約 6,874 件
https://w.atwiki.jp/koboh/pages/178.html
ラーマンの戦いで崩れた軍勢を建て直しながら、ロイトはローブの軍師と話し合っていた。 「すぐに出発できそうか?」 すると軍師は首を縦に振った。 「カーティス殿のおかげで明日には出発できそうです。」 明るく返すその口調に邪気はまるで感じない。錚々たる面々が集う敵と戦えて嬉しいといった表情が滲んでいた。そんな笑顔に当てられたロイトもつられて笑みをこぼしつつある。 「軍師殿は楽しそうで羨ましい。」 そう言って、奥に引っ込んでしまった。 翌日、軍師の言う通り、ロイト軍はすっかり体勢を立て直していた。緒戦に敗れたとはいえ、未だに75万の大軍である。100万を数えるライト率いる大連合軍には若干見劣りこそすれど、ロイトの深謀、軍師の未知なる智謀、そしてアカネイア大陸の地の利を合わせれば、そうそう負けるものではない。 負けてなお意気盛んなロイト軍の奥ではロイトが瞑想している。軍師もそんなロイトを見つめながら静かにたたずみ、ロイトの采を待っている。 (これでいいのか?) ロイトはアカネイア大陸に空前規模の大乱を呼び込んだことにいささか責任を感じていた。緒戦の敗北で最も意気が挫けたのは誰であろうロイトであったのだ。 (このままリュートと手を結んだところでアカネイア大陸はユグドラルの膝下になるだろう。) ロイトとて昔のままリュートとともにアリティアを盛り上げようと考えなかったわけではない。だがそれよりもアリティア盟主の血筋を引くものとして、譲れぬものもあった。 (神君マルス様は極力戦いを避けてきたと言われているが、それはいくら暗黒竜相手とはいえ同じ大陸内で戦ってきたからだ。だが今回は違う。ユグドラルの底力に、我らアカネイアの誇りがぶつかるのだ。やはり立たねばならない!たとえ勝てないにしてもアカネイアの意地を貫かねばならない。) ロイトとて大局観はある。隔絶した兵力をもつユグドラル勢に最終的には勝てるとは思っていない。だからこそロイトは負けない戦をするために遥々アカネイア大陸までユグドラル勢を引き込んだのだ、リュートを餌にして。 (たとえ負けようが汚名は私が背負えばいい。アカネイアの意地を見せ付けることができるのであれば、いくらでも十字架を背負ってやる!) カッと見開いたその瞳に迷いはない。 「軍師殿、ついに始めるぞ。遣いは派してあるな?」 「すでにグルニアに着いていることでしょう。」 間髪入れずに応える軍師にロイトも満足気に頷いた。 「よし、ならば一気に進撃を始める。まずはラーマン神殿を奪還して、これを橋頭堡とする。そして奴らをグルニアへ追い込むのだ!」 ロイトの矜持がついに75万の大軍を動かす。 「アイリ!アリティア勢はあらかた駆逐したか?」 場所は飛んで、アリティア南方にあるアリティア領ドルーア。かつて暗黒竜メディウスが本拠とした地で、闇の聖地とも呼ばれている。そんな地であるから人々も好んで住むことはなく、1000年経った今でも大した発展はしておらず時折、野生の飛竜が飛んでいるほどのどかな地になっていた。そんな地域のアリティア軍を蹴散らしたのはその南にある軍事国家マケドニア王国である。リュート派筆頭を隠そうともせず、リュート監禁から唯一表立って軍事行動を起こしてきたのだが、つい先日、ドルーア地方の首府を陥落させ、アリティア軍を追撃していた。ようやくそのメドも立ち、マケドニア国王ガーラントが孫娘アイリに駆けつけてきたのだ。年齢的にはセリスやセティと同じくらいなので、セーナの子供たちが活躍している今の時代となるとかなりの老齢になる。かつてはマケドニアの梟雄と呼ばれ、アリティア・アカネイア双方を圧迫するほどの豪腕だったのだが、リュートと出会ってからはその大器に惚れこんで借りてきた猫のようにリュートに対して従順に振舞ってきた。何が彼をそうさせたのかはおそらく本人にも分からないのだろう。そんな梟雄すらもほれ込ませたリュートの魅力の方が凄いのだろう。 「おじいちゃん、もうドルーアは一通り治まったよ。これからどうするの?」 王女アイリは無邪気な顔で問いかける。こんな孫娘と触れ合う時も過去の梟雄の姿はない。周囲の者も主君の変貌に当初は戸惑ったに違いないが、今では好々爺然としたガーラントにもすっかり慣れている。 「ふむ、フレディよ、あちらの方はどうなっておる?」 フレディとはアイリに付いている重臣で、メキメキ頭角を示してきている若者である。ガーラントはもしアイオテが生きていればこのような人物だったのか、と密かに思っているだけあってマケドニアの将来を託そうとも思っている。だからこそグルニア・ラーマン方面の情報収集という大事な役を任せていたのだ。ともあれ、主君の指名を受けたフレディは静々と前に出て、現状を細かく報告した。ここからラーマン地方はそう遠いわけではないので、アルドとカーティスの戦いもすでに伝えられたが、 「それよりもグルニアで気になることが・・・。」 この一言で始まったフレディの言葉がガーラントとアイリを驚かせた。もしそれが事実ならば当初の予定は大きく狂わされる。 「そういうことならば話は変わるな。アイリ、わしは予定通りにオレルアンに向かうが、お前はフレディとこう動け。」 その後、綿密な打ち合わせを始めた三者は1時間に渡って話し合った後、マケドニア軍は二手に分かれて行動を再開した。彼らの判断が後に大きく関係することになるのはそう遠い話ではない。 「アルド様!!ぜひ聞いて欲しい話が。」 叫びとともに駆け込んできたのはサルーンとリーネだった。特にサルーンはいつになく激昂しており、誰彼構わずに掴みかからん剣幕だ。 「ど、どうしたんだ。」 あまりの剣幕にさすがのアルドもルゼルも困惑している。 「先日の追撃戦で敵方の軍師の正体が判明したんです。」 また叫びかからんとしているサルーンを制して、リーネが言う。 「ああ、例のローブの軍師のことか。」 先日の戦いでグラが重傷するなど別働隊を壊滅寸前に追い込まれた実力は侮れないとアルド軍の人間は見ていたので、ここに詰めていたものは皆、首を伸ばして耳を傾けた。 「はい、そのローブの軍師、実は・・・」 言いづらそうにするリーネに、サルーンが唾を飛ばして叫んだ。 「裏切り者のカイだ!!」 その言葉に周りも次に出る言葉を失っていた。カイ、グリューゲル創世期のメンバーでもあり、グリューゲル空軍の知を司る存在としてセーナに近い人物なら知らないウものはいない。リーベリア遠征後からは途中から加わったフリードによってすっかり出番がなくなってしまったが、それでもグリューゲルのメンバーからはその温厚な人柄で人気もあった。 「冗談でしょ、サルーン。」 真っ先に驚いたのは同陣していたミーシャである。それもそのはずである。有り得るはずのない、かつてのセーナ十勇者の裏切りである。しかもミーシャとは性格が似ていたためにカイが十勇者にいた頃は結構親密な仲だったのだ。それに反問したのはリーネだった。 「私たちも信じたくはありません。」 しかし、と続けてリーネはあの追撃戦のことを振り返る。 アルドの奇策が功を奏して、崩れたカーティス軍を追撃していた頃である。当然、アルドは『星屑の雨』のために執拗な追撃とともにサルーンとリーネに対して、時があれば軍師と槍をつけるよう命じていた。この時にはアルドは軍師を警戒していたのだ。サルーンとリーネも鋭く追撃した結果、以前にカリンから聞いたとおりのローブの男を見つけた。すかさず槍を突けたサルーンだが、軍師もよく見えていたのかすかさず剣を繰り出して弾き返した。しかし仮にも十勇者随一の実力を持つサルーンの槍を弾き返すなど、そうそういるものではない。戦慄したサルーンは執拗に槍を突き、リーネはその軍師の正体を探った。そしてその剣筋がかつてのカイのものに極めて近いことに気付いたのだ。だがそれだけで判断するほど彼らも愚かではない。すぐに独断でブラミモンドとカリンに頼み込んで、ひたすら軍師の様子を監視させ、ついにわずかなローブを脱いだ瞬間を捉えたのだ。そしてその証言と、サルーン、リーネの言うカイの特徴が完全に一致して報告してきたのだ。 「ならば間違いはないか。」 アルドも断を下すしかない。 「しかしなぜカイ殿がロイトのもとへ?」 ルゼルは当然の疑問を呈するが、 「病気とかいってトラキアへ帰ったと思えば、いつの間にか敵方に寝返った裏切り者など斟酌する必要などない。俺がそのそっ首を刎ねてやる。」 吠えるサルーンはリーネに押さえられて、一旦退いたものの、その叫び声はしばらく止まらなかった。もともと親友と恃んでいただけに今回の裏切りが相当ショックだったらしい。これほど乱れるのはかつてもう一人の親友グレンを半身不随にさせてしまった頃以来である。 「セーナ様の下で知略を尽くしたカイが敵に付くと、マズいですな。」 ルゼルがアルドに言う。アルドにとってもセーナ十勇者は皆、あこがれの存在であり、たとえ退官したカイと言えども例外ではない。それだけ畏敬する人物を相手にすることの怖さをアルドは感じている。 「嫌な予感がする・・・。」 アルドのその一言で座の雰囲気が冷える。その瞬間であった! 「アルド様に伝令、アルド様に皇帝陛下より伝令!グルニア王家が寝返り、接岸していたクロスマリーナ、オーガヒル海軍の船を襲撃!!」 『っ!!』 一同が声にならない声が洩れる。ついにロイトとカイの深謀が炸裂する!! 「セーナ様、残り少ないこの命、不忠なれど生涯の願いを叶えさせてください、セーナ様との知恵比べをすることを!」 涙を流しながら天に叫ぶカイがそこにいた。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2406.html
8 男の矜持 土砂降り、という言葉がこれほど相応しい情景は、気候の安定しているハルケギニアでは非常に珍しい。 黒に近い灰色の空から滝の如く降り注ぐ雨は、地面の吸水力を遥かに超える雨量をもって大地を水で満たし、数多の川を氾濫させていく。 収穫期を迎えたタルブの麦畑の被害も大きく、生活用水として利用している川から溢れ出た泥流によって、実を結んだばかりの畑の幾つかが流されていた。 自然の猛威に対して成す術が無いのは、地球もハルケギニアも違いは無いらしい。 タルブ村の外れにある寺院の中で、ホル・ホースはそんなことを呑気に考えていた。 「ティファニアー!どこ行ったんだい、ティファニアー!!」 雨の中、大声で義妹の名前を呼んでいるのは、学院から連れ出したマチルダである。 当初は連れ出されることに抵抗を示していたが、どこからどういう情報が洩れたのか、学院にマチルダの夫と娘が遊びに来ているなんて噂が立ち、教員から学生、使用人に至るまでが好奇心に満ちた目を向けてくるため、居辛くなって結局逃げてきたのであった。 間違いなく噂の根元はマルトーと寮長だが、折檻は帰ってからと決まっている。 ほとぼりが冷めるまで仕事を放ってのバカンスのつもりだったマチルダは、しかし、タルブで一番楽しみにしている義妹との再会が、なぜかティファニアの不在という悲しい結果によって妨げられていたのだった。 「クソッ!やっぱり、あのクソッ垂れ王子を殺しておくんだった!!純真で臆病で人を疑うことを知らないティファニアを唆しやがって!クソッ!クソッ!!」 村人の証言から、ティファニアにウェールズが同行していることは既に判明している。このことから、マチルダの脳内ではウェールズに誑かされたティファニアが遠く連れ去られ、とても口で言えないような色んなことをさせられていることになっていた。 主にあの凶悪な胸を使って、卑猥なことを。 「ぶっ殺す!!絶対、ぶっ殺す!!見つけ次第ぶっ殺す!!」 氾濫した河川の水に足首まで浸けて雨に濡れるのも構わず、マチルダは叫び続ける。 その殺気は、本物であった。 「ねえ……、あれをなんとかしてよ。いい加減、耳が痛くなってきたんだけど」 窓辺にダラリと力なく頬を乗せていたエルザが、素知らぬ顔で寺院の中央に視線を向けているカステルモールに声をかける。 現在、寺院の中ではトリステイン魔法学院の教員であるコルベールが、タルブの御神体とも言われる竜の羽衣を原形を留めないレベルにまで分解していた。 それの何が楽しいのか、カステルモールは先ほどからニヤニヤしながらコルベールの作業を眺め続けているのだ。 「なんとかしろ、と言われても、この雨の中では私の風竜も長くは飛べないから、探しになどは行けないぞ。雨は竜の天敵だからな」 竜は蛇やトカゲと一緒で、変温動物らしい。全ての変温動物がそうとはいえないが、体温の低下によって活動が鈍るという点は同じだとか。 高高度の冷たい空気に晒されることに慣れている風竜も同様で、分厚い鱗が風の冷たさから体を守り、鱗と鱗の間にある小さな隙間に熱を溜め込むことで体温を保っているのだが、雨はその隙間に入り込んで直接体を冷やしてしまう。 雲の上にまで移動してしまえば雨の影響は受けないが、それでは地上の様子がまったく確認できないから意味が無い。ティファニアは馬車に乗って出かけたということから、街道を行く馬車を探すとすれば、どうしても雨に濡れることは避けられないだろう。 竜というものは意外にも不便なのであった。 「使えないわねえ」 「万能な存在などないからな。少々の不都合は諦めてもらうしかなかろう」 ティファニアー!と叫ぶマチルダの声と雨の音をBGMに、エルザとカステルモールは冷めた目でどうでもいい会話を終わらせた。 「素晴らしい!素晴らしいですぞ!愉快な蛇君の究極的な未来が、このようなところでお目にかかれるとは……、くうぅぅ、なんという幸運!なんという奇跡!」 あっちが煩ければ、こっちも煩い。 竜の羽衣は研究馬鹿のコルベールの琴線に触れたらしく、タルブに来てからというもの始終この調子だ。これでも、鼻水と涙を垂れ流して大喜びしていた初日に比べれば落ち着いたほうなのである。 寺院の外の景色から内側へと視線を動かしたエルザは、あっちもどうにかしてくれとカステルモールに視線で訴えかけるが、肩を竦めて首を振られ、舌打ち交じりに溜め息を吐いた。 せっかく太陽が無いというのに、この雨では外に出られもしない。 退屈で溜まった鬱憤に耐えかねて、拗ねるようにエルザの頬がぷくっと膨れた。 「ねえお兄ちゃん、なにか面白いことないの?」 窓辺から体を起こし、背中に向かって倒れる。そこにあるのはイスの背もたれではなく、ホル・ホースの胸板があった。 エルザは、イスに座るホル・ホースの膝の上にちょこんと乗っていたのだった。 「アレのマネでもしてたらどうだ。楽しそうだぜ?」 そう言って指差した先にはコルベールがいる。確かに、本人は人生の絶頂期を迎えたかのような幸せそうな顔をしていた。 多分、幸せですか?と問いかければ、幸せです!と拳を握って豪語するだろう。 「世界が明日滅ぶとしても拒否するわ」 「じゃあ、そのまま退屈してろ」 冷たい返答にエルザはまた頬を膨らませる。 実につまらない。 こんなにもつまらないのなら、賞金稼ぎに追い掛け回されていた頃の方が楽しかった。お腹を空かせながら走り回り、休む暇なく街から町へと飛び回った日々。なんと充実した毎日だったことか。 一週間前後でしかない旅の記憶を大げさに掘り返し、エルザは背中に感じる暖かさに短く息を吐いて座る位置を少しだけ深くした。 ぷらぷらと地面から遠く離れた足を動かして、さらにもう少し奥に座り直す。それでもなにか物足りないのか、特に使われていないホル・ホースの腕をお腹の前で持ってきて、やっとエルザは満足そうに小さな鼻を鳴らした。 「……おら、こちょこちょこちょこちょこちょ」 「うきゃあっ!?わ、わ、あひ、あはは、あはははっはっはっはははっ」 退屈を持て余しているのはエルザだけではない。手持ち無沙汰のホル・ホースもまた、なにか面白い物はないかと探していたのだ。 膝の上というちょうどいい位置に居るエルザが自分の両腕を抱きこんだことで、なにを思いついたのか、唐突に脇をホル・ホースがくすぐり始める。 突然のことに驚いたエルザも笑い始め、親が子供と戯れるようなほのぼのとした光景が寺院の一角を彩った。 だが、それも長くは続かない。 「あはっ、あははははっ、あひぃ、ひぅ、ううぅ、うん……、はぅ、あぁ、はぁん」 エルザの笑い声が徐々に嬌声に変わり、ほのぼのとした雰囲気に艶かしい色が混ざりだす。 大体、いつも通りの展開だった。 「あぅ……、はぁ、あうぅ、ん……、んくっ!……う?あれ、なんで止めちゃうのよ?」 手の大きさの関係上、脇以外の色んな場所を刺激していた手が止まり、エルザは不満そうに声を上げる。 そこに待っていたのは白けた冷たい視線であった。 「なあ……、なんでお前は、いつもそういう方向に持って行きたがるんだ?」 何かある度、下半身方面へ引き摺られている気がする。 呆れたような声に、エルザはムズムズする感覚に体を揺すりながら答えた。 「そういう方向って……、感じたままに行動してるだけよ。逆に言わせて貰えば、なんでココは反応しないわけ?趣味じゃないにしても、多少なりとも反応してくれないと、正直ショックなんだけど」 そう言いながら、深く座ったことでホル・ホースの股間に接触している小さなお尻を、エルザはぐりぐりと動かした。 帰ってくる感触はフニャフニャとした硬さの欠片もないものだ。分かってはいたが、こうして実際に感触を確かめてみると、女として色んなものが傷つく。 こっちはいつでも覚悟は出来ているというのに、なんで挑発に乗ってこないのか。 忠犬でもおあずけが過ぎれば主に噛み付くということを、そのうちベッドの上で教えてやろうかと、そんな気分になる。 「ああ、そういえば、テメエは変態だったな」 なんとも冷たい反応に口を尖らせる。だが、すぐに気を取り直して、ふん、と鼻で息を吐くと、エルザは小さな胸を精一杯に張った。 「楽しいわよ、変態。お兄ちゃんもちょっとだけ足を踏み外してみない?っていうか、是非とも踏み外しましょう!二人の将来の為に!」 一体どんな将来設計を立てているのか。 変態呼ばわりされてもまったく否定せず、むしろ他人にまで推奨し始める変態幼女は、自らだけに留まらず、変態という病原菌の感染拡大を目論んでいるのかもしれない。 ふんふんと鼻息を鳴らし、くすぐりの続きを求め始めたエルザの首にチョークスリーパーを極めたホル・ホースは、自分の体の半分ほどしかない年上の少女が動かなくなったのを確認してカステルモールに目を向けた。 「そういえば、地下水はどこに行ったんだ?朝から見てねえ気がするんだが」 「正確には昨日から、だ。あの無機物なら、その辺の適当な動物の体を乗っ取って、ミス・マチルダにティファニア嬢を探しに行かされたよ。真面目に探さなければ圧し折る、と脅されていたのを見たから、今頃必死にあちこちを駆け回っていることだろう」 疲れ知らずという一点を買われて徴発されたようだ。恐らく、見つけるまでは帰ってこないだろう。もしかしたら、そのまま逃げ出しているかもしれない。 あのヤロウも災難だな。なんて他人事のように呟いて、ホル・ホースは気絶したエルザの頬をぐにぐにと引っ張った。 「よし、やる事も特にねえし、ちょいと昼寝でも……」 「お昼ごはん持って来たよ!」 ホル・ホースがカウボーイハットをずらして目元を覆うと同時に、寺院の入り口から鞣革を雨避けにしたジェシカが明るい声を上げた。 両手に抱えるようにしてバスケットを支え、笑顔のまま首を小さく傾ける。 「絶妙なタイミングだな」 クッ、とカステルモールが笑った。 「まったくだぜ、畜生」 眠気と空腹、どちらを選ぶかと迷ったところで、シチューの食欲をそそる香りを鼻に感じたホル・ホースは、エルザを脇に抱えて腰を上げた。 ティファニアを探すマチルダと未知の技術に酔いしれるコルベールの歓喜の声を耳にしながらの昼食は、少しだけ苦かった。 雨に打たれ、髪を乱し、ぐっと喉を鳴らす。 マリコルヌの風の魔法のお陰で雨と風はいくらか防げてはいるものの、雨の勢いそのものを掻き消すには至らない。タバサがこの場に居れば雨を完全に防げるのかもしれないが、それをすると、あの場所にミノタウロスに対応できない人間を置いて行く必要が出てきてしまう。 他に方法があったのかもしれない。しかし、それはもう過去のことだ。今考えたところでどうにかなるものではない。 眼下には水浸しの大地が広がっている。森も平野も変わりはしない。川から溢れ出た泥水が茶色く濁し、霧のように散った雨水が白く染め上げているだけだ。 もう、こんな景色がどれほど続いただろうか。 五分か、十分か、それとも一時間か。 タバサたちと別れてからというもの、時間の感覚がおかしくなっている気がする。 一秒でも早く、シルフィードをタバサたちの下に返さなければ、危険は時間と共に増していくのだ。彼女達がミノタウロスに目を付けられていることは確実なのだから。 「あったわ、見つけたわよキュルケ!」 森と草原の境目に指を向けて、モンモランシーが雨音に負けない声を上げた。 示した先には、一本の整備された道がある。河川などからは遠く、意図的に土台を盛り上げて作ってあるお陰か、まだ水に沈んではいないようだ。 正確な現在地がわからないため、あの道がどこに繋がっているかは分からない。だが、ちょうど良く馬車が近付いてきているのが見えたことで、キュルケの腹は決まった。 「降りてシルフィード。あの道の馬車の前に、出来るだけ驚かさないように、そっとね」 きゅい、と返事をするように鳴いて、シルフィードが降下の体勢に入った。 徐々に地面が近付き、翼が起こす風に地面に出来た水面が揺れる。 振動が肌を貫いて着地したことを知らせると同時に、馬の嘶きがキュルケたちの鼓膜を震わせた。 「う、うわあっ、盗賊かっ?」 御者が手綱を引き、馬車の進行方向を反転させようとする。 勘違いだが、そう思われても仕方が無いだろう。見通しの悪い雨の中、馬車の前に突然に現れた相手に警戒を抱くのは当然だ。 しかし、ここで逃げられては困るキュルケは、慌ててレビテーションを使って御者の操る馬を少しだけ浮かせると、シルフィードから下りてトリステイン魔法学院の生徒の証明となる五芒星の刻まれたタイ留めを提示した。 「あ、こ、これはこれは、貴族様でしたか……」 「挨拶はいいわ。それよりも、この馬車の目的地と客の数を教えなさい」 手を振り、他のメンバーにもシルフィードから下りるようにと指示を出しながら語調を強めて問いかけるキュルケに、御者は怯えた様子のまま口を開いた。 「ラ・ロシェールを経由して、に、西に向かいます。幾つかの村を渡った後、ダングルテールを回るつもりですが……。あ、乗客は四名で、若い母子と兄妹の二組です」 「なら、まだ馬車は十分に広いわね?」 「え、ええ。この雨を見た客が、前の村でかなり降りましたので……、ってもしかして、乗るんですかい?」 「話の流れから考えれば、分かるでしょ」 屋根のある馬車を確保できたことで余裕が出てきたキュルケは、御者に悪戯っぽくウィンクしてギーシュたちを呼び寄せる。 「どこに行くって?」 「ラ・ロシェールに向かうそうよ。シルフィード、聞いたわね?なら、急いでご主人様の下に戻りなさい。あたし達はラ・ロシェールで待ってるわ」 聞くや否や、シルフィードは高く鳴き声を上げて翼を動かし、空へと舞い上がった。 タバサと才人の二人がミノタウロス相手に負けるなんて思っては居ないが、それでも嫌な予感は肌に張り付いて取れない。 キュルケは、雨に濡れたから冷たいのか、それとも予感めいた不気味な感覚で冷えたのか分からない体を両手で擦って、ノロノロと荷台に移動した。 「お邪魔するわ」 そう言って、先に乗っていたモンモランシーとシエスタの手を借りたキュルケが馬車に乗り込むと、目に見知らぬ人間の姿が映る。 両端に設置された長椅子の奥に座っているのは、御者の言った通り、まだ自分達と変わらないくらいの母と抱きかかえられた子供が一組と、上等とはいえないローブで身を隠した綺麗な金髪の兄妹であった。 身を隠しているのは、たぶん訳有りなのだろう。兄の方は精悍な顔立ちをした男前でキュルケの好みであり、妹の方も気が弱そうだがやっぱり美人で、悲劇的な物語が似合いそうな印象を受ける。 ああ、なるほど、訳有りだな。なんて思ってしまう、そんな二人だ。 「フレイム、こっちへいらっしゃい」 「きゅるるるるる」 使い魔を含めた全員が乗ったのを確認して、幌の向こうにいる御者に馬車を走らせるように告げると、キュルケは雨の中ですっかり弱った様子の自分の使い魔を招き寄せて、杖をくるりと振った。 初歩の初歩であるコモン・マジックの発火に毛が生えた程度の火の系統魔法を、慣れた手つきと流れるような詠唱で発動させる。揺らめくように生まれた小さな火は、フレイムの背中を暖めるように浮かんだ。 嬉しそうにフレイムが喉を鳴らすのに目を細めて、キュルケは深く息を吐いた。 走り出した馬車の振動に身を委ねると、途端に眠気が襲ってくる。 雨の影響で、思っている以上に体力を消耗しているらしい。今以上に気を抜くと、このまま眠ってしまうことになるだろう。 髪も体も服も乾いていない状態で眠ってしまえば、間違いなく風邪を引く。それに、フレイムのためにも火を消すわけには行かない。 ぐっと体に気合を入れて自分の頬を両手で叩いたキュルケは、眠気をなんとか吹き飛ばして空中に浮かべた炎を強めた。 「ちょっと、ギーシュ。なにこっち見てるのよ」 キュルケの作った炎に手を伸ばしてフレイムのお零れに与っていたモンモランシーが、奇妙な視線に気付いて目を鋭くさせた。 「え、見て無いよ。うん。見て無い。なあ、マリコルヌ」 「ああ、そうだとも。僕らはなにも見ていない。自意識過剰ってやつじゃないかな、ミス・モンモランシー」 モンモランシーが視線に気付いた瞬間、同時に顔を逸らしたギーシュとマリコルヌは口を揃えて無罪を主張する。だが、それはあまりにも怪しく、モンモランシーの疑惑をより強めるだけだった。 スカートが捲れ上がっていたとか、シャツの隙間から肌を覗き見てたとかだったら、今すぐグーで殴ってやる。 そう思いながら、モンモランシーはギーシュたちが向けていた視線の先を探して、自分の体を見下ろした。 「いったい何を見て……、って、きゃああああぁぁぁあぁぁぁぁっ!?」 「ああ、そいうえば、雨に濡れてるのよね、あたし達」 両腕で体を隠すようにして縮こまったモンモランシーを横目に、キュルケは自分の体を見下ろして淡々と呟いた。 たっぷりと水を吸ったシャツの生地が、肌にしっかりと張り付いて透けていたのだ。 外なら雨や霧状の滴が邪魔して見えなかったのだが、キュルケが火という光源を作ったことで、モンモランシーの白い肌も、キュルケの褐色の肌も、今ははっきりと浮かび上がっている。 安物でありながらも厚手の生地の服を着ていたシエスタだけが、胸の膨らみの先っぽまで曝け出すという恥辱から逃れていた。 「こ、このドスケベ!エロ!変態!死んじゃえ、バカ!!」 「うわああぁあ、ゴメンよモンモランシー!」 「ぼ、僕らは無実だ!偶々視線の先に君達が居ただけで、僕らは悪くないぞ!雨が降ったのも偶然じゃないか!言い掛かりは止めてくれ!」 乙女の柔肌を見られたことで顔を真っ赤に染め上げたモンモランシーが、情け容赦の無い蹴りを早々に白旗を揚げたギーシュと言い訳がましいマリコルヌにぶちかます。 ギーシュとマリコルヌの体が蹴られて転がる度、馬車は右へ左へと揺れる。それをニヤニヤと見詰めるキュルケの横で、迷惑そうな顔をしている馬車の先客にシエスタが身を低くして謝っていた。 「ふぅ……、ふぅ……、今日はこのくらいにしといてやるわ」 足が疲れて痺れるほど蹴り続けたモンモランシーは、沈黙したギーシュとマリコルヌを見下ろして、頬を流れる雨のものなのか汗によるものなのか分からない水を拭いた。 疲れ果てて長椅子に腰を下ろし、肌に張り付いたシャツを摘んで中に空気を送る。 だが、すぐに乾くはずも無く、指を離せばシャツはまた肌に張り付いて透けてしまう。 そこでやっと、モンモランシーは自分が水の系統のメイジであることを思い出して、杖を振り上げた。 水が邪魔なら、移動させればいいのだ。服や体に付いた水を一箇所に集めるだけなら、別に難しいことはない。 あまり多くない魔法のレパートリーの中から最適なものを選び出し、モンモランシーは詠唱を経て杖を振り下ろす。 瞬間、馬車が激しく揺れた。 いや、揺れるなどという程度のものではない。局地地震に見舞われたように上下左右に揺さぶられた後、馬車は横倒しになったのだ。 突如として倒れた馬車の中でキュルケたちは悲鳴を上げながら絡み合うように転がり、ヴェルダンデのもふもふの体を終着点に倒れ込む。先客の四人も同じように衝撃を体に受けて倒れたが、母の胸に抱かれた子供と兄妹の妹の方が気を失った程度で、怪我らしい怪我は無さそうだった。 「あ、あんた、一体何の魔法を使ったのよ!?」 「ちがっ、誤解よ!わたし、こんな魔法覚えて無いわ!っていうか、まだ魔法使ってなかったんだから、なにも起きるわけ無いでしょ!」 非難めいた視線を向けるキュルケや先客たちに首を振り、モンモランシーは自分ではないと主張する。 だが、タイミングがあまりにも合い過ぎていて、釈明としては説得力が薄かった。 白い目が集中し、じくじくと胸を締め付ける。 段々耐え切れなくなって、モンモランシーは目元に涙を浮かべた。 「本当に違うのよぉ……」 ぐすぐすと鼻を鳴らし始めたのを見て、誤解だったかもと思い直したキュルケは、一人の少女の姿を脳裏に描いて申し訳無さそうにした。 ルイズじゃあるまいし、魔法に失敗して馬車を横転させるなんてことはありえないか。 本人が聞いたら憤怒しそうなことを思い、泣きべそをかくモンモランシーの頭を抱き締めるようにして慰める。こういう役割はギーシュのはずなのだが、当の伊達男はマリコルヌと一緒に目を回していてまったく役に立ちそうに無かった。 「はいはい、ゴメンね。疑って悪かったわ。でも、そうすると、馬車が倒れた理由が……」 あやすようにポンポンと背中を軽く叩いてモンモランシーを落ち着かせたキュルケは、馬車の外へと目を向けて外の様子を窺う。 強い雨の音のせいで、外から入る音の殆どは掻き消えている。何かあったとしても、音からそれを察するのは難しいところだ。 となれば、直接見るなり、馬車が倒れてから反応の無い御者を探して聞くなりしなければならない。 せっかく乾かし始めた服や髪が濡れてしまうため、外に出るのは躊躇われるが、どうせ倒れた馬車を戻すために外に出る必要が出てくるのだ。諦めるしかない。 適当に納得してモンモランシーをシエスタに託したキュルケは、先客やモンモランシー達に馬車の中に居るようにと声をかけて、雨の中に飛び出した。 ほとんど無風だった風も少しずつ強くなり、雨に向きが生まれて滴の形を変えている。厚い雲から晴れ間は覗かず、天候が回復する気配は無い。このまま風が強くなり続ければ、馬を走らせることも出来なくなるだろう そうなる前に、再出発の準備を整えなければならない。 空を見上げ、やれやれと息を吐いたキュルケは、土の中にめり込むように倒れた馬車の横を通って、御者台へと向かった。 「御者さん……?やっぱり、居ないのかしら」 案の定、御者台は空席で、放り出された革の手綱が転がっているだけだった。 どこかに放り出されたのかもしれない。 5メイル先が見通せるかどうかの灰色の景色の中、足元の手綱を拾い上げる。 手綱の紐が、何かに引っかかったようにピンと伸びた。 その瞬間、嫌な感覚が背筋を走った。 「なんで、上のほうに……?」 呆然と呟くキュルケの視線が、手綱の先端を追って高い位置へと移動していく。 馬の轡に繋がっている手綱の先が、キュルケの身長よりも上へと向かって伸びているのだ。 馬車を引いていた馬の背丈は、こんなにも高かっただろうか?170サントはある自分の背丈よりも轡の位置が上に来るような大きな馬なら、一見したときに強い印象を残していても不思議ではないのだが。 ぬるりと生暖かい液体が手に触れても、まるでそんなものは存在しないというように意識すら向けないで手綱の先を見ていたキュルケは、そこに妙な影を見つけた。 巨木を思わせる大きな影が、雨のカーテンに浮かんでいる。手綱の先端は、そこに向かって伸びていた。 ごふ、ごふ、とどこかで聞いた息遣いがお腹の奥に響く。 なんでここに……、ありえない。! 冷たい刃物を押し付けられたような感覚がキュルケの肌を粟立たせる。 これは、夢などではない。幻覚でもない。 間違いなく、現実だ。 およそ想定していなかった光景が目の前に現れ、混乱した脳は体を動かすことを忘れて硬直する。 危険だ。逃げなければ。走れ。仲間に呼びかけて。早く。早く。早く。 意識ははっきりとして、やるべきことを正確に判断しているのに、体はまったく動かない。 ボトリと足元に落ちてきた馬の頭は耳の辺りを大きく抉られていて、白っぽい液体が血液に混じって付着している。雨に洗われてそれらが取り払われると、中には皺の入ったピンク色の肉団子が雨水にプカプカと浮いていた。 人のものじゃない。良かった。じゃあ、御者はどこに?どこかに転がっている? 的外れなことを考えて、湧き上がる吐き気を押さえつける。 がち、と奥歯が頼りなく噛み合ったところで、キュルケの体に痺れが走る。 「ヴルオオオオォォォォォォォォッ!!」 雄叫びと共に、馬の首を吊るしていたミノタウロスの戦斧がキュルケに向けて振り下ろされた。 雨を避けるために木陰に身を隠した才人とタバサは、周囲に警戒を向けたまま空を見上げていた。 シルフィードを見送ってから、そろそろ十分。待てば長いが、なにか別のことに注意を向けていれば、いつの間にか過ぎている時間だ。 そろそろ、キュルケたちは安全な場所に逃げられただろうか。 落ちてくる雨の滴を目で追って、才人は隣にいる年下の小さな女の子に視線を移した。 青い髪を雨に濡らし、冷えた肌を抱くように片腕を体に巻いている。もう片方の腕は杖を代わらずに支え続けていた。 「なあ、タバサ。囮に残ったのはいいけど、本当にミノタウロスが襲ってくるのか?」 剣で斬りつけ、氷の槍を吐きたて、炎に巻いたのだ。致命的な傷を負わせるには至っていないが、普通なら怖がって近付いては来ないだろう。明らかに警戒をしている様子を見せている今なら尚の事だ。 しかし、タバサは確証を得ているようにしっかりと頷く。 どういうわけか、随分と修羅場慣れしているこの少女は、過去の経験と独自の知識に基づいた答えを出しているらしい。でなければ、才人をこの場に留めはしなかっただろう。 脱出時、突然パーカーの裾を掴まれて、黙って此処に立っていて、などと言われた時はどういうことなのかと混乱したが、事情を聞けばなるほどと頷けた。 これまでの行動でシルフィードが重量オーバーになったことなど無いのに、ここにきてそんな問題が浮上したのは、大雨で土の中が水浸しになったことで土の中に潜れなくなったヴェルダンデをシルフィードに乗せなければならなくなったからだ。 普段ならシルフィードも多少の無茶が利くのだが、雨による体温低下で力が十分に出ないため、無理に飛べば墜落の恐れが出てくる。 タバサが才人を選び、この場に留まったのは、最低限シルフィードが飛べるだけの重量に留めた上で、ミノタウロスに対応できるように駒を配置を配置したに過ぎない。それでも、十分に危険が付きまとう選択だが、咄嗟の判断にしては良くやれた方だろう。 逃げた七面鳥より、手元のケーキ。囮役をそんな風に例えられたときは、流石に才人も頬を引き攣らせて唾を呑み込んだが。 「しかし、襲って来る様子がいつまで経ってもないのはなんでだ……?」 「相棒、それはこっちが気を抜くのを待ってるんだよ。向こうは獣だからな、獲物が油断したところを襲って来るんだよ」 警戒を続けることに疲れを見せ始めた才人に、デルフリンガーが緊張感を持たせるために声を発する。 「ほら、そこっ!」 「うをおっ!?」 なんでもない方向に声を飛ばし、才人を驚かせる。 どう見ても敵の居ない場所を示したのに驚くということは、警戒が緩い証拠だ。 うわっはっはっは、と楽しそうに笑い声を上げるデルフリンガーに、騙されたことに気付いた才人は、思わず構えてしまった自分が恥ずかしくなって、この錆剣め、と苦々しく毒づいた。 「……確かに、おかしいかもしれない」 伝説の使い魔と伝説の剣のコンビを微笑ましくも無表情で見守っていたタバサが、眼鏡のレンズに付いた水滴を拭いながら、周囲を観察してそう言った。 「悪かったな、気が緩んでて」 「あなたのことじゃない」 不貞腐れた様子を見せる才人に否定の言葉を投げかけて、タバサは杖を振り上げ魔法の詠唱を始めた。 「ラグース・ウォータル・イス・イーサ・ウィンデ……」 周囲にたっぷりと存在する水を集め、無数の氷の刃に変える。 タバサの最も得意とする“ウィンディ・アイシクル”の魔法だ。 風が渦巻き、空中に浮かぶ数十もの氷の矢をタバサを中心に円を描くように回転させる。 「た、タバサ?」 恐る恐る声をかける才人に耳を貸すことなく、タバサは前方、旧モット伯邸に向けて杖を振り下ろした。 凍て付く風が雨を凍らせながら吹き荒れ、氷の矢は目に見える範囲にある全ての窓を破って屋敷の中へと突撃する。 破れた窓ガラスが地面に降り注ぎ、屋敷の一部が粉砕されて才人たちの頭上に飛び散った。 一瞬にして激しい銃撃を受けたような姿に変わった屋敷は、表面を凍らせて白く染まったかと思うと、雨を受けてすぐに解凍され、ぽろぽろと壁の表面を崩していく。 十秒か二十秒か、破壊の残滓が途切れるのを待ったタバサが、改めて屋敷の姿を瞳に映して悔しげに下唇を噛む。 「何してるんだよ、タバサ!ミノタウロスが怒って出てきたらどうすんだ!?」 モット伯の屋敷はミノタウロスの巣だ。そこをこれほど破壊されれば、黙っているなんてことは無いだろう。 襲われないのであれば、それに越したことは無い。 そういう考えがあった才人が抗議するように声を上げるが、タバサは首を振って才人に目を向けた。 「前提が間違っている。敵は狩りの最中だから、怒っていても怒っていなくても、襲ってくることに違いは無い。でも、今前提の一つが崩れた」 タバサの視線が滑る様に移動する。 才人の手に握られた、デルフリンガーがそこにあった。 「奴さんは、ケーキより七面鳥が好きだったってことか?」 「そう。普通の獣じゃない」 「そんなに空腹か。卑しい野郎だ」 苛立ちを含んだ言葉を発するデルフリンガーと、異様な雰囲気を纏い始めたタバサに不思議そうな顔をした才人は、いったい何の話なのかと首を捻る。 「詳しい説明は剣から聞いて欲しい。シルフィードの向かった方向へ全力で走って。あなたなら、わたしのフライよりもずっと早く走れるはず」 「……なんかよくわかんねえけど、走ればいいんだな?」 こくりと頷いたタバサに才人は膝を叩いて気合を入れると、小柄な少女のひょいと持ち上げて体を肩に担ぎ、息を大きく吸った。 「え?わたしを運ぶ必要は……」 「黙ってないと、舌を噛むぞ」 タバサの声により大きな声を被せて、才人は左手に輝くガンダールヴの齎す力のままに駆け出した。 マリコルヌよりも、いや、比べることすら失礼なほど軽いタバサの体は、まるで負担にならない。これなら、昨日よりも速く走れる。 強い雨によって、どの地面も先日の森のような状態になっている。だが、今の才人にはそれは平地と大して変わらなかった。 「うおりゃああああぁあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 左手のガンダールヴのルーンがギラギラと輝き、才人の体に強大な力を注ぎ込む。 ハルケギニアの大地をドップラー効果と共に駆け抜ける。 後の世に、突然の豪雨の日に現れ子供を攫うという、マッハ少年なんて名前の怪談が生まれたかどうかは、定かではない。
https://w.atwiki.jp/musasino/pages/702.html
#blognavi 都立南多摩看護学校の学校説明会に行ってきた。 いやあ、遠い遠い。軽くジャーニーだわ。昨夜英語にはまって寝不足だったし。着いた時点でぐったりしてた。 説明会には女子高生がいっぱい来ていた。女子高生がみんなAKB48に見えてしまうあたり、だいぶキッツとの隔世感がある(笑) 女子高生を見ていて僕は「こいつらに俺が勝てるものってなんだろう?」と真剣に考え込んでしまった。学力は現役にはまず勝てない。体力も無理。経験っつっても今までろくな生き方してこなかったし(笑)センシティブな感受性、フレキシブルな姿勢、若さという圧倒的な肯定力……。勝てるもんなんかいっこもねえよ、という身も蓋もない結論に達して、俺は軽く絶望した。 高校時代が人生のピークだとは思いたくないけど、それは一面の真実でもあるのだ。 俺は高校生の俺を越えているだろうか? つまらない、疲れ果てた大人になっていないだろうか? 「まあでもそれでも勝っちゃうのが大人の矜持ってやつで」なんてね(笑) 試験まであと二ヶ月強。 精神的にだいぶ追い詰められてます。 カテゴリ [2010年11月] - trackback- 2010年11月13日 23 09 03 #blognavi
https://w.atwiki.jp/crossnovel/pages/104.html
第2話 ムスリムの矜持 翔太郎は、先の戦いでナワルを取り逃がしたことを悔いつつ、カリールとの待ち合わせの場所でカリールを待っていた。 ナワルはもう自分の知っているナワルではない。シスターの少女の首を締め上げている時の顔を見て分かった。 なぜあそこまでナワルは十字教に敵意を持っているのだろうか?過去になにがあったのだろうか?二日前の捜査では フィリップにナワルの過去を調べろとまでは言わなかった。カリールに聞いてみるのがいいだろうか? 「翔太郎、遅れて済まない」 カリールが来た。カリールはナワルの弟で、今年二十歳になったばかりだと以前ナワルから聞いた。顔立ちはナワルを少し幼くした ような感じの青年だ。 「翔太郎、念の為に僕も来たよ」 「フィリップ、お前もか?」 フィリップもカリールに同行して学園都市に来た。フィリップは学園都市を直にこの目で見たいので来たのだ。 このフィリップの検索好きぶりには翔太郎も時々参ることがある。大方「地球の本棚」で学園都市のことを調べて興味が沸いたのだろう。「地球の本棚」とはフィリップの精神世界にあるアカシックレコードのような物だ。真っ白な空間に無数の本棚が並んでおり、それらが「地球の記憶」のデータベースとなっている。フィリップが検索をかける(キーワードを唱える)と自動的に本が選抜されていき、任意の情報が入った本に絞り込むことができる。このフィリップの能力があればこの学園都市に存在する数多の能力者達の仲間に入れるだろう。 「翔太郎、この学園都市を調べたら色々興味深い物が出てきたよ。特に興味があるのはこの学園内にいる能力者達と、その能力なんだが……」 「おいフィリップ!今はナワルの捜索が先決だ!お前の検索趣味の時間じゃねえ!そんな事は後からでもいいだろ!」 大事な仕事の時にも関わらず、検索趣味全開のフィリップに翔太郎は呆れたように叱り付ける。 「……わかったよ翔太郎。彼を見つけないとまた犠牲者が出るかもしれないからね」 フィリップは学園都市の検索を渋々後回しにすることにした。 翔太郎、カリール、フィリップの三人は手分けして学区内を捜索し続けた。しかし、ナワルを見つけることはおろか、それらしい人間を目撃したと言う者は誰一人としていなかった。 「翔太郎、こっちにもそれらしい人を見た人はいなかった」 「こっちもだぜ!それよりなんだあの白髪のガキ!人が道尋ねてんのに悪態ついてきやがって!」 どうやら翔太郎は白髪頭の少年にナワルは見なかったかと自分の名刺を差し出して尋ねたら、口汚い言葉で悪態をつかれたらしい。しかし翔太郎を怒るのを我慢し、その場を後にした。その怒りがフィリップとの連絡で爆発しているようだ。 「翔太郎、怒っても仕方ないよ。それより白髪の少年って言ったよね?この学園のレベル5の能力者で似たような容姿の学生がいたような……、もしかすると彼の名前は一方……」 「ちょっと待て、フィリップ!」 翔太郎は目の前にいる自分に近づいてくる子供に見覚えがあった……。自分が助けたシスターの少女だ! 「とーま!この人なんだよ!この人があたしを助けてくれた人なんだよ!」 翔太郎が助けた少女はツンツン頭の男子学生と一緒だった。上条当麻だ。 「あんた……、インデックスを助けてくれた人なのか?」 「インデックス……、それがこの子の名前か?」 ◇ 「これでも食らいなさい!」 美琴は電撃をアクセル目掛けて放出する。しかし、掠っただけでアクセルは電撃の直撃をかわした。 (これが学園都市に存在しているという能力者か……、噂以上に強力だ) 照井は初めて見る学園都市にいる超能力に驚嘆していた。ドーパントでもない普通の人間が当たり前に能力を有し、その力はもしかするとドーパントに匹敵するかもしれないとまで思わせた。しかし、いくら能力を使うとはいえ生身の人間、自分の持つエンジンブレードの直撃を受ければ即死は間違いないだろう。アクセルの力で殺してしまうのはさすがに照井も気がひける。本気でいけば倒せるかもしれないが、手加減ばかりしていてはいずれこちらが 電撃娘の技の前に敗れてしまう。それにさっきから気になっていたことだが、この学生二人の目がどうもおかしい。生気がまるで感じられない。一言でいえば目が死んでいるような状態だ。それにこの容赦のない攻撃の嵐、もう一人の娘はテレポート能力で、ちょこまかと動き回り、こちらをかく乱してくる。 「あらあら、刑事さん。風都でドーパントを相手に渡り合ってきたという実力はその程度ですの?」 黒子は防戦一方のアクセルを挑発する。 (この娘の能力……、この娘の力はテレポートのようだが、物体を移動させることも可能のようだ。さっき針を電柱にテレポートさせていたが……、物質の固さは関係ないようだな。この力はこの装甲をも貫くかもしれん。電撃娘よりもある意味厄介だ。早めにこいつを黙らせなければ……!) 照井は黒子の想像以上の能力に脅威を感じ、美琴より先に黒子を倒すことにした。 「調子に乗るな!」 アクセルはエンジンブレードにエンジンメモリの一つであるスチームを素早く装填する。 『エンジン!スチーム!』 エンジンブレードの刀身から高温のスチームを放出し、自分の周りをスチームで覆う。敵をかく乱させる時に使う技だ。 「熱ッ!」 スチームの蒸気の熱さに当てられた黒子が一瞬怯む。その隙をアクセルは見逃さなかった。素早く黒子の後ろにジャンプする。 「悪く思うな」 「う!?」 アクセルは手刀を黒子の首筋に軽く当て、黒子はその場に倒れこむ。腕力が人間時とは比べ物にならないほど増大している変身状態で、本気で殴ると、黒子を殺しかねない。後で聞きたいこともあるので、気絶程度に留めておく必要がある。 「黒子!?あんたよくも!!」 美琴は黒子が倒されたことに激怒し、放出する電撃をさらに増やす。それが功を奏したのか、電撃がアクセルに直撃する。 「ぐぁ!」 アクセルは美琴の放った電撃の直撃を食らった衝撃で、倒れこむ。技の威力ではドーパントが放つ攻撃に劣らないものがある。避けているばかりではいずれ本当にこちらが倒される。 「これならどう!?」 美琴は両手を地面に置き、電流を地面に放つ。すると地面から巨大な砂鉄が大蛇の如く飛び出してきた。美琴は自身の能力である電気を使い、鉄骨を操ったり、コンピューターにアクセスするなど幅広い使用法ができる。単純に電撃だけが攻撃方法ではない。 美琴はアクセル目掛けて砂鉄を鞭のように振り下ろす。 「くっ!?」 アクセルは砂鉄の鞭をかわす。まさかこんな攻撃手段もあろうとは。ならばこちらも所持する技というものを見せ付けなければならない。アクセルはエンジンブレードにエンジンメモリの ジェットを差し込む。 『エンジン!ジェット!』 エンジンブレードの先からエネルギー弾を放出することができる。アクセルはエンジンブレードを振り、砂鉄の鞭目掛けてエネルギー弾を発射する。 エネルギー弾は砂鉄の鞭を破壊し、砂鉄は形状を失い、地面に落ちる。 「ったく!なかなかやるじゃないの!こうなったらあたしも本気になるしかないね!」 美琴は自分のポケットからコインを取り出す。こうなれば自身の最強技、超電磁砲(レールガン)で一気に決着を付ける。 「こちらも同じだ」 アクセルはエンジンブレードにマキシマムドライブのメモリを装填する。 『エンジン!マキシマムドライブ!』 美琴はコインに電気を集中させ、超電磁砲(レールガン)を放出する。その巨大な電撃は今まで放った電撃とは桁違いの威力であった。負けじとアクセルも、エンジンブレードから巨大なAの形をしたエネルギー弾を美琴の放った超電磁砲(レールガン)目掛け放つ。 二つの大技がぶつかり合い、凄まじい衝撃が周囲を襲う。 「きゃあ!」 「くぅ!」 二人は自分達の大技がぶつかり合うことでできた衝撃波によって、後ろに吹っ飛ぶ。しかし装甲に守られているアクセルの方が衝撃に強く、すぐに起き上がり、美琴の後ろに回りこむ。 「う、う……く、あいつは?」 美琴は衝撃波で吹っ飛ばされ、衝撃を止める為に、咄嗟に地面に電気を送り込み、即席の壁を作った。美琴は恐る恐る壁の向こう側を見るが、アクセルの姿はなかった。 「た……、倒したの?」 「残念だが違うな」 「え!?」 美琴ははっと後ろを振り向く。そこにはアクセルが仁王立ちしていた。 「ちぃ!」 「絶望がお前のゴールだ……!」 アクセルは電撃を放とうとした美琴に間髪入れず、手刀を美琴の首筋に入れる。 「う……」 美琴はアクセルの手刀により力なく地面に崩れ落ちる。 「手間をかけさせてくれる……」 アクセルは疲れきったように変身を解除する。 「み、御坂さん……、白井さん……!」 「ん?」 照井が声の方向に目を向けると、風紀委員(ジャッジメント)の認証を腕につけた、メガネをかけた女学生が立っていた。黒子と同じ風紀委員(ジャッジメント)第177支部所属で、黒子の先輩である固法美偉だ。 「この二人を知っているのか?」 「え、ええ……、貴方は風都署から来た照井竜警視ですか?」 「そうだが」 固法は自分の後輩達がはるばる風都から捜査協力に来た刑事に攻撃を仕掛け、あまつさえ戦闘したことに驚愕していた。立派な公務執行妨害、警官暴行罪だ。自分の後輩達が刑事と戦いを繰り広げている現場を支部のパソコンで目撃し、慌てて現場に急行したらご覧の有様だった。美琴、黒子が生きていることが奇跡のようだ 「詳しい話はそちらから聞かせてもらおうか……」 照井は鋭い眼光を固法に向ける。勝手に犯人に仕立てられ、尚且つ戦闘する羽目になったのだ。照井の怒りは収まってはいなかった。 「え、ええ……、とりあえず風紀委員(ジャッジメント)の第177支部に二人を運んでいいでしょうか?話はそちらで……」 「いいだろう」 照井は固法の要求を呑んだ。固法は全身から滝のように汗を流し、生きた心地がしなかった。 ◇ 「インデックスを助けてくれてありがとうございます。俺は上条当麻っていいます」 「俺は左翔太郎だ。こっちは相棒のフィリップ、こっちが今回の事件の依頼人のカリールだ」 当麻はインデックスを助けてくれたお礼として自分のアパートに翔太郎達三人を招待した。今回のインデックスを襲った相手を翔太郎が捜していると聞き、何か自分にも手伝えることはないかを聞いた。翔太郎も、自分は探偵で、連続十字教教会襲撃事件の犯人であるナワルを追っていることを当麻に話す。それに自分とフィリップが仮面ライダーに変身し、風都でドーパントと戦っていることも話した。 「例の連続教会襲撃事件……、その犯人がインデックスを襲った奴だなんて……。見つけたら只じゃおかねぇ……!」 当麻はインデックスを傷つけられたことで頭に血が昇っていた。必ず犯人を見つけて顔面にパンチの一つでも入れなければ気が済まなかった。 「落ち着け当麻。俺達が必ずナワルをとっ捕まえてやる。それにあいつはドーパントだ。お前の手に負える相手じゃない」 熱くなる当麻を翔太郎が宥める。 「俺にも一応力が……、いやそのドーパントに通用するかはわからないですけど……」 当麻は自分が幻想殺し(イマジンブレイカー)という能力を持っていることを翔太郎達に話す。今まで相手にしてきた魔術師、超能力者に対しては異能を打ち消す力を生かし、勝利を収めてきた。 しかしドーパントという新たな敵にこの力が通用するのかどうかは疑問だった。 「幻想殺し(イマジンブレイカー)か……、興味深いね……。あらゆる異能を打ち消す能力というのを是非見たいんだが……」 フィリップが幻想殺し(イマジンブレイカー)に興味を示す。フィリップは学園都市を検索した際に学園内に存在する様々な能力者の異能をも打ち消せる力があるとなればフィリップが興味を持たないはずがない。 「お、おいおい、フィリップ!また余計な検索だけはしないでくれ!」 翔太郎は慌てて幻想殺し(イマジンブレイカー)に興味を示すフィリップを制止する。捜査の時に余計な方向に脱線しがちなフィリップを止めるのは苦労する。 「あの人の目……、普通じゃなかったよ。過去に何人も人を殺してきた目。あたしにはわかるんだよ」 インデックスは暗い表情でナワルの恐ろしさを語る。確かにあれは殺人狂そのものの目だった。翔太郎自身も目撃している。 「だがナワルがああいう風になったのはお前達十字教のせいだろう?」 カリールがインデックスに冷たい視線を送りながら言う。今まで余り口を開かなかったカリールが口を開いた。 「お前達十字教は自分達がするあらゆることを正当化するんだからな。昔からそうだ。何人もの異教徒を血祭りに上げようがそれが正しいと思っている。お前達の教義には反吐が出そうだ」 カリールがインデックスの信じる十字教を罵倒し始めた。普段大人しそうな印象のあるカリールだけにこの言動は翔太郎も少し驚いた。 「カリール、お前、十字教が嫌いなのか?」 「ああ、大嫌いだ。この世から消えてほしいと思っている位にな」 カリールは十字教も、それを信じる信者も神父もシスターも全てが気に入らないのだ。 「当麻といったね。君はそのシスターの保護者なのか?だとしたら悪いことは言わない。そいつとは縁を切った方がいい。でなければ十字教のあらゆることを吹き込まれ、完全に手遅れになる。俺はナワルが殺人に手を染めるのは望んではいなと言った。しかし十字教徒が死ぬのことは歓迎しているんだ。あいつらが万単位で死のうが、億単位で死のうが俺にとって、いやムスリムにとってはこの上ない喜びだ」 カリールの心の内を知り、翔太郎は動揺を隠しきれなかった。ナワルを止めてほしいと涙ながらに訴えてきた昨日とはまるで別人だ。 「そんな……、人が死ぬのを望んでいるなんて……、まちがってるんだよ、そんなの」 「利いた風な口を」 カリールがインデックスの言葉が気に障ったのかインデックスを突き飛ばす。 「お前!インデックスに何すんだ!」 当麻がカリールに掴みかかる。 「おい!二人共よせ!」 翔太郎が揉み合う二人を強引に引き離した。 「カリール、俺は心底お前を見損なったぜ。人が死ぬのを望むなんてナワルのしていることとどう違うんだ!」 翔太郎はカリールの酷薄な思考に激怒する。ナワルも確かに以前とは違う人間になっていた。しかしカリールも一緒だ。兄弟二人共もう翔太郎の知っている人間ではなかった。 「翔太郎……、お前は自分の周りの人間が殺されて、何もするなと言われたら大人しく従うか?俺達ムスリムは奴らを許さない。君もよく奴等のことを調べるといい。そうすればおのずと答えがわかる」 カリールはそう言うと、当麻のアパートを出た。 「翔太郎……、これは僕達の想像していた以上に根が深いようだね……」 「ああ……」 翔太郎とフィリップは宗教という存在の底知れない闇を垣間見た。 ◇ 「うわぁあああ!あたし達は無実なのよーーーー!、…………は?ここは?」 照井に気絶させられ、風紀委員(ジャッジメント)の第177支部のソファに寝かされていた美琴は悪夢を見て飛び起きる。 「あ、お姉さま。お目覚めになられましたの?」 「く、黒子……!」 美琴は見た悪夢が夢であったことと、目の前に黒子がいることに胸を撫で下ろした。 「ようやく目覚めたようだな」 照井は飛び起きた。美琴をやっとかという風に見ながら言う。 「御坂さん、白井さん、自分達のしたことを覚えてる……?」 「あ、固法先輩。あたし達のしたこと?確かタハール導師に頼まれてジャスミンちゃんに第7学区の案内を……」 妙に神妙な表情の固法に聞かれ、美琴が自分と黒子がタハール導師からジャスミンの案内を頼まれたことを思い出す。 「俺と戦ったことは覚えていないのか……?」 「あ、先輩、この人誰?」 美琴は照井の姿を見ても初めて見るかのように答える。 「お姉さま……、とりあえずわたくしたちの行動を録画したパソコンの動画を見てください……」 表情が青い黒子が美琴にパソコンに録画されている動画を見るように促す。 「ん?動画が何……?」 美琴がパソコンの動画を見る。 「……え?、えええええぇええええええええええ!?」 その動画には自分と黒子が風都から来た刑事に攻撃を仕掛け、連続教会襲撃事件の犯人として拘束しようとし、あまつさえ戦闘を 繰り広げる様子が撮られているではないか。 「そ、そんな……!あたし全然記憶にない!!」 美琴は必死で覚えがないと言い張る。完全に公務執行妨害、警官暴行罪ではないか。 「覚えがないと言えばそれで済むと……?」 照井から放出される殺気を感じ取り、汗だくになる美琴と白井。そんなはずはない。自分達はこのような行為をするはずがない。この映像に映っているのは自分達の偽者に決まっている。 「御坂さん、白井さん。流石の私もこれは弁解しきれないわよ」 照井だけではなく固法からも殺気を感じる。絶体絶命という言葉が似合う美琴と黒子はただ表情を青くさせるしかない。 「お姉さま……」 「あ、あたし達どうなるの……?」 次回 学園都市を守る者達
https://w.atwiki.jp/compels/pages/243.html
「これは……一体、夢なんだろうか?」 とある一軒家。 鏡に映る自身の身体を眺める少年。 少年の名はヨシダ。とある団地の管理人。 「まだ解決できてないことがたくさんあるのに、アイゼンさんの……おっぱいの温もりが気持ちよすぎて変な夢をみちゃっているとか」 バニシング排斥婦人会とのご近所トラブルから、ペシミズム厭世病院に入院することとなったヨシダ。これを機会に団地で負った体と心の傷を癒そうと思うのもつかの間。 そこには因縁のバニシング排斥婦人会のアイゼンがいたのだ。 ヨシダは始めこそ警戒したが、アイゼンの胸の暖かさに感触……聖母のぬくもりに身を委ねてしまった。 そして眠りから覚めると、身体の怪我が全て治っていることに加えて、乃亜と名乗る少年による殺し合い。 天国からの地獄。 これが夢なのではないかと疑うのも無理はない。 しかし。 「いたい!……ということは、やっぱり夢じゃないか」 試しに自分の頬を強く引っ張ってみた。 すると、痛みが。 ヨシダはこれが、夢でないことを理解する。 「だけど、あの場を見渡した限り、小さい子ばかりに見えたけど……?」 夢でないなら、疑問も生まれる。 ヨシダを含めて集められたあの場にいたのは、幼い子たち……所謂、ショタやロリに属する年齢の子たちばかりであった。 ヨシダは、年齢としてはショタには属さない。 なぜなら高校を卒業しているから。 高校を卒業後、就職に失敗して家に引きこもっていたヨシダだが、団地の管理人であった父が身体を壊したため、代理として管理人に就職した。 しかし、年齢こそショタではなくとも、引きこもっていたのもあって、貧弱かつ童顔。 おそらく、それが決め手として乃亜が集めたショタに属したのだろう。 「まぁ、それは置いておいて。これが、現実なら僕は帰らなきゃならない……あの団地に」 ヨシダの脳裏に浮かぶのは、カタギリさんをはじめとした住人のみんな。 確かに一部の住人の中に変態人妻がいるが、団地やそこに住む善良な住人に罪はない。 今は、オーナーから臨時の管理人を派遣すると聞いてはいるが、その人にずっとお任せするわけにはいかない。 ―――変態人妻を見たらすぐ管理人ヨシダへ連絡願います! だって、僕は団地管理人だから。 「それと、あの子を止めなきゃ」 そう…あの子の心の闇。 学生だった頃、男子女子とイジメられてた苦い思い出があるヨシダだからこそ、乃亜に違和感を感じた。 まるで……何か傷を抱えているようだった。 なら、解ってあげなきゃならない。 ―――真の優しい子になってね そうだよね?母さん。 【ヨシダ@淫獄団地 】 [状態]:健康 [装備]:なし [道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3 [思考・状況]基本方針:団地の管理人として帰る。それと、できたら乃亜を救ってあげたい 1:他の参加者と接触してこの殺し合いを打破する方法を考える [備考] 22話、アイゼンの母性で一夜を過ごした直後からの参戦です。 乃亜が何か抱えているのではないかと直感で推測しています。
https://w.atwiki.jp/etorarowa/pages/196.html
ベビーシッター ------親に成り代わって乳幼児の世話をする人をいう。 Wikipediaより引用 「……許せないわね」 全身黒の洋服だけでなくサングラスに帽子と身に纏う物全て黒。 そして、その黒よりも深い怒りを抱き、震えている参加者が一人いた。 その者の名は下落合ギン。 下落合ポピンズ倶楽部のベビーシッター。 「エロに殺し合いなんて……それで”笑顔”になるのは、子供ではなく下種な大人よ」 ギンは唯のベビーシッターではなく、英国ナニー協会認定のプロ。 「そんな輩の言うことなんかきくものですか」 故に————————— ギンは主催の男に反抗する道を選んだ。 「それに同じ、オトコとして、あの男は許せないわ」 そう――――――――― ギンは”オトコ”である。 どんなに子供を愛しても、自分では子供を産むことができない不幸な……悲しいオトコ。 オトコの代表として主催の男に人殺しの罪を償わせる。 ギンはケツイすると、欲望の笑顔が蔓延る浮遊大陸を探索しに動く。 【下落合ギン@ベビーシッター・ギン】 [状態]:健康 [装備]:なし [道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3 [思考・状況] 基本方針:主催の男に人殺しの罪を償わせる 1:探索して情報収集する [備考] 参戦時期はBaby1後
https://w.atwiki.jp/san-puz/pages/348.html
女たちの矜持 2014/04/14(月)00 00~2014/04/18(金)23 59 期間限定クエストとして初登場 公式サイトのクエストに関する記事 クエストをクリアすると★3【曹家正室】丁夫人、★3【孫家末娘】孫尚香、★3【才知の姫】黄月英、★3【献帝妃】伏皇后、★3【未亡人】鄒氏が手に入る 【開催履歴】 2015/08/22(土)19 00~2015/08/23(日)18 59 武将の獲得率が2倍 主なドロップ武将 武将名 同技能(※)武将 技能LvMaxまで 【曹家正室】丁夫人 59体(2倍時30体) 60体(2倍時30体) 【孫家末娘】孫尚香 88体(2倍時44体)(同勢力同士の合成の場合) 【才知の姫】黄月英 132体(2倍時66体) 【未亡人】鄒氏 132体(2倍時66体) 【献帝妃】伏皇后 104体(2倍時52体) (※)「効果が同じ技能」を意味し、強化の素材選択時に「技能大」と表示される武将。 初級 女の戦い 【体力:7、合戦:5】【優劣:魏→呉→蜀→漢→群→魏】 【獲得目安】資金:、EXP: 【ミッション】 コンティニューなしで攻略!(報酬:『青色鬼薬』×1個) 4連撃以上を達成して攻略!(報酬:『赤色鬼薬』×1個) +【序文】 「何故、こんなことになったのか…」 曹操の目の前には破壊と荒廃の織りなす凄惨な光景が広がっていた。器物は割れ、柱は傾ぎ、元の形の想像が出来ない布片が散らばる。ついでい皇帝も倒れていた。 「何故、こんなことになったのか…」 彼の眼前には、都の美しい花々が、鬼の形相で相撃つ光景が広がっていた。 +【後記】 曹操の眼前に広がる破壊と暴力。それは彼の愛してやまない女性達がもたらした。 「あなた、いい加減お控え下さらない? 曹操は情けが深いから、自分からお別れを切り出せないのです!」 「…曹操様の方から迫って来たのに…」 それは、久々に丁夫人を伴い出かけた曹操が、鄒氏とばったり出くわしてしまった事から始まった。 戦 勢 武将 ターン 攻撃 HP 防御 使用技能 備考 魏 丁夫人(★3) 3 770 魏 丁夫人(★4) 3 890 呉 孫尚香(★3) 2 455 呉 孫尚香(★4) 2 601 蜀 劉軍槍兵) 1 160 蜀 黄月英(★3) 2 571 蜀 黄月英(★4) 2 771 「からくり大作戦」ユニット変換 ランダム1色→蜀 漢 伏皇后(★3) 1 漢 伏皇后(★4) 1 237 「拒絶の瞳」3人4ターン技能封じ 群 鄒氏(★3) 1 群 鄒氏(★4) 1 256 「享楽への誘い」3人3ターン技能封じ 中級 女の戦い 【体力:11、合戦:5】【優劣:魏→呉→蜀→漢→群→魏】 【獲得目安】資金:、EXP: 【ミッション】 コンティニューなしで攻略! (報酬:『緑色鬼薬』×1個) 6連撃以上を達成して攻略!(報酬:『白色鬼薬』×1個) +【序文】 「…曹操様の方から迫って来たのに…」 「……『曹操が迫ってくる』!!?…い、いやぁあああ! 助けてぇ!」 丁夫人に対して毒づいた鄒氏の言葉が通りすがりの皇帝夫妻に届いたらしい。面倒なトラウマを刺激された伏皇后が、半狂乱となり、前も見ず全力で駆けだす。そして運悪く、その方向に丁夫人が居た。 「ぐぼぁっ! こ、皇后様…!?」 +【後記】 「助けてー、曹操怖いーーっ!!」 「ぐぼぁっ! こ、皇后様…!?」 駆け出す伏皇后の頭が、カウンター気味に、鄒氏に詰め寄る丁夫人の顎に入る。 「おほほ、丁さまお先にー、…あら?」 パニクった伏皇后と丁夫人はもつれ合い、これ幸いと逃げ出そうとした鄒氏は、うっかりと、小さな何かを蹴飛ばした。 戦 勢 武将 ターン 攻撃 HP 防御 使用技能 備考 魏 丁夫人(★3) 3 1301 魏 丁夫人(★4) 3 2001 「柔和なる笑顔」なにもしない ★3丁夫人Lv2をドロップ 呉 孫尚香(★3) 2 1140 呉 孫尚香(★4) 2 1501 蜀 劉軍槍兵) 1 724 蜀 黄月英(★3) 2 1101 蜀 黄月英(★4) 2 1441 漢 伏皇后(★4) 1 991 群 群雄弓兵 1 群 鄒氏(★3) 1 群 鄒氏(★4) 1 1077 上級 女の戦い 【体力:15、合戦:7】【優劣:魏→呉→蜀→漢→群→魏】 【獲得目安】資金:、EXP: 【ミッション】 コンティニューなしで攻略! (報酬:『紫色鬼薬』×1個) 9連撃以上を達成して攻略!(報酬:『麻沸散』×1個) +【序文】 「きゃああ! 私の衛兵君三号がぁ!」 「え? これ? 月英のカラクリ?」 皇帝の護衛にと月英の付けたカラクリ兵。皇后と丁夫人に踏み倒されて、平たくなった皇帝を助けようとしている最中に、頭を鄒氏に、スパンと蹴り飛ばされる。そして、キレイな円弧を描き、弓を腰に付けた娘の眼前で爆発した。 「孫家に喧嘩を売るのはだれだーっ!」 +【後記】 髪の毛をちりちりにした孫家の爆弾娘が、鄒氏に襲いかかる。が、鄒氏、カラクリに駆け寄った月英を盾に。拳を喰らった月英の懐から、謎の白煙が立ち上り、煙に巻かれた伏皇后が、鄒氏を張り倒す。鄒氏、倒れ際に孫尚香の服をひっ剥ぎ、弓腰姫が反射的に丁夫人をひっぱたく… 「何故、こんなことに…」 拡大し続ける惨状に、曹操は頭を抱えた。 戦 勢 武将 ターン 攻撃 HP 防御 使用技能 備考 魏 曹軍槍兵 1 1546 魏 丁夫人(★3) 3 4001 魏 丁夫人(★4) 3 7201 ★3丁夫人Lv3をドロップ 呉 孫軍弓兵 1 1473 呉 孫尚香(★3) 2 2480 呉 孫尚香(★4) 2 3680 ★3孫尚香Lv3をドロップ 蜀 劉軍槍兵) 1 1405 蜀 黄月英(★3) 2 2085 蜀 黄月英(★4) 2 3101 「からくり大作戦」ユニット変換 ランダム1色→蜀 ★3黄月英Lv3をドロップ 漢 漢軍剣兵 1 1361 漢 伏皇后(★3) 1 1601 ★3伏皇后Lv3をドロップ 漢 伏皇后(★4) 1 1966 「拒絶の瞳」3人4ターン技能封じ ★3伏皇后Lv3をドロップ 群 群雄弓兵 1 1301 群 鄒氏(★3) 1 1804 群 鄒氏(★4) 1 2406 高防御 「妖艶なる微笑」なにもしない「享楽への誘い」3人3ターン技能封じ ★3鄒氏Lv3をドロップ B4★4の2体か★5単体 魏 丁夫人(★4) 上記参照 群 鄒氏(★4) 上記参照 魏 丁夫人(★5) 3 8001 「柔和なる笑顔」なにもしない ★3丁夫人Lv5を確定ドロップ 群 鄒氏(★5) ★3鄒氏Lv5を確定ドロップ B7★4の3体か★5単体 呉 孫尚香(★4) 上記参照 蜀 黄月英(★4) 上記参照 漢 伏皇后(★4) 上記参照 呉 孫尚香(★5) 2 4401 ★3孫尚香Lv5を確定ドロップ 蜀 黄月英(★5) ★3黄月英Lv5を確定ドロップ 漢 伏皇后(★5) ★3伏皇后Lv5を確定ドロップ コメント 中級で伏皇后ドロでも上級でドロ0 獲得資金・経験値上級で29000・6000と多めだった -- 2014-04-14 06 25 49 上級7戦で黄月英ドロップそれ以外なし -- 2014-04-14 20 39 41 上級8回目で孫尚香ドロップ、、其れ以外は何も出ず、、、 -- 2014-04-14 23 03 29 上級で、丁夫人、孫尚香 -- 2014-04-16 12 48 12 上級数回まわして、丁夫人、孫尚香、黄月英が落ちてきた。 -- 2014-04-17 18 11 14 上級7F、伏皇后が単体出現してLv5落としました。単体の場合は確ドロっぽいです。 -- 2014-04-17 19 32 23 上記ですが、☆5の伏皇后が出現してました。 -- 2014-04-17 19 36 27 ★反映 -- 2014-04-19 06 06 59 コメント すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/god14/pages/918.html
発言者:御門龍明 神の座を巡る物語にて、既知の牢獄に囚われた世にある一人の女がいた。 その者、埒外の蕃神の盟友である黄金の獣の近衛、三騎士の一角たる大隊の長。 名をエレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグと言う。 黄金が成す破壊と闘争の宇宙こそが至高と断言して憚らない彼女だが、自身と対峙した女性たちからはその言をことごとく否定される。 じゃれついてくる後輩からは「恋は盲目」と言われ、取るに足らないと思っていた小娘からは「お前が見下している女と何が違う」と言われ、腐れ縁からは「単に好きな男を取られたのが悔しいだけ」と言われるが、彼女は「愛だの恋だのでしか語れないのか」「私の忠を侮辱するな」と常に跳ね除け続けた。 万物総てを分け隔てなく愛する黄金の修羅で在り続ける、獣の爪牙として、鬣の一本として在る事こそが本懐であり、誰に何を言われようとも、黄金へ捧げる忠誠こそがエレオノーレの矜持なのである。 それは幾星霜経とうとも永劫不変、自愛の権化に踏み躙られようとも、黄金を滅相されても決して揺るがない。 天狗道の世を塗り変えるため、新たな覇道を求めるために彼女は生き残った仲間たちの元から離れ、最後の修羅として汚泥の中へ突き進んでいく。 別れ際、自分に幸せをくれた慈愛の女神を愛し、その彼女を失って憎悪に焦がされても、邪神の理と断定した己が渇望を展開してでも天狗道の完成を拒んだ、エレオノーレ曰く神の器らしくない男から、今まで否定されてきてなお想い続けた黄金への忠誠に敬意を表された。 無間地獄に雨でも降ってきたのか、目が濡れて視界が滲む中、「世辞など要らん、おべんちゃらを言うな」とエレオノーレは言葉をこぼした。 誰に何を言われようとも、黄金へ捧げる忠誠こそが全てだと、ずっと自分に言い聞かせてきた矜持(つよがり)を恐らく初めて肯定してくれた人に対して… 強い人だな・・・・・・それしか言えん。 -- 名無しさん (2015-09-14 22 47 23) 強いだけではなく美しい・・・・・・本当にそう思う。 -- 名無しさん (2015-09-14 22 56 11) んが、黄金さんが関わると故郷焼き討ちとかしちゃうんだなこれが -- 名無しさん (2015-09-14 23 04 21) 夜刀のおべっかは掲載なしか -- 名無しさん (2015-09-14 23 46 41) 女のカッコよさの極限やな -- 名無しさん (2015-09-15 01 11 10) ↑3 美化された感じになってるけど、大勢の市民を恋愛感情で焼殺してますしねぇ…… -- 名無しさん (2015-09-15 15 35 51) まあそういう善悪はおいといて、忠誠を貫くって凡人には到底できぬことをやりとげたことが賞賛の対象だろう。セージの必死さと同じで、そこまでいくと大したものだと逆に感心しちゃう類。倫理>忠誠だと不忠、正しさという同調圧力に屈したともとれちゃう訳だし -- 名無しさん (2015-09-15 16 30 38) 焼き討ちされた市民たちは獣の爪牙に加えてもらって感謝しているはず -- 名無しさん (2015-09-15 19 09 15) ↑それはエゴだよ! -- 名無しさん (2015-09-15 20 35 14) 善悪いっちゃえばもうほとんどのキャラ「好き放題殺しといて今更被害者面かよ」ってなっちゃうから。 -- 名無しさん (2015-09-15 22 53 40) diesで人殺して無いのってエリーと熊本先輩くらいか? -- 名無しさん (2015-09-15 23 20 16) ぶっちゃけ片手間で宇宙を滅ぼせたり、運命や因果を操作したりする奴らに善悪やら常識やらを問うのは馬鹿らしい気がする -- 名無しさん (2015-09-16 00 03 29) 善だの悪だのっていうのはニートに理ごと吹っ飛ばされてるからね。仕方ないね -- 名無しさん (2015-09-16 08 12 16) 夜刀に「最後の修羅に敬意を~」みたいなのは覚えてるんだけど、それ以外の前後が忘却の彼方。手元にないからだれか書いてくれないだろうか…… -- 名無しさん (2015-09-16 08 51 13) 永劫破壊に殺人衝動なんてものつけたメルクリウスが悪い(確信) -- 名無しさん (2015-09-16 10 36 30) メルクリウス「永劫破壊に殺人衝動つけたけど俺は悪くねぇ!女神が抱きしめてくれないのが悪いんだ!」 -- 名無しさん (2015-09-16 15 10 02) ↑ 飽いていればいい、餓えていればいいのだ -- 名無しさん (2015-09-16 15 53 20) シュピーネさんも双首領と幹部の帰還を防ごうとした、その為に力を求めて魂を喰らった、と表現すれば英雄的に聞こえなくもない…か? -- 名無しさん (2015-09-16 20 52 17) ↑殺人を楽しんでただけなんだよなぁ -- 名無しさん (2015-09-17 01 31 10) ↑5 良かったじゃないですか、殺人衝動の所為に出来て(笑) -- 名無しさん (2015-09-19 19 20 21) (∴)<その矜持(笑)で嬲れるだろ? -- 名無しさん (2015-09-20 08 27 59) 永劫破壊の殺人衝動ってカール由来だっけ?聖遺物のそのものの食欲的サムシングと思ってた -- 名無しさん (2015-09-21 20 03 27) ↑10 やっぱ第四天から全てが狂い出した感がある、神というより狂人が宇宙を統べるようになってしまったようなw -- 名無しさん (2015-09-21 20 10 24) ちゃんと描写があったら一天とかかなり精神追い込まれて狂った感じで描かれると思う。太極ってそういうもんだし -- 名無しさん (2015-09-21 20 39 56) ↑2 二元論からして破綻してるので、なんとも。↑3 魂を燃料にする特性が転じて殺戮衝動となるので、(≖‿ゝ○)←此奴の所為ではある。 -- 名無しさん (2015-09-26 13 54 07) 一見真っ当な判断に見えても、それを世界に押し付けられずにいられない位渇望してる時点で実際狂人である。望まない結末は嫌だ、好きな人を愛したい抱きしめたい、日常が続けばいい、一人がいいも字面としては普通の考えだし -- 名無しさん (2015-09-26 14 18 51) ↑2 突き詰め続ければ、神座というシステムを作った人間とそれを維持し続けようとするナラカが悪いんだろうけどなー -- 名無しさん (2015-09-26 14 30 54) 獣殿は本当に罪深い御方だ -- 名無しさん (2015-09-26 15 12 41) (∴)「この女も自愛で狂ってるな・・・」 -- 名無しさん (2015-09-28 05 57 33) いい女だって思うけどそれこそこの人にとっては嫌なんだろうなぁ。でもほんとにいい女だ -- 名無しさん (2015-09-29 02 08 42) ザミエル時代はお近づきになりたくないな、龍明になって穏やかになったよな -- 名無しさん (2015-09-29 02 48 42) 娘が出来たからか母性を感じるんだよね -- 名無しさん (2015-09-29 10 12 52) 獣殿に命令されたら、恥ずかしがらずにキスとかも出来るよね?と問われればどうなるか -- 名無しさん (2015-10-21 22 27 55) 自分の葉巻を獣殿にくわえられて卒倒してたような人が、果たしてキスまで到達できるのだろうか -- 名無しさん (2015-10-22 09 32 49) 確かに強がりであったかもしれない。でも、第六天の支配下の世界で狂いそうな中でも必死に耐え抜くことができたのはこの想いが有ったからこそだもんな。恥ずべきことなく矜持と言っていいと思う -- 名無しさん (2015-10-22 10 56 16) 実は内心(なんかメルクリウスに似ててうざ懐かしい)とか思ってたりして -- 名無しさん (2015-10-28 10 47 19) あるシーンではこの人も恐怖を感じたり、悲鳴あげるんだなって感慨に耽ったな。本当によく持ち直したよ。 -- 名無しさん (2015-11-07 14 56 30) ザミエルって敬意払ったのって練炭陣営だと練炭ぐらい? -- 名無しさん (2020-08-14 17 50 40) 司狼も本来なら自分がやるべき事をやってくれて感謝してなかったっけ? -- 名無しさん (2020-08-14 18 25 46) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/rerise00wiki/pages/61.html
基本情報 名称:テンプレート1 レアリティ:UR 総合評価: 討伐隊評価:S 攻城戦評価:S 闘技場評価:S アイコン編集 属性 水 AS PS1 PS2 PS3 AS・PS効果 効果 AS name PS1 PS2 PS3 Exボーナス 名前 効果 必要キャラ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2408.html
「勝手に殺さないでもらえるかな?まさか、ミノタウロスが魔法を使うとは思わなくてね。ふいを突かれて森の中に吹き飛ばされただけさ。もっとも、追撃が来るものと思い込んで森の中を走り回っていたのは、間抜けとしか言いようが無いけどね」 ミノタウロスとの間合いを計りながら、ギーシュと挟み撃ちするように立ち位置を移動する。 地下水に体を乗っ取られたギーシュもまた、ウェールズの意図を読んで円を描くように移動を始めた。 「ギーシュ、だったか?」 「なにかね、ナイフ、いや、地下水くん。……ん、あれ?同じような名前をどこかで……」 呼びかけた地下水に、ギーシュは返事をして、何故か記憶を刺激する名前に首を捻る。 「気のせいだ。それより、あのミノタウロスのことなんだが、なにか変な魔法を使ってたりしねえか?例えば、自分の体の中を弄るような……」 「おお、良く気付いたね。その通り、体内の血流を操作して体を頑丈にしているらしい。僕は水の系統はからっきしなんで仕組みは分からないんだが、背中に氷が刺さったままなのに血が流れていないところを見ると、血流を操作しているという点は確かなようだね」 ギーシュとウェールズの二人に挟まれて警戒を顕わにするミノタウロスに、ちらりと覗き込んだ背中の様子を見て、地下水がカタカタと刀身を鳴らす。 「なるほどね。道理で体を乗っ取れねえわけだ……」 猫の体を乗っ取っていたときに、地下水は既にミノタウロスの体が乗っ取れないどうかを試していた。足元に忍び寄り、そっと刀身を触れさせたのだが、どうにも感覚が根を張らない。 だが、他者の体を乗っ取る力が消えたわけではないのであれば、問題は無い。 体が乗っ取れないのであれば、直接叩き潰せばいいのだから。 「いくぜ、ウェールズの兄ちゃん!格好いいところを見せてくれよ!」 「言われなくても、もはや遅れは取らん!」 ほぼ同時に、地下水とウェールズは“エア・ニードル”の魔法を唱えて風の刃を作り出す。 地下水は自身の刀身に、ウェールズは己の杖に。 ミノタウロスの肌を貫けるのは、この魔法だけなのだ。それ以外は、牽制程度で傷を負わせることはできない。 前と後ろの両方から飛び込んでくるギーシュとウェールズに、ミノタウロスは一瞬の逡巡を見せると、すぐに斧を構えてギーシュへ向けて横薙ぎに払った。 体力のある獲物は後に回し、死にかけていた相手に止めを刺すつもりだ。 だが、数え切れない年月を刃物として生きた地下水に、力任せの一撃は意味を成さなかった。 地面を蹴り、斧の上を軽く飛び越えたギーシュの体がミノタウロスの腕を駆け上がり、頚動脈を狙って刃を一閃させる。 「うわっ、本気で硬いなコノヤロウ!」 毛皮を裂いた刃は、太い血管を切ることなく振り抜けた。 それでも、首筋にある幾つかの細い血管は切断され、雨の中に赤い色を足していく。 「そうか。なら、強く打ち付ければいい!」 ミノタウロスの背後から迫ったウェールズが、杖を握る右手の首を左手で握り、ミノタウロスの脇腹にエア・ニードルの刃を突き立てる。 杖の半分が肉に埋まり、強靭な肉を貫いたことを確かめる。次いで、ウェールズは魔法を解除して杖を通常に戻すと、即座に風のドットスペルを詠唱した。 強力な魔法の連射は出来なくとも、初歩の魔法ならその限りではない。 体内に埋め込んだエア・ニードル。それを構成していた空気を、さらに風の魔法で攪拌して肉体を内側からズタズタにする。 体の大きな亜人との白兵戦用に構想された、滅多と使われることの無い連携魔法だ。 「デル・ウィンデ!」 “エア・カッター”の魔法がミノタウロスの体内で発動し、体内組織を蹂躪する。 杖の突き立った傷跡から血が噴出し、ウェールズの腕や顔を赤く染め上げた。 「ォォォオオオオオオオ!」 ミノタウロスが体ごと両腕を振り回し、ギーシュとウェールズを弾き飛ばす。 ごき、とウェールズの肩から骨が外れる音が鳴り、ギーシュは左足は着地の瞬間にあらぬ方向に曲がった。 「クソッ、まだ生きてやがる!」 「必殺の一撃、のはずなんだがね。想像以上の生命力だな」 「あああ、僕の体が凄いことに……」 左足を引き摺るように立ち上がった地下水とウェールズが、血を吐きながらも立ち続けているミノタウロスに辟易したように吐き捨て、ギーシュは感覚が無いまま原型が崩れ始めている自分の体に小さく悲鳴を上げた。 「さて、どうするかね?自慢ではないが、私の次の一撃は期待できないぞ。なにせ、利き腕が上がらなくなってしまったからね」 「同じだ、同じ。突っ込んでぶっ刺す。ヤツを殺すにはコレしかねえよ」 作戦も何も無い、ただ個人の技量に任せた戦い方を示す地下水に、ギーシュはあんまり自分の体を乱暴に扱わないでくれと抗議したい気持ちを抑え、ミノタウロスの様子を窺った。 血を吐いたということは、内臓が傷ついたはずだ。魔法の影響のせいか、血はもう止まってしまったが、長時間戦える体では無いだろう。 後一撃なら、全てをかけてもいいかもしれない。たとえ無謀でも、地下水とウェールズの戦いの技量は、自分よりもずっと高いのだ。信じる価値はあるだろう。 「突っ込むしかないか」 「やろうぜ。クソヤロウの内臓をミンチにして、豚の餌にしてやる」 短く息を吐いて覚悟を極めるウェールズと、やる気満々な地下水が再び“エア・ニードル”で武装した。 今度は挟み撃ちは出来ない。ギーシュの左足は折れて動かないし、立ち位置を今更変えることも出来ないからだ。 ギーシュも覚悟を決め、二人に運命を託す。 その時、ミノタウロスが斧を振り上げ、また魔法の詠唱を始めた。 「……っチャンスだ!何の魔法を使うかは分からないけど、あいつの体を異常に頑丈にしている魔法は、他の魔法と併用出来ない!」 「よっしゃあ!いい情報だ、ギーシュ!行くぞウェー公!」 「ウェー公とはなんだ!?ウェー公とは!」 片足を引き摺りながら走り出した地下水の横を、ウェールズが駆けて先にミノタウロスへと接触する。 肉体の強靭さが半減しているのであれば、狙う場所はいくらでもある。 体勢を低くし、こちらを無視して詠唱を続けるミノタウロスの足元へと潜り込んだウェールズは、そのまま風の刃を纏った杖を振ってミノタウロスの足首を切り裂いた。 確かに強靭さは失われていて、エア・ニードルの刃は面白いようにミノタウロスの肉まで裂いていく。 ミノタウロスの巨体がぐらりと揺れて、地面に膝を突いた。 そこに決して速くない速度でギーシュが近付き、エア・ニードルの刃を繰り出した。 「俺達の勝ちだ……!」 地下水の刀身が、ミノタウロスの額へと吸い込まれていく。 コレで終わりだと、勝利への確信がギーシュとウェールズの胸に刻み込まれる。 だが、地下水は自分の言葉を心の中で否定し、舌打ちするように刀身を揺らした。 「そうか、コイツ……!水のメイジ……!!」 それだけ言葉を発したところで、地下水の本体が握った腕ごと空高く舞い上がった。 ギーシュの左腕が、肘の少し上から途切れている。 呆然とするギーシュの目が、暴風のような勢いで持ち上げられたミノタウロスの腕を追う。 斧が真っ赤な血を巻き上げて、天を突くように握られていた。 ごふ、ごふ、と歪な笑いが耳に届いた。 「……治癒の魔法か!」 何事も無かったように立ち上がったミノタウロスの脇腹と足首に目を向けて、自分がつけたはずの傷が消えているのを見たウェールズが、表情を歪めて真実を言い当てる。 欠損した左目までは治らないようだが、背中からは氷の塊が落ちて新しい肌が覗き、地下水が傷つけた首筋も毛皮が再生していた。 ウェールズが攻撃してくるのを無視していたのではない。攻撃されても問題なかったから放置していたのだ。 圧倒的な生命力に治癒の魔法を加えることで、あっという間に傷を塞ぐ。魔法による肉体の強化など、ただの保険でしかないということだろう。 化け物め。 思わず、ウェールズの口からそんな言葉が零れた。 「う、うあああぁぁあぁ……!?」 左腕を失い、傷口から大量に血を溢れさせたギーシュが、地下水の支配から解放された瞬間に襲った全身の痛みに喉の奥から悲鳴を洩らし、地面を赤く染める自分の血を視線の合わない目で追う。 壊れた人形のような動きで体をガクガクと動かし、顔色を青く染めている。 このままでは、失血死する。 危険を覚えたウェールズがギーシュに駆け寄ろうとするが、ミノタウロスの斧がその進路を塞ぎ、殺気が身を足を踏み止まらせる。 地面に落ちたギーシュの左腕を持ち上げ、ごふ、と笑ったミノタウロスは、握られている地下水の刀身を引き剥がし、じろりと睨み付けた。 「……ああ、クソ。やけに詠唱が長かったのは、そういうことか。俺の対策も出来てるってことかよ。用意周到で素晴らしいったらないな、ド畜生が」 ミノタウロスに触れた瞬間乗っ取ってやろうとした地下水が、忌々しそうに愚痴を零す。 この亜人は、治癒とほぼ同時進行で肉体強化までやってのけたのだ。もしかすれば、肉体強化の魔法は治癒の魔法の変形なのかもしれない。元が同じ魔法なら、そういう裏技も不可能ではないのだろう。 最後の切り札ともいえる乗っ取りまで失敗したことで、ウェールズの顔色も悪化し、しきりに喉を鳴らすようになっていた。 「肉体は一級品。魔法も一流。まったく、スゲエな!感心するぜ!だが、コレで勝ったと思うなよ。世の中には俺達よりよっぽど怖いヤツラがウジャウジャいるからよ。精々、叩き潰されないように僻地にでも引っ込んでるんだな、禁術使いのメイジさんよ」 ただのナイフではないことを見破られ、このまま圧し折られるのを待つばかりと覚悟を決めた地下水が、まるで悪役が最後を迎えた時のような言葉を並べ立て、何度も、ケッ、と吐き捨てる。 そんな地下水の負け惜しみに、ミノタウロスはまた、ごふ、ごふ、と笑うと、剣の先端を歯に挟み、もう片方の手でナイフの柄の先端を摘んで力を入れた。 地下水の体が弓なりに反って、キシキシ、と音が鳴る。 「させん!」 地下水の危機に、ウェールズは杖を手にミノタウロスに踊りかかった。 邪魔臭そうに降るわれた斧を掻い潜り、心臓に狙いを定めてエア・ニードルを突き出す。 だが、前から向かったのが悪かったのだろう。ミノタウロスが降り抜いた斧は囮で、蹴り上げられた足こそが本命だった。 下から襲う膝に胴を殴られ、勢いを殺されたところに戻ってきた戦斧の柄が背中を叩く。 潰れたカエルのように地面に打ち付けられたウェールズの体を、さらにミノタウロスは足蹴にして、ぐり、と捻った。 「……ぁぁあああっ!」 胸が圧迫され、肺の中の空気が押し出される。 そうしている間にも地下水の体にはさらに力が加えられ、ぱりん、と何かが割れる音がした。 「おっわああああぁぁぁぁっ!痛くはねえけど、ちょっと怖いな!長生きし過ぎて、死ぬことなんてなんとも無いとばかり思ってたぜ!!はは、ははは、はははははははははは!」 気が狂ったように笑い始めた地下水をギーシュは呆然と見詰め、その最後が訪れるのを待ち続ける。 手がない。 戦う手段が、何一つ。 地下水も負け、ウェールズ殿下も地に這い、自分は全身が壊れた人形のようになっている。 かち、となにかが頭の中に組み合わさって、ギーシュはまだ繋がっている右手に目を落とした。 激しい戦いの中でも、一切放すことの無かった杖がそこにある。 エア・ニードルはギーシュには使えないし、使えたとしてもミノタウロスをどうにか出来はしないだろう。 そもそも、なんで自分は杖を握っていたのか。 なにかを動かしていたような気がする。それはとても大切で、自分の命と引き換えにしても惜しくないもののような、そんな気が。 しかし、杖は魔法を使うもので、魔法は消えてしまうものだ。そんなものを大切にしているのはおかしいだろう。 何を動かしていたんだろうか。ずーっと、一瞬でも手を放してはいけないはずなのに、その理由が思い浮かばない。 理由は思い浮かばないが、でも、手放してはいけないのだ。 そうだ。杖は手放してはいけない。手を放したら、魔法が解けてしまうのだから。 それは無意識だった。 左腕から血が大量に流れ出たために脳は正しく働かず、思考は単調になり、複雑なことを考えられなくなっていた。 だから、ギーシュに出来たことは、至極身近な、幾度も繰り返してきた日常的な行為だけだった。 幼い頃から繰り返してきた、貴族としての誇りを高めるための訓練。その際に、自分がもっとも得意としていて、父や兄に褒めてもらった一つの特技。 理論的な思考も出来ない状態で、ギーシュは絶対に手放してはいけない杖を、折れた右腕で持ち上げた。 モンモランシーは走っていた。 穏やかになってきた雨の様子など気にもしないで、靴が脱げて、靴下に穴が開くのも気付かずに。 ギーシュが居なくなったことには、随分前に分かっていた。レビテーションで体を浮かせたマリコルヌが適当に息を整えたのを見て、次はギーシュを休ませてやろうと後ろを向いたときには、もう彼は居なかったのだ。 どれだけ探しても、名前を叫んでも、ギーシュの姿は見つからなかった。ゴーレムから降りよう手足を振り回して暴れても、ギーシュのワルキューレは決してモンモランシーの体を離さず、延々と走り続けた。 そのゴーレムが唐突に力を失って崩れたのは、ついさっきのことだ。 ギーシュの身になにかがあったことは間違い無い。モンモランシーはいてもたってもいられなくなり、マリコルヌやシエスタの制止の声を振り切って駆け出した。 「はぁ、はぁ、はぁ」 走ることがこんなにも辛いなんて、もっと体力をつけていればよかった。 乱れ続ける呼吸にそんなことを思って、モンモランシーは目元に落ちてきた形の崩れた髪をかき上げた。 激しく波打つ心臓が自分の鼓動で壊れそうになっても、走ることを止めはしない。 ふいに、つま先が何かに引っかかって体が投げ出される。 小石に足を引っ掛けたのだ。 自慢の金髪と衣服が泥で真っ黒に染まり、口の中に血の味が広がる。 唇を切ったらしい。 それでも、モンモランシーは立ち上がって、また走りだした。 「ギーシュ……、ギーシュ……」 吐き出す息の傍ら、気障でバカで間抜けでスケベな少年の名前を繰り返し口にする。 自分がやっていることは、彼の努力を無駄にしているのだろう。何も言わずに一人だけ姿を消したのは、自分達を逃がすためだったのに。 でも、耐えられなかった。あのまま逃げ延びたとしても、きっと自分の人生は色褪せてしまうはずだ。赤を赤と、緑を緑と、青を青と言えない世界に変わってしまう。 これが恋だとか愛だとかいうものなのかは分からないが、名前をつけるとしたら、きっとそういう名前なのだろう。 でも、それがなによりも辛かった。 こんなにも苦しくて悲しいのなら、恋も愛も知らなければ良かった。 乱れた呼吸が込み上げるものと交差して喉に引っかかり、息苦しさに膝を突く。 下半身の感覚が曖昧になって、膝に力が入らなくなった。手を地面について、それで体を支えようとしても、何故だか背中が曲がって顔が下を向いてしまう。 まだ死んだと決まったわけじゃない。泣くには、まだ早い。 視界が曇るのは雨が目に入ったからだ。鼻の奥が熱くなったのは風邪を引いたからで、喉が震えるのは埃を呑み込んでしまったからだ。 わたしはまだ泣いてない。 震える膝を叩いて、重い頭を持ち上げる。 いつの間にか雨は霧雨に変わり、視界は随分と開けていた。 厚い雲の隙間から光が伸びて、地上を照らし始めている。景色の向こうはまだ黒く染まっているから、一時的な天候の変化なのだろう。 僅かに覗く青い空の下で太陽の光に照らされたモンモランシーは、そこでやっと、誰かが近付いてきていることに気付いた。 どこかで見た金髪に気障な笑み。 雨に濡れたせいか、癖のある巻き毛は直毛に近付き、作り物だった笑みには自然な優しさと力強さが宿っていた。 差し伸べられた手をぼやけた視界に納めて、モンモランシーは胸の中に湧き上がる感情を言葉に出来ないまま飛びついた。 「ギーシュ!」 首に腕を回し、頬を摺り寄せ、全身で抱き締める。 腕の中にある戸惑うような感触に愛おしさを呼び起こされ、零れる涙を思い切り首筋に染み込ませて、それでも足りないと、モンモランシーは肌に唇を触れさせようとした。 途端、背後から強風が襲い掛かり、二人を吹き飛ばした。 「きゃあああぁぁああぁっ!?」 悲鳴を上げて雨に濡れた街道を転がり、体の隅々まで泥でぐちゃぐちゃに変える。 絡めた腕が解け、温もりが逃げていくことに抗うように手を伸ばして、モンモランシーは金色の髪を追った。 涙が地面に落ちる。 突然の風によって、いくらか感情が落ち着いたのだろう。次から次へと溢れていた涙は、少しだけ勢いを止めてていた。 「いたた……。すごい突風だったわね。大丈夫だった、ギーシュ。……ギーシュ?」 伸ばした手の向こうにいるはずの、どう関係を言い表せばいいのか分からない友人の姿を見詰めて、モンモランシーは疑問符を浮かべる。 そこにいる友人の背格好が、記憶のものと重ならなかったのだ。 「ギーシュ、ちょっと背が伸びた?着ている服も変わってるし、顔も大人びたような……」 言葉の終わりに向かって声が震え、暖かくなっていた体が急に冷め始める。 雰囲気が違う。ギーシュはこんなふうには笑わない。 ギーシュじゃない。 「あなた、誰?ギーシュはどこ?ねえ……、ギーシュはどこよ!?」 詰め寄るモンモランシーに眉を寄せて言い辛そうに表情を変えた目の前の男は、指をゆっくりとモンモランシーの後方に向けて、優男らしい笑みを口元に浮かべた。 指の指す方向を追ってモンモランシーが振り返る。 突風が、また吹き荒れた。 「きゅいきゅいーっ!」 地面を満たす雨水が巻き上がってモンモランシーの視界を覆い隠してしまう。それでも、どうして風が吹いたのかは理解出来た。 特徴的なこの鳴き声を間違えるはずが無い。 「シルフィード!」 晴れ上がった空のように真っ青な鱗の竜が舞い降りて、その背中からタバサと才人が飛び降りる。そこにさらにもう一人、才人の手を借りて長い金髪の少女が地面に足をつけた。 「こっち」 「は、はい!」 タバサに導かれて、少女が小走りに土色の山へと近付いた。 いつの間にあんなものがあったのだろうか。 雨や風に邪魔されて見つけることの出来なかった街道に出来た奇妙な盛り上がり。そこにもたれ掛かるようにして座り込んだ少年に、少女は左手を伸ばして魔法に似た詠唱を始めた。 そこにもまた金色があった。 見慣れた巻き髪と、趣味の悪いシャツ。いくらか悪くなった顔色にもめげることなく、様にならない気障な笑みを浮かべている。 造花の薔薇が一輪、その胸元に花開いていた。 「ギーシュ!」 「やあ、モンモランシー」 弱弱しい声に奇妙なイントネーションが混じって、懐かしい響きを胸に届けてくれる。 「本物?本物のギーシュよね?」 「何を言ってるんだい、モンモランシー。この青銅のギーシュが、この世に二人といるはずが無いじゃないか」 この軽口は、間違いなくギーシュだ。 また目頭が熱くなって、じわりと目元が水っぽくなる。 「こ、このバカ!心配したのよ!?一人で勝手に居なくなっちゃって、出来もしないことに格好つけて……!」 ミノタウロスを一人で足止めするなんて、ドットクラスの人間に出来るはずが無い。戦いに特化している火のトライアングルのキュルケですら負けたのだ、ギーシュが今生きていることは奇跡だろう。 ぼろぼろと涙を溢している事に気付いていないのか、モンモランシーはポケットから濡れたハンカチを取り出すと、ギーシュの頬に付いている土汚れを乱暴に拭って、鼻を啜った。 「出来もしないことって……、僕、結構頑張ったよ?一太刀っていうと変だけど、しっかりと痛い目を見せてやったんだ」 「グス……、別に嘘付かなくてもいいわよ。ゴーレム走らせるために、魔法使えなかったんでしょ?無理に格好つけなくったって、生きてただけで十分なんだから」 「……嘘じゃないんだけど、ま、いいよそれで」 はは、と乾いた笑いを上げて、ギーシュは深く息を吐いた。 「で、ミノタウロスはどうなったの?あんたがここに居るってことは、どっかへ行っちゃったのかしら」 周囲を見回してそんなことを言うモンモランシーに、もしかして気付いていないのか?と視線を少しだけ後ろに向けたギーシュは、動かない両腕の変わりに顎を使って自分が凭れ掛かっている土色の山を示した。 「ミノタウロスなら居るじゃないか。ここに」 「……は?あんた何を言って……、っきぃやああああああああああぁぁぁぁぁっ!?」 モンモランシーの視線がギーシュの顎の動きに釣られて下を向き、土の山かと思っていたものが、実は茶色い毛皮の塊であることを認識する。そして同時に、口から隣国まで届くのでは無いかと思えるような悲鳴が飛び出した。 「な、な、なんで、なんでミノタウロスがこんなところで寝転がってお尻掻いてるのよ!?というか、額にナイフが刺さってるのはなんで!?ゆ、夢?これって夢!?」 ギーシュが背中を預けている土色の毛皮を持つ亜人は、欠伸をするついでにケツを掻き、タバサに杖で頭をポコポコ叩かれている。 どうしてか、そこには親しげな雰囲気さえあった。 「し、質問は構わないんだが……、僕、怪我人だから、抱きつかれたりすると……」 「きゃああああ!う、腕が、腕が無いわよ、ギーシュ!?やっぱり夢?夢よね、絶対!」 苦悶の声を上げたことでギーシュの姿を確かめたモンモランシーが、また悲鳴を上げた。 紐で縛って止血された左腕は切断面が露出し、筋肉や骨を剥き出しにしている。先程までは服の断片で傷口を覆ってあったが、ティファニアが取り外してしまったのだ。 「み、右手も変な方向に曲がってる!?足も、って、胸の辺りも変に柔らかいんだけど……」 「それはそうさ、折れてるからね。ああ、でも大丈夫。見た目ほど痛くは無いよ。感覚が麻痺してるだけかもしれないけどね!はっはっは!」 テンションを高くして笑うギーシュに、才人やウェールズが肩を竦めて苦笑いを浮かべる。 「うええぇぇ……」 再会の感動とか生きる喜びとか、そういったものとはまったく別の意味で泣きが入ったモンモランシーの目の前で、今度は金髪の少女が青白い光を放つ指輪をギーシュの切断された左腕に近付け、細胞を刺激する。 にゅるり、と細いタコの足が伸びるようにして切断面から新しい腕が生え始め、なんだか気持ち悪い動きをしてギーシュの腕を再生した。薄く張った皮膚の下に浮かぶ血管がドクドクと波打ち、切断された部分を境目に日焼けなどの肌質の差が生まれる。やがて、肌が厚く張って元の色を取り戻すと、ギーシュは嬉しそうに声を上げて、生えてばかりの左手を二度三度と握ったり開いたりを繰り返した。 ティファニアの持つ指輪の力によるものだが、再生過程はホラーそのものだった。 「……ふぅ」 「ああっ、モンモランシー!?」 衝撃的な映像が多過ぎて、脳が付いていけなくなったらしい。 肺の中の空気を吐き出して気を失ったモンモランシーを、ギーシュは新しい腕で支え、いつの間にか骨折から回復している右手で頬をペチペチと叩く。 まったく反応が無い。 暫くの間、モンモランシーが目を覚ますことは無さそうだった。 「褒めてやってくれ、姐さん」 腕に抱いた愛しい君の名を連呼するギーシュに生温い視線を向けていたミノタウロスが、自分の頭を叩き続ける少女に声をかけた。 結構な速度で振られていた杖が止まり、青い髪の少女の首を傾げる姿が獣の瞳に映る。 「このガキ、最後まであの薔薇みたいな杖を手放さなかったんだぜ。腕圧し折られても、左腕をぶった切られても、失血で意識を朦朧とさせてても、杖だけは手放さなかったんだ。お陰で助けられた。二十年も生きてないガキに、俺も、ウェールズの兄ちゃんもよ」 ミノタウロスが上体ごと首を後ろに向けて、そこにある人の形をした人形に視線をやった。 雨に濡れた体を雲の隙間から差し込む光に照らして黄金色に輝かせている青銅の人形。不動の佇まいのそれが、どこか誇らしそうに空を見上げていた。 その姿が、何故かギーシュが抱いている少女の姿に似ているのは気のせいではないのだろう。 「斧に錬金をかけて人形に変えやがった。杖がなければメイジは魔法が使えねえ。その辺のところを、この体の持ち主は軽く見てたんだろうな。なまじ、魔法が無くても強えから」 メイジの杖には普通、“固定化”や“硬化”がかけられている。戦いの最中に壊れては困るからだ。だが、ミノタウロスはそれを怠った。 斧という武器を杖の代わりをしているが為に、杖という概念をいつの間にか忘れていたのだろう。 強靭で強大な肉体を得た代わりに、慢心を抱いた。それがミノタウロスの敗因だ。 「あー、しかし、疲れたぜ。なんかこう、気分的に。久しぶりに死の恐怖ってやつも味わったしな。早く帰って休みてえ」 疲れ知らずの地下水がこうまで言うのだから、相当な激戦だったのだろう。 気絶したモンモランシーの目を覚まさせようと元気に騒ぐギーシュを見て、タバサは未だ信じらない彼の活躍を脳裏に描き、深く息を吐く。 空にはクヴァーシルが舞っていて、こちらの様子を見て高く鳴いている。そう時間もかからない内に、先に一度合流したマリコルヌたちも戻ってくるだろう とりあえず、全員生還。 ウェールズやティファニアや地下水がなんでここに居るのか、とか、キュルケの髪のこととか、馬車の御者や客の親子をどうするのか、とか。いろいろ問題や疑問も残っているが、それは後回しでいいだろう。 自分も疲れた。 ふらふらと揺れながら歩いて自分の使い魔に寄り添ったタバサは、同じように疲れた様子を見せるシルフィードの頬を撫でて、腹の虫を鳴らす。 長いようで短い宝探しの旅が終わりを向かえた。空は相変わらず雨模様で、あまり物語の締めくくりには相応しくないように思える。 それでも、終わりは終わり。ピリオドは打たれたのだ。 森の中から猫が一匹顔を出し、一時の晴れ間を見上げて小さくクシャミをした。