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~注意書き?~ ゆっくりいじめ成分が少なめです。ないわけじゃあないですが。 この作品は、『ゆっくりハンターの生活』『ゆっくりハンターの生活2』の外伝の物語となりますが、 前述した2作品を読まなくても話がわかるように作っておりますので、見ていない方でも安心して御覧になってください。 死人が出ます。そしてゆっくり以外で少しグロテスクな表現があります。 むやみやたらと長いです。正直反省している。 以上のことを踏まえて、それでもOKな人は以下の『ゆっくりハンターの昔話』をお楽しみ下さい。 ゆっくりハンターの昔話 海かと見紛う程の巨大な川を、小船がゆったりと渡っていた。 その船には、船頭と乗客である少女が二人乗っている。 二人は顔を合わせることはなく、船頭の梶をこぐ音だけが響き渡る。 「あんた……」 「はい?なんでしょう」 唐突に船頭が乗客の方を振り向き、声をかける。 乗客もそれに反応し、二人は互いに向き合う形になる。 「向こう岸までまだ結構かかるんだ。もしよかったら、あんたの昔話でも聞かせてはくれないかい?」 船頭の少女は屈託のない笑顔で乗客の少女にそう提案した。 梶を漕ぐ音が、少し控えめになる。 「私の、ですか…?まあ、別に構いませんけど」 乗客の少女は船頭の提案に驚いたようだったが、彼女も暇だったのだろう。 特に抵抗もなくその提案を受け入れた。 船頭は「それはよかった」と言い、梶を置いて小船の中に座り込んだ。 漕がなくていいのか、と乗客が問うたが、船頭はいたづらっぽく笑って、実は漕がなくてもいいんだ、と返した。 乗客はならばなぜ梶なんか持っているんだと疑問に思ったが、どうでもよいことだったので忘れることにした。 そんなことより早く話をしよう。前に座っている船頭さんが興味津々と言ったようにこちらを見ている。 「それじゃあ、私のまだ幼かった頃の話でもしましょうか」 少女は昔を噛みしめるようにたっぷりと口の中に含ませて、ゆっくりと物語を紡ぎ始めた。 私は子供の頃、よくゆっくりたちと遊んで暮らしていた。 初めて彼女達と会ったのはいつだったかは、今はもう覚えていない。気づいたときには私は彼女達と友達になっていた。 もちろんほかに普通の友達もいたが、私にとって当時一番仲がよかったのは彼女達だった。 友達のゆっくりにご飯を上げると、自分の下手な料理でもおいしそうに食べてくれて嬉しかった。 里の人たちは私を馬鹿にしたけど、ゆっくり達だけは私を馬鹿にせず、それどころか、 「おねえさんはゆっくりしてるね!れいむたちもゆっくりみならいたいよ!」 と、褒めてくれた。 その言葉が嬉しくて嬉しくて、次の日は腕によりをかけた料理を彼女らにプレゼントした。 彼女らも私のプレゼントが嬉しかったらしく、私にきれいなお花をプレゼントしてくれた。 私は浮かれてまた彼女達に料理を持っていき、彼女達は私に森になっている果実を渡してくれた。 それからずっとゆっくりぱちゅリーが止めるまでプレゼント合戦が続いてたっけ。 今では、とても懐かしい思い出。 そんな私の子供の頃の夢は、農家になることだった。 農家になって、野菜の好きな彼女達のための食べ物をいっぱい作りたかった。 彼女達の喜ぶ様を想像しながら、私は農家の勉強に専心した。 だが、私はどうしようもなく馬鹿だった。 どれだけ周りの大人たちが教えても、私ががんばって反復して覚えようとしても、必ずどこかで失敗する。 私が必死に努力しても、作物にまともな実が成ることなど一度もなかった。 罰として、その作物は無理矢理私が食べさせられた。気が飛んでしまうほどまずかったけど、吐き出すことは許されなかった。 失敗するごとに食べさせられ、いつか私がそれをおいしいというようになると、それを大人たちはたいそう気味悪がった。 結局、私はその愚かさゆえに周りの大人たちに見放された。その子どもからも、ゆっくり未満の馬鹿だ、といじめられた。 誰も一緒に遊んでくれなくて、私はゆっくりたちと過ごすほうの時間がだんだんと増えていった。 そんなある日、事件が起きた。 雲ひとつない快晴の真昼、数え切れないほどのゆっくりまりさが人里に殺到した。 ゆっくりまりさの襲撃だ。 かつて見たこともないような大襲撃。 そのゆっくり立ちの行進で大地は揺れ、その掛け声は天にまで昇るほど大きく、里のみんなを恐怖の海へと沈めていった。 農家の人々が一生懸命耕した畑は荒らされ、もっと食べたいのを我慢して蓄えた食料は奪われ、みんなで協力して作った家屋は次々と破壊された。 太陽がゆっくりと沈み、妖怪の時間が近づいてくる時間になった頃、ようやくゆっくりたちの蹂躙は終了した。 ゆっくりたちはあまりの惨状に放心する里の人々に向かって、 「またくるから、ゆっくりおいしたべものつくってね!」 と言い去っていった。激昂した男達が群れの巣を強襲したが、ゆっくりたちの返り討ちにあって死亡した。 残された里の人々は絶望していた。 里の中でも力持ちだった男達はゆっくりに殺され、残ったのは数少ない自警団と、ひ弱な村人達だけ。 このままでは里は終わりだ。 里の知識人たちが集まって夜を徹して対策を練っていたようだったけど、状況は芳しいとはいえないようだった。 私はそんな村の様子をみていたが、ゆっくりに対する敵愾心などはまったく沸かなかった。 私の中から湧き出てくるのは諦観と暗い喜悦の念だけ。 どうせ私は役立たずだ、何も出来やしない。それに、このままだったらこの里は終わってくれるかもしれない。みんな、死んでくれるかもしれない。 みんなで一緒に天国に行けば、寂しくないんじゃないか。天国だったら農作業する必要もない。私も馬鹿にされず、みんなと一緒に遊べるかもしれない。 私は壊された自分の家の残骸に腰掛け、ずっとそんなことを考えていた。 ある村人が全員集まって知恵を出し合おうといっていたが、私は無視して数少ない食料を友人のゆっくりたちと一緒に食べた。 自分もおなかがすいていたけど、どうせすぐ死に往く自分には関係ないことだと思った。 でも、そんな考えは甘かったことを後日、私は思い知る羽目となる。 ゆっくりと一緒にご飯を食べている場面を他の子ども達に目撃されたのだ。 自分達は食べ物がなくてひもじい思いをしているのに、なんであいつはゆっくりに分けられるほどの余裕があるのだろう。 いや、あいつはなんであのにっくきゆっくりと仲良くしているんだろう。 そうだ、あいつゆっくりたちと内通しているんだ。自分だけはゆっくりに取り入って助かろうって腹なんだ。 いや、それどころか、今回のゆっくりの襲撃の首謀者はあの少女ではないか。いつもいじめられている腹いせに、ゆっくりたちを里にけしかけてきたのではないか。 もともと狭い里の上に、ゆっくり対策で大人達が一箇所に固まっていたせいで、この噂が里中に広がるのにさほど時間はかからなかった。 そして私は、太陽が出てくると同時に、里で裁判にかけられた。 もちろん被告は私。脇には私が逃げないように自警団の大人が鍬を持って固めている。 裁判長の席にはこの里の長様。 近くの裁判官の席には数人の有力者達が陣取り、証言台には先日の子ども達が立っていた。 「ぼうや、その証言は事実かな?」 「うん!俺みんなと一緒に見たんだ!あいつゆっくり達に村の情報を流してたんだ!」 傍聴席にいる里の住人から、「ふざけんなー!」「裏切り者が、死んじまえ!」といった罵声が聞こえる。 私はそんなことまでした覚えはないのだけれど、私を擁護するものは誰もいない。 お母さんは私を生んだときに死んでいたし、お父さんはこの前ゆっくり達に殺された。 もし生きていたとしても、私の味方にはなってくれることはなさそうだけど。 わき腹についた、治りかけの火傷の跡が少し痛む。 目の前では長様が木槌を叩きながら「静粛に!静粛に!」と叫んでいた。 ややあって場がひとまず静まり返ると、長様は咳払いをひとつつき、私に対する判決を下す。 「被告に対する判決を言い渡す。被告はこの里で生まれ育った恩を忘れ、あろうことかゆっくりなどという畜生どもと結託し、里を襲い村に甚大なる被害をもたらした。 この罪が簡単に償えるものではないというのは確定的に明らか。よって、被告を死刑に処す。内容は…磔の刑がよかろう」 長様の判決を聞いた途端、傍聴席から歓声と甲高い口笛の音が鳴り響く。その歓声の中、長様は一人浮かない顔で持っていた条文を置き長いため息を吐いた。 私は里の罰の中で最も重い、磔の刑となった。 磔の刑といってもどこぞの聖人のように槍で刺されて殺されるわけではない。 罪人は十字架につるされ、村人から死ぬまで弄られ続けられるのだ。 罵声、投石、火あぶりなどと、その方法は多岐にわたる。 私が昔に見た罪人は、家畜の糞尿を投げられたり、高温の鍋を体中にへばりつけられたりしていた。 熱いのは嫌だなぁ、と私が自分のわき腹をさすりがら考えていると、予期もせぬ声が傍聴席から聞こえてきた。 「ゆっくりまってね!れいむたちが、え、えーと…」 「もう!れいむったらわすれちゃったの!?」 「わかる、わかるよー」 「むきゅー。"いぎ"よ、れいむ」 「ぱちゅりーのおかげでおもいだしたよ!!れいむたちは"いぎ"をとなえるよ!」 人懐っこいゆっくりれいむに、いつも元気なゆっくりちぇん、都会派が自慢のゆっくりありす、仲間で一番物知りなゆっくりパチュリー ……間違いない、そこにいたのは私の友達のゆっくりたちだった。 なんで、どうしてこんなところに……。 私や里の人たちの混乱をよそに証言台に上がるゆっくりのみんな。 長様も例外ではないようで、目をきょとんとしながらゆっくりたちに話しかける。 「……異議、とはどういうことですかな?」 「れいむのおともだちはなにもわるいことしてないよ!あのにんげんたちのいったことはうそっぱちだよ!」 「そうよ!おねえさんがそんなことするわけないじゃない!」 「わからないけどわかるよー」 台の上で口々に騒ぎ立てるゆっくり達に、混乱が収まってきた里の住人達がいっせいに騒ぎ立てる。 「ふざけんな!ゆっくりの言うことなんざ信じられるか!」 「そうだよ!俺嘘なんかついてないよ!」 ゆっくりたちの異議に、暴動寸前にまでヒートアップする住人達 さすがにこのままではいけないと思った長様が、みんなを沈静する。 「全員静粛になさい!……どういうことか、しっかり説明してくれるかね?」 「むきゅー。おねえさんはたしかに私達のお友達だけど、ここをおそったまりさたちとはまったく関係がないの。 だからあいつらにじょうほうを伝えることなんて出来ないだろうし、それどころか近づくだけで殺されちゃうと思うわ。あいつら気性が荒いもの」 そうだそうだー、と周りの子達も呼応して叫ぶ。 長様が再び咳払いをして、彼女達に質問する。 「あいつら、ということは君達とは違うということかな?ゆっくりたちは皆同じコミュニティではないということかね?」 「そうね。ふくすうの群れに分かれているわ。一番大きなせいりょくはまりさの率いる群れで、この村をおそったのもそれ。 後はとてもしょうきぼな群れが散在しているだけで、私達もそのしょうきぼな群れのひとつよ」 「あいつらは、わるいゆっくりなんだよ!れいむたちがあつめたたべものもかってによこどりするし、むらもあいつらがかってにおそったんだよ! れいむたちはんたいしたのに!」 「そうよ!とかいはのありすにはあわない、いなかものどころかみかいのちのばんぞくみたいなやつらなのよ!」 「わかりたくもないよー」 一斉に同族のゆっくりの批判を始めた彼女らに、長様も戸惑い丘隠せない様子で、しばし呆然としていた。 誰も言葉を発さず、しん、と静まり返る法廷。 ゆっくりたちは、わかったかといわんばかりの表情で長様をじいっと見る。 長様が困った顔をして近くの有力者達を見回すが、彼らも混乱しているようで、呆けた顔で長様を見返すだけだった。 私はそれを見て、もしかしたら助かるのかなぁという思いが頭をよぎったが、やはり現実はそう甘くはない。 「ふざけんな!ゆっくりたちなんかみんな同じに決まってんだろうが!早く死んじまえこの生首どもめ!」 「そうだそうだ!こいつらは平気で嘘をつくしな!」 「さては、こいつら仲間を助けに来たゆっくりの斥候じゃないか?」 「何ーっ!?そうとわかれば生きて返すか!」 それまで黙っていた傍聴席の住人達が一人の男の言葉を合図に堰を切ったようにがなりだす。 その反応に、ゆっくり立ちも飛び跳ねながら反発し、法廷が怒声によって揺るがされる。 「ゆ!おじさんたちなにいってるの!?れいむたちはおともだちをたすけにきただけだよ!せっこうなんかじゃないよ!」 「とかいはのありすとあんなやばんなやつらをいっしょにしないでくれる!?」 「わからないよーわからないよー」 「むきゅー。みんな少し熱くなりすぎてるわ。少し冷静になって話し合いを…………むぎゅっ!」 「「「ぱ、ぱちゅりー!?」」」 一人の男が投げた石が、ゆっくりぱちゅリーに直撃する。 慌てて友達の元へ駆け寄るゆっくり達に、更なる投石が浴びせかけられる。 「ゆ゛!い、いだいよ!ゆっくりやめてね!」 「やめて!ぱちゅりーがしんじゃう!いだっ!」 「わ、わからないよー!」 「………むきゅー」 私はその様子に思わず彼女達の元へ駆け寄った。 私の脇を固めていた自警団の人もゆっくり達に集中していたので、彼女達の元へいく私をとめることはできなかった。 私は彼女たちの盾になるようにかがみこむ。 「みんなだいじょうぶ!?」 「ゆ!おねえさん!れいむはだいじょーぶだよ!」 「とかいはのアリスもだいじょうぶだけど、ぱちゅりーが……」 「わかるようでわからないよー!」 「むきゅー……むきゅー……」 さっきの投石でぱちゅりーの皮が破れ、中からあんこがはみ出ている。 早く治療しないと、もとより体が弱いぱちゅりーには致命傷となりうる傷だった。 私は急いではみ出た分のあんこを体内に戻し、傷口につばを当ててさすってやる。 その間もずっと後ろから石が飛んできたけど、私はそれを無視した。 「大丈夫!?今助けるからね!」 「むきゅー…おねえさん、私のことはいいから、そこをどいて…。石が飛んできてるよ」 「私のことは気にしなくていいから、ぱちゅりーは自分のことだけ心配して」 「ゆ!おねえさん、あぶない!」 れいむの声と同時に、後頭部に激痛が走る。 痛みは私の頭の中をかき回し、私の意識を奪っていく。 薄れゆく視界の中で見たものは、大人に掴まれながらも必死にこちらに向かって泣き叫んでいる友人達の姿だった。 ああ、なにをそんなに泣いているのだろう。またまりさたちにいじめられたのだろうか。 大丈夫、私が何とかしてあげるから。だから、お願いだから泣かないで。あのゆっくりとした笑顔を私にみせて。 痛みはやがて快楽へと変わり、そうして虚無が訪れた。 「………!………ろ!起きろ!」 耳障りなだみ声に呼ばれて目を覚ます。空高くで輝いている太陽がまぶしい。 周りには、数人の大人たちが倒れている私を囲むように立っていた。 私が体を起こそうとすると、頭に鈍い痛みが走る。 「っ……!」 「痛がってねぇでさっさと立て。………こら、暴れんな!さっさとこっちに来い!」 男達が嫌がる私を無理矢理引きずっていく。 私も途中で抵抗するのをやめ、なすがままに男達に引きずられていった。 そうして着いた広場には、一箇所に固まって何かをしている村人達。 向こうもこちらに気づいたようで、こちらに向かって薄気味悪い笑みを浮かべながら私を見る。 「ほれ、あれをみてみな」 私の腕を抱えている男が、広場の中心の方に指を向ける。 そこには、十字架にかけられ泣き叫ぶゆっくりたちと、それを見て愉しんでいる里の人達の姿。 「い゛や゛あ゛あ゛ぁぁぁ!!ゆっくりでき゛な゛い゛い゛ぃぃぃぃ!!」 「ひぎぃぃぃぃぃ!いだいぃぃぃぃぃ!!」 「まっだぐわがらな゛い゛よお゛ぉぉぉぉ!!」 「…………………」 そこにつるされたみんなは、ハリネズミのように全身から棘が生えていた。 みんなは痛みに悶え痙攣しているが、ぱちゅりーだけはまったく動かなかった。 「みんな!なんで、どうして………」 友人達のあまりの惨状に、私はただただ泣くことしかできなかった。 膝がたっていられないほどがくがくと震えるが男達が腕をしっかりと掴むから倒れることも出来ない。 友達の悲鳴を聞きたくなくて、耳をふさごうとしても両腕は男達に捕まえられている。 どうしようもない絶望感と無力感におそわれていた私に、男の一人が私にそっとささやいた。 「あのゆっくりどもを、助けたいか?」 とめどなく溢れてくる涙のせいでまともに話すことができず、私は必死に首を縦に振ることでそれに答える。 男達は私の反応に満足したのか、薄ら笑いを浮かべながら、再びこうささやいた。 「じゃあ、おまえらの言う悪いゆっくりを殲滅して来い。お前はゆっくりのお友達なんだから、内部に侵入して崩壊させるくらいできるだろ?」 「うう…ひっぐ……そんなの、できるわけ……」 「出来ないんだったら、あいつらが死ぬだけだ」 男達が、先ほどよりも口をさらに歪ませて、私に選択を迫る。 聞こえるのは、先ほどよりも大きくなっている友人達の悲鳴。私に選択の余地はなかった。 「………わかりました。やります…………」 「そうかそうか!頑張ってゆっくりたちを殺してきてくれ!これが成功したら村の英雄だな!」 男達が私を解放する。 だが、ゆっくり立ちは開放される気配はなく、いまだ里の人達にいじめられ続けていた。 「やりますから、早くあれを止めてください…!」 「ん~?それは出来んなぁ。だってあいつらは罪人なんだから。でもまあ、今日中には殺さないから安心しな」 「……………………………」 「なんだ?こっちをじっと見て。早く行かないとお友達が死んじゃうぞ?」 男達は、心底楽しそうに笑いながら、私を見る。 「約束は、守ってくださいよ」 私は少し震えた声でそういって、私は逃げるように走っていった。 友人達の悲鳴が、どれだけ広場から離れても耳から無くならなかった。 そうして数十分ほど走って着いた先は、友人達とよく遊んだ森のある一角。 ゆっくりにとって外敵が少なく、かつ食料も適度にあるこの場所。 でも、今ここの住人であるはずのゆっくり達はいない。 私は木の上にのぼり、みんなで作った秘密基地の中に入る。 中には、非常時のために蓄えられた食糧と、みんなで遊ぶための道具、そして私の私物である手提げのカバンがある。 かばんの中には、大量のナイフにエナメル製のワイヤー。 すべて、事前に用意していたものだった。 あのゆっくりまりさたちはれいむたちが言ったように、他のゆっくりコミュニティも襲う。 幸いれいむたちは食料を献上していたためさして被害はなかったが、いつれいむたちが襲われるかわからなかった。 だから私は自衛の手段として武器を買い込み、あいつらの巣へ赴いて彼女らの行動を事細かに観察していた。 いつ襲われてもいいように。友達を守るために。 今から私がゆっくりまりさたちの巣を強襲するのは、大切な友達を助けるため。 だから今から私がやることは仕方のないことなのだ。たとえ友達と同じゆっくりを殺すこととなろうとも。 胸が痛み、涙も出てきたが、私はそれを振り払って元凶の巣へと歩きだした。 先ほどよりも太陽は西へ傾いており、私の作る影もそれに応えて大きくなっていた。 そして、ゆっくりまりさたちの巣についた私は、改めてその巨大な巣を見回した。 人でも有に入れそうな洞窟を中心に、近くの木々にはゆっくりまりさたちの家が散在している。 どうやら巣の規模は以前見たときよりより大きくなっているようだった。 私は彼女らが逃げられないように、巣を囲むようにしてワイヤーをいたるところに仕掛けた。 そして、もうワイヤーが切れかけようかとしたそのとき、一匹のゆっくりが私を発見した。 「ゆゆー!みんな、にんげんがいるゆ゛っ!!」 私に背を向いてほかのゆっくりたちを呼ぶゆっくりまりさを、私は瞬時に近づいて踏み潰す。踏みが浅かったのか、まだ死んではいなかった。 止めを刺さなければ。 そう思ったところで、私の動きが固まった。 ゆっくりを殺すなんて、本気で言っているのか?私のお友達と同じ種なんだぞ? でも友達を助けるためには殺さないと。でも殺したらあの子達は私をゆっくり殺しといって嫌うかもしれない……… ゆっくりを殺すということに、理性が拒否反応を示す。 ここでゆっくりを殺してしまっては、二度と友人達と笑って過ごせなくなる予感がした。 「ゆっくりしねぇぇぇ!」 「がっ!」 そうして迷っていたせいで、後ろにいたゆっくりの声に反応するのが遅れてしまった。 背中を強く打たれ、そのままごろごろと転がる。 痛みをこらえて振り向くと、そこには数匹の成熟したゆっくりまりさ達がいた。 その中でも一番大きな体を呪詛の言葉を吐きながら、再び私めがけ突進してくる。 「わたしのこどもをォォォ!よくもぉぉぉぉ!」 「きゃ、きゃぁぁぁァァァ!!!!」 わたしが無我夢中で突き出したナイフが、カウンターとなってまりさの顔を捉える。 ブチュリという嫌な感覚のあと、わたしの腕が生暖かいものに包まれた。 「ゆ゛!?ゆ゛うぅぅぅぅ!?」 わたしのナイフは、まりさの体を貫通していた。 痛みのために暴れようとしているのが、腕に伝わる振動からわかった。 わたしは、慌てて魔理沙を腕から離そうと、腕を何度も何度も振った。 「いやぁ!離れて!」 「ゆ゛…!ゆ゛……!」 腕からすっぽ抜けていったまりさは近くの木の幹に当たり、そして動かなくなった。 周りにいたゆっくりたちが、急いでその死骸に近寄る。 「おがあさん!おがあさぁぁん!」 「ゆっくりしてないでへんじしてよぉぉぉ!?」 「うわ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん!!」 ゆっくりたちはひとしきり泣いたあと、呆然としている私を睨みつけた。 「よぐも、よぐもおがあさんをごろじだなあァァァ!」 「ゆっくりしね!ゆっくりしね!」 「このゆっくりごろしめ!」 ゆっくり達のその言葉の一つ一つが、ナイフとなって私の心を切り刻んでいく。 違う。わたしは、わたしは。わたしは? 死んだゆっくりの死骸が、わたしの頭のなかでぐるぐると回る。 混乱し、ぐにゃぐにゃと錯交する思考。何もわからない。見えない。聞こえない。 私は何故ここにいるんだっけ?友達を助けるため?それともゆっくりを殺すため?このナイフで、ゆっくりの体を貫いて。 胸が痛い。心が痛い。なんで私はこんなに苦しいの? 「こんなひどいにんげんとは、だれもゆっくりできないよ!」 「そうだよ、ゆっくりさっさとしね!」 あいつらはなにを言っているんだろう?どうして彼らは怒っているんだろう? 私は悪いことしてないのに。いきなり人の悪口を言うなんて、悪いゆっくりだ。 そうだ、友達を助けるために、悪いゆっくりを殺さないと。みんなと約束したんだ。 だから、殺さないといけないんだ。こいつらは悪いんだから。みんな消さないといけないんだ。 私の中で、はっきりと何かが破裂する音が聞こえた。 続く? このSSに感想を付ける
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前回のfuku1364.txt『ゆっくりハンターの生活』の続きです。 こっちだけでも読めないこともないですが、出来たら前作を見てからご覧になってください。 ゆっくりハンターの生活2 朝よりも多少雲が出てきた昼下がりの午後。 阿求ちゃんとの楽しい昼食を終えた私は、ハンターとしての仕事を再開する。 「ハンターさん、午後はどうするのですか?私は狩りに行きたいです!」 阿求ちゃんが、メイスを高々と構えてそう意気込む。 朝は比較的穏やかな作業だったから、彼女には刺激が足りなかったのかもしれない。 私は、仕事用の手提げカバンを持って彼女に笑いかける。 「ええ、今日の午後は狩りに行くわ。一緒に依頼主のところまで行きましょうね」 「了解です。私のモルゲンで叩き潰して見せます」 「……ずっと気になっていたんだけど、モルゲンってそのメイスのことかな?」 柄の先端に歪な突起を生やした鉄の塊がついているだけという、か細い少女には似合わない無骨なメイス。 鈍い光を輝かせているそれはいかにも禍々しく、今まで殺されたゆっくりたちの怨念がこめられているようだった。 彼女はそのメイスを誇らしげに構えて、うっとりした目でそれを見ている。 「ええ!数々のゆっくりのあんこを吸ってきた、私の自慢のメイスです。 モルゲンステルン(トゲ付きメイス)タイプのものだったので、モルゲンと名づけました」 「阿求ちゃん、張り切るのはいいけど室内でそれ振り回さないでね」 「すみません。でも私の内から出るパッションが止まりません」 無闇に逸る阿求ちゃんをなんとかなだめて、私達は依頼主のところへ向かった。 そこまで行く途中の道で、私の隣を歩きながら持っているメイスをぶんぶんと振り回す少女はひどく危なっかしい。 怪我させないよにしっかりと見ておく必要があるだろう。 「えーっと、……ここかしらね」 私は手に持った依頼書を見て、目的地が目の前にある家で正しいか確認する。 前に何度か依頼が来たので間違いないと思うが、念のためだ。 「おじゃまします。依頼を受けたゆっくりハンターの者ですが、誰かいませんか?」 呼び鈴を鳴らし、入り口でそう言ってから待っていると、すぐに中から男が出てきた。 小太りのおじさんで、顔が油でてかてかと光っていた。 男はしかめっ面のままこちらを見て、そして黙って部屋の奥に目を遣る。 中に入れという合図だ。 私は一度彼にお辞儀をしてから中に入り、阿求ちゃんも私に続いた。 私達は、男によって客間の一角に案内され、用意された席に座った。 案内された部屋は、なにやら賞状やらトロフィーやらが目のつきやすいところに並べてある。 ゆっくり関連のグッズもそこかしこに置かれており、私の口からは素直にかわいいなぁと言う言葉が漏れた。 一方、阿求ちゃんは手をプルプル震わせてそのゆっくりたちを見ていた。 男は終始無言で、こちらと目をあわせようとすらしない。 阿求ちゃんはそんな男の様子を訝しんでいたが、私にとってはもう慣れたものだ。 懐から依頼書を取り出し、仕事の話を始める。 「では、依頼内容の確認をしますね。 私が依頼された仕事は、昼の間にこの畑を荒らしに来るゆっくりたちから作物を防衛すること。 その際に注意することは、絶対にゆっくりたちを殺さない。 ゆっくりに怪我を与えてしまうとしても、必ず最小限にとどめること。 成功報酬は依頼書に明記されている通り、ということで。 以上でよろしいですか?」 阿求ちゃんが私の言葉に驚いたような顔をこちらを見た。 狩りに来た、といっているのにこれだから仕方ないか。 事情を先に説明しとけばよかったな、といまさらながら悔やむ。 まあいまさら悔やんでも後の祭りだ。男が黙ってうなずくのを見て、私は阿求ちゃんをつれて席を立った。 「待て」 部屋の扉に手をかけたとき、男が始めて声を上げた。 やっとか、と私がほっとして男の方に向き直る。 「なんでしょうか?」 「いいか。絶対にゆっくりちゃんたちを虐めたり、殺したりするんじゃないぞ。 彼女達を透明の箱に入れて、無闇に苦しめるるのもいかんからな。 もし私の周りでそんなことをすれば、お前にも彼女らと同じ苦しみを味わわせてやるから覚悟しておけよ」 「ええ、彼女達は、かわいいですからね」 男は私の答えにふん、と鼻を鳴らし、そして特大ゆっくり人形を抱きかかえながらまた目をそらした。 「わかったならそれでいい。私はこの子と戯れているからさっさと出ていけ」 私はそれ以上男に話しかけることは無く、阿求ちゃんを連れて男の家から出た。 阿求ちゃんはずっと怒りを抑えていたらしく、表に出るなり真っ赤な顔をしてブンブンとメイスを振り回した。 「もう!どういうことですかハンターさん!ゆっくりたちを殺すななんて、私がモルゲンを持ってきた意味ないじゃないですか! それになんですかあのジジイの態度は!そんなにゆっくりが好きなら畑ごとゆっくりに上げればいいじゃないですか!」 「落ち着いて、阿求ちゃん。これには深くないけど事情があるの。それにゆっくりを狩ることに変わりは無いから」 私の言葉に、ようやく彼女の動きが止まる。 「え?今回は追い払うだけじゃないんですか?それに殺害はNGだとあのジジイが………」 「そんな対処の仕方をしても、ゆっくりに効果は無いのは阿求ちゃんも知ってるんじゃないかな? 翌日には忘れてまた来るだろうし。それに、殺害がNGなのはあの人の近場だけよ。 追い払った後追跡して、森の中で殺しても何も言われないわ。むしろ先方もそれを望んでるわ」 「……じゃあなんであのジジイはあんなことを言ったんですか?素直に退治してくれ、と言えばいいじゃないですか」 阿求ちゃんは納得行かないような顔で私にそういった。 正直私もそう思うが、人には事情があるんだから仕方ない。 「実はねぇ……あの人、ゆっくりんピースの会員なのよ。それも結構上の方の」 「はぁ!?あの基地外集団のですか?じゃあなんでゆっくりを殺せなんていうんですか? あいつらはゆっくりを保護する団体でしょう?」 「ええ、普通の会員さんだったらブリーダーさんに頼むところでしょうけどねぇ。 でもあの人、ゆっくりにお金かけすぎてそんな余裕ないのよ。ブリーダーさんって結構お金かかるから。 かといってそれなりに上のほうの人だから、自分で殺すのも加工所にうっぱらうのも周りの目が許さないし。 ましてやゆっくりに畑を明け渡したりなんかしたら、破産しちゃうわ」 「はぁ……だからお姉さんのところに話がまわってきたと」 「ええ。ハンターは割と安めで仕事を引き受けるものだから、こういう人たちの依頼は良く来るの。 こちらとしても、そういう人種の人たちはほかの人より多くお金出してくれるから万々歳よ」 彼女は私の言葉に心底呆れた様子で、深いため息を吐いていた。 子どもにとっては、こういう大人の複雑な理由は理解できないのだろう。 まあ、私も彼らのことを理解できることなんて一生無いだろうけど。 仕事だからと折り合いを付けているだけだ。 「だったらゆっくりんピース抜ければいいと思うのは私だけでしょうか……」 「私もそう思うけどねぇ。でも、今抜けたらこれまでゆっくりたちに使ってきたお金は無駄だった、と認めるようなものだから出来ないんでしょうけど。 まったく、もっと単純に自分の思うまま生きればいいのにねぇ」 阿求ちゃんはうんうん、と頷きメイスの先で家の壁を小突く。 大きな音は出ないものの、家の壁の塗装が少し削れた。 「ゆっくりを見つけたら何も考えず叩き潰すくらいでいいと思うんですよ私は。 それなのにゆっくりがかわいそうだの保護しようだのとぐちぐちと……やっぱりゆっくりんピースは害悪ですね!」 「こらこら、人の思想に口を出しちゃあ駄目よ?向こうは向こうで考えた末の結果なんだから。 そういうのは心の中だけで考えて、口には出さないものよ?あと壁突くのやめなさい」 阿求ちゃんはまだ納得いっていないようだったが、素直に私の言葉に従ってくれた。 妹がいたらこんな風なのかもしれない、と密かに思った。 「それじゃあ、畑に行こうね。いつゆっくりたちが来るともわからないし」 「そうですね。こんなやつのことは忘れてさっさとゆっくりで遊びましょう!」 彼女はそういうと、私の手を引っ張って畑の方に歩いていく。 彼女はもう待ちきれないと言った様子で、顔は興奮しているせいか少し赤い。 私は転ばないように気をつけながら、そのまま彼女についていった。 「ここが畑ですか……なんとも無防備ですね」 男の家の裏側に回ると、一面に畑が広がっている。 それなりに耕地面積は広く、作物もよく育っているのが見て取れたが、 外側の蔓ごと抜かれていたり、ほんの少しだけかじられた野菜が捨ててあったりとひどく荒らされていた。 ゆっくり対策に作られたのだろうか、木製の柵が畑の周囲に立てられていたが、ところどころ壊されておりもう柵としては機能していなさそうだ。 ゆっくりのことを少しでも調べた農家ならあんなもの役に立たないことぐらいはわかるだろうに。 もしかしたら、ゆっくりんピースには間違った知識が蔓延しているのかもしれない。 「無駄に広いから、ここを守るのは大変ですね……。ハンターさん、どうするんですか? 柵を張りなおしたりしとかないと、危ないのでは」 「そんなめんどくさいことしなくても大丈夫よぉ。一緒に座ってゆっくり待ちましょう?」 「……え?何もしなくていいんですか?」 「別にいいわよ。どうせ今からやったってたいした柵なんか作れないし。 あ、あの雲なんかむくむくしててかわいいわよ?ゆっくりみたいで」 私は地面の上に腰をおろし、柵にもたれながら空に浮かんでいる雲を指差してそういった。 阿求ちゃんはまだなにか言いたそうだったが、私の様子を見てあきらめたのか結局は隣に座って一緒に空を眺めていた。 そこにはやわらかそうな雲が数個浮かんでいて、あそこで寝たら気持ちよさそうだ。 いかにもゆっくりたちが好みそうな場所で、もしかしたらあそこにはゆっくりたちが住んでいるのかもしれない。 そんなことを彼女に言うと、彼女は笑ってそれを否定した。 彼女が言うことには、 崖の上でゆっくりをロープに括り付けたまま降ろしたところ、そのゆっくりはショック死してしまった、という実験結果があるらしい。 だからゆっくりたちは高いところは苦手だと思われ、よってあんな高いところにある雲でゆっくりすることは無理とのこと。 「へぇ~、ゆっくりたちが高いところ苦手だなんて知らなかったなぁ。 阿求ちゃん物知りだね」 「いや、物知りだなんてそんな。ゆっくりに関してはまだ未知な部分が多くて、私にも知らないことなんてたくさんあります」 彼女は俯いて、照れたかのように頬を掻いた。 子どもなのに謙遜までするなんて、将来は大物になるかもじれない。 「……ゆっくりと言えば、ハンターさんはゆっくりが好きなんですよね?」 彼女は再び顔をあげ、思い出したようにそういった。 「うん、そうよ。あのゆっくりの笑顔を見ていると、なんだか心がホンワカしてくるのよねぇ」 「じゃあなんでまたハンターなんかに?農家になれないのわかりましたが、だからってそれじゃなくてもいいじゃないですか。 ブリーダーとか、保護委員になるとか、他にもいろいろあるでしょう」 「それも考えたんだけどねぇ。でも私、殴ってしつけるのはちょっと苦手だし。 一時期頑張ってやってみたこともあったんだけど、私がゆっくりに餌をやったら何故か死んじゃうのよ」 「ああ、あの殺人野菜のことですか……うう、思い出したら気持ち悪くなってしまいました」 「おいしいのにねぇ。だから基本的に保護系は無理だったわ。保護した片っ端から死ぬんだもの。 でもどうしても私はゆっくりにかかわる仕事をしたかったから、ハンターの職に就くことを決めたの」 「……なるほど、納得しました。お姉さんも大変なんですね……あ!」 ちょうど話に区切りがついた時、向こうから小さくて丸い塊が飛び跳ねながらこっちに向かってくるのが見えた。 言わずもがな、ゆっくりだ。 見たところ全部まりさ種のようである。 「まりさたちのゆっくりごはんをとろうね!あそこのおやさいはとってもおいしいよ!」 「ゆゆ!?にんげんたちがいるよ!だいじょうぶなの?」 「だいじょうぶだよ!ここのいえのにんげんはまりさのかわいさにめろめろだから、なにもしてこないよ!」 以前来たときに相当甘やかされたのだろう、随分な言い草である。 こうなっては言葉で止めるのはもう無理だ。なにを言ってもここはまりさのものだからさっさと出てけと言われるだけ。 それを知っていたのだろう、阿求ちゃんがメイスを構えて攻撃体制をとる。 「かかって来なさい!みんなまとめて叩き潰してあげますよ!」 メイス片手に突撃しようとする阿求ちゃんの襟を、私は慌てて掴んだ。 「ぐぇ!な、なにするんですか!?」 「駄目だよ阿求ちゃん。そんなので攻撃したらゆっくりたち死んじゃうよ」 「じゃあどうするんですか!ああもうどんどん迫ってきてます!」 私はふてぶてしくにやりと笑うと、手提げかばんの中から銀色に光る"それ"を取り出した。 太陽の光を反射してまぶしく輝くそれは―― 「じゃじゃーん!銀のナイフー!」 それは刃渡り十五センチほどの狩猟用ナイフで、私が狩りのときに良く愛用するものだった。 狩りのとき以外にも、料理のときに使ったり、収穫のときに使ったりと、私にとっては生活の必需品となっている。 「ってそんなの見ればわかりますよ!ナイフなんて使ったらやっぱりゆっくりは死んじゃないですか!」 「モノは使いようよぉ?ちょっと見てなさい」 私は突撃してくるゆっくりに向かって、思い切りナイフを投げた。 そのナイフはほぼ直線に近い軌道を描き、ゆっくりにの顔に直撃――せずに、ゆっくりのかぶる帽子を射抜いた。 「ゆゆ!?まりさのぼうしが!」 ナイフは帽子に刺さっても勢いをとどめることは無く、そのまま帽子ごと地面に突き刺さる。 慌てて帽子を取られたゆっくりが拾おうとするも、ゆっくりではナイフを抜くなんて器用なことは出来ない。 泣きながら帽子の周りを飛び跳ねるだけだ。 「す、すごい…。こんな方法があったんですね!」 「まあ、リボンとかだと結構大変なんだけどねぇ。今回はまりさ種ばっかりだから楽に済みそうだわー。 エイ、タァ、ドウリャー、トゥー、ワーワー」 私は投げる毎に気合の言葉を発しながら、突撃してくるゆっくりたちの帽子をひとつ残らず地面に縫い付けていく。 前方の惨状を見て逃げようとするゆっくりにも、きっちりナイフを投げておく。逃げられたら厄介だ。 十五匹ほどの帽子を縫い付け、防衛戦は終了した。 「うーん、あんまりいなかったわねぇ」 「結構いるように見えますが…これで少ない方なんですか?」 「これだけ畑が広いと、コミュニティ全体で来ることもあるからねぇ。 違う畑では百匹近くのゆっくりが襲ってきたこともあったっけ。今回みたいに制限は無かったけど、さすがに危なかったわぁ」 あの時は仕事中に周りの農家たちも応援に来て、さながら闘技場のようになっていたっけなぁ。 あんこまみれになった畑の周りを、みんなで仲良く掃除したのはいい思い出だ。 今回は規模が規模だし、ここの住人自体もあまり評判がよろしくないので観客は阿求ちゃんしかいないけれど、 見られることを意識するといつも以上に頑張ろうという意欲がわくものだ。 「で、どうするんですか?あれ」 「そうねぇ。まりさたちにはちょっと聞きたい事があるから、阿求ちゃんはそこでちょっと待っててくれないかしら」 阿求ちゃんが目の前の自分の帽子の前で泣き叫んでいるゆっくりたちに指を向ける。 私は彼女をそこに残し、リーダー格と思われる、一番大きいサイズのゆっくりまりさに近寄った。 「ちょっといいかな?」 呼びかけられたゆっくりまりさが、涙やらよだれやらでぐちょぐちょとなった顔をこちらに向けた。 「お゛ね゛え゛さ゛ぁ゛ぁぁぁん!!ま゛り゛さ゛のぼうし゛と゛って゛ぇ゛ぇぇぇ!!」 「いいよ。はい、これでいいかな?」 私はそのまりさが言うように、地面からナイフを引き抜いて帽子を取ってあげた。 そして私の胸の前でそれを抱えるようにして持つ。 「おねえさんありがとう!それはまりさのぼうしだから、さっさとかえしてね!」 先ほどまでの泣き顔はどこへやら、まりさはいつものふてぶてしい顔をして私から帽子をとろうと飛び跳ねている。 たぶんさっきのは嘘泣きだったのだろう。 泣けばここの住人は馬鹿だから助けてくれる、なんて計略があったに違いない。 確かにそれは有効である。昨日までならば。 あのゆっくりんピースのおじさんの金と共に、このゆっくりたちの命運も尽きてしまった。 「じゃあ、私の質問にちょっと答えてくるかな?」 私はなるだけやさしい口調でそういった。 本当はもっと厳しく言った方がいいのだろうけど、やはりいきなりそんなことをするのも気がひける。 ゆっくりまりさは私が下手に出ている様子にこいつも自分に優しい人間だと思ったのだろう、 体を一回り大きくして見下すようにこちらを見ている。 「そんなことよりまりさのぼうしさっさとかえしてね!のろまはきらいだよ!」 案の定付け上がってしまった。 仕方がない、気は進まないけどこちらも少しだけ強硬姿勢を見せなければいけないか。 私は帽子をしっかりと抱え、ゆっくりまりさに取られないように注意しつつ、ナイフでほんの少しだけ帽子に切れ目を入れた。 自分の帽子がさらに傷を付けられていく様子を見て、ゆっくりまりさは慌てふためく。 「おねえさんへんなことはよしてね!まりさのだいじなぼうしにきずつけちゃだめだよ!」 「ごめんね?私も仕事だから。本当はこんなことしなくないのだけれど」 「だったらさっさとかえしてね!」 「じゃあ私の質問に答えてくれる?」 言外に答えなかったら帽子を引き裂くぞ、と言う脅しのニュアンスを含みつつ、私はゆっくりまりさに迫る。 ゆっくりまりさは下に見ていた人間に思わぬしっぺ返しをくらって心底悔しそうだったが、 自分の大事な帽子には変えられないのか、観念したかのように動きを止める。 「わかったよ!こたえるからさっさとしつもんしてね!」 「ふふっ。じゃあ聞かせてもらおうかしら。 あなた、ほかに仲間はいる?ここの畑を他のゆっくりに知らせたかしら?」 私が問うたのは相手の戦力の規模。 このゆっくりたちを処分するならばここから離れねばならない。その間、この畑は無防備になってしまう。 もしまだいるならばこのゆっくりたちは、このままここに縫い止めておかねばならない。 まったく、捕獲用の箱くらい使わしてくれてもよかろうに。 だが、私のそんな心配を知ってかしらずか、ゆっくりまりさの答えは私にとって理想的なものだった。 「なかまはいないよ!ここにいるみんなでぜんぶだよ!それにほかのゆっくりにもいってないよ! ここはまいさたちだけのゆっくりぷれいすだからね!」 「ありがとう。でも嘘はついちゃだめよ?そうしたら私にとってもあなたにとっても悲しいことになるわ」 「うそなんかついてないよ!まりさはしょうじきものだからしんらいしてくれていいよ!」 一応念を入れて探りを入れてみるも、ゆっくりまりさに嘘をついている様子は見受けられない。 まりさ種特有の強欲さから考えても、その話は信憑性に足るものだと思われた。 私の目標は、このゆっくりまりさだけとなった。 「おねえさん、おしえたんだからさっさとぼうしかえしてね!」 「ああ、ごめんなさい。今返すわ。でもその前に、私からもあなた達に教えたいことがあるの。 あなた達がゆっくりできるかどうかに関わる、とても大事なことなんだけど。聞いてくれる?」 「まりさはゆっくりしたいんだぜ!おねえさん、ゆっくりしないではやくおしえてね!」 ゆっくりできない、と言う言葉に本能的に恐怖を覚えたのだろうか、ゆっくりまりさが帽子のことも忘れて私の情報をせがんでいる。 私はまりさを安心させるように微笑むと、畑の方にいる阿求ちゃんを指差した。 「ねぇ、あの女の子って誰だかわかる?」 「ゆ?あんなひょろいやつなんてしらないよ!」 ゆっくりたちから見れば、彼女はそんな風に映るらしい。 私としては、線が細く、そのすらっとした体のラインはうらやましいものであるのだが。 私はこんな職業柄、どうしても少し筋肉質な体になってしまうからだ。 今度、どうやってあんな主そうなメイスを振り回すパワーを持ちながらそんな体型を維持できるのか、じっくりと聞いてみたいものである。 ……いけない、思考が脱線した。今は仕事に集中しないと。 「あの子はね、実はあなた達を捕まえに来た加工所の人なの」 「ゆゆ!?おねえさんそれほんとう!?」 「ええ、もちろんよ。彼女の持っているものが見えるでしょう?あれは、あなた達を捕まえるための道具なの」 実際は、あれは捕まえるものではなく殺すためのもの。それでも、ゆっくりたちにとって脅威であるものには変わりないのだが。 ゆっくりまりさはとりあえずあれの危険性についてはわかったのか、私に隠れながら、おびえた表情で向こうを見る。 「でも、心配しなくても大丈夫よ?あの子はあなた達が近づかない限り、何もしないから。 だから、今日はおとなしく森に帰ったほうがいいんじゃないかしら?」 「で、でもそうしたらまりさたちごはんたべられないよ!」 「それは仕方がないわ。たべものより命の方が大事でしょう? どうしても行きたいっていうんなら止めはしないけど、私はあの子からあなた達を守れるほど強くないわ」 阿求ちゃんのいる畑を見やって、ゆっくりまりさは考え込んでしまった。 お野菜は食べたいが、そこに立ちはだかるのはこわいもの構えて仁王立ちする人間。 この人数でかかればいくらかはあれを抜けられるかもしれない。だが、確実に私達の大半はゆっくりできなくなる。でも私じゃないかもしれない。 運がよくて私だけはおいしい野菜を食べながらゆっくりできるかもしれない。 どうしよう、怖いけど、お野菜は食べたい。あれはとてもおいしい。 おいしいものを食べたいと言う欲求と、死への恐怖と、もしかしたらという希望。 ゆっくりまりさの中で葛藤が渦巻いた。 ゆっくりまりさは考えに考え抜いた末、私に向かってこういった。 「おねえさん!まりさたちきょうはかえるよ!あしたあそこでゆっくりすればいいからね!」 勝ったのは死への恐怖。やはりあのメイスと、何より彼女が怖かったのだろう。 結構離れた私の場所でも、阿求ちゃんのゆっくりへの殺気がありありと感じられる。 ゆっくりまりさもそれを感じ取ったのだろう。 そうでもなければ、本能に従順なゆっくりが簡単に食への欲求を止められるものか。 私は彼女の殺気の波動から守るようにゆっくりまりさの前に屈みこんで、持っていた帽子をかぶせてやる。 「そう。命を大事にしてくれて嬉しいわ。早くみんなを連れてここから逃げてね」 「うん!おねえさんありがとう!みんなにおしえてくるね!」 ゆっくりまりさは勇んで他のゆっくり達に近づいていき――そして泣きそうな顔でまた私のところに戻ってきた。 「おねえさん!ほかのまりさたちのぼうしもとってあげてねぇぇぇぇ!!」 そういえば、まだ刺さったまんまなんだっけ。 私は地面に縫いとめられている帽子を回収し、それぞれのゆっくりまりさに被せてやる。 ゆっくりまりさたちは泣きながら私に礼をし、後ろでさっきを撒き散らす阿求ちゃんをみて恐れおののいて、そして帰っていった。 私はゆっくりたちがこちらを気にしなくなるほど離れてから、後ろにいる阿求ちゃんを呼び寄せる。 「すごいですね。どうやってあのゆっくりたちを説得したんですか? 合い辛そう簡単に畑を諦めるようなやつらじゃないのに」 「ふふっ。阿求ちゃんのおかげよぉ。 じゃあ他のゆっくりたちもいないようだから、後を付けていきましょうか。 待望の狩りの時間よ」 彼女は自分のおかげとはどういうことかと首をひねっていたようだが、 ゆっくりが狩れる聞いて俄然やる気を出したようだ。 「ほんとですか!ついにあいつらをつぶすときが来たのですね!」 「まあ、人目のつかないところまで尾行してからだけどねぇ。 ここで見失ってしまったらことだから、静かに、そして慎重に行きましょう?」 私は興奮する阿求ちゃんの唇に人差し指を押し当て、にこりと笑った。 彼女は了解です、とおでこに手をやって敬礼のポーズを取る。 まあ、ゆっくりたちは鈍感だからばれることは万が一程度しかないだろうが、念には念をだ。 そうして私達はゆっくりまりさたちの尾行を開始し、十数分後、彼女達の巣と思われる森の一角についた。 そこにはそのゆっくりまりさのほかにも、彼女の子ども達と思われる子ゆっくりもいた。 「おおー、いっぱいいますねー。もう我慢しなくてもいいんですよね?」 阿求ちゃんがメイスを構えて、満面の笑みで私の許可を請う。 私もナイフを構え、頷いた。 「いいわよ。ただ、向こうにいるリーダー格のゆっくりまりさは私に預からせてね?」 「わかりました!では行ってきます!」 彼女は弾丸のごとく疾走し、一直線にゆっくりに突撃する。 いきなりの奇襲に驚いたゆっくりは、すばやく反応することが出来ない。 「はぁーーーーっ!滅殺!」 「ゆべっ!?」 「びいっ!」 「ゆぐぅぅぅ!?」 「い゛ぃ゛ぃぃぃ!!」 彼女がメイスを振り回し、その暴風雨のような一撃に巻き込まれたゆっくりたちが内蔵物を撒き散らす。 ほんと、どこにあんな力があるのだろう。そう疑問に思いつつ、私は逃げようとするゆっくりを私がナイフを投げて縫いとめる。 今度は、帽子じゃなく本体を直接狙う。 「いだいよぉぉぉぉ!!」 「ゆぅぅぅ!!にげたいのにうごけないぃぃぃぃ!」 ナイフが刺さったごときでは致命傷には至らないが、それでもゆっくりたちの動きを止めることはできる。 動きさえ止めてしまえば、もう逃げられる心配は無い。後は阿求ちゃんに任せておけば大丈夫だろう。 私はそれを放置して、阿求ちゃんのメイスに当たらないように気を付けつつ、 目の前の惨状に呆然としているリーダー格のまりさに近寄った。 向こうも私を認識したようで、怒ったような顔で私に抗議の声を上げる。 「おねえさん、これどういうこと!!まりさたちをだましたの!!」 「ごめんね?これも仕事なの。あなた達には後で話があるから、とりあえずそこで待っててね?」 私はそのゆっくりまりさと、取り巻きにいた数匹のまりさをナイフで刺して動けないようにしておく。 ゆっくりまりさたちは体中を走る激痛に悲鳴を上げているが、私はそれを無視して阿求ちゃんのほうに向かう。 彼女のほうはあらかた片付いたようで、そこらじゅうにあんこが飛び散っている。 彼女も服をあんこだらけにしながら、恍惚の表情を浮かべてそこに佇んでいた。 「あらあら、もう終わっちゃったの?手伝おうと思ったのに」 「ああ、ハンターさん。本当はもう少しゆっくりいたぶろうかとも思ったんですが、一日中我慢していたせいで制御が利かなくて…」 「早いに越したことはないから私としては別にいいけどねぇ。って、あら?まだあそこに残っているわよ?」 そこには、あんこに埋もれていた一匹の子まりさがいた。 阿求ちゃんがまき散らかしたあんこが体中に飛んできて、運よくそれが擬態として働いたのだろう。 「ゆゆ!もうだれものこってなんかいないよ!ぜんめつしちゃったんだからゆっくりかえってね!」 自分を見つけられて焦ったのか、ゆっくりまりさが声を張り上げてそういった。 そんなことしても逆効果なのだが、ゆっくりだから仕方がない。 阿求ちゃんが頬を吊り上げながら、声のしたほうに近づいていく。 「そうですか、やっと全滅しましたか」 「そうだよ!もうだれもいないからゆっくりさっさとかえってね!」 「でもちょっと疲れましたから、ここで一休みしましょうか」 彼女は近くにあった木の根元に座り込み、隠れている子まりさの上に先端がのしかかるように、自分の持っているメイスを置いた。 「ゆぐっ!?お、おもいよ!とげがささっていたいよ!おねえさんはやくこれをどけてね!」 「おかしいですね~、全滅したはずなのにどこかからゆっくりの声が聞こえます。 幽霊でしょうかねぇ?おお、こわいこわい」 彼女はわざと子まりさと視線が合わないようにしつつ、そううそぶいた。 メイスを乗っけられた子まりさは必死に抗議の声を上げる。 「ゆゆ!ぜんめつなんかしてないよ!まりさがここにいるよ!だからさっさとこれをどけてね!」 「ええ?全滅なのではなかったのですか?でもどこにいるのでしょう。皆目見当もつきません」 彼女は周囲を探すように歩き回り、時折メイスの力を軽く踏んで子まりさの負荷を増加させる。 「いだいぃぃぃ!ふまないでね!これいじょうされたらまりさつぶれちゃうよ!」 「あらごめんなさい。でもあなたがどこにいるのか探さないと・・・ここかしら?」 そういってさっきより強くメイスの柄を踏む。 「ひぎっ!それいじょうはやめでねぇぇぇ!!あんこがでちゃうよぉぉぉぉ!!」 「あは、あはははっ!やっぱり見つからないですねぇ。ここですか?それともここ?ここかもしれませんねぇ」 彼女は興奮で顔を赤く染めながら、何度も、何度もメイスを踏む。 踏まれるたびに子まりさはビクン、ビクンと痙攣し、中のあんこをひねり出して行く。 「ああ、やっぱりたまらない!もっと、もっと聞かせてください!」 「ゆべっ!や、やべっ!!こべっ!もぶっ!だべっ!」 彼女は狂ったように笑いながら、汗が滴り落ちて妖しく光る足を上下に動かす。 子まりさはポンプのように、踏まれるたびに口から悲鳴を上げる。 そしてその声はだんだんと弱くなり、そして中のあんこがすべて飛び出ると同時にその声も聞こえなくなった。 「もう終わりですか?子どもは耐久力がないのが難点ですねー。 悲鳴は成体よりも良いのですけど」 「あらあら、あれだけ愉しんでたのに辛口ねぇ。 でもとりあえずこちらは終わったようだから、ちょっと来てくれるかしら?」 私は彼女を連れて、先ほど動けなくしておいたまりさ達の元へ向かう。 やはりまだ動けないようで、目の前の惨状に震えながらもそこから逃げられないでいた。 「お、おねえさん!まりさをたすけてね!まりさしにたくないよ! ほかのまりさたちはしなせてもいいから、まりさだけはにがしてね!」 リーダー格のまりさが私を見るなり他のやつらを見捨てて命乞いをする。 他のゆっくりまりさが慌てて自分も、自分もと命乞いを始める。 「自分だけ助かろうとは見下げた根性ですね。ハンターさん、殺しちゃっていいですか?」 「だめよぉ。この子達はみんな逃がしてあげるんだから」 私のその言葉に阿求ちゃん絶句し、ゆっくりたちは歓喜の声を上げる。 「おねえさんありがとう!まりさをゆっくりにがしてね!」 「ああ、でも私も仕事だから、ただで逃がすわけにも行かないのよ。 あなた達もう顔が割れてるから、万が一あのおじさんにあなた達のことを見つけられたら困ることになるわ」 「……ゆっくりなんて見分けつかない気がしますけど」 「あら、ゆっくりんピース舐めちゃだめよ?彼らはゆっくりたちの顔のわずかな違いでその個体を識別できるんだから」 ゆっくりたちは確かに似ているが、個々で微妙に違ってたりする。 目つき、口元、眉毛の凛々しさなど、ゆっくりんピースやブリーダーはそれを見て区別することができる。 「じゃあどうするんですか?やっぱり殺すしかないじゃないですか」 「そんなこともないのよ?ちょっと見ててね…えいっ」 私はナイフを使って、ゆっくりまりさの右目の部分だけを綺麗に刈り取る。 「ゆ、ゆぎゃぁぁぁぁぁ!!まりさのめがぁぁぁぁぁぁ!!」 「ごめんね?痛いだろうけど暴れちゃ駄目よ?すぐ済むから我慢してね」 私は隣のまりさも同様に同じ部分を刈り取り、それを最初に切ったゆっくりまりさの目にくっつける。 同様に先に刈り取った右目も、今切ったゆっくりまりさの目に引っ付けて、傷口をふさぐ。 これで、二匹のゆっくりまりさの右目は交換された。 「どう?これならばれなくなるでしょう?」 「はぁ、パーツの交換ですか…良く考えますねこんなの」 「ありがとう、ほめ言葉として受け取っておくわ。 まあさすがにこれだけじゃばれちゃうから、もっと色々やるんだけど」 私は再びナイフをゆっくりたちに向ける。 ゆっくりまりさたちはこれから来る痛みから逃げようとするが、体に刺さるナイフがそれを許さない。 私はそんなゆっくりたちを安心させるために、優しく微笑んであげた。 「ちょっと痛いだけだから、我慢してね?これが終わったらみんな逃がしてあげるから」 ゆっくりまりさたちは悲鳴を上げているが、私は無視してナイフで顔のパーツを切り取っていく。 その悲鳴に罪悪感が心の中でもたげたが、ゆっくりたちを生かすためなのだから、と私はそれを押さえ込んで作業を続けた。 ゆっくりたちの麻酔なしの整形手術は、一時間後にようやく終わった。 「はーい、終わったよー。みんな、良く頑張ったね」 私は痛みに耐えかねて気絶しているゆっくりたちを起こし、ナイフを抜いて野に放ってやる。 ゆっくりまりさたちはまだ痛みが抜け切っていないようだったが、それでも体に鞭打って私の元から離れていった。 そのときに私になにか言おうとしていたが、交換したばかりだったせいか口が動かなかったようで、結局そのまま何も言わず去っていった。 お礼なんて、別にいいのに。 ゆっくりまりさたちを見送りながら、阿求ちゃんが私に質問をした。 「ハンターさん、なんであんなめんどくさい事をしたんですか?やっぱり殺したくないからですか?」 「もちろんそれもあるわ。でも、あの子達明日になったら私達のことなんてすっかり忘れて、いつか群れをなしてまたあのおじさんの畑襲うと思わない?」 「まあ、ゆっくりの習性上そうなってもおかしくは……って、まさか」 「大事な収入源は、できるだけ手放したくないものよねぇ」 私達はその後依頼人の男のところにいき、ゆっくりたちを追い払ったとだけ報告してお金を受け取った。 彼は自分の畑を襲うゆっくりたちが死んだのだと喜びを隠せずにいたが、 阿求ちゃんはそんな彼を哀れむように見ていた。 男は阿求ちゃんの様子に気づくこともなく、上機嫌のまま私達を見送るために玄関まで来ていた。 私は大事な顧客である彼にしっかりとお辞儀をして、そしてこう言った。 「また、何かあったらよろしくお願いしますね」 終わり 外伝へ? 読んでくださった人に感謝の念をこめて。 本当に、本当にありがとうございました。 このSSに感想を付ける
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ゆっくりハンターの生活 里から少し離れたところに建っている一軒屋。ゆっくりハンターである私の朝は、ここから始まる。 ゆっくりハンターである私の朝は、そんなに早くない。 いつも通りの時間に起きて、布団の上で大きく伸びをする。よく寝たから、気分がいい。 私は布団から出て、寝汗で少し湿っているパジャマを無造作に布団の上に脱ぎ捨て、普段着に着替える。 寝巻きはいつもこんな扱いだからしわくちゃだ。どうせ誰にも見せる予定は無いから別にいいけども。 「おじゃまします。ハンターさん、起きてますか?」 私が朝食を食べ終えたとき、一人の少女が入ってきた。最近私の家に出入りするようになった少女、稗田阿求だ。 何でもゆっくりに興味があるらしく、私の仕事を見学したいと数日前からここに通いつめている。 ただ見学するだけでは悪いからと、私の仕事も無償で手伝ってくれるので大助かりだ。 「おはよう、阿求ちゃん。今日は早いんだね」 「はい!朝からゆっくりたちを虐められると聞いて飛んできました!」 「そう。じゃあ早速仕事始める?」 「ぜひともお願いします!」 私は仕事用の道具をリヤカーに乗せて運び出し、彼女と一緒に家を出た。 空には雲ひとつ無く、雁たちが隊列を組んで飛んでいる。 いい朝だなぁ、と私は思った。 「ここからはやくだしてね!ここじゃゆっくりできないよ!」 「だれでもいいからはやくたすけてね!れいむはおうちにかえってゆっくりしたいよ!」 「おおー、いっぱいかかってますねー」 向かった先は、ゆっくり専用落とし穴一号。いつか4号まで作る予定だ。 穴の中心にはゆっくりが好む臭いを出すお香と、いくつかの野菜を模したゴム人形が置いてある。 えさを探しにきたゆっくりたちを中に落として捕まえるというシンプルなもの。 雨の日は使えないのが難点だが、ほかっておくだけで勝手に獲物がかかるので非常に楽だ。 穴の中には十匹前後のゆっくりたちがいる。 普段は五匹もかかればいいほうだから、大漁だと言えた。 たぶん家族の一人が穴に落ちて、それを助けようとしたゆっくりが芋づる式に入ったんだろうな。 「じゃあ阿求ちゃん、一匹私が捕まえるからちょっと見ててね?次からは手伝ってもらうから」 「はい、わかりました」 私はタモを使ってそのゆっくりのうちの一匹を拾い上げる。 掬い上げられたゆっくりは私に助けられたのかと勘違いしているのか、希望に満ちた目でこちらを見た。 「ゆ?おねーさんまりさをたすけてくれたの?ついでにまりさのかぞくもさっさとたすけてね!!」 私はその声を無視し、懐においておいたチキスでゆっくりの口をぬいとめる。 ばちんっ、という音と共にゆっくりまりさの口が強制的に閉じられる。 「ん゛!?ん゛~~~~~~!!!」 「ごめんね。痛いだろうけど、あとで業者さんが抜いてくれるだろうから我慢してね?」 そして、収穫用の箱にそのゆっくりを入れた。 外からしか入り口はあけられないように作られているので、もうそのゆっくりまりさは逃げ出すことが出来ない。 「はい。これでワンセット。阿求ちゃん,わかった?」 「もちろんですとも!この稗田阿求、一度見たものは二度と忘れません!」 彼女はこぶしを強く握り締めながら、力強くそう答えた。 「じゃあ、阿求ちゃんは私が捕まえたゆっくりの口にホチキスをして、その箱に入れる作業をしてくれるかな?」 「了解しました」 さすがにこの少女にゆっくりを掬い上げる作業は彼女には重労働すぎる。 意外にゆっくりたちは重いのだ。 彼女もそれをわかっているのだろう。素直に私の言うことに従ってくれた。 彼女は最初こそ勝手がわからずと惑うことがあったものの、すぐになれててきぱきと作業するようになった。 賢いし、元気があってとてもいい子だ。子どもがこんなにしっかりしているのだから彼女の親も鼻が高いだろう。 「そういえば、このゆっくりどうするんですか?殺すんですか?」 作業をしながら阿求ちゃんが私に質問を投げかける。 その質問の最後に、特に語気を強めていた。 「あはは…そのつもりなら中に毒エサでもまいておくわ。 このゆっくりたちは、加工場や薬屋さんに売るために、生きたまま捕獲するの」 「なるほど。でも、なんでわざわざ口をホチキスで止めるんですか?そのまま箱に入れればいいのでは?」 彼女は箱をどつきながらそういった。 箱の中にいるゆっくりたちがおびえたように飛び跳ねる。口を閉じさせられているため悲鳴を上げることも出来ない。 彼女はそのゆっくりたちの様子に少し物足りないようだった。 「だって、なんか心苦しいじゃない。ゆっくり達の悲鳴を聞いてると」 「……は?お姉さんはゆっくりハンターなのでは?」 私のその告白が衝撃だったのか彼女の作業を続ける手が一瞬止まる。 その様子に私は苦笑する。言っていることがおかしいのは自分でも重々承知している。 「まあ共食い防止っていう理由もあるんだけどね。 仕事だから仕方なくやってるけど、私本当はゆっくりが大好きだったりするんだよ?もちろん食事用って意味じゃなくてね。 子供の頃は一緒にゆっくりたちとも遊んでいたし」 「じゃあなんでその職業に就いたんですか…」 私の言葉に阿求ちゃんは驚きを通り越して呆れているようだった。 「本当は農家になりたかったんだけど、でも私が作る野菜はまったく売れないのよねぇ。 だから仕方なくって感じ。 ……よいしょ、これで最後かな?阿求ちゃんお願いね」 「あ、はい。パチンっ、と」 彼女は最後のゆっくりを箱の中に叩き込んだ。 沢山取れたからもう箱の中はパンパンだ。 「じゃあ、これもって行こうか。いっぱい取れたから結構なお金になりそうね」 「はい、わかりました」 私は彼女と一緒に市場まで行き、里に薬を売りにきた兎さんに捕まえたゆっくりを売った。 彼女は実験に使うらしいので、全部は買ってはくれなかったがそれなりの金額にはなった。 阿求ちゃんはその兎さんと知り合いのようで、今度また狩りに行きましょうねと笑いながら喋っていた。 私は残った分を加工所の人に売り、もうけたお金で彼女に手伝ってくれた御礼をした。 なにが欲しいか、とたずねたら生きたゆっくりれいむがいいです、といっていたので買ってあげたら喜んでくれた。 私と阿求ちゃんはそのゆっくりれいむをと一緒に、私の家までゆっくり帰った。 今そのゆっくりれいむは彼女の腕に抱えられ、中身のあんこを少しづつほじくり出されている。 「ゆぎゃぁぁぁぁぁ!!れいむのあんこださないでぇぇぇぇぇ!!」 「あはは!いい声で鳴きますねぇ。ここですか?ここがいいんですか?」 「ひぎぃぃぃぃぃ!?そこはだいじなどごだがらやべでねぇぇぇぇぇぇ!!?」 彼女はゆっくりれいむのあんこをまさぐりながら、場所によって変わる反応を見て遊んでいた。 私はそんな彼女を、微笑みながら眺めている。 叫び声をあげるゆっくりれいむはとてもかわいそうだったが、人が愉しんでいるところに水を刺すほど私は無粋ではない。 ゆっくりを虐めて楽しむという行為に共感は出来ないが、理解はしているつもりだ。 「ゆ゛……ゆ゛……」 そのゆっくりれいむは結局阿求ちゃんに中身をすべて穿り出され、やがて死んでいった。 そのときの阿求ちゃんのさわやかな笑顔が、少しうらやましかった。 「じゃあ、そろそろ昼食にしようかしら」 彼女の快感の余韻が去ったところで、私がそう提案する。 あれだけ働いて、その後ゆっくりれいむをあんなに虐めたのだ。 阿求ちゃんもおなかペコペコだろう。 「ああ、もうそんな時間ですか。ゆっくりを虐めていると時が経つのが早いですね」 「じゃあ何か作るから少し待ってて……」 私がそういって席から立った時、外から声が聞こえた。 「ゆゆ!こんなところにおいしそうなおやさいがあるよ!」 「やったね!まりさたちがみつけたからこれはもうまりさたちのものだね!」 「みんなでとろうね!」 私が慌てて外に出ると、ゆっくりたちが私の自家菜園の中でたむろっていた。 阿求も遅れて、何かメイスのようなものを持って表に出てきた。 ゆっくり立ちは私たちの姿を確認すると、そのうちの一匹が警戒するかのように飛び跳ねた。 「おねえさんたちだれ?これはまりさたちがみつけたおやさいだから、あげないよ!ゆっくりどっかいってね!!」 「あのね、それは私が作ったお野菜なの。だからそれは私のものなの。わかる?」 「なにいってるの?これはまりさがみつけたんだからまりさのものだよ! わたしたちからおやさいよこどりしようとするやからはさっさとしんでね!」 私はメイスを振りかぶって突撃しようとする阿求ちゃんを慌てて止め、再度ゆっくりたちに話しかける。 「ごめんね、あなた達からお野菜を横取りするつもりはないの。 ただ、私が作ったお野菜がどんな味か、あなた達に聞きたかっただけなの。 それはあなた達にあげるから、もしよかったら感想を聞かせてくれないかな?」 「ちょ、何言ってるんですか!そんなこといったら…」 「ゆー!そういうことならはやくいってね!まりさのこえたしたでゆっくりひょうかしてあげるよ!」 「ほら!付け上がってるじゃないですか!こんなやつらなぞ私のメイスで一撃…………むぎゅ」 「だからやめなさいって。あ、私たちのことはいいからゆっくり食べてね」 私は阿求ちゃんを止めつつ、ニコニコと笑いながらゆっくりたちの様子で見ていた。 阿求ちゃんは頭に青筋を浮かべながらゆっくりたちのところまで行こうとするが、私に後ろからがっちりとホールドされて動くことが出来ない。 「離して下さい!私のモルゲンがやつらを殺せといってるんです!」 「ちょっと落ち着いて見て見なさいって。ほら、あんなに幸せそうな顔して、かわいいなぁ…」 「ゆっくりたべるよ!ぐるめなまりさのひょうかをゆっくりまってね! ぱくっ!むーしゃ!むーしゃ!」 「ハンターさん今すぐこの手を離して下さいさもないとあなたも肉塊に」 おとなしい顔して怖い子というなぁ、この子。 それにだんだんと口が悪くなっている。あれだけゆっくりれいむを虐めたんだからもういいだろうに。 私がそのままの状態でまりさのお野菜の感想を待っていると、いきなりまりさがひっくり返って暴れだした。 「ゆ゛ぎがぁぁぁぁぁぁぁ!!ごれべんだよぉぉぉぉぉぉ!!」 「どう?おいしかった?」 「ぐぅぅぅぅぅ!!ぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎいいいいいいいいいい!!!」 ゆっくりまりさは奇声を上げた後、ひとしきり暴れてそのまま動かなくなった。 暴れた拍子に、近くにいた子どもが二、三匹つぶれた。 その姿に他のゆっくりも、阿求ちゃんもしばし固まる。 私は、またかと一人ため息を吐いた。 死んだゆっくりまりさの仲間のゆっくりが、こちらに体当たりを仕掛けてきた。 私はそれを優しく払いのける。 「このおやさいにどくをしこんだんだね!ゆるさないよ!!」 「そんなこと無いよ。ほら、ぱくっとな」 私は暴れるのをやめた阿求ちゃんから手を放し、さきほどまりさが食べた野菜を水で軽く洗って、そのまま食べた。 「うん、おいしいわ。あなた達流で言うなら、しあわせー」 「ゆゆ!?どういうこと!?」 「れいむはかしこいからわかったよ!おみずであらったからどくがおちたんだよ!」 「じゃあやさいをあらってからちょうだいね!」 私のその様子に、ゆっくりれいむはそう結論づけた。 私は、彼女らの言うとおり野菜をきちんと洗ってからゆっくりたちに差し出す。 それを見て安心したのか、ゆっくりたちはいっせいにその野菜に噛み付いた。 「これならだいじょうぶだね!むーしゃ!むーしゃ!」 「むーしゃ!むーしゃ!」 「むーしゃ!むー………ぎぁぁぁぁぁぁ!!?」 「うげぇぇぇぇっぇぇぇぇぇぇ!?!?」 「い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!!????」 そしてそのまま畑の中を転げまわり、やがて絶命した。 かろうじて生きていたゆっくりもいたが、阿求ちゃんがメイスで叩き潰してしまった。 感想を聞きたかったのに。少し落ち込む。 「ど、どうなっているんですかこれは……。あ、まさかゆっくりだけを殺すハンターさんの巧妙な毒トラップですか!?」 「うーん、そんなつもり無いんだけどねぇ。阿求ちゃんもちょっと食べてみる?大丈夫、死にはしないから」 私は野菜をほんの少しちぎって、阿求ちゃんに渡す。 彼女は最初はためらっていたが、好奇心がそれを上回ったのか、そのままぱくりと食べた。 そして、目をカッと開いた後、すぐに吐き出した。 「ぺっ、ぺっ!な、なんですかこの味……!?不味過ぎですよ! 食べた瞬間に強烈な辛さと苦しみと絶望感が口中をあばれまくりましたよ! これほんとに食べ物ですか!?」 「失礼ね。私が精一杯心をこめて作ったお野菜なのに。私はおいしいと思うんだけどなぁ。 たまにゆっくりたちにも上げるんだけど、みんな何故か死んじゃうのよね」 私は残った野菜を口の中に放り込み、味わうようにゆっくりと野菜を食べた。 こんなにおいしいのに、なんでみんなまずいなんていうのか、私にはさっぱりわからなかった。 阿求ちゃんは、そんな私の様子を信じられないといった顔で見ている。 「じゃあそろそろご飯にしようね。私が腕によりをかけて作ってあげるから」 「そ、その料理は、まさかおいしいですか?」 「ええ、とっても。出来たら阿求ちゃんに感想を聞きたいわぁ」 阿求ちゃんはおびえたように私から半歩はなれると、震えた声でこういった。 「わ、わわ私はお弁当があるので、だいじょうぶです!お気になさ、なさらないで下さい!」 結局私は食事を自分の分だけ用意し、彼女と一緒に昼食をとった。 心なしか彼女の顔が少し青かったが、本人も何も言ってないようだったから、気にしないことにした。 途中でおかずを交換しないか、と聞いてみたが、遠慮させてください!と強く断られてしまった。 お野菜は沢山余っているのに、とても残念だ。 終わり 虐め分が少ないorz 初めてSS書いた結果がこれだよ! 気が向いたら続くかも? このSSに感想を付ける
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近頃巷で流行ってるゆっくりなる生物 こいつらは人の畑を荒らし、おまけに堂々と自分の家だとか抜かしやがる。そのため農民たちに嫌われていた。 もちろん、俺もこいつらは大嫌いだが感謝もしている。 理由は簡単。こいつらのお蔭で俺は生計を立てているからだ。 こいつらが大量発生する前俺はただの農民だった。少し外れに住んでいたが妖怪が襲いに来るわけでもなく、日々の糧を農業によって得ていた。 しかし、去年の秋ゆっくりどもが大量発生したとき真っ先に被害にあったのは森に近い俺の畑だった。 秋の収穫も目前のある日、俺は作物の様子を確認するために畑へ向かった。ちなみに俺が育てていたのはさつまいも今年は天候も良く豊作だと思っていた。 しかし、畑で俺を待っていたのは食い荒らされた芋とそこでぴょんぴょん跳ねるゆっくり達だった。 呆然としながら近付くとこっちに気がついたのか赤いリボンをしたゆっくりが「ゆっくりしていってね!!」と言ってくる。それにつられて周りの黒いのや「ちーんぽ!」とか抜かすゆっくり達が俺に向かって「ゆっくりしていってね!!」と言ってくる。 しばらく呆気にとられた俺だが冷静になるとさっそく目の前の赤いリボンをしたのを持っていたスコップで叩き潰す。「ゆ”っぐヴぇ!」と気持ち悪い声をあげて潰れるゆっくり 直ちに周りのゆっくりが抗議の声を上げる「ひどい!ゆっくりさせてね!」「ゆっくりあやまってね!!」 煩い 黙れゴミ ただただムカついた こんな饅頭共に俺が丹精こめてつくった芋を食われたのかと、俺はこの冬どう過ごせばいいのかと そのまま近くにいた銀髪のゆっくりを叩き潰す「ぢーんっぶぇ!!」さすがにゆっくりも危険だと気がついたらしい「ゆっくり逃げてね!!」と黒い奴の号令で一斉に逃げだした。 そのまま追いかけて何匹かつぶすが首謀者のようだった黒い奴をはじめとして何匹かには逃げられてしまった。 俺は殺したゆっくりを処分すると、そのまま情報通の友人である霖之助のもとへと向かった。 「それは災難だったね。」お茶を出しながら霖之助が言う。 「ああ、まったくもって腹立たしい。で、霖之助あれはいったいなんなんだ?」霖之助も詳しいことは知らないようだったが概要を説明してくれた。あれが突然発生したということ。一番多いのはさっきの赤いリボンのと黒い奴でそれぞれ霊夢種と魔理沙種らしいがその他にもいろいろな種類がいるらしいこと。そして、雑食性のためあちこちで被害が出ていることも。 「そうか…俺のところだけじゃないのか…」あんな奴らが人間に迷惑をかけてるのかと考えるとイライラした。 「妖怪の間でも被害にあう子が増えてるらしいよ。そのたび駆除してるけどあまりにも繁殖が早く何回も来るとか」 「どうにかできないのか?」 「僕だけじゃね…あ、でも君これからの冬仕事がいるんだろ?」 「ああ、あの糞饅頭のせいでな」 「だったらピッタリのものがある!少し待っててくれ。」というと奥の倉庫に行ってしまった。 このゆっくりの話と冬の仕事と何がつながるのだろうか?と考えていると霖之助が何やら銃のようなものを取り出してきた。 「ちょうどよかった。君確かパチンコとか得意だったよな?」 「ずいぶんと昔のことを持ち出すな。まあ、確かにお前も含めてあのころ遊んだ仲間の中では一番だったな。」 「ならちょうどいい。この銃は繚乱の対弩と言って外の世界ではモンスターを狩るために使うらしい。」 「モンスター?」 「妖怪のようなものだろう。それにこれは、虫退治とかにも使うらしい。そのうえ弾は自然の草とか魚からできているからゆっくりを処分したあとそのまま畑に埋めれば肥料になるんだ。」 「で、これと俺の仕事の話は?」 「だから、君がこれを使ってゆっくりを処分してけばいいんだよ。これからどんどんゆっくりがらみの問題は増えるだろうし新しい職業になるかもしれないぞ。」 確かにそれはいい考えだと思った。ストレス解消にもなるしみんなにも感謝される最高の仕事だ。しかし… 「でも、俺は今そんなものを買うほどの余裕はないんだが…」この銃はどう見ても高そうである。しかも珍しい物好きの霖之助のことだそんなに安くはしてくれないだろう。 「一昔前ならそうだろうけどね。なぜか今年の3月の終わりから大量にこんな銃が流れ込んできたんだ。」 「外から?何かあったのか?」 「僕のお店の常連の妖怪さんは何でも「ああ、そういえば新発売ね。ボウガンは強化できないのよねー。」とか言ってたが」 「よく意味がわからんな。」 「僕もだよ。でもそのおかげで僕の倉庫は似たようなのでいっぱいなんだ。友達のよしみもあるし、とりあえず出世払いでいいよ。」 持つべきものは良い友達だ。そのまま霖之助に使い方を教えてもらい一通りの弾を貰うと、俺は早速村の中心に行き集会所に「ゆっくり退治お任せください。詳細は○○まで」と看板を立てて置いた。 2日後早速依頼が舞い込んだ。はじめに潰したとき何でも黒大福(魔理沙種とか言ったか?)を逃がしてしまったらしくそいつが仲間を引き連れて何回か襲撃に来たらしい。 「報酬は今年の収穫の十分の一でよろしいでしょうか?」裕福そうな依頼人だ。事実ここらでは一番の地主らしい。 「はい十分です。ゆっくりが来るのはこの畑ですか?」 「はい。何箇所か畑を持っているのでこの畑にばかり構ってられないのです。」 「了解しました。では、今日はこのままここに張り込ませてもらいます。大丈夫だと思いますが巻き込まれないように近寄らないようにお願いします」 ゆっくりが来るのは夜明けらしいのでそのまま張り込む。ゆっくりは動いてないものを認識しづらいらしくこのまま動かずに来たら狙撃するのが一番効率がいいと判断したからだ。 そして、そのままそこで仮眠をとり空が少し白み始める頃、あの耳障りな声が耳に響いた。 「今日もゆっくり食べようね!!」「朝ならあの人間もいないもんね!」「ここは霊夢たちのゆっくりポイントなのにね!!」「「「「ねー!!」」」 どうやら今日の標的は3匹らしい。魔理沙種と霊夢種とパチュリー種のようだ。 俺は息をひそめて銃弾をリロードする。とりあえず今回用意してみたのは散弾と徹甲榴弾である。そしてゆっくりが範囲内に入る。そしてどう仕留めるか考える。何回かの襲撃で知恵を少しはつけたらしく人間の気配を感じたらあっという間に逃げてしまうらしい。そこで俺はとりあえず固まってる霊夢とパチュリーを散弾の連射で仕留め魔理沙を徹甲榴弾で仕留めることにした。 スコープを覗き狙いをつける。と同時に徹甲榴弾のリロードの準備を整える。 3…まだ早い2…もう少しだ1…狙いを定める 「ゆ”ぐぐぐぐっぐ?!」「む”ぎゅぐげぐぐ!」散弾の連射を急に浴びた二匹のゆっくりまだ息はあるようだがもう動けまい。と同時に、「ゆっくり死んでてね!」と薄情な言葉を吐き黒大福が一目散に逃げ出す。 俺は徹甲榴弾をリロードすると同時にただちに黒大福を追いかける。 「ゆ”ぐっり”ざぜでえ”えええ”!」「ゆっっぐりじだっがだっよお!」後ろから二匹の声が聞こえるが無視する。 「ゆっくりしていってね!!」黒大福も意外と早く距離はなかなか縮まらない。だが徹甲榴弾は距離を関係としない威力をもつ。俺は森に逃げ込む直前の黒大福に向け徹甲榴弾を撃った。命中! 「ゆ?」徹甲榴弾は当たった時には大したダメージはない。「ゆっくりしていってね!!」人を小馬鹿にしたように森へ逃げ込むゆっくり。その時の顔はまさに勝ち誇った顔であった。おそらく森の中では逃げ切れると思ったのだろう。 確かに、その推測は正しい。森に逃げ込まれたらボウガンで仕留めるのは難しい。しかし、もうすでにやることは終わっている。 もう一回黒大福が満面の笑みで飛び跳ねる。だが、それと同時に発せられたはずのお決まりの文句は最後まで言い切られることはなかった。 「ゆっくりしてっぶっ!」次の瞬間ゆっくりの体が弾け飛ぶ。徹甲榴弾は命中した後爆発する弾である。見事真ん中に命中しやわらかい餡子の真ん中で止まった弾は爆発しゆっくりの体を四散させたというわけである。 こうして、ゆっくりを仕留めた俺は畑に戻り息も絶え絶えの二匹のゆっくりを生かしたまま畑に埋める。「ゆ”っゆ”っゆ”」「む”ぐむ”ぐぐぐ」とか最早意味のわからない言葉をあげていたが畑に埋めると声がしなくなった。 「ありがとうございました。あの黒大福がリーダーで引き連れてくるらしく狙っていたのですが警戒心が強くなかなか仕留められなかったのです。」 「いえ、私もこの仕事のおかげで冬を過ごせそうです。後、なにかゆっくりで困ってる人がいたら是非私のことを紹介してください」 「ええ、もちろんですとも。集会所で広めておきましょう。」 こうして、俺の仕事はウナギ登りに増えていった。そのうちゆっくり加工所から希少種の捕獲を頼まれることも多くなった。 そして今日も俺はボウガンを片手にゆっくりを狩る。最近では俺のまねごとを始めるを始める奴も増え始め、集会所は依頼を取りまとめる場所になっている。 そして、いつしか人は俺のことをこう呼び始めた「ゆっくりハンター」と。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ あとがきのようなもの ここまでお付き合いいただきありがとうございました。 元ネタは見ての通りモンスターハンターからです。今度は捕獲クエストで一本書こうと思っています
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~注意書き?~ ゆっくりいじめ成分が少なめです。ないわけじゃあないですが。 この作品は、『ゆっくりハンターの生活』『ゆっくりハンターの生活2』の外伝の物語となりますが、 前述した2作品を読まなくても話がわかるように作っておりますので、見ていない方でも安心して御覧になってください。 死人が出ます。そしてゆっくり以外で少しグロテスクな表現があります。 むやみやたらと長いです。正直反省している。 以上のことを踏まえて、それでもOKな人は以下の『ゆっくりハンターの昔話』をお楽しみ下さい。 ゆっくりハンターの昔話 海かと見紛う程の巨大な川を、小船がゆったりと渡っていた。 その船には、船頭と乗客である少女が二人乗っている。 二人は顔を合わせることはなく、船頭の梶をこぐ音だけが響き渡る。 「あんた……」 「はい?なんでしょう」 唐突に船頭が乗客の方を振り向き、声をかける。 乗客もそれに反応し、二人は互いに向き合う形になる。 「向こう岸までまだ結構かかるんだ。もしよかったら、あんたの昔話でも聞かせてはくれないかい?」 船頭の少女は屈託のない笑顔で乗客の少女にそう提案した。 梶を漕ぐ音が、少し控えめになる。 「私の、ですか…?まあ、別に構いませんけど」 乗客の少女は船頭の提案に驚いたようだったが、彼女も暇だったのだろう。 特に抵抗もなくその提案を受け入れた。 船頭は「それはよかった」と言い、梶を置いて小船の中に座り込んだ。 漕がなくていいのか、と乗客が問うたが、船頭はいたづらっぽく笑って、実は漕がなくてもいいんだ、と返した。 乗客はならばなぜ梶なんか持っているんだと疑問に思ったが、どうでもよいことだったので忘れることにした。 そんなことより早く話をしよう。前に座っている船頭さんが興味津々と言ったようにこちらを見ている。 「それじゃあ、私のまだ幼かった頃の話でもしましょうか」 少女は昔を噛みしめるようにたっぷりと口の中に含ませて、ゆっくりと物語を紡ぎ始めた。 私は子供の頃、よくゆっくりたちと遊んで暮らしていた。 初めて彼女達と会ったのはいつだったかは、今はもう覚えていない。気づいたときには私は彼女達と友達になっていた。 もちろんほかに普通の友達もいたが、私にとって当時一番仲がよかったのは彼女達だった。 友達のゆっくりにご飯を上げると、自分の下手な料理でもおいしそうに食べてくれて嬉しかった。 里の人たちは私を馬鹿にしたけど、ゆっくり達だけは私を馬鹿にせず、それどころか、 「おねえさんはゆっくりしてるね!れいむたちもゆっくりみならいたいよ!」 と、褒めてくれた。 その言葉が嬉しくて嬉しくて、次の日は腕によりをかけた料理を彼女らにプレゼントした。 彼女らも私のプレゼントが嬉しかったらしく、私にきれいなお花をプレゼントしてくれた。 私は浮かれてまた彼女達に料理を持っていき、彼女達は私に森になっている果実を渡してくれた。 それからずっとゆっくりぱちゅリーが止めるまでプレゼント合戦が続いてたっけ。 今では、とても懐かしい思い出。 そんな私の子供の頃の夢は、農家になることだった。 農家になって、野菜の好きな彼女達のための食べ物をいっぱい作りたかった。 彼女達の喜ぶ様を想像しながら、私は農家の勉強に専心した。 だが、私はどうしようもなく馬鹿だった。 どれだけ周りの大人たちが教えても、私ががんばって反復して覚えようとしても、必ずどこかで失敗する。 私が必死に努力しても、作物にまともな実が成ることなど一度もなかった。 罰として、その作物は無理矢理私が食べさせられた。気が飛んでしまうほどまずかったけど、吐き出すことは許されなかった。 失敗するごとに食べさせられ、いつか私がそれをおいしいというようになると、それを大人たちはたいそう気味悪がった。 結局、私はその愚かさゆえに周りの大人たちに見放された。その子どもからも、ゆっくり未満の馬鹿だ、といじめられた。 誰も一緒に遊んでくれなくて、私はゆっくりたちと過ごすほうの時間がだんだんと増えていった。 そんなある日、事件が起きた。 雲ひとつない快晴の真昼、数え切れないほどのゆっくりまりさが人里に殺到した。 ゆっくりまりさの襲撃だ。 かつて見たこともないような大襲撃。 そのゆっくり立ちの行進で大地は揺れ、その掛け声は天にまで昇るほど大きく、里のみんなを恐怖の海へと沈めていった。 農家の人々が一生懸命耕した畑は荒らされ、もっと食べたいのを我慢して蓄えた食料は奪われ、みんなで協力して作った家屋は次々と破壊された。 太陽がゆっくりと沈み、妖怪の時間が近づいてくる時間になった頃、ようやくゆっくりたちの蹂躙は終了した。 ゆっくりたちはあまりの惨状に放心する里の人々に向かって、 「またくるから、ゆっくりおいしたべものつくってね!」 と言い去っていった。激昂した男達が群れの巣を強襲したが、ゆっくりたちの返り討ちにあって死亡した。 残された里の人々は絶望していた。 里の中でも力持ちだった男達はゆっくりに殺され、残ったのは数少ない自警団と、ひ弱な村人達だけ。 このままでは里は終わりだ。 里の知識人たちが集まって夜を徹して対策を練っていたようだったけど、状況は芳しいとはいえないようだった。 私はそんな村の様子をみていたが、ゆっくりに対する敵愾心などはまったく沸かなかった。 私の中から湧き出てくるのは諦観と暗い喜悦の念だけ。 どうせ私は役立たずだ、何も出来やしない。それに、このままだったらこの里は終わってくれるかもしれない。みんな、死んでくれるかもしれない。 みんなで一緒に天国に行けば、寂しくないんじゃないか。天国だったら農作業する必要もない。私も馬鹿にされず、みんなと一緒に遊べるかもしれない。 私は壊された自分の家の残骸に腰掛け、ずっとそんなことを考えていた。 ある村人が全員集まって知恵を出し合おうといっていたが、私は無視して数少ない食料を友人のゆっくりたちと一緒に食べた。 自分もおなかがすいていたけど、どうせすぐ死に往く自分には関係ないことだと思った。 でも、そんな考えは甘かったことを後日、私は思い知る羽目となる。 ゆっくりと一緒にご飯を食べている場面を他の子ども達に目撃されたのだ。 自分達は食べ物がなくてひもじい思いをしているのに、なんであいつはゆっくりに分けられるほどの余裕があるのだろう。 いや、あいつはなんであのにっくきゆっくりと仲良くしているんだろう。 そうだ、あいつゆっくりたちと内通しているんだ。自分だけはゆっくりに取り入って助かろうって腹なんだ。 いや、それどころか、今回のゆっくりの襲撃の首謀者はあの少女ではないか。いつもいじめられている腹いせに、ゆっくりたちを里にけしかけてきたのではないか。 もともと狭い里の上に、ゆっくり対策で大人達が一箇所に固まっていたせいで、この噂が里中に広がるのにさほど時間はかからなかった。 そして私は、太陽が出てくると同時に、里で裁判にかけられた。 もちろん被告は私。脇には私が逃げないように自警団の大人が鍬を持って固めている。 裁判長の席にはこの里の長様。 近くの裁判官の席には数人の有力者達が陣取り、証言台には先日の子ども達が立っていた。 「ぼうや、その証言は事実かな?」 「うん!俺みんなと一緒に見たんだ!あいつゆっくり達に村の情報を流してたんだ!」 傍聴席にいる里の住人から、「ふざけんなー!」「裏切り者が、死んじまえ!」といった罵声が聞こえる。 私はそんなことまでした覚えはないのだけれど、私を擁護するものは誰もいない。 お母さんは私を生んだときに死んでいたし、お父さんはこの前ゆっくり達に殺された。 もし生きていたとしても、私の味方にはなってくれることはなさそうだけど。 わき腹についた、治りかけの火傷の跡が少し痛む。 目の前では長様が木槌を叩きながら「静粛に!静粛に!」と叫んでいた。 ややあって場がひとまず静まり返ると、長様は咳払いをひとつつき、私に対する判決を下す。 「被告に対する判決を言い渡す。被告はこの里で生まれ育った恩を忘れ、あろうことかゆっくりなどという畜生どもと結託し、里を襲い村に甚大なる被害をもたらした。 この罪が簡単に償えるものではないというのは確定的に明らか。よって、被告を死刑に処す。内容は…磔の刑がよかろう」 長様の判決を聞いた途端、傍聴席から歓声と甲高い口笛の音が鳴り響く。その歓声の中、長様は一人浮かない顔で持っていた条文を置き長いため息を吐いた。 私は里の罰の中で最も重い、磔の刑となった。 磔の刑といってもどこぞの聖人のように槍で刺されて殺されるわけではない。 罪人は十字架につるされ、村人から死ぬまで弄られ続けられるのだ。 罵声、投石、火あぶりなどと、その方法は多岐にわたる。 私が昔に見た罪人は、家畜の糞尿を投げられたり、高温の鍋を体中にへばりつけられたりしていた。 熱いのは嫌だなぁ、と私が自分のわき腹をさすりがら考えていると、予期もせぬ声が傍聴席から聞こえてきた。 「ゆっくりまってね!れいむたちが、え、えーと…」 「もう!れいむったらわすれちゃったの!?」 「わかる、わかるよー」 「むきゅー。"いぎ"よ、れいむ」 「ぱちゅりーのおかげでおもいだしたよ!!れいむたちは"いぎ"をとなえるよ!」 人懐っこいゆっくりれいむに、いつも元気なゆっくりちぇん、都会派が自慢のゆっくりありす、仲間で一番物知りなゆっくりパチュリー ……間違いない、そこにいたのは私の友達のゆっくりたちだった。 なんで、どうしてこんなところに……。 私や里の人たちの混乱をよそに証言台に上がるゆっくりのみんな。 長様も例外ではないようで、目をきょとんとしながらゆっくりたちに話しかける。 「……異議、とはどういうことですかな?」 「れいむのおともだちはなにもわるいことしてないよ!あのにんげんたちのいったことはうそっぱちだよ!」 「そうよ!おねえさんがそんなことするわけないじゃない!」 「わからないけどわかるよー」 台の上で口々に騒ぎ立てるゆっくり達に、混乱が収まってきた里の住人達がいっせいに騒ぎ立てる。 「ふざけんな!ゆっくりの言うことなんざ信じられるか!」 「そうだよ!俺嘘なんかついてないよ!」 ゆっくりたちの異議に、暴動寸前にまでヒートアップする住人達 さすがにこのままではいけないと思った長様が、みんなを沈静する。 「全員静粛になさい!……どういうことか、しっかり説明してくれるかね?」 「むきゅー。おねえさんはたしかに私達のお友達だけど、ここをおそったまりさたちとはまったく関係がないの。 だからあいつらにじょうほうを伝えることなんて出来ないだろうし、それどころか近づくだけで殺されちゃうと思うわ。あいつら気性が荒いもの」 そうだそうだー、と周りの子達も呼応して叫ぶ。 長様が再び咳払いをして、彼女達に質問する。 「あいつら、ということは君達とは違うということかな?ゆっくりたちは皆同じコミュニティではないということかね?」 「そうね。ふくすうの群れに分かれているわ。一番大きなせいりょくはまりさの率いる群れで、この村をおそったのもそれ。 後はとてもしょうきぼな群れが散在しているだけで、私達もそのしょうきぼな群れのひとつよ」 「あいつらは、わるいゆっくりなんだよ!れいむたちがあつめたたべものもかってによこどりするし、むらもあいつらがかってにおそったんだよ! れいむたちはんたいしたのに!」 「そうよ!とかいはのありすにはあわない、いなかものどころかみかいのちのばんぞくみたいなやつらなのよ!」 「わかりたくもないよー」 一斉に同族のゆっくりの批判を始めた彼女らに、長様も戸惑い丘隠せない様子で、しばし呆然としていた。 誰も言葉を発さず、しん、と静まり返る法廷。 ゆっくりたちは、わかったかといわんばかりの表情で長様をじいっと見る。 長様が困った顔をして近くの有力者達を見回すが、彼らも混乱しているようで、呆けた顔で長様を見返すだけだった。 私はそれを見て、もしかしたら助かるのかなぁという思いが頭をよぎったが、やはり現実はそう甘くはない。 「ふざけんな!ゆっくりたちなんかみんな同じに決まってんだろうが!早く死んじまえこの生首どもめ!」 「そうだそうだ!こいつらは平気で嘘をつくしな!」 「さては、こいつら仲間を助けに来たゆっくりの斥候じゃないか?」 「何ーっ!?そうとわかれば生きて返すか!」 それまで黙っていた傍聴席の住人達が一人の男の言葉を合図に堰を切ったようにがなりだす。 その反応に、ゆっくり立ちも飛び跳ねながら反発し、法廷が怒声によって揺るがされる。 「ゆ!おじさんたちなにいってるの!?れいむたちはおともだちをたすけにきただけだよ!せっこうなんかじゃないよ!」 「とかいはのありすとあんなやばんなやつらをいっしょにしないでくれる!?」 「わからないよーわからないよー」 「むきゅー。みんな少し熱くなりすぎてるわ。少し冷静になって話し合いを…………むぎゅっ!」 「「「ぱ、ぱちゅりー!?」」」 一人の男が投げた石が、ゆっくりぱちゅリーに直撃する。 慌てて友達の元へ駆け寄るゆっくり達に、更なる投石が浴びせかけられる。 「ゆ゛!い、いだいよ!ゆっくりやめてね!」 「やめて!ぱちゅりーがしんじゃう!いだっ!」 「わ、わからないよー!」 「………むきゅー」 私はその様子に思わず彼女達の元へ駆け寄った。 私の脇を固めていた自警団の人もゆっくり達に集中していたので、彼女達の元へいく私をとめることはできなかった。 私は彼女たちの盾になるようにかがみこむ。 「みんなだいじょうぶ!?」 「ゆ!おねえさん!れいむはだいじょーぶだよ!」 「とかいはのアリスもだいじょうぶだけど、ぱちゅりーが……」 「わかるようでわからないよー!」 「むきゅー……むきゅー……」 さっきの投石でぱちゅりーの皮が破れ、中からあんこがはみ出ている。 早く治療しないと、もとより体が弱いぱちゅりーには致命傷となりうる傷だった。 私は急いではみ出た分のあんこを体内に戻し、傷口につばを当ててさすってやる。 その間もずっと後ろから石が飛んできたけど、私はそれを無視した。 「大丈夫!?今助けるからね!」 「むきゅー…おねえさん、私のことはいいから、そこをどいて…。石が飛んできてるよ」 「私のことは気にしなくていいから、ぱちゅりーは自分のことだけ心配して」 「ゆ!おねえさん、あぶない!」 れいむの声と同時に、後頭部に激痛が走る。 痛みは私の頭の中をかき回し、私の意識を奪っていく。 薄れゆく視界の中で見たものは、大人に掴まれながらも必死にこちらに向かって泣き叫んでいる友人達の姿だった。 ああ、なにをそんなに泣いているのだろう。またまりさたちにいじめられたのだろうか。 大丈夫、私が何とかしてあげるから。だから、お願いだから泣かないで。あのゆっくりとした笑顔を私にみせて。 痛みはやがて快楽へと変わり、そうして虚無が訪れた。 「………!………ろ!起きろ!」 耳障りなだみ声に呼ばれて目を覚ます。空高くで輝いている太陽がまぶしい。 周りには、数人の大人たちが倒れている私を囲むように立っていた。 私が体を起こそうとすると、頭に鈍い痛みが走る。 「っ……!」 「痛がってねぇでさっさと立て。………こら、暴れんな!さっさとこっちに来い!」 男達が嫌がる私を無理矢理引きずっていく。 私も途中で抵抗するのをやめ、なすがままに男達に引きずられていった。 そうして着いた広場には、一箇所に固まって何かをしている村人達。 向こうもこちらに気づいたようで、こちらに向かって薄気味悪い笑みを浮かべながら私を見る。 「ほれ、あれをみてみな」 私の腕を抱えている男が、広場の中心の方に指を向ける。 そこには、十字架にかけられ泣き叫ぶゆっくりたちと、それを見て愉しんでいる里の人達の姿。 「い゛や゛あ゛あ゛ぁぁぁ!!ゆっくりでき゛な゛い゛い゛ぃぃぃぃ!!」 「ひぎぃぃぃぃぃ!いだいぃぃぃぃぃ!!」 「まっだぐわがらな゛い゛よお゛ぉぉぉぉ!!」 「…………………」 そこにつるされたみんなは、ハリネズミのように全身から棘が生えていた。 みんなは痛みに悶え痙攣しているが、ぱちゅりーだけはまったく動かなかった。 「みんな!なんで、どうして………」 友人達のあまりの惨状に、私はただただ泣くことしかできなかった。 膝がたっていられないほどがくがくと震えるが男達が腕をしっかりと掴むから倒れることも出来ない。 友達の悲鳴を聞きたくなくて、耳をふさごうとしても両腕は男達に捕まえられている。 どうしようもない絶望感と無力感におそわれていた私に、男の一人が私にそっとささやいた。 「あのゆっくりどもを、助けたいか?」 とめどなく溢れてくる涙のせいでまともに話すことができず、私は必死に首を縦に振ることでそれに答える。 男達は私の反応に満足したのか、薄ら笑いを浮かべながら、再びこうささやいた。 「じゃあ、おまえらの言う悪いゆっくりを殲滅して来い。お前はゆっくりのお友達なんだから、内部に侵入して崩壊させるくらいできるだろ?」 「うう…ひっぐ……そんなの、できるわけ……」 「出来ないんだったら、あいつらが死ぬだけだ」 男達が、先ほどよりも口をさらに歪ませて、私に選択を迫る。 聞こえるのは、先ほどよりも大きくなっている友人達の悲鳴。私に選択の余地はなかった。 「………わかりました。やります…………」 「そうかそうか!頑張ってゆっくりたちを殺してきてくれ!これが成功したら村の英雄だな!」 男達が私を解放する。 だが、ゆっくり立ちは開放される気配はなく、いまだ里の人達にいじめられ続けていた。 「やりますから、早くあれを止めてください…!」 「ん~?それは出来んなぁ。だってあいつらは罪人なんだから。でもまあ、今日中には殺さないから安心しな」 「……………………………」 「なんだ?こっちをじっと見て。早く行かないとお友達が死んじゃうぞ?」 男達は、心底楽しそうに笑いながら、私を見る。 「約束は、守ってくださいよ」 私は少し震えた声でそういって、私は逃げるように走っていった。 友人達の悲鳴が、どれだけ広場から離れても耳から無くならなかった。 そうして数十分ほど走って着いた先は、友人達とよく遊んだ森のある一角。 ゆっくりにとって外敵が少なく、かつ食料も適度にあるこの場所。 でも、今ここの住人であるはずのゆっくり達はいない。 私は木の上にのぼり、みんなで作った秘密基地の中に入る。 中には、非常時のために蓄えられた食糧と、みんなで遊ぶための道具、そして私の私物である手提げのカバンがある。 かばんの中には、大量のナイフにエナメル製のワイヤー。 すべて、事前に用意していたものだった。 あのゆっくりまりさたちはれいむたちが言ったように、他のゆっくりコミュニティも襲う。 幸いれいむたちは食料を献上していたためさして被害はなかったが、いつれいむたちが襲われるかわからなかった。 だから私は自衛の手段として武器を買い込み、あいつらの巣へ赴いて彼女らの行動を事細かに観察していた。 いつ襲われてもいいように。友達を守るために。 今から私がゆっくりまりさたちの巣を強襲するのは、大切な友達を助けるため。 だから今から私がやることは仕方のないことなのだ。たとえ友達と同じゆっくりを殺すこととなろうとも。 胸が痛み、涙も出てきたが、私はそれを振り払って元凶の巣へと歩きだした。 先ほどよりも太陽は西へ傾いており、私の作る影もそれに応えて大きくなっていた。 そして、ゆっくりまりさたちの巣についた私は、改めてその巨大な巣を見回した。 人でも有に入れそうな洞窟を中心に、近くの木々にはゆっくりまりさたちの家が散在している。 どうやら巣の規模は以前見たときよりより大きくなっているようだった。 私は彼女らが逃げられないように、巣を囲むようにしてワイヤーをいたるところに仕掛けた。 そして、もうワイヤーが切れかけようかとしたそのとき、一匹のゆっくりが私を発見した。 「ゆゆー!みんな、にんげんがいるゆ゛っ!!」 私に背を向いてほかのゆっくりたちを呼ぶゆっくりまりさを、私は瞬時に近づいて踏み潰す。踏みが浅かったのか、まだ死んではいなかった。 止めを刺さなければ。 そう思ったところで、私の動きが固まった。 ゆっくりを殺すなんて、本気で言っているのか?私のお友達と同じ種なんだぞ? でも友達を助けるためには殺さないと。でも殺したらあの子達は私をゆっくり殺しといって嫌うかもしれない……… ゆっくりを殺すということに、理性が拒否反応を示す。 ここでゆっくりを殺してしまっては、二度と友人達と笑って過ごせなくなる予感がした。 「ゆっくりしねぇぇぇ!」 「がっ!」 そうして迷っていたせいで、後ろにいたゆっくりの声に反応するのが遅れてしまった。 背中を強く打たれ、そのままごろごろと転がる。 痛みをこらえて振り向くと、そこには数匹の成熟したゆっくりまりさ達がいた。 その中でも一番大きな体を呪詛の言葉を吐きながら、再び私めがけ突進してくる。 「わたしのこどもをォォォ!よくもぉぉぉぉ!」 「きゃ、きゃぁぁぁァァァ!!!!」 わたしが無我夢中で突き出したナイフが、カウンターとなってまりさの顔を捉える。 ブチュリという嫌な感覚のあと、わたしの腕が生暖かいものに包まれた。 「ゆ゛!?ゆ゛うぅぅぅぅ!?」 わたしのナイフは、まりさの体を貫通していた。 痛みのために暴れようとしているのが、腕に伝わる振動からわかった。 わたしは、慌てて魔理沙を腕から離そうと、腕を何度も何度も振った。 「いやぁ!離れて!」 「ゆ゛…!ゆ゛……!」 腕からすっぽ抜けていったまりさは近くの木の幹に当たり、そして動かなくなった。 周りにいたゆっくりたちが、急いでその死骸に近寄る。 「おがあさん!おがあさぁぁん!」 「ゆっくりしてないでへんじしてよぉぉぉ!?」 「うわ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん!!」 ゆっくりたちはひとしきり泣いたあと、呆然としている私を睨みつけた。 「よぐも、よぐもおがあさんをごろじだなあァァァ!」 「ゆっくりしね!ゆっくりしね!」 「このゆっくりごろしめ!」 ゆっくり達のその言葉の一つ一つが、ナイフとなって私の心を切り刻んでいく。 違う。わたしは、わたしは。わたしは? 死んだゆっくりの死骸が、わたしの頭のなかでぐるぐると回る。 混乱し、ぐにゃぐにゃと錯交する思考。何もわからない。見えない。聞こえない。 私は何故ここにいるんだっけ?友達を助けるため?それともゆっくりを殺すため?このナイフで、ゆっくりの体を貫いて。 胸が痛い。心が痛い。なんで私はこんなに苦しいの? 「こんなひどいにんげんとは、だれもゆっくりできないよ!」 「そうだよ、ゆっくりさっさとしね!」 あいつらはなにを言っているんだろう?どうして彼らは怒っているんだろう? 私は悪いことしてないのに。いきなり人の悪口を言うなんて、悪いゆっくりだ。 そうだ、友達を助けるために、悪いゆっくりを殺さないと。みんなと約束したんだ。 だから、殺さないといけないんだ。こいつらは悪いんだから。みんな消さないといけないんだ。 私の中で、はっきりと何かが破裂する音が聞こえた。 続く このSSに感想を付ける
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前回のfuku1364.txt『ゆっくりハンターの生活』の続きです。 こっちだけでも読めないこともないですが、出来たら前作を見てからご覧になってください。 ゆっくりハンターの生活2 朝よりも多少雲が出てきた昼下がりの午後。 阿求ちゃんとの楽しい昼食を終えた私は、ハンターとしての仕事を再開する。 「ハンターさん、午後はどうするのですか?私は狩りに行きたいです!」 阿求ちゃんが、メイスを高々と構えてそう意気込む。 朝は比較的穏やかな作業だったから、彼女には刺激が足りなかったのかもしれない。 私は、仕事用の手提げカバンを持って彼女に笑いかける。 「ええ、今日の午後は狩りに行くわ。一緒に依頼主のところまで行きましょうね」 「了解です。私のモルゲンで叩き潰して見せます」 「……ずっと気になっていたんだけど、モルゲンってそのメイスのことかな?」 柄の先端に歪な突起を生やした鉄の塊がついているだけという、か細い少女には似合わない無骨なメイス。 鈍い光を輝かせているそれはいかにも禍々しく、今まで殺されたゆっくりたちの怨念がこめられているようだった。 彼女はそのメイスを誇らしげに構えて、うっとりした目でそれを見ている。 「ええ!数々のゆっくりのあんこを吸ってきた、私の自慢のメイスです。 モルゲンステルン(トゲ付きメイス)タイプのものだったので、モルゲンと名づけました」 「阿求ちゃん、張り切るのはいいけど室内でそれ振り回さないでね」 「すみません。でも私の内から出るパッションが止まりません」 無闇に逸る阿求ちゃんをなんとかなだめて、私達は依頼主のところへ向かった。 そこまで行く途中の道で、私の隣を歩きながら持っているメイスをぶんぶんと振り回す少女はひどく危なっかしい。 怪我させないよにしっかりと見ておく必要があるだろう。 「えーっと、……ここかしらね」 私は手に持った依頼書を見て、目的地が目の前にある家で正しいか確認する。 前に何度か依頼が来たので間違いないと思うが、念のためだ。 「おじゃまします。依頼を受けたゆっくりハンターの者ですが、誰かいませんか?」 呼び鈴を鳴らし、入り口でそう言ってから待っていると、すぐに中から男が出てきた。 小太りのおじさんで、顔が油でてかてかと光っていた。 男はしかめっ面のままこちらを見て、そして黙って部屋の奥に目を遣る。 中に入れという合図だ。 私は一度彼にお辞儀をしてから中に入り、阿求ちゃんも私に続いた。 私達は、男によって客間の一角に案内され、用意された席に座った。 案内された部屋は、なにやら賞状やらトロフィーやらが目のつきやすいところに並べてある。 ゆっくり関連のグッズもそこかしこに置かれており、私の口からは素直にかわいいなぁと言う言葉が漏れた。 一方、阿求ちゃんは手をプルプル震わせてそのゆっくりたちを見ていた。 男は終始無言で、こちらと目をあわせようとすらしない。 阿求ちゃんはそんな男の様子を訝しんでいたが、私にとってはもう慣れたものだ。 懐から依頼書を取り出し、仕事の話を始める。 「では、依頼内容の確認をしますね。 私が依頼された仕事は、昼の間にこの畑を荒らしに来るゆっくりたちから作物を防衛すること。 その際に注意することは、絶対にゆっくりたちを殺さない。 ゆっくりに怪我を与えてしまうとしても、必ず最小限にとどめること。 成功報酬は依頼書に明記されている通り、ということで。 以上でよろしいですか?」 阿求ちゃんが私の言葉に驚いたような顔をこちらを見た。 狩りに来た、といっているのにこれだから仕方ないか。 事情を先に説明しとけばよかったな、といまさらながら悔やむ。 まあいまさら悔やんでも後の祭りだ。男が黙ってうなずくのを見て、私は阿求ちゃんをつれて席を立った。 「待て」 部屋の扉に手をかけたとき、男が始めて声を上げた。 やっとか、と私がほっとして男の方に向き直る。 「なんでしょうか?」 「いいか。絶対にゆっくりちゃんたちを虐めたり、殺したりするんじゃないぞ。 彼女達を透明の箱に入れて、無闇に苦しめるるのもいかんからな。 もし私の周りでそんなことをすれば、お前にも彼女らと同じ苦しみを味わわせてやるから覚悟しておけよ」 「ええ、彼女達は、かわいいですからね」 男は私の答えにふん、と鼻を鳴らし、そして特大ゆっくり人形を抱きかかえながらまた目をそらした。 「わかったならそれでいい。私はこの子と戯れているからさっさと出ていけ」 私はそれ以上男に話しかけることは無く、阿求ちゃんを連れて男の家から出た。 阿求ちゃんはずっと怒りを抑えていたらしく、表に出るなり真っ赤な顔をしてブンブンとメイスを振り回した。 「もう!どういうことですかハンターさん!ゆっくりたちを殺すななんて、私がモルゲンを持ってきた意味ないじゃないですか! それになんですかあのジジイの態度は!そんなにゆっくりが好きなら畑ごとゆっくりに上げればいいじゃないですか!」 「落ち着いて、阿求ちゃん。これには深くないけど事情があるの。それにゆっくりを狩ることに変わりは無いから」 私の言葉に、ようやく彼女の動きが止まる。 「え?今回は追い払うだけじゃないんですか?それに殺害はNGだとあのジジイが………」 「そんな対処の仕方をしても、ゆっくりに効果は無いのは阿求ちゃんも知ってるんじゃないかな? 翌日には忘れてまた来るだろうし。それに、殺害がNGなのはあの人の近場だけよ。 追い払った後追跡して、森の中で殺しても何も言われないわ。むしろ先方もそれを望んでるわ」 「……じゃあなんであのジジイはあんなことを言ったんですか?素直に退治してくれ、と言えばいいじゃないですか」 阿求ちゃんは納得行かないような顔で私にそういった。 正直私もそう思うが、人には事情があるんだから仕方ない。 「実はねぇ……あの人、ゆっくりんピースの会員なのよ。それも結構上の方の」 「はぁ!?あの基地外集団のですか?じゃあなんでゆっくりを殺せなんていうんですか? あいつらはゆっくりを保護する団体でしょう?」 「ええ、普通の会員さんだったらブリーダーさんに頼むところでしょうけどねぇ。 でもあの人、ゆっくりにお金かけすぎてそんな余裕ないのよ。ブリーダーさんって結構お金かかるから。 かといってそれなりに上のほうの人だから、自分で殺すのも加工所にうっぱらうのも周りの目が許さないし。 ましてやゆっくりに畑を明け渡したりなんかしたら、破産しちゃうわ」 「はぁ……だからお姉さんのところに話がまわってきたと」 「ええ。ハンターは割と安めで仕事を引き受けるものだから、こういう人たちの依頼は良く来るの。 こちらとしても、そういう人種の人たちはほかの人より多くお金出してくれるから万々歳よ」 彼女は私の言葉に心底呆れた様子で、深いため息を吐いていた。 子どもにとっては、こういう大人の複雑な理由は理解できないのだろう。 まあ、私も彼らのことを理解できることなんて一生無いだろうけど。 仕事だからと折り合いを付けているだけだ。 「だったらゆっくりんピース抜ければいいと思うのは私だけでしょうか……」 「私もそう思うけどねぇ。でも、今抜けたらこれまでゆっくりたちに使ってきたお金は無駄だった、と認めるようなものだから出来ないんでしょうけど。 まったく、もっと単純に自分の思うまま生きればいいのにねぇ」 阿求ちゃんはうんうん、と頷きメイスの先で家の壁を小突く。 大きな音は出ないものの、家の壁の塗装が少し削れた。 「ゆっくりを見つけたら何も考えず叩き潰すくらいでいいと思うんですよ私は。 それなのにゆっくりがかわいそうだの保護しようだのとぐちぐちと……やっぱりゆっくりんピースは害悪ですね!」 「こらこら、人の思想に口を出しちゃあ駄目よ?向こうは向こうで考えた末の結果なんだから。 そういうのは心の中だけで考えて、口には出さないものよ?あと壁突くのやめなさい」 阿求ちゃんはまだ納得いっていないようだったが、素直に私の言葉に従ってくれた。 妹がいたらこんな風なのかもしれない、と密かに思った。 「それじゃあ、畑に行こうね。いつゆっくりたちが来るともわからないし」 「そうですね。こんなやつのことは忘れてさっさとゆっくりで遊びましょう!」 彼女はそういうと、私の手を引っ張って畑の方に歩いていく。 彼女はもう待ちきれないと言った様子で、顔は興奮しているせいか少し赤い。 私は転ばないように気をつけながら、そのまま彼女についていった。 「ここが畑ですか……なんとも無防備ですね」 男の家の裏側に回ると、一面に畑が広がっている。 それなりに耕地面積は広く、作物もよく育っているのが見て取れたが、 外側の蔓ごと抜かれていたり、ほんの少しだけかじられた野菜が捨ててあったりとひどく荒らされていた。 ゆっくり対策に作られたのだろうか、木製の柵が畑の周囲に立てられていたが、ところどころ壊されておりもう柵としては機能していなさそうだ。 ゆっくりのことを少しでも調べた農家ならあんなもの役に立たないことぐらいはわかるだろうに。 もしかしたら、ゆっくりんピースには間違った知識が蔓延しているのかもしれない。 「無駄に広いから、ここを守るのは大変ですね……。ハンターさん、どうするんですか? 柵を張りなおしたりしとかないと、危ないのでは」 「そんなめんどくさいことしなくても大丈夫よぉ。一緒に座ってゆっくり待ちましょう?」 「……え?何もしなくていいんですか?」 「別にいいわよ。どうせ今からやったってたいした柵なんか作れないし。 あ、あの雲なんかむくむくしててかわいいわよ?ゆっくりみたいで」 私は地面の上に腰をおろし、柵にもたれながら空に浮かんでいる雲を指差してそういった。 阿求ちゃんはまだなにか言いたそうだったが、私の様子を見てあきらめたのか結局は隣に座って一緒に空を眺めていた。 そこにはやわらかそうな雲が数個浮かんでいて、あそこで寝たら気持ちよさそうだ。 いかにもゆっくりたちが好みそうな場所で、もしかしたらあそこにはゆっくりたちが住んでいるのかもしれない。 そんなことを彼女に言うと、彼女は笑ってそれを否定した。 彼女が言うことには、 崖の上でゆっくりをロープに括り付けたまま降ろしたところ、そのゆっくりはショック死してしまった、という実験結果があるらしい。 だからゆっくりたちは高いところは苦手だと思われ、よってあんな高いところにある雲でゆっくりすることは無理とのこと。 「へぇ~、ゆっくりたちが高いところ苦手だなんて知らなかったなぁ。 阿求ちゃん物知りだね」 「いや、物知りだなんてそんな。ゆっくりに関してはまだ未知な部分が多くて、私にも知らないことなんてたくさんあります」 彼女は俯いて、照れたかのように頬を掻いた。 子どもなのに謙遜までするなんて、将来は大物になるかもじれない。 「……ゆっくりと言えば、ハンターさんはゆっくりが好きなんですよね?」 彼女は再び顔をあげ、思い出したようにそういった。 「うん、そうよ。あのゆっくりの笑顔を見ていると、なんだか心がホンワカしてくるのよねぇ」 「じゃあなんでまたハンターなんかに?農家になれないのわかりましたが、だからってそれじゃなくてもいいじゃないですか。 ブリーダーとか、保護委員になるとか、他にもいろいろあるでしょう」 「それも考えたんだけどねぇ。でも私、殴ってしつけるのはちょっと苦手だし。 一時期頑張ってやってみたこともあったんだけど、私がゆっくりに餌をやったら何故か死んじゃうのよ」 「ああ、あの殺人野菜のことですか……うう、思い出したら気持ち悪くなってしまいました」 「おいしいのにねぇ。だから基本的に保護系は無理だったわ。保護した片っ端から死ぬんだもの。 でもどうしても私はゆっくりにかかわる仕事をしたかったから、ハンターの職に就くことを決めたの」 「……なるほど、納得しました。お姉さんも大変なんですね……あ!」 ちょうど話に区切りがついた時、向こうから小さくて丸い塊が飛び跳ねながらこっちに向かってくるのが見えた。 言わずもがな、ゆっくりだ。 見たところ全部まりさ種のようである。 「まりさたちのゆっくりごはんをとろうね!あそこのおやさいはとってもおいしいよ!」 「ゆゆ!?にんげんたちがいるよ!だいじょうぶなの?」 「だいじょうぶだよ!ここのいえのにんげんはまりさのかわいさにめろめろだから、なにもしてこないよ!」 以前来たときに相当甘やかされたのだろう、随分な言い草である。 こうなっては言葉で止めるのはもう無理だ。なにを言ってもここはまりさのものだからさっさと出てけと言われるだけ。 それを知っていたのだろう、阿求ちゃんがメイスを構えて攻撃体制をとる。 「かかって来なさい!みんなまとめて叩き潰してあげますよ!」 メイス片手に突撃しようとする阿求ちゃんの襟を、私は慌てて掴んだ。 「ぐぇ!な、なにするんですか!?」 「駄目だよ阿求ちゃん。そんなので攻撃したらゆっくりたち死んじゃうよ」 「じゃあどうするんですか!ああもうどんどん迫ってきてます!」 私はふてぶてしくにやりと笑うと、手提げかばんの中から銀色に光る"それ"を取り出した。 太陽の光を反射してまぶしく輝くそれは―― 「じゃじゃーん!銀のナイフー!」 それは刃渡り十五センチほどの狩猟用ナイフで、私が狩りのときに良く愛用するものだった。 狩りのとき以外にも、料理のときに使ったり、収穫のときに使ったりと、私にとっては生活の必需品となっている。 「ってそんなの見ればわかりますよ!ナイフなんて使ったらやっぱりゆっくりは死んじゃないですか!」 「モノは使いようよぉ?ちょっと見てなさい」 私は突撃してくるゆっくりに向かって、思い切りナイフを投げた。 そのナイフはほぼ直線に近い軌道を描き、ゆっくりにの顔に直撃――せずに、ゆっくりのかぶる帽子を射抜いた。 「ゆゆ!?まりさのぼうしが!」 ナイフは帽子に刺さっても勢いをとどめることは無く、そのまま帽子ごと地面に突き刺さる。 慌てて帽子を取られたゆっくりが拾おうとするも、ゆっくりではナイフを抜くなんて器用なことは出来ない。 泣きながら帽子の周りを飛び跳ねるだけだ。 「す、すごい…。こんな方法があったんですね!」 「まあ、リボンとかだと結構大変なんだけどねぇ。今回はまりさ種ばっかりだから楽に済みそうだわー。 エイ、タァ、ドウリャー、トゥー、ワーワー」 私は投げる毎に気合の言葉を発しながら、突撃してくるゆっくりたちの帽子をひとつ残らず地面に縫い付けていく。 前方の惨状を見て逃げようとするゆっくりにも、きっちりナイフを投げておく。逃げられたら厄介だ。 十五匹ほどの帽子を縫い付け、防衛戦は終了した。 「うーん、あんまりいなかったわねぇ」 「結構いるように見えますが…これで少ない方なんですか?」 「これだけ畑が広いと、コミュニティ全体で来ることもあるからねぇ。 違う畑では百匹近くのゆっくりが襲ってきたこともあったっけ。今回みたいに制限は無かったけど、さすがに危なかったわぁ」 あの時は仕事中に周りの農家たちも応援に来て、さながら闘技場のようになっていたっけなぁ。 あんこまみれになった畑の周りを、みんなで仲良く掃除したのはいい思い出だ。 今回は規模が規模だし、ここの住人自体もあまり評判がよろしくないので観客は阿求ちゃんしかいないけれど、 見られることを意識するといつも以上に頑張ろうという意欲がわくものだ。 「で、どうするんですか?あれ」 「そうねぇ。まりさたちにはちょっと聞きたい事があるから、阿求ちゃんはそこでちょっと待っててくれないかしら」 阿求ちゃんが目の前の自分の帽子の前で泣き叫んでいるゆっくりたちに指を向ける。 私は彼女をそこに残し、リーダー格と思われる、一番大きいサイズのゆっくりまりさに近寄った。 「ちょっといいかな?」 呼びかけられたゆっくりまりさが、涙やらよだれやらでぐちょぐちょとなった顔をこちらに向けた。 「お゛ね゛え゛さ゛ぁ゛ぁぁぁん!!ま゛り゛さ゛のぼうし゛と゛って゛ぇ゛ぇぇぇ!!」 「いいよ。はい、これでいいかな?」 私はそのまりさが言うように、地面からナイフを引き抜いて帽子を取ってあげた。 そして私の胸の前でそれを抱えるようにして持つ。 「おねえさんありがとう!それはまりさのぼうしだから、さっさとかえしてね!」 先ほどまでの泣き顔はどこへやら、まりさはいつものふてぶてしい顔をして私から帽子をとろうと飛び跳ねている。 たぶんさっきのは嘘泣きだったのだろう。 泣けばここの住人は馬鹿だから助けてくれる、なんて計略があったに違いない。 確かにそれは有効である。昨日までならば。 あのゆっくりんピースのおじさんの金と共に、このゆっくりたちの命運も尽きてしまった。 「じゃあ、私の質問にちょっと答えてくるかな?」 私はなるだけやさしい口調でそういった。 本当はもっと厳しく言った方がいいのだろうけど、やはりいきなりそんなことをするのも気がひける。 ゆっくりまりさは私が下手に出ている様子にこいつも自分に優しい人間だと思ったのだろう、 体を一回り大きくして見下すようにこちらを見ている。 「そんなことよりまりさのぼうしさっさとかえしてね!のろまはきらいだよ!」 案の定付け上がってしまった。 仕方がない、気は進まないけどこちらも少しだけ強硬姿勢を見せなければいけないか。 私は帽子をしっかりと抱え、ゆっくりまりさに取られないように注意しつつ、ナイフでほんの少しだけ帽子に切れ目を入れた。 自分の帽子がさらに傷を付けられていく様子を見て、ゆっくりまりさは慌てふためく。 「おねえさんへんなことはよしてね!まりさのだいじなぼうしにきずつけちゃだめだよ!」 「ごめんね?私も仕事だから。本当はこんなことしなくないのだけれど」 「だったらさっさとかえしてね!」 「じゃあ私の質問に答えてくれる?」 言外に答えなかったら帽子を引き裂くぞ、と言う脅しのニュアンスを含みつつ、私はゆっくりまりさに迫る。 ゆっくりまりさは下に見ていた人間に思わぬしっぺ返しをくらって心底悔しそうだったが、 自分の大事な帽子には変えられないのか、観念したかのように動きを止める。 「わかったよ!こたえるからさっさとしつもんしてね!」 「ふふっ。じゃあ聞かせてもらおうかしら。 あなた、ほかに仲間はいる?ここの畑を他のゆっくりに知らせたかしら?」 私が問うたのは相手の戦力の規模。 このゆっくりたちを処分するならばここから離れねばならない。その間、この畑は無防備になってしまう。 もしまだいるならばこのゆっくりたちは、このままここに縫い止めておかねばならない。 まったく、捕獲用の箱くらい使わしてくれてもよかろうに。 だが、私のそんな心配を知ってかしらずか、ゆっくりまりさの答えは私にとって理想的なものだった。 「なかまはいないよ!ここにいるみんなでぜんぶだよ!それにほかのゆっくりにもいってないよ! ここはまいさたちだけのゆっくりぷれいすだからね!」 「ありがとう。でも嘘はついちゃだめよ?そうしたら私にとってもあなたにとっても悲しいことになるわ」 「うそなんかついてないよ!まりさはしょうじきものだからしんらいしてくれていいよ!」 一応念を入れて探りを入れてみるも、ゆっくりまりさに嘘をついている様子は見受けられない。 まりさ種特有の強欲さから考えても、その話は信憑性に足るものだと思われた。 私の目標は、このゆっくりまりさだけとなった。 「おねえさん、おしえたんだからさっさとぼうしかえしてね!」 「ああ、ごめんなさい。今返すわ。でもその前に、私からもあなた達に教えたいことがあるの。 あなた達がゆっくりできるかどうかに関わる、とても大事なことなんだけど。聞いてくれる?」 「まりさはゆっくりしたいんだぜ!おねえさん、ゆっくりしないではやくおしえてね!」 ゆっくりできない、と言う言葉に本能的に恐怖を覚えたのだろうか、ゆっくりまりさが帽子のことも忘れて私の情報をせがんでいる。 私はまりさを安心させるように微笑むと、畑の方にいる阿求ちゃんを指差した。 「ねぇ、あの女の子って誰だかわかる?」 「ゆ?あんなひょろいやつなんてしらないよ!」 ゆっくりたちから見れば、彼女はそんな風に映るらしい。 私としては、線が細く、そのすらっとした体のラインはうらやましいものであるのだが。 私はこんな職業柄、どうしても少し筋肉質な体になってしまうからだ。 今度、どうやってあんな主そうなメイスを振り回すパワーを持ちながらそんな体型を維持できるのか、じっくりと聞いてみたいものである。 ……いけない、思考が脱線した。今は仕事に集中しないと。 「あの子はね、実はあなた達を捕まえに来た加工所の人なの」 「ゆゆ!?おねえさんそれほんとう!?」 「ええ、もちろんよ。彼女の持っているものが見えるでしょう?あれは、あなた達を捕まえるための道具なの」 実際は、あれは捕まえるものではなく殺すためのもの。それでも、ゆっくりたちにとって脅威であるものには変わりないのだが。 ゆっくりまりさはとりあえずあれの危険性についてはわかったのか、私に隠れながら、おびえた表情で向こうを見る。 「でも、心配しなくても大丈夫よ?あの子はあなた達が近づかない限り、何もしないから。 だから、今日はおとなしく森に帰ったほうがいいんじゃないかしら?」 「で、でもそうしたらまりさたちごはんたべられないよ!」 「それは仕方がないわ。たべものより命の方が大事でしょう? どうしても行きたいっていうんなら止めはしないけど、私はあの子からあなた達を守れるほど強くないわ」 阿求ちゃんのいる畑を見やって、ゆっくりまりさは考え込んでしまった。 お野菜は食べたいが、そこに立ちはだかるのはこわいもの構えて仁王立ちする人間。 この人数でかかればいくらかはあれを抜けられるかもしれない。だが、確実に私達の大半はゆっくりできなくなる。でも私じゃないかもしれない。 運がよくて私だけはおいしい野菜を食べながらゆっくりできるかもしれない。 どうしよう、怖いけど、お野菜は食べたい。あれはとてもおいしい。 おいしいものを食べたいと言う欲求と、死への恐怖と、もしかしたらという希望。 ゆっくりまりさの中で葛藤が渦巻いた。 ゆっくりまりさは考えに考え抜いた末、私に向かってこういった。 「おねえさん!まりさたちきょうはかえるよ!あしたあそこでゆっくりすればいいからね!」 勝ったのは死への恐怖。やはりあのメイスと、何より彼女が怖かったのだろう。 結構離れた私の場所でも、阿求ちゃんのゆっくりへの殺気がありありと感じられる。 ゆっくりまりさもそれを感じ取ったのだろう。 そうでもなければ、本能に従順なゆっくりが簡単に食への欲求を止められるものか。 私は彼女の殺気の波動から守るようにゆっくりまりさの前に屈みこんで、持っていた帽子をかぶせてやる。 「そう。命を大事にしてくれて嬉しいわ。早くみんなを連れてここから逃げてね」 「うん!おねえさんありがとう!みんなにおしえてくるね!」 ゆっくりまりさは勇んで他のゆっくり達に近づいていき――そして泣きそうな顔でまた私のところに戻ってきた。 「おねえさん!ほかのまりさたちのぼうしもとってあげてねぇぇぇぇ!!」 そういえば、まだ刺さったまんまなんだっけ。 私は地面に縫いとめられている帽子を回収し、それぞれのゆっくりまりさに被せてやる。 ゆっくりまりさたちは泣きながら私に礼をし、後ろでさっきを撒き散らす阿求ちゃんをみて恐れおののいて、そして帰っていった。 私はゆっくりたちがこちらを気にしなくなるほど離れてから、後ろにいる阿求ちゃんを呼び寄せる。 「すごいですね。どうやってあのゆっくりたちを説得したんですか? 合い辛そう簡単に畑を諦めるようなやつらじゃないのに」 「ふふっ。阿求ちゃんのおかげよぉ。 じゃあ他のゆっくりたちもいないようだから、後を付けていきましょうか。 待望の狩りの時間よ」 彼女は自分のおかげとはどういうことかと首をひねっていたようだが、 ゆっくりが狩れる聞いて俄然やる気を出したようだ。 「ほんとですか!ついにあいつらをつぶすときが来たのですね!」 「まあ、人目のつかないところまで尾行してからだけどねぇ。 ここで見失ってしまったらことだから、静かに、そして慎重に行きましょう?」 私は興奮する阿求ちゃんの唇に人差し指を押し当て、にこりと笑った。 彼女は了解です、とおでこに手をやって敬礼のポーズを取る。 まあ、ゆっくりたちは鈍感だからばれることは万が一程度しかないだろうが、念には念をだ。 そうして私達はゆっくりまりさたちの尾行を開始し、十数分後、彼女達の巣と思われる森の一角についた。 そこにはそのゆっくりまりさのほかにも、彼女の子ども達と思われる子ゆっくりもいた。 「おおー、いっぱいいますねー。もう我慢しなくてもいいんですよね?」 阿求ちゃんがメイスを構えて、満面の笑みで私の許可を請う。 私もナイフを構え、頷いた。 「いいわよ。ただ、向こうにいるリーダー格のゆっくりまりさは私に預からせてね?」 「わかりました!では行ってきます!」 彼女は弾丸のごとく疾走し、一直線にゆっくりに突撃する。 いきなりの奇襲に驚いたゆっくりは、すばやく反応することが出来ない。 「はぁーーーーっ!滅殺!」 「ゆべっ!?」 「びいっ!」 「ゆぐぅぅぅ!?」 「い゛ぃ゛ぃぃぃ!!」 彼女がメイスを振り回し、その暴風雨のような一撃に巻き込まれたゆっくりたちが内蔵物を撒き散らす。 ほんと、どこにあんな力があるのだろう。そう疑問に思いつつ、私は逃げようとするゆっくりを私がナイフを投げて縫いとめる。 今度は、帽子じゃなく本体を直接狙う。 「いだいよぉぉぉぉ!!」 「ゆぅぅぅ!!にげたいのにうごけないぃぃぃぃ!」 ナイフが刺さったごときでは致命傷には至らないが、それでもゆっくりたちの動きを止めることはできる。 動きさえ止めてしまえば、もう逃げられる心配は無い。後は阿求ちゃんに任せておけば大丈夫だろう。 私はそれを放置して、阿求ちゃんのメイスに当たらないように気を付けつつ、 目の前の惨状に呆然としているリーダー格のまりさに近寄った。 向こうも私を認識したようで、怒ったような顔で私に抗議の声を上げる。 「おねえさん、これどういうこと!!まりさたちをだましたの!!」 「ごめんね?これも仕事なの。あなた達には後で話があるから、とりあえずそこで待っててね?」 私はそのゆっくりまりさと、取り巻きにいた数匹のまりさをナイフで刺して動けないようにしておく。 ゆっくりまりさたちは体中を走る激痛に悲鳴を上げているが、私はそれを無視して阿求ちゃんのほうに向かう。 彼女のほうはあらかた片付いたようで、そこらじゅうにあんこが飛び散っている。 彼女も服をあんこだらけにしながら、恍惚の表情を浮かべてそこに佇んでいた。 「あらあら、もう終わっちゃったの?手伝おうと思ったのに」 「ああ、ハンターさん。本当はもう少しゆっくりいたぶろうかとも思ったんですが、一日中我慢していたせいで制御が利かなくて…」 「早いに越したことはないから私としては別にいいけどねぇ。って、あら?まだあそこに残っているわよ?」 そこには、あんこに埋もれていた一匹の子まりさがいた。 阿求ちゃんがまき散らかしたあんこが体中に飛んできて、運よくそれが擬態として働いたのだろう。 「ゆゆ!もうだれものこってなんかいないよ!ぜんめつしちゃったんだからゆっくりかえってね!」 自分を見つけられて焦ったのか、ゆっくりまりさが声を張り上げてそういった。 そんなことしても逆効果なのだが、ゆっくりだから仕方がない。 阿求ちゃんが頬を吊り上げながら、声のしたほうに近づいていく。 「そうですか、やっと全滅しましたか」 「そうだよ!もうだれもいないからゆっくりさっさとかえってね!」 「でもちょっと疲れましたから、ここで一休みしましょうか」 彼女は近くにあった木の根元に座り込み、隠れている子まりさの上に先端がのしかかるように、自分の持っているメイスを置いた。 「ゆぐっ!?お、おもいよ!とげがささっていたいよ!おねえさんはやくこれをどけてね!」 「おかしいですね~、全滅したはずなのにどこかからゆっくりの声が聞こえます。 幽霊でしょうかねぇ?おお、こわいこわい」 彼女はわざと子まりさと視線が合わないようにしつつ、そううそぶいた。 メイスを乗っけられた子まりさは必死に抗議の声を上げる。 「ゆゆ!ぜんめつなんかしてないよ!まりさがここにいるよ!だからさっさとこれをどけてね!」 「ええ?全滅なのではなかったのですか?でもどこにいるのでしょう。皆目見当もつきません」 彼女は周囲を探すように歩き回り、時折メイスの力を軽く踏んで子まりさの負荷を増加させる。 「いだいぃぃぃ!ふまないでね!これいじょうされたらまりさつぶれちゃうよ!」 「あらごめんなさい。でもあなたがどこにいるのか探さないと・・・ここかしら?」 そういってさっきより強くメイスの柄を踏む。 「ひぎっ!それいじょうはやめでねぇぇぇ!!あんこがでちゃうよぉぉぉぉ!!」 「あは、あはははっ!やっぱり見つからないですねぇ。ここですか?それともここ?ここかもしれませんねぇ」 彼女は興奮で顔を赤く染めながら、何度も、何度もメイスを踏む。 踏まれるたびに子まりさはビクン、ビクンと痙攣し、中のあんこをひねり出して行く。 「ああ、やっぱりたまらない!もっと、もっと聞かせてください!」 「ゆべっ!や、やべっ!!こべっ!もぶっ!だべっ!」 彼女は狂ったように笑いながら、汗が滴り落ちて妖しく光る足を上下に動かす。 子まりさはポンプのように、踏まれるたびに口から悲鳴を上げる。 そしてその声はだんだんと弱くなり、そして中のあんこがすべて飛び出ると同時にその声も聞こえなくなった。 「もう終わりですか?子どもは耐久力がないのが難点ですねー。 悲鳴は成体よりも良いのですけど」 「あらあら、あれだけ愉しんでたのに辛口ねぇ。 でもとりあえずこちらは終わったようだから、ちょっと来てくれるかしら?」 私は彼女を連れて、先ほど動けなくしておいたまりさ達の元へ向かう。 やはりまだ動けないようで、目の前の惨状に震えながらもそこから逃げられないでいた。 「お、おねえさん!まりさをたすけてね!まりさしにたくないよ! ほかのまりさたちはしなせてもいいから、まりさだけはにがしてね!」 リーダー格のまりさが私を見るなり他のやつらを見捨てて命乞いをする。 他のゆっくりまりさが慌てて自分も、自分もと命乞いを始める。 「自分だけ助かろうとは見下げた根性ですね。ハンターさん、殺しちゃっていいですか?」 「だめよぉ。この子達はみんな逃がしてあげるんだから」 私のその言葉に阿求ちゃん絶句し、ゆっくりたちは歓喜の声を上げる。 「おねえさんありがとう!まりさをゆっくりにがしてね!」 「ああ、でも私も仕事だから、ただで逃がすわけにも行かないのよ。 あなた達もう顔が割れてるから、万が一あのおじさんにあなた達のことを見つけられたら困ることになるわ」 「……ゆっくりなんて見分けつかない気がしますけど」 「あら、ゆっくりんピース舐めちゃだめよ?彼らはゆっくりたちの顔のわずかな違いでその個体を識別できるんだから」 ゆっくりたちは確かに似ているが、個々で微妙に違ってたりする。 目つき、口元、眉毛の凛々しさなど、ゆっくりんピースやブリーダーはそれを見て区別することができる。 「じゃあどうするんですか?やっぱり殺すしかないじゃないですか」 「そんなこともないのよ?ちょっと見ててね…えいっ」 私はナイフを使って、ゆっくりまりさの右目の部分だけを綺麗に刈り取る。 「ゆ、ゆぎゃぁぁぁぁぁ!!まりさのめがぁぁぁぁぁぁ!!」 「ごめんね?痛いだろうけど暴れちゃ駄目よ?すぐ済むから我慢してね」 私は隣のまりさも同様に同じ部分を刈り取り、それを最初に切ったゆっくりまりさの目にくっつける。 同様に先に刈り取った右目も、今切ったゆっくりまりさの目に引っ付けて、傷口をふさぐ。 これで、二匹のゆっくりまりさの右目は交換された。 「どう?これならばれなくなるでしょう?」 「はぁ、パーツの交換ですか…良く考えますねこんなの」 「ありがとう、ほめ言葉として受け取っておくわ。 まあさすがにこれだけじゃばれちゃうから、もっと色々やるんだけど」 私は再びナイフをゆっくりたちに向ける。 ゆっくりまりさたちはこれから来る痛みから逃げようとするが、体に刺さるナイフがそれを許さない。 私はそんなゆっくりたちを安心させるために、優しく微笑んであげた。 「ちょっと痛いだけだから、我慢してね?これが終わったらみんな逃がしてあげるから」 ゆっくりまりさたちは悲鳴を上げているが、私は無視してナイフで顔のパーツを切り取っていく。 その悲鳴に罪悪感が心の中でもたげたが、ゆっくりたちを生かすためなのだから、と私はそれを押さえ込んで作業を続けた。 ゆっくりたちの麻酔なしの整形手術は、一時間後にようやく終わった。 「はーい、終わったよー。みんな、良く頑張ったね」 私は痛みに耐えかねて気絶しているゆっくりたちを起こし、ナイフを抜いて野に放ってやる。 ゆっくりまりさたちはまだ痛みが抜け切っていないようだったが、それでも体に鞭打って私の元から離れていった。 そのときに私になにか言おうとしていたが、交換したばかりだったせいか口が動かなかったようで、結局そのまま何も言わず去っていった。 お礼なんて、別にいいのに。 ゆっくりまりさたちを見送りながら、阿求ちゃんが私に質問をした。 「ハンターさん、なんであんなめんどくさい事をしたんですか?やっぱり殺したくないからですか?」 「もちろんそれもあるわ。でも、あの子達明日になったら私達のことなんてすっかり忘れて、いつか群れをなしてまたあのおじさんの畑襲うと思わない?」 「まあ、ゆっくりの習性上そうなってもおかしくは……って、まさか」 「大事な収入源は、できるだけ手放したくないものよねぇ」 私達はその後依頼人の男のところにいき、ゆっくりたちを追い払ったとだけ報告してお金を受け取った。 彼は自分の畑を襲うゆっくりたちが死んだのだと喜びを隠せずにいたが、 阿求ちゃんはそんな彼を哀れむように見ていた。 男は阿求ちゃんの様子に気づくこともなく、上機嫌のまま私達を見送るために玄関まで来ていた。 私は大事な顧客である彼にしっかりとお辞儀をして、そしてこう言った。 「また、何かあったらよろしくお願いしますね」 終わり 外伝へ 読んでくださった人に感謝の念をこめて。 本当に、本当にありがとうございました。 このSSに感想を付ける
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前 視界が妙にクリアだ。ゆっくりたちがよく見える。 親まりさの死骸に群がったゆっくりたちが3匹。遠くにはこちらの様子を隠れてみているゆっくりまりさがいる。 ひとまず近くにいるこいつらを殺そう。 私はカバンからナイフを取り出し、ゆっくりたちに向かって投げた。 「ゆ゛ぅぅぅ!?いだいよぉぉぉぉぉ!」 「なにかざざっだのぉぉぉ!?」 「ぎぃぃいぃぃぃ!!」 ゆっくりたちは痛みに弱い。このぐらいの大きさだったら、ナイフ一本刺さっただけで泣き叫んでほとんど動かなくなる。 アリスが石につまづいただけで大泣きして、しかたなくみんなで基地まで運んであげたっけなぁ。 途中で運ばれる振動で興奮したアリスをなだめるのは大変だった。 私はそんな思い出し笑いをしながら、動けない三匹に近づいて踏み殺した。 それを見て、隠れていたまりさが逃げ出す。 いや違う、みんなに私のことを報告しに行ったのか。私は死んだまりさからナイフを回収して、逃げたゆっくりを追いかけた。 少し歩いて、程度に開けた空間に出ると、そこには大量のゆっくりまりさ達がひしめき合っていた。 私が現れるのを確認すると、いっせいにこちらを向く。 どの目も、殺意でたぎっていた。 先ほど逃げたまりさが先頭に立って、何かを喋りだす。 「おねえさゆ゛ぐぅ!」 私はそれを無視して、前の方にいたゆっくりたちにナイフを投げる。 そちらの口上を聞く暇はない。あいにくこちらは急いでいるのだ。 「ゆ、ゆるさないよぉぉぉ!ゆっくりしなせるからかくごしてね!」 「にんげんたちなんてまりさたちにかかればいちころだよ!」 「ゆ゛!やめ、ふまな…」 ある一人が叫んだのを合図に、ゆっくり絶ちの群れが私に向かって突っ込んできた。 先ほどナイフをくらったゆっくりたちは、その大群によって下敷きとされる。 しかし、怒り狂ったゆっくり達はそんな仲間の様子を気にすることも無く、私に向かってくる。 その勢いは、猪の群れが突進するがごとく。あんなのに巻き込まれたら、小柄な私ではひとたまりではないだろう。 村の男達もこれに正面から挑んでやられたのかもしれない。 私はその群れに向かって数本ナイフを投げたあと、その群れから逃げるように走った。 その群れのスピード自体はそれほど速くなく、全力で走らずとも追いつかれることはなさそうだった。 「ゆっくりまってね!ゆっくりしなせるよ!」 「ゆっくりしね!ゆっくりしね!」 「ゆ?おさないでね!?いた…ゆ゛ぎゃあぁぁぁ!!」 途中で転んだゆっくりや時折投げる私のナイフをくらったゆっくりが、後続たちに押しつぶされていく。 だが、怒りで我を忘れゆっくりたちは、猪突猛進を繰りかえすのみ。 私が目的の場所に着いた頃には、その数は三分の二程度に減っていた。 私が少し荒くなった息を整えて後ろを見ると、ゆっくりたちがいまだその怒気を衰えさせること無く向かってくる。 よかった。途中で追っかけるのをやめられたらどうしようかと思った。 私は数本ナイフを投げたあと、ナイフを構えてゆっくりに備えた。 「そこをうごかないでね!ゆっくりころしてあげるから?」 私の前に立っている木々を通り抜けようとしたゆっくりが、一瞬にしてばらばらとなって飛び散った。 そこには、私が先ほど仕掛けておいたエナメル線があんこにまみれて輝いていた。 こちらに向かって突っ込んでくるゆっくりたちはそれによって次々とばらばらになり、 運よくエナメル線を飛び越えられたゆっくりは私のナイフによって刻まれて死んだ。 「ゆー!?あぶないよ!ゆっくりとまってねえ゛っ!?」 「おさないでね!ゆっくりしていっでぇぇぇぇ!?」 それに気づいたゆっくりが叫ぶも、勢いのついた群れはそう簡単には止まれない。 後ろに押し出されエナメル線に突っ込むか、後続に押しつぶされるかして、ゆっくりたちの数はみるみるうちに減っていく。 ようやくその群れが止まったころには、ゆっくりたちはもう数えれる程度しかいなかった。 ひぃ、ふぅ、みぃ………大体、十五匹くらいだろうか。 ゆっくりたちが、エナメル線越しに私に罵声やら石やらを浴びせかける。 「ひきょうものはゆっくりしんでね!」 「ゆ!にんげんのくせにろうじょうするなんてきたないよ!ゆっくりこっちにきてね!」 「わかったわ。じゃあ今からそっちにいくね?」 私は飛んでくる石をカバンで防ぎつつ、エナメル線を飛び越えた。 ゆっくり達は私のその行動に一瞬呆けたあと、みんなそろって嗤い出した。 ゆっくり立ちのその様子がかわいらしくて、私も一緒になって笑った。 「いったらほんとにこっちにくるなんて、ばかなの?」 「ゆー!おねえさんがこっちにきたから、もうこのしょうぶまりさたちのかちだよ!」 「いっせいにかかればしゅんさつだよ!みんなでいっしょにいこうね!」 そういって、5,6匹のゆっくりまりさがこっちに向かって飛んできた。 私はその飛んだ瞬間を狙って、転がるように下を抜けていった。 「ゆっくりよけないでね!」 「あはっ、そっちは危ないよ?」 「ゆ?」 勢いあまったゆっくりたちは、その勢いのまま私の後ろにあるエナメル線に突撃して、ばらばらとなってしまった。 私はそれを見て呆然としているゆっくり立ちに突撃し、不意を付いて3匹を切り刻んだ。 「ゆ、ゆー!!」 「ねえ、逃げないでゆっくりしていってよ」 「ごっじにこないでねぇぇぇ!?」 それを見て戦意を失った残りのゆっくりたちは、我先にと私からはなれるように逃げていった。 私はそれを追いかけて皆殺しにした。エナメル線に自ら突っ込んで自滅するゆっくりもいたので、あまり時間はかからなかった。 タイム・リミットを知らせる太陽は、まだ高い。 私は、投げたナイフを可能な限り回収しながら、まだ残っているゆっくりがいないか探し回った。 たまに死にかけのゆっくりが見つかることがあるものの、それ以外でゆっくりが見つかることは無かった。 ………おかしい。少なすぎる。 村を襲ったとき、まりさ達はもっと数が多かったはずだ。 目測だから詳しい数はわからないが、この倍はあったろう。 男達が多少は殺したろうから数はそれなりに減っているだろうが、それでも少なすぎる。 私は、この巣の中心にある洞穴のことを思い出した。 ……もしかしたら、他のゆっくりは巣の改築をしているのかもしれない。 あれだけ村から食料を奪ったのだ、置く場所にも困るだろう。 私は、あんこにまみれて汚くなったナイフを服で拭きながら、洞窟へと歩いていった。 「大きい……」 その洞窟は私が遠くから見るよりも、かなり大きかった。入り口だけでも小さな家屋ほどはあろうか。 洞窟の入り口の脇には、磔に男達が括り付けられていた。ゆっくりたちの器用さに少し感心する。 男達は体中傷だらけで、足の一部は食いちぎられているかのようにかけていた。赤黒い肉にちらりと見える白い骨がよく映えていた。 だが、ゆっくりたちにとってはおいしくなかったようで、その噛み傷はそれほどたくさんは見受けられない。 代わりに投石による傷があちこちについており、一人の男の目には尖った小石が突き刺さっていた。 一部の男には火で焼かれた傷もあり、まるで村で磔の刑によって殺された罪人たちを見るようだ。 もしかしたら、村の磔の刑を見たゆっくりが真似たのかもしれない。 くくりつけられた男の一人が、必死に首を動かしてこっちを向く。 腕はひしゃげ、腹からは腸が漏れ出しているというのに元気なことだ。 「あ………だず………げ………」 私は、血で汚れた地面を極力踏まないように、爪先立ちでぴょんぴょんと跳ねながら洞窟の中に入った。 すぐに声は聞こえなくなった。 洞窟の中は、点在する光る鉱石のおかげで、外ほどではないにしろ十分な明るさが保たれている。 洞窟をある程度進むと、道が二手に分かれているところに出た。 片方は今の道に沿ったまま真っ直ぐ進んでおり、もう片方は地下に向かっていた。 「……しゃ!……しゃ!」 前の方から、ゆっくりの声がかすかに聞こえる。私はその声のする、真っ直ぐの道を行くことにした。 奥に歩くにつれてだんだんと腐臭が強くなる。 それを我慢して進んでいくと、向こうで何かに群がっているゆっくりたちが見えた。 近づいて見ると、そのゆっくりたちはまりさ種ではなく、他の種であるようだった。 そのどれもがぼろぼろで、体中切り傷だらけであった。 彼女らは、一心不乱に素っ裸の人間の死体をむさぼっている。 私は、その中の一匹に声をかけた。 「何してるの?」 「おしょくじしてるんだよ!むーしゃ!むーしゃ!」 「それ、おいしいの?」 「まずいけどしかたないよ!まりさたちにはさからえないよ!」 「あなた達は、まりさに捕まえられてるの?」 「むりやりつれてこられてきょうせいろうどうだよ!すあなくらいじぶんでほればいいのにね!いいめいわくだよ!」 「ああ、巣穴を掘らされてるんだ。じゃあ、ちょっと前にあったあそこが巣穴なのかな?」 「そうだよ!れいむたちががんばってほったんだよ!なんびきもなかまがしんだよ!もうおうちかえってゆっくりしたいよ!」 「じゃあ帰ればいいのに。表のまりさ達は、もういないよ?」 「ゆ!?それほんとう!?」 「うん。疑うんならと見てこれば?」 「じゃあちょっとみてくるね!うそだったらゆるさないからね!」 私は入り口付近までゆっくりたちと一緒に戻り、彼女達が外の様子を見て歓喜しながら去って行くを見た後、再び洞窟の中に戻った。 もしかしたら彼女達の何匹かが、私の仕掛けたワイヤーに引っ掛かるかもしれないが、そんなことまで教える義理は私には無い。 私には時間が無いんだ。 私は分かれ道まで戻り、今度は地下に向かう道のほうを歩いていった。 少し歩くと、円筒状の奥に長い場所に出た。 しかし、その場所は奥行きだけでなく、幅、高さともにすごかった。 高さ、幅ともに私の背丈の5倍以上はあり、奥行きはそれよりもずっと大きい。これを作る際の彼女たちの苦労が計られる。 ここまで大きな巣穴を作るぐらいだから、おびただしい数のゆっくりたちが投入されたのだろう。 さっきのゆっくりたちは、その数少ない生き残りか。 何とか生きていてくれればいいな、と心の隅でそう思った。 だが、肝心たちのゆっくりたちはあまりいないようだ。 ちらほらと遠くに表のより大きいゆっくりたちがいるのが見えるのみ。 どういうことかと目を凝らしてみると、壁には、黒い垂れ幕のようなものが沢山かけてある。 外に居たゆっくりがその垂れ幕をくぐって中に入っているのを見ると、その垂れ幕は扉を模していることがわかった。 そして、中にゆっくりまりさ達がいるのだろう。 私は、近くにあった垂れ幕のひとつに近づいた。 その垂れ幕は、人間の着物だった。血と肉片がこびりついていて、少し臭う。 まりさ達はこの臭いが気にならないだろうかと思ったが、恐らくここに住み続けたせいで慣れているのだろう。 気にしなければ、確かにどうとでもなりそうな程度臭いだ。 私は肉片が手につかないように気をつけながら、その垂れ幕をくぐって中に入っていった。 「ゆ?おねえさんだれ?ここはまりさのへやだからはやくでてってね!」 「まりさはあかちゃんをおなかのなかでゆっくりそだててるんだよ!はやくでてってね!」 中には、夫婦と見られるゆっくちまりさが二匹。 共にツタを頭から生やしている。 どうやら身篭っている様だ。 これは好都合だ。ああなったゆっくりは動きが非常にとろくなる。 私は、彼女達の大きく開かれた口にナイフを放り込む。 「でぃ・・・!」 「ぎぃ・・・!」 舌を縫い付けられてうまくしゃべられない二匹に、すばやく近づいて思い切りナイフを突き立てる。 体の中心ごとナイフに貫かれた二匹は、断末魔の悲鳴を上げることも出来ず絶命した。 成熟途中で親が死んだせいか、ツタについていた赤ちゃんまりさ達も苦悶の表情をしたあと、ぽとぽとと地面に落ち動かなくなった。 私は念入りに落ちた赤ちゃんまりさを踏み潰した後、再び次の標的に向かって歩いていった。 「い゛だい゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!」 「や゛め゛て゛ね゛ぇぇぇぇぇぇぇ!?」 「ま゛り゛さ゛の゛あ゛がぢぁんごろざないでぇぇぇぇぇぇ!!」 「な゛ん゛でぞん゛な゛ごどす゛る゛の゛ぉ゛ぉぉぉっ!!?」 部屋に入っているまりさ達と一匹一匹殺してまわる。全員身篭っているゆっくりだった。 たまに作りかけの部屋や、食料が貯蔵してある部屋もあったが、大体の部屋に夫婦の共に身篭っているゆっくりまりさが同居していた。 おそらく、大量に食料が手に入ったため安心したゆっくりたちが、みんなして性行為に走ったのであろう。 また、そのせいで性行為兼身ごもった時用の部屋が必要となり、あのゆっくりたちが駆り出されたのか。 だが、部屋にこもっているおかげでこちらとしては各個撃破がしやすい。 外に声が漏れることもなく、私は誰にも気づかれずに洞窟内のほとんどのゆっくりを殺すことが出来た。 「これで、最後かな……?」 円筒の最奥、今まで出一番大きな垂れ幕がそこにはかかっていた。もう腐臭は気にならない。 恐らく、ここがボスの部屋だろう。 私はこれで最後なのだ、と疲労が溜まっている体に鞭打ち、中に入った。 「ゆゆ!?なにかってにはいってるの!?いまからこどもうむんだから さっさとでてってね!!!」 中には、今までと違いまりさは一匹しかいなかった。 出産方法も違うようで、こいつだけあごから直接出すタイプのようだ。 大きさも今までとは比べ物にならないくらい大きい。人間など一口で食べてしまいそうだ。 もしまともに相手をすれば、疲れ切った今の体ではかなわなかったかもしれない。 だが、今彼女は出産中。顎の部分が少し割れ、中にいる子どもが少しだけ見て取れたが、それでもまだ時間はかかりそうだ。 これは、神様が私に与えてくれたご褒美だ。神様が、私に力を与えてくれているのだ。 そう考えると、不思議に力がわいてきた。私は一人ではないのだ。 友達を助けようと孤軍奮闘している私を見た神様が、応援してくれるのだ。 私は、持っているナイフを思い切り彼女のほうに向かって投げた。 ナイフはそのゆっくりまりさの皮にぶち刺さる。 「いだっ!……もう、なにするの!でていってねっていってるでしょ! にんげんはさっさとでてってまりさたちのごはんをよういしてね!」 ナイフがゆっくりまりさに命中するも、彼女はそれほどくらっているようには見えない。 あの体の大きさにもなると、相応に表皮も厚くなり防御力も増しているのだろう。 中のあんこに届かなければ、たいしたダメージは与えられない。 しっかりと弱点を狙わなければ…… 私が次に狙ったのは、まりさの赤ちゃんが存在する産道。 さっきと同様に、力任せにナイフをそこに叩き込んでいく。 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!ま゛り゛さ゛の゛あ゛か゛ち゛ゃん゛がぁぁぁぁぁ!!!」 まだ完全に成熟していない赤ちゃんまりさの皮は薄く、簡単にナイフは貫通していく。 私の目からは、もう赤ちゃんは助からないというのは容易に見て取れたが、親のまりさはそれを見ることが出来ない。 ただわかるのは、産道にナイフを投げ込まれたという事実のみ。 「ゆぅぅぅぅぅぅ!!!よくもまりさのあがちゃんをぉぉぉぉぉ!」 「あーあー、そんな暴れちゃ駄目だよ。中にいる赤ちゃん苦しんでる。早く生んで手当てしないと死んじゃうよ?」 その言葉に、ゆっくりまりさは動きを止める。 そして赤くなったと思うと、固く目を瞑って唸り声を上げた。 赤ちゃんを産むことに専念したようだ。 私もそのゆっくりまりさの様子に満足し、座り込んでまりさの様子を眺めた。 「ゆぐぅぅぅぅぅ!!もうすこしでうまれるよぉぉぉぉ!!ゆっくりぃぃぃぃぃぃ!!!」 十分くらい経ったであろうか。まりさの顎から、勢いよく赤ちゃんが飛び出た。 私は、それに呼応してすばやく立ち上がり、そしてすばやくナイフをぶん投げる。 赤ん坊などには目もくれない。どうせもう死んでいる。 ナイフが飛んで行く先は、先ほど赤ちゃんが出てきたゆっくりまりさの産道。 ぽっかりと開いた穴に、ナイフが侵入していく。 「ひぎぃぃぃぃぃぃ!?やべでね!!そんなとこいれないでね!!」 産道は、外気にさらされてないため、表皮に比べ格段に防御力が薄い。 子どもを傷つけないためにやわらかく作られた産道を、次々とナイフが突き破り、中のあんこに進入していく。 結局、産道が完全に閉じるまでに親まりさは数十本のナイフを投げ込まれる羽目になった。 親まりさはかろうじて死んではいないものの、ほとんど動けそうに無かった。 止めを刺そうと近づく私に、彼女が目をぎょろりとこちらに向けた。 「こどもは……まりさのこどもはぁぁぁぁ!?」 「赤ちゃん?ほら、あそこだよ」 私が指差した先には、あんこが飛び散って死んでいる赤ちゃんまりさ。 親の体から出てきたときの衝撃に、ナイフで傷付いた体は耐えられなかったのだ。 「う゛わ゛ぁぁぁぁぁ!!どぼじでぇぇぇぇぇぇ!!!なんでぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」 「さあ?たぶん、神様が応援してくれなかったからじゃない?」 私は、深く深く親まりさの体をナイフで突いた。まりさの体に私の腕が、そして肩までずぶずぶと埋もれる。 そのまま踏み込んで肩を思い切りひねると、彼女はビクンと痙攣し、やがて動かなくなった。 太陽が完全に沈みきる間際、私はようやく里まで戻った。 巣からここまでずっと走ってきたため、先ほどからずっと足は悲鳴を上げ続けている。 足だけではない。あの戦いによって私の体中はもう限界寸前だった。 でも、それでも、友達の顔を思い浮かべると、不思議と力がわいてきた。 もう少し、もう少しでみんな助かるんだ。 私は強い希望を胸に、彼女達の待つ広場まで走っていった。 「どいて、どいてよ!」 大声でそう叫びながら、友達の下までひた走る。 里の人たちは最初はそんな私の姿を唖然とした表情で見ていたが、すぐに私のために道を開けてくれた。 そのおかげで、私はすぐに彼女らの元につくことができた。 これで、ようやく彼女達を助けることが出来る。もう磔なんかになる必要はない。 そして、彼女達を脅かすまりさ達ももういない。みんなのゆっくりを邪魔する者はもういない。 私は、彼女達と対面した。 「みんな、だいじょう――――――――」 私の目に飛び込んできたものは、彼女達の死骸だった。 れいむは、顔が完全に切りとられ、中身のあんこをほじくり出されていた。あの皆を幸せにする笑顔を見ることは、永遠に出来なくなった。 ありすは、体中に石がめり込んでいた。ありすの自慢だったきれいな目も、今では小石にその場所を乗っ取られていた ちぇんは、全身焼かれて真っ黒になっていた。もう、彼女を彼女とわかることは出来ない。 ぱちゅりーは、目から上が何も無かった。とても沢山の知識を詰め込んだ頭も、いまや全くの空だ。 「え、あ?なんで、これ…」 ぐらぐらと揺れる視界。真っ白になる頭。 目の前の出来事に、私はついていけなかった。 嘘だと思った。見間違いだと思った。 たぶん私、疲れてぼけてるんだ。ほら、もっと近くで見ればきっと……。 彼女達に近づこうとして動かした足が縺れて、私は思い切り地面に叩きつけられた。痛みで少し涙が出た。 それでも這いずって彼女らに近づき顔を上げて彼女達を再び見たが、そこにはさっきと変わらぬ光景があるばかり。 ああ、たぶんこれは夢なんだ。私、疲れて眠っちゃったんだ。駄目だ、早く起きないと、れいむたちを助けないと――――。 私は、落ちてくるまぶたを支えることをやめた。 「……………っ!?」 私は声にならない悲鳴を上げ、飛び跳ねるように身を起こす。 目に刺々しい光が入ってきて、慣れるまで数秒の時を要した。 ようやく光に慣れた目で辺りを見渡すと、そこは見覚えの無い室内だった。その一角にあるベットで私は寝かされていた。 着物も取り替えられているようで、その着心地からその着物が高価なものであるということがわかった。 私にとっては、あんこがついていないことが一番嬉しかった。 「おお、やっと目を覚ましてくれたか!」 不意に扉が開いて、ひとりの初老の男が入ってきた。長様だった。 私は、この現状の説明をしてもらおうと声をあげたが、少しかすれた声が出てきただけで、まともに話すことができない。 「駄目だよ、起きたばっかりなのだから。すぐに何か食べやすいものを持ってくるから、そこで休んでなさい」 長様はそういうと、すぐに部屋から出て行った。 私の体はひどく衰弱しているようだった。私は長様の言葉に従い、体を寝かして長様を待つことにした。 それほど待つことも無く、再び扉が開いて長様が入ってきた。手にはドリンクやら、おかゆやらが載ったお盆を抱えている。 長様はお盆を近くに台に置き、そのうちのドリンクをとって私に渡してくれた。 「ほら、永遠亭特製の、栄養の沢山詰まったジュースだよ。胃が驚かないよう、少しずつ飲みなさい」 私がそれを受け取り、コクリコクリと中身を少しずつ胃の中に収めていく。 一口飲むごとに元気が出てくる、不思議な飲み物だった。 その後、長様に渡されたおかゆも食べ、私はようやく喋れるまでに体力を取り戻した。 「長様……」 「ん、なにかな?」 長様は体力の回復した私を見て満足そうだ。だが、私はいまだ疑問が残るばかりである。 私は、長様にこれまでの経緯を教えてもらうことにした。 「あの、私はどうなったんですか?」 「君は、山のゆっくりたちをやっつけた時の疲労で、倒れてしまったんだよ。 君の家はもう壊れていたし、親族の方もいらっしゃらないようだったから、私が引き取って看病をしていたんだ。 あの後から君は三日間も眠り続けていたんだ。医者は命に別状はないといっていたが、君はなかなか目覚めてくれなかったから、私は気が気ではなかったよ」 長様は私に優しくそう教えてくれた。 長様に看病をしていただいたなんて、ちょっと照れる。 私はえへへ、と少しはにかみ笑いをした後、さっきから一番気になっていたことを長様に聞いた。 「あ、あの……じゃあみんなはどうなったんですか?私、約束はちゃんと守りましたよ?」 ここには私しかおらず、みんなの姿は見当たらない。 あんなことがあった後じゃみんな村には居づらいかも知れないが、それならばどこにいるのかぐらいは教えて欲しい。 長様は私の問いに、困った顔をして目を泳がす。 なんでそんな顔をするのだろう?私はただ、友達のことを聞いただけなのに。 「あ、もしかしてみんなも治療中ですか?それだったら私はもう大丈夫ですからみんなのところに連れて行ってください」 「君は、覚えていないのかい?」 覚えている?私が?いったいなにを言っているのだろう。 私はまりさ達をやっつけてから、まだ彼女らに一度も会っていないのに。 たとえどこかであったとしても、それは夢に決まっているのに。 「覚えていません。だってあれは夢なんですから。だから私は彼女達とまだ会っていないんです」 長様は驚愕で目を大きく開き、そして唇を震わせながら、私の肩を力強く掴んだ。 「痛いですよ長様、離してくださ――」 「あのゆっくりたちは、もう*んだんだ」 なにを言っているのか、わからない。 長様の言葉が、何かのノイズにはばかられて良く聞こえない。 きょとんとしている私に向かって、再び長様が絞り出したかのような声で何かを喋る。 「君のお友達は、もうこの世にいないんだ……。 里のみんなも、まさか君が約束を守って帰ってくると思わなかったんだ。だから、みんなで*してしまったんだ」 「あはは、何言っているんですか?そんなの嘘、だってあれは夢じゃなきゃいけないんだもの」 長様は私から目をそらして、唇を固く結ぶ。その目からは涙が出ていた。 「なんで泣くんですか?あれは夢なのに、なんでそんな顔をするんですか?」 「…………本当に、申し訳ないと思っている。だが、君も気づいているんだろう?」 「き、気付くって、意味がわかりません。あれは夢で、嘘で、虚実なんですから」 長様が、意を決したように私と目を合わせる。 私の肩を掴む長様の手が、痛いほどに強くなった。 「あれは現実だったんだ。君だって気付いているはずだ。認めたくないのはわかるが、頼むから事実から目をそらすことだけのことはやめておくれ。 ……彼女達は、死んだんだ」 「う、うそだっ!!」 私は悲鳴を上げ、力任せに長様の体を突き飛ばした。 長様がしりもちをつき、激しい音を立てる。 「違う!みんな死んでなんかいるもんか!私は悪いゆっくりを殺したんだから、みんなは助かったんだ! この嘘つき!お前が死ねばいいんだ!」 私は近くのものを手当たり次第に投げ、投げるものがなくなった後は、ひたすら嘘だ、死ね、などという罵声を上げ続けた。 長様は悲しそうな顔をして立ち上がると、一言だけ、本当にすまなかったと私に残して部屋から去った。 私は長様が出て行ってからもずっと叫び続けていたが、やがて眠気が襲ってきて、そのまま意識は闇の中に落ちた。 気づくと、私は森の中に居た。 周りには皆がいて、一緒に歩いている。 どこか頭がぼんやりふわふわしていて、気持ちがよかった。 そんな浮ついた気分で歩いていたせいか、私は石につまづいて転んでしまった。 不思議と痛くなかったが、転んだところを皆に見られるなんて恥ずかしいなぁ、と思った。 いつまでもこんなみっともない姿ではいけない。私は、起き上がろうと下半身に力をこめる。 「あ、あれ……?」 まったく動かなかった。腰が抜けたかのように、私の足はピクリとも動かない。 優しい笑顔浮かべたまま、みんなが向こうで私を見ている。 早くみんなの元へ行かないと。 動かせる上半身を使いほふく前進の要領での移動を試みても、下半身が鉛のように重くなって少しも向こうへいけない。 「「「「おねえさん、そこでゆっくりやすんでいってね!」」」」 みんなが私に向かって、口を揃えてそう言った。 ……みんな何を言っているんだろう。私もそっちに行ってみんなと遊ぶよ。いつもみたいにゆっくりするよ。 「「「「だめだよ!おねえさんはまだいきているんだから、そっちでゆっくりしていってね!」」」」 またみんなが一緒にそう言った。 ……だから変なこと言わないでよ。みんなでゆっくりしようよ。 「「「「わたしたちはほかのところでゆっくりするからだいじょうぶ!!おねえさんは、そっちでがんばってゆっくりしていってね!! それじゃあ、わたしたちはいくからね!!」」」」 彼女達はそのまま、こちらを振り返ることなく行ってしまった。 私も精一杯そちらに行こうと頑張ったが、引っ張られるような力のせいでまったく向こうにいけない。 みんなの姿がだんだんと薄れていき、ついにはまったく見えなくなった。 それと同時に、あたり一面が光に包まれる。 そのまま、私は世界から放り出された。 「……今のは、みんな?」 温かい何かに包まれて、私はゆっくりと目を覚ます。 二度目の目覚めは、一回目よりも随分と気持ちがよかった。 あれだけ休んだおかげか、体のほうはもう快調といってよいほどだ。 私は布団から出て立ち上がると、その部屋から出て長様を探した。 その部屋のすぐ隣の、長様の自室と思われる部屋に彼はいた。 「おはようございます、長様」 「ああ、君か。もう起きてていいのかね?」 「はい。たくさん休みましたから。それと……昨日は、すいませんでした。 あんなに無礼なことをしてしまって……」 「いや、いいんだ。あれは全部こちらが悪かったのだから。約束を守らなかったのは全面的にこちらの落ち度だ。 しかも、起きたばかりの君にあんなこと言うべきではなかった。でも、もう大丈夫なのかね?その……友達のことは」 「みんなが死んでしまったことは悲しいけれど、きっと天国でゆっくりしているでしょうから。 それに、みんなに励まされちゃったんです。頑張って生きろ、って。 だから私がいつまでもみんなの死を引っ張っていたら、みんなに怒られちゃいます」 その言葉を聞いて、長様はようやく安心したのか、優しい微笑みをこちらに向けた。 「そうか、それはよかった。じゃあそろそろご飯でも作ろうか。 おなか、空いているだろう?」 「はい!お食事作るんでしたら、私もお手伝いします」 「ありがとう。それじゃあ食堂まで行こうか。ついておいで」 私達は、一緒に今日のご飯はなににしよう、と笑ってお話しながら食堂へ向かった。 そうして食堂についた私達が診たものは、そこにある食料を食い荒らすゆっくりたちだった。 「ゆ?ここはまりさがみつけたゆっくりぷれいすだよ!いましょくじちゅうだからさっさとでていってね!」 「むーしゃ!むーしゃ!これおいしいね!もっとたべようね!」 「しあわせー!」 それを見た長様は、ゆっくりを追い払おうとして近づこうとしたが、私を見て何故か動きを止めた。 私はそれを不思議に思ったが、これ以上ゆっくりにご飯を取られるわけにもいかないので、 私は棚においてあった調理用のナイフを持ってゆっくりたちに近づいた。 ゆっくりたちはそんな私を見て、非難の声を浴びせかける。 「おねえさんばかなの?いまわたしたちがごはんたべてるんだからさっさとでてってね!」 「ばかなにんげんはわたしたちにおいしいものをよこすか、じゃなかったらどっかいってね!」 「むーしゃ!むーしゃ!しあわぶびゃ!」 私は無言のまま、その中の一匹に向かって、飛び散らないように気をつけてナイフを突き立てる。 そのゆっくりは体中を貫かれ、つぶれたカエルのような悲鳴を上げて死んでいった。 残ったゆっくりたちは、私の警告なしの、いきなりの行動に呆然としている。 私はその間にナイフをゆっくりから抜いて、残りの二匹を捕まえて動けないように、片方を腕で抱え、もう片方を踏んづけて自由を奪う。 「なにするの!ゆっくりはなしてね!」 「なかまをころしたおねえさんはゆっくりしでぇ!?」 私は二匹の声を無視して、丁寧に抱えているゆっくりにナイフを差し込んでいく。 私の腕の中で、そのゆっくりは少し痙攣した後、すぐに動かなくなった。 私はナイフを引き抜くときも、あんこが飛び散らないように慎重に抜いていく。 ここで汚してしまっては、長様に迷惑がかかるから。 「ま、まりさだけはたすけてね!もうこんなことしないから!」 「だめよ?あなたは悪いゆっくりなんだから、助けるわけにはいかないの」 「どぼじでぇぇぇぇぇ!?まりざわるいごとじでないのにぃぃぃぃぃぃ!!」 私は踏んづけたゆっくりまりさにも他の二匹と同じような処理をしてあげた。 みんなで仲良く同じところへいけるように。 「き、君……なんであのゆっくりたちを殺したんだい?」 私があんこで汚れた手を洗っていると、長様が作り笑顔のような、引き攣ったような笑みで私にそう聞いた。 私はあんこを洗い落とし、手をしっかりと拭いてから、長様にこう答えた。 「だって殺さないといけないですから。悪いゆっくりは殺して、潰して、切り刻まないと良いゆっくりがゆっくりできなくなるじゃないですか」 「し、しかしゆっくりは君のお友達じゃあ……」 「私のお友達は、あんな悪いゆっくりじゃないです。少しは心が痛みますけど、みんなのために殺さなきゃいけないですから。 それよりも長様、ご飯作りませんか?私は、お腹が空きました」 「あ、ああ。わかったよ。一緒にご飯をつくろうか」 その後、私達は一緒にご飯を作って食事を共にした。 長様は私の料理を一口食べた後、いきなり無言で倒れた。 その後二度と長様は私の料理を口にしてくれなくなったが、何故なのかは今でもわからない。 懐かしい昔話は、これでおしまい。 ――――――――――――――あとがき――――――――――――――― 長がすぎですね。その割りに虐め分少ないですね。ほんとすいません。 一応補足させていただくと、最初の場面は三途の川の場面です。 主人公がこまっちゃんの船で運ばれており、そこで昔話をしているという状況です。 最初は阿求に話しかけるシチュにしようと思ったんですが、なんか話がダークな感じになりそうだったのでこちらの方にしました。 ちなみに冒頭の彼女が幾つであろうとも、少女は少女です。異論は認めない。 ではここまで御覧になってくれた読者さんに感謝の念をこめて。 本当にありがとうございました! このSSに感想を付ける
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前 視界が妙にクリアだ。ゆっくりたちがよく見える。 親まりさの死骸に群がったゆっくりたちが3匹。遠くにはこちらの様子を隠れてみているゆっくりまりさがいる。 ひとまず近くにいるこいつらを殺そう。 私はカバンからナイフを取り出し、ゆっくりたちに向かって投げた。 「ゆ゛ぅぅぅ!?いだいよぉぉぉぉぉ!」 「なにかざざっだのぉぉぉ!?」 「ぎぃぃいぃぃぃ!!」 ゆっくりたちは痛みに弱い。このぐらいの大きさだったら、ナイフ一本刺さっただけで泣き叫んでほとんど動かなくなる。 アリスが石につまづいただけで大泣きして、しかたなくみんなで基地まで運んであげたっけなぁ。 途中で運ばれる振動で興奮したアリスをなだめるのは大変だった。 私はそんな思い出し笑いをしながら、動けない三匹に近づいて踏み殺した。 それを見て、隠れていたまりさが逃げ出す。 いや違う、みんなに私のことを報告しに行ったのか。私は死んだまりさからナイフを回収して、逃げたゆっくりを追いかけた。 少し歩いて、程度に開けた空間に出ると、そこには大量のゆっくりまりさ達がひしめき合っていた。 私が現れるのを確認すると、いっせいにこちらを向く。 どの目も、殺意でたぎっていた。 先ほど逃げたまりさが先頭に立って、何かを喋りだす。 「おねえさゆ゛ぐぅ!」 私はそれを無視して、前の方にいたゆっくりたちにナイフを投げる。 そちらの口上を聞く暇はない。あいにくこちらは急いでいるのだ。 「ゆ、ゆるさないよぉぉぉ!ゆっくりしなせるからかくごしてね!」 「にんげんたちなんてまりさたちにかかればいちころだよ!」 「ゆ゛!やめ、ふまな…」 ある一人が叫んだのを合図に、ゆっくり絶ちの群れが私に向かって突っ込んできた。 先ほどナイフをくらったゆっくりたちは、その大群によって下敷きとされる。 しかし、怒り狂ったゆっくり達はそんな仲間の様子を気にすることも無く、私に向かってくる。 その勢いは、猪の群れが突進するがごとく。あんなのに巻き込まれたら、小柄な私ではひとたまりではないだろう。 村の男達もこれに正面から挑んでやられたのかもしれない。 私はその群れに向かって数本ナイフを投げたあと、その群れから逃げるように走った。 その群れのスピード自体はそれほど速くなく、全力で走らずとも追いつかれることはなさそうだった。 「ゆっくりまってね!ゆっくりしなせるよ!」 「ゆっくりしね!ゆっくりしね!」 「ゆ?おさないでね!?いた…ゆ゛ぎゃあぁぁぁ!!」 途中で転んだゆっくりや時折投げる私のナイフをくらったゆっくりが、後続たちに押しつぶされていく。 だが、怒りで我を忘れゆっくりたちは、猪突猛進を繰りかえすのみ。 私が目的の場所に着いた頃には、その数は三分の二程度に減っていた。 私が少し荒くなった息を整えて後ろを見ると、ゆっくりたちがいまだその怒気を衰えさせること無く向かってくる。 よかった。途中で追っかけるのをやめられたらどうしようかと思った。 私は数本ナイフを投げたあと、ナイフを構えてゆっくりに備えた。 「そこをうごかないでね!ゆっくりころしてあげるから?」 私の前に立っている木々を通り抜けようとしたゆっくりが、一瞬にしてばらばらとなって飛び散った。 そこには、私が先ほど仕掛けておいたエナメル線があんこにまみれて輝いていた。 こちらに向かって突っ込んでくるゆっくりたちはそれによって次々とばらばらになり、 運よくエナメル線を飛び越えられたゆっくりは私のナイフによって刻まれて死んだ。 「ゆー!?あぶないよ!ゆっくりとまってねえ゛っ!?」 「おさないでね!ゆっくりしていっでぇぇぇぇ!?」 それに気づいたゆっくりが叫ぶも、勢いのついた群れはそう簡単には止まれない。 後ろに押し出されエナメル線に突っ込むか、後続に押しつぶされるかして、ゆっくりたちの数はみるみるうちに減っていく。 ようやくその群れが止まったころには、ゆっくりたちはもう数えれる程度しかいなかった。 ひぃ、ふぅ、みぃ………大体、十五匹くらいだろうか。 ゆっくりたちが、エナメル線越しに私に罵声やら石やらを浴びせかける。 「ひきょうものはゆっくりしんでね!」 「ゆ!にんげんのくせにろうじょうするなんてきたないよ!ゆっくりこっちにきてね!」 「わかったわ。じゃあ今からそっちにいくね?」 私は飛んでくる石をカバンで防ぎつつ、エナメル線を飛び越えた。 ゆっくり達は私のその行動に一瞬呆けたあと、みんなそろって嗤い出した。 ゆっくり立ちのその様子がかわいらしくて、私も一緒になって笑った。 「いったらほんとにこっちにくるなんて、ばかなの?」 「ゆー!おねえさんがこっちにきたから、もうこのしょうぶまりさたちのかちだよ!」 「いっせいにかかればしゅんさつだよ!みんなでいっしょにいこうね!」 そういって、5,6匹のゆっくりまりさがこっちに向かって飛んできた。 私はその飛んだ瞬間を狙って、転がるように下を抜けていった。 「ゆっくりよけないでね!」 「あはっ、そっちは危ないよ?」 「ゆ?」 勢いあまったゆっくりたちは、その勢いのまま私の後ろにあるエナメル線に突撃して、ばらばらとなってしまった。 私はそれを見て呆然としているゆっくり立ちに突撃し、不意を付いて3匹を切り刻んだ。 「ゆ、ゆー!!」 「ねえ、逃げないでゆっくりしていってよ」 「ごっじにこないでねぇぇぇ!?」 それを見て戦意を失った残りのゆっくりたちは、我先にと私からはなれるように逃げていった。 私はそれを追いかけて皆殺しにした。エナメル線に自ら突っ込んで自滅するゆっくりもいたので、あまり時間はかからなかった。 タイム・リミットを知らせる太陽は、まだ高い。 私は、投げたナイフを可能な限り回収しながら、まだ残っているゆっくりがいないか探し回った。 たまに死にかけのゆっくりが見つかることがあるものの、それ以外でゆっくりが見つかることは無かった。 ………おかしい。少なすぎる。 村を襲ったとき、まりさ達はもっと数が多かったはずだ。 目測だから詳しい数はわからないが、この倍はあったろう。 男達が多少は殺したろうから数はそれなりに減っているだろうが、それでも少なすぎる。 私は、この巣の中心にある洞穴のことを思い出した。 ……もしかしたら、他のゆっくりは巣の改築をしているのかもしれない。 あれだけ村から食料を奪ったのだ、置く場所にも困るだろう。 私は、あんこにまみれて汚くなったナイフを服で拭きながら、洞窟へと歩いていった。 「大きい……」 その洞窟は私が遠くから見るよりも、かなり大きかった。入り口だけでも小さな家屋ほどはあろうか。 洞窟の入り口の脇には、磔に男達が括り付けられていた。ゆっくりたちの器用さに少し感心する。 男達は体中傷だらけで、足の一部は食いちぎられているかのようにかけていた。赤黒い肉にちらりと見える白い骨がよく映えていた。 だが、ゆっくりたちにとってはおいしくなかったようで、その噛み傷はそれほどたくさんは見受けられない。 代わりに投石による傷があちこちについており、一人の男の目には尖った小石が突き刺さっていた。 一部の男には火で焼かれた傷もあり、まるで村で磔の刑によって殺された罪人たちを見るようだ。 もしかしたら、村の磔の刑を見たゆっくりが真似たのかもしれない。 くくりつけられた男の一人が、必死に首を動かしてこっちを向く。 腕はひしゃげ、腹からは腸が漏れ出しているというのに元気なことだ。 「あ………だず………げ………」 私は、血で汚れた地面を極力踏まないように、爪先立ちでぴょんぴょんと跳ねながら洞窟の中に入った。 すぐに声は聞こえなくなった。 洞窟の中は、点在する光る鉱石のおかげで、外ほどではないにしろ十分な明るさが保たれている。 洞窟をある程度進むと、道が二手に分かれているところに出た。 片方は今の道に沿ったまま真っ直ぐ進んでおり、もう片方は地下に向かっていた。 「……しゃ!……しゃ!」 前の方から、ゆっくりの声がかすかに聞こえる。私はその声のする、真っ直ぐの道を行くことにした。 奥に歩くにつれてだんだんと腐臭が強くなる。 それを我慢して進んでいくと、向こうで何かに群がっているゆっくりたちが見えた。 近づいて見ると、そのゆっくりたちはまりさ種ではなく、他の種であるようだった。 そのどれもがぼろぼろで、体中切り傷だらけであった。 彼女らは、一心不乱に素っ裸の人間の死体をむさぼっている。 私は、その中の一匹に声をかけた。 「何してるの?」 「おしょくじしてるんだよ!むーしゃ!むーしゃ!」 「それ、おいしいの?」 「まずいけどしかたないよ!まりさたちにはさからえないよ!」 「あなた達は、まりさに捕まえられてるの?」 「むりやりつれてこられてきょうせいろうどうだよ!すあなくらいじぶんでほればいいのにね!いいめいわくだよ!」 「ああ、巣穴を掘らされてるんだ。じゃあ、ちょっと前にあったあそこが巣穴なのかな?」 「そうだよ!れいむたちががんばってほったんだよ!なんびきもなかまがしんだよ!もうおうちかえってゆっくりしたいよ!」 「じゃあ帰ればいいのに。表のまりさ達は、もういないよ?」 「ゆ!?それほんとう!?」 「うん。疑うんならと見てこれば?」 「じゃあちょっとみてくるね!うそだったらゆるさないからね!」 私は入り口付近までゆっくりたちと一緒に戻り、彼女達が外の様子を見て歓喜しながら去って行くを見た後、再び洞窟の中に戻った。 もしかしたら彼女達の何匹かが、私の仕掛けたワイヤーに引っ掛かるかもしれないが、そんなことまで教える義理は私には無い。 私には時間が無いんだ。 私は分かれ道まで戻り、今度は地下に向かう道のほうを歩いていった。 少し歩くと、円筒状の奥に長い場所に出た。 しかし、その場所は奥行きだけでなく、幅、高さともにすごかった。 高さ、幅ともに私の背丈の5倍以上はあり、奥行きはそれよりもずっと大きい。これを作る際の彼女たちの苦労が計られる。 ここまで大きな巣穴を作るぐらいだから、おびただしい数のゆっくりたちが投入されたのだろう。 さっきのゆっくりたちは、その数少ない生き残りか。 何とか生きていてくれればいいな、と心の隅でそう思った。 だが、肝心たちのゆっくりたちはあまりいないようだ。 ちらほらと遠くに表のより大きいゆっくりたちがいるのが見えるのみ。 どういうことかと目を凝らしてみると、壁には、黒い垂れ幕のようなものが沢山かけてある。 外に居たゆっくりがその垂れ幕をくぐって中に入っているのを見ると、その垂れ幕は扉を模していることがわかった。 そして、中にゆっくりまりさ達がいるのだろう。 私は、近くにあった垂れ幕のひとつに近づいた。 その垂れ幕は、人間の着物だった。血と肉片がこびりついていて、少し臭う。 まりさ達はこの臭いが気にならないだろうかと思ったが、恐らくここに住み続けたせいで慣れているのだろう。 気にしなければ、確かにどうとでもなりそうな程度臭いだ。 私は肉片が手につかないように気をつけながら、その垂れ幕をくぐって中に入っていった。 「ゆ?おねえさんだれ?ここはまりさのへやだからはやくでてってね!」 「まりさはあかちゃんをおなかのなかでゆっくりそだててるんだよ!はやくでてってね!」 中には、夫婦と見られるゆっくちまりさが二匹。 共にツタを頭から生やしている。 どうやら身篭っている様だ。 これは好都合だ。ああなったゆっくりは動きが非常にとろくなる。 私は、彼女達の大きく開かれた口にナイフを放り込む。 「でぃ・・・!」 「ぎぃ・・・!」 舌を縫い付けられてうまくしゃべられない二匹に、すばやく近づいて思い切りナイフを突き立てる。 体の中心ごとナイフに貫かれた二匹は、断末魔の悲鳴を上げることも出来ず絶命した。 成熟途中で親が死んだせいか、ツタについていた赤ちゃんまりさ達も苦悶の表情をしたあと、ぽとぽとと地面に落ち動かなくなった。 私は念入りに落ちた赤ちゃんまりさを踏み潰した後、再び次の標的に向かって歩いていった。 「い゛だい゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!」 「や゛め゛て゛ね゛ぇぇぇぇぇぇぇ!?」 「ま゛り゛さ゛の゛あ゛がぢぁんごろざないでぇぇぇぇぇぇ!!」 「な゛ん゛でぞん゛な゛ごどす゛る゛の゛ぉ゛ぉぉぉっ!!?」 部屋に入っているまりさ達と一匹一匹殺してまわる。全員身篭っているゆっくりだった。 たまに作りかけの部屋や、食料が貯蔵してある部屋もあったが、大体の部屋に夫婦の共に身篭っているゆっくりまりさが同居していた。 おそらく、大量に食料が手に入ったため安心したゆっくりたちが、みんなして性行為に走ったのであろう。 また、そのせいで性行為兼身ごもった時用の部屋が必要となり、あのゆっくりたちが駆り出されたのか。 だが、部屋にこもっているおかげでこちらとしては各個撃破がしやすい。 外に声が漏れることもなく、私は誰にも気づかれずに洞窟内のほとんどのゆっくりを殺すことが出来た。 「これで、最後かな……?」 円筒の最奥、今まで出一番大きな垂れ幕がそこにはかかっていた。もう腐臭は気にならない。 恐らく、ここがボスの部屋だろう。 私はこれで最後なのだ、と疲労が溜まっている体に鞭打ち、中に入った。 「ゆゆ!?なにかってにはいってるの!?いまからこどもうむんだから さっさとでてってね!!!」 中には、今までと違いまりさは一匹しかいなかった。 出産方法も違うようで、こいつだけあごから直接出すタイプのようだ。 大きさも今までとは比べ物にならないくらい大きい。人間など一口で食べてしまいそうだ。 もしまともに相手をすれば、疲れ切った今の体ではかなわなかったかもしれない。 だが、今彼女は出産中。顎の部分が少し割れ、中にいる子どもが少しだけ見て取れたが、それでもまだ時間はかかりそうだ。 これは、神様が私に与えてくれたご褒美だ。神様が、私に力を与えてくれているのだ。 そう考えると、不思議に力がわいてきた。私は一人ではないのだ。 友達を助けようと孤軍奮闘している私を見た神様が、応援してくれるのだ。 私は、持っているナイフを思い切り彼女のほうに向かって投げた。 ナイフはそのゆっくりまりさの皮にぶち刺さる。 「いだっ!……もう、なにするの!でていってねっていってるでしょ! にんげんはさっさとでてってまりさたちのごはんをよういしてね!」 ナイフがゆっくりまりさに命中するも、彼女はそれほどくらっているようには見えない。 あの体の大きさにもなると、相応に表皮も厚くなり防御力も増しているのだろう。 中のあんこに届かなければ、たいしたダメージは与えられない。 しっかりと弱点を狙わなければ…… 私が次に狙ったのは、まりさの赤ちゃんが存在する産道。 さっきと同様に、力任せにナイフをそこに叩き込んでいく。 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!ま゛り゛さ゛の゛あ゛か゛ち゛ゃん゛がぁぁぁぁぁ!!!」 まだ完全に成熟していない赤ちゃんまりさの皮は薄く、簡単にナイフは貫通していく。 私の目からは、もう赤ちゃんは助からないというのは容易に見て取れたが、親のまりさはそれを見ることが出来ない。 ただわかるのは、産道にナイフを投げ込まれたという事実のみ。 「ゆぅぅぅぅぅぅ!!!よくもまりさのあがちゃんをぉぉぉぉぉ!」 「あーあー、そんな暴れちゃ駄目だよ。中にいる赤ちゃん苦しんでる。早く生んで手当てしないと死んじゃうよ?」 その言葉に、ゆっくりまりさは動きを止める。 そして赤くなったと思うと、固く目を瞑って唸り声を上げた。 赤ちゃんを産むことに専念したようだ。 私もそのゆっくりまりさの様子に満足し、座り込んでまりさの様子を眺めた。 「ゆぐぅぅぅぅぅ!!もうすこしでうまれるよぉぉぉぉ!!ゆっくりぃぃぃぃぃぃ!!!」 十分くらい経ったであろうか。まりさの顎から、勢いよく赤ちゃんが飛び出た。 私は、それに呼応してすばやく立ち上がり、そしてすばやくナイフをぶん投げる。 赤ん坊などには目もくれない。どうせもう死んでいる。 ナイフが飛んで行く先は、先ほど赤ちゃんが出てきたゆっくりまりさの産道。 ぽっかりと開いた穴に、ナイフが侵入していく。 「ひぎぃぃぃぃぃぃ!?やべでね!!そんなとこいれないでね!!」 産道は、外気にさらされてないため、表皮に比べ格段に防御力が薄い。 子どもを傷つけないためにやわらかく作られた産道を、次々とナイフが突き破り、中のあんこに進入していく。 結局、産道が完全に閉じるまでに親まりさは数十本のナイフを投げ込まれる羽目になった。 親まりさはかろうじて死んではいないものの、ほとんど動けそうに無かった。 止めを刺そうと近づく私に、彼女が目をぎょろりとこちらに向けた。 「こどもは……まりさのこどもはぁぁぁぁ!?」 「赤ちゃん?ほら、あそこだよ」 私が指差した先には、あんこが飛び散って死んでいる赤ちゃんまりさ。 親の体から出てきたときの衝撃に、ナイフで傷付いた体は耐えられなかったのだ。 「う゛わ゛ぁぁぁぁぁ!!どぼじでぇぇぇぇぇぇ!!!なんでぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」 「さあ?たぶん、神様が応援してくれなかったからじゃない?」 私は、深く深く親まりさの体をナイフで突いた。まりさの体に私の腕が、そして肩までずぶずぶと埋もれる。 そのまま踏み込んで肩を思い切りひねると、彼女はビクンと痙攣し、やがて動かなくなった。 太陽が完全に沈みきる間際、私はようやく里まで戻った。 巣からここまでずっと走ってきたため、先ほどからずっと足は悲鳴を上げ続けている。 足だけではない。あの戦いによって私の体中はもう限界寸前だった。 でも、それでも、友達の顔を思い浮かべると、不思議と力がわいてきた。 もう少し、もう少しでみんな助かるんだ。 私は強い希望を胸に、彼女達の待つ広場まで走っていった。 「どいて、どいてよ!」 大声でそう叫びながら、友達の下までひた走る。 里の人たちは最初はそんな私の姿を唖然とした表情で見ていたが、すぐに私のために道を開けてくれた。 そのおかげで、私はすぐに彼女らの元につくことができた。 これで、ようやく彼女達を助けることが出来る。もう磔なんかになる必要はない。 そして、彼女達を脅かすまりさ達ももういない。みんなのゆっくりを邪魔する者はもういない。 私は、彼女達と対面した。 「みんな、だいじょう――――――――」 私の目に飛び込んできたものは、彼女達の死骸だった。 れいむは、顔が完全に切りとられ、中身のあんこをほじくり出されていた。あの皆を幸せにする笑顔を見ることは、永遠に出来なくなった。 ありすは、体中に石がめり込んでいた。ありすの自慢だったきれいな目も、今では小石にその場所を乗っ取られていた ちぇんは、全身焼かれて真っ黒になっていた。もう、彼女を彼女とわかることは出来ない。 ぱちゅりーは、目から上が何も無かった。とても沢山の知識を詰め込んだ頭も、いまや全くの空だ。 「え、あ?なんで、これ…」 ぐらぐらと揺れる視界。真っ白になる頭。 目の前の出来事に、私はついていけなかった。 嘘だと思った。見間違いだと思った。 たぶん私、疲れてぼけてるんだ。ほら、もっと近くで見ればきっと……。 彼女達に近づこうとして動かした足が縺れて、私は思い切り地面に叩きつけられた。痛みで少し涙が出た。 それでも這いずって彼女らに近づき顔を上げて彼女達を再び見たが、そこにはさっきと変わらぬ光景があるばかり。 ああ、たぶんこれは夢なんだ。私、疲れて眠っちゃったんだ。駄目だ、早く起きないと、れいむたちを助けないと――――。 私は、落ちてくるまぶたを支えることをやめた。 「……………っ!?」 私は声にならない悲鳴を上げ、飛び跳ねるように身を起こす。 目に刺々しい光が入ってきて、慣れるまで数秒の時を要した。 ようやく光に慣れた目で辺りを見渡すと、そこは見覚えの無い室内だった。その一角にあるベットで私は寝かされていた。 着物も取り替えられているようで、その着心地からその着物が高価なものであるということがわかった。 私にとっては、あんこがついていないことが一番嬉しかった。 「おお、やっと目を覚ましてくれたか!」 不意に扉が開いて、ひとりの初老の男が入ってきた。長様だった。 私は、この現状の説明をしてもらおうと声をあげたが、少しかすれた声が出てきただけで、まともに話すことができない。 「駄目だよ、起きたばっかりなのだから。すぐに何か食べやすいものを持ってくるから、そこで休んでなさい」 長様はそういうと、すぐに部屋から出て行った。 私の体はひどく衰弱しているようだった。私は長様の言葉に従い、体を寝かして長様を待つことにした。 それほど待つことも無く、再び扉が開いて長様が入ってきた。手にはドリンクやら、おかゆやらが載ったお盆を抱えている。 長様はお盆を近くに台に置き、そのうちのドリンクをとって私に渡してくれた。 「ほら、永遠亭特製の、栄養の沢山詰まったジュースだよ。胃が驚かないよう、少しずつ飲みなさい」 私がそれを受け取り、コクリコクリと中身を少しずつ胃の中に収めていく。 一口飲むごとに元気が出てくる、不思議な飲み物だった。 その後、長様に渡されたおかゆも食べ、私はようやく喋れるまでに体力を取り戻した。 「長様……」 「ん、なにかな?」 長様は体力の回復した私を見て満足そうだ。だが、私はいまだ疑問が残るばかりである。 私は、長様にこれまでの経緯を教えてもらうことにした。 「あの、私はどうなったんですか?」 「君は、山のゆっくりたちをやっつけた時の疲労で、倒れてしまったんだよ。 君の家はもう壊れていたし、親族の方もいらっしゃらないようだったから、私が引き取って看病をしていたんだ。 あの後から君は三日間も眠り続けていたんだ。医者は命に別状はないといっていたが、君はなかなか目覚めてくれなかったから、私は気が気ではなかったよ」 長様は私に優しくそう教えてくれた。 長様に看病をしていただいたなんて、ちょっと照れる。 私はえへへ、と少しはにかみ笑いをした後、さっきから一番気になっていたことを長様に聞いた。 「あ、あの……じゃあみんなはどうなったんですか?私、約束はちゃんと守りましたよ?」 ここには私しかおらず、みんなの姿は見当たらない。 あんなことがあった後じゃみんな村には居づらいかも知れないが、それならばどこにいるのかぐらいは教えて欲しい。 長様は私の問いに、困った顔をして目を泳がす。 なんでそんな顔をするのだろう?私はただ、友達のことを聞いただけなのに。 「あ、もしかしてみんなも治療中ですか?それだったら私はもう大丈夫ですからみんなのところに連れて行ってください」 「君は、覚えていないのかい?」 覚えている?私が?いったいなにを言っているのだろう。 私はまりさ達をやっつけてから、まだ彼女らに一度も会っていないのに。 たとえどこかであったとしても、それは夢に決まっているのに。 「覚えていません。だってあれは夢なんですから。だから私は彼女達とまだ会っていないんです」 長様は驚愕で目を大きく開き、そして唇を震わせながら、私の肩を力強く掴んだ。 「痛いですよ長様、離してくださ――」 「あのゆっくりたちは、もう*んだんだ」 なにを言っているのか、わからない。 長様の言葉が、何かのノイズにはばかられて良く聞こえない。 きょとんとしている私に向かって、再び長様が絞り出したかのような声で何かを喋る。 「君のお友達は、もうこの世にいないんだ……。 里のみんなも、まさか君が約束を守って帰ってくると思わなかったんだ。だから、みんなで*してしまったんだ」 「あはは、何言っているんですか?そんなの嘘、だってあれは夢じゃなきゃいけないんだもの」 長様は私から目をそらして、唇を固く結ぶ。その目からは涙が出ていた。 「なんで泣くんですか?あれは夢なのに、なんでそんな顔をするんですか?」 「…………本当に、申し訳ないと思っている。だが、君も気づいているんだろう?」 「き、気付くって、意味がわかりません。あれは夢で、嘘で、虚実なんですから」 長様が、意を決したように私と目を合わせる。 私の肩を掴む長様の手が、痛いほどに強くなった。 「あれは現実だったんだ。君だって気付いているはずだ。認めたくないのはわかるが、頼むから事実から目をそらすことだけのことはやめておくれ。 ……彼女達は、死んだんだ」 「う、うそだっ!!」 私は悲鳴を上げ、力任せに長様の体を突き飛ばした。 長様がしりもちをつき、激しい音を立てる。 「違う!みんな死んでなんかいるもんか!私は悪いゆっくりを殺したんだから、みんなは助かったんだ! この嘘つき!お前が死ねばいいんだ!」 私は近くのものを手当たり次第に投げ、投げるものがなくなった後は、ひたすら嘘だ、死ね、などという罵声を上げ続けた。 長様は悲しそうな顔をして立ち上がると、一言だけ、本当にすまなかったと私に残して部屋から去った。 私は長様が出て行ってからもずっと叫び続けていたが、やがて眠気が襲ってきて、そのまま意識は闇の中に落ちた。 気づくと、私は森の中に居た。 周りには皆がいて、一緒に歩いている。 どこか頭がぼんやりふわふわしていて、気持ちがよかった。 そんな浮ついた気分で歩いていたせいか、私は石につまづいて転んでしまった。 不思議と痛くなかったが、転んだところを皆に見られるなんて恥ずかしいなぁ、と思った。 いつまでもこんなみっともない姿ではいけない。私は、起き上がろうと下半身に力をこめる。 「あ、あれ……?」 まったく動かなかった。腰が抜けたかのように、私の足はピクリとも動かない。 優しい笑顔浮かべたまま、みんなが向こうで私を見ている。 早くみんなの元へ行かないと。 動かせる上半身を使いほふく前進の要領での移動を試みても、下半身が鉛のように重くなって少しも向こうへいけない。 「「「「おねえさん、そこでゆっくりやすんでいってね!」」」」 みんなが私に向かって、口を揃えてそう言った。 ……みんな何を言っているんだろう。私もそっちに行ってみんなと遊ぶよ。いつもみたいにゆっくりするよ。 「「「「だめだよ!おねえさんはまだいきているんだから、そっちでゆっくりしていってね!」」」」 またみんなが一緒にそう言った。 ……だから変なこと言わないでよ。みんなでゆっくりしようよ。 「「「「わたしたちはほかのところでゆっくりするからだいじょうぶ!!おねえさんは、そっちでがんばってゆっくりしていってね!! それじゃあ、わたしたちはいくからね!!」」」」 彼女達はそのまま、こちらを振り返ることなく行ってしまった。 私も精一杯そちらに行こうと頑張ったが、引っ張られるような力のせいでまったく向こうにいけない。 みんなの姿がだんだんと薄れていき、ついにはまったく見えなくなった。 それと同時に、あたり一面が光に包まれる。 そのまま、私は世界から放り出された。 「……今のは、みんな?」 温かい何かに包まれて、私はゆっくりと目を覚ます。 二度目の目覚めは、一回目よりも随分と気持ちがよかった。 あれだけ休んだおかげか、体のほうはもう快調といってよいほどだ。 私は布団から出て立ち上がると、その部屋から出て長様を探した。 その部屋のすぐ隣の、長様の自室と思われる部屋に彼はいた。 「おはようございます、長様」 「ああ、君か。もう起きてていいのかね?」 「はい。たくさん休みましたから。それと……昨日は、すいませんでした。 あんなに無礼なことをしてしまって……」 「いや、いいんだ。あれは全部こちらが悪かったのだから。約束を守らなかったのは全面的にこちらの落ち度だ。 しかも、起きたばかりの君にあんなこと言うべきではなかった。でも、もう大丈夫なのかね?その……友達のことは」 「みんなが死んでしまったことは悲しいけれど、きっと天国でゆっくりしているでしょうから。 それに、みんなに励まされちゃったんです。頑張って生きろ、って。 だから私がいつまでもみんなの死を引っ張っていたら、みんなに怒られちゃいます」 その言葉を聞いて、長様はようやく安心したのか、優しい微笑みをこちらに向けた。 「そうか、それはよかった。じゃあそろそろご飯でも作ろうか。 おなか、空いているだろう?」 「はい!お食事作るんでしたら、私もお手伝いします」 「ありがとう。それじゃあ食堂まで行こうか。ついておいで」 私達は、一緒に今日のご飯はなににしよう、と笑ってお話しながら食堂へ向かった。 そうして食堂についた私達が診たものは、そこにある食料を食い荒らすゆっくりたちだった。 「ゆ?ここはまりさがみつけたゆっくりぷれいすだよ!いましょくじちゅうだからさっさとでていってね!」 「むーしゃ!むーしゃ!これおいしいね!もっとたべようね!」 「しあわせー!」 それを見た長様は、ゆっくりを追い払おうとして近づこうとしたが、私を見て何故か動きを止めた。 私はそれを不思議に思ったが、これ以上ゆっくりにご飯を取られるわけにもいかないので、 私は棚においてあった調理用のナイフを持ってゆっくりたちに近づいた。 ゆっくりたちはそんな私を見て、非難の声を浴びせかける。 「おねえさんばかなの?いまわたしたちがごはんたべてるんだからさっさとでてってね!」 「ばかなにんげんはわたしたちにおいしいものをよこすか、じゃなかったらどっかいってね!」 「むーしゃ!むーしゃ!しあわぶびゃ!」 私は無言のまま、その中の一匹に向かって、飛び散らないように気をつけてナイフを突き立てる。 そのゆっくりは体中を貫かれ、つぶれたカエルのような悲鳴を上げて死んでいった。 残ったゆっくりたちは、私の警告なしの、いきなりの行動に呆然としている。 私はその間にナイフをゆっくりから抜いて、残りの二匹を捕まえて動けないように、片方を腕で抱え、もう片方を踏んづけて自由を奪う。 「なにするの!ゆっくりはなしてね!」 「なかまをころしたおねえさんはゆっくりしでぇ!?」 私は二匹の声を無視して、丁寧に抱えているゆっくりにナイフを差し込んでいく。 私の腕の中で、そのゆっくりは少し痙攣した後、すぐに動かなくなった。 私はナイフを引き抜くときも、あんこが飛び散らないように慎重に抜いていく。 ここで汚してしまっては、長様に迷惑がかかるから。 「ま、まりさだけはたすけてね!もうこんなことしないから!」 「だめよ?あなたは悪いゆっくりなんだから、助けるわけにはいかないの」 「どぼじでぇぇぇぇぇ!?まりざわるいごとじでないのにぃぃぃぃぃぃ!!」 私は踏んづけたゆっくりまりさにも他の二匹と同じような処理をしてあげた。 みんなで仲良く同じところへいけるように。 「き、君……なんであのゆっくりたちを殺したんだい?」 私があんこで汚れた手を洗っていると、長様が作り笑顔のような、引き攣ったような笑みで私にそう聞いた。 私はあんこを洗い落とし、手をしっかりと拭いてから、長様にこう答えた。 「だって殺さないといけないですから。悪いゆっくりは殺して、潰して、切り刻まないと良いゆっくりがゆっくりできなくなるじゃないですか」 「し、しかしゆっくりは君のお友達じゃあ……」 「私のお友達は、あんな悪いゆっくりじゃないです。少しは心が痛みますけど、みんなのために殺さなきゃいけないですから。 それよりも長様、ご飯作りませんか?私は、お腹が空きました」 「あ、ああ。わかったよ。一緒にご飯をつくろうか」 その後、私達は一緒にご飯を作って食事を共にした。 長様は私の料理を一口食べた後、いきなり無言で倒れた。 その後二度と長様は私の料理を口にしてくれなくなったが、何故なのかは今でもわからない。 懐かしい昔話は、これでおしまい。 ――――――――――――――あとがき――――――――――――――― 長がすぎですね。その割りに虐め分少ないですね。ほんとすいません。 一応補足させていただくと、最初の場面は三途の川の場面です。 主人公がこまっちゃんの船で運ばれており、そこで昔話をしているという状況です。 最初は阿求に話しかけるシチュにしようと思ったんですが、なんか話がダークな感じになりそうだったのでこちらの方にしました。 ちなみに冒頭の彼女が幾つであろうとも、少女は少女です。異論は認めない。 ではここまで御覧になってくれた読者さんに感謝の念をこめて。 本当にありがとうございました! このSSに感想を付ける
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なんでれいむとまりさって平仮名じゃないの? -- (名無しさん) 2020-10-05 22 54 57
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前 視界が妙にクリアだ。ゆっくりたちがよく見える。 親まりさの死骸に群がったゆっくりたちが3匹。遠くにはこちらの様子を隠れてみているゆっくりまりさがいる。 ひとまず近くにいるこいつらを殺そう。 私はカバンからナイフを取り出し、ゆっくりたちに向かって投げた。 「ゆ゛ぅぅぅ!?いだいよぉぉぉぉぉ!」 「なにかざざっだのぉぉぉ!?」 「ぎぃぃいぃぃぃ!!」 ゆっくりたちは痛みに弱い。このぐらいの大きさだったら、ナイフ一本刺さっただけで泣き叫んでほとんど動かなくなる。 アリスが石につまづいただけで大泣きして、しかたなくみんなで基地まで運んであげたっけなぁ。 途中で運ばれる振動で興奮したアリスをなだめるのは大変だった。 私はそんな思い出し笑いをしながら、動けない三匹に近づいて踏み殺した。 それを見て、隠れていたまりさが逃げ出す。 いや違う、みんなに私のことを報告しに行ったのか。私は死んだまりさからナイフを回収して、逃げたゆっくりを追いかけた。 少し歩いて、程度に開けた空間に出ると、そこには大量のゆっくりまりさ達がひしめき合っていた。 私が現れるのを確認すると、いっせいにこちらを向く。 どの目も、殺意でたぎっていた。 先ほど逃げたまりさが先頭に立って、何かを喋りだす。 「おねえさゆ゛ぐぅ!」 私はそれを無視して、前の方にいたゆっくりたちにナイフを投げる。 そちらの口上を聞く暇はない。あいにくこちらは急いでいるのだ。 「ゆ、ゆるさないよぉぉぉ!ゆっくりしなせるからかくごしてね!」 「にんげんたちなんてまりさたちにかかればいちころだよ!」 「ゆ゛!やめ、ふまな…」 ある一人が叫んだのを合図に、ゆっくり絶ちの群れが私に向かって突っ込んできた。 先ほどナイフをくらったゆっくりたちは、その大群によって下敷きとされる。 しかし、怒り狂ったゆっくり達はそんな仲間の様子を気にすることも無く、私に向かってくる。 その勢いは、猪の群れが突進するがごとく。あんなのに巻き込まれたら、小柄な私ではひとたまりではないだろう。 村の男達もこれに正面から挑んでやられたのかもしれない。 私はその群れに向かって数本ナイフを投げたあと、その群れから逃げるように走った。 その群れのスピード自体はそれほど速くなく、全力で走らずとも追いつかれることはなさそうだった。 「ゆっくりまってね!ゆっくりしなせるよ!」 「ゆっくりしね!ゆっくりしね!」 「ゆ?おさないでね!?いた…ゆ゛ぎゃあぁぁぁ!!」 途中で転んだゆっくりや時折投げる私のナイフをくらったゆっくりが、後続たちに押しつぶされていく。 だが、怒りで我を忘れゆっくりたちは、猪突猛進を繰りかえすのみ。 私が目的の場所に着いた頃には、その数は三分の二程度に減っていた。 私が少し荒くなった息を整えて後ろを見ると、ゆっくりたちがいまだその怒気を衰えさせること無く向かってくる。 よかった。途中で追っかけるのをやめられたらどうしようかと思った。 私は数本ナイフを投げたあと、ナイフを構えてゆっくりに備えた。 「そこをうごかないでね!ゆっくりころしてあげるから?」 私の前に立っている木々を通り抜けようとしたゆっくりが、一瞬にしてばらばらとなって飛び散った。 そこには、私が先ほど仕掛けておいたエナメル線があんこにまみれて輝いていた。 こちらに向かって突っ込んでくるゆっくりたちはそれによって次々とばらばらになり、 運よくエナメル線を飛び越えられたゆっくりは私のナイフによって刻まれて死んだ。 「ゆー!?あぶないよ!ゆっくりとまってねえ゛っ!?」 「おさないでね!ゆっくりしていっでぇぇぇぇ!?」 それに気づいたゆっくりが叫ぶも、勢いのついた群れはそう簡単には止まれない。 後ろに押し出されエナメル線に突っ込むか、後続に押しつぶされるかして、ゆっくりたちの数はみるみるうちに減っていく。 ようやくその群れが止まったころには、ゆっくりたちはもう数えれる程度しかいなかった。 ひぃ、ふぅ、みぃ………大体、十五匹くらいだろうか。 ゆっくりたちが、エナメル線越しに私に罵声やら石やらを浴びせかける。 「ひきょうものはゆっくりしんでね!」 「ゆ!にんげんのくせにろうじょうするなんてきたないよ!ゆっくりこっちにきてね!」 「わかったわ。じゃあ今からそっちにいくね?」 私は飛んでくる石をカバンで防ぎつつ、エナメル線を飛び越えた。 ゆっくり達は私のその行動に一瞬呆けたあと、みんなそろって嗤い出した。 ゆっくり立ちのその様子がかわいらしくて、私も一緒になって笑った。 「いったらほんとにこっちにくるなんて、ばかなの?」 「ゆー!おねえさんがこっちにきたから、もうこのしょうぶまりさたちのかちだよ!」 「いっせいにかかればしゅんさつだよ!みんなでいっしょにいこうね!」 そういって、5,6匹のゆっくりまりさがこっちに向かって飛んできた。 私はその飛んだ瞬間を狙って、転がるように下を抜けていった。 「ゆっくりよけないでね!」 「あはっ、そっちは危ないよ?」 「ゆ?」 勢いあまったゆっくりたちは、その勢いのまま私の後ろにあるエナメル線に突撃して、ばらばらとなってしまった。 私はそれを見て呆然としているゆっくり立ちに突撃し、不意を付いて3匹を切り刻んだ。 「ゆ、ゆー!!」 「ねえ、逃げないでゆっくりしていってよ」 「ごっじにこないでねぇぇぇ!?」 それを見て戦意を失った残りのゆっくりたちは、我先にと私からはなれるように逃げていった。 私はそれを追いかけて皆殺しにした。エナメル線に自ら突っ込んで自滅するゆっくりもいたので、あまり時間はかからなかった。 タイム・リミットを知らせる太陽は、まだ高い。 私は、投げたナイフを可能な限り回収しながら、まだ残っているゆっくりがいないか探し回った。 たまに死にかけのゆっくりが見つかることがあるものの、それ以外でゆっくりが見つかることは無かった。 ………おかしい。少なすぎる。 村を襲ったとき、まりさ達はもっと数が多かったはずだ。 目測だから詳しい数はわからないが、この倍はあったろう。 男達が多少は殺したろうから数はそれなりに減っているだろうが、それでも少なすぎる。 私は、この巣の中心にある洞穴のことを思い出した。 ……もしかしたら、他のゆっくりは巣の改築をしているのかもしれない。 あれだけ村から食料を奪ったのだ、置く場所にも困るだろう。 私は、あんこにまみれて汚くなったナイフを服で拭きながら、洞窟へと歩いていった。 「大きい……」 その洞窟は私が遠くから見るよりも、かなり大きかった。入り口だけでも小さな家屋ほどはあろうか。 洞窟の入り口の脇には、磔に男達が括り付けられていた。ゆっくりたちの器用さに少し感心する。 男達は体中傷だらけで、足の一部は食いちぎられているかのようにかけていた。赤黒い肉にちらりと見える白い骨がよく映えていた。 だが、ゆっくりたちにとってはおいしくなかったようで、その噛み傷はそれほどたくさんは見受けられない。 代わりに投石による傷があちこちについており、一人の男の目には尖った小石が突き刺さっていた。 一部の男には火で焼かれた傷もあり、まるで村で磔の刑によって殺された罪人たちを見るようだ。 もしかしたら、村の磔の刑を見たゆっくりが真似たのかもしれない。 くくりつけられた男の一人が、必死に首を動かしてこっちを向く。 腕はひしゃげ、腹からは腸が漏れ出しているというのに元気なことだ。 「あ………だず………げ………」 私は、血で汚れた地面を極力踏まないように、爪先立ちでぴょんぴょんと跳ねながら洞窟の中に入った。 すぐに声は聞こえなくなった。 洞窟の中は、点在する光る鉱石のおかげで、外ほどではないにしろ十分な明るさが保たれている。 洞窟をある程度進むと、道が二手に分かれているところに出た。 片方は今の道に沿ったまま真っ直ぐ進んでおり、もう片方は地下に向かっていた。 「……しゃ!……しゃ!」 前の方から、ゆっくりの声がかすかに聞こえる。私はその声のする、真っ直ぐの道を行くことにした。 奥に歩くにつれてだんだんと腐臭が強くなる。 それを我慢して進んでいくと、向こうで何かに群がっているゆっくりたちが見えた。 近づいて見ると、そのゆっくりたちはまりさ種ではなく、他の種であるようだった。 そのどれもがぼろぼろで、体中切り傷だらけであった。 彼女らは、一心不乱に素っ裸の人間の死体をむさぼっている。 私は、その中の一匹に声をかけた。 「何してるの?」 「おしょくじしてるんだよ!むーしゃ!むーしゃ!」 「それ、おいしいの?」 「まずいけどしかたないよ!まりさたちにはさからえないよ!」 「あなた達は、まりさに捕まえられてるの?」 「むりやりつれてこられてきょうせいろうどうだよ!すあなくらいじぶんでほればいいのにね!いいめいわくだよ!」 「ああ、巣穴を掘らされてるんだ。じゃあ、ちょっと前にあったあそこが巣穴なのかな?」 「そうだよ!れいむたちががんばってほったんだよ!なんびきもなかまがしんだよ!もうおうちかえってゆっくりしたいよ!」 「じゃあ帰ればいいのに。表のまりさ達は、もういないよ?」 「ゆ!?それほんとう!?」 「うん。疑うんならと見てこれば?」 「じゃあちょっとみてくるね!うそだったらゆるさないからね!」 私は入り口付近までゆっくりたちと一緒に戻り、彼女達が外の様子を見て歓喜しながら去って行くを見た後、再び洞窟の中に戻った。 もしかしたら彼女達の何匹かが、私の仕掛けたワイヤーに引っ掛かるかもしれないが、そんなことまで教える義理は私には無い。 私には時間が無いんだ。 私は分かれ道まで戻り、今度は地下に向かう道のほうを歩いていった。 少し歩くと、円筒状の奥に長い場所に出た。 しかし、その場所は奥行きだけでなく、幅、高さともにすごかった。 高さ、幅ともに私の背丈の5倍以上はあり、奥行きはそれよりもずっと大きい。これを作る際の彼女たちの苦労が計られる。 ここまで大きな巣穴を作るぐらいだから、おびただしい数のゆっくりたちが投入されたのだろう。 さっきのゆっくりたちは、その数少ない生き残りか。 何とか生きていてくれればいいな、と心の隅でそう思った。 だが、肝心たちのゆっくりたちはあまりいないようだ。 ちらほらと遠くに表のより大きいゆっくりたちがいるのが見えるのみ。 どういうことかと目を凝らしてみると、壁には、黒い垂れ幕のようなものが沢山かけてある。 外に居たゆっくりがその垂れ幕をくぐって中に入っているのを見ると、その垂れ幕は扉を模していることがわかった。 そして、中にゆっくりまりさ達がいるのだろう。 私は、近くにあった垂れ幕のひとつに近づいた。 その垂れ幕は、人間の着物だった。血と肉片がこびりついていて、少し臭う。 まりさ達はこの臭いが気にならないだろうかと思ったが、恐らくここに住み続けたせいで慣れているのだろう。 気にしなければ、確かにどうとでもなりそうな程度臭いだ。 私は肉片が手につかないように気をつけながら、その垂れ幕をくぐって中に入っていった。 「ゆ?おねえさんだれ?ここはまりさのへやだからはやくでてってね!」 「まりさはあかちゃんをおなかのなかでゆっくりそだててるんだよ!はやくでてってね!」 中には、夫婦と見られるゆっくちまりさが二匹。 共にツタを頭から生やしている。 どうやら身篭っている様だ。 これは好都合だ。ああなったゆっくりは動きが非常にとろくなる。 私は、彼女達の大きく開かれた口にナイフを放り込む。 「でぃ・・・!」 「ぎぃ・・・!」 舌を縫い付けられてうまくしゃべられない二匹に、すばやく近づいて思い切りナイフを突き立てる。 体の中心ごとナイフに貫かれた二匹は、断末魔の悲鳴を上げることも出来ず絶命した。 成熟途中で親が死んだせいか、ツタについていた赤ちゃんまりさ達も苦悶の表情をしたあと、ぽとぽとと地面に落ち動かなくなった。 私は念入りに落ちた赤ちゃんまりさを踏み潰した後、再び次の標的に向かって歩いていった。 「い゛だい゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!」 「や゛め゛て゛ね゛ぇぇぇぇぇぇぇ!?」 「ま゛り゛さ゛の゛あ゛がぢぁんごろざないでぇぇぇぇぇぇ!!」 「な゛ん゛でぞん゛な゛ごどす゛る゛の゛ぉ゛ぉぉぉっ!!?」 部屋に入っているまりさ達と一匹一匹殺してまわる。全員身篭っているゆっくりだった。 たまに作りかけの部屋や、食料が貯蔵してある部屋もあったが、大体の部屋に夫婦の共に身篭っているゆっくりまりさが同居していた。 おそらく、大量に食料が手に入ったため安心したゆっくりたちが、みんなして性行為に走ったのであろう。 また、そのせいで性行為兼身ごもった時用の部屋が必要となり、あのゆっくりたちが駆り出されたのか。 だが、部屋にこもっているおかげでこちらとしては各個撃破がしやすい。 外に声が漏れることもなく、私は誰にも気づかれずに洞窟内のほとんどのゆっくりを殺すことが出来た。 「これで、最後かな……?」 円筒の最奥、今まで出一番大きな垂れ幕がそこにはかかっていた。もう腐臭は気にならない。 恐らく、ここがボスの部屋だろう。 私はこれで最後なのだ、と疲労が溜まっている体に鞭打ち、中に入った。 「ゆゆ!?なにかってにはいってるの!?いまからこどもうむんだから さっさとでてってね!!!」 中には、今までと違いまりさは一匹しかいなかった。 出産方法も違うようで、こいつだけあごから直接出すタイプのようだ。 大きさも今までとは比べ物にならないくらい大きい。人間など一口で食べてしまいそうだ。 もしまともに相手をすれば、疲れ切った今の体ではかなわなかったかもしれない。 だが、今彼女は出産中。顎の部分が少し割れ、中にいる子どもが少しだけ見て取れたが、それでもまだ時間はかかりそうだ。 これは、神様が私に与えてくれたご褒美だ。神様が、私に力を与えてくれているのだ。 そう考えると、不思議に力がわいてきた。私は一人ではないのだ。 友達を助けようと孤軍奮闘している私を見た神様が、応援してくれるのだ。 私は、持っているナイフを思い切り彼女のほうに向かって投げた。 ナイフはそのゆっくりまりさの皮にぶち刺さる。 「いだっ!……もう、なにするの!でていってねっていってるでしょ! にんげんはさっさとでてってまりさたちのごはんをよういしてね!」 ナイフがゆっくりまりさに命中するも、彼女はそれほどくらっているようには見えない。 あの体の大きさにもなると、相応に表皮も厚くなり防御力も増しているのだろう。 中のあんこに届かなければ、たいしたダメージは与えられない。 しっかりと弱点を狙わなければ…… 私が次に狙ったのは、まりさの赤ちゃんが存在する産道。 さっきと同様に、力任せにナイフをそこに叩き込んでいく。 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!ま゛り゛さ゛の゛あ゛か゛ち゛ゃん゛がぁぁぁぁぁ!!!」 まだ完全に成熟していない赤ちゃんまりさの皮は薄く、簡単にナイフは貫通していく。 私の目からは、もう赤ちゃんは助からないというのは容易に見て取れたが、親のまりさはそれを見ることが出来ない。 ただわかるのは、産道にナイフを投げ込まれたという事実のみ。 「ゆぅぅぅぅぅぅ!!!よくもまりさのあがちゃんをぉぉぉぉぉ!」 「あーあー、そんな暴れちゃ駄目だよ。中にいる赤ちゃん苦しんでる。早く生んで手当てしないと死んじゃうよ?」 その言葉に、ゆっくりまりさは動きを止める。 そして赤くなったと思うと、固く目を瞑って唸り声を上げた。 赤ちゃんを産むことに専念したようだ。 私もそのゆっくりまりさの様子に満足し、座り込んでまりさの様子を眺めた。 「ゆぐぅぅぅぅぅ!!もうすこしでうまれるよぉぉぉぉ!!ゆっくりぃぃぃぃぃぃ!!!」 十分くらい経ったであろうか。まりさの顎から、勢いよく赤ちゃんが飛び出た。 私は、それに呼応してすばやく立ち上がり、そしてすばやくナイフをぶん投げる。 赤ん坊などには目もくれない。どうせもう死んでいる。 ナイフが飛んで行く先は、先ほど赤ちゃんが出てきたゆっくりまりさの産道。 ぽっかりと開いた穴に、ナイフが侵入していく。 「ひぎぃぃぃぃぃぃ!?やべでね!!そんなとこいれないでね!!」 産道は、外気にさらされてないため、表皮に比べ格段に防御力が薄い。 子どもを傷つけないためにやわらかく作られた産道を、次々とナイフが突き破り、中のあんこに進入していく。 結局、産道が完全に閉じるまでに親まりさは数十本のナイフを投げ込まれる羽目になった。 親まりさはかろうじて死んではいないものの、ほとんど動けそうに無かった。 止めを刺そうと近づく私に、彼女が目をぎょろりとこちらに向けた。 「こどもは……まりさのこどもはぁぁぁぁ!?」 「赤ちゃん?ほら、あそこだよ」 私が指差した先には、あんこが飛び散って死んでいる赤ちゃんまりさ。 親の体から出てきたときの衝撃に、ナイフで傷付いた体は耐えられなかったのだ。 「う゛わ゛ぁぁぁぁぁ!!どぼじでぇぇぇぇぇぇ!!!なんでぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」 「さあ?たぶん、神様が応援してくれなかったからじゃない?」 私は、深く深く親まりさの体をナイフで突いた。まりさの体に私の腕が、そして肩までずぶずぶと埋もれる。 そのまま踏み込んで肩を思い切りひねると、彼女はビクンと痙攣し、やがて動かなくなった。 太陽が完全に沈みきる間際、私はようやく里まで戻った。 巣からここまでずっと走ってきたため、先ほどからずっと足は悲鳴を上げ続けている。 足だけではない。あの戦いによって私の体中はもう限界寸前だった。 でも、それでも、友達の顔を思い浮かべると、不思議と力がわいてきた。 もう少し、もう少しでみんな助かるんだ。 私は強い希望を胸に、彼女達の待つ広場まで走っていった。 「どいて、どいてよ!」 大声でそう叫びながら、友達の下までひた走る。 里の人たちは最初はそんな私の姿を唖然とした表情で見ていたが、すぐに私のために道を開けてくれた。 そのおかげで、私はすぐに彼女らの元につくことができた。 これで、ようやく彼女達を助けることが出来る。もう磔なんかになる必要はない。 そして、彼女達を脅かすまりさ達ももういない。みんなのゆっくりを邪魔する者はもういない。 私は、彼女達と対面した。 「みんな、だいじょう――――――――」 私の目に飛び込んできたものは、彼女達の死骸だった。 れいむは、顔が完全に切りとられ、中身のあんこをほじくり出されていた。あの皆を幸せにする笑顔を見ることは、永遠に出来なくなった。 ありすは、体中に石がめり込んでいた。ありすの自慢だったきれいな目も、今では小石にその場所を乗っ取られていた ちぇんは、全身焼かれて真っ黒になっていた。もう、彼女を彼女とわかることは出来ない。 ぱちゅりーは、目から上が何も無かった。とても沢山の知識を詰め込んだ頭も、いまや全くの空だ。 「え、あ?なんで、これ…」 ぐらぐらと揺れる視界。真っ白になる頭。 目の前の出来事に、私はついていけなかった。 嘘だと思った。見間違いだと思った。 たぶん私、疲れてぼけてるんだ。ほら、もっと近くで見ればきっと……。 彼女達に近づこうとして動かした足が縺れて、私は思い切り地面に叩きつけられた。痛みで少し涙が出た。 それでも這いずって彼女らに近づき顔を上げて彼女達を再び見たが、そこにはさっきと変わらぬ光景があるばかり。 ああ、たぶんこれは夢なんだ。私、疲れて眠っちゃったんだ。駄目だ、早く起きないと、れいむたちを助けないと――――。 私は、落ちてくるまぶたを支えることをやめた。 「……………っ!?」 私は声にならない悲鳴を上げ、飛び跳ねるように身を起こす。 目に刺々しい光が入ってきて、慣れるまで数秒の時を要した。 ようやく光に慣れた目で辺りを見渡すと、そこは見覚えの無い室内だった。その一角にあるベットで私は寝かされていた。 着物も取り替えられているようで、その着心地からその着物が高価なものであるということがわかった。 私にとっては、あんこがついていないことが一番嬉しかった。 「おお、やっと目を覚ましてくれたか!」 不意に扉が開いて、ひとりの初老の男が入ってきた。長様だった。 私は、この現状の説明をしてもらおうと声をあげたが、少しかすれた声が出てきただけで、まともに話すことができない。 「駄目だよ、起きたばっかりなのだから。すぐに何か食べやすいものを持ってくるから、そこで休んでなさい」 長様はそういうと、すぐに部屋から出て行った。 私の体はひどく衰弱しているようだった。私は長様の言葉に従い、体を寝かして長様を待つことにした。 それほど待つことも無く、再び扉が開いて長様が入ってきた。手にはドリンクやら、おかゆやらが載ったお盆を抱えている。 長様はお盆を近くに台に置き、そのうちのドリンクをとって私に渡してくれた。 「ほら、永遠亭特製の、栄養の沢山詰まったジュースだよ。胃が驚かないよう、少しずつ飲みなさい」 私がそれを受け取り、コクリコクリと中身を少しずつ胃の中に収めていく。 一口飲むごとに元気が出てくる、不思議な飲み物だった。 その後、長様に渡されたおかゆも食べ、私はようやく喋れるまでに体力を取り戻した。 「長様……」 「ん、なにかな?」 長様は体力の回復した私を見て満足そうだ。だが、私はいまだ疑問が残るばかりである。 私は、長様にこれまでの経緯を教えてもらうことにした。 「あの、私はどうなったんですか?」 「君は、山のゆっくりたちをやっつけた時の疲労で、倒れてしまったんだよ。 君の家はもう壊れていたし、親族の方もいらっしゃらないようだったから、私が引き取って看病をしていたんだ。 あの後から君は三日間も眠り続けていたんだ。医者は命に別状はないといっていたが、君はなかなか目覚めてくれなかったから、私は気が気ではなかったよ」 長様は私に優しくそう教えてくれた。 長様に看病をしていただいたなんて、ちょっと照れる。 私はえへへ、と少しはにかみ笑いをした後、さっきから一番気になっていたことを長様に聞いた。 「あ、あの……じゃあみんなはどうなったんですか?私、約束はちゃんと守りましたよ?」 ここには私しかおらず、みんなの姿は見当たらない。 あんなことがあった後じゃみんな村には居づらいかも知れないが、それならばどこにいるのかぐらいは教えて欲しい。 長様は私の問いに、困った顔をして目を泳がす。 なんでそんな顔をするのだろう?私はただ、友達のことを聞いただけなのに。 「あ、もしかしてみんなも治療中ですか?それだったら私はもう大丈夫ですからみんなのところに連れて行ってください」 「君は、覚えていないのかい?」 覚えている?私が?いったいなにを言っているのだろう。 私はまりさ達をやっつけてから、まだ彼女らに一度も会っていないのに。 たとえどこかであったとしても、それは夢に決まっているのに。 「覚えていません。だってあれは夢なんですから。だから私は彼女達とまだ会っていないんです」 長様は驚愕で目を大きく開き、そして唇を震わせながら、私の肩を力強く掴んだ。 「痛いですよ長様、離してくださ――」 「あのゆっくりたちは、もう*んだんだ」 なにを言っているのか、わからない。 長様の言葉が、何かのノイズにはばかられて良く聞こえない。 きょとんとしている私に向かって、再び長様が絞り出したかのような声で何かを喋る。 「君のお友達は、もうこの世にいないんだ……。 里のみんなも、まさか君が約束を守って帰ってくると思わなかったんだ。だから、みんなで*してしまったんだ」 「あはは、何言っているんですか?そんなの嘘、だってあれは夢じゃなきゃいけないんだもの」 長様は私から目をそらして、唇を固く結ぶ。その目からは涙が出ていた。 「なんで泣くんですか?あれは夢なのに、なんでそんな顔をするんですか?」 「…………本当に、申し訳ないと思っている。だが、君も気づいているんだろう?」 「き、気付くって、意味がわかりません。あれは夢で、嘘で、虚実なんですから」 長様が、意を決したように私と目を合わせる。 私の肩を掴む長様の手が、痛いほどに強くなった。 「あれは現実だったんだ。君だって気付いているはずだ。認めたくないのはわかるが、頼むから事実から目をそらすことだけのことはやめておくれ。 ……彼女達は、死んだんだ」 「う、うそだっ!!」 私は悲鳴を上げ、力任せに長様の体を突き飛ばした。 長様がしりもちをつき、激しい音を立てる。 「違う!みんな死んでなんかいるもんか!私は悪いゆっくりを殺したんだから、みんなは助かったんだ! この嘘つき!お前が死ねばいいんだ!」 私は近くのものを手当たり次第に投げ、投げるものがなくなった後は、ひたすら嘘だ、死ね、などという罵声を上げ続けた。 長様は悲しそうな顔をして立ち上がると、一言だけ、本当にすまなかったと私に残して部屋から去った。 私は長様が出て行ってからもずっと叫び続けていたが、やがて眠気が襲ってきて、そのまま意識は闇の中に落ちた。 気づくと、私は森の中に居た。 周りには皆がいて、一緒に歩いている。 どこか頭がぼんやりふわふわしていて、気持ちがよかった。 そんな浮ついた気分で歩いていたせいか、私は石につまづいて転んでしまった。 不思議と痛くなかったが、転んだところを皆に見られるなんて恥ずかしいなぁ、と思った。 いつまでもこんなみっともない姿ではいけない。私は、起き上がろうと下半身に力をこめる。 「あ、あれ……?」 まったく動かなかった。腰が抜けたかのように、私の足はピクリとも動かない。 優しい笑顔浮かべたまま、みんなが向こうで私を見ている。 早くみんなの元へ行かないと。 動かせる上半身を使いほふく前進の要領での移動を試みても、下半身が鉛のように重くなって少しも向こうへいけない。 「「「「おねえさん、そこでゆっくりやすんでいってね!」」」」 みんなが私に向かって、口を揃えてそう言った。 ……みんな何を言っているんだろう。私もそっちに行ってみんなと遊ぶよ。いつもみたいにゆっくりするよ。 「「「「だめだよ!おねえさんはまだいきているんだから、そっちでゆっくりしていってね!」」」」 またみんなが一緒にそう言った。 ……だから変なこと言わないでよ。みんなでゆっくりしようよ。 「「「「わたしたちはほかのところでゆっくりするからだいじょうぶ!!おねえさんは、そっちでがんばってゆっくりしていってね!! それじゃあ、わたしたちはいくからね!!」」」」 彼女達はそのまま、こちらを振り返ることなく行ってしまった。 私も精一杯そちらに行こうと頑張ったが、引っ張られるような力のせいでまったく向こうにいけない。 みんなの姿がだんだんと薄れていき、ついにはまったく見えなくなった。 それと同時に、あたり一面が光に包まれる。 そのまま、私は世界から放り出された。 「……今のは、みんな?」 温かい何かに包まれて、私はゆっくりと目を覚ます。 二度目の目覚めは、一回目よりも随分と気持ちがよかった。 あれだけ休んだおかげか、体のほうはもう快調といってよいほどだ。 私は布団から出て立ち上がると、その部屋から出て長様を探した。 その部屋のすぐ隣の、長様の自室と思われる部屋に彼はいた。 「おはようございます、長様」 「ああ、君か。もう起きてていいのかね?」 「はい。たくさん休みましたから。それと……昨日は、すいませんでした。 あんなに無礼なことをしてしまって……」 「いや、いいんだ。あれは全部こちらが悪かったのだから。約束を守らなかったのは全面的にこちらの落ち度だ。 しかも、起きたばかりの君にあんなこと言うべきではなかった。でも、もう大丈夫なのかね?その……友達のことは」 「みんなが死んでしまったことは悲しいけれど、きっと天国でゆっくりしているでしょうから。 それに、みんなに励まされちゃったんです。頑張って生きろ、って。 だから私がいつまでもみんなの死を引っ張っていたら、みんなに怒られちゃいます」 その言葉を聞いて、長様はようやく安心したのか、優しい微笑みをこちらに向けた。 「そうか、それはよかった。じゃあそろそろご飯でも作ろうか。 おなか、空いているだろう?」 「はい!お食事作るんでしたら、私もお手伝いします」 「ありがとう。それじゃあ食堂まで行こうか。ついておいで」 私達は、一緒に今日のご飯はなににしよう、と笑ってお話しながら食堂へ向かった。 そうして食堂についた私達が診たものは、そこにある食料を食い荒らすゆっくりたちだった。 「ゆ?ここはまりさがみつけたゆっくりぷれいすだよ!いましょくじちゅうだからさっさとでていってね!」 「むーしゃ!むーしゃ!これおいしいね!もっとたべようね!」 「しあわせー!」 それを見た長様は、ゆっくりを追い払おうとして近づこうとしたが、私を見て何故か動きを止めた。 私はそれを不思議に思ったが、これ以上ゆっくりにご飯を取られるわけにもいかないので、 私は棚においてあった調理用のナイフを持ってゆっくりたちに近づいた。 ゆっくりたちはそんな私を見て、非難の声を浴びせかける。 「おねえさんばかなの?いまわたしたちがごはんたべてるんだからさっさとでてってね!」 「ばかなにんげんはわたしたちにおいしいものをよこすか、じゃなかったらどっかいってね!」 「むーしゃ!むーしゃ!しあわぶびゃ!」 私は無言のまま、その中の一匹に向かって、飛び散らないように気をつけてナイフを突き立てる。 そのゆっくりは体中を貫かれ、つぶれたカエルのような悲鳴を上げて死んでいった。 残ったゆっくりたちは、私の警告なしの、いきなりの行動に呆然としている。 私はその間にナイフをゆっくりから抜いて、残りの二匹を捕まえて動けないように、片方を腕で抱え、もう片方を踏んづけて自由を奪う。 「なにするの!ゆっくりはなしてね!」 「なかまをころしたおねえさんはゆっくりしでぇ!?」 私は二匹の声を無視して、丁寧に抱えているゆっくりにナイフを差し込んでいく。 私の腕の中で、そのゆっくりは少し痙攣した後、すぐに動かなくなった。 私はナイフを引き抜くときも、あんこが飛び散らないように慎重に抜いていく。 ここで汚してしまっては、長様に迷惑がかかるから。 「ま、まりさだけはたすけてね!もうこんなことしないから!」 「だめよ?あなたは悪いゆっくりなんだから、助けるわけにはいかないの」 「どぼじでぇぇぇぇぇ!?まりざわるいごとじでないのにぃぃぃぃぃぃ!!」 私は踏んづけたゆっくりまりさにも他の二匹と同じような処理をしてあげた。 みんなで仲良く同じところへいけるように。 「き、君……なんであのゆっくりたちを殺したんだい?」 私があんこで汚れた手を洗っていると、長様が作り笑顔のような、引き攣ったような笑みで私にそう聞いた。 私はあんこを洗い落とし、手をしっかりと拭いてから、長様にこう答えた。 「だって殺さないといけないですから。悪いゆっくりは殺して、潰して、切り刻まないと良いゆっくりがゆっくりできなくなるじゃないですか」 「し、しかしゆっくりは君のお友達じゃあ……」 「私のお友達は、あんな悪いゆっくりじゃないです。少しは心が痛みますけど、みんなのために殺さなきゃいけないですから。 それよりも長様、ご飯作りませんか?私は、お腹が空きました」 「あ、ああ。わかったよ。一緒にご飯をつくろうか」 その後、私達は一緒にご飯を作って食事を共にした。 長様は私の料理を一口食べた後、いきなり無言で倒れた。 その後二度と長様は私の料理を口にしてくれなくなったが、何故なのかは今でもわからない。 懐かしい昔話は、これでおしまい。 ――――――――――――――あとがき――――――――――――――― 長がすぎですね。その割りに虐め分少ないですね。ほんとすいません。 一応補足させていただくと、最初の場面は三途の川の場面です。 主人公がこまっちゃんの船で運ばれており、そこで昔話をしているという状況です。 最初は阿求に話しかけるシチュにしようと思ったんですが、なんか話がダークな感じになりそうだったのでこちらの方にしました。 ちなみに冒頭の彼女が幾つであろうとも、少女は少女です。異論は認めない。 ではここまで御覧になってくれた読者さんに感謝の念をこめて。 本当にありがとうございました! このSSに感想を付ける