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変身─ファイナルミッション─(5) ◆gry038wOvE 頭上の空で、照らしていた闇が晴れ、丁度今、白夜の時が始まったのを、深い爆煙の中に残る彼らが知る由もない。 これほどのエネルギーを浴びせなければ、ユートピアを打ち破る事はできなかったのである。 しかし──まだ、加頭順という男の生体反応はこの世から消えてはいなかった。 「はぁ……はぁ……」 ダブル、エターナル、シャンゼリオンの同時攻撃を受けながらも、尚、──加頭順という男は生きている。 ただし──それが、これまでのように悲観的で、戦士たちの劣勢を煽るような物ではなくなっていたのは確かである。 何せ、NEVERやベリアルウィルスの力も及ばぬほどの極大のダメージを受けた彼の全身は、既に消滅を始めており、身体は粒子に塗れている。辛うじて、ベリアルウィルスの残滓が彼の肉体崩壊を遅くさせ、生命維持だけが辛うじて可能になっている程度だ。 もはや、子猫の敵にすらならない。 「くっ……!」 既に、敵に食らいつく牙はなかった。 戦意も戦闘力も失ったよろよろの身体。焼けこげたタキシードと、乱れた頭髪。生身の人間ならば火傷を負った皮膚。 残りの寿命は、あと数分といったところだろう……。 彼自身は、まだそんな自覚を持っていないかもしれないが──。 「ば……馬鹿な……はぁ……はぁ……」 ベリアルによって力を受けたはずの自分が、成す術もなく敗北している事に加頭は納得がいかないままだった。 プライドが、それを現実として受け止めるのをしばし拒否した。 ……今の勝負は何だったのだ? 闇の力を大量に取り込んだはずの自分が──ベリアルに次ぐ力を持つはずの自分が、数日前までは拘束されて殺し合いを演じていた、数えるほどの駒に敗れている。 「この私が……」 無意識に加頭が向かっていたのは、マレブランデスの牙城である。巨大な黒い腕の中に眠る、己の恋人のもとへと、辿り着くかもわからない歩を進めているのだ。それはもはや本能的な魂の動きだった。 常人ならば、既に歩むのを辞めていたに違いない。彼なりに譲れない執念があったという事に違いなかった。 一歩を踏みしめるごとに、彼の身体からは彼を構成する物質が消失していく。 「この私が……負けるはずが……!」 うわごとのように、現実を否定する。今の彼には、それしかできなかった。 と、そんな彼の目の前に、「なにものか」が立ちすくんでいる姿が見えた。 濃霧のように視界を消し去る煙の中で、シルエットだけがこちらに見えている。 真っ黒なシルエットに警戒を示したが、加頭が立ち止まったままそれを少し眺めていると、自ずとシルエットはこちらに歩いてきた。 「あなたは……!」 そこにいるのは、一糸纏わぬ姿でこちらを見つめる一人の白い肌の女性だった。 全裸を恥じらう事もなく、アンドロイドであるかのような真顔で、加頭に視線を合わせている。──彼女の顔を、加頭が忘れる筈が無かった。 その姿を見るなり、加頭の頬が緩んだ。 「──」 園咲冴子。 あの培養液の中から、自力で脱して来たのだ。ようやく、冴子の蘇生が完了したという事である。 加頭は、その瞬間、思わず、笑顔を浮かべた。目的の一つが完了したのである。状況はどうにもならないが、この事が少し加頭に力をくれる。 彼女が放つ異様な雰囲気には、まるで気づかずに。 「冴子さん……良かった……蘇ったんですね!」 加頭は、消えそうな身体でまた一歩を踏みしめた。 冴子に、よろよろの身体で近づいて行く。急いでいるつもりだが、その歩測は普通の人間にも及ばないほどだ。 ……彼女がいる場所に、少しでも近づきたい。 「あなたさえ生きていれば……私は……」 そうだ。 全ては彼女の為に──彼女と共にある為に、やった事なのだ。 この場所を理想郷に出来る。何度でも立て直してやる。 「……私は……──」 加頭がようやく、冴子に近づき、両手を広げた時であった。 目の前の冴子は、目をぎょろりと見開いて、──ニヤリと笑った。 そして、そのまま──、自分の正体を明かした。 「ガァァァァァァァァァァァァ────!!!!!!」 冴子の殻を破り、「黒い化け物」が現れたのである。 ──それは、園咲冴子ではなかった。 ただのグロテスクな、腐敗した死骸のような怪物……人を喰らい、人の陰我と共に現れる人間たちの天敵だ。 そして、驚き目を見開いた加頭もまた、“それ”に見覚えがあった。 この戦いの中には、彼らを狩るべく使命を持った騎士が参加していたのだ。 「──!?」 そう──古の怪物・ホラーである。 魔戒騎士たちが追い続けてきた、人間の陰我に芽生える獣。それがホラーだった。 そこにいるのは、園咲冴子ではなく、魔弾を受けた時にホラーと化した人間の成れの果てであった。 彼女の身体の欠片をいくら集めようが、それは──既にホラーに喰われた人間の肉の欠片に過ぎなかった。全ては食い散らかされた死体で──そこに人の意思などなくなったのだ。 それを見た瞬間、遂に加頭の中においても、冴子への執着よりも恐怖が勝り、加頭は冴子だった物を信じられない風に見つめながら、尻を地面に突く事になった。 「な、何故……! なんだ……この化け物は……!!」 目の前から向かって来ようとする怪物。 そこから逃れようと必死にもがく加頭。 「くっ……!! どういう事だ……どういう事だァァァァァッ!!!!!」 それが、最後の希望が絶たれた哀れな人間の姿だった。 冴子がホラーに取り憑かれたまま、どんな技術を以ても、“治る事がない”存在なのは、もはや、不変の事実であった。 ホラーに喰われた人間は助からない。──加頭が最も甘く見ていた前提が、それなのかもしれない。 「くっ……!」 加頭が四つん這いで逃げるのを、ホラーが捉えようとする。 悠然と歩き、エモノを食らおうとする園咲冴子の皮を被っていた怪物──加頭の死は、既に目前である。 加頭はホラーの餌になる。 最も、あってはならない苦しい死に方だ。 と、恐るべき死を忌避しながらも、心のどこかで覚悟した──そうせざるを得ないと確信した時だ。 「──」 カシャ……カシャ……。 奇妙な、音がした。 「──……」 やはり、カシャ……カシャ……と、音が聞こえた。 加頭は、自分とホラーだけしか視界に映らないその場に、他の何者かが現れたという事を理解した。 そして、次に、誰か、男が呆れたような声を発した。 「おいおい……」 カシャ……。カシャ……。 その音は、加頭のもとに近づいてきていた。 冴子に憑依したホラーも、加頭を襲うのをやめて、その声が近づいて来る方に目をやった。 「まったく……とんでもない奴を甦らせてくれたもんだな」 そして──そんな彼の前に、煙を背負って現れる一人の男がいた……。 金色に光る彼の身体はとてもよく目立った。 金色でありながら──銀色の魂を持ち続けた男である。 ……そう、いつの時代も、ホラーの相手をするのは、彼らであった。 「お前ほどの男が……知らなかったのか? 加頭──」 涼邑零。──いや、銀牙騎士絶狼(ゼロ)。 その鎧が、カシャカシャと音を立てて、加頭の前に現れたのだ。 煙はだんだんと晴れていき、そこにいる男の姿だけを加頭の目に映した。 「……」 ホラーもまた、宿敵たる魔戒騎士の姿を敏感に察して、加頭を食らうよりも、まずは己の身を守る事を優先したがったのだろう。 黄金騎士──と、ホラーも誤解したに違いない。 「──ホラーに喰われた人間は、助からないんだ」 ゼロが口にするのは、残酷だが、加頭も知っているはずの事だった。 しかし……しかし。 ──冴子は……彼女だけは、例外ではないのか? ──加頭はそう思い続けていた。 だから蘇生させたのだ。 肉体ならば、ホラーも霧散しているはずであると。 しかし、それは、ある意味で、最も人間らしい現実逃避だったのかもしれない。 どうしようもない「論理」の穴を、ただ彼は「感情」だけで補完しようとしていたに過ぎないのである。 尤も、それは歪んだ感情であったかもしれないが。 「残念だけど、あんたのフィアンセは、もうホラーに喰われていたみたいだな」 「そんなはずはない……!! そんなはずが……!!」 必死に現実を否定する加頭の身体も、半分は消失している。 そんな姿を少しだけ哀れむように眺めたが、零は非情に徹する事にした。 彼が行った事の報いが始まったに過ぎないのだ。未だ償う気持ちを微塵も見せない加頭には、怒りも勿論湧いている。 「──だから」 だが。 今は──まるで、ホラーから守るべき人間がそこにいるような気持ちに切り替えた。 たとえ、加頭が敵でも……僅かな命であるとしても……彼のように、ホラーに襲われる人間の事を守らなければならない。ホラーの犠牲者は最小限に食い止める。 それこそが、彼の使命だった。 そして。 「──……ホラーを斬るのが、俺の仕事だ!!!」 ──そして、何度となく心の中で叫んできたその言葉を、確かに発した。 「おりゃああああああああああああああッッ!!」 金の二刀流が光る。 次の瞬間、冴子に憑依したホラーは、絶狼の刃によって胴を真っ二つに斬り裂かれる。 それは、飛沫だけを残して、いとも簡単に崩れ落ちた。 「ウグァァァァァァァァァァァ────!!!!」 ────霧散。 断末魔と共に、ホラーの姿は消えていく。ホラーは蠢くような声をあげ、「冴子の姿をしたもの」さえもそこからいなくなった。 ホラーの返り血が加頭の顔を穢すが、それも結局、今となってはもう意味のない事だった。──加頭ももう、助からない。 銀牙騎士絶狼が斬り裂いた彼の夢は、次の瞬間には完全に自然の中に溶けた。 まるで、園咲冴子など、白昼夢のようだったかのように……。 「あっ……! ああ……」 ホラーの死地に手を伸ばす加頭の前には、もう園咲冴子の片鱗さえも見当たらなかった。肉片の一つに至るまでが、ホラーの餌となった。それが冴子の躯だった。 それは、否定のしようがない事実である。 「……」 そして、これが絶狼にとっては、一つの仕事の終わりだ。 ここに来る前から与えられた物ではないが、魔戒騎士である彼には、それが本職であった。 『──零。お前の今日の仕事は、多分、これで終わりだな。……まあ、急に入った仕事だが』 「ああ。ただ……まだ、やる事は山積みだけどな……」 いつになく乾いた口調でそう言う、ザルバと絶狼。 ホラーの幻影に取り憑かれた一人の男の姿──それは、魔戒騎士が何度も見て来た人間の姿である。 なまじ、人間の姿を模しているばかりに、こんな人間が幾人もいる。 その記憶は、普段は消さなければならない。──だが。 その必要も、なかった。 「ああ……ああ……」 園咲冴子は死んだ。 もう戻らない。 加頭順は幸せにはなれない。 ──彼の理想郷は潰えたのだ。 加頭も、ようやくそれを理解したようだった……。 「……うう……くそっ……私は!」 生きる希望を全て失った加頭の身体は、心なしか、加速度的に消滅を始めたように見えた。 身体は薄くなり、周囲の何もかもが見えない状態に陥る。 絶望と後悔だけが身体の芯に残り続ける。 「私は……一体、何の為に……何の為に戦ってきたのだ……!!」 無力。 ──そう、これまでの加頭の己の身体さえも裂いた戦いは全て、無駄な徒労に過ぎなかったのだ。 「クソォォォォォォォォッッ!!! 何の為に……!! 何の為に……!!!」 誰への敵意もない絶叫だけが、虚しく響き渡る。 ユートピアなどない。理想郷は、崩れていくのみだった。 たとえ、上面だけ、理想郷を復元していたとしても。 結局、彼が求めた場所は──一人きりの理想郷にしかならない。 ──そして、それを悟った瞬間だった。 ◆ 「──!?」 ──ふと、世界は切り替わった。 まるで消失が止まったかのような錯覚に陥り、加頭の耳元で、何かが“囁いた”。 周囲を見回すと、何もかもが……時間が止まっていた。 暁美ほむらによる時間停止が原因ではないのは判然としている。 そして、直後に、何かが「何の為に戦ってきたのか」という加頭の問いに答えた。 『──地獄に堕ちる為さ』 ──白い腕が、加頭の脚を固く掴んだ。 驚いて見下ろすと、その腕はまるで地の底から生えているかのように、深い沼に加頭を引きずりこもうとしている。 見覚えのある腕だった。──いや、今も間近にいる戦士が同じ規格の物を持っているはずの腕である。 そう、それは。 「死……神……!!」 仮面ライダーエターナル。 その声は、大道克己そのものだ。──彼が地獄へと加頭を道連れにしようとしている。 「貴様ら……」 無数の腕が──ルナドーパントの腕が、メタルドーパントの腕が、ナスカドーパントの腕が、ウェザードーパントの腕が、そして……タブードーパントの腕が、加頭の身体をどこかへ引きずりこもうとしているのだ。 これまで、その死を見て来たはずの連中の腕──。 「この私を地獄の道連れにする気か……!?」 エターナルは笑った。ああ、ずっと待ってたんだ、と。お前を地獄に引きずりこむのを楽しみにしていたんだ、と。 これから加頭が向かう場所──それは、地獄に他ならなかった。 深く、永久の苦しみを味わう為の場所……。 加頭もそれを悟った時──ある感情が、脳裏に浮かんだ。 NEVERになって以来、忘れていた感情。 「嫌だ……」 そう、嫌だ。 こんな事の為に──あんな奴らの為に、地獄になど堕ちたくない。 これから、永久の苦しみが待っているのだと思うと……。 死にたくない。 また地獄に行くのか? こんな奴らと一緒に……。 『来いよ……地獄に連れて行ってやる……』 「嫌だ……!」 『ずっと待ってたんだぜ……お前が地獄に来るのを……』 ──そして、時間は、再び正しい流れに帰っていく。 ◆ キュアブロッサムがそこに駆け寄った。 加頭順とはいえ、彼がこのまま死んでしまう事には彼女も抵抗がある。──勿論、彼女とて加頭への同情は薄いが、それでも、もしこれからやり直そうとする意思があるならば、彼もまた……と思ったのだろう。 ……が、遅かった。 「ああっ……ああああっ……!!」 煙が晴れ、白夜の光が覗き始めた時、そこで、透明に消えかかり、地に伏して涙声をあげる加頭の姿があったのだ。 大道克己の時と同じだが──それにも増して、惨めだった。 「……痛い……死にたくない……誰か……」 「加頭さん!」 ブロッサムの脚を這うようにして掴みながら、しかし、何もできずに、その腕が粒子となって崩れ落ちる。 彼は、自分の腕が目の前で消滅した事に強い怯えを示した。 死ぬ。 このまま、死んでしまう……。 「誰か……助けてくれ……」 「加頭……」 『……僕らの憎んだ敵も、結局は、“変わり果てた人間”だったんだ……』 仮面ライダーダブル──彼らもまた、加頭順の終わりを、哀れむように見つめていた。 かつて、井坂深紅郎の死を、悪魔に相応しい最期と呼んだ事がある。 あの時とまるで同じ気分だ。同情の余地はないはずである。 しかし、彼や井坂もまた、同じ街の空気を吸った人間だ。──その最期を見届けてやる義務が、翔太郎とフィリップにはあるはずだった。 「……苦しい……お前たち……私を……たすけ……」 「加頭さん……」 ヴィヴィオがそれを眺めながら、救う術を考えた。 しかし、それはどこにもないのだとわかった。 自分で蒔いた種だと一蹴するのは簡単だが、それでも──和解の道を、ヴィヴィオは求めていたのだから。 ダークプリキュアが新しく仲間になった時のように……。 ゴハットが最後にヴィヴィオを助けてくれたように……。 その夢は、もう見る事が出来ないようだった。 「ああ……」 『……こいつも、これで少しはわかっただろう。死の恐怖も──』 「──愛する人を失う苦しみも、な……」 銀牙騎士絶狼とザルバは、消えゆく加頭の姿をそっと眺めていた。 彼らは同情こそしていなかったが、しかし、その惨めさを目の当りにした時、彼が少しでも他者の痛みを知る事が出来ていてほしいと願ったのだろう。 だから、こんな言葉を物憂げに呟いたのだ。 「加頭……!」 そして、そんな所に、あの仮面ライダーエターナルが──それは響良牙だったが──歩み寄った。 それを見た時、加頭は慌てて視線を逸らし、そこから逃げ去って誰かに縋ろうとしていた。 情けなくも、頬を涙が伝っていく。 もう地獄が目前にあるようだった。 腕を、足を、首を──死神たちが掴んで、持って行こうとする。 どこを見ても……。 どこを見ても……。 そこにいるのは、死神だった。 「い……やだ……死にたくない……誰か……たすけ……て………………」 【加頭順@仮面ライダーW 死亡】 【主催陣営、システム────完全崩壊】 ◆ 「……」 残った者たちは、どこか気まずそうに加頭が消え去った地を見つめていた。 そこには、もう何もない。これまでの戦いと全く同じだった。 敵を倒したは良いが、やはり、望みが打ち砕かれたまま斃れた加頭順という男の姿に、何処か同情を禁じ得ない者もいたのかもしれない。 「……」 勿論、たくさんの人間を殺した加頭にはそんな物をかけてやる余地はないのかもしれないが、しかし、人間は決して、人を殺す為に生まれてきたわけではない。 彼もまた、何かが狂気の切欠になっただろうし、彼なりの愛を持っていたには違いなかった。 「この人を──加頭さんを、救う事は出来なかったんでしょうか?」 キュアブロッサムが、後ろにいた仲間たちに、不安げに訊いた。 それから、誰もが少しだけ押し黙った。 加頭への割り切れない恨みと、それでもつぼみの一言に込められた想いを理解したい気持ちとが葛藤したのだろう。 加頭をよく知る者がそれに答えた。 ──それは、左翔太郎である。 「あいつも、誰かだけじゃなくて、多くの人が住んでいる街を愛する事が出来れば、別の結末もあったかもしれないけどな……」 『誰かを愛する心があるなら、それが出来たかもしれない……だが、彼はその道を自ら拒んでしまったんだ』 二人は、嫌にあっさりとそう言ったが、結局のところ、それが全てだった。 どうあれ、彼が選んだ道は、多くの人と相容れない道であり、真実の愛を掴む手段とは程遠かったのだ。 結局は、彼がその道を選んでしまった以上、他者が彼に救いを与えてやるのは、ほとんど不可能と言って良かったのだろう。 それが、彼が選んだ自由だったのだから、それを阻害する権利は誰にもない。つぼみやヴィヴィオの理想を押し付けるわけにはいかない相手だったのかもしれない。 ──それを思い、つぼみとヴィヴィオは、自分の持つ理想がいかに遠くにあるのかを確かに実感した。 しかし、それは彼女たちが子供だから持つ理想ではない。おそらく、彼女たちはどれだけ年を重ねてもその理想を叶える為に戦い、生きていくだろう。 仮面ライダーエターナルが、ふと呟いた。 「──あいつ……酷く怯えてやがったな……エターナルの姿を見て」 最後、加頭がエターナルから逃げ去ろうとしたのを、彼は確かに実感していた。 まるで、天敵に怯えた草食動物のように。 だからか、まるで、良牙自身が最も嫌っていた「弱い者いじめ」をしたような気持ちが拭いきれなかった。そんな後味の悪さも彼にあったのだろう。 フィリップが答えた。 『きっと、かつて、エターナルに一度殺されたからだろう』 「……そうか。それで、奴はNEVERに……。 エターナルにダブル──同じ相手に二度も倒されるとは、あいつも因果な男だぜ……」 エターナルがそう俯いて言った時、ただ一人、能天気に、エターナルの肩に手を賭けた男がいた。 超光戦士シャンゼリオンである。 「──おいおい、俺を忘れんなっての……三人で倒したんだぜ?」 エターナルも、つい忘れて、黙っていた。 全く、戦いは終わっていないのに呑気な男だ……。──と、思ったが、いや、彼がこうも呑気なのは、戦いが終わっていないからかもしれない。 彼は、戦いが終わったら消えてしまう。フィリップも同じ運命だ。 彼がここにいられるのは、この時が最後である。 こうして、三人で倒した事を強調するのも、もしかしたら、彼が自分の存在を誰しもに記憶させたいからかもしれない。 「ああ。そうだな……シャンゼリオン」 良牙は──いや、ここにいる全員は、ベリアルに永久に来てほしくないと、少し願っただろう。 ベリアルは倒さなければならない。しかし、それと同時に、ベリアルの力の影響下にある、暁その人が消えてしまう……。 その事実がある限り。 しかし──運命は、残酷であった。 『──クズクズしてる暇はないみたいだぜ。本当の敵のお出ましらしい!』 直後、そんな一言をあげたのは、魔導輪ザルバだった。 白夜の空を見上げる──零、翔太郎、フィリップ、良牙、ヴィヴィオ、レイジングハート、暁、つぼみ……。 ごくり、と誰もが唾を飲んだ。 「────あれは」 そう、それは空を見上げなければ、その姿がわからないほどの巨体だった。 その身体そのものが、身長百数十センチに過ぎない彼らにとっては、威圧であった。 かつて、ダークザギを前にした時も、同じだった。 ◆ どしん。 ──足音が、この島を揺らす。 「……!!」 どしん。 ────ゆっくりと、巨大なそれが歩み寄ってくる。 「来たか……!!」 どしん。 ──────彼らが、再びこの島に来る事になった理由が、やっと、目の前に現れた。 「ああ、奴だ……!!」 どしん。 ────────まるで、褒美のように、島に上陸した、巨体。 「やっと、本当の最後の敵と戦うんですね……!!」 ヴィヴィオが、僅かに怯えながら言った。 彼女のように、これほど巨大な敵と戦うのが初めての人間もいる。 しかし、その拳は、決して恐れだけではなく、固く握られていた。 これが本当の最後の敵──。 先ほどの加頭順は、彼の配下であり、前座に過ぎないのである。 「────カイザーベリアル!!!!!!!!」 誰が口火を切ったかはわからない。 カイザーベリアルの名を、誰かが告げた。 ◆ そして、全世界の人間は──この瞬間、ガイアセイバーズとカイザーベリアルの対面に、釘づけになった事であろう。 外の世界を街頭モニターの人だかりは、既に誰を応援するという段階ではなくなっていた。──誰もが、どちらに軍配が上がろうとも全て見届けて終える事を望んだのだ。 希望と絶望の入り混じる、不思議な感覚。 誰も、恐怖は覚えていなかった。胸の高鳴りの正体を、誰も知る事が出来なかった。 千樹憐。和倉英輔。平木詩織。真木舜一。真木継夢。斎田リコ。 相羽アキ。ノアル・ベルース。ユミ・フワンソカワ。ジュエル。テッカマンオメガ。 鳴海ソウキチ。鳴海亜樹子。刃野幹夫。園咲硫兵衛。園咲若菜。 花咲薫子。来海ももか。鶴崎。オリヴィエ。デューン。 桃園みゆき。一条和希。タルト。西隼人。南瞬。 南城二。アンドロー梅田。アリシア・テスタロッサ。八神はやて。クロノ・ハラオウン。 ムース。久遠寺右京。天道早雲。早乙女玄馬。雲竜あかり。 倉橋ゴンザ。御月カオル。山刀翼。道寺。静香。 歴戦のウルトラ戦士たち──。 血祭ドウコクと外道シンケンレッド。 あらゆる宇宙の人々が、それを見ていた。 あるいは、インキュベーターも……。 「さあ、君も──応援の準備は良いかい!? ミラクルライトを持っている君は、今すぐにミラクルライトを用意するんだ!! ミラクルライトを持っていない君は、心の中で応援するんだ!!」 そして──そこにいる、君も。 ◆ 時系列順で読む Back 変身─ファイナルミッション─(4)Next 変身─ファイナルミッション─(6) 投下順で読む Back 変身─ファイナルミッション─(4)Next 変身─ファイナルミッション─(6) Back 変身─ファイナルミッション─(4) 左翔太郎 Next 変身─ファイナルミッション─(6) Back 変身─ファイナルミッション─(4) 花咲つぼみ Next 変身─ファイナルミッション─(6) Back 変身─ファイナルミッション─(4) 佐倉杏子 Next 変身─ファイナルミッション─(6) Back 変身─ファイナルミッション─(4) 高町ヴィヴィオ Next 変身─ファイナルミッション─(6) Back 変身─ファイナルミッション─(4) レイジングハート Next 変身─ファイナルミッション─(6) Back 変身─ファイナルミッション─(4) 涼村暁 Next 変身─ファイナルミッション─(6) Back 変身─ファイナルミッション─(4) 響良牙 Next 変身─ファイナルミッション─(6) Back 変身─ファイナルミッション─(4) 涼邑零 Next 変身─ファイナルミッション─(6) Back 変身─ファイナルミッション─(4) 蒼乃美希 Next 変身─ファイナルミッション─(6) Back 変身─ファイナルミッション─(4) ウルトラマンゼロ Next 変身─ファイナルミッション─(6) Back 変身─ファイナルミッション─(4) 孤門一輝 Next 変身─ファイナルミッション─(6) Back 変身─ファイナルミッション─(4) 血祭ドウコク Next 変身─ファイナルミッション─(6) Back 変身─ファイナルミッション─(4) 外道シンケンレッド Next 変身─ファイナルミッション─(6) Back 変身─ファイナルミッション─(4) 加頭順 Next 変身─ファイナルミッション─(6) Back 変身─ファイナルミッション─(4) カイザーベリアル Next 変身─ファイナルミッション─(6)
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変身─ファイナルミッション─(2) ◆gry038wOvE 「──ここは、どこだ? いや……」 ……気づけば、仮面ライダーエターナルたちの周囲には、あの景色が再現されていた。 エターナルは、お決まりの台詞を告げて、周囲をきょろきょろと見回しながらも、自分たちがどんな場所にいるのかを頭の中ではよく把握しているようだ。 それもそのはずだ。自分の体がここになければ困る。ここまでの出来事が全て夢というわけでもない限り、今日、この時は自分の体がここになければならない──それが自分たちの宿命なのだ。 「──」 ──彼らを殺し合いに呼び寄せたあの世界。 何日か前までここにいて、何日か前まで戦っていた世界と、全く同じ風。 光の差さない真っ暗な森。──それは、まだここが黎明の世界。もし、彼らの身体が金色に光っていなければ、それぞれの姿を確認するのも覚束ない程だっただろう。 ただ、心なしか、以前よりも命の鼓動のような物が森の中に生まれ始めているようだった。 おそらくは、それは、必然的にこの世界に辿り着いてしまう微生物や小虫たちがここに住み着き始め、何の命もなかった世界に少しずつ命が植えつけられようとし始めているという事だ。 それに気づいたのは、キュアブロッサム──花咲つぼみだけだっただろうか。 エターナルは、続けた。 「……わかってる。俺たち、遂にここに来たんだな」 この台詞を告げた時、どうやら、この外の全ての世界では、彼らの最後の戦いの中継が自動的に始まったらしかった。 そして、この瞬間を以て、艦に最後まで残っていたインキュベーターは、次元の波の中に囚われ、おそらく消滅したのだろう。──勿論、その意識と情報を共有する別の存在が世界にいるので、それほど悲観的に考える事実ではないが、こうして彼らが無事この世界に侵入できた功労者として、インキュベーターの尊い犠牲もあった事は忘れられてはならない。 それは、アースラという戦艦をここまで運んだのは、決して彼らだけの力ではなかったという証明に違いない。元々の乗組員は勿論、死者さえも、別の世界の者たちさえもそれを動かし、彼らを届けた。 彼らに勝ってほしいと願う全ての心の結晶が、彼らをここまで乗せたあの巨大な船だったのだ。 敬礼する間が無いのは惜しむべき事実であった。 「……」 ただ少しだけ、周囲を見回してアースラを探した者もいたし、空を見上げた者もいた。 あの数日、共同生活を経たあのアースラは、もう無い。 その事実には、在りし過去に戻れぬノスタルジーも少し湧いただろう。 「……」 ……とはいえ、結局、アースラよりも彼らにとって郷愁の情が湧いてしまうのは、こちらの戦場だったのも事実だ。 あらゆる悲しみと、怒りと、そして楽しい時間さえもあった場所。 そうであるのは違いない。 ──しかし、大事な出会いの場所でもある。 ここにいる者たちは、お互いにここで出会い、ここで悲しみを共有したのだ。 たとえ、ベリアルの戦いがなければそれぞれがもっと別の──幸せな出会いをしていたのだとしても、今ここにいる自分たちが直面したのは、悲しみの中での細やかな幸せとしての出会いだ。 この感情を持って戦えるのは、自分たちがここで出会ったからに他ならない。 ……ふと、そこにかつてと違う物があるのを誰かが見つけた。 「……ん? なんだ、あの悪趣味な手は。あんなもんあったか?」 そんな事を言ったのは──その「誰か」とは、佐倉杏子の事だった。 ──彼ら八人は同じ場所に固まって転送されていたが、その付近には、腕の形をした奇妙で巨大な建造物が立っていたのだ。 これこそが悪の牙城なのだが、それを「城」と認識できた者は少ない。 杏子の言う通り、誰しもが「巨大な手」と思っただろう。しかし、それが巨大な人体の一部の手と認識した者もおらず、あくまで「手の形を模した巨大な何か」という風に全員が捉えたようだった。 薄気味悪いが、だからこそ、決戦の時であるのがよくわかった。 「気づいてないだけで、前からあったんじゃねえか?」 「あるわけねえだろ! あんなデカい城を見落とすのはこの世でお前だけだ!」 『勿論、あんな物は僕も知らない。この数日で出来たようだ』 仮面ライダーエターナルの言葉は、同じ仮面ライダーのダブル──左翔太郎とフィリップに突っ込まれる。 しかし、こうして軽口を叩いていられるのも今の内であった。 彼らも、決して緊張がないわけではないのだ。だからこそ、わざとこうして場を温めているのかもしれない。 だが、結果的に言えばそれも束の間の話だった。 「──ッ!」 次の瞬間。 一筋の風が吹いた時、まだ温かみを持て余していたはずのその場の空気が、ふと一転する。わけもなく背筋を凍らすほどに冷やかな風が、身体を撫ぜる。 誰もが、喉元に氷柱を飲み込んだような緊張感に苛まれた。 戦慄──。 「……誰だっ!?」 この直後に彼らの前に──一人の男が現れたからである。 闇にも映える真っ白なタキシードの服。 ──ゆっくりとこちらへ歩いて来る。 見覚えがあるようで、やはり、これまでに見た事のない雰囲気の男。 即座にその男の正体を答えられる者はいなかった。 「……遂に来てしまいましたか。……結局、あなたたちは自分の故郷ではなく、お仲間が死んだこの場所で死にたいと──そう願ったと、結論しましょう」 ダブルは、その男の瞳を見た事があった気がした。 いや、誰もが見た事があるのだが、その白いタキシードの男に対して、それが──あの、「加頭順」であるという認識を持てた者は少ない。表情こそ変わらないが、どこか柔和で、歩き方にも奇妙な余裕が感じられるからである。 「……」 元の世界の左翔太郎とフィリップさえも、その判断には少しだけ時間を要したくらいだ。だが、やはり、奇縁があるのか、真っ先に気づいたのは彼らであった。 到底、あのはじまりの広間で見た男と同一とは思えなかった。──人は数日ではここまで印象を変える物なのだろうか。 「まさか、お前。加頭、順か……?」 「ええ。……お久しぶりですね。てっきり、そちらの半分は亡くなったかと思いましたが」 加頭が笑顔で皮肉を言った。そちらの半分、というのはダブルの右側──フィリップの事だろう。 それから、勿論、ヴィヴィオの事も加頭は多少なりとも気にしたのだと思われるが、加頭も同様の死人であるが故、あまり追及するつもりはないようだ。 特に、フィリップに関してはその出自において、死者蘇生に近い事が行われているし、ガドルという見落としも過去にはある。一人や二人の増援は、今更気にならない様だ。 呼ばれた当人の仮面ライダーダブルは、加頭のかつてと違う様子に少し当惑していた。 「……なんか、調子狂うな」 「ふふふ」 「前は、そういう風に笑ったりはしなかったぜ。……まあ、今もあんまり良い笑顔じゃねえがな──」 「……ほう、なるほど。後の為に、その言葉も参考にしておきましょう」 ダブルの反応は予測済というわけだ。これだけの人数を前にしても震えず、余裕綽々と笑っている加頭の顔を見ていると、やはり不気味に思うだろう。ダブルへの勝算があると見ているに違いない。 だが、その場で加頭と敵対している者の──仮面ライダーやプリキュアの全てが、加頭に敗北する未来の予感を全く浮かばせなかった。 「……」 強いて言えば、そう……少し勝利までの過程が厄介になるだろうという不安が掠める程度だ。それもすぐにどこかへ払いのけられた。 少し心に余裕が出来た気がした。 「……加頭。もう一つだけ、すっげー参考になる『良い事』を教えてやるよ。 ──そいつは、フィリップが今ここにいる理由さ」 「ほう。興味深い……」 変わらず余裕な加頭を前に、仮面ライダーダブルが強い語調で啖呵を切った。 「──俺たちはなぁ、お前たちみたいな奴らを倒すまで死なねえんだ……永遠に!」 『そう、僕達はたとえこの身一つになっても……いや、この僕みたいに、“この身がなくなっても”戦い続けている』 「それこそが、お前たちが相手にしている存在だ……!」 『だから──いうなれば、絶望がお前のゴール……っていうところかな?』 ダブルは固く拳を握る。 そんなフィリップの言葉を聞くと、少しだけ加頭は眉を顰めた。 それは、かつて翔太郎が加頭の野望を阻止した時に発した言葉にもよく似ており、それが加頭に悪い記憶を呼び覚まさせたのだろう。 しかし、それでも──加頭は、大きく怒りを膨らませる事はなかった。 「なるほど……かつて聞いた時と同じ……か。──憎たらしい言葉ですね。 しかし──残念ながら、その台詞を聞く事が出来るのも、今日が最後のようです!」 ──UTOPIA!!── その言葉と同時に、加頭が握るユートピアメモリの音声が鳴り響いた。 ユートピアメモリが浮遊し、加頭の装着するガイアドライバーへと吸収される。 重力が無いと言うよりか、むしろメモリが自力でそう動いたかのようだった。 轟音。ブラックホールを前にしたような不安感。……それらが駆け巡る。 ──BELLIAL!!── ──DARK EXTREAM!!── 「!?」 そして、次の瞬間──暗黒の嵐が吹き荒れた! 強風が彼らを襲う。土に零れていた大量の葉を吹きあがらせ、地面の草木を全て揺らす。 暗闇のオーラが雲のように視界を覆う。天と地がひっくり返るような感覚がその場にいる者たちに降りかかる。 しばらくすると、空に飛び散った葉の数々は、次の瞬間に、まるで鉛の固まりのように一斉に落下する……。 「くっ……!」 それぞれが、自らの頭を覆うように顔の前で両腕を交差させた。微かに視界に残した光景には、確かに変身していくユートピアの姿がある。 そこから、ダークザギの発した闇にも似た黒いオーラが現れ、直後一斉に取り払われると、そこに佇んでいたのは、ダブルもかつてまで見た事のない相手──。 そう──この「ユートピアドーパント」の「ダークエクストリーム」だ。 「……っ!」 ゴールドエクストリームと化したダブルに対して、ダークエクストリームと化したユートピア。それはまるで、かつての戦いの再現でありながら、いずれもかつてのそれぞれとは大きくベクトルの異なる成長を遂げた結果生まれたカードだった。 そして、彼らが背負うものもまた、かつてとは変わっていた。 ダブルは、「崩れた理想郷」や「一人きりの理想郷」ではなく、無限の供給と再生を続ける「完全な理想郷」となったユートピアの姿を見て、固唾を飲む。 どうやら、加頭も秘策と、想いを背負った敵であるらしい。 しかし──倒す。何があっても、必ず。 「それでは、皆さん。……折角ですから、また、殺し合いを始めましょう。 ──そう、この私と……この場所で!」 加頭は仰々しくそう宣言した。 このバトルロワイアルの始まりを告げた言葉にも似たその一言に、誰もがぴくりと反応した事だろう。 そう、この男の呼び声であの悪夢は始まった。 そして、この男を倒してから始まる本当の最終決戦で──全ては終わる。 「──違います! これから始まるのは、殺し合いじゃなくて……命と命の、助け合いです!」 キュアブロッサムがユートピアに向けてそう告げた。 ガイアセイバーズ。 それが望む未来を提示され、ユートピアは微かに狼狽えた。 敵方にこちらを恐れている者はなしと見て、ユートピアの脳裏に掠められたのは、僅かな敗北のビジョンである。──とはいえ、それは勝負に際する者が誰も一度は掠める物。 ユートピアは、園咲冴子の生前の姿を、そして、ここにあるこの力で戦えば、彼らなど相手ではないという事を思い出して、そんな不安を一瞬で取り払う。 「……フン。──何を言おうと勝手だが、どうせ貴様らは、いなくなるッ!」 敬語を捨て、猥雑で乱暴な「殺し合い」を始めるユートピアは、その手に構えられた“理想郷の杖”で、閃光の一撃を放った。 「──!!」 光速のレーザービームが八つに分岐して、各参加者の身体を狙い加速する──。 瞬きする間もなく自らを狙ってくる数百度の熱を、各々は正確に捉え、八人八色の対応を果たした。 ビームを防ぐ者、避ける者、跳ね返す者、その体で難なく防ぐ者。 その全てが一瞬で行われる。 ユートピアとて威嚇のつもりであったが、全てが殆ど反射的に回避された事を見て、やはり予想以上の相手になった事を実感していた。 ◆ 「──せやぁッッ!」 ──直後に聞こえたのは、一人の雄叫びだった。 攻撃の瞬間に、圧倒的なスピードで姿を眩ました高町ヴィヴィオである。 聖王の姿となった彼女は、他の数名と同様、全身を金色に輝かせ、真っ直ぐなパンチをユートピアに叩きつけようと迫ってくる。 何度も、友と磨き上げた拳。 歪みから救われた少女の、正拳。 それがユートピアの全てを打ち砕くべく、アクセルを踏み込んだようなスピードで邁進していく。 彼女の一歩は、空間をも飲み込んだような一歩であった。 「──アクセルスマッシュ!!」 「フンッ!」 ユートピアは、叩きつけられたパンチをクロスした両手でガードした。 そのまま、ヴィヴィオの手を取り、力の流れを寄せ──彼女の身体の天地をひっくり返す。 何が起きたのか──。 「くっ……」 ヴィヴィオも、気づけば空を見る事になった。合気道のような技で投げられたのだと察知するまでにもそう時間はかからない。 加頭固有の能力を使えば、ヴィヴィオを触れもせずにひっくり返す事が可能であろう。 しかし、彼はベリアルウィルスの効果で元の素養を超える身体能力や、敵を見る術を得ていた。一切の能力を使わず、元の身体のポテンシャルだけでヴィヴィオに空を見せたのだ。 「……っ! 痛~っ!」 「この能力だけが私のやり方ではない──。 格闘による真っ向勝負も一つの戦法だ……! 得意の接近戦に持ち込む事など、愚かな!」 「……そういう事なら、むしろ逆に、受けて立ちます! ……はぁっ!!」 ヴィヴィオの拳は、何発もの攻撃を、凄まじい速さで、連続してユートピアに打ち込んだ。 その一つ一つが、強い魔術を込めた一撃だ。──いうなれば、それこそ、闇の欠片が供給している死者たちの魂である。 黄金の輝きを持つ限り、ヴィヴィオたちにはこれまで以上の、圧倒的な力が味方する事になるだろう。 ユートピアも同条件には違いないのだが、その想いの強さでは、ヴィヴィオが勝ると言える──。 「はぁぁッ──!!」 「ふんッ」 それを何度も、ユートピアの胸に、腹に、顔面に──叩きつけるつもりで打ち込んだ。だが、その全てがユートピアの掌の上で跳ねていく。 ヴィヴィオのパンチのスピードに追い付き、ほぼ全てを迅速に片手で防御しているのだ。 結果、ヴィヴィオのパンチは一度もユートピアの身体に当たる事がない。 「──無駄だ!」 ユートピアの掌から、ヴィヴィオに向けて闇の波動が放たれる。 それは、彼女の身体を拳から伝って全身吹き飛ばし、真後ろの地面に尻をつかせた。 ヴィヴィオにとってもそれは少しの痛手であったが、後退の意思が過るほどではない。 いや、それどころか、この程度の負傷は誰の日常でもよくあるレベルだ。アインハルトと戦った時だってそうだ。何度も行った模擬戦の中で、何度空を見て、何度膝をつき、何度腰を抜かした事か。 それがヴィヴィオの常だった。それがヴィヴィオの戦いだった。 「──」 わかっている。──それでも、今はいつもと違うのだと。 ヴィヴィオの背中には、今、自分を守ってくれている人たちの想いがある。──それを全身で感じていた。この重みは、決して只の荷物にはならない。 ヴィヴィオに必ず力を貸してくれる。 「くっ……!」 ヴィヴィオは、すぐに強く地面を蹴って、立ち上がると、再びファイティングポーズを取った。 ──こうなる限り試合続行だ。何度だってポーズを取る。 しかし、実のところ、彼女の顔色というのはあまり良くない。勿論、敗北を予感しているわけではない。 ──ただ、何か薄気味悪い予感がしたのである。 (まさか……この人……!) 先ほど、手ごたえのなさと同時に──ヴィヴィオはもう一つ、ある違和感をユートピアに対して覚えたのである。 その理由も薄々察する事になった。 「……!」 クリスも気づいているらしく、クリスの焦燥する感情がヴィヴィオの全身に伝わる。 いや、クリスはもっとはっきりと、今の闇の波動がヴィヴィオに放たれるまでに正体を明らかに察知したのだろう。 彼には、まるで悪魔が取り憑いているように見えた。 「──」 そんな中、ヴィヴィオとユートピアの間に一人の男が立つ。 「──ヴィヴィオちゃん、手を貸すぜ!」 超光戦士シャンゼリオン──涼村暁である。 彼もまた、超光剣シャイニングブレードを右手に構え、敵の身体をその刃の餌食にしようと走りだそうとしているかのようだった。 助っ人というには、少々頼りないが、ユートピア相手には二人以上でかかるのが妥当と見たのだろう。 「──待って!」 「えっ」 と、そんな彼が手を貸そうとするのを、ヴィヴィオは今までにない剣幕で叱りつけるように怒鳴った。完全に戦闘態勢に入っていたシャンゼリオンも、その言葉に流石に足を止めた。不安気にシャンゼリオンがヴィヴィオの方を向いた。 ヴィヴィオはすぐさま頭を冷やして、少し丁寧な口調に直して、シャンゼリオンに言った。 「待ってください……!」 「え? なんでよ」 「あの人……実力は今の私たち一人一人と同じレベルですけど……もしかすると、何か切り札を持っているかもしれません!」 その言葉は、シャンゼリオンとヴィヴィオの数歩後ろにいた他の者たちにも聞こえただろう。 並んだ者たちも一斉に足を止めた。──今、戦ったヴィヴィオにしかわからない「予感」。 ユートピアをちらりと見るが、どちらの側もまだ攻撃を仕掛ける様子はない。彼としては、早々に“気づかれた”事も面白いのだろう……。 ヴィヴィオが続けた。 「……ううん。もっと、わかりやすく言うと──」 ヴィヴィオが“気づいた”──という事を感じ取り、ユートピアもまた、異形のまま、ニヤリと微笑んだ。 そう。ユートピアがベリアルウィルスによって得た、新しい能力たち。 その一つが今、戦闘時を目途に、開眼しているのだ。 確かにその切り札はまだ使用していないはずだが、しかし、ヴィヴィオたち魔導師には充分に感じ取れるものになった。 どれだけ消そうとしても匂う、その切り札の香り──。 「──」 ヴィヴィオが、口を開いた。 「あの人は今、私たちの世界の住人が持つはずの、『魔術』を持っています……!」 シャンゼリオンたちは、一斉にぎょっとした。 とりわけ、その中でも強い驚きを示しているのは、仮面ライダーダブルこと左翔太郎とフィリップである。加頭の正体はクオークスであり、NEVERであり、ドーパントであり……また、過去には仮面ライダーに変身したかもしれない。 しかし、彼は、「魔術」などという物を使った過去はなかったし、その素養は決して簡単に得られるものではなかった。そもそもが、その力の存在しない翔太郎たちの世界の人間がそれを短期間で会得できる可能性は極めて低い。 「……気づいたか」 ユートピアは淡々と言う。 「──教えてやろう。私は、参加者や私の仲間の持っていた力の残粒子を『コア』として凝縮し、ベリアルウィルスと共に注ぎ込まれた……。 つまり、ここに居た者たちの全ての技を使う事が出来るのだ……!!」 彼のこれまでの自信には、明確な根拠が伴っていたのである。 ユートピアドーパントがエクストリームと化した時、同時に備わった新たなる力。 それは──この殺し合いで現れた怪物たちと同様の力であった。 魔術に限らず、あらゆる技を運用する事ができる。 「そう──」 かつて、クオークス、NEVER、ドーパント、仮面ライダーの四つの力を全て得ていたように、加頭の身体には幾つかの悪の勢力と同様の力を発動する「コア」が埋め込まれている。 JUDOの力のコア。アマダムの力のコア。ラダムの力のコア。花の力のコア。魔術の力のコア。魔界の力のコア。……そんな無数の核が、理想郷の一部として体中にちりばめられたのだ。 そして、今、気づかれたと知れた時、ユートピアは、狼狽える目の前の敵に向けて、「実演」を行った。 「──たとえば、こんな風に」 右手を翳すユートピア。 周囲の大気が渦を巻き、そんなユートピアの右手に収束していく。右手の中に巨大な黒い塊が具現化され、その中に、今込めたエネルギーが全て包み込まれた。 ぐっと握りしめ、ユートピアは顔を少し上げた。 それが次の瞬間の彼の一声と共に解き放たれる。 「──ブラスターボルテッカ!」 叫びと共に、ユートピアの右手から発されたのは、テッカマンたちが使用した必殺の技──ボルテッカの強化版であった。 一つのエリアを焼き尽くす程の膨大なエネルギーを持つ ブラスターボルテッカが、今、ヴィヴィオたちの前に放たれる。 「何っ──!?」 轟音と共に──。 「くっ……!」 しかし、直前にレイジングハートが間一髪バリアを貼り、彼らの周囲だけは守られる。 それでもやはり、ユートピアの一撃は相当な威力で、レイジングハートへの負担は膨大だったに違いない。こんな多段的な攻撃を受けるのは初の事である。 「──っ!?」 爆風。 周囲の草木が一瞬で灰になり、それを見たキュアブロッサムが眉を顰めた。 仮にバリアを張られなければ、自分たちも無事では済まなかったに違いない。 「くっ……何て力だ……!」 仮面ライダーエターナルも、自身の身体を守っていたローブを下ろして、憮然とした表情でそれを見ていた。 ユートピアは、手をゆっくりと下ろし、続ける。 「──今のような技も、何のフィードバックもなく放つ事が出来るわけだ」 フィリップがそれを見て、息を飲んで言った。 『……つまり、あらゆる地球の記憶を全身に埋め込んでいるという事なんだ! 奴が使っているのは、正真正銘の……エクストリーム……!!』 「その通り!」 と、ユートピアの口調はどこか誇らし気であった。 胸を張り、理想郷の杖を右手に持ち替えた。それを目の前に並ぶ者たちへと向ける。 彼の持つのは、理想郷を修復する力だ。崩れ去る運命さえも、それを一瞬で巻き戻してしまう。即ち、自らの負うダメージもまた、一瞬で回復してしまうのだ。 ただでさえ無尽蔵なエネルギーを持つNEVERが、「攻撃を浴びせながら体力を回復する」という絶対の矛と盾を同時に得たのである。 ブラスターボルテッカに匹敵するエネルギーを放ったとしても、肉体が崩壊する前に肉体が再生してしまう──。 それが、彼の理想郷の力であった。 「いかに束になってかかろうとも、私に勝つ確率は、ゼロだ……!」 目の当りにした者たちは、呆然とした。 敵の強大さに恐れおののいたわけではない。 言うならば、ただ意表を突かれた事と、加えて、それがここで出会った者の技であったが故の忌避の念かもしれない。──しかし、甘く見てはならない相手であるのは間違いなかった。 「だが今のはほんの序の口……。 今度は本気で行くぞ……────ライトニングノア!」 ユートピアの次の掛け声は、明確に、目の前の敵たちを全て葬る為に口にされた物であった。 そう、それは、「埋葬」の為の一言だった。 ライトニングノアは、ウルトラマンノアがダークザギを宇宙で葬る際に使用したあの技である──あれさえも記録されているというのだろうか。 あれは間違いなく、この場で使われた最も強力な技に違いない。 ──瞬間。 もはや、回避の術さえもなく、ガイアセイバーズと呼ばれた戦士たちの姿が、ユートピアドーパントの放った光に飲み込まれていく。 純粋なエネルギーの塊が、敵の数に分裂し、それぞれ彼らの身体に向けて放たれた。 ライトニングノアに等しい攻撃が、全員の身体に頭上から突き刺すように直撃する。 「うわあああああッッ!!!!」 「ぐあっ……!!!!」 「きゃあっ!!!!」 ヒーローたちは、遠く、炎の底に沈められた。 彼らに向けて、一斉放射された幾つものライトニングノアの光。 回避運動に近い行為を出来たのは、ローブを持つ仮面ライダーエターナルくらいである。彼は、ローブに包める一人分の面積を、近くにいたキュアブロッサムの身体を包んで回避させる。 「くっ……!」 それと同時に──エターナルは、頭の中で実感する事が出来た。 敵の脅威を。 あのウルトラマンノアと同じ灼熱の一撃を、掌ひとつで再現できるという強敵の、恐ろしさを……。 よもや、それだけのエネルギーを無尽蔵に持ち合わせているなど、先ほどまではほぼ予想していなかった事態だ。 「──隠れても無駄だ……『トライアル』!」 そして、それは、更に、トリッキーな技さえも使えるという事であった。 ただの力技の砲撃や光線だけではなく──そのエネルギーは時空や光速、人間の近くさえも超越していく。 ウルトラマンノアやダークザギの力と同じように、ここにいた全ての仮面ライダーやドーパントたちの力も使えるのである。 助かった仮面ライダーエターナルに距離を縮めたのは、あの仮面ライダーアクセルトライアルの力である。──いや、もっといえば、ダークアクセルと呼ばれたあの石堀光彦の力を融合しているかもしれない。 「何っ……!?」 エターナルにも、ローブの効果によってメモリを無効化する事で視認出来たが──それは一瞬であった。 即座に、ローブの効果と“ベリアリウィルス”の効果が打消し合い、トライアルのスピードがエターナルに視認できなくなった。 「くそッ……!!」 目の前で消えたユートピアの姿に驚愕するエターナル。 あの超銀河王の効果さえ打ち消したローブの力が、無効化された──。 「どこに──」 どこだ……? 敵はどこにいる……? 俺を狙っているのだろう……? 「──ッ!」 疾走の一秒。 「……っ!!!!!!!!!!!!」 つぼみの声にならない悲鳴が聞こえたのは、エターナルの腕の中だった。 真下を見ると、エターナルローブの中に、もう一人分の影がある。 ──まさか。 「まさかっ……!!」 ユートピアが一瞬で距離を縮め、潜んだのは、エターナルのローブの、“内側”だったのである。 狙いは、エターナルとブロッサムだった。──それに気づいたのは、ユートピアが攻撃を始めるよりも、些か遅かった。 「なっ──!!」 仮面ライダーエターナル自身と、キュアブロッサムが潜んでいたローブの“内側”に、目くるめく“理想郷の杖”の炎の鉄槌が下される。 最早、炎のエネルギーが充填された今、回避の術はない。 このエターナル最大の防御壁こそが、同時に、絶対的に逃げ場のない檻となったのである──。 「──死ね!」 ──爆発。 エターナルローブの内側で、膨大なエネルギーが貯蓄され、「トライアル」の効果の終わりとともに炸裂する──。 装甲さえも黒く焦がす一撃。一つの部屋に閉じ込められたまま、殆どゼロ距離で核弾頭が光る事に等しい一撃であった。 それを受ければ、いかに変身した彼らでさえ、容易く耐えうる事が出来まい。 「──ぐあああああああああああああああ……ッッッ!!!!!!」 「──きゃああああああああああああああ……ッッッ!!!!!!」 これまでの戦いで、二人ともまだ出した事のない、巨大なダメージの悲鳴。 エターナルローブが衝撃のあまり、弾け飛び、空へと泳いでいく。 そこから吹き飛ばされたのは、変身が解けかねないほどの負傷をし、それぞればらばらに地面と激突する事になったエターナルとブロッサムである。 それはさながら、抱え込んだ花火が炸裂したかのような攻撃だっただろう。 ──迂闊であった。 「良牙……!!」 「つぼみ……!!」 ライトニングノアの一撃に倒れていた仲間たちが、手を伸ばしながら、彼ら二人の名を呼ぶ。 辛うじて、良牙もつぼみも生きているようだが、一瞬、彼らの命を本気で心配した程であった。 それによって、「黄金」の力が思った以上であるのを実感する──勿論、この力がなければ死んでいただろう──が、それでも、二人が極大なダメージを受けもだえ苦しんでいるのは事実に違いない。 死者たちが齎した思念はそれだけ強いという事だった。 誰より実感しているのは──魔戒騎士たる涼邑零だっただろう。 「──」 そして──敵が今、エターナルローブの力さえも打ち消す、自らに等しい力を持っているという事も、彼らはすぐに理解できた。 安心できる暇などなかった。 「……見たか」 ──見れば、爆心地で、ユートピアは悠々と立ち構えていた。 理想郷の杖を後ろ手に構えて、背を曲げる事なく立っているユートピアには、ダメージを受けた様子もまるでない。 いや、それも、彼は──瞬時に回復する事が出来るのだ。 自爆技でさえ彼にとってはほとんど意味のない話である。 それ故に、ユートピアは確かに、最強の「魔王」としてその場に君臨していた。 「この体にコアがある限り、お前たちは私には勝てない……! 諦めるんだな……!」 絶対的な自信とともに、ユートピアが、宣言する。 まるで、自分だけにスポットライトが当たっているつもりのように、高らかに。 喝采が返ってくるはずもない。彼が望む喝采は、ただ一人からの物だ。有象無象の拍手など何の意味も成さない。 「……くっ!」 しかし、挑発的にそう言われた時に、先ほどまで地面に伏していた誰もが、立ち上がろうとした。 今しがた、攻撃を受けたばかりのエターナルとブロッサムもだ。 (諦めるわけがない……!) 諦めろ──と。 その一言を聞いた時、彼らの中で、目の前の敵への対処法が生まれたのだ。 そう、これまで自分たちがどうやって勝ち抜いてきたのか──その理由を反芻する。 『────諦めるな!』 ──どんな相手を前にしても、誰も諦観などしなかった事だ。 「……だったら……要するにコアをぶちのめせばいいんだろ……!?」 「攻略法としては、簡単だな……! さっさと倒しちまおう……!!」 ダブルとエターナルが、歯を食いしばりながら告げた。 それからは、彼らのみならず、誰もそれから、ユートピアの脅威を前にも唾一つ飲み込む様子がなかった。 全員が立ち上がっていた。 ユートピアの能力は、本来ならば絶対的に相手にしたくないような能力に違いない。力の強さもわかっている。彼に攻撃された時の痛みも、反射的にユートピアを避けたくなる程に染みているはずだ。 確かに、一人一人の力で勝てる相手ではないかもしれない……。 しかしながら、こう言われた時、彼らにはそれと同等の力を得たという確証があったのである。──それは、理屈の上にはない物だった。 彼らの力を受けたユートピアと違い、自分たちは彼らの想いを受け継いでいる。 ──そうだ。 彼らにとっての脅威はベリアルだ。 この虚栄に満ちた門番ではないのだ。 「──っ!!」 ……誰より先に、構えて前に出たのは、先ほどと同じく、高町ヴィヴィオという一人の格闘少女だった。 ◆ 時系列順で読む Back 変身─ファイナルミッション─(1)Next 変身─ファイナルミッション─(3) 投下順で読む Back 変身─ファイナルミッション─(1)Next 変身─ファイナルミッション─(3) Back 変身─ファイナルミッション─(1) 左翔太郎 Next 変身─ファイナルミッション─(3) Back 変身─ファイナルミッション─(1) 花咲つぼみ Next 変身─ファイナルミッション─(3) Back 変身─ファイナルミッション─(1) 佐倉杏子 Next 変身─ファイナルミッション─(3) Back 変身─ファイナルミッション─(1) 高町ヴィヴィオ Next 変身─ファイナルミッション─(3) Back 変身─ファイナルミッション─(1) レイジングハート Next 変身─ファイナルミッション─(3) Back 変身─ファイナルミッション─(1) 涼村暁 Next 変身─ファイナルミッション─(3) Back 変身─ファイナルミッション─(1) 響良牙 Next 変身─ファイナルミッション─(3) Back 変身─ファイナルミッション─(1) 涼邑零 Next 変身─ファイナルミッション─(3) Back 変身─ファイナルミッション─(1) 蒼乃美希 Next 変身─ファイナルミッション─(3) Back 変身─ファイナルミッション─(1) ウルトラマンゼロ Next 変身─ファイナルミッション─(3) Back 変身─ファイナルミッション─(1) 孤門一輝 Next 変身─ファイナルミッション─(3) Back 変身─ファイナルミッション─(1) 血祭ドウコク Next 変身─ファイナルミッション─(3) Back 変身─ファイナルミッション─(1) 外道シンケンレッド Next 変身─ファイナルミッション─(3) Back 変身─ファイナルミッション─(1) 加頭順 Next 変身─ファイナルミッション─(3) Back 変身─ファイナルミッション─(1) カイザーベリアル Next 変身─ファイナルミッション─(3)
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仮面ライダーSPIRITSの変身後データ 【仮面ライダー新1号】 【仮面ライダー新2号】 【ライダーマン】 【仮面ライダースーパー1】 【仮面ライダーZX】 【タイガーロイド】 【ヤマアラシロイド】 仮面ライダー新1号 本編での主な変身者は本郷猛。 変身時の掛け声は「ライダー、変身!トウ!」。 身長180cm。体重75kg。 パンチ力60t。キック力90t。ジャンプ力ひと跳び25m(資料によっては35m)。100mを1.5秒で走る。 人間の40倍の聴力を持ち、周囲4kmの音を聞き取る。人間より広い視界を持ち、暗闇でも日中のように活動できる暗視能力やズーム機能も備えられている。 皮膚は数千度の高熱にも耐えることができ、アンテナはあらゆる電波や音波を捉える。鋼鉄をかみ砕くクラッシャーも持つ。 仮面ライダー1号が再改造手術を受けてパワーアップした姿であり、変身ポーズを使っての変身は実は新1号になってから採用されたものである(ただし、2号は最初から変身ポーズを使い、劇場版に限り旧1号が変身ポーズを使ってるシーンも存在)。 また、改造人間同士はテレパシー通信ができるため、2号、ライダーマン、スーパー1、ZXと通信可能(ライダーマンは改造人間ではないが、SPIRITSでは通信している描写がある)。 ライダーパワー 側面にあるパワースイッチを操作することで一瞬だけパワーを最大値まで引き上げる。 ライダーパンチ 仮面ライダーの腕から放たれるパンチ。60tの威力を持ち、直径1mの木を真っ二つにする。 ライダーキック 高く跳躍した後、空中回転し強力なキックを放ちながら敵へと落下するライダーの代表的な技。 ライダーチョップ 直径10cmの鋼鉄の棒も破壊できるチョップ(※旧1号時代のスペック)。 ライダー返し 向かってきた敵を両手で抱えてジャンプし、空中で回転させてから投げ落とす技。 ライダー投げ 敵を背後から抱えて空中へジャンプし、高所から地面にたたきつける技。 ライダーシザース 空中にいる敵に対して使用する技。両足で相手の首を挟み、1回転して地面にたたきつける。 サイクロンクラッシャー または サイクロンアタック 加速したサイクロンでジャンプし、飛行する相手へと体当たりする技。サイクロン号が必要。 電光ライダーキック 通常のライダーキックのエネルギーを二倍に強化した必殺キック。キックの瞬間に放電する。新1号の姿で使用したのはSPIRITSのみ。 ライダーヘッドクラッシャー ライダーシザースのように怪人の頭を両膝ではさみ、空中から加速をつけて地面にたたきつける技。 ライダーハンマー 敵の両足首をつかみ、振り回して投げる技。要するにジャイアントスイング。 ライダー反転キック ジャンプ中に壁などをけり、方向を変えて放つライダーキック。威力が倍増する。 ライダー稲妻キック ライダー反転キックを応用し、周囲の壁を繰り返し蹴って稲妻のような軌道を描いて敵を蹴る技。 ライダーきりもみシュート 敵を抱えてジャンプし、空中で高速回転させて真空をつくり、酸欠にして投げ飛ばす技。 ライダーニーブロック 上空へ投げた敵怪人めがけてジャンプし、落下する脇腹に膝蹴りを決める技。 ライダーフライングチョップ 上空へ蹴り上げた敵が落下してくるところにジャンプして両手の手刀を叩き込む技。 ライダー月面キック 空高くジャンプして月面宙返りから放つライダーキック。 ライダーハンマーキック ライダーシュクリューキックとライダー返しを組み合わせた技。 ライダーポイントキック 敵の弱点だけをピンポイントに蹴るライダーキック。 2号、ZXとの合体技 ライダーダブルキック または ダブルライダーキック 2号と一緒に放つライダーキック。SPIRITSではZXとの合体技でもある。 ライダー車輪 ショッカーライダーに使用した技で、複数の敵でなければ無意味。SPIRITSではZXとともに使用。 2号とともに敵の周りを高速回転し、あるタイミングで中央に向かって同時にジャンプ。自分たちは直前で互いを回避し、一斉にジャンプしたショッカーライダーたちを互いに激突させ自壊させる技。 ライダーダブルチョップ 2号と一緒に放つライダーチョップ。 ライダー全エネルギー放出 2号と腕をクロスさせ、全エネルギーを放出し、空を飛ぶ技。あれ、スカイライダーさ(ry 仮面ライダー新2号 本編での主な変身者は一文字隼人。 変身時の掛け声は「ライダー、変身!トウ!」。 身長172cm。体重65kg。 パンチ力75t。キック力90t。ジャンプ力ひと跳び35m (資料によっては25m)。100mを2秒で走る。 人間の40倍の聴力を持ち、周囲4kmの音を聞き取る。人間より広い視界を持ち、暗闇でも日中のように活動できる暗視能力やズーム機能も備えられている。 皮膚は数千度の高熱にも耐えることができ、アンテナはあらゆる電波や音波を捉える。鋼鉄をかみ砕くクラッシャーも持つ。 仮面ライダー2号が南米で特訓を重ねてパワーアップした姿。 また、改造人間同士はテレパシー通信ができるため、1号、ライダーマン、スーパー1、ZXと通信可能(ライダーマンは改造人間ではないが、SPIRITSでは通信している描写がある)。 ライダーパワー 側面にあるパワースイッチを操作することで一瞬だけパワーを最大値まで引き上げる。 ライダーパンチ 仮面ライダーの腕から超怪力のパンチ。ストレート、アッパー、フックなど殴り方は様々 ライダーキック 高く跳躍した後、空中回転し強力なキックを放ちながら敵へと落下するライダーの代表的な技。 ライダーチョップ 直径10cmの鋼鉄の棒も破壊できるチョップ(※旧1号時代のスペック)。 ライダー返し 向かってきた敵を両手で抱えてジャンプし、空中で回転させてから投げ落とす技。 ライダー卍キック 空中でスクリュー回転し、ひねりをくわえて威力を増したライダーキック。 ライダー回転キック 空中前転の回数を増やすことでより強力になったライダーキック。 ライダー二段返し 敵を抱え込んでジャンプし、空中で一回転させてから地面にたたきつける。 ライダーきりもみシュート 敵を抱えてジャンプし、空中で高速回転させて真空をつくり、酸欠にして投げ飛ばす技。 ライダー反転スクリュー返し 高速できりもみ回転を行い、体の障害物を取り除く技。 1号との合体技 上記の【仮面ライダー新1号】参照。 ライダーマン 本編での主な変身者は結城丈二。 変身時の掛け声は「ヤァッ!」。変身終了後の掛け声が「トォッ」(これを言う回は少な目)。 身長175cm。体重70kg。 パンチ力5t。キック力10t。ジャンプ力ひと跳び20m。100mを2秒で走る。 ヘルメットにはコンピュータが内臓されており、知覚装置からの情報を高速で処理する。 視覚は赤外線から紫外線まで、あらゆる波長を捉えるカメラアイと、映像を網膜に投影するマイクロディスプレイを内蔵し、暗視、透視ができ、弾丸も止まって見える。 強化スーツの人工細胞により、深度500mの水中でも10分間以上の活動ができ、防弾機能も有する。アンテナはあらゆる電波をキャッチできる。 ただし、改造人間ではないので、パワーは成人男性の6倍程度であり、単純な能力はライダーたちはもちろん、怪人にも劣る。 結城丈二がヘルメットを被り、同時に装着される特殊な強化スーツをまとった姿。主に右腕のアタッチメントを使い敵と戦う。 改造人間とテレパシー通信できる能力も持っている(SPIRITSでのみの設定)。 カセットアームが支給品扱いなので、アタッチメントに関しては支給品一覧を参照。 仮面ライダースーパー1 本編での主な変身者は沖一也。 変身時の掛け声は「変身!」。 身長185cm。体重80kg。 パンチ力300t。キック力は不明(重力低減装置使用時は無限)。ジャンプ力はひと跳び100m(重力制御装置使用時は無限)。 視覚はハチの目の形をした複眼構造。複数の対象に同時に焦点を合わせることができ、望遠鏡や顕微鏡にもなる。さらには、X線や赤外線によって透視や暗視も可能で、サーチライトになる。 宇宙空間での活動を可能とするため、外界から身を守る働きはもちろん、体内の熱を排出して体温を一定に保つこともできる。空気のない状態でも1か月の活動が可能である。 アンテナはあらゆる電波をキャッチし、本来は惑星開発のための通信用アンテナ。 常人の1000倍のパワーの持ち主で、ファイブハンドを使うことでさらに強くなる。 尚、SPIRITSによると鍛えればさらに強くなるとの事(ライダーは総じてそうだが…)。 沖一也が惑星開発用の改造人間として志願した姿。ファイブハンドという腕を付け替えて戦う。 最強と謳われるクウガアルティメットやダグバでさえパンチ力は80tであるにも関わらず、彼はパワーハンド使用時に500tという怪力を持つため、最強議論ではたびたび名前が挙がる。 しかし、一方でチェックマシーンを使って定期的に「メンテナンス」を行わなければならないという欠点も持ち、SPIRITSではそれを怠ったのが原因で変身不能になっている。 スーパーライダー月面キック 空中で月面宙返りをして相手に叩き込むキック。 3回宙返りする、「スーパーライダー月面宙返りキック」という技まである。 スーパーライダー稲妻落とし スーパー1の体が何体にも分かれた後(拳法の成果と思われる…)、稲妻のようにキックする。 スーパーライダー日輪キック、スーパーライダー十字回転キック、スーパーライダー反転三段キック、スーパーライダー閃光キック、スーパーライダー梅花二段蹴り、スーパーライダー空中殺法四段旋風蹴り 仮面ライダースーパー1のキックの種類はかなり豊富である。気が遠くなるので、全部説明できる人いたらお願いします。 スーパーライダー諸手頸動脈打ち または 赤心拳諸手打ち 敵の首元に両側から両手で手刀打ちを浴びせる赤心少林拳の技。パンチ力300tの男が使うので洒落にならない。 パワーハンド 赤いファイブハンド。パンチ力500tの怪力を発する(ただでさえ怪力な気が…)。落下してくる50tの物体を受け止めて軽々と投げ返す。 エレキハンド 青いファイブハンド。3億ボルトの電圧を発生させる。遠隔攻撃も可能。 冷熱ハンド 緑のファイブハンド。右手からは鉄をも溶かす超高温の火炎、左手からは敵を瞬時に凍らせる冷凍ガスを発射。左右同時発射も可能。 レーダーハンド 金色のファイブハンド。ロケット型のレーダーアイを飛ばして半径10km以内の情報をキャッチする。レーダーアイは小型ミサイル弾にもなる。 仮面ライダーZX 本編での主な変身者は村雨良。 変身時の掛け声は「変身!」だが、参戦時期ではまだこの掛け声を使っていない。 身長188cm。体重78kg。 パンチ力60t。キック力66t。ジャンプ力ひと跳び90m。100mを0.6秒で走る。 視覚は多面体の複眼構造を持ち、多方面からの対象の動きを捉えて立体的な情報を贈る。赤外線、X線も認識し、敵の動きやスピードを一瞬で分析するほか、望遠鏡や顕微鏡の働きもする。 アンテナは超短波から超長波まであらゆる電波をキャッチし、地球の裏側とも交信でき、レーダーとしても機能して専用マシンのヘルダイバーをコントロールする。 マスクは有毒ガスなどの有害物質が体内に侵入するのを防ぐエアフィルターの役割を持つ。 かかとについているジェットエンジンによって、空も飛べる。そりゃ出番もなくなるわ筑波さん…。 自己再生能力も高く、敵から受けたダメージを一瞬で回復した。 村雨良がBADANによって改造された、脳以外の99%を改造されたパーフェクトサイボーグ。 SPIRITSでは、JUDOが世界に蘇るために器として作られた存在であるとされる。 村雨良としての記憶を留めたメモリキューブをゼクロスベルトにはめ込むことで、JUDOの復活を抑えることができるが、本作ではまだはめ込まれていない時期からの参戦である(メモリキューブ自体は支給されている)。 スペック上はスーパー1に劣っているように見えるが、SPIRITSでは最強扱いである。 衝撃集中爆弾 ひざに装備されている爆弾で、取り外して使用する。ZXの指令波によって爆発するため、威力やタイミングもコントロール可能。壁を破壊するときも、中の人間を傷つけずに破壊することができる。 マイクロチェーン 両手首に装備されている20mのチェーン(SPIRITSでは明らかにそれ以上伸びている)。先端にカギ爪のある分銅がついており、1tのものを持ち上げることもできる。さらには、5万ボルトの高圧電流を流すこともできる。 電磁ナイフ 左太腿部に装備されている電磁ナイフ。電磁波によって高熱化されており、どんな金属でも切断する。電磁波によって、飛来する銃弾の軌道を変えることもできる。 十字手裏剣 ひじの半球型の部分を取り外すことで変身できる手裏剣。ダイヤモンドよりも硬く、1km先の目標にも命中させられる。テレビSP版では爆弾にもなった。 虚像投影装置 ベルトのバックル部に内蔵されている装置で、自分の立体映像を映し出して敵の目を欺く。 レーダー錯覚煙幕 上腕部及び大腿部の黒い部分につけられた煙幕発射装置から繰り出される磁気を帯びた煙幕。 ZXキック 変身ポーズと同じポーズの後に繰り出される必殺キック。 ZXイナズマキック 空中から急降下して放つZXの必殺技。戦車も一撃で破壊する。 ZXパンチ 鉄骨をもへし折る必殺パンチ。 ライダーきりもみシュート SPIRITS限定の技。1号の技を見てラーニングした。 ZX穿孔キック SPIRITS限定の技。ただし、参戦時期的には使用できない(本編でも特訓によって生み出した)。 怪人を抱えずにきりもみシュートを行い、渦に巻き込まれた怪人たちをZXキックで同時に撃破する。 ZXかげろう崩し SPIRITS限定の技。参戦時期的には使用していないが、おそらく自分の技の応用で可能。 虚像投影装置で分身し、敵を混乱させた後、分身の間から駆け抜けて電磁ナイフで敵を切り裂く。 1号との合体技 上記の【仮面ライダー新1号】参照。 ライダーシンドローム 10人ライダーの合体技であるため、本作では使用不可能。 タイガーロイド 本編での主な変身者は三影英介。 身長不明。体重不明。 ZX本編とは違い、全身の毛が真っ白になっているが、虎の怪人。 全身の至るところから銃器を生やすことができる能力を有し、砲撃時に前かがみになる必要もない。 大砲に限らず、マシンガンなど様々な武器を体内から抽出して敵に発射するが、長時間の戦闘ができず、肉体が崩壊するなどの欠点がある。 ヤマアラシロイド 本編での主な変身者はニードル。 身長不明。体重不明。 BADANのヤマアラシの怪人。 全身に鉄板をも貫く硬さの営利な針を生やしており、原点の「仮面ライダーZX」では吸血した人間の血を怪人に送っていた。 また、針に見立てた槍も持っており、これは先端がギザギザで一度突き刺さったら完全に刺し貫くまで外れない(外す時に強烈な痛みが襲う)。 人間体でも髪の毛を針にして敵を突き刺し、ツボに刺して麻痺・痛めつけることができるほか、怪人を再生させたり怪獣化させたりしている。
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変身─ファイナルミッション─(9) ◆gry038wOvE 「──……おばあちゃん、それって、やっぱり失恋だったんですか?」 「──ええ……二度ある事は、三度あるものよ。 これが、私の三度目の失恋だったわ……。 そして、これは、それまでで一番の失恋だったかもしれないわね」 「……」 「──そう。やっぱり。あなたも、今日失恋したのね?」 「……はい」 「……大丈夫よ。私も、おじいさんと出会って、今ではこんなに素敵な孫が出来たわ。 失恋は、人を強くするものよ。……それにね、私と良牙さんとは、今もこれからも、ずっと友達なの」 「──でも、良牙さんって……」 「ううん、あの人は、きっとね、今も迷子になっているだけよ」 「……そうなんですか?」 「ええ。あなたもまた新しい恋をなさい。でも、あなたのその想いは、ずっと忘れてはだめよ。 人を愛する事は、罪ではない……とても素敵な事だからね」 ◆ 「──ここは」 彼らの前には、絶えず続く真っ白な光の空間があった。 まるで生まれる前にいた場所のイメージとして──あるいは死んだ後に行きつく場所として度々出るような、そんな場所だった。 しかし、彼らはウルトラマンとの同化の際も、頭の中に漠然とこんな場所が浮かんでいた。 だからか、彼らは全く違和感なく、そこがどんな場所なのかすぐに悟る事が出来たのだ。 「ウルトラマン……!」 そして、目の前には、あのウルトラマンノアがいた。 それどころか、あの殺し合いに生き残った全員がその場に林立していた。──響良牙だけは、その場にいなかった。 誰しもがきょろきょろとお互いを見合っている。 その後、誰かが言った。 「ノアがあの爆発の直前に僕たちを移動させたんだ」 ──ここは、ウルトラマンノアが彼らの肉体を運んでいる精神空間だ。 しかし、それでもそれぞれを元の世界に向けて運んでいる。これを「ノアの箱舟」などと名付けるのは、少々センスの枯れた発想であるかもしれない。 「そうか……ありがとう、ノア」 それを口にしたのは、ウルトラマンと同じ世界からやって来た孤門一輝であった。 長い間、デュナミストとウルトラマンを見守り、そして、僅かな間だけウルトラマンと同化して来た孤門──。 この時、どうやら自分が既にウルトラマンノアとは分離しているらしい事に、孤門は気づいていた。──そう、もう、それぞれがただの人間として独立しているのだ。 だが、人間だけの力でどこまでやれるのかは、良牙が教えてくれた。 ここにいる人間たちの多くは、既に変身エネルギーを使い果たしてしまった故に、変身する事が出来なくなっている──が。 それでも、まだ、自分たちは、ウルトラマンとして、仮面ライダーとして、プリキュアとして……それぞれの意志だけは捨てずに、戦っていける。 そんな感慨を抱いていた孤門だが、大事な事を言い忘れていたのを思い出して、視線を少し上げてから、言った。 「……長い戦いは終わりを告げたんだ。──僕達の勝利だよ」 それは、孤門が隊長として真っ先に言わねばならない言葉であると同時に、歓声を上げるには少しばかり空気が盛り上がらない一言だった。 他ならぬ良牙が、ベリアルと相打ちし、ただ一人の犠牲者となった事実を、夢だと思っている人間はこの場にはいまい。 「──」 そう。──良牙は、もうこの場にはいない。 勝利はしたが、それと同時に、大事な仲間が一人失われたのである……。 「──……勝利、か」 それは、隊長としての冷徹にも聞こえる「報告」であったが、実のところ、孤門らしい感情も籠っていた。 だから、誰もがそれを察して、素直に喜ぶムードになれなかったとも言える。 特に──ここにいる、花咲つぼみはそうだった。 「……良牙さん」 まだ少し暗い表情で、つぼみはそう呟いた。 名前を呼んでも、ここには響良牙は現れない。──そう、彼だけは、まだ生還者が集うこの場所に辿り着かないのである。 彼は、あのアースラの中でもそうだった。 ミーティングに集まろうとすると、彼一人だけはどうしても迷子になってしまうので、つぼみが付き添わなければ、良牙が欠けた状態でミーティングをする事になるのだ。 「良牙……あいつは……クソッ……なんであんな事……!」 翔太郎や、ここにいる者たち全員が、良牙がもういないという事実に、打ちひしがれていた。 折角、こうして出撃前とほぼ同じメンバーが揃っているというのに、この場にはただ一人、彼だけが揃わない。──全員で帰る、とそう思っていたのに。 だが、彼がいなければ、ここにいる誰も帰る事が出来なかったのもまた事実だろう。 それでも、自分の命を犠牲に散った彼の事をどこかで責めずにはいられない。そんな感情の矛盾から、どうすれば逃れる事が出来るのか──その術を彼らは探した。 「……」 そんな静寂の時、つぼみは、それを断ち切るように、おもむろに口を開いた。 「……大丈夫、ですよ」 顔を上げないまま、彼女が一番、「大丈夫ではない」様子で、それでも、言葉を振り絞るようにして、ただ一言言った。 「……良牙さんは、きっと生きてると思います」 それは、何かの根拠があっての物ではない。 ただ、言ってみるならば、「信じたい」とそれだけの想いで口にした……そんな言葉であった。 だからか、震えた唇はそこから先、彼女が告げたい事を告げさせてはくれなかった。 きっと、どこかで生きていると──信じたいのだが。 「きっと……きっと……」 「つぼみ……無理しないで」 そんなつぼみの背を、美希が撫ぜた。 同じプリキュアであり、変身ロワイアル以前にも、共に戦った事もある。そして、同じ年頃だった美希だから真っ先にこうして彼女を支える事が出来たのだろう。 「泣きたい時は、泣けばいいのよ。 私だって、これまでの事……簡単に割り切れないんだから……」 そんな美希の言葉を聞いた時、つぼみの脳裏には、いつか良牙と二人で涙を流した時の事が浮かんでいた。 だから、──自分が良牙に言った事と、全く同じ事を美希の口から告げられ、そして、その言葉を良牙がどう感じたのか悟り……泣いた。 ただ、今、涙を流すのは、あの時と違ってつぼみだけだった。 「……」 つぼみ以外は、この場にいる者は泣いてはならない気がした。──つぼみ以上に良牙の死を悲しんでいる者はいないのだから。 それでも……良牙という、クールなようでただのバカだった男はもういないと思うと、誰もが涙が溢れそうになった。 きっと、先に、友や、かつて愛しく思った人たちの所へ行ってしまったのだろう。 不幸にも、生きている仲間たちや想い人を、この世に残しながら……。 「……」 翔太郎が、自らの顔を隠すように帽子を直して、それから少しして、つぼみに向けて言った。 「──……なあ、つぼみ。俺にも、さっき、加頭に言われた事の答えが出たんだ。 誰かを愛する事ってのは、絶対に罪じゃない……きっと、あいつの歪んだ愛も。 そして、ずっと……自分を守ってくれた人を想う、純粋な気持ちも」 愛。──最後にベリアルに完全な王手をかけたのは、その見えない概念だった。 確かに、その直前、加頭順との戦いで、彼の愛情を打ち破って勝利した彼らであったが、しかし、最後にはそれと同じ感情に助けられたわけだ。 「……なんかさ、愛っていいじゃねえか」 加頭の罪は、誰かを愛した事ではない。 それだけならば、何と素晴らしい事か──翔太郎は、この戦いの最後に、それを深く実感し……もし、加頭でさえも救えたなら、と僅かな後悔を芽吹かせた。 彼女たちなら、確かに、それが出来たかもしれない。 「良牙くんがベリアルを救えたのも、きっと、きみの純粋な愛情があったお陰だよ。 誰かを愛するって事は、……やっぱり、何より、素晴らしい事だと思う」 「今は、その強い力でこれからあいつの為に何が出来るのか、考える事にしようぜ。 ……何せ、きみならそれも出来そうだしさ」 かつて、愛した者を喪った孤門と零は、そう付け加えた。 この戦いの幕を閉ざした良牙の一撃には、確かに、つぼみの力が必要だった。 あれは、彼女の想いが勝ち取った終幕なのだ。 「みなさん……」 つぼみは、涙を拭き、そして、この時に、ある決意を胸に抱く事になる。 それは、後に、花咲つぼみが大人になった時にまで、在りつづける想いと夢だ。──そこに向かって、彼女はいつまでも惜しまぬ努力を続けるだろう。 「……私、やっぱり、あれだけの事で良牙さんが死んでしまったなんて思っていません。 あの人は、誰より強いし、約束を破る人じゃないから……だから……」 そう、彼女もまた、この殺し合いを通じて変わっていった。 「いつか、また、あの世界に行く方法を探して──良牙さんを、きっと見つけます。 それで……あかりさんのもとに、必ず届けます」 だから、泣いてもいいのだ。また笑顔に変える事ができるのなら……。 彼女は、自らの涙さえも、笑顔へと変えながら、言葉を噤んだ。 「それに……ああして、悲惨な殺し合いが起こった場所にも、たくさんの花が咲いてほしいから、私は──きっと、戦いがあったあの場所に、いつかまた……」 ──彼女には、夢が出来た。 良牙があの世界に、本当にまだ生き続けているのかはわからない。 それでも、まだあの世界にやり残した事は、たくさんあるのだ……。 「そう。だから……私、決めました。────私、幾つもの世界を渡る植物学者になります!! 暗い世界が幾つあるとしても、そこに悲しみのない未来を築いて……そして、世界中に笑顔の花が咲くように!!」 「出来るわよ。……だって、私たち──こんなに完璧に、世界を救ったんだから!!」 ◆ 【その後】 ……そして、花咲つぼみは、これより後、本当に有名な植物学者になったと言われる。 元の世界に帰った後、「変身ロワイアルの世界」と外世界を繋ぐゲートは完全に閉ざし、その座標を見つける研究は困難を極めた。まるで全ては幻だったかのように、あの島に辿り着く術は消えてしまったのである。 だが、つぼみもその後は粘り強く研究を続け、後には元の世界で男性と結婚している。それにより、花咲という名前は改姓し、その後は別の名前になっているが、やはり花咲の名前の方が多くの人の心に残っているようだ。 そして、彼女の祖母、薫子と並び、長らく植物学の第一人者として有名になった彼女は、幾つかの惑星や、植物の無かった世界にも、新しい命を授けた功績で、ノーベル賞を受賞している。 ◆ 「……──そうだね。僕も、みんなには、そうして笑っていてほしい」 ふと、光の中から現れたのは、フィリップであった。 先ほど、ノアがここに運んでくれた事を彼らに説明したのもまた、変身解除と共に消えたはずの──フィリップである。 だが、誰も今、その姿を見て驚きはしなかった。 変身解除とともに消えてしまった彼の事は、ふとどこかへ姿を眩ましたような……ただそれだけのような気がしていたからだ。 しかし、今、ようやく実感としてここに現れるのだ。 「やっぱり、ここにいるみんなには、笑顔の方が似合っているね」 「フィリップ……」 「僕達……ガイアセイバーズは、カイザーベリアルに勝利した。だから──」 そう──。 「──だから、僕とは、ここで、お別れだ」 彼が、こうして現れたのは、また、言えなかったお別れを言いに来ただけに過ぎない事なのだという、実感として。 フィリップと共に戦えるのは、最終決戦の間のみだった。それが終わり、かつてのように変身が解除されれば、フィリップとは本当の別れの時が来る。 こうしてフィリップがここにいるのは、ここが、フィリップが同化して戦ったノアの中だからだ。──闇の欠片に再現された彼の思念が、辛うじてこの場に少し残っていたという事なのだろう。 「ウルトラマンの中に残っていた僕の思念も、もう消えてしまう。 この戦いで散った者は、遂に本当の死者になるんだ……」 フィリップ、そして、涼村暁……この戦いの終わりと共に、消えねばならない者たちが、良牙だけではなく、まだこの場にいる──そんな悲しい事実があった。 彼らは、最後まで世界を救った。 その代償は、その身の消滅だ。自ら消滅に向けてアクセルを踏み、命を燃やし尽くした彼らの最後を、誰も止める事は出来ない。 フィリップもまた、その宿命を受け入れていた。 「フィリップ……」 翔太郎が、暗い面持ちを帽子の中に隠し、フィリップの方を見ないようにそう告げた。 翔太郎とフィリップとの間には、何人かの仲間が遮ってしまっている。──彼らは、ゆっくりと二人の間を開けようとした。 「……君とは、何度か別れた事があるけど……やっぱり、君はいつも泣いているね」 だが、フィリップは、今決して、目の前にいるわけでもない左翔太郎の表情をぴたりと言い当てる。──それは、彼が探偵だからというわけではない。誰でもわかる事だった。 かつて、ユートピア・ドーパントとの決戦に際して、もう会えなくなったはずのフィリップ──今は、肉体もなくなり、精神だけが残っていたが、それも遂に消えてしまう。 データとの同化ではなく、本当の死。 翔太郎は、クールに振る舞うのをやめ、帽子の中に隠していた崩れた表情をフィリップに向けた。 「ああ、そうだよ!! 泣かねえわけねえだろ……! 何度だって……お前との別れになんて、慣れるはずがないだろ……クソッ……!!」 ──だが、フィリップはそんな翔太郎の姿を見ない。 このままいつまでも二人では、いられない。 それが、翔太郎の目指す物──「ハードボイルド」とは、全く裏腹な物なのだから。 もう二度と、戦う翔太郎の前にフィリップが現れる事はないだろう。──フィリップ自身が、それをもう望まないのかもしれない。 しかし、彼が一人で戦い続ける姿を──たいせつな「相棒」の活躍を、フィリップはこれからも見守っていくに違いない。 「……そんなんじゃ……いつまでも、ハーフボイルドのままだよ……翔太郎」 ──そう言うフィリップは、「ハードボイルド」だった。 その名前も、高名なハードボイルド作家レイモンド・チャンドラーの傑作が生みだした名探偵フィリップ・マーロウに由来する。 だから、涙を流す翔太郎を少し笑いながら、彼より少し、大人に、ハードボイルドに去ろうとするのだ……。 「……じゃあ、杏子ちゃん、みんな。」 彼が成長し続ける為に……。 少しは、冷たく見えてしまうかもしれないが……。 フィリップが、翔太郎の泣き顔を振り返る事はなかった。 「……こんな奴だけど、これからも翔太郎をよろしく」 そして、フィリップの後ろ姿から告げられるそんな願い。 彼は、ただゆっくりと光の向こうへと、歩み進んでいく。 彼はもう、有るべき場所に帰ってしまうのだろうか。 「──なあ。よろしくされるのは良いけどさ」 ──だが、ふと、その前に。 「フィリップの兄ちゃん……一つだけ、いいか?」 杏子が、フィリップの背中に向けて、一言だけ告げようとした。 このまま返す訳にはいかない、と思ったからではない。彼女には、フィリップに対する大事な用事があったからである。 一言、どうしてもフィリップに……そして、翔太郎にも言わなければならない事がある。 去ってしまうのは仕方ないかもしれないが、その前に一つだけ、フィリップに言ってやりたい言葉があったのだ。 杏子は、右手の人差し指と親指だけ伸ばし、ピストルのようなポーズを取り、ウインクしながら──フィリップに言った。 「────泣いている奴をからかっていいのは、泣いていない奴だけだぜ?」 杏子は、今決して、こちらを見ているわけでもないフィリップの表情をぴたりと言い当てた。 そんな杏子の言葉は、どこか、ハードボイルド探偵に似ている。 それを聞いたフィリップも、思わず、少し振り返って、赤い顔を見せ、そんな杏子の言葉に笑ってしまう。 「ふっ……。そうだね、結局──」 フィリップは、身体データの残留から洩れた涙を、手で拭った。 ハードボイルド探偵の名前を受け継いでいるとはいえ、フィリップも同じか。 翔太郎も、フィリップも、ハーフボイルドだった。──お互い、どれだけ恰好をつけようとも。 「僕達よりも、君が一番ハードボイルドかもね……──はは」 少しだけ、去り際の空気が湧いた。 誰かが、フィリップを優しく笑った。そして、半泣きの翔太郎とフィリップも含め、全員が、この杏子の尤もな指摘に笑顔を見せた。 「はははははははははははっ!!!」 「はははははははははははっ!!!」 悲しい筈だというのに、笑いがこみあげた。 余裕があるように見えて、実のところ、そうでもないフィリップの姿が、少しおかしかったのだ。 人が消えるというよりも、まるで卒業式で涙を見せる同級生をからかうような、笑みと涙の混ざり合った雰囲気が流れた。 翔太郎も、つられて笑い、先ほどまでの涙が嘘のように笑って、フィリップに言った。 「──……ああ。……またな、相棒!」 フィリップも微笑み返した。 それが、フィリップの最後に聞いた、相棒の声だった。 また会えるかはわからない。翔太郎がいつ、死んでしまうのかも、今のフィリップにはまだわからない。 しかし、きっと彼はあの街の風の中で──。 「……うん。もう行くよ。翔太郎ならきっと、しばらくは大丈夫さ」 フィリップの行く先には、ウルトラマンノアの巨体と、彼らの多くが初めて見る事になった“円環の理”の姿があった。 ここは、もう変身ロワイアルの世界から遠く離れた、異世界の扉なのだろう。 「次に会う時も、翔太郎は、まだまだ全然……ハードボイルドにはなってないかもしれないけど──」 二つの神。 消えゆく二人を、ノアと円環の理が導き、連れて行こうとしているらしい。 「──きっと、誰よりも仮面ライダーだと思う」 ……そこに、ゆっくりとフィリップはただゆっくりと、向かっていった。 【フィリップ@仮面ライダーW 再消滅】 ◆ 【その後】 ……左翔太郎は、この数年後、誰よりも早く、若くして亡くなった。 理由は、風都市で少年を庇い、トラックに轢かれた為の事故死であったという。 凄惨な殺し合いを生き残った生還者が、その後まもなくして、殺し合いと無関係に死亡したという事件は、多くの人に衝撃を与え、風都を愛した男の痛ましい死として、涙を誘った。 しかし、風都で流れる涙を一つ拭い、そして、愛した街・風都で死ぬという結末を迎えた彼の死に顔は、満足げな笑顔が浮かんでいたという。 また、誰も知る由もないが、この出来事は、このトラックに轢かれ死んでしまう筈だった少年──“葵終”とその家族の運命を変える事になった。 そして、鳴海探偵事務所は、その後の時代も、所長の鳴海亜樹子や、ライセンスを取得して風見野市から移住した佐倉杏子らの尽力によって存続し、その後も風都に流れる涙を、新たな探偵たちが拭っている。 そう、風都の風を愛する者たちが……。 ◆ 『──あなたも時間よ。行きましょう、暁』 フィリップの消滅後、そう告げられたのは涼村暁に他ならなかったが、それを告げたのが何者なのか、すぐには誰もわからなかった。 空を飛ぶ天使のように、長い黒髪の少女が暁に寄って来たのである。 「……?」 暁は、瞼を擦った後、頬をつねってその少女を何度か見直した。 周囲の仲間たちを見ても、何やらその少女の方を見てキョトンとしている様子ばかり浮かんでいる。 「……ほむら? ん、夢じゃないよな?」 それは、死亡したはずの暁美ほむらに違いなかった。 これまで、夢で出てくる事はあったが、こんな、誰にでも見える形ではっきりとほむらが現れたのは初めてである。 『私たちは、円環の理の鞄持ち。 どこの時空にも救われないあなたの魂をどこかに持って行かなきゃならないのよ。 それまでは、私たちのもとで預かる事になるわね』 「ちょっと待て。どこかってどこだよ」 『“どこか”よ』 「あ、ああ……それはあんまり考えちゃいけないんだな……。 でも……送るにしても、あとちょっと、ほんのちょっとだけ、待ってくれよ」 何やら、このほむらも、円環の理と共に暁を迎えに来た形になるらしい。別に激励をしに来てくれたわけでもない。 言ってしまえば、『フランダースの犬』でネロとパトラッシュを運んでいく天使が、ちょっと凶悪になった感じの物だと思っていいらしい。 とりあえず、理屈で言うと、滅びゆく世界の中で分離した夢世界の暁の因果と、滅びゆく世界の中で概念と化したまどかの因果とが、なんか色々あって結びついたとかそんな感じである。 そんなこんなで、暁も消滅の時が来たらしい。 「あーあ……やっぱり、俺、消えちまうらしいな」 ……結局のところ、こうなる運命が抗えない事はどこかでわかっていた。 あの世界は、やはりダークザイドによって滅ぼされてしまうのかもしれない。 いや、そうでなくてもあの涼村暁という男は、あのままダークザイドと戦うとしても、きっと自らが見続けた甘い夢を捨て去ってしまうような予感がした。 しかし、イレギュラーな存在である暁は、しばらくこうして誰かのもとに残り続ける事が出来た。 最後に、自分もフィリップのように別れを告げようと、そうしているに違いない。 「……なあ、みんな」 暁がそうして切りだす。 「あのさ、俺の事……忘れないでくれよ? なあ、頼むぞ?」 と、暁の口から出て来たのは、やや切実な悩み。 このまま忘れ去られてしまうんだろうか、というちょっとした心細さが、下がった語尾から感じ取れた。 死ぬだけならまだ良い。太く短く生きるという事で。 だが、忘れ去られるのは、今になってみると少しいやな物だと思った。 暁にそう言われた仲間たちは、少し呆れた顔でお互いの顔を見合った。 「──そう簡単に忘れられるようなタイプかよ……まったく。 忘れたくても忘れられるような奴じゃないぜ、お前」 代表してそう口にしたのは、同じ「スズムラ」の零である。 そんなニヒルな口調の中にも、どこか友情めいた意識が残っているようで、もうおそらく会えないであろう事に一抹の切なさを感じているような気分でもあった。 郷愁感を噛みしめるような不思議な表情のまま暁を見つめる零は、それでも消えるまでの間、彼を思いっきり安心させてやろうと思った。 それくらいはしてやってもいい。 いや、それでも足りないくらいだ。 ここにいた仲間は──ここに連れてこられた参加者たちは、誰が欠けてもベリアルを倒して、世界を救う事なんて出来なかったのだから……。 「お前は……涼村暁は、確かにここにいた。────ほら、聞こえるだろ? 暁」 零は、そう言った。 誰もが、そんな零の言葉を聞いて、耳を澄ませた。 「──!」 ……何故、誰も気づかなかったのか不思議になるくらいの大歓声が、ずっと鳴り響いていた。ただ、それに零だけは、ずっと気づいていたのだ。 「これは……」 今、外の世界はどうなっているのか──。 それは、自分たちが支配はら解放された喜びと、それを助けてくれた人間たちへの感謝の言葉と喜びだけが響いている。 こうして今、外の世界に向かおうとしている彼らは、大群衆に囲まれたパレードの道に運ばれているような物なのである。 『凄かったぞ、シャンゼリオン……!!』 『ありがとう、シャンゼリオン……!!』 『──忘れないぞ、お前の事は……!!』 人々がシャンゼリオンに──涼村暁という、一人のどうしようもない男に向けた歓声が、その時、誰にも聞こえた。 それは、暁の幻と生まれ、幻として消えゆく一生に光を灯してくれるような……今までで一番、嬉しい他人たちからの感謝の言葉だった。 空を見上げ、シャンゼリオンへの人々の感謝の声に浸り、その人たちの笑顔を頭の中で想像する。──不思議と、実像に近いものが浮かんできた。 「これが、俺たちの戦いを見ていた、みんなの声さ……。 誰も、絶対にお前を忘れる事なんかない。 お前がいた時間は、誰にとっても、夢なんかじゃないんだ──!!!」 ああ、それは今、誰もが実感していた。 涼村暁は幻ではない。 涼村暁は夢ではない。 ここにいた、一人の人間であり、世界のヒーローであり、ここにいる全員の大切な仲間なのだ。 「──零。……全く気づかなかったけど、お前、意外と良い奴だな……!」 「お互い様だろ? 俺も、全く気づかなかったけど、良いザルバを持ってた」 「……ザルバ? ザルバってその──」 「旧魔界語で、『友』って意味さ」 かつて無二の友に言った言葉──友(ザルバ)。 ここにいる魔導輪の名前の由来であり、零にとって、旧魔戒語で好きな言葉の一つでもある。 そして、それを聞いたレイジングハートが付け加えた。 「……つまり、暁は、私たち全員の『ザルバ』というわけですね」 『おいおい、こんな奴と一緒にするなよ』 本物のザルバが付け加えると、その場がまた少し笑いに溢れた。 最後くらい暁に華を持たせてそういう口は控えろよ、と。 しかし、それもまた、暁らしい最後のようにも思えた。 それが少しまた自然と静かになってから、ヴィヴィオが口を開いた。 「……暁さん。私、暁さんといる時間……結構楽しかったんです。 みんな、あんな状況だったけど、暁さんには、たくさん笑顔を貰えた。 そういう意味では、暁さんも誰より輝いていたヒーローなのかもしれません。 ……ゴハットさんが言っていたように」 輝くヒーロー──超光戦士シャンゼリオン。 勇気を心と瞳に散りばめ、駆け抜けていく光。 風が円を描いて現れる光のヒーロー。 選ばれた戦士。──MY FRIED。 それが、この、涼村暁という男だった。 「ふっ……やっぱり、俺、意外と『みんなに慕われる無敵のヒーロー』じゃんか……」 暁は自嘲気味に笑った。 まさか、自分が本当にヒーローになるなんて、暁も全く思っていなかったのだろう。 しかし、気づけば、暁は誰よりも「ヒーロー」だった。 「当り前さ。お前も、俺たちと一緒に世界を救ったんだからな」 翔太郎が付け加えた。 探偵という同職のよしみといったところだろう。あまり仲がよろしくはなかったかもしれないが、お互い案外楽しい時間ではあった。 『ねえ、暁。そろそろ……』 と、そんな時、遂にほむらがせかした。もう時間がないという事だろう。 しかし、お別れは充分に済ませた後だった。 悔いはない。 この世界には、もう、思いっきり自分がいた証を残したのだから。 「──おう、待たせただな……!」 だが、たった一つだけ忘れた事を成し遂げる必要があった。 「じゃ、最後に一つだけ……」 そう、まだアレをやっていない。 ベリアルを倒したら、思い切り言ってやるつもりだったのだ。 そして、彼は、大歓声の中心で、それに負けじと大きな声で叫んだ。 「────俺たちって、やっぱり……決まりすぎだぜ!!!!!!!!!!!」 【涼村暁@超光戦士シャンゼリオン ────OVER THE TIME】 ◆ 【その後?】 ……涼村暁の夢を見る、本当の涼村暁は、ダークザイドとの決戦の瞬間、自分と同じ「もうひとりのシャンゼリオン」と出会い、パワーストーンと呼ばれるシャンゼリオンのパワーアップアイテムを受け取る事になった。 だからといって、彼がダークザイド軍の圧倒的な戦力に勝ちえたのかはわからない。 あの世界は滅び、やはりシャンゼリオンは消えてしまったかもしれない。 だが、後の時代にも、あらゆる世界では、超光戦士シャンゼリオンと暗黒騎士ガウザーの決戦は世界に刻まれた名勝負として記され、「涼村暁」の名前は、多くの人間たちの胸に残ったと言われている。 ◆ 「みんな……いなくなっちゃいましたね……」 「ええ。……でも、二人は、きっと向こうでも楽しくやっている事でしょう」 「そりゃあ……あのまま円環の理に導かれたら、ハーレムだもんな……」 「むしろ、あいつも今より楽しんでそうだな……」 二人が去り、円環の理も消えた。 この場所に残ったのは、孤門一輝、花咲つぼみ、左翔太郎、佐倉杏子、涼邑零、高町ヴィヴィオ、蒼乃美希の七名とレイジングハート──そして、二人のウルトラマンだけであった。 その人数と存在感にも関わらず、既にこの場所はがらんとしたような雰囲気がした。 どこか物悲しく、どこか寂しいが、それでも、ここにいる者たちは、残る時間をちょっとした雑談で埋めようとしていた。 もう悲しむ時間など必要ない。 「あいつらは、きっと、どこかに存在し続けてるさ」 そんな、前向きな一言が出てくる。 彼らを縛っていた何週間もの苦痛は終わりを告げ、そして、またその後の彼らの新たなる人生が始まろうとしている。 それぞれが別の道を行く事になるだろう。 「──そうだ……私も一つだけ、言っておく事がありました」 ふと、レイジングハートが口を開いた。 これからの生活を考えた時、ダークザギとの決戦前の零の言葉を思い出したのだ。 あの時は、零もレイジングハートも、ヴィヴィオが死んだと勘違いしていた為、零は、「レイジングハートと共に旅する事」を提案していた筈である。 零も元々孤独だったのに加え、シルヴァが破損し、相棒を喪い……二人は、お互いに孤独な身になるはずだったのだ。 しかし、結果的に、二人とも、そうではなくなった。 一応、約束だったのだ。返事をしておかなければならない。 「零……あなたに一つだけ伝えなければならない事があります。 私は、あなたと一緒に行く事が出来ません」 「……」 「ヴィヴィオと一緒にいてあげたいのです。 それに、アリシアも──親がいない二人についていてあげたい……それが、私の願いです」 そう──レイジングハートはこれから、ヴィヴィオとアリシアのもとで二人の面倒を見ておきたいと思っていた。 ヴィヴィオもアリシアもまだ幼い。 二人とも、一人では生活できないが、レイジングハートがその身元を引き受ける形でどうにかする事はできないだろうか? 彼女は、そう考えていたのだ。 「……何言ってんだよ、レイジングハート。俺だって、もう孤独じゃないんだ。 それぞれの道を行けば良い。……また会えるさ」 零も、とうに自分の道を進む決意を決めていたようだった。 彼はこれから、修復されたシルヴァや、死んだはずだった父や婚約者とともに、魔戒騎士として戦い続けて行く事になるだろう。 しかし、零がそんな事を言うと、横からザルバが、 『とか言って、少し別れが惜しいんじゃないか? 零』 などと茶化した。 「うるさいな……。 でも、お前だって、帰ったら、次の黄金騎士が現れるまで眠るつもりなんだろ? お前こそ、本当にしばらく会えないじゃないか」 『ああ……鋼牙が死んでしまった以上は、そうなるな』 ザルバも、これからしばらくは、零とは別の道にある事になる。 同じ世界にいる零でさえ、その後ザルバと会う事は出来なくなってしまうだろう。 それは、他の仲間たちにとっては、初めて聞く事になった事実である。 「そうだったんですか。……寂しくなりますね」 ヴィヴィオが、それを聞いて、驚きつつも、視線を下げた。 『大丈夫さ、零が次の後継者を探してくれるらしい。俺もすぐにまた、どこかで会うさ』 「ああ。その時が来たら、いつか会わせてやるよ、お前たちにも」 零は、そういう意味でも既に覚悟を持っている。 ザルバと黄金騎士の鎧を継承する、新たなる魔戒騎士の誕生を支援し、見守る為に……。 元々弟子を持つつもりのない零も、きっとその少年の師となる事になるだろう。 「──……そうですね。皆さん、また、会いましょう」 ふと、つぼみが言った。 「毎年……ううん、もっと時間はかかるかもしれないけど……また、みんなで会いましょう! 一緒に約束したんですから……!」 そんなつぼみの提案は、誰もが笑顔で返した。 実際のところ、つぼみと美希は度々会う事になるだろうが、他の世界で生きる者たちはその機会は少ないかもしれない。 しかし、出来るのなら、会える限り、みんなでまた会いたい。 それこそ、「同窓会」というのもいいかもしれない。 「そうだな……」 翔太郎も、それに乗った。 出来るのなら、十年後、二十年後もみんなで揃って楽しくやりたいと、この時の翔太郎は思っていた。 ヴィヴィオが再び口を開いた。 「じゃあ、今度は、誰が一番長く生きられるか──……そういう競争を始めましょう」 「なんだよそれ、ヴィヴィオが一番有利じゃねえか」 「あはは……考えてみたら、そうですね」 そんな仲間たちの姿を、孤門はじっと見つめていた。 「そうだね。笑ってお別れが出来るように、死んだ仲間の分まで生きていこう──」 ◆ 【その後】 ……高町ヴィヴィオは、この後、ストライクアーツでの成績においては、概ね優秀ではあったものの、結局その選手生命の中においては、大きな大会で優勝を手にする事はなかった。 その要因に、アインハルト・ストラトスに匹敵する良き友、良きライバルが現れなかったという事実がある。 私生活では、ヴィヴィオはレイジングハート・エクセリオン、アリシア・テスタロッサの二名と共に、奇妙な共同生活を続け、それぞれ自立していった。 ストライクアーツを引退した後は、そのトレーナーとして活躍。 ヴィヴィオやアインハルト以上の選手を多数輩出している。 ◆ 【その後】 ……涼邑零は、その後、黄金騎士を追悼するサバックで見事優勝を果たし、その優勝賞品として一日だけ冴島鋼牙を現世に呼んだ。 そして、そこで呼ばれた死者・冴島鋼牙と御月カオルの間には、冴島雷牙という子供が生まれた。 ザルバも、雷牙の成長と共に再び始まった黄金騎士の系譜の中で、多くの魔戒騎士の生き様を見届けている。 零は、別の管轄へと移り、「銀牙」という名を取り戻し、家族とともに暮らした。彼の仕事は、相変わらずホラー狩りだ。 ……とはいえ、ベリアルを倒した英雄譚の中に、彼に関する記録は、もう殆ど残っていない。 魔戒騎士やホラーの記録は、一部の人間以外の世間一般には、やはり抹消され、銀牙やそれを継ぐ魔戒騎士たちは、再び誰にも知られる事なく仕事を続けているのである。 だが、ガイアセイバーズとして共に戦った仲間の内では、彼らに関する記憶は、消されなかった。 ◆ ふと、ウルトラマンゼロとウルトラマンノアが作り出していた空間が、進行のスピードを緩めた。 彼らにとっては、移動している実感が薄かったためか、ウルトラ戦士である二人以外は誰も気づていなかったようだが、ゼロが口を開いた事でその事実がわかる事になった。 「──おっと、俺たちが付き添えるのはここまでみたいだ」 「え?」 美希が、ゼロの言葉に疑問符を浮かべる。 このまましばらくは、こうして仲間たちと一緒にいられると思っていたが、ゼロももう何処かに行ってしまうのだという。 「俺たちも力を結構使っちまったからな。 お前たちを纏めてミッドチルダまで送る事しかできないんだ。 後は、各自、向こうで元の世界に帰ってくれ……本当なら、最後まで面倒見てやりたいんだが──」 彼らウルトラマンが生還者を運べるのは、ミッドチルダまでらしい。 しかし、そこにはアースラで共に戦った仲間たちが待っている。──そこにさえ辿りつけば、時空移動も出来るはずだ。 ゼロはそれぞれの故郷の世界にまで生還者を帰してやれない事をどこか申し訳なさそうにしていたが、結局のところ、その準備がある場所に連れて行ってくれるというのなら、ゼロが気に病む必要はない。 それよか、彼らにとって悲しいのは──。 「ウルトラマン……きみたちとも、また会えるかい?」 そう……ウルトラマンという、最後に共に戦った仲間との別れであった。 ウルトラマンゼロ、そして、ウルトラマンノア。 最後の戦いを共に乗り越えた、絆を結んだ相手。 二人のウルトラマンは、黙って、その巨大な頭を頷かせた。 美希が、ゼロへと訊く。 「ゼロ……あなたは、これからどうするの?」 「ヘッ……俺はまた、助けを呼ぶ声に耳をすませながら宇宙を旅するつもりさ。 宇宙にはまだ、ベリアルの遺した影響や、それ以外の脅威も残ってるからな」 どうやら、彼はこれまでと同じように旅を続けるらしい。 それは、広い宇宙と次元の旅で──寿命が地球人より遥かに長い彼らの旅だと思えば、本当にゼロがまた現れた時に、そこに美希たちが健在であるかはわからなかった。 「それに、あのベリアルの事だ。また、いつ蘇って悪さするかわからない。 まっ、その時は、今度こそ俺の手で引導を渡してやるぜ──!!」 黒幕の再誕……という、悪夢をゼロは再度考えて言ったが、それは笑えなかった。 またベリアルが現れ、これだけ大変な事を仕出かしてくれるなどあまり考えたくはない話である。 とはいえ、不思議な安心感があるのは、何故だろう。 ゼロの言うように、ベリアルがもしまた現れたとしても、今度はウルトラマンたちがきっと何とかしてくれるような……そんな力強さを感じた。 「……とにかく、その辺の後始末は、俺たちウルトラマンに任せとけよ! もし困った事があった時は、いつだって呼んでくれ。マッハで駆けつけてやるぜ!」 ゼロは本当に、もうどこかの世界へ行ってしまうらしかった。 それならば、美希も、この戦いで最後に自分を支えてくれたゼロにお礼を言っておかなければならない。 「……ゼロ、最後にあなたと戦えてよかった。……ありがとう。 最後に孤門さんやシフォンを助けられたのは、あなたが信じてくれたからよ」 「きゅあー♪」 ゼロは恥ずかしそうにそっぽを向いた。そんな姿を、美希とシフォンは顔を見合わせて笑う。 孤門は、そんな様子を見た後で、今度はノアに訊いた。 「……ノア、君も次のデュナミストを探してどこかへ旅するのか……?」 ノアは、一言も喋る事なく、その巨大な顔を頷かせた。 孤門は、これまで多くのデュナミストとともに戦ってきた巨大な戦士を見上げ、不思議な嬉しさに目を潤ませた。 彼はまた、どこかで新たなデュナミストに繋がっていくだろう。 今回の戦いで再び力を使ってしまったノアは、もしかすると、今後再び、ザ・ネクストやネクサスの姿に戻ってしまうかもしれない。 しかし、たとえその姿でも、そこに現れた新しいデュナミストと支え合い、共に戦うだろう。 「そうか……」 寂しそうに俯いたように見えて、それでも、また新しい決意に満ちた表情で、再び顔を上げて、孤門は告げた。 彼らの言葉を、信じよう。 「どこかの次元で、また必ず会おう……ノア、ゼロ!」 「おう! じゃあ、みんな、元気でな!」 そして、それから、間もなくだった。 ゼロが、最後の言葉を告げ、飛び去ったのは──。 「────さあ、もう着いたぜ。 またいつか会おう、ガイアセイバーズのみんな……! さあ、行こうぜ……ノア!」 【ウルトラマンゼロ@ウルトラシリーズ 生還】 【ウルトラマンノア@ウルトラシリーズ 生還】 ◆ 【その後】 ……蒼乃美希は、当人の希望通り、モデル業を続けた。 桃園家、山吹家の遺族には、孤門たち仲間の手を借りず、自らの口で再度事情を話し、遺品を手渡したという。 モデルを引退した後は、自らのブランドを持つまでに成長した。 彼女はこっそり自らが手掛けるファッションのモチーフに、友人へのメッセージを込めているらしい。 そして、そうした遊び心も、概ね好評であったという。 ◆ 【その後】 ……孤門一輝は、西条凪と石堀光彦の死、和倉英輔と平木詩織の引退に伴い、この数年後にナイトレイダーの隊長となり、彼らの世界に残るスペースビーストと戦い続け、人々を守る事になった。 魔戒騎士の世界がこの戦いの後に記憶や記録の改竄を行ったのに対し、ウルトラマンたちの世界は、メモリーポリスによる介入は行わず、人々はスペースビーストの脅威と戦いながら生きている。 ちなみに、斎田リコもこの世界では健在であり、後に二人は結ばれ、「タケル」という息子を授かる事になった。 そして、彼らの世界にはこの後に、ウルトラマンゼロや、多くのウルトラマンたちが訪れ、人々とウルトラマンは、「絆」を繋ぎ続けた。 「──諦めるな」 ……そう、この言葉も伝えながら。 ◆ 「──……おっと。さて。あと一つだけ、仕事が残ってるな」 「仕事? ……ああ、そうか!」 「こんな話、している場合じゃないですね」 「ああ、行こう」 「変身はできなくても……」 「そんな事は関係ありませんからね!」 「ザギやベリアルも救う事が出来たんだ……きっと、出来る」 「もし戦うなら、そん時は思いっきりやるけどな」 「────シンケンジャーの世界へ!!」 これから、血祭ドウコクのもとへ向かう事になる彼ら。 まだ、戦いは終わらないかもしれない。 変身する事が出来ないヒーローたちに、これから何が出来るのかはわからない。 しかし、バトルロワイアルは全て終わり──そして、助け合いの時が来ようとしている。 ────ガイアセイバーズとカイザーベリアルの戦いの物語は、まずはこれまで。 【高町ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはVivid 生還】 【左翔太郎@仮面ライダーW 生還】 【花咲つぼみ@ハートキャッチプリキュア! 生還】 【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ 生還】 【蒼乃美希@フレッシュプリキュア! 生還】 【孤門一輝@ウルトラマンネクサス 生還】 【涼邑零@牙狼─GARO─ 生還】 【以上に加え、血祭ドウコクが先に生還】 【生還者 8/66名】 【変身ロワイアル MISSION COMPLETE】 ◆ 時系列順で読む Back 変身─ファイナルミッション─(8)Next 変身─ファイナルミッション─(10) 投下順で読む Back 変身─ファイナルミッション─(8)Next 変身─ファイナルミッション─(10) Back 変身─ファイナルミッション─(8) 左翔太郎 Next 変身─ファイナルミッション─(10) Back 変身─ファイナルミッション─(8) 花咲つぼみ Next 変身─ファイナルミッション─(10) Back 変身─ファイナルミッション─(8) 佐倉杏子 Next 変身─ファイナルミッション─(10) Back 変身─ファイナルミッション─(8) 高町ヴィヴィオ Next 変身─ファイナルミッション─(10) Back 変身─ファイナルミッション─(8) レイジングハート Next 変身─ファイナルミッション─(10) Back 変身─ファイナルミッション─(8) 涼村暁 Next 変身─ファイナルミッション─(10) Back 変身─ファイナルミッション─(8) 響良牙 Next 変身─ファイナルミッション─(10) Back 変身─ファイナルミッション─(8) 涼邑零 Next 変身─ファイナルミッション─(10) Back 変身─ファイナルミッション─(8) 蒼乃美希 Next 変身─ファイナルミッション─(10) Back 変身─ファイナルミッション─(8) ウルトラマンゼロ Next 変身─ファイナルミッション─(10) Back 変身─ファイナルミッション─(8) 孤門一輝 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らんま1/2の変身後データ 【娘溺泉の娘】 【黒豚溺泉のブタ】 【猫溺泉のネコ】 【牛鶴鰻毛人溺泉の混合生物】 呪泉郷でおぼれた者が変身する姿であり、その姿は多種多様。 パンスト太郎が変身する混合生物や、アシュラなどの例もあるものの、ほとんどは現実に存在する生物である。 漫画的なデフォルメはあるが、実写ドラマ化した際は、結構リアルなパンダになっていた(むろん、着ぐるみだが)。 変身方法は 水をかぶる→変身! お湯をかぶる→元に戻る! であり、呪泉郷につかった瞬間は変身後の姿になってしまう。 作中では、娘溺泉に溺れて、水をかぶると女になる体質になった乱馬と、熊猫溺泉に溺れて、水をかぶるとパンダになる体質になった玄馬が、男溺泉につかったことで、水をかぶっても女やパンダにならなくなったことがある。 しかし、一方では、牛と鶴と鰻と雪男の混合生物に変身する体質になったパンスト太郎は、その後、章魚溺泉につかってタコの能力を追加付与しており、結局のところ、上書きされるのか元に戻るのかは不明。 おそらく、特性の追加付与は牛鶴鰻毛人溺泉に限定された能力と思われる(この泉に限っては、元から複数の特性を持ち合わせているため)。 娘溺泉の娘 本編での主な変身者は早乙女乱馬、ハーブ。 娘溺泉に落ちたり、その水を浴びたりしたものが変身する姿。 ……つまり、ただの若い娘である。 変身後の容姿は変身前の容姿及び年齢に影響されるため、作中では乱馬が年の数茸で子供になったときは、小さい女の子の姿になった。 主に、胸と尻が大きくなり、体格が丸くなり、手足のヒットが短くなる…などの変化があるが、はっきり言って弱体化としか言いようがない。 黒豚溺泉のブタ 本編での主な変身者は響良牙。 黒豚溺泉に落ちたり、その水を浴びたりしたものが変身する姿。 足の大きさ程度のかなり小さいデフォルメされた黒い子豚になってしまう。 主に、しゃべれなくなり、体が異常に小さくなる(服もその場において行動するしかなくなる)。 ただし、変身後も心や精神、思考などは変身前と同一である。 また、噛みつく力が強く、よく乱馬の指などを齧る。良牙の元の身体能力もあってか、高くジャンプして体当たりをすることも可能。 結局のところ、一般人以下である。 もしかしたら、キルンなどを介せば会話ができるかもしれない。 猫溺泉のブタ 本編での主な変身者はシャンプー、南条ありさ。 猫溺泉に落ちたり、その水を浴びたりしたものが変身する姿。 主に、しゃべれなくなり、体が異常に小さくなる(服もその場において行動するしかなくなる)。 ただし、変身後も心や精神、思考などは変身前と同一である。 また、猫であるため、すばしっこく、軟体でひっかく力も強い。 結局のところ、一般人以下である。 もしかしたら、キルンなどを介せば会話ができるかもしれない。 牛鶴鰻毛人溺泉の混合生物 本編での主な変身者はパンスト太郎。 牛鶴鰻毛人溺泉に落ちたり、その水を浴びたりしたものが変身する姿。 鰻と鶴を持って牛に乗った雪男が溺れたという、呪泉郷史上最悪の歴史を持つ牛鶴鰻毛人溺泉で変身したため、「ウシの頭に雪男の体、鶴の翼にウナギの尻尾という怪物」になる。 また、その際に体長は人間を片手で持てるほど巨大化し、飛行もでき、人間離れしたパワーを持つようになるが、代わりに一切しゃべれなくなる。尻尾も意のままに操り、敵を倒すのに使えるほか、牛の能力で突進も可能。 喋ることはできないが、変身後も心や精神、思考などは変身前と同一である。 更に、パンスト太郎はタコが溺れた章魚溺泉につかることでパワーアップしており、背中からタコの足が生えるようになり、指先からタコスミを噴き出すことが可能となった。 参戦時期的には、パンスト太郎はこのタコの能力も有している。
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らんま1/2の変身後データ 【娘溺泉の娘】 【黒豚溺泉のブタ】 【猫溺泉のネコ】 【牛鶴鰻毛人溺泉の混合生物】 呪泉郷でおぼれた者が変身する姿であり、その姿は多種多様。 パンスト太郎が変身する混合生物や、アシュラなどの例もあるものの、ほとんどは現実に存在する生物である。 漫画的なデフォルメはあるが、実写ドラマ化した際は、結構リアルなパンダになっていた(むろん、着ぐるみだが)。 変身方法は 水をかぶる→変身! お湯をかぶる→元に戻る! であり、呪泉郷につかった瞬間は変身後の姿になってしまう。 作中では、娘溺泉に溺れて、水をかぶると女になる体質になった乱馬と、熊猫溺泉に溺れて、水をかぶるとパンダになる体質になった玄馬が、男溺泉につかったことで、水をかぶっても女やパンダにならなくなったことがある。 しかし、一方では、牛と鶴と鰻と雪男の混合生物に変身する体質になったパンスト太郎は、その後、章魚溺泉につかってタコの能力を追加付与しており、結局のところ、上書きされるのか元に戻るのかは不明。 おそらく、特性の追加付与は牛鶴鰻毛人溺泉に限定された能力と思われる(この泉に限っては、元から複数の特性を持ち合わせているため)。 娘溺泉の娘 本編での主な変身者は早乙女乱馬、ハーブ。 娘溺泉に落ちたり、その水を浴びたりしたものが変身する姿。 ……つまり、ただの若い娘である。 変身後の容姿は変身前の容姿及び年齢に影響されるため、作中では乱馬が年の数茸で子供になったときは、小さい女の子の姿になった。 主に、胸と尻が大きくなり、体格が丸くなり、手足のヒットが短くなる…などの変化があるが、はっきり言って弱体化としか言いようがない。 黒豚溺泉のブタ 本編での主な変身者は響良牙。 黒豚溺泉に落ちたり、その水を浴びたりしたものが変身する姿。 足の大きさ程度のかなり小さいデフォルメされた黒い子豚になってしまう。 主に、しゃべれなくなり、体が異常に小さくなる(服もその場において行動するしかなくなる)。 ただし、変身後も心や精神、思考などは変身前と同一である。 また、噛みつく力が強く、よく乱馬の指などを齧る。良牙の元の身体能力もあってか、高くジャンプして体当たりをすることも可能。 結局のところ、一般人以下である。 もしかしたら、キルンなどを介せば会話ができるかもしれない。 猫溺泉のブタ 本編での主な変身者はシャンプー、南条ありさ。 猫溺泉に落ちたり、その水を浴びたりしたものが変身する姿。 主に、しゃべれなくなり、体が異常に小さくなる(服もその場において行動するしかなくなる)。 ただし、変身後も心や精神、思考などは変身前と同一である。 また、猫であるため、すばしっこく、軟体でひっかく力も強い。 結局のところ、一般人以下である。 もしかしたら、キルンなどを介せば会話ができるかもしれない。 牛鶴鰻毛人溺泉の混合生物 本編での主な変身者はパンスト太郎。 牛鶴鰻毛人溺泉に落ちたり、その水を浴びたりしたものが変身する姿。 鰻と鶴を持って牛に乗った雪男が溺れたという、呪泉郷史上最悪の歴史を持つ牛鶴鰻毛人溺泉で変身したため、「ウシの頭に雪男の体、鶴の翼にウナギの尻尾という怪物」になる。 また、その際に体長は人間を片手で持てるほど巨大化し、飛行もでき、人間離れしたパワーを持つようになるが、代わりに一切しゃべれなくなる。尻尾も意のままに操り、敵を倒すのに使えるほか、牛の能力で突進も可能。 喋ることはできないが、変身後も心や精神、思考などは変身前と同一である。 更に、パンスト太郎はタコが溺れた章魚溺泉につかることでパワーアップしており、背中からタコの足が生えるようになり、指先からタコスミを噴き出すことが可能となった。 参戦時期的には、パンスト太郎はこのタコの能力も有している。
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変身 関連Q&A 総合ルール 10.28 変身 10.28.1 変身は戦術である。 10.28.2 変身の本来のテキストは以下の通りである。 .a (自動γ)〔このキャラクター〕が攻撃、または防御を行う場合、 同時に次のあなたのターン開始時まで変身状態にしても良い。 .b (常時)0:この効果の解決時にこのキャラクターがアクティブ状態の場合、次のあなたのターン開始時まで〔このキャラクター〕を変身状態にする。 10.28.3 変身状態とは、カードの上下を反転させ、変身状態の記述が正方向で読める向きにした状態である。原則的に、変身状態では本来の記述によるキャラクターではなく、変身状態の記述によるキャラクターとして扱われる。 10.28.4 既に変身状態であるカードを変身状態にする事は出来ない。 10.28.5 複数の変身状態を持つ場合、変身の解決時にどの変身状態にするのかを選択する。 10.28.6 変身状態にする場合、以下の手順で処理する。 .a カードの上下を入れ替える。 .b 変身状態の記述で指定されている情報を持つキャラクターとして扱う。 10.28.7 変身状態から戻る場合、以下の手順で処理する。 .a カードの上下を入れ替える。 .b カード本来の記述を持つキャラクターとして扱う。 10.28.8 変身状態である場合、変身状態の記述が本来のテキストとして扱われる。 10.28.9 セットカードがセットされている場合、そのセットカードはセットされ続ける。セットカードからテキストを得ていた場合、変身状態になった後でもそのテキストは引き継がれる。 .a セットカードから変身状態の記述を得て変身状態になっている場合、そのセットカードのテキストが無効になった時点で、変身状態から戻る。 10.28.10 変身状態のキャラクターは、そのカードが置かれている領域を持つプレイヤーのターン開始時に変身状態から戻る。 2.17 変身状態の記述 2.17.1 変身状態の記述とは、テキストの下部に区切られ、通常と上下逆の向きに記述されている。 2.17.2 変身状態の記述には以下の情報が記述される。 .a 名称 .b 種族 .c グレイズ .d 攻撃力 .e 耐久力 .f テキスト 2.17.3 変身状態の記述は本来の記述としては扱わず、変身状態である時のみ、本来の記述として扱われる。この時、カード本来の記述と変身状態の記述が異なる場合、変身状態の記述を本来の記述として参照する。 補足 「~以後は通常状態に戻る事が出来ない」という効果が適用されている場合は、戻る事が出来ない効果の方が優先されるため(IR-1.3.2) ターン開始時や通常状態に戻すといった効果が適用できず変身状態のままである。 関連Q&A QA-379. Q.変身を解決した時、元のキャラクターとは別のキャラクターとして扱われますか? A.いいえ、同一のキャラクターです。効果の目標となっている時に変身を解決した場合でも、同一のキャラクターである為、目標として適切であればそのまま適用されます。また、変身前に適用されている効果は対象として適切ならばその後も適用され続けます。 補足 同一のキャラクターなので効果ダメージ等もリセットされないし、攻撃や防御を取り消されたりもしない。 QA-380. Q.1枚のキャラクターが複数の変身と変身テキストを所持する場合、どのように解決しますか? A.変身の効果を解決する時点でどの変身テキストに変身するかを選択します。(参考:IR-10.28.5) QA-391. Q.変身テキストを所持しないキャラクターが、何らかの理由により戦術の「変身」のみを得て変身テキストを得ていない場合、変身の効果は解決出来ますか? A.いいえ、変身後のテキストが存在しない為、変身の解決に失敗します。 上記以外のQ&Aはこちらから「変身」で検索してください。 2014年6月15日 Q.「1.10.13.cキャラクターがキャラクターで無くなる場合、キャラクターで 無くなった時点でリセットされる。」とありますが、ここでのキャラクターとは そのキャラクターと同一のキャラクターということでしょうか?具体的にはダメージを 受けている状態で変身を持つキャラクターが変身を行ったり、 変装によって名前が変わった場合はダメージはリセットされるのでしょうか? A.変身や名称の変更は、同一のキャラクターでの状態の変化の為、ダメージはリセットされません。 完全に別のキャラクターに変更される場合にはリセットされます。 IR-6.1.9.b 補足:具体的にはPR.046 封獣 ぬえのような効果のこと。 ▲上へ戻る
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変身─ファイナルミッション─(10) ◆gry038wOvE ……ここは、所も変わって、シンケンジャーの世界。 はてさて、最終決戦に参加しなかった血祭ドウコクと、その友人の骨のシタリは、どうしているのだろうか。 ゆらゆらと浮かんでいる六門の船の上──この「余談」は、始まる。 「しかし……アンタの言う事も、今回ばっかりは外れると思ってたよ、アタシは」 六門船の上で、血祭ドウコクと骨のシタリはまたのんびりと語らっていた。 それはさながら、外道衆にとっても、一つの祭が終わったような寂しさと虚無感を思わせる静かな落ち着きだった。 先ほどまでの興奮は消え去り、静寂の中で二人はただ揺れる船に身を任せている。 「……結局、奪われた三途の川もさっきの戦闘で希望をまき散らされたせいで水かさが減って、結局プラスマイナスゼロだがね。商売あがったりなしだねこりゃ」 とはいえ、結局、外道衆にあるのは完全な厭世のムードであった。 何とも世知辛いもので、折角取り戻せそうだった三途の川の水は、ヒーローたちの尽力で根こそぎ消えてしまった。 先ほど、インキュベーターにも言われたが、希望が絶望に打ち勝ってしまった事と、ドウコクがミラクルライトを三途の川に落としたのは、この三途の川にとって最悪の事らしい。 希望の具現であるミラクルライトは、この外道衆のいる三途の川を滅ぼしかねないという。ドウコクもとんでもない事を仕出かしてくれた物で、人間がまた、希望を取り戻せば外道衆の命運にも相当な危機が起こりうるだろう。 「どうするよ、ドウコク。八方塞がりだよ」 こうなったらもう、あれだ。 生きる術はただ一つ──人間と、共存の手段を探すという事しかない。 「──シタリ」 そして、その先の外道衆の命運を決めるのは、ここにいるドウコクの一言だった。 これからの外道衆の方針をどうすべきかは、いつも総大将である彼の言葉にかかっているのだ。 仮に逆らったとしても、誰も彼に力では敵うまい。 まあ、シタリならば、友人のよしみで何とかしてくれるかもしれないが、どっちにしろ、右にも左にも希望のない今の外道衆でどうにかなるとも思えず、最後はドウコクの判断にゆだねるしかなかった。 「……」 ──それから、ドウコクが口にしたのは、勿論、共存などではなかったが、これまでと同じ方針でもなかった。 「俺はしばらく、人間を襲うのは辞めにする。……後の連中は好きにしろ」 「えッ、そりゃまたどうしてサ」 「おめえも命は惜しいだろう」 ──要するに、「戦わない」というのが彼の決めた方針だった。 しかし、「共存」もする気はない。 しばらくはまだ、この三途の川を消し去るほどの希望を人間が取り戻す事もないだろう。 それまでの余裕を、ドウコクは全て、眠って考えるという事にしたのだ。 外道衆にとって、暴れられないというのは少々、身体が窮屈になる状況かもしれない。 それは、これまで、人間界に出る事が出来ずに六門船の中で荒れていたドウコクの事を思い出せば痛い程にわかるだろう。 だが──こうなってしまった以上、案と言うものも浮かばない。 「……まあ、そうか。あんなもん見せられちゃね」 「ああ。……俺が再び目を覚ますのは、奴らがいなくなってから……あるいは、気が変わったらってとこだな」 ドウコクもこれから長い間眠る事にしたらしかった。 その時下す判断がいかなる物であるかはわからない。 ……と、そんな事を話していたが、シタリは一つだけ気になる事があった。 「……で、それはそうと奴らとの約束はどうすんだい?」 そう、あのガイアセイバーズなる連中とドウコクは、「ここで戦う」などと約束したではないか。 左翔太郎なり佐倉杏子なりには、因縁があったのではないか。 お互いに、何かしらすり減らして殺し合いでもする義務があるのではないか。 だが──そんな事をする気力が根こそぎ奪われた気分だった。 最後に殴り合うのも一向だろうが、ここまで、萎えてしまってはわざわざやる意味もないかもしれない。 「フン。……俺たちは、『外道』だ。今更そんなもん守る必要はないだろ」 ドウコクが彼らと再戦する事で知りたかったもの。 彼らがああまでして戦う理由。──それは、既に何となくわかっている。 確かに、約束、はしたかもしれない。 しかし、それを逐一守る良識がないのが、『外道』という連中だった。 「……そうかい、それがアンタの奴らへの、最後の『外道』ってワケかい」 外道衆も、『外道』として、選んだのである──『戦わない』という選択肢を。 戦うという約束をしたが故に、それを反故にする。 それはまさに、一時仲間として戦ったガイアセイバーズという連中への、最後の『外道』であった。 「……」 この先、ドウコクがあの生還者たちの前に姿を現す事は二度と無いだろう。 それこそ──人々があの戦いを忘れ去るまで、ドウコクは現れないかもしれない。 そして、もし彼が現れるならば、それは次代のシンケンジャーが現れる時……彼らの戦いが全て忘れ去られた時だろう。 「──おい、シンケンレッド」 ふと、ドウコクは、六門船の脇に居た自らの『家臣』を呼びかけた。 置物のようにそこに佇んでいた外道シンケンレッド、である。 シタリなどはすっかり、そいつの存在を忘れていたくらいに無口だが──しかし、一度気づくとやはりそこには存在感を見出してしまう。 鎧武者の甲冑が置いてあるような物である。 「……行って来い。てめえのいる場所はここじゃねえ」 はぁ、と、シタリはため息をつく。 やはり、ドウコクも気づいていない訳がなかったか。 ……あの外道シンケンレッドなる置物、ああ見えて実は──もう。 「さっきの戦いを見て、てめえからも外道の匂いが消えている」 ──外道、でなくなっている。 志葉丈瑠ではないが、それは既に、志葉丈瑠のような物に変わっていた。 外道としての魂を忘れ、はぐれ外道としての人間らしさを取り戻してしまっているのである。 ──そう、あの薄皮太夫のように。 「お前が奴らに教えて来い……てめえらの勝ちだ、ってな」 それだけを外道シンケンレッドに吐き捨てるように告げると、ドウコクはシタリを呼びかけた。 「行くぞ、シタリ」 シタリもそれに従うようにドウコクの背中を追って、どこかへと沈んでいく。 最後の一度だけ、外道シンケンレッドと成り果てた男の方を見返りながら。 「ドウコク……」 外道シンケンレッドは、その変身を解除し、一人の男──志葉丈瑠の姿を取り戻した。 そして、彼もまた、この六門船から消えた。 ──六門船は、無人のまま、ただがらんと、三途の川の上に浮かべられて揺れていた。 ◆ 【その後】 ……血祭ドウコク及び外道衆のその後の消息は殆ど知られていない。 だが、ベリアルの支配が終了すると共に、ドウコクに代わって地上に現れたのは、脂目マンプクだった。 そして、その結果は、散々なものであったと言われる。 今のところ、わかっているのは、マンプクはヒーローたちだけではなく、人間たちにさえ敗れたという事である。 互いを助け合う、人間の「絆」に……。 ◆ ────そして、殺し合いは、助け合いへと、変わっていく。 Fin. 時系列順で読む Back 変身─ファイナルミッション─(9)Next 世界はそれでも変わりはしない(1) 投下順で読む Back 変身─ファイナルミッション─(9)Next 世界はそれでも変わりはしない(1) Back 変身─ファイナルミッション─(9) 左翔太郎 Back 変身─ファイナルミッション─(9) 花咲つぼみ Back 変身─ファイナルミッション─(9) 佐倉杏子 Back 変身─ファイナルミッション─(9) 高町ヴィヴィオ Back 変身─ファイナルミッション─(9) レイジングハート Back 変身─ファイナルミッション─(9) 涼村暁 Back 変身─ファイナルミッション─(9) 響良牙 Back 変身─ファイナルミッション─(9) 涼邑零 Back 変身─ファイナルミッション─(9) 蒼乃美希 Back 変身─ファイナルミッション─(9) ウルトラマンゼロ Back 変身─ファイナルミッション─(9) 孤門一輝 Back 変身─ファイナルミッション─(9) 血祭ドウコク Back 変身─ファイナルミッション─(9) 外道シンケンレッド Back 変身─ファイナルミッション─(9) 加頭順 Back 変身─ファイナルミッション─(9) カイザーベリアル
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変身─ファイナルミッション─(3) ◆gry038wOvE 「──……やっぱり、私から行きます……! この人との勝負、まだ終わっていませんから……ッ!」 それは、強敵を前に、自分だけで攻撃を仕掛けると言う宣言であった。 再び、先ほどの戦いの続きのように、ファイティングポーズを構えるヴィヴィオ。 誰もが彼女を見て、ゆっくりと頷いた。彼女の健闘を信じる瞳が、ヴィヴィオを一斉に見つめた。 「──」 ユートピアには理解不能である。何せ、ユートピアにとって彼らは雑兵なのである。 今の力を見て、尚も同じ土俵で勝負する気だろうか。 戦士たちにとってユートピアが一個の門番に過ぎないのと同じく、ユートピアにとっても彼らは理想郷を掴む為に立ちふさがる矮小な壁に過ぎなかった。 諦める事がないにせよ、てっきり、実力差を理解して全員でかかると思っていたが、こうまで愚かに一人ずつ仕掛けてこようなどとは、ユートピアも思っていなかったのだろう。 片腹痛い、とはまさにこの事だとユートピアも変な笑いが出そうになる。 「……フン。舐めてくれた物だな……一人ずつ来る気とは……!」 「ううん。一人じゃない……!」 「御託を……。すぐに片づけてやる!」 ヴィヴィオは、そんなユートピアに向けて駆けだした。 大勢の仲間が見守る中で、彼女だけが敵に肉薄する。 それは、さながらストライクアーツの大会のような光景だった。 たくさんの人が見ている前で、自分の戦いをする事──それが、彼女の誇りであり、彼女の生き方であり、彼女にとって最も楽しい時間だった……。 その時の気分が、今は少し重なる。 「はぁぁぁぁッ!!!」 ストレートパンチ──! ぱんっ! ──と手ごたえのありそうな音が鳴った。 だが……。 「ふん」 ユートピアの肉体は、ヴィヴィオの魔力が籠った一撃を胸に受けても悠然としていた。 ヴィヴィオからすれば、これだけ心地よい音が鳴ったというのに、鋼鉄の板を殴ったというよりはむしろ、スポンジの塊でも殴ったかのような不気味なほどの感触の無さが伝わっていた。 やはり、ユートピアは只者ではない。 「能力を使うまでもない……やはり貴様は、子供だ!」 メンバー最年少。全参加者の中でも幼い部類に入る。 それがヴィヴィオの立場であった──この殺し合いにおいても、小学生相当の年齢は彼女だけである。 そこが力の壁を作り出していた。 「子供でも……──小さくても、出来る事があるんだ……!」 ヴィヴィオの拳が、太鼓の連弾のようにユートピアの体に向けて叩きつけられる。 小さいが故の反抗──たとえ、一撃が小さいとしても、子供だとしても、それを蓄積させて巨大な敵を打ち破る力にはなりうる。 ヴィヴィオはその戦いを諦めない。 自分に出来る精一杯を使いきるまでは、ヴィヴィオも何度だってユートピアに想いを、そして拳をぶつける。 ユートピアの足が、土の上を滑るようにして少しずつ下がっていく。彼の体重を動かすには充分な力が叩きつけられているらしい。 「──黙れ」 だが、そんなヴィヴィオの努力もユートピアには無力であった。 たとえ彼の身体を動かしたとしても、彼自身の身体が一切ダメージを通していない。 その上に、そんなヴィヴィオの攻撃を煩わしいとさえ感じ、ここから一撃で勝負を決めて見せようと下準備を始めたのだ。 「世間は無情だな……。仲間の技で死ぬがいい!! 高町ヴィヴィオ!!」 ユートピアの杖の先端に、桃色の魔力光が収束する。 これまでの戦いで霧散した、「ディバインバスター」のエネルギーやメモリーが、全てこのコアの中に群がっていく。 強力な引力が、それをユートピアの手に、半ば強制的に集中させるのだ。 これが、彼の最も悪辣な所である。わざわざヴィヴィオに、この技を使おうと言うのだ。 あっ、とヴィヴィオが憮然とした表情を見せた。 ──そして。 「──ディバイン……バスター!」 ユートピアの叫びと共に現れたのは、高町なのはが何度となく使用した桃色の魔砲であった。ヴィヴィオは、腰を落として両腕を構えたまま、防御の結界の中で、強力な魔力の波動が齎す爆風だけを浴びていた。 そんなヴィヴィオの体が、すぐに耐えきれず真後ろへと吹き飛んでいく。 「──ッ!!」 しかし……。 「──ッッ!!」 しかし……。 「──ッッッ!!!」 しかし……それは、全くヴィヴィオへのダメージとはならない。 「────ッッッッ!!!!」 先ほどのヴィヴィオの攻撃がユートピアに全く届かなかったと同じように、それはヴィヴィオの体にかすり傷さえもつけなかった。 『────っ!!』 『にゃあああああああああああっっ!!!!!』 ──クリスとティオが魔力を尽くして張ったバリアがあるからだ。 二つのデバイスの想いは一つ。 ──この技でヴィヴィオを傷つけさせてやるもんか、という想い。 『──Go!!』 レイジングハートの声が高鳴る。 彼女は、インテリジェントデバイスとしての待機形態へと「変身」し、その姿に羽を生やしていた。その羽を用いた自立移動によってヴィヴィオの下に一瞬で飛翔すると、その体へと触れていく。 彼女に力を貸す為に──寄り添うように。 「レイジングハート……! それに、クリス、ティオも……!」 共に戦う相棒、セイクリッドハード……。 アインハルト・ストラトスが遺したアスティオン……。 若き日の母の相棒だったレイジングハート……。 三つのインテリジェントデバイスの力がヴィヴィオの魔力に重なり合う。 魔術師とデバイスの調和こそが、彼女たちの戦い。──そう、一対一の戦いでも、常にデバイスという相棒が自らを支えてくれた。 それを忘れない。今も──そうやって戦う。 「──バリア!!」 ──障壁! そして、彼女の身体を一片も傷つけさせない為に、額に汗さえも浮かべて、三つのデバイスは、魔力を張る。三つの力が重なり合ったバリアは、偽りのディバインバスターの力を全く通さなかった。 ディバインバスターの力でだけは、ヴィヴィオを傷つけさせない、と──。 そんな願いだけが、ヴィヴィオを守護する。 「──こっちも反撃っ!」 そんなヴィヴィオの掛け声とともに、三つのデバイスが彼女の意思に肯いた。 デバイスたちに頷く事が出来たのなら、おそらくその時、三つのデバイスが同時に首肯しただろう。──しかし、仕草で息を合わせる必要はなかった。 それぞれが、今は想いを一つにしているのだ。 『ヴィヴィオ……力を貸します!』 ──ヴォヴィオの全身を、更に包む白いバリアジャケット。 それは、レイジングハートが変身能力でヴィヴィオの体を包むバリアジャケットへと変身した物であった。──胸元でリボンが結ばれ、その姿は完成する。 「これは……」 高町なのはが装着したバリアジャケットと同様の物であるに違いない。 そして、気づけばヴィヴィオの手には、レイジングハート・エクセリオンの杖が握られている。 レイジングハートが気を利かせてくれたのだという感慨の中、ヴィヴィオはただ、彼女に向けて頷いた。 「──うん!」 防御結界のエネルギーは、そのままヴィヴィオの身体の中へと収束していく。 時に、それはユートピアの持っていたエネルギーさえも、反対にヴィヴィオの中に吸収されていった。 「いこう……!」 桃色のオーラがヴィヴィオの身体を輝かす。 まるで全身に温かい光が雪崩れ込むようだった。 「──ディバイン」 ヴィヴィオの全身を覆った桃色のオーラ──これが、これまでに高町なのはたちが放ったディバインバスターの力だったから。 誰かとわかりあう為に、誰かと本音をぶつけあう為に、──常に誰かを傷つける以外の目的の為に使われたのが、このディバインバスターだったから。 それは、ヴィヴィオの鎧となり、剣となる。 「──ッ!!」 次の瞬間、ディバインバスターはヴィヴィオの身体から、ユートピアの方に、何の合図もなしに向かっていった。 それはまさに、一瞬の切り替えしだった。 流星のように、感知が出来ても祈る事が出来ないほどのスピードで、ユートピアの身体へと叩きこまれた桃色の魔法力。 それは、ユートピアドーパントが目にしてきたあらゆるデータとは根本的に異なっていた。 ──ただの一撃ではない実感。 「──何!?」 ユートピアは、痛みを受けない魔力の放出を前に、ヴィヴィオの方を見た。 まだ、この魔法の力を最大限に開放する、呪文の最後の一声は発していない。 しかし──。 「……!!」 彼女の闘気が自らに向けて放たれている。彼女の瞳は、にらみつけるようにユートピアの身体を掴んで離さなかった。 その瞳は、何かを訴えかけるでもなく、ただ目の前の敵に食らいついていた。 それが、彼女が一人の格闘家である証だった。 (……そう、大丈夫……! 私の後ろには、みんながいるんだ……!) ヴィヴィオは、その時、あらゆる人の事を思い返していた。 二人の母の事を。 共に戦ったライバルの事を。 ここで助けてくれた人々の事を。 『大丈夫だよ、ヴィヴィオ……』 そんな人々が、ヴィヴィオの身体と精神を支えていく。そして、次の一声に至るエネルギーを貸してくれる気がした。 そっと、微笑みかけながら……。 ヴィヴィオの体を包んでいる温かさは、レイジングハートだけではなく、母のなのはから齎されているような気がした。 魔力杖を彼女の真横で支える、なのは、フェイト、アインハルト、スバル、ティアナの姿……。 「──バスター!!!!!」 ──────炸裂! 「ぐっ……!!」 ユートピアの全身を飲み込みながら、爆ぜるようにして威力を増すディバインバスターの魔力。それが、彼の全身の自由を奪った。 彼の身体に確かに駆け巡った痛み。 だが、この程度ならばユートピアも耐えられた。──データにないトリッキーな「ディバインバスター」の使い方であったが、彼の肉体も魔力に屈服するレベルではない。 それでも、絶対の力を得たはずの自分の中に湧きあがる不安のような感情に、ユートピアは襲われつつあった。 「……何──だとッ!!」 ──負けるのではないか? この瞬間、再び、ユートピアの中にそんな考えが浮かび、打ち消した。 「はあああああああああああああああああーーーーーーー!!!!!!!!!」 そして、そんな桃色の粒子の中を駆け巡る一つの影。 いや……一つ、には見えなかった。 「……うぐっ……! バカな……!? がはぁッ……!!」 ユートピアの目は、何人もの、「死んだはず」の幻影が自らを襲う姿が見えていたのだろう。──これが、ただのコピーの技と、本当の技との決定的な違い。 「この程度の攻撃……ッ!」 高町なのは。 フェイト・テスタロッサ。 アインハルト・ストラトス。 スバル・ナカジマ。 ティアナ・ランスター。 プレシア・テスタロッサ。 利用してきたはずのこの殺し合いの駒たちの姿が……。 「一閃必中──ッッッ!」 ディバインバスターの粒子の中を駆け巡る一陣の風は、真っ向勝負を挑んでいた。 ──気づけば、それは黒いバリアジャケットに戻っている。ヴィヴィオはヴィヴィオとして、最後の一撃をユートピアにぶつけに来ているのだ。 「──アクセル」 今度は小細工もなく、ただ、普段と同じように拳を構え、向かっていく。 その中に込められた想い。怒り。悲しみ。……それらは、これまでとはまた少し色合いの異なる物であったが、拳の一撃は常に変わっていく。 ヴィヴィオの拳には、今、彼女を想う母や友たちの想いが乗せられている。 ユートピアは、そんな事を知りもせず、ディバインバスターのエネルギーが消えていく中で、そんなヴィヴィオの拳を、これまた真っ向から迎え打とうとしていた。 この程度の攻撃ならば、まだ受けられる。──そんな自信があったのかもしれない。 避ける暇があるかないかよりも、力を持った故の慢心が大きくそれを左右した。 強すぎる力は、時として、その人間の危機回避能力を麻痺させる。──プライドと自信が、「回避」という判断と頭の中でせめぎ合い、結果として勝利してしまうのだ。 だが、その自信は──次の瞬間、打ち砕かれる。 「────スマーーーーーッッッシュ!!!」 ヴィヴィオの拳は、ただユートピアの胸に叩きこまれただけだというのに。 その魔力に、彼は胸を抉るような強烈な痛みを覚えた。 心臓から血液が駆け巡っていくように、痛みは波紋となって頭のてっぺんまで伝播した。 脳髄が揺れる。彼の中で何かが罅割れる。 ユートピアにとって意表の一撃にして、ヴィヴィオたちにとって会心の一撃であった。 「ぐっ……」 ぴきっ……。 罅割れたのは、「魔力」のコア──即ち、リンカーコアだ。 ベリアルから受け取ったユートピアの幾つものコアは、一つが拒絶を始めた。 それはユートピアに骨折にも似た強い苦しみを与える。 「ぐあああああああああああああああああッッ――――!!」 まるで、これ以上、ユートピアに力を貸す事を拒んでいるかのようだった。 ユートピアの再生能力よりも早く──リンカーコアは亀裂を走らせていく。 ──そして。 「くっ……!!」 ぱりんっ……! と。 暗闇に染まったリンカーコアが、その直後には音を立てて崩壊する。ユートピアの中に埋め込まれた無数の一つが──世界最高の硬度を持つ打撃を受け手も崩れないような力が、この一撃で……。 (こんな……バカなっ……!?) しかし、ヴィヴィオが叩きこんだのは、簡単な一撃ではなかった。 ユートピアの持っていた力は、僅か一日と保たれず、「本物」に敗れたのである。──そう、それは彼の持つコアの力の全てにおいて変わらない事である。 彼は、遥か後方に吹き飛ばされ、土の上をのたうち回る。 「そんな……馬鹿な……ありえない!」 だが、自分がいとも簡単に膝をつくという事実が、彼には信じる事が出来なかった。真実は今自分が置かれている状況とは異なる物だと言い聞かせる為か、彼は全身全霊をあげて立ち上がる。 胸から火花を散らし、全身にダメージを受けながらも……。 「クソッ……」 想定外だ、とユートピアは内心で想った。 ──逆風は吹いたはずだ。 ベリアルは新たな力を授けてくれた。それは絶対無敵の力だった。彼らを確かに圧倒しうるエネルギーを持っていた。 しかし……──それを、一瞬でも超える力を、彼らは持っているというのだ。 まさか、このコアが一つでも破壊され、ユートピアが地面をのたうち回る事になるなどとは、彼自身全く思わなかったのである。 「ナイス、ヴィヴィオちゃん! 次は、俺だぜ!」 そして、そんなユートピアにすかさず立ち向かっていくのは、超光戦士シャンゼリオンであった。 又の名を、涼村暁。 ──ユートピアの双眸には、そもそもここに来るはずのない戦士の姿が映っていた。 先ほどからこの場にいたのはわかっている──だが、何故、我先にと自分を攻撃しに来るのか、ユートピアにはわからずいた。 「涼村……暁ッ……!」 彼がこちら側につかなかったのは、ユートピアにとって小さな誤算だった。 暁という男のデータを見る限り、彼は酷く利己的な人間であるはずだ。何の人の運命を狂わせたかわからないどうしようもないクズ男。 そんな彼がベリアルに立てつくはずがない。 自分や、自分の世界を犠牲にしてまで──ベリアルと戦おうとするはずがない。 彼がベリアルを倒すという事は、即ち、それは彼自身の手で自らの世界を壊すスイッチを入れる事と同義だ。 彼はこの戦いに勝利したとしても、消えるのだ。NEVERとは異なり、彼がその死を恐れぬはずがないだろう。 「貴様……!」 だというのに。 「ぐっ……!!」 ……今、ユートピアの胸に“突き刺さっている物”は何か──。 この固い刃物。既に、ユートピアに食い込んだ、光の刃。 それはまさしく、反逆の証ではないか。 「シャンゼリオンめ……!」 テッカマンのコアに突き刺さっているのは、シャンゼリオンが構えるシャイニングブレードだった。 それは、左肩ごとユートピアの「コア」を貫いている。 彼は、ユートピアがひるんでいる隙に、便乗するようにしてコアを一つ破壊しに来たのだ。 「卑怯な……!」 濛々と吹きだす大量の火花の群れ。 赤く光るそれは、血液のようにシャンゼリオンの身体へと浴びせられた。 しかし、彼はユートピアの一言に何も返す事なく、冷徹なバイザーで見下ろしながら、ユートピアに次の一撃を叩きつける。 「一振り!」 「ガァッ!」 シャンゼリオンのシャイニングブレードは、満身創痍ながらもまだ力の残るユートピアが片手で掴んで防ぐ。刃がユートピアの掌を痛める。 次の瞬間、シャンゼリオンの身体に向けて、ユートピアはもう片方の掌を翳す。 「喰らえェッ……──オーバーレイ・シュトローム!」 ウルトラマンの力を持つコアが、シャンゼリオンのディスクがあるはずの胸を至近距離から貫いた。 クリスタルの結晶が砕け、シャンゼリオンの身体にダメージがフィードバックしていく。 ぼろぼろと零れるクリスタルの欠片。それは、暁の胸骨を折り、心臓まで攻撃が叩きこまれたのを意味していた。 「ぐあああああああああああああ────ッ!!」 結局のところ──ユートピアにとっても、先ほどのヴィヴィオよりも、遥かに戦い慣れないシャンゼリオンが相手である。 懐まで潜り込めば、反撃を受けた時に自分もただでは済まないと知らないのかもしれない。ただ悪運だけで生き残った男だ。 しかし、シャンゼリオンがあまりその死にも等しい痛みを受けた実感がない。 「……クソォォォォォッ!! 痛えなちくしょうッ!!」 と、軽い様子でユートピアを咎めるだけである。 今の一撃が効いていない……? いや、そんなはずはない。 このシャンゼリオンたちの金色のオーラが原因か? だが──。 「そうだ……! 攻撃を受けるのが嫌ならば……何故、我々の所へ来た!」 まるで虚勢を張るかのように、ユートピアはシャンゼリオンに問うた。 本当は、シャンゼリオンが何故ダメージをろくに受けていないのか、訊きたかったのかもしれない。だが、まともに戦って勝てない相手を前にした者が、本能から相手の戦う理由を咎めるように──ユートピアは、シャンゼリオンを批難する。 「俺はな……こういう遠足について行くのが大好きなんだよ!」 「ふざけるな……!」 その愚かな様のまま、シャンゼリオンにまた一言、叫ぶ。 負け犬の遠吠えとまではいかぬものの、ユートピアの放つ一言はそれにもよく似ていた。 一度の敗北が彼のプライドを折り、自身を喪失させたに違いない。 「……勝ったとしても消えるというのにィッ……どこまでも愚かな奴ッ!」 「俺だって気に食わないんだよ……あんたらの言いなりになるのが!」 「何故だ……!」 「そんな事、俺が知るかっ!」 強力な打撃を受けたはずのシャンゼリオンの胸に、クリスタルパワーが充填されていく。 そして、彼は叫んだ。 そう、「懐まで潜り込めば、反撃を受けた時に自分もただでは済まないと知らないのかもしれない」──ユートピアという怪人は、それを忘れていたのかもしれない。 「──シャイニングアタック!」 もう一人のシャンゼリオンが、ユートピアに向けて右腕を突きだして貫いていく。 ユートピアの持つコアに向けて進行した必殺の一撃──シャイニングアタック。 彼ことシャンゼリオンがそう叫ぶと同時に──。 「……ごぉっ!」 ──ユートピアの全身を貫く痛み。 しかし、ユートピアの力は彼自身の肉体を瞬時に再生させていく。──問題はコアだ。 破壊されたコアのデータはガイアメモリ同様、「ブレイク」と共に完全消失する。 対して、先ほどユートピアが貫いたはずのシャンゼリオンの胸の痛みは、たとえどれだけユートピアが蠢いても消えていないはずだ。 「シャンゼリオン……ッ!」 彼は何故戦う……? 自分の命も、自分の世界も、自分の仲間も……何もかもが消えるといのに! 彼自身は、本当にそれを知っているのか──!? 「……はぁ……はぁ……俺って、やっぱり……はぁ……はぁ……」 やはり、このザマだ! ──決め台詞さえ言えていない。 回復し、シャンゼリオンの方を見つめるユートピアは、最早疑問を浮かべるよりも、相手が理屈で対処できない狂人だと思うよう、思考を切り替えた。 涼村暁も少なからず自分の損得を勘定に入れて行動できると思っていたが、その考えは大きな過ちであったらしい。 「決まりす……! ぐぁっ……!!」 ……そうだ。 彼は、ただの狂人なのだ。 本来守らなければならぬはずの自分の世界さえ捨て去って、その他多くの世界の平穏を掴む為に──ベリアルを倒そうとするなどと。 加頭順からすれば、異常だとしか思えない。 しかし、そう思う事で、加頭の気持ちは少し楽になったようであった。相手が格下であるという認識を再度持つ事で、敵に対する言い知れぬ不安からは解放される。 「無様だな……シャンゼリオン……ッ! ──決め台詞ひとつ言えないとは!」 傷つき倒れかけているシャンゼリオンを前に、ユートピアは叫んだ。 しかし、自分の声も断末魔のように掠れており、頭に血が上ったかのように意識も朦朧としているのをユートピアは実感している。 だからこそか、彼は無計画に攻撃を続けた。 ──たとえ無計画であっても、少しの優位を実感してはいたが。 「こちらもだ! ──シャイニングアタック!」 一陣の風は、先ほどシャンゼリオンがユートピアに行ったように、ユートピアからシャンゼリオンに向けて放たれる。 クリスタルパワーの粒子複合体がユートピアの姿を形成し、シャンゼリオンに向けて一直線に飛んでいく。 シャンゼリオンもまた、再びユートピアに向けて叫んだ。 「うおおおおおおおおおおおおおおりゃあああッッ!!! シャイニングアタック・セカンドォォォォッッ!!!!」 二つのシャイニングアタックは空中で激突する。 クリスタルパワーによって形成されたシャンゼリオンの力と、まがい物が作り出したユートピアの力は同時に敵の懐に食らいつこうと牙を剥く。 シャンゼリオンの体力からすれば、他の連中と違い、ここで負ければ死は確実だ。 死にもの狂いの声をあげ、ユートピアを威嚇する。 そして──二つの力は爆発する。 ◆ ──ゼロと美希は、宇宙の星空の中を彷徨っていた。 自分がどこにいるのかは、はっきりとは認識していなかった。 ウルトラマンノアを探す旅は過酷を極めている。未だ、似たような景色の中で、塵のような小惑星をノアのスパークドールズと見紛うばかりである。 外部世界の介入がなく、この宇宙が模造品の無人の世界である以上、誰かからの導きや案内は、頼れなかった。 信じられるのは己の勘だけだった。 「クソッ……! 見つからないぜ……!」 時の概念も、二人にとっては無意味だ。 あるのは、擦り減っていく体力と、散漫になっていく集中力。この二つが時間の役割を果たしているかのようである。 空を泳ぎながら思うのは、果たしてこの不安定な距離を縮める奇跡はどうすれば起こるのかという事だ。 諦めるな、という言葉を信じる。 それしかない。 だから、何度も心の中で唱える。 諦めるな。 諦めるな。 諦めるな。 諦めるな────! そして、ふと……そんな声は、ゼロ達の中で反芻する言葉となってきた。 無限を捜索する中で、彼ら二人の中で重なるようにして、ずっと、息をするように反響していく言葉。 それが何度繰り返された頃か──。 二人以外の誰かが、同じ言葉を口にした。 ──諦めるな!── ◆ ──炸裂した! シャイニングアタックとシャイニングアタックのせめぎ合いは、相応のエネルギーが耐え切れずにオーバーヒートを起こし、二人の身体を吹き飛ばすような猛烈な爆風と、炸裂弾のような衝撃だけを残した。 しかし、その余波に倒れたシャンゼリオンに対し、同じく吹き飛ばされているはずのユートピアは痛く上機嫌に、シャンゼリオンのほぼ眼前に立っていた。 彼の身体には微塵の傷さえ見当たらない。 「……ふふふ」 冷静沈着に、ユートピアは嗤う。 何故彼があの攻撃の衝撃を回避する事が出来たのか……それは、ユートピアが自由に全ての戦士の力を利用する事が出来るのを踏まえれば簡単であった。 ユートピアの側も、些か冷静さを取り戻したようである。 「ふはははははッ!!! 残念だったな、シャゼリオン……!!!!!」 「何……!?」 「見るがいい……これが、魔法少女のコアの力だ……!!」 これまでに砕かれたコアの中に、魔法少女のコアは無かった。 今使われたのは、時間停止能力──暁美ほむらが使用した能力である。 加速の記憶を持つ仮面ライダーアクセルトライアルがここにいたとしても、ほむらの時間停止の中では、物言わぬオブジェになるのである。 それだけの能力により、ユートピアは時間を停止できる数秒の時を移動に費やした。 「──そして!」 次いで、────爆音! 「うわあああああああああッ!!」 その爆音は、時間停止の中でユートピアが「エキストラ」どもに向けて放った膨大なエネルギーの結晶である。 シャンゼリオンの救出に駆け出そうとしていた彼らの仲間の存在を察知し、時間停止中に攻撃を仕掛けたのだ。 目の前にいるシャンゼリオンを除き、全員が予期せぬ攻撃に吹き飛ばされる。 どうやら、ヴィヴィオの際の劣勢とは違い、今は形勢逆転に成功したようだ──ユートピアはそう確信した。 「くっ──!」 「……思ったよりも使い勝手が良いらしいな、この力も。 そう、今の私は魔法少女なのだ──!」 「ほむらの力を……使ったのか!」 シャンゼリオンも、どうやら感づいたらしい。 ──時間停止。 それがいかなる能力であるのかは、彼も、ほむらとの共闘を経て、今もよく知っている。 あれに関する制限がより緩和された今、かつてシャンゼリオンが見たほむら以上に悠々とそれを使う事が可能なのである。 ソウルジェムが濁らない以上、彼にはそんな制限さえ無力であり──そして、今は、止まった時間の中で、ほむら以上の高エネルギーの技さえも使う事が出来る。 「その通り……貴様には、この力に打ち勝つ能力などありはしない……!」 実のところ、エターナルローブを纏っていた仮面ライダーエターナルこと響良牙のみがその時間の中で移動が可能だったのである。 しかしながら、それも一瞬だけだ。すぐにベリアルの力に無効化される。──ユートピアにとっては、先ほどの爆破を回避できれば充分であった。 「暁美ほむらの力がいかなる物か──お前ならばわかるはずだろう?」 「そうか……ほむらの……」 「そう……お前の敗北は、絶対的だ」 シャンゼリオンも、些かショックを受けて項垂れるように見えた。 仲間の力が仇になった事が原因だろう。 ユートピアは、そんな彼の姿を嘲笑う。ショックを受けている間にもユートピアは、シャンゼリオンに接近していく。 「……ぷっ」 ──が。 それと同時に、シャンゼリオンも吹きだすように笑った。 涼村暁が、目の前の敵を逆に嘲笑っていたのだ。 ユートピアは、少し顔を顰めた。 「──ははははははは!! とんでもない馬鹿だな!! お前……!!」 シャンゼリオンは、顔を上げ接近するユートピアに向けて瞳を光らせた。 そのマスクの下に、涼村暁の自信に満ちた表情がある事など、ユートピアは知る由もない。 顰めた顔を元に戻して、理想郷の杖を彼に向けて振るおうとする。──所詮は、シャンゼリオンの一言など戯言だと信じて。 それは、ユートピア自身が彼を狂人と認識しているからだった。 彼が何を言おうとも、まともに耳を貸さず、ただ嘲笑い続けるしかできない。 「──知ってるか! このインケン野郎……! そいつは、ほむらの……──終わる世界を終わらせたくないっていう……そんな願いの力なんだぜ……?」 シャンゼリオンの身体が、理想郷の動きに合わせて浮き上がっていく。──杖が持つ引力に弾きつけられているのだ。 まるで、先端から見えない糸が伸びて、シャンゼリオンの身体をマリオネットとして動かしているようだった……。 「だったら……だったら……──」 威勢の良い言葉とは裏腹に、シャンゼリオンが攻撃を仕掛けられる様子はない。 ふっ、と笑ったユートピア。電撃を彼に浴びせようとする──。 「今誰よりもそれと同じ願いを持っている俺がァッ──。 お前のそんなニセモンの力に負けるわけ、ないだろォッ……!!」 「ほざけッ!」 「ほざく……ッ!!」 直後、シャンゼリオンの全身を駆け抜ける電撃──。 ユートピアは、ちらりとエターナルの方を見た。こちらに急いで向かっているようだが、まだこちらに到達する距離にはない。 シャンゼリオンの命を吸いつくすレベルまでこの一撃を続けるのは容易だ。 他の連中は、今はまだ先ほどの一撃に倒れ伏して、起き上がるのに苦労している。 一人ずつ消していけば充分こちらに勝機があるのは確実だった。 「──ぐあああああああああああああああああッッッ!!!!」 シャンゼリオンの悲鳴が轟いた。 あと一瞬──それだけ力を籠めれば、彼の全身は墨になり、全身のクリスタルは硝子細工のように砕け散っていくだろう。 ユートピアが勝利を確信した瞬間だった。 所詮、シャンゼリオンの言葉など──戯言だと、そう思ったに違いない。 「──がっ!」 しかし。 ──次の瞬間。 「……なっ」 ユートピアの真後ろから砕かれる魔法少女のコア。 それは、彼の腹が鋭い刃に貫かれたという事であった。 「……な、なぜ……!!」 衝撃によって、ユートピアが理想郷の杖を振るう右腕を自然と下ろし、シャンゼリオンもまた地面に叩きつけられる。しかし、彼を襲っていた苦痛からは解放されていた。 シャンゼリオンの変身は、他の連中よりもいち早く解けて、そこにあるのは涼村暁の半分焼けこげたような黒みがかった身体だった。 彼は、立ち上がり、鼻の上の煤を払うと、ユートピアを睨んだ。 「……ふっ」 そして、暁は、少し押し黙り、ユートピアを見てから、笑った。 馬鹿のくせに、まるで嘲るように──。ピエロを見つめるように……。 いや、馬鹿だと自覚していたからこそ、そんな暁に敗れたエリートを笑っているのかもしれない。 「ふっふっふっ……へへへへへ……!! はははははははは……────!!!!」 腹を抱えた彼の笑いは、静かなその場所にただ一人響いた。 誰もつられて笑う事はなかったが、暁はただ一人でも、そこで──まるで本当に狂ったように笑う事が出来るだろう。 目の前の強敵のおかしさが堪えきれなかったのだ。 それから、思う存分笑った彼は、ユートピアに言った。 「だーかーらー! 言っただろうが……バーカ……! いくらあんたがほむらの力を使おうが……そいつはあんたには味方しないってな!」 「何を……馬鹿な……! この力に、意思などない……!!」 「だが、幸運の女神ってやつはな……他でもない、この俺についているんだ……!!」 ユートピアの背中で、刃がそっと引き抜かれていく。 それは、「槍」だった。ユートピアの固い体表を貫いたのは、長いロッドの先端だけに取り付けられた小さな三角の刃である。 それが誰の仕業なのか、背後を観ずともユートピアにはわかった。 「──って言っても、全部あたしのお陰だけどな!」 「だーかーらー、幸運の女神でしょーが!」 ──そう、ユートピアの真後ろから突き刺したのは、“佐倉杏子”であった。 彼女の槍の金色に輝く切っ先が、ユートピアの背中から取り出される。それど同時にユートピアの身体は再生を行う。痛みはない。 ただ、あるのは、何故、彼女がそこにいるのかという疑問だけだ。 (なん、だと……?) 確かに、一対一、などというやり方をシャンゼリオンがするはずがない。それはわかっている。勝てば官軍というやり方であるのは承知済だ。 一対一をやろうとしたのは、実際のところ、試合と言う形式に拘ったヴィヴィオだけである。──ユートピアにもそれはわかっていたはずである。 だからこそ、ユートピアは周囲のエキストラを全員、攻撃して無力化したのだ。 そして、その時、倒れ伏していたはずの彼女が“そこにいるはずがない”のである。ユートピア自身も、確かに全員が倒れた事を確認してシャンゼリオンに止めを刺そうとしていたはずである。 「何故だ……!」 「へへっ……魔法少女の力ってのは、オッサンには似合わないっつー事だよ」 そして、杏子がそう答えた直後、もう一つの声が聞こえた。 『僕達が教えたんだよ……。 次にお前が時間停止やトライアルを使って一斉攻撃を仕掛けた時──!!』 真後ろを見る。──そこにいたのは、仮面ライダーダブルだ。金色に光り輝くボディを見ても、それを見紛うはずがない。 彼らもまた、何故かこの閉鎖された時空の中で平然と動いていた。 何故か……。 「ロッソ・ファンタズマの分身を消して、一気に飛び込もうぜってな!!」 翔太郎の、自信に満ちた声が反響した。 「──!」 そうか、その手があったか──と、ユートピアは、驚きながらも納得する。 少なくとも、先ほど倒したはずのダブルと杏子に関しては「幻術」により生まれた存在だったのである。 ロッソ・ファンタズマ。 把握していたはずの能力だった。加頭自身も、ついさっきまで──コアを破壊される瞬間までは、使用が可能であった技の一つだ。 ドーパントに喩えるならば、ルナドーパントに近いあの幻惑に近い。 「ロッソ・ファンタズマだと……!」 しかし、彼女たちにそれを使う隙がどこかにあったとは到底思えなかった……。 彼女たちは、かなりの長時間──シャンゼリオンが戦う前の時点で幻影と化し、本体はユートピアの死角に隠れていたはずである。 最近、ロッソ・ファンタズマを取り戻したはずの彼女が、そんな長時間、魔力を行使できるはずがない。 いつからか、と言われれば──かなり前から使用していなければ計算が合わない。 だから、加頭はその可能性はあらかじめ除去していた。 これまでも、伏兵として使われていた事は殆どなかったはずだ。 「貴様ら……この瞬間を、ずっと……!」 「その通り──。この時を、ずっと待ってたのさ!」 よもや、杏子がそれだけ上手にその技を使いこなしているとは予想がつかなかった。 そ加頭順がここで主催を代行した時点でも、「ロッソ・ファンタズマ」という技は、杏子が使う事の出来ない技であったからだ。彼女は既にその技の使い方を忘れている。 彼女の精神が既に使用を拒んでいる状態にあったはずだ。 「……なんというッ……!」 綿密な下準備を行って殺し合いを開いた中でも、杏子の「ロッソ・ファンタズマ」の再習得は在りえない話だったのである。 そして、それをこんなにも上手く、ユートピアの目を欺いて利用するとは思えなかった。 彼女は──自分の命を捨てる事さえも恐れずに、技を使っているわけだ。──いや、もしかすれば、既に“そのリスクがない”のか? 結局、彼には何もわからなかった。 「はあああああーーーーッッ!!」 そんな最中、仮面ライダーエターナルも飛び込んでくる。 そう、こうしている間にも、時間は動いている。 制限が切れた今、自分の周囲の特殊能力を無効化するエターナルのエターナルローブは厄介な代物に違いない。 こんな一瞬の隙があれば、彼にもエターナルローブを纏う時間がやってくる。 「くっ! ユートピアが負けるはずはない……こんな未来がありうるはずがない!!」 ──この逆境を越えられるのは、ベリアルの力のみ! しかし、ドーパントたちのコアも、魔法少女のコアも既に砕かれ、トリッキーな時間停止が利用できなくなっている。 この身体にもその血の片鱗が流れているはずだが、魔法少女の力をそのままコアに流入しただけのエネルギーは、彼を留めてはくれない。 『こうなる事は目に見えていた。ユートピア……お前は、力と人との、絆に負けたんだ!!』 「そう──たとえ、99パーセントの適合率があっても、∞の絆には勝てないってわけさ!!」 ダブルたちの声が、ユートピアの脳裏に突き刺さる。 何度となく聞いた彼らの言葉。 それが、指を突き立てるポーズとともに。 「『────さあ、お前の罪を、数えろッ!! 加頭順!!』」 それを聞くのは最後だと思っていた。 それは、自分が勝つからだ──しかし。 今は、違う。 その言葉を聞くのが最後になるのは──理想郷が、崩壊していくからだ。 ベリアルエクストリームの外形から、ぼろぼろと理想郷の姿が崩れ去っていくのを加頭自身も感じていた。 「──人を愛する事がァッ、罪だとでも……罪だとでもいうのか……ッッ!!!」 ユートピアは、かつてと同じダブルの言葉に、再び怒りを募らせる。 何度聞いても──何度前にしても──この問いかけに、ユートピアは同じ答えを取るだろう。 そして、その度に冴子の顔を脳裏に浮かべる。 冴子への愛。 その証明。 それが、加頭の原動力。 「いくぜ……燦然!!!」 その時、涼村暁が、変身のポーズを取った。 燦然──それは、涼村暁がクリスタルパワーを発現させ、超光戦士シャンゼリオンとなる現象である。 変身を解除されたくせに、再変身を行うつもりらしい。 ──そして。 再び、クリスタルの輝きがユートピアの前に出現した。 「超光戦士──シャンゼリオン!!」 暁が再びシャンゼリオンに燦然するのと、仮面ライダーダブル、仮面ライダーエターナルがユートピアの周囲を囲むのはほぼ同時だった。 佐倉杏子が、ゆっくりと身体を遠ざけて行く。──それは、これから行われる同時攻撃を回避する為だ。 ユートピアの逃げ場を塞ぎながら向かってくる三つの影は、同時にその必殺技の名を叫んだ。 「シャイニングアタック!!」 「エターナルレクイエム!!」 「「────ゴールデンエクストリーム!!」」 四つの声が重なり、見事なコンビネーションでユートピアの方に接近する──。 クリスタルパワーの結晶。 マキシマムドライブの衝撃。 そして、人々の祈りの風。 それらは──次の瞬間には、全ての攻撃がユートピアの身体へとぶつかっていく。 「がっ……」 ユートピアの身体に打撃の痛みが走るよりも──早く、三つの影が貫く。 シャンゼリオンのシャイニングアタック。 仮面ライダーエターナルのエターナルレクイエム。 それと同時に、仮面ライダーダブルがゴールデンエクストリームを放った。 「ぐぁっ……!!!!!!!!」 そして、身体が再生するよりも早く起きたのは──メモリブレイクと、コアブレイク。 残る全てのコアと、ユートピアのメモリが崩壊する。 ユートピアドーパント・ダークエクストリームの再建された理想郷が、再びエクストリームの姿を失い、「崩れた理想郷」へと変わっていった。 その、崩落の後さえも、また崩落していく。 全ての理想郷が崩壊し、それは、内側から大爆発を起こしたのだった──!! 「ぬっ──ぬあああああああああああああああああああああああああああッッ!!!!」 それは、ユートピアドーパントを中心に、周囲一帯を燃やし尽くすような黒い炎をあげ、その場にいた者たちに勝負の行方を知らせなかった。 加頭が、その瞬間、何を考えていたのか──それは、誰にもわかるまい。 (この私が────!!!!!!!!!!!!!!!!!!) ……ただ、彼の持つ力と野望は全て、その瞬間打ち砕かれた。 それだけは確かな事実であった。 そして。 「冴子さんんんんんんんんんんんんんんんんん────ッッッ!!!!!!!!!」 三人──いや、四人の戦士がユートピアの身体を過ぎ去ったが、そのシルエットは爆煙の中に隠れ、誰にも視えなかった。 彼の雄叫びが、そこにいた者たちの耳に残り続けた。 ◆ 時系列順で読む Back 変身─ファイナルミッション─(2)Next 変身─ファイナルミッション─(4) 投下順で読む Back 変身─ファイナルミッション─(2)Next 変身─ファイナルミッション─(4) Back 変身─ファイナルミッション─(2) 左翔太郎 Next 変身─ファイナルミッション─(4) Back 変身─ファイナルミッション─(2) 花咲つぼみ Next 変身─ファイナルミッション─(4) Back 変身─ファイナルミッション─(2) 佐倉杏子 Next 変身─ファイナルミッション─(4) Back 変身─ファイナルミッション─(2) 高町ヴィヴィオ Next 変身─ファイナルミッション─(4) Back 変身─ファイナルミッション─(2) レイジングハート Next 変身─ファイナルミッション─(4) Back 変身─ファイナルミッション─(2) 涼村暁 Next 変身─ファイナルミッション─(4) Back 変身─ファイナルミッション─(2) 響良牙 Next 変身─ファイナルミッション─(4) Back 変身─ファイナルミッション─(2) 涼邑零 Next 変身─ファイナルミッション─(4) Back 変身─ファイナルミッション─(2) 蒼乃美希 Next 変身─ファイナルミッション─(4) Back 変身─ファイナルミッション─(2) ウルトラマンゼロ Next 変身─ファイナルミッション─(4) Back 変身─ファイナルミッション─(2) 孤門一輝 Next 変身─ファイナルミッション─(4) Back 変身─ファイナルミッション─(2) 血祭ドウコク Next 変身─ファイナルミッション─(4) Back 変身─ファイナルミッション─(2) 外道シンケンレッド Next 変身─ファイナルミッション─(4) Back 変身─ファイナルミッション─(2) 加頭順 Next 変身─ファイナルミッション─(4) Back 変身─ファイナルミッション─(2) カイザーベリアル Next 変身─ファイナルミッション─(4)
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《変身》/用語・戦術 定義 10.28.1変身は戦術である。 10.28.2本来のテキストは以下の通りである。 10.28.2.a(自動γ)〔このキャラクター〕が攻撃、または防御を行う場合、 同時に次のあなたのターン開始時まで変身状態にしても良い。 10.28.2.b(常時)0:この効果の解決時にこのキャラクターがアクティブ状態の場合、次のあなたのターン開始時まで〔このキャラクター〕を変身状態にする。 10.28.3変身状態とは、カードの上下を反転させ、変身テキスト欄の文字が正方向で読める向きにした状態である。原則的に、変身状態では本来の記述によるキャラクターではなく、変身テキスト欄によるキャラクターとして扱われる。 10.28.4既に変身状態であるカードを変身状態にする事は出来ない。 10.28.5複数の変身状態を持つ場合、変身の解決時にどの変身状態にするのかを選択する。 10.28.6変身状態にする場合、以下の手順で処理する。 10.28.6.aカードの上下を入れ替える。 10.28.6.b変身テキスト欄で指定されている情報を持つキャラクターとして扱う。 10.28.7変身状態から戻る場合、以下の手順で処理する。 10.28.7.aカードの上下を入れ替える。 10.28.7.bカード本来の記述を持つキャラクターとして扱う。 10.28.8変身状態である場合、変身テキスト欄の記述が本来のテキストとして扱われる。 10.28.9セットカードがセットされている場合、そのセットカードはセットされ続ける。セットカードからテキストを得ていた場合、変身状態になった後でもそのテキストは引き継がれる。 10.28.9.aセットカードから変身テキストを得て変身状態になっている場合、そのセットカードのテキストが無効になった時点で、変身状態から戻る。 コメント キャラクターの所持する戦術のひとつ。第十一弾で初登場。 主に別の姿を持つキャラクターや、オプションと共に戦う茨木 華扇(大鵬騎乗時)などが持つ。 1枚のカードで全く異なる能力に文字通り変身する。 テキストはおろか、名称や戦闘力もガラリと変わり、キャラクターによっては種族すら変更される。このように性質が完全に変わるカードがほとんどなので、1枚で2枚のカードを使いこなす事が出来る。 デメリットとして、テキストボックスの関係上戦術以外の効果が少ない。つまりよほど強力な効果でもない限り、変身状態を上手く使いこなさなければ既存カードより劣ってしまう事が多い。 裏向きにする行為とは異なり変身後も同じカードという情報で扱われる。つまり、相手の目標を取るカードに干渉して変身して相手のカードをやり過ごしたり、付与されたデメリット効果等を変身して帳消しにするといった事は出来ない。 第十一弾現在、変身を所持するカード全てが背景の無い「フレームレスカード」となっている。変身を所持していないフレームレスカードは現在2種類しか存在しない。背景のフレームが全く見えないカードには不滅の敵愾チームなどが存在してはいたが、これは完全に背景のフレームが存在していない。カード全体にイラストを使用出来るので、どれも非常に迫力あるカードに仕上がっている。 関連 戦術 変身を所持するキャラクター(第十三弾弾現在) 神玉/11弾 フランドール・スカーレット/11弾 二ッ岩 マミゾウ/11弾 変身テキストを所持するが変身を所持しないキャラクター 茨木 華扇(大鵬騎乗時)/11弾 上白沢 慧音/12弾 水橋 パルスィ/12弾 上白沢 慧音(白沢)/12弾 封獣 ぬえ/12弾 変身を得る事が出来るカード 黒猫/13弾 幻術 変身を指定するカード 炯眼