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一旦家に戻った住倉さんは制服のまま旅行カバンを肩に提げて戻ってきた。その間に黒のキュロットスカートと白地のTシャツに着替えてきた委員長と僕は2 人で、僕の隣の部屋を片付けた。正確には荷物を僕の部屋か外にある倉庫に運んだだけ。でも結構大物も多くて、終わったら委員長は「ちょっと疲れたから」と 部屋に戻っていった。 後は戻ってきた住倉さんを部屋に案内するだけなんだけど。 「じゃあ住倉さんはここ……あれ?」 2階まではついてきたのを確認していたのに振り返ると住倉さんは居らず、更に首を巡らせるとトイレの隣の物置を開けていた。 「住倉さん、そこはただの物置だよ」 「……ここがいいわ」 「え?」 「ここ」 「……あの、住倉さん。そこって窓も小さくて、換気もほとんどできないよ?」 「この暗さと狭さが丁度いいの」 頬に手を当てて感嘆の溜息を吐く住倉さん。徐々に住倉さんの行動とか思考が読めるようになってきたかなと思いきや、そんなことは無かった的な展開。うん、でもまあ、そんな予感はしてた。委員長とのやり取りを見ているだけでも、しばらくは無理だよね。 「何も置けないよ?」 「必要無いもの」 「ほら、授業の課題とか」 「スタンドライトを持ってくるから」 「壁が薄いから寒さと暑さにも弱いよ?」 「問題ない」 「……」 「くすくす」 ここまで”物置使いたいオーラ”を出されていては、こっちも拒否する理由が無くなってしまう。物置に人が住んではいけないという法律も無いし。 もちろん嫌がっている人を押し込めるのは虐待とかで問題になると思うけど、むしろ好んで入っているんだから僕が拒絶する理由は無い。 でもここってせいぜい2畳しか無いはず。こんな狭苦しいところに入りたがるんだろう。実は前世がネコだったとか? とにもかくにも、こちらから拒絶する理由は特に無いし、物置中の荷物を住倉さんに使ってもらう予定だった部屋へ移動させる。布団はお客さん用の ものを使ってもらうことにした。いちいち家から持ってきてもらうのも大変だろうし。というか僕に持って来いと言い出しかねないから、っていうのもあるんだ けど。 「この狭さ。良いわ」 いそいそと僕が持ってきた水色のシーツを掛けた布団を敷く住倉さん。 「あ、寝るときには扉を開けておいてね」 「夜這いの為ね? 分かったわ。着ておく服装に希望はある?」 「違う違う」 「窒息するからよ」 呆れ顔と溜め息を引きつれ、部屋に戻ってた委員長が戻ってきていた。 「あなたもあなた。毎回毎回ややかの変則球に対応してたら、これからやっていけないわよ」 「う、うん。分かってはいるんだけどね……」 委員長ほどまだ割り切れるというか、扱いに手馴れるというか、そこまで達してないわけで。 相変わらず眠そうに見えるような細目の住倉さんは更に目を細める。 「ふふ。まだ修行が足りないわね。末永いお付き合いになりそうだわ」 「それは勘弁してください」 「だからそうやっていちいち反応しないの」 ああ、神様。居るなら居るで返事してください。何でこんなことしたんですか。僕はこんな試練を乗り越えさせなきゃいけないくらいに悪い子だったんですか。 確かに容姿だけなら、っていうのも悪いけど、結構美人な2人に囲まれているというのは言うまでも無く幸せな部類だと思う。でもその中身がその、非常に言いづらいけど、扱いがたいというか理解しがたい人だからアウトです。乱闘沙汰になってもおかしくないレベルの。 まあ委員長も初っ端のアレが衝撃的だっただけで、それ以外は割とまともだから住倉さんとくくられると嫌がるかも。 「どうしたの?」 「う、ううん。何でもないよ、ははは」 恨み節とかはひとまず置いといて、住倉さんと委員長の生活拠点はなんとかなったから、後は家の中での決まりを決めなきゃいけないな。
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注意! この作品はゆなほシリーズ、プレミアムすっきりドールの流れを組んだ作品となっております。 このSSにはドHENTAIな表現が多分に含まれております! 苦手な方は、申し訳ありませんがブラウザバックをされるか、 不快な思いをされる場合があることを了承のうえ、読み進んでください。 ------------------------------------- 俺が物心ついた時、既に母はこの世に居なかった。 俺はクソ狭いおんぼろアパートの一室で、ヘドが出るほど自分とそっくりの親父と一緒に今まで暮らしてきた。 あの暮らしの中で一番つらかったことは、自分の”性欲”だった。 玄関開けると即居間だった俺の家には、もちろん自室などという高級なものはなく、同時にプライベートなどというものも存在しなかった。 家に帰るとステテコ一丁で寝転がって飲んだくれている親父のそばでマスをかけるようなヤツがいたら見てみたいものだ。 俺の欲望は抑えつければ抑えつけるほどに、生き場のないエネルギーで体が張り裂けるようだった。 ある日河川敷に捨てられていたエロ雑誌の、俺に微笑みかける巨乳のお姉さんの 瑞々しい身体は今もこの目にしっかりと焼き付いている。 この春遠く離れた大学に通うために、俺は親父と暮らしたアパートを離れ、一人暮らしを始めることにした。 今まで暮らしていた部屋と同じくらい狭いアパートだけれど、ここは俺だけの部屋。 そしてあこがれだったパソコン、ベッド、オーディオセット。 中学に上がってから、ずっと煩悩を発散させるために専念してきたアルバイトでためた多くの金で、 俺は今まで夢だったことを次々とかなえていった。 そして、俺はついに一番の目的だった、エロスを手に入れることができた。 パソコンを使い、いろいろなサイトを回ってえろい画像などを収集して回った。 近頃ハマッているのは、月額動画サイトのサンプルムービーだ。 タダなのにあんなにエロいところまで見せてくれるなんて、なんて親切なんだろう。 ところで、人間抑えつけていたものが開放されると、どこまでも貪欲になってしまうものだと思う。 そして金があるとさらに始末が悪い、俺はもういい年のはずなのに、好奇心は中学生のころに戻ったようだった。 俺がネットサーフをしていて発見したあるものに、俺は今強く、とても強く惹きつけられていた。 『プレミアムすっきりドール』 そう名付けられた胴つきゆっくりが、今密かな人気を集めているらしい。 しかし、俺にはロリータ趣味はなかった、だがなぜ俺がこんなにも強くこの胴つきゆっくりに興味をもったかというと、 それは、他のサイトでゆっくりのことを調べた時に、こんな記述があったからだ。 『ゆっくりは愛情を持って育てると、時折その姿形を飼い主により愛される形へと変化させることがある』 つまり、つまりだ、標準体型がツルリペタリのあの胴つきゆっくりも、育て方次第では、 俺の憧れであるボンッキュッボン!というヤツになってくれるのではないだろうか。 それを想像してから、もうパソコンの前に座り、通販サイトめぐりをしているだけで俺の一物はギンギンに滾るばかりだった。 あの画像や動画で見た、いや、あの少年だったころ河川敷で見たお姉さんの巨乳を、俺の手でもみしだくことが出来る… それも風俗店に行くような、リスクがあるかも知れない、一回きりの冷めた関係じゃあない。 一対一の愛のある関係、最高の理想の彼女。 倒錯していると言われてもいい、俺は今、その夢を掴みたくて仕方がないのだ。 目の前にぶら下がっているご褒美を見て見ぬふりをする理性は、今の俺には残されていなかったのだ。 そして俺はサイトの指示に従い、情報を入力し、最後にボタンをクリックする。 『プレミアムすっきりドール ゆうかにゃん』 ”購入” その瞬間、俺の見つめるパソコンの画面が、虹色にスパークした。 「な、なんだ!?」 俺は思わずその眩しい光から視線を外す。 まずった、もしやこれがブラクラというやつだろうか。 俺の脳裏に最悪の結果がよぎる、今まで収集した画像や動画はパァ、 それどころか個人情報が抜かれ、パソコン自体がおしゃかになるかもしれない。 しかし、俺の予想に反して、光の刺激になれた俺の目に映ったパソコン画面には、不思議な内容の文字が浮かんでいた。 『おめでとうございます!あなたはプレミアムすっきりドール ゆうかにゃん 購入者丁度1万人目でございます!飛びきりのプレゼントをご用意しておりますので、どうぞご期待ください。 これからも当社の製品をどうか御贔屓に。 ゆなほ工場作業員一同』 それから数日後、俺のパソコンは以前と変わらぬ調子を見せてくれている。 噂に聞くクラッシュなんちゃらみたいな状況じゃなくてほっとしつつも、アレが一体なんだったのか、俺には結局わからなかった。 ところで、怖くなってそのままパソコンをシャットダウンしてしまったのだが、俺のゆうかにゃんはどうなったんだろうか。 そういえば画面のはじっこに、注文の詳細はメールでお知らせします、と書いてあった気がする。 だが、メールアドレスはプロバイダの契約書を見ながら打てるが、メーラーの設定の仕方はさっぱりだった俺には、縁の遠い話だった。 今度大学のパソコンに詳しい友達に設定してもらおう… そんなことをぼんやりと考えながら、気だるい休日の午後をまったりと過ごしていると、どこからともなく、不思議な音が聞こえてきた。 ぺろん…ぺろん… ~♪……~♪…… 「ん?なんだ?」 きになって窓から外を眺めてみると、麦藁帽子を被った謎の人物が、フォークギターをつま弾きながら歩いていた。 時折聞こえる鼻歌のような声から、どうやら女性だということがわかる。 格好は、一言で言うならなんだかやぼったく、まるで庭いじりをした格好のまま外を歩いているようだ。 そして背中には、身体のサイズに合わないほどの巨大なリュックサックを背負っていた。 暇つぶしにぼんやりと見つめていると、その人はふと足を止めて、 ポケットから一枚の紙を取り出して眺めてから、辺りをきょろきょろと見渡し始めた。 何か探しものをしているんだろうか、声をかけてみようかどうしようか迷っていると、ふと顔をあげた彼女と目があった。 今まで麦藁帽子のつばに隠れて見えていなかったが彼女は、少々頬がぷっくりとしているが 美しい緑色の髪の毛、赤い目をしたとても綺麗な女の人だった。 きっと何かを探しているのだろう、困った様子でこちらを見ているので、俺は窓を開けて彼女に話しかけてみることにした。 「どうかしましたー?」 しかし次の瞬間、俺はわが耳を疑うことになる。 「あれまぁ、こげな都会にも、やざしぃ人ばいるんだっぺなぁ」 声は顔から想像できる通り美しかったが、かなり独特のイントネーションの、いわゆる訛りというやつだった。 一体どこの地方の方言だろう。 俺があっけにとられていると、彼女は手元の紙にもう一度視線を落としてから、再び俺の方を向いた。 「この辺に”双葉さん”って人はおらんべか」 その苗字には聞き覚えがあったので、俺は彼女に一つ質問をしてみることにした。 「双葉って、もしかして双葉としあき?」 すると彼女はぱっと目を輝かせた。 「そうだぁ!しってるんかい?」 「知ってるも何も、俺が”双葉としあき”ですよ」 そう、偶然にも彼女が探していたのは、俺の事だったのだ。 こんな知り合いがいた記憶はないのだが、一体なんの用だろうか。 俺は立ち話も何なので、とりあえず彼女に部屋まで来てもらうことにした。 彼女は俺が教えた通りにアパートの階段を上り、俺の部屋の前までやってきて、律儀に呼び鈴を鳴らしてきた。 俺が入口を開けると、彼女はドアの前で眉をキリッとさせてギターを構えていた。 「いんやぁ、こんなに早くとしあきさに会えてオラぁうれしいだ、この気持ちを演奏するから、きいてくんろ」 そして彼女が突然ぺろんぺろんとギターをかきならす。 「としあ~きさにあえてー、うれs」 「あのぉ、近所迷惑なんでとりあえずやめてくれませんか」 俺が冷静に突っ込むと、彼女はすごくさみしそうな顔をして、しょんぼりと肩を落としてしまった。 悪いことをしたかもしれない。 彼女を部屋に招きいれ、俺は座卓にお茶を用意して、彼女と向かい合わせで座った。 彼女は部屋の中に入ってから、ずっともじもじそわそわとしている。 荷物を置いたときに、ドスンッ!とすごい音がしたが、中には一体何が入っているんだろう。 とりあえずまずは、自己紹介から始めることにした。 「えっと、改めまして、双葉としあきです、よろしく」 俺が軽く頭を下げると、彼女は慌ててふかぶかと頭を下げる、もう少しでテーブルにおでこがぶつかってしまう勢いだ。 「こ、こちらこそおねがいするっぺ、えっと、オラはゆうか、皆はオラのこと、のうかりんってよぶだ」 「のうかりんさんか、よろしく」 するとのうかりんさんは、一旦立ち上がり、俺のすぐ横に移動してきて、しゃがみこんだ。 そして何故か三つ指をついて、深く頭を下げる。 「不束者ですが、どうかよろしくおねがいいたします」 「フツツカモノ?え、どういうこと?」 俺がのうかりんさんの行動に理解が追い付かず目を白黒させていると、 のうかりんさんは上着のポケットから一枚の手紙を取り出して、俺に渡してきた。 手紙には、以下のように書かれていた。 ------------------------------------------------------------------------ 拝啓 双葉としあき様 木々の緑が目にまぶしい今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。 このたびは、わが社の製品「プレミアムすっきりドールゆうかにゃん」をお買い上げいただき、誠にありがとうございます。 つきましては、プレミアムすっきりドールゆうかにゃん販売数一万個体を記念しまして、 まことに勝手ではございまずが、当社謹製の特別な胴つきゆっくり『ゆうかりん』を贈呈させていただきます。 もしお客様にわが社の製品が満足いただけない場合は、すぐに交換手続きをいたしますので、どうか御遠慮なくお申し出ください。 これからも、わが社の製品との末長いお付き合いを、どうかよろしくお願いします。 敬具 ------------------------------------------------------------------------ 「え、のうかりんさんって、ゆっくりなの!?」 手紙を読み終えてまず疑問に思ったことを、俺は思わず口に出してしまう。 するとのうかりんさんはポッと頬を染めて、軽く俯いてしまう。 「いやだぁ、のうかりん”さん”だなんて他人行儀な呼び方しないでけれ、 おめさのところに嫁いだんだから、もうオラはおめさのモノだ、のうかりんってよんでくんろ」 「じゃあ、のうかりん…って、嫁いだぁ!?」 「はずかしっぺぇ…」 頬に手を当ててくねくねするのうかりんをよそに、俺は混乱して頭が真っ白になってしまった。 のうかりんが言うには、のうかりんは元々プレミアムすっきりドールゆうかにゃんの母体となっている ゆうかにゃんから生まれた突然変異で、製品には出来ない不良品だったそうだ。 理由は、田舎くさいからダメ、だとか。 結局のうかりんは、製品化のための訓練や加工を受けず、今まで工場の庭で家庭菜園のようなものを行っていた。 ところがある日、予想以上に販売個体数を伸ばしたプレミアムすっきりドールゆうかにゃんの 1万体記念キャンペーンとして、購入者に嫁いでこい!と言われて、俺の家の地図を持たされ出発させられたのだ。 のうかりんは、ここに来たいきさつを話し終わった後、未だ呆気にとられている俺を見て、俯いて黙りこんでしまう。 そして口をもごもごとさせ、小さくつぶやいた。 「あのぉ…やっぱりオラ、おめさの嫁っこにはなれないよな…」 「う…う~ん…」 嫁と言われても、どんなに見た目が綺麗で可愛くても、一応ゆっくりだし… そんなことを考えていると、のうかりんの顔が徐々に暗くなっていき、ついに目の端にたまった涙を指でぬぐい始めてしまった。 「ご、ごめんな、勝手に押しかけて勝手なこといって、やっぱりこんなの迷惑にきまってるっぺ オラぁ工場に帰るだ、手続きはオラが代わりにしておくから、後から来るオラの妹とよろしくやってくんろ!」 そう言うとのうかりんは勢いをつけて立ち上がり、リュックに駆け寄り背負おうとし始める。 「ま、待ってくれよ」 俺が止めようとするが、のうかりんは仕度をやめようとはしなかった。 それでいいのか!?俺! 俺の中で冷静な俺が叫び声を上げる。 そうだ、よく考えたら、俺の本当の目的は、プレミアムすっきりドールゆうかにゃんを成長させて 自分好みのお姉さん体系にすることじゃあなかっただろうか。 突然のことで忘れていたが、一歩引いて見てみると、こののうかりんは 野暮ったい服に包まれていて分かりづらいが、かなりイイ身体なのではないだろうか。 よくよく観察すると、リュックを背負おうとかがんでいるのうかりんの胸は、 確かにその存在を服の下からでもはっきりとわかるほど自己主張をしていた。 ヒップも、少しむっちりしているかもという程度に丸みを帯びている。 このチャンスを逃していいのか!?いいわけはない! それに、それに… 俺は一つだけ何かが胸につかえている気がした。 何なんだ、このモヤモヤした感じは… 俺が思考を巡らせていると、リュックを背負ってギターを片手に持ったのうかりんが、 今まさに部屋を出ていこうと歩き始めるところだった。 のうかりんは一旦こちらを振り向いて、悲しそうな顔に無理やり笑顔を作って俺に微笑みかける。 「じゃあな、ほんのちょっとの間だったけど、オラ、おめさに会えて嬉しかっただ」 そしてのうかりんは、未だに座卓から腰を上げずにいる俺に背を向けて、一言ぼそりと呟いた。 「これでもう、思い残すことはないだ…」 その瞬間ハッとなった、そうだ、それだ! 俺はさっきからつっかえていたものの正体に気づき、のうかりんの背に声をかける。 「なぁのうかりん、のうかりんは俺が交換するっていったら、この後どうなるんだ?」 のうかりんはその場に足を止め、振り返らずに言った。 「わからないだ…でもオラは元々不良品だから、運がよかったらまた庭いじりさせてもらえっかもしらんけど やっぱり”処分”されちまうんでねぇかなぁ…」 ちょっぴり涙声混じりにそう言って、のうかりんは玄関に向って歩き出してしまう。 しかしその言葉を聞いた瞬間、もう俺の中の迷いは一片も残らずけし飛んでいた。 俺は勢いよく腰をはね上げると、この場を去ろうとするのうかりんの手を、痛みを感じるほどギュッと握りしめていた。 「い、いくな!ここにいろ!い、いや…いてください!」 のうかりんがぱっと振りむく、その動きで、のうかりんの頭に乗っていた麦藁帽子が頭から落ちた。 麦藁帽子に隠れていた頭にはピンとたった二つの”猫耳”がついていた。 のうかりんは肩をわなわなとふるわせて、嬉し涙を流している。 「い、いいだか?こんなオラでも…おめさのそばにいて…」 俺はその問いに、胸を張ってはっきりと答えてやった。 「いい!不良品でも、特別プレゼントでも、そんなの関係ない、俺は”のうかりん”と一緒に居たい!」 「うれしいだ!」 のうかりんが感極まって勢いよく俺に抱きついてくる。 「おわぁぁ!!」 しかしのうかりんの背中には、明かに重たいリュックが背負われていたので、 その勢いでそのまま俺達二人は背中のリュックに押しつぶされるように倒れこんでしまった。 「いたたた…すまねぇだ…きゃっ!」 倒れこんだ勢いで俺の手がのうかりんの胸を鷲掴みにしてしまっていたようだ。 のうかりんはそれに気づいて身体をどけようとするが、重たいリュックに押しつぶされ、なかなか思うようにいかない。 「い、いやだぁ、としあきさったら、まっぴるまっからすけべぇだぁ!」 お互いの息がかかるほどの距離でのうかりんは顔を真赤にして身をよじる。 その間ものうかりんのおっぱいの感触が、俺の手のひらを通して、はっきりと伝わってくる。 俺の感覚が確かならば、このおっぱいはとても良いおっぱいのようだ… やっぱり引きとめて正解だった。 純粋な思いで引きとめたつもりだが、その官能的な感触に、早くも俺の中の下心がむくむくと自己主張を始めてしまっていた。 のうかりんの言うとおり、俺はやっぱりスケベらしい。 二人で協力して、体勢を立て直す。 のうかりんは重たい荷物を再び床におろして、落ちてしまった麦藁帽子を拾い、かぶりなおした。 可愛い猫耳が隠れてしまって俺としては非常に残念である。 室内で麦藁帽子というのも変な話だが、かぶっているほうが落ち着くらしい、その辺はゆっくりだからなんだろうか。 新生活を始めて一月もたたないうちに、早くも同居人が増えてしまったのか… 俺が感慨深く思いながらのうかりんを見ていると、のうかりんは床に置いた荷物をごそごそと漁りだした。 「そんだぁ、えっとぉ~」 一体何がつまっているのだろうと思うほどパンパンになったリュックから、次々といろいろなものが出てくる。 軍手、シャベル、手ぬぐい…園芸道具だろうか。 真赤な洋服に、スカート、おそらく着替えの類だろう、本当にそのまま住むつもりで詰めてきたらしい。 「いやだぁ!」 ぱさりと落ちた白い布をのうかりんが頬を染めて慌てて拾い上げる、もしかして、あれはいわゆるパンティというやつだろうか。 どうやら俺の顔は無意識に緩んでしまっていたらしい、のうかりんは一瞬こちらをキッと睨んでから、再びリュックを漁り始める。 リュックの堆積が4分の3ほどになったところで、どうやらお目当てのものを見つけたらしい。 のうかりんはリュックの中から両手で握りこぶしほどの大きさの塊を取り出すと、こちらを向いてにっこりとほほ笑んだ。 「オラの畑で採れたイモさ持ってきただ!くうべ!」 のうかりんが両手でつかむそれは、とても立派でおいしそうなジャガイモだった。 しかし、一人暮らし男子の部屋なんて、所詮そんなもの、というところだろうか。 食材や調理器具などはほとんどそろっておらず、結局ジャガイモは蒸かしイモにして食べることになった。 手伝おうか、と提案したのだが、 「男子は厨房に入るもんじゃねぇだ!」 と言われ、キッチンから追い出されてしまった。 狭いキッチンなので、肌が密着してドキドキ…などと考えてもったいないかなとも思ったが、それはそれだろう。 座卓の前に座り、ぼーっとのうかりんを眺めていると、ジャガイモを入れた鍋を監視するのうかりんは、 気分が乗ってきたのだろうか、ふんふんと鼻歌を歌いながら、ゆらゆらと体を揺らしていた。 その度に、少し大きめのヒップが俺の視線を惹きつけるように左右に揺れる。 (こ、これってもしかして、新婚さん風景というやつでは…!?) そんな考えが頭に浮かぶと、もう妄想は止めることができなくなってしまい、 俺の思考はあれよあれよと言う間に桃色の方向にトリップしてしまう。 (やっぱり新婚さんでお料理といえば、裸エプロンだよなぁ) そんなことを考えてデレデレとしていると、調理が終わったのだろう、 のうかりんがガスのスイッチを切ってイモを鍋から取り出し始めた。 いかんいかん、と俺は頬をピシャリと叩いて顔を引き締める。 股間のやんちゃボウズはたくましくなったままだが、これは気をつければごまかせるだろう。 「おまちど、たんとくってけれ」 ほこほこと湯気のでるジャガイモが座卓の真ん中に置かれる。 「いただきます!」 見てるだけで涎が出てしまいそうなそれに、俺は勢いよく齧り付いた。 「あ、あづっぅ!!!」 その瞬間、舌を焼かれるような熱さが俺の口いっぱいに広がる。 「もう、あわてんでも、いっぱいあるから、ゆっくりせぇ」 のうかりんはそんな俺を優しいまなざしで見つめて、コップの水を差し出してくれる。 「ん…グッ、グッ…ふぅ…」 それを飲んで落ち着いた俺は、今度はすこし息を吹きかけてイモを冷やしてから、もう一度齧り付いた。 今度は適度な温度になったイモの、ほくほくとした触感と塩の味が俺の舌を楽しませた。 そして口の中で噛んでいるとすぐにドロドロに崩れ、 塩味に変わってイモ本来のほんのりとした甘さが口いっぱいに優しく広がっていく。 「うめぇ…」 脳が理解するより早く、口が素直にその言葉を発していた。 うまい、今まで生きてきて食ったどんな料理にも負けない、最高の味だった。 「そりゃあよかったぁ」 俺が食う姿をじっと眺めていたのうかりんも、俺の言葉を聞いてにっこりとほほ笑む。 うまい、うまい、俺はそう呟きながらイモを次々と口に運んだ。 どんなに量を食べても飽きが来ない気さえした。 優しくてあったかい、これはまさに、彼女の手料理というよりは、お袋の味というやつではないだろうか。 「あれ…?」 そして気づくと、なぜか俺のほほには一滴の涙が伝っていた。 熱くてかいた汗かもとおもったが、確かに目からこぼれ落ちたしずくだ。 「ん?どうかしたかい?」 手を止めて顔を拭う俺を、のうかりんが不思議そうに見つめる。 「い、いや、なんでも」 「そうけぇ?」 嫁だ、新婚だといろいろなことを考えていたが、今感じた感情は、 記憶にはないけれど、俺がまだ物心つく前に一度は感じたであろう、母の愛というやつなのかもしれない。 自分でも単純だと思うが、俺の心はこんな少しの時間しか一緒にいないというのに、 だんだんと確実にのうかりんに惹かれていくのを感じていた。 結局うまいうまいと口に運んでいるうちに、4分の3位は俺が平らけてしまったのではないだろうか。 のうかりんはただただ、俺の方をにこにこと嬉しそうに見つめていて、あまりイモを食べていなかった気がする。 「あー、腹いっぱい、うまかったよ、ありがとう」 俺がそう言うと、のうかりんは頬を少し赤く染めて、実にうれしそうにはにかんだ。 「うめぇっていってもらえると、やっぱりうれしぃなぁ」 のうかりんは空いた食器を片づけてさっと洗うと、俺の横に来てなにやらモジモジとし始める。 「ん?どうした?」 「えと…あんなぁ…」 のうかりんは何故かひとしきりモジモジした後、顔を真赤にして 「きょ、今日はあっちぃから、オラぁ汗ぇかいちまっただ、シャワーあびさしてもらえねぇべか」 と、言った。 顔を真赤にするほど暑いだろうか、とも思ったが、別に断る理由はない、俺は素直にバスルームを自由に使っていいと許可を出してやった。 のうかりんはいそいそとバスルームに入り、狭い室内に衣ずれの音が聞こえてくる。 さすがの俺も、いくら嫁という名目で来たから、そして相手がゆっくりだからと言って、 会ったばかりの女性の着替えを覗くような行為はするつもりはない、やはり紳士的な行動をするべきだろう。 俺の股間はさっきからうるさく自己主張をしていたが、そこはガマンである。 バスルームへと続く扉が、がちゃりと開く音がした。 「おまたせしただぁ…」 「いや別に、待ったってことは…えぇぇ!?」 俺がのうかりんの声をした方に視線を向けると、そこには全く想像していなかった桃源郷が広がっていた。 「はずかしぃから、そんなにみないでけれ…」 そこに立っていたのうかりんは、バスタオル一枚以外、 もちろん麦藁帽子も含めて一切身につけていない、まさに風呂上がり姿とそままというやつだった。 湿気を含んで頬に張り付く髪の毛、恥ずかしがっているのかすこしへたりこんでいる猫耳。 そしてしっとりと肌に張り付いたバスタオルからは、先ほどまでの服の上からわからなかった、 のうかりんの美しい身体のラインが、はっきりと浮き出ていた。 張り出した胸、そしてきゅっと締まったウエストと、豊かなヒップ。 直接裸を見る以上に妄想を掻き立たせる扇情的な姿に、その意味を理解する前に俺の理性は崩壊寸前になってしまう。 「どどど、どうしたんだ!?」 冷静を装おうとしても、もはやそれどころではなかった。 あまりに狼狽する俺に、のうかりんはぷっと小さく笑いを吹き出して、ゆっくりと俺の方に近付いてくる。 「オラぁ、おめさの嫁っこになりにきただ、それに、プレミアムすっきりドールを買ったっちゅーことは、 おめさもこういうこと、したかったんだべ…?」 そしてそのバスタオル姿のまま、座っている俺に抱きつき、ぎゅっと身体を押しつけてくる。 薄布一枚越しののうかりんの身体は、びっくりするほど柔らかく、俺の野生を繋ぎとめる綱はギチギチと音を立て始めてしまう。 「そ、そりゃあそういうつもりがなかったわけじゃないけど…ッ!」 のうかりんの肩越しに見える綺麗な首筋には、朱が走っている。 やはり恥ずかしいのだろうか、小刻みに体が震えていた。 「い、いいんだよぉ、オラだってこういうこと考えないで来たわけじゃねぇし… それにおめさ、さっきからオラのこと見て、またぁ膨らまして、変な気分になっちまうべ…」 やっぱりばれていたのか、俺の顔が羞恥で真赤になる。 「な、だから、オラこういうことしたことないけんど、オラのこと、もらってけれ…」 のうかりんが顔を少し離して俺の目をじっと見つめてくる。 その瞳はわずかに潤んでいて、惹きこまれてしまうような美しさに満ち溢れていた。 それに、ふと視線を下にやると、バスタオルの隙間から、胸の谷間がはっきりとのぞいていた。 さっきからビンビンになってしまっている股間も、こんなに体を密着させていれば、もはやばればれだろう。 女の子にここまで言われ、ここで据え膳を食わねば、男として終わってしまう気さえする。 俺はゴクリと生唾を飲み込んで、ゆっくりとのうかりんと体制を入れ替えていった。 「や、やっぱりはずかしいっぺぇ…」 ベッドに場所をうつして、バスタオルのまま横たわるのうかりんの上に、パンツ一丁の俺がのしかかる。 のうかりんはさっきから羞恥に顔をトマトのように赤くして、両手の平で顔を覆っていた。 「脱がすよ…」 宣言してから、俺はバスタオルの端に手をかけて、少しだけ引っ張る。 すると胸元の布が、胸の弾力に弾かれて、ブルン!と勢いよくおおきなおっぱいが顔を出した。 「でけぇっ」 「う~!」 失礼かどうかなどお構いなしに、俺は思った通りのことを口にしてしまっていた。 男の俺の手のひらでも、とても隠すことのできないような大きな二つの果実が、のうかりんの胸にたわわに実っていた。 俺は残りのバスタオルを取ることも忘れて、夢中でそれに手を伸ばしてしまう。 「ひゃあ!」 触れた瞬間に、のうかりんが可愛い悲鳴を上げる。 「あ、いたかった?」 なにぶん、女性の胸に触れるのは初めてなので、勝手がわからない。 俺は壊れ物にさわるように、慎重にのうかりんの胸に指を沈めていった。 「い、いたくねぇけんども、自分以外にさわられたことなんてっ…ねっから…あぅぅ!」 しっかりとした弾力があるのに、どこまでも指が沈んでしまいそうなほど柔らかな乳房をわれを忘れてもみしだく。 のうかりんは俺の指でぐにゃぐにゃと歪むおっぱいを見つめながら、時折甘い声を出した。 揉みこむ手に力を入れていくと、だんだんと先端の乳首が固くなっていくのが分かった。 すると、今まで限界かと思っていたのうかりんの頬の赤身も、徐々に増していった。 「ぅうぅ…いやだぁ…そんなやらしいさわりかた…っ…ふぁぁ!」 感じているのだろう、のうかりんの声のトーンが少し上がっている。 猫耳も、俺の手の動きに合わせて時折ピクンピクンと動いていた。 きっと気持よくなってもらえてるんだろう、俺はそう信じて、次のステップに進むことにした。 俺はのうかりんの体に残っていたバスタオルを、勢いよくはがしてしまう。 「ひゃっ!」 のうかりんは、俺の突然の行動にハッと我に返って、両手で股間を押さえて、両脚をぴったりと閉じてしまう。 「おいおい、隠さないでくれよ」 「だってぇ…はずかしぃだ…」 恥ずかしさで今にも泣き出してしまいそうなのうかりんの潤んだ瞳に、ついつい嗜虐心がくすぐられてしまう。 「のうかりんが可愛いから、俺、もう我慢出来なくなっちゃったよ」 俺はわざと身体を起こして、のうかりんの目の前に股間を突き出す。 立派なテントが張ったパンツの頂点は、先走り液でお漏らししたかのようにシミが出来てしまっていた。 のうかりんの鼻先で、わざとゆっくりと見せつけるように、パンツを脱ぐ。 パンツのゴムに引っ掛かって、ぶるんっ!と勢いよく剛直が飛び出した。 「わぁぁ…」 のうかりんの視線が、俺の先端に釘付けになる。 「ぺにぺにって、こんなにでっけぇだかぁ、オラぁ初めて見ただぁ」 のうかりんは鼻先に突きつけられたそれを、じろじろと見つめ、匂いをクンクンと嗅いだりしている。 「なんだかすけべな匂いがするっぺぇ…なんだかムズムズするだぁ」 このまま俺の一物をのうかりんの興味に任せて観察してもらうのもそれはそれでアリかとおもったが、 俺の今の興味の一番は、やはりのうかりんの秘密の花園だった。 「ほら、俺も脱いだから、のうかりんのも、見せてくれよ」 「うぅ~…しかたねぇなぁ」 俺が再びのうかりんの股の間に身体を持って行って、のうかりんの堅く閉じた膝に手を乗せ、ゆっくりとこじ開ける。 相変わらず手は中心に添えられたままだったが、観念したのか、のうかりんはすんなりと股を開いてくれた。 むっちりとした太ももの間に、のうかりんの両手だけが秘所を覆い隠している。 「手、どけて」 「もう、どこ見ていってるだ、おめさやっぱ、すけべーだ」 ついついのうかりんの股間を見ながらそう言ってしまう俺を、のうかりんはおかしそうに笑って、ふわりと両手をそこから離した。 「おぉぉ…」 俺は思わず感嘆の声を漏らしてしまう。 手をどけた瞬間、むわっと香る甘ったるい匂いとともに現れたそこは、まさに女体の神秘そのものであった。 本物の人間の女性器を生で見たことはないが、きっとほぼ同じなのだろう、いや、そんなことはどうでもいい。 俺はただただ、のうかりんのきれいな無毛の秘所に目をくぎ付けにされてしまっていた。 「あんまりみないでけれっていってるべ!」 のうかりんが恥ずかしさにふとももを閉じると、俺の頭はのうかりんの柔らかな腿の間にがっちりと挟まれてしまう。 その勢いで、俺の目の前にのうかりんの秘裂がつきつけられる。 甘ったるい匂いがより濃厚に俺の鼻腔をくすぐった。 胸を揉んだときの快感からだろうか、そこはすでにしっとりと湿っていて、 ぴったりと閉じた肉厚の壁の向こうは、時折ひくひくと戦慄いてまるで俺を誘っているかのようだ。 がっちりと頭を固定されてしまった俺は、そのまま舌をのばしてのうかりんのワレメをべろりとなめあげた。 「ひゃあぁあ!!?」 この体制まで持って行って、この行動が来ることを予想していなかったのだろうか、のうかりんが素っ頓狂な声を上げる。 驚いたのうかりんの太ももに再びぐっと力がはいり、俺の側頭部がグイグイと絞めつけられるが、 俺は構わずべろべろとのうかりんの秘所を舐めまわし続けた。 「ひゃぁあ!やめれぇ!このすけべえぇ!」 感じているのかくすぐったいのか、声だけでは分からなかったが、 なめあげるたびに甘い蜜が俺の舌に絡みつき、ビクビクと太ももが俺の頭を絞めつけてくる。 のうかりんは俺の頭に手を置いて、俺を引き離そうと力を入れているつもりらしいが、もはやその手にもほとんど力は入っていなかった。 目を閉じ、舌で秘裂を押し開いて、舌先をゆっくりとのうかりんの中にさしこんでいく。 「~~~~!!!」 舌の感覚だけを頼りに、ほんのり甘い味のするのうかりんの膣内を掘り進み、 感触を味わっていると、突然のうかりんが声にならない叫びをあげた。 その瞬間、どろりとした濃厚な汁と少しさらさらとした液体が奥からあふれてきて、 俺の舌が膣壁にぎゅっと押しつぶされ、圧力で外に押し出されてしまった。 続けざまに、俺の顔面にぴゅっ!と勢いよく、粘度の少ない液体がのうかりんの秘所からふきかけられる。 これが言わゆる潮吹きというやつだろうか。 俺がのうかりんをイカせた満足感に浸っていると、俺の頭に乗っていた手が、ぽこぽこと俺を叩き始めた。 「なにするだぁぁこのえろがっぱぁ、はずかしくてしんじまうべやぁぁ」 のうかりんの太ももにつかまっている頭をひっぱり起こして顔をあげると、のうかりんの顔はこれ以上ないほどに赤く染まり、 快感からか、目は潤み、息も絶え絶えになっていて、口の端からは細い涎の雫が伝っていた。 「のうかりん、俺、もう我慢できないよ」 触れなくても射精してしまいそうなくらいパンパンに張りつめたペニスを、舌で絶頂してほぐれたのうかりんのまむまむにあてがう。 そのまま腰を押しつけようとすると、のうかりんが突然俺を制止した。 「ま、まってけれ!」 その言葉にいったん腰を止めて、のうかりんの顔を見つめる。 恐らく今俺は情けない顔をしてしまっているかもしれない、それくらい我慢の限界に来ていたのだ。 今はただただ思いきりのうかりんとえろいことがしたい! もう切なさで胸が張り裂けそうだった。 のうかりんはそんな俺をよそに、俺から視線をそらして、モジモジとしている。 「こ…こんなオラでも、一応女だぁ…だから、初めての前に…その…」 もごもごと口を動かしながら、チラチラとこちらを見てくる。 もうセックスのことしか考えられない状態にあった俺は、それを非常にもどかしく感じてしまった。 「な、なんだよ」 「うぅぅ…」 ついつい冷たい態度になってしまう俺に、のうかりんは涙をためて泣きそうな顔になってしまう。 ピンと立っていた猫耳も、しゅんと垂れてしまっていた。 「ご、ごめん、そんなつもりじゃ…」 「……して……」 のうかりんがボソボソと何かをつぶやいた。 「え?」 俺はそれを聞きとることができなくて、思わず聞き返してしまう。 俯いたままではあるが、今度ははっきりと口を動かしてのうかりんが答えた。 「ちゅー…してほしいっぺ…」 ドキリと俺の胸がときめく。 「そうだよな、ごめん」 俺は精一杯の気持ちをこめて、頬に手を添えて俯いたのうかりんの顔をあげ、口付けを交わす。 「んぅっ…」 のうかりんの眼尻から、ほろりと涙が一粒こぼれ落ちた。 そうさ、たとえゆっくりだって、女の子だよな。 さっきまで、無意識とはいえ、結局のうかりんのことを性欲のはけ口として見てしまっていた自分に嫌気がさしてくる。 ちゅっ、ちゅっと音を立ててお互いの唇を吸い、ゆっくりと舌を絡めていく。 人間の舌より少し大きな、柔らかいのうかりんの舌に包まれて、俺の獣欲が少しずつピュアなものに変わっていく気がした。 一旦口を離すと、お互いの舌から透明な糸がすっと繋がって、ぷつりと途切れる。 視線を絡ませてから、もう一度無言で唇を重ね合い、俺はゆっくりと腰を進めていった。 「んちゅっ…んぅう…うれひぃ…ら…」 両手でのうかりんのひざ裏を持ち上げ、キスをしながらぐぐっと腰を押しつける。 濡れそぼったのうかりんのそこは、俺の先端を咥えこむと、ゆっくりと俺の物を飲み込んでいった。 ぬるぬるとした媚肉を掻き分けていくと、やがてある地点で、 まだまだ奥があるはずなのに、力をこめないと進めなくなりそうな所があった。 恐らく処女膜だろう。 俺がためらっていると、のうかりんは俺の背中に腕をまわして抱きつき、愛しそうに俺に微笑みかけた。 「おらぁ…ちゅ…いいだよ、おめさの…ん…そのまま…」 言葉の代わりに唇で返事をして、俺はぐっと腰に力を入れて押し進める。 「い…いたっ…」 のうかりんが苦痛の声を上げる。 メリメリと肉の裂ける感触が先端から伝わり、なお腰を押しつけると、 すぐにずるっと勢いよく肉棒全体がのうかりんの奥まで飲みこまれた。 「ひぅっ!」 そしてのうかりんの本当の最奥に、俺の先端がキスをする。 それと当時に、のうかりんの足先がピンと張りつめ、腰がガクガクと揺れ、 まるで搾り上げられるようにぎゅっとペニス全体が膣肉に締め上げられた。 「う…ぐぅぅ!!」 今までの我慢で敏感になり、初めての挿入で未知の快感を味わった俺は、 動くことなくそのままのうかりんの子宮めがけてドクドクと精液を発射してしまった。 「!!はいっぃて…くるだぁぁ…」 のうかりんが熱に浮かされた顔でぼんやりと呟く。 「オラ…おめさに…たねつけされちまってるだよ…」 絶頂の余韻が残ったどこかぼーっとした顔で、 のうかりんは幸せそうに俺のペニスが脈動している自分の下腹部をさすっている。 もうなんだかそれだけで、愛しさがどんどん胸の中からこみあげてきて、 射精したというのに俺の心臓は下半身にどんどん血液を送り、一物は射精前よりもどんどん固くなっていく気がした。 「俺、もっとのうかりんとしたい…いいかな…」 のうかりんの目をまっすぐ見て、俺は素直な気持ちを告白する。 のうかりんはふわりとほほ笑んで、俺のことを優しく抱きしめてくれた。 「いいよ…オラのまむまむ、おめさのぺにぺにせんようだっぺぇ、好きにしてけれ…」 「のうかりん!!」 俺はもうそれからただがむしゃらに、夢中で腰を振りまくった。 部屋には、のうかりんと俺の喘ぎ声と、お互いの腰がぶつかりあう乾いた音と、 性器をこねまわす粘液質な音がハーモニーを奏でていた。 「うあぁああ!きもちいぃだぁああ!おら、おらぁあああ!」 もう何度も膣内射精しているのに、今だ萎えない俺の欲望を一身に受け止め、のうかりんは髪を振り乱しながら悶え続けていた。 「うぅぅ!おううぅぅう!!」 俺はもうのうかりんの身体を貪るだけの獣と化してしまい、うめき声をあげながらただただ性交におぼれていた。 肉棒で突きあげながら、ゆさゆさと揺れるおっぱいの、ピンとたった乳首の片方を口に含み、思いきり吸い上げる。 「ひゃうぅうう!!」 それだけでのうかりんは絶頂を感じ、膣内はぎゅうぎゅうと俺を絞りあげ、 なおも貪欲に精液を吸いだそうと、奥へ奥へと膣肉全体が俺自身を誘い込む。 「のう…か…りんっ!!!」 もう俺の体力も限界に近づいてきていた、これが最後とラストスパートをかけ、 今までよりも早く、より強く性器をこすり合わせる。 もはや焦点が定まっていない目でのうかりんが俺を見つめ、キスをせがむ。 「ん…ちゅぅぅ…いっかい…だけでいいから…あぁっ!!」 喘ぎ混じりに、のうかりんが何やら俺に話しかける。 「ひんっ!”ゆうか”…って…よんで…んぁっ!けれぇ…っ」 俺はその声に応え、のうかりんの”名前”を連呼しながら、腰を激しく打ち付ける。 「ゆうか!!!ゆうかぁああ!!」 「あぁああぁ!!んんんんぅうぅ!うれしいだぁ!!!」 いつの間にか、ゆうかも腰をゆさゆさと前後左右に揺らしていた。 俺達はお互いを攻め立て、絶頂への階段を二人で猛スピードで駆け上がっていった。 「いぐぅうう!おらぁ、いぐ!いっぢまうだぁあああ!!」 「俺もイク!ぅうぉあっぁあああ!!」 噛みつくような勢いで、ぶつかり合うようなキスをする。 お互いを抱きしめあい、口内をむさぼり、性器を打ちつけ合いながら、俺達の間にビリビリと電撃がスパークした。 そして、最高の幸せをかみしめながら俺達は二人同時に意識を真白な世界にはじけ飛ばした。 ------------------------------------- トントントン… 何かを叩く小気味いい音と、鼻をくすぐるイイ匂いで、俺は目が覚めた。 「ん…うわっ」 俺が寝ていたベッドは、さっきの情事の汗やら汁やらでぐちょぐちょになってしまっていて、体に張り付いて不快極まりない。 さすがに煩悩を全部天国に置いてきてしまったらしく、 さっきの行為を思い出しても、胸は暖かくなるが、もう股間はピクリとも動かなかった。 音のする方を見てみると、服を着たゆうかが、お尻を揺らしながらキッチンに立っていた。 「おきたかぁ、はらぁへったべ、めしにするべ」 「あ、あぁ、その前にシャワー浴びてくる」 俺は下敷きになっているシーツをひきはがして洗濯機に放り込み、 ベタベタカピカピになった身体を急いでシャワーで洗い流した。 「ふぃー、さっぱり」 パンツ一丁でゆうかの前に出ていくと、さっきまであんなに愛し合ったというのに、ゆうかは頬を染めて視線をそらしてしまう。 「も、もう、なんてかっこしてるっぺよぉ、ちゃんと服きれ」 俺が素直にシャツとズボンを身につけていると、食卓に次々とおかずが並んでいく。 俺の部屋にある最低限の調味料や食材で作ったのだろうか、 それにしても見た目も鮮やかで、見ているだけで食欲が湧いてくるようだった。 『いただきます』 二人同時に手を合わせ、感謝の言葉を述べてから箸に手をつける。 程よく味のしみたイモの煮付けを口に入れてから、ご飯を食べると、 これまたふっくらと炊けていて、口の中で絶妙なハーモニーが奏でられる。 「うまいよ、ゆうか」 俺が正直に感想を述べると、なぜかゆうかは顔をぼっと赤らめて俯いてしまう。 頭の上の猫耳も、なぜだかピクピクと動いていた。 「や、やっぱり、のうかりんでいいだ…」 「どうして?」 「はずかしいだぁ…」 ゆうかは頬に手を当てて、真赤な顔を隠そうとする。 「じゃあ、のうかりんで」 俺がそういうと、ちょっぴりさみしそうな顔をしてから、顔を上げる。 きっと本人にそんなつもりはないんだろうけど、本当の気持ちとは裏腹のことを言っているのはあきらかである。 ここは紳士の俺が優しく手を差し伸べてあげるところだろう。 「じゃあ、えっちの時はゆうかってよぶよ」 「すけべぇ!」 のうかりんはキッ!とこちらを睨みつけてから、クスクスと笑い出してしまう。 俺もそれにつられて、声を出して笑った。 これからもこんな幸せが続くのかと、期待に胸が膨らんでいく思いだ。 ------------------------------------- ペロンペロンペロン♪ 「おぃしぃおやさい、はやぐおおきくなれよぉ~♪」 のうかりんとの出会いから、数か月、今は夏真っ盛り。 俺達はあれから、お互いのことを理解し合うため、たくさんの時間を共に過ごした。 暇を見つけては会話を楽しみ、休日にはデートをし、もちろん頻繁に身体も重ねていた。 最近ののうかりんのマイブームは、窓の下に設けた『ミニ家庭菜園』を育てることだ。 ギターが趣味らしいのうかりんに、出会いの記念にとプレゼントしたウクレレを演奏しながら、 鼻歌交じりにのうかりんが野菜たちに語りかけている。 不思議なことに、それだけで小規模の鉢植えで育った野菜とは思えないほど、 おいしくなり、かつ普通では考えられない速度で実がなっていくのだ。 これもゆっくりの不思議な力というやつだろうか、とりあえず俺はのうかりんの愛のパワーということで納得しているが。 「ん~、今日もいい天気だべなぁ」 窓の外を見つめながら、のうかりんがつぶやく。 「今日の昼飯はなんにすっぺ」 演奏を終え、のうかりんがゆっくりとふりむいた。 「俺はゆうかが食べたいかな…」 「またそんなことばいってぇ、おめさの頭にはすけべしかはいってないんだべか」 口ではそう言いながらも、のうかりんはクスクスと笑っている。 このやり取りもいつものことだ、俺達の距離は以前よりぐっと近づき、 今では恋人同士のようにイチャイチャしながら日々を面白おかしく過ごしている。 「こんなに天気がいいんだぁ、買い物つきあってけれ」 「もちろん、いいよ」 のうかりんはそういって、身支度を始める。 リボンのついた麦藁帽子、これも俺がプレゼントしたものだ。 それを被ると、のうかりんの頭の猫耳が、麦藁帽子についた穴からぴょんと飛び出す。 やはり折角の猫耳は主張するべきであると思う、俺自身もこの麦藁帽子を痛く気に入っていた。 「それじゃ、いくべ!」 のうかりんの伸ばした手を、優しくつかむ。 するとのうかりんは、ふわりとこちらに近づき、耳元で 「すけべは、メシのあとに…な」 と呟いた。 見た目お姉さんののうかりんは、時々こういうドキッとさせられる発言をする。 さっきの言葉は訂正しよう、恋人同士、というよりは、俺はもうすっかりのうかりんの尻に敷かれてしまっているのかもしれない。 その一言だけで、こんなにも嬉しくなって地に足付かなくなってしまう自分がいるのだ。 思わずニヤけてしまう頬をさすりながら、俺はのうかりんと連れだって買いものに出かけた。 のうかりんと昼と晩の食材を選び、おいしい手料理を食べて、そのあとは… こんな毎日がいつまでも続くといいな。 買い物帰りの道を、二人で手をつないでゆっくりと歩く。 「なぁゆうか」 「ん…なんだぁ?」 「スキだよ…」 「………」 俺の手が、ぎゅっと強く握り返された。 「オラもおめさのこと、だぁいすきだぁ」 おしまい ------------------------------------- どうも御無沙汰しております、ばや汁です。 いや、投稿ペース自体はそんなに変わっていないようなきもするんですが… 前回投稿したのが約6日前なのに、どぼちでこんなにながされてるのぉおお!? これが夏休み効果というやつでしょうか。 今回はプレミアムすっきりドールゆうかにゃんということで え…?ゆうかにゃんじゃないじゃないかって? ゆうかにゃんにきまってるでしょぉおぉおお!!? あ、や、やめて、あき缶とか投げないでください、暴力はイケナイッ いや、本当にすみません、思いついたら止まらなくなってしまって。 自分は標準語圏なので、正直方言というか、訛りみたいなのをうまく表現できたかと言われると、正直微妙ですが。 情熱を傾けて書きました、訛りのあるお姉さんといちゃいちゃしたいよぅ… 本当はオマケもつけたかったんですが、気づいたらなぜか40KB制限に引っ掛かりそうになってしまったので、 ここまでとさせていただきます。 機会があれば、ほかのSSの後ろにでも挿入しようかと思います。 ばや汁でした。 いつも多数のご意見ご感想ありがとうございます! この作品へのご意見ご感想も、どうぞお気軽にお寄せください。 個人用感想スレ http //jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/13854/1278473059/ 今までの作品 anko1748 かみさま anko1830-1831 とくべつ anko1837 ぼくのかわいいれいむちゃん anko1847 しろくろ anko1869 ぬくもり anko1896 いぢめて anko1906 どうぐ・おかえし anko1911 さくや・いぢめて おまけ anko1915 ゆなほ anko1939 たなばた anko1943 わけあり anko1959 続ゆなほ anko1965 わたしは anko1983 はこ anko2001 でぃーおー anko2007 ゆんりつせん anko2023 あるむれ 餡小話では消されてしまった作品も多数ありますので、過去作を読みたいなと思っていただけた方は ふたば ゆっくりいじめSS保管庫ミラー http //www26.atwiki.jp/ankoss/ をご活用ください。
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「えっと、リビングに二人を呼んだ理由なんだけど――」 リビングにあるダイニングテーブルで、向かいの椅子に女子二人を座らせて、僕は切り出した。 「分かったわ。今から三人でベッ――」 「住倉さんは黙ってて」 「ふふ、言うようになったわね。お母さん、嬉しい」 ほろりと泣き真似する住倉さんの扱いには徐々に慣れていくとして、当面必要なことをひとまず決めていくことにした。 と言っても、ホントに喫緊の問題だけだけど。 「掃除、食事の用意……どっちか得意なもの、ある?」 「得意ではないの、ごめんなさい」 「得意じゃないわ」 二人とも即座に、それもハモって答えた。何でこんな時だけ息があってるんだろ、二人とも。 っていうか、最初から聞かれること最初から分かってたんじゃないかなと思うほどの反応の良さに、僕は呆れよりも先に笑いが出掛けて、何とか留めることに成功する。 「少なくとも食事の用意は、ややかにはさせない方が良いわね。命に関わるわ」 「酷い。お茶目心で塩と砂糖をわざと間違えているのに」 普段の生活にお茶目心なんか要らないと答え掛けて、これは住倉さんの罠に掛かっていることに気づく。 「それに砂糖と塩を間違えただけで命には関わらないのではなくて?」 「毎日そんな食事ばかりしてたら、すぐにまいるって意味」 「あー、確かにそうかも」 っていうか、そこまで酷かったら僕が料理担当無理にでも変えさせてるかも。 「じゃ、じゃあ僕がその辺りは担当するから、えーっと……」 後は掃除―― 「洗濯くらいはやっても良いわよ?」 珍しく。 本当に珍しく、住倉さんが、話の展開を、普通に、実に普通に、進めた。 僕が思わずこうやって区切って言ってしまうくらいに珍奇なのは、もう周知の事実だと思う。 ……でも、どうしても素直にその申し出を受け入れられない自分が居る。 だって、住倉さんだし。 「変なこと考えてないよね?」 「また変なこと企んでるんでしょう」 今度は僕と委員長がハモって、思わず二人で顔を見合わせ、溜息。まあ仕方が無いよね。どう考えたって住倉さんがまともに話を進めようとしてくれることなんて今まで無かったし、性格を考えれば疑ってしまってもおかしくはないと思う。絶対に何かウラがあると。 「二人して心外だわ」大仰に肩を竦めて見せる住倉さんは続けた。「やましいことなど、何も考えてないわ。ただ、学校で疲れて帰ってきたら間違えてあなた達の下着を入れ替えちゃうかもしれないけど」 全然やましくないことなんか無い。というかやましさしかない。ていうか疲れてるのも疲れてないのも全く無関係に、この人なら絶対入れ替える。 「……やっぱり、あたしが洗濯するわ」 頭を軽く押さえて委員長が呟きを漏らす。 「そっちの方がいいかも」 「二人で勝手に話を進めないで欲しいのだけど」 ふくれっ面の住倉さんは、正直その見た目だけなら可愛かった。でもこの状況をわざと作っておいてこれだから、もう笑うしか無い。 なんだか、ホント先が思いやられるね。 「とりあえず、住倉さんはお風呂掃除お願いするよ」 「……何か納得出来ないわ」 「一応、本当の家主が居ない間は僕が家主だから、納得できないなら帰ってもらってもいいんだよ?」 しばらくいつもよりもジトっ気(とでもいうのがいいのかな?)を濃くした目を向けていたけど、僕はそれをかわしつつ、 「じゃあひとまず直近の問題は解決したし、僕は部屋に戻ってるから。また夕飯になったら呼ぶから、それまでは自由行動ということで」 と逃げの一手を打った。 足取り重く部屋に戻った僕は、深々と溜息を吐いて、ベッドに寝転んだ。 正直に言って、この状況は凄くキツい。 今までほとんど喋ったことが無かった委員長と二人暮らしでも先行き不安だったのに、掴みどころのない住倉さんまで迎え入れた共同生活。ちょっと 展開がゲームとかアニメとか、そういう 非常識 が許される場でしか見たことも聞いたこともないものになってる。僕の人生のシナリオを書いた人は、きっと 酷くサディスティックな人なんだろうと思う。そうに違いない。 とりあえず、こんなことになったのは、委員長をうちに呼び寄せた叔父さんのせいだ。なるべく早く叔父さんに状況を説明して、二人が帰らなきゃいけないような状況を作りださなきゃ。 いや、追い出したいわけではないんだけど、やっぱりこの歳の男女三人暮らしはやっぱり、いつどこでどんな問題が起こるか分かったものではないから。 そんな言い訳がましいことを思いながら、いつの間にか意識は沈んでいた、らしい。 らしいっていうのは、その時から委員長に叩き起されるまでの記憶が全く無かったから。
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勘というものは、全面的でなくても一応は信じておくべきだと、後付ながら僕は思った。まあ、信じたらどうにかなった訳でもないと思うんだけど、ね。 リビングの扉を開けてすぐ。既に見慣れてしまった眼鏡姿の女子生徒と共にもう1人、学校では見慣れているけれど、僕の家の中では全く見たことない姿が見えた。 目の前の短めの二つ結びにあれ? と思う前に。 「ちょっと来て」 入ってきた僕の姿を見つけて、ソファーで居心地悪そうにテレビを見ていた委員長が、いかにも怒ってます風の体で僕に近づき、すぐに手を引き、廊下へ競りの前のマグロみたいに引きずるようにして連れだした。 「御免なさい」 「……まだ、何も言ってないのだけど。っていうか自覚あったのね」 溜息と共に、僕の顔にいたずらをやらかした子供を見る目をする。 「そうじゃないんだけど……」 「そうじゃないって、じゃあどういうこと?」 腕組みしながら、眼鏡の奥を釣り上げる委員長はちょっとばかし、恐怖を覚える姿だった。 「聞かれてた、みたい」 みたい、というのは本当にそうだったのか分からないから。でも結果論からして、ほぼ確実にそれが原因だと思う。 細かい説明を省いたせいで、一瞬言葉の意味を取りきれなかったのか、はたまた理解したくなかったのかは分からないけど、数拍の間を置いてから、両手で自分の口を押さえた。 「聞かれてたって……ま、まさか、人の往来があるような場所で私たちの話を……!」 「ち、違うよ! あの……話せば長くなるんだけど……」 今日、帰り際にあったいろいろを掻い摘んで話してみると、なるほど、あの人にはいろんな意味で気を付けるべきだったんだと、後から気づいた。終わったことだから、今更もうどうしようもないんだけど。 黙って聴き終えた後、ショートカットで眼鏡っ娘のクラスメイトかつ同居人の、再三の溜息と共に漏らされた「まあいいわ」は何だかリストラされた サラリーマンじみた諦観に近いものがある気がした、って言ったら多分怒られるから言わないけど、とにかく僕と委員長はもう1人が待つリビングに戻った。 「どうしたの? 秘密のお話?」 「そんなところです」 突慳貪に答えた委員長に苦笑しながら単刀直入、僕は椅子に座っているその人に尋ねた。 「あの、もしかして……あのときの話、やっぱり聞いてました?」 「……はい?」 「あれ? えーっと……?」 「どうしました?」 あれ、まさか気づいてない? ジト目が僕を射ぬく。委員長、でもうちに来る理由なんて、他に無いと思ったんだよ。 いやいや、でも実はそう言いつつ、知らないふりをしているだけ、とか? じっとハテナ顔の目の前の女子生徒を見ても、答えは出てきそうになかったから、とりあえず話を進める。 「で、でも……何故うちに?」 ようやくその話になりましたかあ、と言いたげな破顔で身を乗り出してきた、ミニツインテールの人は堰を切ったように喋る。 「私が来たのは校長先生に会った向井くんが物凄い勢いで話し掛けてたから、きっとみんなにはなかなか言えない秘密があったんだろう、って思ったん ですよ。そしたら、向井くんのお家から見たことがない女の子が出てきてさあ大変。もしかして、もしかすると、もしかしたのかも! と思ってしまって、そこ の彼女……お名前は知らないですけれど、帰ってきたのを見計らって思わずピンポンを押してしまったんですよ」 ……委員長……? ちらりと委員長の方を向いたら、慌ててそっぽを向いた。バレたの、僕のせいじゃなかったんじゃない。 こほん、とその人物は咳払いをしてから答える。 「どういう理由なのかを説明してもらおうと思ったんですが、なかなか教えてくれなくて……困ってました。でも、何となく分かりました」 今までの話の中から、どういう事情が分かるんだろう。曲解してないかな。 えへん、と……こういうのも悪いけど、委員長とか住倉さんと比べてやや控えめな胸を張って。 「でも、年頃の男の子が女の子2人と同居しているというのは、生徒会としても見過ごしておけません。というわけで生徒会長たる、この桜瀬明菜も監視役として、共同生活をさせて頂きます」 条桜院高校、生徒会長桜瀬明菜さんはそう、言い切っちゃった。 「「え、ええー!?」」 当然、僕と委員長は、見事にハモって声を挙げた。 ただでさえ、3人での共同生活に不安を抱かずに居られなかったのに、更に同居人が増えるなんて。 もう今更1人増えても、2人増えても一緒でしょうと思うなかれ。 何と言ってもあの全校生徒の投票率8割オーバーの”あの”生徒会長様。委員長や住倉さんの印象は、ぶっちゃけてしまうと、僕の中では桜瀬さんよ りもよっぽど強いんだけど、周囲の目はそうでもない。そんな桜瀬さんと同居だなんて……もしバレたりしたら、命がいくらあっても足りない。 「大丈夫です。心配はいりません。食事や洗濯、何でも出来ますから、お手間は掛けさせませんよ」 「や、そういう問題じゃなくてですね……」 もうここまで来たら、多分追い返すことなんて出来るわけないと分かっていても、足掻いてみたくなるのが人間というもので。 「ほ、ほら。ご両親とか……心配するでしょう? 委員長の家とか、住倉さんの家はちゃんとご両親の了解を得てるのでいいですが……」 ちょっと嘘吐いた。委員長の家は多分事情を知ってるけど、住倉さんのご両親は海外生活中だから、まだ了解を取ってない。そもそも会ったことがな いから、突然「娘さんと同居させて貰っていますが、いいですよね?」みたいなこと言ったら、海外からジェット機で戻ってくるそのままで家に突っ込まれそ う。 でも、突然娘が家出したらきっと困る。そう、困ってくれないと僕が困る。 だからこそ、そんな話題を出したんだけど。 「ちょっと待ってくださいね」 突然携帯を取り出した生徒会長、桜瀬明菜さんはぴぽぴぽっとキーを押して何処へやらに電話をその場で掛け始めた。 「あ、お母さん?」 どうやら掛けた先は自宅みたいだった。 「お友達に、一人暮らしで凄く困っている子が居てね? 心配だから、しばらくその子のお家に泊まってお世話してあげようと思うんだけど、いいよね?」 巧みにその相手が男であることを隠して喋ってる様子とか、疑問形が「いいかな?」ではなく「いいよね?」という既に同意だけを得るつもり満々な ところとか、やっぱり見た目以上、思っている以上にこの人はやり手なんだと思った。そしてその人に睨まれたカエルである僕は、ヘビ相手なんかとは違った方 向でもう手も足も出ないのだった。 「うん、うんうん。それじゃあ」 ぴっと電話を切って早々「大丈夫でした」と目を><(こんな風に)しながら、親指を立てた。 「あ、うん……はい。分かりました」 同居人、3人目が追加されました。僕、どうなっちゃうんだろう。
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委員長が出て行ってから食器を洗って、日課になっているニュース番組の占いを見る。 「ふたご座は10位かあ」 恋愛運が☆2つ、仕事運が☆1つ、金運が☆2つでラッキーカラーが赤。 「委員長って何座なんだろう」 そういえば委員長のことって全然知らないんだよね。昨日から今日に掛けて少しずつ分かってきてはいるけど。 誕生日くらいは聞いてもいいのかな、なんてことを思いながらテレビの画面に表示されている時間を確認してから消す。 この占いコーナーが終わる時間が8時20分。学校の朝のHRは8時50分からだから、ここから制服に着替えて歯を磨いて……と身支度を整えると大体8時半になってて、そこから学校へ向かうのがルーチンワーク。 身支度を済ませて家を出て鍵を掛けると、後ろから威勢の良い青年の声が聞こえてくる。 「よーう」 振り向くと玄関前の門の陰からひょっこりと顔を出した隆二が居た。 「ああ、隆二。来てたんだ」 「おうとも。今日は久しぶりに早起きしたからな」 「早起きって普通の時間じゃない?」 「俺にとって5分も早く出てくるのは早起き以外のなにものでもねーよ」 確かにいつもならば登校途中で会うことはほとんどないから、早起きの部類に入るのかもしれない。 委員長、早めに出てて正解だったよ。もしこの時間に出て行ってたら隆二と鉢合わせるところだった。 心の中で呟き、僕は隆二と並んで登校経路を歩く。 「この時間ってことは今日も占い見てきたのか?」 「うん」 「占いが別に好きでもないのに見てて楽しいのか?」 「楽しい楽しくないっていうか、生活の一部みたいなものだから。ほら、いつも右足から家を出ると幸せになれるとかいうジンクスなんかがあるよね。あれと同じ」 「良く分からんな」 腕を後頭部辺りで組みながら鞄を持って隆二は言う。2人で並んで歩いていると15センチくらい身長が違うから、私服で遊びに行ってたりするとた まに兄弟と間違えられる。1番酷いときには高校生なのに「小学生の弟さん?」と間違えられたことも。ちょっとというよりかなり複雑。 「占いなんか見てる暇があったら、特撮見ろよ、特撮」 「んー……僕はあまり好きじゃないから」 「なんでだよ! おもしろいじゃねえか、特撮」 鼻息荒く、拳を握って僕の隆二。 「こう、スカッとするんだよな。展開は割とありがちなものが多いけどよ、それでもその王道を通ってくる安心感とカッコよさ。負けても立ち上がる不屈の闘志。そこが特撮の最大の良さだぜ」 もちろんそれだけでもないんだが、と付け加えて再度前を向く。本当に好きなんだなあ、特撮。 ……でも「占いなんか」っていうのはどうかと思うな、やっぱり。 「見たくないなら見なくてもいいが、せっかく朝早くから起きてるんだったらテレビつけっぱなしにしておけばいいじゃねえか」 「あはは。お父さんが行儀悪いから食事中はテレビ点けない方が良いって。お母さんもなんだかんだでお父さんに弱いし」 「お前んとこは両親仲が良くていいよなあ。うちは喧嘩ばっかりだぜ」 「一時期は両親の喧嘩が酷いからって僕のうちに泊まりに来てたもんね」 僕の隣の部屋は、今でこそ倉庫になっているけど昔は隆二の部屋になっていた。大喧嘩の場合は翌日の朝に家へ帰ったりするから、うちでお風呂入るために着替えとかも置いてあったし。 「ああ。さすがにこの年になって親が喧嘩してるからって泊まりにいくわけにもいかないからな。あれが許されるのは小学生までだぜ」 「でもそれだけ喧嘩して離婚しないってことは何だかんだで仲良いんじゃないかな」 「どうだか。特に母さんの方は委員長そっくりでお小言が多すぎんだよ」 突然委員長の名前を出されてびくっと反応する。 「親父もだらしねえが、何かにつけて注意ばっかりする母さんもいけねえや。俺だったらとっくに離婚してるぜ」 「隆二のお父さんのことを考えて注意してるんじゃないかな」 「そうにしたって細かすぎなんだよ。靴下を洗濯機の中で裏返して入れるなとか、タバコは火を消してもゴミ袋の中に入れるなとか」 「靴下を裏返すなっていうのは単に洗濯で裏返したまま洗濯するとあまり綺麗にならないからじゃないかな。後、タバコも消した直後はまだ熱いから発火……するのかは知らないけど、それを防ぐためだと思う」 「とにかくだ!」 声を張って隆二が言う。 「隆二」 「……分かってる。でもそれだけじゃないんだぜ。理不尽なことも言ってる。そりゃ母さんだって父さんが嫌いだからあんなこと言ってるとは思わないけどよ。ちょっと言い過ぎだと思うし、言い方も気をつけるべきだと思う」 「それは……そうだね」 自分で分かってることでも、他人に指摘されると嫌なことだってある。それがコンプレックスになっているようなところだったら尚のこと。だから言 葉は選ばなきゃいけない。だからどんなに大きな喧嘩しても絶対に言っちゃいけないところは言わないんだ……なんてことをお母さんが言ってたっけ。そこをお 互い分かってるから、たまに喧嘩しても別れないんだってことも。 「うちのいいんちょもそうだよなあ。俺が馬鹿なのは仕方が無いとして、それをいちいち馬鹿馬鹿言うなっての。つーかあいつ、俺の名前すら覚えてないんじゃないのか?」 「あはは、かもしれないね」 昨日本人が言ってたけど、全然隆二の名前覚えてなかったよ。心の中でそう答えておく。 「あれは絶対年を取ったら口に小じわが出来まくる、五月蝿い意地悪バアさんにしかならんな」 「意地悪バアさんで悪かったわね」 僕と隆二が慌てて振り返ると、何故か先に家を出て行ったはずの委員長が綺麗な眉を吊り上げ、僕らを睨んでいた。
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「起きなさい!」 「うわあ!」 後から思い出すと、凄く情けない声だと思ったけど、せっかくゆっくり休んでたところを唐突に起こされたら、きっと誰でも多少はこんな声が出てしまうと思う。だから別にこれは僕のせいじゃないんだ。 眠い目を擦りながら僕は昨日干したばかりの布団ごと上半身を起こすと、肩を激しく揺さぶられて一瞬で意識が戻る。 で、鼻先が触れ合うくらいのところに委員長の顔があって、僕はまた「あうあ!」って変な声を出してしまう。 最近思ったんだけど、委員長って冷静なときはもちろん凄く冷静だけど、何か思い込んだりやらなきゃいけないことを見つけたらのめり込んで周りが見えなくなるタイプなのかも。後、あまり僕を男として認識してない気がする。もうちょっと考えて欲しいかな、いろいろと。 ふんわりと、優しい香りがして再び少しだけ呆けていたら、 「向井君!」 「は、はは、はい、御免なさい、御免なさい!」 もう何が何だか分からなくなって、とりあえず謝ってみる。何も悪いことをした覚えはないけど、こんなに掴みかかってくるくらいなんだから、きっと何かしたんだ。 「何で謝ってるの」 「えっと…………なんでだろ」 素直に言うと、むしろ僕の方が「何で?」って聞きたい。「何でそんなに慌ててるの?」って。 僕の、自分で言うのもなんだけど、奇行のお陰か、委員長も一旦は落ち着きを取り戻したようだったけど、それでもまだヤジロベエみたいにふらふら と落ち着きが行ったり来たりしているみたい。肩を怒らせて僕を押し倒す勢いでベッドに膝を立ててきた。っていうか実際、僕は再びベッドで仰向けにならざる を得ないくらいに、委員長は僕に接近していた。 何というか、ここだけ見ると見る人によっては酷く誤解されそう。特に話をややこしくする同居者がこんなタイミングで現れたら―― 「あら。お楽しみタイムだったのかしら。せっかくのところ、お邪魔して悪かったわ。後は若い者に任せて、オバサンは退散……ふふふ」 ――これはきっと「ですよねー」って言うタイミングなのかも。住倉さんならやると思ってた。 「向井くん」 「……何?」 もう僕は覚悟を決め、目を伏せてから委員長の声に耳を傾ける。もうどうにでもしてください。 「ややかをあなたの隣の部屋に移動させて頂戴」 「…………え?」 ビンタとかそういう方法に来るのかと思いきや、全く別方向の申し出に僕は思わず激しく瞬きを繰り返し、それと同時に頭の中にクエスチョンマークを量産し始めた。 どういうことだろう、と頭を巡らせてみるけど分かるはずもなく、そもそもその疑問を確実かつ素早く解決する方法があるんだってことに気づいた。 「あの、どういうこと?」 「とにかく!」 「は、はい!」 疑問、解決ならず。 有無も言わせぬ委員長の言葉に、僕は激しく首を縦に振ってから慌てて部屋を飛び出し、 「……はあ」 僕、何でこんなことになってるんだろう、と委員長から伝染したみたいに溜息を漏らした。 隣の空室に置いてあった家財道具等々を僕の部屋に運び終え、やや不服そうな住倉さんと眉を吊り上げて戻す様子のない委員長の間で肩身の狭い思い をしながら、ひとまず自分の部屋に集めた。というのも、未だに委員長が僕の隣の部屋に無理やり住倉さんを引っ越しさせた理由がさっぱり見えないから。 壁際にいろいろモノを寄せてはみたものの、若干物置のようになりかけている僕の部屋の中心で、昨日委員長と勉強会をしていたテーブルを三人で囲む。委員長がまだ落ち着かないようだったから、ココアとバウムクーヘンを持ってきた。 ココアを一口飲んで、ようやく本当に落ち着きを取り戻したらしい委員長が静かに話し始めた。ここに落ち着くまで、結局30分近く掛かったわけだけど、まあ最終的に事情が聞けるだけ良かったとした方がいいかも。反論して、これ以上話がこじれたら嫌だしね。 と思っていたのに。 「……」 何故か沈黙。 「あ、あの……?」 「…………ちょっと待って。ちゃんと話してあげるから」 何かとてつもなく言いづらそうな様子。それを見て、大抵いつでも助け舟にならない助け舟が現れた。 「トイレに入っている間に、話し掛けられただけでそんなに腹を立てなくても良かったと思うのだけど」 バウムクーヘンの四分の一カットを、せっかく持ってきたフォークを無視しつつ、リスか何かみたいに両手で持ってもさもさ食べてた住倉さんがちらりと横目で委員長を見る。 あー。なんとなく今の言葉だけで、誰が原因なのかは良く分かった。 「あんなところで話し掛けられるなんてこと、普通は無いわ! それも実況中継みたいなこと!」 されたんだ。それはまあ、うん。今の状況も分かるかも。 「ま、まあ、委員長落ち着いて……」 「これが、これが落ち着いていられるわけないでしょ!」 うわ、駄目だ。完全に委員長が壊れてる。 なんだか、住倉さんがさっきの携帯での件を仕返しをしているように見えるけど、多分そうなんだと思う。 「でもトイレで話し掛けられるってどういうこと?」 トイレの扉の前に立ってた、にしては反応がおかしい気がする―― とここまで考えてすぐに「ああ、そっか」と自分で納得してしまった。 二階のトイレの隣は物置。つまりさっきまで住倉さんが住処にしていたところ。 トイレと物置の間の壁は非常に薄いから、僕も経験があるんだけど、トイレに入っているときには物置で何か探しているときにはごそごそと大きな音がする。つまり逆に、物置に居る人はトイレの中の音がほぼ筒抜けになってるってこと。 「理解したようね?」 口角をほんの少し上げる、住倉さん独特の笑い顔。 「うん」素直に答えた。「何となく想像できちゃった」 「想像しないでくれるっ!?」 僕の向かいに座っていた委員長が、ちゃぶ台返しでもするかと思ったくらいに突然上半身を起こしたから、僕はびくりとした。 「はあ……疲れた。とにかくややかは今日から隣の部屋を使いなさい」 「嫌だと言ったら?」 「あなたの親に連絡して、今すぐ引き取りに来てもらうから」 携帯を掲げる委員長。 「ぐっ、卑怯よ」 「分かった?」 「……分かったわ」 相変わらず両親が弱点な住倉さんはなんとか、しぶしぶ、一応頷いた。 そんなこんなをしているうちに夕食の時間。 食べ終わったら、お風呂。で、また委員長が僕の部屋に来て勉強会。住倉さんは僕のベッドの上で、ただ漫画を読んでいただけだったけど。 とにもかくにもようやく一日が終わった。 な、長い一日だった。ほんの二、三日前まで一人暮らしだったのに、何故か、いつの間にか、あれよあれよという間に三人共同生活になってしまったけど、何とか僕は元気です。
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「必要な家具があったら、さっきの部屋から勝手に出していいよ」 「分かったわ」 持って来ていたスポーツバッグを部屋の片隅へ移動させ、中から学校指定の手提げ鞄を取り出す委員長。この中に入れてたんだ。 「……あれ? ってことは学校も一緒に行くの?」 「何で一緒に行かなきゃいけないのよ。私は勝手に学校へいくから、あなたも勝手にして」 振り返ることなく、中の物を出していろんな場所に配置する委員長。 「ん、分かった。着替えとかは?」 「もちろん持って来てるわ。だから箪笥が欲しいわね」 「そっか。それなら特に問題は無いかな。それじゃあ僕は1階に下りてるね」 「待ちなさい」 委員長の部屋を出ようと足を1歩出したところで声を掛けられ、僕はほとんど上半身のみで振り返る。 「どうしたの?」 「勉強、見て欲しいんでしょ。教科書と参考書も持って来てるから今からでも」 「あ、うん。でも夕飯の後でいいかな」 「別に構わないけど、何故?」 頬をかきながら僕は答える。 「お昼ご飯のときに食材使い切っちゃったから、ちょっと買いに行きたいんだ」 このままだと夕食が白いご飯と漬物のみになりそうだから、それは避けたいし。 「分かったわ。じゃあそれまでにどの教科を教わりたいのか考えておいて。私は部屋のレイアウトを考えたりして待ってるから」 「うん。あ、それとお風呂はご飯終わってからでいい?」 「構わないわ」 「了解」 頷いて僕は階段を駆け下りた。 夕食もお風呂も終わって、僕の部屋で勉強会が始まった。委員長の部屋の方が物が無くてすっきりしているけど、女の子の部屋でというのはやはり気が引けて、委員長を自分の部屋に招くことに。 お風呂に入った後も委員長は勉強をするからと普段はTシャツとハーフパンツというラフな格好で居るらしい。寝るときはまた別だって言ってたけど。 「パソコンにテーブル、本棚と箪笥……だけ?」 僕の部屋を物珍しそうに見回してぽつりと漏らす委員長。 「あまり物を置いてても部屋が汚くなるだけだから」 「……高校生とは思えない質素さね」 人差し指を額に当てて頭痛を示すようなポーズの委員長。 「そう?」 「とにかく始めましょう」 数学を教えて欲しいと夕食のときに言っておいたから、委員長は数学に関する本を全部持って来てくれていた。それにしても参考書合わせて……10冊くらい? 「そんなに読んだの?」 「まだ全部は解き終わってないわ。7割くらいってところ」 「それでも十分凄いよ」 満更でも無さそうな表情の委員長はこほんと咳払いして、「何からまずやるの?」と真摯な表情に戻って尋ねてきた。 「まずは学校で出された課題をやろうかな」 「そういえばあなたって課題提出率悪かったわね」 「うん……って、覚えてるのそんなこと?」 「特に提出物悪い人はね。あなたといつも一緒に居るもう1人の男子生徒……名前なんだったかしら。彼も悪かったと思うけど」 「隆二は……うん、まあそうだね」 多分委員長が言ってるのは澤田隆二という僕の友達のことを言ってるんだと思う。隆二は僕以上に成績も提出率も悪いけど、面白くていい奴。 「とにかく私の監視下に居るんだから、提出物が悪いなんてことは許さないわ」 「……お手柔らかにお願いします」 今日出されたのはプリントの課題。全部埋めて来いというものだけど……最初から分からない。 「ごめん、最初から……」 「最初から? ……ってここは高校2年のときにやったわよ」 「2年で?」 「そう。まだ今は新しい教科書始まったばかりだから課題のほとんどは2年のときのものばかりだわ。大問5のみね、新しい授業の内容は。……あなた真面目に授業聞いてたの?」 「あ、あはは」 実を言うとあまり授業は聞いていない、というか聞けていない。特に数学は数字の羅列を見ていると眠くなってくるし、教師の言っていることも良く分からなくてさらに眠気を誘われて……。 「じゃああなた、なんで理系選んだのよ。うちのクラスは理系のはずでしょう?」 「うーん、お父さんが理系だからかな」 「父親の背中を追うってわけ?」 「ちょっと違うけど……1番尊敬できる人がお父さんだから。その人に近づきたいと思うのは自然じゃないのかな」 お父さんの仕事はあちこち飛び回る必要があるから、家の中が疎かになるのが嫌な僕には合わないと思う。それでもやっぱり尊敬する人のやっている仕事には憧れがあるし、それに少しでも近づきたいから数学が苦手でも理系クラスに来た。……ちょっと後悔してるけど。 「それは、そうかもしれないわね」 「もう1つ」 「何?」 「文系科目の方がもっと酷いから、かな」 「…………はあ」 呆れた溜め息を吐かれた。委員長って溜め息吐くこと多いみたい。僕のせいっていうのもあるとは思うけど、それ以上に癖なんだと思う。 「そういえばまた質問なんだけど、委員長は何故こんな時期に来たの? お母さんは確か8日くらいには出掛けていったはずだから、時期考えると随分遅いような……」 「またその話? どうせ質問するなら最初にまとめて考えておきなさい」 「ご、ごめん」 委員長って学校と普段の態度、あまり変わらないんだ。文句言いながらも答えてくれるところとかも。 「昼にも言ったように、派遣する女子には条件が必要だったのよ。いくら学校長と親しいあなたのお母さんから言われたこととはいえ、簡単に頷いてた ら学校長として大問題でしょう? だから条件に当てはまる女子をまず決定して、その後に職員会議で本当にその女子でいいのか検討して……っていうのを繰り 返したそうよ。それでようやく私に決まったってわけ。その間が大体1週間くらい」 「そうだったんだ」 「もうこの話はいいでしょう。今更いろいろ聞いたって何も変わるわけじゃないんだから」 心底疲れたという表情で委員長は答える。確かに委員長としてはただでさえ進学する先とか勉強とかで頭がいっぱいなのに、さらに面倒なことを背負い込むことになったんだから大変だろうなあ。 「そうだね。……あれ、ここはどうだっけ」 2問目は自力で解けたけど、3問目は途中で詰まってしまった。1問目と同じように解けばいいと思ってたのに、なんかちょっと違う……? 「既にそれもやったわ」 「うーん……」 「……見なさい」 頭を押さえながら委員長が自分のノートの端に計算式を書いてくれる。ああ、ここが違ってたんだ。 「ありがとう」 「本当に全然駄目なのね」 「面目ないです……」 って言ってる傍から4問目で手が止まる。 見るに見かねてだと思うけれど、委員長は無言のまま立ち上がって部屋を出て行ってしまった。怒ったのかな、やっぱり。 大問5以外は2年の範囲だって言ってたっけ。 「2年の教科書って何処だったかな」 独り言で気づいた。自分の頭の悪さを自覚していたのに委員長に全部聞いて、自分で調べようとしなかった。もちろん授業のノートも普段取ってないから持って来ていない。今開いているプリントと計算用のメモ用紙のみ。 ……委員長も怒って当然だ。大分前、お母さんに勉強を教えて欲しいって言った時「教わるなら教わる側も最大限の努力をしろ」って言ってたっけ。 「確か全部隣の部屋に束ねて置いちゃったんだ」 眠くなってきたけど、もうちょっと頑張ろう。せめて委員長が起きてきたときに、間違ってるところだけでも教えてもらえるように。
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階段の板を規則正しく踏む音が聞こえてきたと思ったら、すぐに足音の主は現れた。 「おはよう」 「……おはよう。あなた、昨日勉強が終わってすぐに寝たの?」 「うん。すぐに寝たよ。もう眠かったから」 「ということは私と同じくらいに寝たってことよね……」 寝ぼけ眼を擦りながら委員長は言葉を漏らす。 「私にはもう朝ご飯が出来てる気がするのだけど」 「できてるよ?」 「…………」 不満そうというか、不思議そうというか、委員長はいつもよりも目を幾分か細めて僕とテーブルの上の朝食を交互に見た。 「あ、もしかして朝はパンの方が良かった?」 「別に。家ではご飯だったから」 「そっか。それならほらほら、早く座って」 僕は委員長に昨日と同じ、向かい側に座って貰うように言う。まだ小さな欠伸が止まらず、だけどさすがに既に制服に着替えている委員長は操り人形がごとくやおら頷き、椅子に座った。 「いただきます」 「……いただきます」 どうやら委員長は朝が弱いようで、夢にまた片足を突っ込んだままみたい。その瞳もどこか焦点が合わないような様子でいつもよりも随分柔らかな印象を受ける、なんて言ったら怒られるかな。「普段は嵐か何かみたいじゃない」とか。 「……まさか朝起きたら包丁の音が聞こえるなんて生活が体験できるとは思ってもみなかったわ」 「あれ、普段は委員長って朝ご飯どうしてるの?」 「私が全部作ってるわ。母は朝が弱いし、父と妹はからっきし家事は駄目だから」 「そうなんだ。……あれ? それじゃあ今、委員長の家は誰が料理してるの?」 「知らないわね。多分それぞれ勝手に食べてるんじゃないかしら」 「……いいのかな」 「構わないわよ。うちのことは気にしないで」 なんだか素っ気無いけれども、味噌汁の椀を傾けてほうっと溜め息を吐いている委員長はなんだか本当にいつもの委員長とは全く雰囲気が違う。何か 別の人に乗り移られたんじゃないかっていうくらいに。どっちの方がいいかと言うと……どっちも委員長なのには変わりないから別にどちらとも言えないかな。 焼き鮭を突付いていると、夢遊病にでも掛かったかのようにふらふらと立ち上がって台所へ向かう委員長。 「どうしたの?」 「飲み物が欲しいわ」 「麦茶でもいい?」 「ええ」 「じゃあ座ってて。持ってくるから」 委員長は素直に頷いて再び椅子に座った。好きなように家のものを使っても構わないんだけど、今の委員長の状態はぼんやりしすぎていてちょっと危ないから、もしかすると間違えて醤油を持ってきたりしそうだ。 僕が冷蔵庫を開けて麦茶を作ったボトルを取り出した直後に、突然椅子をひっくり返しそうにしながら委員長が立ち上がった。なんか昨日もそんなことあったような。 「し、7時40分!?」 「え?」 「もう出ないと間に合わないわ!」 さっきまで夢と現実のどちらもの住人だったとは思えない勢いでリビングを出ようとする委員長に、僕は思わず麦茶の入ったお茶のケースを持ったまま目を点にして委員長を見ていたけど、 「待って!」 なんとか我に返った僕は慌てて引き止める。 「何?」 「委員長ってバス通学だったよね」 「そうだけど」 部屋の扉を掴んだまま、眉を1センチほど吊り上げて「早くして」との意思表示。その委員長を落ち着けるためにゆっくりと喋る。 「委員長の家からだともう出なきゃいけないかもしれないけど、ここは僕の家だよ」 「………………あ」 十分長い空白の後、呆気にとられた声で委員長が呟く。 「……不覚だったわ」 もう見慣れた溜め息を吐く姿を見せてから、ゆるゆると歩いて席に座りなおす委員長。なんというか、昨日から普段見れない委員長の姿が見れて面白いかな。お母さんや叔父さんには感謝しないといけないのかも。もちろん口が裂けてもそんなこと言えないけど。 「うちからだと徒歩でも10分も掛からないから、いつも8時30分くらいに出ると丁度いいくらいなんだ」 「確かに学校から近かったわね。徒歩で10分足らず、便利だわ」 「うん」 さっきまでの儚げな雰囲気とは打って変わって、完全に目を覚ましたもののどっと疲れた様子の委員長は僕が持ってきた麦茶を一気に飲み干した。 「ふう。朝からこんなにバタバタしたのも久しぶり」 「そうなんだ」 委員長の朝の様子って……なんか想像つかないな。両親も凄く真面目な人で委員長とさっき妹さんが居るって言ってたから4人とも無言で朝ご飯を食 べないと怒られそうな気がする。そうすると確かにこんなにバタバタすることなんて無さそう。学校でも全くそんな姿見たことが無いし。 朝ご飯を再開してすぐに委員長がお味噌汁をじっと見つめた。 「お味噌汁、赤なのね」 「白か合わせの方が良かった?」 「ううん、そうじゃなくて。うちは誰も味噌とか気にしないから、そのときそのときに安いもので済ませちゃうの。たまたま味噌が切れたときに白とか合わせが安くなってたから、このところ赤は全然飲んでなかったの」 「うちのお母さんは赤じゃなきゃ味噌汁じゃない! って言うからいつも赤なんだ。白はちょっと甘口だから好きじゃないんだって」 「分からないでもないけど、少し言い過ぎかしらね」 「うん、僕もそう思う」 こんな会話をしながら食事をするのも久しぶりな気がする。と言ってもまだ2週間くらいのはずだけど。お母さんは朝からでも良く喋ったから、ちょっとだけでも長く感じるのかもしれない。 「ごちそうさま」 「お粗末さまでした。食器はシンクの中に置いといてくれれば僕が洗うから」 「分かったわ」 委員長は割と遅めの僕よりもさらに遅いペースで食べていたから、時計を見ると8時をほんの少しだけ越した時間になっていた。 「私はそろそろ行くわね」 「早いね」 「この時間ならまだ学校の生徒の登校時間ではないから。人が増えれば増えるほど、見つかる可能性が高くなるし」 「あ、そういえばそうだね」 「……あなたは気楽でいいわね」 委員長、今日既に2回目の溜め息。 とんとんと規則正しい階段を上る音とすぐに取って返すように同じリズムで下りてくる音。多分鞄を取りに行ったんだと思う。 食器を洗おうと台所へ向かうと、足音はそのまま玄関の方へ向かったから、僕は慌てて玄関まで行く。 靴の爪先で玄関を打ちながら委員長が振り返って僕を見た。 「何? あなたも行くの?」 「ううん、そうじゃなくて」 委員長の家がどうかは知らないけど、うちは必ずお母さんがこうしていた。だから僕もしておこうと思う。 「いってらっしゃい」 呆けたような表情でしばらく僕を見ていた委員長は、いつもの溜め息とは違って、笑ったように息を吐いてから、 「いってきます」 扉を開けて出ていった。
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6限、帰りのホームルームまで、平穏かどうかは分からないけれどとにかく終わって、無事に全日程が終了した。 「どっか寄ってくか?」 「うーん……やめておくよ」 「お前小遣い少ないしなあ。おばさんとかに強請ればいいと思うぜ」 「別に少ないとは思ったこと無いよ。小学校のときは学年掛ける100円だったし」 掛ける言葉も無い、とでも言ってるかのように額に手をやった隆二は僕を呆れたような目で見る。 「ま、お前が良いなら良いんだけどだがよ。ま、帰ろうぜ」 「うん」 先に出た隆二を追いかけるような形で僕が外へ出ると、 「痛っ」 誰かとぶつかり、僕は受身も取れずに後ろにひっくり返った。最初から受身なんて練習してないけど。 「あたた……ごめんなさい」 「……」 僕を見下ろしていたのは、日焼けして褐色の肌と女性らしいかなりのプロポーションを持った、鋭い目つきの女子生徒だった。髪は腰元くらいまで綺麗に伸びた黒髪で、束ねるでもなくただそのまま垂らしてある。 謝罪するでもなく、非難するでもなく、倒れた僕を頭の先から上履きまで睥睨してから、時間が惜しいとでもいうかのように女子生徒はつかつかと歩いていってしまった。 「おい、大丈夫か誠一」 「特に怪我とかはしてないから、全然問題は無いよ。……それにしても彼女、何であんなに僕をじろじろ見てたんだろ」 「さあな。でもあれ、うちんところの委員長の妹だぜ」 「え?」 確かに委員長は妹が居るって言ってた気がするけど、目の鋭さ以外は(こういうと委員長は怒るだろうけど)あまり似ていないと思う。 「水泳部ではかなり有望な選手らしくてな。彼氏も水泳部の大会で手に入れたとか聞いたな」 度々デート中が目撃されているらしい、と付け加える隆二。 「そうなんだ」 委員長の妹さんってことは委員長がうちに来ているってことは知ってるはずだろうし、もしかして僕を見に来たとか? 「ま、大丈夫ならそれでいい。帰ろうぜ」 「うん」 僕たちは階段を降り、学校の校門前まで出ると軽く手を上げて別れた。駅前に行くには僕の家の方向とは逆になるから。 隆二を見送って僕は深々と溜め息を吐く。 ようやく1日、というか学校が終わった。本当はお小遣いが足りない、というよりも最大の問題は委員長に鍵を返してもらっているから、僕がいつま でも帰らないとまた委員長が家に入れないことだったりする。明日から勝手口だけでも鍵を開けておこうかな。それよりもお父さんにお願いして、家の鍵を作っ てもらおうか。新しく鍵を作ってもらうにしてもマスターキーが無ければ作れないはずだから、お父さんに電話してお願いするしかないかな。 なんだか今日はいろいろ疲れたなあ、と溜め息混じりに歩いていると家の前に、うちの学校の女子が倒れているのが見える。 「……って倒れてる!?」 冷静に状況を分析している状況じゃない! 「だ、大丈夫ですか?」 慌てて駆け寄ると、肩まで伸ばしたストレートヘアの隙間から僕をじっと見る目が。 「……住倉さん、何してるんですか」 「お腹、減った」 「お腹?」 「そう。お腹が減ったの」 「……分かりました。じゃあ家に――」 って駄目だ。まだ委員長は帰ってきていないけど、帰ってきたらまずいことになる。 「入っていいのね」 「あ、あの、何処か別のところで、」 「無理。もう動けない」 「今ちょっと家散らかってるから……」 「構わないから」 有無も言わさぬその勢いに呑まれ、僕は頷いた。 「食べるものだけ、ですよ」 「ええ、十分だわね」 手を引いて住倉さんに立ってもらって、僕は先に鍵を開ける。自分で土埃を取った住倉さんはおとなしく僕の後に家に入ってきた。 ……リビングには特に何も物、置いてなかったっけ? 「ちょっと待ってて。リビングを軽く片付けてくるから」 「構わないわ」 「僕が構うから、ね」 「そう。あなたが構うなら仕方が無いわね」 頷いた住倉さんをそこに残して僕はリビングに入り、鞄をソファの傍に置いて辺りを見回す。委員長のものは……ここには無さそう。台所の中も調べ てみるけど、こちらもこちらで委員長に繋がるものは何も無い。委員長用の茶碗とか箸はまだ用意してないしね。これならばれないと思う。 「お待たせ、住倉さ……あれ?」 居ない。さっきまで玄関で座っていた住倉さんが、居ない。 直後、トイレの水を流す音が聞こえてきて、トイレの扉が開くと同時に手をハンカチで拭きながら住倉さんがいつもの眠そうな瞳のまま現れた。 「住倉さん! びっくりしたよ、突然居なくなるから」 「生理現象は仕方が無いの」 「……ま、まあ、そうだね。じゃあこっちに」 「ええ」 家の中を探されたのかと思ったけど、そうじゃなかったようで一安心。やっぱり何を考えているのか、良く分からない人だと思う。 「綺麗じゃない」 「慌てて片付けたからね」 「その割には埃、ほとんど無いわね」 言って電話が置いてある台に指を走らせてから答える。う、なんというか、鋭い。 あまりこの辺りは詮索されたくないから、僕は早めに話を本題に切り替える。 「えっと、何が良い? すぐに食べられるものならお菓子がいくつかあるけど」 「甘いものがいいわ。それと牛乳」 お菓子が入った籠の中を探すとピーナッツ入りのブロックチョコレートがあった。というか甘いのはこれくらい。 「チョコレートがあるけど、ピーナッツが入ってる。それでもいい?」 「ええ、もちろん」 お菓子が入っている籠からチョコレートを出して、牛乳をガラスのコップに注ぐ。 「はい、どうぞ」 「ありがとう」 徐にそれを受け取って、封を切る。僕はその姿をじっと見ているわけにもいかないし、委員長が突然帰ってきても困るしで、内心かなり焦っていた。 委員長の電話番号かメールアドレスくらい聞いておけば良かったかな。そうしたらもうちょっとどこかで時間を潰してきて、とか連絡できたのに。
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「……」 「うわ、無言で携帯取り出すのやめて!」 「……ふふ」 スカートのポケットから取り出した赤い角ばった携帯をチラつかせながら住倉さんは不敵な笑みを漏らす。そんな強攻策に出るとは思わなかった……こともない。なんたって住倉さんだし。 「もし駄目というなら私の友達全員にメールを送るわ」 「ぐっ……」 結局は学校側の都合だったというのに、何で僕がこれほどまでに追い詰められなきゃいけないんだろう。委員長もとばっちりだし。元々はうちのお父さんとお母さんのせいなんだよね、よく考えると。後で連絡しなきゃ。 それはそれとして、今のこの状況はどうしよう、どうすべきなんだろう。 教師側は既に全員知ってて緘口令が敷かれているから周りに漏れてきていないんだろうけど、生徒にまで緘口令を敷くことは学校側もできないはず。 つまり誰かに知られたら、色水をコップの水に落としたかように拡散する。インターネットの発達は必ずしも良い結果を生まないという好事例かもしれない、と 思う。 「……分かった。住んでも良いよ」 奇怪な思考パターンを持つ住倉さんをなだめすかす方法はこの結論以外に無い、かな。 「美少女が新たに住むのに『良いよ』は無いと思うのだけど?」 「美少女であるかどうかよりも、同居人として負担になる人かならない人かの方が僕にとっては大事なんだよ」 「つまりあなたの平穏を掻き乱すようなことをすればいいのね」 「…………」 「冗談よ」 住倉さんが言うと全くギャグには聞こえないんだけど。さらっと自分のことを美少女と言っていたところにも突っ込もうかと思ったけど、やめた。確 かに変わった部分だけを除けて見れば、十分に他称で美少女と付けられてもおかしくない。それくらいの人ではある。あるけど、やはり何を考えているのか全く 分からないから、その呼称には誰もが頷くであろう顕著な違和感がある。 ツンとした表情の住倉さんは残っていた牛乳を喉も鳴らさず飲み干した。 「じゃあ交渉成立。報酬は……そうね。私の体で払うわ」 「……」 「ギャグはちゃんと突っ込んでもらわないと困るのだけど」 「それを僕に求められるのも困るかな」 「くす。いいわ、その反応。あなたとは合いそうね」 「僕はそう思わないけど」 「あなたも変わっているから」 「住倉さんに言われたら終わりだよ」 「さらりとそういう酷いことを言える辺りとかも、私譲りだわ」 「いつから僕は住倉さんの息子になったの」 「こう見えて私はもう三十路前なのよ」 「29歳と考えても、僕を13歳で産んだことになるんだけど」 「確か『14才の母』だったかしら。そんなドラマがあったくらいなんだから不思議ではないわ。海外では5歳半の少女が出産したという事例がある わ。極々稀なことではあるわね、もちろん。でも初経が始まった後なら妊娠することなんて別段不思議なことでも無い。だから13歳の頃に産んでいても全く不 思議ではないわね。でも不満なら……そう、あなたの可愛い妹になってあげる」 「自分の家の前で寝そべって、人の厚意に付け込み強行に人の家に乗り込むような妹は要りません」 「好む好まないに限らず生まれてくるのよ、人は。好む好まないに限らず、ね。もう1度言った方がいいかしら? 重要なことだから。ねえ、お兄ちゃん」 「要りません。後、お兄ちゃん呼称も要らないです」 「そう。クールなのね」 なんだか実にどうでもいいことで問答したような気がするけど、どっと疲れが出て、それもどうでもいい気がしてきた。とにかく住倉さんを住まわせることは、半分脅しがあったとはいえ自分で結論を出したことだし。 テレビの前に置いてあるソファに座ろうとしたところで住倉さんが「ああ、そうだわ」と思い出したように言うから、さすがに無視もできなくて振り返る。これから一応、頻繁に顔を合わせることになるから。 「さっきここに住まわせてくれなかったら携帯で友達に連絡するって話をしたわね?」 僕を見据える住倉さんの瞳は普段よりも好奇心や喜びが漏れ出ているようにも見える。 「住んで良いって言ったのに周りに連絡するの?」 「いいえ。私は約束は守るわ。本気で持ちかけたものはね。だからここに住みたいと言ったのは本当」 「嘘だと嬉しかったんだけど」 「残念だわね。本当よ」 「じゃあ、何?」 「電話帳を見てみるといいわ」 言い終わるか終わらないかの内に赤い何かを投げてきて、気を抜いていた僕は慌ててそれをキャッチする動作を取ったものだから足を滑らせ、その場で強かにお尻を打った。 「いたた……」 「ナイスキャッチだわ。落としたらわざと弁償させようと思ったのに」 「……」 「そろそろ本気と冗談の区別を付けた方がいいわ」 「今のは半分くらい本気だったでしょ」 「あら、気づいてたの?」 「徐々に慣れてきた」 「ふふ」 同時に疲れてきた。 今受け取ったのはどうやら住倉さんの携帯電話だったみたいで、開くと―― 「うわ」 「くすくす」 「この壁紙はちょっと……」 「刺激的だわね。ボーヤには」 「同い年でしょう」 「実は三十路前で――」 「はいはい」 住倉さんの場合は話を途中で無理やり切った方がいいとようやく分かってきて、また話がループする前に電話帳のボタンを押す。『あ』行には誰の名 前も連なっていなかった。さっきのキャッチの衝撃でデータが消失したかと心配になったが、『さ』行に入ってようやく2人名前があってほっとする。書かれた 名前の名字はどちらも『住倉』であり、名前からおそらく両親であろうと予想が付く。続いて『た』行へ続いて、『辻川友香』という見覚えのある名前が出てき た。後はまた空白のみが続いている。 「お父さんとお母さん以外だと委員長のみ?」 「そう。だから友達に送ると言っても友香くらいにしか送れなかったという訳」 「なるほどね」 「怒らないのね」 「感情に割り振るエネルギーを消耗しきったからで怒る気にもならないよ」 「あなたの天使が癒してあげる、とでも言った方がいいかしら」 「もっと疲れるからやめて欲しいかな」 「分かったわ。じゃあもっとしてあげる」 「もう、好きにしてください」 「ふふ」 委員長との共同生活でさえ危うかった僕がミステリアスを原液で飲み干したような住倉さんとまで住む生活に耐え切れるか自信、無いなあ。