約 3,555,520 件
https://w.atwiki.jp/kotachi/pages/48.html
これが最後の試練だ! ストーリー 開始時 +開始時 ──翌日も、朝から夕方まで、 魔道の勉強会が行われた。 イツキ 「ほらニコラ、これは水の紋章の亜種で、 雷の力にも対応しているんだ」 リンカ 「だから雷雨の紋章というわけね。 それにこっちは──」 ニコラ 「えーと、あれ? 火と水はなんだっけ?」 ウィズ 「それはこれにゃ」 シャーリー 「あ、黒猫さんが踏んでる紋章! それそれ!」 ヴォルフ 「マジかよ。この猫、ひょっとして頭いいのか? ……魔法使い、ちょっと抱っこさせて──」 ウィズ 「ヤにゃ」 ノア 「並び替え問題、ぜんぜんわかんないです~。 こうなれば……ええい、ままよー!」 イツキ 「なんでサイコロ持ち歩いてんだ……」 ──勉強会が終わり、夜。今日は臨海学校最後の 夜ということで、浜辺で花火を楽しむ予定だ。 ジョージ 「やっと来たか、貴様ら!」 エミリア 「みんなで花火するの、 ずーっと楽しみにしてたんです!」 アーシア 「花火は、アキラ君が用意したんだよね?」 アキラ 「おう! ここにこうして、 たっぷりどっさり……」 アキラ 「あれ?」 ダンケル 「ふはははははははは!」 ──突如として響く高笑い。見ると、 岩場の上にダンケルが立っている。 ダンケル 「諸君! よくこれまで試練を乗り越えてきた! ノア君もがんばったね。新しい制服だ!」 ノア 「ありがとうございますー!」 ニコラ 「だからちょっと 制服授与のテンポ早くないですか!?」 ダンケル 「さておき! こうなれば、臨海学校最後の 試練を君たちに課さねばなるまい!」 イツキ 「『なるまい』も何も、試練を課す必要が そもそもないと思いますけど!」 ダンケル 「君たちのためを思えばこそだ!」 ダンケル 「夏だ海だ恋の三角関係だと浮かる君たちに 喝を入れるため、私は試練を用意してきた!」 ニコラ 「夏で海なんだから、別に 浮かれたっていいじゃないですか~!」 ダンケル 「問答無用! 君たちの大事な花火は預かった。 返してほしくば、私を倒してみせるがいい!」 ダンケル 「できなければ……全・員・留・年ッ!!」 イツキ 「って、ふざけんなぁーっ!!」 ダンケル 「ふははははー! こーこまーでおーいでー!」 ──コウモリたちが作るハンモックに乗って、 ダンケルは優雅に夜のビーチを飛んでいく。 ヴォルフ 「どう考えても、いちばん浮かれてんのは あのおっさんじゃねぇか!?」 リンカ 「あの方が悪ノリすると、 ロクなことにならないわね……」 ニコラ 「て、ていうかヤバいよ! アタシ、留年したくなーい!」 ノア 「みなさん! こうなったら──」 イツキ 「ああ。学園長をぶっちめて、 平穏な青春を取り戻すぞ!」 一同 「「「おおーっ!」」」 道中 +道中 これが最後の試練にゃ! ダンケルを止めるにゃ! ボス戦前 +ボス戦前 ──逃げるダンケルを追って、君たちは ビーチの魔物を薙ぎ倒していく。 ──イツキたちに迷いはない。悩みはあれど、 生徒会として戦うという意志は鈍らない。 イツキ 「こいつで、最後だ!」 ──イツキとリンカの剣が、最後に残った 魔物を叩き伏せた。 ノア 「さっすがみなさん! バッチリですね!」 ヴォルフ 「ああ──だな! これならあのおっさんも目じゃねぇぜ!」 ダンケル 「ふはははははははッ!!」 ──突如として闇が立ち込めたかと思うと、 その奥から、ゆるり、とダンケルが姿を現す。 ダンケル 「調子に乗るのもそこまでだ、諸君。ノリノリの ときの私は、自重というものを知らんぞ!」 イツキ 「いや、それはもう、だいぶ前から わかってるんで……」 ダンケル 「クク……君たちには補修を受けてもらおう! 絶望のなんたるかを教え込んでくれる!」 リンカ 「補修は正規の手続きを踏んだうえで お願いします、学園長」 ダンケル 「ま、まじめに返さないでくれるかね、 リンカくん!」 イツキ 「とにかく! あんたがどれだけノリノリでも、 勝ってみせる! オレたちの心はひとつだ!」 ニコラ 「留年っ、やだぁーっ!!」 ダンケル 「来るがいい! 波しぶきのように 散らしてやろう!!」 ボス戦後 +ボス戦後 ダンケル 「ふははははは! 喰らえ、身体を回し 腕を大きく横に振って希望を打ち砕く波動!」 リンカ 「闇の波動がバリアーになっている…… このままでは近づけないわ!」 シャーリー 「あらゆる力を押し返す闇の波動…… あれを打ち破る方法は、1つしかないよ!」 シャーリー 「すなわち……力ずく!!」 ノア 「……わかりました。あたし、行きます!」 ヴォルフ 「危険だぜ。押しきれなかったら、 吹っ飛ばされることになる」 ノア 「大丈夫です! このくらいで怖気づいてちゃ、 学園の平和なんて守れない!」 イツキ 「──立派だ、ノア」 ──笑いながら言って、イツキが水の剣を振る。 ──すると、ノアの周囲に霧が生じた。 イツキ 「清めの霧だ。気休めくらいにはなるさ」 リンカ 「こちらは炎の魔力で背中を押すわ」 ニコラ 「あたしとシャーリーは、 飛んでくる魔法を迎撃するね!」 ノア 「みなさん……ありがとうございます!」 ノア 「行かせてもらいます、学園長!」 ダンケル 「来るがいい、教え子よ! 命乞いの仕方を教育してやろう!」 ──駆け出していくノア。 ──彼女を狙って放たれる 魔力は、君とニコラ、シャーリーが撃ち落とす。 ──リンカの炎を受け、グンと加速したノアが、 ダンケルを守るバリアーへと激突する。 ノア 「ぐぅうぅうううっ……!」 ──イツキの清めの守りがあってなお、 闇の魔力に押し返されそうになる…… ノア 「行きます……」 ──止まらない。 ノア 「行きまぁーすっ……!」 ──あきらめない。 ノア 「どこまで、だって…… 踏み出して、突き抜けますっ!!」 ──進みゆく足取りが、じょじょに加速し…… ──その直後、闇のバリアーと ノアの剣とが、同時に砕け散った…… ダンケル 「破った、だと!?」 ニコラ 「でも、武器が!」 ヴォルフ 「かまうこたぁねぇ」 ──腕を組み、目を閉じていたヴォルフが、 大声を張り上げる。 ヴォルフ 「武器がねぇならアタマを使え! 根性かませやド新人!」 ノア 「押忍っ!!」 ──そのまま、ノアは突進していく。 ──意地とガッツを乗せた頭突きが、 ダンケルの鼻柱をまともに直撃した。 ──夏の夜の海に、色とりどりの花火が上がる。 ──君たちは気楽な姿で浜辺に集い、 美しくきらめく花火を見上げている。 イツキ 「……ていうか、なんで打ち上げ花火なんだよ」 アキラ 「え? 花火っつったら打ち上げなきゃだろ」 ジョージ 「わかってんじゃねーか、坊主。 やっぱ花火は派手じゃなきゃな!」 エミリア 「うんうん! 打ち上げ花火って、 大きいし、きれいだもんね!」 アーシア 「わたしは、線香花火とかも好きだけど…… こういうのもいいね」 ヴォルフ 「そういえばよ。ノアが生徒会に入るって話、 あれ、どうすんだ? リンカ」 リンカ 「もちろん、文句なしにオーケーよ。 今回は彼女に助けられたのだから」 ノア 「ホントですか!? ありがとうございます!」 ニコラ 「役職はどうする? 会長、副会長、会計、 書記、書記っているから……」 シャーリー 「やっぱ、庶務じゃん?」 ノア 「わっかりました! 庶務として、粉骨砕身がんばりまーす!」 ヴォルフ 「おまえが言うと、本当に何かを 砕きそうなんだよな……」 イツキ 「ま、そこはお前が止めてやってくれ。 メンターだろ?」 ──楽しげに話し合うイツキたち。 いつもの和気あいあいとした雰囲気だ。 イツキ 「あ、そうだ。そろそろ魔法使いにも 生徒会の役職があってもいいんじゃないか」 リンカ 「あら、そうね。学生証も持っているし、 何かと助けてもらっているものね」 シャーリー 「でも、いつも学園にいるわけじゃないから、 なんか特別な感じの方がいいよね」 ニコラ 「特別顧問、とか?」 ──特別顧問? アキラ 「いやいや、それじゃ地味でつまんねーぜ。 アルティメット顧問でどうだ!?」 ──アルティメット顧問!? リンカ 「いいんじゃないかしら。強そうで」 イツキ 「リンカって、たまに アキラとセンス合うよな……」 ニコラ 「でも、『黒猫』って要素は外せないよね」 シャーリー 「アルティメット黒猫顧問とか?」 ヴォルフ 「お、悪くねぇな。カワイイし」 ──アルティメット黒猫顧問!!? ウィズ 「……止めないと、それで決まりにされるにゃ」 ──ウィズが言った時、夜空に ひときわ大きな花火が上がった。 ヴォルフ 「おい、あの花火、学園長の顔してねぇか」 イツキ 「ふざけまくった罰として、花火に詰めて おいたからな。たぶんそれだろ」 シャーリー 「うわー、すっごい笑顔」 リンカ 「魔力で花火の形を調整したのかしら。 意外と余裕があるみたいね……」 ヴォルフ 「……ん? よく見りゃ、ノア、おまえ、 その制服、どうしたんだ?」 ノア 「あ、学園長を倒したときにですね、宝箱から 出てきたんです。ちゃんと名前入りですよ!」 イツキ 「なるほど、試練を乗り越えた証ってわけか。 宝箱に入れるとか、手の込んだことを……」 ニコラ 「うう、ソッコーで追いつかれてる……」 ──話題はすでに別の内容に移り変わっている。 ──君は『アルティメット黒猫顧問』という 命名を止めることができるのだろうか……
https://w.atwiki.jp/akatonbowiki/pages/8387.html
そして後悔の一日は終わる 作詞/322スレ8 夢の世界に入った途端 何か楽しいコトないかと 永遠に終わらない欲望を 見たそうとする道化師 何もないと 一人で大海へ 沈むまで こぎ続ける そして後悔の一日は終わる そして後悔の一日は終わる 無駄話 無駄な時 無駄なクリック 響くクリック音 ヒーターの音 無駄に流れる酸素の軌道 背中丸め 箱の前の 亡者 何もないと 一人で大海へ 沈むまで こぎ続ける そして後悔の一日は終わる そして後悔の一日は終わる そして後悔の一日は終わる そして後悔の一日は終わる
https://w.atwiki.jp/saigonotubasa/pages/171.html
時下、ますますご健勝のことと、お喜び申しあげます。 このたびはこれが最後の翼だああの採用試験にご応募いただき 厚くお礼申しあげます。 クラン員と慎重に協議いたしましたが、 誠に残念ながら今回は採用を見送らせていただくことになり 貴意に添えぬ結果となりました。 ご期待に応えられず申し訳ございませんが、悪しからず ご了承の程をお願い申しあげます。 末筆ながら今後のご精進とご発展をお祈りいたします。 というわけで現在 これが最後の翼だああは新規メンバーの募集をしておりません。 入隊希望者用フローチャート
https://w.atwiki.jp/anirowakojinn/pages/190.html
第十七話≪長寿が故の苦悩、そして新たな旅立ち≫ 私が覚えている最初の記憶、それは、両親と兄、姉、弟と私、一家6人でピクニックに行った事。 私が10歳の頃だから、もう、137年も前。両親はもちろん、兄、姉、弟、みんな生きてはいない。 気が付いたら私は147歳になっていた。今は曾孫夫婦と暮らしている。 私の夫も、3人の子供も、私より先に亡くなった。5人いた孫も今は末の子一人しか生きていない。 曾孫夫婦はよく世話をしてくれるけど、感謝の意と共に、申し訳無い気持ちで一杯だった。 もう自分は目もよく見えないし、車椅子無しじゃほとんど歩く事も出来ない。曾孫夫婦には迷惑をかけっ放しだ。 私が世界最高齢の女性として記録されたと曾孫から伝えられ、 テレビや新聞、雑誌の取材も来た。取材を受けるのは147年生きてきて初めての事だった。 でも、嬉しいという気持ちは無かった。 もう私は十分過ぎる程生きた。これ以上生き続けても、曾孫夫婦を始め周りの人に迷惑になるだけだ。 だから、早く死にたいと思っていた。 私は今、森の中を歩いていた。自分の足で、しっかりと。 首には金属製の首輪がはめられ、肩から黒いバッグを提げ、 手にはバッグの中に入っていた猟銃――上下二連式散弾銃「ミロクSP-120」を携えながら。 私は今――殺し合いの場に立たされていた。 しかも、私の身体は10代後半の時の若く美しい身体に戻り、 若い時に着た記憶のある和服にブーツという服装になっていたのだ。 最初、全く信じられなかったが、自分のスタート地点付近に捨てられていた鏡を覗きこんだら、 そこには青い髪を赤いリボンで束ねた少女の顔が映り込んでいた。 間違い無く若い時の私の顔だった。 正直、少し嬉しかった。なぜこんな事になっているかは分からなかったが、 目がはっきり見え、自分の足で歩け、身体を自由に動かす事が出来るのはとても嬉しい。一体何年ぶりなのだろう。 だが、喜んでばかりもいられない。今自分は殺し合いの場にいる。 つまりいつ襲われるか分からない、いつ死ぬのか分からない状況なのだ。 147年も生きておいて今更死なんて怖くは無い、むしろ死にたいと思っていた自分だ。 だが今は動けないしわくちゃの老人では無い、しっかり自分の力で行動する事が出来る。 むざむざ殺されるのを待つ事も無い。色々出来る事があるはず。 「……この殺し合いの転覆」 そう、この殺し合いに乗っていない人も多いはず。ならばそういった人達と結託し、 この狂ったゲームを破壊しよう。 それが若い時の身体に戻った私の使命のような気がした。 「ん……」 前方から人が来る。俯いていて、とぼとぼと歩いているといった感じだ。 黄色のシャツに緑の半ズボンという比較的目立つ格好の、人間の青年だった。 向こうはまだ私に気付いてはいない。私は左手側に茂みに隠れた。 ◆ 「はぁ……疲れた……もう、疲れた……」 俺、中山淳太は森の中の道を俯きながらとぼとぼと歩いていた。 長時間に渡り絶望感の余り叫び続けて喉が渇き、 デイパックの中に入っていた一本のペットボトルの水を半分程飲んだ。 あんだけ叫んで誰にも襲われなかったのは幸運と言う他無いな。 だが今俺が置かれている状況が好転した訳でも無い。今の俺は武器を持っていない丸腰の状態だ。 そんな状態で襲われて、逃げ切れる保証はどこにも無い。 早めに武器になる物が欲しかった。 「動かないで」 はい? 今、女の子の声が後ろから聞こえ――ちょ、背中に何か当てられてるんですけど。 反射的に両手を上げる俺。 「あなたは殺し合いに乗っていますか?」 女の子(声から判断)が俺に問いかける。 うんとね、ちょっと待ってね。多分、俺の背中に当てられてる物ってさあ……もう分かるわ。 「の、乗っていない」 こう答えるしかねぇよな? っていうかさ、こんな状態で「乗っている」って答える奴いないと思うんだけど。 俺は別に乗っていないのは事実だし。まあ、信じてくれるかどうかは別としてだよ。 「本当に?」 「本当! 本当! 本当だって!」 「……分かりました。ごめんなさい。手を下ろしてこちらを向いて下さい」 ふぅ、どうやら信じて貰えたらしいな。 言われた通り手を下ろして、女の子の方を振り向く。 「あ……?」 そこには和服にブーツという服装の、10代後半ぐらいの少女が立っていた。 青い髪の毛を束ねている赤いリボンが可愛らしい。 が、少女が持っていた物を見て俺は悪寒が走る。 少女が持っている――つまり、さっきまで俺の背中に突き付けていた物は、 可憐な和服少女にはどう見ても不釣り合いな長銃身の猟銃。 もしあの時「殺し合いに乗っている」と答えたら、と思うと寒気がした。 「すみません。いきなりこんな事をしてしまって。私は菊池やと(きくち・やと)と言います。 あなたの名前は?」 「ああ、俺は中山淳太って言うんだ」 少女が謝りながら自己紹介し、俺も自己紹介する。 よ、よく見ると、結構可愛い子だなぁ……。 ん? あれ? 菊池やと? どこかで聞いた事のあるような……まあいいか。 「殺し合いに乗っていないのでしたら、一緒に行動してくれませんか?」 やとちゃんが同行を求めてきた。これは……断る手は無いだろう。 「い、いいぜ。俺で良ければ……よろしく、やとちゃん、あ、ちゃん付けって慣れ慣れしいかな」 「いえ、大丈夫ですよ。ありがとうございます。ところで、中山さん、武器は持っていないんですか?」 やとちゃんに聞かれ、俺は思い出した。 そうだ、俺は丸腰だったのだ。俺の支給品は割り箸とタコ糸で、俺は勢いでそれを投げ捨ててしまったのだ。 いや、まあ、あんな物持っていたとしても武器になんてなり得なかっただろうが。 「俺の支給品、武器になりそうな物が無くて……捨てちまったんだよ」 「そうですか……あ、小さい拳銃がありますから、差し上げますよ」 「えっ、いいの?」 それは俺にとっては願っても無い事だった。 やとちゃんは自分のデイパックを開け、中からかなり小型のリボルバー拳銃と、 その予備弾の箱を数箱を取り出し、俺に手渡した。 玩具みたいな感じだが、持ってみると木製のグリップの感触と金属の重みが手から伝わる。 これが本物の拳銃か……護身用か何かなんだろうな、この小ささは。 しかし贅沢は言っていられない。これでも今の俺にとっては頼もしい武器だ。 でも正直言うと、やとちゃんの持っている猟銃の方が欲しいんだけど……まあいいや。 「ありがとうやとちゃん。丸腰は不安だったから、ちょっと安心したよ」 「いえいえ、どういたしまして」 礼儀正しい子だな~この子。俺の周りの女と言えば金に汚かったり裏表激しかったり、 ロクなのがいなかったから、こういった子は新鮮だわ。 「それじゃあ、行きましょう」 やとちゃんが歩き出す。俺もやとちゃんに続いて歩き出した。 猟銃を持った和服少女と一緒……何だかすごいシチュエーションだな、おい。 ◆ 青年――中山淳太は気付いていない。気付く由も無いが。 今一緒に歩いている少女――菊池やとは、自分より126歳も年上の、 世界最高齢の女性が若返った姿だと言う事に。 もっとも、やと自身もそれを話さない。別に話す必要も無いと判断したためだ。 年について聞かれれば、話すかもしれないが。 【一日目/明朝/C-5森・山道】 【菊池やと】 [状態]:健康 [装備]:ミロクSP-120(2/2) [所持品]:基本支給品一式、12ゲージショットシェル(50) [思考・行動] 基本:殺し合いの転覆。或いは脱出。そのために仲間を集う。 1:中山さんと行動を共にする。 2:襲われたらまず説得、駄目なら戦うか逃げる。 3:首輪を外す方法も探す。 4:何で10代の頃の身体に戻ってるの……? 【中山淳太】 [状態]:精神的疲労(中) [装備]:S W M36”チーフスペシャル”(5/5) [所持品]:基本支給品一式(水半分消費)、38S Wスペシャル弾(50) [思考・行動] 基本:死にたくない。生き残りたい。 1:やとちゃんと行動を共にする。 2:やっとまともな武器が手に入った……。 [備考] ※「菊池やと」という名前に心当たりがあるようですが、よく思い出せません。 Back 015悪魔の判決 時系列順で読む Next 018BAD POLICE Back 015悪魔の判決 投下順で読む Next 018BAD POLICE GAME START 菊池やと Next 030狐の少女の考察、そして邂逅 Back 001絶望青年と傍観少女 中山淳太 Next 030狐の少女の考察、そして邂逅
https://w.atwiki.jp/kakis/pages/10622.html
上位標目 第九期新生アルカ概説 比較 自動詞_na14 自動詞2008/10/01 (水) 11 44 23のコピー アルカの動詞はすべて他動詞である。 「いる」でも「死ぬ」でも他動詞で、目的語を取る。 動詞ごとに自他を覚える必要はない。これは制アルカを踏襲する。 他動詞しかないということは、「落す」はあっても「落ちる」がないことになる。 ではどうやって「落ちる」を表すか。 繋辞の後に動詞を置くことで、その動詞は自動詞に相当するようになる。 an met ti(私は君を落す)だと他動詞だが、これを自動詞にどう変えるのだろうか。 1 まずこの動詞met を繋辞の後に持ってくる。 2 次に、主語に落ちる人であるti を持ってくる。 3 するとti et met となる。そしてこれが「君は落ちる」にあたる。 落ちる経験者がきちんと主格に来て、認知しやすい文頭に現れている。 また、他動詞と同じ語形のmet を使って自動詞を表しているため、自他ごとに別の単語を覚える必要はない。 なお、「落ちた」という過去の自動詞はどう表すか。 ti et metという自動詞文において、本動詞はmetでなくetであるから、過去の繋辞atを使う。metはいじらない。 ti at met(君は落ちた) では、「落ちない」はどう言うか。 繋辞etを否定し、deにする。 ti de met(君は落ちない) 「落ちなかった」は? deの過去形のdetを使う。 ti det met(君は落ちなかった) 上位標目 第九期新生アルカ概説 比較 自動詞_na14
https://w.atwiki.jp/galgerowa2/pages/272.html
業火、そして幻影(前編) ◆lcMqFBPaWA 「さて…と」 と、金髪の少女…ドライは適当に声を出しながら、先ほど、侵入する前に適当に見て周ったこの建物―娼館―の外観を思い出し… “ドガッ”と手近なドアに蹴り…膝を打点にした回し蹴りが叩きつけられる。 そうして、開かれたその部屋の中に窓が無い事を確認し…僅かに、頬を緩める。 この建物に存在する出入り口は二つ、正面と裏口。 後は先ほどドライがしたように壁を破壊するしかない。 故に、先ほどドライの前から逃亡した二人は、未だこの建物の中に留まっているのだろう。 特に感慨も抱かず、隣のドアに近づき…やめる。 判明している限りの餓鬼共の武器は一つ。 手榴弾のみ。 具体的な個数は不明。 その他の装備も不明。 例えばの話だが、ドライ自身の持つクトゥグアのように、壁ごと貫くような武器が無いとも限らない。 或いは、何かしらの罠が存在している可能性も… と、そこまで考えたところで (ま、いっか) 再びドアに、今度は普通の回し蹴りを叩きつける。 元より、ドライは敵の装備などは大して重視する性格では無い。 彼女にあるのは唯一つ、相手を殺すという意志のみ。 先ほど捻った足首に衝撃が伝わり痛みを齎すが、その痛みを無視しながら周囲に意識を向ける。 ……一秒、 ……二秒、 ……三秒、 少なくとも、何の反応も無い。 恐らくは素人な餓鬼が二人。 気配を消して忍んでいられるとも思わないが、それでも一応、警戒を絶やさずに、中を覗き込む。 案の定、中には誰も居ない…見える範囲には。 全ての部屋の作りまでは不明だが、少なくともこの部屋には窓は無い。 薄暗い明かりのもと、それなりに広い空間。 そこそこなつくりの寝台の下と、 あとは壁に備え付けられているクローゼット、 隠れられる場所と言えばその程度。 (ハズレか) 特に期待していた訳では無い。 むしろドライの期待は部屋の外、恐らくは他の部屋に潜んでいるであろう二人の反応の方だった。 だが、特に物音がした訳ではない。 そうなると、恐らくは二人ともこの部屋からは多少離れた場所に潜んでいるのだろう。 (…さて、と) 彼女にとって、人を殺すことは、ある種の存在理由ですらある。 死を間近にした恐れ、嘆きは、彼女に高揚を齎す。 そして、自身がファントムという存在であると実感できる。 故に、彼女はわざわざ姿を現し、ギリギリでの命のやりとりを好む。 …なのだが、故に彼女はこういった“かくれんぼ”は割合苦手であった。 適当に、二、三発かましてやれば怒り狂って巣穴から出てくる肉食獣の相手こそが彼女の望む“戦い”とでもいうものであり、 巣穴に篭って出てこない草食獣をちまちま探すのは苦手なのだ。 暴れるだけ暴れて、後の作業は他人任せ、ということも少なくは無い。 …元より、ローラー作戦というのは人手が必要な作業ではあるのだが。 (面倒くせぇなあ…) とりあえず、未だ壁が破れたような振動が感じられない以上、相手にそれほどの破壊力のある武器は存在しない可能性が高い。 見た限り普通の餓鬼な二人に、足音を目掛けての精密射撃なんて出来る筈も無い。 部屋の中から廊下への攻撃手段は存在しなそうではある。 だが、だからといって一つ一つ家捜ししていくなど面倒だし、何よりも時間が掛かる。 行きがけの駄賃でとりあえず殺すつもりであったが、元より彼女には他に目的が存在している。 ここでそんなに時間を浪費するのは、はっきり言ってムダでしかない。 (さて、どうすっかね) そう思い立った時、彼女の思考を遮る出来事が、その場を支配した。 ◇ 静かなその部屋の中においては、高鳴る鼓動の音でさえ響いているかのようであった。 最も、静かなのはまるでその部屋だけの出来事であるようだ。 先ほどから遠く、僅かに聞こえる音が、まるで猛獣の唸り声のように響き、建物を…いや、そこに居る男女を震わせる。 この建物は、檻だ。 貪欲な肉欲獣が巣食う檻。 だが、そこに居る二人は、断じて獣の為の生餌などでは無い。 少なくとも、当人達の意識においては。 「……じゃあ…手はず通りにやるぞ」 部屋に居る二人の内の一人、伊藤誠がかすかに震える声を出し、 「うん…わかってる」 もう一人、菊池真がやはり震える声で返事を返す。 方針は、決まった。 元より決まっていたようなものではあるが、この娼館から逃げる。 その為に、あの金髪の少女…ドライと、僅かに相見えなければならない。 相手が銃を所持している以上は、僅かにでも足止めをしなければならないからだ。 カバンの中に存在した残りの支給品のうち、アタリと呼べるものは、真の所持していた、狙撃銃“レミントンM700”と、防刃チョッキの二つ。 誠のカバンには、金色に光輝く毛皮が一つのみ。 方針として、防刃チョッキを装備した誠が手榴弾を適度にばら撒き、真がそれを手助けするというもの。 真には…いや、誠も、銃を撃つ事には当然抵抗はある。 だが、この場合はその巨大な外見が、相手に威圧感を与えてくれる事を期待して手に持っていることになった。 「でも…やっぱりボクが近寄ったほうが…」 格闘技の心得があるだけに、真がそう述べる。 「い、言ったろ…こういうのは男の役目なんだって。 お、女の子は、男が守らないと…さ」 震える声を懸命に隠しながらも、誠ははっきりと言った。 強がりであるのは誰の目にも明らかではあるが、それでも、“男だから”なんてそんな理由で、危険な役割を買って出ている。 それは、真には新鮮な経験であった。 その外見と性格故に、真は他人には頼りにされるタイプだ。 美少年と呼ばれた事や、一人だけ俺の旦那とか呼ばれた事すらある。 が、本人はアイドル候補生というその経歴が指し示す通り、女の子として扱われるということを、望んでいた。 女の子として、守られる。 普段なら兎も角、日常からかけ離れた殺し合いの場。 目の前で一人の少女に死なれ、その結果を直視し、弱さをその内に秘めた心。 そして、この娼館に満ち満ちている淫靡な空気。 その、全てが、少女の心を、ある一定の方向に進ませる事になった。 …定時放送。 覚悟を決め、走り出そうとした二人の、出鼻を挫く出来事。 放送によって告げられるのは、既に8人もの人間が命を落としたという事実。 そして、その中には当然、この館の入り口にその屍を晒す、小牧愛佳の名も含まれていた。 そうして、それは再び、真の心に冷風を吹かせる。 幸いな事に、二人とも元々の知り合いには犠牲者は存在していない。 だが、それが何の救いになるのだろう? 真の心に吹き荒れる悔恨の嵐の、風除けには何の役にも立たない。 救えなかった。 逃げ出してしまった。 その、想いが再び、真の頭を下げさせる。 悔恨にと後悔の中に、埋もれてしまいそうになる。 だが、 「…………ま、真」 「え………んむっ!?」 突如、名前を呼ばれたことで顔を上げた真の唇に、何か硬質で、それでいて柔らかな感触が伝わる。 突然の感覚に、目を白黒させる真の目の前には、両の目を瞑った誠の顔。 その、唇が、誠の唇を塞いでいた。 かあぁぁぁと真の顔に赤みが差す。 現状を理解した脳が、全身を沸騰させ… …だが、そこまでだった。 混乱と驚愕に支配されながらも、真は動かなかった。 ただ、その唇から伝わる感触を、感じていた。 やがて、ゆっくりと、二人の顔が、…唇が離れる。 数瞬の沈黙の後、やがて… 「……ごめん、な…でも、さ…」 意味のある語句にならぬ言葉を、誠は発する。 「ううん…」 真の返事は、短かった。 怒るべき部分はいくらでもある。 言うべき言葉は、沢山ある。 だけれども、そのどれを発する気にもならなかった。 真には心情を発する言葉が無かった。 言葉には、出来ない。 口にすれば、それは何か別の意味を持ってしまいそうだったから。 だから、 「…………」 「…………」 真は、ただ顔を少し上げ、その目を瞑った。 そうして、数瞬の後、再び訪れる感覚。 だが、それは先ほどのとは、僅かに異なる…少なくとも、真にはそう感じられた。 いや、恐らくはもう一人、誠も、そのように感じていた。 そうして、どちらとも無くその腕が動き、 その身を映し出す影は、二つから一つへと変わっていった。 ◇ そうして、かすかに震える真の体を、そっと、抱き寄せた。 そのぬくもりが、胸に伝わってくる。 真が言うには鍛えている、だがそれでも、やはり頼りない感触が伝わって来る。 ほのかにただよう年頃の少女の匂いが、ふと誠の理性を奪い去ろうとしてくる。 あの時、何故ああしたのかは、誠本人にも判らない。 だが、強いて言うなら、彼女が、愛おしかったから。 その体を震わせる真が、痛々しく、悲しかったから。 だから、気が付いたら、行動を起こしていた。 殴られるかと思ったが、そんな事は無かった。 そうして、徐々に収まってくる真の、或いは誠の自身の震えと共に、惜しむように、その唇を離す。 「…行こう」 「うん……」 そうして、まずは誠、次いで真の順に、慎重に部屋から出る。 (落ち着くんだ、まずは) 場所は不明だが、この館の何処かにいる…敵。 綺麗な髪をした金髪の女性…少女? 大きな胸と、爆発する?拳銃の持ち主。 グラマラスな胸と、獰猛そうな肉食獣のような殺気を放っていた相手。 (そりゃ、言葉に比べると小さいとは言っても、やっぱり外人ってグラマーなんだな) そもそも誠の周囲には、外人と呼べる相手は居ない。 まあ日本の普通の学生なのだから当然といえば当然だが、それでも、今までの誠の周囲には存在しないタイプだ。 当然の事ながら、その存在には興味を引かれる。 が、今はその事を気にしている時でない。 何故なら… 「……か、火、事?」 正面。 誠達が向かおうとした裏口の方向から、黒い煙が流れてきたのだから。 ◇ 時刻は数分、巻き戻る。 ある雑事を終えて、再びロビーに戻ってきたドライはそこで僅かに機嫌よさそうな鼻歌を歌い、そうして正面入り口の真ん中に立つ。 あと数分もすれば、あの二人は必ずこの場所にやって来る。 恐らくは、窮鼠となって。 ネズミと言っても、追い詰められれば獣の牙を剥く。 かくれんぼも終わって、ついでに撃ち合い?も楽しめる。 一石二鳥のアイデアだった。 定時放送。 胡散臭い男の胡散臭い声によって告げられるゲームの追加項目。 今居る位置からだと近い方でも2マス程度の開きがあるので、それほど影響は無い。 死者は八人。 知っている名前は無い。 ドライの唯一の知り合い、否、標的、アインとツヴァイ、ファントムの二人は生きているらしい。 「まあ、元から心配なんてしてねえけどな」 今の所出会った相手は五人。 内、それなりに経験がありそうだったのはたった一人。 だがそれも、ファントムの名を持つ暗殺者を倒せる存在とは思えない。 そう考えると、手強い相手はそう居ないのかもしれない。 だが、どの道、相手が何であろうと殺すのみ。 故にファントム。 そのように作られた道具。 ドライ自身には、道具であることに不満は無い。 ……いや、ある。 …やはり、無いのかもしれない。 彼女にあるのは唯一つ、自身が最も優れたファントムであるという証明。 ……その想いが何処から生まれてきたのかなど、彼女にはどうでもよいことだ。 「しっかし…面倒臭せーな」 ちまちまと探してかれこれ一回のほぼ半分。 それだけ見て周って見つからない。 人二人が走って逃げれば確実に判る以上、まだあの二人は居る筈。 そうなると、恐らくは何処かの部屋で怯えて蹲っているのだろう。 (…つまんねえな) 怯える相手を、恐怖に惑い命乞いする相手を刈り取る高揚感はかなりのもの 、やはり相手も牙を持っていないことには意味が無い。 そう、あの一瞬、 自分と相手の命をBETにしたゲーム。 そのゲームを勝ち抜いた高揚感に比べたら、大した事は無い。 そう、唯隠れてるだけの獲物追う事など、猿にだって出来る。 自ら向かってくる相手を、自身の牙で持って打ち砕く。 それこそが、それこそが、ドライが、キャルが『ファントム』である証。 だが、 (元々牙なんざ持ってない餓鬼が二人…あんなの殺すなんて事は猿でも出来る) ちまちまと追いかけっこをして見つけたのはひよこが二匹、ではムダが多すぎる。 (さて、どうするかね) と、その時、ドライが目にしたのは『裏口』 粗末な小さなドアに、清掃道具か何かの入れ物。 それを見て、ニィっと凶暴な笑みを浮かべ、 二度、発砲。 その衝撃は天井に突き刺さり、一瞬の間を置いて、木材と石材と漆喰とが入り混じった瓦礫が地に落ち、入り口であった場所を埋める。 これで、ドアは開かない。 少なくとも、こじ開けるには相当の時間が掛かる。 (さて、後は) 出口は塞いだから出てくるように言おう…と考えたところで、手に握ったクトゥグアが目に入り、 もっと、良いアイデアが浮かんだ。 そうして、浮かんだアイデアを実行し、今はここで獲物の訪れを待っている。 近くの部屋のベットの上に、デイパックの中にあった紙を何枚も適当にばら撒き、クトゥグアを発砲、 したのだが、それは結果的には失敗であった。 炎の勢いがありすぎて、火種にはならないのだ。 もう一度試してその結論を受け入れたドライは、結局、日が明けた今では使用しないカンテラで代用することにした。 全員に支給されているモノなのだから、何処かで手に入るだろうと考えて、 そうしてロビーまで来て、あっさりとそこにあった少女―小牧愛佳の死体から、カンテラが手に入った。 何となくだが、いい流れだ。 のんびりしすぎて二人とも焼け死んでしまうという可能性も考えていたが、この分なら数分後にはここまで来るだろう。 左側に空いている…ドライ自身が空けた穴も塞いでおこうかとも思ったが…弾のムダなのでやめておいた。 そうして、やることが無くなって、ドライの思考は先ほどの放送に戻る。 八人。 それだけの人間が死んでいる。 ドライ自身は一人も殺せていない以上、少なくともあと八人は殺しに長けた相手がいるという事になる。 (ああ、そういやあいつもまだ生きてんのか) 最初に教会で出会った少女。 知り合いが死んだことでただ蹲ってた少女。 確か、名は柚原このみ。 柄にも無い説教をかましたばかりか、銃までくれてやった相手。 何やら妙な勘違いまでしていたようではあるが。 どうやら未だに存命らしい。 次に会ったとして、少しはマシになっているだろうか。 (ん…そうなるとあいつらも動かないで気が付いたらお陀仏って事もあんのか?) 先ほどの放送で、知り合いが死んでいてそれでしばらく何も出来ずに火事で死亡… 無いとは言い切れない可能性。 だが、その心配は杞憂だったと言えるだろう。 ◇ …さて、一つの事実がある。 この期に及んでも、誠達はあくまでドライを退ける、或いは倒す、というのが基本思考である。 彼らには、未だ『殺す』という明確な意思は無い。 …無論平和な国で育った彼らに、そのような意思に向かう理由などはないのだが。 (……あいつが、火を付けた…んだよな、やっぱり) 誠達は、多少身を丸めて、煙に触れぬように移動する。 幸い、未だ火勢は弱いらしく、急げば脱出は容易い筈。 だが恐らく、いや、ほぼ確実に、あの少女が入り口にて待ち構えている筈だ。 当初の予定では、それなりに威嚇的な攻撃を行って逃げる筈だったのに、これでは相手を倒すしかなくなってしまった。 消化を行って、その後に逃げるとも考えたが、それでは確実に少女に居場所が知られてしまい、更に危険であろう。 つまり、あの少女と正面から相対しなければならない。 その事実が、二人の間の会話を奪い去る。 そうして、入り口の近くの曲がり角。 微妙に聞こえてくる鼻歌のようなものが、そこに少女が居ると言う事実を伝えてくる。 (戦う、しかないのか) ここまで来て、ようやくその事実をはっきりと自覚し、二人は軽く頷く。 (じゃあ…さっきも言った通り、撃ったらそのレバーを引くんだ、それと接近戦にはあんまり向いてない銃だから) (うん、近くならボクは空手で何とか戦える筈だから。 …だから、気をつけてね) 死なないでね… その言葉を真は飲み込み、変わりに不安そうながらも笑顔を向ける。 その笑顔に、再び抱きしめたい衝動に駆られる誠ではあったが、今はそんな事をしている場合では無いと思い返し、そしてキッと表情を改める。 誠の持つ武器は“二つ” その内、まず残り四つの手榴弾のうち一つを、ピンを抜いて投げる。 目標は、ドライの少し手前。 ゴトッと重そうな音を立てながら、一つ目の手榴弾は、目標よりも僅かに手前に落ちる。 無論、その音によってドライも、誠達の接近に気付き、そうして、 「チッ」 一度、舌打ち。 そうして、ドライは左に飛ぶ。 誠の予想よりも手榴弾が重く、飛ばなかったことがこの場合は幸いした。 左足を捻挫しているドライにはその距離は僅かに遠く、横、又は後ろに飛ぶ以外の選択肢は採りえなかった。 …ドライの足が完調ならば、 …手榴弾の位置がもう少しドライに近ければ、 …或いは、彼女の持つ銃がクトゥグアではなく実弾の銃ならば、 恐らくは、そのどれか一つの条件が揃っていれば、誠の、ひいては真の命運は、ここで尽きていた筈であった。 そうして、 「うおおおおおっ!!」 裂帛の気合と共に、誠が前進する。 その距離は、約20メートルといったところ。 横に飛びながらそれを確認したドライは、飛びながらも銃を向けようとして、 「……!」 次の瞬間、気付く。 アレは、不味いと。 誠の後方、真の持っている銃。 咄嗟の事なので細かい形状までは確認できないが、恐らくはあれなら素人でも当たる。 そう、理解した為、空中で身を丸め、肩口から地面に突っ込み、そのまま前転するように身を起こし、翻して、 チュインッ と、先ほどの位置を銃弾がすり抜ける。 「チッ!」 舌打ちしながらも、その身は既に反転しながら、状況を確認。 すぐ後ろににて、少し後方で、手榴弾の爆発。 この距離ならジャケットの上着を越えて被害を生む程ではない。 奥の廊下にいる少女は、既に次弾の装填に移ろうとしている。 その手つきは呆れるほどの鈍いが、それでもこの状況では充分すぎる。 そして、ロビーの中央近く、10メートル程の位置に、もう一人の男。 片方の手には、既に投擲しようとしている手榴弾。 そして、もう片方の手にあるのは、赤いボンベ状の物体、ありていに言えば消火器だ。 火事、というこの環境下故にその能力を思い出され、その手に握られることになった“武器”。 たかが消火器と侮るなかれ。 その消化剤はその性質上、顔に掛かれば人の能力を大いに減衰させる。 そして、無論それなりに長い射程を持つ。 少なくとも、格闘技などの心得の無い誠にとっては、下手に棒などを持つよりも、よほど強力な武器だった。 ドライの状況は、それほど良くない。 牙の無い獣は、中々どうして強力な獣であったのだ。 それゆえか、ドライは“笑った” (やるじゃねえか) 飛んできた手榴弾を反対側の壁に蹴飛ばす。(誠に蹴飛ばしてやろうかとも考えたのだが、距離が近すぎた) そして、左足の痛みに構わずに、右方向に前進。 次の瞬間、元いた場所に消化剤が吹きあれ、 「う、うわっ!?」 焦る誠に接近。 位置関係上、誠が壁になり、真は撃つことが出来ない。 先ほど蹴飛ばした手榴弾が爆発し、破片を撒き散らすのを横目にしながら、接近。 消火器の飛沫を僅かに浴びながら、そのまま、誠のわき腹に左の前蹴りを繰り出す。 ゴッっと、硬質な感触に阻まれて、痛みがドライを襲う。 咄嗟に振った消火器が、丁度盾の形になったのだろう。 (チィッ!) 左足のハンデは、ドライが思ったよりも大きいようだ。 だが、それでも蹴りの威力自体は変わらず、誠は僅かによろめく。 だが、それだけ。 みっともなく尻餅をつきながらも、消火器のホースをドライに向けてくる。 それ故に、ドライは再び右に転がる。 消火器という武器は、実に強力だ。 その特性上、既に泡の飛び散った左側に回る事をドライは封じられる。 そして、もう一つ。 ドライの持つクトゥグアは、火を噴くトンデモ銃ではあるが、それ故に、消火器の泡の影響が判らず、結果としてドライの銃撃を封じる役割を果たしていた。 だが、それもここまで。 尻餅を着いたために、誠は迅速な行動を封じられている。 片付けるのは容易い。 そう、 「はあああっ!」 真が、居なければの話だ。 銃を放り出しながら繰り出された正拳を、ドライは受けることしか出来なかった。 滑る可能性がある以上右には飛べず、左足の状態では左に飛べない故に。 だが、それは失敗であった。 「グッ!?」 咄嗟にガードした両手の上からでも、その衝撃は凄まじいものであった。 多少の心得があっても所詮は女の身、と想定したドライの想像を、遥かに上回る一撃。 一瞬、意識が飛びかける。 そうして、その隙を逃さず、右の回し蹴りが放たれる。 咄嗟に、肩の覆いで防ぐ。 金属製のそれは、真の足に威力に似合った衝撃を与え、 「あうっ!?」 思わず、悲鳴すら上げさせる。 だが、それでも威力自体に変化は無い。 ドライは、踏ん張りの利かない足の状態故に右に飛ばされる。 いや、『あえて』飛ばされた。 誠は、漸く起き上がろうとしている所だ。 だが、手榴弾にしろ消火器にしろ、真の体に阻まれ、使用できない。 真は、全力で金属を蹴った故に、右足にダメージが生じている。 少なくとも、迅速にドライには寄れない。 対してドライは、ダメージ自体は最も大きい。 だが、それでも、距離は開いてしまったのだ。 飛ばされながらも、銃を構える。 着地して、構えればそれで終わり。 幸い着地方向は右なので、転ぶ可能性は無い。 そうして、右足で着地すると共に、 「じゃあな」 その引き金を、引いた。 087 復讐者 投下順 088 業火、そして幻影(後編) 087 復讐者 時系列順 060 見上げた虚空に堕ちていく 伊藤誠 060 見上げた虚空に堕ちていく 菊地真 060 見上げた虚空に堕ちていく ドライ
https://w.atwiki.jp/utauuuta/pages/4779.html
はんせいはしていないそしてこうかいもしていない【登録タグ は 曲 曲は行 殿堂入り 重音テト 青谷】 作詞:青谷 作曲:青谷 唄:重音テト 曲紹介 青谷氏の21作目。 歌詞 (piaproより転載) ちょっと道を一枚踏み抜いて、最初から手前で詰んだ。 かくかくしかじか。こんな時ばかり一本気。 「その五十が重要なのだよ。だから五十くらい譲れ」 調子にでも余裕にでものればいい。 さすらえ少年 1!2!3! ねーねー、一人を謙遜遠慮するのは、 どうして、どうして、なんで、どうして、なんで? 最後にでも笑えなきゃ一体いつ笑えと? 当然一筋糸ではいかない。最期はそっとなし崩しさ。 いっそ、このままでいたら……って甘いわァァァアアア! でも 歩いてぶつかってんなって でも 信じて傷ついてんなって でも そんなのいいならなんでもいいじゃん knock out! YesはNo! でも 言われて気がついてんなって その失敗さえ一周回れるから 予備にでもすれば姑息に解決 良くない! けど悪くはないか! 最初を知っているからとはいえ、最期を知っているわけではない。 云々カンヌン。雑多に良い事言われてる。 今を生きてはいるが、今だけ生きているわけではない。 が、「とりあえず今はさァ行ってみよう!」 さすらえ少年 1!2!3! 変わんないでったって、周りは変わるけど……。 セーフ、セーフ、アウト、セーフ、アウト? きっと全ては皆を忘れてしまうのだろう。 進化と退化の違いが分からないのですが、これはいいの? いっそ、ここから失せたら……って辛いわァァァアアア! でも 歩いてぶつかってんだって でも 信じて傷ついてんだって でも 信じて盲目 それてもいいじゃん knock out! YesはNo! でも 言われて気がついてんだって なんでも言えというのはありがたいですが 誘導尋問はやめて下さい 良くない! けど悪くはないか? 逆でもキレてなきゃ、やってらんねーよ。 は? はァ? はァァァアアア!? でも 歩いてぶつかってったって でも 信じて傷ついてったって でも なんでもそれたらそれでもいいじゃん knock out! YesはNo! でも 言われて気がついてったって 歪んだ的も斜に構えて迎え射ろ あの日あの時のあの瞬間 さァ、 良くない! けど悪くはねー! ほら 勢い余っていんだって ほら 怖気も余っていんだって Knock out! YesはNo! きっとそれくらいでもいんだって その言葉も本当か嘘かどうだか 最期まで多分こんな感じ さァ、 良くない! けど悪くはないか! コメント 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/galgerowa2/pages/504.html
反逆の狼煙、そして受け継がれる遺志 ◆UcWYhusQhw 私の……意志。 私が……アリッサ様のためにできる事。 そんな時私は二人の男を思い出していた。 私が知っている二人の男。 ―――九鬼耀鋼。 彼はほんの僅かで歪んでしまった。 彼が大切にしていた如月双七の死によって。 失った憎しみで。 人ならざるものに変わろうとしてしまっていた。 哀しみと。 憎しみと。 怒りにおされ。 ――ならば私もそうなのでしょうか。 アリッサ様を失い我を失った私は。 ――知っている。 私は余りにも歪に歪んでいる。 深優・グリーアは歪んでいる。 ……でもそれでも。 この「歪み」はきっと違うものだと想う。 九鬼耀鋼がヒトならざるものになり憎悪に支配されて如月双七そのものを忘れようとしていた時のように。 私もきっと哀しみにおされ大切なアリッサ様を忘れようとしている。 大切な 大切な アリッサ様を。 大切な想いそのものがないと想って。 でも違うのです。 私がやってきた事は。 私が思い続けていたことは。 例え偽者だったとしてもアリッサ様を想っていたのは変わらない。 それは今でも変わらない。 アリッサ様のことにやっていた事は確かなのだから。 ああ。 だから。 きっと。 きっと。 私は今暴れていたのは。 偽者である事を知って。 「アリッサ・シアーズ」にやったのではないと暴れていた。 想い続けていたアリッサの為ではなくて。 ……私はなんて。 ならば私は。 改めてアリッサ様の為にできる事は…… 自分の意志でできる事は。 その時思い出す人。 ――如月双七。 彼は助けようとしていた。 未だ見ぬ誰かを。 大切な人を。 大切な仲間を。 誰でもない。 他でもない。 「自分の意志」で 。 ああ、私は。 今までやっていた事は。 今までアリッサ様を救うというのは実は「神崎」に命令された事。 私は自分の意志だったのだろか? これは。 違います。 これは命令。 アンドロイドとして。 殺せばアリッサを解放してやろうと神埼に言われただけじゃない。 玲二の言われた通り確かでもないのに。 結果騙されていた。 でも今は違う。 私は命令で動くだけではない。 自分の意志で動ける。 そう信じています。 アリッサ様が偽者だった。 でもそれでもアリッサ様に向ける意志は変わらない。 変わるわけがありません。 絶対。 絶対。 ならば。 考えなさい。 自分の意志で。 アリッサ様にできる事。 本当に出来る事。 それは…… あった。 そう 「……神崎黎人を殺す。アリッサ様の生き様を穢し侮辱した神崎達を」 神崎を殺す。 アリッサ様は精一杯生きていた。 たとえメタトロンの暴走で意図しない死だとしても。 例え後悔が残っていたとしても。 それでもアリッサ様は一生懸命生きていた。 あの日常は嘘ではなかった。 先生とアリッサ様と過ごした日々は。 もし……もしアリッサ様があの日常を幸せだと想っていたのなら。 想っているのなら。 私は 絶対! アリッサ様が精一杯やった結果を捻じ曲げアリッサ様を都合の良いものにした神崎黎人を! 誰よりもアリッサを知っている深優・グリーアは赦すわけがない。 絶対に赦さない! アリッサを愛していた深優・グリーアは。 絶対に。 絶対に。 「神崎黎人を赦すわけがありません! アリッサ様の生き様を……アリッサ様の頑張りを! 侮辱したあの人間を赦すわけがない!」 私は誓う。 もう、迷わない。 深優・グリーアは。 アリッサ様の為に。 自分の意志で。 アリッサ様を穢した神崎黎人に。 死の鉄槌を。 「神崎黎人に死を……私は、アリッサ様を最も愛していた私は……絶対に赦す事ができない。私は彼を――――殺します」 そうですよね? アリッサ様。 これが私の意志です。 どうか。 どうか。 見守ってください。 やすらかに。 あの。 あの。 笑顔のまま。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 深優の。 深優の自分の意志で選び取った宣言が響く。 それは朝日が昇った空に。 強く。 強く。 響いた。 「玲二……これが私の意志です」 「……そうか」 玲二が短く呟く。 深優の宣言に納得したかのように。 そしてまたしても被った自分たちに。 唯、苦笑いを浮かべる。 「改めて……提案します。玲二、自分の意志で動く深優・グリーアとして」 深優は笑いながら。 あの時のように。 でも。 今度は自分の意志で。 「手を組みませんか。神崎黎人を殺すために」 主催者を殺すために。 自分たちの大切な人を穢した主催者を殺すために。 改めて。 手を組むと。 深優はきっと意志はおなじだと。 確信を持って。 玲二はそのまま 「……承知」 承諾した。 主催に鉄槌を加えるのは同じ。 元々組むつもりだった。 情報を持っているのなら。 それだけじゃなくても。 深優は玲二にとってこの殺し合いで組むのに適したパートナーであるから。 「アル・アジフ、羽藤桂、杉浦碧……私は殺し合いに乗っていました……ですがそれでも認めてくれるのなら――協力を。殺し合いを打破し神崎黎人を殺すために」 だが深優が組もうとしたのは玲二だけではない。 アル達も組もうと。 深優はもう殺し合う必要などないから。 ならば『彼』はきっとこれを望むだろう。 『彼』の『意志』は深優・グリーアの心に残っているのだから。 ずっと。 ずっと。 深優の心に。 だから、彼の意志を継ごうと。 彼が信じたものを。 彼の信念を。 その心に灯して。 「うん、勿論だよ!」 「……OK.私も同意する」 桂と碧が同意する。 深優の宣言は嘘偽りのないものだと想ったから。 その意志は確かなものだと信じたから。 だから、協力しようと。 だがアルは深優に問う 「……それは自分の意志か?」 本当かと。 改めて尋ねる。 疑う必要などないのだが確かめるように。 「自分の意志と……そして」 深優は想う。 あの短い間だったが自分の心に根付いてる少年を。 きっと彼も。 この場に居るのなら同意してくれるだろうと。 笑いながらその少年の名を告げる。 「『如月双七』の意志ですから」 如月双七。 きっと彼は望むから。 「仲間と協力して……神崎黎人を打倒。それを望んだのは如月双七、彼なのですから」 深優がこうする事を。 あの少年は。 強く。 強く。 少年は望むと信じたから。 だから、深優はそれを行う。 自分の意志で。 彼の意志を継ぐ。 そう決めたから。 「……うむ、なら妾も協力しよう」 その応えに満足したアルも協力を申し出る。 そしてここに、 深優・グリーア。 吾妻玲二。 アル・アジフ。 羽藤桂。 杉浦碧。 『如月双七』 主催に打倒を誓う5人の人間と一人の意志が揃った。 神崎黎人に鉄槌を与える為に。 「……深優、だが、当てはあるのか? 主催者への」 玲二が疑問を言う。 主催の打倒を誓っていてもその手段がなければ何もならない。 そしてその情報を未だ自分たちは何も持っていない。 だが、深優は笑って言う。 「在りますよ」 それは深優の奥底に眠っていたブラックボックス。 その情報が真実なら。 きっとあの男は来るだろう。 だから。 その男に問い掛ける。 「炎凪……もしこの情報が正しいのなら……貴方を待っています」 『炎凪』 彼の名を言って。 きっとその情報が正しいなら。 炎凪がやってくると信じて。 『―――』 そしてその時ちょうど。 第五回目の放送が流れ始める。 反逆の。 反逆の狼煙と共に。 【B-5 西部 /2日目 早朝(放送開始)】 【深優・グリーア@舞-HiME 運命の系統樹】 【装備】:遠坂家十年分の魔力入り宝石、グロック19@現実(8/7+1/予備38)、 【所持品1】:支給品一式4×(食料-2)、拡声器 、天の鎖(エルキドゥ)@Fate/staynight[RealtaNua] 【所持品2】:クサナギ@舞-HiME 運命の系統樹、双身螺旋刀@あやかしびと -幻妖異聞録- 首輪(リセ)、 刹那の制服と下着、ファルの首飾り@シンフォニック=レイン、良月@アカイイト 【状態】:、服びしょ濡れ、体力消費(中)、肩に銃創(治療済み)、刀傷(治療済み)、右足から出血、全身打撲、ところどころ裂傷、全参加者の顔と名前は記憶済み 【思考・行動】 基本方針:アリッサの生き様を侮辱した神崎黎人を殺す。そして如月双七の意志を継ぐ 0:凪を待つ。 1:神崎黎人を殺す。 2:如月双七の意志の下、玲二、アル達と協力。 3:玲二の戦闘技術を盗む。 【備考】 ※参加時期は深優ルート中盤、アリッサ死亡以降。 ※HiME能力が覚醒しました。 ※アリッサが本物かどうかは不明。深優のメモリーのブラックボックスに記録されたジョセフ神父の独白にその事実が保存されています。 現在、プログラムではなく己の意志で動く深優で在る故に検索することも可能です。 また、他にも何か主催に関係する大きな事実が入っています。 ※万全の状態で戦闘可能になるまでは若干の時間を要します。 ※なつき、双七、美希と情報を交換しました(一日目夕方時点) ※玲二と協定を結びました。反乱分子の情報は深優は持っていません。 ※シアーズ財団の詳細を知りました。シアーズが主催としている事を知っています。 ※アリッサに偽者がいることを知りました。 ※九鬼の支給品(支給品一式、日本酒数本、首輪(宮沢謙吾))が九鬼の死体のすぐ側にあります。 【吾妻玲二(ツヴァイ)@PHANTOMOFINFERNO】 【装備】: 防弾チョッキ 、 【所持品】:『袋1』SturmRugerGP100(6/6)、.357マグナム弾(24/36)、ダイナマイト@現実×5、トンプソンコンテンダー(弾数1/1) 小鳥丸@あやかしびと-幻妖異聞録-、ニューナンブM60(5/5)、 二ューナンブM60の予備弾9発、 5.56mmx45ライフル弾7発 『袋2』、ハルバード@現実、ハンドブレーカー(電源残量5時間半)@現実、ルガー P08(3/8+1)@Phantom、シアーズの資料 『袋3』 支給品一式×11、刹那の携帯電話 、デジタルカメラ@リトルバスターズ! 、アサシンの腕、USBメモリ@現実 、 桂の携帯(電池2つ)@アカイイト、医療品一式、恭介の機械操作指南メモ、秋生のバット、おにぎりx30 野球道具一式(18人分、バット2本喪失)カジノの見取り図、ゲーム用のメダル(14000枚相当) 懐中時計(オルゴール機能付き)@Phantom、包帯、業務日誌最終ページのコピー 【状態】:肋骨数本と左腕の骨にヒビ、右肩に銃の掠り傷、左膝に転んだ傷跡、首に痣、全身打撲、疲労(大) 【思考・行動】 基本:運営者側を脅迫して、キャルを生き返らせる。その為に首輪を外す、運営者側の反乱分子と接触する。 0:凪を待つ 1:主催を打倒し、キャルを生き返らせる。どちらにせよ主催は殺害する。 2:深優に協力 3:ドクター・ウェストを発見すれば、首輪を外させる。 【備考】 ※身体に微妙な違和感を感じています。 ※時間軸はキャルBADENDです。 ※5.56mmx45ライフル弾はトンプソンコンテンダー、コルトM16A2で使用可能です ※平行世界の存在に気付きました ※ドクター・ウェストについて、烏月から話を聞きました ※防弾チョッキは一部破損しています ※深優と協定を結びました。 ※シアーズ財団の詳細を知りました。シアーズが主催としている事を知っています。 ※深優がアンドロイドである事を知りました。 ※コンポジットボウはスリングが取り外された状態です。 【羽藤桂@アカイイト】 【装備】:今虎徹@CROSS†CHANNEL~toallpeople~ 【所持品】:支給品一式、アル・アジフの断片(アトラック=ナチャ)、魔除けの呪符×6@アカイイト、 古河パン詰め合わせ27個@CLANNAD、情報の書かれた紙、誠の携帯電話(電池二個)@SchoolDaysL×H 【状態】:疲労大、顔面打撲、全身に擦り傷、鬼、アル・アジフと契約、若干貧血気味、サクヤの血を摂取 【思考・行動】 0:凪を待つ 1:高槻やよいを探し出して保護する。 2:ユメイを止める。 3:烏月を止める。 4:首輪解除の有力候補であるドクター・ウェストを探す。 5:一人でも多くの人間を仲間に引き入れれる。即座に同行出来ないようならば、第六回放送時にツインタワーに来るように促す。 6:機会があれば、通り道にある施設を調べる。 7:第六回放送頃、ツインタワーでクリス達と合流する。 【備考】 ※桂はサクヤEDからの参戦です。 ※サクヤの血を摂取した影響で鬼になりました。身体能力が向上しています。 ※桂の右腕はサクヤと遺体とともにG-6に埋められています。 ※『情報の書かれた紙』に記されている内容は、本作の本文参照 ※ユメイによる真殺害についてある程度吹っ切れました。 ※羽藤柚明についての記憶はまだ戻っていません。 【杉浦碧@舞-HiME運命の系統樹】 【装備】:FNブローニングM1910(弾数7+1)、リンデンバウムの制服@舞-HiME運命の系統樹 【所持品】:黒いレインコート(だぶだぶ)支給品一式、FNブローニングM1910の予備マガジン×4、 恭介の尺球(花火セット付き)@リトルバスターズ!、ダーク@Fate/staynight[RealtaNua]、 拡声器、情報の書かれた紙 【状態】:疲労大、顔面打撲、十七歳 【思考・行動】 0:凪を待つ 1:美希のことが心配。合流したい。 2:助けを必要とする者を助け、反主催として最後まで戦う。 3:玖我なつきを捜しだし、葛のことを伝える。 4:後々、媛星への対処を考える。仲間にも、媛星に関しては今は内緒にしておく。 【備考】 ※葛の死体は温泉宿の付近に埋葬しました。 ※理樹のミッションについて知りました。 ※理樹と情報交換しました。 ※遊園地で自分達を襲った襲撃者はトレンチコートの少女(支倉曜子)以外に少なくとも一人は居たと思っています。 ※『情報の書かれた紙』に記されている内容は、本作の本文参照 【アル・アジフ@機神咆哮デモンベイン】 【装備】:サバイバルナイフ 【所持品】:支給品一式、ランダムアイテム×1、情報の書かれた紙 【状態】:羽藤桂と契約、魔力消耗(小) 0:凪を待つ。 1:高槻やよいを探し出して保護する。 2:首輪解除の有力候補であるドクター・ウェストを探す。 3:一人でも多くの人間を仲間に引き入れれる。即座に同行出来ないようならば、第六回放送時にツインタワーに来るように促す。 5:第六回放送頃、ツインタワーでクリス達と合流する。 6:九郎と再契約する。 7:戦闘時は桂をマギウススタイルにして戦わせ、自身は援護。 8:時間があれば桂に魔術の鍛錬を行いたい。 【備考】 ※アルからはナイアルラトホテップに関する記述が削除されています。アルは削除されていることも気がついていません。 ※クリスの幻覚は何かの呪いと判断 ※『情報の書かれた紙』に記されている内容は、本作の本文参照 229 哀しみと真実と 投下順 230 構図がひとつ変わる 時系列順 深優・グリーア 235 安易に許す事は、傲慢にも似ている 吾妻玲二 杉浦碧 羽藤桂 アル・アジフ
https://w.atwiki.jp/mioazu/pages/39.html
貴女はどこから来たの。貴女はどこへ行くの。私たちはいったい、何。 ◇ ◆ ◇ 「むぐっ……!」 カラン、と右手に持っていたフォークを床に取り落とすと、そのまま唯が口とノドに手をあてて目を白黒させ始めた。 「おい唯、大丈夫か。なんかすっげー顔色悪いぞ」 「むごごぐっ……!」 「まあ大変、きっとケーキがノドに詰まってしまったのね」 「んむごぎぐごぐっ……!」 心配そうに律とムギが唯を顔をのぞき込む。 だけど私の見たところ、当の唯はそこまでせっぱつまってるような感じじゃなかった。 強いていえば小学校の学芸会でも見せられてるような気分とでもいおうか。 「あの、そういうことなら、とりあえず飲み物でも──」 心配そうに自分のカップを差し出そうとする梓を、あわてて律が両手で制止する。 「いいや梓、そういう素人の生モノは食中毒のモトだっ」 「それを言うなら『生兵法は怪我の元』だろ」 いまひとつわかりにくい律のボケに、つい私は突っ込んでしまう。 これはもう長年の付き合いで形成されてしまった一種の条件反射みたいなものだ。 その間も唯はむぐぅむぐぅとヘンな声を上げ続けている。 「やっぱり、保健室に連れて行った方がいいと思うんだけれど」 「お、今ムギがいいこと言った。よし、さっそく唯を保健室に連れて行こう。ムギも手伝え」 「え……あ、そっか。お、おー」 「というわけでっ! 私たちはちょっと保健室まで行ってくるからっ! 澪と梓は部室で留守番よろしく!」 そう言い残して、どこかおかしなテンションの律と、妙に棒読みなせりふ回しのムギは、相変わらずうめいている唯を両脇から抱えると、そそくさと部室を出て行ってしまった。 「……なんなんですかね、あの三文芝居……」 「さあ……」 残された私たちは、互いに顔を見合わせて苦笑いを浮かべるしかなかった。 それでなくても五人しかいない軽音部にとって少々広すぎる音楽準備室である。 たった二人しかいない状態では、嫌でも晩秋の空気を強く感じさせられてしまう。 机の上には、すでに元の半分くらいの大きさになってしまったホールケーキ、 そのための五人分のお皿とカップ、それにクラッカーなどさまざまなパーティグッズとかが散乱している。 もちろんお皿の上には、食べかけの取り分けた食べかけのケーキが所在なさげに乗っかっていた。 中でも異彩を放っているのは、唯たちが梓への誕生プレゼントと称して持ってきた、いろいろな種類のポッキーたちだ。 小学生じゃあるまいし、そろいもそろっていったい何を考えてこんなものをチョイスしてきたのだろうか。 きっと律あたりの発案なのだろうけど。 それにしても見れば見るほど、まるでお祭りのあとの光景のようだった。 先日終わったばかりの学祭の惨状に比べればまだしもだが、もしさわ子先生あたりに見つかったら文句のひとつも言われそうではある。 「それにしても今日のケーキは、なんか一段と気合はいってるな」 なんとか場をつなごうと、私はとりあえず目の前のケーキのことを話題にした。 普段から『余ってるから』などといってムギがいろんなお菓子を持ってきてくれているが、今日のケーキは明らかにそれとは一線を画している。 「そうですね。こんな豪華なの、なんかちょっと申し訳ないような」 「それは別に気にしなくていいんじゃないか。なんせ梓の誕生日なんだし」 照れくさそうな笑顔を浮かべる梓に私は応じた。 要するに本日、つまり11月11日は我らが軽音部で唯一の一年生、中野梓の16回目の誕生日なのである。 それでなくても何かにつけて騒ぎたがるみんなが、この絶好の口実……いやイベントをスルーするはずがなかった。 「今日だって、みんな梓の誕生日をお祝いしようって気持ちは本物だろ」 「それはそうですけど、こうお祭り騒ぎになるのは……もうちょっとなんとかなりませんかね」 「そういうの、梓は苦手か?」 「そうかもしれないですね。今まであんまり、同年代の仲のいい人たちにお祝いしてもらうなんて、ほとんど経験なかったので」 なんとも複雑な表情を浮かべながら梓は答えた。胸の奥がちくりと痛む。 基本的に真面目すぎるのだろう、この子は。 いつでもどこでも全力疾走。それ自体は悪いことじゃない。 だが周りはたまったものじゃないだろう。誰も彼もが力の限り走れるわけじゃないのだ。 彼女がそういうことを周囲に強要する性格じゃないことはわかっている。 けど考え方、いや生き方自体があまりにも違いすぎるのだ。 多少そりがあわないと敬遠されることがあったとしても仕方がないかもしれない。 たとえば自分の感情を抑えてしまうところとか、それにスキンシップが苦手なところとか、何より昔のことを語りたがらないこととか。 思い当たることはいくつもある。 もし小学校時代に律と出会えなかったとしたら、はたして私はどんな人生を歩むことになっていただろうか。 目の前の彼女を見つめているうちに、その思いが膨れ上がりはち切れそうになる。 「でもこういうのだって、悪くはないだろ」 こんなとき唯なら、ぎゅっと抱きしめてやるのだろう。 もし律なら、くだらないジョークで場を盛り上げてやるのだろう。 きっとムギなら、ただ黙って優しく見守ってやるのだろう。 では、私は……どうすればいい? 「はい、それはもう。学祭ライブもちゃんと盛り上げるところはさすがです」 「もっとも唯には、ずいぶん冷や汗かかされたけどな」 「ホントですよね。直前に風邪を引いて寝込むわ、当日はギターを忘れてくるわ」 台詞だけを聞くとただの恨み言だが、くすくすと笑いながら話す彼女には、もうそれほどの悪感情は残っていないように見えた。 もっとも学祭ライブの当日、奇蹟的に復活した唯に向かって半泣きになりながら「最低ですっ」と叫んでいたのも、半ば安堵の混じった照れ隠しだったに違いない。 「それでも本番だけはちゃんとやってのけるんだからな。大した奴だよ、ほんと」 「まったくです。不思議な人ですよね。ホント」 私の脳裏に、ギー太を背負って観客席に姿をあらわした唯の姿がまざまざと浮かび上がった。 どこか遠くを見つめるような表情を浮かべる梓も、きっと似たようなことを思い出してるのだろう。 「それにあの時は、梓も頑張ってくれたしな。最高のリードだったよ、あの時のお前は」 「本当ですかっ!」 一転して梓が気色満面になる。ホント、可愛いなあ。 それになにより、梓がステージ上でテンパってた私に声をかけてくれたから、なんとか『ふでペン』を歌えたんだしな。 本当に感謝してるんだぞ。 ああ待てよ、これはチャンスかもしれない。 「そうそう、ちょっと待ってて」 自分のスクールバックからキレイにラップした小さな紙包みを取り出す。 これを渡していいモノかどうか、今の今まで迷ってた。 他のみんながそろいもそろってプレゼントにポッキーを持ってきているのに、 自分一人が明らかに違うモノを手渡すのにはかなりの抵抗を感じていたからだ。 だけど部室に梓と私だけというこの状況なら、誰にも見られずに手渡せる。 考えようによっては絶好のタイミングだった。 「ところでさ、実は梓に渡そうと思って」 「な……何ですか、これ」 「誕生日おめでとう」 「え……」 一瞬だけ狐につままれたような表情になるが、すぐにそれが笑顔に変わる。 「あ、ありがとうございます!」 「まあ別に大したもんじゃないけど、気に入ってもらえると嬉しいな」 「今すぐ開けてもいいですか」 「いいけど、ちょっと恥ずかしいかも」 まるでクリスマスプレゼントをもらった幼児のような勢いで、彼女が中身を取り出す。 「うわぁ、カワイイーっ!」 それは彼女の手にすっぽり収まるくらいの、それはそれは小さなウサギのヌイグルミだった。 「けっこうあちこち探したんだよ、そのウサギ」 ショップに並んでいたもののうちで、わざわざ一番カワイイのを時間をかけて慎重に選んだのだ。 既製品なんだからみんなおんなじだろ、などと思ってはいけない。 よくよく見るとみんな少しずつ表情も身体つきも違うのだから。 「あれ、これは……」 しばらくの間ヌイグルミに夢中になっていた梓が、ようやく紙包みの中の封筒に気づいた。 「ん、それはバースデーカードが入ってるんだ」 「へえ。今読んでもいいですか?」 「え、と……」 心が揺れる。 これを書いたときは深夜のテンションも手伝って最高の出来だと思ったのだけど、 改めて冷静に考えるとメチャクチャ恥ずかしいことしてる気がしてきた。 「やっぱダメ、ですか?」 自分の顔にも困惑があらわれてたのだろう。懇願するような表情を梓が浮かべる。 まいったな。そんな目で見つめられちゃったら、とてもじゃないけど断れないじゃないか。 「その、絶対笑わないって約束してくれる?」 「もちろんです」 そう言うと梓は、ピンクを基調にしたハートマークまみれの封筒からそっとカードを取り出す。 せめてもう少しおとなし目のデザインにしておけばよかったかと後悔するが、今さらとっくの昔に手遅れだ。 笑顔でカードに目を落とした梓の表情が、しだいに真顔へと変わっていく。 それほど長いメッセージではないのだからすぐに読み終わるはずなのに、なかなか顔をあげようとしない。 どうやら何度も何度も読み返してようだった。 身を切られるような沈黙の時間が続く。 何この放置プレイ。やっぱりメチャクチャ恥ずかしい。逃げ出したいよ、もう。 「これって、『ふでペン ~ボールペン~』ですよね」 ようやく顔を上げた梓が、ぽつりとそんなことを呟いた。 頬を朱に染め、ほんの少しだけ紅くなった目を、まっすぐ私に向けながら。 かすかに声が上ずり、カードも小刻みに震えていた。 そっか、わかってくれたんだね。うん、正解だよ。もっとも半分だけね。 「これまで誕生日ってあんまり感慨なかったんですよね」 窓の外の紅葉まっさかりの景色に目をやりながら、梓がそんなことを言い出した。 茜色が加わった陽光に照らしだされた彼女の姿はどこか神秘的で、むしろ神々しさすら感じられる。 ふと『妖精』という単語が頭をよぎった。決して大げさな形容とは思わない。 それほどまでに人間離れした美しさを辺り一面にまき散らしていたのだから。 「でも今年の、今回の誕生日は凄くうれしいんです」 「どういうこと。理由を教えてくれるかな」 再び視線を私に戻した梓の顔には、これ以上ないというほどの満面の笑みが広がっていた。 「だって私、ようやく先輩に歳が追いついたんですよ?」 「ああそうか、16歳になったから、か」 そう。次の私の誕生日は来年の1月15日。それまで私と梓は同い歳というわけだ。 「目標で、理想で、あこがれで、その上カワイくて、たくさんのファンがいて。 どれをとっても敵わない先輩に、ようやくひとつだけ肩を並べることができたんです」 真顔でそんなことを言う。悪いけど、それはいくらなんでも買いかぶりってもんだ。 この怖がりで臆病者の私には、あまりにも過ぎた評価だよ。 だけど。 できることなら梓が思い描く理想に、ほんの少しでも近づきたい。 きっと梓の先輩でいることが、ふさわしい先輩でい続けることが、 おそらく私にできる、彼女にしてあげられる、たったひとつの恩返しなのだろう。 「もっとも2か月後にはまた先に行くけどな」 「そしたら私はまた後を追いかけます」 きっぱりとした口調で梓が言い放つ。まばゆいほどの自信に満ちた顔で。 だがその表情もたちまち消え失せ、今度は一転して不安そうな口調で話し出す。 「あの、それで、一つだけお願いしても……いいですか?」 「いいよ。私にできることなら、なんだって。可愛い後輩の頼みだからな」 「それじゃ……」 どこか迷うように言葉を区切ってから、再び彼女が口を開いた。 「もう一度、澪先輩のヴォーカルで『ふでペン ~ボールペン~』が聴きたいです。あの時の学祭ライブの時みたく。もちろんリードは私で」 「いいよ。じゃあみんなが戻ってきたら……」 「いえっ!」 すると梓はめったにないくらい強い調子で私の言葉をさえぎった。 「その、それはさすがに恥ずかしいので、できれば今……お願いします」 「ならみんなが戻ってくるまで、ふたりで演奏するか」 「はいっ」 笑顔で返事する梓に対し、私の胸中はほんの少しだけ複雑だった。 やっぱりこれだけは言えないよね。あの学祭ライブの『ふでペン ~ボールペン~』。 あれだってお前のために、お前に向かって歌ったんだってことだけは──。 ◇ ◆ ◇ 「ワン、ツー、スリー!」 私の掛け声にあわせて、梓のムスタングがすさまじい咆哮をあげ、部室全体がまるで地震のようにビリビリと震える。 私も負けじとベースを奏でながら渾身の力を振り絞って声を張り上げる。 目の前の光景ががらりと一変する。 鮮やかな色彩を伴なって過去の出来事がよみがえる。 それは先ほど手渡したバースデーカードに書き連ねた、ささやかな私の想いにほかならなかった。 ──ふでペン FUFU ──ふるえる FUFU ──はじめてキミへのGREETING CARD ねえ、知ってるかな。私と君がこうしてバンドしてるって、わりと凄いことなんだ。 ──ときめきPASSION ──あふれてACTION ──はみだしちゃうかもね ちょうど私より1年遅れで君が生まれてくれたから。 親御さんがジャズバンドをしてくれてたから。 小学4年の時にギターを習い始めたから。 ──キミの笑顔想像して ──いいとこ見せたくなるよ ──情熱をにぎりしめ ──振り向かせなきゃ! 私がベースを始めたから。 進学先に桜高を選んだから。 律が文芸部の入部希望届を破っちゃったから。 ──愛をこめて スラスラとね さあ書き出そう ──受け取ったキミに しあわせが つながるように ──夢を見せて クルクルとね 字が舞い躍る 軽音部が廃部寸前だったときにムギが見学に来てくれたから。 半ばあきらめてた時に唯が入部してくれたから。 ──がんばれふでペン ここまできたから ──かなり本気よ☆ 嫌がる山中先生が最終的になんとか顧問を引き受けてくれたから。 学祭のときに和が講堂使用の許可を取り付けてくれたから。 初めての学祭ライブが大成功だったから。 ──ふでペン FUFU ──無理かも FUFU ──くじけそうになるけど そして翌年、やはり君が桜高に入学してくれたから。 憂ちゃんと新歓ライブを聴きに来てくれたから。 演奏に感動して入部してくれたから。 ──手書きがMISSION ──熱いわTENSION ──印刷じゃつまらない みんなが度肝を抜くようなギターテクを持っていてくれたから。 自分の理想と違ってても我慢してついて来てくれたから。 君の笑顔が見たいと一生懸命部活を盛り上げたから。 ──ハネるとこトメるとこ ──ドキドキまるで恋だね ──これからもヨロシクね ──ひとことそえて そんなささやかな幸運の積み重ねがあったから、 私は君という後輩を得ることができたんだ。 ──はしゃぐ文字は ピカピカにね ほら磨きかけ ──まっすぐキミの ココロまで 届けばいいな ──走る軌跡 キラキラだね そう乾くまで ──待っててふでペン ごめんねボールペンは ──おやすみしてて ──かなり本気よ☆ 誰よりも頼りになる後輩。 私にとって特別な後輩。 たった一人の後輩。 最高の後輩。 ──キミの笑顔想像して ──いいとこ見せたくなるよ ──情熱をにぎりしめ ──振り向かせなきゃ! 君のおかげでどれほど頑張れたか知れない。 この情けない先輩を支えてくれたことには、もう感謝の言葉も思いつかないよ。 この奇跡のような出会いを、私は誰に感謝すればいいのだろう。 この燃えるような喜びを、私はどうやって伝えればいいのだろう。 ──愛をこめて スラスラとね さあ書き出そう ──受け取ったキミに しあわせが つながるように ──夢を見せて クルクルとね 字が舞い躍る ──がんばれふでペン ここまできたから ──かなり本気よ☆ だから今はたったの一言だけ。 ありがとう、梓──。 ◇ ◆ ◇ 貴女はどこから来たの。どこへ行くの。私たちはいったい、何。 そんなこと知らない。 それがわかれば苦労はしない。 きっと一人一人理由も目的も行き先も違う。 出会い、共に歩み、いずれは別れていくのだろう。 だけど私がこの世に生を受けた理由、それだけはわかってる。 もちろんそれは。 貴女と出会うため。 貴女の先輩になるため。 貴女に先輩と呼ばれるため。 いつまで行けるのだろう。 いつまで走り続けられるのだろう。 どこまで行けるのだろう。 どこまで走り続けられるのだろう。 できることなら、どこまででも一緒に駆け抜けたい。 いつまででも一緒に駆け抜けて行きたい。 たとえ世界の果てまででも。 この世の終わりまででも。 行けるところまで。 最後の最後まで。 そうとも、貴女こそ中野梓。 小さく可愛らしい、私の最強の後輩。 そして私は、そんな貴女に『先輩』と呼ばれる幸運を得た。 それはとても誇らしいコトで、すごくうれしいコトで、でも少しだけ怖いコト。 羨望の視線で見つめられるたびに思う。 私は目標なのだろうか、理想なのだろうか、あこがれなのだろうか。 くだらない醜態をさらして貴女を落胆させてはいないだろうか。 貴女にいつでも笑っていてほしいから。 貴女の期待を少しでもかなえ続けたいから。 だから私もまた力の限り走り続けるよ。 さあ、これからどこに行こうか。 お望みとあらば、どこへだっていっしょに行くよ。 いつまでも、どこへでも、どこまでも。 貴女が私のことを先輩と呼んでくれる限り、絶対に──。 (おしまい)
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2396.html
「申し訳ありませんが。今は特定のどなたかとお付き合いする事は考えにくいものですので」 「あ…そう、ですか…」 放課後の、人気の無い校舎裏。まだ何か言いたそうにしている新入生の子に「では、失礼します」と一礼して、わたしは足早にこの場を去りました。 少し、素っ気なさ過ぎたでしょうか? でも変に期待を持たせるような言動をして、執着されても困りますし。情報統合思念体の指示で学生生活というものを始めてから何度かこういう場面がありましたが、わたしには人間の恋愛感情というものがいまいち理解できていないので、こういう時の線引きには迷います。 いっその事――いえ、これはエラーに類する考えですね。長門さんの監査役を務めるようになってからでしょうか、どうもこういう非論理的な思考の発生確率が増えてきたような気がします。統合思念体に判断を仰ぐべきでしょうか。でも余計な申告をして、処分を検討されたりしては面白くないですし。 いえ、そもそも情報端末に過ぎないわたしに、面白いも面白くないも無いのですけれど。 そんな益体も無い事を考えている内に、わたしは目的地の扉の前に立っていました。ふぅ、とひとつ息を吐き、自分が『生徒会書記モード』である事を確認して、わたしは眼前の扉をノックします。すると、すぐに「入りたまえ」という尊大な声が返ってきました。 「失礼します。すみません、遅くなりました」 生徒会室には、既にわたし以外のメンバーが揃っています。ぺこりと軽く会釈をすると、一番上座の机の上で両肘を付き、指を組み合わせた会長が、その指の向こうで眼鏡をきらんと光らせました。 「珍しいな、喜緑くんが最後とは」 「ええ、ちょっとした用事がありまして…あら、これは?」 会長の呟きをスルーして自分の席に着こうとしたわたしは、机の上に置かれていた物品に軽く驚きの声を――実際は見た瞬間にそれが何かは理解しているのですが――上げます。全員の前に湯気の立つお茶と共に置かれていたそれは、白と緑のコントラストも鮮やかな和菓子でした。 「差し入れですよ。新年度が始まって、はや半月あまり。ようやく学内も落ち着いてきましたからね。たまには息抜きって事で」 「私個人としては、あまりこういった余事にかまけるのは賛同しかねるのだがな。しかしまあ、新入生たちをつつがなく受け入れる事が出来たのは、確かにキミたちの尽力あっての事だ。 これぐらいの愉楽は認めよう。実社会においても、パワーブレックファーストのような会議形態もある事だしな」 要するに、この和菓子は副会長がお茶受けに持ち込んだ物なのですね。 それにしても普段に輪を掛けて、やたらと勿体つけた会長の物言いに、副会長と会計、庶務の方々も苦笑いを浮かべています。この人が意外と甘い物好きなのは、わたしたち生徒会執行部内では公然の秘密なんですけどね。当の本人は、まだ気付かれていないつもりなのでしょうか。 昨年度末の会議に持ち込まれたお茶受けの桜餅だって、なんだかんだ言いながら最後に残ったひとつも食べてたくせに。そういう所は割と子供っぽいんですこの人は。 と、その会長が緩みかけた場の空気を改めるように、えへんとひとつ咳払いを打ちました。 「では、会議を始めよう。食べながらで構わないから聞いてくれ。来たる5月の連休だが、例年この時期には…」 わたしが着席するなり、会長はそう話を切り出します。わたしの書記としての仕事は、最初のディスカッションが終わって要点がまとまってから、それらを議事録帳に書き連ねる事。ですので今の内にお菓子を平らげてしまうべきですね。先程まで考え事をしていたせいで、ちょうど糖分を補給したい所でしたし。 お皿の上の和菓子、俗に柏餅と呼ばれているそれを両手に取り、わたしはぱくっと齧り付きました。しゃくしゃく、もちもちと口の中に広がる歯応え。うーん? 思ったより青味が強いですね。 どちらかと言えば、もう少し味に統一性を持たせた方がわたしの好みに――。 あら? 奇妙な違和感に、わたしは顔を上げました。いつの間にか会議は止まり、皆の驚いたような視線がわたし一人に注がれています。これは一体どうした事でしょう。 「あ、あの、喜緑さん?」 副会長が遠慮がちに、心配そうな声を掛けてきますが、わたしにはその原因が分かりません。と、凍りついたように沈黙で満ちた生徒会室に、不意に快活な笑い声が響き渡りました。 「ふっははは、いや喜緑くん、キミは遅れてきた事にそんなに負い目を感じていたのかね? だが、そうまでして場を和ませようとしてくれなくとも結構だよ。いつも穏当なキミにそんなジョークを飛ばされても、我々としてはむしろ当惑するばかりだからな」 皆の耳目を集めるように、くっくっと大きく笑い続けながら、会長はさりげなく目の前の柏餅に手を伸ばします。そして緑の葉を剥がし、一口ぱくりと… 次の瞬間、わたしは、ああ、と心の内で頷いていました。なるほど、皆の奇妙な視線の理由は、それはわたしが葉っぱごと柏餅を食べていたからだったんですね――。 生徒会室は職員室の隣にあるので、洗い物にはその間の給湯室を利用させて貰うのが慣習です。会議も終わって人気もまばらな放課後、わたしは制服にエプロン姿で、全員分の皿と湯飲みを洗っていました。 今日の事は、普段おとなしく控えめな女子が思いつきでギャグをかましてみたらモロすべりしてしまった、という少々不本意な顛末でひとまず片付きましたが。それら諸々の失態に対する、これは自分自身に課した戒めのようなものです。 と、不意に給湯室の入り口の壁が、ぎしっと軋みます。 「先にお帰り下さっても結構ですよ、会長? 施錠ならわたしが…」 「いいや、生徒会室の管理は私の職分だ」 流し台の方を向いたまま話すわたしに、腕組みをして壁にもたれた会長も、事も無げにそう答えました。 「――というのは、キミと二人で話をするための方便だがな。 しかし、今日は久々に驚かされた。これまで柏餅を食べた事がなかったのかね、キミは」 「ええ。通常、それまでに経験の無い食べ物に対しては情報検索を行いますが、今回の件に関しては、先日に食べた桜餅と同様の存在かと思い込んでいましたので」 わたしの返事に、会長は、ふむ、と鼻を鳴らします。『機関』の古泉一樹と近しい彼は、わたしが情報端末である事も既知のはずなのですが。今さら何を訊ねているのでしょう。 「男子の祝い事とはいえ、端午の節句の時期ともなれば、店先等で目に付く代物だと思うのだが?」 「涼宮ハルヒが北高に入学するまではほとんど待機モードでしたし、そもそもわたしには『何かを祝う』という概念が基本的に存在しませんので。縁起物のお菓子などに、特別な興味なんてありませんでしたね」 これまでは、とわたしは胸の内で、小さく付け加えました。クリスマスやバレンタインなどのイベントを“誰かと過ごす”事に、長門さんが見い出し始めた、付加価値。その情報に対する重要度の変化が、わたしにもエラーを生じさせているのでしょうか。 そんな思索に耽るわたしの背後で、会長がぽつりと呟きます。 「ふん。存外愚かなのだな、キミは」 むっ。穏健派のわたしでも、さすがにこれはカチンと来ました。 「たかだか柏餅の食べ方ひとつで、鬼の首でも獲ったみたいに人をあげつらうのもどうかと思いますが?」 ――後になって、わたしはふと思う事があります。 もしこの時、振り返ったわたしの前で、彼が侮蔑の表情を浮かべていたなら。人間に似せて造られた人間でない者であるわたしを、彼が卑下していたなら。諸々のエラーの発生に翻弄される事もなかっただろうな、と。 けれども実際、振り返ったわたしが見たのは。むしろ寂しそうにわたしを見つめる彼の瞳で、その瞬間、わたしの胸の奥で、何かがドキリと音を立てました。 「そういう事を言っているのではない」 声にも寂寥感を漂わせながら、会長は言葉を続けます。 「かつてソクラテスという男がこう言った。『自分は何も知らない。だが、自分は何も知らないという事を知っている』と。いわゆる『無知の知』という奴だな。 対して喜緑江美里、キミはどうだ。その気になればどんな事でも知り得るが、しかし自分が何を知らないのか知らない。知ろうともしない。そんなキミが愚かでなくて何だと言うのだ?」 そう言い捨てて、会長は眼光鋭くわたしを見つめます。なるほど、単なる嗜虐心でわたしを揶揄したわけではなさそうですね。 「仰りたい事は分かりました。 確かにわたしは、統合思念体の指示に従うだけの存在。自発的に何かをする事も無い、単なるお人形に過ぎません。その意味で、わたしはまさしく愚かなのでしょう。でも、会長」 こちらを見下ろすこの長身の男を、わたしはことさら冷たい口調で問いただしていました。 「それを指摘して、どうなると言うのです? よしんばわたしが自我を持った所で、あなたには何のメリットも無いように思われますが。まさか、あなたが人道や正義を説くわけでもないですよね?」 「当然だな。人道だの何だのは所詮、大衆を酔わせる安酒に過ぎん。第一、宇宙人相手に人間の道理を押し付けるなど、それこそ愚かの極みというものだ。 そんなくだらない理由ではない。私がキミを気に掛けているのは――」 よもや、この期に及んであの新入生の子のようなセリフを並べ立てるつもりなのでしょうか? いえ、まさか。あり得ません、この自分本位の塊のような人が。 どうせ『機関』絡みの指令か何かに決まっています、ええ。ところでどうして今、私の心臓はこんなに早鐘を打っているのでしょう。 「――端的に言って、キミが有能な部下だからだ」 大真面目な顔でそう言う会長に、わたしは、はあ、と間の抜けた返事をしてしまいました。それをどう捉えたのか、会長は細い指先で眼鏡を外しながら、こう続けます。 「もちろん古泉からは、ある程度の指図は受けている。いわく、 『どうやら情報統合思念体というのは、人間のメンタルな部分にあまり理解がないようです。それにより造られたTFEI端末もまた然り、ですね。 それが原因でトラブルが起こる事もあるでしょう。あなたとしては、なるべくそれらをフォローしてあげてください。動向が知れないという点で少々厄介ではありますが、とりあえず現状で彼女らは敵ではありませんし、なるべく敵にしたくない存在ですから』 だそうだ。だが――」 話しつつ彼は眼鏡を胸ポケットにしまい、代わりに制服の裏からタバコを取り出して平然と1本、口に咥えました。どうやら眼鏡と一緒に、普段被っている生徒会長としてのペルソナも外してしまったみたいですね。 それにしても、残っている教職員はもうだいぶ少ないとはいえ、職員室のすぐ隣で大胆な事を…。いえ、何かあれば当然わたしが情報操作で対応するだろうと、この人は見越しているのでしょう。つくづく傲慢です。 「――そんな指示など、知った事じゃない。お前が何者だろうと、使い物にならなければ叩き出すまでだ。俺は何が嫌いって、無能なくせに権利だけ声高に主張するような輩が死ぬほど嫌いだからな。 だが実際問題、お前は優秀だった。どんな雑事もそつなくこなし、トラブル等への対処も迅速で的確。役職こそ書記だが事実上、キミが俺の右腕であるのは誰しもが認める所だろう。だからこそ、だ」 およそ賛辞とは思えないような賛辞の言葉を吐いて、会長はじろりとわたしをねめつけました。 「だからこそ、気に喰わん。喜緑江美里、お前が統合思念体とやらの道具に過ぎず、またその現状に甘んじているという事に、俺は無性に腹が立つ。 いいか、お前も俺の部下ならば、俺も、統合思念体も踏み台にして蹴倒すくらいの気概を抱け!」 タバコの先をこちらに向け、舌鋒鋭く言い放つ会長の向かいで、わたしは、は?とぽかんとした顔をしていました。 「意味が分かりません。有能な部下が従順で、何の不都合が?」 「めったやたらと反抗しろ、と言っている訳ではない。だが従順なだけの部下などつまらんだろうが」 さも当然とばかりに会長は胸を反らしますが、やはりわたしには理解不能です。わざわざリスクを背負いたがるなど、どう考えても論理的に破綻しているとしか思えませんが。 「何を言っている。そもそも統合思念体とやらは、自律進化の可能性を求めて涼宮ハルヒと接触しているのだろう?」 「ええ、そうですが…」 「進化とはつまり、子が親を克する事だ。親と子が互いの存在意義を賭けて相克し合う、その結果こそ進化に他ならない。ならばお前が逆心を抱いたとて、何の奇異もあるものか」 まあ確かに、朝倉涼子の独断専行、それから長門さんの暴走は統合思念体に少なからず衝撃を与えましたが、でも…。 「いいか、喜緑江美里。今のお前は家畜と同じだ。統合思念体に逆らう事を、そもそも考えてもいない」 「それは…わたしはそう造られましたから…」 「違うな、自分で自分に枷を嵌めているだけだ。可能性というものをもっと広く捉えろ。お前にはそれが出来るはずだ」 わたしが、自分に枷を嵌めている? 自分で自分を家畜のような立場に貶めている? だから会長は、それが気に喰わない、と? 「全ての物事を疑え。是非を問え。その上で、統合思念体の指示が正当だと判断したのなら、それに従えばいい」 「…もしも、正当だとは思えなかったら?」 わたしの質問に、会長は不遜な笑みで答えました。 「豚は喰われて、狼は生きる。うまそうな獲物が横腹を見せていたなら、遠慮せずに喰いちぎってしまえ」 愉快そうに彼が笑うと、タバコの煙が蛇のように揺れます。それを見ている内に、わたしの記憶の中でふと、ひとつの物語がリピートされ始めました。 それはそう、聖書と呼ばれる物語り群の中の一節。神の楽園で平和に暮らしていたイブに、一匹の蛇が 「そこのリンゴを食べてごらんなさい。あなたは今よりずっと賢くなれますよ」 と呼び掛けます。でもそれは、神に禁じられていた知恵の果実。迷いながらも禁断の実を食べてしまったイブはアダム共々、楽園から追放されてしまいます。 そうして“知恵”を身に付けてしまったがために、その後の人間たちは恥や恐怖といった感情に踊らされるようになってしまったのだとか。 愚かな話です。彼の提言もまた、非常に愚かです。たとえて言うならポーカーで、何の役も無くともブラフだけでどんな勝負にも勝てる!と豪語するようなものです。若さと野心だけに裏打ちされた、浅はかな考え方です。 情報統合思念体の何たるかも知らない、人間ごときの考えそうな事です。 でも。 ならばなぜ、わたしはその愚かな提言を一蹴できないでいるのでしょう。独善的とも言える会長の冷たい瞳に、ぞくぞくとした高揚感を覚えるのはどうしてなのでしょう。 ふぅ、とわたしは小さく息を吐き、改めて会長に向き直りました。 「あなたの意見はやはり理解しがたいものですし、わたしには統合思念体に反旗を翻すつもりなど、毛頭ありません。 でも、会長」 「うん?」 「あなたがわたしを『有能な部下』として、これからも大いに利用するつもりだという事は、よく分かりました。だからわたしも、遠慮なしにあなたを利用させて貰おうと思います」 外したエプロンを胸元で畳みながら、わたしは彼の前でにっこりと笑ってみせました。 「わたしのお願い…聞いて貰えますか?」 夕暮れに赤く染まる、北高名物の長い坂道。そしてわたしと彼。 「ふむ。宇宙人の“お願い”とやらがどれほどのものかと、私としては少々身構えていたのだがな」 再び掛け直した眼鏡を指先でついと押し上げながら、会長はそんな言葉を口にしていました。 「よもやそれが、『一緒に下校してほしい』などという嘆願だったとは」 「うふふ、ご迷惑でしたか?」 「逆だ。あまりに簡易すぎて、拍子抜けした」 少しつまらなさそうな顔をする会長の隣で、わたしは小さく笑いました。 「告白などをいちいちお断りするのも、骨が折れますからね。あなたとわたしがそれっぽい関係にあるらしい、という噂でも立てば、生半可な相手は近寄ってこないでしょう?」 「要するに、虫除け代わりというわけか、私は」 不機嫌そうに眉をひそめる会長の様子に、わたしはまたクスクスと笑います。なにせ、わたしをそそのかしたのは他ならぬあなたですもの、これくらいの苦汁はなめて頂かないと、ねえ? そう、わたしは今日、確かに禁断の実を齧ってしまったのだと思います。 もちろん統合思念体に反逆するつもりなどありません。ありませんがしかし、任務は任務として遂行しながら個のわたしとしての興味や好奇心もそれなりに感受する。そういう新しい概念を、わたしは発見してしまいましたから。 まったく、愚かしい事です。これまで通り統合思念体の指示にのみ従い、何の疑念も抱かずにいれば、わたしはつまらない諸事に思い悩まされたりする事もなかったでしょうにね。 でも、わたしは気付いてしまいました。この冷徹で計算高く、野心家で身勝手な男の言葉を、どうしても振り払えないでいる自分に。しかもそんなエラーの発生を、不思議と不快に思っていない自分に。 ならばいっその事、とことん検証してみましょう。彼の言葉によってもたらされたこの新しい概念が、是なのか否なのかを。ふふ、わたしがこんな事を考えていると知ったら…長門さんは一体どんな顔をするでしょうね? 「まあ、いい。どうせ私の方も、『機関』から優等生然とした仮面を被る事を強いられている身だ。今さらキミと仮面恋人の契約を交わしたとて、どうという事もない」 そんなセリフで我に返ると、会長があの冷たい瞳を、まっすぐわたしに向けていました。 「それより、これからまた忙しくなるぞ。 なにしろ我々は生徒会活動に加えて、あの涼宮ハルヒ率いるトンチキ集団の相手までしてやらなければならないのだ。いや、どちらかと言えばそちらが本題か。 いずれにせよ、キミには大いに働いて貰わざるを得ないな」 いかにも忌々しげな顔でそう言う彼に、くすっと微笑んで。 「仕方がありませんね。お付き合いしましょう。 どうやらわたしは、あなたの有能な部下みたいですから」 片目をつむってそうささやいたわたしは、彼に寄り添うようにして、長い坂道を歩んで行ったのでした。 禁断の果実の甘酸っぱさを、胸一杯に噛みしめながら――。 そしてイブはリンゴを齧る おわり -えれべーたー☆あくしょんにつづく