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発売日 2014年4月25日 ブランド root nuko タグ 2014年4月ゲーム 2014年ゲーム root nuko キャスト 青山ゆかり(紅月遥,紅月彼方),羽高なる(西ノ宮悠里),成瀬未亜(黒木樹雨),金松由花(姉川椎),姫川あいり(睦月ミソラ),春日アン(下上のの),中野志乃(百瀬千郷),長瀬ゆずは(小野妹子),市川ひなこ(しゅり),天然才(竜造寺信彦),陸奥出流(清澄白河),鬼龍院アキラ(三杉勇太郎,山田),桜坂公平(悠里の父親) 佐々木ゆき乃,俵りん,波裕平,早乙女守 スタッフ シナリオ:川石幸宏 シナリオ補助:はちみつくん キャラクターデザイン・原画:アマクラ SDキャラクター製作:アマクラ CG監修:夕燈とび CG制作:かやか(スクアドラデザインワークス),空木,アマクラ,夕燈とび 音楽製作:清水淳一 SE製作:佐野大 魔王魂,ポケットサウンド,びたちー素材館,小森平の使い方,くらけ工匠,ザ・マッチメイカァズ,民譚/ポケットエポック 背景製作:草薙,スタジオちゅーりっぷ,夕燈とび ムービーデザイン:癸乙夜(Mju z) プログラム:boni スクリプト:川石幸宏 デザインワーク:夕燈とび キャスティング:株式会社ガジェットリンク 音声収録・加工:Studio CLEF WEB:夕燈とび,boni デバッグ:rootnukoスタッフ 企画・原案:川石幸宏 ディレクター:川石幸宏 プロデューサー:川石幸宏 製作:rootnuko OP曲 「海空デイズ」 歌:茶太 作曲:清水淳一 作詞:清水淳一 Electric Guitar:Hirata Takashi Electric Guitar Bass:Shimizu Junichi Violins:Sho Programming:Shimizu Junichi 挿入歌・ED曲 「BLACK BIRD SAYONARA」 歌:金松由花 作曲:清水淳一 作詞:清水淳一 Electric Guitar Bass Keyboard:Shimizu Junichi Programming:Shimizu Junichi ED曲 「僕らの旅立ち」 歌:nowa 作曲/編曲:清水淳一 作詞:清水淳一 Acoustic Electric Guitars:Hirata Takashi Violins:Sho Bass Programming:Shimizu Junichi ED曲 「終わらない日々」 作曲/編曲:清水淳一 Programming:Shimizu Junichi
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登録日:2015/04/01 Wed 00 21 39 更新日:2023/06/22 Thu 22 43 01NEW! 所要時間:約 9 分で読めます ▽タグ一覧 FGO Fate GO Prototype TYPE-MOON アサシン アサ紳士 アンデッド サーヴァント ジキルとハイド ゾンビ バーサーカー 不幸 不憫 主人公補正なし 二重存在者 優しい人 博士 善人 宮野真守 正義の味方になりたかった男 第二位 蒼銀のフラグメンツ 「今度こそ、初めから正義の味方で在りたい」 出典:FGO公式サイト サーヴァント紹介頁(2018年1月2日閲覧)http //www.fate-go.jp/servant/assassin.html 『Fate/Prototype 蒼銀のフラグメンツ』に登場するサーヴァント。 サーヴァント階位は第二位。 ◆ステータス 筋力 耐久 敏捷 魔力 幸運 宝具 B+ B+ C D D C ◆スキル 狂化 変化 自己改造 無力の殻 バーサーカーとは思えない穏やかで思慮深い紳士的な美男子。 しかし戦闘状態に移行するとその体は異形のものへと変貌する。 この二面性は彼の宝具、そして真名に深く関係している。 「僕は、善と誠実を信じる」 「けれど俺は、悪逆をこそ愛する」 ◆宝具 『密やかなる罪の遊戯(デンジャラス・ゲーム)』 生前の彼が人格を切り替える為に服用していた薬。 なお、この宝具名はミュージカル版で演奏される曲名に由来している。 彼の真名はヘンリー・ジキル。あるいはハイド。もしくはその2つの真名を同時に備える英霊である。 19世紀の小説『ジキルとハイド』の主人公。正確にはそのモデルとなった人物。 ジキルの状態では彼は何の力も持たず、一般人と大差ないレベルだが、スキル『無力の殻』の効果によってサーヴァントの気配を断つ事が出来る。 元が科学者なためか、様々な霊薬を調合する事も出来るらしい。 そして宝具を服用してハイドの人格に変貌すると、狂化のスキルと自己改造のスキルが合わさり、その姿は魔獣の如き異形へと変貌する。 聖杯にかける願いは「正義の味方であること」。 生前、狂気に呑み込まれて多くの犠牲を出してしまった事を悔い、今度こそ“悪”ではなく“正義”を為し、人々を守る事。 つまりは多くの犠牲者を出しかねない聖杯戦争を止める事。それが彼の願いである。 ◇來野巽(きたのたつみ) マスター階梯:第七位 魔術系統 :魔眼(生物操作系) 魔術回路/質:C 魔術回路/量:E 魔術回路編成:正常 偶然にもバーサーカーを召喚してしまったごく普通の男子高校生。 生まれつきの魔眼持ちで、生物の動きを縛る静止の魔眼の使い手。 といっても本人は自分に魔術の素養があることなど全く知らず、例えば写真を撮る時に「なんか妙に長く止まってんなあの鳥」と思うくらいの認識だった。 しかし1991年、東京で聖杯戦争が開幕した時、実家から形見分けとして送られてきた母方の祖母の手帳に刻まれていた詠唱を読み上げたところ、バーサーカーを呼び出してしまった。 そして巽はバーサーカーの願いに共感し、共に聖杯戦争を止める為に奔走することになる。 と、まるで主人公のような背景を持つバーサーカーペア。 その理想の高さは本物であり、抱く願いも間違いなく尊いものであるだろう。 というか実際この聖杯は起動すれば世界が滅びかねない代物である上に、マスターの中には一般人の犠牲を一顧だにしない者もいる。 愛歌とか、愛歌とか、愛歌とか。 だが悲しいかな彼らは弱い。 例えば彼のように例外的な魔術を使えるわけでもなく、彼らのように無尽蔵な魔力を持っているわけでもなく、強力な宝具を所有しているわけでもない。 そして何よりこの物語の主人公は彼らではなく、沙条愛歌であるが故に。 その結末は最初から決まっている。 聖杯戦争を止める事を決めた巽とバーサーカーは玲瓏館に目を付け、その邸宅に襲撃を仕掛ける。 そしてその場に現れたセイバーと交戦に入り、その剣で霊核を砕かれた上に乱入してきたアーチャーとランサーの攻撃を受け、 更にはライダーの太陽の船による攻撃を受けて跡形もなく消滅。 結局正義のために戦う事ができなかったこと。せめて戦いの場を与えてくれようとしたセイバーに応えられなかったこと。 そして自分と共に戦う道を選んでくれた友人を守れなかったことを後悔しながらの無念の消滅であった。 同時に巽もアサシンの口付けによって死亡。 アサシンがサーヴァントである事を理解しながらも令呪を使用してバーサーカーを呼び出し、目の前の少女を殺すという選択が出来なかった甘さ故の死であった。 更にバーサーカーは『Prototyape』本編で、愛歌の走狗の黒化英霊として復活するという。 そして巽もまた、キャスターの手によって最悪の形で復活させられる事に。 結局誰も止めることが出来ず、死後すらその望みとは正反対の形で利用され続ける2人。 なんだこの不憫さは。ランサーか。 しかしただ一つ。 巽は死ぬ前に一人のマスターと言葉を交わした。 それがどんな運命をもたらすのか。それはまだ誰も知らない。 Fate/Grand Order 筋力 耐久 敏捷 魔力 幸運 宝具 C+ E A E C C ◆スキル ○クラス別スキル 気配遮断:A サーヴァントとしての気配を断つ。 完全に気配を断てば発見する事は不可能に近いが、攻撃態勢に移ると気配遮断のランクが大きく落ちてしまう。 ○保有スキル 怪力:B ハイドの状態で真価を発揮するスキル。 一時的に筋力を1ランクアップさせることが可能。 恐慌の声:A ハイドの状態で真価を発揮するスキル。 聞く者の精神を弱らせる声を響かせ、対象に精神攻撃を行う。 自己改造:D ハイドの状態で真価を発揮するスキル。 戦闘に特化した形態に自己の肉体を改造する。 アサシン時ではバーサーカー時よりランクが低くなっており、容姿もほとんど変わらないなどあまり有効に働かない。 無力の殻:A 精神と肉体がジキルの状態である時は固有スキルの真価が発揮されず、能力のパラメーターも低下し、サーヴァントとして感知され難くなる。 CV:宮野真守 2015年12月28日実装の☆3(R)アサシン。第4章のクリア報酬でもある。 メインシナリオではその4章で生前の彼が登場。 終始、モードレッドとともに主人公達を導く役として活躍する。 魔術師・科学者としての慧眼を用いたサポート役がメインであり、自身の悪性を表に出したくないが故に戦闘にはあまり参加しないが、窮地には仕方なく宝具を使用してハイドとなる。 この際にはサポートに最初からハイドになった状態で登場する。 FGO全体を見ても奇特なサーヴァントで、宝具『密やかなる罪の遊戯』を使うとHPが全回復した上でクラスがバーサーカーに変わる。 (この際にバスター強化と最大HP増加の永続バフが付与され、バーサーカーらしい性能になる) 宝具使用後には3つのスキルがすべて強化される一方で、戦闘終了まで宝具は使えなくなる。 また、バトルグラフィックも温厚そうな青年ジキルから凶悪な容貌のハイドへと変化。 宝具での強化効果が永続なため、宝具レベルとNPが十全な状態でハイドになった場合は宝具を使えないことを考えても高レアを十分に喰える凶悪性能となる。 ただし強化解除は普通に受けてしまう。 特にスキルで強化解除がつかえるサーヴァントは天敵。 とまあ書いたが、正直かなり微妙。 一応、通常攻撃が有用な一部の高難易度で活躍するにはするが…といった感じ。 そんな彼だが、2020年9月より始まった新イベント「聖杯戦線」でまさかの大活躍。 このイベントでは「特定のクラスは使えない」「基本同じクラスのサーヴァントは使えない」という厄介な縛りがあり苦戦した人も多い。 しかし、前述の通り「アサシンからバーサーカーに変化できる」という特性を利用して疑似バーサーカーとして大暴れする戦略が注目を浴びた。 通称「脱法バーサーカー」。 更に新システムのアペンドスキルでアサシン時はセイバーに、バーサーカー時はライダーに対する攻撃力が上がるようになった。 追記・修正をお願いします。 △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] 主人公補正がないとこうなるのか -- 名無しさん (2015-04-01 00 47 30) 型月世界の生粋の魔術師はクソだなと思いました(カリヤおじさん的思考 -- 名無しさん (2015-04-01 01 06 46) もし環が後々愛歌の生贄にされる少女の一人だったら悲惨過ぎる -- 名無しさん (2015-04-01 14 45 40) 想像以上にステが高かった。筋力B+、耐久B+もあるのか。 -- 名無しさん (2015-04-01 15 53 32) ザビ達って無尽蔵の魔力持ってたけ? -- 名無しさん (2015-04-02 01 08 15) ↑サイバーゴーストの様な存在だからありすと同じように魔力にさいげんがない。つまりランクにするとEX -- 名無しさん (2015-04-02 21 27 48) ↑おまけにザビ達は魔術回路の質はいいって明言されてるしな -- 名無しさん (2015-04-02 21 39 09) ↑↑↑ただ魔術回路の量は並だから一度に使える量は大したことない -- 名無しさん (2015-04-02 21 51 13) ジークフリートの時も思ったけど正義の味方って日本由来のマイナー概念じゃないの?ちょっと調べたら月光仮面が初出らしいし -- 名無しさん (2015-04-08 21 00 59) 単に「正義の味方」って言葉が一番理想に近いから使ってるだけだろうよ。現代の知識は入ってきてるわけだからな -- 名無しさん (2015-04-08 21 07 19) 正義の味方って海外じゃ通じないらしいね -- 名無しさん (2015-04-09 11 35 22) まさかのアサシン ていうか隠す気欠片もないな -- 名無しさん (2015-05-03 05 35 12) アサシンになるとハイドの狂化はどうなるのかね -- 名無しさん (2015-05-03 08 29 41) PVから考えるとハイドの状態でも言葉を話すことができるんだと思う -- 名無しさん (2015-05-04 13 27 35) 様々な霊薬を調合する事も出来るらしいからキャスタークラスの適性もあるかも -- 名無しさん (2015-06-20 10 06 32) 宝具名はありすのサーヴァントの派生っぽいね -- 名無しさん (2015-11-14 18 23 47) 12/28 19 00配信予定の4章でついに参戦。普段はジキルで、宝具使用後からハイドに切り替わってステアップ&HP全快って仕様みたい -- 名無しさん (2015-12-27 11 10 38) HP全快なら即行で防具発動するか迷うな…防御アップと毎ターンNPアップする礼装が有ればそれをつけたいな -- 名無しさん (2015-12-27 11 48 44) リヨ絵一番の被害者。なんで履いてないんですかねぇ……? -- 名無しさん (2016-04-01 20 00 18) 「ジキル/ハイドの二面性の象徴」と聞いて、膝を打った 履いてない -- 名無しさん (2016-04-11 12 42 09) タイプムーンエースに外伝小説が載ってたけど、H氏とW博士、およびその宿敵(M教授?)の存在感に持っていかれた感があるな -- 名無しさん (2016-04-26 19 51 52) 可愛い彼女が出来てよかったね -- 名無しさん (2016-05-03 06 29 34) 巽くんには聖杯戦争を止められなくても、彼に影響された人たちも多く結果的には愛歌を止めるのに一番貢献してる気がする -- 名無しさん (2016-05-16 00 25 46) 今月のコンプ読んだけど巽君、死んでから本番という主人公だったね……よくやったよ、お前は -- 名無しさん (2016-07-21 15 51 13) 静謐ちゃんのダッチワイフ?にされたのは、うらやましいようなそうでもないような...... -- 名無しさん (2016-08-23 19 11 38) 黒化してもハイドが主人格になるだけで性格は何も変わってないのかな -- 名無しさん (2017-05-04 20 18 14) 特殊な二重人格故に聖杯の泥を片方の人格を犠牲にするだけで回避できて、他のサーバントにはできない活躍を見せる。とか有ったら胸あつ。 -- 名無しさん (2017-06-25 15 28 51) むしろ黒化したことでハイド人格出てきた感じだからなぁ…描写見る限りバーサーカーで宝具使うと普通に狂化するだけでハイドにはならないっぽいし -- 名無しさん (2017-10-19 17 21 09) 宝具て他人に使わせる事出来るのかな? -- 名無しさん (2020-10-02 14 22 17) FGO本編ではかなり運用に難のあるアサシンだが聖杯戦線では脱法バーサーカーとして高評価とか何とか -- 名無しさん (2021-02-12 00 00 21) 最初の相手が悪かったのとマスター共々運命力が無いばっかりに。 -- 名無しさん (2022-01-08 19 00 25) 志は立派で立ち位置も一見主人公っぽいが残念ながら運命力が足りなすぎた。 -- 名無しさん (2022-12-30 12 15 23) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/vipdeyoyo/pages/645.html
ウラグメント メーカー yoyorecreation ベアリングサイズ H-spinサイズ レスポンス シリコンパッド ボディ・リム材質 超々ジュラルミン 重さ 61.0g 直径 52.5mm 厚さ 40.0mm ギャップ幅 ?mm(固定) fragmentより振り心地は重く感じる。コントロールのしやすさ等はfragment譲りではあるが安定感は別物。軽量好きの人より64~66gあたりが好きな人におすすめ -- 名無しさん (2012-12-21 17 56 23) フラグメント軽くてダメな人は買うべきだと -- 名無しさん (2013-01-04 12 33 56) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/magicman/pages/17372.html
フラグメント・メモリー R 水 (4) 呪文 ■自分の山札を見る。その中からカードを1枚選んで相手に見せ、自分の手札に加えるまたは、相手に見せずに自分の手札に加える。その後、山札をシャッフルする。相手に見せて自分の手札に加えた場合、山札をシャッフルした後、カードを2枚引く。 作者:viblord フレーバーテキスト 大事な記憶を失くしちゃった。でも、新たな記憶が増えたよ。 評価 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/letsrebirth/pages/239.html
肥大した後悔を糧に踏み込んだ世界は、誰かを犠牲にする摂理で溢れていた。 わかっている、本当はわかっている。 綺麗なままでは生きていけないことを。 戻りたいと願っても、元のままではいられないことを。 どれだけ強く望もうが、絶対に叶わない。 「……うし、最初と比べたら大分見れる顔になってきたな。 無理に笑えとは言わねぇけど、ずっと泣き顔よかはいい」 「うっさい! 仕方ないじゃん、こんなことに巻き込まれて笑顔でなんていれないよ!」 それでも、と。 諦めずに立ち向かう勇気は、果たして蛮勇なのか。 彼らは未だ、世界の真実を知らない。 無知なる生贄達は、何も知らない。 「それに、今更どんな顔をしたらいいか……わからないし」 幾分、立ち直りはしたものの、未央の顔に含まれる陰りは払拭できていない。 現状は全く変わっていない。 未来へのヴィジョンは依然として不透明なままだ。 アイドルを辞めたくない。 その想いだけは確かだが、その為にはどうしたらいいのか。 「今までどおりでいたらいいさ。気負うことなんてねぇ。 戦争とかそういうのは俺に全部背負わせとけ」 「……でも」 「でも、じゃねえ。俺からすると、マスターが危険な目にあう方が辛いしよ」 今はまだ、明確に定まった方針は見当たらない。 ただ、生き残るのに精一杯。 一歩先である戦うという選択肢には、未央は至っていなかった。 もっとも、元の世界ではそういった血生臭い争いとは無縁だった身からすると、無理もない。 「心配すんな。今のマスターに必要なのは時間だ。一週間あるし、一日や二日どうってことねぇ」 その部分をカバーするのがサーヴァントの役目である。 加藤鳴海の全身全霊を以って、未央を護り抜く。 「ただ、できたらでいい。いつかでいいんだ、心の底から――――笑ってくれ。こんな状況で無理かもしれねぇけどよ。 お代はそれだけで十分ってな。なんて、かっこつけすぎたか?」 その果てで彼女が本来の笑顔を浮かべて、ありがとうなんて言ってくれたら。 鳴海はそれだけで満足だった。 特別な恩賞なんて望むべくものではないし、彼は自分の願いを奇跡へと頼らない。 自分の力で叶えてこその願い事だ。 何も。そう、しろがねになっても、彼の本質は何も変わってはいない。 「……善処、する」 「おう」 会話が途切れ、沈黙が続く。 しかし、その沈黙は前とは違い、どこか暖かな空気でもあった。 チクタクと時計の針が進む音だけが耳へと響いてくる。 「なぁ。話は変わるんだけどよ」 数秒、数分。 幾らかの時間がたった後、ふと鳴海が疑問を口にした。 「何か、違和感がないか? お前の家族とかこの世界――何でもいい。どんな些細な事でも笑わねぇからさ」 「違和感って言われても、私には全くわからないんだけど。 強いて言うなら、しまむーやしぶりんがいないことかな?」 「そうか。いや、気のせいならいいんだ。気に留める程度でいい、深い意味はねぇ。 ただ、何となく……この世界はふわふわしててどうも違和感が拭えなくてな。 まるで夢の中にいるみたいだぜ」 この世界には秘密がある。されど、確固たる証拠はない。 鳴海が言い出したことはいわゆる妄言の類から出ないものだ。 「それって明晰夢かな? 私にとってはこの状況自体がもう夢みたいなことだけどね」 「マスターからするとそうなるわな。ま、何にしても情報が足りねぇんだ。 違和感を感じるだけじゃあ、どうもならん」 けれど。どうにも、鳴海には自信があった。 視界の端で踊る道化師。お誂え向きに用意された冬木市。 聖杯戦争をするにあたって、全てが整いすぎている。 この偽りの世界は、何もかもが予定調和の上で動いているようにしか見えないのだ。 ならば、聖杯も同じく――底のある奇跡であるかもしれない。 これでまた、鳴海この聖杯戦争がますます信用できなくなった。 サーヴァントを全て打倒するだけでは足りない。 この聖杯戦争の裏側にあるだろう真実をこちらへと引きずり落とさなければ、自分達はずっと踊らされたままだ。 彼女が精一杯振り絞った願い事を、護り切る。例え、悪魔に成り果ててでも、と。 絶対の意思を再度固める鳴海を、未央はまだ捉えきれていない。 本田未央はまだ、何も知らない。 無知で矮小な盲目の生贄の範疇を超えられない。 ■ めんどくさいことになった。 音無結弦は吐きかけたため息を無理矢理に飲み込んで、現在の自分が置かれている状況を整理する。 午後の授業を受け、放課後になってからの行動は迅速だった。 校庭の爆撃により、部活も生徒会もなくなり下校を推奨され、音無もそれに習い校門を出る。 授業を中断して、下校を促す案もあったようだが、下手に生徒達を動かすよりもひとまずは平常通りを貫くことを優先させたらしい。 校庭が突然爆発しましたなんて超常現象、どうにもしがたいという教師の立場からしてもわからないこともない。 現状維持。この世界は動かない。 まるで、かつて音無がいた死後の世界の《NPC》のようだ。 彼らは思考があれど、意志は通っていない。 淡々とした日常、裏に潜む非日常。 それらに疑問を抱けど、真理の到達には至らない。 もっとも、考察した所で答え合わせがされないのだから、意味なんてないのだけれど。 (明日の休校連絡はなかったし、これは学校が壊れでもしないと駄目かな。ったく、生徒会長の役柄はもうしばらくは続きそうだ。 その役柄を活かせる内はとことん演じ切ってやるつもりではあるけどさ) 今はそんなことはどうだっていい。 考えても仕方がないことを考えてしまうのは自分の悪い癖だ。 今の自分は聖杯戦争のマスターである。 死後の世界で共に戦った野田のように一つの願いにとことん殉じればいいだけだ。 (ゆりからは返信がないし、ネギ先生は体調不良で早退……とは伝えられたが。 全く、せっかく集めた情報もパーだし、勇んで踏み出した結果は何も得られちゃいねぇ) ゆりに送ったメールは返信がなく、何か厄介事にでも巻き込まれているのだろうかと懸想するが、考えても仕方がない。 なので、今はもとよりの目的である本田未央の暗殺にでも向かうとしよう。 武器こそないが、あやめの能力で自分の気配は完全に掻き消せる。 サーヴァントに気づかれることなく、未央を殺すことができるのだ。 (ならんば、手元にある情報で戦うしかない。さっさと本田未央を策敵して殺してしまえばよかった。 下手に動き回っていないから場所を特定する必要もない。 それに、立ち直ってアクティブになってからだと、行動が読めないからな) それも、家に引きこもっているなら人目につかず楽に殺せる。 お誂え向きに、教師からも未央の住所を教えてもらい、決行するには絶好の機会であった。 「音無さん、どうかしましたか?」 「いや、何でもない。前川の方こそ、そんなに畏まらなくていい。 年上といえど、同じ学生だからさ」 ところが、何事にも例外というものが存在する。 イレギュラー。NPCといえども、彼らは人間であり、思考能力は持っている。 今は、暗殺を行うにあたっては目の前にいる少女をどうにかしなければならない。 前川みく。アイドル候補生でもある彼女は同期である未央のことを心配して、毎日彼女の自宅へと立ち寄るらしい。 加えて、同じクラスの委員長なのだから尚更気にかかっているらしい。 今日もその例に漏れずに訪問しているのだから、真面目な少女なのだろう。 それは普段ならば褒めるべき行いではあるが、今からすることを考えると、とてもじゃないが邪魔でしかない。 どうするべきか。毎日来ているぐらいだから彼女を帰そうとしてもそれは無理なことだろう。 いっそのこと、みく諸共殺してしまえばいいかとも策謀するも、即座にその案を破棄する。 (もしも、前川がマスターだったら返り討ちにあう可能性だってある。 本田とは違って、前川については何も知らないんだ。一つでも間違えたら、死ぬのは俺の方だ) (ますたー……) (大丈夫だ、あやめ。無茶はしても無謀はしない) 戦いは何が起こるかわからない。 不確定要素を楽観で押し潰せる程、音無には力も余裕もない。 自分達は最後の生き残りを目指すと言っておきながら無力だ。 なればこそ、此度は引くべきだ。 あくまでも、教師の要請で様子を見に来た生徒会長、音無結弦で通すのが賢い選択だろう。 (――楔を打ち込めるなら、それでいい) もっとも、好機があればその限りではないけれど。 そう、思いながら、音無はインターホンをゆっくりと押した。 【B-2/本田未央の家/1日目 午後】 【本田未央@アイドルマスターシンデレラガールズ(アニメ)】 [状態]健康 [令呪]残り3画 [装備]なし [道具]なし [金銭状況]イマドキの女子高校生が自由に使える程度。 [思考・状況] 基本行動方針:疲れたし、もう笑えない。けれど、アイドルはやめたくない。 1.いつか、心の底から笑えるようになりたい。 2.加藤鳴海に対して僅かながらの信頼。 [備考] 前川みくと同じクラスです。 前川みくと同じ事務所に所属しています、デビューはまだしていません。 【しろがね(加藤鳴海)@からくりサーカス】 [状態]健康 [装備]拳法着 [道具]なし。 [思考・状況] 基本行動方針:本田未央の笑顔を取り戻す。 1.全てのサーヴァントを打倒する。しかしマスターは決して殺さない。この聖杯戦争の裏側を突き止める。 2.本田未央の傍にいる。 [備考] ネギ・スプリングフィールド及びそのサーヴァント(金木研)を確認しました。ネギのことを初等部の生徒だと思っています。 【音無結弦@Angel Beats!】 [状態]健康 [令呪]残り三画 [装備]学生服 [道具]鞄(勉強道具一式及び生徒会用資料)、メモ帳(本田未央及び仲村ゆりについて記載) [金銭状況]一人暮らしができる程度。自由な金はあまりない。 [思考・状況] 基本行動方針:あやめと二人で聖杯を手に入れる。 1.生徒会長としての役目を全うしつつ、学校内や周辺にマスターがいないか探る。平行してあやめを『紹介』する人間も探す。 2.戦闘を行っていたサーヴァントのマスターを特定できたならば暗殺を検討する。 3.本田未央の自宅に来たはいいものの、前川みくが邪魔だ。 4.ゆりと接触したい。 5.あやめと親交を深めたい。 [備考] 高校では生徒会長の役職に就いています。 B-4にあるアパートに一人暮らし。 コンビニ店員等複数人にあやめを『紹介』しました。これで当座は凌げますが、具体的にどの程度保つかは後続の書き手に任せます。 ネギ・スプリングフィールド、本田未央を聖杯戦争関係者だと確信しました。サーヴァントの情報も聞いています。 【アサシン(あやめ)@missing】 [状態]霊体化 [装備]臙脂色の服 [道具]なし [思考・状況] 基本行動方針:ますたー(音無)に従う。 1.ますたーに全てを捧げる。 [備考] 音無に絵本を買ってもらいました。今は家に置いています。 【前川みく@アイドルマスターシンデレラガールズ(アニメ)】 [状態]健康、イライラちょっと減少、前川さん [令呪]残り三画 [装備]なし [道具]学生服、ネコミミ(しまってある) [金銭状況]普通。 [思考・状況] 基本行動方針:聖杯を取る。 1.人を殺すことに躊躇。 [備考] 本田未央と同じクラスです。学級委員長です。 本田未央と同じ事務所に所属しています、デビューはまだしていません。 事務所の女子寮に住んでいます。他のアイドルもいますが、詳細は後続の書き手に任せます。 【ルーザー(球磨川禊)@めだかボックス】 [状態]『まあ、特筆することはないかな』 [装備]『いつもの学生服だよ』 [道具]『螺子がたくさんあるよ、お望みとあらば裸エプロンも取り出せるよ!』 [思考・状況] 基本行動方針:『聖杯、ゲットだぜ!』 0.『たまには僕だって空気を読んで何もしゃべらない時があるさ』 1.『みくにゃちゃんはいじりがいがある。じっくりねっとり過負荷らしく仲良くしよう』 2.『いい加減みくにゃちゃんを裸エプロンにしてもいい頃合いだと思うんだけど、そこんところどうなってるのかな』 3.『道化師(ジョーカー)はみんな僕の友達―――だと思ってたんだけどね』 4.『ぬるい友情を深めようぜ、サーヴァントもマスターも関係なくさ。その為にも色々とちょっかいをかけないとね』 [備考] 瑞鶴、鈴音、クレア、テスラへとチャットルームの誘いをかけました。 帝人と加蓮が使っていた場所です。 BACK NEXT 037 反転フラグメント 投下順 039 感染拡大 037 反転フラグメント 時系列順 039 感染拡大 BACK 登場キャラ NEXT 017 伸ばされた夢-シンデレラは右手を伸ばす- 本田未央 039 感染拡大 しろがね(加藤鳴海) 029 願い潰しの銀幕 音無結弦 アサシン(あやめ) 前川みく 034 ワイルドルーザー/ブレイブウィナー ルーザー(球磨川禊)
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注意 本作は18禁描写・反社会的な設定がされております。 退廃的・ダークな設定などが嫌いな方は、見ないようにしていただけると幸いです。 フラグメント 02 ガードレールにひょいと腰掛け、少女はリサイクルマークがでかでかと貼り付けられた紙コップのストローに静かに口を付けた。 再生プラスチック製の透明なストローを、黒茶けた液体が音もなく駆け上っていき……。少女の白く細い喉が、こくこくと嚥下を繰り返す。 「ん? ……キミも、飲む?」 薄いリップの曳かれた唇を離せば、ほろ苦いそれは紙コップの中へと静かに戻り。 「はい」 その問いに答えたのは、少女が肩から提げたトートバッグに身を埋める、身長十五センチの小さな少女だった。 「……んっ」 小さな顔の小さな口で、小さな少女はストローに口を付けるものの。少女の瞳よりも大きな径のストローが相手では、中の液体を飲むことはおろか、吸い上げることさえ出来そうになかった。 「……飲めません。マスター」 トートバッグの中。恨めしそうに娘を見上げる少女に、マスターと呼ばれた少女は軽く苦笑。 「じゃ、口移しで飲む?」 分かってやっているのだろう。 それを茶目っ気と取るか、底意地が悪いと取るか。小さな少女はほんの少しだけ悩んだが……。 「“ヤマアラシ”さん?」 小さな少女が答えるよりわずかに早く。 少女マスターに掛けられたのは、低い声。 「………あら」 ガードレールに腰掛けて、ストローも口に咥えたまま。 視線だけを上に向け、少女は言葉を転がした。 「黒いトートバッグに、リサイクルパックのコーヒー……だったよな?」 風を遮る黒いコートは、少女を優に覆い隠せるほどの大きさだ。春先でまだ肌寒いとは言え、この街で男のその姿は、いささか重装備過ぎるようにも見えた。 「ええ。その黒いコート……あなたが“人形崩れ”さんね?」 けれど、それに怯むことはなく。 弾むような物言いはどこにでもいる少女そのもの。くすくすと微笑む少女の姿からは、幾ばくかの札束であられもなく乱れる淫らな姿など、想像もつかない。 「ああ。場所は、そっちの案内でいいんだよな?」 「ええ。それから、始める前に触ってきたら……悲鳴上げるからね?」 この人ごみの中で悲鳴を上げれば、その場で男は取り押さえられるだろう。ほんの少し頭を使えば、弱者が圧倒的強者になる事はさして難しいことではない。 「……規約はちゃんと読んだよ。安心しな」 そもそも規約を守らなかった時、危ない目に合うのは、少女よりも男の方なのだ。 黒いコートをわずかに揺らし。男は少女に触れぬよう、半歩後ろへ引き下がる。 「ならいいわ。じゃ、行きましょっか」 そう言って、少女はガードレールからひょいと飛び降りた。 その肩から下がるトートバックからは、いつの間にか小さな少女の姿が消えている。 ○ 角を曲がって路地を抜け。 ビルの谷間に響くのは、三十年が過ぎても変わらないエアコンの室外機の音ばかり。冷媒は環境に対応した物になり、冷却効率は上がって消費電力も下がってはいるが、その本質は何一つとして変わりはしない。 ドレンノズルからこぼれ落ちた冷却の廃液は、緩く付けられた傾斜に逆らうこともなく、打ちっ放しのコンクリートを伝って排水溝へと流れ落ちていく。 「……んちゅ、ん、ぅ……ふぅ…………っ」 だからこそ、少女の口からこぼれ落ちた唾液が描く細い流れも、誰も咎めることがない。そもそも誰も、気付きはしないだろうけれど。 「ん……もっと……こっち、見て」 男の声に呼び掛けられて、少女は視線だけを上へと向ける。もちろん唇は、露わになった男の肉棒を半ばまで咥え込んだまま。 伸ばした舌で竿の周りをゆっくりとねぶり回し、舌の裏側で赤黒い亀頭を軽く擦り上げてみせる。その間も、誘うような、挑発するような澄んだ視線を逸らすことはない。 「……んぅ、こえれ……んふ、いふぃ……?」 舌裏と下唇で亀頭を挟みこんだまま、口をもぐもぐと動かし、少女は男に問い掛ける。 「う………そ、それは……! 反則、だろ……っ!」 口全体での咥え込みとは違う、なお狭い中での動きに……男の肉棒はたまらず弾け、少女の口内に白い濁りを撒き散らした。 「んむ……そ?」 それも読んでいたのだろう。少女は白濁が放たれる寸前に舌の位置を入れ替えて、放たれた精をしっかりと口内で受け止めていた。 さきほどまではコーヒーを飲み下していた細い喉が、今度は白く濁った欲望をこくこくと飲み下していく。 「結構、溜まってたね……溜めてたの?」 けふ、という吐息と共に吐き出したのは、いまだ白い濁りで汚れたままの男の肉棒。 唾液と混ざり合った精が細い糸を曳くそれをきれいにするでもなく、少女は程良く萎えた切っ先を舌先でちょんちょんと弄んでいる。 「なぁ……。今度は……お前の……」 男は少女の前にしゃがみ込むと、大きくV字にカットされた胸元にそっと指を差し入れた。ゆったりとしたニットは男の指で難なく引き伸ばされて、キャミソールに覆われただけの胸元を男の視線にさらけ出していく。 「それ、服が伸びるから、ヤなんだけどなぁ……」 少女は困ったように呟きながらも、男の指に抗うことはない。むしろ、服の位置をわずかに前にずらし、より谷間が広く見えるようにさえしてみせる。 その挑発的な態度に、男のもう一方の手が伸びた。 「………ひゃぁっ!?」 十分な手応えのある乳房を押し上げ、インナー代わりに着ているキャミソールを少しずらしてやれば、そこから顔を覗かせたのは薄桃に染まる少女の尖り。 ゆったりとした服の中、そこだけ緊張を漂わせる薄桃を、男は何の迷いもなく唇で挟み込んだ。 乳房を押し上げていた左腕で少女の細い体を抱き寄せて、唇をさらに強く右胸へと押し付ける。 「え……あ……ちょ…………とぉ……!」 薄い春物のニットに包まれた左胸の柔らかさは、右手の五本の指で揉みしだきながら楽しむことにした。 押し付けた乳首は細い乳輪ごと唇で揉み込んで、時折軽く歯を立ててやる。舌を絡ませ、ふかふかの白い肌を唾液まみれにした後で、力強く吸い上げてみせれば……少女の口からは悲鳴とも嬌声とも取れぬ鳴き声があふれ出す。 「んぅ……ひゃ、あ………ぁぅぅっ!?」 やがて、その身を抱き寄せ、スカートの上から尻たぶをまさぐっていた左腕に掛かってきたのは、力を失った少女の重み。 強引な絶頂に視線を定める力すら失っている少女を、コンクリートの上に押し倒せば。 黒いコートが男の肩からずるりと滑り、コンクリートの地面に投げ出される。 ○ 引き上げられたトップスの下。露わにされた二つの乳房を男の両手が揉みしだき、その谷間では男の舌が這い回っていた。 少女の喘ぎは室外機の音にかき消され、唇から垂れ流される唾液と精の残滓は、ドレンの廃液に混じり合って誰にも気付かれることはない。 けれど、その姿を見つめる影がひとつ。 「マスター……」 絡み合う二人から最も近い、ビルの小窓のひさしの上で。恐らくはトイレの窓だろう、外の様子を覗き見る者はおろか、そもそも窓の存在すら気付く者さえいないだろうその窓のすぐ上に。 十五センチの小さな影が、小さく身を潜めていた。 「……あ、ひゃぁ……っ、ん、うぅ……っ、そ、こぉ……!」 片手に提げるのは極薄の金属板。 主に危害を加える者が現れれば、すぐに相手の肩口へ飛び移り、首筋にそれを押し当てるために……彼女はそこで、待っている。 「や、あぁぁ……こ、ら……ちょっと、がっつき……んぅ」 周囲の雑音にフィルタを掛け、音響センサーに指向性を与えれば、主の様子は手に取るように分かる。 いつしか男は主の胸だけ攻めるのをやめ、スカートをめくり上げたいようだった。既にスカートの下に穿いていたデニムは膝あたりまで下ろされて、主の足を束縛する役割しか果たせていない。 「……ひゃ……ぁぅ……っ!?」 ぬちゅり、という水音は、男の舌と少女の秘裂が繋がり合った音だろうか。 わざと音を立てることで、少女を辱めたいのだろう。男の立てる粘着質な音はやけに大きく、文字通り糸を曳くように粘っこい音だった。 「マスター……」 記憶の中から、最後に主の自慰を手伝ったときの記憶を呼び出してみる。ごく浅いところにあったそれは、まだそれほど圧縮されておらず、ほとんど劣化も見られなかった。 その時の水音を取り出して、波形を重ね合わせてみた。 違和感の残る重い音は、男の唾液が粘る音だろう。だが、程良く重なる浅い音は……疑う余地無く、少女のものだ。 「うぅ……んふ、んぅ………や、あぁ……音、そんな、立て……な………」 男の頭に隠されて、舐められている少女の秘裂がどうなっているかを確かめる術はない。あたりに響く水音と、惚けてよだれを垂れ流す少女の表情から類推するのが精一杯だ。 けれど、常に少女の傍らにある小さな少女が、それを予想する事は……さして難しいことでもなかった。 「……感じ……て?」 漏らす声は、彼女が主と睦み合う時の声と、同じ質。 立てる水音は、彼女が主を責め立てる時と、同じ音。 そして拒絶は、もっと欲しいという言葉の、裏返し。 膣口を震わせ、愛液を垂れ流し、淫らな声をたっぷりと吐き出して、小さな少女と揃って絶頂を迎えるときの……あの感じ。 「マス……ター………」 やがて少女の肢体の上に、男の体躯がゆっくりとのしかかっていく。それを拒む弱々しい声も、小さな彼女には男の気を引くための罠にしか聞こえない。 「ん、んむぅぅ……んちゅ、んっ、んぅぅ………っ」 くぐもった吐息は、少女の唇が奪われた音だろう。 股間から溢れる水音は、男の腰が少女の濡れそぼった処に押し当てられた音だろう。 そして、もっと近くから聞こえる小さな水音は。 「んぅ……マスタ………ぁ……」 小さな少女が、己の股間に指を触れ合わせる音。 主の秘裂が白濁に汚れた肉棒に擦り立てられ、喘ぎの声が漏れると同時。小さな少女も己の股間の感度を最大まで引き上げて、小さな喘ぎの声を漏らす。 「は……あぁ…ん……こ、らぁ………キス、は……ぁ……別、料き……んぅぅ……っ!?」 からん、という金属片が落ちた音は、最大にされたフィルタに遮られ、落とした本人にさえ聞こえることはない。 「ますた……ますたぁ…………っ!」 主の口内を這い回る男の舌は、左の指。歯の裏側を舐め上げて、己の舌に絡みつき、喉の奥までねぶろうとする。 主の秘裂を擦り立てる男の肉棒は、右の指。激しくも抵抗感のない軽めの摩擦音は、まだ入口だけを攻めている証だ。男の音に重なるように、触れただけで甘く痺れる平らな股間をわざと手荒に擦り立てる。 「ひゃ……ぁぅ……ぁ……ぁぁあぁぁぁぁあっっ!」 視界を自動警戒に任せ、全ての意識を指と股間、唇と喘ぎに集中させた。黒い影に覆われて、唇を奪われ、秘裂の入口だけを徹底的に蹂躙されるイメージが、心の中で重なり合う。 「や……やぁ……っ!」 焦点を失い、涙でぼやけた視線は、もはや何も見てはいない。 「……も……と……奥、ぅ……っ」 ただカラダの内だけが狂おしいほどに熱く燃え上がり、満ち足りないという悲鳴を上げ続ける。 「れ……てぇ……っ」 こする指を挿れるのは簡単だ。女性の性器はないけれど、感覚の昂ぶった今の状態で関節の継ぎ目に指先を押し込めば、挿入された以上の快楽を得ることが出来る。 けれど、それはしない。できるはずがない。 今の少女は少女と一体。少女がしていないことを、少女が出来るはずもない。 「入れて……っ! おちんちん、入れて……ぇっ!」 だから、少女は必死に声を上げ。 「あぁぁ……っ! あ、あぁぁ……っ! あぁぁぁぁぁぁぁあぁああっぁぁぁぁあぁっぁっっっっっ!」 満ち足りたその瞬間を、少女と一緒に迎えるのだ。 ○ 「…………ねぇ」 コンクリートの地面に横たわったまま、少女はぽつりと呟いた。 「………はい」 答えるのは、十五センチの小さな少女。 主の傍らに来たところで力尽き、今は少女の秘裂に背中を預け、力なく息を吐いている。 「ん……。ど…して、止めな……かった…の?」 少女が言葉を放つたび、たっぷりの精を呑み込まされた股間は疼き、ごぼりと濁液を溢れさせる。垂れ流されたそれは直下にある小さな少女を容赦なく穢していくのだが、少女たちには姿勢を変えるだけの体力など残されているはずもない。 「……バッテリが、限界で……」 頭を、顔を、胸元を。 主の秘裂から滴る白い精がドロドロにしていくが……少女に抵抗する術はない。いくらかは口の中に流れ落ち、お腹に溜まっていく感触も伝わって来ていたが、それもされるがままになっていた。 「そうじゃ……んぅ、なくて……ぇ…」 呟く少女も、男の精に覆い尽くされている。暴力を受けてはないし、服も破られてはいないが……顔も髪も、胸元も、スカートやショーツの内側さえも、たぎる肉棒から放たれた欲望に白く犯し尽くされていた。 男は既にこの場には居ない。 逃げたのではない。少女が、帰したのだ。 「……ん……ぅ………」 残った力を振り絞り、少女は胸元に手を伸ばす。 白濁の溜まった谷間に無造作に挟み込まれているのは、四つに折られた紙の束。 プラスチック紙幣だ。 「……なによぉ。ちゃんと……ある…じゃない」 それは電話口で提示した額ではなく、この場で少女が示した言い値だった。男は不平を口にせず、ましてや小さな少女に脅迫される事もなく、正直に少女の提示した価格に従ったのである。 二人の少女が動けない今、一円も払わずに逃げる事さえ余裕だったというのに、だ。 「……何…これ」 そして、紙幣の間からこぼれ落ちる、小さな紙片。 「『程々にしとけ』……って、なによぉ……」 書かれているのはそのひと言と、男の名前と電話番号。捨てアカウントで取ったネット電話のIDではない。携帯でも、IP電話ですらもない。 060から始まる、FMC番号だ。 「マスター……。お掃除、しましょうか………?」 ようやく動けるだけの力が戻ったのだろう。粘液の海からゆっくりと身を起こし、小さな少女は白濁まみれの唇から言葉を絞り出した。 「…………いい」 だが、少女の口から漏れたのは、意外な言葉。 「……はい?」 避妊の薬は処方通りに飲んでいるし、それ以外の手段もいくつも対処済みだ。進歩したその薬や幾つもの方法は、まさかの可能性を限りなくゼロに近付けてくれている。 けれど、その可能性は近いというだけ。確実にゼロではない。 「…………いいの! それより、さっきの答え……聞いて…ないわよ」 少女はそこで話題を断ち切り。 こちらも粘液まみれの半身を引き起こし、股間の少女を恨めしげに見遣ってみせた。 「…………だって、マスター」 少女が無理矢理に襲われたとき。 相手が支払いを渋ったとき。 そんなとき、小さな少女は手元の刃を男の喉に突き付けるはずだった。 無論、アシモフ・プロテクトが掛けられたままの小さな少女に、本当に刃を突き付けられるはずがない。 金属板も本当はただの製図用のテンプレートなのだが……顔の真横は人間の死角。触れる鋼の冷たさは、刃と思わせるに十分なもの。 だった、はずなのに。 「……なによぉ」 白濁にまみれた相棒の顔を指先で拭ってやりながら、少女は口をとがらせてみせる。 指先に絡み付いた精をどうしようか、ほんの少しだけ迷ったが……ついでとばかりに、舌先で舐め取ってやった。いつもなら苦くてえぐいだけのそれが、不思議と今日は不快ではない。 その様子を、精の滴る前髪の奥から静かに見上げながら。 「マスター……気持ちよさそう、だったんですもの」 小さな少女は、ぽつりとそう呟いたのだった。 戻る/トップ/続く
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NORMAL HYPER EX Level 3 5 7 Objects 159 253 335 BPM 157 Artist 中山真斗(Elements Garden) feat.桜川めぐ 楽曲概要 AC版ポップンの収録はACSP。ジャンル名は「サイバーシンフォニックポップ」。 解禁方法 「beatmaniaIIDXパック3」を購入する。 動画 攻略 各難易度ごとに[N]・[H]・[EX]で区別して記入してください [EX]全体的にレベル7としては普通。イントロの直後の配置は、付点8分のリズムになっている。 -- 名無しさん (2014-12-20 01 36 02) 名前 コメント コメント(感想など) 名前 コメント
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しおがゲストルームを出て行って二十分ほど経った。 入れ替わりに死柄木が戻ってきて、部屋の中にはデンジと死柄木のみとなる。 当たり前だがそこに会話なんてあるわけもない。 デンジと死柄木とでは性格もノリもまるで違う。 デンジから見る死柄木は暗くて陰気な奴という印象だったし。 一方で死柄木から見るデンジは気の抜けた馬鹿に写っていた。 お互いにシンパシーを感じ合うようなこともない、心の中でなんとなくいけ好かなく思っている間柄。 そんな二人が緩衝材を挟むことなく同じ部屋に居合わせたならどうなるか。 「……」 「……」 会話などあるはずもない。 デンジはアニメ番組をぼ〜っと見つめている。 死柄木は何をするでもなくソファに背を委ねて黙っている。 “……気まずいな……” これがもしも本当に何の関係もない相手だったらなんということもなかった。 だが死柄木はそもそもデンジ達の敵なのだ。 それがどういうわけか手を結んで、一時的に同じ釜の飯を食っている。 “苦手なんだよなあコイツ。な〜んか合わねえんだ” 死柄木が常に放つ鬱屈としたもの。 そのいわば負のオーラとでも呼ぶべきものがデンジはどうも苦手だった。 そんな相手と二人きり、男同士で放置されて。 気を紛らわそうにもこの時間帯のテレビアニメはお行儀のいいものばっかりで、ないよりはマシだがデンジの感性にはどうも合わない。 「つーかお前、いいのかよ」 「あ……? 何がだよ」 「お前と俺らは敵同士だろ? 敵のサーヴァントと二人きりってのは普通危ないと思うもんなんじゃねえの?」 我ながら尤もな言い分だとデンジは思う。 今の状況は例えるならば同じケージの中でハムスターと大蛇が同居しているみたいなものだ。 しかし死柄木はいつも通りの陰気な面構えのまま、鼻で笑うようなことすらせずに答えた。 「そんな精力的なタイプには見えねえよ。少なくともお前はな」 「……あっそ」 認めるのは癪だが、正直なところそれは図星だった。 デンジ自身自覚している。 自分はこの聖杯戦争という儀式に、今ひとつモチベーションを持てていない。 「お前本当にやる気あんのか?」 「あぁ? 何だよ藪から棒に」 「別に。あのガキのサーヴァントにしちゃ無欲な奴だと思っただけだよ」 無欲。 無欲、か。 デンジはその言葉を反芻し、眉間に皺を寄せて腕組みをした。 デンジは少なくとも無欲な人間ではない、筈だ。 生前の話を俎上に載せるのは不適当かもしれないが、デビルハンターとして戦っていた動機も不純そのものだった。 今だって、聖杯を手に入れた暁には受肉して現世に蘇り酒池肉林の限りを尽くそうと志しているほどだ。 つまり死柄木が口にしたデンジに対する人物評は本来であれば的外れなものということになる。 あくまで本来であれば、だが。 “あぁ……。コイツ、しおとのことを言ってんのか” デンジも此処で彼の言葉の理由を理解した。 先刻彼がしおにうっかり本音を溢した場に彼はいなかったが、だとすればその前から察されていたのだろう。 別に踏み込まれるのが嫌というわけではないがやはりいい気はしない。 「爺さんと乳繰り合うのが嫌だからって八つ当たりすんなよ。こっちはいい迷惑だぜ」 「お前のマスターはその爺さんと組めてた方が幸せだったろうけどな」 いけ好かねえ奴だとは思っていたが、やっぱりこいつとは合わない。 刺々しい会話を交わし合いながらデンジは改めてそう思った。 ただその言葉は思いの外深くデンジの心に響いた。 しおにとって本当に必要だったサーヴァントは誰なのか。 柄にもなくそんなことに思考のリソースを割いてしまう辺り、それは彼自身どこかで考えていたことでもあるのだろう。 “まぁそりゃな。俺は馬鹿だし、別に強いサーヴァントでも多分ねぇし……” 死柄木のサーヴァント、モリアーティ。 あの策謀家がどれほど戦えるのかは分からない。 それでも相対的に見れば間違いなくデンジより優秀だろう。 しおの未熟さをカバーするのだってどう考えてもあっちに軍配が上がる筈だ。 そしてそれは何もモリアーティに限った話ではない。 この聖杯戦争を広く見渡したとしても、聖杯戦争に勝つのにもっと適したサーヴァントはごまんといよう。 “けど仕方ねぇだろ。ノれねえもんはノれねえんだから” デンジだって聖杯は欲しい。 その点でしおとデンジの利害は一致している。 優勝出来ればしおの願いは叶うし、デンジも念願の酒池肉林を叶えられる。 腰を重くする理由なんて普通に考えたらどこにもない。 “じゃあ……俺はなんでノれてねえんだ?” なのにどうしてこんなに腰と足が重いのか。 しおが自分の問題に向き合おうとするとうんざりした風な気持ちになるのか。 それはきっと、予選の間に散々のろけ話を聞かされたからというだけが理由じゃない筈だ。 “普段のアイツは嫌いじゃない。世間知らずなガキだとは思うけど、まぁ……いろいろ付き合ってくれるしな” そのしおが叶えたい願いがあるという。 好きな人がいるという。 ならサーヴァントとしてそのために戦うのが筋、そんなことは分かってる。 分かっているのだが。 “けど、アイツとそういう話はしたくねえ。なんつーか…違うんだよなぁ、そういうのは” 今のデンジにはまだそのもやもやを言語化出来ない。 だから言葉にしてこれ以上死柄木に言い返すことも不可能だった。 そんなデンジの胸中を知ってか知らないでか、死柄木は更に言う。 「聖杯が欲しいんなら真面目にやれよ。宝の持ち腐れだろ」 「宝ぁ? しおのことかよ、それ」 「アイツはイカれてる。下手すりゃ本当に聖杯に辿り着くぞ」 その言葉の重みがデンジには分からない。 二人の魔王に見初められた悪の風雲児をしてこう言わしめる"可能性"。 モリアーティが死柄木の対抗馬と呼んだことの重大さが浅学な彼には未だ分かっていなかった。 ただ前半の、アイツはイカれてる……というところにだけは同意出来たが。 「自覚しろよ、お前は勝ち馬に乗ってんだ。まぁ、最後には俺が殺すんだが」 「だから腐らず真面目にやれよってか? 見かけによらず親切なんだな」 「脳味噌膿んでんのか? 一時とはいえ俺達とお前らは一蓮托生だろうが。連合(ウチ)に腑抜けは要らねえって言ってんだ」 「爺さんにおんぶに抱っこのお前が言うかぁ? それをよ」 話せば話すほど分かる。 この男とは馬が合わない。 デンジも、そして死柄木もそう思う。 「お前も爺さんも、どんだけアイツのこと買い被ってんだよ」 「事実だろ。あんな目した奴がただのガキで済まされるなら世も末だぜ。小学校の道徳の時間は倍に増やした方がいい」 神戸しおはその小さな体の内側に大きな大きな狂気を飼っている。 その狂気は愛という名を持つ。 自分以外の何もかもを塗り潰さんとする大きすぎる感情の重力。 デンジも当然それは知っていた。 何度となく彼女の口から聞いてきたことだ。 さとちゃんへ向ける愛。 さとちゃんと一緒にビルの屋上から飛び降りて、しおは死で分かてないものがこの世にあることを知った。 知ってしまった。 そして彼女は、その時知った思いを胸に……もしくは手に。 この聖杯戦争を草の根一本残さず刈り取らんとしている。 「それが買い被りだってんだよ」 だがデンジはしおを怪物だとは思っていなかった。 彼女の狂気を一番間近で見ておきながら、当の彼だけが周りの評価に付いていけていない。 「……ただのガキだろ、アイツは」 吐き捨てるようにそう言ってそっぽを向く。 これ以上お前と話す気はないという意思表示だ。 死柄木は何か言いたげにしていたが、彼も言葉を重ねる意義がないと判断したのだろう。 それ以上は何も言わず、ソファの背もたれに身を投げ出してその視線をまた虚空に向けた。 性格も価値観も感性も何一つ合わないデンジと死柄木。 英霊と人間、二人の悪魔。 彼らの会話が終わったのをちょうど見計らったように、廊下の方からたたたた、という急ぎ足の足音が聞こえてきた。 「ただいまー!」 「おう、意外と遅かったな」 「うん。おじ――えむさんとのお話が長くなっちゃって。もしかして退屈だった?」 「別に。……ていうか何だよそのえむさんって」 「これからはこう呼ぶようにって言われたの。なんだかかわいい響きだよねぇ」 ぼふん、とデンジの隣に腰を下ろすしお。 それからややあってしおは小首を傾げた。 「もしかしてけんかしてる?」 「するかよ。こんな野郎にマジになってたら俺まで陰気になっちまう」 おえ、と舌を出して言うデンジ。 「……とむらくんは?」 「同じく。バカと話す慈善活動(ボランティア)に精を出す趣味はない」 やっぱりけんかしてる、と唇を尖らすしお。 子供というのは大人の想像以上に鋭い生き物だ。 彼女もデンジと死柄木の馬の合わなさには気付いていたのだろう。 「だめでしょー、けんかしたら。仲直りしてっ」 「してねえって言ってんだろ。……それより爺さんはなんて言ってたんだよ」 「あ、そうだった! あのね、おばさんに会いに行ってもいいって!」 マジかよ。 心の中でデンジは舌打ちをした。 顔には思いきり嫌そうな色が出てしまっていたが。 「おばさん達のお引っ越しに合わせて会いに行くんだって。らいだーくんにも伝えておくといいよー、ってえむさん言ってた」 「……話は分かったけどよ。何かあっても俺を恨むなよな」 「? どうしてらいだーくんを恨むの?」 「あぁ、いや。もういいわ」 とはいえマスターは彼女だ。 いくら顔見知りらしいとはいえ、流石のデンジも一人で会わせようという気にはならない。 ましてやあのバーサーカーの危険性もある。 願わくばモリアーティがしおの頼みを断ってくれればよかったのだが、こうなってはデンジも腹を括るしかなかった。 「ありがとうね、らいだーくん」 「何だよ改まって」 「だってらいだーくん、おばさんのこと嫌いなんでしょ?」 きょとんとした顔でまた首を傾げるしお。 それを聞いたデンジは言葉に詰まった。 「まあ……そうだけどよ」 あの狂った女のことは嫌いだ。 というより、純粋に近寄りたくない。 生理的な嫌悪感というやつがそこにはある。 ただ、乗り気になれない理由の最たる所はそれじゃなかった。 彼女としおが出逢えばきっと彼女達は愛の話を繰り広げるのだろう。 その場にいる自分のことなどほっぽり出して。 しおはまた、デンジの理解出来ない世界に一歩歩みを進めるに違いない。 ……それがどうにも嫌だった。 “なんて言えばいいんだ? この気持ち悪さ” もしもデンジが。 デビルハンターとして生き、支配の悪魔を殺したその一点にのみフォーカスを当てられて召喚されていなければ。 マキマの支配から抜け出て人としての生き方を始めた以降の記憶もある状態で呼ばれていたならば。 ひょっとするとその奇妙な感覚も、容易に言語化することが出来たのかもしれない。 「あの野郎の引っ越す時間ってことは、会いに行くのは夜か?」 「たぶんね。お日さまが沈んだ頃にでもえむさんが呼びに来るんじゃないかな」 「ならそれまでう〜んとダラダラしてハゲ社長の厚意を食い潰しとくぜ。しお、ポテチ開けるぞ」 いや。 今のデンジでもその答えに辿り着くこと自体は可能だろう。 辿り着くまでの道のりが遠いだけで、既にデンジは一度それを経験している。 「あ。死柄木お前は食うなよ。俺達のポテチだからな」 「お前がマスター以下のクソガキだってことはよく分かったよ」 「そういえば私、らいだーくんのこと年上って思ったことあんまりないなぁ」 ――友達が手の届かないところに行ってしまうのは、誰だって当たり前に嫌だ。 それまでで、それだけの話だった。 【豊島区・池袋/デトネラット本社ビル/一日目・夕方】 【神戸しお@ハッピーシュガーライフ】 [状態]:健康 [令呪]:残り三画 [装備]:なし [道具]:なし [所持金]:数千円程度 [思考・状況] 基本方針:さとちゃんとの、永遠のハッピーシュガーライフを目指す。 0:なかよくしなさい! 1:さとちゃんの叔母さんに会いに行く。 2:とむらくんとえむさん(モリアーティ)についてはとりあえず信用。えむさんといっしょにいれば賢くなれそう。 3:最後に戦うのは。とむらくんたちがいいな。 4:“お兄ちゃん”が、この先も生き延びたら―――。 ※デトネラット経由で松坂(鬼舞辻無惨)とのコンタクトを取ります。松坂家の新居の用意も兼ねて車や人員などの手配もして貰う予定です。 アーチャー(モリアーティ)が他にどの程度のサポートを用意しているかは後のリレーにお任せします。 【ライダー(デンジ)@チェンソーマン】 [状態]:健康 [装備]:なし [道具]:なし [所持金]:数万円(しおよりも多い) [思考・状況] 基本方針:サーヴァントとしての仕事をする。聖杯が手に入ったら女と美味い食い物に囲まれて幸せになりたい。 0:行きたくねえなぁ……。 1:しおと共にあの女(さとうの叔母)とまた会う? 2:死柄木とジジイ(モリアーティ)は現状信用していない。特に後者。とはいえ前者もいけ好かない。 【死柄木弔@僕のヒーローアカデミア】 [状態]:健康 [令呪]:残り三画 [装備]:なし [道具]:なし [所持金]:数万円程度 [思考・状況] 基本方針:界聖杯を手に入れ、全てをブッ壊す力を得る。 1:“舞台”が整う―――その時を待つ。 2:しおとの同盟は呑むが、最終的には“敵”として殺す。 3:ライダー(デンジ)は気に入らない。しおも災難だな。 ◆ ◆ ◆ 中央区某所の住宅街。 資産家や有名企業の関係者、果ては政治家などの富裕層が暮らす地区。 その中に紛れた一軒の豪邸の内で一人の男が画面を見つめていた。 木を隠すなら森の中の理屈で此処では豪邸であることこそが最適のカモフラージュになる。 そこに我が物顔で住まう彼は人間ではない。かつては鬼、今はサーヴァントと呼ばれる身だ。 人間としての今の名は松坂某。サーヴァントとしての真名は、鬼舞辻無惨。 全ての鬼種の始祖である無惨が今見ているのは、とあるSNSだった。 SNSなどという生前では考えられなかったハイテクノロジーにも今の無惨はしっかり順応を果たしている。 “…予想しなかった展開だな……” SNS上で話題になっている……というより。 完全に肖像権や基本的人権を無視され、現在進行形で最悪の危険人物として拡散されている人物がいる。 現代ではSNS炎上なんてものは毎日何かしらの形で起こる日常茶飯事だが、今回のそれは度を越していた。 何しろ炎上している張本人にかけられている容疑が容疑だ。 女性のみを狙って連続で襲撃事案を起こし、現在も逃走中の未成年。 それは世間の群衆の心を掴むには十分すぎる火種だった。 少年法に対して悪感情を抱く民衆が多いのも拡散のスピードに拍車をかけたのだろう。 本当か噓かは全く定かじゃないものの、今では巷を騒がす女性失踪事件の容疑者だという話すら出ている。 “付け込む隙が生まれたと言えなくもないが…。これだけ名が知れてしまった以上、不用意に抱え込むのは愚策か” 渦中の少年の名は、神戸あさひ。 その姓を見た瞬間に無惨はピンと来た。 こいつだ。こいつが、神戸しおの兄。 異常な愛情を抱く女達の物語に巻き込まれた哀れな少年。 無惨は当初彼を次の契約先として使おうと考えていた。 言わずもがなそれは、自分の狂ったマスターと縁を切るためだ。 “不愉快だ。私の考える方策が悉く頓挫していく” しかしそれも今となっては望みが薄くなった。 無惨は今のマスターのことを心底嫌悪しているが、だからと言って公共の敵として追われる立場になるのはもっと御免だ。 あさひが本当に襲撃犯なのかどうか、そこは重要ではない。 真実はどうあれ彼がこうして悪目立ちしてしまった以上は、無惨の次なる契約相手としての役割を果たすには役者不足も甚だしかった。 “私の期待を裏切った屑めが。どこぞで野垂れ死んでしまえ” ――だが無惨は気付かない。 気付ける筈もないが、彼は今とても正しい判断を下した。 あさひに取り入るのを諦めたのは彼らしくない慧眼だ。 今もしも彼が、多少のリスクを了承してでもあさひを手に入れようとしていたならば。 最悪彼は破滅へと続く階段をごろごろ転げ落ちていくことになりかねなかった。 何故なら今彼の傍には……鬼舞辻無惨がその生涯で唯一恐れた怪物の如き男が控えているのだから。 “……他人の癇癪に振り回されるというのは初めての経験だ。率直に腸が煮えくり返る” 今の無惨はまさに不快の絶頂だった。 あさひのこともそうだが、それ以上に彼を苛立たせているのは他でもない自身のマスターだ。 無欲なことだけが取り柄のような女だったのにも関わらず此処に来て彼女が主張を始めた。 松坂さとうとの再会。 そんな無惨に言わせれば糞以下のどうでもいい事柄に時間を割かねばならなくなった。 ただでさえ日中出歩けない無惨にとって夜は貴重な行動可能時間だというのに、あの女の腐った脳ではそれくらいのことも分からないらしい。 “早急に手を講じなければ…。もはやこれは好悪の問題を超えている……。 あの女は腫瘍のようなものだ。維持していればいるだけ私を蝕み奈落へ誘う。 マスターなど最悪私の血を注いで軟禁しておけばそれで事足りるのだから、選り好みする意味もない” 青筋を立てながら不機嫌そうに指先で机を叩く無惨。 渦巻く激情を誤魔化すようにコーヒーを一口呷った。 その時だ。無惨の携帯端末が着信音を鳴らす。 「次から次へと……」 表示された名前を見て思わず舌打ちをする無惨。 しかしこの相手に限っては反応しないわけにもいかない。 認めるのは業腹だが、無惨の聖杯戦争を明確に前へと進めてくれる貴重な相手だ。 早ければ今夜中にも切り捨てる腹だが、今はまだ利用の段階である。そう思って我慢をする。 『君の住居の手筈が付いたよ。日が沈み次第そちらへ向かう』 「貴様は要らん。迎えの者だけ寄越せ」 『私も当初はそのつもりだったのだがね。連合(こちら)の側に君のマスターと話したいという者がいるんだ』 「……神戸しおか」 『おや、聞いていたのか。ならば話は早い』 飄々とした物言いがこの上なく鼻につく。 今目の前に通話の主……Mがいたなら無惨は間違いなく殺しにかかっていただろう。 元を辿ればこのMさえいなければ、自分が他人の人間関係に振り回されることもなかった。 『そう不機嫌にならずともいいじゃあないか。これを機に君のところの難儀な彼女も、少しはやる気を出してくれるかもしれないだろう』 「要らん。あの女が発する言動の全てが私にとっては障害だ」 『……ウ〜ン、実際会った身からするといまいち否定しづらいネ!』 無惨は確かに気難しいの域を通り越した、ある種狂的ですらある自我(エゴ)の持ち主だ。 しかしこれについて彼の落ち度と責めるのは酷である。 今話の俎上に載っている女に召喚されたなら、大半の英霊は頭を抱えるか今の無惨のように苛立ちを露わにするだろう。 そしてそれは多分、M……ジェームズ・モリアーティをしても例外ではない筈だ。 尤も大袈裟でなく町一つを掌握出来る手腕を持つ彼に課すにはそれくらいのハンデでちょうどよかったかもしれないが……。 『まあとにかくだ。そういうことだから、苦労をかけるが彼女に話を通しておいてくれ』 「私が対面の場を利用して神戸しおを殺すとは考えないのか」 『させないさ。私を誰だと思っている?』 不愉快になって無惨は通話を切った。 千年に渡って身を隠し続け、自分の目的のため邁進してきた無惨にとって誰かの手の内で踊らねばならない状況というのは本当にストレスフルだ。 狂った要石を砕いて蜘蛛を殺し、これまで取り続けてきた遅れを取り戻さなければ。 感じる筈もない頭痛をすら覚えながら端末を置いた無惨の元に、まるで見計らったみたいにその女はやって来た。 「あのおじさまからのお電話?」 「……日没後、奴らが再び此処を訪れる。神戸しおも一緒とのことだ」 「まあ。……うふふ。しおちゃんかぁ、なんだかとても久しぶり。何を話そうかしら」 反吐が出る思いで視線を背けた。 松坂さとう。神戸しお。そしてこの狂ったマスター。 いずれも話に聞いた限りでは無惨にとっては嫌悪の対象でしかなかった。 「ありがとうね鬼舞辻くん。鬼舞辻くんのおかげで私、とてもわくわくしてるの」 「私に話しかけるな。吐き気がする」 人間を踏み台にし続け利用し続け、果てには英霊の座に登録されるまでに至った悪鬼・鬼舞辻無惨。 彼の所業を知る者が見たならなんて皮肉だとそう思うだろう。 鬼の首魁がこうまで人間に振り回され続けている。 人間にその命運の全てを握られている。 「しおちゃん。あの子の大切な人。ふふ。あの子は私に、どんな愛を見せてくれるのかしら」 ……これもまた。 鬼舞辻無惨という神でも仏でも救えなかった咎人に対しての因果応報なのかもしれない。 【中央区・豪邸/一日目・夕方】 【バーサーカー(鬼舞辻無惨)@鬼滅の刃】 [状態]:肉体的には健康、精神的には不快の絶頂 [装備]:なし [道具]:なし [所持金]:数億円(総資産) [思考・状況] 基本方針:界聖杯を用い、自身の悲願を果たす 0:日没を待つ 1:やむをえないが夜になったら、松坂さとうを探索する。死んでて欲しい。 2:『M』もといアーチャー達との停戦に一旦は合意する。ただし用が済めば必ず殺す。 3:マスター(さとうの叔母)への極めて激しい嫌悪と怒り。早く替えを見つけたい。 4:神戸あさひはもう使えない。何をやっているんだ貴様はふざけるなよ私の都合も考えろ 【本名不詳(さとうの叔母)@ハッピーシュガーライフ】 [状態]:健康、軟禁解除 [令呪]:残り3画 [装備]:なし [道具]:なし [所持金]:なし [思考・状況] 基本方針:いつもの通りに。ただ、愛を。――ああ、でも。 0:しおちゃん。ふふ、わくわくするわ! 1:夜になったらさとうちゃんを探す。 2:それはそうと鬼舞辻くん、夜に二人っきりってデートね。 ◆ ◆ ◆ 受話器を置く。 バーサーカーは相変わらず難儀な人物だったが、彼の抱える重荷を知ると少しは優しい目で見れるというものだ。 神戸しおの運命もとい"松坂さとう"の叔母。 あの女はモリアーティの目から見ても明らかに狂人だった。 いわゆる作戦に組み込めない……ことはないが出来れば組み込みたくない人種だ。 無惨とはまた別なベクトルで扱いにくい人種。 それがモリアーティが彼女に対して行ったプロファイリングの結果である。 「すまないね、話の腰を折ってしまった」 「お気になさらず。不躾な訪問をしたのは拙僧の方です故」 社長室、本来このデトネラットを統括する四ツ橋力也が居するべき場所。 そこで巨大なコンピュータの前に座ったモリアーティが振り向いた先にいたのは毒々しい何者かだった。 陰陽師を思わせる装束はしかし彼に清廉さも潔白さも約束しない。 あまりにも毒々しくて、それでいて禍々しい男であった。 彼のことを一目でも見た人間で彼に対して悪の印象を抱かない者はまず居まい。 「して。返答の方は如何に?」 「地獄界曼荼羅、だったかな。私の予想を数段は超えた計画だったよ。うん、正直面食らった」 「窮極の、でございます。そこが肝ですので」 男の真名は蘆屋道満。 もしくはアルターエゴ・リンボ。 この東京を文字通りの地獄に変えようとしている大悪である。 「そもそも君、真っ当なサーヴァントではないネ? 善悪の話じゃなく構造の話だ」 「はてさて。何のことやら分かりませぬな」 「普通のサーヴァントはね、こんな馬鹿みたいな話を大真面目に語ったりしないんだよ」 地獄界曼荼羅。 もとい、窮極の地獄界曼荼羅。 アビゲイル・ウィリアムズなる降臨者を使い聖杯戦争を終わらせる計画。 その行き着く果ては界聖杯すら通過点にした羽化、空想樹としての変容。 皆が血眼になって求める願望器をたかだか苗床程度にしか考えないその発想にはさしものモリアーティも驚いた。 だが……。 「結論から言うと協力は出来ない。というより、協力する意味がない」 「これはまた手厳しい」 「予想通り、なんて顔をして言うセリフではないね」 リンボがモリアーティの前に現れた理由。 地獄を築くための協力要請。 それはモリアーティにとって到底受け入れられる話ではなかった。 というか言葉を選ばずに言うなら、論外の話だった。 リンボは界聖杯を求めていない。 一方でモリアーティは曲がりなりにも界聖杯を求めている。 そこの違いが彼らに安易な結託を許さない。 リンボの計画がもし万が一にでも成功してしまったなら、その時絶望的な状況に立たされることになるのはモリアーティ達も同じだ。 であれば当然、手放しにこんな話に飛びつく道理はない。 「交渉相手を間違えたのが君の失敗だ。敵に塩を送るようだが、この手の話を伝えるならもっと後先を顧みない人間にするべきだった」 現代で言うところの無敵の人。 一時の衝動のままに未来を捨てられる、もしくは未来がそもそもない人間。 そんな人間であればきっと、目を輝かせて地獄界曼荼羅の礎になってくれたろう。 「そういう御方ならば既に一人確保しております。よってご心配は無用」 「おっと。思いの外抜かりないね」 「ンンン、そこはそれ。――ところで、話はそれで終わりですかな?」 「と、いうと?」 「恍けるようなお歳でもありますまい。分かっているでしょう、此処で断ればどうなるかなど」 リンボの指摘は正解だった。 此処で話を蹴れば、モリアーティは一方的にリンボから拠点を知られることになる。 それは旨くない。 陰謀を武器にする蜘蛛にとって巣を直接叩かれるのは最悪の展開だ。 そして、そのことにすら思い当たれないほどモリアーティは耄碌しているのか。 答えは当然否。モリアーティの眼鏡が、北欧にあっては叡智の結晶と称されたそれが妖しく光る。 「察しがいいネリンボ君。しかしせっかちなのは良くないぞ、今からそこを語ろうと思っていたところだ。 まず改めて言っておくが、我々敵連合は君の計画に関与しない。状況にもよるが、まぁ無駄な期待はしないが吉だ」 「……」 「だが敵対もしない。連合(われわれ)は君に対して"静観"だ」 「ふむ」 「それが利になるなら背中を押そう。しかし邪魔はしない。どうぞやりたいようにやり給え、私も君の描く地獄が現出した未来には興味がある」 リンボが窮極の地獄界曼荼羅を本当に完成させたなら確かにそれはモリアーティ及び彼の後ろに続く連合の面々にとっては窮地だろう。 しかし彼が描かんとする絵図。 その完成までの過程で起こるだろう争いと生まれる犠牲の数は、むしろモリアーティ達の利になる。 そも、連合の弱点とは何か。 モリアーティもデンジもそうだが、現状の連合はそう強大な戦力というものを持っていない。 なればこそ勝つためには他の陣営、特に抜きん出た強者たちの消耗が必要不可欠だ。 その削りの手段としてリンボの無茶苦茶な暗躍は実に理に適っている。 積極的な賛同は出来ずとも、"敵対しない"ことでやんわりと背中を押してやるには十分な旨みのある話だった。 「君が頓挫したなら。もしくは成功したなら。いずれにせよ、君の野望が行き着くところに行き着いたなら」 モリアーティは四ツ橋が出してくれたウイスキーを一口含んで笑った。 英霊に酔いなどというものは基本ないが、それでも良い酒というものは気分を良くしてくれる。 「話はまたその時だ。手を取ってあげるのも、刃を向けるのも……ね」 「――ンンンン。これはこれは……参りましたな。どうも拙僧はとんだ古狸に儲け話を持ちかけてしまったらしい」 「君に言われたくはないなァ。そのおぞましい霊基、一体どんな外法に手を出したのやら」 「いつだとて一番恐ろしいのは生きている人間と申しましょう」 「それは本当に怖いものを知らない者のセリフだよ、蘆屋道満君。 ああいや……こうして真名を突きつけてやることも、君に対しては然程意味はないのかな?」 「その通り。この身は既に、斯様な一僧の領分をとうに超えておりまするので」 悪の陰陽師。 そう聞いて真っ先に浮かぶ真名は一つだ。 モリアーティもほぼ山勘で投げただけの言葉だったが、リンボは粘つく笑みを浮かべあっさり頷いた。 「実のところ。敵に回る可能性があるのならば、一つこの居城へ手頃な呪いでもばら撒いて帰るつもりだったのですが」 リンボは神出鬼没の存在だ。 本体を潜伏させ式神で町を探り回る怪異の先駆けだ。 そんな彼がどのようにしてモリアーティの、ひいては連合の居城を突き止めたかなどは問題ではない。 重要なのは形も向きも異なる二人の悪が邂逅したその結果である。 「……いいでしょう。邪魔されないだけでよしとします」 「ところで君、先程こう言っていたね。此処に来る前に一人マスターの勧誘を行ったと」 このように、リンボとモリアーティは敵対しなかった。 モリアーティは地獄界曼荼羅の構想を積極的に支持はしないが邪魔もしない。 行動を起こすとすればそれが自分達に与える不利益が看過出来ない次元に達した時か、その逆。 そして……地獄界曼荼羅が完全に成った後である。 とはいえ、そこに例外がないわけでもなかった。 重ねて言うが、モリアーティも決してリンボの話に興味がないわけではないのだ。 聖杯戦争の進行上の観点から見た場合でも、そして個人的な怖いもの見たさの観点からも。 悪の陰陽師がその裡に思い描く地獄篇の形に興味がないと言えばそれは嘘になる。 「典型的な凡愚、社会への鬱屈、破滅的な非日常への渇望……」 「おやおや。彼に興味がおありで? お言葉ながら貴殿の眼鏡に適うような男ではありませんでしたが」 「どんな英霊を従えているのかにもよるがね、話に聞いた限りでは実に連合(うち)向きの人材だと思ったよ。 私の教え子(マスター)に会わせてみたい。ひょっとすると大きく化けるかもしれない」 次に会うことがあれば私の連絡先を渡しておいてくれ。 そう言って紙片を一枚手渡すとリンボは「物好きですな」と嗤った。 それに対しモリアーティも嗤う。 「人間の可能性をそう馬鹿にするものではないよ。 それに君の波長(いろ)を見れば察しは付く。 一度は痛い目を見たことのある口だろう? 私と同じでね」 「悪事とはうまく運ばぬもの。えぇ、それはもう何度となく痛感して来ましたとも」 どちらも積極的に言及することはしないが。 犯罪教授も美しき肉食獣も、自分の命運全てを懸けた野望を一人の少女に砕かれている。 そして彼らはお互いに目の前の男が自分と同じであることを直感していた。 星の輝きに破られた敗北者達の第二幕。 彼らにとっての聖杯戦争はひとえにそれなのだ。 「ご忠告痛み入ります。当分は胸に留めておきましょう」 紙片を僧衣の内に仕舞い。 リンボの輪郭が陽炎のように薄れていく。 別れの言葉を交わし合うほど親しい間柄でもない。 リンボが自分達の居城から消えたのを確認してから、モリアーティは小さく息を吐いた。 「やれやれ。生きた心地がしないネ全く」 ……危なかったとこの老紳士にしては珍しく胸を撫で下ろした。 連合を造った黒幕であるモリアーティには分かるが、自分達の状況は実のところそれなりに薄氷である。 もう一度言うが、今の連合は戦力面では烏合の衆と呼ぶ他ない状態だ。 デンジは良くも悪くも平均的で死柄木弔はまだ未完成。 しおは論外で、自分もそれなりに戦えはするがそれでも一軍級のサーヴァントとやり合うとなれば不安が残る。 そんな発展途上の悪の組織に押しかけてくる相手としては、あのリンボは正直十分に戦力過多だった。 “綱渡りだったが、しかし結果的には我々の利になった。心臓の痛みを堪えながら詭弁を弄した甲斐があったな” しかしそこは流石のモリアーティ。 都を恐怖の底に落とした蘆屋道満に決して劣らぬ悪の親玉。 彼はリンボとの敵対という目前の危機を正しく認識しつつ、その上でリンボを自分達に利する可能性のある原石に変えた。 その上、接触したいマスターの候補まで新たに見出だせたのだ。 リンボが動いてくれることが前提になるものの、もしもまだ見ぬ"彼"が連絡先を辿ってきたならその時は前向きに検討したいところだった。 凡人と聞けば聞こえは悪いが、彼らが非日常に対して抱く歪んだ開拓心と爆発力は時に侮れないものがある。 モリアーティはそれを経験上知っていた。 何度となく道具として使ってきた身であるから。 「さて。後は……」 彼がそう呟いた時、社長室の扉がノックされた。 数瞬あって扉の向こうから現れたのはこの部屋の本来の持ち主だ。 四ツ橋力也。デトネラット社長にしてジェームズ・モリアーティの最大の支持者。 「失礼します、M。スケプティックから連絡がありました」 「ほう」 近属友保。 コードネームは"スケプティック"。 上場企業として知られる大手IT、Feel Good Inc.の代表取締役を務める若き天才。 彼もまたモリアーティのシンパの一人だ。 この世界の真実を知らされ、しかし絶望せず解放の未来を希求する道を選んだ人間。 「貴方様の目していたターゲット。星野アイにトランペットを接触させるとのことです」 「彼がそう決めたのなら、それなりの根拠が持てたのだろう。私は特に意見しない。彼に任せよう」 「は、承知しました。ではそのように伝えます」 「便利なものだね。監視カメラ、各種サーバー、…そしてカーナビゲーションシステム。 彼の監視の目は現代社会のありとあらゆる場所に潜んでいる。私の生きていた時代にはなかった反則技だ。 まぁ首尾よく彼女達を懐柔出来た場合は、禪院君にもしっかりと話を通さねばならないだろうが……」 モリアーティはヴィラン連合を造った黒幕だ。 だからこそ彼は連合の強さも弱さも知り尽くしている。 今の連合に一番必要なものは人員。そして戦力。 今はまだ事を起こし、聖杯戦争を制するために動くべき場面ではない。 今は――烏合の衆を軍団(レギオン)にまで鍛え上げる勧誘(スカウト)の段階だ。 しかしアイを引き入れるとなれば禪院との折衷という問題も出てこよう。 リスクとリターンを慎重に見極めて最大利益を叩き出す必要がある。 当然、並大抵の難易度ではない。しかし彼は犯罪の操り手。 犯罪卿(ジェームズ・モリアーティ)――なのだ。 「では面接の準備をしておこう。ますます忙しくなりそうだ」 嬉しい悲鳴だネ。 眼鏡の後ろに不敵な眼光を光らせてモリアーティは言った。 大蜘蛛は卵嚢の生成に勤しむ。 いずれ来る孵化の時を見据えて。 悪の旋律は、爛々と演奏開始の時を待っている。 【アーチャー(ジェームズ・モリアーティ)@Fate/Grand Order】 [状態]:健康 [装備]:超過剰武装多目的棺桶『ライヘンバッハ』@Fate/Grand Order [道具]:なし? [所持金]:なし [思考・状況] 基本方針:死柄木弔の"完成"を見届ける。 0:当面は大きくは動かず、盤面を整えることに集中。死柄木弔が戦う“舞台”を作る。 1:蜘蛛は卵を産み育てるもの。連合の戦力充実に注力。 2:禪院(伏黒甚爾)に『283プロダクション周辺への本格的な調査』を打診。必要ならば人材なども提供するし、準備が整えば攻勢に出ることも辞さない。 3:しお君とライダー(デンジ)は面白い。マスターの良い競争相手になるかもしれない。 4:"もう一匹の蜘蛛”に対する警戒と興味。真名が『モリアーティ』ではないかという疑念。 5:リンボと接触したマスター(田中一)を連合に勧誘したい。彼の飢えは連合(我々)向きだ。 [備考] ※デトネラット社代表取締役社長、四ツ橋力也はモリアーティの傘下です。 デトネラットの他にも心求党、Feel Good Inc.、集瑛社(いずれも、@僕のヒーローアカデミア)などの団体が彼に掌握されています。 ※禪院(伏黒甚爾)と協調した四ツ橋力也を通じて283プロダクションの動きをある程度把握していました。 ※283プロダクションの陰に何者かが潜んでいることを確信しました。 ※アルターエゴ・リンボ(蘆屋道満)から"窮極の地獄界曼荼羅"の概要を聞きました。また彼の真名も知りました。 アラフィフ「これ先に知れて本当によかったなァ〜…(クソデカ溜め息)」 ◆ ◆ ◆ 星野アイが取った選択肢は一度事務所に戻るというものだった。 その他にも取れる選択肢はいろいろあった。 真乃達に連絡を取る、それか接触する。 もう少し空魚に対して自分達の価値を売り込むのも手ではあっただろう。 だが何事も急ぎすぎては空回りするものだ。 アイは慌てず騒がずそして逸らず、芸能人としての責務(ロール)を果たすことを選んだ。 「ただいまー」 「アイ! お前どこほっつき歩いてた! 大変なことになってんだぞ今!」 「ごめんごめん。でも板橋の方には近寄ってないから、特に危ないこととかはなかったよ」 事務所に戻るなり社長が仁王像の如く眉間にシワを寄せてどやしつけてくる。 とはいえ予想できていた展開なので特に面食らうこともなく、いつものように受け流した。 そも、彼が心配するのも当然なのだ。 アイが外出している間に起きた板橋の大破壊。 SNSを現在進行形で炎上させている連続襲撃犯の少年。 自分の事務所の看板といってもいいアイドルが(運転手同伴とはいえ)好き勝手出歩くには、今日の東京は少々物騒すぎた。 「それに殺島さんがいるから大丈夫でしょ。あの人結構頼りになるよ?」 「あんな経歴不明の怪しい男、お前のたっての希望じゃなかったら絶対使ってないからな?」 「ま、そこは企業秘密ってことで」 「企業を持ってるのは俺なんだけど」 板橋の惨状を移動中に知った時は流石のアイも驚いた。 事件それ自体は然程の衝撃ではなかったが、問題は悲惨な報せの裏で拡散されているとある画像にあった。 爆心地となった住宅地の上空に漂う青く巨大な龍。 間違いなくサーヴァントだろうとすぐに分かったが、問題はそのサイズだ。 数百メートル、いや全長ならばそれ以上かもしれない……それほどの大きさ。 あんな奴までこの聖杯戦争に参戦していたのかと驚かずにはいられなかった。 が……少なくとも今のところは、アイにとっては他人事だ。 “化け物のペースに合わせたって仕方ないもんね。あくまで自分達のペースでじゃないと” アイドルとしてのアイは神をも恐れぬ一番星だが。 聖杯戦争のマスターとしてのアイはちゃんと身の程を弁えている。 アイもそしてそのサーヴァントである殺島飛露鬼も認めるところだ。 自分達は――弱い。この聖杯戦争において間違いなく下から数えたほうが早い弱小であることは。 “別に戦って勝たなくてもいい。最後に勝てばそれでいい。名誉の戦死とか、ぶっちゃけ負け犬の自己満足でしょ” 目指すのは優勝、そして界聖杯の確保だ。 であればその過程はどれだけ狡猾でも卑怯でも構わない。 そう弁えているからアイに焦りはなかった。 敵が強いのなら賢く立ち回って避ければいいのだ。 そうすればどんなに強くて恐ろしい敵だろうと、アイ達の敵を蹴散らす露払いに早変わりしてくれる。 “まぁでも、それにしたって今の状態じゃまだちょっと心細いけど” “そうだな。アサシンの野郎がオレの不義理を水に流してくれたとしても、もう少し後ろ盾は欲しいとこだ” 目の前の社長の説教を聞き流しながら念話を交わすアイと殺島。 神戸あさひが関わるだけで損をする相手になってしまったことで彼女達の展望も多少変わった。 紙越空魚の重要性は増したし、万一に備えて彼女や真乃以外に頼れる相手のコネを新たに結びたいところだ。 そう考えているアイの心中を知るわけもない苺プロの社長。 しかし次に彼が言った言葉は、アイ達のあまり見通しのよくない先行きに一筋の光明をくれた。 「あぁ、それとだ。もうすぐこの事務所に政治家の先生が来る」 「なんで? 汚職? 枕?」 「違うわバカ。選挙が近いからな。広報役にウチのアイドルを使いたいんだと」 「結構ド直球な癒着じゃん」 政治ネタなんてオタクが嫌がる代名詞だろうに。 アイは社長の銭ゲバ根性に結構本気で引いた目を向けた。 すると彼もそれに気付き、「そんな目で見るな!」と鋭く突っ込む。 「いらっしゃったらお前も一応挨拶くらいはしてくれ。近年で議席を急激に増やしてる、今トレンドな心求党のトップなんだから」 「うさんくさ。まぁ私選挙とか一回も行ったことないけどさ」 とはいえ確かに苺プロといえば、の段階にあるアイが出迎えるのと出迎えないのとでは向こうの心証も大違いだろう。 自分の世界の彼でないとはいえ顔くらいは立ててやるかとアイはなけなしの慈悲を示すことにした。 心求党。政治に疎いアイは名前を聞いたことはなかったが、件の党はいわゆるポピュリズムを武器にして支持を伸ばした政党である。 主に党首、花畑孔腔のカリスマ性と口の上手さで成り上がった団体だ。 このままこの世界が続けば数年後には最大野党になってもおかしくない新進気鋭の軍団。 もっともこの世界の滅亡は生まれたその瞬間から既に確定しているため、特段その将来性に意味はない……本来なら。 事務所で待つこと数分。 インターホンの音が鳴り、社長が慌ただしく出て行ったのを見てアイは件の政治家が訪問してきたのを察した。 アイはアイドルとしての活動以外にはとことん興味を示さない女だ。 だから政治沙汰には疎いし、心求党などという政党の名前にはさっぱり聞き覚えがなかった。 だがその陥穽をごくごく自然に隠し通すことなど根っからのアイドルであるアイにしてみればお手の物。 社長の面子を保つためにもアイドルとしての表情を作り、やって来た心求党党首の前に出ていった――そして。 都民の人心を誘蛾灯のように引きつけるカリスマ政治家、花畑孔腔は……星野アイの姿を視界に収めるなり慇懃に一礼して、言った。 「お迎えに上がりました。星野アイさん」 「…………はい?」 「おっと…。不躾な言動をしてしまいました、どうかお許しを。 社長さんから聞いていると思いますが……私は花畑という者です。政党"心求党"の党首を務めさせていただいております」 「…えっと。その党首さんが、私に何の用ですか?」 「ははは。恍けるのはいかがなものかと。既に分かっておられるでしょうに」 「……ふーん」 え? 何? 知り合い? とキョドっている社長をよそにアイは納得したように頷いた。 どういう手段で突き止めたのかは分からないが、この言動からしてそういうことなのだろう。 まさかこの苺プロを直接訪ねてくるような手合いがいるとは思わなかったが。 「花畑さん、マスターじゃないよね。誰の指示で私に会いに来たのか聞いたら答えてくれる?」 「"M"とだけ。とはいえ貴方も既に存在は知っている御仁だと思いますが」 「…なるほどね。こっちから探すまでもなかったか」 Mという名前、そして記号に聞き覚えはない。 だが存在は知っている筈だという物言いで察しがついた。 それはアイの方からどうにかして接触したいと考えていた相手。 空魚のサーヴァント、アサシンの言っていた協力者。 十中八九そうだろうなと当たりを付けてアイは花畑を見据えて話す。 相手が政治家だろうがなんだろうが、此処で気圧されるアイではなかった。 「こっちから聞くのもなんだけど、いいの? アサシンは怒るんじゃない? あの人、私達に不信感持ってるみたいだったし」 「Mは当然想定の上ですよ。彼の思考は常に我々の数段先にある。彼の身を案ずることは彼に対する一番の非礼です」 「ふぅん。なら、今はそれを信じてみようかな」 手間が省けた。 神戸あさひをあれほどの短時間で詰ませた人物。 それほどの社会的権力を持つ人物。"M"と呼ばれる男。 手探りで探すしかなかった彼へのパイプを予期せず手に入れたアイに、それを捨てる理由など当然なかった。 「ところでどうやって私のことを突き止めたの? 自分で言うのもなんだけど、ボロは出してなかったと思うんだけど」 「近頃の電化製品には中に盗聴の設備が埋め込まれていることがある。勿論違法ですがね」 「うわぁひっどいやり口。そっかー…それはちょっと考えてなかった手だな……」 事実上の答え合わせだ。 大方アイの乗っていた車に使われていたカーナビがそういうことを仕出かす会社製のものだったのだろう。 まだ不透明な部分の多い相手だとはいえ、彼らが積極的に自分達を潰しに来る手合いでなくてよかった。 “ねぇライダー。この人ただのNPCだよね?” “ああ、間違いない。魔力を全く感じねぇ” 霊体化しているライダーに念話で訊くとやはり予想通りの答えだった。 “神戸あさひを潰したのだって馬鹿なNPCを焚きつけてやったことだろ。 NPCに情報を与えることである程度動きの方向(むき)を操作できるってんなら、まぁ当然忠実な手駒(イヌ)にすることも出来るってことだ” “…盲点だった。なるほどね……確かにそれが出来るなら、理屈の上ではどこまでも自分達の戦力を増やしていけるのか” “オレも似たようなことは出来るが、いいとこ使い捨ての特攻隊(カミカゼ)もどきを作るくらいが限度だな” やはり只者じゃないぜ、奴さん。 苦笑交じりの念話にアイも同意する。 初めてその働きを認知した時から思っていたことだが、東京を裏で操る黒幕じみたサーヴァントにはやはり一度接触しておくべきだ。 そうでなければ最悪、取り返しの付かない状況に追い込まれてから後悔することになりかねない。 彼らを自分の与り知らないところで敵に回し潰された神戸あさひのように。 「あ、アイ…お前さっきから何を話してるんだ? 花畑先生とどこで面識を……」 「ごめん社長。ちょっとまた出てくるね」 「そういうことですので。ご心配なく、アイさんの身の安全は我が党が全力で保証します」 何が何だかさっぱり分からないといった顔をしている社長に手を振る。 混乱するのも尤もな状況だが、彼に説明したところで何の得にもならないだろう。 アイドルを始めてからずっと世話になっている相手だ。 実験感覚で戦争に巻き込むのを寝覚め悪く感じるくらいの良心はまだアイの中にもあった。 「運転もそっちでいいの?」 「スカウトしたのは此方ですから。アイさんには優秀な運転手がいるようですが、そこの礼儀は通しますよ」 「……ふぅん」 「ああそれと。私のことは"トランペット"とお呼びください」 ホントに全部バレてるんだ。 事務所を出てあちらの用意した車に乗る。 伏魔殿へ向かう旅路は事務的な冷たさを伴い始まった。 “ライダー。いざという時すぐに逃げられるように準備だけはしといて” “当然(モチ)だ。お前も……言いくるめられるんじゃねぇぞ? 相手は真実(マジ)のやり手みたいだからな” “んー、多分それは大丈夫。伊達にプロの嘘つきやってないよ、私だって” アイにとって噓は衣服で虚言は呼吸だ。 相手がどれほど人の心を弄ぶことに長けていたとしても、プロの噓つきであるアイを騙すのは決して容易ではない。 面接をするつもりなのは何もM、モリアーティに限った話ではない。 彼に見初められた側であるアイ達もまた、蜘蛛の巣の中心で待ち構える毒蜘蛛を見極めんとしていた。 【練馬区・苺プロ事務所周辺/一日目・夕方】 【星野アイ@推しの子】 [状態]:健康 [令呪]:残り三画 [装備]:なし [道具]:なし [所持金]:当面、生活できる程度の貯金はあり(アイドルとしての収入) [思考・状況] 基本方針:子どもたちが待っている家に帰る。 0:トランペットに付いて行き“M”に接触する。 1:空魚ちゃん達への監視や牽制も兼ねて、真乃ちゃん達とは定期的に連絡を取る。必要があれば接触もする。 2:空魚ちゃん達との同盟を主にしつつ、真乃ちゃん達を利用。彼女達が独自に仁科鳥子ちゃんと結託しないようにしたい。 3:アサシン(伏黒甚爾)の背後にいる“協力者”に警戒と興味。空魚達が脱出派に転じるならば、利害関係を前提に彼らへとアプローチを仕掛けてみたい。 4:あさひくん達は捨て置く。もう利用するには厄介なことになりすぎている。 [備考] ※櫻木真乃、紙越空魚と連絡先を交換しました。 ※現在『心求党』党首、花畑孔腔(トランペット)の車でデトネラット本社ビルに向かっています。 【ライダー(殺島飛露鬼)@忍者と極道】 [状態]:健康 [装備]:大型の回転式拳銃(二丁)&予備拳銃 [道具]:なし [所持金]:なし [思考・状況] 基本方針:アイを帰るべき家に送り届けるため、聖杯戦争に勝ち残る。 1:真乃達と空魚達の動向を注視。アイの方針に従う。 2:ガムテたちとは絶対に同盟を組めない。 3:アヴェンジャー(デッドプール)についてはアサシンに一任。 4:“M”については現状様子見だが、警戒は怠らない [備考] ※アサシン(伏黒甚爾)から、彼がマスターの可能性があると踏んだ芸能関係者達の顔写真を受け取っています。 現在判明しているのは櫻木真乃のみですが、他にマスターが居るかどうかについては後続の書き手さんにお任せいたします。 ◆ ◆ ◆ 蘆屋道満は陰陽師である。 安倍晴明に敗れこそしたが彼の術師としての才を疑う者はいなかった。 その道満が悪の神を、黒き太陽を取り込んだ結果誕生したのがこのアルターエゴ・リンボだ。 生活続命の法とまでは行かないが、式神を操縦して奸計を練ったり本体の活動と並行して自律行動させるくらいはお手の物。 そして今まさに道満はその手段に頼り、自分の野望に向け駒を進めるつつマスターの意向にも添うという並行作業をこなしていた。 “…なるほど。デトネラット、ですの。そこにサーヴァントの徒党が” “戦力としては微弱と見受けましたが一応報告しておいた方が宜しいかと思いまして” “この町はずいぶん蜘蛛が多いんですのね。鬱陶しいですわ” 道満は現状モリアーティと彼の連合に手出しをするつもりはない。 理由は簡単で、排除に急を要するほどの敵とは感じられなかったから。 下手に対立構造を作って手を噛まれるくらいなら確実に潰せる、野望が実った状態で初めて視界に入れても問題はないと判断した。 彼らに己を邪魔する気があるのなら話は別だったが、不干渉だというのならやはりわざわざ触りに行く意味は薄い。 とはいえマスターに報告をせず隠しておくほど彼らの肩を持ってやる理由もないので、沙都子への報告は怠らなかった。 “敢えて野放しにしておけば、あの怪物を倒す妙策でもひねり出してくれるかもしれませんわね” 沙都子としても、今すぐ潰しに行くのが妥当な相手とまでは感じられなかった。 存在を認識した主従を全て潰していてはそれこそ手が足りなくなる。 皮下病院の怪物をいつかは倒さなければならない都合、その辺は臨機応変に頭を使っていかなければ。 “話は分かりましたわ。ガムテさんへの報告も一旦保留にしておきます” “ああそういえば。良いのですかな? 拙僧、未だそちらの方々へのお目通りは済ませておりませんが” “どうせ近い内に顔を合わせることになりますわ。貴方がきちんと仕事をしてくれれば、そうなる筈ですもの” 野望成就に向け腐心する道満に与えられた仕事。 それは沙都子の協力相手、ガムテがそのサーヴァントの力を借りて特定したマスターの拿捕だった。 正確にはそのマスターが連れているサーヴァントの足止め役だったが。 “それと、もしもガムテさん達に会うことになったとしても” “言われるまでもありません。拙僧の抱く野望については胸に秘めておきましょう” “…弁えていただいてるようで何よりですわ。正直、まさかそれほど馬鹿げたことを考えてるとは思いませんでしたけど” 窮極の地獄界曼荼羅――その構想を聞かされた沙都子の率直な感想は「こいつは馬鹿なのか」だった。 界聖杯を文字通りの踏み台にして羽ばたくという本末転倒、やりたい放題の極致。 普通のマスターならば令呪を使ってでもその考えを封じていただろう。 沙都子がそれをしなかったのはひとえに彼女が帰還さえ出来れば後はどうでもいい、というスタンスのマスターだからだ。 空想樹どうこうの話には一切興味はないが、それでこの世界を抜けられるというなら反対する理由もない。 後はちゃんと頭を使って、角が立たないよう静かに勝利条件を満たしてくれさえすれば文句はなかった。 “釘を刺しておきますけど、途中で妙な方針転換をするのだけはおやめくださいましね” “ンンンそこは抜かりなく。以前それで痛い目を見ましたから、今回はやりません” “前に一度やったんですの……?” 頭が痛そうなマスターからの念話が耳に痛い。 しかし道満は先の敗北からしっかりと学習している。 今度は初志貫徹、当初の計画のままで勝利を掴み取るつもりだ。 それにもしも銀鍵の巫女が駄目ならその時はあの"怪物"を使えばいい。 スペアプランまでもを確保した道満は全能感すら感じながら悪の絵画を縦横無尽に描いていく。 「では、偶にはマスターのご希望に添いましょうか」 品川区の某所。 哀れにも心の割れた子供達に目を付けられた男の所在地に向かう蘆屋道満は紛れもない本体だった。 式神の戦闘能力は本体のそれに比べればやはり低い。 多少やれはするものの、確実に勝ちたいのならば本体を使うべきだ。 万一の事態があればそこで全ての野望が終わってしまうリスクはあるものの、しかし心配はしていない。 本来の蘆屋道満の規格を完全に超えたその霊基。 そこから出力される力の規模は、この聖杯戦争に参戦した全ての英霊と比べても間違いなく上位に入るそれだ。 「哀れな哀れな子供達。その苦悶にも興味はありますが……流石に時期尚早か。何しろ相手が相手。余計なつまみ食いは身を滅ぼしかねぬ」 道満が直接見たわけではないが、彼女の協力相手であるガムテの連れるサーヴァントもあの怪物に匹敵するような化物だという。 割れた子供達は嘆きと怨嗟の坩堝だ。 道満に……リンボにとっては格好の餌であり生贄羊。 適度に呪を植えて放つだけでも甘く美しい地獄を簡単に生み出せるだろうが、まだそれを楽しむには時期が早いと諦めた。 「まぁ。いつ痺れを切らしてしまうかは、拙僧自身とんと分かりませんが」 これから出会う彼らに対しても、ね。 小さく呟くと共にリンボの姿がどろりと溶けた。 場所の特定は完了、後はいつでも事を起こせる。 行動開始の号砲さえあれば、最悪の陰陽師は堕ちた戦鬼の前に顕現するだろう。 【中央区・某タワーマンション(グラス・チルドレン拠点)/一日目・夕方】 【北条沙都子@ひぐらしのなく頃に業】 [状態]:健康、魔力消費(小) [令呪]:残り3画 [装備]:トカレフ@現実 [道具]:トカレフの予備弾薬 [所持金]:十数万円(極道の屋敷を襲撃した際に奪ったもの) [思考・状況] 基本方針:理想のカケラに辿り着くため界聖杯を手に入れる。 1:最悪脱出出来るならそれでも構わないが、敵は積極的に排除したい。 2:割れた子供達(グラス・チルドレン)に潜り込み利用する。皮下達との折り合いは適度に付けたい。 3:ライダー(カイドウ)を打倒する手段を探し、いざという時確実に排除できる体制を整えたい 4:ずる賢い蜘蛛。厄介ですけど、所詮虫は虫。ですわよ? 5:リンボのプラン(地獄界曼荼羅)についてはひとまず静観。元の世界に帰れるのならそっちでもいい。 【品川区・プロデューサーの自宅付近の路上/一日目・夕方】 【アルタ―エゴ・リンボ(蘆屋道満/本体)@Fate/Grand Order】 [状態]:健康 [装備]:なし [道具]:??? [所持金]:なし [思考・状況] 基本方針:この東京に新たな地獄を具現させる。 0:地獄界曼荼羅の完成に向けて準備を進める。 1:マスタ―には当分従いましょう。今の拙僧はあの幼子の走狗なれば。 2:マスターの意向に添い本体はプロデューサーの元へ 3:式神は引き続き計画のために行動する。田中一へ再接触し連合に誘導するのも視野 4:それはそうと新たな協力者(割れた子供達)の気質も把握しておきたい 5:まさに怪物。――佳きかな、佳きかな。 6:“敵連合”は静観。あの蜘蛛に邪魔されるのは少々厄介。 [備考] ※式神を造ることは可能ですが、異星の神に仕えていた頃とは異なり消耗が大きくなっています。 ※フォ―リナ―(アビゲイル・ウィリアムズ)の真名を看破しました。 ※地獄界曼荼羅の第一の核としてフォーリナー(アビゲイル・ウィリアムズ)を見初めました。 彼女の再臨を進ませ、外なる神の巫女として覚醒させることを狙っています。 ※式神の操縦は一度に一体が限度です。本体と並行して動かす場合は魔力の消費が更に増えます。 時系列順 Back サムライチャンプルー(Some Like Cham-POOL) Next 宿業 投下順 Back サムライチャンプルー(Some Like Cham-POOL) Next 宿業 ←Back Character name Next→ 046 愚者たちのエンドロール 死柄木弔 068 むすんで、つないで 050 小惑星(ユグドラシル)の力学 アーチャー(ジェームズ・モリアーティ) 神戸しお 046 愚者たちのエンドロール ライダー(デンジ) 星野アイ ライダー(殺島飛露鬼) 028 女達の異常な愛情 さとうの叔母 086 世界で一番の宝物 バーサーカー(鬼舞辻無惨) 049 オペレーション『サジタリウス』 北条沙都子 073 絶望と、踊れ 039 妖星乱麻 アルターエゴ(蘆屋道満) 067 テスカトリポカ
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称号:『悲劇の歌姫』、『』 名前『プリューム・フラグメント【Plume-Fragment】』 名前の由来『羽、欠片』 愛称:プリュちゃん 性別:女性 種族:天使と悪魔の混血【ハーフ】、天魔族 種類:ヒロイン 職業:歌姫 年齢:17歳 身長:140㎝ 体重:??㎏ 一人称:私〔わたくし〕 二人称:貴方(貴女) 三人称:さん付け、様付け〔特定人物〕 髪色:【淡い白銀色】ペールブルーグレイ 瞳色:【天空色】スカイブルー+コバルトブルー 肌色:【雪肌】クリームorフローラルホワイト 性格:おっとりしてて、物静か。少々内気で臆病な面も。 特徴:小柄で、童顔。髪の毛先に羽根飾りを付けている。気持ちの表現は髪の毛の動き具合で…。 髪型:翼をモチーフにした毛先のポニーテール。 好きなモノ:もふもふしたモノ、昼寝 嫌いなモノ:恐い(怖い)人、 武器:不明 属性:不明 宝石:不明 創作者:流星群 輝流 ≪プリュームの詳細≫ コラボ企画第一弾『Angel Vs Devil-天魔の秘密箱と死の契約指輪-』の〔物語の鍵〕兼ヒロイン。 天使と悪魔の混血【ハーフ】で、天魔族の生き残り。とある城のパーティー会場にて、歌姫として 招かれた少女…。天使と悪魔とは深く関わりがある様だが…!?髪には『天使の羽根』で出来てる 『守護具』と言われるアクセサリーを身に付けている…。 以下編集中…
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注意 本作は18禁描写・反社会的な設定がされております。 退廃的・ダークな設定などが嫌いな方は、見ないようにしていただけると幸いです。 フラグメント 04 まっさらな作業台に横たわっているのは、身長十五センチメートルの小さな身体だった。 「これが……?」 薄暗い部屋の中、長い長い沈黙の後。ようやく呟きを漏らすのは、半裸の少女だ。男物の大きめのシャツを羽織っただけのその姿は、お世辞にもきちんとした格好とは言えないだろう。 もちろん、小さな身体そのものに驚いたわけではない。その小さな身体とは、毎日のように触れあい、共に過ごして来たのだから。 驚いたのは、その現状だ。 「ああ」 ねじれ、折れ曲がったはずの手足は新品に差し替えられ、砕かれたはずの胸部も元に戻されている。どんな手品を使ったのか割れた頭部も修復されており……この素体が数刻前まで大破していたと信じる者は、まずいないだろう。 小さな彼女が眠る真新しいベッドはクレイドルも兼ねているらしい。伸びたケーブルの繋がる先、脇に置かれたマイクロノートには、眠り続ける神姫のステータスが示されている。 「………」 起動を控えたシステムは、今は全てが停止状態。ひとたび起動すれば神姫の最期の時まで稼働し続ける三つの中枢も、この時だけは一ミリアンペアの電流も流れてはいない。 ただ、内蔵バッテリーは既に八割ほどの充電を終え、残り二割の容量をゆっくりと埋めている段階だった。 もちろんこれだけのチャージがあれば、起動シークエンスをこなすには何の問題もない。 少女は思わず、包帯の巻かれた細い腕を眠り続ける小さな身体に伸ばそうとして……。 「起動は明日だ」 頭の上にぽんと置かれた男の大きな手に、動きを止める。 非難の色の混じった視線で男を見上げるが、相手はそれも予測の範疇だったのか、ため息を一つ吐いてもう一度首を振るだけだ。 「今起動させると、中のデータが全部消えるが……まあ、それでもいいなら好きにしろ」 その言葉に少女は首を慌てて横に振る。もちろん、頭に置かれた男の手を払うことも忘れない。 「……けど、本当に、ちゃんと戻るんでしょうね」 十五センチの相棒の修復がひととおり終わっているというのは、確かに嘘ではなかった。作業台やクレイドルだけでなく、そこに設えられた工具の類まで軒並み新品だった事に少々不安を覚えたものの、男の技量自体に問題はないらしい。 「大丈夫だって何度も説明したろ。見せてやったんだから、戻ってさっさと寝ろ」 春先とはいえ、日が沈めば気温はぐっと下がる。男は肌寒い作業場の明かりを落とし、薄着の少女をストーブの焚かれた広間へ戻るように促してやる。 「……ねえ」 その手を背中に受けながら。月明かりの差し込む廊下をおずおずと歩きつつ、後ろに立つ男に短く問うた。 「だから、何だ?」 相棒は、無事に元に戻るのか。 ほんの数時間の間、両手では足りないほどに繰り返された問答が再来する予感に、男は苦笑いを隠せない。 「布団……ホントにあたしが使っていいの?」 けれど廊下の中程で足を止めた少女の問いは、今までとは別のもの。 「ひと組しかないんだから、仕方ないだろが。俺は居間のソファーで寝るよ」 この家の住人は、男一人だけ。そういう意味では、少女が一夜の宿を借りた所で何の気兼ねもない。 もちろん、別の意味で気を使わなければならないのは、火を見るよりも明らかなのだが……。 「寝ようよ。一緒に」 月明かりの中。 少女がぽつりと漏らした言葉は、その気遣いの持つ意味の全てを失わせるもの。 「バカ言うな」 「なによ。一度は抱いたくせに」 その言葉に、男は何も答えない。 一度は逢瀬を重ねた仲だ。それは確かに否定しないし、それがこの奇妙な関係の発端となってもいるのだが……。 こんな状況で少女の肢体を貪りたいと思うほど、男も餓えきっているわけではない。 「つか、本当に帰らなくて良かったのか? せめて家に電話くらい……」 だから、わざと話題を変えた。 「パパは出張だし、ママは男と旅行。どっちも来週まで帰ってこないわよ」 「……そりゃ、娘も歪むか」 「うるさい」 2030年代の今はおろか、その三十年前の昼ドラでも見ないような家庭環境に思わず苦笑いを浮かべると、胸元に軽い重みが打ち付けられてきた。 拳ではない。それよりもっと大きな……。 少女の、頭だ。 「……っていうか、寝てよ。一緒に」 漏れた言葉に、からかうような色はない。そして少女の顔は、胸元に押しつけられたまま。 表情を伺うことは、出来そうにない。 「まだ……言うか」 餓えてはいないが、男は僧侶でも、聖人でもない。理性の堤の縁をちゃぷちゃぷ暴れる欲望の波を感じながら、男は苦笑いで何とかそれを押さえ込む。 既に一度は越えた身だ、この十年で一層厳しさを増した淫行条例は怖くない。が、かといって少女の心を踏みにじれるほどの獣欲は、ない。 「あの子……ホントに、ちゃんと元に戻るんでしょうね」 「だから大丈夫だっ……」 言いかけ、胸元を包む圧迫に言葉を詰まらせる。 少女の回してきた細い腕と……。 「でも、もし戻らなかったらって……思ったら……」 表情を埋める胸元からの、かすかな震えと嗚咽のせいで。 「…………ウチのソファ、安物だから固いんだよな」 堤を超えた想いの飛沫が、大きめのシャツに包まれた細身の肢体にそっと伸び。 「…………」 優しく抱きに来た腕に、しがみ付く少女からの抗いはない。ただそれでも驚きはしたらしく、一度だけ身体の震えが伝わってきた。 「いいんだろ。一緒に寝ても」 柔らかな肢体は、一度だけ抱いたあの時のまま。 水底に眠らせていた少女のカラダの感触が、再び浮かび上がって来るのが分かる。ただ一つ違うのは、その事で欲望の水位は下がるどころか水かさを増しつつあって……。 「………いいよ。したい事があったら……何しても」 だが、弱々しく笑う少女の言葉にも、男の手がそれ以上動くことはなかった。 薄いシャツを介して指先に伝わる包帯のわずかな固さが、堤防に最後の支えを与えてくれる。 今ここでその一線を超えてしまう事は。 傷付ききった少女の心と肢体にこれ以上の傷を刻み込む事は、人として許されはしないと。 「そこまで空気の読めない男じゃ……」 ねえよ、までは言えなかった。 男の腕の中。つま先を目一杯伸ばして押しつけてきた、少女の小さな唇によって。 重ね合わされる唇の間。おずおずと伸ばされてきた舌が、男の理性をあっさりと舐め溶かしていく。 やがて男の腕に力がこもり、少女のつま先がわずか浮きあがる。優しく、そしてより力強く押しつけられた唇の間、次に舌を伸ばすのは男の側からだ。 「ん………」 長い長い貪り合いの後。 ようやく離れた唇は、互いの熱さを惜しむかのように、細く長く銀糸を曳いて。 「……不安なの。何でもいいから……してよ」 互いの唾液でてらりと濡れた唇のひと言が。 男の理性の堤防を、あっさりと決壊させた。 ○ 耳に届くのは、無機質な振動音だ。 少女が半ば無意識でそれを携帯の着信だと識別したのは、さすが年頃の娘といった所だろうか。 だが、いつも使っている着信音ではない。いつマナーモードに切り替えたのだろうか……などと、ぼんやりと意識の端に浮かべつつ。 すえた匂いの染みついた布団と、男の優しい腕の中。少女はわずかに身をよじり、枕元にある振動の源へ包帯の巻かれた手を伸ばす。 着信ボタンを押し、そのままの動作で耳元へ。 「もしもしぃ……?」 鼻に掛かった気怠い声に、返事はない。 包まれた腕の暖かさに再び眠りの中へと引き戻されそうになりながら、少女は通話口からの反応を待つ。 「……あァ、すいません。また午後に連絡しますから、先輩にはそう伝えといてください」 イタズラ電話かと思いきや、やがてばつの悪そうな男の声が戻ってきた。 ごゆっくり、のひと言があって、続くのは終話のツーツーという音だけだ。 腕の中でもう一度身をよじり、畳んだ携帯を枕元へ。腕や胸元に巻かれていた包帯がすっかりはだけているのに気付いたが、今はそれより眠気が勝った。 「ん……誰、だ……?」 少女の動きでようやく目が覚めたのだろう。額の辺りから来るのは、まだ寝ぼけ気味の男の声。 「知らない。後輩っていう男から、また午後に連絡するって……?」 額に押しつけられてきた唇の感触を愉しみながら、ぼんやりとだけ覚えている内容を口にする。 そういえば、誰からの着信か見ていなかった。携帯の番号を客に教えたのはこの男が初めてだから、客の誰かではないだろうが……。いや、そもそも客なら自分のことを先輩などと呼びはしない。 「……いや、人の電話に出るなよ」 それでようやく納得がいった。 どうやら自分の携帯ではなく、男の携帯に出てしまったらしい。 「だって鳴ってたんだもん。……なぁに? あれだけ激しくしたのに、まだ3Pとかしたいわけ?」 「……違うって言ってんだろ」 ひと言呟いて、男は少女を抱いていた腕を伸ばし、枕元の携帯を取り上げる。 「あ……っ」 少女がぷぅっと頬を膨らませたのは、暖かな腕の感触が消えたことに対してなのか、それとも男の否定に対してのものなのか。 男はそれに気付く様子もなく、着信履歴から後輩の番号を呼び出すと、布団の中で通話ボタンを押し込んだ。 「………」 ただ、少女を抱いている残りの腕には力がこもり、離れかけていた少女のぬくもりを再び抱き寄せる。 「ああ。俺だ。いや、お楽しみとかそういう変な気は効かせなくていいんだよテメェは。駅前? いいか、すぐ来い。ちゃんと連れて来てるんだろうな?」 額に掛かる男の言葉に、少女は思わず眉をひそめた。 「ちょっとぉ。3Pじゃなかったら、今すぐはやめてよ……」 こんな生活をしているとは言え、少女だって女の子だ。シャワーで汗を流しておきたいし、着替えや包帯だって直したい。 何より、この優しい温もりをもう少しだけ味わっていたかった。 「あんたの神姫、起動させるんだが」 「すぐ来て!」 ○ 男の家の玄関が開いたのは、それからきっかり二時間後の事。もちろん、着替えもシャワーも、ついでに男の温もりを愉しむ時間も、十分にあった。 わけもなく。 「なんか、ボロボロですね。先輩」 迎える男の情けない有様に向けられたのは、苦笑いとも失笑ともつかぬ声。 「お前がおかしな気ぃ効かすからだ。こっちは二時間、お嬢様のイライラに付き合いっぱなしだったんだぞ。馬鹿野郎」 玄関に立つのは長身の青年と、その胸元ほどしかない小さな女の子の二人組。女の子の方は半歩退き、青年の影に隠れるようにしてしがみついている。 「ええっと、この子は?」 この青年が、先ほどの電話をかけてきた後輩なのだろう。 だがそれにこんな小さな女の子まで付いてくるとは聞いていない。まさか彼女まで交えてのプレイという事はないだろうが……。 「こっちのでっかいのは気にすんな。グ○コに付いてるお菓子みたいなもんだ」 どうやら、大きな箱の方がオマケと言いたいらしい。 「ちょっと先輩。何年かぶりに電話掛けてきたと思ったらいきなりその扱いですか?」 「いいんだよ。で、上にいるんだが……コイツから事情は聞いてるよな?」 男が問いかけたのは、抗議の声を上げるお菓子入りの大きな箱ではなく。黙ったままのオモチャの入っている小さな箱のほう。 女の子だ。 「…………」 その問いに、女の子はじっと男の方を見上げたまま。 どこか怯えたように後輩のジャケットにしがみつき、掴んだ裾をぎゅっと握りしめている。 「俺じゃない。こっちの娘の、神姫だ」 男の言葉に、女の子の視線がわずかに動く。 深い黒の瞳が向けられたのは……。 「え……ええっと………」 少女が着ているのは、ここに来るまでに着ていたボロボロの服ではなかった。男のワードローブの中で彼女でも着られそうな物を寄せ集めた……要するに、まるきりの男物だ。 無言の視線にどこか居心地悪そうに身を揺らしながら、少女は困ったように照れ笑い。 けれど、その視線を逸らそうとするポーズにも、女の子の瞳が揺らぐことはない。ただじっと、けれど少女と視線を合わせようとするわけではなく、少女の方をただ『視ている』。 「どうしたの? この子……」 変わった娘だとは思う。 その動作を、不思議だとも。 しかし奇異なそれには何か確かな理由があるとも、少女は今までに培ってきた経験の中から理解していた。 「いいから、大人しくしてろ」 助言が来るという事は、男は女の子の視線の意味を知っているのだろう。 理由を教えてくれないことを、感情が少しだけ不快に思いつつ。そしてそれは当前だとも、理性の側が理解を示し。 やがて、女の子が延ばしてきたのは。 小さな、細い腕。 その先端はおずおずと、それでも大きく開かれていて。 「……握手?」 開いた手を差し出してきた女の子に、言葉はない。 ただ少女の問いに、小さく頷いてみせる。 「してあげてくれるかい?」 やはり、何か理由あっての事なのだろう。後輩の言葉に首を傾げつつも、女の子の手をそっと握り返してみた。 春とはいえ、まだ寒さの戻りもある時期だ。肌寒い朝の街を手袋もなく歩いていた女の子の手は、ひやりとした冷たさと、稚さの残る柔らかさを併せ持っていて。 「え、あ……」 その感触をゆっくりと感じる間もなく。少女に向けて倒れ込んでくるのは、小さな肢体。 「……ちょっと!?」 受け止めた女の子は少女の腕の中、そのまま気を失っている。 ○ 「ちょっと変わった体質でな。慣れてない人に触られるのが、ダメなんだそうだ」 作業台の前にいるのは男ではなく、後輩の青年が一人だけ。 残る二人は作業場に持ち込んだソファーに腰を掛け、手持ちぶさたなままでいる。 そして女の子は、いまだ気を失ったまま。 「なら、こうしてるのって良くないんじゃないの……?」 女の子が眠るのは、少女の膝枕。しかし初対面の少女の膝枕では、女の子が目覚めたとき、また気を失ってしまうのではないか。 なにせ握手だけでこのざまだ。ここまで触れあっていると、どうなってしまうのか……女の子の事を何一つ知らない少女には、想像も付くはずもない。 それ以前に、彼女の事情を知っているはずの男達は、なぜ先ほどの握手を止めなかったのか。そもそも、その体質を一番理解しているはずの女の子自身が、どうして握手を求めてきたのか。 「まあ、色々あるんだよ」 だが、男の口調は説明を拒む色。 「……あ、そ」 そんな調子を出されては、少女もそれ以上のことを聞く気にはなれなかった。人には誰しも説明しづらい事情の一つや二つあるものだと……何より自分が一番よく知っていたからだ。 「……………んみゅ……」 ため息を吐くと、膝の上で女の子が小さく身じろぎをひとつ。しばらく少女の膝にしがみつくようにしていたが、やがてころりと仰向けになると、少女の顔を見上げてきた。 悲鳴はない。 驚いた様子も、気絶する様子もない。 「大丈夫?」 「……うん」 返ってきたのは、小さな返事。 喋れないのかと思っていたが、どうやら単に無口なだけだったらしい。女の子はソファーから起き上がると、そのままとてとてと後輩のいる作業台の方へと歩いていく。 女の子は後輩と数語の言葉を交わすと、まだ停止状態の神姫の額へそっと小さな指を伸ばす。 「で、あの子は何する係なの? まだ小学生くらいに見えるけど……まさか、起動させる係とか?」 起動に必要な作業そのものは後輩が備え付けのマイクロノートで行っているようだった。男達から本命と扱われていた女の子は、神姫の額に指を当てた姿勢のまま何かぶつぶつと呟いているだけだ。 正直なところ、何がしたいのか、よく分からない。 「そのまさかだよ。あと、確か中学生にはなってるはずだが……」 確かに起動作業自体は、年端もいかない子供でも行えるほど簡単なものだが……今回のそれは、少々具合が異なってくる。 「起動させるって……。普通に起動させたら、記憶なくなっちゃうんじゃないの?」 ボタンを押して、後は神姫の目が覚めるまで待つだけ、というのは通常の起動の話。今回はそれが出来ないからこそ、ひと晩の眠れない夜を過ごしたはずなのに。 かといって後輩の作業が本命だったとすれば……後輩のオマケ発言は冗談としても、今度は女の子が来た意味がどこにもない。 「それに普通、神姫の起動って……マスターが一人でするもんじゃないの?」 そこだ。 ただ一人となるマスターを確実に認証できるよう、神姫の起動はマスターとなるべき人物が一人で行うものと決まっている。もし別の誰かを間違えて認証してしまえば、修正するには神姫をリセットするしかないからだ。 それは、神姫を殺すこととやはり同義のはず。 「それもいいんだよ」 明らかにおかしな男の言葉に、少女は今更ながらに疑問を隠せない。 いくらイレギュラーな事態とはいえ、神姫についての常識に真っ向から相対する事が多すぎた。 「起動させていいんですか、先輩」 「頼む」 「いいってさ」 男の言葉を受け継いだ後輩の言葉に、女の子はこっくりと首を縦に振って。 小作りな細い指が音もなく触れたのは、通常の起動ボタン。 起動シークエンスが開始される。 それは、少女がかつて目の前の神姫を目ざめさせた時の儀式と、全く同じもの。珍しくも何ともない、ごく普通の起動作業。 「ちょっと……!」 通常の起動では、全ての記憶は失われるのではないのか。 ここまで大がかりな仕掛けをしておいて、やっぱり記憶がなくなったなどとは……笑って許される話ではない。 だが。 近寄ろうとする少女を男の腕が押しとどめ。 横たわっていた十五センチの小さな肢体が、ゆっくりとその身を起こし出す。 開かれたカメラアイをか細い指でくしくしと何度かこすれば、そこにあるのはまだ眠気を残したままのとろんとした瞳。 男も、後輩も、女の子も黙ったまま。 その空気に、少女も言葉を放てない。 数時間にも感じられる、数秒の沈黙が通り過ぎ。 ようやく思考が回り出したのだろう。 彼女は目の前の後輩や女の子を不思議そうに見上げていたが、やがて、辺りをきょろきょろと見回し始める。 そして。 止めた視線の、その先は……。 「あ……ご無事だったんですね! マスター!」 ぱっと花開くような、彼女の明るいひと言に。 少女はその場に崩れ落ち。 大声で、泣き出したのだった。 戻る/トップ/続く