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「おはようございますー」 学校の校門前。割と予鈴まで後数分という状況で、低い位置で小さく左右にそれぞれ縛った髪、瞳が大きく少し垂れ目な女子生徒が何度もお辞儀と挨 拶を繰り返している。身長はさほど小さくはないけれど、その顔立ちと声色からして、ともすると中学生以下にも見えるかもしれないかな。 「今日もやってるね、生徒会長さん」 僕がそう言うと、委員長が悪の組織の中心に立つ、いかに危険な人物であるかという妄想を熱心に語っていた隆二ははたと喋りを止め、同じく校門で春の挨拶運動に励んでいる少女へ視線を向ける。 「本当だ。まだ生徒会長になって日も浅いというのに真面目だな」 「というかあれって別に生徒会長というよりは風紀委員の仕事じゃなかったっけ?」 「副会長の方は居ないし、別に生徒会の仕事ではないんだろうよ」 「そういえばそうだね」 生徒会の仕事ではなく、単にやりたかっただけなのかな。 「でも去年まではしてなかった気が」 「立場が立場になったからじゃね? なんつーか、生徒会長はイコールでああいうことをしなきゃいけない、みたいなことを思い込んでやってるような気がする」 「なるほど、そうかも」 「凄く子供っぽいよな。すぐ泣くし、運動神経を母親の腹の中に忘れてきたくらいにドジだし」 「……そうだね」 去年の体育祭で障害物競走に参加してたとき、ロープで出来た網を潜っている途中で、どうやったのか分からないくらいに絡まって実行委員の女子生徒に救出されていたことがあったりする。 でもそれよりも。 まだ生徒会長ではなかった去年。2年のときにすれ違ったとき挨拶したら生徒会長さんは律儀に頭を下げてくれた。頭を上げて僕の脇を通り抜けよう とした生徒会長さんは、普段からそうらしいのだけど、何も無いのに躓いてよろめき、気づいて受け止めようとした僕は生まれて始めてお腹に頭突きを貰うとい う、体育ですら珍しい体験をすることとなった。「どうした誠一。何か思い出してたのか?」 尋ねられて回想から速やかに立ち直った僕は答えた。 「生徒会長さんとの衝撃的過ぎる出会いのことを、ちょっと」 「衝撃的? ……ああ、あの頭突き事件か。実際に見てはいないが衝撃だったらしいな」 隆二もその話は良く知っている。というか事態を知って駆けつけ、その場を一旦収めてくれたのが隆二だった。 お腹に衝撃を貰った僕はじんわりと涙を溜めていたんだけど、それよりも瀕死の母親に縋りつく子供みたいな表情で必死に謝っている生徒会長の姿を 見た周りの生徒たちは、僕が生徒会長を泣かせたという表面的な事実を理解し、しばらくは男子の多くだけではなく女子生徒の半数近くが僕を敵視、というか軽 蔑の目で見ていた。踏んだり蹴ったり、泣きっ面に蜂とはよく言ったものだなあ、なんて思ったっけ。 事態が沈静化したのは、そんな状況を友達から聞いた生徒会長さんが直々に全クラスを回って、むしろ僕が被害者だということを休み時間教室を渡り歩き説明してくれたお陰。 あの事件で、前々からそこそこ知れていたらしい現生徒会長、桜瀬明菜の名は1週間と経たない内に学校中で知らぬものは居なくなった。それが少な からずきっかけとなったのだと思うけれど、数日前に行われた今年の生徒会長選挙で桜瀬さんは前代未聞の投票数8割超えを記録して生徒会長に就任した。ちな みに立候補ではなく、現生徒会副会長からの推薦で、最初は困っていたらしいけど、やるからには全力でやりますと所信演説で物凄く噛みながら言ってた。今回 はその一環なのかな。 丁度生徒会長の前を通りかかり、僕は生徒会長さんに倣って頭を下げて挨拶する。 「生徒会長さん、おはようございます」 「おは、あ、向井さんと……」 「さ、」 「ちょ、ちょっと待ってくださいね。今思い出します。思い出しますよ」 頭に左手をやって、同時に右手をこっちに突き出す生徒会長さん。 「えっと……さ、さか……じゃなくて、さわ……澤木さん!」 「残念ですが、澤田です。惜しいですけど」 「あう、すみません。人の名前を覚えるのはあまり得意ではなくて」 捨てられた子犬みたいな顔になって頭を下げる生徒会長さんだったけれど、すぐに挨拶をまだしていないことに思い至ったのか、さっきまでと同じように一旦背筋を伸ばしてから、 「お二人ともどうもおはようございます」 思わず写真に収めたくなるくらいの笑顔で頭を下げてくれた。 「あ、ところで……生徒会長さんは止めていただけると嬉しいです。なんというか、凄く他人行儀なので、良ければ桜瀬さんとか、明菜ちゃんとか、はたまたアッキーとかあっちゃんとかでお願いします」 面識はあるけれど、突然アッキーとはさすがに呼ぶのはちょっと……。 隣を見るとどうやら隆二も僕と同じような、子供に「ねえ、赤ちゃんはどこから来るの?」と尋ねられて返答に困ったような、そんな苦笑を湛えていた。 「と、とりあえず桜瀬さんで」 「ああ、そ、そうだな、俺もそうするよ」 笑顔をそのままに生徒会長さんは続けた。 「はい。それで……向井さんは今日は少し遅めですね。あ、おはようございます」 僕らに話しかけながらも、通りがかる人たちに挨拶をしている生徒会長。 「皆が来る時間とか覚えてるんですか?」 「いえいえ。知人とか顔見知りの人とか限定です」 「俺は覚えてます?」 「あ……ご、ごめんなさい」 隆二、ドンマイ。 「それで、今日は何かあったんですか?」 「ええ、あったといえば」 「あったな、うん」 僕と隆二が顔を見合わせて苦笑する姿に小さく首を傾げる桜瀬さん。 「あまり気にしないでください。大したことではないので」 「えっと……よく分からないけど分かりました。気にしません。あ、おはようございますー」 桜瀬さんが何度目か分からない挨拶をしたところで、予鈴が鳴った。 「もうこんな時間か」 「急いで教室へ行かないと。それじゃあ桜瀬さん、また」 「はい、また。おはようございます」 別れの挨拶を済ませた桜瀬さんは、それでも挨拶活動を続けているようだった。HRが始まるギリギリまで頑張るつもりなのかな。
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BTS/052 U “おしかけしゃてい”幸村/隣人部 男性・女性 パートナー 制服の幸村/隣人部 男性・女性 レベル 3 攻撃力 3000 防御力 5500 【やはりわたくしは、男の人に嫌われるなんじゃくものなのでしょうか…】《メイド》 【スパーク】【自】 あなたのベンチの〈隣人部〉の男性1枚につき、そのターン中、このカードを+1000/+1000。 作品 『僕は友達が少ない』 関連項目 〈隣人部〉 《メイド》 『僕は友達が少ない』 【デッキレシピ】幸村単 制服の幸村/隣人部
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「女の子要りませんか」 「……」 僕はきっと悪い夢を見ているんだ。 そうでなければうちのクラス委員長が「女の子要りませんか」なんてことを開口一番に言って、玄関の扉を開けた僕の目の前に要るわけが無い。 悪い夢だ。 ……あれ? でも別に悪いことでも無いような。 それに帰ってきてから寝た覚えがないなあ。ベッドへ向かった記憶も無い。確かさっきまで明日の予習を―― 「向井君」 「は、はい」 向井とは僕、向井誠一のこと。ずっと同じクラスではあったけど、委員長に名前を呼ばれたことは数えるくらいしか無かった気がする。 少し釣り目で、フレームが下にしかない眼鏡を掛け、上は耳に掛からないショートカット。「男女平等というのならば女性も男性と同じように長い髪 は禁止すべき」と言って聞かず、一時期学校であまり良い意味ではなく知られていたものの、成績はトップクラスで品行方正。学校からすれば「手の掛からない 優等生」との称号だったと思う。 誰からも『委員長』という名でしか呼ばれたことを見たことが無いけど一応本名は覚えている。 辻川友香さん。 高校3年になる今年まで全く校則違反になることはしたことが無いらしいし、した人間を見つけると直々に制裁していると囁かれていて風紀委員会なんてものが形骸化しているらしいのもこの人のせいだと友達から聞いた。 それくらいの情報は高校の誰もが知っていると言い切れるくらいに知らない人が居ないという人。次期生徒会長との呼び声も高いけれど、本人にやる気は無いとか。 「どう?」 「どう、と言われても、その、困ります」 「困られると困る」 「えっ?」 僕にどうしろと言うんだろう。 「なんで僕の家に?」 「上がらせてもらうわね」 僕の質問に答えずにずいっと部屋に入り込んだ委員長。 「ちょ、ちょっと待って待って。ど、どういうこと?」 「私聞いたわ」 こんなときでもきっちり靴を玄関で揃えた後に玄関のラグの上で背中をこちらに向けたまま、ようやく答えてくれる。 「あなた、一人暮らしなんですってね」 「え? あ、うん、そうだよ」 妻が夫の単身赴任に付いて行くことって漫画とかではたまにあるけど、実際は珍しいはず。でもお母さんは自分の実家が近いことを理由にお父さんの単身赴任についていってしまった。僕1人を残して。 振り返った委員長が胸を張るなり、腰に手を当ててこう言った。 「男1人の生活は辛いでしょ。食事とか掃除とか洗濯とか」 「大丈夫だよ」 「いいえ、大丈夫じゃないわね。平均的な男子高校生は家庭科の授業以外に料理や掃除、洗濯をしたことが無いはず。そんな男子高校生が1人、まして や昼は真面目に授業に出ているあなたが、こんな一軒家に住んでいるともなれば掃除がおろそかになるでしょう。食事もカップ麺やコンビニのお弁当ばかりで、 洗濯だって山積みになるわ」 「あ、あの……」 「だからあなたは私を買いなさい」 「買うって、その、無茶苦茶じゃない?」 人身売買は法律で禁止されているはずだし。 「じゃあ雇う」 「僕、人を雇うほどお金持ってないよ」 親からお小遣いは生活費と別に毎月振り込まれているけど、とてもじゃないけど人を雇うなんてできる分は無い。 綺麗に整えられた細い眉が少し釣りあがる。 「いくらくらい貰ってるの」 「月に1000円」 「…………」 委員長は僕を見たまま停止していた。 「え、どうしたの?」 「……あなた、それでよく生活できるわね」 溜め息と共に両手のひらを天井に向ける。 「そうかな。月に2冊本が買えれば十分だよ」 「たった2冊でしょう。……とにかく私はあなたの家に泊まるから。支払いについては後回しでいいわ。とりあえず掃除からやりましょう」 「ちょ、ちょっと」 今度は静止を振り切ってリビングの中へ踏み込む委員長。追いかけるようにして僕がリビングに入ると何かにぶつかった。 「痛い」 「え、あ、ごめん」 ぶつかったのは他でもない、委員長の背中にだった。 「誰か別に雇っているの?」 「え?」 「家政婦とか」 「全然」 「随分綺麗じゃない、リビング」 「ん、趣味が家事だから」 そう。それが僕を1人で残していった理由。 お母さんは掃除、というより家事全般が苦手で、それを承知でお父さんは結婚したって言ってた。だからその分、僕が全部やらないといけなかった。 幸いにも家事はどれもはやっていくうちに苦に思わなくなったし、やればやるほど結果が付いてくるものだったから別に嫌じゃなかった。ちゃんと生活費もお小遣いも振り込んでくれるから生活に困ることもないもんね。 「生活費は余ったりしないの?」 「するよ。それは全部貯金してる。帰ってきたらお父さんとお母さんに返そうと思って」 「……そっ」 「そ?」 「そ、掃除ができても料理はどうなの」 「料理もするよ。外食は高いからね」 「……じゃ、じゃあ食べさせてみなさい」 「うん、分かった。あ、そういえば久しぶりだなあ、他の人に食べてもらうのって」 何が冷蔵庫に残ってたかな。1人分でいつも考えてたから材料が足りるかどうかちょっと不安。 ってあれ? さりげなく僕、委員長を受け入れてる? 「……ま、いっか」 まだ雇う雇わないっていうのを決めるときではなくて、単にうちへ遊びに来たから夕飯を振舞うっていうだけだし。委員長もお金がどうとかいうのは後回しでいいって言ってたよね。 「ごめんね、量が少なくって」 「構わないわ」 そろそろ寒くなってきたし、クリームシチューを作ってみた。 初めて家に連れてこられた子犬のようにおそるおそるスプーンを口に運ぶ委員長。 「どう?」 「……おいしい」 僕は安堵の息を吐く。 「良かった。いつも自分とお父さん、お母さんの味覚でしか問題ないって言われてなかったから」 「…………」 でも何故だか委員長はさらに不機嫌そう、というか困ったような表情をしている気がした。 「何か……」 「え?」 「何か無いの!?」 バネが弾けたように両手をテーブルに突いて立ち上がる。 「何かって……あ、ごめん。シチューにはご飯よりもパンの方が良かった?」 「そういう何かじゃない!」 「おいしくなかったの?」 「おいしかったわよ!」 何故こんなに怒られてるのか、ちょっと分からない。 「困ってることとか、やれてないこととか!」 突然力説されても……あ。 「勉強、かな。あまり成績良くなくて」 「…………はあ」 力なくそのまま立ち上がった椅子に委員長は再び座り込んだ。 「まあ、それで」 「え?」 結局良く言いたいことが分からないまま、後は無言の食事が続いた。
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「ふふふ~ん」 ある寒い日、私はたい焼きを頬張りながら家に帰っていた。 「あ……」 そんな時、私は道端で凍えている黒い子猫を見つけた。 「寒いの?」 がたがたと震えていて今にも倒れそうな子猫。 「これ食べる?」 私はたい焼きを子猫のそばに置いた。子猫はそろそろとたい焼きをかじった。 「おいしい?」 子猫はおいしいことが分かったのか、すごい勢いで食べた。 「よかった、元気そうで」 子猫は私の足にすり寄り、喉を鳴らした。 「か、かわいい……」 頭をなでてあげると、にゃーんをかわいく鳴いた。緋色の目がとてもきれいだ。 「……」 このまま外にいたら、この子はどうなっちゃうのかな……。 悲しい考えがよぎる。 「……よし!」 「憂、しばらく置いちゃだめ?」 「かわいそうなのはわかるけど……」 私はあの子猫を家に連れ帰ってきてしまった。 「ちゃんと世話するから!」 しばらく考えた憂が、苦笑して言った。 「……わかったよ。お姉ちゃんがそこまで言うなら」 「よかったねぇ、あずにゃん!」 「あ、あずにゃん……?」 「この子の名前! 小豆が好きな猫だからあずにゃん!」 こうして、あずにゃんは私の家で飼うことになった。 「小豆ていうより、あんこだと思うけど……」 「はぁ……、このへんにして寝ようかな」 夜1時過ぎ。ギー太の練習がはかどるといつもこんなに遅くなってしまう。 「疲れたなぁ……」 ベッドに入ろうとしたら、もう先客がいた。 「あ、あずにゃん」 いつ入ってきたのかわからないけど、ベッドで丸くなって眠っていた。 今まで外にいたとは思えない綺麗な毛並みだ。尻尾もくるりと体にくっつかせている。 「うふふ……、今日は一緒に寝ようね~」 私はそのままあずにゃんと一緒に寝た。 翌朝……。 「う~ん……」 私はいつもより苦しい感じがして、起きた。 「何……?」 何故かベッドが狭い。というより、誰か隣で寝ている。 「……憂?」 昨日の夜にでも入ってきたのかな? 私より起きるのが遅いなんてめずらしいなぁ。 でも、確か昨日はあずにゃんが隣に寝ていたんだけど、どうしたんだろう? 「起きてよ。憂」 そう言いながら掛け布団をめくると、黒くて長いものが目に付いた。 「え……?」 さらにめくっていくと、信じられない光景があった。 「……!?」 そこには子猫も憂もいなかった。 そこには長い黒髪で、裸の女の子が寝ていた。 驚いて声をあげそうになったけど、なんとか堪えた。私、偉い! な、何なの!? っていうか誰!? 「こんなところ見られたらまずいよ……!」 すぐにそう思った。だって裸の女の子だよ!? 何だかよからぬ考えが頭に浮かんでほっぺが熱い。 どうにか隠そうと布団をかぶせようとした時、 「う……ん?」 寝ていた女の子が起きた。 長い髪を体に纏わせて、ここはどこ? というようにきょろきょろしている。 何だろう、すごく……、 「か、かわいい……」 その声に気付いた女の子と目が合った。深い緋色の目が、くりくりとしている。 「……」 しばらく見つめ合っていると、女の子が腕を大きく広げた。 「わ、ちょっと!」 そして、そのまま私に抱きついてきた。 「唯~!」 「な、何で私の名前を!?」 「……あれ?」 抱きついていた女の子が急にきょとんとした。 「こ、これって……」 何か気になっているらしく、自分の体を見ている。 でも、それどころじゃないよ! 裸の女の子とベッドで抱き合ってるなんて、誰かに見られたら大変だよ! ガチャッ 「お姉ちゃん、そろそろ起きn……」 「あっ!」 最悪の事態が起きてしまった……。 「あ、あの、これは……」 ベッドの上に裸の女の子がいて、それに抱きつかれている私。 私は何もしていないけど、言い逃れできないこの状況……。 この光景を見て憂は顔を真っ赤にした。 「ご、ごゆっくりぃ!」 そう叫ぶと憂はドアを勢いよく締めて行ってしまった。 「ま、待って! 違うの!」 私の叫びが空しく響いた。 「……で、この子は誰なの?」 「私にもわかんないよ……」 あれから憂と話せるようになるまで時間がかかったよ……。 とりあえず、女の子に私の服を着せてリビングに連れてきた。 「ねぇ、君は誰?」 女の子はしばらく考えた後、口を開いた。 「私は、あずにゃんだよ?」 ……はい? 「い、今なんと……?」 「唯がつけてくれたんですよ? あずにゃんって」 えっと、あずにゃんと言うのは子猫の名前であって、人間じゃない。 でも、昨日あずにゃんは私のベッドで寝ていて……、今日の朝に同じ位置にあの子が……。 「本当にあずにゃんなの……?」 「自分でもびっくりです」 でも、よく見ると黒い髪に緋色の瞳で……。 「でも、あずにゃんって猫だったでしょ?」 「そうだよ。昨日は子猫だったよ!?」 憂の言うとおりだ。いきなり猫が人間になるなんて聞いたこともない。 「それは……、私にもよくわからないんです」 あずにゃんも急に人間になって戸惑っているみたいだ。 「でも、昨日私は唯にお礼がしたいって思っていたんです」 「お礼……?」 「はい。あんな寒いとことから助けてもらって、うれしかったんです」 そうだったんだ……。でも、それと人間になるのとは違う気がするんだけど……。 「なんだか、鶴の恩返しみたいだね」 「そういうものかな?」 憂の言う通り、助けられた動物が人間になって恩返しに来るってところは似ている。 「じゃあ正体がばれたあずにゃんはいなくなっちゃうの……?」 「なんでいなくなるんです?」 あずにゃんがきょとんとしている。 「鶴の恩返しはね、正体がばれちゃって助けた人の前から去っちゃうんだよ」 「?」 憂が説明しあげたけど、猫だったあずにゃんにはわからなかったみたい。 「私はいなくならないですよ」 鶴の恩返しのようにいなくなるお約束はなさそう。よかった。 「とりあえず、あずにゃんはどうするの?」 憂が聞いた。 「どうしていいかわからないけど、私は唯に恩返しがしたいです!」 う、そんなきらきらした目で見つめないで……。かわいいよぉ……! 「じゃあ、お姉ちゃんがんばってね」 「がんばってねって……」 「だってあずにゃんの世話するって言ったよね?」 「言ったけど……」 でもそれは猫の世話なんだけど……。 っていうか、恩返しって言っているから、私があずにゃんに世話される方だと思うんだけどなぁ……。 「唯、私、何したらいいかな?」 あずにゃんに見つめられると何だかドキドキする……。 「ねぇ、唯?」 「……あ、何!?」 「どうしたの?」 か、顔が近いよ……。 「顔が赤いよ?」 「な、何でもないよ!」 はぁ……、どうしちゃったんだろう、私。 「……」 「じ~……」 「……」 「じ~……」 「……あずにゃんどうしたの?」 「いや、何か恩返しをしたいと思って……」 「だからって、そんなに見られていたら勉強できないよ……」 あずにゃんが机の縁あたりからひょこっと私を覗いている。さっきからずっとこの調子だ。 「だって唯が何も言わないんだもん」 ほっぺを膨らませて不機嫌なあずにゃん。かわいすぎて存在自体が恩返し級だよ! ……なんて言えない。 「あずにゃんは、あずにゃんでいてくれたらそれでいいよ」 「だって、折角人間になったんだし……」 「私はあずにゃんが元気でいてほしいから家に連れて帰ったんだよ? 元気ならそれでいいよ」 っていうかそれ以上されたら私、耐えられないよ……。 「あ、お姉ちゃん、あずにゃんをお風呂に入れてよね」 「は~い……、って、えええぇ!?」 私があずにゃんとお風呂!? 「だって、あずにゃん、お風呂の入り方知らないんだもの」 「まぁ、猫ですからね」 「だから、お姉ちゃんが入れてあげて?」 私がお世話するって言ったけど……、言ったけど! 「あずにゃんもお姉ちゃんとがいいでしょ?」 「はい。唯とだったら何でもいいです!」 私がどれだけ我慢しているか知っているのだろうか、この猫さんは。 「……じゃあ、入ろうか」 結局、私はあずにゃんとお風呂に入ることになりました。 初めて会った時も裸だったけど、改めてこう向かい合うとすごく恥ずかしい。 「じゃあ、洗うね?」 「うん」 体を洗うという行為が猫にはないので、私があずにゃんの体を洗うことになる。 「あっ! 泡は舐めちゃだめだよ!」 「うぅ……。変な味がするぅ」 「遅かったか……。今度から気をつけてね。あと、毛繕いとかもしちゃだめだよ?」 「あっ! そこくすぐったい……」 あずにゃんの体がびくっと跳ねる。 「ご、ごめん」 「でも……気持ちいいよ。もっとして?」 あぁ、もう、何でこうかわいい反応するかなぁ! 「じゃあ、やるよ……」 何も考えちゃだめだ! 何も触ってない! 何も聞いてない! あ、肌がつるつるしていて気持ちいい……。 ……じゃなくて! あぁ、何考えてるんだ、私いいいぃ! 「お、終わったよ」 「ありがとう……」 はぁ……、今日ほど心を無にしたことは無いよ……。どうにかなっちゃいそうだった。 ……もったいないとか思ってないよ! 「じゃあ、今度は私ね……」 そういうと、あずにゃんがタオルを持って私の体をこする。 「い、いいよ別に!」 「だって恩返しをするって決めたんですから、やらせてください」 「だって、あずにゃんやり方わからないでしょ?」 「唯みたいにしますから、大丈夫です」 そして、あずにゃんは私の体をこすり始めた。 「ちょ、いきなりそこはだめ!」 「だめですか?」 「だめっていうか……。とりあえず背中からお願い」 「は~い」 びっくりした……。いきなりあんなところを触るとは……。 「どう、気持ちいいですか?」 「うん、あずにゃん上手だね」 確かに気持ちいいんだけど、正直それどころじゃない。 あずにゃんが私の敏感なところばかり洗うのはわざとなのかな? 「んしょ、んしょ……」 我慢だ、我慢だ、私……! けど、あずにゃんはどんどん私の色んなところを洗う。 「唯に、もっと気持ちよくなって欲しいな……」 「ちょっとあずにゃん……?」 けど何だか様子が変だ。洗う手に力が無くなっていく。 「大丈夫?」 「はい、大丈夫です。ただ、体が熱くて……」 「もう、出たほうがいいじゃない?」 あずにゃんは目も虚ろで、立っているのもやっとという感じだ。 「さぁ、出よう?」 あずにゃんをお風呂から出そうと手を掴むと、あずにゃんがびくっと跳ねた。 「あぁん!」 「うわぁ! 何!?」 叫びとも悲鳴とも思えない声を出して、あずにゃんはへなっと床に座り込んでしまった。 「だ、大丈夫!?」 「ゆ、唯……」 息もあがっていて、顔も赤い。湯船に入ってはいないものの、あずにゃんにお風呂はきつかったのかも。 「唯、なんか変なの……」 「わかったから、早く出よう……?」 でも、あずにゃんには悪いけどとても色っぽい。 何だか変な気分になっちゃうよ……。 「唯……」 必死に我慢しているのに、追い打ちをかけるようにあずにゃんが私に抱きつく。 「ちょ、ちょっと!?」 「唯……」 うわ言のように私の名前を呼び続けるあずにゃん。潤んだ目で私を見つめる。 「あ、あずにゃん……」 自然と手があずにゃんの肌に触れる。 「ひぅ……!」 「わ、ごめん!」 「だめ……。もっとして……?」 私の手を引いて、さらに抱き寄せる。 「はぁ……はぁ……」 もう、限界だった。 「あずにゃん……!」 「唯……!」 「あずにゃんが悪いんだからね……? あんな声出すから……」 「ちょうだい。唯をちょうだい……」 そこから先はあまり覚えていない……。 「お姉ちゃん、大丈夫……?」 「あ……なんとか……」 結局私は色んな意味でのぼせてしまって、心配して見に来た憂に助け出された。 ぐったりしている所を見つかってよかった……。 最中に見られたら、どうなっていたことか。 「唯、ごめんなさい……」 「いいよ、私も悪いし……」 これからはお風呂に入る時は気をつけようと思った。 あとからわかったことだけど、あずにゃんはあのとき発情期だったらしい。 定期的に来るので私も困っている。 あんな感じに迫られたら我慢が……。 ただでさえこんななのに、あずにゃんの恩返しはまだ終わらない……。 END うん、そのまま結婚しちゃえ(爆) -- (通りすがりの百合スキー) 2010-12-09 01 27 24 もう飼うじゃないな -- (あずにゃんラブ) 2013-01-12 06 55 14 名前 感想/コメント: すべてのコメントを見る
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「んあっ」 びくっとして、目を擦りながら上半身を起こす。何か嫌な夢を見ていた気がする。でも何を見ていたのか、細かくは思い出せない。 どうやら問題を解いてる途中で寝ちゃった様子で、記憶がおぼろげになっていた通り、大問3に入るよりも前で力尽きている。明日提出じゃないだけ良かったと思おう。 「あれ? 電気……」 僕の部屋の蛍光灯はよくある上から垂れてる紐を引かなきゃいけないタイプで、その紐は延長して無いからせいぜい15センチくらい。元のスイッチ はスイッチで入り口のすぐ脇。長い間放置していると勝手に消えるようなシステムは無い。少なくとも自分で消そうとしなければ消えないはずなんだけど……眠 る前に半分寝ながらも電気だけは消したのかな。 立ち上がろうとして肩から半纏がずり落ちた。 あれ、この半纏って確かまだ隣の部屋のカーテンレールに掛けておいたままになってた気がする。そろそろ寒くなってきたから出そうかなと悩んでて、結局出さなかったような。これも寝ている間に寒いからって取りに行ったのかな? 事実だとしたらもう夢遊病の域だなあ。 とにかく続きを解かなきゃと立ち上がりかけて、背中から入る電灯か月明かりか分からない光の影の中に僕以外の誰かが居るのに気づいた。 「わっ」 「きゃあっ」 僕は思わず大声を上げ、慌ててそこを離れる。同時に向こうも大声を出してひっくり返ったらしく、盛大に尻餅をつく音が聞こえた。僕は扉の方まで逃げて、蛍光灯のボタンを押した。 点かない。ってことはここで消したんじゃなくて蛍光灯の紐を引いたってこと? とりあえず泥棒かもしれないからここは一旦逃げ出して―― 「脅かさないでよね、もう」 「……へ?」 「そっちの電気点けて。こっちを点けてもそっちが消えてたら意味が無いわ」 聞き覚えがある声がそう告げた後、カチカチと音がした。 「蛍光灯、こっちは電源入れたからそっちもお願い」 「あ、うん」 言われるがままにスイッチを入れると蛍光灯が点灯し、その明かりのまぶしさに思わず目を瞑った。 ようやく慣れてきたところで目を瞬かせながらさっきの声の主の方を向くと、呆れ顔の委員長が立っていた。 「あれ、委員長。何してるの?」 「何、って……はあ。確かに私は何でこんなことしてるのかしらね」 僕の腰の抜けた姿を見て、委員長は溜め息を吐いた。 「……うわ」 「今度は何?」 「あ、あの……委員長」 「何?」 「その……服装が……」 「ん?」 自分の服装を見て委員長は、また溜め息を吐いた。今日だけでも吐いた溜め息は多分両手で数え切れないんじゃないかな。 「別に珍しいものでもないでしょう、ネグリジェなんて」 腰に手を当てて「また変なこと言って」とでも言いたげだけど素直に言わせて欲しい。論点が全然違う。 「一般的かどうかということよりもそのネグリジェ、透けてるよ……」 「……うっ」 ある意味絶妙な透け具合で、桃色のネグリジェは下着を着けているのは良く分かるけれど、その色や柄までは分からないという、人によっては1番危ない状況だったりする。さすがにこの格好はまずいと思うな、うん。 それに今まで意識したことは無かったけど、委員長って一般的な女子よりもスタイルがいいんじゃないかなと思う。だからこそこの状況は嬉しいような、困るような。 本気でそこに思い至っていなかったのか、それとも今まで僕が男であるという認識が無かったのか。後者ならば僕は悲しむべきなのかもしれないけ ど、とにもかくにも委員長は慌てて部屋の外へパタパタと走っていく。良く見ると足元にはウサギの人形みたいなものが付いたスリッパを履いていて、委員長が 走っていくのに合わせてそのウサギがヘッドバンギングでもしているかのようで、ちょっと笑えたのは眠たい頭を無理やり起こしているからかもしれない。 結局なんであんな暗がりで黙ってじっと立っていたのか良く分からなかったなあ。とにかく委員長が出て行ってからあまり進んでないし、さすがにもうちょっと頑張って続きを解かないと。 大きく伸びをして半纏を着てから机に向かうと、さっき部屋を出ていった委員長が同じ色のカーディガンを上に着て、今度はしっかり前を止めて戻ってきた。 「どうしたの? 忘れ物?」 「違うわ。……あなた、今日はもう寝るつもり?」 「全然進んで無いからもうちょっとやってから寝ようかなって思ってるよ」 また全然進まなければ、今度は学校でも委員長に怒られそうだから。学校でも家でもっていうのはちょっぴり勘弁してほしいかな。 「でしょうね。だからよ」 「……?」 僕は首を傾げる。その姿に一瞬眉を顰めた委員長だったけれど、すぐにその表情を溜め息に変えてから僕の右斜め前に座った。 「見てあげるわ、勉強」 「あ、でも……」 「さっきは悪かったわ。同じクラスの同じ年だからこれくらいは出来て当然、なんて思ってたけどそうとは限らないのよね。私が浅はかだったわ」 「ううん、そんなこと無いよ」 ちらりと僕を一瞥してから委員長はすまし顔で言う。 「ま、出来が悪いのには変わりないものね」 「うん」 「……ちょっとは否定しなさい」 僕の即答にまた溜め息が出る委員長。 「でも本当のことだから」 「本当でも、少しくらいは言い方に気をつけてくれとか、言うことはあるでしょう」 「言って欲しかったの?」 「別にそういうわけじゃないわ。……でも、プライドは無いの?」 あはは、と僕は笑って首を振る。 「プライドを持っていいのは努力した人間だけだってお父さんが言ってた。確かに僕もそうだと思うよ。努力もしないで言われることを否定するだけの人間はろくな人間にならないから、ちゃんと努力して結果を出してから十分に言い返すことにするよ」 「……そ。それでいいならそうすればいいんじゃないかしら」 「うん。だからもうちょっと頑張るよ」 それから勉強会は、委員長にまた何度も溜め息は吐かれたけど怒られたり、部屋を出て行ったりはされずに夜更けまで続いた。
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「今からでも無かったことにしてください」 「うーん、それはちょっと無茶な話なんですよ」 校長室。生徒会長室よりは想像に近くて、木製の大きな机と椅子が奥にあって、手前にソファと机が置いてある。その横にいろんな賞状や盾が飾ってある棚。あ、盆栽みたいなものも置いてある。叔父さんにこんな趣味あったっけ? 想像と違うのは、部屋をぐるりと取り囲むようにして、何故か歴代の校長の写真が飾ってあること。小学校の頃って、校長室って歴代校長の写真なんか飾ってあったかな? 後は大型テレビが置いてあること。もしかしてみんなが授業中にテレビ見てたりするのかも。いいなあ。 そんな、普段入るようなことのない部屋の中で、僕は学校長の叔父さんにある相談をしていた。 ……っていちいち ある なんて言葉で隠す必要も無いよね。僕が今、叔父さんに話すことなんて1つしかないし。 「委員長……辻川さんを、何で家に返してあげられないんですか」 ここだけ切り取ると、凄く誤解されそうだけど、ずっと話題になってきたことだから、きっと分かるよね。委員長がうちにもう来なくて良くなるよう に、取り計らってくださいっていうお願い。委員長が来るのが嫌だってわけではないんだけど、やっぱり同世代の女子と生活を共にするのは、ちょっと落ち着か ないし。委員長もきっと同じこと思ってるだろうから。 特別難しそうな話ではないのに、校長先生は首を横に振ってくれなかった。 「こっちも彼女を向井君の家に送るのに、いろいろ手を尽くした後なので、今更無かったことには出来ないんですよ。最低でも一年はこのままでお願いします」 あはは、と苦笑いで答えた叔父さん、条桜院高校の校長である大橋孝之叔父さん。まだ40代のはずだから、異例の若さの校長先生だって言ってた気がする。 「一年って……卒業までってことですか? 僕達、三年なんですよ? 入試のために勉強をしなきゃいけないですし……」 「うん。もちろん、知ってる」コーヒーを啜りながら(校長室は飲食禁止とかではないのかな?)、僕を見る。「だからこそ、だよ」 「だからこそ?」 「そうそう。あれ? そこはもう、辻川さんから聞いていないかな?」 「……あ、はい。そういえば聞いてます」 僕が勉強だけに集中出来るよう、お母さんが取り計らってくれた。でもきっとそれは口実で、実際はやっぱり一人で置いていくのは心配だった、ってことかな? 僕の家に派遣する子を決めるとき、危ないことにならないようにって、選ぶ人は誰にするか、慎重になってたって委員長が言ってたっけ。何か、そういやあのときに委員長、怒ってたような。 「でも……」 「まあ、ほら。女の子と一緒に生活できるなんて、良いことじゃないかな?」 やった事が無い人にはそう思えるのかも。実際、僕も最初はそう思ってたから。 実際に共同生活をやってみるとそんなこと、言ってられないんだけど、ね。特に委員長と住倉さんとは……。 あ、そうだった。1つ予想外だったこともあったんだ。 「あの、今……委員長以外の女の子も居るんです」 「……へ?」 クエスチョンマークを、クリスマスの三角帽子みたいに、見るからに頭に載せたその人は、僕の言葉に目を丸くした。 どういうこと? そう言いたげな瞳に、僕はその一部始終を説明した。 言い切った僕の話に、やはり相変わらずの疑問符を残した校長先生は言った。 「なるほど。姉さんがあんなことを言い出さなければ、その住倉さん? も来なかったんですね」 「まあ、そういうことになります」 もちろん、あの住倉さんだから、何かのきっかけで押しこみで僕のところに来るって可能性はゼロではないけど、少なくともその時期は大幅に遅らせることができたと思う。多分。 後、委員長が帰れば、一緒に帰ってくれる、気がする。 自信がないのは、住倉さんという人物を少しでも知ってしまったから。多分、住倉さんも住倉さんで一人暮らししてるんだろうから、そう考えると委員長が帰っても居座るかもしれないなあ、なんてちょっと思った。 それはさておき。 「こんな状況になったんですから、校長権限で――」 「いや、さっき言ったみたいに、いろいろ手を尽くした後だから、今更無かったことにはちょっと出来ないんだよね」 やっぱり話が堂々巡りになっちゃうんだなあ。うーん。 「その内にきっと、そういうにも慣れると思うよ? ちょっとくらい何かが起こっても、ほら、どうにかするから」 「起こりません」 何でそういう方向に持って行こうとするかなあ。 「あはは。まあそうしてくれると助かるけどね。一応姉さんには話しておくけど、あまり期待はしないでくれるかな」 「……分かりました」 もうこれ以上話をしていても、良い方向に話が転びそうにはないから、僕も諦めた。それにもう下校時間。早く帰らないと、夕食の準備が待ってるし。 「状況がよくなりそうだったら教えてください」 「そうするよ。多分、無理だろうけどね」 最初から諦められると、ちょっと困るんだけどなあ。 校長室を出てから「失礼しましたー」の言葉と共に一礼して、部屋を後にする。 はあ、何も収穫無しかあ。仕方がないけど、我慢するしか無いよね。 「あれ?」 今、慌てて大きな足音を立てて、校長室の前から走り去ったような。 ……聞かれてたとか? ううん、きっと気のせいだよね。 若干腑に落ちない気持ちを溜息にしながら、僕は鞄を提げて帰途についた。
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6 名無しさん@ピンキー 2010/07/17(土) 11 56 48 ID msKP8wtb 【おしかけ弟子 日本編】 眠りから突然目が覚めるのは腹立たしい。それが悪夢のせいならなおさらだ。 「ちっ…」 もう一回目を閉じ睡眠を試みるが眠れない。……完全に起きてしまったみたいだ。 時計に目をやると3:30と表示されている。なんとも中途半端な時間。 「……酒でも飲むか」 幸いな事に明日土曜はオフだ。変な時間になっても大丈夫だろう。 だがベッドから起き出るには障害がある。俺の隣で右腕にしがみつく様に寝てる少年――フォン。 なんとも穏やかな顔で寝ているこいつを、起してしまうのは避けたい。 「起きるなよ…」 そう言って慎重に慎重を重ねて、フォンの指を一本一本自分の腕から引き剥がしていく。 あの国にいた頃は別々に寝ていたのだが、日本に来てからはずっと一緒に寝ている。 「うんっ…ししょう…」 不意に声を出すフォン。いかん、起してしまったか? 「トイレ…流してください…」 その瞬間、緊張していた全身が弛緩する。 「………寝言か。しかしどんな夢を見てるんだこいつ?」 10分ほどかけてようやくフォンを腕から離す。なんとか起さず済んだか。 そのまま、寝息をたてるフォンの柔らかい髪を撫でて寝室を出た。 冷蔵庫からビールを取り出し、リビングのソファーに腰掛ける。 「四ヶ月か」 フォンを連れて帰国して四ヶ月。フォンの滞在ビザを、手に入れるのは大変だった『いろいろ』やったしな。 そうやって松尾の団体で、初代チャンピオンになったのが三週間前。 飾ってある写真に目をやる。その中でチャンピオンベルト持った俺と、俺に泣きながら笑顔で抱きついているフォン。 あの時は俺より喜んでたな。まるで自分の事のように……あの晩俺は言った。フォンも成功も全部手に入れると。 それは半ば自分のせいで俺が成功を逃そうとしていると、思っていたあいつを安心させる為に言った台詞だ。 でも今ではそれが正しいような気がする。 大切な人を捨てて得た成功も、逆にそういった物を捨てて大切な人を選ぶのも片手落ちではないのか。 本来それは、二者択一なんかじゃないはずなんだ。 「……何偉そうな事考えてんだ。運がよかっただけだろ、一歩間違ったら…」 そう一歩間違ったら変態同性愛者として、散々に非難されていたかもしれない。 だがそうはならなかった。なぜかフォンの事は俺が武者修行中に、孤児のフォンを連れ帰ったという嘘美談になっている。 それも多分俺がチャンピオンになったのと、松尾のイメージ戦略の成果だろう。 「こないだもテレビで嘘混じりの感動話しやがって」 しかしそのお陰で、フォンと暮らしていても今の所なんと言われることもない。 それどころか『励ましのお手紙』を多々頂戴している。 「感動しました。フォン君のためにも、次も防衛して下さい」 「加藤さんの優しさに胸を打たれました。僕も加藤さんみたいになりたいです」 「これフォン君に食べさせてあげて下さい」(高そうな菓子つき) ……こうやって虚像とは作られていくのだろうか。 7 名無しさん@ピンキー 2010/07/17(土) 11 59 22 ID msKP8wtb 「師匠…」 背後から聞こえる声。あちゃあ起してしまったか。 「ああ、ごめんな。ちょっと目が覚めてしまったから酒飲んでたんだ」 「そうですか」 「気にせず寝てて良いぞ」 しかしフォンは寝室には戻らず俺の隣にちょこんと座った。 「……聞こえなかったのか?」 「師匠が眠れないのに、一人で寝るのなんか嫌です。明日はお休みですし僕も起きてます」 などと言ってるが、かなり眠そうな様子で目を擦っている。その仕草が愛らしく見えるのは、酒のせいではないはずだ。 「……可愛いやつめ」 「うわっ!?」 フォンを抱え上げ、膝の上に座らせ抱きしめて後頭部に顔を埋める。急にそうしたくなって、堪らなくなった。 頭からはシャンプーと、少しの汗の匂いが鼻腔をくすぐった。 「師匠……いきなりすぎますよ。酔っ払っちゃったんですか?」 「……ごめんな。嫌な夢を見たんだよ」 「どんな夢ですか?」 「…お前が死ぬ夢」 その言葉で微かに震えるフォン。 「なんで僕死んじゃったんですか?」 「知らん。でも病室で死にそうな顔してた」 我ながら論理性のない話だ。 「…僕なにか言ってました?」 「師匠ありがとうございましたって…死にそうな癖して」 「うわぁ……言いそう」 言いそうなのか。なら俺もいい加減お前のことが、分かってるって事かな。 「……それだけじゃなくて、僕のことはすぐ忘れて下さいってさ。忘れられる訳ないのに」 思い出して、抱きしめる力を強くする。軟らかくもあり硬くもあるそんな感触。 以前はもう少し、軟らかかったような気がする。筋肉がついてきたんだなこいつも。 「師匠…どうしたんですか?」 「別に……お前ちょっと重くなったな」 なんだか涙が出そうだ。それを悟られたくなくて、ワザとらしく話を変える。 「師匠と食べてるとなんでも美味しくて……」 俺の機嫌を取っているわけではない。本気の言葉だろう…実際食事の時のフォンはいつも楽しそうだ。 「全く…なんでお前はそう俺を……」 「ひゃん!?」 左手でパンツの中のものをまさぐると、フォンは高い声を上げる。 「じっとしてろ」 皮に包まれた幼いそれを上下左右にもみしだく。 「あ、あうぅ、師匠っっ……」 俺が指を動かすたびに、甘さを帯びるフォンの声。いつものことだ。 「ちょ…っと、師匠…ヘンですよ……ああっ!」 「そう変なんだよ」 変になっているのはあの夢のせいだ。だからこうやってお前を……。 「嫌か?嫌ならやめるが」 「イヤ…じゃないですけど……あふぅんっ!」 フォンのものはもう既に大きくなって、先走りを出している。 「嫌じゃないなら、なんなんだ?」 「ず…るい…よぅ……ししょうのいじわる…」 喘ぎながら言うフォン。いじわるか、確かにそうだな。 「……ごめんな。不安になってるんだよ。あんな夢で」 パンツの中に突っ込んだ手を止める。このまま不安を誤魔化すようにやるなんてダメだよな、言うべき事は言わないと。 「ふえっ?」 「お前が死ぬなんてたとえ夢でもゴメンなのさ」 「………」 「弱いんだよ。フォンが思ってるより俺は。多分もうお前抜きじゃなにも出来やしない」 そう言って抱いたままソファーに倒れこみ、フォンの向きを変え立たせる。ちょうど俺に馬乗りになる形だ。 8 名無しさん@ピンキー 2010/07/17(土) 12 00 49 ID msKP8wtb 「幻滅したか?」 フォンは静かな目で俺を見下ろしたまま答えない。こんな目は初めて見たかもしれない。 「なんとか言って…わっぷ!?」 いきなりフォンが倒れこんできて、唇を合わせる。 「んんっ……」 「くふぅ…うぅ!」 キスが嫌というわけじゃなかったが、面食らってしまったのでフォンを引き剥がした。 「っはぁ……」 「ふふっ…これでおあいこですね師匠」 悪戯っぽく笑うフォン。 「師匠……僕今すっごく嬉しいです」 「なんでだ?」 「だって師匠が僕に弱いところを、見せてくれたんですよ?」 フォンの黒い瞳が潤む。 「師匠の事は大好きですし、一番強い人だって尊敬してます。その師匠が僕を頼りにしてくれる、僕にも出来ることがある…」 また顔を近づけてくるフォン。もう互いの息がかかる距離だ。 「そんなの……嬉しいに決まってるじゃないですか!」 「っ……フォン!」 そう言って涙を滲ませ微笑むフォンを見て、我慢できず抱きしめて俺からキスをする。 フォンの言葉と気持ち……本当に泣いてしまいそうだ。 「んぷっ…」 先ほどとは違い、今度はたっぷり味合う。歯茎に蛇のように舌を這わせ、舌と舌を絡めて引き出して音が鳴るくらいに吸う。 そうやって、数分が過ぎただろうか。俺は、名残惜しげに口を離しささやく。 「さっきの続き…しないか?」 「え~……どうしよっかな」 「…いじわるだな」 そんな言葉を交わしそのままフォンを抱き上げ、寝室に直行しベッドに転がす。 「師匠……僕したいなんて言ってませんよ?」 先ほどのように悪戯っぽく笑うフォン。 「ずいぶん生意気な事言うな…反抗期か」 「ハンコウキって……なんですか?」 かみ合わぬ会話だが、お互い十分に気持ちは分かってる。 「無理やりでもやるけどね」 「えぇ~師匠ひどい」 言葉とは裏腹に緩む互いの顔。 「そんな事言いながら、ここはしたくて堪らないみたいだぞ?」 立ち上がってるフォンのものをゆっくり指でなぞる。 「うあっ…だめぇっ…でちゃいます……」 「まだダメだからな。俺ので逝かせてやる」 パジャマを脱がし露になる褐色の肢体。やっぱり出合った頃より少し大きくなったかな。 「指、入れるぞ」 ベッドの脇のローションを指に付けて、フォンの肛門に差し入れ塗りたくる。 慣れてるここは、俺の指を簡単に飲み込む。くちゃくちゃという音が耳に届く。 「あふぅ…」 前立腺には注意する。あんまり触りすぎると、出してしまうからな。 それでもフォンのそれは、更に硬さを増して「はやくチンポを入れて」ってねだってるみたいだ。 「こんなもんだな。じゃあ、行くぞ…」 仰向けのフォンにのしかかり、入り口に俺のものをあてがう。 一瞬フォンは震えるが、すぐに収まりこっちを見て笑った。 「師匠……大好きです」 「…俺も好きで好きで堪らないよ」 いつも挿入の前はこんなこと言ってる。だけど未だに、こういう台詞は恥ずかしい。 顔が赤くなったのを、フォンに気付かれてなきゃ良いが。 9 名無しさん@ピンキー 2010/07/17(土) 12 02 48 ID msKP8wtb 「ふぅあっ…あくっ…」 先端が体内に入り腰を軽く浮かすフォン。 「師匠はやく、奥まで……」 「あせるなよ…バカ弟子」 そんな事を言いながら俺も早く、フォンの最奥まで入れたくて仕方がない。 しかしそれを抑えてそのまま遅くでも早くでもなく、腰を使いながら突き進む。 「ああああっ……いい…もっとぉ」 「相変わらずお前の中は暖かくて、締まって絡み付いて…最高だよ」 そう褒めながら、出し入れを始める。お世辞でもなく突けば突くほど、そんな感じがするんだ。 「俺もフォン君に奉仕しなきゃな」 「んんっ…ふにゃっ……くふぅ!」 肉棒で体内を突くのと同時に、フォンのペニスを弄ってやるのも忘れない。 すでに出来上がっているそこは、俺の手と中からの両方の刺激でぴちゃぴちゃと水音をたてて鳴いている。 「良い…良すぎてもうイ、イッちゃう、うああっ!」 快感を逃そうとしてるのかフォンは首を振る。中性的で子供のあどけなさを、十二分に残した顔が乱れてる。 フォンの表情で一番好きなのは笑顔だけど、こういう顔も………張の野郎の気持ちも少しは理解できるか。 「…うっく…い…あっ…!ああ……師匠…ごめんなさい、がまん…できません……」 「構わんよ…先に出せ」 口から唾液を垂らし謝罪の言葉を吐いて、膨張したフォン自身から白濁した液体が飛ぶ。 それは勢い良く飛び出して、覆いかぶさる俺の腹にかかる。フォンは俺に気を使ってか自慰を殆どしない。 だからセックスの時はいつもこうだ。とはいえ全く嫌な気はしないのだが。 「うあ…ぁぁ…また……師匠にかけちゃった……」 射精によって体が痙攣して、アナルが伸縮する。くぅ…毎度のこととはいえ気持ちいいな。 「フォンのなら、頭から被りたいぐらいだよ」 「そんなの、汚いで…ふぁっ!…あ……師匠…師匠ぉ…」 勿論フォンが、一回の射精ぐらいで萎えないことも俺は知ってる。 イッた直後の敏感になった所をつついてやれば、容易にもう一度角度と硬度を取り戻す。 正直俺より、射精できる回数が多いんじゃないかって思う。 「もっと出してみろ、腹といわず胸や顔に届くくらい」 そう言って褐色の胸と乳首を舐め回す。 「師匠そこは、ううっ…はうあっ!…くぅあっ……あう!」 まるで女のような喘ぎ声。ボーイ……なんちゃらだっけ?まなんでも良いか。 抱いてる時ぐらいしか、こんなフォンの声聞けないんだから。 「んがっ、ひあぁぅぅ…」 俺の舌の中でピンと屹立するフォンの乳首。こうすれば『アレ』もやりやすい。 「フォンはここを、こうするのが大好きなんだよな」 「あっ…ああっ!?それ…感じすぎるから…やめて下さ……んああっ!!」 歯先で乳首を甘噛みしてやる。こないだ偶然発見したツボだ。 「あひゃううっ!……も、もぉ…だめ…って……言ったのに」 「喜んでるじゃないか。さらに良く締まってるし…またチンポから蜜が出てる」 イッた時よりもキュウキュウに締め付けるフォンの中。この分なら、出してもおそらく外にはこぼれては来ないだろう。 「ふはぁっ…!師匠…僕も…また…!」 「俺も駄目だ、そろそろ出る…!」 フォンの中で俺自身が膨らんで、熱い精液を吐露したのと同時にフォンの体が再び魚のように跳ねて、そのまま同じものを発射した。 「ああっ……師匠………!」 「…今日は俺の腹が真っ白になりそうだな」 フォンの涎を指で救いながら言う。まだまだお互いを求めてる事は、言葉を交わさずとも分かっていた。 10 名無しさん@ピンキー 2010/07/17(土) 12 04 54 ID msKP8wtb 二人で幾度となく交わりながら、ようやく静けさをもった夜…というより明け方。 フォンはまた俺にしがみ付くようにして寝ている。そっと首筋に手をやれば体温が、手を通して伝わってくる。 「フォン…俺の恋人…俺の家族…俺の弟子」 ふと頭をよぎった言葉。一体どれが正解なんだろう、それとも全部正解なのか。 以前こいつは俺に自分が依存していると言った。だが今では俺だってそうなのは明確だ。 「誰にも渡さない…渡せない」 俺もフォンにしがみ付く。たまには良いだろ?たまにはな。 そう思いながら抱きしめれば、不眠なんかすぐにどこかに消えていってしまった。 「ん……あ……」 肉が焼ける匂いに目を覚ます。腕の中には空気しかない……飯作ってんのか。 なんだか物凄く良い夢を、見ていた気がするが思い出せない。 頭を掻きながら、時計に目をやると11:45と表示してある。もう昼か。 「フォン、なに作ってんだ?」 寝室を出ながらキッチンに向かう。 「あっ、師匠お早うございます。今日は天気がいいから、お弁当にして外で食べませんか?」 三角巾とエプロンをつけたフォンがこっちを見る。弁当箱には、握り飯や卵焼き、ソーセージなんかが入っている。 窓から外を眺めると、確かにいい天気だ。 「外ねぇ……公園とかか?」 「はい」 ちょっと想像する。昼の公園で弁当を広げる、ガタイの良い男と褐色の少年。 間抜けではないが、ちょっとマッチしてるとは言い難いかもしれない。 もしかしたら俺を知ってる人間に、何か言われるという事もありえる。 「ねっ、二人で行きましょうよ!」 迷ってる俺に、にっこりと笑うフォン。……だめだ、この顔をされたら何も断れる気がしない。 「…分かったよ、行こう二人でな。その後は稽古つけてやる」 はしゃぎ気味のフォンに、俺は平静を装ってそう返事をした。
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「全く。往来が激しい場所で人の悪口なんてよく言えるわね。腹が立つよりも先に呆れた」 「い、いやあ、これはこれは委員長。どうしたんですか。いつもはもう教室に着いておられる頃だと思うのですけど」 妙な敬語の隆二をジト目で見る委員長。 「……そういう態度を取るなら、こちらもそれなりに対応するけど、その方がいいなら続けなさい」 「うひい!」 隆二の方が5センチくらいは高いはずなのに、なんだか背負っているものが鼠と龍くらい違うように隆二は震え上がっていた。 これは隆二の気が特別弱いわけではなく、うちのクラスの男子ほとんどがこう。その原因はそれぞれ違う。委員長の目つきが見る人によってはそれなりにキツくて見えるのが原因だったり、喋り方が断定的であるのが苦手だったり。 とにもかくにも隆二にとっては唯一の天敵と言っていいと思う。 「向井君」 「は、はい」 唐突に名前を呼ばれて、僕も思わず敬語になってしまう。 「ちょっと来て」 「……はい」 少し離れた路地へ一足先に入った委員長は上半身だけ通路に戻し、ゆるりと眉を上げてじっと俺を見る。どう見てもその様子は「早く来い」と急かしている。 「頑張って来い。骨は拾ってやる」 既に念じるようにして目を瞑った隆二。 「縁起の悪いことを言わないでよ」 お小言はある程度覚悟しているけど、それでもちょっと行きづらい。かといって行かなければどうなるかは想像に難くない。 前門の虎後門の狼。 意を決して委員長が呼んだ路地へ赴くと、腕を組み片足に体重を掛けて委員長が待っていた。 「あの……さっきのは……」 「時間が無いから手っ取り早く用を済ませたいの。いいかしら」 「う、うん」 少しずれた眼鏡を右手人差し指で元の位置に戻しつつ即座に委員長が言う。 「家の鍵、貸してくれないかしら」 「家の、鍵?」 「数学の教科書忘れて取りに戻ったんだけど、鍵が開いてなくて。さっき見つけてようやく追いついたの」 溜息をついた委員長の姿を見て、僕もつられて溜息をつく。今からこってり絞られるのかなと思ってたから、この溜息は安堵の溜息。 たまに鍵を植木鉢の下とか、郵便受けの中とかに置いているのをドラマとか本で見るけど、いつそれが見られて勝手に家へ侵入されるか分からないから、ああいう共有の仕方はお母さんには許せないそうだ。だから家族1本ずつ鍵を持つようにして、それ以外のスペアキーは無い。 「そ、そうだね。良かった、今からお小言を貰うのかと思ってた」 「言ったでしょう。時間が無いの。お望みとあれば帰ってからゆっくりするけど」 「遠慮したいかな……あはは」 「そうね。あたしもそんな無駄なことに時間を割きたくないわ。それに……」 一旦目を閉じてから僕から目を逸らし、 「もうこれ以上、そういうキャラとして見られるのは御免だわ」 と再び溜息。ごめん、委員長。「そんなキャラに思われてないよ」と否定できない。 儚げな印象すらも儚く、委員長は再び良く通る声で尋ねた。 「とにかく家の鍵、借りれるかしら」 「うん、いいよ」 昨日委員長が僕に数学を教えてくれたとき、忘れていったのかも。 家の鍵だけ取り外そうとして、キーホルダーからなかなか抜けなかったからそのまま委員長に渡す。 「普段はちゃんと入れたか確認するのに、昨日に限って忘れたの。……なんて言い訳してる時点でまだまだね」 「夜遅くまで付き合わせちゃったから。ごめんね」 「悪いと思うのならそこを謝まる前にもっと授業に集中しなさい」 「そうするよ」 鍵を受け取った委員長はそれを握り締めて、 「放課後……帰り際に渡せばいい?」 と尋ねる。 「そうしてもらえると助かるかな」 皆が残っているうちに、学校内で堂々と渡されると委員長がうちに居ることがバレちゃうかもしれないから、なるべく人が居ないときの方がいいんじゃないかなと思う。 「今日は多分クラス委員の仕事は無いはずだからすぐに帰れると思うわ。そうしたら昨日の続きを」 「続きって……勉強?」 「私があなたの家に居ることで、それ以外に役立つことがあるのかしら」 昨日のことを思い出したのかは分からないけど、また溜息をついた。平均すると一言ごとに溜息を吐いているんじゃないかな。 「……夜じゃ駄目かな」 「私、普段は11時に寝るようにしてるの」 「そうなんだ」 昨日は朝の2時くらいまでやってたから、普段よりも3時間くらいは遅かったってことを暗に批難してるのかな、やっぱり。 「遅く始めたら遅く始めた分、私の睡眠時間が遅くなるから」 「分かった。帰ったらすぐで」 「理解が早くて助かるわ」 学校から帰ってすぐに勉強なんて今までやったことないけど、委員長がせっかくやってくれると言うのだから僕も見習わなきゃ。 鍵を受け取った委員長はくるりと踵を返し、通学路の方へ戻らずにそのまま路地を進もうとする。 「あれ、委員長。そっちからだと遠回りになっちゃうよ」 背中しか見えていなかったけど溜息を吐いたのは聞こえた。 「……あなたはすぐに忘れるのね。私が今、あなたの家に居候しているってこと。多くの生徒の通学路である、そこの道を逆走してそのままあなたの家に向かったらどうなる?」 「あ、そっか」 なるべく他の生徒に見つからないように、タイミングを見計らって。これが鉄則。 「もう1つ、委員長」 「何? もうかなり走らないと間に合わないんだけど」 腕時計に目を落とす委員長。 「もしかすると昨日僕の部屋に教科書置き忘れてるかもしれないから、自分の部屋に無かったら僕の部屋も探してみて」 「ん」 小さく頷いて委員長は駆け出し、あっという間に路地を通り過ぎて曲がっていった。確か委員長って帰宅部だった気がするけど、足速いなあ。昔は陸上部とかやってたのかもしれない。今度時間があったら聞いてみようかな。 通学路まで戻ると、隆二が神妙な顔つきで僕を見ていた。 「だ、大丈夫だったか誠一」 「うん、何とか」 「な、何とか……だと……! 何をされたんだ誠一! まさか改造手術をこの時間だけで!? おのれ怪人委員長!」 「大丈夫大丈夫。何もされていないから。後、怪人委員長ってなんかすごく変だよ」 いい加減に返事をしたせいで、奇妙なことを言い出したから慌てて言い直す。 「いや、あれは危ない。実はあれはだな……」 隆二の特撮的想像設定を聞きながら、僕らはゆっくり学校を目指した。
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甄姫を愛し、入札するか乳殺されるかで悩んでいたことがある。 徐庶の奇妙な冒険 程普関白 パンスト呂布 など数々の名言を持つ。 だんちょの名言ログの大半はこのひと。 ロリ好きが多いサーカス団においては貴重な人妻好き。 凄腕トレーダー。 時々一言にてされる怪しいカードの宣伝は、 彼が出品しているカードとの噂。 麻雀が強い。激強い。 余談ではあるが、彼の拠点が初めて汚れた時、あがりはもふりこみもしていなかったらしい。 それでも初なおしか汚れにテンションの上がった人間多数。 風の谷からやってきたらしい -- 牛 (2011-04-21 00 23 18) 名前 コメント
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「玄関入ってすぐ左手にあるここがお風呂と洗面所で、入らずに真っ直ぐ行くとトイレだよ」 「お風呂、結構広い上に綺麗なのね」 浴室を見渡してから委員長が呟く。 「お母さんが拘ってて、この前改築したんだ。改築してすぐにお父さんについていっちゃったからほとんどまだ使ってないんだけど」 単身赴任も急な話だったから、仕方が無いかな。 「廊下を進んだ先がお父さんとお母さんの部屋。さっきのリビングの隣になるね」 「あら、ご両親の部屋は1階?」 「そうだよ。最初は2階だったんだけど、お父さん帰ってくるのがいつも遅いし、階段の音が響くだろうからっていう理由と、単身赴任とかも多いから 帰ってきてから2階まで上がるの疲れるだろうからっていう理由で2階の和室から1階のこの部屋に移動したんだ。僕はあまり気にならないんだけど、お父さん はそういうところ気にする人だから」 細かいところまで良く気づいてほとんど怒らないお父さんだからか、性格が対極に近いお母さんと上手くやってるみたい。なんだかんだでああやって単身赴任に付いていっちゃう辺りなんかを見ると、いい夫婦なんだなと思う。息子としては置いていかれるのが複雑な気分だけど。 「ってここまで話す必要は無かったかな」 「聞いてて面白いから構わないわよ」 「そういえばお母さんには会ったことがあるの?」 素っ気無く委員長は答えた。 「無いわ。私に決めたのは学校長と学校の教師だから。でも多分連絡は行ってるはずね」 「なら突然帰ってきても何も言わないかな」 僕がそう言うと怪訝そうな顔で委員長は尋ねた。 「突然……って帰ってくるときに連絡してこないの?」 「電話してくるときもあるけど、基本的にお母さんが運転してる間、お父さんは寝てるって言ってたから」 「でも運転前に電話1本くらい入れてくるものだと思うわ」 「そういうものなのかな? 帰ってくるのが0時とかになったりするからかもしれないけど」 良く考えると今まで帰る前に連絡を入れてきたことは無かったと思う。普段、0時くらいならまだ起きてるから、連絡してくれれば帰ってくる時間を見計らってご飯作るんだけど。 「……まあ本人が構わないならいいのだけど」 階段を上がって2階へ案内する。 「目の前にある扉はトイレの扉。向かって右手側は昔お父さんとお母さんが使ってた和室で、今は別に誰の部屋って訳でもないかな。逆側の小さな部屋は物置になってるよ」 1階も2階も階段周りを廊下がぐるっと1周するようになっているため、今説明した和室側を先に回る。 「和室の隣は空き部屋。向かい側にあるのが僕の部屋で、その隣も空き部屋なんだ。とはいってもあっちはちょっと倉庫みたいになってるんだけどね。 荷物はそんなに多くないからいざとなれば荷物の移動はすぐに済むと思う。それでこの空き部屋のどっちかを委員長に使ってもらおうと思うんだけど……」 「どっちでも構わないわ。でもあなたの部屋の隣よりは向かいの方が静かに使えるだろうし、いちいち荷物を運ぶのも面倒だからこっちを使わせてもらおうかしら」 「うん、分かった」 委員長が使いたいと言った部屋の扉を開ける。中は窓があるだけで他には何も無し。委員長が泊まりに来るとは思っていなかったから、空き部屋は月に1階くらいしか掃除はしていないため少し埃っぽい。 「待っててくれれば掃除するよ」 「箒と塵取り、雑巾くらいがあればいいわ。何でもかんでもあなたにやってもらってたら、どっちが面倒見られてるか分からなくなるし」 「了解」 「ああ、後!」 物置に行こうとした僕を引き止める委員長。 「何?」 「テーブルとか無いかしら。勉強机代わりになるもの」 「んーと、もう1つの空き部屋の方にあるかもしれないからちょっと中を見ておいてくれる?」 「勝手に開けていいの?」 「見られて困るようなものは置いてないからね」 言って、僕は物置の扉を開ける。掃除機や大まかな掃除道具はリビングの一角にも置いてあるけど、物置にできる部屋が2階にしかなかったからそれ以外のほとんどが2階に置いてある。 必要な掃除道具を見繕って委員長の部屋に置いてから、先に行ってもらうように行った僕の部屋の隣にある空き部屋へ入る。 「どう? 見つかった?」 「これは使っていいの?」 委員長の人差し指の先には足の畳めない木製の古びた机があった。大きさは半畳より少し大きいくらいの机。 「使ってもいいけど、それ足が畳めないから寝る場所考えると不便だと思うよ。こっちとかはまだ新しいと思う」 「これでいいわ。使わないときは立て掛けておけばいいし」 僕が指差した割と新しい金属製の足の付いた机に首を振って、1人で机を持ち上げようとする。 「重……っ」 「さすがにそれを1人で持ち上げるのは無理だよ。手伝う」 「お願い……。ここまで重いとは思ってなかったわ」 2人で部屋まで机を運び、その後で今度は来客者用の布団も同じ部屋から運び出す。 「まだ時間があるし、しばらく窓から外に干しておいた方がいいかも」 「そうね」 頷いて委員長は僕から布団を受け取って窓の外へ半分ほど出した。