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~山岳地帯 地下10階~ 『もう見失わないッ!この小さいヤツを15秒以内に仕留めるッ!』 無作為に室内を動き回る弾丸中継のスタンド「マンハッタントランスファー」に 中継されたライフルの弾丸が、タバサ目掛けて飛来する。 「うっ……!!」 「ストーンフリー!オラァッ!!」 同時にタバサがライフルの弾丸に翻弄されている隙に、自らのスタンド「ストーンフリー」を 展開しつつジョリーン――空条徐倫がタバサに密着して来る。 タバサは攻撃用DISCのザ・ハンドで応戦しようとするが、精密動作の難しい ザ・ハンドでは、中々ジョリーンのストーンフリー相手に直撃を与えることが出来ない。 逆にジョリーンの側もザ・ハンドの一撃を警戒しているのか、その攻撃も タバサにダメージを与えると言うよりは、タバサの行動を封じて 致命的な隙を作る為の牽制に徹している風にも見える。 そしてタバサとジョリーンがお互いに膠着状態に陥っている間に、 マンハッタントランスファーが撃ち込んで来る弾丸が、絶妙な位置でジョリーンを避けて、タバサ一人を狙って降り注いで来る。 結果として、二人掛かりで攻め立てて来る敵に対して、一人で対処し続けるタバサの側は 消耗する一方であった。このままではジリ貧状態が続いたら、やがてどちらか一方に 完全に態勢をを崩され、その隙に残った片方からトドメの一撃を受けるのを待つばかりであろう。 ――どちらか片方さえ倒すことが出来れば。 今タバサの脳裏にあるのは、その考えだけだった。 実を言えば、距離を置いたマンハッタントランスファーをこちらのすぐ側に引き寄せる方法はある。 ザ・ハンドの能力を「発動」させ、自分とマンハッタントランスファーの間に 広がる空間を「削り取って」しまえば良いのだ。 だが、その手段は有り得ないとタバサは即座に却下する。 それは、ザ・ハンドのDISCを攻撃用DISCとして装備してしまっている為だった。 運の悪いことに、ザ・ハンドのコミックスによる強化も未だに出来てはいない。 今の段階でザ・ハンドの能力を発動させてしまっては、マンハッタントランスファーを 引き寄せた所でザ・ハンドのDISCは消滅、一撃で倒せるだけのダメージを与えきれずに マンハッタントランスファーには逃げられ、目の前のジョリーンから ストーンフリーのラッシュを受けて、自分一人が再起不能(リタイア)にされるだけだろう。 仮に、ザ・ハンドが強化されていて、一度の発動で力を使い果たさなかったとしても同じことだ。 ジョリーンのスタンド、ストーンフリーは細かな糸の束が集まって人の形を作っている。 それを応用して、ストーンフリーには傷ついた仲間の傷を縫合して癒すという使い方も出来る。 マンハッタントランスファーをタバサの側に引き寄せるということは、 彼女と密着しているジョリーンの手元にも移動させ、ストーンフリーによって 回復させるお膳立て整えてしまうということだ。ジョリーンかマンハッタントランスファー、最低でも どちらかを確実に無力化しない限り、この戦いに勝機は無いのだ。 タバサは決して、ザ・ハンドの他に装備用DISCを持っていないと言う訳では無い。 だが精密動作性を別にすれば、現在持っているDISCのどれもが ザ・ハンド程の高い攻撃力を持ち合わせておらず、今戦っている両者に 致命的なダメージを与えることは極めて難しいだろう。 そんなDISCをわざわざ持ち歩いているのも、DISCの能力発動を見込んでの事だ。 装備用としては貧弱でも、自らが置かれた状況とタイミングを見計らって 能力を発動させられれば、それはどんな強力な武器にも勝る。 王には王の、料理人には料理人の……そして恐らくハルケギニアの貴族や 彼らに使役される平民にも、各人に見合った個性や役割が与えられているのだろう。 既に今までの戦いで、タバサはそれを嫌と言う程思い知らされていた。 あのエコーズAct.3も、己を犠牲にしてまで、自分にそれを教えてくれたのでは無かったか。 「…………っ」 この窮地を逃れる術は必ずある。そして、その方法は恐らく―― タバサは自分の考えを信じて、銀色に輝く一枚の発動用DISCを取り出した。 「ホワイトスネイクの…DISC!?クッ、それを使わせる訳には……!」 ストーンフリーの勢いを強くするジョリーンに今は構わず、タバサはそのDISCを構え、そして―― 「承太郎のDISC…!」 自分とジョリーンから出来る限り離れた方向に向けて、タバサは力一杯そのDISCを放り投げた。 「あれは……父さんのDISCッ…!!」 そのDISCの正体が、かつて“本来の世界”で彼女の宿敵「ホワイトスネイク」の手によって、 自分の父親の記憶を封じ込められたDISCであることに気付いたジョリーンは、 目の前のタバサに構わずDISCに向かって駆け出して行く。 『何ッ…空条徐倫!?しかしその程度のことで我が「マンハッタントランスファー」の 逃げ道を塞いだと思っているのかァッ!』 マンハッタントランスファーを通して、本体のスタンド使いの意志がタバサにも聞こえた。 『照準点に変更無し!全身を確認、頭部に固定!発射(シュート)ッ!!』 「く……――ッ!」 タバサの頭部目掛けて撃ち込まれるライフルの弾丸を、体を捻ることで 辛うじて右肩で受けながらも、タバサは両腕を持ち上げて射撃用DISCの一枚を能力発動させる。 「エンペラー!」 タバサの意志に応じて、自由自在に室内を飛び回る銃弾型のスタンドが、 今度は逆にマンハッタントランスファー目掛けて猛然と疾駆する。 ジョリーンが自分に背を向けて離れて行っている以上、無作為に移動する マンハッタントランスファーをこの隙に、それも確実に仕留める為には、 使い手の意志によって弾丸の軌道を自在に変えられるエンペラーのDISCを使うのが最善の策。 ライフルの実弾とは違うスタンドパワーの塊を防ぐことが出来ずに、 マンハッタントランスファーは飛来したエンペラーの弾丸を回避出来ず、直撃を受ける。 『こ…こいつ…!いつの間に、これほどのDISCを……』 それが、マンハッタントランスファーの断末魔となった。 タバサは消滅して行くマンハッタントランスファーに構わず、承太郎のDISCを 追い掛けて行ったジョリーンの直線上の位置目掛けて走り出す。 承太郎のDISCを手に取っていたジョリーンが、タバサの様子に気付いて振り返るが、もう遅い。 「フー・ファイターズっ!!」 「ぐゥ……ッ!」 タバサの持つもう一方の射撃DISCから放たれるプランクトンの弾丸が、ジョリーンに命中。 ジョリーンが起き上がるより早く、タバサはジョリーンが倒れるまで、フー・ファイターズの弾丸を打ち 続ける。次から次へと放たれる弾丸の雨を受け続けた末に、ついにジョリーンの体が崩れ落ちる。 「……あのままあんたを攻め続けていれば、確かに倒せたかもしれない……。 だが!だが、それでも!父さんのDISCがそこにあるのだとしたら… あたしはそれを取りに行かない訳にはいかないだろう…!」 最後にタバサにそう言い残して、ジョリーンの姿をした“記録”は消滅して行った。 「……………」 タバサは無言で、ジョリーンが手にしていた承太郎のDISCを拾い上げる。 本来、このDISCの能力はスタンドの精密動作性を大幅に高めること。 だが少し前の階層で、同じように戦った別のジョリーンの“記録”が このDISCを守るようにしていたのをタバサは覚えていた。 もしかしたら。 このDISCは空条徐倫と言う人物にとって、とても大切な物なのでは無いかと思ったのだ。 例え命と引き換えにしても、惜しくは無いと思えるくらいに―― 「父様。……母様……」 ジョリーンは父、空条承太郎の為に自らの命を投げ打つ覚悟で戦った。 では自分はどうだろう?自分の父親は幼い頃に政治抗争の中で殺されてしまった。 母親は自分を庇って毒を飲み干した結果、正気を失い、今ではタバサのことすら 誰なのかを認識出来ず、昔自分が母にプレゼントした人形を “幼い娘のシャルロット”だと思い込んでいる。 父を、母を、両親の血が自分に流れていることを、タバサは今でも誇りに思っている。 だがガリア王国の王家という一族の名前は、今のタバサにとっては 憎悪と怨嗟で以ってのみ想起される存在でしか無い。貴族とは高貴で気高く、 また優れた知性と魔法の力によって人々を導いて行ける誇り高き者こそが 貴族と呼ばれるに相応しいのだと人々は語る。 ――冗談では無い、とタバサは思う。 名誉や栄光と言う名の虚栄心を守ることばかりに終始して、自分から 両親を永遠に奪い去った者達の誇りなど許されない、認めてやる訳にはいかないのだ。 人間が目指すべき黄金の精神とは、誇り高き血統とは、そんな所から来る物では無いはずだ。 本来なら「貴族」でも無ければハルケギニアで暮らす「平民」ですら無い、 「貴族」という存在がいない世界からやって来た平賀才人ですら、今では ゼロのルイズの使い魔であることに確かな「誇り」を抱いているに違いないだろうから。 自分も、ハルキゲニアに置き忘れてきた「誇り」を、取り戻さなくてはならない。 守らなければならない母の元へ帰る為に、トリステイン魔法学院の友人達と楽しい日々を送る為に。 「……私は、帰る」 いつものように小さな声で、しかし力強く宣言してから、タバサはゆっくりと歩き出した。 ~山岳地帯 地下11階~ 「んくっ……んっ…」 コップに注がれたキリマンジャロの雪解け水を飲み干しながら、タバサは手持ちのアイテムを確認する。 装備は攻撃用のザ・ハンド、防御用の強化済みイエローテンパランス、能力用のダークブルームーン。 射撃DISCのフー・ファイターズとエンペラー、ラバーズ、タワーオブグレー。 それ以外のDISCはデス・13とチリペッパー、エンプレス、ハーミットパープル、ペットショップ、 エンポリオのDISC。承太郎のDISCはこの階層に来た際に使ってしまったので、もう無くなっている。 そして体力回復用のモンモランシー特製ポーションに、今食べているはしばみ草のサラダ。 正直に言って、手持ちのアイテムは安心出来る程には数が多い訳では無い。 それでもタバサ自身が今までの戦いで経験を積んでいるということもあり、当面は何とかなるだろう。 しかし、突然この状況が変化したとしたら、どうなるだろう? その時になって、自分はこれまでのように切り抜けることが出来るのか? 先刻からタバサの胸の内に湧き上がっている漠然とした不安感は、 彼女がこの階層で新しく発見したDISCの発動に由来する。 『古からの死臭ただよう館に……迷い子が階段を下るとき! おのが自身はその正義を老婆と問い!しかるのちに残酷な死を迎えるであろう』 あのDISCは、確か「老師トンペティのDISC」と言う名前だったか。 自分がこの先訪れる階層について、予言という形で知ることが出来る能力らしい。 「……おばあさん?」 “階段を下りる迷い子”と言うのは、この異世界に入り込んだ自分のことに間違い無いだろう。 だが今までの階層で戦って来た敵の中に、老婆の敵はいない。 そして“古からの死臭が漂う館”という表現。これは恐らく、近い内に 今までとは全く違う敵と、古い館のような階層で戦うことになるという意味だろう。 ――覚悟を決めなくてはならない。 「覚悟」を抱いて己自身の内にある「恐怖」を退けてこそ、始めて勝利を手にすることが出来る。 例えどんな敵が現れたとしても、タバサには負ける訳にはいかない理由がある。 「む……っくん」 その為にタバサは、まず好物のはしばみ草のサラダを食べて万全の状態を作り上げることにした。 ~エンヤホテル 地下12階~ 「………当たった」 はしばみ草のサラダを食べてお腹一杯になったタバサが階段を降りた先は、古ぼけた建物の中。 なるほど、老師トンペティのDISCの予言は早速的中したと言う訳だ。 そしてあの予言は他にもまだ続きがあった。 予言が最後まで本当ならば、次にやって来るのは―― 「やあ~……いらっしゃい…」 違う。老婆では無かった。簡素な作りの衣服に身を包んで、子供を抱きかかえた女性だった。 「いい所ですねェ~…このホテル…あなたも泊まりに来たんですかぁ?」 そう言う女性の目の焦点はまるで合っておらず、本当にタバサの方を向いているのかすら疑わしい。 良く見ればその顔も、ニキビに塗れて膨れ上がり、ドス黒く変色している。 そして意識を周囲に向ければ、目の前の子連れの女性のように 異様に血色の悪い顔を不機嫌そうに向けた中年男性やら、全身に穴ボコが開いて 皮膚がチーズみたいになっている若い男などが、のろのろとした動きで―― しかし確実にタバサの方に向かってと近付いて来る。 「すみませんねェ~~…私ってば耳が遠い物で、何を言われてるんだか……」 「ザ・ハンドっ!!」 ガォン!! タバサは攻撃用に装備したDISCのスタンドの一撃を子連れの女性に叩き込む。 触れた者全てを消し去るザ・ハンドの右手に全身の大部分を削り取られ、 残った子連れの女性の体がくるくると部屋の中を転がり、やがて消滅する。 ――こいつらは、死者だ。 今まで戦って来た人々の“記録”とも違う、ただ動き回っているだけの死体。 タバサは迷うことなく、近寄ってくる亡者の群れに対して攻撃を加える。 「フー・ファイターズ!」 射撃DISCによってタバサの指から発射される プランクトンの弾丸が、更に姿を現してきた死体の幾つかを吹っ飛ばす。 しかしどれだけ死体の群れを倒しても、次から次へと際限なく死体の数は増えていく。 このままでは駄目だ。仮にこの死体をスタンドとするなら、 本体である「スタンド使い」が何処かにいるはず。 そしてそれこそが予言ので知らされた「老婆」に違いあるまい。 「…………!」 踵を返して、タバサはダッシュ。そのまま部屋のドアを強引に開け放って、ホテルの通路に躍り出る。 「ハーミットパープル(隠者の紫)…!」 同時に周辺感知の能力を持つ装備DISCを発動させ、タバサはホテル内の構造を頭の中に叩き込む。 思った以上に狭い場所だ。数で追い立てられれば、防ぐ手立ては無いだろう。 タバサは人が隠れていそうな場所を虱潰しに、しかし最短のルートを通って探し回る。 途中にチラホラと姿を見せる死体達は出来る限り無視しながら スタンド使いの本体を探して行く中で、タバサはオーナーの部屋と思しき部屋のドアを開け放つ。 「ヒェッ!?……お、おお~、これはいらっしゃいませ~。何か御用ですかな、ヒェッヒェッ」 ようやく見つけた。部屋に飛び込んで来たタバサの剣幕に、腰を抜かせて驚いてみせる老婆の姿。 今まで出会って来た死体とは違う、邪悪に、しかし強く意志を感じさせる輝いた瞳。 そうだ。彼女こそ、前の階層で予言で見た“古びた館の老婆”であり、 あの亡者共を操っているスタンドの本体に間違いない。 「ええ。……あなたに、用がある」 「おお~、それはそれは。何なりと御申しつけ下さい。 あ、ワシはこのホテルのオーナーのエンヤと申しますですじゃ」 お互いにシラを切り通しているのは先刻承知だったが、タバサはそれ以上は 何も口に出さずにエンヤと名乗った老婆に一歩ずつ近付いて行く。 近付いて、至近距離からザ・ハンドの一撃を叩き込むつもりだった。 エンヤ婆の側にも何か策はあるだろう。他に死体を操る以外の能力を隠しているかもしれない。 それを見極める為にも、今は死中に飛び込んでみせる必要がある。 来るならば、来い。タバサはエンヤ婆の一挙手一投足まで注意を払いながら、彼女に接近して行く。 「…お客のマナーが良くない。ちゃんと注意しないと…」 「そうですか、そうですか。そりゃあ申し訳ございませんのォ~。 何しろ外国から遥々観光に来られるお客様目当ての店なんで、言葉も通じ難くて大変なんですじゃよ」 「………本」 「ウムン?何ですと?」 「本を読んで、勉強しないと」 「おお、そうですのォ~。それは必要なことですのォ」 「そう。本を、読んで――っ!」 そこまで言って。タバサは一気にエンヤ婆との距離を詰めてザ・ハンドを展開。 一撃で勝負を決めるべく、エンヤ婆に向けてその右手を振るう。 「キィエェェェーーー~~~~ッ!!!」 その刹那、物凄い勢いでエンヤ婆が飛び上がり、ザ・ハンドの右手を回避してタバサから距離を取る。 ザ・ハンドのコントロールの難しさを差し引いても、老婆とは思えぬ程の凄まじいスピードでだった。 「…………く!」 「ヒェ~ッヘッヘッヘッ!そんな生っちょろいスタンドでワシを殺せると思ったのかァー小娘ェ!?」 タバサに対して嘲笑を上げる今の姿こそが、エンヤ婆の真の姿なのだろう。 邪悪そのものが形になったかのような笑みを浮かべながら、エンヤ婆は高らかに宣言する。 「このワシの「正義(ジャスティス)」で!お前のその無愛想なツラを 恐怖でグチャグチャに変えた後で改めてブッ殺してくれるわい! ここがお前の墓場になるのじゃああぁぁウケケケケェーッ!!」 その宣言と共に、エンヤ婆に操られて部屋のあちこちから新しい死体の群れが湧き出してくる。 ――また一つ、老師トンペティのDISCの予言の真実が明らかになった。 「正義を問う」とは即ちエンヤ婆のスタンド「正義(ジャスティス)」を指していたのだ。 そして最後に残された予言はただ一つ。「しかる後に残酷な死を迎えるだろう」……。 「そこまでは……嫌」 残酷な死を迎えるのは敵の方だ。死者を操っているエンヤ婆にこそ、死の世界は相応しい。 「デス・13のDISC…!」 タバサは装備DISCの一枚を頭に差込み、その能力を発動させる。 『ラリホォォォ~~~ッ!!』 DISCが力を使い果たして消滅する代わりに、タバサを取り囲んでいた 亡者の群れに強烈な睡魔が襲い掛かり、次々にその場へと倒れ込んで深い眠りに身を委ねて行く。 タバサは眠りこけている死体に構わずに、エンヤ婆のみに狙いを絞ってザ・ハンドを振るう。 だが、異様な素早さで動き回るエンヤ婆に対して中々決定打を与えることが出来ない。 「キィヒヒヒ、馬鹿め当たるものかァ!そしてェ!」 またしても新たに現れた死体が、タバサに向けて一直線へと突っ込んで来る。 「うっ……!?」 エンヤ婆に気を取られ過ぎていたタバサには、その死体の動きを避けきることが 出来ずに、部屋の中に置かれていたテーブルに頭から突っ込んで行ってしまう。 「く……ううっ…!」 他の死体が倒れ込んだタバサに向けて近寄って来る姿を視界の端に捉え、 タバサは慌てながらも自分を転ばせた死体にザ・ハンドの右腕を叩き込んだ。 死体、消滅。そのまま起き上がって態勢を整える、そうしようとしたその瞬間。 「キエェェェーッ!!」 「……っ!?」 エンヤ婆が懐に隠し持っていたナイフを取り出し、タバサの顔面目掛けて投げつけて来る。 頭を振って何とか逃れようとするが、完全に回避しきれずに左の頬が刃に当たって薄く切れてしまう。 チクチクとした浅い痛みと共に、タバサの頬から一筋の赤い血が流れ出す。 だがこの程度、致命傷には遠い。タバサは完全に立ち上がり、再びエンヤ婆に対して向き直る。 「クッ……クククッ…」 突然、エンヤ婆が含み笑いを浮かべる。 まるで、今この段階で自分が決定的勝利を掴んだとでも言うように。 まずい。 タバサはエンヤ婆の態度に、今までとは違う危険な雰囲気を感じ取っていた。 「ククク…ウケケケケッ!ウヒャハハハハァ!このホテルの中で血を流したな! もうこれで完ッ璧にお前は勝機を失ったのじゃあぁぁぁぁ!!ウコケケケケケケッ」 ――やはり。 あのナイフの一撃が、こちらにとっては致命的なダメージになってしまったらしい。 しかしタバサにはその理由がわからない。 エンヤ婆のスタンド、正義(ジャスティス)の真の能力が、だ。 ザ・ハンドに比べて威力が劣る上に、残りのエネルギーも少なかったが、 ここはエンペラーとフー・ファイターズで確実に攻撃を命中させるしか無い。 そう考えたタバサがエンヤ婆に向けて両手を向けた、まさにその瞬間。 「…………っ!?」 突然タバサの頭がぐらりと傾き、そのまま真横の方向に吹っ飛ばされて地面に叩き付けられる。 先程ナイフが掠めた左の頬がやけに重い。何とか瞳を傷口の方に見やると、 そこはもう出血が泊まっており、代わりに霧のような物質が問題の傷口から生じていた。 「これがワシの「正義(ジャスティス)」!「正義(ジャスティス)」の有効射程範囲内で傷を付けられた ヤツは、誰であろうと傷ついた場所を中心にワシの意のままに操れるのじゃあああぁぁ!!」 完全に勝利を確信しているのだろう、エンヤ婆の高笑いが部屋の中に反響する。 タバサは一発でも射撃DISCを撃ち込んでやろうとエンヤ婆に手を向けるが、 その前に傷口から自分の頭をコントロールされ、あらぬ方向へと頭ごと全身を吹き飛ばされる。 「さああぁ~~~てこれからお前をどう料理してくれようかのォ? そぉうじゃ、そういやトイレの掃除を最近サボっておったからのォ~~~~ これからお前に掃除してもらうとするかのう!!」 そう言うが早いか、エンヤ婆はタバサの頭を引き摺るような形で、 部屋の脇に設えてある扉に向けて、タバサの体を誘導して行く。 「なめるように便器をきれいにするんじゃ、なめるように! ぬアアアめるよォオオオオにィィィィ!!だよん。レロレロレロレロ」 エンヤ婆の咆哮を聞いて、タバサの全身に氷のツララで突き刺されるような 冷たい恐怖感が走る。恐らくこの老婆は本気でそれを自分にやらせるだろう。 それだけでは無い。その後も考え付くだけのありとあらゆる屈辱と恐怖を与えて、 タバサの中にある「正義の心」を完膚無きまでに打ち砕こうとするに違い無い。 それだけは何としても避けねばならない。 幸い、傷を付けられ操られているのは頭だけ。 ならば、両腕はまだ自分の自由に動くに違いない。 それを信じて、タバサはエンヤ婆に気付かれぬように注意しつつ、懐からDISCを一枚を取り出した。 「……ヌッ!?」 「ペットショップのDISC…っ!!」 氷を操るスタンド「ホルス神」の本体である怪鳥のDISCを頭に差し込むタバサ。 その刹那、まるで鳥の羽のように両手をパタパタと振りながら、 タバサの体が宙に浮かんでそのままフッ、と部屋の中から消えて行く。 ペットショップのDISC。 同じ階層の別の場所へ向けて、まるで瞬間移動の如く飛び去ることが出来るDISCである。 「……うおのれぇぇぇぇい小娘ェェェ!じゃが「正義(ジャスティス)」の効果範囲はこのホテル全体! この先の階層に至る脱出経路など存在せぬわい! そしてお前がここから逃れられぬ以上、依然このワシの勝利は変わらん! 何処にいようと絶対に逃すものかァァァ!!探し出して脳みそ!ズル出してやるッ! 背骨バキ折ってやるッ!タマキンがあったらブチつぶしてやっとるわッ!」 エンヤ婆はタバサを探すべく、後ろに死体の群れを引き連れながら通路へと飛び出した。 「「正義(ジャスティス)」は勝つ!!」 「ごくっ……んっ…んんっ…ぷはぁっ…。はぁっ、はぁっ……」 モンモランシー特製ポーションを飲み干して、タバサは先程の戦闘で受けたダメージの傷を癒す。 だがそれでも、左頬の傷口からは「正義(ジャスティス)」の霧が止まらない。 恐らく本体であるエンヤ婆を倒さぬ限り、永久にこのままに違いない。 しかし、一体どうやって倒せばいい? 「正義(ジャスティス)」の能力は既にわかっている。 霧によって、有効射程範囲内で傷付けられた者を自由自在に操る能力。 あの死体の群れも、「正義(ジャスティス)」の射程範囲内で殺された者達を 「正義(ジャスティス)」の霧を使って操っているのだろう。そして、その有効射程範囲は―― 恐らくホテルを構成するこの階層全体。 現在タバサの頭が自由になっているのも、エンヤ婆が自分の姿を見失っている為だろう。 もし発見されたら、その瞬間に「正義(ジャスティス)」によって タバサの体を操って先程の続きを始めるに違いない。 今の内に、何としてでも対抗策を考えなくてはならない。 手持ちのアイテムで、エンヤ婆を倒す為に出来ることは無いか、タバサは深く考える。 「………あ」 そして、一つだけ思いついた。 「正義(ジャスティス)」を使わせる隙を与えずに、あのエンヤ婆を倒す為の手段が。 だが、それはかなり危険を伴うアイデアだった。一歩間違えれば、倒れるのはこちらの方だ。 「………ううん」 それでも、やるしかないとタバサは思った。勝利への道はそう容易いものでは無い。 自らの命を削り取るだけの「覚悟」を抱いてこそ、始めて勝利の栄光を掴み取ることが出来る。 それこそが人間の目指すべき「正義の道」なのでは無いだろうか。 あのゼロの使い魔の平賀才人が、まだ召喚されて間もない頃に 彼を怒らせたギーシュ・ド・グラモンに向かって、決然と立ち向かって行ったように。 やろう。決然と覚悟を決めて、タバサは立ち上がる。 既にホテル内部の構造はハーミットパープルの発動によって理解している。 そして自分のアイデアの実行に最適な場所を目指して、タバサは一歩を踏み締めた。 「おにょれえぇぇぇぇ!何処に隠れおった小娘えぇェェェ!?」 血走った目で、ホテル内の何処かに隠れている筈のタバサを探す エンヤ婆の耳に、突然誰かの声が聞こえて来る。 『タバサはここよッ!ここにいるわよォォォーーーーーッ!!』 「何ッ……エンプレスじゃと?」 エンヤ自身、知らぬ間柄では無かったスタンド、エンプレスの声である。 彼女の宣言と共に、タバサが現在いる場所がエンヤ婆の頭の中にハッキリと浮かび上がって来る。 しかし、ホテルの中にエンプレスの罠など仕掛けただろうか? まあ、どうでも良いことだ。あの小娘が発見出来たのなら、今すぐ その場所に赴いてブッ殺してやればいい。 「正義(ジャスティス)」は無敵だ。あんな小娘に負ける訳など無い。 「ウヒヒヒヒッ、待っておれよ小娘!今度こそお前を地獄へと送ってくれるわい!」 そして間も無く、エンヤ婆は現在タバサがいるらしいホテルのロビーへと向けて突っ走る。 「…………!」 「よォ~やく見つけたぞォ、小娘エェェェ……」 タバサはロビーから通路の出入り口から少し離れた位置、 即ち現在部屋の中に踏み込んで来たエンヤ婆と距離を置いた所に立っていた。 一歩も動かぬまま、油断の無い表情でこちらの様子を窺っている。 何か策があるのかもしれない。 例えば、スタンドのDISCで床に罠を仕掛けている可能性など充分にある。 しかしタバサはもう「正義(ジャスティス)」のスタンドの支配下にあるのだ。 何処にいるのかさえわかってしまえば、後はエンヤ婆の好きに操ることが出来る。 ならば、策を使わせる暇など与えずブッ倒してしまえばいい。 エンヤ婆はそう考えて、エンヤ婆はスタンドを通して後ろの死体達に向けて命令を出す。 「お前達ィ!あのクソ生意気な小娘をとっ捕まえるんじゃア! そォして奴をボッコボコにブン殴って完ッ全に再起不能にしてやるんじゃあああぁぁァァァ!!」 その命令を忠実に実行するべく死体達が動き出すと共に、 エンヤ婆自身もまた、タバサに向かって駆け出して行く。 「ワシの「正義(ジャスティス)」は無敵じゃああぁぁぁッ!!」 エンヤ婆の意志によって、タバサの頬の傷口から潜り込んだ「正義(ジャスティス)」が 再びタバサの体を操って地に這わせようとする。だが。 「――レッド・ホット・チリペッパー!」 『限界無く明るくなるッ!!』 「なぬぅぅぅゥゥゥおわぁぁぁぁーーーーーッ!!?」 装備用DISCの発動。チリペッパーのDISCの電力放出によって、ロビー内部が 文字通り目も眩む光の波へと包まれる。突然の発光に 瞳をダイレクトに灼かれて、たまらずにエンヤ婆はもんどり打って床に転げ回る。 その中で、エンヤ婆はチクリと体を突き刺す痛みを感じる。 が、目を潰されているエンヤ婆にはそれが何なのかわからない。 そんなことよりも、早く「正義(ジャスティス)」であの小娘の体を操ってしまわねば。 それだけで、この戦いは勝てるのだから。 「「正義(ジャスティス)」ゥゥゥッ!!」 ドスン、と何かの倒れる音。恐らくタバサが頭を操られてスッ転んだ音に違いあるまい。 いいザマだ、とエンヤ婆は視力と共に再び勝ち誇った気分を取り戻していく。 やがて完全に目を開けられるようになったエンヤ婆は、くるりと首を振ってロビーの様子を確かめる。 見れば、今まさに地面に倒れ込んだタバサが死体達の群れに囲まれようとしている所だった。 「――勝った!第三話完ッ!!」 「……いいえ、あなたの負け」 エンヤ婆がタバサに向けて堂々と宣言するが、強い意志の光を瞳に湛えたタバサが はっきりとエンヤ婆の言葉を否定する。今、タバサは絶望するどころか、 逆に僅かに唇を吊り上げて、まるでこれこそが狙い通りだと勝ち誇っている様にさえ見えた。 「あなたが前に出て来てくれたから、上手く行った。……この死体を、盾にしようとしなかったから」 何だ。こいつは一体何を言っているんだ?どうしてここまで冷静でいられる? 「あなたがエンプレスのDISCで…ちゃんとここまで来てくれたから」 エンヤ婆の顔に焦りの色が浮かぶ。 タバサは教師が生徒に説明するかのように、静かに語りかける。 「あなたが、DISCの光で目を眩ませてくれたから……ここまで来られた」 タバサは後ろを振り向いて、今まさに死体の一つが彼女に向けて その両腕振り下ろさんとする様子を静かに見つめていた。 そして彼女の手には、防御用に装備していた筈のイエローテンパランスのDISCが握られている。 ここに至って、エンヤ婆はようやくタバサが何を企んでいたのか―― 先程自分に何を仕掛けたのか、ようやく理解することになった。 「なッ!ま、ま、まさかァァッ!?」 死体が振り下ろして来た両腕を、タバサは避けもせずに背中で受け止める。 「ぐっ……げほっ…!」 ずしりとした衝撃がタバサの全身に走り、口元から息が漏れる。 ――そしてそのダメージが、死体を操っている筈のエンヤ婆に向かってそっくりそのまま返って来る。 「うぐおぉぉぉっ!?」 「……ラバーズの、DISC。これなら、確実にあなたにダメージを与えられる…」 かつて、本来の世界で敵に捕らえられたエンヤ婆の始末の為に用いられた、因縁のスタンド。 それが今、再びエンヤ婆から「運命」をもぎ取るべく、タバサの手によって自分に仕掛けられている。 タバサが受けたダメージをそのまま特定の誰かに跳ね返すラバーズのDISCの能力。 その能力によって、別の死体によってタバサの腹に深くメリ込んだ蹴りの痛みが エンヤ婆に対してそっくりそのままダイレクトに伝わって来た。 「ぬぉわああぁぁぁっ!?おごぉおぉぉっ!!」 「あぅっ……ぐっ…げほっ、ううあっ……」 一切の抵抗も見せずにひたすら死体によって殴られ、蹴られ、蹂躙され続けるタバサの 感じている痛みが、次から次へとエンヤ婆に向けて跳ね返ってくる。 よりエンヤ婆に早く、深いダメージを与えるべく、タバサは防御用DISCまで外していたのだ。 出血で視界が赤く染まっていく。内臓を痛め付けられ、口から血反吐を吐くのも何度目だろうか。 己自身の血に塗れて全身を真っ赤に染め上げられた今のタバサの姿は、 トリステイン魔法学院において呼ばれる「雪風」の二つ名とは、まるで掛け離れていた姿だった。 「なっ…!ウゲッ…なんちゅーマネをしやがるんじゃあァァァァこの小娘ェェェェ!――ブゲェェェ!!」 何度目になるかも知れぬタバサのダメージを跳ね返されて、ついに耐え切れずに エンヤ婆はその場に倒れ伏した。そしてそれを確認してから、タバサはようやく次の動きを見せた。 「タワー……オブ、グレイ……っ!」 射撃用のDISCを能力発動させることで、室内のごく短距離の位置を 瞬間移動して死体の群れから逃れたタバサは、彼女と全く同じダメージを受けて ボロボロになっているエンヤ婆から見て、あと数歩の距離まで辿り着いていた。 「ウッ、ウヒヒヒヒッ…!ワシにトドメを刺すつもりか……?」 「……………」 「だっ、だが…やはり甘いのう、小娘…!それだけのダメージを受けて… その足でワシの所までそ辿り着けると思っておるのかァ~!? 辿り着く前に「正義(ジャスティス)」で全身傷だらけのテメエの体を 隅から隅まで片っ端から残さず操ってくれるわい…!」 タバサは無言で、血塗れの体を立ち上がらせてエンヤ婆に近付いて行く。 「やはり最後はワシの勝ちじゃあァァァ!!くらえ「正義(ジャスティ)」……」 「ダークブルームーン!」 『水のトラブル!嘘と裏切り!未知の世界への恐怖を暗示する『月』のカード!』 エンヤ婆がこちらを操って来る前に、タバサは今まで能力用に装備していたDISCを発動させる。 ダークブルームーンのDISC。能力用装備として使う分には水場を自由に移動出来るだけだが、 発動時の効果は全く異なる。その能力は部屋内にいる全ての敵にダメージを与え、 そのダメージを自分の体力として吸収することが出来るのだ。 「おごォ!?」 瀕死のエンヤ婆、そして距離の離れた死体達からも体力を吸収して、先程までのダメージを 一気に回復させたタバサは、エンヤ婆に最後の一撃を与えるべく駆け出そうとする。 「うっぐおおぉぉぉぉ!!まッ…!まだじゃあ……!まだ貴様が近付くよりも 「正義(ジャスティス)」発動の方が早いわぁ!まだ終わった訳では無いのじゃあぁぁぁァァァッ!!」 「違う……」 呟いて、タバサは最後に一枚だけ残されていた銀色の発動用DISCをエンヤ婆に向けて投げつける。 発動したり、投げ付けたりした者を一時的な混乱状態に陥らせる、エンポリオのDISC。 「うおわあああああぁぁぁぁぁ!!?」 DISCを投げ込またエンヤ婆は、混乱のせいでその場で悶絶。 「正義(ジャスティス)」発動の為の集中力を途切れさせてしまう。 「あなたの「正義」は、もうお終い……!」 エンヤ婆の前に立ち塞がり、高らかに宣言するタバサ。 そして攻撃用ディスクのザ・ハンドの右手を、傷だらけのエンヤ婆に向けて叩き込む! 「うぽわあぁーーーーーーーーーーーーッ!!!!」 断末魔の悲鳴を上げて、今度こそエンヤ婆はタバサの一撃によって、「残酷な死を迎えた」のだった。 ~エンヤホテル跡 地下12F~ エンヤ婆を倒したことで、「正義(ジャスティス)」の霧によって形作られていたホテルは消滅。 後に残るのは墓場同然の廃墟のみ。 操られていた死体もその主を失って、ただの死体へと戻って行った。 これでようやく次の階層に進めるはずだが、今の戦いはアイテムを始めとする消耗が激し過ぎた。 先程使用したダークブルームーンの効果でそれほど体力に不安が無いのと、 この階層に下りて来る前に食べて来たはしばみ草のサラダのおかげで お腹の具合には何の問題が無いのが、せめてもの救いと言えば救いなのかもしれないが。 「……でも、行かなきゃ」 いつまでもここでこうしている訳にもいかない。 ラバーズのDISCの効果を最大限に高める為に外していた イエローテンパランスのDISCを防御用に装備しなおして、タバサは階段を探して歩き出す。 「――あっ!」 自分が発見した物を見て、タバサは驚きのあまりに声を上げる。 階段はあった。いつもの下り階段とは違う、上り階段である。 この階段を上れば、今まで通過して来た階層を逆走することになるのだろうか? それも違う気がする。この先で待ち受けているのは、また別の新しい“何か”では無いだろうか。 タバサにはそんな予感がする。 だがその前にやらねばならないことがあった。 タバサは階段の側に落ちていた剣を拾い上げ、無造作に鞘から抜いた。 『~~~んっ、プハァ!やっと出られたぜ……っておお!?誰かと思ったらお前、タバサじゃねえか!』 「久しぶり」 タバサが異世界に巻き込まれた際に、離れ離れになってしまったインテリジェンスソード。 平賀才人の相棒であるデルフリンガーに、タバサは今、ようやく再会したのだった。 『こりゃおでれーた……いや、マジでおでれーたぜ。 お前さんと会えたってのもそうだが、何よりもその格好が何よりもオドロキだぜ』 「………そう?」 デルフリンガーに言われて自分の姿を見てみれば、確かに酷かった。 「正義(ジャスティス)」に操られる原因となった左頬の傷から漏れ出していた霧は 確かに消えているものの、服もマントもボロボロに引き裂かれ、 タバサ自身の血を吸って赤黒く染まっている。 これがドス黒い染みとなって永久に服から消えなくなるのも、そう遠い話では無いだろう。 よく見れば眼鏡のフレームは歪みに歪んで、レンズにもあちこちヒビが入っている。 満身創痍。今のタバサを表わすのに、これほど的確な言葉もなかった。 『マジで一瞬誰なのかわからなかったぜ……そうだな、こいつぁまるで』 「まるで?」 『――いや、やっぱ言えねえ。若い娘っこのアンタにゃ到底こんなコト言えねーぜ』 「そう」 デルフリンガーが言おうとしていたことを要約すると、まるで暴漢に―― それも幼女趣味の性犯罪者に寄ってたかって襲われたみたいだ、ということなのだが、 確かに先程までタバサの置かれていた状況は「性犯罪者」云々の言葉を 「死体」に置き換える必要はあれど、それ以外は全く以ってデルフリンガーの言う通りだった。 デルフリンガーが何を言おうとしたのか気になったが、 何やら自分を気遣ってくれている態度が伝わって来たので、タバサもその話については それ以上は聞き返さないことにして、その代わりに別の疑問をデルフリンガーにぶつけてみる。 「あなたは、どうしてここに? 『わかんねエ。オレも気付いた時は、もうあのバケモノみてぇなバーさんの所に放り出されてたんだ。 ただどーも、別の誰かがあのババアの所にオレを置いとけ、って言ってた気もするんだよな』 「別の、誰か……」 タバサはふと、側に聳え立つ上向きの階段に目をやった。 エコーズAct.3が言っていたレクイエムの大迷宮。そしてデルフリンガーの語る何者か。 全てはこの階段を上ればわかる。タバサの胸に強い確信が生まれていた。 『でもマジで、もう一度アンタに会えて良かったぜ~。 もし会えなかったら、オレっち永遠にあの屋敷ん中で閉じ込められっ放しだったのかもしれねえし』 「……うん。一緒に、付いて来て。帰れる…かもしれない」 『なぬ!?そいつぁマジなのか!?』 「わからない…。でも、それを確かめに行くの」 『そうか……オレっちの知らない所で、何か色々とわかったコトがあるみてえだな』 「歩きながら説明する」 『よし、頼むぜタバサ。オレとお前さんで、一緒に元の世界に帰るとしようぜ!』 「うん」 こくりと頷いて、タバサはデルフリンガーを握り締めながら階段を上っていく。 その途中、階段を上りきるより前に、タバサ達の目の前に真っ白な光が広がって行く。 視界が閉ざされ、意識まで溶けて行きそうなその感覚の中で、二人の耳に誰かの声が聞こえて来る。 「――ごきげんよう、ミス・タバサ。そしてようこそ、新たなる大迷宮の道へ――……」 ゼロの奇妙な使い魔「タバサの大冒険」 To be continued… 第2話 戻る
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~レクイエムの大迷宮 地下8階~ ガタンッ! 乳母車を抱えるハーヴェストと、それを奪い取ろうとするハイウェイスターの手の力が反発を起こし、乳母車が大きく揺れる。二つの力が拮抗することで、ハーヴェストの走行スピードに若干のブレーキが掛かる。 『ぬううッ……!』 数で圧倒的に勝るハーヴェストから、ハイウェイスターは中々乳母車を引き離せない。 両者が抵抗を続けるその度に、ガタガタと音を立てながら乳母車全体に振動が走る。 「……ふぁ……ふ……フギャア!フギャア!フギャア~!!」 やがてその振動に耐え切れなくなったのか、眠っていた赤ん坊が目を覚まして耐えられないとばかりに泣き始める。迷宮内に、赤ん坊の神経質な叫び声が途切れることなく反響して行く。 『クソッ!こいつらとっとと離しやがれ!ええいッ!俺としたことがまた女を泣かせちまったぜ!』 乳母車の中の赤ん坊が女であることを思い出したハイウェイスターが毒づく。 何とか彼女を救い出そうとハイウェイスターは更に手に力を込めるが、何時まで経ってもハーヴェスト達によってガッチリと固定された乳母車を奪い返すことが出来ずにいる。 ――そして、ハイウェイスターが焦りを抱き始めたその瞬間、それは起こった。 「ホギャア!ホギャア!ホギャアァ~ッ!」 『な…何だッ!?ガキの姿が……見えなくなってくッ!?』 泣き喚く赤ん坊を中心として、ハイウェイスターの目の前にある全ての“もの”が透明になって消えて行く。 その現象はやがて、乳母車全体に広がってそれを掴むハイウェイスターの腕にまで広がって行った。 『こ…これはスタンド能力だッ!このガキがスタンドで何でもかんでも透明にしちまっているのかッ!』 これはあくまでも、見えている物が透明になるだけの能力であるらしく、ハイウェイスターには未だに乳母車を掴む自分の手の感触を確かに存在していることを感じていた。 そもそも、視界よりも嗅覚によって相手を捉える能力に長けているハイウェイスターにとっては赤ん坊の姿が見えないことなどは大した問題などでは無かった。 そして、乳母車に触れているハイウェイスターの体の透明な部分がどんどん広がって行くと共に、乳母車の足元に群がっているハーヴェスト達の姿もまた、次々と透明になっているのがハイウェイスターにはハッキリと“見えて”いた。 『邪魔スル奴ガイルゾ…!』 『目障リダゾ…!』 『ヤッチマウゾ…!』 『片付ケチマウゾッ…!』 そんな声と共に、ハイウェイスターの体に妙な刺激が走り出す。 『うおっ……な、なんだッ…!?』 脚から胴体、両腕に頭と、体の下から上に向かって「痒み」にも似た刺激が全身を覆って行く。 背筋に冷たい予感が走ったハイウェイスターは、乳母車を掴んでいる片手を離して自分の体を払う。 彼の手に何かが当たる感触が伝わって来る。それは全長数cm程の塊のような感触だった。 そう――それは丁度、未だに足元で乳母車を抱えて走り出す、ハーヴェストの体その物のような感触! 『うおぉぉぉーーーーッ!!?』 ハイウェイスターが全身を覆う刺激がハーヴェストによる「攻撃」であると気付いた時、たまらずに乳母車を掴んでいたもう片方の手も離してしまう。衝撃によってハイウェイスターの体が吹き飛ばされ、ゴロゴロと無様に地面を転がり回る。乳母車の運搬から離れたハーヴェストの群れが更にハイウェイスターを痛め付けるべく、四本の腕でハイウェイスターの体を次々に削り取って行く。 『クタバッチマエバイインダゾッ!』 『邪魔ハサセナイゾ!』 『トドメヲ刺シテヤルゾッ!』 『グッ…!ち、ちくしょう、こいつらッ…!駄目だ、振り払えねぇッ!』 乳母車の中の赤ん坊が離れて行くのを、地面に倒れ伏したハイウェイスターは「臭い」で感知していた。 それと共に、自分や自分を襲うハーヴェストの姿の透明化が解除され、目で見えるようになって行く。 「――クソッ!嫌な予感はしてたが、予想通りになっちまったぜ!戻れハイウェイスター!」 ハーヴェストの攻撃によるダメージでハイウェイスターが完全に身動き一つ取れなくなる直前。 自分自身の“鼻”でタバサ達をここまで誘導して来た噴上裕也が大急ぎで自分のスタンドを解除する。 「波紋疾走(オーバードライブ)!」 「クレイジー・ダイヤモンド!」 スタンドを解除した噴上裕也を後方に下がらせて、前に出たツェペリの波紋とタバサの装備するDISCのスタンドが、ハイウェイスターの襲撃の為に乳母車の運搬から離れたハーヴェストの群れを一掃する。 そのまま未だに乳母車を手放そうとしないハーヴェストの本隊を追跡すべく、間を置かずに走り出す。 「…しかしフンガミ君。大分手酷くスタンドをやられていたようだが、君自身は大丈夫なのかね?」 「ああ…ハイウェイスターは遠隔操作にしていたからな。だがここまでスタンドにダメージを受けちまった以上、次に出せるようになるまで結構な時間が掛かっちまうな」 自分のスタンドがこうも手酷いダメージを与えられたことに歯噛みをしながら、噴上裕也は答える。 それと共に、先程までハイウェイスターが繰り広げていた一連の攻防を、自分の記憶として頭の中に叩き込む。ハイウェイスターが“見た”光景を、本体である噴上裕也が共有して行く。 「……俺達は確かに奴らに近付いてる。それは間違いねぇ。 だが気をつけてくれ。あのガキの乗った乳母車やコソ泥野郎のスタンドは、今は姿が“見えない”」 「見えないだと?」 顔色一つ変えずに走りながら、ツェペリが背後を走る噴上裕也に首を向けて尋ねる。 「ああ。あの赤ん坊のスタンド能力だ。自分を含めて、その辺の物を何でもかんでも手当たり次第に 透明にしちまうってヤツだ。どうやらあのガキがストレスを感じると共に発動するシロモノらしいな…… ギャアギャア喚いて涙からストレスを垂れ流しにしてるのが「臭い」を通じてよーくわかるぜ」 涙にはストレスの原因となる物質が含まれている。だからこそ人は思い切り泣いた後は気分が スッキリするのだという話を思い出しながら、噴上裕也は言った。 『おいおい。姿が見えねぇんじゃあ、一体全体どうやって掴まえりゃあいんだよ?』 「それを今から考えようって話だろ。ま、俺だけなら奴の「臭い」を辿れば楽勝なんだがな」 『そう言っときながら、さっき大切なスタンドをボコボコにされてたのは何処のどいつだぁ?あ~ん?』 「やかましい! ……と言いたい所だが、確かにあそこまでハイウェイスターをやられちゃあ返す言葉もねえな」 『あらら。こいつはマジで重傷だわ』 「……見えるようにする」 そこで噴上裕也とデルフリンガーの会話を制止するように、タバサがぽつりと呟いた。 『見えるように……って、何かいい手があるのかよ?』 「ある」 デルフリンガーの問いに、タバサは迷うことなく断言する。 「だから、あなたの力が必要」 そしてタバサは、自分の腰に挿したデルフリンガーの柄を軽く撫でて言葉を続けた。 「フム。何か策があるようだね、タバサ」 「…………」 ツェペリの問いにタバサは小さく、しかし自身有り気に頷いた。 「よし、ではここは君に任せよう。私は君のアシストに回る。君の手並み、見せて貰うよ」 「わかった」 『よーし!オレに出来るコトなら何でもやってやるぜ!期待してるぜタバサ』 「うん。お願い」 答えて、タバサは走りながらハーヴェストに盗まれずに済んだDISCの一枚を取り出す。 「――近いぞ!もうすぐだ……もうすぐ奴らの至近距離に入るぞッ!」 彼女の後ろを走る噴上裕也が、赤ん坊の「臭い」を捉えてそう宣言する。 「ホギャア!ホギャア!ホギャア!」 タバサ達が顔を正面に向ける。そこには何も見えなかった。 だが彼女達の耳には、真正面から赤ん坊が泣き喚く声が確かに聞こえて来た。 「気をつけろ!透明になってる範囲はどんどん広がっているらしい…スタンド共も襲って来るぞ!」 「…………!」 噴上裕也の叫びと共に、タバサは赤ん坊のスタンド能力で、それに近付く自分の体が少しずつ 透明になって行くのが見えた。時間を掛ければ不利だ。そう判断したタバサは迷うことなく手に持った 黄金色の装備DISCをデルフリンガーの柄へと差し込む。 「発動」 『よっしゃあ!』 気合を込めたデルフリンガーの雄叫びと共に、差し込まれたDISCが刻み込まれた能力を解放する。 その「愚者(ザ・フール)のDISC」を中心に生じた霧が、デルフリンガーに効果を増幅されたことで階層 全体を覆い尽くすかの如き勢いで広がって行く。 そして霧は乳母車に乗る赤ん坊の所まで広がって行き―― そのまま彼女のスタンド能力によって、透明になって掻き消える。 そして、透明な部分は一定の大きさの塊となって前方へ向かって線状に伸び、透明な軌跡を作る。 『――おでれーた!だが確かに、これなら赤ん坊が何処にいるか見えるな!』 赤ん坊が何もかもを透明にしてしまうならば、逆にその周囲を透明に出来る何かで覆ってしまえばいい。 そして、ザ・フールのDISCが生み出した霧によって、赤ん坊を中心に生み出される透明な部分が剥き出しになれば、その部分こそが赤ん坊がいる中心点としてタバサ達の目にもはっきりと“見える”。 『……マタ来タゾッ……!』 『邪魔ナ奴ラダゾ……!』 『返リ討チニシテヤルゾ……!』 赤ん坊が霧を透明にし続けている方向から、ハーヴェストの声が聞こえて来る。 そして間も無く、乳母車を運んでいたハーヴェストの群れから、その一部分がタバサ達を迎撃すべく飛び出してくる。それまで赤ん坊のスタンドによって透明だったハーヴェスト達が、乳母車から離れたことによってその姿を露わにしていく。 タバサは接近して来るハーヴェストに構わず、次に使うべきDISCを取り出そうと懐を探る。 「…………ぅ……っ!」 タバサに群がるハーヴェスト達の四本の腕が、彼女から少しずつ皮や肉を削り取って行く。 「痒み」にも似た痛みがタバサから集中力を奪って行くが、タバサはそれに耐えながらも何とか目的のDISCを取り出すことに成功する。 ――その瞬間。 急激に視界がぼやけ出したと思ったら、そのままタバサは全身の自由を失ってその場に崩れ落ちる。 『タバサ!?』 「ぅあ……!?う……あぁっ……!」 タバサは必死になって立ち上がろうとするが、体が全く言うことを聞いてくれない。 心なしか、今も彼女を襲っているハーヴェストの攻撃による痛みも麻痺しているように感じる。 その中で先程取り出したDISCを取り落とさなかったことだけは、僥倖と言うべきだろうか。 『しししっ……!』 彼女を嘲笑うハーヴェストの声にタバサが頭を上げると、ハーヴェストの一部が何やら細長い何かを持っているのが見える。 それを見た瞬間、タバサは自分の身に何が起きたのかをはっきりと理解した。 「いかん……!」 タバサの異変を見て取ったツェペリが速度を上げ、倒れ伏した彼女へと近付く。 「波紋疾走(オーバードライブ)!!」 そして右手を振り上げ、彼女の体に纏わり付いているハーヴェストに向けて波紋を叩き込む。 「う……くぁ……っ!」 ハーヴェストを通して、タバサの全身に波紋が流れて来る感覚が伝わって来る。 彼女の体に張り付いていたハーヴェスト達は、彼女の体にくまなく流れる波紋エネルギーを受けてたまらずに跳ね飛ばされて行く。全身の神経が混濁する中で、急に外から明確な刺激を与えられたことにタバサは不快感を隠せずに声を漏らした。 「タバサ!しっかりしろ、大丈夫か!?一体ヤツに何をやられたんだ!?」 「……どうやら、こいつを体の中に流し込まれたらしいな」 駆け寄ってきた噴上裕也に、ツェペリは先程ハーヴェストが運んで来た細長い物体を拾い上げて言う。 「こいつは……旦那の持ってたワインじゃねーか!?」 「そうだ。体内に直接アルコールを流し込めば、それだけで激しい酩酊効果がある…… つまり彼女は今、酔っ払っていると言うわけだ。それも酷い泥酔状態だな」 取り返した自分のワインボトルをしまいつつ説明するツェペリの言葉が正しいことは、今、噴上裕也が感じ取っているタバサの体が発するアルコールの「臭い」が証明していた。 「飲み過ぎには気を付けていたんだがねえ……それがこんなことになるとは」 「クソッ!こんな状態じゃあタバサに無理はさせられねえ! スタンドエネルギーの回復を待って、もう一度俺のハイウェイスターで……!」 「……大丈夫」 噴上裕也の言葉を制して、タバサは震える手で体を起き上がらせようとする。 体内を駆け巡るアルコールとハーヴェストから受けたダメージによって、そんな単純な動作も一苦労だった。 「タバサ!何が大丈夫なんだよ、そんなフラフラの状態で…!」 「……ツェペリさん」 傍らに立つツェペリの顔を見上げて、タバサは言葉を続ける。 「私を……連れてって」 「いいのかね?」 「うん」 自分の目を真っ直ぐに見つめて聞いて来るツェペリに、タバサははっきりと頷いた。 「わかった」 「ツェペリの旦那!」 非難めいた口調で叫ぶ噴上裕也に、ツェペリは厳しい視線を送る。 「フンガミ君、これは彼女の決めたことだ。先程私は彼女のアシストに回ると言ったばかりだしな。 彼女の意思は、出来る限り尊重させて貰うつもりだよ」 「………クソッ!」 そう宣言するツェペリの言葉に、噴上裕也は無力な自分に向けての怨嗟を込めて、吐き捨てる。 「わかった!わかったよ、だが俺も付いて行くぜ!もうすぐハイウェイスターのエネルギーも回復する。 次にまたタバサに何かあったら、今度こそ俺も手を出させて貰うからな!」 「いいだろう」 そう言って、ツェペリは片手で軽々とタバサの体を抱き上げて、再び乳母車を追って走り出す。 後に続いて走り出す噴上裕也に、タバサは軽く首を向けて、言う。 「……心配してくれて、ありがとう」 「…………!よせよ、俺は別に、礼を言われる程のコトはしちゃいねえ」 「いいの。ありがとう」 それは、タバサの心から思っていた本心だった。 面と向かって言われた噴上裕也は、気恥ずかしそうに頭をボリボリと掻き始める。 「……かぁ~!まァとにかくだ、俺達はまだあのガキを奪い返してねぇ。気合入れて行こうぜ、タバサ!」 「うんっ」 『やれやれ、お前さんがンなこと言われて恥ずかしがるような柄かよ』 「うるせえ!テメエもちったぁ気ィ入れろよ、デル助!」 そんな噴上裕也の態度に、デルフリンガーが呆れたような口調で口を挟んで来た。 「ま、その辺はとにかく……あまり時間が無いのは確かだね。私達は先に行かせて貰うよ」 「あ!おい、ツェペリの旦那!」 既にザ・フールのDISCによって生み出された霧は晴れ始めている。 一刻も早く決着を付けるべく、呼吸一つ乱さずに走っていたツェペリはその速度を一気に増して 走り去って行った。 「……ええいッ!」 自分より遥かに年長で、その上タバサを抱きかかえているにも関わらずに自分を遥かに上回る スピードで走るツェペリに内心舌を巻きながら、噴上裕也も彼らの後を追って走り続ける。 「う……ぐぅっ……」 「さてタバサ…!再び追い付いたのはいいが、今度はどうするつもりかね?」 「オギャア~!オギャッ、オギャッ、オギャア~~~!!」 これまでの騒ぎを知って知らずか、乳母車の中の赤ん坊は変わらずに泣き続けている。 辛うじて残っている霧の中で、透明の赤ん坊が移動する跡を目にしつつ、ツェペリは脇に抱える タバサに尋ねる。ただでさえ泥酔状態のタバサはツェペリに抱きかかえられた状態で、その上物凄い 速度で走られた為に、絶え間なく続く揺れによって脂汗を流して気絶しそうな程の最悪な気分に 陥っていたが、それでも何とか顔を上げて赤ん坊が生み出す透明の軌跡を見る。 「……これを」 そしてタバサは、先程から握り締めたままだった銀色の能力発動用DISCをツェペリに向けて差し出す。 「これを…このDISCを赤ちゃんの足元に向けて…投げて」 「足元……あのスタンド向けて、と言うことかね?」 タバサを抱える反対側の手でDISCを受け取って、ツェペリがそれを確認する。 「そう。……そうしたら」 次にタバサは危なげな動作で、それでもツェペリの体に触れないようにしながら腰のベルトから デルフリンガーを引き抜く。 『お?オレの出番か?』 「私が合図をしたら……すぐにDISCを発動させて」 他に装備するDISCが無かった為に、一応能力用に装備しておいたDISCを頭から出してタバサは頷く。 『あいよ。しかしそーゆー言い方をするってこたぁ、これからかなりギリギリの真似をしようって訳だな』 「……あなた達が、頼り」 タバサが神妙な顔を浮かべながら答える。 『フフン……お前さんにそこまで言われちゃあな、こっちもヤル気が出てくるってモンだぜ。 おうツェペリのおっさん!アンタも気合い入れてブン投げろよ!?』 「勿論だとも、デルフ君」 一度不敵な笑いを作ってから、すぐに表情を引き締めてツェペリは正面に向き直る。 「では――行くとするかッ!」 裂帛の気合と共に、ツェペリはタバサに指示された通りの場所へ銀色のDISCを投げ放つ。 ツェペリの膂力によって、DISCは古代インドで用いられたと言う投擲用武器のチャクラムの如く猛烈な勢いで飛んで行き、やがて赤ん坊のスタンド能力によって透明化され、見えなくなる。 「10……9……8……7……」 DISCが床に跳ね返って転がる音が聞こえない以上、どうやらタバサの狙い通りに乳母車の真下を走るハーヴェストの一体に差し込まれたようだ。タバサはそれを信じて、数を数えながら完全に頭から外した装備DISCをデルフリンガーの柄に押し当てる。完全に差し込むのは、まだ早い。 「6……5……4……3……」 ツェペリは何も言わずに、タバサを抱えてハーヴェストの群れとの距離を離さぬように走り続ける。 タバサの手に握られるデルフリンガーも、“その時”が来るのを無言で待っている。 「2…………1っ……!!」 そこでタバサは、力一杯にDISCをデルフリンガーの柄に差し込む。それと共にデルフリンガーは迷うことなく、そのDISCが宿しているエネルギーを自らの体内に吸収し、増幅して撃ち出した。 ――そして、0。 カウントが終わると共に、乳母車を抱えたハーヴェストが走っている位置から大爆発が生じた。 その爆発は周囲のハーヴェスト達を巻き込むと共に、その上に乗せられた乳母車をも爆風で宙に浮かび上がらせる。 「何ッ……これは!」 驚愕の表情を浮かべて思わず立ち止まるツェペリには構わずに、デルフリンガーから無数の糸が伸びて、前方へと吹き飛ぼうとしていた乳母車に絡まり付いた。 そしてデルフリンガーを握り締めているタバサがその手を力の限り自分の方へと引き寄せようとするのを受けて、デルフリンガーは糸が巻き付けられている乳母車をタバサ達の元へと引き寄せる。 そして少しでも落下の際の衝撃を殺せるように、出来る限り優しく乳母車を近くの地面に着地させる。 差し込まれてから10秒後に「破裂するDISC」をハーヴェストの一体に投げ込むことによって生じる爆発で乳母車を運搬するハーヴェストの群れを一掃、またそれによってハーヴェストが乳母車から手を離した所を「ストーン・フリーのDISC」の能力で糸を伸ばし、乳母車を掴み取って落下の衝撃を食い止める。 かなり乱暴な作戦だったが、タバサはそれ以外に手持ちのDISCでハーヴェストの大集団から乳母車を奪還する方法は無いと判断していた。 特にストーン・フリーのDISCは普通に能力を発動させていても乳母車を掴み取れなかっただろうが、 デルフリンガーの力を借りてその効果を増幅させてやれば上手く行く筈だと計算していた。 殆ど賭けに近い作戦ではあったが、結果として見事タバサの目論見通りに事が進んだのである。 「………しまった!」 だが、最後の最後でタバサは失敗した。 痛恨の表情を浮かべて、タバサは目の前の光景を見つめる。 ハーヴェストが破裂した際の衝撃で、赤ん坊が乳母車から投げ出されていたことに、タバサは気付かなかった。 いや、気付いていても反応出来なかったのだ。 その事実に気付いた時は、既にデルフリンガーに差し込まれて増幅されたストーン・フリーのDISCの 糸が、当初の予定通りに乳母車を掴み取るべく伸びていたのだから。 引き寄せた乳母車の透明化が解除されて行くのを目にしたた時には、もう手遅れだった。 そして、ザ・フールの霧に透明の軌跡を作りながら、赤ん坊が吹き飛んで行く先に広がっているのは―― 『水路かぁぁぁぁーっ!!』 迷宮内を縦横無尽に広がる「ナイル川」と呼ばれる水路に向けて、赤ん坊が落下しようとしている。 「…………っ!!」 「うおッ」 タバサは必死になって、赤ん坊を追おうとツェペリの腕の中でもがく。 しかし先程ハーヴェストによって体内に直接ワインを注入された体はまるで自由に動いてくれない。 彼女の剣幕にたまらずツェペリが抱きかかえる手を離した際に、タバサの体は無様に地面へと転がり落ちる。 「あぁっ……!あ……!!」 幾ら手を伸ばしても届く訳が無い。今までの人生において、少なくともタバサが三度経験した絶望―― 父親が暗殺された時。母親が自分を守る為に毒を呷って永遠に心を閉ざしてしまった時。 そして、トリステイン魔法学院の仲間達に敵として刃を向けてしまった時。 あの時の深く冷たい絶望が、拭いようの無い恐怖が、今再びタバサの胸に去来する。 自分のせいで。また、自分のせいで―― その絶望と恐怖は、いつしか自身に対する呪詛となってタバサの心を食らい尽くそうと広がり続ける。 そしてタバサの心に完全な止めを刺そうと、赤ん坊が水路へと墜落しようとする、まさにその瞬間。 「………っ!?」 落ちなかった。水面へと激突する音すら立てずに、赤ん坊の体は透明のまま水路の真上で静止している。 「ホギャア!ホンギャア!ホンギャア~!」 透明の為に顔までは見えなかったが、赤ん坊は先程と全く同じ様子で元気に泣いている。 その位置で赤ん坊を掴んでいる人型の腕が、彼女のスタンド能力によって少しずつ見えなくなって行く。 「――ハイウェイスター。やっと回復したぜ」 一度「臭い」を覚えてしまえば、そのスタンドは「臭い」の持ち主の所まで瞬間移動出来る。 自らのスタンドに赤ん坊の「臭い」を覚えさせていた噴上裕也が、タバサ達の背後でニヤリと笑った。 『んで?どーするんだよ、この嬢ちゃん。一緒に連れて行くのか?』 先程からタバサの胸に抱かれている赤ん坊の姿を見ながら、デルフリンガーが意見を求める。 僅かに残ったハーヴェストを全滅させて一旦休憩を取ることが決まってからと言うもの、タバサはずっと赤ん坊を抱いたまま離さないでいた。 自分のせいで命危険に晒してしまった申し訳なさと、その命が助かったことへの喜びで、胸がいっぱいだった。 そして赤ん坊を抱いたまま、何度もごめんなさいと謝り続けるタバサの姿に、その場にいた誰もが何も言うことが出来なかった。 タバサは泣いていた。 母親を守る為に、感情と共にかつての名前を捨てる決意をしてから、涙を流すのはこれが初めてだった。 泣いていたら、母を守れないから。泣き虫のままじゃ、強くなれないから。 それなのに、今は涙が止まらなかった。それでもいいとタバサは思った。 哀しみを捨てしまったら、泣くことまで忘れてしまったら、きっと人間は壊れてしまうのだと思ったから……。 そしてタバサの胸で抱かれる赤ん坊は、まだ少しぐずってはいたが、少なくとも近くにいるタバサ達を丸ごと透明化させてしまう程のストレスはもう感じていないらしい。 スタンドの影響も、せいぜいタバサの着ている制服が少し透明化して見えなくなっている程度だった。 「難しいな。この先、襲って来る連中はヤバくなる一方だろうしな。 そんな中で、このガキを連れたまんまってのは相当厳しいだろうな」 赤ん坊を抱きかかえているせいで、胸元が剥き出しになっているタバサの方へ出来る限り視線を送らないようにしながら、噴上裕也がデルフリンガーに答える。 「私も連れて行くのは反対だな。 フンガミ君の言う通り、これからの戦いにはこの子の存在は邪魔になってしまう」 そう同意するツェペリの言葉に、赤ん坊を抱いたタバサが非難混じりの視線を向ける。 だが当のツェペリは一向に気にした様子を見せない。 『ま、普通に考えりゃあそうだわな。かと言ってここまで苦労したってのに、置き去りにすんのもなぁ』 「託児所でもありゃいいんだがな。そうでなくても、誰が気の置ける奴に預けて面倒を見て貰うとか…… まあ、それが出来りゃあ苦労はしねえか」 冗談半分で呟いた噴上裕也の言葉に、タバサとデルフリンガー、そしてツェペリは顔を見合わせる。 心当たりが一つだけある。 気心の知れた相手で、職業柄家事万能で、しかも常に安全な場所にいる人物。 『……シエスタに頼む、ってのはどーだ?』 タバサとツェペリも考えていた内容を、そっくりそのままデルフリンガーが代弁する。 トリステイン魔法学院の学生寮の部屋でタバサ達を送り出してくれた、あのメイドの少女の顔が 二人と一本の脳裏に浮かぶ。 「そうだな……彼女に任せるなら安心だろうが、しかし」 「……戻れない」 タバサの呟きが、折角思い浮かんだ名案を完全に瓦解させてしまう。 今、彼女達が挑んでいるレクイエムの大迷宮は下りの為の階段しか無い一方通行だ。 シエスタのいる学生寮の部屋に戻る為には、最下層にいるこの大迷宮の守護者―― レクイエムと呼ばれる存在を打ち倒さねばならない。 そして今問題になっているのは、その最下層へ進む為に、この赤ん坊をどうすべきかという話だった。 ――本当にシエスタに頼めれば良かったのに。 落胆する一同に向けて、少し考える素振りを見せてから噴上裕也は口を開いた。 「……なあ。そのシエスタって奴なら、その赤ん坊の面倒を見てくれるって言うのか?」 『ああ。幾ら何でも、あいつなら連れて来た赤ん坊を放ったらかしになんざしねーだろ』 「そして、そいつはお前達とは顔見知りって訳か」 「そうだね。私も一度だけ会ったことがあるが、タバサとデルフ君達の方が付き合いは長いようだ」 噴上裕也の問いに対して、デルフリンガーとツェペリがそれぞれに答える。 再び思案の表情を浮かべてから、やがて噴上裕也は決然とした態度で言った。 「よし。それなら、俺がその赤ん坊を連れてシエスタって奴の所へ行ってみるぜ。 このガキを見せてアンタ達の事情を説明すれば、何とか信用して貰えるかもしれねぇしな」 「!」 『なんだとぉ…!』 予想外の噴上裕也の言葉に、タバサ達は目を見開いて彼の方を見やる。 「そうは言うが、フンガミ君。彼女の元へと行く為のアテはあるのかい?」 「心配ねえ。さっき、ハーヴェストの野郎が隠し持ってたブツの中に面白いモンがあった……ほれ」 頷いて、噴上裕也は人の記憶を封じた銀色のDISCを一枚取り出した。 「どうやらこのDISCを使えば、この大迷宮を一時的に脱出出来るらしい。 あんた達が言う、そのシエスタって奴の所までな。 俺がそのガキを抱いたまま使えば、一緒にこのダンジョンを抜けられるだろうさ」 噴上裕也が「ディアボロのDISC」と書かれたそのDISCをタバサ達に見せ付ける。 『んじゃあ何か?この嬢ちゃんを連れて帰るってことは、オメーはここでリタイヤって訳かい?』 「……ああ、そうなるな」 どこか冗談交じりに言った筈のデルフリンガーの言葉に、噴上裕也は神妙な顔で頷いた。 「悔しいけどよォ、俺がこんなことを言うのも、もうこれ以上はアンタ達の力になってやれそうにねぇ…… そう思ったからなんだ。 あんな虫みてーなチンケなスタンド相手にも、俺のハイウェイスターは手も足も出なかった…… これ以上アンタ達に付いて行った所で、逆に俺の方が足手まといになるんじゃねーかって、そんな気がしてな…。 アンタ達を見捨てるような、スゲーカッコ悪いことを言ってるってのはわかってる。だが……」 「…………いい」 拳を固く握り締めて言葉を続ける噴上裕也に、タバサは顔を上げながら言う。 「気にしないでいい。その気持ちだけで、充分」 「タバサ……すまねぇな、情けないこと言っちまって」 「ううん。これ以上、あなたを巻き込めない」 「……本当に、すまねえ」 赤ん坊を抱きながらこちらを見上げて来るタバサに対して、噴上裕也は心から深く頭を下げた。 『顔を上げろよ、フンガミ。お前、本当はタバサの胸が見たいんだろーが。無理すんなよ』 「うるせえよデル助。……だがま、確かにお前の言う通り、見たいってーのは否定しねーよ」 デルフリンガーにそう返しながらも、噴上裕也はついっとタバサの胸元から目を逸らす。 「フンガミ君、先程の君の言葉は「恐怖」から出た物だ。 そして今のは「恐怖」を克服した者の言葉では無い。君は「恐怖」に負けたのだ」 厳しい瞳で噴上裕也を見据えながら、ツェペリが言う。 「だが――」 そこでふっ、とツェペリは表情を崩して言葉を続ける。 「君はそれを知っている。自らの内にある感情の正体が「恐怖」であるということをな。 そして、その中で自分が考え得る最善の道を選ぼうとしている。 そのことを責める者は誰もいるまい……私でさえ、責めることは出来ないさ」 「……ツェペリの旦那」 「この赤ん坊を頼むよ、フンガミ君。君は確かに我々の力になってくれているのだ。 何処へいようと、君は私達の「仲間」なんだ。それは紛れも無い「真実」なんだよ」 噴上裕也の肩を力強く掴んで、ツェペリははっきりとそう言った。 『ヘッ……!まあ気にすんなよ、フンガミ! これからもタバサはオレ様が守ってみせるさ!ツェペリのおっさんもいることだしな』 「ツェペリの旦那……デル助……」 瞳に何か熱い物を感じながら、噴上裕也は大きく頷いた。 「ああ、わかったよ!このガキのことは俺に任せろ。だから二人共、タバサのことをくれぐれも頼んだぜ」 そして噴上裕也は、タバサの方を振り向いて真正面から彼女と向き合った。 「気を付けてくれ、タバサ。この先はそれこそ何が起こるかわからねぇ…… だが、俺はお前のことを信じてる。そして待ってるぜ、お前が無事に帰って来るのをよ」 「…………うん」 そこでタバサは立ち上がって、彼と同じように噴上裕也を真っ向から見据えて、言う。 「本当に……ありがとう、ユウヤ」 そう答えるタバサの顔に、今初めて見る笑顔が浮かんでいたのを、噴上裕也は確かに見た。 「……それじゃあ、名残惜しいが…タバサ、その赤ん坊を」 「うん」 タバサが差し出した赤ん坊に、噴上裕也が手を伸ばす。 そして彼の手が赤ん坊に触れようとした瞬間。 「ふぇ……?ふ、フギャア!フンギャア!フンギャア~~~!」 「うおぉッ!?」 慌てて噴上裕也が手を離そうとするが、その前に彼の手が先端から透明になって 見えなくなっていく方が早かった。そして赤ん坊の泣き声と共に、透明の範囲が次々に広がって行く。 「これはこれは…フンガミ君、あまりこの子に好かれてないようだねぇ。 いや、それとも彼女がタバサに懐き過ぎているのかな?これは」 『おい……フンガミ!女に優しいってぇーテメエのポリシーはどうしたよ!?』 「うるせー!かぁ~ッ、今までガキには興味ねぇつもりだったが、こりゃ考え方を考え直す時かァ!?」 「ホンギャア~~~~!!」 先程までの静寂が嘘のように、その空間が蜂の巣を突いたような騒ぎに包まれる。 そんな中で、泣き喚く赤ん坊を抱くタバサは、一人静かに、何かを口ずさみ始める。 「ひとつ願いごと――叶うとしたら――優しい腕の中、声を聞かせて――」 それは遠い昔に聞いた、懐かしい旋律。 夜、ひとりぼっちで寂しい思いをしていた時に、母がそっと自分を抱き締めながら聞かせてくれた歌。 闇の中で自分が怖がらないように、その手で優しく包み込みながら歌ってくれた、子守唄。 「あの日、抱えてた花は枯れたの――そんな胸の奥、誰も知らない――」 この歌は、母と過ごした大切な思い出の象徴。 自分と母とを、今でも結びつけてくれていることを、証明する言葉――。 「散った花びら――そっと拾い集めたら――」 微笑みを浮かべながら、優しげに――そしてどこか悲しげに、彼女は歌い続ける。 その歌を聴いて、泣き叫んでいた赤ん坊も次第に声を小さくして、やがて笑顔を取り戻して行く。 今、この場にいる誰もが、耳を済ませて彼女の歌声を聴いていた。 「青い翼広げ飛んでゆく――風が誘う、天と地へ―― どうかこの願い、叶うなら――魔法など――私にはいらない――」 またすぐに、戦いの時はやって来る。それと共に、大切な人達との別れも。 だけど、今だけは。今だけはそれを忘れたかった。 今、確かにここにある、この安らぎの時間は、誰にも壊せないものだから。 大切な人達と過ごしている掛け替えのない一瞬を、記憶という永遠の中に閉じ込めたかったから―― ゼロの奇妙な使い魔「タバサの大冒険」 To be continued…… 第7話 中編 戻る
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タバサの冒険 ◆/mnV9HOTlc F-5とG-5の間である場所に青髪の少女、タバサはいた。 彼女はあの時、5人を殺したいくらいだった。 なぜなら彼女はこんな殺し合いなどしている暇などなかったからだ。 タバサには母親がいる。 だが、母親はエルフの毒によって心を狂わされてしまった。 人形を自分だと思い込んでしまっている母親。 そのせいで昔は明るかった性格も今ではこうなってしまったのだった。 主催者が言うには、元の世界に戻してやれる上に願いがかなうといっていた。 ただそのためには元仲間を殺す必要があった。 今までの彼女、またはこれからの彼女であったらそれはためらっていただろう。 だが、今の彼女はそういうことはない。 なぜならすでに彼女は仲間と縁を切っているからだ。 そんな理由でゲームに乗ることはしたが、そのための武器、彼女の杖が手元にはなかった。 そして同じく使い魔もいない。 もう、どうしようもない状況であった。 しょうがないので、デイパックの中身を見る事にした。 もしかしたらそこに杖があるかもしれないと思ったからだ。 だが、その中に自分の杖はなかった。 その上、デイパックの中にあったものは彼女にとって無縁のものばかりであった。 ようするに、自分のいた世界のものは何一つ入っていなかったという事だ。 ただ、そんな事を言っているときりがない。 自分が扱える武器なんていうのはごくわずかしかないのだから。 そこでタバサは武器らしきものを取る。 説明書を見れば、これがなかなかの武器だということがわかった。 ためしにそれを使って、目の前の木を撃ってみる。 持ち方や反動などに苦労したが、なんとかこの武器の扱い方が理解できた。 二発撃ったところで、タバサはこの島で一番高いところであるF-5へ向かう。 地図上には何も書いていないのだが、もしかしたら何かあるのかもしれないと思ったからだ。 そこにあったのは看板とよく観光地などに置いてあるような望遠鏡であった。 さらに、そこには自分以外の参加者が一人いた。 その人は怪我をしているのか、車椅子に乗っていた。 手に銃を持ちながら、タバサは目の前の少女に近づく。 理由はもちろん殺すため…。 先に声をかけてきたのは目の前の少女であった。 「さっきこの辺で銃声が聞こえたけど、大丈夫やったか?」 目の前にいた彼女は自分の事よりも他人の事を心配してくれていた。 「わたしは八神はやてっていいますー」 自分が銃を持っていることを恐れずに彼女は自己紹介してきた。 「大丈夫! 殺し合いなんてものしようなんて思ってへんから!」 ただ、接する相手が悪かった。 タバサははやての胸に持っている銃を当てると、引き金を引いた。 するとはやては撃たれたところから血を出し、車椅子から落ちていった。 「…仕方ない」 それだけ言うと、タバサは彼女の支給品を回収した。 はやての支給品には彼女が探している杖はなかったようだったので、武器は銃のままにした。 普段は人を殺したりしない彼女。 だが、彼女はこの時ばかりは悪魔になっていた。 ここから脱出するために… そして最愛の母を治すために… 【八神はやて@魔法少女リリカルなのは 死亡確認】 【残り57名】 【F-5 森/1日目・深夜】 【タバサ@ゼロの使い魔】 [状態]:健康 [装備]:ニューナンブ@現実(2/5) [道具]:支給品一式、ニューナンブ用弾薬(5/5)、不明支給品1~5 [思考・状況] 基本:脱出して、母親を治す 1 最愛の母のためにゲームに乗る 2 杖がほしい 【備考】 ※タバサ、八神はやてのランダム支給品には杖がなかったようです。 【ニューナンブ@現実】 日本の警察官や皇宮護衛官、海上保安官等が使用する制式採用の回転式拳銃。 弾数は五発で予備弾薬五発もセットでついています。 10 びりドラ! 時系列順 12 妖魔夜行 10 びりドラ! 投下順 12 妖魔夜行 タバサ 42 交錯~crosspoint~ 八神はやて 死亡
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~レクイエムの大迷宮 地下8階~ 「……ツェペリさん、は?」 右肩の痛みに顔を顰めながら、タバサは先程からもう一方の敵と一人で戦っていたツェペリの姿を探す。 「心配すんな。ツェペリの旦那なら、ほれ。あそこだ」 タバサの手当てを続けながら、噴上裕也は軽く首を振ってツェペリの居場所を指し示す。 普段通りの飄々とした態度を崩さずに、それどころか片手でたっぷりワインの注がれたグラスを弄びながら、ツェペリは身の丈2メイルを越える程の巨漢の攻撃を紙一重の動きで避け続けていた。 『おでれーた。余裕綽々って奴だな……人間って奴も鍛えりゃあそこまでの動きが出来るのか』 「全くだ。おかげで下手にハイウェイスターで割り込んだら、逆にこっちが足手まといになりそうだ」 先程のラバーソウルとの戦いで発動させたハイウェイスターはそのままに、噴上裕也はデルフリンガーと共に驚嘆の表情を浮かべながらツェペリの動きを見守っていた。 無論、万が一ツェペリが倒されたら即座にハイウェイスターを叩き込んでやるつもりなのだが、 目の前のツェペリがあの巨漢に敗れるという姿がどうしても想像出来なかった。 当のツェペリはタバサ達がラバーソウルを蹴散らしたことを察して、不敵な笑みを向けて来る。 「どうやら、もう片方の奴は倒すことが出来たようだね」 「おかげ様でな。タバサがまた怪我をしちまったが……とにかく、後はそいつをブッ倒すだけだな」 ハイウェイスターを前面に出して、噴上裕也は援護の用意があることをツェペリに知らせる。 彼の意図を察したツェペリは、逆に軽く首を振ってその必要はないと答えた。 「君はタバサの治療に専念してくれ。ま、こいつは私がチョチョイと片付けてしまおう」 ツェペリの言葉に、噴上裕也達は彼がそれまで戦っていた巨漢の姿を見上げる。 全身盛り上がった筋肉と、その瞳に満たされている知性とは程遠い、獰猛な攻撃の意思。 そして全身から放出する威圧感は、最早彼が人間を超越した存在であることをはっきりと示していた。 しかしそれでも、この男はツェペリの前に敗れ去る。その確信が、噴上裕也達にはあった。 「屠所の…ブタのように……青ざめた面にしてから、おまえらの鮮血の暖かさをあぁぁ味わってやる…!」 「切り裂きジャック…かつてイギリスを恐怖のドン底に陥れた殺人鬼。 そして今はただの屍生人(ゾンビ)か。 フフフ……こんな所でまたしても出会うことになるとは、世界とは狭いものだねえ」 「ウヒッ、ウヒヒヒヒヒヒ……どいつもこいつも…バラバラに切り刻んでやるぜ」 ジャック・ザ・リパーとも呼ばれるその巨漢が、丸太のように太い右腕を天上へと突き出した。 「絶望ォーーーーに身をよじれィ!虫けらどもォオオーーッ!!」 咆哮と共に、その指先から体内に隠し持った銀色のメスを突き出しつつ、ツェペリに向けて振り下ろす。 しかしツェペリは、放たれたジャック・ザ・リパーの右腕を軽く後ろに向かって跳躍し、あっさりと回避する。そしてそのまま、空中で片手に持ったワイングラスの中身を軽く口に含み―― 「波紋カッター!」 パパウパウパウ!パウッ! 歯の隙間から、超圧縮されたワインがジャック・ザ・リパーに向けて勢い良く吹き出される! ツェペリの波紋を帯びて刃のように鋭く固定化されたワインが、たった今振り下ろされたばかりのジャック・ザ・リパーの右腕を真っ直ぐに走り、ツェペリの胴程もある太さを持つその腕を綺麗に切断する。 「!」 「何だとォ…!?」 『ワインで腕をブッた斬りやがった…!おでれーた、これじゃあオレの立場なんてありゃしねえぜ!』 驚きの声を上げるタバサ達の声を背後に、ツェペリは綺麗な動作で地面に着地する。 「ウ…ウ…!UGOOOOOOOOOOOO!!!」 一瞬にして右腕を失われたジャック・ザ・リパーは激昂の雄叫びを上げ、今度は全身からメスを突き出しながらツェペリに向かって駆け出して行く。 「ノミっているよなあ……ちっぽけな虫けらのノミじゃよ!」 ツェペリは平然と、ジャック・ザ・リパーの体内から撃ち出されたメスをもう片方の手で持ったワインの瓶で弾き返しつつ、彼の戦いを見守っているタバサ達に向けて不敵な笑みを浮かべながら口を開く。 「あの虫は我我巨大で頭のいい人間にところかまわず攻撃を仕掛けて戦いを挑んでくるなあ! 巨大な敵に立ち向かうノミ……これは「勇気」と呼べるだろうかねェ?」 いいや、ノミどものは「勇気」と呼べんなあ。それでは「勇気」とはいったい何か!?」 「KUHAAAAAAAA!!」 メスを全て弾き返されたジャック・ザ・リパーが、今度は生き残った左手をツェペリに対して叩き付けようとする。しかし先程と同じように、ツェペリはその攻撃を何なく回避。 地面をも砕くかの如き勢いで振り下ろされたジャック・ザ・リパーの左腕は、まさにその勢いのまま床を突きぬけ、岩の様な左拳が地面へと埋もれる。 「「勇気」とは「怖さ」を知ることッ!「恐怖」を我が物とすることじゃあッ! 呼吸を乱すのは「恐怖」!だが「恐怖」を支配した時!呼吸は規則正しく乱れないッ! 波紋法の呼吸は勇気の産物!人間賛歌は「勇気」の賛歌ッ!人間のすばらしさは勇気のすばらしさ! いくら強くてもこいつら屍生人(ゾンビ)は「勇気」を知らん!ノミと同類よォーッ!!」 その瞬間、ツェペリが爆発的な勢いで、ジャック・ザ・リパーに向けてその脚を伸ばして行く。 その足には光り輝く波紋のエネルギー。屍生人(ゾンビ)に滅びを与える、太陽の光。 「仙道波蹴(ウェーブキック)ーーーーーッ!!!」 「GYAAAAAAAAA~~~~!!!」 猛烈な勢いで放たれたツェペリの蹴りと共に体内に波紋エネルギーを流し込まれたジャック・ザ・リパーが、断末魔の悲鳴を上げてのたうち回る。 体のあちこちに亀裂が入り、少しずつその巨体が崩壊を始めて行く。 「O……OGOOOOO~~~…!」 だが、地面から左腕を引き抜いて、ジャック・ザ・リパーは最後の抵抗を試みる。 それを受けてツェペリは大きく息を吸い込み、合わせた両手に再び波紋エネルギーを集中させる。 「恐れを知らぬ屍生人(ゾンビ)に掛ける哀れみは一切無し! これぞ太陽の波紋ッ!山吹色の波紋疾走(サンライトイエロー・オーバードライブ)ゥゥゥーーーッ!!」 反撃する隙も与えぬまま、ツェペリは太陽の如き輝きを放つ波紋エネルギーをジャック・ザ・リパー目掛けて叩き込む。散滅するに足る決定的な量の波紋を流し込まれ、身も心も殺人鬼へと堕ちて行った男は、今度こそ抵抗すら出来ないままにその肉体を塵へと還して行った。 「これが戦いの思考の一つ――「恐怖」を我が物とすることだ」 一部始終を見守っていたタバサ達の方に振り返り、ツェペリはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。 「さて、結構な道草を食ってしまったが」 タバサの応急手当が終わってから、ツェペリは世間話でもするかのような口調で言った。 ジャック・ザ・リパーを倒した後、ゾンビ馬による縫合が終わったタバサの傷をより早く、そして確実に治療する為に、ツェペリの手によって彼女の体に生命活動を促進する為の波紋が流されていた。 「最初に私が波紋法に出会ったのも、元は医者が治療の為に使っているのを目にしたからさ」 とはツェペリの談であったが、おかげで今のタバサは、受けたダメージ自体は別にしても、右肩に走る痛みは大分和らげられていた。後は出来る限り栄養を摂って、安静にしていればより完璧に治癒するだろうと言う話だったが、休むにせよ、先に進むにせよ、まずはこの階層の敵を全て叩いて安全を確保しなくてはならない。 その為に今、階層内の敵の「臭い」を感じ取れる噴上裕也に、皆の視線が集中していた。 「フンガミ君、このフロアにまだ敵がいるかどうかわかるかね?」 「そうだな…さっきの連中みてーに胸クソ悪くなるような臭ぇー感じはしねえが、やってみよう」 噴上裕也は頷いて、この階層全体の「臭い」を捉えるべく、その嗅覚をより鋭敏になるよう集中する。 「クンクンクンクン……」 波紋の呼吸によって肉体を活性化させているせいか、歳の割には殆ど「臭い」を発していないツェペリや金属特有の錆臭さを発するデルフリンガーの匂いまでもが、噴上裕也には手に取るように感じられる。 そしてミルクのように柔らかくて甘ったるい匂いの中に、咽返りそうになる程濃密で突き刺さるような血の香りを発散しているタバサの匂いを捉えた時、噴上裕也の胸は痛んだ。 今でこそ平然とした顔をしているが、やはり彼女は確かに傷付いているのだ。 彼女自身がどう思っているかなど関係無い。目の前に傷付いた女がいて、自分はその女が目の前で傷付くのを止められなかったと言う事実に、噴上裕也は激しい憤りを覚える。 ――もうこれ以上、目の前で女が痛め付けられるのを見せられてたまるか。 決意を新たに固めて、噴上裕也は再び階層内へと嗅覚を向ける。 あのイエローテンパランスやジャック・ザ・リパーの死肉のように、反吐が出そうな悪臭を放つ存在は感じ取れない。だが、まだ出会っていない“何か”がいる。その「臭い」を噴上裕也は確かに捉えていた。 「ムゥ……」 更に嗅覚を集中する。今、自分が感じ取れる「臭い」は二種類ある。 一つはタバサよりも更に柔らかい印象の匂いだ。それ程強くは無いが、しかし確かにそこに誰かが存在しているのは間違いない。 そしてもう一つは良くわからなかった。「臭い」自体が階層全体に散らばっており、しかも余程意識して捉えなければ掴み取れないような、そんな微弱な反応がそこかしこに漂っている。 『どうだ?何かわかったか?』 「ああ…イマイチ確証は持てねえが、誰かいるのは間違いねぇ」 嗅覚の集中を解いて、噴上裕也はデルフリンガーにそう答えた。 『なんでぇ、頼りねえな。お前さんの自慢の鼻はその程度なのかよ?』 「うるせえな。並の奴じゃあ、こっから「臭い」自体を感じ取れねーっつーの」 「……誰かいるのは、確か?」 タバサが小さな声で噴上裕也に尋ねる。彼はああ、と答えて、先程捉えた「臭い」について説明する。 「フム…他にも誰かいるような気がするが、ハッキリとわかる「臭い」は一つだけ……か」 「探しに行く」 迷いの無い口調でタバサが断言する。 「そうだな…正体が不明だとしても、相手の居場所がわかっているならばこちらから仕掛けてみるのも まァ、悪くは無いかな」 タバサの言葉に、ツェペリも一応の同意を見せる。 『おう。タバサがそう言うならオレは何処までも付いてくぜ』 「お前は単にタバサに付いて行かざるを得ないだけだろーが、デル助」 『何だとう?じゃあテメエは付いて来ないってゆーのかよ?』 「馬鹿言え、俺がいなきゃ案内も出来ねぇだろ。俺も一緒に行くっての」 「……決まりだな」 全員一致の見解を見せて、その意志を再確認すべく一同はお互いにうむ、と頷き合う。 「出発」 タバサのその一言と共に、一行は噴上裕也の先導で「臭い」の発信源に向けて歩き出した。 「これが「臭い」の元……だな」 噴上裕也の案内を受けて、一同は特に何の障害も無く、目的の場所に辿り着いていた。 『おいフンガミ…お前さんの言う「臭い」の元ってのは、本当にこいつで合ってるんだろうな?』 「ああ、間違いねぇ。ただ、まさかこんなモンだとは俺も思ってもいなかったがな……」 おでれーた、と呟きながら噴上裕也は問題の「臭い」の発生源を見やる。 それは何処からどう見ても、それが何なのか識別できないような奇妙な代物だった。 只一つ、それがどう考えても“ヤバいもの”であることは、誰の目から見ても明らかだ。 「果てさて。こいつは一体どうしたものかな」 ツェペリでさえ、目の前の“ヤバイもの”を見下ろしながら顎に手を当てて思案を巡らせている。 その中で一人だけ、タバサは迷うことなく“ヤバいもの”へと手を伸ばして行く。 「……おいタバサ、何やってんだよ!?」 後一歩で“ヤバいもの”に触れようとしていた彼女の手を、噴上裕也が掴み取って静止する。 「何考えてんだお前はよォー… こんな“ヤバいもの”に下手に触ったら、何が起きるかわかんねーだろうが!?」 「大丈夫」 心配そうにタバサを見つめる噴上裕也の顔を見上げて、彼女は自信たっぷりに答える。 「大丈夫だから、任せて」 「大丈夫って、お前……」 『まあ、心配すんなよ、フンガミ』 タバサが腰に付けたベルトに固定されているデルフリンガーが、二人の間に口を挟んで来る。 『ここはタバサに――いや、このオレに任せな!今すぐこいつの正体を明らかにしてやるからよぉ』 「明らかに…って、お前……」 「出来るのかね?」 不安げな表情を浮かべたままの噴上裕也とは対照的に、ツェペリは冷静にデルフリンガーへ尋ねる。 『ああ、問題ねぇ。オレっちは前にもこーゆーブツを鑑定したコトがあるんでね』 「成る程。それが君の能力と言うヤツかね?」 『そーゆーこった。他にももーちょい力は持ってんだがよ、それはそん時までのお楽しみってヤツだぜ』 「ははは、それは頼もしい話だな」 ツェペリは鷹揚に笑ってから、未だにタバサの腕を掴んだままの噴上裕也へと顔を向ける。 「なあフンガミ君、ここは一つ彼に任せてみようじゃないか」 「ツェペリの旦那……」 「君がタバサを心配する気持ちはわかるが、ここはデルフ君の出番のようだ。君の出る幕じゃあ無い」 静かな口調で、それでもはっきりと厳しい態度で以ってツェペリは断言する。 しばしの沈黙の後、やがて噴上裕也は観念したように嘆息して、タバサの腕を掴む手を離した。 「……わかったよ。おいデル助、上手くやれよ。くれぐれもタバサを危険な目に遭わせるんじゃねーぞ!」 『ンなこと、テメエに言われるまでもねーよ! …さーて。んじゃまあ、とっととこいつの正体を拝ませて貰うとしよーぜ、タバサ』 「わかった」 まだ肩に傷が残る右手でデルフリンガーの柄を握り締め、タバサは反対側の手で“ヤバいもの”に触れる。それと共にデルフリンガーはタバサの左手を通して、目の前の“ヤバいもの”を認識するべく自らの精神力を注ぎ込んで行く。 やがて“ヤバいもの”が淡く光り輝いたと思った瞬間、その真の姿をタバサ達の前に現して行く。 森を包み込む霧が晴れるかのように、デルフリンガーの力によって“ヤバいもの”の姿が明らかになる。 パイプを組み合わせたような骨格、その周囲と中身をすっぽりと覆う華やかな色の布。 中に小さな物を収容するように作られたスペースには、ふわふわと柔らかそうな毛布が敷かれている。 『……なんだこれは』 「……乳母車だろ」 呆然と呟くデルフリンガーに、噴上裕也が気の無い返事を返す。 彼の言う通り、目の前にある“ヤバいもの”の正体はどう見ても乳母車にしか見えない物体だった。 「………赤ちゃん」 そしてタバサの一言で、一同の視線が乳母車の中にあるものに集中する。 その中では、毛糸の帽子を被って顔面に白粉のような物を塗られ、ただ分厚いだけのタバサのそれとは異なる妙に鋭角的で真っ黒なサングラスを掛けた、奇妙と言えばあまりに奇妙な風体の赤ん坊が毛布に包まれて眠っていた。 これによって、目の前にある物体が乳母車であることが、疑いようのない事実であると証明される。 「フム……フンガミ君が認識した「臭い」と言うのは、この赤ん坊のことだったんだな」 「そうなるな。しかし…どっかで見たことがある気がするな、この赤ん坊」 『ん?ひょっとしてお前のガキだったりすんのか?』 「バカ抜かせ!だけど確かに、この赤ん坊を見たのは杜王町だった気がするな…… 杜王町…赤ん坊……スタンド………そうだ!思い出した!」 大きく目を見開いて、噴上裕也は乳母車の中で眠る赤ん坊に顔を近づける。 「このガキ、仗助とアイツの親父が拾ったっつー赤ん坊じゃねーか!スタンド使いの赤ん坊だぜ! そーか、道理でどっかで見たようなキテレツな格好をしてると思ったら……!」 「…………ふぇ」 興奮気味に語る噴上裕也の声に、赤ん坊の体がピクリと反応する。 「うるさい。起こしちゃ駄目」 タバサは人差し指を口元に当て、非難めいた口調で噴上裕也に言う。 「あ?あ、ああ……すまねぇ、タバサ」 「しかし…この赤ん坊がスタンド使いだって? フンガミ君、こんな小さな赤ん坊までがスタンドを使える物なのかい?」 タバサ達と同じように赤ん坊を覗き込みながら聞いて来るツェペリに、噴上裕也は大きく頷いた。 「ああ。一度その才能に目覚めちまえば、スタンド使いに年齢なんぞ関係ねー。 コイツ以外にも、生まれて一年も経ってねえようなガキがスタンドを使ったって話もあるくれーだからな…… 俺は違うが、このガキみてーに生まれながらのスタンド使いって奴も間違いなく存在してるぜ」 「なるほどな。波紋とは異なる、個人の才能と言うヤツか……考えようによっては危険な能力だな。 この子のように幼い子供や、あるいは邪悪な精神の持ち主が歯止めを利かせずにその力を使えば、大層恐ろしいことになるやもしれんな」 「そうだな。俺の住んでた町にも、人殺しの為だけにスタンドを使うようなゲス野郎が大勢いたよ。 ま、そう言う奴らは仗助みてーな連中が一人一人片付けて行ったんだが……」 呑気に眠る赤ん坊の顔を見つめながら、噴上裕也は先程から自分の胸に引っ掛かっている何かを思い出そうとしていた。自分は今、何か肝心なことを忘れている。そして、それは何だと言うのだ? 赤ん坊を興味深げに見つめるタバサの顔を見ながら、噴上裕也は思案を巡らす。そんな時だった。 「…………ん!?」 極限まで発達した噴上裕也の“嗅覚”が、こちらに接近して来る何者かの「臭い」を感知していた。 「気をつけろ!誰かがこっちに近付いて来るぞ!」 「!」 噴上裕也のその言葉に、タバサとツェペリは赤ん坊から顔を離して即座に臨戦態勢を取る。 『おいフンガミ……そいつぁマジな話なんだろうな?』 「冗談でこんな話が出来るかよ。大マジだ、しかも数がわからねえ」 自分達を守るように、噴上裕也はハイウェイスターを発動させてデルフリンガーの問いに答える。 「小さな、それも同じ「臭い」をする奴らが一斉に集まって来てるって感じだ。 こんなコトは初めてだぜ……しかもマズイことに、俺達はそいつらに囲まれてる」 四方八方から今自分達がいる部屋に「臭い」が集まって来るのを自覚しながら、噴上裕也は言う。 「私達は袋の鼠ってことかい?フム…敵の正体がわからない以上、確かにそいつはマズイねェ」 「……見極める」 下手にこの部屋を動かずに、敵の正体を確認する。タバサは言いたいことはそれだった。 『ま、敵を迎え撃つのはいいんだけどなぁ……この赤ん坊はどうするよ? マジでオレ達が囲まれてるってんなら、こいつ色々とジャマになるんじゃねーのか?』 「確かに、邪魔だね」 デルフリンガーの言葉をツェペリはあっさりと肯定する。 「だが下手に狭い通路に打って出て各個撃破、と言うのも避けたい所だ。 危険も大きいが、結局の所はこの部屋で迎え撃つのが一番生き残る可能性が高いだろう。 東洋の諺で言う所の、背水の陣――さしずめこの赤ん坊が、我々にとっての背水になるのかな」 「はん…!イタリア人の癖に良くもまあそんな言葉知ってるよな、ツェペリの旦那」 「………来た!」 噴上裕也の言葉を遮るような形で、タバサが鋭く言葉を漏らした。 そして彼女の言う通りに、通路の奥から小さな影が部屋の中に足を踏み入れ、その姿を現して行く。 『見・ツ・ケ・タ・ゾ…!』 『奴ラガ…イタゾ…!』 『ヤバイモノヲ…持ッテルゾ…!』 『収穫…スルゾ…!』 『「ハーヴェスト」ノ…収穫ダゾ!』 そんな声が部屋の周囲全体から響き渡って来る。その刹那、無数の影が部屋の中に殺到して来る。 まるで亀の甲羅のように丸みを帯びた頭と胴体に二本の足、そして左右に二本ずつ腕を生やした姿。 僅か数cm程の大きさしか無いそのスタンドの群れが、タバサ達に向けて一斉に飛び掛って来た。 「……っ!クレイジー・ダイヤモンド…!」 装備DISCのスタンドを展開して、タバサは「ハーヴェスト」と名乗ったそのスタンドを叩き潰して行く。 だが、後から次々に湧き出して来るハーヴェストの大集団に対しては、全く有効打になっていなかった。 「ハーヴェスト…!?見るのは初めてだが、こいつらがそうだってゆーのかよォ~!」 話にだけ聞いたことのあるスタンドを前に、噴上裕也もハイウェイスターで彼らを追い払おうとする。 『うおぉ!こりゃなんつー数だよ!?おいタバサ、なんかのDISCでまとめて吹っ飛ばしちまうか!?』 「駄目…!皆が…巻き込まれる…!」 新しいハーヴェストを弾き飛ばしながら、タバサはデルフリンガーの提案を即座に却下する。 大迷宮の中に落ちている装備用DISCの中には、確かにその発動効果によって広範囲に渡って攻撃出来る種類の物も存在する。だが、今のタバサの側にはツェペリや噴上裕也、 それに乳母車の中の赤ん坊までいる。 彼らを巻き込むような形でのDISCの発動は出来ない。 今の段階ではハーヴェストを一体ずつ各個撃破して行くしかない事実を腹立たしく思いながら、 タバサはクレイジー・ダイヤモンドの拳を振るってハーヴェストを潰して行く。 『手ニ入レルゾッ…!』 『頂キダゾ…!』 「………っ!?」 クレイジー・ダイヤモンドの攻撃を掻い潜ってタバサの懐に潜り込んだハーヴェストの何体かが、タバサがこの大迷宮で手に入れたエニグマの紙等のアイテムの一部を奪って逃げ出して行く。 『頂イタゾッ…!』 『ラッキーダゾ…!』 『モットモット欲シイゾッ…!』 貪欲さを剥き出しにした声を上げるハーヴェストの塊が、タバサ達の頭上を飛び越えて行くのが見えた。 「な…何だとォーッ!?」 噴上裕也の叫びを意にも介さずに、ハーヴェストの群れはタバサ達三人が揃って背を向けている 空間に向けて着地する。 その場所には、噴上裕也が言う所のスタンド使いである赤ん坊が眠る、一台の乳母車の姿。 『貰ッ…タゾ…!』 『サイコーダゾ…!』 『ザマミロダゾッ…!』 『スカット…サワヤカタゾッ…!』 乳母車の足元に群がって来た大量のハーヴェストが、力を合わせることで自分の体長を遥かに越える乳母車を軽々と持ち上げる。そしてタバサ達の死角を突いて、乳母車を奪ったハーヴェストの大集団は全速力で今いた部屋から逃亡を始めたのだった。 「パウッ!……ヌウゥ、どうやらしてやられたようだな…!」 纏わり付いて来るハーヴェストを波紋カッターで切り裂きながら、ツェペリが痛恨の表情を浮かべる。 「ド畜生がッ!奴らの狙いはあのガキだったってコトか…!」 「それは少し違うな、フンガミ君…奴らの目的は我々の持っている道具を強引に奪い取ることだろう」 私のワインボトルも何時の間にか盗られてしまった。後に残ったのはこの空のグラスのみさ」 既に一滴のワインも残っていないグラスをチラ付かせながら、ツェペリは足元へと近付いて来る ハーヴェストに波紋エネルギーを乗せた蹴りを叩き込んで吹き飛ばす。 本来ならば、生身の肉体では精神エネルギーの顕現であるスタンドに触れることは出来ない筈なのだが、ツェペリが体得した波紋と言う生命エネルギーを接触させることで、スタンドにも影響やダメージを与えられることが今までの戦いで判明していた。 かつて、より効率的にスタンドの才能を発現させるべく、未知の物質で作られた弓と矢があった。 そして生前のツェペリが追い続けた、吸血鬼を生み出す石仮面―― これら二つは等しく、人間の内に秘められた未知のエネルギーを引き出す為の道具である。 そして、石仮面が生み出すエネルギーと正反対の作用を持つ波紋法の生命エネルギーもまた、人間の生命に深く結びついたパワーの一つ。 そう考えた時、波紋法とはスタンドと言う才能に近付くべく生み出された「技術」の表れであり、ついにその「技術」がスタンドの「世界」にまで入門して来たのだ――そう考えても良いのかもしれない。 「ギれるモンなら何でもいいってか!重ちーとか言うヤツ、相当意地汚いヤローだったみたいだな……!」 「……取り返す」 仲間の大半を乳母車の奪取に加わった為に、今タバサ達に纏わり付くハーヴェストの数は殆どいない。 タバサは残ったハーヴェストをクレイジー・Dで確実に掃討しながら、はっきりとした声で言った。 「赤ちゃんを、取り返す」 自分の欲望の為に、何も知らずに眠る子供ごと乳母車を掻っ攫って行ったハーヴェストに対しての憤りがタバサの声の中には含まれていた。クレイジー・Dの拳が、最後に残ったハーヴェストを叩き潰す。 「そう言うと思ってたぜ、タバサ。あのガキの「臭い」は既にハイウェイスターに覚えさせておいた。 念の為、自動操縦で先行させる。 俺も自分の鼻で奴らの動きを探って誘導するから、二人共俺に付いて来てくれ」 「わかった」 「うむ。任せたよ、フンガミ君」 噴上裕也の言葉に、タバサとツェペリが揃って頷いた。 「よし……行けッ、ハイウェイスター!くれぐれもガキの「養分」を吸ったりするんじゃねーぞ!」 噴上裕也の意志を受けて、人間型から足跡のみに姿を変えたハイウェイスターが時速60㎞の超高速で乳母車に眠る赤ん坊の「臭い」を追って駆け出して行く。 人一人が余裕で通れる通路を越えて、右へ左へ。 着実に近付いて来る赤ん坊の「臭い」を辿って、ハイウェイスターは更に歩みを進める。 『………見つけたぜ!』 間も無くして、視界の先にハーヴェストの絨毯に敷かれて移動する乳母車の姿が入って来た。 乳母車との距離を詰めながら、ハイウェイスターは考える。 スタンドとしては、自分のパワーは並以下だ。単純な殴り合いならば、今タバサが使っているクレイジー・Dの足元にも及ばないだろう。だがそれは目の前のハーヴェストとて同じこと。そうしたパワー不足を補う要素として一度に大量に姿を現せるのだろうが、僅かな時間の力比べならば自分の方に分があるだろう。 目的はハーヴェストの掃討では無く、あくまで奴らが持っている乳母車を奪取することだ。 ならば強引に乳母車を奪い返した後、全速力で自分の本体である噴上裕也達の元に戻ればいい。 精密動作はハイウェイスターが最も苦手とする能力だったが、乳母車を掴み取るぐらいならば 自分でも何とか出来る筈だ。問題は、中に赤ん坊が入った乳母車を持ち抱えた状態でこのすばしっこいハーヴェストから逃れることが出来るかどうかだが―― 『……やってみるか……!』 頭に浮かんだ僅かな迷いを振り払って、ハイウェイスターは覚悟を決める。 最高移動速度60㎞と言う自分の能力は、ハイウェイスターと、そして本体である噴上裕也にとっての誇りだ。その誇りを信じて、ハイウェイスターは乳母車を奪還するべくハーヴェストへと近付いて行く。 『コソ泥野郎め!その赤ん坊は返して貰うぜッ!』 足跡から人型へとその姿を変えて、ハイウェイスターはハーヴェストと並走しながらその手を乳母車へと伸ばす。ハイウェイスターの手に、乳母車のフレームの手応えが確かに伝わって来る。 そしてハイウェイスターはそのまま一気にハーヴェスト達の手から乳母車を奪い取ろうと力を込める。 ゼロの奇妙な使い魔「タバサの大冒険」 To be continued…… 第7話 前編 戻る
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◎タバサの服 高名な風の魔法使い、タバサの服(風耐/黙無) 風耐性/沈黙無効 装備可:シズ・ベネ・アイ MP自動回復1% 常に縦縞の入った服を着て、そのセンスは無いわと、 他の魔法使い達の笑いを誘っていたタバサ。 自分と反対の属性を極めたメリサンドをライバル視していて、 事あるごとに勝負を挑んでいたらしい。 ……政治的な煽動と人間達の恐怖心が生んだ、 最悪の事件「魔女狩り」がタバサを殺してしまうが、 彼女は最後まで言葉での説得を諦めなかった。 メリサンドが人間達に手を上げず、 隠遁することを選んだのも、彼女の行動を尊重してのことだ。
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注)本SSは『HELLSINGのキャラがルイズに召喚されました』スレに掲載された作品です。 タバサが大尉を召喚したお話 タバサの大尉-1
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~レクイエムの大迷宮 地下6階~ 『さて…残るはテメエの番だな?』 「ううッ…!」 意地の悪い口調で、デルフリンガーはハイウェイスターの本体である噴上裕也を見下ろして言う。 『どうするよタバサ?煮るかい、焼くかい?それともバッサリかい?』 「……………」 タバサは無言で、噴上裕也の前で再びクレイジー・Dを展開する。 ただそれだけで彼女の意志は明らかとなる。地面にへたり込んだままの噴上裕也は冷や汗を流しながら彼女の姿を見上げ、顎を指で弄ると言う彼特有の無意識下での恐怖のサインを示した。 「……参った。悔しいけどよ、あんたの勝ちだ」 しばしの無言の後、噴上裕也はふぅ、と嘆息して、タバサの姿を見据えたまま言葉を続ける。 「あんたのガッツは大したもんだ。俺と運命の車輪の二人掛かりでも倒せなかった……。 マジで強いヤツだと思ったよ。どんなピンチだろうと冷静な判断を下せる、あんたのその精神力がな。 俺の負けだ……マジでビビッたよ。だが喜んで“敗北する”よ。 アンタのような人間と戦って敗れ去ることは、寧ろ誇るべきことなんだと俺は思う」 そして、やってくれ、と言わんばかりに噴上裕也は全身から力を抜いた。 そんな彼からは、既に一切の闘争心が感じられない。 タバサは暫くの間、いつも通りの無表情のまま噴上裕也を見下ろした後、おもむろにクレイジー・Dのスタンドを解除してくるりと振り返って彼に背を向ける。 運命の車輪との戦いでマントを失った彼女の細くて小さな肩が、噴上裕也の目にはっきりと映る。 「!?」 『おい……タバサ!?』 驚愕の表情を浮かべる噴上裕也とデルフリンガーに、タバサはいつも通りの小さな声で答える。 「もう終わった。先に進む」 そのまま、噴上裕也のことなど気にも留めずに次の階層に進む為の階段を目指して歩き始める。 『おいおいおい!?そんなコト言って、またアイツがあの足跡野郎を出して来たらどーすんだよ!? また後ろから襲われたら、今度こそどーなるかわかんねーぞ!?』 悲鳴のように騒ぎ立てるデルフリンガーの言うことは尤もだった。 運命の車輪によって火達磨になりかけ、また他ならぬ噴上裕也のハイウェイスターから体内の養分をかなり吸い取られた以上、普段通りの無表情で歩いている物の現在のタバサは体力を相当消耗しているはずだった。 それなのにタバサは、噴上裕也を放置して彼に対して無防備な背を向けている。 自分でも、まったく以って不思議だとタバサは思う。 以前のタバサなら、噴上裕也が降参を宣言した時に、そのまま確実にトドメを刺していただろう。 だけど出来なかった。やろうとさえ思わなかった。 そのことに関係して、タバサの中には一つの疑問があった。 何故ハイウェイスターは運命の車輪が炎を巻き起こした時、自分だけ逃れようとしなかったのか。 例え本体に受けたダメージの影響を与えない自動追尾型のスタンドであろうと、タバサと共に共に炎に撒かれる必要があったのだろうか? ハイウェイスターはスタンド使いの分身とも言うべき大切な存在であるにも関わらず、だ。 きっと、戦いたくない相手なのだろう。 タバサは自分の背後にへたり込む噴上裕也に対して、そういう判断を下した。 スタンドはスタンド使いの無意識下の精神に影響を受けて発現する存在。 ならば噴上裕也の中にも、先程のハイウェイスターが見せた、己の命を賭けてでも仲間の勝利の為にその身を犠牲に出来る「覚悟」があるのでは無いだろうかと思ったのだ。 そうした「覚悟」を持つ人間が、タバサは好きなのだ。尊敬している、と言っても良い。 お人好しな性格ばかりのハルケギニアの友人達は勿論、あのエコーズAct.3だって同じだ。 そして娘の自分を守ろうとして、心に一生消えない傷を残すことになった母もそうだったのだから―― 「もう何もしないなら、それでいい」 そんな噴上裕也が、自らの敗北を認めたならば、それだけでタバサは充分だった。 そして真摯な瞳でタバサを見据えて言った彼の言葉を、嘘だとは思いたくなかった。 『……タバサ。本当にいいのか?』 「いい」 デルフリンガーが自分の身を案じてくれているのが、はっきりと伝わって来る。 だがそれでも、タバサは迷わずに言った。 『ま…しゃーねえか。アンタは一度そう言い出したら聞かないヤツだからなぁ』 「そう?」 『そうさ。意外とガンコ者だぜぇ?』 「…………」 それ以上は何も返さずに、タバサは無言になって歩き続ける。 「何もしないなら、それでいい……か」 先程から地面に座り込んだままの噴上裕也が呟いて、力無い所作で立ち上がる。 「――甘いぜ。甘すぎるぜ。そんな甘っちょろいことでよォ~…… この先の大迷宮を戦って行けると思ってんのかァ!?ハイウェイスタァァァァーッ!!」 叫んで、噴上裕也はようやく完全に回復したハイウェイスターを再び発動させた。 ごく近距離でさえあれば、ハイウェイスターは噴上裕也の意志によってある程度自由に操作出来る。 噴上裕也は無防備な背を向けるタバサに向けて、時速60kmの超高速でスタンドを急接近させて行く。 そして間も無く、前を行くタバサに追い付いたハイウェイスターは彼女の細く、触れただけでも折れてしまいそうな首筋を狙い、その掌を叩き付けようとして―― 「……何故だ」 噴上裕也は呆然と呟いた。ハイウェイスターの掌は、タバサの首筋に触れる直前で止まったままだ。 タバサは一切の抵抗する素振りを見せず、その顔を僅かに振り向かせて、自分の背後に立つ噴上裕也とハイウェイスターの姿をじっと見つめていた。 いつもと変わらぬ、氷のように無感情な彼女の瞳が噴上裕也を射抜く。 「何故…抵抗しなかった!俺がこうしてまたハイウェイスターで追跡する可能性は充分にあった! 罠を仕掛けるなり、クレイジー・ダイヤモンドで迎え撃つなりする方法もあった筈だ…… なのに何故!お前は何故それをしようともしなかったんだ!?」 ハイウェイスターの動きを止めたまま、噴上裕也はタバサ達に近付きながら叫ぶ。 タバサはその視線を噴上裕也に向けながら、静かな口調で答えた。 「……あなたが、嫌いじゃないから」 「………!」 「嫌いじゃない人と戦うのは…嫌だから」 尊敬出来るかもしれない相手を、自らの手に掛けるということは、何よりも耐え難い苦痛だ。 かつて一度、ハルケギニアで最愛の友人達と戦わねばならなくなってしまった時に、自分の胸の内に生まれて来た、あの果てしない恐怖感と絶望感を再び味わうことになるのは、もう二度と嫌だった。 既にタバサには、噴上裕也に対する敵意は持っていない。 例え敵同士として出会った関係であろうと、今はもう噴上裕也のことを殺したくは無かったのだ。 「……カッコ悪いぜ。そんなこと言われちゃあ…今の俺ほどカッコ悪い話はねーぜ…!」 唇を強く噛み締めて、噴上裕也は今度こそ闘争心の全てを失ってハイウェイスターの発動を解除した。 「負けたよ。今度こそ完ッ璧にあんたに負けたよ。 あんたの心には前に突き進む為の「覚悟」ってヤツがあるらしい…。 吉良みたいなドス黒い「邪悪」なヤローとは違う、もっと気高く誇り高い精神がな…… あんたとそこのお喋りな剣なら、この奥にいるレクイエムに辿り着けるだろう。 ――クレイジー・ダイヤモンドか。仗助のヤツと言い、あんたと言い…… どうやらそのスタンドは、マジで大切なモンってヤツが何なのかを、俺に教えてくれるらしい」 真正面からタバサの顔を見つめて、噴上裕也は胸の内にある本心からの言葉を吐き出した。 『ま、オレもアンタがそこまで言うならもう構わねぇけどよぉ~…… あの時テメエがマジでタバサに仕掛けていたら、オレは何があろうとテメエのことをブッた斬ってたぜ』 普段とさほど変わらぬ口調でデルフリンガーは言う。しかしその言葉の中には、普段のように冗談を交えた気配が全く無く、今の彼なら本気でやるだろうと思わせるだけの凄みがあった。 「悪かったよ。だがもう二度とあんなコトはしねーから、安心してくれや」 『へいへい、ま、肝心のタバサにその気が無いんじゃ、どうしようもねえがな。なあ、タバサ――』 そこでデルフリンガーがタバサの名前を呼んだ瞬間。 彼女の体がぐらりと傾き、体勢を崩してその場に倒れ込もうとしていた。 『な!タバサ!?』 「おっと――!」 倒れそうになったタバサの体を、慌てながらも噴上裕也が手を伸ばして受け支える。 『オイオイ!テメー、どさくさに紛れてタバサの胸を掴むんじゃねー! やっぱり今からオレ様が速攻でブッた斬ってやろーか!?』 「アホか!こんなチビの薄っぺらい胸なんぞ誰が……って、ンなこと言ってる場合か!!」 『そうだった!おいタバサ、しっかりしろ!おーいタバサ!』 「……うるさい」 半開きになった目で、弱々しい口調ながらも、それでもタバサははっきりと二人に返事をする。 『タバサ!……ったく、いきなりブッ倒れたりするモンだから、オレ様おでれーちまったぜ』 「………お腹」 『ん?』 「……お腹空いた……」 深く息を付きながら、タバサはやや虚ろな表情で受け支える噴上裕也の顔を見上げる。 自分が彼に抱きすくめられている格好になっていることに対しては、特に嫌悪感の類は無いらしい。 『は…腹が減ったぁ!?オイオイ、何かと思ったらそんなことで……』 「いや、こいつぁ結構マジな話だろうぜ」 幾ら女性としては未成熟だからと言って、若い女の胸を掴み続けることには抵抗があるのか、それとも先程のようにデルフリンガーを挑発したくないのか、ともあれ噴上裕也はタバサを支える為にその体を掴む手の位置を変えつつ、口を開いた。 「さっきから俺が随分とハイウェイスターで養分を吸っちまったからな…… その結果、こいつの身体が代わりの栄養分を求めて「空腹」を訴えるのはごく自然な話だろう」 『……だったら今すぐタバサにその養分ってヤツを返してやれよ、オイ』 「俺だって出来るならとっくにそうしてるさ。 だがな、ハイウェイスターは元々俺が大怪我をした時に目覚めた能力でな…… 傷を治す為に養分を吸収する力はあっても、相手に「供給」するって機能はねえんだよ」 『何ィー!?じゃあ今すぐタバサが食えそーなモンを持って来やがれってんでぃ!』 「食い物か……病院からくすねて来た点滴ならあるんだがな。 ま、ちと味はマズいが養分だけなら大したもんだ。こいつで我慢して貰うとするか」 『なんだよ、この……何だぁ?透明な袋に入った薬みてーなモンは』 「薬なんだよマジで。まあ、お前みたいな喋る剣が点滴なんて知ってるワケねーか…… おい、お前タバサとか言ったな?とりあえずこん中に入ってる奴を飲め。 味は良くねぇし腹も膨れねーが、栄養だけならタップリあるぜ?」 「………うん」 噴上裕也は点滴をタバサの口元に近づけて、中身を口に含むように促した。 彼の言葉を素直に聞き入れたタバサは、言われた通りに点滴のパックに軽く口を付けて、 そのまま母親に抱かれる赤ん坊のように、点滴の中身をちゅうちゅうと吸い始める。 「んっ…う……あまり美味しくない……」 「我慢してくれ。飢え死にするよりはマシだ」 「うん……んっ、ちゅ…ふぅ……はぁ……」 『本当に大丈夫なんだろうな、オイ』 「栄養面については問題ねぇ。後は点滴の栄養が体内に回るまで、暫く安静にしてた方がいいだろうな」 『暫く、か……このフロアーに敵はもういねーのか?』 「わからねえな。少なくともさっきまでは俺とズィー・ズィーの野郎しかいなかったが」 『おいおい。また新しい敵が出てくる可能性もあるってコトかい?』 「ああ。俺達、この世界の住人が単なる“記録”に過ぎねぇってことは知ってると思うが、そうした“記録”が、時間を置いて次から次へと這い出してくるって可能性は否定出来ないな」 『クソッ……!タバサがこんな調子じゃあ、オレにゃー満足に守ってやるコトは出来そうにないぜ……!』 タバサの腰のベルトの中で、デルフリンガーが口惜しそうに歯噛みをする。その時だった。 「――いやいや安心給え。そちらのお嬢さんの身の安全は、私が保証させて貰うよォ~」 突然、その場に第三者の声が聞こえて来る。 落ち着き払っているその声は、若いようにも、歳を取っている様にも聞こえる、そんな男性の声だった。 『ン!?誰だッ!』 デルフリンガーが鋭く吼え、噴上裕也も油断の無い表情でハイウェイスターを展開する。 「ハハハ。まあ落ち着いてくれ、喋る剣クン。私は決して敵じゃあない」 『信用出来ねぇな。持ち主以外は信用するなってゆーのが、オレのポリシーなんでね』 「なるほどな。どうやら君は私が思っている以上に、修羅場を潜り抜けているようだ。声の調子でわかる」 真っ直ぐにこちらに向けて声の主が近付いて来るのが、タバサ達の目に映る。 歳の頃なら三十代後半から四十歳のどの年齢でも構わないような、中年の男性だった。 小洒落たスーツと帽子を羽織り、脇にはワインボトルをブラ下げながら、手には包み紙に覆われたサンドイッチ。もう片方の手では、そのサンドイッチに対してこれでもかと言う程ペッパーを掛けている。 だが、その容貌や服装とは別に、タバサ達にはその男の様子に違和感があった。 それは恐らく、しっかりした足取りで歩いて来ているのに、足音が殆どしない為だろう。 この男は油断がならない。ダバサを守るように陣取るデルフリンガーと噴上裕也の間に緊張が走る。 『オイ』 「なんだよ?」 『いざとなったら特別にオレ様を使わせてやる。と言うか、使ってくれ。タバサを守らにゃなんねえ』 「わかった……ハイウェイスターでやるだけやってみるが、正直このオッサンを止められる自信が無いぜ」 こくりと頷いて、噴上裕也は一旦タバサをその場に座らせ、壁にもたれ掛かるような姿勢を取らせた。 それから彼は、改めて目の前のスーツ姿の男に対して意識を集中させる。 既に発動させたハイウェイスターを通して、目の前の男の「臭い」はもう覚えた。 これでこの階層内にいる限り、何処にいようと完全に位置を特定出来る。 そうした自分の能力に対する「自信」が、噴上裕也の精神に勇気を与える。 「おやおや、本当にやる気かね……これは困ったな、一体どうすれば信じてくれるのかね?」 やれやれとでも言いたげに、スーツ姿の男が肩を竦める。 そのショックで、サンドイッチに掛けていたペッパーが舞い上がり、男の鼻腔へと侵入して行く。 「……ヘ、ヘ、ヘブショッ!!」 たまらずに、スーツ姿の男が大きなクシャミを上げた。その隙を見て、噴上裕也は高らかに宣言する。 「――今だッ!行け、ハイウェイスター!奴の養分を吸い尽くしちまえッ!」 近距離時の精密動作優先の操作に切り替えて、噴上裕也はハイウェイスターを目の前の男に向けて走らせる。その超高速のスピードによって、ハイウェイスターはあっと言う間に男の前へと辿り着き、その拳を叩き込もうとする。だが―― 「フム、これが幽波紋(スタンド)か…… 今まで戦ったことは無かったが、ま、こうなっては仕方が無いね。 では、少しだけお相手させて頂くとしようか」 そんな飄々とした言葉と同時に、スーツ姿の男が忽然と姿を消した。 「何ッ!?」 『――上だ!跳躍しやがった!』 「上だとォ~~~!?」 いち早く男の動きを察知したデルフリンガーの叫びに、噴上裕也は釣られて上方を見上げる。 その言葉の通り、噴上裕也の目に天井ギリギリの高さを滑空するスーツ姿の男が見えた。 『おでれーた!助走抜きであんな高さを飛ぶなんざ普通の人間じゃねぇぞ!?』 「ちぃッ…!ハイウェイスター、戻って来い!」 その動きで、スーツ姿の男の狙いが本体である自分であると察知した噴上裕也は、ハイウェイスターを自分達の元へとダッシュさせる。その自慢の超スピードで スーツ姿の男が着地するよりも早くハイウェイスターは噴上裕也達の元に到着。 特にタバサを最優先に守れる位置に陣取りながら、スーツ姿の男の動きを捉えるべく宙を仰ぐ。 「さあ来やがれ!来ると同時に、テメエの体から養分を全部吸いとってやるぜ!」 「ホホウ……なるほど、流石に素早いな。では、こんなのはどうかね?」 スーツ姿の男が落下し始める直前、サンドイッチを持っていない方の腕を天井に伸ばす。 「な……!?」 『なんだとォォォー!?』 まるで伸ばした腕に吊るされるように、男の体は地面に落ちることなく天井と並行の距離を維持したまま、天井の下を滑って来る。伸ばしている方の手の先端に、何やら光り輝く電光のようなものが見えた気がしたが、今はその光の正体よりも、スーツ姿の男が何処へ向かって移動しているかの方が、噴上裕也達にとっては遥かに重要だった。 このままではまずい。 男を止めねば、ハイウェイスターはおろか自分達の上まで通り過ぎて、背後に回られてしまう! 「プフゥ――ッ!」 動揺する噴上裕也を尻目に、スーツ姿の男は口元に含んだ何かを彼に吹き付けて来る。 もの凄い勢いで飛んで来るそれを回避しきれずに、噴上裕也は真正面から額にそれを受けてしまう。 「うぅおぉぉぉォ!?」 突然のビリッとした感覚と共にやって来た、体の隅々にまで電流が駆け巡っているような感覚に、噴上裕也は全身の身動きが取れなくなってしまう。そのショックで、スタンド発動の為の精神力が途切れてしまい、自分達の目の前においていたハイウェイスターの姿がゆっくりと消失して行く。 「よっ――と」 そして、噴上裕也の危惧通りにスーツ姿の男はタバサ達の背後へと回り込むことに成功する。 『しまった!おいテメエ、しっかりしろ!ヤツが後ろに回り込んだぞ!?』 「だッ!駄目だ…身動きが…全く取れねえ……!奴は……一体何をやりやがったって言うんだ……!?」 「そいつを今から教えてあげよう」 スーツ姿の男が、先程まで伸ばしていた手を口元に運びながら先程から変わらぬ軽い口調で言う。 「――「波紋」だよ」 「は……もん…だとォ!?」 噴上裕也は満足に首も回らない現在の自分の体を呪いつつも、スーツ姿の男に聞き返す。 「そう、波紋だ。東洋――と言っても私が生まれた世界の話だが、 ともあれにそこには「仙道」と言う不思議な術が伝えられている…… その中の秘術の一つに、体内の生命エネルギーを活性化させる特殊な呼吸法がある。 それによって生じた生命エネルギーが、まるで小石を落とした水面のように 波紋の形に類似していることから、そう呼ぶんだ」 「波紋……」 その場に座り込んでいたタバサが、点滴パックから口を離してスーツ姿の男を見やる。 「そして、さっき君にやったのは波紋を流し込んだサンドイッチのキュウリを額に当てることで、君の脳神経を混乱させて一時的に全身を麻痺させてやったってワケさ。 脳は肉体の全てに指示を与える大切な器官だからねェ」 「キュウリだとぉ~~~?」 本人からは見えなかったが、確かにタバサの目には、噴上裕也の額に緑色の物体が張り付き、更にそれがパチパチと小さな火花のような物を散らしているのが見えた。 「そう、キュウリ。あんまり強い波紋じゃないから、放っておけばすぐ動けるようになるよ」 「信じられるか、そんなコト……!」 未だに自由にならない体を必死になって動かしながら、噴上裕也が答える。 「だけど本当のことだからねえ……さっきも言っただろう?ホントに私は君らの敵じゃないんだ。 ただ君がどうしても信用してくれないので、今みたいにちょっと、ね」 軽く肩を竦めて、男は先程から手にしたままのスライスされた赤くて丸い物体をぴこぴこと動かす。 「あァ、ついでに言うと、さっき私が天井を滑ってるように見えたのも、このトマトに波紋を流すことでトマトと一緒に私の体を天井に固定してたからだったりするんだよ。 そしてこのトマトが元々含んでいた水分を利用して、天井を移動して来たんだが…… まァ、おかげでこいつを食べる前に随分とバッチィ目に遭わせてしまったな」 食べ物を粗末にするのはイカンからね、と言いながら、その男は手に持ったままだったトマトをそのままサンドイッチに乗せて、そのトマトごと手に持ったサンドイッチを平らげて行く。 「波紋……ジョナサンの…DISC…?」 「――ホウ」 タバサは壁に手を付いて、未だによろける体を何とか起き上がらせてその名前を口にした。 「波紋」と言う名前には聞き覚えがあった。 かつてタバサがこの階層に辿り着く前、吸血鬼―― と言ってもハルケギニアとは異なる世界で生まれた、異なる能力を持った吸血鬼だが、ともあれ彼らの使役する屍生人と戦った時に、様々な世界の人々の記憶が封印されている銀色のDISCの中を使って、タバサ自身も波紋を使ったことがあった。 そして、そのDISCを発動する際に頭に入り込んできた記憶の中に、目の前のスーツ姿の男に良く似た人物を見たことがあるような気がしたのだ。 「ジョナサン……ジョナサン・ジョースターか。 なるほどな、確かにこの世界ならば、彼の“記録”も何処かに存在していてもおかしくはないな……」 タバサの推測を裏付けるかのように、その男は懐かしむようにその名を呼びながら一人ごちる。 「見たことがある……」 タバサはかつてDISCで見た記憶を一つずつ思い出して行くかのように、ゆっくりと口を開いて行く。 「ジョナサン・ジョースターの先生……一緒に吸血鬼と戦って……ジョナサンを……守った……」 DISCで見た記憶の中でも、“彼”の最期の光景はタバサもはっきりと覚えていた。 元の記憶の持ち主であるジョナサン・ジョースターという人物にとっても、“彼”との出会いやその死は言葉では言い表わせない程の大きな意味を持っていたに違いない。 そして、そんな“彼”の生き様に深い感銘を覚えたのを、今でもタバサは忘れていなかった。 「君はどうやら私のことを知っているらしいが、お互いに初対面同士、ここは敢えて名乗らせて貰おう。 私はツェペリ。ウィル・A・ツェペリ男爵だ。 君達の「勇気」は認めるが、「勇気」だけではレクイエムの大迷宮は突破出来んよォー」 そう言って、新しいサンドイッチを取り出した彼は先程と同様にペッパーをたっぷりと振り掛ける。 そして舞い上がったペッパーに鼻腔を刺激されて、ヘブショ、とクシャミを飛ばしたのであった。 ゼロの奇妙な使い魔「タバサの大冒険」 To be continued… 第6話 前編 戻る
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召喚の儀式の日ある一人の平民が呼び出された。 何の特徴もないその男はある事件以降学院から忽然と姿を消した。 タバサの手記 ××月◎◎日/虚無の日 ここ数日でおきた殺人事件についてまとめる。 Ⅰつ目 同級生のマリコルヌが変死体で発見された。 自室で椅子に拘束されていた彼の胃袋は限界以上に食物が詰め込まれていた。 Ⅱつ目 ある街で徴税官の地位を利用し私服を肥やしていた貴族が殺された。 酒に毒を盛られたらしい。 衛兵がその酒を用意した給仕を探したが見つけることが出来なかった。 Ⅲつ目 再び学院の人間が殺された。 殺されたのは学院の長オールド・オスマンだった。 夜、街に酒を飲みに出掛けたところを襲われたようだ。 最初に死体を見つけた人間によると破裂音とともにオスマン氏が倒れたそうだ。 そのとき物陰からの一瞬光がもれたらしい。 Ⅳつ目 三度学院の人間が殺された、いや殺させられた。 今度は学院に奉仕する若いメイドだった。 一応の犯人は捕まっている。 彼女を殺してしまったのは才人という平民だった。 不気味な形をした刃のついた器具で腹割いたのだ。 その器具は、その、男性の股間・・・に装着するよう出来ていて、 それをつけたまま、あの、セッ・・を強要されたようだ。 Ⅴつ目 学院の危機感の無さが浮き彫りになった。 今度も学院でしかも貴族が殺されたのだ。 彼女の名前はルイズ。 名のある貴族に生まれたにもかかわらずまったく魔法の使えなかった彼女。 その鬱憤を晴らすかのように自分より下の立場の人間には容赦が無かった。 しかしその顔も、もう見ることは出来なくなった。 死んだから、ではなく無残に顔を切り裂かれ原形をとどめていなかったからだ。 ここまでの殺人にはある共通点があった。 事件の現場近くに、ひとつずつ意味不明の記号が描かれていた。 一応描き写してみる。 GLUTTONY GREED SLOTH LUST PRIDE しかし、一体何人が犠牲になるのだろう。 5人で終わり? 6人? それとも・・・・ ここまで書き終えたころタバサの部屋にノックの音が響く。 あの時学院からいなくなった平民だった。 「初めましてミス・タバサ。私は・・・・そうジョンでいいな。突然だが私は君の虜になってしまったんだ。だから君を選ばせてもらったよ。」 (映画「セブン」よりジョン・ドゥ)
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タバサの魔法服 風の魔法使いタバサさんの服(魔法/防御+28/風耐30%) 縦縞がやけに目立つが、耐性までついてる良装備。 041:タバサの魔法服 タイプ:魔法系防具 価格:60G 攻撃力:0 防御力:28 魔法力:0 魔法防御:0 敏捷性:0 運:0 最大HP:0 最大MP:0 風耐性+30% 特徴 使い勝手・希少性などを記入してください。 コメント 名前 コメント
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autolink ZM/W03-T08 ZM/W03-024 カード名:タバサの秘密 カテゴリ:クライマックス 色:黄 トリガー:1・風 【永】あなたのキャラすべてに、パワーを+1000し、ソウルを+1。 (風:このカードがトリガーした時、あなたは相手のキャラを1枚選び、手札に戻してよい) TD:ペルスラン「タバサというのは奥様がお嬢様にプレゼントされた人形の名前なのです」 CC:ベルスラン「王家は、困難な生還不可能と言われるような仕事を言いつけるようになったのです」 レアリティ TD CC illust.ヤマグチノボル・メディアファクトリー/ゼロの使い魔製作委員会 シャルロット・エレーヌ・オルレアンとシナジーのあるクライマックス。 トライアルに関しては他2つのクライマックスにもシナジーキャラがいるため、どれを選ぶかは悩みどころ。 ・対応キャラ カード名 レベル/コスト スペック 色 シャルロット・エレーヌ・オルレアン 3/2 8500/2/1 黄