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*東京好きのためのマニアックなみやげ物を紹介します。 世界一の大都会、東京。東京大好きな私が、これこそが東京ならではという地物を紹介します。
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日本硝子 【商号履歴】 日本硝子株式会社(1951年11月~1998年10月1日山村硝子株式会社に合併) 新日本硝子工業株式会社(1950年9月~1951年11月) 【株式上場履歴】 <東証2部>1961年10月2日~1982年12月17日(会社更生法適用申請) 【合併履歴】 1955年2月 日 徳永硝子株式会社 【沿革】 大正5年6月 日本硝子工業株式会社として設立。横浜工場、尼崎工場操業開始。 大正9年4月 大日本麦酒株式会社の製びん部門として合併。 昭和11年11月 大日本麦酒株式会社から分離独立して、日本硝子株式会社として設立。 昭和25年9月 新日本硝子工業株式会社(日本硝子株式会社の前身)と新日本硝子株式会社に分割。 昭和26年11月 社名を日本硝子株式会社に変更。 昭和30年2月 徳永硝子株式会社と合併。 昭和37年2月 日硝株式会社設立(昭和47年3月、星硝株式会社に商号変更)。(現:連結子会社) 昭和57年9月 会社更生法に基づく更生手続の開始申立。 昭和59年10月 更生計画が東京地方裁判所により認可決定。 昭和60年11月 熊谷市に埼玉工場建設、操業開始。横浜工場閉鎖。 平成7年11月 更生計画変更計画が東京地方裁判所により認可決定。 平成10年9月 更生手続終結申立書が東京地方裁判所により受理。 1998年10月1日 山村硝子株式会社に合併。
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かつての勤務先店舗に侵入して金員を窃取した直後,偶然同店にやってきた同店従業員の被害者と顔を合わせたため,同人を殺害して自己の罪跡を隠滅する目的で,洋包丁3丁を用いて同人の全身を多数回切りつけあるいは突き刺すなどし同人を殺害した被告人に対して,無期懲役の判決が言い渡された事案。 平成17年10月18日宣告 建造物侵入,強盗殺人被告事件 平成17年合(わ)第200号 主文 被告人を無期懲役に処する。 未決勾留日数中150日をその刑に算入する。 理由 (犯行に至る経緯) 被告人は,専門学校を中退後,警備員や飲食店従業員などの職を転々としていたが,平成16年6月ころ,それまで勤めていた居酒屋を辞め,交際中の女性宅で同せいするようになった。同月下旬,被告人は,東京都新宿区内のAビル6階所在の有限会社Bが経営する飲食店「C」でアルバイトを始め,同年10月には同社の正社員となったが,平成17年1月初旬ころ(以下の月日は,いずれも平成17年を指す。),夜の仕事が嫌になったなどといった理由から出勤しなくなり,同店のかぎも預かったままとなっていた。 平素から貯蓄をする習慣のなかった被告人は,2月3日から不動産会社に勤め始めたものの,給料は3月10日まで支給されず,2月10日に振り込まれた「C」の最後の給料7万円余りも即日引き出して無計画に費消した結果,2月20日過ぎころには所持金が数千円になり,3月1日に予定していた同せい中の女性との交際1周年を記念する外出の際の費用をねん出することも困難な状況になった。しかし,被告人は,見栄などから同せい中の女性に所持金が乏しいことを相談できず,消費者金融からも限度額近くまで借入れをしており,かつて借金の肩代わりをしてもらった両親にも相談しづらかったことから,金策に窮し,2月中旬ころから,返却しないままになっていたかぎを用いて元勤務先の「C」に忍び込み,金員を盗むことを考えるようになっていった。 被告人は,2月28日までに所持金をほぼ使い果たし,消費者金融から限度額一杯の1万円を借り入れたものの,翌日の外出に当たっての遊興費はなお不足すると考え,いよいよ「C」に盗みに入るしかないと思うようになった。被告人は,同せい中の女性に遅くなる旨の連絡をし,同店が無人になるまで時間をつぶした上,翌3月1日午前5時30分ころ,車で「C」に向かった。 (罪となるべき事実) 被告人は,金員窃取の目的で,平成17年3月1日午前6時ころ,東京都新宿区内のAビル6階所在の飲食店「C」店長Dが看守する同店内に合いかぎを使用して出入口ドアから侵入し,同所において,同人管理に係る現金15万円を窃取した直後,偶然出先から同店に立ち寄ったかつての同僚である同店従業員E(当時18歳)に発見されたため,目撃者である同人を殺害して自己の罪跡を隠滅する目的で,そのころ,同所において,同人に対し,殺意をもって,その頸部,腹部,頭部等を洋包丁3丁(刃体の長さ約23㎝(平成17年押第648号の3),同約18.5㎝(同押号の1)及び同約27.5㎝(同押号の2))で多数回にわたって切りつけあるいは突き刺すなどし,よって,そのころ,同所において,同人を前頸部刺切創による右総頸動脈切断及び左腹部刺切創による左腎動静脈損傷による失血により死亡させて殺害したものである。 (量刑の理由) 1 本件は,被告人が,かつての勤務先店舗に侵入して金員を窃取した直後,偶然同店にやって来たかつての同僚の被害者と顔を合わせたため,同人を殺害して自己の罪跡を隠滅する目的で,殺意をもって,洋包丁3丁を用いて多数回にわたり同人を切りつけあるいは突き刺すなどし,よって,同人を殺害したという建造物侵入及び強盗殺人の事案である。 2(1) 被告人は,収入の目処を付けないまま,大した理由もなく勤めを辞め,新たな勤め先の給料が支給されるまでの間,手持ちの現金を飲食費や遊興費などに無計画に費消した結果,同せい中の女性と遊びに行く費用が不足したことを契機として判示の窃盗に及んだものである。被告人が金に窮するようになった原因は,もっぱら被告人の無計画な行動にあることは明らかであり,しかも,およそ差し迫った必要性の乏しい遊興費ねん出のために,見栄などから同せい中の女性に相談することもせず,また,外出の予定を延期することもなく,短絡的に金員の窃取を決意したというのであるから,そのあまりに身勝手かつ自己中心的な犯行動機には,酌量の余地は全くない。 また,犯行態様も,被害店舗のかぎが手元にあることをいいことに,人気がなくなる時間帯に被害店舗が入居するビルに赴き,エレベータでいったん7階まで上がった後,階段で6階まで降りて同店の様子をうかがい,見つかってもすぐに逃げ出せるよう靴を履いたまま店舗内に侵入すると,指紋を残さないよう手袋をはめたまま本件犯行に及び,しかも,レジの計算間違いか従業員の仕業と見せかけるために売上金の一部のみを抜き取るなどしており,冷静な判断に基づく巧妙なものであって悪質性が高いといえる。その窃取した金員も,15万円であって少なくない。 (2) 次に,被告人が被害者を殺害するに至る経緯についてみると,被告人は,同店の売上金保管場所から売上金の袋を取り出して現金を窃取した直後,たまたま同店に立ち寄ったかつての同僚である被害者と顔を合わせ,その場は何とか取り繕って店舗外に出たものの,階段を駆け下りながら,売上金の袋をそのままにしてきたことなどから,このままでは自分が犯人であることがばれて警察に捕まり,これまでのような暮らしが続けられなくなってしまう,金を返して謝るか,あるいはいっそのこと目撃者である被害者を殺してしまうかなどと思いを巡らせ,取りあえずは引き返すしかないと考えて,1階まで下りた後,直ちにエレベータで6階まで戻った。再び店舗内に入った被告人は,被害者から「お金ないんですけど。今,いろいろ電話してたところなんですよ。」と言われて,もはや被害者を殺害するしかないと決意し,同店のちゅう房から洋包丁1丁を持ち出したところ,被告人が持つ包丁に気付かなかった被害者に「ちょっと待ってください。」と言われてちゅう房の奥に押し込まれたため,包丁を突き出してその腹部を刺突した。被告人は,とにかく被害者を殺害するしかないと考え,叫び声を上げながら店舗出入口まで逃げた被害者を追いかけて捕らえた上でその身体に何度も包丁を突き出し,逃げまどう被害者の上に馬乗りになるなどして更に何度も被害者を切りつけあるいは突き刺したため,ついに被害者が店舗内に戻って崩れ落ちるようにして座り込んだ。これを見た被告人は,もう被害者は逃げないだろうと考え,折れ曲がってしまった洋包丁を取り替えるために再度ちゅう房に入り,新たな洋包丁2丁を持ち出して,座り込んだ被害者の前にしゃがんで,両手に持った洋包丁を被害者に何度もたたきつけ,被害者のうめき声を聞くと,最後には,その首の両側を洋包丁で突き刺して殺害した。 (3) このように,被告人は,被害者に売上金を窃取したことをとがめられそうになるや,いきなり被害者の腹部を包丁で刺突し,その後も,必死に逃げまどう被害者に対し,一片の容赦もなく,包丁を突き出し,切り付けるなどの行為を執ように繰り返して殺害したものである。被害者の刺切創等の損傷は,頭部9か所,顔面11か所,頸部9か所,胸部5か所,腹部8か所,背部6か所,両上肢24か所,両下肢4か所と全身にわたり合計76か所にも及んでおり,その犯行態様はせい惨というほかに言葉が見当たらない。また,犯行動機も,自ら犯した窃盗行為が発覚し,これまでのような生活を送ることができなくなるのを避けるなどといった,自己保身を図るために,その生ずべき結果の重大性を全く考慮することなく,極めて短絡的に被害者の殺害という犯行に及んだものであって,この点についてもおよそ酌量の余地はない。 なお,弁護人は,被告人が窃盗の犯行後にいったん店舗外に出ている経過をとらえて,本件は実態的には窃盗罪と殺人罪が併合した事案ともいえる点を量刑上十分に考慮すべきである旨主張する。確かに,被告人は被害者から追及されることなく一度店舗外に出てはいるものの,なお同じビルの中にとどまって,直ちに窃盗の犯行現場である店舗内に戻っているのであり,いわば依然として被害者側の支配領域にあって,被害者等から容易に発見されて,財物を取り返され,あるいは逮捕され得る状況が継続していたのであるから,本件は強盗殺人罪に当たるものと認められるし,被告人が,様々に思いを巡らせながらも直ちに被害店舗に戻り,被害者の殺害を決意してこれを完遂していることからすれば,量刑上特に有利にしん酌すべき事情であるとまでいうことはできない。 (4) 本件犯行により,無残にもまだ18歳と若い被害者の生命が奪われたのであるから,その生じた結果が極めて重大で取り返しのつかないものであることは改めていうまでもない。もとより被害者には全く落ち度はなく,被告人の凶行により,数多の傷害を負いながら絶命した被害者の受け続けた肉体的苦痛,また,その間の恐怖がいかばかりのものであったかは,もはや想像を絶するというほかない。被害者は,将来は音響関係の仕事に就くことを夢見て単身上京し,両親に負担をかけずに専門学校の学費を自らの手で稼ぐために働いていたさなかに,被告人によって突如,理不尽にもその将来を絶たれたのであるから,その悔しさと無念さは多大なものであったと推察される。被害者の遺族が受けた衝撃も甚大で,それぞれ,被害者が妹の面倒をよく見て家の手伝いも進んでやる優しい子であったことや,特に兄弟の仲が良く自慢の弟であったことなどを語っており,被害者をこのような形で失った悲しみと怒りは強く,被告人には死をもって償ってほしい旨述べて,当公判廷においてもしゅん烈な処罰感情を示している。 以上の事実からすれば,被告人の刑事責任は誠に重大である。 3 他方,被告人は,逮捕後は事実を認め,生ある限りは罪を償っていきたい旨述べて反省の態度を示していること,被告人及び被告人の両親が被害者の遺族に謝罪文を送付していること,被告人の高校時代の指導教員が当公判廷に証人として出廷し,被告人の当時の性格を語った上で,その罪の重さに気付いてほしい旨述べて被告人を思いやる言葉を述べていること,被告人にはこれまで前科前歴のないことなど,被告人のために酌むべき事情も認められる。 4 そこで,被告人の量刑であるが,以上のような諸事情を総合考慮して無期懲役刑を選択することとするが,被告人のために酌むべき前記の諸事情その他諸般の事情を最大限考慮しても,酌量減軽をすべき余地はないというべきであるから,被告人については,無期懲役に処するのが相当である。 よって,主文のとおり判決する。 (検察官勝山浩嗣公判出席) (求刑 無期懲役) 平成17年10月18日 東京地方裁判所刑事第7部 裁判長裁判官 小 川 正 持 裁判官 水 上 周 裁判官 川 尻 恵理子
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この記事は荒らし対策の最終手段として作成されたものです。公的秩序に反する投稿内容は削除することがございますので、ご了承下さい。また客観性を確保するため、可能な限り記事の出展元を記載してください。 桜井氏の裁判に関する発言の推移 【第一回公判(2010年10月27日)後】 今回の裁判もビジネスの一部だ。 裁判はビジネスのため ニフティ相手に裁判所で稼げる ニフティとの戦いで、裁判でも勝つ。 勝った勝った勝った、音のストリーム勝った。負ける要素がない。 弁護士を雇わなくても俺が一人で十分に勝てる。 ニフティが俺の回線を切断したのは不当だと言っている。その言い分を裁判所が認めれば俺の勝ちだ。 3人のニフティの弁護士に勝つくらいの法的な知識はある。 裁判で勝手、慰謝料をもらう。 そしてそのニュースがネット全体に駆け巡り、音のストリームに関心と注目が集まり、教材が大売れ。 それを見て出版社が来て、本に出したら、ベストセラー。 それを聞いた中国や韓国の出版社からの翻訳出版のオファー。 そして米国の外国語教育センターから音のストリームベース採用の通知。 そしてサクセスストーリーは永遠に続く。 最終的には東京地方裁判所の判断に従う。 結審の頃は詳しく報告する。例え、俺が敗訴でも。 結審されたら、司法の判断に従え。俺も従う。民主主義の基本だから。 負けても控訴しない 裁判に負けたら、負けた報告したら2chには絶対に来ない。当たり前だ。 【第三回公判(2011年02月09日)後】 今日、第三回の法廷に行ってきました。 裁判官からまだ言いたい事はあるかと言われたので無いと言いました。 そしていよいよ、4月15日に判決がでる事になりました。 4月15日にここで判決を書きます。 負けても報告をします。 俺が負けたら、報告して丁重に謝罪して、fade awayするだけだ。 その後は2chなど書くどころか、見たくもない。 【結審(2011年04月15日)後】 今日、東京地方裁判所で判決があり、私のニフティへの訴えは棄却されました。 これを契機に2chへの書き込みも止めることとして、英語教育の方に専念します。 桜井氏は2chへの書き込み停止を宣言した以降も、ENGLISH板への書き込みを続けている。 たかが2ch、されど2chか。 わかっちゃいるけど止められない。 やっぱり2chを止める事を、止めました。 <参考URL> 音のストリームとニフティの裁判 http //kamome.2ch.net/test/read.cgi/english/1288318031/ http //mimizun.com/log/2ch/english/1288318031/ (ミラーサイト) 音のストリーム http //kamome.2ch.net/test/read.cgi/english/1289053037/ http //mimizun.com/log/2ch/english/1289053037/ (ミラーサイト) 英語の発音総合スレ Part1 http //kamome.2ch.net/test/read.cgi/english/1289554229/ http //mimizun.com/log/2ch/english/1289554229/ (ミラーサイト) ヴァルダblog http //varda2.com/blog/0118 【ENGLISH板】汚物ヲチ【最悪最凶】03 http //toki.2ch.net/test/read.cgi/tubo/1289128256/ http //mimizun.com/log/2ch/tubo/1289128256/(ミラーサイト) ニフティへの訴えは棄却 http //sakuraikeizo.cocolog-nifty.com/blog/2011/04/post-a47f.html (アクセスは自己責任でお願いします。) 【嘘つきのストリーム】桜井汚物【ウンコ性理論】 http //toki.2ch.net/test/read.cgi/tubo/1325930407/ http //mimizun.com/log/2ch/english/1325930407/(ミラーサイト)
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東京地方裁判所にて第4回目の公判が行われた。 開廷日時:平成31年1月8日 午前10時 場所:東京地方裁判所 第429法廷 裁判長:中島 真一郎 傍聴は定員35人に対し希望者は50名弱。 最初はあまり人がおらず、整理番号順にも並んでいなかったが、 この日は某自動車会社の最高経営責任者の初公判が行われており、 そちらの抽選が終わってから傍聴希望者がどどっと増えた。 私は残念ながら傍聴券は落選してしまったため、ネット等で見聞きした情報のみ。 検察側は懲役4ヶ月を求刑、執行猶予が付く場合は保護観察処分に。 弁護側は無罪を主張。 次回の公判は1月31日午前10時より。 サイト管理者:A情報局の中の人 -
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判示事項の要旨: 貸金業者が,債務者の代理人弁護士から民事再生手続開始申立てを行った旨を知らされた後,債務者に対して行った給与債権の差押えが違法であるとして,債務者からの慰謝料請求が認められた事例 平成17年9月29日判決言渡 平成17年(ワ)第73号 損害賠償請求事件 口頭弁論終結日 平成17年8月25日 主文 1 被告は,原告に対し,7万5000円及びこれに対する平成17年3月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,これを10分し,その9を原告の負担とし,その1を被告の負担とする。 4 この判決は,原告勝訴部分に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求の趣旨 被告は,原告に対し,150万円及びこれに対する平成17年3月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は,原告訴訟代理人からの民事再生手続開始申立ての受任通知後に,被告が行った給与債権の差押えが違法であるとして,原告が,被告に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,慰謝料120万円及び弁護士費用30万円並びにこれらに対する不法行為の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 2 当事者間に争いのない事実 (1) 原告は,平成16年8月,被告から,金銭を借り入れ,その後,被告に対して返済をしていた。 (2) 原告は,多額の負債により支払不能になり,平成16年11月,原告訴訟代理人に対し,民事再生手続開始の申立てを委任した。原告訴訟代理人は,同年11月2日ころ,被告を含む全債権者に対し,受任通知を発送した。 (3) 被告は,同年11月5日,原告を相手として,富山簡易裁判所に対し,貸金請求の訴えを提起した。原告訴訟代理人は,上記訴訟の口頭弁論期日において,被告に対し,民事再生手続の中で弁済を受けて欲しい旨を述べた。上記訴訟は,平成17年1月31日,民事訴訟法275条の2による決定(以下「本件決定」という。)により終了した。本件決定においては,原告は,被告に対し,貸金残元金9万7770円,未払利息1490円及び残元金に対する平成16年11月2日からの遅延損害金を,平成17年2月末日限り支払う旨が定められた。 (4) 原告訴訟代理人は,同年2月7日,富山地方裁判所魚津支部に対し,原告の民事再生手続開始の申立てをした。原告訴訟代理人は,同年2月下旬,被告から,原告の民事再生手続の状況に関する照会を電話で受けたので,民事再生事件の事件番号を告げて,既に申立済みであることを説明し,債権の弁済は民事再生手続の中で受けて欲しい旨を述べた。 (5) 被告は,同年3月2日,富山地方裁判所魚津支部に対し,本件決定に基づき,原告のA社(以下「勤務先」という。)に対する給与債権の差押えを申立て(以下「本件差押申立て」という。),同日,同裁判所による差押命令が発令された。 3 本件の争点及びこれに対する当事者の主張 (1) 被告の本件差押申立ての違法性 (原告の主張) 弁護士から民事再生手続開始申立ての受任通知を受けた場合には,貸金業者は,これに対し誠実に応対すべき義務があり,民事再生手続の進行を無視して,強制執行を行うことは,不法行為になると解すべきである。 被告は,原告が既に民事再生手続開始の申立てをしたことを知りながら,本件差押申立てを行ったものであり,敢えて給与債権の差押をしなければならない合理的理由があったとはいえず,本件差押申立てが不法行為となることは明らかである。原告は,本件決定に対して異議申立てをしていないが,その理由は,被告に対する債務の内容自体は争いがなく,異議申立ての理由がないことに加え,民事再生手続の開始決定が間近であったことから,異議申立ての実益もないと考えたためである。 (被告の主張) 原告は,被告に借入申込みをした際,他社借入1件と虚偽の申告をしており,1回返済したのみで,民事再生手続開始の申立てをした。原告は,既に多重債務に陥っていたのであれば,被告から借入をすべきではなかった。 被告は,原告が申し立てた民事再生手続に強制的に参加させられるものではなく,本件決定に基づく強制執行をすることはできる。原告訴訟代理人としては,被告と交渉するか,本件決定に対して異議申立てをすることによって,被告から本件決定に基づく強制執行を受けることを防止できたのである。 (2) 原告の損害の有無 (原告の主張) 原告は,勤務先において契約社員として働いており,正社員に登用されるよう励んでいた最中に,差押えを受けた。このため,原告は,勤務先において信頼を失い,将来の正社員への登用又は昇給に多大の悪影響を受けた。 (被告の主張) 原告の勤務先においては,正社員は当初から正社員として採用しており,契約社員から正社員に登用されることはない。原告は,現在も勤務先で働いており,本件差押申立てによって何らかの不利益を受けたとは認められない。 第3 当裁判所の判断 1 被告の本件差押申立ての違法性について判断する。 (1) 債権者は,権利を行使するため,訴訟を提起し,判決又はこれと同様の効力を有するものに基づき強制執行をすることができるが,権利の行使は,社会通念上相当な態様と方法で行うべきものである。多重債務者の経済的更生を図ることは社会の要請であり,その手段の1つとして,民事再生手続が利用されていることを考慮すると,債務者の依頼を受けた弁護士から民事再生手続開始申立ての受任通知を受けた場合には,貸金業者は,これに対し誠実に応対すべき義務がある。そうすると,債務者の依頼を受けた弁護士から既に民事再生手続開始申立てをした旨を通知された場合には,貸金業者は,その申立てが濫用的なものである等の正当な理由がない限り,強制執行を自制すべき義務を負っていると解すべきである。 (2) 本件において,被告は,原告訴訟代理人から民事再生手続開始申立ての受任通知を受け,民事訴訟を提起して本件決定を得た後,本件決定における支払期限の到来前に,原告訴訟代理人から,既に原告が民事再生手続開始の申立てを行ったことを事件番号とともに告げられ,民事再生手続の中で債権の弁済を受けるよう要請されたにもかかわらず,本件決定における支払期限の2日後に本件差押申立てを行ったものである。 被告は,原告が本件決定に対して異議申立てをすれば,本件差押申立てを防止することができたと主張する。しかし,原告は,被告に対する債務内容に争いがないから,異議申立てをする理由はないし,原告において,異議申立期間の満了前に民事再生手続開始の申立てをした以上,被告には強制執行を自制すべき義務があるから,異議申立てをすべきであったとはいえない。 (3) また,被告において,強制執行を自制すべき義務に反して本件差押申立てをしなければならない正当な理由があったとは認められない。したがって,被告の本件差押申立ては違法であり,被告は,原告に対し,不法行為による損害賠償責任を負うものである。 2 原告の損害について判断する。 (1) 甲4号証によれば,原告は,勤務先において契約社員として働いているが,本件差押申立てを受け,平成17年3月3日ころ差押命令が勤務先に送達されたことによって,勤務先から事情を尋ねられ,多額の債務を負っており,民事再生手続開始の申立てをしたことを説明せざるを得なくなり,勤務先における信用を失墜したことが認められる。 (2) もっとも,甲4号証によれば,原告は,平成17年3月9日,民事再生手続開始決定を受けたため,給与債権の差押えは短期間で終了したこと,現在のところ,減収等の具体的不利益は受けていないことが認められる。また,原告が,将来正社員に登用されるかどうか,それに本件差押えが影響するのかどうかは,現在のところ不明確である。 (3) これらの事情を考慮すると,原告の精神的損害に対する慰謝料は,6万円が相当である。また,相当因果関係のある弁護士費用としては,1万5000円が相当である。 3 以上によれば,原告の本訴請求は,損害賠償として,7万5000円及びこれに対する不法行為の日の翌日である平成17年3月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において,理由がある。 4 よって,原告の本訴請求を,上記限度で認容し,その余の請求は理由がないからこれを棄却して,主文のとおり判決する。 富山地方裁判所民事部 裁判官 永 野 圧 彦
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裁判所記録廃棄問題(さいばんしょきろくはいきもんだい)とは、複数の重要な憲法判断が示された民事事件と重大な少年事件の記録が、各地の裁判所で廃棄されていたことが発覚した問題[1]。 概要 裁判所が定める記録の保存規程(事件記録等保存規程)と調査記録規程(少年調査記録規程)において「史料又は参考資料となるべきものは、保存期間の満了後も保存(特別保存)しなければならない」と定められている[2]。 2022年(令和4年)10月、1997年(平成9年)に発生した神戸連続児童殺傷事件の記録について、神戸家庭裁判所は保存期間満了後に特別保存にせず、2011年(平成23年)にすべての記録を廃棄していたことが報道機関の取材により発覚した[1][2][注釈 1]。最高裁判所は重大少年事件を含む事件記録が各地の家庭裁判所で破棄されている可能性があるとして、有識者委員会を立ち上げ事件記録の捜査を行った[1][2]。結果、全国の家庭裁判所で社会の耳目を集めた少年事件が複数廃棄されていることが発覚し、捜査の中で、特別保存されていた民事事件の記録も廃棄されていることが発覚した[2]。最高裁は少年事件や民事裁判およそ100件を対象に調査を行い2023年5月25日、最高裁は報告書を発表、記者会見を行った[1]。 調査結果として、『検討されたもの』『検討すらされないもの』『特別保存されていたもの』『特別保存された後に廃棄されていたもの』合わせて少年事件53件、民事裁判35件(内訳は下記記載)が破棄されていたことがわかった[1][2]。 経緯 裁判所が定める記録の保存規程「事件記録等保存規程」(昭和39年最高裁判所規程第8号)と調査記録規程「少年調査記録規程」(昭和29年最高裁判所規程第5号)において「史料又は参考資料となるべきものは、保存期間の満了後も保存しなければならない」と定められている(この規定による保存を「2項特別保存」という)[2]。 神戸連続児童殺傷事件について、神戸家庭裁判所は保存期間満了後に2項特別保存にせず、記録を廃棄していた[2][1]。報道機関の取材を通じ最高裁もこれを知ることとなり、これを発端に調査を行い、少年事件の記録や特別保存されていた民事事件が複数廃棄されていたことが明らかになった[2]。刑事事件を除く134件の事件記録について保存状況を調査した際、116件の事件記録について2項特別保存をされずに廃棄されていることが確認されており、全国的に適用が適切にされていない状況が明らかになった[3]。 2019年(平成31年)2月に東京地方裁判所で記録廃棄が明らかになった際、最高裁は保存期間が満了した全記録について破棄の保留をするよう各裁判所に事務連絡を出している。上記の調査を行った上で東京地裁が策定した2項特別保存の運用要領(東京地裁の運用要領)を全国に提供し運営要領を適切に行われるよう問題意識を換気した[4]。 神戸連続児童殺傷事件を含む多くの破棄された少年事件は運用要領の策定以前の事柄であるものの、重く受け止め適切な保存と運用が必要であると判断をした[4]。 2022年(令和4年)10月25日、再び保存期間満了の少年事件を含む全記録について有識者委員会の意見を聴取しつつ調査・検討を勧めていくとした[4]。 結果 2023年5月25日、最高裁は報告書を発表、記者会見を行った[1]。裁判所の報告書より、下記の記録が廃棄されていることが明らかになった。[2][5] 2項特別保存される可能性が高かったにもかかわらず、判断がされなかった事案(類型Ⅰ少年事件4件) 対象記録を廃棄対象であることを意識した上で検討されなかった事案(類型Ⅱ少年事件7件) 対象記録が保存されている意識もなく廃棄対象であることも認識されなかった案型(類型Ⅲ少年事件39件、民事事件35件 ) 要領策定後に廃棄された事案(類型Ⅳ 3件) 特別保存された後破棄された事案(7件) 原因の一端 民事事件の判決原本の永久保存とされていた1992年(平成4年)頃は保存期間50年を超えた判決原本が全国で2000fmの厚さに及んだ。紙質の劣化などがあり、永久保存の廃止について強い要望があった。1992年1月より保存規定の改定により判決原本の保存期間は50年となり保存期間が経過した原本は順次廃棄されるようになった[6]。刑事事件においては1992年2月7日付けの運用通達により事件記録を2項特別保存にする場合その旨を最高裁に報告する制度が新設された。プリンター等の普及により紙が分厚くなったことも影響し、記録庫の狭隘化が深刻となった。円滑な事務処理のための解決策として1999年(平成11年)に保存期間の見直しが行われた。民事訴訟事件の事件記録については保存期間が10年から5年に短縮され、2019年2月に至るまで大きな改定がされることはなく、2項特別保存の件数も低迷な状況が続いていた[7]。 調査の結果、2019年(令和2年)2月、運用要領策定以前は2項特別保存に係る事務処理の要領を策定していた庁は2割にとどまり、特別保存の判断の明確化がされていない状況だった[8]。 要領改定後においても2項特別保存すべきか裁量を残す事例が存在していた事[9]。 繁忙によるヒューマンエラー、不十分な引き継ぎによる誤った廃棄[10]。 対象記録 裁判所の記録の保存・廃棄の在り方に関する調査報告書(本体)より一部引用 少年事件(廃棄事案) 特別保存を検討したものの該当しないとして破棄された記録(類型Ⅰ)[11] 番号事件概要裁判所名 6平成9年の神戸連続児童殺傷事件神戸家裁本庁 27平成15年の男児誘拐殺人事件長崎家裁本庁 31平成16年の佐世保大久保小事件(佐世保小6女児同級生殺害事件)長崎家裁佐世保支部 42平成18年に奈良県田原本町で発生した、高校1年生の男子生徒による自宅への放火 殺人事件(奈良自宅放火母子3人殺人事件)奈良家裁本庁 特別保存を検討せず要領策定前に破棄された記録(類型Ⅱ)[12] 番号事件概要裁判所名 14平成12年に愛知県豊川市で当時17歳の少年が夫婦を殺傷した事件(豊川市主婦殺人事件)名古屋家裁本庁 18平成12年8月14日に大野郡野津町で発生した、当時15歳の少年による家族6人 殺傷事件(大分一家6人殺傷事件)大分家裁本庁 30平成16年2月に大阪地裁所長が重傷を負った強盗致傷事件(大阪地裁所長襲撃事件)大阪家裁本庁 39兵庫県姫路市ホームレス焼死事件神戸家裁姫路支部 41中津川市のパチンコ店空き店舗で平成18年4月、中学2年の女子生徒が殺害された 事件(岐阜中2少女殺害事件)岐阜家裁本庁 45事件名「殺人、死体損壊」、審判日「平成20年2月26日」(会津若松母親殺害事件と思われる記録)福島家裁会津若松支部 52平成24年に亀岡で起きた暴走事故(そのうち、運用要領策定前に廃棄された記録)京都家裁本庁 保存の意識がなく廃棄対象となっている意識もなく破棄された記録(類型Ⅲ)[13] 番号事件概要裁判所名 1平成3年に札幌市北区内の道職員夫婦が殺害され、遺体が同市東区中沼町の原野に遺棄された事件(北海道職員夫婦殺害事件)札幌家裁本庁 2平成4年3月に、高知市内において、15歳の兄が妹を殺害した事件高知家裁本庁 3平成4年12月、札幌市内で両親を刺殺した事件札幌家裁本庁 4平成5年4月に男子生徒2人が東淀川区の中学3年生を殺害した事件大阪家裁本庁 5平成7年2月 西尾市立東部中学のいじめ自殺(愛知県西尾市中学生いじめ自殺事件)名古屋家裁岡崎支部 7平成9年8月23日夜、稲美町の神社で、少年10人(当時14~16歳)が、被害 少年(当時15歳)に集団暴行を加えた事件神戸家裁姫路支部 8平成10年の黒磯北中学校の女性教師刺殺事件(栃木女性教師刺殺事件)宇都宮家裁本庁 9発生日、逮捕日 平成10年3月9日 埼玉県東松山市立東中で1年男子が同級生に刺されて死亡した事件さいたま家裁本庁 10発生日、逮捕日 平成10年5月12日 千葉県四街道市で長男らが父親を殴って殺害した事件千葉家裁本庁 11平成10年7月に、高校生が同じ学校の同級生から暴行を受けたあとに自殺した事件広島家裁福山支部 12御母衣湖で平成10年8月、当時22歳の男性が遺体で見つかった集団暴行事件岐阜家裁本庁 13平成10年に中学3年の少年が寝屋川市で女性を刺殺した事件大阪家裁本庁 15発生日、逮捕日 平成12年5月13日 埼玉県入間市の高校2年生が男女3人にリンチされ死亡した事件さいたま家裁川越支部 16平成12年7月6日に母親を金属バットで殴打した少年の殺人未遂、傷害事件(岡山金属バット母親殺害事件と思われる記録)岡山家裁本庁 17輪之内町で平成12年6月、高校2年の男子生徒が中学時代の元同級生らに集団リン チを受けて死亡した事件岐阜家裁本庁 19平成12年12月23日に清水市立中学校の生徒がアパートの隣人を刺殺した事件静岡家裁本庁 20兵庫県御津町タクシー運転手強盗殺人事件神戸家裁姫路支部 21いわゆる「〇〇君事件」 ①罪名 傷害致死 決定年月日 平成13年5月23日 ②罪名 傷害致死 決定年月日 平成13年5月16日大津家裁本庁 22平成13年9月に静岡県御殿場市内で当時15歳の少女に乱暴しようとしたとして当 時16歳の少年が強姦未遂容疑で逮捕された事件(御殿場事件)静岡家裁沼津支部 23平成14年に中高生が逮捕された東村山市のホームレス暴行殺人事件(東村山市ホームレス暴行死事件)東京家裁八王子支部(現:立川支部) 24平成14年に発生した熊谷市の路上で中学生二、三人がホームレスを暴行し死亡させ た事件さいたま家裁熊谷支部 25平成14年11月、山梨県塩山市の少年2人(19歳、18歳)を傷害致死と傷害の 疑いで逮捕。同月15日夜駐車場で、県立高校生2人に殴る蹴るの暴行をした疑い。甲府家裁本庁 26平成15年4月24日に横浜市港北区で発生した、高校3年生の少年が父親の頭を壁 に押し付けるなどして死亡させた傷害致死事件横浜家裁本庁 28平成15年9月、岐阜市雲雀ヶ丘の市立本荘中学校で包丁を持った同中学卒業生の大 工見習いの少年(15歳)が立てこもった事件岐阜家裁本庁 29平成15年11月1日に起こった当時18歳の少年と当時16歳の交際相手の女子少 年が家族を殺傷した事件大阪家裁本庁 32平成16年8月9日に、石狩市の高校1年生の男子少年が同級生の母親をナイフで刺 して殺害した事件(石狩同級生母親殺害)札幌家裁本庁 33平成16年に発生した元少年(17歳)による金沢市内の夫婦2人を強盗殺人した事件(金沢市夫婦強盗殺人事件)金沢家裁本庁 34平成17年6月10日に発生した光高校の爆破事件山口家裁本庁 35平成17年6月23日に福岡市南区で17歳の兄を殺害したとして中学3年の少年 (当時15歳)が殺人容疑で逮捕された事件福岡家裁本庁 37事件名 強盗致死等 審判日 平成18年10月16日福島家裁本庁 38平成17年に静岡県伊豆の国市で当時17歳の女子高生が、母親にタリウムを摂取さ せ殺人未遂で逮捕された事件静岡家裁沼津支部 40平成18年1月26日に盛岡市内で発生した、高校生(当時16歳)が母親(当時3 9歳)を殺害した事件盛岡家裁本庁 43稚内市内において平成18年8月28日に発生した少年2名(うち1名は被害女性の 子供)の犯行による女性殺人事件旭川家裁本庁 44平成18年12月、岡崎市のホームレス襲撃事件名古屋家裁岡崎支部 46平成19年8月に高校生の集団暴行により当時高校3年生の男子が死亡した事件函館家裁本庁 47平成19年8月20日に発生した上関で祖父が殺害された事件山口家裁本庁 48平成19年に京田辺市で起こった警察官の父親を娘が殺害した事件(京田辺警察官殺害事件)京都家裁本庁 49平成20年1月に八戸で発生した母子殺害事件青森家裁本庁 50平成20年にあった熊野市の保険外交員が少年に殺害された事件津家裁本庁 要領策定後に廃棄された記録(類型Ⅳ)[14] 番号事件概要裁判所名 36平成17年に中学1年男子生徒が母親を暴行し死亡させた事件大阪家裁本庁 51平成22年7月9日、兵庫県宝塚市の民家で放火事件があり、家族3人が死傷した事 件神戸家裁本庁 52平成24年に亀岡で起きた暴走事故故(そのうち、運用要領策定以降に廃棄された記録)京都家裁本庁 少年事件(特別保存された事案) 2項特別保存に付された少年事件についての調査結果[15] 番号事件概要裁判所名特別保存判断日 53光市母子殺人事件山口家裁本庁2008年9月1日 54西鉄バスジャック事件佐賀家裁本庁2016年年3月2日 55少年が、母親を多数回の殴打等により死亡させた事件(山口母親殺害事件と思われる記録)山口家裁本庁2010年12月27日 56平成22年における少年の交際相手の親族等に対する殺傷事件仙台家裁本庁2017年1月17日 57平成25年の三重県中3女子死亡事件(三重郡朝日町地内における女子中学生強盗殺人・死体遺棄事件)津家裁本庁2021年11月9日 58名古屋大学の女子大学生が知人女性を殺害した事件(名古屋大学女子学生殺人事件)名古屋家裁本庁2021年12月24日 59危険運転致死、道路交通法違反事件(送致された事件につき検察官送致の決定 がされ、地裁に起訴されたものの、地裁において少年法55条の移送決定 がされ家裁に係属したが、再度検察官送致決定がされ再び地裁に起訴され た後、地裁において再度移送決定がされ家裁に係属した事件)大阪家裁本庁2020年7月21日 民事事件等(廃棄事案) 保存の意識がなく廃棄対象となっている意識もなく破棄された記録(類型Ⅲ)[16] 番号事件概要裁判所名 1最大判平成17・1・26(民集59巻1号128頁) 外国人の公務就任権〔Ⅰ-5〕 東京地裁本庁 2最二小判平成16・11・29(判時1879号58頁) 戦後補償-韓国人戦争犠牲者補償請求事件〔Ⅰ-8〕 3最二小判平成15・9・12(民集57巻8号973頁) 講演会参加者リストの提出とプライバシー侵害〔Ⅰ-20〕 4最一小判平成20・3・6 (民集62巻3号665頁) 住基ネットの合憲性 〔Ⅰ-21〕 大阪地裁本庁 5最三小判平成12・2・29(民集54巻2号582頁) 自己決定権と信仰による輸血拒否〔Ⅰ-26〕 東京地裁本庁 6最大判平成20・6・4 (民集62巻6号1367頁) 届出による国籍の取得と法の下の平等-国籍法違憲判決〔Ⅰ-35〕 7最三小判平成8・3・19 (民集50巻3号615頁) 強制加入団体の政治献金と構成員の思想の自由-南九州税理士会政治献金事件〔Ⅰ- 39〕 熊本地裁本庁 8最二小判平成23・5・30 (民集65巻4号1780頁) 「君が代」 起立・斉唱の職務命令と思想・良心の自由〔Ⅰ-40〕 東京地裁本庁 9最一小決平成8・1 ・30 (民集50巻1号199頁) 宗教法人の解散命令と信教の自由―宗教法人オウム真理教解散命令事件〔Ⅰ-42〕 10最二小判平成8・3・8(民集50巻3号469頁) 宗教上の理由に基づく「剣道」の不受講〔Ⅰ-45〕神戸地裁本庁 11最一小判平成14・7・11(民集56巻6号1204頁) 即位の礼・大嘗祭と政教分離の原則〔Ⅰ-50〕 鹿児島地裁本庁 12最三小判平成14・9・24(判時1802号60頁) プライバシー侵害と表現の自由-「石に泳ぐ魚」事件〔Ⅰ-67〕東京地裁本庁 13最二小判平成15・3・14(民集57巻3号229頁) 少年事件の推知報道-長良川事件報道訴訟〔Ⅰ-71〕 名古屋地裁本庁 14最一小判平成17・7・14(民集59巻6号1569頁) 公立図書館の蔵書と著作者の表現の自由〔Ⅰ-74〕 東京地裁本庁 15最三小決平成18・10・3(民集60巻8号2647頁) 取材源の秘匿と表現の自由〔Ⅰ-75〕 新潟地裁本庁 16最三小判平成13・12・18(民集55巻7号1603頁) 情報公開と個人情報の本人開示-レセプト情報公開請求事件〔Ⅰ-84〕 神戸地裁本庁 17最大判平成14・2・13(民集56巻2号331頁) 証券取引法164条1項の合憲性〔Ⅰ-102〕 東京地裁本庁 18最大判平成11・3・24(民集53巻3号514頁) 接見指定の合憲性〔Ⅱ-125〕 福島地裁郡山支部 19最大判平成14・9・11(民集56巻7号1439頁) 国家賠償責任の免除・制限と憲法17条-郵便法違憲判決〔Ⅱ-133〕 神戸地裁尼崎支部 20最二小判平成19・9・28 (民集61巻6号2345頁) 障害基礎年金と受給資格―学生無年金障害者訴訟〔Ⅱ-139〕 東京地裁本庁 21最大判平成17・9・14(民集59巻7号2087頁) 在外日本国民の選挙権〔Ⅱ-152〕 22最大判平成24・10・17(民集66巻10号3357頁) 参議院における議員定数不均衡〔Ⅱ-155〕 東京高裁 23最大判平成11・11・10(民集53巻8号1577頁) 衆議院小選挙区比例代表並立制の合憲性〔Ⅱ-157①〕 24最大判平成11・11・10(民集53巻8号1704頁) 衆議院小選挙区比例代表並立制の合憲性〔Ⅱ-157②〕 25最大判平成23・3・23(民集65巻2号755頁) 一人別枠方式の合理性〔Ⅱ-158〕 26最大判平成16・1・14(民集58巻1号1頁) 参議院非拘束名簿式比例代表制の合憲性〔Ⅱ-159①〕 27最大判平成16・1・14(民集58巻1号56頁) 参議院非拘束名簿式比例代表制の合憲性〔Ⅱ-159②〕 28最一小判平成9・3・13 (民集51巻3号1453頁) 連座制〔Ⅱ-165〕 仙台高裁本庁 29最大判平成8・8・28 (民集50巻7号1952頁) 駐留軍用地特措法およびその沖縄県における適用の合憲性-沖縄代理署名訴訟〔Ⅱ- 173〕 福岡高裁那覇支部 30最三小判平成9・9・9 (民集51巻8号3850頁) 国会議員の免責特権⑵-国会議員の発言と国家賠償責任〔Ⅱ-176〕 札幌地裁本庁 31最大決平成10・12・1 (民集52巻9号1761頁) 裁判官の政治運動-寺西事件〔Ⅱ-183〕 仙台高裁本庁 32最大判平成18・3・1(民集60巻2号587頁) 国民健康保険と租税法律主義-旭川市国民健康保険条例事件〔Ⅱ-203〕 旭川地裁本庁 33最一小判平成23・9・22(民集65巻6号2756頁) 租税法律における遡及的立法〔Ⅱ-204〕 千葉地裁本庁 34最一小判平成14・1・31(民集56巻1号246頁) 立法の委任⑵-委任の範囲〔Ⅱ-213〕 奈良地裁本庁 35最三小判平成24・2・28(民集66巻3号1240頁) 生活保護基準改定による老齢加算廃止〔(第7版)Ⅱ-135〕 東京地裁本庁 民事事件等(特別保存された事案) 2項特別保存に付された民事事件等についての調査結果[17] 番号事件概要裁判所名特別保存判断日 36最大決平成25・9・4(金法1978号37頁) 嫡出性の有無による法定相続分差別〔Ⅰ-29〕 東京家裁本庁2019年7月31日 37最大判平成22・1・20(民集64巻1号1頁) 神社敷地としての市有地の無償提供-空知太神社事件〔Ⅰ-52〕札幌地裁本庁2018年7月30日 38最一小判平成25・3・21(判時2193号3頁) 自治体の課税権―神奈川県臨時特例企業税事件〔Ⅱ-208〕横浜地裁本庁2019年8月7日 民事事件等(特別保存後破棄) 特別保存された後破棄された記録[18] 番号事件概要裁判所名保存の種類 1・平成22年(ワ)222号( 損害賠償請求事件) 平成24年(ワ)69号 平成24年(ワ)557号(正規労働者と同一の雇用契約上の地位確認等請求事件) 平成24年(行ウ)6号(不支給処分取消請求事件) 平成25年(ワ)106号(水利権確認等請求事件) 平成25年(ワ)554号(損害賠償請求事件)計6件 大分地裁本庁2項特別保存 2平成16年(モ)10001号熊本地裁本庁1項特別保存 対象記録外に発覚している廃棄事案 上記の事件記録以外にも、名古屋家裁が2022年(令和4年)10月に調査したところ、大高緑地アベック殺人事件(1988年)、木曽川・長良川連続リンチ殺人事件(1994年)、西尾ストーカー殺人事件(1999年)、名古屋中学生5000万円恐喝事件(2000年)などといった重大少年事件の記録が廃棄されていたことが判明している[19]。
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M&Aにおける売主の表明,保証違反に基づく買主の対する補償責任が認められた事例 件名 損害賠償等請求事件(東京地方裁判所 平成16年(ワ)第8241号 平成18年1月17日判決 一部認容) 主 文 1 被告らは,原告に対し,連帯して3億0529万3523円及びこれに対する平成16年4月22日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は被告らの負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 被告らは,原告に対し,連帯して3億0529万3523円及びこれに対する平成15年12月19日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 争いのない事実等(末尾に証拠の摘示のない事実は,当事者間に争いがない。) (1) 当事者等 ア 原告は,消費者への貸金業務その他の金融業等を目的とする株式会社である。 イ 被告陽光株式会社は,観光事業,不動産の売買,賃貸等を目的とする株式会社である。 ウ 被告栄豊株式会社は,観光事業,ホテル,旅館等を目的とする株式会社である。 エ 被告Aは,被告陽光株式会社の代表者であり,株式会社アルコ(以下「アルコ」という。)の代表取締役であった者である。 オ アルコは,金銭の貸付け及びその仲介,消費者への貸金業務等を目的とする株式会社であり,その資本の額は10億円であって,株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律1条の2第1項1号所定の大会社に相当し,同法2条1項により,監査役の監査のほか会計監査人の監査を受けることが義務付けられていた。 (2) アルコの和解債権処理 アルコ財務部は,平成14年11月7日,第28期(同年4月1日から平成15年3月31日まで)において,営業利益がよくなく,赤字決算となるとの予測を出したことから,アルコ営業本部は,決算対策用として,もともと元本の弁済に充当していた債務者からの和解契約(和解債権)に基づく返済金を利息の弁済に充当することを考案し,アルコ営業本部から同社の全店,全部門に宛てた,平成14年11月25日付け連絡,通知文書(以下「本件通達」という。)により,和解債権の返済金の充当方法について,元本優先から利息優先に切り替えるように指示し,アルコの全店,全部門にこれを実施させたが,同額の元本についての貸倒引当金の計上はしなかった(以下,この処理を「本件和解債権処理」という。)。 本件和解債権処理は,平成15年3月期のアルコの決算書に注記されなかった。 (3) 原告側のデューディリジェンス(買収監査)等 ア 原告は,被告らとの間で,原告によるアルコの買収の話を始め,平成15年7月16日付けで,アルコに対し,アルコの全株式を取得するとの意向表明書を提出した(以下,原告によるアルコの全株式の取得を「本件M&A」という。)。これを受けて,アルコは,当時のBを担当者として対応した。原告の担当者は,Cであり,株式会社新生銀行(以下「新生銀行」という。)のコーポレートアドバイザリー部が買収のアドバイザーとなった。 イ 原告は,同年7月30日から同年9月19日までの間,新日本アーンストアンドヤング株式会社(以下「アーンストアンドヤング」という。)に依頼して,アルコのデューディリジェンス(以下「第1次デューディリジェンス」という。)を行った。第1次デューディリジェンスに際してBらアルコの担当者は,原告に対し,創業以来の顧客の貸付金,元利入金,延滞状況,属性,完済,他社からの借入状況,貸倒償却等の全履歴を磁気データとして記録保存したもので,人的に加工する前の全取引データ(以下「生データ」という。)を交付した。 ウ 原告は,同月17日から21日までの間,アーンストアンドヤングに依頼して,アルコのデューディリジェンス(以下「第2次デューディリジェンス」という。)を行った。 エ アルコが作成して原告に交付した貸借対照表上,同年10月31日時点のアルコの資本合計は25億1101万9000円と試算されていた。一方,アルコは,同年12月18日の取締役会決議に基づき,退任する当時のアルコの役員らに対し,合計1億円の役員退職慰労金を支払う予定であった。 (4) 株式譲渡契約の締結 原告は,被告らとの間で,平成15年12月18日,被告らが保有するアルコの全株式を,下記の約定で原告へ譲渡する旨の合意をした(以下,この合意を「本件株式譲渡契約」といい,下記8条の規定による表明,保証を「本件表明保証」といい,9条1項の規定により負担する責任を「本件表明保証責任」という。)。本件株式譲渡契約書には,別紙として,アルコ財務部作成の平成15年10月31日時点の貸借対照表が添付された。 記 1条 株式の譲渡 1項 被告らは,各々自己の保有するアルコの株式数が次のとおりであることを確認し,自己の保有するアルコの全株式を,平成15年12月18日をもって原告に対して譲渡する。 ①被告陽光株式会社 160万株 ②被告栄豊株式会社 20万株 ③被告A 20万株 2項 前項の株式の譲渡価格については,平成15年10月31日時点の貸借対照表に基づくアルコの財務状況により算出された1株当たり1165円(全200万株で23億3千万円)とする。 8条 表明,保証 被告らは,原告に対し,次の事項を表明,保証する。 7項 アルコの財務諸表が完全かつ正確であり,一般に承認された会計原則に従って作成されたこと 8項 アルコの平成15年10月31日の財務内容が上記貸借対照表のとおりであり,簿外債務等の存在しないこと 9項 すべての貸出債権について, (d) 平成15年10月31日における各貸出債権の融資残高は,その日の貸出債権に関する記録に正確に反映されている。 (f) アルコの帳簿,記録,取引記録又はその他の記録はいずれも,すべての重要な点において完全かつ正確であり,貸出債権の状況を正確に反映している。また,取引記録及びその他の勘定記録に記載されるものを除き,いずれの貸出債権も修正されることはない。 12項 アルコの役員及び従業員においては,アルコの業務遂行及び資産保有について,法令,行政通達,定款等により必要とされる手続はすべて完了しており,またそれらの重大な違反は何ら存在しないこと 20項 本契約に至る前提として行われた,原告によるアルコの財務内容,業務内容その他アルコの経営・財務に関する事前監査(会計・法務に関する監査を含むがこれに限られない。)において,通常の株式譲渡契約において信義則上開示されるべき資料及び情報が漏れなく提示,開示されたこと及びそれらの資料及び情報は真実かつ正確なものであること 9条 担保責任 1項 被告らは,前条により規定された表明,保証を行った事項に関し,万一違反したこと又は被告らが本契約に定めるその他義務若しくは法令若しくは行政規則に違反したことに起因又は関連して原告が現実に被った損害,損失を補償するものとし,合理的な範囲内の原告の費用(弁護士費用を含む。)を負担する。 2 本件は,原告が,本件和解債権処理は本件表明保証に違反していると主張して,被告らに対し,本件表明保証責任の履行として合計3億0529万3523円及びこれに対する本件株式譲渡契約締結の日の翌日である平成15年12月19日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金を連帯して支払うことを求めたのに対し,被告らが,原告は,本件和解債権処理について悪意であったか,又は重大な過失によってこれを知らずに本件株式譲渡契約を締結したのであるから,被告らは本件表明保証責任を負わないなどと主張してこれを争っている事案である。 3 争点及びこれに関する当事者の主張 (1) 本件和解債権処理及びこれに関する資料を開示していないことが,本件表明保証に違反しているか否か(争点1) (原告の主張) 本件和解債権処理は,元金の入金があったのに利息の入金を計上する点で,企業会計原則第一の一に違反している。また,本件和解債権処理は,利息が発生せず未収利息も回収しない債権についてされた支払を利息の弁済に充当するものであり,法的に請求できる限度を超えた額を貸借対照表に計上するというものであるから,未収利息を不計上とする債権について入金があった場合に元本の入金として処理すべきことを定めた金融商品会計に関する実務指針(会計制度委員会報告第14号。以下「実務指針」という。)120項に違反し,債権金額から正常な貸倒見積額を控除した金額を貸借対照表価額とすべきことを定めた企業会計原則第三の五Cに違反しているし,仮にこのような処理をするのであれば,和解債権について入金があり利息の弁済に充当 した額は,そのまま回収できないことが明らかな元本額であるから,実務指針123項によれば,少なくとも利息充当額と同額の貸倒引当金を計上する必要があるが,アルコは,これを計上しなかったのであるから,本件和解債権処理は,実務指針123項に違反している。以上によれば,本件和解債権処理は,本件株式譲渡契約8条7項に違反している。 アルコの平成15年10月31日の実際の財務内容は,本件和解債権処理に基づき利息の弁済に充当されていた入金が元本の弁済に充当されることになるのであり,本件和解債権処理を前提として,貸倒引当金を計上することなく利息収入を計上した平成15年10月31日時点の貸借対照表の記載とは異なるのであるから,本件株式譲渡契約8条8項に違反している。 アルコの同日における和解債権の残高は,実際よりも高額に記録されていたものであり,本件株式譲渡契約8条9項(d)及び同(f)に違反している。 本件和解債権処理は,重要な貸借対照表又は損益計算書の作成に関する会計方針の変更に該当する(平成15年法務省令第7号による改正前の商法施行規則23条1項,24条1項本文,商法施行規則44条1項,45条1項本文)ので,同年3月期の貸借対照表又は損益計算書に注記しなければならないにもかかわらず,当時のアルコの取締役らは,これを注記しなかったのであるから,業務遂行について必要な手続をすべて完了していなかったものであり,本件株式譲渡契約8条12項に違反している。 被告らは,原告に対し,第1次及び第2次デューディリジェンスにおいては,本件和解債権処理に関する資料を開示していないのであるから,本件株式譲渡契約8条20項に違反している。 (被告らの主張) 原告の上記主張は争う。 本件和解債権処理は,監査法人から会計処理として容認されており,会計処理上の合理性,正当性を有している。 (2) 原告が,本件株式譲渡契約を締結した際に本件和解債権処理について悪意であったか否か(争点2) (被告らの主張) そもそも,被告らは,原告に対し,本件和解債権処理について説明をしており,原告は,本件和解債権処理について知った上で本件株式譲渡契約を締結したものであるから,被告らは,免責される。すなわち,Bは,第2次デューディリジェンス期間中の平成15年11月19日,アーンストアンドヤングの担当者であるDに対し,トーマツの期中監査報告に関する書面等を示しながら本件和解債権処理について説明したし,同年12月17日に開かれたアルコと原告との貸倒引当金の計算方法等に関する会議の席上で,アルコ財務部のEが,本件和解債権処理について明確に説明したし,アルコ債権管理課のFも,上記会議よりも前にアーンストアンドヤングの担当者に本件和解債権処理について説明したし,アルコのGも,第2次デューディリジェンスの 期間中に,アーンストアンドヤングの担当者に,本件和解債権処理の説明をした。また,被告らが第1次デューディリジェンスの際に原告に開示した生データや営業実績推移等の資料を見れば,和解債権の処理に変更があったことは明白であるところ,原告がこれらの資料を見ていないわけがないから,原告は,本件和解債権処理を認識していたはずである。そもそも,本件和解債権処理は,原告がアルコの経営を開始すれば直ちに発見されるようなものであり,被告らがこれを隠匿する実益はない。 (原告の主張) 被告らの上記主張は否認し,争う。 原告は,本件株式譲渡契約締結時において,本件和解債権処理を知らなかった。アルコは,架空の利益を計上して高値で売却するために本件和解債権処理を実行したものであるから,買主である原告にこれを開示するはずがない。また,アルコの株式の価値に直結する本件和解債権処理を知りながら,原告が漫然と放置することはあり得ないが,本件において,和解合意書とシステム上の記録を突き合わせて確認したり,アーンストアンドヤングと原告との間で善後策を検討するといった,本件和解債権処理が原告に開示されたことを裏付けるような事情もない。BがDに対して本件和解債権処理を説明したことはなく,E,F,Gが原告やアーンストアンドヤングの担当者に対して本件和解債権処理について伝えたこともない。本件表明保証から本件和解債 権処理が除外されていないことや,本件株式譲渡契約において売買代金を平成15年10月31日時点の貸借対照表を基準に算出したことも,原告の善意を裏付けるものというべきである。 原告が本件株式譲渡契約を締結した際に本件和解債権処理を知らなかったことについて重大な過失が存在した場合に,被告らの本件表明保証責任は免責されるか否か,これが肯定された場合,原告に上記重大な過失が認められるか否か(争点3) (被告らの主張) 仮に,原告が本件和解債権処理を知らなかったとしても,知らなかったことについて重大な過失があり,これは信義則上,悪意と同視すべきであるから,被告らは,免責される。すなわち,原告は,被告らから生データや営業実績推移の開示を受けており,和解債権に関する取引の推移を見れば,平成14年11月以降,元本への入金が減少し,利息収入が増加していることを容易に発見できたはずであるし,被告らは,デューディリジェンスの実施に際して,原告の求めに応じ,あらゆる情報を開示したものである。そもそもアルコは消費者金融を営む会社なのであるから,その資産評価をするに当たっては,和解債権がいかなる処理をされているのかというのは重要な関心事であるはずであり,生データの開示を受け,2次にわたってデューディリジェン スを実施しながら,本件和解債権処理を発見できなかったというのであれば,これは,原告の重大な過失によるものというべきである。 (原告の主張) 被告らの上記主張は否認し,争う。 デューディリジェンスは,買主側の権利として行うものであり,義務ではないから,注意義務違反を観念することはできないので,重大な過失があることは抗弁事由とはなり得ない。 また,悪意と同視すべき重大な過失という意味においても,原告にはそのような重大な過失があるということはできない。すなわち,そもそも本件和解債権処理は,極めて異常な処理方法であるところ,このような処理方法が採用されていることを原告が予測することは困難であった。そして,原告は,本件通達等の資料の開示を受けていないから,本件和解債権処理を発見することは不可能であったし,第1次デューディリジェンスでは,時価純資産額を算出することを目的として,過去の実績から将来の回収が見込まれるキャッシュフロー(元利合計)を予測し,現在価値に割り戻して評価額を算定する方法であるディスカウント・キャッシュ・フロー法(以下「DCF法」という。)を採用したものであって,生データも,そのために受領し,使用した 。また,データの信頼性や内部管理が適切にされているか否かを検証するために実施したサンプル作業においても,将来金利を回収しないため将来キャッシュフローが確定している和解債権については,利息計算の照合を行わなかった。さらに,第2次デューディリジェンスにおいて,原告が経営報告書等の資料の提出をアルコに要求したのは,第1次デューディリジェンス後の資産,負債の増減等を調査することが目的であったので,入金額が元本及び利息のいずれの弁済に充当されたかを細かく検討することはなかったし,支店の実査においても短時間であることや支店の管理体制等を確認する目的で行ったことに照らせば,本件和解債権処理を発見することは困難であった。このように,アルコが本件和解債権処理を発見する手掛かりとなる資料を隠して いる以上,極めて異常で想定できない処理である本件和解債権処理の存在を仮定してデューディリジェンスを行うことはできず,膨大な生データや資料をデューディリジェンスの目的を超えて調査することもできない。また,原告が被告らやアルコに資料の提出を強要することもできない。 (4) 本件和解債権処理により原告に損害が発生したか否か及びその額は幾らか(争点4) (原告の主張) 本件株式譲渡契約において,アルコの株式の譲渡価格は,簿価純資産額を下回る額での売却には応じないという被告らの希望や原告の株主への説明,被告らがアルコの財務諸表が正確で会計原則に従って作成されたこと等を表明,保証していたこと等を踏まえ,アルコが作成した平成15年10月31日時点の貸借対照表上の純資産額が25億1101万9000円であることを基準に,期中の減価償却費等及び退任するアルコの役員らの退職慰労金を控除した結果,23億3000万円と決定されたものである。しかし,本件和解債権処理によって,和解債権について入金があれば本来減少すべき元本が利息の弁済に充当されたことで減少せずに残り,不当な利息充当額と同額が貸借対照表上不当に資産計上されていることになるところ,不当な利息充当額 (不当な資産計上額)は2億7538万5023円であったから,2億7538万5023円が原告の損害額である。原告は,本件和解債権処理をあるべき処理に戻すためのシステムの修正を外部の会社に委託し,その費用として168万円を支出した。 また,原告は,本件訴訟を追行するため,アーンストアンドヤングに対して,意見書,陳述書の作成及び証言を依頼せざるを得なかった。アーンストアンドヤングはタイムチャージによって費用を請求しており,平成17年7月31日までの費用として117万円が見積もられている。アーンストアンドヤングに対する費用としては,少なくとも117万円及びこれに対する消費税相当額の合計122万8500円を要することになる。本件における弁護士費用として相当な額は2700万円を下らない。 (被告らの主張) 原告の上記主張は争う。本件M&Aにおいては,被告らの認識している25億1101万9000円の簿価純資産額以下では本件株式譲渡契約は成立し得ないのであるから,本件和解債権処理による本件表明保証違反と原告の損害との間に因果関係はない。 第3 当裁判所の判断 1 前提となる事実 前記第2の1の事実及び括弧内に摘示する証拠によれば,以下の事実が認められる。 (1) 本件和解債権処理及び監査法人の変更 アルコ財務部は,平成14年11月7日,第28期(同年4月1日から平成15年3月31日まで)の決算について,期首には税引き前で3億5000万円の利益の計上を予定していたのに,実際には,4億円以上も損失を計上することになるという内容の予測を出した。そこで,アルコ営業本部は,決算対策として,本件和解債権処理を考案した。アルコ財務部は,本件和解債権処理により利息収入として計上する額と同額の貸倒引当金を計上する必要性を指摘し,当時アルコの委任していた監査法人であった監査法人トーマツ(以下「トーマツ」という。)にも相談することとし,決算業務等を担当していたEは,平成14年11月15日ころ,本件和解債権処理によって利息収入として計上した額と同額の元金につき,完済時にも残るので,カット償却 (貸付残高よりも小さい額で和解したときに和解契約に基づく弁済が完了したときに発生する償却)することが確定している債権として,貸倒引当金を計上する必要があるので,結局営業利益の増加はないこと,監査法人にも利益操作と評価される可能性も否定できないことなどを指摘する「A.和解債権契約修正について」と題する書面(甲28)を同部のHに提出した。アルコ営業本部も,会計上の問題点があり,元金のカット償却が増えることを問題点として認識していたが,トーマツの回答を待たずに,同月25日,全部門,全支店に対し,同月27日までに,端末操作をすることでコンピュータシステムにより自動的に処理される和解債権の入金の充当方法の設定を,元本優先から利息優先に切り替え,確認作業を終了させるように指示する本件通達 を送付した。これを受けて,アルコの全支店は,本件和解債権処理を実施し,これに基づいて帳簿類を作成した。 トーマツは,平成15年1月27日から同月29日までアルコの期中監査を実施した。トーマツによる同月31日付け期中監査報告事項一覧(乙3の2)には,「4.和解債権の入金額の充当順位変更処理について」,「5.第28期決算における各種引当金の計算及び計上額」として「①貸倒引当金」の項目がそれぞれ記載されており,トーマツは,アルコに対し,本件和解債権処理により,従来よりもカット償却が増加することが考えられ,その増加分を加味した貸倒引当金の計上が必要であり,計算式は,トーマツが検討すると指摘した。 アルコは,同年2月20日,期中であるにもかかわらず,トーマツとの間の委任契約を解消し,同月25日,監査法人をトーマツから監査法人ビーエー東京(以下「ビーエー東京」という。)に変更した。 ビーエー東京は,同年3月10日から12日までにアルコについて期中監査を実施したが,本件和解債権処理による利息の弁済への充当を前提としない貸倒引当金を計算し,同年5月30日付けで適正意見を表明した。 同年3月期のアルコの決算書には本件通達による本件和解債権処理が注記されなかった(甲6から甲9まで,甲11,甲12,甲14の1及び2,甲28,甲29,乙3の1及び2,乙12〔一部〕,証人H[一部])。 (2) 本件株式譲渡契約の端緒及び第1次デューディリジェンス ア 原告は,資産拡大のための手法として,企業戦略部を中心として,いわゆるM&Aを積極的に活用していく方針を有していたところ,平成15年2月に,30億円程度でのアルコの売却の話が,原告に持ち込まれた。原告は,アルコの株式取得に意欲を示し,平成15年4月24日,アルコとの間で機密保持契約を締結し,アドバイザーである新生銀行を通じてアルコの3期分の決算書や会社概要等の資料を入手するなどした上で,同年7月16日付けで,約25億円から32億円前後でアルコの全株式を取得するとの意向表明書を提出した。本件M&Aの交渉を主として担当していたのは,原告ではCであり,アルコではBであった。その後,原告は,アルコの資産価値をより正確に把握するためのデューディリジェンスを実施することとし,これをア ーンストアンドヤングに委任した。原告は,同年7月30日,アルコに対し,第1次デューディリジェンス開始に当たっての説明会を開き,その席で,新生銀行は,デューディリジェンスリストを示してデューディリジェンスの基本的方針を説明した。その後,同年9月19日までの間,アーンストアンドヤング主導で第1次デューディリジェンスが実施された(甲18,甲20,甲26,甲35,乙1,乙11,証人C,同D)。 イ アーンストアンドヤングは,アルコの株式の価値を評価するに当たり,営業貸付金の評価については,修正純資産法を採用し,一般的な手法である一部DCF法及び営業権(のれん)の考え方を採用して,将来金利収入及び将来元本返済の合理的な見積額(将来キャッシュフロー)を算定し,その現在価値を求めることとした。DCF法の適用に当たっては,比率の高い正常債権を中心として,新規獲得件数,貸付額,元利を合計した現金の回収額,貸倒発生の推移,正常債権から和解債権や特管債権への移行の額や率について月次推移を検討したが,和解債権については,回収総額が決まっていることから,入金の元利の区別は評価にとって重要でなく,また,個別性が高いため,和解内容のとおりに返済がなされているか否かの確認も行わなかった。 アーンストアンドヤングは,アルコから生データを受領していたが,その信頼性を確認するため,無作為に270名の債務者を抽出し,債務者ファイルの実在性の確認,債務者ファイルの完成度の確認,主要な電子データの正確性の確認,利息計算の照合,社内規定遵守の確認を行い,さらにそのうち任意に指定した債権について,入会申込書,顧客カード等の書類を提出させたが,和解債権は,債権全体に占める比率が低い上に,個別性が強いため,一般的なフォームを知るために数通の合意書を提出させるにとどめ,サンプリングで抽出された35件全部について照合を行うことはしなかった(甲20,甲35,甲38,証人D)。 ウ アルコの第28期の監査を実施したビーエー東京は,第1次デューディリジェンス期間中の平成15年8月22日,アルコに対し,第28期の監査の結果,同年3月31日の時点において約3億円の貸倒引当金の設定不足が発生しているので,設定方法を見直す必要があるが,算定額より5000万円多く設定したこと等から,第28期の会計処理を容認すると記載したマネジメント・レターを提出した(甲13)。 エ 原告の担当者は,アーンストアンドヤングの担当者,新生銀行の担当者とともに,平成15年8月27日,アルコの池袋支店及び沼津支店の,同月28日に横須賀支店及び本社の集中管理センターの実査をそれぞれ行ったが,これは,支店の管理体制や従業員の勤務状況,端末の操作方法等を知ることを主たる目的とし,各場所について1から2時間程度,本件M&Aのこと及び各担当者の身分等を秘匿した状態で,従業員の業務の合間に質問することを内容とするものであった(甲19,甲20,証人I) オ アーンストアンドヤングは,第1次デューディリジェンスの結果,アルコの純資産額がマイナス2億2830万2000円,のれんの価値が14億4200万円から18億7100万円までであると算定し,原告に対し,アルコの評価額を12億1300万円から16億4200万円であると報告した(甲35,証人C)。 カ 被告ら及びアルコが本件M&Aの計画当初の段階からアルコの簿価純資産額(貸借対照表上の純資産額)を下回る額での株式の売却には応じないという態度を示しており,原告にとっても,アルコの全株式の買収価格を簿価純資産額とした場合には,買収価格の客観性をすることができ,原告の株主らに対しても合理的な説明ができること等から,原告及び被告らは,簿価純資産額を基準として価格を定めることに決めた。アルコの同年3月31日時点での貸借対照表上の純資産額は21億9900万円であり,アルコの半期分の利益予想額1億円5000万円を合計すると,簿価純資産額は約23億5000万円となり,また,アルコから開示された同年9月30日時点での貸借対照表によると,純資産は24億9267万7803円であるが,これに は減価償却費が控除されていないことから,アルコの簿価純資産額が24億円程度と見込まれた。そこで,原告は,被告らに対し,同年10月27日,アルコの全株式の譲渡価格として23億5000万円を提示した。これに対し,アルコは,同月29日,原告に対し,退任する役員らに対して退職金1億円を支払うことを前提として,上記譲渡価格を23億3000万円とすることを提示した。原告は,上記アルコからの提示を受け入れ,同年11月4日,担当者間での合意事項確認書を締結し,同月14日,被告ら及びアルコとの間で,本件M&Aに関するそれまでのすべての合意に代わるものとして,以下の内容の基本覚書を取り交わすとともに,本件M&Aを対外的に発表した(甲16,甲17[乙2],甲18,証人C,弁論の全趣旨)。 (ア) 被告らは,それぞれが保有するアルコの株式合計200万株を,平成15年12月15日を目処として原告に対して譲渡する(2条1項)。 (イ)(ア)の譲渡価格は,平成15年7月31日時点の貸借対照表及び同年9月30日時点の貸借対照表に基づくアルコの財務状況により算出された1株当たり1165円(合計23億3000万円)を基準とする(2条2項)。 (ウ)(イ)の譲渡価格は,以後に原告が実施するアルコの経営状況,財務状況の精査の結果を受け,減額修正すべき合理的理由がある場合には,原告及び被告らとの間の協議により合理的な調整を行う(2条3項)。 (エ)被告ら及びアルコは,アルコの平成15年9月30日時点の財務内容が,同日時点の貸借対照表のとおりであり,簿外債務等の存在しないことを原告に対して保証する(8条)。 (オ) 被告ら及びアルコは,(エ)で保証した事項に関し,万一相違した事実が判明し,原告に損害を与えた場合は,その損害を賠償し,又は被告らは株式譲渡価格の変更に応ずるものとする(10条)。 (カ)被告ら及びアルコは,原告に対し,最終契約において,少なくとも通常の株式譲渡契約において行うべき一般的な表明,保証を行うものとする(11条)。 (キ)アルコの役員及び監査役は,本件株式譲渡契約締結後初めて開催される株主総会の日において全員が辞任することとする(12条)。 (ク)アルコは,(ク)によって退任する役員及び監査役に対し,合計1億円を上限として役員退職慰労金を支払うこととする(13条1項)。 (ケ)最終契約締結時までに,アルコの財務状況に重大な影響を与える事実が判明した場合には,原告,被告ら及びアルコは誠意を持って協議の上,株式譲渡価格の修正その他の解決に当たるものとする(16条)。 (3)第2次デューディリジェンス及び本件株式譲渡契約の締結 ア 原告は,平成15年11月17日から同月21日まで,アーンストアンドヤングによる第2次デューディリジェンスを実施した。第2次デューディリジェンスは,第1次デューディリジェンスの基準日である同年7月31日以降,第2次デューディリジェンスの基準日とした同年10月31日までの簿価資産・負債の異動の有無及び額を評価することを目的とし,定款,社内規定,取締役会議事録,株主総会議事録,稟議書等,月次決算資料,借入金契約書,同年8月から10月までの月次経営報告書等,平成16年3月期分の中間納税資料,平成15年10月までの総勘定元帳等を基本資料としてアルコの本社で査閲したり,大きな変動が見られたものについては担当者にインタビューすることにより行われた。アーンストアンドヤングは,アルコから 提供された同月30日時点での試算表を総勘定元帳と照合し,差異のないことを確認した(甲10,甲20,甲27の1及び2,甲36,甲38,証人C,同D)。 イ アーンストアンドヤングは,期中における監査法人の交代を異例なこととして重要視し,第1次デューディリジェンス,第2次デューディリジェンスを通じてその理由の調査を行った。アーンストアンドヤングの担当者は,Bに対し,上記理由について繰り返し質問をしたが,ABSに要した初期費用の償却方法に関する意見の相違によるものであると説明するのみであり,Dは,平成15年11月20日,ビーエー東京のO公認会計士と面談し,上記理由について質問したが,同公認会計士も,Bと同様の回答をしたにすぎなかった。 Dらアーンストヤングの担当者は,第1次デューディリジェンス及び第2次デューディリジェンスにおいて,Bに対し,会計方針の変更がないことを繰り返し確認したが,Bは,少なくとも数年間はないと回答した。 アーンストアンドヤングは,アルコが監査法人による監査を受けていることから,アルコの作成した財務諸表等は会計原則に従って処理がされていることを前提としてデューディリジェンスを行ったため,アルコの提示した資料等の正確性,網羅性については確認しなかった。アルコ側から,各種の社内通達等がつづられたファイルが幾つか開示されたが,通し番号でつづられているものは見受けられず,本件通達等本件和解債権処理について記載した書面は開示されなかった。アーンストヤング作成の第1次デューディリジェンスの報告書(甲35)及び第2次デューディリジェンスの報告書(甲36)にも,本件和解債権処理についての記載はない(甲10,甲20,甲35,甲36,甲38,証人B[相反する部分を除く。],同D,弁論の全趣旨)。 ウ その後アルコの平成15年10月31日時点の貸借対照表が開示され,それによると簿価純資産額が25億1101万9000円であり,同年9月30日時点での簿価純資産額を維持していたことから,同年12月18日,原告と被告らは,アルコの全株式の譲渡価格23億3000万円を維持したまま,本件株式譲渡契約を締結した。本件株式譲渡契約においては,同年10月31日時点の貸借対照表に基づくアルコの財務状況により算出された1株当たり1165円とすることが明記されている(甲18,証人C)。 以上の事実を前提に,順次各争点について判断する。 2 争点1について (1)企業会計原則第一の一は,企業会計は,企業の財政状態及び経営成績に関して,真実な報告を提供するものでなければならないと定めているところ,本件和解債権処理は,元金の入金があったのに利息の入金として計上する点でこの規定に違反している。実務指針120項は,金融商品会計において,和解債権等の未収利息を不計上とする債権について入金があった場合,契約に基づく利息の支払が明確であるもの以外の部分は元本の入金として処理することを,また,企業会計原則第三の五Cは,債権の貸借対照表価額は,債権金額から正常な貸倒見積額を控除した金額とすることを,それぞれ定めているところ,本件和解債権処理は,利息が発生しないし未収利息も回収しない債権について利息を計上し,法的に請求できる限度を超えた額を貸借対照 表に計上するというものであるから,これらの規定に違反している。 また,実務指針123項は,債権の回収可能性がほとんどないと判断された場合には,貸倒損失額を債権から直接減額して,当該貸倒損失額と当該債権に係る前期貸倒引当金残高のいずれか少ない金額まで貸倒引当金を取り崩し,当期貸倒損失額と相殺しなくてはならないと定めているから,本件和解債権処理によって利息の弁済に充当した入金額は,本来元本の弁済に充当すべきところをこれをしなかったためにそのまま回収できないことが明らかな元本額となるのであるから,少なくとも利息充当額と同額の貸倒引当金を計上する必要があるが,アルコは,これを計上しなかったのであるから,実務指針123項にも違反している。なお,アルコの第28期の決算に関するビーエー東京のマネジメント・レターによる貸倒引当金の設定によっては,平成1 5年3月31日までに和解契約に基づく弁済が完了した和解債権についてしか貸倒引当金が計上されていないので,本件和解債権処理によって必要な貸倒引当金が計上されていないことが明らかである。したがって,本件和解債権処理を前提として作成されたアルコの財務諸表は,一般に承認された会計原則に違反しているものというべきであり,本件株式譲渡契約8条7項に違反している。 アルコの同年10月31日の実際の財務内容は,本件和解債権処理に基づき利息の弁済に充当されていた入金が元本の弁済に充当されることになるのであり,本件和解債権処理を前提として貸倒引当金を計上することなく利息収入を計上した前記同日時点の貸借対照表の記載とは異なるのであるから,本件株式譲渡契約8条8項に違反している。 アルコの同日における和解債権の残高は,実際よりも高額に記録されていたものであり,本件株式譲渡契約8条9項(d)及び同(f)に違反している。 (2)平成15年法務省令第7号による改正前の商法施行規則23条1項,商法施行規則44条1項は,貸借対照表及び損益計算書への記載は,会社の財産及び損益の状態を正確に判断することができるよう明瞭にしなければならないと定め,平成15年法務省令第7号による改正前の商法施行規則24条1項本文,商法施行規則45条1項本文は,資産の評価の方法,固定資産の減価償却の方法,重要な引当金の計上の方法その他の重要な貸借対照表又は損益計算書の作成に関する会計方針は注記しなければならないと定めている。本件和解債権処理は,会社の財産及び損益の状態を正確に判断するのに必要な事項であり,貸借対照表及び損益計算書の作成に関する重要な会計方針であるから,アルコの取締役らは,平成15年3月期の決算書上において,本 件和解債権処理を注記して開示すべきであったというべきである。しかし,アルコの取締役らは,これを注記しなかったのであるから,業務遂行について必要な手続をすべて完了していなかったものというべきであり,本件株式譲渡契約8条12項に違反している。 したがって,被告らは,以上の点で本件表明保証した事項に違反しているというべきである。 なお,本件株式譲渡契約8条20項違反の有無については,後記3で検討する。 3 争点2について (1)被告らは,Bが第2次デューディリジェンス期間中である平成15年11月19日,Dに対し,トーマツの期中監査報告に関する書面等を示しながら,本件和解債権処理について説明をした,Eが同年12月17日のアルコと原告との貸倒引当金の計算方法に関する会議の席上,本件和解債権処理について説明した,Fも上記会議より前に,アーンストアンドヤングの担当者に本件和解債権処理を説明した,Gが第2次デューディリジェンスの期間中,アーンストアンドヤングの担当者に対し,本件和解債権処理を説明したと主張し,これに沿う証拠として,B及びHの各陳述書(乙11,乙12)及びその各証言がある。 しかしながら,上記各証拠は,いずれも客観的な裏付けを欠いており,これに相反する他の証拠(甲18,甲20,甲29,甲38,証人C,同D)及び以下の点に照らして採用することができない。 アルコ財務部及び営業本部は,本件和解債権処理の会計上の問題点を明確に認識しながら,当時委任していた監査法人であるトーマツの指示を無視したことは前記認定のとおりであり,証拠(甲10,甲13,甲14の1及び2,甲29)によれば,期中にトーマツから変更した監査法人であるビーエー東京に対しても,本件和解債権処理について説明しなかったことが認められる。ビーエー東京に対して,本件和解債権処理について説明したとのHの陳述書(乙12)及び証言,Bの証言は,前記のとおり,本件和解債権処理が企業会計原則に著しく違反しており,監査法人が本件和解債権処理の説明を受けながら,適正意見を出したり,第28期の会計処理を容認するとの意見を出すとは考えられないので,採用することができない。アルコのこれら一連 の対応は,本件和解債権処理による決算対策の効果を維持しようとしたからにほかならないが,これは,本件M&Aにおいては,アルコの株式の買収価格を決定するにつきアルコの簿価純資産額を基準としたことから,上記買収価格を水増しする効果をもたらすものである。被告らが原告に対して本件和解債権処理を告げた場合には,原告は,上記基本覚書等に基づき,アルコの株式の買収価格につき,本件和解債権処理による水増し分の減額を求めることが当然であると考えられ,また,被告らも,本件和解債権処理を本件表明保証から除外するように求めることが当然であると考えられるが,原告及び被告ら共に,そのような行動に出ていない。これは,被告らが原告に対し,本件和解債権処理の事実を秘匿したことを裏付けるものというべきである。 また,被告らは,第1次デューディリジェンスにおいて,原告に対して交付した生データ及び営業実績推移等の資料を見ていないわけがないから,本件和解債権処理を認識していたはずであると主張し,Bの陳述書(乙11)及び証言にこれに沿う部分があるが,前記1で認定していたとおり,アーンストアンドヤングは,営業貸付金の評価については,修正純資産法を採用し,一般的な手法である一部DCF法及び営業権(のれん)の考え方を採用して,将来金利収入及び将来元本返済の合理的な見積額(将来キャッシュフロー)を算定し,その現在価値を求めることとしており,和解債権については,和解内容のとおりに返済がなされているか否かの確認も行わず,上記生データについても,和解債権については,一般的なフォームを知るために数通の合 意書を提出させるにとどめ,サンプリングで抽出された35件全部について照合を行うことはしなかったのであり,その報告書においても,本件和解債権処理についての記載がないことに照らして,被告らの上記主張に沿う部分は採用することができない。 かえって,証拠(甲12,甲15,甲18,甲19,証人C,同I)によれば,本件株式譲渡契約締結後,原告の営業企画部長であったIが原告の子会社となったアルコの代表取締役に就任したこと,Iは,平成15年12月19日にアルコに初めて出社してから,JとGから説明を受けるなどして業務ルールの理解と業績の把握に努めたこと,Iは,かねてから消費者金融業者の行う訪問回収(顧客宅を訪問して債権回収を行うこと)につき費用と効果の面から疑問を抱いていたところ,アルコにおいて行われていた訪問回収の件数が予想よりも多かったため,その効果を知るために,50~60名分の顧客台帳の入金履歴を検討したところ,和解債権についてそれまで元本の弁済に充当されていたものが突然利息の弁済への充当に変更されているものを発 見し,Gに質問したこと,Gは,Iに対し,本件和解債権処理について説明をし,営業利益アップ策(甲7),本件通達等を見せたこと,Iは,平成15年度の和解債権の利息計上額を確認したところ,2億円以上もの入金があることを知ったため,Kに連絡して,翌営業日である同月29日からの入金については元本の弁済に充当するように決めたこと,その後,Iは,原告代表者,原告のL,原告のMに,本件和解債権処理により当期だけで約2億円が利息に入金されていることを知らせる電子メール(甲15)を送信し,Gらに指示して,和解残高と帳簿とを照らし合わせることにより過去に本件和解債権処理によって利息の弁済に充当された入金額を調査したこと,Iは,平成16年1月9日,原告の会議に出席し,本件和解債権処理による2億数千万 円の架空の利益計上の事実について報告したこと,アルコ営業企画部システム課のNが同月29日基幹データベースにより調査した結果,本件和解債権処理による不正な利益計上額は2億7538万5023円であることが判明したことの各事実が認められ,これによれば,原告は,平成15年12月19日にIが本件和解債権処理を発見するまで,本件和解債権処理を知らなかったというべきである。 (2)以上によれば,被告らは,原告に対し,本件株式譲渡契約締結前に,本件和解債権処理を開示していないのであるから,本件株式譲渡契約8条20項に違反しているというべきであり(なお,上記生データ等の交付をもって本件和解債権処理を開示したということはできないことは上記の説示に照らして明らかというべきである。),原告が,本件株式譲渡契約締結時において,本件表明保証を行った事項に関して違反があることについて悪意であったということはできない。 4 争点3について 本件において,原告が,本件株式譲渡契約締結時において,わずかの注意を払いさえすれば,本件和解債権処理を発見し,被告らが本件表明保証を行った事項に関して違反していることを知り得たにもかかわらず,漫然これに気付かないままに本件株式譲渡契約を締結した場合,すなわち,原告が被告らが本件表明保証を行った事項に関して違反していることについて善意であることが原告の重大な過失に基づくと認められる場合には,公平の見地に照らし,悪意の場合と同視し,被告らは本件表明保証責任を免れると解する余地があるというべきである。 しかし,企業買収におけるデューディリジェンスは,買主の権利であって義務ではなく,主としてその買収交渉における価格決定のために,限られた期間で売主の提供する資料に基づき,資産の実在性とその評価,負債の網羅性(簿外負債の発見)という限られた範囲で行われるものである。前記のとおり,アーンストアンドヤングは,本件のデューディリジェンスにおける営業貸付金の評価については,修正純資産法を採用し,一般的な手法である一部DCF法及び営業権(のれん)の考え方を採用して,将来金利収入及び将来元本返済の合理的な見積額(将来キャッシュフロー)を算定し,その現在価値を求めることとしており,和解債権については,和解内容のとおりに返済がなされているか否かの確認も行わず,上記生データについても,和解債権に ついては,一般的なフォームを知るために数通の合意書を提出させるにとどめ,サンプリングで抽出された35件全部について照合を行うことはしなかったのであるが,このことについては特段の問題はない。また,アルコが監査法人による監査を受けていたことからすると,アーンストアンドヤングがアルコの作成した財務諸表等が会計原則に従って処理がされていることを前提としてデューディリジェンスを行ったことは通常の処理であって,このこと自体は特段非難されるべきでない。アーンストアンドヤングは,アルコの監査法人の変更の理由についても,ビーエー東京及びBに対して確認しており,トーマツに確認しなくてもそれが重大な落ち度であるということはできない。本件においては,取り分け,前記のとおり,アルコ及び被告らが原告に対 して本件和解債権処理を故意に秘匿したことが重視されなければならない。以上の点に照らすと,原告が,わずかの注意を払いさえすれば,本件和解債権処理を発見し,被告らが本件表明保証を行った事項に関して違反していることを知り得たということはできないことは明らかであり,原告が被告らが本件表明保証を行った事項に関して違反していることについて善意であることが原告の重大な過失に基づくと認めることはできない。 なお,被告らは,通常企業の買収のためのデューディリジェンスにおいては買主の選択する会計処理及び評価の方法により財務諸表を作成するとか,和解債権の会計処理について元本及び利息のいずれの弁済に充当されているかは重要であるので十分に調査するなどと記載された公認会計士の意見書(乙14)や和解債権の取扱いについて生データ等をチェックするのが通常であり,それをすれば和解債権処理の実態については分かるはずであると記載された弁護士の意見書(乙15)を提出するが,いずれも一般論を述べるにすぎず,本件M&Aにおけるデューディリジェンスの手法,実態と必ずしも整合しない上,被告ら及びアルコにおいて本件和解債権処理を秘匿していた事実を考慮していないものであるから,これらの意見書は上記結論を左右しない。 5 争点4について 前記のとおり,本件株式譲渡契約において,アルコの株式の譲渡価格は,平成15年10月31日時点の貸借対照表に基づくアルコの財務状況により算出された1株当たり1165円とすることが明記されており,アルコの簿価純資産額を基準としたものであるところ,同日時点における簿価純資産額は,本件和解債権処理によって,本来減少すべき元本が貸借対照表上不当に資産計上されており,上記3で認定したとおり,その額は2億7538万5023円であるから,株式の譲渡価格は,2億7538万5023円だけ不正に水増しされたものというべきである。したがって,被告らは,本件表明保証責任に基づき,原告に対し同額を補償する義務を負う。この点についての被告らの主張は採用することができない。証拠(甲39,証人I)によれば, 原告が本件和解債権処理に気付いた後,これをあるべき処理に戻すためのシステムの修正を外部会社に委託し,その費用として168万円を支出したことが認められる。 また,原告は,本件訴訟を追行するために,Dやアーンストアンドヤングの担当者に意見書や陳述書の作成及び証言を依頼し,平成17年7月31日までの費用として122万8500円(消費税相当額込み)を請求されていることが認められ,これは,本件表明保証した事項に違反したことに関連して発生した合理的な範囲内の費用ということができるから,本件表明保証責任に基づき,被告らが負担すべきものというべきである。同様に,原告が被告らの本件表明保証責任を追及するための合理的な範囲内の弁護士費用も被告らが負担すべきものというべきであるが,本件訴訟を追行するために合理的な弁護士費用は,2700万円と認めるのが相当である。 よって,被告らは,原告に対し,本件表明保証責任に基づき,連帯して,これらの合計である3億0529万3523円及びこれに対する請求の日であることが明らかな本件訴状送達の日の翌日である平成16年4月22日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金を支払うべき義務を負う(原告は,本件株式譲渡契約締結の日の翌日を遅延損害金の起算点として主張しているが,上記主張は理由がないというべきである。)。 6 結論 以上の次第で,原告の請求は,被告らに対し,連帯して3億0529万3523円及びこれに対する平成16年4月22日から支払済みまで年6分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第37部 裁判長裁判官 中 村 也寸志 裁判官 北 澤 純 一 裁判官 久 次 良奈子
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東京地方全域情報途絶について 先ず政府声明が遅れたことを心よりお詫びいたします。 82409002におこりました東京地方全域情報途絶について、皆様にご連絡いたします。 情報途絶は「夢の剣」とよばれる次元の狭間に存在していたと呼ばれるものです。 「夢の剣」と言うのは、EV136で孤児となった子供たちの間で確認されたナイトメアと呼ばれるほど協力な悪夢を退治するために使用されたアイテムです。 しかし、夢の剣は使用すると周りの物を破壊してしまうと言うもろばのつるぎだったのです。 この夢の剣が次元を越え現れ鍋の国の矢上・M・総一郎氏。土場藩国藩王、弓下嵐氏。同、弓下アリアン氏、が「夢の剣」の封印にあたりその時の余波が今回の情報途絶の原因であります。 大統領府からもこのような声明がだされております。 http //www19.atwiki.jp/orionresident/pages/36.html 今回の途絶で国民の皆様には多大なるご心配やご迷惑をおかいたけしました。本当に申し訳ありません。 現在封印に成功し、問題は収束しています。国民の皆様はどうかご安心してお過ごしください。 藩国では現在森の問題を解決すべく、全力であたっております、これからもゴロネコ藩国をよろしくお願いいたします。 作成 武田”大納言”義久 承認 摂政 YOT
https://w.atwiki.jp/hanrei/pages/412.html
気管カニューレを装着した患者について,医師らに,痰による気道閉塞及び呼吸困難を防止すべき注意義務を怠った過失を認めた事例 平成18年3月6日判決言渡 平成15年(ワ)第17379号 損害賠償請求事件 判 決 主 文 1 被告は,原告Aに対し,5774万3296円及びこれに対する平成14年3月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告B及び原告Cに対し,それぞれ440万円及びこれに対する平成14年3月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用はこれを2分し,その1を原告らの,その余を被告の負担とする。 5 この判決は,1項及び2項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,原告Aに対し,1億2019万5395円及びこれに対する平成14年3月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告B及び原告Cに対し,それぞれ550万円及びこれに対する平成14年3月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は,原告A(昭和19年○月○日生。)が被告の経営する亀有中央病院(以下「被告病院」という。)において入院加療中,同人に装着した気管カニューレ(気管切開術後,開窓された部位から気管内に挿入されるパイプ状の医療器具)が痰によって閉塞したことにより窒息して低酸素脳症に陥り,その結果,植物状態になった(以下「本件事故」という。)などとして,原告A,同人の子である原告B及び原告Cが,被告に対して,原告Aは診療契約上の債務不履行又は不法行為に基づき,原告B及び原告Cは不法行為に基づき,それぞれ損害賠償及びこれに対する本件事故の発生した日である平成14年3月6日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提となる事実(証拠等の摘示のない事実は,当事者間に争いがない。) (1) 当事者 ア 原告Aは,現在,低酸素脳症による遷延性意識障害が後遺症として残っており,事理弁識能力を欠く常況にあるとして,平成15年4月2日,東京家庭裁判所の審判により後見が開始した(甲B1)。 イ 原告B及び原告Cは,原告Aの子である。原告Bは,上記後見開始申立事件において,同日,成年後見人に選任された(甲B1ないし3)。 ウ 被告は,被告病院を経営する医療法人である。 (2) 診療経過の概要 ア 大学病院における診療経過 原告Aは,平成元年ころ,くも膜下出血を発症し,クリッピング手術を受けた。また,平成12年12月ころ,交通事故による外傷性脳内出血と骨盤骨折のため,大学病院に入院したことがあった。(乙A6) 原告Aは,平成14年2月11日(以下,平成14年については月日のみを記載する。),自宅のトイレで倒れたため,救急車で大学病院に運ばれ,そのまま入院した。入院時の原告Aの症状は,意識障害と右片麻痺であり,同院医師は,左視床出血及び脳室内穿破と診断し,血圧コントロールによる保存的治療を開始した。(甲A1,乙A6) 原告Aは,大学病院に入院中,嘔吐や痰が多く,呼吸状態の悪化等が心配されたことなどから,気管内挿管による呼吸管理が行われた。さらに,同月19日,肺炎及び誤等の予防のため,気管切開術を受けた。なお,細菌培養検査の結果,原告Aの痰からMRSAが検出された。(乙A6) その後,原告Aは,左視床出血及び肺炎等の症状が安定してきたため(乙A6),3月1日午前10時30分ころ,被告病院に転院した。 イ 被告病院における診療経過 原告Aの被告病院における診療経過は,別紙診療経過一覧表記載のとおりである。 原告Aの現在の遷延性意識障害は,3月6日,同人の気管カニューレに痰が詰まって気道が閉塞され,低酸素脳症となったことによる。 なお,別紙診療経過一覧表記載のとおり3月5日原告Aに発熱があったこと,血液の細菌培養検査においてグラム陰性桿菌が検出されたこと(この結果は,原告Aが大学病院に転院後の3月8日ころ判明した。)及び同月6日に行われた血液検査においてCRP値20.11,白血球数22000であったことに照らすと,原告Aは,3月5日ころには敗血症に罹患していたものと判断される。 ウ 現在の診療及び看護の状況 原告Aは,被告病院からの転院先であった大学病院を退院して,現在,D病院に入院して看護を受けている。 2 争点 本件の争点は,次の3点である。 (1) 呼吸管理に関する過失の有無(争点1) (2) 救命救急処置に関する過失の有無(争点2) (3) 損害額(争点3) 3 争点に関する当事者の主張 (1) 争点1(呼吸管理に関する過失の有無)について (原告らの主張) 以下の点にかんがみれば,被告病院の医師らは,原告Aに対し,その呼吸状態を綿密に観察するとともに,頻回な痰の吸引,気管カニューレの交換及びネブライザーによる噴霧処置を行い,これらの処置によっても痰の排出ができない場合には,気管支鏡を用いた吸引処置又は気管内洗浄による痰の排出を行い,痰による気道閉塞及び呼吸困難を防止する注意義務があったにもかかわらず,これを怠った点において,過失がある。 ア 気管内切開をした患者の痰の喀出能力 原告Aは,痰の量が多く,自力で痰を喀出することが困難であり,それがゆえに気管切開をした患者である。しかも,気管切開をした患者は,胸腔内圧を高められないため,勢いの強い痰の喀出運動ができない。したがって,原告Aの痰の排出は,医師や看護師にゆだねられていた。 イ 大学病院からの申し送り 原告Aが被告病院へ転院する際,大学病院から被告病院に対し,申し送り事項として,原告Aは,MRSA肺炎に罹患しており,最低1時間に1度は口腔,側管,気道からの吸引を行うべき旨の注意喚起がされていた。 ウ 被告病院における原告Aの状態 被告病院入院時の原告Aの以下の状態に照らせば,被告病院の医師らは,原告Aに対して厳格な呼吸管理をすべきであった。すなわち,① 原告Aは,右片麻痺があり自力で体位の変換ができず,左腕もベッドに拘束されていた。② 痰の量が多く,しかも,その性状は粘稠で,硬く,血性であった。③ 3月4日から発熱し,同月5日には体温が39度3分に達していた上,同月6日のCRP値及び白血球数は異常なほど高値であり,かつ,意識混濁状態にあったことに照らせば,原告Aは,当時,重篤な敗血症に陥っていた。④ 原告Aは,被告病院入院時からMRSA肺炎に罹患していたが,同月5日から6日にかけてこれが悪化し,痰は粘稠で吹き出すほどの量であり,気管カニューレも詰まり気味であった。⑤ その動脈血酸素飽和度(SpO2)は,同月4日には98%であったものが,翌5日には92%と低下しており,呼吸不全に近い状態であった。 エ 被告の主張に対する反論 本件気管カニューレ閉塞の原因が径1.0cm前後の肉芽組織に似た凝血塊によるという被告の主張には,何ら根拠はない。 仮に,その凝血塊が痰吸引用カテーテルの内径を超えるほど大きなものであったとしても,そのような痰の塊が気管内に生じていたならば,シューシューという高調性の気管支呼吸音が聴取されるとともに,ぜい鳴音及び呼気性の呼吸困難や異物感から咳がみられていたはずであるから,被告病院の医師及び看護師は,これに容易に気づくことができたはずである。 また,被告主張の凝血塊に対しては,カニューレの交換,表面活性剤や粘液溶解剤等の噴霧,気管支鏡の使用及び生理食塩水による気管内洗浄等の処置を行うことにより,その詰まりを避けることができた。 (被告の主張) ア 被告病院における呼吸管理の十分性 被告病院の医師らは,頻回に原告Aの病室を訪問し,吸引を実施するとともに,聴診器による呼吸状態の聴取,胸郭の動きの程度の観察及び気管カニューレの交換を行っていた。 また,被告病院の医師らは,痰の排出を容易にするため,1日4回の頻度で定期的にネブライザーによる噴霧処置も実施した。この点について,看護記録に記載はないが,本件のように頻回に吸引を実施するような場合には,看護師らが実施したすべての処置を看護記録に記載するわけではない。 したがって,被告病院の医師らは,原告Aに対し,呼吸管理の処置を十分に行っていた。 イ 閉塞の原因となった痰の特殊性 本件において,原告Aの気道閉塞の原因となったのは,「径1.0cm前後の肉芽組織に似た凝血塊」のような大きな痰の塊であった。そして,この塊は,気管カニューレの交換又は痰の吸引処置の際にわずかに損傷された気管内壁から滲出した血液と気管内の分泌液が絡まって一体となり,時間の経過に伴って固まることにより有形化して形成されたものと考えられる。上記痰の塊が,このような特異な経緯で気管内に形成されるというようなことは,通常予想することはできない。 また,上記痰の塊は,痰吸引用カテーテルの内径(約3mm)を優に超える大きさであり,また,相当の硬さであったから,ネブライザーによる噴霧処置によって痰を柔らかくする効果は期待できないし,上記カテーテルを挿入して吸引処置を頻回に実施しても,これを排出することは不可能である。 ウ 原告ら主張に係る気管支鏡及び気管内洗浄の措置について 気管支鏡を用いた吸引処置は,胸部X線検査で無気肺と診断されるような場合において,気管支を閉塞する可能性のある癌や喀痰等を検索する際に,訓練を受けた医師のみがなし得るものである。本件において,原告Aに無気肺の診断はされていなかったのであるから,気管支鏡を用いた吸引処置を行うべきであるとはいえない。 また,気管内洗浄の処置は,その手技に通暁した医師により,手際よく実施することが要請されるものであって,そのような医師が在勤していない病院においては実施困難である。被告病院のようなレベルの病院において通常行われるべき処置とはいえない。 (2) 争点2(救命救急処置に関する過失の有無)について (原告らの主張) 原告Aは,上記のとおり右片麻痺があり自力で体位の変換ができず,左腕もベッドに拘束されていたことから,自らナースコールをすることもできなかった。また,自力で痰を喀出できず,その呼吸状態及び全身状態が極めて悪かったのである。したがって,被告病院の医師らは,原告Aの状態を常時慎重に観察し,呼吸停止等が生じた場合は直ちに救命処置を行う注意義務があったにもかかわらず,これを怠った。 (被告の主張) 原告Aの急変を発見した経緯は以下のとおりであり,このような事実からすれば,被告病院の看護師及び医師らは,心拍モニターのアラームが鳴った後,原告Aに対し,直ちに救急蘇生術を開始したことは明らかであるから,被告病院の医師らに救命救急処置に関する注意義務違反はない。 ア 3月6日午前11時30分ころ,原告Aに装着した心拍モニターのアラームが鳴ったため,看護師がすぐに原告Aの病室を訪問したところ,原告Aは,呼吸が停止しているような状態で,チアノーゼを呈していた。そこで,同看護師は,同じフロアで回診していた医師のもとに急行し,原告Aの状態を報告した。 イ 同医師は,ナースステーションの心拍モニターで心拍数が20台に低下しているのを確認した上,原告Aの病室に行き,同人を診察し,呼吸停止であると判断した。そこで,看護師に対し,心拍モニターを病室に移動するように指示するとともに,アンビューバッグを気管カニューレに装着して強制呼吸を開始した。 ところが,アンビューバッグで空気を送ることはできたが,空気が戻ってこないことなどから,同医師は,原告Aの気道が痰で詰まったものと判断し,吸引カテーテルを挿入して看護師に吸引を行わせたところ,この吸引により中等量の粘稠性の痰が排出された。さらに,医師による心マッサージの実施中に,気管カニューレの体外部の口から「肉芽組織に似た凝血塊のような痰」が噴出した。 ウ 上記痰が排出されてからは換気も良好となり,人工呼吸器を装着して呼吸管理を行った。 (3) 争点3(損害)について (原告らの主張) ア 治療関係費 (ア) 平成15年4月30日までの治療関係費 133万0266円 原告Aは,本件事故の日である3月6日から平成15年4月30日までの間に治療関係費として289万5873円を支出した。他方,区から高額療養費として152万8567円の支給を受けた。また,平成14年8月分の治療関係費についても,身体障害者程度等級1級の認定を受けたことにより,3万7040円の還付を受けた。 したがって,原告Aが出捐した同期間の治療関係費は,合計133万0266円である。 (イ) 平成15年5月から平均余命までの間の治療関係費 1669万3020円 平成15年5月から平均余命までの間の治療関係費の現価は,上記の治療関係費を基礎にして算定すると,以下のとおり,1か月当たり平均9万5000円となるので,平均余命までの27年間(ライプニッツ係数14.6430)で合計1669万3020円となる。 133万0266円÷14か月=9万5019円 9万5019円×12か月×14.6430=1669万3020円 イ 入院雑費 (ア) 平成15年5月31日までの間の入院雑費 67万8000円 原告Aは,本件事故発生日である3月6日から平成15年5月31日までの間,1日当たり1500円,合計67万8000円の入院雑費を負担した。 (イ) 平成15年6月1日から平均余命までの間の入院雑費 801万7042円 上記期間の入院雑費の現価は,1日当たり1500円として算定すると,以下のとおり,平成15年6月1日から平均余命までの27年間(ライプニッツ係数14.6430)で合計801万7042円となる。 1500円×365日×14.6430=801万7042円 ウ 逸失利益 5247万7067円 (ア) 原告Aは,現在,低酸素脳症による遷延性意識障害となっており,いわゆる植物状態となっている。よって,同人に生じた後遺症は,後遺障害等級1級に該当し,その労働能力喪失率は100%である。 (イ) 原告Aは専業主婦であったが,平成13年賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計・女性労働者の全年齢平均の賃金額によれば,その年収額は,352万2400円となる。 これをもとに,原告Aの本件事故日における平均余命である28年分(ライプニッツ係数14.8981)の逸失利益の現価を算定すると,以下のとおり,5247万7067円となる。 352万2400円×14.8981=5247万7067円 エ 原告Aの慰謝料 3000万円 原告Aは,被告によるずさんな呼吸管理により,苦しみながら窒息し,その後,いわゆる植物状態となってしまったのであるから,その精神的苦痛に対する慰謝料は,3000万円を下らない。 オ 近親者慰謝料 各500万円 原告B及び原告Cは,原告Aの生命が害された場合にも比肩すべき精神的苦痛を受けたが,その精神的苦痛に対する慰謝料は,それぞれ500万円を下らない。 カ 弁護士費用 合計1200万円 原告Aについて1100万円,原告B及び原告Cについて各50万円が相当である。 (被告の主張) 原告らが主張する損害については,いずれも争う。 本件の損害の算定に当たっては,以下のとおり,原告Aの従前の脳内出血による障害を考慮する必要がある。 ア 原告Aの脳内出血による障害 原告Aは,平成元年にくも膜下出血を起こし,クリッピング術を受けている上,平成12年12月に交通事故で外傷性脳出血の傷害を受け,本件当時もリハビリのためE病院に通院中であった。したがって,原告Aには,本件以前から身体の機能障害があり,日常生活において種々の制約があった。 また,原告Aは,2月11日の大学病院入院時,既に視床出血及び脳室内穿破であった。そして,同人のMRI検査画像によれば,その出血量は相当なものであり,搬送時の意識レベル及びその後の意識レベルの低下の状況からすれば,上記脳内出血は重症であった。大学病院における治療中に施行されたMMT(徒手筋力テスト)の結果は,同月14日に「0」であり,同月21日においても「1~2/5」までしか改善していなかった。 このような点にかんがみれば,原告Aの従前の脳内出血による後遺障害は,後遺障害等級3級程度の障害に該当し,医療施設に収容入院して介助を受ける必要があった。また,仮にそうでないとしても,その後遺障害は,少なくとも5級程度の障害に該当し,自力で日常生活を送ることはできず,相当の介助を要する状態であったといえる。 したがって,原告Aの損害の算定に当たっては,以下のとおり,この点を減額要因として評価すべきである。 イ 逸失利益 (ア) 発生の有無 一般に家事労働者の逸失利益は,事故の被害者が家庭内で家事労働を担当している状況を前提として認められるものであるところ,原告Aは,上記アのとおり,そもそも相当の介助を要する状態であったのであるから,家庭内で家事労働を担当していたとは考えられない。 したがって,原告Aに家事労働者としての逸失利益の損害は発生しないというべきである。 (イ) 生活費控除 仮に逸失利益が認められるとしても,原告Aは,遷延性意識障害を有しており,医療施設への収容入院が不可欠であるから,その生活に必要な費用は,医療施設への収容入院に伴う医療費用とその他の関連諸費用に限られ,通常の後遺障害の場合に必要とされる稼働能力の再生産に必要な生活費の支出を免れることになる。 そこで,医療施設への収容入院に伴う医療費用とその他の関連諸費用を損害として認めるときには,その逸失利益を算定するに当たって,相当割合の生活費を控除すべきであり,本件においては,30%を控除すべきである。 そうすると,以下の計算式に従い,原告Aの後遺障害割合を79%(5級程度とした場合),生活費割合を30%として逸失利益を算定すると,結局原告Aに逸失利益は発生しないことになる。 通常年収×{1-(後遺障害割合+生活費割合)}×ライプニッツ係数 ウ 慰謝料 原告Aの脳内出血による後遺障害は,上記アのとおりと判断されるので,後遺障害慰謝料は,後遺障害等級1級の慰謝料相当額から,後遺障害等級3級ないし5級の慰謝料相当額を差し引いた金額とされるべきである。具体的には,後遺障害等級3級とした場合は810万円,5級とした場合は1400万円が相当である。 また,仮に脳出血による後遺障害と遷延性意識障害による後遺障害との質の違いを考慮し,上記のとおり単純に慰謝料額を差し引くべきでないとしても,原告Aの素因として脳内出血による高度の後遺障害が残ったことは明らかであるから,その後遺障害慰謝料は,1800万円程度にとどまるというべきである。 エ 入院を余儀なくされたことによる費用 (ア) 被告病院における医療費用 被告病院における医療費用は,原告Aに施行した医療行為の正当な対価であり,損害と判断されるべきではない。 (イ) D病院の医療費用 D病院の医療費用は,急性期を経て身体状態が安定してからの栄養点滴及び輸液等の医療費並びに遷延性意識障害の後遺障害のため医療施設に収容入院することに伴う諸費用であり,これを損害として認めるのであれば,上記イ(イ)のとおり,原告Aの逸失利益の算定に当たって相当割合の生活費を控除すべきである。 (ウ) 医療用品販売会社の費用 医療用品販売会社(オムツ,タオル,病衣等のリースを行う株式会社)の費用は,遷延性意識障害の後遺障害のため医療施設に収容入院することに伴う諸費用であり,これを損害として認めるのであれば,上記イ(イ)のとおり,原告Aの逸失利益の算定に当たって相当割合の生活費を控除すべきである。 (エ) 将来の医療費 将来の医療費を損害とするのであれば,原告Aの急性期の身体状態における医療費を基礎として算定するべきではなく,口頭弁論終結当時の身体状態において必要な医療費を基礎として算定すべきである。 第3 争点に対する判断 1 前記前提となる事実(第2の1)及び証拠(甲A1ないし4,甲B5,6,10ないし12,17,乙A1,2,6,8)によれば,次の事実を認めることができる。 (1) 大学病院における診療経過 前記前提となる事実アのとおり。 (2) 大学病院における原告Aの症状 原告Aは,2月11日に大学病院に入院して以降,嘔吐が頻回で誤の危険が強かったことなどから,気管内挿管による呼吸管理がされた。その後,肺炎及び誤等の予防のため,同月19日,気管切開術が行われた。この気管切開により,原告Aは,胸腔内圧を高められず,勢いの強い痰の喀出運動ができない状態となった。 また,原告Aは,大学病院に入院中,よく痰がからんでおり,その喀痰の細菌培養検査において,痰からMRSAが検出されていた。 このようなことから,大学病院の医師らは,転院先である被告病院に対し,診療情報提供書において,2月20日ころから原告Aに発熱及び喀痰の増加が認められたこと並びに喀痰の細菌培養検査においてMRSAが検出されたことを記載するとともに,NURSING SUMMARYにも,「問題点」として「呼吸状態悪化の可能性」を指摘し,「解決法」として「最低1時間に1度は口腔,側管,気道からの吸引を行う。」旨記載した。 (3) 被告病院における原告Aの症状及び呼吸管理の状況 被告病院は,3月1日,大学病院から原告Aをリハビリテーション,呼吸管理を含むフォロー・アップの目的で受け入れた。その過程で,大学病院から上記診療情報提供書及びNURSING SUMMARYの交付を受けた。 被告病院における原告Aの症状及び呼吸管理の状況は,別紙診療経過一覧表記載のとおりであった。 ところで,被告病院の医師らは,原告Aに対して3月1日に実施した喀痰の細菌培養検査の結果,原告Aの痰からMRSAが検出された旨の報告書を同月5日に受領したことから,MRSA感染の可能性があると判断して,同日,同人の血液の細菌培養検査を実施するとともに,その結果が判明するまでの間の処置として,MRSAに対して効果があるバンコマイシンを投与することにした。 (4) 原告Aの急変後の処置 ア 3月6日午前11時30分ころ,原告Aに装着した心拍モニター(設置場所はナースステーション)のアラームが鳴ったため,F看護師がその画面を見ると,心拍波形が長く伸びて正常な形ではなく,心拍数も28と低下していた。そこで,F看護師は,直ちに病室に赴いたところ,原告Aの呼吸が停止しているようで,顔色不良(チアノーゼ)であったため,同じ3階の病棟で回診していたG医師に対し,その旨を報告した。 イ G医師は,直ちにナースステーションの心拍モニターで心拍数を確認した上,原告Aの病室に赴き,同人を診察したところ,血圧は測定不能で,自発呼吸は見られなかった。そこで,G医師は,看護師に対し,心拍モニターを病室に移動するように指示するとともに,気管カニューレに接続されていた酸素供給用チューブを外してアンビューバッグを接続し,強制呼吸を開始した。また,G医師は,その途中でアンビューバッグによる強制呼吸を看護師に行わせ,自ら心マッサージを行うなどした。 ウ ところが,アンビューバッグで空気を送ることはできたが,空気が戻ってこない(呼気がない)ため,次第に原告Aの胸部が膨満状態となり,また,アンビューバッグを押す手に抵抗が感じられるようになったことから,G医師は,気道が痰で詰まったものと判断し,アンビューバッグを外し,吸引カテーテルを挿入して看護師に吸引を行わせた。この吸引処置により,原告Aから中等量の粘稠性の痰が排出されたが,その呼気は戻らないままだった。このような状況の下で,G医師が原告Aの心マッサージを行っていたところ,気管カニューレの体外部の口から最長径0.5ないし1cmの痰の塊が噴出した。 エ 上記痰の塊が排出されてからは,原告Aの換気が良好となり,約5分後には血圧が触れるようになり,心拍数も増加したため,人工呼吸器を装着しての呼吸管理が行われた。また,同人に対し,ボスミン及びアトロピンが投与された。その結果,原告Aは,午前11時39分ころまでには,心拍数120台,血圧167/74に回復した。 (5) 原告Aの治療の経過等については,以上のとおり認められる。 ところで,原告らは,ア 3月6日午前10時30分に痰の吸引をした旨の看護記録の記載は,記録者のサインがないことなどから信用できず,そのような事実はない旨主張する。しかしながら,記録者において,そのサインを失念することも考えられる上,記載の体裁についても,それまでの記載と大きく異なるところはないと認められるから,上記原告らの主張は,採用することができない。 また,原告らは,イ 原告Aが被告病院入院当初からMRSAに感染していた旨主張する。しかしながら,MRSAが検出されたのは,原告Aの痰からのみであり,3月1日に実施された導尿の細菌培養検査及び同月5日に実施された血液の細菌培養検査からは検出されていない。また,大学病院においても,原告Aの痰からMRSAが検出されたというのみにとどまり,その感染について確定的な診断はされていない。したがって,原告Aが被告病院に入院した当初からMRSAに感染していたとまでは認めることができない。 さらに,原告らは,ウ 原告Aの診療録及び看護記録にネブライザーによる噴霧処置を行ったという記載がないことから,同処置は行われていない旨主張する。しかしながら,診療録中の「注射・検査・処置・指示票」の「処置」欄には,ネブライザーによる噴霧を1日4回施行すべき趣旨の記載(ネブ×4)がされており,また,被告病院の診療報酬明細書(乙A2)にも,ネブライザーによる噴霧処置が1日4回行われた旨の記載があることからすれば,上記指示票の記載に従ったネブライザーによる噴霧処置が行われていたものと認められる。 他方,被告は,本件のように頻回に吸引を行う場合には,そのすべての処置が看護記録等に記載されるわけではないから,原告Aに対して看護記録に記載されている以上に吸引が施行されていた旨主張し,F看護師もその陳述書(乙A9)中において,その旨記載している。しかしながら,本件において,吸引が施行された日時を具体的に示した証拠は,診療録及び看護記録のほかに存しない。そうであるとすると,同記載の限度を超えて,吸引がされた回数及び時刻を明確にすることはできないといわざるを得ない。 2 上記認定事実及び前提となる事実(第2の1)に基づいて,過失の有無について検討する。 (1) 争点1(呼吸管理に関する過失の有無)について ア 上記認定事実によれば,次のことが明らかである。すなわち,被告病院の医師らは,大学病院からの診療情報提供書等を通じて原告Aの症状を認識し,大学病院からの申し送り事項として,その呼吸状態の悪化の可能性につき注意喚起を受けていた(上記1(2))。また,原告Aの喀痰からMRSAが検出され,同人がMRSAに感染していた可能性があり,現に,被告病院の医師らも,MRSA感染の可能性があると判断し,バンコマイシンを投与していた(上記1(3))。さらに,原告Aは,3月5日ころには敗血症に罹患しており,そのことを示す発熱及び血液検査所見が出ていた(前記前提となる事実(2)イ及び上記1(3))。また,原告Aの痰は,粘稠で硬く,ときに痰が吹き出したりしており,時折血や血塊が混じっていることもあり,同人の気管カニューレが詰まり気味になることも少なからずあった(上記1(3),特に別紙診療経過一覧表)。 そして,本件事故の前日の3月5日午前6時には,動脈血酸素飽和度が92%に低下して,呼吸不全に近い状態にあり,気管カニューレが詰まり気味であることも疑われていた(上記1(3),特に別紙診療経過一覧表)。 イ 上記アの事実のほか,上記のとおり,原告Aの痰は,粘稠性で,時折血が混じっていたことからすると,通常の痰とは異なる凝血塊のようなものが生じる可能性も十分考えられたことなどにも徴すると,被告病院の医師らは,本件事故当時,少なくとも,原告Aの呼吸状態を綿密に観察するとともに,頻回に,痰の吸引,気管カニューレの交換を行い,痰による気道閉塞及び呼吸困難を防止すべき注意義務を負っていたものというべきである。 しかるに,上記1(4)認定のとおり,原告Aは,3月6日午前11時30分ころ,血圧が測定不能で,自発呼吸が見られない状況で発見された。そして,その後の救命救急措置の過程で,同人に装着されていた気管カニューレの体外部の口から痰の塊が噴出し,その後は原告Aの換気が良好になり,約5分後には,血圧が触れるようになり,心拍数も増加したというのであるから,被告病院の医師らには,特段の事情のない限り,上記注意義務を怠った過失があるといわざるを得ない。 ウ そこで,上記特段の事情の有無について検討すると,被告は,(ア) 本件において,原告Aの気道が閉塞した原因となった痰の塊は,「径1.0cm前後の肉芽組織に似た凝血塊」のような大きな痰の塊であるが,そのような痰の塊が気管内で形成されるようなことは,通常予想することはできない旨主張する。 しかしながら,上記認定のとおり,原告Aの痰には時折血が混じっており,しかも,その痰は粘稠性で硬いものであったことからすれば,そのような凝血塊が形成されることも十分予見可能であったというべきである。 また,被告は,(イ) 上記痰の塊は,吸引カテーテルの内径(約3mm)を優に超える大きさであり,また,相当の硬さであったなどとして,痰吸引用カテーテルを挿入して行う吸引処置を頻回に実施しても,これを排出することは不可能である旨主張する。 しかしながら,被告は,上記痰の塊について,気管カニューレの交換又は痰の吸引処置の際にわずかに損傷された気管内壁から滲出した血液と気管内の分泌液が絡まって一体となり,時間の経過に伴って固まることにより形成されたものである旨主張している。そうであるとすると,痰が時間の経過に伴って固まる前に吸引処置を行えば,これを除去することは可能であるということになる。そして,上記イ認定の注意義務を尽くしていれば,そのことは可能であったものと判断されるので,被告の上記主張は採用できない。 そして,他に,上記特段の事情を基礎付けるに足りる事実を証する的確な証拠はない。 エ 以上によれば,被告病院の医師らには,上記イの注意義務に違反した過失があるというべきである。 そして,以上の認定,説示によれば,被告病院の医師らの過失と,原告Aに生じた後遺障害との間には因果関係があるものと認めることができる。 (2) 争点(2)(救命救急処置に関する過失の有無)について 上記1(4)認定事実によれば,F看護師は,心拍モニター上,原告Aの急変が疑われたことから,直ちに,その病室に赴いて原告Aの状態を確認の上,それをG医師に報告をしたこと,G医師及びF看護師らは,原告Aに対し,即座にアンビューバッグによる強制呼吸及び心マッサージを行い,痰による閉塞が疑われたため,吸引カテーテルによる吸引を行ってその除去に努めたこと及び心拍等の改善後は,人工呼吸器を装着して呼吸管理を行ったことが明らかである。 このような事実に徴すると,本件全証拠によっても,被告病院の医師らが原告Aに対して行った救命救急処置について不適切な点があったとまでは認めることができない。 したがって,争点2に関する原告らの主張は,採用できない。 3 そこで,本件事故により原告らが被った損害額(争点3)について検討する。 (1) 治療関係費 502万1296円 ア 既払分(平成16年10月31日まで) 証拠(甲C1ないし4,7及び8)によれば,原告Aは,平成14年3月1日から平成15年4月30日までの間に,被告病院,大学病院及びD病院に対し合計202万8803円(なお,被告病院に対しては12万6250円),同年5月1日から平成16年10月31日までの間に,D病院に対し合計43万4350円を支払ったことが認められる。 ところで,平成14年3月1日から同月6日までの被告病院における治療費のうち,上記2(1)アの被告の過失と相当因果関係のある損害は,本件事故以降に行われた治療に対する支払分のみに限られるというべきであるが,本件全証拠によっても,その具体的な支払額を認定することができない。 そうすると,上記2(1)認定の被告の過失と相当因果関係のある損害は,上記各支払済み額から被告病院における治療関係費12万6250円を除いた合計金額である233万6903円ということになる。 イ 将来分(平成16年11月1日以降) 原告Aの将来における治療関係費は,同人の遷延性意識障害の状態が固定したと考えられる時期において必要となることが見込まれる医療費を基礎とするのが相当である。 このような観点から検討すると,原告Aは,D病院に対し,平成15年5月1日から平成16年4月30日までの1年間に医療費として29万0830円を支払っている(甲C7の1ないし25)ので,これを基礎にして算定するのが相当である。 そして,平成16年11月1日当時,原告Aは60歳であり,その平均余命は27年余であるから,27年に対応するライプニッツ係数である14.6430により中間利息を控除して,平成16年11月1日以降の医療費の現価を算定すると,その額は次のとおり算出されるので,425万円をもって損害と認める(こうした方式による損害の算定においては,その性質に照らし,算出の結果得られた数値の1万円未満を切り捨てることとする。)。 29万0830円×14.6430=425万8623円 ウ 高額療養費等による控除 証拠(甲C6)によれば,原告Aは,区から高額療養費として152万8567円の支給を受けたことが認められる。また,原告Aが平成14年8月分の治療関係費について,身体障害者程度等級1級の認定を受けたことから,3万7040円の還付を受けたことについて,当事者間に争いがない。 よって,以上合計156万5607円については,上記治療関係費から控除するのが相当である。 エ 小計 上記アないしウによれば,治療関係費の損害額は合計502万1296円となる。 (2) 入院雑費 1252万2000円 ア 既払分(平成16年10月31日まで) 証拠(甲C5及び9)によれば,原告Aは,平成14年4月25日から平成16年10月31日までの間に,医療用品販売会社に対し,合計184万2000円を支払ったことが認められる。 イ 将来分(平成16年11月1日以降) 上記医療用品販売会社への支払額にかんがみれば,将来における入院雑費を算定するに当たっては,1日当たりオムツ代1400円,タオル他500円及び病衣100円の合計2000円を基礎とするのが相当である(甲C5及び9)。そこで,上記(1)イと同様,60歳女子の平均余命に対応するライプニッツ係数14.6430により中間利息を控除して平成16年11月1日以降の入院雑費の現価を算定すると,その額は次のとおり算出されるので,1068万円をもって損害と認める。 2000円×365×14.6430=1068万9390円 (3) 逸失利益 1500万円 ア 証拠(甲A5,甲B6及び乙A6)によれば,原告Aは,低酸素脳症による遷延性意識障害を残しており,いわゆる植物状態となっているが,今後も現在の状態から大きく改善することはないと認められるから,その障害は後遺障害等級1級に該当し,労働能力は100%喪失しているものと認められる。 イ ところで,原告Aは,前記前提となる事実(第2の1)のとおり,2月11日の大学病院入院時,既に視床出血及び脳室内穿破による障害を負っていたので,本件障害の算定に当たっては,この点についても考慮する必要がある。 (ア) 前記第2の1(2)アで認定した事実及び証拠(甲B14,17,19,乙A1,6,B11,12)によれば,原告Aが平成14年2月に大学病院に入院した当時の障害の状況について,以下の事実が認められる。 a 原告Aは,平成元年ころ,くも膜下出血を発症し,クリッピング手術を受けた。また,平成12年12月ころ,交通事故による外傷性脳内出血と骨盤骨折のため,大学病院に入院したことがあった。 さらに,原告Aは,2月11日,自宅のトイレで倒れたため,救急車で大学病院に運ばれ,そのまま入院した。入院時の原告Aの症状は,意識障害と右片麻痺であり,左視床出血及び脳室内穿破と診断され,血圧コントロールによる保存的治療が行われていた。 しかしながら,原告Aは,2月11日の左視床出血発症以前は,他人の手を借りることなく乗馬及びリフトの乗降等を行うなど,既往症であるくも膜下出血等の影響は少なく,むしろ一般の日常生活における一通りの判断力及び活動性は保たれていた。 b 2月11日の大学病院入院時,原告Aの意識レベルは,グラスゴー・コーマ・スケール(意識障害の評価分類。開眼機能E,言語機能V及び運動機能Mをそれぞれ評価するもので,合計点数が小さいほど重症である。)で「E3V1M4」(8点)であったが,同月21日には「E4VTM6」と回復し,3月1日の被告病院転院時においても「E4VTM6」であった。なお,「VT」とは,気管切開のために発語状態の評価が不可能であることを示すが,原告Aは,被告病院入院時に医師により「簡単な命令に従う」,「話して理解できる」旨判断されており,また,被告病院入院後,家族に対し,かすかな声で「ありがとう」,「さ○み,○ゆみ」等と述べており,簡単な会話が正確にできているので,言語機能についてはV5と評価することができる。また,原告Aには,脳内出血における予後不良因子とされる知覚及び認知障害も特段見られず,その意識レベルは着実に向上していた。 c また,右麻痺については,MMT(徒手筋力テスト)が2月14日には「0」であったが,同月21日ころには少なくとも「1~2/5」までに回復しており,一般に麻痺の回復が不良とされる完全麻痺が3週間以上にわたって持続する状況にはなかった。 d さらに,原告Aは、被告病院に転院されたときにはリハビリテーションが行える状況にあり,被告病院において,理学療法としてマッサージ程度以上のリハビリが施行された。 (イ) ところで,原告Aが2月11日に大学病院に入院した当時負っていた障害について,本件事故が発生しなかったと仮定してその予後を予測することは,発症後3週間余りの時点で本件事故に遭っているため,事柄の性質上困難を伴う面があるといわざるを得ない。しかしながら,上記(ア)認定事実に加え,乙B11及び12(本件を調停に付した手続において専門的な知識経験に基づく意見を聴取した過程で提出された民事調停委員作成の意見書)をも総合的に検討して,その予後を予測すると,長期的には,原告Aの日常生活動作は半介助ないし軽度介助という程度にまで改善することが期待できたものと判断される(それ以上に身辺の自立ができる可能性についても,補装具着用を要するとしても,完全には否定しきれない。)。そして,これを後遺障害等級に当てはめると,7級(この労働能力喪失率は56%とされている。)程度に該当するものと判断される。 この点について,被告は,原告Aの従前の脳内出血による後遺障害は重症であり,後遺障害等級3級又は5級に該当する旨主張し,乙B9及び乙B10の1中にはそれに沿う記載が存在する。しかしながら,上記認定のとおり原告Aの意識レベル及び右麻痺等は着実に改善していたこと,寝たきりの場合に発生する易感染症及び床ずれ等の合併症についても,上記原告Aの回復経過に照らせば,同人に寝たきりの状態が長期間継続してそのような合併症が発生するに至る可能性は高くないと考えられることなどのほか,上記調停委員意見書の内容に徴すると,被告の上記主張は採用できない。 (ウ) 原告Aの逸失利益の算定においては,上記(イ)で検討した問題に加え,本件事故発生前に同人が負っていた障害が,どのような過程を経て,何時症状が固定するに至るのかを明らかにすることも課題となるが,本件においてこのような予測を立てることには相当な困難を伴うといわざるを得ない。こうしたことを総合的に考慮すると,原告Aの逸失利益については,損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるとき(民訴法248条)に該当するものというべきである。 ところで,a 仮に,上記回復に至るまでの期間を1年と仮定して,原告Aが本件事故により喪失した逸失利益のうち,上記程度に回復した後の後遺障害に伴うそれを試算すると,次のとおりとなる。すなわち,本件事故後1年経過した平成15年3月当時,原告Aは59歳近くに達しているので,その平均余命は29年余であるから,一般的には,その2分の1程度の14年間を上記逸失利益算定の対象期間とすることになる。そして,平成15年の賃金センサスによれば,その平均年収は349万0300円であるから,これを基礎にして,一般的な方法により逸失利益の現価を算定すると,14年に対応するライプニッツ係数である9.8986により中間利息を控除することになるので,以下のとおり算定される。 349万0300円×(1-0.56)×9.8986=1520万1596円 なお,b 被告は,もともと原告Aは,相当の介助を要する状況にあったのであるから,家事労働者としての逸失利益の損害は発生しない旨主張する。しかしながら,上記(イ)認定のとおり,原告Aの日常生活動作は半介助ないし軽度介助という程度にまで改善することが期待できたものと判断される(それ以上に身辺の自立ができる可能性についても,補装具着用を要するとしても,完全には否定しきれない。)のであるから,少なくとも家族の協力を得るなどして,その能力相応の家事を遂行することはなお可能であったというべきである。そうすると,原告Aは,本件事故によりこのような内容・程度の稼働能力を喪失させられたものと認めるのが相当であるから,被告の上記主張は採用できない。 また,c 被告は,原告Aは医療施設への収容入院が不可欠であるから,その生活に必要な費用は,医療施設への収容入院に伴う医療費用とその他の関連諸費用に限られるので,そうした費用を損害として認めるときには,逸失利益の算定に当たって,相当割合の生活費を控除すべきである旨主張する。しかしながら,生活費は,必ずしも稼働能力の再生産費用だけを内容とするものではなく,また,原告Aの入院雑費の内容は,オムツ代,病衣等のみを基礎とするものであり,その余の費用についてはなお逸失利益中から生活費として支出されることが見込まれる。そうすると,逸失利益の算定に当たり,生活費を控除することは相当でなく,被告の上記主張は採用できない。 そこで,当裁判所は,以上の認定説示,特に,原告Aの左視床出血発症前の状況,左視床出血発症後の回復の状況及びその予後の見通し並びに弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づいて,原告Aが3月6日の本件事故により喪失した逸失利益相当額の損害額を1500万円と認定することとする。 (4) 原告らの慰謝料 以上認定した諸事実,特に,原告Aは,被告病院の医師らから適切な呼吸管理を受けられずに,気管カニューレに痰を詰まらせて窒息し,低酸素脳症による遷延性意識障害となり,いわゆる植物状態となっていること,他方,もともと原告Aは,2月11日の大学病院入院時,既に視床出血及び脳室内穿破による障害を負っていたものであり,その予後は上記(3)認定のとおり見込まれることのほか,本件事故後の原告B及び原告Cによる看護の状況,その他本件に現れた一切の事情を考慮すると,本件事故により原告らが被った精神的損害を慰謝するには,その慰謝料を,原告Aは2000万円,原告B及び原告Cはそれぞれ400万円と認めるのが相当である。 (5) 弁護士費用 本件事案の内容,本件訴訟の審理の経過及び本件の損害額等の事情を総合すると,本件提訴のために要した弁護士費用のうち,原告Aについて520万円,その余の原告らについてそれぞれ40万円の限度で本件事故と相当因果関係のある損害と認める。 4 結論 以上によれば,原告らの不法行為に基づく損害賠償請求は,主文の限度で理由があるからこれを認容し,その余は失当として棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第35部 裁判長裁判官 金 井 康 雄 裁判官 森 脇 江 津 子 裁判官 小 津 亮 太