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『続おしかけ』 92KB 愛で 愛情 変態 現代 独自設定 ぺにまむ 『anko2068 おしかけ』の続きです 注意! この作品はゆなほシリーズ、プレミアムすっきりドールの流れを組んだ作品となっております。 この作品は、『anko2068 おしかけ』の続編です、未読の方はそちらを先にご覧頂くと、 一層楽しめるかと思います。 また、この作品内では読みやすさを考慮し、一部ゆっくりの発言に漢字・カタカナを用いています。 作者はばや汁です。このSSにはドHENTAIな表現が多分に含まれております! 苦手な方は、申し訳ありませんがブラウザバックをされるか、 不快な思いをされる場合があることをご理解のうえ、読み進んでください。 ------------------------------------- 「ん~・・・っ、幸せだなぁ・・・」 暖かく柔らかな枕に埋もれて、俺、双葉としあきは言葉通り、実に幸せな気分だった。 腹は満たされ、窓からの午後の日差しは麗らか、そして…。 「もう、としあきさったら、あまえんぼさんだべ」 俺を見下ろし柔らかく微笑む愛しい彼女。 彼女の名前はのうかりん、ゆうか種の特徴の緑色のセミショートヘアに、 可愛いネコミミのついた胴付きゆっくりだ、さらにのうかりん独特の特徴である麦藁帽子は、今ははずしている。 胴付きゆっくり、といっても、出る所はバッチリ出てへこむところはへこんでいる、 まるで人間のようなナイスバディの持ち主だ。 かつて俺が『プレミアムすっきりドール ゆうかにゃん』を購入した際に、 購入者1万人目に見事当選し特典として送られてきた。 彼女いわく自分は不良品、商品として成り立たないから厄介払い的に送られてきたという。 けれど俺からすればそんなことは全く無い。 先の通り普通の胴付きゆっくりとは違う抜群のプロポーションにくわえ、 家事万能、性格も穏やかで優しく、訛った口調もキュートだ。 それに加えて夜の生活も恥ずかしがりながらも積極的で、 出会った日に初めて同士の関係になった俺達の身体の相性は抜群。 あれから一年ほど経った今でも暇があればいちゃいちゃしてしまうほど、俺はのうかりんに骨抜き大満足だった。 かくいう今も俺はあったか柔らか枕こと、のうかりんの膝枕に頬を摺り寄せている。 昨日もたっぷりとベッドの中でくんずほぐれつしたまま眠り、遅い昼食として、 のうかりんの美味しい手料理に舌鼓を打って満腹になって、俺はまさに全てに満たされた状態だ。 「あー、のうかりんの太ももが柔らかすぎてまたムラムラきちゃったかも」 大学生なんていういい歳になっても俺の性欲はとどまる事を知らず、 のうかりんと出会ってからそれはさらに拍車がかかり、四六時中盛っているサルのような状態だ。 頭を乗せたまま、のうかりんの太ももを手のひらですりすりと撫で回す。 のうかりんのもち肌を包んでいるスカートの生地のさらさらの手触りが心地よく、いつまでも触っていたい気分になってしまう。 そのまま頬ですりすり、手のひらですりすりとやっていると、のうかりんの手が俺の手をそっと包み込んだ。 「これ、としあきさやめてけろ、オラ・・・その気になっちまうでないか・・・」 俺を見下ろすのうかりんの頬と、俺の手を握る柔らかな手のひらがほんのりと熱を帯びていて、 やめてといいながらその手にはあまり力が入っていない。 その可愛げのある様子に俺の股間は早くも臨戦態勢に入り、むくむくとズボンにテントを張り始めた。 「きゃっ!やだぁとしあきさったら、昨日もいっぱいしたべさ、このスケベっ」 それに気づいたのうかりんが非難の声をあげる、しかしその視線は俺の股間に釘付けだ。 心なしか、俺の鼻を花の蜜のようなほのかに甘い匂いがくすぐる。 俺はそれを嗅いで心が躍った、この匂いはのうかりんのフェロモンのようなもので、 エッチなことを考えているときほど色濃く香るのだ、もちろん人間と同じで性的な部分からの分泌液の匂いでもある、 おそらく俺の目の前にあるスカートの中では、もう洪水状態なのだろう。 ことあるごとに俺をスケベスケベと非難するのうかりんだが、俺との度重なる性交渉で慣らされた彼女の身体は、 俺と同等あるいはそれ以上にスケベな反応を返してくる。 気分が盛り上がれば、身体に触れただけで熱を帯び、キスをするだけで準備が全て整ってしまうほどだ。 「や、やだっ、やめてけれ、それ以上すりすりしないでくんろ!オラ昨日でつかれただよ、それにまだ真昼間だぁ!」 俺がすっかりその気になってしまったのを確認すると、のうかりんはイヤイヤと首を振って俺から逃れようとする。 いやよいやよと言っても身体は正直なものだが、無理強いするのはよくない。 そんなことは当然わかっているのだが、俺がこの獣欲に抗うような鋼の意思を持っているわけがないのだ。 「ふああっ!あひ!いっ・・・あぅぅうんっ!」 のうかりんの可愛い悲鳴が部屋に響く、俺は膝枕の体勢からごろりと寝返りを打ってのうかりんを押し倒し、 スカートの中に顔を突っ込んでのうかりんの股間を、パンツの上からべろべろと舌でなめまわしていた。 「じゅるっ!じゅるる!じゅっ・・・じゅぱ!」 音を立ててのうかりんの蜜をパンツ越しにすする、けれど後から後からあふれてきて、 俺の口周辺は早くものうかりんの蜜でべたべたになってしまった。 のうかりんのエロいエキスを口から摂取したおかげで、俺の股間も痛いほど勃起しているのがわかる。 けれど俺はまだまだのうかりんを舌で味わいたくて、口でパンツをずらし今度は直接無毛の秘裂を舐めあげた。 「やっ!やめれぇ!はずかしいだぁ!」 のうかりんは一舐めごとに太ももをビクリビクリと反応させ、スカートの上から、股間に食らいついている俺の頭を押さえつける。 しかしそれは抑制というには全く逆効果で、俺の唇はのうかりんのまむまむに直接くっつき、 舌はまむ内の奥へ奥へと侵入していく。 舌がとれてしまいそうになるほど限界まで舌を伸ばし、俺は舌の感覚器官全体でのうかりんを味わうように、 まむ内をかき混ぜ続けた。 「ひゃっ!あっ!あっ!あっ!ああああっ!!!」 のうかりんはもう喘ぎ声以外を発する余裕がなくなってしまったようで、 俺の舌に翻弄されたまま身体を一瞬硬直させ、絶頂に達してしまった。 その瞬間、今までとは比べ物にならない勢いで蜜があふれてくる。 のうかりんの太ももが細かく痙攣を初め、俺の頭を挟み込むと同時にまむ内が収縮して俺の舌を追い出そうとする。 俺はその力に抗って舌を差し込んだまま密を飲み干し、のうかりんの太ももの痙攣が収まると、 身体を起こしてスカートの中から這い出した。 「うっ・・・ふぅ・・・ふぅ・・・はぁ・・・はぁ・・・」 のうかりんは放心したように身体を投げ出して、深く呼吸して絶頂の海を漂っている。 「かわいいよ”ゆうか”」 俺はそういってのうかりんの唇に深くキスをした。 俺がのうかりんを愛称ではく本当の名前である『ゆうか』と呼ぶ、これが俺達のセックス開始の合図だった。 「あっ・・・んむ、ちゅっ、ちゅっ・・・」 のうかりんは薄く目を閉じ、俺のキスを迎え入れる、舌と舌が何度も絡み合って口内を溶かしあう。 キスをしながら俺はのうかりんの服を少しずつ脱がせていき、俺も裸になる。 たっぷりを時間をかけてから唇を離すと、俺ものうかりんもすっかり頭の中まで出来上がってしまっていた。 「としあきさ・・・オラ、オラ・・・」 のうかりんが瞳を潤ませ、組み敷いた下から手が伸びて俺のいきり立った股間をまさぐる。 愛撫を受けなくても全力で勃起しているそれを感じ、のうかりんは嬉しそうに微笑んだ。 「としあきさ、きて・・・」 のうかりんが俺の目を見つめて俺を誘う、けれど俺はそのまま覆いかぶさらず、 一旦身体を起こし、のうかりんの腕を引いて優しく抱きとめた。 「あっ、なにするだ?」 そのまますばやくのうかりんの後ろに回りこんで、胸を両手で鷲づかみにして、大き目のヒップにペニスをこすり付ける。 「あんっ、後ろからしたいだか?スケベなとしあきさ」 「床だとのうかりんの背中が痛いだろ、ベッドまで我慢できないし、な」 そのまま焦らすようにヒップの谷間にペニスをこすりつけ続けると、 のうかりんは俺に身体を預けてヒップを突き出し、挿入しやすい体勢になってくれた。 胸をつかんで抱きしめているせいで膝立ちバックのような半端な姿勢だが、俺はこのマシュマロおっぱいを離すつもりはない。 ヒップに擦り付け続けるのもそれはそれでオツだが、ここで出してしまってはもったいないので、 俺は我慢せず少し腰を引いてのうかりんのまむまむの入り口にペニスの先端をロックオンし、そのまま一気に貫く。 「あっひぃいぃぃいいい!!!ひぇえええ!!」 全くノンストップで根元まで深く挿入すると、俺の鈴口とのうかりんの子宮口がキスをした。 のうかりんの悲鳴とともに腰が大きく跳ね、まむ内がぎゅうぎゅうと俺のペニスを締め上げる。 俺も我慢を重ねたペニスに襲いかかる衝撃に、腰を動かすこともままならず、のうかりんのおっぱいをぐにぐにと揉みしだいたまま、 ただ歯を食いしばって射精を耐えながら、ペニスが抜けてしまわないように腰を押し付け続けた。 「だ、だめだぁ、オラもう腰抜けちまっただぁ・・・」 俺のペニスとのまむまむの隙間からだらだらと蜜を流しながら、身体の力を抜いていくのうかりん。 じっくりと後ろからのうかりんのおっぱいをもみほぐしていると、 次第にまむ内の強烈だった力が抜けていき、緩やかに吸い付くような締め付けに変わっていく。 俺はこの隙を見逃さず、ぐっと腰を引いてずるりとペニスを引き抜いた。 「あっ、ふぅぅぅ・・・んんん・・・」 排泄にも似た脱力感を味わい、のうかりんは切なそうな声を上げる。 「いくぞ」 「ふぇ・・・?あっっっっ!!!!?」 ばちゅんっ!と激しい音を立てて、俺の股間とのうかりんのヒップがぶつかり合う。 当然俺のペニスはのうかりんの最奥を突き上げ、のうかりんは声にならない叫びをあげた。 しかしそれで終わるはずはない、俺はスナップをきかせるように鋭く腰を使い、まむ内をペニスで蹂躙し続けた。 「ひっ!あっ!んっ!ふぅっ!おっ!あっあっあっあっ!!!」 「ぐぉぉおおおお!!」 のうかりんは逼迫したあえぎ声を上げ、俺は獣のように唸りながら腰をぶつけ続ける。 さらさらの蜜がまむまむとペニスの滑りを滑らかにするも、激しいピストン運動による摩擦はどんどん熱を増して行く。 二人の意味にならない叫び声と、ぶつかり合う肌の音、飛び散る蜜の香りが部屋の空気を侵していった。 「もうだめだとしあきさ!かんにんして!かんにんしてくんろぉぉ!!」 「イクぞゆうかぁああああ!!!」 「んああああっ!ぎもぢいいいいだぁああ!!すっきりしちまううぅぅうう!!!あああぁあぁぁあああぁああああ!!!!!」 バチィンッ! 一際力強く、のうかりんの尻肉を破壊するような勢いで腰を叩きつける。 子宮口と鈴口を完全に同化させて思いのたけを解き放つと、 噴水のようにペニスから精液がほとばしり、のうかりんの子宮内に一滴残らずしみこんでいった。 ビュービュー、ビュクビュク、ドクドクドク・・・。 射精の音が脳内に響き渡り、いつまでもやまないような気すらする。 ふとももとふともも、腰とヒップ、腹と背、腕は胸に、のうかりんは体をひねりってこちらを向き、俺がかぶりつくように唇を貪る。 全て一つになる感覚に、脳みそまでも蕩けそうな快感がいつまでも全身を支配していた。 「あぁ~、最っ高だったよゆうかぁ」 「も、もう、はずかしぃだよ!」 「はははっ、”のうかりん”はほんと恥ずかしがりだな」 やはりのうかりんはえっちの時以外は本当の名前で呼ぶと恥ずかしがる。 こうして俺が呼び方を戻せば、また日常が戻ってくるというわけだ。 だけどイチャイチャとした雰囲気は簡単には抜けず、シャワーで汗を流してもお互い半裸のまましばらく抱き合っていた。 俺はふと、そこであることに気付く。 「あれ?のうかりんちょっと太った?」 「やんだぁとしあきさ!しつれいだよぉ!・・・でも、ほんとだか?」 俺の何気ない言葉にのうかりんはカッと頬を染めた、しかし少しの後自らのお腹をさすり、ふにふにとつまんでみる。 しかし肉が余っているというほどの様子はない、 俺がセックス中に何度かさすった時にかすかな違和感を感じたのは、気のせいだったんだろうか。 「けど、俺はのうかりんが少しくらい太ったってぜぇんぜん気にしないけどな、 むしろちょっとくらいふっくらしたって、よりキュートになるって」 「もう、としあきさったら」 はたからみたらバカップルそのものだろうとは思う、だけど俺とのうかりんのラブラブファイヤーはいかなる時でも火力最大なのだ。 見つめあう二人、こんな真昼間から早くも二回戦目突入か…と、その時。 ピンポーン! 「へっ!?」 「何っ!?」 突然鳴った玄関の呼び鈴に、二人とも素っ頓狂な声を上げてドアのほうを振り返る。 しかしそれもつかの間、自分たちがとても人に見せられる格好ではないことに気付き慌てふためいた。 この部屋は決して広くない、玄関を開ければ二人の生活する居間の殆どが見えてしまう。 「おおおおお、オラ、オラっ」 「落ち着けのうかりん、まずは俺がパッと着替えて出ちゃうから、のうかりんはちゃんとゆっくり着替えなって」 「う、うん」 俺はとりあえず、情事の際にその辺に脱ぎ捨ててあった服をひっつかんで身に着けていった。 ピンポーン! 「はいはいわかってますって!」 急かすように二度目の呼び鈴が鳴った、ズボンのすそに躓きそうになりながらドアへ駆け寄る。 視界の端に映ったのうかりんは肌着を身に着け、スカートを腰に巻いているところだった、何とか間に合いそうだ。 俺が玄関口で対応すればいいだけの話だが、万一客が中を覗き込んだ時、 あられもない格好ののうかりんを見せるわけにはいかない。 俺はドアの前で一呼吸おいてから、ドアノブをひねった。 「はーい、どちらさ・・・ん?」 玄関から見えた景色は、なんてことはないいつもの外の景色、だが呼び鈴を鳴らしたはずの人影はどこにも見えなかった。 「悪いことしたな・・・」 何の用かは知らないが、痺れを切らして帰らせてしまったかと少々申し訳ない気持ちになりながらドアを閉めた、すると。 ピンポーン! 「ひっ!」 外には誰もいかったはず、けれどドアを閉めた瞬間すぐにもう一度呼び鈴がなり、背筋にうすら寒いものが走る。 「どうしただ?」 俺の声に、しっかりと服を着たのうかりんがこちらを覗き込んだ、実に似合っている…って、そんな場合じゃなくて。 「だ、誰もいないのに呼び鈴がなるんだ・・・っ!」 「や、やだぁ!おっかねぇ!」 ピンポーン! 合計四度目の呼び鈴の音、もしかしたら何かの間違いかもしれないと、ドアノブに手をかける。 ゴクリと唾を飲み込んで、意を決してドアをあけた。 「うわあああ!!!」 やはりそこには誰もいなかった、不可解な現象に恐怖のあまり手が震え、俺は勢いよくドアを締め…。 「ちょっと!にゃんで閉めちゃうにゃ!?」 「はい?」 下から聞こえる舌ったらずな怒気をはらんだ声、それと同時に服の裾がぐいと引っ張られる。 「お客さんには優しくしてほしーにゃ!」 「な、なんだ?」 声のしたほうを向くと、そこには頭の位置がちょうど俺の腰元くらいの身長の小さな女の子が立っていて、 頬を膨らませて俺を睨み付けていた。 女の子といっても、まんまるの頬、頭でっかちで低い頭身に、緑色の髪の毛とピンとたったネコミミ、 ゆらゆらと揺れる長い尻尾、明らかに人間では無いことがすぐにわかる。 「もしかして、ゆうかにゃん?」 俺はその姿に見覚えがある、それは俺がかつて購入しようとしていた、 『プレミアムすっきりドールゆうかにゃん』にそっくりだった。 といっても、つまり胴付きゆっくりのゆうかにゃん種というだけですっきりドールかどうかはわからない。 けれど何故そのゆうかにゃんが突然家に? 「あなたがとしあきちゃん?あがらせてにゃ」 「ちょ、ちょっと!」 ゆうかにゃんは何故か俺の名前を知っていて、しかも俺の脇をすり抜けて玄関から家に入り込もうとした。 「いきなりだな、きみどこから来たの?飼い主さんは?」 「もうっ!にゃんで邪魔するの!?」 抗議の声と共に俺を見上げてぷくぅと頬を膨らませる、実に愛らしいしぐさだ。 「まいったな・・・」 理由はわからないがその頑なな態度に弱って頬を掻いていると、家の中からのうかりんの声が響いた。 「おっかぁ!!?」 「にゃぁ~ん、ゆうかひさしぶりにゃん!」 「えっ?」 驚いたような声を上げて目を丸くするのうかりん。 ゆうかにゃんは俺を挟んで、驚くのうかりんにひらひらと手を振っていた。 「あらためまして、としあきちゃんはじめましてにゃん!ゆうかにゃんだにゃ!」 「は、はぁ・・・どうも」 ずかずかと居間に上がりこんで、ゆうかにゃんはぺこりとお辞儀をする、どうやら名前もゆうかにゃんと言うらしい。 「おっかぁ、なしていきなり来ただ?お勤めは?」 さっきから目の前のちびっ子ゆうかにゃんを『おっかぁ』と呼ぶのうかりん、俺は突然の展開に頭が混乱してしまっていた。 「ちょっと待って、ゆうかにゃんが来た理由は、とりあえずいいや、『おっかぁ』っていったい・・・?」 俺が素直な疑問をぶつけると、ゆうかにゃんが右手でぽふりと自分の胸元をたたいて、誇らしげに言い放つ。 「にゃーがこの、のうかりんことゆうかのママだにゃ!」 「えっ!?」 全く言葉通りの意味であると主張するゆうかにゃん、あまりのことにのうかりんに目を向けると、 のうかりんも若干困ったような顔をして言う。 「そうだぁ、見えねかもしんねぇけど、この子がオラのおっかぁだべ」 「ええええええええええええ!!!!?!?!?!?」 「おっかぁ、オラの膝にすわれ」 「ありがとにゃん」 テーブルを挟んで向かい合わせに座る俺とのうかりん、身長が低いゆうかにゃんを気遣ってのうかりんが膝上に誘い、 ゆうかにゃんはそれを素直に受け入れてちょこんと座る。 そのほほえましい光景は、姉妹どころじゃなくどう見てものうかりんがお母さんでゆうかにゃんが娘にしか見えない。 しかし彼女らいわく、ゆうかにゃんがお母さんでのうかりんが娘、ということらしかった。 「ところでお、お母様はどうして急に?」 姿かたちはどうあれ、のうかりんのお母さんが突然訪問してきたというシチュエーションに俺は緊張でカチカチになってしまう。 「にゃぁん、としあきちゃんったらか~わい~にゃん、ゆうかにゃんでいいんにゃよ?」 ゆうかにゃんはそんな俺の様子を見て、おかしそうにころころと笑う、その姿はとても一児?の母とは思えない。 「は、はぁ・・・」 俺が生返事をしていると、今度はゆうかにゃんを後ろからだっこしているのうかりんが口を開いた。 「そうだぁおっかぁ、さっきも聞いたけど、なんでいきなり、お勤めはどうしただ?」 「ママがかわいい娘のことを見にきちゃいけにゃい?それに、もうにゃーは”うみがかり”おわったのにゃ」 「そうだったかぁ、おつかれさまだぁ」 「ちょ、ちょっとまって」 ツーカーでさらさらと会話を進めていく親子に、俺は待ったをかける。 「えっとごめん、やっぱり状況が飲み込めないんだけど、それに”うみがかり”って?」 俺の疑問に、二人は丁寧に答えてくれた。 時々忘れそうになってしまうが、のうかりんは、 『プレミアムすっきりドール』を開発している会社から俺のところにやってきて俺の家族になった。 ゆうかにゃんは文字通りそこで彼女を産んだお母さんであり、『産み係』とは 商品になる『ゆうかにゃん』を産むための個体で、妊娠と出産を繰り返す毎日を送っていたのだそうだ。 「って、マジ?」 「マジもおおマジにゃ、いっぱいいっぱいかわいいあかちゃん産んだにゃん」 「マジかよ・・・」 のうかりんも自称不良品とはいえ、生まれる前は商品として生産されたということになる、 といえば一定の生産ラインの中から発生したものと考えるのは自然で、その元がこのちびっこゆうかにゃんだということだ。 「ほんとだぁ、オラのおねーちゃんもたっくさんいたし、いもうとだっていっぱいいただよぉ」 「いたって・・・」 そういってからのうかりんはほんの少し寂しそうな顔をした、それを追うようにゆうかにゃんが続ける。 「にゃーたちはしょーひんだからにゃ、生まれて、お勉強して、ごーかくしたら出荷されちゃうにゃ」 そういわれれば、確かにその通りだ。 「オラははじきもんだから、長いこと向こうで一緒にいれたけど、 としあきさのとこ来ちまったから寂しい思いさせちまっただな・・・」 「気にしちゃだめにゃ、にゃーは慣れっこにゃ」 昔を懐かしんでいるのか、今にも泣きそうな顔になってしまうのうかりんの頭をゆうかにゃんがよしよしと撫でる。 こうしてみると確かにお互いの心にはしっかり親子の絆があるのだろうが、いかんせん外見ではなんだか微妙な光景だ。 「あ、でも終わったってことは」 俺の言葉に、のうかりんはハッとなり、明るい顔になる。 「そうだおっかぁ、一緒に暮らすべ、オラもうおっかぁにこれ以上寂しい思いさせたくねぇだ」 「ん~、それもいいかもにゃぁね」 「としあきさも、お願いだ!」 ゆうかにゃんを抱きしめたまま、のうかりんは俺の目を見つめてから深々と頭を下げた。 「あー、まぁ、俺は別に構わないっちゃ構わないけど・・・」 「嬉しいだ!」 簡単に返事をしてしまってから、もしそうなるとのうかりんと公然イチャイチャができなくなってしまうなぁと、 ほんの少し後悔の念が頭をよぎる。 それが顔に出ていたのか、ゆうかにゃんは俺を見てくすくすとどこかいやらしい笑みを浮かべて笑った。 「にゃふふ、大丈夫だにゃ、お二人の邪魔はしないにゃ、それに気持ちは嬉しいけど、 にゃーは今度は住み込みで教育係になるにゃん、いっぱい可愛い後輩育てるにゃん」 「そ、そうだか・・・」 外見に似合わず大人な対応でやんわりと断るゆうかにゃんに、のうかりんはしょんぼりと肩を落としてしまう。 「大丈夫にゃ、工場の皆は優しいし、にゃーは寂しくないにゃ、でも時々会いたいかもにゃん」 「うぅぅ、今までごめんな、今度はオラからおっかぁに会いにいくからなっ!」 のうかりんはすっかり感極まってしまって、涙ながらにゆうかにゃんを抱きしめ、ゆうかにゃんは優しく微笑んでそれを受け止めていた。 親子の感動的な場面に俺が入り込む余地はなく、すっかり蚊帳の外だが不思議と悪い気はしない。 だが、しばらくそうした後、突然ゆうかにゃんがこちらを見てニヤリと笑う。 「にゃふふっ、さっきから気になってたけど、にゃんだかこのお部屋も、ゆうかも、えっちクサいにゃ!」 「なっ!」 唐突に指摘され、顔が赤くなるのを感じた、それはのうかりんも同じだったようで、目に見えるほど顔を赤くしている。 「ななななにいってるだおっかぁ!」 「お盛んにゃのねぇ、でもにゃーはゆうかがしっかり愛されててうれし~にゃん」 とてもではないが、さっきあなたが来る直前までセックスに溺れていたとは口が裂けてもいえない。 のうかりんと共に顔を赤くして黙り込んでしまう俺に、ゆうかにゃんは追い討ちをかける。 「でもぉ、こんなお昼からえっちするにゃんて、としあきちゃん溜まってるにゃ? ゆうかだけじゃ大変にゃら、にゃーがぬきぬきしてあげようかにゃん? 人間さん相手はしたことにゃいけど、きっとにゃーのまむまむもきもちい~にゃよ、 それともおくち?まさかまさかあにゃる?にゃぁん!ゆうかにゃん壊れちゃうにゃぁ!」 途中から妄想交じりに目を閉じて身体をくねらせるゆうかにゃん、幼い外見の可愛い口から紡がれる卑猥なワードに、 ついつい俺もそれを想像して鼻の下が伸びてしまった。 「そ、それもいいかも・・・」 「ああん!?」 のうかりんが凄い形相で俺を睨み付け、俺は股間と一緒にしゅんと萎縮してしまった。 「にゃはは、じょーだんにゃよぉ、ゆうかとっても怖いお顔になってるにゃ」 俺達をからかってゆうかにゃんは心底楽しそうに笑う、今はまさに外見どおりのいたずらっ子といったところだろうか。 「もうっ!冗談キツいべ、としあきさはオラのだぁ!」 のうかりんは完全に嫉妬してしまって、ゆうかにゃんをメッとしかる、 今までのうかりんに嫉妬されるようなシチュエーションなど無かっただけに、これはこれでオイシイ。 「にゅふふぅ・・・にゃっ!」 突然謎の掛け声と共にのうかりんの腕の中からゆうかにゃんが消えた。 「あらっ!?」 素っ頓狂な声をあげるのうかりん、どうやら腕をすっぽ抜けてテーブルの下に逃げ込んだらしい。 「どうした・・・って、おふぅっ!?」 「としあきさどうしただ!?」 思わず生々しい声を上げる俺に、のうかりんが目を丸くする。 俺の声の原因はテーブルの下の俺の股の間にあった。 「いっつも可愛いにゃーのゆうかを泣かせてるのがどんなのか、たしかめてやるにゃん」 いつの間にか俺の股間に手をすりすりとこすり付けているゆうかにゃん、 テーブルの下からまん丸の目が捕食者のようにキラリと光っていた。 「ちょ、ちょっとおっかぁ!」 のうかりんがゆうかにゃんを連れ戻そうとテーブルの下に入ろうとするも、 あわてているのか頭をつっかえてなかなか上手くいかない。 「うぉぉっ」 俺が跳ね除けてしまえばそれで済む話なのだが、これがなかなかどうして、 小さな手が艶かしく動いてペニスをズボンごと刺激し、俺のペニスはすぐにガッチガチになってしまった。 「それじゃ、ごかいちょ~にゃん」 掛け声と共にゆうかにゃんが俺のズボンのジッパーを下ろすと、 パンツを跳ね上げてすっかり膨張しきって温まったペニスが空気にさらされ、その温度差だけで射精してしまいそうになる。 「すっご~い!ぺにぺにおっきいにゃ!人間さんの生ぺにぺに初めて見たにゃ、たくましいにゃぁ」 ゆうかにゃんは初めて見たという人間のペニスに、興奮した様子でペニスをまじまじと見つめていた。 呼吸のたびに吐息がペニスに当って、それすらも気持ちいい。 「だ、ダメだって・・・」 口ではそういいながらも、すっかり期待してしまっている下半身からの命令で、俺はゆうかにゃんを拒むことが出来ない。 「ではでは、あ~~~~っん」 俺の股の間で、ゆうかにゃんがくぱぁと口をあける、上から見えたその大きな口の中は、 唾液でてらてらと濡れ光っていて、淫靡でとても魅力的だった。 今まさに俺のペニスが捕食されるっ!と思った瞬間、ゆうかにゃんがテーブルの下に消えてしまう。 「あ、あれ?」 「にゃあああ!はなすにゃ!」 「これ!いくらおっかぁでもやっていいことと悪いことがあるだ!」 ゆうかにゃんを捕まえて引きずり出したのうかりんが、テーブルの向こうでプリプリとゆうかにゃんに説教をしていた。 「う・・・ま、まぁしかたないよね」 俺はのうかりんの怒りがこちらを向かないうちにいそいそとペニスをしまいこむ。 「としあきさも!浮気なんて絶対ゆるさねぇかんね!」 「す、すみません」 当然そんなことで回避できるはずはなく、俺達はその後こってりとのうかりんのお説教に絞られてしまうのだった。 「もう、だから言ってるにゃ、あれはじょーだんなのにゃ、にゃーはまだ工場の備品だから、 勝手にえっちなんかしちゃいけにゃいんだにゃ」 「ふーんだ、しらねっ」 すっかりふくれてしまったのうかりんに、ゆうかにゃんがガッチリとホールドされている。 口ではそんなことを主張しているが、あの時とめられなかったら、 確実に俺のペニスを咥えていたと思うのは、俺の気のせいだろうか。 「ま、まぁまぁ」 「としあきさもとしあきさだ、オラというものがありながら、ほかの子にデレデレすんなぁ、それもおっかぁに」 収まったかと思った怒りが再びふつふつと湧き上がってきたのか、のうかりんは腕にぐぐっと力をこめていく。 「にゃにゃにゃ、くるしーにゃ!」 ゆうかにゃんが締め付けに腕をばたつかせるも、それはとまらなかった。 あわやお説教モード追加ターンか!?と身構えたそのとき、ゆうかにゃんが「あっ!」と声を上げる。 「そーだにゃ、すっかり忘れてたにゃ、ゆうかちょっと離して離して」 「嘘つくんでねぇだよ?」 「嘘じゃないにゃ、ほんとにゃ」 のうかりんは、腕から逃れるための方便を疑うも、ゆうかにゃんの様子をみて解放してやった。 するとゆうかにゃんは、服のポケットをまさぐって、一枚の封筒を取り出した。 「はいこれ、ついでにこれを渡してこいっていわれたのにゃん」 俺に差し出された、すっかりもみ合ってシワがよってしまっているそれを受け取って光にかざす、 中には紙が入っているようだった。 「なにこれ」 「にゃーにもわかんないにゃ、研究所のえらいひとに渡されたにゃ」 「研究所?」 またも聞きなれない単語、そんなところにかかわりがあった覚えはない。 「オラたちの生まれた工場とつながって、研究所があるんだぁ、 商品の研究をするのが仕事のとこで、オラは昔そっちで寝泊りしてただよ」 「そうなのか、どれ」 封筒の口を破って中を取り出すと、中には一枚の手紙が入っていた。 手紙の中には、簡単な文章で『健康診断のお知らせ』という内容がつづられていた。 のうかりんがうちに来て一年あまり、ここらで一度健康診断を受けてみてはいかがかということだ。 「だってさ、どうする?」 「ん~、オラはどっちでもいいだよぉ、としあきさにまかすだ」 突然健康診断といわれてもピンとこないのか、のうかりんは曖昧な返事を返す。 「でも、ゆうかがお怪我とかお病気になっちゃっても、普通のお医者さんじゃみれにゃいんだし、 ためしに見てもらってもいいんじゃにゃいの?お金もかからないってかいてるにゃ」 俺の横から覗き込んだゆうかにゃんが内容を読んで提案する。 「まあ確かにタダだし、万一ってこともあるしな、これって付き添いもOKなのかな?」 手紙には本当に案内だけで、日付の指定なども書かれていなかった。 都合のいい日を見つけて、とのことなので、最後に書かれている電話番号で予約をすればいいんだろう。 だから予定さえあわせれば俺も付き添いたいところなのだが、研究所なんて大それたところに俺が行ってもいいものなんだろうか。 「ちょっとまってにゃ、聞いてみるにゃ」 ゆうかにゃんはポケットに手を突っ込んで、携帯電話を取り出し、慣れた手つきでボタンをプッシュした。 「あ、もしもし?にゃーにゃ」 電話の相手が出たらしい、ゆうかにゃんは軽快に話を進めていく。 「ゆうかのけんこー診断って、としあきちゃんもついてっていいにゃ?うん、そう、ご主人様だにゃ OKにゃ?え?あ、うん、きいてみるにゃ」 そういって通話口に手を当てて、ゆうかにゃんがこちらを向く。 「ついていくのは全然かまわにゃいって、で、にゃんか、今からでいいなら送ってあげるっていってるけど、いくにゃ?」 突然のお誘いに少し戸惑ったが、俺とのうかりんはこの後の予定も特に無かったので、お言葉に甘えることにした。 電話のあとしばらく三人でまったりしていると、呼び鈴が鳴ったので玄関に出る。 扉を開けると、スーツを着た若い男性が立っていた。 「あっ、始めまして!お世話になっております、私、田中と申します」 「ど、どうも」 人当たりの良い笑顔でさっと差し出された名刺を受けとると、彼の名前と役職と会社名が簡単に書かれていた。 「へぇ、『ゆっくり生物科学研究所』っていうんですか、知らなかった・・・あ、双葉としあきです、よろしくお願いします」 「こちらこそよろしくお願いいたします」 二人してペコペコと頭を下げあっていると、準備を整えたのうかりんとゆうかにゃんが居間から顔を出す。 のうかりんは余所行きの格好になって、頭にはお気に入りの麦藁帽子をかぶっていた。 それを見て田中さんはニコリと微笑んで片手をあげる。 「やあのうかりん久しぶり、元気そうで何よりだ」 「田中さんでねぇか、ひさしぶりだなぁ」 親しげに挨拶を交わす二人。 「知り合い?」 何気なく聞く俺に、ゆうかにゃんがわき腹を小突いてくる。 「にゃんだにゃ、嫉妬さんかにゃ?」 「ちがわい」 「オラ前にも言ったけど、向こうではずっと庭いじりしてたから、皆知り合いなんだぁ」 「そ、そう」 俺の知らない時間を楽しそうに話すのうかりんの様子に、ふと寂しさが心によぎる。 確かに言われたとおり軽く嫉妬してしまっているのかもしれない、恥ずかしくて頬が少し熱くなった。 「ご準備はいいですか?」 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、田中さんは笑顔のまま俺達を促す。 「ああ、大丈夫です」 持ち物と戸締りの確認をして、俺達は田中さんにつれられて外に止めてあった車に乗り込んだ。 「オラぁ、もう帰んないと思ってたから、皆に会えるの楽しみだ」 健康診断と聞いたときは気のない返事をしていたのうかりんだが、 田中さんと会って俺の家に来る前のことを思い出したのか、車の中でさっきよりもわくわくした様子でそう言った。 「どんなところなんだい?」 「どんなところって言っても、オラにとったらただの家だったからなぁ、何にも無いけど、いいとこだっぺよ」 「何もないとは、手厳しいな」 後部座席で話す俺達の会話を聞いて、田中さんはハハハと笑う。 「にゃはは、住宅地からははにゃれてるから、たしかになんにもないにゃ」 助手席からゆうかにゃんの声、そういえばのうかりん以外と、それもこんな人数で移動するなんてここしばらく無い。 「離れているって言いますけど、そんなに遠いんですか?」 俺も遠足気分が盛り上がってきて、ついつい口数が多くなってしまっていた。 「いやぁ、そんなに離れてないんだけどね、距離にすれば双葉さんのお家から二駅くらいかな、 たださっきゆうかにゃんが言ったとおり住宅地からはちょっと離れててね、 林の中にあるから確かになんにも無いといえば、その通りだね」 田中さんは初対面の俺にも気さくに受け答えをしてくれ、すぐに打ち解けることが出来そうだった。 「あ、でも研究所の皆はオラの家族だ、皆にとしあきさのこと自慢してやりてぇだ」 そういってのうかりんは俺の腕に腕を絡ませる、それを見て前の二人がくすくすと笑う。 「二人は本当に仲がいいんだな、僕は安心したよ」 「ラブラブのあっちっちだからにゃ、にゃーは早く孫の顔がみたいにゃん」 「もうおっかぁったら何いうだ!」 「あはは・・・」 すっかり冷やかされてしまったが、のうかりんは満更でもない様子で、顔を赤くしたまま腕は解かなかった。 なんでもない会話を続けているうちに、窓の外の景色にはどんどん自然が増えていって、 木々の間を縫うように走ったかと思うと、突然開けたところに出て車が静かに停止した。 「さ、ついたよ」 「おぉ・・・」 想像していたよりもはるかに大きいその施設に、初めて訪れた俺は思わずうなってしまう。 「すごい、ちょっとした大学くらいの大きさはあるんじゃないですか?」 大小さまざまな建物が入り乱れている様は、想像していた会社というイメージとはだいぶ差があった。 「工場もくっついてるし、ここで色々やってるからにゃあ」 慣れた足取りで田中さんとゆうかにゃんはさっさと先に進んでいってしまう。 「ほらとしあきさ、つったってないでいくだ」 「お、おう」 のうかりんが呆気にとられている俺を覗き込み、すっと手を伸ばす。 俺はその手を取ってゆっくりと施設に向かって歩き出した。 入り口の建物に入ると、中はしんと静まり返っていた。 けれど隅々まで掃除が行き届いているのか、新築の建物のように中はピカピカだった。 「あんらぁ!のうかりんでないのぉ、元気してた!?」 通路から顔を出した掃除用具を抱えたお姉さんが、これまた独特なイントネーションで挨拶しながらこちらに駆け寄ってくる。 「れてぃねえさん!久しぶり!」 のうかりんは彼女のことも知っていたようで、気さくに挨拶を返し手を取り合う。 「れてぃってことは・・・」 珍しい名前だが聞いたことがある、確かれてぃという種類のゆっくりがいたはずだ。 しかし目の前のお姉さんは、のうかりんと同じように人間味のある体付きをしていて、 作業服を押し上げている胸もなかなかの重量感が見て取れる。 たしかに頬には丸みがあるが、一目で胴付きゆっくりだとは気づきにくかった。 「この人がのうかりんのご主人のとしあきさん?なまらめんこい!羨ましいなぁ」 「だめだぁ、としあきさは、オラのだ!」 キラキラと目を輝かせて俺を見るれてぃさんを牽制するように、のうかりんが俺の腕を取って身体を引き寄せた。 「あはは、誰も取るなんていってないっしょ」 それを見てれてぃさんが笑う、すっかりからかわれてしまったようだ。 「初めましてとしあきさん、あたしはれてぃ、よろしく」 「よ、よろしくお願いします」 さっと差し出された手をとっさに握り返す、柔らかい手と可愛く笑った顔、 そして動いたときにゆさっと揺れた胸についついデレデレとしてしまった。 「ふふふっ、やっぱりめんこい」 それに気づいたれてぃさんが、くすくすと笑う。 「もう、としあきさったら」 のうかりんはジト目になってそんな俺を睨む。 「あはは・・・」 女の人と見たらついつい反応してしまう思春期のように節操のない自分に、俺はただ苦笑するしか出来なかった。 「んじゃあ、あたしはゴミ投げいかなきゃなんないから、後で余裕あったらお茶すんべ」 「ああ、いっぺよ、楽しみにしてるだ」 井戸端会議のように談笑したあと、れてぃさんは通路の奥へと消えていった。 「じゃ、早速ゆうかはけんこー診断いくかにゃ」 ゆうかにゃんが施設の奥へ行こうと、のうかりんの腕を引く。 「あ、待ってけれ、としあきさはどうするだ?」 「えっと・・・どうしたらいいんだろ」 つい勢いで付いてきたとはいえ、正直俺がここにいて出来ることなど何もない。 「こっちにきたって、検査室の前でただ待ってるだけにゃよ?」 「それもそうか」 かといって他にすることもないしな、と思っていると、田中さんがニカッと笑って口を開いた。 「じゃ、施設見学でもするかい?」 「いいんですか?」 「いいとも、別に人様に見せられないことはしていない、ちゃんと見学コースだってあるんだ、僕が案内してあげるよ」 田中さんはそういって、行こうかと僕を促す。 「いってくるといいだ、オラの代わりに皆に挨拶してきてけれ」 「じゃあ、そうしようかな」 のうかりんの言葉に甘え、俺は田中さんと一緒に見学に行くことにして、その場でのうかりんとゆうかにゃんと分かれた。 「では改めまして、ゆっくり生物科学研究所へようこそ!」 少し歩いて大きな扉の前で立ち止まり、田中さんはこちらを一旦振り返りかしこまって言った。 「これから我が社の誇る製品、『ゆっくりオナホール』及び 『プレミアムすっきりドール』の生産過程を見ていただきたいと思う、準備はいいかい?」 「はい、よろしくお願いします!」 形式ばった言い方に、俺もついつい背筋を伸ばして答える。 「それじゃ、行こうか」 そういって田中さんは俺に見えるようにして扉を開け放った。 「おぉ・・・」 思わず感嘆の声を漏らす、そこは普通に生活していたら決してお目にかかることのない非日常的な空間だった。 まず見えたのは、まっすぐに伸びた両サイドガラス張りの長い通路だ。 ガラスの向こうには、綺麗な部屋が上下に2段一定間隔で並んでいて、 中には大きな身体のゆっくりが幸せそうに目を閉じている。 「ここでは『ゆっくりオナホール』のためのゆっくり達が居る。我が社の基本は安全安心、そして高い品質。 『母体』のゆっくり達はこの部屋で不自由なく過ごし、やがて元気な赤ちゃんを産む」 田中さんの解説を聞きながら、ゆっくりと通路を進んでいく。 左右の部屋には、れいむ、まりさ、ありす、みょんなど基本的な種類のゆっくりが居た。 「この子達は皆妊娠しているんですか?」 「そう、本当のことを言うと父母子の家族形式にしたいのが理想なんだけどね、そこは品質管理の都合上仕方ないことなんだ」 自然な形を考えるならば、家族ひとつで1単位なのだろうが、確かに2匹のゆっくりが居れば何かしら問題が起こったり、 予定外の子供が出来たりするかもしれない。 「そういえばぱちゅりーは居ないんですね」 「基本種はラインナップでそろえたいところなんだけどね、ぱちゅりー種は身体的に他のゆっくりと比べても、 凄く脆くてなかなか難しいんだ、もちろん今後の課題として取り組んでいるところさ」 俺の何気ない一言にも、田中さんは真摯に答えてくれる。 「この子達はどうやって妊娠してるんですか?やはり交配で?」 「その昔は、優秀な個体を個室に入れて、交配させていたんだけどね、それだと母体にゆっくすで余計な負担がかかってしまうし、 種付け用の個体を用意しないといけない、これでは非効率だということで、職員が器具を使って種付けをしているんだ。 冷凍技術が進歩したおかげで、妊娠していない個体の精子餡を長期間保存しておけるようになったのも大きいね。 だから今ではここの子達全員が母であり父なんだよ」 「へぇ、そうなんですか」 それにしても、教育がきちんと行き届いているのか、ここから見えるゆっくり達は皆おとなしい。 身重の身体ということもあるかもしれないが、起きていても行儀良く座っていたり、部屋に備えてある器具で遊んでいても、 俺達が前を通るとこちらを見てにこりと微笑んでくれる。 「ずいぶん行儀がいいんですね、ゆっくりってもっと、なんていうかガサツなイメージがあったんですけど」 「それは次の部屋で説明しよう」 田中さんの話に夢中になっていると、いつの間にか次の扉が目の前にあった。 扉を開けて中に入ると、さっきとは違い通路のサイドに大きな部屋があって、ドアについていた小窓から中をのぞくと、 小さなゆっくり達が数匹と、大きなゆっくりが一匹、そして一人の女の人が居て、なにやら楽しげにしていた。 「これはいったいなんですか?なんだか学校か幼稚園みたいだ」 思ったことをそのまま口にすると、田中さんがにやりと微笑んだ。 「そうその通り、ここは養育と教育を兼ねた施設で、年齢別及び教育レベル別に細かく分類された部屋で、 それぞれ教師役の職員やゆっくりが手塩にかけて育てているんだ」 田中さんの言ったとおり、通路の奥へ行くにつれて、部屋の中に居る小さなゆっくり達の大きさが大きくなっていく。 「ほら見てごらん、ここでは今、技術訓練をやっているみたいだね」 田中さんに言われた部屋をのぞくと、中に居るゆっくり達は、床に吸盤でくっつけられたペニスの形をした棒の前に、それぞれ並んでいた。 それに対面する形で、部屋の奥に居る教師役のゆっくりが、同じく目の前にあるペニス棒に舌を絡めて行く。 するとそれに合わせて生徒のゆっくりたちが、一生懸命先生役を真似して口を開け舌を伸ばしてペニス棒を舐め始めた。 「凄いなぁ」 「彼女らにはちゃんとした知能があるからね、生まれたときからしっかり教育してやれば頭だってよくなるし、 一定の技術を教えることだって出来る。そしてここで訓練をつんで一定以上の成績をおさめたものが、 晴れて製品になるんだ。さらにその中でも特に優秀だった個体は母体になって次の優秀な子を産み、 母体を終えた個体はその多くが教育係になる。そうしてより品質の高い製品を生み出すサイクルが出来上がっているんだ」 田中さんはとても熱心に語り、彼がこの仕事に確かな情熱を持っているということが伺える。 「これまで見たのは通常の子達ばかりですけど、例えば俺のとこに来たのうかにゃんとかは、別のところに?」 「次の部屋からが胴付きのスペースさ、胴付きは個体としての値段も高いし、プレミアムを銘打っているからね、 より強く力を入れて育てているんだよ」 また通路の置くの新しい扉を開く。 今度は少し何もない連絡用通路を歩き、次の建物に移動した。 「さ、ここが胴付きの施設だ」 そこは最初の部屋と同じように両サイドがガラス張りの部屋だった。 けれどさっきと違うのは、一つ一つの部屋が直前に見た教室と同じくらいの大きさの部屋で、中には何人かの子がまとまって生活していた。 十分に動き回れるような環境で、最初の部屋では数匹のおなかの大きなゆうかにゃんが笑いながら話していたのだが、 こちらに気づいて通路側まで寄ってきて皆ペコリとおじぎをした。 「お行儀いいなあ」 ほほえましい気持ちになった俺が軽く手を振ってやると、皆一様に微笑んで手を振ってくれる、実に可愛い。 「この子達はどうしてまとまってるんですか?」 「胴付き達はより繊細だからね、それでどうして保護しないのかって思うかもしれないけど、 逆に僕達はこうして仲間を作ってやることによって、母体達の精神衛生を良くする効果を期待しているんだ。 もちろん絶対に喧嘩なんかしないように、細心の注意を払って管理している、当然教育の成果もあるけどね」 たしかに言われてみれば、どこの部屋に居る子もみな屈託のない笑みを浮かべている。 楽しくおしゃべりをしたり、仲良く遊んだり、中には出産間近なのか、特にお腹の大きな子のお腹に耳を当てている子もいた。 「あれ?あれって」 部屋を進んでいるときに、俺はあることに気づいた。 妊娠している子に混じって、お腹のへこんだ子がいると思ったら、 その子の腕の中にはその子にそっくりな小さな赤ちゃんゆっくりがいたのだ。 「胴付きゆっくりは、よりユーザーに近い立場でコミュニケーションをとる必要があると僕達は考えているんだ。 さっきの『ゆっくりオナホール』が、あくまでグッズやペットとして扱われるとしたら、 この『すっきりドール』達はペットより高い立場、家族やパートナーとして扱われることを想定している。 『プレミアム』の名を冠する子たちは特に、ね。だからこうして生まれた直後は母親と一緒にすごさせる。 そして他の母体の子達に囲まれて、暖かな幸せの中で育てられるのさ」 そういって中の子ゆっくりを見つめる田中さんのまなざしは、まるでわが子を見つめるような慈しみに満ちていた。 結果的に正規の製品にはならなかったにせよ、ここで育ったのうかりんが、 ああして俺の大切なパートナーとしていることを考えると、この取り組みは上手くいっているといえるだろう。 母ゆっくりの腕の中で眠る子ゆっくりは、何一つ穢れない無垢な顔で静かに寝息を立てていた。 次の施設は胴なしのゆっくり達の施設と同様の学校施設になっていて、人間の幼児くらいの大きさの子から出荷直前であろう子が、 段階別に集まっていろいろなことを勉強しているようだった。 「さて、本来はここで見学コースは終わりなんだが、まだ時間がありそうだ、次に行こう」 気分がノッてきたのか、田中さんは俺の前を意気揚々と進んでいく。 次に案内されたのは、いかにも研究施設といった区画だった。 無機質な廊下、整然と並ぶ部屋のドアについている窓からは、見たこともないような器具がたくさん並んでいるのが見える。 中で働いている人たちは一様に白衣を着ていた。 「さて、あそこが暇そうかな」 田中さんは一つの部屋にアテをつけて俺を招く。 「やあ皆、紹介しようあの”のうかりん”のご主人の双葉さんだ」 部屋に入ると田中さんが俺を紹介する、部屋の中に居たのは白衣を着た男性3人で、田中さんの発言を聞いた瞬間部屋にどよめきが走った。 「まままままじっすか」 「のうかりんは、のうかりんは元気!?」 「ああ羨ましい、羨ましいなぁ」 「よ、よろしくお願いします」 イスに座ったままではあるが、凄い剣幕になる三人の雰囲気に萎縮してしまう。 「まあまあそうかたくならずに、彼らはのうかりんのファンだったんだよ」 田中さんが笑うと、三人はそれぞれ昔を懐かしむように目を閉じる。 「のうかりんは素晴らしい、優しくて気遣いも出来て、何よりあの包容力のある身体、たまらないよねぇ」 「のうかりんは僕らの、いやこの研究所皆のアイドルだった、もちろん僕も大好きさ」 「あああのうかりん、改造したい・・・」 「そうなんですか?」 一部不穏な発言も聞こえたが、俺の抱いていた印象とは違う発言を聞いて、内心驚いたというか、ほっとしたというか、複雑な気分になった。 なにしろ俺はのうかりんに『自分は不良品だからお払い箱にされた』と聞かされていたからだ。 「どうしたんだい?」 田中さんが俺の微妙な反応に気づき、声をかける。 「いえ、実は」 俺がそのことを言うと、三人と田中さんは目を丸くして、 『そんな馬鹿な!?』 と声をそろえて驚いた。 「でものうかりんがそういったんですよ、だから俺はてっきり嫌われていたのかと思って心配してたんですけど」 「そんなことは誓ってないさ、でも確かにあれはあまりに急だったし、そう思われても仕方なかったかもなぁ・・・可哀想なことをしたよ」 三人のうちの一人が、ぽつりとつぶやいた。 「商品として成り立つか否かだけを言えば、のうかりんは出荷不可能という意味で不良品なのは確かだ。 でも僕達はそんなことでのうかりんを、いや、彼女達をモノみたいに捨てたりはしない。 そういう子達だって活躍の場を与えることは出来るし、いやらしい話研究所としては研究対象にもなるしね。 のうかりんは変異体で人間に近いボディや、普通のゆっくりらしくない特殊な思考をもって生まれている。 とりあえず商品には出来ないから、特性を生かした結果菜園作業が向いているということで、庭係りをまかされていた。 でもさっきも言ったとおり、のうかりんは人当たりも良かったし働き者で、皆に好かれていたんだよ」 優しい表情で語る彼の言葉に嘘のようなものは感じられず、ここで過ごしていたのうかりんは、 本当に愛されていたんだなということが手に取るようにわかった。 「でもじゃあ何で俺のところに?」 素直な疑問が浮かび、口にする。 するともう一人が、苦々しい顔をして答えた。 「『商品としてはもちろん、まずは個として愛を注げ』っていうのがうちのボスの言葉でさ、勿論俺達は皆それに賛同してる。 生き物を扱う以上、ここを巣立っていった子達が今後どのような一生を過ごすかまでは保障してやれないけど、 せめて生まれてから出荷されるまでは愛情を与えて、幸せに育ててやりたいからね。 商品になる子、商品にはなれなかった子、実験や研究対象の子、皆同じ命さ、軽んじていいわけない。 けどこれはあくまでうちの方針、そのさらに上には経営者様が居るわけよ」 彼の言葉を引き継ぐように、三人目が口を開く。 「あ、あいつら、のうかりんを養う無駄な金は無いからどこかに払い下げるか、処分するか、 それが嫌なら何とかして商品化しろっていってきたんだな・・・。けどのうかりんは突然変異だから量産したり出来ないし、 皆のアイドルを売ったり、こ、殺したりするなんて絶対にいやだったんだ・・・。 だから僕たちは相談して丁度良く近かった『ゆうかにゃん一万体キャンペーン』のプレゼントにするっていうことで手を打ってもらったんだ・・・。 で、でも、いい人そうな人にもらわれて、う、うれしいんだな・・・」 「それについては僕が保障するよ、のうかりんは本当に幸せそうだった。 実のところ、半ば強制的にイメージと違うものを送られたら、クレームが来て出戻り、 なんてことになるかなって職員の皆は期待していたみたいなんだけどね」 田中さんの言葉に、白衣の三人はハハハと照れ笑いを浮かべる。 「安心してください、のうかりんは俺が絶対幸せにします!」 和やかな雰囲気に、冗談めかしてそんなことをいう。 勿論言葉通り有言実行のつもりだが、これでは嫁をもらう男の台詞みたいで、頬に熱が帯びていくのを感じた。 「そりゃそうだ、幸せにしなきゃ俺がぶっ殺すからな」 「何かあったら僕らも助けになる、応援するよ」 「ぺ、ぺにぺにとか着けたくなったらいつでもくるといいんだな・・・」 三人に祝福?され、俺と田中さんは部屋を出た。 「さてそろそろ」 田中さんが時計を見たところで、突然田中さんのポケットから携帯の呼び出し音が鳴った。 「もしもし?はい、あ、そうですか、わかりました、はい、では終わりましたら連絡ください、はい、失礼します」 「何かあったんですか?」 電話を切ってポケットに入れる田中さんに、俺は何事か聞くと、田中さんは変わらぬ笑顔で答えた。 「いや、たいしたことじゃないよ、ちょっと検査が延びたから、もう少しゆっくりしててくれって」 「のうかりんどこか悪いんですか?」 心配になって青ざめる俺に、田中さんは小さく首を振る。 「そんなことないと思うよ、ただちょっと気になったことがあったんだって、 もし万が一のことがあってもここの設備ならあっという間に治せるから心配しないで」 「そうですか・・・」 安心させようとしてくれたのはわかるが、万が一のことと聞いて俺はつい不安になってしまう。 そんな気持ちを吹き飛ばすように、田中さんはぱっと笑って俺の背中を軽くたたく。 「ささ、じゃあ次で最後だけど、取って置きの場所があるんだ、いこう」 「はい」 俺はくよくよしていても仕方ないかと、田中さんの後に続いて歩き出した。 「さあついたよ」 二つほど建物の中を横切ってたどり着いたそこは、丁度建物の真ん中にある空間で、 天井の窓から光が差し込み、緑や小さな池まである大きな室内の中庭のような場所だった。 「おお、すごい」 俺は思わず驚きを口に出してしまう、ただ綺麗な場所というだけならそれほど珍しくはないが、 その空間には多数の胴つきや胴なし、そして見たことも無いような珍しい種類のゆっくり達がいて、 皆それぞれグループを作ったりして仲睦まじく過ごしていた。 「ここはどういうところなんですか?」 思わずわくわくした気持ちなってしまい、興奮した様子の俺をみて田中さんはクスリと笑う。 「ここはまだ商品化していないゆっくり達の生活の場かな、やっぱり自然のあるところで過ごさせてあげたいからね。 のうかりんみたいに理由があって商品にならなかったり、これから製品化していくために飼育していたり、様々な子が居る。 まあ簡単に言ってしまえばふれあい広場みたいなものかな、ほら、入っていいよ」 入り口のドアを開いて、田中さんは俺の背中をぽんと押す。 俺が入った瞬間、数匹のゆっくり達の大きな瞳が一斉にこちらを向いた。 「こ、こんにちわ」 いきなり注目されるとさすがに少し気恥ずかしい、俺がぎこちない挨拶をすると、あちらこちらから、 『ゆっくりしていってね!』 という声が上がった、一応受け入れてもらえたらしい。 「じゃあ、僕は用事があるからここで一旦失礼するよ、自由に過ごしてくれ、何かあったら、そうだな・・・」 田中さんが広場の中に視線を走らせ、誰かを見つけて「おーい」と声をかける。 すると田中さんの呼びかけに応じて、離れたところから作業着姿の一人の女性がやってきた。 「あたしでいいかい?あらとしあきちゃん、いらっしゃい」 と思ったら、さっき玄関であったれてぃさんだった。 れてぃさんは人懐っこい笑みを浮かべて、俺の手を取る。 「さあさあ、遊んでって、あたしだけじゃこども達を手に負えないよ」 「あ、はいはい引っ張らないで」 俺がまごついているとれてぃさんは俺の腕に腕を絡めてぎゅうぎゅうと胸を押し付けてきた。 そっけない作業着の下の柔らかい感触についつい鼻の下が伸びてしまう。 「あはは、じゃあれてぃ、後はよろしく」 田中さんは声を上げて笑いながら、片手をあげて通路の奥へと歩いていった。 「おにーさんおなまえなんていうの~?」 「としあきだよ」 「あしょんであしょんで!」 「あ、ああいいよ」 「ゆっ!ゆっ!だっこしてね!だっこしてね!」 「はいはい、ほーら高い高い」 「おそらをとんでるみたーい!」 「りぐるもー!」「あたいも!」「ちるのちゃんやめようよ、あぶないよ」 「ねーえあっちですなあそびしようよー」「おにーちゃんはちぇんとおいかけっこするんだよー、わかってねー」 「あああちょっと待ってちょっと待って」 れてぃさんに連れられて広場の真ん中に行くと、職員以外の人間が珍しいのか、 目を輝かせた小さなゆっくり達に一斉に囲まれてしまった。 四方八方からの遊んで遊んでのラブコールに、俺の身は全く追いつかない。 「れてぃさんも笑ってないで手伝ってくださいよ!」 「あはは、いいっしょべつに、ほら皆、としあき兄ちゃんに遊んでもらえ」 『はーーーい!』 れてぃさんのGOサインに、再び俺をもみくちゃにするゆっくり達。 胴のない子は足元で靴を舐めたりふくらはぎに体当たりしたり、胴のある子は腹や太ももに取り付いて、よじ登ろうとする子さえ居た。 「こら!危ないって、やばっ転ぶ!」 何とか踏ん張ろうとするも、バランスを崩してしりもちをついてしまった。 「誰も怪我してないよね?」 俺よりもあきらかに身長の低い子達を相手にしているので、一挙手一投足に注意を払わなければいけない。 周りを見て、踏み潰したりしていないのを確認してほっとしていると、 低い姿勢になったのをこれ幸いと見たゆっくり達の一斉攻撃にあってしまった。 まるでアマゾン川に落ちた怪我人に群がるピラニアのように、俺の身体の隅々をゆっくり達が覆っていく。 「うへぁあああああああ!!」 足の先から顔面までむにゅむにゅの身体に包まれ、前後不確定な状態に陥ってしまう俺。 しかも中には製品用の知識を勉強している子も居るのか、誰かはわからないが耳や指先を咥えたり舐めたりしている子まで居た。 というよりも、正直柔らかいゆっくり達が身体の上を蠢いている時点で結構気持ちいい。 俺はこんなところで勃起すまいと精神統一して気を静める、が。 「ぐ、ぐるじいいいいだすげで!」 顔にまで無邪気な笑顔のゆっくりが張り付いているおかげで、まともに息もすえない。 「あっははははは!」 ゆっくりの壁の向こうかられてぃさんの笑い声が聞こえる、薄情者め。 あわや窒息かと思われたときに、ぐいと手が引っ張られて助け起こされた。 「大丈夫ですか?」 「はは、なんとか・・・君は?」 俺を助けてくれたのは見たことないゆっくりで、薄く紫がかったピンク色の髪の毛の、幼稚園児みたいな服を着た胴つきの子だった。 「げっ」 思わず声を上げたのは、彼女の胸付近にくっついていた謎の目玉とばっちり目が合ってしまったからだ、アクセサリーかなんかだろうか。 「わたしの名前はさとりです」 「さとりちゃんか、ありがとう、俺はとしあき、よろしく」 俺が礼を言うとさとりちゃんははにかんだように微笑んだ、幼い外見とその仕草は実にキュートだ。 まだ製品化されていないようだが、こんな子といちゃついたなら、犯罪チックで興奮するかもしれない。 「こちらこそ、よろし・・・ハッ!」 挨拶をして立ち上がると、さとりちゃんはカッ!と目を見開いて俺の手を勢い良く振りほどいてしまった。 「ど、どうしたの?」 「ふ、不潔です!いきなりそんなっ!いやあああ!」 いきなり顔を真っ赤にしてまくし立てたかとおもうと、そのままさとりちゃんは脱兎のごとく逃げ出してしまう。 「な、何か悪いことしたかな?」 突然のことに呆然と立ち尽くす俺の背後から、笑いをこらえきれないといった様子のれてぃさんが肩を叩いた。 「ぷっ・・・くくく、としあきちゃんダメでないか、えっちぃこと考えたっしょ」 「なっ、そんなこと」 慌てて否定するも、れてぃさんは全く信じず腹を抱えて笑い出す。 「あはははっ、隠すんでないって、あのこ、さとりは手を握った相手の気持ちがわかるんよ、だからえろいこと考えたら一発さ」 嘘のようなその言葉をきいて、顔がカッと熱くなる。 さとりちゃんの走っていった方を見ると、木の陰から真っ赤な顔をしたさとりちゃんがこちらをのぞいていた。 「悪いことしたな・・・」 むにむに地獄から逃れた後に美少女に助けられたせいで、変な気を起こしてしまった自分に反省する。 しかし俺の股間は刺激によってテントを張ったままで、それをれてぃさんに見つけられて再び爆笑されてしまうのだった。 「全く、そんなに笑うこと無いじゃないか、生理現象だってーのに」 足元できゃいきゃい言っていたゆっくり達をれてぃさんに押し付けて、愚痴をこぼしながら散策する。 「それにしても、いろんな子がいるなぁ」 草木が茂っている場所、小さな池のある場所、子供用の遊具みたいな設備、色々な場所に目をやっても、 どこもかしこも大きさ大小、種類も様々なゆっくり達が楽しげに過ごしていた。 さっき囲まれたようなちびっ子達が多いが、中にはのうかりんやれてぃさんみたいな背の高い、 大人の女性みたいな胴付きの子も少なからず居た。 そういう子達はやはり見た目どおりお姉さん役のようで、小さな子達に囲まれて笑顔で相手をしてあげている。 「い、いかんいかん、俺はのうかりん一筋だぜ・・・」 なんて呟いて自制を試みるも、ついつい視線は可愛い子、体付きのいい子などに向いてしまうのは、男のサガというやつだろう。 どの子も、もしのうかりんがいなかったらお持ち帰りしてしまいたいほど可愛い、 しかもその子達が、えろいことをする製品になるための研究所で飼われているのだから、妄想も膨らんでしまうというものだ。 脳内で想像するくらいは浮気じゃないだろ?などと都合のいいことを考えながら目の保養を続けていた。 すこしすると突然首筋にひやりとした気配を感じた。 「ひゃっ!うぉ!?」 冷たさに声を上げたのもつかの間、突如目の前に現れた眉をキリリと吊り上げたドヤ顔に再びドッキリ。 「としあき!あたいをだっこしろ!」 「え、ああ、こう?」 いきなりの命令口調に思わず従って、その子を手にとって抱きかかえた。 「ゆっくりー!」 青い髪の毛の胴なしのあたいっ子は、実に満足そうだ。 「っていうか今浮いてたよね、飛べる子なのか・・・?」 そして普通のゆっくりと違って体が全体的にひんやりと冷たい。 頭に付いた大きなリボンをよけて頭を撫でてやると、ゆっゆっと声を上げて気持ちよさそうに目を閉じる。 「ちるのちゃんをかえして!」 突然、悲痛な声と共に後ろから腰にタックルをかまされた。 「うぉっ」 何とか咄嗟に一歩踏み出してバランスを取って、後ろを振り返ると、 緑色の髪の毛のポニーテールの胴つきの子が、こちらを見上げてキッと睨みつけていた。 「ちるのちゃんをかえしてっ!!」 その子はべそをかきながら手を伸ばして、俺の腕の子を奪取しようとする。 けれどその子の頭は俺の腰元くらい、あまりに身長が違いすぎて、届く気配はまるでない。 そういえば最初にもみくちゃにされている時も 「あたい!」「ちるのちゃん!」という声を聞いた気がする、きっとこの子達だったんだろう。 「この子がちるのちゃん?」 別に意地悪する気などないので、抱えていた子、ちるのちゃんをその子に差し出してやった。 「ちるのちゃんっ!」 「だいちゃん!あたいくるしい!」 ポニーテールの子はだいちゃんというらしい、ちるのちゃんを受け取った瞬間もう離すまいとぎゅうと胸に抱き、 ちるのちゃんは少し形をゆがめるほど平らな胸に押し付けられている。 「お友達をとっちゃってごめんね」 俺がだいちゃんの頭を優しく撫でてやると、だいちゃんはいまだ警戒しながらもほんのりと嬉しそうに目を細めた。 「ちるのーだいちゃーん、あーそぼ」 小さな手足を大きく動かして、だいちゃんと同じような大きさの、活発そうな子がそばによってくる。 今度の子は全体的に黒い服装でズボンをはいた緑色のショートカットの胴つきの子だ。 頭からはピョンと伸びた二つの触角のようなものが生えている。 「えっと、君は~?」 「あたしりぐる!」 その子はピッと手を上げて元気良く答える、なかなかいい子だ。 けれど俺はふとあることが引っかかってしまった。 「あたし?男の子じゃないの?」 外見から判断して、男の子のゆっくりなんて珍しいなと思っていたが、自分をあたしと呼ぶなんて変だなと感じてしまった。 するとりぐるくんはぷくぅと頬を膨らませて抗議の声を発する。 「ぷっくうぅぅぅ!!あたしおんなのこだもん!ほらっ!」 そのままズルリと自らパンツごとズボンを下ろす、そこには確かに可愛いワレメがついていた。 「あ、あはは、ごめんよりぐるちゃん、ズボンはいて」 あまりの無邪気な行動に子供を相手しているような気になって、さすがに勃起はしなかった。 けれどそのままにしておくわけにもいかないので、しゃがんでズボンをはかせてやる。 「これでわかったでしょ!?」 りぐるちゃんはなおもご立腹なようで、頬を膨らませたままぷりぷりと怒る。 なんとかなだめようとしていると、後ろから大きなスカートと可愛い飾りのついた帽子を身に着けた胴つきの子がやってきた。 「ちんちん!」 「なっ!?」 突然飛び出した卑猥な言葉に思わず耳を疑う。 「あっ、おにいさんえろいことかんがえたでしょ、ちんちんはみすちーのなきごえだよ、ねー」 「ちんっ!」 りぐるちゃんが俺を軽蔑したような眼差しで見て、みすちーちゃんを俺から隠すように背後に押しやった。 「えろなのかー」 みすちーちゃんのスカートがもぞもぞと動き、金色の髪の毛の赤いリボンをつけた胴なしの子が現れ、俺をニヤニヤと見上げる。 「なんでそんなところから・・・」 「るーみあはくらいところがすきなんだよ、ちんちん!」 俺の呟きにそう答えて、みすちーちゃんがしゃがんでるーみあちゃんをスカートの中に隠す。 中がどうなっているのかはわからないが、大人しくなったのでそれがお気に入りらしい。 「へんたいおにいさんなんてほっといて、みんないこいこ!」 りぐるちゃんはからかうように俺を笑って、他の子達の手を引いてつれていってしまった。 「じゃーね、ちんちん」 ニコニコと笑うみすちーちゃんが振り返って手を振ってくれる。 俺はそれに手を振り替えして、彼女らを見送った。 「なんだったんだか・・・」 水辺に近づくと、見慣れたゆっくりが身体を寄せ合って水面を見つめていた。 「えっと、れいむとまりさでいいのかな?」 俺が声をかけると、ゆっくりれいむとゆっくりまりさがこちらを向く、最もポピュラーな種類の二匹の胴なしのゆっくりだ。 「こんにちわおにーさん!れいむはれいむだよ」 「ゆゆ?まりさたちになにかようなのぜ?」 れいむは行儀良く目を伏せて挨拶をし、まりさはこちらを見上げて疑問を投げかける。 一見そこらへんにいるゆっくりと変わらないように見えるが、髪の毛の色艶や肌のハリも良く、 ペットとしても最上級のレベルだろう。 それにしても、れいむとまりさは『ゆっくりオナホール』として商品化されていたはずだ。 ここにいるということは何か問題があったりするのだろうか。 周りには商品化されていない、希少種と呼ばれるようなゆっくり達が多かったので、ふと気になってしまう。 失礼かなとは思いつつも、興味にかられた俺は二匹にどうしてここにいるのかたずねてみた。 するとれいむとまりさは、特に気にした風もなくすんなりと答えてくれる。 「れいむとまりさは、いまはせんせーさんなんだよ」 「きょうはおしごとないのぜ」 「ああ、そうなんだ」 二匹は決して不良品などではなく、教育施設の教師役だったようだ。 「今は何をしてるんだい?」 「おともだちをまってるのぜ」 「へぇ」 水を飲んでいたわけでもなさそうだし、特別いちゃついているような様子も無かったので、 何をしているのかとおもったら、そういうことだったようだ。 けれど二匹が見ていたのは水面で、そちらからそのお友達が来るとは思えなかった。 「もうすぐくるんだよ」 そういって、やはりれいむとまりさは再び水面のほうを向く。 少しすると、突然二匹が見つめている水面が揺らめき、何者かが顔をだした。 「かぱぁ~」 出てきたのは、二匹と同じ胴なしで、青い髪の毛を短いツインテールにして、緑色の帽子をかぶったゆっくりだった。 「にとり、ゆっくりしていってね!」 「ゆっ!ゆっくりしていってね!」 れいむとその子が挨拶を交わす、どうやらにとりという名前らしい。 「ささ、あそびにいくのぜ、きょうはなにするのぜ?」 まりさがおさげを振りながら元気良く跳ねて移動すると、れいむもそれについていく。 けれどにとりは、俺のほうをじっと見て立ち止まってしまっていた。 「おにーさんだあれ?」 見慣れない人間がいて興味を引かれたのだろう、大きな瞳が実にきらきらと輝いている。 「えっと、俺はとしあきだよ、よろしく、のうかりんのご主人って言えばわかるのかな」 俺がそういうと、にとりはぐぐっと身を乗り出してうなずいた。 「うんうん!のうかりんしってるよ!おっぱいぼいんぼいんで、やさしーの!」 「ははは、そうかそうか」 なんだか嬉しくなってくしゃくしゃと頭を撫でてやると、にとりは目を細めてくすぐったそうに笑う。 「えへへ、ねえねえだっこして、だっこー!」 「いいぞ、ほらっ」 無邪気なお願いに、両頬を包み込むようにもって持ち上げてやる。 今しがた水から上がったばかりで濡れていたので、抱きかかえてやることは出来なかったが、 それでもにとりはきゃっきゃと嬉しそうにはしゃいでいた。 「ゆわぁ~いたかいたかぁ~い」 「ほーら高いたかーい」 あまりに喜ぶもんだからこっちも調子に乗って遊んでいると、足元にぽすりと何かが当った。 「ちょっとおにいさんにとりをとらないでほしいのぜ、ぷくぅしちゃうのぜ!?」 足元を見るとまりさがふくれっつらでおさげを使って俺の脚をつついていた。 「ゆっ、ゆっ!れいむもたかいたかいしてね、とってもたのしそうだよ」 れいむはぴょんぴょんと飛び跳ねながら俺にアピールしている。 「いいぞ~、よっ、それっ」 一旦にとりをまりさの横に帰してから、れいむをひょいと抱えて持ち上げてやる。 「ゆわぁ~い!おそらをとんでるみたい!」 れいむももみあげをぴこぴことふって実に楽しそうだ。 それを見たまりさは、ますます不機嫌になって、ぷくぅと頬を膨らまして俺を睨みつける。 「ずるいのぜ!まりさもしてほしいのぜ!」 遊ぶ約束をしていたお友達を盗る形になってしまって、体当たりでもかまされるかと思ったが、 口から出たのはなんとも微笑ましい言葉だった。 「あはは、順番な、順番」 俺はその後しばらく3匹に付き合って交互に高い高いをしてあげた。 「はぁ、つかれた・・・」 あの後れいむとまりさとにとりが飽きるまで付き合って、くたくたになったところで解放された俺は、 そばにあった木陰で休むことにした。 空調設備だろうか、室内のはずなのに時折頬を撫でる優しい風が、運動して火照った身体に心地いい。 「持ち上げておろして、なんて作業でも意外とキツイもんだなぁ・・・」 普段から運動していたはずの俺も案外と体力がないもんだなぁと実感させられる。 …といっても大抵のうかりんとのベッド運動会ではあるが。 離れたところで遊んでいるゆっくり達を眺めていると、前触れなく突然視界が暗くなった。 「ばあ!」 そして耳元に響く大きな声。 「うぉっ!?」 全く無警戒だった俺は、素っ頓狂な声を上げてしまった。 「あははっ!びっくりしたびっくりした!」 驚かしが成功してご満悦なのか、俺の前で青い髪の毛の女の子が変な傘をさしながらくるくると回ってはしゃぎだす。 一見普通の女の子かと思ったが、彼女も胴つきの子らしい、背丈は人間で言うと中学生くらいで、左右で色の違う瞳が印象的だった。 回るたびにスカートの下からのぞくほっそりとした生足が健康的で魅力的だ。 「コラ!こがさ!」 「ひっ!?」 俺を驚かせた子が、今度は別の声でビクリと身体を強張らせた。 どうやらこがさちゃんという名前らしい。 「その声は、さ・・・さなえさん・・・?」 緊張した面持ちで、ギリギリと首を動かして声のしたほうを向くこがさちゃん。 俺もそれを追って視線を向けると、そこにはなんと、セーラー服の女子高生が仁王立ちしてこがさちゃんを睨みつけていた。 「なんで女子高生・・・?」 今までにないシチュエーションに疑問が浮かぶ、そんな格好のゆっくりいただろうか。 彼女もまたこがさちゃんと同じくほっそりした体型で、格好と同じく背丈も高く、遠くからみたら本物の女子高生に見えなくもない。 かろうじて丸い頬が、彼女もまた胴付きゆっくりだということを教えてくれる。 「初めまして、としあきさんですよね、私さなえともうします」 さなえさんはニコリと微笑んで、丁寧にお辞儀をした。 「あ、ご丁寧にどうも」 あまりにきちんとした挨拶に、座ったまま身を正してお辞儀をしてしまう。 「どうしてそんな格好を?それがさなえさんの本当の服でしたっけ?」 ゆっくりさなえといえば、そこまで珍しい種類ではない、何度かテレビやネットで見たことがあったと思うが、 俺の記憶の中の胴つきさなえ種は、変わった形の巫女装束だったと記憶している、少なくとも女子高生ルックではなかったはずだ。 「これは趣味です」 「あ、そうすか」 胸に手を当てて、あまりにきっぱりと言い放つので、妙に納得してしまった。 「さてこがさ、あなたお客様をいきなり驚かせるなんて、失礼じゃないですか」 「ごごごごめんなさい、ほんの出来心だったの許してぇ」 今まで俺に微笑んでいたさなえさんが、こがさのほうを向いて詰め寄る。 俺からその表情は見えないが、こがさちゃんの怯えっぷりは尋常ではない。 「絶対に、ゆ・る・さ・な・え!」 「いやああああああああ!!」 さなえさんはこがさちゃんの両頬をガシッとつかむと、そのままぐいぐいと引っ張っていく。 「いひゃいいひゃいいひゃいいいいいい!!!」 ゆっくり特有の柔らかいもちもちの頬は、そのままむにーっと伸びて、こがさちゃんは顔面崩壊状態だ。 「うふふふふふふふふふ」 さなえさんは実に楽しそうに笑いながら、こがさちゃんの頬を引っ張るのをやめない。 「お、おいおいその辺でやめてあげなよ、俺は気にしてないからさ」 異様な光景に、止めなければと俺が立ち上がろうとすると、何者かが走ってきてさなえさんのスカートの中に身体ごと突っ込んだ。 「きゃっほーう!」 「きゃあっ!」 楽しそうな声をあげながら何者かがスカートの中で暴れ、スカートを押さえて可愛い悲鳴をあげるさなえさん。 「ごめんなさああああい!」 その隙をついてこがさちゃんは全力でその場から逃げ出した。 「あっ!こらこがさっ!きゃああ!やめ、だめですよう!」 こがさちゃんを追おうとするも、スカートの中の襲撃に頬を染めて身をよじるさなえさん、ちょっとエロい。 「もーらった!あはははは!」 蠢いていたさなえさんのスカートの中から、紫色の髪の毛の、赤い服を着て丸い何かを背中につけた胴つきの子が飛び出した。 その手には何かをつかんでいる、良く目を凝らすと、ひらひらと舞うその白い布は…。 「ひ、ヒモパン・・・?」 「きゃああかなこさま!返してください!」 顔を真っ赤にしたさなえさんが小さなかなこちゃんを追い回す。 けれど体格の差を利用したフットワークの軽さで、かなこちゃんはさなえさんの手をひらりひらりと回避する。 「それぇっ!」 狙ってか否か、俺の目の前でかなこちゃんがさなえさんの股の下をくぐって、スカートの端をもって思い切りジャンプした。 「きゃああああああああ!!!」 絹を裂くようなさなえさんの悲鳴、俺の目にはさなえさんの健康的な白くて丸いお尻が眩しく写る。 「あはっ、ぼっきしてるぅ」 突然耳元で響く声、それと同時にいつの間にかテントを張っていた股間を小さな手がさらりと撫でた。 「うおっ!?」 無防備な股間への攻撃に、思わず甘い衝撃が腰を走る。 目をそらしている隙に、さなえさんとかなこちゃんは追いかけっこをしたまま遠くへ行ってしまっていた。 「あたしすわこ、おにーさんってえっちすき?」 いつの間にか横にいた、艶っぽい声を出す金髪の長い髪の胴つきのちびっ子はすわこちゃんと名乗る。 「んっ、ちゅっ・・・」 目を閉じてすわこちゃんが俺の頬を大きな舌でぺろぺろと舐める、大きな目のついた帽子がゆらゆらと揺れてこちらを見つめていた。 「こ、こら、やめなさい」 「あたしは、えっちなことすきだよ、おにーさんも、かわいいし、すき・・・」 妖しく舌を動かしながら、伸ばした手で股間をさすり続けるすわこちゃん。 俺の声を無視してのソフトな愛撫に、いけないと思いつつも気分が盛り上がってしまう。 「だ、だめだよすわこちゃん・・・」 ビクビクとズボンの下でペニスが脈打つ、まさかこのままイかされてしまうって言うのか!? 「あっ、かえるさん!」 あわや射精かと思ったそのとき、すわこちゃんが声を上げてパッと身体を離す。 「え?」 俺に興味をなくしてしまったかのように、すわこちゃんが走っていった先には、大きな緑色のカエルがドッシリと構えていた。 「かーえーるーさ~ん、けろけろ~ん」 すわこちゃんはカエルに駆け寄って捕まえようとする。 するとカエルはその手をスルリとすり抜けて、ぴょんぴょんと離れていってしまう。 「まってよぉ」 すわこちゃんはカエルを追って、そのまま遠くへといってしまった。 「どうすんだよこれ・・・」 俺の股間では、ギリギリまで焦らされたペニスが虚しくヒクついていた。 休もうとしていたはずなのに、その後もちょくちょく誰か彼か変わりばんこにやってきてはちょっかいをかけられ、 すっかり疲労困憊してしまった俺は、いつの間にか草の上で眠ってしまっていた。 「とーしあーきさっ!」 身体の上に、むにゅりと柔らかい衝撃がのしかかる。 「んあっ」 目を覚ました俺の視界に、優しく微笑む見知った顔があった。 「のうかりん!もう検査は終わったのかい」 別れて少ししか立っていないのに、ひどく懐かしい思いに駆られ、思わずのうかりんを抱きしめる。 「お、おわっただよ、ってやめてけろとしあきさ、はずかしいっぺよ、皆見てんだから!」 「え?」 首をめぐらせると、あちらこちらから視線を感じる、皆俺とのうかりんがいちゃついているのを見て、ニヤニヤと笑っていた。 「うわわっ」 こっぱずかしくなってのうかりんを離し、あわてて身をよじって体を起こす。 「ひゃあっ、あはは、もうとしあきさったら」 俺の上から転げ落ちたのうかりんが、寝転がったまま笑う、つられて俺も笑顔になった。 「あははっ、悪い悪いって、ん?」 ふと、のうかりんのそばに何かがあるのに気づいた俺は、何事かと目を凝らす。 巨大な緑色のそれは、草の上で補色になっていてわかりづらかったが、とても大きなカエルだった。 「ゲコゲコッ」 カエルは一声なくと、寝転がっていたのうかりんの大きなお尻に向かってジャンプし、べたりと張り付いた。 「うっひゃああああ!なんだなんだぁ!?」 全く気づいていなかったのうかりんは、お尻に感じた衝撃に悲鳴を上げながら身をよじる。 けれどカエルは、のうかりんのお尻が気に入ったのか実にご満悦でガッチリとへばりついて離れなかった。 「も、もうとしあきさ!とってけれ!」 「ちょいまち」 のうかりんが起き上がって背を向け、ぐっとお尻を突き出して俺に助けを求める。 形のいい大きなヒップに思わず目を奪われるが、今はそれどころじゃない。 のうかりんのお尻とカエルの腹の間に指を突っ込んで、何とか引き剥がそうと引っ張った。 けれどぬるぬるとしたカエルの身体はなかなかつかみどころが無く、思うように引き剥がすことが出来ない。 「いやあああ、きもちわるいだああ」 どこか嬉しそうな顔でもぞもぞと動くカエルの感触に、のうかりんはひんひんと泣き出してしまう。 「こらっ!は~な~れ~ろ~!」 何度目かの挑戦にもめげないカエル、その時横から小さな手がすっと伸びてきた。 「けろけろ、めっだよ」 それは、さっき俺のことを弄んだすわこちゃんだった。 すわこちゃんがカエルをつかむと、カエルは大人しくなってのうかりんのお尻から素直に離れる。 「ありがとうすわこちゃん」 俺がお礼を言うと、すわこちゃんは頬を少しそめてはにかんだ。 「ありがとうすわこちゃん、相変わらずめんこちゃんだなぁもう」 やっとカエルの呪縛から逃れたのうかりんは、すわこちゃんのもちもちのほっぺたをむにむにと捏ね回しながら感謝の言葉意を伝える。 すわこちゃんは気持ちよさそうに目を細めてのうかりんの手に身を任せていた。 ゆっくりはそうやってあやすと喜ぶのか…。 ちょっとしたカルチャーショックを味わっていると、すわこちゃんは満足したのかカエルを抱えたままゆっくりと去っていった。 「どうだった?としあきさ」 突然、のうかりんが俺を覗き込みながらそんなことを聞いてきた。 「どうって、ここがかな?いいところだったよ、思ってたよりずっと暖かいところだった」 俺がそういうと、のうかりんは優しい微笑みを浮かべる。 「そうだべ、いいとこだべ、オラ、ここが大好きなんだぁ」 のうかりんが笑みを浮かべたまま遠くを見つめる。 俺がその視線を追うと、広場の端の花畑を数人のゆっくり達が、楽しそうにおしゃべりをしながら手入れをしていた。 「あの花畑ってもしかして」 「そう、オラがここにいたとき世話してたところだ、今年もいっぺぇ綺麗な花さかせたみたいで、オラぁうれしいだ・・・」 のうかりんが居なくなってからもきちんと手入れされていたのだろう。 のうかりんの言うとおり花畑には色とりどりの花が綺麗に咲いていた。 「もしかして、戻りたくなったりした?」 昔を懐かしむように優しい表情をしているのうかりんに、ふとそんなことを聞いてみた。 「ん~、それもいいかなっておもうけんども、でもオラはやっぱりとしあきさのそばがいいだよ・・・」 「のうかりん・・・」 お互いの視線が交叉し、見詰め合う、なんだかいい雰囲気になってしまった。 そのままゆっくりと目を閉じながら二人の顔が近づいて…。 「そこまでだにゃ!」 突然二人の間に、にゅっとゆうかにゃんの顔が飛び出し、俺とのうかりんの唇が同時にそのやわらかい頬に触れた。 「おおおおおっかぁ!」 「ゆうかにゃん!?」 俺とのうかりんは顔を真っ赤にしてバッと身を離す。 「まったくちょーっと目を離したら、時と場所を選ばずいっちゃいちゃで、あっちっちだにゃん」 ニヤリと笑うゆうかにゃん、俺たちは熟れたトマトのようになってうつむいてしまう。 「帰ってくるなら、帰ってくればいいにゃん」 『えっ?』 ゆうかにゃんの突然の言葉に、俺とのうかりんの驚きの声がかぶる。 「そ、そんなこと突然言われたってオラ・・・」 困惑するのうかりんにゆうかにゃんが笑いかける。 「としあきちゃんと離れろっていう意味じゃないにゃ、別に好きなときにここきていいし、 少なくともにゃーはゆうかのことを歓迎するっていう意味だにゃ」 「で、でも・・・」 しかしのうかりんは歯切れが悪くなり俯いてしまう。 その原因に心当たりがあった俺はのうかりんの手をとって努めて優しく言った。 「のうかりんさ、自分は不良品だって言ってたけどそんなことなかったって、研究室の人たちや田中さんが言ってたよ」 「え?」 「色々あって、どうしてものうかりんをこの施設から出さなきゃいけなくなっちゃったらしいけど、 のうかりんが嫌いな人なんて誰も居なかった、俺の言うことが信じられないかい・・・?」 「うっ・・・お、オラ、オラ・・・」 俺の言葉を俯きながら聞いていたのうかりんが、くしゃりと顔をゆがめてぽろぽろと涙を流す。 俺は黙ってのうかりんの肩を抱いてやった。 「そうだにゃ、ゆうかは売られたんじゃなくてお嫁に行ったんだから、自由に帰ってきていいのにゃ」 ゆうかにゃんも優しくのうかりんの背中を撫でてやる、その表情は幼い外見でも、しっかりお母さんの顔だった。 「あ、そーだ!ついでににゃーがゆうかのことも、れくちゃあしてあげるにゃ!」 「れくちゃあ?」 目元を腫らしたのうかりんがおどけるゆうかにゃんの言葉に顔をあげる。 「そうにゃ、ゆうかは生まれからずっと商品化はムリ!ってなっちゃってお庭番してたけど、 にゃーと一緒に男の人を喜ばせる方法をおべんきょーするにゃ、としあきちゃんも喜ぶにゃん」 「お、おいおい」 苦笑いする俺に、ゆうかにゃんはふふふと笑って続ける。 「安心するにゃとしあきちゃん、しんぴんぴーんの子達用の訓練なんだから、プラスチックの棒でぺろぺろの練習したり、 お布団にまたがって腰を動かす練習とかだにゃ、心配するようなことなんて何にもないにゃ、 それとも、俺が仕込んだから必要ないっ!ってかにゃ!?たしかにぃ、他の皆や人間さんとしたことないにゃーより、 実践経験をつみまくったゆうかのほうがよっぽど上かも知れないにゃあ、せんせーとしてオファーかにゃ?」 ニヤニヤとイヤラシイ笑みを浮かべながら、からかいモードになってしまったゆうかにゃん。 嵐が過ぎるのを待とうと覚悟しようとした俺に対して、のうかりんが突然ぐっとこぶしを握って気合を入れた。 「お、オラやるだ!」 「へ?」 のうかりんの気合の声に、俺は目を丸くしてしまう。 「オラ、皆に不良品って思われてなくても、やっぱお勉強してない落ちこぼれだぁ、 だからおっかぁと訓練して、堂々とここ出身だって言えるようになって、としあきさをもっともっとメロメロにしてやるだ!」 さっきまで落ち込んでいたのはどこへやら、のうかりんは瞳に炎を宿してめらめらと燃え盛っていた。 「の、のうかりんが言うなら、あ、でも泊まりとかは無しだぞ!?」 自分にそのつもりは無くても、ついつい嫉妬してしまう俺を見て、二人がクスクスと笑う。 「もちろんだぁ、としあきさを起こしてとしあきさと寝るのもオラの仕事だぁ」 「安心するにゃ、としあきちゃんのゆうかをとったりしないにゃ」 「な、ならいいけどさ」 気恥ずかしくなってそっぽを向くと、ゆうかにゃんとのうかりんがあれこれと今後について会議を始める。 どうやら本当にお勉強会をすることでのうかりんの決意は固まったようだ。 「あ、そうそうとしあきちゃん、所長さんが会いたいっていってたにゃ」 女子会ムードからあぶれてぼーっとしていると、突然ゆうかにゃんが俺に言った。 「え?俺?」 突然のことに、間違いではないかと思ってしまう。 「そうにゃとしあきちゃんだにゃ、それを伝えにきてたのにすっかりわすれてたにゃ、案内するにゃん」 最初に俺達の間に割り込んでから結構な時間がたっている、ゆうかにゃんはそわそわしながら立ち上がり俺の手を引いた。 「その必要はありません」 けれど俺の後ろから急ににゅっと手が伸びてきて、ゆうかにゃんにつかまれていたほうとは反対の腕がぐいと引っ張られる。 「おっとと」 ぐいぐいと引っ張られて俺がバランスを崩すと、腕が伸びてきて胸を支えられ、ぐっと抱き寄せられた。 「おぉ、失礼失礼」 妙に柔らかい感触が背中にあたり、艶かしい大人のお姉さんの声が耳をくすぐった。 「遅いので、お迎えにあがりました」 「にゃはは、きめぇちゃんごめんだにゃ」 「きめぇちゃん?」 支えられた俺が後ろを振り向くと、すぐ目の前に女の人の顔があって、ばっちりと目が合ってしまう。 「うぉっ!」 びっくりして身体をのけぞらせるも、がっしりとホールドされていて身体は動かなかった。 「どうも、清く正しいきめぇ丸です、どうぞよろしく、おぉ、おぉ」 細い切れ長の瞳が俺を見つめ、何故か首をくいっくいっと横に振りながら答えるきめぇ丸さん。 のうかりんやれてぃさんと同じように大人の体型で、やはり彼女もゆっくりなのだろう、頬が結構丸い。 いまさらながら、さっきからむにゅむにゅと押し付けられているのがおっぱいだということに気づき、慌てて体を離す。 「ああっ!すみません」 反射的に謝ってしまう俺に、きめぇ丸さんは怪しい微笑みを浮かべた。 「おぉ、お気になさらず、では行きましょう」 そういって俺の手を再び引っ張り、ぐいぐいと先に進んでしまう、なんだか不思議な人だ。 「おっとと、じゃあ行ってくるから」 振り返ってのうかりんとゆうかにゃんに手を振ると、二人は笑顔で送り出してくれた。 きめぇ丸さんは特に何もしゃべらず、俺の手を引いたまま黙々と歩いていく。 しかし、俺を邪険に扱っているという雰囲気はなく、無言なのに不思議と居心地は悪くない。 それにきめぇ丸さんの顔立ちは、同じ大人な胴付きでものうかりん達とは違う雰囲気で、 どことなく香る妖しい色気に、歩いている間ついつい俺も無言で横顔を見つめてしまっていた。 きめぇ丸さんはスーツ姿で、背筋をピンと伸ばして、俺に見られているのを気にも留めずキビキビと歩いている。 身長はのうかりんよりも高くて、頭の上にちょんと乗った、ぼんぼりの付いた赤い烏帽子など特徴的なパーツはあるものの、 一見するとビジネスウーマンのように見えなくもない。 突然歩きながらきめぇ丸さんが首をぐいんと動かして、俺の方を向いた。 「ひっ」 予想してなかった動きに、少しひるんでしまう。 「私の顔に何か付いていますでしょうか」 きめぇ丸さんは眉一つ動かさないので、嫌がっているのかそれともただ聞いてみただけなのかいまいちわからなかった。 「い、いえ、綺麗だなと思って」 意を決して素直な感想を述べてみると、きめぇ丸さんはぐいっと顔を前に戻してしまった。 気を悪くさせてしまったかなと思ったが、突然きめぇ丸さんはブンブンと首を振って頭をシェイクし始める。 「おぉ恥ずかしい恥ずかしい」 あまりの速さに表情は見えないが、どことなく顔全体が赤くなっている気がしないでもない。 しかしそんな状態にあっても俺の手をつかんだまま真っ直ぐ歩みを止めることは無かった。 正直ちょっと怖い。 またも突然ピタリとシェイクをやめると、手をぐいと引っ張って俺の体制を崩させるきめぇ丸さん。 「おっとと」 前のめりに倒れそうになったところで、首に手が回ってきて頭を胸元に引き寄せられた。 スーツを押し上げている胸に顔がうずまり、おっぱいがむにゅりとゆがんで柔らかく俺の顔を包み込む。 なんともいえない嬉しい感触、けれどきめぇ丸さんは一定の速度で歩き続けるので、 俺も不自然な体制のまま歩みを止めることは許されなかった。 「おぉ可愛い可愛い」 首をホールドしている手とは逆の手で俺の頭を撫で回すきめぇ丸さん、その声はさっきよりもどことなく嬉しそうだ。 「あ、ありがとうございます、でも苦しいです・・・」 ラッキースケベな状況にも、残念ながら首を決められたままの足も動かしてで、おっぱいの感触を楽しむ余裕が無い。 しかも顔がスーツに押し付けられているので、案外と息苦しい。 でも呼吸をしようと思い切り息を吸い込むと、きめぇ丸さんのほのかに甘い体臭が鼻をくすぐって、 なんだかイケナイ気持ちになってしまいそうだった。 「つきました」 その後もガッチリ抱き寄せられ髪の毛をくしゃくしゃと撫でられ続けていると、きめぇ丸さんがある時急に停止して、そう告げた。 「ぷはっ!」 そして俺もおっぱいから解放され、ようやく新鮮な空気を吸うことができる。 顔を上げるとそこは飾り気のある、ちょっと格調高いドアの前だった。 きめぇ丸さんはコンコンとドアをノックすると、返事を待たずにドアを開けてしまう。 『あっ!?』 その瞬間ドアの向こうから男女二人のあわてた声が響く、何事かと思って中をのぞいてみると、 白髪交じりのいい歳のおじさんがメイド服の女の子の両胸を後ろから鷲づかみにしているところだった。 「へ・・・変態だー!!」 あまりの衝撃に思わず俺は叫んでしまった、きめぇ丸さんは「おぉおぉ」と薄ら笑いを浮かべている。 「や、やぁ・・・」 「もう!所長早く離して下さい!」 引きつった顔でこちらに挨拶するおじさん、どうやらこの人が所長さんらしい。 メイドの女の子は身体をよじって無理やり所長さんの腕の中から脱出する。 銀色の髪の毛にフリルのカチューシャをつけた、一見女子高生くらいの見た目の女の子だが、若干頬が丸い。 この子もゆっくりなのかなと思っていると、乱れた服を調えながら、「さくやです」とお辞儀をしてくれた。 さくやといえばゆっくりさくやという種類がいる、おそらくその胴つきなのだろう。 「いやぁ、さくやくんのおっぱいはどうして大きくならないのかと思って、ここは一つ揉んで大きくしてやろうかと」 聞いてもいないのに言い訳を始める所長さんをすかさずさくやさんが無言で思い切り尻を叩いた。 「いたっ!」 「双葉としあき様ですね、お待ちしていました、ささこちらへどうぞ」 済ました顔でさくやさんは俺を来客用イスへと促し、俺はそれにしたがって座ったことも無いようなふっかふかの皮イスに腰を沈める。 すかさずさくやさんが俺の前にお茶を出してくれる、本当にメイドさんみたいだ。 尻をさすりながら所長が向かいに腰を下ろすと、さくやさんときめぇ丸さんは後ろに立って控えた。 「お見苦しいところを見せたね、この施設の所長の斉藤です、よろしく」 「こちらこそ動揺してしまってすみません、双葉です」 俺達はお互いに頭を下げて挨拶をする、さっきまでの変態オヤジな印象とは違い、 所長さんは人当たりのよさそうな、でも貫禄のあるいかにも所長というオーラを身にまとっていた。 「さて双葉くん、とりあえずまずは心配事を取ってあげよう、のうかりんは至って健康でベストな状態だったよ」 「そうですか、よかった」 俺は所長さんの言葉にほっと胸をなでおろす、のうかりん抜きで俺だけ呼ばれたとあっては、 何かあったのではないかと心配していたが杞憂に終わったようだ。 「検査には私も立ち会ったから信用してくれていい、所長なんていう立派な肩書きをもらっているが、 私も研究者の端くれだ、ゆっくりのことに関しては誰にも負けたくないと思っているんだよ」 所長さんは胸を張りながらそう宣言する、その瞳はどこか少年のような輝きを帯びていて、 本当に研究が好きなんだなということが雄弁に伝わってきた。 「検査中もことあるごとにキミの話をしていたよ、本当にキミはのうかりんを大切にしてくれているようだね、 ここの皆を代表して、お礼を言わせてもらうよ」 「いえ、そんな、俺のほうこそお世話になってますから」 深々と頭を下げる所長さんに、慌ててフォローするも、お世話になっているなんて言い方をしてしまったせいで、 はははと笑われてしまった、俺もその意味に気づいて頬が熱くなる。 「あ、いやそれはそういう意味じゃなくてですね」 「いいんだ、そういった意味でも良きパートナーであることは、私たちの職業柄、とても喜ばしいことだよ」 所長さんの言葉に、ここがすっきりドールの工場であったことを思い出す、 いままでのあまりにほのぼのとした雰囲気にすっかり忘れてしまっていた。 「あくまで仕事として、性的扱いに特化したゆっくりを生産しているけど、 私自身としてはここの研究を通してゆっくりの持つ可能性について模索していきたいと思っているんだよ、 ゆっくりは非常に賢い生き物だからね、きちんと教育すればのうかりんのように庭いじりや家事だって出来る、 れてぃのように施設管理だって出来るし、この子たちのように私の秘書活動だって出来るんだ。 今はそのほとんどが胴つきに限られているけど、いずれは胴の無い普通のゆっくりだって・・・」 熱く語りだしてしまった所長さんに、さくやさんがコホンと咳払いでたしなめる。 「っとと、すまんすまん逸れてしまった、つい悪い癖でね」 「いえ、為になります」 お世辞ではなく、本当にそう思った、確かに俺はのうかりんと肉体関係だけでなく、料理をしてもらったり、 コミュニケーションで日々の疲れを癒してもらったり、とにかく色々と世話になっている。 ここで見た胴つきの子達も、なにかしら役目を持っていて、それを上手くこなしているようだった。 世間一般ではゆっくりは胴のあるなしにかかわらず、所詮ペットという扱いでしかないが、 今は副産物的なものだったとしても、ここで研究していることは今後ゆっくりのあり方というものを、 大きく左右するものであるだろうということは、素人の俺でも十分理解できた。 「さて、では本題に入ろうか・・・」 所長さんが一度イスに深く座りなおし、居住まいを正す。 俺も釣られて背筋を伸ばした。 「その前に一つ、双葉くんは、のうかりんが好きかな?」 「えっ、あ、はい」 いったい何を言われてしまうのかと緊張していたところでの唐突な質問に、拍子抜けしてしまった。 けれど所長さんは神妙な面持ちのまま、ぐっと身を乗り出す。 「ぶっちゃけ、のうかりんのこと、愛してるかな?」 「えっ・・・」 真剣な顔そう聞かれ、俺は思わず身構えてしまう。 今まで俺はのうかりんに対して、セックスの最中に好きだ愛してると発言したことは確かにある。 でも俺ののうかりんへの気持ちを誰かに聞かれたことなんて無かったし、 俺とのうかりんの関係を知っている人とのうかりんについて話すのも今日が初めてだ。 この所長さんの発言の意味を掘り下げると、つまり『俺はゆっくりを愛しているか』ということになるだろう。 俺は『のうかりん』のことを本当に好きだし、これが愛だというならばその通りだとは思う。 けれど他人に胸を張って俺は『のうかりんという胴つきゆっくりを愛している』と言えるだろうかと考えると、 つい口ごもってしまう自分がいた。 「いや、いいんだ、すまないね変なことを聞いて」 所長さんは笑顔でそういうが、その表情はどこか残念そうな色を帯びていた。 何故か無性にそのままではいけないと思い、俺は口の中に溜まった唾をぐっと飲み込んで、 出来る限りの真摯な態度で口を開いた。 「愛してます・・・俺は、のうかりんを愛してます」 所長さんと後ろにいた二人が、おぉと色めき立つ。 こんなことを言って所長さんはどう思うだろうか、もしかしたらゆっくりを本気で愛する変態野郎だと思われたかもしれない。 けれど他人に言い切ってやった俺は、どこか清々しい気持ちでいた。 のうかりんと出会ってたった一年、だけど今までの共同生活の中で、俺はこれからもずっと、 ペットなんかじゃなくパートナーとしてのうかりんと過ごしていきたいと思っている。 それがたとえ人間とゆっくりというタブーな関係であったとしても。 俺の言葉をきいて、所長さんは表情を緩ませた。 「そうか、ありがとう、是非のうかりんにもその言葉を伝えてやってくれ。あの子は私にとって娘のような存在だからね、 ここに来るまでに聞いたかもしれないが、本来のうかりんをよそにやることは私たちとしては不本意だったんだ。 この施設にはのうかりんと同じように、この子達みたいな希少な胴つきゆっくり達がいるだろう、 彼女らと同じように、商品としてでは無くここで過ごさせてやりたかったんだけど、 上が『ゆうかを商品に出来るんだからその変異種だって量産出来るだろ』なんていってね、彼女らはそんな簡単な生き物じゃないし、 それにこうして長い間一緒に過ごしていると、どうしても情が移ってしまってね、本当はあまりよくないんだけどね。 難しい個体の量産を模索するためには、どうしても開発研究をしなくちゃならない、でものうかりんを実験道具のようには扱いたくなかったんだ。 けれどキミのような人とのうかりんが巡り会えて本当に良かったと思っているよ、改めてお礼を言わせてほしい、本当にありがとう」 「いえいえ、そんな」 なんだか気恥ずかしくなって顔を赤くする俺に、所長さんと後ろの二人は優しい笑みを浮かべる。 生産者として、研究者として、そしてここで生まれたゆっくり達の親として、所長さんは立派な人だなと俺は素直に思った。 「ごめんごめん、またそれちゃったね、いやね、検査の結果は良好だったんだけど、ある問題があって」 「えっ?」 問題という言葉に、俺の中に緊張が走る、思わず膝の上に乗せていた手に力が入った。 「実は、のうかりんが・・・」 「のうかりんが、一体どうしたんです!?」 すっかり焦ってしまい、語気を荒らげる俺に、所長さんは何故かニヤリと笑った。 「妊娠してるんだよ」 「・・・・・・・・・は?」 あまりに予想していなかったことに、俺は完全に思考停止してしまう。 所長さんの言葉が、まるでいまだかつて一度も聞いたことの無い言語のように俺の耳を通り抜けた。 「にんっしんっ、してるんだよ、しかもまさかの三つ子ちゃんだよ?信じられないよねぇ、おめでとう」 固まっている俺をよそに、嬉しそうに話を続ける所長さん、後ろの二人が笑顔で『おめでとうございます』と拍手を始める。 「ええええええええええええええええ!!!!?!?!?!?」 部屋中に俺の絶叫が響き渡った。 錯乱する俺を、きめぇ丸さんがなだめ、さくやさんがお茶のおかわりを用意してくれる。 何とか落ち着きを取り戻してイスに座りなおして、まだ高鳴ったままの心臓を押さえながら口を開いた。 「に、に、にんっしんっ、ですか・・・」 いまだ動揺を隠し切れない俺に、所長さんはハハハと笑う。 「安心したまえ、もちろんキミの子だよ、のうかりんが浮気なんてすると思うかい?」 「いえ、あの、その、人間とゆっくりの間に子供って・・・」 嬉しいか嬉しくないかと言われれば、大好きなのうかりんとの間の子供なんて、嬉しくないはずは無い。 けれど妊娠なんてすると、毛ほども思ってなかったのだ。 もしわかっていたら絶対にゴム無しで何発も中出しなんてしなかっただろうと思う。 顔面からだらだらと汗を流している俺をみて、所長さんはふっと息を吐いた。 「ごめんごめん、種明かしをしよう、ゆっくりと人間の間には子供は出来ない」 「じゃあ妊娠してるっていうのは」 「それは本当さ」 「う・・・」 責任という言葉が鉄の塊となって実体化したように、俺の背中にずしりとのしかかる。 そんな俺に対して、所長さんはどこかわくわくした表情を浮かべて、話を続けた。 「ゆっくりっていうのは実に面白い生き物でね、その個体の思いというか、願いというか、 そういうものが強ければ強いほど、自身の肉体に大きく影響を及ぼす特性を持っているんだよ。 つまりのうかりんは、キミとの生活の中で、ぶっちゃけセックスの中で、キミとの間に子供を授かることを強く望んでいたんだろうね。 想像妊娠っていう言葉は聞いた事あると思うけど、まさにそれ、でもゆっくりの場合はお腹が膨らむだけじゃなく、 時に本当に妊娠して、出産することが可能だっていうことなのさ。 これがのうかりんに起こったんだね、ここで育った子達は自分の『性処理の為の役目』を自覚しているから、 そういう事は今まで無かったんだけど、のうかりんはここでのそういう教育は受けてなかったからね。 正確に言うならばのうかりんのお腹にいる子は、のうかりんのクローンか、 のうかりんとのうかりんの子という位置づけになる、ややこしいかな? キミの遺伝子とのミックスということは無いと思うよ、詳しく調べてみないとわからないけどね」 「そ、そうなんですか」 せっかく話してくれている学術的な話しも、いまいち俺の頭には入ってこなかった。 「もしキミが子供なんて望まないっていうなら、僕達が引き取ってもいいんだけど」 「所長!」 鼻息荒くしてすっかり研究者モードになってしまった所長さんを、さくやさんがたしなめる。 「おっとすまん、今の発言は忘れてくれ」 「い、いえ、ありがとうございます、でも俺、ちゃんと責任とります!」 愛していると言った手前、もう後には引けない。 それにゆっくりとしてでは無く、パートナーとしてのうかりんの事を考えると、 のうかりんと俺との間に産まれた子供達と暮らすという未来は、俺にとって幸せなもののはずだ。 「おぉかっこいいかっこいい」 「おめでとうございますとしあき様」 「まだこのことは誰にも言っていない、ここにいるメンバーだけの秘密だ。 大切なことは是非キミの口から伝えてあげなさい、それがより絆を深めることになる」 「はい」 三人に祝福され、俺は胸を張って力強く答えた。 所長さんとさくやさんに見送られ、きめぇ丸さんに連れられてのうかりんの待つ庭へと歩いている間、 ずっと俺は今までのこと、そして今後のことについて考えていた。 のうかりんとの出会い、俺は始めは『プレミアムすっきりドールゆうかにゃん』を買うつもりで注文をして、彼女が家に来た。 人間に近い体付きと容姿、それと優しくて暖かいのうかりんの性格に、 性処理の為という本来の目的だったはずのことをすっかり忘れて繋がり、それから一緒にすごしていた。 朝俺を起こしてくれるのうかりん、一緒に食事をして、出かけるときに見送られ、家に帰ると暖かく迎えてくれて、夜は一緒にベッドに入る。 その一つ一つが、俺達は本来あるべき形である『飼い主とペットの飼いゆっくり』という主従の関係ではなく、 少なくとも俺にとって、彼女を一人の女として見てしまい、まさに男と女の関係であった。 俺は今まで彼女との別れなどということは想像したことは無いし、今想像しようとしても出来ない。 この生活の延長線上には、一体どんなことが起こるんだろうということも、あまり考えていなかったが、 たしかにのうかりんと一緒にいながら、今後別の女の人と恋に落ちて、愛し合い一緒になるということは無いだろうと思う。 「不安ですか?」 すっかり無言で考え込んでしまっていた俺に、きめぇ丸さんが優しく声をかけた。 「正直言えば、少し・・・でも」 深呼吸をして目を閉じると、のうかりんの笑顔が浮かんで、胸が温かくなる。 「のうかりんを幸せにしてやりたいって、思います」 俺の言葉に、きめぇ丸さんはふっと微笑んで、それからは何も言わなかった。 「としあきさ!」 ついにたどり着き、庭への扉を開くと、ちいさなゆっくり達に囲まれて遊んでいたのうかりんが、ぱっと顔を上げて俺に手をふる。 俺も手を上げてそれに答えて、ゆっくりと輪に近づいていく。 きめぇ丸さんは、俺を後押しするように一歩下がって後ろを付いてきてくれていた。 俺は高揚した気分のまま、ゆっくり達の中に割って入っていき、のうかりんの手を握る。 「としあきさ、なんかあっただか?」 俺が所長さんに呼び出されたことを心配して、のうかりんが顔を覗き込む。 俺はそれには答えず、のうかりんの目を真っ直ぐ見て口をひらいた。 「なあのうかりん、のうかりんは俺との子供、ほしいと思ってるかい?」 「え!?な、なにいきなりいってるだ、その、あの、としあきさとのこっこ・・・出来るもんなら欲しいけんども、でもオラ・・・」 俺の唐突な質問に、のうかりんは慌て、そして寂しそうな顔をして俯いてしまう。 けれど俺は、のうかりんが俺との子供を望んでいることを確認できて、さらに鼓舞されていた。 ぐっとのうかりんの手を握る手に力を入れる。 「実はのうかりん、今きみは妊娠してるんだ、しかも三人も」 「!?」 のうかりんがハッと息を呑んで顔を上げる、その目をしっかりと見つめて言葉をつないでいく。 「本当は人間とゆっくりの間に子供は出来ないんだ、けどのうかりんが強く望んでくれたおかげで子供を授かった。 その子達は間違いなく俺とのうかりんの子だ、一緒に育てよう」 「としあきさ・・・オラ、オラぁ・・・」 のうかりんの瞳が潤んでいく、それは決して悲しい涙などではなく、喜びで満ち溢れた表情だ。 周りのゆっくり達からどよめきが走る、そして女の子らしい好奇と期待の瞳が俺達を取り囲む。 俺はそれら全てを前に進むエネルギーの変えて、一旦のうかりんから手を離し、ビシッと気をつけをしてのうかりんに向き直った。 「ゆうか!きみを愛しています!俺と結婚してください!!!!」 俺の顔は真っ赤、正直これ以上無いくらいに恥ずかしい、恥ずかしいけど、それはもはや爽快感にも似たものとして俺の中を駆け巡る。 きめぇ丸さんやれてぃさん、りぐるちゃん達にれいむ達、さなえさん達、 皆が俺の一大告白に歓声を上げ、手をたたき祝福の声を浴びせ、俺とのうかりんはその輪の中心にいる。 のうかりんは感極まってしまい、涙をぼろぼろと零しながら口を開けないでいた。 それを見たそばにいたゆうかにゃんが、のうかりんの袖を小さく引く。 「ほら、泣いてちゃだめにゃ、お返事してあげにゃきゃ」 「うん・・・」 お母さんの優しい声に促されて、のうかりんが袖でぐいぐいと涙をぬぐう。 そして真っ赤な顔で、息をすって、俺の目を見つめ返した。 「お、オラ、オラぁ・・・」 口を開く先からのうかりんの頬を涙が伝う、けれどのうかりんはそれを無視して、ぐっと身を縮めた。 「ふつつかもんだけど、よろしくおねがいするだあああああ!!!!」 弾かれたように俺の胸にタックルをかましながら、のうかりんは俺の愛に答えてくれた。 俺はのうかりんをしっかりと受け止め、腕にぐっと力をいれて抱きしめて強引に唇を奪う。 のうかりんも俺の背中に手を回し、口付けを優しく受け入れる。 「二人とも、おめでとうだにゃん!」 鳴り止まぬ歓声の中、俺たちはいつまでもいつまでもお互いを強く抱きしめていた。 あれから数年の時間が流れた。 妊娠発覚から数ヶ月の後、のうかりんは3人の元気な赤ちゃんを出産した。 皆外見はのうかりんと殆ど変わらなかったが、ゆうか種としての特性のほうが強かったようで、 全員がのうかりんと同じように方言を話すわけではなかった。 俺たちは3人をそれぞれ「ゆうこ」「ゆうき」「ゆうな」と名づけ、出来る限り普通の人間と同じように育てることにした。 3人はすくすくと育ち、中身はまだまだおこちゃまだが、外見は人間の子供よりも早く成長し、 あふれるエネルギーに押されつつも、幸せな毎日を送っている。 俺は大学卒業後、縁あってあのゆっくり生物科学研究所に勤めることになった。 ずぶの素人だった俺も、所長さんを始めとした研究所の皆の助力を受け、 今では何とか半人前を卒業出来たといったところだろうか。 「じゃあ、行ってきます」 玄関の扉を開け、家の中に挨拶をする。 三人の娘達がいつものように並んで見送りにきてくれていた。 「おっとぉ、いってらっしゃい!」 「早く帰ってきてゆうきと遊ぼうね!」 「ずるい、ゆうなも遊びたいの、おとーさんゆうなも」 「おっとぉは皆のだ!ゆうこだっておっとぉと遊ぶ!」 「あはは、はいはい」 見送りのはずが、取り囲まれておしくらまんじゅう状態にされてしまう。 のうかりんの娘だけあって、発育の悪くない三人の身体をぎゅうぎゅうと押し付けられては、 父親として男として決して悪い気はしない。 「こら!おめさたちおっとさんの邪魔すんでね!ほら、としあきさもさっさといくだ!遅刻すんべ!」 もみくちゃになっている玄関に、目を吊り上げたのうかりんがやってきて、 娘達たちは引き剥がされ、俺はぐいぐいと外に押し出されてしまう。 そのまま家からポイかと思いきや、のうかりんも俺を押したまま外まで出てきて、後ろ手に玄関を閉めた。 「もう、としあきさったら鼻の下伸ばしてデレデレしてぇ」 のうかりんは可愛く頬を膨らませて俺を睨みつける、どうやら嫉妬させてしまったらしい。 「嫌だな、あの子達は娘だろ、それに俺はのうかりん一筋だって」 優しく頬を撫でてやると、のうかりんは目を閉じて顎を軽く上げる。 もちろん俺もそれに答えて、行ってきますのキスをした。 のうかりんもあの後、定期的に研究所に通い、宣言どおりゆうかにゃんのレッスンを受け、 立派に研究所出身と言えるだけの技術を身につけている。 行ってきますのキスのはずなのに、巧みに舌を絡ませてくるのうかりんに、俺の股間はすっかり臨戦態勢になってしまった。 衝動に任せ、のうかりんの身体を強く抱こうとしたが、 のうかりんはすり抜けるようにぱっと身体を離して、小悪魔的な笑みを浮かべる。 「んふふ、こっからは夜までお預けだよ、お仕事がんばって!」 「あはは、帰ってくるのが楽しみだ、じゃあ、行ってきます」 俺をくるりと回して、背中をぽんと押すのうかりん、俺は笑顔で手を振って家を出た。 初めは不安もあった、俺とのうかりん、人間とゆっくりが添い遂げるなんて、前代未聞だ。 だけど今の俺にはもう迷いは無い、愛するのうかりんと、可愛い娘達に囲まれて、これ以上望むものなど何も無い。 たとえ一般的に見れば、世間から後ろ指を指されてしまうような関係であったとしても、 俺は精一杯家族を愛し、笑顔を守り続ける、それが俺の幸せなんだ。 「今日もいい天気だなぁ」 職場への道を歩きながら、一人呟く。 心はいつも、この透き通る青空のように晴れやかだった。 おしまい。 ------------------------------------- どうも、ばや汁です。 最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。 かなり前の作品の続編ということで、当初おまけのつもりで考えていたものですが、 書いているうちにどんどん長くなってしまい、100kb近くなってしまいました。 次はどんなものを書くかはまだ決めていませんが、あまり長くならない小ネタで行こうと思います。 長い話でお疲れだとは思いますが、ご意見ご感想等いただけましたら大変うれしく思いますので、 どうぞよろしくお願いいたします。 個人用感想スレ http //jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/13854/1278473059/ 過去作はこちら。 ふたば ゆっくりいじめSS保管庫ミラー-ばや汁ページ- http //www26.atwiki.jp/ankoss/pages/395.html ばや汁でした。
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「貴方」 「は、はいぃっ!」 いつの間にか立っていた生徒会副会長に、男子生徒は驚いて、三歩分ほど飛びのいた。 副会長さんの手には何か紙の束。それが演劇部に関する資料だと分かったのは、それに目を通しながら副会長さんがつらつらと言葉を並べ始めたから。 「演劇部の部員は女子四名、男子二名の六名。入部人数が去年は無し。他の部と掛け持ちが男女一名ずつ。そのため、実質活動メンバーは四名。学外で の発表は無し。部活の練習時間でさえ、話をしている時間の方が長い。それで足りない? 去年までの部費は破格すぎた。貴方たちの活動に正当な部費を支払っ ているだけ。少ないなんて、ふざけるのもいい加減にして」 「………………」 ぐっと唇を噛んで、男子生徒は言葉を押し殺していた。 「部活の時間は部活の時間。お遊びサークルなら家で出来る。もっと部費を必要としているところはたくさんある」 前提というか、演劇部についてよく知ってるわけではないんだけど、話の内容から多分生徒会副会長さんが言ってることは正論なんだと思う。 でも、ちょっと言いすぎなんじゃ、ないかな。 「失礼、しました」 走り去っていく男子生徒を見送る気も無いようで、再び日当たりの良い自分の席に戻って、読みかけの文庫本を開いた。 「あの」 関わりたくないのに、いつの間にか僕は口を開いていた。 既に今日は何度も読書の時間を邪魔されたからか、副会長さんは整った細い眉をかなり顰めて僕を見た。少しツリ目気味で、綺麗な黒髪を腰元まで伸ばした物凄い美人だからこそ、キツさが多分他の人よりも三割増しくらいになっている。 「何?」 「ちょっと、さっきのは言いすぎだと、思い、ます」 最後の方はちょっとしどろもどろになりながら、何とか言い終えた。 返ってきたのは予想通りの言葉。 「言い過ぎ? 真面目にやっている部活動を差し置いて、彼らに部費を出すことが正しいということ?」 「あ、あのそうじゃな――」 「貴方が出すというのなら構わない。生徒会からは十分に出してる。足りないなら成績を残せばいい。残せないなら生徒会として部費はこれ以上出さない。それだけの、簡単な話よ」 一度目を閉じてから、再び本に視線を落とした。 もうこれ以上は話にならないし、話を聞く気は無い。そんな意思表示が見え隠れしてる。 分かってます。多分、副会長さんの言ってることは正しいんです。 でもそんなにトゲトゲしく言わなくてもいいじゃないですか。そんなこと言ったら喧嘩になるだけだし、互いの印象を悪くするだけ。別に嫌われたくてこんなこと言ってるんじゃないですよね? そう言いたかったけど、今度話し掛けたら物理的に叩き出されそうだったから、じっと堪えた。 そんな僕の様子に気づいてか気づかずかは知らないけど、桜瀬さんはじっと佇んでいた僕の隣、生徒会室の入り口から一つ離れた席に座って、カップを傾けながら、耳元で頭を撫でるような声で言う。 「子音ちゃんはね、ちょっと言い方が怖いけど、嘘言ってないからね?」 「分かってます」間借りしていた席に僕はようやく座って、カップの中の茶色の液体を見つめたまま、小声で漏らす。「でも――」 「うん。多分、向井さんが言いたいんだろうってこと、分かるなあ。でもね? 予算があまり無いのも本当。あまり実質的な活動が無い部活に部費を渡して、 もっと必要な部活動にお金が回らないのは、ちょっと良くないかなって思うの」 副会長さんにも、多分桜瀬さんの声は届いていると思う。そんな中で何も反応していないのだから、僕達の話なんて興味無いのか、聞いてて「当たり前だ」と思っているのか。 でも僕は、いつもニコニコしている桜瀬さんが、かなりキツイことを言った副会長さんの言葉を訂正しなかったのはちょっと意外だった。目の前に居るし、副会長さんのことが怖い、ということも……桜瀬さんのことだから、あまり無いのかな。 とにかくいたたまれなくなって、大分冷えてきたフレーバーティーを飲み干そうと思った矢先。 「やあやあ! 生徒会の仕事はどうかな? 進んでるかな?」 とても緊張感のない、ゆるい声と共に生徒会室の扉が開かれた。入ってきたスーツ姿の男性を見て、 「校長先生、こんにちは」 桜の芽吹きみたいな笑顔の桜瀬さんが言った。 「お、桜瀬さん。元気そうですね。何よりです。一さんは?」 「……」 足を組んだままの一さん(そういえば副会長さんの苗字は、漢数字の一と書いて「にのまえ」と読むみたい)はちらりと入り口の人物に目をやって、すぐに何事もなかったかのように活字の世界へ戻った。 「あらら。一さんもいつも通りですね。それで……おや? 向井君じゃないですか」 「お久しぶりです、叔父さん」 ギスギスしていたところへ、少し天然が入ってる(こんなこと言ったら怒られるかな)叔父さんが来てくれたのは、ある意味渡りに船だったと―― 「あああああっ!」 お、思い出した! 僕はこの人に、山ほど言いたいことがあったんだった! ここのところいろいろありすぎて、忘れてた! 「ん?」 「はえ?」 「……?」 僕以外の全員、あの一さんすらが僕を、鳩が豆鉄砲を食ったように目をぱちくりさせていたらしい(いち早く復活したらしい桜瀬さん談)んだけど、僕には至急、可及的速やかに、片付けなければいけない問題が一つあったから、全く気づいてなかった。
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「ごちそうさま」 「お粗末さまでした」 「それにしても……」 皿洗いくらいは自分がすると言うので委員長に任せて、テーブルを拭き終わったら一息入れることができるようにとお茶を淹れていた。前にお歳暮で貰ったという緑茶で、大分暖かくなってきたこの時期にはちょっと熱いかもしれないけど。 「あなた、本当に1人でも別に困ってないのね」 「うん、大丈夫。たまに掛かってくる電話でもお父さんとお母さんにいつも言ってるのに……」 「仕事とはいえ、大切な1人息子を家に置きっぱなしともなれば心配にもなるでしょう」 「かな?」 ようやく全てが終わって椅子に座ってから、ようやくこの状況の奇怪さを思い出した。 「忘れてたけどそういえばなんで委員長は僕の家に来たの?」 「…………あなたがそれを聞くの? 私を馬鹿にしてる?」 「え? 何で?」 「まさか教えられてないの?」 「何を?」 「…………」 「…………」 疑問符の掛け合いに飽きて、特大の溜め息の後、委員長は夕食のときと同じように僕の向かいに座って答える。 「あなたの叔父さん、母方の叔父さんが条桜院(じょうおういん)の学校長なのは知ってるわよね」 「うん、もちろん」 条桜院とはうちの学校、条桜院高校のこと。男女共学の進学校で成績はある程度良くないと入れない。自分でも良く入れたなあって思ったよ。 「もしそこから話さなきゃいけないなら私は今すぐここを出て行くところだったわ」 それはそれでありがたいような。 口には出してないはずだけど、心を読まれたのかじろっと睨まれてからすぐにまた溜め息を吐いて続けた。 「で、そのあなたの叔父さんである学校長があなたの母親に様子を見て欲しいって言われたそうなのよ。今年は高校3年生で大学入試もあるから、自分が居ない間に色々と疎かになってはいけないってことみたいね」 「でも委員長も今年受験だよね」 「当たり前よ。だから本当はこんなことしたくなかったわ。でも学校長直々にそんなこと言われたら断れないでしょ」 きっと叔父さんはお母さんに頭が上がらなかったって言ってたし、今回も逆らえなかったんだろうなあ。そしてその叔父さんに委員長が断れなかったと。お母さん、皆を巻き込みすぎだよ……。 お母さんは普段、家事ができない代わりに自宅で出来る翻訳家としてうちの家計を支えてる。パソコンと本があればいくらでもできる! ってことで 始めたんだっけ。気楽にできるから自分に合ってるとか言ってたけど、本当は結婚しても家事がまともに出来ずに落ち込んでたお母さんが、お父さんに悪いか らってせめて家計の手助けくらいはしたい、でも家に帰ってきたときに出迎えてもあげたいからと探して見つけたことを知ってる。でもお母さんが必死に隠して るからこの経緯についてはお父さんには秘密。きっとお父さんのことだから分かってると思うけど。 「最初は学校長自らが住んで逐一様子を伝える、というのも考えたらしいわ。でもさすがに親の実家で会うくらいしか顔を合わせていない自分が突然家 に住んだらあまりいい気はしないだろうって。そこで学校長は自分よりも年の近い、親しみやすい人間を派遣しようって考えたそうよ」 「別に叔父さんでも良かったと思うんだけど」 「だったら私に言わずに本人に言いなさいよ!」 ガタンと椅子をひっくり返すほど勢いよく立ち上がった委員長。その拍子に少し湯飲みの中身が零れる。 「あ、ごめん」 「いえ……あの、私もごめんなさい」 バツの悪そうな顔で椅子を立て直して、委員長は再び座って僕から受け取った台拭きで机を拭く。 「親しみやすいと言っても男の子じゃ駄目。お昼に言ったみたいに食事や洗濯みたいな世話が必要になるから。私は男子だから女子だからという考え方 は嫌いだけど、実際にそういう傾向があるのも事実。事実に目を背けて自分の考えだけを押し出すのは嫌いだから学校長の話に頷いたわ」 「そうなんだ」 「かといって単に女子を住まわせるというのもまた問題。若い男女が1つ屋根の下で暮らすにはそれなりの条件が必要なのよ。襲われる可能性が無いとも言えないから。この条件を満たした私に白羽の矢が立ったと……実に腹立たしいわ」 「何で?」 「あなた、鈍いってよく言われるでしょう」 「?」 「……いい、あなたに言ったって仕方が無いし。私があなたのことを好きだとか勘違いして襲ってきたりしなかったのだけは安心した、と同時にやっぱり腹が立ったわ」 誰だって突然あんなことされたら驚くのが先だと思うんだけど、委員長はそうじゃないんだろうか。それに関わりあいもプリントを渡すときくらいし かないのに、恋愛感情なんて沸くような展開は無くて当たり前のような。それと何でさっきからそんなに腹を立てているんだろう。よく分からない。 不満げではありながらも湯飲みを傾けて中身を飲み干してから委員長は言った。 「何にせよあなたには必要なかったみたいだけど、一旦請け負うと言ったからには期限までは約束通り行動するつもり。とにかくそういうことだから、しばらくここに泊まることにするわ」 「事情が事情だから仕方が無いね。明日にでも叔父さんに1人でも大丈夫だって掛け合ってはみるけど、お母さんが背後に付いているんじゃなかなか難しいかな。……あれ、じゃあ最初に自分を買えとか雇えって言ってたのは?」 「冗談に決まってるじゃない」 委員長も冗談なんて言うんだ、なんて言ったら怒られるだろうか。友達は教科書と六法全書を合わせて人間にしたような人だって言ってたし、悪いけれど僕もそれに近いことを考えていたから。 「っていうかあんなに素で返されたらこっちが恥ずかしいでしょ!」 「わ、分かったから落ち着いて!」 もう既にお茶は飲み終わってるみたいだけど、今度は湯飲みを落としたりするかもしれないし。フローリングとはいえ、さすがにテーブルの高さから落ちたら割れないとも限らない。湯飲みの代用品はいくらでもあるけど、委員長が怪我するのは良くない。 「ぐっ……」 皆が皆、クールだとか冷血だとか好き勝手に呼んでたけど、いつもは皆が居るからなんだかんだで怒りを押し留めているだけで結構委員長って熱くなりやすいのかも。 「とにかく事情は分かったよ。1つ部屋が余ってるから、そこを利用すればいいかな。布団も来客者用のものがあるから使って。今から家の中と部屋までを案内するよ」 「ありがとう。お世話になります」 やっぱりこういうところは非常に礼儀正しいんだなあ、委員長って。
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初めて入る生徒会室は、思ったよりもこざっぱりしていた。もっとこう、書類とか本とかが散乱しているイメージだったんだけど、女子三人で切り盛りしてるからなのかな? 想像していたところと同じのは、中央に置かれたコの字型の長机。その上には、缶のペン立てとかホッチキスとか文房具類が綺麗に置いてあって、書類なんかはちゃんと本棚に綺麗に片付けられている。ホワイトボードには会議の記録、壁には生徒会が配布したポスターや会議の日程とかが書き込まれたカレンダーが貼ってあった。 「ありがとうございます」 長机の端にプリントの束を置くとぺこり、頭を下げた桜瀬さん。 「いえいえ」 首を振ってから僕は部屋の中に一人の人物を見る。 「……」 生徒会副会長さんは僕をじろりとかギロリとか、そういう擬音が似合うような、あまり好意的でない目で見て、 「用が済んだのなら、早く帰りなさい」 と、やはり好意的でない言葉を投げかけられた。 「あ、うん……じゃなかった、はい。分かりました」 「そんな、子音ちゃん。せっかくプリントを運んできてくれたんですから、少しくらいは私、労ってあげてもいい、と思うんですよ?」 「生徒会会則第五条」左手に文庫本、右手で綺麗な黒の長髪を掻き上げながら、歌でも歌うような声の柔らかさと刃物のような鋭さで、副会長さんは言った。「生徒会室は関係者以外、乱りに出入りしてはならない」 「うーんと」少しだけ、考え込む様子を見せてから桜瀬さんは園児にお遊戯を教える保育士さんのように言った。「じゃあ、生徒会会則の第二条。生徒会は学生生活をより良くするために活動し、公序良俗や著しく風紀を乱すものでない限りは、生徒の利となるように行動する。プリントをここまで私の代わりに運んできてくれた彼の労に報いるのは、生徒会として当然の勤めだと、私は思うなあ? 生徒会会則は数字の若い方から順に適応されるから、第五条よりも第二条の方が重要視されると思うし、ね?」 凄い、と素直に思った。 生徒会副会長が生徒手帳も見ずに、さらっと生徒会会則を出したのは、何となく想像通りだった。でもその後に、すかさず生徒会長……じゃない、いや、生徒会長だけど、生徒会長じゃなくて、えーと、とにかく桜瀬さんが生徒会会則を答えたのは、少し驚いた。 さっきの振り向きプリント散らかし事件といい、普段の言動といい、ふわふわした人だなあって印象しか無かったんだけど。 面倒くさそうに、生徒会副会長は桜瀬さんを見て、視線をスライドさせた後に僕を、まるで背筋に氷枕を当てるような目で見てから、 「…………好きにしなさい」 再び読書に戻った。 や、やっぱり早く帰った方が良さそう、かな。 「ぼ、僕はやっぱり……」 「向井君は紅茶派? コーヒー派? 私はねー……実は、えへへ、コーヒーが苦くて飲めないんだ。だからいつも紅茶なの。最近はフレーバーティーが好きで、ここにもティーバッグの詰め合わせを置いてあるんだよー」 さっきまでのもう強制的に飲ませるつもりみたいで、「あ、適当に座ってて」と言ってからお湯を沸かし始めた。僕の逃げ場所、無し。 それも、さっきまで副会長さんと言い合いにも満たない反論のときの物怖じしないきりっとした表情は一瞬で影を潜めて、またいつものマシュマロみたいな笑顔に戻っていた。 「それで、何飲みたい? 緑茶もあるよー」 「あ、あの……じゃあ、紅茶で」 「私と同じ、フレーバーティーでもいい? いろんな香りがあるけど、何が良いかな?」 何も飲まずにここから出られるのが一番いいかも、とかはさすがに言えないから、 「オススメでお願いします」 と苦笑いで答えた。 「はいはーい。じゃあブルーベリーね?」 鼻歌交じりにコーヒーを混ぜる桜瀬さんは、カップやその他のティーパーティー用セットが並べてある棚から、スティックタイプの砂糖を取り出す。 「子音ちゃんは凄くてね、ブラックで飲めるんだよ。あ、子音ちゃんも飲むよね?」 「要らない」 「いつも通り、ブラックねー」 要らないと言われているのに、無視して手際良くカップの上に置くドリップ式のコーヒーを作る桜瀬さん。副会長さんも桜瀬さんのペースには勝てないのか、観念したような表情で副会長さんは再び文庫本に戻った。 やっぱり桜瀬さんって、いつものんびりしてる風で、さっきのも含めて、実は結構強引なんじゃないかなと思う。桜瀬さん、恐るべし。 「はい、おまたせー」 「良い匂いです」 カップから立ち上る香りは、部屋中をブルーベリー畑にでもしたかってくらいに広がっていた。 淹れてもらったフレーバーティーに口を付けようとしたとき、ノックの音が部屋に響いた。 「はーい、誰ですかー」 「あ、あの……すみません。え、演劇部なんですが……」 「はいはいっ。今開けますよー」 桜瀬さんが扉を開いた先に立っていたのは、ジャケットに付いている胸元の校章の色からして、僕と同じ二年の男子生徒。 「どうしたの?」 「……す、すみません。あの……、し、新入生向けの、舞台発表の為に、お、大道具を……あ、新しく、追加、じゃなかった、作りたいんですが、お金が……その……足りなくて。去年から、部費が、さ、下げられて……」 うつむき、しどろもどろになりながら話をしている男子生徒の話をしっかりと、頷きながら聞いている桜瀬さんの隣に、突然立ったのは生徒会副会長さんだった。
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いつも通りに出たけれど、委員長に捕まったり、生徒会長と話をしていたために結構ギリギリの時間で教室の入り口を跨ぐことになった。 「あぶねー。せっかく久しぶりに早起きして出てきたってのに、いつもより遅く到着とか詐欺以外の何物でもないな。これからはやっぱりギリギリまで寝ておこう」 「今日はたまたまだって。ほら、いろいろあったし」 スムーズに来れてたらきっと5分弱は余裕があったはず。 「いやいやお前は分かってないな。『早起きは三文の徳』とか言っていたが、現実は委員長に捕まり、生徒会長……はいいとしても学校へギリギリ到着するという損をした。俺はこの諺を書き換えたいね。『早起きは三文の損』って」 多分世の中の半数くらいは賛成してくれるぜ、と冗談だか本気だか分からないことを言いながら手を振って、教室前の方へ歩いていった。隆二は前か ら二番目の、教師から見やすい位置にある席だから授業中寝づらくてかなわん、とか言ってた。寝るんじゃなくてちゃんと授業を受けろと言われるかもしれない けど、実際僕も人のことを言えないかな。 「おはよー、向井君」 「お、向井今日はギリギリだな!」 声を掛けてくれるクラスメイトに「おはよう」と挨拶して自分の席に座る。僕の席は窓際最後尾から2番目。昨日席替えをしたばかりだから、これからしばらくは授業がつまらなくても窓の外が見て過ごせそうだなあ。 本来ならそう言いたいところなんだけど、実はそうでもない。 何せ隣の席は―― 「あ、委員長遅いねー」 「忘れ物取りに帰ってたの」 「そっかー」 息を整えながら教室に入ってきた委員長が人差し指でずれた眼鏡を戻し、スカートの折り目を正しつつ歩いてきて、僕の隣の席に座った。 「おかえり。教科書は見つかった?」 「ええ」 頷いてから委員長はさっと教室を見回してこちらに意識が誰も向いていないのを確認してから、僕の机に1冊教科書を置いてもう1冊何故か同じ教科書を机に入れた。 「あ、あれ?」 2冊? 「……本当に疲れたし、呆れたわ」 「この教科書って……?」 ちらりと僕の方を見て、無言のまま今自分の机に入れた教科書を自分の口元を隠すように持ち、裏書を僕に見せる。そこには委員長の性格を反映しているような、素直かつ綺麗な楷書で『辻川 友香』と書いてあった。 僕の机の上に置いてある教科書をひっくり返すと、そこには僕の、女の子と間違えられるような丸っこい字で『向井 誠一』と、同じように書いてあった。 「あれ、あれ?」 慌てて鞄の中を開けてみると、鞄の中から数Cの教科書が。今日の授業は数Ⅲの方。 そういえば確かに昨日はせっかく数Ⅲを勉強したというのに、全部本棚から教科書とノートを入れた覚えがある。やっぱり意識が朦朧としている状態で翌日の準備をしては駄目だね。 「…………」 「気をつけなさい」 「面目ないです」 僕がそう言った直後にチャイムが鳴った。それと同時にうちのクラスの担任である初老の男性が教室に入ってきて、騒がしかった教室がすぐに静かになった。 「えー、出席を取ります」 嗄れ声で男女混合、名前の順番に呼んでいく。 「鈴木」 「はい」 「住倉」 返事は無い。 僕が振り返ると、やはり空席。 「住倉は今日も遅刻か。誰か連絡は受けてないか?」 皺が入った眉間に更なる皺を刻んで担任の大下先生は髪と同様に白くなった髭をいじる。クラスから全く声が上がらず、手も挙がらないのを見て深々と溜め息を吐いてから次の名前を呼んだ。 「住倉さん、今日も来てないね」 確か昨日と一昨日も朝のHRに間に合っていなかったような。 小さく委員長に尋ねてみると、素っ気無く答える。 「もう来てるわよ、彼女」 「え?」 ちらっと視線を合わせるだけだったけれど、思わず委員長の方へ顔が向く。 「朝、私が来たときには居たもの。でもその後、何処かへ行ったわ」 「じゃあ来てたって教えてあげればいいのに。委員長って結構意地悪なんだ」 「誰が意地悪よ。すれ違っただけで別に連絡は受けてないもの」 「それはちょっと、詭弁のような」 「言っておいて欲しければ彼女から言ってくるの。だから勝手な行動しない方があの子の為にもなるわ。……あなたは知らないかもしれないけど、あの 子ってちょっと変わってるのよ。1年から私はずっとクラス一緒だから知ってるんだけどね。全体的にこう、表現しづらいくらいに変わってるの」 確かに初めて見たときはなんというか、笑い方が卑屈な感じがあって、それでいて何か見透かしているような感じがある気はしたかな。それでも自己紹介はぼそぼそ喋ってること以外は無難だったと思うから、委員長が言うほど変わってる印象が無い。 「でも少し喋り方がおかしいとか、考え方が違うとかいうだけで距離を置いちゃうのはどうかなあって思うんだけど……」 「そういうレベルじゃなくて。もう根本的におかしいのよ」 と、突然委員長が立ち上がって号令。僕も慌てて立ち上がり挨拶。朝のHRは終了し、委員長は着席してからさらに言葉を続ける。 「根暗で誰とも接点を持たないタイプに見えて向こうから話し掛けてくることも多いかったり、天才肌で勉強が出来るように見えて実は理系科目以外は ボロボロだったり、運動神経が全く無さそうで水泳だけは得意だったり、お菓子作りは得意なのに普通の料理は壊滅的だったり、暗くて狭いところじゃないと落 ち着かなかったり」 「それはなんというか……凄いのか凄くないのか、良く分からないね」 「ええ。料理の場合は単にあの子、凄い甘党だから目玉焼きにすら砂糖を掛けちゃったりするだけで、食べられないものを作るってのではないんだけど」 「それは……その……」 朝からそんなものを食べるのはちょっと、キツイかな。 「あれであのスタイルっていうんだから、神様は信じないけど、人間自体の遺伝子がほとんど似通ってるなんていうのすら到底信じられないわよ」 再度溜め息を吐く委員長。 「それで1年も2年もクラス委員長だったから、プリント提出してないとかいう度に彼女を探さなきゃいけなくて。そうしてたらいつの間にか仲良く なってた。1年生のバレンタインデーにトリュフチョコの詰め合わせみたいなのを貰ったこともあったわね。綺麗に1個ずつ違うのが6個も入ってたから買って きたのかと思ったら、全部手作りとか言ってて驚いた覚えがあるもの。それも私と家族にあげるためだけにだって」 「手作りで委員長に……ってまさか住倉さんって、そういう趣味の人?」 そういう、っていうのはまあ、そういうこと。別に女性同士でも、うん、悪くはないと思うけど。 「どっちもオーケー、というよりも単に気まぐれなのよ。2年のバレンタインデーは特に何も無かったしね。むしろあの子の方が……」 「あの子?」 慌てて首を振る委員長。 「何でもない。とにかく、彼女はかなりの変り種よ。みんなが係わり合いを持ちたくないのも分かるくらいに」 「そうなんだ」 答えて僕は再度後ろの席を見やる。 なんだか可哀想な、そうでもないような。感想まで良く分からなくしてしまう人なんだなあ、と思う。
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発売日 2004年3月5日 ブランド 大熊猫 タグ 2004年3月ゲーム 2004年ゲーム 大熊猫 キャスト あさり☆(吾妻はじめ),田中美智(陣内しのぎ),比未子(倉本巴),奥川久美子(倉本まどか),紬叶慧(文殊院甘露),涼森ちさと(春日結花),佐々木あかり(カリン・シュレーゲル) スタッフ 企画:大熊猫 原画:さがのあおい,夕凪二葉,湊ヒロム シナリオ:丘野塔也 CG彩色:佐藤璃佳,@,獅堂ゆーね,みーお,ミヨルギユメノ 移動用CG背景:柴刃俊郎 イベントCG背景:ナナイロ,木本らい スクリプト:木本らい BGM:うにくす システムデザイン:佐藤璃佳 シナリオアシスタント:涼元悠一,士柴義光,uta エグゼクティブプロデューサー:馬場隆博 スペシャルサンクス:ビジュアルアーツオールスタッフ 制作:大熊猫 販売:株式会社ビジュアルアーツ 主題歌 「STEP」 作詞:丘野塔也 作曲:戸越まごめ 歌:幡宮かのこ
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昼食の時間。つまりお昼休み。 「学食行くか?」 「混んでそうだから、購買にしようかな」 「どっちにしても並ばなきゃいけないだろ?」 「混んだままずっと食事をしてなきゃいけないのがちょっと……」 知らない人との相席は結構気を使う。あまりしたくないなあ、なんて思う。 「お前は気が小さいな。それくらい大したことないだろ」 「隆二は何も気にしなさすぎなんだよ」 「んな訳あるか」 「せんぱぁーいっ」 言い合いには到底ならないけれど、僕が再度返す番だと思っていたら唐突に聞こえてきた声でそれは中断された。僕と隆二は顔を見合わせ、その高らかかつ黄色い声と表現すべき歓声の主に視線を送る。 「来た……」 額に手を当て、夏休みの宿題を最終日に全部持ち越してしまったような表情の委員長はちらりと教室の後方を見、「あれ?」との言葉を漏らした直後に背後から抱きついてきた後輩に「ひやぁっ!」と普段冷静な委員長らしからぬ声を聞くことができた。 「先輩、辻川先輩。お昼まだですよね? ご一緒しましょう!」 「あ、あの私は……」 「今日もお弁当作ってきたんですよ。あ、生徒会室が開いてるんでそこへ行きましょう。姉も副会長も食事はあそこでしませんし」 問答無用。その言葉がここまでふさわしいと思ったことも無かったかな、と思うくらいに委員長の言葉を全く聴かずに見覚えのある顔の後輩は委員長を半ば引きずりながら教室を出て行った。多分クラスの大半がそうしていたと思うけど、ぼんやりとそれを見送るしかできなかった。 「桜瀬さんの妹さん、今日も来たね」 彼女も生徒会選挙のときに見た覚えがある。桜瀬ひよりさん。姉の明菜さんが髪を2つに縛っているのと対照的に、小さいポニーテール1つに縛って いる。性格も上品でおっとりした感じの明菜さんとは対照的に、すがすがしいほどの元気とはきはきした発言とかが印象的だ。でもこのところはこんな調子で平 日は必ず昼食のときに委員長のところへ来ていて、ちょっとイメージが変わってきた。 「ああ。委員長にベタ惚れなんだな、やっぱ」 「先週も来てたからね」 「ちなみに去年からあんな感じだ」 委員長も結構大変なんだなあ、と既に2人が出て行った扉を見ながら思う。 「……つーかあれだよな」 「何?」 「生徒会ってなんだ、こう、変人の集まりだよな」 「変人は言いすぎだけど……ちょっと変わってるかもね」 「それを世間は変人と呼ぶ」 あはは、と僕は苦笑いしてからふと思い当たる点が。 「あれ、でもこの時間って生徒会室使っていいのかな」 「さあな。いいんじゃないか? 食事のときに使ってはいけない、なんてのも特に書いてないはずだし」 書いてなければやっていいというわけでもない気はするけど、ちゃんと生徒会の人が使ってるわけだから体裁的にも間違いは無いのかな。 「それよりもさっさと購買行こうぜ。あまり遅いと混む上に物がなくなるぞ」 「そうだね」 僕と隆二は揃って立ち上がった。 「時間、随分掛かったね」 「全くもって遺憾だ。後10分しかねえじゃんか」 「だね」 買ったメロンパンの袋を開けて、僕は齧りつく。住倉さんの席を勝手に借りている隆二はカレーパンを咀嚼しながら、窓の外を見る。 「いいよなあ、この席。どうせ住倉ほとんど来ないんだから、席交代してくれりゃいいのに」 「それは嫌」 「うおっと」 唐突に隆二の声に即答したのは、今隆二が座っている席の持ち主だった。 「住倉さん、おはよ……あ、こんにちは」 「こんにちは。……牛乳」 彼女の机の上に置いてある500mlのパックをちらりと見て、住倉さんはぽつりと声を漏らした。 「うん。昔から牛乳好きだから」 「……だからそんなに少女的な顔立ちなのね。理解したわ、ふふ」 肩ほどまで伸ばされ、前髪も少し目に掛かる程度伸びている髪を払うこともせず、実は幽霊なんじゃないかと存在しているのかいないのかが噂になるようなクラスメイトは意味深な笑いを浮かべた。身長は座っている隆二よりもほんの少し高いくらい。 「えっと……どういうこと?」 「牛乳には女性ホルモンが多量に含まれているわ。だから小さい頃から牛乳を飲みすぎると体内の女性ホルモン量が多くなる。だから子供が多量に摂取 すると男子も女性らしい体つきになったりする……って話よ。それに飲めば飲むほどカルシウムが上手く摂取できず、むしろ骨粗しょう症を引き起こすかもしれ ない、とも言われているわ」 「そうなんだ。怖いね」 「何が正しいかは分からないけれど、ね。ふふ。世の中に疑問を持つことは大切。あなたが信じていたもの、ことが全て粉々に崩れ去る、砂上の楼閣だったと知ってもいいなら」 「勉強は嫌いだけど、雑学は好きだよ」 多分皆そうなんじゃないかなと僕は勝手に思っている。 「そう。いい傾向だわ。ちなみに私が言ったのも嘘かもしれないから絶対的に信用しないことね。他人の意見を鵜呑みにして、さも自分の意見のように振舞うのは馬鹿のすることだわ」 「肝に銘じておくよ」 「……まともに会話が通じてることに俺は強い疑問を持つんだが」 隆二の視線が僕と住倉さんの顔を往復する。 「あなたがしたいなら、やぶさかではないけれど」 「俺はいい」 残り少ないオレンジジュースをストローで啜って音を鳴らしながら隆二は視線を再び外へ向ける。 「ところで……ゴミはちゃんと捨ててくれるわね? 机を使うのは構わないけど」 「あ、うん。大丈夫。それよりも住倉さん、ご飯は?」 「摂取済み。学食が開いた直後に」 ピースサインを出すのはいいんだけど、ちゃんと授業出てからにすべきじゃないかなあ、と美人なはずなのにどこか怖さとか不思議さを兼ね備えた住倉さんの顔を見る僕。 と、その背中の向こうに委員長が疲れ果てた表情で戻ってくるのが見えた。 「お帰りなさい」 「……疲れた」 自分の机に戻ろうとしていたらしい委員長は丁度その席の傍に立っていた住倉さんを見る。 「ややか、戻ってたの」 ややかというのは住倉さんの名前の方。ちょっと変わってると思う。 「また出て行く」 「授業は?」 「受けない」 「そ。出席日数はちゃんと計算してるわね」 「ええもちろん。明日は全出席」 「ならいいわ」 短い会話だけで委員長は机に突っ伏す。 「大丈夫?」 「他の誰にも見られていなかったから良かったものの、あれ見られてたら……死ぬわ、私」 なんとも想像したいような、したくないような状況だったんだろうなあと僕は推測する。 「…………」 「どうしたの、住倉さん」 「…………うふふ。そう、なるほど。なるほどね。分かったわ」 何か良く分からないけど住倉さんは自己解決したらしく、また笑顔というには少しホラーチックなものを浮かべて僕を見ていた。 「それじゃあ、また後で」 「うん。またね」 「澤田君もちゃんとゴミは捨てるように」 「分かってるっての」 去っていった住倉さんを見送ってから気づいた。 「あれ? 住倉さん、隆二の名字覚えてたね」 「去年は同じクラスだぞ」 「そうなんだ。……あ、そうか。委員長さんが住倉さんと去年同じなんだから、そうなるね」 でも委員長は隆二の名字忘れてたってことは、どれだけ委員長にとって隆二は印象薄かったんだろうと僕は1人苦笑した。
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「……なるほど。事情は分かったわ」 「ごめん」 委員長がクラスの仕事を終えて戻ってきてすぐ。僕と委員長、住倉さんの3人はリビングに集まって報告会を始めた。専ら状況説明は僕がしていたんだけど。住倉さんが混ざると、毎回茶々が入るから一向に進まないから委員長が僕だけが喋るように進めたのもあるんだけど。 「別に謝らなくても。あなたが悪いわけではないんだから」 「そうね」 「ややかは黙って」 「ふふ。相変わらず辛辣で素敵よ、友香」 こんな感じでずっと続けていたのだけど、どうやら委員長も最終手段に入ったらしい。 「分かったわ。じゃああなたの両親に言ってもいいのね」 「……」 なんと、さっきまで茶々を入れては話を止めていて、委員長がどれだけ黙らせようとしても黙らなかった住倉さんが、たったヒトコトで沈黙した。 「男子生徒を騙してその家に押し入り、共同生活を強要した挙句、その男子生徒の秘密を盾に――」 「わ、分かったわ。分かったから、それはやめて」 沈黙の次は顔色を変えて住倉さんが隣に座って、携帯電話を取り出し掛けた委員長の腕を両手で掴んだ。 あの、と称するのは悪いけれど、住倉さんがこんなに慌てているのは初めて見た。 「向井君」 「あ、何?」 「ややかが変なこと言ったら、この電話番号に――」 「だ、駄目」 手をぷるぷると震わせている住倉さんは一回り体の大きい兄弟に餌を取られて、それに追いすがる末っ子動物みたいだった。 「――迷惑掛けないって誓える?」 「誓う」 ありえないくらいに即答だった。 「なら教えたって使わないし、教えておいてもいいわよね」 「駄目。絶対に駄目」 とうとう住倉さんは半泣きになってしまった。委員長、おそるべし。 「向井君、何かあったら私に言って。この子の弱点は両親への報告なんだけど、あなたは面識無いでしょうから」 「あ、うん。でもあの……住倉さんは大丈夫、なの?」 「大丈夫。数時間と経たない内にケロっとしてまた悪さするんだから。……ややか、変なことしなければ私も報告する必要は無いの。いい? 普通に生活しなさい、普通に」 「わ、分かったわ。善処する」 未だ目の端に涙を溜めた住倉さんは歯噛みしながら委員長を見ていた。 「そんなに睨むんじゃないの。私だって好きでこんなことしてるわけじゃないんだから。あなたの両親だって、毎回そんなことで連絡されたら困るでしょう?」 なんだか万引きを見つかった補導員みたいな口調の委員長。 「……ええ」 「ほら。涙拭きなさい」 ポケットから花柄のハンカチを取り出して、住倉さんに渡すと目許を押さえた。 「まだ制服だから、先に着替えてくるわ。そういえばややかの部屋ってどうするつもり?」 「あ、それなんだけど、一応僕の部屋の隣が空いてるから、そこを使ってもらおうかなと思ってる。荷物は2階の物置と外にある倉庫に置けばいいし」 「じゃあ片付けないといけないわね。でも今日中に片付けるのは大変かもしれないし、なんだったら私の部屋と共用でも構わないけど」 「急だから全部の荷物を運び出せないかもしれないし、そうすると最初は住倉さんにちょっと狭い思いさせちゃうかもしれないけど、ちょっとそれで我慢して貰えるかな?」 無言のまま、頭を縦に振って肯定の意を表す住倉さん。やっぱりちょっと言いすぎだったんじゃないかな。 「だったら尚更着替えてこないと。ちょっと待っててもらえるかしら」 「分かったよ」 自分の部屋に戻っていった委員長を見送ってから、押し黙っていた住倉さんは「悔しいわ」と言葉を漏らした。 「何で?」 「せっかくだから、友香の下着をハンカチと入れ替えてあなたの制服のポケットに入れておいて『あ、間違えちゃった』的な展開を期待していたのに。あんな予防線を張られていては無理だわ」 ああ、僕の憐憫の情はどこへやら。この不思議娘さんは全然反省していない。 最近知り合ったばかりとはいえ、この住倉さんなら本気でやりかねないと思う。 「…………」 「更に誠一の体操服と友香のネグリジェを入れ替えて、」 「委員長! 今すぐ住倉さんのご両親に電話してお引取り願って!」 立ち上がってリビングの扉を開けて叫んでみた僕に、休日遊びに行く約束をしていたのに仕事が入ったからと、部屋を出ようとした父親を止めるために抱きつく子供みたいに住倉さんは僕の腰に腕を回して自由を奪おうとする。 「ちょ、ちょっと待って。冗談、冗談よ」 でもそんな焦った顔の住倉さんは思った以上に可愛い、と言ったら本人は怒るだろうか。 ……怒らない気がするなあ。 「それ以前に、そんなことして僕と委員長が一緒に住んでいることがバレたら、連鎖的に住倉さんのこともバレると思うんだけど」 「別にいいけれど? クラスメイトの噂なんて馬耳東風だもの」 「でも学校側からお願いされた委員長は良いとして、住倉さんは完全に個人でうちに来るのを決めたんだから、学校側にバレたら確実に両親に連絡されるよ?」 「…………ま、まずいわね」 そこまで気は回ってなかったんかい! と思わず突っ込みそうになってしまった。 「でもそんなに嫌なの? ご両親に連絡されるの。うちに住み込みを始めたことの報告如何は別として」 「心配させたくないだけだわ」 「でもそもそも1人暮らしだったら心配するんじゃない?」 「いつものこと、だから」 言った住倉さんの表情は、ブランコを漕いでいれば絵になりそうなほど、開け放った窓から吹き込む風に揺らす髪と共に哀愁を棚引かせていた。 でも良く考えれば僕も同じような状態なんだっけ。あまり人のことを言えないんだけど、確かに僕も慣れっこかな。
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とりあえず落ち着こうと僕も牛乳をガラスコップに注いで、住倉さんの向かいに座る。気を紛らわせるように牛乳を一気飲みした僕を、住倉さんが正視しているから余計に勢い良くコップを傾ける。 「向井誠一」 「は、はい?」 フルネームで呼ばれたのは随分久しぶりな気がするんだけど、突然話し掛けられたから、思わず噴出しそうになった。 「そんなに硬くならなくてもならなくてもいいのよ。あなたの家なのだし」 「あ、ああ、うん。別にそんなつもり無いんだけどね。ほら、その、女の子が入ったのって初めてだから」 ガラスコップに残っていた牛乳を飲み干す住倉さんは、僕を上目遣いに見る。 「ということはあなた、桃色のネグリジェ着て寝ているの?」 「ぶはっ」 今、少しは気管に入った。 「ネグリジェだけじゃなくて同系の下着が組で入っていたわ。そういう趣味があるということね」 「え、あ、それは……」 違うと言うと、じゃあそれは誰のものなのかということを尋ねられるし、そうだと言うと僕は女装癖がある人間だと勘違いされる。最悪の2択を選択しなければならない。 住倉さんは少し釣り目気味の目を更に細めて、すまし顔でさらに酷い追い討ちを掛ける。 「女性用の運動靴も置いてあったわ」 「え? 運動靴の替えなんて持ってきてないはず、あっ」 言ってからしまったと思った。その勘はどうやら間違っていなく、犯行を自白した犯人へ向ける目で住倉さんは笑みを湛える。 「隠さなくても分かってるわ。彼女……友香が来ているのでしょう?」 「ち、違うよ。委員長は関係ないよ」 「あのネグリジェ、去年彼女の家に行ったとき見たもの。脱衣所から彼女の匂いもしたわね」 「匂いって……」 「勘違いされても困るから先に言っておくわ。昔から鼻がいいの、私。いちいち手に取らなくても、部屋に入ったら分かる程度にはね。この部屋も友香の匂いがしてるわ、ずっと」 「……」 沈黙以外に僕の取れる手段は無い。 「まさか彼女の家から勝手に取ってきた?」 「……」 「もしあの匂いがネグリジェからしていないとしても、1人暮らしのあなたがあんなネグリジェを持っているというのは不自然。あなたが女装癖持ちだと言いふらした方がいいかしら、ふふ」 なんとなく家に上げるときに嫌な予感はしたんだけど、それはどうやら現実のものとなってしまったみたい。でも御免なさい、気づかれる理由が斜め上過ぎて理解できません。それに僕が1人暮らししていることも何故か知ってるし。 「蛇に睨まれた蛙ね。でも心配しないでいいわ。もう昼には気づいていたもの」 「……えっ!?」 「あなた、友香と今まで話をしたところ見たこと無かったわ。でも今日はやけに仲良さそうに喋っていたわね」 「それだけで気づいたの?」 「ふ」 だからピースサインされても。 ブルーが色濃くなり、それでも否定し続けないと委員長に悪いと思って、半ば意固地になっていると、テーブルに顔を横にして乗せた住倉さんは笑った。 「ちなみに今までのはほとんど嘘よ」 「……へ?」 「脱衣所にネグリジェがあったのも嘘、私がそんなに鼻が良いって言うのも嘘。脱衣所覗いて確認したもの。気になるなら見てきたらいいわ。私のうち に友香が泊まりに来たことがあったのは本当だけど。昼に気づいたっていうのも半分嘘だわ。怪しいかもって思っただけ。そう、あのときのネグリジェ、今も着 てるのね。それは知らなかったわ」 「え、嘘って……え?」 「ふふふ。嘘と本当を混ぜると本当に聞こえるものだわ。ほとんどがブラフ。あなたは引っ掛けにことごとく引っ掛かっただけ」 「だ、だまされたってこと?」 「そうね」 しれっと答えた住倉さんに、もはや腹も立たない。 でもこれはまずい。非常にまずい。なんと言っても住倉さんだ。よく、思考回路が網の目と表現されるほどの、読めない思考の持ち主にバレたというのは、僕にとっては銃撃戦の中を丸腰で走りぬけるような気分になる。いつ人生が終わるか冷や冷やモノという意味で。 「あ、あの……この話は……」 ふふ、とまたいつもの薄ら笑いとも言うべき笑顔で僕を見た住倉さんはようやく3つ目のチョコレートを運んで、それを食べ終えてから答えた。 「条件があるわ」 「条件?」 「そう、条件。あなたが女装癖があると言われない、そして友香と1つ屋根の下で生活していることをバラさない条件」 真摯な目が僕を射抜く。何か凄いことを代償にしなきゃいけないような気になってきた。 「あの……その前に女装癖は無いんだけど」 「じゃあ友香の下着で致してるとか」 「してないから!」 「面白くないわね」 「面白い面白くないじゃないよ、それ」 疲れたように僕は答える僕にまた鳩の様なロートーンの笑いが、口角を上げた小さめの口から漏れる。 「条件って、何?」 おそるおそる僕が尋ねると、学校で1番思考回路が不明だと言われているクラスメイトはその口の形をほとんど崩さずに答えた。 「私もここに住まわせて」 「……え?」 もっとこう、毎日お昼ご飯を奢れとかいう金銭的な方面だと思っていたんだけど。 「あなたが1人暮らししてることは知ってるわ。つまり友香と2人きり。何か間違いが起こってもおかしくないわね。健全な男女だもの」 「起こらないよ!」 「それは友香に対して失礼だわ」 「……僕にどうしろと?」 最悪な2択をそう頻繁に迫られても。 「今更1人くらい増えたって変わらないわね?」 「で、でも住倉さんの両親は?」 「ポスドクで海外の大学に、夫婦揃って。同じ学校ではないけど」 「ポスドクって?」 「ポストドクター。研究員よ。日本ではあまりなる人は居ないけど。実入りが少ないのが原因だわね」 ふう、と満足げな溜め息を吐いてチョコレートの袋を置く。 「私、料理できないの。掃除もダメ。洗濯は面倒。お風呂入るのは好きだけど、洗うのは嫌い」 「結構、我が侭だね」 「そうね、我が侭だわ。だから1人暮らしなんて無理。両親は家に居ない。分かった?」 「分からないよ」 大体は理解してるけど、そう簡単に首を縦に振ることはできない。
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翌朝は、やっぱり委員長が最初に出て行った。 「恥ずかしがらずに、一緒に行けばいいと思うのだけど? 別に手を繋げとも言っていないのよ?」 「絶対に嫌」 優雅に紅茶を啜っていた住倉さんに即答して、委員長はまだ七時前だというのに出て行った。 「でも委員長、随分早く出て行ったよね。昨日は結構遅めだったのに」 「陸上部の朝練があるのだから当たり前だわ」 「そっか。……あれ? 委員長って陸上部だっけ?」 昨日は何か別の用でもあったから遅かった、ってことはないよね? それに、帰り際とかに校庭で見た覚えが無い気がする。 「冗談よ」 「……住倉さんの冗談は分かりづらくて困るよ」 苦笑しながら、僕は自分のカップにおかわりの紅茶を淹れた。 「で、本当のところは?」 「さあ? 私が知っているとでも?」 「うん」 僕は素直に頷く。だって、いろんな人が委員長と話をしているときを見たことがあるけど、少なくとも僕が覚えている限りでは、一番住倉さんと話してるときの委員長が自然体な気がしたから、きっと多分委員長は住倉さんに何でも話してるんだと思ってた。 とは言っても、今まで委員長を意識したことなんて殆ど無かったから、ここ最近で思い出しうるシチュエーチョンだけで話をしてるんだけどね。 カップを持っていた手を止めて、住倉さんはちらりと睫毛の長い目をこちらに向け、無言のまま目を閉じた。答えてくれる気は、どうやら無いみたい。 「まあ、詮索するのも悪いし、気にしないでおこうかな」 「そうするのが得策だわ。女には秘密が似合うもの」 言って住倉さんはカップを置き、机に立て掛けてあった鞄を持った。 「住倉さんももう行くの?」 「ええ。何? 一人で行くのが怖いのかしら? なら、お姉ちゃんと一緒に行きましょうか?」 僕の「ううん」という否定を聞き届けると、天使とか姉とか設定がころころ変わる住倉さんは小さな笑いを残して、リビングを出て行った。すぐに玄関が開く音がしたから、多分そのまま家を出ていったんだと思う。 「……あ、しまった」 今日は二人とも、見送り忘れちゃった。明日はちゃんとしよう。 皿洗いをして、日課の星占いを見てから、僕は隆二といつも通りのルートで登校。 教室に入ると、僕の席の後ろに、珍しいと言ったら失礼かもしれないけど、住倉さんが僕の席に座っている委員長と何事か話しているところだった。 そういえば昨日、全出席って言ってたっけ。 「……よね」 「あれはギャグだと言ったでしょう?」 「何の話?」 珍しく、と言ってはなんだけど、学校でこの2人がまともに話をしている姿を見るのは、記憶の中ではこれが初めてだと思う。家では割と喋ってたけど。 「あ、ごめんなさい。ちょっと席借りてたわ」 「いいよ。それで――」 「その話は、ちょっとまずいわ」 委員長は辺りを見まわし、目を伏せる。 「あ、そういえば……確かにこんなところで委員長たちと話をしてたら、どんな勘違いされるか分からないよね」 「そうじゃないわ」 「え?」 「とにかく」 何だか、無理やり話を打ち切られた。 結局会話の内容は分からず、僕が委員長と入れ替わりで席に座った途端に来たうちの担任のお陰でガールズトークは終了したみたい。 休み時間でもなんだかちょこちょこ話をしていたみたいだけど、話の内容は教えてもらえず。 それからあっという間に放課後。授業は……半分くらいはちゃんと聞いてたよ? 「今日はどうするの?」 僕の言葉に、隆二は小さく唸る。 「ゲーセンにでも寄って行こうかと思ったんだが、ちょっとやることがあってな……」 「そうなんだ」 やれやれ、と肩を竦めてから隆二は言った。「ちょっくら行ってくるわ」 「行ってらっしゃい」 軽く手を振った僕は、やることが無くなってしまったから、直行で家に帰ることにした。 階段を降りていると丁度二階廊下を見慣れた人が、何か髪を抱えながら一人横切った。 「生徒会長……じゃなかった、桜瀬さん」 二つの小さく結んだ髪を、まるで動物の耳のようにぴこぴこと動かしながら歩く桜瀬さんは、僕の声に気づいて振り返ると、 「あ、向井さん。お久し……では無くて、朝ぶりですね」 「はい。……随分重そうですね?」 桜瀬さんが抱えてるプリントは数百枚には上る。多分、全校生徒分あるんじゃないかな? 自分の手元のプリントを見てから「ああ」と言ってから、 「全然重くないですよー。ほら、それにすぐそこが生徒――」 重いのに無理して振り返ってしまったのが、多分何もかもの元凶なんだと思う、僕は。 持っていたプリントを、お決まりというかお約束というか、床にばらまきながら何も無いのに、どてっと大きな音を立てて桜瀬さんが転んだ。あー、やっぱり重かったんだ、と思ったのと同時に、桜瀬さんには今度からすぐに「持ちますよ」って言った方がいいんだなって分かった。 半泣きになってた桜瀬さんを手伝ってプリントを集め、今度は半ば強引にだけど、僕がプリントを持ち上げた。 「えっと、何処に持っていけばいいんですか?」 「あ、は、はひ。……えっと、あっちの、生徒会室、えす」 まだ少し泣き顔の桜瀬さんが指差した方向は、さっき生徒会長が振り返って示そうとしていた方で、この階の一番端にある、僕がまだ今まで足を踏み入れたことがない部屋だった。 生徒会室……ってことは、生徒会長である桜瀬さんと、副会長さん、そして桜瀬さんの妹さんも居るんだよね。