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マクロスなのは 第17話『大宴会 後編』←この前の話 『マクロスなのは』第18話「ホテルアグスタ攻防戦 前編」 「みんな、今日の任務はホテル『アグスタ』の防衛任務です。まず─────」 なのはがフォワード4人組を前に説明する。 今なのは、フォワード4人組、シャマル、リィン、ザフィーラにフェイト、そしてはやてを乗せたヴァイスの大型ヘリは、そのホテルに向かっている最中だった。 1週間前にレジアスの公表したこの防衛任務は地上部隊初の陸士、空戦魔導士そしてバルキリー隊の正式な三位一体の合同作戦となるようセッティングされていた。 編成表によれば陸上戦力は何かと因縁が深い第256陸士部隊1個中隊(150人)。航空戦力は首都防空隊に名を連ねる第16、第78空戦魔導士部隊のAランク引き抜き(50人)部隊が展開する。 また特別戦力として機動六課(12人)、フロンティア基地からはスカル、サジタリウス両小隊(7人7機)が投入された。 ことに、陸上と航空戦力合わせて200人以上という、まさに壮観と言っていい防衛体制になっていた。 「─────このように私達は建物の警備の方に回るから、前線は昨日から守りについている副隊長達の指示に従ってね。あと地上には陸士部隊が1個中隊展開しているけど、気を抜かないように」 「「はい」」 前線の4人は応えるが、キャロは何か質問があったようだ。 「あのぅ・・・」 と手を挙げている。 「どうしたの?」 「はい。あの、さっきから気になってたんですけど、シャマル先生の持ってきた箱って何ですか?」 突然話を振られたシャマルは、足元に置かれた3つの箱に視線を送り 「ああ、これ?」 と確認すると、笑顔で言う。 「隊長達のお仕事着♪」 その口調はどこか楽しげであった。 (*) 11人を乗せた汎用大型輸送ヘリ『JF-704式』はそれから60分後、普段はこの空域の民間機を担当するアグスタ側の管制エリアに入った。 『こちら管制塔。貴機の所属を述べてください』 その通信にヴァイスが応じる。 「こちら時空管理局本局所属、機動六課のスターズ、ライトニング分隊です。AWACSとの認識番号は3128T(さんいちにいはちチャーリー)」 『・・・・・・確認しました。駐機はホテル側の駐機場が満員なので、臨時に作られたE-5エリアの駐機場にお願いします』 「了解。管制に感謝する。オーバー」 ヴァイスは通信を終えると、手元のパネルを操作して周辺のマップを確認する。 ホテル周囲は利便性から今日だけ管理局が東西南北3、5キロメートルに渡って500×500メートルで区切っている。それは 北から南に向かってアルファベット順に。西から東に向かって数字順になっていて、管制官の言っていたE-5エリアとは中央のDー4エリアにあるホテルから、南東に100メートルほど離れた所にある空き地のことだった。 「どう?ヴァイスくん、あとどれくらいで着くかな?」 後ろからなのはの声がする。 やはりとび職(少し違うか?)。閉鎖空間に1時間というのは苦痛なのだろう。 「あと5分ぐらいで着陸しますよ。もうちょい待ってくださいね」 後ろから 「「は~い!」」 という元気な声が聞こえる。なのはの声だけではない。乗客全員の声だ。 よほど自由を心待ちにしているらしい。 (まったく。まるで幼稚園の先生にでもなったみたいだぜ) 元気あふるる返事に肩が軽くなった思いのヴァイスは、レーダーに視線を落とした。 周囲には民間機、管理局の機体が入り乱れている。その内の1機がこちらに近づいてきた。このIFFは───── 『こちらフロンティア基地航空隊、サジタリウス小隊の早乙女アルト一尉だ。3128T、貴機の護衛に来た』 (*) 隣にヴァイスのヘリが見える。 ガウォーク形態なので、ヘリと同じ速度になることもお手のものだ。 (少し無理してヘリの護衛を志願した甲斐があるってもんだ) アルトは久しぶりに六課の面々に会えそうだ。と思い、笑みを溢した。 『こちら3128T、護衛に感謝する。あ、それとアルト、今度バックヤードの連中と飲み会があるんだがお前もどうだ?』 ヴァイスの軽口も聞いて久しいアルトはコックピット内で破顔して答える。 「バカ言うな。何度も言ったろ?俺はまだ未成年だって」 『ハハハ、そうだったな。ん・・・・・・あー、ちょっと待ってくれ』 どうやら向こうで何か受け答えしているようだ。モニターで拡大されたヘリのコックピットに、人影が現れた。 『─────なんかなのはさんがおまえに話があるんだってよ。今切り替える。・・・・・・上手くやれよ』 ヴァイスが小さな声で言った最後の一言が気になるが、応答する余地もなく『ブッ』という耳障りな音と共に相手の無線端末が切り替わった。 『あー、アルトくん?』 「あぁ、俺だ。どうかしたのか?」 なのははこちらのいつもの調子に安心したようだ。〝ふぅ〟という吐息が聞こえる。 『うん、ちょっとこの前のことでお礼を言いたくて・・・・・・』 「この前の?」 『その・・・・・・宴会の時の・・・・・・』 (ああ、それか) 宴会の騒動以降、まともな状態のなのはには会っていない。最後に見たのは基地に帰る際、休憩所に見舞いに行った時だ。 ちなみにその時のなのはは、気持ち良さそうにすやすや寝息をたてていた。 『あの、わたし、この前はとんでもない事を─────』 赤面するなのはの顔が浮かぶようだ。だが、残念ながら光の関係上、ヘリのコックピット内は見えなかった。 「確かにあれは凄かったな・・・・・・だが安心しろ、なのは」 『へ?』 「あの時メサイアに録画されてたガンカメラの映像は、一晩〝使った〟だけだから」 『え!?ちょっ、ちょっ、アルトくん!〝使った〟って・・・・・・あの、その、えっと・・・・・・なに言ってるの!!』 声がうわずっている。よほど動揺しているらしい。ひとしきりその反応を楽しんだアルトは『このぐらいにしておいてやるか』と切り上げる。 「すまん、ウソだ。安心しろ。そんなことに使ってない。メサイアのガンカメラの記録はすぐに消したよ」 そのセリフに落ち着いたなのはは 『そ、そうだよね。はぁ、びっくりした・・・・・・』 とため息をついた。しかしそれはなぜかほんの少し落胆して聞こえた。 『・・・・・・でもアルトくん、以外と下世話なんだね』 「あら、妖精は下世話なものよ・・・・・・ってこのセリフは役者が違ったな。まぁ気にするな」 アルトは笑うと、なのはもつられて笑った。 『─────ふふ、まぁ、とりあえず1つ言っとかなきゃね。ありがとう』 「ああ。お前を助けるために、こっちは命を張ったんだ。身体は無理せず大事に使えよ。お前に何かあった時、悲しむのはお前1人じゃないんだ。はやてやフェイト、もちろん俺だって。それをよく覚えておいてくれ」 『うん、りょうかい』 なのはの砕けた感じの声と共に無線は切られた。 (*) 「なんの話をしたの?」 キャビン(客室)に戻ってきたなのはにフェイトが問う。 「うん。ちょっと、宴会の時のお礼をね」 なのははそう言って微笑んだ。 (*) 「なのは~準備できた~?」 更衣室と化したJF-704式に向かってフェイトが呼びかける。 すでにフォワード陣や守護騎士陣はそれぞれ任務のために防衛部隊とホテルの警備員達への顔出しに散っている。 すでにここには護衛の一環と称してEXギアのままバルキリーから降りた自分。そしてヘリからの強制退去を命ぜられたヴァイスと、軽い化粧とドレスに身を包んで絶世の美女と化したはやてとフェイトだけだ。 しかし着替え始めて5分。早々に出てきた2人と違い、なのははまだヘリにひきこもったままだった。 『ほんとにこれを着なきゃダメなの~!』 「どうしたんや?サイズ合わんかったんか?」 「だから昨日『試着しておいた方がいいんじゃないかな?』って聞いたのに」 『そういう問題じゃないんだよ~!』 要領を得ない謎の応答に首をかしげる2人。 「様子見に行った方がいいんじゃないか?」 「そうだね。はやて、行ってみよっか」 「うん」 はやては頷くと、フェイトと共にヘリの中に消える。・・・・・・と内側から声が漏れてきた。 『あれ?準備できとるやんか』 『だってドレス着るなんて聞いてないもん~!』 『昨日あまり目立たない服で警備するって話したやんか』 『そうだよね・・・・・・こんな場所で普段着なわけなかったよね・・・・・・でもこんな服着たことないし―――――』 『大丈夫だよ。なのは、よく似合ってるから』 『ホントに!?』 『うん、よう似合っとる。でも改めて見るとフェイトちゃんもなのはちゃんもけしからん胸しとるの~』 『ちょ、ちょっとはやてちゃん!』 『ひひひ~揉ませや~!』 はやての奇声につづいて2人の悲鳴と、暴れたことによりヘリがガタガタ揺れる。 (ヤバい・・・・・・) 自分の中に潜むものが、意思とは関係なしに心臓を高ぶらせる。 もし自分を見るものがあれば顔を赤くしていることが丸見え――――― 「あ・・・・・・」 目の焦点が近くの木に背中を預ける人物に収束する。 「ふ、若いな・・・・・・」 「お前も顔赤くしてんじゃねぇか!」 そう年が離れていないヘリパイロットに言ってやると、いつの間にかヘリ中での騒動は終結したようで 「大丈夫、大丈夫。すごく似合ってるから」 などと説得されつつ2人に引きずられる形でなのはが出てきた。 「ア、アルトくん!?」 「俺がいるのがそんなに不思議か?さっきからいたぞ」 「ヴァイスくんの声だと思ったから・・・・・・」 「そうか。しかしお前、初舞台の時より色気があるんじゃないか?」 「初舞台?ってもう!その話題から離れてよ~!アルトくんの意地悪!」 本当に怒ってしまったのか、なのはは〝プイッ〟とそっぽを向いてしまった。 「意地悪は俺の性分らしくてな。・・・・・・そろそろ上空警戒に戻らないとミシェルに嫌味を言われそうだ。またな」 「アルトくんもがんばってな~」 「サンキューはやて。それとだな、なのは」 「うん?」 ヘルメットのバイザーを下して振り返ると、どうしても言っておきたかったセリフを具現化した。 「月並みだがよく似合ってるぞ。俺が保障してやる」 捨て台詞のように告げてバルキリーに搭乗すると、エンジンを起動する。 ちなみに顔が赤いのを隠すためにバイザーを下したというのは内緒だ。 多目的ディスプレイに「READY」の文字を確認すると、スラストレバーを押し出してガウォーク形態の機体を浮き上がらせる。 地上に吹き荒れる推進排気をものともせず手を振るはやて達にコックピットから敬礼して返事をすると、高度2000メートルの高みへと機体を飛翔させた。 (*) ホテル入り口では長蛇の列が出来ていた。 ガジェットにより治安の危機が叫ばれるこのご時世。便乗する次元海賊などのテロリストのテロ行為防止のため、ボディチェックや身元確認の作業は空港のそれとほぼ同等のレベルにまで引き上げられていた。 そしてその最初の関門たる身分証明書を確認する係の前に身分証のICカードが示された。 「こんにちは、機動六課です」 担当者は証明写真と目前に佇む実在を見比べて一瞬驚いた表情を見せるが、自らの本分を思い出したらしく咳払い一つで向き直る。 「いらっしゃいませ、遠いところありがとうございます。検査は4番ゲートでお願いします」 「わかりました。ありがとうございます」 着いてみると4番ゲートは一般客のものとは仕様が違った。 変身魔法対策のDNA検査、透視型スキャナーなど同じものも多いが、デバイスの認識と魔力周波数などを検査する機械も置かれていた。 といってもこれは端末機で個人を特定するのに必要な個別データは記録されていない。 実はそれら軍事機密の漏えいを防ぐために時空管理局のデータバンクに直接リンクして必要な情報を出力するようになっていた。 ブラックボックス化された貸出端末機は瞬時に3人とデバイスを本物と認め、他の検査共々彼女たちがそれであることを証明した。 (*) 入ってすぐなのはとはやてはフェイトと別行動をとることになった。 「じゃあ、わたしたちはまず会場に行ってみるね」 「うん。わたしは昨日から張ってくれてるシグナムさん達に会ってくる」 フェイトと別れた2人は、未だ客を入れていない会場に入場した。会場は500人程の収容力のある映画館のような階段状の客席だった。 「入り口はああしてチェックが徹底してるみたいやし、テロは大丈夫やな」 「外には陸士部隊に空戦魔導士部隊、そしてバルキリー隊。それにホテル内には防火用シャッターがあるし、まずガジェット達が入って来るのは無理そうだね」 2人の出した結論は、ホテル内はほぼ安全であるということだ。 もともと今回の投入戦力の量が異常なのだ。 今回の布陣は〝みんな仲良く一致団結〟という管理局の姿勢をアピールするために行われたと思われるが、少し政治が絡み過ぎている。レジアス中将も少し事を焦ったらしい。 だが少な過ぎるよりはましなので誰も批判はしないし 「安全を確保してくれるなら」 と、肯定的に捉える者が多かった。 ちなみに2人も肯定派だった。確かにあの演習レベルの数が奇襲してきた場合、これぐらいいたほうが安全だ。出現率の最も高いクラナガンも、残存するフロンティア基地航空隊とロングアーチスタッフ、そしてAWACS『ホークアイ』が目を光らせてくれている。 「とりあえずは、安心だね」 「でも気は抜かんようにせなあかんな」 2人は油断なく周りに気を配った。 (*) シグナムに会って彼女から地下駐車場に向かう旨を聞いたフェイトは、今度はヴィータの元へと歩を進めていた。 「バルディシュ、オークションまでの時間は?」 その問いにポーチに付けられたバルディシュが答える。 『1 hours and 7 minute.』 「ありがとう」 フェイトが礼を言った直後、彼女の後ろから何かが転がってきた。 それは拳大の丸い水晶だった。しかしただのガラス玉ではないようだ。不透明で紫っぽい。 どこかで見た気がしたが、その思考は後ろからの声にかき消される。 「誰かあの水晶を止めてくださぁぁい!」 その声に彼女はすぐに反応する。おかげでその水晶は間一髪、階段から落ちるすぐ手前でキャッチされた。 「あぁ、ごめんなさい。わざわざ拾っていただいて─────ってあれ? フェイト?」 フェイトが背後からの声に振り返ると、そこには懐かしい顔があった。 シレンヤ氏 第18話後半へ
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マクロスなのは 第22話『ティアナの疑心』←この前の話 『マクロスなのは』第23話『ガジェットⅡ型改』 第1管理世界 ミッドチルダ首都クラナガン 某所 「今日の晩、ちゃんと来られるんだね?」 MTT(ミッドチルダ電信電話株式会社)の音声回線を前に女が確認するように問う。 それに回線の向こう側にいる誰かが応える。 『へい、アマネのやつがようやく管理局のレーダーのセキュリティホールを見つけやして』 「でかした!」 『でへへへ、姉(あね)さんに褒められるとうれしいですわ~』 「バカ!あんたを褒めたわけじゃないよ!それで、こっちには何で来るつもりだい?」 『え~と、輸送船で「キリヤ」って船です』 「「キリヤ」って・・・・・・ありゃ先代が30年も前に盗んだダサいポンコツ船じゃないか!もっとましな船はないんかい!?それともうちの次元海賊は首領の私がいないと運営が傾くほど資金難なの!?」 『いえいえ、そんなことないです!あっしにはよくわかりませんが、アマネによればセキュリティホールを抜けるのにあのヒョロっとした形とタイアツコウゾウだったかが重要みたいで―――――』 「あ~もう!わかったわかった!とにかく来なさいよ!そうじゃないとせっかく手に入れたこいつが無駄になるんだからね!!」 『それはもう。アマネもそのカワイコちゃんを思う様に犯してやりたいって張り切ってますわ』 「あの子の期待に応えられそうだよ。この機体は」 次元海賊の首領である女はそう言うと、ブルーシートにかけられた管理局の最新鋭戦闘機を撫でた。 (*) 同時刻 機動六課 訓練所 そこでは模擬戦が最終局面を迎えようとしていた。 魔力を前面に押し出して攻撃を放ってきたスバルの攻撃と、自らの魔力障壁がぶつかり合ってスパーク。放電現象によって周囲の空気の一部がオゾンへと変わったのか、鼻の粘膜に刺すような痛みが一瞬襲う。しかしその痛みはバリアジャケットのフィルター機能が瞬時に遮断した。 それでも自らの嗅覚は上方を推移し始めた動体の動きを見逃さなかった。 ティアナがどんなに頑張ろうと空は自分のフィールド(領域)であり、シロートの接近に気づかぬ訳がないのだ。 「・・・・・・レイジングハート、シールドパージ」 『Alright.』 なのはの指示にスバルを受け止めていたシールドがリアクティブ・アーマー(爆発反応装甲。被弾した場所の装甲が自爆し、弾道を反らしたり減衰して無力化する機構)のように自爆。爆風と煙幕によってスバルの攻撃を完全に無力化する。 しかし自分に自由落下程度で挑んで来ようとは・・・・・・ (遅すぎ) なのはは降ってきたそれを物理的に掴んだ。 そして指先の接触回線から、急ごしらえで作ったらしい詰めの甘い対ハッキングプログラムをオーバーライド。友軍以外の他者の魔法を拒絶するオートバリアを無力化する。 続けて彼女は、オートバリアのなくなったティアナに浮遊魔法をかけて勢いを殺した。 シールドパージからここまで100分の1秒未満。落下距離に換算すればたったの10センチにすぎない。 日々相対速度が音速近くなる(対ゴーストや対バルキリーでは軽く2~3倍を超える)空戦に対応出来る・・・・・・いや、しなければいけないなのはにとってそれは亀のごときスピードでしかなかった。 (*) 突然白煙に包まれ、視界ゼロとなったことにティアナは狼狽する。しかしなのはがいると予想される場所から声がした。 「おかしいな・・・・・・2人とも、どうしちゃったのかな?」 決して怒った口調でも非難する口調でもないなのはの言霊。一定方向から聞こえるという事は自分は静止状態にあるらしい。思考する内にも白煙が晴れていく。 最初に目に入ったのは恐怖で引きつる相棒の顔だった。そして、『どうしたのだろう?』と思う間もなく、冷たい風ががそこを洗った。 なのはの素手で受け止められたスバルのデバイスと自身の魔力刃。 そして魔力刃を握る拳から滴る〝血〟。 それは視界とは裏腹に、自身の頭を白煙で満たした。 「頑張ってるのはわかるけど、模擬戦はケンカじゃないんだよ。練習の時だけ言うこと聞いてるフリで、本番でこんな危険な無茶するんなら・・・・・・練習の意味、ないじゃない・・・・・・」 なのはの一言一言が重くのし掛かる。 今まで丁寧に教えてくれた人に、自分は今何をしている? 銃を突きつけている。 これはいい。ここはそういう所だ。 無茶して怪我させている。 これは・・・・・・弁解の余地はなかった。 「ちゃんとさ、練習通りやろうよ。ねぇ?」 「あ、あの・・・・・・」 しかしなのははスバルの弁解を聞こうとせず、こちらを見る。 その瞳のなんと虚ろなことか。 この優しく、時に厳しい彼女が、こんな生気の抜けた顔をするのか。 その瞳と血とは、ティアナを混乱させるに十分な力を持っていた。 「私の言ってること、私の訓練、そんなに間違ってる?」 なのはの問いかけに、ついにティアナの混乱は頂点に達した。 『Ray erase.(魔力刃、解除)』 唯一自らを空中に縛っていた魔力刃が解除。浮遊魔法で軽くなった体を生かして跳び、なのはから離れたウィングロードに着地する。 しかしそれだけでは冷静さを取り戻すには足りなかった。 「私は、ただ、なのはさんに、認めてもらいたくて・・・・・・さくら先輩みたいにちゃんとした教導を受けたくて─────!」 こんがらがったティアナの思考にはもう一貫性がない。 口とは違い、体はカートリッジを2発ロードし、まだなのはに攻撃を放とうとしていた。 「・・・・・・少し、頭、冷やそうか・・・・・・」 向けられる指先。そこに桜色の魔力が集束していく。 「なのはさ─────は!?バインド!?」 止めに入ろうとしたスバルは、己の両腕がいつの間にか封印されていることに驚愕する。 「じっとして。よく見てなさい」 この時、なのはが他にレイジングハートに向かって何か呟いたが、スバル以外の感知するところになかった。 「クロスファイヤ─────」 「うぁぁーーー!ファントムブレイ─────」 「シュート」 なのはの宣言と共に桜色の砲撃が放たれた。 しかしクロスミラージュが砲撃に使おうとした魔力を流用してシールドを緊急展開。なんとか減衰する。その後貫通したそれはティアナの体を炙ったが、重度の魔力火傷は回避した。 本当なら砲撃プログラムに容量を取られてシールド展開用の緊急プログラム作動すら間に合わない間合いであったはずだが、なのはに命令を受けたレイジングハートのハッキングにより、時限作動していた。 これで戦闘意欲は削いだかに思えたが、ティアナはまだ諦めていないようだった。無理やり攻撃態勢に入ろうとしている。もはや魔力を生み出す体力がないのかカートリッジを湯水のように消費して足しにする。 「お願い、私は負けられないの!!」 しかし願いとは裏腹に生成される魔力をなかなか成形させることができず、オレンジ色の魔力が重力井戸から解き放たれた大気のように空中へと拡散してしまう。どうやら実質的な戦闘不能状態であるようだった。 一方なのはは再び魔力を収束し始めていた。 しかし今度のそれに教育的な理由は感じられない。 先ほどのようにティアナの最高状態に合わせて撃とうとしているわけでもなく、実のところリミッター状態の今のなのはが最も撃ちやすいAA出力の砲撃魔法でしかなかった。 しかしそれはフェイトや守護騎士のような親しい人種でもその事実には気づけなかっただろう。なぜなら彼らはなのはが訓練時に魔力の出力を下げて使うとき、本人ですら気づけないような特殊な癖がある事を知らないからだ。だがここにはその乱心に気づけ、かつ対応出来るだけの能力を持った者が2人いた。 (*) まばたきの瞬間、なのはの目前に浮く収束中の魔力球が破裂した。 その瞬間スバルにはそのぐらいにしか認識できなかったが、直後遥か遠方から聞こえてきた重い発砲音をたどると、観戦していたさくらがビルの窓から魔力球を狙撃したのだとわかった。 そしてティアナの所には高空よりやってきた一陣の風が舞い降りていた。 「この大バカ野郎!歯ぁ、食いしばれっ!!」 EXギアの腕のみを外したアルトの一撃がティアナの頬に炸裂した。 顔に一切のダメージを残さぬよう、足場であるウィングロードから足を踏み外さぬよう、芯まで突き通すように掌(てのひら)で張り飛ばす早乙女家の技はまさに芸術的であった。 その一撃によって彼女の意識は完全に飛び、ウィングロードの上に横たわった。 「ティア!」 狙撃以来バインドから解放されていたらしく、スバルは立ち上がると同時にマッハキャリバーを吹かして親友の元へと駆ける。 その後ろからなのはが厳かに告げた。 「・・・・・・模擬戦はここまで。今日は2人とも、撃墜されて終了」 スバルは振り返りなのはを睨みつけるが、何も言えなかった。 (*) その後意識不明になったティアナの搬送作業、その他のゴタゴタで次に行われる予定だったライトニングの模擬戦も中止。 そのまま解散となった。 (*) 2146時 訓練場前 そこではなのはが、ホログラムのプログラムエラーの修理と最終確認をしていた。 どうやらリアリティの追及のし過ぎでそれぞれのマトリクスに過負荷がかかり、オーバーロード気味だったようだ。 彼女は構成情報を減らしたり、多少のコマ抜けを看過するようプログラムを改良していく。 ホログラムの訓練場でこれほど大規模なものはコストの問題で世界初の試みであったため、まだノウハウの成熟には時間が要るようだった。 「待機関数を1ミリ秒のループに繋いで・・・・・・よし、終了!レイジングハート、プログラムのチェックをお願い」 『Yes my master.』 デバックの進行を表すバーがゴールである100%を目指して伸びゆくのを眺めていたが、後ろからやってきた気配に振り返る。 「誰?」 「い、いよぅ」 突然こちらが振り返ったのに驚いたのか、その人物はラフに挙手した。 「ア、アルトくん!?」 直後背後からレイジングハートのデバックの終了と問題なしの報告。そしてご丁寧に作業用のホロディスプレイまで閉じて〝お仕事〟の終了を完璧に演出してくれた。 絶対の信頼を置く己がデバイスの反乱になのはは全面降伏。仕事に逃げるのをあきらめて問題に向き合わざるを得ないと観念した。 (*) 同時刻 ミッドチルダ 千葉半島沖合100キロメートル その場所に一隻の次元航行船がワープアウト(次元空間から出てくること)していた。黒い船体の中央辺りに突き出た艦橋には輸送船「キリヤ」の文字。 作られたのが40年も前の船で、さらに他世界の次元航行最初期の設計であったために勘違いな設計が多数存在する。 例えば次元空間を当時その世界の理論では水中のような高圧の流体の世界だと考えており、船体のデザイン、そしてその強力な耐圧構造はそれに則して施されている。そのため船体の形状は魚雷型で、スクリューが無いことを除くと潜水艦にしか見えないし構造も同じである。 現代では次元空間のワープバブル(次元空間の時空エネルギーに対抗するために張られるバリアのようなもの)の中は宇宙空間のようなもので、我々のよく知る管理局所属の次元航行船、巡察艦「アースラ」などは見ての通り流体内部を航行するような構造ではない。そのため外装の装備などが充実し、船型を制限されず〝ハイセンス〟なデザインとなる。 そのような事情な現代ゆえ、先ほどの次元海賊の面々もこの艦を前時代的なひょろっとした艦としか認識できないのも仕方ないことだった。 だが現代のそのような認識が次元海賊に幸いする。実はこの輸送船「キリヤ」は次元空間から直接深海1000メートルにワープアウトしており、時空管理局の太陽系すべてを網羅するほどのワープアウト検出用防空ネットワークに引っ掛からないのだ。 セキュリティホールとは言えまさに灯台下暗しとはこのこと。さらに一度ワープアウトして入ってしまえば、海上船舶程度の船籍の偽装は次元海賊の組織力をもってすれば比較的容易で、ワープアウト数分後には水中から浮上して堂々とミッドチルダに待つ女首領との合流ポイントへと向かった。 (*) 「さっきティアナとスバルがこっちに謝りに来てたぞ。なんでもお前がオフィスにいないから先に俺のとこに来たらしい。『今日はもう遅ぇからなのはに謝まるのは明日にしとけ』って言っておいたんだが・・・・・・」 なのはと訓練場から宿舎への道を歩きつつ伝える。 「うん、ありがとう。・・・・・・でもごめんね。監督不行き届きで。それに私のせいでアルトくんやさくらちゃんにもにも迷惑かけて・・・・・・」 「確かにあれはお前らしくなかった。特に2発目。1発目はそうだな、ああするのが一番だっただろうよ。殴って殴って徹底的に型を叩き込む・・・・・・オレの知ってる稽古はそういうものだ」 幼少時代、寝ても覚めても歌舞伎の稽古で殴られ続けた記憶がフラッシュバックを起こして一瞬言い淀むが、今自分がその吐き気を催しそうな指導方法を認めようとしている、さらには先ほどティアナに実施したことに気付いて居たたまれなくなった。 それに教えられてもいないのにあの平手打ちをしっかりマスターしていたことにその業を怨まざるを得なかった。かといって歌舞伎で言うこの「うつし」と呼ばれる真似の技術が自身が幾多の戦場を駆け抜けるのに1役も2役も買っていたことも事実であることが、大人の階段を上る青年の心を複雑にかき乱した。 しかし自分のことで精いっぱいでそんな青年の機微を感じ取る余裕のないなのははその2発目について漏らし始めた。 「・・・・・・私、怖かったの」 「怖いってティアナがか?」 「そう。あの時のティアナ、無茶を通して道理を通す。・・・・・・まるで昔の私みたいだった」 「・・・・・・お前の撃墜事件のことか?」 「うん。無茶してた自分のことを思い出したら撃墜された時の痛みとかリハビリの苦痛を思い出して、気付いたら頭真っ白になっちゃって」 「それで怖くなって撃とうとしてしまった、と?」 「そうだよ。いくらティアナでもクラスAのリンカーコア保持者なんだから、攻撃の意思表示をしている以上、〝出力を落とした〟砲撃で昏倒させようとしたあの判断は戦術的に正しかった―――――」 「おい待て。お前、それは本気で言ってるのか?」 「もちろんだよ。でもやっぱり判断力が鈍ってたのかな。さくらちゃんは放出しちゃったティアナの魔力に私の砲撃が引火するのを防いでくれようとしたんだよね。あの時は助かったよ~。そうじゃなかったらティアナを2,3日病院送りにするところだ―――――」 「ほんとうにらしくないな!高町なのは!!」 「え・・・・・・?」 「俺に嘘をつくだけでなく自分を正当化するとはな!・・・・・・お前には失望したぜ」 踵を返して足早に去ろうとすると、納得できないらしいなのははこちらの肩を掴んで 「ま、待って!どういうことかわからないよ!!」 と、呼び止めてきた。 「なら教えてやる。あのときのティアナは誰が見ても脅威にはならなかった。お前がそれを見間違えるはずがない!それに2発目が出力を落とした砲撃だっただと?フェイト達ならわからんが、残念ながらお前の教導をくぐってきた俺やさくらはだませないぞ。その前には怖くて撃ったと言ったか?・・・・・・見くびるなよ。これでもお前とは何百時間も一緒に飛んできたんだ。他にどんな理由があるか俺には皆目見当がつかないが、お前が言った理由だけではないはずだ!違うとは言わせないぞ!」 有無を言わさぬ口調で言い放つ。例え自らに魔法を教えてくれた師であろうと、今の彼女に背中を任せたくなかったからだ。 直後近くにあった街頭の電灯が消え、運悪く通過する厚い雲によって月明かりすら遮断されて辺りは相手の表情すら読み取れないような真っ暗闇になった。 「・・・・・・あ~あ、流石はアルトくんだね。本当のこと言うとね、あの時私が2発目を撃とうとしたのはティアナが怖かったわけじゃないの。実はね、ティアナの無茶を見ていろいろ痛い思いをした撃墜事件のことを思い出したら、あんな痛い目を将来するかも知れないぐらいなら、その前に無茶すれば絶対なんとかなるって言う幻想・・・・・・かな?それを〝潰しちゃおう〟って思って。私なら魔導士生命を終わらせないぐらいの手加減ができるって考えちゃったんだよね~」 先ほどとは打って変わって声色は明るい。しかし彼女が言ってるとは信じられないような内容と表情が読み取れないせいで病的な、はたまた別人が言っているように聞こえて恐怖を誘う。 「お、おい、お前―――――」 ただならぬ雰囲気になのはに近寄ろうとすると、逆に彼女の方から一瞬で間合いを詰められて胸倉をつかまれていた。しかし何か言う前にちょうど差し込んだ月明かりに照らされた真っ赤になった彼女の双瞳(そうとう)で見上げられ、何も言えなくなった。 「私が今どれだけひどいことを言ったか分かる!?アルトくんなら分かるよね!?私は今までそんなことにならないように教導してきたはずなのに!・・・・・・でもあの時はそう思っちゃったんだ。1週間か1カ月ぐらい病院送りにして懲らしめてやろうなんて―――――んっ!?」 気がつくとアルトは護身術の要領で彼女の両肘を横に払い、その姿勢を崩したところで彼女をしっかりと抱き寄せていた。なんの打算もない。しかし彼に眠っていた記憶、すでに他界した母にそうされると落ち着くことを思い出した故の行動だった。 腕の中で震える彼女を感じると、彼女が生身の女の子であることを認識せざるをえなくなる。それはアルトにおのずと何を言えばいいのかを教えてくれた。 「わかってる。大丈夫だ。完璧な人間なんて居やしない。お前が間違ったときには今日みたいに俺たちが止めに来てやる。だからお前も、お前を信じる俺たちを信じてほしい」 「・・・・・・アルトくんは・・・・・・アルトくんはこんな私をまだ信じてくれるの・・・・・・?私、ティアナを傷つけて、それを隠そうってアルトくんを騙そうともしたんだよ!?」 「ああ。確かに褒められたことじゃない。だが俺はお前を、お前の心根(こころね)を信じる。だからお前も俺たちを信じてくれ。できるよな?」 「・・・・・・うん。ごめんね。・・・・・・ううん、ありがとう」 胸の中でなのはは確かに微笑んだ。そして震えは、確かに収まっていた。 (*) 5分後、ようやく落ち着いてお互い離れたのはいいが、まだ解決していない問題も多い。なのはは意を決すると、アルトに尋ねる。 「ティアナとスバル、どんな感じだった?」 「うーん・・・・・・やっぱりちょっと気持ちの整理がつかないみたいだったな」 苦い表情での答えになのはは再び俯いてしまった。 その場を生暖かい潮風が舐める。と、不意にアルトは口を開いた。 「なのは、お前の教導が間違ってないことは、受けてきた俺達が保証する。だが撃墜事件のことを話してくれてないとなかなか伝わらないし、わかりにくいだろうな・・・・・・」 「うん。いつも最後に話してたけど、フォワードのみんなに明日ちゃんと話すよ。私の教導の意味と、さくらちゃんの教導との違いも」 しかしそれは叶わなかった。 静寂に満ちていた海辺に、けたたましいサイレンが鳴り響く。 2人はアイコンタクトすると指揮管制所のある六課の隊舎へ走った。 (*) 「AWACS『ホークアイ』から警報。千葉半島沖合い50キロの地点にガジェットⅡ型が12機出現しました。しかし機体性能が、従来のデータより4割ほど向上しています!」 隊舎の指揮管制所に集まったロングアーチスタッフと各隊長に、夜間勤務だったシャーリーが報告する。 「ガジェットはどこに向かっとるんや!?」 はやての問いにシャーリーは回答に詰まる。 「それが・・・・・・レリック反応もなく、ガジェットもその場から動きません」 映し出されるガジェット達の航跡は、その場をぐるぐる旋回飛行している事を示していた。 「フロンティア航空基地は?」 「現在出撃待機のみで出撃を見合わせています。理由について先方の回答によれば、あれが敵の陽動である可能性があり、主力、もしくは別働隊の出現に備えるとのことです」 「うーん・・・・・・こっちの探知型超長距離砲撃で十分届くけど・・・・・・」 探知型超長距離砲撃とは、レーダー基地又は観測機、この場合AWACSに正確な砲撃座標を送ってもらい、その座標を元にここから砲撃すること。これによりSランクのなのはの集束砲『スターライト・ブレイカー』なら理論上、射程は500キロにもなる。 しかし砲撃主のリミッター解除を強要するこの手段は、六課において最後の手段に部類される行動であった。 はやては拙速な判断をやめ、集まった3部隊の隊長に助言を請う。 「つまり、あいつらは『落としてくれ』って言ってるんだよな。だったら直接落としに行ってやろうじゃないか!」 アルトの過激な物言いに 「まぁまぁ」 とフェイトがいさめる。 「アルトくんの理論はどうかと思うけど、直接行って落とすのは賛成だな。スカリエッティならこっちの防空体勢とか、迎撃手段を探る頭もあるし。なのははどう?」 「こっちの戦力調査が目的なら、なるべく新しい情報を出さずに、今までと同じやり方で片付けちゃう、かな」 3人とも通常の迎撃を推奨。ならばはやてに、それを拒否する理由はなかった。 (*) 機動六課第2格納庫 そこは3週間前からサジタリウス小隊が占有しており、今も小隊付きの整備員達が右往左往していた。 しかし道に迷っているわけではない。彼らは自分の仕事に専念しているだけだ。 バルキリーの装備は普段軽々と扱っている印象があるが、人間にとってそれは特大サイズだ。 そのため彼らはせっせと、武器庫からガンポッド、ミサイル類をリフトで往復して運び出し、ジャッキ・クレーンを使って装備していった。 特にさくらのガンポッドが曲者だ。 バルキリーの装備の中でも最大といってよいほど大型で長大なこのライフルは、もはや通常のリフト、クレーンでは運べない。 そのため出撃時のみフロンティア基地から持ってきた特殊なトレーラーで武器庫から出され、離陸前にバルキリー自らトレーラーから取り出して装備してもらう。 もはやこうなると、バルキリーが直接武器庫に取りに行けばいいではないか?と思われるかもしれない。だが、そうは問屋がおろさないのだ。 小隊が借りている武器庫は、六課の自動迎撃システム『近接多目的MFS(ミサイル・ファランクス・システム)』のミサイル保管庫であり、地下にある。 そんなところに10メートルというデカイ図体のバトロイドがノコノコ入って行くとどうなるか。 ミッドチルダ製のミサイルはカートリッジ弾が爆薬に相当するので誤爆や誘爆は故意でない限り〝100%あり得ない〟(これが魔導兵器のもっとも優れた点である。)が、もし操作を誤って施設(特に自動装填装置類)を少しでも壊したらその費用は天文学的な数字になるだろう。となればトレーラーを1台持ってきた方が安上がりだった。 「アルト隊長遅いですね・・・・・・」 さくらが狭いVF-11Gの機内で、腕時計を睨みながら呟く。 アラートが鳴ってから20分、そして自分が機体に収まってから既に10分が経過していた。武装の搭載もほとんど終わっており、普段ならとっくに空の上のはずだった。 『さぁ、どうしてかねぇ・・・・・・んだが、誤報だったらただじゃおかねぇ!』 天城が不機嫌そうにこちらの呟きに応える。 「・・・・・・どうしました?なんか語気が荒いですよ」 『ん、あぁ。今日は俺の毎週楽しみにしてる連続ドラマの放送日でな・・・・・・いいところでアラートメッセージがテレビ画面をオーバーライドしやがったんだ!』 『チキショー!よりにもよって一番いいシーンでよぉ!!』などと嘆いている。 直接VF-1Bのキャノピーを遠望してみると、ヘルメットの上から頭を引っ掻いていた。 そんな天城にあきれていると、やっとアルトが現れた。 キャノピーの開閉弁を開けて、肉声で呼び掛ける。 「出撃しますか?」 「ああ、今すぐ出撃するぞ!準備急げ!」 アルトのよく通る声が格納庫に木霊し、整備員達の動きが更に慌ただしくなった。 (*) 『ロングアーチからサジタリウス小隊へ。滑走路はオールクリア。発進を許可します』 「サンキュー、ロングアーチ。」 アルトは通信に応えると、バックミラーで〝後ろ〟を確認する。 「発進するが大丈夫か? ・・・・・・おーい、フェイトぉ?」 後部座席に座っていたフェイトは驚いたように隊舎の玄関からこちらに向き直ると 「うん、大丈夫だよ」 と頷いた。 今回六課の迎撃戦力であるなのは、フェイト、ヴィータはサジタリウス小隊のバルキリーに分乗していた。 現場が約100キロ以上先であり、彼女らなら音速飛行が可能だが、魔力の消費がもったいないためこのような采配になっていた。 しかし、フェイト達が搭乗する前に玄関でひと悶着あったようだ。 アルトは何が起こったか知らなかったが、ティアナがシグナムに殴られたことだけは遠目でもわかった。 「・・・・・・よし、〝あっち〟の方も気になるだろうが発進するぞ」 アルトは告げると、脚(車輪)のブレーキを解除。スラストレバーを最大に上げて滑走路を滑る。 夜間発着用のライトが後ろに流れていく。 元々VF-25用に六課に増設されたこの滑走路は問題なく離陸をアシストし、鋼鉄の鳥達を無事真っ暗な空に送り届けた。 (*) クラナガン郊外 地下秘密基地 そこではスカリエッティが事態の推移を見守っていた。 「今度は何の実験?」 そういって隣に並んだのは言わずと知れた知才、グレイス・オコナーだ。 「ガジェットⅡ型の改修型の性能評価だよ。ガジェットには今までオーバーテクノロジーは搭載していなかったからねぇ~」 スカリエッティの示す図面にはガジェットの全体図が表示されている。 動力機関こそ変わっていないものの、中身は別物だった。 OT『イナーシャ・ベクトルキャンセラー』 OT『アクティブ・空力制御システム』 『新世代型エネルギー転換〝塗装〟』(どうやら既存のガジェットにも搭載できるように新たな合金・・・いや塗料を思いついたらしい。) OT改『高機動スラストクラスター』 『マイクロミサイルシステム』etc・・・etc・・・ エネルギー転換塗装という既存の装甲は〝金属〟という固定観念にとらわれない逆転の発想にも驚いたが、特にグレイスの目を引いたのは『ユダ・システム』の1行だった。 「あら、もう完成させたの?」 グレイスが何を完成させたのか言わずともスカリエッティにはわかったようだ。 「ああ、1機だけだがね。あれには観測機材をたくさん外装したから、できるだけ戦闘を避けるよう言い聞かせてある」 脳のニューロンを真似たマイクロバイオチップは作りにくくてね。 そう言い訳するが、作ってしまうところがこの男のすごいところだろう。 しかしレーダー画面でガジェットⅡ型改部隊が接敵したのは、管理局の部隊ではなく通常の海上船舶だった。 「あら?実験相手は管理局じゃないのね」 「彼らは次元海賊だよ。海底に直接ワープアウトして管理局の防空ネットを抜けてきたようだ。このまま見逃すのも癪だから、実験相手になってもらおうと思っただけさ。それに私は管理局以上に次元海賊が大嫌いでね。ちょうどいい素材に出会えたものだよ」 「そう・・・・・・」 グレイスは戦闘中のガジェット部隊と次元海賊、そして管理局のスクランブルらしい3機のバルキリーに視線を投げ、 「幸運を」 と呟いた。 (*) 千葉半島沖 45キロ海上 そこではサジタリウス小隊の3機がきれいなデルタ編隊を組んで飛んでいた。 しかしその足取りは極めて速い。なぜならAWACS『ホークアイ』を介して5分ほど前からガジェット達が活性化。通りかかった一般船籍の船に攻撃を開始したようだと通信を受けたからだ。 その船は通信機が壊れているのか応答がないが、AWACSからの高解像度写真を見る限り応戦する力はあるらしく魔力砲撃の光跡がいくつか確認できていた。しかしどうも船籍に記された遠洋漁業船には見えなかっため、政府機関その他に確認をとっているという。 暗い海上に鮮やかな青白い光の粒子を曳きながら飛行する3機は、ついにそれを目視した。 月明かりに照らされたその漆黒の船は甲板から煙をあげながらもジグザグに波をかき分け、よってたかるガジェットに対して乗員が魔力砲撃でなんとか応戦していた。 その時、AWACSから続報が入る。 『こちらホークアイ、その船の本当の所属がわかった。どうやらミッドチルダ政府と極秘で会談したどこかの世界の外交官の次元航行船らしい。まだ政府機関に再確認しているが、おそらく間違いない』 「了解した。・・・・・・こちらは時空管理局、フロンティア基地航空隊のサジタリウス小隊と機動六課だ。これより貴艦の離脱を援護する」 デバイス間で使える短距離通信で送ると、その返信はすぐに来た。 『こちら輸送船「キリヤ」、支援に感謝する!しかし我々はここからは動けない。まだ待ってる人が来てないんだ!』 「外交官のことですか?もしそうなら私、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンの名において必ず時空管理局が責任を持ってそちらの世界に送り届けます。なのであなた達は至急戦闘地帯からの退避を」 次元航行部隊に深いコネがあるフェイトがその外交官らしい人物の送還を確約するが、キリヤ乗員は 『外交官・・・・・・?ああ、そういうことか・・・・・・いや、我々は必ず姉さんを連れて帰る!あと10分でいい、待たせてくれ!』 と譲らなかった。バックミラーを介した目配せにフェイトは頷き、さくらの機体に乗るなのはも「仕方ないね」と頷いて見せる。VF-1Bの後部座席に座るヴィータもため息とともに両手でお手上げのジェスチャーをした。なら、彼らの行動は決まっていた。 「ホークアイとロングアーチへ、これより輸送船「キリヤ」の防空戦闘を開始する」 『こちらロングアーチ、現場の判断を尊重します』 『こちらホークアイ、船舶の退避前でも交戦を許可する。なお、おそらく外交官の機体と思われるアンノウン機が2機、そちらへ向かっている。到着予定は5分後。それまでキリヤを防衛せよ』 「『『了解」』』 6人の声が無線を介して唱和し、戦闘態勢に移る。 『こちらサジタリウス2。これより中距離援護体勢に入ります』 『スターズ1、サジタリウス2に続きます』 編隊が崩れ、VF-11Gが離脱する。 そしてガウォークに可変すると、キャノピーからなのはを出した。 他2機も前進を維持しながらガウォークに可変。キャノピーを開ける。 「じゃあアルトくん、またあとでね」 「ああ、気をつけろよ」 出ていくフェイトを見送ると天城のVF-1Bからもヴィータが出ていく所が見えた。安全確認と共に再びキャノピーを閉めると、敵を見据える。 この時点においてもガジェットはこちらに対しまだ何のアクションも起こさなかった。 (・・・・・・不意打ちになりそうだし、こりゃほとんどミサイルでカタがつくかもな) 今回ガジェットは速くなったといっても所詮音速レベルで、ミサイルにとってそれはちょうど狙いどころだった。 「天城、まずミサイルで半減ぐらいしておこう。目標はこっちで設定する」 『了解』 アルトは天城の機体のFCS(火器管制システム)との接続を確認すると、ヘルメットのバイザーに現場空域を拡大投影し、視線ロックをかけていく。 (・・・・・・こんなもんか) アルトは敵機の約4分の3(5分前に増援が来て現在は全体で25機)をレティクルに収めた。 「ミサイルで撹乱後、ガジェットをキリヤから引き離すぞ。各隊、準備は出来てるか?」 アルトの呼び掛けに各自ゴーサインを出す。 「よし!戦闘開始!」 VF-25とVF-1のランチャーポッドから一斉に発射されていくミサイル。 それらは流れる川のように敵めがけて飛翔し、アルト達も続く。 だがガジェットの対応は予想外のものだった。 いままでミサイルにはレーザーで迎撃していたが一転、フレアとチャフ(レーダー撹乱幕)で回避に走った。 マイクロハイマニューバミサイルの誘導は赤外線とレーダー探知が併用されている。 ガジェットは元々魔力推進のため排熱量が少ない。そこで大気摩擦による熱で誘導するために赤外線感度を最高にまで引き上げている。だがそれすらアクティブ空力制御システムによって極小にまで減らされてしまっていた。 そしてチャフで更にレーダーが効かなくなったミサイルはどこへ行くか。 無論、最大熱源になったフレアだった。 通常このような事がないように、多少はAIが補正する(同一目標に重複したミサイルが、相互リンクによって本物を思索する。結果的に分かれた熱源全てに当たりに行ったり、可能性の最も高いものに向かっていったりする。第25未確認世界において目標1機に対し、複数発のミサイルを割り当 てるのはこのため)ようプログラミングされていたが、管理局はオミットしていた。 なぜならガジェットはいままでミサイル対抗手段(フレアやチャフ、ECM)を装備しておらず、命中精度の低下を看過して、誘導プログラムの簡略化によるコスト削減と効率の向上を優先したためだ。 おかげでミサイルはそのほとんどが散らされ、無益に自爆する。また、たとえ命中しても一発では落ちなかった。 『なんじゃこりゃ!?』 天城の悲鳴が耳朶を打つ。 どうやら装甲も機動力もかなり底上げされているらしい。 ミサイルの命中痕には、転換装甲特有の〝ただ汚れただけ〟に見える被弾痕が残り、多数束ねられたスラスターによる緊急回避もやってのけていた。 しかし驚くべきことは、この介入に対する反応がそれだけで終わったことである。ガジェットは相変わらず海上で回避運動を続けるキリヤに攻撃を続け、こちらに対して迎撃態勢にすら着こうとしていなかった。 「なめやがって!!」 ファイターのVF-25は最寄りのガジェットに推力全開で急接近すると、ガンポッドを放つ。ガンポッドから毎分300発という速度で58mm高初速徹甲弾が放たれ、至近であればバルキリーの転換装甲をも5、6発で貫徹する運動エネルギー弾が敵に向かって飛翔する。 命中直前、ガジェットの要所に付けられたスラスターが瞬いたと思うと機体全体が瞬時に数メートルズレて、それら弾丸は当たることかなわなかった。ガジェットはもともと人間よりも小さいサイズで、それほど質量もない。そのためある程度強力なスラスターであればこのような機動をさせることは難しくないし、数メートル軌道を変えるだけで小さいガジェットには命中を避けることができた。 しかしアルトはあきらめない。 よけられたと見るやスラストレバーを45度起こしてガウォークへと可変すると、その形態だからこそできるヘリのような立体機動で肉薄していく。そして極めて至近になったとみるや、さらにレバーを45度起こしてバトロイドへ。頭部対空魔力レーザーで敵の機動を制限し、その間にPPBをガジェットと同じぐらい大きなその拳に纏わせて抜き放つ。放たれた右ストレートはガジェットに命中し、反対方向へ吹き飛ばした。間髪いれずにガンポッドを構えなおすとスリーショットバースト(3点射)する。殴られた時点で転換装甲を完全に抜かれていたガジェットは、オーバーキルと言う言葉がぴったりなぐらいに3発の砲弾によって紙屑のように引き裂さかれ、その構成部品を大気中にまき散らした。 即座に離脱。索敵を開始する。残りの3人もそれぞれ1機ずつ落としたらしい。レーダーに映っていた機体が25から21に減っていた。 『『中距離火砲支援、いきまーす!』』 なのはとさくらの宣言と同時に一筋の桜色の魔力砲撃と、青白い光をまとった76mm超高初速徹甲弾の弾幕がガジェットの前にばら撒かれ、その攻撃を抑制する。 そこまでしてようやくガジェットも重い腰をあげたようだ。おもむろに5機のガジェットが反転、迎撃態勢に入る。 『たった5機かよ・・・・・・拍子抜けだぜ・・・・・・』 敵にもっとも近かった天城のVF-1Bがミサイル数発とともに先行する。しかし次の瞬間にはその認識を改めることになった。 ガジェット5機は先行してきたミサイルをスラスターをフルに使ったジグザグ機動で無理やり回避すると、ぐうの音も出ないうちにVF-1Bに肉薄。散開したかと思えばリング状に展開して機体を包むと、一斉に中心にいるVF-1Bに向かってミサイルを放った。 この間2秒。天城にできたことと言えばエネルギー転換装甲にフルにエネルギーを回せるバトロイドに可変することと、魔法の全方位バリアを展開することだけだった。 着弾、そして大爆発。 全方位バリアは爆発の衝撃波をコンマ数秒受け止めて崩壊し、VF-1Bを包む。 「天城!大丈夫か!?」 『な、なんとか・・・・・・』 アルトは瞬時に多目的ディスプレイのJTIDS(統合戦術情報分配システム)のステータスを見る。VF-1Bには損傷はないようだったが、魔力炉とエネルギーキャパシタのエネルギーを使い切っているようだった。これでは当分戦えない。 そしてそうしている間にも〝観測機器を外装した〟ガジェット1機の率いる5機は次なる目標、VF-25に向かっていた――――― To be countinue・・・・・・ ―――――――――― 次回予告 ユダシステムと対峙する管理局勢 彼らは果たして次元海賊の脱出を阻止できるのか! そしてすれ違ってしまったなのはとティアナ達の行く末はいかに! マクロスなのは第24話「教導」 ―――――――――― シレンヤ氏
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マクロスなのは 第15話『バルキリーと魔導士』←この前の話 『マクロスなのは』第16話「大宴会 前編」 総合火力演習は結局、ガジェット・ゴースト連合の介入によって中止となってしまった。 しかしこの演習によって魔導士、バルキリー両方の長所と短所が世間一般に露呈した。 万能に思えるVFシリーズだが、低空時の機動性は魔導士と互角。小回りにおいては技量の関係で劣っている。それに転送魔法や様々なスキルの存在する魔導士に分があった。 また、地上部隊として多い地上での治安維持活動はその大きさが枷となるため不向きだ。 だが高空での高機動性と、バリアジャケットより圧倒的に強靭な装甲。そして無限大の航続能力と高い生存性。ガウォーク形態による制空権の確保、維持の信頼性。高性能かつ大規模な各種センサー、強力なECM(電子攻撃)及び対AMF能力。 そして災害時、マニピュレーターによるレスキュー能力など魔導士では望んでも得難い物が多数あった。 しかし空戦魔導士部隊全てをバルキリーに転換するのは予算はともかく、訓練時間がないためAランク以上の慣れていない者が乗っても逆に戦力低下を招くだけだった。 また両者の合同作戦の有効性も証明されたこともあって世論も各隊員も共存を望んだ。そして保守派の者も最低限の利権の確保のために 「共存なら・・・・・・」 と譲歩した。 (*) 演習から3日後 クラナガンの中央に位置する本部ビルからそうはなれていない所に、巨大なドーム型の建物『クラナガンドーム』があった。 そこは普段ミッドチルダ及び隣国のベルカなどの公式野球チームが平和的に試合をする場だった。 しかし今日は予定された試合がないにも関わらずドーム内の照明は明々と灯っている。 そして野球で本来ライトのポジションの者が立つであろう人工芝の上には仮設のステージが据えられていた。そこには横断幕が掲げられていて〝地上の平和は任せとけ!〟と書かれている。 センターには大人数用の長机がズラリと並べられ、300を超える人が腰掛けていていた。 またレフト付近には第一管理世界だけでなく各次元世界の報道陣が詰めかけており、時折シャッターが焚かれる。 彼らのカメラは全てステージに向けられており、今まさにあの記者会見に次ぐ歴史的な事が行われようとしていることを示唆していた。 ステージ上には地上部隊と本局の旗が掲げられ、地上部隊の礼服姿のレジアス中将、そして〝本局の礼服〟姿の八神はやての姿があった。 レジアスは壇上のマイクの前に立つと演説を始める。 『ミッドチルダ、及び各次元世界の皆さん。私は時空管理局、地上部隊最高司令官のレジアス・ゲイズ中将です。 現在ミッドチルダはガジェットと呼ばれる魔導兵器によって、時空管理局始まって以来の危機に直面しております。彼らは管理局の戦闘員のみならず、非戦闘員である民間人にすら躊躇わず攻撃してきます。現在の死者は40人にも及び、負傷者は民間人を含めると600人を超えます。彼らの正体は未だに不明ですが、平和を脅かす〝敵〟である事は間違いありません!そして我々は決して彼らに屈伏する訳には行かないのです!』 力強く訴えかける俗に言うレジアス調が始まり、センターに座る人々もそれに同調して 「「そうだ、そうだ!!」」 と囃し立てる。 『なおも禍々しい力を使おうとする者達には正義の鉄拳が振り下ろされるだろう!我々の鉄の意志と団結によって!!』 民族大虐殺を実行した第97管理外世界のヨーロッパ辺りに出現した〝ちょび髭〟独裁者のようなその力強い演説に、フラッシュが数多く瞬いた。 だが彼がその独裁者と違うのは、持ちうる大きいが有限な権力を〝少数(ゲルマン民族)の幸福と多数(ユダヤ民族に代表される他民族)の非幸福〟に使うか、〝最大多数の幸福〟に全力を注ぐか。の違いであった。 『テレビの前の皆さん。今日我々時空管理局は、長きに渡る海(本局)と陸(地上部隊)の反目。そして魔導士部隊とバルキリー隊の対立乗り越えて一致団結する事をここに宣言します。 その礎として空戦魔導士部隊及び時空管理局本局代表の八神はやて二佐と─────』 はやてがコクリと頭を下げる。 『─────バルキリー隊及び時空管理局地上部隊代表である私とが、肩を並べ、手を取り合う姿をご覧いただきたい』 実は2人とも地上部隊所属だが、そこはご愛嬌。 地上部隊と本局の最高司令である両文民大臣は、これに類する法案整備が忙しく出席を辞退。元々バルキリーと魔導士部隊の連携を誓うつもりだった2人に代理を押しつけたのが真実だったりする。 ともかく、親子ほどの歳の差がある2人が固い握手を交わした。 その光景にセンターにいた人々─────空戦演習に参加した空戦魔導士部隊全員、フロンティア基地航空隊の参加者、そしてクロノ提督やリンディ統括官など本局からのゲストも大きな歓声をあげた。 またマスコミも待ってましたとばかりに一斉にフラッシュを焚き、ドームを真っ白に照らした。 この時、本局と地上部隊、そしてバルキリー隊と魔導士達は真にお互いを受け入れたのだった。 (*) その歴史的瞬間からすぐ、天井の屋根がスルスルと動き出した。 開いていく屋根からは青い空が望む。そこを横切るは6つの航跡。 桜色、金色、赤色の魔力光を放つ光跡は、機動六課のなのは、フェイト、ヴィータのものだ。残る青、緑、白の航跡は、スモークディスチャージャー(煙幕発生機)を起動したVF-11SGとS、そしてVF-25だ。それぞれミシェルとライアン、そしてアルトが乗り込んでいる。 6人は中央でパッと六方に散ると、3人ずつ時間差でUターンして再び中央に戻って来る。 六課の3人は対になるように3方向からアプローチし、ドーム中央を軸に回転しながら急上昇する。それによって3色の光跡は綺麗に螺旋模様を描いた。 バルキリー隊の3機も、さっきと同様に螺旋模様を描きつつ上昇する。 その時会場に音楽が流れ始めた。その歌声は紛れもなく超時空シンデレラのものだった。 <ここより先は『私の彼はパイロット ミスマクロス2059』をBGMにするとより楽しめます> その歌声に合わせて6人が舞う。 キラリと光ったかどうかはそれぞれの主観によるが、6人は綺麗な編隊を組んだまま歌に合わせて会場にかすめるほど急降下。そして急上昇しながら六課とバルキリーとで二手に別れた。 上昇を続けるバルキリー編隊と六課編隊はそれぞれが特徴的な円を描きつつ合流する。その軌跡は大きなハートを描き出していた。 続いて六課編隊からフェイトが抜け、高速移動魔法によってバルキリー編隊を掠めるようにニアミスして反転、離脱しようとする。しかし3機はガウォークを使った鋭いターンでそれを追うと、マイクロハイマニューバミサイルを放つ。 ロックされたフェイトを追尾してミサイルが直線に並びながらハートの真ん中へとさしかかる。 『ディバイン・・・・・・バスタァーーー!』 フェイトの目前で放たれたなのはの砲撃がハートを貫く。その桜色の光跡は瞬時に消えてしまうが、ミサイルの誘爆によってその爆煙が綺麗な矢を形成。ハートを貫く矢というラブサインを描き出した。 そしてなのはにはミシェル、フェイトにはアルト、ヴィータにはライアンとそれぞれ別れて2機編隊で宙返りなどアクロバットする。 〝だけど彼ったら 私より 自分の飛行機に お熱なの〟 組同士仲良く編隊を組んでいたが一転、六課側が砲撃などの攻撃を敢行。攻撃はそれぞれの相方の機体に直撃し、機体は煙を上げながらキリモミ落下した。 会場はその行為と、ほんとにヤバそうなバルキリーのキリモミ落下に息を呑む。 しかし落下する3機はほぼ同時に機位を立て直すと六課側と合流。そのまま仲良く編隊を組んで会場をかすめ飛ぶ。 他5人がそのまま横切って行く中、VF-25のみがガウォーク形態に可変し減速。ステージ前に降り立った。そしてキャノピーを開けると、後部座席の少女をステージ上に降ろした。 〝きゅーん、きゅーん きゅーん、きゅーん 私の彼はパイロット〟 ランカはステージ上で歌を完結させると、声援とフラッシュに応えた。 (*) 30分後 ドームはまるで優勝の決まった野球チームのようなどんちゃん騒ぎになっていた。 「今日は無礼講、階級は忘れて大いに飲んでくれ!」 というレジアスの言の下、空戦魔導士、フロンティア基地航空隊員入り乱れての酒盛りやシャンパンファイトという光景も見られた。 しかし今は比較的沈静化し、楽しく談笑しながら出されている料理を食べる事が主流になりつつある。 アルトもそんな主流派の1人だ。彼も適当に見繕ってきた食材を皿に並べ、それらをつついている。 彼の周りにはすでに機動六課の面々(隊長陣とフォワード4人組)やサジタリウス小隊のさくら。そしてミシェルと机を囲んでいる。ちなみにランカとはやて達はマスコミに連行されたっきりだ。 (大変だなぁ・・・・・・) アルトは他人事のように考えながらよく煮えたポークを口に頬張った。 「しかし、まさか両方の戦勝パーティーに出られるとは思わなかったな」 周りを見ながら呟く。 比較的オープンな六課では感じなかったが、地上部隊では魔導士ランクですべて決まり、ほとんどの場合で同じランクの者としか付き合わなかった。 また、魔導士とバルキリーパイロットも異質なものとして原隊でもなければ互いに接点を持たなかった。 しかし今はどうだろう。 地上部隊の茶色い制服を着た(魔導士ランクが)高ランクの局員と、フロンティア航空基地のフライトジャケットを着た低ランクのバルキリーパイロットが仲良く談笑していた。 演習前にこの光景を誰が予想しただろうか。 少なくともアルトは現状に満足していた。『どちらかが路頭に迷うことなど、ない方がいい』と考えていたからだった。 そしてアルトの呟きに、いつもの和食ではなくパーティ料理をつついていたなのはが応える。 「そうだよねぇ。でもこっちはほとんど必勝のつもりだったんだけどなぁ~」 そう言うなのははちょっと悔しそうだ。確かにあのAランク魔導士を全力投入した物量作戦では勝ちを確信してもおかしくなかっただろう。バルキリー隊の生存率が高いのはその装甲によるものだけではない。大量に搭載された撃ちっぱなし式ミサイルが抑止力として魔導士達の接近を拒んだからだ。あのまま長引いていれば弾薬切れで確実に負けていた。 「確かに。はやて部隊長、なんかすっごい張り切ってましたもんね~」 こちらは何故か甘いもので埋め尽くされているスバルが言った。今彼女の目の前には20cm程に高くそびえ立つアイスクリームボールを積んで作ったタワーがあった。 (あんなのどうやって食べるんだよ・・・・・・) 「こっちだって六課対策で猛特訓したんだぜ。なぁ、アルト」 「・・・・・・うわっ!」 ミシェルが突然肩を叩いたため、アイスクリームに意識が集中していたアルトは前につんのめる。その拍子に机を揺らしてしまった。それによってギリギリの均衡を保っていたアイスクリームタワーはグラリと揺れ、最上部の1個が落ちた。 「あ?」 それに気づいたスバルの対応は早かった。 彼女はコンマ数秒の間に小型のウィングロードを落ちる先に展開すると、アイスの地面への落下を防ぐ。そして更に驚嘆すべきことに直径4センチを超えていたであろうアイスクリームボールをそのまま口に滑り込ませてしまったのである。 「・・・・・・」 彼女は口を閉じたきり動かない。 人の口の大きさを超えるようなものを一呑みしてさらに動かないとなると、さすがにヤバイかと思い始めて駆け寄ろうと腰を浮かせる。 「おい、スバル? だい─────」 大丈夫か?と、最後までいえなかった。なぜなら彼女はブルリと震えたかと思えば、目を輝かせて一言。 「美味しい!」 出鼻を挫かれたアルトはその場に転んでしまった。 「あぁ、アルト隊長、大丈夫ですか?」 さくらがズッコケたこちらへと手を差し出し、助け起こしてくれる。 「・・・・・・あぁ。っておい、お前ら!あれを見てどうも思わないのか!?」 しかし、六課メンバーは一様にいつもの事だ。という顔をした。 ティアナが唯一 「あんた、食べ過ぎるとお腹壊すわよ」 と注意していた。 (いや、そんなレベルじゃないだろ・・・・・・) アルトはやはり胸の内で呟いた。 (*) 「お代わり行きますんで、皆さん欲しいものありませんかぁ?」 スバルはまたアイスクリームを食べるつもりらしい。手にはさっきのアイスが入っていた大皿が乗っている。 彼女はなのは達からお茶等の注文を受けると、注文が多かったため運び係を志願したエリオを伴って人混みに消えていった。 「それでアルト、さっき聞いてたか?」 ミシェルの問いに今度は落ち着いて答える。 「ああ、あん時あと1週間しかなかったからな。陣形の選定とかしなきゃいけなかったし、参戦してくるであろう機動六課戦力への対策に1番時間を費やしたな」 アルトはあの日々を思い出しながら言う。まさにそれは〝月月火水木金金〟と呼べるほどのハードスケジュールだった。 「そういえば演習1週間前に、突然アルト隊長が私達の小隊を集めて『お前達がフロンティア基地航空隊の切り札だ!』なーんて言い出すんですよ。びっくりしちゃった」 さくらがアルトの声色を真似て言う。 そう、サジタリウス小隊のさくらと天城の両名とも珍しくクラスオーバーAのリンカーコアを保有していた。そのため訓練次第では超音速可能なハイマニューバ誘導弾の使用が、そしてMMリアクターの補助でSクラスの出力を持った魔力砲撃ができたのだ。 ─────しかしなぜ2人はこれほどの出力を持ちながらバルキリー隊に配属されたのだろうか? 実は天城の方はこのクラスのリンカーコアを持ちながら飛行魔法が大の苦手であった。しかし空戦に必要な空間把握能力などのセンスが高く、実績も十分評価できる立派なもの(なんでも部隊の数人でテロを計画する次元海賊の本拠に突入。そこで暴れまくり、対応の遅れた本隊の到着までの時間稼ぎをしたらしい)だったため、原隊の部隊長が陸で果てるには惜しい人材と判断し推薦したという。 またさくらもヘッドハンティング(引き抜き)でなく推薦だ。しかし推薦主は〝特秘事項に該当〟するとかで判明しなかった。 話は戻るが魔力砲撃のSクラス出力は戦闘の上では必須条件であり、音速を軽く突破してくるオーバーSランク魔導士に追随できるハイマニューバ誘導弾もまた必須であった。 そのため彼らには対六課戦力用の特訓が施された。結果的に2人は格段に進歩し、それぞれに小隊を与えてもよい程の技量に到達していた。 「─────でも負けてしまいました。すいません・・・・・・」 シュンとするさくらに対戦したフェイトがフォローする。 「さくら、もしあれが演習用の模擬弾じゃなくて、実体の徹甲弾だったら私のシールドは全部破られていたよ」 「そうだ気にするな。お前の砲撃を受けきるなんて誰も予想してなかったんだ。おまえ達は十分やったよ」 「はい!ありがとうございます!」 さくらは2人にペコリと頭を下げた。この素直な所が彼女の持ち味だ。きっとどんな困難にぶち当たっても挫けないだろう。 「やっぱりお前達を選んでよかった。・・・・・・しかし俺は教官だからな。またすぐ他の奴を教えなきゃいけないのが、なんだか寂しいもんだな」 2人の頑張る姿がフラッシュバックする。 総火演までの7日間、シミュレーターによるAIF-7F『ゴースト』とのタイマン勝負を朝飯前の日課とし、VF-25を仮想六課戦力に見立てた2機一組による連携訓練。そして戦術について深夜まで話し合ったあの日々が。 さくらにもこちらの思いが伝わったのか 「そこまで私達の事を・・・・・・!」 と感極まった様子だ。 「アルトくんの気持ち、よくわかるなぁ~」 なのはは続ける。 「私も教導隊だからね。同じ子は大体1ヶ月ぐらいしか見てあげられないの。だから『まだ教え足りない!』、『もう少し時間があれば・・・・・・!』って何度も思ったな。だからいつも教える時は全力をかけて、後悔しないように。だからアルトくんも後悔しないように頑張ってね!」 「ああ。サンキュー」 なのはの激励を授かったちょうどその時、今まで沈黙を守っていたステージに光が戻った。 『これより新春隠し芸大会を開催いたします!』 壇上でマイクを握っているのは天城だ。姿が見えないと思ったら裏企画に参加していたらしい。 周囲からはブーイングの嵐だ。 曰く、 「テレビが来てるんだぞ!」 や 「新春って今7月末だぞ!」 等々。 天城は地声で 「こういうのは新春って決まってんだよ!」 などと怒鳴り返すと、マイクを握りなおす。 『こういう展開になると予想していた俺は、すでにエントリーナンバー1番を予約しておいたのだ!それでは先生、ガツンと一発お願いします!』 天城と立ち代わりにやってきたのはランカだった。 『1番、ランカ・リー、歌います!』 ランカが〝ニコッ〟と、笑顔の矢を放つと場が一斉に盛り上がった。 冷静に 「これって隠し芸?本業じゃね?」 とつっこむ者もいたが、大半が肯定側に寝返った。 ランカの衣装がバリアジャケットであるステージ衣装に変わる。 そして彼女はお決まりのマイク型デバイスをその手に握ると、力いっぱい叫んだ。 「みんな、抱きしめて!銀河の果てまでぇー!」 大音量のイントロと共にランカのライブが始まった。 客席が水面のように揺れて、大気振るわす歓声が輪になって広がっていく。 恋する少女のときめく心を綴ったファンシーな歌詞を、ノリのいいビートと快活なメロディに乗せたランカ最大の必殺歌(?)『星間飛行』。 そして遂に幾多の戦闘を止めたこの曲最大のポイントに突入する! 「「「キラッ!☆」」」 ドームに唱和する全員の声。 続くサビに場は完璧にランカの生み出す世界に呑まれ、誰もが興奮のるつぼへと飛び込んだ。 (*) そうして長いようで短いライブは終わった。 『ありがとうございました!』 ランカがペコリと頭を下げ、舞台袖に引っ込んだ。既に会場は最高潮の盛り上がりをみせている。 そして再び舞台袖から天城が姿を現した。 『ランカちゃんありがとうございました。では2番をどなたかお願いします!』 天城がマイクを客席に向かって突き出す。 レベルの高かったランカの後だ。なかなか名乗りを挙げるのは難しいだろう。アルトはそう思ったが、案外早く見つかった。 「はーい、わたしやるですぅ!」 聞こえたのは遥か後ろ、ちょうどマスコミのど真ん中あたりからだった。 そして彼女は自分達を飛び越えてステージに一直線に向かっていき、天城は彼女のためにマイクの台を残すと舞台から退いた。 『2番、リインフォースⅡ(ツヴァイ)、歌います!』 彼女はマイクの前で宣言すると、歌いはじめた。 〝トゥエ レイ ズェ クロア リュオ トゥエ ズェ─────〟 さっきとはうって変わってなんだか荘厳な雰囲気だだよう曲だ。それにア・カペラであるはずなのになぜかパイプオルガン伴奏が聞こえてくるようだ。 また、彼女の足下にミッドチルダ式でもベルカ式でもない魔法陣が展開されている。あれは一体? しかしその時、後ろから来た疾風が自分の横を駆け抜けていった。ちょうど歌が終わる。 「こぅら、リィィィン!!」 満場の拍手に混じって八神はやての怒声が会場に響き渡った。そして次の瞬間には舞台に現れ、リィンにハリセンの一撃を加える。 「ひたい(痛い)!」 「〝中の人ネタ〟やったらいかんってあれほど言ったのに!」 「だって、隠し芸って─────」 「中の人ネタは隠し芸って言わんのや!」 はやてはそう言って彼女を叱りつけると 「すいませんでした!」 とこちらに一礼。舞台袖にリィンを連行していった。 「ええっと・・・・・・それでは3番行ってみようか!!」 はやての乱入によくわからなかった一同だが、天城の強引な司会進行によってなんとか盛り上がりを取り戻した。 周囲に祭り上げられて名乗りを上げた3番手が上がる舞台を眺めながらアルトは気づいた。フェイトの舞台に投げる熱い視線に。 「そういやフェイト、歌完成したんだって?いい機会だし歌ってきたらどうだ?」 しかし彼女は笑顔見せると、 「私の歌なんて、こんなところで披露するような大層なものじゃないよ」 否定する彼女の面影はどこか見たことがあるような哀愁を漂わせている。 (この表情、どこかで・・・・・・?) 見た覚えは強烈にするのにどうしても思い出せない。しかしそれは少なくともフェイトではなかった。 「・・・・・・ん、そうか」 とりあえずそう応答するが、それがどこか気にかかってアルトの心をかき乱した。 (*) 10分後 舞台はすっかり通常の隠し芸大会の様相を呈していた。さっきまで酔った管理局の一佐がカラオケを披露していた。 今は空戦魔導士と基地航空隊の男女十数人ほどが動く死人、いわゆるゾンビに扮装し、どこかで聞いたような英語の曲に合わせ 「スリラー!」 などと叫びながら踊っている。 また、ホロディスプレイのテロップには〝M.J.追悼慰霊祭〟と書かれていた。 (ゾンビの意味あるのか?) 元を知らないアルトはそう思ったが、他人の芸に口出しするのもはばかられたので気にしない事にした。 さてアルト達はというと、変装したランカやはやて達を加えてあるゲームをしていた。 机の中心には人数分のカレーパンが積んである。 持ってきたスバルによれば、この中に1つだけ『爆裂・ゴッドカレーパン』というどこかの必殺技のようなカレーパンがあり、ものすごい辛いらしい。 それを食べた幸運(?)の持ち主を残りの人が当てるという単純明快なゲームだ。 「そうねぇ・・・・・・これにしよっと!」 ティアナが早速と、ひとつのパンを掴み上げた。そこにスバルが茶々を入れる。 「あぁ!ティアそれでいいの!?」 「なに?まさかこれ!?」 「ヒヒヒ、わたしも分かんな~い」 「む~!」 膨らむティアナにスバルはしてやったりとクスクス笑う。 「じゃあぼくはこれ」 2人に続いてパンに手を伸ばしたのはエリオだ。 「あ、エリオくん、わたしのも取って」 席が遠くて手が届かないキャロがこれ幸いと頼む。 「いいよ。うーん・・・・・・これでいい?」 「うん。ありがとう」 キャロはパンを受け取ると、笑顔を返した。 字面だけみていると仲のいいカップルのように聞こえる。しかし本人達に自覚はないし、周囲からみても仲のいい〝兄妹〟にしか見えなかった。 いろいろありながらも、パンは1人1人に渡っていった。 アルトもあと5つ程になった時に 「ままよ!」 と3つとり、1つをさくらに渡した。 「え?ああ、ありがとうございます」 どうやら扱い慣れていないナイフとフォークで、ビフテキと格闘していたようだ。 「・・・・・・えっとだな、さくら」 「はい?」 「利き手がナイフだぞ」 さくらは顔を真っ赤にして持ち変える。そんな彼女を横目に、ランカにもう1つを渡した。 「ありがとう、アルトくん」 ニコッと微笑むランカ。今彼女の髪は黒になっている。 それだけでアルトも最初彼女がランカとは分からぬほど印象が変わっていた。なんでもデバイスの簡易ホログラム機能を使って髪を黒に見せているという。 「みんな取ったね?」 スバルが最後に残ったパンを手に確認する。 ちなみにミシェルはさっきウィラン達とどこかへ行っていた。 (チッ、運のいい奴め) スバルが周囲を見渡して確認を終えると、開始の合図を放つ。 「それでは始めぇ!」 パクッ そんな擬音が聞こえてきそうなほど全員一斉にパンを口に頬張った。 モグモグ なんてことはない。確かに辛いが普通のカレーパンだ。 ランカやさくらも普通に食べていく。どうやら3人とも〝当たり〟ではないらしい。 周りを見渡すと他も普通に食べて・・・・・・いや、キャロは先にフリードリヒに食べさせて〝毒味〟させているようだ。 (うーん、見かけによらず計算高いヤツなんだな・・・・・・) 彼女はフリードリヒが問題なく食べるのを確認したのか今度こそその愛らしい小さな口でパンをほうばった。 「からーい!!」 ・・・・・・どうやら普通のカレーパンでも十分辛かったらしい。 苦笑しながら見回していると、今度はなのはと視線があった。 「どうした?」 「うん、ちょっとみんなの反応を見てただけ。アルトくんは?」 「俺も同じだ」 そう言うと2口目を口に運んだ。 しかしアルトは既に気づいていた。彼女の額にうっすらと浮かび上がっていた汗。そして声に混ざる小さな緊張のスパイス。これによってなのはがホシに違いないと。 しかしそこまで考えなくとも彼女はすぐにシッポを出し始めた。 食べていくうちになのはの顔色が赤にそして青に変わっていく。 ルールでは水が飲めないことになっているため相当きつそうだ。 全員が食べ終わった時、なのはは必死に笑顔を作っていた。しかしそれはひきつり、顔は真っ青だった。 (まったく、無理するのが好きなやっちゃ・・・・・・) 頑張りは認めるがあれでは誰の目にも明らかだろう。 投票が行われ、アルトは用紙になのは以外の名を書いた。 (お前の頑張りに乾杯!) 心の中で呟いた。 しかし正直者が多かったようだ。投票は、なのは 5。他バラバラ 5で、なのはが圧勝した。残り4票はなのは自身とアルトのような同情票だろう。 「はい!わたしです!だから・・・・・・早くお水を・・・・・・!」 負けたなのはがもはや息も絶え絶えに言う。 スバルは即座に席を立って飲み物の調達に走る。そして水を取ってくると、なのはに渡した。 ゴク、ゴク・・・・・・ その豪快な飲みっぷりに透明な液体はすぐになくなった。 しかし様子がおかしい。今度はフラフラし始めた。その目の焦点は定まっておらず、トロンとしている。 「ちょっとなのは、大丈夫?」 彼女の隣に座るフェイトがなのはを揺する。 「あぁ・・・・・・フェイトひゃん、らんか、ろれつが、まわららないの・・・・・・」 なのはがえらく色っぽく言う。そしてそのままフェイトに倒れ込んで抱きついてしまった。 「ちょっと、スバル? なにを飲ましたんや?」 はやてが席を立って、現場に急行しようとする。こうして席の者たちが騒然とする中、外部から介入が入った。 「おい君、アレ、飲んじゃったのかい?」 魔導士部隊と基地航空隊の隊員数人がスバルに問い詰める。 「は、はい・・・・・・ダメでしたか?」 「いやあれは罰ゲームに使うつもりだったアルコール度数が60%の酒のスポーツ飲料割りだぞ!」 「「「え~!」」」 どうやら急いでいたスバルが、水と間違えて酒をなのはに渡したらしい。 それも悪いことにスポーツ飲料割りと来た。スポーツ飲料は水分などの体内への吸収を良くするため、同時に摂取してしまうとアルコールの回りがものすごく速くなる。 つまりあれは急性アルコール中毒者製造飲料とも呼べる兵器と化していたのだ! なのはも急いでいたし、カレーパンに味覚、嗅覚をマヒさせられていたので気づかずに飲み干してしまったようだ。 現在当のなのははフェイトの腕の中でイノセントな寝息をたてている。 さすが一杯で物凄い即効性だった。しかしこの程度で済んでいるのは実は酒に強いのだろうか? ともかくこのままでは風邪をひいてしまう。仕方ないのでなのはは同じように酔いつぶれた人が集う休憩所で寝かせてもらうこととなった。 (*) 「でもそんなに辛かったのかなぁ?」 ランカの素朴な疑問に、なのはを〝持って〟行って不在のフェイトとはやてを除く全員が同調する。 『エース・オブ・エースをノックアウトしてしまう神なるパンはいかほどのものだろう』と。 その疑問に最初に耐えられなくなったのはやはり好奇心旺盛なスバルだった。 「じゃあ人数分持ってきますね!エリオも行こ!」 「はい!」 「あ、2人とも私の分はいいからね」 まるで解き放たれた矢のように飛び出して行きそうな2人にランカがマイクを片手に喉を示しながら言う。 『商売道具である喉に負担をかけたくない』ということなのだろう。 「「はーい!」」 スバルたちは頷くと、人混みに紛れていった。それと入れ違いに次元航行部隊の上級将校の制服を着た女性1人と護衛艦隊(次元航行艦隊)の制服を着た男性がこちらにやって来た。 男の方はこの世界に来てばかりの時に会ったクロノ・ハラオウン提督で、女性の方は聖王教会で見た写真に写っていたリンディ・ハラオウン統括官だ。 「こんにちは。あなたが早乙女アルト君?」 「そうだ」 「クロノは知ってるわね」 一礼するクロノを横目に頷く。 「私はフェイトの母のリンディ・ハラオウンです。あなたの噂は息子と娘から聞いています」 「・・・・・・そりぁ、ご贔屓にどうも」 しかしリンディは周囲をキョロキョロしはじめた。 「ところでなのはちゃんとはやてちゃん、それとうちの娘を見ませんでしたか?」 今までマスコミの取材攻勢にさらされていて・・・・・・と続ける。 アルトを含め席の者達は口ごもった。 まさか泥酔したなのはを休憩所に持っていったと言うわけにもいかない。忘れてしまいそうになるが、まだ彼女らは未成年だ。 「・・・・・・さぁ、さっきまでいたんだがなぁ・・・・・・そうだろ、ランカ?」 「えっ、う、うん。そうだね。どこいっちゃったのかなぁ~」 アルトにならってランカもとぼけ、周囲も追随した。 「そう? 仕方ない子達ねぇ・・・・・・」 リンディにとってみれば3人はまだ子供らしい。そこにスバル達が戻ってきた。 「持ってきましたよ~カレーパン」 その皿の上には都合のいいことにリンディ達の分もある人数分のカレーパンと、それであることをダブルチェックしたというお茶があった。 (*) 試食した神のカレーパンはそれはもう激烈な辛さだった。 水があっても半分がやっとだ。アルトは改めて水なしで頑張ったなのはに感服した。 周囲では犠牲者が多発しているらしい。 「グワァァァ!」 などと叫びながら青白い火を吹いている者もいる。 ・・・・・・いや?あれは隠し芸大会か。よくみるとオールドムービーで見たことあるあの怪獣の着ぐるみを着て舞台上に作られた町を破壊していた。 それにしてもあの船首にドリルのついた船はなんだ?なぜビームを撃っている?俺の知ってる轟○号は冷線砲だったはずだ! 「なにこのパン、罰ゲーム・・・・・・?」 舞台から視線を戻してみると、パンを食べたリンディが鼻を摘まんで目に涙をためている。そうなのだ、このパンには少なくともわさびが入っている。 (しかしいったい何を入れればこんなに辛くできるんだよ。下手すりゃ死人が出そうだな・・・・・・ってかまずカレーの味がしねぇよ!ただひたすら辛い・・・・・・いや激痛がするだけじゃねぇか!) しかし更に驚くべき事態が発生した。 リンディがどこかから砂糖を取り出したかと思えば、湯飲みに次々入れていくのだ。確か熱い抹茶が入っていたはずだ。 驚愕していると、念話が入る。クロノからだ。 『(すまん、かーさん大甘党なんだ。見なかった事にしてくれ)』 『(・・・・・・あ、あぁ)』 アルトは頷く事しかできなかった。 (まったくどうなってんだ!リンディといい、このカレーパンといい、常軌を逸してやがる!) しかし「どんな奴がこのカレーパンを作ったのだろうか?」と、気になったアルトはスバルに問う。 「おいスバル、これをどこから持ってきた?」 舌を出して痛がっているスバルは、ある一角を指差した。 そこはバイキング形式で料理の並んでいる普通のエリアではなく、民間の店舗が宣伝のために展開しているエリアで、『古河パン』という店らしい。 少し興味のわいたアルトは、食べれなくて指をくわえるランカを伴い行ってみることにした。 (*) 「いらっしゃい」 『古河パン』の仮設の店舗は屋台形式だが、なかなか品揃え豊富でどれも美味しそうだった。 屋台をやっている店主はまだ30代ぐらいのたばこをくわえた男だ。しかし彼の目からは子供のような元気さ、溌剌さが漂ってくる。 つまりいい意味で『心は子供のまま』というやつだ。 それに古河パンは結構有名店らしい。たくさんの人がパンを買っていく。買いにきた大口の魔導士達。どうやら常連らしい。仲良く話し込んでいた。 「わぁ~、見て見てアルトくん!光ってるよ!」 ランカの指差した先には『レインボーパン』とある。確かにそれはどういう理屈か七色に光輝き、非常に美味しそうだ。 しかし───── 「そいつは止めたほうがいいぜ、少年」 店主が突然後ろから声をかけ、驚くアルトを無視して名札の一角を指差した。 そこは〝早苗パン〟と書かれている。 よく見るとゴッドなカレーパンにも同じ表示があり、値段は他が7割オフなのに対し、その名がついた物は定価となっていた。 「早苗パンってなんなんだよ?」 アルトの素朴な質問に店主は驚く。 「おまえ、早苗パンを知らないのか!?」 頷くアルトとランカ。 「そうか初めてなのか・・・・・・仕方がねぇ、教えといてやる・・・・・・このパンはなぁ─────!」 店主は神のカレーパンを1つ掴みあげると無造作に頬張る。そして比喩でなく本当に火を吹いた。 「きゃあ!」 その圧倒的な熱量に、ランカはサッとアルトの後ろに逃げ込んだ。 アルトもアルトで驚き戦(おのの)くことしかできない。 店主は火炎放射をやめると、得意気な顔で言い放つ。 「ガッハッハッハ!このパンはこうして、サーカスで火を吹くためにあるのさ!」 豪快に高笑いする店主の背後でトレーを落とす音がした。そのトレーにはパンが載せられていたようで、大量に転がっている。 落とした本人は、二十歳前ぐらいに若く〝見える〟女性だ。どうやらバイト・・・・・・なのかな?目に涙をためている。 しかし、彼女の口から出た言葉は落としてしまったパンの謝罪ではなかった。 「わたしのパンは、わたしのパンは・・・・・・サーカスで使う・・・・・・燃料だったんですねぇ!!」 彼女は言いっぱなしで泣きながら走り去った。店主はかじった残りのパンをくわえたかと思うと 「俺は大好きだぁぁぁ!早苗ぇ~!」 と叫びながら屋台を飛び出していった。 「なんだったんだ・・・・・・?」 そこには呆然としたアルトとランカだけが残された。 (*) 帰りの駄賃にと、あんパンとメロンパンをせしめた(無論、代金は置いていった)2人は元の席に戻って来た。 しかし、まだフェイト達3人は戻っていないようだった。 だがすぐに彼女達の声を聞くこととなる。それも最悪の形で。 TO BE COUNTINUE・・・・・・ ―――――――――― 次回予告 暗躍するミシェル。 ベールを脱ぐなのは。 そしてフェイトとアルトの決断とは・・・・・・! 次回マクロスなのは、第17話「大宴会 後編」 本当の宴が始まる・・・・・・ ―――――――――― シレンヤ氏 第17話へ
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マクロスなのは 第9話『失踪』←この前の話 『マクロスなのは』第10話「預言」 アルトとなのはが技研から帰還した翌日。 2人は報告書を読んだはやてに呼び出されていた。その理由はバルキリー配備計画についてだ。 「─────つまり、レジアス中将がこの計画を立案したんか?」 2日前からよく寝たのか、はやての顔色はよく、しっかりしていた。しかし彼女の顔は今、苦悩に歪んでいる。 「うん、そうだよ。はやてちゃんも聞いてなかったの?」 「そうや、ウチは聞いとらん。管理局の殉職者が12人って報告は受けとったけど・・・・・・」 重たい沈黙 その時2人の背後のドアが開き、小人(こびと)が飛んできた。 「はやてちゃんそろそろ行く時間ですよぅ~」 リインは頭上をしばらく旋回飛行していたが、返り見ると、なのはの肩にどこかの〝竹を取る〟物語に出てくる小人のようにとても可愛らしい様子で座っていた。 「ああ、もうそんな時間か・・・・・・いきなりで悪いけど、これから2人ともちょっと付き合ってな」 はやてはイスに掛けられた上着に袖を通しながら告げる。2人は事態か読めず、顔を見合わせた。 そこに新たに部屋に入ってきた者がいた。 「はやて、車は用意したからいつでも行けるよ」 と、フェイト。どうやら彼女もこの件に1枚噛んでいるようだ。 「フェイトちゃん、どこ行くの?」 「あれ?まだはやてから聞いてなかった?昨日、聖王教会から連絡があってね。新しい預言が出て、ついでに『はやての友達に会いたい』って言われたんだって」 「ああ、なるほど。えっと・・・・・・カリムさんだっけ?」 「そうや、前々から会わせたいと思っとったんやけど、機会がなくてな。ほな行こか」 はやて達が部屋から出て行く中、アルトは話についていけず、ずっと頭を捻っていた。 (*) フェイトの私用車に乗ったフェイト、はやて、なのは、アルトの4人は一路、高速道路を北上する。 窓の外の景色が近代的な街並みから山と森へとシフトしていく。 しかし目的地にはまだ1時間ほど掛かるようだった。 そのためその間、3人から聖王教会に関する説明を受けることができた。 まず聖王教会とは、聖王を主神とする宗教団体で数多くの次元世界に影響力をもつ大規模な組織であること。 教会はミッドチルダ国の領内にありながら独立しており、税金などの面においても名実共に聖域であること。 財源は基本的には寄付で成り立っており、その額はミッドチルダの国家予算の半分程度という莫大な規模になっている。そのため教会自らが当時のミッドチルダ政府に設立を要請した時空管理局の、現在ですら予算の半分近くを握る最大のスポンサーであること。 このような歴史的事情から必然的に時空管理局と繋がりが強く、ロストロギアの管理、保管はそこが担当しているらしい。 しかし今は教会自体は関係なく、そこに所属しているはやての友人であるカリム・グラシアという人に用があるらしい。 なんでも彼女は『プロフィーテン・シュリフテン』という未来を予知する古代ベルカのレアスキルを持っているという。 「なんだそれ?未来がわかるなら最強じゃないか」 アルトはそう言ったが、そうでもないそうだ。 はやて曰く、カリムの預言はこの惑星を回る月の魔力の関係上、1年に1度しか使えず、表記も古代ベルカ語の、さらに解釈の難しいことで有名な詩文形式で書かれている。 また、期間も半年から数年後のことがランダムに書いてあるため、実質的な信頼性は『よく当たる占い程度』だという。 本局と教会はその内容を参考程度に確認するが、地上部隊は当たらないとして無視するらしい。 「そんな胡散臭いもの信用できるのかよ」 アルトも疑うが、はやては1歩も引かない。なのはやフェイトも『はやてが信用しているなら』と、まったく疑いはないようだ。 そうこうしているうちに、100キロ近い距離を走破した車はそこに到着した。 教会はその名に恥じぬ壮大な造りで一瞬アルトに中世の城をイメージさせたが、最新の科学技術と見事に調和したそれはよほど近代的だった。 車を駐車スペースに停めた4人に玄関から近づいてくる人影がある。 「お待ちしておりました」 彼女は一礼すると品よく笑顔を作った。 「おおきに、シスターシャッハ」 「はい。みなさんもお元気そうで・・・・・・あら?そちらの方は?」 「彼は次元漂流者の早乙女アルト君。今は六課の隊員をやってもらっとる」 はやての紹介にシャッハはプライスレスのスマイルを作り、 「聖王教会にようこそ」 と告げた。 (*) その後シャッハに連れられて教会に入り、いくつもの装飾品の並ぶ玄関を横切り、廊下を歩いていく。 (なんか鳥ばっかだな・・・・・・) 玄関に入ってすぐにあった床の塗装も鳥が大きく翼を伸ばした姿が描かれていたし、各種置物も翼を伸ばした鳥という案配(あんばい)だ。 後でわかったことだが、聖王教会では鳥がモチーフになったシンボルマークが使われており、よほど好きらしい。 (ん?・・・あいつら、なにやってんだ?) 続いてアルトが見たのは1組の男女。しかし男の方は前時代的な切断器具である〝ノコギリのように削られた1メートル程の木の棒〟を女性に突きつけていた。 それで女性が恐怖に怯えているなら話は簡単であり、アルトも助け出すことを躊躇しなかっただろう。 しかし女性の方は喜んでいたようだった。 そのことから特に危険なわけでもないようなので、別段考えもせずどんどん歩を進めるシャッハ達を追った。 (*) しばらく歩くとシャッハは1つのドアの前に立ち止まった。 こん、こん 広い廊下にノックの音が反響する。 『どうぞ』 内から聞こえる女性の声。シャッハはドアを開けると直立する。 「時空管理局の八神はやて様ご一行がいらっしゃいました」 『ありがとう』 シャッハは一礼すると、はやて達を部屋に招き入れ、自分は出ていった。 部屋はなかなか広くカリムという人の重要さを物語る。 しかし物見遊山している暇などなかった。なのはとフェイトは部屋に入ると突然直立不動となり敬礼する。アルトも慌てて続いた。 「便宜上やけどカリムは管理局の少将ぐらいの階級を持ってる〝お偉いさん〟なんよ」 と、先ほど何気も無くはやてが言っていたことを遅まきながら思い出す。 「失礼いたします。高町なのは一等空尉であります」 「フェイト・テスタロッサ・ハラオウン一等海尉です」 「早乙女アルト准尉です」 すると奥から、長いストレートな金髪に紫のカチューシャを着けた25歳ほどの女性が現れた。 彼女は 「いらっしゃい」 と告げると、名乗った。 「初めまして。聖王教会、教会騎士団騎士、カリム・グラシアと申します。どうぞ、こちらへ」 カリムに周囲がガラス張りになったテラスへと誘導され、彼女とはやてはイスに腰を掛ける。 なのは以下3人は 「失礼します」 と一礼してイスに腰を掛けた。 するとカリムはこれまた品よく笑う。 「3人とも、そんなに固くならないで。私たちは個人的にも友人だから、いつも通りで平気ですよ」 「・・・・・・と、カリムが言うてるし、いつもと同じで平気やで」 カリムとはやての許可に、なのはとフェイトは即座に友人モードにスイッチングし、普段通りの口調に戻った。 「改めてこんにちは、私のことは〝なのは〟って呼んでください」 「はい、なのはさんですね。ハラオウンさんと早乙女さんはなんとお呼びすれば?」 「私はみんなからフェイトと呼ばれています」 「俺は、アルト─────」 「〝姫〟やろ?」 「ど、どうしてお前がそれを知って─────!」 「なのはちゃんの報告書に書いてあったで」 なのはに向き直る。すると彼女は少し面白そうに両手を合わせ 「ごめ~ん!あんまりにもぴったりな表現だったから・・・・・・」 と謝罪した。 続いて 「こんないいセンス持ったお友達ならウチともいい友達になれそうやわ~」 とはやて。 (いかん・・・・・・遊ばれるモードに入っている・・・・・・) しかしアルトは怒って否定するまねはしなかった。彼は〝大人〟になろうと努力していたし、彼の望む大人像には短気は入っていなかった。 「・・・・・・なるほどな。確かにチビダヌキって愛称を持つお前ならアイツともいい友達になれそうだな」 反撃に転じたつもりだったが彼のマニューバ(空戦機動)は稚拙すぎ、老獪なはやてには無力だった。 「やろ~タヌキってキツネよりもユーモラスやし、チビってのが愛嬌あるみたいで結構気に入っとるんよ~」 (しまった、上手くかわされた・・・・・・!) 青年は己の経験不足を嘆くしかなかった。 「えっと・・・・・・とりあえず、なのはさんにフェイトさん、それにアルトひめ―――――」 ジロリ アルトの敗者の哀愁を漂わせる視線にカリムは空気を読んだ。 「―――――コホン、アルトさん。これからもよろしくお願いしますね。・・・・・・それから私のことはどうぞカリムと呼んでください」 全員の自己紹介が終わったところで、はやてが仕切り直す。 「それじゃあいい機会だから改めて話そうか。機動六課の設立目的の裏表。そして、今後の事をや」 極めて真面目な顔をして言い放った。 (*) 周囲のカーテンが閉め切られ、先ほどとはうってかわって密会の雰囲気が出たテラスではやては説明を始める。 「六課設立の表向きの目的は、対応が遅く、練度の低くなった地上部隊の支援と治安維持。そして時代の変遷によって不具合が出てきた管理局の非効率なシステムの刷新や」 はやてが端末を操作し、ホロディスプレイを立ち上げていく。 「知っての通り、設立の後見人は騎士カリムとフェイトのお母さんのリンディ・ハラオウン総務統括官。そして、お兄さんのクロノ・ハラオウン提督や」 アルトは隣のフェイトに念話で耳打ちする。 『(この前本部ビルにいたクロノって、お前の兄さんだったのか)』 『(うん)』 『(へぇ・・・・・・、あんまり似てないんだな)』 そこで少しフェイトに陰が落ちる。 『(・・・・・・リンディ統括官もクロノ提督も義理のお母さんとお兄ちゃんなんだ)』 『(え、あぁ・・・・・・すまない・・・・・・)』 ただならぬ雰囲気を感じたアルトはそれ以上詮索しなかった。 「―――――あと非公式にレジアス中将も初期の頃から設立に賛成して、協力を約束してくれとる」 (はぁ?中将は地上部隊の指揮官じゃなかったか?なんでまた本局所属の六課なんかに?) 同じ疑問が浮かんだらしく、なのはとフェイトの顔にも〝?〟マークが浮かんでいた。 今でこそガジェットの度重なる出現で六課の重要度は増すばかりだが、それより前から賛成していたというのは理解できなかった。 普通なら地上のことなのだから、身内(地上部隊)で解決しようとするはずだ。 こちらの疑問に察しがついたのだろう、カリムがはやての説明を継ぐ。 「レジアス中将が設立に賛成したのには理由があります。それは私の能力と関係あるんです」 カリムの説明によると、彼は優秀な部下として可愛がっているはやての勧めで、地上部隊最高司令官として預言に耳を傾けているらしい。 しかしそれだけではまだ六課の味方をする理由がわからない。 そこで立ち上がり儀式魔法を展開。準備を始めるカリムに、はやてが補足する。 「実は最近のカリムの預言に、1つの事件の事が徐々に書き出されとるんや」 どうやら準備ができたらしい。カリムが浮いていた紙の内1枚を手に取り読み始める。 『赤い結晶と無限の欲求が集い、かの翼が蘇る 閃光と共に戦乙女達の翼は折れ、中つ大地の法の塔は虚しく焼け落ちる それを先駆けに善なる心を持つ者、聖地より鳥を呼び覚まし、数多(あまた)の海を守る法の船も砕き落とすだろう』 その預言が聞く限り悪いことのオンパレードであることに、初めて聞いた3人が絶句する中、はやてが更に補足する。 「ウチらはこれをロストロギア『レリック』によって始まる時空管理局地上部隊の壊滅と、管理局システムの崩壊だと解釈しとる。レジアス中将もそれを鑑みて、比較的自由度と拡張性の高い、六課の設立に賛成してくれたんや」 その説明に3人は納得した。しかしはやての顔が優れない。 ここは喜ぶところではないとは思うが、失望したような表情をするところでもないはずだ。 そんなカリムを含めた4人の心配が伝わったのだろう。はやてが訥々と、理由を口に出し始める。 「・・・・・・レジアス中将には、わかってもらえたと思ったんやけど・・・・・・なぁアルト君、なのはちゃん、あの配備計画は本当なん?」 突然話をふられた2人は (ここでこの話が来る?) と驚きつつも頷く。 「すみません、あの配備計画ってなんでしょうか?」 カリムとフェイトが話についていけないので、なのはが速成で説明する。 「昨日レジアス中将が話してくれた計画で、『バルキリーを量産、低ランク空戦魔導士に配備して被撃墜率を下げよう』って計画です」 その話を聞いていなかった2人は 「レジアス中将ならやりそうなちょっと強引な計画だ」 と納得した。 「確かにちょっとギリギリな計画だとは思う。・・・・・・んだが撃墜率は減るだろうし、悪い計画じゃないんじゃないか。どうしてお前はそんなに嫌がるんだ?」 そう言うアルトをはやては見つめると、1つの事を聞いた。 「アルト君、あなたの飛行機の通称は?」 「?なに言ってるんだ。バルキリーに決まって・・・・・・あっ!」 言いながらアルトは気づいた。 〝バルキリー〟この読み方は英語式の〝ヴァルキリー〟に端を発し、日本語では〝ワルキューレ〟と呼ばれる。 意味は昔の地球の北欧神話に出てくる半神の名で、戦乙女という意味だ。 確かアルトの調べた限りこの世界にも偶然か、はたまた必然なのか、その呼び名を持つ同じような神話があった。 それではやての悩みは理解できた。預言の戦乙女の記述が、心配なのだろう。しかし――――― 「バルキリーは戦乙女という意味だ」 アルトの言にカリム、フェイトが驚愕する。しかしなのははわかった風に静かだ。どうやら彼女も自分と同じ考えに行き着いたらしい。 「どうして2人は冷静でいられるん!?レジアス中将は戦乙女=バルキリーなんてわかってるはずやのに!?」 はやてが珍しく語気を荒げる。 「はやて、」 「はやてちゃん、」 2人の声が見事にハモる。なのははジェスチャーで『お先にどうぞ』と送りだした。 「お前はどうして六課があるか忘れてるんじゃないか?・・・・・・いや、俺たちの報告書がマズかったかもしれないな。〝つまらん例外〟以外あれは客観的事実しか書いてなかったはずだ」 その〝つまらん例外〟を書いた本人であるなのはは、投げられたアルトの視線に『テヘへ』と頭を掻いた。 アルトは続ける。 「だがあの時中将は俺達に、『ミッドチルダをよろしく頼む』って言ったんだ。今ならわかる。あの重さが!」 アルトに変わり、なのはがその先を継ぐ。 「レジアス中将は私達に期待してくれてるんだよ。『きっと六課が、預言を阻止してくれる!』って。・・・・・・それにね、戦乙女って六課とも取れるんだよ」 そう、どちらかと言えばそちらの方が可能性としては高い。 昨日見た設計段階のバルキリーは、反応エンジン、航法システムなど武器以外は魔法や魔力結合に頼らぬほぼ純正のものを踏襲していた。 そのためバルキリーはランカレベルの超AMF下でも十分飛行と戦闘が可能だった。 またその他の要因にしても、魔導士にあってバルキリーにない機構などほとんどない。逆に優秀なものならいくらでもある。 大規模センサーなど電子機器しかり、魔力の回復の早い小型魔力炉しかり、圧倒的な馬力や装甲しかり・・・・・・ はっきり言って脆弱ななのは達魔導士方が簡単に、預言の文句と同じく〝翼は折れ〟た状況になるだろう。 「・・・・・・その時、誰が私達を助けに来てくれるのかな?」 なのはの決め台詞はこれだった。 とりあえず現状の魔導士部隊には不可能だ。しかし、バルキリー隊なら?またこれは逆に、バルキリー隊が危険なら六課は?とも言える。 両方無力化されるとは考えにくい。しかし、どちらかが機能すれば預言を阻止できる可能性は失われず、助け合える。 レジアスの言っていた『君達1部隊に地上の命運を任せる訳にはいかない』とはこの意味があったのだ。 「じゃあ、レジアス中将はウチらの心配もしてくれてたんか・・・・・・」 自らを犠牲にしてでも預言を阻止しようと決意していたはやては、感極まった様子で俯き、声に出さず呟く。 『ありがとうございますレジアスおじさん。言ってくれないだけで、ずっとウチらの事も心配してくれとったんだね・・・』 はやてが再び顔を上げた時、一同は暖かい笑顔を彼女に向けていた。 (*) 「さて、実は新しい預言が出た話だけど─────」 カリムの一言に、彼女を除く全員が 「「「あっ!」」」 と声を上げた。 「・・・・・・そういえばそのために来たんだったね」 「にゃはは~完全に忘れてたのですぅ~」 フェイトとなのはの会話が驚いた人達の気持ちを最も端的に表しているだろう。 「でもカリム、預言は1年に1回じゃなかったんか?」 はやての質問にカリムも困った顔をする。 「それが月とは関係ない、別の力が作用したみたいなの」 彼女は言いつつ預言書を出し、読み上げる。 『月と大地の交わる所運命(さだめ)の矢が放たれる』 顔を上げたカリムが、どういう意味がわかる?と一同を見渡す。 「運命の矢ってのは攻撃かな?」 と、なのは。 「月と大地ってことは、宇宙か空だよね。・・・・・・まさか衛星軌道兵器なんてことは─────」 と、フェイト。 「どうやろう・・・・・・戦時中の軍事衛星は耐久年度を超えてるか叩き落とされとる。それに軌道付近なら管理局のパトロール艇が監視しとるはずや。この場合、まず悪いことなんかがわからんな・・・・・・」 腕組みしながらはやてが言う。 「なんかどこかで聞いたような文句だな・・・・・・」 とアルト。 その後議論を1時間近く続けたが結論は出ず、カリムの用事のためそのままお開きになった。 (*) 聖王教会から帰るとすでに日は落ち、ヴィータ教官率いるフォワード4人組も既に訓練を終え、宿舎に引っ込んでいた。 「ほんならなのはちゃん、フェイトちゃん、それにアルト君、わかってもらえたかな?」 自らの声が広い空間を波紋する。 ここは六課の隊舎の玄関前にあるロビーだ。ここからは私室のある部隊長室と、なのは達の宿舎とは反対方向となるのでお別れとなる。 「うん」 「情報は十分。大丈夫だよ」 2人は 「じゃあ」 と言って一時の別れを告げると、宿舎へと続く渡り廊下を歩いていく。 しかし、ラフに壁にもたれたアルトは動かなかった。 「・・・・・・どうしたん?」 「いや、『何か言いたそうだなぁ~』って思ったから待ってるのさ。なのは達行っちまうぜ、いいのか?」 はやては去っていく2人の後ろ姿を見て少し逡巡したが、すぐ首を 「うん」 と力強く縦に振る。 「・・・・・・いや、ありがとうな。本当は言おうと思ったんやけど、よく考えてみれば2人には言わなくてもわかってくれとると思う。」 2人を見送るその横顔は確信に満ちていた。 「そうか」 「でも、アルト君には確認しておきたい」 「なんだ?」 アルトはもたれた壁から離れると、腰に手をあてがい聞き耳をたてる。 「六課が、これからどんな展開と結末を迎えるかわかれへん。だけどこのまま六課で戦ってほしいんやけど、ダメ・・・・・・かな?」 「・・・・・・そうだなぁ、六課設立の目的が最初聞いた時と圧倒的に違うからな。実は『壊滅するかもしれない?』『単なるテスト部隊でなく管理局の切り札だった?』と来たもんだ。おまえの覚悟は立派だし、その気持ちには同情する・・・・・・だが、こんな〝危険〟なとこに俺らを引き込んだのか?」 アルトの口から出る痛烈な言葉にはやてはシュンとなる。 「・・・・・・やっぱり、いやなんか?」 「ああ、嫌だね」 アルトはにのべなく切り捨てた。 「危険なのは俺だけじゃないんだ。ランカだって関わってる。もしアイツに何かあったら、アイツの〝兄さんズ〟に反応弾(物質・反物質対消滅弾頭)か重量子ビームでスペースデブリ(宇宙の塵)にされちまうんだ。本当のことを知らされないで、そのことへ覚悟がないのに危ないのは御免被る。」 アルトの言葉にはやてはどんどん肩落とし、泣き出さんとまでになってきた。 「ごめん・・・・・・アルト君がそんなに嫌がってるなんて知らへんかった。気づけなくてごめんな。なんなら今すぐランカちゃんと一緒に─────」 部隊長室へ歩き出そうとしたはやてだったが、アルトの手が肩に触れて立ち止まり、彼を振り返った。 (*) アルトは「やりすぎたか・・・」と胸の内で呟いた。こちらを見上げる小さな少女の目には大粒の涙が溜まっていたからだ。 「あぁ・・・・・・俺はそういう事を言ってるんじゃないんだ・・・・・・。つまりだな、危険な事でも下手(したて)に出て「ダメか?」とか頼むようじゃ人は着いてこない。たとえ俺たちのような〝友達〟でもな。そう言ってるんだ」 ここではやてはアルトの真意に初めて気づいたようだった。 「いじわるやね、アルト君・・・・・・」 アルトは破顔一笑。 「ほんとにな。よく言われるよ」 するとはやては涙をさっと拭うと、大仰に決めていい放つ。 「じゃあ、アルト〝くん〟とランカちゃんに〝どうしても〟手伝ってもらいたいんや!いいんやろ?」 「仕方ない、付き合ってやるか。・・・・・・お前もいいんだろ?」 アルトは壁に話しかける。そこはロビーに隣接するように作られている自販機コーナーの入り口のドアだ。 気づけば、さっきアルトがもたれるのをやめた時、彼は何気なくそのドアを少し開けていた。 はやてがその行為にタヌキ・・・いやキツネに摘ままれたような顔をしていると、緑の髪した少女が「てへへ」と笑いながら出てきた。どうやら偶然最初からいたようだった。 「うん。もちろん。私、このみんなのいる街を守りたいの!」 彼女の赤い瞳には強力な意志の力がみなぎっている。 「こんな2人だが、これからもよろしくな。」 アルトとランカが手を出す。 はやては2人の手を掴み「ウチこそ!」と、100万W(ワット)の笑顔で応えた。 シレンヤ氏 第10話 その2へ
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第6話「決意、そしてお引越しなの」 「じゃあ、メビウスからは何も連絡は……」 「はい……ウルトラサインもテレパシーも、一切ありません。」 地球から遠く離れた宇宙に存在する、M78星雲。 その中にある、地球よりも遥かに巨大な星―――光の国は、ウルトラマン達が住まう星である。 そんなウルトラマン達の中でも、優れた戦闘能力と、そして優しさを持つ戦士達がいた。 彼等はウルトラ兄弟と呼ばれ、宇宙の平和を守る宇宙警備隊の一員として、日夜戦っている。 そのウルトラ兄弟達に、今、未曾有の事態が起きた。 ウルトラ一族にとっては最大の宿敵の一人といえる、最大の悪魔―――ヤプール人が復活を果たした。 ヤプール人とは、異次元に存在する邪悪そのもの。 自らを、暗黒から生まれた闇の化身と豪語する悪魔である。 ヤプール人はこれまで、幾度となくウルトラ一族へと戦いを挑んできた。 ウルトラ兄弟達は、その都度何度も撃退したが……ヤプールは、何度も復活を果たしてきた。 彼等はヒトの負の心を好んでマイナスエネルギーに変えてエネルギー源としているため、その存在を完全に消し去る事は不可能なのだ。 ヒトがこの世から完全に消え失せれば、もしかすると可能かもしれないのだが、そんな馬鹿な話はありえない。 一時は、封印という形で決着をつけられたかのように思えたが……その封印も、悪しき侵略者に破られてしまった。 結局ウルトラ兄弟達は、ヤプールが復活する毎に打ち倒すという手段を取るしかなかった。 そしてつい先日、彼等はヤプールが潜む異次元へと乗り込み、決戦に臨み、ヤプールに打ち勝つことができたのだが…… ここで、予想外の事態が起こった。 ヤプールを倒した影響により、異次元世界は崩壊を迎えようとしたのだが……ヤプールがここで、最後の悪足掻きを見せた。 ウルトラ兄弟の末弟―――ウルトラマンメビウスを、道連れにしていったのだ。 メビウスはヤプールと共に崩壊に巻き込まれ、そして行方不明となった。 兄弟達は、様々な手段を使ってメビウスの捜索に当たっていたのだが、メビウスの行方は全く分からないままであった。 もしもメビウスがまだ生きているとするならば、可能性は一つしかない。 「やはり、崩壊の影響でどこか別の次元に落ちてしまったのか……」 「しかし……そうだとしたら、どうやってメビウスを探せばいいんですか?」 「メビウスから何か連絡があれば、どうにかならなくもないんだが……」 メビウスは、どこか別の異世界にいる可能性が高い。 それがどこか分からないのが、問題ではあるが……それさえ分かれば、救出に向かうことはできる。 ウルトラ兄弟の中には、異なる次元・異なる世界への転移能力を持つものもいるからだ。 今現在、メビウスを救う為に、光の国の者達は一丸となって動いている。 ウルトラ兄弟の長男にして宇宙警備隊の隊長であるゾフィーは、空を仰ぎ遥か彼方―――地球を眺め、弟のことを思う。 「メビウス……一体、どこに……?」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「なのは、フェイト!!」 「ユーノくん、アルフさん……」 「二人とも、もう体は大丈夫なのかい? 大分酷いダメージだったけど……」 「うん、何とか。 私はしばらく、魔法は使えないみたいだけど……」 丁度その頃であった。 時空管理局の本局にて、なのは・フェイト・ユーノ・アルフの四人が久方ぶりの再会を果たしていた。 こうして直接顔を合わせるのは、彼等が出会う切欠となったPT事件以来である。 しかし、彼等の表情には喜び半分不安半分という所である。 その原因は、大きく分けて二つ。 一つ目は、言うまでもなくヴォルケンリッター達の存在にある。 そしてもう一つは、なのはとフェイトが受けたダメージの大きさにあった。 なのはは、自分でも攻撃を受けた時点で予想はしていたが……魔力の源であるリンカーコアが、異常なまでに縮小していた。 魔力を吸い取られてしまい、回復するまでの間、一時的に魔法を使えない状態にあったのだ。 フェイトも、なのは程ではないとはいえ、それなりのダメージを受けていた。 しかし何より……二人とも、自分のデバイスに大幅な破損を受けてしまっていたのが大きかった。 レイジングハートもバルディッシュも、再起不能な状況にまで追い込まれてしまっていたのだ。 自己修復作用だけでは間に合わないため、現在パーツの再交換作業の真っ只中にあった。 「レイジングハート……」 「ごめんね、バルディッシュ……私の力不足で……」 「……こういう言い方は何だが、これは二人のミスじゃないよ。」 「クロノ、エイミィ、リンディ提督……それに……」 「ミライさん……」 落ち込むなのは達へと、部屋に入ってきたクロノが声をかけた。 その傍らには、彼の相棒であるエイミィと、アースラ艦長のリンディ。 そして……ミライがいた。 クロノは、自分達が相手をしていた敵の魔法体系―――ベルカ式について、簡潔に説明を始めた。 今回なのは達が敗北したのは、彼女達の魔法体系―――ミッドチルダ式との相性の悪さが大きかった。 ベルカ式とはその昔、ミッド式と魔法勢力を二分した魔法体系。 遠距離や広範囲攻撃をある程度度外視して、対人戦闘に特化した術式である。 ミッドチルダ式と違い、一対一における戦いを念頭に置いてあるものなのだ。 そしてその最大の特徴は、デバイスに組み込まれたカートリッジシステムと呼ばれる武装。 なのは達もその目でしかと見た、ヴォルケンリッター達が使っていたシステム。 儀式で圧縮した魔力を込めた弾丸をデバイスに組み込んで、瞬間的に爆発的な破壊力を得る。 術者とデバイスに負担はかかるものの、かなりの戦闘能力を得られる代物である。 「随分、物騒な代物なんだね……」 「ああ……多くの時限世界に普及している魔術の殆どは、ミッド式だからね。 御蔭で、解析に少しばかり時間を取られてしまったよ……」 「そうだったんだ……」 ベルカ式に関しての説明が終わり、皆は少しばかり考えた。 自分達の使っている魔法が、魔法の全てではない。 これから先、自分達の前に立ちふさがるのは、まだ見ぬ未知なる強敵。 かつてのPT事件と同様か、それともそれ以上の戦いになるかもしれない。 誰もが息を呑むが……その直後であった。 皆が、ベルカ式よりも最も疑問に思わねばならぬ事に気づいた。 戦闘の最中、突如として謎の変身を遂げたミライ―――ウルトラマンメビウスについてである。 当然ながら、視線はミライに集中することになる。 ミライも、ここで隠し事をするつもりはなかった。 丁度いい具合にメンバーも揃っている……ミライは、全ての事情を話し始めた。 「リンディさん達には、先にある程度の説明はさせてもらったけど、改めて全部話すよ。 僕の事……ウルトラマンの事について。」 ミライは、隠していた事情も含めた全てを話した。 自分は宇宙警備隊の一人であり、そしてウルトラ兄弟の一人である、ウルトラマンメビウスである事。 異次元に潜む悪魔―――ヤプールとの戦いの末に、次元の狭間に呑まれた事。 そして気がついたら、アースラに救助されていた事。 自分の正体を明かせば、周囲の者達にも危険が及ぶと判断し、正体を隠していた事。 先に説明を受けていたリンディ・クロノ・エイミィの三人は、二度目となるため流石に驚いてはいなかった。 一方なのは達四人はというと、当然ながら驚き、そして呆然としている。 別世界の人間というだけならば、まだ分かるが……その正体が宇宙人ときては、少々許容の範囲外であった。 そして、ウルトラマンという存在についてにも驚かされた。 宇宙警備隊という、時空管理局に匹敵するほどの大組織の一員として、ミライ達は動いている。 彼は、その中でも特に秀でた戦士であるウルトラ兄弟の一人―――中には、メビウスよりも強いウルトラマンはいるという。 早い話……ミライがとんでもない大物であった事に、皆驚いているのだ。 「えっと……一つだけ、質問してもいいですか?」 「いいけど、何かな?」 「話を聞いてて、少しだけ不思議だったんですけど……ウルトラマンは、どうして地球を守るんですか? 守らなくてもいいとかそういう話じゃなくて、色んな星がある中で、どうして地球を選んだんだって……」 なのはには、ミライの話の中で一つだけ、腑に落ちない点があった。 ウルトラ兄弟達になる為には、地球防衛の任に就く必要があるという。 そうして多くの事を学び、ウルトラ兄弟になるに相応しいまでの成長を遂げるというのだが…… 何故、彼等が防衛する星が地球なのか。 話を聞く限りでは他にも多くの星はある筈なのに、何故態々地球を選んだのか。 そんな彼女の疑問を聞くと、ミライは少しばかり瞳を閉じた後、ゆっくりと口を開いた。 かつて、共に戦った大切な親友からも同じ質問をされた。 その時の事を思い出しながら……ミライは、なのはに答えた。 「僕達ウルトラマンも、元々はウルトラマンの力を持っていなかった。 皆と同じ……地球の人達と全く同じ、普通の人間だったんだ。」 「え……?」 「ある事故が切欠で、僕達はウルトラマンの力を手に入れた。 ……僕達は、地球の人達に自分達を重ねているんだ。 もう戻る事のできなくなった、あの頃の姿を……」 「だから、地球を……」 ウルトラマンが地球を守る理由。 それは、かつての自分達の姿を重ねているからであった。 更に、地球は多くの侵略者達から、特に狙われている星でもある。 だからウルトラマン達は、地球を守ろうと決めたのだ。 そうして人間達を守る戦いを続けていく内に、ウルトラマンとして何が大切なのかを知る事ができる。 それこそが、彼等の戦う理由であった。 だが、メビウスには……いや、これは全てのウルトラマンの思いだろう。 もっと重要な、戦う理由があった。 「それに……」 「それに?」 「僕達は、人間が好きですから。」 「……なるほど、ね。」 「勿論、人間だけじゃなくて……大切なもの全てを、守りたいと思っています。 困っている人がいるなら、その人を助けるためにウルトラマンの力はある。 僕はそう信じてます……だから、決めました。」 「え……決めたって?」 「ミライ君は、元の世界に戻る手立てがつくまでの間、私達に協力してくれるって言ってくれたんだ。」 ミライは、今回の事件に関して全面的に協力すると、リンディへと話を通していたのだ。 自分達を助けてくれた時空管理局の者達に、恩返しがしたいからと。 それに、もう一人のウルトラマン―――ダイナの事が気がかりであるからと。 前者だけでもミライにとっては十分な理由であり、加えて後者のそれもある。 ここで引き下がれというのが無理な話だ。 保護した民間人に戦闘をさせるというのは流石に気が引けたのか、最初のうちはリンディも遠慮していた。 しかし……ミライの積極的な申し出に、彼女も折れたのだ。 最も、局員ではないなのは、フェイト、ユーノ、アルフの四人が協力している時点で、今更な感はあるのだが…… メビウスの力は、確かに今後の戦いを考えると必要不可欠だろう。 闇の書側についているとされる謎のウルトラマンとの戦いには、最も彼が向いている。 なのはやフェイト達どころか、下手をすればアースラ最強の戦闘要員であるクロノさえも危ない程の強敵なのだから。 「さて……それじゃあ、フェイト。 そろそろ面接の時間だが……なのは、ミライさん。 二人も、僕に同行を願えないか?」 「……?」 「面接……うん、いいけど……」 なのはとミライの二人は、面接という言葉の意味がいまいちよく分かっていなかった。 聞く限りじゃフェイトの用事らしいのだが、それにどう自分達が関係するのだろうか。 不思議そうに、二人は顔を見合わせる。 そんな様子を見たクロノは、難しく考える必要はないと言い、部屋を出て行った。 三人は、彼の後についていく。 「エイミィ、面接って?」 「うん、フェイトちゃんの保護観察の事についてだよ。 保護観察官のグレアム提督と、まあちょっとしたお話。 なのはちゃんはフェイトちゃんの友人って事で呼ばれたんだと思うけど…… ミライ君は、まあ色々と大変な事情が重なってるからね。 多分、そこら辺の事に関してじゃないかな?」 「へぇ~……」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「クロノ、久しぶりだな。」 「ご無沙汰しています、グレアム提督。」 そしてその頃。 クロノの案内によって、時空管理局顧問官―――ギル=グレアム提督の部屋に三人はついていた。 三人は椅子に座り、グレアムの言葉を待つ。 何処となく緊張している様子の彼等を見て、グレアムは少しばかり苦笑した。 その後、本題に入るべく、手元の資料を見ながら三人へと話しかける。 「フェイト君、だったね。 保護観察官といっても、まあ形だけだよ。 大した事を話すわけじゃないから、安心していい。 リンディ提督から、先の事件や、君の人柄についても聞かされたしね……君は、とても優しい子だと。」 「……ありがとうございます。」 「さて、次は……んん? へぇ……なのは君は日本人なんだな。 懐かしいなぁ、日本の風景は……」 「……ふぇ?」 「はは……実はね、私は君と同じ世界の出身なんだ。 私はイギリス人だ。」 「ええ!!そうなんですか?!」 「あの世界の人間の殆どは、魔力を持たない。 けれど希にいるんだよ、君や私のように、高い魔力資質を持つ者が。」 まさか時空管理局に、自分と同じ世界の出身人物がいるとは、思ってもみなかった。 驚き思わずなのはは声を上げてしまう。 するとそんな様子を見たグレアムは、彼女が予想通りのリアクションをしてくれたのを見て、静かに微笑んだ。 その後、彼は己の身の上話を話し始めた。 「おやおや……魔法との出会い方まで、私とそっくりだ。 私は、助けたのは管理局の局員だったんだがね。 それを機に、こうして時空管理局の職務についたわけだが……もう、50年以上前の話だよ。」 「へぇ~……」 「フェイト君、君はなのは君の友達なんだね?」 「はい。」 「約束して欲しいことはひとつだけだ。 友達や自分を信頼してくれる人のことは、決して裏切ってはいけない。 それが出来るなら、私は君の行動について、何も制限しないことを約束するよ……できるかね?」 「はい、必ず……!!」 「うん……いい返事だ。」 フェイトの力強い返答を聞き、グレアムは安堵の笑みを浮かべた。 その瞳に、一切の迷いはない。 友達の為、大切な人の為に活動できる、強い意志が感じられる……この子はきっと大丈夫だ。 これで、片付けるべき最初の問題は片付けた。 残るは……来訪者、ウルトラマンについて。 「ミライ君だったね……君の話をリンディ提督達から聞かされた時は、本当に驚いたよ。 魔法の力も、君からしたら十分非常識ではあるのだろうが……今の私は、それと同じ気分だね。」 「確かに……僕も最初に皆さんの話を聞いた時は、少し驚きましたよ。」 「はは……君もクロノに呼んでもらったのは、君がいた世界に関してなんだ。 君がいた世界の捜索なんだが、実は私の担当になりそうなんでね。 事情とかは既に聞いているから、改めて君から聞く必要はないが……そういう訳で、挨拶をしておきたかったんだ。」 「そうだったんですか……グレアムさん、よろしくお願いします!!」 「こちらこそ、よろしくだよ。 それで、君の能力に関してなんだが……仲間の人達と連絡を取る手段はないのかな?」 「テレパシーは試してみたんですけど、通じませんでした。 一応、他にももう一つだけ方法があるにはあるのですが……それは、地球に着き次第試してみたいと思います。 ウルトラマンに変身した状態じゃないと、使える力じゃないですからね。」 「うん、分かった。 それと、もう一つ質問するが……気になる事があってね。 君が一戦交えた、あのもう一人のウルトラマンについてなんだが……分かる事は何かないかな? どんな些細な事でもいいから、教えて欲しいんだ。 捜索の鍵になるかもしれないからね。」 「はい……けど、残念な事にはなるんですけど……」 「残念な事……?」 「僕とあのウルトラマン……ダイナとは、初対面なんです。 だから、お互いの事は何も分からないんです。」 「初対面……? ミライさんも会ったことがないウルトラマンさんなの?」 「うん……」 ミライとて、全てのウルトラマンを把握しているわけではない。 実際問題、かつて地上に降り立ったハンターナイトツルギ―――ウルトラマンヒカリの事は知らないでいた。 それに、光の国以外にもウルトラマンは存在している。 獅子座L77星生まれであるウルトラマンレオとアストラがその筆頭である。 この二人のみならず、ジョーニアス、ゼアス……彼等の様な他星の者達も含めれば、数は相当なものになる。 いや、そもそも……それ以前にあのウルトラマンは、自分がいた世界のウルトラマンなのだろうか。 なのは達の世界にウルトラマンが存在していない以上、ダイナは必然的に別世界のウルトラマンということになる。 問題は、その別世界がはたして自分のいた世界と同じなのかどうかという事である。 異次元世界での戦いにおいて、次元の裂け目に落ちたのは自分とヤプールだけだった。 まさかダイナがヤプールな訳がないし、そもそもヤプールがあのダメージで生きているとは思えない。 そうなると……ダイナは、もしかしたら別の世界のウルトラマンなのかもしれない。 自分と同じで、何らかの方法でこの世界に来たウルトラマンなのかもしれないのだ。 これに関しては、本人から聞き出す以外……知る方法はないだろう。 「ただ、戦ってみて分かったんですが……ダイナからは、邪悪な意思は感じられなかったんです。」 「邪悪な意思が……?」 「僕は今までに二回、同じウルトラマン同士でのぶつかり合いを経験した事があります。 その内の一人は、憎しみに捕らわれた可哀想な人でしたが……あの人から感じたような、憎悪とかはないんです。 寧ろダイナは、レオ兄さんの様な……強い信念を持っているように感じられました。」 ミライが、ダイナとの戦いで感じた事。 それは、彼から邪気が感じられないという事実であった。 かつて彼は、ハンターナイトツルギとウルトラマンレオと、二人のウルトラマンと対峙した経験があった。 ツルギとのそれは、対決にまでは至らなかったものの、ミライにとっては忘れられない記憶であった。 目的の為ならば手段を選ばず、ただ復讐の為に力を振るうツルギから感じられたのは、圧倒的な憎悪だった。 ダイナからは、そんな憎悪の様な感情は一切感じられなかった。 寧ろ、ウルトラマンレオの持つ強い正義感に近いものが彼にはあったのだ。 レオがミライに戦いを挑んだのは、敵に破れたミライを鍛えなおす為であった。 強敵を打ち倒す為のヒントを、彼は戦いの中でミライへと授けたのである。 あの行動は、紛れもなく正義を貫く為のもの。 大切な故郷である地球を守り抜きたいという、強い想いによるものであった。 ダイナには、それがあった。 「そうか……クロノ、今回の事件に関しては……」 「はい、もう、お聞き及びかもしれませんが…… 先ほど、自分達がロストロギア闇の書の、捜索・捜査担当に決定しました。」 「分かった……ミライ君。 君はあのウルトラマンとは、この先間違いなく対峙することになる。 その時、君は彼を止められるかな?」 「……絶対とは言い切れません。 ですが、ダイナは話が通じない相手ではないような気がします。 だから何とかして彼の目的を聞き、それが悪いことでないのならば、僕は彼を助けたいと思います。 避けられる戦いは、避けたいですから。 でも、もしも彼に邪な目的があるなら、そうでなくとも彼が立ちはだかる道を選ぶなら……僕はダイナと戦います。 皆を守るために、ダイナを何としても止めてみせます。」 「そうか……いい目をしているね。 君ならば、きっと大丈夫だろう……分かった。 あのウルトラマンダイナに関しては、君が一番頼りになるだろう。 クロノ達と助け合って、最善の道を歩めるよう頑張ってくれ。」 「はい!!」 「私から、君達に話すことは以上だ。 ……クロノ、私の義理では無いかもしれんが、無理はするなよ。」 「大丈夫です……急事にこそ冷静さが最大の友。 提督の教えどおりです。」 「そうだな……」 「では、失礼します。」 四人はグレアムに一礼した後、退室していった。 理解のある人で、本当によかった。 ミライ達は、心からそう思っていた。 彼の心に答える為にもと、三人は精一杯の努力をする決意を固めるのだった。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「はやてちゃん、お風呂の支度できましたよ。 ヴィータちゃんも、一緒に入っちゃいなさいね。」 「は~い。」 同時刻、海鳴市。 八神家では、何てことない平和な日常の光景が見られた。 風呂が沸いた為、はやてとヴィータ、シャマルが三人で風呂場へと向かう。 シグナムはソファーに座って新聞を読み、ザフィーラは横になって寛いでいる。 そしてアスカはというと、テレビでやってるクイズ番組に夢中になっていた。 『ヘキサゴン!!』 『主にオーストラリアに分布する、その葉がコアラの主食として知られるフトモモ科の植物は何でしょう?』 ピンポンッ!! 『はい、つるの押した。』 『よしきたぁっ……笹ッ!!』 ブーッ!! 『え、何でだよ!?』 『……あのなぁ、つるの!! それコアラじゃなくてパンダやんけ!!』 「やっべ……俺も同じ事考えちまってたよ。」 「おいおいおい……」 「はは……シグナムは、お風呂どうします?」 「私は今夜はいい……明日の朝にするよ。」 「へぇ、お風呂好きが珍しいじゃん……」 「たまにはそういう日もあるさ。」 「ほんなら、お先に~」 三人が風呂場へと入っていく。 その後、ザフィーラはシグナムへと振り返った。 彼女が何故風呂に入るのを拒んだのか、何となく理由が分かっていたからだ。 アスカも二人の様子を感じ取り、振り返る。 「今日の戦闘か?」 「聡いな……その通りだ。」 「もしかしてシグナムさん、どっか怪我を?」 シグナムは少しばかり衣服を捲り上げ、二人に下腹部を見せた。 その行動にアスカは一瞬顔を赤らめ、反対方向へと向いてしまう。 しかし、見たのが一瞬であったとはいえ、十分に確認する事は出来た。 彼女には確かに、黒い傷跡があったのだ。 それは、フェイトとの戦いによって着けられたものであった。 「お前の鎧を撃ち抜いたか……」 「澄んだ太刀筋だった……良い師に学んだのだろうな。 武器の差が無ければ、少々苦戦したかもしれん。」 「でも……きっと、大丈夫っすよ。 今日初めて戦ってるところは見たけど……シグナムさん、結構強そうに見えたし。」 「ふふ……それはありがたいな。 そういうお前こそ……互角の戦いぶりだったな。」 「はい……ウルトラマンメビウス。 あいつとは、また戦うことになるだろうけど……負けません。 次は、必ず……!!」 「ああ……我ら、ヴォルケンリッター。 騎士の誇りに賭けて……」 『おい……お前、アホやろ。』 「あ、つるの抜けた。 よかったぁ、ビリじゃなくて……何か俺、こいつに親近感感じるんだよなぁ。」 「……ビリとビリの一歩手前とじゃ、五十歩百歩じゃないか?」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「親子って……リンディさんとフェイトちゃんが?」 「そう、まだ本決まりじゃないんだけどね。 養子縁組の話をしてるんだって……プレシア事件でフェイトちゃん天涯孤独になっちゃったし。 艦長の方から、「うちの子になる?」って。 フェイトちゃんもプレシアのこととかいろいろあるし……今は気持ちの整理がつくのを待ってる状態だね。」 場所は時空管理局本局へと戻る。 なのははエイミィから、フェイトがリンディから養子縁組の話を受けたことを聞かされた。 この話は、とてもいいことだとなのはは感じていた。 無論、フェイトの気持ちの整理などもあるから、まだ先の話にはなるのだろうが…… 彼女達が親子となるならば、きっと上手くいくに違いないとなのはは思っていた。 そしてそれは、エイミィやクロノ達にとっても同様である。 (親子、か……) 二人の話を聞いていたミライは、昔の事を思い出していた。 自分も以前に一度、養子にして欲しいといってある人物を訪ねた経験があった。 相手は、今のこの姿―――ヒビノミライとしての姿のモデルとなった人物の、父親である。 彼はミライと暮らすことは出来ないと、その申し出を拒否した。 しかし……ミライが進むべき道を、はっきりと示してくれた。 彼の協力がなければ、今の自分はなかった……そう思うと、やはり感謝すべきだろう。 「さて……皆、揃っているわね。」 噂をすればなんとやら。 丁度、フェイトとリンディの二人が部屋へとやってきた。 それを合図に、騒がしかった室内が一気に静かになる。 今この部屋には、アースラクルーの者達が勢揃いしていた。 今回の事件に関しての説明が、これから行われるのである。 「さて、私たちアースラスタッフは今回、ロストロギア・闇の書の捜索、および魔導師襲撃事件の捜査を担当することになりました。 ただ、肝心のアースラがしばらく使えない都合上、事件発生地の近隣に臨時作戦本部を置くことになります。 分轄は観測スタッフのアレックスとランディ。」 「はい!!」 「ギャレットをリーダーとした、捜査スタッフ一同。」 「はい!!」 「司令部は私とクロノ執務官、エイミィ執務官補佐、フェイトさん、ミライさん、以上4組に別れて駐屯します。」 各々の役割分担について、リンディが説明し始めた。 地上におかれる司令部には、リンディ達五人が駐屯する事になる。 そして、その肝心の司令部の場所はというと…… 「ちなみに司令部は……なのはさんの保護をかねて、なのはさんのおうちのすぐ近所になりまーす♪」 「えっ……!!」 「……やったぁっ!!」 なのはとフェイトは顔を見合わせ、満面の笑みを浮かべた。 その様子を見て、アースラクルー皆も笑顔を浮かべる。 今回の事件は、なのは達の世界が中心だからそこに司令部を置くのは当然のことではあるものの。 中々、リンディも粋な計らいをしてくれたものである。 早速引越しの準備ということで、皆が動き始めた。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「うわぁ……すっごい近所だぁ!!」 「ほんと?」 「うん、ほらあそこ!!」 翌日。 なのは達は、司令部―――高町家から凄く近い位置にあるマンションにて、引越し作業の最中であった。 なのはとフェイトの二人はベランダから、外の風景を眺めている。 ミライはエイミィやクロノ達と一緒に、荷物の運び込みをしていた。 するとエイミィは、ある事に気付いた。 ユーノとアルフの姿が、人間ではない……動物形態へと変化していたのだ。 「へぇ~、ユーノ君とアルフはこっちではその姿か。」 「新形態、子犬フォーム!!」 「なのはやフェイトの友達の前では、こっちの姿でないと……」 ユーノはフォレットへと、アルフは子犬へとその姿を変えていた。 二人とも、正体を隠しておかなければならない事情があるために、動物形態を取っていたのである。 そこへとミライもやってきたわけだが……そんな二人の姿を、彼はじっと見つめていた。 「ミライさん、何か……?」 「いや……今凄く、二人に親近感が沸いちゃったから。 正体を隠す為に変身する……分かるよ、その気持ち。」 「あ~……そういえば、似たような身の上だったわよね、あたし達。」 「わぁ~!! ユーノ君、フェレットモードひさしぶり~!!」 「アルフも、ちっちゃい……」 「あはは……」 なのははユーノを、フェイトはアルフを抱きかかえた。 するとそんな時、クロノから二人の友達が来たと言われ、二人は玄関へと走っていった。 リンディも折角だからと、一緒についていく。 その後、なのは達はフェイトの歓迎会の為に、リンディは挨拶の為に、翠屋へと向かっていった。 「早速仲良しですね、フェイトちゃん達。」 「前々から、ビデオメールとかはやってたからね。 初対面って言うのとはちょっと違うし……あれ?」 「エイミィさん、どうしたんですか?」 「あはは……艦長ったら、忘れ物しちゃってるよ。 これ、フェイトちゃん達に見せてあげなきゃ……ミライ君、折角だし届けてもらっていいかな?」 「はい、いいですけど……これって?」 「フェイトちゃんにとっての、最高のプレゼントだよ。」 ミライはエイミィからある小包を受け取った。 その中身が何なのか、それを聞くとミライも笑みを浮かべた。 きっとフェイトは、喜んでくれるに違いないだろう。 駆け足で、ミライはフェイト達を追いかけていった。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「ユーノ君、久しぶり~♪」 「キュ~」 「う~ん……あんたのこと、どっかで見た覚えがあるような……」 「ク~……」 「にゃはは♪」 翠屋の前のオープン席で、なのはとフェイト達は、友人のアリサ=バニングスと月村すずかの二人と過ごしていた。 ユーノとアルフも混じって、楽しげに四人は会話をしていた。 すると、そんな最中だった。 なのはは、小包を持ってこちらに近づいてくる人物―――ミライの存在に気付いた。 「あれ……ミライさん?」 「あ、いたいた。 フェイトちゃん、これリンディさんからの贈り物だよ。」 「え、私に……?」 「なのは、この人は?」 「初めまして、僕はヒビノミライって言うんだ。 お仕事の都合で、しばらくの間フェイトちゃんの家でお世話になってるんだ。」 「へぇ、そうなんですか……」 「ミライさん、これって?」 「開けてごらん。」 ミライに促され、フェイトは小包を開けた。 すると、その中にあったのは、最高のプレゼントであった。 なのは達三人が通っている、聖祥小学校の制服であった。 これが意味する事は、一つしかない……彼女達は、たまらず声を上げた。 その後、フェイトは店内でなのはの両親へと挨拶をしているリンディの元へと走っていった。 なのは達三人も、その後に続く……その後姿を、ミライはしっかりと見守っていた。 (……世界が違っても、やっぱり同じだ。 僕は、あんな笑顔を守りたい……兄さん達には少し悪いけど。 問題が片付いて、元の世界に戻れるようになるまで……精一杯、頑張ろう。 皆と一緒に……!!) 戻る 目次へ 次へ
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第5話「暗黒の魔の手」 アスカ=シン―――ウルトラマンダイナの乱入。 それも闇の書側につくという事態に、誰もが動きを止めて驚くしかなかった。 それは、もう一人のイレギュラー―――黒尽くめの男にとっても同様である。 「……多次元のウルトラマンか。 これは確かに、イレギュラーだな……」 メビウスがこの世界に現れたのは、重々承知していた。 その上でなおも、全ては筋書き通りに運ばれていたはずだった。 しかし、黒尽くめの男にとってこの事態―――ダイナの参戦は、完全な予想外であった。 この世界に、ウルトラマンは存在しない筈。 異次元での戦いにより、この次元世界へと転移してしまったメビウスが唯一の存在だった筈。 自らをダイナと名乗ったウルトラマンが、ならば何故存在しているのか。 その理由は一つ……彼もまた、別世界のウルトラマンであるということだ。 「出来る事ならば、まだ介入はしたくなかったが……やむをえんな。」 男の掌から、黒いガス状の何かが湧き上がってくる。 そのガスの名は、宇宙同化獣ガディバ―――男の意のままに動く、一種の生物である。 男が見つめる先にいるのは、結界を破壊すべく魔力を集中させているなのは。 予定よりも少しばかり早いが、驚異的な相手が増えてしまった以上、チャンスは今しかない。 (ましてやあのダイナと名乗るウルトラマンは、闇の書側にいる。 メビウスよりも下手をすれば危険だ……あの二人だけでは、役不足かもしれん。) ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「デャァァァァッ!!」 「ジュアッ!?」 メビウスvsダイナ。 ウルトラマン同士での争いという、まさかの事態……優勢なのは、ダイナであった。 ダイナの方が優勢な理由は、ウルトラマンの戦闘方法の根源にあった。 ウルトラマンは、人知を遥かに超える多彩な光線技や超能力を持つ。 ならば、何故それを駆使して最初から勝負に出ないのか。 その理由は、エネルギーの消費を抑えるためであった。 ウルトラマンとて、永続的に戦えるわけではないのだ。 かつてダイナは、人工的にウルトラマンを作り出す計画――F計画の為に、利用されたことがあった。 その結果、人造ウルトラマンテラノイドが誕生した。 しかしこのテラノイドは、実戦においてとてつもない失敗を犯した。 テラノイドは、光線技を乱発しすぎ……すぐにガス欠を起こして倒されてしまったのである。 これはテラノイドのみならず、全てのウルトラマンに共通する問題である。 事実メビウスは、かつてニセウルトラマンメビウス―――ザラブ星人と敵対した際。 テラノイドと同様のミスを犯し、後から現れた異星人に打ち倒されてしまった経験があった。 だから、彼等が光線技を使うのはここぞという時ばかりなのだ。 それ故に、二人は格闘戦において戦闘を繰り広げていたのだが……単純な身体能力では、ダイナが勝っていた。 彼の豪快なパワーに、メビウスは圧倒されていたのだ。 メビウスにとって、これ程格闘戦で追い詰められることは久しぶりであった。 (レオ兄さんやアストラ兄さん並だ……いや、パワーだけならもっと……!!) 「デャァッ!!」 (けど……それだけで全部決まるわけじゃない!!) ダイナは加速の勢いに乗せ、全力の拳を突き出してくる。 命中すればタダではすまない……防御か回避か。 普通ならば、この二択のどちらかを取るのが当然である。 しかし……メビウスはそのどちらも取らなかった。 三つ目の選択肢―――カウンターを選んだのだ。 メビウスブレスの力が解放され、左の拳に集中される。 ライトニングカウンター・ゼロ。 メビウスブレスのエネルギーをプラズマ電撃に変えて、零距離から敵に叩き込む必殺の一つ。 ダイナの一撃に合わせ、メビウスは左の拳を突き出した。 狙いはクロスカウンター……当然ながら、命中すれば半端ではないダメージが乗る。 そして、先に攻撃を命中させたのは…… ドゴォォンッ!! 「デュアアァァァッ!!??」 「セヤァァァァッ!!」 紙一重の差で、メビウスの一撃が先にダイナを捉えた。 ダイナはパワーこそメビウスに勝っているものの、テクニックではメビウスに劣っていた。 ライトニングカウンター・ゼロの直撃を受け、後方のビルへと勢いよく吹き飛び、派手に激突する。 粉塵が巻き起こり、ダイナの姿がその中へと隠される。 今の一撃で、確実に怯んだ筈……倒すならば今しかない。 「ハァァァァァァァッ……!!」 メビウスは右手をメビウスブレスに添え、大きく腕を開きその力を解放する。 その瞬間、∞の形をした光が一瞬だけその姿を見せた。 そして、メビウスは腕を十字に組み、必殺の光線技―――メビュームシュートを放った。 「セヤァァッ!!」 ダイナを殺すつもりはない……だが、手加減して勝てる相手ではない。 そう判断したが故に、メビウスは敢えて全力で挑んだ。 メビュームシュートが直撃すれば、ただではすまないだろう。 今まさに、命中の瞬間が迫ろうとしていた……しかし。 「デュアァッ!!」 「!?」 粉塵を突き破り、蒼白い光線がその姿を現した。 ダイナは怯んでいなかった。 いや、怯んではいたかもしれないが……すぐに復活を果していたのだ。 そして、メビウスがメビュームシュートを放とうとしたのを感じ……とっさに同じ行動を取っていたのだ。 ダイナ必殺の光線―――ソルジェント光線。 両者の光線が、空中でぶつかり合った。 威力は互角……両者共に、鬩ぎ合っていた。 「クッ……ウオオオオォォォォォッ!!」 「ハアアァァァァァァァァァァァァァッ!!」 二人は光線に全力を注ぎ込み、相手に打ち勝とうとする。 光線の勢いは強まるが……それでも互角。 このままでは埒が明かない。 そう思われた……その瞬間だった。 二つの光線が、鬩ぎ合いに耐え切れなくなったのか……爆ぜたのだ。 強烈な爆発が起こり、メビウスとダイナはその余波で大きく吹き飛ばされる。 「グゥゥッ!?」 「ガハッ!?」 二人は建造物を三つほどぶち抜き、四つ目にぶち当たったところでようやく止まった。 どうやら、光線の破壊力は相当なものだったようだ。 しかし、まだカラータイマーの点滅にまでは至っていない。 戦いを継続する事は十分可能……そう判断するやいなや、二人は勢いよく空へと飛んだ。 守るべき一線がある……この戦いは負けられない。 二人が、眼前の敵を打ち倒すべく攻撃を放とうとするが……その時だった。 「ん……これは!?」 「凄いエネルギーだ……これが、なのはちゃんの……!!」 膨大なエネルギーが、一点―――なのはのいる場所へと集中しつつある。 それを感じ取った二人は、思わず彼女へと顔を向けてしまった。 なのはは既に、スターライト・ブレイカーの発射態勢に入っていた。 レイジングハートが、発射までのカウントダウンを読み上げている。 「Ⅸ、Ⅷ、Ⅶ……」 「あいつ、魔力を収束させているのか……!? くそ……何かは分かんねぇけど、止めなきゃやべぇ!!」 ヴォルケンリッター達も、ダイナ同様に収束されつつある膨大な魔力に気づいた。 一体なのはが、これだけの魔力を使って何をするかは分からない。 単純に攻撃を仕掛けるつもりなのか、結界を破壊するつもりなのか―――どちらにせよ、嫌な予感がする。 皆がそれを阻止すべく、奇しくも同時に動こうとした。 しかし……当然ながら、その行動は阻まれる。 ダイナはメビウスに、シグナムはフェイトに、ザフィーラはアルフに、ヴィータはユーノに。 行く手を阻まれ、彼等は歯がゆい思いをしていた……かのように、思われていた。 だが、事実はそうではない。 何故なら――― 「補足完了……!!」 なのは達に存在を知られていなかった伏兵―――シャマルが、ヴォルケンリッター側にはいたからだ。 クラールヴィントの二本の糸が、空中で円を形取る。 そしてその内部に出来上がった空間へと、彼女は勢いよく手を入れにかかった。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「そこだ……!!」 シャマルが行動を起こそうとした、まさしくその瞬間。 レイジングハートのカウントダウンが、残りⅠとなったのと同時だった。 黒尽くめの男が、勢いよく掌を突き出し……ガディバを解き放った。 ガディバは真っ直ぐに、なのはの背後から凄まじいスピードで接近する。 当のなのはは勿論、他の者達もそれには気づかない……いや、気づけないでいた。 そして、なのはがスターライトブレイカーを放とうとしたその時。 シャマルが、手を突き入れたその時。 ガディバはなのはの体内へと侵入を果し……そして。 「え……!?」 「あっ……しまった、外しちゃった。」 突然、なのはの胸から一本の手が生えた。 クラールヴィントを通じて、シャマルの手が彼女を突き破ったのだ。 とはいっても、なのはには肉体的なダメージはない。 シャマルの目的は、それとは別にあった。 彼女は狙いが外れたのを感じ、すぐに手を入れなおす。 直後、その手には赤く煌く光球が握られた。 これこそが、魔道士にとっての力の源。 その者が持つ魔力の中枢―――リンカーコア。 「リンカーコア、捕獲……蒐集開始!!」 シャマルはもう片方の手を、闇の書へと乗せた。 その瞬間……白紙だった筈の書物のページに、文字が次々に浮かび上がり始めた。 10ページ、いや20ページぐらいは一気に埋まっただろうか。 それに合わせて、なのはのリンカーコアが収縮をし始めていた。 (魔力が……吸い取られていく……!?) なのはは、リンカーコアの正体は知らない。 しかし、今の自分に何が起きているのかは、十分に理解できていた。 魔力が失われつつある―――吸い取られつつある。 このままではまずい。 全てが無駄になるその前に、やらなければならない―――なのはは、精一杯の力を振り絞った。 その手のレイジングハートを、勢いよく振り下ろす……!! 「スター……ライト……!! ブレイカアァァァァァァァァァァァァァァッ!!」 桜色の光が、砲撃となって撃ち放たれた。 メビュームシュートやソルジェント光線すらも上回る破壊力を持つ、強烈な必殺。 それは、海鳴市を覆い隠していた結界に直撃し……見事に風穴を開けた。 結界が崩壊していく……なのはは、結界の破壊に見事成功したのだ。 とっさにシャマルは、手を引っ込めた。 そして、それと同時に……なのはは地に膝を着き、そのまま前のめりに倒れこんだ。 「なのはぁっ!!」 『結界が破壊された……!! 離れるぞ!!』 『心得た……!!』 『うん……一旦散って、いつもの場所でまた集合!! ヴィータ……アスカさんをお願い。』 『分かった……アスカ、お前はあたしと一緒に来てくれ。 集合し終えたら、全部改めて話すから。』 『……うん、分かった。』 結界が破られた以上、時空管理局の更なる介入は確実。 ヴォルケンリッター達は、早々の撤退を決め込んだ。 事情をいまいち飲み込めていないダイナは、ヴィータについていく形となる。 逃げていく彼等を追いかけようと、とっさにメビウスも動くが…… 「待ってくれ……どうして、こんなことを!!」 「メビウス……ハァッ!!」 ダイナは二発目のソルジェント光線を、後方へと振り返り発射した。 とっさにメビウスは、メビウスディフェンサークルで防御をするが……耐え切れずに吹っ飛んだ。 その隙を突き、彼等はそのまま戦域を猛スピードで離脱していった。 完全に……逃げられてしまった。 「どうして……同じ、ウルトラマンが…… そうだ、なのはちゃん!!」 「アルフ、アースラに連絡急いで!! 早くなのはを!!」 「分かってる、もうやってるよ!!」 すぐさま皆が、なのはの元へと駆けつけた。 メビウスは着地すると同時に、変身を解き元のミライへと戻る。 なのはは完全に意識を失っている。 ユーノが回復呪文で応急処置を施してはいるが、これで元通りには流石にならない。 フェイトとアルフがアースラにすぐさま連絡を入れ、医療班を寄越すよう要請する。 自分達の、完全な敗北……そうとしか言えない結果であった。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「それで、皆……」 「アスカさん、隠してごめんなさい。 でも、アスカさんを危険な目にあわせるわけにはいかなかったし……」 しばらくした後。 海鳴市から離れた人気のない場所で、ヴォルケンリッター達は再集合を果していた。 その後、ヴォルケンリッターはアスカへと、自分達の事情の全てを説明した。 自分達は、闇の書の意思によって作り出された守護プログラムだと。 闇の書の主を守り抜くことこそが、自分達の役目であると。 そして、主を―――闇の書に蝕まれつつあるはやてを助ける為に、自分達は戦っていると。 リンカーコアを蒐集し、闇の書を完成させればはやては回復するかもしれない。 少なくとも、病の進行を止める事は十分に可能である。 主の未来を血に染めない為に、命を奪いまではしない。 だが……主を助ける為ならば、如何なる茨の道をも進んで歩もう。 そんな強い覚悟の上で自分達は行動していると、ヴォルケンリッターはアスカに告げた。 「すまないな、アスカ。 我々の戦いに、お前まで巻き込んでしまう形になって。」 「いや……それは構わないよ。 そういう事情があるんなら……いや、事情云々じゃなくて、皆を助けたいから俺は戦ったんだし。 ……俺の事も、話さなくちゃいけないな。」 騎士達が全てを話してくれた以上、自分には事情を話す義務がある。 そう判断したアスカは、隠していた全てを話すことにした。 これまで度々話題に出していたウルトラマンダイナとは、実は自分自身であると。 ふとした切欠でダイナの力を手に入れ、ずっと悪と戦い続けてきたと。 暗黒惑星グランスフィアとの最終決戦後、ブラックホールに飲み込まれ、そしてこの世界にやってきたと。 話せることは、何もかもを話したのだ。 全てを聞かされたヴォルケンリッター達は、やはり驚きを隠しきれないでいる。 驚くのは、無理もないだろう……アスカもそう思っていた。 そして、この次に騎士達がどう質問してくるかも……大体想像がついていた。 「どうして……正体を隠していたんだ?」 「確かにあれだけ強い力があるのなら、不用意に明かせないのは分かるが……」 「目立ちたがりのお前にしちゃ、なんかなぁ……」 予想通り、騎士達は正体を隠していた理由について聞いてきた。 これに対しアスカは、少し間を置いた後に答える。 かつて自分の正体に気づき、そして同じ問いをしてきた仲間達にしたのと……同じ答えを。 「俺、確かに目立ちたがり屋だけど……それ以上に、照れ屋なんですよ。」 「……」 「………」 「……今の答え、変だった?」 「……はは。 いや……お前らしいよ。」 「ったく……しょうがねぇ奴だなぁ。」 アスカの答えは、予想を大幅に裏切ってくれた。 これに対しヴォルケンリッターは、流石に苦笑するしかなかった。 どんな深刻な理由があるのかと思ったら……アスカらしい理由である。 しかし……彼等の笑みも、すぐに消えた。 お互いの事を話し合った以上、今後は互いにどうするのかを話さなければならない。 もはや、今までどおりというわけにはいかないのだ。 しばらくの間、五人とも沈黙せざるを得なかったが……アスカが、その沈黙を真っ先に破る。 「……俺は、魔法とかそんなのはよく分からないけど。 闇の書さえ何とか完成させれば、はやてちゃんを助けられるんだよな……」 「アスカ……いいのかよ? この戦いはあたし達守護騎士の総意だけど、お前までそれに……」 「はやてちゃんが危険な目にあってるってのに、助けられないなんて俺はごめんだから。 俺には皆と同じように、戦う力が……ダイナの力があるんだ。 そしてそれを使うのは……きっと今だ。」 「アスカ……」 「だから……これから、よろしく!!」 「……ああ、こちらこそよろしく頼むぞ!!」 アスカの決意は固かった。 この世界にきて天涯孤独の身であった自分を、彼等は家族として扱ってくれた。 自分の大切な家族である者達を、この手で助けたい。 ダイナの力は、大切な人達を助ける為にあるのだ。 それを振るうチャンスは、正しく今である。 アスカは強い決意を表し、真っ直ぐに拳を突き出す。 それに合わせ、ヴォルケンリッター達も己の拳を合わせた。 この時アスカは、新たなる騎士となった。 はやてを守るためにその力を振るう、5人目のヴォルケンリッターとなったのだ。 「あ……そういえば、聞き忘れてたけど。」 「ん?」 「アスカ、あのメビウスって言うウルトラマンの事は何も知らねぇのか?」 「あいつか……ああ、ごめん。 俺もあのウルトラマンの事は、何も知らないんだ。」 メビウスの正体に関しては、アスカが一番気になっていた。 彼が知るウルトラマンは、己を除けばたった一人―――ウルトラマンティガだけである。 一応、異星人が変身を遂げたニセウルトラマンダイナや、人造ウルトラマンの様な存在もいるにはいる。 だが……メビウスは、明らかにそんな紛い物とは違う感じがした。 ティガやダイナと同じ、本物のウルトラマンである。 しかし、アスカが知らないウルトラマンがいることに関しては、大した不思議はない。 元々ティガやダイナの力は、ある遺跡の中に、彼等の姿をした石像と共に眠っていた。 その遺跡には、他のウルトラマンらしき者達の石像もあったのだ。 もしかするとメビウスは、そんな別のウルトラマンなのかもしれない。 少なくとも、アスカはそう考えていた。 「多分、あいつとはまた会う事にはなるだろうけど……その時に何か分かるかもしれないな。 この世界に俺以外のウルトラマンがいること自体、おかしいんだし。」 「そうだな……おかしい、か。 そういえばシャマル、さっきリンカーコアを捕獲しようとした時に、失敗していたな。」 「お前にしては、随分珍しいミスだな。 捕獲を失敗した事など、これまで一度もなかったというのに……」 「うん……手を入れたときに、何か妙な違和感があったの。」 「違和感?」 「リンカーコアとは別の、何かがあの子の中にあったような感じがしたの。 でも……気のせいだったかもしれないわね。 今考えてみたら、アスカさんの事でちょっと戸惑ってたし。」 「そうか……無理はしないでくれ。 もしも体調が優れないようならば、すぐにでも言ってくれ。」 「ええ、分かっているわ。」 シャマルが捕獲を失敗したという、これまでにないミス。 それに、ヴォルケンリッター達は少しだけ不安を感じていた。 だが、どんな人間にも100%はありえない……失敗は十分に起こりえる。 今回の失敗は、たまたまその僅かな可能性に当たっただけだろう。 シャマル自身も、アスカの変身により少しばかり戸惑っていたからだと言っている。 その為、皆もこの話題に関しては打ち切る事にした。 しかし……この時、誰が予測しただろうか。 闇の書の中には、今……彼等も知らぬ、未知の存在があることを。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「上手くやったようだな……」 「ああ……予定より少しばかり早くなってしまったが、問題はない。」 結界が消え、元通りとなった海鳴市。 その一角で、黒尽くめの男ともう一人―――仮面をつけた謎の男が対峙していた。 敵対しているという風な感じはなく、どちらかというと協力者同士の様な印象が強い。 「あの魔道士を介して、私は切り札を闇の書に送り込んだ。 本来ならば、予め憑依させておいた生物を蒐集させる事で、憑かせるつもりだったが……」 「綱渡りな方法であったとはいえ、結果的に成功した。 成果は得られたのだから、それで十分だ。」 「ああ……万が一の際には、これで力を押さえ込むことが可能だろう。」 「……すまないな、助かる。」 「気にするな……我々とて、闇の書によって同胞を失った。 あれを止めようと願う気持ちは同じだ……」 黒尽くめの男は、懐から一枚のカードを取り出した。 それは、起動前の形態を取っているデバイスだった。 黒尽くめの男はそれを、仮面の男へと確かに手渡す。 「約束の品だ、受け取ってくれ。 我等の技術を結集させて作り上げた……性能は保証しよう。」 「ああ……これから我等は、闇の書の完成を急ぐ。 万が一の時は、そちらに任せるぞ。」 「分かった……お互い、気をつけるとしようか。」 仮面の男はデバイスを懐にしまい、そしてその場から姿を消した。 場に残された黒尽くめの男は……一人、笑っていた。 仮面の男を嘲笑するかのように、確かな笑みを浮かべていた。 「そう……気をつける事だな。 我々は暗黒より生まれ、全てを暗黒へと染める悪魔……そんな我等と、貴様達は手を組んでしまった。 御蔭で、どの様な結末になってしまうのかも知らずになぁ……」 全ては悪魔の筋書き通りだった。 唯一イレギュラーがあるとすれば、やはりそれはダイナの存在である。 未知数の力を持つウルトラマンが相手なだけに、全く今後の予想がつかない。 だが……それでも、問題はない。 何か厄介な事態が起ころうものならば、強引に修正するだけである。 全ては……力を手にし、光をこの世より消し去る為。 「ふふふ……はははははははは……!!!」 戻る 目次へ 次へ
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マクロスなのは 第16話『大宴会 前編』←この前の話 『マクロスなのは』第17話「大宴会 後編」 パンを土産に戻ってから5分ぐらいの時が流れた時だった。 アルトが何気なく舞台を見ると、なんとフラフラのなのはが舞台に立っているではないか。そして彼女は更に恐るべきことを宣言した。 『54ばん、高町なのはぁ!暑いので、脱ぎまぁ~す!』 「「「うぉぉぉぉ!」」」 会場に木霊する男(野獣)どもの歓声。対照的に会場の半数は女性のため一斉に引いた。 そんなことお構いなしにまず茶色を基調とした地上部隊の制服の上着に手を掛けたなのはは、それを脱いでスルリと床に落とす。 酒の力で色気の加わったなのははもうすでにR指定レベルだ。 (あのバカ野郎・・・・・・!) 呆然として動けないリンディなどを尻目に大急ぎでメサイアに換装する。 「メサイア!モード2リリース、EXスーパーパック装備!」 「Yes sir.」 EXギアのエンジンと主翼の付いた機関ブロックが、VF-25のファイター時の胴体そのままの形へと変形。それは1.5メートルほどに拡大される。そして新たにVF-25のFASTパックに酷似したブースターが主翼に生成された。 なのははすでにカッターとタイツのスカートのみだ。首筋のリボンが外され、カッターのボタンが外されていく。 アルトはブースターによって初期加速なしで緊急離陸すると、下界を睥睨(へいげい)する。 すると人混みの中にフェイトとはやてを発見した。2人は乱心した親友を救おうと男達の群れを掻き分け急行していた。 しかしなのはの最終防衛ラインであるボタンは残り少なかった。 (間に合わねぇか!) 決断したアルトはリニアライフルを生成。魔力を集束する。 「許せよなのは!ディバイン・・・・・・バスター!」 なのは直伝の魔力砲撃はあやまたず師匠に殺到した。 非殺傷設定の魔力の奔流は直撃すれば気絶するに足る出力だ。3秒に渡って照射された魔力素粒子ビームは彼女を完全に覆い隠し 「少しは容赦すべきだっただろうか?」 と一瞬頭をよぎるが、それは完全に無駄になった。 眩いばかりの青白い魔力砲撃が過ぎ去った後には、手のひらをこちらに向けたなのはの姿があった。 日頃の修練の賜物だろう。彼女は反射的に魔力障壁を展開。こちらの砲撃を受け流したようだった。 「なんちゅう奴だ!」 しかしそれで時間が稼げたようだ。フェイトとはやてが壇上に乱入して彼女を舞台袖に引きずり降ろしたのだ。 しかし男どもの理不尽な怒りの矛先は邪魔したアルトに向けられた。 「「「このバカ野郎!!」」」 集中するオーバーA~Bランククラスの対空砲撃。 その火線の数は100を超えていたとも言われている。 「おい!待て・・・・・・!」 呼びかけつつ必死に回避する。しかし脱出しようにも天井は不可視のシールドで閉まっているため脱出できない! 逃げあぐねていると、遂に砲撃の1発が左翼のEXスーパーパックのブースターに命中。それを貫いた。 アルトは迷わずブースターを緊急パージし、それに向かってミッドチルダ式の魔力障壁を展開する。 するとそれは時をおかず爆発。直後衝撃が襲うが、なんとか受けきった。 シールドを展開していなければ危なかっただろう。 (貫いたってことはこの砲撃は殺傷設定!?間違いない・・・・・・・アイツらこっちを殺す気だ!) アルトにバジュラ本星突入作戦でも感じなかった死の恐怖が襲う。 ランカの歌も助かるための手の1つだが、今歌えば魔力で飛ぶ自分はまっ逆さまだ。 なぜなら周囲が味方のつもりだったので全員IFF(敵味方識別信号)が味方であり、キャンセル対象なのだ。 そのためSAMFC(スーパー・アンチ・マギリンク・フィールド・キャンセラー)をアルトのみに作用させるのは現行不可能だった。できたとしても設定変更に1分以上はかかるだろう。 アルトが (もはやこれまで・・・・・・) と観念しかけた時、舞台に誰かが上がった。同時に聞こえる金髪の長髪が映える彼女の声。 『55番、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン!歌います!』 深呼吸、そして───── 〝遥か空響いてる 祈りは 奇跡に─────!〟 その歌声に弾幕は、止みはしないが1割ほどに弱まる。 アルトはその隙に地上に降下し、着地と同時にランカへとAMFの発生を要請した。 ピタリとやむ砲撃。会場は歌声に包まれた。 舞台に視線を移すと、フェイトがメインボーカルを。ランカが引き立てのコーラスをと、一緒に歌っていた。 (・・・・・・どうやら後で礼を言わなきゃいけなそうだな) 苦笑しながらメサイアを携帯形態であるイヤリングに戻し、手近の椅子に座った。 澄んだ2人の歌声が会場を駆け抜けていく。 フェイトから紡ぎ出されるどこまでも素直な言葉。 そんな力強い歌声にアルトの奥底で眠る衝動が、〝不屈の羽(つばさ)〟を持った彼を動かさんとしていた。 (舞台が・・・・・・俺を呼んでいる・・・・・・!) しかしアルトは必死にその衝動を抑えつける。 (俺は舞台は捨てた!いまさら・・・・・・) だが早乙女〝有人〟という人物に灯っていた永遠の炎は、アルトの深い闇に閉じられた自由の扉を解き放たんと暴れ始めた。 (*) 2人の歌姫の歌によって暴動(?)は終わりを告げ、平和が戻った。しかし、それでアルトの試練が終わったわけではなかった。 (*) 「予定通りだな?」 ミシェルの確認に問われた天城は 「会は順調ッスよ」 と応じる。 「しかし本当にやってくれますかね?」 「大丈夫。あの〝お姫様〟が舞台を前にして黙ってられるもんか。いざとなれば無理やり引きずり出してやる」 ミシェルは眼鏡を外すと、彼の言うお姫様をスナイパーの目で狙った。 (*) 昼頃始まった宴会は佳境に突入している。 舞台上の隠し芸大会も100番を超え、参加者は管理局局員だけでなく、報道関係者やさっきの『古河パン』の店主も出ているほどだった。 特に店主を中心とした商店街プレゼンツの演劇はなかなかうまく、こういうことに関しては辛口なアルトでさえ拍手を送っていた。 「演劇最高ぉぉー!」 司会に 「一言お願いします」 と言われて店主が叫んだセリフがアルトの頭をぐるぐる回る。 最近、自分が有名な歌舞伎の家の跡取りであるということを周囲が知らないため、意識してこなかった命題が再び浮上した。 (やはり俺は、演じることをやめられないのか・・・・・・) アルトの脳裏に1年以上前の記憶が呼び覚まされる。 『あなたは演じることをやめられない。あなたは舞台(イタ)から逃げられない。あなたは生まれながらの役者だ』 『今もあなたは演じ続けている。親に反発して、パイロットを目指す青年という役を!』 これは兄弟子であった早乙女矢三郎が、自分に家に戻るよう言ったときの言葉だ。 そのとき家に戻らなかったことを後悔はしていない。しかしその言葉はアルトの脳裏に焼きついて離れなかった。 目の前の舞台が呼んでいる気がする。それはこの言葉の証明ではないか? また、演じていることを忘れて演技することにその極みがある。だから、自分という観客を自分という役者が騙しているのではないか?と指摘するこの言葉も的を射ているかもしれない。 (俺は本当は、舞台に立ちたいんじゃないか) パイロットという役職に舞台など不要。だから俺はそう演じているのだろうか? その時、先ほど出場を断った時のフェイトの表情が彼の脳裏を過った。 (そうかあの表情、どこかで見たかと思ったら・・・・・・ありゃ俺だったんだ・・・・・・そうだ!俺は舞台が─────!!) その瞬間、肩を叩かれた。 「ん? ・・・・・・天城か。司会はどうした?」 「はい、実はお願いがありまして」 「・・・・・・なんだ?」 「実は―――――」 その申し出は、願ってもないことだった。 ―――――――――― (*) ちょうど150番の人が終わった時だ。 『皆さん、隠し芸大会を楽しんでますか!?』 天城の呼び掛けに賛否両論の応答が飛ぶ。 『そんな隠し芸大会も時間の関係上、次がラストとなります。申し訳ありませんが、ラストを飾る人は実行委員会で決めさせて戴きました。では、よろしくお願いします!』 天城が大きく頭を下げ舞台袖に退く。代わりに出てきたのはフライトジャケットを着たアルトだった。 大ブーイングの中、彼は舞台上で一礼すると舞台袖に合図した。 次の瞬間スポットライトが彼に当たり、その服と顔にホログラムの振り袖と化粧を施した。 彼の頭上にテロップが流れる。そこには『第97管理外世界・狂言 青邸稿花彩画 浜松屋の場』と書かれていた。 「言ってざぁ聞かせやしょう!」 アルトの第一声。 観客はその一言でアルトの世界に引き込まれ、身動き1つ出来なくなった。 「浜の真砂(まさご)と五右衛門(ごえもん)が歌に残せし盗人(ぬすっと)の種は尽きねえ七里ヶ浜(しちりがはま)─────」 アルトの演技、台詞の韻律の美しさ、そして何よりひとつひとつの動作から伝わってくる張り詰めた緊張感と様式美に、 観客は魅了された。 この浜松屋の場は、有名な歌舞伎の演目のひとつだ。 この幕はまず武家の娘が嫁入り支度と言って呉服屋に来るところから始まる。 しかしその娘は「店の物を万引きした!」と店員に誤認され、そろばんで額を叩かれてしまう。 事実確認の結果、誤認と認めた店は、「十両で手を打ってくれないか?」とお願いする。しかし娘の連れの男が納得せず、皆の首を切って自分も切腹すると言い出す。 交渉の末百両で手を打つ事になり、その額を受け取った2人は引き上げようとする。 だがそこで店の奥から侍が出てきて 「その娘は男だ!」 とすっぱ抜いてしまう。 初めはしらをきっていた娘だが、二の腕の刺青が見つかり遂にシッポを出す。 冒頭の台詞は正体のバレた娘が弁天小僧菊之助に変身する際に言う名シーンだ。 しかし、観客にはそんな予備知識はない。それどころか古代日本語は半分も理解できないだろう。だがアルトの演技にはそれでも強く引き付ける力があった。 「─────ここやかしこの寺島(てらしま)で、小耳(こみみ)に聞いた祖父(ジィ)さんの、似ぬ声色(こわいろ)で小強請(こゆすり)騙り(かたり)・・・・・・名(な)せぇ所縁(ゆかり)の!」 振り袖の片袖を脱いで刺青の描かれた右半身を露出させ、高らかに宣言する。 「弁天小僧、菊之助たぁ、俺がぁことだ!!」 彼は全身を使って威圧するように大見得を切った。 鍛え抜かれた彼の肺活量は5000ccをゆうに上回る。そのすべてを吐き出した大声は轟音となってドーム内の観客たちの耳を、腹を直撃した。 次の瞬間、文字通り魔法のように衣服と化粧のホログラムが解除。彼はただの早乙女アルトに戻った。 だが誰一人身じろぎひとつしない。いや、できないのだ。服装などの要素がなくても、アルトはそれほどのオーラを放っていた。 アルトが頭を下げる。 それを合図にようやく魔法が解けたように観客を緊張の糸から解放。観客はランカやフェイトレベルの満場の拍手を彼に送った。 (*) まだ隠し芸大会の余韻から覚めきっていない20分後。 壇上にはレジアス中将の姿があった。 「─────であるからして、これからも管理局のために粉骨砕身、頑張ってもらいたい」 今、ステージ前の机は残さず片付けられ、空戦魔導士部隊やフロンティア基地航空隊などの局員300人が部隊ごとに整列している。 レジアスは各部隊を見渡すと続ける。 「また、1週間後にホテル『アグスタ』にて、ロストロギアも扱う大規模なオークションが行われる。この時、このロストロギアの反応をガジェットどもが探すロストロギア〝レリック〟と誤認して襲撃してくる可能性がある。そこで我が地上部隊は大規模な防衛網を敷く予定だ。その時が初めての魔導士部隊、バルキリー隊の正式な合同作戦になると思うが、心してかかってくれ。以上だ」 レジアスは一斉に敬礼する局員達に返礼すると、舞台から退き、同時に会はお開きとなった。 ちなみにこの時なのははまだ休憩所で酔いつぶれていたという。 (*) 「お前の差し金だったのか?ミシェル?」 各員が散開していくなか、ミシェルに問う。 天城から隠し芸大会への出場要請があったとき、1,2もなく了解してしまっていた。 しかしこの世界で自分が歌舞伎役者であることを知っている者は、ミシェルとランカしかいない。そして自分自身ほとんど話したことはない。となるとミシェル以外考えられなかった。 「さぁな。だとしたらどうする?」 「・・・・・・ありがとうな。おかげでよくわかったよ。俺は舞台が好きなんだって」 ミシェルはこちらの素直な感謝の言葉に面食らったようだ。一瞬彼の本当の笑顔が垣間見えたが、すぐに眼鏡を掛け直すようにして〝仮面〟をかぶり直した。 「・・・・・・そうか。だがこれからも安心して背中を任せられる早乙女アルトであってくれよ。」 ミシェルはそう言うと離れていった。 (*) 「アルトく~ん!」 ミシェル達と共に野外に駐機したバルキリーを取りに行こうとしたアルトに、特別待遇だったランカが手を振りながら近づいて来る。 そんな2人に、周囲の残っていた宴会関係者は 「そうゆう関係なんだ・・・・・・」 という顔をして散開していった。 (おいおい、また勘違いされたじゃないか・・・・・・) アルトはため息をつき、茜色に染まっていく空を見上げた。 そこにはまだ〝こうゆう〟問題を避けて〝空だけ〟を見ていたいと思う青年がいた。 そんな青年に彼の金髪の友人は 「まったく、姫は・・・・・・」 と小さく呟き、深くため息をついたそうな。 ―――――――――― 次回予告 実施される地上部隊初の三位一体の防衛作戦 そこに侵攻してくる敵 対立を眺める2人の存在 果たして彼らの真意とは? 次回マクロスなのは第18話「ホテルアグスタ攻防戦 前編」 「いよっしゃあ!どんどん来い!」 ―――――――――― シレンヤ氏 第18話へ
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魔法少女フルメタなのは 第四話「wake from death」 宗介達の歓迎会からしばらく経ったある日。 フォワードメンバーの訓練が一区切りついたという事で、その日は丸一日の休日となった。 スバル・ティアナ・クルツはバイクで、エリオとキャロはモノレールで町へ向かうらしい。 ちなみに宗介は隊舎の近くで釣りをする為、一人出かけずに残った。 釣糸を垂らし、間に読書していると、スバル達からの通信が入る。 「相良さ~ん、そっちはどうですか~?」 「問題ない。ここはなかなか良い場所だ。すでに何匹か釣り上げた。」 「オメーも一人じじくさい事してねーで、一緒に来りゃ良かったのによ。」 「特に用事も無かったし、読みたい本もあったのでな。休みの日はやはり釣りか読書に限る。」 「ほんっとにオメーはじじむさいな…他に何かねーのかよ?」 「まぁいいじゃないですか。相良さん、帰る時にお土産買っていきますけど、何か欲しい物とかあります?」 「いや、特に希望はない。」 「じゃあ何か見繕って買っていきますね。それじゃ、また後で。」 「ああ。」 そして通信は切れた。 「平和だな…」 宗介は何気なく呟く。 元の世界で紛争や革命の火消し役として世界中を飛び回っていた宗介にとって、今こうして静かに過ごす時間は極めて貴重なものだった。 穏やかで何もない日が無い訳ではなかった、多忙で命懸けの日々と比べれば、それは束の間の休みにしか過ぎず、それ故宗介は一人静かに過ごせる時はこうして釣りと読書を行い、短い時間をより充実させているのだ。 しばらく釣りを楽しんでいた宗介はふと元の世界の事を思い出す。 (大佐殿…息災でいるだろうか。帰ったら怒らせた事を謝らなくては… カリーニン少佐…あのボルシチの味も今では懐かしいな。…二度と食う気はないが。 マオ…帰ったらまたどやし付けられるな。それで帰還祝いでまた朝まで酒盛りだろうな…) そして、やはり思い出すのは… (千鳥、今君はどうしているだろう…) 宗介の大切な女性、千鳥かなめの事だった。 だが、かなめの事を思い返す宗介の表情は暗かった。 はやては元の世界を探してくれると言ったが、管理局も把握しきれていない無数の世界の中から、特定の世界を探すというのは容易な事ではなく、長い時間を要するのは確実だったからだ。 (千鳥、俺は…) 宗介はそんな落ち込んでいる自分に気付き、浮かんできた不安を払拭する。 (何を考えているんだ、俺は。結果も出ていないのに諦めるのは早過ぎる。) 宗介は空を見上げ、心に新たに誓う。 (待っててくれ千鳥。俺は必ず、君の元に…) そこまで考えた宗介に、はやてからの緊急通信が入った。 曰く、エリオ達が町中でレリックとそのケースを運んでいた女の子を発見、ガジェットの襲撃の恐れがある為、宗介も応援に向かって欲しいとの事。 「なのはちゃん達ヘリで現場に向かわせるから、相良君もそれに同行してや。」 「了解しました。」 十分後、宗介達を乗せたヘリが六課から飛び立った。 ミッドチルダから遠く離れた山岳地帯。 その地下深くに、狂気の天才科学者ジェイル・スカリエッティのアジトはあった。 「ガジェット、及び“新型”は間もなく準備が完了します。」 戦闘機人ナンバー1、ウーノが報告する。 「そうかね。クアットロ達はどうしたかな?」 「そちらも問題ありません。ルーテシアお嬢様も予定の位置で待機されています。」 それを聞き、スカリエッティは不敵な笑みを浮かべる。 「フッフッフッ、よし、後は聖王の器をこの手に…」 その時、二人のいる部屋の扉が開き、一人の男が入って来た。 「ようドクター、随分とご機嫌だな。」 スカリエッティは自分に呼び掛けてきたその男を振り返る。 「やあ君かい。まぁ少しね。それで、私に何か用かね?」 「ああ、デバイスも新しい身体も問題はねぇんだが、訓練室で鉄屑と遊ぶのも飽きてな。暇潰しになる事はねぇかと思ってな。」 スカリエッティの作品を遠慮なく鉄屑と呼ぶその男をウーノは睨み付けるが、男は何処吹く風だ。 「そうだね…丁度今ナンバーズが作戦で町に出ているんだが、それの応援に行ってくれないかい?管理局も気付いてるだろうしね。」 「OKだ。ところで、管理局とやらの人間は殺していいんだな?」 「構わないよ。我々の計画が成就する為の尊い犠牲さ。 転送魔法陣の準備はしておくから、早速向かってくれたまえ。」 「クックックッ、あいよドクター。」 男はそのまま扉から出て行く。 男が出て行った後、ウーノはスカリエッティに話しかける。 「ドクター、何故あんな男をここに置いているんですか?」 「彼の戦闘力には目を見張るものがある。下手すればナンバーズも敵わない位にね。 何より、私と彼は様々な所で共通している“友人”だ。追い出す理由はないよ。」 「あの男は危険です!放っておけば我々に危害を…」 「狂人の考えは狂人が一番分かるのだよ。今すぐ彼が裏切る事はないし、危険な時は相応の処置をするさ。 それより今は作戦が第一だ。集中したまえよ、ウーノ。」 「…分かりました。」 作業に戻るウーノ。 「ククッ、さあ、全ての始まりだ!」 ミッドチルダ都市部。 「来ました!地下と海上にガジェット、それと地上に…アンノウン多数!」 シャーリーが報告する。 「アンノウン?ガジェットの新型って事?」 「いえ、それとはまた別系統のような…とにかく画面に出します。」 そして目の前に表れた映像には、宗介達にとって見慣れた物が映っていた。 「〈サベージ〉!?」 カエルの様な頭部、ずんぐりした胴体は、正しく見慣れた旧型ASそのものだった。 「相良さん、知ってるんですか?」 「俺達の世界の二足歩行兵器だ。元の物よりは小さいが…何故あれがここに?」 「考えるのは後だよ。私達は海上の敵を殲滅するから、スバル達は地下、相良君達は地上をお願い!」 「了解!」(×7) それぞれの持ち場へ移動する隊員達。 デバイスを起動し、やって来る敵を待構えている宗介達は、その合間にスバルの言う人造魔道士についての話を聞いていた。 「聞けば聞く程胸クソ悪くなる話だな。えげつねえ事しやがるぜ。」 「同感だな。」 「しかし何でその人造魔道士とやらがレリックを…っと宗介、お客さんだぜ。」 宗介が前方を注視すると、二十機程の〈サベージ〉が接近していた。 「ロングアーチ、こちらウルズ7。敵機とエンゲージ、攻撃を開始する。」 『ロングアーチ了解。ウルズ6、ウルズ7は敵機を迎撃して下さい。』 「ウルズ7了解。」 「ウルズ6了解だ。さ~て、おっ始めるぜ!」 掛け声を上げ、魔力弾を発射するクルツ。 しかし弾丸は当たる直前で、サベージの発したAMFによってかき消される。 「チッ、AMFを積んでやがったか。そんなら…M9、弾種変更、多重弾殻弾だ。」 『了解。多重弾殻弾』 カートリッジが排出され、ライフルの銃口に多重弾殻弾が精製される。 「食らいなカエル野郎。」 放たれた銃弾はAMFの壁を貫き、見事サベージの胸に命中する。 だが今度は分厚い装甲が貫通を阻み、サベージはすぐに動き始めた。 「クソッタレ、ガジェットより手強いな。 おいソースケ、こいつら以外と…」 宗介に念話で話しかけたクルツは、ラムダ・ドライバを発動した宗介がいとも容易くサベージを破壊する場面を見た。 「こちらは問題ない。そっちはどうだクルツ?」「…あーそーだな、コイツ反則技持ってたんだったな…」 「クルツ?」 「何でもねーよ、早いトコこいつらを潰すぞ!」 「了解だ。」 通信が切れた後、クルツはぼやく。 「ったく、全部テメーらのせいだ…吹きとべこの鉄ガエル!」 イライラをサベージにぶつけるクルツだった。 ミッドチルダ海上。 ここでは現在なのはとフェイトが、幻術と混合した敵の増援に苦戦を強いられていた。 「防衛ラインを割られない自信はあるけど、このままじゃ…」 「埒が明かないね…こうなったら限定解除で…」 そんな二人に、はやてからの通信が入る。 「それは却下や、なのはちゃん。」 「はやてちゃん?」 「二人ともそこから離れてや、今から広域魔法攻撃をするで!」 「はやて、まさか限定解除を!?」 「せや。戦力出し惜しみして被害広げたないからな。 それに見分けが付かない以上、完全に殲滅するしかないやろ?」 「ちょい待ち~、はやてちゃん。」 今度ははやてに対してクルツが割込みをかけた。 「クルツ君!?どうしたんや?」 「限定解除とやらをする必要はないぜ。要は敵が見えりゃいいんだろ?」 「それはそうやけど、一体どうする気なん?」 「俺のM9にはASだった頃の機能が一部残ってる。その中にゃ、データを他の機とリンクさせるって物がある。」 「それで?」 「M9の特殊魔法“妖精の目”の効果と、なのはちゃん達のデバイスをリンクさせりゃ幻影が分かる筈だぜ。」 「そんな事可能なん?」 「今やる所さ。M9。」 『了解。データリンク開始、“妖精の目”を各デバイスに伝達します。』 約十秒後、レイジングハートとバルディッシュに妖精の目の効果が表れた。 「…見える、実体が見えるよ!」 「これならいける、なのは!」 「うん!いっくよー!」 ガジェットの群れに突っ込み、次々に破壊する二人。 「クルツ君、大きに!後で何かお礼するで!」 「マジで!?それじゃあはやてちゃんのキッスを…ダメ?」 「うーん、口はNGやけど、頬にならしてあげてもええよ。」 「うおおおっしゃあああああーーーー!!!」 狂喜するクルツ。欲望に忠実な男であった。 廃棄都市のビルの屋上。 そこで二人の戦闘機人が海上の戦闘を見ていた。 「幻術がばれたみたいだね。」 「そんな、嘘でしょ!?私のシルバーカーテンがもう見破られたっていうの!?」 「多分、あっちに幻影を判別する技術か術者がいるんだよ。」 クアットロとディエチがそれぞれ言う。 「仕方ないわね。ディエチちゃん、ガジェットしが全滅する前にヘリを砲撃よん。」 「それはいいけど、マテリアルまで撃っちゃって大丈夫なの?」 「あれが本当に聖王の器なら、砲撃くらいじゃ壊れないわ。いいから早くして。」 「分かった。IS発動、ヘヴィバレル。」 イメーノスカノンを構え、エネルギーチャージを行うディエチ。 ズドン! 「これで終わりか。」 二十機目のサベージを屠った宗介は、周囲を警戒しつつマガジンを交換する。 「アル、辺りに敵の反応は?」 『今の所はありません。ですが、遠方のビルの屋上に高エネルギー反応を確認。味方のシグナルではありません。』 「何!?」 その時ロングアーチから、現状では最悪の通信が入る。 「ロングアーチより各位、廃棄区画のビルの上に砲撃チャージを確認!目標はおそらく輸送ヘリ!」 (分隊長達はまだ海上、間に合わない…!) そう判断した宗介は、アルに命令を下す。 「アル、緊急展開ブースター!」 『了解。緊急展開ブースター作動』 宗介の背中に巨大な魔力の翼が広がり、同時に表れたブースターが火を吹き出す。 これは魔力を著しく消耗する代わりに、通常の飛行魔法より遥かに高速で飛行出来るという魔法である。 尚、AS時は戦闘機の様に飛び続けるだけだったが、アルがデバイス化した際にヘリの様にホバリングする機能が追加されている。 宗介が飛び立つと同時にディエチの砲撃も発射され、宗介とヘヴィバレルのエネルギーはほぼ同じスピードでヘリに向かう。 (間に合え!!) タッチの差でヘリに辿り着いた宗介はラムダ・ドライバを全開にし、砲撃を真正面から受け止める。 「おおおおおお!!」 砲撃と精神力の壁がぶつかりあい、辺り一面に閃光が走る。 閃光が止んだ時、そこには肩で息をしている宗介がいた。 「ロングアーチ、こちらウルズ7、ヘリは守りきったぞ。」 「相良さん!」 大喜びで答えるシャーリー。 「これより砲撃地点に向かい、犯人を確保する。 「あらら~って、あの能力って…」 「あの男と…同じ?」 「マズいわ、ディエチちゃん引き上げるわよ。」だが退却しようとする二人の足下に、魔力弾が弾痕を作る。 「っ!?」 「スナイパー!?」 「おいたをする悪い娘は逃さないぜ。 宗介、足止めはしとくから、早いとこ確保しろ。」 「了解だ。」 宗介はクアットロ達のいるビルに到着し、腰からショットガン“ボクサー”を引き抜いて言った。 「管理局機動六課だ。お前達を拘束する。」 だが宗介は不意に殺気を感じ取り、反射的にその場から飛び退いた。 ズガガガガガガガガ!! 銃声が響き、たった今まで自分の立っていた場所が穴だらけになる。 「よお~久しぶりだなぁカシムゥ。」 そして宗介は声のした方向を見た瞬間、息をするのも忘れた。 「まさかこの世界でもお前と出会うとはなぁ。運命ってやつを感じねぇか、カシム?」 「何故だ…何故お前がここにいるんだ…」 「おいおい、もっと気の利いた事は言えねえのかよ、感動の再会なんだぜ?」 「何故生きているんだ、ガウルン!!!」 そこにいたのは、宗介が完全にトドメを刺した筈の仇敵、最凶のテロリストガウルンだった。 続く 戻る 目次へ 次へ
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~Prologue~「壊れた日常」 FF8inなのは~Prologue~「壊れた日常」 アルティミシアとの戦いから2ヵ月後。 スコールはSEEDとしての任務を全うしていた。 (これも、愛すべき日常か…) そう思い、現れた敵をG.F.(ガーディアンフォース)で蹴散らす。 「エデン!!!」 そう言って彼はG.F.を召喚し、エデンの技、「エターナルブレス」で敵を消し去る。 ここまではよかった。 だが次の瞬間、彼の日常は、突然変わる。 (…ん?) エデンが彼の中に帰った後、突然エデンのもといた場所に光の渦が出来ている。 そして、彼を、吸い込んでいく―――――― 「なにっ!?」 突然加わった力に逆らえず、吸い込まれていくスコール。 そして意識は、闇の中へ―――――――― そしてそのころ、なのはたちの世界では… 「なんでこう、一度にたくさん出てくるかなあ…」 時空管理局のフェイト・T・ハラオウンは一人つぶやいた。 今回の任務は、突然現れたガジェットの一掃であった。 まずは、目的地に急ごう。そう思って、スピードを上げて目的地にたどり着いた。 でも、彼女は知らなかった。 もう、そこにいたガジェットの3分の2は「彼」によって倒されていたことを―――――― さて、ところ変わってスコールの側。 彼が目覚めたとき、廃棄されたような居住区にいた。 起き上がり、手の中にあるガンブレードを見る。 リボルバー。彼のガンブレードの名前だ。 (それにしても、ここは……どこだ?) 彼がそう思った瞬間、無数のガジェットが襲ってきた。 「!?」 戦いの本能が目覚めたのか、ガンブレードを強く握る。 (味方でもなさそうだ) そう判断した彼は、ガンブレードを握り、ガジェットの群れに突っ込んでいく。 その瞬間から、彼の戦いは始まった。 第一話「start」
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序章『聖者の行進』 聞こえる彼等彼女等の歌 聖なる歌の朗じは響いて その歩みは終わりの先へと続く ● 夜となり、闇となった空はその上下に数え切れない光の群を抱いている。 上部の光達は星、下部の光達は街灯りと人は呼ぶ。 そして街灯りの中央には巨大な白の建造物がある。無数の階層を内蔵した駅ビル、海鳴駅の看板を担う建物だ。 外壁に備えられた大きなデジタル時計が示すのは21時、営業こそ終えているが終電には遠い時間だ。しかし人の姿はどこにも無い。否、それ所かホームに控える電車、駅前のロータリーに停まるバス、その何れもが動いていない。 全くの無人は駅ビルを静寂で包む。しかし、そんな中に一つの音が生まれた。 駅ビルの窓の一つ、それが屋内側から叩かれたのだ。 窓に映るのは女性の人影。人影は幾度か窓を叩き、しかしすぐに走り去った。 引き換えに窓が一面黒くなり、次の瞬間には砕かれた。 破片を屋外へとばらまいたのは、巨体だった。 2メートルは超えようかという巨体。その姿は屋外故に陰って隠されたが、窓を砕いたその腕は見て取れる。腕を覆った灰色の剛毛と、弧を描いた長くて太い爪だ。 そして影が走り去る。その方向は、最初に窓を叩いた女性が走り去った方だ。 ● 誰一人としていない駅ビルの中、一つの人影があった。 大きな楽器ケースを持ち、髪とブレザーを振り乱して走る少女だ。 少女は疾走し、黄色で3階と書かれた表記を横切った。 「・・・2階には、隣のビルへ続く橋がある・・・っ」 息を切らした喉が、呟きによって咳き込んだ。 しかし少女は止まるわけにはいかない。何故なら、未だに何かが自分を追う気配があるからだ。 何なの? ・・・一体何だって言うの!? これはツケだろうか、と少女は思う。三年間、ずっとここを隠れ家にしていじけ続けた自分への。終業を過ぎても帰らなかった自分への。 「帰ろうと思ったら誰も居なくて・・・、警備員のおじさんも・・・駅員のお兄さんも・・・!」 そして出会ったのが、今自分を追う巨躯の影だ。 逃げなければ、と思う。あの影に捕まれば、自分が得るものは破滅だけだ。 眼前、エスカレータが見えた。といっても動きを止めたエスカレータは通常の階段と同意だ。少女は駆け下りていく。目指す2階はもうすぐだ。 そこまで来て、少女は頬に一つの感覚を得た。 「・・・風?」 そよ風と言っても良い、普段ならば快感とも言えるものだ。しかし緊張感で満ちた今の少女にとって、それは危機を知らせる一報だ。 「っ!?」 背に振動を得た。 追い付かれたか、と思ったが、背全体を痺れさせるその感覚はそういったものではない。やがてそれが耳に届くものだと気付いた。 それは、雄叫びだったのだ。肉が痺れ、骨が震え、心が竦むような、獣としての叫び。 「ーー化物っ!」 もはや少女は認めた。非現実的だとして度外視した影の正体を。人を遥かに超える巨体と爪、そして獣声を持つ異形なのだと。 そして、雄叫びが迫った。見えはしない。ただ、巨躯が自分へと躍りかかるのを気配で感じた。 影が迫る中、少女は思った。ごめん、と。だがそれは、ここにいない父へでも母へでも、仲の良い友達や恋する学校の先輩へでもない。 手に持った楽器ケース、そしてその内容物への謝罪だ。 動きは後方へのスイング。ケースを重量任せに振るう一撃だ。 重量と振り子動作による加速、その双方を得た楽器ケースは巨大なハンマーとなって迫る影を打つ。 「ーーーっ!!」 影が抗議に鳴き、楽器ケースの一撃に吹っ飛ばされた。 巨躯はエスカレータのサイドフレームを突き破り、そしてその向こうの吹き抜け空間へと飛び出す。 雄叫びが地下階層まで遠ざかっていくのを、少女はエスカレータを転げ落ちながら聞いた。 階段を駆け下りる途中に背後への重量任せな一撃、それで態勢を維持出来る筈がなかったのだ。 「ーーぐっ!」 どうにか頭を守り、2階の踊り場へと衝突する。 痛みは肩と脇、それに腕が中心となって滲む。足への被害も甚大、転げ落ちる際に段差の角で打ったようだ。 怒られちゃうな・・・ 腕に感じた痛み、それに少女は涙を得る。腕だけは守れ、そう聞かされて育った自分の過去が軋んでいる。 だが、と思う。早く行かなければ、とも。 「・・・橋へ・・・っ」 痛む身を引きずり、少女は歩く。腕を抱え、眉をしかめ、足を引きずり、遅々としながらも歩く。そうしてどうにか辿り着いた連絡橋へ続く出入り口。 それを少女は抜け、再び有り得ないものを見た。それも今度は二つだ。 「猫と、ロボット・・・?」 ● 橋へ繋がる踊り場、そこに出た少女の前には確かにそれがあった。 橋の中程にうずくまる子猫と、それを覗き込む様に立っている巨大な人型機械だ。 銀色に近い鉄の装甲は弧を描いた先鋭形、手足は細長く、単眼の頭部を持つそのフォルムは人型だ。ただし駅ビルの1階に相当する地上部に足を置いて、目線は2階から伸びた橋を見下ろす巨大さだ。 「あ・・・」 その単眼がこちらへと向く。 「・・・や」 足がすくみ、少女はへたり込んだ。 「・・・や、ぁ・・・っ!」 心身が震えて何も出来なくなる。 来ないで・・・っ! もう何も来ないで・・・っ!! もう嫌だ、そんな思いに思考が沈み、 「ーーえ?」 不意の感触にそれが止まった。冷たさと湿気のあるざらついた感覚、それを膝に感じた。 何? なんだろうか、これ以上何が来たというのか。 逆上に近い意思に突き動かされ、少女は感覚を与えた何かがいるだろう膝元を見た。 そこにいたのは、 「・・・猫」 橋の中程でうずくまっていた子猫。それが少女の膝を舐めていた。 いつの間に、という疑問が浮かび、 「・・・さっきロボットがこっちを見たのは、この子が私に寄って来たからで・・・」 子猫が舐めているのは、先ほどエスカレータを転げ落ちた際に得た傷だ。 まるでその傷が早く直ってくれと、そう言うかの様に。 私は・・・もう何も来ないでと、そう思ったのに・・・ この子猫は来た。如何なるものの来訪も拒んだ自分を、助け励ますかのように。 そして猫は面を上げ、少女の顔を見た。 「・・・に」 鳴き声は細く、高く、愛らしいもので。それは幼さと弱さと純粋さを秘めていて。 「・・・っ!」 連れていくと、一緒に助かろうと、少女に決意させた。 少女は子猫を抱き、立ち上がる。足首が、肩が、全身が痛みを訴える。 でも、大丈夫・・・っ! いける、と。 もう泣かない、と。 この支えを得られた自分は、 「・・・もう、負けないっ!」 ロボットの腕が振り上げられたのと共に、少女の立つ踊り場が砕けた。 ● 瓦礫と共に巻き上げられ、少女は浮遊感を得た。 最早痛みは感じない。 ただ漫然と、虚空に浮かぶ事を知覚して。 不意に見えた星空が綺麗だと思って。 「あぁ・・・」 悲哀もなく、感激もなく、ただ感慨を持って声を漏らす。 胸に動作を感じて視線を向ければ、抱えていた子猫があくびを一つ。 緊張感のない子、という感想を抱き、それが支えになったのだな、とも思う。 そして体が上昇を止め、次第に落下を始め、 「ーーもう、大丈夫だよ」 声を聞いた。 誰の? 自分の声ではない。では猫の声か、等と考えて笑った。 今晩だけで、非現実のオンパレードだったものね・・・ 脳まで非現実に侵されたか、と考えながら、 「佐山君、こちら高町。乱入者を確認・・・確保したよ」 「ああ、見ていたよ、高町君」 抱きとめられた感覚に少女は意識を手放した。 ● 「・・・さて」 上空、瓦礫と共に巻き上がった少女が保護されるのを佐山は見た。 身を包む白服と足首から伸びた桜色の光翼は、少女の保護者を夜空に栄えさせる。 その光景に佐山は頷き、 「良い仕事をするね、高町君。・・・自分で撃ち上げた少女を自分で確保、ナイス自作自演だ」 『そ、それは聞き捨てなら無いかなー!?』 意識に響く声、念話を持って高町が抗議した。 『あそこで私が先に踊り場を撃ち抜いてなかったら、この子絶対に死んでたよ!?』 そう、佐山は見ていた。ロボットの腕が少女のいる踊り場を砕くより先に、高町が砲撃が打ち込んで少女を吹き飛ばし、致死の場所からずらしたのを。 もしなのはがそうしなかったら、少女はロボットの腕に引き裂かれていただろう。 「だから褒めているのではないかね。さすが高町なのは、時空管理局の白い悪魔だ」 『あ、それ禁句!! そこに降りたら痛い目見せるからね!?』 「・・・やはり悪魔ではないかね。それよりも、君より先に彼によって私は痛い目を見そうなのだが」 眼前、巨躯のロボットが動いた。 その質量に反比例した俊敏な動作は即座に腕を構え、今度は佐山に向けて腕を振った。 「佐山君ッ!?」 念話ではない、なのはの直な声が聞こえた。 少女を抱えたまま、なのはがこちらに向かってくる。 「何、問題はない。ーー私には、麗しの根性砲撃が控えている」 飛来するなのはに佐山は笑みを持って答える。 そして眼前に腕が迫り、 「我、力を求める事を恐れ・・・」 不意に、佐山の後ろから声が届き、 「ーーしかし、力を使う事を恐れぬ者なり・・・・・・ッ!!」 佐山の背後から閃光が走る。 光速を体現したそれは一直線にロボットへ向かい、その胸部装甲を突き砕いた。 『・・・・ッ』 その勢いにロボットは僅かに身を浮かし、噴煙と轟音を上げて倒れた。 そして佐山の後ろから人影が現れる。現れた人影に、佐山は振り向かない。 「こちら新庄。現在ガジェットドローンⅣ型と抗戦」 やがて人影は佐山の前に出た。 「ーー撃破を完了」 それは一人の女性だった。 黒の長髪を揺らし、白いロングスカートの装甲服を着込んだ少女。その手には長大な機械の杖が握られている。 「嗚呼、新庄君。君の仕事はいつも麗しい」 「そりゃどうも。僕もいつも言ってるよね? あんまり一人で前に出ないで、って」 「これは異な事を新庄君。君を除く愚民共を率いてやる偉大な私が最前に立たずしてどうするのかね?」 「君を最前に立たせたら皆が同類に見られちゃうだろ!?」 「ていうか私は愚民・・・?」 佐山を半目に見ながらなのはが降り立つ。なのはに抱えられた少女を新庄は覗き込み、 「この子が乱入者? 無事かな?」 「うん。・・・逃げる途中で幾らか怪我はしたみたいだけど、大事にはならないよ」 「ああ、それにこの子は最後で再び立ち上がる事が出来た」 少女の胸に居座る子猫は動かない。こちらを見据えるその姿はまるで護衛役だな、と佐山は思い、 「君達も頑張ってくれたまえ?」 砂を蹴るような音がして、無数の影が佐山達を取り囲んだ。 何れもシルエットこそ人型だが、巨躯に剛毛と爪を備えた異形ばかりだ。 「・・・人狼が十。この子を追い掛けていたと同種だね」 佐山は取り囲んだ影、人狼達を見渡す。 「敵の重役が前線で孤立したからって、やる気になってまぁ・・・」 新庄は手に持つ杖を構えた。 「・・・このLow-Gに揃った答えに背く分からず屋は」 なのはは抱えていた少女を下ろし、拳を突き出した。 指が開かれ、その中にあるのは指先程の小さな赤い宝玉。 「ーー頭、冷やそっか?」 瞬間、宝玉より烈波が放たれて人狼達を踊り場から地上部へと突き落とした。 それを見下ろすなのはの手にある物は最早宝玉ではない。手の平程に巨大化した赤い宝玉を先端に備える、金の柄をした機械の杖だ。 「レイジングハート・エクセリオン。ーー神威と世界樹の後継者、高町なのはが相手になるよ」 起き上がる人狼達に、なのはもまた地上部へと飛び降りた。 ● 遠く、戦の音がする。 佐山は音源たる無数の戦場を見た。 眼下では、桜色の光を率いて高町なのはが人狼達と戦っている。 眼前では、槍持つ少年が少女と共に白の翼竜に乗って空を翔ている。 遠くでは、黒の巨大な人影が同じく巨大な人影と格闘戦を展開している。 そして、不意に旋律が生まれた。 隣に立つ新庄、彼女が一つの歌を紡いでいるのだ。 佐山はその歌を知っている。聖者の誕生を讃える歌、清しこの夜の一節だ。 Silent night Holy night/静かな夜よ 清し夜よ Sheperds first see the sight/牧人たる者が初めにこの光景を目にする Told by angelie Alleluja,/それは天使の歌声 礼賛によって語られる Sounding everywhere,both near and far/近く 遠く どこまでも響く声で “Christ the Savior is here”/「救い手たる神の子はここに在られる」 “Christ the Savior is here”/「救い手たる神の子はここに在られるーーー」 歌を聴きつつ、佐山は首元のフォンマイクを取って口を開いた。 「ーーー諸君!」 佐山は右腕を振り、眼前に広がる戦場を見た。 「今こそ言おう。 ーー佐山の姓は悪役を任ずると!」 新庄が笑み、佐山も笑みをもって返す。 「私は今ここに命ずる! ・・・誰も彼も失われるな、と! 何せ世界は有限、誰かが欠ければその分だけ世界は寂しくなってしまうのだから!!」 遠く、轟音が響く。仲間達が相対する敵を負かした音が。 「解るな!? ならば進撃せよ! 進撃せよ! 進撃せよ、だ!! 馬鹿共が馬鹿をする前に殴りつけて言い聞かせろ! ・・・我々の方が断然馬鹿を楽しんでいるぞ、と!!」 佐山の声が響く。 「ーーそれが解ったら言うが良い!!」 「テスタメント!」 答えが返された。 幾十の言葉が、聖書に語られる契約の言葉を持って。 ようし、と佐山が頷いて笑った。酷く楽しそうな、獰猛なまでの喜色で笑む。 「さあ・・・理解し合おうではないか!!」 ● ーーーー話は2年前、2005年の春にまで戻る。 目次へ 次へ