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最近つくられたその施設は、甘い香りで満たされていた。 「ようこそ、おいでくださりました」 年配の男が一人、立ち上がって少女を迎え入れる。 その出迎えに、少女は恐縮気味にぺこりと頭を下げた。 「すいません、ご多忙の折に無理をいってしましまして」 「いえいえ、構いませんよ」 営業用の笑顔が男の唇に浮かぶ。 「では早速ですが、先日のお約束どおり、今日はうちの施設についてご案内いたしますね」 「お願いします」 簡潔な了承を得て、男は施設の奥へと少女を伴って歩き出した。 ついていこうとする少女。 ふと、真鍮のプレートが視界に入る。 『ゆっくり加工所』 そこが、少女の目的の場所だった。 「ここが、捕獲した『ゆっくり』の貯蔵庫です」 男が背の高い柵を指差していた。 柵の隙間には、押し付けられて膨らんだ顔が並ぶ。 「ゆゆゆ……」 少女が上から覗くと、中にひしめき合う「ゆっくり霊夢」と「ゆっくり魔理沙」の一群。三十匹はいるだろうか。 これは、最近幻想郷で見かけるようになった奇矯な生き物たち。 発生源や種のあらましもまったく不明だが、よく似た顔の実在人物とは関係がないことと、中身が餡子などでできていることだけは知られていた。 幻想郷の甘いものが好きな庶民にとっては、甘味を手の届きやすい値段に押し下げた恩人たちといっていい。 そのゆっくりたちは押し込められ、柔らかい体をひしゃげながら、視線の定まらない瞳で虚空を眺めていた。 「ゆっくり?」 が、その瞳に少女の姿が映し出されるなり、一斉に騒ぎ出す。 「おねーさん、ここからだして! おなかすいたよ! おうちかえる!」 ぽろぽろと涙をこぼしながら、柵をぎしぎしと揺らすゆっくりたち。 「ここにいるのは、全て捕獲したものですか?」 「ええ、お客さんの中には天然ものがいいという方もいるので」 少女と男の会話に、ゆっくりの必死の言葉を意に介した様子はない。 「私なんぞは味にうといものですから、繁殖したものと天然ものの違いなんてわからないのですがね」 ハハハと乾いた笑い声を上げる男。 少女も、お愛想の微笑で応じる。 男は冗談が通じたことに一応の満足。 「では、次はその繁殖場面へご案内します」 「はい」 二人、ゆっくりに背を向ける。 「ゆ! ゆっくりしていってよー!!!」 柵をびりびりと震わす声も、扉を閉めるとかすれて消えていった。 「繁殖の成功と効率化は、この事業が成り立つための最大の課題でした」 しみじみと男は呟く。 男と少女の二人が並んで立つのは、背の低い柵の前。 その中には、ゆっくり霊夢とゆっくり魔理沙が一匹づつ紐で結ばれて転がっている。 「最初に繁殖に成功したのは、この組み合わせです。ですが、問題がありまして」 言うなり、男は無造作に柵に手をつっこむ。 「ゆっ!?」 そのまま、二匹をわしづかみにするなり、手首をぶるぶると小刻みに振るわせ始める。 「ゆー!!! ゆー!!!」 揺すられるがまま、甲高い声を上げ始める二匹。 「ゆー、ゆー、ゆーっ!」 やがて、声がとろんと艶をはらんでいく。 男の手首がさらに激しく蠢動を重ねると、ゆっくりの口がだらしなく開かれ、赤みが濃い色彩を帯び始めた。 「ゆゆゆゆゆゆゆ」 目つきが熱を帯びたところで、男は手を止めた。 「ゆ? ……ゆっくりしていってー!!!」 切なげな声が男の手を追いかけるが、すでに男は少女と向き合っていた。 「こうやって発情させた後、二匹だけにして暗がりに放置しないと繁殖を始めないので、手間がかかる上、数を増やせないという欠点がありました」 「なるほど」 「ですが、ここで繁殖力旺盛なゆっくりアリスという新種を発見したのが事業の転機となりました。今日、ちょうどその繁殖予定日となっています」 男が部屋の奥に視線を投げると、その視線を受けた従業員らしき男が両手にゆっくりを二匹抱えて近づいてくる。 ゆっくり魔理沙より短めの金髪で、赤いヘアバンドが目を引く、珍しいゆっくりだった。 従業員は、柵の中へゆっくりアリスを放り投げる。 「ゆっくりしていってね!!!」 本能なのだろうか。 突如あらわれた同類を見るなり、ゆっくり魔理沙は大きな声でご挨拶。 だが、次の瞬間、表情が固まる。 「まっまっまっ、まりさ!!!」 弾けるように、二匹のゆっくりアリスは魔理沙の元へ。 「ゆ゛っく!?」 定番の台詞も、密着したアリスの頬に邪魔されて満足に動かない。 「ゆ゛っ……ゆ゛っゆゆっ!!!」 それでも懸命に台詞を口にしようと足掻くゆっくり魔理沙の上に、もう一匹のゆっくりアリスが容赦なくのしかかる。 もはや聞こえてくるのは、ゆっくりアリスの荒い息遣いのみ。 ほほをすりあわせて、よだれをこぼしていたアリスも、ぐいぐいと魔理沙を壁際に押さえつけて動けなくする。 壁に押し当てられた魔理沙は、苦しいのかようやく涙がぽろりとこぼれ、間近でその様子を見るはめになったゆっくり霊夢は柵の隅でガタガタと震えだす。 「い゛、い゛や゛あああ」 ゆっくりしていられない、ゆっくり魔理沙の悲鳴。 それも、アリスの声でかき消されていた。 「ゆっくりイってね!!!」 紅潮した声でそろって叫ぶアリスたち。 途端に、ぶるぶると小刻みに震えだした。 「あ、ちょうど繁殖がはじまりましたね」 こともなげに解説をはじめる男。 「もうすぐ、押さえつけられている方が白目を見開いて、裂けそうなほど口を開いた驚愕の表情で固まってしまいます。 そうなると、この個体は徐々に黒ずんで朽ちるのみですが、その頭から蔓のようなものがのび、その先に複数の同種が実ります。ゆっくりアリスの素晴らしい点は、そうなるとすぐに次にゆっくり霊夢で生殖行動を続行することですね」 手馴れた口調で説明を重ねるが、一向に少女の反応はない。 「あ、お嬢さんにはちょっと嫌な光景でしたか。申し訳ありません」 少女の肩が心持ち震えていることに気づいて、男は慌てて謝罪する。 気丈に、少女は微笑んだ。 「いえ、そのことではありません。それに、お願いしたのはこちらですから、お気遣いなく」 男は頭をかきつつ、少女の気遣いに痛み入る。その間にも「ゆっゆっ」と気ぜわしい声が聞こえていた。 「では、こちらはここで切り上げましょう。次は繁殖に成功して増産したゆっくりを使った飼育事業についてご案内します」 異存はない。 「んほおおおおおおおおおおおおお!」 切なげな絶叫が響く部屋を後にする二人だった。 男に案内されたのは、屋外の小屋だった。 いや、二階建ての家屋に等しい大きさでは小屋と言い難い。むき出し木の骨組みと、壁の代わりに金網で覆っただけの粗末なつくりは、小屋そのものではあったが。 男は、ここを厩舎と呼んだ。 「今日は曇り空なので何も覆っていませんが、この生き物は日差しに弱いので、晴天時は上にシートをかぶせています」 そんな説明を聞き流しながら少女が厩舎に近づくと、中から獣のうなり声が聞こえてきた。 「うー! うー!」 奇怪かつ陽気な声に近づいてみれば、ゆっくりの顔の両脇に蝙蝠の翼を生やした、謎の生き物がふわふわと飛んでいる。 「肉まん種の、ゆっくりれみりゃです。ご覧の通りある程度飛べるので、この厩舎は全体を金網で覆っているのですよ」 「ずいぶんと機嫌がよさそうですね」 少女の言葉のとおり、れみりゃは鼻歌が出そうなニコニコ顔で飛び回っている。 「さっき、餌のゆっくり霊夢を与えたからでしょう」 「ゆっくりを?」 「ええ、出荷間近なのでゆっくり霊夢を餌に与えています。味がよくなるとのことで。れみりゃは高級食材などで引く手あまたですから、十分元がとれるといわけです」 なるほど、少女はれみりゃの毛並みの良さの理由がなんとなくわかった。 「大切に育てられているのですね」 「ええ、肉の質を高めるために運動も欠かさずやっています」 男の言葉が合図だったかのように、突然れみりゃが動きを止めた。 れみりゃの視線の先には、れみりゃよりも一回り小さな金髪のゆっくりが一匹。異様さでは類を見ないゆっくりだった。 翼らしきものはあったが、宝石を並べたような代物。瞳は見開いた真紅。 「ゆっくりフランです。」 男にその名を紹介された異種は、れみりゃの周りを満面の笑みで飛び回る。 れみりゃもあどけない笑顔で向き合ってはしゃぎまわっていた。 傍目には、仲睦まじい姉妹かナニカのように見えるのだが。 しかし、それは突然だった。 「ゆっくりしね!!!」 フランの口から拳のようなものが伸び、れみりゃの顔面中央に突きささる。 その拳に顔面をへこまされたれみりゃは呆然と身動き一つしない。 拳がフランの口に戻ってから、ようやくぽろぽろぽろと、とめどなく流れる涙。 「……! ……!!」 口は嗚咽にゆがんで、動転を言葉にする術を知らぬよう。 「うー! うー!」 ただ一匹、フランのみが楽しげに笑っていた。 フランは、再びれみりゃの正面に向きなおる。 「うあー! うあー!」 泣きながら逃げ回るしかないれみりゃ。 「ご覧の通り、なぜかフラン種の方が強いので、フランにはれみりゃを追っかけ回す役をさせています。他にもれみりゃの誘導など、とても助かる存在ですよ」 「牧羊犬みたいなものですか」 少女の言葉に、我が意を得たりといいたげな男の微笑み。 「さて、お次は最後。ゆっくり霊夢、魔理沙からの餡子の回収方法です」 ついにその時がきた。 少女は腕に抱えるそれをぎゅうと抱きしめる。 遠めにもわかる、巨大なゆっくりが部屋の中央の檻に鎮座していた。 その体躯は、高さだけでも少女の背を越していた。 横幅も広く、その重量は計り知れない。 「あれが、巨大種。ゆっくりレティです」 ぷっくりと膨らんだその生物を、男は指差す。 「雑食性ではゆっくりユユコに及びませんが、許容量ではゆっくり一でしょう」 この巨体を前に、男の声は説得力に満ち溢れている。頷くしかない少女。 ゆっくりレティは眠っているのか、目を閉じてくうくうと静かな呼吸音を奏でていた。 遠目には可愛らしいのだが、巨体の異様さは拭いがたい。 「今、先ほどの食料を消化中なのでしょう。そろそろ、お腹が空いて起きる頃です。ちょっとお待ちください」 その言葉を残して、男が部屋から姿を消す。 しばらくして、男はゆっくり霊夢を一匹抱えて戻ってきた。 「おじさん、今日もゆっくりしようね!!!」 その言葉と、黙って抱えられている様子に、ゆっくり霊夢の男への信頼が伺える。 恐らく、その無垢な信頼感は繁殖から育てたゆえだろう。 推察を重ねる少女へ、男は静かに語りかけてきた。 「では始めますよ」 少女の頷きを確認するなり、レティの檻に放り投げられるゆっくり霊夢。 「ゆっ、ゆっくり!?」 遠ざかっていく、ゆっくり霊夢の驚愕の表情。 レティの体躯にあたり、ぽよんとはねて転がる。 同時にのっそりと動き出すレティ。 「ゆゆゆゆゆゆっくりしていってね!!!」 一目散に檻の入り口へ。 しかし。 「早く扉を開けてね!!! 」 すでに男によってロックされた後だった。 地面が揺れる。 ゆっくりレティが飛び跳ねながら近づいてきていた。 「おじさん! ここから出して! もっと、ゆっぐりじだい゛いいいい!!!」 「レティ種は鈍重なので扱いやすいのが利点となります」 扉越しの哀願も、男の穏やかな眼差しを動かすことはできない。 やがて、ゆっくり霊夢の上に差す巨大な影。 レティが、真後ろにいた。 ゆっくり霊夢の顔がくしゃくしゃに歪むのと同時に、開けっ放しのレティの口から分厚い舌がのびる。 霊夢は瞬時に舌に巻き取られた。 「ゆっくりした結果がこれだよ!!!」 悲しげな絶叫を残して、ぺろんとレティの口の中へ。 少女は見た。 飲み込もうとしたレティの口の中にうごめく、何匹ものゆっくりたちを。 レティのベロに抑えられて身動きもできず、滂沱の涙を流して視線を男に向けている。 「レティ種は、リスのように食べきれない分を頬に貯蔵して蓄える癖があるんです。最長で二週間は保存されていますね」 ゆっくりたちの視線に、男は興味を示さない。少女に自らの事業を説明することの方に傾注している。 「餡子の回収は、レティが熟睡した後に、後ろに穴をあけて搾り出します。定量を絞ったら、塞いでまたゆっくりを与えるのです。秘伝のタレを継ぎ足し、継ぎ足し使っている焼き鳥屋を思い浮かべてください」 言われてみれば、寝床に戻るレティの後頭部に隆起部分が。 「ちなみに、一度レティ種に消化させることで、甘味がまろやかになって質がよくなることと、混ざり合うことでの品質の均一化が図れます。生産者にとって大切なことは、量産性と高品質、そしてその維持です。このシステム構築は、私の ゆっくり業者としての矜持なのですよ」 誇らしげな男の言葉が少女の印象に強く残っていた。 職業人魂。 男の言葉を、少女は強く理解できる。 なぜなら、自分も人形という分野で職人的な魂に触れているからかもしらない。 そう。少女は、アリスだった。 可憐な彼女には場違いなその加工所を後にしたアリスは、夕焼けの空に時間の経過を知る。 「今日はずいぶんと大人しかったわね」 一息ついて、見学の間中、両手に抱えていたソレに今日初めて話しかける。 「それにしても、いいお話が聞けたわ、魔理沙」 アリスの腕の中でぶるぶる震えているその生き物は、正確には魔理沙ではない。 数ヶ月前、魔法の森で捕まえたゆっくり魔理沙だった。 「でも、今から震えてどうするの? 魔理沙をあそこに預けるのは、明日よ」 アリスの真顔に、冗談のニュアンスは欠片もない。 「い゛や゛あ……」 ゆっくり魔理沙からこぼれる弱弱しい悲鳴を聞きつけて、アリスは嬉しげな顔を紅潮させる。 「だって、私があんなに優しくしてあげているのに、あなたは逃げ出そうとするんですもの」 言いながら、息も荒くなる。 「だったら、あそこでゆっくりしていってもらうだけよ」 「い゛や゛だあああ! ゆ゛っぐり、じだくない、じだぐないよおおおお!」 「あらあら、ゆっくりにあるまじき言葉ね」 涙やらなにやらで醜く濁ったゆっくりの言葉を、恍惚の表情でまぜかえすアリス。 「どうしても嫌だというのなら、仕方ないわね。その代わり、わかっているかしら?」 「うん! つねったり、踏んだり、……しても、いいから!」 しゃくりあげながらのゆっくり魔理沙を、アリスは一転して慈母の笑みで見つめる。 ぎゅうと、愛情をこめて抱きしめつつ話しかける。 「そこは『いいんだぜ』にしなさい」 「わっ、わかったぜ!!!」 「ああ、本当に可愛い、魔理沙!」 宵闇が迫る夕べを背景に、一つに重なる影。 何やら、それなりに幸せそうな一人と一匹であった。
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DQの5か6かにモンスターの闘技場があったよね。 3匹のモンスターがバトルロイヤルして、最後に残ると思う一匹にかける奴ね。 あれのゆっくり版を見てみたいな。 ゆっくり達が生き残りをかけて殺しあうわけさ。 例えばゆっくりレミリア2匹とゆっくり霊夢一匹だったらゆっくり霊夢の倍率はやばいことになるわけ。 でも正直倍率云々よりもゆっくり霊夢が痛めつけられるかが楽しみだったり。 ゆっくりアリスとゆっくり魔理沙、あと発情ゆっくりパチュリーの組み合わせだともう悲惨。 殺し合いじゃなくてイかせ合いになっちゃう。
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俺とゆっくりへ 「なになに、『ゆっくり雛にも厄を集める効果あり!? 現在数匹のゆっくり雛が鍵山雛氏の下で修行中』……しばらく見てないと思ったらそんなことしてたのか、雛さん」 早朝。 炒れたばかりの緑茶を啜りながら、俺は日頃から購読している『文々。新聞』をまったりと読んでいた。 季節は夏。太陽が昇る時間が早くなるにつれ、こちらの起床時間も早くなる。 だが仕事の開始時間は変わらない。だからこそ、こうして優雅な一時を過ごせるのだが。 この新聞を配達してくれた知り合いの天狗は、夏の暑さなどものともせずに何処かへと飛んでいった。あの余りある元気を少し分けて欲しい。 「お前も何か役に立つ能力があればいいのになぁ」 「ゆ?」 俺の足元でぴょんぴょん飛び跳ねて遊んでいるゆっくり霊夢に話しかけると、ゆっくり霊夢はよく分からない、といった風に首を傾げた(ように見えた)。 日頃、害獣として畑を荒らしまわったり、おやつとして店頭に並んだりするゆっくりという種族をペットにする人間は多いとはいわないが、決して少ないわけではない。 俺もその一人であり、このゆっくり霊夢を溺愛して毎日を共に暮らしている。 二ヶ月前、ちょっとしたことでこいつに『お仕置き』をする機会があったが、それ以来こいつは元々聞き分けの良かった性格がもっと改善され、今でも良好な関係が続いている。 ……というか、あのお仕置きで酷い目に合ったのはこいつよりも俺のような気がしてならない。 豪華な食事を振舞ったせいで一ヶ月間極貧生活を送る羽目になり、この前の誕生日に贈ってくれたプレゼントが破壊されてしまったと、頭を下げに行かなければならなかったからだ。 特に幽香さんは酷かった。このままでは俺もしくはゆっくり霊夢が殺されかねない勢いだった。なんとか足を舐める勢いで土下座して許してもらった。 あーやだやだ、あの人絶対Sだよ。あんな性癖にはなりたくないねぇ。 とかそんなことを考えているうちに、いつの間にか出勤の時間となっていた。 「じゃあ、俺は行くぞ。お昼はテーブルの上な。夕方には帰るから」 「ゆっくり頑張ってね!」 俺が立ち上がって玄関まで行くと、後を付いて来たゆっくり霊夢はそう言って激励を送ってくれる。 うわ、かわええ。 俺は思わず振り返り、ゆっくり霊夢を抱き上げると頬ずりした。 「ゆ!? くすぐったいよ!」 「おぉ、すまん」 少し嫌がる声がしたので、慌てて下ろす。 野生のゆっくりは勝手に人の家に住み着き占有権を主張するような輩が多いが、最初からペット用に飼育されてきたゆっくりは野生のものより寿命が短い代わりに知能が高い。 だがこうして激励までしてくれるゆっくりはそうそういないだろう。俺とゆっくり霊夢の信頼関係がなせる技だ。 「じゃあ行って……む」 がたがた、扉がうまく開かない。 「立て付けが悪くなってるなぁ……あとで修理しないと」 ケチがついてしまった。 俺は力を込めて扉を開き、同じように力を込めて扉を閉めると、いつものように仕事場へ向かった。 いきなり疲れちまったよ、畜生。 何か嫌な予感がするなぁ。 何事もなければいいけど。 だが俺の心配は杞憂だったようで、特に事件があったりすることもなく夕方になった。 春先ならば景色が赤く染まっている時刻だが今は夏、未だに晴天の中で黄色い太陽が燦々と輝き続けている。 慧音さんの寺子屋から帰る途中らしい子供たちとすれ違いながらあぜ道を歩いていると、前方に人だかりが出来ているのを発見した。 あそこは村一番の大きい野菜を作ることで有名なおじさんの畑だが、何かあったのだろうか? 俺は集団に駆け寄り、一番後ろで腕組みをしているおっちゃんに尋ねてみた。 「すみません、何かあったのですか?」 「おぉ、ニイちゃんか。いや、実はゆっくりどもが現れやがったんだ」 「ゆっくりが?」 背伸びして覗いてみると、畑は無残なことになっていた。 青々と育っていた野菜はほとんどが原型を失うほどに食い散らかされ、無事なものを数えたほうが早いくらいになっている。 おじさんは放心した様子で畑に尻餅を付いていた。あの人は何故かゆっくり相手に反撃をしない無抵抗主義として、別の意味で有名でもある。 そして、畑の真ん中。 七匹のゆっくりたちが、身を寄せ合って震えていた。 ゆっくり霊夢が四匹に、ゆっくり魔理沙が二匹、ゆっくりパチュリーが一匹。 他にも餡子や皮などが畑中に散乱しているところを見ると、本来はもっとたくさんの集団だったようだ。 「これは……酷いですね」 惨状に、ごくりと唾を飲み込んだ。 このようにゆっくりたちが徒党を組んで畑を荒らしにことは珍しくない。 だが、ゆっくりたちの集団と実際に遭遇したのは初めてのことだった。 大抵は事が終わったあとであり、被害の跡しか見たことがなかった俺は少し興奮してゆっくりたちの様子を観察する。 ゆっくりたちは殺された仲間たちの死体と、自分たちを囲む鍬や鋤などの武器を持った人間たちに怯えながら、ぎゃあぎゃあ喚きたてているようだった。 「ゆ、ゆっくりしてってね!」 「わたしたち悪くないよ! これはわたしたちが見つけた食べ物なんだよ!」 「ゆっくり出来ないならあっち行ってね!」 だが、その発言が皆の怒りに触れたらしい。 一人の男が前に出ると、何の躊躇もなく鍬を振り下ろした。 「ゆ゛っ゛!?」 哀れ、男に一番近かったゆっくり霊夢が餡子を飛び散らかして、その生涯を終えた。 「れ゛い゛む゛ぅ゛ぅ゛ぅぅぅ゛っ!!!」 ゆっくり魔理沙の悲痛な泣き声。 それがきっかけだったかのように、固まっていたゆっくりたちは各自ばらばらの方向に散開した。 「この、足元をちょろちょろするんじゃねぇ!」 年かさの男が、股の間をすり抜けようとしたゆっくり霊夢を踏み潰す。 ぶぎゅっ、と醜い音を立ててゆっくり霊夢は動かなくなった。 「お前のせいで、美味しい野菜が食べられなくなったじゃんか!」 「む゛ぎゅ゛ー!!!」 足が遅いせいで一匹逃げ送れたゆっくりパチュリーは、数人の子供たちにサッカーボールのようにぼこぼこに蹴られ、絶命した。 他にも捕まって引き千切られたもの、棒でメッタ打ちにされたもの、ゆっくりたちは様々な死に方でその生に幕を閉じる。 「だ、た゛ずけ゛て゛ぇ゛ぇ゛ぇ!!!」 と、最後の一匹。 ゆっくり魔理沙が俺の足元に絡みつき、必死の形相で助けを請う。 「……むぅ」 俺はそいつを抱き上げた。 うちのゆっくり霊夢と同じくらいの大きさだろうか。バレーボール大のゆっくり魔理沙は震えながら、何度も何度も命乞いの言葉を口にしている。 ……何故だろう。 その表情は、その……俺の心の内の何処かを、くすぐる。 「おぉ、捕まえたか!」 そうこうしてるうちに、逃げたゆっくりたちを全て殺しつくした村人たちが、俺の周りに集まってきた。 「まったく、ゆっくりたちにも困ったものだなぁ。ニイちゃんとこのみたいに大人しければ、まだ可愛げがあるってもんだが」 「あの……こいつ、俺が貰っていいですか?」 「あん?」 怪訝そうな村人たち。 俺だって、自分が無意識に言った言葉が不思議だった。 「別に構わねぇが……どうする気だい? ニイちゃんはゆっくり饅頭とか食わねぇ主義なんだろ?」 「まぁ……その辺りは後で考えますよ」 ゆっくり魔理沙が俺を見上げる。俺はそいつに視線を向けず、怪訝そうな村人たちに礼を言って足早にその場を立ち去った。 「ゆ! お兄さん、ありがとう!」 家に戻る途中、腕の中の黒大福が俺に謝辞を述べる。 先程仲間たちが大勢死んだというのに、その顔は能天気さを取り戻したようだった。 「別に……」 俺はそっけない返事をする。 ただ、こいつの泣き顔を見た瞬間……なんとなく、このまま村人に引き渡すのは惜しいと、そう考えただけだ。 まぁ、ゆっくり霊夢も俺が仕事に行ってる間暇だろうし、話相手になってもらうのもいいかもしれない。 ……畑を荒らしたことについては、きちんと注意する必要があるだろうが。 野生のゆっくりを、ちゃんと躾けられるかどうか。 「どこに向かってるの?」 「俺の家だ。お前と同じゆっくりもいるぞ」 「本当!? ゆっくりしていくね!」 ああ、なんか駄目っぽいなぁ…… 「「ゆっくりしていってね!」」 ゆっくり霊夢とゆっくり魔理沙はすぐに仲良くなった。 今まで不平を洩らしたことはなかったが、やはり一人家で待つ時間は寂しかったのだろう。ゆっくり霊夢は本当に嬉しそうにぱたぱた飛び回っていた。 二人が頬を寄せ合って、押し合い圧し合いゆっくり遊んでいる様子は……やべぇ、超和む。 可愛い。マジ可愛い。このまま食べちゃいたいくらい可愛い。 勿論、食べないけどさ。 丁度良い時間なので夕飯を作る。 「うっめ!!! メッチャうっめこれ!!!」 ゆっくり魔理沙は今まで草花や虫しか食べてこなかったからか、俺の料理を大層美味しそうに平らげていた。 あまりにがっつきすぎて、カスがボロボロ零れ落ちている。 ……下品だ。うちのゆっくり霊夢に変な影響が出たら困るな。 それに俺のいない間に、勝手に繁殖されても困る。 ゆっくり霊夢はまだ成長期の途中だ。子供を生もうと思えば生めるが、黒ずんで朽ちてしまう。 そんな事態、まっぴらごめんだ。 勢いで連れ帰ってしまったが、こいつにはやっぱり野生に帰ってもらおう。 一瞬、加工所に送ろうかとも考えたが……関わってしまった以上、少しだけ忍びない。 「ゆっくり魔理沙」 「ゆ?」 ゆっくり霊夢と一緒になって部屋中をぴょんぴょん飛び回っていたゆっくり魔理沙は、俺の言葉に足を止めた。 「今ゆっくりしてる最中だよ、邪魔しないで!」 「……」 な、なんて自己中心的な奴…… 反射的に殺意が湧き上がるが、俺が何かするより早く、 「だめだよ! お兄さんの話をちゃんと聞かなくちゃ!」 ゆっくり霊夢がたしなめるようにゆっくり魔理沙を叱る。 おぉ、流石我が愛しのペット。ちゃんと常識というものを弁えているな。 ゆっくり魔理沙は不満げに、だがちゃんと俺の方に駆け寄ってきた。 「なに?」 「ここに来る前、他のゆっくりたちと畑に忍び込んだだろう。どうしてだ?」 「あそこはまりさの新しいおうちだよ!」 「違う。あそこはお前の家じゃない」 「うそはいけないよ! あそこはまりさが見つけたんだもん! だからまりさのおうちだよ!」 「……」 こ、これが野生のゆっくりというやつか……成程、確かに腹が立つな…… この村はゆっくり対策用の罠が張り巡らされている(鼠返しならぬ、ゆっくり返しみたいな)から、ゆっくりはあまり見かけないんだよな…… しかしこいつ、仲間たちが皆あんな目にあったのに全然懲りてないのな。 仕方無い。 「お前を家に帰してやる」 「ほんとう!?」 ゆっくり魔理沙の顔がぱっと輝き、そして何かに気付いたように震わせた。 「やっぱりいいよ!」 「は? じゃあどうするんだ?」 「ここをまりさのおうちにする! れいむといっしょに暮らす! お兄さんはゆっくりまりさとれいむにごはん作ってね!」 …… ………… ……………… 「お、お兄さん!?」 「はっ!?」 い、いかん、俺の怒気にゆっくり霊夢が怯えてしまった。 しかし、ここまで人を怒らせることが可能なのか、野生のゆっくりというやつは…… 放っておいたら何されるか分からないな、とっとと野に放してしまおう。 俺は手を伸ばし、ゆっくり魔理沙の身体を抱き上げた。 「ほら、外行くぞ」 「やだ! ここでゆっくりする! ゆっくりできないお兄さんは出ていってよね!!」 「ここは俺の家だ!」 心配顔のゆっくり霊夢を残し、俺は立て付けの悪い家の扉を強引に閉じると、太陽が沈んで月の浮かんだ夜空の中に出た。 さて。 もうゆっくり霊夢は見てないな。 こいつ、どうしてくれようか。 「おろしてよ、お兄さん!」 梟や蛙の鳴き声が響き渡る、夜の森の奥深く。 月明かり以外に光源のないこの場所は、慣れ親しんだものでないとすぐに道に迷ってしまうであろう。 俺はその森の中で、ぴたりと足を止めた。 「これが最後だ、ゆっくり魔理沙。あの家は誰の家だ?」 静かに、ゆっくり魔理沙に問いかける。 ゆっくり魔理沙はさも当然だ、と言わんばかりに頬を膨らませて、 「まりさのおうちだよ! はやくかえしてよね!」 と、傲慢に自らの主張を繰り返した。 ぷちん。 あ、やべ。 「そうか」 俺はそいつを足元に下ろすと、思いっきり足の裏で力任せに踏みつけた。 「ゆ゛ぐっ゛!!?」 汚い悲鳴をあげ、ゆっくり魔理沙の左側三分の一が潰され、餡子が飛び散った。 人間の顔のようなものが弾け飛ぶ光景に、少し顔を顰める。 こういった肉体的な攻撃は、あまり好きではない。 しかしこいつの場合、こうでもしなくては分かりもしないだろう。 「い゛だい゛よ゛ぉお゛お゛おおぉ゛ぉ゛ぉぉ、な゛ん゛でこ゛んなこ゛と゛す゛るの゛ぉ゛ぉ゛ぉぉぉ゛ぉ゛!!?」 残った片目からボロボロ涙を零し、金切り声を上げるゆっくり魔理沙。 その悲鳴。 背中がゾクゾクする。 なんだか、楽しい。 「物分りの悪い子には、おしおきが必要だろう?」 俺はゆっくり魔理沙の身体をもう一度持ち上げた。餡子が無くなると死んでしまうらしいので、傷口は上にする。 ゆっくり魔理沙は嫌がるように身体を震わせるが、その度に激痛が走るのだろう。「ゆ゛っ゛!」「ゆ゛っ゛!」と小さく洩らしながら痙攣している。 「もう一度だけ聞いてやろう。あの家は誰の家だ?」 「も゛うや゛めでぇ゛ぇ゛ぇぇぇ゛!!! ま゛り゛ざのお゛う゛ち゛にがえ゛じでぇ゛ぇ゛ぇぇ!!!」 「おお、そうかそうか。まだ言うなら仕方ないな」 俺はゆっくり魔理沙の身体を振りかぶると、近くの湖にぽーんと投げ入れた。 ばしゃん、と小気味のいい音を立ててゆっくり魔理沙の身体が湖に沈む。 「ゆ゛ぶっゆ゛ぶぶぶふ゛ふ゛っ!!?」 お、浮かんできたぞ。結構やるな、あいつ。 だが傷口から餡子がどんどん漏れ出し、ぼとぼと海中へと落下している。 「お゛、お゛兄ざん゛、だずげでぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!」 「えー、なんでー?」 自分でも白々しいほど爽やかな口調で問い返す俺。気付けば唇の端が凄い勢いでひん曲がっている。 こういう涙流して凄い必死な表情のゆっくりを見るのは、なんというか、こう……凄い快感だ。 基本的にゆっくりは水に弱い。身体を洗うために水に浸かる習性は知っているが、長時間水に浸かり過ぎると皮が伸びて戻らなくなってしまうのだ。 あ、そうだ、言い忘れてた。 「その湖、魚が住んでるんだ。お前みたいなのは大好物だろうな」 「ゆゆゆっ!!?」 ゆっくり魔理沙が溺れながら目を見開く。 しかし無情にも、何匹かの魚たちが久しぶりのご馳走が縄張りに入り込んできたことに気付き、ゆっくり魔理沙の周囲に集まりだしてきた。 狙いは傷口から漏れ出る餡子。食いついては離れ、食いついては離れるという野生ならではのヒットアンドアウェイ。 だがゆっくり魔理沙からすると、じわじわ嬲り殺しにされているような恐怖だろう。 逃げ出そうにも、ゆっくりはあの体系では泳ぐことが出来ない。精々沈まないように浮かぶのが関の山だ。 残された手段は、俺に庇護を求めることだけ。 「お゛兄ざん゛、ま゛り゛ざをだずげでぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!」 「ははは、お魚さんと遊べて楽しそうだなぁ」 「だの゛じぐな゛い゛よぉ!!! ゆ゛っぐり゛だずげでぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!」 「わかった、ゆっくり助けるぞ!」 そう言って、のそのそ歩く俺。 当然だが、湖に浮かぶゆっくり魔理沙に辿り着くことには既に跡形も無く食い散らかされてしまうほどの牛歩だ。 「も゛っど、も゛っどい゛ぞい゛でぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇぇ!!!」 既に意識が朦朧としているのだろう、目の焦点がぼやけ始めたゆっくり魔理沙が顔をぐちゃぐちゃにしながら泣き叫ぶ。 ……そろそろいいかな? 俺は草履を脱いで湖に入ると、ゆっくり魔理沙を湖から引き上げた。 息も絶え絶えなゆっくり魔理沙は、助かった安堵からかしゃくりあげて泣き始める。 「な゛、な゛ん゛でごん゛な゛ごどずる゛の゛ぉぉぉ!?」 「なんで? 分からないのか?」 俺は自分でも吃驚なくらい、優しい声色で尋ねた。 「あの家は、誰の家だ?」 「ま゛、ま゛り゛ざの゛」 言葉の途中で、俺はゆっくり魔理沙をもう一度湖に落とした。 途端、離れて恨めしげに俺を見上げていた魚たちが再び集ってくる。 「ご、ごめ゛ん゛な゛ざい゛ぃぃぃ!!! お゛兄ざん゛の゛お゛う゛ぢでずぅ゛ぅ゛ぅぅぅ!!!」 もう一度引き上げる。 ゆっくり魔理沙の命は、ほとんど失われかけていた。 「おかしいなぁ、あそこはゆっくり魔理沙の家って何度も言ってたじゃないか?」 「う゛、う゛ぞでず、う゛ぞづいでま゛じだ!!! ま゛り゛ざがわるがっだでずぅ!!!」 生き残るために必死なのだろう、ゆっくり魔理沙は俺を怒らせないよう必死だ。 ……どこまで本気でしゃべってるのかねぇ? 「そういえば、俺に『ここはまりさの家だから出て行け』みたいなこと言ってたよなぁ」 「ごめ゛ん゛な゛ざいぃ! いい゛まぜん、も゛う゛いいまぜんがら゛っ゛!!!」 「そして湖から引き上げてもらったお礼もなし、と」 「あ゛り゛がどうござい゛ま゛ずっ! あり゛がどう゛ございま゛ずぅぅぅ!!!」 あのふてぶてしかったゆっくり魔理沙が、俺に必死に感謝の言葉を叫んでいる。 湖に落としたのは俺だというのに、俺に対してお礼を言っている! くはぁ、たまらねぇ…… 満足した俺は湖から出て、ゆっくり魔理沙を下ろしてやった。 近くに生えている葉っぱをもぎ取り、傷口に添えてやる。 これで、これ以上餡子が流れ出る心配はなくなっただろう。 『死』は、与えてはならない。 殺してしまっては、それまでだからだ。 後に残るのは、壊してはいけない玩具を壊してしまったかのような喪失感と、先程まで動いていた命を奪ってしまったという生理的な罪悪感だけだ。 だが、生きているのなら。 何度だって悲鳴は聞けるし、絶望を与えてやることも出来る。 そして、その度に俺は満たされることが可能なのだ。 死んだらそれまで、生きているなら生き続けている限り永遠に。 だから俺は、『遊び相手』と決めたゆっくりは殺さない。 ゆっくり魔理沙は衰弱しながら、何度も何度も俺にお礼を言っていた。 「いいか、お前の仲間たちが全員殺されたあの畑も、人間のものなんだ。人間のものに手を出すと、こういう目に合うんだ。覚えておけ」 「わ゛がり゛ま゛じだ……」 「じゃあ、尋ねよう。お前はなんでこんな目に合ったと思う?」 「ま゛りざがまりざのじゃないたべものをかっでにだべだがらでず……お兄ざんのおうちをまりざのおうちっていっだがらでず……」 「よぅし、よく出来たな」 ゆっくり魔理沙の頭を撫でてやる。 これでもう、こいつは人里に現れようとも思うまい。 俺は立ち上がると、ゆっくり魔理沙に背を向けた。 「じゃあ、俺は帰るからな……ああ、そうそう」 今気付いたかのように振り向いて、 「そういえば、この辺りは野良犬やゆっくりれみりゃたちがたくさん住んでるんだってな」 「ゆっ!!?」 信じられない、といったゆっくり魔理沙の表情。 そそる。 「あと、ゆっくりアリスもこの時期発情期なんだってな。まぁ関係ないけどな」 ちなみに全部口から出任せだったりするわけだが。 無論そんなことが分かるはずもなく、ゆっくり魔理沙はぶるぶる震えて怯え始めた。 ここは自分が元々住んでいたわけじゃない森の中。 そんな土地勘のない場所で、天敵たちが自分を付けねらっている。 その恐怖を妄想したのだろう。 庇護を求めるかのごとく、もう力の出ない身体をずりずり引き摺って俺に近付こうとする。 「ま、まって……」 「じゃあな、達者で暮らせよ!」 俺は気付かなかったフリをして、そのまま歩き出した。 「ゆ……」 背後から声。 「ゆっくりしていってよーーー!!!」 振り返る直前に見たゆっくり魔理沙の表情。 それは先程まで味わっていた怒りを全て吹き飛ばしてしまうほど、素晴らしいものだった。 だが、それからしばらく経ったある日。 ゆっくり魔理沙への対処が甘かったことを、俺は後悔することになる―― 続く。 中編へ
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前編 「ゆ~……ゆ~…………ゆっ?」 ある朝、ゆっくり魔理沙が目を覚ますと、見知らぬ場所に居た。いつもの家ではない。 白い壁に覆われて、真ん中に一本の柱が立っているだけの無味乾燥な部屋だ。 不安になって周囲を見ると、おにいさんが座っていた。そして、近寄っていつもの言葉を言う。 「いぬみたいにいうこときくから、ゆっくりさせてね!」 この一言から、ゆっくり魔理沙の一日は始まる。しかし、いつもなら来るはずのおにいさんの返事がなかった。 「ゆっ? おにいさん、どうしたの? だいじょうぶ!?」 もう一度呼びかけてから、身体を揺すると、ようやくおにいさんは反応を示した。 「……魔理沙か」 「まりさだよ! ゆっくりいうこときくね!」 こう言うと、直ぐに何々をしろ、と言われるはずなのに、またしても様子がおかしいままだった。 「魔理沙、俺はもう、駄目だ……」 「ゆゆ!?」 見ると、おにいさんの身体からは赤い水のようなものが流れている。 「どうしたの、なにかでてるよ!?」 「これは、お前たちでいうところの餡子だ」 「ゆぅぅ!? あんこがでちゃだめだよ! はやくもどして!」 諦めたように笑うおにいさん。 「俺は、もう駄目だ。血……いや餡子が多く出すぎた。もう長くない」 神妙な面持ちで話を聞くゆっくり魔理沙。 「だから……あそこを見ろ」 「ゆっ?」 おにいさんが指差したほうを見ると、二つの扉が開け放たれている。 「左に行くと、俺を助けられる人がいる。右に行くと……外に出られる」 「ゆ、おそと……!」 そと、それは甘美な響きであった。良いゆっくりになろうとしたのも、ひとえに外に出たいがためだった。 「魔理沙、お前が選べ。俺を助けるか、外に出るか。どうやったら、良いゆっくりになれるのか」 「でも、くびわが……」 身体にくいこんだままの『首輪』を気にする。これがある限り、いつ死んでもおかしくないのだ。 「大丈夫だ。どっちを選んでも『首輪』は簡単に外れる」 「れ、れいむは? れいむはどこにいったの?」 「それは分からない。どこかに連れて行かれたのかもしれないし、助けを呼びに行ってるのかもしれない」 「ゆゆゆ……」 ゆっくり魔理沙は悩んだ。今まで一緒だったれいむのことも気になったし、おにいさんが死んでしまいそうなことも気になった。 どうすればいいのか分からない。おにいさんに聞いてみても「お前が選べ」としか言わない。 そこで、ゆっくり魔理沙は閃いた。もう、おにいさんは死んでしまう寸前なのだ、と。だから「命令」も出せないのだ。 だったら、助けを呼んでもその間に死んでしまうだろう。それよりも早くれいむを見つけてあげたい。 もしかしたら泣いているかもしれないし、死んでしまっているかもしれないのだ。 やがて、ゆっくり魔理沙は決めた。もう『首輪』は大丈夫であり、おにいさんは駄目だ。なられいむを探しに行こうと。 「おにいさん、ごめ~んね! まりさは、れいむをさがしにいくよ! ゆっくりしんでいってね!」 おにいさんに最後の言葉を投げつけて、思い切り走り出す。 ゆっくり魔理沙は思う。まずはれいむを探すのだ。れいむを見つけて、その後はゆっくりできるおうちも探す。 食べ物もいっぱい集めて、ふたりの子供もたくさん欲しい。たくさん、たくさんゆっくりするのだ。 高鳴る思いのまま、右側の扉へ向かって駆ける。扉からは緑色が見えてくる。そして、外の景色が――― がちゃん!! 白い壁が続く通路にゆっくり魔理沙はぐちゃり、という汚らしい音を立てて叩きつけられた。 『首輪』も遅れて通路に落ちていった。 「ふぅ……今回は一匹だけか」 座った状態から立ち上がり、軽く背伸びをする。座っているのもそれなりに疲れるのだ。 歩いてゆっくり魔理沙の所へと向かう。『首輪』に引っ張られたことで中身が飛び散っている。 「おい、生きてるか」 「ゆ、っぐりぃ! どぼじでぇ!どぼじでぇぇえぇ!」 生きているようだ。ずいぶんとしぶとい。後頭部の辺りから餡子を撒き散らしていてもまだ喋れるらしい。 「何が、どうしたんだ」 「お゛ぞどぉ゛! ぐびわ゛ぁ゛!」 涙なのか、苦痛なのか分からない叫び声をあげている。 疑問に一つ一つ答えてやることにやろう。どうせ、死ぬ身だ。閻魔様への土産は必要だろうから。 「右の扉は外に続いているが、本当の出口はもっと奥だ。ここはガラスがあるから、外の景色が見えているだけだ」 「ゆっ、ゆっ、ゆっ、ゆぅ!」 ショックのためか、餡子を出しすぎているためか、ゆっくり魔理沙は痙攣し始めている。まずいな、早く説明してやらねば。 「左の扉に行けば、俺が操作して『首輪』を外した。だが、お前は右に行ったから『首輪』を外さなかった」 「ゆっ……」 「お前が本当に『良い』ゆっくりがどうかを試したんだ。そして、お前は『良い』ゆっくりにはなれなかった」 俺を助けに行っていればこんなことにはならなかったのにな、と付け加える。 その時、ゆっくり魔理沙の頭の中はぐるぐると渦巻いていた。 どうして、どうして、こんな風になったのか。れいむはどこにいったのか。 自分はどんな風になっているのか。いたいいたいいたいしんでしまう。 だれかたすけてれいむたすけておにいさんたすけて。 良いゆっくりになるから良いゆっくりでいさせてゆっくりさせて。 なりたくないあれにはなりたくないあれになったら死んでしまう。 いやだいやだいやだいやだくびわやだあれになるのはいや。 「魔理沙、お前は『悪い』ゆっくりになったんだよ。だから―――ゆっくり死ね」 「い゛や゛ゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」 わるいゆっくりには、なりたくなかった。 俺は血糊を吹いて、部屋から出た。 「おつかれっす」 「どうも。今回は一匹だけですいません」 加工場の馴染みの職員と挨拶を交わす。 「いや、今回のヤツはアクが強いってんで、一匹も無理じゃないかって皆で賭けてたんっすよ」 「ほほう、それで?」 「オレの一人勝ちっす! ま、賭けてた商品がゆっくりなんで、あんまありがたくないっすけど」 「それは確かにありがたくないですね。おっと、少し失礼」 職員との話を切って、ゆっくり霊夢の所に向かう。最後までちゃんと調教しなくてはいけない。 ゆっくり霊夢は部屋で起きていたことを全て見ていた。今も友人の死体を見て呆然としている。 魔理沙側からは見えないが、霊夢側からは見えるという、マジックミラーというものだ。 「良かったな霊夢。これでようやく『良い』ゆっくりになれるぞ」 「な゛ん゛でぇ゛」 嬉しくないのだろうか、あれだけなりたがっていたのに。まあ、無理もないが。 「どう゛じでぇ゛! ま゛り゛ざじん゛ぢゃ゛っだよ゛ぉ゛ぉ゛ぉぉっ!」 「魔理沙は最後の最後で『良い』ゆっくりになれなかった。だから、餡子をぶちまけて、死んだ」 ゆっくりにも分かるように、噛んで含めるように言う。これはこれで最後となるだろう。 「どぼじでぇ!? ま゛り゛ざば」 「人間の言うことを聞かない『悪い』ゆっくりになった。俺を助けなかったというのは、そういうことだ」 あれこそが最終試験。調教要件は「如何なる場合でも言うこときくゆっくり」であったからだ。 ゆっくり霊夢は『悪いゆっくり』という単語に身を震わせる。ほとんど条件反射のようなものだ。 「霊夢、お前は犬のように人間の言うことをきく『良い』ゆっくりだ。言うことを聞いていれば」 ゆっくり魔理沙の残骸を見せつける。 「あんな風には、ならない」 「れ゛い゛む゛は゛い゛い゛ゆ゛っぐり゛でず! な゛ん゛でも゛、い゛ぬ゛み゛だい゛に゛い゛う゛ごどぎぎま゛ずぅ!」 これにて、調教完了である。俺の仕事もようやく終わった。 職員にゆっくり霊夢を引き渡し、いくつかの諸注意を与える。 言うことを聞かせたら、たまに食事を与えること。 「犬みたいに」という言葉を使えば、大概のことはする。 そして、 「時々、あれをいじっておいてください。大丈夫だと思いますが、念のため」 「はあ……しかし、あんな棒切れで本当に大丈夫なんすか?」 ゆっくり霊夢は『首輪』が既に外されており、代わりに『首輪』で空いた穴へ棒が突っ込んであった。 「体内に異物が入ってる限りは言うことをきかねばならない、という条件付けしてあるので、大丈夫ですよ」 異物といっても、そこそこ大きさがあればなんでも良い。ゆっくり霊夢が錯覚さえすればそれでいいのだ。 一応、他のゆっくりに不審がられないようにあまり長くないものを差し込んである。表面から少し出てる程度の長さだ。 職員の手に持たれたまま、ゆっくり霊夢はまだ泣いている。 「じゃあな。加工所で『良い』ゆっくりとして頑張っていけ」 「な゛ん゛で、ごんなどごにお゛い゛でぐの゛ぉ!?」 加工所は危ない、『悪い』ゆっくりは加工所で殺される、と徹底的に調教したためか、加工所にはいたくないらしい。 「なんか、泣いてますけど?」 「調教し終わったゆっくりが何を言おうが知ったことではないですよ」 無視して、歩いていく。報酬は後で請求しておかなければいけない。 「ごごい゛や゛ぁあ゛あ゛ぁぁ! い゛ぬ゛みだいに、い゛う゛ごど、ぎぎま゛ずからぁ! づれ゛でっでぐだざいぃぃぃぃっ!!」 ……いい加減、うっとおしい。今度こそ本当に最後の言葉を伝えてやらねばなるまい。 「黙っとけ。俺は犬よりも猫の方が好きなんだ」 俺の言葉で「ゆ゛っ!」と一度鳴いた後、黙り込むゆっくり霊夢。 調教したゆっくりが実験や牧羊犬、または繁殖用に使われようが、どうでもよかった。 背中にゆっくりの恨みがましい視線を浴びながら、帰りの途につく。 いつか猫でも飼ってみるか、などと俺は益体もないことをなんとなく考えていたのであった。 どうでもいい後書き 前編と後編に分けてみたけれど、分量が違ってしまったのが残念。もう少し均等にしたかった。 調教っぷりが足りてないなぁ、と切に感じるね。 あんな風に書いるけど、犬は嫌いじゃないよ。猫も嫌いじゃないけど。 あと、ゆっくりも好き。むしろ好きでなければこんな話書けるわけがない。 好きだから、つい殺っちゃうんだ♪ ってな具合。 「首輪」なる代物を出してみたけれど、こんなの誰でも考えつきそうなので勝手に使って構いません。 爆弾型の首輪を使ったSSがあったら、むしろ見てみたい。誰か書いて。 「~こわい」でシリーズ化してみようかとも思ったけど、書き続けられる自信がないのでやらない。やれない。 眠いせいか、支離滅裂で脊髄反射的な後書きですいません。 このSSに感想を付ける
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『ゆっくりを求めて2』 〜注意〜 虐待仕様のゆっくりではありません。 前作はおまけで本当に書きたかったのはこれ。 あきらかに無理ゲー。 このサイトからの持ち出し突撃は絶対にダメ!! この作品の設定を使うのは禁止です ゆっくり虐待 からの続き 建ち並ぶビル、汽笛を鳴らす電車、行きかう人々。 動きこそが生命というのなら、ここは命が満ち溢れる場所である。 喧騒のなか一人の男がこの町にたどり着いた。 「あ゛ー、ひでぇめにあった……」 ため息を一つつき、近くのベンチに腰を下ろした。 落ち着いたところで、手の中にあるゆっくりれいむ――逃げている途中で拾ったのだ――が動き出した。 「ゆっくりしていって――ゆ゛っ」 叫び終わる直前で男はそれを軽く捻った。 「ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛ゆ゛」 あっさり瀕死となるゆっくり、その皮から漏れた餡子を口に含む。 「美味いには美味いが、甘さもうまみも変わらないな……やはり産地(設定)が違うせいか? 虐待に対するレスポンスはいいが単語のレパートリーが少ないのは今一だったな」 男はそんな感想を漏らしながらのんびりと食べていった。 「もっと……ゆっくりしたかった……」 そんな言葉を残し最後の一欠けらが口に入っていった。 甘いものを食べて落ち着いた男は自分の姿を確認した。 「これはまた……ひどいありさまだな」 男がこぼし感想はもっともであった。 つけていたサングラスはひび割れ、コートの裾はぼろぼろとなっている。 靴のつま先はなく、そこから足の指先がのぞいている。 さらに転んだのか引っ掛けたのか服は所々破れ、砂と泥と餡子に汚れている。 どこを見ても無事なところはなかった……唯一身に着けている手袋を除いて。 「あの女ときたら空まで飛んで追っかけてきやがる。執念深いったらありゃしねぇ」 食の恨みは根深い故に地獄の底までついてくる勢いであった。 巫女の放つ攻撃は速く大量であった。 必死で避けるたび周りでは、 「ゆっくりし…… \ピチューン/ 」×? 「ゆげぇ! \ピチューン/ 」×? 「<○><○> うわぁぁ! \ピチューン/ 」×? とゆっくり達が大量に消し飛んでいる。 所詮は饅頭そんなものだ。 どうにも逃げられないと悟った男は懐にあった日本酒『さむらい』を片手に交渉を試みた。 食の恨みは食で晴らす、なんとも安直な考えである。 しかし、巫女は目の色を変えて喜び、 「まぁ、ゆるしてあげるわ。今度お賽銭を持って神社にきなさい」 と言い残し飛んでいった。 怒った顔がうれしそうな笑顔に変わった瞬間など、とても可愛らしいものであった。 「―――今度おまいりに行こうか……ってどこの神社だ?」 肝心な神社の場所は名前も聞いていないので判らなかった。 こうして巫女は大切なお賽銭源を逃したのだった。 ――――――――閑話休題―――――――― 話は戻り、ここは大きな地方都市である荷湖道市とよばれるところである。 先日いっていた二海峡市には及ばないものの多くの観光客が訪れる。 それと共に多くの技術者が切磋琢磨し今も町を拡大しているのだ。 「おー、すげぇ。このCMうち(虹浦市)の方ではやってないんだよなぁ」 街頭テレビに映るコマーシャルを見て素直な感想をもらす。 映像には『初○ミク』の3Dダンスと共に曲が流れネギを宣伝するものであった。 そのCMの一つに特に興味が引かれたものがあった。 『電話一つでお伺いいたします』 『《早い》《安い》《安心》を合言葉に 〜ル○ール運送〜』 『ゆっくりもうしこんでね!!!』 その社長と思わしき人物が荷物を持って疾走するさまは印象的であった。 何より、目に付いたのは最後に出たゆっくりれいむである。 男が普段目にするゆっくりよりも大きくゆっくりとした(むかついた)顔をしている。 それにあの変に甲高い声だ。男にとっては耐えられないだろう。 「なん……だと……! この不況の真っ只中で糞饅頭ごときが仕事にありついてるだと!? ありえん! 人間様が仕事に就けないというのにどうかしている!!」 さらにムカつくところは、この男、つい最近会社を首になったばかりなのである。 ……リストラって怖い。 そんなこんなで、そのむかついたゆっくりを虐待すべく無限町までやってきたのだ。 懸命な読者様ならお気づきだろうが……明らかに死亡フラグである。 どれほどの死亡フラグかというと、真性の虐待鬼井山の家に入って部屋を荒らし、 「おい、くそじじい! さっさとあまあまをよこすんだぜ!」や 「でいぶはやさしいから、どれいにしてあげるよ! さっさとこのうんうんをたべてね」とか 「れいみゅはちゅよいんだよ!(ピコピコ)」に 「まりしゃはちーちーするよ! すっきりー!!」など この世で一番自分が強く、美しく、可愛いなどという妄想をしながら罵倒するくらいである。 なおこの糞饅頭は最長で二ヶ月ほど苦しみ潰れている。 無限町に着いた男はあたりを見直すと怪訝に感じた。 なにせ町のいたるところで戦いが起こっているのだ。 しかし、周りの住人は慣れたものとのんびり観戦までしている。 普通なら大騒ぎで警察が駆け込んでとめにくるはずだ。 「そうか、ここでは争いごとは日常茶飯事! だからいきなりゆっくりを潰しても何も言われないんだ!!」 という結論に達した。 あながち間違いではない―――できるかどうかは別だが。 その後では、 「最終狼牙!」「コンナハズハー」「シッショー!」「さすが幕末」「幕末ゆえ仕方なし」 と戦っていたものが両成敗を受けていたが、見えていないので意味がない。 「ゆっくり……待っていてくれ。必ず虐待してやるからな。あの星に誓って!」 北の空では北斗七星のそばにやたら輝く星が見えた。 何だかんだで歩き回っていると目的の近所にたどりついた。 「会社の住所によるとここら辺のはずなんだが……」 メモの切れ端を見ながらあたりを見回すと変な声が聞こえてきた。 「おとどけもので〜す」 そんな台詞をはきながら目の前をゆっくり霊夢が通り過ぎていったのだ。 「ヒャッハー! ゆっくりだ! 我慢できねぇ虐待だ!?」 条件反射でゆっくり霊夢の前に躍り出て潰そうとするが、 「あ、じゅうしょまちがえた」 と荷物と一緒に男はどこかに運ばれていってしまう。 「こら! はなせ! って言うかどうやって掴んでんだ!」 そこは謎饅頭である突込みを入れてはならない。 「ぐほっ!! かはっ! はぁはぁ……糞饅頭の癖になんなんだあれは」 男は掴まったまま逃れることはできずにどこかの壁にぶつけられ悶絶していたのだ。 その横ではゆっくり霊夢がふんぞり返っていた。 「ゆっくりしていってね!!!」 先ほど男を運び壁に叩きつけたゆっくりである。 体の痛みで幾分冷静になった男はそのゆっくりを観察してみた。 黒い野暮ったい髪、それにへばりつくような赤い布切れ。 その目は世の中なんでもいいやというような幸せなで知性の欠片もなく。 口は人を馬鹿にしているかのように半開きでいる。 全体的に丸っこい輪郭をしている。 目の前にいるだけで殴り飛ばしたくなるような存在である。 「だいじょうぶ、このぎょうざをたべてげんきになってよ」 ゆっくり霊夢はそういいながらどこからともなく取り出した餃子を持って近づいた。 男はすばやく立ち上がり距離をとる。 「この声は……広告に出ていた糞饅頭か」 男は喜悦の笑みにより口元をゆがめ高らかに叫んだ。 「ヒャッハー!! ゆっくりだ!! 我慢できねぇ虐待だ!!?」『Round1 Fight!』 「ゆー きゃん のっと えすけいぷ」 袖口から針を抜きだし高速で投げ放ち、それを追従するように駆け出す。 放たれた数条の銀光は吸い込まれるようにゆっくり霊夢の飛んでいく。 針はあくまで牽制である。 先ほどのように掴まれてはかなわないので針を投げつけ怯ませる事により楽に捕獲するつもりだったのだ。 普通のゆっくりであれば、針が刺されば悲鳴を上げその場で転げまわる。 それを掴んでゆっくりと虐待すればいいのだ。 「ゆぅ……ゆっくりしていってね!!!」 「ぐ! 馬鹿な!?」 しかし、男の目論みはあっさりと覆された。 ゆっくり霊夢の皮に針が刺さりわずかに呻いたもののまた叫びだしたのだ。 その叫びは物理的な圧力となり男にダメージを与えひるませた。 威力はすさまじく当たり所が悪ければ人が昏倒するほどのものだ。 それをカウンターで受ける形となった男にはかなりのダメージを受けることとなった。 「ゆっくりしていってね!!!」×10Hit 驚きと打撃により無防備になった男に叫び声という暴力的な圧力が襲い掛かる。 この現象と身体に受ける痛みは情報という衝撃となって男の頭に打ち据え混乱させた。 「うそだ……糞饅頭ごときがこんな事ができるはずがない! はは、これはきっと夢なんだ。 きっと今頃ベッドの中で寝ていて、起きたらゆっくりを虐待するんだ。 『おちょいよ、くちょじじい!』とか 『きゃわいいれいみゅはおにゃかすいちゃんだよ』とか 『はやくごはんをもっちぇきちぇね!』とか 『おちびちゃんのいうとおりなのぜ。はやくあまあまをもってくるのぜ』とか 馬鹿で愚かで我侭な発言を繰り返すゴミクズを 『ごめんなちゃい。ごめんなちゃい』や 『ばりざはぎだないおぶづでず。ぞんざいじてごべんなざい』 みたいな心地よい鳴き声を聞くはずなんだ」 現実から目を背け幻覚を見ながらつぶやいている―――誰がどう見ても病院送りです。 「ゆっくりしていってね!!!」×40Hit 男が現実逃避をしている間にゆっくり霊夢は延々と叫びを上げ続けていた。 「…………えぇい! 鬱陶しい! 少しくらい放っておいてくれ」 あまりのやかましさにわれに返り、背負っていたギターケースを盾にしつつ後に下がる。 しかし、受けたダメージによりよろけ地面に転がる。 それと同時にゆっくり霊夢は空高く跳び上がった。 「うえからくるぞ。きをつけろ」『K.O.』 その宣言と共にゆっくり霊夢は『下から』生えてきた。 だが、転んだ男はギターケースでガードをしていたので特にダメージもなくすんだ。 「いちじてったい」 ゆっくり霊夢もそんなことを叫びながら後に引いていった。 その動きは恐ろしくスムーズであり通常のゆっくりとは比べ物にならないものである。 男の顔は眉をひそめ半眼となり険しいものに変わる。 「糞饅頭なら糞饅頭らしく素直に虐待されろっての。もういい――てめぇはつぶす!!」『Round2 Fight!』 「あの、わたしよわいのでてかげんしてね」 その発言にゆっくり霊夢は返答をするが当然のごとく男は無視である。 再び袖口から針を抜きだし高速で投げ放ち、それを追従するように駆け出す。 放たれた数十条の銀光は吸い込まれるようにゆっくり霊夢の飛んでいく。 先ほどと同じ流れではあるが、その量、速度、威力、気迫どれをとっても段違いである。 「ゆぅ」 皮に針が刺さり僅かにひるんだ隙に男はブーツから錐を抜き放ち構えを取った。 錐を構え、刺し、抜き、構え、刺し、抜く。 この動作を正確に素早く行うことにより無数の突き連続となる。 繰り出す速度は高速で残像すら見えるほどのものである。 「ふん! まだだ!!」 二十数回ほど錐を付きたてたあと身を翻し、後回し蹴りを側面に叩き込む。 後退するゆっくり霊夢にさらに踏み込みギターケースから取り出した大鎚で上空へと跳ね上げる。 「汚物は消毒せねばならんな」 腰から取り出したチャッカマンの出力を最大にして構える。 落ちてきたゆっくり霊夢が地に着く寸前に炎を放った。 「ヒャッハー! 汚物は消毒だ!!」 高圧圧縮されたガスは劫火となり襲い掛かる。 その炎を吐き出すさまは火炎放射器だ。銃刀法違反? ナニソレ? オイシイノ? ガスを使い果たし火の勢いが弱くなる。そこに現れたのは炭になったゆっくり霊夢が――― 「いたい」 「なん……だと……!」 男の目の前に現れたのは無傷のゆっくり霊夢であった。 多少疲れはあるのだろうが、刺さった針はどこにもなく、高速で突き刺した錐の痕も見当たらない。 よくよく考えれば蹴りのあたりで顔が削り取られ後退することは考えられない。 さらに大鎚など当てれば消し飛んでいるはずである。 「くそ! なんだこの悪夢は……何か言えこの糞饅頭!」 「さぁ、きなさい! じつはわたし、いっかいたたかれただけで、しぬぞぉ」 「嘘だ!」 理由がわからずに話をふるが、相変わらず人を馬鹿にした顔で戯言をはなつ。 男は知らないだろうが無限町では日常である。 (ゲーム中にダメージグラフィックとかできないからねぇ) 「えぇい! つぶれるまで続ければいいだけだ! 消えろ!」 開き直った男はゆっくり霊夢に殴りかかった。 乾いた音と共にゆっくり霊夢の真ん中に拳が当たる。『K.O.』 「わたしはすろーすたーたーなんです」 そんな言葉を残しゆっくり霊夢は天に向かって飛んでいった。 残されたのは呆然とした男と古臭い円柱のポストだけだった。 「……! なんだったんだいったい」 しばらく時間がたち、我に返った男は辺りを見回す。 あたりにはごく普通の町並みと道のど真ん中にある円柱の古臭く赤いポストである。 「どこにもいねぇ。逃げられたのか?」 男は肩を落としため息を付いた。 「針で刺して、錐で貫いて、蹴り飛ばして、鎚でつぶして、炎であぶったが……虐待した気にならん。 これだったら前の町のほうが反応は今一だったが、断然ましだ」 不平をもらしながら歩いていると、 「ゆっくりしていってね!!!」 先ほどのゆっくり霊夢と似たような声が聞こえた。 辺りを見回すとそこにいた。 人を馬鹿にした顔とトレードマークのトンガリ帽子のシルエットはまさしくゆっくり魔理沙である。 しかし、カラースプレーをかけられたのか、金箔を貼ったのかその全身は金色であった。 「獲物は違うがこの際虐待できればいい。色が変なのも虐待されたからに違いない」 虐待された獲物ならば弱いはずである―――だから捕まえて虐足してやるという思考なのだろう。 男はゆっくり魔理沙に襲い掛かった。 「ヒャッハー!! ゆっくりだ!! 我慢できねぇ虐待だ!!?」『Round3 Fight!』 「わたしのえいちぴーは53まんです」 男の雄たけびにゆっくり魔理沙は変台詞をはき迎撃の構え?をとった。 「くらえ!」 先の戦いと同じく針を投げた。 「おとうさん、そっちはざんぞうですよ」 などという台詞と共にゆっくり魔理沙は針をすり抜ける。 「は?」 あまりのことに理解が追いつかない。 「ゆっくりしていってね!!!」 「ゆっくりしていってね!!!」 「ゆっくりしていってね!!!」 「ゆっくりしていってね!!!」 「ゆっくりしていってね!!!」 「ゆっくりしていってね!!!」 ×3 先ほどのゆっくり霊夢よりもさらに遠い間合いから衝撃を受け。 「ほろびのばーすとすとりーむ」 そんな気の抜ける宣言と共に口からドススパークと似たようなものが吐き出され。 「とうてんじまんのひとくちぎょうざでございます。ゆっくりたべていってね」『K.O.』 さらに掴まれ口の中に餃子を詰め込まれる。 「ゆっくりしたけっかがこれだよ」 などと勝どきを上げ、ゆっくり魔理沙は飛んでいった。 「誰だよ……弱いって言ったの。前の糞饅頭よりやばいじゃねぇか」 激しくぼろぼろになった男はフラフラと立ち上がった。 町に着いてから買いなおしていた服はずたずたのぼろ雑巾になりサングラスはフレームが変形し使い物にならない。 「なんだあの饅頭どもはこの町は地獄か? ……ん?」 男が町について悩んでいると遠くからキャタピラで走行する音が近づいてきた。 目をそちらに向けると男は驚愕の表情で凍った。 なんと戦車がこちらに向かってきているのだ。 その上には先ほどボコボコにしたゆっくり霊夢のにやけ顔が乗っかっている。 「ありえねー! 勝てるか! ツーかどうやって動かしてる!」『Round4 Fight!』 またも理解できない状況に叫びを上げる。 「ますたーすぱーく」「しぱぱぱぱ」「しゃんはーい」「でてこいわがしもべ」『K.O.』 「てんしょんあがってきた」 何もできないまま遠距離からボコボコにされた。 こちらが身構えると同時に砲門から光線が放たれ、口から針が吐き出された。 さらに人形が刃物を回転させながら襲い掛かり、果ては何か幸が薄そうな女性もつっこんできた。 明らかに無理ゲーです。本当にありがとうございます。 たとえ動けたとしても戦車などという重装甲を貫くことなど用意ではないだろうが。 「……手はある。ようは相手の攻撃があたらずこちらの攻撃を当てればいいのだ」 しかし男は諦めなかった。目に決意の炎を燃やしギターケースを掴む。 中から取り出すのは一振りのハンマー、これが一筋の光明と握り締める。 「そもそも、この町には虐待にきたんだ。今度の獲物は逃げてないだから捕らえる!」『Round5 Fight!』 立ち上がると同時に駆け出した。 「ますたーすぱーく」 戦車の砲門から光線が吐き出される僅かの隙で懐にとびこんだ。 そして握り締めたハンマーを力の限り戦車の装甲に叩きつける。 強烈な手ごたえと共に爆音が鳴り響く、装甲が貫かれ車体が震えだす。『K.O.』 「おっと、まずい」 ハンマーの柄を放り捨て慌てて下がる。 このハンマーはHEATハンマーと呼ばれ頭の部分が指向性のHEAT(成形炸薬弾)になっており、使い捨てである。 威力は今実践したように戦車の装甲をも貫くほどだ。 「よっと、ようやく捕まえたぞ。糞饅頭」 爆発する戦車の車体から放り出されたゆっくり霊夢を捕獲する。 あの爆発だというのにゆっくりは無傷である。 「さーて、散々待たせてくれたんだ。いい声を聞かせてくれよ」 今までの疲れを忘れ、ゆっくり霊夢に微笑みかける。 しばらく虐待をしていないので、男は相当ストレスがたまっていたようだ。 「本当に楽しみだ―――きっといい鳴き声をあげてくれるはず。 『くそじじい、れいむのみりょくてきなからだにふれないで』が 『つぶらなひとみがー』とか 『まりさにほめられたすてきなおりぼんがー』や 『れいむのびきゃくがー」など 叫びを上げてくれるだろう! そして 『ごべんなざい、ぞんざいじででごべんなざい』 なんて鳴き声に変わるような虐待をしてあげるよ」 男は―――駄目だこいつ……早く何とかしないと……。 「君、うちの社員に何か用かな?」 そんなトリップしている男に渋い男の声がかかる。 彫りの深い顔に金髪、赤いスーツを優雅に着こなし、その服の下には鍛えているであろう筋肉がみてとれる。 その姿はしばらく前に街頭テレビのCMに出ていた社長である。 口元は敵意がないかのように笑みを浮かべ語りかけてくる―――しかし、その瞳は笑っていない。 「えーと、これは、その」 「落ち着いて答えたまえ。君は、社員に、何をしようとしているのだね?」 口調は落ち着いているものの、社長からは確かな殺気がにじみ出ていた。 おそらく、トリップ中に発言していたことを聞いていたのだろう。 「答えられないのかね? ならば……死ねぃ!」 「うわっ!」 男が返答に窮していると突然襲い掛かってきた。 ゆっくりを手放し、紙一重でよける。 「いきなりなにをするんだ!」 「なに、この町では日常だよ。それに貴様も同じことをしていたのだろう?」 男の問いに社長はさらりと返答した。まるで今晩の献立を聞かれたので答えたかのような気軽さである。 「怖がることはない。少々教育をしてそのあと遠くに運ぶだけだ」 社長はゆっくりと歩み宣言した。 「お手並み拝見といこうか」『Fainal Round Fight!』 「いやだーーーーー!」 よく晴れた昼下がりに絶叫があがる。 しかし、これもまたこの町では日常であった。 to be continued? あとがきぽいもの 面白いから書いてたらゆっくり以外のネタのところが倍くらいあったから削ったよ。 虐待を期待した人ごめんなさい。 M.U.G.E.N産ゆっくりの登場 キャラクターの詳細スペックなどは「ニコニコMUGENwiki」あたりでも参考にしてください。 結構強い上、金箔饅頭(通称:12P、ゴールドゆっくり)になると凶悪この上ないキャラになります。 さらに霊夢戦車になるともっと無理があります。 うちの主人公の「男」は普通ー強キャラ性能ぐらいなので結構無茶な相談です。 作品に出る男の追加武装および能力 ・HEATハンマー 巨大な金槌。対ドス用の武器として持ち歩いている。爆発物取締罰則? なにそれ、美味しいの? 本編では一撃必殺技扱い。 ・ゆっくりがいる世界に入り込む程度の能力 「ゆっくり」が存在する場所にたどり着くことができる能力。 本人に能力の自覚はまったくない。 前の町も今回の町も普通に歩いていたらたどり着いた。 HEATハンマーについては反動が馬鹿にならないとか、手が折れるだろうと思うかもしれませんが、 「まぁ、こういう話しだし」「MUGENだからなぁ」という寛容な心でお願いします。 色々突っ込みどころが多いとおもいますが、苦言などよろしくお願いします。
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叩き付け式洗濯。 昔は、大きな岩に布を叩き付けて洗濯をしていたらしい。 本でそれを知って以来、ゆっくり饅頭で再現したいという気持ちが心の中で燻っていた――。 目の前には、プルプル震えるゆっくり霊夢。 ただならぬ雰囲気に、反応しているようだ。 「ゆっ、ゆっくりしようね! ゆっくりしようね!!」 嫌だよ、ゆっくりなんかしないよ。 ガシッと捕獲して、容赦なく作業を開始する。 まずは、頬っぺたを摘まんで伸ばして持ち手を作らなくては。 「ゆぐぅぅぅ! いだいよ、なにずるの!!」 涙を流して痛がるけど無視無視。 叫び声のあがる中伸ばした頬は、30cmくらいに到達。 竹刀の柄に饅頭が合体したようなフォルムが面白い。 「あ゛ぁぁあ゛ぐぅ! れいむのほっべがあぁぁあぁあァ!!」 ビロビロになった自分の一部を見て、ゆっくり霊夢はゾクゾクする程に悲鳴をあげる。 バカ面がこちらの嗜虐性をこれでもかとくすぐるけど、まだ本題には入らない。 中身が飛び散っても良いように、お風呂場に移動してからだ。 「おにーさん! れいむになにしたの!?」 おっと、移動の途中でゆっくり魔理沙に見つかってしまった。 「まりざぁぁ! ゆっぐりしだいよぉぉ!!」 「ひどいよ! れいむをゆっくりさせてあげて!!」 ボスボスと足に突っ込んでくるゆっくり魔理沙。 丁度良いからゆっくり霊夢が弾け飛ぶのを見せてやろう。 ひょいとつまみ上げて一緒に連れていく。 「ゆゆっ! う、うごけないよ!!」 お風呂場に着いてから、すぐにゆっくり魔理沙をタオル掛けに固定した。 間近でショウを見られるように、と言う訳だ。 「おにーざん……ゆっ、ゆっぐり…じだいぃ………」 そして俺の手には、ぷらぷら振り子の様にゆっくり霊夢が揺れている。 もう、ゆっくり饅頭たちも何をするのか分かるハズ。 「れいむをはなしてね!! ゆっくりれいむをはなしてあげてね!!!」 仲間の危機を察知して、ガタガタと必死にそう訴えるゆっくり魔理沙。 バーカ。 離してやる訳ないだろう。 「ゆっ、ゆゆっ!!」 俺はゆっくり霊夢を高く高く振り上げてフルスイング! 「ゆっぐぁばぶぶぶっぅ!!!!」 まるで豚の鳴き声のような音を出して、ゆっくり霊夢は壁にキスをした。 思ってたよりかなり気持ち良いなぁ。 「がおがぁぁぁ! かおがつぶれだよぉぉぉ!! いだいいだいいだいぃぃ!!!」 「れいむぅぅぅぅぅっ!!!!」 ゆっくり魔理沙も大絶叫。 「どおじで!? どおじでぞんなごどずるの!?」 涙、鼻水、涎と色んな汁を垂れ流しながらゆっくり魔理沙は訊いてくる。 スカッとして楽しいからに決まってるだろ。 そして、間髪いれずにもう一発。 「お、おにーさん! もういだいのやだ!! ゆるじでぇ! ゆるじでよぉぉ!!!」 最高点に達したところで腰を捻り、 「ゆ゛ぐぁわぁぁあ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁっ――!!!!」 バッチーンと良い音を響かせる。 あはっ、ゆっくり霊夢の顔すげー腫れてる。 「しんじゃう!! れいむがしんじゃうよぉぉ!!!」 殺すためにやってんだよ。 全く、外野は黙って見てろ。 ――ドバン! 「ぶぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛!!」 「やめでぇぇぇ!!」 ――ボダン! 「ぐゃぎやぁ゛ぁ゛ぁ゛あああぁ!!」 「かわがぁ!! れいむのかわがやぶれちゃうよ!!!」 ――ドズン! 「いぢゃああぁあだぁあやぁぁ!! ちぎれた!! はしっこちぎれたぁっ!!」 「え゛!? ああ゛! おにーさんれいむがちぎれでるぅぅぅ!!!」 ――ビダン! 「ゆぐぅああぁっ!! も゛うじにだい!! も゛うごろじでぇぇ!!」 「あががぁ! れいむが!! れいむのあんこがぁぁ!!」 ――ボチュン! 「ふぐぅぎゃああああぁっ!」 「れいむしんじゃやだぁあぁぁ!!!」 ――ビチャン! 「ゆ゛っ…ぐぁ……!」 「れいむ! れいむれいむれいむれいむれいむぅぅぅぅぅ!!!」 ――バブブヂャン! 「ごろじ……で………」 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああぁ!!! れいむからっぽになっちゃうぅぅぁ!!!」 ――ドブリリリュュュ!! 「……まり…ざ……」 「やだぁぁあ!! れいむのあんごがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ――……」 構わずに叩き付けていたら、いつの間にかゆっくり霊夢をは皮だけになっていた。 ちぎれて穴が空いた部分から、餡子全部が飛び出てしまったのだろう。 「れいむをかえぜぇぇぇ!! ながよぐゆっくりじでだれいむをぉぉ!!」 タオル掛けではゆっくり魔理沙が吼えている。 こんなに餡子の甘ったるい匂いがするなかで、よく怒る気になれるなと思う。 「ふぐぐぐぅあぁぁああぁぁあぁああ゛っ!!」 真っ赤な顔に目は釣り上がって、口の周りは涎でべしゃべしゃ。 キ○ガイの顔ですよ、これは。 しかし、これ以上うるさくされると敵わない。 ゆっくり魔理沙は逃がすつもりだったけど、やっぱり仲間の所に送ってあげよう。 タオル掛けごとゆっくり魔理沙を掴むと、おもいっきり床に叩き付けた。 「ゆ゛あ゛あ゛ぁ゛あああぁっ!!!」 顔面から激突し、壮絶な声をあげる。 散らばったゆっくり霊夢の餡子を巻き込みながらごろごろ転がって、痛みに耐えている様子。 大切な大切な友だちの内容物が髪の毛に絡み付いてますよ。 「ゆぎゃあ゛ぁあ゛あああっ!! あんご、あんごぉぉぇぇうげろろろろぉぉ!!!」 うわ、吐いたよこいつ。 ゆっくり達にとって内臓みたいなものなんだから、やっぱり気持ち悪いのかな。 さすがに可哀想だから、もう終わりにしてあげよう。 のたうち回るゆっくり魔理沙目掛け………、 「バイバイ、ゆっくり――」 「……ゆ゛っ!?」 ジャンプを決めて両足で着地だ。 全体重が柔らかいゆっくり魔理沙に吸い込まれた。 「ゆぐぐりゃあ゛あ゛あ゛あ゛っ!!! がぐぼぉぇっ!! ぶぐるるぁああ゛あ゛ぁりりゅりゅゅあ゛あ゛あ゛あ゛―――!!!」 おぉ、ポンプみたい。 着地した所が良かったらしく、ゆっくり魔理沙の口から勢いよく餡子が吐き出されていく。 目を見開いて、ビクンビクン痙攣してまさしく死の直前といった感じ。 顔色も真っ青で、何だか気持ち悪いな。 「……ゆぐっ……ゆ…ゆっ………っ……」 噴水のごとく立ち上っていた餡子も少し落ち着いてきた。 薄っぺらくなるにつれ、段々とゆっくり魔理沙は声を発しなくなっていく。 眼球だけが動いていて、しっかりこちらを捉えていた。 「………………」 そうだよ。 お前らを殺すのは凄く楽しいんだよ。 いつもバカの一つ覚えみたいに同じ台詞を繰り返して、ドタドタとうるさく跳ね回って、エサだって汚く食い散らかして。 何が「ゆっくりしていってね!!」だよ。 お前らがゆっくりしてぇだけだろ。 自分らがかわいいとでも思ってんのか? みんな迷惑してんだよ。 みんな大人だからお前らが傍若無人に振る舞っても我慢してるの。 分かる? 「………………」 はは、ざまぁ見ろ、だ。 足の下のゆっくり魔理沙は、もう動かない。 皮だけになって、こちらを見つめたままカチカチに固くなっていた――。 ゴミ袋にゆっくりだったものをブチ込んでから、ある事に気が付いた。 叩き付け式洗濯を再現する、と言う割りには全く洗濯になっていない。 むしろ、体中餡子で汚れ、後片付けも大変だ。 ……まぁ、良いか。 畜生にも劣るゆっくり饅頭を、この世から『洗濯』出来たのだから。 ※実際はゆっくり饅頭たちが大好きです。 選択肢 投票 しあわせー! (24) それなりー (4) つぎにきたいするよ! (4) 名前 コメント すべてのコメントを見る
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四日目 女心と秋の空。 井戸の上空にひたすら広がる青い空を仰ぎ見て、霊夢はそんな常套句を思いだしていた。 昨日までのしとしと降りは霧散消散。 いまはからっとした陽光に包まれた穏やかな秋晴れ。 昨日から寝ていないゆっくり二匹にとって、その朗らかな心地よさは毒のようなもの。重たい目蓋をこじあけて、死を意味する居眠りを何とか堪えた。 その日差しが直接入り込むにはまだ時間が早かったが、入り口付近を淡く白い光が包み込んで、井戸の中はほの暗い。 井戸の腐ったような胸に詰まる臭いも今はそれほど強くはなかった。 乾燥した空気が井戸の底までおりてきて、ゆっくり二匹の湿りきった体に心地よい。 陰干しされたゆっくり二匹。 体から水気がゆっくりと蒸発して、元のもちもちとした肌が戻ってきた。 同時に、昨日から続いていた落下もようやく止まって一安心。 大分底に近づいてはいたが、井戸の上から見下ろせばまだ十分視界に入る位置だった。 「すっきりー!」 晴れやかに宣言する霊夢。 魔理沙はうつむき加減で言葉は発しないが、悪くない気分らしい。吐く息がゆっくりと穏やかだった。 「かゆいのは、大丈夫?」 「……うん」 霊夢の言葉に、弱弱しい声をだして頷く魔理沙。 と、同時にそれと同じ角度で頷いていた霊夢。 あれ、どうしたんだろう? 意図しない自分の動きにハテナマークを浮かべる霊夢。きょろきょろと視線を走らせて、ようやく気がついた。 ゆっくり二匹のふっくらしたほっぺた。 ぴったり強くこすり合わせていたその小指ほどの先端が、今見ると魔理沙の頬とぴったり皮膚が繋がっていた。その皮膚を通じて、魔理沙の動きに引きづられていたゆっくり霊夢。 「ゆっくりー!?」 驚愕の霊夢。 雨でぐずぐずになった皮をこすりあわせているうちに結合していたらしい。 皮自体は乾燥して弾力を取り戻したが、お互いのほっぺは強固にくっついたまま。 二匹は思わず視線を合わせた。 「くっつくよ!」 霊夢が叫ぶと、その頬の動きのままにびろんとのびる二人の皮。 奇怪な有様だったが、ゆっくり霊夢は妙に嬉しそう。 「これじゃあ、ずっといっしょだね!」 霊夢の言葉にこめられた親愛に、魔理沙は頬を吊り上げてかすかな笑顔。 わずかな仕草なのに、心の底からの嬉しさがほっぺのつながりと通じて霊夢に伝わってくる。 相変わらず状況は絶望的で、体力は落ちていくばかり。おなかもぺこぺこ。 でも、目の前のゆっくりと再び親友に戻れた。それだけで単純なゆっくり二匹の心は晴れやかだった。 「……おなかすいたね」 続く魔理沙の呟きも、声色自体は疲れ果ててはいたが、口調自体はいつものもの。 霊夢もお腹はぺこぺこだ。壁にはりついたムカデやナメクジをぺろぺろ舐めとっても何の足しにもならないし、美味しくない。 でも、自分はまだいい。消耗しきった魔理沙の方が心配だった。落下してから何も口にしてないのではいだろうか。 「魔理沙、右のほっぺに蟻さんがいるよ!」 その言葉に、ぺろんと伸びる魔理沙の舌。 魔理沙の顎の方へ向けて行進していた蟻たちが一瞬で姿を消した。 だが、すぐに顎の傷のほうから次々と蟻たちが出現しては、引き続き魔理沙の舌に飲み込まれていく。 「もっと沢山たべたい……」 蟻んこでは腹の足しにならないのだろう。魔理沙の虚ろな表情に元気は戻らなかった。 我慢している顎の傷の痒みは相当のものらしく、言葉が尽きるなり、ごしごしと患部を壁にこすりつける魔理沙。 顎の付近から、ぶわっと羽虫が舞い上がった 寄るところもなく宙を漂う羽虫。だが、魔理沙の蠢動が治まるなり顎の傷のあたりへ戻っていった。 「ゆううう!」 途端に、またびくびくとむずかりだす魔理沙。その顎には我が物顔に再び行進をはじめる蟻の行列。一様に極小の餡の粒を背負っている。 どうやら、わずかに開いた傷口から漂う甘い香りが、井戸の住民たちにかぎつかれたようだ。恐らくは、傷口が虫たちにほじくりだされているのだろう。 そんな様子は自分からでも確認できるらしく、暗い眼差しで虚空を眺めるゆっくり魔理沙。 霊夢は少しでも魔理沙の気持ちが紛らわせようと口を開いていた。 「ここからでたら、虫さんは全部つぶしてあげるからね!」 「……」 「そして、美味しいものを沢山たべようね!」 「……」 「野いちごとか、沢山食べようね!」 ひっきりなしに話しかける霊夢。 太陽を一杯に浴びた野草や、まるまるとした昆虫、リスなどの小動物。その味わいを夢想する。 その中でも最近食べた一番美味しい食べ物はあれだろう。 ぼんやりと、霊夢は回想に入る。 数ヶ月前、月明かりに誘われて家の周りに遊びに出たゆっくり霊夢とその姉妹。 野犬の遠吠えも聞こえない、静かな満月の夜だった。 家の入り口近くに何匹も連なって月の鑑賞会。まん丸な月を眺めるゆっくりたち。息を吸い込んでお月様のように丸く膨らんだり、ぴょんぴょんと跳ねて少しでもお月様に近づこうとしたりと、思い思いに楽しんでいる。 だが、突如として月明かりに影が差す。 見上げたゆっくりたちの視線の向こうに、月を背負ったシルエットが一つ浮かんでいた。 「ゆ?」 その正体がわからなくて首を傾げるゆっくりたち。 ニンゲンに似た体つきだけど、それにしては手足が短い小さな体。ぱたぱたとはためく翼もニンゲンのものじゃなかった。 目をこらすと、 朧な月の光にその姿が浮かび上がってくる。 丸い顔に満面の笑顔を浮かべて、短い手足を一杯に広げた生き物。誰かにおめかしされたのか、ピンクの服と帽子、 そして赤いリボンが愛らしい。 幼子のような笑顔のまま、その生き物は鳴いた。 「うー! うー!」 その可愛らしい生き物はご機嫌そのもの。だが、ゆっくりたちは気がつかなかった。意味のわからない呟きをもらすその口元に輝く、剣呑な牙を。 それは、紅魔館に最近住み着いたゆっくり亜種だった。空を飛ぶ吸血種で、その上に幼児のような体と手足がある、極めつけの希少種。 主に似たその生き物を、紅魔館の者は親しみをこめ、こっそり「れみりゃ」と呼んでいた。 そんなれみりゃは、発見されたからずっとメイド長咲夜に世話をされてきた筋金入りの箱入り娘。いつもは館の奥で大切にされていて、単独での外出が許されていなかった。たが、今日は素敵な満月。ついつい心踊る月明かりに誘われ、抜け出してきたのだろう。 つきっきりで世話をする咲夜の姿も、今日はどこにも見当たらない。 過保護な従者のいない久しぶりの自由を謳歌して、ご機嫌なれみりゃ。うーうーと、幸せそうに月夜を飛び続ける。 気がつけば、ずいぶん遠くまできていた。 くーくーと鳴り始めるお腹の虫。そろそろ戻ろうかなと迷い始めていた。けど、帰ればこの楽しい夜が終わってしまう。 そこで出くわしたのが、いつも餌として与えられているゆっくり霊夢の一群だった。 まさに渡りに船。 「ぎゃおー♪」 ご機嫌に、怪獣のような叫びを発するれみりゃ。 咲夜が怪獣のキグルミを着て演じた台詞をそのままなぞっただけの幼い咆哮。 ゆっくりたちは奇妙な闖入者に戸惑って、逃げるべき相手か、判断がつかなかった。 だが、そんなゆっくりたちは次の台詞で震撼する。 「たーべちゃうぞー!」 宙から、ふわりとこちらへ飛んでくるれいりゃ。その口の牙が月光を帯びて鈍く光った。 「ゆっくりやめてね!」 慌てて、一目散に家へと逃げ込むゆっくりたち。 だが、出入り口は一つ。一度に入れるのはせいぜい二匹まで。 「はやくしてね!」 最後尾のゆっくり霊夢が急かすが、その声が不意に止む。 れみりゃに牙を突き立てられ、引きずられていくゆっくり霊夢。 「お゛があざーん……!」 ぱたぱたとはためく翼の音とともに、母を呼ぶ声も遠ざかる。 「うー♪」 見守るゆっくりたちの前で、れみりゃは捕らえた霊夢を抱え込む。 同時に、れみりゃの口からじゅうううと鈍い音が響きだした。 「ゆ、ゆゆゆゆゆゆ!?」 自分の体に何が起こっているのかわからないゆっくり霊夢。 だが、みるみる頬がこけ、皮がビロビロに伸びはじめてようやく気づく。れみりゃは、ゆっくりの中身を急激に吸い上げていた。 「い゛や゛あ! ゆっぐりじでよおお! ずわ゛な゛い゛でええええ!」 しかし、言われてジュースを飲むのを止める幼児などいない。 うまうまと、たっぷりの甘さを味わいながらちゅーちゅーと吸い続けた。 次第に、白目をむくゆっくり霊夢。 「ゆ"っゆ"っゆ"っ」 細かく痙攣を始めるが、れみりゃはジュースの器がどうなろうが一切気にとめない。喉の渇きのまま、最後まで一気に飲みきるだけ。 ふにゃふにゃにのびた霊夢の、最後の雫を吸い込もうとれみりゃが一呼吸したそのとき。 猛然と転がる岩のようなゆっくりがいた。 「ゆっ! ゆっ!」 異変に気づいたお母さん霊夢だった。 ぷっくり膨らんだからだを揺すって、どすどすと入り口かられみりゃに向けて一直線。 「うー?」 只ならぬ振動に顔をお母さん霊夢に向けるりみりゃ。 瞬間、お母さん霊夢は飛んだ。 月夜を背景に、膨らんだ全身をばねにして見事な飛翔。 そのまま、れみりゃの顔面へと飛び込んでいく。 ぺちっと、情けない音がれみりゃの顔面で響いた。 もんどりうって倒れる一団。 「うあー! うあー!」 れみりゃはうつぶせ倒れこんで、起き上がりもせずただ泣き叫ぶ。 これまで、食事といえば昨夜が手配したゆっくり霊夢かゆっくり魔理沙。お嬢様に粗相のないよう、処理されたものばかりだった。 だからこそ、まさか獲物に反撃されるとは夢にも思っていなかった。 ショックでわんわんと泣き出すれみりゃ。いつもなら、ダダをこねていれば光の速さで咲夜が飛んできて自分を慰めてくれる。 でも、ここは紅魔館から遠く離れたゆっくりたちの巣。 絶望的にれみりゃは孤独だった。 「うあ!」 唐突にれみりゃが感じた激しい指先の痛み。 見れば、一匹のゆっくり霊夢が復讐だとばかりに噛み付いている。振り払おうとするその腕に、さらに噛み付く別のゆっくり。 続いて、背中にどすんとのっかった重みはお母さん霊夢。息がつまって、れみりゃの体がのけぞる。その隙に残りのゆっくりたちも意を決して競って背中に乗り上げてきた。もうれみやは飛ぶどころか、起き上がることすらできなくなる。 「うっ……!」 もういやだ、早く帰して。今日はプリンのお夜食なんだから、もう帰る! そんな思いをこめてゆっくりたちを見つめる。 だが、紅魔館自体を知らないゆっくりたちに容赦する理由は微塵もない。 「うっ!」 れみりゃの短い叫び。 見れば、指先に噛み付いていたゆっくり霊夢がついにその丸い指先を噛み切ったのだ。 指先からほくほくと、肉まんの湯気。 「うっ……うっ!」 赤く灼熱した焼印を押し付けられたような指先の激痛。 苦痛から、もはや声にならない悲鳴がれみりゃの口をつくが、むーしゃむーしゃと味わう霊夢には聞こえていないかのよう。 「おいしいよ!」 ほくほくの笑顔でそのお味を家族にご報告。 その言葉が契機になって、一斉にゆっくりたちが殺到する。 あんぐりと、れみりゃの指先やほっぺにくらいついた。 「う゛っ、あ゛ーっ!」 れみりゃは元々柔らかい肉まんのようなものなのか、強く噛み付くとゆっくりに、抗うことなくぽろぽろと千切られていく。 「むーしゃ、むーしゃ」 一斉にれみりゃを咀嚼するゆっくりたち。 はふうと、同時に吐き出される至福のため息。 「しあわせー!」 「ゆっ! ゆっ!」 わが子の嬉しげな様子を穏やかな視線で見つるのは、お母さん霊夢。 れみりゃがもう何もできなくなったことを確認して、その翼を口でぺりぺりと剥ぎ取る。 咥えたまま向かった先は、れみりゃに吸われてぺしゃんこになったわが子の元。そっと、くわえてきた翼をわが子の前へ置く。 けれど、もはやわが子は目も見えていないようだった。白目をむいて震え続けるだけのゆっくり霊夢。 お母さん霊夢は、無言で我が子を見下ろしていた。 れみりゃを味わっていたゆっくり霊夢の一匹が、その様子に気づいて駆け寄ってくる。 「早くよくなってね!」 元気付ける言葉は、虫の息となった霊夢にも聞こえたのだろう。 応えるため、口を緩慢に開こうとする。 「ゆっ……く……」 だが、もれたのは言葉にならないあえぎだけ。 やがて、言葉の代わりに大きく吐き出される吐息。あえぎ声。 それっきり、ゆっくり霊夢は動かなくなる。 きょとんとその様子をうかがう子供たち。何が起こっているのだろうと小首を傾げる。 お母さんれいむは頬をすりよせて、抜け殻となったわが子の目を閉じてあげた。 沈痛な沈黙。 「ゆっ!」 短い呟きが、わが子の亡骸に向けられて静かに響いた。 やがて、お母さん霊夢はくるりと振り向く。皮だけと成り果てたわが子から離れて、れみりゃのもとへ。 「うー!」 うつぶせにむせび泣いていたれみりゃと静かに向かい合う。 相変わらずの無表情のまま沈黙を守るお母さん霊夢。 すると、れみりゃを味わっていたゆっくり霊夢のうち一匹が、れみりゃの指先を見つめてぽよんと飛び跳ねた。 「ゆっくり治っているよ!」 見れば、千切られたばかりの指先がじわじわと元に戻りつつある。吸血種ならではの再生力だった。 その様子を、相変わらずじっと見つめるお母さん霊夢。 お母さん霊夢は声もなく動き出し、れみりゃの服の襟首をくわえ込む。そのまま、ずりずりと家の方へ引きずり出した。 ゆっくり霊夢たちは不思議そうに母親の行動を眺めていたが、そのうち一匹が母親の意図を悟る。 「まいにち、ごちそうだね!」 その言葉で他のゆっくりたちも気づく。れみりゃは一晩で元通り。食べ過ぎなければ、いつだって美味しいご飯になるということを。 一斉にれみりゃに飛び掛るゆっくりたち。れみりゃの翼を、耳を、指を、靴の先を、それぞれ思うがままに咥えて、一心不乱に家の方向へ。 「うっ! うっ!」 異常なゆっくりたちの団結に、怯えて泣き叫ぶれみりゃ。だが、もう遅い。れみりゃの姿は、ゆっくりと霊夢たちの住処へと消えていった。 それから数ヶ月、豊かな食生活が続いたゆっくり一家。 だが、その幸運も不意に消えてしまった。 いつも家の中に縛られて転がっているれみりゃが可哀想だと、ゆっくり家族たちが気を利かせて日向ぼっこ。 「うー! うー!」 家の方が居心地がいいのか、出ていきたがらない素振りのれみりゃだったが、日向でゆっくりさせてあげないと体に毒だと無理やり引っ張り出す。餌にすら親切なゆっくり一家だった。 逃げないよう縄でがんじがらめにして、お天道様の下に転がしておく。 「うあああーっ!」 嬉しいのか大声ではしゃぎ、のたうちもがくその声を背に、ゆっくりたちは気ままに遊び場へ散らばっていく。 日没まで存分に遊んで帰ってきたゆっくちが見たのは、れみりゃを縛った形のまま地面に横たわるロープと、そのロープを覆いつくさんばかりの真っ白な灰だった。 これは何だろうと疑問の答えを見つけるよりも早く、灰は草原を吹きぬける風に舞い上がげられる。 そのまま、近くを流れる小川へ押し寄せられ、流されていった灰。よくわからないので、ゆっくりたちはすぐに忘れる。 結局、逃げられたと結論づけて、今日もお母さん霊夢の待つ家の中へ、ゆっくり姉妹は仲良く連れ立って入っていった。 おいしい食べ物のことを思い出して、だらりと霊夢がよだれをたらしているうちに、時刻はいつしか夜を迎えていた。 今日は誰も井戸をのぞきこんだりはしなかったが、明日もこの小春日和が続けば、ゆっくり仲間か暇なニンゲンあたりが ふらっとこのあたりを通りかかるかもしれない。 それまで、耐えられるよねと自分に自問する。 全身は、力をこめ続けていたせいで、がちがちにこわばっていた。身じろぎするたびに体がきしんで痛みが走る。 眠らないでいた頭はぐらぐらと揺れて気が遠くなりそうな程。ぼんやりとなる瞬間もあるけど、死ぬよりはマシと思うしかない。 それに、嬉しい兆候もあった。 お昼に少し元気を取り戻したものの、日暮れ前にはもうぐったりして動けなくなっていたゆっくり魔理沙。 だが、夜が深まるにつれて何やらもぞもぞと体を動かしていた。 魔理沙が先に力尽きることが最大の不安だっただけに、その復活は霊夢にとっても望ましいことだった。 後は誰か、誰でもいいから、この井戸を覗き込んでもらうだけ。 そうだ、お願いの言葉を今からきちんと考えないと。 どことなく前向きなゆっくり霊夢。 その霊夢の思考を邪魔する、カサカサという魔理沙からの音と、時折の「ゆ……」とうめき声。 だが、霊夢は気づかないまま、助け出されたときのお礼の仕方をのんきに考えはじめていた。 五日目 考えすぎたのが悪かったのだろうか。朝から、霊夢の頭は朦朧としていた。 眠らないまま、どれだけの時間を過ごしただろう。 力を抜かない、眠らない。 それだけを守って、それだけしか許されないこの世界で生き抜くうちに、霊夢は少しずつ現実とつながる意識が薄れていた。 空が明るくなって、かろうじて五日目に入ったことはわかる。 けれど、もう何年も閉じ込められているような気分だった。 この空虚でゆっくりと流れる時間を、一人だけで過ごしていたら今頃心が壊れていたかもしれない。 だが、隣にぴったりとくっつく魔理沙の存在が、霊夢の心に頑張らないとと、わずかな種火となってくすぶった心を焦がしている。 昨日からちょっと調子が悪いらしくて、話しかけても何も応答が無い。 でも、いるということだけで心強いのだ。 「れいむう……」 その魔理沙が、一日ぶりに自分から話しかけてきた。 井戸の暗闇から届く、のったりと間延びした呼びかけ。 「どうしたの、まりさ!」 そのことが嬉しくて、応じる霊夢の声は弾んでいる。 魔理沙の次の言葉は中々発せられなかったが、ゆっくり待った。 「……ようやく、かゆい理由がわかった」 時間を大分おいた一言は、霊夢に「よかったね!」の合いの手を躊躇わせるほどに疲れきった声。 どうしたのだろうと訝りつつ、やはり魔理沙の言葉を待つしかないゆっくり霊夢。 そのとき、ゆっくり霊夢はわずかな光を感じた。 見上げると井戸の縁を、太陽がわずかに踏み越えようとしている。 ほかほかのお日様がでれば、魔理沙も元気になるかな。 「あのねえ」 魔理沙の呟き。 日差しはどんどん高くなる。光の領域が、井戸の縁から内側へ、みるみる広がってきた。 「れいむ、きらいにならないでね……」 よくわからない言葉が霊夢の困惑を誘う。 さらなる説明を求めようとした、その時。 ふっくらとしたお日様の気配が二人を包んだ。ゆっくり二匹の元へ届いた、晴れやかな日差し。 光に照らし出された魔理沙は、口を半開きにして惚けたような顔。 そして、顔半分を覆いつくす黒。 目を凝らすと、その黒い帯は光を受けて一斉に動き出した。 「ゆーっ!」 黒い帯。それは、魔理沙の顔にたかる幾百もの虫たち。地虫、羽虫、カトンボ、ゲジゲジ。数え切れないほどの虫たちが光の襲撃を受けてうごめき、逃げ惑い、光から隠れた。 最も手近な魔理沙の中へ。 魔理沙の右のほっぺに開いた無数の穴へと、我先にと逃げ込んでいた。 「ゆっ! ゆっ! ゆううううっ!」 目の前10cmで繰り広げられる光景のおぞましさに、満足な叫びもあげられないゆっくり霊夢。 虫たちは魔理沙の傷口から入り込み、中身を食い荒らしながら、奇妙な巣を勝手につくりあげていた。 魔理沙は、もう心が消えうえせたかのように、微動だにしない。開いた口からだらだらとよだれをたれ流して、右頬だけがぷるぷると微妙に震えている。 その虚ろな目が、怯え震える霊夢を見つめていた。 霊夢は「れいむ、きらいにならないでね……」という魔理沙の言葉を思い返す。 きっと、今自分は魔理沙を化け物を見るような目で見ているのだろう。 「しっかりして、まりさ! 外にでたらすぐに治療しようね!」 真正面に魔理沙の惨状を見据えて、心を燃え上がらせての激励。 ほのかに、魔理沙の瞳に生気が戻る。 「ありが……」 だが、お礼の言葉は最後までいえなかった。 「うっぐ!」 言葉を遮ったのは、魔理沙の口からわらわらと巣立つ羽虫たち。 凍りついた霊夢に、なぜか笑いかける魔理沙。 「……卵産みつけられちゃった」 気を失いそうになる霊夢。 魔理沙からは、低い笑い声がもれてくる。 「うふふ……うふふ」 これまで聞いたことの無い、奇妙な笑い方。 もう、霊夢の言葉は届きそうに無かった。 それに、その虫たちを見ていると霊夢に浮かぶ不安が一つ。 魔理沙の餡を全部食べ尽くしたら、この虫たちはどうするのだろう。 答えは、魔理沙と連結した自分のほっぺた。おどろくほど容易い進入経路。 「だずげでえええ! 今ずぐ、だずげでえええええええ!!! だずげでええええええええ!!!」 幼子のように泣き叫ぶも、声を聞き届けて顔を覗かせるものなど誰もいない。 ただ、驚いた羽虫たちをぶわと舞い上がらせただけ。 やがて、惨劇を見せ付けた太陽は井戸の外へ、早々に引っ込んでいく。 後には泣きじゃくる霊夢と、魔理沙の乾いた笑い声。 そして、それを覆い尽くす虫たちの気ぜわしい羽音や足音だけがいつまでも響いていた。 六日目 何度目か、すでに霊夢はわからなくなりつつある太陽の出現。 昨日、叫び疲れてぐったりと力を使い果たした霊夢。もう、口を開くのも厭わしい。 魔理沙も虫たちに蹂躙にされるがままになっていた。 もううめきすら聞こえない。生きているのか、死んでいるのか、もう判別のつけようがなかった。 ゆっくり霊夢は、そんなゆっくり魔理沙を見つめながら、自分の最期を見つめる思いだった。 きっと、自分もこんな死に様なのだろう。 ありありと見せつけられた絶望。 だが、先ほどまでの狂おしい恐怖はすでに感じなくなっていた。何もかも、あやふやな夢の中にいるよう。ぼんやりと、厚い膜を張ったような精神状態。 心が磨耗しきっていた。 もうすぐ魔理沙のように、うふふ、うふふと笑える幸せな世界に旅立てるのだろうか。 先に行けて、魔理沙はもいいなあと、霊夢は魔理沙をうらやましくさえ感じていた。 だが、霊夢がやっかむ必要もないだろう。 そのときは、確実に近づいていた。すでに、自分を取り巻く全てに何の現実感も感じられなくなりつつある。 だから、霊夢は妄想か夢を見ているかと思い込んで見逃すところだった。 はるか井戸の上には、見下ろす一人の女性の姿。 「久しぶりに昔の家にきてみたら、こんなところに……あなたたち、何をしているのかしら」 耳障りのよい、落ち着いた女性の声。 井戸に響き渡る、待ちかねた来訪者の声だった。 「ゆっ! ゆゆゆゆっ!」 助けて、出して、ごめんなさい、お願いします。言うべき感情が霊夢の口をあふれて、まったく形をなさない。ただ興奮と哀願だけが噴出して始めていた。 声をかけてきた女性は、逆光でよくわからないにがサラサラの金髪に、白いケープが目に入る知的で楚々とした印象。 自分たちに降りた蜘蛛の糸を握る唯一の人物。 「勝手に入ってごめんなさい! 出られないの! お願い、助けてください!」 「あら、かわいそうに」 ゆっくりに向けられた女性の声色は心底哀れんでいるようだ。 優しい人かもしれない。 ゆっくり霊夢は期待と不安の眼差しで女性を見つめる。 「心配しなくていいのよ。今、助けてあげるわ」 逆光で顔立ちはわからないが、その女性はにっこりと微笑んでいた。 その笑顔に、沸き立つ安堵の想い。知らず、体の力が抜けかけるゆっくり霊夢。 だが、ここで沈んでは何にもならない。必死に堪えた。 「待っててね。今、家からロープか何かもってくるから」 身を翻して姿を消す女性。 でも、霊夢に不安はない。女性の言葉は心底の同情に満ちたものだったから。 しばらくして、言葉の通りに戻ってきた女性。 「ありがとう、おねーさん! お願いします!」 ゆっくり魔理沙の言葉に小さく頷いて、女性は井戸の上からするするとロープを下ろしていく。 あと、ちょっと。あとちょっとで霊夢の口が届きそうになる。 あーんと、大きく口を開くゆっくり霊夢。 その口が届こうとする、そのまさにほんの手前。 「ところで、ここからじゃ暗くてよく見えないのだけど、あなたたちのお名前を教えてもらっていいかしら?」 女性の機嫌を損ねたくなくて、霊夢はロープを噛みに行く動作を止めた。 「ゆっくりれいむと、ゆっくりまりさだよ!」 疲れ果て、声を出すのも億劫だったが、精一杯の愛嬌をこめて応えてみせる。 「へえ、良くあなた方の組み合わせを見かけるけど、だいぶ仲がいいのね」 なぜだか、突然始まる女性の世間話。 早く、早く! 霊夢の心の声が鐘楼のように鳴り響くが、ここで焦って全てを台無しにするわけにはいかなかった。 「うん、親友だよ!」 正直に答える。 すると、ロープの先端がプルプルと震えだした。 震えているのはロープと、その根元を握る女性の手。 女性は不意に笑い出した。魔理沙のような、乾いた笑い方だった。 「アハハハ。ホント、あなたたちはいつも仲がいいわよね。守矢神社のときもそう。私のことを放って二人で解決しちゃうくらいだし。本当に魔理沙と霊夢は仲良いわね」 ゆっくりに、女性の言葉の意味はわからない。 ただ、ふつふつと湧き上がる怒りだけが伝わってきた。 「おねーさん、ロープをもう少しのばしてね!」 只ならぬ気配に不安になった霊夢が思わず催促してしまう。 それが引き金だった。 「……あら、手が滑ったわ」 恐ろしいほどの白々さを響かせる声。 それとともに、ロープは一気にゆっくり霊夢の元へ届き、そのまま丸ごと井戸の底へ落ちていった。 「ゆっ、ゆー!」 霊夢の絶叫の最後に、着水したロープの音が無情に響く。 「どうじで、ごんなごどずるのお……」 涙目で見上げると、女性は無表情でゆっくりたちを見下ろしていた。 唯一の蜘蛛の糸が、この瞬間明らかに断ち切られようとしている。 「おねーさん、怒らせていたらごめんなさい! だから、お゛ね゛がい゛! もう一回、お願いじまずうううう!」 霊夢にできるのは、同情を誘う哀願のみ。 それでも、井戸の上の女性に効くかどうかは、すでに疑わしくなりつつあった。 「私なりに考えてみたのだけど、せっかくそこでゆっくりしているのに、お邪魔するのは悪いわよね?」 女性の気を遣ったような言葉が放たれるが、その根底に横たわるのは隠そうともしない悪意。 「やだあっ! もうここでゆっくりじだぐないいい! だがら、だずげでぐだざあい!!!」 「でも、大丈夫。今、素敵なお友達をそっちにおくるから、もっと楽しくなるわよ」 会話ではなかった。 ゆっくり霊夢の嘆願を存在しないものとして、にこやかに語りかける女性。 優しげに井戸に響く女性の言葉が消えるやいなや、何かを投げ込んでくる。 ひゅうううと、井戸の空気を切る何かが、霊夢の顔へ一直線。 そのペラペラの物体が光を透かして、霊夢にはそれが何かわかってしまった。 自分と向き合って落ちてくるのは、同じゆっくり霊夢種。ただし、中身がこそぎ落とされた上に、頭を切り落とされたゆっくりのデスマスク。 ぺちゃりと落ちて、身動きできない霊夢の顔に張り付く。お互いの唇を重なって、ぺったりと。 「む、むぐううううう!」 同種の死骸といきなりのマウストゥマウスに、声にならない悲鳴。 「喜んでもらえて嬉しいわ。それじゃあ、リクエストにお答えして、もう一匹、お友達がそっちにいくわよ」 すでにひどい衝撃を受けているゆっくりたちへ向けて、さらに何かを投げ入れた女性。 霊夢がデスマスクを払いのけるのと同時に、ぺっちゃっと水っぽいものが落ちてきた。 霊夢は顔面で受け止めたそれの正体に気づく。 「ゆっ! ゆっくりパチュリー!?」 すでに亡骸となっているゆっくりパチュリーだった。いや、パチュリーが死んでいるのはよくあることなので、さしては驚かない。 問題は、その頭部。 ご自慢の三日月の飾りをつけた帽子が破れ、頭全体がぐちゃぐちゃに中身をかき回されていた。 死に顔は歪みきった苦悶の表情。どんな苦痛を経れば、こんな顔で死ぬのだろうか。 井戸の上から見下ろす女性、アリスの微笑みはお茶会に呼ばれた淑女のように楚々とした笑顔だったが、霊夢には空恐ろしくて仕方なかった。 不意に、霊夢の鼻腔をつんとした臭気が突き上げる。 気がつけば、周囲にたちこめた甘く腐ったような匂い。 パチュリーの中身が発酵して、強いにおいを放っていた。 その腐った餡はパチュリーを受け止めた二匹の顔のあちらこちらに飛散して、嫌な匂いをこびりつかせる。 「ゆっ!?」 ぶうんと喧しい音。霊夢の耳元で騒ぎだす虫たちだった。匂いの強さに惹かれ、わらわらと霊夢へも忍びよる虫たち。 見たことも無い大きさのムカデが、魔理沙の頬からにょっきりと頭をのぞかせる。 「や゛あ゛あ゛! よ゛ら゛な゛い゛でええええ!」 我を忘れ、いやいやと餡子を振り落とそうとする霊夢。 それが致命的だった。 ずるりと、壁からずり落ちるゆくり霊夢の体。その動きを止めてくれていた魔理沙も、すでに押し返す力はない。 二匹とも、ずり、ずり、ずりと下がっていく。 「ゆぐうう! ゆぐうううううう!」 踏ん張ろうとしても、もう遅い。 落下は加速的に早まって、どんどん近くなる水面。遠くなる外の世界。 やがて、井戸に派手な水音が響き渡った。 その反響が収まると、もうゆっくり霊夢たちは井戸の上から見えなくなる。 満足げに見届けたアリスは、井戸の上に新たな板を敷き、重石をのせた。 「それじゃあ、ゆっくりしていってね」 くすりと品のいい笑顔を残して、アリスは去っていく。 後には、もう何年も忘れ去られたような古井戸だけが残されていた。 七日目 井戸の底は、光の欠片もない真の暗黒。 出口はすでに閉ざされ、霊夢は完全に日時の感覚を失っていた。 ここは井戸の底。にごりきった水面から、頭一つだけ上に離れた壁面。 朽ち果て、崩壊した石壁のでっぱり。そこへゆっくり霊夢は口をひらき、顎が外れんばかりにくらいついていた。 霊夢のほっぺにくっついた魔理沙は半身を水面に沈めている。 時折、ぶくぶくと気泡を吐き出して、虚ろな目で浮き沈みを繰り返す。 水に沈んだことで虫たちはある程度外に逃れてはいたが、代わってボウフラたちにまとわりつかれていた。 むわっと、淀んだ水の匂いがきつい。 そんな有様に、霊夢はもう終わりが近づいてきたことを自覚しはじめる。 石積みブロックに喰らいついている顎も、がくがくと小刻みな震えが止まらない。 井戸は完全に封印されて、もはや人目につくことも望めなかった。 「うふふ……」 あぶくの合間に、相変わらずの親友の笑い声。 おそらく、ゆっくり魔理沙はもうダメだろう。 魔理沙の心が死んでしまうまでに、魔理沙へ大好きだったことをもっと伝えておけばよかった。 喧嘩してひどいことを言ったことを、謝りたかった。 でも、もう届かないし、口を離せば即座に二匹とも水面に転がり落ちるだけ。 ボロボロとひっきりなしに霊夢の涙が零れ落ちていた。もう、何もかもが手遅れ。 せめて、死ぬ前にお母さんに会いたい。 会って、あの柔らかい体に飛び込んで大変だったよと、今までの話を伝えたい。 可哀想に、ゆっくりお休みと、受け入れてくれるお母さんの胸に甘えながら死にたい。 とっくに叶わなくなった、哀れな夢。 もう全てを諦めて、水に沈んでしまおうかと、何度も考える。 けれど、その惨めさが悔しくて悔しくて、霊夢は結局石壁にかじりついていた。 このまま、果てて死ぬだけだとわかりきっていた、無駄な抵抗。 どれぐらい時間がたっただろう。 ほんのりと明るさを感じていた。 見上げるゆっくり霊夢。鮮烈な光を放つ天から、小さな、人に似た存在が何体も連れ立っておりてくるのが見えた。 天使というものだろうか。 ああ、自分は死のうとしているのだ。 なぜだか冷静に、霊夢は天使たちを眺めていた。 天使たちは霊夢の下に回りこむと、その体を掴む。 浮遊感。 ゆっくり霊夢は井戸から静かに上昇していく。 ああ、ここから出られるなら、死んでもいい。 安らかな霊夢の表情。 外の日差しの強さを感じながら、霊夢はゆっくりと目を閉じる。 白く霞みがって遠のく意識。 その心地よさに身を任せていた。 「これで、いいのかしら?」 アリスは人形たちに引き上げさせているゆっくり霊夢を見やりながら、傍らのゆっくり魔理沙に語りかけていた。 そのゆっくり魔理沙は、井戸の中にいる魔理沙と別の個体、アリスが最近飼いならしているゆっくり魔理沙だった。 「ありがどううううう!」 今は仲間の姿を見つめながら、アリスに涙声でのひたすらにお礼を繰り返している。 アリスに唇に苦笑がこぼれていた。 「私は本当に魔理沙に甘いわね」 昨日の夜、ゆっくり霊夢たちの様子を夕食の話題に伝えたところ、仲間を助けて欲しいと泣きすがられてしまった。 どれだけひどくそのほっぺを抓りあげても、一向に黙ろうとしない。「箱」で脅されても「おねがい、だずげであげで!」と泣き喚かれて、アリスも少しだけの譲歩。 やがて人形に抱えられて、気を失ったゆっくり霊夢が運び上げられてくる。 「まったく、暢気なものね」 楽しげにゆっくり霊夢のほっぺたを、白く形のよい指先で弾いて遊ぶ。 霊夢は昏睡したように起きる気配もない。 つづいて、霊夢のほっぺたにくっついて魔理沙が姿をあらわした。 太陽の下、主だった虫たちはぽとぽとと井戸へ落ちていく。水をくぐったことも少し虫を減らしたのだろう。少しだけ、マシな魔理沙の顔。 「ゆ……?」 そのおかげか、光の眩さに目を覚ます魔理沙。瞳にやんわりと光が戻ってくる。 やがて、視覚した目の前の光景に、光が強くなる魔理沙の瞳。 そこは、夢にまでみた外の世界だった。風がそよそよ心地よく、草むらの青い匂いが薫る森の中。 外にでたの……? 目を凝らしても変わりはない。 紛れもなく、外の世界だった。 ……助かったんだ。 救出を認識するなり、心の奥底から蕩けそうな安堵感に包まれてじんわりと涙がにじむ。 「ゆ、ゆっくりいいいい……」 続く喜びに体が震えていた。 心にこみあげる暖かさに、ほろほろと涙が止まらない。 幸せな気分で流す涙は、なんて気持ちがいいんだろう。 こうして見える全ての景色は、いきなり奪われて、奇跡の果てにようやく戻ってきたあたりまえの世界。 いや、もうあたり前の世界には見えなかった。 世界がこんなに素敵なことに、ゆっくり魔理沙は気づいてしまっていた。 果てしない空、どこまでも跳ねてゆける自分の体、愛情を確かめ合える友達。それがどれだけ貴重なことか、魔理沙には心から知ることができた。 さあ、この素晴らしい世界で、心行くまでゆっくりしよう。 まずは、ゆっくりと何をしようかな。 思いつくことは沢山ある。ずっと井戸の中でしたいと熱望していたこと。美味しいものを食べる、遊びまわる、安全な場所でゆっくりする…… だが、それにも増してまずしなければならないことがある。自分を許し、励まし続けてくれたゆっくり霊夢に感謝と改めてお詫びをすること。本当にありがとう、そしてごめんなさいと、蕩けるまでゆっくり全身をこすり合わせたい。 その後はひたすらゆっくりしよう。体は大分ぼろぼろだけど、仲間たちに虫をとってもらってゆっくり休めば、きっとまた元に戻れる。 ゆっくりとした日常に戻れる。それだけで、もう涙が止まらない。 とめどなく頬を伝う暖かな落涙。 アリスはそんな魔理沙にそっと顔を寄せていた。 ようやく、魔理沙はアリスに気づく。 霊夢をひっぱりあげる、人形たちの姿にも。 「……お姉さんが、助けてくれたの?」 「そうよ」 アリスの簡潔な言葉を受けて、心を突き上げてくる感謝の思い。 「あっ、ありがどう……! ほんとに、ほんとに、あ゛り゛がどうううううう!」 最後の力を振り絞ったゆっくり魔理沙の言葉を、アリスは優しげな眼差しで受け止めていた。 「あらあら。涙で顔がくしゃくしゃよ。女の子がそんな顔を汚しちゃだめよ」 「うん」 茶目っ気たっぷりに語りかけられて、ゆっくり魔理沙ははにかんだ笑みで頷いた。 「それじゃあ、しっかり顔を洗ってきましょうね……」 「ゆ?」 アリスの言葉の意味を問い返す暇もなく、魔理沙に近づく影があった。 薄皮一枚で繋がる魔理沙と霊夢の間をすうと抜けた影は、アリスの上海人形。 上海人形が両腕に抱えるのは、鈍く銀色の輝きを放つ、大きな大きな断ち切り鋏。 「ゆ?」 次の戸惑いの声が魔理沙の口からもれたとき、すでにその体は落下を始めていた。 断ち切られていた自分と霊夢との皮膚の結合。 下には、何も無い空間が口をあけているだけ。 それからの光景は、やけにゆっくりと見えた。 再び、井戸の口に沈み込む体。あと10cmでもずれていれば、縁にあたって外に転がり出るというのに、 体はすっぽりと井戸の中央。 すぐさま、暗闇が視界を支配する。 落下を続けながら天を見上げるゆっくり魔理沙。 井戸の口はどんどん小さくなって、かつての光景のように遠ざかっていく。 もう、一緒に落下を耐えた友達はそこにはいない。 どこまでも落ちていく。 あれえ、夢かなあ。 惚けた台詞を呟くやいなや、底に着水して激しい水しぶき。 思ったより衝撃がないのは、水中に住む先客が魔理沙の体を受け止めれてくれたからだった。 井戸の底からぷかぷかと浮かぶのは、無数のゆっくり魔理沙たち。 すでに中身が井戸に溶け出して、ぶよぶよに膨らんだ皮だけが浮かんでいる残骸だった。 アリスが捕まえて、懐かなかったゆっくり魔理沙の成れの果て。 この井戸は、アリスの処分場となっていた。 しかし、魔理沙にそんなことはわからない。わかりたくもない。 「ゆ……ごぼ……ごぼぉ……」 魔理沙の体にできた虫食いの空洞から生まれる盛大なあぶく。 そのわき立つ水面の向こうで、閉ざされた井戸の天井をぼうっと眺めていた。 水をすった皮がぶよぶよに膨らみ始め、自分の皮で覆われていく視界。 ぎゅうぎゅうの皮におしこまれ、目の玉がとびだしそうに痛い。まるで、巨大な綱で常に締め上げられているよう。 間断ない痛みは、虫にたかられていた時以上に時の進みをゆっくりと感じさせた。 死ぬほど苦しい。でも、自分を殺すこともできない。 もう考られること一つ。いつ死ねるのかなということだけ。 中身の完全な腐敗、溶解まで後一週間ほど。 魔理沙のゆっくり生活は、ようやく折り返し地点を過ぎたところだった。 後編 選択肢 投票 しあわせー! 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ユロンブスがゆっくり霊夢を発見して帰った時、ユロンブスの成功を祝っていると、 一人の男が、 「遠くに行って変な生き物を取ってくるくらい、俺だってできる。造作もないことだ」 と冷笑しました。 これを聞いたユロンブスは、すっと立ち上がり、ケージの中で騒ぐ1匹のゆっくり霊夢を取り、 「諸君、ゆっくり霊夢を静かにさせてみなさい」 と言いました。 人々は何の為にそんなことをやるんだろうと思いましたが、とりあえずやってみることにしました。 ケージには大量のゆっくり霊夢が入っていたので、全員に配分できました。 赤子をあやすようにゆっくり霊夢をあやす者、怒鳴りつけて黙らせようとする者、三者三様の方法で ゆっくり霊夢を静かにさせようとします。 しかし、一人としてゆっくり霊夢を黙らせることはできず、逆に、ケージから開放されたことにより ゆっくり霊夢はさらに騒ぎ始めてしまいました。 すると、ユロンブスはゆっくり霊夢を食卓のカドに叩き付けたのです。 ゆっくり霊夢は卓上に餡子を飛び散らせ、ぴくりとも動かなくなりました。 「そんな方法なら誰だって静かにできるだろう!」 先ほどの男が文句が出ましたが、ユロンブスは言いました。 「人がやった後では、何事も造作ないことだ」 規制されててスレに書き込めない(´;ω;`) このSSに感想を付ける
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ゆっくり霊夢の親子が現れた! しかし親子はおどろきとまどっている。 その間に捕獲した。 「ゆ!ゆっくりできないよ!なにしてるの!?」 「おかーさーん」 「ゆっくりだしてね!」 網の中でぽよんぽよんと跳ねて抗議しているが、毛程も脅威を感じさせないとは、たいした奴だ。 親も含めて4匹。まぁまぁかな。 林を抜けると、やがて空気が湿り気を帯び、水の匂いと涼しげな風を感じるようになってくる。 湖だ。 里の人間には紅魔館が近くにあることで有名か。 あと豆腐屋がよく、紅魔館の門番は寝てばかりいて大丈夫なのか?たまに裾から覗く太ももがまぶしいとか言ってたかな。 一度拝んでみたいものだ。 メイド長の脚線は里でたまに見たことがあるのだけどねぇ。 紅魔館が誇る二大脚線美!とかやって大々的に売り出さんものか。 話を戻すと、この湖は若者の逢引場のようなものになっているので、桟橋も作られていて小舟もあったりする。 「さぁ、ついた!ここで思う存分ゆっくりさせてやるぞ!」 「ゆっくり!」 「おにーさんゆっくりさせてくれるの!うれしい!」 口々にそういうゆっくり霊夢たちを網から出してやる。 桟橋の上は適度に涼しく、日も当たっているのでなかなかに過ごしやすい。 元気に飛び跳ねているゆっくりたちに、パンくずをばら撒くとすぐに群がってくる。 「はうはうはう。おいしい!おいしいよ!」 「もっとちょうだい!もっと!」 「こんなんじゃたりないよ!もっともっと!」 「おねがいおにーさん!」 ただのパンくずを美味しいだなんて、どんな貧しい食生活だったんだ? すこしほろりと来た。 「まぁ、待て。すぐに魚を用意するから」 「さかな?さかなってなに?」 「うめぇもんだ」 「うめぇもん!ゆっくりしたい!」 二度ほど手を打ってからパンくずを投げ入れると、見えてくる魚影。 紅と白に染められた鯉だ。 ばしゃばしゃと音をたてて餌をむさぼっている。 我先にと争っているようにしか見えない。 「ゆっ!?ゆっくりしていってね!」 「ゆっくりすればいいのに!」 「どおしてゆっくりしないのぉっ!!!」 里で鯉を育ててる人間がたまにこの湖に放しているのか、浅瀬で生活している鯉がことのほか多い。 最初は三匹ほどだったものが続々と集まっている。 よく見ると浮上してくる多くの魚影がわかるだろう。 どんなのが集まってきたかを腰を下ろしてじっくりと見据える。 紅白に五色、浅黄や九紋竜が多いかな。山吹黄金が異様な美しさで浮かんできた。 おっ、銀松葉なんて全身深紅の綺麗なのもいるじゃないか。ひょっとして紅魔館でも育ててたりするのか? さまざまな鯉に目を奪われていると小さな一匹が無用心にも近づいてくる。 つぶらなおめめをぱっちりあけて、興奮しているのか顔がやや赤い。 「これがおさかな?」 「そうだ。うまいぞ」 「ゆっ!たべたいよ!たべさせて!!」 「自分の餌は自分でとってこいよ」 ぴんと指で弾いて、そいつをいまだ喧騒冷めやらぬ湖面へと投じた。 「ゆ?」 何をされたのか理解してない表情。 惚けていると言うか、呆気にとられているというか、とにかくそんな間の抜けた顔だ。 たまらない。 ぽちゃりと音がした。悲鳴は聞こえない。 あの体格だ。鯉に噛まれて即座に絶命したとしても不思議ではない。 「ゆぅうぅぅぅうううぅうっぅぅぅぅっっ!!!」 「れーむのごどもがーーーーーっ!!!」 「ひどいよぉぉぉおぉっぉおおおおお!!」 「そんなことより、あのちびがどうなったか見たほうがいいんじゃないか?おかーさん」 そういわれて慌てて桟橋の端に寄って、湖面を見下ろす親子。 しかし数多の鯉による乱舞でちびの姿は見えやしない。 「ゆ?いないよ!」 「たすかったのかな?」 「ゆっくりにげられたんだね!」 なぜか前向きに考える饅頭。 「馬鹿か。食われたに決まってんだろ、こんな風によ」 「いゆ゛っ!」 背中をちょいとつつくだけでこぼれるように落ちた小ゆっくり霊夢。 「れいむーーーー!」 「れいむのいもーとがおちちゃった!」 ばしゃばしゃとその小ゆっくり霊夢にむらがる鯉鯉鯉。 鯉は何でも食う。 水草はもちろんのこと、貝や虫、さらには甲殻類まで食うという。 そんな鯉に、ただの饅頭と同じつくりをしているゆっくりが抵抗できるわけもなく、徐々に食いちぎられていく。 発情したゆっくりアリスなど比較にならないほどの怒涛の攻勢。近づいては噛み、近づいては噛んでいく。 皮はふやける間もなく次々とついばまれ、ぼろぼろと欠けていき、餡子は露出したかと思うともう鯉の中だ。 「だじげてっ!おがあぁぁさぁんっ!だじげてぶっ!ここはやだよ!ゆっぐりできないぃぃいぃぃ!!!あびゅいっ!」 「うわぁぁぁっやめて!たべないで!れ゛い゛む゛のごども゛だべないでぇぇえぇぇぇぇぇっっ!!」 「いやだよっ!やめてよ!れいむのいもーとなんだよっ!どうしてたべちゃうのぉぉおお!」 凄い表情で涙や鼻水を垂れ流しながら口角泡を飛ばす残った二匹。 「なぁ、なんで助けに行かないんだ?」 「ゆっ!おにーさんがやったんだからおにーさんがたすけてよ!」 「親は子を助けるもんだろうに、この駄目親」 「ゆっ!れーむはだめなおやなんかじゃないよっ!いいおやだよ!!ゆっくりあやまってね!ついでにこどもをたすけてねっ!」 「おがーーざんっ!おがーざんっ!」 「ああ、それは無理だ。もう食われちまって死んでる」 視線の先にはボロクズになった皮と餡子らしきものが浮かんでいた。 しかもその遺品も鯉にぱくぱくと食われてしまっている。健啖だね。 「ゆっびゅぅぅううんっ!!!う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!」 「お゛に゛ぃざん゛っ、な゛ん゛でれ゛い゛む゛だぢに゛ごん゛な゛びどい゛ごどずるのぉ!!!」 「面白いからに決まってんだろ、この馬鹿饅頭どもめ」 「お゛も゛じろ゛ぐな゛い゛っ!ゆ゛っぐり゛でぎな゛い゛じ、わ゛ら゛え゛な゛い゛よ゛ぅっ!!」 「れ゛い゛む゛の゛ごどもがびどり゛に゛な゛っぢゃっだの゛ぉおぉぉおおぉっ!」 「俺は笑えるんだって、今のお前らの顔が最高に最低で笑っちゃうぜ、ぷっ馬鹿丸出しっははははははは」 「う゛わ゛ぁぁあ゛あ゛あ゛ぁぁあ゛あ゛ぁぁん!!」 「それにお前の子供を一匹だけ残すわけないだろ、ほれ、親なんだから今度はさっさと助けに行けよな」 「や゛べでっ!お゛ね゛がい゛じまずっ!!や゛め゛でぐだぢい゛っだずげでぐだざい゛っ!!!」 「死にたくない?」 「じに゛だぐな゛い゛でずっ!!」 「饅頭でも死にたくないとかあるんだ。偉そうでむかつく。自分は生き物ですよ~みたいなこと言うなよ気持ち悪い」 「ぅゆ゛っ!!」 「い゛や゛ぁあ゛ぁぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁっっ!!!」 ぴんと弾いて投下。 何匹かは餌をせっつく雛鳥のように口をぱくぱくと開けて待ち構えているようにも見える。 しかし落ち行くゆっくり霊夢からは、地獄で手招きしている死者の群れにしか見えないだろう。 捕まれば死あるのみ。しかもゆっくりには逃げる術は無い。 ばしゃばしゃという音がいっそう強くなった。 まるで自分の身が引きちぎられたかのような悲痛な叫びをあげる母。 いいね、うん、いいよ。 「ほら、助けに行けよ。あいつはそれなりに大きいし、今なら助かるぜ。絶対だ。なんなら手伝ってもいい」 「お゛がぁあ゛ぁあ゛あ゛ぢゃぁぁあ゛ぁあ゛あ゛んっ!だずげでえ゛ぇえ゛え゛え゛ぇえ゛ぇぇぇっ!!!」 体を揺らすと言う、抵抗にもなっていない無駄な行動をやめずに橋を見上げ、母に助けを求める。 その愛娘の声にびくんっと震える母。いまだ涙を流しているが、その顔にはやや決意めいたものが見えた。 「ゆ゛っ!まっ゛ででねっ!いま、だずける゛よ!!!」 飛んだ。下には鯉が暴れまわっているので、それが受け止める形になって水に落ちはしなかった。 そのまま噛み跡も痛々しい子ゆっくり霊夢を舌でうまく捕まえ、口のなかに保護すると、集まってくる鯉の上を上手く跳ねてこちらに近づいてくる。 なかなかの跳躍。これが経験を積んだ生き物の成せる業か。 「ほにぃいさんっ!はやふたふへへねっ!!ここはゆっぷりでひないよっ!」 ひとところにじっとしていないで、鯉の頭上をせわしなく飛び跳ねながら叫ぶ。 舌の上に置いている子を刺激しないためか舌足らずな喋り方になっている。 そのまなざしは熱く燃えているようだ。 なかなかやるじゃないか。ふふっ。 「お前、ゆっくりのくせに恰好良いぞ。やるなぁおかあさん」 「ひひからっ!ゆっふりひへはいへ、はふへへっ!!」 「あ~助けたいのはやまやまだけどちょっと急用が入ってね。お隣のおきぬちゃんが、妖怪枕返しに枕を返されたらしい。一大事なんだ。じゃ」 「ゆ゛っ!?」 言い残して走り去る。ざんざんざんとわずかに揺れる桟橋。 「まままっまっでぇえええええっ!!おいでがないでぇえぇぇぇっ!!はふへへ!はふへてほぅっ!!!てふだうっでいっだのにぃいいぃいっ」 絶望に染まる母ゆっくり霊夢の顔。 さらに襲い掛かる鯉。まるで獲物を返せと抗議しているようだ。いや、実際にそうだったに違いない。 「い゛い゛だい゛っ!ばめ゛べっ!!ぶぇっ!!」 衝撃でせっかくとりもどした子供を吐き出してしまう。 ぽちゃんと水音がするかしないかのうちにばしゃばしゃと祭りのような騒ぎになる。 やがてその小さな餌からもあぶれた鯉が大物のほうへ寄ってくる。 「ゆっ!やめてねっ!!こっちこっちこないでねぇっ!!やべぇっ!」 「だめだよっ!こっちはあぶないよっ!!そこでゆっくりしててね!いやだっていってるのに!」 「どおしてこっぢぐるのぉっほぉぉおおおぉぉんっっ!」 背後にそんな悲鳴を聞いた気がしたけど、歩みを止めることはしない。 あんなふうに餌をやってれば、そのうち龍になる鯉とか出てこないかなぁ。 終わり。 鯉の種類はwikiより。 なんとなく幻想郷には、人間の生活に根ざしている妖怪はいない感じがあります。 垢嘗めとか家鳴りとか。 著:Hey!胡乱
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※理不尽な暴力にさらされたりします。 ある昼下がり、青年が林を歩いていると奇妙な物体が目に入った。 それは、狸などの獣を捕えるための罠なのだろう、ごく単純な縄で引っ張り上げる形のものだ それに、一匹の奇妙な生き物が引っかかっている。 いや、それは生き物だろうか?見れば人間の生首をふやけさせたような、そんなぶよぶよとした印象を抱かせる。 青年は抜け首という妖怪を思い出したが、あたりに体らしきものはない。 それにどうやらそれはじたばたともがいているところから、抜け出すことが出来ないようだ。 そこで青年は胸をなでおろし、しかし慎重にそれに近づいていった。 「ゆっくりしていってね!」 喋った。 その首は青年に気づくと朗らかにそう言った。そして 「おにーさん、ゆっくりたすけて!うごけないよ!」 と続けて言った。 そこで青年ははたと思い出した。 これはゆっくり霊夢だ。 詳しくは知らないが、岩魚坊主に似たような妖怪の一種であると聞いていた。 「助かりたいのか?」 「ゆっくりたすけてね!」 「ま、いいか」 青年は特に感慨も持たずに罠から逃がしてやった。 こんな罠に引っかかるような程度では、たとえこちらを食べようとしてきたところで、全力で走れば逃げ切れるだろうという考えがあったのだ。 「これでいいか?」 「ゆっくりありがとう!ゆっくりさようなら!」 それだけいい、ゆっくり霊夢は彼方へと飛び跳ねて行ってしまった。 「ま、酒の肴になりそうな話ができたかな?」 特に風も強いとはいえないのに、いやに雲の流れがはやい夜。 青年はすきま風の音に混じって戸が叩かれる音を聞いた。 こんな夜更けに訪ねてくるような知り合いはいない。青年は緊張した。 もしや妖怪か? しばし黙っていると、また、戸が叩かれた。 「誰だ?」 「……開けてくださいませ、今夜一晩の宿をいただきたいのです」 声からすれば、それはまさに玲瓏珠の如し、美女の声だ。 しかし青年は眉根を寄せた。夜は人間の世界ではないのだ。 妖怪か、ひょっとしたら物取りか。 妖怪だったとしたら昨今無闇に人家に押し入ってまで欲を満たすモノはいなくなったから、まぁそれほど危険ではないだろう。 では物取りは?相手が人間ならば妖怪よりはくみしやすい。そう思い、青年は長めの木の棒を持った。 「よそではだめなのかね?」 「ここには優しいお人が住んでいると聞きましたので」 どうにもこれは引く気配がない。意を決して青年は戸を開けた。 そこにはたしかに一人の女人がいた。黒い髪はつやつやで、白い肌は良い張りをしている。 「ああ、ありがとうございます、これで今夜はぶっ!!」 青年はその女人の顔面に拳を叩きつけていた。 「ぶっぶえぇっ!!どおじでぇっ!?」 頬をおさえて青年を見上げる女性。 「おまえみたいに顔がでかくてぶよぶよの女がいるか!このスカタン!!」 そう、その女人はゆっくり霊夢だったのだ。胴体がついているが、おそらくは変化したのだろう。これでも一応妖怪なのだ。 青年はこれでもかと棒切れで殴り続ける。 体中がへこみ、皮はたわんで裂けてしまい、中身がはみ出たりしている。 「ぶっ!ぶぎゅっ!!やべでっ!!まっで!!れいぶのはなぢをぎいでねっ!!ゆっぐりぎいで!!」 「なんだよ」 青年は棒を振りかぶったまま聞いた。 ゆっくり霊夢は呼吸を整えながら、身を起こすと身なりも整えて 「れいむがおよめさんになってあげるね!」 と微笑みながら言った。 ゆっくり霊夢の顔面に再び青年の拳が埋め込まれていた。 「ゆっぎゃん!!」 「馬鹿か!?なんでおまえなんかに嫁に来てもらわなきゃなんねんだ!?」 そのままゆっくり霊夢の体にヤクザ蹴りを叩き込む。 「いだいっ!!いだいよぉぉうぅっ!!やべでっ!!やべでねえぇえぇえぇっ!!どおじでやべでぐんないのぉっ!?」 足に感じる柔らかい感触が青年を熱くさせる。 「てめえっ!俺が里の女にもてないと思ってやがるなっ!?ああっ!?」 「や゛べでえ゛ぇえ゛ぇぇえ゛ぇぇっ!!ぞん゛な゛ごどじら゛ら゛い゛の゛ぉぉお゛ぉぉっ!!!」 青年に殴られ、朦朧とした意識のなかでゆっくり霊夢は思い出していた。 それは罠から解き放たれ、自分たちの縄張りに戻ったときのことだった。 「ぱちゅりー!にんげんにおれいがしたいよっ!」 「むきゅ?それならこんなおはなしがあるわ」 そう言うとゆっくりぱちゅりーは、鶴の恩返しや鮒女房など、人間に助けられた鳥獣が化けて恩返しをするお話を聞かせた。 そのどれもが、まず人間と結婚し、一緒に暮らすというものだった。 さらにゆっくりぱちゅりーは、他にも人間に恩返しにいったゆっくりたちの話もしてあげた。 ゆっくり霊夢はそれを目を輝かせて聞いていた。 「ゆ!れいむはおにいさんにおんがえしをするよ!!」 「むきゅん、そう。わかってるわね?」 「ゆ!ゆっくりりかいしてるよ!」 そう、人間には…… 「れいぶはごおんがえじにぎだのぉぉっ!!!」 「ああ?おんがえし?なんのこっちゃ」 息も絶え絶えなゆっくり霊夢はぴくぴくと身じろぎしてなんとか起き上がろうともがく。しかしもはや体は動きそうにない。 体は損傷が激しく、裂けて千切れてたわんでいた。動くだけでも激痛がはしるはずだ。 「恩返しってなんだよ?」 「れ、れいぶのがおをだべでねぇ……」 「はぁ?」 ゆっくり霊夢は聞かされた物語のとおりにするつもりだった。だが、この痛んだ体では結婚生活など出来ようはずもない。 だから、正体がばれた時のための言葉を言った。それはゆっくりという妖怪たちにとって最大限の恩返しだったのだ。 「れ、れいぶのがらだはおまんじゅうだがら、きっどおいじいよ!ゆっぐりたべでね!」 「饅頭ねぇ」 呟き、青年はリボンのように膨らんでいる部分を千切った。 「ゆ゛っ!」 身を千切られる痛みに小さく鳴くゆっくり霊夢。だがその表情は紅潮していて、どこか嬉しそうだ。 恩返しのための傷だからに違いない。 確かにその手触りは饅頭のような感じだった。 見れば中には餡子のようなものがみっちりと詰まっている。 皮が赤く染まっているからには苺などの味でもついているのかもしれない。 青年はそれの匂いを嗅ぎ、悪くなっていないかを確かめる。それはほのかに甘い匂いがした。 「ふむ。たしかに食べられそうだな」 そう言うと青年はその肉片を口に入れて咀嚼し始めた。じっくりと味わうように噛んでいる。 「そ、そうだよ!!れいむはおいじいよ!ゆっくりあじわっでね!」 ゆっくり霊夢が期待に目を輝かせた。これで恩返しができる! べっ! 「ゆ?」 青年は口に含んでいたゆっくり霊夢の肉片を吐き捨てた。 「まずい。なんだこれ?」 「ゆ?ゆゆ?ゆゆゆ?」 青年はそのままゆっくり霊夢のほっぺを千切りとると、ふたたび口の中に入れた。 「ゆ゛ぐっ!ど、どう?れいむのほっぺはおいしいでしょー?」 「まずい。食えたもんじゃねぇ」 べっ! 噛み砕かれた肉片がゆっくり霊夢に降りかかる。 「ゆっぎゅううぅううぅん!!!どおじで!?」 「てか、お前こんな不味いもん食わせて恩返しとか言ってるのか?馬鹿か?」 「ゆげぇええぇえぇん!!どおじでぞんなごどいうのぉぉおおっ!?どおじでぇっ!!?やざじいおにいざんだっだのにぃいっ!!!」 「不味いもんには不味いとはっきり言う主義だ」 言い切って、青年はぼろぼろのゆっくり霊夢を持ち上げた。 「ゆ?なにするの!?ゆっくりおろしてね!」 「お前を森にかえしてやるだけだよ、二度とうちにくるなよ。恩返しだかなんだか知らんが、初めて喰ったぞあんなクソ不味いもん。あ~~~気ィ悪い」 青年は提灯を片手に家を出た。しかしこんな夜に遠出をして、妖怪に出くわしたら目も当てられない。近場に打ち捨てておくつもりだった。 「ゆ!?だめだよ!おんがえしできなかったらゆっくりできないよ!」 それもゆっくりぱちゅりーが教えてくれたことだった。 「知ったことか」 「ゆぎゅぐうううぅうぅぅううぅぅっ!!!やめてね!ゆっくりはなしてね!!おねがい!!」 青年の手の中で蠢きもがくゆっくり霊夢。 「あ~、もういいや、面倒くさいしこれ以上は危ない気もするし」 青年はそう言うと、ゆっくり霊夢を投げ捨てた。 湿った音を立てて落下したゆっくり霊夢。 「ゆ!?く、くじゃ~~い!くざいよぉぉおっ!!ゆっぐりできないぢょぉおお!!」 ゆっくり霊夢は肥溜めに浸かっていた。 「巣に帰れないんだったらそこにいろ。うちにきたら今度は潰すからな」 青年は非情にもそんなことを言って引き返してしまった。 満身創痍で身動きの取れないゆっくり霊夢はだんだんと肥溜めに沈んでいく。 もがいてももがいても、溜まった人畜の糞尿を掻き乱すだけで出られる気配がない。 「まっでぇぇぇええぇっ!!おいでいがないでぇぇえぇっ!!ゆっぐりできないよぉぉおぉっ!!!」 悲痛な声がどこまでもこだました。 終わり。 「異類婚姻譚」と「見るなの禁忌」は大好物です。 もうちょっと年を経たゆっくりはもっと上手く変化して、それはもう絶世の美女になって結婚生活を営みます。 で、湯浴みを覗かないようにとの約束を破ると「ゆっくりたべてね!」となります。 雪女とかの場合は子供が出来る話もありますけど、こいつらの場合は子供ができません。 後半を変えると愛でスレでもいけそうな気がしたw 著:Hey!胡乱 このSSに感想を付ける