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935 名前:通常の名無しさんの3倍 :2012/10/26(金) 17 44 33.94 ID ??? フリット・アスノはXラウンダー覚醒前の少年時代に時間を戻されてしまった 絶対絶命のフリット… その時、不思議な事が起こった! 青年フリット「エミリーの王子、フリット・アスノRX!」 髭フリット「悲しみの司令、ロボフリット・アスノ!」 爺フリット「怒りの祖父、バイオフリット・アスノ!」 フリット「…という夢を見たんです」
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噂の結末 内容 Lv 165 受注NPC ドラビス信徒 (女) 完了NPC コポス マテルの護衛騎士コポスに噂の結末について聞いてみる。 報酬 経験値 512,000 冒険値 - DIL - - 信頼の試験 内容 Lv 165 受注NPC コポス 完了NPC コポス 竜人族の神域にいるモンスターを200体を討伐。 報酬 経験値 21,432,000 冒険値 - DIL - - 心臓の楔 内容 Lv 165 受注NPC マテル 完了NPC マテル イロブトの心臓1個獲得。 報酬 経験値 21,432,000 冒険値 - DIL - - メモ 樹液塊3個でイブロトの心臓1個と交換可能。
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のら犬にさえなれない(前編) ◆gry038wOvE ──これまでの仮面ライダーW in 変身ロワイアルは!! (♪BGM『今までのダブルは』) 『ははっ……よっしゃぁぁぁぁ! フィリップが帰ってきたぁぁぁぁぁ!!』 『だったら誰が杏子ちゃんを支えられるんだ!? 君しかいないだろう! そんな君がつぶれたら誰が杏子ちゃんを……みんなを支えるんだ! 君は人々を守る希望……仮面ライダーなんだ!!』 『人々を泣かせたくはねぇんだろ……だったら、人々を泣かせる魔女になる前にこいつを……』 『ああ……あたしは戦う……みんなから受け継いだ想いを無駄にしないためにも……だけど……』 『ふっ……世話になったなフィリップ、マッハキャリバー……』 『Is a schoolchild the highest too?』 (BGMがこの辺で終了。) □ ──この偽りの街で殺し合いを始めてから、針は既に二度目の円を描こうとしていた。俺もついに時間感覚がいかれたか。「あと二時間もある」というのが、「あと二時間で終わる」ような気がした。この一日分の疲労で俺も随分と体が麻ひしていたが、不思議な事に眠気だけは襲ってこなかった。俺が今、こうして冴えたナレーションを始められるのもその証だった。 俺の頭は、夜風に晒されて、冷やした瓶ジュースよりも冴えていた(意味不明)。風は今宵もまた、俺を一段とハードボイルドに仕立てあげている。少し強い風が目に入り、俺の額を空に近づけさせた。 星が見えた。空っぽの空を埋め尽くす満点の星は、俺を見下ろしているのか、見上げているのか。あの星の中のどこかに殺し合いとは無縁の星があるのなら、俺はそこを掴みとりたい衝動にかられた。誰もそうだろう。俺たちはこの一日を何とか耐え抜いたが、次の一日がまたあると思うと、ひどく憂鬱な気分にさせられる。ならばいっそ、俺たちの頭上の星で、星間戦争もなく自由を謳歌する人々の姿がどんなに良い事か。 こんな地の果てで俺たちはあの星に想いを馳せ続ける。あの空の人々も、俺たちがこうして殺し合いに巻き込まれている事など知る由もないだろう。 隣にいる相棒が言う。 「夜空の星は、どれもガスでできている。中心部で核融合を行って、そのエネルギーで光り輝いているんだ。人は住んでいないよ」 まったく、浪漫のない相棒だ。俺は帽子の唾から目を覘かせた。相棒はこじゃれた外ハネの髪を指で弾くように触りながら、何食わぬ顔で星を見ている。 「……そろそろナレーションうるさいから切っていいか?」 ……と、杏子が俺のハードボイルドの邪魔をする。 杏子はもう、俺のハードボイルドなナレーションに慣れているのか、落ち着き始めていた。 「……てか、いま星とか浪漫とかどうでもいいからさ。それより兄ちゃんのセルフナレーション、略してセフレで伝えるべきは警察署の話だろ。もう警察署の目の前だぞ」 「はーん、セルフナレーション、略してセフレ……か、なるほど。…………って、花も恥じらう乙女がそんな略し方するんじゃねえ!!」 かくして、俺は情けない怒号とともに、ハードボイルドなナレーションはひとたび幕を閉じる羽目になった。 こからは口から出ていかない、本当に俺の頭の中のナレーションだ。突然ナレーションを切っても仕方がない。ハードボイルドというのは常に一人称で行う物だ。 「……ったく、ほんとにしょうがねえな」 俺は冷や汗混じりの顔を帽子の中の小さな闇に溶け込ませて、再びのハードボイルドモードに切り替えた。 これまで俺のハードボイルドの軌跡をたどってくれている人間は今更何度もおさらいしなくてもわかる通り、俺は私立探偵・左翔太郎だ。相棒はフィリップ。つい先ほど主催陣営、サラマンダー男爵の手によって、エクストリームメモリやファングメモリと共に相棒の身柄が開放された。ここに来てまだ一日というのに、久方の再会のようだった。 昨日までの俺を見て、今日の俺を知らない人間にとって、見慣れないのは、この俺の隣にいる佐倉杏子。こいつもまあ、この二十二時間の俺の奮闘を見ている人間にとっては、もう説明しなくてもわかってもらえるだろう。 うちの所長と同じくらいの背丈と顔立ちの幼さだ。所謂、女子中学生──最近の若者の言葉を借りればJC。そう、何でもアルファベット二文字で略すのが一番いい。セルフナレーションを略すならば、SNが一番いいだろう。できればそう略してもらいたかったところだ。 そんな俺たちの前には、もう警察署の入り口がある。それだけ説明すれば良いものをわざわざこれだけ時間を費やして説明するからには理由がある。……そう、その方がハードボイルドだからだ。 警察署というのは、俺たち探偵にとっても縁の深い場所だ。フィリップ・マーロウ然り、工藤俊作然り、どういうわけかハードボイルドな探偵というのは、年に四、五回ほど警察の世話になる。プロになると隔週で誤認逮捕されるらしい。俺も見習いたいものだ。警察につっかかられる事はあっても、そう毎週逮捕される事もない。早く照井も俺を誤認逮捕しに……おっと、いけねえ。 ……とにかく、そんなハードボイルドのメッカ・「警察署」に、今日一日で三度目の立ち入りになる。これはもう、俺が完成されたハードボイルドである決定的証拠であると言っていいだろう。 この警察署の中では現在も俺たちの仲間がチームを築いているはずだ。 そこにいる人間の名前を順に報告しよう。 蒼乃美希、高町ヴィヴィオ、孤門一輝、冴島鋼牙、沖一也。彼らもまた説明不要だ。この中では俺が一番ハードボイルドであろう事は間違いない事実だろう。俺しかハードボイルドを目指している人間はいないのだから、自ずと俺が最ハードボイルドになる寸法だ。 「……さて、翔太郎。いまだに続いているきみの自己満足的な導入は終わったかい?」 相棒がそんな俺に声をかける。 「今いいとこなんだ」 「悪いけど、終えてくれないか。……これ以上、警察署に入るだけのために余計な前振りをしても仕方がないしね」 相棒は俺に冷たい言葉を返した。 「……ったく、こっちもしょうがねえな」 俺の気持ちの良いハードボイルドはそこで終わりを告げ、俺たちは警察署内に入る事になった。 □ 警察署の入り口では、俺たちを迎えるように年の差アベックが立っていた。 そう、沖一也と、蒼乃美希だ。二人はさほど疲れた様子もなく、来るのを待っていたとばかりにそこに立っていた。 警察署を抜け出した杏子を探すのではなく、待っていたのだ。ここに帰ってくるという自信でもあったのだろうか。──まあ、私立探偵である俺はこういう勘は利く。家出娘っていうのは、だいたいの場合において、すぐに帰ってくるのだ。 杏子も例外ではなかった、という話。彼らもそれに勘付いていたのだろうか。……とはいえ、実際この状況で人がいなくなっても「家出娘だから放っておけ」と言えるだろうか。 「おい、なんだよお前……」 「待ってたのよ。この書置きを見て」 追わない、という彼女の選択は結果的には間違ってはいなかっただろう。 しかし、それはあくまで結果の話だ。もし、本当に杏子を探したいのであれば、自分の足で探しに行くのが普通だろう。ましてや、この状況だ。 何故、美希たちはそれをせず、こんな玄関口で息を切らす事もなく待っていたのだろう。 「……翔太郎くん、君も帰って来たのか。……いつきちゃんは? それに、その少年は……」 沖さんが、開口一番に訊かれたくない事を訊いて来た。俺が訊きたい事よりも、相手が訊きたい事を先に訊かれた。俺はフィリップの方を少し見た。フィリップは、そのままの表情で俺を促した。 ……そう、警察署に入ったなら、まず、俺はそこにいる仲間に伝えなければならない。 この場にいる人間の中では、俺とフィリップと杏子だけしか知らないその事実を。これからまだまだ降りかかる残酷な真実の、その一握りを、まずは、俺自身の口から告げなければならない。ここにいる誰も知らないフィリップという男を紹介するよりも、マッハキャリバーという仲間を紹介するよりも、まずは、もうどこにもいない少女の事を伝えなければ、けじめがつかない。 「あ……あぁ……。明堂院いつきは……亡くなった」 俺の唇は、目の前の二人にそう伝えた。 美希の手から、杏子の帰還を喜ぶような表情が消えた。沖さんが、思わずデイパックを地面に落とした。このタイミングで向こうから階段を下りて走ってくる孤門一輝と、高町ヴィヴィオも緩やかに足を止めた。呆けたような顔、衝撃を受けたような表情──その視線が俺に注がれる、俺に突き刺さる。 誰もが、俺はいつきと帰還するのだろうと想像していただろう。その予想を裏切る形になった。俺は帽子を外したまま、ただ詫びる言葉も出ないままに頭を垂れた。その一連の事件は、俺の責任であり、俺の罪だった。 たとえば、蒼乃美希がここに来るのを俺が引き換えさせなければ、味方の戦力が増えて、いつきは助かったかもしれない。 たとえば、俺がいつきをあの場に連れていかなければいつきは助かったかもしれない。 たとえば、あの時身を投げ出したのが俺だったなら、いつきは死ななかっただろう。 いくつかの判断は、俺の誤りだった。 「……そうか」 沖さんが、突然の報告にどう返していいのかわからないように、そう答えた。俺も何から伝えればいいのかがわからなかった。 「すまねえ……」 俺の口から出るのは、本当にそれだけだった。 沖さんは、それでも俺を責める事なく、悲しみを堪えて言った。 「詳しい話は、中で聞こう」 その言葉に誘導されるように、俺たちは、暗い表情で歩き出した。この葬式のような行列。慶弔するという意味では、もはや葬式とは区別がなかった。 階段を上るときも、誰も何も言おうとはしなかった。 □ 脇目を振る。会議室にはマットが敷かれている。寝具として利用しているらしい。 このマットには、おそらくいつきの寝る場所も確保されていただろう。そのスペースは、もう必要ないものになってしまった。とうに死んでしまった者のために、彼らは準備をしていた。その思いやりが、彼女の生存を疑いもしなかった彼らの心情を伝えているようで、辛かった。 誰もが待っていた少女を、俺は守る事ができなかったのだ。信頼を裏切る結果になった。 俺たちの姿が警察署の窓から見えた時、足りない誰かがいる事を、誰も不安に思わなかったに違ない。きっと、ただ別行動をしているだけだろうと、そう思っただろう。 だから、孤門たちは返す言葉をすぐには出せなかった。俺は、ずっと用意しようとしていても、何から話せばいいのかわからなかった。 「彼女を殺害したのは、ゴ・ガドル・バだ」 フィリップが、そんな俺よりも少しばかり冷静に、ただ、少し気に病んだ様子が感じられるトーンで、そっと言った。 「……ちょっと待って。きみは? その声、聞き覚えがあるけど……」 孤門が、フィリップを見て訊いた。殆どの人間の顔の上には、「この男が誰だかわからない」と言った疑問の色が浮かんでいる。フィリップが自己紹介を忘れるというのは珍しい。言いながらも、孤門はその正体に薄々勘付いたようだ。他もそうだろうか。いずれにせよ、フィリップはちゃんと自己紹介をする事にした 「ごめん。名乗り遅れていたね。僕はフィリップ。ベルト越しで何度も会っていたとはいえ、直接会うのは初めてだ。君たちの紹介はいらないよ。僕はもう君たちの顔と名前を知っている。……そう、僕も翔太郎の制限の解除によって、ようやくこの場に開放されたんだ。……残念ながら、首輪つきだけど」 フィリップは、己の首元の金具を鬱陶しそうに触りながら、自分の立場を簡潔に説明した。殺し合いに巻き込まれるまでが遅かった分、俺たちよりも客観的に、冷静に、機械的に、言葉を舌に滑らせるように話せるのは、こいつの良いところでもある。 フィリップが名乗り遅れたのは、おそらくフィリップ自身に、あまり初対面という自覚がなかったからだろう。 「そうか……君が」 沖さんがフィリップの顔を見て、妙な関心を浮かべた。声だけしか聞こえなかった存在の表情や体格を見た、この違和感。誰もがその感覚を持っていると思う。アニメーションの声優なんかが身近だろうか。 ここにいる人間は、どんなフィリップ像を想像していたかはわからない。その美男子像を裏切ったか、裏切っていないかもわからない。俺が言うのも何だが、フィリップはなかなかの美男子でもある。俺の推測では、裏切られたと感じる者はあまりいないだろう。 「よろしく。アナザー仮面ライダー。それに君たちも。こうして会えて光栄だ。……とにかく、これまでのいきさつは翔太郎に代わって、僕が全て話す。君たちの耳が受け入れる限り聞いていてくれ」 フィリップは、聞かなくてもいい、という前置きだったをした。それは一つの優しさだった。しかし、聞かない者はいなかった。 「あの轟音の向こうには花咲つぼみ、響良牙、それからダークプリキュアもいた。明堂院いつきも一度は彼女たちと合流する事ができたんだ。……ただ、それで僕たちの足は止まった。彼女も状況確認だけでなく、そこで足を止めて、ダークプリキュアと戦う必要ができてしまった。……それでも、明堂院いつきは、凄い子だと思う。信じられないかもしれないけど、ダークプリキュアは、彼女のお陰で生まれ変わり、今は全く別の名前になった。驚く人がいるだろうから、その名前を伝えるのは、今はやめておこう」 フィリップの語り口調は、冷静でありながら、どこか脇道にそれがちでもあった。要旨だけを伝えるような口ぶりではなかった。フィリップ自身も、そうしなければ落ち着かないのだ。 「彼女は、ダークプリキュアの心を正し、彼女と和解する事に成功した。……ただ、そこに悪魔が現れてしまったんだ。それが、ゴ・ガドル・バだ。彼は僕たちの前に姿を現した時、既に一条薫を殺害していた……。そして、明堂院いつきは、大事な友達を庇うために身を投げ出して、ガドルに…………」 そこから先は、フィリップも言う事はなかった。 「それが全てだ」 俺たちが交戦していた事は、途中まで一緒にいた美希も、そこに向かっていたはずの鋼牙も知らない。自分たちがそこから少しでも前に踏み出せば、その少女の遺体と顔を合わせる事になったかもしれないと、あるいは、自分自身がそうなっていたかもしれないと、そんな現実をどう思っているのだろうか。 「すまねえ……。俺たちは、また……守れなかった」 俺はまだ、ちゃんと顔を上げる事ができなかった。 「……あまり気に病むな。顔を上げるんだ」 沖さんが言う。 俺は、どう言われても、いまヴィヴィオの方に目をやる事だけはできなかった。フェイトもユーノも霧彦も、俺は守れなかった。それに加えて、いつきも守る事ができなかった。ヴィヴィオと親しかった人間がまたいなくなった。俺が駆けつける余地があった状況でこれだけヴィヴィオの大切な人を喪っているのだ。 彼女にどんな声をかけていいのか。 謝るべき、なのだろうか。 『Vivio?』 そんな俺の心中よりも先に、「彼女」が口を開いた。マッハキャリバーだ。 俺は、ばつが悪そうな顔をしながらヴィヴィオの方を向く。ヴィヴィオもショックを受けているようだったが、その一声には反応せざるを得なかったようだ。 「誰?」 『I’m Mach Caliber』 「マッハキャリバー!?」 ヴィヴィオは、それもまた信じられないといった様子で俺の方を見た。俺は、そこに俺を責める色は感じられない事にどこか安心しながら、青い宝石を取り出した。マッハキャリバーは、俺の手からヴィヴィオの手へと渡される。 かける言葉は見当たらないのに、手と手が触れ合うというのは不思議な感覚だった。 『You grow up so quickly(随分大きくなりましたね)』 「ええーっ!? もしかして……私が知るよりも前の……?」 『It was surprised me(私も驚いています)』 ヴィヴィオの飲み込みは早い。自分より前の時系列の存在と会うのは、これが初めてだろうか。しかし、アインハルトがなのはと会った事も彼女は知っている。直接的ではないが、間接的なデータなら幾つか入手済だ(ヴィヴィオの時代にはとっくにインテリジェントデバイスは浮遊して自律移動する機能が備わっているが、このマッハキャリバーにはまだその機能はなかったのも、彼女がマッハキャリバーを過去のマッハキャリバーだと認識できた理由の一つだろう)。 『Who are you?(あなたは?)』 「(シュビッ! シュバッ! シュババババババ)」←なのってはいるが、つたわらなくてあせっている マッハキャリバーは、自分と同じく言語を話すデバイスだと思って、クリスに問うた。 しかし、とうのクリスは非常にあせった様子で答えている。言語を話さないデバイスの難点だ。ヴィヴィオが簡易的に通訳する事になった。本当なら、マッハキャリバーもデバイス同士で心を通じ合う事をできるかもしれないが、ヴィヴィオが話すのが確実だった。 「この子は、クリス……本当の名前はセイクリッド・ハートって言います」 「(コクコク)」←うなずく 『……』 「な、仲良くしてね……って」 マッハキャリバーも絶句する。流石に、うさぎのぬいぐるみの姿をした変身アイテムが存在するなんて思わなかったのか。 『……OK』 マッハキャリバーの戸惑いに満ちた返事が聞こえた。それは機械的とは言えない。戸惑っている様子がはっきりと伝わって来た。 『Vivio , Your mother was……』 マッハキャリバーが辛そうに口を開いた。 彼女が何を言おうとしているのかはわかっている。俺も、ヴィヴィオもだ。 「……わかってるよ、マッハキャリバー。全部みんなから聞いたから」 マッハキャリバーが告げたい事実については、全てヴィヴィオが知っている。 アインハルト、いつき、沖のようにその場にいた人間たちから全て聞いているのだ。 『……You don’t know everything(あなたは全てを知っているわけではありません)』 「うん。でも、本当の全部は後で聞くよ……。今はお礼を言わなきゃ」 ヴィヴィオはマッハキャリバーにそう言って、俺の方を見た。 「あの……翔太郎さん。マッハキャリバーを見つけてくれて、ありがとうございます」 ヴィヴィオが俺に声をかける。俺は下を向いて顔を隠していたが、咄嗟にヴィヴィオに目を向けた。俺の両目に、緑と赤のオッドアイが映った。 そこには、大きな悲しみを乗り越えた──いや、大きな悲しみを受け取る隙を持たなかった少女の明るさが散漫していた。それは決して悪い事ではない。いつきの死を悲しんでいないわけでもないだろう。 俺に気を使っているのか。こんな成人の半分しか生きていないような女の子が、俺に──そう思うと、俺の情けなさばかりが際立つ。 「マッハキャリバーを見つけたのは、響良牙だ。……俺じゃない」 「でも、その人から受け取って、ここまで届けてくれたのなら……それで充分だと思います。私をまた、大切な人の相棒に出会わせてくれた。それは、左翔太郎さん、あなたです」 俺は、その時、やはり俺はハードボイルドではないと気づいた。 十歳の少女の慰めに涙を流しそうになるハードボイルドが、この世の中にいるだろうか。俺の手が、まだこんなにも無力で、俺の想いが、救う事ができない命があると、──それがまた、目の奥に涙を持ってこさせた。 俺を責めてもおかしくない少女が、必死に堪えている。 それなのに俺は何もできない。これからも俺は誰かを救うために戦う。それでも、……その過程で失った命が、俺の胸を刺す。 目の前にいるのは、俺が救えなかった命の片割れだ。 「あ、あの……翔太郎さん?」 「……いや、ありがとう、ありがとよ、ヴィヴィオ……。俺も……頑張らなきゃな」 この夜は、そう──。俺たちが救えなかった命を、俺たちが見送ってしまったような死を、思い出させるような厳しい風が吹いた。 俺は涙を流す事はなかったが、帽子が小さな闇を作った時、一瞬だけ何かが頬を伝った。 □ 俺は、真夜中の街を見下ろしながら、風を感じていた。 本当に、この街は偽りの街だ。外の建物には灯りがない。等間隔な街灯と、夜空の星々だけが照明の役割を担っている。星の灯さえかき消してしまうような人々の生活が、この街からは感じられなかった。 俺はこの街のために命を捨てる事はできない。しかし、俺はこの街を守る事ができる。 この街は、人を包んではいないが、俺たちに確かな出会いを齎した。悲劇も齎した。友も齎した。この街がくれた物のぶんだけ、街を守るのも悪くはない。 話すべき悲劇は、まだそこにある。 「……杏子、この書置きについてだけど、訊いていいかしら?」 そう、厄介な事に、杏子がこの警察署に残してくれた余計な書置きだ。 美希が最初に、その書置きについて触れた。俺も先ほど、その皺だらけの紙を見せてもらったが、それは、粗雑な消し痕だらけで、説明不足な置手紙だった。到底、他人に見せる事を意識した手紙とは思えない。しかし、それほど、いっぱいいっぱいな人間もいる。 俺は、街を眺めるのをやめて、美希の方を見た。美希の視線の先には杏子の姿があった。ごく真剣な表情で、杏子を見つめていた。 「なぁ、先に訊いていいか? ……あんたたちは、あたしたちを警察署の前で待ってたけど、なんで戻ってくると思ってたんだ? もし、翔太郎の兄ちゃんに会わなければ、あのままどっかに行くはずだったしな……あたしが戻って来たのは、ほんの偶然なんだ。なんであんな余裕の表情で待っていられたんだ?」 杏子が、そう訊き返した。先に事情を話すべきは明らかに杏子だが、俺はこの二人の会話に口を挟む事はなかった。どんなツッコミ所も、聞かないふりをして当人たちのペースで話させるのが一番良いと思った。 「……なんか質問が多いけど、まあいいわ。それじゃあ、私から答えるわ。……それは全部、沖さんのお陰よ」 美希は、杏子の事情を早く知りたいようだが、自分の事情を手短に話す自信があるのか、語り始めた。 ◇ ~回想~ 時間は、蒼乃美希が警察署の外に杏子の姿を探しに行ったところまで遡る。 美希は、もう体が覚えた出入口に向けての経路へと、走り出そうとしていた。 沖は、その背中を視認し、そんな美希に向けて手を伸ばしていた。 「待つんだ、美希ちゃん! 杏子ちゃんの居場所なら──」 そう、美希の背中に向けて、沖はそう叫んだ。 「──杏子ちゃんの居場所なら、俺のレーダーハンドを使えば、すぐに調べる事ができる!」 美希は、その言葉をかけられて、足をゆっくりと止めた。数歩だけ生まれた、微かなあそびとともに、美希は背後を振り向いた。 「……本当に?」 そう訊くと、沖は頷いた。 「本当だ。きみも居場所がわかっていないのなら、むやみに飛び出すべきじゃない」 諭すように沖がそう言った後も、美希は沖の方に近づく事はなかった。またいつでも杏子を探しに階段を下れるような準備をしていた。 「彼女はまだそう遠くへは行っていないはずだ。それなら、俺のレーダーハンドから発されるレーダーアイが彼女の姿を探し、確認する事ができる」 しかし、その準備も沖の前では無意味だ。レーダーハンドの使用範囲圏内は、完全に沖のテリトリーである。 誰かを探すのにはおあつらえ向きの力が沖の元にある。 それを使い、杏子が逃げた場所をあらかじめ知ったうえで、感知をしながらそこへ向かう事ができるはずだ。 「ニードルによって解放されたこの力……お見せしよう!」 沖は、美希と一定の距離があるのを確認したうえで、変身の構えを形作る。複雑な拳法の構えにたじろぎ、美希はその姿に近づかなかった。 沖は構えたまま、変身の呼吸を整える。 そして、その言葉を叫ぶ。 「変身!」 両腕を前に構え、ベルトを開く。──電子音が鳴り、沖一也は仮面ライダースーパー1へと変身した。変身の呼吸は完璧であった。 スーパー1はそのまま、息をつく間もなく、ファイブハンドを装着する。 「チェンジ、レーダーハンド!」 ベルトの腰にあるファイブハンドボックスは、金色の点滅を始めた。スーパー1が持つ五つの腕の一つ、レーダーハンド。レーダーハンドから発されるレーダーアイは、周囲10kmの様子を確認する事ができる。 杏子も、いくら何でもこの短時間で10km圏外に出る事はありえないだろうと考えられる。スーパー1の腕から発射されたレーダーアイは、窓の外へと出ていく。 「……待っていろ、すぐに彼女の居場所を探り出す」 それはプリキュアたちが持っているはずのない力。改造された人間でしかありえない力。 レーダーアイから送られる情報を、スーパー1の頭部のスーパー触角が感知する。 まだ、ただの街並みの光景しか映していない。レーダーアイは高速で動き、どこかで動いている物体を探り出す。 「……どうですか?」 「今探している……」 美希の問いかけに応えつつも、更にスーパー1は己の神経を鋭敏化した。 レーダーアイは高速で移動し、スーパー触角にもその情報が一瞬で送られてくる。 「ん……?」 スーパー1は、その途中で、一瞬だけ何か心配事があるかのように眉をひそめたが、すぐにまた探査を続けた。 「あっ!」 スーパー触角に送られた電波は、ヘッドシグナルからSアイへと映される。 そこには、佐倉杏子と、二人の男性の姿があった。──うち、片方は左翔太郎である。もう片方の男性は見覚えがないが、もしかすると一条薫や涼邑零といった仲間の男性である可能性もある。 とにかく、三人はこちらへ向かっているようだ。 「杏子ちゃんたちは、翔太郎くんたちとこちらへ向かっている。周囲には敵もいないようだ」 「翔太郎さんと……?」 「……その通りだ。安心していい。すぐに来るから迎えに行こう」 スーパー1は己の変身を解き、沖一也の姿へと戻った。 その顔には、さわやかな笑顔がある。沖は頷くと、美希とともに階段を下りていった。 ~回想おわり~ ◇ 「……というわけなの」 美希が、全ての説明を終えた。 「なるほど。……レーダーハンドか、興味深い」 俺の隣で、フィリップがまた知識欲を埋めようとする。 「……レーダーハンドはファイブハンドの一つ。金色の腕だ。ロケット型のレーダーアイを飛ばして、半径10km四方の情報を素早くキャッチする。レーダーアイから送られた情報はスーパー触角、ヘッドシグナルを通してスーパー1の中に情報を伝達する。レーダーアイは小型ミサイル弾にもなる。……確かに僕たちの力になるはずだ」 フィリップは、話を聞きながら『無限の本棚』の中に入って、既に『レーダーハンド』に関する資料を得ていたようだ。『仮面ライダースーパー1』のデータも獲得済。流石に仕事が早い。興味のある事はすぐに調べてくれる。 「『無限の本棚』も……確かな情報のようだな」 沖さんがフィリップの所蔵する本棚の情報量に唖然とする。感心しているというより、ただただ唖然といった様子である。沖さんも研究所や組織の人間だ。こうして機密情報を簡単に調べられるのは厄介な話に違いない。 とはいえ、もともと最重要機密のようなものを調べるにはロックがかかるので、そんなに心配しなくていいものだが。 俺とフィリップにとって心配なのは、レーダーハンドという強力な武装が増えた事が、また『主催戦』へと一歩駒を進めているような予感があったからだ。それは全て、俺たちの想い過ごしであってほしいものだが……。 「……本当に何でも調べる事ができるのか?」 孤門が横から訊いた。 「……地球の記憶にある限りは、おそらく。君たちの世界の事も調べられるはずだ」 「……それなら、僕からも一つだけ検索を頼んでいいかな?」 「構わないよ。……それで、キーワードは?」 孤門の問いかけにフィリップは応じて、美希や杏子もそちらに意識を集中させたようだ。少しだが、会話と会話の間に余裕ができる。その間に、杏子は適当な言い訳を考えるだろう。 孤門は、フィリップに調べさせたい単語を口にした。 「アンノウンハンド」 孤門の口から出たのは、孤門たちの世界を暗躍する、正体不明の敵の名前。 フィリップは、「わかった」と頷いて、『無限の本棚』にアクセスした。 「……さあ、検索を始めよう。キーワードは、『アンノウンハンド』」 それから、僅かな時と沈黙が流れた。フィリップは一見すると動かないが、既に検索を初めて、その無限の書庫から本を引き出している。 そういえば、ユーノも同じように、図書館で本を探り出していた。あれが俺とユーノとの出会いだった。 フィリップは、すぐに検索を終えて、意識を取り戻した。彼は、孤門の方を向き直す。 「……孤門一輝。アンノウンハンドに関する本は驚くほどに少ない。君たちの世界が情報の秘匿を行っていて、ごく一部の限られた人間しかその言葉を知らないせいもあるだろう。……そして、内容は殆ど削除されているのか、最初から白紙なのか、閲覧する事ができない。ミュージアムと違って、閲覧そのものは難しくないんだ……。でも、肝心の内容が無い。もしかすると、地球の記憶が削除されているのか、君たちの世界の本棚にアンノウンハンドが関わっているのか……」 フィリップは顎に右手を当てて考えている。右ひじに当てた左腕を摩りながら、検索ブロックがかかっている原因について少し考えていた。 園咲と違うのは、検索そのものは難しくない事。内容だけが全くの白紙となっている。 「……そうか。ありがとう、フィリップくん」 「いや、こちらこそお役に立てなくて申し訳ない限りだ。……これは推測だけど、もしかすると、君たちの地球の記憶そのものが、アンノウンハンドの正体を知らないのかもしれない。あるいは君たちの世界そのものが、その正体を完全に忘れ去っているのかも」 そう言われて、孤門には心当たりがあるように言った。孤門の目は見開いている。 「僕たちの世界にはメモリーポリスがいる……。記憶の削除を行える端末が存在するんだ」 「……その結果生まれたのが、地球の記憶さえも封じるトップシークレット、か。……今後も僕は必要と思った情報は全て調べるようにする。だから、何か手がかりがあったらお互いに情報を交換し合おう」 「わかった」 フィリップという存在に対して、全員の好意が集中する。 フィリップが持つ『無限の本棚』はかなり便利な存在だ。俺は相棒としてもフィリップを買っているが、その一方で『地球の本棚』の能力にも何度も助けられた。フィリップはそうして人々を助けているのだ。自分の力が誰かに必要とされる事を不愉快には思わないだろう。 ただ、、とにかく、孤門たちの世界の諸悪に関する資料は出てこなかった。出てこなかったとしても、次に訊かれるべき諸悪。それは、話の流れを考えればすぐにわかる話だった。 「……で、脱線したけど、魔女の正体って何なの?」 美希が話を戻す。このまま忘れてくれるわけにはいかなかった。 勿論、杏子も言い訳を考えただろう。魔女の正体を訊かれた時に、何と答えるべきか。 杏子は考えたうえで、他の仲間には嘘を突き通す事を考えたのだ。 嘘をつく。──それは、上手な人間と下手な人間に分かれる行為の一つだ。 杏子は自分自身に嘘をつき続けて生きてきた。下手なはずがない。どんな嘘が飛び込んでくるのか。俺はそれを少し楽しみに待った。 「あ、ああ……。そうだな。魔女の正体はな……」 書置きでは、「魔女の正体は魔法少女の」とまで書いてあった。 そこから先に繋がる言葉を考えてあるのだろう。 フィリップは、黙っている。彼は検索する事ができるが、ここから先はそういうわけにもいかない。隠しておく事実というのも存在する。フィリップもそれを理解しているのだろう。 現状、孤門たちは俺たちに隠し事する事ができないが、俺たちは他の全員に自在に隠し事ができる。……決して、それが有利な事実とは言いたくないが。 「魔女の正体は……」 杏子は、何度も同じ言葉を口にする。そこから先を言うのを躊躇している証だ。しかし、二度目の躊躇。杏子は息を飲んだ。ついでに言うなら、俺も少し息を飲んだ。 「魔女の正体は…………」 今の杏子は、嘘を吐く事に僅かの躊躇いがあるように見て取れた。 そして、三度目の躊躇の後に、杏子は言った。 「魔女の正体は、魔法少女のエネルギーから生み出された怪物なんだ!」 ……俺にもわかった。こいつは、嘘が下手だと。 「魔女は……わ、悪い奴らがあたしたちの戦っている時の力を利用して生み出したんだよ……。これまでのあたしたちの戦いで使ったエネルギーで、ここにも魔女が生まれちまうんだ」 不自然な笑みで誤魔化しながら、必死に嘘を作り出している。危ない橋を渡るかのような苦笑いなのかもしれない。自分自身が魔女になるという事実を秘匿しながらも、魔法少女のエネルギーの危険性を伝える為に、そして魔法少女たちの責任も果たす為に、杏子は嘘をついていた。 「エネルギーを生み出すのは、あたしたちのソウルジェムだろ? ……あれを砕けばさ、あたしは魔法少女じゃなくなるけど、魔女は生まれないから、それを書こうとしたんだ」 嘘に嘘を重ねる杏子の姿を、全員で黙って見つめていた。 沖さんが口を開いた。 「フィリップくん、本当かい?」 「……ああ、本当だ」 フィリップは、息を吐くように嘘をついたが、内心で呆れている様子が俺も聞き取れた。 確かにこれなら、魔法少女のエネルギーの危険性や、いざというときにソウルジェムを砕かなければならない事を、最も重い真実を隠しながら教えていく事ができた。 フィリップの同意が決定打だろうか。 「……わかったけど、それなら、もっと早く事情を教えてよ」 「悪い……。魔女を生み出していたのがあたしたちだったっていう事が……ちょっとショックでさ。思わず」 杏子の苦笑いは、乾いているようにも見えた。おそらくだが、この嘘を貫き通しても、仲間がソウルジェムを砕きに来る事はないだろう。いざという時にそれをしなければならないのは俺の役目だ。 俺は、その役目を果たせるかわからない。こうして、杏子の内面まで見つめながら行動を共にしているのだ。俺は、いざという時も躊躇いの味を忘れないだろう。 何はともあれ、騙され上手な俺の仲間たちには、悪戯な感謝を贈ろう。 □ おおよその事情を話した俺たちが次に来た場所は、警察署の屋上だった。屋上は冷えた空気が溢れていた。 「確かに消えているな……」 そこにあったはずの小奇麗なミステリーサークル──時空魔法陣は、完全に姿を消していた。俺の手に、孤門からデンデンセンサーが渡された。こいつはもうお役御免という事か。 どうやら、孤門とヴィヴィオが会議室で待機している間、デンデンセンサーの反応があったらしい。 それで、不審に思って、二人で屋上まで来ると、そこには「何もなかった」。あるはずのものがないという異常だけが、そこにあった。 「……一体、なんで時空魔法陣が消えたんだ?」 「レーダーハンドを用いても、誰かが来た様子はない。時間切れというわけでもなさそうだが……」 先ほど、また沖がレーダーハンドを使うために変身したが、周囲に誰か人の様子があるという事はなかった。 時空魔法陣が結んでいるのは二点のみ。最低でも誰かが使用するまで消えないと思っていたが、どうやらそういうわけではないらしい。 何らかの不都合、何らかの異常。それがこの時空魔法陣を消したのだろうか。 「もしかして、アインハルトさんや源太さんを……二人の命を奪った犯人が、まだ警察署に潜んでいたのかも」 と、誰かが言った。女性の声だ。ヴィヴィオだった。アインハルトの友人だった彼女は、それを口にするだけでも辛いはずだった。味方に一つの可能性を提示するためとはいえ、その言葉をひねり出すのにどんな心の葛藤があっただろう。俺たちはそうまでして出てきた言葉を否定しなければならなかった。 「……それは、……違うよ」 フィリップも、そう否定するのには抵抗があったのだろう。 「……僕たちはその犯人の告白を聞いた。二人を殺したのは、そして君を傷つけたのはダークプリキュアだ」 その場に戦慄が走る。言葉が出なくなる。隠していたわけではない。ただ、話すタイミングが少しばかりなかったのだ。 いずれにせよ、彼女はヴィヴィオの命を奪いかけ、大切な友達を喪わせた存在だ。その事実は変わらない。勿論、いつか言わなければならない話だった。 ただ、誰も納得していた。かつて、俺たちがその可能性を一度提示したせいもあるだろうか。 「彼女は確かに、許されない事をした。……彼女を受け入れるか、受け入れないかは……僕たちの判断だけではどうにもならない。大事な同行者、大事な友人を奪われた君たちが、彼女を恨むのなら……僕たちもここで彼女を突き放す選択肢を選ぶだろう」 感傷に流されない冷徹非情なハードボイルドが、フィリップの中にはあった。 確かに、月影なのはが今後、果たしてここに来て受け入れてもらえるのか否かは、今後の重要な課題の一つだ。突き放すという判断だって、決して間違いではない。 罪を憎んで人を憎まず──とはいっても、隣人を殺した罪を、どこまで許せるのか。 俺たちの前にいる杏子も、直接手を下していないとはいえ、それに近い事を繰り返してきた。彼女を受け入れられるのなら──と、俺は少し期待した。 「……まあ、その事は直接会わなければわからないと思う。だが、近いうちにその機会は訪れるだろう。彼女を受け入れれるのか、受け入れないのかは、その時に考えてくれればいい。今は彼女の事で悩むよりも、この時空魔法陣について考えようか」 それでもフィリップは、僅かな感傷──ハーフボイルドも持っていた。 問題は先送りになるが、実際、今考えたところでどうにもならない。今許せると告げても、いざ会ってみればその想いが壊れる事もある。 俺たちは、未来の話よりも、まずは目の前にあるそいつの話をする事にした。 「この時空魔法陣は、おそらく誰も使っていない。それなのに姿を消した。理由はわからない。……ただ、一つの目安があるとすれば、それはやはり、『制限の解放』だ」 デンデンセンサーの反応があったのは、だいたい三十分を少し過ぎたあたりらしい。 沖一也が制限の解除を終えたあたりとなると、やはりその前後が何かの目安だと考えられる。 「時空魔法陣を操れる奴の制限が解除されたっていう事か……?」 誰かが、時空魔法陣を操る力を持っている。そして、制限されていた力を解放し、時空魔法陣の行先を変えた──その可能性を、俺は考え、口にした。 「あくまで一つの可能性、か。……まあ、一番筋が通る説明だと思うけど」 「問題はそれが、敵か味方か……」 沖さんが、深刻な表情で付け加えた。勿論、味方であってほしいが、そうとは限らないのが無情の世の中だ。 この街は何度でもこんな不安を煽り、戸惑いを投げかける。 そしてまた、これも俺たちが考えてもどうにもならない問題だった。 「味方であってほしいですよね……」 争いの種はあってほしくない。しかし、争いの種を撒いている奴はどこにでもいる。 そういう奴が俺たちの前に突然現れては、大事な仲間を奪っていく。 俺たちが何より許せないのは、そういう奴らだ。 「……やめよう。このままここでそんな事を考えても仕方がない。考えるのは後だ。俺たちはここに確認に来ただけさ」 沖はそう言って、中に入るよう促した。この寒空の下にあまりいると風邪をひく。そんな状態で考えるのはもうやめようと、俺たちはすぐに考え至った。 俺たちは、またぞろぞろと会議室に戻る行列を作った。 □ 俺たちが会議室に戻ると、目の前で机が全部どかされた。机は端に追いやった。キャスターがついていると、どかしやすい。机は寝るのにも邪魔だったのだ。 そして、俺たちは、それでようやくその部屋にスペースを作り上げた。 ……が。 「はぁぁあっ!」 どういうわけか、俺の目の前のスペースは、寝具の置場ではなかった。マットさえもどかされた。俺たちが寝る為のスペースは、目の前で戦う二人の格闘家の手によって、踏みあらわされていた。 「!!」 大人の姿になった高町ヴィヴィオ(ストライクアーツ)と、その打ち込みを両腕で回避する沖一也(赤心少林拳)。俺たちの目の前で繰り広げられる迫力の一戦だ。 風呂に入る前に、少し、トレーニングをしているようだ。それ専用の部屋があるというのに、わざわざこの部屋でやるのはやめてほしいものだが、すぐに終えるという事で、こうして会議室が使われる事になった。 俺たちは全員、目を奪われるようにその様子を観戦していた。それぞれ、何でこんな物を見せられているのかという思いはない。それは、本当に、凄すぎたのだ。 「はぁっ!」 覇気を込めたヴィヴィオの攻撃を、沖一也は何なく両腕で防ぐ。まるで、敵の攻撃を予見しているかのように、敵の一撃一撃を吸収していた。風の流れを感じる。ヴィヴィオの腕が沖さんの体へと向けられた時、生じた風──それを、沖さんはまるで操るかのように自分の方へ引き寄せた。 螺旋の形の風を吸収し、沖さんが解き放つ。 「ふんッ」 ヴィヴィオがもともと、結構なダメージを受けていた事を踏まえたうえでも、沖さんの身のこなしは軽い。ヴィヴィオの攻撃を一切押し付けないようだ。 ヴィヴィオの息が切れ始めても、沖さんの息は安定したまま。汗もかいていない。沖さんは殆ど打ち込んではいないが、適格に、無駄のない動きで回避している。 「……くっ、はぁぁぁあっ!!」 ヴィヴィオが消耗しているのは、一撃でも喰らったからではない。一撃も当てられなかったからだ。沖さんも大人げない人間ではない。ヴィヴィオに遠慮をしているのか、打ち込む事がないのだ。それを遠慮して、「防御」と「回避」に徹している。 沖さんの余裕や優勢は、素人目にもはっきりとわかるものだった。 「なあ、フィリップ。沖さん、あれ手を抜いてるんじゃねえか」 俺は思わず、フィリップに小声で訊いた。 「そんな事ないと思うよ」 フィリップは、微かに笑みを浮かべながらそう言った。俺には、その笑みの意味がわからなかった。 「はぁ……はぁ……はぁ……」 既にヴィヴィオも諦めたらしく、ファイティングポーズのまま、打ち込んでくる気配はなかった。俺たちは、それを無理もないと思った。 沖さんは、ヴィヴィオに一礼。ヴィヴィオは、疲れた体ながら、遅れて沖さんに一礼する。 最初からここで試合を終えるつもりだったのだろうか。スポーツのように、攻守両方に一定の信頼感が見られた。 「……ありがとう、ございました」 ヴィヴィオは、ようやく息と唾を飲み込んで、そう返した。 息切れは止まらない。沖さんは、そんなヴィヴィオの姿の前に、少し力を抜いた表情で返した。沖さんは、年長者としてヴィヴィオにアドバイスでも送ろうとしているのだろうか。 「……君の攻撃は確かに強い。基礎体力も気合も充分、伊達にストライクアーツをやってはいないようだ。……このまま鍛えれば、確かにトップクラスの格闘家となる事は間違いないよ」 「え……?」 沖さんの言葉に、ヴィヴィオは戸惑っているようだ。自分の完敗を感じたヴィヴィオは、沖さんからこうして至上の賛辞を受け取れるとは思わなかったのだろう。 一撃も当てられず、全て避けられたのが少しばかりきいたらしい。 「俺が使う梅花は、防御に徹し、相手の木を外へと誘う守りの拳だ。勿論、攻撃の基礎も覚えているが、……実はそれは君ほどじゃないんだ。かわす事はできても、君のような攻撃はできない」 沖さんは、そう言いながら、後ろ髪を掻いて自嘲気味に笑った。 「赤心少林拳には二つの流派がある。一つは『玄海流』、防御の型・梅花。一つは『黒沼流』、攻撃の方・桜花。……この人が修得したのは梅花だ」 フィリップはどうやら、赤心少林拳についても調査済だったらしい。おそらくは、ストライクアーツについても既に調べつくしてあるのだろう。 格闘の流派の話は、はっきり言えば俺にはわからない。ただ、少年漫画のような話に燃えてしまう心は、男の中にはいつまでも残る。正直、俺も結構ヒートアップしていた。 「明日の朝、簡単な基礎を君に伝授する。完璧に複製するのは……そう簡単な事ではないが、少しは身につくだろう。そして、何より……俺の拳と君の拳、二つを合わせた時、どんな技になるのか──少し楽しみになった」 格闘家として、同じ格闘家に共感を得ているのだろうか。 今の戦いで自分が認められた事を、ヴィヴィオは少し嬉しそうにしていた。 「無差別格闘早乙女流・早乙女乱馬、無差別格闘天道流・天道あかね、明堂院古武術・明堂院いつき、それにカイザーアーツ・アインハルト・ストラトス。……本当は彼らにも伝授したかったが……」 一方の、沖さんは、嬉しい一方で、少し残念そうな言葉を投げかけた。 とにかく、俺たちはその場をしばらく動けなかった。今の格闘の様子に驚き、動けなかったのだ。全員、ある程度の心得はあるが、そんなに強いものではなかった。 □ 時系列順で読む Back ラブのラブレター! 驚きの正体!?Next のら犬にさえなれない(後編) 投下順で読む Back Waiting for a GirlNext のら犬にさえなれない(後編) Back X、解放の刻/パンドーラーの箱 左翔太郎 Next のら犬にさえなれない(後編) Back X、解放の刻/パンドーラーの箱 フィリップ Next のら犬にさえなれない(後編) Back X、解放の刻/パンドーラーの箱 佐倉杏子 Next のら犬にさえなれない(後編) Back Waiting for a Girl 孤門一輝 Next のら犬にさえなれない(後編) Back Waiting for a Girl 蒼乃美希 Next のら犬にさえなれない(後編) Back Waiting for a Girl 沖一也 Next のら犬にさえなれない(後編) Back Waiting for a Girl 高町ヴィヴィオ Next のら犬にさえなれない(後編)
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へんしん【登録タグ peakedyellow へ 曲 歌愛ユキ】 作詞:peakedyellow 作曲:peakedyellow 編曲:peakedyellow 唄:歌愛ユキ 曲紹介 何かと疲れた。(作者コメより転載) 歌詞 ※ どうすればいいの? 息ができないの もう泳げない あたしにはもう時間がないの ぼやけて写る天井の模様 浅い眠りにゆらゆらゆれて 虚ろにテレビがざわつく 頭の中 砂がつまっているみたい 神様がくれたものなんて 気に入らないことばかりじゃないの 鏡が映し出している 冴えないモノ 変わる事なんかないわ ※くりかえし どうすればいいの? 何もできないの 見つからない あたしにはもう必要ないの? 昔話の人魚はもう 水を這うことさえできなくって 尾ひれを二つに引き裂いて 海の底で 血を失って死んでいる ひきつる笑みを浮かべては 額をじーっと見つめているの うそつきに罰を与えて あなたはなんでそんな顔でいられるの ※くりかえし もう泳げない あたしにはもう時間がないの どうすればいいの? 何が足りないの? もう手遅れよ 景色は腐って流れていくわ コメント 追加乙! -- 名無しさん (2014-04-12 19 41 27) 追加乙です ユキちゃんの声素晴らしい -- 名無しさん (2014-04-18 22 30 04) 素敵曲 -- 名無しさん (2016-10-12 02 42 44) 名前 コメント
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353 名前:ゲーム好き名無しさん[sage] 投稿日:2015/09/22(火) 20 10 20.31 ID pu7PnJyx0 あんまりだらだら書くような内容でも無いので簡潔に いわゆるライダー的なクラスを選んだPLが、「ぼくのかんがえた変身ポーズ」をやったんだが 勢いよく身振りをいきなりやるものだから裏拳気味に俺の顔面にHITして眼鏡ポーン 本人はそのまま変身ポーズをノリノリでやり切り で、何か言う事は無いのかと思ってたら「大丈夫ですか?」でも「すみません」でも無く「危ないですよ」 いやいきなりポーズ取り出すとかは全く思わなかったし、なぜ注意してからやらないで激突してから注意を? 混乱してる間も本人は「このポーズ考えた時、神だと思った」とか嬉しそうに言ってて、他のPLの方が心配してくれる有様だった 354 名前:ゲーム好き名無しさん[sage] 投稿日:2015/09/22(火) 20 24 36.41 ID vqgEMoDT0 [2/2] 353 なんか自己中とかそういうレベル超えちゃってるな 常識自体がインストールされてない感じ 人のいる所で暴れちゃいけないって躾されなかったのかな? 356 名前:ゲーム好き名無しさん[sage] 投稿日:2015/09/22(火) 20 57 15.46 ID w/MEAMKT0 自己中っていうか…うん、集団行動できない系だろ 357 名前:ゲーム好き名無しさん[sage] 投稿日:2015/09/22(火) 21 35 39.26 ID 7p1Timwz0 危ないですよとか言っただけマシじゃないかな… ひどいのになると「そこにいるお前が悪い」とか【避けられない方が悪い」とか言いだしそうだし 358 名前:ゲーム好き名無しさん[sage] 投稿日:2015/09/22(火) 21 38 19.41 ID YinhKat30 [2/3] 353 いるなー、そういうやつ。 本人の為にも、滅茶苦茶痛い目みた方がいい。 それで矯正した例を目撃した事はないが。 359 名前:ゲーム好き名無しさん[sage] 投稿日:2015/09/22(火) 21 43 30.59 ID DFErkrCf0 358 「理不尽だ!」って言うだけよ なんで叱られたか理解しないのよね 理不尽だって叫んで出て行ってくれるならそれでもいいか 360 名前:ゲーム好き名無しさん[sage] 投稿日:2015/09/22(火) 21 49 20.26 ID MEidtBwY0 353 危ないのはどっちだ 369 名前:ゲーム好き名無しさん[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 08 34 13.98 ID uQ8pRJru0 357 というかこの場合の「危ないですよ」は 「(そんなところにいたら)危ないですよ」であって、終わってから言ってる以上 「なんでそんなところに居るんですかもー。しょうがないなぁ」みたいに取られても全然不思議ではないと思うが マシか? 実質同じこと言ってないか? 370 名前:ゲーム好き名無しさん[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 09 18 45.41 ID F9onUPVs0 みんな「危ないですよ」について言っているけど 勢いよく身振りをいきなりやるものだから裏拳気味に俺の顔面にHITして眼鏡ポーン 本人は そ の ま ま 変身ポーズをノリノリでやり切り そのままって事は、 353に裏拳が当たった事を気に止めないで変身ポーズを続けたって事だよな これもクズ度が高いと思う 371 名前:ゲーム好き名無しさん[sage] 投稿日:2015/09/23(水) 09 20 03.29 ID j6kxEVAs0 370 言わなくても分かってるから言わないだけだろ スレ424
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奈落の花 ◆gry038wOvE 月影ゆりは、己の持つ限りの知識を利用して考える。 どうすればこの状況を脱することができるのかを────どうすれば、この10年のブランクを消し去ることができるのかを、ただひたすらに。 だが、人体を幼児化させる技術など知らないし、やはり対処のしようがないのだ。 そうなった以上、もはや体を直すことに使う知力はなかった。 ────食べるとヒーローになれるかもしれない その一文は、全くの出鱈目だったということに、彼女は強い後悔を覚える。 そう、あれは出鱈目。────何故、自分はそんなことに騙されてあれを食してしまったのだろう。 あの戦いからの全てが、強い後悔にまみれていた。 変身道具を失った挙句に、元の体まで弱体化してしまった。────彼女は本来、生身でも充分に戦えるほどの戦闘能力を有したプリキュアだったが、流石にこうなってしまってはどうすることもできない。 主催者の説明が、出鱈目…………? ゆりは、はっとその事に気づく。ヒーローになれるなどという説明書きは、まったくの出鱈目だったのである。 この説明書はおそらく主催者が用意したものだし、それが出鱈目であるということは、主催者の発言は真実でない場合も多々あると────。 それなら死者は生き返るということも、出鱈目なのだろうか? 本来、嘘ばかりついている人間が信頼されることなどない。そうなっては殺し合いも円滑には進まないだろうとゆりは思っていた。 そう思ったからこそ信頼していた部分はあったし、だからえりかを殺した。そう、殺した。 だが、闇の種については嘘だったし、大道克己にも死者蘇生に関しての疑問点を知らされていたから、その可能性もありえるのではないかと思い始めていた。 そう、僅かであった不信も、ここで確信へと変わったのである。 (どうして、私は、いつもこんなに、不幸ばかり…………) 彼女の半生は、思えば不幸が重なってできていたような気がする。 どうあっても、神は幸福を与えなかった。いや、幸福自体はかつて確かに、ゆりの日常を支えてきたが、それは刹那的なもので、失ってからはドン底だった。 妖精も、父も、妹も、人生も奪われてきた。 そして、友達の命を自分自身の手で奪ってしまった────その事さえ、騙された結果の出来事だという可能性もありうる。 かつて、その真実を知らずに実の妹を実質的に手に掛けてしまったことを思い出す。 自分はその時と同じようなことを、また繰り返してしまったのだろうか。 (でも、やってしまった以上は、今更後には退けないの…………) 小学校に上がりたてくらいにしか見えない少女は、純粋無垢さの欠片もない思考を頭の中に走らせた。 えりかを殺してしまった以上、その出来事を無駄にはできない。このまま元のゆりに戻るなどということは、えりかに対する冒涜ともなりうる。 退く術など既にどこにもないのだ。 たとえ嘘であっても、父たちがNEVERとして蘇るのであっても、ゆりは加頭やサラマンダーの言うとおりに殺し合いを続け、その果てに生還と幸福を掴む可能性を追い続けるしかない。 そう、「嘘でない」という可能性が1パーセントでも残っているのなら、それを追い続ける以外の道は断たれているのだ。このまま、ここで加頭たちを信頼せずに進む道もあるが、それは結局立ち止まることでしかない。 ここで方針を変えたとしても、墜ちに墜ちた自分を、救うことにはならない。 第一、彼らが万が一にでも、本当のことを言っているとしたら…………その時はその時で、ゆりの改心は無駄となってしまう。 ────そうなれば、えりかを殺したことを完全に無駄にしてしまうのではないか。 せめて、彼女の命を吸って生きながらえたことも、何か意味を持たせねばなるまい。 そうだ。主催者が嘘を言っていないという可能性は少なからずありえる。 たとえば、闇の種の説明書きには、「かもしれない」という曖昧な表現が使われていた。断定はされていない。 あれがもし、…………そう、「闇の種は人間を選ぶ」という意味であったら……? たとえるなら、あれは男性限定だとか、何らかの条件を満たした人間限定だとか、完全に運によるものだとか……そういう可能性もありうる。 ゆりの体はあくまで闇の種に拒否反応を示され、その結果としてゆりは小学生になった、ということになる。 まあ、これはあくまで一つの考え方であって、別の理由でこうなったのかもしれない。 何にせよ、あれが100パーセント嘘であったという保証はない。 (とにかく、このまま勝ち残って試してみるしか方法はない……) 万が一、殺し合いで勝ち残ったとして、その結果、ゆりが加頭たちの前に立ったとしたら、その時ゆりは殺されるだろうな、と思う。 それならば、それでいい。────加頭の戯言に騙されて友達を殺した人間として、そのままずっと生きていくよりは、きっと死んだほうがマシなのだから。 だが、今この時は乗り越えるしかない。 主催陣を信頼はしていないが、後戻りはできない。そう、殺してしまった以上は絶対に。あの瞬間から、ゆりは主催者の言葉に従順な人間になったも同じだ。 これからも、彼らに1パーセントの信頼を寄せ、戦っていくのみ。それは変わらない。 (ただ、この姿じゃ満足に敵と戦うこともできないわ) 何度も言うが、彼女は今、7歳である。力はない。下手をすれば、現状最も弱い立場にある。ネコ一匹殺せないかもしれない。 更に付け加えれば武器もない。強いて言えば、バードメモリだけだ。それを使ったところで、7歳ではたかが知れている。そもそも、使えるのだろうか。体がこんな状態だというのに。 そのうえ、デイパックも重いし、服は結局ブレザーを羽織って裸体を隠す形になってしまっている。体全体がほっこりブレザー一着に包まれた今では、自分の成長がどれほどだったのかということが如実にわかった。 腕は袖から出ない。ゆえに、格闘も無理。 かといって、流石に全裸で歩き回るわけにもいかない。その方が動きやすいとはいえ、精神面で17歳の少女である彼女は、その方法に抵抗した。制服・下着類はデイパックの中に入れたが、そうすると今度はデイパックまで重く、持つのが辛い。ランドセルなどとは重みが全然違うのだ。 やむを得ず、デイパックも引きずる形になってしまう。 (少なくとも、積極的に参加者を殺しまわるなんてことはできないわ。誰か、協力者を捜さないと……) 協力者と言っても、殺し合いに乗っている者のことではない。むしろ、逆だ。つぼみやいつきのような人間を捜したい。 騙し通して、代わりに戦ってくれる相手が欲しい。その相手には、極力、口数の少ない純粋な7歳児としてふるまっていくべきだろう。 この近くに、誰かいないだろうか。 今は、来た道を戻れば大道に捕り殺されるかもしれないので、今まで来た道は戻れない。 すると、なるべく先ほどの場所から離れつつ、ランダムに移動して逃走し、うまい具合に誰かと合流したい。 この殺し合いを打ち破る側の人間たちと──── そして、守られて守られて守られて…………その挙句に、恩を仇で返す。つまり殺す。 おそらく成功率は低く、どうしようもない作戦だろう。えりかに対して行った行動を、今度は長期的に行わなければならない。 まず、この付近にそういう人間がいるかどうかだ。大道やダークプリキュアなどという悪人たちと合流してしまう可能性は高い。 それから、仮につぼみたちのように戦力をもった善人と会ったとして、勝ち進めるかどうかも問題となる。 つぼみたちも確かに成長はしたが、ダークプリキュアにも及ばない。言ってみれば「ゆり以下の強さ」しか持ってはいなかった。そんな彼女たちでは、幸先不安である。第一、この姿になった理由を色々説明するのも面倒だ。 では、より強い力を持った善人を捜すか。 相手が善人ならば、子供の姿は油断させるのに有利だろう。人を殺すほどの勇気を持ち合わせないのだから。そのうえ、子供好きである可能性もある。 いや、そもそもだ。女の子が相手ならば、ゆりだって躊躇する。ゆりと同様の理由で殺し合いに乗った人間ならば、おそらくゆりを殺しはしないだろうと思われる。その点だけはアドバンテージだ。 少なからず良心が残っているならば、ゆりを殺しはしないだろう。 そうして、なんとか綺麗に生き残っていって、なんとか善人に巡り合えればいいのだが…………。 (ただ、そんな人がいて、エターナルやダークプリキュアに勝るほど強いという保証もない……) だが、やはり計画そのものに無理が大きい。 その善人たちが何人ものグループになったら、今度は彼らを殺すことにも問題が生じる。一人殺した時点で、次の一人は警戒し、下手をすればゆりに反逆する。そこにいる人間を全員殺すのは、おそらく不可能……。 殺し合いに乗っていない者ならば、そのように徒党を組む可能性の方が絶対に高い。彼らとて殺し合いに乗ってる者に対抗する必要はあるだろうし、さらに積極的な人間ならば、主催者を倒すために集めるかもしれない。 これまでも、ゆりは灯台から二人の男女を見ているし、殺し合いに乗らない人間は何人かのグループを作る可能性がとても高いのである。 そうなれば、行動はしにくくなる。 また、中にはゆりと同様の考え方の殺人者────言ってみるなら、陰に潜むステルスマーダー────がいることもありえるし、内部で錯乱や誤解が生じて殺しあってしまうこともある。 リスクは大きい。 つまるところ、この作戦を行うには無理がある。少なくとも、優勝することは絶対不可能だ。天文学的な可能性のうえでしか成り立たない。 (…………いや、でも) それと逆のパターンもありえる。その善人の徒党が、加頭たちを打ち破る可能性だ。 加頭やサラマンダーの居場所を突き止めることに成功し、首輪も解除され、彼らのアジトへ突入することだって、不可能とは言い切れない。 とにかく、ゆりは優勝にせよ何にせよ、目的が叶えばいいわけで、そのために加頭たちを倒すという手段もある。 それが成功すれば、えりかの復活だって望めるし、元の綺麗な世界に全てを戻しかえることだって可能だ。それは誰にとっても、これが最善の一手とも考えられる。 圧倒的な戦力を使えば、サラマンダー男爵を叩きのめす、或いは仲間に引き入れることだって可能かもしれないのだ。 だが、やはり首輪なるものがつけられていて、敵も結構な組織力を持っている以上は──── (可能性は薄そうね…………何にせよ元に戻る機会を捜すまでは、そういう可能性を持った相手と一緒に行動し続けた方がいいわ) このまま単独行動をするのは間違いなく危険だ。 殺すにせよ、殺さないにせよ、優勝を狙うにしろ、加頭たちの技術を奪うにしろ、ここでは「力ある善人と行動を共にする」というのが最良の決断であるというのは、彼女にもよくわかった。 一応、目安としては「元の体に戻るまで」だ。 何も、絶対に元に戻らないわけではないだろうと考えられる。何か手段があるはずだ。 闇の種を吐き出すというのは今更だから無理としても、完全に消化した後で変化をきたす可能性だってある。 (……この状況で生還できる可能性自体が、1パーセントも残ってないかもしれない) 元の体に戻る方法を知る者、殺し合いに乗っておらず高い戦闘能力を有す者、首輪を解除できる者など────必要なものは多種あった。 だが、月影ゆりという少女は決して、めげない。 たとえ1パーセントに満たない可能性であったとしても、それを追い続ける。 【1日目・朝】 【B-7/森林】 【月影ゆり@ハートキャッチプリキュア!】 [状態]:ダメージ(小)、疲労(大)、ガイアメモリによる精神汚染(微小)、7歳の肉体、命の闇の種を摂取 [装備]:T2バードメモリ@仮面ライダーW [道具]:基本支給品一式、細胞維持酵素×3@仮面ライダーW、グリーフシード@魔法少女まどか☆マギカ、歳の数茸×2(7cm、7cm)@らんま1/2 [思考] 基本:殺し合いに優勝して、月影博士とダークプリキュアとコロンとで母の下に帰る。 0:協力できる人間を探し、極力元の体に戻るまでは利用する。 1:ここからホテルを経由して村へ向かう(ただし、直線的でなくランダムに進み、大道を避ける) 2:つぼみやいつきであっても、積極的に殺す覚悟を失わない 3:もし、また余計な迷いが生まれたら、何度でも消し去る [備考] ※48話のサバーク博士死亡直後からの参戦です。 ※精神的な理由からプリキュアに変身してもその力を完全に引き出せません。 ※命の闇の種を摂取した事により、ザ・ブレイダーへの変身能力を得た可能性があります。 ※歳の数茸により肉体が7歳の状態になっています。但しゆり自身は命の闇の種の効果だと考えています。 時系列順で読む Back Gの咆哮/破壊の呼び声Next no more words 投下順で読む Back Gの咆哮/破壊の呼び声Next no more words Back Dの戦士/ゴキゲン鳥~crawler is crazy~ 月影ゆり Next 花咲く乙女(前編)
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no more words ◆7pf62HiyTE 【A.M.07 0X G-8 川】 本当ならば見つけたくはなかった―― 「乱馬さん……」 「あぁ……」 早乙女乱馬、高町ヴィヴィオは川を越えようとしていた―― だが、そこに『それ』を見つけてしまった―― 川に中学生ぐらいの少女が引っかかっていたのだ―― 保護すべく2人はその少女の元に駆け寄ったが、 「ちくしょう……」 そう口にする乱馬の表情は―― 「もう……死んでやがる……」 何処までも重々しかった―― 【A.M.06 4X G-8 中学校】 「ちょっと待て、何で俺がヴィヴィオを連れて中学校を出なきゃならねぇんだ!?」 乱馬が声を張り上げる理由、それは園咲霧彦がある提案をした事が切欠だった―― ――乱馬とヴィヴィオでこの中学校を離脱する―― なお、この提案には乱馬のみならずヴィヴィオ、そして山吹祈里も疑問を感じている。 「理由ならあるよ、まず……この学校は戦いになる可能性が高い事」 追求を想定していたのか霧彦は冷静にその問いに応える。 元々、何処で戦いが起こるかわからない性格上、絶対的な安全地帯など存在せず、この中学校も例外では無い。 無論、それを抜きにしても離脱すべき理由は存在する。 「乱馬君、さっき僕が炎に包まれた森に向かった時の事は覚えているね」 「確か霧彦やヴィヴィオを襲った白い奴が起こしたかも知れねぇ奴だろ?」 「私もあの森に行ったんだけど……誰もいなかったの」 先程、森が炎上した際に霧彦が現場に向かい、その後祈里も向かっていた。だが、祈里が向かった時には霧彦以外の人間はいなかった。 「いなかったことが何の関係があるんだよ?」 「いや……僕が行った時には複数の人間が戦っていた筈なんだ。声だけだから誰がいたかはわからないけど確実にあの場には複数の参加者がいたがいた」 そう説明する霧彦に対し、今度はヴィヴィオが反応する。 「それでどうしてこの場所が戦いになるんですか?」 「必ずしも戦いになるわけじゃないさ。でも、もしあの場所にいた連中が乗っていたならば次に狙うのは――」 その場所から比較的近くにあり参加者の集う可能性の高い中学校という事になる。 そして森の炎に白い怪物が関わっているなら、奴が襲撃してくる可能性が高いというわけだ。 「そいつが襲ってくる所までは良い……が、なんで俺がヴィヴィオと一緒に逃げなきゃならねぇんだ!」 「そうですよ! 私も一緒に戦います!」 だが、離脱しろと言われて素直にOK出来る様な乱馬でもヴィヴィオでもない。 「正直、ヴィヴィオちゃんが反対するとは思わなかったよ……」 乱馬はともかくヴィヴィオの反応は想定外だった故に霧彦も頭を抱える。 「どういうことですか!?」 だが、それを聞いて納得出来ないのがヴィヴィオだ。 「ヴィヴィオちゃん……ヴィヴィオちゃんの気持ちは分かるけど、これについては私も霧彦さんと同じ考え、乱馬君もそうでしょ?」 「ああ、腕折った奴を戦わせる趣味なんてねぇよ!」 無論、乱馬もそれについては同意だ。 「そう、だからこそ真っ先にヴィヴィオちゃんの安全を確保しなきゃならないんだ」 「霧彦さん、私の事なら……」 そう口にしようとするヴィヴィオだったが、 「いや……確かにそこまでは納得出来なくもねぇけどよぉ……俺を外す理由にはならないだろうが!」 乱馬の方が納得した。確かにヴィヴィオの現状を考えるなら待避した方が得策なのは理解できる。 だが、何故自分までも外されるのだろうか? それが乱馬には理解できていないのだ。 「君にとっては悔しい話だろうけど……残念だけど、君の力ではこの戦いは厳しい」 まず、さっきも話したけど、僕のナスカ――レベル1程度でやっと互角の君の実力ではレベル2、そしてそれ以上を相手にするのは厳しい。 恐らくあの加頭が持っているメモリはナスカ以上――他にもナスカ以上の相手がいる可能性が高い事を考えれば君の力では戦いにもならないよ」 「そんなのやってみなけりゃわからねぇだろうが、大体格闘と名がつきゃ負けねぇぜ」 霧彦は乱馬の戦闘力を分析し、彼の実力では厳しいと判断し以上を提案をした。だが、乱馬はその考えに納得いっていない様だ。 「それがルールのある格闘ならばね……だけど、これがそうではなく血で血を洗う殺し合いである以上はそういうわけにはいかない」 「それは……」 乱馬自身、格闘ならば負けは無いと考えていても、それは格闘と名がつけばの話、格闘というルールを逸脱し全く違うルールで戦い始めた場合はそれは全くアテにはならない。 とはいえ、乱馬自身厳しいとは考えていてもそれだけで戦力外通告されるのは正直心外だ。 「君とヴィヴィオちゃんを外す事については他にも理由があるよ。まず、乱馬君は友達や恋人を探す為に呪泉郷に向かうと言っていたね。ならば、危険の大きい市街地に留まるより早々に別の場所へ移動した方が得策だ。 それに……ヴィヴィオちゃんにしても友達……アインハルトちゃんを探したいんだよね?」 「はい、でもアインハルトさんだったら……」 「だけど、君のママ達に比べればずっと子供だ。だから最前線で戦っているだけだとは思えない――まず友達を探す事を最優先にすると思うけどどうかな?」 アインハルト・ストラトスの性格を考えるならばまず覇王流の強さを証明する為にも、殺し合いに乗った者達を撃退し他の参加者を守る事を考えるだろう。 だが、恐らく単身で戦うのは厳しい事に早い段階で気付く筈。 そうなれば――頼れる人物である(加えてヴィヴィオにとってママである)高町なのは達との合流や、友人である(それ以外の理由もあるかも知れないが)ヴィヴィオの保護を考える可能性が高い。 「はい……」 「だったら、単純に最前線で戦うだけじゃなく、後方で仲間達と合流して安心させるのも大事な仕事だと僕は思うよ」 「いや、ヴィヴィオについてはそれで良いとしてよ……俺は何で外されているんだ?」 だが、乱馬は未だに納得いっていないようだ。 「乱馬君、君の強さは実際に戦った僕と祈里ちゃんがよく理解しているけど……でも君じゃ正直厳しい」 「だからその理由を説明しろよ!!」 「君は女の子相手に本気で戦う事ができるかい?」 霧彦から飛び出してきたのは恐ろしい程の予想外の問いである。 そして、結論を述べよう――無理だ。 乱馬が特別な理由も何も無しに女の子に危害を加える事なんてまずあり得ない。 例えば、ある一定のルールが定まった格闘が頭についた勝負や武闘大会ならば女の子相手でも問題は無い。 また、それ以外にも割と女性相手に戦っている様に見えるが本気で殴り合いを行った事は基本的には無い。 例えば、闘気を吸い取る技八宝五円殺を使う二ノ宮ひな子を相手にした時は、彼女の闘気吸引体質解消のツボを押す事が乱馬の目的であった。 また天道あかねが着た伝説の道着を打ち破る為に腹部にある解体ボタンを全力で押す(つまりは殴る)必要があった際、一発でも殴られたら許せないと言われ理不尽と思いながらも躊躇した事もあった。 飛竜昇天破会得の為の特訓の際にも、完成した所で女に技をかけられるかと問われた際、乱馬自身出来ないと明言していた。 以上を踏まえて、乱馬が女性相手に本気の殴り合いを行うのはまず不可能。 先のキュアパインとの戦いの際も、乱馬自身は危険人物とは誤解していたがあくまでも直接的な攻撃は避け、ヴィヴィオと祈里の保護、そしてキュアパインの武器を奪う事による無力化に集中していた事からもおわかりだろう。 「君達の知り合いが殺し合いに乗っていないとしても、ガイアメモリに飲まれて暴走しないとは限らないし、僕の妻……冴子が乗っていた場合、乱馬君ではまず勝てない……説明していなかったけど、冴子は僕よりもずっと強敵だ」 実際、ドーパントの強大さは乱馬自身その身で理解した為、反論できないでいる。 もし、シャンプーやあかねがドーパントになって暴走した場合、止める為には全力で殴る必要がある――だが、伝説の道着の一件もありそれ自体容易ではないし、そういう事が出来る様な人間では無い。 「納得出来ないのはわかる。だけど……自分の目的を見失っちゃいけない。君の目的はドーパントや危険人物を倒す事じゃなく、友達を守る事だ。 こうして戦っている間にあかねちゃん達が誰かに襲われて殺されたくはないだろう?」 「それはそうだけどよ……」 完全に納得したわけではない、だが霧彦の言い分ももっともではある。 乱馬が数時間も中学校に留まったのは霧彦や祈里に頼まれた事が原因である。そうでなければ今頃は市街地の探索も終わり呪泉郷へ向けて移動していた頃だろう。 無論、ヴィヴィオ達が気がかりだった為、その選択自体は後悔していない。だが、もっと迅速に呪泉郷に向かっていれば(信じているわけではないが)シャンプーが殺される事も無く合流できていた可能性もあっただろう。 「霧彦と祈里だけで大丈夫なのかよ?」 故に、乱馬は霧彦の提案を受けることにした。だが残る2人で応戦できるのかという懸念もある。 霧彦の状態はマトモに戦えるものとは言いがたいし、幾らプリキュアの力が相当なものとはいえ祈里に全て任せるのは不安である。 「祈里ちゃんもいるわけだから僕も無理をするつもりはないよ。それに、僕達も後から君達を追いかけるから」 「大丈夫、霧彦さんは私に任せて、だからヴィヴィオちゃんの方は……」 2人からもそう言われた以上、乱馬としてもこれ以上反論するわけにはいかない。 後ろ髪を引かれる想いではあるが自身の目的も考えるとこの提案自体は悪いものではない。 「わかった、もしあかねや良牙を見つけたら頼むぜ。特に良牙は迷子になっている筈だから道案内してくれ、あいつ1人じゃ絶対に目的地に辿り着けねぇからな」 「その代わり乱馬君もラブちゃん達を見つけたらお願いね」 「霧彦さん、アインハルトさん見つけたら助けてあげて下さい」 「ああ、ヴィヴィオちゃんも仮面ライダー君に合流できる事を願っているよ……そうだ」 と、霧彦がデイパックから何かのボードらしきものを出した。 「さっき確認した時に見つけてね……これ、使えないかな?」 「なんだそのゴツ……」 そう口にする乱馬の一方、ヴィヴィオが違う反応を示す。 「それ……ウェンディの……」 ヴィヴィオによると、目の前のボードはウェンディ・ナカジマがかつて使っていた固有武装ライディングボードであった。 彼女は自身の先天固有技能ISを駆使する事でライディングボードを時には砲撃に、時には盾に、時には移動用に使用していた。 なお、量産を視野に入れたという説もあり、ウェンディ以外にも使用する事は可能である。 「こんな危なっかしいもん支給するなよな……」 物騒さは感じるものの有用な移動手段である事に違いはない。乱馬はライディングボードを受け取り移動を始めようとする。 「それじゃ、先に警察に行ってるからな、後から必ず来いよ」 「ちょっと待った、乱馬君……」 と、霧彦が他の2人には聞こえない様に耳打ちする。それに対し、 「霧彦……」 乱馬が何か言いたそうにしているがヴィヴィオが乱馬にしがみついた為それ以上口にする事はできない。 「さぁ、早く行くんだ」 「ああ……行くぞヴィヴィオ」 「はい!」 「気をつけてね」 かくして、乱馬とヴィヴィオを乗せたライディングボードは走り出した。その動きは速くすぐにその姿は小さくなっていった―― 「さてと……」 霧彦がこの提案をした理由。それは説明した通り襲撃者を警戒してのものだった。 この状況で戦えるのはナスカ・ドーパントに変身した霧彦とキュアパインに変身した祈里だけ、乱馬の実力は知ってはいるがドーパント相手では分が悪い事を霧彦も祈里も理解していたし、負傷に加えまだ子供であるヴィヴィオを戦わせるつもりなどなかった。 更に2人(祈里視点では霧彦も含まれるので3人)を守りながら戦いきるのも正直厳しいと感じていた。それを踏まえればこのまま4人が固まるのは得策とは言えない。 だからこそ乱馬とヴィヴィオを待避させる提案をしたのだ。移動に集中するならば乱馬でも十分やれるという判断でだ。 元々、乱馬は呪泉郷に向かい仲間との合流する事が目的である為、乱馬を行かせる事は悪い選択では無い。 またヴィヴィオも友人との合流が目的だったので、その為に移動をする事は手段としてはアリだろう。市街地以外に目的の人物がいる可能性もある為、市街地に執着する必要もない。 その為、乱馬とヴィヴィオを組ませ移動させたという事だ。 勿論、霧彦としてはヴィヴィオに真実を伝える都合もあったので、このまま別行動を取る事に迷いが無かったわけではない。 だが、襲撃者への対処を優先する為、敢えてそうしたのである。そして、 「祈里ちゃん……乱馬君は出鱈目だと言っていたけど……誰の名前が呼ばれていたんだい?」 「それは……」 祈里は霧彦の問いに対し口ごもる―― 「僕に言えない……つまり、冴子の名前も呼ばれていたんだね」 【A.M.07 3X F-9 警察署】 霊安室、そこに川で見つけた少女の死体を安置した。 あのままにしておくわけにもいかなかったが埋葬する余裕も無かった、故に彼女の死体を抱えたまま警察署に向かい、死体を霊安室に運んだのだ。 そして、霊安室を離れた後、2人は給湯室にいた。その目的は先程しそびれた乱馬が変身した後元に戻る為のお湯を補充する為である。 2人の間に重たい空気が流れる―― 殺し合いとはいえこれまでは目の前で死体が転がる事は無かった。故に、実際は誰も死んでないのでは? そんな甘い幻想を持ってしまうのも不思議では無い。 だが、現実に2人は死体を目の当たりにした。それは厳しい現実に引き戻すのに十分だった。 見つけなければ良かった? そういうわけにはいかない。 2人が中学校を離れ警察署に向かったのは仲間を探す為、その状況で周囲を見回さないなど本末転倒だろう。それ以前にいつ襲撃に遭うのかわからないのに周辺に注意を果たさないのはありえない。 湯が沸き、乱馬は淡々とポットに補充を行った。ついでに残ったお湯でお茶(給湯室内にあった)を入れて飲む。 沈黙が続く――そして、 「乱馬さん、あのお姉さん……」 「ああ……」 「やっぱり殺し合いが現実に起こっているんですね……」 「ああ……」 「だったらやっぱりあの放送は……」 その言葉より先を口にする前に、 「バカ言ってんじゃねぇ! 仮に殺し合いが事実で、何人かが死んでいたとしても、だからってヴィヴィオのママ達や霧彦の奥さんがもう死んでいる証拠になんてならねぇだろ! 大体、ヴィヴィオのママ達にしてもユーノの野郎にしても霧彦の奥さんにしても俺達よりもずーっと強いんだろ? それに仮面ライダー1号とかいう奴だっていたじゃねぇか、 何でそんな強い奴ばっかり先に死んでなきゃならねぇんだよ! どう考えたっておかしいだろうが! あんなもん加頭だかサラマンダー野郎だが俺達を絶望させようと悪趣味でやっているに決まっている!」 全力で乱馬は反論した。何としてでも放送は嘘だと、なのは達は健在だと訴えるかの様に―― 「そ、そうですよね、ママ達がそう簡単に負けるわけないですよね」 「だろ、ヴィヴィオも言っていたじゃねぇか、ママ達子供の頃からずっと戦って色々な事件を解決してきたって。そんな奴等がそんな簡単に死ぬワケねぇって!」 余談だが――実は乱馬はなのは達の事について1つ誤解している。 確かにヴィヴィオはなのは達が子供の頃から戦っていると説明した。だが乱馬はそれを自分達と同じ年代、あるいはもう2,3年小さい頃だと解釈していた。 つまり、なのは達が13~16歳ぐらいの頃から戦っていると誤解をしていたのだ。 当然、ユーノ・スクライアがフェレット状態となって温泉に入ったり一緒に寝たというのもその年代だと解釈したのだ。だからこそ、乱馬はユーノのキャラクターに良牙(Pちゃんになってあかねの寝床に潜り込む)を重ねたのである。 まさか、9歳の頃から大きな事件に遭遇していた等とは流石に予想出来るわけもなかろう。同時になのは達がその年齢の頃から参加しているとは予想もつかないだろう。 「ともかく、いつまでもこんな所でくすぶっていてもしょうがねぇ、誰か来るかも知れねぇから入り口の方に行こうぜ」 「はい!」 そう言いながら2人は移動を始める―― 「(乱馬さん……あそこまで必死になっているって事はやっぱり……)」 だが、ヴィヴィオは乱馬の慌て様から乱馬の言葉が嘘――正確には誤魔化しである事に薄々気付いていた。 十中八九放送の内容は真実――それは同時になのは達の退場が事実だという事に他ならない。 放送直後は動揺していた為気付かなかったが冷静に考えればあそこで嘘をつく理由が不明瞭だ。 放送の内容は良くも悪くも貴重な情報、それが丸々嘘ならば全く役には立たない。 それ以前に、あの放送が嘘だとするならば、なのは達も自分達の死亡を伝える放送を聞く事になり、すぐに嘘だと露呈する事になる。 混乱目的で言ったにも関わらず、あっさりとバレてしまうのでは意味は無い。 故に、放送の内容はほぼ真実と考えて良いだろう。 つまり、乱馬はヴィヴィオを騙している事になるわけだが―― 「(でも、それは悪気があったんじゃなくて……)」 騙す様な形になってでも乱馬が誤魔化した理由は会いたいと願っていたママ達3人が死んだと伝えられて悲しみに暮れてパニックに陥るであろうヴィヴィオを元気づける為だろう。 それ以前に、乱馬の言い分も至極もっともだからだ。 無論、なのは達と二度と会えなくなる事はとても哀しい事だし、今すぐにでも泣き叫びたい所だ。だが―― なのは達は他の参加者達を守る為に戦って――そして散っていったのだろう。簡単には倒されないとはいえ、例の白い怪人などと遭遇したならばどうなるかは読み切れない。 だが、多くの参加者を守る為に戦った事だけは間違いない筈なのだ、ヴィヴィオや乱馬を含めた多くの参加者を守る為に―― であるならばヴィヴィオ達のすべき事は何であろうか? 悲しみから一歩も動けず泣きわめく事なのか? 否! 断じて否!! 彼女たちの死に負ける事無く、彼女達の強い意志を受け継ぎその想いに応える事では無かろうか? 約束した筈だ――1人でも強くなると――こんな所で俯いていた所で何の意味も無い。 だからこそ乱馬の言葉通りサラマンダー男爵の言葉に振り回される事無く強くならなければならないだろう。泣いてばかりではそれこそなのは達が幻滅する。まさしく乱馬の言葉通りではないか。 「(それに……乱馬さんだって本当は認めたくないんだと思う……)」 また、ヴィヴィオを励ます以外にも乱馬自身がシャンプーの死を認めないが故の発言では無いのかと考えていた。 乱馬から彼の知り合いについてはよく聞いていた。 親同士が勝手に決めた許嫁(ヴィヴィオは単純に恋人と解釈)だけど一番心配していて誰よりも会いたいと願っていたあかね、 方向音痴でPちゃんに変身してはあかねの寝床に潜り込んだり可愛がられたりしていたが実力的には一番信頼できる良牙、 変な名前を付けられた事で荒んではいるがそれ以外はそこまで悪い奴では無く結構強いパンスト太郎、 そして、一方的に求愛された上に乱馬の苦手な猫に変身する体質で色々迷惑だった――が決して嫌いではなく乱馬自身もそれなりに好意を持っていたシャンプー、 乱馬自身、シャンプーが死んだ事に強いショックを受けているのだろう。故に放送の内容が嘘だと否定――それでも乱馬ほどならそれが真実の可能性が高い事にすぐ気付く筈だ。 だが、仮に真実であっても主催陣をぶちのめす事を覆すつもりは無かった。とはいえ、やはり放送の内容を認めたくないが為の発言だったのだろう。 もっとも、放送の内容が嘘という可能性も無いわけじゃない、というより何とかそれを信じたい所である。 目の前になのは達の死体があったわけではない、言葉だけで言われても実感なんて沸きはしない。信じさせたいなら、目の前に死体を持ってくるか、死んだ現場にいた参加者を連れてこいという話だ。 どちらにしてもヴィヴィオ達のすべきことは変わらない。皆でこの殺し合いから脱する為に友達や仲間との合流を目指さなければならない、細かい事は後から考えれば良い。 「(アインハルトさん……貴方も同じ気持ちですよね……?)」 だからこそまずは、友人であるアインハルトとの合流を目指すのだ。 だが、ヴィヴィオは知らない――そのアインハルトの眼前でなのはが惨殺された真実を―― 同時にその事が彼女の心に深い傷を負わせた事を――故に、彼女との合流は決して救いにはなり得ないと―― 「(ったく……気に入らねぇ……)」 一方の乱馬は先程安置させた少女について考えていた。 ヴィヴィオには知らない少女だと説明したが乱馬自身は1度だけ見かけた覚えがある。 風都タワーの展望室から見かけた少女の事だ、祈里も彼女と遭遇していたらしい事は確認済みだ。つまり、乱馬が彼女を見かけてから5時間程度の間に惨殺された事になる。 少女の身体は全身が傷ついていた。火傷に数えるのも難しいぐらいの多数の骨折、一体どうすればあそこまでボロボロに出来るのかが不思議なぐらいだ。 だが、一番の致命傷となったのは――心臓を貫く程の刺し傷だ、それも刀の様な鋭利な刃物による―― 「(くそぉ……)」 正直、苛立ちを感じている。確かに彼女を見かけたのはほんの一瞬、それ故どうしようとも結果は変わらなかっただろう。 それでも見知った人間がこうやって惨殺された姿となって再会するのは目覚めが悪い。 いや、乱馬が苛立っているのはそれだけではない―― 乱馬は薄々気付いていたのだ。彼女をあそこまで惨殺した者の正体に―― 「(川に引っかかっていたってことはあいつは上流の方で殺され川に流されたって事だよな……)」 川の上流、移動時間を踏まえるとF-6かF-7の辺りで殺され流されたのだろう。 そして、心臓を貫く刀傷から連想される人物が1人いたのだ。 乱馬が最初に出会った志葉丈瑠――出会った時、彼は刀をその手に持っていた。 出会った場所はH-7、あの後川方面に移動していてもおかしくはない。 つまり――丈瑠は殺し合いに乗り少女を―― 彼だけではない。 彼女の遺体を安置する時、2つ程気になる点を見つけた。 1つは襟元に墨による染みがあった事、足首に僅かにタコの足らしきものが巻き付いた跡があった事だ。 それを見て乱馬の脳裏にある人物が―― 「(パンスト太郎……!!)」 牛の頭部に雪男の身体、鶴の羽根に鰻の尻尾を持った怪物に変身し後にタコ足を生やしタコ墨を吐き出せる力も得たパンスト太郎の事だ。 あの男ならばあそこまでボロボロにする事も出来るだろう。 「(にしてもよ……!!)」 乱馬は憤る。丈瑠とパンスト太郎が組んであの少女を惨殺したのだろうが明らかにオーバーキルだ。 「(いや……もう1人いる……)」 それは乱馬が風都タワーから見かけたもう1人――キラキラ輝く鎧を纏ったバカがいた。 関わり合いになりたくない為スルーしたがあの少女を追いかけていたのではなかろうか? もしかしたらあの少女の死にも関わっている可能性がある。丈瑠やパンスト太郎と違い下手人とは限らないだろうが。 故に乱馬は苛立っているのだ、自分と関わった者達が自分の知らない所で殺し合いをしている。 自分がもう少し上手く立ち回っていたら――今更な話とはいえ考えずにはいられない。 「(考えても仕方ねぇ……確かな証拠もねぇし、直接聞けば済むよな……)」 だが、推測は大体的中している。 実際、丈瑠とパンスト太郎が共闘し問題の少女暁美ほむらに重傷を与えていたし、キラキラ輝くバカこと涼村暁も関わっている。 ちなみに、パンスト太郎は最初靴の先端部だけにタコ足を巻き付けていたが、タコ足の存在が割れた後は隠す必要も無いとタコ足を足首まで伸ばし拘束を強めていた、乱馬が見つけたのはその痕跡である。 乱馬としては実際に連中に会って追求したい所だが暁以外に対しては最早意味を成さないだろう。 パンスト太郎は丈瑠に裏切られ惨殺され、丈瑠は両手を砕かれ剣客の道を断たれムース同様アヒルに変身する体質となったのだから―― 「(それに一番気に入らねぇのは……)」 ほむらの安らかな――笑顔である 「(何であんなに安らかな顔を……あんな風に殺されたってのに……)」 とはいえ、何時までも彼女の事ばかり考えてもいられない。 「(ヴィヴィオ……本当にすまねぇ……)」 放送は嘘だといって彼女を騙した事が後ろめたかったのだ。 祈里からは感謝されたがそう言われる事すら正直辛い。 口にした事の殆どは乱馬の本心だ。このままウジウジしている暇があったら強くなれという言葉に嘘偽りは無い。 実際の所はヴィヴィオを励ますだけではなく、乱馬自身シャンプーの死を認めたくなかったからだったのかも知れない。 あんなに強い連中がそうそう簡単に殺される筈は無いと―― それは誤魔化しにして逃避だったのかも知れない―― 無論、あの場は取り繕えた――乱馬はそう納得させていたし、きっと大丈夫だろうと思い込もうとしていた。 だが、ほむらの死体を見て甘すぎる幻想である事に気付いたのだ。 何より――乱馬自身が見かけた人物が、乱馬自身が出会った人達に殺された可能性があるという現実はあまりにも重かった。 主催陣の軽い言葉よりも現実を叩き付けるのには十分過ぎた。 それでもこの目で死体を見る、あるいは死んだ現場にいた奴に会うまでは完全に信じるつもりは無い。真実であったとしても、死んでいった奴等の分まで加頭やサラマンダー男爵をぶん殴るだけだ。 だが、ヴィヴィオを騙した事については無視は出来ない。今はまだ良くても何かの切欠で放送が真実じゃ無いのかと考える時が来る、その時が来た時、今回の様に上手く対処できる自信は全く無い。 「(ふっ……こんなその場しのぎのウソ……どうせすぐバレる……かえってヴィヴィオを悲しませるだけか……)」 何となくついこの間まで母のどかに女に変身する体質となったことがバレ、それにより切腹しなければならない事を恐れて誤魔化し続けていたのを思い出した気がする。 『つまり、ヴィヴィオちゃんに嫌われたくないわけね』 そして乱馬がこういう発言をする時はこんな風に必ずあかねがツッコんでくる。 だが、今近くに彼女はいない――それを寂しく感じた―― 乱馬自身はその発言をかわいくねぇと思いながらも拒絶しているわけではない。 親同士が勝手に決めた許嫁ではあったが、今もそんな言葉で片付けられる関係だったのだろうか? 無性にあかねの事が心配だった。 あかねは放送を嘘だと考えるわけもないだろう。そこまで良好では無かっただろうが、シャンプーの死にそれなりにショックを受ける筈。 泣き喚いたりする姿は想像もつかないがどうなるかなど考えるまでもない――だからこそ早く彼女に会いたいと思っていた――決して言葉にするつもりはないとはいえ。 それでもヴィヴィオは放置できない。勝手な嘘で騙しておきながらこのままさよならというのはあまりにも無責任過ぎる。 だが、このまま騙し続けるしか今の乱馬に出来る事は無い―― 真実を伝える言葉――それは今の乱馬が口にするのにはあまりにも無力だった―― それでも最低限彼女の知り合いと合流するまでは責任を持って彼女を守らなければならないだろう―― いつしか警察署入口に着いていた。周囲は静かで周囲には参加者の様子は無い。 「(結局、霧彦の方は気付いていたみたいだしな……)」 発つ時、乱馬は霧彦に密かにこう言われたのだ―― 『ヴィヴィオちゃんの事、君だけがそこまで責任を感じる必要はない、僕もその責任を負うよ――だから僕は必ず戻ってくる』 霧彦は乱馬がついた嘘に気付いていたのだろう。同時にそれは霧彦にとって最愛の妻である冴子の死を認める事でもある。 それでも霧彦は悲しむそぶりを殆ど見せず、乱馬を責める事すらせず、むしろその責任を負うとまで言ってくれたのだ。 結局の所、霧彦は大人なのだ。だからこそ乱馬の行動にもフォローを入れられる―― 中学校を離脱させたのも乱馬達を守る為だったのだろう、戦力外通告されているのは気に入らないが霧彦の言い分ももっともなので責める気にはなれない。故に―― 「(霧彦、絶対に死ぬんじゃねぇぞ……お前だって待っている奴がいるんだからな……)」 これ以上の言葉は無かった―― 【A.M.07 1X G-8 中学校】 「……ごめんなさい、黙っていて……」 結果的に乱馬と共に騙してしまう形になった為、霧彦に謝る祈里ではあったが、 「謝る必要なんてないよ、ヴィヴィオちゃんや僕を悲しませない為なのは理解しているから……それでもやっぱり彼女が死んだ事は悲しいけど」 霧彦は祈里と乱馬を責めるつもりは全く無い。無論、冴子が死んだ事については驚きを隠せないと共に大きなショックを受けているが、 「それ以上に、ヴィヴィオちゃんが悲しむ事が辛い……だから祈里ちゃん、僕に対して気に病む事はないよ。君の方は友達がみんな無事だったんだからそれだけでも……」 「はい……」 反応する余裕も無かったが祈里自身としては桃園ラブ達が無事だった事に安堵していた。もし彼女達の内の誰かが死んでいたなら強いショックを受けていただろう。 一方で早々にノーザが退場した事に驚きを隠せない。勿論、それに反応してしまえば放送は真実だと認めてしまう為、表には出せなかったが。 あれだけの強敵がこうも簡単に退場する、それはそれだけこの殺し合いが過酷だという事なのか、あるいは実はそれ自体全て嘘なんじゃないのか――そう思わずにはいられない。 だが、現実に受け入れるしかない。例えどんなに過酷だとしても決して負けるわけにはいかないのだ。 一方の霧彦は、 「(冴子、君がどういうスタンスでこの殺し合いに望んでいたのかはわからない。だけど、僕は今も君の事を愛しているよ……だからこそ出来ればもう一度話をしたかった……)」 この世にはいない最愛の人へと―― 「(でも、僕はもう冴子だけに拘るつもりはない。君が目的の為に僕を切り捨てた様に、僕にも守りたいものがある。例え冴子と違う道を歩むとしても……だから、さよなら……愛しい冴子……)」 最後のメッセージを送った――故にもう振り返らない。 「霧彦さん、本当に2人を行かせて良かったんですか?」 そんな中祈里が問いかける。戦闘力のある自分達が戦場になりうる中学校に残り2人を待避させた事については霧彦の説明もあり異論は無い。 だが、警察署方面が安全という保証は無い。 「確かに僕も絶対に大丈夫だとは思っ――」 そんな時だった―― 『聞け!! ダグバ、クウガ、そしてこの場に集いしリントの戦士達よ!!』 2人にとっては小声ではあったが確かに耳を突く声が―― 「霧ひ……」 「しっ……」 今大声を出したら聞き取れなくなる、故に耳に全神経を集中させる。 『俺はこのゲゲルに乗っている、殺し合いに乗っている!! 既に、二人のリントを葬った! フェイトと、そしてユーノと言う名の勇敢な戦士だ!!』 その一方、声の主は衝撃の事実を口に為た。フェイト・テスタロッサ、ユーノ・スクライアの両名を仕留めたという宣言だ。 祈里は唖然とし、霧彦は真剣な表情を崩さない―― 『奴等は強かった、だがそれでも俺を倒すには至らなかった! 俺は、より強く誇り高き戦士との闘いを何よりも望んでいる!! もし貴様等がこのゲゲルを止めたいと望むなら、俺という障害をまずは退けてみろ! 我こそはと思う者がいるならば、遠慮はいらん! どんな手を使おうとも、多人数で挑もうとも構わん!! この俺……破壊のカリスマ、ゴ・ガドル・バに挑むがいい!!』 その言葉を最後にゴ・ガドル・バの声は途切れた―― 「そんな……」 突然の声に祈里はショックを隠しきれない。まさかヴィヴィオのママ達を殺した者が近くに来ていたとは思わなかったのだ。 「……どうやら2人を行かせて正解だった様だね」 一方の霧彦は未だに落ち着いている。 声の方向と大きさから考えH-7にガドルがいると考えて良い。 そして中学校にはここまで小さい声でしか聞こえなかった以上、警察署方面に向かった2人には届かなかった可能性が高い。 何れ真実は露呈するとはいえまだ早すぎる、今というタイミングでこの声を聞かせるべきではない。 結果的に2人を待避させた事はある意味正解だっただろう。 だが、問題はこれからだ、ここまで声が届いたという事は最低でも市街地の3分の1には声は届いていると考えて良い。 十中八九、そこにいる参加者達はガドルに対処すべく挑む筈だ。 戦いを欲しているガドルにしてみればあまりにも都合が良い話だろう。 間違いなく、大規模な戦闘になるだろう――血で血を洗う―― 祈里はこの状況に未だ決断を出せないでいた。 いや、明らかに危険人物であるガドルを止める事に異論は無くすぐにでも動き出したいぐらいだ。ラブ達も声を聞いたなら同じ様に動く、その為すぐに動く事が最善だ。 しかし霧彦の存在がそれを許さなかった。万全では無い霧彦を1人残すわけにはいかない。向かっている間に霧彦が襲われ死なれたら後悔してもしきれないだろう。 答えは決まっているのに動けない、それがもどかしかった。 一方の霧彦は祈里の心中を察している。自身の存在が彼女の決断を鈍らせているのを理解しているのだ。 「(勿論、僕も今すぐにでもあの男を止めに向かいたい。だけど……)」 自身の状態を考えれば万全とは言いがたく足手まといにしかなりえない。 「(僕だけならばこのまま散ったって構わない。だけど、僕が無理する事で皆を悲しませるわけにはいかない……)」 どうするべきか―― 「(僕は――!!)」 【1日目/朝】 【G-8/中学校】 【園咲霧彦@仮面ライダーW】 [状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、内臓にダメージ(小)(手当て済) [装備]:ナスカメモリ@仮面ライダーW、ガイアドライバー(フィルター機能破損)@仮面ライダーW 、 ふうとくんキーホルダー@仮面ライダーW、霧彦のスカーフ@仮面ライダーW、須藤兄妹の絵@仮面ライダーW [道具]:支給品一式、ランダム支給品0~2、T2ヒートメモリ@仮面ライダーW [思考] 基本:この殺し合いを止める。 1:僕は――!! 2:一文字隼人に興味。 3:ガイアメモリは支給された人次第で回収する。 4:いつかヴィヴィオには母親の死を伝える。 [備考] ※参戦時期は18話終了時、死亡後からです。 ※主催者にはミュージアムが関わってると推測しています。 ゆえにこの殺し合いも何かの実験ではないかと考えています。 但し、ミュージアム以上の存在がいる可能性も考えています。 ※ガイアドライバーのフィルター機能が故障しています。これにより実質直挿しと同じ状態になります。 ※気絶していたので、放送の内容を聞いていませんでしたが祈里から聞き把握しました。 ※ガドルの呼びかけを聞きました。 【山吹祈里@フレッシュプリキュア!】 [状態]:健康、体操服姿 [装備]:リンクルン [道具]:支給品一式(食料と水を除く)、ランダム支給品0~1 、制服 [思考] 基本:みんなでゲームを脱出する。人間と殺し合いはしない。 1:ガドルの所へ向かいたい――が霧彦はどうする? 2:桃園ラブ、蒼乃美希、東せつなとの合流。 3:一緒に行動する仲間を集める。 [備考] ※参戦時期は36話(ノーザ出現)後から45話(ラビリンス突入)前。なお、DX1の出来事を体験済です。 ※「魔法少女」や「キュゥべえ」の話を聞きましたが、詳しくは理解していません。 ※ガドルの呼びかけを聞きました。 【A.M.07 5X F-9 警察署】 「そういやアインハルトにもクリスみたいなのがいるのか?」 「はい、アスティオン、ティオっていってとっても可愛いんですよ、にゃーって言って」 「え゛!? 猫!?」 「あ、猫じゃ無くて豹なんですよ」 「豹がにゃーって鳴くわけねぇだろ!」 「でもとっても可愛いんですよ」 「なぁ、俺出来れば会いたくねぇんだけど……猫怖い……」 「えー、何言っているんですか!?」 【F-9/警察署入口】 【早乙女乱馬@らんま1/2】 [状態]:健康 、悩み、ヴィヴィオと霧彦への後ろめたい感情 [装備]:無し [道具]:支給品一式、ランダム支給品0~2、水とお湯の入ったポット1つずつ、ショドウフォン@侍戦隊シンケンジャー、丈瑠のメモ、ライディングボード@魔法少女リリカルなのはシリーズ [思考] 基本:殺し合いからの脱出。 1:暫く警察署に待機、その後呪泉郷に向かう。 2:何とかヴィヴィオを知り合いと合流させたい……え゛、猫? 3:池波流ノ介、梅盛源太に出会ったらショドウフォンとメモを渡す。 4:パンスト太郎、丈瑠、シャンゼリオン(暁)とあったら少女(ほむら)の死について聞いてみる。 5:サラマンダーの顔をいつかぶん殴る。 [備考] ※参戦時期は原作36巻で一度天道家を出て再びのどかと共に天道家の居候に戻った時以降です。 ※風都タワーの展望室からほむらとシャンゼリオン(暁)の外見を確認しています。 ※放送で呼ばれた参加者達の死を疑っている一方で、ヴィヴィオと霧彦には後ろめたさを感じています。 ※ほむらの死に丈瑠、パンスト太郎、暁が関わっているのではと考えています。 ※ガドルの呼びかけを聞いていません。 【高町ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはシリーズ】 [状態]:上半身火傷、左腕骨折(手当て済) 、決意と若干の不安 [装備]:セイクリッド・ハート@魔法少女リリカルなのはシリーズ [道具]:支給品一式、ランダム支給品0~1、山千拳の秘伝書@らんま1/2 [思考] 基本:殺し合いには乗らない 1:暫く警察署に待機、その後らんまと同行。 2:強くなりたい。その為にらんまに特訓して欲しい。 3:みんなを探す。 4:ママ達、無事だよね……? [備考] ※参戦時期はvivid、アインハルトと仲良くなって以降のどこか(少なくてもMemory;21以降)です ※乱馬の嘘に薄々気付いているものの、その事を責めるつもりは全くありません。 ※ガドルの呼びかけを聞いていません。 [全体備考] ※ほむらの死体は警察署に安置されました。 【支給品紹介】 ライディングボード@魔法少女リリカルなのはシリーズ 園咲霧彦に支給、 ウェンディの固有武装で移動手段だけではなく盾や砲撃手段としても使用できる。 ウェンディによるとスカリエッティは量産を視野に入れていたらしい。またウェンディ以外の人間も使用が可能。 時系列順で読む Back 奈落の花Next ~SILVER REQUIEM~ 投下順で読む Back 奈落の花Next ~SILVER REQUIEM~ Back 上を向いて歩け 早乙女乱馬 Next 警察署の空に(前編) Back 上を向いて歩け 園咲霧彦 Next 風のR/戦うために生まれ変わった戦士 Back 上を向いて歩け 高町ヴィヴィオ Next 警察署の空に(前編) Back 上を向いて歩け 山吹祈里 Next 風のR/戦うために生まれ変わった戦士
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ラブと祈里 さよならの言葉! ◆LuuKRM2PEg 六時間ごとに行われる放送はこれで三度目になるが、決して慣れたりなんかしない。むしろ、心があるのなら慣れるなんて絶対にあり得なかった。 桃園ラブは戦いに身を投じているが、あまり『死』という概念には縁がなかった。だから、この地で次々と人が死んでいく度に、強い精神的ショックを感じている。 東せつながまだイースだった頃に一度だけ死んだ。後で生まれ変わったが、悲しかったことに変わりはない。そんな出来事が、ここでは当たり前のように繰り返されている。 そして、この六時間で亡くなった人の名前が呼ばれた。一文字隼人や西条凪、それにテッカマンランスの最期が脳裏に蘇ってしまう。思い出すだけでも辛くなってしまうが、絶対に忘れてはいけなかった。特にテッカマンランスは、本当の名前がわからない。だからせめて、彼の言葉だけは背負わなければならない。 テッカマンランスにだって、もしかしたら帰りを待っている人がいるはずだ。だから、いつかその人のことも見つけて、最期を伝えなければならない。その人から憎まれることはわかっているが、伝えなければならない義務がある。そうしないと、待っている人はいつまでも前に進めないのだから。 「凪さん……ゆっくり休んでいてください」 そして今、ラブは涼村暁や石堀光彦と一緒に、埋葬した凪に祈りを捧げる。 彼女はこの島で姿を見たが、一度も話をしないまま永遠に別れることになってしまった。ン・ダグバ・ゼバという男が現れた時、驚かないでもっとしっかりしていれば彼女を守れたかもしれない……そんな仮定の話を考えただけで、心が更に抉られてしまう。 石堀の上司なのだから、絶対に悪い人ではない。少しでもいいから話をしてみたかった。 「ラブちゃん。君が副隊長のことで悲しんでくれているのはわかる……でも、すぐにここから移動しないと」 そんなラブの気持ちを察したのか、石堀が声をかけてくる。 振り向くと、彼も何処か表情を曇らせていた。やはり、信頼している上司を守れなかったことが、とても悔しいと感じているかもしれない。ダグバに殺されてしまった時だって、怒りを露わにしていたのだから。 「副隊長は俺達が悲しむこと望むような人じゃない。例え自分が死んだとしても、任務の遂行を優先する人だ……そんな副隊長の前でメソメソしていたら、余計に怒らせてしまうよ」 「石堀さん……」 「副隊長の為を本当に想ってくれているなら、ラブちゃんはラブちゃんの使命を果たすべきだ。だって君はプリキュアだろう?」 静かに叱咤をしてくれている石堀の表情は、徐々に真摯なものへと変わっていく。 そんな彼の補足をするかのように、今度は暁がひょうきんな笑顔と共に現れた。 「そうだよ、ラブちゃん! さっきも言ったけど、死んだ人達の分まで楽しまないと損をするだけだって。それに、石堀の言葉は正しいぜ? 俺、夢の中で凪に怒られちまったからさ……」 「夢の中で……?」 「そうそう。俺の事務所に朱美って女がいるけど、そいつと一緒に凪から怒鳴られてさ……もう大変だった! あの時は、確かほむらもいたような……」 「えっ? でも、美女が出てきたって言いませんでしたっけ?」 「あれ、そうだっけ? う~ん……もう、美女も凪達も出てきたってことでいいよ! どうせ、夢の中の話だし!」 「はぁ……」 相変わらず明るい態度で語る暁に、ラブはどう答えればいいのかわからなかった。 確かに夢の中の話をいつまでも覚えていたとしても、あまり意味がない。夢はどこまで行っても夢で、現実ではない。夢を忘れないことは大切だけど、今を頑張って生きることの方がもっと大事だった。 そう考えた瞬間、ラブはほんの少しだけ頬が緩む。気が付いたら、暁と石堀の二人に笑顔を向けられるようになっていた。 死んだ人間の前では不謹慎かもしれないが、いつまでも悲しんでいたら二人に失礼だ。それに、凪だって止まることを望んでいないはず。だから今は元気でいたかった。 「おっ! ラブちゃん、笑っているね!」 「はい。こんな時だからこそ、少しでも笑っていた方がいいと思ったから。美希たんも、つぼみちゃんも、いつきちゃんも、どこかで頑張っているかもしれませんし……みんなとまた会えた時に笑えなかったら、悲しくなるだけですから」 「そうそう! 君みたいな女の子は笑顔が一番! そうすれば、俺も石堀も笑えるし!」 「まあ、重い空気になるよりは、笑っている方がいい。そうすれば、緊張も解れて仕事が進むからな」 暁の言葉によって、石堀から感じられる雰囲気が軽くなったように見える。 本当なら、石堀だって暁のように明るい人間なのかもしれない。仕事の時は真面目だが、プライベートでは平穏な日常を過ごしているのだろう。そこには凪もいたはずだ。 だけど、彼の隣に凪はもういない。それはとても辛いはずなのに、石堀は気持ちを抑えている。同じように、暁だって人を殺したという十字架を背負ったけど、笑顔を見せてくれた。 そんな二人や失ってしまった凪の気持ちを尊重するならば、殺し合いを止める為に動かなければならない。ラブは改めてそう認識した。 「それと、ラブちゃん。君が言っていた、ラビリンスって奴らのことについて教えて貰ってもいいかな? 色々あって、聞けなかったからね」 「あっ、そうでした! ラビリンスのことですね……」 ラブは暁と石堀に話し始めた。 人工コンピューター・メビウスが率いる管理国家ラビリンスが全ての平行世界(パラレルワールド)を支配する為に、人々をFUKOにしようとしていたこと。そして、その為にナケワメーケという怪物で人々を襲っていたことや、既に死んだノーザがラビリンスの最高幹部だったことも話した。 そして、シフォンという妖精がインフィニティという無限メモリーにされてしまい、一度だけ全てのパラレルワールドを支配されてしまったことも話した瞬間、暁と石堀は怪訝な表情を浮かべる。 「支配された? おいおいラブちゃん、悪いけど俺達はそんなことをされていないぞ? それに、そんな訳のわからねえコンピューターの奴隷なんて、俺は死んでも嫌だって」 暁は当然の言葉を口にした。 「えっ? でも、あの時は確かに全パラレルワールドの支配が完了したって、ラビリンスが言っていたような……」 「そんなの、そいつらが勘違いしただけじゃないの? 俺はこの通り、ピンピンしているぜ! そんなコンピューターが来たって、逆に水をぶっかけて壊してやるよ!」 暁のような男がメビウスに支配される姿は確かに想像ができない。彼はいつでも自由気ままに生きているので、例えラビリンスが出たとしても普通に一日を過ごすはずだ。 あのウエスターだって、ラビリンスの幹部だった頃から四ツ葉町で楽しそうに過ごしていた時がある。せつなが言うには、人間界の文化を知ったからこそ本当の幸せを知ったらしい。 そんな暁とウエスターは気が合うかもしれない。ラブは何となく、そう思ってしまった。 「俺の世界でも、そういった事件が起こった報告はないな。何よりも、俺が所属している組織は外部からの侵入者を易々と見逃すほど、甘くはない」 「そうですか……なら、やっぱりラビリンスの勘違いだったのかな?」 「そうとも限らない。この殺し合いに集められた六六人の参加者は、世界だけでなく別々の時間から集められたようだ。だから、俺と暁はラビリンスの侵略が行われる前から連れて来られた可能性だってある。本当かどうかはわからないけどな」 「えっと……じゃあ、石堀さん達はこれからラビリンスに支配されるかもしれないって、ことですか?」 「そんなことはさせないさ。言っただろ? 俺の組織はそんなに甘くないって……それに暁の言うように、勘違いだって可能性もある。この世界に、完璧なシステムなんて存在しないのだから」 ラブの中に芽生えた暗い思考を振り払うように、石堀はフッと笑う。 そして、そのままラブの肩に手を乗せた。 「それに、俺達の世界がこれから本当に支配されるとしても、プリキュアがそれを止めてくれるのだろう? なら、俺達もそれに答える為に、頑張るつもりだ……暁だって、そうするだろ」 「当たり前だ! このシャンゼリオン様が、そんなヘッポコ機械に負けるわけあるか! というか、俺の力で逆にメンドリってコンピューターを支配してやるよ!」 「メビウス、だ。暁」 「あれ、そうだっけ?」 石堀の指摘に対して、暁はおどけたように笑いながら答える。 太陽のように明るい暁の態度を見て、ラブは思わず「ぷっ」と笑った。 「……メビウスですよ、暁さん!」 「あ、そう? でも、どっちでもいいじゃん! どっちにしたって、ラブちゃん達が倒してくれることは、確かだしさ」 「はい! あたし達が、二人の世界も守りますので!」 ラブは暁と石堀にそう答える。 プリキュアの守った平行世界(パラレルワールド)には暁や石堀もいる。そう思っただけでも、ラブは心が軽くなるのを感じた。 石堀の言うようにラビリンスに支配されていない可能性だってある。ラブとしても、その方が良かった。ラビリンスに管理されてしまっては自由な意思を奪われて、喜びも幸せも感じなくなってしまうのだから。 「よし。それじゃあ、そろそろ行こうか」 「はい」 石堀の言葉にラブは頷く。 最後にもう一度だけ、この地で眠る凪に手を合わせる。彼女の分まで生きると誓いながら。 数秒ほど経った後、彼女達はその場を後にした。 「そういえば石堀、これからどうするつもりだ?」 「まずは副隊長を殺したあの男の遺体を、俺が一人で弔う。その後は、禁止エリアに接触しないように街を捜索する予定だ。結城や沖一也という男が来ているかもしれないからな」 「ああ、そういえばここで合流する予定だっけ?」 「そうだ。結城にはあの屋敷で伝えたから、零と共に来るはずだ」 暁と石堀の話をラブは聞く。 結城丈二と沖一也。この二人も仮面ライダーで、一文字の後輩らしい。ここに来るまで、本当なら一文字は沖と合流する予定だったと聞いた。だけど、一文字は鳥のような赤い怪人に殺されてしまっている。二人にはそのことも話さなければならなかった。 元の世界で共に毎日を過ごした仲間が次々と死んでいく。祈里やせつな、それにえりかとゆりを失ったラブには辛さが痛いほどわかった。 「そっか。なら、あいつらも捜さないと……なあっ!?」 石堀と話をしていた暁は急に転んでしまい、奇妙な悲鳴を発する。 暁の持っていた大量の支給品が地面にばらまかれていく。しかしラブはそれに目もくれず、暁の元に駆け寄った。 「だ、大丈夫ですか暁さん!?」 「いたた……だ、大丈夫だってラブちゃん。ちょっと、つまずいて転んだだけだ」 「よかった……」 暁は服をパンパンと叩きながら立ち上がり、いつも通りの笑顔を向けてくる。 その姿を見て、ラブは安堵した。放送前の戦いの疲れがまだ残っていたらどうしようと思ったが、心配はないかもしれない。 疲れが溜まるのはよくないことだ。ラブだって、知念ミユキにプリキュアであることを知られる前は戦いとダンスの疲れが重なったせいで倒れたことがある。暁にはそうなって欲しくなかった。 「おい、暁。こんなに撒き散らすなよ」 「悪い悪い! いやいや、道具がありすぎるのも辛いね~! 四次元ポケットがあれば、こんなことにはならないのに」 「変なことを言っている暇があるなら、早く拾ってくれ」 「はいはい」 石堀に対して、暁は素っ気なく答える。 散らばったデイバッグに、ラブも手を伸ばした。 「あたしも手伝いますよ!」 「おっ、サンキュー!」 暁は朗らかに答えてくれた。 周囲を見ると、いつの間にか空いていたファスナーから中身が飛び散ってしまっている。水や食料、それに見慣れない支給品がいくつもあった。いくら男の人でも、これだけの量を一人で持つのは大変かもしれないから、少しくらいは持った方がいいかもしれない。 そんなことを考えていた時だった。 「これって、まさか……クローバーボックス!?」 ラブが視線を向けた先には白いオルゴールが落ちている。彼女はそれを知っていた。 四つ葉のクローバーの紋章が付けられているそのオルゴールは、かつてスウィーツ王国の長老であるティラミスから託されたクローバーボックスだった。 ラブは知らないが、それは暁美ほむらに支給されていた。ほむらにとっては武器とならず、関心を惹くような見た目ではないのでデイバッグの奥底に眠る結果になっていた。また、一度だけン・ダグバ・ゼバの手にも渡っていたが、彼にも興味を抱かれていない。関係のない参加者からすれば、ただの楽器に等しいのだから。 しかし、フレッシュプリキュアのメンバーにとっては違う。これは、たくさんの思い出が詰まった宝物と呼べるものだった。 ラブがクローバーボックスを拾うと、石堀が訪ねてくる。 「ラブちゃん、それを知っているのかい?」 「はい。これはクローバーボックスと言って、あたし達にとって大切なオルゴールなんです!」 「へえ……確かに、随分と綺麗だね」 「よかったら、演奏してみます? このハンドルを回せば、綺麗な音色が流れますよ」 「……まあ、息抜きとしてやってみるか」 そう言いながら頷く石堀に、ラブはクローバーボックスを差し出す。 しかし、彼の指先がクローバーボックスに触れようとした瞬間、バチリ! という電撃が迸るような音が鳴り響く。そして、石堀の手が弾かれてしまった。 「何!?」 「えっ!?」 石堀とラブは同時に驚く。 手を抑えている石堀は当然のこと、ラブも今の出来事を疑っていた。 「え、ええっ!? 何でクローバーボックスが石堀さんを弾いたの!?」 「それは俺の台詞だよ……これは、静電気じゃなさそうだが……」 「う~ん……クローバーボックスは悪い人が触ろうとしたら、バリアが出る仕組みになっているんです」 「何だと?」 ラブの言葉によって、石堀の目が一気に見開かれてしまう。 それを見て、ラブは気付く。今の言葉は、石堀を悪人だと決め付けているようなものだ。 「石堀さん、違います! これはその……決して石堀さんが悪い人だってことじゃありません! あれ、どうしたの? おーい! クローバーボックス~!」 ラブはクローバーボックスをまじまじと見るが、何か異常があるようでもない。壊れている所もないし、欠けているパーツだってなかった。 ぶんぶんと上下に振りながら「クローバーボックス~!」と呼び続けるが、何の反応もない。特別な力を持っているとはいえ、クローバーボックスはオルゴールなのだから喋る訳がなかった。 もしも、北条響達が変身するスイートプリキュアの持っているヒーリングチェストのように、クレッシェンドトーンのような妖精が宿っていたら話は違うかもしれない。しかし、クローバーボックスの中に妖精はいなかった。 「落ち着いてくれ、ラブちゃん!」 「だ、だって~!」 「なになに、どうしたの? 何の騒ぎ?」 ラブが石堀に反論しようとした直後、ひょっこりと暁が姿を現す。 そして、すぐにクローバーボックスを見つめてきた。 「おっ! ラブちゃん、いつの間にそんなお宝を持っていたの!?」 「えっ? これは暁さんの持っていたバッグの中に入っていたみたいですけど……」 「嘘、マジで?」 「はい」 「ふ~ん……まあいいや。それ、ちょっと見てもいいかな?」 その言葉とは裏腹に、暁はラブの返事を待たずにクローバーボックスを取ろうとする。だが、クローバーボックスは暁を拒絶するようにバリアを張って、勢いよく弾いた。 「うぎゃ!」 「あ、暁さん!?」 「い、今のは何だ!? この箱からバリバリ! って電気が出てきたけど!?」 「ええ~!?」 暁は驚いたように叫んだ後、フーフーと手に息を吹きかける。 ラブも困惑していた。どうして、クローバーボックスは普通の人間である二人にバリアを張った理由がわからない。暁と石堀は悪人ではないのだから、弾く必要はないはずだった。 クローバーボックスに何かあったのかと思ったが、ラブは何事もなく持っている。それもあって、疑問が更に強くなっていた。 「……もしかしたら、俺達の心にある闇に反応したのか? そのクローバーボックスってオルゴールは」 どうすればいいのかとラブが悩んでいる最中、石堀が声をかけてくる。 彼の言葉にラブは怪訝な表情を浮かべた。 「心にある、闇?」 「ああ。さっき、副隊長を殺されてしまった時、俺と暁はあの男に怒りと憎しみを燃やしていた。クローバーボックスはそれに反応して、俺達のことを敵と認識したのかもしれない」 「なるほど……でも、あたしだってあの人に怒っていましたけど?」 「それは、君がプリキュアだからじゃないのかな? 俺や暁はクローバーボックスのことを知らないけど、ラブちゃんは同じ世界の住民だ。だから、クローバーボックスも敵と思っていないかもしれない。これは、ただの仮説だけどな」 石堀の言葉にラブは頷くしかない。真相を確かめられない以上、他にできることはなかった。 クローバーボックスから信頼されていると石堀は言ってくれたけど、ラブは素直に受け止められない。別に聖人君子という訳ではないし、テッカマンランスやダグバを前にした時は激しく怒りを燃やした。石堀が言うように、それが原因で心に闇が宿ってもおかしくないのに、クローバーボックスから拒絶されていない。 もしかしたら、心の中にある怒りや憎しみに溺れないでみんなを守って欲しいと、クローバーボックスは願っているのかもしれない。そんな考えがラブの中で芽生えていた。 「何だかよくわからないけど、要するにそのオルゴールはラブちゃんしか持てないってこと?」 「そういうことになるな。音色も興味はあるが、それは後の楽しみにしておこう……そういう訳で、それはラブちゃんが持っているべきだ」 「そういう訳だから、よろしくね!」 暁と石堀の言葉にラブは「はい」と首を振る。 元々、クローバーボックスはラブが持っているのだから、断る理由などなかった。 「まあ、暁の場合は元々の下心や欲望もあったせいで、クローバーボックスに断られた可能性だってあるぞ」 「おい! 石堀、俺に喧嘩を売っているのか?」 「冗談だ。こんな時に無駄な戦いなんか御免だ……それと暁、俺はあの男の死体を処理してくるから、ラブちゃんのことを頼んだぞ」 「あの男……? ああ、あの変態野郎か」 「そうだ。すぐに戻るから、ちょっとだけ待っていてくれ」 そう言いながら背を向けた石堀は、ここから去っていく。きっと、祈里や凪の命を奪った男の所に行くとラブは察した。 処理という言葉を聞いて、一瞬だけラブは背筋が冷えたのを感じる。その時だけは、石堀の姿がまるでメビウスやクラインのように見えてしまった。相手が凪の仇だから怒って当然かもしれないけど、それでも薄気味悪い。 でも、暁と軽口をぶつけ合えるのだから、本質的には優しい人だろう。だから、ラブは石堀を信頼していた。 「石堀さん、大丈夫かな?」 「あいつなら大丈夫だって。それとも、心配?」 「……やっぱり、心配してしまいます。こんな所で一人になるなんて、危ないと思いますし」 「そっか。やっぱり、それが普通だよね。でも、あいつなら大丈夫……それを信じようぜ」 「そうですよね……」 暁の意見もわかる。石堀は特殊部隊に所属しているおかげで格闘技術はかなり高いし、仮面ライダーに変身して戦っていた。だから、どんな敵が来ても簡単には負けないし、その力で暁のことだって助けている。 信用しないのは石堀に対して失礼だ。ラブだって理解できるけど、やはり不安が芽生えてしまう。簡単に割り切ることはできなかったけど、ここでそれを口にしても空気が悪くなるだけだ。 彼の為にできることは、暁と一緒に待つしかない。何事もなく、無事に戻ってきてくれることを信じるしかなかった。 石堀が現れてくれることを信じながら、ラブはぼんやりと街中を見渡す。普通なら、こういう道には人通りが激しく、今の時間だったら買い物や帰宅をする人で溢れているはずだ。でも、この街には活気が感じられない。まるで、かつてノーザに見せられた偽のクローバータウンストリートに立っているようだった。 嫌な思い出が脳裏に蘇った瞬間、ここから少し離れた場所に奇妙な黒い塊が見る。それが何なのかが気になって、ラブは反射的に近付いて……絶句した。 それは、人の焼死体だったからだ。 「ひ、酷い……!」 あまりの凄惨さに、ラブは思わず両手で口元を押さえてしまう。 この世界に連れて来られてから、人の死体は何度も見てしまっている。だけど、誰だろうと顔の原形だけは辛うじて留めていた。しかし、目の前の死体は全ての尊厳を奪われたかのように、黒焦げになっている。 どうして、ここまでやる必要があるのかという疑問や怒り。そして、人の死を見てしまった悲しみが胸の中で湧き上がっていた。 「誰がこんなことをやりやがった……?」 そして、いつの間にか歩み寄ってきた暁も、倒れている死体を見て呟く。 彼もこれだけ傷付けられた死体を見たことがなかったのだろう。今回ばかりは、いつもの落ち着きが感じられない。ラブのように動揺していた。 この場で死んでしまった人の為にできることは、一刻も早く弔うこと。これ以上、放置していたら眠ることができないはずだった。そう思ったラブはリンクルンを手に取り、変身する。 「チェンジ・プリキュア! ビート・アップ!」 叫び声と共に、彼女の身体は桃色の光に包まれていく。しかし光は一瞬で弾けていき、桃園ラブはキュアピーチに変身した。 放送前に埋葬した少年と少女の時と同じように、キュアピーチはすぐ近くの地面に穴を掘る。プリキュアの力さえあれば、人を埋めるだけの穴を作るまで十秒も必要なかった。 手に付着した土を振り払って、彼女は遺体に目を向ける。よく見ると、頭と体が離れている。つまり、焼かれただけでは飽き足らず、首すらも斬られてしまったのだ。それを知った瞬間、キュアピーチは反射的に顔を顰めてしまう。 一体誰がここまで残酷なことをしたのか。こんな風にされなければならない理由が、この人にあったのか。この人にだって、元の世界で帰りを待っている家族がいたはずなのに、最悪の形で別れさせられるなんてあんまりだ。 疑問は増える中、キュアピーチの脳裏にダグバの姿が浮かび上がる。 『プリキュアも一人殺したよ。黄色い子だったね。君とよく似た姿をした……』 そして、同時にダグバの言葉が頭の中でリピートされた。 それによって、一つの可能性がキュアピーチの中で芽生え始める。 「もしかして、ブッキー……? ブッキーなの!?」 思わずキュアピーチは呼びかけるが、当然ながら答えは返ってこない。既に遺体となってしまったので、動くどころか喋ることすら不可能だった。 「ブッキー……? それって、祈里ちゃんのことだよね? じゃあ、ここにいるのってまさか……!」 「あたしも、わかりません。でも、そんな気がします……ここにいるのは、ブッキーだって……」 キュアピーチは曖昧な態度で、暁に答えることしかできない。 ダグバは祈里を殺したと言った。それに、ここはダグバが現れた場所とそこまで遠くない。だから、腕の中にいるのは山吹祈里かもしれなかった。ただの憶測なのはわかっているけど、完全に否定することはできない。 その推測は当たっている。キュアパインに変身した祈里はこのエリアでダグバと戦って、成す術もなく殺害されてしまい、そのまま超自然発火能力で死体を焼かれた。その後、沖一也が変身した仮面ライダースーパー1によって首を切断されているが、それを知るのは誰もいない。 ただ、ここで殺されたのは祈里であるかもしれないという可能性しか、得られなかった。 「ラブちゃん……」 「ごめんなさい、暁さん。心配させちゃって」 「えっ?」 キュアピーチの言葉によって、暁は呆気にとられたように口を開ける。 「さっき、石堀さんが言っていましたよね。凪さんって人は、あたし達が悲しむことを絶対に望まないって……それは、ブッキーも同じだと思います。ブッキーはきっと、あたしや美希たんが泣くことを、望んでいませんから……」 淡々と語りながら、キュアピーチは埋葬を行った。首が切断されてしまったので、頭と胴体を付けるように置く。こうしても、切断された首が元に戻る訳ではない。ただの気休めでしかなかったけど、キュアピーチはやらずにはいられなかった。 幼馴染の祈里が身体を焼かれて、無残にも首を斬られる……その辛さと苦しみは、想像することができない程に凄まじかったはずだった。 「ブッキー……ごめんなさい。あたし、ブッキーやせつな達のことを助けないといけなかったのに、助けられなかった……でも、あたしはブッキーの分まで頑張る。立ち止まらないから」 その言葉が終わると同時に、祈里の身体も完全に埋まる。 涙を流したりしない。必要以上に謝ったりしない。前をひたすら進むのだと祈里達に誓ったのだから、それを自分から裏切る訳にはいかなかった。 望んでいない形だけど、祈里と再会して別れを告げることができた。後は、彼女の遺志を受け継ぐだけだ。 「暁さん、ありがとうございます。付き添ってくれて」 「いいってことよ。祈里ちゃんもきっと、喜んでいるよ……ラブちゃんが来てくれたことを」 キュアピーチと暁は互いに笑顔を見せ合う。 しかしそれからすぐに変身を解いて、祈里が眠る土の下に目を向けた。 「ブッキー……さようなら」 別れの言葉を告げながら、桃園ラブはデイバッグからドーナツを一個だけ取り出す。 カオルちゃんの作ったドーナツは祈里も大好きでよく食べていた。だから、天国にいる彼女に届くことを願いながら、ドーナツを供える。 そして数秒間の黙祷を捧げてから、二人は元の場所に向かう。すると、タイミングを見計らったかのように石堀が戻ってきた。 「待たせたな、二人とも」 「石堀さん! よかった……」 「そんなに心配していたのか? 俺の方は別に何ともない……戦闘も起こらなかったからな」 その言葉通り、石堀の姿は何も変わっていない。何事もなく、ダグバの遺体を弔えたのだろう。 「それじゃあ、そろそろ行くとするか! 沖や結城達は、どこにいるかねぇ……」 「さあな。だが、予定さえ狂わなければ街に辿り着いているはずだ。あいつらはお前とは違って、基本的に約束は守るタイプだろうからな」 「……なあ、石堀。お前、やっぱり俺に喧嘩を売っているだろ?」 「冗談だって言っているだろ? いちいちムキになる所が、お前の悪い所だ……それじゃあ、いつまで経ってもバカのままだぞ」 「うるせえ!」 涼村暁と石堀光彦のやり取りを、桃園ラブは微笑みながら見守る。 この人達に出会えてよかったと心の底から思いながら。 ◆ 石堀光彦は同行者である涼村暁や桃園ラブと同行しながら、今後のことを思案している。表面上では『頼りになるナイトレイダーの隊員』という姿を装いながら。 ン・ダグバ・ゼバの遺体は海に放置している。人間の世界なら死体遺棄罪に問われるだろうが、ここではその罪を裁く者はいない。それに石堀自身、ダグバの死体を捨てたことに対して後ろめたさを覚える訳がなかった。 それよりも、今は他に懸念するべきアイテムがある。桃園ラブが持っているクローバーボックスという名のオルゴールだ。 (闇を拒絶するオルゴールだと……まさか、そんな楽器があるとは。やれやれ、面倒な性質を持っているな) ラブの信頼を得る為に、提案を受け入れてクローバーボックスを奏でようとしたら手を弾かれてしまう。恐らく、アンノウンハンドであることを見抜いた可能性が高い。抵抗自体はすぐに打ち破れそうだったが、一瞬だけでも拒絶されてしまったことが問題だった。 正体が知られてしまうと危惧したが、その直後に暁も弾かれたので今は誤魔化せている。ただの人間である暁も触れなかったのは疑問だが、もしかしたら主催者がプリキュア以外は触れないように細工をしたのかもしれない。 忌々しいと思った連中だが、今回ばかりはその働きに助かった。だからといって感謝はしないし、最終的に皆殺しにすることは変わらない。 (どうやら、いざとなったらメモレイサーを使う必要があるかもしれないな……クローバーボックスに弾かれたことを見られたのは、問題だ) デイバッグの中にはメモレイサーが入っている。これさえ使えば、クローバーボックスから拒絶されたという記憶を消すことができるだろう。尤も、これはリスクがあまりにも高すぎるので、仮に使うとしても最終手段だ。 参加者に隠蔽ができたとしても、既に主催陣営に知られてしまっている。もしも主催者が他の参加者に教えてしまったら何の意味もない。最悪、消去した記憶を復元させてしまう可能性だってあった。 ……そこまで考えて、石堀の中で一つの可能性が芽生える。 (記憶、だと……やはり、主催者にはメモリーポリスが関わっているのか? いや、最悪の場合、TLT自体が何者かによって乗っ取られた可能性だってある……そして、俺の記憶も操作したのか?) メモレイサーが手元にあるのは、この殺し合いにはTLTが関わっているからだと思っていた。しかし、情報を集めていると事態はもっと深刻な可能性だってある。 数多の平行世界を行き来するラビリンスや、ボトムやブラックホールのような宇宙規模の影響を齎す闇。あるいは、それらに匹敵する力を持つ何者かがTLTを制圧していることだって考えられた。もしくは、ダークザギが暗躍するより前から忍び込んでいた可能性だってある。 放送前に、どうして凪がウルトラマンの光を得られるのかという疑問を抱いたが、その途端にノイズが走った。もしかしたら、正体不明の黒幕がメモレイサーと同じような道具を使ったことによって、記憶にプロテクトがかけられたかもしれない。 だが、何の為にそれをする必要があったのか。知られることで、この殺し合いを根底から崩す原因となってしまうのか。放送で現れたゴハットという怪物は、9時以降に単独行動を続けていれば制限について話すと言っていたが、その状況になれば真実を知れるのだろうか? ……だが、ここでいくら考えても答えは見つからない。単独行動を出来る状況になるのかわからない現状では、どうしようもなかった。今は情報収集に専念するしかない。 例えるなら、放送で現れた男についてだ。 「そういえば暁。放送で現れたゴハットという奴はダークザイドを自称していたが、知っているのか?」 「あんな怪しげな男、俺が知っている訳ないでしょ! ていうか、関わりたくもねーよ!」 「そうか。だが、奴はお前のことを知っていそうだったが……もしかして、黒岩のように未来で会う可能性があるかもしれないぞ」 「マジかよ!? 勘弁してくれよ……」 暁はうんざりしたように深い溜息を吐く。いくらいい加減な暁といっても、あんな得体の知れない男は流石に受け付けないようだ。それは石堀も同じだし、あんなふざけた態度を取る怪物に見下されていると思うと、怒りが湧きあがってしまう。 だが、それが原因で感情を乱されてはまた足元を掬われる危険があった。凪を殺された時のように失態を犯さない為にも、石堀は心を鎮める。 「なら、ここで倒してしまえばいい。そうすれば、お前の未来だって変わるかもしれないし、これからの未来で奴の被害者が減るかもしれないだろう?」 「石堀さんの言う通りですよ! あたしも、暁さんと一緒に頑張りますから!」 「そっか……そりゃ、そうだ! そうした方が、一番早いよな! あんなオタクヤローはこの俺の手で、ぶちのめしてやるよ!」 ラブと共に助言をした瞬間、暁は一気に表情を明るくした。 やはり、この男は単純だ。単純だが、それだけに扱いやすい。暁はどうしようもないバカだが、ダグバを殺すことはできなかっただろう。ラブと同様、まだまだ利用することができそうだ。 利用価値がありそうな一文字隼人や村雨良は死んでいる。残念だが、放送で呼ばれてしまった以上は仕方がない。今は次のデュナミストと、他の仮面ライダーを始めとした協力者を探すべきだった。 目的を見定めながら、涼村暁と桃園ラブの二人を先導するように石堀光彦は歩く。その先に、復活の手がかりがあると信じながら。 【1日目 夜】 【H-8/市街地】 【備考】 ※山吹祈里の遺体が埋葬されました。また、埋められている場所にはカオルちゃん特製のドーナツ@フレッシュプリキュア! が一つだけ供えられています。 ※ン・ダグバ・ゼバの遺体は海に放置されました。 【涼村暁@超光戦士シャンゼリオン】 [状態]:疲労(中)、胸部に強いダメージ、黒岩への怒り、ダグバの死体が軽くトラウマ、嘔吐による空腹、ただし今は食欲減退 [装備]:シャンバイザー@超光戦士シャンゼリオン、モロトフ火炎手榴弾×3 [道具]:支給品一式×7(暁(ペットボトル一本消費)、一文字(食料一食分消費)、ミユキ、ダグバ、ほむら、祈里(食料と水はほむらの方に)、霧彦)、首輪(ほむら)、姫矢の戦場写真@ウルトラマンネクサス、タカラガイの貝殻@ウルトラマンネクサス、八宝大華輪×4@らんま1/2、スタンガン、ブレイクされたスカルメモリ、ランダム支給品0~4(ミユキ0~2、ほむら0~1(武器・衣類ではない)、祈里0~1(衣類はない)) [思考] 基本:加頭たちをブッ潰し、加頭たちの資金を奪ってパラダイス♪ 0:石堀やラブちゃんと一緒に、どこかに集まっているだろう仲間を探す。 1:別れた人達が心配、出来れば合流したい。 2:あんこちゃん(杏子)を捜してみる。 3:黒岩との決着は俺がつける 4:可愛い女の子を見つけたらまずはナンパ。 5:変なオタクヤロー(ゴハット)はいつかぶちのめす。 [備考] ※第2話「ノーテンキラキラ」途中(橘朱美と喧嘩になる前)からの参戦です。 つまりまだ黒岩省吾とは面識がありません(リクシンキ、ホウジンキ、クウレツキのことも知らない)。 ※ほむら経由で魔法少女の事についてある程度聞きました。知り合いの名前は聞いていませんでしたが、凪(さやか情報)及び黒岩(マミ情報)との情報交換したことで概ね把握しました。その為、ほむらが助けたかったのがまどかだという事を把握しています。 ※黒岩とは未来で出会う可能性があると石堀より聞きました。 ※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました。 ※第二回放送のなぞなぞの答えを知りました。 ※森林でのガドルの放送を聞きました。 【桃園ラブ@フレッシュプリキュア!】 [状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、左肩に痛み、精神的疲労(小)、決意 [装備]:リンクルン@フレッシュプリキュア! [道具]:支給品一式×2(食料少消費)、カオルちゃん特製のドーナツ(少し減っている)@フレッシュプリキュア!、毛布×1@現実、ペットボトルに入った紅茶@現実、巴マミの首輪、工具箱、黒い炎と黄金の風@牙狼─GARO─、クローバーボックス@フレッシュプリキュア! 基本:誰も犠牲にしたりしない、みんなの幸せを守る。 1:どこかに集まっているだろう仲間を探す。 2:黒岩さんのことはひとまず暁に任せる 3:マミさんの遺志を継いで、みんなの明日を守るために戦う。 4:プリキュアのみんなと出来るだけ早く再会したい。 5:マミさんの知り合いを助けたい。もしも会えたらマミさんの事を伝えて謝る。 6:犠牲にされた人達のぶんまで生きる。 7:ダークプリキュアとと暗黒騎士キバ(本名は知らない)には気をつける。 8:どうして、サラマンダー男爵が……? [備考] ※本編終了後からの参戦です。 ※花咲つぼみ、来海えりか、明堂院いつき、月影ゆりの存在を知っています。 ※クモジャキーとダークプリキュアに関しては詳しい所までは知りません。 ※加頭順の背後にフュージョン、ボトム、ブラックホールのような存在がいると考えています。 ※放送で現れたサラマンダー男爵は偽者だと考えています。 【石堀光彦@ウルトラマンネクサス】 [状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、頭痛 [装備]:Kar98k(korrosion弾7/8)@仮面ライダーSPIRITS、アクセルドライバー+ガイアメモリ(アクセル、トライアル)+ガイアメモリ強化アダプター@仮面ライダーW、エンジンブレード+エンジンメモリ+T2サイクロンメモリ@仮面ライダーW 、コルトパイソン+執行実包(2/6) 、ロストドライバー@仮面ライダーW [道具]:支給品一式×3(石堀、ガドル、ユーノ、凪、照井、フェイト)、メモレイサー@ウルトラマンネクサス、110のシャンプー@らんま1/2、ガイアメモリ説明書、.357マグナム弾(執行実包×18、神経断裂弾@仮面ライダークウガ×4)、テッククリスタル(レイピア)@宇宙の騎士テッカマンブレード、イングラムM10@現実?、火炎杖@らんま1/2、血のついた毛布、ランダム支給品2~8(照井1~3、フェイト0~1、ガドル0~2(グリーフシードはない)、ユーノ1~2) [思考] 基本:今は「石堀光彦」として行動する。 1:今は暁とラブの二人を先導しながら街を進む。 2:どこかに集まっているだろう仲間を探す。 3:周囲を利用し、加頭を倒し元の世界に戻る。 4:次のデュナミストがどうなっているか気になる。もし異世界の人間だった場合どうするべきか… 5:孤門や、つぼみの仲間、光を持つものを捜す。 6:都合の悪い記憶はメモレイサーで消去する 7:加頭の「願いを叶える」という言葉が信用できるとわかった場合は……。 8:クローバーボックスに警戒。 [備考] ※参戦時期は姫矢編の後半ごろ。 ※今の彼にダークザギへの変身能力があるかは不明です(原作ではネクサスの光を変換する必要があります)。 ※ハトプリ勢、およびフレプリ勢についてプリキュア関連の秘密も含めて聞きました。 ※良牙が発した気柱を目撃しています。 ※つぼみからプリキュア、砂漠の使徒、サラマンダー男爵について聞きました。 ※殺し合いの技術提供にTLTが関わっている可能性を考えています。 ※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました。 ※第二回放送のなぞなぞの答えを知りました。 ※森林でのガドルの放送を聞きました。 ※予知能力に関する記憶が思い出せませんが、何故凪が光の継承者になった事を知っていたのか、疑問に思い始めているようです。 ※TLTが何者かに乗っ取られてしまった可能性を考えています。 【支給品解説】 【クローバーボックス@フレッシュプリキュア!】 暁美ほむらに支給。 シフォンと一緒に流星から現れた不思議な力を持つオルゴール。最初は長老のティラミスによって守られていたが、ある時からタルトに託される。 音色を奏でると、インフィニティとなったシフォンを元に戻す効果がある他、ラビリンスの作ったレーダーを狂わせることができる。 また、悪人が触れようとすると自動的にバリアが張られます。(どのくらいの基準で弾かれるのかは、後続の書き手さんにお任せします) プリキュア達が四人集まって、力を合わせれば合体必殺技であるラッキークローバー・グランドフィナーレを発動させることもできます。 時系列順で読む Back 空虚Next 解─unlock─ 投下順で読む Back 空虚Next 解─unlock─ Back ひかりのまち(後編) 涼村暁 Next 黒岩、死す!勝利のいちご牛乳(前編) Back ひかりのまち(後編) 桃園ラブ Next 黒岩、死す!勝利のいちご牛乳(前編) Back ひかりのまち(後編) 石堀光彦 Next 黒岩、死す!勝利のいちご牛乳(前編)
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永遠のともだち ◆gry038wOvE ────お願い、世界を救って ────全ての世界が侵略者に狙われている ────急いで ────ウルトラマンたちと共に、侵略者を倒して! ◆ 「イヤ~~~~~!!!!」 あの殺し合い──変身ロワイアルを終えた蒼乃美希は、今度は全く見ず知らずの場所で、体長50メートル以上の怪獣に追われていた。 どうして怪獣に追われているのかは当人の胸に訊いても定かではない。 今はただ、美希は腕を振り、足を動かして前に進むだけだ。問題は、どう頑張ったところでも、美希の人並の歩幅での精一杯の走りは、規格外の巨大さを誇る怪獣の歩みに距離を縮められているという事である。 「何なのよ、もう~~~!!!」 思わず空に叫ぶが、彼女の魂の訴えを聞いてくれる者はいない。 周囲は人っ子一人いないゴーストタウンだ。──いや、それはそもそも、「タウン」と呼ぶには、美希の持つ常識と大きく外れすぎているかもしれない。 いきなり怪獣に見つかり追われ、何かを考える間もなく必死で逃げている物で、自分が帰って来た場所については、あくまで一瞬の印象と考察しか持っていないのだが、ひとまず、その時に美希が抱いたこの場に関する情報を思い返し、情報を纏めてみよう。 そもそも此処が、美希が帰るべき場所ではないという事は、辿り着いたその瞬間から彼女の本能が告げていた。 ──おそらくは、“美希が帰るべき「星」ではない”か、“美希が帰るべき「世界」ではない”。あるいは、その両方であると思えた。生存条件があった事が奇跡的なくらいだろう。 周囲を見渡す限り、全てが光の建造物で埋め尽くされ、街全体がエメラルドやクリスタルの宝石で出来ているかのような土地だった。これがまず異常だった。アスファルトやコンクリート、アルミのように美希たちの生活する星に当たり前に存在している材質はなく、そうではない何かで構成されている。──まさに光り物だけで作られた女の夢のような都市だ。 ただ、それらは、「建造物」といっても、それは美希の──いや、一般水準の人間の身長たちと比べても、明らかに合わないサイズなのである。 はっきり言って、規格外だ。大きくともたかだか身長2メートル程度の人間では、一つ完成させるのに天文学的な時間と手間をかけるような──それこそ、見上げても果てのないほどの大きな建物たちが並んでいた。 まるで、あのウルトラマンノアやダークザギと同じくらいの体格の巨人に生活条件に合致するかのような──いや、そうとしか思えない街なのである。美希たちと同じ等身の人間がこんな物を作ったって意味はない。 ここは、ナスカの巨大な地上絵を落書きできるような生物が住まう場所ではないか──? 迷い込んでしまった場所で、最初は自分が小さくなったのかとも思ったが、そもそもこれだけ周囲の光景が地球と違ってしまっていれば、そんな誤解さえも起きない。自分とは規格の違う別の場所に誘われてしまったようだとしか思えなかった。 ──そう、美希は知らないが、彼女がブラックホールによって転送された場所は、銀河系から遥か300万光年離れたM78星雲に位置する、ウルトラの星なのである。 要するに、ここは、蒼乃美希とは縁もゆかりもないような星だが、どういうわけか、彼女はこの世界に飛ばされてしまい、変な目玉の怪獣に一人で追われる状況になっている。 彼女が帰りたいのは、ウルトラマンの故郷ではなく、自分の故郷の地球だ。しかし、何らかの不幸な事故か導きによって、ここに転送されてしまった美希は、とにかく目先の障害から命を守るしかなかった。 見る限り誰もいないビル群の中を、どすどすと歩いて追ってくる怪物。 怪獣から必死で逃げる美希。 (っていうか、何なの……! あの目玉の怪獣はっっ!?) 奇獣ガンQ。 体長は55メートル。体重5万5千トン。 ちなみに生命がない。 ……という怪獣のデータはどうでもいいとして、問題は、美希は反撃が一切できないという状況である。 例によって、美希のリンクルンは石堀光彦によって光の吸収を受けた際に力が消えてしまい、完全に美希からキュアベリーへの変身能力を奪っていた。勿論、孤門一輝に継承されてしまったネクサスの光での変身もできない。 更に言えば、地の利も悪い。見知らぬ土地であるのは勿論の事、美希が普段履いているスニーカーはこの不明な材質の上を走るのに適した構造をしていないし、美希の身体も宇宙の果ての星で息を切らすには向いていなかった。 現状、策はないが、生きるには上手く策を講じて、ガンQを撒いて逃げるほかない。 「キィィィィィィィィッ!! キュィィィィィィィィィ」 一方、ガンQは、余程美希の事が好きらしく、巨大な目玉をハートにしてしつこく追ってくるのだった。 好意を持ってくれるのはありがたい話であったが、残念ながら美希の身長は164cm。ガンQと比べると54メートルほどの身長差があり、その身長差では、指先で触れられただけで潰れてしまう。今も地鳴りで体が飛び跳ねそうなほどだ。 「好きになって貰っても、お返しが出来ないから~~~!!」 というわけで、両腕を振って美希は好意を無碍にする。 あの目玉を見ていると、どうしても何を考えているのかわからず、不安になる気持ちを抑えられなくなる。 好機とばかりに、怪獣の入って来られないような建物と建物の隙間を見つけ、そこに全速力で駆けていき、すぐさま陰に隠れると、美希は少しだけペースを落として百メートル程度だけ走った。 ガンQがどれだけ美希をちゃんと見る事ができていたかはわからないが、人間がすばしっこく逃げていく蟻を追えないように、ガンQもこれ以上美希を深追いする事は出来ないのではないかと思ったのだ。 (はぁ……はぁ……まさか、帰って来たと思ったら怪獣に追われるなんて……) こうして建物の陰に隠れると、狙い通りであった。遂に細やかな美希の姿はガンQの身体にある無数の目にも映らなくなったらしく、ガンQは、きょろきょろと巨大な目を回しながらどこかへと去って行った。先ほどの一瞬で死角に入れたのは奇跡だ。 (ふぅ……でも、何とか向こうに行ってくれたみたいね) ぜいぜい息を吐きながらも、彼女はまた百メートルほど来た所を戻り、遠目で、ガンQが背中を向けているのを見て、ほっと胸をなで下ろした。 しかし、顔をそーっと出して、ガンQが去って行くのを黙って見つめる。 この陰に隠れていれば、しばらくは安全だろうと思った。色々と考える事はあるが、ひとまずはこの疲労をどうにかしなければ……。 ──と、そんな時だ。 「──おーい、お前、そんなトコで何してんだー!?」 またも、巨大な怪物が、屈んでこの建物の陰を覗いて見ていたのである。 「きゃああああああああああああああああああああああああああーーーーっ!!!!」 反射的に、美希は大声で叫んだ。 逃げ切ったと思った瞬間に、金色の瞳と銀色の肌を持つ、仏像のような巨大な顔が迫っていたのである。それがあまりにも大きすぎた為に、ほとんど建物の陰には光が差し込まず、美希はそれに圧迫感を覚えた。 ここに住んでいる者は、先ほど予感した通り、やはり50メートル大の姿をしているらしい。 ──ただ、ガンQと比べると、体格だけは人間の形をしていて、何故か流暢な日本語を普通に喋っている。あれを怪獣と呼ぶのはまだしも、彼を怪獣と呼ぶのは何かが違うようだ。 彼は何者だろう──。 「驚く事ねえだろ。なあ、この辺りで目玉の怪物を見なかったかぁ? ……って、ん? お前、まさか、蒼乃美希かっ!?」 美希の方は恐る恐るといった表情であるが、どうやら相手が自分の事を知っているという事だけは確認できた。 しかし、こんな知り合いはいただろうか──と、美希は少し考える。 もしかすると、こんな相手にもファッションモデルとして名前を知れ渡ってしまっているのだろうか。 「──俺はウルトラマンゼロ! お前たちの活躍、ちゃんと見てたぜ!」 「う、ウルトラマン……?」 ──どうやら違ったらしい。だが、それでも充分驚きは大きかった。 彼の名はウルトラマンゼロ。──想像するに、美希があのバトルロワイアルで出会ったウルトラマンネクサスやウルトラマンノアの親戚のような存在だろうと思える。 言われてみれば、顔立ちはウルトラマンネクサスやウルトラマンノアにも似ていた。──元々、それらの顔をはっきりと眺める機会があったわけでもないが、特徴的なフォルムだったので記憶の片隅には残っている。 美希の知るウルトラマンはもっと人格を廃された無感情で無口な者だったので、意外な気持ちが大きかった。こんなにも感情的で豊かに喋る物だとは思っていなかったのだ──まるで、神のようにも思っていたが、彼はそこらの普通の若者のような口調である。 敵対する態度を見せる様子はないが、しかし、このゼロも実際のところはわからない。殺し合いの中で残酷な裏切りを経験した美希には、まず疑る事も必要になってくる。 「ああ.! ここはウルトラマンたちの住む星だ! まっ、あのイカみたいなウルトラマンとは、別に知り合いってわけじゃないんだけどな。……で、美希。巨大な怪獣を見なかったか? 目玉の怪獣が一体、脱走しちまったからこの辺は危険なんだよなぁ」 「め、目玉の怪獣……?」 美希は、その言葉を聞いた時、ゼロの事を考えるのをふとやめて、やや顔を引きつらせた。 だんだんと美希の顔色は青ざめ、言葉を失う。彼女の視界に、映ってはいけない物が映り始めたのだ。彼女の身体を伝っていく鳥肌と、言い知れぬ不安。 ────あざ笑う眼。 「あ、あれ……」 美希はゼロの背後を指さした。 彼女の視界には、ウルトラマンゼロの真後ろにガンQの巨大な目玉が迫っている姿があったのだ。──ゼロは気づいていないようだが、美希にしてみれば、自分のもとにかなり大きく影が広がっている。 あのガンQにこの場を気づかれてしまったらしい事が美希にも今、わかった。ゼロの声量に惹かれてきてしまったのだろう。 「おわっ!」 刹那──、背後を振り返ろうとしたゼロの顔が、美希を挟む二つの建物に向けて、叩きつけられた。ガンQの攻撃による物だ。 建物が衝撃のあまりに轟音を鳴らし、思わず美希は両腕で顔を覆うが、流石に材質も頑丈なようで、その程度では崩れない。 問題は、不意打ちを受けたゼロの方だ。 顔面からこの頑丈な建物に突っ込んだだけあって、衝撃は大きく、ゼロも鼻の先を抑えている。 「いてててててて……何しやがるっ! この目ん玉野郎! 捕まえたのに逃げやがって!」 「キュィィィィィィィ」 「──ったく! 美希! そこで見てろよ、こいつは俺が倒してやる!」 ゼロは、敵を仕留めたと思いしめしめと両腕を振るガンQの方に、向き直るように立ち上がった。 思わず、美希はその背中に圧倒される。 赤と青と銀の三つの色で構成されるウルトラマンゼロの背中は、確かに美希が見てきたウルトラマンたちの共通のカラーと全く同じだった。その意匠を継いでいる彼は、もしかすると、確かにウルトラマンであるかもしれない。 これまで出会ったウルトラマンよりやや線が細くも見えるが、それだけ絞りこまれた姿であるとも言えるし、悪人のようにさえ見える貌は背に転じると頼もしくも見えた。こうした人間味もウルトラマンの本質なのだろうか。 「キュィィィィ」 「せぇやっ!」 ガンQの目玉型の頭部を両腕で抱え込んだゼロは、両腕にエネルギーを溜め、ガンQの巨体を放り投げた。ガンQは、背中から向かいの建物に向けて叩きつけられ、垂直の滑り台に投げ込まれたように壁面を伝って落下していく。 ──華奢に見えて、ゼロは強かった。 尻から落ちたガンQは怒った様子で、触手のような両腕をただ自らの両脇で振って癇癪を起こしていた。 直後、ガンQはおもむろに立ち上がる。 そして、目の前の敵に向けて突進を始める。──迎え撃つゼロは、どんと来いとばかりに胸を張って待ち構えていた。 自信に満ちたゼロの胸板にガンQの渾身のタックルが叩きこまれる。体重で言えばガンQに分がありそうなのは、両者の体格を見れば一目瞭然だった。実際のところ、ゼロはガンQと比較して2万トンほど体重が劣る。 「ぐっ!」 ゼロの全身に衝撃が駆け巡り、固く踏み込んでいるはずの両足もゆっくりと滑るようにして何メートルか後ろに退がって行った。 美希の視界で、だんだんとゼロの巨大な足のビジョンが広がって来る。美希は恐怖のあまり二歩ほど足を下げた。美希は、おそるおそそるゼロの背中を見上げた。 彼は、土俵際の踏ん張りを見せながら、──それでもまだどこか挑発的にガンQと張り合っているように見えた。 「──そんなに何度も吹き飛ばされたいなら……望み通りにしてやるよっと!」 「キュィィィィィィィ」 「────はあッ!!」 しかし、両者のせめぎ合いは、ゼロの掛け声と共に終わりを告げた。 次の瞬間、またも抱え込まれたガンQの身体は、ゼロの両腕に掬われるようにして空高く投げられてしまったのだ。 確かにゼロは巨人であるが、それは人間と比較した場合の話で──ガンQのようにゼロよりも明らかに体格が大きい怪獣を相手にすれば、そのパワーバランスで勝るとは限らない。それをこうもあっさりと投げ飛ばせたゼロの両腕は、一見すると細く見えても力強いのであった。 彼は、この程度の怪獣は何度も倒してきた若きウルトラ戦士である。 美希はそれを見て、足を両側に滑らせてへたり込んだ。 結局のところ、ゼロが敵か味方かは判然とせず、ガンQの追跡がなくなったとしても、ゼロがそこに立っている限り、美希の心はまだどこか安堵しきれないのだろう。──とはいえ、より強い者がそこに残ってしまった事への畏怖の念としては少々弱すぎるくらいであった。 ここから先、逃げ出す気力は、もう美希にはない。 「あっ! いっけねぇ、放り投げちまった……捕まえろって言われてたのになぁ」 当のゼロは、ガンQが星になった空を見上げて、まずかったとばかりに頭を掻いている。──こんな肌の質が違う怪人でも頭がむず痒い時があるのだろうか。 とはいえ、ゼロとしても、既に捕獲すべき怪獣の事よりも気になる事象があったのか、すぐにそちらに気を向けた。 「……おーい、美希~」 「……」 「美希ちゃ~ん。………………お~い」 美希が返事を怠ったせいで、途端にゼロの声がだんだん勢いをなくしているのがわかった。美希の目の前で視界に刺激を与えるように腕を振ってみるゼロだが、そんな美希の視界に実際映っているのは、全てを埋め尽くす昏い銀色だけだ。 しかし、どんな意味を持つ仕草をしているのかは美希にも何となく解する事ができた。どことなく人間臭さも感じる。 美希は、勇気を振り絞って、目の前の巨大なウルトラマンに訊いてみた。 「……あの、……助けてくれたのよね?」 「おう、ちゃんと意識があったのか! 返事くらいしてくれよ!」 「あ、ごめんなさい」 「──で、なんだ? なんでこんな所にいるんだ? 美希」 「それはこっちが聞きたいくらいなんだけど……」 間が悪かったのか、先に投げかけた質問は流されてしまう。 知り合いでもないのに妙にフランクな口調も気になったが、それよりも美希が気になっているのは、ウルトラマンゼロは味方のつもりか敵のつもりかという一点だ。 疑り深くもなっているが、あの殺し合いを生き残った所為──特に、土壇場で石堀光彦の酷い裏切りに遭った所為でもあるのだろう。 「つまり、何も知らないって事か。──やっぱり親父たちに聞いてみるのが一番いいのか?」 「そ・れ・よ・り!! あなたは私を助けてくれたの!? ──っていう、さっきの私の質問の答えは!?」 美希は、どうにも、このゼロに敬語を使う気が起きなかった。 相手が人間でないのも一つの理由だが、ゼロの馴れ馴れしく、口の悪い男子生徒のような口調にどうも違和感がある。神聖なウルトラ戦士のイメージが一瞬で崩れる姿だ。 佐倉杏子が変身したウルトラマンですら、まだもう少し素の要素が抑えられていたような気がするが、ゼロは一切それがない。 「──ん? おっと、悪い悪い。えっと……まあ、これも助けたって事になんのかな? ……俺たちこの星の住人──ウルトラマンは、ずっと、そうやって来た種族なんだ」 「誰かを助けながら生きてきたって事……?」 「ああ。特に、お前たち地球人との絆は深く長いもんだぜ! ──っつっても、今回はお前らに物凄い迷惑をかけちまったか……」 ゼロが、そう言って項垂れた。語調が少し優しく、彼が今のところ、美希に初めて見せた落ち着きを感じさせた。……いや、落ち着きというより、意味深な湿っぽさというべきかもしれない。 溜息をつくような声を出しながら座するゼロの近くに、美希は眉を顰めて寄った。 「どういう事? 一体、何があったの?」 「美希……さっきまで、お前、殺し合いをさせられてただろ……?」 「え?」 その美希の言葉には、色々な想いが詰め込まれている。 特に、「何故、初対面のゼロがそれを知っているのか」──というのが大きな疑問だ。 しかし、考えてみると、ゼロが開口一番に美希の名前を告げ、「活躍を見ていた」と言っていた事も繋がる話であった。その言葉はずっと美希の中でも違和感として残っていたが、ゼロとガンQの戦いを前に忘れかけていた。 ウルトラマンゼロは、あの殺し合いについて何かを知っている。 「あの殺し合いを催したのが、かつてこの星で生まれ、この星の仲間を裏切ったウルトラ戦士──カイザーベリアルなんだ。だからな……今、この星中の人間が責任を感じてる」 「ベリアル……。その名前は、知ってるわ。でも、なんであなたが、私が巻き込まれてた戦いを知ってるの!?」 「それは、俺だけじゃない。宇宙中──いや、全世界中の人がもう知ってるんだ。あの戦いは全部、ここしばらく、世界中に中継されてたからな……」 「──っ!?」 美希は、驚くと同時に──どこかで、それを納得して飲み込んだ。 確かに、百人にも満たない人間を相手に、あれだけ大がかりな事をするのは何らかの目的がなければおかしい話で、おそらくはあの出来事は映像データ化されている。──実験、と言われていた気がするが、それは世界中に配信されたのだろうか。 考えてみると、あの殺し合いは「ゲーム」という形式を取っていて、どこか娯楽性を持っていたようにも思う。 それは世界に公表する為なのではないか──? 美希の五指は自然と強く握られた。 「……とにかく、美希! ここにいるより、一緒に俺の親父たちがいる場所に行こう! 詳しい話は俺だけで話すより、親父たちに聞いた方がいい!」 ゼロはそう言うが、美希にはゼロが敵なのか味方なのか、まだ確定していない。 この場から出て取って食われるかもしれない心配もあったが──それでも、美希はゆっくりと前に出た。 ここで信頼できる相手が通りすぎるのを待っても仕方がなく、このゼロというウルトラマンを信用する以外にベリアルや殺し合い、この場について知る方法は見つかりそうになかった。 第一、疑り深く務めようとしても、必ずしもそうなりきれず、時には直感であっさりと人を信じてしまうのも、また人間の性である。 「さあ、この手に」 「手……? ああ」 ゼロは右手を差し出し、美希は彼の指先にそっと乗っかった。 彼が攻撃したり握りつぶしたりする気配はなく、美希は、それでひとまず安堵するが、直後にゼロが腕を上げて、美希を自分の胸元のあたりまで持ち上げた時、美希の背筋が凍った。 「ちょ……ちょっと!」 「ん? なんだ?」 「高い、ここ高いっ!!」 だいたいゼロの胸元のあたりと言うと、高度三十メートルほどである。 何らかの補助手段もなく、ただ掌の上にちょこんと載っているだけでは、かなり肝が冷えるほどの高さだ。──しかし、ゼロにはそれくらいしか美希を運ぶ手段はないのだった。 乱雑なように見えるが、ウルトラ戦士が地球人と一緒に移動する時はそれが一番手っ取り早い話で、ゼロも別段、その方法に抵抗を示してはいない。 それに、中には喜んでくれる地球人も多いくらいだった。 「安心しろよっ! ……絶対落ちないから」 「保証あるのっ!?」 「俺を信じろ!」 「無理よ、会ったばっかりだもん!」 「ったく……こんな事で死なせねえよ! お前だって、ウルトラマンと一緒に戦ってきた地球人の仲間だ──行くぜ!!」 「あああああ!! ちょっとおおおおおっ!!! 心の準備!!!!」 ゼロは、そのまま美希の意見を無視して、空に高く飛び上がる。美希は頭がくらっとするのを感じた。 だんだんと離れて行く地上──そこから落ちれば、一たまりもない状況。 しかし、ゼロは、美希をそこから落とさないよう、少し掌の中心を下げて持っているのがわかった。精一杯の配慮だが、確かにそこから地上が離れたとは思えないほど、風の抵抗を受けない形になっている。 美希の視界には、空から見上げたこの星の全貌が映し出され始めていた。本当に全てがエメラルド色とクリスタル色の光で包まれている街であった。 ──宇宙の神秘を体現したような美しい場所だ。 「──あれは!」 そして、先ほどまで見えていなかった巨大なタワーが見え始めた。あまりに美しい光景に、美希も怖さを忘れてそれに圧倒される。 それは、この星を築き上げたエネルギーの塊──プラズマスパークタワーであった。 人の心を魅了する輝きが、この街全体を灯しているのだ。この星にある人工太陽があのプラズマスパークタワーなのである。 ゼロは、ゆっくりと飛行しながらそこへ向かっているように思えた。 ◆ 美希がゼロに連れて来られた場所は、まさにそのプラズマスパークタワーの前であった。 このウルトラの星においても、最も厳重な管理が置かれる場であり、その周囲は歴戦の勇士たちが囲っている。宇宙警備隊に属する彼らが厳重な包囲をした上で、この場に現れたベリアル傘下の怪獣たちと戦う事になったらしい。 とはいえ、約一週間の時間をかけてウルトラ戦士の方が怪獣軍団を鎮圧し、多くを葬り、多くを捕えた。──死亡した怪獣は、怪獣墓場を彷徨い、供養される事になるだろうという。 ベリアルに最も近い参謀のメフィラス星人・魔導のスライといった強敵もウルティメイトフォースゼロの奮戦によって撃退する事が出来たらしい。 美希は、辿り着くまでに、彼の手の上で、そんな幾つかの話を聞いた。 「着いたぜ、美希」 「──え、ええ……」 到着した頃に、美希とゼロの前に、何人もの戦士が空からこのタワーの前に立ちふさがるようにして並んだ。まるでゼロを待っていたようだった。 赤と銀の体色を持つウルトラ戦士たちが、それぞれ背中にかけた巨大な赤いマントを翻す。 ゴーストタウンのようだと思えば、このように何人もの巨人が集まっているなど、不思議な星である。 ──何でも、彼らが、ゼロの父と、その仲間たちらしい。 かつて、この世界で地球を守ったウルトラ兄弟だ。今はそれぞれが宇宙警備隊の中でも相応のポストに就いている。再三のベリアルの魔の手から、このプラズマスパークタワーを守るのも今や彼らの立派な使命の一つであった。 ゾフィー、ウルトラマン、ウルトラセブン、ウルトラマンジャック、ウルトラマンエース、ウルトラマンタロウ……そこにいたのは、伝説のウルトラ6兄弟。 そして、ウルトラの父、ウルトラの母、ウルトラマンメビウス、ウルトラマンヒカリであった。 「ゼロ。その子は、もしかすると……?」 美希とゼロの前に現れたウルトラマンたちのうち、ゼロの面影を微かに持っている赤い戦士が前に出て声をかけた。彼こそ、ウルトラマンゼロの父であるウルトラセブンである。 彼もまた日本語を繰る。それは、かつてこの世界の日本で迫りくる侵略者たちから地球を守った経験による物だろう。 このウルトラマンたちの中でも、誰よりも地球という惑星を愛したのがこのウルトラセブンだ。 「ああ。あの殺し合いに参加させられていた蒼乃美希だ。──ガンQを追っていたら、路地で見つけた」 何人かのウルトラ戦士たちが、まじまじと美希の姿を見た。 怪訝そうでもあり、どこか懐かしそうでもあるその瞳。いずれも、妙な威厳を感じ、美希も恐縮する。一方で、ウルトラ戦士たちもまた、地球人の少女に対する敬意の念を心の内には抱いていた。 少なくとも、戦士としての年季は、美希やゼロとは桁違いであった。──美希は十四歳で中学二年生だが、ゼロは概ね五千九百歳で、地球人で言うならば高校一年生相当だという(地球人換算でも一応年上である事に美希は驚いていた)。 齢二万歳を超えている彼らは、そんな若者たちが相手にするには、些か貫禄がありすぎたのだろう。 「何故、こんな場所に地球人の子が……」 「ベリアルの転送が此処に誘ったとしか思えん」 「しかし、それに何の意味があるのですか、兄さん」 ウルトラ兄弟もまた、美希を見て混乱しているようだ。 美希がウルトラの星にやって来てしまった理由については、やはり殺し合いの後のブラックホールが原因だと思われているようだが、それでもまだ腑に落ちない。 「教えてくれるかい、どうして君がこんな所にいるのか」 美希にそうして直接訊いたのは、初代ウルトラマンであった。 彼もこうして美希に訊くのが最も早いと思ったのだろうが、美希自身もよくは知らないし、そもそもこうして威厳ある巨人に質問を投げかけられると、大きな責任が伴ってくる。 とにかく、それでも自分に質問が振られたからには、順序立てて話そうと意を決した。 「えっと……向こうにいた間の事情は知ってますよね?」 「ああ……辛かっただろう」 「……」 美希は少し、これまでを思い出して沈黙した。 ──辛い。 確かにそうだった。あれだけ友達が死に、自らも死の恐怖に直面する中で、そんな感情が湧きおこらないはずがない。しかし、何度もそれに耐えたり、時にはあの出来事が寝覚める前の夢のように淡い他人事のように思えたりして、辛くない時もあった。 だが、改めてそう言われると、自らの心の傷が可視できるようになってしまう。だから、暫し、言葉を失った。 それを察して、ウルトラマンは一言謝る。 「……すまない」 「いえ……。でも、その後で、私たちはあのブラックホールで転送されて、それから──」 美希は、その気持ちを押し込めた。 今、自分が問われている話に思考を戻そうと努める。 順序立てて話しているかのようだったが、本人は、順序立てて思い出そうとしていた。 (何があったかしら……そうだ……!) まず、ブラックホールで転送された後、ここに来る前にあった事を全て考えてみる。 美希自身も知らない幾つかの記憶の復元──これが自然に行われた時間軸調整が起き、それと同時に、ある夢やビジョンが美希の中に浮かんできた。 美希自身の未来の補完と同時に、ある少女の言葉が浮かんだのだ。 ────お願い、世界を救って ────全ての世界が侵略者に狙われている ────急いで ────ウルトラマンたちと共に、侵略者を倒して ウルトラマン──そうだ。 美希に誰かがそんな言葉を投げかけた記憶があった。それは、殆ど、美希たちの時間軸の補完と同時に行われた為、彼女の頭の中でそれと混濁されてしまいそうになっていたが、その中で「ウルトラマン」という単語が出てくるはずはない。 美希は、殺し合いの脱出と、ウルトラの星への到着の間に、「謎の少女との出会い」を経験したのだ。──あれは、現実に美希を誘った実態のある存在なのだろう。 「……もしかして」 ──まだ、自分の中で確信と言えるかどうかはわからなかったものの、思わず美希はそう口に出してしまった。 すると、初代ウルトラマンは美希に訊いた。 「何か心当たりがあるんだね?」 「……はっきりとはわかりません。でも、途中で、変な女の子に会った記憶があります」 「女の子?」 美希は、少しでも手がかりになればと、その特徴を思い出した。 彼女の記憶にあるのは、やはりそのファッションだ。──あまりにも装飾のない服装であったもので、却ってその特徴は思い出しやすい。 「白いワンピースを着た、赤い靴の……」 そう、その少女は白い無地のワンピースを纏い、赤い靴を履いていたのだ。年のほどは、10歳にも満たないかもしれないくらいで、現代人としては妙な神秘性と無垢な印象を覚えさせる姿だった。 だからこそ、夢と混同しやすかった部分もある。 そこまで聞いた時、一人のウルトラ戦士が声をあげた。 「兄さん! もしかすると、──僕も昔、地球で、それと同じ姿の女の子に会って、ウルトラマンのいない異世界に導かれた事があります。……正体はわかりませんが、多分、園子のウルトラマンと地球人の味方です!」 兄弟たちの中では最も若いウルトラマンメビウスの言葉である。メビウスという言葉に良い思い出はないが、あくまで同じであるのはその名だけだ。彼もかつて地球を守り、その星の人たちと未来を勝ち取ったウルトラ戦士である。 そんな彼もまた、どこかで美希と同じく、その「赤い靴の少女」に導かれた経験がある事を知り、美希は少し驚いた。 しかし、あの少女がウルトラマンの名を口にしたのは、もしかすると、こうしたウルトラマンとの出会いがあったからなのではないかとも思う。 「そうか……なるほど、あの戦いから脱出してここに来るまでに、何者かの介入があったわけだ。しかし、何故この子が……?」 「この子以外にも、もしかすると、あの戦いの生還者がこの星に来ているかもしれない。……まずは、この星のウルトラ戦士たちに、地球人を探してみるように呼びかけよう!」 ウルトラマンヒカリがそう言い、すぐにウルトラの父の許可を得て飛び立った。──こうして、一人が連絡すれば星全体に行き渡るネットワークがある。度々大きな事件が起こるせいもあり、星全体が団結している恩恵でもあるだのだろう。 他のウルトラ戦士たちは、全てここに居残っており、まだ美希の事情について問うてみようと思っているらしい。あるいは話してみたい事が幾つかあるのだろうか。 「キュアベリー、蒼乃美希」 次に美希に言葉をかけたのは、ウルトラ兄弟の長男であるゾフィーであった。 宇宙警備隊の隊長であり、この中で言うならば、ウルトラの父やウルトラの母に継いで役職の高いウルトラ戦士だ。実力もまた高く、地球で一部の怪獣には遅れを取る事があっても、 弟たちには非常に信頼された身である。 彼の胸や肩には幾つものボタンのような勲章が輝いている。 「──君に話さなければならない事は幾つもあるが、まずは君が落ち着いてからにしよう。大した持て成しは出来ないが、君は責任を持って我々が保護する」 「ありがとうございます。でも、話を聞く事は出来ます。……お願いします、ゾフィー隊長」 「……いいのかね?」 「ええ、聞かせてください」 「……君がそういうのなら。──まずは、あのウルトラマンノアとダークザギについてだ」 ゾフィーの気遣いは、美希には不要だった。 実際、周囲が配慮しているよりも、美希はまだ落ち着いた心情にある。ここにいるウルトラ戦士たちの不思議な暖かさが成してくれる物だろう。 変に話を後回しにするよりは、こうして早い内に美希の中にある疑問を払拭しておいた方が良い。 「ノアは、かつて、あのダークザギが現れた時、我々ウルトラ兄弟を救った戦士だ。我々の力を集めても、手に負えなかったあのダークザギを異世界に連れ出してくれた事がある。二人の正体は我々にもわからないが、ノアは大昔から存在し、あらゆる宇宙に伝説を遺した巨人だ」 「──彼らに会った事があるんですか?」 「羽根が生えたウルトラマンなら、俺も前に会った事があるぜ! 俺に良いモンくれたんだ。……でも、まさか、あんな所に連れて行かれてたなんてな」 ゼロが付け加えた。しかし、ゾフィーと比較すると、ゼロの説明では、どうもノアの偉大さという物が伝わり難い。 彼にしてみれば、物をくれる優しいおじさん扱いで、他のウルトラ戦士のようなノア崇拝とは無縁だった。──相変わらずなゼロの態度に少し呆れる。 だが、考えてみると、ノアといえば、一つ疑問がある。 「そうだ、孤門さんは……? 今どうしてるんですか?」 ウルトラマンノアに変身したのは孤門一輝だ。ブルンたち妖精のように、エボルトラスターにノアが同化していた原理はわかるが、あの戦いの後、孤門はどうしたのだろう。 こうして、まだ主催者が残って世界を侵略しているという事は、ノアはベリアルに敗れてしまったのだろうか──? ウルトラマンノアが個としての人格を有しているとしても、美希にとっては孤門一輝という人間の変身体であるという印象が強く、そういう訊き方をした。 そう言うと、ウルトラの父と母の実子であるウルトラマンタロウが口を開いた。 「……あの後、ベリアルの力でエネルギーを全てスパークドールズという人形に封印されてしまったんだ。その人形は宇宙に捨て去られた!」 「そんな……」 そう落ち込む仕草を見せた美希に対して、ウルトラの父が口を開いた。 「だが、安心してくれ。死んではいない。おそらく、ベリアルには、ノアを無力化し、宇宙に捨てる事しかできなかった……ベリアルはそれだけノアを恐れているという事だ」 ウルトラマンベリアルという名であった頃のカイザーベリアルとは戦友同士だったという彼も──今や、ベリアルに仇なす一人として名を連ねている。彼の中では、友の過ちを止められなかった己の罪深さを悔いる事よりも、一刻も早くベリアルを対処せねばならないという使命感が優先されているのだ。 「つまり、あの宇宙に行き、ノアを……孤門隊員を探す事が勝利の鍵になる」 ノア──孤門はまだ生きているという事であった。 それだけで少しでも希望が湧いて来る気がした。──いや、むしろ、ベリアルが絶対的強大さを持っていたこれまでに比べると、彼の弱点とも言えるノアの存在が明かされた今は心強ささえ覚える。 「言ってみれば、ベリアルもまた、心の闇を付け込まれた一人の人間に過ぎない。このプラズマスパークタワーのエネルギーに魅入られた、ウルトラ一族でただ一人だけの犯罪者だ」 「だが、奴はギガバトルナイザーやエメラル鉱石、アーマードダークネスなどの新しい力を見つけ出し、やがて我々だけの力では手に負えないような強大な悪になっていった」 ここまでの道のりでゼロに聞いた通りだった。 かつて、この星のウルトラ戦士の一人だったウルトラマンベリアルは、エンペラ星人の悪の力に惹かれ、プラズマスパークタワーを襲撃してエネルギーを奪取しようと謀った。しかし、それを阻止された彼は宇宙の牢獄に監禁され、ウルトラ族唯一の犯罪者として、この星の負の歴史となったのだ。 まるで、この善人ばかりの惑星の中で、ただ一人だけ、善も悪も持つ普通の人間が放り込まれてしまったような話である。──地球の人間である美希は、だからこそ、悪ばかりが肥大化し、強さに魅入られるようになったのかもしれないと思った。 善と悪が両立されるのが普通の人間だが、周囲が奇妙なほど優等生ばかりになると、そんな不良生徒も出てくるわけだ。その次元が異なっていたというだけで、本質は変わらない。 そんなベリアルは、その後、ギガバトルナイザーを手にして怪獣と協力し、この星でもまた「ベリアルの乱」なる物を起こしたという。それ以来、何度も蘇り、新たな力を得てウルトラマンゼロやウルトラ戦士たちの前に何度も立ちふさがる巨悪となっていったのだ。 「──今、奴が新たに手にしたのが、インフィニティのメモリだ」 ウルトラ兄弟たちの説明に、ふと、美希は自分の知っている単語が出てきた為、我に返るようにして、話に食らいついた。 「もしかして……それって!!」 「ああ。君たちの世界をかつて管理しようとしたラビリンスの──」 「シフォン……!」 インフィニティのメモリ──それは即ち、シフォンという赤子の妖精の事だった。 世界を管理する為の道具として管理国家ラビリンスにより利用され、己の意思に反して協力させられていたのがシフォンだ。 しかし、たとえ世界を闇に導くリスクのある存在だとしても、美希からすればシフォンは我が子も同然の仲間である。 かつて、美希はそんなシフォンを世界の管理者メビウスの手から助け出したのだが、美希たちと同じくベリアルに捕らわれてしまったらしい。 今、美希たちプリキュアたちのいる世界とベリアルの話が一本の線で繋がって来た。 「シフォンが、ベリアルの手に渡ったんですか……!?」 「ああ。あの戦いも、君たちの戦いを見る人間たちから溢れる膨大なFUKOと、君たちの持つ変身エネルギーを貯蓄し、全世界を自らの手で掌握する為に開かれたようだ」 「──そんな事の為に……っ!!」 美希は湧き立つ怒りを抑えきれなかった。 目的の為に、ラブや祈里やせつなを殺害し、挙句にシフォンまで利用するという──このベリアルの卑劣さ。その目的が、自らを満足させる為に全世界を手に入れる事だというのなら、余計に美希には許し難かった。 まだ、統制によって平和を謀ろうとしたメビウスの方が理念はマシだと言える。 「ベリアルは何処にいるの……!?」 美希は、今までよりも少し怒張の混じった声で言った。 それを聞いたウルトラ戦士たちは、少しだけ押し黙った後、どこか無念そうに言葉を返した。 「ベリアルは、バトルロワイアルが行われたあの世界にいまだ閉じこもっているんだ」 「そこに介入できるのは、一度あの世界に行って耐性がある人間──つまり、君たち生還者だけだ」 「……私たちだけでも、そして、今は君だけでも、ベリアルのいる場所に向かう事はできないだろう」 あのカイザーベリアルという強敵を倒す為に、力を持つ自分たちが美希に力添えする事が出来ないのが惜しいのだろう。 しかし、美希もまた、ただの人間である以上、一人で異世界に向かう事など出来ない。 異次元突破ができるウルトラ戦士は、耐性を持たない為にベリアルの元に行けず、耐性を持つ美希は、異次元を突破できないというわけだ。アカルンさえあれば話は別だが、それも今は杏子の手にある。 「──しかし、こうして集った以上、ただ一つだけ方法はある」 ふと、ウルトラの父が口を開いた。 方法を何となく悟っていたウルトラ戦士と、方法を思いつかないままだったウルトラ戦士とがいたようだが、そんな中で、彼は殆ど確信に近い方法を思案していたようだ。 「君とゼロと一時的に同化し、二人の力を合わせて次元の壁を突破するんだ」 同化──それは即ち、ウルトラマンネクサスと同じ要領で、美希の身体がウルトラマンゼロに変身できるようになるという事だろうか。 美希の中にも、かつて、同じようにウルトラマンがいた。 しかし、杏子から受け継いだネクサスの光は、決して良い思い出ばかりを想起させる物ではない。むしろ、美希の中にあるのは不安ばかりだ。 まるで強要されているような気がしたが、美希は何も返せなかった。 「えっ……」 「そうかっ! 美希と同化すれば、俺もベリアルを倒しに行ける……!」 「もしかすると、あの赤い靴の少女はこの為に、美希ちゃんをこの世界に引き寄せたのかもしれません。ゼロをあの世界に呼んで、ノアを再臨させる為に!」 「なるほど……グッジョブだぜ! 赤い靴の少女!」 どこか嬉しそうなゼロの一言だ。──ベリアルとの因縁が最も深いウルトラマンといえば、彼だからだろう。 彼も、自分の手でベリアルを倒したいという想いは、人一倍強かった。何度とないベリアルとの戦いの果てで、未だ決着がついていないのを少しは歯がゆく思っている身だ。 「……メビウス、ゼロ。それは、彼女が頷いた場合のみだ」 そんなゼロとは裏腹に、ウルトラ戦士たちは少し、沈んだムードであった。 何せ、ゼロの手の上にいる美希の様子に、歴戦のウルトラ戦士たちは気づいていたからだ。 まるで、その提案に乗り気ではないように、俯いて、拳を握って震えている美希の姿に──ゼロは、僅かばかり遅れて気が付いた。 「怖いのか、美希? 確かにベリアルは強敵だが──」 「違うっ……! そうじゃない!」 心配そうなゼロの言葉を投げ返す美希。 彼女の胸にあったのは、ベリアルという敵への恐怖などではなかった。──その為に戦う事には躊躇しない。 しかし、その手段として、“ウルトラマンと同化”する事が美希には怖かったのだ。 「あの時、ダークザギを復活させたのは、私の憎しみだった……! ウルトラマンの光を奪われてしまえば、その時またどんな事が起こるか──」 そう、ダークザギを復活させたのは、美希自身が最後に見せた憎しみであった。 石堀光彦が桃園ラブを殺害した時、遂に美希の中で、愛や希望よりも憎しみや絶望が勝り、ウルトラの光を、敵を“殺す”為に使おうとしたのだ。周囲の静止の言葉さえ、あの時美希の耳を通さなかった。 あれは、自分自身の心の闇への恐怖と言い換えてもいいかもしれない。 ──また、ウルトラ戦士と融合する事で、今度はどんな悪を生みだすリスクがあるのか、美希にはわからず、それが恐ろしかった。 ウルトラマンベリアルが悪に堕ちたのもまた、その時の美希と同じく、力と闇とが溶け合ってしまった結果であるという。だからこそ、ゼロと共にベリアルを倒しに行く事に抵抗が生まれる。 ゼロやノアという勝利の鍵を得るには、美希は未熟な部分があったのかもしれない。 「……美希、嫌なら無理にとは言わないぜ。だけどな、ウルトラマンの力を恐れちゃ駄目だ!」 しかし、そんな美希を、ゼロは叱咤するように言った。 鼓膜を破りかねないような大声が、美希の耳に響く。思わず、美希はゼロを見上げた。妙な実感のこもった言葉であるように思えたのだ。 「……俺も昔は、ベリアルみたいに力を求めて、ベリアルと同じになる直前になった事があるんだ。その時は、親父やみんなが支えてくれた……だから今の俺がいる!」 美希は、少し意外そうにゼロの顔を見つめていた。 彼は話さなかったが──かつて、彼も力に惹かれ、ベリアルと同じように闇に魂を売ろうとした事があるらしい。長らく、罪を犯す者がいなかったウルトラ族であるが、彼はその二番目となろうとしていたのである。 だからこそ、ベリアルには敵対心だけではなく、どこかで完全には憎み切れない共感がある。いわば、分かたれてしまった光と影だ。それが彼にベリアルへの執着を齎す。 もしかすれば──彼の父・ウルトラセブンもまた、宇宙の犯罪者となる可能性がどこかにあったかもしれない。 「でも、もしまたあの時と同じように──私の中の憎しみが強くなれば、ゼロに迷惑をかけちゃう……」 ダークザギの復活と同じように、またウルトラマンの光を奪われるような事があれば、こうして人格を持って一喜一憂するゼロもまた、ゼロではなくなってしまうかもしれない。 彼の身体がベリアルに乗っ取られれば、それこそ脅威となる。──実際、かつてそんな事があったのだが。 「過去の失敗なんて恐れるなよ!」 「でも現に私のせいで沖さんたちが──」 「それでも……美希、お前にはちゃんと支えてくれる人がいて、守るべき物があるだろ! なら、もう一度、それを守る為に戦える! お前なら出来る……俺は、お前を信じる!」 ゼロの言葉は、美希の心を突いてきた。 真っ直ぐに信じられたり、褒められたりして、嬉しくない人間はいない。──特に、自分自身が信じられない人間にとっては、だ。 彼らのやり取りを見ていたウルトラセブンが、のそのそと彼らの元に歩きだした。他人事だとは思えなかったのだろう。 「蒼乃美希、それにゼロ……人は、時に過ちを犯す。だが、我々はそれも含めて、地球人を愛しているんだ。この星の人にだって、犯罪がなくとも過ちや後悔がないわけではない。──ベリアルの過ちを正せるのは、それをよく知る、若き君たちだけだ」 ここに並ぶセブンも──これまで、決して人間の良い部分ばかり見てきたわけではない。 だが、そんな彼は未だに地球人を信じ、愛している。あの美しい星の人々に、再び災禍が訪れないよう、何度でも命を削る覚悟がセブンには──あるいは、地球人、モロボシ・ダンにはあるのだ。 だからこそ、蒼乃美希という地球人を信じ、託そうという気持ちはここに居る誰よりも負けないつもりであった。 勿論、ウルトラマン──ハヤタも、ウルトラマンジャック──郷秀樹も、ウルトラマンエース──北斗星司も、ウルトラマンメビウス──ヒビノ・ミライも、東光太郎や礼堂ヒカルと共に戦ったウルトラマンタロウも、ゾフィーも父も母も同じ想いを胸に抱いている。 彼らは、セブンの言葉にただ頷いた。 「本当に、良いの……?」 「ああ、大丈夫だ。──お前の目は、もう未来を見つめている。だから、安心しろ!」 美希を、何故かその時、言い知れぬ恐怖感が襲った。 ゼロの言葉のどこかが、彼女の胸を締め付けたのだ。──それは、ほとんど反射的な感覚だった。胸から上で呼吸が乱れ、動悸が激しくなり、途端に吐き気も少し湧き出た。 しかし、それを抑え、──必死で飲み込み、服の胸元を握り、美希は頷いた。 「……わかったわ、ゼロ。──合体しましょう!」 「おう、望むところだ!」 ゼロが、美希を持たない方の拳を強く握った。 彼は、美希がいま何かを感じた事など知る由もなかった。美希自身も、今は原因がわからず、すぐにそんな事は忘れかける。 「……っつっても、今まで、合体するのは男ばっかりだったから、緊張すると言うか何というか……」 またしても頭を掻くゼロ。──何にせよ、女性型地球人と一体化するのは少々恥ずかしい気持ちがあるのだろう。 彼の父たるセブンも少し咳払いをして、タロウやメビウスは少し顔を赤らめている。 変な意味ではないのだが、やはりこうして他の同種の目があるところで、ウルトラ戦士が地球人と合体するのは恥ずかしくもあったのだろう。 こうして改まると、美希の方も急にゼロを心に宿すのが恥ずかしくなってくる。 「照れる事はないぞ、ゼロ」 そんな中、ウルトラマンエースが妙に実感のこもった言葉で言う。 彼には何やら経験があるようだった。──というか、彼に限っては全く恥じる気持ちは全くなさそうにさえ感じる。 と、その時だった。 プラズマスパークタワーに向かって、二人のウルトラマンが飛んでくるのが見えた。 片方は、背中にあの奇獣ガンQを背負ってきている。ウルトラ戦士たちは、一斉に彼らの方に目をやる。 「──おーい、タロウ! 頼まれてたギンガスパーク、持ってきたぜ!」 「ギンガ……それにビクトリー。来てくれたのか!」 何やら、そのウルトラ戦士たちはウルトラマンタロウと旧知の仲らしかった。 タロウが地球に向けてウルトラサインを発し、ウルトラマンギンガとウルトラマンビクトリーという二人の戦士を呼び出したのだ。それは、スパークドールズと化したウルトラマンノアを再臨させる為の道具を手元に確保しておく為である。 美希という手段はその時はまだなかったのだが、何らかの方法で向こうの世界への耐性がついたり、迎える条件がついた時の為にそれを手にしておこうと思っていたのだ。 「……ああ、後はこいつがあれば、スパークドールズになったウルトラマンノアをまた復活させる事ができるんだろ」 「こいつが持ち逃げしていたせいで、少し遅れたがな……」 ビクトリーが背負っているガンQはすっかり伸びている。 彼は、逃走中にギンガスパークという重要なアイテムを奪っていたらしいが、とにかくガンQの問題もこれで片付いたわけだ。 すぐ後に、青いウルトラマン──ウルトラマンヒカリがやって来る。 「──メビウス。この星には、どうやら地球人が他にいる様子はない」 「つまり、赤い靴の少女に連れて来られたのは、美希ちゃんだけっていう事か」 他の生還者がどこにいるのかわからず、美希は少し不安になった。 杏子、つぼみ、翔太郎、良牙、零、暁、ドウコク、レイジングハート……。 だが、彼らもきっと無事でやっているだろう。──今は、ただ、そう信じた。 「とにかく、これで、ひとまずは、条件は揃ったわけだ。──だが」 タロウは、ギンガスパークを美希の手に託しながら、言った。 「美希、ゼロ……二人に言っておくが、あの世界の宇宙もここと同じように広大だ。スパークドールズを見つけ出すのは本当に困難かもしれない。それでも行くのか?」 それは、最後の忠告だった。既に覚悟のある二人にも、一応この先の険しさを実感しているか確認しておきたかったのだろう。 だが、そんな保険は結局のところ、不要な物だったらしい。 ゼロと美希が口を開く。 「あの途方もない宇宙を見つけ出さなきゃならないってか……? やれやれ、本当に──俺を燃えさせるのが得意な奴だぜ! ベリアルの野郎はよぉっ!!」 「私たちは、希望を諦めませんから……!!」 熱血漢のゼロと、希望の美希だ。──それぞれの胸には、孤門一輝の「諦めるな!」という言葉が刻み込まれている。ゼロは、あるアナザースペースを旅した時も、そんな言葉を何度も口にする少年と出会った事があった。 ゆえに、可能性があるならば、それを無碍にする事はしない性格であった。 そして、ウルトラマンノアという小さな希望──それは、決してベリアルを倒す為だけではない。 (孤門さんを、今度は私が探し出す──!!) かつて、レーテの深い闇の海の中から救い出された時の孤門が同じ事をしたのだから、美希も同じ事を返すつもりなのであった。 ノアの中に封じられている孤門一輝という人間も解放する為に──美希は、ゼロに向き直した。 「行きましょう、ウルトラマンゼロ!!」 ゼロが、おもむろに頷いた。 すると、ウルトラの母が、左腕の青いブレスレットのエネルギーを右腕に宿し、美希とゼロに向けてその光線を放った。 マザー光線。──それは、傷ついた戦士を治癒する聖母の力だった。二人の身体から、今日までの疲れと傷が拭われていく。 二人は、母の愛に礼をした。 やがて、二人はウルトラマンゼロとして融合し、このウルトラの星を離れ、ベリアルの元に向かう事になった。 ◆ ────あのウルトラの星を離れ、どこまでも深く真っ暗な宇宙を、ウルトラマンゼロは飛んでいた。 ゼロになっても美希の人格は消えておらず、飛びながらいつものように会話する事ができる。まるで、あの戦いの中で出会った仮面ライダーダブル──左翔太郎とフィリップのようであった。 ただ、今はあくまで戦闘慣れしているゼロの人格を主体とする形になっている。言ってみれば、この場合、美希が「フィリップ」と同じ役割なわけだ。 『ゼロ……一つだけ訊いていい?』 「何だ、美希」 自らの意思ではゼロの身体を動かせないため、少しばかり退屈だったが、美希はゼロに語りかけようとしてみた。実際、考え事まではゼロには知られず、語りかけようとした時だけゼロに言葉が届くようになっているらしい。 お陰で、少し考え事をさせてもらっていた。──そして、ある結論が出たのだ。 『ゼロは、私の目は未来を見つめている……そう言ったけど、それってとても怖い事だとあの時、思ったわ』 未来を見つめる──そんな言葉を聞いた時、自分の胸が苦しくなったのを、美希は思い出していた。あの時は、奇妙な恐怖さえ抱いたのだ。 その理由は、時間を重ねて考える内に何となくわかり始めていた。 『ラブやブッキーやせつなを忘れて、彼女たちがいないこれからの人生を一人で生きていく事だと思ってたから……』 そう、未来を見つめるという事は、過去を遠ざけて生きていくという事だった。 既になくしてしまった物は戻らない。時間はどうあっても未来に向けて収束してしまう。──だが、それが美希には嫌だった。 桃園ラブも、山吹祈里も、東せつなももうこの世にはいない。だからこそ、自分が未来を見つめていると聞いた時、彼女たちの存在を裏切ってしまったようで、胸が締め付けられたのだ。 天道あかねも、きっとそうして早乙女乱馬を忘れたくなかったからこそ、闇に堕ちる道を選んだのだろう。──いや、きっと、そうして美しい過去の為に全てを犠牲にして必死に生きた人間は、彼女だけではなかっただろう。 『──でも、違うわよね? 彼女たちを自分の一部にして、それで、彼女たちの死を自然に受け入れて、自分の罪も忘れずに生きていく事が……あなたの言う、私が見ている未来なのよね?』 「ああ、わかってるじゃねえか……」 彼女たちの死を背負い、その想いをまだ胸に秘め続け、四つの葉を持つクローバーとして、美希たちの未来を切り開いていく事──それこそが、これからの美希の運命になる。過去の全てを受け入れながら、前に生きていけるか? ──それがゼロの言う未来だった。 それを飲み込んだ美希を見て、ゼロは、ただ一言、告げた。 「あいつらは、お前の永遠のともだちだ……!」 その一言を聞いた時、美希の心にあったしこりが消えていく感じがした。 妙な安心感を抱いて、それからすぐに、心の中で笑顔を作った。戦いの前とは思えないほど、緊張とは無縁な安らかな気持ちが美希の芯に湧きあがってくる。 一言だけ、ゼロに礼を言う。 『ありがとう、安心した……』 そんな時、ふと、ゼロの視界で前方を埋め尽くす大量の怪獣の陰が表れ始めた。 宇宙竜ナース、火山怪鳥バードン、始祖怪鳥テロチルス──ゼロには見覚えのある敵も何体かいる。 「……おっと、話してる間に、俺たちを邪魔しようとする奴らが来たようだぜ! 美希! ベリアルと戦う前の小手調べだ……」 『……そうね。ゼロとの相性も今のままじゃわからないし……試してみる?』 ゼロは、唇を親指でなぞるようなしぐさを見せた後──すぐに美希の問いに返した。 「フッ、知れた事だぜ。俺たちの邪魔をしようなんざ、2万年早いぜ! ベリアル帝国!」 美希も心の中で頷いた。 目の前の百を超える怪獣軍団を倒し尽くせば、その後でベリアルの世界に向かえる。 そして、ノアを──孤門を助け出すのだ。 『そうね……行くわよ、ゼロ! 完璧に倒してあげましょう!』 【蒼乃美希@フレッシュプリキュア! GAME Re;START】 【Andウルトラマンゼロ@ウルトラシリーズ GAME START】 時系列順で読む Back 時代Next 帰ってきた外道衆 特別幕 投下順で読む Back 時代Next 帰ってきた外道衆 特別幕 Back 崩壊─ゲームオーバー─(12) 蒼乃美希 Next 変身─ファイナルミッション─(1) ウルトラマンゼロ Next 変身─ファイナルミッション─(1)
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Bad City 5 星を継ぐ者-Shooting Star- ◆gry038wOvE 高町ヴィヴィオは、空を泳いでいた。 こんな経験は誰に言っても信じてもらえないだろう。 ──ヴィヴィオは、いま、自分の体を眺めていた。 ヴィヴィオは自分の体を真上から眺めながら、孤門が必死で自分の体を蘇らせようとしているのを、落ち着いた気持ちで見ていた。 こんな経験は初めてであった。 不思議と落ち着いた気分で、初めての事なのに懐かしい感覚があった。 孤門は今も、必死で自分の体に胸骨圧迫を加え、人工呼吸をしていた。自分の体にあんな事をされるのは、少し恥ずかしい気持ちである。 だが、孤門は必死で蘇らせようとしてくれていた。 美希が、倒れているいつきの口にペットボトルを含ませている。沖は、廊下を走り、何かを探しているようだった。 アインハルトは、自分の隣で倒れている。──アインハルトもまた、命を失っていた。 (あ……) ヴィヴィオの体は、そのまま警察署の天井をすり抜けていった。彼女自身の意思ではないが、そのままヴィヴィオの体は上空に向けて浮遊していった。 孤門たちの姿が遠くなっていく。 警察署の屋上には、魔法陣がある。これは、確か孤門と訪れた事がある。 そんな警察署の屋上も遠くなっていき、ヴィヴィオはもっともっと上へと昇っていく。 空を突き抜け、雲を突き抜け、ヴィヴィオはその上まで来た。 雲を突き抜ける時は、生まれてから今までの様々な記憶がヴィヴィオの中で走馬灯のように駆け巡っていく感覚があった。 本来、これは死ぬ時に流れるものらしいが、ヴィヴィオは、いま初めてこんなものを見た気がする。 覚えている記憶もあれば、覚えていない記憶もあった。 やがて、ヴィヴィオの体は巨大なトンネルの前に来た。 トンネルの中からは懐かしいにおいがする。においというよりかは、感覚だろうか。 体全身が、そこから感じる懐かしい感覚を求めて、前に進んでいこうとしていた。 『ヴィヴィオー!』 『ヴィヴィオ!』 誰かが、目の前のトンネルの中で名前を呼ぶ。 (なのはママ……フェイトママ……) まだヴィヴィオと同じ年頃にしか見えない少女が二人いる。 だが、ヴィヴィオには誰なのかがすぐにわかった。──高町なのは、それにフェイト・テスタロッサだ。 なのはとフェイトは、雲の上に見える巨大なトンネルの向こうで手を振っていた。 ヴィヴィオの知っている母の姿とは違ったが、彼女はすぐにそれが母だとわかった。 ヴィヴィオは、母を求めて、今すぐにでもそこに向かおうとした。 『ヴィヴィオちゃん!』 『おーい!』 よく見ると、園咲霧彦や山吹祈里もいるではないか。 二人の姿が見えてきた。二人もまた、ヴィヴィオを歓迎し、手を振っている。 ああ、やはり彼らはここにいるのだ。 ようやく、ヴィヴィオもたどり着いたのだ。 この素敵な場所に。 『ヴィヴィオー!』 『アインハルトー!』 『二人とも、よく頑張ったね』 スバル・ナカジマやティアナ・ランスター、それに若き日のユーノ・スクライアらしき人もいる。 アインハルト……? その名前が自分の方を見る彼女たちから呼ばれた事で、ヴィヴィオは真横を見た。 そこでは、アインハルトが自分と同じようにそちらを見ていた。 「アインハルトさん」 二人は顔を見合わせて、少し困ったような表情をする。 お互いに、相手方もここにいるのだと気づいてしまったのである。 しかし、不思議な安心感が二人を包み込み、かえってそこに彼女がいる事に納得した。 これから、また一緒に二人で高め合える。それが嬉しい事であるように思えた。 『……お先に失礼します』 アインハルトは、それだけ言うと、トンネルの向こうに進んでいった。 空を浮いたまま、アインハルトの体は真っ直ぐに飛んでいく。 何故だか、それが死そのものを示しているような気がしたが、それでもいいと思った。 向こうにいけば、また楽しい生活が始まるのだと思った。 「あっ、待って、アインハルトさん、私も……」 ヴィヴィオも、アインハルトについていこうと自分の体を急かした。そうすると、ゆっくりヴィヴィオの体は前へ前へと進行し始めた。 ……大丈夫、このままいける。 この心の底からわき上がる安心感は、確かにヴィヴィオを呼んでいる。 ヴィヴィオが今まで出会い、その中で死んでいった人が目の前にいる。 ヴィヴィオは、また彼らと会えるのだ。 母や仲間と一緒に、もう殺し合いも何もない世界に向かえる。 ──だが、そんなヴィヴィオの肩を誰かが強く掴んだ。 『おい、ちょっと待てよ』 聞こえたのは、荒っぽい口調である。 振り向けば、おさげ髪の男がいた。彼の表情は、あまり機嫌の良さそうなものではない。 そう、男は早乙女乱馬といった。──ヴィヴィオの大事な人の一人であった。 「乱馬さん……?」 『気に入らねえな、ヴィヴィオ。まさか忘れてねえよな? お前が俺に鍛えてほしいっていった事を』 ヴィヴィオは、前に乱馬に鍛えてほしいと言っている。そういえば、乱馬が死んだ事で、ヴィヴィオはそれを忘れかけていた。 乱馬にこう言われた事で、初めて思い出した。 『俺はそれにちゃんと答えたんだぜ。男は守れる限り、約束を守るもんだ。守れない約束もあったけど、それでもこれくらいは果たさせてくれよ……』 乱馬は、憂いを含んだ瞳でそう言った。 だが、そんな瞳をすぐに切り替え、険しい顔でヴィヴィオに叫ぶ。 『だから俺は最初で最後の弟子に大事な事を一つ教えてやる!!』 乱馬は、ヴィヴィオの肩を強く掴むと、その体を、巨大なトンネルから突き放すように、遠い地面の真下に向けて強引に投げた。 人間の体を、まるで野球のボールのようにぶん投げる。 それは、エースピッチャーも驚愕の剛速球であった。 ヴィヴィオの体は、自分の意思と関係なく、素早く地面に落下していく。 『こいつが……無差別格闘早乙女流の極意だ!!』 ヴィヴィオの体は、空気抵抗など無視するかのように、地面に向けて凄まじいスピードで落ちていく。 あのトンネルは見えなくなったが、その向こうで微笑んだ仲間が、最後にもっと強く微笑んだのを、ヴィヴィオは見逃さなかった。 乱馬も笑っている。 乱馬はヴィヴィオを突き放しながらも、突き放した事で笑みを見せていた。 嘲笑うような笑みではなかったが、いたずらっぽい笑みだった。 『今の俺にはまだお前を鍛えるなんててきねえよ!! お前は基礎ができてねえし、俺はまだお前を強くできるほど強くねえ。だから、お前はもうちょっとそっちで修行を積んでろよ!! 俺たちはもっと強くなって待ってるからな!! ……ただ、この極意だけは覚えとけよ!!』 アインハルトやなのは、フェイト、スバルたちが乱馬の真横に現れ、笑顔で手を振った。 自分たちも同じように、ヴィヴィオのために修行して待っていると、その笑顔は告げていた。 「──乱馬さん!」 遠ざかっていく青空を眺めながら、ヴィヴィオは察した。 乱馬がいま、教える事は、これだけで充分だったのだろう。 彼がいま教えるべき無差別格闘早乙女流の極意。 敵前大逆走や、山千拳・海千拳──一見するととんでもないが、それでもその根っこにある一つの気持ち。 それは、どんな泥にまみれても日々を生きるために戦うという事である。 ──生きる。 ただそれだけが、乱馬が教えようとした想いであった。 地面に落ちながら、ヴィヴィオは拳を合わせて、雲の上に礼をする。 「……ありがとう、ございます!」 早乙女乱馬は、死して尚、己の強さを証明し、己の意地を貫いた。 いや、一人の少女があの世に向かっていくのを、現世に投げ返すほど、強く破天荒な男だったのだ。 ヴィヴィオの礼は届いただろうか。 ────高町ヴィヴィオが目を覚ますと、目の前には、孤門一輝がいた。 【高町ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはシリーズ 生存】 【残り26人】 △ いつきとヴィヴィオが目を覚ましたのはほぼ同時だった。 「……ここは?」 いつきが目をさまし、開口一番、そう質問した。 美希。孤門。沖。 それで、よく見ればヴィヴィオがいる。孤門がその体を強く抱きしめており、いつきの目には一瞬見えなかったのだ。 なんでこんな事になっているのかはわからない。 「ここは、霊安室よ」 顔を冷水で濡らしたいつきは、改めて自分が気絶していた事に気づき、ゆっくりと立ち上がる。ヴィヴィオも同じだったのだろうか。 真っ暗闇でわからなかったが、霊安室はこんな場所だったのか。 立ち上がると、いつきの目線の先には、二つの死体があった。 二つ。 ヴィヴィオが言っていた、ここにある死体は二つだ。 黒い髪の少女のものだけ……。 「そんな……」 いつきが絶句する。 孤門も、ヴィヴィオが蘇った喜びの気持ちを抑えて、アインハルトの事を思い出した。そう、アインハルトはここで死んでいたのだ。 いつきの目の前には、黒い髪の少女の死体と、アインハルト・ストラトスの遺体があった。 「どうして!? どうしてアインハルトが……!!」 いつきの目も冴える。 いつきはアインハルトの遺体へと駆け寄り、胸に手を当てた。やはり、心臓から音がなくなっている。何より、二人の体は頭部を除いて白いスーツで覆われていた。棺桶が一人分しかないので、残りの二人はシーツにくるんでいたのだ。生きている人間にこんな事はしないから、いつきは咄嗟に彼女が殺されたと思ったのだ。 「……落ち着いて事情を聞いてくれ」 沖が諭す。 ヴィヴィオが意識を取り戻した喜びに浸る時間はなかった。 事情を聞く前から、いつきはもう、頭が真っ白になって、何も考えられなくなった。 △ 「……」 ダークプリキュアは、何とも言えぬ気分で街を駆けていた。 後程、仮面ライダーダブルに変身する左翔太郎とウルトラマンネクサスに変身する佐倉杏子が警察署に来るらしい。 ダークプリキュアは、その二人ではまだ力不足ではないかと考えていた。 パペティアードーパントの力は、相手の実力で1にも100にも力を強める事ができる。 ほむらのような死体はやや、戦うには辛い。 シンケンゴールドでもまだ物足りない。 せめて、仮面ライダーエターナル程度の実力が欲しいところだが、仮面ライダーダブルに果たしてそれほどの実力があるだろうか。彼は仮面ライダーエターナルに勝ったと言うが、この殺し合いの会場でゴ・ガドル・バ、ナスカドーパントといった相手に敗北しているらしい。 佐倉杏子は、ウルトラマンとなってからまだ時間が経っていないゆえに操るには少しばかり頼りない。 二人のいずれかを利用するのも手だが、まだまだ使いようのある相手がどこかにいるのではないかと思っていた。 街エリアはおそらく、彼らがくまなく探した事だろうから、孤門一輝、蒼乃美希、明堂院いつき、沖一也、左翔太郎、佐倉杏子、ン・ダグバ・ゼバ、モロトフ、血祭ドウコクだけがいると考えていいだろう。 彼らの行動は広範囲に及んでいるようだが、彼らが見つけた参加者はこれくらいだろうか。あとは、多少の出入りがあったかもしれないが、風都タワーのあたりまで歩くのはなかなかにしんどい。途中で左翔太郎や佐倉杏子と出くわす可能性もある。 (……左翔太郎や佐倉杏子は、キュアサンシャインや天道あかねから私の事を聞いているはずだ。厄介だな) ともかく、彼らに会うと厄介な事になりそうなのは確実だ。 一度、街を離れた方がいいだろうか? 街以外にも参加者はいるはずだ。先ほどまで街にいた人数を考えると、まだ全員が街に密集しているわけではなさそうだ。他の場所にも参加者がいてもおかしくない。 ダークプリキュアも、一度は街に来たが、パペティアードーパントで操る相手を探すためには、別の場所に行ってみるのもいいかもしれない。 だとすれば、禁止エリアに気を払いつつ、北に向かった方がいいだろうか。 (……よし) ダークプリキュアは、再び北に向かう事にした。 決めた瞬間、彼女は既に北を目指して歩き出していた。 【1日目/夕方】 【F-10 街(港)】 【ダークプリキュア@ハートキャッチプリキュア!】 [状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、右腕に刺し傷 [装備]:T2パペティアーメモリ@仮面ライダーW 、T2ヒートメモリ@仮面ライダーW [道具]:支給品一式×4(ゆり、源太、ヴィヴィオ、乱馬)、ゆりのランダムアイテム0~2個、ヴィヴィオのランダムアイテム0~1個(戦闘に使えるものはない)、乱馬のランダムアイテム0~2個、パワーストーン@超光戦士シャンゼリオン、ふうとくんキーホルダー@仮面ライダーW、霧彦のスカーフ@仮面ライダーW、須藤兄妹の絵@仮面ライダーW、霧彦の書置き、山千拳の秘伝書@らんま1/2、水とお湯の入ったポット1つずつ、ライディングボード@魔法少女リリカルなのはシリーズ、ガイアメモリに関するポスター×3 [思考] 基本:キュアムーンライトの意思を継ぎ、ゲームに優勝して父や姉を蘇らせる。 0:一度、街から出て北へ向かう。 1:もし他のプリキュアも蘇らせられるなら、ゆりのためにそれを願う。 2:つぼみ、いつきなども今後殺害するor死体を見つけた場合はゆりやえりかを葬った場所に埋める。 ただし、プリキュアの奇跡にも頼ってみたいので、その都度生かすか考える。 3:エターナルこと大道克己は今は泳がせておく。しばらくしたら殺す。 [備考] ※参戦時期は46話終了時です ※ゆりと克己の会話で、ゆりが殺し合いに乗っていることやNEVERの特性についてある程度知りました ※時間軸の違いや、自分とゆりの関係、サバーク博士の死などを知りました。ゆりは姉、サバークは父と認めています。 ※筋肉強化剤を服用しました。今後筋肉を出したり引っ込めたりできるかは不明です。 ※キュアムーンライトに変身することができました。衣装や装備、技は全く同じです。 ※エターナル・ブルーフレアに変身できましたが、今後またブルーフレアに変身できるとは限りません。 ※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。 ※ヴィヴィオを殺害したと思っています。 【前回までのダークプリキュアの誤解】 ボーナスに関する話など、ダークプリキュアが誤解していた点はすべて払拭されました。 また、仮面ライダーエターナルの名前が大道克己である事や、彼の経緯についても左翔太郎→梅盛源太or明堂院いつきorアインハルト・ストラトスを経由して把握しています。 【アイテムや死体に関する情報】 梅盛源太の死体は、F-10エリアの海で浮いています。丈瑠のショドウフォンやスシチェンジャーなどのアイテムは海に沈んでいます(丈瑠のメモも同様かもしれません)。 スタングレネードの最後の一個は警察署内で消費しました。 T2バードメモリは破壊され、破片はG-9エリアに放置されています。 △ いつきは、全ての事情を沖から聞いた。 正直言うと、頭がうまく働かず、半分も頭に入っていないと思う。 しかし、シンケンゴールドがアインハルトを斬った事や、ヴィヴィオが孤門の心肺蘇生術によって生き返った事など、断片的にだが、いつきの頭の中では確かに印象づいていた。 ヴィヴィオはアインハルトの死を知ったというのに、嫌に冷静であった。 「……あの時、あの霊安室の中にいたのは君たちだけなんだ。一体、何があったんだ?」 沖が訊くが、いつきはどう思うと言われても、推理をする頭が働かなかった。 いつきだって、何もわからないのだ。 一方、ヴィヴィオは非常に冷静に話していた。 「私たちはダークプリキュアを追って、あの霊安室に行きました。でも、あそこにダークプリキュアがいたのかはわかりません」 「……それから、電灯をつけようとしたいつきさんが突然いなくなって、……そこから、私と源太さんが霊安室に入ると、突然ドアが閉まって、私たちはパニックになりました」 「あと、その後はドアや壁を叩くような変な音がして、私たちはてっきり幽霊だと……」 「それでパニックになってみんなを呼びました。……でも、その後で私は誰かに後ろから首を絞められて……一度、死にました」 厳密に死と呼んでいいのかどうかはわからない。 しかし、心肺停止状態で「縊死」していたのは確かである。 実際、AEDや心肺蘇生法のお蔭で助かったのである。 「……それから先は、少し不思議な話になりますが……」 ヴィヴィオは、その先に見たものも全て包み隠さず話した。 自分がなのはたちを見た事や、乱馬に投げられた事。 巨大なトンネルのようなイメージ。幽体離脱の感覚。 「……それで、何故だか今は、生きてる事が素晴らしいって思えて、何だか、何でも素晴らしく見えるんです……」 今のヴィヴィオに、悩みの感情はなかった。あるといえば少しあるかもしれないが、なんだか少し、薄らいでいた。 空気や気温など、何もかもが素晴らしく見える……そんな不思議な感覚であった。 「…………なるほど。それは、いわゆる臨死体験という奴か」 沖が複雑な顔をして言う。 臨死体験とは、一度でも「死」を経験した人間が稀に話すといわれている不思議な体験である。 それがスピリチュアルなものなのか、脳科学的なものなのかはまだわかっていない。 ともかく、それがヴィヴィオに元気を与えていた。 「しかし、不思議だ……。本当に、僕が君を助けようとしてた事や、沖さんがAEDを探しに走っていた事……それに、アインハルトちゃんが亡くなった事も知ってたんだね」 臨死体験者は、幽体離脱の経験の中で病院の間取りや死亡宣告、病室の状況などを把握しているという。 それは体験者が知りえない情報も混じっているといわれる。 それが、脳科学者が頭を悩ませる部分でもあるのだが。 彼女に見えたのは沖たちも知っている事ばかりで、犯人の姿などは見られなかったらしいのは少し残念である。 「いつきちゃん、君は……?」 「ヴィヴィオちゃんが突然後ろから押さえつけられて気絶して、それから先の事は僕にはわかりません……。でも、たぶん……」 一方のいつきは、少し辛そうな表情であった。 彼女はまだ頭がぼんやりしていて、何が何なのかよくわかっていない。ただ、少しくらいはいつきが推理できる部分もあった。 「たぶん、これは事前に警察署に潜んでいた誰かによるものじゃないかと……そう思います。ダークプリキュアではないと思うんです」 「何故だ?」 「ダークプリキュアなら、こんな複雑なやり方をしなくても僕達三人を倒せたし、何より僕が生きているのが不可解です。他の人の命を奪って、それでも僕は生かした……その意味が、僕にはわかりません」 他の人……というのは、ヴィヴィオも含めていた。彼女は生と死の瀬戸際で、奇跡的に生を掴んだだけに過ぎない。 確かに、いつきが生存している事はダークプリキュアなら考えられない。 ダークプリキュアにとって、最優先に死亡を確認しなければならない相手になりそうなのは間違いないだろう。それをみすみす逃すのは不自然であるように思えた。 彼女が裏切ったという考え方も一理ある。 しかし、あの部屋にいた人間は、確かにいつきに殺意を向けていたし、殺そうとした結果として、犯人の確認不足でいつきが生存したように感じる。 ダークプリキュアなら、そんな事がありえるのだろうか。 「……僕たちもここに来る時にドアが閉まっていくのを見たから、ダークプリキュアがいると思ってここに入りました。でも、ダークプリキュアの姿は誰も見ていないんです」 「確かに。彼女を疑う理由があるとしたら、この状況だけだ」 ダークプリキュアは確かに自分の情報を与えずにここを出て行った。 だが、霊安室に入ったとは限らない。あれから姿を見ていないが、実はあのまま警察署を普通に出て行った可能性もありうる。 「もしかして、本当に幽霊っていう事は……?」 美希が少し怯えながら口にした。 そう、ここにいる誰もが、この状況からオカルト現象の匂いを感じ取っていた。 ほむらの死体が動いたという話も、シンケンゴールドが操られたように歩き出した事も、可能性としてはありうるものだ。 「確かに、僕達は誰も────“ここにいた誰か”の存在なんて見ていない」 彼らの視点から見て、ここで起きた事を纏めても、“誰かがここにいた”という確証は在り得なかった。 まず、いつきが、ドアが開くのを見てここに入った。 それから、誰かに襲撃され、気を失う。 その後、ヴィヴィオと源太の悲鳴を聞いて、全員がここに駆けつけた。 ヴィヴィオはその間、心霊現象を体験している。 それから、ここにたどり着いたアインハルトと沖は、源太の前に黒髪の少女の死体があるのを確認した。 源太は、その死体が動いたとか、幽霊が出たとか、そういう話をしたが、沖やアインハルト、遅れてたどり着いた孤門や美希が見たのは、そこに倒れている死体のみだ。 後程、意識を取り戻したヴィヴィオも幽霊が出たと言っている。 それから、源太が一人で霊安室内に入り、何か物音が聞こえた。 少し経つと、シンケンゴールドに変身した源太が、何かに取り憑かれたように歩き出し、アインハルトを殺害した。 その後、沖が交戦するも、ドアを蹴飛ばすような音や突然飛んできたスタングネードとともに消えた……。 そこに誰かがいたといえる証拠は、いつきを襲った誰かの存在や、飛んできたスタングレネードである。 「……あの、その事なら……私も」 ふと、ヴィヴィオが口を開いた。 「何?」 「……私……相手の袖を破いたんですけど、この制服、見覚えがありませんか?」 ヴィヴィオの手には、衣服の袖と思しき布きれが握られている。 その布きれは、ヴィヴィオにも見覚えがあるものであった。 「これは、あの人の制服と同じです……」 ヴィヴィオが言ったのは、そう──暁美ほむらの事だった。 なので、ほむらと同じ中学の制服ではないかと思った。 沖は、すぐに白いシーツの下で、ほむらの死体の手首を見た。 「…………破られている」 全員の背筋が凍る。 ほむらの死体の袖が、誰かによって破られているのである。 そして、それはヴィヴィオの持っている布きれと完全に一致したのだ。 つまり、ヴィヴィオを襲ったのは、この死体という事になる。 「前に確認した時も、この子は死んでいたんだよね……?」 「……はい」 乱馬とともにこの人の死体を見つけた時、確かにこの子は死んでいた。それは間違いない。 「……私も信じられません。でも、私を襲ったのは、ずっと前に死んでいるはずの……この人の死体です」 ヴィヴィオは、妙に納得してしまった。 背後からヴィヴィオを襲った相手の手は、冷たく、汗一つかかなかった。 死体が汗をかくわけはないし、その体は冷たくて当たり前である。 「じゃあ、もしかして、僕を襲ったのも……?」 いつきの背筋に冷たいものが走った。 いつきは、あの時、反撃する事ができなかったが、おそらくあの同室にいたのは──幽霊という事になる。 「……でも、ドアを蹴飛ばすような音やあのスタングレネードは?」 沖は、少し疑問であった。 スタングレネードを使う怨霊が、この世のどこにいるだろうか。 ……ただ、暁美ほむらの生前を知っていたらば、使ってもおかしくないという結論に達した者がいるかもしれないが。 「ラップ現象、それにポルターガイスト現象という心霊現象があります。スタングレネードは、源太さんの支給品だから、もしかしたら……」 そう言ったのは美希だった。 女子中学生に蔓延しやすい言葉だったで、美希も多少のオカルト現象についての単語を聞いた事がある。 何もないのに音が鳴るラップ現象。 家具や物が勝手に飛んだり、移動したりするポルターガイスト現象。 それを連想せずにはいられなかった。 なんだか、この霊安室が奇妙な静けさを持ち始めた。 姿を消したダークプリキュアも、“死体”に襲われたヴィヴィオやいつきも、シンケンゴールドの挙動も……何もかもが不気味で、説明がつかない現象であるように思えた。 真相を知らないものには、謎だらけで、それが恐怖を呼んだ。 殺し合いゲームなどよりも、遥かに恐ろしい得体の知れない何かに、美希やいつきは……あるいは、孤門さえも背筋を凍らせていた。 「……ねえ、ここ出ませんか?」 震えた声で、美希が提案する。 いつきも美希も、恐怖でいっぱいのようだった。 「……わかった。ここは出よう。ただ……」 沖は、ただそのままここを出る事だけは避けなければならないと思った。 「……ただ、一度彼女たちに手を合わせてから」 幽霊を恐れるにしても、幽霊の仕業ではないと断言するにしても、ただ、死者に対して手を合わせるだけはしなければならないと沖は思った。 ここにいる全員が黙って目を瞑り、二つの体に向けて手を合わせた。 (アインハルトさん……いつかまた……) アインハルトの遺体に、そう心の中で告げ、ヴィヴィオを最後尾にして、全員が立ち去った。 △ 沖たちは、警察署内のトレーニングルームまで来ていた。 ここは、以前、孤門がヴィヴィオとともに竹刀で鍛錬を積んだ場所である。 そして、ここには、あの「ロボット」があった。 ダークプリキュアにもこの「ロボット」の情報を教えていたので、もしかすればここに来ているかもしれないと思ったが、彼女はそれを無視したようである。 「……なるほど。宇宙でも活動できるパワードスーツ──ソルテッカマンか」 既にこれの制限が解除され、説明書が転送される時間になっていたので、ソルテッカマンを動かす事は可能な時間になっている。 沖は、パンを噛みながら、その説明書を読んでいた。興味津々といった様子で、素早く説明書に目を通していく。 彼の宇宙開発に関する興味は絶えない。こんなパワードスーツがあるとすれば、元の世界に持ち帰りたいほどだ。 元々、相羽タカヤから左翔太郎に伝わり、左翔太郎からいつきたちに伝わった情報は、オービタルリングやスペースコロニーなど、興味深いものであったが、実際にSF以外でこうした技術を目にすると、思わず持ち帰りたくなる。 「……みんな、とにかくこれからは全員で行動しよう。何があっても単独行動はいけない」 孤門もまた、食事を摂りながらそう言った。 仮に全員でダークプリキュアを追いかけていたら、こうはならなかったのではないかと思う。 残った者には、少しばかりの責任があった。 「そうだな。そこの三人にはすまないが、俺達はトイレの時も含め、なるべく近くで行動しなければならない。……入浴したい時は、見張りを立てたうえで、必ず二人以上で入ってくれ。食べ物を食べるときも、なるべくこのように全員で行い、寝るときは見張りを立てて男女問わず全員同室で行う」 沖は、少し横暴にも思える事を言うが、状況的には仕方のない事なので、誰もブーイングを言う事はなかった。 むしろ、そのくらい徹底しなければ安心できないと思うほどだ。 トイレは、あらかじめトイレの中に誰もいない事を全員で確認し、個室の前に他の同棲配置。トイレの前に異性の二人を配置。 入浴も同様に、浴場やシャワールームに誰もいない事を確認したうえで、複数人で入る。残りの異性は脱衣所の前で待機。露天になっている場所には立ち入らない。 食事は、全員で行う。 就寝は、睡眠を多く取らなくても生活できる沖が見張りとなり、残りの四人も同室。左翔太郎や佐倉杏子がここに来た場合は六人で同じ事を行う。 ある程度、生活の方法は決まってきた。 単独行動を禁止するのは、本来ではよくない事だが、状況が状況なだけにそんな事も言ってはいられない。 実際、集団の分離がこれまで散々危険な事を起こしているので、特別な事情がない限り、集団を小分けするわけにもいかない。町内に不審人物が現れた時の、小学校の集団下校のようなものである。 「……では、今から左翔太郎や佐倉杏子、または他の参加者が来たときのために入り口が見える窓から監視する事にしよう。二人が来るか、第三回放送が始まる前になったら、またここに全員で戻る。その後は、一度、全員で鍛錬をする」 沖が知る赤心少林拳の極意や、明堂院いつきが知る明堂院流古武道の戦闘方法などを、一度全員で少しでもかじっていくべきだと思ったのだ。 そこから先は夜になるので、全員睡眠をとった方がいいかもしれない。 既に17時間以上動きっぱなしで、全員疲れが見えている。目が覚めるような出来事が幾つもあるとはいえ、美希やいつきは少し疲れをとった方がいいだろう。 実際、参加者ではないティオは、ショックで眠っているようである。 (……もうしばらくの辛抱だ。その後は、俺がこの首輪の解除を……) 沖は確かに機械には詳しく、ちょうど祈里の首輪が手元にあった。 あのように焼死体であれば、ごくあっさりと首輪を外す事ができるが、流石にアインハルトの遺体の首を今斬るのは躊躇われる。 後で、棺桶につめて火葬するとしても、棺桶が一つでは、強引に押し込める形になってしまうだろう。 ともかく、五人は全員で移動を始めた。 【1日目 夕方】 【F-9 警察署】 【沖一也@仮面ライダーSPIRITS】 [状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、強い決意 [装備]:T2アイスエイジメモリ@仮面ライダーW [道具]:支給品一式(食料と水を少し消費)、ランダム支給品0~2、首輪(祈里)、ガイアメモリに関するポスター [思考] 基本:殺し合いを防ぎ、加頭を倒す 0:入口が見える場所で、風都タワー跡地で戦っている二人を待つ。 1:本郷猛の遺志を継いで、仮面ライダーとして人類を護る。 2:警察署内では予定通りに行動する。 3:この命に代えてもいつきと美希と孤門を守る。 4:先輩ライダーを捜す。一文字との合流の事も考えておく。 5:鎧の男(バラゴ)は許さない。だが生存しているのか…? 6:仮面ライダーZXか… 7:ダークプリキュアについてはいつきに任せる。 [備考] ※参戦時期は第1部最終話(3巻終了後)終了直後です。 ※一文字からBADANや村雨についての説明を簡単に聞きました ※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました ※18時に市街地で一文字と合流する話になっています。 ※ノーザが死んだ理由は本郷猛と相打ちになったかアクマロが裏切ったか、そのどちらかの可能性を推測しています。 ※第二回放送のニードルのなぞなぞを解きました。そのため、警察署が危険であることを理解しています。 ※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。 ※ダークプリキュアは仮面ライダーエターナルと会っていると思っています。 ※霊安室での殺人に関して、幽霊の呪いである可能性を聞きましたが、流石に信じていません。 【明堂院いつき@ハートキャッチプリキュア!】 [状態]:疲労(小)、ダメージ(中)、罪悪感と決意、精神的疲労 [装備]:プリキュアの種&シャイニーパフューム@ハートキャッチプリキュア! [道具]:支給品一式(食料と水を少し消費)、ランダム支給品1、春眠香の説明書、ガイアメモリに関するポスター [思考] 基本:殺し合いを止め、皆で助かる方法を探す 0:入口が見える場所で、風都タワー跡地で戦っている二人を待つ。 1:警察署内では予定通りに行動する。 2:沖一也、孤門一輝、蒼乃美希と共に行動して、今度こそみんなを守り抜く。 3:仲間を捜す 4:ダークプリキュアを説得し、救ってあげたい [備考] ※参戦時期は砂漠の使徒との決戦終了後、エピローグ前。但しDX3の出来事は経験しています。 ※主催陣にブラックホールあるいはそれに匹敵・凌駕する存在がいると考えています。 ※OP会場でゆりの姿を確認しその様子から彼女が殺し合いに乗っている可能性に気付いています。 ※参加者の時間軸の差異に気付いています。 ※えりかの死地で何かを感じました。 ※丈瑠の手紙を見たことで、彼が殺し合いに乗っていた可能性が高いと考えています。 ※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。 ※霊安室での殺人に関して、幽霊の仕業であるかもしれないと思い込んでいます。 ※霊安室の殺人はダークプリキュアによるものではないと思っています。 【蒼乃美希@フレッシュプリキュア!】 [状態]:ダメージ(中)、祈里やせつなの死に怒り 、精神的疲労 [装備]:リンクルン(ベリー)@フレッシュプリキュア! [道具]:支給品一式((食料と水を少し消費+ペットボトル一本消費)、シンヤのマイクロレコーダー@宇宙の騎士テッカマンブレード、双ディスク@侍戦隊シンケンジャー、ランダム支給品1、ガイアメモリに関するポスター [思考] 基本:こんな馬鹿げた戦いに乗るつもりはない。 0:入口が見える場所で、風都タワー跡地で戦っている二人を待つ。 1:警察署内では予定通りに行動する。 2:プリキュアのみんな(特にラブが)が心配。 3:相羽タカヤと出会えたらマイクロレコーダーを渡す。 [備考] ※プリキュアオールスターズDX3冒頭で、ファッションショーを見ているシーンからの参戦です。 ※その為、ブラックホールに関する出来事は知りませんが、いつきから聞きました。 ※放送を聞いたときに戦闘したため、第二回放送をおぼろげにしか聞いていません。 ※聞き逃した第二回放送についてや、乱馬関連の出来事を知りました。 ※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。 ※霊安室での殺人に関して、幽霊の仕業であるかもしれないと思い込んでいます。 【高町ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはシリーズ】 [状態]:上半身火傷、左腕骨折(手当て済)、誰かに首を絞められた跡、決意、臨死体験による心情の感覚の変化 [装備]:セイクリッド・ハート@魔法少女リリカルなのはシリーズ、稲妻電光剣@仮面ライダーSPIRITS [道具]:支給品一式(アインハルト(食料と水を少し消費))、アインハルトの支給品0~1(孤門・ヴィヴィオともに確認済)、アスティオン@魔法少女リリカルなのはシリーズ、ほむらの制服の袖 [思考] 基本:殺し合いには乗らない 0:入口が見える場所で、風都タワー跡地で戦っている二人を待つ。 1:生きる。 2:警察署内では予定通りに行動する。 [備考] ※参戦時期はvivid、アインハルトと仲良くなって以降のどこか(少なくてもMemory;21以降)です ※乱馬の嘘に薄々気付いているものの、その事を責めるつもりは全くありません。 ※ガドルの呼びかけを聞いていません。 ※警察署の屋上で魔法陣、トレーニングルームでパワードスーツ(ソルテッカマン2号機)を発見しました。 ※第二回放送のボーナス関連の話は一切聞いておらず、とりあえず孤門から「警察署は危険」と教わっただけです。 ※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。 ※霊安室での殺人に関して、幽霊の仕業であるかもしれないと思い込んでいます。 ※一度心肺停止状態になりましたが、孤門の心肺蘇生法とAEDによって生存。臨死体験をしました。それにより、少し考え方や価値観がプラス思考に変わり、精神面でも落ち着いています。 【孤門一輝@ウルトラマンネクサス】 [状態]:ダメージ(中)、ナイトレイダーの制服を着用 、精神的疲労 [装備]:ディバイトランチャー@ウルトラマンネクサス [道具]:支給品一式(食料と水を少し消費)、ランダム支給品0~2(戦闘に使えるものがない)、リコちゃん人形@仮面ライダーW、ガイアメモリに関するポスター×3 [思考] 基本:殺し合いには乗らない 0:入口にて、風都タワー跡地で戦っている二人を待つ。 1:みんなを何としてでも保護し、この島から脱出する。 2:警察署内では予定通りに行動する。 3:佐倉杏子、副隊長、石堀さん、美希ちゃんの友達と一刻も早く合流したい。 4:溝呂木眞也やゆりちゃん、ダークプリキュアが殺し合いに乗っていたのなら、何としてでも止める。 5:相羽タカヤと出会えたらマイクロレコーダーを渡す。 [備考] ※溝呂木が死亡した後からの参戦です(石堀の正体がダークザギであることは知りません)。 ※パラレルワールドの存在を聞いたことで、溝呂木がまだダークメフィストであった頃の世界から来ていると推測しています。 ※警察署の屋上で魔法陣、トレーニングルームでパワードスーツ(ソルテッカマン2号機)を発見しました。 ※警察署内での大規模な情報交換により、あらゆる参加者の詳細情報や禁止エリア、ボーナスに関する話を知りました。該当話(146話)の表を参照してください。 ※霊安室での殺人に関して、幽霊の仕業であるかもしれないと思い込んでいます。 【今後の予定】 ①左翔太郎、佐倉杏子が警察署に来るのを待つ。 ②第三回放送までに二人が来なければ、トレーニングルームに戻り、鍛錬を開始。 ③沖は首輪の解析をはじめ、残り全員は就寝の準備をする。 【T2アイスエイジメモリ@仮面ライダーW】 沖一也に支給。 「氷河期」の記憶を宿したガイアメモリで、これを使用するとアイスエイジドーパントに変身できる。 ヒートメタルを氷結させるほどの絶対零度の冷気を発射する事ができる。 ウェザードーパントの能力に似ていたため、照井は一度これの通常版の使い手(と思わしき人間)を殺害しようとした事があった。 【双ディスク@侍戦隊シンケンジャー】 蒼乃美希に支給。 丹波歳三が得意とする「双」のモヂカラが込められた秘伝ディスク。 セットした対象を二つに増やす能力を持つ。血祭ドウコクとの最終決戦の際に烈火大斬刀を分身させた。 時系列順で読む Back Bad City 4 I Don’t Want to Miss a ThingNext 悲劇の泉でやりたい放題です! 投下順で読む Back Bad City 4 I Don’t Want to Miss a ThingNext 終わらない戦い。その名は仮面舞踏会(マスカレード) Back Bad City 4 I Don’t Want to Miss a Thing 蒼乃美希 Next フィリップ少年の事件簿 謎の幽霊警察署殺人事件 Back Bad City 4 I Don’t Want to Miss a Thing 梅盛源太 GAME OVER Back Bad City 4 I Don’t Want to Miss a Thing アインハルト・ストラトス GAME OVER Back Bad City 4 I Don’t Want to Miss a Thing 明堂院いつき Next フィリップ少年の事件簿 謎の幽霊警察署殺人事件 Back Bad City 4 I Don’t Want to Miss a Thing 沖一也 Next フィリップ少年の事件簿 謎の幽霊警察署殺人事件 Back Bad City 4 I Don’t Want to Miss a Thing 孤門一輝 Next フィリップ少年の事件簿 謎の幽霊警察署殺人事件 Back Bad City 4 I Don’t Want to Miss a Thing 高町ヴィヴィオ Next フィリップ少年の事件簿 謎の幽霊警察署殺人事件 Back Bad City 4 I Don’t Want to Miss a Thing ダークプリキュア Next 騎士の物語