしゃべってるわけじゃないの、だからそんな言葉のひとつひとつなんて覚えてないのよ」 「い、いえその……はい……」 「だから、どうしてそんなことを聞こうと思ったのかを教えてちょうだい。そのほうが早いわ」 「…………」 また黙っちゃった。うつむいてる。きっとクリフトの頭の中は今難しいことでいっぱいなんだろうな。私はもう少し待ってみた。 「では、では……っ……もう一つだけ、お伺いしてもよろしいでしょうか……」 「っもう、クリフトったら。前も言ったじゃない。いいのよ、なんでも聞いて、なんでも話して」 クリフトは下くちびるをかんだ。またそわそわしてる。まるで昨日のクリフトみたい。また男の子の秘密でも打ち明けるのかしら。 「……その……王のご病気が完治されたら、また旅を続けられますか?」 「え?」 思わぬ質問にちょっとびっくりした。 「もちろんよ!だってバザーも全部回りきってないし、まだ他にも行ってないところがありそうだし、それに!」 夢のような国!エンドールの武術大会! 「武術大会の出場者も、きっともっと強い人と戦いたいと思うのよね……。じつはお姫さまでしかもものすごーく強い!たとえばそんな子とか。 お父さまが治ったら許しては……」 許しては…… 「くれないわよね。はあー……」 「…………」 「でもでも、まだこの大陸は回るつもりよ!それでうんと強くなって、お父さまを拝み倒すの!」 「そう、ですか」 「そうよ!」 あれ、クリフト、少しだけ笑った? そういえば、前笑ったときも旅の話をしてたときだった気がする。そう、旅はいつでもできるからって言ったとき。 なんでだろう。なんでそこだけははっきり覚えてるんだろう。 ――私は姫さまと外に出たかったんです!―― ふとフレノールでのクリフトの言葉が浮かんできた。なんで今になって思い出すんだろう。 クリフトが旅に出たいのは私といっしょで強くなりたいからであって、クリフトだったらたぶんいつでも旅に出られるわけで。 私がいっしょに強くなろうねって言ったからって別に本当にいっしょに強くならなくてもいいわけで。 ――姫さまは私が命にかえてもお守りいたします!―― ~……。 なんであのときのクリフトが浮かんでくるのよ。お父さまと向かい合って真剣な顔してたクリフト。お父さままで真剣な顔しちゃって。 別にあのセリフは兵士たちだって普通に言うし、私が姫っていう立場だから言っただけで、特別でもなんでもないわけで。 あーもう頭の中がグチャグチャだわ。結論は、私は真剣な顔してるクリフトが苦手ってことね。 いつでも弱虫で泣き虫で私のあとばっかついてくるあのころのクリフトだったら私もこんなに気にしなくてすむのにっ 「姫さま?」 クリフトが顔をのぞきこんできた。クリフトの目に私が映る。変な顔した私。あーもう! 「クリフト!」 「はい!」 「クリフトは、私が守るんだからね!」 「は、はい?」 「私が守るの!じいも私が守るの!だから、クリフトは私のあとをついてきなさい!」 「は、あ……」 クリフトは驚いた顔で私を見てる。 「私のあとをついてくるの!いいわね?」 「は、はい!」 大げさに返事するクリフト。でも、少しだけ笑ってもう一度言ったの。 「はい、姫さま……。どこまでもついていきます……」 「うん!」 「なんだかみなぎってきたわ!クリフト、今からさえずりの塔に行くわよ!」 「い、今からですか?」 「そう、今からよ!」 外はたぶんもう真っ暗ね。でもなんだか無性に動き回りたい気分なの。 「朝までなんて待ってられないわ。お父さまのご病気を治すためなんだから、急いだほうがいいに決まってるじゃない。 誰が何と言おうと私はぜったい行くからね!」 「そうですか……。では行きましょう、今から」 「え?」 今度は私が聞き返しちゃった。だって。 「旅の支度もできておりますし、ブライ様が戻られたらすぐにでも参りましょう」 「え、だって、いいの?だって、夜歩くのは危険だから宿をとりましょうっていつも言うじゃない」 「それは確かにそうですが、事情も事情ですし、姫さまがそこまでおっしゃるなら私にお止めする理由はありませんよ」 「…………」 「私はただ、おそばに……この身に代えても姫さまをお守りするだけです」 あ。またあの顔。私の苦手な真剣な顔。だ、だから私がクリフトを守るって言ってるのになんでそういうこと…… やっぱり顔が熱くなっちゃう。 「じいは?じいはきっと反対するわ」 私は目をそらして言った。 「いえ、いえ……王の安否を気遣われるそのお気持ちは、きっとブライ様にも伝わると思いますよ」 「………………」 「姫さま……」 クリフトが私を見てる。きっとものっすごく見てる。でも、あの真剣な顔してると思うと私は見られない。どうしよう。 「わしがなんじゃって?」 「じい!」 振り返るとじいが戻ってきてた。じいも出かける準備ばっちりだった。うそ!なんで! 思わずクリフトを見たらクリフトは下を向いてた。それもなんで! 「聞けば、塔に行き着くまで最低でも二日はかかるとのことじゃ。途中大森林を抜けるようでの。 砂漠に大森林、前回のように早朝に出ればすいすいと行き着けるわけでもなさそうじゃ。 山での野宿もごめんじゃが森での野宿もごめんじゃからの、今のうちに行けるところまで行っておいたほうがいいじゃろう」 「では、ブライ様……」 クリフトが顔を上げた。私はクリフトを見たりじいを見たりで忙しい。でも今度はしっかりとじいを見た。 「眠いしコシも痛いし夜出歩くのは感心しませんが、いたしかたありませんな」 「ブライ様……」 「う、そ……」 話の展開が早すぎて頭がついていけない。つまり、どういうこと?私はいっしょうけんめい頭の中を整理した。 夜に出かけてもいい。じいもクリフトも賛成してくれたんだ。つまり、そういうことなんだ。なんで……。そんなの初めて。 前にテンペへ行くとき一度だけ野宿をしたことがあったけど、あのときはさんざんお説教してたのに。 フレノールでもさんざんしかられて、黄金の腕輪を取りに行くときも砂漠のバザーへ行くときもずっと朝からだったのに。 ――自由―― 私は今、自由なのかな。ねえクリフト……。 私はクリフトを見た。そしたらクリフトも私を見て、笑顔で言ったの。 「行きましょう、姫さま」 「…………うん…………」 私たちはバザーを出てさえずりの塔へ向かった。はんぶん泣きそうになってたのは気合いでこらえた。 砂漠を抜けて森の近くまで来て仮眠をとる。あたりには何の明かりもない真っ暗闇。 じいが言うには、森の中は魔物たちの住み家みたいなものだから少数で野宿するには向かないんですって。 魔法も発動させにくいんですって。なんでって聞いたらクリフトに木々を傷つけてしまいますからねって言われた。 じいもそういうことじゃって。ふーん。そういうものなのかな。魔法のことはよくわからないや。 寝袋にくるまったけど眠れなくて夜空を眺めた。今日は少しくもってる。月や星が見えたり見えなかったり忙しそう。 じいも寝袋にくるまった。クリフトだけはやっぱり起きてる。今夜はじいと交代でたき火の番をするんですって。 私も見張りするって言ったんだけどクリフトに姫さまは塔に着いてからが出番ですよって言われた。 私はぼんやりとクリフトを眺める。あごに手をついて考えごとしてるクリフト。目を閉じた。あ、うつむいちゃった。 …………。 「クリフトー」 「…………」 「クリフトー?」 「え、あ、なんでしょうかっ」 「何考えてたの?」 「い、いえ、特に何も……」 「でもうつむいてたじゃない」 「…………」 クリフトは黙って私を見てる。たき火の明かりだけじゃよくわからない。今どんな顔してるの? 「クリフト……?」 「…………」 クリフトはしばらく私を見てたけどゆっくりたき火のほうを向いた。 「エルフは不思議な種族。魔法やさまざまなチカラを持っているといいます」 「エルフ?」 「ええ、私たち人間に比べて長身で痩せ型であり、耳がとがっているのが特徴だそうですよ」 「ふーん」 「古くから人間との接触を避けてきた種族だそうで、さえずりの蜜を手に入れられるかどうか少し不安ではあります」 「そんなの行ってみなくちゃわからないじゃない」 「……そうですね」 クリフトが少し笑ったのがわかった。っもう、また難しいこと考えて悩んでたのね。クリフトのばか。心配性。 クリフトはそのあともエルフのこと、魔法のこと、いろんなことをお話してくれた。クリフトの低い声がだんだん遠のいてく。 私は話を聞いてたつもりだったんだけど気づいたら空が明るくなってた。じいもクリフトも出かける準備をしてた。 「おはようございます、姫さま」 「おはようございますじゃ、姫さま」 「んーおはよー……」 昨日のことを思い出そうとしてもはっきり浮かぶのはクリフトの「お休みなさいませ、姫さま」っていう優しい声だけ。 バザーで買っておいたパンや干し肉で朝ごはんをかんたんにすませて私たちはまたさえずりの塔へ向かう。 大きな森を抜けて塔にたどり着いたときにはまた真っ暗だった。
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クリフトとアリーナの想いは Part4.2 703 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/03/26(日) 00 53 13 ID 3iglfyP60 それは昔のお話。まだ二人が今よりも小さな頃でした。 「うわぁ~キレイだねーーー!!」 今日もブライ様の授業を抜け出したアリーナ姫様がやって来ていたのは、お城の裏庭。 そう、今は春。 そこは視界がピンク色。桜に染められた場所でした。 間近で見る桜にはしゃいで走り回っているアリーナ姫様の傍らにいるのは、大人しそうな少年。 無理やりひっぱって連れてこられたのか、神官学校の教科書を持ったままです。 桜の花を眩しそうに見上げながらも、周囲に絶えず気を配っています。 きっと、アリーナ姫様を連れ戻しに来る大人が来ないか見張っているのでしょう。 「クリフト、わたしね、お花がこんなにそばで見られてすっごくうれしい!!」 アリーナ姫様に呼びかけられて、少年ははにかみながら頷きました。 花びらがちらちら、ちらちら舞う中に二人はどのくらい立ち尽くしていたでしょうか。 「どうして桜さんはあっという間に散っちゃうんだろうねぇ」 ご機嫌だったアリーナ姫様ですが、ちょっとだけ不満顔です。 「そうですね、しかし花が散って緑が茂るのもそれはそれで美しいものですよ」 花びらをそっと一枚手に取ったクリフトが言いました。 「そうね、夏が来るのも好きよ!だって私の誕生日も夏だし!」 そこでアリーナ姫様は気がつきました。 「…ねぇ、クリフトの誕生日っていつ?」 少しだけ苦しそうな顔をしたクリフト。 「…わからないんです。ただ、春頃らしいということですが」 幼い頃からずっと教会にいるクリフト。それには何やら大きな事情を抱えていそうです。 「そっかぁ…」 アリーナ姫様はとっても悲しくなりました。 自分はこんなに誕生日が大好きなのに、クリフトはもしかして祝ってもらったことが…! 「神父様が日付を決めてしまってのもいいのですが、 本当と違う日を祝うのかと思うと少し悲しいですからね。このままにしてあります」 クリフトは散っている花びらのような微笑を浮かべました。 「あ、そうだ!!」 突然大声をあげたアリーナ姫様に驚いたクリフト。 一際美しい桜の元にアリーナ姫様は駆け寄っていきました。そして振り向いて、 「春なんでしょ?じゃあこの桜が咲いた日をクリフトの誕生日にすればいいのよ! それなら毎年ちょっとずつ違っちゃうけど、絶対本当の誕生日もその中にあるわ! ね、そうしましょ?」 満面の笑顔でそう言いました。 あっけにとられていたクリフトですが、やがて笑い出しました。 そのまま笑いが止まらなくなりました。そんなクリフトを見て、 「な、何よう、いいアイデアだと思ったのに・・・」 アリーナ姫様はふくれっつらです。 「……いいえ、本当にいいアイデアです。ありがとうございます」 笑いをこらえこらえ、クリフトが言いました。 アリーナにしかできない突拍子もないアイデア。 「あまりにも姫様らしすぎて。思わず。すみません」 「ふうん、まぁいいわ。じゃ、来年はこの桜が咲いたらお祝いしましょうね。 毎年ずーっと、この桜を見に来ようね!!」 毎年ずっと、あなたと桜を見に来れる。 「はい。ありがとうございます」 桜を前にした、二人の約束。 アリーナ姫様とクリフトは微笑みあいました。 「姫様~~~!?どこにおられるのじゃ~~?」 遠くから、ブライ様の声がします。 「あ、そろそろ帰らなきゃだね。」 ハッとしたアリーナ姫様。 「じゃあね、クリフト。授業中なのにつれてきちゃってごめんねー!!」 走っていくアリーナ姫様の背中を見送りながら、 いつもよりもしばしの別れが寂しくないことに気づいていたクリフトでした。 クリフトはもう一度桜を見上げてみました。 「また来年も、よろしくお願いします」 深々と頭を下げて、教会へと踵を返したクリフトでした。 (終)
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クリフトとアリーナの想いはPart7 353 :【惚れ薬】1/12 ◆XJ3Ut0uuQQ :2007/05/08(火) 22 06 19 ID j51YEDoX0 ミネアは、馬車の中で、液体の入った皮袋を目の前にして悩んでいた。 占いの御代にといって、怪しげな老婆がよこしたのは、曰く「史上最強の惚れ薬」。 「恋しい人の口にほんの数滴、あとはそれを飲んだ後に、一番先にそいつの目に入るようにな。」 いかにもありがちな話であり、うさんくさいことこの上ない。 にもかかわらず、ミネアが、皮袋に入った緑色の液体を捨てられずにいるのは、 脳裏に浮かぶ、碧い髪、碧い瞳を持つ青年のせいだった。 ―――クリフトさんがアリーナさんのことを好きなのは、分かってる。 ―――それでいい…私は、このままで、全然かまわないの。 ―――だいたい、こんなもの効かないに決まってるし…。 ―――効いたとしても、すぐに効き目は切れるだろうし…。 ―――だったら、ほんのひと時、ちょっと夢見るくらいなら…。 そこまで考えて、ミネアは、はっとした。 ―――馬鹿なことを考えるんじゃないの、ミネア。 頭を振って、皮袋の中身を捨てようとしたが、少し躊躇する。 そして、結局、中身を捨てずに皮袋を自分の荷物の横に押し込むと、 昼食の用意をするために馬車を降りた。 ミネアが馬車から降りた後、しばらくして、勇者がバタバタと馬車に戻ってきた。 「まーったくクリフトの奴は、自重しろっていってるのに…風邪薬、風邪薬、と、これか?」 ぶつぶつ言いながら、馬車の奥の荷物を探っていた勇者は ミネアの荷物の横にあった小さな皮袋に気づき、それを開けて中身を覗くと 「んーー、何か変な色と臭いしてるから、多分、これだろ、よし。」 皮袋を手に馬車を飛び出して行った。 食事の用意をしていたミネアは、背中で勇者、クリフト、アリーナの言い合いを聞いていた。 「大丈夫です、風邪なんかじゃないですって、ソロさん。」 「いーや、大丈夫じゃない!さっき、ヘンな咳してたじゃないか!」 「そうよ!クリフトはそうやって、いつも無理するから、倒れちゃうんじゃない!」 薬、飲みなさい!と2人に諭されて、クリフトがしぶしぶそれに従う気配がする。 ―――クリフトさん、また、体調を崩されたのかしら…? 心配になって振り向いたミネアは、息を止めた。 クリフトが今まさに飲もうとしているのは、例の「惚れ薬」。 ―――なんで、あれがここに!? 混乱する頭で、ミネアはクリフトに叫んだ。 「クリフトさん、それ、飲んじゃダメです!!」 ごっくん。 皮袋の中身を一口飲み下したクリフトが、ミネアの叫びに驚いたように振り向き、 そして、そのままの姿勢で固まった。 「―――!!」 ミネアの心臓が、跳ねた。 クリフトの碧い瞳は、ミネアを真っ直ぐに見つめていた。 ミネアは、周囲の音が、突然聞こえなくなったのを感じた。 クリフトから目を離せず、時間さえも止まってしまったかのようだった。 クリフトが、ミネアに向かって、一歩前に踏み出した。 しかし。 「クリフト?どうしたの?」 アリーナが、怪訝そうにクリフトの服を引っ張った。 クリフトが、はっとしたようにアリーナを見下ろすと、その顔をまじまじと眺めた。 「な、なによう、どうしたって言うのよ、クリフト。」 珍しく至近距離から見つめられ、アリーナは照れたようにえへっと笑って見せた。 その笑顔を見たクリフトは、衝撃を受けたように後じさった。 そして、慌ててミネアを振り返ると、ひどく混乱した表情で頭を抱えた。 「う…あああぁぁぁぁあああ!」 クリフトが頭を抱えたまま叫び始めた。 「ど、どうしたんだ、クリフト?この薬、なんかやばかったのか!?」 「クリフト!?やだ、どうしちゃったの!?」 パニックになる勇者とアリーナ、そして、それを呆然と見守る他の仲間達。 そこに鋭い声が飛んだ。 「ラリホー!」 倒れこんだクリフトを勇者が慌てて支える。 クリフトは、安らかな寝息を立てていた。 呪文を唱えたブライは、ゆっくり進み出ると、震えているミネアの前に立った。 「さて、何が起きたのか話していただけますかの、ミネア殿。」 ブライの声音は厳しかった。 「惚れ薬ぃ~!?また、なんでそんなものを取っておいたわけ!?」 ミネアの説明に、マーニャが素っ頓狂な声を上げた。 「……こ、恋占いとか、何かの、役に立つかと思って…。」 苦しげに言い訳をするミネアの隣で、勇者が青ざめた。 「ってことは、俺は、クリフトに惚れ薬を飲ませちゃったってこと…?」 「そうよ、だいたい、あんたも中身確かめないで飲ませるってどういうことよ!」 そのとき、大人しく皆の話を聞いていたアリーナが、ぽつんと呟いた。 「それじゃ、今は、薬のせいで、クリフトはミネアのこと好きになってるの…?」 「まあ、話を聞くと、そういうことになりますかな。」 あっけらかんと答えるライアンの後頭部に、マーニャが無言で鉄扇を叩き込んだ。 「でも、それだったら、クリフトは何であんな苦しそうに叫んでたの?」 アリーナの問いに、トルネコは、アリーナとミネアを交互に見やり、首を振った。 「考えられる原因は、まあ、1つでしょうねえ…。」 勇者も、不機嫌そうに、手の平にこぶしを打ちつけた。 「あいつは、何でもくそ真面目に思いつめるからな。」 ミネアは、皆の会話に、耳をふさぎたい気分だった。 ―――結局、そういうことよね…。馬鹿みたい…。 所詮、薬では、クリフトのアリーナに対する想いを消すことはできなかった。 無理矢理自分へとねじ向けられた想いは、クリフトを混乱させ、苦しめるだけだった。 ―――こんなみじめな思いをするなんて、薬を捨てなかった罰があたったんだわ…。 打ちひしがれた様子のミネアを見て、マーニャが心配そうに眉根を寄せた。 アリーナは、しばらく黙って考え込んでいたが、やがて決然とした表情で顔をあげた。 「何かよく分からないけど、つまり薬のせいで、クリフトは、あんなに苦しそうなのね?」 唇を噛み締めるミネアを横目で見ながら、ブライがうなずいた。 「まあ、惚れ薬の効き目が切れれば…あやつの混乱も治りますじゃろ。」 「だったら、早く解毒剤を探さなきゃ!」 アリーナが立ち上がった。 「と言っても、こういう蠱惑系の薬の解毒は、作り手自身でないとなかなか…。」 トルネコが困ったように言う。 「だったら、そのお婆さんを探せばいいのよね、ミネア!」 アリーナの強い瞳に見据えられ、ミネアはたじたじとなる。 「で、でも、どこに住んでいるか聞いてないわ…。」 「だったら、占って!ミネアの占いだったら、探し出せるわ!」 アリーナの必死の表情に、ミネアは胸がちくりとうずくのを感じた。 ―――アリーナさん、そんなに、クリフトさんが私のことを好きなのが、いや…? 「…じゃあ、水晶玉を取りに行かないと…。」 ミネアは、のろのろと立ち上がった。 「馬車にはクリフトが寝てるだろ、ミネアが行っても大丈夫か?」 勇者が心配そうに声をかける。 「でも、水晶玉は、分かりにくいところに隠してあるから…。」 「他の者がガサガサ探し回るより、ミネア殿が行ったほうがいいじゃろう。」 ブライがミネアにうなずいた。 「くれぐれも、クリフトを起こさんようにな!」 ミネアは、馬車の入口近くで眠るクリフトを気にしながら、静かに、水晶玉を取り出した。 しかし、気配に敏感なクリフトは、目が覚めてしまったらしい。 「…あれ?…ここは…?」 クリフトの呆けたような声に、ミネアは水晶玉を持った手を止めた。 ―――ど、どうしよう…。私に気がついたら、クリフトさんはまたさっきみたいな状態に…。 ミネアが固まっているうちに、クリフトがミネアに気付いたようだ。 「そこにいるのは…ミネア、さん…?」 背後から聞こえたクリフトの声に、乱れは見られなかった。 ―――もしかして、薬の効き目が切れた…? ほっと息をついて振り返ったミネアは、水晶玉を手から取り落とした。 起き上がったクリフトは、顔を赤らめ、熱い瞳でミネアを見つめていた。 「ミネアさん…私は、どうしてここに…?」 クリフトは、赤い顔をしながらも、不思議そうに辺りを見回した。 クリフトが先ほどの出来事を思い出せば、また混乱するかもしれない。 ミネアは、慌ててクリフトに駆け寄ると、その肩に手をかけ、横になるよう促した。 「大丈夫です…ちょっと体調を崩されて、貧血を起こしただけ…。」 と、そのミネアの手をクリフトがつかんだ。 ミネアは息を飲んだ。 顔を上げると、こちらを見下ろすクリフトの真剣な表情に、そのまま動けなくなった。 気がつくと、ミネアはクリフトの腕の中に抱きしめられていた。 「ミネアさん…私は…。」 甘く低い声で囁かれて、ミネアは気が遠くなりそうだった。 そのとき、馬車の外から、アリーナが小さく呼びかける声が聞こえてきた。 「ミネア、水晶玉、見つかった?」 その瞬間、クリフトは、弾かれたようにミネアから体を離した。 そして、真っ青な顔をして手で口を覆う。 「私は…今、何を…?」 ミネアは、すかさず呪文を唱えた。 「ラリホー!」 クリフトは、再び安らかな寝息を立て始めた。 「遅くなってごめんなさい、アリーナさん。クリフトさんが目を覚ましかけたので…。」 「あ、それでラリホーかけてくれたのね、ありがとう、ミネア!」 無邪気に礼を言うアリーナの顔を、ミネアは見ることができなかった。 いまだ胸の鼓動は収まらない。 気を落ち着けるために、大きく息を吸い込むと、ミネアは水晶玉に集中した。 「…で?結局、その婆の住んでる場所は分かったのか?」 気力を使い果たし、ぐったりとしたミネアの横から、勇者が水晶玉を覗き込んだ。 「ええ。ここだったら、すぐそばまでルーラで行けそう…。」 「よし、疲れてるだろうけど、善は急げだ。ミネア、行こう! こんな物騒な薬をばらまく奴には、一言言ってやらなきゃな!」 「物騒なのは、それを確かめもせず人に飲ませるあんたでしょーが!」 「ソロ!マーニャ!待って、私も行くわ!」 「…確かに、姫様は、今は、あ奴から離れていた方が良いかもしれませんのう。」 結局、ミネア、マーニャ、勇者、アリーナの4人が、老婆の住む森に向かって飛び立った。 老婆は、いきなり現れた4人に驚いたようだったが、ミネアから話を聞くと楽しそうに笑い始めた。 「あの薬に抵抗するとは、大した男だわい。よっぽど惚れてる女子がおるんじゃの。」 老婆の言葉は、ミネアの心に鋭い痛みをもって突き刺さった。 しかし、アリーナはほとんど老婆の言葉を聞いておらず、もどかしげに前に進み出た。 「あなたの薬で、クリフトが苦しんでいるの。お願い、解毒剤の作り方を教えて!」 老婆がアリーナをじろりと見やった後、ミネアの方を向いた。 「その男のお相手は、このお嬢ちゃんかい。」 「…ええ。」 ミネアは痛む胸を押さえながら小さい声で答えた。 「ふん。」 老婆は、アリーナに向き直ると、からかうような目つきでアリーナを見た。 「お嬢ちゃん、クリフトって男は、あんたにとって何なんだい?」 アリーナは、突然の問いかけに、目をぱちぱちさせた。 「何って…クリフトは、大事な仲間よ!」 「それだけかい?」 「それだけって、どういうこと?」 アリーナが、いぶかしげに眉根を寄せる。 老婆は、そんなアリーナに向かって、再び「ふん。」と鼻を鳴らした。 「つまり、お嬢ちゃんは、クリフトとやらが苦しんでいる状態が治ればいいわけじゃな。」 「そうよ!」 「じゃったら、話は簡単だわ。ほれ、この占い師の姉さんを目の前に置いて、 残りの惚れ薬を全部その男に飲ませればいいんじゃよ。」 老婆はミネアを指差して笑った。 老婆の言葉にミネアとアリーナは呆然と立ちすくんだ。 「今は、惚れ薬の量が足りてないから、気持ちがあっちこっちするんじゃ。 皮袋の中身を全部飲めば、なんぼなんでも、収まるところに収まるじゃろ。」 勇者が慌てて前に飛び出した。 「ダメだ!そんなの、絶対にダメだ!」 「何がダメなんじゃ。おぬしら、その男の混乱を収めたくて来たのじゃろ。 この姉さんと一緒になってめでたしめでたし、解毒剤なんぞ使わんでも円満解決じゃ。」 「円満でも何でも、とにかく、惚れ薬で解決なんて、絶対にダメだ!」 「兄ちゃんに、何の関係があるんじゃ。」 「あるんだよ!あいつは、自分で、自分の気持ちに決着をつけなきゃいけないんだ!」 必死に叫ぶ勇者の隣で、マーニャがゆっくりと腕組みを解いた。 「悪いけど、あたしも、お婆さんの案には賛成できないわ。」 「…姉さん。」 「何が円満解決よ。そんなことしたって、ミネアは幸せになんかなれないわよ。」 ミネアは、マーニャから目をそらした。 そんなことは、分かりすぎるほど分かっていた。 惚れ薬で、クリフトが自分のことだけを見るようになったとしても、それはまやかしに過ぎない。 それでも。 ―――ミネアさん…私は…。 あのときの自分を見つめるクリフトの表情と、腕のぬくもりが蘇る。 あの甘い囁きの続きを聞くことができるのなら…例え、まやかしでも…。 そのとき、ミネアの横で、凛とした声が聞こえた。 「だめ。そんな解決方法、絶対に許さない。」 アリーナが老婆を睨みつけていた。 「薬で好きにさせるなんて、クリフト自身の気持ちは、全然無視じゃない! そんな方法で、クリフトが、幸せになれるわけない!」 正論だが、ミネアにとってはひどく残酷な言葉だった。 ―――アリーナさんの立場だったら、そう言うのは簡単よね…。 ミネアはうつむき、初めて、クリフトに愛されているアリーナを憎らしいと思った。 そんなミネアを横目で見ながら、老婆が意地悪そうな笑みを浮かべてアリーナに尋ねた。 「えらそうに言うが、お嬢ちゃんは、その男の気持ちを知ってるのかい?その男は、 もしかして本当に、この占い師の姉さんのことが好きなのかもしれないじゃないか。」 「え…。」 アリーナは、老婆の指摘に、うろたえたように一歩後ろに下がった。 「た、確かに、ミネアは優しくてきれいだし…、クリフトはミネアと一緒にいること多いし…、 私だって、クリフトは……ミネアのこと本当に好きみたいって、思うことあるけど…。」 先ほどまでの勢いはどこへやら、アリーナの声はだんだん小さくなり、消えていった。 ミネアは、驚いて顔を上げた。 アリーナが、クリフトと自分のことをそんな風に見ているなんて、思っても見なかったことだ。 ―――だったら…アリーナさんが必死になって解毒剤を求めているのは……? 肩を落としていたアリーナは、何かを思い切るように、ぶん、と頭を振った。 「でも、だったら、だからこそ、クリフトは自分の気持ちでミネアに好きって言わなきゃ!」 アリーナの口調は勇ましかったが、その顔は今にも泣き出しそうだった。 ―――アリーナさん…あなた…。 「やれやれ、あんたは、何の権利があって、その男の人生に口出しするんだね、お嬢ちゃん。」 またしても意地悪げに尋ねる老婆に、アリーナは呆れたように答えた。 「権利ですって?クリフトの幸せを考えるのに、権利なんて必要ないわ!」 老婆は絶句した。 「分かった分かった、そこまで言われちゃ、わしの負けじゃよ。」 老婆は笑いながら、机の中から青い液体の入った小瓶を取り出した。 そして、それをアリーナに渡しながら、優しく微笑んだ。 「どうやら、クリフトとやらの想いは、成就しそうじゃの。」 「え?そうなの…?」 アリーナは、何とも言えぬ複雑な顔でミネアを振り向いた。 「アリーナさん、あのね…。」 アリーナの誤解を解こうとするミネアを、老婆が横からつついた。 「姉さんも大変だったんじゃから、お嬢ちゃんも、これくらいは悩んでもいいじゃろ。」 ミネアに向かって片目をつぶると、しっしと片手を振った。 「さ、あんたら、用が済んだらさっさと帰っておくれ。わしは忙しいんじゃ。」 4人は急いで帰ると、クリフトをたたき起こした。 そして、勇者が有無を言わせず、小瓶の中身を全部クリフトの口に流し込んだ。 「げほっ、何をするんですか、ソロさん!風邪薬はさっき飲んだじゃないですか!」 クリフトは、この間の出来事を全く覚えていなかった。 ミネアは、少し寂しい気持ちになったが、これでいいんだと思い直した。 ―――覚えてたりしたら、クリフトさん、きっと、私と目も合わせられないもの。 夕暮れの中、ミネアは馬車の御者台に座って、ぼんやりとクリフトとアリーナを眺めていた。 アリーナは、夕食の用意をするクリフトの周りを、いつものようにうろちょろしながらも、 ミネアの方をちらちらと気にしているようだ。 ―――ほんとに、まったく、あの子ときたら…。 苦笑するミネアの後ろから、声がかかった。 「今回の件は、あんたには、とんだ災難だったわね。」 振り向くと、両手に酒の入ったグラスを持ったマーニャが立っていた。 「…そうね。でも、災難だけってわけでもなかったのよ。」 ミネアは、マーニャからグラスを受け取りながら、くすりと笑った。 マーニャが、ミネアの笑顔にほっとしたような顔をして、その隣に座った。 「なによ、姉さん、何か言いたいことでもあるの?」 「別にー。あんたが良けりゃ、あたしからは何も言うことはないわよ。」 「………私ね。…心の底では、クリフトさんに想われたい、ってずっと思ってた。」 姉さん、知ってたでしょ、とミネアは笑い、酒を一口飲んだ。 「でもね、今回のアリーナさん見てて、自分はだめだなって、しみじみ教えられちゃった。」 「…。」 「…相手が誰を想おうが、何よりも相手の幸せを一番に思える関係って…すごいわよね。」 「…。」 「ずっと年下なのに、何かもう、全然敵わない。却って、すっきりしちゃった。」 「…あの子の場合は、その自覚が全くないところが、それはそれで厄介だけどねえ。」 「そうね、うふふ…。そこら辺は、これから頑張って自覚してもらいましょ。」 ミネアは空になったグラスを置いて立ち上がると、クリフトに手を振って叫んだ。 「クリフトさーん、夕食の用意、手伝いましょうかー!」 クリフトが嬉しげにミネアに向かってうなずき返し、アリーナがその横で体を強張らせた。 「…ミネア、あんたって、けっこう意地悪ねー。」 「あら、私だって災難だったんだから、これくらいのお返しはかまわないと思わない?」 それに、そろそろアリーナさんにも自覚してもらわないと、とミネアは明るく笑うと、 馬車を降りてクリフト達のもとに駆け寄った。
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【クリアリ】クリフトとアリーナの想いは Part13【アリクリ】 346 3 名前 名前が無い@ただの名無しのようだ Mail sage 投稿日 2013/08/26(月) 23 18 00.34 ID fWDDlR6W0 『小さな契約(ゲッシュ)』 気球から見下ろす眼下に、懐かしいサントハイム城が微かに見え始めた。城のあちこちで人が動く様子がうかがい知れた。 「クリフト、ブライ。お城の人達が戻って来てる」 私は努めて明るい声で二人に話しかけた。 「そうでございますね、姫様」 「儂ら苦労も報われたという事ですな」 ぎこちない二人の返答。 私も二人も分かっている。 平和が戻り、人々が、日常が戻ったという事は、自由の翼を折り、再びさまざまな柵に括られる日々が戻らなければならないと。 「ねぇ、クリフト。ここから飛び降りたら、旅が続けられるのかな」 私はそう言って、気球から身を乗り上げた。 「姫様」 震える声で、私を呼んだクリフトは、乗り上げていた私の体を優しく抱きかかえた。 「クリフト…… 」 「姫様、クリフト。気にせんでもいいぞ。後の事は儂にまかせておけ」 私達の後ろから、ブライの優しい言い聞かせる声が響いた。 「姫様……」 「ええ、そうね。私達が戻る場所はただ一つ」 複雑な想いが交錯したような青い瞳を、私は赤い瞳で見つめ返した。 分かっている。進みたい道と選ばなければいけない道は違う事を。 「サントハイム城に戻るわ」 クリフトの腕をほどいて、私は二人の前に立ち笑いかけた。 「姫様。私は生涯、貴女に全てを捧げます。何があっても貴女の影となりお傍に」 膝をついて、宣言をするクリフトの手を私は取った。 「クリフト。私に生涯ついて来て、貴方が生涯私の影でいられるように、私はサントハイムの輝きとなる」 私はこの時のクリフトの手の温もりと優しい笑みは一生忘れられないと思った。 「姫様、クリフト。このブライ見届け人として、確かに見届けましたぞ」 三人のだけの小さな契約はそうして交わされた。
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クリフトとアリーナへの想いはPart.9 781 名前 737  Mail sage 投稿日 2009/02/23(月) 01 06 08 ID QQESyeu40 【違和感の正体】1 アリーナはあの日以来、自分の部屋でぼんやりとすることが多くなった。 もちろん1階にも一度も行っていない。 クリフトに会うのがなんだか怖いのだ。 どうしても部屋を出るのがおっくうになってしまう。 そんな引きこもりがちなアリーナに説教をしてきたのは教育係のブライだった。 「姫、お部屋にずっと閉じこもるなんて不健康にも程がありますぞ!」 「なによ!お城の外には出してくれないじゃないの!」 「城内の国民に元気なお姿を見せるのも姫の大事な役割です。さ、行きなされ!」 アリーナは泣きそうな気分になった。 自分の家みたいな気でいたサントハイム城を まさかこんなに緊張しながら歩く時が来るとは思わなかった。 すれ違う国民と愛想よく挨拶を交わしていく。 アリーナはダンジョンを探索する時よりずっと緊張していた。 この時間帯なら、クリフトは教会の中にいるはず。 クリフトに会わなくて済むルートを頭の中で何度も反芻した。 (曲がり角を曲がる時は周囲を確認して・・・っと・・・) 高揚感がずっと続いている。心地良いような悪いような、変な感覚。 (教会が近くなってきたから、ここからもっと警戒しないと・・・!!) 柱の影に隠れて前方を確認した時だった。 緑色の神官の制服を着た男性がいる――― クリフトだ。 クリフトは銀の十字架のオブジェを磨いていた。 こちらには気づいていない。 (よかった・・。気づかれる前に気づいて。) アリーナは安堵の息をついた。 丁寧に、慎重に、大切そうに十字架を磨いていくクリフトのその所作を じっとアリーナは見つめていた。 その時である。 『ア リ ー ナ 姫 様 ! ご 機 嫌 う る わ し ゅ う !!』 全身の毛穴が一気に開いた。 声の主はガタイのいいサントハイム兵士だった。 (こ、こ、こここ、声がデカイ) 『城 内 、異 常 あ り ま せ ん !!』 (やめて、やめて、やめて、クリフトに気づかれちゃう) 変な汗が出る。 『そ れ で は 、 失 礼 い た し ま す ッ!!』 最敬礼をし、兵士は去っていった。 頭がクラクラする。 そんなことよりも一刻も早く ここを立ち去らないと・・・・そう思って一歩踏み出した時にはもう遅かった。 目の前にはクリフトがいた。 「クリフト・・・・。」 今すぐに逃げ出したい気持ちでいっぱいになった。 「姫様。」 クリフトはまじまじと自分を見つめている、のが分かる。 目を合わせられない。クリフトの指先を見る。 長い指。銀の酸化した黒ずみが付いて少し汚れていた。 「姫様、何かお悩みでもあるのですか?」 どきりとした。 「な・・!?そんなもの・・・・ないわ。」 ひどく狼狽する。 「そうですか・・・・?」 クリフトは腑に落ちない様子だったが 無理に納得したような素振りをした。 暫く無言の後、クリフトは思い切ったように言う。 「姫様。失礼ですが、先日から様子が変です!」 「へ、変って何よ・・・。」 目線をクリフトに向ける。クリフトの頬にはやはり髭はなかった。 そんなことを確認してしまった自分がなんだか恥ずかしい。 「もしかしたら、私の風邪がおうつりになってるのでは・・・!?」 クリフトの顔が近づく。無意識に同じ分だけ離れる。 「う、うつってなんかいないわ。」 「でも、お顔が赤いですよ。」 「!!」 アリーナは目を見開いた。 「私の顔が、赤い・・・・・?」 「はい。ですから熱があるのではないかと。」 「・・・・・まさか、前に会った時も赤かった?」 「はい。」 アリーナは呆然とした。 自分はクリフトに対して赤面している? あの時からずっと感じている“違和感” クリフトにだけ感じている“違和感” だるくて、息が詰まる、この“違和感” この違和感の正体はもしかして――― 「・・・・私、部屋に戻って休むわ。」 「女官を呼んで参りましょうか?」 クリフトは当然だがアリーナの部屋のある3階には出入り出来ない。 「大丈夫。一人で戻れるわ。」 フラフラとアリーナは歩き出す。 クリフトが何か色々と喋っているがアリーナの耳には入らなかった。 歩きながらアリーナはずっと考えていたが、 自分の感情がうまくまとまらない。 ただ、これだけは確実に言える。 自分はクリフトを男性として意識してしまっている―――。 2009.2.26へ続く