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『チクタクちくたく まりさとお爺さんの古時計』 6KB 愛で 思いやり 愛情 日常模様 野良ゆ 自然界 現代 愛護人間 即興で書いたので、まとまりがないですが御容赦してくだはい チクタクちくたく まりさとお爺さんの時計 静かな田舎にひっそりと佇む大きなお屋敷 そのお屋敷は、とても大きく、そのお屋敷の主である お爺さんも体が大きな、でも心の優しいお爺さんが住んでいた。 心の優しいお爺さんは身も凍てつく様な季節のある日、 道端で行き倒れになっていたまりさを拾い、お屋敷に帰った。 どうやらまりさは腹が減って倒れたらしく、お爺さんの出した 野菜をむしゃむしゃと、しかし散らかさずに食べた。 「ゆっくりありがとうなんだぜ!おかげでたすかったんだぜ! おれいになにかしてあげるのぜ!」 まりさは元気になると、お爺さんにお礼を言い、一飯の礼に何か できることは無いか?と訊ねた。 お爺さんは少し首を捻った後、ならば私の屋敷に一緒に住んで欲しい と言った。 まりさはきょとんとしたが、ゆっくり独特の考え方ですぐに納得、了承 した。 まりさがお爺さんと住むようになって半年が経った。 近頃のお爺さんはよく咳き込むようになり、その度にまりさがもみ上げで 背中を擦ってやった。 すると、お爺さんは微笑みながら、ありがとうお陰で良くなったよ。と、 まりさにお礼を言ってくれた。 そんな生活がさらに半年続いた。 ますますお爺さんの容態は悪くなっていく。 ここ最近は朝食さえまともに食べず、余ったサラダなどまりさの 食べられるものが多く貰え、たくさんむーしゃむーしゃできるようになったが、まりさの口からは不思議と『しあわせー』とは出なかった。 まりさはお爺さんに拾われるまでは、たくさん食べられれば腹の底から 『しあわせー』を言っていたのだが、ここ最近は言った記憶が無い。 元々記憶力が悪いのもあるが、少なくともここ1週間は言った記憶が無い。 普通のゆっくりであれば、『しあわせー』が言えないとゆっくりできない、 と思うのだが、このまりさはとにかくお爺さんと一緒に楽しく食事ができる 事のみを願っており、ゆっくりできないとは微塵も思うことが無かった。 2月 今日の朝はとても寒い。この寒さだと身の危険を顧みず、無謀にも外に 飛び出して自分の巣が何処だ分らなくなったゆっくりが凍っているだろう。 それぐらい、寒かった。 今日のお爺さんは明け方から起きていた。 窓の外、丁度ここからあの時まりさを拾った場所が遠目に見える。 お爺さんの容態はさらに悪化し、もう医者に余命幾許も無し、と宣告されていた。 だからだろうか、最近のお爺さんは明け方ぐらいには起きていて、それから 夜になってベッドに入るまでずっとその場所にずっと椅子を置き、座って 雪の降る風景を眺めていた。 まりさも、最近はロクに食事も摂らず、生命活動に最低限必要な量だけ 食べて、お爺さんの横に椅子を置いてもらってそこに座っていた。 2人とも言葉は交わさないが、互いの空気は柔らかく、傍から見れば 老人と孫に見えなくも無かった。 今日はお爺さんがまりさに一緒に朝ごはんを食べようと誘ってきた。 それには最近喋らなかったまりさも反応し、急いでテーブルに向かった。 お爺さんはそんなに慌てなくても朝ごはんは何処にも行かないよ、と言い どこか楽しそうに、でも悲しそうに微笑んでいた。 テーブルに1人と1匹が着くと、朝ごはんが並べられた。 ハムエッグに採れたてサラダ、程よく冷たいオレンジジュースに 熱々のトースト。 まりさのためにもハムエッグには殆ど塩を使っていない。素材そのまま の味である。 1人と1匹は食べ始めた。 「むーしゃむーしゃ、しあわせー!やっぱりおじいさんとたべる あさごはんはおいしいんだぜ。」 「ああ、おいしいなぁ…私も…幸せだ…」 1人と1匹は玉に喋りながら朝ごはんを食べて、微笑みあった。 こんなに美味しい朝ごはんは何日ぶりだろう。 1人と1匹の、楽しく美味しい朝ごはんだった。 朝ごはんを食べ終えたお爺さんは、少し散歩に行って来ると言い、 愛用のコートを着て、外に出て行った。 残されたまりさは、いつもの椅子の上に座り、転寝をした。 チク タク チク タク ちく たく ちく たく 古くて大きくて立派な古時計が時を刻む チク タク チク タク まりさの耳にも古時計の音は聞こえてくる チクタク チクタク 急に古時計の音が早くなった気がして、まりさは時計を見た。 チク タク チク タク なんら変わりは無い、まりさはまた外の風景に目をやった。 ……そういえば、お爺さんはまだ帰ってきてないのだろうか 散歩にしては少し長い気がする。 もしかして、久しぶりに外に出るから遠くまで行ってるのかな? そうかもしれない、じゃあ待っていればいつか帰ってくる。 まりさはそう思い、また転寝に戻った。 チク タク チク タク ちく タク チク タク チク たく チク タク チクタク チクタク チクタク ちくたく ちく たく ち く タ ク ちく た く ち く た く 「ゆっ!?……おじいさん!」 まりさは急に跳ね起き、外に出て行った。 嫌な夢を見たのである。夢の中で、お爺さんのお爺さんの代からお屋敷に ある、古くて大きくて立派な古時計。 その時を刻む音が遅くなったり早くなったり、その度にお爺さんが泣いたり 苦しんだりしていた。 途中、お爺さんはまた元気に散歩を続けたが、段々その歩みが遅くなり、近くのベンチに腰掛け、ゆっくりと空を仰ぎ、微笑み、そして……… 「ゆー!ゆゆ!ゆーっまだ、だめなんだぜ!だめなんだぜ!おじいさん!」 まりさは、夢の中で見た小さな寂れた森の中に来た。 奥に進んでいくと、粗末なベンチと小さな小屋があった。 あたりは木々が鬱蒼と茂っており、ゆっくりのように小さな者でないと 近づきにくい場所にある古い、けれどもちょっと立派なベンチにお爺さん が座っていた。 その顔は子供のように楽しそうな笑顔で、目から涙を流して息絶えている お爺さんが座っていた。 「………えいえんにゆっくりするなら、せめてまりさといっしょが よかったんだぜ………」 まりさはお爺さんの亡骸の横に木を伝って座ると、眠り始めた。 (まりさもいっしょにいくのぜ…おじいさんだけさびしいおもいは させないんだぜ…) 2週程経ったか、ある木こりの男が森に来ると、小屋と古くて、でもちょっと立派なベンチを見つけ、珍しがって近づいてみた。 近くに来ると、1人の老人と1匹のまりさが息絶えているのを発見した。 「こんなところで、どうして…んん?この古時計、もしや…」 木こりの男は彼らのために墓穴を掘って埋めてやり、墓石になりそうな石を1つ、置いてやって、石の前に古時計を置いて手を揃えた。 「せめて、せめてあの世で幸せにやっていけよ。 それと、どこのまりさか知らんが、奴が寂しくならないように そばに居てやってくれ」 木こりは言い終えると、木こりの仕事を今日はやめる事にし、 家に帰っていった。 チクタク ちくたく チク タ ク ち く た く ち く た く ち ク た く ………… ………… ………… 古くて大きくて、立派な古時計はもう うご か な い ……。
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ゆっくり達がゆっくりできるにはどうすればよかったか 言葉が通じずともただ媚び続け、ペットとして生きればよかったか それは否。中身が餡子で、何も世話しなくても光合成で育つ。そんな金のなる木を人間がペットとして扱うだろうか。 家畜にされることが関の山である。幸いなことに今までゆっくりは人間から隠れて生きていたので、殆ど捕まらなかった。 さらに人間に捕まえるのは人間の子供だったのですぐに弄ばれて殺されていた。よって光合成で育つということが知られていなかった。 人間がいないようなところを探して生きていけばよかったか。 ある意味正解。しかしあの森以外の環境では、日の光が当っていなかったり、昼間から妖怪が出没したり、 逆に見通しがよすぎて危険なため、この選択枝は除外される。 人間と戦えばよかったか 論外。人間の子供にさえも勝てないゆっくりに、大人相手に勝てるはずがない。あのまりさのように目的を達するために命をかけ、 渡り合っていける個体はほとんどいない。逆に人間の大人たちを本気にさせて、あっという間にまとめてお汁粉にされてしまうだろう。 つまり、人間に認められるしかないのである。そのため、まりさの考えは間違ってはいなかった。 言葉が届かないなら、行動で示せばいい。 しかし、人間に認められる。その難しさをまりさは知らなかった。 まりさはずりずりと体を引きずらせて森の中へと逃げていた。飛び跳ねる体力はもう残っていない。 だが、体内の餡子を4分の1程度失ったことで、無駄に餡子を撒き散らすことがなくなり、虫などがよってこなかった。 不幸中の幸いといえた。 まりさはつい先ほどまでの修羅場を回想した。殺さずに思いとどまってくれたれいむに感謝しながら はやくぱちゅりーをおそとにはこばなきゃ 青鬼になることを決めたときは別に死んでもいいかと思っていた。 でも、人間に追われたとき、いっぱい走ってどきどき苦しくて、体が裂けたときは動くたびにビロビロして気持ち悪くて、 人間達の怒鳴り声で耳がびりびりして怖かった。やっぱり死ぬのは嫌だった。 でも、これでみんなゆっくりできる。 人間のおじさんたちにはたくさん悪いことしちゃったな。ごめんなさいと言えなかった。 れみりゃを怖がらせちゃったな。あの子すぐに泣いちゃうのに。 ありすにはもう会っても口をきいてもらえないだろうな。あの泣き声は忘れられないと思う。 そしてれいむは・・・・・ううん・・・・考えるのはやめよう・・・・・・・・これからきっとゆっくりできるようになるんだ。 あとはまりさがみんなに会わなきゃいい。 そう思って帰り道を急ぐ。ずりずり、ずりずりと そのときまりさの後から、聞き覚えのある声がした。いつかまりさとれいむがピンチだったときに聞こえた、あの声だ。 「あんれぇ、おまえどうしたださ?こんなにぼろぼろで・・・・。また誰かに虐められただか・・・・・・・・・・ 体中べこべこじゃないか・・・・・・・・」 肩には藁の固まり、見上げるほどの巨体。あのときの大男だった。心配そうにまりさを見つめている。 まりさは光を失い、瞳の黒さが深くなった目で大男に視線を向ける。 「おじさん・・・・・・。まりさやったよ・・・・・・・・・・。みんながゆっくりできるよ・・・・ でも・・・・・・・・・・まりさわるいこになっちゃったよ・・・・・・・・・・・・・・・」 まりさは自嘲する。大男から目をそらし、ぱちゅりーのところを目指す。 大男のきれいな目がまぶしかった。 「そうはいってもなぁ・・・・そうだ!いいもんをくわせてやるべよ。体がへこんで力がでないんだろう?」 大男はまりさを片手でむんずとつかんだ。まりさの体を覆ってもお釣りが来るほどの大きな手だ。 「ゆぅぅぅ!?おじさんはなしてよ!まりさはゆっくりできないよ!」 「はっはっは。そうかうれしいか。わかった。お望みどおりゆっくりするべ。お前は友達をたすげよどずるいい子だがらな。 いい子は好ぎだよ。」 大男はまりさを持ち上げ、どしどしと足音を立てて運んでいく。 まりさは早くぱちゅりーを日の光の下に出さなけれなければいけなかったが、大男にまりさの言葉は通じていなかった。 日の光が少し傾くくらいまで大男は走った後、まりさは洞窟の中に招待されることになった。真っ暗で、じめじめとしていて、 あまりゆっくりしたくない。 そんなまりさを大男は最高のご馳走で迎えようとしていた。 しかしゆっくりは食べ物を消化できないので何を食べても吐き出してしまうだろうが。 何が出てくるのだろうか。これほどの大男だ。何を食べればこれほどまでに大きくなるのか興味があったのだろう。 食べきれないくらいたくさんの肉か。 まりさが丸呑みされるくらいのおおきな魚か。 以外にも、山菜の盛り合わせなのかもしれない。 まりさがそわそわと落ち着かない様子を見て、 大男はまりさが期待しているものだと思って、それに答えるかのようにでんっとおもてなしを置いた。 肉だった。 まりさほどの大きな肉の塊。 まりさと同じ形をしている まず人間が食べきれないくらいの大きさだった。 いや、たとえ量が少なくとも食べられないだろう。人間には 「おじさん・・・・これ・・・・・なに・・・・・・・・・」 目の前に置かれたものがぼんやりと見えてくる。その『顔』には見覚えがあった 「そうかそうか。味わって食べたいか。さぁ、ゆっくりと召し上がれ。」 それは3日前に嫌というほど見たあの『顔』だった。 「やべでぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!おじさん!ゆっぐりざぜでぇ!!」 歯を食いしばって食べないように持ちこたえるても、 まりさは裂けた口からぐいぐいと「ごちそう」を押し付けられる。 「ごちそう」のほっぺたは固く冷たく、つんとすっぱい匂いがした。 いつもれいむとほっぺたをくっつけあったときの柔らかさと餡子の甘い匂いはかけらも感じない。 反射的に「ごちそう」のほうを向くと、その白くにごった眼と目が合った。 「おじざんやべでぇ!おじざん!!おじざん!おじざん!おじざん!」 「遠慮することないべよ。なくほど喜ぶこともあるまいて、ほら、口をあけて。」 まりさは口をがばっと開けられ、無理やり「ごちそう」を押し込まれた。ゆっくりに共食いがあるとすれば、 このような光景が見えることであろう。 まりさは「ごちそう」の3分の1ほどと合体したような姿となっていた。 「ぴぎぃ゛ぃ゛ぃ゛ ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!!」 まりさは歯と舌を使って「ごちそう」を飲み込まないように必死に抵抗する。 まりさが普段はお友達としゃべるときにしか使わない口。そのため、人間の畑を荒らしたときに掘り出した野菜は固くて歯が痛かった。 「ごちそう」はそれよりもずっと固い。 口が塞がれ、息ができない。目の前がぼんやりともやがかかってくる。 「ほらほら、お前達も妖怪なんだからこれぐらい一気に食べないと。大きくなれないぞぉ。」 大男はまったく悪気がなかった。それもそのはずだった。大男はゆっくりのことを妖怪だと勘違いしていた。まりさは気づくべきだった。 目の前の大男が子供達を一方的に痛めつけたときの異常さを。それなのにきらきらとしたきれいな目をしていることを。 彼は、自分が悪いことをしているとは少したりとも思っていない。罪悪感に目を濁らせない。 「こいつらは悪い子だから遠慮することないべよ。いい子のお前達へのご褒美だよ。ちょっと古くなっているけどごめんな。 ほら、酒でも飲んでいっぱいやろうや。」 「ゆぐぐぐうぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐうぐぐぐぐうぐぐ!!!!!! ぐい、ぐい、まりさの頬にさらに無理やり押し込む。まりさは泣きながら吐き出そうとする。 光合成で生きていくゆっくり。口から食べ物を食べたことは一度もない。 まりさは思う。きれいなお花。かわいい虫達。大きな動物。みんなかわいかった。かっこよかった。 一緒にゆっくりする仲間達。人間ともこれから一緒にゆっくりできる。だけど、食べてしまったらゆっくりできない。 そうなったらもうお友達にはなれない。 「ゆ゛ひゅぅ!ゆ゛ゆ゛ぅ!ひゅ・・・・。ゆ゛っぐぅ・・・・・・・すぅ・・ぎ・・・・・・・」 ビリっと、まりさの頬が裂けていく。先ほど切れ目がついていた上に、無理やり押し込まれたからこうなってしまった。 大男はそこでようやく気がつく。 「ああ、ごめんごめん。うれしくてつい押しこんでしまっだや。ごめんな。痛かったべ。やっぱり無理やり食べさせるのはよぐないわ。」 大男はまりさから「ごちそう」を引き抜いた。「ごちそう」はべったりとまりさの唾液がついていた。 まりさは酸欠気味だった体に酸素を行きわたらせるように大きく息をする。まりさは安心した。おじさんはわかってくれた。 まりさは人間を食べたりなんかしないと。ぐったりとした顔でそう思ったところに 「やっぱり食べやすい大きさにしねえどな。ほら、わけてやるがらだんとぐえ。」 大男は酒に酔って顔を赤くしていた。その姿は例えるなら赤鬼だった。 いや、例える必要はない。その正体は紛れもない鬼。 鬼 強い力を持っていた妖怪の一族。卑怯な手を嫌い、誠実なものを好む。 また、いったん友人と認めた相手には敬意を表す。現在幻想郷には殆どおらず、大抵のものは鬼の国で生活している。 妖怪のため、人間も食べる。 なまはげ 東北にて語られている鬼。地方内でも伝承が細かく分かれる。怠け者を懲らしめ、災いをはらい祝福を与える。 人間に仕えていたが正月の十五日だけは里に下りて乱暴や略奪を行う。 そして悪い子をさらって食う。などと伝えられている。 幻想郷は外の世界で途絶え、忘れ去られつつあるものが流れ着く地。なまはげという有名な妖怪の中でも、 悪い子をさらって食うというあまり知られていない部類ものは、幻想郷にやってくる。 ついたばかりで未だ幻想郷の常識も知らず、ただ悪い子を捕まえて食べる鬼。それがこの大男の正体だった。 赤鬼は、これから先の人生で決して泣くことがない。そう確信を持って言い切れるような陽気な笑いを浮かべた。 《きもちわるい》 《きもちわるいよぉ》 まりさが開放されたのは、日が落ちた後であった。しんとした暗闇の中、 ずりっずりっと重くなった体を引きずってぱちゅりーの家を目指す。 その目は遠くしか見えておらず、何度も石で転げそうになる。この日は辛いことが起きすぎた。。 誰かと一緒にいないと壊れてしまいそうだった。誰かと一緒にゆっくりしたかった。 青鬼の決意はどこへやら、まりさは急ぐ。傷ついた体でずりっずりっと、暗い巣の中でひとりぼっちの友達のところに急ぐ。 けれどもその速度はとてもゆっくりしていた。 ぱちゅりーの家が見えた。最後に訪れたのはあの絵本を見に行ったときだった。 巣の外からもぱちゅりーが見えた。眼をつぶってゆっくりと動かない。 寝ているのだろうか。愛する友達に出会えてただうれしかったまりさ。 まりさは巣の中に飛び込む。目測を誤って入り口で体をぶつけてしまった。 まぬけなところをぱちゅりーに見せてしまったのかもしれない。 そう思ってぱちゅりーに近づく。 その顔は、髪と同じく、紫色だった。 ぱちゅりーはすでに息を引き取っていた。 誰もそばにおらず 誰も話しかけてこないで 誰も悲しむことなく 誰も知らずに たった一匹で静かにこの世を去った。 まりさはひとりぼっちになった。 絶望。まりさは二度とれいむ達とは会えなくなり、信じていたおじさんはゆっくりできない人だと知り、 おじさんとゆっくりしていたためにぱちゅりーは死んだ。そう、まりさはもうゆっくりできない。 青鬼になる その言葉の意味をまりさは理解したつもりだった。 誰とも会わずただ一匹で生きていく。 だが、その一文の決意を実行できる生き物はいない。 寂しさ。 まりさの餡子はその気持ちでいっぱいだった。 ちょっとだけ、みんなの様子を見に行こう。 会わないなら大丈夫。ただみんなが人間と仲良くしているところを見るだけ。 別にまりさが捕まったってもうみんなは人間の仲間。だから何も問題ない、 青鬼の決心は、完全に失われていた。 気がついたときには目の前には人間の里。里長の屋敷の前だった。まりさは夜の闇の中ふらふらと明かりにつられてやってきた。 辺りには誰もいない。新しい仲間の歓迎会を開いているのだろうか。 まりさが物陰から覗いた時、人間達はもう闇も深まってきた頃だというのに、明かりを贅沢に使って宴会していた。 酒をぐびりと一気に呑み、おわんに入ったおかずをガツガツ食べて、ガヤガヤと聞き分けられないほどの大音声で騒ぐ。 子供たちまでいた。子供達はお酒が飲めない代わりに、お菓子を食べている。 シュークリーム、エクレア、タルトと豊富な種類がそろっている。 人間達はご機嫌だった。ゆっくりしていない、人間独自の仲間との交流だった。 「たのしそう・・・・・・・・まりさもみんなとゆっくりしたいよ・・・・・・・・・・」 思わず口から漏れる偽らない本音。楽しかった日々。 「? みんなどこいったのかな?にんげんといっしょにゆっくりしているのかな?」 宴会の最中であるにも関わらず、歓迎されるべき主賓はどこにも見当たらなかった。 今頃人間達と一緒にお歌を歌って、ありすがへただとからかわれていると思った。 れみりゃが人間の子供と鬼ごっこをしていると思った。 れいむが人間とほっぺたを寄せ合ってゆっくりしていると思った。 しかしその姿は見当たらない。 《どこにいったんだろう・・・・・・》 まりさはそうっと忍び込み、みんなを探す。 最後に一回くらいは顔を見ておきたかった。一回だけ。一回だけ。 カタッ パタン カタッ パタン いくつもいくつも部屋を空ける。しかし見当たらない。どこにもいない。 おかしい。何か変だ。 まりさはようやく事態の異常さに気がつく。いや、本当は気づいてた。誰もいないのはおかしいと。 ただ認めたくなかった。さっきのような、あのおじさんに裏切られたときのような感覚がしていることを。 本当だったら聞こえるみんなの笑い声がしない。 「・・・・・・・・・・・・・・・・よ・・・・・・・・・・・・・・・・し・・・・・・」 どこからか声が聞こえたような気がする。 「・・・・ゆ・・・・・・・・・・てよ・・・・・・・・・・・・り・・・・・・・・し・・・・・・・・・・・ •い・・・・・・・・・・・・・・よ・・・・・」 聞こえた。気のせいじゃなかった。これは紛れもなくれいむの声だった。 まりさはずりっずりっずりっと、れいむの声がするほうをゆっくり目指す。 最後に大好きな友達の幸せな顔を見るために そしてまりさはある部屋の前で立ち止まった。 そこは、台所だった。 奥から聞こえてくるれいむの声。その声はかすれていた。 「ゆっ・・・・・・・・・・・・くり・・・・・・・・・し・・・・い・・・・よ・ •◦◾◾◾◾◾◾◾たす・・・・・・よ・・・・・・・・・・・・・り・・・・・・・・・・・さ・・・・・・・じ・・さ・・・ん」 「れいむ!まりさだよ!どうしたのれいむ!」 まりさはれいむとついに再会する。 最後にあれほどひどい別れ方をしたにもかかわらず、まりさはれいむへと何のためらいもなく駆け寄る。 まりさはれいむな事情をわかってくれていると信じていた。それはあまりにも都合のいい事考え方をする饅頭だった。 いや、実際れいむは事情をわかっていたつもりだった。しかし今ある状況はまりさのせいによって起こったこと。 れいむは、格子状の籠の中に閉じ込められていた。 「だれ・・・・・・・・・まりさ・・?」 「まりさだよ!れいむどうしたの!みんなどこにいったの!ゆっくりおしえてね!!」 まりさがれいむへと駆け寄る。二匹をさえぎる籠にめいいっぱい近づく。 ほっぺたが押さえつけられるあまりに格子から少しはみ出ていた。 れいむは人間に捕まってはいるが、その体には傷一つなかった。 今は、まだ 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 れいむは目を伏せてそらす。そのまま十数秒が経過する。 二匹は黙りきり、台所は宴会場からの喧騒が響くのみとなってしまった。 業を煮やしてれいむに問い詰める 「ありすは?ぱちゅりーは?」 れいむは目を伏せたまま答える。その声は、あまりにも弱弱しい。 「みんなたべられ・・・・・・・・・・・・・ちゃったよ・・・・・・・・・・・」 《たべられた》 《たべられた!?》 《どうして?にんげんとおともだちになったんじゃなかったの!》 「れみりゃがさいしょにね・・・・・あたまをぽんっ・・・・・・・・・て・・・・・・きられて・・・・ ぐりぐりって・・・・なかみをむりやりとるの・・・・・・・・れみりやはね・・・・・・はねをばたばたさせて・・・ にげようとしたけど・・・・・・・・・・そうするとはねもきられちゃったの・・・・・・・・・・・・・・・・ •ずっといたいいたいってないてて・・・すっごくおっきなこえで・・・・・・・うごかなくなるまでずっとないてたの・・・。」 《うそ》 「ありすはもっとひどかったよ・・・・・・・・・・・かみのけをぜんぶきられて、・・・・べりっ・・・・・・・・・ てかわをはがされたの・・・・・・・・・・・いちまいずつ・・・・・・・・・・いちまいずつ・・・・・・・・・・ ありすは・・・まりさ・・まりさって・・・・・・・・・ずっとよんでたよ・・・・・・・・まりさがたすけてくれるって・・・ ずっと・・・・・・・・しんじてた・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。。。・・・・ おじさんたちはね・・それをみていて・いっぱいわらってた・・・・・・・れみりゃとありすをおいしそうにたべてたの・・ 《うそだよ》 「ほら・・・・れみりゃはそこにいるよ・・・・・・・・・・」 そこに転がっていたのは、かつてれみりゃと呼ばれていた肉まんの皮部分だった。 あのとき、悪さをするまりさを追い払ったれいむ。そのとき人間にはどのように見えていたのか。 「ゆっくりしていってね!(みんなもうだいじょうぶだよ!!)」 リボンのゆっくりは仲間のいる方向に笑いかける。その表情は人間達にも見えた。満面の笑み。 終止無言だった先ほどとは対照的に明るすぎる声で二匹へと呼びかける。 その声は人間達には勝ち誇り、自らの領土を主張するように聞こえた。 人間達は事情を知らなかった。 そのとき、一人の男が水をさすようにつぶやいた 「こいつら、今も【ゆっくりしていってね】って言いつづけているから、里での縄張り争いしただけだったんじゃないか」 -言われたとおりゆっくりするよ。俺達が満足するまでね。- -ゆっくりゆっくりうるさいなぁ、お前から先に苛めてやろうか。- -ん~、いい声で鳴くなあこいつら。少しワンパターンだけど、やっぱりいい声するや。発音の変化がいいね。濁音がついて- -せっかくだけど、ゆっくりしている暇はないだべ- -それににんげんってはなしがつうじないのよ!いきなりつぶされたおともだちもおおいの!- この世界には、ルールがあった。 この世界では、他の世界とひとつ異なるところがある この世界では、ゆっくりの言葉は人間にはある一つの言葉とそれを含む単語にしか聞こえない。 その言葉とは 【ゆっくりしていってね】 ゆっくり達は自分達の言葉がこうして聞こえているのは知らない。 また、人間の言葉は、ゆっくりにとってはうなり声に聞こえる。 つまり、ゆっくり達が火にあぶられようが、壁に叩きつけられようが、切り刻まれようが、人間と友達になりたかろうが、 自分達の意思を人間に伝える方法は存在しないのである。 【ゆっくりしていってね】 人間には鳥や虫のような【鳴き声】にしか聞こえないそれも、あの状況ではある先入観を抱かせることになった。 その言葉の持つ意味が曲解されていく。 あのとき、れいむはまりさに向かって黙りきったまま体当たりを繰り返してしまった。れいむが大好きだったまりさ。 そのまりさへと一言でも責めたら取り返しのつかないことを言ってしまうと思ったれいむ。 だが、人間の目にはれいむがまりさに友好を求めるかのような【鳴き声】を出さないことから、 リボンのゆっくりが、帽子のゆっくりが羽を持ったゆっくりとヘアバンドをつけた ゆっくりにじゃれていたところをいきなりたたき出したようにも見えた。 れいむが【ゆっくりしていってね】と叫びながら叩き続けていれば、 この鳴き声に意味はないことに気がついたかもしれなかったのにである。 また、その後にありすとれみりゃに向かって大声で笑いかけたことは最悪だった。 その様子は人間から見たら、外敵を追い払って仲間に【ゆっくりしていってね】と、自らの縄張りを誇る様子にも見えた。 ゆっくりに対してかまっているのは虐めている子供達だけ。 大人たちが子供の頃に虐めたのは蛙や虫。 つまり、ゆっくりの生態はあまり人間達に深く知られていない。 考えすぎだよと笑っていた大人たちも、いつしか多数派に言いくるめられる。 どうせゆっくりは弱い。ならばこちらからしかけても、報復など恐れるほどではない。 今度はこいつらが徒党を組んで悪さをしでかすのではないか。 だったらこれは弱いものいじめではなく、駆除になる。駆除するなら早いほうがいい。 だから何も悪いことじゃない。 人間達はゆっくりに対して誤解した認識を持つ。。 無害な動物から人間の仲間へ、そして人間の仲間から害獣へ まりさの「赤鬼と青鬼」作戦に誤算があったとすれば、ゆっくりが人間に対して何の役も立たないということだった。 鬼は強く、仲間にすると心強い。用心棒としても、労働力としても使える。 しかしゆっくりは、仲間にしても何の役にも立たない。 人間の仲間というには、あまりにも無力だった。 あたりが静まり返った 「ゆっぐりじていでね!!(ま゛り゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!だずげでぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!)」 「ゆ~ぐぃ~~!(う゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁん゛!!!)」 命乞いの鳴き声を上げるカスタード饅と肉饅。人々の耳にはそうとしか聞こえていなかった。 「ゆっくりしていってね!」は、『ゆっくりやめてね』と自らの命の危機に対する哀れみを誘っているよう意味にしか聞こえなかった。 害獣の命乞いなど聞き入れるほど人間は甘くない。二匹は今、宴会の出し物になっていた。 人間達は、その深い味に舌鼓を打つ。 「ゆっくりしていってね!(まりさはほんもののまりさなの?)」 れいむがいきなりまりさに対して問いかける。 目は血走り、その声は禍々しい。 「ゆっくりしていってね!ゆっくり!(まりさはまりさだよ!どうしちゃったのれいむ!)」 まりさはあわてて否定する。どうしてこのような質問をされたかわからない。 「ゆっくり!ゆっくり!(ほんもののまりさならみんなをたすけにきてくれたよ! おまえはたすけにきてくれなかったよ!)」 3日前、かなわないのにひたすら人間に立ち向っていったまりさ。 2日前、悪行の限りを尽くして去っていったまりさ。 れいむは、悪さをしたまりさは別のまりさと思い込むことで、自らの心のまりさを責める気持ちからから友達のまりさを守っていた。 「ゆぅ~!ゆゆぅ! (まりさはれいむのしってるまりさだよ!まりさがわるいことをして! みんながまりさをこらしめればにんげんのおともだちになれるとおもっていたんだよ!)」 まりさは自分の存在を否定されていた。それはひとりぼっちになることよりずっと辛い。 なんであんなことを考えたんだろうとまりさは自嘲する。余計なことをしなければみんな死ぬことはなかったのかもしれないのに。 「ゆっくり!ゆゆっくり!ゆっくりしていってね!(みんなしんじゃったよ!おまえのせいだよ!ゆっくりしね!)」 あの時一度も言わなかったまりさへの恨み言を惜しみなく繰り返すれいむ。 れいむは正気を失いつつあった。 「ゆっゆ!ゆぅゆ!(れいむだけでもたすけるよ!ゆっくりしないでたすけるよ!)」 まりさはかつて人間の子供に対して行ったようにれいむの籠に体当たりを繰り返す。 れいむはちょっとおかしくなってしまっただけ。そう自分に言い聞かせながら体当たりを繰り返す。 何度も、何度も、体がへこんでも何度も何度も。 しかしそのとき、まりさの体にはある異物があった。 あの赤鬼に食べさせられた「ごちそう」だ。 それは消化されず、ずっとまりさの体内に埋まっていた。 体内に大量の異物がある状態。 そのような状態で体当たりを繰り返した結果、 餡子と共に吐き出した。「ごちそう」を 《ちがう。これはちがう。まりさはなにもわるくない。おじさんが無理やりまりさに食べさせたから。 おいしくなかったよ。まりさはこんなことしないよ。にんげんをいじめたりしないよ。》 「ゆっくりしていってね!!(れいむ!ちがうの!これはちがうの!あのおじさんが・・・・)」 「ゆっくりしていってね!(ゆっくりだまってよ!!)」 《なんでこんなことになっちゃったんだろう。なにがいけなかったのかな。》 《人間に悪いことをしたから?青鬼になろうと思ったから?》 《おじさんのことを信じちゃったから?あの日ピクニックに行ったから?》 《まりさはただみんなにゆっくりしていってほしかっただけなのに》 「ゆっくりしていってね!ゆっくりしていってね!ゆっぐりじでいでね!ゆ゛っくり!ゆ゛っぐりぃぃぃぃぃ! (しらない!おまえなんてじらないよ!おま゛えなんてまりざじゃないよ!このばげもの!まりざをどごにや゛っだの! に゛ぜも゛の!!ま゛り゛ざを゛がぇぜぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!)」 そのとき、奇跡が起こった。自らの心が人間には伝わらないゆっくり。 しかし憎しみに狂ったれいむの怨嗟の声は、ゆっくりの言葉と人間の言葉に同じ意味を持たせた。 あの愛嬌のある姿はどこにもなく、地獄から響くような『鳴き声』をあげていた。それは屋敷の中にいる人間にも伝わった。 「ゆ゛っ゛ぐり゛じねえ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛゛ え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛ え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛ええ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え ゛え゛え゛゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛ !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 その表情はまさに『鬼』だった。 人間たちはこの声を聞きつけ、台所に駆け寄るとあたりに散らばる格子状に千切れた饅頭とそれに混ざった肉片を見る。 人間たちは先ほどまでの宴会で胃の中に入れたものを吐き出す。 次の日から、ゆっくりは【ゆっくりしていってね】という声で人を引きとめて襲うと伝えられることになる。 害獣に認定されていたのはほんの数時間ほど、今は化け物と呼ばれている。 かくして、赤鬼から逃げた青鬼は村から追い出され、誰にも相手にされず、後悔しながらゆっくり苦しみ続けることになりました ゆっくりまりさと鳴いた赤鬼 めでたし、めでたし
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前 ゆっくり達がゆっくりできるにはどうすればよかったか 言葉が通じずともただ媚び続け、ペットとして生きればよかったか それは否。中身が餡子で、何も世話しなくても光合成で育つ。そんな金のなる木を人間がペットとして扱うだろうか。 家畜にされることが関の山である。幸いなことに今までゆっくりは人間から隠れて生きていたので、殆ど捕まらなかった。 さらに人間に捕まえるのは人間の子供だったのですぐに弄ばれて殺されていた。よって光合成で育つということが知られていなかった。 人間がいないようなところを探して生きていけばよかったか。 ある意味正解。しかしあの森以外の環境では、日の光が当っていなかったり、昼間から妖怪が出没したり、 逆に見通しがよすぎて危険なため、この選択枝は除外される。 人間と戦えばよかったか 論外。人間の子供にさえも勝てないゆっくりに、大人相手に勝てるはずがない。あのまりさのように目的を達するために命をかけ、 渡り合っていける個体はほとんどいない。逆に人間の大人たちを本気にさせて、あっという間にまとめてお汁粉にされてしまうだろう。 つまり、人間に認められるしかないのである。そのため、まりさの考えは間違ってはいなかった。 言葉が届かないなら、行動で示せばいい。 しかし、人間に認められる。その難しさをまりさは知らなかった。 まりさはずりずりと体を引きずらせて森の中へと逃げていた。飛び跳ねる体力はもう残っていない。 だが、体内の餡子を4分の1程度失ったことで、無駄に餡子を撒き散らすことがなくなり、虫などがよってこなかった。 不幸中の幸いといえた。 まりさはつい先ほどまでの修羅場を回想した。殺さずに思いとどまってくれたれいむに感謝しながら はやくぱちゅりーをおそとにはこばなきゃ 青鬼になることを決めたときは別に死んでもいいかと思っていた。 でも、人間に追われたとき、いっぱい走ってどきどき苦しくて、体が裂けたときは動くたびにビロビロして気持ち悪くて、 人間達の怒鳴り声で耳がびりびりして怖かった。やっぱり死ぬのは嫌だった。 でも、これでみんなゆっくりできる。 人間のおじさんたちにはたくさん悪いことしちゃったな。ごめんなさいと言えなかった。 れみりゃを怖がらせちゃったな。あの子すぐに泣いちゃうのに。 ありすにはもう会っても口をきいてもらえないだろうな。あの泣き声は忘れられないと思う。 そしてれいむは・・・・・ううん・・・・考えるのはやめよう・・・・・・・・これからきっとゆっくりできるようになるんだ。 あとはまりさがみんなに会わなきゃいい。 そう思って帰り道を急ぐ。ずりずり、ずりずりと そのときまりさの後から、聞き覚えのある声がした。いつかまりさとれいむがピンチだったときに聞こえた、あの声だ。 「あんれぇ、おまえどうしたださ?こんなにぼろぼろで・・・・。また誰かに虐められただか・・・・・・・・・・ 体中べこべこじゃないか・・・・・・・・」 肩には藁の固まり、見上げるほどの巨体。あのときの大男だった。心配そうにまりさを見つめている。 まりさは光を失い、瞳の黒さが深くなった目で大男に視線を向ける。 「おじさん・・・・・・。まりさやったよ・・・・・・・・・・。みんながゆっくりできるよ・・・・ でも・・・・・・・・・・まりさわるいこになっちゃったよ・・・・・・・・・・・・・・・」 まりさは自嘲する。大男から目をそらし、ぱちゅりーのところを目指す。 大男のきれいな目がまぶしかった。 「そうはいってもなぁ・・・・そうだ!いいもんをくわせてやるべよ。体がへこんで力がでないんだろう?」 大男はまりさを片手でむんずとつかんだ。まりさの体を覆ってもお釣りが来るほどの大きな手だ。 「ゆぅぅぅ!?おじさんはなしてよ!まりさはゆっくりできないよ!」 「はっはっは。そうかうれしいか。わかった。お望みどおりゆっくりするべ。お前は友達をたすげよどずるいい子だがらな。 いい子は好ぎだよ。」 大男はまりさを持ち上げ、どしどしと足音を立てて運んでいく。 まりさは早くぱちゅりーを日の光の下に出さなけれなければいけなかったが、大男にまりさの言葉は通じていなかった。 日の光が少し傾くくらいまで大男は走った後、まりさは洞窟の中に招待されることになった。真っ暗で、じめじめとしていて、 あまりゆっくりしたくない。 そんなまりさを大男は最高のご馳走で迎えようとしていた。 しかしゆっくりは食べ物を消化できないので何を食べても吐き出してしまうだろうが。 何が出てくるのだろうか。これほどの大男だ。何を食べればこれほどまでに大きくなるのか興味があったのだろう。 食べきれないくらいたくさんの肉か。 まりさが丸呑みされるくらいのおおきな魚か。 以外にも、山菜の盛り合わせなのかもしれない。 まりさがそわそわと落ち着かない様子を見て、 大男はまりさが期待しているものだと思って、それに答えるかのようにでんっとおもてなしを置いた。 肉だった。 まりさほどの大きな肉の塊。 まりさと同じ形をしている まず人間が食べきれないくらいの大きさだった。 いや、たとえ量が少なくとも食べられないだろう。人間には 「おじさん・・・・これ・・・・・なに・・・・・・・・・」 目の前に置かれたものがぼんやりと見えてくる。その『顔』には見覚えがあった 「そうかそうか。味わって食べたいか。さぁ、ゆっくりと召し上がれ。」 それは3日前に嫌というほど見たあの『顔』だった。 「やべでぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!おじさん!ゆっぐりざぜでぇ!!」 歯を食いしばって食べないように持ちこたえるても、 まりさは裂けた口からぐいぐいと「ごちそう」を押し付けられる。 「ごちそう」のほっぺたは固く冷たく、つんとすっぱい匂いがした。 いつもれいむとほっぺたをくっつけあったときの柔らかさと餡子の甘い匂いはかけらも感じない。 反射的に「ごちそう」のほうを向くと、その白くにごった眼と目が合った。 「おじざんやべでぇ!おじざん!!おじざん!おじざん!おじざん!」 「遠慮することないべよ。なくほど喜ぶこともあるまいて、ほら、口をあけて。」 まりさは口をがばっと開けられ、無理やり「ごちそう」を押し込まれた。ゆっくりに共食いがあるとすれば、 このような光景が見えることであろう。 まりさは「ごちそう」の3分の1ほどと合体したような姿となっていた。 「ぴぎぃ゛ぃ゛ぃ゛ ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!!」 まりさは歯と舌を使って「ごちそう」を飲み込まないように必死に抵抗する。 まりさが普段はお友達としゃべるときにしか使わない口。そのため、人間の畑を荒らしたときに掘り出した野菜は固くて歯が痛かった。 「ごちそう」はそれよりもずっと固い。 口が塞がれ、息ができない。目の前がぼんやりともやがかかってくる。 「ほらほら、お前達も妖怪なんだからこれぐらい一気に食べないと。大きくなれないぞぉ。」 大男はまったく悪気がなかった。それもそのはずだった。大男はゆっくりのことを妖怪だと勘違いしていた。まりさは気づくべきだった。 目の前の大男が子供達を一方的に痛めつけたときの異常さを。それなのにきらきらとしたきれいな目をしていることを。 彼は、自分が悪いことをしているとは少したりとも思っていない。罪悪感に目を濁らせない。 「こいつらは悪い子だから遠慮することないべよ。いい子のお前達へのご褒美だよ。ちょっと古くなっているけどごめんな。 ほら、酒でも飲んでいっぱいやろうや。」 「ゆぐぐぐうぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐうぐぐぐぐうぐぐ!!!!!! ぐい、ぐい、まりさの頬にさらに無理やり押し込む。まりさは泣きながら吐き出そうとする。 光合成で生きていくゆっくり。口から食べ物を食べたことは一度もない。 まりさは思う。きれいなお花。かわいい虫達。大きな動物。みんなかわいかった。かっこよかった。 一緒にゆっくりする仲間達。人間ともこれから一緒にゆっくりできる。だけど、食べてしまったらゆっくりできない。 そうなったらもうお友達にはなれない。 「ゆ゛ひゅぅ!ゆ゛ゆ゛ぅ!ひゅ・・・・。ゆ゛っぐぅ・・・・・・・すぅ・・ぎ・・・・・・・」 ビリっと、まりさの頬が裂けていく。先ほど切れ目がついていた上に、無理やり押し込まれたからこうなってしまった。 大男はそこでようやく気がつく。 「ああ、ごめんごめん。うれしくてつい押しこんでしまっだや。ごめんな。痛かったべ。やっぱり無理やり食べさせるのはよぐないわ。」 大男はまりさから「ごちそう」を引き抜いた。「ごちそう」はべったりとまりさの唾液がついていた。 まりさは酸欠気味だった体に酸素を行きわたらせるように大きく息をする。まりさは安心した。おじさんはわかってくれた。 まりさは人間を食べたりなんかしないと。ぐったりとした顔でそう思ったところに 「やっぱり食べやすい大きさにしねえどな。ほら、わけてやるがらだんとぐえ。」 大男は酒に酔って顔を赤くしていた。その姿は例えるなら赤鬼だった。 いや、例える必要はない。その正体は紛れもない鬼。 鬼 強い力を持っていた妖怪の一族。卑怯な手を嫌い、誠実なものを好む。 また、いったん友人と認めた相手には敬意を表す。現在幻想郷には殆どおらず、大抵のものは鬼の国で生活している。 妖怪のため、人間も食べる。 なまはげ 東北にて語られている鬼。地方内でも伝承が細かく分かれる。怠け者を懲らしめ、災いをはらい祝福を与える。 人間に仕えていたが正月の十五日だけは里に下りて乱暴や略奪を行う。 そして悪い子をさらって食う。などと伝えられている。 幻想郷は外の世界で途絶え、忘れ去られつつあるものが流れ着く地。なまはげという有名な妖怪の中でも、 悪い子をさらって食うというあまり知られていない部類ものは、幻想郷にやってくる。 ついたばかりで未だ幻想郷の常識も知らず、ただ悪い子を捕まえて食べる鬼。それがこの大男の正体だった。 赤鬼は、これから先の人生で決して泣くことがない。そう確信を持って言い切れるような陽気な笑いを浮かべた。 《きもちわるい》 《きもちわるいよぉ》 まりさが開放されたのは、日が落ちた後であった。しんとした暗闇の中、 ずりっずりっと重くなった体を引きずってぱちゅりーの家を目指す。 その目は遠くしか見えておらず、何度も石で転げそうになる。この日は辛いことが起きすぎた。。 誰かと一緒にいないと壊れてしまいそうだった。誰かと一緒にゆっくりしたかった。 青鬼の決意はどこへやら、まりさは急ぐ。傷ついた体でずりっずりっと、暗い巣の中でひとりぼっちの友達のところに急ぐ。 けれどもその速度はとてもゆっくりしていた。 ぱちゅりーの家が見えた。最後に訪れたのはあの絵本を見に行ったときだった。 巣の外からもぱちゅりーが見えた。眼をつぶってゆっくりと動かない。 寝ているのだろうか。愛する友達に出会えてただうれしかったまりさ。 まりさは巣の中に飛び込む。目測を誤って入り口で体をぶつけてしまった。 まぬけなところをぱちゅりーに見せてしまったのかもしれない。 そう思ってぱちゅりーに近づく。 その顔は、髪と同じく、紫色だった。 ぱちゅりーはすでに息を引き取っていた。 誰もそばにおらず 誰も話しかけてこないで 誰も悲しむことなく 誰も知らずに たった一匹で静かにこの世を去った。 まりさはひとりぼっちになった。 絶望。まりさは二度とれいむ達とは会えなくなり、信じていたおじさんはゆっくりできない人だと知り、 おじさんとゆっくりしていたためにぱちゅりーは死んだ。そう、まりさはもうゆっくりできない。 青鬼になる その言葉の意味をまりさは理解したつもりだった。 誰とも会わずただ一匹で生きていく。 だが、その一文の決意を実行できる生き物はいない。 寂しさ。 まりさの餡子はその気持ちでいっぱいだった。 ちょっとだけ、みんなの様子を見に行こう。 会わないなら大丈夫。ただみんなが人間と仲良くしているところを見るだけ。 別にまりさが捕まったってもうみんなは人間の仲間。だから何も問題ない、 青鬼の決心は、完全に失われていた。 気がついたときには目の前には人間の里。里長の屋敷の前だった。まりさは夜の闇の中ふらふらと明かりにつられてやってきた。 辺りには誰もいない。新しい仲間の歓迎会を開いているのだろうか。 まりさが物陰から覗いた時、人間達はもう闇も深まってきた頃だというのに、明かりを贅沢に使って宴会していた。 酒をぐびりと一気に呑み、おわんに入ったおかずをガツガツ食べて、ガヤガヤと聞き分けられないほどの大音声で騒ぐ。 子供たちまでいた。子供達はお酒が飲めない代わりに、お菓子を食べている。 シュークリーム、エクレア、タルトと豊富な種類がそろっている。 人間達はご機嫌だった。ゆっくりしていない、人間独自の仲間との交流だった。 「たのしそう・・・・・・・・まりさもみんなとゆっくりしたいよ・・・・・・・・・・」 思わず口から漏れる偽らない本音。楽しかった日々。 「? みんなどこいったのかな?にんげんといっしょにゆっくりしているのかな?」 宴会の最中であるにも関わらず、歓迎されるべき主賓はどこにも見当たらなかった。 今頃人間達と一緒にお歌を歌って、ありすがへただとからかわれていると思った。 れみりゃが人間の子供と鬼ごっこをしていると思った。 れいむが人間とほっぺたを寄せ合ってゆっくりしていると思った。 しかしその姿は見当たらない。 《どこにいったんだろう・・・・・・》 まりさはそうっと忍び込み、みんなを探す。 最後に一回くらいは顔を見ておきたかった。一回だけ。一回だけ。 カタッ パタン カタッ パタン いくつもいくつも部屋を空ける。しかし見当たらない。どこにもいない。 おかしい。何か変だ。 まりさはようやく事態の異常さに気がつく。いや、本当は気づいてた。誰もいないのはおかしいと。 ただ認めたくなかった。さっきのような、あのおじさんに裏切られたときのような感覚がしていることを。 本当だったら聞こえるみんなの笑い声がしない。 「・・・・・・・・・・・・・・・・よ・・・・・・・・・・・・・・・・し・・・・・・」 どこからか声が聞こえたような気がする。 「・・・・ゆ・・・・・・・・・・てよ・・・・・・・・・・・・り・・・・・・・・し・・・・・・・・・・・ い・・・・・・・・・・・・・・よ・・・・・」 聞こえた。気のせいじゃなかった。これは紛れもなくれいむの声だった。 まりさはずりっずりっずりっと、れいむの声がするほうをゆっくり目指す。 最後に大好きな友達の幸せな顔を見るために そしてまりさはある部屋の前で立ち止まった。 そこは、台所だった。 奥から聞こえてくるれいむの声。その声はかすれていた。 「ゆっ・・・・・・・・・・・・くり・・・・・・・・・し・・・・い・・・・よ・ たす・・・・・・よ・・・・・・・・・・・・・り・・・・・・・・・・・さ・・・・・・・じ・・さ・・・ん」 「れいむ!まりさだよ!どうしたのれいむ!」 まりさはれいむとついに再会する。 最後にあれほどひどい別れ方をしたにもかかわらず、まりさはれいむへと何のためらいもなく駆け寄る。 まりさはれいむな事情をわかってくれていると信じていた。それはあまりにも都合のいい事考え方をする饅頭だった。 いや、実際れいむは事情をわかっていたつもりだった。しかし今ある状況はまりさのせいによって起こったこと。 れいむは、格子状の籠の中に閉じ込められていた。 「だれ・・・・・・・・・まりさ・・?」 「まりさだよ!れいむどうしたの!みんなどこにいったの!ゆっくりおしえてね!!」 まりさがれいむへと駆け寄る。二匹をさえぎる籠にめいいっぱい近づく。 ほっぺたが押さえつけられるあまりに格子から少しはみ出ていた。 れいむは人間に捕まってはいるが、その体には傷一つなかった。 今は、まだ 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 れいむは目を伏せてそらす。そのまま十数秒が経過する。 二匹は黙りきり、台所は宴会場からの喧騒が響くのみとなってしまった。 業を煮やしてれいむに問い詰める 「ありすは?ぱちゅりーは?」 れいむは目を伏せたまま答える。その声は、あまりにも弱弱しい。 「みんなたべられ・・・・・・・・・・・・・ちゃったよ・・・・・・・・・・・」 《たべられた》 《たべられた!?》 《どうして?にんげんとおともだちになったんじゃなかったの!》 「れみりゃがさいしょにね・・・・・あたまをぽんっ・・・・・・・・・て・・・・・・きられて・・・・ ぐりぐりって・・・・なかみをむりやりとるの・・・・・・・・れみりやはね・・・・・・はねをばたばたさせて・・・ にげようとしたけど・・・・・・・・・・そうするとはねもきられちゃったの・・・・・・・・・・・・・・・・ ずっといたいいたいってないてて・・・すっごくおっきなこえで・・・・・・・うごかなくなるまでずっとないてたの・・・。」 《うそ》 「ありすはもっとひどかったよ・・・・・・・・・・・かみのけをぜんぶきられて、・・・・べりっ・・・・・・・・・ てかわをはがされたの・・・・・・・・・・・いちまいずつ・・・・・・・・・・いちまいずつ・・・・・・・・・・ ありすは・・・まりさ・・まりさって・・・・・・・・・ずっとよんでたよ・・・・・・・・まりさがたすけてくれるって・・・ ずっと・・・・・・・・しんじてた・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。。。・・・・ おじさんたちはね・・それをみていて・いっぱいわらってた・・・・・・・れみりゃとありすをおいしそうにたべてたの・・ 《うそだよ》 「ほら・・・・れみりゃはそこにいるよ・・・・・・・・・・」 そこに転がっていたのは、かつてれみりゃと呼ばれていた肉まんの皮部分だった。 あのとき、悪さをするまりさを追い払ったれいむ。そのとき人間にはどのように見えていたのか。 「ゆっくりしていってね!(みんなもうだいじょうぶだよ!!)」 リボンのゆっくりは仲間のいる方向に笑いかける。その表情は人間達にも見えた。満面の笑み。 終止無言だった先ほどとは対照的に明るすぎる声で二匹へと呼びかける。 その声は人間達には勝ち誇り、自らの領土を主張するように聞こえた。 人間達は事情を知らなかった。 そのとき、一人の男が水をさすようにつぶやいた 「こいつら、今も【ゆっくりしていってね】って言いつづけているから、里での縄張り争いしただけだったんじゃないか」 -言われたとおりゆっくりするよ。俺達が満足するまでね。- -ゆっくりゆっくりうるさいなぁ、お前から先に苛めてやろうか。- -ん~、いい声で鳴くなあこいつら。少しワンパターンだけど、やっぱりいい声するや。発音の変化がいいね。濁音がついて- -せっかくだけど、ゆっくりしている暇はないだべ- -それににんげんってはなしがつうじないのよ!いきなりつぶされたおともだちもおおいの!- この世界には、ルールがあった。 この世界では、他の世界とひとつ異なるところがある この世界では、ゆっくりの言葉は人間にはある一つの言葉とそれを含む単語にしか聞こえない。 その言葉とは 【ゆっくりしていってね】 ゆっくり達は自分達の言葉がこうして聞こえているのは知らない。 また、人間の言葉は、ゆっくりにとってはうなり声に聞こえる。 つまり、ゆっくり達が火にあぶられようが、壁に叩きつけられようが、切り刻まれようが、人間と友達になりたかろうが、 自分達の意思を人間に伝える方法は存在しないのである。 【ゆっくりしていってね】 人間には鳥や虫のような【鳴き声】にしか聞こえないそれも、あの状況ではある先入観を抱かせることになった。 その言葉の持つ意味が曲解されていく。 あのとき、れいむはまりさに向かって黙りきったまま体当たりを繰り返してしまった。れいむが大好きだったまりさ。 そのまりさへと一言でも責めたら取り返しのつかないことを言ってしまうと思ったれいむ。 だが、人間の目にはれいむがまりさに友好を求めるかのような【鳴き声】を出さないことから、 リボンのゆっくりが、帽子のゆっくりが羽を持ったゆっくりとヘアバンドをつけた ゆっくりにじゃれていたところをいきなりたたき出したようにも見えた。 れいむが【ゆっくりしていってね】と叫びながら叩き続けていれば、 この鳴き声に意味はないことに気がついたかもしれなかったのにである。 また、その後にありすとれみりゃに向かって大声で笑いかけたことは最悪だった。 その様子は人間から見たら、外敵を追い払って仲間に【ゆっくりしていってね】と、自らの縄張りを誇る様子にも見えた。 ゆっくりに対してかまっているのは虐めている子供達だけ。 大人たちが子供の頃に虐めたのは蛙や虫。 つまり、ゆっくりの生態はあまり人間達に深く知られていない。 考えすぎだよと笑っていた大人たちも、いつしか多数派に言いくるめられる。 どうせゆっくりは弱い。ならばこちらからしかけても、報復など恐れるほどではない。 今度はこいつらが徒党を組んで悪さをしでかすのではないか。 だったらこれは弱いものいじめではなく、駆除になる。駆除するなら早いほうがいい。 だから何も悪いことじゃない。 人間達はゆっくりに対して誤解した認識を持つ。。 無害な動物から人間の仲間へ、そして人間の仲間から害獣へ まりさの「赤鬼と青鬼」作戦に誤算があったとすれば、ゆっくりが人間に対して何の役も立たないということだった。 鬼は強く、仲間にすると心強い。用心棒としても、労働力としても使える。 しかしゆっくりは、仲間にしても何の役にも立たない。 人間の仲間というには、あまりにも無力だった。 あたりが静まり返った 「ゆっぐりじていでね!!(ま゛り゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!だずげでぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!)」 「ゆ~ぐぃ~~!(う゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁん゛!!!)」 命乞いの鳴き声を上げるカスタード饅と肉饅。人々の耳にはそうとしか聞こえていなかった。 「ゆっくりしていってね!」は、『ゆっくりやめてね』と自らの命の危機に対する哀れみを誘っているよう意味にしか聞こえなかった。 害獣の命乞いなど聞き入れるほど人間は甘くない。二匹は今、宴会の出し物になっていた。 人間達は、その深い味に舌鼓を打つ。 「ゆっくりしていってね!(まりさはほんもののまりさなの?)」 れいむがいきなりまりさに対して問いかける。 目は血走り、その声は禍々しい。 「ゆっくりしていってね!ゆっくり!(まりさはまりさだよ!どうしちゃったのれいむ!)」 まりさはあわてて否定する。どうしてこのような質問をされたかわからない。 「ゆっくり!ゆっくり!(ほんもののまりさならみんなをたすけにきてくれたよ! おまえはたすけにきてくれなかったよ!)」 3日前、かなわないのにひたすら人間に立ち向っていったまりさ。 2日前、悪行の限りを尽くして去っていったまりさ。 れいむは、悪さをしたまりさは別のまりさと思い込むことで、自らの心のまりさを責める気持ちからから友達のまりさを守っていた。 「ゆぅ~!ゆゆぅ! (まりさはれいむのしってるまりさだよ!まりさがわるいことをして! みんながまりさをこらしめればにんげんのおともだちになれるとおもっていたんだよ!)」 まりさは自分の存在を否定されていた。それはひとりぼっちになることよりずっと辛い。 なんであんなことを考えたんだろうとまりさは自嘲する。余計なことをしなければみんな死ぬことはなかったのかもしれないのに。 「ゆっくり!ゆゆっくり!ゆっくりしていってね!(みんなしんじゃったよ!おまえのせいだよ!ゆっくりしね!)」 あの時一度も言わなかったまりさへの恨み言を惜しみなく繰り返すれいむ。 れいむは正気を失いつつあった。 「ゆっゆ!ゆぅゆ!(れいむだけでもたすけるよ!ゆっくりしないでたすけるよ!)」 まりさはかつて人間の子供に対して行ったようにれいむの籠に体当たりを繰り返す。 れいむはちょっとおかしくなってしまっただけ。そう自分に言い聞かせながら体当たりを繰り返す。 何度も、何度も、体がへこんでも何度も何度も。 しかしそのとき、まりさの体にはある異物があった。 あの赤鬼に食べさせられた「ごちそう」だ。 それは消化されず、ずっとまりさの体内に埋まっていた。 体内に大量の異物がある状態。 そのような状態で体当たりを繰り返した結果、 餡子と共に吐き出した。「ごちそう」を 《ちがう。これはちがう。まりさはなにもわるくない。おじさんが無理やりまりさに食べさせたから。 おいしくなかったよ。まりさはこんなことしないよ。にんげんをいじめたりしないよ。》 「ゆっくりしていってね!!(れいむ!ちがうの!これはちがうの!あのおじさんが・・・・)」 「ゆっくりしていってね!(ゆっくりだまってよ!!)」 《なんでこんなことになっちゃったんだろう。なにがいけなかったのかな。》 《人間に悪いことをしたから?青鬼になろうと思ったから?》 《おじさんのことを信じちゃったから?あの日ピクニックに行ったから?》 《まりさはただみんなにゆっくりしていってほしかっただけなのに》 「ゆっくりしていってね!ゆっくりしていってね!ゆっぐりじでいでね!ゆ゛っくり!ゆ゛っぐりぃぃぃぃぃ! (しらない!おまえなんてじらないよ!おま゛えなんてまりざじゃないよ!このばげもの!まりざをどごにや゛っだの! に゛ぜも゛の!!ま゛り゛ざを゛がぇぜぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!)」 そのとき、奇跡が起こった。自らの心が人間には伝わらないゆっくり。 しかし憎しみに狂ったれいむの怨嗟の声は、ゆっくりの言葉と人間の言葉に同じ意味を持たせた。 あの愛嬌のある姿はどこにもなく、地獄から響くような『鳴き声』をあげていた。それは屋敷の中にいる人間にも伝わった。 「ゆ゛っ゛ぐり゛じねえ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛゛ え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛ え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛ええ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え ゛え゛え゛゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛ !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 その表情はまさに『鬼』だった。 人間たちはこの声を聞きつけ、台所に駆け寄るとあたりに散らばる格子状に千切れた饅頭とそれに混ざった肉片を見る。 人間たちは先ほどまでの宴会で胃の中に入れたものを吐き出す。 次の日から、ゆっくりは【ゆっくりしていってね】という声で人を引きとめて襲うと伝えられることになる。 害獣に認定されていたのはほんの数時間ほど、今は化け物と呼ばれている。 かくして、赤鬼から逃げた青鬼は村から追い出され、誰にも相手にされず、後悔しながらゆっくり苦しみ続けることになりました ゆっくりまりさと鳴いた赤鬼 めでたし、めでたし 著 抹茶アイス このSSに感想を付ける
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配置 1 カイゼルヒゲアザラシ 3 レッドラインクラゲ ダビデ象 6 イグアナシャーク 8 メテオライトトータス 海星忍者アカホシ千手蟲スターローパー(ボス) 目隠しイルカ 12 殻風竜 14 15 トラフグイソギン ※-:出現しないマス 海星喰い 千手蟲スターローパー 種族 蟲 - 行動名 属性 攻種 射程 対象 効果 通常攻撃 - 星+~20? 射撃 2.5 スキル 千手殲星 星+~30? 射撃 2.5 敵広 ダメージ スキル ガード 千手防衛 ? 確率で無効化 その他 ※所持 ※千手防衛は距離1.0雷斬撃・光斬撃・雷星斬撃・闇突撃・無突撃、1.2風斬撃・炎鉄斬撃、1.2星斬撃(妖爪)、2.0雷突撃・炎闇斬撃・星斬撃、2.2炎地突撃・炎鉄斬撃に反応を確認 海星島のモンスター ダビデ象 種族 獣 - 行動名 属性 攻種 射程 対象 効果 通常攻撃 - 無 打撃 1.5 骨折追加 スキル ヘキサグラムスタンプ 無 打撃 1.5 敵広 ダメージ ガード カウンタ 直接 確率で反撃 その他 抵抗 自身 オープニング時、抵抗*を付与 ※芸術的象牙斧(戦斧)所持 メテオライトトータス 種族 爬虫 - 行動名 属性 攻種 射程 対象 効果 通常攻撃 - 星+~40? 打撃 1.5 スキル 天日星甲羅 星+~50? 打撃 1.5 敵単 ダメージ ガード ブロッキング 直接 ダメージ軽減 その他 ※星甲杖サルトゥヌス(錫杖)所持 殻風竜 種族 爬虫 - 行動名 属性 攻種 射程 対象 効果 通常攻撃 - 風+~40? 突撃 1.0 スキル 竜尾風流スイング 風+~50? 突撃 1.0 敵単 ダメージ必ずガードブレイク ガード マジックバリア 魔法 ダメージ軽減 その他 ※風絶カラフルダガー(短剣)所持 ※竜尾風流スイングは必ずガードブレイクの模様 カイゼルヒゲアザラシ 種族 獣 - 行動名 属性 攻種 射程 対象 効果 通常攻撃 - 無 射撃 2.0 スタン追加 スキル 髭鞭カイゼルウィップ 無 射撃 2.0 敵縦 ダメージ ガード ディフレクト 直接 確率で回避 その他 スタン抵抗 自身 オープニング時、スタン抵抗*7を付与 ※ヒョウじゃらし(投具)所持 海星忍者アカホシ 種族 軟体 - 行動名 属性 攻種 射程 対象 効果 通常攻撃 - 星+~20? 射撃 3.5 スキル 星刻五芒抜き 星+~30? 射撃 3.5 敵単 5回ダメージ ガード サイドステップ 魔法 確率で回避 その他 ※海星弓ナナツボシ(弓)所持 イグアナシャーク 種族 魚 - 行動名 属性 攻種 射程 対象 効果 通常攻撃 - 水+~40? 斬撃 2.0 魔法ダメージ スキル ガラパゴスサークル 水命+~60? 斬撃 1.5 敵円 ダメージ ガード マジックカウンタ 魔法 確率で反撃 その他 ※妖爪所持 目隠しイルカ 種族 魚 - 行動名 属性 攻種 射程 対象 効果 通常攻撃 - 無 魔撃 2.5 暗闇追加 スキル 目隠し太刀魚投げ 無 魔撃 2.5 敵単 ダメージ ガード サイドステップ 魔法 確率で回避 その他 暗闇抵抗 自身 オープニング時、暗闇抵抗*5を付与 ※魔銃所持 レッドラインクラゲ 種族 軟体 - 行動名 属性 攻種 射程 対象 効果 通常攻撃 - 無 神撃 2.5 生命還元 スキル 血抜きハグ 無 神撃 2.5 敵単 ダメージ自身のHP回復 ガード エレメントガード 属性 確率で回避 その他 ※血管指輪(指輪)所持 トラフグイソギン 種族 軟体 - 行動名 属性 攻種 射程 対象 効果 通常攻撃 - 無 音撃 3.0 スキル 虎毒の壺 無 音撃 3.0 敵十 ダメージ猛毒・腐食・暗闇追加 ガード マジックバリア 魔法 ダメージ軽減 その他 ※触手つきマイク(マイク)所持 ドロップ 装備 名称 種類 Lv 属性 攻撃 防御 魔攻 魔防 命中 制御 行動 固有ギフト スロット 備考 ※本家アイテムデータの並び順と同様 魂片 名称 種族 Lv 属性 ギフト ※敵並び順と同順 探索 名称 種類 Lv 属性 効果 匂い袋 消費 1~3 無 強い敵が寄ってくる。要注意ただし、イベントマップなど一部特殊な戦闘では無効 ※並び順は上から順に消費、薬、食料、一般、宝箱、封壺 タイプ:ダンジョン 属性:水&星(雷/光に弱く炎/花に強い) マップLv:126(126~) スキップLv:不可 クリアボーナス: ボスLv:137~ 雑感 星海見上げる凪の入江の沖合にある星形の島。数多くのヒトデが棲んでいる。 スタート地点から3歩目で「再誕の白砂揺籠」に到着。 新たな生命の誕生と「千手蟲スターローパー」がその生命を貪り食らう場面に順次遭遇する。 ローパーの最期を見届けると海星達の関係者が登場。 『ミッション:海星母の涙』を受領し、次の舞台となる緑化海星の森へ進むことになる。
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30年前、人類は突如として現れた謎の生物『ゆっくり』の脅威に晒された。 全長2m~4m、幅3m~6mのその巨大な侵略者は本当に振って湧いたかのように突然人間の住んでいた領域に現れた。 発生源は不明、餅のように柔らかい球体に顔を貼り付けたようなそれはさながら巨大な生首だった。 その肉体を形作っているのは、小麦粉を練った皮の中に餡子がたっぷりとつまった物 そう、驚くべきことに彼等は饅頭だった。 その現代科学をあざ笑うかのような無軌道摩訶不思議ぶりは 何人もの有望な研究者を狂わせ自殺させるという痛ましい事件を呼び起こした。 しかもただの饅頭ではない。 その表皮に拳銃などの通常兵器は通じずロケットランチャークラスの兵器を用いてやっと体に傷がつく。 最新の戦車でさえ一対一では場合によっては遅れを取る。 生身の人間には太刀打ちできる相手ではない。 そしてその強靭さ以上に驚くべきことに、ゆっくりは人の言葉を用いた。 「ゆっくりしていってね!」 それが初めてゆっくりと出逢った男がゆっくりから聞いた言葉だった。 このことから、その巨大な怪生物は以後『ゆっくり』と総称されるようになる。 なのでゆっくりとの対話による和解も試みられたが その天敵を持たない強さからその性分は他の種族に対して傲慢極まりなく そもそもゆっくりは小さな家族的集団しか作らないためいくら対話してもキリが無く大抵の場合破綻した。 そのことを人間がこれまでやってきたことのしっぺ返しと揶揄する識者も居たが やがて自分にも脅威の及ぶ頃になると彼等も他の大勢と同じように自分を棚に上げてゆっくりを口汚く罵った。 傲慢な者同士の対話などうまく行くわけは無かったのかもしれない。 いくら強力なミサイルを使って辺り一帯ごと焼き尽くしても、その場所にまた別の場所からゆっくりが移り住んで 人類は逆に自分たちが住める土地を失っていった。 そうして至る所に突如発生しだすゆっくりにより人類は次々と生活圏を追われ 人類は辛うじて自衛を可能とする力を持っていた都市部へと追いやられた。 多くの人がこのまま人類は地上の覇権をゆっくりに譲り渡し、細々と生きて行くしかないかと思われた。 だが、ある天才の発明により人類に逆転のための炎が燈る。 ゆっくりを研究していたとある女性研究者の手により ゆっくりを長期に渡って完全な休眠、仮死状態にする薬品 ゆっくり休眠剤『ヤゴコロス』が発明されたのだ。 世界中が都市部内の工場を『ヤゴコロス』を製作するために作り変えた。 これを一帯に散布することによりゆっくりをほぼ完全に無力化することに成功する。 そして人類は再び地上の覇権を取り戻した。 だが、問題は山積みだった。 『ヤゴコロス』は非常にコストが高く、また定期的に投与しないと休眠状態を維持できない。 また不可解なことにゆっくりはそれまで居なかったところ、制圧したはずの場所からも突如発生し続けた。 人間は一時的に地上の覇権を取り戻したもののその覇権を守るための刃を必要としていた。 鉄の臭いがする。 鉄の臭いは好きだった。 普段かいでいる甘ったるい臭いと全く逆なところが特に気に入っている。 俺はポケットやら何やらが色々ついたダークグリーンの服を脱ぐと 専用のスーツに着替えていった。 体にピッタリと密着するそのスーツは、一言で言うと所々に堅いパーツのついたスウェットスーツだ。 色はグレーの地に所々暗めの青、専用にあつらえているため俺の体に完全にフィットした。 俺は背中のチャックをあげると扉を開けてヘルメットを片手に抱え歩き出した。 通路を歩き格納庫へと入ると、整備士たちが駆け回る慌しい喧騒を無視して 迷うことなくまっすぐに自分の機体の元へと向かう。 甘い臭いが鼻腔をくすぐった。 機体の前に立って見上げる。 機体のハッチは高さ3mのそのボディの一番上にある。 毎回乗り降りが大変なのだが、構造上そう設計せざるを得ないので仕方ない。 最初の頃は登るたびに一々文句も言ったものだが今では黙して淡々と梯子を登りハッチを目指す。 手動で黒い扉を開けると、立てひざをついて機体の頭頂部に設置されているロックを解除した。 そして重々しいハッチを開けて俺は機体の中に乗り込んだ。 ボスンとパイロットシートの上に背中を預ける。 ずっと思っていたのだが、この中では甘い臭いはしないのは少々奇妙なものを感じる。 中にはコードで繋がれたリングが何個もある。 その形状から拘束具などと揶揄されるソレはコレを操縦するための要だ。 実を言うと、このスーツのシンプルな構造といくつかのパーツもそのための物だ。 俺は手首や足首にあるパーツに次々とそのリングを接続した。 全てのリングを接続したのを確認して、俺は脇に置いておいたヘルメットを被った。 そしてヘルメットに備え付けられている通信システムを起動させると言った。 「スタンバイ完了、これよりジャックを開始する」 『了解、Bjh開始してください』 形式的な文言を言い終わると俺は目を瞑り力を抜いていった。 ゆっくりと溜め込んでいた息を吐いていき、鼻から吸った。 格納庫の甘い臭いが鼻腔をくすぐる。 「嗅覚…同期」 体の力が限界まで抜けきった時、俺の体を外の熱気が撫でた。 「感覚、同期」 順調に行程が進んでいくことに満足して唾を呑む。 甘い味がした。 「味覚、同期」 耳を澄ましていくと格納庫の喧騒が聞こえてくる。 「聴覚、同期」 俺は通信を入れた。 「同期完了、視覚データの転送を」 『了解、視覚データ転送します』 ゆっくりと目を開くと、ヘルメット全体にさっきまで見ていた格納庫の映像が映し出された。 たださっきと違う点を上げるならば、少々目線が高いことだろうか。 さっきは見上げるようだった整備士の中年の大男も今では遥か下に見下ろしている。 俺は進路に障害物の無いことを確認すると言った。 「ジャック完了」 『Bjh完了を確認、ハッチを開放します』 「了解、ゆっくりまりさ、出ます!」 俺は不敵な笑みを浮かべると、ぼいんぼいんと跳ねながら格納庫から発進した。 人類は、ゆっくりに対抗するための刃を欲した。 しかしこれまで人類が作り上げてきた力はゆっくり相手には余りに脆弱すぎるものと 強力すぎて周りまで傷つけてしまうものばかりで帯に短し襷に長しといった有様だった。 だが人類はゆっくりを相手にするのにもっともふさわしい力を手に入れたのだ。 そう、ゆっくりそのものである。 しかしゆっくりはそのまま使うには手に余った。 だからゆっくりの中身を改造して、その脳を侵略してゆっくりに手綱をつけて使役することにしたのだ。 それをゆっくり休眠剤『ヤゴコロス』は可能にした 『ヤゴコロス』を使い休眠状態にしておいたゆっくりをゆっくりの内部に入力デバイスを埋め込む。 そして薬品の量を減らしてゆっくりを半休眠状態にする。 ここからがさっきやった『ジャック』『Bjh』と呼ばれるものだ。 『Bjh』とはBean jam hijackの頭文字からとったもので、要するにゆっくりの餡子をのっとるということだ。 入力デバイス内に人間が乗り込み、自分の感覚を通して半休眠状態のゆっくりの脳を侵略し支配権を奪っていく。 完全に支配権を奪ったところで、今度はゆっくりを半覚醒状態にして五感をのっとられたゆっくりを動けるようにする。 後は操縦者の思うがままに、その手足となってゆっくりは動かせる。 とは言っても所詮操り人形を操るようなもので、完全に自由自在というわけには行かない。 だがそれでも訓練次第でかなり自由に動かせるようにはなる。 スウェットスーツのようなパイロットスーツもゆっくりとの感覚を共有しやすくするための ゆっくりと人間の間にある変換機のような役割を担っている。 人類はこの人の手で動くゆっくりを饅頭兵器、すなわちSteamed bun armsの頭文字をとって Sba、もしくはSb兵器と呼んだ。 そしてそれに乗る人間のことをSb乗り または餡子を乗っ取る人という意味でBean jam hijackerを略してBean jackerと呼んだ。 まあ年を取った人は見も蓋も無く饅頭乗りと呼んだりもする。 これの副次的効果として半休眠状態をデフォルトとすることで『ヤゴコロス』の使用量を減らすことも出来た。 こうして人類はゆっくりと戦うのにふさわしい刃を手に入れ、本格的な反撃を開始した。 そうしてゆっくり駆逐戦、後に第一次ゆっくり大戦と呼ばれる戦いは開始し 15年ほど前に以前人間が生活していた地域を殆ど人の手に取り戻して大戦は終焉した。 大戦を人の手に導いたのはやはり人の操縦するゆっくりを主力にした特殊部隊だった。 ゆっくりが現れ始めてから30年、ゆっくりに人が打ち勝ってから15年 俺は母国の軍隊に、ゆっくりのパイロットとして入隊していた。 ゆっくりとの戦争があった時は俺はまだ小さな子どもでその頃のことは良く覚えていない。 軍隊に入ったのも別に何か特別な理由があったわけではない。 偶然受けた適性検査に受かってそのまま入っただけだ。 そんな軽い気持ちで何故俺が軍隊生活を続けられているのか。 「敵機を視認、これより戦闘を開始します」 『了解、戦闘を開始してください』 俺は足を弾ませ目の前のゆっくりに対して直進した。 予想外に早いこちらのアプローチに驚いたのか、目の前のまりさは驚愕の表情を浮かべている。 そのまりさがやっと対処をしようと動きだした時にはもう大勢は決していた。 俺はまりさの眼前に大きくジャンプし、その勢いで真上に跳んだ。 体一つ分ほど俺の体が宙を舞う。 俺は相手のゆっくりまりさの帽子にとび蹴り ゆっくりの感覚的には底部の端に力を入れてすこし伸ばしてする体当たりが蹴りなのだが それをしてまりさの帽子を叩き落し、まりさの頭の上に乗っかった。 ゆっくり同士の戦いにおいて、これだけでほぼ勝敗は決する。 後は上から数度ジャンプして踏み潰してやればツブレ饅頭の出来上がりだ。 「ど、どおぢでぞんなにゆっぐりぢでないのおおおおおお!?」 悲鳴を上げるまりさに対して俺は言った。 「あんたが遅すぎるのさ」 [まりさがゆっくりしすぎてるんだよ!!] 俺の言葉が俺の操縦するゆっくりまりさを通して、ゆっくり言葉で喋られた。 操縦者が外に向けて言った言葉は、このようにゆっくりの言葉に変換されてゆっくりによって喋られる。 『そこまで、訓練を終了してください』 俺は相手のまりさの頭から降りて、格納庫へと戻るために跳ねていった。 「同期…解除」 手のひらを握ったり広げたりしながら自分の感覚が自分の手をちゃんと動かしていることを確認してから もう外の景色を映していないヘルメットを外し息を吐いた。 面倒な行程だが、これをしておかないとうっかりゆっくりと同期したままヘルメットを外したりしようとして 妙な事故を招いてしまうこともある。 俺もド素人の頃に一度やって格納庫の備品を壊して始末書を書かされた。 さて、さっき言いかけたそれほど目的意識の無い俺が軍隊でやっていけているのかというと つまるところ、それなりに才能があったからだ。 ただしゆっくりの操縦に関してだけで他は平均かそれ以下といったところだが それでもゆっくりの操縦を出来る人間は少ないので重宝される。 人類は地上の覇権を取り戻したものの、まだ自然発生するゆっくりはなくならない。 また、ゆっくり休眠剤『ヤゴコロス』で休眠させているゆっくりを駆除するにもそれが出来る兵器は金がかかる。 かといってそのままにしておいてもゆっくり休眠剤『ヤゴコロス』を定期的に散布せねばならず金がかかる。 なので戦争が終わってから十五年経った今でもSb乗りは引っ張りダコだ。 それから数日後、俺に辞令が下った。 「転属…ですか?」 俺は上官に尋ねた。 「ああ、書類に目を通してから荷物をまとめておいてくれ」 それだけ言って書類を俺に渡すと上官は全て済んだというように立ち去っていった。 俺は面倒だななどと考えながら頭を掻いて書類に目を通した。 転属先は南の方にある大戦前からある古い基地だ。 元々は合衆国の基地だったが、大戦時の混乱によりいつの間にかわが国が実質的に管理運営している。 どこも自分の国のゆっくりに手一杯で、他の国までどうこうしようという余力は無い。 なので合衆国もその基地にこだわらずに放置してしまっているのだろう。 転属は一週間後 それまでにそれほど多くは無い荷物をまとめなくてはならず整理整頓の苦手な俺は溜息をついた。 転属の何が嫌かといえばやはり人間関係の再構築だろう。 特に、ゆっくり操縦士は重用されている割に若者が多い。 ゆっくりと同期するという行為が自我の確立した熟年よりも 若くて自我のやわらかい人間の方がやりやすいからと言われているが科学的に証明はされていない。 まあそんな訳で一般の、特に中年くらいの兵隊からの風当たりは強かったりするのだ。 ここでも大分苦労してやっと操縦士以外の何人かと馴染んできたところだったので 正直に言うと転属はしんどい。 が、そのことで上に文句を言えるほどの立場も俺には無い。 なのでそれなりの覚悟をして、かなり肩肘張りながらこの基地にやってきた。 軽く挨拶だけ済まして特に打ち解けようとすることも無くふらふらと格納庫の方へやってきた。 これから俺の乗る機体も見ておきたいという、別にそれだけの理由だ。 「俺タクヤってんだ!渡邊タクヤ タクヤでいいぜ?オマエ歳いくつ?タメ? まあどうでもいいや、あんま歳かわんなそーだし敬語とか無しな? ゆっくりの整備士やってるんで多分オマエの担当になんじゃないかなと思うわけ なんていうかビビっと運命って奴? ってか今専属無い奴俺だけだしさーってことでヨロシクゥ☆」 捲くし立てながらぽんぽんと肩を叩いたりと 異常なまでに馴れ馴れしいその整備士の態度に俺は正直、「なんだこいつ」と思いながら眉を潜めた。 「あー、その 俺の機体見に来たんだけど…」 俺はマシンガンのごとく繰り出されるその整備士の言葉の縫い目を見つけて控えめに目的を伝えた。 「あーはいはいはい命を預ける愛機のことを一刻も早く知りたいって訳ねオーケーオーケー 多分あのまりさじゃないかな、他に空いてるのは無いし」 そういってそいつは斜め後ろに陣取っているゆっくりまりさを指差した。 俺はその整備士を置いて、そのゆっくりまりさに歩み寄った。 肌の艶から見て整備はきちんとされているようだ。 手で触った弾力から考えても生育は良好 そう悪くない いや、むしろ何故こんないい仕上がりのものがエンプティになっていたのか疑問に思うくらいの機体だ。 「よろしく頼むぜ、相棒」 俺は何の気なしにそんなことを呟いた。 「おっけー!任せてけって!」 オマエじゃない。 そんな感じで、鬱陶しいのが一人懐いてきたものの 俺は引越し後で忙しいというのを理由に訓練時以外は殆ど同僚達とは接触しなかった。 接触すれば波風が立つだろう。 まず新人としての注目が薄れてからじっくり馴染んでいくのがいい。 特にこの基地は高齢の隊員が多いようなので慎重に行こう。 そう思って周りに反感を抱かれない程度に意識して避けていた。 意図してやっているとはいえ宙ぶらりんの居心地の悪い状態の続いていた日のこと。 遂に俺にこの基地に転属されて初めてのスクランブルがかかった。 「坊主!仕事だ!郊外に野生のゆっくりが出やがった!」 ヒゲ面の上官、山崎源五郎二等陸曹の言葉を聴きながら 既に専用のパイロットスーツに着替えていた俺は格納庫へ向かっていた。 山崎源五郎二等陸曹は定年間近の大分年を食った男で いかにもな傷だらけの浅黒い肌と筋肉 そして体毛と酒臭さを供えた男臭い男をそのまま体現したような男だ。 他と同じようにこの人のこともなるべく避け様と思っているのだが 小ざかしい俺の意図など意にも介さずに向かってきてやたらと呑みに誘ってくる人だった。 俺のことは名前ではなく坊主と呼ぶ。 二十歳過ぎて坊主と呼ばれるのは勘弁して欲しいのだが 上官だし顔を見合わせるとどうにもその男臭さに気圧されて指摘出来ずに居た。 「数は何匹ですか?」 「確認されたのは二匹だ、まあそこらに隠れてるかもしれんが こっちで出せるのはオマエだけだ 後は出払ってるか帰ってきたばかりで休養中ってとこだ いけるな?」 「はい、問題ありません 俺一人で充分です」 「言ったな坊主 よし、トレーラーに積むからとっとと糞饅頭に乗って来い!」 「了解しました」 走りはしないが早足にゆっくりの方へと向かう。 ゆっくりの後ろに立つと、その金色の髪の間から垂れている縄梯子を掴んで上っていった。 前はアルミ製だったので最初は面食らったがこの縄梯子にも既に慣れて上るのに5秒とかからない。 黒い帽子についた扉を開けてハッチを開きコックピットへ滑り込む。 すぐに感覚共有用のデバイスに接続してヘルメットを被り呟いた。 「スタンバイ完了、これよりジャックを開始する」 目を瞑り体の力を抜いて鼻から息を吸う。 「嗅覚…同期、触覚、同期 味覚同期、聴覚同期」 感覚を共有させていく順番は人それぞれで、俺は嗅覚から同期させていくのが癖になっていた。 余談だが嗅覚から行く人は結構珍しいらしい。 それにしても、こちらに来てからの訓練で分かってはいたがこのまりさとはこれまでになく同期がスムーズに行った。 どうにも俺とこのまりさは相性がいいらしかった。 「早く視覚データを、ハッチも開けて下さい」 『了解しました、これより視覚データを転送します』 すぐに視覚データがヘルメットに転送され格納庫の映像を映し出した。 それと同時に格納庫のハッチも轟音を立てながら開かれる。 「ジャック完了、ゆっくりまりさ、出ます!」 [ゆっくりいくよ!] 俺はまりさから感覚を奪い去り、外へと飛び出した。 巨大になった体が否応無く巨大な力を手に入れたのだということを感じさせる。 俺は専用の、だが旧式の大型トレーラーに乗り込むと目を瞑り神経を集中した。 『坊主!どうだ、緊張してるか?』 山崎二等陸曹からの通信が入ってきた。 「いえ、実戦は初めてでは無いので大丈夫です」 野生のゆっくり二匹、実戦では一匹しか相手にしたことは無いが 訓練では3対1で勝った事もある、なんら問題ないはずだ。 それでも神経が昂ぶって仕方が無い。 それを見透かされたのか、と思うと心が読まれているようでどうにも座りが悪かった。 「嘘付け!オマエのゆっくりを見りゃ誰だって緊張してるのがわかるぜ!」 なるほど、そういうことかと俺は頷くと同時に まりさとの相性が良すぎるのも考え物だと思った。 以前はそこまでダイレクトに心情がゆっくりに表れてしまうほど細かい機微を再現するようなことはなかったのだが。 それとも単にこの山崎二等陸曹が図抜けて鋭いだけなんだろうか。 そうこうしているうちに、俺を乗せた旧式の大型トレーラーは郊外のゆっくりの発生した地点に到着した。 場所は郊外のさらに外れの広さだけはある寂れた場所。 近くにはクヌギなんかが群生した小さな林もあった。 所々に見える古いコンクリートの欠片や床から上の無い民家の跡から考えて ここも昔はそれなりに栄えていたのかもしれない。 だが30年前に人類が都市部に追いやられた際に家や建物はゆっくりに踏み潰され こんな風に人気の少ないだだっ広い場所がたくさん生まれた。 その殆どは未だに復興しておらず、そんな中ではここはまだ盛り返している方だった。 民家は半径1kmに三軒ほどで通報者含めて避難は完了済み。 多少暴れて周りに被害が出ても問題ない、保険がおりるはずだ。 政府は人口がパンクしかけて問題が山のように出てきた都市部から離れて こういう土地を再び栄えさせようとする人間には寛大なのだ。 『いました!ゆっくりです!』 『種類は?つがいか?』 『それぞれまりさ型とれいむ型です! 恐らくつがいなんじゃないでしょうか?』 『だそうだ坊主』 「了解しました、直ちに駆除を開始します」 俺は跳ねると頭を打つので這いながら大型トレーラーから降りると野良ゆっくりに対して向き合った。 俺のことを見つけたゆっくりれいむとまりさは、こちらを見てこう言った。 「ゆっくりしていってね!」 「ゆっくりしていってね!」 初めて人類に接触したゆっくりが最初に言ったというあの言葉だ。 俺は息を軽く吸うと、腹の底から思いっきり言ってやった。 「あいにくと、この地球上にお前等の安穏の地は無い お前等はここで排除する!」 [ゆっへっへここは俺のゆっくりぷれいすなんだぜ!ゆっくりでていくんだぜ!] 「どおぢでぞんなごどいうのおおおおおおおおおお!?」 「れいむだぢゆっぐりぢでだだげなのにいいいいい!!」 せっかく気張って言ったのに変換後の会話の間抜けさにガックリと肩を落とす。 『坊主!そいつ乗ったまま啖呵は切らないほうがいいぞ 情け無いことになるからよ』 「今痛感してます」 俺は半眼で呻いた。 本当にいらんことを言ったと後悔する。 無駄なことをしたと嘆息しながら 気を取り直して標的のゆっくり二匹を見る。 大きさは、高さ3m横幅5m程と実に平均的で種類もれいむ種とまりさ種の組み合わせという 最もオーソドックスで普遍的な物だった。 これといって見るべきところも恐れるようなところも見当たらない。 ならば二対一でも問題ないだろう。 野生のゆっくりに対して何故数の上で不利にも関わらず俺が余裕を持っているのか。 それは訓練をしているというのもあるが、それは数の不利を完全に覆せるほどではない。 むしろ人間の扱うゆっくりはどうしても人の意思を伝達するためにわずかばかりの遅れが生じるため身体的能力においては劣る。 それでも人間の扱うゆっくりは野性のものに対して優位に立てるのだ。 それは人類が高いとはいいがたい身体的能力で他の強大な力を持つ生物に対して優位に立てた理由と同じことだった。 「ぷんぷん!れいむたちのゆっくりぷれいすなのにきゅうにでてけなんてぜんぜんゆっくりしてないよ!」 「ゆー!だいたいそのぼうしからしてゆっくりしてないよ!」 確かにこのまりさの言うとおりゆっくりから見ればこのとんがり帽子は珍妙なのだろう。 鍔は曲がっているし先の部分も普通のゆっくりからみれば尖り過ぎている。 まあそれは構造上仕方ないことだ。 「アウェイクン」 ゆっくりに備え付けられている一部の装備は意識しながら音声入力をすることで操作可能だ。 手を動かそうとするとゆっくりの方が動いてしまうので通常のボタンなどによる入力方法は使いづらく 苦肉の策でこういった入力方式をとらざるを得ないらしい。 音声は一応個々人で変更可能だが俺は面倒なのでデフォルトのままにしてある。 俺が指示すると、頭にコツンと棒が当たる感触と共に頭上の黒いとんがり帽子が真上に飛び上がった。 ぽかんと口を開けるまりさを他所に俺は体を捻って、ゆっくりと落ちてくるとんがり帽子の、その中から伸びる棒に食い付いた。 そしてとんがり帽子の先をまりさに向けて構えると、そのまま一直線に突撃する。 一瞬後には自分の腹に深々と突き刺さった帽子を愕然とした表情で見下ろすまりさがいた。 「ど、どおぢでぼう゛じがざざっだりずるのおおおおお…!?」 何故野生のゆっくりに対して人間の扱うゆっくりが有利であるのか 要は武器を持っているということだ。 ゆっくりまりさの帽子を加工・コーティングして作り上げた硬化饅頭皮製帽子型突撃槍。 帽子に支柱が通してありこちらの指令に応じて伸縮させて口に咥えて振り回せるゆっくりまりさの主要武器だ。 ゆっくりの研究を進めていく過程で副次的に発見されたこの武器に用いられている新素材は非常に堅く その上比較的軽いため発見当初は技術革新だのなんだのと持て囃された。 だがさらに研究を進めていくにつれて、すぐに劣化する、温度変化に弱い、加工するのが難しい 安定供給するためにはゆっくりの養殖が不可欠、そもそもコストがかかる 生産・加工にもゆっくりの飾りそのままの形を保たないと時間がかかるetcetc 山のような問題点が発見された。 結局いまだにこのかつての新素材を用いているのは対ゆっくり用の武器くらいだ。 それも使いこなせるのは同じゆっくり位なのだ。 この槍だってゆっくりの体重と力で振り回すから対ゆっくり用の武器足りえているが 他のものにとっては雨宿りくらいにしか使えない。 散々扱き下ろしてきたがそれでも対ゆっくり戦においてだけは有用なことは確かだった。 「げふっ、ごぱぁ」 まりさは内部から槍で圧迫され口から餡子を吐いた。 驚愕の表情は既に失せ、土気色の顔で焦点の合わない虚ろな瞳で視線を空に漂わせていた。 「ま゛り゛ざのあんごがあああああ!?」 れいむは伴侶の身に起こった突然の凶事に目を見開き悲鳴をあげた。 後腐れ無くこのままれいむの方も突き殺してしまおうと槍を引き抜いた。 直径一メートルはあろうかという巨大な傷穴から大量の餡子が零れ落ちた。 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あああ!!!!」 れいむがまりさの傷口に駆け寄り、舌を使って必死に餡子をまりさの体の中にに押し戻そうとした。 しかしいくら舌を器用に動かしても舌の上を流れて餡子は地面に零れて行く。 傷穴に押し戻されたわずかな餡子も未だ止まることの無い餡子の濁流に押し返され体から抜け出していった。 「ま゛り゛っ、ま゛り゛ざああああ!!い゛や゛あああああ!!」 「おどどざあああああああああん!!」 未だ餡子に濡れる槍を構え直し、再び突撃しようと腰を深くした時 近くの森から体長1mほどの小さなゆっくりが現れまりさに駆け寄った。 「!?きちゃだめえええええええええ!!」 俺はその小さなゆっくりごとれいむを貫こうと飛び出した。 『まずい坊主!子持ちだ!小さいのは後にまわせ!』 通信が入ったがもう遅い、既に俺の槍は子れいむの体を貫く いや押しつぶしていた。 『畜生!!やっちまった!!』 山崎二等陸曹は何故か悪態をついた。 そんなに俺の腕が信用できないのだろうかと思って不快感に眉を潜める。 確かに大きい方のれいむは仕留め損なったが別に大きなミスではない。 このれいむをとっとと駆除してしまえばそんな態度を改めさせることも出来るだろうと俺は再び槍を構えた。 「れ゛い゛む゛のあがぢゃんがあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!! うがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」 「な!?」 [ゆ!?] 今まで一度も聞いたことの無い大地を揺るがすかと思うほどのれいむの雄たけびに俺は立ち竦んだ。 槍を持つ手、いや舌と唇が震えた。 『気をつけろ!もういままで倒してきたゆっくりと同じと思うな!!』 山崎二等陸曹が耳が痛くなるほどでかい声で俺に助言を送った。 「い、一体どういう…」 よく意味がわからずに俺は戸惑いながら聞き返した。 『母は強しだ!!』 「じねえええええええええええええええええ!!!」 山崎二等陸曹が叫ぶと同時に、鬼神のごとき形相で突進してきたれいむに俺はたじろいだ。 「っ!?」 [ゆゆっ!?] 辛うじて槍を斜に構えて体当たりを受け流したものの、その余りの迫力に呼吸が荒くなる。 汗や唾液で槍が滑らないように注意しながら穂先を突きつけて牽制しながら距離を取ろうとした。 「よ゛ぐも゛れ゛い゛む゛のあがぢゃんおおおおおおおおおお!!!」 だがそんなもの意にも介さずにれいむはこちらに向かって突進してくる。 このままこちらも突撃で応じるか一瞬迷うが もしこちらの突きを避けられた時あの勢いの体当たりをどうにかできるか不安だったので 再び槍でいなしてから間合いを取った。 「よ゛ぐも゛よ゛ぐも゛よ゛ぐも゛ぉ゛…!れ゛い゛む゛だぢばがぞぐでゆっぐりぢでだだげだどにぃ…!」 お前等が近くに居るだけで人間は恐ろしくて仕方が無いんだと心中で呻く。 「糞っ、隙が無い…!」 [もっとゆっくりしてね!] 「お゛ばえのぜいでゆ゛っぐぢでぎだぐなっだんだあああああああああ!!!」 意図せずして発動したゆっくり語変換機能がれいむの神経を逆撫でてしまった。 俺は舌打ちしつつ槍を咥えたまま横っ飛びに飛んでれいむの突進を避けようとした。 「う゛があああああああああああああああああ!!」 が、予想以上の速さで突っ込んできたれいむに、槍の穂を横から噛み付かれてしまう。 「しまった!」 [ゆぅ~!?] 俺は振りほどこうと頭を振ったが、れいむはガッシリと槍を咥えて離さない。 お互い槍を奪い取ろうと喰い縛り、力が拮抗しあってお互いに動けなくなった。 「くっ…」 俺は冷や汗を垂らしながら呻いた。 今は持ちこたえているが、さっきまでの戦いで向うの方が腕力が上なのは散々見せ付けられた。 このまま膠着状態を続けていればいずれ槍を奪われる。 そうなれば勝ち目は無い。 『坊主!大丈夫か!?』 トレーラーの山崎二等陸曹から通信が入る。 「すいません…厳しいです…!」 俺は情け無いことこの上ない気持ちで弱音を吐いた。 『仕方ねえな、なんとか援護するから切り抜けろ! 1、2の3でいくからタイミング合わせろ』 「…?了解しました」 俺はゆっくりに対抗できるような強力な装備があのトレーラーに積んであったかと疑問に思い首を傾げた。 ゆっくり以外の対ゆっくり兵器はそうポンポン使えるような兵器ではないのだが。 『1!』 そうこうしている内にもカウントダウンは進んでいく。 俺はそれまでなんとか持ちこたえようと歯を食いしばり目の前のれいむを睨みつける。 『2の!』 ひょっとして休眠剤でも積んでいたのかと思い当たり心中で合点する。 滅多に無いことだが作戦中にSbaの休眠剤が切れてしまう場合に備えている可能性も無くは無い。 それなら一応納得がいく。 『3!』 と思った瞬間トレーラーがゆっくりれいむの横っ腹に突っ込んだ。 トレーラーのコックピットがれいむの体にめり込んで、目の前のれいむの顔がひしゃげた。 いくら軍用とはいえ、トレーラーの体当たり程度でゆっくりが傷を負う事はまず無い。 衝撃は完全に饅頭側と餡子の弾力に吸収されてしまう。 が、それでも槍を咥えていた口の力を少し緩ませるには充分だった。 少し面食らったが兎にも角にもれいむから槍を奪い返した。 がっしりとくわえていた口からちゅぽんと音を立てて槍が抜ける。 そのままこちらに槍を引き込み、糸を引いていた唾を引きちぎる。 「マジかよ…」 目の前の事態に頭が時間差で追いついてきてやっと呻きながら 俺は未だトレーラーを頬に減り込ませながら驚愕の表情を浮かべるれいむの額に槍を突き刺した。 「も゛っど…ゆ゛っぐりぢだが…だ…」 か細い断末魔をあげるれいむから槍を引き抜くと、頭から滝の様に餡子を噴出しながらその勢いでれいむは後ろに倒れこんだ。 大地が揺れ、あたりに落ちているコンクリート片が震えた。 「任務…完了か」 ぐるりと周りを見回して、もうゆっくりが居ないことを今度こそ確認して 緊張を解いた俺は溜息を吐いた。 『危なかったな坊主!』 「ええ、お互いに」 元気そうな山崎二等陸曹の声に俺はよくトレーラーで突っ込んでピンピンしてるなと呆れながら返した。 『まあルーキーにしては上出来だ! とりあえず後始末は他の奴等に任せて帰って酒でも飲もうや! どうせ饅頭乗りは一度出撃したらリフレッシュやらなんやらで当分出撃できないんだしよぉ 徹夜だ徹夜!朝まで呑め!三日くらい二日酔いで頭ガンガンなるまで呑むぞ!』 山崎二等陸曹の語気の強さに 比喩じゃなく本当にそれくらい飲まされそうな気配がしたので俺は適当に言い訳を考えて断ることにした。 「あー、その、これから飲み会の準備するのも大変なのでまた今度に…」 『大丈夫だ、整備士の方の坊主に店の準備やら何やらやらせといたから』 渡邊め。 心中で毒づきながら、くたびれ切った体で俺はトレーラーに乗り込んだ。 ―――――――――――――――――――― 次回予告 山崎は大戦時の戦友にして合衆国軍の英雄ブライアンの来訪に沸き立つ。 だが、変わり果てたブライアンの姿に俺はゆっくり乗りの闇を見ることになった。 次回 緩動戦士まりさ 『英雄の末路』 このSSに感想を付ける
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登場する人物は愛で系です 本編ぬる虐めすら怪しいです。 暗い雰囲気…? 冗長です 古本屋?のSSです 初期の面影がありません(笑) 【まりさとわたし スミカ】 「ち ひ゛ちゃぁ゛ぁ゛ぁぁぁん…」 「だぜぇぇぇぇぇ!!だすんだぜぇ!!」 ゆっくりたちの要求に冷酷さすら感じさせない機械的な声が 三十八回目の同じ返答を、天から降とすように告げる。 「拒否する。」 「う゛う゛う゛う゛ぅちびぢゃん…ちびちゃん……」 「ここからだぜぇ!ばりさざまをだぜぇ!!」 「拒否する。」 三十九回目の要求の却下 ちょっとした家具でも運搬するような背の高い段ボール箱に閉じ込められた まりさ種とれいむ種の成体ゆっくりが れいむは一粒種の赤れいむを案じて力無く泣き震え まりさは我が身の不自由に怒り狂っている。 見下ろす青年の掌に乗った赤れいむの様子は二匹からは見えないが 青年の家に侵入した一家が捕まって30と5分 ダンボール箱に閉じ込める時にさえ 青年はゆっくり達を手荒には扱わず 二匹が見上げる切り取られて窓になった側面とは反対側の 中の二匹がいる側の側面には、土の冷たさが伝わらないように座布団まで敷かれている。 青年の無機質な瞳が、掌の赤れいむに向けられ2~3度小さく頷く 声も出せないほど赤れいむを案じる母れいむは気が気では無いらしく その様子に苛立ちを募らせるまりさは大きく舌打ちする。 「もぅ…おうちかえる…」 「ゆ゛ぅ゛?!なにいってるんだぜふざけるんじゃないぜ!! このおおきなおうちはまりさのだぜ!!まりさざまがかえるおうちは…」 「かんけいないよ!!れいむはちびちゃんがいちばんだいじだよ!ばかなの?!しぬの!?」 「れいむ!?」 まりさに逆らう事など古今一度も無かった母れいむが 耐え切れなくなったように血の出るような叫びを挙げる。 「にんげんざん、おねがいします!ちびちゃんをかえしてくだざい!! れいむはつぶされてもかまいません!どんなひどいおしおきもうけますから゛!! だからちびちゃんをっ、ちびちゃんだけでもおうちにかえしてあげてくださ゛いぃぃぃ!!」 「この、れいむっ!なにばかなこといってるんだぜ?!…ゆ!?」 窓のように開けられた、二匹から見て天井側の側面から 先程まで赤れいむを乗せていた右腕が 二匹めがけて伸びてくる…そして バンッ!バン!! 「っひぃ!?」 「やべろぉ!!」 内側から何度も何度も、壁の一箇所を叩き続ける。 ダンボールの中にいる二匹には、その音が凄まじい轟音に その震動を大地震の様な衝撃として感じる。 バンッべりィ! 「ひっ、…ゆぅ?」 「なんなんだぜ!?」 何かが勢い良く破れるような音を立てて 青年の拳が叩きつけられた壁面が観音開きに開放され 母れいむはそのままに、暴れていたまりさは 「ゆびっ、べ!?」 転がり出て顔面を地面で打ちつけ、小さくバウンドする。 母れいむはその後を、おそるおそる這い出してくる 「おかーさんっ!」 「ゆゆっ!ちびちゃん!!」 涙を流して頬を摺り寄せ、再会を喜ぶ母子に視線を合わせるように といっても長身の男性が膝を折っても、必然的に見下ろす構図に成るのだが 母れいむの排気ガスやその他の汚れにギトつく黒髪に 丁寧に指を通して、何度か撫でてから 先程とは違う、確かに感情のこもった声で尋ねる。 「さっきの言葉は本当か?」 「!っ、…ぅ…ぁ… ゆ…」 青年の言葉に、自分の発言を思い出したのか 一瞬青ざめて動転する母れいむ その眼が、頬を寄せている赤れいむに救いを求めるように向けられる。 赤れいむは、何も言わずに母れいむを見つめ返す。 「本当か?」 「そんなわけないんだぜぇ!!」 母子に集中しているのを隙ありと見て取ったのか いつの間にか復活していたまりさが 勢いをつけてその背中に体当たりを仕掛ける。 「ッ…少し待て」 「しね!しねっ…ゆ、あ、やべろお゛!!はなぜ!!」 「静かにしていろ…」 「むぐぅ!」 最初に捕獲した時とは違い、乱暴に布製ガムテープをまりさの口に貼り付け ダンボールの中に放り込むと出てこないようにもう一度テープで封印する。 ガタガタと体を揺らして暴れているが、自力での脱出は絶対不可能だ。 「どうなんだ?」 まりさの凶行にすら気づかないほど一心に赤れいむを見つめていた母れいむに 促すようにもう一度、静かな声音で青年が尋ねる。 「れいむは…、ゆっくりできないことはぜんぶれいむにしてください。 このこだけは、ゆっくりさせてあげてください。にんげんさん…」 恐怖に濁った瞳ではなく、それこそ慈母のような微笑で 一部の人間の持つゆっくりのイメージを根底から覆すような言葉を迷い無く言い切り この世の最後の未練とばかりに赤れいむを見つめている。 「おちびちゃん、ゆっくりさせてあげられないだめなおかあさんでごめんね… ちびちゃんだけはゆっくりしてね……」 「おかあ、さん」 少し驚いたような顔をして、それでも堪え切れないような目尻の涙を 擦り寄った母の、薄汚れた身体に摺り寄せる。 この母れいむは、これから先どんな恐ろしい目にあうのかを特有の能天気さから想像していないのでは無い もう全く恐れていないだけだ。 青年が一度も『子供を助けてやる』と言っていないのに 全ての罰が自分に架せられて それで全てが終ると 信じている。 「 。」 男が冷然と、機械の様な声を降らせる。 まるで予測していなかった答えに、れいむの思考は完全に停止した。 「………ゆ?」 自分たちを見下ろす瞳に、先程までの暖かな感情は宿っていない。 ただ、その肩が、瘧の様に震えて 唇が、裂ける様に 吊り上がって。 いるだけ 唐突に、母れいむの脳裏に ある一連の映像が浮かぶ 生まれた時から野良ゆっくり 産まれた時には両親は黒く朽ちて 保護してくれる誰かなど、一度だっていなかった。 たくさんの酷い物を見続けて、生きてきた。 市街に生きるゆっくりたちに、鬱憤をぶつけられるように 四方八方から踏みつけられて朽ち果てるめーりん 餌場にしているゴミ捨て場で、両の目玉をえぐられて 懸命に逃げようと這いずりながら 全身を啄ばまれて息絶えたありす。 なかまたちをいとも容易く踏み潰す、黒く巨大な人間さんの影。 ほかにもたくさん、たくさん。 「にんげん、さん?いま…なん、て?」 それでも、こんな 「 。」 こんな、こんなにも 「う、ぁ…、あ」 こんなにも〝おぞましいもの"を、みたことがない。 「拒 否 す る 。」 その微笑みは、まさに 「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!」 地獄の 「も゛っと゛ゆ゛っく゛ち゛し゛た゛か゛った゛あ゛あああぁぁぁぁ!!」 悪鬼のソレだった。 * * * 肩に赤れいむを乗せた青年が 先程とは違う子供用の棺桶のようなダンボールを引きずって 時折何度か小さく頷きながら川沿いの道を歩いていた。 ずぅり、ずうり―― 底の部分に錘でも入っているのか 引きずられるダンボールは砂袋を引くような音を立てている。 チョロチョロチョロ… 不意に引きずられる箱から川の物ではない水音が上がり 青年が歩みを止めて箱を振り返る。 「………?」 引かれる箱の底の部分から、僅かに鼻を突くような甘いにおいが立ち上る。 徐々に箱から漏れ出す液体に思い当たる事があるのか 顔をしかめて、青年は構わず 先程より心なしか乱暴に箱を引きずって 再び川沿いの道を進む。 やがて、電車の線路を通す鉄橋を目前に 青年が足を止めた。 「ついたな」 「……」 無言の赤れいむに、青年は僅かに眉をひそめて 川の石垣へと柵を乗り越える。 鉄橋の下にはそこそこ広いスペースがあり 空き缶や襤褸切れのようなタオル その他のガラクタが雑多に転がっている。 少し荒れているが見る人が見れば つい最近までゆっくりの巣があった場所だと見て取るだろう 青年はそこに、ダンボール箱を叩きつける 測ったようにピッタリと橋下のスペースに収まる段ボール箱を 何度か蹴りつけて観音開きの部分が下になるように回転させる。 箱の中でまりさがバウンドしているのだろうガタガタと音を立てて端の部分が跳ねる ジーンズのポケットへ手をやって 鞘に収まっていた何かを引き抜く。 それは、奇妙なデザインの道具だった。 くの字に曲がった赤いグリップに 鋸のようにギザギザと波打つ光を反射しない黒く短い刀身 青年が刀身に息を吹きかけると 以前の使用でこびり付いていた細かい汚れが 風に乗って宙を舞った。 コンコン ノックするようにダンボールの右端を叩くと 反対側の端が僅かに持ち上がった。 まりさがいるのは、左端… 青年が箱に刃を入れる まりさがどれほど暴れても、青年がどれほど乱暴に扱っても 壊れもへこみもしなかった、ゆっくりではどうしようもない強度の箱が 文字通り紙でも切るようにザクザクと音を立てて 男の肩で赤れいむだけがその様子を歯を食いしばって凝視している。 箱は真ん中で断ち切られ、まりさが粗相をした半分を 青年が足で菱形に潰し、平らになった上に腰を下ろす。 切断された部分から、中で震えるまりさの姿が見える。 切断面を、刃でガリガリと削る。 ガリガリ ガリガリ ガリガリ 入念に、何度も何度も 一周、二週、三週 その様子を最早垂れ流す水分も残っていないまりさが ガタガタと震えながら血走った目で見ている。 まりさの脳裏にこびり付いている 閉じ込められたすぐ後に聞こえたれいむの魂切るような絶叫 あれ程の悲鳴を、まりさは聞いたことが無い どんなゆっくりも、あんな絶望しか篭っていない声をあげる前に死んでしまう。 「(ぱ、ぱぴっ、ぱぴっ!?)」 四週、五週と入念に、何度も何度も 箱が青年の手で削られる音が 自分の体から上がる状況を、想像する事ができない 「(ぱ、ぴぷぺぽッ、ぱぴぷぺぽ、ぱぴぷペポオッッッ!!!???!!?!!)」 許容できる恐怖の限界を超えたのか 心の中で意味の無い絶叫をあげて まりさの眼が「ぐるん」と裏返り、白目を剥いて気を喪う。 「…」 獲物を鞘に仕舞い、男がまりさに手を伸ばす。 カンカンカンという踏み切りの音がして、電車が近づいてくる 電車の明りで手元を照らされた青年が、過たず目的の物を掴み引きちぎる。 ビリビリッ 「ぶぎびぇ!あ゛にするんだぜっ…ゅヒぃっ」 ガムテープを一気にはがされた傷みで意識を取り戻したまりさが 橋の上を通る電車の光に照らされて、何の感情も宿さないその瞳だけを 走馬灯のように断続的に照らし出す。 「お え 、 は 生きら ない…。」 全身が聴覚の役割を果たすゆっくりは、驚くほどあらゆる音を聞くことが出来る 電車が通り過ぎる轟音の中で、銀色の何かをまりさに近づけながら 青年はなんと言っただろう? ゆっくりできない、ゆっくりできるわけがない 銀色の何かが、内側からキチキチと音を立てて開いて行く 「あ、あぁ…やべろっ、やべでっ!?やべでぐだざいぃぃぃ!!!!!??!?! れいむ、赤ちゃん!!れいむぅ!!まりさをたすけっ…」 その様子を見続けていた赤れいむが、まりさから目をそらす 此処にいたって、まりさの縋る全ての希望は断ち切られ。 銀の袋ら何かが這い出し 瘧(おこり)のように震える青年の くちびるが、赤く裂けた。 ……… …… …。 * * * 「おかーさんとれいむのおうち、どうしてあのまりさに?」 「あの場所に…ゆっくりハウスは、もともと作るつもりだったからね」 「ゆぅ…でも」 それ以上の「ゆっくりできない発言」を遮るように 青年は静かに首を振る 「あのまりさは、元飼いゆっくりの子供だろう。あの子が歪んでしまったのは人間のせいだよ」 「でもぉ…」 頷きながら、ボードに挟まれた地図上の橋に赤い点をつける 地図には赤、青、黄の点がポツポツと、しかし無数に置かれている。 ゆっくりの習性、行動様式、嗜好性、餌場となるゴミ捨て場等を 一定の法則に当てはめてリストアップするだけで数百箇所 その近辺を歩くだけで多ければ数十の野良ゆっくりを見ることが出来る そしてその内の九割が人間の都合で持ち込まれたゆっくりか、その子孫だ。 青年はリストアップした『ゆっくりが好む場所』に 人間の目つかない場所を選んで耐水性ダンボールの住処を設置して回っている。 それは、善意からの行動ではない。 「偽善、だな」 青年の作る快適な住居は野良ゆっくりが夢に見るほど欲する 風雨を凌ぎ、烏などの外敵から身を守れる≪理想のおうち≫だ。 必然ソレを見つけたゆっくりは、棲家を手に入れようと欲して 親子、姉妹、親友であっても骨肉相食む決死の奪い合いを演じる。 今、正確な数字ではないが六万のゆっくりが都内に棲息していると言われている 青年は、その予測は希望的観測だと確信している。 青年が日常的に行っているロードワークでは最低でも八万匹 加えて潜在的には相当数の【野良予備軍】とも言うべきゆっくりが都内には生きている。 予備軍、今はあくまで予備軍である。 快適な空間で飼い主に愛され 生まれつき持っているものではなく、買い与えられた装飾品で身を飾り 誇らしげにその証であるバッジを与えられた――飼いゆっくり。 人の側に寄り添う生き物には 自然とは切り離された自浄作用が働く 大量発生し【人間の基準で】不要だと判断されれば 瞬く間にその存在は【悪】と談じられ、断じられ、弾じられる。 それは逃げ場の無い虐殺であり、期間は人々が飽きるまで 【ゆっくり】という種を忘れるまで、意識の中から消し去るまで無期限に続く。 それが始まった時、ゆっくりを飼う事に経済的な負担を意識の片隅にでも感じていた人間はどうするか? 今なら処分代が浮くとばかりに、愛して慈しんだハズの言葉持つ存在を 僅かな罪悪感と共に、あるいはゴミを捨てるほどの感慨も持たずに捨てる。 多くの場合に、与えたものを剥ぎ取って。 それは保身のためである、飼いゆっくりの装飾品やバッジには 飼い主の情報が記録されている。 装飾品を喪ったゆっくりがどうなるかを、知っている飼い主は意外と少ない。 目にする機会が無いからだ 野良の中にあっては生きている事をゆるされないからだ。 「……。」 青年がゆっくりハウスを配置するようになって 野良ゆっくりの数は、目に見えて激減した。 人目につくゴミ捨て場や自動販売機、ATMなどのまわりのゆっくりは 設置しなくても定期的に【居なくなる】…魅力的な棲家だからだ。 青年のしたことは 【魅力的な棲家】で起こっていることが 街中の人目につかないところで起きるようにする細工 種全体に対して【人間の自浄意識】を向けさせないように 彼等同士で数を減らしてもらっているだけ 本来彼等が住まうべき、深い山林の中で行われる営みの誘発…否、強制だ 青年は唇は引き結び、激しく身体を震わせる 瞳には激しい嫌悪の色が浮かんでいる。 青い点は低競争率 黄色い点は中競争率 赤い点は高競争率、好条件の棲家だ。 番も居ないあのまりさは、恐らく2日としない内に住処を奪われ 全てを喪って他のゆっくりの餌と化すだろう 一時も娘とはなれず、狩りにまで連れ立って見守り 『おうち』よりも子供を選んだ母れいむと違って。 「偽善だっ…僕のやっていることは…」 『おまえは、人(ぼくら)とは生きられない。』 無力感に涙を流す、彼等を連れてきたのは人間(ぼくら)なのにと 「すまない、すまない…」 悪鬼の形相でもって人間(みずから)をにらみつけて 唸るようにただ体を振るわせ続けた。 まだ納得がいかないのか、浮かない顔の赤れいむに 身体を震わせて答える。 「君達がよければ、僕の庭に居を構えるといい…おうちの件はソレで勘弁して欲しい」 「ほんちょ…ほんとにっ?!」 「本当だ。」 傷を負ったゆっくりを匿うのは青年の自認する悪癖の一つだ 庭の入り口は保護する個体が居ない時は開けているが そのために設えたドアは野良の侵入を完璧に防ぐ。 その上で過剰な餌は与えない、野良より多少マシなだけの生活を 自分達が出て行くというまで提供するだけ。 この赤れいむは、異常に賢い。 青年の見立てでは生後3日と言う所だが、既に母親よりも思考は論理的だ 自分が保護しても成長して野生に戻った時 人間を見下したり、短絡的な行動はとらないだろう。 何ならまとめて自分が飼っても良い…とまで考えて 「偽善、だな」 一人悲しく身体を震わせた。 * * * 【クリニック】二階の研究施設の一室に カントリー調のネームがウッドプレートが吊るされている。 『Y&Mのしりょうかいはつぶ』 コンコンと、軽いノックが転がる。 「はーいっ!」 「…ゆみくん」 青年がぬっと顔を出す。 部屋の主を怖がらせないように、その顔は精一杯の微笑を讃えている。 「うぉうッ?!朝からカッシー先輩!?」 「じゃおじゃおー!」 「…おはよう。」 白衣の下にゴシック調のドレスを着込んだ小柄な少女が 青年の来訪によろこぶめーりんを取り落とし腕の中から取り落とし へたりこんでいたクッションから、バネ仕掛けのように跳ね上がる。 少女の反応に落胆しているのか、何処か気落ちしたように 「………毎度、驚かせてすまない。」 「いっう、お、あん♪」 『いえいえそんなことありませんよ』と口にしようとして舌が回らず 引きつった顔でクルクルと意味も無くその場で回る。 青年はますます気落ちする。 「じゃふぉっ!」 「めーりん、いつもすまない。」 慌てふためく飼い主に代わって 一辺30cm程の大振りな銀色のパウチを5つ銜えて青年に駆け寄る。 膝を折りめーりんから空気穴の開いたパウチ受け取って一応銘柄を改める。 『身の毛もよだつ生の味、生きてるばったさん!(カッシー先輩用)』 めーりんの頭を撫ぜながら、身体を震わせて唇を吊り上げる。 「保護するゆっくりができてね、もう一袋もらえるかい?」 「うヒィっ?!」 「………すまない。」 物怖じしないめーりんと違い、飼い主の少女は怖いものが大の苦手だ。 驚かせるのは本意では無いので追加の一袋を受け取って 退室を告げようとして… 機械の様な瞳が見開かれ、入り口脇に置かれた帽子掛けの一点に注がれる。 「ゆみ、くん…コレは?」 「うえ!?、それはアレですよ、原作読み返してノリで作ったはいいケド使い道が無くって…」 雷を受けた様な衝撃を感じながら 伸ばしかねた指を僅かに震わせて、鉢巻の様なソレを指した 「不要なら…譲ってもらえないだろうか?」 「え、あぁ…どうぞどうぞ!」 「感謝する」と言って、ビシィっと音がなるほどの勢いでソレ―― 血のような真紅の生地に 曲がった長い鼻と 三日月の形に歪んだ目をあしらった仮面を装着する。 顔半分だけ振り返って、尋ねる 「どうだろう、おかしい所は無いだろうか?」 「…………カンペキデス、ハイ」 「じゃおじゃおじゃおーーーん!」 『かっこいい!』と、はしゃぎ回るめーりんと白衣の少女の温度差に 心なしか声の弾んだ青年は気づかない。 今までに無く青年の体が激しく震え 赤い肉の裂け目の様な三日月に青年の唇が笑みを形作る 「ありがとう、またくるよ…」 パタン、とは 音を立てないようにゆっくりと閉じられた扉ではなく 青年の退室と同時に膝から崩れ落ちた少女――ゆみの体が立てた音である。 「あ、あれじゃぁホントに悪魔(デモン)ですよぉ…だまってれば…笑わなければ…」 「じゃおおん…」 飼い主の発言に納得いかないのか、じゃおじゃおと文句を言いながら めーりんは『ばったのおにいさん』を見送った。 ※カッシーこと柏木研究員(21)は大学生である。 彼のいる【クリニック】は悪の秘密結社ではない。 彼の恩師である教授とともに、カッシーはゆっくりと人類の共存の為に働くのだ! 【つづく?】 ぬるいじめ?三作目…都会の自然淘汰を書きたかった、今は反省している。 思わせぶりで冗長な文章にイラっとした人ごめんなさい。 え、『まりさとわたしシリーズ』じゃない…? と読み返して思った。
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※冒頭のみ れいむとぱちぇりーには可愛い子宝が3匹いた 長女の子ぱちぇは、面倒見の良いお姉さん 次女の子れいむは、いつもおっちょこちょいだが家族を明るくしてくれる 末女の子れいむは、まだ赤ちゃん言葉も抜けない甘えん坊さんだ 夏のせせらぎで涼んでいる子供達を、寄り添う両親はうっとりと眺めていた ゆっくりの寿命は短い なぜならば簡素にしか作ることの出来ない巣に恐ろしい捕食者が侵入したり 思うように餌を集めれられなかったり、群れ同士のいざこざで命を落としてしまうからだ 大抵、巣立った成体は思うように生活できずに、家族もった者は食料を維持できずに 自然の厳しさと緩慢な性格から、長寿になる事は おろか子供を残す事すらたやすくない しかしこの家族は 決して家族を見捨てず愛に溢れたれいむと 常日頃と最愛のれいむと家族が幸せになるように思いをめぐらした思慮深いぱちぇりーによって すくすくと子供達は成長し 二人は今日までゆっくりと子供達と暮らすことが出来た ぱちぇはもう子供を生む体力はない、れいむも腹部に追った怪我ですっきりする事もできない 外敵から逃げ、凍える冬を越し、少ない食べ物で助け合い、過酷な数ヶ月を生き抜いた最初で最後の家族 自分達はそろそろずっとゆっくりする頃だろう 親しい知り合いはいないが、悲しんでくれる子供達がいる きっとただの餡子の塊となって、この世界から消えてしまうだろうが 子供達の心の中で自分達は生き続ける 可愛い子供達、自分達の知識と愛を注いだ子供達 きっと賢く逞しく育って、孫を ひ孫を成していくだろう 最愛の恋人と子供達に囲まれて、まるで天に昇るような母れいむだったが 本当に空を飛んでいた 「ゆぅ~?」 変な感触を感じてスィーから降りた成体まりさは辺りをうかがった 楽しく川辺をドライブしていたのだが お気に入りのキノコを食べ過ぎたのだろうか アレは味は不味いが、食べるとハイになる貴重なものだ その時のテンションなら美れいむでも美ありすでも落とせる気がしてくる そんな素敵ナンパ計画を練っていたのに、勢いを崩すとはゆっくりできないな 「ゆぐぐっ ゆぎぎぃ」 小石かなんかに衝突したと思っていたまりさだが、思いもしない結果に驚いた 背中をへこませ痛みにのた打ち回っているれいむがいたのだ 「ゆん! まりささまのじゃまをするからいけないんだぜ…」 とれいむに聞こえない声でつぶやくと ああ、このれいむが半端に怪我をしたら生涯面倒を見ないといけないのか 皮を見る限りだいぶくたびれているし、もっと若いれいむがいいなぁ とりあえず助けずにこのまま死んでくれれば良いが 「ゆんっ ふーっ ふーっ」 まりさはスィーについた返り餡を落として再び乗り込んだ すると痛みから立ち直ったれいむは這って川のほうへ近づいた 「ぱ ぱ ぱぁちぇりぃぃいいいい!!!!」 れいむの視線の先には成体ぱちぇりーがいた。大方友達か恋人だろう そのまま入水心中すればいい まりさは事故で覚めてしまった餡子脳にカツを入れるため 再び帽子の中のハイになるキノコをむしゃぼり食べ始めた 「で、でぃぶぅうううう!!! がぼがぼかぼっ」 「いまれいむが たすけてあげるからね!」 「ぱ、ぱちぇはいいがらぁあ! ごどもだぢを だずげなざいぃ!」 「ゆぅぅうう!? おおおおおぢびじゃんだぢぃいいい!!!?」 ぱちぇは比較的近い所に吹っ飛ばされたため、すぐにれいむに咥えられて浅瀬に戻されたが 軽い子供達は遠い中州の方まで流されていた 「おぎゃあああじゃああああああん!!!!」叫ぶ次女れいむ 「おみじゅ きょわいよぉおおおおおおお!!!」波に飲まれる末女れいむ 「おぢづぎなじゃいいい! ままが だすげにぎでっ ぐれっ がぼがぼがぼがぼっ」溺れている長女ぱちぇ れいむは己を省みず川へ突っ込み、頬を膨らまして浮き輪状態になって子供達を助けようとした しかし泳ぐことは出来ず流れに頼るだけの母れいむは直ぐに岸へと戻されてしまう 何回も何回も繰り返すが 「あきらめじゃだべよ! かぼぼっ おねーぢゃんがら ばなれないでねぇ! ゆぐぼぼぼっ」 長女は髪を妹達に加えさせてなんとか流れている流木を使いながら耐えている 「むきゅううう ぅぅうう …もうやだぁ!! おうぢにがえりだいよぉぉ!」 ついに泣き叫ぶ長女を皮切りに、次女れいむはふやけた部分から体が捻りきれて川底と水面に体が分離された 末女は溶けて表情のない皮だけが浮いていたが やがて散り散りになった 長女ぱちぇは 妹達の変わり果てた姿を呆然と見つめると、母れいむの視界に届かないどこかへ流れて行った 「ゆあああああああああああ!!!!! でいぶの おぢびじゃんだぢがぁああああ!!!!!!」 「むきゅううううううううう!!!!! ぱちぇの おぢびじゃんだぢがぁああああ!!!!!!」 かけがえのない子供達が藻屑となっている おお、ひげきひげきなんて思いながらまりさはキノコを完食した 自分のナンパライフを邪魔した、家族の愉快な末路を見て ノリを取り戻したまりさはスィーを転がし始めた 「ゆ?」 どうやら故障してしまったらしい なんてこった、あんな喜劇ショーとじゃ割に合わない せっかく誰かの巣で拾った まりさのスィーだというのに 動かないスィーに体当たりをすると、謝礼を請求しに夫婦に近寄ろうとする いつのまにやら夫婦の慟哭を耳にして駆けつけていた他のゆっくり達がいた 「だいじょうぶ れいむ? ぱちぇりー?」 「おちびじゃんがぁああ! おちびじゃんがぁあああ!!!!」 「わかるよー かなしいんだねー でも おちつくんだよー」 「みょーん! みょんみょん!」 なんだよ、野次馬かよ 毒ついたまりさはスィーを乗り捨てて 山で例のキノコでも補充にでもするかとその場を離れようとした 「ゆぎぃ! あいつだよ! あいつが れいむとぱちぇの おちびちゃんたちを!!!!!」 「わかるよー うわさの ぼうそうまりさだねー」 「ゆうかりんは みていたわ! あいつが れいむたちを はねたのよ!」 やべぇ バレてる だったら子供達でも救助して善人のフリでもすればよかったぜ スィーも故障しており、ココから逃げることも出来ないまりさは一つひらめいた とココまで考えました もしよかったら、好きに続きを書いてね!!! このSSに感想を付ける
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※「ゆっくりいじめ系2617 みんなのヒーロー まりさ」の続きを書いて良いってあったから書いたよー! まりさ~ふぁいなるいぐにっしょん~ ある農村のある畑において、村ではもはや恒例行事となったイベントが今日も行われていた。 定期的にやってくるゆっくりの群れと、それを撃退する青年の戦い。 幸いにも夜戦を仕掛ける事はなく、日中の戦いはいつも青年に軍配が上がっていた。 しかしゆっくりを根絶するまでには至らなかった。 その原因は…… 「また貴様らか!」 「おにーさんもいい加減にしてね!野菜は勝手に生えてくるって何度も言ってるでしょぉぉぉぉ!」 「うるせぇ!死ねッ!」 「ゆっぴぃ!!」 「そこまでだよ!!」 畑の近くにある大岩に、その身を包むマントをなびかせ、今日も悪のおにーさんに立ち向かう。 「ヒーローまりさ、ゆっくり参上だよ!」 「またきやがったなこのクソまりさ!!」 青年は手に持った石を力いっぱいヒーローまりさに投げつけた。 しかし。 「あまいよ!ばりあまんとしーるど!!ゆんっ!」 ヒーローまりさがマントを翻すと、飛んできた石を弾いたのだった! 「ゆびっ!」 弾いた石が畑を荒らしていたまりさに直撃する。 「ゆゆっ!相変わらず酷い事ばかりするんだね!」 「お前が石を弾くからだろうが!!」 「う、うるさいよ!おにーさんにはこのゆーどびっかーで永遠にゆっくりしてもらうよ!」 帽子の中から取り出した木の棒、その名もゆーどびっかー! 口に咥え、吹き放つ事により、ゆっくりの皮程度なら貫き、レイパーありすの群れからゆっくり達を守った伝説の神器だ! 「ゆおぉぉぉぉぉ、ゆーどびっかー、ふぁいなるしゅーと!」 「おりゃぁ!」 青年は持っていた鎌でゆーどびっかーと言う名の木の棒を弾き返した。 弾かれた神器は勢いを殺す事なく飛んでいき…… 「ゆっぴょッ!?」 畑を荒らしていたまりさに直撃した。 「ゆゆゆゆっ!まりさ、しっかりして!」 「ひ、ひーろーまりさ……みんなの……ために……がんば……も、もっどゆっぐり……したかった……ゆふッ!」 「ばでぃざぁぁぁぁぁぁぁ!!」 どうやらゆーどびっかーはまりさの中枢餡を直撃したようだった。 「ゆ、ゆるさないよ……おにーさんは絶対に許さないんだぜぇぇぇぇぇ!」 「知るかボケッ!!」 怒りに打ちひしがれるヒーローまりさの額が黒く濁っていく。 この黒点は徐々にYの形になっていき…… 「ゆほぉぉぉぉ、使いたくはなかったけど、極悪非道なおにーさんにはこっちも悪の力を持って対処するしかないんだぜぇぇぇ!!」 一瞬、まりさの顔が大きく膨らみ、周囲をおぞましいオーラが包み込んだ。 まりさが大気中に流れるゆっくりできない力を取り込んだためだ。 そのオーラを身に纏う事により覚醒するもう一人のあんちひーろまりさ、その名も! 「超進化!だーくないとまりさ!!」 「死ねッ!」 「ゆぐっ!?」 鈍い打撃音とともに青年の蹴りがまりさの頬を陥没させる。 そのまままりさは畑の端に生えている巨木へと打ちつけられた。 「ゆぐぅ、口上の最中に攻撃するなんて酷いんだぜ……」 「最終回は得てしてそう言うもんだ、ってかもうお前のヒーローごっこに付き合うのも今日で終わりだ、出て来い!」 青年は胸ポケットから笛を取り出すと、目一杯吹き上げる。 まりさに衝撃が走る、まずい、にんげんさんの増援を呼ばれては流石のだーくないとまりさでも勝てないかもしれない! 「「「「「「「「ゆー!」」」」」」」」 「ゆっ!?れ、れいむたち……どうしてここにいるんだぜ!?」 笛の音と同時に現れたのは、意外にもれいむの群れだった。 まりさの緊張は解け、一瞬の隙が生まれる。 「そんなところにいると危ないんだぜ、早くまりさの後ろに」 「ゆっくりしねっ!」 「ゆぐっ!?」 一匹のれいむがまりさ目掛けて体当たりし、まりさはまたも巨木に体を打ち付けてしまう。 「ゆ……れ、れいむ、一体どう言う事なんだぜ……?」 「ゆっゆっゆ、ほんとうにおばかなまりさだね、ゆっくりせつめいしてあげるよ!」 そう言うとれいむたちはまりさから5歩程離れてフォーメーションを取った。 「もえあがるもみあげはせいぎのあかし!」 「きずなきおりぼんゆうしゃのあかし!」 「だれがゆっくりひとよんで」 「そのなも『れーむはっけっしゅう!』」 「ゆっくりおやさいまもるため」 「はたけをおそうゆっくりたおす」 「りぼんにひかるはきんばっじ」 「ぼせいのもとにただいまさんじょう!」 時代が時代なら後ろにカラフルな爆風が巻き起こりそうなポージングとともにれいむ達はまりさの前に立ち塞がった。 「ゆぐぐぐぐぐ、悪に身を染めたゆっくりだね!?」 「おやさいさんをおそうまりさのほうがわるいゆっくりだよ!」 「ずっとゆっくりさせてあがるね!!いくよみんな!」 「「「「「「ゆー!」」」」」」 八匹のれいむが飛び掛ると同時に、まりさはまたも帽子から別の棒を取り出した。 今度の棒はゆーどびっかーに比べて細く平べったくなっており、斬撃に特化しているようだ。 そして棒を咥えるとその場で大回転を始めた。 「必殺!ゆるじおんめざー!!」 必殺の掛け声とともに、まりさの周囲を真空の刃が切り刻む! 「ゆっ?」 一匹のれいむは目と口の間を中心に二つに分離した。 「ゆ……ゆぎゃぁぁぁぁぁ!」 このれいむは少し離れていたためか、一匹目と同じ位置に深い切込みができた。 「でいぶのずでぎなおべべがぁぁぁぁ!」 体長が低かったからか、眼球を一文字に切り裂かれたれいむ。 「もうあがぢゃんうめないいいいいいい!」 斬撃に気づいたため、飛び跳ねて回避するもまむまむを一閃された。 「「「「ゆぐわぁぁぁぁ、ゆっぐりできないいいいいいい!」」」」 他にもまぁ色々と説明するのも面倒なくらいの酷い有様だった。 「ゆふぅ、ゆふぅ、みんなごめんね……でもにんげんさんの側につくゆっくりはゆっくりできないんだぜ?」 怒りと悲しみが錯綜し、黙祷を捧げるかの如く目を閉じるまりさ。 倒れてしまえば敵も味方もない、同じゆっくりできる仲間だ。 「死ねッ!」 「ゆぴょ!?」 鈍い打撃音とともに青年の蹴りがまりさの頬を陥没させる。 そのまままりさは畑の端に生えている巨木へと打ちつけられた。 「ゆぐぐぐぐ、疲労困憊のところをずるいんだぜ……」 「最終回だからな」 もう遊びはここまでだと言わんばかりに、青年は鎌を天にかざし、振り下ろす。 (ここで死ぬわけにはいかないんだぜ!) 振り上げた頂点で止まった一瞬の隙をついて、まりさは再度間合いを取る。 そして大きく息を吸い込むと…… 「だーくないとどすぅぅぅぅ、かむひあーだぜぇぇぇぇ!」 「何だとッ!?」 大地を揺るがせる轟音を響かせて、林の向こうから大きな物体がやってくる。 2mを越える大型ゆっくり、その名もドスだ。 「ゆっふっふ、逃げるなら今だよおにーさん!」 「ちっ、めんどくせぇ事になってきたぜ」 めんどくさいと言いながらも隠し切る事のできない口元の笑み。 青年は持っている鎌を強く握り締めると腰を深く降ろし、構えを取った。 「今生の別れに見せてやるぜまりさ、俺の真の力をなッ!」 「ゆゆっ!?」 鎌一本のお兄さんが持つ余裕の正体は!? そしてついに迎えるクライマックスに、生き延びるのはゆっくり・人間のどちらなのか! 次回・農耕刑事お兄さん、最終回「畑に咲く平和のおやさい」にゆっくりフュージョンだ! 「うー!続きが気になります!」 「ってもしょうがねーだろ、この世の中での刑事物は30分番組って決まってるんだ」 「このままではてんこのストレスが有頂天!」 「そうやってゆっくりじゃーの時も一緒の事を言ってたじゃねーか!」 「その通りです、だからお兄さんはてんこに何か買ってきてくれているはず!」 「はいはい、そんな事もあろうかと準備しておいたぞ」 そう言ってお兄さんはバッグの中から何かを取り出す。 もぞもぞと動くバッグから出てきたのは、口をガムテープで押さえたゆっくりありす。 下部から何かが突出しており、恐怖と錯乱で発情しているようだ。 「りゅうぎょどりる!!」 「んんんんー!んんんんんんんんんんんんー!!」 てんこのコークスクリューブロウがありすの眉間を抉りし、眼球が陥没する。 「龍魚ドリルって、いくさんの技じゃねーか!ほら、これ使え」 「おにいさん、これはどうみても……ひーそーけん!?」 「まったく、売り切れ続きで手に入れるのに苦労したんだぞ?」 「さすがお兄さん、すてき、さいこう、あいしてる、ポーチは?」 「いやおまえあいしてるってそんな……ポーチぃ!?」 「……ぷくぅ」 「いや、ポーチって、その剣を買うのもすっげー苦労したんだぞ!」 「……ぷくくぅ」 「わかったわかった、わかったから頬を膨らますな、萌えるから。 今度ポーチも買ってやるから、な?」 「農耕刑事お兄さん変身セットも」 「……うへぇ、今度はまとめて買っておこう……」 「流石お兄さん、てんこそこそこ愛してる」 そしててんこはひそーけんを片手にありすの元へと走っていった。 当のありすはぺにぺにから変な液体を流しながら、んほんほと何かキモイ。 「ぜんじんるいのひそーてん!!」 「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ーーーー(ブチッ)ーーーん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛!?」 「うわぁ、ぺにぺにもげちゃってるよ………『てんこそこそこ愛してる』か……少し泣く」 「ゆっくりに振られて落ち込む、おお、ぶざまぶざま」 「だっ!?だからきめぇ丸の真似をするなってあれほど言ってるだろうがぁぁぁぁ!」 あとがき あ……ありのまま、今起こった事を話すぜ! おれはみんなのヒーロー まりさの続編を書いていたと思ったらいつのまにかてんこの話を書いていた 頭がどうにかなってんのはいつも通りだったぜ 書いた人 NFRP このSSに感想をつける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/393.html
30年前、人類は突如として現れた謎の生物『ゆっくり』の脅威に晒された。 全長2m~4m、幅3m~6mのその巨大な侵略者は本当に振って湧いたかのように突然人間の住んでいた領域に現れた。 発生源は不明、餅のように柔らかい球体に顔を貼り付けたようなそれはさながら巨大な生首だった。 その肉体を形作っているのは、小麦粉を練った皮の中に餡子がたっぷりとつまった物 そう、驚くべきことに彼等は饅頭だった。 その現代科学をあざ笑うかのような無軌道摩訶不思議ぶりは 何人もの有望な研究者を狂わせ自殺させるという痛ましい事件を呼び起こした。 しかもただの饅頭ではない。 その表皮に拳銃などの通常兵器は通じずロケットランチャークラスの兵器を用いてやっと体に傷がつく。 最新の戦車でさえ一対一では場合によっては遅れを取る。 生身の人間には太刀打ちできる相手ではない。 そしてその強靭さ以上に驚くべきことに、ゆっくりは人の言葉を用いた。 「ゆっくりしていってね!」 それが初めてゆっくりと出逢った男がゆっくりから聞いた言葉だった。 このことから、その巨大な怪生物は以後『ゆっくり』と総称されるようになる。 なのでゆっくりとの対話による和解も試みられたが その天敵を持たない強さからその性分は他の種族に対して傲慢極まりなく そもそもゆっくりは小さな家族的集団しか作らないためいくら対話してもキリが無く大抵の場合破綻した。 そのことを人間がこれまでやってきたことのしっぺ返しと揶揄する識者も居たが やがて自分にも脅威の及ぶ頃になると彼等も他の大勢と同じように自分を棚に上げてゆっくりを口汚く罵った。 傲慢な者同士の対話などうまく行くわけは無かったのかもしれない。 いくら強力なミサイルを使って辺り一帯ごと焼き尽くしても、その場所にまた別の場所からゆっくりが移り住んで 人類は逆に自分たちが住める土地を失っていった。 そうして至る所に突如発生しだすゆっくりにより人類は次々と生活圏を追われ 人類は辛うじて自衛を可能とする力を持っていた都市部へと追いやられた。 多くの人がこのまま人類は地上の覇権をゆっくりに譲り渡し、細々と生きて行くしかないかと思われた。 だが、ある天才の発明により人類に逆転のための炎が燈る。 ゆっくりを研究していたとある女性研究者の手により ゆっくりを長期に渡って完全な休眠、仮死状態にする薬品 ゆっくり休眠剤『ヤゴコロス』が発明されたのだ。 世界中が都市部内の工場を『ヤゴコロス』を製作するために作り変えた。 これを一帯に散布することによりゆっくりをほぼ完全に無力化することに成功する。 そして人類は再び地上の覇権を取り戻した。 だが、問題は山積みだった。 『ヤゴコロス』は非常にコストが高く、また定期的に投与しないと休眠状態を維持できない。 また不可解なことにゆっくりはそれまで居なかったところ、制圧したはずの場所からも突如発生し続けた。 人間は一時的に地上の覇権を取り戻したもののその覇権を守るための刃を必要としていた。 鉄の臭いがする。 鉄の臭いは好きだった。 普段かいでいる甘ったるい臭いと全く逆なところが特に気に入っている。 俺はポケットやら何やらが色々ついたダークグリーンの服を脱ぐと 専用のスーツに着替えていった。 体にピッタリと密着するそのスーツは、一言で言うと所々に堅いパーツのついたスウェットスーツだ。 色はグレーの地に所々暗めの青、専用にあつらえているため俺の体に完全にフィットした。 俺は背中のチャックをあげると扉を開けてヘルメットを片手に抱え歩き出した。 通路を歩き格納庫へと入ると、整備士たちが駆け回る慌しい喧騒を無視して 迷うことなくまっすぐに自分の機体の元へと向かう。 甘い臭いが鼻腔をくすぐった。 機体の前に立って見上げる。 機体のハッチは高さ3mのそのボディの一番上にある。 毎回乗り降りが大変なのだが、構造上そう設計せざるを得ないので仕方ない。 最初の頃は登るたびに一々文句も言ったものだが今では黙して淡々と梯子を登りハッチを目指す。 手動で黒い扉を開けると、立てひざをついて機体の頭頂部に設置されているロックを解除した。 そして重々しいハッチを開けて俺は機体の中に乗り込んだ。 ボスンとパイロットシートの上に背中を預ける。 ずっと思っていたのだが、この中では甘い臭いはしないのは少々奇妙なものを感じる。 中にはコードで繋がれたリングが何個もある。 その形状から拘束具などと揶揄されるソレはコレを操縦するための要だ。 実を言うと、このスーツのシンプルな構造といくつかのパーツもそのための物だ。 俺は手首や足首にあるパーツに次々とそのリングを接続した。 全てのリングを接続したのを確認して、俺は脇に置いておいたヘルメットを被った。 そしてヘルメットに備え付けられている通信システムを起動させると言った。 「スタンバイ完了、これよりジャックを開始する」 『了解、Bjh開始してください』 形式的な文言を言い終わると俺は目を瞑り力を抜いていった。 ゆっくりと溜め込んでいた息を吐いていき、鼻から吸った。 格納庫の甘い臭いが鼻腔をくすぐる。 「嗅覚…同期」 体の力が限界まで抜けきった時、俺の体を外の熱気が撫でた。 「感覚、同期」 順調に行程が進んでいくことに満足して唾を呑む。 甘い味がした。 「味覚、同期」 耳を澄ましていくと格納庫の喧騒が聞こえてくる。 「聴覚、同期」 俺は通信を入れた。 「同期完了、視覚データの転送を」 『了解、視覚データ転送します』 ゆっくりと目を開くと、ヘルメット全体にさっきまで見ていた格納庫の映像が映し出された。 たださっきと違う点を上げるならば、少々目線が高いことだろうか。 さっきは見上げるようだった整備士の中年の大男も今では遥か下に見下ろしている。 俺は進路に障害物の無いことを確認すると言った。 「ジャック完了」 『Bjh完了を確認、ハッチを開放します』 「了解、ゆっくりまりさ、出ます!」 俺は不敵な笑みを浮かべると、ぼいんぼいんと跳ねながら格納庫から発進した。 人類は、ゆっくりに対抗するための刃を欲した。 しかしこれまで人類が作り上げてきた力はゆっくり相手には余りに脆弱すぎるものと 強力すぎて周りまで傷つけてしまうものばかりで帯に短し襷に長しといった有様だった。 だが人類はゆっくりを相手にするのにもっともふさわしい力を手に入れたのだ。 そう、ゆっくりそのものである。 しかしゆっくりはそのまま使うには手に余った。 だからゆっくりの中身を改造して、その脳を侵略してゆっくりに手綱をつけて使役することにしたのだ。 それをゆっくり休眠剤『ヤゴコロス』は可能にした 『ヤゴコロス』を使い休眠状態にしておいたゆっくりをゆっくりの内部に入力デバイスを埋め込む。 そして薬品の量を減らしてゆっくりを半休眠状態にする。 ここからがさっきやった『ジャック』『Bjh』と呼ばれるものだ。 『Bjh』とはBean jam hijackの頭文字からとったもので、要するにゆっくりの餡子をのっとるということだ。 入力デバイス内に人間が乗り込み、自分の感覚を通して半休眠状態のゆっくりの脳を侵略し支配権を奪っていく。 完全に支配権を奪ったところで、今度はゆっくりを半覚醒状態にして五感をのっとられたゆっくりを動けるようにする。 後は操縦者の思うがままに、その手足となってゆっくりは動かせる。 とは言っても所詮操り人形を操るようなもので、完全に自由自在というわけには行かない。 だがそれでも訓練次第でかなり自由に動かせるようにはなる。 スウェットスーツのようなパイロットスーツもゆっくりとの感覚を共有しやすくするための ゆっくりと人間の間にある変換機のような役割を担っている。 人類はこの人の手で動くゆっくりを饅頭兵器、すなわちSteamed bun armsの頭文字をとって Sba、もしくはSb兵器と呼んだ。 そしてそれに乗る人間のことをSb乗り または餡子を乗っ取る人という意味でBean jam hijackerを略してBean jackerと呼んだ。 まあ年を取った人は見も蓋も無く饅頭乗りと呼んだりもする。 これの副次的効果として半休眠状態をデフォルトとすることで『ヤゴコロス』の使用量を減らすことも出来た。 こうして人類はゆっくりと戦うのにふさわしい刃を手に入れ、本格的な反撃を開始した。 そうしてゆっくり駆逐戦、後に第一次ゆっくり大戦と呼ばれる戦いは開始し 15年ほど前に以前人間が生活していた地域を殆ど人の手に取り戻して大戦は終焉した。 大戦を人の手に導いたのはやはり人の操縦するゆっくりを主力にした特殊部隊だった。 ゆっくりが現れ始めてから30年、ゆっくりに人が打ち勝ってから15年 俺は母国の軍隊に、ゆっくりのパイロットとして入隊していた。 ゆっくりとの戦争があった時は俺はまだ小さな子どもでその頃のことは良く覚えていない。 軍隊に入ったのも別に何か特別な理由があったわけではない。 偶然受けた適性検査に受かってそのまま入っただけだ。 そんな軽い気持ちで何故俺が軍隊生活を続けられているのか。 「敵機を視認、これより戦闘を開始します」 『了解、戦闘を開始してください』 俺は足を弾ませ目の前のゆっくりに対して直進した。 予想外に早いこちらのアプローチに驚いたのか、目の前のまりさは驚愕の表情を浮かべている。 そのまりさがやっと対処をしようと動きだした時にはもう大勢は決していた。 俺はまりさの眼前に大きくジャンプし、その勢いで真上に跳んだ。 体一つ分ほど俺の体が宙を舞う。 俺は相手のゆっくりまりさの帽子にとび蹴り ゆっくりの感覚的には底部の端に力を入れてすこし伸ばしてする体当たりが蹴りなのだが それをしてまりさの帽子を叩き落し、まりさの頭の上に乗っかった。 ゆっくり同士の戦いにおいて、これだけでほぼ勝敗は決する。 後は上から数度ジャンプして踏み潰してやればツブレ饅頭の出来上がりだ。 「ど、どおぢでぞんなにゆっぐりぢでないのおおおおおお!?」 悲鳴を上げるまりさに対して俺は言った。 「あんたが遅すぎるのさ」 [まりさがゆっくりしすぎてるんだよ!!] 俺の言葉が俺の操縦するゆっくりまりさを通して、ゆっくり言葉で喋られた。 操縦者が外に向けて言った言葉は、このようにゆっくりの言葉に変換されてゆっくりによって喋られる。 『そこまで、訓練を終了してください』 俺は相手のまりさの頭から降りて、格納庫へと戻るために跳ねていった。 「同期…解除」 手のひらを握ったり広げたりしながら自分の感覚が自分の手をちゃんと動かしていることを確認してから もう外の景色を映していないヘルメットを外し息を吐いた。 面倒な行程だが、これをしておかないとうっかりゆっくりと同期したままヘルメットを外したりしようとして 妙な事故を招いてしまうこともある。 俺もド素人の頃に一度やって格納庫の備品を壊して始末書を書かされた。 さて、さっき言いかけたそれほど目的意識の無い俺が軍隊でやっていけているのかというと つまるところ、それなりに才能があったからだ。 ただしゆっくりの操縦に関してだけで他は平均かそれ以下といったところだが それでもゆっくりの操縦を出来る人間は少ないので重宝される。 人類は地上の覇権を取り戻したものの、まだ自然発生するゆっくりはなくならない。 また、ゆっくり休眠剤『ヤゴコロス』で休眠させているゆっくりを駆除するにもそれが出来る兵器は金がかかる。 かといってそのままにしておいてもゆっくり休眠剤『ヤゴコロス』を定期的に散布せねばならず金がかかる。 なので戦争が終わってから十五年経った今でもSb乗りは引っ張りダコだ。 それから数日後、俺に辞令が下った。 「転属…ですか?」 俺は上官に尋ねた。 「ああ、書類に目を通してから荷物をまとめておいてくれ」 それだけ言って書類を俺に渡すと上官は全て済んだというように立ち去っていった。 俺は面倒だななどと考えながら頭を掻いて書類に目を通した。 転属先は南の方にある大戦前からある古い基地だ。 元々は合衆国の基地だったが、大戦時の混乱によりいつの間にかわが国が実質的に管理運営している。 どこも自分の国のゆっくりに手一杯で、他の国までどうこうしようという余力は無い。 なので合衆国もその基地にこだわらずに放置してしまっているのだろう。 転属は一週間後 それまでにそれほど多くは無い荷物をまとめなくてはならず整理整頓の苦手な俺は溜息をついた。 転属の何が嫌かといえばやはり人間関係の再構築だろう。 特に、ゆっくり操縦士は重用されている割に若者が多い。 ゆっくりと同期するという行為が自我の確立した熟年よりも 若くて自我のやわらかい人間の方がやりやすいからと言われているが科学的に証明はされていない。 まあそんな訳で一般の、特に中年くらいの兵隊からの風当たりは強かったりするのだ。 ここでも大分苦労してやっと操縦士以外の何人かと馴染んできたところだったので 正直に言うと転属はしんどい。 が、そのことで上に文句を言えるほどの立場も俺には無い。 なのでそれなりの覚悟をして、かなり肩肘張りながらこの基地にやってきた。 軽く挨拶だけ済まして特に打ち解けようとすることも無くふらふらと格納庫の方へやってきた。 これから俺の乗る機体も見ておきたいという、別にそれだけの理由だ。 「俺タクヤってんだ!渡邊タクヤ タクヤでいいぜ?オマエ歳いくつ?タメ? まあどうでもいいや、あんま歳かわんなそーだし敬語とか無しな? ゆっくりの整備士やってるんで多分オマエの担当になんじゃないかなと思うわけ なんていうかビビっと運命って奴? ってか今専属無い奴俺だけだしさーってことでヨロシクゥ☆」 捲くし立てながらぽんぽんと肩を叩いたりと 異常なまでに馴れ馴れしいその整備士の態度に俺は正直、「なんだこいつ」と思いながら眉を潜めた。 「あー、その 俺の機体見に来たんだけど…」 俺はマシンガンのごとく繰り出されるその整備士の言葉の縫い目を見つけて控えめに目的を伝えた。 「あーはいはいはい命を預ける愛機のことを一刻も早く知りたいって訳ねオーケーオーケー 多分あのまりさじゃないかな、他に空いてるのは無いし」 そういってそいつは斜め後ろに陣取っているゆっくりまりさを指差した。 俺はその整備士を置いて、そのゆっくりまりさに歩み寄った。 肌の艶から見て整備はきちんとされているようだ。 手で触った弾力から考えても生育は良好 そう悪くない いや、むしろ何故こんないい仕上がりのものがエンプティになっていたのか疑問に思うくらいの機体だ。 「よろしく頼むぜ、相棒」 俺は何の気なしにそんなことを呟いた。 「おっけー!任せてけって!」 オマエじゃない。 そんな感じで、鬱陶しいのが一人懐いてきたものの 俺は引越し後で忙しいというのを理由に訓練時以外は殆ど同僚達とは接触しなかった。 接触すれば波風が立つだろう。 まず新人としての注目が薄れてからじっくり馴染んでいくのがいい。 特にこの基地は高齢の隊員が多いようなので慎重に行こう。 そう思って周りに反感を抱かれない程度に意識して避けていた。 意図してやっているとはいえ宙ぶらりんの居心地の悪い状態の続いていた日のこと。 遂に俺にこの基地に転属されて初めてのスクランブルがかかった。 「坊主!仕事だ!郊外に野生のゆっくりが出やがった!」 ヒゲ面の上官、山崎源五郎二等陸曹の言葉を聴きながら 既に専用のパイロットスーツに着替えていた俺は格納庫へ向かっていた。 山崎源五郎二等陸曹は定年間近の大分年を食った男で いかにもな傷だらけの浅黒い肌と筋肉 そして体毛と酒臭さを供えた男臭い男をそのまま体現したような男だ。 他と同じようにこの人のこともなるべく避け様と思っているのだが 小ざかしい俺の意図など意にも介さずに向かってきてやたらと呑みに誘ってくる人だった。 俺のことは名前ではなく坊主と呼ぶ。 二十歳過ぎて坊主と呼ばれるのは勘弁して欲しいのだが 上官だし顔を見合わせるとどうにもその男臭さに気圧されて指摘出来ずに居た。 「数は何匹ですか?」 「確認されたのは二匹だ、まあそこらに隠れてるかもしれんが こっちで出せるのはオマエだけだ 後は出払ってるか帰ってきたばかりで休養中ってとこだ いけるな?」 「はい、問題ありません 俺一人で充分です」 「言ったな坊主 よし、トレーラーに積むからとっとと糞饅頭に乗って来い!」 「了解しました」 走りはしないが早足にゆっくりの方へと向かう。 ゆっくりの後ろに立つと、その金色の髪の間から垂れている縄梯子を掴んで上っていった。 前はアルミ製だったので最初は面食らったがこの縄梯子にも既に慣れて上るのに5秒とかからない。 黒い帽子についた扉を開けてハッチを開きコックピットへ滑り込む。 すぐに感覚共有用のデバイスに接続してヘルメットを被り呟いた。 「スタンバイ完了、これよりジャックを開始する」 目を瞑り体の力を抜いて鼻から息を吸う。 「嗅覚…同期、触覚、同期 味覚同期、聴覚同期」 感覚を共有させていく順番は人それぞれで、俺は嗅覚から同期させていくのが癖になっていた。 余談だが嗅覚から行く人は結構珍しいらしい。 それにしても、こちらに来てからの訓練で分かってはいたがこのまりさとはこれまでになく同期がスムーズに行った。 どうにも俺とこのまりさは相性がいいらしかった。 「早く視覚データを、ハッチも開けて下さい」 『了解しました、これより視覚データを転送します』 すぐに視覚データがヘルメットに転送され格納庫の映像を映し出した。 それと同時に格納庫のハッチも轟音を立てながら開かれる。 「ジャック完了、ゆっくりまりさ、出ます!」 [ゆっくりいくよ!] 俺はまりさから感覚を奪い去り、外へと飛び出した。 巨大になった体が否応無く巨大な力を手に入れたのだということを感じさせる。 俺は専用の、だが旧式の大型トレーラーに乗り込むと目を瞑り神経を集中した。 『坊主!どうだ、緊張してるか?』 山崎二等陸曹からの通信が入ってきた。 「いえ、実戦は初めてでは無いので大丈夫です」 野生のゆっくり二匹、実戦では一匹しか相手にしたことは無いが 訓練では3対1で勝った事もある、なんら問題ないはずだ。 それでも神経が昂ぶって仕方が無い。 それを見透かされたのか、と思うと心が読まれているようでどうにも座りが悪かった。 「嘘付け!オマエのゆっくりを見りゃ誰だって緊張してるのがわかるぜ!」 なるほど、そういうことかと俺は頷くと同時に まりさとの相性が良すぎるのも考え物だと思った。 以前はそこまでダイレクトに心情がゆっくりに表れてしまうほど細かい機微を再現するようなことはなかったのだが。 それとも単にこの山崎二等陸曹が図抜けて鋭いだけなんだろうか。 そうこうしているうちに、俺を乗せた旧式の大型トレーラーは郊外のゆっくりの発生した地点に到着した。 場所は郊外のさらに外れの広さだけはある寂れた場所。 近くにはクヌギなんかが群生した小さな林もあった。 所々に見える古いコンクリートの欠片や床から上の無い民家の跡から考えて ここも昔はそれなりに栄えていたのかもしれない。 だが30年前に人類が都市部に追いやられた際に家や建物はゆっくりに踏み潰され こんな風に人気の少ないだだっ広い場所がたくさん生まれた。 その殆どは未だに復興しておらず、そんな中ではここはまだ盛り返している方だった。 民家は半径1kmに三軒ほどで通報者含めて避難は完了済み。 多少暴れて周りに被害が出ても問題ない、保険がおりるはずだ。 政府は人口がパンクしかけて問題が山のように出てきた都市部から離れて こういう土地を再び栄えさせようとする人間には寛大なのだ。 『いました!ゆっくりです!』 『種類は?つがいか?』 『それぞれまりさ型とれいむ型です! 恐らくつがいなんじゃないでしょうか?』 『だそうだ坊主』 「了解しました、直ちに駆除を開始します」 俺は跳ねると頭を打つので這いながら大型トレーラーから降りると野良ゆっくりに対して向き合った。 俺のことを見つけたゆっくりれいむとまりさは、こちらを見てこう言った。 「ゆっくりしていってね!」 「ゆっくりしていってね!」 初めて人類に接触したゆっくりが最初に言ったというあの言葉だ。 俺は息を軽く吸うと、腹の底から思いっきり言ってやった。 「あいにくと、この地球上にお前等の安穏の地は無い お前等はここで排除する!」 [ゆっへっへここは俺のゆっくりぷれいすなんだぜ!ゆっくりでていくんだぜ!] 「どおぢでぞんなごどいうのおおおおおおおおおお!?」 「れいむだぢゆっぐりぢでだだげなのにいいいいい!!」 せっかく気張って言ったのに変換後の会話の間抜けさにガックリと肩を落とす。 『坊主!そいつ乗ったまま啖呵は切らないほうがいいぞ 情け無いことになるからよ』 「今痛感してます」 俺は半眼で呻いた。 本当にいらんことを言ったと後悔する。 無駄なことをしたと嘆息しながら 気を取り直して標的のゆっくり二匹を見る。 大きさは、高さ3m横幅5m程と実に平均的で種類もれいむ種とまりさ種の組み合わせという 最もオーソドックスで普遍的な物だった。 これといって見るべきところも恐れるようなところも見当たらない。 ならば二対一でも問題ないだろう。 野生のゆっくりに対して何故数の上で不利にも関わらず俺が余裕を持っているのか。 それは訓練をしているというのもあるが、それは数の不利を完全に覆せるほどではない。 むしろ人間の扱うゆっくりはどうしても人の意思を伝達するためにわずかばかりの遅れが生じるため身体的能力においては劣る。 それでも人間の扱うゆっくりは野性のものに対して優位に立てるのだ。 それは人類が高いとはいいがたい身体的能力で他の強大な力を持つ生物に対して優位に立てた理由と同じことだった。 「ぷんぷん!れいむたちのゆっくりぷれいすなのにきゅうにでてけなんてぜんぜんゆっくりしてないよ!」 「ゆー!だいたいそのぼうしからしてゆっくりしてないよ!」 確かにこのまりさの言うとおりゆっくりから見ればこのとんがり帽子は珍妙なのだろう。 鍔は曲がっているし先の部分も普通のゆっくりからみれば尖り過ぎている。 まあそれは構造上仕方ないことだ。 「アウェイクン」 ゆっくりに備え付けられている一部の装備は意識しながら音声入力をすることで操作可能だ。 手を動かそうとするとゆっくりの方が動いてしまうので通常のボタンなどによる入力方法は使いづらく 苦肉の策でこういった入力方式をとらざるを得ないらしい。 音声は一応個々人で変更可能だが俺は面倒なのでデフォルトのままにしてある。 俺が指示すると、頭にコツンと棒が当たる感触と共に頭上の黒いとんがり帽子が真上に飛び上がった。 ぽかんと口を開けるまりさを他所に俺は体を捻って、ゆっくりと落ちてくるとんがり帽子の、その中から伸びる棒に食い付いた。 そしてとんがり帽子の先をまりさに向けて構えると、そのまま一直線に突撃する。 一瞬後には自分の腹に深々と突き刺さった帽子を愕然とした表情で見下ろすまりさがいた。 「ど、どおぢでぼう゛じがざざっだりずるのおおおおお…!?」 何故野生のゆっくりに対して人間の扱うゆっくりが有利であるのか 要は武器を持っているということだ。 ゆっくりまりさの帽子を加工・コーティングして作り上げた硬化饅頭皮製帽子型突撃槍。 帽子に支柱が通してありこちらの指令に応じて伸縮させて口に咥えて振り回せるゆっくりまりさの主要武器だ。 ゆっくりの研究を進めていく過程で副次的に発見されたこの武器に用いられている新素材は非常に堅く その上比較的軽いため発見当初は技術革新だのなんだのと持て囃された。 だがさらに研究を進めていくにつれて、すぐに劣化する、温度変化に弱い、加工するのが難しい 安定供給するためにはゆっくりの養殖が不可欠、そもそもコストがかかる 生産・加工にもゆっくりの飾りそのままの形を保たないと時間がかかるetcetc 山のような問題点が発見された。 結局いまだにこのかつての新素材を用いているのは対ゆっくり用の武器くらいだ。 それも使いこなせるのは同じゆっくり位なのだ。 この槍だってゆっくりの体重と力で振り回すから対ゆっくり用の武器足りえているが 他のものにとっては雨宿りくらいにしか使えない。 散々扱き下ろしてきたがそれでも対ゆっくり戦においてだけは有用なことは確かだった。 「げふっ、ごぱぁ」 まりさは内部から槍で圧迫され口から餡子を吐いた。 驚愕の表情は既に失せ、土気色の顔で焦点の合わない虚ろな瞳で視線を空に漂わせていた。 「ま゛り゛ざのあんごがあああああ!?」 れいむは伴侶の身に起こった突然の凶事に目を見開き悲鳴をあげた。 後腐れ無くこのままれいむの方も突き殺してしまおうと槍を引き抜いた。 直径一メートルはあろうかという巨大な傷穴から大量の餡子が零れ落ちた。 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あああ!!!!」 れいむがまりさの傷口に駆け寄り、舌を使って必死に餡子をまりさの体の中にに押し戻そうとした。 しかしいくら舌を器用に動かしても舌の上を流れて餡子は地面に零れて行く。 傷穴に押し戻されたわずかな餡子も未だ止まることの無い餡子の濁流に押し返され体から抜け出していった。 「ま゛り゛っ、ま゛り゛ざああああ!!い゛や゛あああああ!!」 「おどどざあああああああああん!!」 未だ餡子に濡れる槍を構え直し、再び突撃しようと腰を深くした時 近くの森から体長1mほどの小さなゆっくりが現れまりさに駆け寄った。 「!?きちゃだめえええええええええ!!」 俺はその小さなゆっくりごとれいむを貫こうと飛び出した。 『まずい坊主!子持ちだ!小さいのは後にまわせ!』 通信が入ったがもう遅い、既に俺の槍は子れいむの体を貫く いや押しつぶしていた。 『畜生!!やっちまった!!』 山崎二等陸曹は何故か悪態をついた。 そんなに俺の腕が信用できないのだろうかと思って不快感に眉を潜める。 確かに大きい方のれいむは仕留め損なったが別に大きなミスではない。 このれいむをとっとと駆除してしまえばそんな態度を改めさせることも出来るだろうと俺は再び槍を構えた。 「れ゛い゛む゛のあがぢゃんがあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!! うがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」 「な!?」 [ゆ!?] 今まで一度も聞いたことの無い大地を揺るがすかと思うほどのれいむの雄たけびに俺は立ち竦んだ。 槍を持つ手、いや舌と唇が震えた。 『気をつけろ!もういままで倒してきたゆっくりと同じと思うな!!』 山崎二等陸曹が耳が痛くなるほどでかい声で俺に助言を送った。 「い、一体どういう…」 よく意味がわからずに俺は戸惑いながら聞き返した。 『母は強しだ!!』 「じねえええええええええええええええええ!!!」 山崎二等陸曹が叫ぶと同時に、鬼神のごとき形相で突進してきたれいむに俺はたじろいだ。 「っ!?」 [ゆゆっ!?] 辛うじて槍を斜に構えて体当たりを受け流したものの、その余りの迫力に呼吸が荒くなる。 汗や唾液で槍が滑らないように注意しながら穂先を突きつけて牽制しながら距離を取ろうとした。 「よ゛ぐも゛れ゛い゛む゛のあがぢゃんおおおおおおおおおお!!!」 だがそんなもの意にも介さずにれいむはこちらに向かって突進してくる。 このままこちらも突撃で応じるか一瞬迷うが もしこちらの突きを避けられた時あの勢いの体当たりをどうにかできるか不安だったので 再び槍でいなしてから間合いを取った。 「よ゛ぐも゛よ゛ぐも゛よ゛ぐも゛ぉ゛…!れ゛い゛む゛だぢばがぞぐでゆっぐりぢでだだげだどにぃ…!」 お前等が近くに居るだけで人間は恐ろしくて仕方が無いんだと心中で呻く。 「糞っ、隙が無い…!」 [もっとゆっくりしてね!] 「お゛ばえのぜいでゆ゛っぐぢでぎだぐなっだんだあああああああああ!!!」 意図せずして発動したゆっくり語変換機能がれいむの神経を逆撫でてしまった。 俺は舌打ちしつつ槍を咥えたまま横っ飛びに飛んでれいむの突進を避けようとした。 「う゛があああああああああああああああああ!!」 が、予想以上の速さで突っ込んできたれいむに、槍の穂を横から噛み付かれてしまう。 「しまった!」 [ゆぅ~!?] 俺は振りほどこうと頭を振ったが、れいむはガッシリと槍を咥えて離さない。 お互い槍を奪い取ろうと喰い縛り、力が拮抗しあってお互いに動けなくなった。 「くっ…」 俺は冷や汗を垂らしながら呻いた。 今は持ちこたえているが、さっきまでの戦いで向うの方が腕力が上なのは散々見せ付けられた。 このまま膠着状態を続けていればいずれ槍を奪われる。 そうなれば勝ち目は無い。 『坊主!大丈夫か!?』 トレーラーの山崎二等陸曹から通信が入る。 「すいません…厳しいです…!」 俺は情け無いことこの上ない気持ちで弱音を吐いた。 『仕方ねえな、なんとか援護するから切り抜けろ! 1、2の3でいくからタイミング合わせろ』 「…?了解しました」 俺はゆっくりに対抗できるような強力な装備があのトレーラーに積んであったかと疑問に思い首を傾げた。 ゆっくり以外の対ゆっくり兵器はそうポンポン使えるような兵器ではないのだが。 『1!』 そうこうしている内にもカウントダウンは進んでいく。 俺はそれまでなんとか持ちこたえようと歯を食いしばり目の前のれいむを睨みつける。 『2の!』 ひょっとして休眠剤でも積んでいたのかと思い当たり心中で合点する。 滅多に無いことだが作戦中にSbaの休眠剤が切れてしまう場合に備えている可能性も無くは無い。 それなら一応納得がいく。 『3!』 と思った瞬間トレーラーがゆっくりれいむの横っ腹に突っ込んだ。 トレーラーのコックピットがれいむの体にめり込んで、目の前のれいむの顔がひしゃげた。 いくら軍用とはいえ、トレーラーの体当たり程度でゆっくりが傷を負う事はまず無い。 衝撃は完全に饅頭側と餡子の弾力に吸収されてしまう。 が、それでも槍を咥えていた口の力を少し緩ませるには充分だった。 少し面食らったが兎にも角にもれいむから槍を奪い返した。 がっしりとくわえていた口からちゅぽんと音を立てて槍が抜ける。 そのままこちらに槍を引き込み、糸を引いていた唾を引きちぎる。 「マジかよ…」 目の前の事態に頭が時間差で追いついてきてやっと呻きながら 俺は未だトレーラーを頬に減り込ませながら驚愕の表情を浮かべるれいむの額に槍を突き刺した。 「も゛っど…ゆ゛っぐりぢだが…だ…」 か細い断末魔をあげるれいむから槍を引き抜くと、頭から滝の様に餡子を噴出しながらその勢いでれいむは後ろに倒れこんだ。 大地が揺れ、あたりに落ちているコンクリート片が震えた。 「任務…完了か」 ぐるりと周りを見回して、もうゆっくりが居ないことを今度こそ確認して 緊張を解いた俺は溜息を吐いた。 『危なかったな坊主!』 「ええ、お互いに」 元気そうな山崎二等陸曹の声に俺はよくトレーラーで突っ込んでピンピンしてるなと呆れながら返した。 『まあルーキーにしては上出来だ! とりあえず後始末は他の奴等に任せて帰って酒でも飲もうや! どうせ饅頭乗りは一度出撃したらリフレッシュやらなんやらで当分出撃できないんだしよぉ 徹夜だ徹夜!朝まで呑め!三日くらい二日酔いで頭ガンガンなるまで呑むぞ!』 山崎二等陸曹の語気の強さに 比喩じゃなく本当にそれくらい飲まされそうな気配がしたので俺は適当に言い訳を考えて断ることにした。 「あー、その、これから飲み会の準備するのも大変なのでまた今度に…」 『大丈夫だ、整備士の方の坊主に店の準備やら何やらやらせといたから』 渡邊め。 心中で毒づきながら、くたびれ切った体で俺はトレーラーに乗り込んだ。 ―――――――――――――――――――― 次回予告 山崎は大戦時の戦友にして合衆国軍の英雄ブライアンの来訪に沸き立つ。 だが、変わり果てたブライアンの姿に俺はゆっくり乗りの闇を見ることになった。 次回 緩動戦士まりさ 『英雄の末路』 このSSに感想を付ける
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『Discrimination 1 ~帽子のない まりさ~』 33KB いじめ 差別・格差 自然界 おひさしぶりです。 かすがあきです。 注意 連続物です。 ぬるいです。 人間がでてきません。 死なない ゆっくりがいます。 チート気味なゆっくりがいます。 独自設定があります。 善良なゆっくりが酷い目にあいます。 Discrimination 1 ~帽子のない まりさ~ 1匹の亜成体の まりさが山奥で狩りをしている。 「っゆ!ちょうちょさん!ゆっくりつかまってね!」 蝶に狙いを定めた まりさは、蝶の動きを予測し大きく飛び跳ねる。 - パ クッ! そして、見事に蝶を仕留めた。 飛んでいる蝶を捕まえることは、虫網を持った人間でも難しい。 それを難なくこなすことから、まりさの狩り腕がよいことがわかる。 まりさの口内に、蝶の甘い体液が流れる。 蝶が絶命したことを確認した まりさは、そばにおいてある籠に蝶をいれる。 籠の中は、草花や、昆虫が大量に入っている。 「ゆ!こんなに たくっさん あれば だいじょうぶだよね?そろそろ かえるよ!」 そう言って まりさは籠を口で咥え、歩き出す。 通常、まりさ種は狩りの成果を帽子にいれて運ぶ。 だが、この まりさはそれをしない。いや、正確にはできない。 なぜならば、この まりさには自分の帽子がないからだ。 -------------- 「れっいむは れっいむ♪れっいむは れっいむ♪うまれた~とき から れいむは れいむだよ~♪」 群れに戻る まりさの耳(?)に れいむの歌声がはいってきた。 「ゆぅ。ゆっくりした おうただよ。れいむの おうただね。ひろばで うたっているんだね。」 歩くのを止めて、まりさは目を閉じ、れいむの歌に聞く。 「ゆ!?いけない、いけない。ゆっくりしてたら おさに しかられちゃうよ。」 しばらく歌に聞き惚れていた まりさは自分のしなければいけないことを思いだし、歩きだす。 まりさが所属している群れでは、狩りの成果の一部を群れに献上することが決められている。 献上された食料は長の家にある貯蔵庫で保管され、不猟の際や狩りにいけない家族(シングルマザー等)への食料援助となる。 まりさが今いる場所から、長の家までは、広場を横切ればすぐである。 が、まりさは遠回りをして長の家にいく。 広場では、れいむの歌を聞くために若い ゆっくりが集まっているからだ。 まりさも、同年の若い ゆっくりのように れいむの側で歌を聞きたいが、それはできない。 もし広場にいけば、苛められるからだ。 ゆっくりは、身体やお飾りに欠損のある個体を ゆっくりできない存在として認識する。 ゲスの多い群れでは、そういう個体は制裁の名の元に殺されることも多々ある。 幸い、まりさの所属している群れは、人間が滅多に訪れない深い山奥で食料事情が安定している為、ゲスの少ない群れである。 そのお陰で、帽子のない まりさでも一応群れの一員として生きていることが認められている。 が、所詮は一応である。他の ゆっくりからはバカにされ、苛められているのだ。 まりさの口調が 亜成体にも関わらずに だぜ言葉でないのも、苛めの悪化を防ぐためである。 「そして れいむの~♪ねがいは ひとつ~♪ずっと みんなと ゆっくり できますように~♪」 「ゆぅ。いい おうただよ。まりさも そばでききたいよ………れいむと なかよくしたいよ………」 れいむの歌を聞きながら、まりさは広場に近づきたいという欲求を我慢しながら、長の家を目指して歩く。 「おさ~~。まりさだよ。かりの せいかを もってきたよ。」 長の家(巣穴)にはいり、まりさが笑顔で叫ぶ。 「あら、まりさ。あいかわらず いなかものね。かりの せいかを みせてね。」 この群れの長は ありすである。 まりさ種以外のゆっくりに籠を配り、狩りの成果を一度にたくさん運べるようにしたり、 食料の再分配を行ったり、すっきり制限を儲けるなど、ゆっくにしては中々優秀な長である。 しかし、お飾りのない存在を見下すという本能に逆らうことはできず、まりさを常に見下している。 「ゆっくりごめんだよ。はい、これが かりの せいかだよ。」 まりさは笑顔を崩すことなく謝り、狩りの成果をみせる。 「まぁ、たいっりょう だったのね。とかいはな ちょうちょさんも あるわ。 まったく、いなかものの くせに かりの うでだけは それなりね。 まぁ、それもこれも おさで とっても とかいはな ありすが その かごさんを つくって あげたおかげね。 かんしゃないさい。 えぇっと、ほぞんしょくに むいているのは……」 「ゆぅ……あんなに いっぱい あったのに、ほとんど なくなっちゃよ………」 まりさが狩った大量の昆虫類のほとんどが群れに献上させれ、蝶と芋虫が1匹ずつしか残らなかった。 代わりに、苦い草がたくさん支給された。 他の個体は狩りの成果から一部を収めるだけだが、 帽子のない まりさだけは狩りの成果の ほぼ全てを献上しなければならない。 さすがに何もなしでは死んでしまうので、温情として、少しだけのご馳走と大量の苦い草が支給されている。 まりさは、悲しい気持ちを顔に出さず、笑顔で自宅に向けて歩く。 「ゆ!おぼうしのない まりさが いるのぜ!!」 帰り道、まりさは帽子を被った まりさ(以後、だぜまりさと表記)と、ちぇんに出会った。 ちなみに、3匹は昨年の秋に生まれているため、大きさに然程の差はない。 「まりさ、ちぇん。ゆっくりしていってね!!!」 まりさが笑顔で挨拶をする。 「ゆっくりしていってね!!!まりさは ゆっくりしているのぜ! でも、おまえ みたいな ゆっくりしていない ゆっくりを みたせいで ゆっくり できなく なりそうなのぜ!」 「ほんっとうなんだねー!おまえのせいで ゆっくり できないんだねー!わかれよー!!」 だぜまりさが まりさに因縁をつけ、ちぇんも それにのる。 「ゆぅ……それは ゆっくり ごめんだよ。」 まりさは笑顔を絶やすことなく、謝る。 抵抗をし、喧嘩になれば1対2で まりさが負けるのは決まっている。 まわりに他の ゆっくりもいるが、喧嘩になった時、 自分の味方をしてくれる ゆっくりがいない事を まりさは理解している。 素直に謝り、笑顔で難を逃れようとしているのだ。 「あやまっても ゆるさないんねー!ばいっしょうを ようっきゅう するんだよー!!」 「そうなのぜ。さいっきょうの だぜまりささまを ふゆかいさんに させた つみは まりあなかいこうさんよりも ふかいのぜ。」 マリアナ海溝はおろか、海の存在を知らないくせに、何故かゆっくりは知らないものでの比喩表現を好む。 「ゆっくり ごめんだよ。ばいっしょうなら するよ。だから ゆるしてほしいよ。」 まりさが そういうと、2匹はニヤニヤしながら、まりさの籠を物色する。 「ちぇんは この いもむしさんで ゆるしてやるんだねー!かんしゃするんだよー!」 「っゆ!ちょうちょさんが あるのぜ!まったく、おぼうしが ないくせに なまいきなのぜ。 この ちょうちょさんは だぜまりささまが もらってやるのぜ!かんしゃするのぜ!!」 だぜまりさは蝶を自力で捕まえることができない。 まりさに狩りの腕で勝てるものはこの群れには存在しないのだ。 だが、帽子がないため、その腕は評価されることはない。 まりさの籠から芋虫と蝶がとられる。籠に残ったのは、苦い草だけとなった。 「だぜまりさ、ちぇん。なに してるの?」 2匹が まりさの籠から昆虫を取り上げたところで、れいむが声をかけてきた。 この れいむ、先程広場で歌っていた れいむで、群れの歌姫である。 さらに言えば、まりさたちと同年の若い ゆっくりで、群れでお嫁さんにしたい ゆっくりランキング1位でもある。 当然、3匹とも れいむに惚れている。 「なんでも ないんだねー。それより れいむ、きょうも おうたが じょうずだったんだねー。」 「ゆぷぷ。ありがとうだよ。」 「ほんっとうに れいむの おうたは さいっこうなのぜ。 ゆ!そうなのぜ!さいっこうに ゆっくり できる おうたを うたう れいむに ぷれぜんとさんなのぜ!」 「ゆわぁ~!!ありがとうだよ、だぜまりさ。とっても おいしそうな ちょうちょさんだよ! ちょうちょさんを くれる なんて さっすが だぜまりさだね!」 だぜまりさから蝶を受け取り、笑顔になった れいむが言う。 「ちぇんも ぷれぜんとさん なんだよー!いもむしさんだよー!うけとってほしいんだねー!」 「ありがとうだよ、ちぇん。いもむしさんも とっても おいしそうだよ。」 まりさが狩りったものだが、れいむはその事実を知らなければ、まりさが狩りの腕がいいとも思っていない。 れいむの中で、まりさは帽子のないゆっくりできない ダメな ゆっくりという認識である。 ゆっくりできない ゆっくりである まりさ ごときが蝶や芋虫を狩れるはずがないと考えているのだ。 「あ、あの………」 まりさも れいむに何をプレゼントしたかったが、あいにく籠の中は苦い草しかない。 「……………ねぇ、ふたりとも、あっちで いっしょに ごはんさんに しようよ。 それじゃぁね、ゆっくりしてない まりさ。いっておくけど、ついて こないでね。 ゆっくり してない まりさと いっしょに ごはんさんを たべたら、れいむたちまで ゆっくり できなくなっちゃうよ。 ゆっくりりかいしてね。」 れいむは まりさを一瞥した後、冷たく言う。 そして、3匹は 楽しくお喋りをしながら まりさから離れていく。 まりさは、離れていく れいむを、その場で見つめ続ける。 - ポ ン 「っゆ?」 れいむを見つめているまりさの足元に、何かが当たった。 なんだろうと思いながら足元を見ると、子まりさがいた。 大きさから見て、今春に生まれた子供であることが分かる。 「ゆ?おちびちゃん、どうしたの?もしかして まいごなの?」 散歩中に親とはぐれたのでは、と子まりさの心配をする まりさ。 「げりゃげりゃげりゃ。 おぼうちの にゃい ゆっきゅり できにゃい まりちゃを、 ちゃいっきょうの まりちゃが ちぇいっちゃいちゅりゅのじぇ!! きゃくぎょ ちゅりゅのじぇ!!!」 子まりさは まりさに向かって体当たりを繰り返す。どうやら、制裁のつもりらしい。 「ゆぷぷ。さっすが れいむの かわいい かわいい おちびちゃんだよ。 ゆっくり できないまりさを せいっさいする なんて、たくましすぎるね。 これも ぜんぶ れいむの こそだてが じょうず だからだね。れいむったら すごすぎるよ! すごすぎて、ごーめんねー!!」 子まりさの母親である れいむが、子供の悪戯を止めるでもなく、むしろ誇らしげな態度をとる。 「ぎゃんばっちぇにぇ!!おねーしゃん!!」 母れいむの隣では、子まりさの妹である子れいむが声援を送っている。 帽子のない まりさの扱いは常にこうだ。 成体は当然、子供からも、まりさはバカにされ、見下されている。 まりさは怒りたい感情を我慢する。もし怒れば、周りにいる成体ゆっくりから制裁されることを理解しているからだ。 「っゆっわぁぁあああああああ!!い、いたいよ、やめてよ。まりさは ゆっくり にげるよ!!!!」 まりさはそう叫び、自分の家に向かって跳ねる。 痛いというは当然ウソだ。子ゆっくりの体当たりなど痛いハズがない。 「っやっちゃのっじぇーー!!!ちょうりちちゃのじぇ!!やっぱり まりちゃは さいっきょうにゃのじぇーー!!!!」 「ゆぷぷ、さっすが れいむの おちびちゃんだよ。とっても ゆっくりしているね!」 「しゃっしゅぎゃ きゃわいい きゃわいい れいみゅの おねーしゃんだにぇ!!」 逃げていくまりさを見て、子まりさとその母親と妹が笑顔で叫ぶ。 まりさは毎日群れのゆっくりに苛められ、相手にされない。 まりさは帽子をもっていないからだ。 飾りのない ゆっくりは同属内で見下されるが、まりさ種は特に顕著だ。 まりさ種の帽子は食料を一度にたくさん運搬できる優れた物である。 故にまりさ種は狩りを担当することが多く、他のゆっくりから求婚されやすい。 つまり、大きくて立派な帽子をもっている = 生存上有利 = 魅力的 ということになる。 故に帽子の無いまりさ = 生存上不利 = ダメな存在 という認識ができあがる。 籠という、道具を使うことで、帽子と同じだけの食料運搬能力を持ち、ハンディを克服したとしても、本能に刻まれたことを覆すのは難しい。 事実、まりさは群れで一番の狩りの腕をもっているが、誰からも評価されることもなく、見下されている。 自分の家に戻った まりさは、何も言わずに独りの食事を始める。 「むーしゃむーしゃ……ふしあわせー。」 草を一口食べては、不満を言う。 この草、味は悪い。はっきりって、不味いのだ。 苦い草は本来、昆虫や花など美味しい物を食べた後、バカになった味覚を直すために食べるものである。 また、長期保存が可能なため、冬の間の主食になることが多いが、暖かい春に食べるものではない。 「むーしゃむーしゃ………むーしゃむーしゃ………」 まりさは食事をしながら、目に涙をためる。 食事が不味いからではない。苦い草の味など、とっくに慣れている。 「むーしゃむー………っぐすん………ゆ……っゆ………っゆっべぇぇぇぇぇぇぇん!!」 そして、泣き出した。口の中に残っていたものを吐き出しながら、まりさは泣く。 「どぼじでぇええええええ!!どぼじで ばりざには おぼうじが ないのぉおおおおおお!!!?? ばりざが どっだ ぢょうぢょざんなのにぃいいいいいい!!!!いぼぶじざんなのに゛ぃいいいいいい!!! おぼうじざえ あれば!!おぼうじざえ あれば、あんな やづらにぃいいいいいいいいいい!!! れいぶに だっでぇぇええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」 まりさは悔しさと情けなさから泣いている。 帽子さえあれば、食料を奪われることも、子供にバカにされることもない。 れいむと楽しくお喋りをすることも、一緒に食事をすることもできる。 「ばりざが!!ばりざが いちばん がりが うばいのにぃいいいいいいいいい!!! どぼじでぇぇえええ!!?どぼじで だれも゛ ばりざを ぼめでぐれないのぉおおおおおおおおおおおお!!!??」 まりさは泣き叫ぶ。群れの ゆっくりには決して見せることのない顔だ。 やがて、泣きつかれた まりさは眠りについた。 ------------ 夢。まりさは夢を見ている。 「あれは まだ おちびのころの まりさだよ。 だって、まだ ちいさいし、それに あの おぼうしは まりさのだよ。 みまちがえるはずないよ。あれは まりさの おぼうだよ……………………」 夢の中でまりさは まだ子供のころの自分を見ている。 幼い自分の頭には、綺麗な帽子がある。 帽子だけではない。まりさの側には、大好きな父まりさと、母ぱちゅりーがいる。 「まりちゃ、おちょうしゃんちょ おきゃぁしゃんぎゃ だいっしゅきだよ!ちゅーりちゅーり。」 「おとーさんも おちびが だいっすき なのぜ!すーりすーり。」 「むきゅきゅ。おかーさんも まりさが だいすきよ。すーりすーり。」 3匹は仲良く頬をすり合わせる。その顔はとても幸せそうだ。 一人っ子だった まりさは、毎日両親の愛情を独り占めでき、とても ゆっくりできた。 「おどうざん……おがぁざん……どぼじで、どぼじで ばりざだげを のごじで じんだの?」 まりさは、過去の幸せそうな自分達を見て、涙を流す。 「まりちゃは みんやちょ ゆっきゅち あしょぶよ!」 「まりちゃ、いっちょに あちょびょうよ!れいみゅ、まりちゃと あしょびちゃいよ。」 「あしょぶんにぇねー!わきゃりゅよー!」 「いっしょに あちょんでやりゅのじぇ!かんしゃ しゅりゅのじぇ!」 幼い自分が、広場でれいむ・ちぇん・だぜまりさ、それに他の子ゆっくりたちと遊んでいる。 帽子を被っていたころは、友達もたくさんいた。毎日、たくさんの友達と一緒に遊んだ。 いっぱい笑った。時には喧嘩をしたこともあるが、すぐに仲直りができた。 「みんな…………やさしかったよ。どぼじで、どぼじで びんな、ばりざを いじべるようになっだの?」 今と違い、みんなと遊べんでいる自分を見て、まりさは涙を流す。 「おちび、おとーさんが こうりつてきな かりの しかたを おしえるのぜ。 この かりの しかたを おぼえれば、かりの たつゆんに なれるのぜ。 ゆっくり きいて、よく りかいするのぜ!でも、みんなには ないしょなのぜ?」 「ゆっくりりかいしゅるよ!」 「むきゅ。おちびちゃん。 おかーさんが いきていくうえで たいっせつな ちしきを おしえてあげるわ。 たべられるもの、たべられないもの。 けがを したときの ちりょうほうほう。きけんな もの。 あと、にんげんさに ついてね。ゆっくり きいて、ちゃんと りかいしてね。」 「ゆっくりりかいしゅるよ!」 小さな自分が両親に生きるための知識を教わっている。 「ゆ!すっごいのぜ!おちび!さっすが まりさの じまんの おちびなのぜ!! ぺーろぺーろ。」 「むきゅ!すごいわ、おちびちゃん。さすが ぱちぇじまんの おちびちゃんね。 ぺーろぺーろ。」 狩りの腕をめきめきとあげ、また知識を吸収していく まりさを両親は褒め、ぺーろぺーろをする。 「ゆわぁぁぁあああ!!!ばりざが!!ばりざが ぼめられでるよ!!ぺーろぺーろ じでぼらっでるよ!!」 どんなに狩りで成果をだしても、褒められることも、 ぺーろぺーろを されることもない まりさは、過去の自分を見て涙を流す。 誰にも認められない毎日が辛い まりさにとって、 過去とはいえ、自分が誉められる光景が羨ましくてしかたがないのだ。 「ぼう やべでぇえええええええええええ!!! ばりざは ぼう おぎだいぃいいいいいいいいいい!!!みだぐないぃいいいいいい!!! ゆっぐりでぎだ ごろなんで おぼいだじだぐないぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」 夢の中で まりさは泣き叫ぶ。幸せだった頃の映像を見たところで、今の自分がより惨めになるだけなのだから。 まりさの願いが通じたのか、幼い笑顔の まりさが消えた。 代わりに、家の中で幼い まりさが まりさの視界にはいる。 幼い まりさは 不満そうな顔をしている。 「ゆ?っゆ!!??ま、ままままざが、まざがぁぁああああああああ!!!やべでぇぇえええええええええ!!!! お、おおぉおでがいじばずぅうううううううううううう!!!!ごの ゆべは みだぐないぃいいいいいいいいいいいい!!! ごべんなざいぃいいいいいいいいい!!あやばりばずがらぁああああああああああ!!!!」 まりさは必死で夢から覚めようとするが、どうしても覚めることができない。 「おちょうしゃん!いっちゃい いちゅに なっちゅら はりゅしゃんが きゅりゅにょ!?」 「ゆぅ、おちび。はるさんは まだまだ さきなのぜ。 はるさんがくるまで おうちのなかで ゆっくりするのぜ。」 「そうよ、おちびちゃん。おそとは ゆきさんで とっても さむいから、 あたたかい おうちのなかで ゆっくりしましょうね。」 冬ごもりの頃の記憶である。 「やじゃよ!まりちゃは おしょちょで あしょびちゃいんだよ! おしょちょで、れいみゅと あちょびゅんだよ! ゆきしゃん にゃんで きりゃいだよ!ちぇいっしゃい しゅりゅよ!!」 秋に産まれた まりさは、初めての冬ごもりの退屈で毎日イライラしていた。 通常、子ゆっくりは冬ごもり中は姉妹と遊び、毎日を過ごす。 だが、まりさは一人っ子の為、一緒に遊ぶ姉妹がいない。 「おちび、ゆきさんは せいっさいできないのぜ。はるさんに なるまでの がまんさんなのぜ。」 「むきゅ、おちびちゃん。おかーさんが おはなしを してあげるわ。」 「やじゃぁぁあああああああああああ!!!もう おはなちは あきちゃよぉおおおおおおお!!! おちょとで あしょびちゃいいぃぃいいいいいい!!! おちょうしゃんは さいっきょう にゃんでしょ?にゃんちょか ちちぇよぉおおおおおおお!!」 「おちび、まえも いったけど、おとーさんは さいっきょうじゃ ないのぜ。 ゆっくりの なかでは まりさは つよいほう だけど、 ゆっくりの ちからなんて たいしたこと ないのぜ。 じぶんと あいての ちからを ちゃんと りかいして かてない あいてには みつからないように にげるしかないのぜ。 だから ゆきさんに みつからないように、ここで かくれているのぜ。」 「っゆっぎゃぁぁああああああああ!!だっちゃらおきゃぁしゃん!! おきゃーしゃんは もりの けんじゃにゃんでしょ!? おさぎゃ いっちぇいちゃよ!!にゃんちょか ちちぇよ!!」 「むきゅ、おちびちゃん。ごめんなさい。 おかーさんは もりの けんじゃ なんかじゃないわ。 むれの なかでは ものしりな ほうだけど、おかーさんにも しらないことが いっぱいなのよ。 じかんさん いがいで はるさんを よぶ ほうほう だってしらないんだし。」 「じょんにゃなぁぁああああああああああああああああああ!!! にゃんでびょ いいぎゃら じゃっじゃど にゃんどがぢじぇぇぇええええええええええええええええええええええ!!!」 幼い自分が我侭を叫ぶ。 「やべでぇえええええええええええええええええええええええええええええええええ!!! おでがいじばず!!!ぞんなに おおぎなごえを だざないでぇええええええええええええええええええ!!! ぞんな おおぎなごえを だじだら!だじだらぁあああああああああああああああああああああああああああ!!!」 まりさが、自分の過去に向かって叫ぶ。まりさは憶えている。自分が叫んだ結果、どうなったのかを。 「むきゅ、おちびちゃん。おねがいだからしずかーにして。あんまりさわぐと、あぶないわ。」 「そうなのぜ。れてぃや、ふゆごもりに しっぱいしている ふらんや れみりゃが おうちに はいってくるのぜ。」 「じらないぃいいいいいいいいいいいいいい!!! ぞんなごどじらないいぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」 - ッ ト゛ ー ン !! 幼いまりさが泣き叫んでいると、巣の結界が破壊され、手が入ってきた。 「っゆっべぇ!!!??」 「おちびぃいいいいいいいいいいいいい!!!」 「おちびちゃぁぁぁああああああああああん!!!」 手に捕まり、まりさが外に出される。 「うー やっと あまあまを みつけたどーー。おおきなこえを だしてくれて たすかったどーー。 おかげで、ふゆさんを こせるどーー。」 「れ!!れれれれれれみりゃぢゃぁぁああああああああああああああああああ!!!」 生まれて初めて見る胴付き れみりゃに、まりさが悲鳴をあげる。 そして、自分が大きな声をあげたために捕まっていることを知った。 「うー。ちっこいのかー。もっと おっきいのが ほしーどー。」 「ちゅぶれ!ちゅぶれりゅぅううううううううううううううううう!!! げっぼ!っがっびゃ!!え゛れ゛れ゛れ゛ぇ゛ぇ゛!!げぇ゛!べっ!えげぇぇぇ゛ぇ゛!!! やべ!ちゅぶれ!!っげっぼぉおおおお!!!」 まりさは強く握られ、吐餡をする。 れいみりゃは まりさの吐餡に気が付くこともなく、もう片方の腕を巣にいれる。 「ごろじでぇえええええええええええええええええええええ!!! おでがいじばずぅうううううううう!!ごごで ばりざをごろじでぐだざいぃいいいいい!!!」 過去のできごとに向かって まりさが叫ぶ。 ここで自分が死んでいれば、惨めな今の自分はいないのだ。 ここで自分が死んでいれば、大好きな両親は死ぬことはなかったのだ。 「うーー、おっきいのー。おっきーのーーっいっで!!??」 巣穴にいれた手をいれていた れみりゃが叫び、手を巣穴から引き抜く。 引き抜かれた手に、父まりさが噛み付いていた。 「おちびを はなずのっぜぇえええええええええええ!!!!」 「おぢょうじゃぁぁあああああ!!!だっじゅっげっでぇえええええ!!!」 「いだいどーー!!ばなぜぇええええええ!!!ざぐやぁあああああああああああ!!!」 まりさに噛みつかれ、れみりゃは泣きながら手を大きく振る。 「っゆ!おちび!!!まってるのぜ!!」 父まりさは れみりゃから口を離し、まりさを捕まえている手にむけて大きく跳ね、そして思い切り齧り付く。 「うっばぁあああああああああ!!!ざぐやぁああああああああああああああああああ!!!」 激痛で、れみりゃが まりさを離し、まりさが地面に落ちる。 「おちび!!おうちの なかに はるのぜ!!!いちばん おくなら あんっぜんなのぜ!! おかーさんを まもるのぜ!!!」 「っゆっばぁぁああああああああああああ!!!」 まりさは父まりさにいわれたとおりに巣穴に向かって全力で跳ねた。 あまりに早く跳ねたため、帽子が飛ばされたが、それに気がつくことなく跳ねた。 「にげるなぁぁああああああああああああああああ!!! おどうざんど いっじょにだだがえ゛ぇえええええええええ!!!!! おでがいじばずぅぅううううううううう!!!!!!だだがっでぐだざいぃいいいいいいいいいい!!!! でないど、でないど、おどうざんがあぁぁあああああああああああああああぁぁあぁああああああああああ!!!」 まりさは自分の過去に向かって叫ぶ。が、まりさの希望は何一つ叶えられず、過去の自分は巣穴へと潜ってしまった。 「むきゅ!!おちびちゃん!!こっちよ!!こっちに きて!!!」 「おきゃぁじゃん!!!ごわっがっじゃよぉおおおおおおおおおおおお!!!」 まりさは母ぱちゅりーにつれられ、巣の最深部の狭い場所に入る。 そこで、2匹は頬を合わせ、時間が過ぎるのをただただ待つ。 「おきゃぁしゃん……きょきょわいよ………おきゃぁしゃん………」 ガタガタ震えながら、まりさが口を開く。 「むきゅ!おちびちゃん。だいじょうぶよ。ここに いれば ぜったいに あんっぜんだから。 おかーさんが すーりすーり してあげるわ。 すこし せまいけど、ゆっくり がまんしてね。 おちびちゃんは ゆっくりした よいこ だから だいっじょうぶよね。」 「おきゃぁしゃん………」 母ぱちゅりーの言葉と すーりすーりによって少しだけ落ち着きを取り戻した まりさが、 帽子をかぶっていないことに気が付いた。 「おぼうじが にゃいぃいいいいいいいい!!!! おぼうじざんが ないど、ゆっぎゅりでぎにゃいぃいいいいいいいい!!!」 「むきゅ!!だいっじょうぶよ、おぼうしが なくても おちびちゃん はゆっくりしているわ。 だから おちついて、おねがいよ。すーりすーり。ぺーろぺーろ。」 お飾りがない同属に敵意を持つのが ゆっくりである。 例え我が子・親・番・姉妹だとしても、平然と敵意を持つのだが、母ぱちゅりーは母性溢れる優しい ゆっくりであった。 帽子をなくした まりさの頬を舐め、慰める。 やがて まりさは泣き疲れ、眠ってしまった。 翌日、まりさは寒さと身体の痛みで目を覚ました。 「ゆぅ………しゃむいよ……いちゃいよ………っゆ?おちょうしゃん?おきゃぁしゃん?」 そして、両親がいないことに気が付いた。 「っゆ!!しょうだ!きにょう れみりゃに!!おちょうしゃん!!おきゃぁしゃん!!」 まりさは急いで巣穴の出口に向かって走る。 帽子がないことが少し気になったが、それよりも両親の安全を確認したかったのだ。 巣穴から出てすぐに まりさは母ぱちゅりーを見つけた。 「むきゅ。おはよう、おちびちゃん。おそとは さむいから、おうちの なかに いなさい。」 母ぱちゅりーが優しい顔で言う。 「おきゃあしゃん!!だいじょぶにゃの??おちょうしゃんは!?」 母ぱちゅりーの顔が曇る。 「むきゅ。おちびちゃん。よく きいてね。」 「やべでぇええええええええええええええええええええ!!! ぎぎだぐないぃいいいいいいいいいいい!!おがあざん!!いわないでぇええええええええ!!!」 まりさが過去の母ぱちゅりーに向かって叫ぶ。だが、その声は届かない。 「おとうさんは……おとうさんは……きのうの よるに、れみりゃに つかまったわ。 おそらくは、もぅ…………むきゅぅ…………」 母ぱちゅりーの推理は当たっている。 昨晩、父まりさは れみりゃに つかまり、巣に連れて行かれ、すで食べられている。 「うちょじゃ……うちょじゃぁぁああああああああああ!!! おちょうしゃんは さいっきょう にゃんだよ! ぢゃいっぎょうの おぢょうじゃんぎゃ ぢにゅばずに゛ゃいよぉおおおお!!」 「おちびちゃん!!いつも いっているでしょ!おとうさんも おちびちゃんも さいっきょうじゃないって! ちゃんと げんじつさんを みなさい!!げんじつさんを みで、どうずるがをがんがえなざぃ!! むきゅ!おちびちゃんは、おとーさんと おかーさんの こ でしょ?ゆっくりできる よいこよ。 だからゆっくり かんがえなざい!」 母ぱちゅりーは泣きながら まりさを叱る。 「おがあしゃん………でみょ、でみょ……やじゃょ……… おちょうしゃんぎゃ、お、おちょうしゃんぎゃ…… ゆべ……おちょしゃ……っゆべ……っゆっべっぇえぇええええええええええええええ!!」」 泣き出すまりさに、母ぱちゅりーは涙を流しながら すーりすーりをし、ぺーろぺーろをし、慰める。 しばらくして、落ち着きを取り戻した まりさに、母ぱちゅりーが言う。 「むきゅ。おちびちゃん、よくきいてね。おかーさんは こわれた けっかいを なおさないと いけないの。 けっかいを なおさないと、また れみりゃが くるかもしれないし、 さむい かぜさんや ゆきさんを ふせげなくなるの。 だから、おちびちゃんは おうちの なかで ゆっくり まっていてね。」 「まりさも てつだうよ!」 「むきゅ。ありがとう。でも ゆきさんの うえでの おしごとは とっても きけんなの。 だから おちびちゃんは おうちで ゆっくりしてね。おねがいよ。」 手伝うと言う申し出を断られた まりさは仕方なく家へと入る。 「むきゅ、それと おちびちゃん。てーぶるさんの うえに ごはんさんが あるから ぜんぶ たべてね。 ちょっと りょうが おおいかもしれない けど、きのう あんこさんを はいたから しっかり たべておいてね。」 巣穴に潜る際に、まりさは母ぱちゅりーに そう言われた。 家から出るときは気が付かなかったが、テーブルの上には いつも以上のご馳走がたくさん並んでいた。 「ゆわぁぁあああ!!しゅ、しゅごいよ。きょ、きょれ じぇんぶ たべちゃちぇいいにょ? ゆっきゅり いちゃぢゃきましゅ!!むーしゃむーしゃ……ちあっわっちぇーーーー!!!」 それから しばらく、まりさと ぱちゅりーは いつもより大目のご飯を食べるようになった。 寒い中、虚弱体質の ぱちゅりーが すぐに結界を直せるハズもない。 2匹は寒さで失った体力を食事量を増やすことで補っているのだ。 そして、数日後、なんとか結界の修復が終わった。 「むーしゃむーしゃ……おきゃーしゃん、ごはんしゃん しょんにゃに ちゅきょちで いいにょ??」 「ええ、おかーさんは ぽんぽんが いっぱいなの。 それより ごめんなさいね、まりさの ごはんさんの りょうが すくなくって。」 「ゆぅ……ちかたがないよ。ごはんしゃんの のきょりが すくないから…… ねぇ、おきゃーしゃん。まりちゃたち、ふゆしゃんを のりこえれりゅよね?」 まりさが不安そうに尋ね、母ぱちゅりーは笑顔で答える。 「むきゅ!もちっろんよ。おかーさんに まかせておきなさい!。」 「ゆん!ゆっきゅりりきゃいちちゃよ!!おきゃーしゃんぎゃ いうにゃら だいっじょうびゅ だよね!」 しばらくして、食料が尽きた。それでもまだ春はこない。 「おきゃぁしゃん。ごひゃんしゃんが もうにゃいよ。」 「むきゅ。そうね。おちびちゃん。でも だいじょうぶよ。まだ とくっべつな ごはんさんが あるから。 でもね、とくっべつな ごはんさんを たべたら、もう たべるものは ほんっとうに なくなるの。 だから、だいじ だいじに すこしずつ たべてね。 それとね、かわいい おちびちゃん。これから だいっじな おはなしを するから よくききなさい。」 「ゆ?」 いつも穏やかな母ぱちゅりーの顔が真剣なものに変わる。その顔はやつれており、少し怖く感じる。 「おちびちゃん。まず、はるさんが きたら、おさの ところに いきなさい。 そのさい おかーさんの おぼうしを かならず もって いきなさい。 そして、ふゆごもりちゅうに あったことを せつめいして、かごさんを おさから もらいなさい。」 「おきゃーしゃん?にゃにを いってりゅにょ?」 「むきゅ。いいから おききなさい、おちびちゃん。 ………おちびちゃんは これから ひとりで いきていくの。 おぼうしの ない おちびちゃんは すごく ゆうっしゅう だけど、 だれからも ひょうか されないかも しれない。 いっぱい ひどいことを いわれて、いじめられる かもしれない。 そのときに、ささえてくれる ゆっくりは だれも いない かもしれない。 でもね。どんなに りふじんでも、ぜったいに おこっちゃだめ。ていこうしたら だめ。 いつも えがおで、したてに でなさい。 そうすれば ひどいことも さいしょうげんで おさえられるから。 これは とても つらい ことよ。ゆっくりなんて できないわ。 でもね、ぜったいに しなないで。いきてさえいれば、かならず いいことが あるから。 えがおで がんばれば、いつのひか、ぜったいに ゆっくりできるから。 だから おねがい。いまいったことを ゆっくりりかいしてね。」 「おきゃぁしゃん??」 「やべでぇええええええええええええええええええええええええええええええ!!!! おでがい!!!びだぐないぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!! おがぁざぁああああああああああああああああああん!!ぞれいじょういっだらだべぇえええええええ!!!」 涙を流しながら、まりさは母ぱちゅりーに訴える。が、その声は届かない。 「おちびちゃん。ぱちぇの だいっじな だいっじな、かわいい かわいいおちびちゃん。 ぜったいに しなないでね。いきて いきて いきぬいて、いつか しあわせーに なってね。 おかーさんは、おちびちゃんが しあわせーに なれると しんじているよ。」 「おきゃぁしゃん!?いったいどうちちゃにょ!?」 母ぱちゅりーは まりさの質問に答えることもなく、そっとまりさの頬に唇をつけた。 「むきゅ。だいっすきよ、おちびちゃん。…………さぁ、おたべなさい。」 【おたべなさい】をした母ぱちゅりーの身体が二つに割れる。 他者に食料として身体を差し出すこの行為、 ぱちゅりー種が行うと、中身が生クリームで液体に近いため、 すぐに地面に溢れ殆どが無駄になってしまう。 その為、母ぱちゅりーは食事量を意識的に減らし、 体内の水分を減らし、中身がこぼれないようにした。 本能に忠実なゆっくりが食事制限をするのは辛く、厳しい。 だが、母ぱちゅりーは愛する我が子のために、これを行った。 まりさの母親が賢く母性あふれる ぱちゅりーでなければ、恐らく まりさは母親に喰われていただろう。 帽子がない まりさのことを愛してくれる ゆっくりなど極々少数なのだから。 しかし、喰われなかったことが幸運かは分からない。 これから まりさは、孤独な越冬をしなければならない。 越冬後、誰からも相手にされない人生(ゆん生?)を歩まなければならない。 それは、孤独を嫌う ゆっくり、それも子ゆっくりである まりさにとっては地獄と同じである。 「おぎゃぁじゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああああん!!!」 まりさは泣叫ぶ。愛する母親が、二度と見たくない光景を、夢とはいえ見てしまったのだ。 あの日、母が死んだ日、まりさは独りになった。 そして、母ぱちゅりーの遺体を少しずつ食べ、越冬に成功した。 越冬後、まりさは母ぱちゅりーの言葉に従った。 長に事情を話し、一応の理解は得られた。 そして、籠を与えられ、狩りをするようになった。 同年のゆっくりは、まだ親元で暮らしており、狩りも遊び半分程度でいい。 だが、まりさは違う。大人と同じだけ働くように言われている。 そして、せっかく集めた食料も味のよいものは殆ど献上させられた。 なぜなら、まりさには帽子がないからだ。 まりさは、周りからバカにされながらも、必死で狩りをする。 狩りが上達すれば、周りに認められると信じて。 そして、狩りの腕は群れ一番になった。 だが、決して評価されることはない。 なぜなら、まりさには帽子がないからだ。 まりさは母ぱちゅりーの教えを守って、毎日笑顔で過ごした。 どんなにバカにされようとも、どんなに理不尽なことを言われようとも、 無視されようとも、ただ笑って誤魔化した。 そして、毎日家で泣きながら、眠りにつく。 悔しい思いを叫びながら、まりさは眠る。 毎晩、幸せだったころの夢を、家族を失った夢を見ている。 夢の中で泣叫び、涙まみれで朝を迎える。これが帽子のない まりさの日常である。 自殺という概念を殆ど持たない ゆっくりだが、まりさは自殺を考えたことがある。 だが、母ぱちゅりーの言葉がそれを思い留まらせた。 「ぜったいに しなないでね。いきてさえ いれば、かならず いいことが あるから。」 母ぱちゅりーのこの言葉が まりさにとって生きる唯一の糧であり、呪縛である。 -------------- 「……………ゆっくりおきるよ………………ゆぅ……また あの ゆめさんを みたよ………」 涙まみれの まりさが、ゆっくりと瞼を開け、身体を伸ばす。 そして舌で涙を舐めとり、籠を咥えて外にでる。 狩場に向かう途中、まりさは れいむを見かけた。 「れいむ、ゆっくりしていってね!!!」 「ゆっくりしていってね!!!」 れいむが挨拶をかえすが、顔は笑っていない。 ゆっくりは、【ゆっくりしていってね!!!】と言われると反射で返事をする。 れいむの返事は反射でしただけで、親しみの感情はない。 「ねぇ、まりさ。」 「ゆ?な、なに!?」 れいむに話しかけられ、まりさは喜ぶ。 「れいむに あいさつ なんて しないで。それと、あんまり れいむには ちかづかないで。 れいむが おぼうしのない ゆっくりしていない まりさと なかがいいって みんなに かんちがいされたら めいわくだよ。 ゆっくりりかいしてね。それじゃぁね。」 「ゆぅ………ゆっくりごめんだよ…………」 れいむは まりさを冷たい目で睨んだ後、ゆっくりと歩きだした。おそらく広場に向かっているのだろう。 そんな れいむを まりさは笑顔で見送る。 「よかったよ。れいむと ほんの すこしだけど おはなしが できたよ。 まだまだ きらわれているけど、いつかきっと、なかなおりができて おはなしが できるようになるよね?おかーさん。」 まりさは自分で自分を言い聞かせ、狩場に向かって歩き出す。 笑顔で頑張れば、いつの日にか ゆっくりできる。 母の言葉を信じて、今日も まりさは作り笑顔で頑張る。 努力だけでは、決して叶うはずのない願いだが、そのことに気が付くことはない。 帽子のないまりさはいつの日にか ゆっくりできると信じて、ゆっくりできない毎日を過ごしている。 つづく。 あとがき まりさの両親がチートすぎました。特に母ぱちゅりー。 賢いというのもあるが、子供のために食事制限をするなんて、ゆっくりとは思えない。 「むきゅ。おなかがすいたわ。……おちびちゃん………おいしそぅ……… っむっきゅ!?い、いけないわ。そんなことを かんがえたら。 はやく ぱちぇの すいぶんさんを へらさないと。 むきゅぅ…………おなかがすいたわ………ねむれないわ………むきゅぅ……おいしそうな おちびちゃん……」 毎晩空腹で眠れないぱちゅりーは、幸せそうに眠るまりさを凝視しながら、こんなことを言っていたかもしれません。 籠の設定と、ぱちゅりー種が【おたべなさい】をすると、 中身が液体に近いためあふれ出て無駄になるという設定はたぶん独自設定です。 独自設定のクセに、作中あまり いかせれませんでした。 気分を害された方、申し訳ありません。 虐待をしていませんが、続きでは虐待シーンがある予定です。 もしよろしければ、続きも読んでください。 過去作品 http //www26.atwiki.jp/ankoss/pages/3986.html