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注釈: 以下のキャラクターシートは 「pukiwikiライクモード」用に作ってあります くれぐれもご注意下さい! 編集→このページをコピーして新規ページを作成→「悪魔の楽園/キャラクター名」 で、作成します 経験値などの欄は、“残量/獲得量”の書式で書いてください。(自明だとは思いますが) デモンパラサイト キャラクターシート 【初期能力値】 【基礎情報】 【ステータス】 □能力値 □行動値 □エナジー □衝動 □進化経路 □取得特殊能力 【共生武装】 【所持品】 【所持技結晶】 【収入と副収入】(2d6*2000 円) □所持金 【コネクションや他PCとの関係】 【パーソナリティ】 【設定】 【成長履歴およびセッション参加履歴】 デモンパラサイト キャラクターシート 【初期能力値】 satuki__ - 2D+2D+2D+2D+2D+2D = [6,6]+[1,2]+[4,2]+[6,6]+[5,4]+[2,1] = 45 [部分編集] 【基礎情報】 キャラクター名 本田 桃子 プレイヤー名 サツキ 種族 ■人間/□動物() 年齢 17歳 性別 女性 職業 風紀委員 共生生物 モリオン LV 4 経験値 50/1000(魔結晶:25/300) 消費経験値 メイン(950)サブ1(0)サブ2(0) 共生武装1(0)共生武装2(0) 能力元値(0)衝動限界(0) 技能を除いた総和(0)技能(0) 特別単位 1/6単位 ランク G 【ステータス】 □能力値 ○変身前 肉体 機敏 感覚 幸運 知力 精神 ・元値 3 9 3 12 6 12 ・能力値 1 3 1 4 2 4 ・技能 肉弾攻撃 運動 射撃攻撃 直感 特殊攻撃 礼儀 □□□ ■■□ □□□ □□□ □□□ □□□ 水泳 隠密 探索 賭博 知識:※ 統率 □□□ ■□□ ■■□ □□□ □□□ ■□□ 登攀 運転 芸術:※ 交渉 応急手当 尋問 □□□ □□□ □□□ ■■□ □□□ ■□□ 剛力 操作 知覚 社会 情報技術 魅了 □□□ □□□ ■□□ ■□□ ■□□ ■■□ ・変身修正 +1 +2 +2 +2 +5 +4 ○変身後 2 5 3 6 7 8 ○戦闘修正 肉弾D 肉弾防 射撃D 射撃防 特殊D 特殊防 2 3 5 4 9 4 □行動値 変身前(機+感+値) 変身による修正 変身後 行動値: 6 + 7 = 13 □エナジー 変身前(10+肉+幸+精) : 19 追加エナジー : +30 現在エナジー:0+0 □衝動 衝動 第1段階□ 第2段階□ 第3段階□ 第4段階□ 第5段階□ 暴走 1 2 | 3 4 5 | 6 7 | 8 9 | 10 11 | 12 13 14 | 15 | □ □ | □ □ □ | □ □ | □ □ | □ □ | □ □ □ | □ | □ □ | ■ ■ ■ | ■ ■ | ■ ■ | ■ ■ | ■ 自我 | 1.5 2.5 | 3.5 4.5 5.5 | 6.5 7.5 | 8.5 9.5 |10.5 11.5 |12.5 |□ □ □| 現在値:0 □進化経路 1LV 2LV 3LV 4LV 5LV プライム シャーマン セージ プリースト 6LV 7LV 8LV 9LV 10LV 1LV 2LV 3LV 4LV 5LV 6LV 7LV 8LV 9LV 10LV □取得特殊能力 名前 使用可能段階 コスト タイミング 距離 範囲 時間 効果 参照ページ 肉体修復 なし 衝動1点 通常 本人 本人 一瞬 エナジー3d点回復 P25 魔種吸引 なし なし 通常 接触 敵1体 戦闘終了後のみ 対象から悪魔寄生体を奪取できる。 P25 連続攻撃 4LV以上2段階 エナジー10点 通常 - - 一瞬 通常のタイミングで「攻撃」が行える。 P25 限定強化 2LV以上2段階以下 衝動1点 ターン開始/通常 本人 本人 3ターン 悪魔化せずに能力値と戦闘修正が、変身後の値になる(サイコロの数、行動値、エナジーは変わらない) プリズンP74 精神強化 なし なし 常時 本人 本人 ― 戦闘以外の【感覚】【知力】の判定+3 p.038 光線 なし 衝動1点 攻撃 20m 1体 一瞬 2d特ダメ 閃光 の特殊武器 p.038 衝動操作 なし 衝動1点 通常 10m 1体 一瞬 変身中のみ。対象の衝動を1点減点 p.038 治癒光 なし 衝動1点 攻撃 10m 1体 一瞬 判定不要。エナジーを2d+特ダ回復 p.038 聖なる息吹 3段階 なし 攻撃 本人 半径50 一瞬 1戦闘中1回。3d+特ダ+衝動x2回復 p.038 思考転送 なし 衝動1点 通常 1km 1体 6ターン 対象の頭の中に直接声を響かせる p.038 超感覚 なし 衝動1点 通常 本人 本人 18ターン 戦闘外の【幸運】【知力】判定に+5 p.038 治癒領域 なし 衝動2点 攻撃 本人 半径30 一瞬 判定不要。エナジーを3d+特ダ回復 p.039 【共生武装】 エンジェリックウィングLv2(エンジェリックウィング/「メルド+1」()/【行動値】+3) 【所持品】 学生パス(赤) 携帯電話 かばん 武器(肉弾ダメージ3D) 【所持技結晶】 経験値25点結晶 【収入と副収入】(2d6*2000 円) □所持金 0円(0カオス) 【コネクションや他PCとの関係】 【パーソナリティ】 生まれ 教祖 人生経験 悪魔憑きに家族や恋人を殺された 寄生された理由 いつのまにか感染 悪魔的特徴 片目が黒以外の鮮やかな色 悪魔に対する感情 滅ぼすべき敵 戦う理由 邪悪な存在を許せない 変身形状 頭頂部が冠状になっている 追加特徴 【設定】 □100の質問回答 http //www.rassvet.net/trpg100/100question.html 【成長履歴およびセッション参加履歴】 初期 :経験値1000点、魔結晶300点、6単位を獲得 20YY/MM/DD:を消費してを→に成長 20YY/MM/DD:に参加して経験値 点と魔結晶 点、特別単位 点、技能結晶 、円を獲得 経験値950点 メイン1 → 4レベルになりました。 (2009-05-20 00 38 48) 特別単位4単位と魔結晶275点を消費して、エンジェルウィング2Lvを取得しました。 (2009-05-21 04 32 09) 1単位消費して、アウターワンを取得、共生武装メルド+1に装着 (2009-05-21 21 04 43) コメント
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30年前、人類は突如として現れた謎の生物『ゆっくり』の脅威に晒された。 全長2m~4m、幅3m~6mのその巨大な侵略者は本当に振って湧いたかのように突然人間の住んでいた領域に現れた。 発生源は不明、餅のように柔らかい球体に顔を貼り付けたようなそれはさながら巨大な生首だった。 その肉体を形作っているのは、小麦粉を練った皮の中に餡子がたっぷりとつまった物 そう、驚くべきことに彼等は饅頭だった。 その現代科学をあざ笑うかのような無軌道摩訶不思議ぶりは 何人もの有望な研究者を狂わせ自殺させるという痛ましい事件を呼び起こした。 しかもただの饅頭ではない。 その表皮に拳銃などの通常兵器は通じずロケットランチャークラスの兵器を用いてやっと体に傷がつく。 最新の戦車でさえ一対一では場合によっては遅れを取る。 生身の人間には太刀打ちできる相手ではない。 そしてその強靭さ以上に驚くべきことに、ゆっくりは人の言葉を用いた。 「ゆっくりしていってね!」 それが初めてゆっくりと出逢った男がゆっくりから聞いた言葉だった。 このことから、その巨大な怪生物は以後『ゆっくり』と総称されるようになる。 なのでゆっくりとの対話による和解も試みられたが その天敵を持たない強さからその性分は他の種族に対して傲慢極まりなく そもそもゆっくりは小さな家族的集団しか作らないためいくら対話してもキリが無く大抵の場合破綻した。 そのことを人間がこれまでやってきたことのしっぺ返しと揶揄する識者も居たが やがて自分にも脅威の及ぶ頃になると彼等も他の大勢と同じように自分を棚に上げてゆっくりを口汚く罵った。 傲慢な者同士の対話などうまく行くわけは無かったのかもしれない。 いくら強力なミサイルを使って辺り一帯ごと焼き尽くしても、その場所にまた別の場所からゆっくりが移り住んで 人類は逆に自分たちが住める土地を失っていった。 そうして至る所に突如発生しだすゆっくりにより人類は次々と生活圏を追われ 人類は辛うじて自衛を可能とする力を持っていた都市部へと追いやられた。 多くの人がこのまま人類は地上の覇権をゆっくりに譲り渡し、細々と生きて行くしかないかと思われた。 だが、ある天才の発明により人類に逆転のための炎が燈る。 ゆっくりを研究していたとある女性研究者の手により ゆっくりを長期に渡って完全な休眠、仮死状態にする薬品 ゆっくり休眠剤『ヤゴコロス』が発明されたのだ。 世界中が都市部内の工場を『ヤゴコロス』を製作するために作り変えた。 これを一帯に散布することによりゆっくりをほぼ完全に無力化することに成功する。 そして人類は再び地上の覇権を取り戻した。 だが、問題は山積みだった。 『ヤゴコロス』は非常にコストが高く、また定期的に投与しないと休眠状態を維持できない。 また不可解なことにゆっくりはそれまで居なかったところ、制圧したはずの場所からも突如発生し続けた。 人間は一時的に地上の覇権を取り戻したもののその覇権を守るための刃を必要としていた。 鉄の臭いがする。 鉄の臭いは好きだった。 普段かいでいる甘ったるい臭いと全く逆なところが特に気に入っている。 俺はポケットやら何やらが色々ついたダークグリーンの服を脱ぐと 専用のスーツに着替えていった。 体にピッタリと密着するそのスーツは、一言で言うと所々に堅いパーツのついたスウェットスーツだ。 色はグレーの地に所々暗めの青、専用にあつらえているため俺の体に完全にフィットした。 俺は背中のチャックをあげると扉を開けてヘルメットを片手に抱え歩き出した。 通路を歩き格納庫へと入ると、整備士たちが駆け回る慌しい喧騒を無視して 迷うことなくまっすぐに自分の機体の元へと向かう。 甘い臭いが鼻腔をくすぐった。 機体の前に立って見上げる。 機体のハッチは高さ3mのそのボディの一番上にある。 毎回乗り降りが大変なのだが、構造上そう設計せざるを得ないので仕方ない。 最初の頃は登るたびに一々文句も言ったものだが今では黙して淡々と梯子を登りハッチを目指す。 手動で黒い扉を開けると、立てひざをついて機体の頭頂部に設置されているロックを解除した。 そして重々しいハッチを開けて俺は機体の中に乗り込んだ。 ボスンとパイロットシートの上に背中を預ける。 ずっと思っていたのだが、この中では甘い臭いはしないのは少々奇妙なものを感じる。 中にはコードで繋がれたリングが何個もある。 その形状から拘束具などと揶揄されるソレはコレを操縦するための要だ。 実を言うと、このスーツのシンプルな構造といくつかのパーツもそのための物だ。 俺は手首や足首にあるパーツに次々とそのリングを接続した。 全てのリングを接続したのを確認して、俺は脇に置いておいたヘルメットを被った。 そしてヘルメットに備え付けられている通信システムを起動させると言った。 「スタンバイ完了、これよりジャックを開始する」 『了解、Bjh開始してください』 形式的な文言を言い終わると俺は目を瞑り力を抜いていった。 ゆっくりと溜め込んでいた息を吐いていき、鼻から吸った。 格納庫の甘い臭いが鼻腔をくすぐる。 「嗅覚…同期」 体の力が限界まで抜けきった時、俺の体を外の熱気が撫でた。 「感覚、同期」 順調に行程が進んでいくことに満足して唾を呑む。 甘い味がした。 「味覚、同期」 耳を澄ましていくと格納庫の喧騒が聞こえてくる。 「聴覚、同期」 俺は通信を入れた。 「同期完了、視覚データの転送を」 『了解、視覚データ転送します』 ゆっくりと目を開くと、ヘルメット全体にさっきまで見ていた格納庫の映像が映し出された。 たださっきと違う点を上げるならば、少々目線が高いことだろうか。 さっきは見上げるようだった整備士の中年の大男も今では遥か下に見下ろしている。 俺は進路に障害物の無いことを確認すると言った。 「ジャック完了」 『Bjh完了を確認、ハッチを開放します』 「了解、ゆっくりまりさ、出ます!」 俺は不敵な笑みを浮かべると、ぼいんぼいんと跳ねながら格納庫から発進した。 人類は、ゆっくりに対抗するための刃を欲した。 しかしこれまで人類が作り上げてきた力はゆっくり相手には余りに脆弱すぎるものと 強力すぎて周りまで傷つけてしまうものばかりで帯に短し襷に長しといった有様だった。 だが人類はゆっくりを相手にするのにもっともふさわしい力を手に入れたのだ。 そう、ゆっくりそのものである。 しかしゆっくりはそのまま使うには手に余った。 だからゆっくりの中身を改造して、その脳を侵略してゆっくりに手綱をつけて使役することにしたのだ。 それをゆっくり休眠剤『ヤゴコロス』は可能にした 『ヤゴコロス』を使い休眠状態にしておいたゆっくりをゆっくりの内部に入力デバイスを埋め込む。 そして薬品の量を減らしてゆっくりを半休眠状態にする。 ここからがさっきやった『ジャック』『Bjh』と呼ばれるものだ。 『Bjh』とはBean jam hijackの頭文字からとったもので、要するにゆっくりの餡子をのっとるということだ。 入力デバイス内に人間が乗り込み、自分の感覚を通して半休眠状態のゆっくりの脳を侵略し支配権を奪っていく。 完全に支配権を奪ったところで、今度はゆっくりを半覚醒状態にして五感をのっとられたゆっくりを動けるようにする。 後は操縦者の思うがままに、その手足となってゆっくりは動かせる。 とは言っても所詮操り人形を操るようなもので、完全に自由自在というわけには行かない。 だがそれでも訓練次第でかなり自由に動かせるようにはなる。 スウェットスーツのようなパイロットスーツもゆっくりとの感覚を共有しやすくするための ゆっくりと人間の間にある変換機のような役割を担っている。 人類はこの人の手で動くゆっくりを饅頭兵器、すなわちSteamed bun armsの頭文字をとって Sba、もしくはSb兵器と呼んだ。 そしてそれに乗る人間のことをSb乗り または餡子を乗っ取る人という意味でBean jam hijackerを略してBean jackerと呼んだ。 まあ年を取った人は見も蓋も無く饅頭乗りと呼んだりもする。 これの副次的効果として半休眠状態をデフォルトとすることで『ヤゴコロス』の使用量を減らすことも出来た。 こうして人類はゆっくりと戦うのにふさわしい刃を手に入れ、本格的な反撃を開始した。 そうしてゆっくり駆逐戦、後に第一次ゆっくり大戦と呼ばれる戦いは開始し 15年ほど前に以前人間が生活していた地域を殆ど人の手に取り戻して大戦は終焉した。 大戦を人の手に導いたのはやはり人の操縦するゆっくりを主力にした特殊部隊だった。 ゆっくりが現れ始めてから30年、ゆっくりに人が打ち勝ってから15年 俺は母国の軍隊に、ゆっくりのパイロットとして入隊していた。 ゆっくりとの戦争があった時は俺はまだ小さな子どもでその頃のことは良く覚えていない。 軍隊に入ったのも別に何か特別な理由があったわけではない。 偶然受けた適性検査に受かってそのまま入っただけだ。 そんな軽い気持ちで何故俺が軍隊生活を続けられているのか。 「敵機を視認、これより戦闘を開始します」 『了解、戦闘を開始してください』 俺は足を弾ませ目の前のゆっくりに対して直進した。 予想外に早いこちらのアプローチに驚いたのか、目の前のまりさは驚愕の表情を浮かべている。 そのまりさがやっと対処をしようと動きだした時にはもう大勢は決していた。 俺はまりさの眼前に大きくジャンプし、その勢いで真上に跳んだ。 体一つ分ほど俺の体が宙を舞う。 俺は相手のゆっくりまりさの帽子にとび蹴り ゆっくりの感覚的には底部の端に力を入れてすこし伸ばしてする体当たりが蹴りなのだが それをしてまりさの帽子を叩き落し、まりさの頭の上に乗っかった。 ゆっくり同士の戦いにおいて、これだけでほぼ勝敗は決する。 後は上から数度ジャンプして踏み潰してやればツブレ饅頭の出来上がりだ。 「ど、どおぢでぞんなにゆっぐりぢでないのおおおおおお!?」 悲鳴を上げるまりさに対して俺は言った。 「あんたが遅すぎるのさ」 [まりさがゆっくりしすぎてるんだよ!!] 俺の言葉が俺の操縦するゆっくりまりさを通して、ゆっくり言葉で喋られた。 操縦者が外に向けて言った言葉は、このようにゆっくりの言葉に変換されてゆっくりによって喋られる。 『そこまで、訓練を終了してください』 俺は相手のまりさの頭から降りて、格納庫へと戻るために跳ねていった。 「同期…解除」 手のひらを握ったり広げたりしながら自分の感覚が自分の手をちゃんと動かしていることを確認してから もう外の景色を映していないヘルメットを外し息を吐いた。 面倒な行程だが、これをしておかないとうっかりゆっくりと同期したままヘルメットを外したりしようとして 妙な事故を招いてしまうこともある。 俺もド素人の頃に一度やって格納庫の備品を壊して始末書を書かされた。 さて、さっき言いかけたそれほど目的意識の無い俺が軍隊でやっていけているのかというと つまるところ、それなりに才能があったからだ。 ただしゆっくりの操縦に関してだけで他は平均かそれ以下といったところだが それでもゆっくりの操縦を出来る人間は少ないので重宝される。 人類は地上の覇権を取り戻したものの、まだ自然発生するゆっくりはなくならない。 また、ゆっくり休眠剤『ヤゴコロス』で休眠させているゆっくりを駆除するにもそれが出来る兵器は金がかかる。 かといってそのままにしておいてもゆっくり休眠剤『ヤゴコロス』を定期的に散布せねばならず金がかかる。 なので戦争が終わってから十五年経った今でもSb乗りは引っ張りダコだ。 それから数日後、俺に辞令が下った。 「転属…ですか?」 俺は上官に尋ねた。 「ああ、書類に目を通してから荷物をまとめておいてくれ」 それだけ言って書類を俺に渡すと上官は全て済んだというように立ち去っていった。 俺は面倒だななどと考えながら頭を掻いて書類に目を通した。 転属先は南の方にある大戦前からある古い基地だ。 元々は合衆国の基地だったが、大戦時の混乱によりいつの間にかわが国が実質的に管理運営している。 どこも自分の国のゆっくりに手一杯で、他の国までどうこうしようという余力は無い。 なので合衆国もその基地にこだわらずに放置してしまっているのだろう。 転属は一週間後 それまでにそれほど多くは無い荷物をまとめなくてはならず整理整頓の苦手な俺は溜息をついた。 転属の何が嫌かといえばやはり人間関係の再構築だろう。 特に、ゆっくり操縦士は重用されている割に若者が多い。 ゆっくりと同期するという行為が自我の確立した熟年よりも 若くて自我のやわらかい人間の方がやりやすいからと言われているが科学的に証明はされていない。 まあそんな訳で一般の、特に中年くらいの兵隊からの風当たりは強かったりするのだ。 ここでも大分苦労してやっと操縦士以外の何人かと馴染んできたところだったので 正直に言うと転属はしんどい。 が、そのことで上に文句を言えるほどの立場も俺には無い。 なのでそれなりの覚悟をして、かなり肩肘張りながらこの基地にやってきた。 軽く挨拶だけ済まして特に打ち解けようとすることも無くふらふらと格納庫の方へやってきた。 これから俺の乗る機体も見ておきたいという、別にそれだけの理由だ。 「俺タクヤってんだ!渡邊タクヤ タクヤでいいぜ?オマエ歳いくつ?タメ? まあどうでもいいや、あんま歳かわんなそーだし敬語とか無しな? ゆっくりの整備士やってるんで多分オマエの担当になんじゃないかなと思うわけ なんていうかビビっと運命って奴? ってか今専属無い奴俺だけだしさーってことでヨロシクゥ☆」 捲くし立てながらぽんぽんと肩を叩いたりと 異常なまでに馴れ馴れしいその整備士の態度に俺は正直、「なんだこいつ」と思いながら眉を潜めた。 「あー、その 俺の機体見に来たんだけど…」 俺はマシンガンのごとく繰り出されるその整備士の言葉の縫い目を見つけて控えめに目的を伝えた。 「あーはいはいはい命を預ける愛機のことを一刻も早く知りたいって訳ねオーケーオーケー 多分あのまりさじゃないかな、他に空いてるのは無いし」 そういってそいつは斜め後ろに陣取っているゆっくりまりさを指差した。 俺はその整備士を置いて、そのゆっくりまりさに歩み寄った。 肌の艶から見て整備はきちんとされているようだ。 手で触った弾力から考えても生育は良好 そう悪くない いや、むしろ何故こんないい仕上がりのものがエンプティになっていたのか疑問に思うくらいの機体だ。 「よろしく頼むぜ、相棒」 俺は何の気なしにそんなことを呟いた。 「おっけー!任せてけって!」 オマエじゃない。 そんな感じで、鬱陶しいのが一人懐いてきたものの 俺は引越し後で忙しいというのを理由に訓練時以外は殆ど同僚達とは接触しなかった。 接触すれば波風が立つだろう。 まず新人としての注目が薄れてからじっくり馴染んでいくのがいい。 特にこの基地は高齢の隊員が多いようなので慎重に行こう。 そう思って周りに反感を抱かれない程度に意識して避けていた。 意図してやっているとはいえ宙ぶらりんの居心地の悪い状態の続いていた日のこと。 遂に俺にこの基地に転属されて初めてのスクランブルがかかった。 「坊主!仕事だ!郊外に野生のゆっくりが出やがった!」 ヒゲ面の上官、山崎源五郎二等陸曹の言葉を聴きながら 既に専用のパイロットスーツに着替えていた俺は格納庫へ向かっていた。 山崎源五郎二等陸曹は定年間近の大分年を食った男で いかにもな傷だらけの浅黒い肌と筋肉 そして体毛と酒臭さを供えた男臭い男をそのまま体現したような男だ。 他と同じようにこの人のこともなるべく避け様と思っているのだが 小ざかしい俺の意図など意にも介さずに向かってきてやたらと呑みに誘ってくる人だった。 俺のことは名前ではなく坊主と呼ぶ。 二十歳過ぎて坊主と呼ばれるのは勘弁して欲しいのだが 上官だし顔を見合わせるとどうにもその男臭さに気圧されて指摘出来ずに居た。 「数は何匹ですか?」 「確認されたのは二匹だ、まあそこらに隠れてるかもしれんが こっちで出せるのはオマエだけだ 後は出払ってるか帰ってきたばかりで休養中ってとこだ いけるな?」 「はい、問題ありません 俺一人で充分です」 「言ったな坊主 よし、トレーラーに積むからとっとと糞饅頭に乗って来い!」 「了解しました」 走りはしないが早足にゆっくりの方へと向かう。 ゆっくりの後ろに立つと、その金色の髪の間から垂れている縄梯子を掴んで上っていった。 前はアルミ製だったので最初は面食らったがこの縄梯子にも既に慣れて上るのに5秒とかからない。 黒い帽子についた扉を開けてハッチを開きコックピットへ滑り込む。 すぐに感覚共有用のデバイスに接続してヘルメットを被り呟いた。 「スタンバイ完了、これよりジャックを開始する」 目を瞑り体の力を抜いて鼻から息を吸う。 「嗅覚…同期、触覚、同期 味覚同期、聴覚同期」 感覚を共有させていく順番は人それぞれで、俺は嗅覚から同期させていくのが癖になっていた。 余談だが嗅覚から行く人は結構珍しいらしい。 それにしても、こちらに来てからの訓練で分かってはいたがこのまりさとはこれまでになく同期がスムーズに行った。 どうにも俺とこのまりさは相性がいいらしかった。 「早く視覚データを、ハッチも開けて下さい」 『了解しました、これより視覚データを転送します』 すぐに視覚データがヘルメットに転送され格納庫の映像を映し出した。 それと同時に格納庫のハッチも轟音を立てながら開かれる。 「ジャック完了、ゆっくりまりさ、出ます!」 [ゆっくりいくよ!] 俺はまりさから感覚を奪い去り、外へと飛び出した。 巨大になった体が否応無く巨大な力を手に入れたのだということを感じさせる。 俺は専用の、だが旧式の大型トレーラーに乗り込むと目を瞑り神経を集中した。 『坊主!どうだ、緊張してるか?』 山崎二等陸曹からの通信が入ってきた。 「いえ、実戦は初めてでは無いので大丈夫です」 野生のゆっくり二匹、実戦では一匹しか相手にしたことは無いが 訓練では3対1で勝った事もある、なんら問題ないはずだ。 それでも神経が昂ぶって仕方が無い。 それを見透かされたのか、と思うと心が読まれているようでどうにも座りが悪かった。 「嘘付け!オマエのゆっくりを見りゃ誰だって緊張してるのがわかるぜ!」 なるほど、そういうことかと俺は頷くと同時に まりさとの相性が良すぎるのも考え物だと思った。 以前はそこまでダイレクトに心情がゆっくりに表れてしまうほど細かい機微を再現するようなことはなかったのだが。 それとも単にこの山崎二等陸曹が図抜けて鋭いだけなんだろうか。 そうこうしているうちに、俺を乗せた旧式の大型トレーラーは郊外のゆっくりの発生した地点に到着した。 場所は郊外のさらに外れの広さだけはある寂れた場所。 近くにはクヌギなんかが群生した小さな林もあった。 所々に見える古いコンクリートの欠片や床から上の無い民家の跡から考えて ここも昔はそれなりに栄えていたのかもしれない。 だが30年前に人類が都市部に追いやられた際に家や建物はゆっくりに踏み潰され こんな風に人気の少ないだだっ広い場所がたくさん生まれた。 その殆どは未だに復興しておらず、そんな中ではここはまだ盛り返している方だった。 民家は半径1kmに三軒ほどで通報者含めて避難は完了済み。 多少暴れて周りに被害が出ても問題ない、保険がおりるはずだ。 政府は人口がパンクしかけて問題が山のように出てきた都市部から離れて こういう土地を再び栄えさせようとする人間には寛大なのだ。 『いました!ゆっくりです!』 『種類は?つがいか?』 『それぞれまりさ型とれいむ型です! 恐らくつがいなんじゃないでしょうか?』 『だそうだ坊主』 「了解しました、直ちに駆除を開始します」 俺は跳ねると頭を打つので這いながら大型トレーラーから降りると野良ゆっくりに対して向き合った。 俺のことを見つけたゆっくりれいむとまりさは、こちらを見てこう言った。 「ゆっくりしていってね!」 「ゆっくりしていってね!」 初めて人類に接触したゆっくりが最初に言ったというあの言葉だ。 俺は息を軽く吸うと、腹の底から思いっきり言ってやった。 「あいにくと、この地球上にお前等の安穏の地は無い お前等はここで排除する!」 [ゆっへっへここは俺のゆっくりぷれいすなんだぜ!ゆっくりでていくんだぜ!] 「どおぢでぞんなごどいうのおおおおおおおおおお!?」 「れいむだぢゆっぐりぢでだだげなのにいいいいい!!」 せっかく気張って言ったのに変換後の会話の間抜けさにガックリと肩を落とす。 『坊主!そいつ乗ったまま啖呵は切らないほうがいいぞ 情け無いことになるからよ』 「今痛感してます」 俺は半眼で呻いた。 本当にいらんことを言ったと後悔する。 無駄なことをしたと嘆息しながら 気を取り直して標的のゆっくり二匹を見る。 大きさは、高さ3m横幅5m程と実に平均的で種類もれいむ種とまりさ種の組み合わせという 最もオーソドックスで普遍的な物だった。 これといって見るべきところも恐れるようなところも見当たらない。 ならば二対一でも問題ないだろう。 野生のゆっくりに対して何故数の上で不利にも関わらず俺が余裕を持っているのか。 それは訓練をしているというのもあるが、それは数の不利を完全に覆せるほどではない。 むしろ人間の扱うゆっくりはどうしても人の意思を伝達するためにわずかばかりの遅れが生じるため身体的能力においては劣る。 それでも人間の扱うゆっくりは野性のものに対して優位に立てるのだ。 それは人類が高いとはいいがたい身体的能力で他の強大な力を持つ生物に対して優位に立てた理由と同じことだった。 「ぷんぷん!れいむたちのゆっくりぷれいすなのにきゅうにでてけなんてぜんぜんゆっくりしてないよ!」 「ゆー!だいたいそのぼうしからしてゆっくりしてないよ!」 確かにこのまりさの言うとおりゆっくりから見ればこのとんがり帽子は珍妙なのだろう。 鍔は曲がっているし先の部分も普通のゆっくりからみれば尖り過ぎている。 まあそれは構造上仕方ないことだ。 「アウェイクン」 ゆっくりに備え付けられている一部の装備は意識しながら音声入力をすることで操作可能だ。 手を動かそうとするとゆっくりの方が動いてしまうので通常のボタンなどによる入力方法は使いづらく 苦肉の策でこういった入力方式をとらざるを得ないらしい。 音声は一応個々人で変更可能だが俺は面倒なのでデフォルトのままにしてある。 俺が指示すると、頭にコツンと棒が当たる感触と共に頭上の黒いとんがり帽子が真上に飛び上がった。 ぽかんと口を開けるまりさを他所に俺は体を捻って、ゆっくりと落ちてくるとんがり帽子の、その中から伸びる棒に食い付いた。 そしてとんがり帽子の先をまりさに向けて構えると、そのまま一直線に突撃する。 一瞬後には自分の腹に深々と突き刺さった帽子を愕然とした表情で見下ろすまりさがいた。 「ど、どおぢでぼう゛じがざざっだりずるのおおおおお…!?」 何故野生のゆっくりに対して人間の扱うゆっくりが有利であるのか 要は武器を持っているということだ。 ゆっくりまりさの帽子を加工・コーティングして作り上げた硬化饅頭皮製帽子型突撃槍。 帽子に支柱が通してありこちらの指令に応じて伸縮させて口に咥えて振り回せるゆっくりまりさの主要武器だ。 ゆっくりの研究を進めていく過程で副次的に発見されたこの武器に用いられている新素材は非常に堅く その上比較的軽いため発見当初は技術革新だのなんだのと持て囃された。 だがさらに研究を進めていくにつれて、すぐに劣化する、温度変化に弱い、加工するのが難しい 安定供給するためにはゆっくりの養殖が不可欠、そもそもコストがかかる 生産・加工にもゆっくりの飾りそのままの形を保たないと時間がかかるetcetc 山のような問題点が発見された。 結局いまだにこのかつての新素材を用いているのは対ゆっくり用の武器くらいだ。 それも使いこなせるのは同じゆっくり位なのだ。 この槍だってゆっくりの体重と力で振り回すから対ゆっくり用の武器足りえているが 他のものにとっては雨宿りくらいにしか使えない。 散々扱き下ろしてきたがそれでも対ゆっくり戦においてだけは有用なことは確かだった。 「げふっ、ごぱぁ」 まりさは内部から槍で圧迫され口から餡子を吐いた。 驚愕の表情は既に失せ、土気色の顔で焦点の合わない虚ろな瞳で視線を空に漂わせていた。 「ま゛り゛ざのあんごがあああああ!?」 れいむは伴侶の身に起こった突然の凶事に目を見開き悲鳴をあげた。 後腐れ無くこのままれいむの方も突き殺してしまおうと槍を引き抜いた。 直径一メートルはあろうかという巨大な傷穴から大量の餡子が零れ落ちた。 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あああ!!!!」 れいむがまりさの傷口に駆け寄り、舌を使って必死に餡子をまりさの体の中にに押し戻そうとした。 しかしいくら舌を器用に動かしても舌の上を流れて餡子は地面に零れて行く。 傷穴に押し戻されたわずかな餡子も未だ止まることの無い餡子の濁流に押し返され体から抜け出していった。 「ま゛り゛っ、ま゛り゛ざああああ!!い゛や゛あああああ!!」 「おどどざあああああああああん!!」 未だ餡子に濡れる槍を構え直し、再び突撃しようと腰を深くした時 近くの森から体長1mほどの小さなゆっくりが現れまりさに駆け寄った。 「!?きちゃだめえええええええええ!!」 俺はその小さなゆっくりごとれいむを貫こうと飛び出した。 『まずい坊主!子持ちだ!小さいのは後にまわせ!』 通信が入ったがもう遅い、既に俺の槍は子れいむの体を貫く いや押しつぶしていた。 『畜生!!やっちまった!!』 山崎二等陸曹は何故か悪態をついた。 そんなに俺の腕が信用できないのだろうかと思って不快感に眉を潜める。 確かに大きい方のれいむは仕留め損なったが別に大きなミスではない。 このれいむをとっとと駆除してしまえばそんな態度を改めさせることも出来るだろうと俺は再び槍を構えた。 「れ゛い゛む゛のあがぢゃんがあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!! うがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」 「な!?」 [ゆ!?] 今まで一度も聞いたことの無い大地を揺るがすかと思うほどのれいむの雄たけびに俺は立ち竦んだ。 槍を持つ手、いや舌と唇が震えた。 『気をつけろ!もういままで倒してきたゆっくりと同じと思うな!!』 山崎二等陸曹が耳が痛くなるほどでかい声で俺に助言を送った。 「い、一体どういう…」 よく意味がわからずに俺は戸惑いながら聞き返した。 『母は強しだ!!』 「じねえええええええええええええええええ!!!」 山崎二等陸曹が叫ぶと同時に、鬼神のごとき形相で突進してきたれいむに俺はたじろいだ。 「っ!?」 [ゆゆっ!?] 辛うじて槍を斜に構えて体当たりを受け流したものの、その余りの迫力に呼吸が荒くなる。 汗や唾液で槍が滑らないように注意しながら穂先を突きつけて牽制しながら距離を取ろうとした。 「よ゛ぐも゛れ゛い゛む゛のあがぢゃんおおおおおおおおおお!!!」 だがそんなもの意にも介さずにれいむはこちらに向かって突進してくる。 このままこちらも突撃で応じるか一瞬迷うが もしこちらの突きを避けられた時あの勢いの体当たりをどうにかできるか不安だったので 再び槍でいなしてから間合いを取った。 「よ゛ぐも゛よ゛ぐも゛よ゛ぐも゛ぉ゛…!れ゛い゛む゛だぢばがぞぐでゆっぐりぢでだだげだどにぃ…!」 お前等が近くに居るだけで人間は恐ろしくて仕方が無いんだと心中で呻く。 「糞っ、隙が無い…!」 [もっとゆっくりしてね!] 「お゛ばえのぜいでゆ゛っぐぢでぎだぐなっだんだあああああああああ!!!」 意図せずして発動したゆっくり語変換機能がれいむの神経を逆撫でてしまった。 俺は舌打ちしつつ槍を咥えたまま横っ飛びに飛んでれいむの突進を避けようとした。 「う゛があああああああああああああああああ!!」 が、予想以上の速さで突っ込んできたれいむに、槍の穂を横から噛み付かれてしまう。 「しまった!」 [ゆぅ~!?] 俺は振りほどこうと頭を振ったが、れいむはガッシリと槍を咥えて離さない。 お互い槍を奪い取ろうと喰い縛り、力が拮抗しあってお互いに動けなくなった。 「くっ…」 俺は冷や汗を垂らしながら呻いた。 今は持ちこたえているが、さっきまでの戦いで向うの方が腕力が上なのは散々見せ付けられた。 このまま膠着状態を続けていればいずれ槍を奪われる。 そうなれば勝ち目は無い。 『坊主!大丈夫か!?』 トレーラーの山崎二等陸曹から通信が入る。 「すいません…厳しいです…!」 俺は情け無いことこの上ない気持ちで弱音を吐いた。 『仕方ねえな、なんとか援護するから切り抜けろ! 1、2の3でいくからタイミング合わせろ』 「…?了解しました」 俺はゆっくりに対抗できるような強力な装備があのトレーラーに積んであったかと疑問に思い首を傾げた。 ゆっくり以外の対ゆっくり兵器はそうポンポン使えるような兵器ではないのだが。 『1!』 そうこうしている内にもカウントダウンは進んでいく。 俺はそれまでなんとか持ちこたえようと歯を食いしばり目の前のれいむを睨みつける。 『2の!』 ひょっとして休眠剤でも積んでいたのかと思い当たり心中で合点する。 滅多に無いことだが作戦中にSbaの休眠剤が切れてしまう場合に備えている可能性も無くは無い。 それなら一応納得がいく。 『3!』 と思った瞬間トレーラーがゆっくりれいむの横っ腹に突っ込んだ。 トレーラーのコックピットがれいむの体にめり込んで、目の前のれいむの顔がひしゃげた。 いくら軍用とはいえ、トレーラーの体当たり程度でゆっくりが傷を負う事はまず無い。 衝撃は完全に饅頭側と餡子の弾力に吸収されてしまう。 が、それでも槍を咥えていた口の力を少し緩ませるには充分だった。 少し面食らったが兎にも角にもれいむから槍を奪い返した。 がっしりとくわえていた口からちゅぽんと音を立てて槍が抜ける。 そのままこちらに槍を引き込み、糸を引いていた唾を引きちぎる。 「マジかよ…」 目の前の事態に頭が時間差で追いついてきてやっと呻きながら 俺は未だトレーラーを頬に減り込ませながら驚愕の表情を浮かべるれいむの額に槍を突き刺した。 「も゛っど…ゆ゛っぐりぢだが…だ…」 か細い断末魔をあげるれいむから槍を引き抜くと、頭から滝の様に餡子を噴出しながらその勢いでれいむは後ろに倒れこんだ。 大地が揺れ、あたりに落ちているコンクリート片が震えた。 「任務…完了か」 ぐるりと周りを見回して、もうゆっくりが居ないことを今度こそ確認して 緊張を解いた俺は溜息を吐いた。 『危なかったな坊主!』 「ええ、お互いに」 元気そうな山崎二等陸曹の声に俺はよくトレーラーで突っ込んでピンピンしてるなと呆れながら返した。 『まあルーキーにしては上出来だ! とりあえず後始末は他の奴等に任せて帰って酒でも飲もうや! どうせ饅頭乗りは一度出撃したらリフレッシュやらなんやらで当分出撃できないんだしよぉ 徹夜だ徹夜!朝まで呑め!三日くらい二日酔いで頭ガンガンなるまで呑むぞ!』 山崎二等陸曹の語気の強さに 比喩じゃなく本当にそれくらい飲まされそうな気配がしたので俺は適当に言い訳を考えて断ることにした。 「あー、その、これから飲み会の準備するのも大変なのでまた今度に…」 『大丈夫だ、整備士の方の坊主に店の準備やら何やらやらせといたから』 渡邊め。 心中で毒づきながら、くたびれ切った体で俺はトレーラーに乗り込んだ。 ―――――――――――――――――――― 次回予告 山崎は大戦時の戦友にして合衆国軍の英雄ブライアンの来訪に沸き立つ。 だが、変わり果てたブライアンの姿に俺はゆっくり乗りの闇を見ることになった。 次回 緩動戦士まりさ 『英雄の末路』 このSSに感想を付ける
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人生の楽園 人生の楽園 2023年7月~23年9月 共通事項 放送時間…土曜18 00~18 30 絨毯の上にカラー表記 固定スポンサー 井上誠耕園(60秒) YAMADA 老人ホーム アビタシオン 龍角散 Ryukakusan 第一交通産業グループ unicharm ユニ・チャーム STARTS(スターツ) DAIHATSU 2023年7月1日 1’00”…井上誠耕園 0’30”…YAMADA、老人ホーム アビタシオン、龍角散 Ryukakusan、第一交通産業グループ、unicharm ユニ・チャーム、STARTS(スターツ) + AC JAPAN(PT)*DAIHATSU 自粛分 2023年9月30日 1’00”…井上誠耕園 0’30”…STARTS(スターツ)、unicharm ユニ・チャーム、第一交通産業グループ、YAMADA、老人ホーム アビタシオン、龍角散 Ryukakusan + AC JAPAN(PT)*DAIHATSU 自粛分
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【オリ】MEIKO様/雨の楽園 http //www.nicovideo.jp/watch/sm1267569 http //www.nicovideo.jp/watch/sm1267569 Vocaloid及びVocaloid2のオリジナル曲 使用VocaloidはMEIKO、初音ミク 製作者はBingoBongoP 一つ前のページにもどる
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30年前、人類は突如として現れた謎の生物『ゆっくり』の脅威に晒された。 全長2m~4m、幅3m~6mのその巨大な侵略者は本当に振って湧いたかのように突然人間の住んでいた領域に現れた。 発生源は不明、餅のように柔らかい球体に顔を貼り付けたようなそれはさながら巨大な生首だった。 その肉体を形作っているのは、小麦粉を練った皮の中に餡子がたっぷりとつまった物 そう、驚くべきことに彼等は饅頭だった。 その現代科学をあざ笑うかのような無軌道摩訶不思議ぶりは 何人もの有望な研究者を狂わせ自殺させるという痛ましい事件を呼び起こした。 しかもただの饅頭ではない。 その表皮に拳銃などの通常兵器は通じずロケットランチャークラスの兵器を用いてやっと体に傷がつく。 最新の戦車でさえ一対一では場合によっては遅れを取る。 生身の人間には太刀打ちできる相手ではない。 そしてその強靭さ以上に驚くべきことに、ゆっくりは人の言葉を用いた。 「ゆっくりしていってね!」 それが初めてゆっくりと出逢った男がゆっくりから聞いた言葉だった。 このことから、その巨大な怪生物は以後『ゆっくり』と総称されるようになる。 なのでゆっくりとの対話による和解も試みられたが その天敵を持たない強さからその性分は他の種族に対して傲慢極まりなく そもそもゆっくりは小さな家族的集団しか作らないためいくら対話してもキリが無く大抵の場合破綻した。 そのことを人間がこれまでやってきたことのしっぺ返しと揶揄する識者も居たが やがて自分にも脅威の及ぶ頃になると彼等も他の大勢と同じように自分を棚に上げてゆっくりを口汚く罵った。 傲慢な者同士の対話などうまく行くわけは無かったのかもしれない。 いくら強力なミサイルを使って辺り一帯ごと焼き尽くしても、その場所にまた別の場所からゆっくりが移り住んで 人類は逆に自分たちが住める土地を失っていった。 そうして至る所に突如発生しだすゆっくりにより人類は次々と生活圏を追われ 人類は辛うじて自衛を可能とする力を持っていた都市部へと追いやられた。 多くの人がこのまま人類は地上の覇権をゆっくりに譲り渡し、細々と生きて行くしかないかと思われた。 だが、ある天才の発明により人類に逆転のための炎が燈る。 ゆっくりを研究していたとある女性研究者の手により ゆっくりを長期に渡って完全な休眠、仮死状態にする薬品 ゆっくり休眠剤『ヤゴコロス』が発明されたのだ。 世界中が都市部内の工場を『ヤゴコロス』を製作するために作り変えた。 これを一帯に散布することによりゆっくりをほぼ完全に無力化することに成功する。 そして人類は再び地上の覇権を取り戻した。 だが、問題は山積みだった。 『ヤゴコロス』は非常にコストが高く、また定期的に投与しないと休眠状態を維持できない。 また不可解なことにゆっくりはそれまで居なかったところ、制圧したはずの場所からも突如発生し続けた。 人間は一時的に地上の覇権を取り戻したもののその覇権を守るための刃を必要としていた。 鉄の臭いがする。 鉄の臭いは好きだった。 普段かいでいる甘ったるい臭いと全く逆なところが特に気に入っている。 俺はポケットやら何やらが色々ついたダークグリーンの服を脱ぐと 専用のスーツに着替えていった。 体にピッタリと密着するそのスーツは、一言で言うと所々に堅いパーツのついたスウェットスーツだ。 色はグレーの地に所々暗めの青、専用にあつらえているため俺の体に完全にフィットした。 俺は背中のチャックをあげると扉を開けてヘルメットを片手に抱え歩き出した。 通路を歩き格納庫へと入ると、整備士たちが駆け回る慌しい喧騒を無視して 迷うことなくまっすぐに自分の機体の元へと向かう。 甘い臭いが鼻腔をくすぐった。 機体の前に立って見上げる。 機体のハッチは高さ3mのそのボディの一番上にある。 毎回乗り降りが大変なのだが、構造上そう設計せざるを得ないので仕方ない。 最初の頃は登るたびに一々文句も言ったものだが今では黙して淡々と梯子を登りハッチを目指す。 手動で黒い扉を開けると、立てひざをついて機体の頭頂部に設置されているロックを解除した。 そして重々しいハッチを開けて俺は機体の中に乗り込んだ。 ボスンとパイロットシートの上に背中を預ける。 ずっと思っていたのだが、この中では甘い臭いはしないのは少々奇妙なものを感じる。 中にはコードで繋がれたリングが何個もある。 その形状から拘束具などと揶揄されるソレはコレを操縦するための要だ。 実を言うと、このスーツのシンプルな構造といくつかのパーツもそのための物だ。 俺は手首や足首にあるパーツに次々とそのリングを接続した。 全てのリングを接続したのを確認して、俺は脇に置いておいたヘルメットを被った。 そしてヘルメットに備え付けられている通信システムを起動させると言った。 「スタンバイ完了、これよりジャックを開始する」 『了解、Bjh開始してください』 形式的な文言を言い終わると俺は目を瞑り力を抜いていった。 ゆっくりと溜め込んでいた息を吐いていき、鼻から吸った。 格納庫の甘い臭いが鼻腔をくすぐる。 「嗅覚…同期」 体の力が限界まで抜けきった時、俺の体を外の熱気が撫でた。 「感覚、同期」 順調に行程が進んでいくことに満足して唾を呑む。 甘い味がした。 「味覚、同期」 耳を澄ましていくと格納庫の喧騒が聞こえてくる。 「聴覚、同期」 俺は通信を入れた。 「同期完了、視覚データの転送を」 『了解、視覚データ転送します』 ゆっくりと目を開くと、ヘルメット全体にさっきまで見ていた格納庫の映像が映し出された。 たださっきと違う点を上げるならば、少々目線が高いことだろうか。 さっきは見上げるようだった整備士の中年の大男も今では遥か下に見下ろしている。 俺は進路に障害物の無いことを確認すると言った。 「ジャック完了」 『Bjh完了を確認、ハッチを開放します』 「了解、ゆっくりまりさ、出ます!」 俺は不敵な笑みを浮かべると、ぼいんぼいんと跳ねながら格納庫から発進した。 人類は、ゆっくりに対抗するための刃を欲した。 しかしこれまで人類が作り上げてきた力はゆっくり相手には余りに脆弱すぎるものと 強力すぎて周りまで傷つけてしまうものばかりで帯に短し襷に長しといった有様だった。 だが人類はゆっくりを相手にするのにもっともふさわしい力を手に入れたのだ。 そう、ゆっくりそのものである。 しかしゆっくりはそのまま使うには手に余った。 だからゆっくりの中身を改造して、その脳を侵略してゆっくりに手綱をつけて使役することにしたのだ。 それをゆっくり休眠剤『ヤゴコロス』は可能にした 『ヤゴコロス』を使い休眠状態にしておいたゆっくりをゆっくりの内部に入力デバイスを埋め込む。 そして薬品の量を減らしてゆっくりを半休眠状態にする。 ここからがさっきやった『ジャック』『Bjh』と呼ばれるものだ。 『Bjh』とはBean jam hijackの頭文字からとったもので、要するにゆっくりの餡子をのっとるということだ。 入力デバイス内に人間が乗り込み、自分の感覚を通して半休眠状態のゆっくりの脳を侵略し支配権を奪っていく。 完全に支配権を奪ったところで、今度はゆっくりを半覚醒状態にして五感をのっとられたゆっくりを動けるようにする。 後は操縦者の思うがままに、その手足となってゆっくりは動かせる。 とは言っても所詮操り人形を操るようなもので、完全に自由自在というわけには行かない。 だがそれでも訓練次第でかなり自由に動かせるようにはなる。 スウェットスーツのようなパイロットスーツもゆっくりとの感覚を共有しやすくするための ゆっくりと人間の間にある変換機のような役割を担っている。 人類はこの人の手で動くゆっくりを饅頭兵器、すなわちSteamed bun armsの頭文字をとって Sba、もしくはSb兵器と呼んだ。 そしてそれに乗る人間のことをSb乗り または餡子を乗っ取る人という意味でBean jam hijackerを略してBean jackerと呼んだ。 まあ年を取った人は見も蓋も無く饅頭乗りと呼んだりもする。 これの副次的効果として半休眠状態をデフォルトとすることで『ヤゴコロス』の使用量を減らすことも出来た。 こうして人類はゆっくりと戦うのにふさわしい刃を手に入れ、本格的な反撃を開始した。 そうしてゆっくり駆逐戦、後に第一次ゆっくり大戦と呼ばれる戦いは開始し 15年ほど前に以前人間が生活していた地域を殆ど人の手に取り戻して大戦は終焉した。 大戦を人の手に導いたのはやはり人の操縦するゆっくりを主力にした特殊部隊だった。 ゆっくりが現れ始めてから30年、ゆっくりに人が打ち勝ってから15年 俺は母国の軍隊に、ゆっくりのパイロットとして入隊していた。 ゆっくりとの戦争があった時は俺はまだ小さな子どもでその頃のことは良く覚えていない。 軍隊に入ったのも別に何か特別な理由があったわけではない。 偶然受けた適性検査に受かってそのまま入っただけだ。 そんな軽い気持ちで何故俺が軍隊生活を続けられているのか。 「敵機を視認、これより戦闘を開始します」 『了解、戦闘を開始してください』 俺は足を弾ませ目の前のゆっくりに対して直進した。 予想外に早いこちらのアプローチに驚いたのか、目の前のまりさは驚愕の表情を浮かべている。 そのまりさがやっと対処をしようと動きだした時にはもう大勢は決していた。 俺はまりさの眼前に大きくジャンプし、その勢いで真上に跳んだ。 体一つ分ほど俺の体が宙を舞う。 俺は相手のゆっくりまりさの帽子にとび蹴り ゆっくりの感覚的には底部の端に力を入れてすこし伸ばしてする体当たりが蹴りなのだが それをしてまりさの帽子を叩き落し、まりさの頭の上に乗っかった。 ゆっくり同士の戦いにおいて、これだけでほぼ勝敗は決する。 後は上から数度ジャンプして踏み潰してやればツブレ饅頭の出来上がりだ。 「ど、どおぢでぞんなにゆっぐりぢでないのおおおおおお!?」 悲鳴を上げるまりさに対して俺は言った。 「あんたが遅すぎるのさ」 [まりさがゆっくりしすぎてるんだよ!!] 俺の言葉が俺の操縦するゆっくりまりさを通して、ゆっくり言葉で喋られた。 操縦者が外に向けて言った言葉は、このようにゆっくりの言葉に変換されてゆっくりによって喋られる。 『そこまで、訓練を終了してください』 俺は相手のまりさの頭から降りて、格納庫へと戻るために跳ねていった。 「同期…解除」 手のひらを握ったり広げたりしながら自分の感覚が自分の手をちゃんと動かしていることを確認してから もう外の景色を映していないヘルメットを外し息を吐いた。 面倒な行程だが、これをしておかないとうっかりゆっくりと同期したままヘルメットを外したりしようとして 妙な事故を招いてしまうこともある。 俺もド素人の頃に一度やって格納庫の備品を壊して始末書を書かされた。 さて、さっき言いかけたそれほど目的意識の無い俺が軍隊でやっていけているのかというと つまるところ、それなりに才能があったからだ。 ただしゆっくりの操縦に関してだけで他は平均かそれ以下といったところだが それでもゆっくりの操縦を出来る人間は少ないので重宝される。 人類は地上の覇権を取り戻したものの、まだ自然発生するゆっくりはなくならない。 また、ゆっくり休眠剤『ヤゴコロス』で休眠させているゆっくりを駆除するにもそれが出来る兵器は金がかかる。 かといってそのままにしておいてもゆっくり休眠剤『ヤゴコロス』を定期的に散布せねばならず金がかかる。 なので戦争が終わってから十五年経った今でもSb乗りは引っ張りダコだ。 それから数日後、俺に辞令が下った。 「転属…ですか?」 俺は上官に尋ねた。 「ああ、書類に目を通してから荷物をまとめておいてくれ」 それだけ言って書類を俺に渡すと上官は全て済んだというように立ち去っていった。 俺は面倒だななどと考えながら頭を掻いて書類に目を通した。 転属先は南の方にある大戦前からある古い基地だ。 元々は合衆国の基地だったが、大戦時の混乱によりいつの間にかわが国が実質的に管理運営している。 どこも自分の国のゆっくりに手一杯で、他の国までどうこうしようという余力は無い。 なので合衆国もその基地にこだわらずに放置してしまっているのだろう。 転属は一週間後 それまでにそれほど多くは無い荷物をまとめなくてはならず整理整頓の苦手な俺は溜息をついた。 転属の何が嫌かといえばやはり人間関係の再構築だろう。 特に、ゆっくり操縦士は重用されている割に若者が多い。 ゆっくりと同期するという行為が自我の確立した熟年よりも 若くて自我のやわらかい人間の方がやりやすいからと言われているが科学的に証明はされていない。 まあそんな訳で一般の、特に中年くらいの兵隊からの風当たりは強かったりするのだ。 ここでも大分苦労してやっと操縦士以外の何人かと馴染んできたところだったので 正直に言うと転属はしんどい。 が、そのことで上に文句を言えるほどの立場も俺には無い。 なのでそれなりの覚悟をして、かなり肩肘張りながらこの基地にやってきた。 軽く挨拶だけ済まして特に打ち解けようとすることも無くふらふらと格納庫の方へやってきた。 これから俺の乗る機体も見ておきたいという、別にそれだけの理由だ。 「俺タクヤってんだ!渡邊タクヤ タクヤでいいぜ?オマエ歳いくつ?タメ? まあどうでもいいや、あんま歳かわんなそーだし敬語とか無しな? ゆっくりの整備士やってるんで多分オマエの担当になんじゃないかなと思うわけ なんていうかビビっと運命って奴? ってか今専属無い奴俺だけだしさーってことでヨロシクゥ☆」 捲くし立てながらぽんぽんと肩を叩いたりと 異常なまでに馴れ馴れしいその整備士の態度に俺は正直、「なんだこいつ」と思いながら眉を潜めた。 「あー、その 俺の機体見に来たんだけど…」 俺はマシンガンのごとく繰り出されるその整備士の言葉の縫い目を見つけて控えめに目的を伝えた。 「あーはいはいはい命を預ける愛機のことを一刻も早く知りたいって訳ねオーケーオーケー 多分あのまりさじゃないかな、他に空いてるのは無いし」 そういってそいつは斜め後ろに陣取っているゆっくりまりさを指差した。 俺はその整備士を置いて、そのゆっくりまりさに歩み寄った。 肌の艶から見て整備はきちんとされているようだ。 手で触った弾力から考えても生育は良好 そう悪くない いや、むしろ何故こんないい仕上がりのものがエンプティになっていたのか疑問に思うくらいの機体だ。 「よろしく頼むぜ、相棒」 俺は何の気なしにそんなことを呟いた。 「おっけー!任せてけって!」 オマエじゃない。 そんな感じで、鬱陶しいのが一人懐いてきたものの 俺は引越し後で忙しいというのを理由に訓練時以外は殆ど同僚達とは接触しなかった。 接触すれば波風が立つだろう。 まず新人としての注目が薄れてからじっくり馴染んでいくのがいい。 特にこの基地は高齢の隊員が多いようなので慎重に行こう。 そう思って周りに反感を抱かれない程度に意識して避けていた。 意図してやっているとはいえ宙ぶらりんの居心地の悪い状態の続いていた日のこと。 遂に俺にこの基地に転属されて初めてのスクランブルがかかった。 「坊主!仕事だ!郊外に野生のゆっくりが出やがった!」 ヒゲ面の上官、山崎源五郎二等陸曹の言葉を聴きながら 既に専用のパイロットスーツに着替えていた俺は格納庫へ向かっていた。 山崎源五郎二等陸曹は定年間近の大分年を食った男で いかにもな傷だらけの浅黒い肌と筋肉 そして体毛と酒臭さを供えた男臭い男をそのまま体現したような男だ。 他と同じようにこの人のこともなるべく避け様と思っているのだが 小ざかしい俺の意図など意にも介さずに向かってきてやたらと呑みに誘ってくる人だった。 俺のことは名前ではなく坊主と呼ぶ。 二十歳過ぎて坊主と呼ばれるのは勘弁して欲しいのだが 上官だし顔を見合わせるとどうにもその男臭さに気圧されて指摘出来ずに居た。 「数は何匹ですか?」 「確認されたのは二匹だ、まあそこらに隠れてるかもしれんが こっちで出せるのはオマエだけだ 後は出払ってるか帰ってきたばかりで休養中ってとこだ いけるな?」 「はい、問題ありません 俺一人で充分です」 「言ったな坊主 よし、トレーラーに積むからとっとと糞饅頭に乗って来い!」 「了解しました」 走りはしないが早足にゆっくりの方へと向かう。 ゆっくりの後ろに立つと、その金色の髪の間から垂れている縄梯子を掴んで上っていった。 前はアルミ製だったので最初は面食らったがこの縄梯子にも既に慣れて上るのに5秒とかからない。 黒い帽子についた扉を開けてハッチを開きコックピットへ滑り込む。 すぐに感覚共有用のデバイスに接続してヘルメットを被り呟いた。 「スタンバイ完了、これよりジャックを開始する」 目を瞑り体の力を抜いて鼻から息を吸う。 「嗅覚…同期、触覚、同期 味覚同期、聴覚同期」 感覚を共有させていく順番は人それぞれで、俺は嗅覚から同期させていくのが癖になっていた。 余談だが嗅覚から行く人は結構珍しいらしい。 それにしても、こちらに来てからの訓練で分かってはいたがこのまりさとはこれまでになく同期がスムーズに行った。 どうにも俺とこのまりさは相性がいいらしかった。 「早く視覚データを、ハッチも開けて下さい」 『了解しました、これより視覚データを転送します』 すぐに視覚データがヘルメットに転送され格納庫の映像を映し出した。 それと同時に格納庫のハッチも轟音を立てながら開かれる。 「ジャック完了、ゆっくりまりさ、出ます!」 [ゆっくりいくよ!] 俺はまりさから感覚を奪い去り、外へと飛び出した。 巨大になった体が否応無く巨大な力を手に入れたのだということを感じさせる。 俺は専用の、だが旧式の大型トレーラーに乗り込むと目を瞑り神経を集中した。 『坊主!どうだ、緊張してるか?』 山崎二等陸曹からの通信が入ってきた。 「いえ、実戦は初めてでは無いので大丈夫です」 野生のゆっくり二匹、実戦では一匹しか相手にしたことは無いが 訓練では3対1で勝った事もある、なんら問題ないはずだ。 それでも神経が昂ぶって仕方が無い。 それを見透かされたのか、と思うと心が読まれているようでどうにも座りが悪かった。 「嘘付け!オマエのゆっくりを見りゃ誰だって緊張してるのがわかるぜ!」 なるほど、そういうことかと俺は頷くと同時に まりさとの相性が良すぎるのも考え物だと思った。 以前はそこまでダイレクトに心情がゆっくりに表れてしまうほど細かい機微を再現するようなことはなかったのだが。 それとも単にこの山崎二等陸曹が図抜けて鋭いだけなんだろうか。 そうこうしているうちに、俺を乗せた旧式の大型トレーラーは郊外のゆっくりの発生した地点に到着した。 場所は郊外のさらに外れの広さだけはある寂れた場所。 近くにはクヌギなんかが群生した小さな林もあった。 所々に見える古いコンクリートの欠片や床から上の無い民家の跡から考えて ここも昔はそれなりに栄えていたのかもしれない。 だが30年前に人類が都市部に追いやられた際に家や建物はゆっくりに踏み潰され こんな風に人気の少ないだだっ広い場所がたくさん生まれた。 その殆どは未だに復興しておらず、そんな中ではここはまだ盛り返している方だった。 民家は半径1kmに三軒ほどで通報者含めて避難は完了済み。 多少暴れて周りに被害が出ても問題ない、保険がおりるはずだ。 政府は人口がパンクしかけて問題が山のように出てきた都市部から離れて こういう土地を再び栄えさせようとする人間には寛大なのだ。 『いました!ゆっくりです!』 『種類は?つがいか?』 『それぞれまりさ型とれいむ型です! 恐らくつがいなんじゃないでしょうか?』 『だそうだ坊主』 「了解しました、直ちに駆除を開始します」 俺は跳ねると頭を打つので這いながら大型トレーラーから降りると野良ゆっくりに対して向き合った。 俺のことを見つけたゆっくりれいむとまりさは、こちらを見てこう言った。 「ゆっくりしていってね!」 「ゆっくりしていってね!」 初めて人類に接触したゆっくりが最初に言ったというあの言葉だ。 俺は息を軽く吸うと、腹の底から思いっきり言ってやった。 「あいにくと、この地球上にお前等の安穏の地は無い お前等はここで排除する!」 [ゆっへっへここは俺のゆっくりぷれいすなんだぜ!ゆっくりでていくんだぜ!] 「どおぢでぞんなごどいうのおおおおおおおおおお!?」 「れいむだぢゆっぐりぢでだだげなのにいいいいい!!」 せっかく気張って言ったのに変換後の会話の間抜けさにガックリと肩を落とす。 『坊主!そいつ乗ったまま啖呵は切らないほうがいいぞ 情け無いことになるからよ』 「今痛感してます」 俺は半眼で呻いた。 本当にいらんことを言ったと後悔する。 無駄なことをしたと嘆息しながら 気を取り直して標的のゆっくり二匹を見る。 大きさは、高さ3m横幅5m程と実に平均的で種類もれいむ種とまりさ種の組み合わせという 最もオーソドックスで普遍的な物だった。 これといって見るべきところも恐れるようなところも見当たらない。 ならば二対一でも問題ないだろう。 野生のゆっくりに対して何故数の上で不利にも関わらず俺が余裕を持っているのか。 それは訓練をしているというのもあるが、それは数の不利を完全に覆せるほどではない。 むしろ人間の扱うゆっくりはどうしても人の意思を伝達するためにわずかばかりの遅れが生じるため身体的能力においては劣る。 それでも人間の扱うゆっくりは野性のものに対して優位に立てるのだ。 それは人類が高いとはいいがたい身体的能力で他の強大な力を持つ生物に対して優位に立てた理由と同じことだった。 「ぷんぷん!れいむたちのゆっくりぷれいすなのにきゅうにでてけなんてぜんぜんゆっくりしてないよ!」 「ゆー!だいたいそのぼうしからしてゆっくりしてないよ!」 確かにこのまりさの言うとおりゆっくりから見ればこのとんがり帽子は珍妙なのだろう。 鍔は曲がっているし先の部分も普通のゆっくりからみれば尖り過ぎている。 まあそれは構造上仕方ないことだ。 「アウェイクン」 ゆっくりに備え付けられている一部の装備は意識しながら音声入力をすることで操作可能だ。 手を動かそうとするとゆっくりの方が動いてしまうので通常のボタンなどによる入力方法は使いづらく 苦肉の策でこういった入力方式をとらざるを得ないらしい。 音声は一応個々人で変更可能だが俺は面倒なのでデフォルトのままにしてある。 俺が指示すると、頭にコツンと棒が当たる感触と共に頭上の黒いとんがり帽子が真上に飛び上がった。 ぽかんと口を開けるまりさを他所に俺は体を捻って、ゆっくりと落ちてくるとんがり帽子の、その中から伸びる棒に食い付いた。 そしてとんがり帽子の先をまりさに向けて構えると、そのまま一直線に突撃する。 一瞬後には自分の腹に深々と突き刺さった帽子を愕然とした表情で見下ろすまりさがいた。 「ど、どおぢでぼう゛じがざざっだりずるのおおおおお…!?」 何故野生のゆっくりに対して人間の扱うゆっくりが有利であるのか 要は武器を持っているということだ。 ゆっくりまりさの帽子を加工・コーティングして作り上げた硬化饅頭皮製帽子型突撃槍。 帽子に支柱が通してありこちらの指令に応じて伸縮させて口に咥えて振り回せるゆっくりまりさの主要武器だ。 ゆっくりの研究を進めていく過程で副次的に発見されたこの武器に用いられている新素材は非常に堅く その上比較的軽いため発見当初は技術革新だのなんだのと持て囃された。 だがさらに研究を進めていくにつれて、すぐに劣化する、温度変化に弱い、加工するのが難しい 安定供給するためにはゆっくりの養殖が不可欠、そもそもコストがかかる 生産・加工にもゆっくりの飾りそのままの形を保たないと時間がかかるetcetc 山のような問題点が発見された。 結局いまだにこのかつての新素材を用いているのは対ゆっくり用の武器くらいだ。 それも使いこなせるのは同じゆっくり位なのだ。 この槍だってゆっくりの体重と力で振り回すから対ゆっくり用の武器足りえているが 他のものにとっては雨宿りくらいにしか使えない。 散々扱き下ろしてきたがそれでも対ゆっくり戦においてだけは有用なことは確かだった。 「げふっ、ごぱぁ」 まりさは内部から槍で圧迫され口から餡子を吐いた。 驚愕の表情は既に失せ、土気色の顔で焦点の合わない虚ろな瞳で視線を空に漂わせていた。 「ま゛り゛ざのあんごがあああああ!?」 れいむは伴侶の身に起こった突然の凶事に目を見開き悲鳴をあげた。 後腐れ無くこのままれいむの方も突き殺してしまおうと槍を引き抜いた。 直径一メートルはあろうかという巨大な傷穴から大量の餡子が零れ落ちた。 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あああ!!!!」 れいむがまりさの傷口に駆け寄り、舌を使って必死に餡子をまりさの体の中にに押し戻そうとした。 しかしいくら舌を器用に動かしても舌の上を流れて餡子は地面に零れて行く。 傷穴に押し戻されたわずかな餡子も未だ止まることの無い餡子の濁流に押し返され体から抜け出していった。 「ま゛り゛っ、ま゛り゛ざああああ!!い゛や゛あああああ!!」 「おどどざあああああああああん!!」 未だ餡子に濡れる槍を構え直し、再び突撃しようと腰を深くした時 近くの森から体長1mほどの小さなゆっくりが現れまりさに駆け寄った。 「!?きちゃだめえええええええええ!!」 俺はその小さなゆっくりごとれいむを貫こうと飛び出した。 『まずい坊主!子持ちだ!小さいのは後にまわせ!』 通信が入ったがもう遅い、既に俺の槍は子れいむの体を貫く いや押しつぶしていた。 『畜生!!やっちまった!!』 山崎二等陸曹は何故か悪態をついた。 そんなに俺の腕が信用できないのだろうかと思って不快感に眉を潜める。 確かに大きい方のれいむは仕留め損なったが別に大きなミスではない。 このれいむをとっとと駆除してしまえばそんな態度を改めさせることも出来るだろうと俺は再び槍を構えた。 「れ゛い゛む゛のあがぢゃんがあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!! うがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」 「な!?」 [ゆ!?] 今まで一度も聞いたことの無い大地を揺るがすかと思うほどのれいむの雄たけびに俺は立ち竦んだ。 槍を持つ手、いや舌と唇が震えた。 『気をつけろ!もういままで倒してきたゆっくりと同じと思うな!!』 山崎二等陸曹が耳が痛くなるほどでかい声で俺に助言を送った。 「い、一体どういう…」 よく意味がわからずに俺は戸惑いながら聞き返した。 『母は強しだ!!』 「じねえええええええええええええええええ!!!」 山崎二等陸曹が叫ぶと同時に、鬼神のごとき形相で突進してきたれいむに俺はたじろいだ。 「っ!?」 [ゆゆっ!?] 辛うじて槍を斜に構えて体当たりを受け流したものの、その余りの迫力に呼吸が荒くなる。 汗や唾液で槍が滑らないように注意しながら穂先を突きつけて牽制しながら距離を取ろうとした。 「よ゛ぐも゛れ゛い゛む゛のあがぢゃんおおおおおおおおおお!!!」 だがそんなもの意にも介さずにれいむはこちらに向かって突進してくる。 このままこちらも突撃で応じるか一瞬迷うが もしこちらの突きを避けられた時あの勢いの体当たりをどうにかできるか不安だったので 再び槍でいなしてから間合いを取った。 「よ゛ぐも゛よ゛ぐも゛よ゛ぐも゛ぉ゛…!れ゛い゛む゛だぢばがぞぐでゆっぐりぢでだだげだどにぃ…!」 お前等が近くに居るだけで人間は恐ろしくて仕方が無いんだと心中で呻く。 「糞っ、隙が無い…!」 [もっとゆっくりしてね!] 「お゛ばえのぜいでゆ゛っぐぢでぎだぐなっだんだあああああああああ!!!」 意図せずして発動したゆっくり語変換機能がれいむの神経を逆撫でてしまった。 俺は舌打ちしつつ槍を咥えたまま横っ飛びに飛んでれいむの突進を避けようとした。 「う゛があああああああああああああああああ!!」 が、予想以上の速さで突っ込んできたれいむに、槍の穂を横から噛み付かれてしまう。 「しまった!」 [ゆぅ~!?] 俺は振りほどこうと頭を振ったが、れいむはガッシリと槍を咥えて離さない。 お互い槍を奪い取ろうと喰い縛り、力が拮抗しあってお互いに動けなくなった。 「くっ…」 俺は冷や汗を垂らしながら呻いた。 今は持ちこたえているが、さっきまでの戦いで向うの方が腕力が上なのは散々見せ付けられた。 このまま膠着状態を続けていればいずれ槍を奪われる。 そうなれば勝ち目は無い。 『坊主!大丈夫か!?』 トレーラーの山崎二等陸曹から通信が入る。 「すいません…厳しいです…!」 俺は情け無いことこの上ない気持ちで弱音を吐いた。 『仕方ねえな、なんとか援護するから切り抜けろ! 1、2の3でいくからタイミング合わせろ』 「…?了解しました」 俺はゆっくりに対抗できるような強力な装備があのトレーラーに積んであったかと疑問に思い首を傾げた。 ゆっくり以外の対ゆっくり兵器はそうポンポン使えるような兵器ではないのだが。 『1!』 そうこうしている内にもカウントダウンは進んでいく。 俺はそれまでなんとか持ちこたえようと歯を食いしばり目の前のれいむを睨みつける。 『2の!』 ひょっとして休眠剤でも積んでいたのかと思い当たり心中で合点する。 滅多に無いことだが作戦中にSbaの休眠剤が切れてしまう場合に備えている可能性も無くは無い。 それなら一応納得がいく。 『3!』 と思った瞬間トレーラーがゆっくりれいむの横っ腹に突っ込んだ。 トレーラーのコックピットがれいむの体にめり込んで、目の前のれいむの顔がひしゃげた。 いくら軍用とはいえ、トレーラーの体当たり程度でゆっくりが傷を負う事はまず無い。 衝撃は完全に饅頭側と餡子の弾力に吸収されてしまう。 が、それでも槍を咥えていた口の力を少し緩ませるには充分だった。 少し面食らったが兎にも角にもれいむから槍を奪い返した。 がっしりとくわえていた口からちゅぽんと音を立てて槍が抜ける。 そのままこちらに槍を引き込み、糸を引いていた唾を引きちぎる。 「マジかよ…」 目の前の事態に頭が時間差で追いついてきてやっと呻きながら 俺は未だトレーラーを頬に減り込ませながら驚愕の表情を浮かべるれいむの額に槍を突き刺した。 「も゛っど…ゆ゛っぐりぢだが…だ…」 か細い断末魔をあげるれいむから槍を引き抜くと、頭から滝の様に餡子を噴出しながらその勢いでれいむは後ろに倒れこんだ。 大地が揺れ、あたりに落ちているコンクリート片が震えた。 「任務…完了か」 ぐるりと周りを見回して、もうゆっくりが居ないことを今度こそ確認して 緊張を解いた俺は溜息を吐いた。 『危なかったな坊主!』 「ええ、お互いに」 元気そうな山崎二等陸曹の声に俺はよくトレーラーで突っ込んでピンピンしてるなと呆れながら返した。 『まあルーキーにしては上出来だ! とりあえず後始末は他の奴等に任せて帰って酒でも飲もうや! どうせ饅頭乗りは一度出撃したらリフレッシュやらなんやらで当分出撃できないんだしよぉ 徹夜だ徹夜!朝まで呑め!三日くらい二日酔いで頭ガンガンなるまで呑むぞ!』 山崎二等陸曹の語気の強さに 比喩じゃなく本当にそれくらい飲まされそうな気配がしたので俺は適当に言い訳を考えて断ることにした。 「あー、その、これから飲み会の準備するのも大変なのでまた今度に…」 『大丈夫だ、整備士の方の坊主に店の準備やら何やらやらせといたから』 渡邊め。 心中で毒づきながら、くたびれ切った体で俺はトレーラーに乗り込んだ。 ―――――――――――――――――――― 次回予告 山崎は大戦時の戦友にして合衆国軍の英雄ブライアンの来訪に沸き立つ。 だが、変わり果てたブライアンの姿に俺はゆっくり乗りの闇を見ることになった。 次回 緩動戦士まりさ 『英雄の末路』 このSSに感想を付ける
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ゆっくり達がゆっくりできるにはどうすればよかったか 言葉が通じずともただ媚び続け、ペットとして生きればよかったか それは否。中身が餡子で、何も世話しなくても光合成で育つ。そんな金のなる木を人間がペットとして扱うだろうか。 家畜にされることが関の山である。幸いなことに今までゆっくりは人間から隠れて生きていたので、殆ど捕まらなかった。 さらに人間に捕まえるのは人間の子供だったのですぐに弄ばれて殺されていた。よって光合成で育つということが知られていなかった。 人間がいないようなところを探して生きていけばよかったか。 ある意味正解。しかしあの森以外の環境では、日の光が当っていなかったり、昼間から妖怪が出没したり、 逆に見通しがよすぎて危険なため、この選択枝は除外される。 人間と戦えばよかったか 論外。人間の子供にさえも勝てないゆっくりに、大人相手に勝てるはずがない。あのまりさのように目的を達するために命をかけ、 渡り合っていける個体はほとんどいない。逆に人間の大人たちを本気にさせて、あっという間にまとめてお汁粉にされてしまうだろう。 つまり、人間に認められるしかないのである。そのため、まりさの考えは間違ってはいなかった。 言葉が届かないなら、行動で示せばいい。 しかし、人間に認められる。その難しさをまりさは知らなかった。 まりさはずりずりと体を引きずらせて森の中へと逃げていた。飛び跳ねる体力はもう残っていない。 だが、体内の餡子を4分の1程度失ったことで、無駄に餡子を撒き散らすことがなくなり、虫などがよってこなかった。 不幸中の幸いといえた。 まりさはつい先ほどまでの修羅場を回想した。殺さずに思いとどまってくれたれいむに感謝しながら はやくぱちゅりーをおそとにはこばなきゃ 青鬼になることを決めたときは別に死んでもいいかと思っていた。 でも、人間に追われたとき、いっぱい走ってどきどき苦しくて、体が裂けたときは動くたびにビロビロして気持ち悪くて、 人間達の怒鳴り声で耳がびりびりして怖かった。やっぱり死ぬのは嫌だった。 でも、これでみんなゆっくりできる。 人間のおじさんたちにはたくさん悪いことしちゃったな。ごめんなさいと言えなかった。 れみりゃを怖がらせちゃったな。あの子すぐに泣いちゃうのに。 ありすにはもう会っても口をきいてもらえないだろうな。あの泣き声は忘れられないと思う。 そしてれいむは・・・・・ううん・・・・考えるのはやめよう・・・・・・・・これからきっとゆっくりできるようになるんだ。 あとはまりさがみんなに会わなきゃいい。 そう思って帰り道を急ぐ。ずりずり、ずりずりと そのときまりさの後から、聞き覚えのある声がした。いつかまりさとれいむがピンチだったときに聞こえた、あの声だ。 「あんれぇ、おまえどうしたださ?こんなにぼろぼろで・・・・。また誰かに虐められただか・・・・・・・・・・ 体中べこべこじゃないか・・・・・・・・」 肩には藁の固まり、見上げるほどの巨体。あのときの大男だった。心配そうにまりさを見つめている。 まりさは光を失い、瞳の黒さが深くなった目で大男に視線を向ける。 「おじさん・・・・・・。まりさやったよ・・・・・・・・・・。みんながゆっくりできるよ・・・・ でも・・・・・・・・・・まりさわるいこになっちゃったよ・・・・・・・・・・・・・・・」 まりさは自嘲する。大男から目をそらし、ぱちゅりーのところを目指す。 大男のきれいな目がまぶしかった。 「そうはいってもなぁ・・・・そうだ!いいもんをくわせてやるべよ。体がへこんで力がでないんだろう?」 大男はまりさを片手でむんずとつかんだ。まりさの体を覆ってもお釣りが来るほどの大きな手だ。 「ゆぅぅぅ!?おじさんはなしてよ!まりさはゆっくりできないよ!」 「はっはっは。そうかうれしいか。わかった。お望みどおりゆっくりするべ。お前は友達をたすげよどずるいい子だがらな。 いい子は好ぎだよ。」 大男はまりさを持ち上げ、どしどしと足音を立てて運んでいく。 まりさは早くぱちゅりーを日の光の下に出さなけれなければいけなかったが、大男にまりさの言葉は通じていなかった。 日の光が少し傾くくらいまで大男は走った後、まりさは洞窟の中に招待されることになった。真っ暗で、じめじめとしていて、 あまりゆっくりしたくない。 そんなまりさを大男は最高のご馳走で迎えようとしていた。 しかしゆっくりは食べ物を消化できないので何を食べても吐き出してしまうだろうが。 何が出てくるのだろうか。これほどの大男だ。何を食べればこれほどまでに大きくなるのか興味があったのだろう。 食べきれないくらいたくさんの肉か。 まりさが丸呑みされるくらいのおおきな魚か。 以外にも、山菜の盛り合わせなのかもしれない。 まりさがそわそわと落ち着かない様子を見て、 大男はまりさが期待しているものだと思って、それに答えるかのようにでんっとおもてなしを置いた。 肉だった。 まりさほどの大きな肉の塊。 まりさと同じ形をしている まず人間が食べきれないくらいの大きさだった。 いや、たとえ量が少なくとも食べられないだろう。人間には 「おじさん・・・・これ・・・・・なに・・・・・・・・・」 目の前に置かれたものがぼんやりと見えてくる。その『顔』には見覚えがあった 「そうかそうか。味わって食べたいか。さぁ、ゆっくりと召し上がれ。」 それは3日前に嫌というほど見たあの『顔』だった。 「やべでぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!おじさん!ゆっぐりざぜでぇ!!」 歯を食いしばって食べないように持ちこたえるても、 まりさは裂けた口からぐいぐいと「ごちそう」を押し付けられる。 「ごちそう」のほっぺたは固く冷たく、つんとすっぱい匂いがした。 いつもれいむとほっぺたをくっつけあったときの柔らかさと餡子の甘い匂いはかけらも感じない。 反射的に「ごちそう」のほうを向くと、その白くにごった眼と目が合った。 「おじざんやべでぇ!おじざん!!おじざん!おじざん!おじざん!」 「遠慮することないべよ。なくほど喜ぶこともあるまいて、ほら、口をあけて。」 まりさは口をがばっと開けられ、無理やり「ごちそう」を押し込まれた。ゆっくりに共食いがあるとすれば、 このような光景が見えることであろう。 まりさは「ごちそう」の3分の1ほどと合体したような姿となっていた。 「ぴぎぃ゛ぃ゛ぃ゛ ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!!」 まりさは歯と舌を使って「ごちそう」を飲み込まないように必死に抵抗する。 まりさが普段はお友達としゃべるときにしか使わない口。そのため、人間の畑を荒らしたときに掘り出した野菜は固くて歯が痛かった。 「ごちそう」はそれよりもずっと固い。 口が塞がれ、息ができない。目の前がぼんやりともやがかかってくる。 「ほらほら、お前達も妖怪なんだからこれぐらい一気に食べないと。大きくなれないぞぉ。」 大男はまったく悪気がなかった。それもそのはずだった。大男はゆっくりのことを妖怪だと勘違いしていた。まりさは気づくべきだった。 目の前の大男が子供達を一方的に痛めつけたときの異常さを。それなのにきらきらとしたきれいな目をしていることを。 彼は、自分が悪いことをしているとは少したりとも思っていない。罪悪感に目を濁らせない。 「こいつらは悪い子だから遠慮することないべよ。いい子のお前達へのご褒美だよ。ちょっと古くなっているけどごめんな。 ほら、酒でも飲んでいっぱいやろうや。」 「ゆぐぐぐうぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐうぐぐぐぐうぐぐ!!!!!! ぐい、ぐい、まりさの頬にさらに無理やり押し込む。まりさは泣きながら吐き出そうとする。 光合成で生きていくゆっくり。口から食べ物を食べたことは一度もない。 まりさは思う。きれいなお花。かわいい虫達。大きな動物。みんなかわいかった。かっこよかった。 一緒にゆっくりする仲間達。人間ともこれから一緒にゆっくりできる。だけど、食べてしまったらゆっくりできない。 そうなったらもうお友達にはなれない。 「ゆ゛ひゅぅ!ゆ゛ゆ゛ぅ!ひゅ・・・・。ゆ゛っぐぅ・・・・・・・すぅ・・ぎ・・・・・・・」 ビリっと、まりさの頬が裂けていく。先ほど切れ目がついていた上に、無理やり押し込まれたからこうなってしまった。 大男はそこでようやく気がつく。 「ああ、ごめんごめん。うれしくてつい押しこんでしまっだや。ごめんな。痛かったべ。やっぱり無理やり食べさせるのはよぐないわ。」 大男はまりさから「ごちそう」を引き抜いた。「ごちそう」はべったりとまりさの唾液がついていた。 まりさは酸欠気味だった体に酸素を行きわたらせるように大きく息をする。まりさは安心した。おじさんはわかってくれた。 まりさは人間を食べたりなんかしないと。ぐったりとした顔でそう思ったところに 「やっぱり食べやすい大きさにしねえどな。ほら、わけてやるがらだんとぐえ。」 大男は酒に酔って顔を赤くしていた。その姿は例えるなら赤鬼だった。 いや、例える必要はない。その正体は紛れもない鬼。 鬼 強い力を持っていた妖怪の一族。卑怯な手を嫌い、誠実なものを好む。 また、いったん友人と認めた相手には敬意を表す。現在幻想郷には殆どおらず、大抵のものは鬼の国で生活している。 妖怪のため、人間も食べる。 なまはげ 東北にて語られている鬼。地方内でも伝承が細かく分かれる。怠け者を懲らしめ、災いをはらい祝福を与える。 人間に仕えていたが正月の十五日だけは里に下りて乱暴や略奪を行う。 そして悪い子をさらって食う。などと伝えられている。 幻想郷は外の世界で途絶え、忘れ去られつつあるものが流れ着く地。なまはげという有名な妖怪の中でも、 悪い子をさらって食うというあまり知られていない部類ものは、幻想郷にやってくる。 ついたばかりで未だ幻想郷の常識も知らず、ただ悪い子を捕まえて食べる鬼。それがこの大男の正体だった。 赤鬼は、これから先の人生で決して泣くことがない。そう確信を持って言い切れるような陽気な笑いを浮かべた。 《きもちわるい》 《きもちわるいよぉ》 まりさが開放されたのは、日が落ちた後であった。しんとした暗闇の中、 ずりっずりっと重くなった体を引きずってぱちゅりーの家を目指す。 その目は遠くしか見えておらず、何度も石で転げそうになる。この日は辛いことが起きすぎた。。 誰かと一緒にいないと壊れてしまいそうだった。誰かと一緒にゆっくりしたかった。 青鬼の決意はどこへやら、まりさは急ぐ。傷ついた体でずりっずりっと、暗い巣の中でひとりぼっちの友達のところに急ぐ。 けれどもその速度はとてもゆっくりしていた。 ぱちゅりーの家が見えた。最後に訪れたのはあの絵本を見に行ったときだった。 巣の外からもぱちゅりーが見えた。眼をつぶってゆっくりと動かない。 寝ているのだろうか。愛する友達に出会えてただうれしかったまりさ。 まりさは巣の中に飛び込む。目測を誤って入り口で体をぶつけてしまった。 まぬけなところをぱちゅりーに見せてしまったのかもしれない。 そう思ってぱちゅりーに近づく。 その顔は、髪と同じく、紫色だった。 ぱちゅりーはすでに息を引き取っていた。 誰もそばにおらず 誰も話しかけてこないで 誰も悲しむことなく 誰も知らずに たった一匹で静かにこの世を去った。 まりさはひとりぼっちになった。 絶望。まりさは二度とれいむ達とは会えなくなり、信じていたおじさんはゆっくりできない人だと知り、 おじさんとゆっくりしていたためにぱちゅりーは死んだ。そう、まりさはもうゆっくりできない。 青鬼になる その言葉の意味をまりさは理解したつもりだった。 誰とも会わずただ一匹で生きていく。 だが、その一文の決意を実行できる生き物はいない。 寂しさ。 まりさの餡子はその気持ちでいっぱいだった。 ちょっとだけ、みんなの様子を見に行こう。 会わないなら大丈夫。ただみんなが人間と仲良くしているところを見るだけ。 別にまりさが捕まったってもうみんなは人間の仲間。だから何も問題ない、 青鬼の決心は、完全に失われていた。 気がついたときには目の前には人間の里。里長の屋敷の前だった。まりさは夜の闇の中ふらふらと明かりにつられてやってきた。 辺りには誰もいない。新しい仲間の歓迎会を開いているのだろうか。 まりさが物陰から覗いた時、人間達はもう闇も深まってきた頃だというのに、明かりを贅沢に使って宴会していた。 酒をぐびりと一気に呑み、おわんに入ったおかずをガツガツ食べて、ガヤガヤと聞き分けられないほどの大音声で騒ぐ。 子供たちまでいた。子供達はお酒が飲めない代わりに、お菓子を食べている。 シュークリーム、エクレア、タルトと豊富な種類がそろっている。 人間達はご機嫌だった。ゆっくりしていない、人間独自の仲間との交流だった。 「たのしそう・・・・・・・・まりさもみんなとゆっくりしたいよ・・・・・・・・・・」 思わず口から漏れる偽らない本音。楽しかった日々。 「? みんなどこいったのかな?にんげんといっしょにゆっくりしているのかな?」 宴会の最中であるにも関わらず、歓迎されるべき主賓はどこにも見当たらなかった。 今頃人間達と一緒にお歌を歌って、ありすがへただとからかわれていると思った。 れみりゃが人間の子供と鬼ごっこをしていると思った。 れいむが人間とほっぺたを寄せ合ってゆっくりしていると思った。 しかしその姿は見当たらない。 《どこにいったんだろう・・・・・・》 まりさはそうっと忍び込み、みんなを探す。 最後に一回くらいは顔を見ておきたかった。一回だけ。一回だけ。 カタッ パタン カタッ パタン いくつもいくつも部屋を空ける。しかし見当たらない。どこにもいない。 おかしい。何か変だ。 まりさはようやく事態の異常さに気がつく。いや、本当は気づいてた。誰もいないのはおかしいと。 ただ認めたくなかった。さっきのような、あのおじさんに裏切られたときのような感覚がしていることを。 本当だったら聞こえるみんなの笑い声がしない。 「・・・・・・・・・・・・・・・・よ・・・・・・・・・・・・・・・・し・・・・・・」 どこからか声が聞こえたような気がする。 「・・・・ゆ・・・・・・・・・・てよ・・・・・・・・・・・・り・・・・・・・・し・・・・・・・・・・・ •い・・・・・・・・・・・・・・よ・・・・・」 聞こえた。気のせいじゃなかった。これは紛れもなくれいむの声だった。 まりさはずりっずりっずりっと、れいむの声がするほうをゆっくり目指す。 最後に大好きな友達の幸せな顔を見るために そしてまりさはある部屋の前で立ち止まった。 そこは、台所だった。 奥から聞こえてくるれいむの声。その声はかすれていた。 「ゆっ・・・・・・・・・・・・くり・・・・・・・・・し・・・・い・・・・よ・ •◦◾◾◾◾◾◾◾たす・・・・・・よ・・・・・・・・・・・・・り・・・・・・・・・・・さ・・・・・・・じ・・さ・・・ん」 「れいむ!まりさだよ!どうしたのれいむ!」 まりさはれいむとついに再会する。 最後にあれほどひどい別れ方をしたにもかかわらず、まりさはれいむへと何のためらいもなく駆け寄る。 まりさはれいむな事情をわかってくれていると信じていた。それはあまりにも都合のいい事考え方をする饅頭だった。 いや、実際れいむは事情をわかっていたつもりだった。しかし今ある状況はまりさのせいによって起こったこと。 れいむは、格子状の籠の中に閉じ込められていた。 「だれ・・・・・・・・・まりさ・・?」 「まりさだよ!れいむどうしたの!みんなどこにいったの!ゆっくりおしえてね!!」 まりさがれいむへと駆け寄る。二匹をさえぎる籠にめいいっぱい近づく。 ほっぺたが押さえつけられるあまりに格子から少しはみ出ていた。 れいむは人間に捕まってはいるが、その体には傷一つなかった。 今は、まだ 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 れいむは目を伏せてそらす。そのまま十数秒が経過する。 二匹は黙りきり、台所は宴会場からの喧騒が響くのみとなってしまった。 業を煮やしてれいむに問い詰める 「ありすは?ぱちゅりーは?」 れいむは目を伏せたまま答える。その声は、あまりにも弱弱しい。 「みんなたべられ・・・・・・・・・・・・・ちゃったよ・・・・・・・・・・・」 《たべられた》 《たべられた!?》 《どうして?にんげんとおともだちになったんじゃなかったの!》 「れみりゃがさいしょにね・・・・・あたまをぽんっ・・・・・・・・・て・・・・・・きられて・・・・ ぐりぐりって・・・・なかみをむりやりとるの・・・・・・・・れみりやはね・・・・・・はねをばたばたさせて・・・ にげようとしたけど・・・・・・・・・・そうするとはねもきられちゃったの・・・・・・・・・・・・・・・・ •ずっといたいいたいってないてて・・・すっごくおっきなこえで・・・・・・・うごかなくなるまでずっとないてたの・・・。」 《うそ》 「ありすはもっとひどかったよ・・・・・・・・・・・かみのけをぜんぶきられて、・・・・べりっ・・・・・・・・・ てかわをはがされたの・・・・・・・・・・・いちまいずつ・・・・・・・・・・いちまいずつ・・・・・・・・・・ ありすは・・・まりさ・・まりさって・・・・・・・・・ずっとよんでたよ・・・・・・・・まりさがたすけてくれるって・・・ ずっと・・・・・・・・しんじてた・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。。。・・・・ おじさんたちはね・・それをみていて・いっぱいわらってた・・・・・・・れみりゃとありすをおいしそうにたべてたの・・ 《うそだよ》 「ほら・・・・れみりゃはそこにいるよ・・・・・・・・・・」 そこに転がっていたのは、かつてれみりゃと呼ばれていた肉まんの皮部分だった。 あのとき、悪さをするまりさを追い払ったれいむ。そのとき人間にはどのように見えていたのか。 「ゆっくりしていってね!(みんなもうだいじょうぶだよ!!)」 リボンのゆっくりは仲間のいる方向に笑いかける。その表情は人間達にも見えた。満面の笑み。 終止無言だった先ほどとは対照的に明るすぎる声で二匹へと呼びかける。 その声は人間達には勝ち誇り、自らの領土を主張するように聞こえた。 人間達は事情を知らなかった。 そのとき、一人の男が水をさすようにつぶやいた 「こいつら、今も【ゆっくりしていってね】って言いつづけているから、里での縄張り争いしただけだったんじゃないか」 -言われたとおりゆっくりするよ。俺達が満足するまでね。- -ゆっくりゆっくりうるさいなぁ、お前から先に苛めてやろうか。- -ん~、いい声で鳴くなあこいつら。少しワンパターンだけど、やっぱりいい声するや。発音の変化がいいね。濁音がついて- -せっかくだけど、ゆっくりしている暇はないだべ- -それににんげんってはなしがつうじないのよ!いきなりつぶされたおともだちもおおいの!- この世界には、ルールがあった。 この世界では、他の世界とひとつ異なるところがある この世界では、ゆっくりの言葉は人間にはある一つの言葉とそれを含む単語にしか聞こえない。 その言葉とは 【ゆっくりしていってね】 ゆっくり達は自分達の言葉がこうして聞こえているのは知らない。 また、人間の言葉は、ゆっくりにとってはうなり声に聞こえる。 つまり、ゆっくり達が火にあぶられようが、壁に叩きつけられようが、切り刻まれようが、人間と友達になりたかろうが、 自分達の意思を人間に伝える方法は存在しないのである。 【ゆっくりしていってね】 人間には鳥や虫のような【鳴き声】にしか聞こえないそれも、あの状況ではある先入観を抱かせることになった。 その言葉の持つ意味が曲解されていく。 あのとき、れいむはまりさに向かって黙りきったまま体当たりを繰り返してしまった。れいむが大好きだったまりさ。 そのまりさへと一言でも責めたら取り返しのつかないことを言ってしまうと思ったれいむ。 だが、人間の目にはれいむがまりさに友好を求めるかのような【鳴き声】を出さないことから、 リボンのゆっくりが、帽子のゆっくりが羽を持ったゆっくりとヘアバンドをつけた ゆっくりにじゃれていたところをいきなりたたき出したようにも見えた。 れいむが【ゆっくりしていってね】と叫びながら叩き続けていれば、 この鳴き声に意味はないことに気がついたかもしれなかったのにである。 また、その後にありすとれみりゃに向かって大声で笑いかけたことは最悪だった。 その様子は人間から見たら、外敵を追い払って仲間に【ゆっくりしていってね】と、自らの縄張りを誇る様子にも見えた。 ゆっくりに対してかまっているのは虐めている子供達だけ。 大人たちが子供の頃に虐めたのは蛙や虫。 つまり、ゆっくりの生態はあまり人間達に深く知られていない。 考えすぎだよと笑っていた大人たちも、いつしか多数派に言いくるめられる。 どうせゆっくりは弱い。ならばこちらからしかけても、報復など恐れるほどではない。 今度はこいつらが徒党を組んで悪さをしでかすのではないか。 だったらこれは弱いものいじめではなく、駆除になる。駆除するなら早いほうがいい。 だから何も悪いことじゃない。 人間達はゆっくりに対して誤解した認識を持つ。。 無害な動物から人間の仲間へ、そして人間の仲間から害獣へ まりさの「赤鬼と青鬼」作戦に誤算があったとすれば、ゆっくりが人間に対して何の役も立たないということだった。 鬼は強く、仲間にすると心強い。用心棒としても、労働力としても使える。 しかしゆっくりは、仲間にしても何の役にも立たない。 人間の仲間というには、あまりにも無力だった。 あたりが静まり返った 「ゆっぐりじていでね!!(ま゛り゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!だずげでぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!)」 「ゆ~ぐぃ~~!(う゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁん゛!!!)」 命乞いの鳴き声を上げるカスタード饅と肉饅。人々の耳にはそうとしか聞こえていなかった。 「ゆっくりしていってね!」は、『ゆっくりやめてね』と自らの命の危機に対する哀れみを誘っているよう意味にしか聞こえなかった。 害獣の命乞いなど聞き入れるほど人間は甘くない。二匹は今、宴会の出し物になっていた。 人間達は、その深い味に舌鼓を打つ。 「ゆっくりしていってね!(まりさはほんもののまりさなの?)」 れいむがいきなりまりさに対して問いかける。 目は血走り、その声は禍々しい。 「ゆっくりしていってね!ゆっくり!(まりさはまりさだよ!どうしちゃったのれいむ!)」 まりさはあわてて否定する。どうしてこのような質問をされたかわからない。 「ゆっくり!ゆっくり!(ほんもののまりさならみんなをたすけにきてくれたよ! おまえはたすけにきてくれなかったよ!)」 3日前、かなわないのにひたすら人間に立ち向っていったまりさ。 2日前、悪行の限りを尽くして去っていったまりさ。 れいむは、悪さをしたまりさは別のまりさと思い込むことで、自らの心のまりさを責める気持ちからから友達のまりさを守っていた。 「ゆぅ~!ゆゆぅ! (まりさはれいむのしってるまりさだよ!まりさがわるいことをして! みんながまりさをこらしめればにんげんのおともだちになれるとおもっていたんだよ!)」 まりさは自分の存在を否定されていた。それはひとりぼっちになることよりずっと辛い。 なんであんなことを考えたんだろうとまりさは自嘲する。余計なことをしなければみんな死ぬことはなかったのかもしれないのに。 「ゆっくり!ゆゆっくり!ゆっくりしていってね!(みんなしんじゃったよ!おまえのせいだよ!ゆっくりしね!)」 あの時一度も言わなかったまりさへの恨み言を惜しみなく繰り返すれいむ。 れいむは正気を失いつつあった。 「ゆっゆ!ゆぅゆ!(れいむだけでもたすけるよ!ゆっくりしないでたすけるよ!)」 まりさはかつて人間の子供に対して行ったようにれいむの籠に体当たりを繰り返す。 れいむはちょっとおかしくなってしまっただけ。そう自分に言い聞かせながら体当たりを繰り返す。 何度も、何度も、体がへこんでも何度も何度も。 しかしそのとき、まりさの体にはある異物があった。 あの赤鬼に食べさせられた「ごちそう」だ。 それは消化されず、ずっとまりさの体内に埋まっていた。 体内に大量の異物がある状態。 そのような状態で体当たりを繰り返した結果、 餡子と共に吐き出した。「ごちそう」を 《ちがう。これはちがう。まりさはなにもわるくない。おじさんが無理やりまりさに食べさせたから。 おいしくなかったよ。まりさはこんなことしないよ。にんげんをいじめたりしないよ。》 「ゆっくりしていってね!!(れいむ!ちがうの!これはちがうの!あのおじさんが・・・・)」 「ゆっくりしていってね!(ゆっくりだまってよ!!)」 《なんでこんなことになっちゃったんだろう。なにがいけなかったのかな。》 《人間に悪いことをしたから?青鬼になろうと思ったから?》 《おじさんのことを信じちゃったから?あの日ピクニックに行ったから?》 《まりさはただみんなにゆっくりしていってほしかっただけなのに》 「ゆっくりしていってね!ゆっくりしていってね!ゆっぐりじでいでね!ゆ゛っくり!ゆ゛っぐりぃぃぃぃぃ! (しらない!おまえなんてじらないよ!おま゛えなんてまりざじゃないよ!このばげもの!まりざをどごにや゛っだの! に゛ぜも゛の!!ま゛り゛ざを゛がぇぜぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!)」 そのとき、奇跡が起こった。自らの心が人間には伝わらないゆっくり。 しかし憎しみに狂ったれいむの怨嗟の声は、ゆっくりの言葉と人間の言葉に同じ意味を持たせた。 あの愛嬌のある姿はどこにもなく、地獄から響くような『鳴き声』をあげていた。それは屋敷の中にいる人間にも伝わった。 「ゆ゛っ゛ぐり゛じねえ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛゛ え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛ え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛ええ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え ゛え゛え゛゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛ !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 その表情はまさに『鬼』だった。 人間たちはこの声を聞きつけ、台所に駆け寄るとあたりに散らばる格子状に千切れた饅頭とそれに混ざった肉片を見る。 人間たちは先ほどまでの宴会で胃の中に入れたものを吐き出す。 次の日から、ゆっくりは【ゆっくりしていってね】という声で人を引きとめて襲うと伝えられることになる。 害獣に認定されていたのはほんの数時間ほど、今は化け物と呼ばれている。 かくして、赤鬼から逃げた青鬼は村から追い出され、誰にも相手にされず、後悔しながらゆっくり苦しみ続けることになりました ゆっくりまりさと鳴いた赤鬼 めでたし、めでたし
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前 ゆっくり達がゆっくりできるにはどうすればよかったか 言葉が通じずともただ媚び続け、ペットとして生きればよかったか それは否。中身が餡子で、何も世話しなくても光合成で育つ。そんな金のなる木を人間がペットとして扱うだろうか。 家畜にされることが関の山である。幸いなことに今までゆっくりは人間から隠れて生きていたので、殆ど捕まらなかった。 さらに人間に捕まえるのは人間の子供だったのですぐに弄ばれて殺されていた。よって光合成で育つということが知られていなかった。 人間がいないようなところを探して生きていけばよかったか。 ある意味正解。しかしあの森以外の環境では、日の光が当っていなかったり、昼間から妖怪が出没したり、 逆に見通しがよすぎて危険なため、この選択枝は除外される。 人間と戦えばよかったか 論外。人間の子供にさえも勝てないゆっくりに、大人相手に勝てるはずがない。あのまりさのように目的を達するために命をかけ、 渡り合っていける個体はほとんどいない。逆に人間の大人たちを本気にさせて、あっという間にまとめてお汁粉にされてしまうだろう。 つまり、人間に認められるしかないのである。そのため、まりさの考えは間違ってはいなかった。 言葉が届かないなら、行動で示せばいい。 しかし、人間に認められる。その難しさをまりさは知らなかった。 まりさはずりずりと体を引きずらせて森の中へと逃げていた。飛び跳ねる体力はもう残っていない。 だが、体内の餡子を4分の1程度失ったことで、無駄に餡子を撒き散らすことがなくなり、虫などがよってこなかった。 不幸中の幸いといえた。 まりさはつい先ほどまでの修羅場を回想した。殺さずに思いとどまってくれたれいむに感謝しながら はやくぱちゅりーをおそとにはこばなきゃ 青鬼になることを決めたときは別に死んでもいいかと思っていた。 でも、人間に追われたとき、いっぱい走ってどきどき苦しくて、体が裂けたときは動くたびにビロビロして気持ち悪くて、 人間達の怒鳴り声で耳がびりびりして怖かった。やっぱり死ぬのは嫌だった。 でも、これでみんなゆっくりできる。 人間のおじさんたちにはたくさん悪いことしちゃったな。ごめんなさいと言えなかった。 れみりゃを怖がらせちゃったな。あの子すぐに泣いちゃうのに。 ありすにはもう会っても口をきいてもらえないだろうな。あの泣き声は忘れられないと思う。 そしてれいむは・・・・・ううん・・・・考えるのはやめよう・・・・・・・・これからきっとゆっくりできるようになるんだ。 あとはまりさがみんなに会わなきゃいい。 そう思って帰り道を急ぐ。ずりずり、ずりずりと そのときまりさの後から、聞き覚えのある声がした。いつかまりさとれいむがピンチだったときに聞こえた、あの声だ。 「あんれぇ、おまえどうしたださ?こんなにぼろぼろで・・・・。また誰かに虐められただか・・・・・・・・・・ 体中べこべこじゃないか・・・・・・・・」 肩には藁の固まり、見上げるほどの巨体。あのときの大男だった。心配そうにまりさを見つめている。 まりさは光を失い、瞳の黒さが深くなった目で大男に視線を向ける。 「おじさん・・・・・・。まりさやったよ・・・・・・・・・・。みんながゆっくりできるよ・・・・ でも・・・・・・・・・・まりさわるいこになっちゃったよ・・・・・・・・・・・・・・・」 まりさは自嘲する。大男から目をそらし、ぱちゅりーのところを目指す。 大男のきれいな目がまぶしかった。 「そうはいってもなぁ・・・・そうだ!いいもんをくわせてやるべよ。体がへこんで力がでないんだろう?」 大男はまりさを片手でむんずとつかんだ。まりさの体を覆ってもお釣りが来るほどの大きな手だ。 「ゆぅぅぅ!?おじさんはなしてよ!まりさはゆっくりできないよ!」 「はっはっは。そうかうれしいか。わかった。お望みどおりゆっくりするべ。お前は友達をたすげよどずるいい子だがらな。 いい子は好ぎだよ。」 大男はまりさを持ち上げ、どしどしと足音を立てて運んでいく。 まりさは早くぱちゅりーを日の光の下に出さなけれなければいけなかったが、大男にまりさの言葉は通じていなかった。 日の光が少し傾くくらいまで大男は走った後、まりさは洞窟の中に招待されることになった。真っ暗で、じめじめとしていて、 あまりゆっくりしたくない。 そんなまりさを大男は最高のご馳走で迎えようとしていた。 しかしゆっくりは食べ物を消化できないので何を食べても吐き出してしまうだろうが。 何が出てくるのだろうか。これほどの大男だ。何を食べればこれほどまでに大きくなるのか興味があったのだろう。 食べきれないくらいたくさんの肉か。 まりさが丸呑みされるくらいのおおきな魚か。 以外にも、山菜の盛り合わせなのかもしれない。 まりさがそわそわと落ち着かない様子を見て、 大男はまりさが期待しているものだと思って、それに答えるかのようにでんっとおもてなしを置いた。 肉だった。 まりさほどの大きな肉の塊。 まりさと同じ形をしている まず人間が食べきれないくらいの大きさだった。 いや、たとえ量が少なくとも食べられないだろう。人間には 「おじさん・・・・これ・・・・・なに・・・・・・・・・」 目の前に置かれたものがぼんやりと見えてくる。その『顔』には見覚えがあった 「そうかそうか。味わって食べたいか。さぁ、ゆっくりと召し上がれ。」 それは3日前に嫌というほど見たあの『顔』だった。 「やべでぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!おじさん!ゆっぐりざぜでぇ!!」 歯を食いしばって食べないように持ちこたえるても、 まりさは裂けた口からぐいぐいと「ごちそう」を押し付けられる。 「ごちそう」のほっぺたは固く冷たく、つんとすっぱい匂いがした。 いつもれいむとほっぺたをくっつけあったときの柔らかさと餡子の甘い匂いはかけらも感じない。 反射的に「ごちそう」のほうを向くと、その白くにごった眼と目が合った。 「おじざんやべでぇ!おじざん!!おじざん!おじざん!おじざん!」 「遠慮することないべよ。なくほど喜ぶこともあるまいて、ほら、口をあけて。」 まりさは口をがばっと開けられ、無理やり「ごちそう」を押し込まれた。ゆっくりに共食いがあるとすれば、 このような光景が見えることであろう。 まりさは「ごちそう」の3分の1ほどと合体したような姿となっていた。 「ぴぎぃ゛ぃ゛ぃ゛ ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!!」 まりさは歯と舌を使って「ごちそう」を飲み込まないように必死に抵抗する。 まりさが普段はお友達としゃべるときにしか使わない口。そのため、人間の畑を荒らしたときに掘り出した野菜は固くて歯が痛かった。 「ごちそう」はそれよりもずっと固い。 口が塞がれ、息ができない。目の前がぼんやりともやがかかってくる。 「ほらほら、お前達も妖怪なんだからこれぐらい一気に食べないと。大きくなれないぞぉ。」 大男はまったく悪気がなかった。それもそのはずだった。大男はゆっくりのことを妖怪だと勘違いしていた。まりさは気づくべきだった。 目の前の大男が子供達を一方的に痛めつけたときの異常さを。それなのにきらきらとしたきれいな目をしていることを。 彼は、自分が悪いことをしているとは少したりとも思っていない。罪悪感に目を濁らせない。 「こいつらは悪い子だから遠慮することないべよ。いい子のお前達へのご褒美だよ。ちょっと古くなっているけどごめんな。 ほら、酒でも飲んでいっぱいやろうや。」 「ゆぐぐぐうぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐうぐぐぐぐうぐぐ!!!!!! ぐい、ぐい、まりさの頬にさらに無理やり押し込む。まりさは泣きながら吐き出そうとする。 光合成で生きていくゆっくり。口から食べ物を食べたことは一度もない。 まりさは思う。きれいなお花。かわいい虫達。大きな動物。みんなかわいかった。かっこよかった。 一緒にゆっくりする仲間達。人間ともこれから一緒にゆっくりできる。だけど、食べてしまったらゆっくりできない。 そうなったらもうお友達にはなれない。 「ゆ゛ひゅぅ!ゆ゛ゆ゛ぅ!ひゅ・・・・。ゆ゛っぐぅ・・・・・・・すぅ・・ぎ・・・・・・・」 ビリっと、まりさの頬が裂けていく。先ほど切れ目がついていた上に、無理やり押し込まれたからこうなってしまった。 大男はそこでようやく気がつく。 「ああ、ごめんごめん。うれしくてつい押しこんでしまっだや。ごめんな。痛かったべ。やっぱり無理やり食べさせるのはよぐないわ。」 大男はまりさから「ごちそう」を引き抜いた。「ごちそう」はべったりとまりさの唾液がついていた。 まりさは酸欠気味だった体に酸素を行きわたらせるように大きく息をする。まりさは安心した。おじさんはわかってくれた。 まりさは人間を食べたりなんかしないと。ぐったりとした顔でそう思ったところに 「やっぱり食べやすい大きさにしねえどな。ほら、わけてやるがらだんとぐえ。」 大男は酒に酔って顔を赤くしていた。その姿は例えるなら赤鬼だった。 いや、例える必要はない。その正体は紛れもない鬼。 鬼 強い力を持っていた妖怪の一族。卑怯な手を嫌い、誠実なものを好む。 また、いったん友人と認めた相手には敬意を表す。現在幻想郷には殆どおらず、大抵のものは鬼の国で生活している。 妖怪のため、人間も食べる。 なまはげ 東北にて語られている鬼。地方内でも伝承が細かく分かれる。怠け者を懲らしめ、災いをはらい祝福を与える。 人間に仕えていたが正月の十五日だけは里に下りて乱暴や略奪を行う。 そして悪い子をさらって食う。などと伝えられている。 幻想郷は外の世界で途絶え、忘れ去られつつあるものが流れ着く地。なまはげという有名な妖怪の中でも、 悪い子をさらって食うというあまり知られていない部類ものは、幻想郷にやってくる。 ついたばかりで未だ幻想郷の常識も知らず、ただ悪い子を捕まえて食べる鬼。それがこの大男の正体だった。 赤鬼は、これから先の人生で決して泣くことがない。そう確信を持って言い切れるような陽気な笑いを浮かべた。 《きもちわるい》 《きもちわるいよぉ》 まりさが開放されたのは、日が落ちた後であった。しんとした暗闇の中、 ずりっずりっと重くなった体を引きずってぱちゅりーの家を目指す。 その目は遠くしか見えておらず、何度も石で転げそうになる。この日は辛いことが起きすぎた。。 誰かと一緒にいないと壊れてしまいそうだった。誰かと一緒にゆっくりしたかった。 青鬼の決意はどこへやら、まりさは急ぐ。傷ついた体でずりっずりっと、暗い巣の中でひとりぼっちの友達のところに急ぐ。 けれどもその速度はとてもゆっくりしていた。 ぱちゅりーの家が見えた。最後に訪れたのはあの絵本を見に行ったときだった。 巣の外からもぱちゅりーが見えた。眼をつぶってゆっくりと動かない。 寝ているのだろうか。愛する友達に出会えてただうれしかったまりさ。 まりさは巣の中に飛び込む。目測を誤って入り口で体をぶつけてしまった。 まぬけなところをぱちゅりーに見せてしまったのかもしれない。 そう思ってぱちゅりーに近づく。 その顔は、髪と同じく、紫色だった。 ぱちゅりーはすでに息を引き取っていた。 誰もそばにおらず 誰も話しかけてこないで 誰も悲しむことなく 誰も知らずに たった一匹で静かにこの世を去った。 まりさはひとりぼっちになった。 絶望。まりさは二度とれいむ達とは会えなくなり、信じていたおじさんはゆっくりできない人だと知り、 おじさんとゆっくりしていたためにぱちゅりーは死んだ。そう、まりさはもうゆっくりできない。 青鬼になる その言葉の意味をまりさは理解したつもりだった。 誰とも会わずただ一匹で生きていく。 だが、その一文の決意を実行できる生き物はいない。 寂しさ。 まりさの餡子はその気持ちでいっぱいだった。 ちょっとだけ、みんなの様子を見に行こう。 会わないなら大丈夫。ただみんなが人間と仲良くしているところを見るだけ。 別にまりさが捕まったってもうみんなは人間の仲間。だから何も問題ない、 青鬼の決心は、完全に失われていた。 気がついたときには目の前には人間の里。里長の屋敷の前だった。まりさは夜の闇の中ふらふらと明かりにつられてやってきた。 辺りには誰もいない。新しい仲間の歓迎会を開いているのだろうか。 まりさが物陰から覗いた時、人間達はもう闇も深まってきた頃だというのに、明かりを贅沢に使って宴会していた。 酒をぐびりと一気に呑み、おわんに入ったおかずをガツガツ食べて、ガヤガヤと聞き分けられないほどの大音声で騒ぐ。 子供たちまでいた。子供達はお酒が飲めない代わりに、お菓子を食べている。 シュークリーム、エクレア、タルトと豊富な種類がそろっている。 人間達はご機嫌だった。ゆっくりしていない、人間独自の仲間との交流だった。 「たのしそう・・・・・・・・まりさもみんなとゆっくりしたいよ・・・・・・・・・・」 思わず口から漏れる偽らない本音。楽しかった日々。 「? みんなどこいったのかな?にんげんといっしょにゆっくりしているのかな?」 宴会の最中であるにも関わらず、歓迎されるべき主賓はどこにも見当たらなかった。 今頃人間達と一緒にお歌を歌って、ありすがへただとからかわれていると思った。 れみりゃが人間の子供と鬼ごっこをしていると思った。 れいむが人間とほっぺたを寄せ合ってゆっくりしていると思った。 しかしその姿は見当たらない。 《どこにいったんだろう・・・・・・》 まりさはそうっと忍び込み、みんなを探す。 最後に一回くらいは顔を見ておきたかった。一回だけ。一回だけ。 カタッ パタン カタッ パタン いくつもいくつも部屋を空ける。しかし見当たらない。どこにもいない。 おかしい。何か変だ。 まりさはようやく事態の異常さに気がつく。いや、本当は気づいてた。誰もいないのはおかしいと。 ただ認めたくなかった。さっきのような、あのおじさんに裏切られたときのような感覚がしていることを。 本当だったら聞こえるみんなの笑い声がしない。 「・・・・・・・・・・・・・・・・よ・・・・・・・・・・・・・・・・し・・・・・・」 どこからか声が聞こえたような気がする。 「・・・・ゆ・・・・・・・・・・てよ・・・・・・・・・・・・り・・・・・・・・し・・・・・・・・・・・ い・・・・・・・・・・・・・・よ・・・・・」 聞こえた。気のせいじゃなかった。これは紛れもなくれいむの声だった。 まりさはずりっずりっずりっと、れいむの声がするほうをゆっくり目指す。 最後に大好きな友達の幸せな顔を見るために そしてまりさはある部屋の前で立ち止まった。 そこは、台所だった。 奥から聞こえてくるれいむの声。その声はかすれていた。 「ゆっ・・・・・・・・・・・・くり・・・・・・・・・し・・・・い・・・・よ・ たす・・・・・・よ・・・・・・・・・・・・・り・・・・・・・・・・・さ・・・・・・・じ・・さ・・・ん」 「れいむ!まりさだよ!どうしたのれいむ!」 まりさはれいむとついに再会する。 最後にあれほどひどい別れ方をしたにもかかわらず、まりさはれいむへと何のためらいもなく駆け寄る。 まりさはれいむな事情をわかってくれていると信じていた。それはあまりにも都合のいい事考え方をする饅頭だった。 いや、実際れいむは事情をわかっていたつもりだった。しかし今ある状況はまりさのせいによって起こったこと。 れいむは、格子状の籠の中に閉じ込められていた。 「だれ・・・・・・・・・まりさ・・?」 「まりさだよ!れいむどうしたの!みんなどこにいったの!ゆっくりおしえてね!!」 まりさがれいむへと駆け寄る。二匹をさえぎる籠にめいいっぱい近づく。 ほっぺたが押さえつけられるあまりに格子から少しはみ出ていた。 れいむは人間に捕まってはいるが、その体には傷一つなかった。 今は、まだ 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 れいむは目を伏せてそらす。そのまま十数秒が経過する。 二匹は黙りきり、台所は宴会場からの喧騒が響くのみとなってしまった。 業を煮やしてれいむに問い詰める 「ありすは?ぱちゅりーは?」 れいむは目を伏せたまま答える。その声は、あまりにも弱弱しい。 「みんなたべられ・・・・・・・・・・・・・ちゃったよ・・・・・・・・・・・」 《たべられた》 《たべられた!?》 《どうして?にんげんとおともだちになったんじゃなかったの!》 「れみりゃがさいしょにね・・・・・あたまをぽんっ・・・・・・・・・て・・・・・・きられて・・・・ ぐりぐりって・・・・なかみをむりやりとるの・・・・・・・・れみりやはね・・・・・・はねをばたばたさせて・・・ にげようとしたけど・・・・・・・・・・そうするとはねもきられちゃったの・・・・・・・・・・・・・・・・ ずっといたいいたいってないてて・・・すっごくおっきなこえで・・・・・・・うごかなくなるまでずっとないてたの・・・。」 《うそ》 「ありすはもっとひどかったよ・・・・・・・・・・・かみのけをぜんぶきられて、・・・・べりっ・・・・・・・・・ てかわをはがされたの・・・・・・・・・・・いちまいずつ・・・・・・・・・・いちまいずつ・・・・・・・・・・ ありすは・・・まりさ・・まりさって・・・・・・・・・ずっとよんでたよ・・・・・・・・まりさがたすけてくれるって・・・ ずっと・・・・・・・・しんじてた・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。。。・・・・ おじさんたちはね・・それをみていて・いっぱいわらってた・・・・・・・れみりゃとありすをおいしそうにたべてたの・・ 《うそだよ》 「ほら・・・・れみりゃはそこにいるよ・・・・・・・・・・」 そこに転がっていたのは、かつてれみりゃと呼ばれていた肉まんの皮部分だった。 あのとき、悪さをするまりさを追い払ったれいむ。そのとき人間にはどのように見えていたのか。 「ゆっくりしていってね!(みんなもうだいじょうぶだよ!!)」 リボンのゆっくりは仲間のいる方向に笑いかける。その表情は人間達にも見えた。満面の笑み。 終止無言だった先ほどとは対照的に明るすぎる声で二匹へと呼びかける。 その声は人間達には勝ち誇り、自らの領土を主張するように聞こえた。 人間達は事情を知らなかった。 そのとき、一人の男が水をさすようにつぶやいた 「こいつら、今も【ゆっくりしていってね】って言いつづけているから、里での縄張り争いしただけだったんじゃないか」 -言われたとおりゆっくりするよ。俺達が満足するまでね。- -ゆっくりゆっくりうるさいなぁ、お前から先に苛めてやろうか。- -ん~、いい声で鳴くなあこいつら。少しワンパターンだけど、やっぱりいい声するや。発音の変化がいいね。濁音がついて- -せっかくだけど、ゆっくりしている暇はないだべ- -それににんげんってはなしがつうじないのよ!いきなりつぶされたおともだちもおおいの!- この世界には、ルールがあった。 この世界では、他の世界とひとつ異なるところがある この世界では、ゆっくりの言葉は人間にはある一つの言葉とそれを含む単語にしか聞こえない。 その言葉とは 【ゆっくりしていってね】 ゆっくり達は自分達の言葉がこうして聞こえているのは知らない。 また、人間の言葉は、ゆっくりにとってはうなり声に聞こえる。 つまり、ゆっくり達が火にあぶられようが、壁に叩きつけられようが、切り刻まれようが、人間と友達になりたかろうが、 自分達の意思を人間に伝える方法は存在しないのである。 【ゆっくりしていってね】 人間には鳥や虫のような【鳴き声】にしか聞こえないそれも、あの状況ではある先入観を抱かせることになった。 その言葉の持つ意味が曲解されていく。 あのとき、れいむはまりさに向かって黙りきったまま体当たりを繰り返してしまった。れいむが大好きだったまりさ。 そのまりさへと一言でも責めたら取り返しのつかないことを言ってしまうと思ったれいむ。 だが、人間の目にはれいむがまりさに友好を求めるかのような【鳴き声】を出さないことから、 リボンのゆっくりが、帽子のゆっくりが羽を持ったゆっくりとヘアバンドをつけた ゆっくりにじゃれていたところをいきなりたたき出したようにも見えた。 れいむが【ゆっくりしていってね】と叫びながら叩き続けていれば、 この鳴き声に意味はないことに気がついたかもしれなかったのにである。 また、その後にありすとれみりゃに向かって大声で笑いかけたことは最悪だった。 その様子は人間から見たら、外敵を追い払って仲間に【ゆっくりしていってね】と、自らの縄張りを誇る様子にも見えた。 ゆっくりに対してかまっているのは虐めている子供達だけ。 大人たちが子供の頃に虐めたのは蛙や虫。 つまり、ゆっくりの生態はあまり人間達に深く知られていない。 考えすぎだよと笑っていた大人たちも、いつしか多数派に言いくるめられる。 どうせゆっくりは弱い。ならばこちらからしかけても、報復など恐れるほどではない。 今度はこいつらが徒党を組んで悪さをしでかすのではないか。 だったらこれは弱いものいじめではなく、駆除になる。駆除するなら早いほうがいい。 だから何も悪いことじゃない。 人間達はゆっくりに対して誤解した認識を持つ。。 無害な動物から人間の仲間へ、そして人間の仲間から害獣へ まりさの「赤鬼と青鬼」作戦に誤算があったとすれば、ゆっくりが人間に対して何の役も立たないということだった。 鬼は強く、仲間にすると心強い。用心棒としても、労働力としても使える。 しかしゆっくりは、仲間にしても何の役にも立たない。 人間の仲間というには、あまりにも無力だった。 あたりが静まり返った 「ゆっぐりじていでね!!(ま゛り゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!だずげでぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!)」 「ゆ~ぐぃ~~!(う゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁん゛!!!)」 命乞いの鳴き声を上げるカスタード饅と肉饅。人々の耳にはそうとしか聞こえていなかった。 「ゆっくりしていってね!」は、『ゆっくりやめてね』と自らの命の危機に対する哀れみを誘っているよう意味にしか聞こえなかった。 害獣の命乞いなど聞き入れるほど人間は甘くない。二匹は今、宴会の出し物になっていた。 人間達は、その深い味に舌鼓を打つ。 「ゆっくりしていってね!(まりさはほんもののまりさなの?)」 れいむがいきなりまりさに対して問いかける。 目は血走り、その声は禍々しい。 「ゆっくりしていってね!ゆっくり!(まりさはまりさだよ!どうしちゃったのれいむ!)」 まりさはあわてて否定する。どうしてこのような質問をされたかわからない。 「ゆっくり!ゆっくり!(ほんもののまりさならみんなをたすけにきてくれたよ! おまえはたすけにきてくれなかったよ!)」 3日前、かなわないのにひたすら人間に立ち向っていったまりさ。 2日前、悪行の限りを尽くして去っていったまりさ。 れいむは、悪さをしたまりさは別のまりさと思い込むことで、自らの心のまりさを責める気持ちからから友達のまりさを守っていた。 「ゆぅ~!ゆゆぅ! (まりさはれいむのしってるまりさだよ!まりさがわるいことをして! みんながまりさをこらしめればにんげんのおともだちになれるとおもっていたんだよ!)」 まりさは自分の存在を否定されていた。それはひとりぼっちになることよりずっと辛い。 なんであんなことを考えたんだろうとまりさは自嘲する。余計なことをしなければみんな死ぬことはなかったのかもしれないのに。 「ゆっくり!ゆゆっくり!ゆっくりしていってね!(みんなしんじゃったよ!おまえのせいだよ!ゆっくりしね!)」 あの時一度も言わなかったまりさへの恨み言を惜しみなく繰り返すれいむ。 れいむは正気を失いつつあった。 「ゆっゆ!ゆぅゆ!(れいむだけでもたすけるよ!ゆっくりしないでたすけるよ!)」 まりさはかつて人間の子供に対して行ったようにれいむの籠に体当たりを繰り返す。 れいむはちょっとおかしくなってしまっただけ。そう自分に言い聞かせながら体当たりを繰り返す。 何度も、何度も、体がへこんでも何度も何度も。 しかしそのとき、まりさの体にはある異物があった。 あの赤鬼に食べさせられた「ごちそう」だ。 それは消化されず、ずっとまりさの体内に埋まっていた。 体内に大量の異物がある状態。 そのような状態で体当たりを繰り返した結果、 餡子と共に吐き出した。「ごちそう」を 《ちがう。これはちがう。まりさはなにもわるくない。おじさんが無理やりまりさに食べさせたから。 おいしくなかったよ。まりさはこんなことしないよ。にんげんをいじめたりしないよ。》 「ゆっくりしていってね!!(れいむ!ちがうの!これはちがうの!あのおじさんが・・・・)」 「ゆっくりしていってね!(ゆっくりだまってよ!!)」 《なんでこんなことになっちゃったんだろう。なにがいけなかったのかな。》 《人間に悪いことをしたから?青鬼になろうと思ったから?》 《おじさんのことを信じちゃったから?あの日ピクニックに行ったから?》 《まりさはただみんなにゆっくりしていってほしかっただけなのに》 「ゆっくりしていってね!ゆっくりしていってね!ゆっぐりじでいでね!ゆ゛っくり!ゆ゛っぐりぃぃぃぃぃ! (しらない!おまえなんてじらないよ!おま゛えなんてまりざじゃないよ!このばげもの!まりざをどごにや゛っだの! に゛ぜも゛の!!ま゛り゛ざを゛がぇぜぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!)」 そのとき、奇跡が起こった。自らの心が人間には伝わらないゆっくり。 しかし憎しみに狂ったれいむの怨嗟の声は、ゆっくりの言葉と人間の言葉に同じ意味を持たせた。 あの愛嬌のある姿はどこにもなく、地獄から響くような『鳴き声』をあげていた。それは屋敷の中にいる人間にも伝わった。 「ゆ゛っ゛ぐり゛じねえ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛゛ え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛ え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛ええ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え ゛え゛え゛゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛ !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 その表情はまさに『鬼』だった。 人間たちはこの声を聞きつけ、台所に駆け寄るとあたりに散らばる格子状に千切れた饅頭とそれに混ざった肉片を見る。 人間たちは先ほどまでの宴会で胃の中に入れたものを吐き出す。 次の日から、ゆっくりは【ゆっくりしていってね】という声で人を引きとめて襲うと伝えられることになる。 害獣に認定されていたのはほんの数時間ほど、今は化け物と呼ばれている。 かくして、赤鬼から逃げた青鬼は村から追い出され、誰にも相手にされず、後悔しながらゆっくり苦しみ続けることになりました ゆっくりまりさと鳴いた赤鬼 めでたし、めでたし 著 抹茶アイス このSSに感想を付ける
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「ゆがあああ!もうゆるざないよ!まりざだぢはずっどゆっぐりさぜでやるうう!」 衝動に任せて、都会派の矜持をかなぐり捨てて叫ぶありす。 もはや子まりさ達に対する家族の情など微塵も残っていない。 あるのは異様な姿になっても都会派でゆっくりしていた我が子を奪った悪魔への憎しみだけだった。 「れいぱーがこわいこといってるよ!」 「おお、こわいこわい」 「だいじょうぶだよ!おにーしゃんがあのれいぱーはうごけないっていってたよ!」 子まりさ達は自分よりも数段大きいありすに憎悪の念をぶつけられてなお涼しい顔。 自分達にだって大きくて強い親がいて、それ以上にいざとなったらあの男が守ってくれると思っているのだろう。 にやにやと笑みを浮かべてありすの方を横目で見やりながら、3匹で何か話し合いをしている。 「まりしゃ!やっぱりれいぱーはやっつけようね!」 「みんなであまあまさんをむーしゃむーしゃしようね!」 「おうちもおおきくなるね!とってもゆっくちできるね!」 元気良く不穏当なことを口走りながら3匹はありすのほうに振り向く。 どの子まりさも口から涎を垂らしながら、あくまでも純真な丸っこい瞳をきらきらと輝かせながら。 ぽいんぽいんとどこか間抜けな音を立てて、ゆっくりとありすに近づいてきた。 「ゆっくりできないれいぱーはゆっくちちんでね!」 「「ゆっくちちんでね!」」 そう言ってどこか攻撃的な笑みを浮かべる3匹の子まりさ。 しかし、彼女達は気づいていなかった。 自分達にもその笑顔が向けられていることを。 「ゆっくりしぬのはおちびちゃんたちだよ!」 「ゆ゛っ!?」 「「ゆっくちー!お、おかーしゃん!?」」 いつの間にやら彼女達の後ろにいたまりさが長女子まりさを問答無用に踏み潰した。 自分よりはるかに大きい成体のまりさにのしかかられた彼女は、苦しむ暇すらなかっただろう。 ある意味で彼女は幸せだった。 「お、おかーしゃん!どうちてこんなこどしゅるのおおおお!?」 「しょーだよ!まりしゃたちなにもわるいことちてないよ!?」 「ゆっくりだまってね!おちびちゃんたちはずっとゆっくりするんだよ!」 大声で宣言しながら小さく跳躍したまりさは次女まりさを噛み千切る。 問答無用の一撃は次女まりさをほぼ真っ二つにし、口の中に入ったものは咀嚼されずに吐き出された。 彼女は自分の半身を見て呆然とした表情を浮かべたまま、息絶えた。 「ゆゆっ!や、やめてね!?ゆっくりやめてね!?」 「まりさがやめてっていったときにやめなかったこはだれ?」 「やだぁ!?ずっとゆっぐぢやぢゃああああ!?」 残された三女まりさは逃げ道のないケージの中で、唯一の可能性を求めて一心不乱に跳ねる。 彼女の向かう先にあるものは、かつては母と慕った、お面の男曰くゆっくり出来ないれいぱー。 散々罵倒したけれど、赤ありすを食べたけれど、きっとたったひとりの子どもなんだから助けてくれるはず。 そう信じてありすの頬にへばりつこうとした瞬間、頬を膨らませての威嚇をされてしまった。 「ゆぐっ!ど、どほぢぢぇぇ!?」 「おちびちゃんをたべたいなかもののゆっくりはありすのこどもじゃないわ!」 「ゆううううううううう!ゆっくぢぢねぇ!?ゆっくぢごろぢのれいぱーはゆっぐぢぢね!?」 「そうだね、おちびちゃんのいうとおりだね!ゆっくりごろしするわるいこはゆっくりしんでね!」 直後、鬼の形相というにはいささか間抜けな表情で呪詛の言葉を吐く三女まりさをまりさの影が覆い隠した。 「ま、まりさぁ・・・!」 ありすはただただ嬉しかった。 まりさが最後の最後で自分を助けてくれたことが。 子ども達は全員死んでしまったけれど、また産めば良いんだ。 飼い主の男性の家で、まりさとずっとゆっくりして、もっとゆっくりした赤ちゃんを産もう。 「ゆふんっ!これでれいぱーのこどもはみんなゆっくりしたよ!」 そんなありすの夢想をまりさは相変わらず攻撃的な笑みを浮かべたまま打ち砕いた。 彼女の目には紛れもなくありすに対する憎悪の色が宿っている。 「ゆぅ・・・?ど、どういうことなの?」 かつてのパートナーの口から出た予想外の言葉に戸惑うありす。 彼女を一瞥してから、まりさはいつもお面の男が出入りするドアを見る。 彼の姿がそこにないことを確認した所で、再びありすを見ておもむろに口を開いた。 「ゆっくりおしえてあげるよ!まりさはね、ありすがだいきらいだったんだよ!」 「ゆゆっ!?そ、そんなのうそよ!?」 「うそじゃないよ!まりさはありすのせいでずっとゆっくりできなかったんだよ!」 ありすに向かって怒鳴りつけるように喋りながら、まりさは2,3度その場で跳躍する。 人間で言う所の地団駄を踏むに相当する動作なのだろう。 いつもは垂れ下がっている目じりをもわずかに吊り上げて、全身で怒りを表現している。 「まりさはね、ありすとおんなじくきさんからうまれたんだよ!」 「ゆゆっ!?そ、そんなの・・・」 「ゆっくりだまっててね!でも、まりさはおにーさんのおうちでおおきくなったんだよ!」 ありすはまりさの言葉が信じられず、困惑していた。 確かにありすの母に男性のまりさがレイプされて生まれたのがありすなのだから、まりさの姉妹がいても不思議ではない。 しかし、ならどうして生まれたその日、まりさ種の姉妹の姿を見ることが出来なかったのだろうか? 「おにーさんのおうちで、ずっとずっと・・・まりさはゆっくりできなかったんだよ!?」 「お、おにー・・・さん?」 「ありすのおにーさんじゃないよ!おめんのおにーさんだよ!」 その一言で、ありすはまりさの生い立ちをなんとなく理解した。 彼女もまたありすと同じ日に生まれ、誰かに引き取られた姉妹の1匹ということだ。 だが、それでもまだ疑問は沢山あり、矛盾もいくつか存在する。 「ど、どうして・・・ありずとゆっくぢしでくれたの?」 まりさの説明では彼女が今まで仲良くしていた理由がまったく分からない。 だからこそ、ありすはドアの方を見て男がいないことを確認すると、その質問をぶつけた。 あの男に脅されているのかも知れない。そんな淡い期待を込めて。 「おにーさんとのおやくそくだよ!」 「お、おやくそく・・・?」 「そうだよ!ありすをとってもゆっくりできなくするためなんだよ!」 ゆっくり出来なくするために一緒にゆっくりする。 矛盾しているようにも聞こえるが、要するに信頼を裏切られたときの絶望感を味あわせようということだろう。 その結果、ありすは我が子を我が子が食らうという信じがたいものを見せ付けられたのだ。 「ゆっくりりかいしたよ・・・で、でもまだゆっくりききたいことがあ・・・」 「ゆっくりだまってね!もうおはなしすることはないんだよ!」 言い終えるが早いか、ありすに触れるほど近くまで跳ねてきたまりさは彼女の頬に噛み付く。 ありすはその動作が攻撃であったことにさえ気づかずにぼーっとまりさの口元を見つめる。 そしてペッ、と吐き出されたものの正体が自分の皮であることを確認して、ようやく悲鳴を上げた。 「ゆああ゛あ゛あああ゛あ゛あ!ありぢゅのほっべさんがああ゛あ゛あ!?」 「ゆっくりしずかにしてね!」 「ゆぐっ!?」 そこにすかさず強烈な体当たり。 底部が焼かれていて踏ん張ることの出来ないありすはころんと転んでしまう。 焼け焦げた底部をまりさのほうに晒した格好で、何とか動かせる頬などを必死に動かすて起き上がろうとする。 が、何の意味も成さない。 「おお、みじめみじめ」 「ゆぐぅ!み、みな゛いでよぉ・・・ごのいながものぉ!?」 「まっくろあんよのありすよりはとかいてきだよ!ゆっくりりかいしてね!」 そう言いながら、まりさは再び彼女に体当たりを仕掛ける。 ありすはは仰向けの体勢からうつ伏せにさせられ、床と口づけする羽目になる。 地力で起き上がることも出来ず、舌と口を使って何とか横を向こうとするが・・・ 「ゆひぃ!?」 まりさに噛み千切られた頬が床と接触し、激痛となってありすを襲った。 痛みのあまりにありすは嗚咽を漏らし、めそめそと泣き始める。 そんな姿をまりさは薄ら笑いを浮かべたままただじっと見守っている。 「ゆっぐ・・・ゆひぃ・・・。やぢゃぁ・・・おうぢ、かえるぅ・・・」 「ありすにかえるおうちなんてないよ!ありすはここでずっとゆっくりするんだよ!」 「ゆっ・・・ゆぇ、お、おに゛ーさぁん・・・」 最後の希望である飼い主の男性に助けを求めるありす。 その直後、ケージのある部屋のドアがゆっくりと開いて・・・ 「いや、今頃くさい飯食ってるはずだから」 お面の男がのっそりと姿を現した。 「おお、まりさ。ついに話したのか?」 「そうだよ!すごくゆっくりできないかおしてたよ!」 「そりゃそうだろうな。そいつの飼い主もそんな顔してたよ」 あの馬鹿面は傑作だった、と男は大笑いする。 つられてまりさも一緒に大笑いする。 「ゆうううううう!あ、あぢずのおにーざんのわるぐぢいわな゛いでね!?」 「断る。お前の飼い主はでーべーそー」 「ありすのおにーさんはでーべーそー」 「「げらげらげらげらげらげらげらげらげら!」」 床に横むけに倒れた格好のまま憤るありすを指差して男とまりさはさっき以上に大笑い。 しかし、その爆笑は突然終わり、男は冷めた声でまりさに命令した。 「もうそいつには飽きた。まりさ、さっさと潰せ」 「ゆっくりりかいしたよ!」 「あ、あやばりなさいよ゛!おにーざんにあやばっでね!?」 これぞゆっくりといった笑みを浮かべ、彼女に飛び掛るまりさ。 そんな彼女と男に向かってありすは吼える。 彼女達がその言葉を聞き入れるはずもなく、まりさはありすの皮を噛み千切った。 「ゆびぃッ!?」 「ありすはゆっくりしんでね!」 「そうだ。ありす、飼い主の悪口を言ったらゆっくりさせてやるぞ?」 口調だけでこれと言った意図のない思い付きだと分かるその言葉。 が、ありすにとって男性はまりさに裏切られた今となっては唯一無二の家族のような存在。 彼の悪口など言えるはずもなかった。 「そ゛、ぞんなの゛・・・どかいは゛ぢゃ、ないわ゛・・・!」 「・・・レイパーの癖に頑張るねぇ。今まで見た来た連中よりは優秀かも知れないな」 「ありずは、でいばーじゃ・・・ないわ゛よ!」 男に対する怒りが痛みを忘れさせるのか、まりさが噛み付いても悲鳴のひとつも上げない。 ただ彼の方を睨みつけたまま、延々と「いなかもの」だの「ゆっくりしてない」だのと罵倒を繰り返す。 「っち・・・優秀過ぎてつまらないな」 「さ、さわら゛だいでっ・・・ゆぶっ!?」 ありすの強情に業を煮やした男はケージからありすを引っ張り出すと、容赦なく床に叩きつける。 そして、ありすが二度と動かなくなるまでひたすら彼女を蹴り飛ばし続けた。 ありすが死んだ日から2週間ほど経ったある日。 「さあ、まりさ・・・行こうか?」 「ゆっくりついていくよ!」 男に抱きかかえられたまりさは満面の笑みを浮かべていた。 ありすは死んだ、これでようやくまりさは本当にゆっくりした生活を送ることが出来る、と。 自身の幸福な未来を信じ、幸せな家庭を想像して頬を緩めていた。 「おにーさん!まりさのはにーはどんなこなの?」 「・・・会ってからのお楽しみだ。でも、とってもゆっくりした子だぞ?」 「ゆぅうぅぅぅぅ!まりさ、どきどきしてきたよ!」 男と話しながら彼がまりさのためだけに連れてきたというハニーのいる部屋へと向かう。 彼のいつもと違ってもったいぶったゆっくりとした足取りに言おうなく期待感が高まってゆく。 素敵なパートナーとのすっきりーを想像するだけで思わず目尻が下がってしまう。 「おにーさん、ゆっくりいそいでね!」 「そう慌てるなよ。あと少しなんだから」 「ゆぅぅ・・・ゆっくりりかいしたよ」 男にこれ以上わがままを言ってはいけないと判断したまりさは少しだけ落ち込む。 それでもはやる気持ちを抑えきれないらしく、彼の腕の中でそわそわと底部や頬、口を動かしている。 「ついたぞ」 「ゆ~っ!ゆっくりたのしみだよ!」 やがて、男の足が止まった。 彼の右手がドアノブを掴むのを見つめながらまりさは頭の中で最初の挨拶の予行演習を始める。 もっとも、満面の笑みを浮かべて元気良く「ゆっくりしていってね!」と挨拶するだけのことなのだが。 ゆっくりとドアが開き、まりさの視界に清潔な白い部屋と丸いシルエットをした金髪のゆっくりの姿が飛び込んできた。 →ありす虐待エンドレス1へ このSSに感想をつける
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前 ゆっくり達がゆっくりできるにはどうすればよかったか 言葉が通じずともただ媚び続け、ペットとして生きればよかったか それは否。中身が餡子で、何も世話しなくても光合成で育つ。そんな金のなる木を人間がペットとして扱うだろうか。 家畜にされることが関の山である。幸いなことに今までゆっくりは人間から隠れて生きていたので、殆ど捕まらなかった。 さらに人間に捕まえるのは人間の子供だったのですぐに弄ばれて殺されていた。よって光合成で育つということが知られていなかった。 人間がいないようなところを探して生きていけばよかったか。 ある意味正解。しかしあの森以外の環境では、日の光が当っていなかったり、昼間から妖怪が出没したり、 逆に見通しがよすぎて危険なため、この選択枝は除外される。 人間と戦えばよかったか 論外。人間の子供にさえも勝てないゆっくりに、大人相手に勝てるはずがない。あのまりさのように目的を達するために命をかけ、 渡り合っていける個体はほとんどいない。逆に人間の大人たちを本気にさせて、あっという間にまとめてお汁粉にされてしまうだろう。 つまり、人間に認められるしかないのである。そのため、まりさの考えは間違ってはいなかった。 言葉が届かないなら、行動で示せばいい。 しかし、人間に認められる。その難しさをまりさは知らなかった。 まりさはずりずりと体を引きずらせて森の中へと逃げていた。飛び跳ねる体力はもう残っていない。 だが、体内の餡子を4分の1程度失ったことで、無駄に餡子を撒き散らすことがなくなり、虫などがよってこなかった。 不幸中の幸いといえた。 まりさはつい先ほどまでの修羅場を回想した。殺さずに思いとどまってくれたれいむに感謝しながら はやくぱちゅりーをおそとにはこばなきゃ 青鬼になることを決めたときは別に死んでもいいかと思っていた。 でも、人間に追われたとき、いっぱい走ってどきどき苦しくて、体が裂けたときは動くたびにビロビロして気持ち悪くて、 人間達の怒鳴り声で耳がびりびりして怖かった。やっぱり死ぬのは嫌だった。 でも、これでみんなゆっくりできる。 人間のおじさんたちにはたくさん悪いことしちゃったな。ごめんなさいと言えなかった。 れみりゃを怖がらせちゃったな。あの子すぐに泣いちゃうのに。 ありすにはもう会っても口をきいてもらえないだろうな。あの泣き声は忘れられないと思う。 そしてれいむは・・・・・ううん・・・・考えるのはやめよう・・・・・・・・これからきっとゆっくりできるようになるんだ。 あとはまりさがみんなに会わなきゃいい。 そう思って帰り道を急ぐ。ずりずり、ずりずりと そのときまりさの後から、聞き覚えのある声がした。いつかまりさとれいむがピンチだったときに聞こえた、あの声だ。 「あんれぇ、おまえどうしたださ?こんなにぼろぼろで・・・・。また誰かに虐められただか・・・・・・・・・・ 体中べこべこじゃないか・・・・・・・・」 肩には藁の固まり、見上げるほどの巨体。あのときの大男だった。心配そうにまりさを見つめている。 まりさは光を失い、瞳の黒さが深くなった目で大男に視線を向ける。 「おじさん・・・・・・。まりさやったよ・・・・・・・・・・。みんながゆっくりできるよ・・・・ でも・・・・・・・・・・まりさわるいこになっちゃったよ・・・・・・・・・・・・・・・」 まりさは自嘲する。大男から目をそらし、ぱちゅりーのところを目指す。 大男のきれいな目がまぶしかった。 「そうはいってもなぁ・・・・そうだ!いいもんをくわせてやるべよ。体がへこんで力がでないんだろう?」 大男はまりさを片手でむんずとつかんだ。まりさの体を覆ってもお釣りが来るほどの大きな手だ。 「ゆぅぅぅ!?おじさんはなしてよ!まりさはゆっくりできないよ!」 「はっはっは。そうかうれしいか。わかった。お望みどおりゆっくりするべ。お前は友達をたすげよどずるいい子だがらな。 いい子は好ぎだよ。」 大男はまりさを持ち上げ、どしどしと足音を立てて運んでいく。 まりさは早くぱちゅりーを日の光の下に出さなけれなければいけなかったが、大男にまりさの言葉は通じていなかった。 日の光が少し傾くくらいまで大男は走った後、まりさは洞窟の中に招待されることになった。真っ暗で、じめじめとしていて、 あまりゆっくりしたくない。 そんなまりさを大男は最高のご馳走で迎えようとしていた。 しかしゆっくりは食べ物を消化できないので何を食べても吐き出してしまうだろうが。 何が出てくるのだろうか。これほどの大男だ。何を食べればこれほどまでに大きくなるのか興味があったのだろう。 食べきれないくらいたくさんの肉か。 まりさが丸呑みされるくらいのおおきな魚か。 以外にも、山菜の盛り合わせなのかもしれない。 まりさがそわそわと落ち着かない様子を見て、 大男はまりさが期待しているものだと思って、それに答えるかのようにでんっとおもてなしを置いた。 肉だった。 まりさほどの大きな肉の塊。 まりさと同じ形をしている まず人間が食べきれないくらいの大きさだった。 いや、たとえ量が少なくとも食べられないだろう。人間には 「おじさん・・・・これ・・・・・なに・・・・・・・・・」 目の前に置かれたものがぼんやりと見えてくる。その『顔』には見覚えがあった 「そうかそうか。味わって食べたいか。さぁ、ゆっくりと召し上がれ。」 それは3日前に嫌というほど見たあの『顔』だった。 「やべでぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!おじさん!ゆっぐりざぜでぇ!!」 歯を食いしばって食べないように持ちこたえるても、 まりさは裂けた口からぐいぐいと「ごちそう」を押し付けられる。 「ごちそう」のほっぺたは固く冷たく、つんとすっぱい匂いがした。 いつもれいむとほっぺたをくっつけあったときの柔らかさと餡子の甘い匂いはかけらも感じない。 反射的に「ごちそう」のほうを向くと、その白くにごった眼と目が合った。 「おじざんやべでぇ!おじざん!!おじざん!おじざん!おじざん!」 「遠慮することないべよ。なくほど喜ぶこともあるまいて、ほら、口をあけて。」 まりさは口をがばっと開けられ、無理やり「ごちそう」を押し込まれた。ゆっくりに共食いがあるとすれば、 このような光景が見えることであろう。 まりさは「ごちそう」の3分の1ほどと合体したような姿となっていた。 「ぴぎぃ゛ぃ゛ぃ゛ ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!!」 まりさは歯と舌を使って「ごちそう」を飲み込まないように必死に抵抗する。 まりさが普段はお友達としゃべるときにしか使わない口。そのため、人間の畑を荒らしたときに掘り出した野菜は固くて歯が痛かった。 「ごちそう」はそれよりもずっと固い。 口が塞がれ、息ができない。目の前がぼんやりともやがかかってくる。 「ほらほら、お前達も妖怪なんだからこれぐらい一気に食べないと。大きくなれないぞぉ。」 大男はまったく悪気がなかった。それもそのはずだった。大男はゆっくりのことを妖怪だと勘違いしていた。まりさは気づくべきだった。 目の前の大男が子供達を一方的に痛めつけたときの異常さを。それなのにきらきらとしたきれいな目をしていることを。 彼は、自分が悪いことをしているとは少したりとも思っていない。罪悪感に目を濁らせない。 「こいつらは悪い子だから遠慮することないべよ。いい子のお前達へのご褒美だよ。ちょっと古くなっているけどごめんな。 ほら、酒でも飲んでいっぱいやろうや。」 「ゆぐぐぐうぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐうぐぐぐぐうぐぐ!!!!!! ぐい、ぐい、まりさの頬にさらに無理やり押し込む。まりさは泣きながら吐き出そうとする。 光合成で生きていくゆっくり。口から食べ物を食べたことは一度もない。 まりさは思う。きれいなお花。かわいい虫達。大きな動物。みんなかわいかった。かっこよかった。 一緒にゆっくりする仲間達。人間ともこれから一緒にゆっくりできる。だけど、食べてしまったらゆっくりできない。 そうなったらもうお友達にはなれない。 「ゆ゛ひゅぅ!ゆ゛ゆ゛ぅ!ひゅ・・・・。ゆ゛っぐぅ・・・・・・・すぅ・・ぎ・・・・・・・」 ビリっと、まりさの頬が裂けていく。先ほど切れ目がついていた上に、無理やり押し込まれたからこうなってしまった。 大男はそこでようやく気がつく。 「ああ、ごめんごめん。うれしくてつい押しこんでしまっだや。ごめんな。痛かったべ。やっぱり無理やり食べさせるのはよぐないわ。」 大男はまりさから「ごちそう」を引き抜いた。「ごちそう」はべったりとまりさの唾液がついていた。 まりさは酸欠気味だった体に酸素を行きわたらせるように大きく息をする。まりさは安心した。おじさんはわかってくれた。 まりさは人間を食べたりなんかしないと。ぐったりとした顔でそう思ったところに 「やっぱり食べやすい大きさにしねえどな。ほら、わけてやるがらだんとぐえ。」 大男は酒に酔って顔を赤くしていた。その姿は例えるなら赤鬼だった。 いや、例える必要はない。その正体は紛れもない鬼。 鬼 強い力を持っていた妖怪の一族。卑怯な手を嫌い、誠実なものを好む。 また、いったん友人と認めた相手には敬意を表す。現在幻想郷には殆どおらず、大抵のものは鬼の国で生活している。 妖怪のため、人間も食べる。 なまはげ 東北にて語られている鬼。地方内でも伝承が細かく分かれる。怠け者を懲らしめ、災いをはらい祝福を与える。 人間に仕えていたが正月の十五日だけは里に下りて乱暴や略奪を行う。 そして悪い子をさらって食う。などと伝えられている。 幻想郷は外の世界で途絶え、忘れ去られつつあるものが流れ着く地。なまはげという有名な妖怪の中でも、 悪い子をさらって食うというあまり知られていない部類ものは、幻想郷にやってくる。 ついたばかりで未だ幻想郷の常識も知らず、ただ悪い子を捕まえて食べる鬼。それがこの大男の正体だった。 赤鬼は、これから先の人生で決して泣くことがない。そう確信を持って言い切れるような陽気な笑いを浮かべた。 《きもちわるい》 《きもちわるいよぉ》 まりさが開放されたのは、日が落ちた後であった。しんとした暗闇の中、 ずりっずりっと重くなった体を引きずってぱちゅりーの家を目指す。 その目は遠くしか見えておらず、何度も石で転げそうになる。この日は辛いことが起きすぎた。。 誰かと一緒にいないと壊れてしまいそうだった。誰かと一緒にゆっくりしたかった。 青鬼の決意はどこへやら、まりさは急ぐ。傷ついた体でずりっずりっと、暗い巣の中でひとりぼっちの友達のところに急ぐ。 けれどもその速度はとてもゆっくりしていた。 ぱちゅりーの家が見えた。最後に訪れたのはあの絵本を見に行ったときだった。 巣の外からもぱちゅりーが見えた。眼をつぶってゆっくりと動かない。 寝ているのだろうか。愛する友達に出会えてただうれしかったまりさ。 まりさは巣の中に飛び込む。目測を誤って入り口で体をぶつけてしまった。 まぬけなところをぱちゅりーに見せてしまったのかもしれない。 そう思ってぱちゅりーに近づく。 その顔は、髪と同じく、紫色だった。 ぱちゅりーはすでに息を引き取っていた。 誰もそばにおらず 誰も話しかけてこないで 誰も悲しむことなく 誰も知らずに たった一匹で静かにこの世を去った。 まりさはひとりぼっちになった。 絶望。まりさは二度とれいむ達とは会えなくなり、信じていたおじさんはゆっくりできない人だと知り、 おじさんとゆっくりしていたためにぱちゅりーは死んだ。そう、まりさはもうゆっくりできない。 青鬼になる その言葉の意味をまりさは理解したつもりだった。 誰とも会わずただ一匹で生きていく。 だが、その一文の決意を実行できる生き物はいない。 寂しさ。 まりさの餡子はその気持ちでいっぱいだった。 ちょっとだけ、みんなの様子を見に行こう。 会わないなら大丈夫。ただみんなが人間と仲良くしているところを見るだけ。 別にまりさが捕まったってもうみんなは人間の仲間。だから何も問題ない、 青鬼の決心は、完全に失われていた。 気がついたときには目の前には人間の里。里長の屋敷の前だった。まりさは夜の闇の中ふらふらと明かりにつられてやってきた。 辺りには誰もいない。新しい仲間の歓迎会を開いているのだろうか。 まりさが物陰から覗いた時、人間達はもう闇も深まってきた頃だというのに、明かりを贅沢に使って宴会していた。 酒をぐびりと一気に呑み、おわんに入ったおかずをガツガツ食べて、ガヤガヤと聞き分けられないほどの大音声で騒ぐ。 子供たちまでいた。子供達はお酒が飲めない代わりに、お菓子を食べている。 シュークリーム、エクレア、タルトと豊富な種類がそろっている。 人間達はご機嫌だった。ゆっくりしていない、人間独自の仲間との交流だった。 「たのしそう・・・・・・・・まりさもみんなとゆっくりしたいよ・・・・・・・・・・」 思わず口から漏れる偽らない本音。楽しかった日々。 「? みんなどこいったのかな?にんげんといっしょにゆっくりしているのかな?」 宴会の最中であるにも関わらず、歓迎されるべき主賓はどこにも見当たらなかった。 今頃人間達と一緒にお歌を歌って、ありすがへただとからかわれていると思った。 れみりゃが人間の子供と鬼ごっこをしていると思った。 れいむが人間とほっぺたを寄せ合ってゆっくりしていると思った。 しかしその姿は見当たらない。 《どこにいったんだろう・・・・・・》 まりさはそうっと忍び込み、みんなを探す。 最後に一回くらいは顔を見ておきたかった。一回だけ。一回だけ。 カタッ パタン カタッ パタン いくつもいくつも部屋を空ける。しかし見当たらない。どこにもいない。 おかしい。何か変だ。 まりさはようやく事態の異常さに気がつく。いや、本当は気づいてた。誰もいないのはおかしいと。 ただ認めたくなかった。さっきのような、あのおじさんに裏切られたときのような感覚がしていることを。 本当だったら聞こえるみんなの笑い声がしない。 「・・・・・・・・・・・・・・・・よ・・・・・・・・・・・・・・・・し・・・・・・」 どこからか声が聞こえたような気がする。 「・・・・ゆ・・・・・・・・・・てよ・・・・・・・・・・・・り・・・・・・・・し・・・・・・・・・・・ い・・・・・・・・・・・・・・よ・・・・・」 聞こえた。気のせいじゃなかった。これは紛れもなくれいむの声だった。 まりさはずりっずりっずりっと、れいむの声がするほうをゆっくり目指す。 最後に大好きな友達の幸せな顔を見るために そしてまりさはある部屋の前で立ち止まった。 そこは、台所だった。 奥から聞こえてくるれいむの声。その声はかすれていた。 「ゆっ・・・・・・・・・・・・くり・・・・・・・・・し・・・・い・・・・よ・ たす・・・・・・よ・・・・・・・・・・・・・り・・・・・・・・・・・さ・・・・・・・じ・・さ・・・ん」 「れいむ!まりさだよ!どうしたのれいむ!」 まりさはれいむとついに再会する。 最後にあれほどひどい別れ方をしたにもかかわらず、まりさはれいむへと何のためらいもなく駆け寄る。 まりさはれいむな事情をわかってくれていると信じていた。それはあまりにも都合のいい事考え方をする饅頭だった。 いや、実際れいむは事情をわかっていたつもりだった。しかし今ある状況はまりさのせいによって起こったこと。 れいむは、格子状の籠の中に閉じ込められていた。 「だれ・・・・・・・・・まりさ・・?」 「まりさだよ!れいむどうしたの!みんなどこにいったの!ゆっくりおしえてね!!」 まりさがれいむへと駆け寄る。二匹をさえぎる籠にめいいっぱい近づく。 ほっぺたが押さえつけられるあまりに格子から少しはみ出ていた。 れいむは人間に捕まってはいるが、その体には傷一つなかった。 今は、まだ 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 れいむは目を伏せてそらす。そのまま十数秒が経過する。 二匹は黙りきり、台所は宴会場からの喧騒が響くのみとなってしまった。 業を煮やしてれいむに問い詰める 「ありすは?ぱちゅりーは?」 れいむは目を伏せたまま答える。その声は、あまりにも弱弱しい。 「みんなたべられ・・・・・・・・・・・・・ちゃったよ・・・・・・・・・・・」 《たべられた》 《たべられた!?》 《どうして?にんげんとおともだちになったんじゃなかったの!》 「れみりゃがさいしょにね・・・・・あたまをぽんっ・・・・・・・・・て・・・・・・きられて・・・・ ぐりぐりって・・・・なかみをむりやりとるの・・・・・・・・れみりやはね・・・・・・はねをばたばたさせて・・・ にげようとしたけど・・・・・・・・・・そうするとはねもきられちゃったの・・・・・・・・・・・・・・・・ ずっといたいいたいってないてて・・・すっごくおっきなこえで・・・・・・・うごかなくなるまでずっとないてたの・・・。」 《うそ》 「ありすはもっとひどかったよ・・・・・・・・・・・かみのけをぜんぶきられて、・・・・べりっ・・・・・・・・・ てかわをはがされたの・・・・・・・・・・・いちまいずつ・・・・・・・・・・いちまいずつ・・・・・・・・・・ ありすは・・・まりさ・・まりさって・・・・・・・・・ずっとよんでたよ・・・・・・・・まりさがたすけてくれるって・・・ ずっと・・・・・・・・しんじてた・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。。。・・・・ おじさんたちはね・・それをみていて・いっぱいわらってた・・・・・・・れみりゃとありすをおいしそうにたべてたの・・ 《うそだよ》 「ほら・・・・れみりゃはそこにいるよ・・・・・・・・・・」 そこに転がっていたのは、かつてれみりゃと呼ばれていた肉まんの皮部分だった。 あのとき、悪さをするまりさを追い払ったれいむ。そのとき人間にはどのように見えていたのか。 「ゆっくりしていってね!(みんなもうだいじょうぶだよ!!)」 リボンのゆっくりは仲間のいる方向に笑いかける。その表情は人間達にも見えた。満面の笑み。 終止無言だった先ほどとは対照的に明るすぎる声で二匹へと呼びかける。 その声は人間達には勝ち誇り、自らの領土を主張するように聞こえた。 人間達は事情を知らなかった。 そのとき、一人の男が水をさすようにつぶやいた 「こいつら、今も【ゆっくりしていってね】って言いつづけているから、里での縄張り争いしただけだったんじゃないか」 -言われたとおりゆっくりするよ。俺達が満足するまでね。- -ゆっくりゆっくりうるさいなぁ、お前から先に苛めてやろうか。- -ん~、いい声で鳴くなあこいつら。少しワンパターンだけど、やっぱりいい声するや。発音の変化がいいね。濁音がついて- -せっかくだけど、ゆっくりしている暇はないだべ- -それににんげんってはなしがつうじないのよ!いきなりつぶされたおともだちもおおいの!- この世界には、ルールがあった。 この世界では、他の世界とひとつ異なるところがある この世界では、ゆっくりの言葉は人間にはある一つの言葉とそれを含む単語にしか聞こえない。 その言葉とは 【ゆっくりしていってね】 ゆっくり達は自分達の言葉がこうして聞こえているのは知らない。 また、人間の言葉は、ゆっくりにとってはうなり声に聞こえる。 つまり、ゆっくり達が火にあぶられようが、壁に叩きつけられようが、切り刻まれようが、人間と友達になりたかろうが、 自分達の意思を人間に伝える方法は存在しないのである。 【ゆっくりしていってね】 人間には鳥や虫のような【鳴き声】にしか聞こえないそれも、あの状況ではある先入観を抱かせることになった。 その言葉の持つ意味が曲解されていく。 あのとき、れいむはまりさに向かって黙りきったまま体当たりを繰り返してしまった。れいむが大好きだったまりさ。 そのまりさへと一言でも責めたら取り返しのつかないことを言ってしまうと思ったれいむ。 だが、人間の目にはれいむがまりさに友好を求めるかのような【鳴き声】を出さないことから、 リボンのゆっくりが、帽子のゆっくりが羽を持ったゆっくりとヘアバンドをつけた ゆっくりにじゃれていたところをいきなりたたき出したようにも見えた。 れいむが【ゆっくりしていってね】と叫びながら叩き続けていれば、 この鳴き声に意味はないことに気がついたかもしれなかったのにである。 また、その後にありすとれみりゃに向かって大声で笑いかけたことは最悪だった。 その様子は人間から見たら、外敵を追い払って仲間に【ゆっくりしていってね】と、自らの縄張りを誇る様子にも見えた。 ゆっくりに対してかまっているのは虐めている子供達だけ。 大人たちが子供の頃に虐めたのは蛙や虫。 つまり、ゆっくりの生態はあまり人間達に深く知られていない。 考えすぎだよと笑っていた大人たちも、いつしか多数派に言いくるめられる。 どうせゆっくりは弱い。ならばこちらからしかけても、報復など恐れるほどではない。 今度はこいつらが徒党を組んで悪さをしでかすのではないか。 だったらこれは弱いものいじめではなく、駆除になる。駆除するなら早いほうがいい。 だから何も悪いことじゃない。 人間達はゆっくりに対して誤解した認識を持つ。。 無害な動物から人間の仲間へ、そして人間の仲間から害獣へ まりさの「赤鬼と青鬼」作戦に誤算があったとすれば、ゆっくりが人間に対して何の役も立たないということだった。 鬼は強く、仲間にすると心強い。用心棒としても、労働力としても使える。 しかしゆっくりは、仲間にしても何の役にも立たない。 人間の仲間というには、あまりにも無力だった。 あたりが静まり返った 「ゆっぐりじていでね!!(ま゛り゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!だずげでぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!)」 「ゆ~ぐぃ~~!(う゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁん゛!!!)」 命乞いの鳴き声を上げるカスタード饅と肉饅。人々の耳にはそうとしか聞こえていなかった。 「ゆっくりしていってね!」は、『ゆっくりやめてね』と自らの命の危機に対する哀れみを誘っているよう意味にしか聞こえなかった。 害獣の命乞いなど聞き入れるほど人間は甘くない。二匹は今、宴会の出し物になっていた。 人間達は、その深い味に舌鼓を打つ。 「ゆっくりしていってね!(まりさはほんもののまりさなの?)」 れいむがいきなりまりさに対して問いかける。 目は血走り、その声は禍々しい。 「ゆっくりしていってね!ゆっくり!(まりさはまりさだよ!どうしちゃったのれいむ!)」 まりさはあわてて否定する。どうしてこのような質問をされたかわからない。 「ゆっくり!ゆっくり!(ほんもののまりさならみんなをたすけにきてくれたよ! おまえはたすけにきてくれなかったよ!)」 3日前、かなわないのにひたすら人間に立ち向っていったまりさ。 2日前、悪行の限りを尽くして去っていったまりさ。 れいむは、悪さをしたまりさは別のまりさと思い込むことで、自らの心のまりさを責める気持ちからから友達のまりさを守っていた。 「ゆぅ~!ゆゆぅ! (まりさはれいむのしってるまりさだよ!まりさがわるいことをして! みんながまりさをこらしめればにんげんのおともだちになれるとおもっていたんだよ!)」 まりさは自分の存在を否定されていた。それはひとりぼっちになることよりずっと辛い。 なんであんなことを考えたんだろうとまりさは自嘲する。余計なことをしなければみんな死ぬことはなかったのかもしれないのに。 「ゆっくり!ゆゆっくり!ゆっくりしていってね!(みんなしんじゃったよ!おまえのせいだよ!ゆっくりしね!)」 あの時一度も言わなかったまりさへの恨み言を惜しみなく繰り返すれいむ。 れいむは正気を失いつつあった。 「ゆっゆ!ゆぅゆ!(れいむだけでもたすけるよ!ゆっくりしないでたすけるよ!)」 まりさはかつて人間の子供に対して行ったようにれいむの籠に体当たりを繰り返す。 れいむはちょっとおかしくなってしまっただけ。そう自分に言い聞かせながら体当たりを繰り返す。 何度も、何度も、体がへこんでも何度も何度も。 しかしそのとき、まりさの体にはある異物があった。 あの赤鬼に食べさせられた「ごちそう」だ。 それは消化されず、ずっとまりさの体内に埋まっていた。 体内に大量の異物がある状態。 そのような状態で体当たりを繰り返した結果、 餡子と共に吐き出した。「ごちそう」を 《ちがう。これはちがう。まりさはなにもわるくない。おじさんが無理やりまりさに食べさせたから。 おいしくなかったよ。まりさはこんなことしないよ。にんげんをいじめたりしないよ。》 「ゆっくりしていってね!!(れいむ!ちがうの!これはちがうの!あのおじさんが・・・・)」 「ゆっくりしていってね!(ゆっくりだまってよ!!)」 《なんでこんなことになっちゃったんだろう。なにがいけなかったのかな。》 《人間に悪いことをしたから?青鬼になろうと思ったから?》 《おじさんのことを信じちゃったから?あの日ピクニックに行ったから?》 《まりさはただみんなにゆっくりしていってほしかっただけなのに》 「ゆっくりしていってね!ゆっくりしていってね!ゆっぐりじでいでね!ゆ゛っくり!ゆ゛っぐりぃぃぃぃぃ! (しらない!おまえなんてじらないよ!おま゛えなんてまりざじゃないよ!このばげもの!まりざをどごにや゛っだの! に゛ぜも゛の!!ま゛り゛ざを゛がぇぜぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!)」 そのとき、奇跡が起こった。自らの心が人間には伝わらないゆっくり。 しかし憎しみに狂ったれいむの怨嗟の声は、ゆっくりの言葉と人間の言葉に同じ意味を持たせた。 あの愛嬌のある姿はどこにもなく、地獄から響くような『鳴き声』をあげていた。それは屋敷の中にいる人間にも伝わった。 「ゆ゛っ゛ぐり゛じねえ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛゛ え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛ え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛ええ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え ゛え゛え゛゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛ !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 その表情はまさに『鬼』だった。 人間たちはこの声を聞きつけ、台所に駆け寄るとあたりに散らばる格子状に千切れた饅頭とそれに混ざった肉片を見る。 人間たちは先ほどまでの宴会で胃の中に入れたものを吐き出す。 次の日から、ゆっくりは【ゆっくりしていってね】という声で人を引きとめて襲うと伝えられることになる。 害獣に認定されていたのはほんの数時間ほど、今は化け物と呼ばれている。 かくして、赤鬼から逃げた青鬼は村から追い出され、誰にも相手にされず、後悔しながらゆっくり苦しみ続けることになりました ゆっくりまりさと鳴いた赤鬼 めでたし、めでたし 著 抹茶アイス このSSに感想を付ける
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※冒頭のみ れいむとぱちぇりーには可愛い子宝が3匹いた 長女の子ぱちぇは、面倒見の良いお姉さん 次女の子れいむは、いつもおっちょこちょいだが家族を明るくしてくれる 末女の子れいむは、まだ赤ちゃん言葉も抜けない甘えん坊さんだ 夏のせせらぎで涼んでいる子供達を、寄り添う両親はうっとりと眺めていた ゆっくりの寿命は短い なぜならば簡素にしか作ることの出来ない巣に恐ろしい捕食者が侵入したり 思うように餌を集めれられなかったり、群れ同士のいざこざで命を落としてしまうからだ 大抵、巣立った成体は思うように生活できずに、家族もった者は食料を維持できずに 自然の厳しさと緩慢な性格から、長寿になる事は おろか子供を残す事すらたやすくない しかしこの家族は 決して家族を見捨てず愛に溢れたれいむと 常日頃と最愛のれいむと家族が幸せになるように思いをめぐらした思慮深いぱちぇりーによって すくすくと子供達は成長し 二人は今日までゆっくりと子供達と暮らすことが出来た ぱちぇはもう子供を生む体力はない、れいむも腹部に追った怪我ですっきりする事もできない 外敵から逃げ、凍える冬を越し、少ない食べ物で助け合い、過酷な数ヶ月を生き抜いた最初で最後の家族 自分達はそろそろずっとゆっくりする頃だろう 親しい知り合いはいないが、悲しんでくれる子供達がいる きっとただの餡子の塊となって、この世界から消えてしまうだろうが 子供達の心の中で自分達は生き続ける 可愛い子供達、自分達の知識と愛を注いだ子供達 きっと賢く逞しく育って、孫を ひ孫を成していくだろう 最愛の恋人と子供達に囲まれて、まるで天に昇るような母れいむだったが 本当に空を飛んでいた 「ゆぅ~?」 変な感触を感じてスィーから降りた成体まりさは辺りをうかがった 楽しく川辺をドライブしていたのだが お気に入りのキノコを食べ過ぎたのだろうか アレは味は不味いが、食べるとハイになる貴重なものだ その時のテンションなら美れいむでも美ありすでも落とせる気がしてくる そんな素敵ナンパ計画を練っていたのに、勢いを崩すとはゆっくりできないな 「ゆぐぐっ ゆぎぎぃ」 小石かなんかに衝突したと思っていたまりさだが、思いもしない結果に驚いた 背中をへこませ痛みにのた打ち回っているれいむがいたのだ 「ゆん! まりささまのじゃまをするからいけないんだぜ…」 とれいむに聞こえない声でつぶやくと ああ、このれいむが半端に怪我をしたら生涯面倒を見ないといけないのか 皮を見る限りだいぶくたびれているし、もっと若いれいむがいいなぁ とりあえず助けずにこのまま死んでくれれば良いが 「ゆんっ ふーっ ふーっ」 まりさはスィーについた返り餡を落として再び乗り込んだ すると痛みから立ち直ったれいむは這って川のほうへ近づいた 「ぱ ぱ ぱぁちぇりぃぃいいいい!!!!」 れいむの視線の先には成体ぱちぇりーがいた。大方友達か恋人だろう そのまま入水心中すればいい まりさは事故で覚めてしまった餡子脳にカツを入れるため 再び帽子の中のハイになるキノコをむしゃぼり食べ始めた 「で、でぃぶぅうううう!!! がぼがぼかぼっ」 「いまれいむが たすけてあげるからね!」 「ぱ、ぱちぇはいいがらぁあ! ごどもだぢを だずげなざいぃ!」 「ゆぅぅうう!? おおおおおぢびじゃんだぢぃいいい!!!?」 ぱちぇは比較的近い所に吹っ飛ばされたため、すぐにれいむに咥えられて浅瀬に戻されたが 軽い子供達は遠い中州の方まで流されていた 「おぎゃあああじゃああああああん!!!!」叫ぶ次女れいむ 「おみじゅ きょわいよぉおおおおおおお!!!」波に飲まれる末女れいむ 「おぢづぎなじゃいいい! ままが だすげにぎでっ ぐれっ がぼがぼがぼがぼっ」溺れている長女ぱちぇ れいむは己を省みず川へ突っ込み、頬を膨らまして浮き輪状態になって子供達を助けようとした しかし泳ぐことは出来ず流れに頼るだけの母れいむは直ぐに岸へと戻されてしまう 何回も何回も繰り返すが 「あきらめじゃだべよ! かぼぼっ おねーぢゃんがら ばなれないでねぇ! ゆぐぼぼぼっ」 長女は髪を妹達に加えさせてなんとか流れている流木を使いながら耐えている 「むきゅううう ぅぅうう …もうやだぁ!! おうぢにがえりだいよぉぉ!」 ついに泣き叫ぶ長女を皮切りに、次女れいむはふやけた部分から体が捻りきれて川底と水面に体が分離された 末女は溶けて表情のない皮だけが浮いていたが やがて散り散りになった 長女ぱちぇは 妹達の変わり果てた姿を呆然と見つめると、母れいむの視界に届かないどこかへ流れて行った 「ゆあああああああああああ!!!!! でいぶの おぢびじゃんだぢがぁああああ!!!!!!」 「むきゅううううううううう!!!!! ぱちぇの おぢびじゃんだぢがぁああああ!!!!!!」 かけがえのない子供達が藻屑となっている おお、ひげきひげきなんて思いながらまりさはキノコを完食した 自分のナンパライフを邪魔した、家族の愉快な末路を見て ノリを取り戻したまりさはスィーを転がし始めた 「ゆ?」 どうやら故障してしまったらしい なんてこった、あんな喜劇ショーとじゃ割に合わない せっかく誰かの巣で拾った まりさのスィーだというのに 動かないスィーに体当たりをすると、謝礼を請求しに夫婦に近寄ろうとする いつのまにやら夫婦の慟哭を耳にして駆けつけていた他のゆっくり達がいた 「だいじょうぶ れいむ? ぱちぇりー?」 「おちびじゃんがぁああ! おちびじゃんがぁあああ!!!!」 「わかるよー かなしいんだねー でも おちつくんだよー」 「みょーん! みょんみょん!」 なんだよ、野次馬かよ 毒ついたまりさはスィーを乗り捨てて 山で例のキノコでも補充にでもするかとその場を離れようとした 「ゆぎぃ! あいつだよ! あいつが れいむとぱちぇの おちびちゃんたちを!!!!!」 「わかるよー うわさの ぼうそうまりさだねー」 「ゆうかりんは みていたわ! あいつが れいむたちを はねたのよ!」 やべぇ バレてる だったら子供達でも救助して善人のフリでもすればよかったぜ スィーも故障しており、ココから逃げることも出来ないまりさは一つひらめいた とココまで考えました もしよかったら、好きに続きを書いてね!!! このSSに感想を付ける