約 2,714,666 件
https://w.atwiki.jp/legends/pages/4954.html
姿を現した両手足が無い、まるでダルマのようにも見える女性に、久信は親しげに話しかけた。 「修実姉、どこかに体ぶつけてない?」 「ありがとう久くん。大丈夫よ」 修実(よしみ) というらしい女性からはあまり大きくはないが、よく通る声で返事がくる。 犬はしばらく不具の女性を見つめ、やがて携帯からはほっとしたような調子で言葉を寄越した。 『よし、二人とも無事だな。じゃあしばらくはこのアパートの部屋を使ってくれ。警察のほうで手を回して手に入れた物件だ。見た目はぼろいし曰く付きの幽霊アパートだが、探知にも引っかからないような細工をしてある。その点は安心しろ』 「ひどい宣伝文句だな」 外から見上げるアパートから住人の気配が感じられないのはその曰くのせいなのだろうか。 ともあれ、どんな曰くのある物件だろうと、追っ手を気にすることなく身を隠すことができる場所というのは今の久信たち姉弟にはありがたい。 「ありがとう昌夫」 『いいさ。事情が事情だしな』 昌夫が明るく応えると、それまでじっと話を訊いていた犬が、やおら立ち上がって背を向けた。 野良生活に回帰するのか、そのまま振り返らずに去っていく犬を見送る久信の耳に昌夫の声が届く。 『ここにあの町の生き残りが逃げてきてるのは確かなようだ。捜索は俺の部署と、あとは俺の犬たちが担当するからお前たちはあまり動くなよ? またさっきみたいなことがあってお前たちがどっかの組織に捕まっちまうと、俺みたいなぺーぺーには口出しもできなくなるからな』 「分かってるよ」 久信の即答に、電話の声は数秒沈黙した。やがて、 『修実のことで必死なのは分かるがな……あんまり無茶をするなよ?』 「ああ、善処する」 『……また連絡いれるから、今日はさっさと休んでおけ』 呆れたように言葉を残して切れた携帯をしまい、久信は修実を背負い直してアパートの敷地に入った。 事前に逃亡生活の用意がされる手はずになっていると聞いた部屋は一階の一番端の部屋だ。そこに行き着くまでに通る一階の外の部屋にはやはり他の住人の気配がない。 よくこれで潰れずにアパート経営を続けていられるな。 あるいは、このアパートを潰すことができないような加護か呪いがかかっているのかもしれない。 こんな物件の存在を認める代わりに、有事の際はこうして隠れ家として使えるように契約してるのかもな。 お互いに傷つけあわずに存在できるということは実にいいことだ。 鍵を開けると、古アパ―トらしい、軋んだ音を立てて扉は開いた。 1Kの部屋の内部にはほとんど荷物がなかった。 作りつけになっている空の本棚を素通りして居間に行くと、中央にはいまどき珍しいちゃぶ台が一つ置いてあった。その上にはダンボール箱が一つ放り出してあり、それらの他には荷物らしきものはない。 久信はダンボールの中に薬缶などの小物と、簡単に食べられる食料が詰め込まれているのを確認する。 「昌夫が警察に手を回して逃亡生活に必要そうな最低限のものは用意してもらったらしいから、とりあえず今日は飢えることはなさそうだ。持つべきものは犬のおまわりさんだ」 「あまり悪口を言ってはだめよ」 背中から窘めてくる姉の言葉に、けど、と久信は返す。 「実際昌夫は俺たと似た憑き物筋で、犬神憑きの契約者じゃないか。しかも警察で仕事中も犬を使う。 こう、まさに犬のおまわりさんって感じがしない?」 「そうだけど、でもやっぱり褒め言葉には聞こえないもの。あまりそういうもの言いはよくないわ」 「そういうもんかな」 久信は修実部屋の内部を見せるように一通り棚や冷蔵庫を開ける。電気や水が届いていることに少し感動しつつ、久信は今に戻ってちゃぶ台の横に配置されていた新品と思しき布団を片手で広げ、その上に修実を下ろした。 修実が付け根から無くなっている手足を動かして布団の上で落ち着くのを待ってから、久信は警察内に非公式に存在する対都市伝説課に中学卒業後すぐ勤め始めた友人のことを思いつつ、話しの続きを口にする。 「アイツの話だと、最近は警察組織の表の方でも上の地位につく契約者がいるらしいよ」 「そうなんだ。ちょうど警察組織ができあがった頃に回帰してきている気がするわね」 たしかに、この国に警察機構が初めて作られた時、一度崩した秩序を再編するまでの時間稼ぎとして、現在都市伝説と呼ばれるような妖物と契約した者たちが多く活躍していたという話は聞いたことがある。 社会がある程度安定してからは、逆に社会を不安定にさせる要因になり得る都市伝説の存在は公の場から消失していたが、どうもここ最近そういう状況にも変化が見られるようだ。 「もしかしたら、そのうち都市伝説課が公然と設置されるのかもしれないな」 もしそうなれば、姉のような特殊な存在も、少しは生きやすくなるだろう。 「そうなったらそうなったで、混乱は起こると思うわよ。そうしたら犠牲は出ずにはいられない。それならこれまで通り、専門家は専門家で別の組織として在ったほうがいいのかもしれないわね」 そうかもしれないし、違うのかもしれない。自分たちのように生まれた時から都市伝説との関わりを続けている者には世の中の大多数の立場になった考えかたはできないことは承知のことだ。 「ともかく、警察もこの程度には都市伝説に対する対処法や協力関係を作れているってことで、いいんだろうな」 おかげで追われている立場のはずの自分たちはこうして力を抜いて休んでいられるのだ。それでいい。それに、久信たちにはそれ以外のことについて考えられるような余裕は今のところない。 あまり悩んでいてもしかたないと言えばしかたないんだけど……。 思いながら部屋に改めて視線を巡らせる。 最低限の掃除をされているだけの部屋は家具もほとんどない。部屋の真ん中に置かれているちゃぶ台とダンボールなどは、余計に寂しさを印象付けている気がした。 目を楽しませて心に癒しをくれるのは修実姉だけだな。 しみじみと修実に目をやっていると、修実は布団の上で傷を隠すように丈が余っている衣服の袖を揺らした。 「あんまり見ないで……ね?」 ほんのり赤く染めた顔で彼女は、こちらもまた付け根から無くなっている足をもぞもぞと動かす。 修実の言葉に弾かれるように、久信は目を逸らした。 「ごめん、そんなつもりじゃなかったんだ」 「……ん、分かってる」 修実は微笑して、傷口が隠れるような位置を確保する。 「ごめんね久くん。お姉ちゃんに付きあわせちゃって。おかげでいろんな組織の人たちに追われることになっちゃって」 「俺は自分で行動するって決めたんだからいいんだ。それに今の状況はほとんどあの事件のせいなんだから修実姉が謝ることなんて何もない」 強めに言って、ダンボールの中からカップラーメンと、湯を沸かすための薬缶を引っ張り出した。 ダンボールの中に詰め込まれていた食料は、その全体量や彩りを考えていない同じ種類のカップ麺を雑多に詰め込んだラインナップから考えて、久信1人用のものだろう。 事前に食料は一人分でいいなんて言っておいたのは間違いだったか。 今更悔んでも後の祭りだ。少し危険ではあるが、明日あたりに周囲を気にしながら追加の食事を見繕うのもありだろう。 修実は今の状態になってから、食事も排泄も不要になっていた。それは一般的な生物とは活動のための燃料からして全く別のモノに変わってしまったということを端的に示しているように久信には思われる。 その変化がいいものなのかどうなのかは分からない。ただ、日常生活を送ることも難しい状態の姉にとっては、煩わしさから少しでも解放されることは悪いことではないだろう。追われる立場にある今となっては買い出しに走らなくてもいいという状態は便利であるともいえる。 楽観的に考えすぎか。 自嘲気味に内心呟く。そう、久信たちは現在、様々な都市伝説系組織に追われる立場にあり、この部屋に辿り着く前に追ってきた黒服のような者たちから危険人物としてマークされ、今は逃げ隠れる身である。 友人である見塚昌夫(みつかあきお)と、彼が勤める警察内の対都市伝説専門の部署の協力がなければ、今頃どこかの組織に捕まっているか、討伐されていたのかもしれない。 「そりゃ面倒な状況になったもんだな、とは思うけどさ。だからって謝らないでよ。それなら俺なんか何度謝ったって足りないんだから」 「……ごめんね、ありがとう」 小さい謝罪と感謝の言葉に頷くだけで応えて、久信は湯気を上げた薬缶の火を止めた。 「何にせよ、気を付けないとな。警察も大っぴらに俺たちを庇えるってわけじゃないんだし」 その理由は久信たち姉弟が追われている理由と同じものだ。 「面倒なことに、追われる理由については何も言い訳できないから」 そう、 「修実姉のせいで町一つが壊滅したっていうのは、結局のところ否定できないってのが性質が悪い」 修実はダルマのような体を小さく震わせて、もの悲しげに眉を曇らせた。 前ページ次ページ連載 - コドクノオリ
https://w.atwiki.jp/legends/pages/1450.html
人肉料理店とその契約者 10 夕暮れ時の町を歩く三人の女性。そのうち若い二人は土埃にまみれていた。 「本日の特訓とゆー名の虐待終了っと……さっさと帰って風呂はいろ…」 「なーにが虐待ぢゃ?まだまだ無駄な動きが多いから余計疲れるんぢゃよ」 「ですが2対1でも敵わないとのは少々ショックでしたね」 年の功ぢゃよ、と答えながら歩く姿は、疲れ一つ見えない。二人を相手にして息も切らさなかったのだ。軽く化け物じみている。 「戦闘経験の差、ですか。殆どの攻撃をいなされましたからね」 「年の功で岩だの丸太だの投げてくんのかよ……あれ?あそこに居るのって……」 「どうしたんぢゃ?」 視界の隅に見覚えのあるヴェールがちらつく。 あれは確か、【爆発する携帯電話】の契約者と一騒ぎあった時に見た姿。 「やっぱあん時の司祭さんか。こんばんはー」 「……?ああ、あの時の。こんばんは。どうしました?そんな泥だらけで」 向こうもこちらに気付いたようだ。しかし流石に全身真っ黒なのを真っ先に聞かれた。 「あ、いやこれは…」 「どうぞお気になさらずに。ちょっとはしゃいでいただけですよ」 「はしゃぐ?」 「まぁ、うちのばーちゃんのちょっとは死に繋がるけどな……そーいえば携帯のにーちゃんは元気?」 あまり続けたい話題でもなかったので話しを逸らす。 だがその問いに驚いたような顔を見せる司祭。 「どしたの?なんかあった?」 「……いや失礼。彼も変わりありませんよ」 「そう?会う度に鼻血噴いてたからさ。ちょっと心配になってなー」 「彼は、あまり女性が得意ではありませんから」 「少年も同じ様なものですよね?」 「やかましいっ!」 オーナーの生乳見てぶっ倒れた事がある手前、下手に笑えない。 ……しかしあれはヤバイ。乳的にも出血的にもヤバイ。流石に心配にもなるというものだ。 「ところで、『携帯』のにーちゃん、と言いましたか……何処で彼の能力を?」 ほんの一瞬、二人に気取られない程度に目を細め、問う。 「あれ、聞いてない?コーク・ロアの契約者、一緒に倒したんだけど」 「…ああ、なるほど」 確かに、二人組の女性に助けられた、と言っていた。その答えに司祭の仮面を被り直す。 「あなた方の事でしたか。ご迷惑をおかけしました。私からもお礼を言わせてもらいますよ」 「いえ、ああいった者を止めるのが、この町に来た目的ですから。気にしないで下さい」 「そーいや、あん時居なかったみたいだし、携帯のにーちゃんと契約してるわけじゃないんだよね? 司祭さんはなんの都市伝説なの?」 「……!」 少年の問い掛けに、マリ・ヴェルテは考える。 …どうしてこの二人は、自分が都市伝説だと知っているのか? 【爆発する携帯電話】の契約者が喋った?……いや、多少面識がある相手とはいえ、彼が仲間の能力を簡単に話すわけがない。 それに、もし知っていればこんな世間話などしていないだろう。 何かしらの都市伝説、と気付いているが、自分が【マリヴェルテのヴェート】だとは気付いていない? ……恐らくは何らかの感知能力。それでどんな都市伝説なのか気になった、といったところか。 (面倒ですね…やりますか?しかし……) 完全に油断している今ならば、仕留めるのはたやすい。 ……だが、周りに人が多過ぎる。 「………」 「司祭さん?」 「何故、私が都市伝説だと?」 「へ?あの、それは……」 「私の都市伝説としての性質のようなものです。ある程度まで近付けば、相手が人か、それ以外なのか判るんですよ」 こちらの緊張が伝わったのか、オーナーが一歩前に出つつ答える。 「気に障ったのであれば謝罪します」 「そ、そうそう!別に無理に聞き出すつもりなんかないから!」 どうやら戦う必要はなさそうだ、とマリ・ヴェルテは思う。 今の姿は善良な司祭。絶好の隠れ蓑なのだ。一瞬で姿を変えられるとはいえ、目立つのはまずい。 なによりも教会から近すぎた。先程からちらほらと見知った礼拝者の顔も見える。 「そうでしたか。申し訳ありませんが、その事は「あたしは気になるねぇ?」……!?」 これ以上詮索される前に、さっさと会話を終わらせて立ち去ろう そう思い話し始めた時、それを阻む者が居た。 「ばーちゃん!?」「ひきこさん?」 マリ・ヴェルテの言葉を遮って放たれた声。 それを発したのは、今まで一言も喋っていなかった少年の祖母だった。 「ばーちゃん!いきなり何を」 「お前さん達はは少し黙っちょれ。今、あたしが話しとるのはこの男ぢゃよ」 そう言って少年を押し退けると、マリ・ヴェルテの二、三歩前で立ち止まる。 「どういった意味でしょう?」 「そのまんまの意味ぢゃよ。あんたが一体何の都市伝説なのか……教えてもらえないかねぇ?」 微笑んだまま、しかし明らかな敵意をもって相対する二人。 「……断る、と言った場合は?」 「さあ?どうなるのかねぇ……」 マリ・ヴェルテのヴェールが揺らめく。 ひきこさんが爪先で間合いを計る。 そしていきなりの急展開に完全に蚊帳の外な二人。 「これは……参りましたね?」 「参りましたね?じゃねーよ!ナニしてくれてんだあのババァ!? あれか?新手の都市伝説【KYババァ】か!?折角丸く治まりそうだったっつーのに!」 「元々好戦的な方だったのではないでしょうか?ひきこさんの挑発にもあっさり乗りましたし。 あと、もう少し落ち着いて下さい?」 「この状況で落ち着けるかっ!?っつか冷静に分析してんじゃねえ!?止めるぞ、あの二人!」 今にも激突しそうな自分の祖母と知り合いを前にして、どうにかして止めようとする少年。 それとは対象的になぜか動かないオーナー。 「いえ、止める必要はないと思いますよ?」 「はぁっ!?何言ってんだよ!早くしないと……!」 そのまま無言で司祭の後方を指し示すオーナー。吊られて少年もその方向に目をやる。 そこには小さな影が迫って来ていた。 「ここでやりますか?」 「いんや、ちょいと人が多いからのぅ。あんたがよけりゃ場所を移したいんぢゃが?」 睨み合ったままじりじりと移動する司祭と老婆。 「ええ、いいですよ。こちらとしても好都合です」 「ほんなら……………………………っ!」 いきなり動きを停めたひきこさんに怪訝な顔をするマリ・ヴェルテ。 …誘っているのかもしれないが、叩き潰してしまえば問題無い。そう思い直し、全身に力を込め――― 「あー!しさいさまだー!」「どこどこ?」 「ほんとだー♪」「あたち、キレイー?」 ―――襲い掛かろうとした所で、場の雰囲気をぶち壊す声が響いた。 僅かに覚えのある、舌足らずな喋り方におもわず足を停めるマリ・ヴェルテ。確かハロウィンの時、教会に来ていた子供達だ。 「しさいさまーごほんよんでー」「あーわたしにもー」 「えーあそびいこうよー」「これでもかー?」 割と予想外の事態に、どうするべきか考えていると、目の前の老婆がいきなり距離を詰めてきた。 「チッ!やる気「どれどれ、このババが絵本でも読んでやろうねぇ♪そっちの子は肩車でもするかの?あ、お嬢ちゃんべっこうアメ食べるかい?」 そのまま、すっ、と横を帰ってり過ぎ子供達へと向かう。その顔には、先程とは違う満面の笑みが浮かんでいた。 「………ちょっと待て」 「なんぢゃ?あんたまだおったんか。ほれ、帰っていいぞい」 「んなっ!?」 あっさりと言い放つ。もはや眼中にないらしい。ぷるぷると震える司祭を尻目に子供達へと向き直る。 「おばーちゃんだれー?」「えほんよんでくれるの?」 「ぐるぐるまー♪」「アメ、ウマー」 「ほっほっほっ、ババと一緒に遊ぼうねー♪」 そのまま子供達を連れて去っていくひきこさん。後に残されたのは呆然とするマリ・ヴェルテと、諦めた表情の身内二人。 「予想通りですね」 「なんか一人ヘンなの混じってなかったか?」 「ナメてんのかてめぇら!?」 「キャラが変わってますよ、司祭様?」 「お、落ち着いて?ばーちゃんの『アレ』はほぼ病気みたいなもんだから……オーナー!司祭さんと教会まで転移!!」 「承知しました」 「ってオイ!ちょっと待t」 なんか言ってた気もするが今は無視。それよりも優先すべき事がある。子供達の救出だ。 「……本読んだりお菓子やるくらいならまだいいよ? 『高い高い』とかいって10㍍もぶん投げられたり、肩車したままムーンサルト(三回転)やられた日にゃートラウマ確定だ……!」 幼少の頃に受けた数々の仕打ちが蘇る。本人は好意からやっているのだろうが、やられた方からすれば恐怖以外の何物でもない。 …しかし問題点はこちらの言うことを素直に聞いてくれるかどうか。祖母の子供好きは、ある意味本能レベルである。 最悪、力ずくで引きはがすしかない……可能かどうかは別として。 「やるしかねーか……」 オーナーが戻って来るのを待っている暇は無い。救助が遅くなる程、子供達の心に傷が刻まれる危険が増える。 溜息と共に歩き出す少年であったとさ。 終 前ページ次ページ連載 - 人肉料理店とその契約者
https://w.atwiki.jp/legends/pages/2340.html
新聞部の活動から 私達を追わないで 私達を見ないで どうか どうか お願いです 私達のことを触れ回らないで そのせいで 私達はまた あなた達を傷つけてしまうかもしれないから Red Cape 「……ん?」 新聞部部員、一 一は、廊下に張り出していた新聞を見ていたその人物を見て…思わず、脚を止めた じっと、真剣な様子で、都市伝説のことを記事にした新聞を見つめている、彼 確か…あの白衣は、化学の先生だ いつも、どこかやる気なさそうな、彼が……じっと、じっと 怖いほど真剣に、新聞部が張り出した新聞を見詰めていて …どうしたのだろうか? 一が首をかしげていると…教師は、新聞に手を伸ばして この時 一の新聞記者としての勘が、告げた 今すぐ止めろ、と 「ち、ちょっと待ってくださいよ、先生!」 「………?……あぁ、新聞部か。どうした」 「どうした、じゃないですよ!今、新聞はがそうとしたでしょう!?」 「そうだが?」 一の抗議に、あっさりと答える教師 じっと、一を見つめてくる 「…何を考えて、こんなもんを張り出している」 「新聞部部員として、真実を書き出すのは当然の事でしょう」 …「都市伝説は実在する」と言う都市伝説を生み出す そんな考えは、隠して、そう訴える一 その一を、教師は静かに見つめてくる いや、見つめてくる、というよりは… (…睨んで、る?) ぞく、と 背筋を走った、悪寒 教師は静かに、一に告げてくる 「これが、全て真実だとでも言いたいか」 「そうですよ。ちゃんと、裏づけ取材もとってますよ」 「…………そうか」 一の言葉に、教師は深々とため息をついた 酷く、酷く…面倒くさそうな、表情 「なら、尚更書くな」 「どう言う事です?」 「これ以上、都市伝説に関わるな」 その、言葉に 一の新聞記者としての勘が、再び告げる この教師も、きっと… 「…先生も、契約者なんですね?」 「………」 その質問には、答えずに っび!!と、教師は壁に張り出していた新聞を、剥がしてしまった あぁっ!?と悲鳴をあげる一の前で、さっさとそれを持ち去ろうとしている 「…警告しておく。痛い目に会う前に、都市伝説に関わる事をやめておけ」 ただ、そうとだけ告げて 教師は、そのままさっさと立ち去ってしまった ……はぁ 一応、すりなおした新聞を張りなおしておいたが…また、剥がされそうな気がする あの教師も、きっと、契約者なのだろう 一体、何の契約者だろうか? 学校の帰り道、一は悩みながら帰路に着く 「…理科室絡みかな……理科室と言えば、人体模型に骨格標本、あとはホルマリン漬けとか…?」 …今度、調べてみる必要が、あるかもしれない そんな事を考えていると 「好奇心旺盛だなぁ?坊主」 そう、声をかけられた え?と振り返ると、そこにいたのは…黒いスーツを纏った、短髪の男 黒いスーツ、サングラス…全身、黒尽くめのその格好 そこから、一はあるものを連想した 黒服 都市伝説を見た者の元に現れて、都市伝説の事を吹聴するな、と釘をさす、そんな存在……… まさか、それが? だとしたら…………チャンス!!! 取材のチャンスだ! 喜んで、声をかけようとして 「あの」 「好奇心猫を殺す、って知ってるか?」 -------え? 黒服の言葉に、きょとんとする一 次の瞬間……その体は、塀に叩き付けられていた 「----っ!?」 「困るんだよな、あぁいう事されると…俺達、「組織」としては」 …何が、起こった? げほ、と咳き込みながら、自分の状態を把握しようとする 何かが…体に、巻きついている それは、黒くて、細くて、長くて… 「髪の……毛……?」 黒服の、あの短かった、髪が 今、しゅるりと伸びていて まるで、別の生き物のように蠢くそれが、一に絡み付いていたのだ …これによって、塀に叩きつけられたのだ、とはっきりと理解する 「…「組織」…それ、って?」 「まだ好奇心を働かすかい?坊主」 くっく、と からかうように笑ってくる黒服 すたすたと、一に近づいてきて……ばん!と一の真横に、手を叩き付けた びくり、思わず体を跳ねらせると…ず、と黒服が、顔を近づけてきて 「今なら、まだ間に合う……これ以上、都市伝説に関わるな。都市伝説の事を、広めるな」 低く、低く 無表情で、そう、低く囁いて、一に告げてきた 一は気づく これは、警告であると 学校で、化学教師にされた警告よりも、ずっと、ずっとこれは重い 「……これ以上、都市伝説の存在を、広めるようだったら」 もし、警告に従わなかったら その時は 「そうしたら……お前さんたち、殺されるぜ?」 くっくっく、と 笑ってくる、黒服 最後は、どこか冗談めかしたように言ってきたが…その癖して、酷く現実味のある、言葉だった 殺される? 誰に? ……この黒服の言う、「組織」に、だろう 「…何者だ、あんたは…!」 黒服を睨み、一はそう言ってやった おや、と黒服は笑い…答えてくる 「化け物さ」 それは、酷くシンプルな答え 自分は人間ではないのだ、と、黒服はあっさりと、そう答えてきた 「ばけ…もの?」 「あぁ、そうさ。お前さん達が追っている存在にのみこまれて、人間やめちまった化け物さ」 ----しゅる、と 髪が、首に巻きついてきた もし、この黒服が、その気になれば… その瞬間、自分は、死ぬ その未来が、酷く簡単に想像できた 「お前さんたちが存在を広めようとしてんのは、こう言う化け物だ。こんなもんの存在が広がったらどうなるか、わかるだろ?」 「…パニックになる、とでも言いたいんですか?」 「それですめばいいがねぇ?」 しゅるり、しゅるり …首、だけじゃない 体中、あちらこちらに、髪が絡み付いて来る まるで、この体をバラバラに、引きちぎろうかとしているかのように 全身、いたるところに 「お前さん、都市伝説の事を少しは齧ってるなら知ってるだろ?…人間に近い姿を取った都市伝説が居る事を」 「…知っていますが、それが何か?」 「なら、聞こうか。都市伝説の存在が、公になったとしよう………さぁて、一般人は、人間に近い姿をした都市伝説や、人間そのものの姿をした都市伝説と…ただの人間を、どう、見分ける?」 ………? どう言う事だ? 理解していない様子の一に、黒服はさらに続ける 「魔女狩り、って知ってるな?」 「-----ぁ」 つまり この黒服が、言いたいのは… 「都市伝説の存在が、公になれば……魔女狩りのような事態が起こる、とそう言いたいんですか?」 「まぁ、実際にはそんな事になる前に、「組織」が止めるだろうがなぁ…それこそ、お前さん達みたいな存在を消して、な?」 ニヤリと笑う黒服 今、自分がそれをしようとしているのだ、とそうとでも言いたそうだ 「お前さん達は、そんな地獄を作りたいか?お前さん達自身や、お前さん達の大切な存在も巻き込まれて……殺されるかも、しれないぜ?」 「人間はそんなに弱くないですよ」 「なぁに…恐怖に飲み込まれりゃあ、人間なんて一瞬で駄目になるさ。人間ってのは、自分達に似ていて、そうじゃない存在ってのが怖いからな」 そう、口にした黒服の、表情に 一瞬影が差したのは、気のせいか? 「化け物。それを、人間は恐れるのさ。そして、それを排除しようとする。それを恐れない人間なんて、所詮、この世でほんの一握りしかいねぇんだよ」 だから、と 最終警告のように、黒服は続けた 「俺達化け物のことを、記事にするな。誰にも触れ回るな。それを護れないようだったら…………ここで、消すぞ?」 剥き出しの殺意を、突きつけられる 首筋に突きつけられたのは、刃物で首括り縄 答え次第で、この場で殺される しかし 一は、その恐怖を振り払う たとえ、この場で殺されるとしても…譲れない信念が、ある 「…それは、約束できない」 「ほぉ?」 …ぎり、と 首に巻きついてきている髪の毛が巻きつく力が強くなったのを、自覚する それでも、引く訳にはいかない 「俺は、ジャーナリストです、新聞記者なんです………新聞記者が、真実から目をそらすわけには、いかないんです!!」 そうだ 新聞記者が、ジャーナリストが!! 真実から、目をそらしてどうする!! 一のその言葉に、黒服はきょとんとして… …そして、くっく、と、また楽しげに、笑った 「…怖いもの知らずだねぇ」 しゅるり 一の全身に巻きついていた髪の毛が、離れた 黒服の髪が、元の短髪に戻っていく 「面白ぇ…なら、やってみろ」 「どう言う、事です?見逃してくれるんですか?」 髪の毛が巻きついていた首筋から…一筋、血が流れる 一歩間違えば、確実に自分は殺されていた それは、確かだ だと、言うのに この黒服は…一を、見逃そうとしている? 「あぁ、そうさ。どうせ、俺がここで殺さなくても、そう言う事を続けていれば…遅かれ速かれ、「組織」なりどこなりに、目をつけられるんだ」 それは お前たちは、これからずっと、誰かから殺されるかもしれない恐怖に怯え続けると言う事だ、とでも言うような 酷く、意地の悪い警告 「俺は見逃してやる。だから、お前さんはお前さんのやりたいようにやりな。今後、お前さんのところに他の誰かが警告しに来た時、お前さんがどうするか…その行動や発言で、お前さんがどうなるか、俺は知ったこっちゃねぇ」 すたすたと、一から離れていく黒服 …最後に 酷く、酷く、酷く 意地悪く笑って、こう、告げてきた 「お前さんの先輩達も、無事ならいいなぁ?」 「-------っ!!??」 言われて、はっとする そうだ、自分の元にこの黒服が来た原因が、あの学級新聞ならば ……先輩達の元にも、黒服が来ていておかしくない そして、その黒服が……自分の元に来た黒服のような黒服だとは、言い切れない もっと無慈悲な存在が来ていても、おかしくない!? それを理解した瞬間には…もう、黒服の姿はなかった だが、それに構う暇すら、なくて 一は慌てて携帯を取り出し、先輩二人の無事を確認しようとした どうか、生きていてくれ その希望に、すがりながら 翌日 「…何故、俺のところにだけ誰も来なかったんだ」 納得行かない様子の新聞部部長、増田 真 「私のところには、ちゃんと来ましたよ。無駄に巨乳で優しそうな女性の黒服が」 そう言うのは、副部長の小宮山 文子 結論から、言おう 新聞部の部員は、全員、無事だった 怪我らしい怪我と言えば、塀に叩き付けられたのと、首にちょっと怪我をした一くらい 宣言した通り、随分と優しい黒服と遭遇したらしい文子は傷一つ負っていないし、部長の真に至っては、まず黒服と遭遇すらしていない 自分だけ、貧乏くじを引かされたような そんな錯覚を、一は覚えた 「くっくっく……これは、我々新聞部への、挑戦と見た!」 「まぁ、挑戦には間違いないでしょうけど。部長、そのセリフ悪役臭いって言うか、その笑い方、俺を襲ってきた黒服そっくりなんで、勘弁してください」 「我々は!!脅迫になど屈しない!!」 断固として、真は宣言する 強く、強く、力強く 「これからも、都市伝説の事は記事にし続けるぞ!真実を発進し続けるんだ!!ちょっぴり捏造しながら!」 最後の言葉は、ちょっとアレだが、その通りだ! 一も文子も、真の言葉に同意して これからも、都市伝説のことを記事にし続ける その決意を、三人は強めていくのだった なお、同日 とある、組織の本部にて 「ん~……何か仕事を忘れてるような……まぁ、いいか」 と、呟いている、なんともやる気のなさそうな黒服の姿があったそうだが それは、わりとどうでもいい事実である 終わってしまえばいい 前ページ次ページ連載 - 黒服Hと呪われた歌の契約者
https://w.atwiki.jp/legends/pages/2600.html
喫茶ルーモア・隻腕のカシマ 解説とか、言い訳みたいな話 二度目を読むなんて事は、まず無いと思いますが もし、そういう事があるならば…… 個人的には黒歴史メモとして大活躍なページです 我が厨二のチカラ、とくと味わえ! って、感じです <童貞魔術師> 篇 + ==クリックで展開 碓氷サチについて 本当は、さっちゃんの歌の都市伝説が関与しているとミスリードさせといて 実はただ単に不幸な子でしたっていう展開をハッキリさせるつもりだったけど そんな余裕はなかったぜ! 輪の予知能力について 輪廻転生の都市伝説から考えて、どうやったらそんな能力になるんだよ! って自分で思ってたけど…… 前世の記憶を持っているということは…… ⇒ある程度、相手の行動を推測できる ⇒同じ様なシチュエーションなら、相手の行動を予測できる ⇒相手からは、限定的な条件での予知の様にも見える ⇒2度目の失敗を予知 あとは、同じ様な人生を繰り返してきた事から 繰り返しを避けようとする能力としての予知……みたいな という思考回路でこんな能力になりますた 本当になんか……すみません……考え過ぎました まあ、実際のところ……この限定的な予知能力が無くても話は回せたハズなので、余計な設定だった…… そういう事もあり、あまり使わない方向で…… 初期プロットの段階では、不思議な子供だなって思ってもらう事を重要視していた様です <隻腕の鹿島> 篇 + ==クリックで展開 ボクサーの発言内容について 読み返してみると、ネタバレ的な発言ばっかしています 香取=カシマについて 一応フェアな内容になる様に、唐突な展開にならない様に……ということで事前に ① 結婚すれば姓が変わる(ボクサー談) ② 婿養子をとれば鹿島・弟は道場の後を継がなくて良い(鹿島姉 談) ③ 香取と鹿島姉が結婚(鹿島 談) といった具合に、ヒントの様なものを用意しておきました 今回登場したキャラの姓について 神宮の名前からとっています 鹿島神宮 東国三社のひとつ武芸の神である 武甕槌神(タケミカヅチ)を祭神とする布都御魂剣が国宝として保管されている 香取神宮 東国三社のひとつ武芸の神である 経津主神(フツヌシノカミ)を祭神とする神名の「フツ」は刀剣で物がプッツリと断ち切られる様を表すもので刀剣の威力を神格化した神である経津主神の神魂の刀が、布都御魂剣であるとされることもある 石上神宮 日本最古設立の神宮のひとつ布都御魂剣が御神体として祀られている 現在、布都御魂剣と呼ばれる剣は2本あるわけですよ そして、この三社がそれぞれに布都御魂剣というもので繋がっている、というのもまた面白い 物語の内容と直接的な関係は無いですが、裏設定ということで…… <トート> 篇 + ==クリックで展開 登場人物と対応するタロットカード 登場人物 番号 カード名 和名 シークレット・ネーム カードの意味 輪 0 The fool 愚者 エーテルの精霊 自由 童貞魔術師 I The Magus 魔導師 力の賢者 行為とコミュニケーション ジャック III The Empress 女帝 万能の主の娘 慈悲 マスター VIII Adjustment 調整 真理の支配者の娘・バランスの保持者 見守る事 サチ X Fortune 運命 生命力の支配者 流れと共にある事 ボクサー XII The Hanged man 吊られた男 万能の水の霊 苦しみ カシマさん XIV Art 技 生命の運び手・調整者の娘 統合 輪は、子供であり自由な愚者 童貞さんは、そのままの意味から魔導師 ジャックは、初期設定から慈悲深いことになっていて、雰囲気的にも女帝 マスターは、全体の調整役であり、輪を見守る者 サチは、作中の解説どおりで、運命に流されるタイプ ボクサーは、ネタとして吊られた男 カシマさんは、技術指南役として技、二つの都市伝説融合として統合 こんな感じで設定してあります 抜けているカードについては 他の書き手さんのキャラクターで埋めていくことも考えていましたが 話が長くなり過ぎる感もあったので割愛させてもらいました 恋人、欲望、悪魔といった面白そうなカードも使ってみたかったところではあります <剣心一致> + ==クリックで展開 この手紙には元ネタがありますので、正直に告白しておきます 先ずは、タイトルにもした「剣心一致」 これは「鹿島神傳直心影流、島田虎之助」の言葉で 剣道をやっている場合には、よく目にするそうです 次に、「この想いは、オレの宝だ」 これは「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のドクの手紙に書かれているもので ここ最近、25周年記念の話題があったので懐かしさに任せて検索していたら発見し なんだか、色んな汁が出たので思わずパクりました 「ではマーティー とうとう君に別れを言う時が来たようだ 君は常に誠実でやさしい友達で私の人生を大きく変えた 君との友情は小生の宝だ」 そして、「キミという弟子を手放したくないが為に、渡せずにいたもの」 漫画もしくはアニメの「ARIA」から、アリシアさんの灯里ちゃんに対する気持ちです 弟子に追い抜かれるのを恐れる師もいれば、弟子とずっと一緒にいたいと思う師もいる そして、弟子に全てを託す師もいる……色々です 最期に、「されど、心は──ここにあり」 「ヴィーナス&ブレイブス」というPS2のゲームがありまして (PSPでリメイクされて、2011年1月20日発売予定らしいです 宣伝です、布教活動の一環です、このゲームの布教をする組織に所属しています、義務です) 私はこのゲームが大好きで、自作のSSで動画とか作っちゃう程に、痛々しい程に好きなんですが このゲームのクロニクルモードの最後に 「我等の旅は続く、されど答えはここにあり」 というセリフがあります 8年くらい前のゲームなんですが、この言い回しがずっと心に残っていて ずっと使いたかったのです 他にも本編で使用した 「大事なのは間合い、そして退かぬ心だ」 というセリフもこのゲームが元ネタです まあ、タネを明かせばこんなものです 今回、8割がたは借り物で出来ています むしろ、10割と言っても過言ではない様にすら思えます ひどいです 他にも解説しないと、ちゃんと説明できていない部分があった様な気もしますが 考えることをやめます なぜなら……ふ、雰囲気……そう、雰囲気で分かるはず! 賢い皆さんなら分かるはず! 前ページ次ページ連載 - 喫茶ルーモア・隻腕のカシマ
https://w.atwiki.jp/legends/pages/2279.html
「とりあえず、薬は補充しといたからな。お前、ここんとこどれだけ「組織」の黒服能力使ってんだよ」 「使いたくて使ってんじゃねぇよ。使わざるを得ない状況が続いてんだ」 …明日からの連絡を聞き終え、ハーメルンの笛吹きの処遇について若干悪巧みをした後 黒服Hのピルケースにどす黒い錠剤を詰め終えた辰也 さっさと帰る準備をし始める そんな辰也に、黒服Hは申し訳無さそうに笑った 「…悪ぃな、お前に、あの連中みたいな真似をさせて」 「お前に死なれたら、こっちも不便なんだよ。「組織」の情報はお前から仕入れるのが速い」 「スーパーハカーもいるだろ?」 「流石に「組織」関連のコンピュータは、気軽に入れる場所じゃないらしいからな」 現在、辰也は都市伝説や都市伝説組織に関わる様々な「情報」を商品に、ある程度の取引をしている …それくらいしか、自分ができる仕事が思い浮ばなかったのだ、血生臭い物を除けば 後はせいぜい、誠の友人だと言う「仲介者」から流される仕事くらいしか、できない 仲間達と生活するうえで、自分だけが働かないと言う状況も嫌で、辰也はそうやって生活していた 「組織」の情報も、貴重な商品だ 「……それに。「俺達の復讐」は、まだ終わっちゃいないだろ?」 「…………まぁな」 くっく、と黒服Hは暗く笑う 二人の共通の「復讐相手」は、まだ残っている もう、あと残り3,4人といったところだが…それら全員に復讐を終えるまで、黒服Hは死ぬつもりはないだろうし、辰也も黒服Hを死なせるつもりはない 黒服Hが復讐の為に「組織」に居続けていることを、辰也はよく知っているし 今、復讐に向けて「切り札」を体内に仕込み…それが原因で、「組織」でのメンテナンスをまともに受ける訳にはいかない状態になっているのも ここ最近の黒服Hの不調が、そのメンテナンスを受けていないのが原因である事も、よく知っている だからこそ、黒服Hの体を保つ為に、辰也が薬を精製して、それを渡しているのだから 「んじゃあな。「組織」の監視切ってるとは言え、「第三帝国」と関わってる事がバレないとも限らないから、気をつけとけ」 「わかってるさ」 黒服Hを置いて、部屋を出る すると、ドクターが辰也が部屋を出るのを待っていたようだった 腕を組み、じっと見つめてきている 「…あの馬鹿が迷惑かけたな。それじゃあ」 「少し、待ちたまえ。できれば、彼に渡した薬を分けてもらえるとありがたい」 彼を治す意味でも、というドクターの言葉に 辰也は一瞬、悩んだようだったが…ピルケースに入りきらなかった分の、その錠剤を渡した どす黒いそれを、ドクターはじっと見詰める 「…何の薬だね?」 「都市伝説存在固定剤。「組織」があいつに投与していた物より効果は薄いが、代わりに常習性は薄まっている」 「組織」で黒服Hがメンテナンスの度に投与されていた「都市伝説存在固定剤」 …それは本来、都市伝説になりかけた存在を、強制的に都市伝説として存在を固定する物 それによって都市伝説になった存在は、その薬を摂取し続けなければ生きられない、薬を切らせば死ぬ……劇薬のような薬でもある 「彼は、この手の薬で都市伝説化した存在と言う訳でもあるまい。この薬のせいで黒服になるとは思えないからな…何故、この薬が彼に必要なのか、わかるかい?」 「……さぁな」 視線を逸らし、辰也は曖昧に答えた …確信はないが、心当たりはある だが、それを口にするつもりは、今のところはなかった 口に出してしまえば、それが確信に変わってしまうような、そんな錯覚すら、覚える 「少なくとも、あいつはその類の薬を飲まないと、体が持たない。特に、「組織」の黒服としての能力を使った後が、きついみたいだな。体の内部がゆっくりと消滅していくらしい」 「……消滅?」 「あぁ。今は何やったんだか、即座にそれが修復される状態みてぇだが…」 それが、「切り札」の力なのだろう …何を、体内に仕込んでいるのか、それに関しても心当たりが出てきてしまう 「それじゃあ、渡すもんは渡したし、帰るぞ。あの馬鹿が何かセクハラの類をやらかそうとしたら、殴って止めとけ。それでも止まるかどうかは知らんが」 「患者に暴力をふるうつもりはないがね」 苦笑するドクターに、辰也は背を向けて… ……ふと、思い出したように、告げる 「そうだ、あの小さな餓鬼二人…それの、妹っぽい方。あいつ、何の都市伝説の影響を受けてる?」 「…?どう言う事だい?」 「本人が気づいてるかどうか知らねぇが、何か、本人が契約してんのと、別の都市伝説の気配が中にあるぞ」 お前達の身内の能力じゃないのか?と やや、警戒したように言ってくる辰也 ドクターは、その言葉に難しい表情を浮かべる 「……まぁ、俺の言葉を信じるも信じないも、あんた次第だがな」 と、それだけ告げて 今度こそ、辰也は診療所を後にしたのだった to be … ? 前ページ次ページ連載 - 黒服Hと呪われた歌の契約者
https://w.atwiki.jp/legends/pages/4259.html
既に出ている都市伝説を使用しても良いの? すでにスレ内に登場している都市伝説と同じ都市伝説を使って話を作りたいのですが、それっていいのですか? ぜんぜんかまわないぞ。口裂け女や私のような人面犬花ちゃんのようなトイレの花子さんも複数体登場している。基本的に使用する都市伝説の個数制限は無しだ でも例外はあるのですよね? そうね……半ば暗黙の内にそうなっているけど、歴史に名を馳せたりした固有の人物そのものが都市伝説化しているような場合、その個人を被って出している作者はいないように思われるわね。 なるほど、確かに人面犬のような種族ではなく、特定個人を都市伝説化しているとなると、複数いると具合が悪くなることもあるのかもしれないな。もしwiki内検索をかけて使用したい特定個人名を持つ都市伝説が被ってしまった場合、スレ内にお伺いをたてるのが賢明だろう あくまで現時点の話なのでこれからそこら辺の事情も変わって来るのかもしれませんね うむ、スレは生き物だからな。必要があればその都度色々と改変が行われることだろう。 * 前ページ次ページご新規さん向けガイドライン-Q A
https://w.atwiki.jp/legends/pages/1518.html
【上田明也の綺想曲6~Grateful Dead Greatful Days~】 「お前ら、夕食は何が良い?」 「酢豚食べたい、お母さん。」 「牡蠣の塩辛と米が有れば何も要らないよ、お母さん。」 「ハンバーグ食べたいです、お母さん。」 「お前ら全員飯抜きな。」 マッドガッサーの捕獲に失敗してからと言うもの、俺はみんなにお母さんと呼ばれ続けていた。 っていうかサンジェルマンは何故家で飯を食っているのだろうか? 「おい、サンジェルマン。」 「え、帰れッて?解った解った。」 奴は本当に米と塩辛だけを食った後に出て行きやがった。 「はい、と言うわけでお前らに夕ご飯を作ってやりたいと思います。」 「「ご飯マダー?」」 流石に子供が二人も居るとうっおと……、噛んだ。 うっとおしい。 「今日はお前ら希望を取り入れて酢ハンバーグにしたいと思います。」 「「それはない」」 なんでこいつらは妙な所で息が合っているのだろうか。 「お前ら酢ハンバーグが不味いと思っているらしいな、ならば良いだろう。 あれがいかに美味しいか子供の時に嫌いだったうどんに大好きなカルピスを混ぜて自爆した俺が教えてやる。」 「食う気が萎える枕だわ。」 「マスt……お母さんの失敗談ですね、どうみても。」 「うるちゃい、お前らは俺の作った飯を豚の如く食えばよいのだ。」 フライパンを取り出して油を引いて火にかける。 クックックドゥーンの酢豚の素を棚から出しておく。 冷蔵庫には丁度ハンバーグのこね終わった奴があるのでそれを使おう。 まず鶏肉の煮物で出来た煮こごりと酢豚の素を混ぜて薄めの餃子の皮の中に包む。 そしてそれをさらにハンバーグの中に入れてフライパンへ…… 紹興酒をフライパンに加えて蓋をして肉に火が通るまでユックリ待ちましょう。 「できたぞてめえら酢ハンバーグ!」 「「やんややんや」」 「さあ食べろ。」 「「いっただきまーす。」」 子供達は酢ハンバーグに齧り付いた。 「うわ!中から酢豚のたれが!しかもハンバーグと調和している!」 「マスターって運動、ていうか肉体を使った作業以外一通り出来ますよね。 これも味付け良いのに野菜が不揃いだったり……。」 「余計なお世話だ。」 二人がご飯を美味しそうに食べているのを見ていると心が落ち着く。 片方は凶悪な都市伝説だしもう片方も凶悪な都市伝説の契約者なのになあ……。 そういえば凶悪なんて誰が決めたんだろうか? それが凶暴なのか邪悪なのかなんて自分たちではなく他人が決めた基準におけるものでしかない。 俺達を受け入れない他人の集合体が数を頼みに振り回したルールに過ぎない。 さて、その法に従う必要はあるのだろうか? その法から逃れればきっと今俺は可愛い二人のロリに飯をつくっている心優しいお兄さんに違いない。 世間一般のルールでは人でなしの俺でも今ここを支配しているルールの下では優しい人間で居られるのだ。 「お前をまともな人間にしたかった。でも駄目だった。俺はもう諦めるよ。 お前と絶交するわけじゃないけどさ、諦めた。俺には無理だ。俺の身が保たない。」 そう言った友人が高校の頃に居た。 しかし世間一般のルールで救われなかった少女が今目の前に二人居る。 世間一般のルールに迫害された人間と都市伝説がいる。 そう言ってくれた友人のことは尊敬しているが彼の気持ちに報いることはできなさそうだ。 「美味いか?」 「美味いよ、上田明也。」 「美味しいです、マスター。」 「なら良いんだ。」 思えば橙もずいぶん家に慣れたものだ。 最初はメルや俺ともぎくしゃくしていたんだがな。 まあそこらへんはサンジェルマンのおかげと言うことにしておこう。 彼女のボロボロの身体をある程度治したのもあいつだしな。 「ああ、そうだ。薬飲ませるから来い。」 「はーい。」 橙は生まれた時から眼が見えなかったらしい。 眼の病気か何かで眼球を摘出するしかなかったそうだ。 だから彼女の目は義眼である。 人形のように可愛らしい彼女だが人形みたいな美しい眼という形容の仕方はあまりしない方が良いのだろう。 「マスター、私白湯用意しておきますね。」 「ああ、ありがとうよ。」 「ハーメルンの笛吹き、ありがとう。」 橙が薬を飲み終わると適当にテレビをつけて番組を見る。 最近はサンジェルマンの特訓のおかげである程度能力を制御できるようになったらしい。 テレビ位なら能力を使ってみても問題は無い。 ただしお笑い番組を見ているときは問題だ。 「はいはいはいこんにちわ~。」 若手の漫才コンビが出てきた。 最近実力をつけているコンビらしい。 「あははははははははは!!!」 出てきた直後に橙が笑い出す。 「………あれ?どうしたの?」 「橙、それは何秒先だ?」 「橙さん、貴方の笑いの壺ってキャハハハハ!!!」 そう、彼女はどうも数秒先の映像に反応してしまっている時があるのだ。 今のようにお笑い番組だと数秒後のギャグで突然笑い出す時がある。 家に来た時はそもそもあまり笑わなかったからまあそれよりはマシと思うことにしている。 「……また間違えた。」 「気にするな、まあゆっくり使い方に慣れれば良いさ。」 「はい……。」 気にしているのだろうかしょんぼりしはじめる。 「馬鹿おめえそんなの仕方ないだろうが!一々気にしないの!」 「そうですよ、橙さん!」 「解ったわ……。」 そういや施設内ではテレビも見せて貰えなかったらしい。 可哀想とか安い言葉を吐くつもりは無いがすこし胸が痛む。 その後、気を取り直してその後しばらくテレビを見て大体10時か9時には就寝である。 以前までは夜遅くから動き回っていたのだが最近は大分警戒されるようになってしまった。 組織の人間と戦って負けるつもりは無いがもしあの秋刀魚男が現れたり宝石を投げつけた男が居たりすればメルが揺らぐ。 ……俺は揺らぐのだろうか、否、揺らげるのだろうか? 人間をやめることは楽だ。俺は楽をしすぎた。 あのコーラ男くらい割り切った奴だと戦いやすいのだがな。 それにあの禿でマッチョな黒服に来られたらぶっちゃけ勝てる気がしない。 そもそも自分の能力がもう割れているというのが痛い。 こちらが妙な動きをしなければ相手だって手を出さないのだ。 それで良い。 メルと一緒にベッドに入ると橙も入ってきた。 「なんだ、まだ夢を見るのか?」 「良いじゃない、どっちでも。」 ちょっと怒ったように橙は言う。 しかしあまりベッドに居られると俺としては襲いかかりたくてしょうがなくなるのだから許して欲しい。 実験でに与えられていた薬の副作用で悪夢を見ているそうだ。 薬の名前は確か"Ω to α"、都市伝説の侵食を進める薬だそうだ。 試作品の物を調整も兼ねて無理矢理与えられたのが身体に負担になっているとサンジェルマンからは聞いた。 薬を使わなくても都市伝説との信頼関係一つだと思うがまあそれはそれだ。 今は"Rev-00"とかいう薬で効果を抑えているそうだ。 「これって本当はすっごい機密事項なんで何処で手に入れたとか秘密ですよ?」 そう言っていたが奴のことだからくすねたかそもそもその薬の製造に一部関わっていたのだろう。 考え事をしていたら幼女二名とも俺の隣で寝てしまった。 仕方ないので俺も寝ることにする。 でもその前に首が冷えないようにタオルケットを二人の首に掛けて…… 掛けようとしたが腕枕中だったので下手に動けない。 そっと動くことにしよう。 秋の朝は割と冷える。 一番最初に目を覚ました俺は布団の中で冷たい空気を入れないように注意しながら布団を出た。 ついでにメルと橙を抱き合わせておく。 おお、これは非常に百合百合しい。 カメラで撮っておこう。 撮影タイムが終わるとさっさと一階に向かう。 エプロンをして味噌汁の出汁をとる。 今日は煮干しで出汁をとろうか。 味噌はいつもの物で良いだろう。 「おふぁようございま~す。」 6時50分にメルが起きる。 二人でねざましテレビの占いを見てキャイキャイ騒ぐ。 ちなみに俺とメルの星座は双子座である。 橙は射手座らしい。 「……おはよう。」 橙も起きた。 只今7時20分。 みんなで朝食を食べ始める、食べ終わる頃にはサンジェルマンも来ていたりしてそれなりに賑やかである。 ご飯を食べ終わると橙はサンジェルマンと修行を始める。 午前中も午後も特にやることは無いからひたすら世界文学全集とか六法全書とか読んだりメルと修行していたりする。 気分次第では町に出かけるのだがハプニングに巻き込まれやすいのが問題である。 その日はちょっと出かけて帰ると午後五時になっていた。 「ご飯作っておきました。」 サンジェルマンの手料理がテーブルに広がっていた。 「ぼくも手伝ったよ!」 橙も手伝ったらしい。 「あー、総菜買って来ちゃった。」 「良いからもう食べましょうよマスター!」 「はい、じゃあお前ら椅子に座れ。」 みんなで席に着くと両手を合わせて俺はこう言う。 「それじゃあ、頂きます。」 「いただきまーす。」 「頂きます、サンジェルマンさん。」 「ふはは、存分に召し上がれ。」 「お前も命に感謝しろ。」 「マスターが言うと怪しいです。」 「上田明也が綺麗なこと言うと不自然だぞ。」 困った奴らである。 だがそんな日々も悪くない。 平凡だけれど偉大な日々。 素直に感謝することにしよう。 【上田明也の綺想曲6~Grateful Dead Greatful Days~ fin】
https://w.atwiki.jp/legends/pages/192.html
私はだぁれ? あなたは無邪気にそう尋ねる あなたはだぁれ? あなたは無邪気にそう尋ねる あなたが何者なのか 私が何者なのか それは、誰にもわからない だって、私たちはまだ生まれてすらいないのだから Red Cape 「…赤マント、何書いてるですか?」 「うぉ!?……あぁ、何だ、君か」 トイレの個室に響く若い男性の声 普通に考えれば、変質者以外の何者でもない しかし、彼は平然とそこに存在していた 声をかけた少女も、彼を変態扱いする様子はない この異常な光景も、二人にとってはごく普通の日常なのだ 「あぅ、またヘタッピなポエムですか?」 「ヘタッピとは失礼な。これでも、雑誌連載を頼まれている身だぞ?」 ふふ、と真っ赤なマントを纏った青年が笑う そんな青年を、真っ赤なハンテンを着た少女は、やや胡散臭げに見上げていた 赤と赤 似たような衣装を纏っているからか それとも、出現場所が同じ女子トイレであるからか 二人は、いつからか共にいる事が多くなった 仲良し、と言ってもいいだろう 考えた事を、互いに好き勝手言い合える仲と言う奴だ 「マイナー雑誌のちっちゃなコーナーもらっただけで、何いい気になってるですか。 どうせ、赤マントのポエムなんて読んでいる奴いないのです!」 「何だと!?確かにファンレターは一通ももらっていないが、私のポエムに世の熟女は萌え萌えだぞ!」 「訳わからんのです。しかも、熟女萌えだったですか、お前」 「ふん、熟女の素晴らしさはお子様にはわかるまい」 「あぅあぅ、私の方が赤マントより年上なのです!」 「はっはっはぁ、聞こえんなぁ。そんな外見で言われて説得力があると思うか」 あぅあぅあぅ ぽかぽか、だだっこパンチを繰り出そうとしてくる赤いはんてんを、赤マントは片手で押さえ込む いつもの、ほのぼのとした夜の光景である 誰もいなくなった学校の女子トイレ 二人はいつも、こんな調子だった …しかし 今夜は、その平穏が静かに壊された 「……む!?」 「あぅ!?」 ぴくり 彼らは、感じ取った …自分たちとは違う、都市伝説の、気配を 「赤いはんてんよ、何者かがこちらに近づいているようだぞ」 「あぅ、私もわかるのです。しかも、契約者付きなのです!」 「うむ、むしろ、契約者だけがこちらに近づいていると言うべきか」 二人とも、それなりに年季の入った都市伝説である 気配で、何となくわかる …さて、どうしようか 二人は、顔を見合わせた 「赤いはんてんよ、今近づいている都市伝説及びその契約者、私たちに対して友好的だと思うか?」 「あぅ、わかんないのです。私たちも昔は人を襲ったりしてましたから」 「うむ。しかし、ここ数十年は自粛しているではないか。今更退治などされたくはないな」 ひとまず、二人は姿を隠す事にした 静かに、侵入者を待ち受ける …こつんっ 入り込んできたのは、一人の少女 小学生くらいだろうか? 真夜中の学校の女子トイレに一人で入り込み、きょろきょろと辺りを見回している …異常な光景である こんな真夜中に、こんな年頃の少女が一人でやってくるなど そして、二人には、わかった 彼女から、微かに感じる…都市伝説の、気配を 「………」 「………」 普通に考えれば…都市伝説的に普通に考えれば、ここで、少女を無視すればいい そうすれば、厄介ごとには絡まれずにすむ この少女の目的が何であれ、関われなければそれでいいのだ 関わってはいけない …しかし しかし、だ 赤マントも赤いはんてんも、都市伝説である 都市伝説であるが故に、一種の強迫観念を持っていた だから 我慢など、できなかった 「赤いはんてんが欲しいですか?青いはんてんが欲しいですか?」 口を開いてしまったのは、赤いはんてん 彼女の方が、こう言うシチュエーションにおいて、うっかりと習性がにじみ出やすかったのだ 赤マントが慌てて口を塞ぐが…時、既に遅し にたり 少女が笑った 「…見ぃつけた!」 「むぅ、赤いはんてんよ、君のせいで見付かってしまったじゃないか」 「あぅぅぅぅぅぅぅ、ご、ごめんなさいなのです!」 見付かってしまったからには、仕方がない 二人はふわり、少女の前に姿を現した にやり、笑っている少女 …ぞくりっ その笑顔に、二人は悪寒を覚えた 無邪気なはずの笑顔に…確か悪意を、覚える 「ううむ、ロリは無邪気な癒し系が一番。邪悪ロリは好みではないのだが」 「…熟女萌えに加えてロリコンでもあったですか。どこまで変態ですか、お前は」 馬鹿な会話をしながら、二人は戦闘体制をとった 長年のカンが、この少女は敵だと告げてくる そして、事実、少女は二人にとって敵であった 都市伝説と契約した少女 契約相手を召喚すべく…歌いだした 「赤い靴履いてた女の子 異人さんに、連れられて行っちゃった」 「…『赤い靴』か!?」 童謡に噂される都市伝説 赤い靴を履いていた女の子は誘拐され、異国に連れて行かれた… 事実とは違う、語られる噂 それが都市伝説となり、それはこの世に生れ落ちる ……ず、と 背後に感じた気配に、赤いはんてんは慌てて逃げようとした しかし 「あぅ!?」 「赤いはんてん!?」 がしり 男の手が、赤いはんてんの細い首を掴んだ 異国人風の男はニヤリと笑い…っふ、と赤いはんてんごと、姿を消す くすくすくすくすくすくすくすくすくす 女子トイレの中に、少女の笑い声が静かに響く 「…お嬢さん、赤いはんてんをどこにやったのかな?」 「くすくす…知らない」 くすくすくすくすくす 少女は無邪気に邪悪に笑う そして、にんまり笑って、赤マントを見上げる 「あんなちっちゃな子、私の『赤い靴』に捕まったら、逃げられるはずがない。 次は、あなたの番よ」 「ううむ、外見年齢はアレだが、彼女は実際の所結構なロリババアだぞ。 それに、外見年齢だけでも、君の方がはるかに幼い訳だが」 一瞬は動揺したものの、すぐに冷静さを取り戻した赤マント その様子に…少女は、不機嫌そうな表情を浮かべた ぎろり、赤マントを睨みあげる 「…何、余裕ぶってるの?あなたの相方、どうなっても知らないわよ?」 「うむ、君が自分の都市伝説に自信を持っているのはよくわかったのだが…」 ひらりっ 赤マントは、優雅にマントを翻す マントで口元を隠した状態で…笑った 「今は、君自身の身の安全を考えたまえ 私が知っている限り、赤いはんてんは強き都市伝説だ そして、私は………君相手ならば、100%、君を傷つけることなく無効化できる自信があるのだよ」 「…っふん、やれるもんなら、やってみなさいよ」 少女が、警戒したように構えてくる 今、気付いたが、少女は真っ赤な靴を履いていた 恐らくは、あの靴を通して、あの都市伝説本体の力が彼女にも備わっているのだろう …だが、それでも 赤マントは、この少女に負けるつもりはなかった 負けるはずなど無い そう、確信していた 「さぁて………赤いマントは、いかがかな?」 「あぅぅぅぅ!?く、苦しいのです!離せなのです!!」 じたばたじたばた!! 首を絞められ続け、もがく赤いはんてん ぱっ、と その言葉に反応したように、手が離された 「あぅ!?」 べちっ!! 急に離されたせいで、尻餅をついてしまう赤いはんてん 痛みに、涙が目尻に浮かぶ 「あぅ…痛いのですよ。ここ、どこですか?」 そこは、トイレのようだった …そして 赤マントの気配を、遠いような近いような、よくわからない位置に…感じた 「…なるほど。これがお前の能力ですか」 瞬時に、赤いはんてんは赤い靴の能力を読み取った 異国に相手を連れて行く その拡大解釈なのだろうか 彼は、相手を異国ではなく「異空間」に連れ込む 恐らく、現実にはここは元いた女子トイレでしかないのだろう 世界の裏側、とでも言うべきか 自分は、本来移動すらしてないのだ 相手は、自分と赤マントを分断させるのが狙いだったのだろう 甘く見られたものだ 立ち上がり、赤いはんてんは赤い靴を睨み上げた 「甘く見ないでほしいのです。お前なんて、やっつけてやるのです!!」 ぴ!と赤い靴を指差す赤いはんてん …赤い靴からの返事は、ない むっとして、再び口を開こうとした、その時 「……………う」 「あぅ?」 かくくん 赤い靴が何か言ったようだが、よく聞こえなくて、赤いはんてんは首をかしげた …直後 赤い靴が、叫ぶ 「いやっほぉおおおおおおおお!!!!!!! 強気ロリっ子さいこぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」 「……あぅぅぅぅうううううううう!!?? へ、変態なのです!?ロリコンなのです!?」 がびびびびん!! 目の前の男が、自分の相方並かそれ以上の変態である事を、赤いはんてんは少女的本能で感じ取った 色々と、激しく身の危険を感じる!! 「あ、赤いはんてんが欲しいですか!?それとも、青いはんてんがほしいですか!?」 「HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!!!どちらでも構わんさぁ!!! さぁさぁさぁ!!カモンカモーン!!!」 ばっちこーい!の体勢をとる赤い靴 そんな赤い靴を前に…赤いはんてんは己のはんてんに手をかけた ばっ!と赤いはんてんを、翻し…ひっくり返して、身に纏う 赤いはんてんを裏返すと、それは青いはんてんになり …青いはんてんを身に纏った瞬間、赤いはんてんの姿が劇的に変わる!! 「……何ぃ!?」 「さぁて……変態は、お仕置きしちゃうわよぉ?」 話し方すら、がわりと変わり 少女の姿をしていた赤いはんてんは…ナイスバディグラマーな大人の女性へと、変貌した っが!!と、赤い靴の襟首を掴み、拳を振り上げる!! 「せ、成長しただとーーーーー!!?? 10歳以上は皆ババァ!!ババアに興味はねぇーーーっ!!」 「煩いわねぇ、手加減しないわよっ!」 っが!! 青いはんてんの拳が、吸い込まれるように赤い靴の顔面に直撃した がっ!ごっ!どすばきっ!! 容赦なき連続パンチが、赤い靴に叩き込まれる!! 激しい連続パンチのラッシュ 女性のその容姿からは想像も出来ない怪力が、赤い靴を逃がさない …数分後 そこには、全身に斑点のような青痣を作った赤い靴が、倒れていた 直後 ぐらり、視界が揺らぎ…青いはんてんは、元の女子トイレに戻ってきた 「うむ、そちらも終わったようだね」 背後から声をかけられる 振り返ると…もごもご動く麻袋を背負った赤マントが、爽やかな笑みを浮かべて立っていた 「そっちも終わったのね?」 「うむ、当然であろう。少女相手であれば、私は無敵だ」 はっはっは、と赤マントは笑う …赤マントの都市伝説には、いくつかのパターンが存在する 今、もっとも有名なのは、子供を切りつけ、赤いマントを着たように血塗れにさせる事だろう だが、この赤マントは違う 古き時代に生まれた彼は……「人攫い」 真っ赤なマントを羽織った男が、女の子を連れて行くという人攫いの都市伝説から生まれた存在だ 一瞬で少女を連れ去る為の力 彼は、赤い靴の契約者の少女を、一瞬でこの麻袋に詰め込んでしまったのだ 戦闘的ではないが、少女相手ならばほぼ無敵の力である 「…うむ、見事な青痣だらけ。相変わらずむごいな」 「だって、こいつ変態だったんですもの」 ひらり 青いはんてんは、はんてんを裏返し…赤いはんてんに、戻った 「色々と身の危険を感じたのです。これは正当防衛なのです!」 「うむ、まぁ、正当防衛に変わりはないな…さて、この二人はどうしようか」 「あぅ、慈悲深く、女の子の方は学校の門のところにでも捨てて置くのですよ。 赤い靴は、全裸で電信柱にでも縛り付けて『人攫いです』とでも書いて放置しておくのです!」 「はっはっは、相変わらずの鬼畜ロリめ」 こうして、二人の平穏な夜は護られた 二人は、今のところ人間と契約するつもりはない 契約者と都市伝説の戦いになど興味はなく、ただのんびりと生きたかったから …ただ、同じトイレの都市伝説である、とある花子さんからの話を聞いているだけで 二人は、充分だったから それに、二人は、二人一緒にいる事が何よりも楽しかったから …そこに、人間が入り込んで欲しくは無かったのである どうして戦うのですか わからない、と彼女は泣いた どうして戦うのですか 私も、わかりません どうして、私たちは戦う運命にあるのでしょう 生まれてしまった私たちですが、ただ、平穏に生きたいだけなのに Red Cape 前ページ連載 - 花子さんと契約した男の話
https://w.atwiki.jp/legends/pages/361.html
めだかの学校は 川のなか そっとのぞいて みてごらん そっとのぞいて みてごらん みんなで おゆうぎ しているよ 少女「勝って嬉しい はないちもんめ 負けて悔しい はないちもん・・・あら?」 女の子「うっ」 買い物からの帰り道、近道にと通った公園で面白いのと再開した 少女「何だ、まだ生きてたの?」 女の子「・・・お陰さまでね・・・死にかけたわよ」 少女「ふふふ、手加減はした積りだったんだけどね?子供を死なせるのは心が痛むから」 女の子「あんただって子供じゃない」 少女「少なくとも貴女よりは年上よ、私を何歳だと思ってるの?これでも10歳よ」 赤い靴「ゲェーッ!ババァじゃねぇか!詐欺だ!」 出た、変態 少女「ババァとは失礼ね、性犯罪者風情が」 10歳でババァとかどんだけストライクゾーン狭いのよ 赤い靴「性犯罪者じゃないよ、仮に性犯罪者だとしても性犯罪者という名のロリコンだよ!」 ダメだコイツ、早く何とかしないと 少女「・・・もう一度踏んであげましょうか?一応貴方の支配権はまだ生きてるのよ?」 赤い靴「ソレで俺が新しい世界に目覚めたらどうする!」 少女「・・・・・・・・・・・・」 この娘もよくこんなのと契約してるわね・・・!? 女の子「・・・どうしたの?黙り込んで」 少女「都市伝説・・・しかも契約者付き?」 女の子「え!?」 辺りを見回す・・・今、この公園にいるのは私とこの娘と変態・・・いた、砂場に男の子が一人 多分年は小学生低学年位か 少年「あーあ、気付かれちゃった」 コイツか・・・幾らなんでもこの町都市伝説多すぎ! 少女「・・・赤い靴でどうにかできる?」 女の子「えっと・・・」 赤い靴「ショタ誘拐なんざ死んでもゴメン「死んで、今すぐ」 ダメだ、私達の能力は効かない・・・っぽい 少年「来ないの?なら僕から行くよ めだかの学校は 川のなか」 女の子「めだかの学校?そんな都市伝説なんてあったっけ?」 少女「・・・マズイ!」 確か一度だけ聞いた事がある 『めだかの学校』の本当の意味は死んだ子ども達の魂が三途の川の中から他の子供を「おいでおいで」と呼びかけている物だと・・・ 少年「そっちの子は知ってるみたいだね、僕の『めだかの学校』は君達を三途の川に連れて行っちゃうんだ」 女の子「きゃ!?」 足元から何本も子供の腕が生えて私達の足を掴んでくる 少女「・・・くっ」 このままじゃ三途の川に引きずり込まれる・・・考えろ、どうしたらこの子に勝てる? 相手は一応童謡系だけど多分『赤い靴』とかと同じで自我を持ってる筈だから私の能力は効く・・・でも、距離が遠くてとても金を渡せるような状況じゃない 変態はロリにしか役に立たない・・・あ 少女「借りるわよ!」 女の子「え?!」 少女「買って嬉しい はないちもんめ!」 少年「あれ・・・?」 膝の辺りまで引きずり込まれてた彼女達が、一瞬で消えた? 少年「どうして?」 まだ、もう少しかかるはずなんだけど・・・ 少女「答えは簡単、『めだかの学校』に引きずり込まれるより先に『赤い靴』に引きずり込まれたからよ」 少年「!?」 振り返るとそこに居たのはさっきの少女 少女「私の勝ちね」 少女の手が僕の手を握る 何か硬い感触・・・コイン? 少女「買ってうれしい はないちもんめ♪」 少年「え!?」 さっきまで少女を引きずり込もうとしていたたくさんの腕が今度は僕の足を・・・ 少女「精々、三途の川で仲良くする事ね」 少年「あ・・・あ・・・たすけっ ズブンッ そして、僕は三途の川に引きずり込まれた 女の子「幾らなんでも反則過ぎない?」 少年を始末し赤い靴の異空間に戻って来た私への第一声がソレだった 少女「その分条件も厳しいわ、貴方の時も今回も相手がこっちの能力を知らなかったから使えた手だもの」ぐにぐに 赤い靴「スイマセン、マジスイマセン、そろそろ新しい世界の扉が見えてきたから足どけ「却下」グエッ」 少女「いっそロリコンからドMにクラスチェンジすると良いわ」グリグリ 女の子「・・・・・・」 赤い靴「ちょ!契約者まで俺を蔑んだ目で見るんじゃない!何かゾクゾクと「死ね!」グはっ」 少女「まぁ、今回は貴方達のお陰で助かったわ、でも次襲って来たら容赦しないわよ」 女の子「襲わないわよ、貴女みたいなチートなんて」 少女「ふふ、じゃあ・・・またね」 こうして、私達の二度目の邂逅は終りを告げた 数日後 少女「あ、赤い靴開放すんの忘れてた」 女の子「・・・み、水」 赤い靴「・・・こ、これが・・・放置プレ ガクッ 前ページ次ページ連載 - はないちもんめ
https://w.atwiki.jp/legends/pages/2507.html
【上田明也の探偵倶楽部19~ヨフケノディテクティブ~】 「ぅおーおぉー、りすとぅざみゅーじぃっく♪ ぅおーおぉー、りすとぅざみゅーじぃっく♪ おーざたーぁあぁーいむ♪」 「所長うるさい。」 「ドゥービーブラザーズを歌っている人間に五月蠅いとはずいぶんな言い様じゃないか。 素直に音楽を聴いてくれよ。」 「CDの曲聞こえて無いじゃないですか」 「なるほどね。」 先程から俺が歌っている曲は「The Doobie Brothers」の「Listen To The Music」だ。 このバンドは1971年にデビュー、1972年に俺の歌っているこの曲で一躍有名になった。 音楽性としてはサザン・ロックと呼ばれるアメリカ南部の音楽のカラーを強く打ち出している。 初期はとにかく豪快で明るいサウンドが中心だったのだがジェフ・バクスターやマイケル・マクドナルドの加入を経て 静かに聞かせるタイプの音楽が中心になっていく。 この変化には賛否両論であったが1978年にはグラミー賞をとっている。 これからアメリカの南部を回る以上、このバンドの曲を外すことは出来ないと思うのだ。 みんなだって函館に来たらさぶちゃんの『函館の女』を聞こうとするだろう? え、さぶちゃんを知らない? 駄目だなぁ。 「そういえばお兄ちゃんの英語の発音が変になってるよ?」 「ジャスラッ●対策かな?」 「ジャス●ック?なぁにそれ?美味しいの?」 「穀雨ちゃんも大人になれば解るよ。」 「ふぅん。」 禿との戦いが終わった後、俺はすぐにニューヨークを離れた。 お気に入りのフィアットに最低限の荷物を載せてメル&穀雨とアメリカ横断旅行を楽しもうと思っていたのだ。 普段は探偵家業が忙しいので休暇も兼ねている。 とりあえず向かう先はケンタッキー州。 できるだけ都市伝説と関係なさそうな場所でのんびり過ごしたいのだ。 その点ケンタッキー州は最適である。 アメリカという土地自体、都市伝説がさほど多いというわけではない。 その中でもケンタッキー州はUMA等の事件が割と少ない。 精々ビッグフットレベルである。 これならば俺もメルも穀雨も平和で楽しい休暇が過ごせるという物である。 「マスター、でもドゥービーブラザーズってカリフォルニア出身ですよ?」 「こまけえこたぁ気にするなよ。 どうせケンタッキー出身で俺の好きな歌手なんて居ないんだ。 南部の雰囲気味わえれば良いんだよ。」 「マカロニウェスタンみたいな適当さ加減を感じますねえ……。」 「うっせぇ。」 「メルちゃん、そういえばケンタッキー州ってどんな所なの?」 「えっとねー、ケンタッキーフライドチキン創業の地だったかなあ?」 「わーい、私フライドチキン大好き!お兄ちゃん絶対に行こうね!」 「ケンタッキーはどこでも食べられるんじゃないかなぁ?」 「むぅ……!」 穀雨吉静は食いしん坊だ。 その小さな身体の体積の3~4倍は平気な顔をして平らげてしまう。 当然、食費も馬鹿にならない。 しばらくは今回の依頼の報酬のおかげで大丈夫だろうが我が家の財政が意外と逼迫しているのも事実である。 「天下の名探偵上田明也が何みみっちいこと言っているんですか。」 「まぁ、お前にそう言われるとそうするしかないんだけどさあ。 しばらく別行動だった分しばらくはお前の言うこと聞いてやるよ。」 「それはそれはありがたい。」 「Zzz………。」 「あれ、寝てる?」 「仕方ないですね、もう夜の十一時です。」 時計を見てやっと気付いた。 もうそんな時間だったのだ。 「あれ?もうそんな時間か。この辺りに宿は……?」 「あ、見て下さいよ所長、ケンタッキー州です。」 「ほぅ、ここがか……。」 俺の見つけた看板には『ケンタッキー州へようこそ』の文字が躍る。 どうやらここが第一の目的地らしい。 「おー、ユナさん?こっちでFBIの捜査官が使ってるホテルとか無いー?」 とりあえず俺はホテルの予約をすることにした。 完全にそれを忘れていたのだ。 まさか子供を連れて車中泊をするわけにはいかない。 「言えるわけ無い、そりゃそうだ。 いや、宿の手配を忘れていてさ。 うん解ったー、切るぜ。 え?ああー、ケンタッキーには着いたぜ、了解。 ホテルは良い部屋手配してくれよ?」 幼女二人を連れている怪しげな東洋系の男を泊めてくれるホテルなど何処にもない。 だから今回は適当にFBIの権力を貸して頂くことにしたのだ。 と、いうかユナさんのコネである。感謝。 「持つべきモノは友人だね。」 「物?」 「モノ。」 「モノですか。」 「そうだよ、人はモノだ。それよりも早く行こうぜ。 ケンタッキーの我が家が待っている。」 と、言った所で。 プスン、プスンプスン…… まるで気の抜けたコーラを開けた時のような情けない音を立てて 俺の愛する赤いフィアット500は物の見事にエンストした。 「あれ?どうしたんですかこれ。」 「エンジン止まったねぇこれ。」 「……………。」 メルからの冷たい視線が突き刺さる。 どうやら今晩は野宿が決定したようだ。 さて、それから数十分後。 穀雨を『赤い部屋』の中に連れて行き、俺はメルと二人きりで車の中で休憩していた。 不運というより他にない。 「ところで所長、いいやマスター。」 「なんだね、ハーメルンの笛吹き。」 「これからどうするんですか?」 「親切な人に助けて貰うかJAFでも呼ぶか、どっちが良いか考えて居た。」 「成る程、マスターは相当天体観測がお好きなようだ。」 時刻は夜である。 しかもこの辺りは相当な田舎道だ。 俺達の頭上を行き交うのは空に瞬く星ばかり。 人っ子一人通りはしない。 「いやしかし実際冷えてきたな。」 「はい、そうですね。」 「人肌が恋しくなったりはしないかい?」 「変態。」 ずいぶんご機嫌斜めなようだ。 「そういえば気になっていたんですけど赤い部屋ってどんな都市伝説なんですか? 私会ったことが無いんですよね。」 原因はそれらしい。 「まあ便利なだけだよ。俺の容量は空いていたから使ってみただけみたいな。」 「ふぅん。」 「もしかして怒っている?」 「別にそれほど怒っちゃ居ないですよ、ただ自分の命を狙った都市伝説をなんでわざわざ使うのかと……。」 成る程ねえ、と呟きながら俺はシートを倒す。 確かに俺らしくはないか。 昨日の敵は今日の友。 なんて嘘だ。 敵は敵である。 「俺が人肌恋しくなった。ちょっと膝の上に座れ。」 「えー?」 「ふん、命令だ。」 「そう言われるとしがない都市伝説は契約者の命令に従うしかないんですけどね。」 とりあえずメルの怒りを誤魔化す為に少しばかり甘えてみる。 メルが運転席まで移動してきて俺の膝の上にチョコンと座った。 ふむ、相変わらずミルクのような甘い香りがする。 少しウェーブのかかっている金色の髪は手触りも滑らかで絹のようだ。 「怪我の調子は大丈夫か?」 「ええ、サンジェルマン伯爵のおかげで。」 「それは良かった。……ところでお前少し背が伸びたか?」 「ええ、いくらか人間っぽくなっちゃいましたから。」 「元々人間だったんだろう?」 「まあ……。」 大して覚えていませんけどね、そう付け加えて彼女は笑った。 ハーメルンの笛吹きは元々子供達の大量失踪事件が都市伝説化したものだ。 故にハーメルンの笛吹きは死んだ子供達の無数の自我と肉体を持つ都市伝説であり メルもその集合体のうちの一つとして俺の前に現れたに過ぎなかった。 「最初の百数十人の内の一人なんだっけ?」 「ええ、その子と同じ顔、同じ姿、そしてそれに都市伝説の自我。 それらが合わさって私になりました。」 沢山の姿沢山の意志沢山の自我。 沢山沢山沢山沢山沢山沢山沢山。 一人殺しては葬列に取り込み、 二人殺しては提灯をかざして、 三人殺しては祝杯をあげる。 殺した子供の自我と肉体を取り込み続ける群体。 それがハーメルンの笛吹きである。 その中でもメルは、“彼女”は、最初にドイツはハーメルンで死んだ子供達の一人である。 ……と聞いたが本当かどうかは知らない。 数十分後。 相変わらず俺とメルは無駄話を続けていた。 そんな時だった。 「メル、そういえばさっきから妙な気配がしないか?」 「え?」 草木も眠る丑三つ時。 悪意を持った誰かの視線を確かに感じるのだ。 辺りを見回しても確かに何も居ないが絶対に何かが俺の周りに居る。 根拠もない確信ばかりが頭の中を支配していた。 「私はまったく何も感じませんよ?」 「いや、そんな筈は……。」 ピチャリ 真後ろで水のしたたるような音が響く。 やはり何か居る。 「うわあっ!?」 思わず情けない声を出してしまった。 怖い。 ひどく寒気がするせいだろうか? 「どうしたんですか?マスター変ですよ?」 うん、解っている。 「ちょっと外を見て回ってくるよ。」 声が震えているのが解る。 理由も解らずに俺は恐怖を感じている。 「駄目です、今のマスターの精神状態で外に出たら危ないですよ。」 「いいや、いい行かないと……。ここ、声がするんだよ。」 「声?」 メルが俺の持っていた都市伝説についてまとめられたファイルをパラパラとめくり始めている。 だがこの状況に於いてそんな悠長なことをしている時間はない。 急いで行かないと。 何処へ? 急いで行かないと。 何処へだ? 急いで急いで急いで急いでとにかく急いで外に出るんだ。 「とにかく行ってくる、お前はここで待っていろ!」 俺はメルを振り払うと車の外に出た。 ピチャピチャ 車を出ると遠くからメルの声が聞こえる。 急いで戻らないと。 その為にはこの訳のわからない声を消さないと行けないのだ。 誰だ? 一体誰が俺につきまとっているんだ? そもそもさっき俺を呼んでいたのは本当にメルか? メルの声ってどんな声だったっけ? ピチャピチャ ああ、思い出した。 このピチャピチャとした声が特徴だったんだ。 待て、そんな訳がない。 これは俺につきまとっている物の声だ。 くそっ、訳がわからない。 「マスター、こっちです。」 そうそうこっち。 これが彼女の声だ。 声のする方向に向かうとしよう。 そう思うと俺の意識は一気に遠のいていった。 「しまった……。」 ハーメルンの笛吹きことメルは己の失態を悔いていた。 彼女は無理矢理にでも上田明也を止めるべきだったのだ。 「うわああああああああ!?」 「マスター!」 遠くから彼女の契約者の悲鳴が聞こえる。 彼女はその方向に走り出した。 メルは不慣れな森の中を駆け回る。 しかし、声がしたはずの方向に彼女の契約者の姿はない。 その時、彼女の脇を一陣の風が通り抜けた。 彼女の目にはそれがはっきりと映っている。 人のような姿をしたそれは彼女に向けてにやりと笑った。 『じゃあな。』 それはメルに向けて“上田明也”の声、しかも英語ではっきりとそう言った。 「これはひどい…………。」 メルが慌てて車のあった場所に戻るとそこには大量の鉄くずが転がっていた。 彼女は鉄くずを掻き分けて先程読んでいた都市伝説についてのファイルを探す。 「人にだけ気配が感じられる。 人間に姿を見ることは出来ない。 人の声真似が可能。 高速移動を可能とする。 そしてアメリカに生息している。」 今までに見た特徴を呟きながら彼女はファイルの中を探し続ける。 「あった………。」 謎の都市伝説の正体に当たりの付いたメルは再び走り始めた。 彼女の推測が正しければ彼女に与えられた時間は少ない。 問題は上田明也がどこに居るかである。 それが解らなければ彼女にはどうしようもない。 メルは考えた。 大声で呼びかけるのはどうだろう? いいや、相手が声真似で答えてくる可能性がある。 鼠を使って探すことは出来ないか? いいや、大量の鼠に対してそこまで複雑な条件設定は不可能だ。 そもそもだ。 メルと上田が契約しているのならば本能的にその繋がりをたどることは出来ないだろうか? そう考えたメルは直感に従って走り始めたのである。 「はっはっは、あまりべたべたするなよハルカ…………ッて!あれ? 俺は十二人の妹たちと添い寝していたはずなのに! 何処へ行った! 俺の妹たちは何処に行った!もっというとハルカは何処に行った! 大和撫子は幻想だったのか? 夢か!夢幻だったのか!? 俺だってハルカちゃんとチュッチュしたいんだよぉ!」 目を覚ますと、俺はパンツ一丁のまま荒縄で身体を縛られて巨大な冷蔵庫の片隅に転がされていた。 そこら中に氷が張っていて寒い。 冗談じゃなく寒い。 だが先程と違って頭の中はハッキリしている。 どうやら俺は新手の都市伝説の攻撃に嵌ってしまったらしい。 俺を攻撃した都市伝説に対処する為にそいつの正体を推理してみよう。 まず、メルには奴の気配を感じ取ることが出来なかった。 これは重要なヒントだ。 メルは生物を操る操作系の都市伝説である以上、生物の気配には敏感なのだ。 そのメルが気付かなかったということは隠れたりするのが得意なのだろう。 次に俺だけが奴の気配を感じ取りながらも、最後まで姿を確認できなかった。 これは先程のヒントの補足になる。 姿を隠すのが得意ということのさらなる証明になるだろう。 寒気、これも重要なヒントだ。 襲われた対象が寒気に襲われる都市伝説など少ない。 ほらほら、大分限られてきた。 それと俺を誘った声。 他者の声真似が出来る相手らしい。 そして俺が冷蔵庫の中でハムのように転がされているこの状況。 敵の正体は完全に把握した。 「あいつの正体はウェンディゴだな……。」 説明しよう。 ウェンディゴとはアメリカ北部からカナダにかけて生息する都市伝説だ。 というより妖怪だ。 本来旅人に数日の間つきまとって旅人の精神を消耗させるだけの存在である。 しかし伝承によっては人を食うとも伝えられており危険な妖怪なのだ。 人の声を真似たり風よりも速く走るとも伝えられている。 ちなみに氷の精なので炎に弱いそうである。 「蜻蛉切……。」 力なく俺の所有する刀の都市伝説の名前を呼ぶ。 精神が消耗しているので切れ味が鈍っているようだが荒縄を切るのにはこれで十分だ。 自分を縛っている縄を切り裂くと俺は辺りを見回した。 先程言った通りウェンディゴは炎に弱い。 俺は自分と同じように洞窟の中に捕まえられているはずの人々を探し出すことにした。 服は後だ。 「マスター!マスター!」 メルは上田を呼びながら走り続ける。 彼女は確かに上田の捕まっている洞窟に近づいていた。 彼女のとった選択は過ちではなかったのである。 契約したからというだけではない。 上田明也とメルは一緒に様々な死地をくぐり抜けた故に強く繋がっていたのかもしれない。 「――――――あそこだ!」 メルの目の前には大きな洞窟が広がっていた。 恐らくここに上田が居るのだろう。 そうおもってメルは真っ直ぐ走った。 「おっと、動くな。静かにしてくれ。」 その声と共に後ろからぬるりと手が伸びて走り出したメルを捕まえた。 「まったくよぉ、久しぶりの人間かと思ったら不味そうな男なんてなあ……。 もう一人いた都市伝説を捕まえた方が良かったよねえ。」 ウェンディゴは不機嫌だった。 最近中々食事にありつけず、ひさしぶりに捕まえた人間は成人男性だったのだ。 牛や鶏もそうだが若くて瑞々しい方が美味しい。 前に捕まえた人間は干し肉にしていたがどうにも困った物である。 とりあえず彼は目の前の新しい獲物に満足することにした。 「あいつがウェンディゴか……。」 俺は相も変わらずパンツ一丁で森の奥に座っていた。 視界の中では大きめの鳥を手に持ったウェンディゴが一匹で洞窟の中に入っていくのが見える。 「3、2、1…………ドカァーン!」 洞窟の奥から火柱が噴出した。 ウェンディゴが身体を火だるまにしながら転げ回っている。 どうにか狙い通りになったらしい。 俺は縄でしばられた状態から脱出した後、俺と同じようなウェンディゴの被害者を捜していた。 すると、都合良く干し肉に加工された哀れな犠牲者を発見することが出来た。 さらにそこら辺にあった枯れ草や服に仕込んだ後に没収されていた手榴弾も回収。 冷蔵庫の電線をショートさせて干し草に点火、 その後、哀れな干し肉を燃料にして火を点け、冷蔵庫内部を高温にしてバックドラフトを発生させた。 冷蔵庫を開ければ一発で火だるまである。 人とは便利な物だ。 全部狙い通り。 あとは服を着て車に戻るだけである。 ガチャリ なんて楽な戦いだったのだろう。 『動くな、動けば撃つぞ。』 最後の最後に思わぬ敵が現れたことを除けば。 『ウェンディゴの契約者か。』 『ああ、そうだよ。』 体格の良い黒人男性が俺に散弾銃を突きつけていた。 あのウェンディゴには契約者が居たのだ。 『日本人かい?運が悪かったな、あいつはグルメでね。人間以外食えないんだ。 ソテーが大好きなんだよ。』 『その前にあいつの方がソテーになったみたいだが?』 『おいおい、契約者を得た都市伝説がそれ位でくたばると思うかい?』 「うぐ、くっそ……!一杯食わされた!」 ウェンディゴだけが日本語で話しているように聞こえる。 しかし俺の後ろをとった黒人男性が英語でそれに返事している所から見るとこれはテレパシーみたいな物なのだろう。 『おいウェンディゴ、餓鬼の都市伝説はどうした?』 「あ?そんなのしらねーよ。お前がおびき寄せておいてくれたんだろう?」 『その後急に洞窟に向かっていたんだよ、見ていねえのか?』 「……え?」 『え?』 俺は口笛を吹いてハーメルンの笛吹きの能力を発動させた。 「うりゃあああああああああ!!」 メルがその小柄な肉体に見合わぬ勢いで黒人男性に体当たりを決める。 グモ、と蛙が潰れたような音をあげて彼は吹き飛ばされた。 近くの木に身体をぶつけ、脳髄を零して全身の関節があらぬ方向に曲がっている。 まあ即死だ。 俺が手に入れたハーメルンの笛吹きの能力には二つある。 一つは鼠や子供を操る能力。 もう一つは最初の能力の効果を受けている者の姿を効果を受けていない者から隠す能力。 どちらもハーメルンの笛吹きの童話をモチーフにした能力である。 俺は洞窟に仕掛けを施して脱出した所でメルと出会って 前者の能力を応用してメルの身体能力を極限まで引き出し、 後者の能力を利用してメルの存在を隠していたのだ。 「本来、ウェンディゴは北アメリカに住んでいる都市伝説だ。 アメリカ南部に野生のウェンディゴが生息しているなんてあり得ない。 よって、お前には契約者が居る可能性がある。 だからそこの男の存在だって予想済みだったよ。」 俺はウェンディゴの方に向き直る。 「それじゃあ綺麗に騙して並べて揃えて殺して爆(バラ)してやるよ。」 さっき使い忘れた手榴弾をパンツから取り出すと 俺はそれのピンを抜いて契約者を失ったウェンディゴに投げつけた。 チェックメイト。 【上田明也の探偵倶楽部19~ヨフケノディテクティブ~fin】