約 3,555,284 件
https://w.atwiki.jp/ranoberowa/pages/468.html
第365話:目的、手段、そして行動 作:◆RGuYUjSvZQ 「――――それでは諸君等の健闘を祈る」 二回目の放送が終った。 放送が終わるとセルティはベルガーに紙を差し出した。 『一応確認しておく。今の放送で名前を呼ばれたアメリア、ゼルガディスの2人は そちらが捜索を依頼してきた2人のことで間違いはないのだな?』 「間違いない。2人ともリナとかいう女の仲間だ。俺も捜索を頼まれた」 沈痛な空気がその場を流れる。 『メールか電話で悔やみの気持ちを伝えたほうが良いのだろうか』 「今はそっとしておいたほうが良いだろう。彼女もかなりのショックを受けているはずだ。 こちらの気持ちを汲み取る余裕はないはずだ」 『そうか、わかった。残念だ』 「ああ」 「会話」はそこで止まった。2人ともしばらく「無言」でその場に立ち続ける。 エルメスも今回は珍しく、空気を読んで静かにしている。 (どんどん、人数が減っていくな。私も誰かを殺してしまう時がくるのだろうか) セルティはこれからについて考えていた。 自分は保胤ほど平和主義者ではない(つもりだ)。 必要であれば、人を殺すことも厭わないだろう。 自分が生き残るために他人を殺す、これは生存原理からすれば当然のことなのかもしれない。 だが無理やりこういう状況におかれて殺し合いをすれば、管理者の思う壺だ。 奴らの狙い通りに行動するつもりはない。 今まではその場その場でどう行動するかを保胤と話し合って判断してきた。 これからは長期的に何をすべきかを決める必要がありそうだ。 しばらく考えた後、セルティは再びベルガーに紙を差し出した。 『とりあえず我々は協力体制をとっている。そちらの目的を教えてくれ』 ベルガーはセルティの言わんとしていることが良くわからなかった。 「当然、生き残ることだ。それは君も同じはずだ」 セルティは今度は少し苛立たしげに紙を渡す。 『それは当然だ。質問の仕方が悪かったみたいだな。 生き残るために、そちらは最終的にどう行動するつもりなのか。それを知りたい』 「ああ、そういう意味か。こちらも全員が全く同じ考えを共有しているわけではない。 このゲームに乗らない、という点では一致しているようだがな。 先ほどのリナという女は主催者を殺すことに執着しているようだ。 俺はこの世界から脱出することを最終目標と考えている。 だが、具体的に何をすべきかはまだわからないのが実情だ。 今は地道に各メンバーの仲間を探しながら、情報収集をしていくしかないだろう。 この呪いの刻印もどうにかしなければならないしな」 ベルガーが首筋の刻印を指差しながら答える。 『なるほど、良くわかった。保胤の話ではこの刻印は魂自体に食い込んでいるらしい。 私もこの刻印をまずはどうにかしなければ、とは思っているのだが・・・ 何にしても、保胤が起きたらこれからどうすべきか話し合ってみようと思っている』 ベルガーは肯く。 「刻印についての情報は重要だ。俺も彼が起きたらもう少し詳しい話を聞いてみるとしよう」 ――――それから程なくして、慶滋保胤が目を覚ました。 【A-1/島津由乃の墓の前/1日目・12:20】 『ライダーズ&陰陽師』 【ダウゲ・ベルガー】 [状態]:心身ともに平常 [装備]:エルメス(停車中) 贄殿遮那 黒い卵(天人の緊急避難装置) [道具]:デイパック(支給品一式+死体の荷物から得た水・食料) [思考]:保胤に刻印について聞く。 ムンク組の知人捜し。 ・天人の緊急避難装置:所持者の身に危険が及ぶと、最も近い親類の所へと転移させる。 【セルティ(036)】 [状態]:正常 [装備]:黒いライダースーツ [道具]:デイパック(支給品入り)(ランダムアイテムはまだ不明)、携帯電話 [思考]:静雄の捜索及び味方になる者の捜索。ベルガーとの情報交換。 長期的には何をしていくべきか保胤と話し合う。 【慶滋保胤(070)】 [状態]:不死化(不完全ver)、疲労している(+貧血状態) [装備]:ボロボロの着物を包帯のように巻きつけている [道具]:デイパック(支給品入り) 、「不死の酒(未完成)」(残りは約半分くらい)、綿毛のタンポポ [思考]:静雄の捜索及び味方になる者の捜索。 島津由乃が成仏できるよう願っている [チーム備考]:しばらくしてから『目指せ建国チーム』と連絡をとる予定。 ←BACK 目次へ(詳細版) NEXT→ 第364話 第365話 第366話 第349話 時系列順 第371話 第338話 セルティ 第371話 第338話 慶滋保胤 第371話 第338話 ベルガー 第371話 第338話 エルメス 第371話
https://w.atwiki.jp/moriizou/pages/49.html
今晩は半月だ、それに赤い。 いや、もしかしたら本当はいつものように黄色いのかも知れない。でも何となく赤く見えた。 その上、半分になった月の影から今にもひょこりと何かが出てきそうで思わず寒気がする。 あぁもしかして月は自分の心の内を―――、と思ったところでやめた。 「……んなこたぁいいんだよ…。」 静まりきった登山道の中腹で、廣瀬純(26)はひとりごちる。 古ぼけた切り株の上に腰を据え、頭と懐中電灯の光を地面に向けてからもうかれこれ5分は経過しただろうか。 廣瀬は悩んでいた。ただひたすら悩んでいた。 思えば最初に大野練習場に集められた時からすでに悩んでいた。 その悩みはプロ野球という世界に入ってからずっと抱え込んできたもので、それこそ今になっては他愛もない悩みではあったのだけれど。 それでも一人前に悩んでいた、バスの中でもあの狭苦しい部屋の中でも。 ずっとずっと悩み続けていたら、突然途轍もなく大きな悩みが飛び込んできた。 それはほんの数時間前に抱え込んでいた慢性的な悩みよりもはるかに重厚長大であり、また自分の人生を大きく変えてしまうような悩みだった。 その悩みの本質は考えてみれば至って簡単であり、それでいて二択である。 その上、人間は動物であることを考えてみれば、今まで自分が悩んでこなかったことが不思議ほど単純なものである。 だがしかし、いくら単純で簡単で二択であったとしても今ここにある悩みは答えによって、己だけでなく周りの人間をも破滅させる可能性をはらんだ『悩み』であることに間違いはない。 だからこそ廣瀬は悩んでいた。ただひたすらに悩んでいた。 『生』または『死』の狭間で。 しばらくうつむいた後、廣瀬は顔を上げた。 かと思うと、またうつむく。その一連の動作を繰り返しながら、ただひたすら悩んでいた。 廣瀬は『戦争』が嫌いだった。嫌いなものを上げてくれという質問にすぐさま答えられるほど、嫌いだった。 理由は『家族や仲間が死ぬことが嫌だから』というものである。 だとすればどうだろう。 今この現状を簡潔に言うと『選手同士で戦い、選手が死ぬ』ということだ。選手同士で戦うのだから、どちらかが死ななければ永遠に戦い続けるしかないのだ。 選手とはつまり―――廣瀬にとっては『仲間』だ。 同じ釜の飯を食べ、共に励ましあい、成長しあってきた『仲間』。 『仲間が死ぬのが嫌』という廣瀬にとっては、まさに生きながらにして地獄のようで、また救いもない世界に等しかった。 救いもないといえば、廣瀬が出発した時の話だ。 廣瀬、背番号26の前に出発したのは背番号25と23を背負った男2人である。 新井貴浩と横山竜士―――絶対に全員で生きて帰ると言い放った、2人。 廣瀬は他の数選手同様、2人に着いていこうと即座に決めた。仲間が死ぬのが嫌だと思うような性格である、当然とも言える。 それに廣瀬は2人のすぐ後だったから、必ず合流できると信じていた。 新井と自分との間は1分しかない、そしてその新井は『待つ』と言っていたのだから。 しかし―――蓋を開けてみれば、居ないのだ。 ぶんどるように鞄を持って、なるべく急いで出たにも関わらずだというのに。 無論、廣瀬は探した。制限時間いっぱいまで出来る範囲を。 しかし2人は居ないのだ。風に吹かれて消えたかのごとく。 制限時間を過ぎ、振り返って出発した学校を見た時に廣瀬の心に浮かんだのは怒りでも悲しみでもなかった。 『恐れ』だった。 もしかしたら2人はあんな事を言ったばっかりに、もしかして――― ただそこに佇んでいるだけであるのに、学校の奥に秘められた何か暗く重く黒いものを見た気がして、廣瀬はその場に立ち尽くしてしまった。 立ち尽くした廣瀬であったが、そのうち頭に浮かぶ2人のおぞましい姿から目を逸らしたくて、ひたすら走ることにした。 ふと気がつけば山の中腹に来ていた。そして現在に至る。 「新井さん…横山さん……。」 2人は大丈夫だろうか。膝の上で両手を組み合わせながら思う。 みんなで生きて帰るって言った人が最初に死ぬ訳ないですよね。そう信じていたかった。 しかし廣瀬自身の脳はそれでも無邪気とでも言いたくなるほど、残酷だった。 ―――横山が待っている、新井を迎える、その瞬間に銃撃が――― さっきからその映像がスローモーションで終わりなく続いている。 自分の脳でありながらこんなことしか考え付かない自分に対して、廣瀬はいい加減気分が悪かった。 「あぁ、もう―――」 うんざりだと言うはずだった。 その言葉は突如聞こえた発砲音によってかき消され、廣瀬は同時に息を呑む。 ―――明らかに、銃声。場所は――― 音がした方をみると目に映ったのは、偶然にも木々の間から見ることが出来たあの建物。 「……学校…?」 慌てて時計を見ると、山崎の姿を最後に見た時からすでに25分を少し過ぎている。廣瀬が学校を出たのは18分後。 だとすれば今頃出発しているのは自分より後ろの8、9人ほどになるだろうか。 とっさに廣瀬は立ち上がり、鞄の中から名簿を取り出すと再び地面を強く蹴りつけた。 山の斜面はさほど角度がなさそうではあったが、それでも勢いがつく。 揺れる名簿を何とか懐中電灯で照らし出し、9人ほど後ろの背番号の選手を探す。 背番号40の倉、41の森笠、42の長谷川…。 倉、森笠、長谷川。くらもりかさはせがわ、と口に出して呟き、廣瀬は名簿を鞄に戻す。 ―――…みんな殺しあうなよ……死なないでくれよ…。 弱弱しい口ぶりでそう言うと廣瀬は目を細める。 限りない恐れと悩みを抱えたまま、廣瀬はひたすら夜の小道を走った。 その頭上に半月が輝いていることなど忘れたように。 見ようによっては、青白くも赤くも見える月が輝いていることを。 【生存者残り38名】 prev 26.導かれるままに next 28.届かなかった声 リレー版 Written by ◆ASs10pPwR2
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1733.html
「……どうして、ですか?」 「そうしないと、そもそもあなたは戻れないのよ。抽象的な話になるけど、ここは今、私とあなたが同時にいる事で、バランスがとれた状態になっちゃってる。どっちかが消えてバランスを崩さないと、どうにもできない」 「そんな……!」 「……気にすることなんかないわよ。初対面だし、私は一度死んでる。遠慮なく刺して頂戴」 確かに、生みの親ともいうべき存在ながら、イヴと私は今まで出会うことはなかった。でも、 「……そうしたら、あなたはどうなるんですか?」 「完全に消えるでしょうね。そもそもが、データの屑だし。文字通り跡形もなく、きれいさっぱり消えるはず」 「……」 「ああでも、運がよければ、あなたに私の記憶データが引き継がれるかもね。まあ、あなたは自分の物じゃない記憶に苦しむかもしれないけど」 いずれにせよ、本来生きているはずのイヴは、完全にいなくなってしまう。 「できません……。できません、そんなの!」 「……そう。じゃ、これから母体そのものが壊れるまで、ずっとここにいる?」 「それなら……、あなたが私を消せばいいじゃないですか!」 苦し紛れに、私は言い放った。そうすれば、逆に彼女が戻ることができるのではないか? 「……それができなかったから、私はここにいるのよ」 「え……?」 「私は、自分が背負ってきた業に耐え切れなかった。たくさんの神姫を、この手で殺めてきた。その重さに耐え切れなくなって、一番大切なひとを、不幸にしてしまった」 言葉と同時に、明確な映像が、私に流れ込む。この特殊な空間のせいか、私とイヴの間で、情報の共有が行われているようだった。 「……大切なひとと、他のすべて。どちらか片方を選ぶ時、迷わず前者を選ぶだけの覚悟が、あなたにある?」 大切なひと。私にとって、慎一のこと。 その慎一と、他のすべて、それらを天秤にかけたとして。 ……具体的に、想像がつかない。じゃあ、身近な別の、例えば、梓さんなら? 私は、間違いなく慎一を選ぶ。たとえ、慎一が梓さんを選ぶことを望んだとしても、それでも慎一を選ぶ。 ……そういうこと? 私が戻るため、つまり、私が慎一を選ぶために、イヴをこの手で消す、殺す必要があるのなら、私は。 「……その覚悟があるなら、私を殺せるはずよね?」 慎一か、イヴか。選べと言われたら、私は慎一を選ぶ。 私の勝手。私のエゴ。そんなの、わかりきってる。 その結果、悲しむ人がいたとしても。それは私が背負うべき、生きる価値の代償だ。 ここでイヴを殺すことも、その代償。 「……はい」 「もし、記憶の引き継ぎが起これば、あなたは死ぬまで、偽物の記憶に苦しむ。それでも?」 それだって、私が背負う代償。 「はい」 「……最後に、これはお願いなんだけど、もし、あなたが戻れて、私のことを忘れてなかったら。あのひとに……高明に、伝えてほしいことがあるの」 「何を、ですか?」 少し間を空けて、イヴが口を開いた。 「……私は、あなたに大切にしてもらえて、たくさんたくさん、あなたの気持ちをもらえて、とっても幸せだったから……って」 「……はい、必ず、伝えます」 私はこれから、イヴのオーナーであった人の悲しみに、向き合わなければならない。 それが、私の背負うもっとも大きな代償なのかもしれない。 「じゃあ……お別れだね」 イヴが目を閉じた。私は無言で、剣を構える。 そして、イヴの胸に突き立てる。 瞬間、視界が真っ白に染まった。 「……呼びかけ?」 見つかった手掛かりを聞いて、正直俺は信じられなかった。 「そんなことで、ネロの意識が戻るのか?」 「……停止直前に、慎一君がネロの名前を呼んだ時、一度、復旧するような動きがあったんです」 説明するかすみの口調には、疲労がにじみ出ていた。無理もない。ほぼ無休で、ネロの検査をしていたのだから。 「ですから……、慎一君が呼びかけを続ければ、もしかしたら……」 「ネロが戻ってくるかもしれない?」 「はい。……って、ちょっと、修也君……!」 聞きたいことは聞けたので、俺はかすみを俗に言う「お姫様抱っこ」の形で抱き上げ、研究室のソファへ運ぶ。よっぽど疲れてたのか、ほとんど抵抗らしい抵抗はなかった。 「……そういうことなら、朝まで寝てても大丈夫だろ」 「それは……そうです、けど」 どっちみち慎一君が呼びかける必要があるなら、朝まで待つ方がいい。今、彼を連れてくるというのも……アレだし。 「時間が経つとまずいってこともないよな?」 「……ないです」 「じゃあ寝てろ。そのうち倒れるぞ、お前」 最初は不満そうな目を俺に向けていたが、すぐにその目も閉じ、寝息を立て始めた。 「……呼びかけ、か」 「あながち、間違ってないかも知れねー」 ふと気付くと、隣にはやてがいた。 「あたしだって、かすみに何度も何度も呼びかけてもらって、こうして変われたんだ。こいつだって、きっと」 「……そうだな」 夜明けとともに、希望が見えてくる……ような気がした。 幻の物語へ
https://w.atwiki.jp/pantagruel/pages/186.html
編集(管理者のみ) 第二空間 - 力への意志とパースペクティブ主義 .
https://w.atwiki.jp/soundpontata/pages/135.html
Schwarz ~そして少女は森の中~ 蒼く月映す水面に漕ぎ出した 白い小さな手は不器用に櫂を手繰り 昏く森を閉ざすように纏う霧は深くなる…… 辿りつきたる岸辺に咲ける花は── 鮮やかに腐す程に仄甘く── 「追憶ノ鎖ニ繋ガレタママ父親(ニゲルモノ)ヲ追イ駈ケ彷徨ウガイイ……」 少女惑ワス森ノ声ハ奥ヘト誘イ込ム 死と月明かりにくちづけ踊る蝶は── 鮮やかに舞う程に仄紅く── 「追憶ノ搖リ籠ニ搖ラレナガラ望ム幻想(ユメ)ニ抱カレ朽チ果テルガイイ……」 ──薄すれゆく意識が見せた懐かしい幼き日の幻影(まぼろし) → 【散らばった歪な木片(かけら)を崩さないように積み上げる遊戯】 ← 何度も上手く積もうとしたんだ── そうだ…泣かないよ…『約束(ゆびきり)』したから……
https://w.atwiki.jp/futabayukkuriss/pages/1637.html
そして扉は閉ざされた 3KB 小ネタ 短いです。仕事中の現実逃避に書いてみました 扉を開けると、中にゆっくりの親子がいた。 「ゆっ! ここはれいむとおちびちゃんのおうちだよ! おにいさんははいってこないでね!」 「ゆっくちでていっちぇにぇ!」 私は言葉を失った。これがいわゆる『おうち宣言』というやつだろうか。 以前、知人が部屋を占拠されかけたと聞いた時は、気の毒に思いつつも笑ってしまったものだが――。 どうやら扉を閉め忘れていたらしい。うっかりしていた。これでは友人を笑えないではないか。 「ゆっ? れいむとおちびちゃんのかわいさにみとれちゃってるの? かわいくってごめんね!」 「きゃわいくってごめんにぇ!」 呆気にとられていただけなのだが、なぜ見とれていたと受け取れるのだろうか。 「その――ここはおまえたちの家じゃあないんだ。扉は開いていたかもしれないけど。ここは私の――」 「ゆっ? なにをいっているの? ここはれいむとおちびちゃんのおうちだよ!」 「れいみゅとみゃみゃのおうちだよ!」 まるで聞く耳を持たない。いや、耳という部位が無いのは見てわかるが――。なるほど、これが『餡子脳』か。 ゆっくりを病的なまでに忌み嫌う人間がいることにも納得できるというものだ。 決して気が短くない私だが、目の前の物体と話していると、こめかみの辺りにくるものがある。 「そうか。ならそのまま、そこにいてもいいよ」 そうだ。たかだか人語を理解する饅頭二匹、いてもいなくても大して困ることなどない。 これが例えば犬や猫で、あまつさえ子どもでも産まれていた日には、さすがに私も慌てるが。 「ゆっ! いわれなくてもゆっくりするよ! それよりおにいさんは、れいむとおちびちゃんにあまあまちょうだいね!」 「ちょうだいにぇ! たくしゃんでいいよ!」 ――もう言葉もない。出会ったばかりの私を召使いか何かだと思っているのだろうか。私は傍らに置いた袋を広げ、ゆっくりたちに見せてやった。 残飯などの生ゴミだ。こんなものでも、野良ゆっくりにとってはごちそうだと聞いたことがある。 生ゴミの回収日には、ごちそうを求めるゆっくりとカラス、猫に加え、それらを駆除しようと躍起になる住民の争いが、そこかしこで繰り広げられるのだとか。 幸いにして、私の家の近所にある集積場は平和だ。 案の定、二匹はゴミに飛びついた。無我夢中とはこのことだ。よほど腹が減っていたのか、それともこいつらにはこれが普通なのか。 どちらにしても――何とも浅ましい光景だ。 「ゆゆ~ん! ごはんがいっぱいだよ! むーしゃむーしゃ! しあわせー!」 「おいちいにぇ!」 どうやら味にも満足してくれたらしい。食いカスを飛び散らせながら、おいしそうに食べている。口に出すほど幸せそうでなによりだ。 「ゆっくりごちそうさま!」 「ごちしょうしゃま!」 大量の生ゴミは、ほとんど無くなってしまった。満腹になって気が済んだのか、二匹は私の存在を忘れたかのようにとりとめのない会話を始める。 「おちびちゃん! おかあさんがしょくごのおうたをうたってあげるよ!」 「ゆわ~い! ゆっくち! ゆっくち!」 親の「ゆっくりのひ~」という歌声は聞くに耐えなかった。この雑音に悩まされる住民のために、保健所職員が日夜駆ずり回っているというのもよくわかる。 ゆっくりを飼っている物好きは、近隣住民に対してさぞや肩身の狭い思いをしているのだろう。 「ゆっ! おにいさん!」 扉を閉めようとした私に、ゆっくりが声をかけてきた。どうやら存在を忘れられていたわけではないらしい。だからといって嬉しいわけでもないが。 「こんどはあまあまをもってきてね!」 「あまあま! あまあま! ゆっくち! ゆっくち!」 それなら焼き饅頭などはどうだろう。 私は改めて扉――焼却炉のゴミ投入用扉を閉め、火種を入れた。薪は少なめにし、じっくりゆっくり焼くことにしよう。 そして何となく耳を澄ます。行きがかり上、私も少しいじわるになっているようだ。 「ゆっ? なんだかぽーかぽーかするよ!」 「ぽーかぽーかしゅるよ!」 中から聞こえてくる、そんな脳天気極まり声は、 「あぢゅいいいいいいいい! だずげでええええええ!」 「だじゅげでにぇ! がばいいれいみゅをだじゅげでにぇ! みゃんみゃああああああ!」 という聞くに耐えない悲鳴に変わり、やがて聞こえなくなった。 (了) 以前書いたもの…… ふたば系ゆっくりいじめ 525 犬 ふたば系ゆっくりいじめ 532 川原の一家 ふたば系ゆっくりいじめ 554 ゴキブリ(前編) ふたば系ゆっくりいじめ 555 ゴキブリ(後編) ふたば系ゆっくりいじめ 569 ねとられいむ ふたば系ゆっくりいじめ 622 格子越しの情景 ふたば系ゆっくりいじめ 654 奇跡の朝に ふたば系ゆっくりいじめ 715 下拵え ふたば系ゆっくりいじめ 729 ある日の公園で ~the Marisas and men~ ふたば系ゆっくりいじめ 740 彼女はそこにいた ふたば系ゆっくりいじめ 759 Eyes トップページに戻る このSSへの感想 ※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね! 感想 すべてのコメントを見る ゆっくりの断末魔は最高の歌だなぁ もっとゆっくりしたかったは論外 -- 2014-08-01 21 47 40 おもしろかったwこれぞ小話って感じで上手いですねw -- 2011-08-19 12 43 25 ゆっくり焼かれていってね♪ -- 2011-07-23 15 41 54 上手いw -- 2010-12-06 16 29 16 ギャワーwww 焼却炉をお家にするとは感心した生ゴミですね。駆除する手間が一つ省けたw -- 2010-11-03 21 12 59 数人で集まって、大声で不協和音を奏でながらゆーゆー言ってみればいいと思う 聞くに堪えないぞ、多分 -- 2010-08-02 11 59 48 実際、れいむのお歌はどんなものなのだろうか?聞きたい。 -- 2010-07-19 05 49 40
https://w.atwiki.jp/roborowa/pages/377.html
そして終焉【フィナーレ】へ…… 後編 ◆9DPBcJuJ5Q 本郷は予想よりも早く、先行していたゼロとイーグリード、そしてミーと水色の髪の少女にしか見えない容貌の少年――ドラスと合流することが出来た。 ソルティの容態を気遣い全力とは程遠い速さで走っていたのだが、彼らが合流して話し込んでいたのが幸いしたようだ。 そこから始まった情報交換で真っ先に確かめたのは、ドラスが危険人物であるか否かということだった。 この疑惑に対して、ドラスは「最初はそうだったが、今は違う」と先程ゼロが言ったのと同じ事を言い、その内容を詳しく話してくれた。 聞かされたのは、彼が得た家族のこと。支えてくれた仲間たちのこと。 途中、ドラスは感情が昂ぶり言葉が途絶えてしまうところもあったが、その時はゼロが言葉を挟み、間を繋いでくれた。 その話の中で特に本郷が驚いたのは、ドラスが変わる切っ掛けを作った敬介と、ドラスが立ち直る切っ掛けを作った風見のことだった。 風見志郎。絶望と恐怖に沈んでいたドラスを、荒療治で立ち直らせたという。その後はウフコックが話していた強敵・ボイルドを撃破し、そして火柱キックの超威力の勢いのまま要塞に突入し、シグマと対峙していたとは思いもしなかった。 その風見が遺し、敬介が伝えたという希望の灯。それが嘘偽りの無いものであると信じられる。 神敬介。まさか、自分とは異なる時間軸から連れてこられ――バダンによって洗脳された状態だったとは、思いもしなかった。 その敬介を暗闇の呪縛から救ってくれたのが、ハカイダーとフランシーヌ――奇しくも、先程の激闘で命を落とした2人だったという。 彼らに敬介を救ってくれた礼を言えなかったことが、今更ながら悔やまれる。 そして、ほんの数時間前に彼らが死闘を繰り広げたエックスの話になると、武美とウフコック、ミーも顔を強張らせていた。 エックスとの死闘により、チンクと敬介は死亡し、ナタクという男もドラスを救いエックスを倒す為に命を懸けたという。 「……エックスの最期は、どんなだったの?」 武美が神妙な面持ちで問うと、ゼロは顔を俯けた。 そして、数秒の沈黙の後、答えてくれた。 「…………救いようの無い、大バカ野郎だったよ」 恐らくエックスは、親友にさえも容赦なく銃口を向けたのだろう。 まるで血を吐くようなゼロの言葉に、武美もミーもウフコックも、それ以上は何も言わなかった。 代わりに、本郷はソルティがエックスの仲間だったことを告げた。それを聞いたゼロは、自分からソルティにエックスのことを伝える役を引き受けてくれた。 エックスの親友であり、エックスを討ち取った本人であり、エックスの最期を看取ったゼロ以外に、適任者はいないだろう。 本郷はゼロの申し出を受け入れ、彼の心中を察して、せめて深々と頭を下げて礼を言った。 そして、話が先程までのスバルとの戦いに及ぶと、ミーとイーグリードも口を挟み、ドラスの言い分を援護してきた。 スバルが懐いていた敵対心の原因は、確かにドラスにあった。そして、スバルの姉であるギンガが、スバルの攻撃からドラスを庇って死んだことがそれに拍車をかけ、強迫観念にまでしていたのだ。 しかし、その誤解も解け、彼らは分かり合えた……はず、だった。 「スバルが自殺しただと!?」 寸毫も予想していなかった突然の訃報に、ウフコックが声を荒げる。それに対して、イーグリードは静かに頷くのみ。 恐らくスバルは、姉を殺してしまった良心の呵責と絶望を、ドラスへの憤怒と憎悪で何とか抑え込んでいたのだろう。 だが、ドラスとの和解により、今まで自分を支えていた憎悪と憤怒が消失し、絶望に耐えられなくなってしまった……。 スバルの精神が、そこまで追い詰められていたとは……察してやれなかった自分が情けない。 見ると、スバルの訃報に武美やウフコックだけでなく、ドラスやミーも沈んでいる。 ……誰かの死を悲しめる者が、邪悪なものであるはずが無い。 なにより、今まで彼が語った言葉の数々に込められた、多くの想い。それが分からないようでは、仮面ライダーは勤まらない。 「本郷。これで、話は全部だ。……お前は、ドラスをどう思う?」 ゼロからの問い掛けに、全員の視線が本郷へと集中する。その中でもとりわけ、ゼロからの視線は厳しい。 自分の一言が、ドラスの立場を左右することは本郷も十二分に理解している。武美もウフコックもミーも、本郷を強く信頼してくれている。だからこそ、本郷の判断に大きな影響を受けて考えるだろう。 ここで本郷が信じられないと言ってしまえば、最悪、それだけでゼロとドラスとの対決が避けられなくなってしまいかねない。 尤も、それは本郷が自分を戒める為にした仮定でしかありえないのだが。 本郷はゼロの言葉に頷くと、ドラスへと歩み寄り、彼の両肩に手を置いた。 それに反応して視線を上げたドラスの目を、本郷は真っ直ぐに見つめた。 純粋で綺麗な、そして力強さを秘めた瞳。 その瞳の輝きは、どこか、復讐を棄てて正義を選んだ男達に似ていた。 「ドラス、よく頑張ったな。そして、敬介のこと……俺からも礼を言わせてくれ」 「お、お礼って……?」 「敬介を許してくれて――敬介を、仮面ライダーXと認めてくれて、本当にありがとう」 戸惑うドラスに、本郷はすぐさま答えを返した。 敬介は暗闇に操られていたとはいえ、守るべき者達を、そして茂をも殺してしまった。その大き過ぎる罪に、仮面ライダーが決して犯してはいけなかった過ちに、敬介は打ちのめされていたはずだ。 その敬介を、家族を奪われた悲しみと憎しみを越えて――ドラスとチンクは許した。 もしもドラスとチンクに許されなかったら、敬介は最後まで仮面ライダーとしての誇りと信念を取り戻せなかっただろう。 戦うことにしか活かせない、鋼の仮面と機械の身体。 だが、だからこそ、戦いの中で得られた思い出や絆がある。仮面ライダーとしての誇りがある。 敬介がそれらを取り戻せたことが、本郷には嬉しかった。 だからこそ、それを成してくれたドラスに礼を言い、彼を認めたのだ。 「じゃ、じゃあ! 僕も……本郷さんと一緒に戦ってもいいですか!?」 すると、緊張しながらも、どこか喜色が混ざった表情でドラスはそのようなことを問うて来た。 正直、彼の今の身形からは高い戦闘能力を連想することは出来ないのだが……。 「ドラスの戦闘力はなかなかのものだぞ。それに、覚悟も決意も並じゃないさ。でなければ、ここにこうして立っていない」 すると、本郷の心情を察してか、ゼロがそのようなことを言ってきた。 そのように言われては、本郷も頷くしかない。 それに、ドラスは風見と敬介、2人の後輩が導いた戦士なのだ。蔑ろにすることは、彼らに対しても失礼だろう。 「こちらこそ、よろしく頼む。ドラス」 言うと同時に、ドラスの肩に置いていた手を離し、そのまま右手を差し出す。 「はい、本郷さん!」 本郷が差し出した右手を、ドラスは嬉しそうに、そして誇らしげに握り返してくれた。 ドラスとの握手を終えて、本郷は武美とウフコックとミーに振り返った。 3人とも本郷の判断に異論は無いらしく、黙って頷いてくれた。 「自己紹介が遅れちゃったね。私は広川武美。こっちはソルティ。よろしくね、ドラスくん」 そう言って、武美はドラスに歩み寄って握手をした。 慎重で疑り深いところもある武美が、先程まで疑惑を懐いていた相手に積極的に接してくれることは、少し意外だった。 復讐を乗り越えたというドラスに、思うところがあるのかもしれない。 「委任担当捜査官、ウフコック・ペンティーノだ。……これまでの誤解を詫びたい」 武美の肩に乗ったウフコックは自己紹介に謝罪を重ねる。それに対してドラスは、それぐらいは当然の報いだと言ってくれた。 強い子だ。ここまで強くなれたのは、風見やゼロの影響だろうか。 「僕はミーくん。見ての通りの猫のサイボーグさ!」 ミーもまた、ドラスと握手を交わす。 「仮面ライダー1号、本郷猛だ」 本郷も改めて、人間として、そして仮面ライダーとして名乗る。 「今更だが、そういえば碌に挨拶もしていなかったよな。俺はイレギュラーハンター第0機動部隊隊長、ゼロだ。厚かましいかもしれないが、よろしく頼む」 暴走していたことをまだ引き摺っているのだろう。少しバツが悪そうに、ゼロも改めて名乗った。 武美が即座に応じると、小声で礼を言っていた。 「僕はドラスです! みんな、よろしく!」 元気の良いドラスの挨拶が辺りに響く。 こうして見ると、外見は完全に少女だが……変えられる姿を変えようとしないのは、初めの思惑はどうあれ、この姿で積み重ねてきたものを大切に思えばこそだろう。 そして、最後の1人が徐に口を開いた。 「俺は、元イレギュラーハンター第7空挺部隊隊長……そして、シグマ隊長の直属の部下、ストーム・イーグリードだ」 イーグリードの言葉に、全員に緊張が走る。 シグマの直属の部下であると明確に告げられれば、彼の人となりを知っていてもやはり警戒してしまう。 「話したいことは数多くある。だが、今は敵対勢力の情報把握こそ肝要だ」 本郷達からの暗黙のプレッシャーにも動じず、イーグリードは口を開いた。 ゼロは黙ったまま、視線だけでイーグリードに先を促した。それに頷き、イーグリードは話を進める。 「今残っている参加者は、ここにいるメンバーを除いて3人。その3人が全員、勝ち残りを目指す危険人物であり、屈指の戦闘能力を有している」 「え? ゼロさん、フランシーヌさんとハカイダーは?」 「そうだよ。他は3人だけじゃないんじゃないの?」 『残り3人』というイーグリードの発言に、事情を知らないドラスとミーが疑問を口にする。 ゼロはその問いに即答できず、苦虫を噛み潰したような表情になる。 「……そのことも含めて、まだ話し合うべきだな。イーグリード、続けてくれ」 ゼロの心中を察してだろう、ウフコックがそのように言ってイーグリードに先を促した。 頷き、イーグリードは話を再開した。 「メガトロン、コロンビーヌ、T-800。それが、残る危険人物の名だ」 ▽ 先ず、ゼロの暴走の現場に居合わせていなかったドラスとミーに、本郷とウフコックとゼロが事の顛末を伝えた。 シグマウィルスによるゼロの暴走、フランシーヌとハカイダーの奮戦と彼らの死。 2人のお陰で正気に戻れた、とゼロが告げると、ドラスは何かに納得したように、静かに頷いた。 ミーはアルレッキーノが大切に想っていたフランシーヌと、一度は助けられたハカイダーの死を悼んだ。 それを見届けると、イーグリードはすぐに残る3人の危険人物について伝えた。 ここまで数少ない戦いだけで着実に生き残ってきた、智謀と実力、何より運を併せ持つ難敵――メガトロンとコロンビーヌの2人組み。 本郷はコロンビーヌがフランシーヌを裏切ったという事実に強い衝撃を受けていたが、すぐに立ち直り、戦士の顔に戻った。 厄介なのは、あの2人が所持している支給品の中にパワーアップアイテムがあることだ。やはり、彼らの悪運は相当なものだ。 イーグリードは主催者側として把握していた2人の性格と戦力、ここに来てからの戦法を正確にゼロ達に伝えた。 奇しくもこの時こそが、ドラゴンメガトロンがギギの腕輪とガガの腕輪を装着しグラーフアイゼンを振り被るコロンビーヌに必死の弁解をしている、その瞬間であった。 そして、次に伝えたのがT-800のことだ。 T-800の経歴は全参加者の中でも特殊であり、そのこともイーグリードは仔細に説明した。 「つまり、だ。T-800は人類掃討の為に作られたレプリロイドだが、人類側に捕まって服従プログラムを書き込まれ、人類側の戦力になった。 だが、シグマウィルスによってそのプログラムが破壊され、現在は元通り、人類掃討のために動いている……ということだな?」 ゼロが話した内容を簡潔に纏めて、イーグリードに確認した。 冷静な分析力と判断力は相変わらずだと考えながら、首肯する。 「そうだ。元々の設計思想がイレギュラーそのものだからこそ、シグマウィルスによる影響も服従プログラムの破壊のみに留まっているようだ」 まさか、シグマ隊長をイレギュラーから正気に戻した機能が、一方では嘗てのイレギュラーを目覚めさせてしまうとは……皮肉、だな。 「……ボブは本当に、この殺し合いに乗っているのか?」 「獅子王凱を殺したのはヤツだ。無論、獅子王凱はシグマウィルスには感染していなかった」 「そう、か……」 仲間と信じていた者の本性を聞かされ、本郷は悔しそうに呟いた。だが、それでも多少の疑念はあったのだろう。 そうでなければ、出会ったばかりのイーグリードの言葉だけでT-800が敵だと認めることはなかったはずだ。 「さて。どうする、本郷。T-800への対処を優先するか? それとも、イーグリードから更に話しを聞くか」 最初からT-800を敵だと判断していたゼロは躊躇うことなく、未だに沈黙している本郷にこれからの方針を問うた。 どうやら、ゼロは本郷を試しているようだ。 「ふむ…………ウフコック、武美、ミー、ドラス。君達の意見は?」 暫時思考すると、本郷はゼロ以外の仲間4人の意見を尋ねた。 先程は率先して意見したが、こういう場面では全員の意見を尊重する。リーダーとして申し分ない判断能力だといえるだろう。 仮面ライダーのリーダー格は、やはり伊達ではないということか。 「俺は、T-800への発言に対する信憑性を確かめるためにも、イーグリードから話を聞くことを優先すべきだと考える」 「私も賛成。嘘で私達を罠に嵌めようとしているのかも知れないし」 ウフコックと武美は、戦場を共にした相手とは雖も、イーグリードへの警戒を緩めずにそのように言った。 この判断は妥当であり適確だろう。同時に、イーグリードが信頼を得られていないことの証左でもあるのだが、致し方あるまい。 「僕も2人に賛成。……正直、ボブさんと戦うにしても、どうしても迷っちゃいそうだし」 「うん、僕もミーくんと同じだよ。……けど、もしもスバルお姉ちゃんのことが嘘だったら、容赦しないよ」 ミーとドラスは、自分の気持ちに正直にそう言った。特に、ドラスの睨みには肝を冷やす。 自分の感情に素直なところが、この2人の美点であると同時に欠点といったところか。 しかし、その姿は……まるで、あの頃の――――。 「俺も皆に賛成だ。……それに、今の俺ではボブ――T-800を倒せるのか怪しい」 「安心しろ、本郷。ヤツは俺が殺してやる」 珍しく弱気な発言をした本郷に、ゼロが言葉を重ねる。 その表情に一切の迷いも疑いも無い。唯一ゼロだけが、イーグリードに全幅の信頼を寄せてくれている。 そのことに感謝しつつ、イーグリードはゆっくりと口を動かした。 「分かった。それでは、君達に伝えよう。この殺し合い……バトルロワイアルの真実を。そして、シグマ隊長の真意を」 伝えるべきことはあまりにも多く……そして、重い。 ▽ 静寂とは違った、沈黙。 イーグリードから伝えられた『真実』。それによって、この雪原の空気が更に下がり、肌に感じるほど重くなった――そんな錯覚を、武美は感じていた。 それは恐らく他のみんなもほぼ同様なのだろう……が、生憎と、今の武美にそんなことを気に懸けられる余裕は無い。 真実を告げられた直後は、そのあまりにも突拍子の無い内容に理解が追いつかず、混乱してしまった。 その間にも、本郷やゼロ、ウフコックはイーグリードと話を続けて――やがて聞いているだけだった武美やミーやドラスにも、イーグリードが伝えた言葉が、本当に“真実”なのだと理解できた。 本郷達の話についていこうとしてオーバーヒート寸前だった頭を、深呼吸して冷たい空気を取り込むことで強制的に冷却した――が、すぐに別の理由で、頭がカッとなった。 そして、その湧き上がった熱を内に留めることなどできず、口から外へと思い切りぶちまけた。 「ふっ――――っざけないでよ!!」 武美の叫びが、周囲の静謐とした空気を震わせる。 そして、それに呼応するようにして、他の皆も口を開いた。 「この殺し合いが、平和によって堕落した人間によって仕組まれた――茶番、だったというのか……!」 「酷過ぎるよ、こんなの……こんなのって、無いよ……!」 「くそっ、胸糞悪ぃ……!」 イーグリードが告げた真実とは、この殺し合い――バトルロワイアルの実態だった。 嘗て、シグマが風見志郎に告げたのと同様の内容を、イーグリードは話したのだ。 曰く、日常から非日常に放り込まれた者が変わり果てていく過程を眺めるのが好きだ。 曰く、単純に殺し合いを観るのが、股座がいきり立つほど好きだ。 曰く、善良な者が邪悪な者に堕ちていく姿が好きだ。 曰く、高潔な信念や理想が、クソみたいな現実に蹂躙されて砕け散る瞬間が好きだ。 ――そんな、邪でどうしようもなく下らない欲求や趣味を持った暇人達が、持て余していた暇を埋めるために用意した『娯楽』。 それが、この殺し合いの正体だったのだ。 はっきり言って、反吐が出る。 世界征服やら企業利益のためやら、そんな野望の為だった方が億倍マシだった。 なんの野心も理念も持ち合わせない暇人達を、ただ満足させる為だけに、自分達はゲームの駒のような役割を強制され、つい先程まで掌の上で踊らされていた。 ……ああ、本当に、反吐が出る。 エックスに懐いた憎悪と憤怒をも上回る激情が、武美の内に沸々と、際限無く湧き上がっていた。 「奴らは、長らくロボットの軍団と戦争状態にあった。その歴史が、俺達のような存在に対する差別と偏見を生み出したらしいな」 イーグリードもまた、自分で言っていて胸糞悪くなっているのだろう。このバトルロワイアルを開いた人間たちの事情を、吐き棄てるように言った。 しかしそんな程度で、今の武美は溜飲を下げることなど出来ない。 「クロちゃんも、草薙さんも、みんな、精一杯生きてた! 本郷さんも、ソルティも、ミーくんも、ウフコックも……ゼロさんやドラスくん、それに私だって、頑張って生きようとしている!! そんな私達の命を見世物にして、自分達の暇潰しにするなんて……絶対に許さない!!」 心の内に湧き上がった激情を、言葉として吐き出す。 その鬼気迫る形相と口吻の激しさに、ウフコックやイーグリードでさえも驚いていた。 だが、こんな程度では納まりが付かない。納まるはずがない。 怒りは雪原の冷たい外気でさえも埒外のものとして、身体を、頭を赤熱させ、呼吸を乱し、肩を、腕を、握った拳を小刻みに間断なく震えさせる。 そして、武美の表情もまた、醜く歪んだものになっていた。 ――武美本人も、ゼロ達も知る由も無いが、その表情は…… ……ロックマンの亡骸の前で慟哭した、エックスの表情に酷似していた―― 「武美さん、落ち着いて」 すると、突然声を掛けられた。 声の主は、見せしめに殺された少女と瓜二つの容姿の少年――ドラスだ。 ドラスは武美とは打って変わって、憤るでも恨み言を言うでもなく、ただ武美のことを心配そうに見ていた。 その態度が、何だか今の武美には癪に障ってしまう。 「ドラスくん……。あなたは、憎くないの? 私達を道具か玩具みたいに扱ったヤツラが……!」 上から威圧するような、暗に同意を強制するような物言い。 平素とは違う武美の様子に、ウフコックも何も言わずとも心配そうに鼻を動かしている。 ドラスは武美の言葉を聞くと、悲しみに顔を顰めて、数秒の間を置いてから答えた。 「僕だって、あいつらは許せないよ。……それでも、憎しみに身を任せちゃいけないんだって、そう思う」 その言葉は、如何なるものに裏付けられたものなのか。 単なる強がりでも、口先だけの言葉でもないことは、ドラスの目を見れば分かる。 その華奢な容姿には似合わない、強い意志を感じさせる瞳。 ドラスは家族を奪われた憎しみを越えて、その下手人である男――神敬介を許した。たとえ彼が洗脳されていたとしても、彼が殺したという事実に変わりないのに。 もしも武美がドラスの立場で、敬介ではなくエックスに許しを請われても、決して許さなかっただろう。 それどころか、無抵抗なのをいいことに、存分にクロと草薙の仇討ちを――復讐を遂げていたことだろう。 そんな武美を、ドラスが諭す。 憎しみよりも、もっと大切なものを見るべきなのだと。 「武美、そこにいろ。いいもん見せてやる」 そこで唐突に、あの言葉が聞こえてきた。あの時の光景を思い出した。 クロがあの時に言った言葉と、ボロボロの体でニヤリと不敵に浮かべた笑みを。 あの時クロが見せてくれたものは、破壊のプリンスと呼ばれたクロの生き様と戦う姿。 クロはあの時、どうして戦っていた? どうして、死に掛けの身体で、他人の――武美の為に命を懸けてくれたのだ? その理由を、今はまだ理解できない。だけど、これだけは分かる。 あの時クロは、憎しみで戦っていなかった。 そうでなければ、あんな風に笑えるはずが無い。 「ドラスの言うとおりだ。武美、憎しみに翻弄さてはいけない。そして、怒るなとまでは言わないが、怒り過ぎるな。過ぎたるは及ばざるが如し、と言うだろう?」 「過剰な怒りは判断を誤らせ、足りない怒りは決断を鈍らせる。そういうことだ」 本郷とウフコックもまた、武美を穏やかに、そして優しく諭した。 その言葉も、今なら武美の耳に届き、心に響いた。 「そう……だね。ありがとう、本郷さん、ウフコック、ドラスくん」 武美は素直にお礼を言った。この時、照れくさそうにドラスが笑ったのが印象的だった 今までこういうリアクションをする仲間が、ネコのミーやクロしかいなかったからだろう。 「……それで、シグマは何か手を打ったのか? イーグリード」 武美が落ち着きを取り戻したのを見計らって、ゼロがイーグリードにそのようなことを問うた。 これは重要な質問だ。武美も返答を聞き逃すわけにはいかないと、視線をイーグリードへと向けた。 その途中に目に入った、何故かバツが悪そうにしているミーの姿が、武美には不思議だった。 「シグマ隊長は既にスカイネットをシグマウィルスに感染させ、ロボットによる反乱を再び起こした。もう、奴らに並行世界が脅かされることも……このような殺し合いが起こるようなことも、ない」 その言葉に、イーグリード以外の全員が驚きを露にした。 まさか、シグマがそこまで大胆な手を打っているとは考えてもみなかったのだ。 しかし、その中で唯一、本郷だけが驚愕の中に悔恨と悲哀を覗かせていた。 どうしてそんな表情をするのか気になったが、何となく安易に触れてはいけないことだと思えて、この場は流すことにした。 それから暫く、ゼロとイーグリードを中心にシグマについて話し合われた。 「……まさか、シグマが正気に戻っていたとは、な」 イーグリードとの問答を終えると、ゼロはそう言って深く溜息を吐いた。 確かに、絶対的な敵だと思っていた相手が実は善人であり味方とも言える存在だったというのは、武美としても意外であり驚きだった。 この殺し合いの真実のショックが大き過ぎて、そちらのことをすっかり忘れてしまっていた。 「シグマは全ての業を背負って……俺達に倒されることによって、最後の清算をするつもりか」 鋭い目付きで、本郷はそのようなことを言った。 最初、武美にはその意味が分からなかったが、やがて理解できた。 主催者達の片棒を担いできたことと、この殺し合いの運営を実行していたこと。 シグマがイーグリードの言う通り本郷のような善人であったなら、その葛藤や良心の呵責は凄まじいものだったろう。……自殺してしまったという、スバルのように。 だから、シグマがこの殺し合いの最後の罪を背負って死に場所を求めるのも、ある意味当然のことなのだろう。 「そうだ。……ここからは、俺の身勝手な頼みでしかない。どうか、聞いて欲しい」 頷くと、イーグリードは神妙な面持ちで全員の顔を見回して――突然、頭を下げた。 「頼む! どうか……シグマ隊長を救ってくれ! バトルロワイアルを生き抜いたお前達以外に、シグマ隊長を救える者はいないんだ!」 聞けば、元々シグマはイーグリードとゼロ、そしてエックスの上官であり、彼らに『牙無き者の剣となれ』と教えを説いた高潔漢だったという。 敬愛する隊長が、イレギュラー化と言う不治の病を奇跡的に克服して戻って来たというのに、絶望と罪の意識に囚われたまま死んで逝くのはあんまりだと、イーグリードは血を吐くように叫んだ。 数分間、場を静寂が支配する。 そして、武美達の視線が瞑目して黙考しているゼロと本郷に集まると、2人はほぼ同時に目を開いた。 「救えるかどうかは別として、シグマとは決着を付けるさ。本郷、お前はどうする?……いや、その前に。お前は、戦えるのか?」 あやふやな希望は口にしない、容赦の無い戦士の決意の言葉。だが、完全否定をしていないことから、ゼロにも思うところがあるのだろう。 だが、後半の部分の言葉の意味が、武美にはさっぱり分からなかった。 「何言ってるんだよ、ゼロさん。本郷さんの強さはよく知ってるでしょ?」 ミーの反論にも、ゼロはすぐに首を横に振る。 「そういう意味じゃない。仮面ライダーは人類の自由と平和を信じて戦う正義の戦士だと、風見は言っていた。……仮面ライダー1号、本郷猛。お前は、今でもその正義の為に戦えるのか?」 その言葉を聞いて、武美は自分の迂闊さを思い知らされた。 本郷はいつも口にしていたではないか。ゼロが語った言葉、そのままの正義を。 未来の人類の醜い悪意によって起こされた、このバトルロワイアルという悪辣で醜悪な殺し合い。 人類の為に戦うと誓った本郷の正義が、打ち砕かれてもおかしくは無いのだ。 武美はミーと共に、心配そうに本郷を見る。だが、ドラスとウフコックはそんな2人に「大丈夫だ」と声を掛けた。 それが聞こえたのか、本郷は力強く頷いて、答えを口にした。 「ああ、戦える。詭弁かも知れないが、この殺し合いを開いた“未来の人類”と、俺達が信じている“人類の未来”は、きっと違うものだ」 本郷の揺るぎの無い力強い言葉。 その声にも横顔にも、寸毫の迷いも躊躇いも無い。 本人は詭弁かもしれないと言っていたが、武美はそうは思わなかった。 寧ろ、それでこそ仮面ライダー、本郷猛だと拍手喝采を贈りたかった。 「……懐かしい未来、か」 すると、ゼロは本郷の答えに満足してか、小さく笑みを浮かべながらそんなことを言った。 「懐かしい未来?」 文法的に支離滅裂な言葉だが、不思議と綺麗で温かい響きの言葉だと、武美にはそんな風に感じられた。 「誰でも一度は夢見るものだろう? 本当の平和、ってやつをな」 ゼロはそう言いながら、どこか遠くを見つめていた。 ▽ 「イーグリード。君の他に、シグマ側の戦力はいないのか?」 話も纏まったところで、本郷はイーグリードにそのようなことを問い質した。 未だに敵対勢力が健在である現状、味方となりうる戦力の把握は重要だろう。それに、あの要塞にいるのが3人だけということもあるまい。 「実は、俺の他にも7人、各世界から集められた精鋭がいたんだが……」 「が?」 先程までとは違って歯切れの悪いイーグリードの話し方に、首を傾げながらドラスが言葉尻を取って先を促した。 それを見て溜息をついてから、イーグリードは重い口を動かした。 「V3の火柱キックで、既に目覚めていた俺以外の全員が重傷を負ってしまったんだ。少なくとも5人はライト博士でも修理できないほどの深手を負い、やむを得ず自分達の世界に帰還した。後の2人も、もしかしたら戻っているかも知れんな……」 その言葉に、全員が瞠目した。風見の先輩である本郷でさえも、だ。 コロニーを突き破って要塞に突入しただけでも途轍もない偉業だと言うのに、まさかそれほどのことを成し遂げていようとは。 威力が制限された状態でそれほどの威力だったのならば、制限が無かったのならどうなっていたのだろうか。 ……もしかしたら、あの要塞は宇宙の塵になっていたかもしれない。 本郷は本気で、そんなことを考えていた。 それも偏に、V3の改造手術を施した本人であることと、風見志郎の高い実力を知るが故の冷静な判断に基づくものなのだから末恐ろしい。 「凄いや、風見さん……!」 ドラスは驚き半分、憧れ半分で赤い仮面の男の名を呼んだ。 それを聞いたミーと武美も、確かに凄い、と頷いている。 「元の世界に戻る装置が要塞内にあるのか?」 仮面ライダーV3の意外な功績はともかくとして、ウフコックはイーグリードの言葉の中にあった重要な単語を聞き逃さず、それをすかさず確かめた。 イーグリードもすぐに、それに頷いた。 「ああ。シグマ隊長の待つ玉座の間――お前達が最初に集められた場所に隠されている」 それはつまり、シグマを無視して帰還することは決してできない、ということだ。 改めて、全員がシグマとの決着を覚悟する。 「さて。本郷、どうする? 勝ち残りを狙っている連中とシグマ……どちらと先に決着をつける?」 もうイーグリードから聞く事はないと、ゼロは本郷に今後の方針を問うた。 迷わず真っ先に本命を攻めるか、後顧の憂いを先に絶つか。 「……シグマと決着をつけよう。イーグリード、要塞へ案内してくれ。ソルティの容態も気懸かりだしな」 本郷は、シグマとの決着を優先した。それには誰も異論を挟まない。 この決断は、仲間と信じていたT-800との対決を先延ばしにしたものではない。 バトルロワイアルの打破のために陰ながら戦っていた、同志とも言える存在であるシグマを一刻も早く救いたいという、本郷の愚直のまでの正義感によるものだった。 「分かった。最寄りのシャトル基地に行くぞ。そこにも要塞への転送装置がある」 イーグリードの言葉に頷き、全員がシャトル基地に移動すべく準備を始めた。 この時、ドラスが体内に爆弾があっては要塞には行けないのではないかと疑問を口にした。しかし、イーグリードは問題無いと即答した。 参加者の体内に仕掛けられた爆弾は禁止エリアに接触しなければ爆発せず、除去も容易。また、ドラスならばコロニーから出て制限さえ無くなれば自力で体外に排出できるだろう、とのことだった。 出発の準備をする中、ドラスはスバルの亡骸を確かめられないことを悔いたが、今はそんな場合ではないと、後ろ髪を引かれる想いを必死に振り払った。 ▽ 全員が着々と移動の準備を進めている中、1人だけ離れた場所にいるミーに気付き、ウフコックは武美と本郷に断りを入れてからミーの下へと向かった。 本郷は現在、イーグリードとゼロと最後の打ち合わせ中。武美もドラスと会話しながら、未だ意識の戻らないソルティを看ている。また、ドラスもイーグリードから受け取ったサブタンクというアイテムによって傷を治している最中だ。 ならばこの状況で彼と接触するのは自分こそが適任だと、ウフコックは判断した。 「ミー、どうした? 浮かない顔をしているようだが」 離れた場所に座り込んでいるミーの足元に近付き、話しかける。 しかし、この顔の造りでどうしてこんなにもミーは感情表現が豊かなのだろうか。彼を改造したという剛博士の技術力は驚くべきものだ。 「ウフコック。どうしたんだよ、君の方からボクに絡んでくるなんて珍しいじゃないか」 「ああ。お前から、僅かながら孤独を感じたのでな」 ミーの声にはやはり元気や覇気というものが、今までに比べて少ないように感じられた。 加えて、出会ったばかりの頃のバロットを髣髴とさせるような、孤独と、僅かながらの虚無。ここに絶望感が無いのは、この状況で幸いだ。 「……御自慢の鼻かい?」 「いや。経験による推察だ」 何も嗅覚とターンだけがウフコックの全てではない。経験し、思考し、時には直感することだってある。 ミーもその言葉に納得してくれたようで、すぐに元気の無い理由を話してくれた。 「そっか。……実はさ、この殺し合い、バトルロワイアルだっけ? それの真実って言うか、理由を聞いてもさ、あんまりショックじゃなかったんだよ」 「なに?」 ウフコックはミーの言葉が信じられず、思わず聞き返してしまった。 あのような下劣な動機を聞かされて、さほどのショックを受けなかったというのは、どういうことなのだろうか。ウフコックでさえも聞いた直後は激情で思考が埋め尽くされたというのに。 だが、それならば、ミーの感じているであろう孤独も理解できる。 「ボクは元々野良猫で、ボクを改造してくれた剛くんも変人扱いされていた。だからってわけでもないけど、人間の嫌な部分はよく知っているんだよ」 どうやら、ミーはその『原因』を語ろうとしているようだ。 或いは、情報を共有することで孤独や罪悪感が和らげるのではないかと考えているのだろうか。 それならば望むところだ。ウフコックという個人が独力で誰かの力になれるのなら、それも悪くない。 「剛くんが川原に家を作って勝手に住み着いて、捨てられていた子猫を拾っては面倒を見ていた時期があったんだ。そしたら近くに住んでいる連中はさ、迷惑だからどっか行けって、毎日毎日言い寄ってきた。……ボクらに、行く当てなんか無いのにさ」 恐らくは、所謂ホームレスのような暮らしだったのだろう。 それにしても、ミーのようなサイボーグを作る技術を持った科学者の有用性を認めずに変人扱いするとは。武美の件といい、別世界の事情には良くも悪くも驚かされてばかりだ。 「で、ある日、剛くんと用事から帰ってきたら……家が燃やされてた。『我々は再三警告したのだ』……ってさ」 「それは」 相手は行く当ても無く、その場に留まる事しか出来ない弱者。それに対する嫌がらせならば、分からなくも無い。 だが、焼き討ちとはどういうことだ。あまりにも苛烈で、あまりにも過剰な仕打ちではないか。 ミーの善良な人となりを知ればこそ、その人間たちの行動がウフコックには信じられなかった。 「剛くんは家に残っていた子猫達を助ける為に火の中に飛び込んで、ボクもそれに続いた。……あの時、それを見ていた人間たちの目が、忘れられないんだよ。…………あの、ゴミか何かを見るような目が、さ」 人を人として扱わず、生命を生命として見ず、ただ、己の衝動と欲望のままに行動するその姿は――今回の殺し合いを開いた連中と、根源の部分が同一ではないだろうか。 ウフコックはここで、ミーの言わんとしていることを察することが出来た。 つまりミーは、とっくの昔に人間を見限っていたのだ。 「人間って言うのは、利己的で傲慢で残酷で、自分達の為なら自分達以外のものをどうしようと、どうなろうと感心を持たない最悪な生き物だって、その時思ったんだ。 勿論、剛くんやクロんトコのじーさんとばーさん、本郷さんや武美みたいな一部の例外を除いてね」 あまりにも饒舌な言語と人間的な思考と感情に忘れがちだったが、ミーは猫。人間でも、人間を模して造られたロボットでもないのだ。 人間に対する見方、人間から受けた仕打ち、人間からの見られ方。それらに人間である、若しくは人間的である本郷達と大きな違いが生じるのは、当然のことだったのだ。 「だから、かな……。ボク、『暇人達が娯楽の為に殺し合わせてた』って言われても、『ああ、そんなもんなのか』って、あっさり納得できたんだよ。……なんだかそのことがさ、みんなにすっっっごく申し訳なくてさ~」 それでも。人間を絶望や諦観とも違った感情によって見限っておきながら、個人を個人として見られるのは、ミーの美徳か。 或いは、剛博士を始めとした、様々なモノ達との交流で培った絆【ボンド】によるものか。 なんにせよ、ミーらしい悩みであったと、ウフコックは安心した。 感じられた微かな虚無も、恐らくは過去の残滓。 ウフコックが気に懸けずとも、ミーならば自力で解決できるだろう。 「感性は人であれ猫であれ、それぞれのものだろう。そのことで、お前が罪悪感や孤独感から孤立してしまうような必要性は無い」 「そう、かな」 「少なくとも、俺はそう思う」 弱々しく聞き返してきたミーに、ウフコックは即座に頷く。 「……ありがとう、ウフコック。ちょっと、元気が出てきたよ」 先程までの浮かない顔が、今では引き締められたものになっていると分かる。 ……まったく。猫という全く別の生物とのコミュニケーションを確立し、人間的感情表現まで実現させた剛博士の技術力には驚くばかりだ。 「そうだ! ドラスにも言ったじゃないか、ボクらに落ち込んでる暇はないって! よぉし、頑張っていくぞー!!」 そう自分自身に言い聞かせ、ミーはいつもの調子を取り戻した。 やはり、ミーには明るいムードメーカーの姿が似合う。 私見ではあるが、これで内憂は払われた。 本郷も、ゼロも、ドラスも、ミーも、武美も、そしてウフコックも、己の内にあった憂いを互いに支え合うことで打ち払った。 これで、残る問題は外患のみ。 シグマとの決着、和解は不可能と考えられる3人の危険人物、そして未知のイレギュラー要素。 この殺し合いの終わりがどうなるかは分からない。 だが、終幕【フィナーレ】に近付いているのは確かだろう。 ▽ ミーとウフコックの話が終わると、早速、移動を開始することになった。 本郷はゼロから渡された己が愛車にして半身とも言えるサイクロン号に跨り、後ろには武美とウフコックを乗せる。 ゼロはサイクロン号と交換に受け取った、ハカイダーの愛車である白いカラスに単身跨る。 ドラスはミーと共に、仮面ライダーストロンガーのパートナーであったという電波人間タックルの愛車に、格別の因縁と感慨を感じつつ足をかける。 イーグリードは未だ気絶しているソルティを、壊れ物を扱うように丁寧に抱きかかえている。 「行こう」 本郷からの号令に応じて、彼らは“終わり”へと向けて一斉に走り出した。 時系列順で読む Back そして終焉【フィナーレ】へ…… Next そして終焉【フィナーレ】へ…… 状態表 投下順で読む Back そして終焉【フィナーレ】へ…… Next そして終焉【フィナーレ】へ…… 状態表 152 そして終焉【フィナーレ】へ…… ゼロ 152 そして終焉【フィナーレ】へ…… 状態表 152 そして終焉【フィナーレ】へ…… 本郷猛 152 そして終焉【フィナーレ】へ…… 状態表 152 そして終焉【フィナーレ】へ…… 広川武美 152 そして終焉【フィナーレ】へ…… 状態表 152 そして終焉【フィナーレ】へ…… ソルティ・レヴァント 152 そして終焉【フィナーレ】へ…… 状態表 152 そして終焉【フィナーレ】へ…… イーグリード 152 そして終焉【フィナーレ】へ…… 状態表 152 そして終焉【フィナーレ】へ…… ドラス 152 そして終焉【フィナーレ】へ…… 状態表 152 そして終焉【フィナーレ】へ…… ミー 152 そして終焉【フィナーレ】へ…… 状態表 152 そして終焉【フィナーレ】へ…… トーマス・ライト 152 そして終焉【フィナーレ】へ…… 状態表
https://w.atwiki.jp/loli-syota-rowa/pages/440.html
リリス乱舞/斬、そして……(前編) ◆sUD0pkyYlo ……この光景は、何なのだろう。 森の中に、穏やかな風が流れる。揺れる木々の隙間から、キラキラと眩しい陽光が降り注ぐ。 目の前ののどかな、笑顔さえ零れるやりとりに、蒼星石は微かな眩暈を覚える。 「……なるほどね。で、『バルディッシュ』、だったかしら? 私にも貴方を扱えるのかしら?」 『白レン、あなたからもリンカーコアの存在は感じられます。 私がフォローすればミッドチルダ式の魔法も使えるでしょう。ただ……』 「ただ、この子をあなたに渡しちゃうと、今度は私が使える武器がなくなっちゃうの」 森の中にそびえる塔の前、ちょっと開けた空き地にて。 穏やかな青空の下、タバサと白レンがお互いの武器を手に取りながら話をしている。 そこには警戒も何もない。初対面からほとんど間も無いというのに、数年来の友人のような親しい雰囲気。 そして話しているのは、詳しい自己紹介よりも先に始まった、お互いが持っている武器と能力の確認―― 2人の間を取り持った蒼星石にも、この2人の行動は予想外。 白レンのすぐ傍、黙って周囲を警戒しているイシドロのことも、どう判断したものか迷う。 「私にも『エーテライト』が使えるようなら、交換してもよかったんだけど……。 パーティの戦力バランスを考えると、バリアジャケットがある人が前衛に立った方がいいと思うの。 みんな防具は持って無いし、バルディッシュが作るバリアジャケットはかなり頑丈だし」 「でしたら、貴方が持っていた方が良さそうね。 私は杖で戦った経験は無いし、後ろから氷の技で援護させてもらうことにするわ」 「あの――ちょっといいかな?」 どんどん進んでいく話に、蒼星石はとうとう我慢しきれずに口を挟んだ。 何? と不思議そうな表情で首を傾げる少女2人の視線に、蒼星石は少し戸惑う。 「その……さ、何でまた、いきなりそんな話をしてるのかな……。 互いの自己紹介とか、これからの方針の相談とか、もっと先にやることはあると思うんだけど……」 「何言ってるの、蒼星石? パーティの仲間が増えたらまず『そうび』を確認するのは、基本じゃない?」 「残念ながら、この島ではいつ誰に襲われてもおかしくないの。まずは身の安全を図らないとね」 ごくごく当たり前のことのように、事もなげに断言する2人。蒼星石は混乱する。 確かに筋は通っているようだけど……でも、本当にそれでいいのか!? 自らの常識的な感覚が揺るがされる。何を信じればいいのか分からなくなる。 いや、夢の中での出来事を深く突っ込まれないのは、蒼星石にも都合がいいのだけど……。 そんな彼女の前で、白レンはふと思い出した様子で、ランドセルから何かを取り出す。 「そういえば……貴方がたのどちらか、これ何だか分かるかしら? 支給品の1つなのだけど、使い道が分からなくて」 「?? 楽器? それともオモチャ?」 「それは……!」 蒼星石は思わず声を上げる。 出てきたのは小さなバイオリンケース。普通の人間には小さすぎる、ミニチュアサイズの精巧な一品。 見間違えるはずがない、それは、どう見ても…… 「知ってるの、蒼星石?」 「それは、金糸雀のバイオリンじゃないか!」 「カナリア? 誰、それ?」 「ボクの姉妹の1人さ。ローゼンメイデン第二ドール、金糸雀が使うバイオリン。 演奏する曲に力を乗せて、多彩な技を放つ彼女の武器だ……!」 自分自身の『庭師の鋏』が奪われていたから、姉妹たちも似たような状況にあることは容易に想像できた。 けれども、こうして実際に他の姉妹の道具を目の前にすると、不安になってくる。 今ごろ金糸雀はどうしているのだろう。バイオリンが無くて苦労してないだろうか。 あの子はコレが無いと、使える技がほとんど無くなってしまうから……。 「へー、音楽で戦うの? 楽しそう! 蒼星石にもできる?!」 「いや、ボクには無理だ。金糸雀のローザミスティカがあればともかく、これはボクの道具じゃないから。 ただ……」 目を輝かせるタバサの前で、蒼星石はバイオリンケースを受け取って蓋を開く。 取り出したのはバイオリン――ではなく、それに付属している演奏用の弓の方。 「ただ、こっちは使えそうだ。 軽いし、短いし、『庭師の鋏』のようにはいかないけれど――はッ!」 バイオリンの弓を剣のように構えると、唐突にその場で跳躍、そして一閃。 空中で1回転した彼女が着地すると同時に、太い樹の枝がゆっくりとズレ始め、やがてバサリと落ちる。 その切断面は鏡のように滑らかで、まるで日本刀で斬ったかのようだ。 まさに一流の剣士のような動きに、白レンもイシドロも目が点。 元々蒼星石はローゼンメイデンの中でも珍しい、近接戦闘に特化したドールだ。 そしてこれは万能型の金糸雀が剣の代わりに使っていたバイオリンの弓……使いこなせない道理がない。 「と、御覧の通り、これでボクも戦えるね。ボクも前衛ということになるのかな」 「すごいすごい! 蒼星石、お兄ちゃんみたい!」 「そういうことなら、その弓はバイオリンと一緒に差し上げるわ。頑張って頂戴ね」 白レンが微笑む。蒼星石はようやくにして自分の考え違いに気付く。 自分が「使える」武器を手にした途端、自信が湧いてきた。何とかなりそうだという気になってきた。 普段の平和な日常であればいざ知らず、「この異常な状況」の中では、タバサや白レンの方が正しいのだ。 バイオリン本体の入ったケースをランドセルに収めた蒼星石は、ふと気付いて、あるものを取り出す。 「そういえば……これ、イシドロのだよね? こうなってくると、これは誰が持っているのが一番いいのかな……?」 それは小さな人形と、小銭入れ。 卵のような体型をした、ギャングを模したコミカルな小型ロボットだった。 * * * 「飛び立った途端、こんな近くで獲物が見つかるとは思わなかったが……4人か。多いな」 「あの程度、簡単だよ♪ リリス強いもん♪」 「君の強さは俺自身が良く知っている。だが数の差を甘く見るな。 確実に首輪を集めていくためにも、ここは慎重になるべきだ」 「むぅ~~っ」 「しかし、これはチャンスかもしれない……考えていたことを、試してみるか」 「?? 考えていたことって?」 「……リリス。手短にでいい、君の使える『技』を一通り教えてくれ。 君は君の『本当の力』を知らない。そして、俺ならきっと君の『本当の力』を引き出すことができる。 もしも君が俺の指示に従えるなら――君は、もっと強くなれる」 * * * (ふふふっ……簡単過ぎて張り合いがないわね) 白レンは内心でほくそえむ。 自ら前衛を志願したタバサ。同じく前衛向きの能力を持つ剣士・蒼星石。 ここまでは、まさに白レンが願っていた通りの展開だ。 白レン自身、実は格闘戦をやらせても相当に強い。武器が無くとも、十分前衛を張れるだけの実力がある。 けれども参加者の数は多く、戦いは長期に渡るのだ。こんな序盤から危険を犯すべきではない。 バルディッシュは出来れば手に入れたいところだが、それはタバサが倒されてからでいい。 小さなバイオリンも、元々ハズレの一品だ。これを手放すことで『盾』になってくれる者が増えるなら、悪くない。 「では――この『ころばし屋』は私が預かりましょう。 貴方たちは前衛で忙しいし、イシドロは片手しか無いものね」 蒼星石から小さな人形を受け取りながら、白レンは微笑む。 元はイシドロの支給品だったというこの人形。上手く使えば戦闘で大きな優位が得られる。 ただ、使うには頭の後ろからコインを投入せねばならないわけで―― 敵と剣を交えている最中には使いようが無いし、隻腕のイシドロにも使いづらい。 白レンが持つことになるのは、ある意味必然だった。 かくして戦闘時のフォーメーションが確定する。 前衛は防御力の高いタバサと、スピードに優れる蒼星石。 どちらも状況に合わせ、適宜魔法や戦輪も使っていく。 イシドロはやや後方に位置して遊撃。投石をメインに、手榴弾も織り交ぜながら敵の体勢を崩すことを狙う。 状況によっては、タバサや蒼星石のポジションと入れ替わることも視野に入れておく。 そして白レンが最後方で後衛。 氷を飛ばしての援護射撃と、エーテライトや「ころばし屋」での遠距離攻撃に徹する―― 「ふふっ、なかなかいいバランスのパーティになったね♪ できれば重装備の戦士タイプと、回復系魔法が使える僧侶タイプも欲しかったんだけど……」 「まあ、全てが思い通りってわけにはいかないよ」 呑気に素直に喜んでいるタバサと、常識的ながらも少しばかりツメの甘い蒼星石。 おいしいカモ2人の会話を横目で見ながら、白レンはイシドロを手招きする。 「……なんでしょうか、白レン様」 「これは貴方に預けておくわ。使い方は分かるわね?」 最も忠実な彼女の騎士に、彼女は『あるもの』をこっそり押し付ける。 それは彼女の持ち物の中でも使いにくい一品。イシドロは不安の声を上げる。 「俺、いや私に使えるのでありましょうか?! てかこれって魔法の……」 「イシドロならできると思うから任せるの。使いどころは貴方に任せるわ。頼りにしてるわよ、私の騎士」 調教済みのこちらはもっと扱いやすい。ちょっと褒めてやれば、簡単に操縦できる。 最初は躊躇っていたイシドロも、甘い言葉1つで自信を取り戻し、『それ』を受け取る。 全ては白レンの思い通り。 ――そう、ここまでの展開は、ほとんど彼女の思い描いた通りだったのだが。 * * * 「リリス。君は近い間合いなら申し分なく強い。技も豊富だし、動きも素早い。分身もできる。 1対1なら、誰が相手でも遅れを取ることはないだろう。だが――そんな君にも、弱点がある」 「弱点?」 「それは、遠距離の間合いで使える技が少ないことだ。 『ソウルフラッシュ』は使い勝手がいいようだが、射程に限りがある。威力もそこそこだ。 『グルーミーパペットショウ』は隙が大きいし、演じている最中に他の敵に殴られたら目も当てられない。 敵が1人なら突進技で間合いを詰めてもいいが、相手が複数になれば途端に困ってしまう。 敵だって馬鹿ばかりではない。格闘に強い者が足止めして、射撃に長けた者が後方から狙撃する―― これが、考えられる最悪の展開。 腕の立つ者たちにこれをやられれば、君といえどもタダでは済まない」 「むぅ……。でも、じゃあどうするのよ? せっかくの獲物、見逃しちゃうの!?」 「いや心配するな。策ならある。リリスには少し危険な役割を担ってもらうことになるが、上手くいけば……!」 * * * 平穏は、唐突に破られた。 「……こんにちわ♪ あれあれ、みんな何やってるのぉ?」 並べていた武器の類を片付け、少し遅めの昼食でも食べようか、としていた4人の間に、緊張が走る。 森の木々の中から、のんびりと出てきた小柄な人影。場違いなまでに呑気な声。 しかし、その声や態度をそのまま受け止めるわけにはいかない。 何故なら、その人物は……! 「……キミは、あの広間に居た!?」 「リリス!?」 「そうだよ、リリスだよ♪」 蒼星石とタバサの驚きの声に、まるで散歩中に友達に出会ったかのように、笑顔で手を振る淫魔の少女。 だが彼女が穏やかな分だけ、相対する4人には緊張が高まる。イシドロも白レンも、それぞれに身構える。 「何のつもりでいらっしゃるのでしょう? ジェダの忠実な部下である貴方が、わざわざこんな所においでになられる理由がわからないのですけれど」 「ふーん、やっぱりそういう反応なんだ。――の言った通りだね♪」 白レンの、険の篭った慇懃な問いかけにも、リリスは口の中で何やら呟くだけ。 余裕たっぷりな笑みを崩さない。 そしてリリスは、悪戯っぽい笑みを浮かべたまま、何故か棒読みのような抑揚の無い口調で、言い放った。 「じゃあ教えてあげる。 リリスはね――『退屈だから戦いに来た』の。ジェダ様に首輪とランドセル貰ってね♪」 ――その一言で、4人の警戒の度合いが一気に跳ね上がる。瞬時に臨戦態勢を取る。 それぞれ戦いの中に生き、数々の修羅場を潜ってきた者ばかりである。考えるより先に身体が動いた。 タバサがバルディッシュを構えて、1歩踏み出す。 蒼星石がバイオリンの弓を手に、タバサの横に立つ。 イシドロが石を握りつつ、1歩下がる。 白レンがエーテライトを素振りして、最後方に飛び退く。 それはたぶん、この4人で闘うなら最善の布陣。 リリスは強い。戦っている姿は見ていないけれど、こうして相対すれば雰囲気だけで分かる。 4人が4人とも、それくらいの見当がつくくらいの経験は積んでいる。 そしてリリスの側も彼女たちの強さは見当ついているだろう――にも関わらず、余裕の笑みを浮かべたまま。 (何故……!? 何故リリスは、この余裕を崩さない……?!) ざわり、と白レンの総毛が逆立ったのは、そんな疑問が脳裏に浮かんだ瞬間だった。 理屈でその答えに辿り着いたわけではない。むしろ、野生の勘。 はッ! と振り返るのと、背後の藪からもう1つの人影が飛び出してくるのは、ほぼ同時だった。 「なっ……!?」 「――遅い」 塔の前に広がる広場は、決して広くはない。 リリスに対して身構えれば、すぐ背後に鬱蒼とした森と茂みを背負うことになる。 後衛が、森に対して無防備な背中を晒すことになる。 疾風のように飛び出してきた人影は、そして白レンやイシドロに逃げる間も与えず、手にした武器を振るう。 スパンッ! 小気味のいい音と共に、右手に握られた竹刀が白レンを打ち据え。 ビシッ! 風を切る音と共に、左手に握られた9尾の鞭がイシドロの顔面を捉える。 そして一瞬遅れてポンッ、と軽い音が響き、白い少女は、真っ白な子豚と化した。 * * * 「いいかリリス。君の顔は全ての参加者に知られている。 君が姿を現せば、誰もが警戒し、次いでこう問い掛けるだろう。『ジェダの部下が何しに来たんだ』と」 「ん~、そういえば、今まで会った子もみんなそんな感じだったね~。 リリスと遊んでくれないで、ツマンナイことばっか聞いてくるの!」 「そう、それが当然の反応だ。逆に言えば、リリスと会った者がどういう行動を取るかは、とても読みやすい。 警戒して、いつでも戦えるよう身構えはするだろうが、問答無用で攻撃したりはしない―― 多少なりとも頭が回る奴なら、リリスからジェダの情報を聞き出したいと考えるだろうからな」 「それもそっか。それで?」 「そこにリリスが一言挑発すれば、彼らは一気に臨戦態勢を取る。これもまず間違いない。 例えば、『退屈だから戦いに来た』とでも言えば一発だ。そして、それから俺が――!!」 * * * (計算通りッ……!) 右手の竹刀が白い少女を打ち、左手の鞭が隻腕の少年の顔面を叩きのめす。 彼らの背後を突くことに成功したグリーンは、己の策が間違ってなかったことに自信を深める。 グリーンの策とは、実のところ簡単なものである。 リリスが挑発して、4人に身構えさせる。そうすれば敵は、自然と前衛と後衛とに分かれて陣形を組むだろう。 前の方には、近距離での戦いに優れた戦士タイプが。後には、後方支援が得意な遠距離タイプが。 しかしリリスは格闘の間合いなら無類の強さを誇っている。その強さはグリーン自身、身をもって知っている。 敵の後方支援要員さえ弱体化できれば、後は力押しでもなんとかなるだろう――グリーンはそう踏んだ。 ゆえに、リリスが気を引いている間に、グリーンが密かに森の中を抜け、彼らの後ろに回りこむ。 挟み討ちの形。こうなればグリーンの目の前にあるのは、敵の後衛の背中なわけで―― 「――!?」 「ぐえっ!?」 『こぶたのしない』で叩かれた少女が、ポンッ! と子豚の姿に変身する。 美しく、可愛らしさの中にどこか妖艶な雰囲気すらある、真っ白な子豚。 事態が飲み込めないのかキョロキョロ周囲を見回しているが、これで彼女の能力は大きく制限される。 魔法や特技は封じられ、訳の分からない遠距離攻撃を受けることはない。 武器だけなら、たとえ飛び道具を構えられたとしても目で見て判断できる。 一方、顔面に『九尾の猫』の直撃を受けた少年は、手にした石を取り落とし、地面をのた打ち回る。 どうやら9本の革鞭のうちの1本が彼の右眼に直撃したらしい。顔を押さえる手の隙間から、血が迸り出る。 地面を転がる少年には『こぶたのしない』の追い討ちは届かなかったが、しかしこれで十分。 一瞬動きを止められれば上等、と思っての攻撃だったが、片目を潰せたのは僥倖だった。 グリーンはそのまま2人の犠牲者の間を駆け抜けながら、リリスに向かって大声で叫ぶ。 「リリス、『メリーターン』だ! 残り2人、まとめて弾き飛ばせ!」 * * * 「リリス、『メリーターン』だ! 残り2人、まとめて弾き飛ばせ!」 「うんッ!! ――えやっ!」 愛しのグリーンの叫びを受けて、リリスは大きく跳躍する。 跳躍と同時に翼を刃に変える。瞬時に死の独楽と化し、揃いの蒼い衣装を纏った2人に襲い掛かる。 グリーンの作戦は完璧だ。味方の損害に驚く前衛2人の反応は一瞬遅れて、だから飛びのく時間も無い。 ギギギギンッ!! 1人目は小柄な方。人形のようなサイズの小人。 ボーイッシュな雰囲気の彼女は、咄嗟の反応で、手にしていた「糸の張られた木の棒」を目の前に構える。 高速回転するリリスの翼と擦れあい、耳障りな音を立てる。まるで刃物で受け止められたような感触。 魔力か何かを篭めているのか、あの木の棒は、ちょっとした名剣ほどの切れ味を秘めているらしい―― だが、刃は止めても勢いまでは殺せない。悲鳴と共に、人形の小さな身体が弾き飛ばされる。 「蒼星石ッ!!」 『――! Defenser!』 もう1人、こちらは普通の少女の体格をした方が仲間の名を呼ぶが、構わずリリスは回転と突進を続ける。 2人目との衝突の寸前、金髪の少女が手にした黒い杖が光る。人工的な、機械的な声が響く。 すぐさま少女を包む光のバリアが展開されて――しかし、リリスの翼の斬撃を受け、あっさりと砕け散る。 障壁を破っても、回転は止まらない。2回転、3回転、4回転。 ガードするように構えられた杖もろとも、リリスは少女に斬り付ける。 斬り付けながら、その手応えに顔を歪める。 (――こっちは妙に硬いねっ。どう崩せばいいん――) 「リリス、着地と同時に軽く2発、続けて『ソウルフラッシュ』全力でッ!」 「ッッ!!」 その意味を理解するより先に、身体がグリーンの言葉に沿って動いていた。 竜巻のような回転が終わり、着地すると同時にしゃがんでローキック1発。瞬時に伸び上がってジャブ1発。 どちらも威力よりも、技の「出」と「入り」の速さを重視した軽い技。 もちろん、この妙に硬い服を着ている少女には、ほとんどダメージは通っていないけれど―― それでも、ほんの少しだけ姿勢が崩れる。ほんの僅かだけ、身体が仰け反る。そして、それだけで十分。 「――『ソウルフラッシュ』ッ!!」 ゴッ!! リリスの手から放たれた、ハート型の光を纏った蝙蝠が少女の胸を直撃する。 射程は短いが、スピードの速い弾。小技で動きを止められては、避ける間もガードする余裕もありはしない。 驚きの表情のまま、少女の身体が弾き飛ばされる。いかに少女の守りが硬くとも、これは相当に効くはずだ。 ニヤリ、と笑いかけたリリスの背に、グリーンの声が飛ぶ。 「まだだ! 振り返って『シャイニングブレイド』! 飛び過ぎるなよ!」 え?! と唐突な指示に驚きつつも、身体は間髪入れずにグリーンの声に従う。 振り向きざまに、翼を刃に変えて飛びあがって――まさに頭上から斬りかからんとしていた人形と目が合う。 リリスがすっかり忘れていたもう1人。小人のように小柄な軽戦士。 最初のメリーターンでダウンした後、いつの間にかリリスの死角、後方に回り込んで跳躍していたらしい。 不意打ちを見抜かれ唖然とする蒼い服の人形に、それでも容赦なく下から斬り上げる。 またも間一髪バイオリンの弓に防がれるが、今度は大きく弾き飛ばすほどの勢いはないわけで―― 「そのまま『チャイルディッシュドロップ』! 絶対逃がすな、リリスッ!!」 「うんッ! いっくよーッ!」 「な――!?」 空中で人形との間合いを詰める。空中で人形の身体を翼で捕まえる。そしてそのまま、もろともに急転落下。 ――ズン! 腹に響く重い音を響かせ、リリスは勢いよく大地に叩き付ける。2人分の体重を乗せた、重い一撃。 この攻撃ばかりは、武器で受けることはできない。 凄まじい衝撃に、地面に半ばめり込んだ人形が目を見開いて呻く。 「かっ……はっ……!!」 「そ、蒼星石ィっ!? バルディッシュ、『りりょくのつえ』っ!!」 『 Yes,.sir. Haken form. 』 先ほど『ソウルフラッシュ』でダウンさせた少女が、苦痛に顔を歪めながらも再びリリスに肉薄する。 少女の手の中の杖が形を変え、光の刃を持つ巨大な鎌と化す。 あの、硬くてタフな少女に、見るからに切れ味良さそうな武器まで加わったら、どれほど厄介なことだろう? けれどもリリスは慌てない。もう迷わない、怖れない。何故なら。 「すぐに次がくるぞっ! 初撃を受け流しつつ、カウンターから連続攻撃!」 「はいっ!」 何故なら――グリーンの声に従っていれば間違い無いのだと、リリスには分かってしまったから。 後方から矢継ぎ早に出される指示は適切で、タイミング良くて、戦場の大局を常に視野に収めていて。 リリスの胸の内に、自信が湧き上がってくる。自然と笑顔が零れる。 戦いながら、自分がどんどん成長していくような感じがする……! * * * 「目が、目がぁっ!!」と叫んで転げまわっていたイシドロが、ようやく痛みに耐えて身体を起こした時―― 状況は、既に最悪だった。 蒼星石は強烈な投げ技を喰らい、半ば地面にめり込んだ形のまま、動けずにいる。 タバサは強靭なバリアジャケットの防御力のお陰でなんとか持ちこたえているが、どう見ても防戦一方。 そして、騎士としてイシドロが守らねばならない主人、白レンは―― 「ええと……白レン、様?!」 「…………」 そこに居たのは、可愛らしい子豚。 どういう品種なのか、全身雪のように真っ白で、瞳はつぶら。 豚小屋の汚らしさなどからは全くの無縁の、貴族か大金持ちのペットのような、綺麗な子豚だった。 イシドロの戸惑う声に、子豚は不覚をとった自分を恥じているのか、無言のままプイとそっぽを向く。 何がどうなってこんなことになったのか、イシドロには分からない。 けれど、この白い子豚が白レンであることだけは、その僅かな素振りからも理解できた。 魔法か何かなのだろうか? どのみち、イシドロにはその魔法を解く能力も知識もない。 ならば、イシドロが今やらねばならないことは、子豚となった彼女を守ること。 襲撃してきたリリスと、その連れを倒すこと。 イシドロは潰れてしまった右目を堅く閉じたまま、なんとか立ち上がる。 ナインテールキャッツは、本来大した威力のある武器ではない。武器というより拷問道具だ。 けれども偶然、9本のうち1本が、コンマ数秒閉じ遅れた右目を直撃して―― 堅くつぶった瞼の間から、ドロリと嫌な粘性を持った液体が零れる。激痛が走る。 左手に続いて、目までガッツと一緒かよ――心の中で毒づきながらも、イシドロは石を握る。 「けどなぁ……男には野望ってモンがあるんだ! 目玉の1つくらいで、へこたれていられるかッ!」 かなり虚勢もはらんだ言葉を、それでも威勢良く吐き捨てながら、イシドロは石を投擲する。 狙いはタバサと激しい戦いを繰り広げているリリス――ではなく、その背後から指示を出しているもう1人。 あちらの青年が「指揮官」だと見た。 そして集団戦においては、まず指揮官を潰すのが基本戦術。旅の中でも何度も経験してきたことである。 必殺の気合を込めて、イシドロは手にした石を、その優男の整った顔面に向けて投げつけて―― 「え?!」 石は、あさっての方向に飛んでいった。 思わず間抜けな声を上げたイシドロは、すぐに2つ目、3つ目の石を投げつける。 ……どれも当たらない。青年は軽く身を反らせるだけで避けてしまい、指示の声を遮ることもできない。 最初はムキになっていたイシドロの表情が、石を投げるごとに、焦りに歪んでいく。 とても当たる気がしない。傷の痛みとは関係なく、脂汗が滲む。 距離感が、完全に奪われていた。 人間の視界が写真のように平坦ではなく、奥行きが備わっているのは、目が2つあるからだ。 左右の目の間の距離を利用した、無意識のうちの三角測量。 特に器具など使わずとも、慣れた者なら目標までの距離を瞬時に、かなりの精度で測ることもできる。 しかし、片目を奪われれば、その距離感が喪われる。 もちろん、隻眼になったからといって飛び道具が使えなくなるわけではない。世の中には隻眼の戦士もいる。 イシドロと共に旅していたガッツも、石弓や投げナイフを常用し、炸裂弾を正確な狙いで投げていた。 ただし――その視界に慣れるのには、少しばかり時間がかかるのだ。 イシドロの要領の良さを考えれば、30分も練習すればまたコントロールを取り戻すだろう。 けれど、今はその時間さえ無い。 「なんてこった……! これじゃ、オレは……!」 一番の特技である投石を封じられ、イシドロは呻く。 これでは彼は戦えない。戦力にならない。手元には手榴弾もあるが、こちらはこの状況ではなお悪い。 距離とコントロールを誤って味方を巻き込んだら、それこそ終わりだ。 今さらながら、あの竹刀と鞭を持った青年が自分を深追いしなかった理由を悟る。 あと彼に残された、唯一の手段は―― リリスに一方的に押されまくるタバサを視界の隅に見ながら、イシドロは覚悟を決める。懐に手を伸ばす。 この状況を打開するには、もうこれしかない。白レンを守るには、この力を使うしか――! * * * ――タバサは、焦っていた。 「――『プラズマランサー』!」 「リリス、『コウモリ変化』! 戻ると同時に『インセクトハグ』!」 「任せてっ、グリーン!」 タバサの『ミッドチルダ式魔法』の呪文詠唱に、グリーンの指示が重なる。 個人を標的とするにはタバサの知る魔法よりも優れているという、バルディッシュ直伝の攻撃魔法。 だが、放たれた8本の光の槍がリリスを貫こうとしたまさにその瞬間、リリスの姿が掻き消える。 無数のコウモリが舞い上がり――驚くタバサのすぐ隣、手を伸ばせば届く距離に集まって人の形となる。 「な――!?」 「うふふっ、遅いよっ! 次どうするのグリーンっ!?」 「技を決めたら追い討ちで連続攻撃、足を払って『トゥピアス』! 休ませるなっ!」 タバサが逃げる間もない。 見かけだけなら細いリリスの腕が、思いもよらぬ怪力でタバサを捕まえ、動きを止めておいた上で翼が一閃。 腰から真っ二つにされたかと錯覚するような一撃に、タバサはよろめく。 さらにそこに、1発、2発、3発。小気味良く繋がっていく連続技に、逃れるタイミングを逸して。 最後に喰らった足払いに尻餅をついたところに、これまた強烈な踏みつけ攻撃。 ドリルと化した翼に全体重を乗せて、標的の腹を抉る。タバサの口から、血の混じった空気が吐き出される。 (つ、強い――! 1発1発が重たい上に、こんな連続攻撃なんて――!) リリスの攻撃速度は「はやぶさの剣」よりなお早く、多彩な必殺技の1つ1つは「魔神の金槌」のように重たい。 もしもバリアジャケットが無ければ、きっと既に3回くらいは死んでいる。 散々殴られて、蹴られて、斬りつけられて、本当はタバサだって逃げ出したい。本当は泣き出したい。 けれど――。タバサはそれでも、チラリと仲間たちの方を向く。 気絶でもしたのか、まだ動けない蒼星石。 石を投げても投げても当たらず、呆然としているイシドロ。 そして、白い豚の姿になって、氷のひとかけらも出せずに見ているしかない白レン。 タバサがリリスをひきつけているから、彼らはまだ息をしていられるのだ。 「ぼうぐ」もほとんど持っていない仲間たちを、リリスに攻撃させるわけにはいけない。 血反吐を吐きながらも、さらなる踏みつけ攻撃を転がって回避し、タバサは素早く立ち上がる。 リリスの肩口には、乱戦の中でバルディッシュでつけた小さな傷がある。 タバサの側の攻撃も、効かないわけではないのだ。防御を貫けないわけではないのだ。 ただ相手の動きがあまりに素早過ぎて、クリーンヒットが出ないだけで。 「あと一押しだ! 『ソウルフラッシュ』長め、重ねて連続攻撃!」 「!! バルディッシュ、『ひかりのたて』!!」 『 Yes, sir. Round Shield. 』 聞き覚えのある技の名に、タバサは咄嗟に防御姿勢を取る。防御力の高い、円形の魔力の盾を出現させる。 『ソウルフラッシュ』と言えば、戦闘開始直後の一連の攻撃の中で、一瞬気が遠くなりかけたあの魔力弾だ。 絶対にくらうわけにはいかない――そうして身構えたタバサの目の前で放たれたのは。 ヘロヘロと、超低速で飛ぶ、見かけは似ているが何とも迫力のない、弱々しい魔力弾。 タバサの動きと思考を止めるためのハッタリだったのだ、と気付いた時には、既にリリスは至近距離。 激しい連続攻撃(チェーンコンボ)が、円盤状の魔法障壁の上から構わず叩きこまれる。 これでは動けない、逃げられない、反撃できない。防御姿勢を崩した瞬間に、やられてしまう。 「――ッッ!! ガードが堅いよグリーン! これじゃ――」 「なら、そこから『ミスティックアロー』! 叩き込めっ!」 新たな指示がまた飛んでくる。『ミスティックアロー』……『神秘の矢』? 今度も飛び道具系の技だろうか? 瞬時にそう考え、防御魔法『ラウンドシールド』を維持し続けようとしたタバサの身体は、次の瞬間。 円盤状の障壁を掻い潜るようにして飛び込んで来たリリスに、がっしと掴まれた。 ガードの姿勢を取っていたのに、掴みに来られては抵抗のしようがない。 片方の翼が巨大な手の形になり、タバサの身体を鷲掴みにする。もう片方の翼が、巨大な弓を形作る。 矢を射って攻撃する遠距離技ではなく、『犠牲者そのもの』を矢にして射るという、破天荒な技――! タバサがその事実に気がついた時には、既に遅し。 「飛んでけ~~っ! バイバイッ!!」 まさに矢のようなスピードで、タバサの小柄な身体は打ち出される。 広場のすぐ近く、石造りの塔の外壁に叩きつけられる。 轟音。そして爆発音。 頑丈なはずの壁もその衝撃に耐え切れず、ガラガラと大きな穴が開く。 少女の小柄な身体が、壁を突き破って叩き込まれる。姿が見えなくなる。 もうもうたる粉塵が舞い上がり、どう見ても、散々痛めつけられたタバサが耐えられるダメージではない。 そこにいる誰もが、タバサの戦闘不能を確信した。 もしかしたら死んではいないかもしれない。一命は取り止めたかもしれない。が――もう、動けまい。 そして残されたメンバーに、リリスの攻撃を真正面から受け止めるような力は無いわけで――! * * * 中編ヘ
https://w.atwiki.jp/akatonbowiki/pages/6044.html
このページはこちらに移転しました のぐそ発見~そして伝説へ~ 作詞・作曲/onco 嗚呼 君に…… あ? とうもろこし? ウンコ とりあえず シャキっと混入させましょう 森にいざなわれ 大地に 恵みを 与えようか 美しき緑に なる予定 ウンコに君が 混入事件 琥珀色の 輝きが 木々の中で ウンコしてくれ 末おそろしかー 音源 のぐそ発見~そして伝説へ~ のぐそ発見~そして伝説へ~(歌:nam) のぐそ発見~そして伝説へ~(歌:tdrk) のぐそ発見~そして伝説へ~(歌:メソポタミア★神秘★) のぐそ発見~そして伝説へ~(歌:がぶりんこ) のぐそ発見~そして伝説へ~(歌:muuuu) のぐそ発見~そして伝説へ~(歌:たわごと) のぐそ発見~そして伝説へ~(歌:くコ 彡イカ)
https://w.atwiki.jp/game_rowa/pages/144.html
← (あれは……シルビア!?) 遠くで見えたのは、かつての仲間の一人。 そして、見知らぬモンスターがいる。 「ポッド、頼む!」 イレブンの指示を受け、ポッドは銃弾をマシンガンのように放つ。 (!?) ポッドの放った弾は、全てネメシスから逸れた。 外したようには見えなかった。だが、弾は不自然な弾道を持って、敵から外れたのだ。 『推奨:退却。ネメシス・T型の周りに電磁波確認。恐らく遠距離武器全て無効。』 「そんなことするわけないだろ!!」 何やらポッドは、敵の情報を知っているようだが、逃げる気は全く起きなかった。 また恥ずかしくなる可能性があっても、勇者の決意が仲間を見捨てることを許さなかった。 魔力はない。ポッドの銃弾は何故か当たらない。従って、この鎌のみが頼れる武器になる。 いつ恥ずかしくなってしまうのかも分からない。 だが、人を襲っているモンスターを見逃すわけにはいかない。 ましてや、襲われている人の一人が、かつての仲間だ。 絶望の鎌を振り回し、ネメシスに斬りかかる。 しかし、ネメシスは後ろに飛びのいて、斬撃を躱す。 巨体らしからぬ身のこなしに驚くイレブンに、多数の触手が襲い掛かる。 (!?) 「鎌と言うのは、こう使うのだ。」 しかし、その触手はイレブンに触れることなく切り落とされた。 イレブンの鎌の使い方を見かねた魔王が、鎌を奪い、触手を即座に切り落としたのだ。 そして魔王はもう一閃。追加で何本かの触手が切り落とされ、ネメシスの胴体にも裂傷が入る。 本来草刈りや麦刈りで使われる鎌は、敵との戦いでは上手くダメージを与えるのは難しい。 だが、その反面一たび使い慣れれば、遠心力を用いて剣や槍にも劣らぬ威力を発揮する。 そして、対ネメシス勢力が優勢になったのは、魔王に新たな武器と、戦力が手に入ったことのみではなかった。 「ちょっと、そこのアナタ!!女の子をおぶって戦うなんて危険よ!!アタシに貸して!!」 「この剣、あげるニャ!!あの怪物はボクじゃとても倒せないニャ!!」 サクラダとオトモが、それぞれイレブンのアシストを行う。 ここまで視線を浴びたのは、ニズゼルファを倒し、イシの村から称賛を受けた時以来だ。 イレブンは視線を落としてしまう。 (やっぱり……恥ずかしい……。) 「イレブンちゃん、何やってるのよ!行くわよ!!」 シルビアがツッコミを入れ、イレブンを奮い立たせる。 再度戦線復帰し、魔王とイレブンが前線。シルビアが一歩引いてそのサポートを行う。 「S.T.A.R.S!!」 ネメシスの拳が魔王に襲い掛かる。 だが、イレブンがネメシスの二の腕を斬り付けたため、パンチのスピードが落ちる。 魔王は後ろへ退き、カウンターとばかりに鎌の一撃を見舞う。 シルビアが魔王が付けた裂傷の部分に青龍刀を突き刺し、傷が治る前に広げる。 「S.T.A.R.S!!」 ネメシスは懐まで飛び込んできたシルビアを、ハエでも払うかのように両腕を振り回して攻撃する。 だが、魔王が片腕を斬り付け、攻撃をキャンセルさせる。 今度は魔王達が、ネメシスを押し始める。 即席で作ったメンバーにしては、非常にバランスが取れた戦いだった。 魔王の鎌と、イレブンの片手剣、そしてシルビアの短剣。 それぞれリーチが異なる反面、それぞれ異なる攻撃が出来る。 加えて、魔王とイレブンにはシルビアのバイキルトがによって、攻撃力がさらに増している。 勢いに乗るイレブンとシルビアは、既にゾーン状態に入っていた。 だが、イレブンも魔王も、そしてシルビアも引っかかる所があった。 この怪物は、いつになったら倒れるのかと。 ダメージこそ着実に増やしている。 だが、ネメシスはなおも生命どころか、スタミナ切れする気配すら見せない。 常に全力、フルスイングで攻撃して来る。 「イレブンちゃん、れんけい技行くわ!!メラハリケーンよ!!」 「……わかった。」 イレブンはシルビアの案に同意する。 ゾーン状態の勢いを魔力に替えたれんけい技なら魔力がない今の自分でも、破壊力に優れた攻撃を入れることが出来る。 だが、自分とシルビアが今まで使ったれんけい技は、味方を補助する技が多かった。 数少ない攻撃の中でもメラハリケーンだけでは完全に倒しきるのは難しいような気がした。 「S.T.A.R.S!!」 ネメシスが唸り声をあげて、まだ斬られていない触手を振り回す。 だが、それが当たる前に、シルビアが竜巻魔法を、イレブンが炎魔法をネメシスにぶつける。 「「焼き付くせ!!メラハリケーン!!」」 「グゥオオオOOOオオHHHH!!」 炎の竜巻が発生する。 しかし、紅蓮の蛇に焼かれ、引きちぎられながらも、ネメシスは反撃に出ようとする。 その姿は、さながら炎の巨人、イフリートの様だった。 「こうすれば良いのだな!」 だが、手札はもう一枚あった。 紅蓮の竜巻の色が、更に濃くなる。 魔王は古代のジール王国にいた時、魔法学者から、数人でないと使うことが出来ない魔法があると聞いていた。 そしてクロノ達が自分と戦った際に、そのような技を使っていた。 実際に魔王が使ってみるのは初めてだが、元々魔王の世界にはない、風属性の技が新たな可能性を創り出した。 炎の軌道を調節する力は、竜巻の全範囲に炎を行き渡らせ、壊すことなく火力のみを強くした。 灼熱の渦に魔王のファイガを加わり、火力はネメシスを燃やし尽くすほどに広がり、竜巻もネメシスを覆い隠すほど高く、広くなる。 「スタアァァァ………ァア……ズ!!」 炎の竜に巻かれる、ネメシスの声が聞こえる。 メラハリケーン、もといファイガハリケーンが晴れる。 そこに残っていたのは巨大な消し炭と、唯一竜巻から逃れたネメシスの豪傑の腕輪が付いた片腕、そして切り落とされた触手だけだった。 「すごいニャ!!どうやったらこんな技を出せるんだニャ!?」 「アンタもイケメンだし、強いのね。」 オトモとサクラダが感心して、イレブンの方を見る。 「………!!」 イレブンは急に顔を隠した。 「…何か悪いことしたかニャ!?」 「ごめんね。このコ、ちょっと恥ずかしがり屋なのよ。」 シルビアがイレブンのことを説明する。 「ところでイレブンちゃん。しばらく見ない間に、凄く強くなってない? 見違えたみたいよ!」 「え?それってどういう……。あと、見つめられると……。」 イレブンはシルビアの言葉に疑問を抱く。 シルビアや他の仲間たちと協力して、ニズゼルファを倒して以来、特に手強い敵との戦いや集中的な鍛錬を行っていなかった。 「謙遜しなくていいわ。とりあえず、またよろしくね。」 邪神を倒した者と、倒してない者の違い。 この二人はまだ知ることが無かった。 そして、会話を通じて伝えられることもなかった。 ネメシスの唯一残された、落ちた左腕がズズ、と動く。 「危険:ネメシスの、生存反応、アリ。」 鋭利な触手を掴み、ダーツのように投げる。 この戦いの参加者を死ぬまで、否、死しても狩り続けるように指示されたネメシスの意思だろうか。 それとも、改造に改造を繰り返されたネメシスの生命力だろうか。 狙われたのは、ベルをなおも背負って、かつ反射神経が一般人レベルのサクラダ。 「!!?」 ポッドの声を聞いた後では、もう遅かった。 声にならない悲鳴を上げる。 もう遅い。 背中の少女ごと、貫かれる。 (くそ……くそ……!!) イレブンは七宝のナイフで、残されたネメシスの腕を滅多切りにする。 肉塊になったそれは、暫くビクビクと痙攣したのち、完全に動かなくなった。 ★ 「なん……で。」 「どうしてよ。」 どうしようもない量の血が流れる。 シルビアの赤い服を、更に紅く染めて行く。 「どうして、アナタが死んでるのよ!!」 あの時、触手で刺されたはずのサクラダが、そして無傷で泣きじゃくっている。 咄嗟に騎士道の力を思い出したのか、シルビアがその盾になって、攻撃を受けたのだ。 「シルビア、しっかりしてくれ!!」 「死んじゃダメだニャ!!生き返ってニャ!!」 イレブンは回復魔法が使えない中、どうにかして血を止めようとする。 だが、使えそうな道具は自分の服と水くらいしか無さそうだ。 オトモはカバンをひっくり返し、回復薬になりそうなものを探す。 「アタシ、旅芸人だからさ……。」 「喋ったらダメニャ!!傷が………。」 「皆、泣いて欲しくないわ…。」 「なあ!何か、回復魔法は覚えてないのか?」 「残念だが……。」 イレブンは、佇んでいる魔王にも声をかける。 魔王はその言葉を簡単に終わらせる。 「みんな。アタシがいなくても、がんばってね。」 もう、この場で彼を助けることは出来る者も、出来る道具もなかった。 ★★★★★★★★★★★★★★ 少しずつ、激痛が収まり、代わりに意識が途切れ途切れになっていったのはシルビアにも理解できた。 (諦めないでね。イレブンちゃん、みんな……。) (あなた達なら、きっとこの殺し合いも止められるわ) 眼を開ける。 そこは、真っ暗だった。 真っ暗な空間の先に、紫色の髪の、一人の大柄な男が立っていた。 「案外、早い再会になっちゃったわね。グレイグ。」 ★★★★★★★★★★★★★★ 「提案:この先の行動の決意。」 ポッドがシルビアを埋葬する暇もなく、電子音を出す。 「時間がない。イレブン。これからどうするか作戦を練るぞ。」 魔王もそれに同意して冷たく言い放つ。 たった今一人の人間が死ぬ所を見せつけられた。 このような怪物が跳梁跋扈している世界では、クロノもいつまで生きているか分からない。 「イシの村に集まろうとしていた……。」 「そうか。私達はハイラル城へ向かおうとしていた。イシの村は横切っただけだが、貴様の仲間らしき者はいなかったぞ。」 時間は残酷だ。 シルビアの死を悲しむ暇も与えてくれない。 むしろこうしている間も、仲間の死の可能性が増していく。 生存している仲間の発見、凶悪な参加者の排除、首輪の解除。 やらなければならないことは山積みだ。 どうするか、どこへ向かうか考えないといけない。 サクラダを見やる。 元々疲れていたからか、今でもベルは寝息を立てている。 イレブンが唯一良かったと思ったこと。 それはベルが、目を覚まさなかったことだった。 彼女に魔物を殺す所、そして、人が死ぬ所を見せずに済んだのが、何よりの救いだった。 【ネメシスーT型@BIOHAZARD3 死亡確認】 【シルビア@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて 死亡確認】 【残り55名】 【A-2/草原/一日目 朝】 【オトモ(オトモアイルー)@MONSTER HUNTER X】 [状態]:健康 疲労(中) シルビアの死の悲しみ [装備]: 青龍刀@龍が如く極 星のペンダント@FF7 [道具]:基本支給品、ランダム支給品1~2個(確認済み) ソリッドバズーカ@FF7 [思考・状況] 基本行動方針:魔王に着いていく。 1.ご主人様、今頃どうしているニャ? 【サクラダ@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】 [状態]:健康 疲労(大) シルビアの死に悲しみ。 [装備]:鉄のハンマー@ブレスオブザワイルド [道具]:基本支給品 余った薪の束×2 [思考・状況] 基本行動方針: ハイラル城を目指し、殺し合いに参加しているかもしれないエノキダを探す。 1.悪趣味な建物があれば、改築していく。魔王、イレブン達と行動する 【魔王@クロノ・トリガー】 [状態]:HP1/3 腹部打撲 MPほぼ0 [装備]: 絶望の鎌@クロノトリガー [道具]:基本支給品、ランダム支給品1~2個(確認済み、クロノ達が魔王の前で使っていた道具は無い。) 勇者バッジ@クロノ・トリガー [思考・状況] 基本行動方針:クロノを探し、協力してゲームから脱出する 。もしクロノが死ねば……? 1. ハイラル城かイシの村どちらかへ向かう 【イレブン@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】 [状態]:MP0、恥ずかしい呪いのかかった状態 [装備]:七宝のナイフ @ブレスオブザワイルド ポッド153@NieR Automata 豪傑の腕輪@DQ11 [道具]:基本支給品、ランダム支給品(2個、呪いを解けるものではない) [思考・状況] 基本行動方針:ああ、はずかしい はずかしい 1.イシの村へ向かう?ハイラル城へ向かう? 2.同じ対主催と情報を共有し、ウルノーガとマナを倒す。 3.はずかしい呪いを解く。 4.この殺し合いが開かれたのは、僕のせい……? ※ニズゼルファ撃破後からの参戦です。 ※エマとの結婚はまだしていません。 ※ポッドはEエンド後からの参戦です。 【ベル@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】 [状態]:眠り [装備]:ランラン(ランタンこぞう)@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて [道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み) [思考・状況] 基本行動方針:最初の一歩を踏み出す。 1.イレブンについていく。 2.ポカポカ(ポカブ)を探す。 ※1番道路に踏み出す直前からの参戦です。 ※ランタンこぞうとポッドをポケモンだと思っています。 【モンスター状態表】 【ランラン(らんたんこぞう)】 [状態]:睡眠中、モンスターボール内 [持ち物]:なし [わざ]:メラ [思考・状況] 基本行動方針:ベルについていく 1.睡眠中 【ポッド153@NieR:Automata】 [状態]:健康 [持ち物]:なし [思考・状況] 基本行動方針:??? ※ネメシスの「電磁波発生装置」は崩壊しました。 Back← 076 →Next 075 君の分まで背負うから 時系列順 077 選ぶんじゃねえ、もう選んだんだよ 投下順 063 魔力と科学の真価 シルビア GAME OVER ネメシス-T型 サクラダ 097 青き光に導かれ 魔王 オトモ 075 君の分まで背負うから イレブン ベル