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騎士Ⅱ ◆gry038wOvE Where there is light, shadows lurk and fear reigns… (光あるところに、漆黒の闇ありき。古の時代より、人類は闇を恐れた) But by the blade of knights, mankind was given hope… (しかし、暗黒を断ち切る騎士の剣によって、人類は希望の光を得たのだ) ◇ 涼邑零。──この男に、その名前がついたのはごく最近の話である。 元々、彼には「本当の名前」はなかった。人の子として生まれたはずだが、気づいた時には親は目の前にはいなかった。自分と血のつながりのある人間は人生の始まりから間もなくして、何らかの事情で彼の目の前から姿を消していたのだ。 おそらくは────もうその彼の血縁者はこの世にいない。両親は彼が生まれて間もなくして、ホラーに殺されたという話をされた事があったが、やはりそれが真実なのだろう。 だから、実の両親がつけるべきもの──「本当の名前」は彼にはない。 『──父さん! 静香!』 親のなかった彼にとっての家族とは、道寺という老いた魔戒騎士の父と、静香という妹である。自分が道寺や静香と血のつながりがない事を知ったのは、十年前、彼が八歳の時だ。 それを告げられるその時まで、何の違和感もなく彼を本当の父だと思って生きてきたのだった。強く優しい道寺の背中は、本当の父そのもの──彼は、ずっとそれを追って来た。 魔戒騎士の血が自分と静香に流れ、自分はその血に従って、父同様の立派な魔戒騎士になると思っていた。 『怒らないで、坊や。道寺はね、身寄りのないあなたと静香を引き取って、自分の子供として育てる決意をしたの。それがどんなに覚悟の要る決断であったか、あなたにはわからないでしょうね──』 倉庫の中で魔導具シルヴァと出会い、そう言われた時の衝撃を彼は忘れないだろう。月並みな言い方をすれば、ハンマーで殴られたような衝撃である。 後に、その真実を再度、道寺から聞かされた時の静香の驚いた顔も忘れない。 “ああ、あの時自分はこんな顔をしていたのか……”と。 だが、決して、失望だけの色ではなく、どこか嬉しさがこみあげていたのは、兄と妹の関係では叶わないような想いを、お互いに胸に抱いていたからだろう。 彼が道寺のもとで暮らしていた時の名前は銀牙と言った。 これはおそらく、一人の身寄りのない子供に道寺がつけた名前だ。銀牙騎士ゼロ、という道寺の称号の名前を考えれば、容易にわかる事である。おそらくそこから取ったのだ。 銀牙はその名前を、己の誇りにした。血のつながりはないとはいえ、それでも父は自分を魔戒騎士にしようとしている。父の称号から受けた名前がより一層、自分は魔戒騎士になるのだという想いを強くさせた。誉れ高き魔戒騎士が、己の称号を他人に名付けるはずがない。実の息子のような愛情を注いでいるから、この名前が銀牙に受け継がれたはずだ。 道寺や静香が、自分の事を「銀牙」と呼んでくれる日々がただ嬉しかった。 たとえ血のつながりがなくとも、そこにいるのは確かに「家族」。父から子へと受け継がれた、魔戒騎士の魂の絆だった。 ……とはいえ、元々、道寺が彼を引き取ったのは、「絶狼」の称号を持つ鎧の後継者が空席だったからであった。決して孤児を不憫に思ったわけでもなく、己の寂しさを紛らわすだけでもなく、ただこの世にありふれたたくさんの孤児の中から、奇跡的な才能の持ち主を見出して、自分の後継者を育てようとしたのであった。 魔戒騎士になるには血のにじむような努力が要される。昼夜を問わず心身ともに修行し、天才的な素養と努力によって己の術を高めていく。一般的な人間が一生涯に行うほどの努力を少年期に詰め込むくらいでなければ、古の怪物ホラーを狩る事はできない。 本来ならば血統も重んじられるが、その差を一層の努力で埋めなければならない定めも彼には圧し掛かった。 しかし、銀牙にはそんな生活も、手ごたえのない努力も、苦ではなかった。 苦しさの数に勝る幸せがあり、道寺の息子として魔戒騎士を夢見る事もまた誇りであったからだ。銀牙自身が、魔戒騎士の子たちに遅れを取らない才能の持ち主であった所為もある。 『ねえ、銀牙はなぜ魔戒騎士になったの?』 『──きみを守るために』 「大事な物を守る」──魔戒騎士にとって、最も大事な想いと、しかるべき義務もまた、銀牙の胸の内に確かに秘められていた。日々の辛い修練も、父や静香を守るために魔戒騎士になるその時を思えば耐えられたのだ。それに、父の生成した魔導具・シルヴァも彼らを支えていた。 そして、いつの間にか銀牙は、魔戒騎士の血統を継いだ者たちよりも立派な魔戒騎士になっていたのである。 それだけの素質を開化させる頃には、銀牙は十八歳になり、私生活では静香との結婚を意識するようになっていた。まるで前世からの悲恋が叶うような喜びが胸に広がっているのを銀牙は感じた。 そう、おそらくは──この愛おしさは、今に限った事ではない。 兄と妹だった時よりも、ずっと以前から二人は惹かれあっていたはずだ。 そして、やがて訪れる幸せを夢見て、銀牙は日に日に強くなっていった。誰よりも強く、誰よりも静香の事を守れる魔戒騎士になるために──あるいは、最高位の黄金騎士の力に届いてもおかしくないほどの急激な成長ぶりであっただろう。 そんな日々も──。 あの日。左翔太郎の言葉を借りるならば、「ビギンズナイト」とでも呼ぶべき、銀牙の運命を変えた日、遂に銀牙の幸せな日々は幕を下ろした。 長い時間をかけて育まれたその幸せが崩されるのは一瞬だった。 それが崩された理由の単純さも、その運命の無情さを表していた。 たった一人の魔戒騎士が、ある秘薬を奪う為だけに、銀牙の目の前で道寺と静香を殺害したのである。目の前で、家族たちの温かさは消えていった。 その日から、銀牙は己の名前を捨てた。あの名前が呼ばれるは、銀牙が育ったあの草原にぽつりと建てられた小さな家の中だけだ。 誇り高き、「銀牙」の名前は、もう使われるべきではない。これからはどんなに汚れた事でも行う。魔戒騎士の道理に逆らってでも、家族の仇を取るのだ──。 「銀牙」は、その時に死んだ。──そして、新しく「涼邑零」という名前の男が生まれ、復讐の為の日々は始まったのである。 ◇ 仇敵は目の前にいた。 暗黒騎士キバ──。いや、それを狂わせていた『鎧』だった。この鎧は中身を伴っていない。残留思念だけが具現化された物であるとザルバは言う。 実のところ、確かにそこから人間らしい意思は感じられなかった。 しかし、確かにそれは仇敵だった。 千体のホラーを喰らい、魔戒騎士たちを喰らい、バラゴの精神までもを喰らったのは全てこの暗黒騎士キバの鎧の方である。 真に憎まれるべき仇は鋼牙でもバラゴでもない。──ここにいる、鎧の怪物だ。 ──魔戒騎士たちの鎧は、須らく危険性のある材質で出来ている。 ソウルメタル──現世で99.9秒以上装着していれば鎧の力に食われ、暴走するという代物である。その時から鎧はデスメタルへと還元され、より強固で強力になる代わりに、鎧自体の自我も強くなるのである。 文字通り、“魂が死んだ”状態と言っていい。 実のところ、辛い修行を経てきた多くの魔戒騎士たちはソウルメタル難なくそれを使いこなすのだが、時として飽くなき力の誘惑に負け、99.9秒を超過しても鎧を解除せず、結果として怪物になる者が現れる。 この鎧の主であるバラゴは、その限られた稀な魔戒騎士だった。 バラゴはもうこの世にはいないが、全てを喰らった鎧の方こそがバラゴを暴走させ、怪物の意思を持っていたのだろう。バラゴの蛮行は当然許される事ではないが、より許せないのは、一人の人間の想いを利用して騎士の道を狂わせたこの悪しき鎧──それが今、ようやく零にも理解できたようであった。 「──いくぞ」 ゼロはその仇敵の暗黒騎士の喉元を冷静に──あるいは、冷淡に見つめた。銀牙騎士ゼロの鎧を纏い、今自分は戦いの現場にいる。 しかし、己の内心には奇妙な落ち着きも見受けられた。戦意は高揚もしているはずなのだが、決してそれだけではない。今までよりもずっと、沈着した怒りで敵に相対している。 ずっと……ずっと、追い求めてきた己の仇が、今目の前にいるはずなのに。あれだけ憎み、あれだけ零を苦しめた諸悪の根源が目の前にいて、今度は零の命を奪おうとしているはずなのに。本来なら復讐の意思が牙を剥いても全くおかしくない話だが、零はその想いに飲まれなかった。 「暗黒騎士……いや、俺たちの敵・ホラーよ」 勝つか、負けるか──それは生きるか、死ぬか。幾度もその緊張を乗り越えてきたとはいえ、この破格の相手を前に考えてみれば恐ろしい物だが、今こうして、久々に暗黒騎士と対決する日が来た時、零の胸には辛い修行を乗り切った後に敵に勝ったような達成感があった。 ──いや、勝てる。これは勝てる戦だ。その確信が既に零にはある。 「貴様の陰我──今度は、俺が断ち切る!」 道寺も。静香も。シルヴァも。鋼牙も。──今はいないが、彼らから教わって来た魔戒騎士の義務と守りしものだけは、零の中に残される。いや、彼らにその想いを受け継がせてきた幾千の英霊の魂や想い、誇りもまた、銀牙騎士がここに生まれるまでに存在しているのである。それらは決して消えない。 古今東西、あらゆる黄金騎士や銀牙騎士たちが鋼牙・零の代まで継承させた力と意思である。たかだか十年程度、見せかけの強さで悪の限りを尽くした暗黒騎士──いや、騎士と呼ぶ事さえおこがましい目の前の怪物とは違う。 ゼロがこんな所で、こんな相手に負けるはずがなかった。 この剣に、この両腕に、この血潮に、幾千幾万の戦士たちの力と想いが宿り続けている。そして、ゼロの背中を押しているのである。 ──それに、ここには新しい仲間もいる。 その追い風に身を委ねるように、彼は駆けだした。 「──はあああああああああああっ!!!」 両手に剣を握りしめたゼロは、まるで舞うようにキバの体表へと剣をぶつけた。 火花は勿論、キバを動かす邪念の欠片もまた、そこから漏れ出たように感じた。 胸を張り、然として、キバはその一撃を受ける。 その衝撃を鎧の強度で飲み込み、当のキバは隙を見てゼロの腹を、胸を蹴り飛ばした。 数歩、ゼロは退く。 「はあっ!!!!」 しかし、そこから縦一閃。 刃がキバの体を引き裂かんと振るわれた。 両腕の付け根に向けて突進した斬撃の光は、その体を抜けて後方の木々へと、地面に垂直な焦げ跡を刻んだ。 「ぐっ……!」 今度はキバが後退した。 真横に剣を構えて、ゼロの手前の虚空を引き裂く。彼らの一撃は、風を作りだす。──鎌鼬、という現象のように。 ゼロは高く跳躍してそれを回避する。キバの斬撃は、そんなゼロの足の下を素通りしていった。後方数十メートル、幹が抉られた木が残った。 ──その時、キバにも隙が出来たように見えた。 「はぁっ!!」 この掛け声はゼロでもキバでもない者が発した声だった。そして、真横からキバの左腕に向けて振るわれる剣──。これは、おそらく戦闘の素人による攻撃だ。キバはその左腕で剣の切っ先を掴む。 その見かけは黄金の輝きを放っていた。──ゼロの仲間だ。 黄金騎士ガロの姿に変身したレイジングハート・エクセリオンである。ダミーメモリという強力なメモリが、一度見た敵をより強くなっている。 「愚かなッ」 キバはまず、そちらに一度、剣を振るった。刃はまるで突き刺したかのように深く鎧を抉り、滑らかに線を作る。黄金の鎧に一文字の傷跡。レイジングハートの方が接近しすぎた証であろう。指に嵌められたザルバも、その不覚を呪っているに違いない。 もう少し距離感を計算に入れるべきだ、と。 「ぐああああああああああああああッッ!!」 レイジングハートは基本的にはここにいる誰よりも戦闘に不慣れだ。 ゆえに、キバに敵うだけの力は持ち合わせない。キバにとっても、取るにたらない存在のはずだ。 「大丈夫かっ!?」 着地したゼロがレイジングハートの身を案じる。 だが、彼女には決して役立たずではなかった。彼女にも、ここにいる誰も持たない技能がある。この場の誰もが、その行動をただの無茶や不慣れと勘違いしたようだが、レイジングハートも接近戦が危険である事など重々理解している。 ──彼女も「変身」においては、ここにいる誰よりも多様なバリエーションを持っているのだ。これまで見てきたあらゆる物に姿を変え、その能力の片鱗を自在に引きだす事ができる。扱う者によれば、その強さは絶大。 今、まさに、その能力を活かして目の前の巨悪に一矢報いようと思ったのである。 「──OK,……変、身ッ!」 この時、傷ついたレイジングハートが姿を変えたのは、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンの姿であった。所持していた黄金の剣は、鎌形の魔法刃・ハーケンセイバーへと姿を変える。ダミーメモリによる疑似的な魔法力だけではなく、レイジングハート自身のリンカーコアから供給される魔法が一層、その刃を強くする。 「ハーケンセイバァーッ!」 ごろろろろ。──形を変えた剣から発せられるのは、轟く雷鳴。 キバの頭部から足元まで雷が駆け巡った。人間ならば一瞬で焼死する。非殺傷設定などこの相手には使われていなかった。 「なにっ……!」 肉を斬らせて、骨を絶つ──。 接近戦の危険性は重々承知していたが、レイジングハートはこの距離で「変身」する事を考えていた。ガロとして接近してキバを狙い、直後にフェイトの姿へと変身し、魔力を発動する。その作戦通り、ハーケンセイバーへと変形した黄金剣は、キバの頭上に雷と魔法刃を落としたのであった。 「……ぐっ!?」 魔戒騎士を相手にすればありえないトリッキー。──それが、暗黒騎士キバの鎧に突かれた弱点である。 目の前の敵が黄金騎士ではなく、湖で目にした女であるとはわかっていたが、あくまで、キバは無意識に「魔戒騎士の能力」への対応を考えていたのだろう。しかし、当のレイジングハートの側は決して黄金騎士としての能力だけを有しているわけではない。これまでの戦いのあらゆるデータが全てそのままダミードーパントの能力に直結している。 変身のバリエージョンは無限に存在し、瞬時にその姿と能力を入れ替えて戦闘する事ができる。その切り替えが上達している事をキバは想定していなかった。 ゆえに、甘んじてその体は電撃を喰らう事になったのだ。 体を駆け巡った電流の残滓を振り払い、レイジングハートを一睨みする。 「ふんっ……」 キバにとってはまだまだ致命傷に届かない一撃だ。 鎧自体の能力も、易々と敵に遅れを取るレベルではない。中身がない分、人間と比べて「痛み」のない彼には、一瞬だけ受けた外傷である。 通常の金属と違い、感電する事はありえない。破損レベルも低く、決して意義のある攻撃にはなりえなかった。 「……この程度か!」 レイジングハートが行ったのは、実際には「骨を絶たせて肉を斬る」という程度だったのだろうか。キバの受けたダメージは、レイジングハートの意に反して、微々たるものであった。 しかし、キバのペースを乱したのは確かである。下に見ていた相手から初めてまともな攻撃を貰って、内心では動揺も受けただろう。自尊心の強い怪物であるがゆえ、自分の想定を崩されると理不尽な怒りも湧き上がる。 実際、微々たるものとはいえ、鎧そのものに与えたダメージがあるのは確かだ。蓄積されれば十分に破壊につながる。おそらく、通常の攻撃では、多少でもダメージは与えられない。 『おい……あんまり無茶をするな……! 身が保たないぞ!』 ただ、レイジングハートを想い、ザルバは叫んだ。実際、その通りだろうとレイジングハートも自覚する。 この戦法が一度成功して以降は、おそらくその効果は弱くなる。まだキバが知らないような能力もいくつか使えるが、それを使い続ければキバもレイジングハートの命そのものを消し去る為の対策を生みだすだろう。 レイジングハートは、キバから距離を置いて膝をついている。胸部の傷跡を触れながら、あと二、三発同様に攻撃されればレイジングハート自体が破壊されてしまう可能性も高い──それを実感した。 「まずいっ!」 好機。キバはそこにねらい目を感じる。 その最中、仮面ライダースーパー1──沖一也がそこに駆け寄った。 「ふんっ」 キバが空中に剣で十字を描くと、それはまるで黒色の衝撃波のような姿へと姿を変えて、そのままレイジングハートを狙う。 「──ッ」 ──が、その攻撃の延長線上には、既にスーパー1が到着していた。 十字の黒炎がレイジングハートの体を引き裂く前に、スーパー1が両掌をキバに向けて腰を少し下ろす。構えは、ほぼ正確だった。 「赤林少林拳! 梅花の型!」 十字の中央、四股が集う場所が、スーパー1の掌と重なり、包まれた。まるでスーパー1の掌の底から漆黒の花が咲いたようにも見えるだろう。 レイジングハートは、自分に向けられた攻撃に咄嗟に目を瞑ったが、己を守るスーパー1の背中を目の当りにして、ほっと息をついた。 「破ァッ!」 スーパー1は、キバの剣から放たれた衝撃波を梅花の型で吸収する。 彼は別にこの腕に力を込めたつもりはなかった。ただ、自然の流れに従い、己の鋭敏な感覚を信じてそこに手を起き、流れに任せたのみである。 その結果、黒炎の力は押しとどまり、やがてスーパー1の付近数メートルに暴風を発生させた後、元通り自然の流れに消えた。 全て終われば、舞い散る木葉だけが、スーパー1とレイジングハートの周囲には舞っている。 守る。──という行為においては、彼はプロフェッショナルであると言える。 梅花とは、その為の力である。その使いどころが発揮されたという事だ。 「ハァッ!」 ゼロが再び、キバに接近して剣舞する。 本来ならば相当に使う難く、剣道でもルール上可能であれ、誰も使わない二刀流。──現代では、それを使いこなせるほど頭の回転の早く、両手の握力やテクニックの強い戦士は存在していなかった。 それが、今、一度、二度、三度、四度と、キバを翻弄して傷つけている。 彼は二刀流において、おそらくその時代で最強の実力の持ち主であった。並の人間にとっては一刀流が最も安定した剣術だろうが、彼にとっては二刀流の方が遥かに扱いやすい。 刀、という無機質な相棒でも、一つでも多い方がいいと──寂しく思っていたのかもしれない。 それは、滑らかにキバの体表を削り取った後、背後に退いた。 「うらァァあああああッ!!」 そんな最中、三人──ゼロとスーパー1とレイジングハート──の耳朶を打つのは、もう一人の後衛の叫び声である。咄嗟に、ゼロとスーパー1は己の身の危険を感じた。 味方ではあるが、決して優しくはない攻撃がキバに向けられたのだろう。 「ぐっ……!!」 ゼロが後退した理由はこれである。 スーパー1のもとに、更に一閃の攻撃が向かってきた。──今度は、梅花による回避は難しい速度であった。力の位置が安定せず、捉えるのは難しい。 咄嗟に、スーパー1とレイジングハートはその頭を下げて屈み、体ごと回避した。 激突。 二人の後方、冴島邸の塀に真っ赤な炎を帯びた斬撃が走る。爆弾がコンクリートを粉にしたような轟音とともに、塀が崩れ落ちてきた。 レイジングハートの頭部をスーパー1が庇うようにして守る。瓦礫は彼の体には柔らかな土塊も同然だ。 「ドウコク……!」 その技の主を見れば、それは血祭ドウコクであった。──彼にとっては、この軌道もおおよそ予想通りだっただろう。最もキバを捉えやすい角度に、力任せに剣を振るっただけだ。 暗黒騎士キバ以上に恐ろしい異形を、スーパー1は黙って見つめる。その瞳にはドウコクへの批難と反抗の念も込められていたが、当のドウコクは全くそんな視線を受けている意識はなかった。 「フン」 ドウコクは憮然と立ち構えたまま、キバの方を見据えている。スーパー1とレイジングハートの方には最初から目をやっていないようだ。明確にスーパー1やレイジングハートを狙ったわけではないが、巻き添えも辞さないと判断したのだ。 いずれ敵になる男……というのを二人は確信した。 これがこの男の戦法だ。 スーパー1とレイジングハートの回避を信頼したわけではなく、「回避できない雑魚ならば味方として扱う価値はない」と最初から方針を決めて戦っている。 これが同じ外道衆の仲間ならば違っただろうが、相手が外道と相容れない善良な人間ともなるとこんな扱いである。──ドウコクは、スーパー1たちが休む間もなく次の行動に出た。 「ハァァァァァァァァッ!!!!!」 そう吠えたかと思えば、次の瞬間には、ドウコクがその場から姿を消した。いや、その場にいた人間の目が一瞬だけその姿を捕捉できなくなっただけだった。 よく目を凝らせばわかるが、ドウコクは超高速で移動してキバの体を斬りつけていた。それは傍から見れば単純に右から左へ動いているように見えるかもしれないが、実のところ、ドウコクの足は地を蹴っていない。 それこそが外道衆なる妖怪たちの特異性だろう。 僅かならば、地に足をつけずに、自分が作りだした大気の流れだけで移動ができる。 「ハアッ!!」 何度、キバの体が傷を負っただろうか、というくらいに切りつけたところでドウコクが飛びあがり、上空から青い雷を放ってキバに落とした。 スーパー1とレイジングハートは退いてそれを回避していた。今は到底、そこに飛び込めるような状況ではない。 これがドウコクの実力である。この時の彼は、おそらくこの場で最も非情に戦闘行為を行っていたのだろう。──首輪を外した以上、彼を縛る者は何もない。 「ぐっ!! はっ……!!」 キバは、傷つきながらも機転を効かせて、その雷を上空に翳した剣を避雷針にして「回収」する。そして、剣を華麗に振るって、その電撃が自らに到達するよりも早く────大地へと雷を押し返す。 なかなかの初速だ。視界そのもののモードを切り替え、ドウコクの戦闘をコンピュータで捉えていたスーパー1以外、その一瞬は捉えきれなかっただろうと、スーパー1は自負した。 地面が裂け、電撃はゼロの方へと突進していく。 「危ないっ!!」 スーパー1が思わず叫んだ。 雷が土竜のように地を掘り進め、地上にそのエネルギーを解放しようとしている。 そのゴール地点にゼロがいるのである。彼の耐久精度がどの程度か認識していなかったスーパー1は、彼の身を案じた。 しかし、それは全くの杞憂だったといえよう。 「はっ」 ゼロは両手を広げ、空中へと飛びあがる。──彼は、キバが雷よりも早く動いた事を確かにその目で捉えていたらしい。それは、人間離れした運動神経と動体視力であると言える。 空は真昼の太陽がもう雲に隠れていて、既に陽が落ちそうに暗くなっていた。今、空にある輝きはゼロだけだった。 なるほど、スーパー1が思っていた以上に、頼りがいのある仲間だ。 「──」 ドウコクの方は、これといって反応せず、憮然と立ちすくんでいる。──彼も、スーパー1の予測以上の動体視力で、一部始終を確認したのだろうか。 スーパー1──沖一也と決定的に違うのは、ゼロが舞い降りるあの空に一切興味を持たないところだ。 遅れて、レイジングハートが、顔を上げてゼロの姿を探した。今の一瞬は彼女でも捉えられなかったらしい。ドウコクがキバに雷を落としてからの展開を彼女は読めていない。 ぱからっ、ぱからっ、ぱからっ……。 そんな風に空を彼らが見つめていると、どこからか蹄の音が鳴り渡った。 味方さえも、その音に翻弄される。キバに向かっていくその音。 まるで、森の中から突然に現れて出てきたように聞こえた。 「!!」 巨大な銀の馬が、森の奥から駆け出してくるのだ。 ゼロの鎧と同じく、白銀に輝くその馬は、どんなサラブレットよりも美しく猛々しい。 スーパー1は思わず息を飲んだ。 「──」 魔導馬、銀牙である。巨体は四足を駆動させて彼らの元へと向かっていた。 ゼロが召喚したのだ。あらゆる意味で最後の相棒にして、己のかつての名前が名付けられている家族。現世に降臨した魔導馬は、英霊たちの魂さえも載せてゼロへと近づいていた。 ゼロはその巨体を繰り、直線上にあるキバの鎧を狙っていたのである。 「はあああああっ!!」 その時速を確認する。銀牙は、森の奥から現れ、ゼロの着地点まで一瞬で距離を縮めた。 ──一秒後には、キバの後方へとたどり着けるスピードだろう。 ゼロが銀牙の上に落下し、丁度跨る形になって、キバへと肉薄するに至った。 「──ッ」 本来、キバの鎧はその邪念だけで魔界と人間界とのつながりを一時的に断絶する「結界」を張るだけの能力があるが、この時、彼の邪念は結界を張るに至らなかったのである。 それは、彼が最も恨んでいる黄金騎士の存在がこの場になかった事と、絶狼の鎧を喰らおうとしていた事に由来する。 しかし、今自分が戦っている相手は既に魔導馬を持っており、それをこうまで手懐け、使いこなしている事をキバは理解した。目の前の敵は、安易に“喰らえる”相手ではない。 どうやら、もっと簡単にゼロを倒す策を講じなければならない。 銀牙に載ったゼロの刃は、通りすがりにキバの胸を切り裂く。 先ほど、似非の黄金騎士に与えた傷口よりもずっと深く、空っぽの鎧を抉りだす。 「ぐっ……」 通りすぎたゼロは、再度後ろを振り向いて、キバの方へと向かっていく。 キバは倒れかかったその体でも、向かってくるゼロと銀牙を睨み据える。 ──喰うか喰われるか。 接近する銀牙を前にも、キバは冷静に己の刃を腕でなぞった。すると、まるでそこから魔導火を翳したかのように、刀身で炎があがった デスメタルの刃がいっそう強く燃え上がり、向かってくるゼロを斬りつけようと感じた。 「フンッ!!」 「ハアッ!!」 ゼロとキバ、お互いの刃から衝撃波が発される。 膨大なエネルギーを発するお互いの刃が空中で激突、拮抗した──。 ──爆裂。 双方の力が押し合いきれずにそのエネルギーを直進させ続ける事ができなかったのだ。 真横に逃げ出そうと抵抗した力が空中で小さな爆発を起こす。 空気が振動し、ゼロとキバはそれぞれ、衝撃を体の前面で受けて吹き飛ばされる。 「ぐぅっ!」 ゼロが起き上がる。 ──いや、その姿は生身の涼邑零へと再び戻っていた。 「フフ……」 魔界騎士の鎧が解除されており、背にいたはずの魔導馬も消えている。しかし、零には召喚を解除した覚えも、召喚の継続が不可能になる次元のダメージを負った覚えもない。 考えうるのは、外的要因。強制的に他人の鎧を解除できる抑止力だ。しかし、それも心当たりがなく、零は困惑した。 「────なっ……一体、どういう事だっ!」 尻を地面についたまま、零は己の両掌を見る。 傍らに落ちている双剣にふと気づいて、それを手に取る。 即座に、その剣で空中に真円を二つ描いて、真魔界とのコネクトを図るが、……すぐにゲートが消失した。これでは、鎧の召喚が行えない。 『奴の邪念を受けたんだ! 奴は結界を張って鎧の召喚を妨害しているぞ!』 レイジングハートの指で魔導輪ザルバがその気配を察知し、ゼロに原理を伝えた。キバの強い邪念がゼロのソウルメタルの装着を解除させ、一時的に真魔界に鎧と騎馬を送還させたというのである。 更に、キバはその邪念でホラーを操り、現実世界へと鎧を運ぶ魔天使を妨害している。 その為に、零は再度鎧を装着する事ができなくなってしまったらしい。 「くっ……奴め! あと一歩のところで!」 『おい、零。もう一度ゲートを開け、俺様が裂け目に入って何とかしてやる!』 「……わかった!」 零は、頷くとザルバに従って空中に円を描こうとする。 だが、そんな彼の目の前には既に起き上がったキバが接近している。 円を描く時間はない──。 「はぁっ!!」 スーパー1がキバに掴みかかり、零への接近を阻止する。パワーハンドへとチェンジしたファイブハンドは、キバが零を殺害する隙を与えなかった。 キバの外殻を掴み、敵の動きを止める。 現実世界の科学技術で魔界の鎧を阻止する、その人間の凄まじき情熱──それもまた、キバには疎ましい。真に強きは人ではなく、魔物であると信じるがゆえに、彼はホラーを喰らい続けたのだ。 「くっ。仮面ライダーめ、何度この俺の邪魔をするッ!」 「何度でもだっ!」 「ならばッ! ──はぁッ!」 スーパー1の鳩尾にキバの肘鉄が入る。強固なスーパー1のボディに、それは損害として認識された。もしまともに喰らえば、沖一也としての内臓部にも危険信号が入りかねない。 しかし、今この時にスーパー1がしたかったのは時間稼ぎだ。一秒でも稼がれたのなら十分である。 「──ザルバ!」 零は、スーパー1が作った隙を見て、魔戒剣で真魔界と現実世界とを繋ぐゲートを描いた。 二つの真円からこぼれ出る光は、魔界とこの世界をつなげる色彩だ。確かに、この小さな裂け目から、あの世界への道筋は開かれている。 「無事を!」 『任せろ!』 レイジングハートは、即座にそこにザルバを放り投げる。アーチになって綺麗に裂け目へと侵入したザルバの姿が消えたのだろう。 魔界とのゲートがホラーの妨害によって現実世界から消えていく直前、ザルバは向こうの世界に“帰った”。 結界を解除し、こちらの世界へと再び鎧を召喚するべく──。 「くっ……」 キバは、その様子を不快そうに見つめ、スーパー1の腕を払った。 スーパー1も何メートルか後退する。しかし、今一時の目的は十分に果たせた。 これで、ともかく、零が生身に限らず奮闘できる状況だ。 「よし、あとは鎧が戻るまで──」 前方に零とレイジングハート、右方にスーパー1、左方にドウコク。 四人がキバに向かおうとする。多勢に無勢、というほどキバは弱くない。 ひとまずは、ここにいる四人を葬るだけの余力はあると──キバは、驕った。 ◇ キバに迫ったのは、赤心少林拳の手刀であった。 並の鉄ならば切り裂くだろうが、当然デスメタルの鎧にはそれだけの効果はない。 金属と金属がぶつかる音とともに、キバはスーパー1の腹部に刃を滑らせる。 その傷は深く抉れて、スーパー1にも深刻な損害をもたらした。 「うらあっ!!」 スーパー1に注意を向けていたキバの背中から、血祭ドウコクの襲撃である。 またも、それは味方の損失を一切考えない利己的な攻撃方法であった。 キバの鎧に向けられた掌から、見えない衝撃波が発生する。疾風ともまた違う、空気そのものが重みを帯びてドウコクの掌から発されたような一撃。 背後を振り向いたキバにとって痛手だったのは、その一撃のあまりの深さ。 全身から火花が散るほどである。 「……俺と同じか」 だが、キバも背中のマントを翻して、そのダメージを最小限に抑えていた。 既に、ドウコクが自分やホラーと同種である事は理解している。それゆえか、スーパー1の身体を顧みずに一撃を放るような無情な性格が見受けられた。まさに、“外道”と呼ぶにふさわしい悪徳だ。 スーパー1の腹部を切り裂いた剣を、そのままドウコクに向けて振るった。 黒炎の斬撃がドウコクに向けて空気を切り裂いて進行する。その一撃はドウコクの体表を抉った。 「うぉっ!」 ドウコク自身、どうやら避ける気はなかったらしく、予想以上の痛みに少しは困惑したようである。──しかし、その困惑は決して消極的な意味ではなかった。 敵の出方、敵の持つ一撃、敵から受ける痛み。全てに興味を持ったのだろう。 どうやら、ドウコクを敗北に至らしめるほどの力はない。 「──ふん、少しはやるようじゃねえか」 実際のところ、ここにいる中ではレイジングハート以外の全員が片手落ちで倒せてしまいそうな程度、とは思っているが、ドウコクは薄く褒めた。 少しは、という表現が全く虚栄ではない。 ドウコクにとって、目の前の敵の実力は、「思ったより少しは上」という程度だった。元のハードルが低い所為もあるが、褒める程度には値する。少なくとも、シンケンレッドや十臓とは同じ程度。 「だが、これ以上俺の手を煩わせる必要もねえみてえだな」 純粋な破壊願望とともにここに来たが、ドウコクにはもう十分であった。 あとは、彼らに任せても殆ど問題はない。 底が見えた──そう感じたのだろう。スーパー1が後退し、キバの周囲から人が消える。ドウコクもそこに突っ込む事はなかった。 『──Divine Buster』 ──高町なのはの姿へと変身したレイジングハートが既に照準を合わせている。 桃色の砲火が、そのままキバの鎧へと突進し、爆ぜた。 「やりましたか?」 爆煙の中でキバの姿を探す。こういう場合、大抵は効き目がない。 ──この場合も、既存の展開と同じように、キバは再びその煙の中からシルエットを現した。やはり、その目はこちらを睨んでいる。 キバは接近する。 慌てて、零がレイジングハートの前に出た。キバが剣を振るうが、二つの魔戒剣がその刃が人を斬るを押しとどめる。 「──いや、奴はまさか……」 ドウコクが、少しばかり怪訝そうに見つめた。 相手は消耗しているはずだが、何故かこちらの攻撃がトドメとして通らない。それだけの手ごたえが何故か失われている。 ……いや。もしかすると。 相手は、実は“不死身”なのではないかという疑念が湧いた。 ◇ ────真魔界。 ここは、あらゆる人間たちが持つ心の裏側の精神世界であった。暗雲が立ち込め、屍の匂いがする最悪の場所でもある。 魔導輪ザルバは、レイジングハートに投げ込まれた事で、こちら側の世界への侵入に成功したのであった。 「ふぅ、やれやれ。……なんだか俺様は前にも同じ事をした覚えがあるぜ」 当のザルバは記憶にないが、かつて、ザルバがここに来た時は、奪還するのが黄金騎士牙狼の鎧だったが、今回は銀牙騎士絶狼の鎧である。全く、二人とも世話を焼かせる。 もっと以前から黄金騎士の魂を感じてきたザルバにとって、二人はまだ青二才だ。 とはいえ……鋼牙。彼はまだ、これ以上に育つ素質のある男だった。思えば、歴代最強の魔戒騎士にもなりえただろう。 ……いや、こんな事を考えるのはよそう。 まずは── 「────この、真魔界にいる一面のホラーを何とかしなきゃな」 ザルバが召喚された位置の絶壁の周囲は、果て無く素体ホラーで埋め尽くされている。 何百、何千……いや。「無数」というのはまさにこの事だろう。地を這い、空を飛ぶホラーだらけで何も見えなくなっているではないか。見るだけで鳥肌ものである。 これがあの暗黒騎士キバの鎧が張った結界の力だというのか。 「あれか!」 ザルバが見たのは、鎧を真魔界から現実世界へと運ぶ魔天使たち。それぞれ、銀牙騎士の鎧に接近しては、ホラーに阻まれている。あれでは、おそらく永久に魔天使は鎧を現実世界に送れないだろう。 なるほど、これでは零も鎧を召喚できないはずだ。 方法はひとつ。 「いくぜ、魔導輪の意地を見せてやる!」 ザルバの口から、緑の炎が吐き出される。 ザルバは自らの力で回転して、自分の周囲のホラーたちを殲滅していく。 緑の炎に触れたホラーたちは、その火力に燃え尽くされ、消滅した。 突如として現れた刺客に、多くのホラーはたじろいだ事だろう。逃げていこうとする者もいた。 しかし──。 「ふぃふぃふぁない!!」(キリがない……!!) ザルバがどれだけの速度で進んでも、ホラーの数は圧倒的。 中にはザルバを破壊しようとして接近する者もいる。しかし、それを何とか殲滅しながら、ザルバは進んでいく。 これだと何時間かかるかわからない。 嘆かわしい。このままでは、鎧を返還する前に零たちがトドメを刺して勝ってしまうのではないか。まったく、あの魔天使も自分もこれだけ頑張っているのだから、活躍の場が欲しいものだ。──と考えつつも、ザルバは自分たちが予想以上にピンチである事を感じていた。 あの暗黒騎士キバの鎧を倒したところで、まだ邪念が消えるとは限らない。 このホラーたちを全滅させて零に鎧を届けなければ、今後にも響く。 「──しまっ、」 ザルバの後方、素体ホラーがニアミスを果たしていた。 ザルバを握りつぶそうとしているのか、その手をザルバに向けて伸ばしていく。 まずい。 ザルバがそちらを振り向こうとするが、間に合わない。緑炎が届く前に、このホラーは──。 ──ザクッ。 しかし、そんなザルバの焦燥を裏切り、ホラーの姿は崩れ落ちた。 ホラーの後ろで何者かがその体を斬りつけたのだ。 ホラーが朽ち果て、その後方から一人の男が現れた。 「……お前は」 確かに、ザルバはその男を知っていた。 この時まで、この男がここに現れ、協力する事になろうとは思わなかっただろう。 「バラゴ!」 バラゴであった。 彼は一つの錆びた剣を握って、ザルバの周囲のホラーを効率よく斬り捨てていく。時代劇顔負けの殺陣であろう。ホラーたちは崩れ、果て、魔天使たちのもとへと群がるホラーたちの元へと、バラゴが駆けていく。 「時間がない。……いくぞ、ザルバ」 言って、やはりバラゴはホラーたちを斬り捨てた。 魔戒騎士としての実力は相当に高い。ホラーの気配を察知して、前後左右上下……あらゆる場所で自らに最も近づくホラーを地に還していく。 その背中は、ある魔戒騎士にも似ていた。 (────なるほど。怨念を、捨て去ったのか) 鋼牙によって倒されたバラゴの魂は、罪人としてこの真魔界に流刑されたのである。 しかし、バラゴの心に悪意と強さへの渇望を生み落した暗黒騎士キバの鎧は消え、バラゴの中に根を張っていた邪心は全て空白になったのだろう。 ゆえに、彼は今、魔戒騎士として戦っている。 かつて、大河のもとで修行を積み、ゴンザやザルバと団欒した日々の事が一瞬だけ、ふと頭をよぎった。 とうにそんな記憶は枯れたはずだが、ザルバはその既視感の意味を解して、ニヤリと笑った。 「ザルバ! 何をしている! 早く来い!」 バラゴは叱咤する。 呆気に取られながらも、その光景に無性な懐かしさを感じてザルバはその背を追う。 あるいは、きっと、それは魔戒騎士として本来あるべきバラゴの姿だったのかもしれない。 バラゴは傷つきながらも、懸命に崖の上の鎧へと向かおうとしていた。 「──わかった!」 まだザルバにも余力がある。 暗黒騎士キバの鎧を打倒しようとする仲間は、あそこにいる者たちだけではない。 ザルバは、バラゴの背中を追い、魔導火でホラーを殲滅していく。 ◇ ────零たちの戦いは、ほとんど互角に続いた。 ディバインバスターの直撃や、その他のあらゆる攻撃を受けても、暗黒騎士キバの鎧を破壊する決定打とはならない。 いや、確実にそれが相手の体力を削っているはずなのだが、どうにもトドメとなる技に手ごたえがなかったのだ。実際、目の前の敵は生存している。 (奴め……意外と!) 不思議であったが、それはおそらくソウルメタルの鎧がない事に由来した。 本来ならば、ホラーはソウルメタルを用いなければ倒せない。まさしく、暗黒騎士キバの鎧はそれと同等の存在である。彼は騎士である以上に、ホラーの支配を受けている。ホラーと同じ存在であると言える。 そして、彼はこの殺し合いにおいては、真魔界から召喚されたイレギュラーであり、主催者側の手が行き届かない場所から現れた第三勢力であった。 主催が用意した魔弾によってホラー化した園咲冴子のような場合は、参加者の持つ戦力──それこそ現代兵器でも倒す事ができるだろうが、怨念として外部から召喚されたホラーは制限の縛りが弱く、ゲームバランスと無関係に作用している。ソウルメタルでしか倒せないのだ。 ──そして、ただの魔戒剣ではそれには及ばず、相手にダメージを与えているはずなのに、決定打を打てない状況にあった。 「くっ……」 このままいけば、ただの終わる事のない泥試合だ。永久的に殺し合いを演じる羽目になる。 ましてや、持久戦に持ち込まれた場合、体力が無尽蔵な鎧に分がある。こちらは根本的に持久戦などと言っていられる状況ではないのだ。ゲーム終了とともにこの場に取り残されるかもしれない以上、時間はないはずである。 ザルバが一刻も早く帰還せねば、こちらに勝機はない。 「──はああああっっ!!」 しかし。 それでも、零は立ち向かう。 ソウルメタルで生成されたこの剣のみが決定的なカギだ。 これがなければ暗黒騎士キバの鎧は撃退できない。もう残り時間は一時間と少しだ。 「おりゃあっ!!」 零には守るべき物がある。 静香、道寺、シルヴァ、鋼牙、結城丈二……あらゆる仲間たちがいなくなっても。 まだ、この世界には力なき人、ホラーの脅威に怯える人、立ち向かう力がなく屠られる人たちがいる。 魔戒騎士は、そんな守るべき物たちの物にあるのだ──。 零は再び、その想いを胸に秘めた。 飛びあがった零の刃が、キバの鎧に到達する。 ──その時である。 「空が、光っ──」 零の頭上で、光が差し込んだ。それは、決して雨やみでも木漏れ日でもない。 それは、勝機の光であった。 時空の裂け目──いや、銀牙騎士の鎧が召喚される時の光だ。 『よぅ、零。待たせたな』 魔天使に引き連れられ、魔導輪ザルバが帰って来たのである。 魔天使たちは、それぞれ銀牙騎士ゼロの鎧のパーツを運んでいた。 自分が張ったはずの結界が破られた事を知った彼は、僅かに苛立ったようである。 召喚されたゼロの鎧は、魔天使たちが零の体へと装着する。それは、見る者の目を奪う神秘的な光景であった。 神話の天使たちが、今まさしく目の前で羽ばたき、零に鎧を装着している。 こんな原理で魔戒騎士は鎧を召喚してたというのか──。 「──ありがとう、ザルバ。おかえり」 白銀の狼が、これまでと同じくキバを睨んだまま、そこに再臨した。 ガルルゥ。──吠える。 銀牙騎士絶狼が再びこの世界に解放された。 「所詮は無名の魔戒騎士……念のために結界を張ったが、貴様程度に何ができる?」 しかし、キバはまた、慢心ともいうべき余裕をゼロに投げかけた。 そんな言葉も、ゼロは易々と流した。 「違うな、俺は無名の魔戒騎士じゃない。……銀牙騎士ゼロだ!」 暗黒騎士キバの鎧は、もし表情という物があれば怪訝な顔をしたであろう。 この空間が魔界でない限り、彼は99.9秒程度の猶予で戦わなければならない。 しかし、その絶対不利な状況下でありながら、彼は余裕を見せていた。 「銀牙騎士……フン。黄金騎士以外は全てその他大勢の雑魚に過ぎない。だが──」 銀牙騎士──。 無名と思しき魔戒騎士の称号、それが後に一時代の魔戒騎士のナンバーツーに数えられる事は、この暗黒騎士の知らぬ話だ。 ただ、やはり同じ出自の鎧は、敵のその素養をどこかで感じ取ったのかもしれない。 「面白い……掛かってこい!」 キバは、内心で舌なめずりをしていた。敵が強ければ強いほど、喰らった後に良い栄養になる。物理的に敵を捕食できるこの鎧は、実際に目の当りにしている敵に相当唾を飲んでいるようだった。 しかし、舌なめずりついでに戦闘の準備は十二分固められていた。 剣はその指先が硬く包んでおり、力を欲する戦士として、どんな手を使っても敵を仕留める覚悟。 「はああああああああっ!!」 キバは、己が硬く握っている剣に目をやった。その刀身には徐々にシルエットを大きくする銀色の光が映っている。この角度から、敵の攻撃が来るべき場所を読む──。 接近。 そして、衝突。 「ふんっ────」 双剣がキバの剣へと叩きつけられるまで、一秒とかからなかった。 ゼロは一瞬、戦慄したかもしれない。己が狙ったキバの首元の手前、突然滑らかに剣がかざされた瞬間は、意表をつかれたかもしれない。 ────やはりできる、と思いながら、ゼロがもう一方の左手の剣を強く握る。 「はっ!」 防がれた右手の剣は囮だ。もう一方の剣は敵の腰下から脇腹に向けて斬り上げられる。 火花が散る。キバの鎧は己の不覚を呪う。 しかしながら、決してその一撃をダメージとして受け取らず、敵の感触を飲み込んで次の一手に出た。 「くっ!」 キバは即座に実像のゼロに目をやり、体を回転させてゼロを払う。そのまま、背中のマントをはためかせて、足を高く上げると、ゼロの胸部に蹴りが炸裂する。 ──はずだった。 ──ゼロの剣は、キバの鎧を既に、斬っていた。 「な……何っ!!」 キバの中から横一文字、光が覗いている。それは、ゼロの輝きの残滓だろうか。はたまた、そのデスメタルの鎧にかつて込められていた魔戒騎士の想いなのだろうか。 キバの予測では、彼にそんな力はない。この瞬間まで、そんな力は見受けられなかった。 「ば、馬鹿な……」 ゼロは、二本の魔戒剣を連結させ、両刃のそれを使って縦一閃、キバを引き裂いた。 彼の邪念が解き放たれ、魔の気配が消失していく。 ゼロは、もう一度真横に斬ると、その体を回転させた。キバは己の背にあったが、もはやこれ以上斬る必要も、敵が攻撃してくる事もなかった。 「な、何故だっ……!! ぐっ……ぐあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!!」 キバは、ゼロの背を見て、どこかに手を伸ばした。 助けを求めたのか、逃げ出そうとしたのか、ただ苦しみで空を掴んだのかはわからない。 しかし、その手は地面に倒れこみ、落ちて消えていった。 零の口が開く前に、暗黒騎士の怨念は爆発四散し、この世から永久に存在を消した。 「あんたには、守るべき物がなかった……。それが、この結果さ。俺たち魔戒騎士は、守るべきの顔が見えているから強い────お前は、騎士じゃなかったのさ」 聞こえているかはわからないが、零はそう呟く。せめてもの手向けに、魔戒騎士の真の強さを教えてやろうとしたのだ。 こうして、“人間の敵”を一人、銀牙騎士ゼロが葬ったのだった。 彼は復讐者としてではなく、戦士としてその使命を果たしたのである。 ゆえに、彼の心に曇りや、或いは──長年の憎しみの寂莫からの開放感は、“零”であった。 ◇ ────父さん、静香、シルヴァ。 零は、ふと父と妹の姿を見た。 それは幻か、それとも真魔界からの使者か──しかし、零はそこに念話で語り掛けた。 ──聞いてくれ、父さん、静香。俺は決して、家族の仇を取るために戦ったわけじゃない。大事な物を守るために戦ったんだ。 ──俺は、父さんみたいな立派な魔戒騎士になったよ。 ──俺は、静香やシルヴァの命は守れなかったけど、お前たちの想いを守れたよ。 魔戒騎士の師でもあった男は頷いた。 それは優しくも厳しい、魔戒騎士たちの歪んだ笑みであるといえよう。 零は、もう少し素直な笑顔で父に返した。 魔戒騎士として抱くべきこの強さ、この想いは三人の家族から送られた物だ。 それを裏切り、復讐の為にキバを殺した時、彼らの想いまでも穢される。 騎士として、零は立派に人間の敵・ホラーを狩って見せたのだ。 ──それじゃあ。俺はまだ、やるべき事があるから── ◇ 「……さて」 残り時間は一時間二十分。 目の前の冴島邸では、例の暗号を片づけただろうか。──いや、全て片づけていなければ困るのである。 零とレイジングハートは冴島邸に入ろうとしていたが、その時に後ろから声がかかる。 「おーい!」 「ん?」 呼び声だ。 それは、男性と女性のものが重なったように聞こえた。 ……見れば、先頭を駆ける女性と、男性の二人組。先ほどまで零と行動を共にしていた人間である。 「良牙、それにつぼみちゃん」 花咲つぼみと、響良牙だった。 二人とも、ここまでちゃんと辿り着いたようだ。特に、異常な方向音痴の良牙が心配だったが、彼は何とか合流地点までたどり着けたらしい。安心したが、すぐに零は顔を曇らせた。 「大丈夫か?」 「……ええ」 零は振り向いて彼らがここまで辿り着くのを見届ける。 二人は、この冴島邸の前で、零、レイジングハート、一也、ドウコクという異色の組み合わせが揃っている光景に怪訝そうな顔付を示していた。 しかし、零の方も、決して良い雲行きを見守っている顔ではいられなかった。 「……その……あの女の子は?」 そう言った時、二人が眉をしかめた。 やはり、と思う。────もうこの世にいないか、離別したか。 そして、この表情を見るに、前者だ。 美樹さやか。彼女は魔女の世界から解放されたが、人間のまま再度殺されてしまった。 「あかねさんに殺された。だが、あかねさんももう……死んだ」 良牙のかすれた声を、零は耳に通した。 守れなかった。──その痛みは零にもよくわかる。まさしく、零もその決着をつけてきたところだ。 「でも、誤解しないでください。あかねさんは、本当は悪い人じゃなかったんです。ただ、どこかで歯車が狂って……それで……」 つぼみは、必死でフォローに入っていた。しかし、どう説明すれば良いのかはわからない。 実際のところ、どうして天道あかねが悪の道を走るようになったのか、そのプロセスを完全には把握していないのだから、つぼみの知る限りの情報でそれを説明するのは不可能だった。 「わかった。……いや、わかってないかもしれないが、俺がとやかく言う事じゃないしな」 「……すまねえ」 「こっちも少しホラーと戦う事になってたが、解決した」 残された問題はほとんど解決した。 彼らにとって、この殺し合いゲームの中で残すべきミッションはたった一つ──。 「ただ、お互い少し一疲れしたついでだ。そろそろ、このゲームに決着をつけよう」 ────主催の打倒である。 花咲つぼみ、響良牙、涼邑零。まだ未熟な子供であった彼らも強く成長する。 プリキュア、仮面ライダー、魔戒騎士──それらが持つべき意思を、彼らは着実につかんでいた。 【2日目 昼】 【E-5 冴島邸前】 【涼邑零@牙狼─GARO─】 [状態]:疲労(中)、首輪解除、鋼牙の死に動揺 [装備]:魔戒剣、魔導火のライター [道具]:シルヴァの残骸、支給品一式×2(零、結城)、スーパーヒーローセット(ヒーローマニュアル、30話での暁の服装セット)@超光戦士シャンゼリオン、薄皮太夫の三味線@侍戦隊シンケンジャー、速水の首輪、調達した工具(解除には使えそうもありません) 、スタンスが纏められた名簿(おそらく翔太郎のもの) [思考] 基本:加頭を倒して殺し合いを止め、元の世界に戻りシルヴァを復元する。 1:殺し合いに乗っている者は倒し、そうじゃない者は保護する。 2:会場内にあるだろう、ホラーに関係する何かを見つけ出す。 [備考] ※参戦時期は一期十八話、三神官より鋼牙が仇であると教えられた直後になります。 ※シルヴァが没収されたことから、ホラーに関係する何かが会場内にはあり、加頭はそれを隠したいのではないかと推察しています。 実際にそうなのかどうかは、現時点では不明です。 ※NEVER、仮面ライダーの情報を得ました。また、それによって時間軸、世界観の違いに気づいています。 仮面ライダーに関しては、結城からさらに詳しく説明を受けました。 ※首輪には確実に異世界の技術が使われている・首輪からは盗聴が行われていると判断しています。 ※首輪を解除した場合、(常人が)ソウルメタルが操れないなどのデメリットが生じると思っています。→だんだん真偽が曖昧に。 また、結城がソウルメタルを操れた理由はもしかすれば彼自身の精神力が強いからとも考えています。 ※実際は、ソウルメタルは誰でも持つことができるように制限されています。 ただし、重量自体は通常の剣より重く、魔戒騎士や強靭な精神の持主でなければ、扱い辛いものになります。 ※時空魔法陣の管理権限の準対象者となりました(結城の死亡時に管理ができます)。 ※首輪は解除されました。 ※バラゴは鋼牙が倒したのだと考えています。 ※第三回放送の制限解除により、魔導馬の召喚が可能になりました。 ※魔戒騎士の鎧は、通常の場所では99.9秒しか召喚できませんが、三途の池や魔女の結界内では永続使用も問題ありません。 ※魔女の真実を知りました。 【レイジングハート・エクセリオン@魔法少女リリカルなのはシリーズ】 [状態]:疲労(大)、魔力消費(大)、娘溺泉の力で人間化 [装備]:T2ダミーメモリ@仮面ライダーW、稲妻電光剣@仮面ライダーSPIRITS、魔導輪ザルバ@牙狼 [道具]:支給品一式×6(ゆり、源太、ヴィヴィオ、乱馬、いつき(食料と水を少し消費)、アインハルト(食料と水を少し消費))、ほむらの制服の袖、マッハキャリバー(待機状態・破損有(使用可能な程度))@魔法少女リリカルなのはシリーズ、リボルバーナックル(両手・収納中)@魔法少女リリカルなのはシリーズ、ゆりのランダムアイテム0~2個、乱馬のランダムアイテム0~2個、山千拳の秘伝書@らんま1/2、水とお湯の入ったポット1つずつ、ライディングボード@魔法少女リリカルなのはシリーズ、ガイアメモリに関するポスター×3、『太陽』のタロットカード、大道克己のナイフ@仮面ライダーW、春眠香の説明書、ガイアメモリに関するポスター 、バラゴのペンダント、ボチャードピストル(0/8)、顔を変容させる秘薬、ファックスで届いたゴハットのシナリオ原稿(ぐちゃぐちゃに丸められています) [思考] 基本:悪を倒す。 1:零とは今後も協力する。 2:ケーキが食べたい。 [備考] ※娘溺泉の力で女性の姿に変身しました。お湯をかけると元のデバイスの形に戻ります。 ※ダミーメモリによって、レイジングハート自身が既知の人物や物体に変身し、能力を使用する事ができます。ただし、レイジングハート自身が知らない技は使用する事ができません。 ※ダミーメモリの力で攻撃や防御を除く特殊能力が使えるは不明です(ユーノの回復等)。 ※鋼牙と零に対する誤解は解けました。 【花咲つぼみ@ハートキャッチプリキュア!】 [状態]:ダメージ(中)、加頭に怒りと恐怖、強い悲しみと決意、首輪解除 [装備]:プリキュアの種&ココロパフューム、プリキュアの種&ココロパフューム(えりか)@ハートキャッチプリキュア!、プリキュアの種&シャイニーパフューム@ハートキャッチプリキュア!、プリキュアの種&ココロポット(ゆり)@ハートキャッチプリキュア!、こころの種(赤、青、マゼンダ)@ハートキャッチプリキュア!、ハートキャッチミラージュ+スーパープリキュアの種@ハートキャッチプリキュア! [道具]:支給品一式×5(食料一食分消費、(つぼみ、えりか、三影、さやか、ドウコク))、スティンガー×6@魔法少女リリカルなのは、破邪の剣@牙浪―GARO―、まどかのノート@魔法少女まどか☆マギカ、大貝形手盾@侍戦隊シンケンジャー、反ディスク@侍戦隊シンケンジャー、デストロン戦闘員スーツ×2(スーツ+マスク)@仮面ライダーSPIRITS、『ハートキャッチプリキュア!』の漫画@ハートキャッチプリキュア! [思考] 基本:殺し合いはさせない! 1:この殺し合いに巻き込まれた人間を守り、悪人であろうと救える限り心を救う 2:……そんなにフェイトさんと声が似ていますか? [備考] ※参戦時期は本編後半(ゆりが仲間になった後)。少なくとも43話後。DX2および劇場版『花の都でファッションショー…ですか!? 』経験済み そのためフレプリ勢と面識があります ※溝呂木眞也の名前を聞きましたが、悪人であることは聞いていません。鋼牙達との情報交換で悪人だと知りました。 ※良牙が発した気柱を目撃しています。 ※プリキュアとしての正体を明かすことに迷いは無くなりました。 ※サラマンダー男爵が主催側にいるのはオリヴィエが人質に取られているからだと考えています。 ※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました。 ※この殺し合いにおいて『変身』あるいは『変わる事』が重要な意味を持っているのではないのかと考えています。 ※放送が嘘である可能性も少なからず考えていますが、殺し合いそのものは着実に進んでいると理解しています。 ※ゆりが死んだこと、ゆりとダークプリキュアが姉妹であることを知りました。 ※大道克己により、「ゆりはゲームに乗った」、「えりかはゆりが殺した」などの情報を得ましたが、半信半疑です。 ※所持しているランダム支給品とデイパックがえりかのものであることは知りません。 ※主催陣営人物の所属組織が財団XとBADAN、砂漠の使徒であることを知りました。 ※第二回放送のなぞなぞの答えを全て知りました。 ※良牙、一条、鋼牙と125話までの情報を交換し合いました。 ※全員の変身アイテムとハートキャッチミラージュが揃った時、他のハートキャッチプリキュアたちからの力を受けて、スーパーキュアブロッサムに強化変身する事ができます。 ※ダークプリキュア(なのは)にこれまでのいきさつを全部聞きました。 ※魔法少女の真実について教えられました。 【響良牙@らんま1/2】 [状態]:ダメージ(中)、五代・乱馬・村雨・あかねの死に対する悲しみと後悔と決意、男溺泉によって体質改善、首輪解除 [装備]:ロストドライバー+エターナルメモリ@仮面ライダーW、T2ガイアメモリ(ゾーン、ヒート、ウェザー、パペティアー、ルナ、メタル、バイオレンス、ナスカ)@仮面ライダーW、 [道具]:支給品一式×18(食料二食分消費、(良牙、克己、五代、十臓、京水、タカヤ、シンヤ、丈瑠、パンスト、冴子、シャンプー、ノーザ、ゴオマ、バラゴ、あかね、溝呂木、一条、速水))、首輪×7(シャンプー、ゴオマ、まどか、なのは、流ノ介、本郷、ノーザ)、水とお湯の入ったポット1つずつ×3、子豚(鯖@超光戦士シャンゼリオン?)、志葉家のモヂカラディスク@侍戦隊シンケンジャー、ムースの眼鏡@らんま1/2 、細胞維持酵素×6@仮面ライダーW、グリーフシード@魔法少女まどか☆マギカ、歳の数茸×2(7cm、7cm)@らんま1/2、デストロン戦闘員マスク@仮面ライダーSPIRITS、プラカード+サインペン&クリーナー@らんま1/2、呪泉郷の水(娘溺泉、男溺泉、数は不明)@らんま1/2、呪泉郷顧客名簿、呪泉郷地図、克己のハーモニカ@仮面ライダーW、テッククリスタル(シンヤ)@宇宙の騎士テッカマンブレード、『戦争と平和』@仮面ライダークウガ、双眼鏡@現実×2、女嫌香アップリケ@らんま1/2、斎田リコの絵(グシャグシャに丸められてます)@ウルトラマンネクサス、拡声器、インロウマル&スーパーディスク@侍戦隊シンケンジャー、紀州特産の梅干し@超光戦士シャンゼリオン、ムカデのキーホルダー@超光戦士シャンゼリオン、滝和也のライダースーツ@仮面ライダーSPIRITS、『長いお別れ』@仮面ライダーW、ランダム支給品0~8(ゴオマ0~1、バラゴ0~2、冴子0~2、溝呂木0~2)、バグンダダ@仮面ライダークウガ、警察手帳、特殊i-pod(破損)@オリジナル [思考] 基本:自分の仲間を守る 1:誰かにメフィストの力を与えた存在と主催者について相談する。 2:いざというときは仮面ライダーとして戦う。 [備考] ※参戦時期は原作36巻PART.2『カミング・スーン』(高原での雲竜あかりとのデート)以降です。 ※ゾーンメモリとの適合率は非常に悪いです。対し、エターナルとの適合率自体は良く、ブルーフレアに変身可能です。但し、迷いや後悔からレッドフレアになる事があります。 ※エターナルでゾーンのマキシマムドライブを発動しても、本人が知覚していない位置からメモリを集めるのは不可能になっています。 (マップ中から集めたり、エターナルが知らない隠されているメモリを集めたりは不可能です) ※主催陣営人物の所属組織が財団XとBADAN、砂漠の使徒であることを知りました。 ※第二回放送のなぞなぞの答えを全て知りました。 ※つぼみ、一条、鋼牙と125話までの情報を交換し合いました。 ※男溺泉に浸かったので、体質は改善され、普通の男の子に戻りました。 ※あかねが殺し合いに乗った事を知りました。 ※溝呂木及び闇黒皇帝(黒岩)に力を与えた存在が参加者にいると考えています。また、主催者はその存在よりも上だと考えています。 ※バルディッシュと情報交換しました。バルディッシュは良牙をそれなりに信用しています。 ※鯖は呪泉郷の「黒豚溺泉」を浴びた事で良牙のような黒い子豚になりました。 ※魔女の真実を知りました。 ◇ (まずい……) 沖一也も、冴島邸に帰らなければならない事はわかっている。しかし、一方で、残り二十分でドウコクによる「間引き」が行われかねない事も危惧していた。 蒼乃美希、石堀光彦、沖一也、孤門一輝、佐倉杏子、涼村暁、涼邑零、血祭ドウコク、巴マミ、花咲つぼみ、左翔太郎、響良牙、桃園ラブ──やはり、ドウコクの方針からすれば三人も余ってしまう。 (だが、彼らを信じるならば──) 十二時までに残り十人まで減らすか、それとも涼村暁と左翔太郎が例の暗号を解いた事を信じるか、その二択である。 また、暗号が直接主催の打倒に無関係である可能性もゼロではないので、注意を払う必要がある。 いずれにせよ、ドウコクの実力から考えれば、仮面ライダースーパー1として出来る事は、足止め程度だろう。 他のみんなに生存してもらうには、残りの全員でドウコクを倒してもらわなければならない。 非常に難しい局面である。 ──はたして。 (涼村暁、それに左翔太郎……彼らは────) 【沖一也@仮面ライダーSPIRITS】 [状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、強い決意、首輪解除 [装備]:なし [道具]:支給品一式(食料と水を少し消費)、ランダム支給品0~2、ガイアメモリに関するポスター、お菓子・薬・飲み物少々、D-BOY FILE@宇宙の騎士テッカマンブレード、杏子の書置き(握りつぶされてます) 、祈里の首輪の残骸 [思考] 基本:殺し合いを防ぎ、加頭を倒す 1:ドウコクに映像を何とか誤魔化す。というか、ドウコクの対処をする。 2:本郷猛の遺志を継いで、仮面ライダーとして人類を護る。 3:仮面ライダーZXか…。 [備考] ※参戦時期は第1部最終話(3巻終了後)終了直後です。 ※一文字からBADANや村雨についての説明を簡単に聞きました ※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました ※18時に市街地で一文字と合流する話になっています。 ※ノーザが死んだ理由は本郷猛と相打ちになったかアクマロが裏切ったか、そのどちらかの可能性を推測しています。 ※第二回放送のニードルのなぞなぞを解きました。そのため、警察署が危険であることを理解しています。 ※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。 ※ダークプリキュアは仮面ライダーエターナルと会っていると思っています。 ※第三回放送指定の制限解除を受けました。彼の制限はレーダーハンドの使用と、パワーハンドの威力向上です。 ※魔女の正体について、「ソウルジェムに秘められた魔法少女のエネルギーから発生した怪物」と杏子から伝えられています。魔法少女自身が魔女になるという事は一切知りません。←おそらく解決しました。 【血祭ドウコク@侍戦隊シンケンジャー】 [状態]:ダメージ(大)、疲労(大)、苛立ち、凄まじい殺意、胴体に刺し傷 [装備]:昇竜抜山刀@侍戦隊シンケンジャー、降竜蓋世刀@侍戦隊シンケンジャー [道具]:大量のコンビニの酒 [思考] 基本:その時の気分で皆殺し 0:仕方がないので一也たちと協力して、主催者を殺す。 もし11時までに動きがなければ一也を殺して参加者を10人まで減らす。 1:マンプクや加頭を殺す。 2:杏子や翔太郎なども後で殺す。ただし、マンプクたちを倒してから(11時までに問題が解決していなければ別)。 3:嘆きの海(忘却の海レーテ)に対する疑問。 [備考] ※第四十八幕以降からの参戦です。よって、水切れを起こしません。 ※第三回放送後の制限解放によって、アクマロと自身の二の目の解放について聞きました。ただし、死ぬ気はないので特に気にしていません。 【備考】 ※近くにリクシンキ@超光戦士シャンゼリオンが放置されていますが、暁が推理に夢中なので超光騎士として起動されず、使われていません。 ◇ ──時は少し遡る。 先ほど、ザルバが時空の裂け目から現実世界に帰ろうとしている時だ。 バラゴとザルバの活躍によって、魔天使たちを妨害しているホラーたちは消え去ろうとしていた。 まだホラーたちは群がるが、それらはかなり遠くにいる。こちらは、もう鎧を返還する準備が整っていた。 ザルバは時空の裂け目から現実世界へと旅立とうとする。 しかし、バラゴは、ここに残り続けるのだろうか──。もう一分もしないうちに、ホラーはこちらへ辿り着くだろう。傷だらけのバラゴがどれだけ戦えるのかはわからないが、現実世界に連れていくこともできない。彼は死人であり、罪人でもある。ここに留まり続けなければならない宿命の持ち主だ。 ザルバは、せめてとばかりにバラゴに言った。 「バラゴ、礼を言うぜ。お前とは、本当の魔戒騎士として共に戦いたかった。きっと、鋼牙が生きていたらそう言うに違いない」 「……そうか。俺もまた、同じだ」 「お前の事は俺様から零にも伝えておいてやる。お前は立派な魔戒騎士だったってな」 「……いや、それは待て」 バラゴは、そこでザルバの言葉を切った。 ザルバの親切に、少し思うところがあるのだろう。 「奴は僕のような悪しき魔物を絶つ魔戒騎士。しかし、あの涼邑零は優しすぎる。いずれ、ホラーとの和解を考えるまでになるかもしれない」 「……」 「僕は終始、悪しき魔物だった。──それでいいはずだ。今もし彼に、敵の善意を信じて戦う余裕ができてしまえば、彼はいずれ敵を斬れなくなる。……全てを知るのは、もっと強くなってからでなければならない」 バラゴの笑みと声をザルバは聞いた。 零は、誰よりも努力を怠らず、孤独でありながら他人を求め、誰より人に優しい魔戒騎士だ。 「しかし、彼が闇に堕ちなかったのは幸いだ。きっと、大河以上の師として多くの魔戒騎士を導く存在になる。鋼牙がいないのは残念だが、奴はまたいずれ黄金騎士の隣に並べるだろう……」 「あいつがか?」 「ああ。ではレイジングハートを頼んだ。今度は力を使い果たしていないな? お前はまた黄金騎士の相棒をやれるわけだ。……俺は、ここで魔戒騎士の使命を全うしよう」 バラゴは、再び強く剣を構えた。ホラーはすぐ近くまで接近しており、彼はそれを迎え撃とうとしていた。 それが、ザルバがバラゴを見た最後だった。 彼は、いずれこの地獄のような魔界で、罪を償い、理想郷に辿り着けるのだろうか……。 幸せな世界で、転生できるのだろうか……。 ザルバは、その背中を寂しく見送っていた。 ◇ 【暗黒騎士キバの鎧@牙狼 消滅】 【ゲーム終了まで、残り一時間二十分】 時系列順で読む Back らんまの心臓(後編)Next 探偵物語(左翔太郎編) 投下順で読む Back らんまの心臓(後編)Next 探偵物語(左翔太郎編) Back White page(後編) 沖一也 Next 探偵物語(左翔太郎編) Back White page(後編) 血祭ドウコク Next 探偵物語(左翔太郎編) Back White page(後編) 涼邑零 Next 探偵物語(左翔太郎編) Back White page(後編) 暗黒騎士キバの鎧 GAME OVER Back White page(後編) レイジングハート Next 探偵物語(左翔太郎編) Back らんまの心臓(後編) 花咲つぼみ Next 探偵物語(左翔太郎編) Back らんまの心臓(後編) 響良牙 Next 探偵物語(左翔太郎編)
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M-102 グリサ(変身後) 魔物 5000 「リアプル」を使わないと場に出せない。 以上、枠囲み 《灼熱地獄》このカードが場にある→このカードが場に出たとき、自分か相手のMPが6以上なら、5にする。 自分も相手も、MPが5より上にならない(5まではふやせる)。 パートナー=ハカセ 想像以上だ。体中に力がみなぎっている! LEVEL 5 お互いのMPに上限をつける。 MPコストの低い術とコンボにしよう! お互いのMPを制約することで、相手の行動を抑制する。 ガッシュ・ベル VS ティオ《美女は野獣》より低い、MP5で制約を作ることが可能になる。 ただし、自分のMPも増やせなくなるので、このカードを使う場合、低コストでも機能できる構築をしておく必要があるだろう。 グリサには、MP2で魔力次第で最大ダメージ4のS-174 ブレズドがあるので、それを攻撃の要として使うのもいいだろう。 MP5の制約は大きく、上級呪文を使う相手やページをめくって展開していく速攻タイプの相手には、特に刺さるだろう。 グリサのパートナーには、ハカセ《学会への復讐》とハカセ《マッド・サイエンティスト》の2枚があるので、それらでMPの消費を増やすことで、相手のMPを少なくする、もしくは効果を無効にしやすくなる。 他にも、術のMP消費を増やす、コルル《禁断の呪文》、イベントカードのMP消費を増やす、パピプリオ《ダダっ子》 ルーパー《パピーにラブソングを》のコンビ、魔物のMP消費を増やす、レイラ《クール》 アルベール《届いてた声》のコンビと組むことで相手の行動をロックすることもできるだろう。 そしてそれらの効果は、MPを減らす効果ではなく、MPの消費を増やす効果なので、MP枯渇メタのPR-038 心束ねて等の効果に引っかからない。 特にこれといったメタが存在しないので、相手の魔本タイプにかかわらず作戦を遂行することができる。 自分のMPが5で縛られてしまうのは、大きいが相手に与えるダメージも大きい。 低コストで戦える、MP枯渇魔本を作るならこのカードで、組んでみても面白くなりそうだ! 収録パック LEVEL:5 白銀の螺閃光(後編) タグ:5500 MPをふやせない このカードが場に出たとき グリサ 魔物
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覚醒!超光戦士ガイアポロン(Cパート) ◆gry038wOvE テッテレー♪ テレレレ♪ ──と、思ったはいいのだが。 ゴハットがそのままガイアポロンに突き刺される事はなかった。 ガイアポロンは何をしている? ──いや、ゴハットの前にあるこの影は何だ? そう、それは、またも戦場に現れた女神の姿なのだった。 戦いを見守りながら、彼の夢が成就する事を願いながら、それでも止められずにはいられなかった矛盾。 高町ヴィヴィオが、やはり、この瞬間、ゴハットの前に立っていた。 「……あの。もう、いいですよね?」 そう言ったのは、ガイアポロンに対してではなく、ゴハットに対してだったに違いない。 ゴハットが殺されたがりである事を理解しながらも、それに納得しきれなかった。 ガイアポロンとゴハットが戦っている最中、彼女はレイジングハートとアクセルによって助けられ、磔から解放された。 彼女はクリスの力で大人モードに変身し、ティオを抱いて、ここまで距離を縮めてきたのだった。 絶対に戦いを止めなければならないと思ったのだ。 「どうして邪魔をするんだよ! あと一歩だったのに!」 ……こんな台詞を言うのが、やられる側であるというのはかなり珍しい話だろう。 ゴハットは今、本気で怒りを抱いていた。折角叶うはずの夢をあと一歩で妨害されてしまった事に──そう、それが前に夢を後押ししてくれた少女である事が彼の期待を裏切ったようだった。 「おい……」 ガイアポロンは、シャイニングブレードを構えたまま、呆然と構えるのみだった。 足は深く前に降ろされているが、それでも目の前に現れたヴィヴィオに急ブレーキをかけて、少しバランスを崩しかけていた。 「これ以上、戦う必要なんて、ありません! 私は、どんな理由があっても……こんな戦いなんて認めたくありません!!」 彼女は格闘に命を懸けている。 戦う事は好きだが、それはルールを伴い、相手を尊重した戦いであった。自分の技術を全力でぶつけ合うゲームであって、こうしてやられるのを待つのは、格闘ではない。 殺し合いの現場であっても、その想いは揺らがない。こうしてわざと負けて勝敗を決し、知っている人が死んでしまう姿を見たくはなかった。 「君が認めるか認めないかはどうでもいいのっ!! 僕はシャンゼリオン……いや、ガイアポロンに倒してもらいたいんだ!!」 怒り新党で地団駄を踏むゴハットの姿に、ヴィヴィオは恐れる事もなかった。 この最高の盛り上がり時をヴィヴィオに邪魔された事で、相当腹を立てている様子である。──その中でも、ゴハットの中には思うところがあったようで、どこかヴィヴィオに優しい目をしていた。 それでも──それでも、ゴハットの夢は、まさしく叶う直前だった。 それに対する怒りがゴハットの声を荒げさせる。 「前にもちゃんと言ったでしょうが! いくら君でも、邪魔をすると容赦はしないって!!」 「でも……!! ゴハットさんだって、優しくて……そんな人が、死んじゃうなんて……」 「でももヘチマもないんだよ! あー、もう!!」 ゴハットは怒りとともに、ある決意に拳を握った。 ヴィヴィオは何もわかっていない──。 「私は何も知らないけど、それでも言わせてください……。ヒーローが好きなら、ヒーローになれば……その為に自分を鍛えれば、きっとヒーローになる事ができると思います」 ヴィヴィオの言葉をかみしめる。 彼の脳裏に浮かぶのは、高町なのはやフェイト・テスタロッサ、アインハルト・ストラトス、早乙女乱馬、園咲霧彦、山吹祈里──この一人の少女とかつて交流した参加者たち。 その姿が彼女に重なる。 いくつもの試練を超えて生き延び、死線さえも超えた一人の少女。 「……悪いけど──」 ゴハットは、俯き、まるで力を失ったように言った。 ヴィヴィオの説得が少しでも心に響いたように見えた。 だから、ヴィヴィオ自身もどこか力を抜いて、次の一句を口に出そうとした。 「なれるんですよ、ゴハットさんだって──」 ────しかし。 「悪いけど、僕が倒されるのを邪魔するなら、消えてなくなってもらうよ!!」 帰ってきたのは、無慈悲なる一言。 ゴハットは、怒りに任せて前に出た。不意打ちであった。 一瞬でも、心を許した隙を狙ったのだ。そう、彼とて本質はダークザイドの怪人。 たとえヒーローにあこがれていたとしても、その手段に悪しきは付きまとう物であった。 豹変したゴハットを前に、ヴィヴィオの背筋が凍る。 「ああっ!」 ゴハットは特殊な力を発動すると同時に、ヴィヴィオに肉薄した。 刹那、強力な魔力反応を確認する。 ゴハットの両腕の触手が発した青い光は、次の瞬間──ヴィヴィオを呑み込む。 「なんだってんだ、クソ……!!」 ガイアポロンが前に出るが、眩い光が彼を弾き返してしまった。 「これは……!! まさか……!! やっぱり────」 レイジングハートがその瞬間、何か異変に気づいたようであった。 レイジングハートがよく知る魔力反応である。──まさか。 彼女がそう思うよりも早く、ヴィヴィオの悲鳴が聞こえた。 「きゃあっ!!」 それは、確実にヴィヴィオの危険を示す警告のサインであった。 青い光の向こうで、ヴィヴィオの生命がかなり危険に晒されているようだったのだ。 聞こえるのはゴハットの悪役笑いである。 「フハハハハハハハハハ……!!」 「てめえっ!! おい、どこに……っ!!」 ガイアポロンが前に出ようとするが、ゴハットは妙に焦った様子であった。 視界を暈す閃光の中で、ゴハットがヴィヴィオの体を抱え、彼女に何かを施したのである。 光の中でぼやけながらも見えていたヴィヴィオの形が消え去っていく。 小さくなり、形を失い、やがて完全にそこにヴィヴィオの姿はなくなった。 ヴィヴィオを包んだ光、それが何かはわからないが、ゴハットの暴走がヴィヴィオに何らかの危害を加えた事実は明白だった。 直後──光がゆっくりと晴れていく。 「なっ────」 光が晴れると、ヴィヴィオの体が、そこから消えていた。 どこを探しても、ヴィヴィオの姿はなかった。 「マジかよ……」 ────死んだ。 そうとしか思えなかった。 あまりに突然、そこからいなくなった一人の少女。 今、ゴハットの為に尽くしたはずの優しき少女の姿は、もうそこにはなかった。 よりにもよって、悪人・ゴハットの手によって、少女は──。 「そんな……」 ヴィヴィオも、クリスも、ティオも、全て体ごと、塵一つ残らず消滅したという事なのだろうか。 その何もない場所には、ゴハットが何らかの特殊な力を発動した結果、「ヴィヴィオが跡形もなく消滅した」という事実だけが残っていた。 「……てめえ……!!」 「フッフッフッ……僕の邪魔をするからこうなるんだ!!」 ヴィヴィオがいとも簡単に消滅させられた事実。 ──それが暁の中で、強い怒りとして燃え上がる。 目の前のゴハットは、一切気にしていない様子であった。だからこそ、暁の怒りのボルテージが鰻登りに上がっていく。 この男を打ち砕く。 所詮はダークザイドであり、この殺し合いの主催者であった。彼を許そう気持ちなど、もはや暁の中のどこにもない。 「────俺はもう怒った! これ以上、お前のシナリオなんかに付き合うつもりもない!! 望み通り、今すぐあの世に逝かせてやるぜ!!」 有無を言わさず、ガイアポロンはガイセイバーを強く構えた。 ガイアセイバーが、そのまま光輝き、ゴハットの弱点のコアを狙う。そこに着き刺す絶対の意思。──ゴハットもそれを回避する気などなかった。 「来いっ! ガイアポロン! 続きをしよう!」 ゴハットは、甘んじてそれを受け入れるべく、両手を広げる。抵抗の様子はなく、やはりその一撃を欲しているらしかった。 それこそが彼の目的。ヴィヴィオがその現実を受け入れられたのなら、きっとゴハットを既に葬っていたであろう──その一撃である。 「ッッッ!!!!」 一貫。ゴハットの胸が刃に屠られる。 眩しいほどの火花が大量に地面に散らばっていき、蜘蛛の子が逃げていくように地面を駆け巡ってやがて、大気に溶けて消えていった。 ゴハットの中に熱い炎が入り込んでくる。 自分に終わりが来るのを、ゴハットは妙に優しい気持ちで待っているのだった。 夢は叶った。 このまま消えていく事に、彼には未練はない。 「────ありがとう、シャンゼリオン、いや……ガイアポロン」 ガイアセイバーの刀身をゴハットは、掴む事もままならぬ両腕で握った。妙に安らかな表情の彼に、その時は戻ったのだった。より深く、それを自分の中に差し込むべく、強い力で引いていく。 その暖かさを感じながら、しかし、跳ね返ってくる火の粉の熱さも時折受けながら、彼は死の睡魔を呑み込んでいく事になった。 「ッッッ……」 怒るガイアポロンの耳には、尚も魔物の一声が流れ込んできた。 「良かった。ずっと夢だったんだ……君に倒されるのが……これからもカッコいいスーパーヒーローでいてくれよ…………じゃあ、帰ったら、ヴィヴィオちゃんの事をよろしく……」 「何!? じゃあ、まさかヴィヴィオちゃんは……」 ガイアセイバーを包む握力が弱まる。 だが、もはや手遅れだった。ゴハットのコアは確かに深々と彼の体を貫いており、もはや手の施しようがないほどにゴハットの命を消し去ろうとしていた。 「……彼女の事は、安心しなよ。ただ、これからも絶対、彼女が生きている事は悟られないようにね。全部内緒にするんだ……」 ゴハットが、ゴフッと、血のような火花を吐き出した。 もう終わりだった。 最期は、ゴハットが最も言いたい最後の言葉を告げ、美しく散っていくしかない。 しかし、その最後の中でも、彼には教えたかったのだ。 (────これで僕も、ヒーローに倒されるんじゃなくて、誰かのヒーローになれたかな……ヴィヴィオちゃん……ヒーローって、本当にいいものだよね……) そう、ある“力”をゴハットは有していた。 その力によって、ヴィヴィオは殺されたと誰もが思い込んでいた。しかし、現実は逆だ。 この場において、ヒーローたる資質を持った少女を、その“力”を駆使してゴハットが生かしておいたと──それが真相であった。 彼は今、その事を、シャンゼリオンに伝え、少しでも彼を安心させようとしていた。 ゴハットの持つ“力”は、同じ主催陣の一人であるサラマンダー男爵から託されたものだった。──おそらく、プレシアの追放と、主催陣の撤退のゴタゴタの中で、男爵が拝借し、そこから流出した物だろう。 ゴハットにはそれを使う予定は一切なかったのだが、思わず、その能力を使えば参加者の生還さえ果たせるのではないかという事を思い出した。 男爵には、「これを使えば、参加者を一人、一瞬で外の世界に放り出す事だって出来る」と言われただ。だが、その力を使う事は絶対にないと思っていた。──おそらく、男爵の目論見では、誰かを生還させるのではなく、参加者が“この場にとどまるため”に、石堀光彦を外の世界に放り出す為に渡された力だったのだろう。 だが、男爵の意思に反して、ゴハットは「ヒーローたちは、自分の力でダークザギに気づき、倒さなければならない」という厄介な信念も抱え込んでいた。そんな意思が、ゴハットが石堀を外に捨てるのを邪魔させたのだ。 結果、この“ジュエルシード”というアイテムの力は、一人の少女の生還の為に利用される事になった。 (……元気でね) まさか、男爵も、外の世界に善なる者を放るとは思わなかっただろう。 外に捨て去るのは、善の心を持つ者ではなく、悪の心を持つ者であるのが必然だった。 外の世界はもう、支配と崩壊の一途を歩み始めている。この僅かな期間で、どれだけ多くの世界が支配に屈しているのだろう。 そんな世界に善人を放るなど、男爵の感覚ではありえなかった。外の世界に放り出させるのは、もはや罰でしかない。 ヒーローをここに残して生かし、外に悪を放り棄てるのが自然だったはずだ。まさか、外の世界に自分が愛する者たちを放り棄てるほど、ゴハットの思考が追い付いていないとは男爵も思っていなかっただろう。 しかし、ゴハットは、ここでも男爵の意図を無視した。 ヒーローは外の世界でも希望になり、支配や絶望なんて打ち砕くと、──────彼は本気で信じていたのだ。 己の最期の時を、ゴハットは確信し始めた。 「────ゴハット死すとも、ベリアル帝国は死なずゥゥゥゥッッ!!」 そして、爆発間際、最期に彼が遺した言葉は、この殺し合いに巻き込まれた人間全てに通じる重大な手がかりになる一言となった。 石堀もレイジングハートも、その高らかな叫びだけは聞き逃さなかっただろう。 台本の中には全く別の言葉、【ネオダークザイド】と書かれていたはずの部分を掻き消して、ゴハットは最後にそんな言葉を残した。 ベリアル帝国。 ベリアル。────。 「……ッ」 怪物を貫いたガイアポロンの手には全く後悔はなかった。 ただ、自分の耳だけに最後に聞こえたゴハットの言葉をこれからも胸に隠し、レイジングハートの感じている怒りと困惑を背に受けながら、これから殺し合いを脱出する事について考える事にした。 いずれ、全てレイジングハートにも明かす事になるだろう。 ヴィヴィオは元の世界に帰った──その言葉は不安だったが。 ◇ 全てが収束し、爆発の中からガイアポロンは帰って来た。 パワーストーンを解除し、シャンゼリオンの姿に戻ると、また涼村暁へと戻っていく。 めらめらと燃える炎をバックに、暁はゆっくりと歩いていた。 「暁……!」 暁は、呆然とした表情だった。 また隠し事を一つ増やさなければならない。 ヴィヴィオは生きている。それを知るのは暁だけだ。それを隠さなければならない理由も彼は理解している。 彼女が死んだ事になれば、生き残れる人数が変わる。──残り三人いなくなれば十人が生き残る事ができ、実質的にはヴィヴィオを含めた十一人が生き残れるのだろう。 それから、外に逃がせば石堀やドウコクに殺される事もなくなる。 「暁、ヴィヴィオの最期に、かつて見たジュエルシードの魔力反応が……」 「──」 「……彼女は、ジュエルシードの力で死んでしまったのでしょうか」 レイジングハートは問う。 しかし、暁は知っている事実を答えなかった。 「俺に訊かれても、わからないさ……。諸悪の根源は倒しちまった」 暁は、何も言えないのが少しもどかしい。 ヴィヴィオは生きている、と叫びたい。 あー、早く言いたい。悲しいフリとかマジ疲れる。とか思いながら、暁はとにかく、冷淡に次の行動を決めなければならないので、物凄く嫌な役割だ。 「……いつまでも、ここにいても仕方ないぞ。まずは電話で仲間に連絡だ……」 疲弊しながら石堀が言うのを見た。 こいつの演技力を少し分けてほしい、と暁は内心で思っていた。 こいつの正体についてはいずれ暴かなければならない。台本にも「石堀の正体が……」と書かれていたが、レイジングハートは今のところそれについて問わず、あくまで暁の胸の中にしまわれている事でしかなかった。 ふと、そのレイジングハートが聞いた。 「そういえば、ゴハットが死後にこの場所に置いておいてほしいと言っていたカードがありましたよね?」 さて、ここで暁は思い出した。 ゴハットの指定では、『この者、少女誘拐犯人!』と書かれたカードを用意せよとの事であった。ファックスには、切り取って使える紙が渡されていたのだ。ぺらぺらだが、これがカードという事でいいらしい。名称はゴバットカードだ。 それを一応、丁寧に切り取り線通りに切って、ゴハットの死後にそれをヒーローっぽく残しておいてくれとの事だった。 「ああ、そうだったな……一応置いといてやろう」 「はぁ……」 と、暁がその切り取ったカードを手に取った瞬間だった。 ──その裏面。白紙だったはずの部分に、何やら文字が浮かび上がっていた。 表面よりも少し文字の量が多く、一瞬どちらが表でどちらが浦なのかわからなくなりそうであった。 「……ん? なんだこりゃ? こんな文章、最初からあったか?」 「いえ、こんな物があった覚えは……もしかすると、自分が死んだら浮き上がる仕組みとか」 「え? どんなインク使ったらそんな事になるんだよ……」 まさしく、暁の言う通りだが、これはゴハットの心臓部と連動した超凄いインクで書かれた文字であった。ゴハットの死と同時に文字が浮かび上がる仕組みになっていたのである。 文章をよく見ると、暁の知っている人物の名前が書いてある。 暁はすぐにそれに目を通した。 『桃園ラブと花咲つぼみなら、花咲つぼみ。 巴マミと暁美ほむらなら、暁美ほむら。 島の中で彼女たちの胸に飛び込みなさい』 ……全く理解ができない内容だった。 しかし、ラブとマミ、つぼみとほむらの共通点というのが少し頭に引っかかる暁であった。 「変な文章書きやがって。やっぱり頭おかしいんだな……アイツ」 名探偵、涼村暁はその文章を怪文書としか捉えられなかった。 それがいかに重大な意味を持っているかも彼は知らない。 ……ただ、暁はその場にカードを置いていくのを躊躇った。 もしかすると、何かの手がかりを残したのかもしれないと思ったからだった。 内心、ゴハットに謝りつつも、暁はゴバットカードをポケットの中にいれた。 【ゴハット@超光戦士シャンゼリオン 死亡】 【高町ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはシリーズ 主催陣営のデータ上、死亡】 【残り13人】 ◇ 【2日目 昼前】 【D-6 グロンギ遺跡付近】 【涼村暁@超光戦士シャンゼリオン】 [状態]:疲労(小)、胸部に強いダメージ(応急処置済)、ダグバの死体が軽くトラウマ、脇腹に傷(応急処置済)、左頬に痛み、首輪解除 [装備]:シャンバイザー@超光戦士シャンゼリオン、モロトフ火炎手榴弾×3、恐竜ディスク@侍戦隊シンケンジャー、パワーストーン@超光戦士シャンゼリオン、リクシンキ@超光戦士シャンゼリオン、呼べば来る便利な超光騎士(クウレツキ@超光戦士シャンゼリオン、ホウジンキ@超光戦士シャンゼリオン) [道具]:支給品一式×8(暁(ペットボトル一本消費)、一文字(食料一食分消費)、ミユキ、ダグバ、ほむら、祈里(食料と水はほむらの方に)、霧彦、黒岩)、首輪(ほむら)、姫矢の戦場写真@ウルトラマンネクサス、タカラガイの貝殻@ウルトラマンネクサス、スタンガン、ブレイクされたスカルメモリ、混ぜると危険な洗剤@魔法少女まどか☆マギカ、一条薫のライフル銃(10/10)@仮面ライダークウガ、のろいうさぎ@魔法少女リリカルなのはシリーズ、コブラージャのブロマイド×30@ハートキャッチプリキュア!、スーパーヒーローマニュアルⅡ、グロンギのトランプ@仮面ライダークウガ、ゴバットカード [思考] 基本:加頭たちをブッ潰し、加頭たちの資金を奪ってパラダイス♪ 0:とりあえずヴィヴィオちゃんが生きているのはわかったが隠し通す。暗号?知らん。 1:石堀を警戒。石堀からラブを守る。表向きは信じているフリをする。 2:可愛い女の子を見つけたらまずはナンパ。 3:変なオタクヤロー(ゴハット)はいつかぶちのめす。 [備考] ※第2話「ノーテンキラキラ」途中(橘朱美と喧嘩になる前)からの参戦です。 つまりまだ黒岩省吾とは面識がありません(リクシンキ、ホウジンキ、クウレツキのことも知らない)。 ※ほむら経由で魔法少女の事についてある程度聞きました。知り合いの名前は聞いていませんでしたが、凪(さやか情報)及び黒岩(マミ情報)との情報交換したことで概ね把握しました。その為、ほむらが助けたかったのがまどかだという事を把握しています。 ※黒岩とは未来で出会う可能性があると石堀より聞きました。 ※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました。 ※第二回放送のなぞなぞの答えを知りました。 ※森林でのガドルの放送を聞きました。 ※第三回放送指定の制限解除を受けました。彼の制限は『スーパーヒーローマニュアル?』の入手です。 ※リクシンキ、ホウジンキ、クウレツキとクリスタルステーションの事を知りました。 ※結城丈二が一人でガドルに挑んだことを知りました。 ※ゴハットがヴィヴィオを元の世界に返した事は知りましたが、口止めされているので死んだ事にしています。 【石堀光彦@ウルトラマンネクサス】 [状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、首輪解除 [装備]:Kar98k(korrosion弾7/8)@仮面ライダーSPIRITS、アクセルドライバー+ガイアメモリ(アクセル、トライアル)+ガイアメモリ強化アダプター@仮面ライダーW、エンジンブレード+エンジンメモリ@仮面ライダーW 、コルトパイソン+執行実包(6/6) [道具]:支給品一式×6(石堀、ガドル、ユーノ、凪、照井、フェイト)、メモレイサー@ウルトラマンネクサス、110のシャンプー@らんま1/2、ガイアメモリ説明書、.357マグナム弾(執行実包×10、神経断裂弾@仮面ライダークウガ×2)、テッククリスタル(レイピア)@宇宙の騎士テッカマンブレード、イングラムM10@現実?、火炎杖@らんま1/2、血のついた毛布、反転宝珠@らんま1/2、キュアブロッサムとキュアマリンのコスプレ衣装@ハートキャッチプリキュア!、スタンガン、『風都 仕置人疾る』@仮面ライダーW、蛮刀毒泡沫@侍戦隊シンケンジャー、暁が図書室からかっぱらってきた本、スシチェンジャー@侍戦隊シンケンジャー [思考] 基本:今は「石堀光彦」として行動する。 0:電話する。 1:「あいつ」を見つけた。そして、共にレーテに向かい、光を奪う。 2:周囲を利用し、加頭を倒し元の世界に戻る。 3:都合の悪い記憶はメモレイサーで消去する 4:加頭の「願いを叶える」という言葉が信用できるとわかった場合は……。 5:クローバーボックスに警戒。 [備考] ※参戦時期は姫矢編の後半ごろ。 ※今の彼にダークザギへの変身能力があるかは不明です(原作ではネクサスの光を変換する必要があります)。 ※ハトプリ勢、およびフレプリ勢についてプリキュア関連の秘密も含めて聞きました。 ※良牙が発した気柱を目撃しています。 ※つぼみからプリキュア、砂漠の使徒、サラマンダー男爵について聞きました。 ※殺し合いの技術提供にTLTが関わっている可能性を考えています。 ※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました。 ※第二回放送のなぞなぞの答えを知りました。 ※森林でのガドルの放送を聞きました。 ※TLTが何者かに乗っ取られてしまった可能性を考えています。 ※第三回放送指定の制限解除を受けました。予知能力の使用が可能です。 ※予知能力は、一度使うたびに二時間使用できなくなります。また、主催に著しく不利益な予知は使用できません。 ※予知能力で、デュナミストが「あいつ」の手に渡る事を知りました。既知の人物なのか、未知の人物なのか、現在のデュナミストなのか未来のデュナミストなのかは一切不明。後続の書き手さんにお任せします。 ※結城丈二が一人でガドルに挑んだことを知りました。 【レイジングハート・エクセリオン@魔法少女リリカルなのはシリーズ】 [状態]:疲労(大)、魔力消費(大)、娘溺泉の力で人間化 [装備]:T2ダミーメモリ@仮面ライダーW、稲妻電光剣@仮面ライダーSPIRITS [道具]:支給品一式×6(ゆり、源太、ヴィヴィオ、乱馬、いつき(食料と水を少し消費)、アインハルト(食料と水を少し消費))、ほむらの制服の袖、マッハキャリバー(待機状態・破損有(使用可能な程度))@魔法少女リリカルなのはシリーズ、リボルバーナックル(両手・収納中)@魔法少女リリカルなのはシリーズ、ゆりのランダムアイテム0~2個、乱馬のランダムアイテム0~2個、山千拳の秘伝書@らんま1/2、水とお湯の入ったポット1つずつ、ライディングボード@魔法少女リリカルなのはシリーズ、ガイアメモリに関するポスター×3、『太陽』のタロットカード、大道克己のナイフ@仮面ライダーW、春眠香の説明書、ガイアメモリに関するポスター 、バラゴのペンダント、ボチャードピストル(0/8)、顔を変容させる秘薬、ファックスで届いたゴハットのシナリオ原稿(ぐちゃぐちゃに丸められています) [思考] 基本:悪を倒す。 0:ヴィヴィオ……。 1:零とは今後も協力する。 2:ケーキが食べたい。 [備考] ※娘溺泉の力で女性の姿に変身しました。お湯をかけると元のデバイスの形に戻ります。 ※ダミーメモリによって、レイジングハート自身が既知の人物や物体に変身し、能力を使用する事ができます。ただし、レイジングハート自身が知らない技は使用する事ができません。 ※ダミーメモリの力で攻撃や防御を除く特殊能力が使えるは不明です(ユーノの回復等)。 ※鋼牙と零に対する誤解は解けました。 ◇ ────時空管理局。 アースラの医務室・白いベッドの上で、ヴィヴィオは瞼を開いた。 強力で、どこか懐かしい魔力の反応とともに、自分は殺されたはずだったが、かつての死とは全く別の形で誰かが彼女を迎えたのだった。 見れば、ヴィヴィオの視界には真っ白な天井があった。 右横を見ると、隣のベッドの上でセイクリッド・ハートとアスティオンがこちらを見ていた。二人とも元気そうであった。 左横を見ると、知っている顔がある。 フェイトの、まだ幼い時の顔がある。彼女はやや心配そうにこちらを見た。 椅子に坐して、こちらを看病しているようだった。 「ここは……」 思わず、ヴィヴィオは体を思いっきり起き上がらせる。すると、体が激しく痛んだ。 やはり、今日まで無理を通してきたのが余程引きずったのだろうか。 生きている、そんな──感覚だった。 そんな折、ヴィヴィオの耳に、誰かの声が聞こえた。 「おめでとう、君は生還したんだ。あの殺し合いからね」 ヴィヴィオはまだ知らないが、白い服の若い男がそう言った。 祝福にしては、少し皮肉のこもった言い回しにも聞こえた。決して、心からの歓迎には見えなかった。 それが不審だったが、ともかくヴィヴィオは状況を知りたかった。 「生還……? ……私以外のみんなは生きているんですか?」 そんな事を心配している内には、まだヴィヴィオは知る由もなかっただろう。 今自分がいる殺し合いの外の世界がどうなっているのか。 「……」 吉良沢は少し俯いてそこから先を言うのを躊躇った後でヴィヴィオに言った。 「……まずは、僕たちについてきてくれ。落ち着いて、外の様子を見てほしい」 ヴィヴィオが、その様子の不審さに、顔色を変えた。 ただ不思議そうに吉良沢を見つめるヴィヴィオであった。 【高町ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはシリーズ 生還、しかし────】 ※セイクリッド・ハート、アスティオンも纏めて送還されました。 時系列順で読む Back 覚醒!超光戦士ガイアポロン(Bパート)Next ありがとう、マミさん(前編) 投下順で読む Back 覚醒!超光戦士ガイアポロン(Bパート)Next ありがとう、マミさん(前編) Back 覚醒!超光戦士ガイアポロン(Bパート) 涼村暁 Next White page(前編) Back 覚醒!超光戦士ガイアポロン(Bパート) 石堀光彦 Next White page(前編) Back 覚醒!超光戦士ガイアポロン(Bパート) レイジングハート Next White page(前編) Back 覚醒!超光戦士ガイアポロン(Bパート) 高町ヴィヴィオ Next 崩壊─ゲームオーバー─(1) Back 覚醒!超光戦士ガイアポロン(Bパート) ゴハット GAME OVER Back 変身ロワイアルの真実 吉良沢優 Next BRIGHT STREAM(1)
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被害者名 加害者名 死因 凶器 イヴ 金色の闇 金色の闇 なし 圧死 瓦礫の崩落 ユキ シャンプー 刺殺 水野亜美 ぬらりひょん アティ ぬらりひょん 美国織莉子 霧島美穂 ベール=ゼファー ベール=ゼファー 幻海 蛇崩乃音 鬼星人(変身) 鬼星人(変身) 鬼龍院皐月 最期の言葉 名前 セリフ イヴ 金色の闇 ユキ 水野亜美 アティ 美国織莉子 霧島美穂 ベール=ゼファー 蛇崩乃音 鬼星人(変身)
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黒き十字架(前編) ◆gry038wOvE いつきたちはあれから数分、安息の時間をとっていた。 これからの戦いのために力を温存するため、そして、アインハルトの目の覚めるのを待つため、今は森の中で腰を休めている。 先刻の戦闘からアインハルトの目覚めまでの僅かな休息ではあるが、彼女らはそこで普段よりもずっと早く、体と心を落ち着かせようとしていた。 体は先ほどより少しマシになったが、まだ心が落ち着くには少し時間がかかりそうだった。 まあ無理もない。あれだけ惨酷な現場を彼らは直視したのである。 知り合いであったはずの人間たち、ここで知り合いとなった人は、次々と死んでしまった。 三人とも共通して、そんな悪夢を見てきたのである。 反面、これ以上の犠牲をなんとしてでも阻止したいという願望、目の前にある命を絶対に救うという決意も確かに二人にはあった。 運命は彼らを仮面ライダー、そしてプリキュアにし、彼らはその力の使い道を、正しく守ることができる心を生まれつき持っていたからだ。 そんな善人たちには、あまりにも酷い仕打ちとも言うべき不幸がある。 いつきは知る由もないが、このエリアで、彼女と同じ力を授かった仲間が土の中に埋まっていた。 その少女の墓は、彼女たちが休む現在地からも、そう離れてはいない。そのうえ、あの戦いは彼女たちが休む一時間ほど前の出来事である。 ────場合によっては、いつきはその少女を救えていた。 そして悲しくも、彼女はその可能性に気づくことはできなかった。 また、その少女がいつきの名を呼んでいたことにも、いつきは気づかぬままだった。 あの時、この付近には本来、お互いを知り合う四人のプリキュアが集っていたのだ。 明堂院いつき、来海えりか、月影ゆり、ダークプリキュア。 彼女たちは、互いに背を向け、互いに気づかずに戦っていた。互いの姿や、互いの想いさえ知ることなく、それぞれの敵だけを見て──────。 そのすれ違いの犠牲となった少女が、ここから百メートルも離れていないところで永遠に眠っている。 いつきは、まだ「来海えりか」が生きていると信じている。いや、信じているというよりも、えりかが死んでいるということを考えてもいないのだ。 そんな惨酷な経験が、まだ襲い掛かってくるなど、彼女は思いもしない。 よく考えてみれば、このバトルロワイアルが開始してから、五時間余りが経つが、彼女たちは、なかなか多くの出来事を経験した。えりかの死とも関係なしに、色々なことがありすぎた。 「…………随分長い時間、ここにいたような気がする」 不意に、いつきが呟く。 プリキュアや、その敵たち以外にもああして変身して戦う者がいるなど、いつきは知らずに生活していたのだ。ゆえに、ここでの出来事は驚きの連続であった。 知り合った人たちが目の前で死んでいくことも──── 多くの経験が、彼女の感覚を麻痺させる。 ここから来て、何時間? ────そう言われても、すぐには答えられない。そんな短い単位だったのか。もう何日もここにいて、既に日常なんて手が届かないほど遠くにあるような、そんな感覚であった。 短い時間で、色々と悪い経験をしすぎたのである。 何日も戦ったかのような疲労感もあるし、体にはまだダメージが残留している。 「沖さん……」 そのうえ、二人は心の中で、あの男────本郷猛がこの場にやってくるのを少しだけ期待していた。 だから、彼が帰ってこない時間の存在が、彼らを再びネガティブの渦に引き寄せる。 アインハルトが目覚める時まで、二人はそうして目立った喜びもなくすごしていく。 「正直に言うなら、俺もだよ。今までも命をかけるような戦いはあったけど、こんなに酷いことは無い」 黙っていた沖も、呼びかけられたことで反応する。 この時間軸の沖にはまだ、バダン・シンドロームの悲劇はない。今まで以上に、日常的に辛い戦闘に明け暮れるのは、もう少し先の話だったのだ。 とはいえ、一年間のドグマ、ジンドグマとの戦いや、あの宇宙での戦いもいまだ忘れてはいまい。 玄海老師や弁慶の死だって、いまだ心に残っているし、先ほど、ついに先輩ライダーの一文字隼人や本郷猛に背を向けて去った。忘れるわけがない。 本郷や一文字は無事だろうか? …………本郷については割り切る必要があるとしても、一文字は結構な重傷を負っていたがあの時点で何事も起きていない。あの後、何か交戦をしただろうか。彼ならば、本郷のように無茶をするだろう。 不意にその先輩のことが気にかかる。 これから先、ソレワターセとなったスバルが、もし彼に襲い掛かれば…………。 せめて、再び彼と見えれば、どうにかノーザやアクマロにも立ち向えると思うのだが。 そんなことを考えている最中、いつきがアインハルトの方に目をやった。 「アインハルトも随分辛そうに眠っています……」 「ああ」 ここで眠っている彼女の姿は、決して安らかではない。苦汁に満ちた、今までこんな不安そうに寝る人間など見たことのないというほどの、寝顔である。 この殺し合いの中では、現実を直視せずに眠っていることが幸せなのかもしれないが、彼女の場合は辛い現実を夢の中でも見ているようだ。 …………そう、ここに来た人間には、幸せなどない。たとえ殺戮を好む悪鬼であっても、この狭い枠の中で飼われることが本当に幸せだろうか。 せめて、沖はここにいる二人だけは絶対に守らなければならない。たとえ生きることが苦痛であっても。 先ほど、無力にも救えなかった命たちを思い起こせば、その辛さがよくわかる。 高町なのは、鹿目まどかなどは、かなりの年少者だったというし、本来沖よりも長く生きるべき人間だったはずだ。 それに、沖よりもずっと長く戦ってきた本郷ですら、それを阻止できなかった……。 それを考えると、沖も思考がやや陰性に偏る。 「……さっき、君には許してもらったけど、いまだに、俺がもう少し早く来ていればもしかしたら……と思うんだ。彼女はきっと、知り合った人たちの死を経験せずに済んだ」 「そんなこと……! それに、沖さんだって本郷さんを……」 本郷のことを、いつきが口にし、慌てて口を閉じようとした。 彼はまだ、死んだと確定したわけではない。どういう形であれ、生きている可能性は0パーセントではないのだ。 沖ももしかしたら、まだ本郷の生存を信じている可能性がある。そう思えば、いつきの言葉は軽はずみすぎたといえる。 しかし、沖はいつきが口を閉じたことさえ気づかずに、その言葉へ返答した。 「いや、あの人には死に対する覚悟があったよ。だから、俺はあの人が死んだって、悲しんではいられないんだ」 仮面ライダー1号、本郷猛という男のことは彼も忘れまい。 ショッカーなどという何年も前の組織の改造人間であるがゆえ、そのスペックはスーパー1を含む後のライダーたちの劣るはずなのだが、本郷という男は沖の目にも最強に見えた。 本郷や一文字は、後輩ライダーたちには名実ともに尊敬の対象となるほどの力を持っていたのだ。 本来ならば新たな組織の改造人間が襲い掛かれば、いつ死んでもおかしくはないとも言えるのに、彼らはそれを圧倒的な経験と学習能力でカバーした。 もしかしたら、沖たちが去った後だって、あの体でノーザたちを打ち破っているかもしれない。 それを本気で信じられるほど屈強な人間だ。 しかし、……沖たちがこれほど待っても沖たちを追ってこないということは、きっともう彼はいないのだろう。 「本郷さんは、俺の先輩だったし戦友だった……けど、ショッカーに改造されてから、何度だって死ぬ可能性があった人だ。 だから、残される俺たちにも、彼が死んだ時に、それを受け入れる覚悟くらいは持ってる。 俺が死ぬ時も同じだ。俺が死んでも、他のライダーたちはその分だけ平和のために戦い続ける。そういうもんなんだよ、仮面ライダーって」 仮面ライダーという戦士には、少しドライな部分があった。 プリキュアとは違い、普段の戦いがあまりに殺伐としすぎていたし、時には親しい人の死をも経験した。 そして、時には自らの死を望む者も現れたし、本郷などは味方のライダーを生かしてしまったことを後悔したこともあるという。死を覚悟して戦うのが常だった。 だから、彼らは仲間の死を僅かだけ悲しみ、すぐにその気持ちを捨て、その屍を越えて次の敵を倒さねばならないのだ。 とはいえ、そういう話はいつきのような少女には重すぎると考え、沖は自分の言葉に対するフォローを咄嗟に行う。 「……まあ、正直言えば俺はそういう気持ちが、他の先輩ライダーと比べれば弱いかもしれない。 俺はまだ、本郷さんの事を信じている。……そういえば、ここに来る前も一文字さんに怒られたんだっけ」 沖一也が他のライダーと決定的に違う点は、「自ら熱望してライダーとなった」ということだろう。 たとえば、同じように望んでライダーになった風見志郎も、その根底には近親者を殺したデストロンに復讐するという悲しい理由があったし、何より生命を維持するためにライダーとなる必要があった。 他のライダーは皆、改造人間となることを躊躇いながらも、そうするしか道のなかった者、気づけばそうなっていた者たちだ。 一方、沖は宇宙開発のために改造人間になった。 ゆえに、他のライダーと違い、戻る場所が幾らでもあるし、人間に戻りたいという気持ちもさほど強くない。むしろ逆に、このまま人類の未来のために従事したいというくらいだ。 ────他のライダーに比べると、付きまとう悲劇は薄いのだ。 裏切りの報復で、無条件に命を狙われることもないし、いつだって運命から抜け出せる可能性がある。そして、改造人間として死を恐れる気持ちも他に比べれば薄いのだ。 「それでも、やっぱり俺は本郷さんのために、彼が死んでいても悲しみはしない……そう、悲しまないつもりだ。それに、彼ならばまだ生きている可能性は少なからずある。 しかし、君たちはもう、ここで知り合った仲間を喪った、悪鬼に変貌させられた。 それは、君たちのような子供たちが、受けていいような苦痛じゃないんだ…………!」 沖はジュニアライダー隊や、マシムという少年の事を思い出す。彼らは沖が未来を託す子供たちだ。 自分たちが開いた宇宙を、彼らが感じて欲しい。彼らの世代がより役立てて欲しい。 月の先になにがあるのか、彼らに、彼らの子に、更にその子供たちに、その目で見て欲しい。 そういう思いが沖の中にはあったはずだ。 だからこそ、子供たちまで巻き込み、こうして傷つけたこの殺し合いは許せなかった。 仮面ライダーが味わうような苦しみを、子供たちが耐えられるはずはない。 いや、味あわせてはならない。 「俺は、仮面ライダーの誇りと人類の未来にかけて、君たちを是が非でも守ると誓った……。だが、先ほどの戦いでは高町なのはや鹿目まどかという女の子も犠牲になったと聞いて、やっぱり俺はそれを果たしきれなかったんだと痛感したよ。 その時、ここに来る前に聞いた一文字さんの言葉を思い出した。一文字さんは道草しようとした俺に、────こうしている間にも罪のない命が次々に犠牲になったらどうする? って聞いたんだ」 あの時の一文字の言葉が、今は重く圧し掛かる。 まさに、沖がたどり着く数分前に何人もの命が奪われたのである。 沖がもっと早く、一文字の言葉を聞いていれば。 あの時はもしかすれば、鎧の戦士と戦う一文字にギリギリで加勢できたことから、少し浮いた気分になってしまっていたのかもしれない。 サイクロン号のスピードをもっと高めれば彼らの元にもっと早くたどり着けたかもしれない。 ────そんなありもしない可能性が、ひたすらに沖を攻め続けた。 本郷、一文字。二人もの偉大なライダーに会いながら、沖は傷ついた二人に背を向けて走ってきた。 それも一人に対し一度ずつ、計二度だ。 その行為が結果的に、二人の少女を救ったのは確かだが、今も彼らが生きているという保証は…………ない。 「…………俺の無力だったんだ」 「やめてください!」 いつきが、力強く言う。その怒声にも近い言葉に、膝の上のアインハルトはいつきの動かすままに揺れた。 流石の沖も、ピクリと反応する。 「僕だって、あの場で戦っていたんです! 僕だって、もっと強ければ、みんなを救えたかもしれないんだ! 一也さんが自分を責めるたび、僕も自分を責めてしまうんです! だって、僕も…………プリキュアの力があるのに、友達を救えなかった……それは、同じなんです」 「…………そうか、すまない」 沖は、いつきに言われて素直に反省する。 冷静に返してはいるが、その言葉は沖にとっても稲妻のような衝撃を走らせたのだ。 そうだ、彼女は違う。 ……沖はどこか、いつきをただの少女のように思っていたが、そういえば彼女は違うのだ。 彼女は、プリキュアという特殊な力を持つ少女────ゆえに、ただ一方的に守られる存在ではない。 だから、あの場でも100パーセント無力というわけではなかったのだ。力を有し、その結果、本郷に任せてその場を去ってしまった。 それは沖と同じで、沖が自分を責めることは、彼女を責めることにも繋がるのだった。 その辺りを、沖はどこか誤解していたように思う。 力があるのに救えなかった……と自分を責めるのは、驕りだったのだ。 そう、「多くの人が変身能力を有する」というこの場では……。 「もう自分を責めるのはやめることにするよ。君も傷つくなんて、気づかなかったんだ」 沖は言いながら、その表情を笑顔に戻そうとする。 不器用な笑みだったが、この方が断然いいのだろう。いつきも少し安心したようだった。 「…………っ…………………」 その時、いつきの膝元で小さな声があがった。 同時に、その膝元の頭が小さく動き出す。アインハルトはどうやら、お目覚めのようだ。 ちょうど足も痺れてきた頃で、ちょうどよかった。 しかし、同時に、彼女が再び現実に戻らなければならないのは忌むべきことでもあった。 「…………起きたみたいだね」 沖は初めて、アインハルト・ストラトスの紫と青の目を見ることとなった。 だが、悪夢から覚め、現実を見つめるときの彼女の姿は、決して美しくは見えなかった。 ★ ★ ★ ★ ★ ダークプリキュアは、キュアマリンとキュアムーンライトによってつけられた僅かな傷と、その骨身に沁みた疲労感を弾かすために、木にもたれて思考していた。 放送までは、目立った動きをする気は無い。 とりあえず放送で、死亡者のペースを把握しておき、無駄な交戦をどの程度省けるのかを考えておきたかったのだ。 少なくとも、現時点でダークプリキュアは死亡者がいることを知らない。 既に、ここに来て五時間が経過しているが、誰かが来るということはなかった。 (キュアムーンライトは今も仲間を集めているだろう……) ダークプリキュアは、キュアムーンライト────月影ゆりのこの場での真意など知る由もなく、彼女は当然、今もキュアマリンと一緒に行動し、加頭に仇なし続けているものと思っていた。 彼女が既にダークプリキュアを妹と認識し、ダークプリキュア自身も知らないその死に様を見つめていたことも、サバーク博士の死も、ゆりがいまダークプリキュアのことを想っていることも、彼女がダークプリキュアを含む家族のために戦っていることも彼女は知らない。 キュアムーンライトが仲間を集めていくと厄介だ。 無論、何人でかかろうともダークプリキュアはムーンライトに勝利するつもりではいる。 だが、プリキュア四人が揃い踏みするようなことがあれば、やや苦戦を強いられることとなるだろう。 望むべくは、キュアムーンライトの打倒であり、他の相手はオマケに過ぎない。先ほどのようにオマケにでしゃばられては色々と面倒だし、興も削がれる。 (なるべく早く奴を倒さなければ……) ダークプリキュアは、自分の体が着々と治癒されているのをその身に感じると、同時に焦りを感じ始めていた。 このまま放っておいては、誰にも邪魔されずに望む形で戦い、そして勝利を得ることはできない。 ゆえに、放送までの数十分の余裕を、再び移動に使い始めた。 無論、無駄な戦闘は避けるため、極力その身を隠すつもりだ。 ……しかし、行動を制限するように日の光が強くなり始めている。 いくら山中とはいえ、光の中ではダークプリキュアの黒は目立つのだ。 早朝が、放送が近付くにつれ、目立たぬ行動というのは難しいものとなる。 (まあいい……邪魔が入れば倒すだけだ) ダークプリキュアは、キュアムーンライトを倒したとしても、サバーク博士の下に帰らなければならない。そのためには、優勝という目的は必須となるのだ。 ゆえに、どこかしらで姿を見られれば、その相手はダークプリキュアの圧倒的な能力をもって撃沈させる。 この行動は、省きようが無い。 多少エネルギーを使うことにはなるだろうし、勿体無いとも言えるが……それでも、やはり仕方がない。 彼女は、さきほど戦闘を行った方へと歩みを進め始めた。 キュアムーンライトの居場所を探るのなら、やはり彼女が少し前に居た場所からヒントを得ることだろう。 ダークプリキュアはそのまま、然とした表情で胸を張って歩き始めた。 ★ ★ ★ ★ ★ 視界に現れた男性と、変身を解いて落ち着いたいつきに、アインハルトは戸惑いを覚えた。 もう戦いは終わったのだろうか。だとすれば、どういう風にして終わったのか。 自分は、あの場で気絶したはずだ。 その先、何があったのだろう。 死んだのではないのか。 あの激戦の中、意識を失ったはずの人間がどういうわけか生き残ってこんなところにいる。 敵が甘くも、あんな中で意識を失った人間を、見逃してくれたというわけではないだろう。 なら、誰かが助けてくれたのだろう。助けてくれたのは誰だろうか。 …………間違いない、眼前の二人だろう。 では、流ノ介は、本郷はどこへ行ったのだ? 聞きたいことはやまほど浮かぶ。見える景色も全て違うし、知らなければ情報が多すぎる。それを聞くために、まずは、目に留まった話しやすい相手に声をかけた。 「…………いつきさん?」 「良かった……あのまま、目覚めないんじゃないかと思ったよ」 「…………あの怪物は? それに、この人は? 本郷さんは!? 流ノ介さんは!? 状況を説明してください!」 いつきはアインハルトに聞かれて、口を出すのを躊躇う。渋った表情、目を反らす。 それは、全てが悪い終わりを迎えてしまったことを、暗に示していた。 ここにいる二人以外は全員もうこの世にいないのだと、アインハルトは理解した。 まどかは、なのはは、流ノ介は、本郷は、………………やはり死んでしまった。 目の前で見た二つの死を思い出し、流ノ介や本郷も同じように惨酷に死んだのではないかと、悪い想像を膨らませてしまった。 いつきは答えていないのに、彼女の答えを待たずにアインハルトは思わず呟く。 「…………そんな」 流石にアインハルトはショックを受けた。 そう口にするしかないくらいのショックで、それ以上何を聞けば良いのか、彼女はわからなかった。まるで再び眠りに落ちそうなくらい、頭を垂れて表情を暗がりに落とし、彼女はそれから黙りこくった。 悲哀と後悔に満ちたアインハルトの表情は、本来の整った顔立ちを忘れさせる。頬が歪み、この一瞬で少しやつれたのではないだろうか。 いつきは、もう少し元気に接すれば良かったんじゃないかと、一歩手前の自分の行動を後悔する。 どちらにせよ、いつかはこの事実を知ることになったのだろう。ただ、タイミングが悪かったのだ。 彼女が真先にこれを聞くのだろうと察してはいたが、その時に誤魔化す術を知らなかった。 自分がもっと、人を慰めることが巧みだったのなら……もっと、嘘が得意だったのなら……。 しかし、そんないつきの肩に、沖の手が乗る。いつきの心中を察し、沖は自分が前に出ようとしたのだ。 沖のその目は、いつきを少し和ませた。 「俺は、沖一也。本郷猛の戦友だ。……彼に、君たちを託された」 沖はそう言って、アインハルトに挨拶をした。必要な情報はまだ幾らでもあるのだが、彼女を安心させるための自己紹介だ。ゆえに、仮面ライダーのことについても多くは語らない。 ただ、少しでも彼女に和んでもらおうとしたのである。根本的に何も解決していないのだが、まずは話題を陽性の方に向けるべきであると思っていた。 「アインハルト、この人が僕たちを守ってくれたんだ」 「よろしく、アインハルトちゃん」 反面、アインハルトは、初見である沖に警戒を示した。 この場では無理もないが、おそらくか弱いと見えるいつきやアインハルトに一切の手出しを加えていないことから、彼が強い殺意を持ってはいないと、すぐにわかった。 いつきとアインハルトに対する態度も優しげで、風貌はいかにも好青年という感じで、顔には一変の悪意もない。 しかし、彼女が今不信感を抱いているのは、そんなことではないのだ。 どんな善人でも、今のアインハルトの不安は「自分が裏切られて殺されること」とは全く別次元にあった。 ここでの経験は、彼女にこんな考え方を植え付けていたのである。 ────この人も、もうすぐ死んでしまうのではないか そう、彼女はここに来て、関わった人間が続々と死んでしまう経験をしたのである。いつきも同様だが、アインハルトは彼女以上に悲惨な経験をしていたといえる。 ここに来て最初に出会った仲間は、もう二人ともいない。 次に出会った流ノ介も死んでしまったし、なのはも死んでしまった。 そのうえ、元の世界での知り合いのスバルはあのような状態になってしまう。 元の世界で慣れ親しんだ人も、ここで出会った人たちも多くが死んでしまったのである。 (優しそうな人だけど……) ヴィヴィオや、フェイトや、ユーノや、ティアナや、いつきだも、沖だって死んでしまうんじゃないか。そんな悪い予感が止まない。 沖の目が優しげであればあるほど、余計に恐ろしいのである。一瞬で、彼の善意を理解できてしまうだけえに、自分などと関わらせてしまったことが不幸であるように思えた。 彼女は、そういう意味で誰より人間不信だった。 人間の心が信じられないのではなく、人間の命が信じられなかった。 そして、自分自身の運が信じられなかった。 目覚めた時、────あるいは、なのはやまどかの死を前にしたとき、彼女はそういう考えを持ってしまった。 この人たちも、また自分の目の前から消えてしまう……。 そんな悪い未来が、容易に想像できてしまった。 全てが自分のせいだと思いつめ、明るい未来を信じることができない。 ────だから、アインハルトが沖に対して最初に投げかけた言葉は、謝罪だった。 「…………ごめんなさい。私と関わらせてしまって…………」 「え?」 そう言って困惑する沖といつきをよそに、アインハルトは覚醒した脳や体を駆使して立ち上がる。 そのまま、アスティオンと支給品を見つけて腕に抱えた。彼女はとにかく、この場から立ち去ろうという意思を持ってしまった。 その動作から、沖は本能的に、彼女が次にとらんとする行動を理解する。彼女の真意は知らずとも、彼女がここから立ち去ろうとしているのを警戒したのである。 いつきは呆然としているが、沖だけは構える。 「私、何かある前に出て行きますから……助けてくれて、本当に、ありがとうございました…………」 申し訳なさそうに頭を垂れると、すぐに彼女は、二人の前から逃げるように ────走り出した。 むしろ、自分が逃げようというよりも、彼らにこそ逃げて欲しい、避けて欲しい、近寄らないで欲しい、関わらないで欲しい、と思っていた。 そうしてくれれば、きっと誰も傷つかなくて済むような気がしたのである。 幸いにも、沖などは今一度言葉を交わしたのみで、深く関わりあうことはなかったし、今自分が逃げていけば間に合うような感じがした。 そうして、アインハルトは泣きそうな思いで足を前に踏み出していく。 しかし、傷だらけの体が、思ったよりも重かった。寝起きで脳が揺さぶられるような感覚になったのも一因だろうか、その動作は普段の彼女に比べてぎこちなかった。 ズキ。 逃げおおせようという彼女の策略は見事に失敗する。走ろうとすればするほど、自分の体に鞭を打ち、思うようには走れない。 全力とは程遠い、無作法な走り方で、前のめりに倒れかけながら、進んで行く。 歩いているのと、何が違うものか。 見ようによれば痛々しい。早歩きですら、追いつけるようなよろよろとした走りに、沖は全力で追いつこうとした。────一刻でも、早く。 「……待ってくれ! 逃げなくたっていいんだ!」 沖がすぐに、そんなアインハルトの体を捕まえ、その顔を自分の方に向けた。 彼女の虚ろな瞳を見て、彼女の目に生気がないことに、沖は気づき、思わず絶句する。 彼女は逃げたのではないのだ。それがわかってしまった。 …………これは、必死で生きようという気持ちの人間の目ではない。 しかし、この目を見るのなら、疑われる目を向けられる方が遥かにマシであった。 「どうしたんだ? アインハルトちゃん」 「…………私と関わると、いつきさんや沖さんも…………」 沖はその時、彼女が失ったものの大きさ、そして少女の性格にようやく気づく。 彼女は、沖が思っている以上に立派な少女だったのだ。 あの戦いで失われたものを悲しむ以上に、その根源に自分があるのではないかという自己嫌悪を持っている。彼女はよくも悪くも責任感が強いのだ。 自分と関わった人間ばかりが多く、死んでしまう…………その原因が自分にあるのではないかと、彼女は思い込んでしまっている。 アインハルトと関わったから死ぬなど、そんなことはあるはずがない。 ただ、彼女は混乱しているだけなのだと、沖は思っていた。 「……アインハルトちゃん、少し休むんだ。これまでのことをちゃんと話す。だからここにいるんだ」 「沖さん!」 いつきは思わず、沖に怒鳴りかけた。 本当のことを話せば、余計に傷つくだけなのだと思ったのだろう。 本郷はアインハルトやいつきを逃がす時間を作るためだけに体を張った。……そのことを話して、綺麗に収まるだろうか。 「アインハルトちゃん、俺たちはまだ生きてる。これから死ぬ気もない。 それに、俺はこれからも君たちの傍にいるつもりだ。だから安心してくれ」 アインハルトは、沖の言葉に心を動かされた様子もない。 ただ、捕まってしまった以上、もうここから立ち去ることはできないだけだ。 沖に促されるまま、先ほどの場所に戻ろうとする。 ★ ★ ★ ★ ★ いつきも、同じように彼らについていこうとした。 何ただの気なしに、ただ彼らと離れてはいけないと思ったからで、大きな理由もない。当然の行為で、いちいちその行動を詳細に語る必要もないような行動だ。 だが、その行動をする際、一瞬だけ────彼女は何か、「彼らについていくこと」を躊躇った。 『いつき』 いつきは、後ろを振り向く。 今、誰かが呼んだような気がしたのだ。 耳に聞こえたのではないし、誰の声ともわからない。 ただ、文字が頭に浮かんで、それを何となくだけ「誰かに呼ばれた」と感じた。 不意に、背後を見る。声に方角はなかったのではっきりとはわからないが、後ろから聞こえたような気がしたのだ。 (気のせいかな……) しかし、それを無視してはならないような気がした。 そう、これを無視したら、この不思議な呼びかけに二度と応じられないような……。 そんな、不思議な気持ちがいつきの胸を刺す。 沖とアインハルトは、いつきのこの様子に気がついていない。まあ、それどころではないのだろう。 それを好機とばかりに、いつきはそこで立ち止まった。 それでも、後ろに向かっていくことはしない。流石に不自然な動きになってしまう。 (さっき休んでいたところから数歩しか歩いていないのに、景色が違うみたいだ……) 何故、アインハルトの逃げた方角に進んでいって、そういう感想を抱いたのか、わからない。 どうしてだ。 ここは見たこともない地だし、おそらくここに来たことを忘れたわけではない。 ただ、この地と関係なく、この地には懐かしい何かが残留している。 まだ消えていない何かが、いつきに感慨深い思いをさせる。 なにがそうさせているのかはわからないが、それはとても大事なことなのである。 『いつき』 また、そんな呼びかけがいつきの脳裏に浮かぶ。 そして、立ちすくんだまま、彼女はそこを動けなくなった。 この呼びかけで二回、いつきはその名が呼ばれるのを感じたことになる。 いつきが気づいてくれるまで、彼女は何度も呼んだのかもしれない。これは二度目でなく、十度目くらいであるとも言い切れない。彼女が、どれだけ必死にいつきを呼んでいるのか、それをいつきは感じた。 いつきは何も考えずに次の呼びかけを待った。 名前を呼んだということは、何か用件があるということで、それを聞き届けなければならない。 そして、それは彼女がどうしてもいつきに伝えたい、大事な用件なのだ。 全ての空気が、いつきの外から弾かれるような感覚が襲う。 ここで脳裏に浮かぶ言葉が、一度深呼吸をしてから言っているかのように、もったいぶった。 いつきの頭に、ふと誰かの願い事が浮かぶ。 『────お願い、あの人を、止めて』 意味不明で、主語さえ曖昧な願望。それを聞き入れる義務など、いつきにはない。 だいたい、何をすればいいのかいつきには全然わからないのだ。こんなことを言われても。 しかし──── 『絶対だよ』 ────その声だけは、『聞こえ』た。 その声と共に、いつきは何かを思い出す。 そうだ、こんな言い回しをする友達がいた。 ここで感じた声や、雰囲気は、その友達と瓜二つだったのだ。 しかし、どうしてその娘の声が、凄く遠く感じるのかがわからない。 『じゃあね』 その直後、いつきはそのまま脳裏に、誰かの笑顔を感じた。 誰かの笑顔を見たわけではないのに、いつきは誰かの笑顔を見たときの気分になった。 いつきは笑顔を返せない。 いつきは、誰かの「死」を見つめてしまったような気分で、はっきり言えば憂鬱だったのだ。笑顔を返せる気分ではない。 言ってみれば、感情の起伏自体が、このときは乏しかったのだろう。 その子が死んだという確信がなかったので、涙は垂れない。 ただ薄々と、先ほど思い浮かんだ少女が正常な状態でないことを感じたのだ。 でも、それは気のせいであってほしいといつきは思う。 いや、まだ気のせいだと思う気持ちが大半だ。 だって、いつきはその娘と、また笑い合える日が来ると信じているから────。 (それでも、ごめん、君に気づけなくて。そして、君に笑顔を返せなくて……。 でも、僕はもう知ってる。君が止めたい人のこと、もう薄々わかってるんだ。 …………なんて、思ったりして。もし君が生きてたら、馬鹿みたいだね) そう、馬鹿であってほしい。 馬鹿でないのなら、「来海えりか」が「月影ゆり」を止めてと願ったように、いつきは成し遂げてみせる。 えりかは、今もどこかで生きていて、この殺し合いを止めようと奮闘している。 それでいいはずなのだ。これはあくまでいつきの不安が呼び起こした妄想であるというのが、正解であっていい。 …………ここに来てからは、そんなことばかりが続いている気がする。 「あれ? いつきちゃん! どうかしたのかー!?」 今度ははっきり、自分を呼びかける声が耳に響いた。 先ほどできた仲間の声である。────沖一也は、アインハルトの肩に手を置きながら、立ち止まるいつきに声をかけていた。 「いえ、何でもありません!」 いつきは、そのまま沖たちの下へと駆け寄った。 あのすぐ近くで埋葬された魂が、たった一度だけいつきに願いを託した────そんな絵空事を、わざわざ教える意味はない。 いつき自身だって、あれは絵空事なのかもしれないと、まだ思っているくらいだ。 とにかく、今は彼女に返せなかった分、笑顔でいよう。 時系列順で読む Back 優しさを思い出してNext 黒き十字架(後編) 投下順で読む Back 優しさを思い出してNext 黒き十字架(後編) Back 変身超人大戦・そして―――― 沖一也 Next 黒き十字架(後編) Back 変身超人大戦・そして―――― 明堂院いつき Next 黒き十字架(後編) Back 変身超人大戦・そして―――― アインハルト・ストラトス Next 黒き十字架(後編) Back 再会、それは悲劇 ダークプリキュア Next 黒き十字架(後編)
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M-083 ニャルラト(変身後) 魔物 3000 自分の「ニャルラト」に重ねる。 以上、枠囲み 《絆のリボン》MPを1へらす→自分の魔本の好きなページから、パートナーカード「詞音」1枚を選び、場に出す。 パートナー=詞音 ニャルラトが、狂暴な化け猫に変貌する。 LEVEL 4 R パートナー呼び出しで、相手の魔本もどしをいつでも防げるのだ。 ニャルラトに重ねる必要があるので、下敷きとしてニャルラト《ナァ~!》が必須になる。 このカードを出す際に術等は要求されないので、E-080 スカイダイビングで一気に出してしまうと使いやすいだろう。 「詞音」のカードは《絆》と《転校生》の2種類が存在する。 詞音《転校生》は「このカードが場にある→」効果なので、こちらとの相性はそれほど良くはない。 詞音《絆》であれば「このカードを捨て札にする→」MPを4増やす事ができ、このカードのコストを差し引いても+3の利益が出る。 このカードも《絆》もお互いのターンで使えるのでMPを素早く稼ぐ事ができ、詞音《絆》を4枚入れて全てこのカード経由で使ったとすればMPは12稼げる事になる。 使い切った後は詞音《転校生》を場に出して相手の魔本戻しをロックしてしまうと良いだろう。 また、E-099 手をつないで・・・で詞音《絆》の再利用もできるが、MPを稼ぐだけのループでは勝利に直結しないので、それを狙う場合は他のカードのループも併せて狙う魔本にすると良い。 収録パック LEVEL:4 白銀の螺閃光(前編) タグ:3000 ニャルラト 自分の魔本の好きなページ 魔物
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新たなる戦い! 思いは駆け巡る!! ◆LuuKRM2PEg 放送で呼ばれた十八人の名前を聞いて黒岩省吾が思ったのは、事態は思った以上に深刻だという事だけだった。 六十六人の中から出るだろう邪魔者となる参加者が減ったのは喜ばしいし、利用できる参加者が減ったのは残念でもある。あの意味不明な探偵が消えなかったのは予想外だったが、どうせ放っておいても勝手に死ぬから問題ない。 ただ、禁止エリアという場所にうっかり突入しないように気を付けて、一刻も早く利用できる手駒を探さなければならなかった。既に六分の一以上が死んでいるならば、あのテッカマンランスのような危険人物は大勢いる事になる。でなければ、こんなちっぽけな島で死人が多く出るわけがない。 あまり悠長に構えていては忌々しい加頭順達を倒せないし、何よりもその前に自分自身が死んでしまう。この異質に満ちた状況で、嫌でもそれを認めざるを得なかった。 「マミさん……えりかちゃん……それに、まどかちゃんにほむらちゃんも……!」 そして省吾の耳に、掠れるような少女の声が届く。 横目で振り向くと、放送前に出会った桃園ラブがその小さな身体を震わせていた。理由は先程の放送で、彼女の友人や守りたいと願った参加者達の名前が呼ばれたため。 やはり、人間は弱くて脆い生き物だと省吾は実感した。地球上には何十億もの人間がいるというのに、その中の一人や二人が死んだ程度で悲しみに溺れてしまう。やはりこんな連中に任せては地球が腐るだけだから、一刻も早くダークザイドが侵略しなければならない。 尤も、それを今ここで口にするつもりなどないが。 「桃園さん、大丈夫ですか?」 「……心配してくれてありがとうございます、黒岩さん。私なら、大丈夫ですから……」 蚊の鳴くような声で呟くラブの顔は酷く青ざめていて、目尻からは涙が滲み出ている。しかしそれでも笑顔を向けていたが、無理矢理に作った表情だと一目でわかった。 やはり、彼女もただ戦闘が強いだけで精神力は子どもでしかないのだろう。泣かれるよりは遥かにマシかもしれないが、これでは戦力として期待していいのかどうか甚だ疑問だ。 だが、今は贅沢など言っていられない。不満を零したところで新しい戦力が手に入る訳ではないからだ。 「歩けるかな?」 だから少しでも彼女を支える必要がある。もしもこのまま精神に不調を及ぼしたままでは、いざという時に全てが駄目になってしまう恐れがあるからだ。 念の為に訊ねながら手を差し伸べるが、ラブは慌てたように首を横に振る。 「へ、平気です! すみません、黒岩さんに心配かけて……」 「そうか、だが無理はしないでくれ。君にもしものことがあっては、ご両親に顔向けができないからね」 その言葉は建前でしかないが、僅かながらに本心も混ざっていた。 東京都知事となって東京国を独立させる為には、人殺しは当然のことこんな若い少女を見殺しにするのも極力避けなければならない。主催者達を上手く口封じできればその必要もないが、現状ではその手段がまるでなかった。 だから基本的に戦闘はラブに任せて、自分はそんな彼女の精神をケアすればいい。無論、使い道がなくなるならば見捨てるしかないが。 「心配してくれてありがとうございます……でも、私もあまり無理をするつもりはありません! 一人で勝手にそんなことをしたらみんなが悲しみますし、何よりもマミさんとも無理はしないって約束しましたから!」 しかしそんな思惑など露知らず、ラブは年相応の少女が浮かべるような眩い笑みを浮かべる。 やはり人間とは馬鹿で愚かな生命体だ。ちょっとでもいい顔をすればすぐに騙されてしまい、すぐに信頼を寄せる。特にこの年代の若い少女なんかは、社会の黒い部分を知らない場合が多いので、簡単に道を踏み間違えてしまうことが多い。プリキュアという戦士であるラブも、結局はその一人でしかないのだろう。 ここまで都合よく行くとなると、最初に目撃した二人組にも取り入るべきだったかもしれないが、今更もう遅い。これから向かう北の廃教会や村でまた出会えることを願うしかなかった。 「なるほど、ですが無理をしないでください。私も、私にできるかぎりのことをしますから」 「はい、ありがとうございます!」 「それじゃあ、急ぎましょうか。こうしている間にも、つぼみさん達だって頑張っているでしょうから」 そう言うと、頷いたラブの表情は少しずつ明るくなっていく。 悲しみは完全に拭い払えてはいないだろうが、今はこれでいい。こうすることで彼女は自分を信頼するだろうし、自分の為に動こうとする。人間社会に潜伏してきたおかげで、ラブのような単純極まりない人間はちょっとでも甘い言葉を向ければ、それだけで利用できると知った。 だからここでもシャンゼリオンやダークザイドを上回るであろう参加者達を懐柔し、脱出までの地盤を固めればいい。厄介な相手を潰させて、最後は全てを手に入れる。 そう思いながらラブと共に省吾は歩みを続けていた。しかし次の瞬間、凄まじい轟音を響かせながら目前の道が一気に爆発し、衝撃によって大量の粉塵が散らばった。しかも爆発は一度だけではなく、まるで爆撃が起こったかのように辺りが次々と吹き飛んでいく。 「何だ!?」 驚愕のあまりに省吾が振り向いてみると、ここから数メートル程離れた場所にダークザイドやドーパントのような青い怪物が立っていた。怪物の右腕はライフルのようになっていて、あれで狙撃してきたのだと判断する。 (あそこか……これはまた、遠いな) 現れた怪人を前に省吾は悩む。 相手は遠距離からの攻撃を仕掛けているのだから、仮にブラックアウトをして暗黒騎士ガウザーになったとしても立ち向かえるかどうかわからない。だが例えガウザーになったとしても接近する前に蜂の巣にされてしまうだろうし、何よりもこの手を血で染めるわけにもいかないし、リスクが大きすぎた。 しかしこのまま何もしなければ、それこそただの的になってしまうだけ。この場を切り抜ける為の行動を考えあぐねてしまう。 「チェンジ! プリキュア! ビート・アーップ!」 だがその数秒後、省吾の思考を吹き飛ばす程の快活な声が周囲に響き、太陽すらも凌駕しかねない輝きが発せられた。 思わず振り向いてみたら、そこに立っていたはずのラブは既に変身をしている。ボリュームが増したツインテールは金色に輝き、その身体には白とピンクを基調にしたやけに派手な衣服が纏われていた。 「ピンクのハートは愛あるしるし! もぎたてフレッシュ! キュアピーチ!」 両手を強く叩きながら名乗りを挙げた桃園ラブ……いや、キュアピーチは先程の悲しみが嘘のように表情に覇気が戻っている。 その力強い瞳をそのままに、ピーチは省吾に振り向いた。 「ここは私に任せて、黒岩さんは先に行ってください!」 「そうですか……でも、無理をしてはいけませんよ!」 「ありがとうございます!」 そう言いながらピーチは笑顔を見せたがそれは一瞬で、すぐに怪人がいる方角に向きながら走り出す。その脚力は凄まじく、ライフルから放たれる弾丸を次々に回避していた。 しかしそれに見惚れている暇なんてない。厄介な相手を引き受けてくれるというのならば、ここはピーチの言葉に甘えて一刻も早く離れるのが一番だ。こんな所でわざわざ消耗するのは、自分の役割ではない。 ここで彼女は怪物を倒してくれるならそれでいいし、相打ちになって終わるなら所詮はそこまでの小娘だっただけ。できるならあの怪物も手駒にさせられれば最高だが、最初から不意打ちを仕掛けてくる相手に交渉の余地などない。ならば、ピーチが潰してくれるのを祈るしかなかった。 (俺が全てを手に入れる為に頑張ることだな……プリキュア) 不敵に笑う省吾の耳に戦闘による轟音が響くが、彼は決して振り向かない。 その眼に映っているのは、全てを手に入れるまでの道のりだけ。終わりに辿り着くまでは決して止まるつもりはないし、途中でどれだけのものが犠牲になろうとも知ったことではない。 壮大なる野望を力にして、省吾はひたすら歩みを進めていた。 ◆ 大切なみんなや守りたかった人達がもういない。それは桃園ラブの心を締め付けるのに充分だったが、それでも倒れたりしなかった。 ここで泣いていたらまだ生きているみんなを助けられないし、何よりもマミさんと交わした約束を裏切ってしまう。彼女や、彼女の友達だった鹿目まどかや暁美ほむらの為にも絶対に戦いを止めて、残された人を救わなければならない。 だから今は頼りになる黒岩省吾を守る為、ラブはキュアピーチに変身して現れた青い怪物を目指して走り出していた。腕のライフル銃から放たれる弾丸の威力は凄まじく、辺りを容赦なく破壊している。幸いにも廃教会には届いていないが、このままではいつ巻き込まれてもおかしくない。 だから一刻も早くあの怪物を止めて、被害を抑えなければならなかった。テッカマンランスの時みたいなことはあってはいけない。その決意を胸に、右手で作った手刀を振るったピーチは弾丸を横に弾く。 真っ二つに割れたエネルギーは彼女の背後に吹き飛んでいき、そのまま轟音をたてながら爆発する。その衝撃によって大気は荒れ狂い、ツインテールが流されるが彼女は気に留めず、追い風の勢いも利用して走り続けていた。 一歩進む度に弾丸が襲い掛かるが、ピーチはひたすら一直線に進みながら両手で弾いていく。指に激痛が走るものの、だからといって彼女の勢いが緩むことはなかった。 やがて怪人の目前にまで迫ったピーチは怪人の左腕を両手で掴み、勢いよく持ち上げながら一回転して、そのまま投げ飛ばす。 男なのか女のか判断がつかない濁った悲鳴と共に吹き飛んでいく相手を眼で追うが、直後にその姿が唐突に見えなくなった。 「えっ、消えた!?」 何が怪人に起こったのかまるで理解できず、驚愕の表情を浮かべるピーチの動きは反射的に止まってしまう。思わず辺りを見渡すが、その途端に爆音が鼓膜を刺激して、彼女の身体に強い衝撃と熱が走った。 「キャアアアァァァァッ!」 悲鳴を発するピーチに倒れる暇すらも与えないとでも言うかのように、嵐のような勢いで次々と爆発が起こる。その威力自体はテッカマンランスが放ったレーザーに比べれば微々たるものだったが、それでも何度も受けるわけにはいかない。 爆発に耐えながらもピーチは走り出して周囲を探すと、あの青い怪人を一瞬で見つける。 すぐに彼女は疾走しながら拳を振るったが、当たろうとした瞬間に怪人の姿が消えてしまった。 「あ、あれ!?」 当然ながら驚く彼女の耳に、またしても轟音が響く。 背後から迫り来る殺気を感じて、彼女は咄嗟に横へ飛んだ。 そのまま振り向いた先では、いつの間にかあの青い怪人が四体にまで増えていたので、目を見開いてしまう。しかし驚愕の声を発する前に、またしてもすぐ近くで爆発が起こり、その衝撃がピーチに襲いかかった。 爆風によって吹き飛ばされるも瞬時に体勢を立て直しながら振り向いた先では、怪人がまた一体増えている。合計、五体の怪人がピーチの周りを囲んでいた。 「ぶ、分身の術!?」 「意外と頑丈だったわね……でも、これで終わりよ」 冷たく言い放ちながら、全く同じ姿の怪人達はライフル銃を一斉に向けてくる。 これだけの相手に同時攻撃をされては危ないし、かといって避けることも簡単ではない。一体一体を倒そうとしても時間がかかるし、何よりも攻撃した怪人が本物じゃなければ撃たれるだけ。 それにここで時間がかかっては、先につぼみ達を探しに行ってくれた省吾だって心配だった。 「いいえ、私はまだ終わるわけにはいかないの。例え、どれだけ辛いことがあったとしても!」 揺るぎない決意が込められた言葉と共に高く跳躍しながら、ピーチは両手に力を込める。眼下にいる怪人達が一斉に銃口を向けてくるが、彼女はそれに構わず十本の指でハートの形を作ると、眩い光が生まれて辺りを一気に照らした。 「くっ!」 「プリキュア! ラブ・サンシャインッ!」 怪人のライフル銃から数発のエネルギー弾が放たれるのと同時に、ピーチも手中に圧縮した光を開放する。桃色の輝きは轟音を鳴らしながら突き進み、そのままライフルの弾丸もろとも分身した怪人達を飲み込んだ。 複数の敵を一気に倒すなら、こうやって広い範囲に光線を発射する以外にない。そんなピーチの目論見が成功したとでも言うように、光の餌食となった怪人達は次々と消滅していき、一瞬で一体だけになる。 輝きが収まった頃にピーチは地面に着地して、よろめきながらも立ち上がる怪人を見据えた。向こうは未だに諦めていないのか、スコープのような瞳から放たれる敵意が突き刺さってくる。それに負けじとピーチも強い視線を向けながら、ゆっくりと構えを取った。 睨み合う両者の間で火花が飛び散って、一触即発という言葉が相応しい雰囲気が辺りに広がっていく。だがその刹那、拮抗した状況を打ち砕くかのように、突然周囲が薄暗くなった。 何事かと思ってピーチは上空を見上げると、そこにはどす黒い雨雲が広がっている。いきなり現れた雲を前にぽかんと口を開いた瞬間、轟音を鳴らしながら雲の中に閃光が迸って、勢いよく稲妻が落下してきた。 「うわああぁっ!」 思わずピーチは背後に飛んで落雷を避けるも、続くように何度も降り注いでくる。雷は凄まじい速度で襲い掛かるが、それでも彼女は必死に左右を飛んだ。 途中、その隙を狙ったかのように青い怪人が段々を放つが、ピーチは左手を横に振るって弾く。しかしその直後、彼女の全身を稲妻が貫いた。 凄まじい熱が襲いかかるが、それでもピーチは全身に力を込めて倒れないように耐える。犠牲にされた人達の苦しみや悲しみは、こんなものではないからだ。 自然現象による蹂躙が数秒ほど続いた後、立て続けに降ってくる稲妻は突然収まる。それと同時に謎の白い怪人が、すぐ近くにある森の中から現れた。 「ほう、この一撃に耐えるとは流石ですね」 「誰!?」 「私は貴女にも興味がありますが、後の楽しみにしておいた方がいいですね……それでは、御機嫌よう」 それだけを告げた瞬間、白い怪物は右腕を軽く横に振るう。すると頭上の暗雲から耳を劈くような轟音が響き、どこからか凄まじい暴風が吹きつけてきた。圧力すらも伴っている風を前にピーチは思わず腕で顔を覆いながら、吹き飛ばされないように両足で踏ん張る。 しかしそれから数秒経った後、肌に突き刺さってくる風がいきなり弱まった。思わず見上げてみると、あの怪人達は既にいなくなっている。辺りを見渡してみたが、誰の気配も感じられなかった。 「いない……もしかしてあいつら仲間だったの?」 当然ながら、ピーチの疑問に答える者は誰もいない。 不意打ちがあるかと彼女は思ったものの弾丸や雷が迫りくる気配はなく、この場での戦いは既に終わったと言うように穏やかな風が流れてきた。若干の冷たさが残った空気を浴びながらキュアピーチの変身を解くが、桃園ラブに安堵している暇などない。 省吾が先に向かった廃教会を目指して、すぐさま走り出す。元々教会までの距離はそこまで離れていなかったので、到着するのに時間はかからなかった。 「黒岩さん! 黒岩さん、いますかー!?」 所々が荒れ果てている教会の中を必死に探すが、誰もいない。 床と壁の至る所が焦げているだけでなく大きな穴も開いているので、この場で戦いがあったことが一目でわかった。しかも建物を支える柱には亀裂が何十本も走っていて、いつ崩れ落ちてもおかしくないように見える。そんな建物の状態に焦りを覚えたラブはドアを片っ端から開くが、やはり省吾の姿はなかった。 もしかしたら、ここにいては危ないと思って先に村まで行ったのかもしれない。そう思ったラブは急いで教会から出て、辺りを見渡す。もうこれ以上、誰も犠牲になって欲しくないと願いながら。 『地球人……いや蟻どもは皆、死ぬ事になるだろうな! ハッハッハッハッハッハ!』 そんな中蘇ってきたのは圧倒的な力を誇った鎧の男、テッカマンランスの言葉。 もしかしたらこうしている間にも、マミやえりか達のようにどこかで誰かが犠牲になっているかもしれない。放送で十八人もの人が呼ばれてしまったから、ランス以外にも戦いに乗っている奴はたくさんいる可能性があった。 放送ではあのノーザも呼ばれている。その悪意に苦しむ人が出てこなくなったかもしれないが、それでも胸の奥が痛くなった。 「それにしても、どうしてサラマンダー男爵がいるの……やっぱり、ブラックホールがまた復活したのかな……?」 そしてラブは先程の放送で、サラマンダー男爵が現れたことに疑問を抱いている。 かつてブラックホールは幸せになった彼の姿を利用して悪事を働いたことがあったけど、つぼみ達によって倒された。それなのに加頭順達と一緒にいるということは、またブラックホール達がサラマンダー男爵の姿を利用しているのかもしれない。 本物のサラマンダー男爵はもう心を入れ替えていて、オリヴィエという少年と一緒に暮らしているとつぼみ達は言っていた。だから、放送を行ったのは偽者だと信じたかった。 そうでなければつぼみ達の頑張りが無駄になるし、何よりも悲しすぎる。 「相羽ミユキさん……」 不意に、ラブはサラマンダー男爵が呼び上げた名前を呟く。 相羽ミユキ。戦いが始まってからの六時間で呼ばれてしまったその名前が、ラブは引っかかっていた。憧れるトリニティのリーダーである知念ミユキや、キュアハッピーに変身してバッドエンド王国と戦っているプリキュアの星空みゆきと同じ名前だったから。 顔も知らないし会ったこともない相手だけど、少なくとも悪い人とは思いたくない。本当なら守らなければならなかったのに、それができなかった。 ラブは知らない。この廃教会は、相羽ミユキが非情なる最後を遂げた場所であることを。彼女をここまで導いたのは運命の悪戯なのか、知る者はどこにもいなかった。 もうここにはいない省吾に追いつこうと思って廃教会から離れようとした瞬間、ラブは建物の影となっている地面が不自然に盛り上がっているのを見つける。 見ると、その付近には花が添えられていた。 「えっ……!?」 それを見てしまったラブは、ゆっくりと近づいていく。 まるで何かを埋めたかのようになっている地面を前に、彼女は思い出してしまった。ランスとの戦いの末、犠牲になってしまったマミの最後を。 触ってみるとやはり土は軟らかくなっていて、力を込めれば簡単に掘り起こせそうだった。つまり、まだそこまで時間が経っていない。 だが、ラブの手は途中で止まってしまう。誰がやったのかは知らないが、こうして手厚く埋葬してくれた。だから、これ以上掘り起こしてはやってくれた人の優しさを踏み躙ってしまうだけ。 「……ごめんなさい。私が弱いせいで、助けられなくて……ごめんなさい」 埋葬された人物に頭を下げて謝るラブの瞳から、大量の涙が零れ落ちる。 プリキュアの力がありながら、たった六時間で十八人もの犠牲を出すのを許してしまった。こんなこと、本当ならあってはいけないのに許してしまう。 それに残された人達の悲しみだって深いはずだった。例え殺し合いを止めて主催者を倒したとしても、犠牲になった人はもう戻ってこない。いなくなってしまった人達の場所には、もう誰もいないのだ。 悲しみに溺れている暇はないのはラブだって強く理解している。だけど、まだ十四歳という若さの少女が友の死を本当に乗り越えるなんて、簡単にできるわけがなかった。 それでも誰かがそばにいてくれれば少しは和らいだかもしれないが、ここには誰もいない。黒岩省吾は既にいないし、彼女を襲った怪物達も戻ってこない。 今の彼女は人々を守るキュアピーチという戦士ではなく、桃園ラブという一人の少女でしかなかった。そんな彼女が再び立ち直れるのはすぐなのか、それとも時間がかかってしまうのかはまだわからない。 今はただ、照井竜の眠る地で桃園ラブはひたすら涙を零し続けていた。 【1日目/朝】 【F-2 廃教会前】 【桃園ラブ@フレッシュプリキュア!】 [状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、精神的疲労(大)、罪悪感と自己嫌悪と悲しみ、決意 [装備]:リンクルン@フレッシュプリキュア! [道具]:支給品一式×2、カオルちゃん特製のドーナツ(少し減っている)@フレッシュプリキュア!、毛布×2@現実、ペットボトルに入った紅茶@現実、巴マミの首輪、巴マミのランダム支給品1~2 基本:誰も犠牲にしたりしない、みんなの幸せを守る。 0:あたしは………… 1:黒岩を一刻も早く探す。 2:マミさんの遺志を継いで、みんなの明日を守るために戦う。 3:プリキュアのみんなと出来るだけ早く再会したい。 4:マミさんの知り合いを助けたい。もしも会えたらマミさんの事を伝えて謝る。 5:犠牲にされた人達(堂本剛三、フリッツ、クモジャキー、巴マミ、放送で呼ばれた参加者達)への罪悪感。 6:ダークプリキュアとテッカマンランス(本名は知らない)には気をつける。 7:どうして、サラマンダー男爵が……? [備考] ※本編終了後からの参戦です。 ※花咲つぼみ、来海えりか、明堂院いつき、月影ゆりの存在を知っています。 ※クモジャキーとダークプリキュアに関しては詳しい所までは知りません。 ※加頭順の背後にフュージョン、ボトム、ブラックホールのような存在がいると考えています。 ※放送で現れたサラマンダー男爵は偽者だと考えています。 ◆ 「……ここまで来れば、もう大丈夫か」 太陽が昇る中、たった一人で歩く黒岩省吾は一人で呟く。 彼は元々、廃教会でラブを待ってなどいなかった。あの建物はいつ崩れ落ちてもおかしくないほどボロボロになっていたから、留まっている理由などない。つぼみ達だって、そんな場所にいるとも思えなかった。 それに少しでも離れなければ、戦いの巻き添えになってしまう恐れだってある。あの青い怪人がどれくらいの実力を持つかは知らないが、図書館を簡単に吹き飛ばす相手とも戦えるプリキュアが使う技の巻き添えとなっては、ダークザイドといえども生きていられるかわからない。 故に省吾は村を目指して一人で走っていた。元々はダークザイドの中でも上位の実力を誇る暗黒騎士ガウザーなので、脚力も普通の人間を遥かに上回っているから、戦いに巻き込まれない場所まで離れるのは造作もない。 あの桃園ラブという少女がもし死んでしまったら、それはそれで仕方がない。確かに戦力が減るのは惜しいが、彼女一人に拘ったせいで死んでしまっては元も子もなかった。 今は村を目指して、新しい手駒を見つければいい。そう思いながら省吾は前を進んだ、その時だった。 「そこの方、少々待っていただけないでしょうか?」 「む?」 突然背後から聞こえてきた声によって、省吾は足を止めてしまう。 振り向いた先では、紳士服を身に纏った壮年の男とレオタード姿の少女が立っていた。男の方は物腰が柔らかそうだが、少女は警戒しているかのように目つきが鋭い。 「失礼ですが……どなたですか?」 「申し送れました、私の名前は井坂深紅郎と申します。私達はこの殺し合いを打ち破ろうと考えている者です」 「ほう……そうなのですか」 井坂深紅郎というその男は微笑んでくるが、省吾は決して警戒を怠らなかった。 その表情は一見すると本物の紳士が向けてくるように理知的な雰囲気を放っているが、東京都知事の眼力は瞳の奥に宿る物を見逃さなかった。 この男は、明らかに何かを隠している。殺し合いを打ち破ろうとしているのは本当かもしれないが、その手段を選ばない輩だ。何故なら、自分もそうなのだから。 「実は言うと私も、殺し合いを止める為に仲間を探しているのですよ。その為に、村へ向かおうと考えていたところです」 しかし、ここで下手に戦いを仕掛けても消耗するだけ。 もしもこの男が利用しようと考えているなら、精々そうさせてやればいい。こちらはその隙を付いて、深紅郎達を上手く利用してやればよかった。 「そうですか、それは心強いですね……彼女は私の助手である、ティアナ・ランスターと言います。ほらティアナ君、挨拶を」 「……よろしくお願いします」 「ランスターさんですか、こちらこそよろしくお願いします」 ティアナ・ランスターという少女が伸ばしてきた手を、省吾は握る。 その手からは確かな敵意が感じられた。恐らく彼女は自分どころか深紅郎のことも信頼していないかもしれない。最終的には捨て駒にしようとでも考えているのだろう。 だが、それならそれで結構だ。最後に勝つのは誰なのかを、思い知らせてやる必要がある。 そう思いながらティアナから手を離した省吾は深紅郎の方に振り向いた。 「さて、黒岩さんは村を目指しているのでしたね? 奇遇じゃないですか」 「だとすると、貴方達も村に?」 「ええ、ここで話をするのも難ですし、早く行きましょう……私の力で」 深紅郎は懐に手を伸ばして、白いUSBメモリを取りだす。 『W』のアルファベットが刻まれたそれは、省吾にとって見覚えのあるものだった。 「それは……!?」 『WEATHER』 省吾の疑問に答えるかのように、ガイアメモリから電子音声が発せられる。 深紅郎はそれを右耳の脇に突き刺すと、その全身から凄まじい暴風が発せられたので、省吾は思わず目を瞑ってしまう。吹き荒れる風の音が数秒ほど鼓膜を刺激した後、彼は眼を開く。 すると、先程まで深紅郎がいた場所にはあのドーパントを彷彿とさせるような白い怪物が立っていた。 「その姿……まさか、ドーパントだったのですか!?」 「私の本職は医師ですが、生体研究の一環としてガイアメモリの研究にも関わっておりました。無論、機械工学の知識や技術も持っておりますとも……私に必要なのは、共に戦ってくれる仲間ですね」 「ふむ……私はただの人間でしかないですが、構わないのでしょうか?」 本物の東京都知事であることを省吾は伏せる。 ラブの話から推測するに、この殺し合いには別世界の人間が何十人も集められた可能性がある。もしも目の前の二人が生きる世界の東京都知事が自分ではなかったら、怪しまれて協定を組むどころではなくなる恐れがあった。 無論、ダークザイドであることも明かすつもりもない。下手に情報を渡してはこちらが不利になるだけだからだ。 「いえ、構いませんよ……私だって無駄な犠牲は出したくないですから」 「そうですか、それは実に有り難いですね!」 「では、向かいましょうか。お二人とも、私の手に掴まってください」 白いドーパントとなった深紅郎の右手をティアナが握るのを見て、省吾は反対側の手を握る。すると、屈強な異形の肉体から突風が発せられてきて、三人は一瞬で宙を浮かび上がった。 その凄まじい現象に省吾の表情は驚愕に染まるが、次の瞬間には笑みへと変わる。ここまで便利な参加者と同行できるのは、彼にとっては実に有り難かった。 井坂深紅郎もティアナ・ランスターも内面が読めないが、考えてみればこういう人種の方が頭の中がお花畑である桃園ラブや涼村暁よりも、安心できるかもしれない。考えなしに他者を信頼、行動するような輩と一緒にいてはいずれ自分の火の粉が降ってきてしまう。 そうなる前に手を切れたのは正解かもしれない。無論、再び現れるのなら歓迎してやってもいいが。 (井坂深紅郎にティアナ・ランスター……お前達が俺を利用しようとするなら好きにしろ。だが最後に勝つのは、この俺だ!) 横にいる二人の手駒を見据えながら黒岩省吾は笑い続ける。その瞳の奥に、野心を燃料とした炎を燃え上がらせながら。 ◆ (できるならあのキュアピーチという少女も手駒としたかったですが……まあ、良しとしましょう) ウェザー・ドーパントに変身した井坂深紅郎は新たに手駒として引き入れた黒岩省吾を見て、思案を巡らせる。 加頭順の仲間と思われるサラマンダーという男の放送を終えてからどうするべきかと考えていた所、まずは廃教会を目指すことにした。暗闇の中で見た眩い光の正体を探すためにも、一番近い施設から目星を付けている。 照井竜や園咲冴子と言った利用できる者達が死んでしまったが、別に惜しむことはない。死んでしまってはそれまでだし、まだ生きている者達を探せばいいだけだ。 それよりも、問題はティアナの方だった。詳しい事情は知らないが、あの放送で彼女が倒そうとしていた高町なのはという人間が呼ばれたことで、酷く激情に駆られている。もしもキュアピーチとの戦いに横入りしなければ、殺されていた可能性もあった。 あの少女は外見の割に力があり、二対一で戦っても勝てるかどうかわからない。彼女のような参加者こそ利用したかったが、リスクが大きすぎたので断念せざるを得なかった。 『何で……何で、勝手に死ぬのよ!? 高町なのはも、フェイト・テスタロッサも、ユーノ・スクライアも!』 まるで狂犬のようになっていたティアナの表情を、ウェザー・ドーパントは忘れることができない。 この言葉から察するに、この三人はティアナにとって絶対に打ち破らなければならない相手だったのだろう。自分で例えるなら、園咲琉兵衛や加頭順達のように。 それが他者に奪われた悔しさは計り知れない。だからこそ、見守る価値があった。その感情の高まりが、謎のガイアメモリに何らかの影響を及ぼすかもしれないからだ。 『ティアナ君、ならば君がその高町なのは達を倒した参加者を倒せばいいのです……そうすれば、君は彼女達を超えたことになるのですから』 そう囁くと、ティアナはあっさりと納得してしまう。メモリの毒素による精神汚染の効果もあるのだろうが、ちょっとした言葉が目標を失って壊れそうな心を支えるのに役立つこともあった。 そうしてティアナを廃教会に向かっていた二人に嗾けて、今に至る。 もしもティアナが負けそうになった時に備えて、ウェザー・ドーパントは敢えて戦場に出ていない。元々リスクの高い行動は避けるつもりだったし、戦場に出る前に相手のデータを取る必要もあったからだ。 (黒岩省吾、私の培ってきた勘が告げていますよ……貴方がただの人間ではないことを。その皮の下に、どんな化け物が潜んでいるのか見てみたいですね) ピーチとトリガー・ドーパントの戦いの場から逃げ出す省吾の脚力は、明らかに普通の人間を遥かに上回っていた。これが意味することは黒岩省吾は人間ではない、ドーパントのような人の域を超えた力を持つ存在であること。 だから深紅郎はティアナを上手く説得して、彼と行動を共にするようにした。本当ならピーチが現れるのも待ちたかったが、流石にそれだと合流してからティアナが何をしでかすかわからないから、諦めるしかない。下手に一悶着を起こされてはたまったものではないので、切り捨てることも必要だった。 それに今は、もっと興味深い存在が隣にいる。この男の謎を知りつくすのも悪くはないかもしれなかった。 (貴方が何を考えていて、そして何を求めていようと私には関係ありません……どうせ、最後には貴方の全てが私のものになるのですから) 本当ならこの場で黒岩省吾の全てを知る為に解剖や人体実験をしたかったが、その欲望を抑える。 折角の手駒なのだから、利用できるだけ利用しなければ損なだけ。だから、省吾の全てを奪うのは主催者達を倒してからの楽しみにすればいい。 ウェザー・ドーパントという怪物の下で井坂深紅郎は笑っている。まるで、すぐ隣にいる黒岩省吾の如く瞳に野望と欲望を燃え上がらせながら。 己の欲望のまま生きる男達の間には、凄まじい火花が飛び散っている。しかしこれから戦いが起こるのか、それとも何事もないまま終わるのかはまだ誰にもわからなかった。 ◆ あの高町なのはが、フェイト・テスタロッサが、ユーノ・スクライアがたった六時間で死んでしまう。その事実がティアナ・ランスターの焦燥感は強くさせていた。 この島にはあの三人をこうも簡単に殺してしまうような相手が当たり前のようにいる。凄まじい速さで駆け抜けるあの青い戦士や、ウェザー・ドーパントに変身する井坂深紅郎や、攻撃を耐え続けたキュアピーチという少女がその例だ。全てを犠牲にしてでも強くなると決めたのに、それがまるで叶わない。 そんな相手を自分の手で倒せばなのは達を超えられると深紅郎は言ってくれたが、壁があまりにも高かった。だからこそ、深紅郎の力が必要だった。 恐らく、この黒岩省吾という男を引き入れたのは首輪のサンプルが目当てなのだろう。そうでなければ、こんなただの人間を仲間にするなんて有り得ないからだ。 本当ならこんな胡散臭い奴と一緒にいるのは嫌だったが、事情が事情なので仕方がない。それにトリガー・ドーパントとなって襲ったことが知られることも、余程下手を打たなければ有り得なかった。 だから今は少なくとも、省吾の目の前でトリガー・ドーパントになるのは極力避けなければいけない。あんな男でも今は手駒なのだから。 (キュアピーチと言ったわね……もしもあんたが再びあたしの前に現れるなら、好きにすればいいわ。そうなったら、あんたの目の前であんたが守りたかったこの男を殺してやるだけだから……) ウェザー・ドーパントの力を借りて空を飛ぶティアナは、ピーチへの怒りを燃やしていく。 残念だが、彼女が強いことは認めざるを得ない。だが同時に、なのは達のような救いようのないお人好しでもあるのだろう。もしもそんな彼女の前で守りたかった男を殺したら、どうなるのか……? きっと、絶望に沈んだ挙句に泣き喚くに違いない。 そんな顔を考えただけでも面白くなる。本当ならここで省吾を殺してやりたいが、その時まで楽しみは待っておかなければならない。そう考えるティアナを見てクロスミラージュは悲しげな言葉を漏らすが、それはウェザー・ドーパントが生み出す風のせいで耳に届くことはなかった。 時間の経過と共に、ティアナ・ランスターの中に宿る殺意は増幅していく。T-2ガイアメモリの中に内蔵された毒素によって。 彼女の精神は、ゆっくりとだが確実に壊れていた。 【1日目/朝】 【E-2 上空】 【備考】 ※現在三人とも、ウェザー・ドーパントの力で空を飛んでいます。 ※これから、北の村に向かおうとしています。 【黒岩省吾@超光戦士シャンゼリオン】 [状態]:健康 [装備]:不明 [道具]:支給品一式、ランダム支給品1~3 [思考] 基本:周囲を利用して加頭を倒す 0:井坂深紅郎、ティアナ・ランスターと共に村へ向かう 1:あくまで東京都知事として紳士的に行動する 2:涼村暁との決着をつける 3:人間でもダークザイドでもない存在を警戒 4:元の世界に帰って地盤を固めたら、ラビリンスやブラックホールの力を手に入れる 5:井坂とティアナが何を考えていようとも、最終的には自分が勝つ。 6:桃園ラブに関しては、再び自分の前に現れるのならまた利用する。 [備考] ※参戦時期は東京都知事になってから東京国皇帝となるまでのどこか。 ※NEVER、砂漠の使徒、テッカマンはダークザイドと同等又はそれ以上の生命力の持主と推測しています。(ラブ達の戦いを見て確信を深めました) ※ラブからプリキュアやラビリンス、ブラックホール、魔法少女や魔女などについて話を聞きました ※井坂深紅郎とティアナ・ランスターは自分の事を利用しようとしていると推測しています。 【井坂深紅郎@仮面ライダーW】 [状態]:健康、腹三分 [装備]:ウェザーメモリ@仮面ライダーW [道具]:支給品一式(食料残2/3)、ランダム支給品1~3(本人確認済) [思考] 基本:殺し合いを打破して、主催者を打倒する。 0:ティアナや黒岩と行動し、トリガー・ドーパントを観察する 1:他の参加者に出会ったらティアナと共に戦う、ただしリスクの高い戦闘は避ける 2:首輪の解除方法を探す 3:手駒を見付ける 4:空腹に備えて、できるだけ多くの食料を確保したい。 5:黒岩省吾に興味。いずれその謎を解き明かしたい。 [備考] ※仮面ライダーW第34話終了後からの参戦です。 ※首輪により能力が制限されているのではないかと考えています ※黒岩省吾は普通の人間ではないと推測しています。 【ティアナ・ランスター@魔法少女リリカルなのは】 [状態]:ガイアメモリによる精神汚染(中)、疲労(中)、魔力消費(中)、ダメージ(中)、断髪(スバルより短い)、下着未着用 、全身火傷 [装備]:ガイアメモリ(T2トリガー)、クロスミラージュ(左4/4、右4/4)@魔法少女リリカルなのは、小太刀のレオタード@らんま1/2 [道具]:支給品一式、ランダム支給品0~1(確認済)、機動六課制服@魔法少女リリカルなのは、下着 [思考] 基本:優勝する事で兄の魔法の強さを証明する。 1:井坂や黒岩と行動を共にし、他の参加者を倒す 2:引き際は見極める。 3:スバル達が説得してきても応じるつもりはない。 4:キュアピーチが再び現れるなら彼女の目の前で黒岩を殺したいが、今は我慢する。 [備考] ※参戦時期はSTS第8話終了直後(模擬戦で撃墜後)です。その為、ヴィヴィオ、アインハルトの事を知りません。 ※首輪により能力が制限されているのではないかと考えています。 ※黒岩省吾を警戒していますが、あくまでも手駒を得る為に今は手を組もうと考えています。 時系列順で読む Back 第一回放送Next 救いの女 投下順で読む Back 第一回放送Next 救いの女 Back 野望のさらにその先へ 桃園ラブ Next ライバル!!誰?(前編) Back 野望のさらにその先へ 黒岩省吾 Next ライバル!!誰?(前編) Back 未知のメモリとその可能性 井坂深紅郎 Next ライバル!!誰?(前編) Back 未知のメモリとその可能性 ティアナ・ランスター Next ライバル!!誰?(前編)
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Tomorrow Song ◆gry038wOvE ──そして、翌朝、遂にコッペの体力が遂に限界を迎えた。 三日間も力を使い続けた事自体が異常であったのだ。──コッペの全身の神経が途絶され、踏ん張りが利かなくなる。 朝十時。保健室で夜を明かしたメンバーは、全員、その時間には起きていた。 コッペの体力が糸を切れるように消耗された後、それを直感的に察したスナッキーたちの群れが校門から押し寄せてくる。 封鎖していた校門を蹴り飛ばす音が校庭の方から響き渡り、学校中に戦慄が走る。 外が一斉に騒がしくなったのが聞こえ、次に、中でも慌ただしい音が聞こえ始めた。 ──来た、と直感した。 「まずいわ。結界が破れてしまった……。みんな、つぼみを連れて逃げるわよっ……! 早く……!」 薫子が真っ先に指示する。 そこにいる全員は、緊張で少し行動が遅れているようにも見えたが、彼女の冷静さがここに避難している生徒たちを守り続けているのだ。 続けて、鶴崎が言った。 「──ななみ、なおみ、としこ、るみこは花咲さんと一緒に、まずはつぼみを体育館裏の抜け道まで連れて行けっ! 今は誰よりも、つぼみが最優先だ! 急げばまだ間に合う!」 包囲されていた関係上、逃げ道は体育館裏の抜け穴しかない。 問題になるのは、この結界が崩れた時、あの抜け穴を通れない大人たちがどうするべきか、だ。入る事が出来る人数もかなり限られてしまうので、生徒たちも大半は逃げる事ができない。 鶴崎も咄嗟に、花咲薫子をそこに挙げたが、彼女がフォローできるのはあの抜け穴の近くまでで、彼女も体格的に入って先に進む事は難しいだろう。 後は、鶴崎たちも含め、残った者全員が捕えられる事になってしまう──。 しかし、かつてプリキュアとして戦っていた以上、希望といえるのは彼女だけだ。日常に帰るまでは、特別扱いせざるを得ない部分がある。 冷徹な判断であるゆえ、──冷徹な判断だと思ったからこそ、鶴崎はそれを自分の言葉でななみたちに伝えた。妹想いのななみが、妹を先に帰したいと思っているのは想像に難くない。 だが、その気持ちを尊重してやる事は、今はできないのだ。 「──はいっ!」 しかし、それでも……四人は勢いよく叫び、実行しようとしていた。 起き上がるつぼみに肩を貸して、付き添うように走りだす。 妖精たちが、薫子とつぼみの周りを浮遊する。 「みんな……」 つぼみ自身は、こんな時の彼女たちの助けが温かく思っていたが、それでも、同時に申し訳ないという気持ちの方が強まっていた。 プリキュアの力のない自分が彼女たちの希望になれるのだろうか……? 自分がこんな時に最優先される特別な人間なのは、プリキュアだからだろう。だが、その力は既につぼみの中にはないのである。 (みんなが私を守っても……私はもう、みんなの希望にはなれないのに……プリキュアになれないのに……!) ──もう、みんなの為に戦う事はできないのだ。 戦いたくはないが、それでも、誰かの為に戦える事は、つぼみにとって誇りだった。 それが失われた時、彼女は進むべき道がわからなくなった。 ◆ 保健室から廊下に出て、廊下から外に出る。綺麗な緑色の芝生と、木々のある裏庭。番ケンジがたまにここで漫画のアイディアを考えていたのを覚えている。 つぼみたちは、そこへ逃げていた。体育館裏に行くルートの一つだ。 グラウンドの方からは激しい音と声が鳴り響いている。──男子生徒たちが、集団で一体のスナッキーに向けて戦おうとしているのが、その声でわかった。声変わりの頃の男子のかけ声が、つぼみの耳に聞こえる。 そう。いつもならば、プリキュアとして戦える。 だからこそ、今はただもどかしい。戦える力がなく、誰かに任せて逃げるしかないむず痒さがつぼみの体中を駆け巡る。 あそこでつぼみたちを守ってくれる人たちが死んでしまったら──それは、つぼみの責任なのではないか。 「見つけたっ! いたぞーッ!! 花咲つぼみだっ!!」 遂に、見つかってしまったらしく、どこからともなく声が聞こえた。 その彼らの姿を見た時、つぼみたちの間に、妙な緊張が走ったのだ。 「!?」 財団Xの構成員による掛け声であると想定していたが、それは、全く違った。 彼らが変身した怪人というわけでもない。 むしろ、そのどちらでも──力のある人間ではないからだった。 「……あなたたちは──!」 そこにいるのは、私服を着用した一般人であった。「第二ラウンド」に参加し、生還者のつぼみを捕えようとしているのだ。 何人かの若い人間の群れが、つぼみのもとに集っていく。 財団Xの人間はグラウンドにいるのか、一人も来ていなかった。 そして、その理由を、彼女は察する。 ──この学校に、かつて通った事のある人間ならば、この広い学校で逃げるのならばどこか適切か、そして、どこに隠れればいいのか、自分の中学・高校生活の中で記憶していてもおかしくない。 この学校にいかなる隠れ場所があっても、OBやOGが相手ならば全て筒抜けなのだ。 ……彼らは、この学園の高等部の人間だ。 『尚、彼らを捕えた者には、幹部待遇と生活保障などの優遇が成され、──』 つぼみは、あのモニターで財団Xの男が告げた事を思い出す。 そう、あの殺し合いを見ていたのなら、誰もそんな言葉に耳を貸さないと思っていたが──現実には、こうして現れる者がいた。 『──あのバトルロワイアルで誰も叶える事がなかった、好きな願いを叶える権利を差し上げます』 幹部待遇に目を眩ませた者などいないだろう。人々が求めるのは、就職しなくても未来の安定を図れる生活保障か、その、何でも叶えてくれるという“願い”だ。月影ゆりや、“ダークプリキュア”が求め、殺しあう条件とした、それ。 信頼に足るものではないと、あの映像を見れば充分にわかるはずなのに……と思う。 もしかすれば、管理下にある人間ゆえの洗脳状態に近い状態だからこそなのかもしれない。意思で乗り越えている人間がいる一方で、そうはならない人も何人かはいる。 理由はわからない。だが、彼らは、少なくとも、どんな事情であれ、今はベリアルに魂を売った“敵”だった。 「──悪いけど、一緒に来てもらうわよ。花咲つぼみさん」 そして……。 そんな敵たちのリーダーとして、見知った一人の女性が、こちらに、真っ黒い銃を突きつけながら、現れたのだった。 「……ももかさん!」 ──来海ももかであった。 あのバトルロワイアルの中で死んだ来海えりかの姉であり、彼女には「ももネェ」と呼ばれ、なんだかんだと仲の良い姉妹であり続けた。 そして、彼女にはもう一人、親しい友人がいた。 それは──二人で「友」「情」の二文字が書かれたTシャツを着て写真を撮るほどの親友・月影ゆりだった。ももかと普通に接する事ができる友人は彼女だけであり、ゆりにとってもももかは唯一無二の友人なのだ。 彼女は、管理はされていなかった。少なくとも、服装は普段のファッションモデルらしい、お洒落なももかのままであるし、はっきりとした意思がある。 服飾に拘りのある彼女があんな恰好をするわけもなく、相も変わらず、シンプルながら恰好のつく服を無作為に選んでいる。 しかし、そこにいるのがいつものももかと同じだとは思っていなかった。 「えりかのお姉さん……?」 薫子、ななみ、なおみ、としこ、るみこの五人も、息を飲んだ。 銃を突きつけられたのが初めての者もここにはいたので、小さく悲鳴が漏れる。それを見て、ももかは少しだけ、嫌そうな表情をしていた。 それが、微かに、ももかが本心から悪しき行動に走ろうとしているわけではないのを感じさせ、却ってそこにいる者を辛くさせた。 この有名なファッションモデルが「えりかの姉」、という事は既に知っている。会った事もある。──だからこそ、何も言い返せない壁がある。 彼女がどんな想いをしているのかは、ここにいる全員が一度想像し、考えるのが嫌になって辞めた物でもある。 そして、彼女がこれまで現れなかった理由を何度も考えて、その度に更に恐ろしい想像をした。──不謹慎だが、生きていた事に驚いている者もいるかもしれない。だが、彼女は、自殺を選ぶ性格ではない。 「その銃……本物なんですか……? どうして──」 つぼみは、おそるおそる訊いた。 この日本で、一体どこで銃が調達できるのだろう。──だが、その銃口から感じる不思議な緊張感は、あの殺し合いに続いているような気がした。 つぼみ以外は、誰も疑問を持っていないところを見ると、管理国家は、もしかすると数日で銃を流通させたのかもしれない。 どうして、と訊いたのは迂闊だった。 理由はわかりきっているではないか。 「──ええ。ごめんなさい。悪いけど、これが最後のチャンスなの」 ももかは、指先を強張らせて、言った。 ◆ 来海ももかは、元々、この学校に、家族や町の人々と共に立てこもろうとしていた。えりかやゆりたちが殺し合いを行う──というアナウンスは、殺し合いの準備期間であった一週間前の時点で行われていた為である。 各地では、既に反対するデモが起こっていたが、“管理”の力や武力によって全て鎮圧され、反対者は次々に黒い服に身を包み、意思をなくした。 だから、直接交渉は無駄と考え、彼女たちはしばらく、黙って、反抗の機会を伺うしかなかったのである。 その後、学校に立てこもる計画が来海家にも伝達されたが、その時、ももかは、両親を先に学校に行かせ、自分自身は殺し合いが始まるその瞬間まで、えりかの部屋で彼女の無事を祈る事にしていた。 両親より、少し遅れて行こうと思っていた。 開始早々に、自分の妹や親友がプリキュアであった事を知ったももかは、驚いた一方で、それで少し安心を覚えていた部分があった。 えりかが気絶した際には心配もしたが、えりかとゆりが開始数時間後に合流した時には、ももかは、自分の祈りが届いたのだと思って、一人ではしゃぎ、喜んでいた。 ……この時はまだ、甘い考えがあったのだろう。 つぼみ、いつきも生きており、このまま行けば彼女たちが脱出するだろうと思っていた。 いや、ハートキャッチプリキュアの敗北など彼女にとってはありえない事だった。 どんな奇跡も起こしてくれるだろうと……。 ──しかし、その直後に、えりかは、他ならぬ月影ゆりによって殺害され、ももかは絶句する事になった。 更にそれからまたしばらく経ち、ゆりも結局、死亡した。 その経緯を見届ける事が出来たのは、理由が知りたかったからだ。 何故、そうなってしまったのか。──彼女は、本当に自分が知っているゆりなのか? そもそも。ゆりが殺し合いに乗る理由など、ももかは全く想定に入れていなかったし、どんな事があっても、えりかを傷つける真似は絶対にしないだろうと、当たり前に思っていた。 理由を知る事になったのは、エターナルとの戦いの時だ。ショックは無論大きかったが、ももかは、泣きながらも、今度は学校に向かおうとした。 両親と寄り添い合い、せめて悲しみを埋めたいと、このやり場のない怒りを嘆きたいと。……それを誰かが慰めてくれるだろうと、ももかは自分以外の誰かを求めた。 一日目は、まだ学校が管理されていない者たちの秘密の基地になっている事は管理者側には発覚しておらず、包囲もなかった時なので、ももかも、そこにあっさり入っていく事が出来ると、思っていた。 「嘘……」 しかし──結局、彼女は、“悪を拒む”このコッペの結界に、“拒まれて”しまった。 その時、自分がそこに入れなかった衝撃と共に、「やはり」という、どこか納得した気持ちがあったのを覚えている。 なぜなら、彼女は、正体不明の憎しみや怒り、途方もない絶望が自分の中で抑えられなくなっているのを自分で知っていたからだ。 それだけではない。──明堂院いつきがもし、自分を呼ぶえりかに気づけば、もっと長くえりかは生きながらえただろう。だから、彼女の事も憎く感じた。そこにいるのが、自分だったなら、絶対に気づくはずなのに、と思った。 それから、ダークプリキュアがえりかを気絶させなければ、えりかはゆりと出会う事はなく、もっと生き続けられただろうという事も考えた。 あるいは、えりかを救いに来る事ができなかったつぼみも、他の参加者たちも。──そんな理不尽に、誰かを憎む気持ちが湧きでてきた。 それを必死に抑えている一方で、何故か、どこか、加害者のゆりだけは憎み切れなかった。それが最大の理不尽であった。 それはつまり、親友だったからというフィルターのお陰ではなく、ゆりも、ももかと同じく、「妹」を持つ「姉」であった事を知ったからだった。 つい先ほど、えりかが喪われた時、ももかは、その存在の大きさを噛みしめたばかりだ。 ゆりの場合、ももかと性質は違うが、目的には自分の妹を甦らせる事があった。そして、彼女は最終的に、ももかの「妹」を殺害し、やがて、自分自身の「妹」を庇って死ぬ事になったのだった。 そんなゆりの運命に、どこか共感してしまった時、──彼女には、自分のゆりに対する感情が遂にわからなくなったのである。 全ての根源である彼女を許し、全く関係ないつぼみやいつきに対する憎しみの方が強まるという不可解な心情は、彼女の中で纏めきれなかった。 ──どうして、こんな酷い世界になってしまったのか。 やり場のない怒りは、世界に向けられた。それしかなかった。 もう、この結界に反発を受けるのは構わない。この憎しみが、悪ならば、どうしようもないに決まっている。 ただ、せめて、自分がこんな気持ちになった発端である、あの殺し合いの全てを教えてほしい。──どうすれば、全てが元に戻るのか。 そんな時に、学校には、自分と同じく、結界への反発を受ける小さな少年を目にする事になった。 「あれは……」 彼は、そこにいた男の子は、ゆりの団地に住んでいた子供らしい。 ゆりを慕っており、年上のゆりに好意を持っているというませた男の子──はやとくんであった。 彼女もまた、その人の早すぎた死を受け入れきれず、泣いていた。 ────世界は、元に戻らないのか。 ────自分や、この子のような悲しみが続いていくのか。 昔の小説のように、時を遡る事ができたら良いと思う。 全てがやり直せたら、ももかは妹や親友の命を取り戻す事ができる。 その為ならば、ももかは何でもできる。 ……それは奇しくも、月影ゆりの願いに、かなり似通っていた。 だからこそ、ゆりを恨む気持ちではなく、むしろ今、強く共感する想いがあるのかもしれない。 もし、時を遡る事が出来たのなら、ももかは、ゆりを恨むのではなく、彼女の力になり、本当のゆりを取り戻してあげたいと──そう思っている。 ももかは、その後、ひとまず家に帰ったが、今度は、何人かのクラスメイトが、ももかの家にまで尋ねてきた。 これまでの学校生活では、ももかの事を高嶺の花だと思い、話しかけるのをどこか躊躇していた同級生たちであったが、この状況下、ももかの連絡先を知っている者は、彼女のもとに、せめて何か声をかけてあげられたらと思って来たのだ。 十名だけだった。……ただ、多くは、「そっとしておこう」と思って来なかっただけで、ももかを心配するくらいの気持ちは持っていただろうと思う。 その内、今の今までももかのもとに残ってくれたのが、今、ももかの周りにいる三人の男女だった。他は、一時的に来てくれただけで、所要でどこかに行ってしまう事もあった。 やがて、あのバトルロワイアルが終わる頃、生還者であるつぼみの周囲を狙う者たちがももかたちの家に乗りこんできた。──あのガイアメモリという悪魔の道具を持った財団Xである。 そう。もし、憎しみをぶつけるならば、ゆりじゃない。彼らと、ゆりの家族を奪った者、それを生みだしたこの世界だ。この場所まで荒らすのだろうか。えりかとももかの思い出が残っているこの家まで。 だが、──ももかはその感情を隠した。 ──生還者を探し出す事さえ出来れば、願いを叶えられる。 信頼はできないかもしれないが、それが唯一の希望であった。 だから、ももかは第二ラウンドに乗る事にしたのだ。 ももかは、その為に、財団Xに対して、学校に関する情報を提供した。──引き換えは、彼女を捕える為の武器と、この家から出ていく事だ。 それを彼らは受諾した。彼らは、花咲家を破壊して、その周囲に張りこんでいた。近所の家が怪物によって破壊されるのを、ももかは窓の外から見つめていた。 それから、つぼみがこの世界に帰って来たという事も確認する。 オリヴィエの助けを受けたつぼみは、学校に向かっていった。学校とはいえ、そのまま向かうわけではなく、裏山の方に向かっていた。 予め抜け穴の場所なら、事前連絡でももかも知っている……。そこに関しては、子供が通る場所なので、財団Xには伝えていなかった。もしかすると、つぼみが通れるくらいの大きさになっているのかもしれない。 しかし、ももかが追う場合、流石に無理がある。高校生では通れまい。ももかは、身長も女性としては非常に高い部類だ。 だとすれば。 ──はやとくんがいる。彼ならば……。 悪魔のような考えが一瞬だけ頭をよぎった。 だが、やはり、彼女の中に残った良心は、……たとえ悪や憎しみが今勝っているとしても、あの小さな男の子まで利用する事にだけは抵抗した。 結局、ももかは、ここにいる友人たち──そう、それはゆりやももかと一緒に青春を刻んだがゆえに、世界を受け入れられない者たち──とつぼみを確保する為に、結界が破れるのを待って侵入する事になった。 ◆ つぼみたちは、あとほんの少しで体育館裏に繋がる裏庭で、ももかたちによって包囲されたまま、動けなかった。 薫子やシプレは、反撃の術を知っていた。いまだ衰えない空手の技を使えば、薫子もももかを撃退できるし、シプレたち妖精は少なくとも銃撃くらいからは逃げる事ができる。 だが、シプレはともかく──コフレ、ポプリの中には、敵への共感もどこかにあっただろうと思う。勿論、それは、つぼみを責めるという段階までは行きついていないが、それでも、敵への攻撃を邪魔する何かが、どこかにあった。 薫子も、何人も同時に相手にする事は無理だろうと思っていた。初動に失敗すれば、この中の誰かが傷つきかねない。 「私の妹はあの戦いで死んで、あなたは生き残った。……それって、不平等に思わない……? 同じプリキュアなのに……」 ももか自身も、今つぼみに突きつけたその論理を変だと思っている。 しかし、彼女が否定したいのは世界だ。世界は慈悲を持つ物ではない。だから、ももかの思うようにはならない。 それでも彼女は、自分の思うようにならない世界への苛立ちを、その象徴である目の前の生還者に、今は向けていた。──彼女以外に、あのわけのわからない、正体不明で理不尽な殺し合いを知る者はいないのだ。 だから、彼女を悪者にする。 「私の妹は、これまでずっと、私たちを守って来たのよ……? どうして死ななきゃならなかったの……? みんな……みんな……」 えりかも。ゆりも。 彼女の周りの人間が二人亡くなった。──彼女の両親や、明堂院家はつぼみの生還を喜ぶ心を持っていたが、彼女はそうではなかった。 「あなたが二人をプリキュアに誘ったんじゃないの……!?」 そんな問いに、つぼみの全身の冷気が背中に集まった。拳を固く握る。 つぼみは、確かにそんな事はしていないが、それでも──おそらく、あの殺し合いに招かれたのは、変身能力者ばかりであり、もし彼女たちをプリキュアにした者がいるならば、それが全ての原因であった。 まさにその発端であるコフレとポプリが、その後ろで小さくなった。彼らも既に、そんな予感は持っていた。 とはいえ──えりかとプリキュアの縁が生まれたのは、つぼみとの縁のせいでもある。 かつて、えりかの目の前で変身する事がなければ、えりかは今、プリキュアではないかもしれない。 こんなに早く命を落とす事はなかったのかもしれない。 しかし、ももかは、ふと──その問いの醜さ、無意味さに気づき、それを問い詰めるのはやめた。 だから、ここからは、自分の気持ちが出ないよう、あくまで目的だけを口に出すようにした。 「……あなたを捕えれば、全部やり直す事だって出来る。少なくとも、この世界にいる人間くらいは──」 「あんなの出鱈目に決まってるですぅ!」 「そうでしゅ! つぼみだって、生きて帰ったのにまた追われてしまっているでしゅ!」 反論したのは、コフレとポプリだった。 彼女の言葉で、どこか吹っ切れたのかもしれない。 「──出鱈目かどうかは、捕まえからわかればいいっ! これは最後のチャンスなのよ!」 その発想は──ゆりと同じだった。 追い詰められた人間は、時として、どんな幻想にでも縋るしかない。──大事な物を喪った者ほど、突拍子もない宗教や嘘のような詐欺の魔の手には引っかかり易いように。 それがいかに怪しいからを知ったうえで、それでも、「もしかしたら」の希望に賭けている。彼女はそうして、戦おうとしている。 「駄目……っ! そんな理由で、つぼみは──渡さない……っ!」 その時、そう言って、つぼみとももかの間に、割って入るように立つ者が現れた。 震えた声だ──つぼみの後ろから、ゆっくりと、そこに現われ、目を瞑り、両手を広げて、「撃つなら自分を撃て」とばかりに、ももかにそんな言葉を突きつけたのだ。 彼女は、つぼみと並ぶほどの引っ込み思案で、いつきと親しかった──沢井なおみだ。 「なおみ……!」 弱気な彼女が、勇気を振り絞って、銃口の前に立とうとしていたのだ。 つぼみでさえ、そんな姿に唖然とした。 すると、その行動を引き金にして、つぼみと薫子の周りを、ただ黙って、志久ななみ、佐久間としこ、黒田るみこが、手を広げて囲んだ。 「つぼみは絶対渡さない……!」 「みんな……!」 つぼみを守る壁が、つぼみの周囲全体を塞ぐ。コフレもポプリも……。 彼女たちが危険を顧みず、つぼみを庇おうとする姿に、つぼみは、ただただ驚くしかなかった。衝撃ばかりが大きく、この感情を今説明するのは難しい。 ただ、彼女たちは、日常を共に過ごすだけの友人ではなく──もっと深いところで繋がっている友達なのだと、つぼみは再確認した。 「くっ……!」 一方、ももかは、震える人差し指を引き金に向けて少し力を込めた。 つぼみと無関係な彼女たちを撃つ事はできない。──だが、威嚇すれば、せめて、退いてくれるはずだと。 当たらないように、一発でも撃ってみせようとしたのだが──それも、今は躊躇している。 指先が動かない。 言葉が出ない。 何故、自分は彼女たちを撃とうとしているのか──その理由を、一瞬だけ忘れかけた。 「いたッ! 花咲つぼみだ!」 「他にも何人かいるぞ!!」 「殺害許可もある、やってしまえ!」 しかし、その時、遂に財団Xたちもこの裏庭を見つけ出し、声が響いた。 想いの外、早い──とももかは思った。早いというだけではなく、その言葉は、ももかの予想以上に物騒であった。 とらえる事ではなく、殺す事が目的になっている。──勿論、捕えた後に処刑が行われるのは想定していたが、それでも。 彼らは、マスカレイド・ドーパントへと変身し、人間には敵わない圧倒的な力でねじ伏せようとする。キュアブロッサムに変身してかかってくると予想しているからに違いない。 「まずい……っ!」 戦慄する彼女たち──。 「──つぼみは絶対、私たちが守る!」 マスカレイドたちが近づいて来る。 銃に囲まれたというだけではなく、こうして怪人たちに命まで狙われている……。 つぼみの周囲で、本来命を狙われていないはずの同級生たちも、もしかしたら巻き添えを食うのでは、と、ももかは恐怖した。 「──絶対!!」 マスカレイドたちがこちらに手が届きそうな所まで近づいて来る。 ももかの背中からやって来る、三体のマスカレイドの集団──。 どうすればいい……。 「殺せーッ!」 と、その叫びが聞こえた時。 「──駄目ぇぇっ!」 咄嗟に、ももかの銃が、音と煙を立てる事になった。 その銃口が向けられていたのは、つぼみたちの方ではなく、彼女の後ろから迫って来ていたマスカレイドたちの方だ。 マスカレイドたちの動きが、一瞬だけ止まる。 ──あくまで、突発的な事象である。 マスカレイドが、つぼみたちを攻撃しようとする未来が見えた時、それに対する反発や不快感がももかの中に生まれた。だから、それより前にマスカレイドを撃退しようとしたのだ。 やはり、人の命を奪うだけの踏ん切りは彼女にはつけられなかった。 そのつもりであったが、つぼみの命を奪う事は、ももかにはどうあっても無理だ。ゆりも本当は、直前に戦いを経て、少し高揚した精神状態だからこそ、あんな風な事ができたのかもしれない。 「ももかさんっ!」 女子高生の彼女には反動が大きく、後ろに大きく吹き飛ばす事になる。彼女の身体は、耐えきれずにつぼみたちの方へと倒れてくる。 呆然としていたなおみを軽く押しのけて前に出て、つぼみはももかの肩を支えた。 ──銃弾は、マスカレイドの方へと向かっていくが、それが掠め取る事さえもなく、全く見当はずれのところへ飛び去っていった。 いずれにせよ、マスカレイドたちは銃弾の一発くらいなら何とか耐えられるドーパントだ。彼らは、ももかの銃撃に構わず、またつぼみのもとに向かって来ようとしていた。 「つぼみっ!!」 ──刹那。 体育館の屋根の上から、オリヴィエが飛び降り、マスカレイドの頭部に着地した。マスカレイドの首が大きく前に畳みこまれ、バランスを崩す。 ももかの弾丸は文字通り、的外れな方向に飛んでいってしまったが、そこで鳴った音がオリヴィエをここに引き寄せたのだ。 「オリヴィエ!!」 つぼみたちを庇うように、マスカレイドとの間に立つオリヴィエ。 オリヴィエは、二体のマスカレイドを前に構えた。いつでも相手はできる準備は整っている。彼はここで唯一の、異人と並べる戦闘能力の持ち主だと言っていい。彼が来た事で安心も湧きでた。 「──っ!!」 その次の瞬間、彼の攻撃を待たずして、突如、二体のマスカレイドは苦しみもがき始めた。 なにゆえか、空気の中を溺れているかのように、虚空を掴むマスカレイドたち。 その姿は異様であったが、彼らがふざけているわけではないのはその苦渋に満ちた声からわかった。 「──あああああああああああああッッ!!!!」 そして、やがて──マスカレイドたちが、一気に泡になって消えていった。 「……っ!?」 人間が泡になって消えていく光景に、そこにいた女子中学生たちが、そのあまりのグロテスクな光景に目を覆う。 いくら敵とはいえ、突然、まるで奇妙な薬品の攻撃でも受けたかのように、もがき苦しみ、死んでいったのである。その光景は、彼女たちにとってはショックに違いない。 オリヴィエも、戦おうとした相手が突如として消えた事に驚きを隠せなかった。 そこに安心感などない。 おそるおそる、マスカレイドたちが消えたそこに歩いて向かっていく。 人間は泡にはならない。──彼女は、それを知った上で、冷静に、その解けた泡の残りかすのあたりへと歩いていった。 「彼らは人じゃないわね。……どうやら、元々、心や生命がない人間の模造品だったみたい」 薫子が、その消えかけた泡の残る、芝生の上を見て、言った。 財団Xの何名かは、人間ではなく、生命以外のナニカから作られたその模造品のようだ。 下っ端の構成員でも、管理している全ての世界に派遣できるほど多くはない。このような手抜き構成員もいるのだろう。 つぼみたちはほっと胸をなで下ろしたが、何故そんな事が起きたのか、疑問にも思った。 そして、今、そんな現象が起きた理由を、数秒後にオリヴィエが気づき、言った。 「結界だ……。誰かが結界を張ったんだ……! だから、彼らは浄化された……」 「一体誰が……? まさか、コッペ様が……?」 つぼみが薫子に訊くと、彼女は首を横に振った。ふと、オリヴィエが、上空を睨んだ。 それにつられてつぼみたちも真上を見てみるが、眩しい日差し以外には何もないように見えた。 オリヴィエだけにはその感覚に覚えがあったが、それが何なのかは言わずにおいた。 ◆ 「──やれやれ」 人狼以外が可視できない遥か上空、一人の使徒が空を飛んでいた。 美青年の姿をしており、かつて見せていた冷徹な瞳は、どことなく穏やかにさえ見える物に変わっていた。 彼は、そこで独り言のように言う。 「……苦戦しているようだね、プリキュア」 かつて、キュアブロッサム、キュアマリン、キュアサンシャイン、キュアムーンライトの四人が力を合わせ、愛で戦った相手──デューンであった。 テッカマンブレードの世界で、敵が再度生まれたように、デューンが再度生まれたのである。しかし、それは無限シルエットによって浄化を受けた感情も残っているデューンであった……ゆえに、誰かを襲うつもりはない。 彼自身、何故そう思うのかもわかってはいないのだが。 「まあいい。今回は少しだけ手を貸すよ」 まだ彼はどこか気まぐれであり、誰かに向けて謝罪の言葉を口にするようなタマではないが、少なくとも一時、この場を凌ぐくらいは──ちょっとした償いの為に、プリキュアに力を貸してやってもいい、と。 デューンは、空で、真下で戦う生き物たちを眺めていた。 ◆ ……それから、再度、彼女たちは学校で暮らす事になった。 昨日までと違うのは、そこに、来海ももかの姿があるという事だ。 デューン(彼が結界を張った事はオリヴィエ以外誰も知らないが)は、コッペほどはっきりとした善悪の区別を持って人間を結界に閉じ込めるような器用なやり方はできない。──ゆえに、ももかも今度は、同様に閉じ込められたのだ。 少なくとも、財団Xやスナッキーは結界内に入る事ができないが、ベリアル帝国と無関係な悪人くらいは、結界に入る事ができる状況である。 両親や友人と同じ空間にいるには違いないが、それを一時でも裏切ろうとしていたももかには、この場はどこか気まずい。今は先ほど引き連れていた仲間たちと共に、高等部の校舎で、彼らだけで行動している。 とはいっても、やる事がなく、階段に無言で座りこんだり、人目を避けながら無意味にどこかの教室に向かっていったり……というくらいしかできなかった。人の気配があると、反射的にどこかに姿を隠してしまう。 息苦しいが、一度つぼみたちを裏切ろうとした罰だと思い、それを飲み込んだ。 ──やっぱり、世界を元に戻すなんて、出来なかった。 ──自分には、出来ないのだ。 そんな状態で、しばらくすると夜が来ていた。 もう、こんな時間だ。──彼女は、この狭い空間に共に閉じ込められている親にさえ顔を向けられない事を、心細く思っていた。 昨日までは、彼女たちにも会いたいと思っていたはずだ。しかし、裏切ってつぼみを捕まえようとした彼女たちは、それを躊躇していた。 「ももかさん……」 そうして、階段に座りこんで月を眺めていた時、階段の下から、意外な人物が歩いてきた。同級生の声ではなかった。 見ればそれは、花咲つぼみである。 彼女は、ももかや、ももかの仲間の三人に渡す分の食糧を持ってきていた。──その行動自体は、普段の彼女らしいと、ももかも思う。 しかし、ももかには、それを踏まえても、まだ疑問点もあった。 「……つぼみちゃん、一人で来たの? どうして?」 自分を裏切った人間の前に一人でやって来るなんて──いくら何でも無防備すぎると思ったのだ。 しかし、彼女は実際、それを実行している。 「私は、ももかさんを信じています」 そう答えられたのが皮肉にも聞こえて、ももかは口を噤む。しかし、つぼみの性格上、そんな裏表はないのだろう。 ──自分を狙った人間を前に、どうしてこうもお人よしでいられるのだろう。 銃は、薫子に没収されてしまい、それを彼女たちは抵抗する事もなく渡してしまったので、ももかに攻撃の術はない。だが、それでも……何をするかわからないし、たとえそうでなくても、堂々と目の前に顔を出すなんて、気が重くならないのだろうか。 そんなももかの考えとは裏腹に、つぼみは、ももかの隣に座った。月明かりが照らす階段に、二人で座っていた。 「ねえ、ももかさん……。私、放送でえりかが死んだって言われた時、泣く事ができませんでした」 つぼみは、ももかと同じく、外の月を見上げながら、えりかの事を口にした。 えりか──その名前を聞くと、心拍数が上がる。 実はそれは……つぼみも同じだった。 「実感がなかったんです。あのえりかが死んだなんて言われても、それは嘘だって思いました。でも……いつの間にか、じわじわと胸の中にそれは実感になって……だから──ずっと後になってから、泣きました」 そう言われて、ももかは、少し意外に思った。 放送直後のつぼみの反応を、ももかは見ていたが、彼女は泣いてなどいなかった。──だから、ももかは、少し、つぼみを冷たいと思ったのだった。それが、つぼみを憎む原因の一つでもあった。 しかし、今こうして聞くと、そうではなかったらしい事がわかった。 悲しい時の反応は涙を流すだけではない。──つぼみもまた、えりかの親友だ。悲しまないはずがないのだ。 その事実を知った時、ももかは不意に左目から涙が流れたのを感じた。 それで慌てて、つぼみに、少し砕けた言い方で、おどけたように返す。 「つぼみちゃんはおっとりしているから、ちょっと気づくのが遅れちゃう事があるのかもね……」 「そうかもしれません。──さっきも、ももかさんや、ここにいるみんなに大事な事を気づかせてもらいました」 「大事な事……?」 訊かれて、つぼみは言った。 「ももかさんも、ゆりさんも……ずっと、何かを守る為に、自分なりの力を尽くして前に進んでいたんです。私は、プリキュアになれなければもう何もできないと──そう思って、進む事や、変わる事を忘れていました」 ももかにとって、「つぼみがあれから、プリキュアになれない」という事実は初めて聞く事実だ。確かに、財団Xに襲われた時にキュアブロッサムにはなれなかったようだが、一時的な物だと思っていた。これからずっとそうらしいと聞いて、ももかは素直に驚いている。 もし、先ほどまでのももかならば、それを一つのチャンスとして捉える事ができたかもしれない。だが、今は、そんな事はどうでもよかった。 仮に、チャンスがあったとしても、自分には何も出来ないと知ってしまった。無防備な姿を晒すつぼみを見ても、そこに危害を加える事はできないのが自分の性格だ。 「ここにいるみんなは、変身なんてできません。でも、それでも……自分が絶対に勝てないような相手にも立ち向かおうとしていました。誰かの為に、自分の為に──」 つぼみを、体を張って守っていたファッション部の仲間や薫子、デザトリアンやスナッキーに敢然と立ち向かった男子たち、プリキュアであるつぼみを捕えようとしたももかたち。決して、彼らは怖がっていないはずはなかった。 それでも、やらなければならなかったから、彼らは立ち向かった。 そんな彼女たちを見ていた時、つぼみの胸は熱くなっていった。 「私ももうプリキュアにはなれないかもしれません。でも、それは戦えないっていう事じゃないんです。……私は、この支配に立ち向かって、また元の日常を取り戻す為に──最後の戦いに挑みます。みんなと、同じように」 「……つぼみちゃん」 そんなつぼみを見て、ももかの前には、かつてデザトリアンになった自分を救ってくれたキュアブロッサムの姿が重なる。 キュアマリン、キュアサンシャイン、キュアムーンライト──彼ら、ハートキャッチプリキュアの持っていた意志。 たとえ、変身できなくても、つぼみの中でそれは損なわれていなかった。 いや、かつて以上に彼女は──プリキュアであるように見えた。 だから──ももかは言った。 「絶対死んじゃ駄目よ。……えりかの分も、ゆりの分も、いつきちゃんの分も、ゆりの妹の分も……あなたが、あなたが、おばあちゃんになるまで生きなきゃ駄目よ」 今更こんな事を言うと、掌を返している、と言われるかもしれない。 だが、ももかは、真っ直ぐにつぼみの瞳を見つめて、気づけば激励した。それは、勢いから出た言葉ではなかったと思う。もし、今言えなかったら、またしばらくしてつぼみにそう声をかけたのかもしれない。 家族を喪った者を代表して、彼女に言わなければならない言葉なのである。 そんなももかの言葉に、つぼみは答えた。 「わかってます。──私も、今はふたばのお姉ちゃんですから」 そう聞いて、ももかはどこか、安心していた。 一人しかいない兄弟姉妹を喪うのは、誰にとっても辛い。だが、来海ももかにも、月影ゆりにも、月影なのはにも、明堂院さつきにも、この殺し合いの中で、そんな死別は訪れた。 だから、ここでは──せめて、花咲ふたばと花咲つぼみの姉妹だけは、絶対に離れ離れにはさせてはならないのだ。 そうだ──それが、ももかがここですべき事だったに違いない。 ようやく、ももかは、自分が姉としてすべき事を悟った。 自分が姉であるならば──ここにいる一人の姉の気持ちを理解し、守らなければならないのである。 それに、今更……ようやく、気づいた。 「そろそろ行きます。……体育館で来海さんが待ってますから、後で顔を出してくださいね」 その時、丁度、つぼみが立ち上がった。彼女は、そうすると、すぐにももかに背を向け、階段を下りて行ってしまう。 何気なく言ったが、えりかとももかの両親の話をしてくれたのが、彼女には意外だった。 それで、堪えきれず、ももかも思わず、立ち上がり、階段の下にいる彼女を見下ろし、呼んだ。 「ねえ、つぼみちゃん!」 「何ですか?」 振り向き、ももかを見上げたつぼみに対して、彼女は言った。 「──えりかの一番の友達でいてくれて、ありがとう」 ◆ ──翌朝。 寝起きのつぼみに、オリヴィエが話した。 「つぼみ。美希はこの世界には帰って来ていなかった。……美希の家族にも訊いたけど、まだ帰っていなくて……それで、心配だって」 オリヴィエは、前日の夜、クローバーストリートまで出ていたらしい。 それを頼んだのは、他ならぬつぼみであった。彼女を見つけ出せれば、せめて、あの世界から帰った仲間たちを増やしていけると思ったのだ。 オリヴィエは、確かにその往復で危険な目に遭う事はなかった。 「でも、一つだけ伝えなきゃならない事があるんだ」 ──それは、彼がクローバーストリートで出会った、高町ヴィヴィオらの乗船するアースラからの情報であった。 ヴィヴィオの生存は、つぼみも初めて知った意外な事実だ。 彼女は、別の世界の生還者を探す為にこの世界を一時離脱したが、今日中に明堂学園のグラウンドに来るとの事であった。 つぼみは、それを聞き、──そこからの事は、自分で決めた。 ◆ グラウンドには、数十人分の人影が揃っていた。 一時間前、つぼみは自分の決断を家族や周囲に伝えなければならなかった。 アースラにいる仲間たちが生きていた事、もう一度ベリアルを倒しに行くという事、そうしなければ前に進めないという事──だが、理解を得るのは難しい。 もうプリキュアになれないが──それでも立ち向かうつぼみを、誰も止めないのか。 そんなわけはない。 結果、勿論、激しい反対を受けた。折角、愛娘が帰って来たのに、またどこか遠くへ旅立たさなければならないのだ。今度こそ死ぬかもしれない。いや、その可能性の方がずっと高い。何としてでも止めようとしていた。 だが、そんなつぼみの決断を、尊重したのは、今、この人影の中心にいる薫子だった。 彼女と共に説得し、やがて──この終わりのない逃亡生活を終わらせるという意味でも、前向きな意味で、ベリアルを倒すという事を説得して、納得させた。 つぼみをここで囲ったところで、またいつか、昨日のような襲撃に遭う。このままでは、それを待つだけ──ただ、死ぬまでの時間をつぼみと長く過ごすという意味でしかなくなってしまう。 そうではなく、ベリアルを倒す事で全て終わらせ、またきっと、この前のように一緒に過ごそうと──そういう意味で、つぼみは殺し合いの場に向かおうというのだ。 「……つぼみ。どうしても行くのね?」 薫子と、つぼみの両親が心配そうにつぼみを見つめている。 母に抱かれている赤子──ふたばだけは、自分たちの真上で太陽の光を阻んで影を作る巨大な物体に向けて無邪気に手を伸ばしていた。 この世の物とは思えない、巨大な戦艦──アースラが、既にこの場にその姿を現していた。 この世界の、この場所に、転送された来たのだ。つぼみを見つけ出したアースラは、その保護の為に彼女を呼ぶ。 そこにいる仲間たちとの挨拶を待つくらいの時間は勿論あった。 アースラの中には、また一緒に迎えてくれる、レイジングハートやヴィヴィオや翔太郎たちがいる。──彼らにまた会えた事は、つぼみにとって、少し嬉しい事でもあった。 「はい。今、一緒にベリアルを倒しに行けるのは私だけですから」 つぼみ以外の人間も、確かにアースラに乗船する事はできる。 しかし、それは却ってつぼみの決意を鈍らせる事になるだろう。 たとえ一緒の場にいなくても、つぼみは一人じゃない。だから、安心して全てを任せて、遠くに旅立てる。 「大丈夫。私には、みなさんがくれた想いがあります。きっと……必ず帰ります」 つぼみは、クラスメイトたちが自分を迎えてくれるのを見つめた。 彼らから、つぼみに──一時間で書かれた寄せ書きが渡された。そこには、キュアブロッサムではなく、花咲つぼみとしての彼女へのメッセージがいくつも書かれている。 卒業するまで一緒にいよう、と。 その日を楽しみにしている仲間たちがここにいる。 「ふたば、お父さん、お母さん、おばあちゃん。だからまた……元気で会いましょう」 つぼみは、ふたばの指先に触れ、言った。こんな家族たちが自分にはいる。──今の自分は一人のお姉さんだ。もっと大きくなったふたばと遊びたい。 つぼみは、来海家や明堂院家の人々がそこに立っているのを見つめた。 ももかは──両親と一緒にいる。コフレとポプリも、こちらに激励の合図を送っている。 必ず帰ってこい、と彼女たちが目で訴えている。それは、亡くなってしまった自分の娘たちの為に──。 「みんなの心が希望を失わない限り、プリキュアは諦める事はありません。──私も、変身できなくても、心はプリキュアですから」 たとえ変身できなくても──つぼみは、行かなければならない。 アースラで待っている仲間がいる。ここにつぼみを迎えてくれる仲間がいる。 一人じゃない。 希望の道を切り開く為に、つぼみは── 「じゃあ、みなさん……行ってきます!!」 【花咲つぼみ@ハートキャッチプリキュア! GAME Re;START】 時系列順で読む Back HEART GOES ONNext あたしの、世界中の友達 投下順で読む Back HEART GOES ONNext あたしの、世界中の友達 Back HEART GOES ON 花咲つぼみ Next BRIGHT STREAM(1)
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牙狼~SAVIOR IN THE DARK~ ◆gry038wOvE その再会を祝福する者などいなかった。 四人の戦士の間にあるのは、二つの強力な爆弾である。普段ならば、その爆弾が起爆することはないだろう。その爆弾が発動するのは、一定の条件が満たされた場合だ。 ……しかし、それは偶然にも、そして非常に残念なことに、起爆剤となる二つの条件が、見事に出揃った状況での再会なのである。 村雨良、という男がいた。 その男は親友・三影英介を『仮面ライダー』によって奪われた。 涼邑零、という男がいた。 その男は自らの家族を『黄金騎士』によって殺された。 そして、結城丈二は『仮面ライダー』であり、冴島鋼牙は『黄金騎士』だった。 ただ、それだけだった。 「鋼牙、偶然だな……こんな所でッ!」 冷たい森の中で、涼邑零は怒号を交えて叫ぶ。 その表情は、つい先ほど別れた集団に見せた顔と、今の零の顔は、似ても似つかないほどである。零も、普段は笑顔に感情を隠していた、相当の役者だったらしい。 ……などと感心している場合ではなかった。 結城丈二は、まず目の前の状況を片付けなければならない。 結城が遭遇した相手の片割れの名はわかっている。 村雨良。実際に会った事もあるし、共闘した記憶も残っている。 もう一方が、おそらく冴島鋼牙だろう。二人はおそらく行動を共にしていた。その意図は不明である。鋼牙が善か悪かは、まだ判断し難い。 少なくとも、零の認識上は悪であるというのはわかるが、それは偏見に満ちた判断だ。結城自身で判断すべき場面である。 「零……!」 鋼牙と村雨が零の呼び声に気づく。 二人は、少し固まったようだった。あちらも、少し考えてから行動を開始しようとしているのだ。結城、鋼牙、村雨の三名は、いま現在冷静に考えて行動することができる。 しかし、零はできる状態ではなかった。 少なくとも、鋼牙という仇の目の前では……。 零の双剣が、その腰から抜かれる。 零自身、すぐに鋼牙を殺そうという気はない。少しは鋼牙にもがく余地を与える気なのである。 少なくとも、今の今まで、零は鋼牙をすぐに殺そうと襲ったことはなかった。これは所謂威嚇というものだ。 「「……待て、零!」」 結城と鋼牙の言葉が重なる。 だが、零は魔戒剣を両手に構え、鋼牙に向かって走り出した。 鋼牙は自らの魔戒剣を抜いて、体を切りつけようとした零の剣を、間一髪で防いだ。 真横に構えられた鋼牙の剣の上に、零の剣が二つ重く乗せられて、厭な金属音を発している。 こうして鋼牙に避けられるのもまた、零の計算の範囲内だった。 魔戒騎士の最高位と呼ばれる黄金騎士だ。この程度の攻撃を回避できないようでは、零が既にその称号を受け継いでいたに違いない。 もし当たれば即死するような攻撃であるのは間違いないが、黄金騎士は間違いなく避ける。少しの狂いもなく、確実に避ける。縦令どんなアクシデントが発生したとしても、彼は絶対に零の剣を回避するだろう。 そうして互いにこわばった顔で睨み、腕と剣に力を込めあっていると、鋼牙の胸元から、突如として聞き覚えのある声が零を呼んだ。 「零!」 「シルヴァ……?」 この場には女性はいないが、それは女性の声である。もっと言うのなら、ここに来てから零が所持することを許されなかった相棒・『魔導具』のシルヴァだと、零は知っていた。 何故、その声が鋼牙の胸元から聞こえるのか、零にはわからなかった。 零は注意力を一瞬失ったが、力を入れることは忘れず、まだ鋼牙との競り合いを続ける。 「……鋼牙、零、剣を仕舞いなさい」 「そんな事を言われても困る。俺は今、手が離せない」 鋼牙は驚いた風もなく答える。少なくとも、彼は今手を離せる状況ではなかった。手を離せば鋼牙の体が三つに避けてしまう。 この場合、零が先に剣を下げる必要がある。だが、零にはそんな様子が見られなかった。 彼はただ、更に激情を重ねた様子で、 「鋼牙、何故貴様がシルヴァといる……!」 と問い詰めた。 ホラーに関する何かが隠されているから、シルヴァは没収されたのではなかったのか。 「話を聞けばわかる。零、剣を仕舞え!」 結城や村雨には、二人のやり取りの意味がわからなかった。 特に結城などは、どこから女性の声が聞こえるのかさえ、把握できなかった。 ともかく、それぞれの立会人がいるという事実は、鋼牙か零の裏切りを防止する最善策だ。どちらかが剣を下ろした隙を狙って、もう一方が剣を振るったならば、結城か村雨が黙ってはいまい。 そう考えて、結城は一歩前に出る。同じ結論に至ったのか、村雨も前に歩んだ。 「……零、先に剣を下げなさい! 鋼牙の話を聞いて」 「……!」 シルヴァに言われた数秒後、村雨の顔色を伺い、躊躇いながら零は剣を下げた。 鋼牙も同じように、剣を地面に向けた。敵意こそないようだが、互いに警戒し合っている。 鋼牙は、左手で己の首にぶら下がった魔導のネックレスを外し、零に渡す。いや、シルヴァが話しやすいように、そちらに向けただけだろうか。 とにかく、零は自分に向けられている相棒を、やや不機嫌そうに受け取った。 「零、誤解しているようだが俺はこの殺し合いに乗っていない」 「……信用できるか」 「お前の家族を殺したのも俺じゃない。……バラゴ、暗黒騎士キバこそがお前の家族の仇、そして俺の父親の仇だ。太刀筋が同じなのは、奴が黄金騎士──俺の父の弟子だったからだ」 鋼牙の言葉に、零が反応する。 暗黒騎士キバ──石堀たちから聞いた名前である。 この会場にいる、凶悪な刺客であるというのは聞いた話では確かだ。 「やはり、暗黒騎士キバか……」 結城が呟く。そう、結城も薄々実感していたのである。 「零の知らない魔戒騎士」という違和感が、結城に少しの猜疑心を持たせたのだ。 村雨は黙っていた。話についていけないせいもある。結城が村雨に声をかけないのは、偏に村雨のこんな様子にも不自然さを感じていたからだった。 結城の仮説が正しいのなら、村雨に正体を明かすことでまたひと悶着起きてしまう。この二人のように争いごとになるのは御免だ。 「信じられるわけないだろう、鋼牙。……俺はお前を仇と思うのはやめない」 零は頑なだった。 結城は、自らの考えを語ろうと口を開いたが、先に鋼牙が声を発した。結城の様子に気づいているようだった。 「……そうか。いずれにせよ、時が来ればわかる」 「その男とはいずれ会うことになる……そう言いたいのか?」 「ああ。それに、お前が俺を殺さないことも、わかっている」 鋼牙は既に零がこれからどう動くのかを知っている。 そう、これから先、零は決して鋼牙を殺せないし、殺さない。 「銀牙騎士絶狼(ゼロ)──その魔戒騎士の名を、俺は信じているからな」 ──シルヴァの言うようにやって来た時系列が異なったとしても、零は魔戒騎士に違いないからだ。 零の知らない零を、鋼牙は未来で知っている。 誰よりも熱く、誰よりも人を守る使命に忠実で、鋼牙が信頼した友である「涼邑零」という男の名と誇りを、鋼牙は生涯忘れないだろう。 「……」 零は、また少しだけ迷った。 冴島鋼牙を敵として見つめる時、零は毎度不思議な違和感を感じるのである。 彼が、人を殺すようには見えない……という不思議な違和感を。 いや、むしろ零自身は心のどこかで願っているのだ。本当の仇が別の誰かであることを。 零自身、そんな自分の本性に気づいているはずもないが。 はっと、零は自分が鋼牙から目を逸らしていた事実に気がついた。 本質的に、彼を避けているのが零の本当の心理……ということなのだろうか。 そして、鋼牙を見つめなおすと、彼は太い声で零に言う。 「……構えろ、零」 不意に、鋼牙の表情が曇り、妙な気配のある方に顔を向けた。 彼は剣の柄を持つ腕に力を込めている。……その理由は簡単だ。 「思ったよりも早く信じてもらえそうだな」 零は、鋼牙の視線の先を同じようにして見た。 鋼牙が見ていたのは、黒衣を着た奇妙な人物であった。木々の向こうから、何の構えもなしに歩んでくる。零は、その様子にまた、既視感を覚える。 そう、彼は知る由もないが、それは、かつて鋼牙が戦い倒した漆黒の魔戒騎士の異形である。 結城も、村雨も、そちらを向いて、その異様な雰囲気に戦慄しながら構えた。 「……冴島鋼牙」 奇怪な人物のその呟きを聞き、鋼牙はその人物に向かって駆け出した。鋼牙の踏む地面の落ち葉が、かつて舞い降りた時のように、虚空に上がり舞っている。 そして、顰めた表情で、零たちに叫ぶ。 「奴がバラゴ──俺たちの本当の仇だ」 バラゴは、黒い着物の下でニヤリと笑ったように見えた。その様子から、少なくとも男性であるのは見て取れる。もともと、魔戒騎士は男性しかなり得ないものでもある。 鋼牙が一凪ぎすると、バラゴは上空に引っ張られるように跳び避けた。足を跳躍の形に曲げた様子もない、奇妙な『浮遊』だった。 結城と村雨は、それに少し驚いたようだった。 だが、既に一度倒した鋼牙は、バラゴの速さも強さも知っている。 最初にバラゴが狙ったのが鋼牙だったのは、鋼牙にとっても好都合であった。 「はぁっ!」 鋼牙は声を高らかに上空へ跳び、バラゴの真横で剣を振り下ろす。 今度は、上空でバラゴの体は狙われた。そして、バラゴはそれを黒衣の中から取り出した剣で防いだ。 先ほど聞いたよりも、ずっと重い金属音がその場にいる全員の耳を刺激する。 「「!!」」 地面に着地する頃には、その鍔迫り合いが終わっていた。二人は互いの剣をぶつけ合う力を反動として、距離を離して降り立ったのである。 しかし、二人の猛攻は終わらない。 他の三人が割ってはいる隙など無いほどに。 (バラゴ……いや、暗黒騎士キバ! 俺は何度でも貴様を倒す!) 鋼牙の刃が、一振り、一凪ぎされるのを、そこにいる超人たちは辛うじて視認していた。 素早く、そして一つ一つが重い一撃だった。 だが、その攻撃をバラゴは的確に避けている。黒衣を掠めればまだ良い方だ。尤も、その剣が黒衣を掠めることに、バラゴはかなり驚いているようだったが。 (この一撃、もはや僕の知る冴島鋼牙の腕ではない。短期間のうちに、腕を上げたか……?) くどいようだが、この鋼牙はバラゴの知るより後の鋼牙である。 既に一度バラゴを破り、メシアやレギュレイスなどという強敵ホラーをも討ち滅ぼした彼の剣を、そう簡単に避けられるはずもない。 (流石は冴島大河の息子か……だが、その強き太刀さえも俺は喰らう) バラゴは首飾りを上空に掲げたかと思うと、そこに円を描いた。 その円は、神秘的な煌きとともに、バラゴの体の各部位へと、デスメタルの鎧が落としていく。まるで、円の向こうには別の世界が広がっているようだった。 そして、一秒とかかることなく、禍々しい黒のシルエットの戦士が、鋼牙と零の前に再び現れる。 暗黒騎士キバが、邪魔そうにマントを翻した。 暗黒に堕ちし魔戒騎士バラゴ。その真の姿とでも言うべき、悪の外形が四人の戦士を睨んだ。 結城は、初めて見た魔戒騎士の姿に少し驚いたようだったが、一秒も経たないうちに受け入れた。変身方法や形状が、これまでの敵よりもやや特殊というだけで、変身する戦士も珍しくも何ともない。 それより、結城は隣の零を気にかけた。 「……そうか」 そう呟いた零の横顔。 その目はやはり、眼前の黒騎士を睨んでいた。瞳の色は、鋼牙を見たとき以上に、復讐の黒に染まっていた。 結城は、暗黒騎士キバの姿よりも、そちらの様子に驚いた。 「奴の言ったとおりだ。鋼牙は俺の本当の仇じゃない……!」 零の脳裏に焼きついた、忘れもしない魔戒騎士のシルエット。──静香が突き刺される、零の毎日の夜の夢。その最悪の登場人物。 それは、こうして眼前に立つ暗黒騎士キバのものと重なった。 零の両手がわなわなと震える。しかし、魔戒騎士の双剣だけは確かに持っていた。 「零、無茶しちゃ駄目!」 シルヴァの声を耳に入れることはなく、零は駆け出していた。 銀牙という少年が涼邑零と名乗るようになった原因である男。零の恋人と父親を殺した男。零から守りたいものを奪った男。 許せるものではない。 たとえ、零の命が脅かされるとしても、戦わねばならぬ敵である。 涼邑零はこれまで、誰かを護るために戦ってきたわけではないのだ。 最初は、静香を守るために魔戒騎士になった。 その人を奪われてからは、零は、仇を討つために戦っていた。 だから──── 「静香の仇ィっ!!」 銀牙騎士ゼロとなった涼邑零が駆け出す。 それを追うように、結城丈二と村雨良は駆け出す。その男の危険を、二人は察したのである。 零の無理を通させぬよう、二人は反射的に変身をしていた。 「ヤァッ!」 聞こえるは、ライダーマンの変身の発声のみ。 その真横で、ゼクロスがライダーマンの横顔を見つめていた。 「仮面ライダー……っ!」 だが、今はそれ以上に優先すべきものがあった。 鋼牙を襲い、更にその知り合いを脅かす謎の戦士に、仇なす。鋼牙に協力することだ。 ゼクロスは、ともかくライダーマンとはこの戦闘中は手を組むことにした。その後、どうするかはわからないが。 「仮面ライダー、それに魔戒騎士。まとめて地獄に送ってやる」 キバの前に現れたのが、因縁深き魔戒騎士と仮面ライダーばかりだったのは、ある意味奇跡的ともいえる。役者が揃った姿に、キバは愉悦を感じた。 この全てを飲み込み、最強となる資格があるか──それが試されているのだろう。 鋼牙の方を見れば、その姿は黄金騎士ガロのものに変わっていた。 かつて戦った冴島大河と違うのは、瞳の色が紅でなく碧であるということだ。しかし、獰猛な魔戒騎士の「獣」に似た姿は違いが無い。 この場で最大の敵になるとすれば、この男だろうが、キバはまず真横から来るゼロに剣を向けた。 「がっ……!」 ゼロの胸部にキバの剣が突き刺さる。そして、ゼロの体が剣一本で持上げられ、ライダーマンとゼクロスの方に吹き飛ばされた。転がってくるゼロに、二人の戦士が足止めを喰らった。 怒りに狂ったうえに、まだ未熟なゼロは、キバの敵ではなかったのだ。 ライダーマンがゼロを抱き起こすと、今度はゼクロスがキバに向けて攻撃を開始する。 「マイクロチェーン!」 電撃を帯びたチェーンが、キバの体へと到達する。 しかし、そんな攻撃は何でもないという風に、キバはその鎖を剣で切り裂いた。電撃による光が見えたが、それを痛々しいと感じる者はここには誰一人いなかった。 「はぁっ!」 ガロの牙狼剣がキバの方へと向かっていく。 それをキバは左手で軽く受け止め、今度は右手の黒炎剣をガロに向けて振り下ろそうとした。 「ふんっ!」 しかし、それはガロの左足が蹴飛ばして、木々の向こうへと落ちてしまう。 ガロは、それを好機と見るに、キバの握力にも勝る豪腕で牙狼剣を引き抜いた。 その剣は、すぐに真っ直ぐキバの体へと振り下ろされる。 右肩から左脇にかけて、牙狼剣はデスメタルに深い傷をつけた。 「鋼牙、そいつは俺の獲物だ!」 だが、その優勢は長くは続かない。 起き上がったゼロが、ガロを突き飛ばして割ってはいる。ガロは、その不意打ちによろけてキバの正面を取られてしまった。 雌雄一対の銀狼剣をキバに向けて×の字に振るうが、キバはそれを問題にすることもなく、また両手の握力で止めてしまう。 「零!」 ガロが名前だけ呼んだ。それは、警告の意味であるのだとわかっているのだが、ゼロは意にも介さない。この男を倒せれば、それで良いのだと思った。 しかし、銀狼剣はそのままゼロの両手からすっぽりと抜けた。 剣を失ったキバが、黒炎剣の代替としてゼロの剣を奪ったのである。刃の部分を掴んでいるが、鎧の上からでは結局変わらない。 すぐに柄の部分に持ち変えると、キバはそのまま向かってくるガロとゼロを同時に斬った。 「ぐあああっ!」 二人の魔戒騎士は、キバの素早い太刀に吹き飛ばされ、地面に落ちる。今度は、形勢はキバに優位に働いたようだった。 キバは、更に地面に落ちたゼロを追い、銀狼剣をゼロの体に突き立てる。 ゼロは辛うじて、それがソウルメタルの鎧を砕いて零の体に傷をつける前に、両手で刃をしっかり握った。 が、圧倒的な腕力によって突き立てられた剣の衝撃は、零の体の中に痛みを伝わせた。 キバは、もう一本の銀狼剣を持ったまま、黒炎剣を再び手に取るために走り出す。 「零っ……!」 キバを追うのは、やはりガロとゼクロスであった。 ライダーマンはゼロの方に寄り、体を抱き起こした。 ゼロは、ライダーマンにお礼さえ言わず、復讐に燃える狼の目つきで立ち上がり、左手で銀狼剣を持って走り出した。腹部は相当痛んでいるようだが、もはやそれさえも彼にとっては些細なことらしい。 (零、君は復讐に我を忘れている。だが、どうやらそれを止めるのは私の役目ではなさそうだ) ゼロの背中を見つめて走りながら、ライダーマン・結城丈二は思った。 かつて復讐のために戦った自分ならばゼロを止めることができるかもしれないと思っていたが、どうやらその鍵となるべくは自分ではないらしい。 いや、ここに来る直前までならば、結城以上の適任者はいなかったのだが、ここで冴島鋼牙に出会ってしまった以上、結城丈二はただの零の友人でしかなかった。 (冴島鋼牙、本当の魔戒騎士の使命を知るのは、同じ魔戒騎士である君だけだ。……そして、どうやら私にも仮面ライダーとして果たすべき使命があるようだな) 今まで一言も口を交わすことはなかったが、ゼクロスは、やはり「あの時期」のものだと推定される。 それならば、やはり同じ仮面ライダーである結城丈二のほかに、止めるものはいないだろう。 まずはキバを倒す。 同じ鎧の戦士ということもあり、タヒチでヨロイ元帥を倒した「あの作戦」を脳裏に浮かべたが、それが可能か否かはわからない。接近戦になる以上、敵としては難しいかもしれない。 ソウルメタルなる鎧(本来キバの鎧はデスメタルだが、結城は知らない)は特殊であり、生半可な攻撃では砕けそうにない。 だが、この場では──首輪という特殊条件がある。 それがソウルメタルの本来の効果を抑え込めているのは確かだ。事実、キバの鎧には、凍結や腐食の小さな痕があった。ほぼ修復しているため、それは観察力に優れた人間でなければ見つけることはできなかっただろう。 結城が思うに、あれは歴戦の勇者である証というより、ごく最近何らかの戦闘で受けたものである。 考えながら、ライダーマンは森を駆ける。 そして、着いた先では暗黒騎士キバが暗黒剣を構えていた。 黄金騎士ガロの黄金剣との鍔迫り合いを演じている。 「衝撃集中爆弾!」 真横から、ゼクロスが衝撃集中爆弾を放ち、小さな爆発が起こるが、それさえもものともしない。 キバの腕力が、今度はガロをも押した。 ゼロが銀狼剣を二本持っているところを見ると、どうやらキバはもう一本の銀狼剣も放棄したらしい。おそらく、黒炎剣以外は不要なのだ。 「はぁっ!」 ゼロも割って入るが、それも弱弱しくキバの鎧に当たるだけだった。 先程、キバの鎧についたような深い傷は、残せていない。 「……ドリルアーム!」 ともかく、準備はしておこうと、ライダーマンはアタッチメントを変更する。 ヨロイ元帥との戦闘時の戦法はこうだ。 強硬な鎧に身を包んだヨロイ元帥を倒す──その方法として、ライダーマンはアタッチメントを駆使しての戦闘を考えた。 その際に利用したのは、ヨロイ元帥が「鎧を纏った生体」であり、彼そのものの体は弾丸でも死ぬという事実であった。 ライダーマンは執拗にヨロイ元帥の体の一部をドリルアームで砕き、小さな穴を作り出し、そこにマシンガンアームの銃口を押し込むと、弾丸を連射した。 ヨロイ元帥の鎧の中で、マシンガンの弾丸が跳弾し、何度も何度も跳ね返ると、中のヨロイ元帥は止められない数多の弾丸の嵐に倒れた……。 キバが同様の性質を持っている「鎧の戦士」であることが、ライダーマンの希望であった。 ライダーマンはキバの体に向かい駆け出すと、そのドリルをキバの脇部の鎧に向けた。 腐食の痕がある部分だった。これならば、穴も開けやすい。 「弱すぎる」 ……が、無論近接戦は不利である。暗黒剣が、一瞬でライダーマンの胸部を斬りつけた。 そこには真っ黒な痕が残った。ライダーマンの強化スーツごしに、結城丈二の体も強い熱を感じた。久々に感じた強い痛みだ。 キバの鎧を見るが、どうやら大した痕が残った様子はない。 「パワーアーム!」 ライダーマンは次に、パワーアームを装備する。 ランダムに選んだアタッチメントである。目的は、露骨に同じ箇所ばかりを狙い続けるよりも、さまざまな方法で全体を攻撃しつつ、さりげなく腐食部を狙った方が良いと思ったからだ。 同じ箇所ばかりを攻撃すれば、無論警戒を受ける。 「はぁっ!」 ライダーマンの後ろから、ゼロが走り出す。 キバの前で、ゼロは剣舞のように巧みな剣使いを見せた。デスメタルの鎧に、次々と剣が当たるが、もはやそれらは大した意味を持つものではなかった。 すべて、無意味に弾かれていくような感じがした。 しかし、ゼロは先ほどより冷静になっていた。剣舞をしているように滑らかな動きを見るに、時間が経つごとに激情に疲れたのだろう。 かえって、頭も働くようになったのだ。 しかし、 ──89,3秒── 彼がゼロに変身してから、これだけの時間が過ぎていた。 いささか、冷静になるのが遅かったらしく、零自身あせりを感じはじめていた。 限界まで、鎧を解かずに戦わなければ……そう思いながら、零は戦う。 「零!」 「わかってる!」 残りタイムが僅かであることを知ったシルヴァからの呼び声も、零は怒号のような声で静止する。しかし、シルヴァは気づいていた。 零は、わかっていない。 本当の仇を知った彼は、もはや怒りを抑え込めようとはしていないのだ。 心滅獣身──バラゴの心身を蝕んだ、その悪夢が繰り返されようとしていることを、シルヴァは直感する。 それは、鋼牙もまた同じだった。 「はぁぁぁぁっ!!」 ガロのタイムも、残り僅かだ。その前にこの強敵を滅ぼさねばならない……それはおそらく無理だろう。 せめて、重症を負わせ、撤退させる。 幸いにも、キバもガロやゼロと同様に、攻撃に制限があるため、強力な反撃技は使えないはずだ。 「はぁっ!」 ガロに気をとられたキバだったが、その隙にライダーマンがパワーアームで腹部を傷つけていることに気がついた。 が、彼はライダーマンを無視したまま、走り来るガロに眼をやった。 真の強敵はガロである。それは、戦闘中に重々理解している。 ガロは黄金剣を両手を使って構えたまま、キバの懐まで来た。 キバも暗黒剣を構え、タイミングを見計らう。 「──今だ、ゼクロス!」 そして、限界まで近づいた瞬間に、ガロは叫んだ。 はっとして、キバが上方を向くと、木の枝の上に忍者の如く潜んでいた赤と銀の戦士が、キバの上に向かって落ちてくる。 そうしてキバが気をとられた一瞬の間に、今度はガロがまた至近距離で火花を散らす。 ガロがキバの脇を駆け抜けると、今度は上方からゼクロスが降りかかる。 キバの二本の角は掴むのにおあつらえ向きだったのだ。ゼクロスは落下しながら、キバの両角を掴み、何度も回転させて空中へとぶん投げた。遠心力によって、キバの体は大した力を加えずとも高速で回ってしまう。 ライダーきりもみシュート。 今のゼクロスはこの技を使うしかなかった。──しかし、次の蹴りは無い。 空中で自由を奪われたキバに、ガロが飛び掛り、剣の柄でキバの顔面をたたきつけた。 しかし、それによって回転は封じられ、キバは何とか直立の形で地面に降りた。顔面も痛むが、首が特に痛む。 更にその直後には、左脇腹を切り裂くガロの剣、右脇を切り裂くゼクロスの電磁ナイフ、腹部はライダーマンがパワーアームをドリルアームに組み替えてキバの鎧を砕こうとしている。 ガロとゼクロスが、キバの体の横を過ぎ去り、一人では不利と見たライダーマンも、一歩後退する。 「絶狼!」 彼らが行ったのはトドメの一撃ではなかった。 キバの動きを止めるための一撃。 「ああ!」 駆け出すゼロ。 ゼロが、これまでの戦いすべてを振り切るための道を拓いたに過ぎないのだ。 「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」 銀狼剣を両手に構えたゼロは、その協力の意図をようやく理解したらしい。 「父さんの、静香の仇!!!!」 銀狼剣がキバの体へと近づいていく。 暗黒の鎧の戦士は、三つの攻撃によって固まったように佇んでいた。 聳え立つキバの体は、絶好の的だった。 ──96.7秒── 危険なタイムだったが、どうやらキバを倒すことができそうだ。 零は、心の中でそう思った。 しかし、そんな中でも、ゼロは決して余裕を見せることなく走っていく。 全身全霊を込めた一撃で、ようやく倒すことができる状態なのは、わかっている。 そして、97秒でキバに銀狼剣が到達した。 ゼロは、そこで散る火花の中に、静香を見た、かつての幸せな風景を見た。 きっと、キバを倒す憎しみを強めるために、零の──いや、銀牙の心の奥底が見せた光景だろう。 キバへの攻撃は、確かな手ごたえを伴い、ゼロに安心を与えていく。 ──99.8秒── キバの体から離れ、ゼロは鎧の召還を解く。 涼邑零が、前方にあるキバの姿を見て安堵した。 動かない。 静止したまま、先ほどと同じ状態で。 鎧の中のバラゴは間違いなく死んだ。そう、零は勝手に思っていた。 「やったぜ……静香」 だから、喜びで胸がいっぱいだった。 この鎧の中で、バラゴはきっと息絶えている。あっけない幕切れだったが、これでいい。 これで、家族を弔うことができる。 これから先は、悪夢を見ずに済むだろう。 時系列順で読む Back あざ笑う闇Next 我が名は絶狼 投下順で読む Back せめて 輝きと ともにNext 我が名は絶狼 Back 解放(4) 冴島鋼牙 Next 我が名は絶狼 Back 解放(4) 村雨良 Next 我が名は絶狼 Back あざ笑う闇 涼邑零 Next 我が名は絶狼 Back あざ笑う闇 結城丈二 Next 我が名は絶狼 Back ピーチと二号! 生まれる救世の光!!(後編) バラゴ Next 我が名は絶狼
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DQⅣ(リメイク版) 第五章で取得可能な称号の一つ。 条件は【勇者】のレベルが11~35で、シナリオ進行が【へんげのつえ】入手~エスターク神殿の位置が判明の間にある事。