約 1,317,258 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4815.html
前ページ次ページ鋼の使い魔 魔法学院はその建物構造として、巨大な五つの塔とそれ繋ぐように作られた屋根を主として出来ており、それに付随するように大小の建物が作られている。 さて、それらの建物をぐるりと囲む塀の正面が空けられ、本塔の出入り口までの直線上に、各々に着飾った生徒と教師達が並ぶ。 やがて街道から学院の敷地内へゆっくりと入ってきた、幻獣らに率いられた王女一同が到着すると、整列した者はみな杖を掲げて迎えた。 敷かれた緋毛氈に音もなく足を下ろす王女アンリエッタ、そしてそれに続くマザリーニが、衛兵や護衛の幻獣騎兵に見守られながら本塔入り口前のオスマンの元まで静か に歩いていく。 直立してきびきびと杖を上げ、永代の忠誠を示そうという若者達に、アンリエッタは手を振って答える。 賑やかしくも厳かな雰囲気を作っている歓迎式典の外側にたむろする人影があった。木陰の元に座り本を広げたタバサ、その脇に立つキュルケ、そしてギュスターヴであ る。 キュルケとタバサは留学生である為、この歓迎式典への参加は強要されなかったし、ギュスターヴにいたっては一使い魔というのが形式上の身分である。列席できるわけ もない。 キュルケは居並ぶ生徒の隙間から覗けるアンリエッタの容貌をつぶさに観察していた。 「へぇ。あれがトリステインの王女様ね。結構綺麗だけど、私には負けるわね」 いかにも自信に満ちたゲルマニア娘らしく、髪をかきあげて鼻で笑って見せたキュルケ。 しかしギュスターヴは、その様がなぜか滑稽な感じがして、笑っては悪いと思いつつも、篭るように笑い声が出てしまう。 キュルケはそんな、熟成された大人の男の雰囲気を持ちながら、どこか青年のような振る舞いを見せるギュスターヴを見せられて、自分が何か変な事をいったのではない かなどと思えて、逆に恥ずかしい気持ちがする。 「あら、お笑いになるなんて酷いわミスタ」 「いやいや…」 詫びるように手を出すギュスターヴだが、顔は綻んでいる。余計に自分がただの小娘のようで、キュルケの頬がほのかに羞恥に熱を佩びるようだ。 そんな様を脇に見ていたタバサは、さて、二つ名らしい冷静な一言を友人に献上する。 「柄じゃない」 「ぅ…」 冷や水を浴びせるような物言いに、別にいいじゃないと言えば、柄じゃない、と先とおなじ調子で返されて、こちらは微熱も冷めるというものだ。 そんな和気とした娘達のやり取りを尻目に、ギュスターヴは整列しているはずのルイズを目で探していた。 そのチェリー・ブロンドは遠目からでも目立つから、労もなく見つけることが出来た。 しかし、どことなくであるが、ルイズの視線は緋毛氈の上を進む王女から外れているように思えた。さて、ではルイズは何を見ているのだろうか。 ギュスターヴは次に、馬車の周りに待機している護衛たちに目を向けた。数騎の見慣れぬ動物にまたがり、それでいて規律による制御を纏った男の中に、一際立派な一つ を見つける。 獅子の体躯に大鷲の頭と羽根を持った獣に騎乗し、視線は窺えぬほど大きく立派な羽帽子を被った男だ。 (あの男…) 帽子の影から輪郭に沿って揃え切られた顎鬚が見える。 (王族の護衛なのだから、相当に腕は立つのだろうな) 一剣士として興味はあったが、さて、何ゆえルイズの視線を集めているのかは想像できない。 むしろギュスターヴは、今オスマンから礼を受けて一言二言交わしているアンリエッタとマザリーニに興味を移す。それは勿論、ここに並ぶ貴族らのそれとは、二色三色と 意味を変えたものだ。 (あれが宰相と、王女か) ギュスターヴの目に、トリステインの屋台骨を支える枢機卿は、あだ名される『鳥の骨』よろしく、肉体から力が絞り尽きかけているかのように見える。対照的に、手をオスマ ンに取られたアンリエッタは、血と育ちが作る高貴を惜しみなく振りまいていた。しかし、 (王女に政をする人間が持つ『鋭さ』がない…。宰相の負担も相当なのだろう。王女も政治に興味があるというわけじゃないのだろうな) 時に稚いほど繊細な空気を持っていた、年離れた妹を思い出す。 (マリーも政治に興味は持たなかったな…) あれはあれで、周りに同族の男達がいたからそうであれたのだが。 (…未練ったらしいと、お前は笑うか?フィリップ) 果たして、友に託した妹は、健在であるのだろうか? 『アンリエッタ来訪』 アンリエッタの行幸せし魔法学院の晩餐は、それに見合う規模の食事を用意するべく、地下の厨房も平時以上の繁忙を見せた。 厨房を仕切るマルトーは勿論、メイドに復帰していたシエスタなど、有能を買われて平メイドから昇進、同輩達を指揮する立場に置かれて走り回って過した。 そんな夕食も終わり、生徒達も各々の部屋に戻って思い思いに過す頃。 ルイズは式典からずっと、心ここにあらずという状態で、部屋の中でも机に向かったかと思えば、ぼんやりと外を眺め、かと思えばベッドに倒れこんでゴロゴロしたり、と まったく落ち着きがない。 ギュスターヴは、放っておけば治まるだろうと相手にせず、コルベールからもらった端切れの紙を使って、文字の練習をしていた。 「嬢ちゃん。いい年なんだからちっとは落ち着いたらどうよ?」 たまらず声をかけたデルフだったが、ルイズは答えずやはり落ち着かずフラフラと部屋を彷徨っていた。 ギュスターヴが字を紙一杯に書きつけた頃、何者かが扉を叩く。 「誰か呼んでるぞ」 「うん。……このノックの仕方は……」 ゆっくり二回、素早く三回ノックする、それを三回繰り返してから、客人はそっと扉を開けて室内に入ってきた。 その姿は顔はおろか足先まで覆い隠すほどのローブを纏っていた。かろうじて、体の線から女性らしい事がわかる。 室内に入ることが出来た客人は、懐から水晶のついた立派な杖を抜くと、外壁や窓に向かって杖を振った。 「ディティクト・マジック…?」 「どこに目や耳が潜んでいるから判りませんから…」 「その声は…」 客人がローブを脱ぐ。 ギュスターヴは目を見開いた。その正体は昼間、遠くから観察していた、王女アンリエッタその人に相違いなかった。 「お久しぶりね、ルイズ」 「アンリエッタ殿下?!」 客人の正体に衝撃を受けたルイズは、さっきまでのフラフラ振りも吹き飛んで、床に跪いて王女を迎える。 アンリエッタはそんなルイズを見て、身を屈めて抱きしめた。 「やめてちょうだいな!ルイズ。貴女と私はお友達じゃないの」 「勿体無いお言葉です。殿下」 「もう!そんな堅苦しい挨拶は止めて頂戴。ここにはあの辛気臭い鳥の骨も、政から逃げる事しか考えていない母上も居ないんだから。友人にまでそんな素振りをされたら 、私は悲しくて死んでしまうわ!」 「そうは言いますが、殿下」 「幼い頃、一緒に遊んでくれたでしょう?宮廷の庭を二人して蝶を追いかけたり、侍従に召し物を汚して叱られたり…」 まさに懐かしむようにアンリエッタは幼い日々の思い出を諳んじてみせる。 「…ええ。クリーム菓子を取り合いしたり、ドレスの奪い合いで喧嘩もしましたわ」 「懐かしいわ…あの頃は。今ほどにあれこれと目に付かなくて」 すっかり蚊帳の外に置かれたデルフとギュスターヴ。デルフはカタリと鳴って聞いた。 「お嬢ちゃん。お姫さんとはどんな知り合いなのよ?」 「口を慎みなさいボロ剣!…ご幼少の頃、恐れ多くも遊び相手を務めさせて頂いていたのよ。でも、その頃の事など、もうお忘れになられていたと思っていました」 「忘れたりしませんとも。あの頃は毎日が楽しかったもの」 アンリエッタとルイズはベッドに腰掛け、更なる思い出話や巷に溢れている他愛もない噂について語り合い始める。その様は年頃の町娘とそれほど違いはない。 アンリエッタは次第に日々の愚痴を零していく。宰相と母マリアンヌ女王の間を行き来するように扱われていること。そんな日々に鬱憤を貯めたあげく、今日は旧友と会うた めに抜け出してきた事も。 「…御政務を耐えるご心痛、察しいたします、殿下」 「ふふ…。貴方がうらやましいわ、ルイズ」 ふ、と無意識に自嘲の笑みが出る。魔法も使えぬ私を羨んでくれるなど、お優しい。 「何をおっしゃいます。殿下は唯一無二のトリステイン王女じゃないですか」 「王国の姫なんて自由もない、籠の鳥よ?声一つで、何処にでも行かされるのだから…」 声の調子が落ちて、アンリエッタの視線が遠く窓を見ている。二つの月はいつの夜も明るく高い。 「…結婚するのよ、わたくし」 「……おめでとうございます」 アンリエッタの雰囲気から、ルイズもそれが快いものと思っていないことを察した。 「風の噂で聞いているだろうけど、アルビオンが内乱で滅ぶそうよ。聖地奪還を謳う賊軍が、あの白の国から飛び出て蝗のようにハルケギニアを食い尽くしていくでしょう。 そうなれば、小国トリステインは火をつけた枯葉のようにたやすく燃え尽きるのです」 「…はい」 「ですから今回のゲルマニア訪問も、私のゲルマニア皇帝との結婚を条件に軍事同盟を結ぶことになったのです」 「あの蛮族!ゲルマニアなどにですか!」 「仕方がありません。世の流れですから…」 話し込むと人は周囲の状況を良く忘れていく。年若い娘達なら尚の事である。 話の輪の外に置かれた一人と一本。デルフが小声でギュスターヴに問いかけた。 「なぁ相棒。これってものすげー大事な話なんじゃね?ふつー、国の大事な話をお嬢ちゃんみたいな小娘に話すもんじゃーねーと思うんだけどよ」 「まぁな。よっぽど友人と話す言葉が欲しかったんだろう。聞き及ぶ限り、王女は女王や高官にいいように使いまわされているらしいしな」 (母親には政務を押し付けられ、高官には人気取りや取引材料に使われ、か…。面倒なものだ。お飾りも身代わりも嫌なら自分で行動すればよいものを。怠惰な娘だ) 「……それにしても、ごめんなさいな、ルイズ」 「なんでしょうか?」 「そこの彼、恋人でしょう?二人の時間に割って入ってしまって、つい懐かしくて粗相をしてしまいましたわ」 「えっ?!ちょっ、違います!」 「あらそうなの?」 とんでもない誤解だと、ギュスターヴは声を殺して笑う。 「笑うんじゃないわよ!姫さま、あれは私の使い魔でございます」 「使い魔?」 改めて、ギュスターヴは衣を直して背を伸ばし、深く礼をする。 アンリエッタはそれをしげしげと見ていた。 「人にしか見えませんが…」 「正真正銘の人です。多少、剣が使えます」 多少ね…、と、謙遜させる様を笑うギュスターヴと、それをルイズが睨んで返す。 そんなやり取りをきょとんとした顔でアンリエッタは見ていた。 「そう…。あなたって昔から少し変わっていらしたものね」 「いえ、別に好きでこれを使い魔にした訳では…」 「でも、メイジと使い魔は不可分の関係といいますから」 「それは、そうなんですけど…」 自分の部屋なのに妙に居心地の悪さを感じるルイズであった。 しかしアンリエッタは、そんなルイズと、ギュスターヴを交互に見てから、静かにため息を吐いた。 「いかがなさいました?」 「何でもありませんわ。…嫌ね、わたくし。こんな事話せることじゃないのに」 「何の事かは存じませんが、お悩みならお聞かせくださいませ」 「いいえ、話せませんわ!忘れてくださいな」 「いけません!先ほど言ってくださったではありませんか!友人と呼んでくれたではありませんか。友人と思ってくださるなら、悩みのお一つもお聞かせくださいませ」 アンリエッタとルイズの会話が、徐々に熱を佩びていく。傍目には明らかにアンリエッタが引き金になっているのを見てとれるギュスターヴとデルフは、 対照的に冷めた気分でそれを眺めていられる。 「痛いなぁ、嬢ちゃんたち」 (芝居がかってるなぁ。無意識にやってるならとんでもない娘だ…) 「…今から話す事は誰にも話してはいけません」 アンリエッタが話を始めようとドレスのすそを直していた。ルイズはギュスターヴに視線を向ける。 「ギュスターヴ、席を外してくれる?」 「ん…あぁ」 部屋主が出ろという以上、ギュスターヴはデルフを持って廊下に出た。 「何はなしてんだろーなー。あの二人」 廊下に出たものの、それなりに会話の内容は気になる。 「さぁな」 (暫く時間を潰すにも夜中だしな…コルベール先生のところにでも…) さてどうしようか…と足を踏み出そうとした時、隣の部屋の扉がきぃ、と開き、部屋の中から声と共にギュスターヴを手招いた。 「はぁい。夜分遅くごきげんよう」 「キュルケ」 「部屋閉め出されちゃったんでしょう?しばらくうちに来ない?」 キュルケの部屋はルイズよりももっと色彩を落とした、シックなしつらえの調度品が使われていた。しかし部屋の各所には色の派手な使い方をしていて、情熱的な ゲルマニア人らしい感じである。 キュルケの部屋には先客が居た。タバサである。 「どうしてタバサがいるんだ?」 「この子、私の持ってるレイピアを貸してくれって言うのよ」 「レイピアを?どうして」 タバサはホットワインの注がれたカップを置いて答えた。 「剣の練習に使いたい」 「おいおいちびっ子。こんなお飾りだらけの剣で練習なんてできるかよ」 無造作に部屋に置かれていたレイピアを、ギュスターヴは小枝を拾うように持ち上げる。 「…まぁ、素振りに使える程度の代物だな」 「酷い言い草ねぇ。せっかく部屋にお招きしたのに」 「ははは…いや、助かった。夜中じゃ行く宛もないからな」 床を這うフレイムがきゅるきゅると呻って足元にいる。 「ところで、誰がルイズを訪ねてきたのかしら?背格好の感じだと若い人みたいだけど」 「さぁな。俺が言うことじゃない」 「そ。じゃあ、自分で調べちゃうわ」 タバサにキュルケがなにやら耳打ちをしている。 「剣と交換」 「もぅ、吝嗇ね~。ま、いいわ。剣の代金は実家から払ってもらってるし」 やにわにタバサが立ち上がり、ルイズの部屋と隣接する壁に杖を振って魔法をかける。 すると壁の向こう側から徐々に話し声がはっきりと聞こえてくる。 「音を遮断する『サイレント』の応用ね」 「まったく…好きにしろよ」 参ったギュスターヴは黙って椅子の一つに座り、キュルケとタバサもベッドに座って隣の声に耳を傾けた。 ルイズの部屋から聞こえてくる。二人の声に神経が注がれる。 「好きな相手と結婚できるなんて、始めから思ってないわ。そうでしょ?ルイズ」 「えぇ…まぁ…」 「アルビオンのおぞましき貴族達は、王家を堕落した存在と糾弾し、アルビオン統一の後のために他の王家の瑕を探しているのです」 「まさか。誇り高きトリステインの王家に、そのようなものがありましょうか!」 「……そうであればどれ程良いのでしょうかね」 「…ま、まさか……」 「…ええ、あります。一つだけ」 「それは一体…」 「わたくしが以前、アルビオンにおわすウェールズ王太子にしたためた一通の手紙です」 「し、しかし恐れながら、手紙一つで大事になるのですか?」 「おそらくは。あれに書かれた内容は受け取り様によってはゲルマニア皇室との婚約が破棄されるようなことが書いてあるのです」 「そのような物が…」 「まだ王軍が持ちこたえているうちは、問題ないでしょう。しかし月を跨ぐ事無く王軍は壊滅するだろうと聞きます。そうなれば手紙が反乱軍の手で 白日の下に晒されてしまう。そうなればこの国は終わりです…」 やがてすすり泣くアンリエッタの声がキュルケの部屋から聞こえる。 「ミスタ・ギュス。よろしいかしら」 「何だ?」 キュルケの目は聞こえてくる泣き声とあわせるには実に冷めている。 「『昔送った手紙が見つかったら私は恥ずかしくて生きていけないわ!』って言ってるように聞こえるんだけど、気のせいかしら?」 「俺に聞かないでくれよ」 ギュスターヴも少しうんざりした風情だ。 「うちの皇帝と婚約っていうと、客人はアンリエッタ王女ね。昔の手紙一つで同盟を反故するようなナイーブな人物じゃないわよ」 「詳しいな」 「まぁね。うちもゲルマニアじゃ上から数えたほうが早い家格のつもりよ」 事実ゲルマニアという都市国家群の中で、ツェルプストーは皇帝に一言物申せる程には権力を持っている。それで居ながら皇帝に目をつけられないのは、 ツェルプストー家自体の視線が対面するラ・ヴァリエール、率いてトリステインからの防衛に向けられているからである。 ふたたび聞こえてくる話し声。それは先ほどよりも激しい語調になっている。 「ああ、ルイズ!ルイズ・フランソワーズ!わたくしは、わたくしは一体どうしたら良いのでしょう?!戦に乱れるアルビオンにある手紙を消し去るなど、わたくしには出来ません!」 「姫さま…姫さま。このルイズ・フランソワーズめに一つの考案がございますわ」 「なんでしょう?」 「不肖このルイズ・フランソワーズ。アルビオンには幾らかの土地勘がございます。それにあと数日でアルビオンがハルケギニアに最も近づく『スヴェル』の日になります。 ですから…」 「いけません!友人をアルビオンに赴かせるなんて、そんな危険な事、とても頼めませんわ!」 「いいえ、行かせて下さいまし!このルイズ・フランソワーズ、姫さまの御命であれば地獄の釜の底でも、毒龍の肺腑の中でも行く所存。姫さまとトリステインの危機を 見過ごすことなど出来ません!」 「わたくしのために、そこまで行ってくれるなんて…嬉しいわ、ルイズ!わたくしは始祖から無二の友人を与えられて光栄ですわ」 「勿体無きお言葉です、姫さま…」 隣で聞いていた三人と一本。そのやり取りの酷さに今度はキュルケが深いため息を漏らした。 「…ミスタ」 「聞くな」 実際ギュスターヴもさらにうんざりしている。 「……ルイズもお姫様も、なんだか随分夢みたいな事言ってる気がするんだけど。ルイズが本当にアルビオンに土地勘があるか疑わしいわ」 「地に足つけて旅行したわけじゃないはず」 タバサが補足的に続ける。 「こんな事を王族が言ってるから、トリステインは国力を落とすのよ。見栄ばかり強くて、中身が伴わないんだもの」 「っていうかよー。お嬢ちゃんが行くっつーことは、相棒と俺様もついていかなきゃならないんじゃね?」 「そうね。ルイズがついてこいって言ったらそうなるわねぇ」 その言葉にギュスターヴは深いため息を漏らすのだった。 やがてルイズの部屋からアンリエッタが出てゆき、その頃合を計ってギュスターヴも部屋に戻るべく、キュルケの部屋を辞した。 「また何かあったら来てね。いつでも待ってるわ~」 ひらひらと手を振るキュルケを振り切って、ルイズの部屋へ戻る。 「…もう帰ったのか、王女は」 「ええ。ところで、明日は朝一で出かけるわよ」 「……どこへ」 もうどこに行くかは判っているのだが、盗み聞きしていたとは言えない。 「それは明日になったら教えるわ。だから今日はもう寝るのよ」 細かい話をするわけでもなく、ルイズはいそいそと寝支度を始め、さっさとベッドに入ってしまった。 灯りも消され、ギュスターヴとデルフだけが暗い部屋にたち残される。 明かりも消されてどうしようもない。ギュスターヴはいつもの寝床に入り、デルフを立てかけると、デルフが鳴って話しかける。 「なー相棒」 「ん?」 「本当にアルビオンに行くのかね」 「行くんだろう。本人が行くって言うんだから」 「相棒は納得できるのかよ」 「……正直言えば、余り納得はいかないさ」 「そりゃそうだわな」 「……でも、ルイズをつれて外国を見に行くっていうのは、悪くないと思うんだ」 「随分と余裕だな相棒。アルビオンは内乱で荒んでるんだぜ?しかも死に掛けの王軍の中に飛び込まなくちゃいけないんだぜ」 「そうだな……」 物思うギュスターヴ。 (ルイズももう少し冷静だろうと思ったんだがな…王女の過分な期待に負けたかな) 「…まぁ、最悪ルイズが生きて帰ってこれればいいんだろう」 「おいおい、たかが子守で死なれちゃ、『ガンダールヴ』も形無しだぜ」 「はは、そうだな。…んじゃ、俺は寝るぞ」 やがてデルフも静かになり、ギュスターヴの意識も、深い睡魔の中に沈んでいった。 ルイズとギュスターヴがアルビオンへ行く事になった、そのちょうど一週間前。 トリスタニア郊外に聳え立つ、寒色で塗り込められた巨大な建物が建っている。 トリステイン最大の監獄チェルノボーグである。 その監獄の奥の奥。夜闇を差し引いても暗い一室に、今より数十日前から人が入った。 時間も夜遅く。そこに収監された女性は、寝汗をじっとりとかき、悪夢に苛まれているように呻きながら、浅い眠りに身を窶している。 廊下の向こうから聞こえてくる。きぃ、きぃという何かを押している音が、やがてその部屋の前で止まった。 「起きろ。『土くれのフーケ』」 人気の殆どない監獄の中で、その声は実にはっきりと響き、フーケの意識を現実に引き戻した。 「うぅ……誰だい。こんな夜中に」 明り取りの松明の影に浮かぶ一人の男。その顔は仮面を被っていて様相は判らない。男が押していたのは、木で出来た車椅子だった。 「よほど貴族達に嫌われたようだな」 粗末なベッドに横たえていたフーケ。筵のような毛布の下に残した足の両脛から下は、生気のない黒紫色に変質し、力なくだらりとベッドの上にあるだけだった。 「収監時に足を切られ、水の魔法で表面だけ治されたな。失血で死にはしないが、一生をその足で歩く事は、もうない」 ぎりり、とフーケがその麗しい小顔を歪める。覚悟していたとはいえ、貴族相手に続けた盗みの果てが、これだった。 「人が寝ているのを起こして、言いたい事はそれだけかい」 「まぁ待て。私はお前を助けに来たのだよ」 ククク、と笑い声を殺しながら、男は監獄の鍵を開けて車椅子と共に入ってくる。 「我らの仲間になるのなら、お前をここから出してやろう。『マチルダ』」 その一言はフーケの顔色を吹き飛ばした。 「何故その名で私を呼ぶ」 「再びアルビオンを拝みたければ首を縦に振るがいい。でなければこの場でその首を落とすだけだ」 男が抜いたのは黒い杖。わずかな明かりに浮かぶ杖先をフーケは睨んだ。 「これだから貴族っていうのは嫌いだよ。強制なら命令すればいいじゃないか」 「そうだな。なら、『われらの仲間になれ』」 静かにベッドに寄せられた車椅子に乗り移り、フーケは悠々と監獄を抜けた。 「…で、その『我ら』っていうのはなんなのさ」 「我々は国を越えて繋がる貴族の連盟なのだよ。今ある腐敗した王家を打倒し、ハルケギニアを統一してエルフに奪われた聖地を手にするために」 「夢物語だね、そんなの…。エルフに勝てるものかい」 「なんとでも言うがいい」 「で、そんな志篤い貴族様方のグループにも、名前があるんだろう?」 「ああ」 きぃきぃ、と車椅子の車輪が鳴る。 「『レコン・キスタ』だ」 前ページ次ページ鋼の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1665.html
浮遊大陸アルビオンの北東部に位置する港町、スカボロー。 其処より更に200リーグ北東、大陸から突き出した岬の先端に聳え立つは、名城と謳われしニューカッスル城。 5万の敵に幾重にも取り囲まれ、度重なる戦艦からの砲撃を受け傷付いて尚、その威容は損なわれる事が無い。 その姿は正しく、この地にて最後を迎えんとする王党派の誇りを代弁するものであり、同時に彼等の墓標としてはこれ以上無く相応しいものであった。 そして、その巨大な墓標を包囲する5万の貴族派兵士の中、傭兵達は迫る突入の時へと思いを馳せ、損得勘定に精を出す。 「……どうせあの戦艦が1発ブチかました後だろ? 生き残りなんか居るもんか」 「解らねぇぞ、風の魔法で砲弾を凌いでいるかもしれねぇ」 「俺達を先頭にして突っ込ませるって聞いたが、ありゃガセか?」 「さあな……ま、上手くやりゃ生きて城内に入れるさ。そしたら後はお宝だ。連中が持ち込んだ財宝がどれだけ在るか……」 「馬鹿、財宝なんざロンディニウムの連中が粗方かっぱらっちまったじゃねぇか。こんな場末の城に目ぼしいお宝なんか在るもんか」 「いや。連中、結構な荷物抱えて此処に入ったからな。もしかしたら……おい、何だこの音?」 突如、何処からか轟きだした律動音に、彼等は揃って周囲を見渡す。 見れば他の兵達や指揮官の貴族すらも、この不気味な重低音の発生源を探して忙しなく首を動かしていた。 やがて兵の1人が、南東の方角より接近する奇妙な物体をその視界に捉える。 「見ろ、あれだ!」 その声に、彼等は一斉に彼の指す方角へと向き直った。 物体はその間にも驚くべき速度で距離を詰め、瞬く間に彼等の頭上へと差し掛かる。 そしてその巨体が、更に上空に浮かぶレコン・キスタ旗艦『レキシントン』の影に重なった瞬間――――― 白い尾を引く無数の火球と共に、鋼鉄の異形が地へと放たれた。 「話には聞いてたけど……凄いな」 地上の混乱を銃座から見下ろしつつ、身震いするかの様にギーシュは呟く。 その声はローターの轟音に遮られて誰の耳にも届く事はなかったが、ブラックアウトの機内に居る一同、多少の差異は在れど似た様な心境だった。 「……あれはゴーレムなのかい?」 ワルドが爆炎と土煙に覆われる地上を呆然と眺めつつ、傍らのルイズへと問い掛ける。 ルイズは曖昧な笑みを浮かべると、困った様に答えを返した。 「まあ……そんなところです」 次いで頭上を見上げ、轟然と空に浮かぶ巨大な戦艦を睨む。 釣られてワルドも頭上を見遣ると、その顔に険しい表情を浮かべて呟いた。 「アルビオン空軍旗艦『ロイヤル・ソヴリン』号だ……貴族派に乗っ取られたらしいな」 その名前ならルイズも聞いた事が在る。 ハルケギニア最強と謳われるアルビオン空軍、その艦隊中枢である巨艦『ロイヤル・ソヴリン』号。 その巨体に見合わぬ高速性を持ち、百を超える砲門と無数の竜騎兵を積んだ、空中の動く要塞。 聞き齧っただけの話だが、トリステイン空軍はあの怪物との戦闘を想定した際、実に6隻の戦列艦が必要との結論に達したという。 しかも確実に勝てるという訳ではなく、少なくとも同等に戦うにはそれだけの戦力が必要との事だ。 正しく、空軍大国であるアルビオンを象徴する艦といえる。 しかしそんな化け物が頭上に浮かんでいるにも拘らず、不思議とルイズは恐れる気にはならなかった。 それは根拠の無い自信などではなく、ブラックアウトに対する絶対の信頼から来るもの。 傍らのワルドへと目を遣れば、彼もまた確信に満ちた笑みを浮かべていた。 「大丈夫だ。この状態で砲撃すれば、味方を巻き込んでしまう。代わりに連中が寄越すのは……」 その時、コックピットのすぐ外側を、紅蓮の火球が掠め飛んだ。 反射的に横を見れば、其処には十を超える竜騎兵の姿。 アルビオンが誇る火竜騎兵だ。 「来たぞ!」 「ブラックアウト!」 ルイズが叫ぶより早く、ブラックアウトは戦闘機動を開始した。 速度を上げつつ、左にスライドして火球を遣り過ごす。 出し得る最高速度で『ロイヤル・ソヴリン』号の影から飛び出し、敵兵の頭上を飛び越えると同時に、砲声と共に降り注ぐ散弾を振り切ってニューカッスル城へと直進。 速度を落とし、挑発するかの様にテールを振る。 果たして、竜騎兵達は激昂したのか、一様にブラックアウトとの距離を詰めてきた。 味方が射線に入る為に『ロイヤル・ソヴリン』号は砲撃を中止し、ブラックアウトは低速を保ったまま悠々と低空を飛び抜ける。 やがて竜騎兵達はブラックアウトをブレスの射程に捉え、一斉に火球を発射しようと愛騎に指示を下す、その直前。 突如としてブラックアウトが進路を変え、急減速と共に彼等の眼前で急激な右旋回を行う。 そして追従が間に合わず、ブラックアウトを追い抜いた彼等の目と鼻の先には、悠然と佇むニューカッスル城の姿。 次の瞬間、彼等は城の至る所から打ち上げられた魔法の弾幕に飛び込み、原形を留めぬ肉片となってニューカッスルの空へと散った。 「どうやら味方だと判断したみたいだ」 「そうね」 機内で壁へと身体を固定しつつ言葉を交わす、ギーシュとキュルケ。 口調こそ普段と変わらぬものの、双方とも顔色は悪い。 急激な戦闘機動で気分を悪くしたらしい。 タバサは何時の間にか、壁際のベルトを使って確りと身体を固定していた。 銃座から覗く狭い空を見詰めていた彼女の目に、粗い岩肌が映り込む。 「……大陸の下に入った」 「あら、ホント」 やがて白い雲が視界に移り込んだ頃、ギーシュが慌てて銃座の窓を閉める。 同時にコックピットに居るルイズとワルドの視界が雲に閉ざされ、忽ちブラックアウトの周囲は白い闇、続いて大陸の陰に入った事による漆黒の闇に覆われた。 「……この使い魔は、周りが見えているのかな?」 「ええ……ほら」 ふと洩れたワルドの呟きに、ルイズはモニターを指差す。 其処には『城塞直下に船影探知』と表示されていた。 更に、詳細な情報が次から次へと表示されては消えてゆく。 「この情報によると、不明船舶はニューカッスル城直下から降下してきたとありますわ。恐らくは王党派の船でしょう。大陸下方に秘密の港でも在るのでは」 凄まじい早さで表示されては消えてゆく情報の量とその詳細さ、そしてそれを正確に読み取るルイズ。 その両者に対しワルドは内心、驚嘆の念を抱かずにはいられなかった。 久し振りに会った婚約者は、昔からは考えられぬ程に成長している。 強力な使い魔を従え、大量の情報を苦も無く処理するその姿に、心無い侮蔑の言葉に傷付いていた少女の面影は見受けられない。 彼女は、本当に成長した。 自分はどうか? 自分がこれから為そうとしている事は、果たして成長の結果と胸を張って言えるものだろうか? そんな自嘲の念を抱くワルドを余所に、ルイズは内心で冷や汗を拭っていた。 この情報の読み取りは普段からデルフによって叩き込まれていた技能だったが、デルフのサポート無しでの読み取りはこれが初めてである。 しくじった時の事を考え内心では戦々恐々としていたのだが、何とかそれを面に出す事無く情報の内容を伝えたのだ。 思わず軽く息を吐くルイズ。 その時ブラックアウトが減速し、前方の暗闇に淡い光が浮かび上がった。 「何だ……?」 「あれは……船の舷側?」 やがてはっきりと暗闇に浮かび上がったそれは、紛う事無き船だった。 甲板には複数の人影が動き回り、此方を指差しながら何事か怒鳴っている。 ブラックアウトはその喧騒を無視し、船首近くで静止するとそのまま上昇を開始した。 「成る程、この港から出航して貴族派の物資輸送船を襲っていたのか」 感心した様に呟くワルド。 直後、眼前に大勢の人間が犇く広場が姿を現した。 やはり彼等も、突然の侵入者に慌てふためいている。 ブラックアウトはゆっくりと広場の上に移動すると、ギアを出して極力静かに着地した。 そしてローターの騒音が幾分和らいだ頃、先ほどの船が後を追う様に彼等の昇ってきた縦穴から現れる。 舷側を此方に向け、全ての砲門を開いたそれは、妙な真似をすれば即座に撃つとの意思を如実に表していた。 やがてその舷側に金髪の精悍な青年が現れ、完全にローターの停止したブラックアウトへと叫ぶ。 「杖と剣を捨て投降せよ! ここは我等アルビオン王家と英雄達の墓! 汚す事罷りならぬ!」 砲と、矢と、剣と、杖と。 ありとあらゆる武器、そして魔法に囲まれる中、巨大な機体から人影が歩み出る。 黒い羽根付き帽に、グリフォンの刺繍の入った黒いマント。 髭を生やした端整な容姿の男。 続いて歩み出たのは、桃色の髪も目に鮮やかな少女。 この思わぬ2人の来訪者に、周囲の王党派兵士達は一瞬だが呆気に取られる。 其処に、港へと走り込んできた伝令の兵が声高に叫んだ。 「ほ、報告! 叛徒どもは巨大な蠍のゴーレムによって混乱状態! 敵戦線が崩壊を始めています! 蠍を投下した竜の行方は……う、うわッ!?」 報告の途中でその兵は、行方を眩ませた『竜』が目の前に居る事に気付き、盛大に声を上げる。 そんな中、ルイズは1歩前へと踏み出し、毅然と声を張った。 「トリステイン王女、アンリエッタ姫殿下より大使の任を受けて参りました、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと申します。不躾ですが、ウェールズ皇太子にお取り次ぎ願います」 ルイズ達がウェールズと共に彼の居室へと向かった後、キュルケ、タバサ、ギーシュの3人はデルフを携え、ニューカッスル城の宝物庫へと向かっていた。 デルフが今までに見た数々の城の構造から大まかに当たりを付け、その案内に従っての宝物庫探索という妙に信頼性に欠けるものだったが。 しかし意外や意外、彼等は見事に宝物庫へと辿り着いてしまった。 既に敗北を目前に控えた為か、見張りすら立たない其処はそれなりの鍵と固定化が掛けられてはいたが、デルフのトーチによって呆気無く口を開く。 そして侵入した宝物庫は眩く輝く金銀財宝ではなく、朽ち掛けた木製あるいは鉄製の箱が所狭しと並んでいた。 つい最近運び込まれたらしきものから埃を被ったものまで様々な箱が置かれる中、亜人型へと変形したデルフがそれらを纏めてスキャンする。 数秒ほどして、彼は部屋の一角を指差した。 「ギーシュ、壁際の赤い箱の下、鉄製の蓋」 「解った」 「んでキュルケの嬢ちゃん、あのチェストん中を適当にひっくり返してみてくれ」 「何でアタシは嬢ちゃんって付けるのよ……」 「私は?」 「俺とタバサの嬢ちゃんは見張り」 「楽」 そして数分後、彼等の前には2つの物体が鎮座していた。 「……銃ね」 「……銃だな」 「……銃」 「……銃だね」 それはデルフが見せた映像と然程変わらぬ型を持つ銃と、側面に幾つもの穴が開けられた漆黒の銃だった。 ギーシュがそれを持ち上げようと試み、予想以上の重さによろめく。 「お、重ッ」 「馬鹿、落とすなよ」 「む、向こうの兵隊は皆、こんな物を持っているのかい? 随分と精強なんだな」 何とか2つの銃を担ぎ上げた彼等は、こそこそと宝物庫から顔を出した。 人気の無い通路を宛がわれた部屋目指し、忍び足で歩く彼等の姿は成る程、火事場泥棒と呼ぶに相応しい。 やがて何とかキュルケとタバサの部屋へと辿り着いた彼等は、荷物を降ろすと同時に深い溜息を吐いた。 「何とかなったわね……うん、なかなか……クセになりそう」 「僕はもう御免だ……」 「なかなか楽しい」 3人が各々好き勝手に感想を述べる中、デルフは其々の銃を手に取り状態を確かめる。 キュルケ達も興味が湧いたのか、近寄ってきては物珍しげに2つの銃を覗き込んだ。 「……しかし見れば見るほど薄気味悪い銃ね。何と言うか……『骨』みたい」 「そうかな。僕には随分と頑丈な造りに見えるけど」 「構造とか、そういう問題じゃないのよ。その、上手く言えないんだけど」 「……不気味」 「そう、そうなのよ。良く解らないんだけど、不気味としか……」 そう言って、心底気味が悪いといった様子で後ずさるキュルケ。 タバサも同意なのか、キュルケ曰く『骨』を思わせる銃を身動ぎもせずに見詰めていた。 デルフは銃に目を落としたまま、そんな2人へと語り掛ける。 「強ち外れでもねーぞ。コイツは十分に曰く付きだ」 「へえ」 「そうなの?」 興味深げに訊き返す2人と無言のまま銃を見詰めるタバサに、デルフはその銃の異名を告げた。 「コイツの渾名はな、『ヒトラーの電動鋸』ってぇのさ」 ルイズは宛がわれた部屋の窓から、月明かりに照らされる敵の布陣を眺めていた。 既にスコルポノックによる攻撃は鳴りを潜め、敵の前線は2リーグほど後退した所で踏み止まっている。 地中からの奇襲を警戒しているのか、地面の一部を鉄に錬金する程の念の入れ様だ。 この強力な援軍に王党派は歓喜の声を上げ、貴族達は次々とルイズに賞賛を浴びせたが、彼女の心は重く沈んだままである。 「何で……何で死のうとするのよ……」 ルイズには恋人の哀願さえも振り切り、自ら死に赴こうとするウェールズの、その姿が理解出来なかった。 何故、最愛の女性の許へと向かおうとしないのか、その理由が理解出来なかった。 否、理解はしていたが、それを認める事が出来なかった。 「おかしいわ……こんなの絶対におかしい……」 何故、愛し合う者同士が引き裂かれなければならないのか。 何故、あんな恥知らずどもが我が物顔でのさばっているのか。 何故、これ程までに誇り高き者達が死ななければならないのか。 「絶対におかしいわよ……ねえ、そう思うでしょ」 ルイズは、今は地下の港で羽を休めるブラックアウトを思い浮かべ、小さく呟く。 何故か脳裏に浮かんだのは、婚約者であるワルドではなく、強大な己の使い魔の姿だった。 「時間は在る……」 ルイズはウェールズとの会話を思い出す。 3日後の朝、非戦闘員を乗せた船が退避する際に於いて、彼女達はその護衛の役を託されていた。 現在、王党派が有する船は地下で見掛けた『イーグル』号、只1隻のみ。 とても非戦闘員全てが乗れる大きさではないものの、ともかく乗れるだけの人員を乗せてラ・ロシェールへと向け出航するとの事。 その航海中の安全を確保する為、ルイズ達は今暫くこのニューカッスル城に滞在する事となったのだ。 「説得しなくちゃ……」 そう呟くルイズの耳に、遠雷の様な爆発音が届く。 ふと顔を上げれば、敵陣から少々離れた位置に爆炎が上がっているではないか。 どうやら敵の斥候がスコルポノックに発見され、砲撃を受けたらしい。 その揺らめく炎を眺めていたルイズは、背後で音も無く閉じられる扉に気付く事はなかった。 僅かなランプに照らされるだけの暗い通路を、彼は夢遊病者の様な足取りで歩んでいた。 その顔はまるで仮面を被ったかの様に無表情であり、深く思慮に沈む内面を表に晒さぬ様、分厚い壁を外皮に貼り付けている。 全てが予想外だ。 予定では、アルビオンへと到達するのは2日後の昼前だったのだが。 まさかルイズの使い魔が、半日足らずで学院からアルビオンまで飛べるだけの速度と持久力を持っていたとは。 ふと彼は足を止め、窓から覗く遠方の焔を見詰めた。 あの焔の根元ではどの様な惨劇が繰り広げられているのかと思考しつつ、彼は視線をずらして月を見上げた。 ……しかし、お蔭で時間は出来た。 総攻撃が始まるのは3日後、その間に頃合を見計らってウェールズを…… 其処まで考えた時、彼は舌打ちと共に表情を歪める。 何て事だ。 肝心な事を忘れていた。 自分は『イーグル』号の出航と共に、アルビオンを離れる事になっていたではないか。 これでは残って、彼等を誘き出す事が出来ない。 思わず拳を握り締め、それでも何とか思考を落ち着かせて計略を練る。 ……かといって、暗殺の事実を他国に洩らす事だけは避けねばならない。 即ち、『イーグル』号出帆以前に暗殺を実行するのは不可能。 だが。 脳裏に浮かんだ案に、彼は拳に込める力を更に増した。 それは良心の呵責と、覚悟の足らぬ己に対する憤りから来る力。 ……だがそもそも、それは『イーグル』号が出帆すればの話だ。 脱出すら出来ず、この城に存在する全ての者達が『戦死』してしまえば…… 敵陣の外れから再び、轟音と共に土煙が噴き上がる。 その様を見詰めながら、彼は自らの主君たる少女の姿を思い浮かべた。 ……他に頼る者が居なかったのだろうが、だからといって自らの親友を戦地に送り込むとは。 貴女が余計な真似さえしなければ、彼女は―――――ルイズは死なずに済んだものを。 幾ら強力な使い魔を従えているとはいえ、彼女は魔法の使えないメイジだ。 自身の目的からすれば、彼女の価値は只の平民と変わりが無い。 しかしそれでも、思い出の中の彼女は幼く、謂わば妹の様な存在なのだ。 甘い考えとは自覚しているが、出来る事ならば殺したくなどない。 しかしそれも、最早叶わぬ願いだ。 月に照らされたその顔に、悲壮な決意が浮かび上がる。 そして一瞬にして無表情の仮面を被った彼―――――ワルドはマントを翻し、通路の先の暗闇へと消え去った。 「出航は明後日の朝だ。それより早く出る船なんざ……いや、待てよ」 そう言うと無骨ななりをした船員は、別の枝に停泊している船を指す。 「あすこの『アケロン』号なら明日の昼過ぎには出るぜ。明後日の早朝にはスカボローに着く」 それを聞いたフーケは男に銀貨を3枚握らせると、話を付けるべく『アケロン』号へと向かった。 他よりも幾分若い『アケロン』号船長が言うには、アルビオンが最接近する頃合を見計らって到着する様に出航するという。 明日の昼にもう一度顔を出す事を伝え、2枚ほど金貨を置いて宿へと戻るフーケ。 その顔には明らかな焦燥が浮かんでいた。 こんな事なら、もっと頻繁に顔を出しておくんだった。 『銀のゴーレム』と『異常な強さの子供』も気掛りだが、何よりも現状で貴族派の調査対象になっているというのが不味い。 仮面野朗の話ではウエストウッドの事には触れなかったが、連中の手が及べば同じ事だ。 その前に彼女達を、あの地から遠ざけなければならない。 だが、何処へ? 彼女は足を止め、宙に浮かぶ月を眺める。 アルビオンはすぐ其処だというのに、待つ事しか出来ない自身がもどかしく、唇を噛み締めた。 ……もし、あの子に何かあってみろ。 あの仮面野朗、生かしてはおかない。 あらゆる手段を用いて、レコン・キスタとやらの重鎮どもを殺し尽くしてやる。 視線を月から離し、フーケは足早に宿を目指す。 今は休まねばならない。 明日はアルビオンへと向かうのだ。 そして一刻も早く、ウエストウッドへと向かわねば。 そう考える彼女の顔は、盗賊『土くれのフーケ』のものではなく、元アルビオン貴族『マチルダ・オブ・サウスゴータ』のものだった。 広大な地下空洞に、人が倒れる鈍い音が響く。 ある者は全身を切り刻まれ、ある者は心の臓を一突きにされ、またある者は意識を失ったまま縦穴へと消え。 最初の1人が絶命してから然程間を置かず、秘密港の番をしていた数名の兵と『イーグル』号船内に残っていた十名程の乗組員達は、その全てが物言わぬ骸と成り果てていた。 やがて『イーグル』号の甲板に、写し取ったかの様に似通った風貌の人影が4つ、円陣を組む様に集まる。 白い仮面に隠され表情は伺えないが、その足運び、周囲への警戒を絶やさぬ様子は、彼等が鍛え抜かれた軍人である事を伺わせた。 一同は見事なまでに揃った足並みで、船内へと消えてゆく。 そして数分後。 轟音と共に船体が震え、『イーグル』号は重力に引かれるまま、音も無く眼下の闇へと墜ちていった。 更に数秒後、上へと繋がる扉が暴力的な音と共に歪み、次いで港が静寂に包まれる。 何処からか吹き込んだ風が明かりを吹き消し、地下空洞は完全な闇へと沈んだ。 「娘っ子、そりゃお前さんの我侭ってもんだ。あの王族の兄ちゃんにも命を掛けるだけの理由が在るのさ」 「何よ、それ……そんなの解んないわよ……」 ルイズは夜間の内にキュルケが持ち帰ったデルフに、ウェールズを説得する為の助言を求めていた。 しかしルイズにとっては予想外な事に、デルフはウェールズを説得する事に消極的。 問い詰めた結果、デルフが吐いたのが先程の台詞である。 どうやら彼は、ウェールズの考えに肯定的であるらしい。 「亡命したって、今度はあの王女サマに火の粉が降り掛かる。それなら此処で、火種諸共消えちまった方が利口だ。王女サマは無事ゲルマニアの王サマと結婚、同盟締結。めでたしめでたし」 「何処がめでたいのよ! 好きでもない奴と結婚するのよ!」 「それが王族の義務って奴だろーに」 その言葉にルイズが反論しようとしたその時、デルフが鋭くそれを制した。 「待て、お客さんだ」 そう言ってデルフは口を噤み、只の剣として振舞い始める。 同時に扉がノックされ、ルイズが誰かと問えばワルドとの答えが返ってきた。 入室を促し扉が開いた瞬間、その向こうから喧騒が届いた気がするが、それも扉が閉じた瞬間に消え失せる。 「やあ、ルイズ……どうしたんだい、何か不安でも?」 「ワルド……」 優しく微笑むワルドに、ルイズは視界に滲むものを自覚しながら、叫ぶ様に言い放った。 「ワルド、貴方も……貴方も、ウェールズ皇太子の言ってる事が理解出来るの? 何で、あの人達は自分から死のうとするの?」 「……そうだね」 ワルドは一瞬たじろいだが、直ぐに平静を取り戻すと真顔になって答えを返す。 「……皇太子はアンリエッタ姫殿下を心から愛しているんだろう。だからこそ、姫殿下に危害が及ぶ様な真似は出来ない。此処で王族としての誇りを示しつつ、名誉在る死を遂げる事を望んだんだ」 「……貴方も同じ事を言うのね」 ルイズは哀しげに首を振り、ワルドから視線を逸らして窓の外を眺める。 その瞬間、ワルドの表情から一切の感情が消え失せた。 「皇太子も、他の人達も、貴方も……皆、解っていない。残される人の気持ちなんか、欠片も考えてないんだわ」 ゆっくりと、音を立てずにレイピアを模した杖を引き抜き、小さくスペルを唱える。 「王族としての誇り? 名誉在る死? それは恋人より大切なものなの?」 風の渦を纏った杖を、静かに肩の高さまで持ち上げ、其処から僅かに腕を引く。 「……そんなのおかしい。最愛の人より大切なものなんて、在る訳が無いわ」 足に込めた力を解放し、ルイズとの距離を一瞬で詰め――――― 「ねえ、ワルド―――――」 その心の臓目掛け、杖を突き出した。
https://w.atwiki.jp/blueroses/pages/23.html
本編の進み具合によって出たり消えたりする レアファントム出現は特定のMAPのみ 妖精の森1 市街地 妖精の森5 妖精の森3 幻想の泉3 黄泉の原1 市街地(二回目) 黄泉の原3 試練の丘3 妖精の森1 敵 ノーマ LV7×2 LV5×1 LV4×2 フーラー LV6×2 経験値 CORO EXP-3000 CORO-2000 宝箱 無し レアファントム おそらく無し 市街地 敵 ノーマ LV10×1 LV8×2 LV7×2 フーラー LV9×2 LV7×2 べゴマ LV10×1 LV8×2 経験値 CORO GETITEM EXP-8000 CORO-7000 GETITEM-チョコドーナツ 宝箱 無し レアファントム おそらく無し 妖精の森5 敵 ノーマ LV10×4 フーラー LV11×2 ラフレン LV12×2 LV11×2 LV10×2 経験値 CORO(レアファントム込み) GETITEM EXP-12000(15000) CORO-9000(12000) GETITEM-メープルクッキー 宝箱 無し レアファントム ちいさなヌシ(フーラー系) Lv18 スパイクグローブ 撃退法 雷が弱点ではあるがマヒ無効 しかし、眠りが効くのでミレーユで眠りをかけてやれば楽になる 妖精の森3 敵 ノーマ LV14×2 LV12×1 フーラー LV13×2 ベゴマ LV14×2 スロラー LV13×2 LV12×3 経験値 CORO(レアファントム込み) GETITEM EXP-16000(21000) CORO-12000(16000) GETITEM-メープルクッキー×2 宝箱 レアファントム はやてキング(スロラー系) Lv20 ヘルスネックレス 撃退法 名前通り速さが高く、攻撃力も結構高いので何回か攻撃を食らう事前提でマヒ頼みボルトで攻めるのが一番だろう 幻想の泉3 敵 ノーマ LV19×1 LV16×1 LV15×1 フーラー LV18×1 LV17×2 LV16×1 LV15×1 ベゴマ LV19×2 LV18×1 ラフレン LV14×3 経験値 CORO(レアファントム込み)) GETITEM EXP-24000(36000) CORO-15000(25000) GETITEM- 宝箱 無し レアファントム くいしんぼう(ノーマ系) Lv24 ウィングヘルム 撃退法 速さの高いジェイラス、ミレーユあたりで毒をかけて、防御の高い奴がリーダーになりながら魔法で攻めればすぐに撃破できる 黄泉の原1 敵 ノーマ LV18×2 LV17×4 ベゴマ LV19×2 スロラー LV19×2 LV18×2 LV17×2 経験値 CORO(レアファントム込み)) GETITEM EXP-32000(47000) CORO-20000(32000) GETITEM- 宝箱 レアファントム あばれんぼう(ビクフト系) Lv28 ガントレット 撃退法 眠りが効くので楽勝だが、防御がかなりあるため魔法しかまともにダメージにはならないだろう 市街地(二回目) 敵 バノーマ LV20×2 LV19×2 ベゴマ LV23×2 ダ・ヨーセ LV24×2 LV22×2 LV21×2 LV19×2 経験値 CORO(レアファントム込み) GETITEM EXP-45000(90000) CORO-24000(54000) GETITEM- 宝箱 レアファントム こあくま(デ・ヨーセ系) Lv30 クイーンヒール 撃退法 マヒが効くためボルトやブリジット、ジャックのサポートでマヒにすれば楽勝 黄泉の原3 敵 ラフレン LV27×1 LV26×2 LV25×1 スロラー LV25×1 LV24×2 ハオギス LV27×2 LV26×1 LV25×2 LV24×2 経験値 CORO(レアファントム込み)) GETITEM EXP-119800(179800) CORO-26000(51000) GETITEM- 宝箱 ラトリス(アリシア):プラチナサーベル プラカブ:白金のブーメラン ラブル:エンプレス キュリー:白金の扇 アルビオン:カーマインスピア レアファントム えーせーへー(ベゴマ系) Lv35 妖精の指輪 撃退法 弱点もなく詠唱妨害無効をもっているが眠りが効くので眠らせて物理攻撃でいじめてやれば楽 試練の丘3 敵 バノーマ LV28×3 LV27×1 LV26×2 ビクフト LV29×2 ハオギス LV29×2 LV28×1 LV27×3 経験値 CORO(レアファントム込み) GETITEM EXP-180000(270000) CORO-32000(48000) GETITEM- 宝箱 ラトリス:お菓子詰め合わせ プラカブ:お菓子詰め合わせ ラブル:お菓子詰め合わせ キュリー:お菓子詰め合わせ アルビオン:お菓子詰め合わせ レアファントム しょーぐん(ブレドナイト系) Lv50 ロードヘルム 撃退法 LV30あたりあれば魔法、スキル全力使用で難なく倒せる、リーダーはアルビオン付き物理キャラで行けばダメージも大した事はないだろう どうしても辛い時は眠りが効くので活用するといい
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4152.html
前ページ次ページもう一人の『左手』 雲と霧の白い闇を抜けると、一抹の光さえ差さない、真の闇がそこに待っていた。 浮遊大陸アルビオンの“真下”である。 四人の少年少女を乗せたシルフィードは、ためらうことなく、その暗黒の中に身を紛れ込ませた。 「タバサ! 待ってくれっ!! 風見さんを置いて行く気かっ!?」 才人が必死に叫んでいる。 だが、待つわけには行かない。 自分たちが大陸の下側に逃げ込んだのは、確実に目撃されているだろう。 少なくとも、先程のフネを乗艦とする竜騎士が追って来れない程度の距離を、この暗闇の中で稼がねばならない。 貴族派の空軍は、大陸の下側には入って来ないと風見は言っていたが、いくら何でも、100メイルや200メイル程度の距離なら、たちまち竜騎士に臭いを辿られ、追いつかれてしまう。少なくとも3~4リーグは距離を稼がねば、安全とは言えないはずなのだ。 だが、そこから先は? タバサは唇を噛みしめる。 ニューカッスルの正確な座標を知っているのは、風見だけだ。 こんな暗闇の中を、闇雲に飛び回ったところで、何ら埒があくわけではない。風韻竜シルフィードといえど体力には限界がある。いつ頭上の岩塊に、頭をぶつけるかも知れない危険な闇の中を、無限に飛びつづけるわけには行かない。 ――どうする? タバサは、その怜悧な頭脳を働かせる。 (危険だけど、一度、アルビオンの地上に出るしかない) 幸い、こっちにはヴェルダンデがいる。 さっきのフネから飛び立ったはずの竜騎士をやり過ごし、シルフィードが抱えるジャイアント・モールに地上に向けての穴を掘らせ、地上に出る。 穴の向こうが貴族派の陣かも知れない――いや、アルビオン貴族派のほとんどは、ニューカッスル周辺に陣を構えているはずだ。城から少し距離を置けば、“上陸地点”としては逆に安全といえるかもしれない。 しかし、ニューカッスルの座標どころか、自分たちの現在位置さえ読めない現状では、地上に出るリスクは避けられない。 ――どうする? 昨夜、出立の前に地図上で確認した時、ニューカッスル城は、大陸から突き出た岬の突端に築かれていたはずだった。つまり、アルビオンの内陸に飛べば飛ぶほど、目的地から距離を取れる事になる。 最悪、ラ・ロシェールに帰還するという選択肢も考えつつ、タバサは、あと1リーグ直進したのち、地上への縦穴を掘る決意を固めていた。 (カザミに頼りすぎだった) タバサの奥歯が、ぎしりと音を立てた。 「……まただ、また、おれは……風見さんを見捨てちまった……!!」 才人がへコんだ声を出している。 「あの時と……同じだ……あの時と……っっ!!」 「黙って」 タバサは、いつになく硬い声で才人を制する。 たとえ傍らにいるのが貴族だろうが平民だろうが、この少年は誰はばかる事無く自分の心情を吐露する事をためらわない。そんな彼のことを、タバサは決して嫌ってはいなかった。 「あなたの気持ちは分かる」 だが、それでも、時と場所は選んでもらわなければならない。 ここはもはや、平和な魔法学院ではないのだから。 「でも、いまは黙って。――あなたの、その呟き声さえ、追っ手の竜の耳には聞こえてしまう」 一寸先さえ見えない闇の中で、一同がぎょっとした気配が伝わってくる。 それも当然だろう。 彼らの中で、一番ドラゴンの生態に詳しいのは誰かと訊かれれば、間違いなく、竜を使い魔としている、この少女なのだから。 「心配要らない」 だが、黙れと言ったはずのタバサ自身は、何故か口を閉ざさなかった。 「カザミは死んでない。絶対に生きている」 いや、タバサ自身、なぜ才人にこんな事を言っているのか、よく分かっていなかった。 「タバサ……!?」 いつになく雄弁な彼女に、キュルケが訝しげな声をあげる。 当然だ。人を慰めるなんて、どう考えても自分の任ではないはずなのだ。だが、何故か彼女の口は、言葉を発することをやめられなかった。 「わたしはカザミを信じている。だから、あなたも信じなさい」 タバサのその声に、もはや硬い響きはなかった。 そして、今はそんな情況ではないと分かっていてなお、タバサは何故か、今の自分が不愉快ではなかった。 (ぐっ……!!) 8発目の砲弾を食い止めたV3は、ようやくシルフィードが大陸の真下側に潜り込んだ事を確認した。 (ようやく行ったか……まったく……!!) その事実は、激痛の中、彼に束の間の安堵をもたらす。 だが、V3の仕事は、これで終わったわけではない。むしろこれからなのだ。 あのフネの注意を惹きつけ、シルフィードへの追っ手を極力引き受けねばならない。 彼は、ハリケーンに跨ると、ジェット・ノズルの出力を最大に上げた。 竜騎士を、近代空軍に於ける艦載機だと見なすならば、フネは航空母艦というべき存在であろう。ならば、やるべき事はただ一つだ。 ――フネを制圧する。 すでに数騎の竜騎士たちが、フネを発進したのをV3は目撃している。間違いなくシルフィードへの追跡隊であろう。だが、それでも眼前で母艦が攻撃されれば、奴らも追跡どころではなくなるはずだ。 (殺しはせん。ただ、少し手荒い真似はさせてもらうがな) 心中にそう呟いた瞬間だった。 その砲弾が飛来したのは。 「っ!?」 その一発を喰らった瞬間、V3は全身が、骨の髄までバラバラになりそうな衝撃を覚えた。 躱せなかったのだ。――仮面ライダーV3ともあろう者が。 さっきまでの火砲とは全く違う。威力も、速度も、命中精度も。 おそらく、この砲撃を弾幕に混ぜられていたら、さすがのV3もシルフィードを庇いきれなかったに違いない。風竜かV3か、どちらかが確実に死んでいただろう。 直撃の衝撃でハリケーンから落ちなかったのが、まさしく僥倖という他はない。 こんな砲弾をハルケギニアで撃てる者は、おそらくただ一人。 いや、推測するまでもない。V3はこの一撃を、かつて何度も喰らった覚えがあったのだから。 「あいつ……か……!!」 ――改造人間カメバズーカこと、平田拓馬……!! エレクトロ・アイの透視装置を、望遠に切り替える。それと同時に改造人間探知回路であるOシグナルを開く。だが……その瞬間、V3は愕然となった。 (反応が……二つ……!?) 誰だ!? カメバズーカと俺以外に、まだハルケギニアに改造人間がいるというのか!? 一気に上昇し、フネを眼下に収める高度までハリケーンを駆る。 そこからフネに飛び降り、一息に制圧する予定だった。 相手が人間なら知らず、改造人間ならば、自分のの鉄腕を振るうに不足な相手ではない。 バダンによって魂を抜かれた再生怪人ならばともかく、意思持つ二人の改造人間相手に、まともに戦えるかどうか――それはもはやV3にとって、どうでもいい事だった。 (何故だ……!! 何故、貴様らは……!!) 何を目的として、異世界の争乱に力を貸し、血を流す事を厭わないのか。改造人間のパワーを、ただの人間に振るうということの意味を、何故考えようとしないのか。 それがV3――風見志郎には、どうにも許せないのだ。 だが、その瞬間、彼のあらゆる思考は、一気に吹き飛んだ。 フネの上甲板に立っていた二人の改造人間――カメバズーカと、もう一人の男。 ZX以外の仮面ライダーは、総勢9人。 その中で、彼と結城丈二――ライダーマンが直接知るデストロン以外に、少なくとも10社の“秘密結社”が、かつて世界征服を目指して、改造人間を量産している。だから当然、カメバズーカの隣に立つ者がV3の知らない怪人であっても、不思議はなかった。 しかし、そこにいたのは、彼のあらゆる想像を超えた存在だった。 「俺……だと……!?」 見間違えるわけがなかった。 赤い仮面。 緑の複眼。 立てた襟。 二本のマフラー。 レッドボーン。 そして……ダブルタイフーン。 「しまっ……!!?」 驚愕のあまり動きが止まった瞬間だった。 そこにいた、もう一人のV3のベルトから、凄まじい指向性エネルギーが発射されたのだ。 (逆ダブルタイフーン……だとぉ!?) その刹那、彼は眼前が真っ白になったのを感じた……。 「おい」 「なんだ?」 「本当によかったのか? あれは一応、“お前”なんだろう?」 カメバズーカが、呆れたように傍らの男に話し掛ける。 そこには、紺色のYシャツに白いベストに身を包んだ、精悍な相貌の男が立っていた。 逆ダブルタイフーンは、変身のために使用する全エネルギーを放出するため、三時間は変身が不可能になるほどの壮絶技である。カメバズーカとしても、まさかこの男が、“自分自身”に対し、ここまでやるとは思っていなかった。 だが、 「風見志郎は、一人でいい」 そう呟いた“風見志郎”は、眉一筋動かさなかった。 暗黒の中を、二隻のフネが音もなく進む。 王党派の巡洋艦『イーグル』号が、アルビオン上空で拿捕した『マリーガラント』号を引き連れ、ニューカッスルの地下侵入港に向かっているのだ。 「貴族派というが、所詮あいつらは、空を知らぬ無粋者さ」 そう言って、ウェールズはルイズに笑いかけた。 だがワルドは、そんなウェールズを横目に、全く別な事を考えていた。 ニューカッスル城に王党派を追い詰めて、かなりの日数が経つ。 にもかかわらず、浮遊大陸の真下に、こんな侵入口が存在していた事に気付かなかったとは、迂闊にも程がある。 王党派の城塞すべてに、このような地下港があるのか。それともニューカッスルにだけ、こんな、フネさえ侵入可能なほどの天然の縦穴が、存在していたのか。 (おそらく後者か) 王党派の城塞全てに、こんな大規模設備の用意があったなら、いくら何でも、貴族派の誰も、その存在を知らないなどという事は在り得ない。いや、それ以前に、ここまであっさり王党派も、制空権を奪われたりはしないはずだ。 なら、王党派が、ニューカッスルに逃げ込んだのも、あながち考え無しではなかったという事か。 この大穴を利用して、密かに兵站の補給を続け、可能な限り篭城を長引かせる。その間にハルケギニアの列国に、対レコン・キスタの世論が沸騰すれば、救援さえもあながち期待できない話ではない。……あくまでも糸のように細い期待ではあるが。 空賊たちが、王党派の偽装だったと判明した時は、さすがのワルドもほっと胸を撫で下ろした。常識的に言えば、ワルドの大博打は、どう考えても外れる確率のほうが高かったからだ。 このまま“大使”を名乗り、ニューカッスルまで連れて行ってもらえば、目的の全てを、ほぼ問題なく達成できるだろう。いや、城外の貴族派と上手く連絡を取り合えば、今日・明日中にも、城に貴族派の軍を手引きできるかもしれない。 自分の強運に驚きながらも、ワルドはむしろ沈鬱な表情を崩さず、言った。 「まるで空賊ですな、殿下」 「まさに空賊なのだよ、子爵」 「喜べ、パリー!! 硫黄だ、硫黄!!」 「おお、硫黄ですと!? 火の秘薬ではござらんか!! これで我々の名誉も守られるというものですな!!」 老メイジと抱き合うようにして喜びを分かち合うウェールズ。 「先の陛下よりお仕えして60年……こんな嬉しい日はありませんぞ殿下。叛乱が起こってからは苦渋を舐めっぱなしでありましたが、なに、これだけの硫黄があれば……!!」 「そうだ。――まだまだ我々は戦えるぞっ!!」 聞くも凛々しい、その王子の宣言に、うおお~~っと、地下港に集まった兵たちの歓声が上がる。 その光景に、ルイズも少女らしい興奮を押さえきれなかったようだ。 「そうよそうよ!! レコン・キスタみたいな反乱軍に、由緒正しい王家の人たちが負けるなんて、そんなこと、神と始祖がお許しにならないわ!! ね、子爵さまっ?」 「ああ、ぼくもそう思うよルイズ」 だがワルドは、婚約者に向けた笑顔の下で、彼らを罵倒せずにはいられなかった。 (この、馬鹿めが) アルビオンに住む国民一人一人の事を考えるならば、こんな内戦など、長引いたところで、まさしく百害あって一利もありはしないのだ。 戦が長引けば長引くほど、包囲軍は、戦費や糧食を、ニューカッスル現地民から徴収し、銅貨一枚の見返りすら支払う事はない。そして、内戦の結果、彼ら平民にもたらされるものは何か? 何もありはしない。 残るものは、戦場となって焼き尽くされた田畑であり、糧食として軍に奪い尽くされた収穫であり、兵卒として徴用された農村の壮丁たちの死体だけだ。 しかも、季節はこれから冬を迎える。 食糧や家畜を奪われ、働き手の若者を失い、冬を越せなくなった大量の農民が、文字通り、難民として都市部に流入するだろう。そして彼らは、仕事と食物を奪い合い、結果として恐るべき不景気が、アルビオンを見舞うはずだ。 無論、レコン・キスタの大幹部の一人として、ワルドは、何らかの対応策を打つつもりではあるが。 この内戦が、レコン・キスタによる一方的な侵略戦争であることは承知している。 だが、それでもワルドは、わずかなプライドを掲げて、勝ち目のない戦争をやめようとしない眼前の王党派たちに、言い知れぬ怒りを覚える。 (なぜ、降伏しようとは思わないのだ) その問いの答えは簡単だ。 ――こいつらは死ぬことに酔っている。名誉を守るという大義名分に酔っている。 この連中は、一日早く戦が終われば、その分だけ、民のこうむる戦禍も少なくなるなどとは、おそらく考えた事もないのだろう。 ウェールズという男に何の恨みもないが、それでもこの瞬間に、ワルドの中で、ウェールズに対する、一分の情は消えたと言っていい。 (この王子を殺せば、王党派は瓦解する) ワルドは、ウェールズ暗殺のための具体案を腹の中で練り始めた。 その時だった。 不意の地響きが、地下の鍾乳洞を改築した、この港にまで響いてきた。 「殿下! 貴族派の空襲です!!」 初々しい少年兵が、伝令として駆け込んでくる。 空襲? 貴族派空軍の艦砲射撃か? ワルドは、妙に納得してしまった。 何隻の戦艦が雁首そろえてやってきたかは知らないが、少なくとも2隻や3隻ではなかろう。二個艦隊か三個艦隊は編隊を組んでいるはずだ。にもかかわらず、この地下施設の耐震強度はどうだ? まるでシェルター並みではないか。 周囲を見回すと、やはり怯えた兵など一人もいない。不安げな顔をしているのは、ルイズだけだ。 ルイズのその様子に気が付いたのだろう。 ウェールズは、動揺のカケラも感じさせない陽気さで、少女に話し掛ける。 「はははっ、気にすることは無いよ、ラ・ヴァリエール嬢。奴らの砲撃くらいでは、このニューカッスルの地下宮殿はびくともしないさ」 「地下宮殿、ですか?」 「ああ。このニューカッスルにとって、本当の堀や城壁は、この分厚い岩盤なのさ。地上の施設がどれだけ灰になっても、痛くも痒くもない。なぜなら武器庫も食糧庫も居住区すらも、すべて、この広大な鍾乳洞の中にあるのだから」 「それじゃあ、殿下」 「ああ、我らがニューカッスルを最後の拠点としたのは、この難攻不落の地下宮殿があるからさ」 それを聞いて、――ワルドは、頬が緩むのを懸命にこらえた。 ウェールズの言うことが本当ならば、もはやこの城は陥ちたも同然だ。 地下港の出入り口になっている縦穴を、貴族派のフネで一気に制圧し、地上と地下の両方から、兵団を同時に送り込めばいい。ものの二時間もあれば、呆気なく決着はつくだろう。 「しかし、やられっぱなしというのも業腹だ。我らがテューダー朝アルビオンにも、人なきに非ずということを、貴族派の謀反人どもに教えてやろう」 ウェールズは、にっこりとルイズに笑いかけると、一転した厳しい声で、伝令の少年に叫び返す。 「V3を出撃させろ!! 叛徒どもを、一人たりとも生かして返すなっ!!」 「……ぶい……すりー?」 きょとんとした顔でルイズは、金髪の王子さまを見上げる。 いや、呆けたように見えたのは、その刹那だけだ。 次の瞬間には、彼女が必死になって何かを思い出そうとしているように見えた。 しかし、ワルドは知っている。その名を持つ存在が、何を意味しているのかを。 (ばかな……このニューカッスルに、“奴”がいるというのか……!?) そんな情報は聞いていない。 だが、在り得ない話ではない。アルビオン王家が、始祖の“虚無”を受け継ぐ家系である限り、可能性は100%絶対にないと言い切れる話ではないのだ。 そして、その推測を裏付けるようにウェールズは笑う。 「我が従姉妹が召喚せし、無敵の使い魔さ。彼がいるかぎり、我々がレコン・キスタを駆逐して、再びアルビオンに君臨する事も、決して夢ではないだろう」 前ページ次ページもう一人の『左手』
https://w.atwiki.jp/moshinomatome/pages/15.html
私の心は煤けた掛け時計なんだと思う。 時を刻む事を止めてしまってから、もう長い時間が経つ。私の心はあの時あの場所であっさりと壊れてしまった。 私は原因を探った。 長い時間をかけてようやく答えに行き着いた。ゼンマイが一つ足りないみたいだ。なぜ、外れてしまったのだろう。 私は足りないゼンマイを探した。いろんな所にいった。いろんな人と話した。 それでも、ゼンマイは見つからなかった。 疲れたから、諦めた。 私はゼンマイの代替品を探すことに決めた。 希少な宝石。ヴィンテージワイン。壮大な絵画。上品なドレス。そして、魔法の宿った世界に一つしかない不思議な道具。 あたりをつけたものは、全部盗んだ。 だけど、どれもゼンマイの代わりにはならなかった。 私はやっぱり欠けたゼンマイが欲しい。 心が悲鳴をあげた。 そして、私は目覚める。 トリステイン学院の保健室に、私はいた。 学院長室の扉がノックされた。 「オールド・オスマン。よろしいでしょうか?」 「入りたまえ、ミス・ロングビル」 上司の許可を得たロングビルは、入室するとオスマンに一礼をした。 「勝手なお休みを二日も頂いてしまい、申し訳ございませんでした。私の健康管理が至らなかったばかりに…」 「なに、気にすることはない。今回は相手が悪すぎたよ。のう、土くれのフーケ?」 ロングビルの眉間にシワがよった。 「何をおっしゃっているんですか?」 「そうか。この二つ名は、いまだに馴染みがないのか。では、こう呼ぼう。マルチダ・オブ・サウスゴータ君」 ロングビルの顔が蒼白になった。それはかつて捨てた、いや、捨てざるを得なかった彼女の貴族としての名だった。その名を知るものは、もうこの世にはいないはずだ。 この老人はどこまで知っているのだろたう? ロングビルの表情が代わる。もはや、従順な秘書の姿を偽る意味はない。 「あなた、知ってたの?私が、土くれのフーケだって事を。秘書として雇う前から」 「いいや、知ったのは最近のことじゃよ。君と町の居酒屋で出会ったのは本当にただの偶然だ。君を雇うと決めた事にも、それは関係ない。君が優秀な人間に見えたからじゃ。 ただ、トリステイン学院は歴史の古い由緒正しい学院じゃ。素性の分からない者を雇うわけにはいかないじゃろ?だから、勝手に調べさせてもらった。それで分かったのじゃ、君の正体がな」 「で、どうするつもり?私の身柄を王室に引き渡すの?あなたが欲しいのは名誉?それとも、私に懸かった報奨金?」 「こんな年寄りが、今更、金や名誉で動くと思うかね?」 「じゃあ、何が狙いよ?私の体?あんた、まだ枯れてなかったんだ」 オスマンは首を横にふる。 「ワシは君の本当の笑顔が見たい。希代の盗賊と知りながらも、君を雇い続けたのは、それが理由じゃ。あの日…、そう、初めて君と出会った日、酒に酔った君はころころとよく笑っとった。じゃが、ワシには寂しい笑顔にしか見えなかった」 「何を言ってるの?とうとうボケが始まっちゃったわけ?」 土くれのフーケが嘲笑う。しかし、それは自嘲を含む笑顔だった。 オスマンは席を立ち、ロングビルの側によると、いつの間にか涙を浮かべていた彼女の両肩を握った。 「君が本当の名を捨てた理由はよくわかる。そして、その後、君が盗賊としての道を歩まざるを得なかった理由もな。君は寂しかったんじゃ。だからこそ、わしはその偽りの笑顔を無くしたい…」 「……何が言いたいのよ?」 「これからも、私の秘書として働いてくれるね?」 「は……?あんた、頭の中身、温まってるんじゃない?」 反抗的な言葉を吐きながらも、ロングビルの瞳からは涙が零れ続けた。 「焦る必要など、どこにもない。君はまだまだ若いんじゃ。『居場所』などすぐに見つかるよ。もしかしたら、この学院こそが君の居場所かもな。仕事に取り組む様は、君によく似合っているよ」 長年、かすりもしなかった。必死に探したのに。 だけど、ひょっとしたら見つかるのかも知れない。 ゼンマイの手懸かりを見つけたロングビルが鳴咽を漏らす。 「これからも、よろしくお願いします…。オールド・……オスマン」 彼女が学院の保健室で寝ていた間、この老人は魔法を用いて、せっせとロングビルの心を揺らし続けた。人間ならば成長の過程で必ず備わる精神の障壁、それがロングビルの心から完全に取り除かれるまで、それは執拗に行われた。 ロングビルの心は彼女の知らぬ間に、生まれたての小鳥のような状態に陥っていたのだ。 そんな無垢な心にインプリンティングがなされた。 全ては老人の思惑通りである。 涙を流し続けるロングビルは、老人の瞳が怪しく光るのを、歪んだ視界の為に見逃してしまった。 「オールド・オスマン。ですけど……、いい加減、セクハラはご遠慮下さいね……」 確かにオスマンはセクハラまがいのことをよく行っていた。 しかし、それも仮の姿に過ぎない。 ピエロを演じていれば、まわりの人間は面白いくらいに騙されていく。 長い人生経験から、オスマンはそれを良く知っていた。 ガンダールヴによる初号機とのシンクロに致命的な欠陥が潜んでいたことに気付いたのは、フーケ事件から間もない頃だった。 ある日、トリステイン学院から歩いて三十分程の場所に広がる平原で、シンジが初号機の戦闘訓練を行っていたところ、なんの前触れもなくルーンの輝きが失せた。そして、初号機の両肩が不自然な形で沈み込むと、それを最後に、その巨体は完全に沈黙してしまったのだ。 いくら意識を集中しようとも、ルーンが光を取り戻すことはなく、シンジは慌てて学院に戻るとオスマンに相談を持ちかけた。 だが、彼も頭を傾けるだけで、これといった答えは出なかった。 しかしながら、オスマンと共に初号機の擱座する場所まで戻ると、ルーンは何事もなかった様に発光を始め、あっさりと初号機とのシンクロが確立されたのだ。 「どういうことなんでしょうか?」 「ふむ…」 オスマンはしばし逡巡した様子を見せると、何かに閃いたようで、口を開いた。 「明日の夕方、わしの前で、オーガとの同調を試してくれんか?」 「原因が掴めたんですか?」 「どうじゃろな。明日には、はっきりするかも知れん」 翌日、約束の時間に現れたオスマンの前で、シンジは初号機の起動を試みた。しかし、またもや、ルーンの反応がなく失敗に終わった。 「ふむ、やはりな…」 「なにか分かりましたか?」 オスマンが夕焼けに染まった月を指差した。 「神々の黄昏が起きている。おそらく、それが原因じゃな」 シンジが困った様な顔をした。 「月とエヴァに何の関係があるんですか?」 「この世界にも、この世界なりの事情というものがあるんじゃよ。ま、なんにしても、一日に三時間はオーガの使役を封じられるということじゃ。それと、このことは胸の内に秘めときなさい。誰にも話すんじゃないよ」 シンジにもその理由は良く分かった。 もし、再びフーケの様な存在が現れ、この弱点を悟られた場合、敵がその隙をついてくるのは間違いない。 「そうですね。後、剣の練習も始めてみます。せっかく、マゴロクソードを頂いたことですし」 オスマンが頭をぼりぼりと掻く。 「君は呆れるくらいに真面目じゃな」 「ルイズさんが言ってました。ご主人様を守ることが、使い魔に課せられた最も重要な仕事だって。だから、やれることはなんでもやっておきたいんです」 「君はミス・ヴァリエールの事が好きなのかね?」 「もちろんです。色々と良くしてくれますし。ぼくは一人っ子ですから、なんか、優しい姉が出来たような感じで…、素直に嬉しいんです」 オスマンの意図した質問の内容から考えれば、シンジの言葉はまるで見当はずれだった。 オスマンは恋愛感情の有無について尋ねたのである。 「そうか。ならば、精進を怠らないようにな」 シンジが微笑む。 「はい!」 三日経って、オスマンの憶測が事実に違いないと証明された。 何度試しても、神々の黄昏時には初号機とのシンクロが確立されなかったのだ。 ちなみに、この世界の一日の周期は地球と同じ二十四時間である。そして、神々の黄昏はそれよりも短く十九時間おきに発生する現象だ。 その為、一日毎に神々の黄昏の発生期間は微妙にずれていくことになる。 非常に対策の立てづらい欠点だった。 シンジは重なり合う月に向かって、ルーンをかざした。 ガンダールヴ、そして、空に浮かぶ二つの月。 異世界であるはずのハルゲキニアで、エヴァに干渉する事柄がいかなる理由で二つも存在するのであろうか。 「ぼくがこの世界に召還されたのは、本当にただの偶然なのか……?」 トリステイン国の姫殿下――アンリエッタが、ゲルマニア国訪問の帰りに、トリステイン魔法学院を行幸することになったらしく、学院内が騒然とした空気に包まれた。 あちらこちらで、慌しく歓迎式典の準備が行われている。 どうやら、本当に急な話だったらしい。 学院の生徒たちは、少しでも姫殿下の御覚えが良くなる様にと、必死に自分の杖を磨いていた。 シンジはというと、特に興味がわくことも無かったので、学院の隅に見つけた人気の無い静かな場所でマゴロクソードの素振りを行っていた。 先日、ガンダールヴの更なる能力に気づいたシンジは、暇を見つければ、剣の練習に勤しんでいるのだ。 剣を握るだけで、ルーンが輝きだし、シンジの身体能力が飛躍的に上昇する。 空を舞う小鳥の羽根の動きがスローモーションの様にくっきりと見え、身体は今にも飛べそうなくらいに軽くなり、両手に握った双剣マゴロークソードが、まるで自分の身体の延長にあるような一体感を覚えた。 全ての武器を使いこなした伝説のガンダールヴ、おそらく、彼もこの能力を開花させた人間だったのだろう。 正門の方から、斉唱と歓声が聞こえた。 例の姫殿下一行が到着したに違いない。 「行かなくていいんですか?」 シンジは、芝生にぺたんと座り込み本を広げているタバサに尋ねた。 「興味ない」 タバサは貴族なのだから、王室から領地を安堵されている立場のはずだ。常識的に考えて、歓迎式典に参列しないのはまずいのではなかろうか。 しかし、彼女はそれを全く意に介さない様子だった。 「他の人たちはすごい楽しみにしてましたよ」 「そう」 タバサの瞳は本のページに向けられたままだ。 「本、好きなんですか?」 「うん。碇君は?」 「好きなほうだと思いますよ」 タバサは自分のポケットから文庫本を取り出すと、シンジに差し出した。 「おススメ」 「貸してくれるんですか?」 タバサは小さく頷く。 シンジは礼を言って、本を受け取るとそれをぱらぱら開いた。 「なんだ、これ?」 ページには、今まで見た事も無い意味不明な記号の羅列が記載されているだけだったのだ。 「これなんですか?」 「本」 「あ、じゃなくて、この記号のことなんですけど…」 シンジはページを指差しながら、腰を下ろすタバサによく見える様、本を差し向けた。 「ハルケギニア語」 「はい?」 「今、私達が話してる言葉」 「日本語ですよね」 自分自身の口から出た言葉で、はたと気付くものがあった。 文化も風習も文明の源も違うハルケギニアの公用語が日本語などということがありえるのだろうか。いや、まず、ない。 では、自分がハルケギニア語を話しているのかといえば、そん感覚は微塵もなかった。 自分が口に出す言葉を、何度反芻しても、やはり、日本語に間違いない。 今、自分に起きている不可解な事態をタバサにも理解してもらえる様に、シンジは出来るかぎり丁寧に説明した。 しばしの間、青い瞳が虚空を泳いだ後、タバサはシンジの左手に刻まれたルーンを指差す。 「ルーンの特殊能力」 シンジはまじまじとガンダールヴのルーンを見つめた。 「なるほど…。このルーンにかかれば、なんでもありなんだな」 しかし、ガンダールヴの力も文字の理解にまでは及ばないようだった。 「勉強」 「しろってことですか?」 シンジの言葉を受け、タバサは小さく頷いて応えた。 「いや、大丈夫ですよ」 「駄目」 「でも、全く不便を感じてないですし…」 「いずれ、困る」 確かにタバサの言うことは正論だった。 電話もパソコンも無線機もないハルケギニアの通信手段と言えば、早馬と手紙になる。 シンジは早馬を使用できるような身分ではないので、手紙が唯一の通信手段だ。つまり、遠くの誰かと意思疎通を計る為には文字の読み書きが必須条件である。 「そうですね。勉強やってみます」 タバサが、彼女には珍しくまだ幼さの残るその顔に微笑みを浮かべた。 「頑張って」 「ハルケギニア語を覚えたら、また、改めて貸してください」 シンジは借りたばかりの文庫本をタバサに返した。 しかし、二週間後、シンジはこの文庫本を再び借りることになってしまった。 その短い期間にハルケギニア語を全てマスターしたからである。取っ掛かりを掴んだ後は、単語、文法、慣用句などを乾いたスポンジの様に吸収するシンジの姿があった。 原因は、またもやガンダールヴにある。語学勉強に励むシンジに呼応したガンダールヴの進化システムが、シンジの頭蓋骨に納まる大脳のブローカ野を作り変えたのだ。 目に見えない変化が自分の体に起きていることを、この事をきっかけにして、シンジはようやく実感し始めた。 悲劇は、近い。 その日の夜、シンジは寝具の上に座り込んで、ルイズを見つめていた。なんだか、ルイズは激しく落ち着きがなかった。 「なにか、あったんですか?」 「ううん、なんでもないの」 ルイズの目が泳いでいる。歓迎式典の最中に何かがあったのは間違いなさそうだ。 そのとき、ドアがノックされた。 「誰ですかね?」 ルイズの顔がはっとした。思い当たる人物がいるようで、彼女は慌しくドアを開く。 ドアの向こうには、真っ黒な頭巾をすっぽりと被る少女が立っていた。 辺りをうかがうように首を回すと、そそくさと部屋に入ってきて、後ろ手に扉を閉めた。 「貴方は……?」 ルイズは驚いたような声を上げた。 頭巾を被った少女はしっと言わんばかりに、口元に人差し指を立てた。 それから、頭巾と同じ漆黒のマントの隙間から、魔法の杖を取り出すと軽く振った。同時に短く魔法を詠唱すと、光の粉が部屋に舞う。 「……探知魔法?」 ルイズが尋ねると、頭巾の少女が頷く。 「どこに耳が、目が光っているか分かりませんからね」 魔法による盗聴や盗撮の心配がない事を確認した少女が頭巾を脱いだ。 現れたのは神々しいばかりの高貴さを放つ少女だった。すらりとした気品のある顔立ちに、薄いブルーの瞳、高い鼻が目を引く瑞々しい美貌を持っていた。 「姫殿下!」 ルイズが慌てて膝をつく。 シンジは、寝具にあぐらをかきながら、ぼけっとその様子をみつめていた。 アンリエッタは涼しげな心地よい声で言った。 「お久しぶりね。ルイズ・フランソワーズ」 「姫殿下!いけません。こんな下賎な場所へ、お越しになられるなんて……」 ルイズはかしこまった声で言った。 「ルイズ、そんな堅苦しい行儀はやめてちょうだい!あなたとわたくしはお友達じゃないの」 「もったいないお言葉でございます。姫殿下」 ルイズは緊張した声で言った。 「やめて、ここには枢機卿も、母上も、あの友達面して、寄ってくる欲の皮の突っ張った宮廷貴族たちもいないのですよ! ああ、もう、わたくしには心をゆるせるおともだちはいないのかしら。幼馴染の懐かしいルイズ。あなたにまで、そんなよそよそしい態度をとられたら、わたくし死んでしまいますわ」 「姫殿下……」 ルイズは顔を上げた。 「幼い頃、一緒になって宮廷の中庭で蝶を追いかけたじゃないの!泥だらけになって!」 はにかんだ顔で、ルイズが応えた。 「……ええ、お召し物を汚してしまって、侍従のラ・ポルト様に叱られました」 「それだけじゃないわ。クリーム菓子を取り合ってつかみ合いのケンカをしたこともあったわね」 ルイズが笑い声を漏らした。 「でも、感激です。姫様が、そんな昔のことを覚えて下さっているなんて」 アンリエッタは深いため息をつくと、ベッドに腰掛けた。 「忘れるわけないじゃない。あの頃は、毎日が楽しかったわ。なんにも悩みなんかなくって」 深い、憂いを含んだ声だった。 「姫さま?」 ルイズは心配になって、アンリエッタの顔を覗き込んだ。 「あなたが羨ましいわ。自由って素敵ね、ルイズ」 「なにをおっしゃいます。あなたは姫さまじゃない」 「王国に生まれた姫なんて、籠に飼われた鳥も同然。自由なんてどこにもないわ」 アンリエッタは、窓の外の月を眺めて、寂しそうに言った。それから、ルイズの手を取って、にっこりと笑って言った。 「結婚するのよ。わたくし」 「……おめでとうございます」 アンリエッタの声の調子に、なんだか悲しいものを感じたルイズは、沈んだ声で言った。 そこで、アンリエッタは寝具の上に座ったシンジに気づいた。 「あら、ごめんなさい。もしかして、お邪魔だったかしら」 「お邪魔、どうして?」 「だって、そこの彼、あなたの恋人なのでしょう?随分、幼いようだけど、ルイズは年下が趣味だったのかしら?」 「いやだわ、姫様。彼は、私の使い魔です」 「使い魔?」 アンリエッタはきょとんとした面持ちでシンジを見つめた。 「人にしか見えませんが……」 話題に上ったシンジが立ち上がる。軽く会釈をしてから、口を開いた。 「はじめまして。ルイズさんの使い魔で碇シンジと言います。あと、ぼく、人間です」 アンリエッタはシンジに微笑みかけた。 「こちらこそ、よろしくね。だけど、ルイズ。まさか、人を召喚するだなんて……」 「この子、こう見えても、結構、頼りになるんです。姫様も学院の外に安置されているオーガを御覧になられたんじゃないですか?」 「オーガ?あの紫色の悪趣味な銅像のことかしら?」 「あれは銅像ではございません。この子が使役する使い魔です。おそらく、この子はハルケギニア最強の使い魔ですわ」 ルイズが胸をはる。 ご主人様から賞賛の言葉を戴いたシンジは顔をほころばせていた。 「動くのですか……?あれが?」 アンリエッタがため息をつく。 「あなたって昔からどこか変わっていたけど、相変わらずみたいね」 「お褒めの言葉として頂戴いたしますわ」 ルイズは砕けた微笑を浮かべた。 「そういえば、姫様とご結婚される幸運な殿方はどなたで?」 「……ゲルマニアの皇帝です」 「ゲルマニアですって!」 ゲルマニア嫌いのルイズが驚嘆した。 「あんな野蛮な成り上がりどもの国に!」 ルイズの口から差別的な言葉が出てきたことに、シンジは軽いショックを受けた。 なぜなら、あのキュルケもゲルマニアの貴族だったからだ。 知り合いまで一緒くたに卑下された気分になり、シンジは例えようのない居心地の悪さを感じていた。 「そうよ。でも、仕方がないの。ゲルマニアと同盟を結ぶためなのですから」 つまりは政略結婚だ。 先日、アルビオン内において有力貴族達が反乱を起こし、今にも王室は倒れそうであった。反乱軍が勝利を収めたら、【新生アルビオン】がトリステインに進攻するのは間違いない。 反乱軍が『ハルケギニア統一』、そして『聖地奪回』を旗印にしている為だ。 聖地とは始祖ブリミルに由縁する由緒ある土地なのだが、今では亜人種である【エルフ族】に占有を許してしまっている。 エルフは強力な民族で、今までにも各国が聖地奪回の為、散発的な進攻を度々行ってきたが、全て敗退に終わっている。 アルビオンの反乱軍首脳部は、聖地奪回の為にハルケギニア統一が必須事項と考えていた。しかし、ハルケギニアの国々は全くもって手を取り合おうとはしない。 その為、武力による統一を図ったのだ。 「そうだったんですか……」 ルイズは淋しそうに呟いた。アンリエッタが、その結婚を望んでいないのが、彼女の態度から明白だった。 「いいのよ、ルイズ。好きな相手と結婚するなんて、物心ついた時から諦めていますわ…」 「姫様……」 「礼儀知らずのアルビオン反乱軍は、トリステインとゲルマニアの同盟を望んではいません。二本の矢も、束ねずに一本ずつなら容易に折れますからね」 アンリエッタが俯く。 「したがって、わたくしの婚姻を妨げる為の材料を、血眼になって探しています」 ルイズが息を飲む。 「姫様には、材料になりうる存在の心当たりがあるんですね……?」 アンリエッタが後ろめたそうに頷いた。 「それは…?」 ルイズが尋ねると、両手で顔を覆いアンリエッタが苦しそうに呟いた。 「……わたくしが以前したためた一通の手紙なのです」 「手紙?」 「そうです。それがアルビオンの反乱軍に渡ったら……、彼らはすぐにゲルマニアの皇室にそれを届けるでしょう」 「手紙の内容は?」 「……それは言えません。でも、それを読んだらゲルマニアの皇室は、このわたくしを赦さないでしょう。婚姻の話は潰れ、ゲルマニアとの同盟は反故。となると、トリステインは一国にてあの強力なアルビオンに立ち向かわらなければならないでしょうね」 ルイズがアンリエッタの手を取った。 「畏れながら、申し上げます。わたくしめが必ずその手紙を奪還して見せますので、御詳細を…」 「……アルビオンにあります」 ルイズが口元に手を寄せた。 「では、すでに敵の手中に?」 「いえ、手紙を持っているのは、アルビオンの反乱軍ではありません。反乱軍と骨肉の争いを繰り広げている、王家のウェールズ皇太子が……」 「わかりました。私が必ずその手紙を受け取ってきましょう」 ルイズは真顔になり、きっぱりと言った。 「無理です、ルイズ!今、アルビオンでは苛烈な戦争が行われているのよ。そんな所に赴くのは危険過ぎます!」 しかし、ルイズは微笑む。 「トリステインの危機を放ってはおけません。それに姫様の御為とあらば何処なりとも向かいますわ」 アンリエッタに予感めいたものが浮かんだ。 この少女と少年ならば、あるいはやり遂げるのではなかろうか。 もちろん、何の根拠もありはしなかった。しかし、アンリエッタの中に巣くっていた不安の糸が断ち切られ、ふっと力の抜けた彼女がその場にくずれ落ちた。 「ありがとう……。…わたくしの親友なるルイズ」 その時、ドアが乱暴に開かれ、金髪の少年が飛び込んできた。 もちろん、ギーシュである。 「姫殿下!その困難な任務、是非ともこのギーシュ・ド・グラモンに仰せつけますよう」 アンリエッタに向かい恭しく膝を落とすギーシュに、ルイズが怒鳴った。 「あんた、盗み聞きしてたのね!」 「グラモン?ひょっとして、グラモン元帥の……?」 アンリエッタがきょとんとギーシュを見つめた。 そして、ギーシュが頷く。 「息子でございます」 「あなたも、わたくしの力になってくれるというの?」 「何をおっしゃいます。忠誠を誓うべき主は、貴女以外に見当たりません。貴女が仰せられるのであれば、例え怨嗟轟く戦場でも赴きましょう」 熱っぽいギーシュの口調に、アンリエッタは微笑んだ。 「貴方のお父様も勇敢な貴族ですが、貴方もその猛き血を受け継いでいるようですね。では、お願い致します。この不幸な姫をお助け下さい」 「この杖に賭けて…!」 ギーシュの様子を眺めていたルイズがため息をつきつつ、アンリエッタに言った。 「では、明日の朝、アルビオンに向かって出発いたします」 「旅は危険に満ちています。アルビオンの貴族たちは、あなた方の目的を知ったら、ありとあらゆる手を使って妨害するでしょう」 アンリエッタは机に座ると、ルイズの羽ペンと羊皮紙を使って、さらさらと手紙をしたためた。 アンリエッタは、自身の書いた手紙を見つめるうちに、悲しげに俯いた。 「姫様?」 怪訝に思ったルイズが声をかける。 「……なんでも、ありません」 アンリエッタは手紙を巻くと、杖を振る。すると、どこから、現れたものか、巻いた手紙に封蝋と花押がなされた。 その手紙をルイズに手渡す。 「ウェールズ皇太子にお会いしたら、この手紙を渡してください。すぐに件の手紙を返してくれるでしょう」 それから、アンリエッタは、右手の薬指から指輪を引き抜くと、ルイズに手渡した。 「母君から頂いた【水のルビー】です。この指輪が、アルビオンに吹く猛き風から、あなた方を守りますように…」 朝もやの中、オールド・オスマンの助力を得たシンジとルイズとギーシュは、コルベールと共に初号機の改造に取り組んでいた。風石を装甲板に取り付けているのだ。 風石とは風系統の魔力が込められたものである。 先日、シンジがシエスタと共に城下町へと出かけた時、彼は主人から受け取った全財産をはたいて、【風石】を買えるだけ買っておいたのだ。 その時、シンジには見慣れない羽帽子をかぶった長身の男が現れた。 その姿に気付いたルイズが立ち上がる。 「ワルド様……」 ワ 第四話 ル ド、来訪 終わり 男 第伍話 の 戦い へ続く
https://w.atwiki.jp/testhuston/pages/662.html
シドニー湾 マップ一覧へ マップ詳細 種類 水中 作戦名 出現 デラーズ紛争編のみ 解説 一年戦争時のコロニー落としによって消滅したシドニーの跡地。 地形 備考 マップ 宇宙 0% ・中央に唯一の足場。 #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (map_slave.gif) 地上 5% 砂漠 0% 森林 0% 冷地 0% 水中 95% 曲 優勢 強襲揚陸波 通常 THE WINNER 劣勢 ソロモンの悪夢 特殊部隊 連邦軍 機体番号 キャラクター メカ 武装A 武装B カスタム 備考 隊長機 サウス・バニング(R) ジム改 ブルパップ・マシンガン シールド(ジム寒冷地仕様) 予備弾倉 2番機 ディック・アレン パワード・ジム ハイパー・バズーカ(ジム改) シールド(ジム寒冷地仕様) 駆動系チューニングβ 3番機 コウ・ウラキ(R,Ver.1) ガンダム試作1号機 ブルパップ・マシンガン なし オプション・ブースター 4番機 チャック・キース ザクII後期型/連邦仕様 MMP-78マシンガン なし 5番機 一般兵 水中型ガンダム/HA 水中用偏向ビーム・ライフル なし 艦長 ニナ・パープルトン アルビオン 部隊名 アルビオン隊+α 出展 機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY(第1話 ガンダム強奪) ジオン軍(両雄激突編) 機体番号 キャラクター メカ 武装A 武装B カスタム 備考 隊長機 アナベル・ガトー(UC) ガンダム試作2号機 なし なし ゲリラ作戦 一定時間経過後登場 2番機 ボブ ザメル なし なし 定置迎撃 初期位置は中央の小島 3番機 ゲイリー ドム・トローペン ラケーテン・バズ なし ミノフスキー粒子散布装置 4番機 アダムスキー ドム・トローペン ラケーテン・バズ なし ロングレンジスコープ 艦長 ドライゼ U-801 部隊名 トリントン基地襲撃部隊 出展 機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY(第1話 ガンダム強奪) CPU部隊 連邦軍 機体番号 キャラクター メカ 武装A 武装B カスタム 備考 隊長機 マスター・P・レイヤー ジム・スナイパーII/WD ロケットランチャー なし アクティブ・サスペンション 2番機 レオン・リーフェイ ガンキャノン量産型/WD ロケット・ランチャー なし アクティブ・サスペンション 3番機 マクシミリアン・バーガー ジム/WD 100mmマシンガン なし アクティブ・サスペンション 艦長 一般兵 ミデア後期生産型 部隊名 ホワイトディンゴ隊 出展 機動戦士ガンダム外伝 コロニーの落ちた地で… ジオン軍 機体番号 キャラクター メカ 武装A 武装B カスタム 備考 隊長機 ヴィッシュ・ドナヒュー グフ クラッカー シールド(グフ) アクティブ・サスペンション 2番機 一般兵 ゴッグ なし なし なし 3番機 一般兵 ゴッグ なし なし なし 艦長 一般兵 ガウ 部隊名 荒野の迅雷+α 出展 機動戦士ガンダム外伝 コロニーの落ちた地で…
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5733.html
前ページ次ページいぬかみっな使い魔 いぬかみっな使い魔 第21話(実質20話) タイン陣地を撤退したレコンキスタ首脳陣は、敵の追撃をなんとか振り切る ことに成功し、撤退を続けていたものの下がり続ける士気に頭を抱えていた。 「将兵に脱走が相次いでおります!」「いかがいたします、閣下!」 「脱走に歯止めをかけられません!」「かなりが敵に取り込まれております!」 「敵は3万5千ほどにも膨れ上がっている模様です。」 「わがほうの数はすでに2万5千にまで減りました。」 「これ以上の撤退は士気の決定的な低下を引き落とします。」 「さいわいもうすぐスコットランドの主城スコッチ城だ。」 「ここで踏みとどまって反撃するべきだ!」「うむ、そうですな。」 「スコッチ城は防御に適している。」「追撃が迫っているしな。」 レコンキスタは、スコットランドの中心都市にして最も堅固な城砦都市、 スコッチ城を目指し、何とか無事に入城した。一部の部隊はここを 素通りすると、シティ・オブ・サウスゴータに向かっていた。 連合艦隊が残した駐留戦力が申し訳程度に過ぎないと看破し、 一気に取り戻す予定で急行している。そこでも反撃の準備を整える予定だ。 いまだ保有している小さな港もさほど遠くない距離にあり、 そこをレコンキスタ残存艦隊の基地とした。 問題は二つ。 一つは、件の港は小さい規模であり、レコンキスタ艦隊の半分しか停泊できない点。 残りは交代で上空警戒任務に出すしかない。元から撤退援護に必要なので 今は問題ではないが、後々艦を停泊させるため盤木を土メイジに作らせている。 これらは敵が攻め寄せたらすぐに破壊されてしまいかねないものでしかないが、 無いよりはあったほうがずっとましなのである。風石の消耗がまったく違う。 もう一つが、この城に蓄えられた兵糧が心もとないことだ。 サウスゴータに向かった部隊が奪還に失敗すれば。あるいは連合艦隊が兵糧を 奪いつくしていれば。さらに言えば兵糧の輸送に失敗すれば、彼らに未来は無い。 綱渡りのような状況が続いている。 そんな幕僚達の動揺しまくっている中でただ一人、いや、二人だけが泰然と構え、 落ち着き払っていた。まるで、この程度なんでもないとの態度である。 「やれやれ。君たちは、忘れてしまったのかね?」 レコンキスタ首魁、オリヴァー・クロムウェルが一言述べると、 その場がぴたりと静まった。 「…閣下?」 「我々は、旗揚げの直後から、長いこと寡兵で多くの敵と渡り合ってきた。 先日までのようにより多くの戦力で戦えたことなど、ごく最近になってからだ。 この程度の戦力差など、何だというのかね?」 その通りであった。王国軍に始めて勝てたのは、レキシントンの戦場での事。 それまで彼らは、地方の一揆か大き目のゲリラと大差ない存在であったのだ。 彼らレコンキスタは長いこと少ない戦力でより多くの王軍に勝利してきた。 クロムウェルの巧妙もしくは卑劣な作戦と王軍のなかから頻繁に現れる裏切り者の 活躍、豊富な資金と補給によって幾度と無く劇的な逆転勝利を成し遂げてきたのだ。 それまでと比べれば、いまだいくつもの都市を支配し、2万5千もの地上戦力と 大艦隊を持っている状況ははるかに良い。 「な、なるほど。」「しかし、士気の低下は深刻です。」「何とかせねば。」 「さよう、戦いになりませぬ。」「現状では敵が来ただけで降伏しかねませぬ。」 クロムウェルは一つうなずくと、脇に立つ青年と何事か相談し、うなずいた。 「良かろう、閲兵の準備を。私自身が将兵の士気を鼓舞するとしよう。 そう、その時には何か景気付けになるものを。そうだな、演説開始前に 全員に金貨2枚を支給。ワインを一杯与え、演説の後皆で乾杯するとしよう。」 その日の朝。レコンキスタ地上戦力全軍に対して閲兵が行われた。 その場で提供された酒は、一旦とあるテントに集められた。 その作業に従事した人夫達の中に、一人の黒髪の青年が混じっていたのであるが、 誰も特に気にしなかったという。 そう。アンドヴァリの指輪から滴った雫がぶどう酒の樽に入っても、 気にするものはいなかった。クロムウェルは演説と乾杯の後、 全軍の見守る中一人の伯爵を“虚無の魔法”によって生き返らせた。 それを見た将兵達は熱狂的な喝采を上げ、レコンキスタの士気は回復したのである。 マジックアイテムで虚無の担い手を装っているとの噂は、 彼らの頭からきれいに消え去っていた。 第9日目早朝、ランスの港。この時、啓太は一人のゲルマニア商人と会っていた。 「やあ、トルネコさん、良く来てくれました。アンリエッタ姫殿下の軍事教師 をしております川平啓太です。よろしくお願いしますよ。」 「これはご丁寧に、ケータ殿。早速商談に入らせていただいてよろしいですかな?」 「ええ、時は金なり、リソースは常に足りない。手っ取り早いのは大歓迎です。」 戦争とは数の暴力と数の暴力が鬩ぎ合うものである。 現実世界よりも個人の力量差が与える影響が顕著なハルケギニアにおいても それは変わらぬ真理であり、兵多ければ勝利の基本則は変わらない。 作戦で局所的に優位を作り、敵軍の士気や統制を崩壊させて勝利しようとしても、 数の差が絶対的に違えば話にならないのである。 となれば、数の暴力を維持しなければならない。すなわち、膨大な兵員を 食わせるための兵糧、武器弾薬、各種秘薬を必要なだけ集め、与えねばならない。 啓太は、各地で戦利品を獲得させ、大雑把な量で言えば充分すぎるほどの 物資を手に入れさせているのであるが、いかんせん細かいところではどうしても 足りないものが出てきてしまう。そのため、購入という手段も必要なのだ。 啓太は、華々しい戦闘の裏でこういった地味な部分に関しても抜かりなく 手配りをしていた。その一つが、このトルネコという太った大商人との商談だ。 本籍はゲルマニアで、ツェルプストー家の武装商船に混じってただ一隻、 他の商会から参戦している大型武装商船の持ち主だ。アルビオン内にも 多数の支店を持っているとのことで、啓太は大商人トルネコを呼んだのである。 平民出身で魔法がろくに使えないそうなのだが、大手柄を立てて貴族に叙勲され、 立派なマントを羽織ってそろばんの飾りがついたごつい錫杖を持っている。 最近ゲルマニアの商人系貴族で流行っている正義のそろばんという武器だ。 ゆったりとした上着の下には、戦地のためか軽めの鎧を着込んでいるようだ。 体の動きに無駄や隙がなく、歴戦の戦士である事にうなずける。 「このリストが当商会がすぐに供給できる主な商品の品目と量です。 こちらは多少の時間がかかるもの。こちらは確約は出来ぬものの供給できる見込み のある品のリストです。連合艦隊に必要そうなものを選びましたので、 他にもご入用な物がございましたら承ります。物によっては他から買い取る等して ご提供できるかもしれません。」 「ほう、これはすばらしい。これで時間がだいぶ節約できます。 おい、これを頼む。不足物資のリストと照合して(後略)」 啓太は、すぐにリストを薬草クラブ員達に渡し、あれこれ指示を出して 買取物資のリストを作らせ始めた。艦隊の参謀達とはすでにある程度の 相談を済ませ、段取りは整えてある。というより、参謀達のあまりに低劣な 補給計画に関する能力を知ってしまい、泣きたくなってしまってから数日たつ。 以後啓太は、各種の現代的な補給計算法などのレクチャーを 姫様や薬草クラブ員達はおろか将軍や提督、参謀達にする羽目になった。 この時代、補給計画とは将軍や提督の経験則による非常に大雑把なものでしかない。 正面戦力の必要物資の量等は割と正確に推し量れても、必要物資が距離や時間 などにより幾何級数的に増える事や、攻撃力が距離の二乗に反比例して減る事も あまり理解されていない。そんな連中を教育して補給計画立案の補助まで しなければならないのだから事実上の作戦参謀たる啓太の負担は 相当なものである。ストレスも溜まりやすいといえる。 しかし啓太は、とある事情からストレス解消の最大の方法を失っていた。 故に、ある種のイジメを薬草クラブ員達にすることでストレス解消をしていたのだ。 だが、それも限界に来ていた。これ以上は啓太とクラブ員、双方が持たない。 ゆえに。 啓太は、薬草クラブ員達にとある褒美を与えることを計画していた。 啓太の前述した悩みゆえにちょっとばかり伸びていたのであるが、 リストの中に書いてあったとある品名に気づいた時。 「これは!」 バ イ ア グ ラ !! ご褒美の即日渡しが1ミリ秒で決まった。 いや、秘薬の名前自体はもっと別のものだ。しかし、自動翻訳能力を 付与された啓太のノウミソは、その比較的レアな秘薬の効果を理解したとたん、 バイアグラという名前以外には認識できなくなった。 なってしまったのである。 「おや、ケータ殿、なにか秘薬のリストに問題でも?」 啓太が突然大声を上げたので、トルネコは心配そうに聞いてきた。 薬草クラブ員達も手を止めて啓太のほうを見た。 「い、いや、それほどの事ではありません。おいみんな、作業の手を休めるな! 物資の調達と輸送にはどうしても注文してからタイムラグが生じる。 となればあらかじめ手配しておかなきゃ必要なときに物資が 届いていない事になる。物資の不足は戦場で致命的な隙をさらす 原因となる事はわかるだろう。時間との勝負だ、急げ!」 「「「「サー・イエス・サー!」」」」 啓太の一喝に、薬草クラブ員達は作業を再開した。 「見事な統制ですな。トリスティン魔法学院の生徒達は、みなこのように 即戦力となる優秀なものたちばかりなのですか。素晴らしいですな。」 トルネコが、感心したように言う。 「ええ、優秀です。即席で叩き込んだんですが、皆訓練にかじりついてくれます。 うん、がんばってくれてるし、これは例の褒美をやらないとな。」 「「「「(キュピーン)!!!!」」」」 突然機嫌が良くなった啓太の言葉に、薬草クラブ員達の目が光った。 啓太の言うご褒美とは、高確率でエロイ事関連なのである。 間接的にエロイ事、すなわち女にモテるために有用な金や知識の供与等も含めれば その確率はさらに高くなる。その啓太が提示した今回の褒美は。 ある意味非常にでかかった。 薬草クラブ員達は、さらに猛然と作業を進めた。 「ほう! これはこれは。トリスティンの優秀さを垣間見させてもらいましたよ。」 トルネコがさらに褒める。 「はは、褒めすぎですよ、トルネコさん。さて、話を商談に戻しますが。 その、こちらの入手が不確実な秘薬のリストについてですがね。」 啓太は、勤めてさりげなくトルネコに探りを入れた。 「なんでございましょう?」 「ええ、ここからここまでの秘薬が欲しいのですが。量は、これくらい、かな。」 啓太は秘薬リストの一角を指差し、取り出した別の紙に品目と量を書いていく。 「どうです、いつぐらいまでにお願いできますか?」 啓太の目は、大いなる期待に輝いていた。 「そうですな、アルビオンの親交の在る商会と交渉して手に入り次第、ですな。 ものによっては私自身がダンジョンに直接もぐって探してきます。 期待されても困りますが、早ければこの期日、遅ければこう、(中略)それ以降は 短期間ではまず難しいためにですな、値段は(後略)」 「ふむ、おおよそ(後略)」 ダンジョンに自ら乗り込んで商品を手に入れるという、商人としては およそありえない発言であったが、地下深くの洞穴でのみ手に入る秘薬も 注文リストにあったので、啓太は特に気にすることもなく詳しい商談に移った。 そして。 勤めてさりげなく、バイアグラ(仮称)の注文交渉を織り込んだのであった。 そして。それからしばらくの後。 すなわちアルビオン上陸9日目の朝、ランス港郊外。 啓太は、数十人の漢達を前に、訓示を垂れていた。 「諸君! ついにこの日が来た!」 マントをまとったメイジ達が整列する前を、威圧的にのし歩く。 「4つのレコンキスタ艦隊を撃破し、4つの港を陥落せしめ、 レコンキスタに占領されしロンディニウムを襲撃して捕虜を奪還し、 各地の資源集積地を襲って軍需物資を手に入れ… 我々トリスティン軍はまさに獅子奮迅、連戦連勝街道をひた走った!」 集まった漢達の顔に、強い誇りと自負が浮かんだ。 1週間前には祖国を小国と揶揄していた卑下の色は、もはやかけらほども無い。 「アンリエッタ姫はアルビオン王女として、アルビオン親征艦隊司令に正式になり、 レコンキスタから開放された多くの艦艇と人員が、ゆるぎない忠誠を誓ってくれている!」 先日、念のためにと啓太が正式な辞令をアルビオン国王ジェームズ一世に 求めるように進言し、直ちにその辞令と、アルビオン王国王位継承権 第2位の認定書が送られてきたのだ。これによって、トリスティン艦隊は 名実共にアルビオン王女の直卒する親征艦隊となり、寝返ったアルビオン艦隊への 正当な指揮権が発生し、取り込み工作は実に簡便な作業へとなった。 さらに、新たな“国王候補”が誕生した事により、多くの変化が在った。 王国を滅亡させるためには国王と皇太子、首都の3つを同時に押さえねばならない。 首都は押さえ、二人をすでに追い詰めている…はずだったのに、 強い戦略眼と指揮能力、巨大なカリスマを持(っているようにみえる)ち、 巨大な戦力を手にしたアンリエッタという皇太子の予備が出現したのだ。 これをも倒さねば目的を果たせないのだからレコンキスタは消沈もする。 逆にアルビオン陣営には希望と士気の上昇がもたらされていた。 今では、レコンキスタをきりきり舞いさせている“強い王女”が。 “未来の強い女王候補”が予備として存在しているのだ。アンリエッタ王女は、 敵の後方霍乱のみならず、ガリア傭兵3千と補給物資を送ってくれ、 両軍が対峙している戦場にも一度現れ、レコンキスタ艦隊に損害を与えてくれた。 アルビオン将兵の彼女への信頼は、すでに熱狂の域にまで達していた。 それらの作戦を練り、提示することで、軍師としての地位を確定しつつある “アンリエッタ姫の軍事関連教師”である啓太は、戦闘の合間の補給と 休養のこの日…ナゼか、意欲満々な連中を前に訓示を垂れている。 「全ての作戦は、全ての戦闘は、今日この作戦の為の準備でしかなかった!」 全員、それを知って作戦の協約に署名した、固い結束を持つ連中だ。 中には、元帥の息子たる土のトライアングルメイジまでいたりする。 「わずかな齟齬が、この作戦の失敗にと繋がる。故に、間違いは許されない! 全員、充分な睡眠をとり、必要な秘薬と道具を用意してきているな!?」 啓太は厳しい目つきで、薬草クラブ員を中心として、 同じ志を持った王軍や空軍の高級士官たちを見つめる。 「段取りはきちんと頭に入っているな? よし、では、作戦開始!」 かくして、彼らは… アンリエッタ王女殿下が最初に入る事になる『 お 風 呂 』 の新築作業に入ったのであった。 事の起こりは、ラ・ロシェールに到着した晩に船上で一泊した時に遡る。 フネを降りて、女神の杵亭にて休もうとしたアンリエッタ達女性陣を、 マンティコア隊隊長ド・ゼッサールが止めたのだ。 「殿下。現在ラ・ロシェールにはレコンキスタに雇ってもらおうと アルビオンに向かう傭兵が多数おります。さらに、レコンキスタの間諜も 多数潜んで虎視眈々と監視をしております。アルビオンに攻めあがるには、 ここを拠点とする事になりますからな。となりますと、レコンキスタへの 示威行為をしているトリスティン艦隊は敵とみなされましょう。 暗殺を警戒せねばなりませぬ。襲撃しやすい地上の宿では危険すぎます。 ご不自由をおかけしますが、今夜は船室でお休みください。」 最もな話である。啓太も、すぐに賛同した。収まらないのはルイズだ。 「それでは姫様がお風呂に入れませんわ! それにベッドにせよ食事にせよ姫様に ご不自由をおかけすることになるますわ! 警備を強化すればよい話でしょう!」 これも最もな発言だ。王女となれば身奇麗にしてその美貌を公開するのは公務だ。 美しい姫のために、と将兵は勢いづき、士気が上がる。 薄汚れた姫では士気が上がらない。これは戦術上の大問題なのだ。 姫様付きの女官となればその辺りを心配するのは責務である。 「そこは濡れタオルで拭いて洗面器で髪を洗うなどしていただいて、ですな。 工夫していただきたい。無論、入浴券は数倍お出し出来ますので。」 船の上における入浴券とは、銭湯のチケットとは違う。 洗面器を持って所定の場所に行くとお湯を一杯くれる、というものだ。 洗面器一杯のお湯で口をゆすぎ、顔を洗い、体を拭かなければならない。 量が少ないために結構コツがいる。船の上では水も燃料も貴重で、 水兵程度なら週に1枚、下士官で2枚、士官で数枚という配給態勢だ。 蒸気船時代以降の海軍であれば話は別だ。蒸気機関の余熱で海水を温め、 毎日でも風呂に入れるのであるが、ここはハルケギニア。 空の上では海水すら入手は難しく、雨を集めてわずかに風呂用水にしている。 港で停泊中といえど水事情は余りよくない。世界樹が生えるのはなぜか 岩山の上で川が遠い上に井戸を掘っても岩又岩。人工的に作られた鉄塔の港でも、 さびを防ぐために乾燥した土地が選ばれる。港は真水を得にくいのだ。 故に水はまず飲料水、それも長期移動のフネに積み込む飲料水に回される。 港は農業に今ひとつ適さない事が多いから生鮮食料も遠くから運ぶ事になる。 必然的にフネでは飲み水は配給制となって1日の量が決まっており、 食事も出航後日が経つにつれ生鮮食品が減り、カビや虫の沸いたビスケットと 硬い乾燥肉だけ、なんて事になる事が多い。 だから上陸して思う存分飲み食いでき、ゆっくり風呂に入れる上陸は、 船乗りにとって何よりの休暇であり娯楽なのである。 意外な事に女を抱けるから、というのはあくまで副次的な理由なのだ。 ちなみに、庶民は蒸し風呂に入るのが普通だが、蒸し風呂は出た後冷水を 大量にかぶるのが常だ。垢をこすり落とすタオルをゆすぐのにも水が必要だ。 蒸し風呂だから温水は少なく済んでも水が大量に必要なのは 風呂に共通する補給上の問題なのである。 なおも抗議していたルイズに、啓太が懇々と諭した。 「ルイズ。これから姫様は当面こんな状況が続く事になる。 なにしろ、俺たちはレコンキスタの勢力圏に殴り込みをかけるんだ。 敵地で油断は出来ない。ずっと船にこもってもらうことになる。 幸い今日は、味方の港にいる。失敗してお湯を使いすぎても、 港から多少は補充できる。訓練のためにはいい条件だ。がんばれ。」 「それは…」 まっとうな事を言われて、言いよどむルイズに、アンリエッタが声をかけた。 「ルイズ、ルイズ、私のルイズ。国を守り民を守るは王族の義務。 そのために戦地におもむくことも義務。ほうっておけばアルビオンを 蹂躙した後に、トリスティンに襲い掛かるであろうレコンキスタを倒し、 後顧の憂いを払うのも義務。幸い私は、勝利の目算を得られた上で 戦いに望む事が出来るのです。望外の幸運です。わずかな不自由が 何だというのでしょう。この程度、甘んじて受けねばなりませぬ。」 「姫様…!!!」「きょろ~!?」 毅然としたアンリエッタに、ルイズは尊敬と感動の眼差しを浮かべた。 二人して試練に打ち勝つのがどーのこーのと手を取り合って感動している。 その二人を見て、ともはねが 「お姫様、かっこいいです!」 とうんうんうなずいていた。 その脇で啓太は、暖かいまなざしで彼女達を見守っていた。 生徒が成長していくのを見るのは、師として実にうれしいことだからである。 (「とはいえ、こんな不自由をいつまでもさせるわけに行かないよな。」) うれしくなった啓太はそんなふうに考えた。 そして啓太は、さらに考えを進める。 (「早めに姫様だけでも帰れるようにするか? ごく短期間の援護だけして 後はアルビオンに自力でがんばってもらえば…いや、それだと領土を得られない。 となると、絶対に暗殺されない方法でお風呂に入ってもらう? キュルケみたいに小型のバスタブを持ち込んで入るとか? 姫様が満足するかな? 宿で暗殺される可能性の要素はアレとコレとソレと…あ!」) 啓太が、残り湯大作戦なるものを思いつき、色々と画策しだしたのには。 こんなきっかけがあったのであった。 「と、いうわけでだ! 有志を募りたい!」 ある日啓太が執務室で計画を打ち明けると、皆が一斉につり込まれ、たりはしなかった。 「浴場を作って、褒美に二番風呂を使わせてもらう?」 「覗き部屋を作るわけでもないのにそんなかったるいことはなあ。」 「姫様たちの後に入れるだけじゃあ、さすがにやる気が起きないよ。」 「そりゃまあ名誉といえばいえるけど、2番風呂ってだけだろ?」 口々に否定の言葉を吐く薬草クラブ員達に、啓太はちっちっちっと指を振った。 「わかっていないな、君たち。2番風呂には入れるって事はだ。いいか。」 機密保持のために盗聴防止魔法を常動でかけているのに、 さらに耳を寄せさせ、声を潜めて言う啓太である。 「例えば。姫様が使った洗面器やタオルで、体を洗える!」 「おお!?」「なに!?」「姫様の洗面器で!?」「それは!」 早くも数名の男子が、前かがみになった。 「さらに。王族が入るとなれば、当然風呂用椅子を用意するよな?」 「あ、ああ。」「そ、そうだな。」「う、うん。」 「当然姫様はその椅子に座る。湯着だけのお尻で座る! 2番風呂となれば! その椅子にほお擦りなんか出来ちゃうんだぞ!」 湯着とはいわゆる脇や下が大きく開いていて体をこするタオルなどを 入れやすい、うすでの服だ。申し訳程度に体を覆う布地の裾は短く、 当然ながら下着=ぱんつはつけず、事実上椅子には生尻で座ることになる。 「「「「「う、うおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」 雄たけびが上がった。 すでに、ほぼ全員が前かがみである。 「さらに。あの高貴なアンリエッタ姫だけでなく、キュルケやタバサ、 ルイズなんかも一緒に入ってもらう予定だ。お姫様二名に女官が二名。 あとは、護衛としてともはねにも行って貰うかな。よりどりみどり!」 「「「「「う、うおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」 再び雄たけびが上がった。 「そしてもちろん! 風呂の残り湯、すなわちアンリエッタ姫たちが その身を浸し、汗を流した浴槽のお湯は、俺たちが好きにしていいわけだ!」 「「「「「う、うおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」 三たび雄たけびが上がった。 「そそそそ、それは、匂いをかいだりしてもいいのか!?」 「おう、嗅げ嗅げ!」 「ひ、姫様のあんなところやこんなところを浸したお湯を触っても!?」 「おう、触れ触れ!」 「あああああ、あまつさえ、のののののの、飲んだりしても!?」 「おう、飲め飲め!」 「ううううう(鼻血)」「す、すごいよ啓太君!」「い、生きてて良かった!」 「一生ついていきます!(鼻血)」「先生と呼ばせてください!(鼻血)」 「俺は今、モーレツに感動している!(滂沱の涙)」「俺もだ!(滂沱の涙)」 「お、おれ、一生壷に入れて宝物にするよ!」「俺も!」「おれも!」 「おう! 土メイジに頼んで固定化かけてもらいな!」 このあたり、純情な童貞少年達の心理を見事に突いた啓太の作戦勝ちである。 なお、建築員たちは童貞ではなくなっているものも多いが、1回のみな上に 素人童貞であることには変わりが無かったりするので注意されたい。 熱狂の最中とはいえ、中には冷静な奴も少しはいる。 金髪の風メイジ、レイナールが疑問を呈した。 「で、でも、それだけの物を建てるとなると、結構秘薬がいるよ? それに、数時間で作るとなると、さすがに僕達だけじゃあ数が足りない。 それに設計図は? 装飾は申し訳程度で質実剛健に行くとしても、 必要なものは結構多いよ?」 「大丈夫だ。設計図は風呂屋作ったときのを取ってあるし、秘薬も在る。」 啓太は、自信たっぷりに言った。 「人数は、集めればいい。お前達は名門男子だ。コネはあるだろう? それに、いくらなんでも俺たちでお湯を使いきれるわけが無い。 残ったお湯は一般水兵さんたちなんかにも分けてやらくちゃな。有償で。」 「それは!」「な、なんだかものすごく高く売れそうだな!?」 「下手をすれば1万エキュを超えるお金になるかも!?」「うん!」 「1万で済むか、売り方によっちゃ軽く数万になるぞ!」 「それって城が買えちゃわないか!?」「田舎なら結構な領地が!?」 「おい、コレってかなりすごくないか!?」「すごい!」 口々にうなずきあう男の子達である。 「あとな。お湯の処理が終わった後は、そろそろともはねのシャンプーを してやらなくちゃいけない時期だな、と思ってるんだが、 何分時間は節約しなきゃならん。お前らと一緒にいれさせていいか?」 「「「「「う、うおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」 今まで出最大の雄たけびが上がった。 それまで興味なさそうにしていた連中を中心として。 前ページ次ページいぬかみっな使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6478.html
前ページ次ページ炎神戦隊ゴーオンジャー BUNBUN!BANBAN!クロスオーBANG!! 次回予告 「バスオンでい! おい姫さん、ルイズの嬢ちゃんに勝手な頼みするんじゃねえ! おいおい、アルビオンが大変な事になっちまってるぜ!? あれを? 急ぐ? 皇太子? GP-12 姫君ライホウ ――GO ON!!」 新聞騒動から数日後、リンテンバンキのばら撒いた新聞記事による諸々は無かった事となっていた。影響といえば街のあちこちに捨てられた大量のゴミの後始末程度で、魔法学院はすっかり日常を取り戻していた。 「最強の系統とは何か判るかね?」 授業中、前座を務める風属性担当教師・ギトーが質問した。 「虚無ですか?」 生徒の1人の答えに教壇に立っているギトーは不機嫌そうな表情で、 「現実での話だ。ミス・ヴァリエール、答えなさい」 「そんなものは存在しません。攻撃するだけなら確かに火が最強でしょうが、そんなもの個人の実力差と戦術でどうにでもなります。ミスタ・ギトーは常々風が最強と言っていますけれど、風を使われなければオールド・オスマンにも勝てるとお思いですか? さらに言えば戦略・謀略によって持てる力を十分発揮できなかったとしたら?」 「なるほど、確かに私とて属性の強さだけでオールド・オスマンに勝てるなどとは思っていない。だがメイジの実力差が同程度であれば最強は風属性に他ならない」 「たいそうな自信ですね?」 「君の得意な魔法で私にかかってきたまえ」 「それならば私が相手になるぞよ」 ルイズの背後からした男の声に全員がその声の主に視線を向ける。 「キタネイダス……」 「ミスタ・キタネイダス、確かあなたは大気……つまり風属性でしたな。ひとつお手合わせ願いましょうか」 「いいぞよ」 ギトーの挑戦を受けたキタネイダスの言葉に、2人の間にいる生徒達が慌てて批難していく。 「それではどうぞ」 「それではいくぞよ」 そう言うが早いか杖を振り呪文を詠唱するギトー。風の刃がキタネイダスに殺到する。 それに平然と耐えてキタネイダスは黒煙をギトーに浴びせた。 「ゲホッゲホッ、ゲホゲホゲホ!」 激しく咳き込み行動不能に陥ったギトーの隙を突いて、キタネイダスはその喉に自身の杖を突きつける。 「お前がさっき言ったとおり風属性には大気、すなわち空気もまた含まれるぞよ。空気を吸わずに生きられる者は少ない。そこを工夫すべきだぞよ」 ――GP-12 姫君ライホウ―― 「ミスタ・ギトー、失礼します……どうしましたか?」 丁度その時コルベールが教室に入ってきた。 「本日の授業は全て中止です」 生徒達が歓声を上げる。 「いかなる理由があっての事ですかな?」 「最後まで聞いてください、ミスタ・ギトー。それをこれから説明するのです」 「最後から話してください、ミスタ・コルベール」 「……皆さんにお知らせです。恐れ多くも先の陛下の忘れ形見、我がトリステインがハルケギニアに誇る可憐な一輪の花、アンリエッタ姫殿下が本日ゲルマニアご訪問からのお帰りにこの魔法学院に行幸されます。そのため今度の使い魔品評会には姫様も御出席されます」 生徒達がざわめく。 「アンリエッタとは何者でおじゃる?」 「このトリステイン王国のお姫様よ」 「したがって粗相があってはいけません。急な事ですが授業は中止し、今から全力を挙げて歓迎式典の準備を行います。生徒諸君は正装し門に整列すること」 生徒達の間に緊張が走る。 「皆さんが立派な貴族に成長した姿を姫殿下にお見せする絶好の機会です。しっかり杖を磨いておきなさい。よろしいですか」 王女一行が魔法学院の正門をくぐった時、既に生徒達は整列していた。 ――シャン! いっせいに杖を振った音が見事に重なって喜びの挨拶を王女に伝える。 停車した馬車の横に代表者オールド・オスマンが迎える。 召使達が赤絨毯を素早く敷き詰める。 「トリステイン王国王女、アンリエッタ姫殿下のおなーりー!」 衛士が王女登場を告げる。 馬車から降りたアンリエッタはにっこり微笑んで優雅に手を振った。 彼女は童話から抜け出してきたようないかにもという姫がいた。すらりとした気品ある容貌、薄青の瞳、高い鼻が目をひく瑞々しい美女。男子ばかりか女子も歓声を上げている。 大慌てで進められたわりには立派に準備が整った使い魔品評会会場。 キュルケ・タバサ・ギーシュ等が各自趣向を凝らして使い魔を披露していき、ついにルイズの順番が回ってきた。 「火竜山脈のサラマンダーや風竜にもできない事がケガレシア達にはできるのよ! それは素敵な歌を歌う事!」 「うん。だから目一杯歌うでおじゃるううう!」 ドラムスティックでヨゴシュタインがカウントを取り、 『サンギョーカクメイだ!!』 ルイズがギター、ケガレシアがベース、ヨゴシュタインがドラム、キタネイダスがキーボードでメタルサウンドに乗って高らかに歌い始めるのは「害悪産業革命宣言」。 「♪澄んだ空は気色悪い」 「♪豊かな大地反吐が出る」 「♪綺麗な水飲めやしない」 「♪夢や希望は邪魔なだけ」 『♪ケガれヨゴれてキタナくするぜ』 「ビックリウムエナジー発動!」 『♪サンギョーカクメイだ!(ジョッジョバー) 俺たちゃガイアーク(気高く) サンギョーカクメイだ!(グチャグチャー) 俺たちゃガイアーク(かしこまれ) 地獄に悪の華咲かせ ガイアーク』 ノリにノッて歌う4人とは裏腹に、キュルケ達を含む観客の大部分は耳を押さえて悶絶していた。 「ぐああーっ! 何よこの酷い歌は!」 「歌って言うよりほとんど雑音じゃないか!」 ――コーンコーン、コンコンコン…… 夕食を終えたルイズが寝る支度を始めていると突然扉を叩く者が現れた。 「このような時間に何者でおじゃる?」 ――コーンコーン、コンコンコン…… ルイズはその音の規則性に気付いて扉の方に向かうと扉を開いた。 その途端、真っ黒なフードを被った少女が室内に入ってきた。 「……何者ぞよ?」 キタネイダスの問いかけにフードを被った少女は「静かに」と口元に指を立て、杖をマントから取り出して軽く振り光の粉を室内に舞わせる。 「……ディティクトマジックなりか?」 ヨゴシュタインが尋ねると少女は静かに頷き、 「どこに目と耳が光ってるかわかりませんからね」 周囲を確認してフードを脱いだ少女は神々しいほどの高貴さを持つ美少女だった。 「姫殿下!」 慌てて膝を突くルイズにアンリエッタは笑みを浮かべ、 「お久しぶりね、ルイズ」 「姫殿下、いけません。こんな下賎な場所へお越しになられるなんて」 「ルイズ、そんな堅苦しい行儀はやめてちょうだいな。あなたと私はお友達じゃないの」 「勿体無いお言葉でございます。姫殿下」 「……席を外した方がよいでおじゃるか?」 思わずそう声をかけてしまったケガレシアにアンリエッタは気付いていなかったようで彼女に視線を向け、 「あら、ごめんなさい。お邪魔だったかしら?」 「お邪魔? どうして?」 「だってそこの彼女、ルイズの恋人なのでしょう? 嫌だわ、私ったら懐かしさにかまけてとんだ粗相をしてしまったみたい」 「違います!」 「あら、では何でこんな時間に?」 「ケガレシア――そしてヨゴシュタインとキタネイダスは私の使い魔なのです」 「ルイズ、あなたって昔から変わっていたけれど相変わらずなのね」 「信じられないでしょうけれど実力は保障します。火竜山脈のサラマンダー以上、風竜の幼生体以上、『土くれ』のフーケのゴーレム以上です」 強く言い切ったルイズにアンリエッタは頷いて微笑む。 「いい使い魔を召喚しましたね。……これなら安心して頼めるというものです」 「……頼める?」 アンリエッタの依頼というのは以下の通りだ。 アルビオンでクーデターが発生、王朝は転覆寸前の状況になっている。 王朝転覆後の新政権とトリステインは確実に敵対するが、現時点でトリステインの軍事力は対抗策として大きな不安が残る。 そこでアンリエッタがゲルマニアの王と政略結婚をする事になったが、その政略結婚の障害となる可能性のある内容の手紙をアルビオン皇太子が所持している。 アンリエッタとしては王朝転覆前にそれを回収せねばならない。 しかしトリステイン貴族達はアルビオンクーデター派との内通の危険性が高いため、アンリエッタは信用できる人物としてルイズに依頼に来たという事だ。 「国王陛下とウェールズ皇太子はニューカッスル城に篭城、陣を構えておられます。『土くれ』のフーケを難無く捕まえたルイズ達ならば、この困難な仕事もきっと果たせるものと見込んで参りました。可能ならばお二方をも密かにお救いし王位奪還を成し遂げられるようご援助したいものですが。……しかしこれは危険な仕事です。だからこそ王女としての命令ではなく、受けるか否かをルイズの判断に任せられる依頼という形を取ったのですが……」 「姫様、涙をお拭きになってください。たとえ地獄の釜の中でも異世界ヒューマンワールドでも、この私は姫様と王国の危機を見過ごしません。その一件是非お任せください。必ず完遂した上で生還してご覧に入れます」 「その通りでおじゃる。ルイズとわらわ達が姫殿下の命を果たせぬはずがないでおじゃる」 「まあ、頼もしい方。私の大事なお友達をこれからもよろしくお願い致しますね」 「かしこまり」 アンリエッタは頷いてルイズの机を借り一筆したためる。最後に躊躇しつつも末尾の一文を書いた。 「始祖ブリミルよ……、この愚かな姫の自分勝手をお許しください……。でも私はやはりこの一文を書かざるを得ないのです……」 そう呟くとアンリエッタは手紙を巻き杖を振るった。手紙に封蝋がなされ花押が押される。 そして指から青いルビーの指輪を外し手紙と共にルイズに手渡す。 「ウェールズ皇太子にお会いしたらこの手紙を渡してください。すぐに件の手紙を返してくれるでしょうから。それと……、これは母君から頂いた『水のルビー』です。身分証明とせめてものお守りに持ってください。旅の資金が不安ならば売り払ってもかまいませんが……」 「そんな、王国に伝わる始祖の秘宝に値段など付きませんわ」 「この任務には我が国の未来がかかっています。この指輪がアルビオンの猛き風より貴女方を守りますように。……明日の早朝、学院正門前に来てください。案内の者を呼んでありますので」 前ページ次ページ炎神戦隊ゴーオンジャー BUNBUN!BANBAN!クロスオーBANG!!
https://w.atwiki.jp/savagetide5th/pages/578.html
Cambion カンビオンはフィーンド(通常はサキュブスやインキュブス)と人型生物(通常は人間)の間に生まれた子供である。カンビオンは両方の親の相を引き継いでいるが、その角、皮革のような翼、筋骨逞しい尾は異世界の血統を明らかに示している。 彼らは最も愛情深い定命の親たちですらぞっとさせられるような邪悪さと堕落を持つ冷酷な大人に成長する。若い頃ですら、カンビオンは定命の者に君臨する立場こそ自らに相応しいと考えている。 カンビオンの種族特徴については下記に示す。 カンビオンの種族特徴 カンビオンのキャラクターは下記の種族的特徴を有する。 クリーチャー種別 カンビオンのクリーチャー種別は人型生物ではなくフィーンドである。 能力値上昇 君の【魅力】の値は1上昇する。 年齢 カンビオンは彼らの血筋に応じて1,000年以上の寿命を生きる。 属性 ほとんどのカンビオンはその片親たるフィーンドの属性を引き継いでおり、悪属性である。彼らの多くは救いようもなく悪であるが、すべての者が衝動的な破壊行動に駆り立てられるサイコパスだというわけではなく、悪の衝動を抑えつつ、自らの目標を達成するために冷静に長期的な計画を立てて行動する者たちも多数存在する。またごく僅かながら、その生来の悪の性情をすさまじい意志の力で抑えつけて別の道に踏み出した者もいるが、そうした者は自らの選んだ道を秘密にしていることが多い。 サイズ カンビオンの体格は基本的に定命の親のそれを引き継いでおり、背中からは蝙蝠のような翼を生やし、逞しい尾を有している。君のサイズ分類は中型サイズである。 移動速度 君の基本歩行移動速度は30フィートであり、また30フィートの飛行移動速度を有する。 暗視/Darkvision 君は60フィート以内の薄暗い光を、あたかも明るい光であるかのように見ることができ、暗闇の中をそこが薄暗い光の中であるかのように見ることができる。君は暗闇の中で色を見分けることはできず、灰色の濃淡しか識別できない。 生来の呪文発動/Innate Spellcasting カンビオンはアクションによってプロデュース・フレイムの初級魔法を発動することができる。それに用いる生来の呪文発動能力は【魅力】である。 フィーンドの祝福/Fiendish Bless 5レベル以降、アーマー・クラスにボーナスを得る。このボーナスは特殊な計算を用いる。この特徴以外の要因すべてによって決定されるアーマー・クラスを算出した後、【魅力】修正値に等しいボーナス(最低+1)を加算するが、このボーナスによるアーマー・クラスは最大でも20までしか上昇しない(元々の要因によって20を超えているなら何のボーナスも得られない)。これはシールド呪文などの一時的な要因による上昇に対しても同様に計算される(シールド呪文による上昇を加算した後で、最大20までの範囲でこの特徴によるボーナスを加算すること)。 言語 君は共通語を読み、書き、話すことができる。 副種族 カンビオンにはフィーンドの片親に応じたいくつかの副種族が存在する。 スポーン・オヴ・グラッズド 特にデーモン・ロードのグラッズドは、フィーンドと契約を結んだ人型生物との生殖行動が大好きであり、多元宇宙のあちこちに混沌を植え付けるべく、彼を手助けする数多くのカンビオンたちの種親となっている。こうしたグラッズドの申し子であるカンビオンたちは、木炭のように黒い皮膚、割れた蹄のある脚、6本の指を持つ手、そしてこの世のものならぬ美しさをその特徴としている。デーモン種に属するクリーチャーは君の放つオーラを通じて即座に君の血筋に気付くであろう。 能力値上昇 君の【知力】の値は1上昇する。また【魅力】の値はさらに1上昇する(合計で2上昇する)。 生来の呪文発動/Innate Spellcasting 3レベルに達すると、オルター・セルフ呪文を発動することができるようになる。この呪文に関する君の生来の呪文発動能力は【魅力】である。いったん使用すると、大休憩を取り終えるまでは再びこれを使用することはできない。 この世のものならぬ美しさ/Unearthly Beauty 君は〈説得〉と〈ペテン〉技能に習熟し、これらの技能を用いた能力判定には習熟ボーナスの2倍を適用することができる。 言語 君は奈落語を読み、書き、話すことができる。 ヒューマン・ボーン 君の片親は人間であり、カンビオンの中では最も一般的な種族である。君は赤い皮膚と大きな角を持つ。 能力値上昇 君は任意の3つの能力値について1ずつ上昇する。このとき、【魅力】を選択するのであれば、種族特徴としての上昇分と合わせて合計2上昇させることもできる。あるいは、特技の選択ルールを採用しているのであれば、能力値を上昇させる代わりに特技を1つ修得することもできる(その場合、カンビオン共通の能力値上昇である【魅力】の1上昇も失う)。 生来の呪文発動/Innate Spellcasting 3レベルに達すると、ディテクト・マジック呪文を儀式として回数無制限で発動することができるようになる。 言語 君は地獄語か奈落語のどちらかを読み、書き、話すことができる。またそれとは別にもう1つの言語も修得している。 エルヴン・ボーン 君のハーフエルフ・カンビオンであり、エルフの親と同じ皮膚の色をしている。君はエルフと同じ成長速度で成長するが、最終的には1,000年以上の寿命を生きる。 能力値上昇 君の【敏捷力】の値は2上昇する。 フェイの血筋/Fey Ancestry 君は魅了状態にされるのに抵抗するセーヴィング・スローに“優位”を持ち、また魔法で眠らされることはない。 エルフ武器の訓練/Elf Weapon Training 君はロングソード、ショートソード、ショートボウ、そしてロングボウに習熟している。 生来の呪文発動/Innate Spellcasting 3レベルに達すると、ミスティ・ステップ呪文を発動することができるようになる。いったん使用すると、大休憩を取り終えるまでは再びこれを使用することはできない。 言語 君は地獄語か奈落語のどちらかを読み、書き、話すことができる。またそれとは別にエルフ語も修得している。
https://w.atwiki.jp/bjkurobutasaba/pages/917.html
ボンジュール、アルビス! アルビスちゃんは高貴な貴族ですわ! でも「米が無ければクッキーを使えばいいじゃない」と 言って民衆の怒りを買いギロチンされました。 南無 名前 コメント