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「航空自衛隊を元気にする10の提言」×3 田母神俊雄 平成16年3月 航空自衛隊を元気にする10の提言 パートII おわりに 1991年の湾岸戦争の時、私は防衛研究所の一般課程の学生であった。この課程における森繁弘元統幕議長の講義で私はPKOとかPMOとかの言葉を初めて知った。当時はこれらの言葉が自衛隊の中でも出始めたばかりの頃であり、まさかこの年にペルシャ湾に掃海艇が派遣され、翌年に自衛隊がPKOに派遣されるとは思っていなかった。1992年9月自衛隊創設以来初めて陸上自衛隊施設部隊が他国の領土であるカンボジアに派遣されることとなった。その後ルワンダ、モザンビークへの部隊派遣を経て、現在でもゴラン高原と東チモールのPKOに自衛隊が派遣されている。まして自衛隊が今のようにインド洋やイラクまで派兵されることなど思いもよらなかった。 当時は防衛庁の内局や各幕の仕事は防衛力整備がほとんどであり、部隊運用が話題になることもなかった。現在との比較でいえば自衛隊が働く時代ではなかったのだ。従って内局の関心も自衛隊をいかに管理しておくかが関心事であったと思う。おとなしく礼儀正しい自衛隊がそれまでの我が国の求める自衛隊だったのだと思う。自衛官は自衛官である前に立派な社会人たれなどという言葉が象徴的にそれを言い表している。東西冷戦構造が壊れたばかりの時期であったが、それまでは自衛隊も米国を中心とする西側の抑止戦略の一端を担っていた。抑止戦略の中では軍としての形が立派なものであれば中身はあまり重要ではない。見かけが重要である。最先端の戦闘機やミサイルシステムなどを保有していればそれが大きな抑止力になる。いわゆる張り子の虎でもよかったのである。 しかし自衛隊が働く時代になってくるとそれだけでは困るのである。自衛隊は形だけではなく一旦国の命令が下れば的確に行動し勝利を収めることが必要となる。我々自衛官は今、精強な部隊を造ることに、より一層努力しなければならない。仏造って魂入れずになってはいけないのである。ここ10年間の自衛隊の海外派遣を巡る動きを見ると、あっという間に進んだというのが実感である。次の10年の変化はもっと早いかもしれない。その速い動きに追随するためには自衛隊が元気であることが大切である。元気がなければ積極進取の気風も隊員の任務にかける情熱も生まれない。これまではおとなしい礼儀正しい自衛隊であれば十分であったが、これからは腕白でもいい、逞しいといわれる自衛隊に脱皮する必要がある。 昨年は我が国においても、ようやく有事関連法案が成立した。その内容が不十分であるとかいろんな批判はあるが、いままでゼロであったところにいわゆる有事法制の形が出来たのだから、これまで永年にわたりその成立に努力された諸先輩始め関係者の皆さんには頭が下がる思いがする。また3自衛隊の統合運用についても平成17年度末を目途に態勢の整備が鋭意進められている。米国やNATO諸国に遅れること約15年の我が国の統合運用のスタートである。いよいよ自衛隊が働く時代がやってくる。その時自衛隊は伸び伸びしていなければならない。精神的に萎縮していては戦いに勝つことは出来ない。各級指揮官は自分の部隊を伸び伸びと元気にしておくことが必要である。 以上述べてきた10の提言がそのための何らかの参考になれば幸いである。指揮官は部下から見て「さすが、強い、頼もしい」と言われる存在でなければならない。部隊は正に指揮官によって決まる。それは貴君の双肩に懸かっている。 (引用者注)太字は引用者による 目次に戻る
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「NHKにんげんドキュメント・補給仕官と向き合う」 BGM:中島みゆき「地上の星」 ナレーション:田口トモロヲ 鈴木さん:F世界の入植最初期から補給所に長く勤める。 現地の人手不足から復興支援と現地運営も兼任し F世界に日本の基盤を築く礎となった。 補給仕官の朝は、早い。 「陸自で体動かすより、書類書いてる方が向いてたんですね」 補給仕官の鈴木さんは手元の書類を確認しながら言った。 鈴木さんは今日も電話を片手にキーボードを叩く。 まず、書類の入念なチェックから始まる。 用途が怪しいもの、不明な書類は線を入れて弾く。 直接陳情をしに来た専任陸曹や一尉と対面し舌戦を繰り広げ、 無理な作戦をたてようとする連隊参謀に書類を突きつける。 「参謀は戦略を語り、専任仕官は現場を語り、補給仕官は現実を語ります。 上と下のすりあわせが大事なんです」 ドケチと呼ばれても構わない。 物資には国民の血税が使われているのだ。 米の一粒たりとも無駄には出来ない。 最近はトラックが足りないと口をこぼした。 「やっぱり一番嬉しいのは皆さんが補給貰って喜ぶ顔ね。この仕事続けてよかったと思う」 「機械だけでは突発的なトラブルは対応できない。人間だから出来る仕事があるんです」 「機械が幾ら進化したってコレだけは真似できないんですよ」 視察の日。彼はファイルを鞄に詰め、補給基地へ向かった。 物資の輸送はコンテナが主流だ。 一口にコンテナといっても冷蔵専用コンテナやタンクコンテナなど多種多様であり、 取り扱いにも気をつけなくてはいけない。 「上の意見を現場に理解させるのは大変だね。その逆もだけどさ」 作業監督に直接荷物の中身を説明してどうやって扱うのか注意を促す。 「辛いのは軍機で中身が説明できない時だね。 中を説明できないから作業員に納得して 働いてもらえないし、荷物の扱いもぞんざいになる。 そういうのに限って中は取り扱いが難しいものなんだ」 ガントリークレーンや工作機械の改良で作業は自動化したとはいえ、 結局関わるのは人間なのだと鈴木さんは言った。 「コンテナ一つに人の生活、命も掛かっているからね。大事にしないと」 輸送科の大谷さんとはもう10年の付き合いになる。 「0304号車のサスがヘタレた?回収車と代替廻せるから復旧まで3時間は掛かるか。 タングステン砲弾?輸送用のパレットと弾は此方にあるから次のサイクルで載せる。36時間」 大谷さんの手に掛かれば、聞くだけで到着時間が判ってしまう。 しかも積み込みや復旧時間全て込みで。 判断は速く正確で素人に真似のできる事ではない、匠の技である。 「運転だけ出来てもね。車種による車幅の微妙な違いとか 他社の輸送ルートや運転時間を理解してなきゃいけない」 「たいていの若い人はすぐやめちゃうんですよ。 弾を撃つため自衛隊に入ったとか、イメージと違うとか、話が違うとか その癖レジスタンスに襲われると真っ先に逃げ出す。 輸送任務は増えています。でもそれを乗り越えられる奴は少ない そうゆう根性のある奴がこれからの輸送科に必要とされています」 目下の問題は人材育成と人手不足である。 大型免許を持っているだけでは現場の役に経たないと彼は話した。 20年前はがらんどうだった補給科の事務所が 今では大量の機材が運び込まれ拡張されている。 数年前までは有事になることすら考えられなかった。 「輸送の手間は減ったのに扱う量は増えるばかりですよ。 物資が増えたのは機械化が進んだのと隣国がきな臭いせいですかね」 部隊の状況と輸送力のバランスを考え配分物資量を計算する。 問題は物品の種類と量。 一度に運ぶ種類が多いと輸送効率が下がり、少なすぎても現場での作業に支障をきたす。 「船や列車の輸送が足りないと知っていても放り出す訳にはいかないんですよ。 移動が止まれば組織は死にます。それは自衛隊も民間も同じです」 現場では常にあらゆる物資が必要とされている。 その中から必要なものを抽出し、上限の決まった輸送力を使う。 この見極めが難しいのだと鈴木さんは語った。 現地の輸送状況を聞く。 この報告で輸送計画はガラリと変わってしまう。 重要なのが港の積み下ろしとそこからの輸送である。 後方での輸送は現地ゲリラや輸送路妨害を気にしなくていい分輸送は容易だ。 民間の協力も仰げ、道路や施設も整備されているためである。 道一つとっても大陸では10tトラックが何台も走れる道路や橋は限られている。 中世レベルの文明の道路ではさほど重量物が通ることが考慮されていないからである。 他にも問題はあった。 港での積み下ろし作業と荷物確認、現地業者とのすり合わせや盗賊対策である。 輸送時間の大部分が移動と安全対策に使われる。 これまでは港でのコンテナ内の物資確認のためコンテナをひとつひとつ開封して調べていた。 コンテナの鍵を開け中の物資と個数を確認する。それを日に何百回と行っていた。 当然作業には時間が掛かりいくらあっても人手は足りない。 だが積み下ろし作業は中断できない。 そのため港や海岸には大量の未開封コンテナが並べられ、中の物資を腐らせていた。 そういったことが昔はあったのである。 そこで生み出されたのがRFIDの本格的な導入である。 コンテナに無線タグを取り付け、開封せずとも中を確認できるようにしたのである。 更に後方で各科別や作業段階別、仕事ごとに応じて一つのコンテナに複数種の物資を入れたのである。 各作業段階で設けられた重量確認と交通要所別に設けられたIDチェッカーにより 不良在庫は劇的に減った。 「物資が届かないと困るのは私だけど、現場の人にとっては死活問題だね」 「もちろん輸送される物資はコンテナひとつまで私が確認していますよ」 パソコン画面にはトラックのナビゲーションと道路状況、ID表示が映っている。 「この仕事を始めたばかりのときは情報の多さに混乱しましたよ。 でも現地の状況を見て、自分はしっかりしなきゃいけないと思いました。 あの厳しい光景が目に焼きついたからこそ今の自分が居るんです」 鈴木さんが陸自の普通科から補給科に入ったルーツは意外なところにありました。 「現地では常に物が足りないんです。あの時車両の交換部品があれば撤退出来た。 いえ、62式の弾がもう少しあれば持ちこたえる事が出来た。 私達にはほんの少し物資が足りなかったのです」 彼はしばしば昔の仲間が眠る地へ向かう。 部署が変わっても前線の専任陸曹や一尉に学ぶことも多いとか。 部隊の視察をしようと輸送科について行った先で王国残党ゲリラに襲撃され 撃たれそうになることもしばしば。 近年は新たな問題も持ち上がってきている。 RFIDが導入され遅延や間違いが前より少なくなって届くようになった。 しかし、たとえ部隊に物資を満載したコンテナが届いても そこから更に個々の兵士たちの手にどうやって渡すのか。 結局はひとつひとつ開封してコンテナを確認しなくてはならなくなった。 大まかな物資配分はRFIDがある。 物品の大量輸送はコンテナが勝る。 しかし個々の物品配分に関しては個別輸送に軍配が上がる。 個別輸送の配分性とコンテナの大量輸送を備えた輸送パレットの開発は 多くの補給士官たちの頭を悩ませてきた。 その究極の選択に、今再び―― 現代の匠が挑もうとしている。 「禿げ隠しですよ」 彼はそう言いながら帽子を脱いだ。 円形脱毛症。日頃の補給業務の厳しさとストレスを物語る。 「職業病ですね」 補給仕官にとって物流機材や物資以外に 各部署の担当の性格や状況を把握しておくのは義務であり、また責任なのだ。 ある日、彼は何気なく大手通信販売、密林の特集を見ていた。 バラバラに棚に並べられた商品。棚ごとに設置されたコード。 「これだ」 棚ごとに番号を割り振り、一区切りごとに管理する。 開いた棚には順次物資を詰めスペースの無駄をなくす。 バラバラになった物資の管理は棚に割り振った番号で管理し、 棚間移動の手間はコンピューターが最短ルートを計算する。 新型輸送コンテナの試作が始まった。 コンテナ内に複数の棚を設け、輸送の際に中身がずれないよう コンテナサイズを調整し規格化した。 コンテナ内部のスペースを一杯に使え、なおかつ取り出しやすいよう 棚をレールスライド式にした。 使用後の空になった棚を回収できるように棚を折りたたみ式にし 棚とコンテナを別の区分とした。 確かに「即使用できる棚」を設けることで 現地の兵士たちがコンテナを回収してひとつひとつ中を見て回る手間は減った。 しかしこのアイディアには欠陥があった。 コンテナサイズを規格化を徹底しすぎた為に過剰包装が出ることになったのだ。 通常、一つの棚ごとに一つのコードが割り振られ一つのコンテナが用意される。 その中には大小様々な製品が入る。 そのため出荷段階での倉庫内の無駄は少ない。 だが輸送段階になると包装に無駄が出た。 例えばA5サイズのソフトカバーの単行本一冊があったとする。 これを段ボールの台紙を当ててビニールパックを施し 更にほんの2倍の大きさがある段ボール箱に入って送られるといった問題が発生した。 本自体の厚さは2センチ、段ボールの厚さは7センチ。 つまり、この箱には同じ本が6冊は入る計算になる。 たかだかソフトカバーの単行本1冊に段ボール箱は必要ない。 これは明らかに過剰包装であった。 鈴木は愕然とした。 これは包装容器のサイズを常にある程度の余裕を持つように規格化したことからきている、 サイズ別に別個の包装をするのは包装の生産ラインと資源の無駄だからである。 同じ包装は使いまわせるという利点もあったからだ。 箱に余裕があると余計に詰め込むことが出来、 空間には綿を詰めれば箱の中のずれが解決できるためである。 包装は3つの段階に分かれている 1:ビニールパックに入れる・・・傷からの保護 2:段ボールの台紙を当てる・・・より大きい傷からの保護 3:2倍の大きさがある段ボール箱に入れる・・・発見率向上のため。 本来1又は2の段階で輸送されることが理想であったのだが、 コンテナ内に複数種の製品を入れ輸送するに当たり、小さな製品には3が必要となった。 すなわち小さな製品は発見しにくいのである。 旧来では(例:本の専売)同サイズの同製品を同時に輸送することで 商品間の隙間をなくし、2と3の包装を省いていた。 問題に対しコンピューターへ製品ごとに縦横の幅を入れることで解決しようとした。 既にある程度の大きさ別や保存法別によるコンテナサイズの調整はやってしまっている。 それでも過剰包装は出る。 もう限界だ、プロジェクトに暗雲がたちこめた。 鈴木は一週間悩んだ。 しかし答えは出なかった。 その時だった。 輸送段階直前まで頑丈な箱が必要であり。 貰い手はそこまで頑丈な箱を必要としていない。 「なら箱から抜いて渡せばいいじゃないか」 逆転の、発想だった。 大中小の箱を用意し、似たサイズの製品を1又は2段階の包装で箱に詰めた。 それぞれの箱に商品リストを貼り付け、箱にそれぞれコードを振った。 棚を箱に置き換え、区域別に輸送することで解決した。 更に兵士たちへ旧来より性能の良い弾帯ベストを持つことを普及させた。 すなわち一定の物資を消費する傾向にある兵士たち 各個人が持てる保存容器を増やした。 過剰包装は減った。 こうして、遂に国からも、この計画にGOサインが出された。 「数年以内に状況を好転させてみせますよ。物資を待つ人が居るからね」 彼はそう言い笑った。 「たまにね、家族から手紙が届くんですよ。仕事が忙しくて本土まで 会いに行けないですけど。私には一番の補給物資です」 「他にも現地住民からわざわざ手紙が届くこともあるんですよ。 ありがとうって。ちょっと嬉しいです」 「入植初期は文化の違いや欠乏で散々でした」 魔法ゲリラが激化した○○年には一時期撤退も考えられたという。 ここ数年で飛躍的に増えた物資を管理するために鈴木さんは 数ヶ月前から整備され始めたインターネットを使った部隊別の個別管理を始めている。 スタッフは彼に現地住民との関係はどうだと聞いてみた。 「現地住民に仕事を任せているか?・・・ですか? 順次移行しようとも考えていますが当分はありません。社会システムが全く違う。 大陸は社会基盤がまだ確立してない。トータルで考えると此方の方が安く付きます」 「一度引退しようと考えたこともあるんです。 でもね、大陸の街を見ているとね。まだまだ飢餓や病気で苦しむ人たちが居る。 あれじゃ駄目だ!私ならもっと上手くやれるってね。 私を慕ってくれる多くの人達も居る。辞めなかったのは彼らのおかげです」 まだまだ必要とされている、それだけで彼は頑張れると言う。 近年、彼がしてきた長年の政策が実り日本国内の状況も改善してきている。 大陸の魔法技術と日本の技術者との仲介を行うのに忙しい。 全国からは魔物の生態に目を付けた科学者や企業などから依頼が殺到しているそうだ。 「現在30人体制で特許管理や技術提供の場を設けていますが 需要の急増に対して供給が追いついていない状況です」 と、嬉しい悲鳴をあげている。 今年の売上は10億新円を超える見込み。 日本本土の新聞でも取り上げられ、最近は自治も検討され始めている。 魔法を本土の人達に知ってもらおうと、安価なアーティファクトの提供も始めたそうだ。 最初は奇異の目で見られていたドワーフやダークエルフも日本の風景になじみ始めている。 海外でも貴族達の投資に注目されていると言う。 NHKスタジオ 「と言う訳でアーティファクトのゴーレムを用意してきました」 テーブルの上で手の平サイズの人型ゴーレムが動いた。 「モーターやエンジンなしに!?どうやって動いてるの!?」 「刻印だよ。魔力で動いてる」 ぱんつみたいだけど恥ずかしくないもん ぱんつの様な社章がトレードマークの名古屋市に本社を置く 山田工業所。 「いやはや、魔法刻印の再現に苦労しましたよ。刻む順番や使う金属が重要なんです」 苦労を語る山田さん。彼は○○年産業功労賞を受賞した。 手作業との決別。アーティファクトの生産を賭け、 ドワーフの伝統技術と日本の最先端技術が手を組んだ。 「戦車や戦闘機の装甲版には魔法刻印が刻まれるようになったんですよ」 将来の夢は何ですか? 「ストライクな魔法少女達を空に飛ばせるようになりたいですね」 ずれた眼鏡をなおしながら、 壁に貼られたポスターを見つめ真摯に語る彼の表情は職人のそれであった。 今、彼は新しい装備の研究をしている。 より使いやすく、より強力なエンジン。 「試行錯誤の連続ですね。 今朝、魔導エンジンの出力実験をしていたら実験場が吹き飛びましたよ」 「水冷式エンジンと合わせてみたら意外に相性が良くて、 アナログも捨てたものじゃないって思いましたね」 自分の作ったエンジンが日本の復興に使われ、かつての国の姿を取り戻す。 そうなるといいねと彼は笑った。 「○○年日本同時魔法テロの影響でもう工場は終わりかなと思っていました。 工場は全壊、従業員が全員無事だったことだけが救いでした。 明日から路頭に迷うことになる、私はエンジンを作ることしか知らない。 そんな私がどうやって家族を食べさせていけばいいのかと絶望していました。 その時、手を差し伸べてくれたのが鈴木さんです。彼には本当に感謝しています」 「自分達の魔法(技術)を使って大陸の魔法を見返してやろう」 「彼には励まされました。まだ全部無くなった訳じゃない。 人も希望も残っているってね。年甲斐もなく泣いちまいましたよ」 「魔法との融合が注目されている時代じゃないですか。。 魔法を科学技術と合わせる時にだからこそ 機械ではできない作業と機械作業を取り持つ職人技は必要になってくる」 最先端だからこそ活躍するアナログな職人。 かつての日本を取り戻したい、守りたい。 そんな思いが今日の日本人の力となっていると語った。 深夜2時、補給所の兵站管理部に突如異変が。 補給手順の変更。 決意を固めた部下達の報告を聞き、参謀本部の工藤さんは渋い表情を作った。 「時代が変わったんですね。 一方通行だった補給申請が現場からも行われるようになったんです。 現場主義の流れでしょうね。 でも大事なのは物資に限らず自衛官の命ですから。 これが我々のためになるなら老兵は身を引きます…」 飢餓、オイルショック、肥料の不足… 初期の混乱から立ち直りつつある日本。 その力はこうした人々の努力から産まれているのである。 一部輸出解禁に伴い、日本の中小企業の持つ圧倒的な品質を持つ製品に 海外の人々も目を付け始めた。 先日締結されたレンドリース法ではエルブ国に貸与されることが締結されたのも 日本製の剣や食料であり特に加工食品は 海外でカレーラーメンブームを巻き起こすほどである。 鈴木さんの事務所の部屋には12人分のヘルメットが立て掛けられている。 どれも綺麗に磨かれ埃ひとつない。 「かつてエルブ国は私達を助けてくれた。火事にホースを貸してくれた。 今度は此方が貸す番ですよ。困っている隣人にホースを貸したい。水には困らないように」 「いや~本当すごいですね」 「輸送ってこんなに手間かけてるんですね」 ライドナ王国軍に襲われた彼を助けたのは50年前のエルブ国であった。 エルブ国は食料と安心できる寝所の提供。安定した輸送路を保護した。 各種条約により飛躍的に日本の輸送は改善することになり国内問題も一応の安定を得た。 鈴木さんは異国で初めて食べたイケ麺(しょうゆ味)の味は忘れられないという。 日本のカレー、ラーメン、食べ物の相互理解はどれだけ時代が移り変わろうとも 変わらないもの、なのかもしれない…。 今日も彼は、日が昇るよりも早く書類の整理を始めた 明日も、明後日もその姿は変わらないだろう そう、補給仕官の朝は早い─── 輸送の歴史~補給仕官の朝~ 完
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「NHKにんげんドキュメント・補給仕官と向き合う」 BGM:中島みゆき「地上の星」 ナレーション:田口トモロヲ 鈴木さん:F世界の入植最初期から補給所に長く勤める。 現地の人手不足から復興支援と現地運営も兼任し F世界に日本の基盤を築く礎となった。 補給仕官の朝は、早い。 「陸自で体動かすより、書類書いてる方が向いてたんですね」 補給仕官の鈴木さんは手元の書類を確認しながら言った。 鈴木さんは今日も電話を片手にキーボードを叩く。 まず、書類の入念なチェックから始まる。 用途が怪しいもの、不明な書類は線を入れて弾く。 直接陳情をしに来た専任陸曹や一尉と対面し舌戦を繰り広げ、 無理な作戦をたてようとする連隊参謀に書類を突きつける。 「参謀は戦略を語り、専任仕官は現場を語り、補給仕官は現実を語ります。 上と下のすりあわせが大事なんです」 ドケチと呼ばれても構わない。 物資には国民の血税が使われているのだ。 米の一粒たりとも無駄には出来ない。 最近はトラックが足りないと口をこぼした。 「やっぱり一番嬉しいのは皆さんが補給貰って喜ぶ顔ね。この仕事続けてよかったと思う」 「機械だけでは突発的なトラブルは対応できない。人間だから出来る仕事があるんです」 「機械が幾ら進化したってコレだけは真似できないんですよ」 視察の日。彼はファイルを鞄に詰め、補給基地へ向かった。 物資の輸送はコンテナが主流だ。 一口にコンテナといっても冷蔵専用コンテナやタンクコンテナなど多種多様であり、 取り扱いにも気をつけなくてはいけない。 「上の意見を現場に理解させるのは大変だね。その逆もだけどさ」 作業監督に直接荷物の中身を説明してどうやって扱うのか注意を促す。 「辛いのは軍機で中身が説明できない時だね。 中を説明できないから作業員に納得して 働いてもらえないし、荷物の扱いもぞんざいになる。 そういうのに限って中は取り扱いが難しいものなんだ」 ガントリークレーンや工作機械の改良で作業は自動化したとはいえ、 結局関わるのは人間なのだと鈴木さんは言った。 「コンテナ一つに人の生活、命も掛かっているからね。大事にしないと」 輸送科の大谷さんとはもう10年の付き合いになる。 「0304号車のサスがヘタレた?回収車と代替廻せるから復旧まで3時間は掛かるか。 タングステン砲弾?輸送用のパレットと弾は此方にあるから次のサイクルで載せる。36時間」 大谷さんの手に掛かれば、聞くだけで到着時間が判ってしまう。 しかも積み込みや復旧時間全て込みで。 判断は速く正確で素人に真似のできる事ではない、匠の技である。 「運転だけ出来てもね。車種による車幅の微妙な違いとか 他社の輸送ルートや運転時間を理解してなきゃいけない」 「たいていの若い人はすぐやめちゃうんですよ。 弾を撃つため自衛隊に入ったとか、イメージと違うとか、話が違うとか その癖レジスタンスに襲われると真っ先に逃げ出す。 輸送任務は増えています。でもそれを乗り越えられる奴は少ない そうゆう根性のある奴がこれからの輸送科に必要とされています」 目下の問題は人材育成と人手不足である。 大型免許を持っているだけでは現場の役に経たないと彼は話した。 20年前はがらんどうだった補給科の事務所が 今では大量の機材が運び込まれ拡張されている。 数年前までは有事になることすら考えられなかった。 「輸送の手間は減ったのに扱う量は増えるばかりですよ。 物資が増えたのは機械化が進んだのと隣国がきな臭いせいですかね」 部隊の状況と輸送力のバランスを考え配分物資量を計算する。 問題は物品の種類と量。 一度に運ぶ種類が多いと輸送効率が下がり、少なすぎても現場での作業に支障をきたす。 「船や列車の輸送が足りないと知っていても放り出す訳にはいかないんですよ。 移動が止まれば組織は死にます。それは自衛隊も民間も同じです」 現場では常にあらゆる物資が必要とされている。 その中から必要なものを抽出し、上限の決まった輸送力を使う。 この見極めが難しいのだと鈴木さんは語った。 現地の輸送状況を聞く。 この報告で輸送計画はガラリと変わってしまう。 重要なのが港の積み下ろしとそこからの輸送である。 後方での輸送は現地ゲリラや輸送路妨害を気にしなくていい分輸送は容易だ。 民間の協力も仰げ、道路や施設も整備されているためである。 道一つとっても大陸では10tトラックが何台も走れる道路や橋は限られている。 中世レベルの文明の道路ではさほど重量物が通ることが考慮されていないからである。 他にも問題はあった。 港での積み下ろし作業と荷物確認、現地業者とのすり合わせや盗賊対策である。 輸送時間の大部分が移動と安全対策に使われる。 これまでは港でのコンテナ内の物資確認のためコンテナをひとつひとつ開封して調べていた。 コンテナの鍵を開け中の物資と個数を確認する。それを日に何百回と行っていた。 当然作業には時間が掛かりいくらあっても人手は足りない。 だが積み下ろし作業は中断できない。 そのため港や海岸には大量の未開封コンテナが並べられ、中の物資を腐らせていた。 そういったことが昔はあったのである。 そこで生み出されたのがRFIDの本格的な導入である。 コンテナに無線タグを取り付け、開封せずとも中を確認できるようにしたのである。 更に後方で各科別や作業段階別、仕事ごとに応じて一つのコンテナに複数種の物資を入れたのである。 各作業段階で設けられた重量確認と交通要所別に設けられたIDチェッカーにより 不良在庫は劇的に減った。 「物資が届かないと困るのは私だけど、現場の人にとっては死活問題だね」 「もちろん輸送される物資はコンテナひとつまで私が確認していますよ」 パソコン画面にはトラックのナビゲーションと道路状況、ID表示が映っている。 「この仕事を始めたばかりのときは情報の多さに混乱しましたよ。 でも現地の状況を見て、自分はしっかりしなきゃいけないと思いました。 あの厳しい光景が目に焼きついたからこそ今の自分が居るんです」 鈴木さんが陸自の普通科から補給科に入ったルーツは意外なところにありました。 「現地では常に物が足りないんです。あの時車両の交換部品があれば撤退出来た。 いえ、62式の弾がもう少しあれば持ちこたえる事が出来た。 私達にはほんの少し物資が足りなかったのです」 彼はしばしば昔の仲間が眠る地へ向かう。 部署が変わっても前線の専任陸曹や一尉に学ぶことも多いとか。 部隊の視察をしようと輸送科について行った先で王国残党ゲリラに襲撃され 撃たれそうになることもしばしば。 近年は新たな問題も持ち上がってきている。 RFIDが導入され遅延や間違いが前より少なくなって届くようになった。 しかし、たとえ部隊に物資を満載したコンテナが届いても そこから更に個々の兵士たちの手にどうやって渡すのか。 結局はひとつひとつ開封してコンテナを確認しなくてはならなくなった。 大まかな物資配分はRFIDがある。 物品の大量輸送はコンテナが勝る。 しかし個々の物品配分に関しては個別輸送に軍配が上がる。 個別輸送の配分性とコンテナの大量輸送を備えた輸送パレットの開発は 多くの補給士官たちの頭を悩ませてきた。 その究極の選択に、今再び―― 現代の匠が挑もうとしている。 「禿げ隠しですよ」 彼はそう言いながら帽子を脱いだ。 円形脱毛症。日頃の補給業務の厳しさとストレスを物語る。 「職業病ですね」 補給仕官にとって物流機材や物資以外に 各部署の担当の性格や状況を把握しておくのは義務であり、また責任なのだ。 ある日、彼は何気なく大手通信販売、密林の特集を見ていた。 バラバラに棚に並べられた商品。棚ごとに設置されたコード。 「これだ」 棚ごとに番号を割り振り、一区切りごとに管理する。 開いた棚には順次物資を詰めスペースの無駄をなくす。 バラバラになった物資の管理は棚に割り振った番号で管理し、 棚間移動の手間はコンピューターが最短ルートを計算する。 新型輸送コンテナの試作が始まった。 コンテナ内に複数の棚を設け、輸送の際に中身がずれないよう コンテナサイズを調整し規格化した。 コンテナ内部のスペースを一杯に使え、なおかつ取り出しやすいよう 棚をレールスライド式にした。 使用後の空になった棚を回収できるように棚を折りたたみ式にし 棚とコンテナを別の区分とした。 確かに「即使用できる棚」を設けることで 現地の兵士たちがコンテナを回収してひとつひとつ中を見て回る手間は減った。 しかしこのアイディアには欠陥があった。 コンテナサイズを規格化を徹底しすぎた為に過剰包装が出ることになったのだ。 通常、一つの棚ごとに一つのコードが割り振られ一つのコンテナが用意される。 その中には大小様々な製品が入る。 そのため出荷段階での倉庫内の無駄は少ない。 だが輸送段階になると包装に無駄が出た。 例えばA5サイズのソフトカバーの単行本一冊があったとする。 これを段ボールの台紙を当ててビニールパックを施し 更にほんの2倍の大きさがある段ボール箱に入って送られるといった問題が発生した。 本自体の厚さは2センチ、段ボールの厚さは7センチ。 つまり、この箱には同じ本が6冊は入る計算になる。 たかだかソフトカバーの単行本1冊に段ボール箱は必要ない。 これは明らかに過剰包装であった。 鈴木は愕然とした。 これは包装容器のサイズを常にある程度の余裕を持つように規格化したことからきている、 サイズ別に別個の包装をするのは包装の生産ラインと資源の無駄だからである。 同じ包装は使いまわせるという利点もあったからだ。 箱に余裕があると余計に詰め込むことが出来、 空間には綿を詰めれば箱の中のずれが解決できるためである。 包装は3つの段階に分かれている 1:ビニールパックに入れる・・・傷からの保護 2:段ボールの台紙を当てる・・・より大きい傷からの保護 3:2倍の大きさがある段ボール箱に入れる・・・発見率向上のため。 本来1又は2の段階で輸送されることが理想であったのだが、 コンテナ内に複数種の製品を入れ輸送するに当たり、小さな製品には3が必要となった。 すなわち小さな製品は発見しにくいのである。 旧来では(例:本の専売)同サイズの同製品を同時に輸送することで 商品間の隙間をなくし、2と3の包装を省いていた。 問題に対しコンピューターへ製品ごとに縦横の幅を入れることで解決しようとした。 既にある程度の大きさ別や保存法別によるコンテナサイズの調整はやってしまっている。 それでも過剰包装は出る。 もう限界だ、プロジェクトに暗雲がたちこめた。 鈴木は一週間悩んだ。 しかし答えは出なかった。 その時だった。 輸送段階直前まで頑丈な箱が必要であり。 貰い手はそこまで頑丈な箱を必要としていない。 「なら箱から抜いて渡せばいいじゃないか」 逆転の、発想だった。 大中小の箱を用意し、似たサイズの製品を1又は2段階の包装で箱に詰めた。 それぞれの箱に商品リストを貼り付け、箱にそれぞれコードを振った。 棚を箱に置き換え、区域別に輸送することで解決した。 更に兵士たちへ旧来より性能の良い弾帯ベストを持つことを普及させた。 すなわち一定の物資を消費する傾向にある兵士たち 各個人が持てる保存容器を増やした。 過剰包装は減った。 こうして、遂に国からも、この計画にGOサインが出された。 「数年以内に状況を好転させてみせますよ。物資を待つ人が居るからね」 彼はそう言い笑った。 「たまにね、家族から手紙が届くんですよ。仕事が忙しくて本土まで 会いに行けないですけど。私には一番の補給物資です」 「他にも現地住民からわざわざ手紙が届くこともあるんですよ。 ありがとうって。ちょっと嬉しいです」 「入植初期は文化の違いや欠乏で散々でした」 魔法ゲリラが激化した○○年には一時期撤退も考えられたという。 ここ数年で飛躍的に増えた物資を管理するために鈴木さんは 数ヶ月前から整備され始めたインターネットを使った部隊別の個別管理を始めている。 スタッフは彼に現地住民との関係はどうだと聞いてみた。 「現地住民に仕事を任せているか?・・・ですか? 順次移行しようとも考えていますが当分はありません。社会システムが全く違う。 大陸は社会基盤がまだ確立してない。トータルで考えると此方の方が安く付きます」 「一度引退しようと考えたこともあるんです。 でもね、大陸の街を見ているとね。まだまだ飢餓や病気で苦しむ人たちが居る。 あれじゃ駄目だ!私ならもっと上手くやれるってね。 私を慕ってくれる多くの人達も居る。辞めなかったのは彼らのおかげです」 まだまだ必要とされている、それだけで彼は頑張れると言う。 近年、彼がしてきた長年の政策が実り日本国内の状況も改善してきている。 大陸の魔法技術と日本の技術者との仲介を行うのに忙しい。 全国からは魔物の生態に目を付けた科学者や企業などから依頼が殺到しているそうだ。 「現在30人体制で特許管理や技術提供の場を設けていますが 需要の急増に対して供給が追いついていない状況です」 と、嬉しい悲鳴をあげている。 今年の売上は10億新円を超える見込み。 日本本土の新聞でも取り上げられ、最近は自治も検討され始めている。 魔法を本土の人達に知ってもらおうと、安価なアーティファクトの提供も始めたそうだ。 最初は奇異の目で見られていたドワーフやダークエルフも日本の風景になじみ始めている。 海外でも貴族達の投資に注目されていると言う。 NHKスタジオ 「と言う訳でアーティファクトのゴーレムを用意してきました」 テーブルの上で手の平サイズの人型ゴーレムが動いた。 「モーターやエンジンなしに!?どうやって動いてるの!?」 「刻印だよ。魔力で動いてる」 ぱんつみたいだけど恥ずかしくないもん ぱんつの様な社章がトレードマークの名古屋市に本社を置く 山田工業所。 「いやはや、魔法刻印の再現に苦労しましたよ。刻む順番や使う金属が重要なんです」 苦労を語る山田さん。彼は○○年産業功労賞を受賞した。 手作業との決別。アーティファクトの生産を賭け、 ドワーフの伝統技術と日本の最先端技術が手を組んだ。 「戦車や戦闘機の装甲版には魔法刻印が刻まれるようになったんですよ」 将来の夢は何ですか? 「ストライクな魔法少女達を空に飛ばせるようになりたいですね」 ずれた眼鏡をなおしながら、 壁に貼られたポスターを見つめ真摯に語る彼の表情は職人のそれであった。 今、彼は新しい装備の研究をしている。 より使いやすく、より強力なエンジン。 「試行錯誤の連続ですね。 今朝、魔導エンジンの出力実験をしていたら実験場が吹き飛びましたよ」 「水冷式エンジンと合わせてみたら意外に相性が良くて、 アナログも捨てたものじゃないって思いましたね」 自分の作ったエンジンが日本の復興に使われ、かつての国の姿を取り戻す。 そうなるといいねと彼は笑った。 「○○年日本同時魔法テロの影響でもう工場は終わりかなと思っていました。 工場は全壊、従業員が全員無事だったことだけが救いでした。 明日から路頭に迷うことになる、私はエンジンを作ることしか知らない。 そんな私がどうやって家族を食べさせていけばいいのかと絶望していました。 その時、手を差し伸べてくれたのが鈴木さんです。彼には本当に感謝しています」 「自分達の魔法(技術)を使って大陸の魔法を見返してやろう」 「彼には励まされました。まだ全部無くなった訳じゃない。 人も希望も残っているってね。年甲斐もなく泣いちまいましたよ」 「魔法との融合が注目されている時代じゃないですか。。 魔法を科学技術と合わせる時にだからこそ 機械ではできない作業と機械作業を取り持つ職人技は必要になってくる」 最先端だからこそ活躍するアナログな職人。 かつての日本を取り戻したい、守りたい。 そんな思いが今日の日本人の力となっていると語った。 深夜2時、補給所の兵站管理部に突如異変が。 補給手順の変更。 決意を固めた部下達の報告を聞き、参謀本部の工藤さんは渋い表情を作った。 「時代が変わったんですね。 一方通行だった補給申請が現場からも行われるようになったんです。 現場主義の流れでしょうね。 でも大事なのは物資に限らず自衛官の命ですから。 これが我々のためになるなら老兵は身を引きます…」 飢餓、オイルショック、肥料の不足… 初期の混乱から立ち直りつつある日本。 その力はこうした人々の努力から産まれているのである。 一部輸出解禁に伴い、日本の中小企業の持つ圧倒的な品質を持つ製品に 海外の人々も目を付け始めた。 先日締結されたレンドリース法ではエルブ国に貸与されることが締結されたのも 日本製の剣や食料であり特に加工食品は 海外でカレーラーメンブームを巻き起こすほどである。 鈴木さんの事務所の部屋には12人分のヘルメットが立て掛けられている。 どれも綺麗に磨かれ埃ひとつない。 「かつてエルブ国は私達を助けてくれた。火事にホースを貸してくれた。 今度は此方が貸す番ですよ。困っている隣人にホースを貸したい。水には困らないように」 「いや~本当すごいですね」 「輸送ってこんなに手間かけてるんですね」 ライドナ王国軍に襲われた彼を助けたのは50年前のエルブ国であった。 エルブ国は食料と安心できる寝所の提供。安定した輸送路を保護した。 各種条約により飛躍的に日本の輸送は改善することになり国内問題も一応の安定を得た。 鈴木さんは異国で初めて食べたイケ麺(しょうゆ味)の味は忘れられないという。 日本のカレー、ラーメン、食べ物の相互理解はどれだけ時代が移り変わろうとも 変わらないもの、なのかもしれない…。 今日も彼は、日が昇るよりも早く書類の整理を始めた 明日も、明後日もその姿は変わらないだろう そう、補給仕官の朝は早い─── 輸送の歴史~補給仕官の朝~ 完
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「NHKにんげんドキュメント・補給仕官と向き合う」 BGM:中島みゆき「地上の星」 ナレーション:田口トモロヲ 鈴木さん:F世界の入植最初期から補給所に長く勤める。 現地の人手不足から復興支援と現地運営も兼任し F世界に日本の基盤を築く礎となった。 補給仕官の朝は、早い。 「陸自で体動かすより、書類書いてる方が向いてたんですね」 補給仕官の鈴木さんは手元の書類を確認しながら言った。 鈴木さんは今日も電話を片手にキーボードを叩く。 まず、書類の入念なチェックから始まる。 用途が怪しいもの、不明な書類は線を入れて弾く。 直接陳情をしに来た専任陸曹や一尉と対面し舌戦を繰り広げ、 無理な作戦をたてようとする連隊参謀に書類を突きつける。 「参謀は戦略を語り、専任仕官は現場を語り、補給仕官は現実を語ります。 上と下のすりあわせが大事なんです」 ドケチと呼ばれても構わない。 物資には国民の血税が使われているのだ。 米の一粒たりとも無駄には出来ない。 最近はトラックが足りないと口をこぼした。 「やっぱり一番嬉しいのは皆さんが補給貰って喜ぶ顔ね。この仕事続けてよかったと思う」 「機械だけでは突発的なトラブルは対応できない。人間だから出来る仕事があるんです」 「機械が幾ら進化したってコレだけは真似できないんですよ」 視察の日。彼はファイルを鞄に詰め、補給基地へ向かった。 物資の輸送はコンテナが主流だ。 一口にコンテナといっても冷蔵専用コンテナやタンクコンテナなど多種多様であり、 取り扱いにも気をつけなくてはいけない。 「上の意見を現場に理解させるのは大変だね。その逆もだけどさ」 作業監督に直接荷物の中身を説明してどうやって扱うのか注意を促す。 「辛いのは軍機で中身が説明できない時だね。 中を説明できないから作業員に納得して 働いてもらえないし、荷物の扱いもぞんざいになる。 そういうのに限って中は取り扱いが難しいものなんだ」 ガントリークレーンや工作機械の改良で作業は自動化したとはいえ、 結局関わるのは人間なのだと鈴木さんは言った。 「コンテナ一つに人の生活、命も掛かっているからね。大事にしないと」 輸送科の大谷さんとはもう10年の付き合いになる。 「0304号車のサスがヘタレた?回収車と代替廻せるから復旧まで3時間は掛かるか。 タングステン砲弾?輸送用のパレットと弾は此方にあるから次のサイクルで載せる。36時間」 大谷さんの手に掛かれば、聞くだけで到着時間が判ってしまう。 しかも積み込みや復旧時間全て込みで。 判断は速く正確で素人に真似のできる事ではない、匠の技である。 「運転だけ出来てもね。車種による車幅の微妙な違いとか 他社の輸送ルートや運転時間を理解してなきゃいけない」 「たいていの若い人はすぐやめちゃうんですよ。 弾を撃つため自衛隊に入ったとか、イメージと違うとか、話が違うとか その癖レジスタンスに襲われると真っ先に逃げ出す。 輸送任務は増えています。でもそれを乗り越えられる奴は少ない そうゆう根性のある奴がこれからの輸送科に必要とされています」 目下の問題は人材育成と人手不足である。 大型免許を持っているだけでは現場の役に経たないと彼は話した。 20年前はがらんどうだった補給科の事務所が 今では大量の機材が運び込まれ拡張されている。 数年前までは有事になることすら考えられなかった。 「輸送の手間は減ったのに扱う量は増えるばかりですよ。 物資が増えたのは機械化が進んだのと隣国がきな臭いせいですかね」 部隊の状況と輸送力のバランスを考え配分物資量を計算する。 問題は物品の種類と量。 一度に運ぶ種類が多いと輸送効率が下がり、少なすぎても現場での作業に支障をきたす。 「船や列車の輸送が足りないと知っていても放り出す訳にはいかないんですよ。 移動が止まれば組織は死にます。それは自衛隊も民間も同じです」 現場では常にあらゆる物資が必要とされている。 その中から必要なものを抽出し、上限の決まった輸送力を使う。 この見極めが難しいのだと鈴木さんは語った。 現地の輸送状況を聞く。 この報告で輸送計画はガラリと変わってしまう。 重要なのが港の積み下ろしとそこからの輸送である。 後方での輸送は現地ゲリラや輸送路妨害を気にしなくていい分輸送は容易だ。 民間の協力も仰げ、道路や施設も整備されているためである。 道一つとっても大陸では10tトラックが何台も走れる道路や橋は限られている。 中世レベルの文明の道路ではさほど重量物が通ることが考慮されていないからである。 他にも問題はあった。 港での積み下ろし作業と荷物確認、現地業者とのすり合わせや盗賊対策である。 輸送時間の大部分が移動と安全対策に使われる。 これまでは港でのコンテナ内の物資確認のためコンテナをひとつひとつ開封して調べていた。 コンテナの鍵を開け中の物資と個数を確認する。それを日に何百回と行っていた。 当然作業には時間が掛かりいくらあっても人手は足りない。 だが積み下ろし作業は中断できない。 そのため港や海岸には大量の未開封コンテナが並べられ、中の物資を腐らせていた。 そういったことが昔はあったのである。 そこで生み出されたのがRFIDの本格的な導入である。 コンテナに無線タグを取り付け、開封せずとも中を確認できるようにしたのである。 更に後方で各科別や作業段階別、仕事ごとに応じて一つのコンテナに複数種の物資を入れたのである。 各作業段階で設けられた重量確認と交通要所別に設けられたIDチェッカーにより 不良在庫は劇的に減った。 「物資が届かないと困るのは私だけど、現場の人にとっては死活問題だね」 「もちろん輸送される物資はコンテナひとつまで私が確認していますよ」 パソコン画面にはトラックのナビゲーションと道路状況、ID表示が映っている。 「この仕事を始めたばかりのときは情報の多さに混乱しましたよ。 でも現地の状況を見て、自分はしっかりしなきゃいけないと思いました。 あの厳しい光景が目に焼きついたからこそ今の自分が居るんです」 鈴木さんが陸自の普通科から補給科に入ったルーツは意外なところにありました。 「現地では常に物が足りないんです。あの時車両の交換部品があれば撤退出来た。 いえ、62式の弾がもう少しあれば持ちこたえる事が出来た。 私達にはほんの少し物資が足りなかったのです」 彼はしばしば昔の仲間が眠る地へ向かう。 部署が変わっても前線の専任陸曹や一尉に学ぶことも多いとか。 部隊の視察をしようと輸送科について行った先で王国残党ゲリラに襲撃され 撃たれそうになることもしばしば。 近年は新たな問題も持ち上がってきている。 RFIDが導入され遅延や間違いが前より少なくなって届くようになった。 しかし、たとえ部隊に物資を満載したコンテナが届いても そこから更に個々の兵士たちの手にどうやって渡すのか。 結局はひとつひとつ開封してコンテナを確認しなくてはならなくなった。 大まかな物資配分はRFIDがある。 物品の大量輸送はコンテナが勝る。 しかし個々の物品配分に関しては個別輸送に軍配が上がる。 個別輸送の配分性とコンテナの大量輸送を備えた輸送パレットの開発は 多くの補給士官たちの頭を悩ませてきた。 その究極の選択に、今再び―― 現代の匠が挑もうとしている。 「禿げ隠しですよ」 彼はそう言いながら帽子を脱いだ。 円形脱毛症。日頃の補給業務の厳しさとストレスを物語る。 「職業病ですね」 補給仕官にとって物流機材や物資以外に 各部署の担当の性格や状況を把握しておくのは義務であり、また責任なのだ。 ある日、彼は何気なく大手通信販売、密林の特集を見ていた。 バラバラに棚に並べられた商品。棚ごとに設置されたコード。 「これだ」 棚ごとに番号を割り振り、一区切りごとに管理する。 開いた棚には順次物資を詰めスペースの無駄をなくす。 バラバラになった物資の管理は棚に割り振った番号で管理し、 棚間移動の手間はコンピューターが最短ルートを計算する。 新型輸送コンテナの試作が始まった。 コンテナ内に複数の棚を設け、輸送の際に中身がずれないよう コンテナサイズを調整し規格化した。 コンテナ内部のスペースを一杯に使え、なおかつ取り出しやすいよう 棚をレールスライド式にした。 使用後の空になった棚を回収できるように棚を折りたたみ式にし 棚とコンテナを別の区分とした。 確かに「即使用できる棚」を設けることで 現地の兵士たちがコンテナを回収してひとつひとつ中を見て回る手間は減った。 しかしこのアイディアには欠陥があった。 コンテナサイズを規格化を徹底しすぎた為に過剰包装が出ることになったのだ。 通常、一つの棚ごとに一つのコードが割り振られ一つのコンテナが用意される。 その中には大小様々な製品が入る。 そのため出荷段階での倉庫内の無駄は少ない。 だが輸送段階になると包装に無駄が出た。 例えばA5サイズのソフトカバーの単行本一冊があったとする。 これを段ボールの台紙を当ててビニールパックを施し 更にほんの2倍の大きさがある段ボール箱に入って送られるといった問題が発生した。 本自体の厚さは2センチ、段ボールの厚さは7センチ。 つまり、この箱には同じ本が6冊は入る計算になる。 たかだかソフトカバーの単行本1冊に段ボール箱は必要ない。 これは明らかに過剰包装であった。 鈴木は愕然とした。 これは包装容器のサイズを常にある程度の余裕を持つように規格化したことからきている、 サイズ別に別個の包装をするのは包装の生産ラインと資源の無駄だからである。 同じ包装は使いまわせるという利点もあったからだ。 箱に余裕があると余計に詰め込むことが出来、 空間には綿を詰めれば箱の中のずれが解決できるためである。 包装は3つの段階に分かれている 1:ビニールパックに入れる・・・傷からの保護 2:段ボールの台紙を当てる・・・より大きい傷からの保護 3:2倍の大きさがある段ボール箱に入れる・・・発見率向上のため。 本来1又は2の段階で輸送されることが理想であったのだが、 コンテナ内に複数種の製品を入れ輸送するに当たり、小さな製品には3が必要となった。 すなわち小さな製品は発見しにくいのである。 旧来では(例:本の専売)同サイズの同製品を同時に輸送することで 商品間の隙間をなくし、2と3の包装を省いていた。 問題に対しコンピューターへ製品ごとに縦横の幅を入れることで解決しようとした。 既にある程度の大きさ別や保存法別によるコンテナサイズの調整はやってしまっている。 それでも過剰包装は出る。 もう限界だ、プロジェクトに暗雲がたちこめた。 鈴木は一週間悩んだ。 しかし答えは出なかった。 その時だった。 輸送段階直前まで頑丈な箱が必要であり。 貰い手はそこまで頑丈な箱を必要としていない。 「なら箱から抜いて渡せばいいじゃないか」 逆転の、発想だった。 大中小の箱を用意し、似たサイズの製品を1又は2段階の包装で箱に詰めた。 それぞれの箱に商品リストを貼り付け、箱にそれぞれコードを振った。 棚を箱に置き換え、区域別に輸送することで解決した。 更に兵士たちへ旧来より性能の良い弾帯ベストを持つことを普及させた。 すなわち一定の物資を消費する傾向にある兵士たち 各個人が持てる保存容器を増やした。 過剰包装は減った。 こうして、遂に国からも、この計画にGOサインが出された。 「数年以内に状況を好転させてみせますよ。物資を待つ人が居るからね」 彼はそう言い笑った。 「たまにね、家族から手紙が届くんですよ。仕事が忙しくて本土まで 会いに行けないですけど。私には一番の補給物資です」 「他にも現地住民からわざわざ手紙が届くこともあるんですよ。 ありがとうって。ちょっと嬉しいです」 「入植初期は文化の違いや欠乏で散々でした」 魔法ゲリラが激化した○○年には一時期撤退も考えられたという。 ここ数年で飛躍的に増えた物資を管理するために鈴木さんは 数ヶ月前から整備され始めたインターネットを使った部隊別の個別管理を始めている。 スタッフは彼に現地住民との関係はどうだと聞いてみた。 「現地住民に仕事を任せているか?・・・ですか? 順次移行しようとも考えていますが当分はありません。社会システムが全く違う。 大陸は社会基盤がまだ確立してない。トータルで考えると此方の方が安く付きます」 「一度引退しようと考えたこともあるんです。 でもね、大陸の街を見ているとね。まだまだ飢餓や病気で苦しむ人たちが居る。 あれじゃ駄目だ!私ならもっと上手くやれるってね。 私を慕ってくれる多くの人達も居る。辞めなかったのは彼らのおかげです」 まだまだ必要とされている、それだけで彼は頑張れると言う。 近年、彼がしてきた長年の政策が実り日本国内の状況も改善してきている。 大陸の魔法技術と日本の技術者との仲介を行うのに忙しい。 全国からは魔物の生態に目を付けた科学者や企業などから依頼が殺到しているそうだ。 「現在30人体制で特許管理や技術提供の場を設けていますが 需要の急増に対して供給が追いついていない状況です」 と、嬉しい悲鳴をあげている。 今年の売上は10億新円を超える見込み。 日本本土の新聞でも取り上げられ、最近は自治も検討され始めている。 魔法を本土の人達に知ってもらおうと、安価なアーティファクトの提供も始めたそうだ。 最初は奇異の目で見られていたドワーフやダークエルフも日本の風景になじみ始めている。 海外でも貴族達の投資に注目されていると言う。 NHKスタジオ 「と言う訳でアーティファクトのゴーレムを用意してきました」 テーブルの上で手の平サイズの人型ゴーレムが動いた。 「モーターやエンジンなしに!?どうやって動いてるの!?」 「刻印だよ。魔力で動いてる」 ぱんつみたいだけど恥ずかしくないもん ぱんつの様な社章がトレードマークの名古屋市に本社を置く 山田工業所。 「いやはや、魔法刻印の再現に苦労しましたよ。刻む順番や使う金属が重要なんです」 苦労を語る山田さん。彼は○○年産業功労賞を受賞した。 手作業との決別。アーティファクトの生産を賭け、 ドワーフの伝統技術と日本の最先端技術が手を組んだ。 「戦車や戦闘機の装甲版には魔法刻印が刻まれるようになったんですよ」 将来の夢は何ですか? 「ストライクな魔法少女達を空に飛ばせるようになりたいですね」 ずれた眼鏡をなおしながら、 壁に貼られたポスターを見つめ真摯に語る彼の表情は職人のそれであった。 今、彼は新しい装備の研究をしている。 より使いやすく、より強力なエンジン。 「試行錯誤の連続ですね。 今朝、魔導エンジンの出力実験をしていたら実験場が吹き飛びましたよ」 「水冷式エンジンと合わせてみたら意外に相性が良くて、 アナログも捨てたものじゃないって思いましたね」 自分の作ったエンジンが日本の復興に使われ、かつての国の姿を取り戻す。 そうなるといいねと彼は笑った。 「○○年日本同時魔法テロの影響でもう工場は終わりかなと思っていました。 工場は全壊、従業員が全員無事だったことだけが救いでした。 明日から路頭に迷うことになる、私はエンジンを作ることしか知らない。 そんな私がどうやって家族を食べさせていけばいいのかと絶望していました。 その時、手を差し伸べてくれたのが鈴木さんです。彼には本当に感謝しています」 「自分達の魔法(技術)を使って大陸の魔法を見返してやろう」 「彼には励まされました。まだ全部無くなった訳じゃない。 人も希望も残っているってね。年甲斐もなく泣いちまいましたよ」 「魔法との融合が注目されている時代じゃないですか。。 魔法を科学技術と合わせる時にだからこそ 機械ではできない作業と機械作業を取り持つ職人技は必要になってくる」 最先端だからこそ活躍するアナログな職人。 かつての日本を取り戻したい、守りたい。 そんな思いが今日の日本人の力となっていると語った。 深夜2時、補給所の兵站管理部に突如異変が。 補給手順の変更。 決意を固めた部下達の報告を聞き、参謀本部の工藤さんは渋い表情を作った。 「時代が変わったんですね。 一方通行だった補給申請が現場からも行われるようになったんです。 現場主義の流れでしょうね。 でも大事なのは物資に限らず自衛官の命ですから。 これが我々のためになるなら老兵は身を引きます…」 飢餓、オイルショック、肥料の不足… 初期の混乱から立ち直りつつある日本。 その力はこうした人々の努力から産まれているのである。 一部輸出解禁に伴い、日本の中小企業の持つ圧倒的な品質を持つ製品に 海外の人々も目を付け始めた。 先日締結されたレンドリース法ではエルブ国に貸与されることが締結されたのも 日本製の剣や食料であり特に加工食品は 海外でカレーラーメンブームを巻き起こすほどである。 鈴木さんの事務所の部屋には12人分のヘルメットが立て掛けられている。 どれも綺麗に磨かれ埃ひとつない。 「かつてエルブ国は私達を助けてくれた。火事にホースを貸してくれた。 今度は此方が貸す番ですよ。困っている隣人にホースを貸したい。水には困らないように」 「いや~本当すごいですね」 「輸送ってこんなに手間かけてるんですね」 ライドナ王国軍に襲われた彼を助けたのは50年前のエルブ国であった。 エルブ国は食料と安心できる寝所の提供。安定した輸送路を保護した。 各種条約により飛躍的に日本の輸送は改善することになり国内問題も一応の安定を得た。 鈴木さんは異国で初めて食べたイケ麺(しょうゆ味)の味は忘れられないという。 日本のカレー、ラーメン、食べ物の相互理解はどれだけ時代が移り変わろうとも 変わらないもの、なのかもしれない…。 今日も彼は、日が昇るよりも早く書類の整理を始めた 明日も、明後日もその姿は変わらないだろう そう、補給仕官の朝は早い─── 輸送の歴史~補給仕官の朝~ 完
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115 :UNNAMED 360:2015/10/27(火) 18 55 53.84 ID IuJ20xJ9 56話 旅人 ジェイク・マイヤーの手記1 「ゴルグガニアが陥落したらしいぞ?」 とある国の小さな町の酒場で、そんな噂を耳にしたのが始まりだったのかもしれない。 開拓が進まず、寂れていった故郷の村を棄て、当ても無い放浪の旅を続ける私は、行きつく街々の酒場などで噂話を聞いては話題に上がった場所に、立ち寄るなど自由気ままに過ごしていた。 「ゴルグガニアが?あれ程巨大な防壁に囲まれた城塞都市が陥落するなんて、どんな国と戦ったんだ?」 「海の向こうの国と戦ったらしい、ええっと、ニッパーだかニッポーだったか、妙に言いづらい名前の国だ。」 「ニパンだった気がする、で、そのニパンが何故ゴルグガニアを攻撃したかと言うと、国交を結ぶために派遣した使節団が殺されたかららしい。」 「おいおいゴルグガニアは正気なのか?そんな事をしたら、どんなに大人しい国でも怒り狂うだろうよ?」 「確定情報じゃないんだが、派遣された使節団は武装もしていないし、魔力も全く無かったらしい、それで舐め腐ってニパンに戦争を吹っかけた様だが・・・。」 「魔力無しを使節として派遣するなんて完全に人選ミスだろ、しかも丸腰でか?迂闊に戦争を仕掛けたゴルグガニアもそうだが、ニパンとやらも正気とは思えんな。」 私もこの話を聞いた時は、信じられなかった、魔力が低い者を使節として派遣するという事は、それだけ力のない国だという事を宣伝するようなものだ。 少なくとも、上級魔術師を使節として派遣しなければ、相手の国にも失礼と言う物だ、少なくともゴルグガニアには不評を買った事だろう。 「しかし、ゴルグガニアが陥落したという事は、ニパンにも強力な魔術師が居たと言う事だろう?何故使節団に加えなかったんだ?」 「最初(ハナ)っからゴルグガニアを攻め滅ぼすつもりで挑発したんじゃないか?無礼に出て来ないなら国交を結んで、そうでないなら蛮族として滅ぼす、そんな所だろ。」 「それはそれで回りくどいな、しかし、態々海の向こうから要塞都市を落とす程の戦力を派遣するなんて、凄い国なんだな。」 「流石に誇張だろうが、たった一晩でゴルグガニアが瓦礫と化したらしい、ま、そんな事、御伽噺の食人鬼でも無理だろう。」 私は、何度かゴルグガニアに立ち寄ったことがある。見上げるほどの大きさの立派な防壁に覆われた難攻不落の要塞都市、それが瓦礫の山と化すなど到底信じられなかった。 酒場の酔っ払い共は、まだゴルグガニアを陥落させた謎の国の事を話題に、酒を煽っているが、それを尻目に、私は酒代を女将に渡して宿に戻り、旅支度を始めた。 私は馬も使わず、自分の足で街道を歩き続け、1か月ほどしてゴルグガニアに到着するが、そこで信じられない光景を見た。 巨人の槌で叩き壊されたかの様に、大穴の開いたゴルグガニアの防壁や、無残に崩れ去った家屋、そして何よりも見た事も無い巨大な鎧虫の群れが街に集っているのだ。 斑模様の服装の集団がぞろぞろと、要塞都市周辺を歩いている、恐らくあれが例の海の向こうの国・・・ニパンの兵士だろう。 兵士と同じく斑模様に塗られた角を持つ鎧虫や、橙色に塗られたひときわ目立つ一本腕の鎧虫が使役され、瓦礫を運び出す光景を見ると、口を魚のようにパクパク開閉させる事しかできなくなる。 「これは一体どういう事だ・・・あのゴルグガニアが本当に瓦礫になっているなんて・・・・。」 私は無意識にそう呟いていた。 『アー・・・・ソコ・アブナ・ヨー』 「うわっ!?」 気が付けば、斑模様の兵士が、真横に居た。視界を移すと、瓦礫を積んだ緑色の鎧虫が後退しながらこちらに迫ってきていた。 慌てて、飛び退くと、目の前を巨大な鎧虫が、ピーピーと、奇妙な鳴き声を上げながら通り過ぎて行く。 『リョコー・ノ・カタ?イマ・ココ・アブナ・イョー。』 「あ・・ああぁぁ・・・。」 斑色の兵士が大陸で使われている物とは違う言語で話してくる、しかし、身振り手振りで何かを伝えようとしているのは解るが、如何せん何を言っているのか分からない。 「わ・・・私は、放浪の旅を続ける根なし草な者でありまして・・・特に身分を証明するものは・・・。」 その奇妙な姿と、顔全体を黒く塗った戦化粧、会話が通じない異国語と言う組み合わせが揃い、私は恐怖を覚え後ずさりする。 『アー・・・ゴルグガニア、崩レる、壊れル、怪我人、沢山、近寄ル、危なイ。』 斑模様の兵士は、今度は片言ながら大陸共通語で話し、ゴルグガニアを指す。 「あ・・貴方達がニパンの兵士ですか?ゴルグガニアは一体どうなってしまうのでしょうか?」 『アー・・・ゴルグガニア、復興すル、時間、必要、ニホン、街の住民、助けル、保護スる、治療する。』 これは驚いた、ニパン・・・いや、ニホンと発音していたか、この兵士達は、ゴルグガニアの住民を奴隷とせずに、保護し、治療まですると言うらしい。 『ゴルグガニア、戦い、あっタ、何故、来タ、ました?』 本来ならば戦の在った地域は、治安が悪くなり危険で、私の様に野次馬根性の者や、戦死した兵士の武具などを目当ての``腐肉食らい``しか訪れない。 「いえ、興味本位です。ニパ・・・いえ、ニホンはこの街を復興させると言うのですか?旅人の拠点として利用している人も多いので、助かりますが・・・。」 『ニホン、戦い、したくなカった、デモ、ゴルグガニア、襲って来た。』 どうやら、ニホンは、ゴルグガニアとの戦争は不本意だったらしい、しかし、何故この城壁に大穴を開けられる程の魔術師を使節として派遣しなかったのだろうか?力を持つ者ならば戦争を回避できた筈であるが・・・。 『ニホン、この大陸、知らなイ、国交、結ブ、きっカけ、欲しカッタ』 どうやら海の向こうと、この大陸とでは、作法が違うらしい、成程、それならば魔力無しを使節として派遣した理由も解る。 しかし、これ程の国力を持った国が何故今までこの大陸に訪れなかったのだろうか? 『他の国、教エル、ニホン、仲良く、しタイ、旅する、先、出来ますカ?』 「完全に理解したわけではありませんが、旅の行く先々で、ニホンの事を話せば良いのですね?」 『ソー・・・・出来る、出来た?有難ウ。』 斑の兵士は、真っ黒な顔で白い歯を見せながらにっこり笑う。 周辺に目を向けるとゴルグガニアを訪れる旅人と親しげに話す事から、恐らくニホンとやらは、好戦的な国では無いのだろう。 旅人や商人が大陸を渡るための重要拠点でありながら、周辺国にちょっかいをかける、厄介者だったゴルグガニアだが、ニホンの統治の元、少しはマシになるだろう。 海の向こうの国が、初めて大陸の国々に接触を持ち、大陸の勢力図が塗り替えられる、虫使いの国ニホンの来襲、私は大きく歴史が動くかもしれないと感じた。 そして、それから暫く経ち、ゴルグガニアを訪れた私は、ニホンによって新たに作られた更に巨大な防壁と、今まで見た事が無い程に栄えた新生ゴルグガニアを見る事になる。大陸の歴史は、確実に動き出していた。 とりあえず、ここまでですーー。時系列は少し遡っていますが、日本と接触し始めの時期で異世界人からの視点の物語を書いてみたかったですー。 外交の常識 異空人/イクウビトを描きはじめたばかりの頃は、設定を特に練っておらず、一発ネタで終わるつもりだったので、後付と言えば後付です。 ただ、王族を処刑・・・っと言うか私刑をする時にゴルグの王が自衛隊に対して言っていた言葉とか、伏線っぽいものを入れていたりします。 魔力を持たず、魔法が効かず、その癖に、超高純度の魔石を生物濃縮せずに作り上げてしまうことが出来る日本人(イクウビト)を異世界人(アルクス人)がどう見るか、色々とネタをこねて行きたいと思います。
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763: 弥次郎 :2021/05/15(土) 11 17 32 HOST softbank126066071234.bbtec.net 憂鬱SRW GATE 自衛隊(ry編SS 集う力の山猫たち 電子ネットワーク。 C.E.世界および融合惑星、さらには特地(F世界)にまで伸びる電子と信号のネットワーク。 日々膨大な情報が飛び交うそれの中で、一般とは少し離れたネットワークが存在していた。 それは企業の精鋭戦力たちだけが専有する特別な回線。余人が入り込むことを許さない、選ばれた者たちの空間。 そこには、今日は多くの人間たちが集っていた。社会的にも、武力的にも大きな力を持つ人間たちが。 一般にこれを「お茶会」と呼ぶのが通例となっている、一種のサロンが開かれていたのだ。 「随分と久しぶりの面々が集まっていますわね」 「ええ、本当に……もう4年も過ぎてしまいました」 「まったくだ。卿らはもう妻になったのだったか?」 「うふふ……」 「素敵な生活を送っておりますわ、ええとても」 「……家族サービスは大変なんだけれども」 「それは予測されたことでしょう、アマツミカボシ。結婚とは契約であり、営みですから」 「まったくですよミカ君。私は超充実してますけどね!」 「仕事も兼ねているから忙しいんだがな…」 「しかし、こうして特地に派遣されていたリンクスが集まるとはどういう事態だ?」 そう、彼らは4年前の邪神戦争においてヴォルクルスと戦った面々であった。 4年という歳月を経て、結婚をしたり子供が生まれたり、あるいは出世や転戦をしたものなど様々だ。 そんな彼らが、久方ぶりに電子ネットワーク上とはいえ集合したのは決して偶然ではない。 「さて、そろったようですね」 主催者たる大空流星は外向きの丁寧な言葉を紡ぐ。 主たる参加者は企業の精鋭戦力たるリンクスたちであり、あるいは上位ランカーに食い込むようなレイヴン達。 彼らがこうして集められたのは決して同窓会のようなものでもなければ、4年前の戦いの祝勝会というわけでもない。 れっきとしたビジネスの話であり、同時に本業たる戦いの後始末にかかわる話だ。 そして何よりも、彼ら共通の友人---相手は恐れ多いと感じているだろうが---のかかわる重大な話であった。 「伊丹耀司……今はもう一佐にまで出世しているそうですが、彼から個人的に依頼が来ています」 ほう、と誰もが興味をそそられた。 彼のことはこの場にいる誰もが買っていた。それこそ、スカウトの手紙や紹介状を何通も送ったほどに。 彼の成長能力、戦闘適正、謙虚な態度、そしてこれまでの実績。どれもが平凡な人材とは一線を画すものだったのだ。 そんな彼のことは誰もが気にかけていて、個人的な友誼を結んでいた。個人ごとに形こそ違えども、様々な形で。 「依頼というと、何か特地…ファルマート大陸でなにかあったのですか?」 「いえ。彼に直接何かあったわけではありません。彼の依頼は……これです」 流星の操作で、全員に情報が瞬時に共有される。 彼の依頼、それはファルマート大陸東部に展開している米軍の捜索と救助をPMCに依頼したいので仲介してほしい、とのものだった。 「……米軍の?」 「ああ、そういえば、あちらの世界のアメリカは随分とファルマート大陸の東部に入れ込んでいましたわね」 「彼らの勤勉なるは見習うべきと思うが…しかし、捜索と救助とは穏やかではないな。流星、もちろん説明してくれるだろう?」 「ええ」 次の操作で、そのミッションの背景についての情報が提示される。 「ご存じの通り、あちらの世界のアメリカ政府は政権交代後、ファルマート大陸東部に大々的に進出しています。 市場の獲得や現地の資源の調達などを目的とし、さらには『民主主義の輸出』までもを考えているようです」 どこからともなく笑い声が回線に乗る。 それには流星も苦笑するしかない。何しろ、やろうとしていることが実に無謀で、ともすれば滑稽に見えるのだから。 そして事実として、アメリカはファルマート大陸という名の泥沼にはまり込み、身動きが取れなくなりつつあった。 それを証明する言葉を流星は紡ぐ。 764: 弥次郎 :2021/05/15(土) 11 18 11 HOST softbank126066071234.bbtec.net 「ですが、その実態はお寒い限り……広すぎる不慣れな土地、兵站線の維持の苦労、現地住人との不和。 そしてとどめに、元の世界において怪獣が出現して国家を傾けるかのような大きな被害を出したことで、急遽戦線の縮小が行われています」 「ああ、そういえばそんなこともありましたね」 「幸い、怪獣自体は討伐を終えています。が、そんな状態の本国を放置できるわけもなく、大規模に展開していた軍は撤収を命じられました」 「となれば……発生することは一つですわね」 オディールは自らの予想を代表して述べた。 「薄く広く展開した軍を本国からの支援抜きに撤兵させることが困難になった……いえ、それ以上に、現状把握さえ難しくなってしまわれたのですね」 「その通り。どのような装備も補給や兵站が途切れれば邪魔でしかない。けれど、余りにも広く広げたがために、そして支援体制が乏しく、孤立しているとのことです」 「そして、本国に新たな支援を送る余裕はない。そして、連合は表向きには米国進駐地域に進出しない取り決めが交わされていますわね」 「クソですねー、それ。つまり、見捨ててるってことじゃないですか」 「桜子、卿の物言いは素直でよろしいが、もう少しオブラートに包むべきだ」 「でもクソじゃないですか?お上の都合で何万人もの人間を不慣れでよくわかっていない土地に放り込んでおいて、無責任もいいところです」 事実として、桜子の言葉は多くのリンクスたちの意見を代弁していた。 そうなったことは民意なのだからしょうがないだろう。だが、その民意が結果的に何万人もの人間を苦しめておいて尻拭いしないなど、まさに無責任だった。 それが文民統制というものであることはわかっている。だが、文民統制はあくまでも軍の独断専行を防ぐ機構であり、正しい選択を選べる保証ではない。 そして、その文民を選ぶのは無責任な大衆という存在であり、その大衆の判断能力の保証はどこにも存在していないのが現実。 連合では少なくとも民衆の声にこたえることという基本的な原則は変わらなくとも、民意に絶対性を見出してはいない。 まあ、これは民主制についての教訓や積み重ねの違いというものがあらわになっているのでしょうがないといえばしょうがないのだが。 「そして、この事態を知った伊丹一佐は、義憤に駆られました。 日本国政府も、自衛隊も、連合も手を出せないところで、友誼を結んでいた米軍が苦しんでいるのを見過ごせなかったのです。 現地にいるアメリカ軍の高官からも、極秘に接触があり、内情を打ち明けられたのだとか」 「……ソース元はリー中佐かな?」 「ご明察です、タケミ君。彼は機動兵器運用の研究にかかわり、伊丹一佐とも顔見知りでした。 彼は一度は本国に呼ばれていましたが、左遷の憂き目にあっているようです。 そして、現地でこき使われているようですね」 ともあれ、と重要なのはここからだ。 「その取り決めの穴をつくことができるのが傭兵ということになります。 我々は確かに基本的には地球連合傘下の企業連に属し、傭兵の統括組織に身を置いています。 ですが、雇用関係を結べば、我々の所属は一時的にではありますが雇用主の下に入ることになります」 「つまり、取り決めの縛りを抜け出せるんですね」 「はい。ですが、ファルマート大陸に展開可能であり、同時に相応の規模を持つPMCに依頼するのが困難であり、我々を介するという形になったわけです」 「それならば異論はございませんわ」 「ですが、問題なのは報酬。如何に私たちの友人とはいえ、ロハでPMCを動かすのは考え物…」 「身銭を切るのはさすがに。とはいえ、そこは考えがあるようですね?」 特にお金にシビアな欧州組の言葉に、流星はうなずきを返す。 「あちらの世界のアメリカおよび日本政府からの現物での取引を行うというのが提案されています。 現物でダメならば、大洋連合を介して現金化も可能ですので、PMCを動かすのに十分なモノかと思われます」 「現物……」 「美術品、嗜好品、コレクションとしての価値のあるモノなど、アメリカから出せるだけは出すそうです。 ですが、正直なところ、報酬の保証はありません。依頼は過酷、期間は長期、報酬少な目、名誉と満足感はあり。そんなものです」 なんともふざけた依頼だ。このようなものを実際に出そうものならば、審査の時点で弾かれること請け合いだし、受けようという好事家もいないだろう。 なんだかんだ言っても傭兵というのは金にうるさい仕事であり、シビアである。だから、こんな依頼よりも他のものを選ぶのが賢いというもの。 「まあ、彼も無茶を承知で、私たちからの依頼という体で傭兵を集めたいようです」 「ですよねぇ。普通、やりませんよこんなの…」 「ファルマート大陸東部全体に薄く広く展開している上に、組織的撤退が難しいとなれば……」 「控えめに言って割に合うか微妙だな」 765: 弥次郎 :2021/05/15(土) 11 18 57 HOST softbank126066071234.bbtec.net ネガティブな言葉が自然と漏れる。流星だってそんなことは承知している。 依頼主である伊丹もそれは把握していることであろう。こんなものは慈善事業もいいところであり、言い方は悪いが拝金的なところもある傭兵に頼むことではない。 PMCに限った話ではないが、これほどの悪条件の依頼を受けてやるのはよほどの事情がなければ在り得ないところ。 「ですが、受けましょう。この依頼を」 「姉さまもそう思いますか」 「やりましょう」 「クハハ、やらざるを得ないだろう、ここまで言われてはな」 「心のぜい肉っていうか…ふぅ…断れないじゃないですかー」 「異論はない」 だが、リンクスたちはそれを受けると宣言した。彼らに限らず、参加者たちは次々と了承を示した。 個人的な依頼だからというのもある。伊丹一佐との友誼もある。同情心が湧いたことも確かだった。 自分の持つ伝手でPMCを動かすに足る満足な報酬がない可能性も考慮してもやりたいと思ったのだ。 いうなれば惻隠とでもいおうか。少なからず縁を結んだ相手が異国の地で苦境に陥っているのを座して眺められるほど人間性は薄れていない。 「感謝申し上げます。プライベートな仕事の依頼ということですので、相応に慎重にお願いします。 仕事の割り当てが決まり次第、こちらから連絡を入れていきますので。必要に応じて『招集』をかけます」 そう、本来ならば傭兵を私的な依頼で動かすのは難しい。権利や権限、あるいは企業の精鋭としての権力を以て動かすことは容易ではある。 桜子など次期社長夫人であり、その気になれば企業傘下のPMCを自在に動かすこともできる。ただし、できるからと言って乱用は許されない。 今回の件に関しても、信条的には理解を示されるかもしれないが、一歩間違えば私的な権力の乱用とさえとられかねないものだ。 だが、そのリスクを冒しても良いというだけの理由が存在した。 何とも愚かしいかもしれない、けれど、とても人間的で、ロマンがあることだった。 報酬だけでは満たされない満足感、精神的な充足。そのために動いても良いと、それだけ彼を彼らは買っていた。 「では本日は解散とします。皆さんのご協力、感謝します」 「報酬でお願いしますわ」 「ええ、新婚というのは物入りですもの」 「生々しい……」 「タケミカヅチ、貴方もでは?」 「うふふー、私もです」 「ハハハ、いいものだな慶事が続くというのは!」 若干被弾したが、まあいいだろう。いいのだ、未だに結婚できていなくても。人生はまだまだ長いのだ。 そう自分に言い聞かせながらも、流星は自分の端末を操作してネットワークからログアウトする。 そして、あらかじめ用意していたメールを一斉に送信する。それは、自分の伝手のあるPMCへ送った依頼だ。 個人の持ちうる権力はこういうところで使うべきではないかと、流星は思うのだ。 そしてミーティングに参加していた彼らもまた、自分と同じように動いているだろうと予測していた。 なんだんかんだいいつつも人間性も担保されているのがリンクスたち傭兵だ。伊丹一佐の義憤を理解でき、同じく義憤してしまうだろう。 それを利用している、というところには若干の負い目を感じてしまうところもあるが、それはそれ、だ。 「しかし、まったく愉快な話だ」 時代的に見て過去の世界の、ただ一人の自衛官がここまで自分たち連合や企業連という巨大な組織を動かしてしまう。 しかも、悪意などからではなく、ただの善意、小さな意志一つを以て大々的に動かしてしまったというのはすさまじいものだ。 それだけの影響力があり、評価を受ける逸材。やはり、欲しい。主人公であるということを差し引きしても、彼という人材は高い価値を持つ。 試すまでもなく、というかこれまでさんざん評価してきたが、彼はまぎれもない黒い鳥。それも相当な近似値だ。 「いつか、ともに戦えるといいですね」 そう呟いて、流星は笑みをこぼした。 力を持つ山猫の、獰猛とさえいえる笑みであったのは本人は知らぬばかりであったが。 766: 弥次郎 :2021/05/15(土) 11 19 41 HOST softbank126066071234.bbtec.net 以上、wiki転載はご自由に。 お茶会をSSにしてみました。
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受閲艦艇部隊 受閲艦艇旗艦 指揮官:護衛艦隊司令(たちかぜ座乗) たちかぜ (DDG 168) 防空ミサイル護衛艦(たちかぜ型) 所属:護衛艦隊 直轄 母港:横須賀 受閲艦艇第1群 指揮官:第1護衛隊群司令(たかなみ座乗) たかなみ (DD 110) 汎用護衛艦(たかなみ型) 所属:第1護衛隊群 第5護衛隊 母港:横須賀 おおなみ (DD 111) 汎用護衛艦(たかなみ型) 所属:第1護衛隊群 第5護衛隊 母港:横須賀 むらさめ (DD 101) 汎用護衛艦(むらさめ型) 所属:第1護衛隊群 第1護衛隊 母港:横須賀 受閲艦艇第2群 指揮官:第2護衛隊群司令(さわかぜ座乗) さわかぜ (DDG 170) 防空ミサイル護衛艦(たちかぜ型) 所属:第2護衛隊群 第62護衛隊 母港:佐世保 あさかぜ (DDG 169) 防空ミサイル護衛艦(たちかぜ型) 所属:第4護衛隊群 第64護衛隊 母港:佐世保 しまかぜ (DDG 172) 防空ミサイル護衛艦(はたかぜ型) 所属:第3護衛隊群 第63護衛隊 母港:舞鶴 受閲艦艇第3群 指揮官:第25護衛隊司令(ゆうばり座乗) ゆうばり (DE 227) 地方隊用護衛艦(ゆうばり型) 所属:大湊地方隊 第25護衛隊 母港:大湊 ゆうべつ (DE 228) 地方隊用護衛艦(ゆうばり型) 所属:大湊地方隊 第25護衛隊 母港:大湊 いしかり (DE 226) 地方隊用護衛艦(いしかり型) 所属:大湊地方隊 直轄 母港:大湊 受閲艦艇第4群 指揮官:第2潜水隊群司令(やえしお座乗) やえしお (SS 598) 葉巻型潜水艦(おやしお型) 所属:第2潜水隊群 第4潜水隊 母港:横須賀 わかしお (SS 587) 涙滴型潜水艦(はるしお型) 所属:第2潜水隊群 第4潜水隊 母港:横須賀 なつしお (SS 584) 涙滴型潜水艦(はるしお型) 所属:第1潜水隊群 第5潜水隊 母港:呉 ゆきしお (TSS3605) 練習潜水艦(元ゆうしお型潜水艦・涙滴型) 所属:潜水艦隊 第1練習潜水隊 母港:呉 受閲艦艇第5群 指揮官:掃海隊群司令(ぶんご座乗) つしま:第51掃海隊司令座乗 すがしま:第41掃海隊司令座乗 ぶんご (MST 464) 掃海母艦(うらが型) 所属:掃海隊群 直轄 母港:呉 つしま (MSO 302) 掃海艦(やえやま型) 所属:掃海隊群 第51掃海隊 母港:横須賀 すがしま (MSC 681) 掃海艇(すがしま型) 所属:横須賀地方隊 第41掃海隊 母港:横須賀 受閲艦艇第6群 指揮官:第1輸送隊司令(しもきた座乗) しもきた (LST4002) 輸送艦(おおすみ型) 所属:護衛艦隊 第1輸送隊 母港:呉 エアクッション艇3号 (LCAC2103) 所属:護衛艦隊 第1輸送隊 第1エアクッション艇隊 母港:呉 エアクッション艇4号 (LCAC2104) 所属:護衛艦隊 第1輸送隊 第1エアクッション艇隊 母港:呉 受閲艦艇第7群 指揮官:第3ミサイル艇隊司令(おおたか座乗) おおたか (PG 826) ミサイル艇(はやぶさ型) 所属:佐世保地方隊 佐世保警備隊 第3ミサイル艇隊 母港:佐世保 くまたか (PG 827) ミサイル艇(はやぶさ型) 所属:佐世保地方隊 佐世保警備隊 第3ミサイル艇隊 母港:佐世保 しらたか (PG 829) ミサイル艇(はやぶさ型) 所属:佐世保地方隊 佐世保警備隊 第3ミサイル艇隊 母港:佐世保 受閲艦艇第8群 やしま (PLH 22) ヘリ2機搭載型巡視船(みずほ型) 所属:海上保安庁 第三管区海上保安本部 横浜海上保安部 母港:横浜 予備艦 ※実際には受閲艦艇部隊としては使用されず、訓練展示部隊のみでの登場となった やまゆき (DD 129) 汎用護衛艦(はつゆき型) 所属:呉地方隊 第22護衛隊 母港:呉
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706 :UNNAMED 360:2016/01/14(木) 01 42 33.25 ID I00zRjzy 第60話 土の民 大陸の中央部には未知の領域が広がっていると言う、しかし大森林を始めとする様々な過酷な地形が大陸中央へ続く道を阻み、荒野の民は荒れ果てた地で開拓をしなければならない。 大森林に隣接した長大な山脈も大陸中央部への道を阻む障壁の一つである。 「お父さん、こんな浅い所じゃ魔銅鉱は掘り出せないよ。」 「おん?確かに魔銅鉱は無いが、良質な鉄鉱の鉱脈を見つけてな、他のモンに見つかる前に掘ってしまおうと思うんだ。」 「鉄鉱かぁ、確かに幾らあっても困らないわね、こんなに便利なのにリクビトは鉄の価値に気付いていないんだよね?」 「荒野の連中は、鉄の精製が出来んからなぁ、まぁ、リクビトの連中に鉄器が伝わってもどうせ碌な事にはならんだろうし、このまま知られずにいたほうが良いだろう。」 大陸中央部を覆う山脈には土の民と言う、荒野の民に、あまり知られていない種族が住んでいる。 彼らは、元々手先の器用なリクビトだったが、戦乱から逃れる為に旅を続け、魔物が犇めく辺境の山へとたどり着き、魔力の強い洞窟に身を隠すうちに、独自の変異を遂げた種族である。 狭い穴にも入れるように身体は小型化し、落盤や落石などから身を守るために体毛が発達し毛深くなり、洞窟内の岩盤を工具で穿つために手先が器用になり、体格に見合わぬ怪力を得た。 「へぇ、これがその鉱脈なのね、でも洞窟の入り口に近いから、リクビトに見つからないようにしないと・・・。」 「滅多にこの洞窟に訪れることは無いから心配するな、それに外は狂暴な鎧虫が徘徊しているから好き好んでこの山に近づく者などおらんだろう。」 「だといいんだけど・・・・。」 「さて・・・採掘を始めるか・・・・・むん?」 鶴嘴を振りかぶり、岩壁を掘ろうとした時、微小な振動を感じた。 意識を向けてみると、洞窟の入り口付近から微かに何かの音が聞こえる、恐らくこれが振動の発生源だろう。 「ペトラ、お前は街に戻っていなさい・・・。」 「お父さん?一体何を・・・・っ!入り口の方から音が!?」 「鎧虫でも入り込んだか・・・何にせよ、穏やかでは無いな、少し厄介な事になりそうだ。」 鶴嘴を横に置き、念のために荷車に積んでいたバトルアクスを取り出し、壁に身を隠しながら洞窟の入り口に近づく。 「な・・・なんだこれはっ!!?」 暗闇に慣れた目に、外界の光が染みるが、それどころでは無い、異形の鎧虫らしきものと、斑模様に染めた奇妙な格好のリクビトの集団が、洞窟周辺をうろついている光景が目に映っていた。 碌に整地されていない土がむき出しの道を進む自衛隊。 要塞都市ゴルグを拠点にし、国交を持っていない国や集落などと接触し、交流を持とうと各地へ赴くが、その道中は決して安全なものでは無く、賊や野獣の襲撃などに備え、武装車両で移動をしている。 大陸中央部への道を阻む大森林に隣接する山脈付近には、集落はごく少数しか確認されておらず、その殆どが開拓民で、自給自足の生活を営んでいるに留まっている。 しかし、開拓民の口から、鉱物資源の情報を得ると、資源調査の為に大森林に連なる山脈へと向かう事になった。その際に奇妙な噂も耳にする事になるのだが 「これまた、デカい山だなぁ・・。」 「山の上層部はうっすらと雪がかかっているな、相当高そうだ。」 「おいおい、ボーっとしているなよ?ここら辺は危険生物の生息が確認されている、現地民も滅多な事では訪れない場所らしいじゃないか。」 「とは言っても、デカい蠍とか百足みたいなもんだろう?そんなもん道中で山ほど倒してきたさ」 「まぁ、殆どは車の速力に任せて引き離していたがな、崖の一本道で通せん坊している奴とかは仕方がないから蜂の巣にするしか無いが、無暗な殺生はしないに越したことは無い。」 「さてと、野営の準備をするぞ?鉄条網は既に設置済みだが、相手が頑丈な鎧虫の場合は突破される可能性もある、油断せずに作業に移れ。」 それぞれ各員分担し、天幕の設営や、トラックからの荷降ろし、夕食の準備などの作業が行われる。 「なぁなぁ、所でさ、妙な噂を聞いたんだが・・・・。」 「あっ?なんだよ、こっちはまだ作業中だぞ。」 「ちょっと位いいじゃないか、あの山にさ、小人が出るらしいぜ?」 「小人?一寸法師みたいなもんか?」 「いいや、流石にそこまで小さくないが、何でも穴や洞窟に身を潜めて岩壁を掘りながら暮らしているって噂だ。」 「モグラみたいな奴だな?つまり、未確認種族の集落が存在するかもしれないって事か?」 「まぁ、ここら辺は野獣が出没する危険地帯らしいし、滅多に近寄らない上に目撃証言も少ないから、単なる噂かも知れないが、なかなか興味深い話じゃないか?」 「もし本当に居たら資源調査が上手く進むかもな、最も相手が温厚な性格をしているならばだが。」 「ちなみに、開拓民の連中はそいつらを 土の民 と呼んでいるらしい。」 「・・・・・それ、漢字に直して略したら失礼になりそうだな。」 「・・・・・せめて大地の民と呼ぶ事にするか。」 「違いない。」 暫く洞窟の外の様子を伺った後、斑のリクビトに気付かれない様に、急いで荷車に荷物を乗せて街に戻ると、街はちょっとした騒ぎになっていた。 「お父さん!!」 「おおっ!モーズ!!戻って来たか!!」 「ジルバかっ!大変なことになったぞ!洞窟の外にリクビトが集まってきている!」 「なんだとっ!?」 ジルバは、あまりの衝撃で一瞬硬直するが、直ぐに思考を切り替えてモーズに話しかける。 「リクビトの奴らは、この洞窟に気付いているのか?」 「いや、その様子は無い・・・それに、あの体格ではこの狭い入り口を通るにも一苦労だろう。」 「お父さん、私怖いよ・・・。」 「大丈夫だペトラ、俺が付いている、連中がもし襲い掛かって来るなら鉄の斧で両断してやる。」 「早まるなよモーズ、徒にリクビトに危害を加えて敵対する様な事になれば、我らとて唯では済むまい。」 「分かっているジルバ、いくら短気な俺でもそれくらいは心得ているぞ。」 「リクビトの連中がこの洞窟に気付かないならば、そのままやり過ごせ、もし気付いたのならば様子を見つつ、接触を待て、こちらから赴く必要は無い。」 「盗賊の類ならば返り討ちにするまでだが、荒野の開拓民ともなるとやり辛くなるな。」 「リクビトは口封じのために問答無用で殺すことも平気でやるらしいが、我らは蛮族では無いからな。」 「お父さん、リクビト・・・・来るの?」 「まだ判らんな、だがしかし、あれ程の集団で洞窟に押しかけられては堪ったもんじゃない」 「面倒なことになったわい、まぁ、今まで山と魔獣や鎧虫に守られていたが、何時までも洞窟に身を隠す事も出来ないという事だろうの。」 「何にせよ、街の幹部連中を集めなければならんな、ジルバ、西側から声をかけてくれ、俺は東側から行く!」 「・・・・・。(リクビトは怖いけど、外の世界は見てみたな、どんな光景が広がっているんだろう?)」 土の民と洞窟 ただ単に狭い場所に暮らすだけなら、未だにリクビトのままだったと思いますよ? さらっと本編で書いておりますが、この山からは魔銅鉱と言う鉱石が採掘できます。 魔銅鉱と言うくらいですから、当然ながら鉱石自体からそれなりに強力な魔光がバンバン放射されているので、それに被曝して突然変異や進化促進が起こった感じですね。 魔石は基本的に金属と相性が悪く、金属板で簡単に魔光が遮断されてしまうので、金属は魔力を乗せにくい素材なのですが、魔石が均等に練り込まれた物は逆に相性が良くなるのです。 魔銅鉱は、自然界で希少な魔鉱石と銅鉱石のハイブリット鉱石で、上手く精製すれば魔銅のインゴットが作れます、これは魔法剣の貴重な材料になります。 日本なら銅と魔石を化合させて魔銅に加工する事は可能かもしれませんが、この世界の加工技術では精製不可能ですね。それ故にF世界では銅と魔銅は別種の金属だと一般的に考えられております。
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【スレ30】日航ジャンボ機墜落事故の際、生存者を救出した自衛官 このページのタグ:事件・事故・受難 警察・自衛隊・軍事 120 :おさかなくわえた名無しさん:2007/11/10(土) 16 31 53 ID uSLn4wnb スレの最初の方に日航ジャンボ墜落事件が出てるね。 もう今は普通のリーマンなんだけど、大学卒業して一任期だけ自衛隊に入った。 体力があったので普通に空挺団で後期教育を受けて空挺団に配置。 その頃の銃剣道の教官が生存者を救出したSさんだった(当時2尉)。 駐屯地に帰って作業服は全て焼却処分されたらしい。PTSDの話しは聞いた事なかった。
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第二章 「渡海」 東京都千代田区永田町 首相官邸 国家安全保障会議 2012年 12月10日 10時27分 「現在、東シナ海において、中国側に特異な動きは見られません。尖閣諸島周辺には海監所属の公船が二隻確認されていますが、接続水域の外側を遊弋中です」 情報本部情報官の一佐が、各部隊から上がった情報をスクリーンに映し出した。 「今のところ、中国は、東シナ海で新たな行動に出る兆候はない。うちの現場部隊からも、いつもの挑発以外に動きはないと報告が上がっている」 国交相が言った。海上保安庁の巡視船隊は、今このときも尖閣諸島近海に張り付いていた。 「尖閣は現状維持だ。優先は別にあるからな」 首相が、はっきりとした意志を込めて言い放った。安全保障政策に長けていることを売りに政権を奪取し、維持してきた首相だが、就任以来の激務により頬はこけ、疲労の色は隠せない。 しかし、その瞳には断固たる決意が宿っていた。いや、以前にも増して、その光は強く輝いているのではないか。内閣情報分析官の祝(はふり)重孝は、報告の準備を進めながら思った。 自分の得意分野で戦っている人間は、キツくても気力は充実しているからな。 「一昨日、青森県むつ市付近に発生した大規模特定雲は本日8時に消滅しました。しかし、大湊湾上に陽炎のような現象が観測されています。現在、海上保安庁が海域を封鎖しています」 「陽炎?何だいそりゃ?」 「報告によれば、幅100メートル、高さ50メートルに渡って、空気の揺らぎのような現象が発生しているようです。厚みは数メートルといったところで、一部発光を伴います。例えるならオーロラが海面付近に現れているような景色だそうです」 祝が手元の資料を読み上げた。現場では気象庁職員を始めとする専門家チームが、様々な機材を持ち込み、調査を開始している。 「一方、特定雲の発生と併せて出現した『南瞑同盟会議使節団』を名乗る集団ですが、現在むつ市警察署で外務省と警察庁による聴取が続いています。お手持ちの資料をご覧ください。」 「どこの、与太者かね。また、詐欺師の類では無いのかね?」 党の重鎮を自認する総務大臣が、不機嫌な声で訊ねた。 無理もない。 異世界からの使者、神の使い、原理を解明したと売り込んでくる研究者、役に立たない防災用品を売りつける業者などは、東京湾を埋め立てられる程、巷に溢れていた。 テレビも、ここぞとばかりに煽り立てている。総務相の不機嫌さはその辺りにもあるようだった。 「結論から申し上げますと、彼らが『本物』である可能性は高いと考えます。まず第一にその形質上の差異。さらに、証言内容に矛盾点が無く、また通常知り得ない情報を保有していたこと」 祝の発言に、参加者の視線が資料に落ちる。写真には尖った耳を持つ少年が写っていた。その下には、壊れたスマートフォンの写真。調査の結果、持ち主は綾部市で行方不明となった女子高校生であった。 「そして、彼が示した『魔法』が、現時点で科学的な説明がつかないことです」 「魔法、か」 すっかり薄くなった髪を丁寧に撫でつけた警察庁次長が忌々しげに言い捨てた。警察は昨年来、その魔法により多くの殉職者を出しているのだ。 「彼らの使う言語は、昨年の事案で逮捕した者とほぼ同一です。ですが、意志疎通が出来ている。これは『通詞の指輪』の力であると彼らは言っています。また、こちらの映像をご覧ください」 プロジェクターに、動画が映し出された。会議室の中央に薄緑色の長衣を纏った少年が立っている。彼は、カメラに向けてキラキラとした瞳を向け、何事かを話していた。カメラが気になるらしい。 彼は促されると、右掌を腰の横で上に向け、目を閉じた。小さな声で何かを唱える。 掌の上に、青白く光る火の玉が出現した。 参加者が唸った。誰かが叫ぶ。 「プラズマだ!」 「彼はこの火を使役しているそうです。実際、これがプラズマだとして、このような芸当が可能な技術は、我が国に存在しません」 映像の中では、火の玉が少年の示すとおりに部屋の中をゆらゆらと飛び回っていた。 「では、彼らを『異世界人』だと仮定して、我が国がどう扱うべきかという話になるのだが……彼らのもたらした情報と要求は──」 首相の言葉に促され、祝は聴取により知り得た情報を報告した。マルノーヴ大陸の過半を制する『帝國』と、その侵略を受ける『南瞑同盟会議』について。『帝國』領内に連行された捕虜の噂。異界への扉を開く『古代魔法王国』の遺跡について。 「ちょっと待て。では『南瞑同盟会議使節団』と名乗る連中は、『帝國』とやらと同じ手段で地球に来たというのか?」 国家公安委員長が神経質そうな声色を響かせた。彼のこめかみには血管が浮いていた。 「彼らの話では。また、特定雲の発生状況等も、過去の事例と相関が取れます。同様の遺跡は帝國領内に多数存在するという話です」 「では、奴らが去年の騒乱の一味でない証拠はどこにある? あの携帯電話も奴らが拉致した国民の所有物かもしれん。何も信用出来んぞ。即刻拘束すべきだ」 そう考えるよな。俺があなたの立場なら、同じ主張をするよ。祝は内心で同意した。何名かが国家公安委員長の発言に頷いていた。 「現状、情報源は彼らのみです。また、彼らは『南瞑同盟会議』への軍事的な支援を要請しています。見返りは、拉致された国民の救出への協力です。彼らは自前の情報網を活用し、拉致被害者の消息を追跡できるとしています」 「情報が足りねぇなあ。情報源があの連中だけってのが気にいらねぇよ」 財務相が言った。仕立ての良い三つ揃えをスマートに着こなし、腕を胸の前で組んでいた。 「現在、外務省の担当者が『通詞の指輪』を借用できないか交渉中です。捕虜の尋問や辞書の作成に絶大な効果を期待できます」 祝の言葉は、最も有効な手段を避けていた。それは、内閣情報分析官の職責を超えた所にあるからであった。 首相は机の上で組んだ手をじっと見つめていたが、何かを決意した様子で顔を上げた。参加者を見渡す。 「少なくとも、彼らが異世界人であることに間違いは無いだろう。私は拉致被害者を取り戻す為に、行動を起こしたい」 首相は、まず国交相と警察庁次長を見た。 「下北半島を封鎖しよう。警察はむつ市に繋がる道路を封鎖、市民には避難勧告を出す。陸奥湾への外国船舶の進入も禁止する」 「では、青森港を不開港とし、海保で平舘海峡を封鎖します」 「よろしく頼む。下北半島及び陸奥湾内は特定雲の発生に伴い、立入制限区域とする」 首相は次に外務相に視線を向けた。 「『南瞑同盟会議』及び『帝國』が主権国家であるかどうかは、不明だ。だが、交渉に備え、必要な人員を手配してほしい。また、本件は公開しないが、米国政府には筋を通す必要がある。準備を頼む」 「分かりました」 次に、総務相に向き直る。 「党内と野党への根回しが必要になるでしょう。信頼できる人に渡りをつけていただけますか」 総務相は、恰幅の良い身体を震わせ、頷いた。首相は最後に全員を見渡した。 「彼らを信用はしない。だが、門前払いもしない。まずは、情報だ。各省庁は、調査団の派遣に備え所要の準備を為すこと。海保と自衛隊は部隊の選抜を開始してくれ」 首相はさらなる情報の収集と、その先にある異世界へのコミットを決断した。祝は、その意志決定の早さに舌を巻いた。過去の政府に比べて、果断と言って良かった。 考えてみたら、この政府は南スーダン撤退作戦、北近畿騒乱に隠岐占拠事件等、安全保障に関して言えば、戦後最も経験値を積んだ政府なんだよな。 祝は早速官僚に指示を出し始めた大臣たちを眺めながら呟いた。 「さて、忙しくなりそうだ」 国家安全保障会議の決定を受け、日本政府は下北半島を近川~冷水峠付近──丁度まさかりの柄の部分で封鎖した。 また、青森港を不開港とし、外国船舶の陸奥湾への進入を禁止した。住民には避難勧告が出され、むつ市は警察と自衛隊が防備を固めた。 対外的には、北近畿騒乱と同様の事象に備えた措置とされた。報道機関の立ち入りも制限されたが、世論はこれを当然の処置と受け取った。 首相の命の下、政府の各機関は全力で動き出した。目的を与えられた官僚組織は、その巨大な力を投入し、猛烈な勢いで準備を整え始めた。 祝は正しかった。 彼はそれから暫くの間、家に帰ることは無かった。 青森県むつ市 大湊湾 2012年 12月16日 8時22分 「前進微速」 船長が命じた。鉄船の底からハーピーの甲高い叫びのような音が微かに聞こえてくる。鉄船はその体を震わせると、ゆっくりと進み始めた。 海は穏やかだが、周囲は〈雪〉で真っ白に染まっていた。彼の故郷では有り得ない景色。それは天から降るという。確かに、これだけ寒ければ天から降るのは雨水ではなく、氷になってしまうのだろう。今も〈雪〉は降り続いていた。 リューリは、危うく彼の仲間たちを凍えさせてしまうところだったこの異界の景色を、それでいて、好ましく思っていた。 彼の故郷は、暑く騒々しい森と海。ここは、故郷とは対照的に静謐だった。鉄船が進む水音さえも、真っ白な空が吸い取ってゆく。 自分たちとは異なる世界。自分はまだ何も知らない。それがリューリには嬉しかった。リユセの森、西の一統に連なる妖精族は、好奇の心を貴ぶ。伝統と調和を至上とする東の一統とは、真反対の思想である。 彼が樹冠長によって使節団の長に選ばれた理由の一つは、間違いなくその心映えにあった。 もっとも、適任たる一族のおとなたちが、すでに役目を与えられ各地に散っていたという事情もまた、現実であった。 「おお、櫓櫂も帆もなく鉄船が進むか。たいしたものだ。未だに信じられん」 感じ入ったとばかりに副団長のアイディン・カサードが言った。自身が熟練の海将である彼は、鉄船がひとりでに動く姿に心を奪われている様だった。自前の短衣の上から、『ニホン』の人々に借りた赤い防寒衣を羽織っている。 水鳥の毛を、薄皮に包んだ防寒衣は、もこもことしていて不格好だったが、その暖かさは格別のものらしかった。しかも、とても軽い。 リューリ自身は風の精霊に力を借りているので寒さを感じることは無かったが、カサードはその暖かさを大変気に入った様だった。 「おやおや。カサード殿はすっかりご機嫌ですな。来たばかりの頃が嘘のようだ」 笑いを含んだマスート・ロンゴ・ロンゴの言葉が、傍らから聞こえた。彼も〈ダウン・ジャケット〉を着込んでいた。 「うるさい。あれは仕方なかろう。その様に聞こえたのだからな!」 カサードが顔を赤らめ口髭をふるわせた。彼は、当初この国に大きく失望したのだった。〈ニホン〉の者と軍についての話をした彼は、リューリにこう言った。『リルッカ! 駄目だ、この国では帝國には対抗できぬ。軍すら持っておらぬと言うぞ!』 「早とちりも甚だしいですぞ」 「それはだな! 儂が『この国の軍や水軍はいかほどか?』と聞いたら、『我ら、持つ、無い、軍勢。我ら、持つ。自ら、見回る、群』と返ってきたのだ。自警団しかないと思って当然ではないか!」 「……もう少し良い指輪を用意すべきでしたな」 リューリたちが異世界人との交渉に用いている『通詞の指輪』は、元々は交易商人の道具である。異国の地で取引を行う商人たちが、魔導師に造らせた魔導具であった。 当然、安い代物ではない。また、術師の実力や、支払う代金によってその力には大きな個体差が存在していた。リューリの指輪は、樹冠長が持たせてくれた逸品だが、見たところカサードのそれは粗悪品一歩手前の安物である様だった。 事実、余りの落胆振りに慌てたリューリが、改めて訊ねたところ、「我が国は侵略の為の武力を持ちません。代わりに国を護る為の〈自衛隊〉があります」との答えが返ってきたのだった。 「そう言うなら、商館からまともな指輪を貸す位のことはしてもよかろうに……」 カサードがぼやいた。 「まあまあ、カサード殿。少なくともこの国は軍を持ち、我らを門前払いにしなかった。何よりも!」 上気した顔をテカテカと輝かせロンゴが言った。 「この国は豊かだ。呆れるほどに。この防寒衣。この鉄船。食事に用いられた香辛料の量。あの建物を暖める為にどれほどの金がかかることか。この極寒の地で毎日湯に浸かることすら庶民の日常だと、誰が信じられようか!」 ロンゴは商人としてこの国を見ていた。それ故に三人の中で最も早く、〈ニホン〉の異常さに気付いていた。何気ない調度品や人々の暮らしぶりから、彼はそれを可能とするために必要な国力を予測し、戦慄に近い感情を抱いていたのだった。 「商売気を出すのは、鮫どもを追い払った後にするがいいぞ」 「無論、役目を忘れてはおりませぬ。こうして〈ニホン〉の船隊を招くことが出来たのです。帝國の暴虐ぶりをつぶさに見てもらわねば──」 その言葉を聞きながら、リューリはこれからのことを考えていた。 こちらの手札は、帝國の捕虜となったであろう〈ニホン〉の民、その持ち物といくらかの情報。加えて帝國の情報。それを用いて〈ニホン〉を引き込む。 どうやらそれは、上手く行っている様だった。自分たちが信用されていないのは分かる。彼らから見れば、我等は帝國と同じ『門』を用いて現れた異世界人だ。簡単に信用する程度なら、逆に帝國と戦うことなど能うまい。 恐れていたのは門前払いだったが、あの〈ケイタイ〉なる品を見せた途端、彼らは食い付いた。『拉致被害者の重要な手掛かりだ! さらなる調査をすべきです』危うく、帝國の手の者と誤解されそうになった程だ。 彼らは人族国家としては不思議なほど、同族を大切にしているらしい。 「おお、間もなく『門』をくぐるぞ。しかし、この鉄船は確かにたいしたものだが、今少し速く走れぬものか。この辺り、我らの戦船が勝っておるな」 「いやいや、人が走る程の船足ですぞ。これだけ出れば充分でありましょう」 〈ニホン〉は、南暝同盟会議の申し出に対し、更なる情報が必要であると回答した。そして僅か数日の間に船団を組むと、アラム・マルノーヴへリューリたちと共に向かうことを決めた。リューリたちの乗る鉄船の周囲には、さらに数隻の鉄船がいる。 それにしても── 私は〈ニホン〉について何も知らなかった。それは、水軍のカサード殿も、総主計のロンゴ殿も同じ。下手をすれば帝國よりも非道い相手であるかも知れぬのに。 だが、樹冠長は我らを送り出した。 リューリはリユセ樹冠長の齢二百を超えるとされる、柔和なかんばせを思い出した。彼女は『正直に乞うてまいるがよい。彼の地には優しき鬼達が住まう。嘘偽りなく乞えば、無碍には扱われぬであろ』と、笑っていた。 あの確信はどこから来たものだろう? 事実、彼らは求めに応じてくれた。私は彼らの問いに、半分も答えられなかったのに。 そのとき、船長の声が狭い操舵室に響いた。緊張を隠せない硬い声だった。 「間もなく『門』に突入する。総員衝撃に備え」 目を外に向けると、すぐ目の前に光のカーテンが見えた。 賑やかな連中だ。 海上自衛隊第2ミサイル艇隊所属、ミサイル艇『はやぶさ』艇長は、ブリッジの中であれこれとしゃべっている客人を眺め、思った。 狭苦しいブリッジ内では、白い第三種夏服の上から分厚い防寒外衣を着込んだ隊員たちが、配置に付いていた。艇長自身も、全く同じちぐはぐなスタイルでいる。正直、底冷えがしてたまらなかった。 目的地が、真夏のシンガポール並だっていうんだから仕方がないだろう。 隊司令はこう言い放った。『南暝同盟会議』の議長国、交易都市ブンガ・マス・リマは、『使節団』によれば常夏の地らしい。俄には信じがたい話だが、隊司令だけでなく地方総監までが大真面目に言うならば、従わざるを得ない。 調査団派遣が決定し、部隊編成を命じられた防衛省は、選定に頭を悩ませた。行く先は海。それは分かったが、まともな情報が存在しない。 「海図もGPSも無い。天測も出来ない。そんな海域に護衛艦は出せない」 護衛艦隊の幕僚が目をむいた。 「聞けば、多島海だそうじゃないか? 座礁の危険が大き過ぎる」 「だが、出来ませんとは口が裂けてもいえないぞ。海自が無くなっちまう」 統幕と海幕の幕僚が顔を見合わせ頭を抱える。会議出席者は口を揃えて言った。 そもそも、人が生きていける世界なのか? その答えを得るべく、『使節団』出現以来『門』の周辺は厳重な警備態勢が敷かれ、光の早さで飛んできた各機関により、調査が進められている。 まず、陸自の小型無人偵察機FFRSが投入された。鼻息も荒く新型の投入に踏み切った陸自幹部は、機体が『門』を通過した途端遠隔操縦がダウンし、肩と顎を派手に落とすことになった。 様々な機関が持ち寄った機材の全てが、一つの答えを出していた。 『あのベールの向こう側は、一切の観測を拒んでいる』 次に有線ならばと、小型ボートにレスキューロボットが乗せられた。ボートは『門』へと進み、姿が消えた。しかし、ロボットからはデータが送られ続けていた。放射線量、大気組成サンプルその他多くの情報が得られた。 小躍りした経産省の担当者と数多の学者、専門家たちは、映像データを期待した。異世界をその目で見たい。 彼らの熱い視線を受けたモニターの映像は、しかし、蒸気で曇り何も見えなかった。 経産省の担当者は、人生で最大の罵声を浴びる羽目になった。 だが、様々な失敗を繰り返しながらも、調査は進んだ。原発対応型のロボットが投入され、クリアな画像と更に多くのデータが得られた。 研究チームは、次にモルモットを始め、様々な動物を『門』に送り込んだ。彼(又は彼女)たちは、震えながらベールの向こうに消え、そして還ってきた。 帰還した哀れな動物たちは、農水省消費・安全局動物検疫所、厚労省健康局検疫所、国立感染症研究所特別チーム、理研筑波研究所、陸自第102特殊武器防護隊等、地獄から湧き出た悪魔の様な外見の集団により、全身をくまなく調べられることになった。 併せて、過去の事案での逮捕者から得たデータ、更に青森県警鑑識課が収集した『使節団』のデータも参照された。 丸3日間の議論を経て、専門家たちの出した結論は、『異世界において、人類は生存可能である』というものであった。 調査結果を受けて、海自内の調整は進められた。 「海洋観測艦を派遣したらどうだ?海洋の調査はしなきゃなるまい」 「ならば、掃海艇も必要だろう。EODも役に立つ」 「莫迦な。向こうには何が待っているか分からんのだぞ。護衛も無しに危険すぎる!」 「だが、護衛艦を出しても、浅い海で身動きが取れなければ、逆効果だ」 「だったら、丸裸で出せと言うのか!?」 統幕と護衛艦隊の担当者がにらみ合う中、自衛艦隊の幕僚が顔を上げ言った。 「有るじゃないか、浅い海で戦える、小回りの利く戦闘艦が」 「──そうか!」 こうして、『日本国マルノーヴ調査団』は編成された。艇長が指揮する『はやぶさ』は、この第一次隊に含まれている。 編成は以下の通りとされた。 旗艦 掃海母艦『ぶんご』 第1、第2ミサイル艇隊 『わかたか』『くまたか』『はやぶさ』『うみたか』 第1掃海隊 『いずしま』『あいしま』『みやじま』 海洋観測艦『すま』 海保巡視船『てしお』『おいらせ』 測量船『海洋』『明洋』 設標船『ほくと』 「群司令より各艇宛て。『0830〈門〉ヘ進入セヨ』以上です」 通信員が報告する。艇長は、左右に並ぶ僚艦を見やった。四隻のミサイル艇は、尖兵となり異世界へ乗り込むのだ。 44ノットの高速を誇る機動力と、全長50.1メートルの船体に76ミリ単装速射砲、90式 SSM発射筒、12.7ミリ重機関銃を搭載した重武装で、まず『門』の安全を確保する。 自らに課せられた使命の重さに、密かに身震いすると、艇長は艇内に命令を発した。 「間もなく『門』に突入する。総員衝撃に備え」 穏やかな大湊湾の水面を、四隻のミサイル艇が起こすウォータージェットの飛沫がかき乱した。猛禽の名を与えられた四隻は、滑らかに前進していく。 見上げると、光のカーテンの様な、また陽炎の様な、『門』の姿が間近に見えた。刻々と変わるその色彩は、名状し難い。 「『門』進入一分前!」 乗員は全て艇内に入り、身を硬くしていた。咳払い一つ聞こえない。石川島播磨重工製LM500-G07ガスタービンエンジンの駆動音と、航海科員の秒読みだけが、ブリッジの空気を震わせていた。 「進入五秒前!4、3、2、1、進入!」 その瞬間、周囲が灰色に染まった様に思えた。同時に全ての者が、自分が何かの膜を潜り抜けた様な感覚を覚えた。だが、それは刹那のことであった。 艇長の目の前で光が爆発した。 正確には、彼の視界に入った余りに極彩色な光景が、彼の知覚を強烈に刺激したのだった。 「異状の有無を確認しろ! 僚艦は無事か?」 彼は命じながら、周囲を見渡した。あっという間に曇った窓ガラスの向こうに、知らない海が見えた。 日本近海では見られない、翡翠色の海。冗談のように青い空には、雲一つ見当たらない。周囲に点在する島々の木々は、全力で溢れんばかりの生命を主張していた。何もかもが原色の景色。 ここは、日本では無い。 艇長は、それを実感すると眩暈を覚えた。彼は「ショックのせいか?」と思ったが、すぐに急激な温度差によるものだと気付いた。 「対水上レーダー異状なし」 「機関異状なし」 「武器システムにエラー発生。気温差による結露の可能性があります」 艇長が落ち着きを取り戻しつつあった頃には、部下からの報告が次々と上がり始めていた。 「『わかたか』『くまたか』『うみたか』健在。全艦健在です!」 「周囲に船舶多数。全て木造船。あんな船型は見たことがありません」 見張りの報告した船は、最も近いもので約4000ヤードの距離にあった。艇長は、その姿にもう一度眩暈を覚えた。何てこった帆走ガレーがうじゃうじゃいやがるぞ。 「戦闘態勢を維持しろ。警戒を厳と為せ。目標は敵対行動をとっているか?」 艇長が命令を下していると、いつの間にか隣に来ていた長い耳の少年が、優しげな声で言った。すぐ後ろで警務官が困った顔をしていた。 「船長殿。あれは、我が『南暝同盟会議』水軍の船です。カサード殿の艦隊にて、敵ではありません」 「間違いありませんか?」 「間違いありません。あの色の帆と船体は彼の軍船です」 ガレー船のマストでは、真っ赤に染められた横帆が風を受けて膨らんでいる。船体も朱色に塗られ鮮やかだ。船足は緩やかで、こちらへ急に近付く様子は見られなかった。 「宜しいでしょう──通信、『わかたか』に報告『周囲ノ船舶ハ〈南暝同盟会議〉所属ナリ』だ。各員態勢を維持したまま、交代で防寒衣を脱げ。空調を冷房に切り替えだ……こりゃ暑くてたまらんぞ」 急に汗が吹き出始めたことに気付いた彼が、少しおどけた口調で指示を出したそのとき、レーダー員の鋭い声がブリッジに響き渡った。 「対空目標探知。方位020、距離5マイル。機数4、敵味方不明」 赤く塗粧されたガレーが、その細長い船体を穏やかな海に預け、揺られている。 船首楼で腕を組む『バンガコルマ』号艦長は、その鼻に風に混ざる様々な匂いを感じていた。 島々から香る果実の甘く熟した匂い。魚影の濃い海からの潮の匂い。使い込んだ索具から漂うタールの匂い。左右三十六対の櫂を漕ぐ筋骨たくましい漢たちの汗の臭い。船上はとにかく様々な匂いがした。 全ての匂いが、喧しく感じられるほど強く自己主張していた。照りつける太陽の光すら匂う気がする。ここは、そんな海であった。 艦長は、海がいつも通りであることに安心した。無精ひげに覆われた赤銅色の顎を右手でひと撫でする。 彼の耳に、船首楼で見張りについていた船員の報告が聞こえた。 「お頭ァ! 『門』の様子が変ですぜ!」 「莫迦野郎ッ! 俺のことは『艦長』と呼べと何度言ったらわかるんだ手前ェ等は!」 「す、すいやせん。つい、癖で……」 艦長の怒鳴り声に、見張りは首を竦めた。漕ぎ手や弓手達が下品だが陽気な笑い声を上げた。彼らはほんの数ヶ月前まで、通行税の徴収と私掠──海賊を生業にして来た漢達である。使い慣れた言葉は簡単に直るものではない。 「『艦長』どの。俺達にお行儀良い言葉でしゃべれったって、そりゃ無理だッ! こいつらの顔を見てくだせぇよ」 漕手台に並ぶのは、皆ひと癖もふた癖も有りそうな面構えだ。ヤニで黄ばんだ歯を剥き出しにして笑っている。 漕ぎ手達の足に枷と鎖は無い。 他国のガレー艦隊で見られる、奴隷を漕ぎ手に用いるやり方は、コストの面では有利である。しかし、消耗品である彼等に高い練度は期待できず、逆に常に兵の一部を割いて反乱に備えなければならない。また、劣悪な衛生環境から自然に航続距離は短いものとなった。 これに対し、カサードの艦隊は全て自由人で編成されていた。 専門職となった漕ぎ手は、熟練度と体力を高める事で彼の軍船に自在な機動性を与えた。また、彼等は切り込み要員としての役割を担ったため、常に敵より兵員数で優位に立つことが出来た。 唯一の欠点である高いコストについては、海上交易がもたらす莫大な富がこれを解決した。彼らは艦隊の維持に充分な金穀を得ることが出来たのだった。 カサードの艦隊は、浅く穏やかな多島海において、無敵を誇る存在となった。『帝國』の侵攻を受けて組織された『南暝同盟会議』が、彼と彼の艦隊を水軍主力として抱えた事は、当然の判断であろう。 事実、開戦以来彼の艦隊は、逃げ遅れた商船や私掠船(その多くが帝國西方諸侯領内の商人達である)を容易く血祭りに上げ、同盟会議に数少ない勝利をもたらしている。 「まぁ、そうか」 艦長は、船員達とそう変わらない顔をしかめ、同意した。『門』に目をやる。確かに発光がいつもより激しい。彼は太陽を見上げた。使節団の先触れが予告した時刻に近いようだ。 彼は配下に警戒を強めるよう指示を出すと、二浬先の『門』を睨みつけた。彼の『バンガコルマ』号を始め、計八隻の軍船が周囲に展開している。 「左舷前方二浬。『門』より船影ひとつ! いや、四つ!」 見張りがよく通る声で報告した。艦長が素早く視線を『門』に向ける。明滅を繰り返す陽炎の向こうから、奇妙な船が姿を現した。 なんじゃい、ありゃ? 艦長は思った。現れた船は彼の艦より大きかった。船体は全て灰色に塗られている。船型は見たこともない。用途の分からない突起があちこちに付いていた。 何より奇妙な事に、たった一本の帆柱は斜めに傾ぎ、帆は無かった。白地に赤い太陽の意匠を施した旗が揚がっている。船を進める櫂も無い。であるのに、その船は前に進んでいた。 「艦長、けったいな船が四バイ、見たとこ帆も櫓櫂も無い。兵も見えん。叩きやすか?」 掌帆長が言った。気味が悪くて仕方がないという態度だ。 灰色船は、静かに進むと行き足を止めた。船尾の海面が泡立っていたが、船が止まると消えた。 「突っ込みやしょう! ここは俺達の海だ。怪しい奴らは鱶の餌にしてやるべきですぜ」 弓手指揮官が、戦意に溢れた顔で進言した。囲むか。艦長は、正体不明の船に対し包囲を命じようと口を開きかけた。 だがその時、彼の目が二浬先の灰色船上に、よく知った顔を見つけた。 「待て。ありゃ提督じゃねえか? 見張り、見えるか? 左から二番目だ」 「へぇ……艦長、確かにカサード提督です!」 「やっぱりか。だが変な格好をしてるな」 彼のよく知る上司は奇妙な赤い短衣を着込んでいた。この暑いのによくやる。だが、灰色船の上でこちらに手を振るのは、紛れもなく南暝同盟会議水軍アイディン・カサード提督であった。 どうやら、異界の軍船を連れて帰ってきた様だ。あんな『門』に飛び込むだけでも恐ろしいのに。艦長は、見てくれはどうあれ、カサードに対する尊崇の念を新たにした。 「あれに見えるは、カサード提督だ。出迎えるぞ。鼓手用意! 櫂備えッ!」 艦長の号令で、艦の両舷から突き出たオールに漕ぎ手が取り付き、水面ギリギリに突き出された。鼓手が構える。 「両舷前進三分の一。『門』に向かえ!」 鼓手がゆっくりとしたリズムで船尾楼の太鼓を叩く。漕ぎ手は、三人一組で太鼓に合わせて漕ぎ始めた。見事に呼吸の合った三十六対のオールが、水を掻き始めた。 しかし、あれで戦えるのか? 力強く進む艦上で、彼はどこか力の抜けた気分に包まれていた。異界の船は図体こそ大きいが、それだけだ。帆も櫂も無い。あれでは戦うために最も必要な素早さを得られない。 また、船上に大型弩弓などの武器は見えず、兵を矢から守る置盾も無さそうだ。大きいだけの鈍重な船が四隻有ったところでどうにもならん。 掌帆長や掌漕手長も同じ意見の様であった。口々に不満を述べている。 彼は、話に聞こえる帝國軍の猛威を思い、暗澹たる気分になった。このままじゃあ、負けちまう。一体提督はどうする気だ? その時── 「右舷後方、龍が見える! 騎数三!」 鋭い警告が響いた。艦長の背筋に冷たい感覚がよぎる。まさか。ここは、同盟会議の内懐だぞ。だが、次に聞こえた禍々しい鳴き声が、彼に現実を突きつけた。 鳥の鳴き声を、数倍野太くかつ攻撃的にした様な響きが、空に響く。艦長は、右舷後方を見た。 「……有翼蛇!」 青空に現れた羽根の生えた蛇の様な生物。ワイアームと呼ばれるそれは、狂える神々の座を越え南暝同盟会議に攻め寄せた、帝國南方征討領軍の姿であった。 眼下に広がる翡翠色の海上は、まるで木の葉を散らした様だ。間抜けな南蛮どもの軍船はようやくこちらに気付いたようだった。 大層な名を名乗っていても、所詮蛮族か。 帝國南方征討領軍飛行騎兵団に所属する操獣士は、手綱を引き翼龍の行き足を緩めた。照りつける太陽を背に、海面を見下ろす。 海上に遊弋していた軍船は、大慌てで船足を早め、戦の支度を整えようとしていた。遅い。操獣士は、革製の龍騎兵帽の下で嘲りの表情を浮かべた。 彼は、厚手の革製外衣と騎兵ズボン、手袋で身体を覆っている。常夏の地であれ、空を往く者は薄着ではいられない。風が体温を容赦なく奪うからだ。 南方征討領軍は、三月前に『双頭の龍』を戮殺した後、その要塞を拠点に南部沿岸地域に侵攻を開始していた。 初戦で悲惨な殲滅戦を見せつけられた周辺の村落、そしていくつかの都市は早々と帝國に降った。帝國軍はそれらから糧秣と兵を徴収し、更なる侵略に用いた。 反撃は、微々たる物であった。 南暝同盟会議の足並みは乱れ、諸都市が自己を守るので手一杯という有様であった。北辺の守りの要を失ったことは、彼等にそれ程の衝撃を与えていた。 南暝同盟会議諸国は、統一軍の編成すらままならない体たらくであった。わずかの間に三つの都市国家が陥落し、無数の村落が消え去った。 勿論、全てがされるがままであった訳では無い。冒険商人達はその情報網を用いて、帝國軍の兵力がさほど多くないことを突き止めていた。また、有力都市は速やかに自警軍を編成し、跳梁する帝國軍先遣隊の捕捉殲滅を試みた。 だが、効果は上がらなかった。 帝國軍は、部隊を魔獣や翼龍で編成していた。これらの軍は機動力に優れ、兵力に勝る都市国家自警軍を翻弄し続けた。帝國軍は決戦を避け、兵站を脅かし、時には空き家となった都市を襲った。 南暝同盟会議諸国は、盗賊の様に戦う帝國軍に、ずるずると消耗を強いられ続けていた。 南方征討領軍飛行騎兵団は、最近では蛮族の本拠地付近まで足を伸ばしている。少数の翼龍で、散発的に各地を襲っているのだ。操獣士が翼龍と共に海上に現れたのは、そうした現状を表していた。 「今日はあれを喰うとしよう」 操獣士の背中側で低い声がした。風に紛れて聞き取り辛いが、若い男の声である。眼下の軍船を沈めようと言っている。 「分かった。派手に頼むぞ」 操獣士は、その声に応え翼龍を風下へ水平飛行に入れた。浴びる風が弱い方が後ろの男は集中出来るのだ。 「心得た」 そう言った後席の男は、操獣士と同様の服装に身を固めた身体を僅かに反らし、目を閉じた。精神を高める化粧を施した顔が、僅かに痙攣する。 男は『魔獣遣い』と呼ばれる者であった。特殊な魔術の一種を用い、魔獣を操る。主に帝國内の東部山岳地帯に住む民族に多い。 幼龍と共に育ち、成人後は龍騎兵として軍役に就く操獣士とは、また異なる異能を持つ民であった。操獣士は思った。 上は大したことを思いつくものだ。我等を組み合わせる事で、その力何倍にもなる。 帝國軍は、翼龍を用いる龍騎兵に、『魔獣遣い』を同乗させていた。龍騎兵により機動力を与えられた『魔獣遣い』は、その魔術を敵の奥深くに用いる事が出来た。 太陽を反射し、ギラギラと照り返す海面の近くを、三本の黒く細長い影が猛烈な速度で飛んでいるのが見えた。 操獣士が目を凝らすと、それらの姿が明らかになった。翼を持つ蛇──有翼蛇またはワイアームと呼ばれる魔獣だ。三匹が、鏃のような隊形を組んで、蛮族のガレーに向かっている。 人を乗せていない。その速さは生半可な兵どもでは目で追うことすら出来まい。そう思えるほど鋭い飛び方であった。 『魔獣遣い』に使役された三匹は、ガレーまで僅かの距離に近付くと、荒々しい叫びと共に、その口から火球を放った。 火球は狙い違わずガレーに吸い込まれて行った。 右隣の僚艦が激しい炎を吹き上げた。忌々しい鳴き声と共に火球を吐いたくそったれの蛇どもは、既に矢の射程外に飛び去っている。 火球を受けた僚艦は、主檣に喰らった一発によって、良く油の染みた索具と帆が燃え上がり、まるで巨大な松明の様な有り様だった。 悲鳴と共に、火達磨になった人間が海に落ち、水柱を上げた。彼等は暫くもがいていたが、すぐに動かなくなる。僚艦は行き足を止めていた。艦長が居たはずの船首楼にも火球が命中している。 くそ、あれじゃ助からん。 艦隊は大混乱に陥っていた。完全な奇襲である。だが艦長は、流石に手練れであった。速やかに指示を出す。 「前進全速。弓手射撃用意! 奴を近付けるなッ!」 鼓手が激しく太鼓を叩き始め、漕ぎ手が筋肉を膨らませ、力の限り櫂を漕いだ。止まっていてはやられる。艦長は、瞬時に判断した。 周囲の艦の内、三隻は彼と同じ行動をとった。だが、残りの三隻は速度より反撃を選んだ。弓手を船縁に集め、弾幕を張ろうとしている。海賊衆らしい勇敢さであると言えた。 ──だが。 「左手正横、龍が突っ込んでくる!」 見張りの悲鳴。艦長は、即座に指示を出した。 「取舵一杯! 左櫂上げ! 右全力で漕げ!」 左舷側の漕ぎ手が櫂を海面から上げる。右は全力で漕ぎ出した。『バンガコルマ』号は急速に左に回頭する。敵に横腹を曝すまいという動きであった。 左に位置していた僚艦が、矢を放った。だが、ワイアームは矢を軽々とかわすと、停止していたそのガレーに次々と火球を放った。 轟音。火柱。魂を消し飛ばす様な凄まじい悲鳴が上がる。櫂がバラバラと水面に落下した。弓手の放つ矢は全く当たらない。 「駄目だ! 敵が速すぎる」 弓手指揮官の悔しげな叫びが聞こえる。ワイアームは、一撃を加えるとあっという間に飛び去ってしまう。 二隻目を屠った蛇どもは、再度襲ってきた。各艦は全力で回避しつつ、矢を放つ。しかし、効果は無い。辛うじて三撃目は回避したものの、火球をくらうのは時間の問題であった。 畜生、全滅しちまいかねん。どうしたらいい? この船では、奴等には勝てない。 眼前で繰り広げられた惨劇に対し、『はやぶさ』艇長の対応は素早かった。 呆然とする周囲をよそに、彼は情報を集め、脅威評価を下していた。 対空目標。サイズと速度はヘリ程度。我に友好的では無い可能性が高い。火力は本艇に脅威足り得る。 彼は命令を下した。 「対空戦闘用意」 隣では、商人然とした異世界の男が、腰を抜かしそうになっている。指輪を通した彼の言葉は「まさか、こんな所まで……」「一体どうしたら」という呟きであった。〈魔法〉とやらは、男の茫然自失な様子まで正確に伝えていた。 男の狼狽ぶりは、信じられない事態に遭遇した常人の反応としては、概ね平均的なものであった。 だが、命令を受けた自衛官達は、弾かれたかの様に行動を開始していた。警報が鳴らされ、LM500-G07ガスタービンエンジンが全速力に備え唸りを上げる。レーダー員が探知目標に番号を付与する。数十秒後、艇は戦闘態勢を整えた。 訓練でできないことは、実戦では絶対にできない。訓練は実戦の如く。実戦は訓練の如くだ。 部下の動きを見ながら、艇長は昔仕えた艦長の言葉を思い出した。今のところ、自分が鍛えた『はやぶさ』は満足すべき練度を発揮している。 「ガレー船、さらに一隻被弾! 炎上中!」 行き足を止めていたものから叩かれている様だった。足を折られたミズスマシの様な、無残な有り様を晒している。無事な船は五隻まで減少し、必死に回避運動を続けていた。打ち上げられる矢の勢いは、乗員の動揺を表すかのように貧弱で、何の効果も無い。 「目標機数3。更に後方に1機、旋回中」 レーダー員の報告を聞きながら、鮮やかな青空に目を凝らす。双眼鏡では視界が狭まり追いきれないためだ。艇長の目には、目標は航空機でもヘリでも無い様に見えた。それは、奇怪な生物に見えた。 「……蛇? 火を吐く蛇がいるのか?」 「あれは、有翼蛇です。マルノーヴ各地に生息する魔獣。しかし、ああまで見事に使役されたところを、わたくしは見たことがありません」 リューリが、真っ青な顔色ながら気丈にも、艇長に説明した。 「使役? 操られていると?」 艇長が訊ねた。リューリが、天井を見上げながら答えた。 「有翼蛇は、人に馴れません。ですが、『魔獣遣い』は術によって使役すると聞きます。帝國軍はあの様な魔獣を軍に用いているのです」 重い口調で語った彼は、艇長の目を見つめ、切り出した。 船長殿。願わくばわたくしとカサード殿にボートをお貸しくださいませんか?」 傍らには、憤怒と焦燥に髪を逆立てたアイディン・カサードが拳を握りしめ立っていた。眦はつり上がり、苦戦する配下達を見つめている。 「……あなた方は本艇の大切な客人だ。お貸ししたとして、どうされるお積もりか?」 艇長の言葉に、カサードは態度で答えた。炎上するガレー船を指差し、反対の手で目の前の壁を力一杯殴打した。金属を叩く硬い音がブリッジに響く。乗員達が驚いた表情を見せた。艇長とレーダー員だけは顔色を変えなかった。 リューリが、カサードの代わりに言った。 「海将カサードは、部下と共に在ることを望んでいます。しかし、異国の方である貴船に参戦の名分はありません。ボートをお貸し頂ければ、我等は配下の軍船に漕ぎ寄せ、指揮を執る所存です」 「リルッカさんは、使節団の団長でしょう? あなたまで行く必要が?」 艇長はリューリを気遣った。指揮官が戻ったとして、ガレー船が自在に空を駆ける有翼蛇に勝てるとは思えなかった。 リューリはにこりと笑った。 「わたくしは南暝同盟会議に連なる者。敵たる帝國軍により味方が窮地に在りし時にただ黙って見ている様では、わたくしの幹も根も腐ってしまいます。拙い精霊魔法でも何かの役に立ちましょう」 大した口上だった。だが艇長は、リューリの足が震えているのを見逃さなかった。カサードが今にも海に飛び込んでしまいそうな様子であることにも、共感を覚えた。彼は部下を案じている。 艇長は、その身の内で血が沸く音を、はっきりと聴いた。 「お二方の御覚悟、了解しました。暫し待たれたい──通信!」 そう言って艇長は、通信員の手から無線の送話器をひったくった。だが、同時にスピーカーから声が聞こえた。 『群司令より、各艇長。意見はあるか?』 艇長は機先を制された形になった。群司令の問い掛けに、無線からは各艇長の返答が次々と聞こえてきた。 『「わかたか」艇長、戦闘行為を制止すべきと考える』 血の気の多さで知られる『わかたか』艇長が、戦闘への介入を進言した。きっと狭いブリッジの中を熊の様にウロウロしているだろう。 『こちら「くまたか」。現状は、武器使用要件を満たさない。戦闘停止を呼びかけつつ、部隊の保全に努めるべきと考えます』 『くまたか』艇長の冷静な声が聞こえた。治安出動下令前に行う情報収集として派遣された彼らは、武器使用に制限があった。改正自衛隊法第92条の5は、対象を「自己又は自己の管理の下に入った者」に広げたものの、危害要件を『正当防衛』『緊急避難』に限っている。 『「うみたか」艇長。被攻撃船の乗員は、「日本人」の可能性がある。救援を進言する』 奇妙な事だが、『門』を越えたこの世界は、法律上日本国内らしい土地として扱われていた。政府は『南暝同盟会議』を主権国家であると確認するまでの間、あくまで国内における活動として自衛隊を運用するつもりであった。 そのため、眼前で戦うガレー船の乗員は、『未発見の』日本人の可能性がある。『うみたか』艇長はそう言っていた。 「こちら『はやぶさ』艇長。ガレー船乗員は、『南暝同盟会議』所属との情報を得た。本艇これより近接し、難船者救助を実施したい」 無線のやり取りに唖然とするリューリ達を尻目に、『はやぶさ』艇長は進言した。内心、無茶かなと思っている。救助のために近付けばまず攻撃を受ける。それは、様々な問題をクリアするが、更に多くの問題を生み出すだろう。 日本国として、それを許容出来るのか? その判断を現場がしても良いのか? 無線は約十秒、沈黙した。 『群司令了解。「はやぶさ」は、ガレー船に近接し、難船者の救助に当たれ。「うみたか」は「はやぶさ」を援護せよ。「くまたか」「わかたか」は「門」を確保せよ』 群司令の声はやけに明るかった。ミサイル艇を指揮する指揮官達は、その兵器特性からか即断即決を重視する傾向があると思われている。群司令もその例に当てはまるようだ。 『「はやぶさ」了解』 艇長は、自分の声も明るくなっている事に気付き、内心で苦笑いした。だが、手には既にじっとりと汗をかいている。今からは、命のやりとりになる。そう思うと、膝が笑いそうだった。 「船長殿! 早く我らを降ろしてください!」 じれた様子でリューリが言った。艇長は、彼に答えた。 「リルッカさん、カサードさん。ボートはお貸しできません。本艇これより貴船団の救助に向かいます」 「無茶です! 危険すぎます! 船では火球を回避できません。いくら鉄船と言えども……」 「──我、強要! 降りる!」 この船では不可能だと言い募る異世界の住人に対し、艇長は胸を張った。 「リルッカさん、本艇の名前を覚えていますか?」 「……『はやぶさ』です」 「そう、『隼』です。今から、我ら四艇が猛禽の名を名乗るその理由を、御覧にいれましょう」 艇長は爽やかに笑いながら、リューリの細い身体をレカロ社製シートに押し込んだ。手早くベルトを締める。そうしてから正面を向く。彼は大きく息を吸い、命令を発した。 「本艇は只今から救助活動のため、ガレー船に近接する! 第二戦速!」 タービンが一段甲高い音で、ブリッジの空気を震わせる。艇尾が激しく泡立ち、『はやぶさ』は満載240トンの船体を力強く前進させ始めた。 太陽が中天に昇る頃、南暝同盟会議水軍初の対空戦闘は、早くも破局を迎えようとしていた。 快速を誇った旗艦『バンガコルマ』号だが、既に至近に二発の火球を食らい、漕ぎ手に被害が出ていた。 いくら漕ぎ手に屈強な漢達(その中には人族以外の者を含んでいる)を揃えているとはいえ、四半刻余りも全力で漕ぎ続けていては、疲労の色が隠せない。 「頭ァ、もういけませんや。次は避けられそうにありやせん」 掌漕手長がふさふさした耳を情けなく垂れ下げ、泣き言を漏らした。彼は配下の二割を失っている。 「莫迦野郎、簡単に諦めるな。帝國の蜥蜴どもに笑われるぞ!」 「ですが……」 艦長は船首楼に仁王立ちになり、汗にまみれた赤黒い顔を左右に巡らせた。彼の視界の中で、艦隊の陣形はとうに崩され、各艦がてんでバラバラに海上をのたうっていた。 八隻のガレーの内三隻が炎上し、『バンガコルマ』号を含め三隻が損害を受けている。海上には、砕かれた櫂や焼け焦げた船材、そして黒い塊──先程まで人間だったものが無数に漂っている。艦長は唇を噛んだ。無様な有り様だった。 有翼蛇は鏃の様な編隊を組み、一旦空高く昇り始めていた。矢は気を逸らす事すら出来ていない。 畜生、太陽を背にしやがった。艦長は目を細めたが、蛇は直に見えなくなった。 彼らの戦備えは、空を駆ける敵に対して全くの無力を晒している。敵船への斬り込みに無類の威力を発揮した曲刀も銛も、炮烙や弩ですら役に立たない。 まるで、鮫に蹴散らされる小魚の群れの様であった。有翼蛇があとどれだけ火球を吐くことが出来るのか分からないが、少なくとも先に力尽きるのは此方である。 艦長は決して諦めてはいなかったが、切ることの出来る手札は尽きようとしていた。 その時、船尾楼から声が上がった。 「灰色船、動き出した──何だぁ!?」 「頭ァ! 見てくだせぇ。信じられねぇ……」 配下の狼狽した報告を受けて、艦長は戦闘開始後初めて灰色船の存在を思い出した。それまでは、無力な存在だと半ば無視していたのだ。 あの得体の知れない船にはカサード提督が乗船している。我等が此処で敗れたとしても、提督だけは無事逃がさねば。しかし、見張り共は何を見てそんなに慌てているんだ。彼は灰色船を見た。 次の瞬間、彼は自分の見たものに対し、配下と全く同じ態度を示す事になった。 「……何をどうやったら、あんな速さで走れるんだ?」 船は海上を滑るように進む。鉄の船体は小刻みな揺れをリューリに伝えていた。それは彼の知らない揺れだった。 彼の知る船というものは、風が強く吹けば煽られ、弱ければ行き脚を失い、潮とうねりの前に力無く押し戻される様な、真にか弱い存在だった。船長たる者は常に風と波を見極め、逆らわず利用する事に心を砕いた。 それを巧みに為す者が、練達の船乗りとされた。 でも、異界の船は違う。 彼等は海をねじ伏せ、自らの力で迅く走る。風もうねりも切り裂いて真っ直ぐに進む。 リューリはすっぽりと身体を包むような心地の、不思議な椅子に身体を預けながら、その速さに心を奪われていた。 左右の景色が飛ぶように流れ、ガレーがあっという間に大きくなった。 「船長殿! はやい! はやいです! 何なのですかこの船は!」 本当に船なのだろうか? リューリは興奮して叫んだ。 「海上自衛隊ミサイル艇『はやぶさ』、我が国で一番の韋駄天です。お気に召した様ですな」 リューリの興奮を露わにした態度に、艇長も満更では無い様子だ。 「真艦首のガレー船まで2000ヤード」 「取舵。140度宜候」 「とぉーりかぁーじ」 艇長の指示で、『はやぶさ』は左へと舵をとった。艇体が僅かに右に傾く。 「戻せ、舵中央」 左に針路を向けた『はやぶさ』は、ガレー船を右舷に見つつ、前を横切ろうとしていた。 「もどーせー、舵中央。宜候140度」 「目標、180度5000ヤード。ガレー船に突っ込んでくる」 南から太陽を背に、有翼蛇が再突入を図っている。レーダー員が、刻々と報告する。艇長は、やや固い声色で命令した。 「ガレー船と蛇の間に割り込む。こっちに引き付けるぞ!」 『はやぶさ』は、翡翠色の海原に弓の様にしなる白い曲線を描きつつ、21ノット(時速約39km/h)の速力でガレー船の南側に出た。 キレの良い挙動でそのまま横腹を有翼蛇の飛来方向に向ける。76ミリ速射砲は正面に向けたままだ。 日本近海に合わせ塗粧された灰色の船体は、強烈な陽光を受けギラギラと光を放っている。それは、翡翠色の海に良く栄えた。空からはその姿がはっきりと視認できた。 一旦高度を稼ぎ、南へ離隔した有翼蛇の編隊は、『魔獣遣い』の思念波に導かれた。 『魔獣遣い』は、高速で走る新たな船を警戒すべき対象と認識した。先程まで行われていた低高度からの襲撃の代わりに、更に難度が高く、強力な攻撃法を選択する。 蛇は、急角度で右に捻り込むと、太陽を背に急降下を開始した。十分な位置エネルギーを速度に変換しつつ、蛇は『はやぶさ』に向けて約65度 の角度で突撃した。 風を斬って有翼蛇が降下する。知性の感じられない両の目は、『はやぶさ』を捉えている。その情景は『魔獣遣い』の脳裏に映像となって伝えられた。 有翼蛇による急降下火球突撃。操獣士を乗せない事で、桁違いの機動性と速度を獲得したこの攻撃を破る事が出来るものは、アラム・マルノーヴ広しといえど存在するはずがない。 それは、全くの真実であった。 『魔獣遣い』の思念に混じる勝利への確信を感じたか、有翼蛇が甲高い鳴き声を上げた。禍々しい音色が辺りに響く。 降下する有翼蛇の姿を目撃した『バンガコルマ』号の乗員達は、炎上する哀れな異界の灰色船を幻視し、悲痛な呻き声を漏らした。 敬愛するカサード提督は、あの船と共にやられちまうに違いない。 誰もがそう思った。 『はやぶさ』のブリッジでは、艇長が慎重にタイミングを測っていた。レーダー員が距離を刻々と読み上げる。 「目標まで1000」 敵の注意を惹き付ける事には成功したようだ。有翼蛇が目標を『はやぶさ』に定めた事は、レーダーの輝点の動きから見て取れた。畜生、先に撃てりゃあ苦労は無いんだが──艇長は、射撃号令の代わりに言った。 「記録始め」 「了解」 ブリッジの中は戦闘配置の乗員であふれていた。88式鉄帽に救命胴衣を装着した航海科員が、固唾をのんで天井を見上げる。 「飛行生物3、左80度500。真っ直ぐ突っ込んでくる」 「目標まで300」 「了解。……カサードさんはどうした?」 「左見張りと一緒です!」 舷窓の向こうに、見張りの横で仁王立ちし、空を睨む威丈夫の姿が見えた。艇長は一瞬だけ迷った。退避を。いや、間に合わん。艇長は左舷見張りに指示を出した。 「目標が降下を始めたら叫べ!」 「目標直上! 急降下ァ!」 「蛇! 来るぞ!」 艇長の言葉尻に見張りの叫び声がかふさった。カサードの発した警告が同時に響く。 「取舵一杯! 最大戦速! 見張り退避急げ」 「総員衝撃に備えェ!」 三匹の有翼蛇が流星の様な勢いで降下する。海面から見上げたその姿は、殆ど垂直に落ちてくる様に見えた。甲高い鳴き声が、まるでサイレンの様だ。 対する『はやぶさ』の三基のウォータージェットノズルが駆動する。左舷側に猛烈な勢いで吐き出された水流が、艇首を蹴飛ばすような勢いで左に向けた。 椅子に縛り付けられたリューリの身体が、右に振り回される。乗員達は手慣れたもので、立っている者は皆何かに捕まり、その任を全うしていた。 『はやぶさ』は、海面を白く濁らせながら、左急速回頭を行う。 有翼蛇の眼を通して敵船を捉えていた『魔獣遣い』の視界から、かき消える様に敵船が消えた。 いや、有り得ない速度で舳先を振っている。敵船は此方の顎から逃れようとしていた。 「……海魔め」 「どうした?」 操獣士の問い掛けを無視した『魔獣遣い』は、思念波を放った。今ならまだ── 思念波を受けて、有翼蛇は喉を震わせると、その顎から火球を放った。高温の火球が尾を引いて敵船に向かう。粘性の高い分泌物を燃料とした焔は、命中すれば船材も人も等しく焼き尽くすだろう。 火球を放ち終えた三匹の有翼蛇は、疲労した体躯を無理矢理引き起こし、急降下の勢いを殺す。二匹がそれに成功した。海面を這うように離脱する。だが、残りの一匹は哀れな悲鳴を残し、大きな水柱を立てた。 引き起こしに失敗した一匹は、海面に激突したのだった。蛇はそのまま、もがく事すらせず、海中に消えた。 一方、轟音と水蒸気が『はやぶさ』左舷を包み込んだ。 「ああ、やられちまった……」 「糞ったれェ! 」 「駄目だ、次は俺達だ。皆殺しだぁ!」 濛々と立ち昇る水蒸気の雲を見て、南暝同盟会議の船乗り達は、口々に嘆き罵った。 だが次の瞬間、煙るような水蒸気の中から、『はやぶさ』が姿を現した。泡立つ海面を真一文字に切り裂いて、凄まじい速度で飛び出す。 最大戦速──44ノット。 アラム・マルノーヴの船乗り達にとって、それは有り得ない光景であった。 「左舷至近に着弾!」 「船体に異状無し! 各システム全力発揮可能」 「左見張りは、生きとるか?」 「だ、大丈夫でーす」 左舷の舷窓には、微かに炎が舐めた名残が、黒い煤となって付いているだけだった。どうやら敵の攻撃は破片を撒き散らす類の物では無いらしい。 艇長は、『はやぶさ』が戦闘能力を維持している事を確認した。激しいピッチングが連続して身体を揺さぶる。 当然だ。蛇風情にやられてたまるか。 艇長は、重要な事項を確認する事にした。 「記録は撮れたな?」 「動画、ボイスレコーダーその他完璧です」 「よし。本艇は、国籍不明の武装勢力から無警告攻撃を受けた。武器等防護の為、隊法第95条に基づく武器使用を行う──通信、群司令に報告!」 「目標を敵機に指定。280度、1000ヤード。左旋回!」 離脱した二匹は、態勢の立て直しの為体躯を左に捻った。思念波が再度の突入を命じる。哀しげな鳴き声があがった。信じられない程の速度で走る灰色船に向け、二匹の有翼蛇は襲撃機動をとった。 「右対空戦闘」 攻撃をかわし南へ走る『はやぶさ』は舵を右にとりつつ、西から迫る有翼蛇に右舷を向ける。主砲の76ミリ速射砲が、角張ったステルスシールドの砲塔を回転させた。 FCS-2-31射撃管制レーダーが、有翼蛇の編隊を捕捉する。主砲の砲身が連動し生物の様に動き、狙いを定める。 艇長は、艇長席のリューリを見た。 「リルッカさん。本艇はあの蛇を撃墜します」 「……良いのですか? 貴国は──」 余りの速度に目を白黒させていたリューリは、艇長の瞳をじっと見つめた。彫りの浅い男の瞳には、断固たる意志が存在していた。 「あの蛇はどうやら我が国にとっても侵略者である様ですからな」 リューリの視線を受け止めた艇長は、すぐに右舷から迫り来る有翼蛇に向き直った。 「距離800」 「主砲打ち方始めェ!」 艇長の号令と同時に、前甲板の76ミリ速射砲が乾いた発砲音を響かせた。閃光。続いて砲煙。激しい金属音と共に砲身下から薬莢が転がり落ちる。 発砲は二回。それで全てが決した。 低空を這うように突撃する有翼蛇の眼前に、黒い華が咲いた様に見えた。 『はやぶさ』から発射された調整破片榴弾は、近接する有翼蛇の直前で信管を完璧に作動させた。黒煙と共に破片が哀れな蛇を包み込む。 まともに飛び込んだ一匹は、全身をズタズタに切り裂かれ、悲鳴をあげる間もなく海面に叩きつけられた。 二匹目は、更に劇的だった。目の前で仲間を叩き落とされた事に反応を見せる間もなく、76ミリ砲弾がほぼ直撃したのだ。強烈なカウンターを喰らったかの様に、有翼蛇は空中で消し飛んだ。顔面のパーツや薄い羽が、粉々になって落下する。 「グゥ、莫迦な!?」 思念波の逆流に、こめかみを押さえた『魔獣遣い』が狼狽した声をあげた。無敵であったはずの魔獣が、瞬きする間に墜とされた光景に、彼は言葉を失った。 攻撃魔法か? いや、あの様な威力の術を、俺は知らない。あの船は危険だ。 「おい、やられちまったぞ! どうする?」 操獣士の声に、彼は我に返った。与えられた任務は、敵の攪乱と物見である。支配下の魔獣を失った今、己に出来ることはあの船の情報を持ち帰る事。 冷静さを取り返した『魔獣遣い』は、操獣士に告げた。 「帰投する。あの船、将軍にお伝えせねばならん」 「心得た。彼奴はとんでもないな。有翼蛇が一撃とは」 彼等は、為すべき事を見誤らなかった。操獣士は愛龍の手綱を引くと、小さな旋回径を描きつつ、離脱を開始した。 南暝同盟会議の軍船に、あの様な型は無いはず。いや、我が帝國にも存在せぬ。南方征討領軍に、大きな障害となるやも知れぬ。あれを沈めるには──。 だが、彼の思考はそこで絶たれた。視界の片隅で、灰色船の更に遠方約四浬先にあるもう一隻に、微かな光を見た。 一息の後。 『魔獣遣い』の身体は、衝撃と共に空中に放り出されていた。赤く染まる視界の中で、引き裂かれた翼龍と操獣士が、混じり合って墜ちていくのが見えた。 彼は、自分も同じだと気付いたが、すぐに意識は闇に飲まれた。 「『うみたか』、敵一機撃墜。全目標撃墜」 「打ち方止め。第一戦速。ガレー船の救援に向かう」 艇長は、ようやく肩の力を抜いた。初の実戦に、無意識に緊張していたらしい。首を回す。椅子で惚けた表情を見せるリューリの姿が目に入った。 「敵は全て落としました。もう、大丈夫でしょう。これより、貴艦隊の救援に向かいます」 「……はい。──いや、いやいや! 艇長殿! この船は一体? 何というか、わたくしは御伽噺を見ているかの様な心地です」 リューリの言葉に艇長は思わず噴き出した。おとぎ話の様なのは、そっちの方だろう。 「ご助力に感謝いたします。カサード提督も感──」 「おおッ勇者達よ! 儂からの礼を受け取ってくれ! 何たる凄まじき魔導よ! 古の王国にすらこの様な軍船は存在すまい! 見事だッ! 感服仕った!」 とてつもない騒がしさで、カサードがブリッジに飛び込んできた。彼は、煤まみれの大柄な身体で、手当たり次第に乗員と抱擁し、褒め称え、笑った。彼は、艇長を見つけると、言った。 「お陰で、部下が生き残れた。感謝致す。先に手を出す訳にはいかなかったのであろう? 自らを危険に曝してまで──アイディン・カサードとその一党は、この恩決して忘れぬぞ」 「肝は冷えました。ですが、あれが『帝國軍』であるなら、遅かれ早かれ交戦は免れなかったでしょう」 「正直な男だな」 艇長はふと思い出し、言った。 「ところで、カサード提督。この艇の本当の速さ、お分かりいただけたでしょうか?」 「ぐ……聞いていたのか。あれは撤回しよう。我が戦船が一番だと思っておったが、どうやら『ハヤブサ』の名に偽りは無いようだ。完敗だ」 そう言って、カサードはまた笑った。 「ガレー船まで、500。単横陣を組んでいます」 「ウィングに出ましょう」 艇長は、リューリとカサード、そして腰を抜かしていたロンゴ・ロンゴを連れて、ブリッジを出た。 『バンガコルマ』号はお祭り騒ぎであった。つい先程まであらゆる手管を用いても倒せなかった帝國の有翼蛇が、いとも簡単に落とされたのだ。これで喜ばない者はいない。 疲れ果て、汚れきった漢達だったが、各々が力の限り歓声をあげ、拳を突き上げていた。 「艦長! 提督の灰色船近付きやす!」 見張りの報告に、全員が振り返った。平和な景色を取り戻した海原が、先程の戦闘など無かったかの様な態度を見せる。その中を、灰色に船体を塗粧した軍船が素晴らしい速度で近付いていた。 もう、誰も侮る者はいなかった。鋭い湾曲剣を思わせるその船は、恐らく近隣で最強の存在である事を、全員が理解していた。 「艦長どの。ありゃ、何者なんでしょう」 「知らん。検討もつかん。海神の御使いだと言われても驚かん」 艦長は、投げやりに答えた。ふさふさの耳を立てる元気を取り戻した掌漕手長は、感心した様に言った。 「少なくとも、連中が糞強くて、その糞強い連中が、糞ったれの帝國と喧嘩する気があるってのは、いい気分ですな」 そこで艦長は、灰色船にカサード提督の姿を認めた。虚脱した気分を腹に力を込めて追い出し、声を張り上げた。 「野郎共、提督が見てらっしゃるぞ! だらしねぇ様晒してんじゃねぇ! あの船に敬意を表するぞ! 合図出せ」 「漕手台に付けェ!」 満身創痍の漢達と五隻のガレーが、威儀を正す。灰色船上に立つカサード提督の顔がはっきり見える距離になった頃、艦長は五隻に命令を下した。 「異世界の勇士に──櫂立てェ!」 その様子は『はやぶさ』からもよく見えた。朱色に塗られたガレー船の両舷で、左右に突き出されていた櫂が、一斉に起こされた。 少なからぬ櫂が、折れ、焼け焦げていた。だが、傷付きながらも、全ての櫂を天に向けたガレー船団の姿は、紛れもない敬意を示していた。 国どころか世界が違っても、船乗りの流儀は同じか。 艇長は信号員長を呼ぶと、手空き総員を整列させた。潮風が、マストの艦旗をはためかせる。 「気ヲ付ケェ!!」 答礼喇叭が異界の海に高らかな音色を響かせた。 交易都市『ブンガ・マス・リマ』 アラム・マルノーヴ南部沿岸地方の経済・文化の中心地であり、中継地でもある。現在は『南瞑同盟会議』の本拠地として、会議本体が置かれていた。 マルノーヴ大陸の南岸に突き出たメンカル半島は、無数の島々が浮かぶ広大な多島海に面している。この半島の先から海に流れ込むマワーレド川の河口に、最初の集落が作られた。 すぐに誰かが、この集落の立地が周辺の市邑を繋ぐのに大変都合が良いことに気付いた。 目端の効く商人達は迷わなかった。大陸からの交易品はマワーレド川を用いて運ばれ、島々に送り出された。逆に、島々で産出する様々な品は、『ブンガ・マス・リマ』を一大集積地に、大陸各地へもたらされて行った。 街に交易品と情報が流れ込み、人が集まった。人が集まれば、物と金が動き情報が集まる。この地は、マルノーヴ大陸沿岸を東西に進む交易船が補給し、情報を得るのに絶好の場所となって行った。数百年繰り返すうちに、街は、河口域では収まらなくなった。 無数の中洲上に市域は広がって行った。商取引をもって栄えた街は、自然と商人が権力を握る様になって行った。歴史上数度に渡り、周辺に勃興した王朝の支配を受けたが、最終的にこの地を握ったのは常に商人であった。 そして現在、土砂の堆積を避ける為、河口から離れた地に大型交易船用の岸壁と港湾が整備され、広域都市・商業同盟『タジェル・ハラファ』の盟主となった『ブンガ・マス・リマ』は、人口凡そ二十万を抱える巨大都市に成長していた。 その商都はいま、大騒ぎの真っ最中である。 「帝國の飛龍十騎を瞬く間に叩き落とした異界の水軍が入港するらしい」 「はぁー? あんた与太話もいい加減にせんね」 「いや、まことらしいぞ。その船は隼の如き速さで海を走り、光の飛礫が十哩離れた敵を落とすとか」 「あほらし。そないな事、古代王国の魔導軍でも無理やわ」 通りのあちこちで、商談の途中で、洗い場で、市民達の口に噂がのぼった。訛りのキツい者が多いのは、既知世界の彼方此方から集っているからである。 彼等の肌の色・目の色が千差万別なのは当たり前で、耳が長かったり、ふさふさしていたり、犬歯が鋭かったり、尻尾が有ったりしていた。 だが、誰も気にしない。「目が三つだろうが、鱗が有ろうが『商い』が出来る相手なら細かい事はどうでも良いだろう?」 彼等は徹頭徹尾そんな感じであった。 「魔人でもなけりゃ、そんな芸当出来っこないぞ」 「魔人?」 「そう言えば、知り合いの漁師がすげぇ速さで走る船と島ほどあるどでかい船を見たって!」 「そいつは豪気だな。見てみてぇもんだ」 「儂の聞いた話じゃと、異界の船乗りは一つ目の大男で、目から怪光線を放つんじゃと」 「眩しくないんかのう?」 「聞いたか!? 昼にカサード提督の水軍と例の異界船が、ラーイド港に入るらしいぜ!」 「あたし見たい!」 「行くか、面白そうだし」 「行くべぇ行くべぇ」 交易都市の住民というものは、好奇心に溢れた人々である。 結局、老若男女人獣精妖がこぞって「帝國の飛龍百騎を一瞬で全滅させた巨人の操る軍船」を見物すべく、商都の表玄関であるラーイド港区に押し寄せる事となった。 たちまちのうちに石造りの岸壁は見物客で溢れ、それを当て込んだ物売りとスリと邏卒が入り乱れた。 あちこちで普段から仲の悪い商会の丁稚や、交易船の漕ぎ手の間で喧嘩が起きる。巻き添えを喰らったドワーフの放浪鍛冶が海に突き落とされた。怒り狂った同輩が、騒ぎに飛び込む。 その周囲では、すぐさまどちらが勝つかの賭が始まり、人混みに酔った森妖精が青い顔でひっくり返った。すかさず、彼女を介抱しようと、両手に余る数の男達が群がるが、彼等はたぎる下心と共に仲間の拳と魔法で纏めて吹き飛ばされた。笑い声が辺りに満ちていた。 気がつけば、祭の様な景色である。 その日のラーイド港区二番邏卒詰所邏卒長の日誌には、こう記されている。 『人々が集まり騒ぐこと甚だしく、非番を含め総員が此に当たる。この日、乱闘に及ぶ者百七十四名。落水者二十七名。摺りに遭う者、迷い子の数、数えきれず。 異界の舟は噂よりよほど小さく、さほどの異形に非ず。ただ一つ、突然舟が上げた咆哮に肝を潰すもの多数。運荷船二艘が転覆。明日、水軍に抗議の予定』 『されど、民衆の笑い集う様、久方振りの事なり。水軍の勝利をもたらしたこの舟を、人々は好意をもって迎えた事を此処に記す』 『2012年12月16日 不明飛行物体との戦闘終結後、目的地「ブンガ・マス・リマ」へ向かう。当初旗艦「ぶんご」を伴う予定であったが、現地住民の船舶多数が港内外に遊弋しているとの情報あり。 航行の安全を考慮し、本艇に政府代表を移乗後、第2ミサイル艇隊でラーイド港に入港する事とされた』 『ラーイド港にて、無数の人々の出迎えを受ける。港内の水面は、手漕ぎや帆走の小型船で埋まっていた。港の規模はかなりの物であった。機械の類は一切見えない。 近い風景といえば、東南アジアだろうか? だが、東南アジアにはエルフもドワーフも存在しない』 『岸壁にエルフと騎士と魔法使いらしい集団を見つけた。盗賊と神官とドワーフの戦士は探しても見つからなかった。何だか期待外れな表情をしている現地人が多かったので、艇長に汽笛を鳴らし歓迎に応える事を進言した』 『現実感の無い景色に、浮かれてしまった事を反省する。だが、信じられないがこれは自分に本当に起きた出来事らしい。何てこった』 『はやぶさ』航海長の日誌より。 「日本国政府を代表し、盛大な歓迎に感謝致します」 かつては商業同盟『タジェル・ハラファ』大商議堂として、現在は『南瞑同盟会議』の本拠として、その威容を衆目に示し続ける白亜の商館の中、その一室に人々は集っていた。 細密な紋様を丁寧に織り込んだ極彩色の絨毯の上には、巨大な円卓が鎮座している。その席の片側には、『南瞑同盟会議』に連なる諸勢力の重鎮が座り、もう一方には異界から来た使者が、腰を下ろしていた。 高価な調度品の置かれた部屋の天井は高く、採光窓からは柔らかな明かりが室内に注いでいる。部屋の空気は精霊の助けにより絶えず循環し、爽やかな温度に保たれていた。この事からも、この建物の主達が莫大な富を手中にしていることを窺わせた。 同盟会議重鎮の、一様に威厳と財力を競うかの様な、装飾品と衣装の鮮やかさに比べ、異界の使者は驚くほど地味な服に身を包んでいた。 僅かに装飾と言えるのは、首から下げた飾り布と、襟元に着けられた四角い青色のブローチのみである。些か肉の付きすぎた身体を分厚いクッションに預けたある都市の代表などは、あからさまに侮った表情を見せている。 だが、目端の利く者は使者の履く靴を一瞥し、僅かに眉尻を上げた。素知らぬ顔で、気を引き締める。そもそも、勇猛さで鳴らすカサード提督が手放しで褒める相手である。さらに、ロンゴ総主計からは彼の国の驚くべき報告が上げられている。 目の前の貧相にも思える男が、見かけ通りである筈もない。 「御礼を申し上げるべきは此方でしょう。我が水軍の危機、貴軍無しでは切り抜けられませんでした。百万の味方を得た思いです」 同盟会議側が、礼を述べた。〈ニホン〉の使者は頭を下げたが、表情一つ変えない。 「我々は攻撃を受けた為、必要最小限の自衛措置をとったに過ぎません。全てはこれからの交渉次第です」 「慎み深い事ですな」 〈ニホン〉執政府代表と名乗る男は、慎重に言葉を選びながら、次のような要求を示した。 『帝國』に関する情報の提供 『門』に関する情報の提供 周辺海域及び地形調査の許可 市内に出先機関の設置。郊外の土地の借り上げ 〈通詞の指輪〉購入を始め、『南瞑同盟会議』との商取引の許可 これに対し、『南瞑同盟会議』側は、 対『帝國』戦への参戦 魔導兵器の供与若しくは売却を求めた。〈ニホン〉側の要求に対しては、 出先機関の設置や土地の借り上げについては応じ、商取引についても指定する商会を通すことを条件に許可した。 周辺海域の調査については、水軍が彼等に大変な好意を示している事が大きく影響した。〈ニホン〉側は、ほぼ自由に調査活動を行うことを認めさせる事に成功した。 逆に『門』に関する情報の提供は、「リユセ樹冠国の秘儀に当たる」として、『同盟』は〈ニホン〉に参戦の確約を求めた。『帝國』の情報についても、小出しにする態度を示している。 〈ニホン〉側も、「参戦の判断は、『帝國』が我が国民を害したかどうかを慎重に確認しなければ不可能である」とし、魔導兵器については「兵器売却を禁ずる国法有り」として突っぱねた。 結局のところ、情報提供と参戦については次回以降の交渉に持ち越されることとなった。両者は一定の成果を得た事を確認した。 交渉において〈ニホン〉代表は『南瞑同盟会議』の諸国家代表に対して、頑なに「住民代表の皆さん」と呼び掛けた。些か不遜な響きである。〈ニホン〉側の慎重な姿勢の中に見えた、僅かな違和感である。 これに不快感を表する者は多く、一時会議は紛糾した。 それとなく訂正を求めるロンゴ・ロンゴに対し、〈ニホン〉代表は不思議な笑いを浮かべ、申し訳無さそうに言った。 「私は、まだ皆さんが求める表現を用いる事を許されておりません。どうか、ご容赦頂きたい。大変難しい問題なのです」 「理解出来かねますな」 「ところで、この周辺において無人の島の扱いはどの様になされているのでしょうか?」 何を言い出すのか、という表情でカサードが答えた。 「無人の島などそれこそ豆魚の数程在ろうよ。有益な島には人が住むが、それ以外は誰も知らぬ。漁師が風待ちに寄ることも有ろうが、魔獣のいる島も多くてな」 「では、無主の島々は数多存在すると?」 「応よ」 「それを聞き、安堵しました。遠からず良いお話が出来るかと、その様に期待しております」 〈ニホン〉執政府代表はそう言って、今度は本当の笑顔を見せた。 「いくぞ、1、2、3!」 「そりゃ!」 あちこちに錆が浮き、いささか古びた風情を見せる甲板上で乗員達が機械を操作する。ぎらつく陽光を受けながら、ブイが海面に投下された。 ブイは海面に落ちると、派手な音と水柱を立てた。すぐに灯標が点灯する。 海上保安庁の設標船『ほくと』は、急ピッチで航路の啓開を進めていた。付近では『明洋』が海底地形や海流、水深その他諸々の観測データを集め、精査し、海図の作成に取りかかっている。 二隻に寄り添う様に巡視船『てしお』が遊弋していた。 別の海域では『海洋』が、『おいらせ』を護衛に、ロランC局及び中波開設の適地を求めている筈であった。 GPSも海図も無い、浅瀬を示すブイも無い。天測も出来ない。そんな海で戦う事など不可能である。自殺行為だ。 至極真っ当な現場の意見を受け、日本国は先ずこの世界の有り様を調べ始めていた。 「左20度、ヘリコプター1機」 見張りの報告に船長が空を見上げる。汗が目尻に流れ、染みた。滲んだ視界の中で日の丸を付けた海自のヘリが、ローター音を響かせ飛び去っていった。 「どこもかしこも、フル稼働だなぁ」 あの機の他にも、聞くところによれば無人機が多数投入されているらしい。 陸地に関しては海自の掃海母艦を基地に、国土地理院の測量チームや陸上自衛隊中央地理隊が測量を始めている。沿岸部では掃海艇が走り回り、EOD(水中処分隊)が揚陸適地を探し回っていた。 異世界の理がどの様な物なのか、全く分かってはいない。それを解明するのは、本来学術研究者達である。 だが、ここは民間人が立ち入るには危険過ぎた。 日本にとっても異世界にとっても。 「ま、でかい仕事では有る、か」 船長は、まだ手付かずの大海原を眺め、一人呟いた。 騎兵斥候が街道沿いを南下する軍勢を発見してから、七日が過ぎていた。 触接を続ける斥候からの報告を受け、南瞑同盟会議の諸都市自警軍及び、傭兵団は集結を完了。兵権の一時委任の手続きを持って連合軍を編成し、根拠地を進発した。 その数、自警軍歩兵六千、騎兵千余に傭兵団二千を加えた計九千の大軍であった。 これに対し、帝國南方征討領軍は歩兵約三千、妖魔兵団二千の計五千余という兵力である。神出鬼没の戦い振りで同盟会議側を翻弄し続けた帝國軍は、ここに来て遂に捕捉されたのだった。 ほぼ二倍の兵力を揃えた同盟会議は、これを決戦により戦況を挽回する好機と見た。罠を怪しむ声は、兵站を脅かされ、ゆっくりと、だが確実に衰退する諸都市の、決戦を望む声にかき消された。 帝國軍の跳梁による商取引の停滞と、これに対抗する為に集結した兵備の維持費に諸都市は悲鳴を上げ始めていたのだった。 一応の手当として、斥候に多くの兵が割かれた。伏兵を十分警戒しつつ、連合軍は軍を北上させた。 両軍は『ブンガ・マス・リマ』より北方約100キロの平原で互いを捕捉、対峙した。 丘に定められた本陣からは、戦場が一望出来る。 両軍が南北に対峙する平原は、西をマワーレド川がゆるやかに流れ、東にはいくつかの森林が点在している。川と森に挟まれた平地部分に、両軍は陣を敷いていた。 南に布陣する南瞑同盟会議連合軍は、自警軍五千を五つの隊に編成し、横陣を組んだ。その右翼には騎兵を配置し、予備隊として傭兵団を後方に置いた。 兵力に勝る側ならではの、手堅い備えである。当然、右翼に点在する森林は斥候により確認し「軍が統制を維持しつつ踏破するのは不可能」という報告を受けている。 隊列を組まない兵がどれほど伏せていたとしても、予備隊で容易く粉砕出来る。この世界の野戦において、陣形とはそれ程の意味を持っている。 一方、帝國軍も同様に横陣を構えていた。予備隊は妖魔兵団と見積もられた。騎兵は見えなかった。 両軍を一望し、南瞑同盟会議連合軍指揮官は、勝利を確信した。 戦場はほぼ平坦。兵力差は二倍。日没までは半日あり、天気は晴れ。敵に騎兵は無く互いに横陣を組んで対峙している。 平押しに攻めても、右翼から騎兵を旋回させても、勝てる。彼は己の信ずる神に感謝の祈りを捧げた。勝利は自分の人生に、栄光をもたらすだろう。富と名声という形で。 戦闘は、両軍前衛部隊の弓射を皮切りに、開始された。互いに矢を射掛け合う。射撃戦は当然の如く連合軍が優位に立った。 帝國軍の弓射は弱く、専門兵では無い事を示している。直ぐに、帝國軍の戦列が乱れ始めた。 鐘が鳴らされる。 射撃に耐えかねた帝國軍が、前進を開始したのだった。どこか投げやりな喚声が周囲に木霊する。地響きと共に、数千の兵が押し寄せるのを、連合軍は眼前に捉えた。 「何だ、あ奴ら?」 「まさか、カルブ自治市の旗か?」 「ソーバーン族の戦士もいるぞ!」 各戦列を指揮する中下級指揮官達は、すぐにそれに気付いた。 調整のとれていない様子で前進する敵勢が、少し前まで取引相手として、近隣の住民として、付き合ってきた者達である事に。 降り注ぐ矢に討ち減らされながら前進する帝國軍の軍装は、貧弱な上に不揃いであった。普段着に革や綿入れ程度の鎧を着込み、木製の盾を構える者が居ると思えば、カラフルな民族衣装のみの者もいる。 武器は手入れの悪い短槍や片手剣なら良い方で、農具を手にした者も少なくない。 帝國軍は、兵士では無い男達で作り上げられていたのだった。 「降伏した諸都市や市邑の民か。哀れな……」 一個隊を指揮する将が、顔をしかめた。だが、その口調とは裏腹に右手を掲げる。武将としての彼の思考は、勝利を確信し冷酷とも言える命令を下していた。 「横隊前へ! 蹴散らせ!」 進軍の角笛が鳴らされると、帝國軍とは対照的に、戦列を維持した連合軍が前進を開始した。各隊は兵制も装備も異なる。しかし、訓練を受けた兵士達であった。 両者は激突した。 連合軍の穂先を揃えた槍が突き込まれ、鍬や鎌を振り上げた男達が、バタバタと倒れた。悲鳴があがる。血飛沫が、隣りで戦う兵の顔に飛び散る。 がむしゃらに振り下ろされる帝國軍の攻撃は、盾の壁に容易く跳ね返された。 「押せやぁ!」 騎士や兵長の胴間声が響く。勢いを増した連合軍兵の人波が、降兵からなる帝國軍歩兵に襲いかかった。 「市民兵諸君! 逃げよ! 敵は帝國ぞ!」 連合軍指揮官の中には、寝返りを促す者もいた。 だが── 「何故、崩れぬ?」 帝國軍は、持ち堪えた。甚大な被害を出しながらも崩れない。泣きながら棍棒を振り回す若者がいる。喚きながら連合軍兵士に飛びかかる農民がいる。 明らかに異常な戦意であった。 一人の百人長が、気付いた。 「敵勢の後方に在るのは──まさか!?」 カルブ自治市兵の後方には、中継都市ケルドの旗印。ソーバーン族の後には、ドフダー族が見える。何れも水源争いや、通行税問題等で仲の悪い勢力である。 「督戦させているのか!」 前衛で血みどろになる部隊の後方には、必ず彼等と対立する勢力の軍勢がいた。しかも、督戦隊の役を担うのは普段劣勢に立っていた勢力ばかりである。 斧で横凪に襲いかかる敵をかわし、たたらを踏んだ首筋に、剣を振り下ろす。百人長は、元は樵であろう敵兵が叫んだ言葉に、愕然とした。「ここで勝たにゃ、家族が!」樵はそう言って死んだ。 対立する二つの勢力の扱いに差を付け、人質をとって戦わせる。人でなし共め。しかし所詮は浅知恵よ。いずれ、崩れるのは間違い無い。 この時点において、百人長は勝利を疑っていなかった。 帝國軍の戦意は異常な程高く、素人兵の集団に過ぎない彼等は、次々に倒れながらも連合軍の攻撃を良く受け止めた。 右翼側で新たな喚声が上がったその時、連合軍指揮官は思わず地面を蹴っていた。 帝國軍後方に控えていた妖魔兵団が右翼側に旋回し、連合軍側面を突いたのだった。味方の戦列が敵に拘束された事による隙を、帝國軍は見逃さなかった。 突撃衝力の高いオークや俊敏なコボルトが、連合軍右翼を食い破り始めている。放置すれば、半包囲を受けてしまう。 指揮官は即座に決断した。 「傭兵団を出せ。妖魔共の側背を突け!」 命令を伝える伝令が、傭兵団に分け入る。すぐさま数十から数百名規模の傭兵達が、報酬を得るべく各々突撃に移っていった。 地鳴りが大地を震わせる。迎え撃つ妖魔兵団と傭兵団が接触した瞬間、遠目にも鮮やかな血飛沫と、断ち切られた手足や頸が宙を舞った。 戦は再度膠着した。だが、兵数で劣る敵に打開策は無い。このまま行けば、勝てるだろう。連合軍指揮官は、冷静さを取り戻し、その時を待った。 四半刻の後、崩れたのはゴブリン共の集団であった。連合軍右翼に押しまくられた妖魔兵は、一隊が逃げ腰になると支えきれなくなった。 ここで、決する。 指揮官は切り札を投入した。 虎の子の騎兵約八百騎が、一丸となって右翼に出来た間隙に突入を開始する。各都市からかき集められた彼等は、一撃で全てを破砕し得る打撃力である。 泥を跳ね上げ土煙を引いて、騎兵が駆ける。南瞑同盟会議の騎兵は、機動力重視のいわゆる軽騎兵であったが、その威力は主に心理面で発揮された。 「よし、乗り入れるぞ! 馬蹄の錆びにしてくれる!」 目を血走らせた八百の騎馬が突撃する様に、意志の薄弱な妖魔兵はあっという間に戦列を乱した。 悲鳴を上げて逃げ惑うコボルトに、騎兵が槍を突き、馬蹄にかける。騎兵部隊に接触した部分から、帝國軍は溶ける様に崩れ始めた。 「勝ったな」 「御味方の勝利です。しかし、後味は悪いですな」 「うむ。傷ついたは我等の同朋ばかりよ。帝國め──」 連合軍指揮官と軍監が勝利を確信したその時、味方騎兵の側面に新たな敵が現れた。それは、森に隠れていた敵の様であった。指揮官は鼻で笑った。 伏兵か。だが散兵が少々あったとて、何ほどのものか。 間もなく、騎兵と敵の伏兵が接触した。 それは、突然の出来事だった。 妖魔兵を蹴散らせつつ進撃する騎兵隊長の耳に、魂を凍らせる様な雄叫びが聞こえた。獰猛な捕食者のみが為し得る咆哮。 少なからぬ騎馬が棒立ちになり、幾人かの騎兵が振り落とされた。騎兵隊長も、苦労して愛馬を落ち着かせる羽目になった。 「何事だ!?」 その問いに、部下が答えた。 「右の森林より伏兵! 散兵百余!」 右翼で、悲鳴と剣戟の音。そして、絶えぬ咆哮。何かがいる。 放置すれば、危うい。即断した騎兵隊長は配下に命じた。 「我に続け! 伏兵を蹴散らし、再度敵の後方に回り込む!」 だが、それは果たせなかった。 悲鳴が大きくなる。気がつけば彼のすぐそばまで、戦闘が近付いていた。何者だ? 騎兵隊長は、短槍を脇に構え馬首を巡らせた。 配下の悲鳴と共に、配下の乗る頑強な軍用馬の首が消し飛んだ。乗り手が巨大な影に飛びかかられ、地面に落ちる。 「信じられん……」 呆然と呟く騎兵隊長の前には、巨大なヘルハウンドの姿があった。鋭い牙に騎兵だった物の一部を貼り付かせ、うなり声を上げている。 ヘルハウンドの群れは、次々と騎兵を屠る。よく見れば、魔獣達の間に帝國兵の姿が見えた。ヘルハウンドは、兵の指図を受け、騎兵を襲っている。 別の隊では巨大な獅子が荒れ狂っていた。騎兵隊の背後にはいつの間にか剣牙虎の群れが回り込んでいる。側背を突かれた騎兵隊は、細切れに切り刻まれつつあった。 諦めず離脱し再編成を図った騎兵隊長であったが、指揮官の存在に目ざとく気付いた敵兵が使役する剣牙虎により、愛馬諸共肉片と化した。 「騎兵が!」 眼下で、優位であった味方が敗走を始めていた。騎兵が敗れると、背後に敵を抱えた傭兵団もまた、敗走した。 敵横陣の突破にてこずっていた味方の歩兵部隊は、包囲されマワーレド川に追い詰められた。落水し、溺れる者が続出している。 「莫迦な……」 「指揮官殿、どうされますか!?」 「こんな事が……莫迦な!」 連合軍指揮官は完全に我を失っていた。それは、上空に現れた有翼蛇の編隊が放った火球によって、彼の身体が松明の様に燃え上がるまで、続いた。 南瞑同盟会議野戦軍は敗北した。 周囲に帝國軍に対抗可能な兵力は存在しない。再編成までの間、帝國軍を阻むものは無い。 帝國南方征討領軍が、交易都市ブンガ・マス・リマに迫るのは時間の問題であった。 青森県むつ市 大湊湾 2012年 12月25日 01時21分 政府の避難勧告に従い、住民が避難したむつ市の街並みは、闇の中に沈んでいた。人気の絶えた街では、信号機の灯りが黄色く点滅している。 一方で、海上自衛隊大湊地方総監部や大湊漁港の敷地では、深夜にも拘わらず多くの人々が動き回っていた。 彼等は『門』の警戒に当たる警察官、自衛官を始め、凡そありとあらゆる省庁・機関から派遣された官僚、学者、技術者達であった。 敷地にはエアーテントと天幕、応急のプレハブが立ち並び、昼夜を問わず車両が出入りする。電源車が唸りを上げる横で、クレーン車が資材を輸送艦に搭載している。小銃を構えた警備が辺りを睨む中、書類を抱えた研究員が右往左往し、ケーブルに躓く。 基地内は、活気と混乱に満ちていた。長距離偵察用無人機から大豆粉栄養食品に至るまで、山積みの物資で埋まっている。 敗戦から70年。戦火の絶えて久しいこの国に出現した、紛れもない前線基地の姿であった。 冬の陰鬱な曇り空は月明かりを完全に遮り、大湊湾に闇をもたらしている。煌々と灯りの点る陸上施設に対し、湾内は空と海の境すら見通せない。強い北風に煽られた白波が、辛うじてそこが海である事を証明していた。 そんな中、この夜で最も過酷な任務に就いている者は海上にあった。彼等は湾内に突如出現した『門』から祖国を護るべく、そして、『門』に近付こうとする全てを阻むべく、警戒監視を行っていた。 彼等──海上保安官と海上自衛官の乗る巡視艇や警戒艇は、快速と機動性を重視し小型である為、酷く揺れている。 陸自の沿岸監視隊が運用するレーダーは、波の影響で余計なエコーを拾ってしまっていた。操作員があらゆる手を尽くすが、完全には解消出来ない。 それを補う為に、彼等は身を切る冷気と船酔いに耐えながら、闇夜に目を凝らし続けていた。 投光器の光が海面を舐める。 常に形を変える白波の中に、異物があった。それは、僅か数秒間海面にあったが、投光器の光に捉えられる前に、海中に没した。 「視界内、巡視艇が二隻だ。『門』も確認した」 「ソーナーからの情報と一致しています」 「上の連中は、真面目に仕事をしているようだな」 「気の毒な事です」 潜望鏡のアイピースから顔を離した艦長は、非常灯の赤い光の下で、静かに笑ってみせた。 「両舷前進最微速。針路000度」 「宜候」 艦は水面下を、静かに進んでいた。 「この辺りの水深を考えると、浮上航行で行きたいところです」副長が言った。 「そうもいかん。海保はもちろん、大湊警備隊にも見つかるわけにはいかんからな。連中、レーダーに加えて暗視装置も使っているはずだ」 艦長が、キャップを被り直しながら言った。狭い発令所は、大きく左右に揺れている。海面ぎりぎりの現深度では、潜水艦も波の影響を大きく受ける。船酔いという訳では無いが、艦長は見かけほど楽な気分では無かった。 油断すれば、海面に飛び出すか、海底に腹を擦るか、はたまた警戒艇に衝突するか。艦長には細心の操艦が求められていた。 「どうせこの波では、暗視装置など五分と覗けやしませんよ。隠密行動は潜水艦の宿命とはいえ……」 「まあ、そう言うな副長。何しろ封緘命令だ。何をさせられるのか俺も知らん。まぁ、積荷とお客さんを見れば、ある程度予想はつくがな。とにかく、こっそりと向こうに渡らなきゃならん」 「やれやれです。……『門』通過10分前、針路上クリア」 副長は溜め息をつき、気持ちを切り替えた。艦長は、額に滲む汗を拭うと明るい声で言った。 「剣と魔法の異世界で極秘の任務。どうにもワクワクするじゃないか。なあ副長、折角だから楽しもう」 「私は艦長ほど気楽に生きられません。貴方が羨ましいですよ」 「この境地が分かるようになれば、一国一城の主まであと一息だぞ」 十分後、艦は『門』を潜り異界へと消えた。『門』が微かな光を揺らめかせたが、それに気付いた者はいなかった。