約 3,555,510 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2396.html
「申し訳ありませんが。今は特定のどなたかとお付き合いする事は考えにくいものですので」 「あ…そう、ですか…」 放課後の、人気の無い校舎裏。まだ何か言いたそうにしている新入生の子に「では、失礼します」と一礼して、わたしは足早にこの場を去りました。 少し、素っ気なさ過ぎたでしょうか? でも変に期待を持たせるような言動をして、執着されても困りますし。情報統合思念体の指示で学生生活というものを始めてから何度かこういう場面がありましたが、わたしには人間の恋愛感情というものがいまいち理解できていないので、こういう時の線引きには迷います。 いっその事――いえ、これはエラーに類する考えですね。長門さんの監査役を務めるようになってからでしょうか、どうもこういう非論理的な思考の発生確率が増えてきたような気がします。統合思念体に判断を仰ぐべきでしょうか。でも余計な申告をして、処分を検討されたりしては面白くないですし。 いえ、そもそも情報端末に過ぎないわたしに、面白いも面白くないも無いのですけれど。 そんな益体も無い事を考えている内に、わたしは目的地の扉の前に立っていました。ふぅ、とひとつ息を吐き、自分が『生徒会書記モード』である事を確認して、わたしは眼前の扉をノックします。すると、すぐに「入りたまえ」という尊大な声が返ってきました。 「失礼します。すみません、遅くなりました」 生徒会室には、既にわたし以外のメンバーが揃っています。ぺこりと軽く会釈をすると、一番上座の机の上で両肘を付き、指を組み合わせた会長が、その指の向こうで眼鏡をきらんと光らせました。 「珍しいな、喜緑くんが最後とは」 「ええ、ちょっとした用事がありまして…あら、これは?」 会長の呟きをスルーして自分の席に着こうとしたわたしは、机の上に置かれていた物品に軽く驚きの声を――実際は見た瞬間にそれが何かは理解しているのですが――上げます。全員の前に湯気の立つお茶と共に置かれていたそれは、白と緑のコントラストも鮮やかな和菓子でした。 「差し入れですよ。新年度が始まって、はや半月あまり。ようやく学内も落ち着いてきましたからね。たまには息抜きって事で」 「私個人としては、あまりこういった余事にかまけるのは賛同しかねるのだがな。しかしまあ、新入生たちをつつがなく受け入れる事が出来たのは、確かにキミたちの尽力あっての事だ。 これぐらいの愉楽は認めよう。実社会においても、パワーブレックファーストのような会議形態もある事だしな」 要するに、この和菓子は副会長がお茶受けに持ち込んだ物なのですね。 それにしても普段に輪を掛けて、やたらと勿体つけた会長の物言いに、副会長と会計、庶務の方々も苦笑いを浮かべています。この人が意外と甘い物好きなのは、わたしたち生徒会執行部内では公然の秘密なんですけどね。当の本人は、まだ気付かれていないつもりなのでしょうか。 昨年度末の会議に持ち込まれたお茶受けの桜餅だって、なんだかんだ言いながら最後に残ったひとつも食べてたくせに。そういう所は割と子供っぽいんですこの人は。 と、その会長が緩みかけた場の空気を改めるように、えへんとひとつ咳払いを打ちました。 「では、会議を始めよう。食べながらで構わないから聞いてくれ。来たる5月の連休だが、例年この時期には…」 わたしが着席するなり、会長はそう話を切り出します。わたしの書記としての仕事は、最初のディスカッションが終わって要点がまとまってから、それらを議事録帳に書き連ねる事。ですので今の内にお菓子を平らげてしまうべきですね。先程まで考え事をしていたせいで、ちょうど糖分を補給したい所でしたし。 お皿の上の和菓子、俗に柏餅と呼ばれているそれを両手に取り、わたしはぱくっと齧り付きました。しゃくしゃく、もちもちと口の中に広がる歯応え。うーん? 思ったより青味が強いですね。 どちらかと言えば、もう少し味に統一性を持たせた方がわたしの好みに――。 あら? 奇妙な違和感に、わたしは顔を上げました。いつの間にか会議は止まり、皆の驚いたような視線がわたし一人に注がれています。これは一体どうした事でしょう。 「あ、あの、喜緑さん?」 副会長が遠慮がちに、心配そうな声を掛けてきますが、わたしにはその原因が分かりません。と、凍りついたように沈黙で満ちた生徒会室に、不意に快活な笑い声が響き渡りました。 「ふっははは、いや喜緑くん、キミは遅れてきた事にそんなに負い目を感じていたのかね? だが、そうまでして場を和ませようとしてくれなくとも結構だよ。いつも穏当なキミにそんなジョークを飛ばされても、我々としてはむしろ当惑するばかりだからな」 皆の耳目を集めるように、くっくっと大きく笑い続けながら、会長はさりげなく目の前の柏餅に手を伸ばします。そして緑の葉を剥がし、一口ぱくりと… 次の瞬間、わたしは、ああ、と心の内で頷いていました。なるほど、皆の奇妙な視線の理由は、それはわたしが葉っぱごと柏餅を食べていたからだったんですね――。 生徒会室は職員室の隣にあるので、洗い物にはその間の給湯室を利用させて貰うのが慣習です。会議も終わって人気もまばらな放課後、わたしは制服にエプロン姿で、全員分の皿と湯飲みを洗っていました。 今日の事は、普段おとなしく控えめな女子が思いつきでギャグをかましてみたらモロすべりしてしまった、という少々不本意な顛末でひとまず片付きましたが。それら諸々の失態に対する、これは自分自身に課した戒めのようなものです。 と、不意に給湯室の入り口の壁が、ぎしっと軋みます。 「先にお帰り下さっても結構ですよ、会長? 施錠ならわたしが…」 「いいや、生徒会室の管理は私の職分だ」 流し台の方を向いたまま話すわたしに、腕組みをして壁にもたれた会長も、事も無げにそう答えました。 「――というのは、キミと二人で話をするための方便だがな。 しかし、今日は久々に驚かされた。これまで柏餅を食べた事がなかったのかね、キミは」 「ええ。通常、それまでに経験の無い食べ物に対しては情報検索を行いますが、今回の件に関しては、先日に食べた桜餅と同様の存在かと思い込んでいましたので」 わたしの返事に、会長は、ふむ、と鼻を鳴らします。『機関』の古泉一樹と近しい彼は、わたしが情報端末である事も既知のはずなのですが。今さら何を訊ねているのでしょう。 「男子の祝い事とはいえ、端午の節句の時期ともなれば、店先等で目に付く代物だと思うのだが?」 「涼宮ハルヒが北高に入学するまではほとんど待機モードでしたし、そもそもわたしには『何かを祝う』という概念が基本的に存在しませんので。縁起物のお菓子などに、特別な興味なんてありませんでしたね」 これまでは、とわたしは胸の内で、小さく付け加えました。クリスマスやバレンタインなどのイベントを“誰かと過ごす”事に、長門さんが見い出し始めた、付加価値。その情報に対する重要度の変化が、わたしにもエラーを生じさせているのでしょうか。 そんな思索に耽るわたしの背後で、会長がぽつりと呟きます。 「ふん。存外愚かなのだな、キミは」 むっ。穏健派のわたしでも、さすがにこれはカチンと来ました。 「たかだか柏餅の食べ方ひとつで、鬼の首でも獲ったみたいに人をあげつらうのもどうかと思いますが?」 ――後になって、わたしはふと思う事があります。 もしこの時、振り返ったわたしの前で、彼が侮蔑の表情を浮かべていたなら。人間に似せて造られた人間でない者であるわたしを、彼が卑下していたなら。諸々のエラーの発生に翻弄される事もなかっただろうな、と。 けれども実際、振り返ったわたしが見たのは。むしろ寂しそうにわたしを見つめる彼の瞳で、その瞬間、わたしの胸の奥で、何かがドキリと音を立てました。 「そういう事を言っているのではない」 声にも寂寥感を漂わせながら、会長は言葉を続けます。 「かつてソクラテスという男がこう言った。『自分は何も知らない。だが、自分は何も知らないという事を知っている』と。いわゆる『無知の知』という奴だな。 対して喜緑江美里、キミはどうだ。その気になればどんな事でも知り得るが、しかし自分が何を知らないのか知らない。知ろうともしない。そんなキミが愚かでなくて何だと言うのだ?」 そう言い捨てて、会長は眼光鋭くわたしを見つめます。なるほど、単なる嗜虐心でわたしを揶揄したわけではなさそうですね。 「仰りたい事は分かりました。 確かにわたしは、統合思念体の指示に従うだけの存在。自発的に何かをする事も無い、単なるお人形に過ぎません。その意味で、わたしはまさしく愚かなのでしょう。でも、会長」 こちらを見下ろすこの長身の男を、わたしはことさら冷たい口調で問いただしていました。 「それを指摘して、どうなると言うのです? よしんばわたしが自我を持った所で、あなたには何のメリットも無いように思われますが。まさか、あなたが人道や正義を説くわけでもないですよね?」 「当然だな。人道だの何だのは所詮、大衆を酔わせる安酒に過ぎん。第一、宇宙人相手に人間の道理を押し付けるなど、それこそ愚かの極みというものだ。 そんなくだらない理由ではない。私がキミを気に掛けているのは――」 よもや、この期に及んであの新入生の子のようなセリフを並べ立てるつもりなのでしょうか? いえ、まさか。あり得ません、この自分本位の塊のような人が。 どうせ『機関』絡みの指令か何かに決まっています、ええ。ところでどうして今、私の心臓はこんなに早鐘を打っているのでしょう。 「――端的に言って、キミが有能な部下だからだ」 大真面目な顔でそう言う会長に、わたしは、はあ、と間の抜けた返事をしてしまいました。それをどう捉えたのか、会長は細い指先で眼鏡を外しながら、こう続けます。 「もちろん古泉からは、ある程度の指図は受けている。いわく、 『どうやら情報統合思念体というのは、人間のメンタルな部分にあまり理解がないようです。それにより造られたTFEI端末もまた然り、ですね。 それが原因でトラブルが起こる事もあるでしょう。あなたとしては、なるべくそれらをフォローしてあげてください。動向が知れないという点で少々厄介ではありますが、とりあえず現状で彼女らは敵ではありませんし、なるべく敵にしたくない存在ですから』 だそうだ。だが――」 話しつつ彼は眼鏡を胸ポケットにしまい、代わりに制服の裏からタバコを取り出して平然と1本、口に咥えました。どうやら眼鏡と一緒に、普段被っている生徒会長としてのペルソナも外してしまったみたいですね。 それにしても、残っている教職員はもうだいぶ少ないとはいえ、職員室のすぐ隣で大胆な事を…。いえ、何かあれば当然わたしが情報操作で対応するだろうと、この人は見越しているのでしょう。つくづく傲慢です。 「――そんな指示など、知った事じゃない。お前が何者だろうと、使い物にならなければ叩き出すまでだ。俺は何が嫌いって、無能なくせに権利だけ声高に主張するような輩が死ぬほど嫌いだからな。 だが実際問題、お前は優秀だった。どんな雑事もそつなくこなし、トラブル等への対処も迅速で的確。役職こそ書記だが事実上、キミが俺の右腕であるのは誰しもが認める所だろう。だからこそ、だ」 およそ賛辞とは思えないような賛辞の言葉を吐いて、会長はじろりとわたしをねめつけました。 「だからこそ、気に喰わん。喜緑江美里、お前が統合思念体とやらの道具に過ぎず、またその現状に甘んじているという事に、俺は無性に腹が立つ。 いいか、お前も俺の部下ならば、俺も、統合思念体も踏み台にして蹴倒すくらいの気概を抱け!」 タバコの先をこちらに向け、舌鋒鋭く言い放つ会長の向かいで、わたしは、は?とぽかんとした顔をしていました。 「意味が分かりません。有能な部下が従順で、何の不都合が?」 「めったやたらと反抗しろ、と言っている訳ではない。だが従順なだけの部下などつまらんだろうが」 さも当然とばかりに会長は胸を反らしますが、やはりわたしには理解不能です。わざわざリスクを背負いたがるなど、どう考えても論理的に破綻しているとしか思えませんが。 「何を言っている。そもそも統合思念体とやらは、自律進化の可能性を求めて涼宮ハルヒと接触しているのだろう?」 「ええ、そうですが…」 「進化とはつまり、子が親を克する事だ。親と子が互いの存在意義を賭けて相克し合う、その結果こそ進化に他ならない。ならばお前が逆心を抱いたとて、何の奇異もあるものか」 まあ確かに、朝倉涼子の独断専行、それから長門さんの暴走は統合思念体に少なからず衝撃を与えましたが、でも…。 「いいか、喜緑江美里。今のお前は家畜と同じだ。統合思念体に逆らう事を、そもそも考えてもいない」 「それは…わたしはそう造られましたから…」 「違うな、自分で自分に枷を嵌めているだけだ。可能性というものをもっと広く捉えろ。お前にはそれが出来るはずだ」 わたしが、自分に枷を嵌めている? 自分で自分を家畜のような立場に貶めている? だから会長は、それが気に喰わない、と? 「全ての物事を疑え。是非を問え。その上で、統合思念体の指示が正当だと判断したのなら、それに従えばいい」 「…もしも、正当だとは思えなかったら?」 わたしの質問に、会長は不遜な笑みで答えました。 「豚は喰われて、狼は生きる。うまそうな獲物が横腹を見せていたなら、遠慮せずに喰いちぎってしまえ」 愉快そうに彼が笑うと、タバコの煙が蛇のように揺れます。それを見ている内に、わたしの記憶の中でふと、ひとつの物語がリピートされ始めました。 それはそう、聖書と呼ばれる物語り群の中の一節。神の楽園で平和に暮らしていたイブに、一匹の蛇が 「そこのリンゴを食べてごらんなさい。あなたは今よりずっと賢くなれますよ」 と呼び掛けます。でもそれは、神に禁じられていた知恵の果実。迷いながらも禁断の実を食べてしまったイブはアダム共々、楽園から追放されてしまいます。 そうして“知恵”を身に付けてしまったがために、その後の人間たちは恥や恐怖といった感情に踊らされるようになってしまったのだとか。 愚かな話です。彼の提言もまた、非常に愚かです。たとえて言うならポーカーで、何の役も無くともブラフだけでどんな勝負にも勝てる!と豪語するようなものです。若さと野心だけに裏打ちされた、浅はかな考え方です。 情報統合思念体の何たるかも知らない、人間ごときの考えそうな事です。 でも。 ならばなぜ、わたしはその愚かな提言を一蹴できないでいるのでしょう。独善的とも言える会長の冷たい瞳に、ぞくぞくとした高揚感を覚えるのはどうしてなのでしょう。 ふぅ、とわたしは小さく息を吐き、改めて会長に向き直りました。 「あなたの意見はやはり理解しがたいものですし、わたしには統合思念体に反旗を翻すつもりなど、毛頭ありません。 でも、会長」 「うん?」 「あなたがわたしを『有能な部下』として、これからも大いに利用するつもりだという事は、よく分かりました。だからわたしも、遠慮なしにあなたを利用させて貰おうと思います」 外したエプロンを胸元で畳みながら、わたしは彼の前でにっこりと笑ってみせました。 「わたしのお願い…聞いて貰えますか?」 夕暮れに赤く染まる、北高名物の長い坂道。そしてわたしと彼。 「ふむ。宇宙人の“お願い”とやらがどれほどのものかと、私としては少々身構えていたのだがな」 再び掛け直した眼鏡を指先でついと押し上げながら、会長はそんな言葉を口にしていました。 「よもやそれが、『一緒に下校してほしい』などという嘆願だったとは」 「うふふ、ご迷惑でしたか?」 「逆だ。あまりに簡易すぎて、拍子抜けした」 少しつまらなさそうな顔をする会長の隣で、わたしは小さく笑いました。 「告白などをいちいちお断りするのも、骨が折れますからね。あなたとわたしがそれっぽい関係にあるらしい、という噂でも立てば、生半可な相手は近寄ってこないでしょう?」 「要するに、虫除け代わりというわけか、私は」 不機嫌そうに眉をひそめる会長の様子に、わたしはまたクスクスと笑います。なにせ、わたしをそそのかしたのは他ならぬあなたですもの、これくらいの苦汁はなめて頂かないと、ねえ? そう、わたしは今日、確かに禁断の実を齧ってしまったのだと思います。 もちろん統合思念体に反逆するつもりなどありません。ありませんがしかし、任務は任務として遂行しながら個のわたしとしての興味や好奇心もそれなりに感受する。そういう新しい概念を、わたしは発見してしまいましたから。 まったく、愚かしい事です。これまで通り統合思念体の指示にのみ従い、何の疑念も抱かずにいれば、わたしはつまらない諸事に思い悩まされたりする事もなかったでしょうにね。 でも、わたしは気付いてしまいました。この冷徹で計算高く、野心家で身勝手な男の言葉を、どうしても振り払えないでいる自分に。しかもそんなエラーの発生を、不思議と不快に思っていない自分に。 ならばいっその事、とことん検証してみましょう。彼の言葉によってもたらされたこの新しい概念が、是なのか否なのかを。ふふ、わたしがこんな事を考えていると知ったら…長門さんは一体どんな顔をするでしょうね? 「まあ、いい。どうせ私の方も、『機関』から優等生然とした仮面を被る事を強いられている身だ。今さらキミと仮面恋人の契約を交わしたとて、どうという事もない」 そんなセリフで我に返ると、会長があの冷たい瞳を、まっすぐわたしに向けていました。 「それより、これからまた忙しくなるぞ。 なにしろ我々は生徒会活動に加えて、あの涼宮ハルヒ率いるトンチキ集団の相手までしてやらなければならないのだ。いや、どちらかと言えばそちらが本題か。 いずれにせよ、キミには大いに働いて貰わざるを得ないな」 いかにも忌々しげな顔でそう言う彼に、くすっと微笑んで。 「仕方がありませんね。お付き合いしましょう。 どうやらわたしは、あなたの有能な部下みたいですから」 片目をつむってそうささやいたわたしは、彼に寄り添うようにして、長い坂道を歩んで行ったのでした。 禁断の果実の甘酸っぱさを、胸一杯に噛みしめながら――。 そしてイブはリンゴを齧る おわり -えれべーたー☆あくしょんにつづく
https://w.atwiki.jp/animerowa-2nd/pages/235.html
紙視点――そして紙は舞い落ちた ◆LXe12sNRSs そして、私は舞い落ちた。 痛みはなかった。一瞬で終わる殺傷に、痛みの有無はない。 そもそも、私には痛みという概念がない。 切り裂かれようと傷を作ることはなく、血を流すこともない。 痛み、死、両方に伴う苦しみ、それら人間にとってマイナスとなる概念が、私には存在しない。 今さらだ。私は、そういうものなのだ。 私という存在に、死はない。 それでも死に近しい概念を探すというのなら……消滅、或いは忘却。 これらは言葉による関連性から考えられるとおり、同じようでまったく違う。 苦しみという概念の有無もそうだが、生を終えるのと、存在自体が無くなるのと、他者に忘れ去られるのとでは、何から何まで違いすぎるのだ。 どれが他者、世界にとってベストで、私に相応しいかは分からない。 答えなど知りはしない。誰も。知りたいとも思わない。知ろうとも思わない。知ったところで、どうにもならない。 私という存在は、主役ではない。かといって、脇役というわけでもない。しかしながら、観客でもない。 あえて言うなら、舞台上の小道具。それが、私という存在に最も合致する。 人が生み出し、人が使い、或いは使われないかもしれない。 私という存在は、その程度のものでしかない。 ――しかし、私はただこの一時だけ、そのルールに抗ってみようと思う。 私という存在、その限界を一跨ぎして、感性を持った傍観者として振舞う。 私の願いは、ただそれだけだった。そしてそれは、この世界の摂理に反するものでもあった。 だからといって、誰かから文句を言われるものでもない。 この程度の事象、世界の推移にはまったく支障なく、誰の行く末に影響を与えることもない。 私にできるのは、見て、感じて、想うだけだ。 干渉は疎か、他者や世界はその事実すら知り得はしない。 ……唯一、『彼女』なら、もしくは彼女と同種の人間なら――いや、やはり不可能だろう。 私はただの傍観者だ。口伝者になる術は持ち合わせておらず、資格もない。 それが私という存在である―― 私という存在は、彼女という存在の終わりを見た。 誰に看取られることもなく、誰に干渉することもない、そんな終わり方だった。 彼女という存在の周りには、私という存在、その同類とも呼べる存在が散乱し、その身に彼女の内容物を纏っている。 概念的なものを問い詰めれば、彼らは存在と称すには至らないほど矮小なものであり、私もまた同じく。だが、あえて『彼ら』と呼ぼう。 彼らが纏っているのは、鮮烈な赤。人間の体内に循環しているという、血によるものだった。 彼女は何を思い、彼らを血に染めたのか。私には分からない。私は彼らと同じ存在であり、彼女ほど崇高な存在ではない。 ただ、今の私は彼らの一歩先に立つ傍観者だ。ならば知識を得て、考察するほどのことも許されよう。 彼女はきっと、彼らを血に染めるつもりなどなかった。不可抗力だった。不可抗力といえば、彼女の死自体もそうであると考えられた。 私は知っている。彼女の最後の表情を。苦痛に歪む顔を。生に執着する瞳を。無念に沈む肌の艶を。 全てが不可抗力であると言えた。彼女は死を受け入れたくなどなかったのだ。私はそう考える。 だとしたら、受け入れたくないという彼女の意志を無視し、強引に死を押し付けた存在はなんなのか。 それも私は知っている。彼女に死を与えたのは、未だ私と彼女の前に悠然と聳える、彼に違いない。 彼――と度々用いるのも、傍観者を徹する上で不備が生じる。ここは率直に、『剣』と称そう。 あの剣が、彼女に死を与えた。そして彼女がその死を拒絶できなかったのは、剣という存在が、彼女という存在を打ち負かしたからだ。 剣と人間の優劣の差など、私にはわからない。そもそも、私は彼女という存在と剣という存在、双方について詳しくはない。 私が知っているのは、こうして広がっている結果だけだ。 風が全てを切り裂き、彼女に死を与え、私が残されたという、結果。 知ったところでどうすることもできないのは、前述のとおり。 この結果が意味を成すには、この場に彼女と同等の資格を持つ存在が訪れる必要がある。 故に、私は待った。時間という概念すら、私にとっては人間のそれと大きく違うが……どちらの概念で捉えても、そう長くは待たなかったと思う。 一人の男がやってきた。私という存在と、彼女、そして剣を見つけた。 もっとも男にとっての私は、存在と呼べるものですらない。私を極めて根本的な概念でしか捉えていないはずだ。 そういう意味では、剣も所詮は剣という存在でしかない。今、男の瞳に映っているのは、死を迎えた彼女の遺体のみだろう。 光か、それとも音か、もしくは単なる偶然か。男がこの場に訪れた経緯は、定かではない。 ただ、男にとってこの場の惨状は予想だにしないものだったらしく、頭をボリボリと掻きつつ顔を歪めていた。 この表情は、おそらく『怒り』というものだろう。男は、彼女を見て怒りを覚えている。 彼女の何が、男をこれほどまでに怒らせているというのか――いや、男の怒りの矛先が、何も彼女であるとは限らない。 おそらく、男は彼女の死に、彼女に死を与えた存在に対して、怒っているのだ。 男は彼女に黙祷らしきものを捧げると、改めて周囲を見渡した。私もまた改めて、この場の状況を観察してみようと思う。 部屋。民家。散乱する血と、私と同種の存在。聳える剣。死を迎えた彼女。訪れた男。私に把握できたのは、この程度だ。 観察を終えると、男はまた頭をボリボリと掻き出した。誰にでもなく言葉を吐くが、私に聞く耳はない。 さすがの私も、耳まで得ようとは思わなかった。傍観者に必要なものは、既に得ている。 その後の男の挙動だが、数秒どうするか考えた仕草をした後、私と彼女の前から一端姿を消した。 何もせずに去るのかと思いきや、姿を消したのはほんの数瞬。無数の白い布を抱えてくると、それを彼女の上に被せていった。 おそらく、血を気にしたのだろう。男にとって、もしくはこの世界の置かれている環境にとって、血は色々と厄介な概念らしい。 臭いか、色か、まぁそんなところだろう。男は、彼女の遺体から丁寧に血を拭っていく。 そして、彼女は綺麗になった。剣につけられた無数の傷跡が消えることはないだろうが、血塗れのまま取り残されるよりは幾分かマシなはずだ。 男は一息入れると、彼女の元から離れ、剣に歩み寄った。顎に手をあて、数秒睨み合う。 何を思ったかは分からない。男はおもむろに剣を掴み取ると、それを肩に下げていたデイパックに入れた。 剣という存在は、突き詰めていけばただの物だ。男に抗う術はなかった。それは、私も同様ではあるが。 そして男は再び彼女に歩み寄り、しゃがむ。また何かしら言葉を発すると、一瞬拝むような仕草をして、彼女を抱え立ち上がった。 どうやら、彼女と剣を連れてこのまま退室するらしい。それが男の選択だった。 誰に文句を言われる行動でもない。が、このままでは私が困る。このままでは、私だけがこの場に取り残され、傍観者としての勤めを果たせなくなってしまう。 ……勤め、などと言うのはおこがましかったかもしれない。これは、言うなら私の趣味、道楽だ。 私という存在に、果たして趣味や道楽といった概念が意味あるものなのか……そんなものは思慮の範囲外なので、捨て置く。 訴えかけることもできず、自己の存在をアピールすることもできず、私は傍観者としての終焉を迎えようとしていた。 だが、奇跡は起きた。男が部屋の出口に向かう寸前で、直下の私に気づいたのだ。 男は彼女を一端床に下ろし、私を粗忽に摘み上げる。扱いに文句を言うつもりはないし、不満もない。 ただ一言注文を述べるとするならば、私も連れて行って欲しい。もちろん、語りかけることはできないが。 すると私の喋らざる願いが通じたのか、男は私を懐にしまうと、再び彼女を抱え上げ、今度こそその場を退室した。 傍観者としての私の任は、もう少しだけ続く。 ひとまずは、舞台を移すとしよう。 ◇ ◇ ◇ (休み話) 優秀な螺旋遺伝子を持った生命体を選出するための殺し合い。 それとはまた別の世界、別の次元、別の話として、『魔界の王を決める戦い』に没頭する二人組がいた。 窪塚泳太とハイド。人間と魔物の子供による二人組は、此度の実験にはまるで関係のない部外者だ。 しかしどういった不幸か、彼らは直接的ではないにしろ、螺旋王の実験によって窮地に立たされていた。 ガッシュや清麿のように拉致され、魔界の王を決める戦いの舞台から一時的に下ろされたわけでもない。 強いて言うならば、舞台に参加するための入場券を、螺旋王に奪われた。その程度の被害。 その程度が、泳太とハイドにとっては死活問題だった。 なにせ、その入場券というのは他ならぬハイドの魔本であり、魔界の王を決める戦いは、この本がなければ成り立たない。 この戦いにとって魔本は武器であり、生命線だ。 普段は術を発動するための起動キーとして機能するが、これが燃やされると、即座に敗戦が決定してしまう。 本を失うこと、イコール魔界への強制送還。これは、魔界の王を決める戦いにおける抗いようのないルールだった。 泳太とハイドの二人とて、このルールは理解している。理解しているからこそ、現状のピンチに苦しんでいるのだ。 泳太は、いつの間にかハイドの魔本をなくしていた。 どこかに置き忘れたり、落としたのではない。殺し合いをするためのアイテムとして螺旋王に奪われたのだ。 もちろん、泳太がそんな事実を知るはずもない。だからこそ、今もこうして本を探して街を彷徨い歩いていた。 隣で早く見つけろ、早く見つけろと騒ぐハイドを疎ましく思いながら、泳太は見つかることのない本を探し続けた。 一日、一日、また一日と、不毛であるとも知らずに、懸命に捜索を続けた。 そして、不幸は起きた。 いつものように本を探して街を歩いていたある日、突如として、ハイドの姿が透けてきたのだ。 この瞬間、泳太は悟った。ああ、どこかでハイドの本が燃えているのだと。 ハイドが騒ぐ。オレの身体が、オレの本が、と。騒いだところで、泳太にはどうすることもできない。 本の行方は分からぬまま、ハイドは敗者として魔界に送還されていく。 ただ、無念だけが残った。他の魔物との戦いによって本を燃やされたならともかく、こんな形でハイドと別れることになるとは。 悔しさを噛み締めながら、泳太とハイドは別れを惜しみ、堪えきれずに泣いた。 こうして、一組の魔物とそのパートナーが、人知れず魔界の王を決める戦いから脱落した。 下手人は、強いて言うなら螺旋王、もしくは紙使いの少女、もしくはあの剣なのだろうが、その事実を知る者は一人として存在しない。 (休み話 終わり) ◇ ◇ ◇ 白い建物、白い壁、そして、暗い通路を歩いていた。 悪臭の蔓延する我が家から場を移し、男が私と彼女を連れ込んだのは、清潔な印象を漂わせる大きな建物だった。 おそらく、病院というものだろう。人間のための医療機関と記憶している。 だが、医者は愚か一切の人気もない。例え医者がいようとも、既に死を迎えた彼女を癒すことはできないだろうが。 男と彼女と私、三者しか存在しないかのような静謐な場。薄暗い廊下を越えて、さらに奥へと移動する。 霊安室。辿り着いた部屋には、そう書かれたプレートがかけられていた。 死者を安置する部屋……ということだろうか。男は、この部屋に彼女の遺体を預けるつもりらしい。 白のようでいて実は灰色な、簡素なパイプベッドへと、彼女の遺体を寝かす。 その表情は、いつの間にか穏やかなものになっていた。 男は懐から私を取り出すと、一瞥してから神妙な顔つきになる。何を思っているのだろうか。 私に微細な表情から人の感情を読み取る能力はなく、男の本意は分からなかった。 男は私を彼女の遺体の上に乗せると、荷物を置いたまま霊安室を退室する。 ふと、彼女の遺体の横にもう一つ、別の遺体が安置されていることに気づいた。 若干黒いのは……こげている、のだろうか。辛うじて少年と判別することができる。 彼もまた、彼女とは違った方法で、死を迎えたのだろう。おそらくは、彼女同様あの男に連れられて。 ということは、あの男は葬儀屋かなにかだろうか。髭面や格好からはイメージできないが、職業など見た目で判断しきれるものでもない。 正体不定の怪しい輩ではあるが、男は彼女から血を拭い、黙祷を捧げ、ここまで運んでくれた。 私としては、あまりに悪い印象は感じていない。 そして、数分。男はやや険しい表情で、再び私と彼女の元へ戻ってきた。 すると物言わぬ彼女に一言二言言葉を発しながら、自分の荷物を探り出す。 取り出したのは、数冊の本だった。 全部で9冊、文庫サイズであるそれから一冊を手に取ると、男は彼女の前で音読し始めた。 なんと言っているかは、聞く耳持たぬ私には理解できない。死者へ送る経でも唱えているのだろうか。 本は小さいながらも数百ページはあるかと思われたが、男は1分もしない内にそれを閉じ、彼女の遺体の上に置いた。 結局何がしたかったのだろうか。私には分からないが、男は満足気だ。 そして男は自身の荷物を再度肩に下げ、また霊安室から出て行ってしまった。 数秒、数分待つが、帰ってくる気配はない。……私と彼女は、今度こそ取り残されてしまったのだ。 私の傍観者としての役目は、唐突に終わりを告げた。 何も起こらない霊安室、動かない彼女と、その隣の彼の遺体。 変化のない世界を観察しても、ただ退屈なだけだ。 少し残念だが、私はここで役目を終えるとしよう。 だが最後に――彼女の死について、考察してみたいと思う。 彼女は、自分の死をどう受け止めているのか。 死に際の表情は、明らかに無念が残っていたように思える。しかし今は、至って穏やかな顔つきだ。 私という存在は、彼女という存在の全てを知りはしない。いや、実際のところは欠片も知りはしないだろう。 私は単なる傍観者だ。口伝もできず、ただ己の見解を胸に秘めるのが精々、存在する意味すらない。 彼女にとっての私は、単なる繊維の集合体でしかなかったのかもしれない。 私にとっての彼女は、もしくは……母のような存在だったのかもしれない。 だからこそ、見届けたかったのかもしれない。彼女の死後を、僅かでも。 あの男に、今一度感謝しておこう。彼女をここに連れてきてくれたことに。 そして願わくば、彼女の死に意味を持たせてくれますように。 私はただ、思うだけしかできない。もうすぐ、思うことすらできなくなる。 私は人間ではない。 私は存在ですらない。 私は、ただの紙だ。 ◇ ◇ ◇ 神行太保・戴宗という『男』が、『彼女』を発見したのは、まったくの偶然だった。 酒を探し求めて街をさ迷い歩く中、通りがかった倉田家という民家から、強風の逆巻く音と窓から飛び散る紙が窺えた。 家の中で倉田さんが何かやっている。普通に捉えればその程度、通行人に興味を与えるものでもない。 ただし、今の環境は殺し合いだ。参加者の中に倉田家の住人などおらず、会場内に自分の住居を持つ者などいようはずがない。 ならば、中にいるのは不審者……もとい、殺し合いの参加者に他ならない。 戴宗は興味本位で倉田家の門をくぐり、そして見た。 床中に散布する、鮮血を纏った紙。カマイタチのようなもので切りつけられた家具の数々。 突き刺さっている仰々しい造形の剣。小隅で燃え盛る本。そして、少女の死体。 「あーりゃりゃ、まーたかい」 酒を探して街を歩いていたら、またもや子供の死体と遭遇してしまった。 今が殺し合いの最中とはいえ、これは褒められた偶然ではない。戴宗は頭を抱えた。 戴宗は、既に姿を消している下手人に途方のない怒りを覚え、彼女に黙祷を捧げる。 見るに、年の功は先ほどの義手の少年よりやや若い。12、13……大作とほとんど同じ年齢に思えた。 草間大作。国際警察機構に所属するエキスパートにして、戴宗の後輩。彼にとっては、息子同然のような存在であった。 12歳という若さで、いきなりジャイアントロボという巨大すぎる力を背負わされた少年。 この舞台には呼ばれていないが、彼もまた、覚悟もないまま戦場に立たされた子供には違いない。 (12の時分……俺は自ら望んで、エキスパートとして育てられた。 だからこそ、様々な任務も遂行できるし、死をも覚悟できるのかもしれねぇ) だが、彼女は違う。大作と同じくらいの時分にいきなり殺し合いを強要され、そして死んだ。 (いきなりだ。なにもかもいきなりだ。俺が12の時分……同じような境遇に置かれて、耐えられたか? 適度にトチ狂って自滅、が、まぁいいとこだろうな。この嬢ちゃんもあの少年も、大作となんも変わんねぇ。 気づいたらBF団に父親を殺されて、ジャイアントロボを背負わされた大作と……いや、もう手遅れな分、大作よりひでぇ。 そんな子供に、俺は何ができる? ……何もできやしねぇ。俺は、なにもかも遅すぎた) 大人として、正義の心を持つ者として、何もできぬまま彼女の死を見つめるのが辛かった。 改めて辺りの惨状を見渡す。部屋中に広がる傷跡……まさか、下手人はあの素晴らしきヒィッツカラルドだろうか。 いや、だとしたら彼女の身体が真っ二つになっていないのはおかしい。 この場に放置された剣は、血痕がついていないところを見るに凶器ではないだろうが、武器が残されているというのも不可解だ。 十傑集の仕業ではないにしろ、十傑集やエキスパートのような能力を持った人物の仕業、と考えるのが妥当か。 彼女の殺害犯が誰にしろ、この場を去った後なのは明白。あてのないまま追うのも愚。 「待ってな嬢ちゃん。とりあえず血ぃ拭いてやる」 ならば、せめて彼女を供養してやろうと、戴宗は一旦部屋を出た。 家中からタオルやらTシャツやら、とにかく血を拭えるものを掻き集め、再び彼女の元へ戻る。 彼女は先ほどの少年と同じく、病院に運んでやろう。予定よりも早いが、あの自称神がどうしているかも気がかりだ。 それにはまず、彼女にこびりついた血をどうにかしなければ。道中他の参加者と遭遇して死体愛好家に間違われでもしたらたまらない。 戴宗は彼女の遺体から一頻り血を拭い終わると、放置されていた剣に歩み寄る。 形状からして異質な剣。少女殺害の何かしらの手がかりなのだろうが、戴宗はこの剣自体が下手人であるなどというまさかの発想には及びつかない。 放置されているのは剣のみ。一緒に切り裂かれたのか、壊れたデイパックと支給品らしきものが無数散乱しているが、一々拾ってはいられない。 「ちぃっと失礼するぜ嬢ちゃん。このままここに取り残されんのもあれだろ、せめて静かに眠れるとこに連れてってやる」 戴宗は剣のみを自身のデイパックに回収すると、彼女の遺体を担ぎ、退室しようとした。 のだが、寸前でふと、足元に落ちていた何かに気づく。 (こりゃあ……) 戴宗は彼女を一旦床に下ろし、足元に落ちていた一枚の紙を摘み上げる。 なんてことはない、手の平大のただの紙。その紙面には、血文字で――ねね――と、書かれていた。 (……ダイイングメッセージ、ってやつか? ねね……ねね……たしか、名簿の欄にねねねってのがあったな。 だとすると、そいつが犯人か? ……いや待てよ。これは殺し合いだ。相手殺すのに一々名前名乗るか? 元々知り合いだったって可能性もあるが……確率でいやぁ、仲間のほうが高い、か?) 顎に手を添え、しばし考え込む戴宗。 紙面に残された血文字の意味は図りきれないが、どうやら菫川ねねねという人物が、彼女となんらかの因縁を持っているようだ。 手がかりはないが、酒のついでに探しとくとするか……戴宗は血文字の紙を懐にしまい、再び彼女の遺体を抱える。 目指すは病院。酒を見つけるどころか二体目の死体を見つけてしまったというのが不本意だが、黙って見すごすこともできない。 「ったく、こちとらエキスパートはエキスパートでも、死体運びのエキスパートじゃねぇぞバーローめいっ!」 ◇ ◇ ◇ 「どういうこったこりゃあ……?」 特に誰に見られることもなく、無事病院の霊安室まで彼女の遺体を移送した戴宗だったが、ついでに寄った物置小屋では思わぬ惨状が出来上がっていた。 用心のために拵えたチェーンロックは乱暴に破壊され、中はもぬけの殻。 半日は感電して動けぬであろうと高を括っていたのだが、あの自称神ことムスカはどうやったのか、軟禁から逃れていた。 何者かが逃亡を手助けしたのか、それともあの男に感電を看破するほどの潜在能力が秘められていたのかは、定かではない。 ただ事実として、既に一人の少年を殺めた危険人物が野に舞い戻り、再び殺戮を働こうとしている。 「やーっちまったなぁ……もうちょっとしばきあげとくべきだったか」 ムスカを逃がしたのは、彼を甘く見ていた戴宗の落ち度だ。 奴が既にここを離れたというのであれば、追撃し、今度こそ殺意の芽を摘まねばなるまい。 酒もまだ仕入れてねぇってのになぁ……戴宗はぼやきながら、荷物を置いておいた霊安室へと向かう。 重たい印象を感じる扉を開け、二人の死者が待つ部屋へと帰還する。 少年の遺体にも少女の遺体にも、特別変化は見られない。あの男が八つ当たりに悪戯でも働いていないかと心配したが、どうやら杞憂で済んだようだ。 「手向けの花でもありゃいいんだがなぁ……おっと、花とはいかねぇが、たしか……」 楽しみも喜びも人生半ばで捨て、あの世へと旅立ってしまった二人の子供を不憫に思った戴宗は、おもむろに荷物を探り出す。 取り出したるは、全9冊の文庫小説セット。可愛らしいイラスト付きのそれは、殺し合いの支給武器などとは到底思えぬ代物だった。 だが悲しい現実として、これは戴宗に配られた支給武器であり、使い道のないものでもあった。 「あの世へ旅立つ餞別代わりだ。母ちゃんってガラじゃねぇが、安らかに眠れるよう、この戴宗さんが読み聞かせてやるよ。 えーなになに…… ただの人間に興味はありません。宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上。ペラッ。 さぁさぁ、とっととバニーちゃんになるのよ! いやぁぁぁぁぁやめてぇぇぇぇ!! 長門は何事もないように読書を…… って、なんだぁこの奇怪な本は……つーかそもそも、おれぁこんなとこで読書してる暇はねーんだった。悪ぃな嬢ちゃん」 彼女の傍らにポンと本を置き、戴宗は今度こそ二人の死者に別れを告げる。 「続きが気になるようならまた持ってきてやらぁ。冥土の土産、あっちで堪能してくれよぉー」 ……彼女が実は本嫌いであるなど、戴宗には知るよしもないことだ。別に皮肉で言っているわけではない。 これ以上、ここに子供を連れてくるようなことはあってほしくねぇもんだ……戴宗は呟き、再び野に帰る。 そして、彼女の側には一冊の本と、血文字が記された一枚の紙が残された。 【D-6/総合病院内/1日目-早朝】 【神行太保・戴宗@ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日-】 [状態]:若干の疲労 [装備]:なし [道具]:デイバッグ、支給品一式(食料-[握り飯、3日分][虎柄の水筒(烏龍茶)]) アサシンナイフ@さよなら絶望先生×11本、乖離剣・エア@Fate/stay night 『涼宮ハルヒの憂鬱』全巻セット@らき☆すた(『分裂』まで。『憂鬱』が抜けています) 不明支給品1~2個(確認済み) [思考]: 基本:不義は見逃さず。悪は成敗する 1.あーの男(ムスカ)どこ行きやがった。 2.どこかで酒を調達したい。 3.菫川ねねねを捜し、少女(アニタ)との関連性を探ってみる。 4.死んでいた少年(エド)の身内や仲間を探してみる。 最終:螺旋王ロージェノムを打倒し、元の世界へと帰還する [備考]:※ムスカが病院内にいることには気づいていません。 ※アニタの死体は病院の霊安室に運ばれました。『ねね』と血文字で記された紙と、涼宮ハルヒの憂鬱@らき☆すたが側に置かれています。 ※ハイドの魔本@金色のガッシュベル!!は、エアの被害を受けた際燃え尽きました。ハイドも魔界に送還されました。 【『涼宮ハルヒの憂鬱』全巻セット@らき☆すた】 柊かがみの愛読書の一つ。なにを隠そう彼女はラノベ好きなのである。 親友のこなたはアニメ版ハルヒの大ファンだが、活字慣れしていないのか原作は未読。 『憂鬱』『溜息』『退屈』『消失』『暴走』『動揺』『陰謀』『憤慨』『分裂』の全9冊セット。 時系列順で読む Back 派閥争いって怖くね? Next 痛くても辛くても戻らないから 投下順で読む Back 派閥争いって怖くね? Next 痛くても辛くても戻らないから 039 嗚呼。それにしても酒が欲しい…… 神行太保・戴宗 104 不屈の心は、この胸に
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1215.html
第十八章 束の間の休息、そして開戦 ミスタ・コルベールは当年とって四十二歳。トリステイン魔法学院に奉職して二十年。 『炎蛇』の二つ名を持つメイジであり、ある忌まわしい過去を持つ男でもある。 が、現在の彼はそんな忌まわしい過去からは想像もつかない趣味、いや、生きがいがある。 即ち、研究と発明である。彼は今、人生で最も幸福を感じていた。 二人の異界からの来訪者、リゾットとアヌビス神によって夢想だにしない世界が存在することが分かったからだ。 今日もアヌビス神と話しながら発明を行っていた彼は、研究室の窓からアウストリ広場に見えたあるものに興奮して、慌てて飛び出した。鋼鉄で出来たそれはコルベールの知的好奇心を激しく揺さぶったのだ。 それが地上に降ろされる作業を見守っていた自分の理解者の一人、リゾットに駆け寄る。 「リゾット君、こ、これは、何だね! まさか、まさかこれは!!」 リゾットはコルベールの推測を肯定するように頷いた。 「そう、これが飛行機だ」 「おお…………これが……この眼でみることができるとは……」 コルベールは感動の余り、わなわなと震えていたが、次の瞬間にはゼロ戦へと駆け寄って各部を興味深げに見て回り始めた。 「ほう! もしかしてこれが翼かね? 羽ばたくようにはできておらんな! さて、この風車は何だね?」 「プロペラだ。それを回転させて前へ進む」 「なるほど! これを回転させて、風の力を発生させるわけか! なるほどよく出来ておる!」 リゾットの質問をぶつけつつ、コルベールはため息をついたり、歓声をあげたりしながらゼロ戦を見て回る。 「……子供みたいね」 ルイズはコルベールの勢いに呆気に取られている。ルイズからすれば、ゼロ戦は玩具にしか見えない。デルフリンガーも半信半疑だ。 「相棒、本当にあれは飛ぶんかね?」 「燃料があればな……」 「あれが飛ぶなんて、相棒の元いた世界とやらは、本当に変わった世界だね」 「見方の違いだろう」 ちなみにこの間、何人かの生徒がものめずらしげにゼロ戦を見に来たが、すぐに興味を失い、去っていった。 コルベールのように興味を引かれる貴族は珍しい。 そのコルベールは歓声を上げながらゼロ戦の周りを一周すると、リゾットに詰め寄った。 「これが飛行機ということは飛ぶわけだね? では早速飛ばして見せてくれんかね! ほれ! もう好奇心で手が震えておる!」 「実はそのことで頼みがある」 リゾットはゼロ戦を飛ばすのに特殊な油…つまりガソリンが必要なことを説明した。 ついでにサンプルとして、ゼロ戦の燃料タンクに僅かに残っていたガソリンを渡す。 「嗅いだ事のない臭いだ。温めなくてもこのような臭いを発するとは……、随分と気化しやすいのだな。これは、爆発したときの力は相当なものだろう」 一般的には顔をしかめるような臭いのガソリンをかぐわしいかのように嗅ぐコルベールに、ルイズは思わず言葉を漏らした。 「前から思っていたけど、ミスタ・コルベールって、変わった方ですね」 コルベールは苦笑して頷く。 「私は変わり者だ、変人だ、などと呼ばれることが多くてな。未だに嫁さえ来ない。しかし、私には信念があるのだ。ハルケギニアの貴族は、魔法を使い勝手のよい道具くらいにしか捉えておらぬ。 私はそう思わない。魔法は使いようで顔色を変える。従って伝統に拘らず、様々な使い方を試みるべきだ」 「そうだな。俺もそう思う」 リゾットは心底、同意した。工夫や応用の大切さはスタンド使いならば殆どのものが身にしみているところであろう。 「分かってくれるかね! うむ、君やあのミスタ・アヌビスを見ていると、ますますその信念が固く、強くなるぞ! 君やこの飛行機がやってきた異世界! ハルケギニアの理だけが全てではないと思うと、何とも興味深い! 私はそれを見たい。新たな発見があるだろう! 私の魔法の研究に、新たな一ページを付け加えてくれるだろう! リゾット君、これからも困ったことがあったらこの炎蛇のコルベールに相談したまえ。いつでも力になるぞ!」 コルベールは少年のように瞳を輝かせ、リゾットにそういった。 「事業?」 学院へ戻った日の夜、シーツで身体を隠して着替え終わったルイズは、リゾットの言葉に怪訝そうな顔で振り返った。 リゾットは荒れた部屋の片づけを行いながら答える。 「ああ……。宝探しで金が入ったからな……。事業を始める許可をもらいたい」 「何で?」 「使い魔をやりながら元の世界に帰るための手がかりを探すには金がかかるからな……。まあ、宝を売った金で探しても良いが、増えない金はいつかなくなる。 帰るための方法が欠片も見えない以上、長期的な視野に立って探索をする必要があるだろう? そのためにも事業をして、金が切れないようにしたい」 「お金なら多少は私が出してあげるのに…」 「恩を返すのに余計に恩を受けてどうする」 ルイズは考えるような顔をした。リゾットも手を止める。 「駄目か? お前が反対するなら俺はやらない」 「いいわ」 「いいのか?」 リゾットが意外そうに言うと、ルイズは素直に頷いた。 「だって貴方のお金だし…。そこまで束縛する権利はないもん」 ルイズはベッドで不貞腐れる日々の中で、ご主人様たるもの、多少の寛大さを持たなければならない、と反省していたのだった。 「感謝する」 「ただし!」 礼を述べるリゾットの眼前に、ルイズは指を突き出した。薄い胸を張って精一杯、主人の威厳を保とうとする。 「使い魔としての仕事をおろそかにしないこと! あくまであんたは私の使い魔なんだからね!」 「分かった」 元よりルイズの使い魔を続けるために事業をするのだから、リゾットにも使い魔の仕事をおろそかにするつもりはない。 「よろしい。ところで何の事業をするの?」 「まずは確実に当たる造船だな。空を飛ぶ方だが」 なぜそれが確実なのか、わからない、といった顔のルイズに、リゾットは説明する。 「お前はレコン・キスタがこのまま大人しくすると思うか?」 「いつかは戦争すると思うけど、まだ不可侵条約を結んだばかりじゃない。ゲルマニアとの軍事同盟もあるし、すぐには来ないわよ」 「そうだな。それに、政治上の外交で物を考えれば、今、ルイズが言った通りになるだろう。だが、俺はそうならないと思っている」 フーケからの途中報告によると、アルビオンでは主戦力となる航空戦力を着々と整えているらしい。近いうちに戦争を仕掛ける気があるのは明白だ。 各種のやり方をみていると、レコン・キスタのやり方はギャングに近い。 ギャングの世界でも不戦条約のようなものはあるが、相手が油断しているなら平然と破り捨てる。 レコン・キスタもギャング同様、必ず破ってくる、とリゾットは思っていた。 「だから、造船業を今のうちに買収しておく。今はまだ、トリステインもゲルマニアも大した準備をしていないからな。 アルビオンと戦争になれば必ず必要になるってわけだ……。できれば武器の製造も出来る鉄工業の方も始めたいが、こっちは交渉次第だな」 「いまいち信じられないわね……。大体、そんなに簡単に条約を破り捨てたら、レコン・キスタはハルケギニア中から非難を受けるのよ?」 「そうだな……」 リゾットは頷いたが、レコン・キスタの目的がハルケギニアを統一し、聖地を奪回することなら、それでも必ずやってくるだろう、と踏んでいた。 ルイズは淡々としたリゾットの表情から何を考えているか読み取ろうとするが、まったく分からない。 「ま、いいわ。貴方のお金でやることなんだから。失敗するのもいい勉強になるでしょ。ところで、トリステインで商売をするには許可がいるのよ? あんた、取れるの?」 「ああ、それは問題ない。事業の本拠地はゲルマニアにおく。あっちの方が許可を取りやすい。何しろ金で公職が買えるくらいだからな」 ピシ、と音がして、ルイズが硬直した。ルイズはゲルマニアが大嫌いである。トリステイン人から見たら、下品で野蛮だからだ。 そこには多少の嫉妬が含まれているのであるが、ともかく、ルイズはゲルマニアが嫌いである。 そして、そこからの留学生も、最近はマシになってきたとはいえ、嫌いである。 「あんた、まさか……キュルケの力を借りるんじゃないでしょうね?」 来たか、とリゾットは思った。しかしここをクリアしなければ事業の成功は望めない。 なるべくゆっくりと、落ち着いてルイズに言い聞かせる。 「ああ………。共同経営になると思う。その方が金銭的に余裕が出るし、商売の始めには信用が必要だからな」 「そんなの……!」 ルイズは怒鳴りかけたが、そのキュルケの言葉を思い出して踏み止まる。リゾットは人間であり、ルイズの奴隷でも玩具でもない。 それにここで怒鳴って追い出したりしたら、今度こそ愛想をつかされてしまうかもしれない。 ルイズは人生でもベスト3に入るくらいの忍耐力を駆使し、思いとどまった。 「………いい。分かった。好きにしたら?」 「……本当にいいのか?」 一晩くらいかけて説得するつもりだったリゾットは拍子抜けした。 「いい。私が貴方のご主人様だってことを忘れなければ、それでいい」 そういって、ベッドの中に潜り込む。それから、リゾットをベッドの脇まで招きよせて、その手を握った。 「私が眠るまで手を握ってて」 「……前にもそれをやらせたな。なぜだ?」 「いいから、握っていなさい」 (そういえば彼女も、寂しい時は俺に手を握ってもらいたがったな……) かつて交通事故で死んだ親戚の少女を思い出し、リゾットは頷いた。 「分かった」 しばらく、沈黙が流れた。ルイズは眼を閉じているが、寝てはいないことが息遣いから分かっているため、リゾットはその場にじっとしている。 不意に、ルイズが目を閉じたまま口を開いた。 「ねえ、リゾット」 「何だ?」 「元の世界に……帰りたい?」 「ああ……」 「私が帰るなって命令しても、帰っちゃうの?」 「いや、恩を返すまでは帰らない。だが、そのための準備はしておくべきだ」 目を開き、ルイズはリゾットを見た。 「アヌビスのときで恩を返してないの?」 「あいつが狙っていたのは俺だ。お前たちを巻き込んで、悪いと思ってる」 「フーケのときは?」 「フーケを倒したのは俺じゃない。お前だ。むしろあの時、俺はお前たちに助けられた」 「じゃあ……、ワルドのときは?」 「奴と戦ったのは恩のためじゃない。俺の誇りが奴を許さなかったからだ」 「そうなの……」 ルイズはがっかりした。リゾットはあくまで自分への恩義で仕えてくれているだけなのだ。 「じゃあ、私への恩を返して、帰る方法が分かったら、元の世界へ帰るの?」 「……そうするつもりだ」 リゾットは即答しなかった自分の内心の変化に戸惑っていた。 タルブの村でシエスタに言ったとおり、元の世界へ戻り、ボスに報いを受けさせることは自分が進むために必要なことだと思っている。 とはいえ、復讐さえなければ、この世界での暮らしもそこそこ気に入ってはいるのだ。 永遠に、とは言わなくてもすぐに帰らなくてもいいとは思っている。 だが、復讐への思いは殆ど渇望に近く、決して癒されることはない。 しかし、ルイズと一緒にいると、その思いが微妙に鈍るのを感じるのだ。奇妙な感覚だった。 (俺はルイズをそこまで大切に思っているのか?) 確かに命の恩人である以上、恩を返さなければ元の世界に戻れないという気持ちはある。だが、それ以上の感情はないはずだ。 自分の中にもう一人の自分がいるような感覚に、リゾットは苛立った。 「そうよね……。ここはあんたの世界じゃないもんね。帰りたいわよね」 ルイズは最後にリゾットの手を一度強く握り締めると、眠りに落ちた。 しばらくリゾットはその場に留まり、完全に眠ったのを確認してからルイズの側から離れ、床に座り込んで目を閉じた。 そうしていると、先ほどまで感じていた苛立ちと疑問は徐々に何かに邪魔されるように霧散していった。 次の日からリゾットは忙しくなった。ルイズの使い魔として掃除やら授業のお供やらをこなしつつ、様々なことをしなければならないからだ。 まずはコルベールの研究室を訪れ、ガソリンの作成のためのアドバイスをする。 化石燃料である石油はこの世界にはない。あるかもしれないが、採掘されていない。それに近いものは何か、ということから始まった。 アヌビス神も元刀鍛冶という職業柄、物作りには興味があるようで、相談に加わってきた。 石油を発掘して『錬金』すればいい、という案も出たが、そもそもそのための技術がないだろう、ということで却下された。 火竜の喉にあるブレスを吐く為の油を使おう、という案も出た。 アヌビス神はむしろ乗り気だったが、リスクが高すぎるため、却下された。飛行機を一回飛ばすごとに何匹も火竜退治していたのではとても命が持たない。 結局、似たような性質である木の化石……石炭を元に錬金することになった。 そこまで決めた後は魔法の分野なので、コルベールに任せることにする。 次に商売の開始である。 DIOの財宝や美術品を売った金は分配しても相当な額であり、それを使ってゲルマニアで造船業と鉄工業を開始した。 ゲルマニアを選んだ理由は許可がとりやすいという他にもいくつかある。 まず、アルビオンとの戦争においては地理の関係上、戦火にさらされるのはトリステインが先という予測がある。 せっかく起業しても戦争で灰になっては意味がない。 さらにゲルマニアの治金技術はトリステインを上回っており、平民でも貴族になれるためか、魔法以外による技術も低くないのもゲルマニアを選んだ理由だった。 貧乏貴族や民間の商人から造船および鉄工に関する権利と設備(錬金魔術師含む)を買い上げ、まとめて一つの工場にする。 アヌビス神にも協力を依頼したが、人を斬らせてくれるなら、という条件を提示してきたので断念した。 経営に関しては経営知識の必要性と、自分たちがトリステインから離れるわけには行かない事情から、株式に近い形態をとることにした。 つまり、実際に経営を担う、信頼できる人間を代理として経営を行うのである。 以上の計画はリゾットが立て、キュルケが手配することになった。 商売の許可の取得、身元の証明、信頼できる人間の手配など、キュルケは実にスムーズにこなして見せた。 特に、鉄工業については簡単に許可は降りないと思っていたが、ツェルプストー家が身元を証明しているというのが効いたらしく、あっさりと許可が降りた。 「悪いな……。世話になりっぱなしだ」 アウストリ広場でゼロ戦に積んだ武装にメタリカを潜行させて点検していたリゾットは、キュルケから進捗具合を聞いた後、呟いた。 「いいのよ。ダーリンが考えて、あたしが実行する。よく出来た役割分担でしょう? それにダーリンの予想が正しければ、あたしにも利益が出て、実家に自慢できるわ。もしダメでも、もともと宝が手に入らなかったと思えばいいし」 キュルケは笑顔でそういったが、何かを思いつき、急に語気が弱くなる。急に俯いた。 「でも、そうね……。もしも、お礼してくれるなら……」 「何だ?」 リゾットの問いに、言おうか言うまいか迷った後、キュルケは頬を染め、蚊の鳴くような声で呟いた。 「あの……頭を撫でてくださらない?」 「頭?」 「前にしてくれたみたいに……」 「ああ……。あれか」 リゾットは何でもないように頷いたが、キュルケの方は心臓が爆発しそうだった。 (愛してるって言葉なら今まで平気で言ってきたのに……、あたしらしくないわね) 内心で苦笑していると、リゾットの手がキュルケの頭におかれ、撫でられる。 キュルケは目を閉じてリゾットの手を感じた。鼓動が落ち着いていくのを感じる。自然とほぅ、とため息が漏れる。 「ん……なんか…安心するわ……。ダーリン、頑張りましょうね」 「そうだな……」 こうして、リゾットとキュルケの商売が始まった。 規模は中の上程度。もう少し大きくすることも出来たが、何でも軌道に乗るまではほどほどの規模の方がいい、ということでこの程度になった。 リゾットとキュルケは財宝を売り払った金を事業に使ったが、他の面々は別のことに使った。 ギーシュは半分ほどは実家に収めて家計の足しにし、売り払わなかった装飾品をモンモランシーにプレゼントした。 モンモランシーはギーシュのセンスの悪さに辟易したものの、やはり憎からず思っている男が命を懸けて持ってきたと聞いては悪い気はしないらしく、そこそこ良好な関係に戻った。 もっとも、ギーシュの浮気癖が直ったわけではないので、なかなか思う通りには行かなかったようだが。 タバサは最初、分け前を辞退したが、あとで何かを思いついて受け取った。 何に使ったか明かされることはなかったが、しばらくタバサが街の様々な秘薬屋に出没しているという噂が流れた。 シエスタは分け前を得ることを固辞した。貴族ならともかく、平民がそんな巨額の金を手にすることは命の危険につながるからだ。 話し合いの末、給金の半年分の額を分配することで話がまとまった。彼女は堅実派らしく、将来のために貯めておくらしい。 それから数日後、コルベールの研究室に、静かな寝息が響く。ミスタ・コルベールである。 彼はリゾットとガソリンを作る約束をして以来、授業も休講にし、研究室にこもりきりになっていた。この数日間、接触したのは同室に安置されているアヌビス神だけである。 そのアヌビス神が乗っ取るガーゴイルの前に、アルコールランプに置かれたフラスコがあった。ガラス管が伸び、左に置かれたビーカーの中に、熱せられた触媒が冷えて凝固している。 アヌビスは目視でも完璧に固まったことを確認すると、コルベールに呼びかけた。 「起きろ! 起きろ! 起きろ! ミスタ・コルベール! 出来上がったぞ! あとはお前の『錬金』で仕上げろ!」 「ん……? おお、ミスタ・アヌビス。いつの間にか眠ってしまっていたか。すまないね」 「いや何、気にするな。俺と違ってお前は生身だからな」 コルベールとアヌビス神はこの研究室で居住をともにしているうちに、同志意識のようなものが芽生えていた。 何しろアヌビス神は倉庫の奥やらナイルの川底やら、一人で放置される期間が長かった。それだけに進んで話相手になってくれるコルベールは貴重な相手だった。 ただ、コルベールは殺人に対して強い禁忌を持っているようだったので、アヌビス神も自分の性はなるべく抑えるように接していた。 コルベールは凝固した触媒を確認すると、リゾットから貰ったガソリンを取り出し、臭いを嗅いだ。 イメージを補強し、慎重に『錬金』の呪文を触媒にかける。 ぼんっ! と煙をあげ、ビーカーの中の冷やされた液体が茶褐色の液体に変わる。その臭いを嗅ぎ、コルベールは叫んだ。 「ミスタ・アヌビス! ついに出来たぞ! 調合成功だ!」 「ようやくか。いや、おめでとう、おめでとう」 二人は成功を喜び合う。 「では、早速、リゾット君に報告してくる! ついに飛行機が飛ぶところが見れるぞ!」 コルベールは外に飛び出していった。アヌビスはそれを見送って、ふと気がついた。 「……あれだけの量で、ゼロ戦が飛ぶか? とばんよな……」 「リゾット君! できたぞ! できた! 調合できたぞ!」 朝のアルヴィーズ食堂に、コルベールが駆け込んでくる。途端、コルベールの身体についた様々な異臭が周囲に満ちた。 数名の生徒が顔をしかめて退席する。せめて食事が終わっていたのが幸いだろう。 「み、ミスタ・コルベール、何なんですか、この臭いは?」 ルイズを始め、周囲の生徒は引きまくりだ。 そんな周囲に構わずにコルベールが突き出したワイン瓶の中には、茶褐色の液体があった。 「出来たのか?」 コルベールはリゾットの言葉に大きく頷くと、リゾットに促し、移動し始めた。 余りに急展開に、ルイズたちは呆然とリゾットたちを見送っていた。ただ一人、タバサを除いては。 アウストリ広場に着くと、リゾットはメタリカで作っておいた鍵でゼロ戦の燃料コックの蓋を開き、ワイン瓶二本分のガソリンを流し込む。 「早く、その風車を回してくれたまえ。わくわくして、眠気も吹っ飛んだぞ」 リゾットは操縦席に座る。エンジンの始動方法や飛ばし方が、ルーンを通じて頭に流れ込んできた。 エンジンをかけるにはプロペラを回さなければならない。 リゾットは風防から顔を出し、興味深げにゼロ戦を見守っていたタバサとコルベールに声を掛けた。 「タバサ、コルベール。どっちでもいいが、魔法を使ってこのプロペラを回せないか?」 「ふむ、あの油が燃える力で回るのとは違うのかね?」 「初めはエンジンをかけるために中のクランクを手動でまわす必要があるんだが……、まわし方なんて分からないだろう? だから魔法で回してくれた方がいい」 コルベールがリゾットに説明を受けている間、タバサは杖を掲げてプロペラを回し始める。 リゾットは、ベテランのパイロットのように慣れ親しんだ動きで各操作を行った。ガンダールヴの力か、意識しないでも滑らかに手が動くのだ。 最後に右手の点火スイッチを押し、左手で握ったスロットルレバーを心持ち前に倒して開いてやる。 くすぶった音が聞こえた後、プラグの点火でエンジンが始動し、プロペラが高速で回り始める。機体が振動した。 コルベールは感動の、タバサは驚きの表情でそれを見つめていた。 リゾットは計器類が正常に動作しているのを確認すると、しばらくエンジンを動かして点火スイッチをオフにした。 操縦席から降りると、コルベールが興奮した面持ちで駆け寄ってきた。 「コルベール先生、あんたは偉大なメイジだ。こんな短期間でエンジンをかけられるようになるとは思わなかった」 リゾットも流石に感心したのか、敬称をつけている。 「うむ! やったなぁ! しかし、何故飛ばんのかね?」 「ガソリンが足りないからな。飛ばすなら樽で五本は必要だ」 「そんなに作らねばならんのかね! まあ、乗りかかった舟だ! やろうじゃないか!」 コルベールは意気揚々と研究室へと戻っていった。 リゾットは戻ろうとして、タバサがこちらを見つめているのに気がついた。 「何だ?」 「これは……どうやって飛ぶの?」 「興味があるのか?」 タバサが頷いた。 「分かった……。説明する」 リゾットがゼロ戦に触れて得た情報から一つ一つ説明していくのを、タバサは黙って聞いていた。 表情は変わらないが、その目にはわずかに満足げな光があった。 しばらく説明していると、ルイズがやってきた。 「もう授業の時間よ。何をやってるの?」 「エンジンが動くかどうか確かめていた」 「そう。で、そのえんじんがうごいたら、どうなるの?」 「この『ゼロ戦』が空を飛べる」 「飛べたら、どうするの?」 ルイズが寂しそうに言った。 「そうだな……。東方に行こうと思っている」 「東方? ロバ・アル・カリイエに向かおうというの? 呆れたわ!」 「この飛行機の持ち主はそこから飛んできたらしい。なら、逆も可能だろう。そこに元の世界に帰る手がかりがあるのかもしれない」 リゾットは淡々と答える。ルイズはあまり興味なさそうだったが、表情には不安が見えた。 「心配は要らない」 「え?」 「言っただろう? お前に恩を返すまでは元の世界へ帰らない。だから、東方へ行くのに時間がかかりそうなら、しばらくは行かない」 「本当!?」 嬉しそうに笑う。が、次の瞬間、ルイズは顔を赤くして不機嫌そうな顔をした。 「そ、そんなこと、分かってるわよ! ほら、授業行くんだから、いつものようについて来なさい!」 リゾットはルイズについていこうとして、振り返った。タバサはいつの間にか居なかった。 「ルイズ、今、ここにタバサがいなかったか?」 「どっか行っちゃったわよ。教室に行ったんじゃない?」 「そうか」 リゾットは深く考えずにルイズについていった。 アルビオン空軍本国艦隊旗艦『レキシントン』号の艦長、ボーウッドは沈んでいくトリステインの船を見つめ、不快そうに鼻を鳴らした。 これでアルビオンはトリステインの歴史に残る不名誉を受けると思うと気持ちが沈んだが、首を振ってその考えを振り払う。 戦闘が始まったからには軍人たるもの、感情も思考も全てこの作戦の達成に向けねばならない。 この作戦、つまり式典に出席するアルビオンの大使を迎えに来た戦艦の答砲を実弾であると偽り、自衛を装ってトリステインに宣戦布告を仕掛ける作戦は始まっているのだ。 いまやトリステインの艦隊はアルビオンの艦隊によって押さえ込まれつつあった。 すぐにこの事態はトリステインの王宮に伝わり、王宮は大混乱に陥るだろう。その隙にこちらは兵を展開し、トリステインを蹂躙することができるわけだ。 制空権が奪い返されることは二度とない。 「やつらは、やっと気付いたようですな」 ゆるゆると動き出したトリステイン艦隊を眺めつつ、ボーウッドの傍らでワルドが呟いた。 司令官はジョンストンという男が別にいるが、名ばかりの政治家であり、実際の上陸作戦の指揮はワルドが執ることになっていた。 「の、ようだな。しかし、既に勝敗は決した」 呟くボーウッドの眼下で、トリステイン艦隊旗艦『メルカトール』号が炎に包まれていく。地上にその船体が着く前に、轟音とともに空中から消えた。 旗艦を失った艦隊は混乱し、バラバラの機動で動き始めた。 まだ戦闘行動中だというのに『レキシントン』の艦上のあちこちから「アルビオン万歳! 神聖皇帝クロムウェル万歳!」と叫びが響く。 「艦長、新たな歴史の一ページが始まりましたな」 ワルドの言葉に、苦痛の叫びをあげる間もなく潰えた敵を悼むような声で、ボーウッドは答えた。 「何、戦争が始まっただけさ」 その言葉にワルドは肩をすくめると、上陸作戦の指揮を取るべく、甲板から立ち去った。 生家の庭で、シエスタは幼い兄弟たちを抱きしめ、不安げな表情で空を見つめていた。先ほど、ラ・ロシェールの方から爆発音が聞こえてきた。 驚いて庭から空を見上げると、恐るべき光景が広がっていた。空から何隻もの燃え上がる船が落ちてきて、山肌にぶつかり、森の中へと落ちていった。 村が騒然とする中、雲と見紛う巨大な船が下りてきて、草原に鎖のついた錨を下ろし、上空に停泊した。 その上から何匹ものドラゴンが飛び上がる。 シエスタは不安がる兄弟たちに促して家の中に入る。 中では両親が不安げな表情で窓から様子を伺っていた。 「あれは、アルビオンの艦隊じゃないか? アルビオンとは不可侵条約を結んだってお触れがあったばかりなのに……」 「じゃあ、さっきたくさん落ちてきた船はなんなんだい?」 そう話している間にも、艦から飛び上がったドラゴンが、村めがけて飛んできた。父は母を抱えて窓ガラスから遠ざかる。その直後、騎士を乗せたドラゴンは村の中まで飛んできて、辺りの家々に火を吐きかけた。 ガラスが割れ、室内に飛び散った。村が炎と怒号と悲鳴に彩られていく。平和な村は一瞬にして灼熱の地獄に変わった。 シエスタの父は気を失った母を抱いたまま、震えるシエスタに告げた。 「シエスタ! 弟たちを連れて南の森に逃げるんだ!」 父の言葉に従って逃げつつも、シエスタの胸に悔しさが駆け抜ける。 (また、なの……? なぜ私たちは、いざというときに貴族に踏み躙られるだけなの…?) 一際大きな風竜に乗り込んだワルドは薄い笑みを浮かべ、かつての祖国を蹂躙した。近くを、直接指揮の竜騎士隊の火竜が飛び交っている。ワルドが火力で火竜に劣る風竜を選んだ理由は至極簡単。スピードで勝るからだ。 本体の上陸前の露払いとして、ワルドは容赦なく村に火をかける。振り返らずとも後方では『レキシントン』号の甲板からロープがつるされ、兵が次々と草原に降り立っているのが分かる。なぜならその指揮を執るのはワルドの遍在だからだ。 草原の向こうから、近在の領主のものらしき一団が突撃してくる。ワルドは合図をすると、竜騎士とともに、その小集団を蹴散らすために急行した。 トリステインの王宮に、国賓歓迎のため、ラ・ロシェール上空に停泊していた艦隊全滅の報がもたらされたのは、それからすぐのことだった。 ほぼ同時に、アルビオン政府からの宣戦布告文が急使によって届いた。不可侵条約を無視するような、親善艦隊への攻撃に対する非難がそこには書かれ、最期に宣戦布告文が添えられていた。 すぐに将軍や大臣が集められ、会議が開かれたが、停戦交渉案、ゲルマニアへの救援要請案などの意見が飛び交い、一向に会議は進まなかった。 だが、この案は二つとも無駄だということは明らかだった。 アルビオンには打診を送っても、まるで無視された。明らかに敵は悪意を持ってこちらを攻め込んでいた。 ゲルマニアへの救援要請にしても、到着まで何日かかるか分からない。待っている間にトリステインは滅ぼされるだろう。 アンリエッタは風のルビーを見つめた。これを遺したウェールズは、各地に残る王家が惰弱でないと見せるために命を懸けたという。 そしてあの男……リゾットは言った。『死んでいった者たちから何を受け継ぐかは残された者次第だ』と。正直なところ、アンリエッタはリゾットが好かない。ウェールズを見殺しにした男だからだ。 だが、言っていることは正しいのは認める。ここでただ無為に時を過ごすことはウェールズに対する侮辱だ。 アンリエッタは指に嵌った風のルビーを見つめると、大きく深呼吸して立ち上がり、自らを注視する群臣に言い放った。 「兵を集めなさい! アルビオンの侵略に対し、抗戦を開始します!」 「しかし、殿下! 誤解から発生した小競り合いですぞ?」 「誤解から始まったのならば相手も返答くらいは遣します。不可侵条約すら、この日のための口実なのでしょう」 「しかし……」 「黙りなさい! 我々がこうしている間にも民の血が流れ、国土が侵されているのです! このような危急の際に民を守れないようでは、我々に貴族たる資格はありません! 責任が恐ろしいというのなら、私が負いましょう。貴方がたはここで会議を続けなさい」 決然と言い放つと、アンリエッタはそのまま会議室から飛び出ていく。宰相マザリーニを初めとして大勢の貴族がそれを押し留めようとする。 「姫殿下! お輿入れの前の大事なお体ですぞ!」 アンリエッタは、結婚のための本縫いが終わったばかりのウェディングドレスの裾を、膝上まで引きちぎり、マザリーニに投げつけた。 「貴方が結婚なさればよろしいですわ!」 そのまま宮廷の中庭に出ると、アンリエッタは自らの馬車と近衛隊を呼び寄せ、馬車につながれていたユニコーンを外し、その上に跨った。 「これより全軍の指揮は私が執ります! 各連隊を集めなさい!」 アンリエッタを先頭に、魔法衛士隊が出撃していく。やがて会議をしていた高級貴族たちも慌てて出撃する。 だが、一連の騒ぎを隈なく観察していた下働きのメイドには、誰一人気付くことはなかった。 「意外にあのお姫様、決断が速かったじゃないか。タルブの村っていや、確かあの娘の故郷か……。もう少し詳しい情報を集めたらリゾットに報告するかね」 フーケはそう呟いて姿を消した。 さて、一方、トリステイン学院では、ルイズは自室で『始祖の祈祷書』を広げていた。 色々あって取り掛かれなかったが、ルイズはアンリエッタ王女の結婚式で詔を読み上げなければならないのである。 その中で四大系統に対する感謝の辞を、詩的な言葉で韻を踏みながら詠み上げる部分があるのだが、ルイズはその詩を未だに思いつかなかった。 リゾットならどうか、と思って訊いてみたものの、リゾットも詩についての造詣はなく、作業は難航した。 (なお、リゾットはデルフリンガーにも相談してみたが、「剣に変な期待をするなよ」、と一蹴された) 全く出来ないわけではなく、いくつかは作ってみたのだが、詩的でもなかったり、韻を踏んでいなかったり、感謝の辞ですらなかったりと散々な出来だった。 リゾットがいちいちそれを指摘していると、ルイズは徐々に不機嫌になってきた。 「少し、息抜きをしたほうがいいと思うが……」 「姫様の結婚式までもう、日がないのよ!? のんびりはしてられないわ!」 ルイズは再び白紙の祈祷書を広げてああでもない、こうでもない、と悩み始める。 「真面目なことだな……」 「まあ、相棒も真面目さじゃ引けをとらねーと思うぜ」 そんな会話をデルフリンガーとしていると、扉の鍵が勝手に開いた。 学院広しといえども主がいる部屋に『アンロック』で入ってくるメイジはただ一人である。 「ダーリン! 遊びに来たわ!」 キュルケは部屋に入ってくると、抱き着かれると思って身構えていたリゾットに笑いかけた。 「嫌だわ、ダーリン。簡単に抱きついたりするのはもうやめたの。本当に抱きつきたくなったとき以外はしないわ」 「……そうか」 リゾットが警戒を解く。と、そこにルイズの怒声がとんだ。 「ツェルプストー! 『アンロック』で入ってこないでって、言っているでしょう!?」 「それは無理よ、ヴァリエール。あたしはダーリンと会える時間を一秒でも長くしたいの。ノックして返事を待つ時間も惜しいわ」 「ここは私の部屋なの!」 いつもの調子で始まりそうになったため、キュルケは思い出したように身を引く。 「そうそう、でも今日は私が用があってきたんじゃないのよ。この子がダーリンに用があってきたの」 と、今まで後ろで黙っていたタバサを前面に押し出した。 「タバサが? どうした?」 「お茶の誘いに来た」 「お茶?」 「そう、タバサがダーリンのために『お茶』を手に入れてきてくれたんですって」 「……リゾットのためだけじゃない」 「あら、でも貴方がお茶をご馳走するなんて初めてじゃない」 「そう?」 デルフリンガーがカタカタとゆれる。 「茶ってーと東方から来たって言う、このあいだの『緑茶』かい? 何でまた?」 「お礼。一応、ギーシュも呼ぶつもり」 リゾットは一瞬、お礼の意味を考えた。 「…DIOの館での件か?」 タバサは頷く。 「あれはお前がスタンドの性質を調べてくれたから勝てたんだ。礼をされることじゃない」 「勝てたことじゃない」 「?」 リゾットもタバサの内心までは分からないので、その意味を理解することは出来なかった。 「いいじゃないの。お茶を飲む理由なんてどうだって。ねえ、タバサ?」 キュルケの言葉に、タバサは深く頷いた。 「確かにそうだな……」 呟いたリゾットは視線を感じ、振り向いた。ルイズが睨んでいる。 「タバサ、ルイズも一緒でいいか?」 「………いい」 何故か一瞬、間が空いたが許可が下りる。 「ルイズ、一旦、休憩しろ。根つめても思いつかない」 ルイズは考えた。実際、疲れているのである。それに、リゾットが主人を置いてキュルケやタバサと一緒に別行動する、というのも嫌だった。 「いいわ。そこまで言うなら休んであげる。べ、別に詩ができないわけじゃないわよ。使い魔の気遣いを受け取ってあげようっていうご主人様の寛大な処置なんだから」 「………分かった。そういうことにしておく…。ん?」 そのとき、リゾットは部屋の窓にいつの間にか紙切れが挟まっているのに気がついた。 引き抜いて、広げてみる。中を一読すると、リゾットの顔が険しくなった。 「すまん、タバサ、キュルケ、ルイズ。茶はまた今度だ」 言うなり、リゾットは部屋から飛び出した。コルベールの研究室を目指して駆ける。 リゾットが読んだ紙片にはこう書いてあったのだ。名詞と動詞だけで綴られた、単純な文章だった。 『アルビオン、宣戦布告する。タルブ村、占領される』 リゾットはコルベールの研究室の扉を蹴り開け、中へ入った。 「コルベール先生! いるか!」 「おお、リゾット君、どうしたんだね?」 「ガソリンはもう出来たか?」 「ちょうどさっき、言われた量が出来上がったよ。いやはや、流石に疲れた」 コルベールが指し示した先には荷台があり、樽が積んであった。 「悪いが、早速使わせてもらう。運んでくれ」 「もう飛ばすのかね? 少し休んでからにしたいんだが……」 ぶつぶつ言いながら荷台を浮かして外に出て行く。 リゾットもそれに続こうとして、アヌビス神に呼び止められた。 「殺気だってるな。何があった?」 闘争の空気を感じ取ったのか、実に楽しそうだ。 「アルビオンがトリステインに宣戦布告した」 「ほーぉ? 戦争か、いいねえ。俺も出てーな」 「お前みてーな危険な奴を連れて行けるか」 デルフリンガーが嫌悪感も露に呟く。デルフリンガーも剣であるが、アヌビスのように無差別な殺戮を好むわけではなく、この二人(?)はあまり仲が良くなかった。 「そうかい? まあ、今後も戦争があるなら、いつか俺を連れて行ってくれよ。協力してやるからさ。ククク……」 忍び笑いをするアヌビス神を残し、リゾットはアウストリ広場へ向かった。 リゾットがガソリンを注いでいると、ルイズがやってきた。探していたらしく、息を切らせながら走ってくる。 「ようやく見つけたわ! リゾット、突然なんなのよ!」 「アルビオンがトリステインに宣戦布告した。タルブの村が襲撃されている」 ぼそぼそと、機体の観察をしているコルベールに聞こえないようにルイズに教える。 コルベールに知れれば止められるに決まっているからだ。 「嘘!? そんな話、聞いたこともないわ」 ルイズが叫んだ。 「だろうな。俺もさっき、使っている人間からの情報で知ったばかりだ」 「な、何かの間違いよ。確認したの?」 「間違いなら間違いでいい。タルブ村まで行って、こいつが飛んでいるところを見せて帰ってくればいいだけだ」 口ぶりとは裏腹に、リゾットは戦争が起きていることを疑っていないようだった。 リゾットがここまで信じているということは多分、本当なのだろうとルイズも悟った。 「ダメよ! そんな危険なところに勝手に行くなんて、私が許さない! 何であんたがそんなところに行くのよ! 王軍にでも任せておきなさいよ!」 「そうだな……。別の場所なら、俺も放っておくさ。だが、タルブにはシエスタがいる……。あいつと、あいつの家族には恩がある。このゼロ戦を譲ってもらった恩がな」 「シエスタってあのメイド……?」 リゾットは頷く。それからガソリンの注入が終わったゼロ戦に乗り込もうとした。だが、ルイズに腕にしがみつかれる。 「とにかく、駄目よ! これは命令よ!」 「悪いが、その命令は効けない」 「何でよ……。いくらあんたが強くたって、死んじゃうわ!」 「死ぬ……。死ぬか……」 リゾットはルイズの目を見据えた。その目には怒りもない、悲しみもない、ただ『覚悟』が宿っていた。いつものように。 「ここでシエスタを見殺しにしたら、それこそ俺はまた死ぬことになる。肉体じゃなく、『誇り』がな」 ルイズは泣きそうになった。だが、精一杯虚勢を張ってこらえる。泣いたところでリゾットはこの場に残ったりはしない。 いつもこの使い魔はそうなのだ。相手が何者であろうと、障害がなんであろうと、自分の、そして仲間の本当に大切な『誇り』を守るためなら恐れずに向かっていく。 泣いても無駄なため、涙の代わりに言葉を振り絞る。 「何よ! 馬鹿! いっつもいっつも、『覚悟』とか『誇り』とか言って、かっこつけて死にそうになって! 怖くないの!?」 「……怖いさ。死ぬことをやめて以来、いつだって死ぬことは怖い。だが、恐怖を感じることと、それから逃げ出すことは別だ。お前だって分かっているはずだ、ルイズ」 「何をよ!」 「お前はフーケから逃げずに戻ったとき、ウェールズ皇太子の化けた海賊の頭領に啖呵を切ったとき、ワルドに人質をされたとき、死の危険を感じながらも逃げなかっただろう? それと同じだ。お前が貴族の誇りを貫くように、俺も俺の誇りを貫く」 ルイズははっとして手の力を緩めた。その隙にリゾットはゼロ戦に乗り込んだ。デルフリンガーを操縦席に立てかける。 「大丈夫だ。俺は死ぬつもりはない。死が前提の任務になど、俺は挑まない」 「私も一緒に行くわ」 「ダメだ」 遠巻きにしていたコルベールに合図を送る。魔法でプロペラを回り始めた。タイミングを計り、エンジンをかける。 「ち、拙いな」 離陸するための滑走距離が足りないことをガンダールヴのルーンによって理解し、リゾットは舌打ちした。 そこでデルフリンガーが口を開く。 「相棒、あの貴族に頼んで、前から風を吹かせてもらいな。そうすりゃ、こいつはこの距離でも空に浮く」 「分かるのか?」 「こいつは、『武器』だろ? ひっついてりゃあ、大概のことはわかんのよ。俺は一応、『伝説』なんだぜ?」 リゾットはデルフリンガーを軽く叩いた。 「デルフ、お前は頼りになる相棒だよ」 「だろ?」 ジェスチャーで伝えると、コルベールは頷いて、呪文を詠唱し、前から烈風を吹かせた。 シエスタから預かったゴーグルをつける。エンジンの音を聞きつけたのか、向こうからキュルケとタバサが走ってきていた。 軽く手を振る。 ゼロ戦が勢いよく加速し始めた。魔法学院の壁が迫り、ぶち当たるギリギリのところでゼロ戦は浮き上がる。 数十年の時を越え、ゼロ戦は再び戦いのため、空へと駆け登った。 その直後、キュルケとタバサがルイズの下に駆け寄った。 「今の、ダーリン? 一体、どうしたっていうの?」 だが、ルイズは答えない。ただ呆然と、空を飛んでいくゼロ戦を見送った。 「何で……何で肝心な時に限って命令をきかないのよ、あの馬鹿……」 「うおー、飛びやがった! おもれえな!」 デルフリンガーが興奮した声を出した。リゾットが呆れて答える。 「飛ぶように出来てるからな。……信じてなかったのか」 「ははっ、わりーわりー。俺も六千年も生きてるけど、こんなの見るのは初めてだからよ」 デルフリンガーは一通りはしゃいでいたが、やがてぽつりと尋ねた。 「相棒よぉ。あの貴族の娘っ子、残していってよかったのか?」 「……アルビオンの軍隊ってことは空と陸の敵を両方倒す必要がある。向こうの状況は分からないが、俺のメタリカは近くに誰かがいると全開にできないからな」 「そうかい……」 「やれやれ、突っ張ってるねえ、相変わらず」 突然、後ろから聞こえてきた第三者の声に、リゾットは振り返った。 ゼロ戦の後部にある邪魔な通信機類を取り払ったスペースから、見知った女性が顔を出していた。 「しかし本当に飛ぶんだね、これ」 「フーケ!?」 珍しく大声を出したリゾットに、フーケは微笑みかけた。 「久しぶりじゃないか、リゾット。無事、『竜の羽衣』が手に入ったようでよかったよ」 「……最初から乗っていたのか?」 「まあね。タルブの村に向かうなら使うだろう、と思ってね」 リゾットは顔をしかめた。自分が焦っていたことを思い知ったからだ。 「降りろ。情報収集役の出番じゃない」 フーケは手でリゾットの言葉を遮った。悪戯っぽく笑う。 「さっきの手紙じゃ情報を渡しきれなかったからね。ちゃんと伝えておかないと。で、それが終わったらあんたはもう私に命令する立場じゃない。雇い主でもなくなるからね」 「……なら、なおさら俺に付き合う理由はないだろう」 その言葉に、フーケは一転して複雑そうな表情を浮かべた。 「…………本当に、そう思う?」 「何がだ?」 素の反応を返すリゾットに、フーケはため息をついた。 「ああ……、わかんないならいいよ」 「言いたいことがあるならはっきり言え」 「うるさいねえ……。ま、あのシエスタって子も知らないわけじゃないしね。乗りかかった船ってことで、いいだろ?」 リゾットはしばらく考えて、諦めた。 「……好きにしろ」 「そうさせてもらうよ」 フーケは実に楽しそうに言った。抑えても抑えきれないようで、ニヤニヤと笑っている。 「何を笑っている?」 「いや、何。大したことじゃないんだけど、やっとあんたから一本取れたと思ってね」 「ふん……」 リゾットは前を向いた。フーケが上機嫌でアルビオンの兵力やトリステインの動向などを語り始める。 リゾットとデルフリンガー、そしてフーケを乗せたゼロ戦はタルブの村を目指して飛び続ける。 「てわけで、空に竜騎士と戦艦、地上に通常の軍の二面作戦だね」 「トリステイン二千対アルビオン三千か……。制空権を取られているのが辛いな」 「逆にいえば戦艦と竜騎士を何とかできれば勝てると思うよ。ラ・ロシェールに篭城できるし、数は不利だけど、トリステインはメイジが多いからね」 「問題はその間もタルブの村は焼かれるってことか……」 「そっちは私に任せてくれない? 地上の敵の押さえくらいならやってみせようじゃないか」 リゾットはしばらく考えて、頷いた。ゴーレムを使う彼女なら、比較的危険も少ないだろう。 「分かった。それが一番効率がよさそうだな……。念のため、これを持っていけ」 リゾットは後ろのフーケに座席の隙間からある物を渡す。 「何だい? これは…。見たことある感じだけど」 「使い方は今から教える」 使い方を簡単に説明すると、フーケは納得したようにしまい込んだ。 「なるほどね。ありがたくもらっとくよ」 それからしばらく飛び続けると、タルブの草原が見えてきた。 「じゃ、私は行くよ。お互い、武運があることを願おうじゃないか」 「ああ。死ぬなよ、フーケ」 フーケは驚いたような顔でリゾットを見た。 しばらくして、フーケはぽつりと呟いた。 「マチルダ」 「いきなり何だ?」 リゾットは振り返った。フーケは地上を眺めている。その表情は風になびく髪で見えない。 「私の名前さ。マチルダ・オブ・サウスゴータ。フーケってのは昔、貴族を追放された時につけた名前でね」 「………なぜ俺にそれを今教える」 「さあね。何となくね。……何となくあんたには知っておいて欲しい気になったのさ……。それじゃ、行って来るよ」 リゾットが呼び止める間もなく、フーケはゼロ戦から飛び降りた。レビテーションをかけて空中で制動をかける。 それを見送ってしばらくして、デルフリンガーが警告を発した。 「おい、相棒。うじゃうじゃいるぜ。覚悟はいいか?」 ゼロ戦の行く手に十数騎の竜騎士が待ち受けている。何騎かは既にこちらに気づいて向かってきていた。 「当然だ」 リゾットはゼロ戦を加速させ、空高く舞い上がった。
https://w.atwiki.jp/ranoberowa/pages/283.html
第242話:世界は脆く、そして…… 作:◆xSp2cIn2/A 其処にあるのはどこまでも真っ黒な空間。 今にも脆く崩れ去ってしまいそうな脆弱な空間。 其処に居るのはどこまでも真っ赤な存在。 果てしなく強く決して崩れることの無い歪められた存在。 赤色は何をするでもなく真っ黒な空間にたたずんでいる。 この空間に彼女が現れてから、どれくらいの時間が経過しただろうか。 それは何年も前かも知れないし、ほんの一瞬前かもしれない。 ただ、彼女にとってそれは、無限に等しい時間だった。 唐突に口笛が聞こえてきた。その口笛は『ニュルンベルクのマイスタージンガー』。 おおよそこの場所には似つかわしくない、派手派手しい曲だった。 彼女は大して気にするでもなく、口笛が聞こえてくる方を見る。 そこに居たのは、男とも女ともつかない顔の、筒のようなシルエットをした人影だった。いや、人かどうかも疑わしい。 「うまいんだな」 曲が終わると彼女は拍手をしながら言った。彼は答えない。 「世界は、どこまでも不安定だ」 突然に、本当にこれほど唐突なタイミングは無いだろうと言うくらい突然に、黒帽子のシルエットが言った。 「脆弱で、隙だらけで、壊れやすい。だから『世界の敵』が現れて世界を崩壊させようとする…世界は脆い」 彼は少し間をおいてから言う。 「僕はブギーポップ、世界の敵の敵さ」 彼――ブギーポップの独白は、どうやら自己紹介だったようだ。 また沈黙が続き、彼女が言った。 「ここは……まるで世界そのものだな」 「そうだね、この空間もすぐに壊れてしまうだろうね」 「じゃぁお前は…この『世界』を崩壊させようとしているあたしを倒しに来たってわけか?」 彼女はシニカルな笑みを浮かべて言う。 「いいや、確かにここは『世界』に似ているけれど、それでも世界じゃない。それに―」 彼は左右非対称な表情を浮かべて続ける。 「――それに君は、もう存在が消えかかっている」 「……知ってる」 思い出したように、彼女の胸や腹から大量に血液があふれ出てくる。彼女の身体がじょじょに冷たくなっていくが、彼女は眉一つ動かさない。シニカルな笑みを浮かべたままだ。 「ここはイメージの世界だ。この島に居る者達が作り出した精神の世界だ。本当ならこのイメージの世界で君が傷を負うわけが無い。 人は傷つくのを嫌うからね、自分が傷つく姿をイメージするはずが無い」 どくどくと彼女の傷口からあふれる血液は、もうすでに失血多量で死んでいるはずの量を超えている。 それでも真っ赤な鮮血はとめどなく彼女の身体からあふれ出す。どくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどく溢れ出す。 「君は現実の世界に戻りかかっている。それは生を意味するのか死を意味するのか。 僕には分からないけれど、とにかく君はもうここに居られないようだ」 「…みたいだな」 彼女はそういうと、彼が吹いていた口笛を真似して吹き出す。彼も釣られて口笛を吹き出す。 口笛の合奏はいつまでも続いたが、すぐに一つになって、やがて消えた。 そして…… 【イメージの世界、??:??】 【残り90人】 【哀川潤】 [状態]:瀕死の重体(銃創二つ。右肺と左脇腹損傷) [装備]:不明 [道具]:デイパック(支給品入り) [思考]:気絶中 ←BACK 目次へ(詳細版) NEXT→ 第241話 第242話 第243話 第211話 時系列順 第269話 第270話 ブギーポップ 第302話 第218話 哀川潤 第243話
https://w.atwiki.jp/kt108stars/pages/3837.html
422 名前:NPCさん[実は今日観た映画sage] 投稿日:2008/08/20(水) 01 09 48 ID ??? 今回やったGMのシナリオがひどかった。 舞台は古代中国で、前提条件として強力なNPCが不死身のラスボスに石にされてるってところから始まる。 PC1:現代アメリカの骨董品屋で強力なNPCの封印を解くアイテムを拾ったせいで突然ワープしてきた少年。 PC2:ラスボスに親を殺された女。なぜか不死身のラスボスにとどめを刺せる武器を持ってる。 PC3:強力なNPCの封印を解くアイテムを探している。 PC4:ラスボスを快く思わない仙人。 なんか戦闘ばっかりタラタラあって、PC2と因縁あるような感じで出てきた女戦士もPC4と一騎打ちで死亡。 戦闘技能があるPC2と3総掛かりでラスボスと戦うけど歯が立たず全滅。 PC3死亡時点でPC1が強力なNPCを蘇らせると、GMは「PC3は実はNPCの分身の一つ。いまからこっちのキャラシー使って」 とボスと対等に戦えるキャラシーを渡される。 PC3がボスを倒すが、不死身なので死なないとか言うGM。しかもそっから吟遊で「吹っ飛ばされたところに、たまたまPC1が2が死ぬとき受け取った武器を持って立ってた。そして刺さる。死んだ」 なんだったんだろう。 425 名前:NPCさん[sage] 投稿日:2008/08/20(水) 01 56 07 ID ??? 422 ……3作目のアレか 438 名前:NPCさん[sage] 投稿日:2008/08/20(水) 03 22 44 ID ??? 425 いや香港2大スター共演のアレだろ よく映画そのままの吟遊シナリオやってた昔の俺は困ったちゃんだな… スレ195
https://w.atwiki.jp/cokkie_zikkyou/pages/74.html
TW「人参何でもクッキング☆」 EIRN「この番組は、てゐが竹林から拾ってきた、外の世界の人参レシピを使って料理をしていく番組です。」 TW「ねぇねぇ、お師匠様。今日は何を作るの?」 EIRN「そうねぇ・・・。今日は、人参のゼリーにしようかしら。」 TW「いいですねぇ、暑い日にはもってこいのデザート!」 EIRN「そしてこれが完成した人参のゼリーです。」 TW「お師匠様!?まだ材料も何も言っていないのに完成品出してどうするの!?」 EIRN「あらやだ私ったら、うふふふ。えっと、材料は人参100グラム、レモン2個、砂糖大さじ3、粉のゼラチン5グラムです。ゼラチンは粉でふやかさない物を使います。」 TW「ふやかすものを使うとどうなるんです?」 EIRN「ちょっとした準備が時間かかるくらいで、問題はないと思うわ。それでは、まず下準備からです。人参は擦りおろし皿などを使ってすりおそろします。」 TW「んっしょ、んっしょ。これ結構疲れますねぇ~。」 EIRN「てゐ、疲れるなら磨り下ろし終わったやつ使う?」 TW「あるの!?じゃあ、使います。」 EIRN「人参を摩り下ろし終わったら、次はレモンを半分に切ってから絞り器で搾ります。」 TW「お師匠様、手が酸っぱくなりました。」 EIRN「レモンだからねぇ。そういうのが苦手な場合は、ビンに入ってるこの100%レモン果汁を使うといいわ。レモン1個分の分量も書いているから分量ミスもないわよ。」 TW「さっすがお師匠様。でもそれなら先に言って欲しかったです。」 EIRN「レモンを絞り終えたら、レモン果汁に水を加え、250ccになるようにします。しこし酸っぱめの分量なので、酸っぱいのを抑えたい場合はレモンを少し減らすといいでしょう。そしてこれが・・・」 TW「すでに水を加えた物っていうんでしょ?何度も同じネタは通用しな・・・い・・・お師匠様!?何、その毒々しい煙が出てるフラスコは!」 EIRN「レモンと水と永琳特製・・・ごほん。レモンと水を合わせて250ccにした物よ!」 TW「嘘つけぇ!お師匠様、流石にそれだまされる人はいないよ。」 EIRN「いい?姫様のイメージを損なうような事をする相手がいたらこれを使うのよ?」 TW「お師匠様だよ!永遠亭のイメージ悪くしてるのお師匠様だよ!いったいどうしたの?今日おかしいですよ?」 EIRN「・・・たまには私だって、こういう事したいのよ・・・」 TW「疲れてるんですね。そうだ!後でマッサージしてあげますよ。」 EIRN「あら本当?じゃあ、お願いしようかしら。」 TW「それじゃあ、早く作ってしまいましょう。」 EIRN「はいはい。急がないの。お鍋の中に摩り下ろした人参と、今作ったレモン水と砂糖を入れて焦がさないように中火にかけ、おなべが沸騰する前に火を止めます。」 TW「あとはゼラチンを入れるだけですね。」 EIRN「ああ、ちょっと待って。ゼラチンを入れる前に軽く味見をするのを忘れないで。もし甘さが欲しい場合は追加で砂糖を入れてもいいわ。」 TW「酸っぱいゼリーは苦手です。」 EIRN「じゃあ、ちょっと甘くしましょう。永琳特製白い粉をさらさらー。」 TW「え!?」 EIRN「砂糖よ、さ・と・う。味を調整したら、ゼラチンを入れて混ぜながら溶かしていきます。ゼラチンが溶けたらあとは容器に入れて1時間くらい冷やせば完成です。」 TW「お師匠様?電気のない永遠亭でどうやって冷やすの?」 EIRN「簡単よ、この瓶に入ってるチルノを使えばすぐ冷えるわ。」 TW「まだ瓶に入ってるの!?何年前のネタですか!」 EIRN「もう5年になるわね。」 TW「早いものですよねぇ・・・って5年も詰めてないで出しましょうよ。」 EIRN「仕方がないわねぇ。ゼリーが出来たら考えましょう。」 TW「考えるだけなんですね・・・。今日は何か疲れました。ねぇねぇ、お師匠様、もう最初に出した完成品食べちゃいましょうよ。」 EIRN「そうねぇ。手伝ってくれたご褒美に食べていいわよ。姫様たちには内緒よ?」 TW「やったぁ。それじゃあ、人参何でもクッキングまた次回―。」 EIRN「次回は人参のクッキーです。また見てくださいね。」 TW「お師匠様、はい、あーん。」 シナリオ ふぃあ 声 動画 *ゆっきん* ご視聴ありがとうございました
https://w.atwiki.jp/sakurasakuyo/pages/56.html
地場産センター 地場産センターパンフ 現地の写真upしました。下↓
https://w.atwiki.jp/nikuq-niuniu/pages/1596.html
終わり、そして始まり 依頼主 :アダルベルタ(ウルダハ:ザル回廊 X10-Y14) 受注条件:採掘師レベル50~ 概要 :採掘師ギルドのアダルベルタは、冒険者に興味深い仕事を紹介したいようだ。 アダルベルタ 「ねえ・・・・・・こんな仕事が入ったんだけど、キミは興味ない? はるか遠方、イシュガルドに雇われた傭兵団から、 採掘の専門家をよこしてもらえないかって引き合いが来てるのよ。 打診してきたのは、ウルダハ出身の隊長さんが率いる一隊でね。 辺境に赴いての資源調査を、おもな任務としているらしいの。 ウチで紹介できるのは、冒険者としての経験も豊富なキミだけ! めったに行けない秘地を探査する、またとない機会だけど・・・・・・ 同時に、命の危険が伴う仕事でもあるわ。 受ける覚悟があるなら、「リネット」から身元保証書を受け取って!」 採掘師ギルドのリネットと話す 採掘師ギルド受付 リネット 「ついに、イシュガルドにまでご活躍の舞台を広げられるんですね! 身元保証書のほうは、すでに用意してあります。 紹介先は、大貴族お抱えの傭兵団だということです。 その封書を、イシュガルドのフォルタン伯爵邸にて、 「フォルタン家の騎士」様にお渡しください! あなたの一層のご活躍、期待してます!」 イシュガルドのフォルタン家の騎士に採掘師ギルドの封書を渡す フォルタン家の騎士 「む・・・・・・私に用件でも?」 (採掘師ギルドの封書を渡す) フォルタン家の騎士 「そうか、傭兵団が探している採掘の専門家か。 ふむ、なるほど・・・・・・実績など申し分ないようだな! さっそく派遣先の隊長と会えるよう、手配しておこう。 我があるじ、フォルタン伯爵は、合理的な考えをなさる方でな。 旗下に異邦の傭兵団を抱え、外地での経験や知見を活用しておる。 純血を是とする我が国にあっては、珍しいことだ。 君に紹介する「迅風傭兵団」も、そのひとつだ。 忘れられた騎士亭にて、「ハイムリック」隊長と会うがよい。 君の力を必要としているのは、その男だ!」 忘れられた騎士亭のハイムリックと話す (クエスト進行前) ハイムリック 「「迅風傭兵団」のハイムリックってモンだ。 見てのとおり、ここイシュガルドの出身じゃねえが、 外地での経験を買われて、フォルタン家の旦那に雇われてるのさ。」 ハイムリック 「Nikuq Niuniu君だな? 待っていたよ、「迅風傭兵団」のハイムリックだ。 オレが率いる一隊は、資源調査がおもな任務・・・・・・。 ドラゴン族の首を獲るような武功とは、無縁の裏方だよ。 だが、長期にわたる継戦には、不可欠な役割という矜持をもって、 この仕事をやらせてもらっているよ。 フォルタン家の旦那は、オレたち「迅風」の傭兵に、 指揮権を含む、かなりの裁量を認めている。 専門家である君にも、任務中はオレの指示に従ってもらう。 むろん、採掘師に交戦を命じるようなことはないが、 自分自身の身を守る必要は、イヤでも生じるだろう。 覚悟してくれ。」 ひなチョコ 「ヘヘッ! 資源の眠る秘境ともなれば、野生の凶獣もいっぱい出るっすよ。 泣きべそかいて逃げ出さなきゃいいけど!」 ハイムリック 「・・・・・・すまん、こいつはオレの隊の若造でな。 ご覧のとおり、口のきき方も知らん半人前。 渾名は「ひなチョコ」、まだ卵の殻も取れん未熟者だ。」 ひなチョコ 「うぅ・・・・・・ウチの隊は、なぜか渾名で呼びあう伝統なんすよ。 そうだ、この専門家先生にも、渾名をつけてあげないと! 何がいいかな・・・・・・うーん、そのまんま「先生」とか・・・・・・?」 ハイムリック 「・・・・・・「先生」か、悪くないな。 現在、我が隊は、次の任務まで待機中だ。 出動の際は、ここで通達する・・・・・・よろしくな、先生!」 ハイムリック 「・・・・・・おお、先生か! いろいろ世話になっちまうが、どうかよろしくな。」 アダルベルタ 「あたしの紹介した傭兵団とは、うまくやってるようね! キミ、あちらじゃ「先生」って呼ばれてるんだって? あたしたちは岩を削ったり掘ったりしてるだけなのに、 彼らにとって、あたしたち専門家は「先生」なんだねえ・・・・・・。 これからもキミのみやげ話、楽しみにしているよ!」 採掘師ギルドの封書:アダルベルタが記した身元保証書が入った封書
https://w.atwiki.jp/fantastical_world/pages/592.html
『マイスナーとの対話、そして決裂』 マイスナーの足止めをアインシュナットに任せ、 ユグドラシル首都ファンタズムに帰還し親衛隊であるラウンズと合流したアーサーは、 戦力の拡充と並ぶもう一つの目的を果たすために皇帝府『エルネセウム』の地下宝物庫へと向かった。 もう一つの目的――それはすなわち、皇帝の代理人を騙りユグドラシルの全てを手中に収めた男、 マイスナーの目的を明らかにし、彼の非道とアーサー達の知った真実を公表することで 国内のマイスナーの支持を一気に失墜させるとともに、自らの正当性を知らしめることであった。 仮に空からの脅威を説いても、国民がマイスナーを支持する恐れもあったし、 数々の非道も確たる証拠が無ければモンモラスの暴走という形で言い逃れられる可能性も強かった。 そのため、命令書あるいは書簡といったマイスナーの悪行を証明する物が必要だったのである。 王城の警護兵を無力化し、騎士団長ヘンリックを伴い宝物庫の奥に作られた摂政の私室へと王は向かう。 そこに待ち受けていたのは―― まるで旧友との再会を待っていたかのごとく、寛いだ様子の簒奪者の姿であった。 「何故貴様がここにいる、マイスナー! アインシュナットは……!?」 「ああ、あいつか? 手強かったが、所詮は我の敵ではない。 もっとも、さすがに生け捕りにするのは骨が折れたが。」 「……では、彼はまだ生きているのか?」 「ああ。最初は反乱軍の頭目としてギロチンにでもかけるつもりだったが、 記憶を読んで色々と面白いことがわかってな。 それで気が変わって、お前達が軍と遊んでいる間にここに来て待っていたのだ。 貴様とゆっくり話をするためにな」 「何を今更!」 「まあ聞け。確かに貴様が言っていた空からの脅威というやつは事実だったようだ。 だが、ここまで来た戦い止めることはできん。 ソレグレイユにも面子はあるだろうから、和議など応じまい。 それに何より、お前の大好きな国民が許さんよ。」 「今のソレグレイユはそうかもしれない。国民もだ。 だが、彼らもやがて気づくはずだ。この戦いが誰の欲望により始まったかを!」 「まだ気づかないのか! 民衆は獣だ! 権力者が餌を与えさえすれば正義も悪もなく尻尾を振る家畜だ!」 「違う、人間の叡智はそんなものではない! 今は無理でも、いつか解りあえる!」 「自らを崇高な存在だと規定するその傲慢が、ジャジメントデイを引き起こしたと何故気づかない!? 民衆は正しい指導者に導かれねば、自らの手で自分達を食い潰すぞ!」 ……これで最後だ、アーサー。我に従え。 神輿として担がれるのを是とするならこれまでのいきさつは水に流そう。 無論、アインシュナットの命は助ける」 「……断る。お前は、自分の目的のためなら平気で他人を犠牲にする男だ。 父は言っていた。王とは、国民全てを守る騎士だと。 万人が幸せに明日を迎えるためだけに王が自らの全てを捧げるからこそ、 人々もまた王のために剣を抜き、王のために自らを捧げるのだ! 私利私欲のために国民を戦いに駆り立て、今尚人々を欺く貴様に王の資格は無い、マイスナー!!」 「……それが回答か。ならば、我らは永久に解りあえないようだな……。 もう、貴様の顔を見ることも無かろう。さらばだ、万人の騎士よ」 「待て、マイスナー!……なんだ、この魔力は!?」 「我は反乱軍の鎮圧の指揮をとる。後は任せた、バーサーカー。 ……と言っても、もう言葉は理解できんのだったな。 フフ……ハハハハハ!」 era3 ユグドラシル 事件
https://w.atwiki.jp/trinity_kristo/pages/441.html
ヒゼキヤの治世において特筆すべきなのは、地下水路の開発である。ユダ王国は四方を山に囲まれており、防御は非常に堅かったが、兵糧攻めや断水といった手段をとられると弱かった。このため、ヒゼキヤは広大な地下水路を開削させ、恒常的な飲料水の確保に成功する。この水路は現在も残っており、「ヒゼキヤの泉」と呼ばれる。泉には当時の碑文も残されており、これが古代アラム語の解読に貢献した「シロアム碑文」である。 聖書の以下の部分を証明してると考えられている。 列王記下20 20 ヒゼキヤの他の事績、彼の功績のすべて、貯水池と水道を造って都に水を引いたことは、『ユダの王の歴代誌』に記されている。 歴代誌下32 2-4 ヒゼキヤは、センナケリブが来て、エルサレム攻略を目指しているのを見ると、将軍や勇士たちと協議し、町の外にある泉の水をせき止めることにした。彼らは王を支持した。多くの民が集まり、そのすべての泉と、この地を流れる谷川をせき止め、「アッシリアの王が来るとき、豊富な水を得させてはならない」と言った。 内容 はじめ、刻銘が堆積物のために読めなかったので、Archibal Sayce教授はまず暫定帝な読み方を作り、それから文章を酸で加工処理して洗浄し、より読みやすくした。この刻銘は6行含んでおり、第1行が損傷を受けている。単語はドットで区切られている。3行目に出てくるzadaという単語だけが、翻訳の観点から疑問の余地のあるものである。 ... そのトンネル ... そしてこれがそのトンネルの物語である、 ... の間 それらの斧は互いに反対にあり、(切るために?)3キュビットが残されている間 ... 人の声 ... 彼の片割れを読んだ、(なぜなら)その岩の中にZADAがあり、その右側に ... そしてその日、 (完成されている)トンネルの日に、石切り工は彼の片割れに向かってそれぞれの人に打った、それは斧と プールへの源泉からの洪水に対する斧である。そのプールは1200キュビット、そして(100?) キュビットが石切り工の頭を超えた高さであった ... https //en.wikipedia.org/wiki/Siloam_inscription