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"ニューヨーク・タイムズ" ――大統領、第三三五管理世界へ合衆国軍派遣命令 ――時空管理局との協定に基づくもの ――"次元世界の安定と平和のため" 本音はその世界で得られる利権? ――「どうして他の世界にまで行く」 戦死した兵士たちの遺族の声 ――管理局内でも反発の声あり 「次元世界の平和は本来我々が守るべき」 Call of lyrical Modern Warfare 2 第1話 S.S.D.D. / 紛争世界にて SIDE U.S.M.C 一日目 時刻 0855 ミッドチルダ 首都クラナガン ポール・ジャクソン 米海兵隊曹長 在ミッドチルダ米軍連絡官 「やっぱり、そっちの方が似合ってる」 他の次元世界に繋がる転送ポートの前で、少し遅めの朝の挨拶を交わした直後のこと。戦友が懐かしいものを見るような目をして、そんな言葉を投げかけてきた。 ジャクソンは視線を下げて、彼の言葉の意味を理解し、なるほどな、と声に出して納得してみせる。連絡官と言う立場になってからは米海兵隊の制服を着ることが日常と化しており、数年前の最前 線での暮らしから思えば考えられないことであった。クロノと言うこの戦友、黒髪の青年も最初に会った時は野戦服だったものだから、彼にはこちらの方が見慣れていたのだろう。 そう、在ミッドチルダ米軍連絡官が今着ているのは、パリッとした堅苦しい制服ではなく、灰色を基調にした野戦服だった。装具こそ着けておらず、腕まくりして身軽そうであるが、やはり制服と 違ってこちらの方がいかにも兵士、海兵隊と言った風に見える。 「お前は大丈夫か? 現地は砂漠だ、暑いぞ」 もちろん、ジャクソンが今日に限って制服ではなく野戦服を着ているのは決して堅苦しいからと言う訳ではなく、書類仕事が嫌になったので最前線で暴れて気分転換に行くからと言う訳でもない。 その日、彼らはとある紛争が絶えない砂漠の管理世界に展開する米軍、管理局が上手く合同出来ているか、視察に行くつもりだった。戦場に行くのに制服というのはおかしいが故である。何より、 彼の言うとおり現地世界はそこそこに気温が高い。 だと言うのに、だ。クロノが着ているのは黒を基調にした魔導の羽衣、俗に言うバリアジャケットなのだが、長袖長ズボンと来た。こうして気候の穏やかなミッドチルダの地にいるだけでも暑そう なのだが、当の本人は何ともなさそうな顔だ。 「知らないのかい? バリアジャケットは保温、保湿の効果もある。砂漠だって雪山だって、これ一枚で大抵の場所は行けるんだ」 「魔法って便利だな、つくづく」 単に彼らは、コスプレや見栄え目的で摩訶不思議な魔法使いの格好をしている訳ではない。すでに思い知ったはずの事実を改めて知らされ、海兵隊員は思わず苦笑いを浮かべた。 そうして何気ない日常的な会話を交わして転送ポートへ向かうのは、まるで出張へ行くサラリーマンのようでもあった。無論、彼らがこれから向かうのは会社でもなければお得意様の取引現場でも ないのだが。 久しぶりの戦場の空気は、おそらく彼らを歓迎するだろう。ただし、硝煙と銃声で。 SIDE 米陸軍 第七五レンジャー連隊 一日目 時刻 1530 第三三五管理世界 フェニックス前線基地 ジョセフ・アレン上等兵 管理世界と言っても、全てが秩序を保って平和な雰囲気で人々が暮らしているのかと言うと、それは否だった。 例えばこの第三三五管理世界は、時空管理局が統治下に収めてなお、現地の軍閥同士が互いに主張を譲らず、紛争を続けていた。管理局が調停に入って武装解除したり、講和条約を結んだ勢力もあ るが、未だ掌握下に入らない、入ろうとしない軍閥は数多に上っている。長く続いた戦いの歴史は現地の人々の生活を蝕み、侵食し続け、未だ出口は見えそうにない。 そんな最中に、管理局に加えて今度は米軍が文字通り世界を股に駆けて進駐してきた。異世界からの軍隊は強力な、かつ訓練すれば誰にでも扱える質量兵器を持って軍閥解体や紛争調停に手間取る 管理局を助け、それなりの成果を挙げつつあった。現地世界出身の、魔力資質を持たない者で志願者を募り、暫定的な統一政府の軍隊すら組織しつつある。 もっとも、おかげで俺たちの仕事が増えるんだが――アレンと言うこの米陸軍に所属する上等兵は、この日も射撃訓練場に呼び出されていた。分隊長のフォーリー軍曹は職務に忠実なのはいいのだ が、部下にまでそれを行わせようとするのだから彼には迷惑極まりない。 もちろんフォーリーが嫌いな訳ではなく、むしろ実戦時における判断力の高さは大いに買っている。「ここさえどうにかしてくれりゃな」程度の感情だった。 「第一〇一回"トリガーの引き方講座"にようこそ。私は第七五レンジャー連隊、フォーリー軍曹だ」 射撃訓練場に集まった、まだ野戦服もどこか不慣れな様子の現地出身の兵士たちに向けて、黒人の男が軽く自己紹介。フォーリーは現地兵たちの顔を一通り眺めて、次に「休め」の姿勢で待機して いたアレンに目配せする。あいよ、と彼は頷き、休めの姿勢から気をつけ、一歩前へ進め。 「このアレン上等兵が、今から君たちに射撃のお手本を披露する。言ってはなんだが、君たちは腰だめで弾をばら撒いている者が多い。撃っても当たらなければただのアホにしか見えんぞ」 誰だったか、"当たらなければどうと言うことはない"って言った奴は。上官の声を聞いて脳裏に浮かんだ雑念に思いを巡らせつつ、彼は目の前のテーブルに置かれていた銃を手に取る。M4A1、M16か ら発展したアサルト・カービン。銃身にフォアグリップが装着されている以外は何の変哲もない、ごく普通のものだ。弾もどっさり、これから訓練するため五〇〇発は用意されていた。 「百聞は一見にしかずだ。アレン、後ろの標的を撃て」 「イエス、サー」 M4A1にマガジンを差し込み、コッキングレバーを引いて弾丸装填。ジャキッと鳴り響く機械音、躊躇いなくアレンは踵を返し、積み上げられた土嚢の向こう、粗末ながらも撃てば倒れ、また自動で 立ち上がる訓練標的に銃口を向ける。 普段ならしっかりサイトを覗き込んで照準し発砲だが、今回は教育が目的だ。銃口の先端をおおむねこの辺りだろうと目星をつけた先に向けて、引き金を引く。 途端に、乾いた銃声が数発放たれる。予想通り弾は散らばり、標的に当たりはしたものの一発だけ。こんなもんですか? とアレンはちらりと視線をフォーリーに送ると、彼は頷き、また現地兵たち に向けて解説を始めた。 「見たな? 今、アレン上等兵は弾をばら撒いただけだ。しっかり当てたいなら腰を落として、サイトで照準だ――アレン、見せてやれ」 へーい、と気の抜けた返事を胸のうちで返し、アレンは行動に移った。腰を落とし、左膝を地面に着ける。左手はしっかりフォアグリップを握り、右肩のくぼみにはM4A1の硬い質感を持った銃床を ぐっと押し当てる。サイトを覗き込み、中央に標的を合わせて、発砲。今度の弾は訓練標的にほとんどが命中し、甲高い金属音を連続で鳴らす。 「こんな感じだな。どうだ、簡単だろう? しっかり当てたいなら姿勢を低く、よく狙って、撃つ。これだけだ」 現地兵たちは、とりあえず理解してくれたらしい。頷きながら、周囲の者と小声でどう狙うか、どう撃つのか確認し合っている。 「さて、次は実戦だ。一番手は誰だ? よし、お前だ。いいか、教わったことをよく思い出せ――アレン、お前はもういいぞ。ピットに行け」 「はい、りょーかい……はい、ピットに?」 やれやれ終わった。 役目を終えたアレンは分隊長にラフな敬礼を送って立ち去ろうとし、しかし突如出た、新たな指令に思わず表情を歪めてしまった。さっさと部屋に戻ってのんびりラジオでも 聞くつもりだったのだが。 「忘れたのか。シェパード将軍がお待ちかねだぞ、俺に恥をかかせるな」 「ああ――そういやそんなこともありましたね。はい、了解、行ってきますよ」 いけねぇ、すっかり忘れていた。今日は何でも上層部でも飛び切りのお偉方が来ているらしく、特別任務に就く兵士をここから引き抜くため、訓練の様子を見学したいそうだ。 やれやれ、とため息を一つ吐き捨て、とぼとぼとした足取りでアレンは、ピットと呼ばれる訓練場へ向かう。 お堅い司令部ならともかく、ここは前線基地だ。道中で見かけた他の分隊に属する兵士や、現地兵らしい肌の色が異なる者たちは皆、思い思いの方法で余暇を過ごしている。Tシャツ一枚でラジオ を聞きながら軍用車両の整備を行ったり、バスケットボールをやったって誰も文句は言わない。 ピットに向かう途中、アレンは目の前を白い拳大のボールが転がっていくのを目撃した。コロコロと視界を横切っていったそれは、拾い上げてみるとベースボールの球だった。 「アレン先輩」 不意に名前を呼ばれて振り返れば、グローブ片手にこっちだ、と手を上げてアピールしている兵士が一人。同郷出身の、ラミレス一等兵だった。他の兵士とキャッチボールをしていたらしいが、取 り損ねてしまったのだろう。後輩の意図するところを理解したアレンは、ボールを投げ返す。 「ラミレス。お前、軍に入ってからは階級で呼べと何度も――」 「いいじゃないですか。先輩は先輩です、違いますか?」 悪びれた様子もなく、受け取ったばかりのボールをグローブの中で弄びながらラミレズは人懐っこい笑みを浮かべていた。アレンとはハイスクール時代からベースボールのクラブ活動の先輩後輩の 中であり、その時の関係を彼はまだ引きずっているのだ。 もっとも、アレンとしても本気で注意した訳ではない。階級で呼ばれるよりは、異世界の土地であっても先輩と日常にありふれた呼び方をされた方が気が紛れる。その事実を知ってか知らずか、と もかくこの後輩は入隊してから久しぶりの再会以後、「上等兵」と呼んだことは一度もない。 どこ行くんです? とラミレスは問いかけてきたので、アレンは素直にピットだ、と答えた。お偉いさんに訓練の様子を見せてやるんだ、とも。 「ああ、それなら俺も昨日受けましたよ。あんまり、成績は芳しくなかったけど」 「道理で俺が駆り出された訳だ。お前さんさえもっと上手くやってりゃ、俺は楽出来た」 えー、だってなぁ。先輩からの指摘に、生意気な後輩は口を尖らせる。普通じゃあり得ないくらいタイム設定、短くされてんですよと文句を垂らしてさえ見せた。フムン、とアレンは適当に聞いて いるのかいないのか、よく分からない適当な相槌を打って受け流す。 どれだけラミレスが優秀な成績を叩き出したところで、今回来訪されているお偉いさんは兵士全員を見て回るだろう。結局のところ、彼は今日ピットに行く運命にあったと言うことだ。 「あー、でも一人だけ凄いのがいましたね」 思い出したように、後輩は口を開く。彼が言うには、何でも自分の番を終えた後。ピットに、見慣れない一人の若者がやって来たそうだ。迷彩服ではなく、コスプレ紛いの魔導服を着ていたことか ら、一目で米軍所属ではなく管理局の魔導師だと分かった。 「何だ、将軍は管理局の連中の訓練も見るのか。妙な話だな」 「ホントそうッスよね――あぁ、んで。その魔導師が、これまた妙な奴で」 饒舌に語るラミレスの口から得られたのは、やって来た魔導師は拳銃のようなものを手にしていたこと。さらに、異世界生まれだけあって地球ではまず見られない、橙色の髪をしていたこと。ピッ トの成績が、これまで記録されてきたどの米軍兵士よりもずば抜けて凄いこと。この三つの情報だった。 さすがに魔法使いだけあるな、と感想を口に漏らすアレンだったが、当のラミレスは「いや、それにしたってありゃ何か違う」と言って、口にした魔導師の凄さをしきりに強調する。ここまでしつ こく話すということは、よほど凄い奴だったのだろう。 「まぁ、まずはピットで確認してみよう。お前さんの言う例の魔導師がどんなもんか、同じメニューを受ければ分かるだろ」 「ホントに凄いですからね。ありゃあ絶対真似出来ませんよ」 そうかい、と苦笑いして、アレンは後輩にラフなお別れの敬礼を送って歩き出す。ラミレスは敬礼を返さず、「ご武運を」とふざけた調子でグローブを右手にあげてそれに答えた。 「あ、先輩。終わったら試合しましょうよ、また。今度現地出身の奴らと米軍(俺たち)とでチームに分かれてやるんすよ」 「へぇ、そりゃいいな。俺は投げるから、お前キャッチャーやってくれ」 別れ際に、ベースボールの約束を交わす。ごく一瞬だけ、ハイスクール時代に戻ったような錯覚があった。 SIDE 時空管理局 一日目 時刻 1600 第三三五管理世界 フェニックス前線基地 クロノ・ハラオウン執務官 「昨日の敵は、今日の新兵だ」 そう言って、目の前の男はクロノに語りかけてきた。 男は、そこそこに年齢は重ねているようなのだが、背骨を曲げたりせず、常にシャキッとした様子で歩いていた。首元に縫い付けられた階級章は大きな星が複数並んでいたが、同時に肩にサスペン ダーを装着しており、脇にはリボルバー式の大型拳銃が収まっている。つまり、この男は将軍と言う立場にありながら、いつでも最前線に赴く覚悟をしていると言うことだ。 男の、なんとなしに開かれた口からは、なおも続く重みのある言葉。しかし、クロノはそれが自分だけに向かれたものではないとも感じていた。自分と、隣を歩く戦友のジャクソン、護衛の兵士、 あるいは男自身に向けられたものだったか。 「彼らと共闘できるよう教育し、そのことで後々彼らに憎まれないよう、祈る」 「……現地出身の兵のこと、でしょうか」 言葉の意味を、それとなく察したクロノは問いかけてみるが、男はすぐには答えなかった。老いてなお鋭い眼光を持って――どこかで見たことがある眼だ、と彼は思った。まるで、あのザカエフの ような――異世界の若い執務官兼提督を一瞥し、ようやく回答を口にする。 「国境が変わろうが、指導者が変わろうが、"力"は常に安息の地を得ると言うことだ。物事の表向きは変化しても、本質は損なわれない――"力"が、我々に向けられないようにする必要がある」 要するに、信用していないんだな。この将軍は現地兵たちを――果たして予測は正しいかどうか、知る術はない。直接問いただすにしても、この男が答えるとは思わなかった。 「クソのような日々だ」 日差しは高く、暑かった。男の言葉はこの世界の気温の高さに向けられたものかは分からないが、ともかくも何か大きな不満を抱いているには違いない。 彼は振り返り、連絡官であるジャクソンに声をかけた。私が何を探しに来たのかは、知ってるだろうと。もちろんです、と彼は答えて、眼下にあった訓練場を指で示す。 「ジョセフ・アレン上等兵。有力候補の中でも上位に位置する優秀な兵士です。おそらく、気に入って頂けるかと」 フムン、と男は大して感動した様子もなく、ピットと呼ばれる訓練場、そこを一望できる場所にまで歩みを進めていく。 どうにも苦手だな、僕は――進んでいく男の背中を見つめて、クロノは思う――このシェパード将軍は。淡々としすぎている、戦争以外に興味はないみたいだ。 もっとも軍人はそうであるべき、政治に関わってはいけないのだろうけど。そう胸のうちで付け加えて、苦手意識を無理やり克服させようとするクロノだったが、違和感は拭いきれなかった。 ピットでは、やって来たらしい一人の兵士が訓練の準備に入っていた。 SIDE 米陸軍 第七五レンジャー連隊 一日目 時刻 1621 第三三五管理世界 フェニックス前線基地 ジョセフ・アレン上等兵 ピットと呼ばれる訓練場は、市街地を模した機動を伴う実弾射撃場だった。見るからに分かりやすいテロリストと、これも見るからに分かりやすい民間人を模した標的が立ち並び、テロリストのみ を銃撃しながらゴール地点まで進んでいく。落ち着いて見れば標的の識別は難しくないが、何しろ時間制限付きだ。新兵には実戦に向けての登竜門であり、ベテランにとっては今回、お偉いさん方 に射撃訓練の様子をご覧いただくステージとなった。 「カメラにでも笑顔を見せておけ、愛想よくな――シェパードが見てる」 訓練場で出迎えてくれたのは、分隊副官のダン伍長だった。口は悪く面倒臭がりだが、必要な仕事はテキパキこなしてくれる。使用可能な銃を説明してくれた後は、弾の抜けた拳銃を手のひらで弄 んでグチグチと文句を言い出していた。 「優秀な奴は花形部隊に行けるって話だぜ、お前さん次第だが――なんで最初から俺たちを使わないんだろうな。レンジャーには無理でもデルタの連中には出来るってのか?」 デルタ、と言うのはデルタフォースのことだろう。米陸軍きっての精鋭特殊部隊。しかし、レンジャー連隊に属する彼らは決してデルタの方が自分たちより何もかも上だとは考えていない。愚痴を 呟くのは、任務に対する士気の高さの裏返しでもあった。 とは言え、花形部隊とやらにアレンの興味はさほど湧かなかった。待遇や給料がよくなるだろうが、その分激務になるのは眼に見えているのだ。ここでダラダラとベースボールをやって、時たま起 きるドンパチに参加していた方が性に合っているとさえ思っていた。 ――まぁ、仕事は仕事だしな。M4A1を手に持ち、サイドアームにベレッタM92Fを選択。準備OK、とダンに伝えて、彼はスタート地点に進んだ。 ふと、視線を感じて上を見上げる。訓練場を一望できる高いところに、やたらでかい階級章を首元につけた男の姿があった。おそらく、こいつが例のシェパード将軍だろう。眼が合ったが、眉一つ 動かさずじっとこちらを見定めている。まるで鮫だな、とわずかばかりの感想を漏らすが、もちろん聞こえるはずがない。シェパードの周囲にいた、海兵隊の野戦服を着た男ともう一人、黒髪の管 理局の者らしい青年はまだ人間らしい表情をしていたように思う。 「アレン、始めるぞ」 「了解」 思考切り替え。コッキングレバーを引いて、機械音を鳴らす。安全装置解除、M4A1のグリップを握り直して、突入態勢に入った。 スッと、息を少し多めに吸い込んで――次の瞬間、スピーカーで鳴り響く、ダンの突入指令。 「GO! GO! GO!」 ダッと駆け出す。のんびり気分はもうおしまい、ここから先は実戦に限りなく近い、訓練の始まりだ。 ピットは三つのエリアに分けられていた。それぞれ第一、第二、第三エリアと呼ばれ、ガラクタによって構成された障害物が存在し、テロリストと民間人の標的が入り組むようにして立ち並ぶ。 まずは第一エリア――早速姿を見せたのは、障害物に半身を隠したテロリストを模した標的。素早く正確に照準し、引き金を短く引く。唸る銃声、輝くマズルフラッシュ、肩に当てた銃床が小刻み に揺れて銃撃の振動を伝えてくる。一人目を倒し、二人目に照準。再び引き金を引けばM4A1が牙を剥き、容赦なく標的を射抜いていった。 「っち」 三人目、四人目、五人目が出現――面倒だ、と数えるをアレンはやめた。幸いにもこれは訓練、何人テロリストが出てこようがみんな標的であることは変わりない。反撃される心配なく、これにも 短い銃撃を浴びせて素早く排除。 続いて立ち上がった標的。跳ね上げた銃口を向けるが、しかしすぐには火を吹かない。民間人の子供を模した標的だった。その背後に隠れる形で、銃を構えたテロリストが出現する。人質のつもり であろうが、少し進めば射線から民間人は外れてくれた。無防備になった標的に再び数発の五.五六ミリ弾をお見舞いし、第二エリアの屋内の突入。 洗練されたプロの動き、戦い慣れたベテランの射撃術を持ってすれば、標的の一掃は楽勝とさえ言えた。屋内の標的を軽々と射撃し、階段を上る。第三エリアはこの先、屋上から地面に飛び降りた 向こうにある。 「!」 階段を上りきろうとしたところで、目の前に突如テロリストが出現。銃口を突きつけるのは、間に合わなかった。咄嗟に左手を腰に伸ばし、鞘から引き抜いたナイフで殴るように斬りつける。甲高 い金属音と共に、標的を排除。走りながらナイフを戻し、屋上にて待ち構えていたテロリスト、これも一掃――カチンッと小さな機械音を鳴る。M4A1が弾切れを起こしていた。リロードはせず、パ ッと手放し首からぶら下げ、右太もものホルスターに収まっていた拳銃を引き抜いた。第二エリア制圧、飛び降りて第三エリアへ。 着地するなり、顔を上げてアレンは表情を歪ませた。うぜぇ、とさえ口にする。テロリストが大勢、民間人を盾にする形で彼を出迎えていた。さぁ突破してみろ、と言わんばかりに。苛立ちが腕に 篭るが、照準にまで影響を及ぼしてはならない。クールに、冷静に、M92Fの銃口を前に突き出し、テロリストのみに照準し、撃つ。九ミリ拳銃の反動は小さくマイルドだ。一人、二人と即座に撃ち 倒して進み、最後に全力疾走でゴール地点へ滑り込んだ。 時間にして、わずか三〇秒足らず。息を切らして拳銃をホルスターに戻すアレンは、いつの間にか額に浮かんでいた汗を指先で拭う。結果は上々だったように思うが、判断するのはシェパードだ。 「ヒュー、驚異的な腕前だな。完璧なお手本だったぜ」 「そりゃどうも――ッハァ、水もらえます?」 一人絶賛してくれるダンの言葉も適当に受け流し、ペットボトルに入った水を受け取った。さぁ、これで今日の訓練はもうおしまい。後は部屋でのんびりしてるといい。 ゴクゴクと水分を体内に流し込む彼の耳に、突如、警報にも似たサイレンの音が入ったのは、まさにその時であった。 SIDE U.S.M.C 一日目 時刻 1630 ミッドチルダ 首都クラナガン ポール・ジャクソン 米海兵隊曹長 在ミッドチルダ米軍連絡官 突然騒がしくなった前線基地。ジャクソンは手近なとこにいた陸軍兵士を捕まえて、状況を聞く。どうやら、紛争地帯にて交戦中だった部隊が敵に分断され、孤立してしまったとのことだ。頭上を ヘリが飛び去っていき、緊急発進したジープが兵士を載せて出動態勢に入っていく。 「ジャクソン曹長、クロノ提督を司令部に案内しろ」 了解、と言いかけて、彼はエッと表情を驚きに染めた。命令を下したのはシェパード将軍その人であり、拒否する権限はない。別段、おかしな命令だとも思わなかった。自分たちはオブサーバーに 過ぎず、前線参加の許可も与えられていない。 ジャクソンが驚いた理由は、将軍の行動だ。リボルバー式拳銃を引き抜き、残弾を確認。その後、視察でやって来たはずなのに彼は周囲の陸軍兵士や現地兵に命令を飛ばし始めるではないか。突然 の警報に基地司令部からの命令が届いてないのか、兵士たちも言われるがままシェパードの指示に従い動いている。 「将軍、何をなさるおつもりですか」 「"何を?" 妙なことを聞くのだな、曹長」 目の前に、防弾仕様が施された車両、ハンヴィーがやって来る。よりによって、将軍の目の前で。扉が開かれ、彼は何の躊躇いもなく乗り込んだ。 「軍人は戦争が仕事だ」 あぁ、なるほどな――即座に、海兵隊員はこのシェパードと言う鋭い眼光を持った男が、いかなる者なのか理解した。止めても無駄だろう、こういうタイプは。レジアス中将が見たらなんと言うか。 ともかくもジャクソンは命令された通りに動き出す。管理局の部隊も動くとなれば、連絡官の仕事もあるはずだ。 前線基地は、まさしく紛争地帯の様子を醸し出そうとしていた。 戻る 次へ
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「スバルー、どこ行ったのー? スバルー?」 休日の日の空港は、少女の妹を捜し求める声を簡単に打ち消してしまう。大人たちはほとんど声に気付かず、あるいは気付いても所詮は他人事、せいぜいが心配そうな視線を送る程度だった。 もう、どこ行っちゃったんだろう。少しばかり疲れた表情を浮かべて、彼女は壁にもたれかかった。かれこれ一時間探し回っているが、はぐれた妹は見つからない。 見惚れてしまうような紫色の、女の子らしくリボンで結った髪を右手で掻き分け、視線は周囲を探ってみる。ひとまず目についたのは、空港の総合案内所だった。迷子の情報も、ひょっとしたら取 り扱っているかもしれない。 「あの、すいません」 「はい、何でしょう?」 案内を務める受付嬢は、子供である彼女にも変わらず柔らかい笑みで応えてくれた。ひょっとしたら営業スマイルの可能性も否定できないが、今の少女にそこまで考える余裕はないし、そもそも普 段であっても疑うような真似はしないだろう。 「私、妹を探してるんです。名前は、スバル・ナカジマって言って……」 「あら、迷子? 大変、すぐ探してあげるね」 どうやら受付嬢の笑みは、本物だったらしい。女の子の申し出を真摯な表情で受け止め、服装や身長、どこではぐれたのかを少女に問う。一通りの質問を終えて、専用の端末に指を走らせ、データ を入力する。少女にはこの受付嬢が何をしているのか分からなかったが、おそらくコンピューターで妹を探してくれているに違いないと考えた。 不意に、受付嬢の指が止まる。そうだ、忘れてたわと端末から女の子に視線を戻し、聞いておくべきことを彼女に問いかける。 「ごめんなさい、あなたのお名前を教えてくれる? 放送でスバルちゃんを呼んでみるから必要なの」 「あ、はい。ギンガです、ギンガ・ナカジマ」 ギンガ、と名乗った少女の答えを聞いて、受付嬢はありがとう、と礼を告げる。程なくして、空港全体に迷子の知らせを告げる放送が鳴り響いた。同時に心優しい受付嬢はローカル回線を通じ、迷 子の特徴を各部署に連絡し、見かけたらこちらに一報して保護して欲しいとも言ってくれた。 「もう大丈夫、すぐ見つかるから。しばらく近くで待っててくれる? 妹が見つかったら呼ぶね」 「は、はい。ありがとうございます!」 まっすぐなお礼の言葉に、彼女はニコリと笑って応えてくれた。言われるがまま、ギンガは案内所を少し離れ、適当に近場にあったベンチに腰を下ろす。 とは言え、不安はなおも胸の中を覆ったままだ。あのお姉さんを信用していない訳ではないが、もし誘拐などされていたら、と思考は余計な想像をしてしまう。そんなことない、とすぐ否定に入る も、やはり気持ちは変わらなかった。 ハァ、と少しため息をついたところで、ベンチから立ち上がる。どうにも、一箇所にじっとしていられなかった。近くを歩き回る程度ならいいだろうと思い、ギンガは歩き出す。ひょっとしたら案 外、すぐ近くにいるかもしれないと思った。父が言っていたのだ、「灯台下暗し」と。 辺りに視線を漂わせながら進んでいくと、前を見た時突然、視界を黒いものが埋め尽くしていた。直後に衝撃が走り、キャッとたまらず悲鳴を上げてしまう。ひっくり返る身体、思い切り尻餅をつ いてしまう。誰かとぶつかったのだ。 「イタタ……あ、ご、ごめんなさい」 地面に打ち付けたお尻をさすりながら、それでも育ちの良さは彼女を反射的に謝らせてしまう。前をよく見ていなかったのは自分なのだ。謝るのは当然のことと、ギンガは考えていた。 ――しかし、顔を上げた先に見えたのは、言い知れない恐怖だった。ぶつかったと思しき黒いスーツの男は、こちらを一瞥しただけで何も言わず、立ち去っていく。その、一瞥した瞬間に垣間見え た男の眼に、少女は恐怖を覚えた。何も感じていない無感情な眼、まるで鮫のようだった。石ころでも踏んだ程度にしか、こちらの存在を認識していなかったのかもしれない。別段、踏み殺しても 何の躊躇いも後悔も見せないほどに。 突然の恐怖に固まっていたギンガに、手を差し伸べたのは同じ黒いスーツの男だった。だが、こちらはまだ若い。がっしりした体格はいかにもスーツが窮屈そうだったが、あの鮫のような男よりは はるかにずっと人間らしさを持っていた。でなければ「大丈夫?」と声をかけてくるはずがない。 「君、君。大丈夫かい?」 「あ……は、はい、大丈夫です」 「そうか、よかった――すまない、ぶつかったのは俺の友人なんだ。後でちゃんと言っておくよ」 若い男は、親切だった。手を差し出しギンガが立ち上がるのを手伝ってくれたばかりか、服をパッパッと叩いて埃を取り除いてくれた。大きな荷物を抱えていたにも関わらず。一通りギンガの無事 を確認したところで、男は先ほど彼女とぶつかった彼曰く『友人』を追いかけ、立ち去ろうとする。 「あ、あの、すいません」 その背中を、彼女は呼び止めた。なんだい、と男は振り返る。決して嫌そうな表情は見せなかったが、急いでいるようではあった。 「わたし、妹を探してるんです。髪は青で、眼は緑。スカートで、ポーチを持ってるんですけど――」 「迷子かい? …いや、悪いが見てないな」 そうですか、と落胆した表情は隠し切れず、ギンガは言う。男はそのまま、先に行った友人の後を追って進んでいく。 しょうがないか、もう少し待ってみよう。渋々先ほど座っていたベンチに戻った彼女は、そこでふと気付く。あの男たちが進んでいった方向は、『関係者以外立ち入り禁止』と看板が立てられてい た。にも関わらず進んでいったと言うことは、もしかして空港のスタッフだったのだろうか。 回る思考が導き出した予想は、しかしそれで終わる。そんなことより、今のギンガには妹の方が心配だった。 Call of lyrical Modern Warfare 2 第4話 No Russian / 自分自身は欺けない SIDE C.I.A 三日目 0840 ミッドチルダ ミッドチルダ臨海空港 ジョセフ・アレン上等兵=アレクセイ・ボロディン ――彼らは任務を果たしたようだ。ACSモジュールの回収に成功した。 まるで幻聴のように、脳裏に響く声があった。 それは出発前、将軍から下された命令を受け取った時、彼自身の口から語られたもの。 ――君には、これ以上の成果を期待したい。 無茶を言う。率直な感想は、胸の中で呟くしかない。これから自分が臨む任務は、単なる敵地への潜入とは訳が違うのだ。 無論、あの将軍はだからこそ自分に「期待する」と言ったに違いない。困難をやり遂げてもらうために、わざわざ自ら最前線に出向き、自分好みの兵士をその眼で見て引き抜いた。 しかしこれは、とアレンは口にする。こんなものが、本当に任務といえるのか。 ――昨日までの君はもはや過去のものだ。今や戦争は何処にでも起こり得る。犠牲者もまた然り。 ――マカロフは自分のための戦争を繰り返してきた。拷問、人身売買、虐殺、何も躊躇はしない。 ――君を潜り込ませるために、我々は相応の代価を支払った。君自身も、何かを失う羽目になる。 ――だが、アレン上等兵。長い眼で見ろ、君はそれ以上に大勢の人命を救うことになるだろう。 本当だろうか。将軍の言葉に、アレンは疑問を持たざるを得ない。疑問というより、否定に近かったかもしれないが。 兵士は、与えられた任務を遂行することに全力を尽くす。何をどうすべきか、などは兵士が考えるべきことではない。本来それは、軍においては参謀であり将軍であり、もっと大きく見るなら国家 元首が受け持つことだ。政治体制が民主主義であれば、考えるべきは国民と言うことになる。 だが、命令書を受け取ったアレンは、自分の立場も忘れてしまうくらいに激しい感情を覚えた。すなわち、怒りだ。こんな馬鹿な話があるか、狂ってやがる。それも、俺にこの任務をやれと言う。 かろうじて顔には出さない程度に自身の感情を押さえ込みはしたが、それでもきっと見抜かれていたのだろう。肩に手を置き、彼に狂気の命令を下したあの将軍は、静かに告げる。 ――狂気に立ち向かうには、自らも狂気を持つしかない。冷酷には冷酷を、死には死を。 立ち入り禁止区画内にあるエレベーターまでの道程は、実に簡単なものだった。 立ち塞がっていたのは関係者以外の進入を禁ずると言う旨が書かれた看板程度であり、誰も彼らを止めようとはしなかった。時空管理局の中心世界と言うだけあって治安の良さは高い領域にあるよ うだが、それがかえって仇となった。誰もが、テロなど起こるはずがないという認識の下に暮らしていた。 途中で監視カメラに出くわしたりもしたが、なんてこともない。通報を受けた警備員がここは立ち入り禁止ですよ、と告げに手ぶらで、もしくはせいぜい警棒を手に現れたくらいだ。道に迷った、 と適当な嘘ではぐらかし、道案内させたところで監視カメラの死角に連れ込み、口封じ。手っ取り早く、サイレンサーを装着した拳銃で射殺した。 エレベーターにまで到達したところで、アレンとその"友人"たちは抱えてきた荷物の中身を開封した。銃のマガジンが幾つも入るタクティカル・ベストに、手榴弾、ナイフ、そしてM240軽機関銃に M4A1のM203グレネードランチャー装備など各種銃器。 "友人"たちはみんなロシア人であるはずだが、持ち込んだ銃は全て米国製だ。超国家主義者たちはもともと、祖国への狂信的な愛国心は持っていても武器に関してはそこそこに無頓着だと聞いた。 リーダーが祖国再興にこだわらない人物に代わってからは、それがますます拍車をかけたことになる。 しかし、妙な気分だった。アレンは生まれも育ちもアメリカだが、今は『アレクセイ・ボロディン』と言う名で彼らの下に加わっている。ロシア人として。要するに、スパイだ。超国家主義者たち の内側に溶け込み、共にテロ活動を行うことで信頼を得て、外からでは決して得られない情報を入手するために。 ロシア製の銃火器を不自然なく扱えるよう訓練は受けたが、実際に持たされたのは使い慣れたアメリカ製。なるほど、妙な気分とはつまりここから来たのだろう。 ――否。彼が抱える"妙な気分"とは、決して銃に関する事柄だけではないはずだ。 スーツの上にタクティカル・ベストを羽織り、M240に弾丸を装填。M4A1を肩に下げて武装完了したアレンと"友人"たちは、エレベーターに乗り込んだ。スイッチを押して、一階の手荷物検査場前へ。 今日は世間的には休日であるから、ミッドチルダのどこの空港も旅行客で賑わっているはずだ。この臨海空港とて、例外ではない。 「C нами бог」 不意に、エレベーター内でロシア語が響いた。アレンは視線を上げ、声を発した"友人"たちの一人を見る。 「Remember.No Russian(忘れるな、ロシア語は禁止だ)」 ロシア語を発した男の口から次に出たのは、流暢な英語だった。アメリカ人のアレンが聞いても判別するのはおそらく不可能な、完璧な発音。まるで翻訳機の如く、感情が抑制されたような声でも あったが――感情。男の眼と同じだった。鮫のように無感情な眼が、同行する仲間たちに指示を徹底させるようにして視線を送る。皆、黙って頷いた。 最初に、奴はロシア語でなんと言った? エレベーターが一階に降りるまでのわずかな時間、アレンは思考を走らせる。大学時代、アメリカ以外の国をもっと知りたいと思った彼は語学の道を選び、 ロシア語を覚えた。皮肉にも学んだ知識はこのようなことに生かす羽目になったが――両親が、自分を大学に行かせるために借金をしているのを知ったのは卒業間近。彼は金を稼ぐために軍に入っ た――そのデータベースの中に、男の呟いた言葉はあった。意味は、"神と共に在らんことを"のはず。 馬鹿な、神だと。こんな行いを、いったいどこの神が許してくれると言うのか。それとも自分が神にでもなったつもりか、マカロフは。 ――そう、この鮫のように無感情な眼を持つ男こそ、超国家主義者たちの新たなリーダー、マカロフだ。任務は彼に近付き、信頼を得ること。そのためにアレンは身分を偽り人を欺き、ここにいる。 チン、とエレベーターのベルが鳴った。扉が開かれ、マカロフたちは歩み出る。一階の手荷物検査場は、予想通り旅行客で人だかりが出来ていた。銃口を向けて引き金を引けば、照準を合わせずと も地獄絵図が即座に一枚完成する。 マカロフの狙いは、まさしくその地獄絵図を作ることにあった。この魔法文明が栄える平和な世界、ミッドチルダにて。 何も知らない人々は、エレベーターから降りてきた彼らに最初は気付かなかった。何名かがおや、と振り返り、ミッドチルダでは映画やゲームの中でしかまず見ることのない銃火器で武装している 姿を見出し、ざわざわと騒ぎ始める。 もし、人々に過ちがあるとすれば――荷物を捨ててでも、即座に逃げだなかったことだろう。ロシア人たちの無感情な眼の奥にあったのは、殺意と呼ぶことすら生ぬるいほどの冷たく、そして残酷 な思考。 銃口が上がり、人々に突きつけられる。それでも彼らは動かなかった。戸惑い、怯え、しかし目の前の光景にどこか非現実的なものを感じ、それが生存本能をも鈍らせた。 次の瞬間、銃声と、それより数瞬遅れる形で発生した悲鳴が、臨海空港に響き渡った。 SIDE U.S.M.C 三日目 時刻 0932 ミッドチルダ 首都クラナガン ポール・ジャクソン 米海兵隊曹長 在ミッドチルダ米軍連絡官 「ごめんなぁ、シャマルは今ちょっと買い物行っとるんよ」 紛争世界から自分のデスクがあるミッドチルダに帰還したジャクソンは、八神はやての自宅を訪れていた。先日、この家の家人であるシャマルから頂いた弁当箱を返すためだ。ついでに愛する彼女 とささやかだが楽しいお喋りを味わう魂胆だったのだが、間が悪かったようだ。 家の主であるはやては、まだ一〇代の後半に達したか達していないかと言う年齢の少女だ。栗毛色の髪と整った顔立ち、独特のイントネーションは可愛らしさを持っているが、これでも数多の次元 世界の平和を守る時空管理局の一員でもある。階級も三佐、ジャクソンの所属する米海兵隊で言うところの少佐に値し、立場で言うなら彼女は上官と言うことになる。 「まぁ、すぐ戻ると思うから。コーヒーでも飲んでゆっくりしとく?」 「悪いな、ありがとう。君のとこには世話になりっぱなしだな、まったく」 大げさやねぇ、コーヒー一杯でとはやてはカラカラ笑い、海兵隊員をリビングにまで案内した。 階級に関わらず、こうしたやり取りが二人の間に成り立っているのは生まれや組織を超えた、長年の付き合いがあるからだ。戦場で死にかけたジャクソンを、家人の一人であるヴィータが助けて彼 を八神家にまで連れ込み、皆が手厚い看護を施した。以来、ジャクソンは八神家に強い恩義を感じ、八神家もまた彼を受け入れるようになっていった。お互い住居がミッドチルダに変わってからは 交流はさらに深まり、今日に至っている。 「しかし、今日はどうしたんだ。こんな時間帯に一人でいるなんて、珍しいじゃないか」 「昨日は夜遅くまで、計画立案を煮詰めとってね。ほんでも目処が立ったから、今日はお休み頂いたんや」 「へぇ」 他愛もないお喋りに興じて、お互いコーヒーを飲む。はやての話によれば、シグナムは彼女の言う計画とやらのために協力するため、本局の武装隊と調整業務。ヴィータはデバイスの調整整備のた め、技術開発部に足を運んで今日は一日帰ってこないと言う。シャマルは、玄関で最初に会った時に話した通り、生活必需品の買出し中。 「狼はどうした、守護獣は」 「あ、居るよ。おーい、ザフィーラ」 はやてが呼ぶと、すぐに奥から青い毛並みをした狼が現れた。盾の守護獣ザフィーラ、ジャクソンとは同じ男同士でなんとなくウマが合う。 「ジャクソン、来ていたのか」 「シャマルに弁当箱を返しにな。お前、ちゃんと食べてるか? 少し痩せたように見えるが」 「引き締まったと言え。ここ最近は、特に鍛錬を重ねているのだ」 そりゃ頼もしい限りだな、と海兵隊員は笑う。実際頼もしいでザフィーラは、とは家の主の談。 しかし、とジャクソンは振り返る。そういえば、以前ヴィータと会った時も「最近訓練を煮詰めててな」と話されたような気がする。シグナムも、顔を会わせれば「少し付き合わないか」と愛用の デバイスをちらつかせて来た。その時は丁重にお断りしつつも、何だか最近八神家は一家揃って忙しそうにしているように見えたのだ。 「なぁ、はやて。その、お前さんが煮詰めていたと言う計画って、いったい何だ?」 「え? どしたん、急に」 「いや、何だか最近、妙に八神家は忙しそうだからな。何か関係しているのかと思って」 少しばかり間を置いて、「あー…」とはやては答えるべきか否か、迷ったような返事をした。関係があるのは間違いないようだが、話していいかどうかとなると別問題なのだろう。 ――計画? そういえばこちらもつい最近、誰かの口から何かの計画が管理局内でも進行しているとか耳にした。誰からだろう。 記憶の底に探りを入れて、答えに到達したのと、ザフィーラが会話に入ってきたのはほぼ同時の出来事だった。 「ジャクソン。クロノ執務官から、何も聞いてないか?」 「ああ、ちょうど思い出したところだ。昨日、アイツから聞いたんだ。管理局内で、ある部隊を新設しようって話を。計画にはクロノも関わってて、しかしメインの立案者は他にいると。俺がよく 知る人物だ、とかも言っていたな」 「……あ、なんや。そこまで聞いとるん?」 はやては意外そうな顔をする。その表情を見て、ジャクソンは頭の中でパズルのピースが一つ、組み合ったような気がした。なるほど、立案者とはつまり―― 「っと、すまない。呼び出しだ」 「あ、うちも……なんやろ、偶然にしては嫌な予感のするタイミングやな。米軍(そっち)からも管理局(うち)からもとか」 そうだな、と彼は相槌を打った。ポケットから携帯電話を取り出すと、勤め先の在ミッドチルダ米軍司令部のオフィスからだった。はやても文字通り魔法の通信回線を開き、目の前に半透明の通信 用ディスプレイを展開させる。 一瞬遅れて、つけっ放しにしていたテレビの画面の中でやっていた番組が切り替わり、臨時ニュースが始まっていたことなど知る由もない。否、知る必要すらなかった。 『臨時ニュースを申し上げます、臨時ニュースを申し上げます。一時間ほど前、ミッドチルダ臨海空港にて複数の銃声があり、多数の死傷者が出ている模様です。詳しいことは分かっていませんが テロではないかと言う見方が強く、管理局がただちに部隊を移動させているようです――』 SIDE C.I.A 三日目 0905 ミッドチルダ ミッドチルダ臨海空港 ジョセフ・アレン上等兵=アレクセイ・ボロディン 何をやっているんだ、俺は。 何をやっているんだ、俺は。 何をやっているんだ、俺は。 何をやっているんだ、俺は。 何をやっているんだ、俺は。 何をやっているんだ、俺は。 何度も何度も、自問自答の声が脳裏で響き渡る。いや、自問"自答"ではない。自分は、自分のした質問に答えられていない。答える前に、銃声と悲鳴が思考を掻き乱し、消し去ってしまう。 空港の中は、すでに見渡す限りの死体の山が築かれていた。大人も、老人も、子供も、男も、女も、老若男女は一切関係なく、全ての人が殺戮の対象に晒されていた。 果敢に抵抗を試みる者も、逃げ惑う者も、手を上げて命乞いをする者も、関係なかった。マカロフを初めとする超国家主義者たちは、視界に人が入れば容赦なく鉛弾を撃ち込んだ。 俺は――大量殺戮の現場を、アレンはただ指を咥えて見過ごすことすら許されない。そんなことをすれば、何故撃たないのかと怪しまれるからだ――何をやっているんだ。俺は。 自身が構えるM240の銃身は、すでに何十発も連射したことで熱を持っていた。カチンッと機械音が鳴り、まるで銃がもういいだろう、やめようと訴えかけるようにして弾切れを伝えてくる。 いいや、やめようと言っているのは自分の良心だ。にも関わらず、アレンは息絶えたM240に新たな弾丸を込める。カバーを開き、薬室にベルトで繋がった七.六二ミリ弾を入れて、閉じた。息を吹 き返した軽機関銃の銃声は、もうやめてくれと叫んでいるようにすら聞こえた。 せめてもの慰めは、彼は明確に生きている人間を狙っては発砲していないという事実だ。すでにマカロフたちの凶弾に倒れ、息絶えた人々の骸に向けて弾をばら撒く。目の前で狙われている人がい ても、このテロリストたちに手出しすることは許されない。せいぜいが、早く逃げてくれと祈るくらいだ。自分の"死体撃ち"にしたところで、死んでも銃弾の雨に晒され傷ついていく者の気分を考 えれば、最悪と呼ぶほかない。 血と死体で埋まっていく地面、鼻を突く硝煙と血の匂い、耳をつんざく悲鳴と銃声。もう何人死んだだろうか。数えることも不可能なほどに増えていく死体は、どこに視線をやっても否応なしにア レンに事実を突きつけてくる。テロ行為に加担したと言う事実。止められる立場でありながら、任務のためと称して止めようとしない事実。誰も助けられないと言う事実。 くそ、と旨のうちで吐き捨てたところで、何かが変わる訳でもなかった。 ちょうどその時、ガラス越しに空港の外で、ヘリコプターが複数駆け抜けていくのが見えた。一瞬だったが、胴体に描かれた標識マークは時空管理局のものだった。通報を受けて、ようやく鎮圧の ための部隊が動き出してくれたのか。 「Let s go!」 前を行くマカロフが、前進速度を速めろと指示を下す。自らが生み出した地獄絵図を、この男は犬の糞でも見つけたような表情で見ていた。狂ってやがる、とアレンは聞こえないよう小さく呟いた。 「予定通りの時間だな――弾薬を確認しろ」 こんなくそったれの指示を、聞かねばならないのか。ただの兵士である彼は、しかし他になす術がない。良心によって胸をえぐられるような痛みを必死に堪えて、ベルト給弾方式のM240に弾薬を再 び装填。他の者と不本意極まりないコンビネーションで互いの死角をカバーし合いながら、彼らは前に進む。目指すは駐機場を抜けた先にある駐車場だ。 管理局の部隊は、当然こちらをテロリストとして鎮圧しに来るだろう。抵抗力が皆無の民間人や、貧弱な装備しか持たない空港の警備員たちと違って、本気で撃ってくるはずだ。"死体撃ち"で誤魔 化すような真似は、もう通用しないかもしれない。 逃げられないってのか、俺は――撃たねば、撃たれる。幾度も潜り抜けてきた戦場での鉄則が、こうも胸糞悪く絡み付いてくるのは初めてだった。 「この時をどれほど待ち侘びたか」 「お互いにな――管理局だ、始末しろ。ザカエフのために」 部下の言葉に応えて、マカロフは正面に現れた管理局の魔導師たちに向け、射撃を指示。自分自身もM4A1の銃口を向け、容赦なく五.五六ミリ弾を叩き込んでいく。 魔導師たちは、突然降り注いできた質量兵器の雨に、文字通り魔法の力でもって対抗した。二隊に分かれた彼らは、一隊が前に出て防御魔法を発動。魔法の壁で弾丸を弾き返しながら、残った一隊 が標準的なストレージデバイスを構えて、魔力弾による射撃を開始する。 交差する弾丸同士、しかしマカロフたちの放った銃弾は光の膜に弾かれる一方で、魔導師たちの放った青白い弾丸は何者にも妨害されず、テロリストたちに降り注いだ。無論、アレンにも例外なく。 身を掠める魔法の弾丸、こちらは遮蔽物に身を隠して凌ぐが精一杯。生命への危険が、彼に判断を迫る。撃つか、撃たれるか。 「――畜生め」 もし戻れたら、自分をこんな任務に就かせたあの将軍に、この銃弾を叩き込んでやる。何が「君はそれ以上に大勢の人命を救うことになるだろう」だ。俺は結果として本来の味方を、ティーダの戦 友たちを撃つ羽目になった。このツケは、あのふざけたシェパードの野郎の命で払ってもらう。そしたら次はマカロフだ。俺がコイツを殺す。それが、俺に出来る唯一の償いだ。 だから許せ――とは絶対に、彼は思わなかった。M240の銃口を、防御魔法を展開させる魔導師たちに向ける。引き金を引き、ありったけの七.六二ミリ弾を叩き込んだ。唸る銃声、照準の向こうで 光瞬くマズルフラッシュ。 普通に射撃したくらいでは、魔法の壁は撃ち破れなかっただろう。だが、M240は軽機関銃だ。毎分七五〇発と言う連射速度で、ただでさえストッピングパワーの高い七.六二ミリ弾を高初速で長い 時間放ち続けることが出来る。豪雨のような銃撃に晒された魔導師たちは前進を停止するも、なおも続く銃撃の乱打に魔法の壁が、文字通り『崩壊』してしまった。あっと彼らが声を上げた次の瞬 間、続く銃弾がバリアジャケットを貫通し、人体などと言う脆弱な物質をぶち抜き、肉を抉る。飛び散る血潮、救助を求める声すらもが更なる銃声にかき消されていった。 すまない、すまない、すまない。自分の銃撃で撃ち倒されていくアレンの思考は、決して敵を倒したと言う爽快感も得なければ、これで奴らも引かざるを得ないと言う安心感もない。ただ、脳裏を 駆け巡るのは懺悔の言葉。恨んでくれていい。俺は殺されても文句は言えないんだ。いや、いっそ殺してくれた方が、どれだけ楽なことか。 魔導師たちは後退を余儀なくされた。緊急出動だったが故、装備も人員もままならない状態で交戦したのもあったのかもしれない。ともかくも、彼らは退いていく。その背中に向けて、マカロフが M4A1の銃身の下に付属していたM203グレネードランチャーの砲口を向ける。 やめろ、と心の中で叫んだ。彼らはもう後退している、交戦の意思はないんだ。弾薬の無駄だと言って何とか止めさせよう。そう考えた頃には、ポンッと軽い発射音が響き、グレネードが引き下が っていく魔導師たちの中心で炸裂した。爆風と衝撃、破片が彼らを薙ぎ倒し、容赦なく命を奪っていく。 「行くぞ、前進する」 くそ――相変わらず、眉一つ動かさないこの冷酷な男の背中に向け、思わずアレンは銃口を上げようとしてしまった――くそ、くそ、くそ! どこまでコイツの後を追えばいいんだ。目標を達したと して、その時どれだけの人の命が失われているんだ。 俺は、何をやっているんだ。 「進路クリア、GO」 魔導師たちの撃退に成功した彼らは、なおも進む。 機械室に入り、ポンプと配電盤が並ぶ最中を駆け抜けていく途中、アレンは不意に、何かを耳にした。距離は、そう遠くない。すぐ近くと言ってもいいくらいだ。何の音だったのかは、定かではな かったが。 「敵か? それとも生き残りがいたか」 「俺が見てくる」 どうやらマカロフにも聞こえていたらしい。身を乗り出し、アレンは自ら偵察を申し出た。先に行ってくれ、戻ってこなかったら死んだと思えとも付け加えて。 実際は、もちろんこれ以上マカロフたちに誰も殺させないためだ。この機械室のどこかに、管理局の魔導師が潜伏しているにしても、民間人の生き残りが隠れているにしても、どちらであってもこ いつらは躊躇いなく撃つだろう。もしここで自分が行けば、自分で撃つか撃たないか判断できる。魔導師であったならば適当に撃って脅かし、殺さず追い返す。民間人だったなら、素直に見逃す。 マカロフは、一瞬怪訝そうな表情を見せた――ようやく垣間見えた、人間らしい顔だった――だが、すぐにまた無感情な眼に戻り、一言だけ言った。 「五分だ、アレン。一秒でも遅れれば置いていく」 「そうしてくれ、行ってくる」 ダッと、アレンは駆け出す。今日はずっと、殺してばかりだ。殺しに加担してばかりだ。戦争ですらない、ただのテロ行為に。誰か一人くらい、助けたっていいはずだ。 機械室の中は、パイプが入り乱れて複雑な構造をしていた。しかし、歩みを進めれば確かに聞こえる。最初は何の音か分からない、とにかく何かであるとしか認識できなかったが、少しずつ答えが 見えてきた。ヒック、ヒックと嗚咽を漏らすような、泣くのを必死に我慢する子供の声。たぶん女の子だろう。 ――女の子。そういえば、あの子は無事だろうか。記憶に甦る、行動を起こす直前にマカロフとぶつかった女の子。紫の髪を長く伸ばした可愛い子だった。妹を探している、とか言っていたが。 ふと、閉じかけられたまま放置されている扉が目に入った。左手でドアノブを握り、M240を右手だけで保持してゆっくりと室内へ入る。女の子の嗚咽と思しき声は、ここから聞こえていたのだ。 古びたロッカーに、埃が被った机。どうやら使われていない事務室か何かのようだが、ロッカーの影に、誰かが小さく丸まっているのが見えた。短い青の髪に、スカート。ポーチを肩から下げて、 頭を膝に当てて震えていた。ボーイッシュな感じがするが、おそらく女の子で違いあるまい。 「あ……」 女の子が、アレンの気配に気付いて顔を上げた。涙と鼻水でクシャクシャになった、普段なら元気いっぱいの、しかし今は恐怖に怯えるだけの緑の瞳が、さらに恐怖で上塗りされる。 「い、いや……や、やめて、うたないで、ころさないで……」 この子は――怯えきった状態で懇願する女の子に、何か引っかかるものを感じた彼は、ひとまず銃口を下ろした。敵意はないと言う意味だったが、そんなことで彼女が安心するはずもない。ただひ たすらに、「やめて……いや……たすけて、おねえちゃん」と助けを求めるだけだった。 お姉ちゃん、と言う単語を聞いて、アレンはようやく合点がいった。青の髪に緑の瞳、スカートにポーチ。おそらく、あの女の子が探していた妹だ。 助けよう。一人でもいいから。突き動かされるようにして、彼は女の子に駆け寄る。ヒッと少女の顔が歪むのもお構いなしに、細く軽いその身体を抱え上げると、すぐ隣にあった古いロッカーを乱 暴に開く。中に入っていたガラクタを蹴飛ばして外に出せば、子供一人くらいなら入れるスペースが出来上がった。 「いいかい、ここに隠れるんだ」 ほとんど強引に、女の子をロッカーの中に押し込んだ。彼女は、何が起きているのかさっぱりな様子で、しかし泣き止み、銃を持っているのに「隠れるんだ」と言い出したスーツの男を不思議そう な眼で見た。 「管理局か空港の警備の人が来るまで、外で何が起きようと絶対に出てきちゃ駄目だ。いいね?」 「え、え……?」 「返事は? かくれんぼは得意か?」 「あ……は、はい。あたし、かくれんぼ、すきです」 「いい子だ。それじゃあ、もう少しの我慢だから」 女の子は、最後まで訳が分からないようだった。だが、アレンの言ったことにはしっかり頷いた。それを見た彼は、すぐにロッカーの扉を閉めた。直前、女の子が不安げな眼差しを送っていたが自 分にはもう、どうしようもない。あとはひたすら、この子が生きてお姉ちゃんと無事再会出来ることを祈るばかりだ。 これでいい。駆け出し、マカロフたちの下へ急ぐ最中、アレンは胸の片隅でわずかばかりの満足感とも安心感とも言える、奇妙な暖かい感情が生まれるのを感じた。潜入任務なんて、もう御免だ。 俺は、自分自身を欺けない。そんな人間に敵と一体となって溶け込むことなど、不可能なのだ。偽りの仮面は、本人の心にさえも偽りを生むのだから。 マカロフの下には、時間内に戻ることが出来た。何だったんだ、と聞かれると、ねずみだ、と適当に嘘で誤魔化した。怪しまれている様子はない。何とかなったようだ。 脱出地点の屋内駐車場に辿り着くと、一台の救急車が待っていた。近付くと接近を察知したのか扉が開かれ、マカロフの部下たちが早く乗れと手招きしていた。 「成功だな。乗ってくれ――この襲撃は強烈なメッセージになるぞ、マカロフ」 「――いいや、違うな」 部下の手を借り、救急車に乗ったマカロフは意味深な言葉を口にする。だとすれば、この襲撃は他の意味があったのだろうか? 何であれ、その情報を手に入れるのが任務だ。マカロフが手を差し出してきて、アレンはその手を掴む。互いに人殺し、程度の差、主犯と結果的に加担した者と差はあれど、同じ虐殺者の手。しか し、まったく同じではない。片方はひたすらに殺す一方で、もう片方は、一つの命を救った。狂気と正気、同じ手でも相違点があった。 ――そして、相違点はもう一つある。それは、アレンはアメリカ人と言うことだ。 ぬっと、彼の視界に突如黒い銃身が現れた。ベレッタM92F、米軍の制式拳銃。銃口が向けられているのは、自分。 「これが本当のメッセージだ」 パンッと、乾いた銃声が響き渡る。身体にどっと衝撃があり、アレンは崩れるようにして地面に放り投げられた。 何だ、どうして――胸を撃たれた。ぽっかりと開いた穴からは、真っ赤な血がドクドクと溢れ出し、スーツを赤黒く染めていく――何故俺を撃った、マカロフ。 「アメリカ人は俺を欺けると思っていたらしい。もう少し適任な者を選ぶんだったな、自分も欺けるような奴を」 自分を欺けるような奴、だと。どういうことだ。薄れ行く意識の中で、必死に記憶を振り返る。どこだ、どこで、感付かれた。いったいどこで。 あ、と彼は気付いた。奴はさっき、俺をなんと呼んだ。偽名の"アレクセイ・ボロディン"ではなく――そうだ、奴は俺が見に行くと言った時、「五分だ、アレン」と。俺の本名を、知っていた。 "自分も欺ける奴"とはすなわち、そういうことなのだ。 最初から、全て奴には筒抜けだった。こんな馬鹿なことがあってたまるか。俺は任務のためと言って、結局その任務も果たせないまま―― 「く、そ……」 視界が、白く染まっていく。マカロフたちを乗せた救急車は、本当に怪我人を運んでいるようにサイレンを鳴らしながらどこかに走り去っていった。代わって現れたのは、再編成を終えて再びやっ て来た管理局の魔導師たち。 「この死体が見つかれば、ミッドチルダは戦争を望むだろう」 まるで幻聴のように、マカロフの声が耳に入る。聞こえるはずのない声、だが確かに彼は耳にした。畜生め、と胸のうちで吐き捨てる。 次の瞬間、白く染まっていく視界は暗転し、アレンの意識は深い闇の底へと姿を消していった。 ジョセフ・アレン 米陸軍上等兵/CIA工作員 状況:K.I.A(作戦中戦死) 戻る 次へ
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ほんの数年前、彼はまだ新米だった。 もちろん、厳しい選抜試験を突破して着任してきたのだから、本当に何も出来ない新米ということはなかった。イギリス陸軍特殊部隊、通称"SAS"に配属されたことが、彼の能力を物語っていた。 それでも実戦経験が無いという意味では、やはり彼はまだ垢抜けきらない新兵であり、未熟さゆえのミスもあった。それが元で死に掛けたこともあり、上官が助けてくれなければ今の自分はあり得なかっただろう。 やがて月日が経って、彼は新米を卒業し、大尉にまで昇進した。指揮官となり、部下を持つようになった。最初のうちはそれが実感出来なかった。俺が上官の立場になるなんて、あの頃は考えもしなかった、と。しかし、目の前の状況は彼にいつまでも新兵であることを許さず、生きたくば成長せよ、指揮官となれと命じてきた。 部下に命令を下す、というのは想像以上に辛いことだった。自分の命令一つで、彼らは死ぬ可能性だって充分にある。あるいは、最初からそうしろと言わざるを得ないこともあるかもしれない。死んで来い、と。 だからこそ、彼は自分に出来た部下がかわいくてしょうがなかった。彼らは俺に命を預けてくれている。ならばそれに応えるのが役目であり、そして部下たちは命令を忠実にこなしてきた。ここに来てようやく、彼は胸を張って言えるようになった。俺は指揮官である、俺は上官である、と。 その大事な部下たちが、裏切りによって死んだと聞かされた時、彼は何を思っただろうか。どう思っただろうか。 答えは彼だけが知っている。マクダヴィッシュ大尉、かつての"ソープ"だけが。 Call of lyrical Modern Warfare 2 第17話 The Enemy of My Enemy / 二つの線 SIDE Task Force141 六日目 1603 アフガニスタン カンダハル南西160マイル 第四三七廃機場 ジョン・"ソープ"・マクダヴィッシュ大尉 「ティーダ! ゴースト! ゴースト! 聞こえないのか!? Task Force141、誰か応答しろ!」 誰でもいい。せめて誰か一人、応答してくれ。生き残っていてくれ。誰か。通信機に向かって怒鳴る自分の声に悲壮さが帯びてきていることなど、ソープが気付くはずもない。 退役した航空機が最後に辿り着く場所、墓場、スクラップヤードのど真ん中に彼はいた。敵に追われて、ここに逃げ込んだのだ――"敵"とは誰だ。もう判断がつかない。マカロフの率いる超国家主義者たちの奴らも、シェパードが指揮下に置く私兵部隊も。何もかも敵だった。 二箇所あるマカロフの隠れ家のうち片方であるアフガニスタンに辿り着いたソープたちだったが、そこにマカロフはいなかった。代わって現れたのが、シェパードが掌握している民間軍事会社"シャドー・カンパニー"の傭兵部隊だった。彼らは味方であるはずのソープたちを狙い、追ってきた。共に行動していた部下たちは次々と倒れ死んでいき、残ったのはどこかではぐれてしまったプライスと他数人となっていた。そして、今は一人だった。 通信回線は沈黙したままだった。誰も応答しようとしない。ティーダも、ゴーストも、ローチも、みんな。 くそ、と吐き捨て、ソープは拳を辺りに放置してあった航空機の残骸に叩き付けた。ガン、と硬い肉がジェラルミンの肌を叩いて金属音を響かせる。それで彼の怒りが消えるはずもない。 ≪彼らは死んだよ、ソープ。シェパードは隠れ家で証拠隠滅の真っ最中だろう≫ それまで沈黙を保っていた通信機に声が入る。信頼出来る――この状況においてはただ一人だけの、信頼出来る上官――プライス大尉のものだった。 「……シェパードが裏切りやがった!」 ≪裏切られるのが嫌なら、誰も信用せんことだ。俺のようにな≫ 仲間が死んだ。それも、味方だったはずの者の手で。そのはずなのに、プライスの声は淡々としていて、まるで他人事のようですらあった。 しかしそれは違うと、ソープは断言する。彼が信じる上官は、決してそのような冷血な男ではない。身を危険に晒してでも民間人を助けるし、脱出するヘリに飛び乗った時、滑って落ちかけた自分の手を掴んで放さなかったのもプライスだった。 冷静になれ、彼のように。怒りに呑まれるな――自らに言い聞かせた後、ソープは武器の確認を行う。短機関銃のMP5Kに、サイレンサー装着のM14EBR。手榴弾とフラッシュバンが数個。これでシェパードたちの私兵の追撃を振り切れるか。 ≪ニコライ、こっちの位置が分かるか≫ どうやらプライスは古馴染みの戦友と連絡を取っていたらしい。ニコライはかつて彼らが助けた諜報員の一人で、今は民間軍事会社の経営を行っている。つい先日、ブラジルで回収 のヘリを出してくれたのも彼だった。 ≪ああ、分かっている。しかし、そっちに向かっているのは俺だけじゃないぞ≫ まるでニコライの言葉とタイミングを合わせたように、ソープの聴覚は突然のロシア語を掠め取った。 ただちに物陰に身を隠して様子を伺えば、ジープやトラック、果ては装甲車までもが続々とこの航空機の墓場に現れ、武装した兵士たちが下りて来る。 彼らの不揃いな装備は正規軍ではないことを示していたが、同時に統率された動きはただのゲリラではないことも示していた。訓練を受けているに違いないが、正規軍ではない。とすると、超国家主義者たちか。 ≪シェパードの部隊と、マカロフの部隊だ≫ ≪一度に相手するには戦力不足だな……ニコライ、何で回収に来るんだ≫ ≪中古のC-130だ。チャフとフレアは満載してきたが、あいにく一〇五ミリ砲も四〇ミリ機関砲も搭載してない。あれは高くてAC-130化するには予算が……≫ 「それとも潰し合わせるか、だな」 ニコライとプライス、二人の会話にソープが割り込んだ。シェパードにとってTask Force141は『真実を知る者』として一刻も早く消してしまいたいだろうが、超国家主義者たちも敵であることには変わらない。超国家主義者たちにとっても同様であり、この廃機場は三つ巴の様相を表していた。 ≪ともかく向こうで落ち合おう、戦友≫ ロシア語訛りの英語で告げられて、ソープはふと思う。戦友、か。ここにクロノやジャクソンがいれば、どれだけ心強かっただろうか。 MP5Kのスリングを肩に引っ掛けて背中の方に回し、M14EBRを構える。目的地はこの先にある滑走路だ。そこまで行けば、ニコライのC-130が着陸して回収してくれる。 ゴースト、ローチ、ティーダ。お前らの仇は俺が取る。決意も新たに、ソープは駆け出した。 無造作に積み重ねられ、放置された様々な航空機の残骸の間を抜けて、ソープは進む。 彼はギリースーツを着ていたが、緑のカモフラージュ装備はここではかえって目立ってしまう。敵が来れば隠れ、まずは様子を伺う。敵とはこの場合、プライスと他に数名生き残っていると思われるTask Force141の隊員以外の者だ。 M14EBRを構えて進む彼の視界に、黒尽くめの兵士たちの姿が走る。即座に身を屈め、手近にあった旅客機の座席に隠れる。 兵士たちの装備はアサルトライフルのACRやSCAR-H、UMPなど西側のもののようだ。ソープが持つM14EBRもMP5Kも西側だが、銃は同じ陣営のものでも持ち主は敵同士だった。おそらくはシェパードの私兵部隊だろう。 敵兵たちは周囲を警戒しつつ、その場に居座る構えを見せた。参ったな、とソープは顔を曇らせる。ここを突破しなければ、ニコライの降りて来る滑走路に向かえない。狙って撃つのは簡単だが、一人殺せば残りの者がこちらに殺到するだろう。 こういう時にクロノがいれば楽なんだが――今は行方知らずの魔導師の姿が脳裏をよぎる。 その直後、私兵部隊に動きがあった。ソープが潜む場所とはまったく異なる方向に向けて何か指を指し、銃口を向けている。何事かと見守れば、目の前で突如、銃撃戦が始まった。視線を走らせると、超国家主義者たちが続々と集まり、シェパードの私兵部隊に襲い掛かっている。私兵部隊も応戦し、周囲は銃声と怒号で埋め尽くされていった。 チャンスだな、と彼は行動を開始した。身体を低くし、銃を油断無く構えたまま、しかしゆっくりと動き出す。放置されているコンテナの裏に回って、私兵部隊と超国家主義者たちが撃ち合っている隙に進んでしまう魂胆だった。 立ち止まり、角の向こうの様子を伺う。まだ動こうとしない黒尽くめの兵士がいた。数は二人、こちらに気付いた様子は無い。警戒にでも就いているのだろうが、おかげでその先に進もうと思っても進めない。 M14EBRのスコープを覗き込み、ソープは息を吸い、吐き出さず止める。引き金にかけた指に力を込めれば、小さな機械音が鳴って、肩に当てた銃床に反動があった。放たれた銃弾が、道を塞いでいた敵兵の頭部を貫く。 いきなり隣にいた相棒が撃ち倒されたことで狼狽したもう一人にも、間髪入れずに銃弾を叩き込む。悲鳴は銃声に掻き消されただろうから、敵が駆けつけてくることはあるまい。 ≪ソープ、出来るだけ奴らに殺し合わせろ。弾を無駄にするな≫ 言われずともやっているところだ。プライスからの通信に、ソープは沈黙で応じた。答えを返さないのが、了解を意味するところだった。 しかし、プライスは思いもよらぬことを口にする。 ≪敵の通信機を奪った。俺はこれからマカロフと交信を試みる≫ 「……なんだって? プライス、何を考えているんだ」 ≪マカロフ、聞こえるか。プライスだ≫ 本当に何をする気なんだ。信頼出来る上官を今更疑うつもりはないが、それゆえにプライスの行動の目的が彼にはさっぱり読み取れない。 敵兵同士の銃撃戦を尻目に先を急ぐ傍ら、ソープは片耳に入れた通信機のイヤホンにも神経を尖らせていた。 ≪シェパードは今や英雄だ、全軍の指揮権を手に入れた。お前の作戦計画もな。シェパードの情報を寄越せ、片付けてやる≫ 作戦計画、おそらくローチたちが襲撃した隠れ家で得た情報に違いない。マカロフ自身は直前で危機を察知して逃げ出しもぬけの殻だったが、シェパードにとってはどうでもよいことだったに違いない。マカロフの情報がそこにあるのは知っていただろうし、Task Force141の"処分"の方が重要だったはずだ。 しかしプライス、マカロフと共闘する気か。あの狂犬と。 ≪聞いているんだろう、マカロフ。このままではお前の命は一週間と持たんはずだ≫ 応答は来ない。いくらマカロフにとってもシェパードは敵とは言え、ムシがよすぎる話だったか。 次の瞬間、ソープは己の考えが誤りだったことに気付く。 ≪貴様の命もな≫ ――応答しやがった、マカロフだ。 ≪マカロフ、こんな諺を知っているか? "敵の敵は味方"だ。違うか?≫ ≪プライス、いつかその考えが諸刃の剣だということに気付くはずだ――シェパードなら"ホテル・ブラボー"だ。貴様にはそれがどこか、分かるな≫ ≪充分だ≫ ≪では、地獄で会おう≫ ≪ああ。先に行ったらザカエフによろしく言っておけ≫ 通信は、切れた。あの狂犬は、シェパードを倒すのを手伝ったことになる。 ホテル・ブラボーなる地点がどこを指すのかソープには分からないが、プライスはそれを知っている様子だった。今は彼を信じるしかない。 ≪ソープ、急げ! 西の滑走路だ!≫ 「分かってる、急かすな!」 銃撃戦を潜り抜けて、ソープはさらに前へと進む。 SIDE 時空管理局 機動六課準備室 六日目 時刻 1605 地球 アフガニスタン上空高度一〇万メートル 次元航行艦『アースラ』 ポール・ジャクソン 元米海兵隊曹長 核爆発によって壊滅的な被害を受けた地球侵攻の次元航行艦隊の救援は、ひとまず一旦の終わりを見せた。 正確には、『アースラ』が収容できる負傷者の数が限界に達したのだ。シャマルや医療スタッフたちの懸命な治療のおかげで、重傷者もとりあえず命だけは助かることが判明している。 やれるだけのことはやった。それでも『アースラ』の乗組員たちが後ろ髪を引かれる思いだったのは、依然として救援を求める声が多数存在したからだ。ジャクソンもその辺りの事情はよく知っている。艦橋に上がった際、まだ地球の衛星軌道上に救難信号が多数発せられているのがモニターで見えたのだ。それを見て、この艦の指揮官が出来ることなら今すぐにでも助けに行きたいという思いを顔に隠し切れていないことも。 しかし『アースラ』は救援活動を終了させた。負傷者はこれ以上収容出来ないし、何よりも彼らには先にやるべきことがあった。残った救難信号はミスターRとミスRという支援者に任せた。そうするしかなかった。さもなければ、この戦争は本当にいつまでも続くだろう。 「エイミィ、どうだ」 艦橋にて、クロノが通信端末のキーボードを叩いていた艦の主任オペレーター、エイミィに状況を尋ねる。彼らは今、この戦争の元凶である超国家主義者マカロフを追う特殊部隊"Task Force141"とのコンタクトを試みようとしていた。 「とりあえず通信傍受でそのTask Force141って部隊がアフガニスタン付近にいるっていうのは間違いないみたい。でも、なんか様子が変なんだよね」 「変、とは?」 地球上のありとあらゆる通信を傍受し、デジタル暗号化も解除して丸裸にしてしまえたのは、エイミィが優秀なオペレーターであるからに他ならない。そこからさらに膨大な量に上る通信文の中から"Task Force141"という単語を検索にかけておおまかな居場所を突き止めるに至ったのだが、彼女の顔は浮かない様子だ。 「例えばこの通信。国防総省(ペンタゴン)から発せられてるんだけど」 状況を分かりやすく伝えるため、彼女はレーダー情報などを投影する大型スクリーンに傍受した通信文を映し出す。 自分の国の国防総省の機密通信をあたかも簡単に見せ付けられて、ジャクソンは複雑な心境に陥ったが、通信文を読むにつれて、彼を含めた艦橋に集まっていた機動六課準備室のメンバーの表情が疑念を宿していく。 「シャドー・カンパニーへ命令。Task Force141所属隊員の……捕縛、もしくは殺害命令?」 声に出して読み出したがゆえ、自然に皆を代表して最後まで読むことになったギャズが、読み終わるなりジャクソンに視線を向けた。元海兵隊員ではあったが、しかしジャクソンがこの命令が何であるのかなど、知る由も無い。 「なんかやっちまったんじゃないか、その141とかいう部隊は。例えば、ありがちだが……」 「知っちゃいけないものを知った?」 それだ、とヴィータの言葉に相槌を打つのはグリッグだ。しかし141は地球の西側諸国でも精鋭ばかりを引き抜いた最強の特殊部隊ということが判明している。いったい彼らに何があったのだろう。 「そもそもシャドー・カンパニーとは何だ、米軍か?」 「いや、違うな。確かPMCsだ」 シグナムの発した疑問の声に応えたジャクソンは、記憶の中からシャドー・カンパニーという企業についての情報を引き出す。 そもそもPMCsとは、近年になって急速に拡大していく民間軍事会社のことだ。新しい傭兵のスタイルとも言うべき市場で、依頼に応じて自社に所属する戦闘員を派遣し、任務を実行させる。国軍の派遣は国際社会からの批判を招きやすく、さらに冷戦終結や経済情勢悪化に伴う軍の縮小傾向も手伝って、あくまでも民間から派遣されてきた者という体裁で軍の任務を肩代わりしている。 シャドー・カンパニーとは米国内にて創業したPMCsであり、特に元米軍兵士が多く所属することで有名な企業だった。 「民間軍事会社に、軍の特殊部隊の捕縛か殺害の命令……」 「おかしいはずだ。この命令が141に追われているマカロフが発したものならまだ分かるが、発信場所はアメリカの国防総省だ……エイミィ、偽装の可能性は」 「ゼロとは言い切れないけど。でも『アースラ』の通信傍受や発信場所特定を騙せるなんて、私がいっぱいいても無理」 さり気に自画自賛するオペレーターの意見の一番大事な部分だけ聞き取り、クロノが「そういうことだ」と皆に視線を向ける。ひとまず、機動六課準備室の面子全員がこの異常事態を認識した。 「発信場所は分かったとして……発信者は具体的には分からない?」 「ちょっと待って。ここだけ暗号レベルが段違いで……あぁもう、手こずらせるなぁ」 フェイトの問いかけに、エイミィは苦々しい表情を隠しもせずにキーボードに向かう。指がキーを高速で叩くが、通信文に表示されるであろう発信者の部分は暗号化されたままで、読み取ることが出来ない。 ちょうどその時、別のオペレーターが『アースラ』宛てに通信が届いたという報告を知らせてきた。本来の艦長席に収まったクロノがこちらの端末に回してくれるよう頼む。 通信の送り主は、『ミスターR&ミスR』とあった――あぁ、と突然、クロノ以外の機動六課準備室の面子全員が納得した様子を見せて、『アースラ』艦長は当惑する。彼はまだミスターRとミスRが何者なのか、知らせれていなかった。 「何だ、みんな知っているのか」 「ミスターの方もミスの方も知ってるはずだぜ。特にミスRはお前のことをよくご存知だ」 何を言っているのか分からない、といった表情のミスRの息子を放っておいて、ジャクソンを含め全員が通信文を読んだ。 読んでいくうちに、自分たちの表情が息を呑むものになっていくことを、誰も気付かなかった。もたらされた情報は、それほどにまで重大にして重要なものだった。 ミスターRとミスRからの通信。そこには、この事件の首謀者の名が二名記されていた。片方はウラジミール・マカロフ。もう片方は―― SIDE Task Force141 六日目 1622 アフガニスタン カンダハル南西160マイル 第四三七廃機場 ジョン・"ソープ"・マクダヴィッシュ大尉 銃撃戦を掻い潜り、必要なら容赦なく弾を叩き込み、超国家主義者たちとシェパードの私兵の両方に追われながら、ソープは滑走路まであと直線距離で二百メートルの位置にまで迫っていた。 打ち捨てられて胴体だけになった輸送機か旅客機か、とにかく航空機の残骸の中を突き進んで近道を図る。滑走路までスクラップの山を一つ乗り越えれば、というところに来て、頭上を重い爆音が駆け抜けていった。来た、ニコライのC-130だ。 国籍標識のない翼を見て敵と判断されたのか、地上からは激しく対空砲火が撃ち上げられる。時折白煙が昇り、スレスレのところでC-130は回避。ミサイルにも狙われているらしい。 マカロフの手下が撃ったのか、シェパードが撃ったものなのかは判別出来ない。いずれにしても、このままではニコライが危険だ。 ≪プライス、上空に到着した。どうやら地面は制圧できなかったようだな、熱烈に歓迎されてる。ソビエト時代のアフガン侵攻並みだ≫ 通信機に飛び込むC-130のロシア語訛りな声は、あくまで余裕そうではあった。 その余裕とは対照的に、C-130が尾部から大量のフレアをばら撒く。赤外線誘導のミサイルを幻惑させる赤い火の玉は、まるで天使の羽のようですらあった。そう、まさに天使。天使はソープとプライスを助けに来たのだ。 天使とダンスと行きたいところだったが、残骸の中からソープは、ちょうど左右に分かれる形で超国家主義者たちとシェパードの私兵部隊が銃撃戦を開始するのを目撃した。こいつらを排除せねば、先には進めまい。 ≪ニコライ、つべこべ言わずに機を下ろせ! ソープ、こっちは車を見つけた! そっちに向かう!≫ 「了解、了解! 早めに来てくれ!」 プライスの怒鳴り声が通信機に繋がったイヤホンに飛び込み、負けじと怒鳴り返す。 M14EBRを構え、スコープに捉えた敵を――超国家主義者もシェパードの私兵も、今はどちらも敵だ――撃つ。あらぬ方向から撃たれた敵兵はいともたやすく倒れていくが、そのうちこの狙撃は今目の前で対峙している敵ではなく、第三者によるものだと気付く。たちまち位置がバレて、ソープが身を隠す航空機の残骸に銃撃が集中し始めた。 くそ、と吐き捨ててM14EBRを乱射。まだ予備のマガジンはチェストリグのポーチに入ってはいたが、いちいち狙撃などしていられない。今入っているマガジンの弾を撃ち尽くすと、即座に背中の方に回していたMP5Kに切り替えた。狙撃仕様のM14に比べれば、取り回しははるかに良い。 思い切って残骸から飛び出し、まさかギリースーツを着た兵士が飛び出てくるとは考えもしなかったマカロフの手下一行に向けて、引き金を引く。パラララ、と軽い銃声と共に薬莢が弾け飛び、放たれた弾丸が超国家主義者たちに降り注ぐ。何名かが悲鳴を上げて倒れ、残った敵も怯んだ。 今のうちに走り抜けてしまえ――その目論見が、即座に潰えようとした。ヒュ、と何かが眼前を横切り、すんでのところでかわす。黒尽くめの兵士が、ソープの前にナイフ片手に立ち塞がっていた。今度はシェパードの私兵だ。MP5Kの銃口を突きつけようとして、銃身が敵の右足で払いのけられた。引き金を引く指は動作中止の命令を聞かず、あらぬ方向に向かって銃弾を乱射。一発も目の前の敵に当たることなく、MP5Kは息絶えた。 「っ!」 「このっ」 振り下ろされるナイフを持つ敵の右腕を、強引に左手で掴んで押し止める。そのまま右手を敵兵の左足に伸ばし、レッグホルスターに収まっていた拳銃を引き抜き、奪い取った。銃口を零距離で押し付け、一発撃つ。ウッ、と短い断末魔が上がり、ソープが左手で掴む敵の右腕から力が抜けた。 生死の確認をする間もなく、彼は走った。奪った拳銃はファイブセブンだった。そのまま頂いていく。 航空機の残骸の最中を駆け抜け、道路に出た。その中央で、ジープが一両エンジンを回したまま止まっている。後部座席で銃を乱射しているブッシュハットの男に、見覚えはあった。 プライスだ。運転手はオーストラリアSAS出身のロック伍長。精鋭部隊Task Fore141は、ソープを外せばもう彼らだけになっていた。 「ソープ、乗れ!」 言われるまでもない。周囲は敵だらけだ。超国家主義者たちのものか、シェパードの私兵部隊のものか、どちらが撃ったのか分からない銃弾の雨の中を突っ走り、ソープはジープの助手席に乗った。 ロックからアサルトライフルのACRを受け取り、プライスと共に見える敵に向かって弾をばら撒く。ジープが発進したのはそれとほとんど同時だった。 ≪プライス、あと一分で離陸する。乗りたいなら急げ!≫ 「分かってる! ロック、飛ばせ!」 運転手も必死の様子でハンドルを握り、アクセルを踏んでいた。ジープは砂煙を上げながら加速する。 無論、敵も必死なのは同じことだ。滑走路に下りたC-130と、ソープたちが目指す先が滑走路であるという情報が一致したからには、全力で脱出を阻止してくる。現に今、ジープの前には荷台に兵士を乗せたトラックが続々と集まっていた。 ありったけの銃弾を叩き込み、敵兵たちの妨害を切り抜ける。トラックで併走してくる敵の車両には、運転席に弾を撃ち込んだ。 ガッ、とジープの車体に衝撃があった。振り向けば、敵がトラックを横付けしてきている。荷台にいる敵兵と眼が合う距離だった。銃口が突きつけられる。ソープはACRの銃口を負けじと突きつけ返し、これにプライスも加わった。交差する銃弾。被弾しないのが不思議なほどの距離で、お互いに一斉に撃ち合う。マガジンの弾が尽きたところで、ソープは先ほど敵から奪ったファイブセブンを持ち出し、荷台ではなく、トラックのタイヤに全弾を叩き込んだ。 銃撃されたタイヤはたちまちバーストし、それにも関わらず運転手がアクセルを踏み続けたことで、車体が大きくひっくり返った。荷台の兵士たちが宙に放り投げられて、視界の向こうへと吹き飛んでいった。 ジープは滑走路に辿り着き、一度横断して強引にブレーキをかけて止まった。目の前には、今まさにすでに離陸滑走に入りつつあったC-130の姿が。これでも一分はとうに過ぎていた。ニコライはギリギリまで待ってくれていたのだ。 「ニコライ、ランプを下ろせ! 直接乗り込む!」 プライスの指示に、ニコライからの応答はなかった。代わって、C-130のカーゴドアが開いた。滑走しながらのため、アスファルトの地面に火花が散っている。その様はニコライの早く乗れ、という意思を表しているかのようだった。 無茶苦茶だ、と運転手がぼやき、しかしアクセルを踏んで再びジープを発進させる。プライスの言った通り、C-130のカーゴに直接乗り込むのだ。 と、その時、滑走路の向こうから複数のトラックが姿を現した。しつこい敵は、諦めようとしなかった。再びジープに体当たりする勢いで近付き、横付けして銃撃してくる。プライスが応戦して黙らせるが、放たれた一発の銃弾が、ジープの運転手の胸を貫いた。 血しぶきが飛び、ソープは顔面に血を浴びる。助け起こそうとしたが、運転手はすでに事切れていた。 「ロックがやられた! ソープ、ハンドルを握れ! アクセルはまだ踏まれている!」 そうだ、とプライスの声で彼は気付いた。運転手はついに死んだが、彼の意思はまだ生きていた。死してなおベタ踏みされたアクセルがそれだ。ハンドルを横から手に取り、巧みに操ってジープの進路をC-130の開かれたカーゴに向ける。 最後に強引に割り込もうとした敵のトラックを弾き飛ばして、二人を乗せたジープはついにC-130へと飛び込んだ。 「それで、どうするんだ。これから」 空へと逃れたC-130の機内で、ソープはプライスに問う。 もはや、Task Force141は彼ら二人だけになった。その指揮官たるシェパード将軍は裏切りにより彼らの敵となった。あまりにも強大な敵だ。彼は今、米軍全体の指揮権すら得ている。 唯一、"ホテル・ブラボー"なる場所にいるということだけは分かったが、行ってどうする。こちらには銃が一丁、あちらには千丁だ。まともに挑んで勝ち目があるとは思えない。 「決まっているだろう。奴を倒す」 にも関わらず、プライスの眼は死んでいなかった。復讐の炎で胸を焦がしている訳でも、自暴自棄に至っている訳でもない。そうすることが、今の自分の成すべきことだと信じて疑わない眼だった。 強いな、じいさんは――素直に、ソープはこの屈強な老兵を羨ましく思う。自分は部下を失った。彼のように、自分が成すべきことをただ成すという強い信念は持てない。せめてどうか一人、一人でも良いから誰かが生き残ってくれていれば。 「二人とも、通信が入っているぞ。懐かしい奴からだ」 操縦を部下に代わってもらっていたニコライが、カーゴにいた二人を通信士の座席に呼んだ。言われるがまま、プライスは何でもないようにスッと、ソープは重い腰を上げるようにして立ち上がった。 ヘッドホンを受け取って装着し、そこでソープはニコライの言う「懐かしい奴らだ」という言葉の意味を理解した。 ≪こちら次元航行艦『アースラ』のクロノ・ハラオウンだ。Task Force141、聞こえるか≫ 「……ああ、聞こえている。クロノか? ソープだ」 通信機の放つ電波の向こうで、一瞬の沈黙が舞い降りる。驚いているのだろう。ソープ自身も、驚いていた。何故、彼が通信を今ここで寄越してきた。 ようやく、二つの線は絡み合う。Task Force141、機動六課準備室という二つの線が。 線の目指す場所は、どちらも一致していた。 戻る 次へ
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――我々は人類史上、最強の軍隊と言える。 ――全ての戦いは我々の戦いでもある。 ――何故なら、世界中で起きている戦争はその全てが我々とは無関係ではないからだ。 ――例え、次元の壁を通り抜けた先のものであっても、例外ではない。 ――現代兵器をいかに使うか、それが国の命運すら左右する。 ――私は君たちに自由は与えられない。だが、それを勝ち取るための術を教えよう。 ――そして戦友よ、自由とは軍事基地などよりよほど価値のあるものだ。 ――誰もが強力な兵器を望む。だが、重要なのはそれを扱う者だ。 ――今こそ英雄の出現が待たれている。 ――今度は我々が歴史を刻む時だ。 ――さぁ、始めるぞ。 Call of lyrical Modern Warfare 2 第2話 Team Player / 魔法の杖は拳銃 SIDE 米陸軍 第七五レンジャー連隊 一日目 時刻 1722 第三三五管理世界 紛争地帯 ジョセフ・アレン上等兵 いいニュースと悪いニュースがある、なんて言い方を始めたのはどこの誰なんだろう。 そういう言い方は、良いことと悪いことが両方とも最低一件ずつあって、初めて成立するものなのに。 では、今はどうなのか。もちろん、悪いニュースしかない。 まず、ピットでお偉いさんに訓練の様子を見せた直後、いきなり出撃命令が下った。BCT1と言う、管理局と米軍のタスクフォース(混成部隊)が前線にて作戦行動中、現地の武装勢力に橋を落とされ 孤立させられた。部隊は何とか持ちこたえているものの、退路を阻まれた以上は袋の鼠も同然だ。 次に、襲撃してきた武装勢力はいずれも九七管理外世界、すなわち地球より密輸した武器装備を所有していること。ロシア製の銃火器が主力のようだが、おかげで連中の火力は以前にも増している。 それから、川を挟んむ形で武装勢力と交戦を開始した米軍は、激しい敵の歓迎を受けていること。 最後に、こいつは飛びっきりの悪いニュース。何をトチ狂ったか、奴らはRPG-7まで持ち出してきた。旧ソ連が開発した、対戦車ロケットの最高傑作。そいつの爆風を受けてしまって、現在進行形で ジョセフ・アレン上等兵の意識が、一瞬ひっくり返ってしまったことだ。 「立て、アレン上等兵!」 目の前の光景が現実なのか夢なのか、あやふやなまま差し出された手を取る。はっと相手を見れば、でかい星型の階級章を幾つも揃えた将軍らしい男――え、なんでこの人いるんだ? 思わず、アレ ンは我が目を疑った。 ここは最前線中の最前線、たった今この瞬間も対岸からはピュンピュンと銃弾が掠め飛んでくる。そんなところに、将軍である。夢だと思いたかったが、握られた手には確かな現実感があった。な んてこった畜生、これは夢じゃないぞ。悪いニュース一件追加だ。 「レンジャーが先陣を切る、行け!」 とは言え、ボーッとしてる訳にも行かない。前進命令を下す将軍は――どこかで見たと思ったら、ピット訓練で見たお偉いさんの一人だ――右手に弾を入れたリボルバーを持っている。放っておい たら、自ら一兵士となって先へ進んでしまいそうだった。 ふらつく頭を鉄帽越しに叩いて、アレンは正気を取り戻す。視界に映る状況を確認、崩れた橋、味方の架橋戦車が左手に見えた。正面には、対岸に向かって銃を乱射する戦友たち。その向こうには こちらに向かって銃撃をかけてくる、武装勢力らしい人影。なるほど、ひとまずの目標はあいつらのようだ。 異世界の大地を踏みしめて、前へと進む。盛り上がった地面に滑り込むようにして身を隠し、手にしていたM4A1を確認。すでに弾丸は装填済みだ。グリップを握る右手の親指が、セレクターを操作 してセーフティを解除する。遮蔽物となっている土から匍匐で身を乗り出し、銃口を対岸へ。ダットサイトに捉えた人影向けて、引き金を引いた。響く銃声、弾かれるように排除される薬莢。飛ん でいった銃弾は敵兵を貫き、容赦なく殴り倒していく。 敵も黙ってはいない。川の向こうからは同じ地球生まれと思しき弾丸が雨のように降り注ぎ、土を撒き散らす。あまり訓練されていないのがせめてもの幸いだ、弾幕の激しさにも関わらず弾は一発 たりと自分にも味方にも当たっていない。恐怖心は盛大に煽られたが。 何度目かの射撃の後、アレンはM4A1から空になったマガジンを引き抜く。新しいものを腰に下げていたマガジンポーチから取り出し、再装填。コッキングレバーを引いて、機械音を鳴らす。息を吹 き返した銃を再び構えようとして、あっと彼は声を上げた。対岸で、一つの派手な白煙が上がった。 白い尾を引き、ロケットが崩れた橋の手前側に着弾する。まずい、奴らはまたRPG-7を持ち出してきた。運良く外れたものの、目標は崩落した橋を復旧しようと企む味方の架橋戦車であることは明ら かだ。その架橋戦車は、すでに展開を開始しており、今更後退など出来るはずがない。 「ハンター2、対岸のRPGを始末しろ。架橋戦車がやられたら泳いで渡ってもらうぞ!」 分隊長の黒人兵士、フォーリー軍曹の指示が飛ぶ。泳いで渡る、それは嫌だなと胸のうちで呟き、改めてアレンは銃を構えた。長い筒型のロケットを持った敵を探し出し、見つけ次第ダットサイト で照準し、撃つ、撃つ、撃つ。敵も狙いが読まれたと悟ったのか、RPG-7を持った者を庇うようにして兵たちが前に出てきた。川を挟む形で、赤い火線が入り乱れる。 そうだ、グレネードを――こういう時はまとめて敵を吹き飛ばせる火力が必要だ。咄嗟にM4A1の銃身に付属しているM203グレネードランチャーの存在を思い出し、持ち方を変えた。マガジンを右手 で、グリップを持つように握る。左手はM203の銃身を持って、敵に照準。引き金を引けばポンッと軽い音と共に、小さな砲弾が飛び出していった。間抜けな発射音とは裏腹に、着弾したグレネード は爆発。衝撃と爆風の嵐を周囲に撒き散らして、それを喰らった敵兵が宙を舞う。銃身をスライドさせて、もう一発装填し、さらに一撃、続いて二撃。対岸で繰り広げられる爆炎のカーニバル、そ れでも敵は後から後から沸いてくる。どうやら、対岸に見える大きな白いアパートに拠点でも築いているらしい。 不意に、左側で機械音が鳴り響く。視線を上げれば、架橋戦車がようやく車体に乗せていた橋の展開を終えようとしていた。崩れた橋の元の大きさほどではないが、軍用車両が通るのに困らない程 度のものだ。後方で待機していた、現地世界の暫定政府軍に所属する車両も前線に迫ってきた。 「ハンター2、橋が架かった。行け行け、車両に乗り込め!」 フォーリーに言われるまでもなく、兵士たちは橋へと戻った。暫定政府軍の車両、ミニガンを搭載したハンビーは扉を開けて、米軍兵士たちを迎え入れる。 敵は一旦後退しているようだが、前進はまだ始まらなかった。よっこいしょと暫定政府軍のハンビーに乗り込んだアレンは銃座に着いて、無線に耳を傾ける。フォーリーが、航空支援を要請してい るようだ。聞いたことのないコールサインを呼び出していたが。 「デビル1-1、こちらハンター2-1、支援要請。目標はグリッド252171の高層アパート、白い奴だ」 「デビル1-1、コピー。砲撃魔法の詠唱開始、待機せよ」 何だって、砲撃魔法? 耳を疑ったが、確かにデビル1-1を名乗るコールサインの男はそう言った。航空支援を、管理局がやっているのか。戸惑いは周囲の戦友たちも同様らしく、「魔法だって?」 「管理局のお出ましか」と意外そうな顔で話していた。支援してくれるなら、この際どこでもいいと言えばそうなのだが。 しかし、近すぎないか――アレンは、目標らしい高層アパートに視線を送った。対岸の向こうにいる友軍の位置は、救難信号を通じて常に捕捉されているのだが、敵の拠点であるアパートと彼らが 立て篭もる地点は距離があまりない。下手に攻撃しようものなら、味方にも損害が出てしまう可能性だってある。 「なぁ、タスクフォースに近すぎるんじゃないか?」 「あぁ? シェパードがそんなの気にするタマかよ」 近場にいたレンジャー隊員の会話に聞き耳を立ててみたが、どうやら作戦の指揮官は――おそらくあの将軍、シェパードと言うんだったな、そういえば――味方への被害などお構いなしに撃つタイ プらしい。厄介な奴だなと、どこか他人事のように思った。 と、まさしくその時である。はるか彼方の天空より、チカッと何かが光った。何だ、と疑問を口にした頃には、太い光の渦が目標に指定されたアパートへ、突き刺さるようにして落ちてきた。 ドッと次の瞬間には大地が揺れ動いたかのような錯覚がアレンを含む米軍兵士たちを襲い、黒々とした黒煙が対岸の向こうで上がる。例の砲撃魔法、だろうか。答えを求めて口にしてみたが、誰も 答えてくれなかった。代わりに、目標だった高層アパートは根っこから崩れ去っていく。 「Yeah, baby!」 「Whoo!」 歓声を上げる味方。敵の拠点は、脆くも一撃で消え去った。魔法って怖ぇなぁ、などと呟いていると、先頭を行くストライカー装甲車が前進を開始。いよいよ、敵地へ乗り込むのだ。 「発砲に注意しろよ、ここから先は無法地帯だ」 「荒野のウエスタンよりはマシですかね」 分隊長からの指示に軽口を飛ばし、アレンはミニガンを構え直す。 橋の向こうでは、一見ごく普通の町並みが続いていた。平和でさえあれば、賑やかな市場であったかもしれない。 だけども、鼻腔をくすぐるのは火薬の匂い。耳を刺激するのは、人々の活気あふれる声ではなく、不気味なほどの静寂。町といってもここは戦場、それも敵地だった。 ハンビーの銃座から身を乗り出すアレンは、周囲に絶えず視線を配る。本来なら歩兵と足並みを揃えて進むべきだろうが、何しろ救援を求めるタスクフォースは孤立しており、未だ連絡がつかない。 例え危険を冒してでも、足の速い車両部隊が先行し、彼らを探し出して助ける必要があった。 スッと、視界の脇を何かが走り抜ける。咄嗟に手にしていたM134ミニガンの六本ある銃身を突きつけようとしたが、敵ではなかった。なんてことはない、民間人だ。厄介なことに、この町は敵武装 勢力の根城であると同時に、未だ生活を続ける紛争とは無関係な人々の暮らしもあるのだ。誤って撃とうものなら軍法会議に叩き込まれる。 車両部隊は町の中を進む。入り組んだ地形であるがゆえ、あまりスピードが出せない。こんな時に襲撃されたら嫌だなとは、運転手からアレンのような銃座に就いた者まで、全員共通の思い。 その時、先頭を行くハンビー、コールサイン"ハンター2-3"から全車へ向けて通信が舞い込んだ。 「こちらハンター2-3、敵兵らしき者を発見。数は三、正面の家屋のバルコニーにいます」 「ハンター2-3、武装しているのか?」 「ネガティブ、こちらを見ているだけです」 偵察してるんだろ、とアレンの足元、銃座の下の席に座るダン伍長が呟いた。ハンター2-3からの通信に応じた助手席のフォーリーは「だろうな」と答え、しかし射撃許可は下さない。武装して おらず、ましてや交戦の意思を明確に見せていないのであれば攻撃は出来ない。 アレンたちを乗せたハンビーが、報告のあった敵兵のいる家屋の前を行き過ぎる。なるほど、確かに見ているだけだ。ミニガンの銃口はしっかり向けつつ、アレンはバルコニーに立っていた三人の 敵兵たちを一瞥する。 「……?」 視界の隅、例の家屋の近くに見えた路地裏で、一瞬何かが動いたような気がした。見間違えかと思ったが、確かに何かいたはず。そいつが何か、であるかまでは分からなかったが。 念のため、ミニガンを回して照準を路地裏へ。もしも敵であったなら、状況は極めてまずいことになる。車両部隊は狭い街中の道路では機動力を発揮できず、迅速な退避が困難だ。ましてや、後ろ から撃たれようものなら――銃声。あっと気付いた時には弾丸が先頭車両の車体を叩き、弾かれる。防弾試用のためダメージはないが、そこは重要ではない。 敵襲、車両部隊の間で緊張感が一気に高まる。 「撃たれた、撃たれた! どこからだ!?」 「駄目だ、分からん」 見えない恐怖、とでも言うべきか。戸惑う戦友たちを余所に銃声は続き、前を行くハンビーの防弾ガラスに弾が当たって弾かれた。クソ、とアレンが悪態を吐き捨て、ミニガンを回す頃にはさらに 一発、今度はすぐ手元に着弾。たまらず身を車内に引っ込めそうになるが、逃げたところでここに逃げ場はない。 「ハンター2-1より各車、フォーリーだ。我が隊は複数方向から狙撃を受けている、交戦準備!」 了解、了解――呟くように指揮官の命令に答えると同時に、多少は引っ込んでいたはずのアドレナリンが、また噴出してきた。違う、これは汗だ。額から滲み出てきた水分を、グローブに覆われた 手の甲で振り払うようにして拭う。狭い車道を突き進む車両部隊は、やがて視界の開けた場所に出た。 正面に見えた、真っ先に目に付く建物は確か学校だ。管理局と米軍が資金を出し合って現地世界のために建設した、二階建ての立派な学び舎――くそったれ、と誰かが吐き捨てる。奴ら、学校に陣 取ってやがる! 「あそこだ! アレン、ブン回せ!」 ダン伍長に言われるまでもなく、アレンはミニガンの照準を学校の屋上へ向けた。敵散兵、数は不明なれど多数発見。いずれも武装しており、こちらに銃撃を仕掛けてくる。 パッと白煙が上がったかと思いきや、次の瞬間にはハンビーのすぐ脇で爆風が巻き起こり、轟音と共に土砂が巻き上げられた。ここに来ても、奴らはRPG-7をぶち込んでくるのだ。 撃ち返さなければ、死ぬ。今更知り切った事実が胸をよぎると同時に、ハンビー隊の銃座は一斉に応戦開始。ミニガンの、束ねられた六本の銃座が回転を始めた刹那、七.六二ミリ弾のシャワーが 学校の屋上を薙ぎ払うようにして放たれる。野獣の唸り声のような銃声が響き渡り、視界は銃口で絶えず放たれる弾丸の発射炎で埋め尽くされていった。 毎分三〇〇〇発に達する銃弾の雨は、敵の攻撃を黙らせるかと思われた。しかし、屋上が駄目ならばと言わんばかりに敵は二階の窓へと攻撃の拠点を変更。猛射に負けることなく、こちらも激しい 銃撃で応じる。 再び、白煙が学校のどこかから上がった。まずい、とアレンが唸り声と炎を上げる鉄の怪物を突きつける頃にはすでに遅く、前方を行くハンビーにRPG-7の弾頭が飛び込んだ。防弾仕様の車体はい とも容易くブチ抜かれ、内部で巻き起こった衝撃と爆風の嵐は戦友たちを木っ端微塵に吹き飛ばす。悲鳴は聞こえない、それよりも爆音と銃声が上回った。 「数が多すぎる、後退だ!」 畜生、最悪の事態だ――アレンはミニガンで必死に応戦を続けるが、いつまで持つか。味方の損害を見た指揮官は咄嗟に後退を命ずるが、後部座席のダンがそれに待ったをかけた。後方からも敵兵 が多数、RPG-7を持った奴もいる。ここで下がれば、敵は待ってましたとばかりに十字砲火をかけてくるに違いない。 残された手段は、前進。とにかくこの猛攻を突っ切るしか生き残る術はない。進むか下がるか迷うハンドルを握る現地世界出身の兵士に、フォーリーは進めと命じた。生き残ったハンビーもこれに 続く。 とは言え、学校の前を行った先はまたしても家屋に挟まれた狭い車道だ。突っ込めば案の定、右から左からと敵兵が沸いて出てきてありったけの銃撃を浴びせてくる。屋上からの狙撃も加わり、も はやアレンはミニガンを照準も何もなしに、滅茶苦茶に乱射するしかなかった。 ガッと車体が揺れて、何事かと振り返る。敵の車が、道を塞いでいた。ご丁寧に荷台には重機関銃を載せており、飛び乗った敵兵が弾を装填しようとしている。ふざけんな、と重い鉄の塊をぶん回 して、ありったけの七.六二ミリ弾を叩き込んでこれを阻止。ボロ雑巾のように吹き飛ばされる敵の死体だったが、道を塞ぐ車は動こうとしない。 「押せ、押し通れ!」 躊躇するドライバーに、助手席に座るフォーリーが指示を飛ばす。ヤケクソ気味にアクセルを踏んだ彼は、ハンビーを障害物と化した車に向けて体当たりさせる。衝撃、銃声と着弾音に混じって目 立つ、鉄の軋む音。軍用車両のパワーにはさすがに負けて、道を塞いでいた敵の車はぐいぐい押し込まれていく。そのまま交差点の奥にぶち込み、ハンビーは一旦ハンドルを切って右折する。 狭い道路は、それでもまだ続いていた。四方八方から飛び掛ってくる銃弾も絶えず、車両部隊は傷つきながら出口の見えない迷路を彷徨う。 ウッと車内で悲鳴が上がり、後部座席に座っていた現地世界出身兵がひっくり返り、窓ガラスを鮮血に染めた。銃座からでは助けられず、また助ける暇もない。ダンが被弾した彼を助け起こしてく れたようだが、何も言わずに放り投げた。死んだ瞬間、人は人ではなく死体という物になる。 この野郎! 怒りが込み上げてきて、アレンはそれをミニガンに乗せた。相当長い間連続射撃しているにも関わらず、六本の銃身を束ねた機械の獣はさらに吼えた。唸る銃声、絶え間ない銃弾の雨。 不運にも銃口の先にあった家屋のバルコニー、そこにいた二人の敵兵が銃撃を浴び、文字通りミンチにされていく。ざまあみろ、と罵る言葉をかけようとした瞬間、フォーリーの声が飛んだ。 「RPGだ! 正面の家屋、屋上!」 振り向きかけたその瞬間、世界がひっくり返ったような衝撃を受けた。横転する視界、揉みくちゃにされる思考。状況の理解が進まぬうちに、彼の意識は一旦闇へと落ちる。 目を覚ましたのは、ほんの数秒後だった。見出したのは、車体が真っ二つに割れたハンビーと、後方から駆けつけ、結局はパンクし動かなくなったまた別のハンビー。灰色を基調にした都市型迷彩 を着込んだ兵士たちが、手にした銃で必死に応戦しつつ、近場にあった家屋に逃げ込もうとしている――アレン、と誰かが自分を呼んでいた。その一言で、ようやく正気に返った。そうだ、RPGの 攻撃を受けたんだ。 「アレン、立て! そこじゃいい的だ!」 ハッと、地面に寝転がった姿勢のまま声のした方向に振り返る。ダンが、逃げ込んだ家屋の扉から身を乗り出し、手にしたSCAR-Hライフルを目茶目茶に撃ちまくっていた。直後、目の前をピュンピュ ンと銃弾が駆け抜けていき、土埃が舞い上がる。慌てて立ち上がり――幸い、武器は手放していなかった。フォアグリップとダットサイトを搭載したM4A1は、しっかり手に握っている――家屋の中 へ飛び込んだ。敵兵たちはなおも銃撃を続けるが、分厚いコンクリートの壁がそれを防ぐ。 「みんな無事か?」 「Hooah……」 ひとまず、生き残った者は全員この家屋内に逃げ込んだらしい。フォーリーからの問いに、疲れたようにレンジャー特有の肯定の意味を込めた返事を返す。残ったのはわずか数人、いずれも米軍。 どうやら現地世界出身の兵たちは一人残らず全滅したようだ。 「軍曹、奴ら上の階にいるようですぜ」 窓際に近寄らないよう――まだ外には敵がうようよしているのだ――家の中を少し進むと、天井からドタドタと足音が聞こえる。まさか家人である訳もないだろうからダンの言う通り、敵兵たちが いるのだろう。この先、味方はまだ展開していないはずだ。今のうちに排除せねば、せっかく命拾いしたのにまた袋叩きにされてしまう。 「よし、二階を制圧するぞ。Move! Move!」 へいへい、了解。今更ビビッたりもせず、アレンはフォーリーとダン、他数名の戦友たちと共に銃を構えて歩みを進めた。右手の方に階段が見えたが、敵の姿はまだ見当たらない。 フラッシュバンだ、と指揮官からの命を受けた味方の一人が閃光手榴弾のピンを引き抜き、階段の奥へ向けて投げ込む。数瞬した後、ドンッと炸裂音と共に光が瞬く。いちいち指示を仰ぐことなく M4A1を構え、ダンのバックアップを受けながらアレンが階段を昇る。二階に上がるなり、目にしたのは目元を押さえて苦しむ敵兵。躊躇することなくダットサイトの照準に捉え、引き金を引く。短 い悲鳴と共に、敵は銃を投げ出し床に倒れこんだ。もう一発、閃光手榴弾を味方に警告の上で二階の奥へと放り投げた。起爆前に目を覆い隠して、炸裂音を確認すると同時に突入。やはり怯んで反 撃もままならない敵に向けて、戦友たちと共に銃弾を叩き込んで制圧する。 クリア、と右手でM4A1のグリップを握ったまま、左手で彼は後方に向けて親指を立てた。ここにもう敵はいない。ふと窓の向こうに目をやれば、見覚えのある建物が視界に映った。 「フォーリー軍曹、あの学校ってさっきの……」 「ああ、間違いないな」 確認するようにフォーリーに尋ねると、彼は頷きながら答えた。 アレンが目にしたのは、敵が陣取っていた学校だ。どうやらグルッと回って一周してきたらしい。未だ交戦中のようで、窓や屋上でマズルフラッシュがチカチカと瞬いているのも確認出来た。 味方の一人が、どこからか拾ってきた棒切れを持ち出す。何をするのだろうと怪訝な表情で見守っていると、彼は口に含んでいたガムを棒切れの先につけて、同じく家屋の中で拾ったと思われる割 れた鏡の一部を棒にくっつけた。なるほど、これでわざわざ窓際に立たずとも、敵陣の様子が観察できると言う訳だ。狙撃される可能性はぐっと減る。 ローテクここに極まれり、だな。感心したような口調で鏡の付いた棒切れを部下から受け取り、ダンが窓際に近寄った。鏡のみを窓から突き出し、敵情を報告。 「軍曹、どうやら学校の中でドンパチやってるようですぜ。救援要請のあったタスクフォースの連中かも」 「なら話は早い、任務はそいつらの救出だ――アレン、通信機のチャンネルをオープンにして連中と連絡が取れないか?」 指揮官に言われるがまま、兵士は個人用の携帯通信機のスイッチを操作するが、片方の耳に差し込んだイヤホンから流れてくるのは雑音ばかりだ。通信機が破壊されたにしても、管理局の魔導師は 念話と言う一種の通信魔法がみんな使えるはずだから、相手が救援を求める限り通信機はその声を拾うはずであるのだが。 『――……求む! こちらBCT――救援もと――繰り返す、こちらBC――』 「!」 受信する周波数の設定を弄り回していると、雑音紛れで途切れがちながら、確かな救援要請が入った。BCT1、管理局と米軍のタスクフォースに違いない。発信源までは特定できなかったが、個人用 の携帯通信機が拾った以上はそう遠くではないはずだ。 「軍曹、断定は出来ませんが近くにタスクフォースがいるのは間違いなさそうです。いるとすれば、やはりあの学校の中とか」 「よし、それだけ分かれば充分だ。分隊、学校を目指すぞ」 やれやれ、休む間無しか――文句の一言も言いたくなるが、誰も実際に口にすることはなかった。自分たちの助けを求める仲間が、あの学校の中にいるかもしれないのだ。 銃の状態を点検し、残弾を確認。フォーリー軍曹の指揮する分隊は家屋を出で、学校を目指す。 この第三三五管理世界は、地球で言うところの発展途上国に等しい部分が多数見受けられた。住人の全体的な識字率の低さも、その一つだ。 進出してきた管理局は、この問題を解決するために学校の建設や教育の補助、支援を現地世界の暫定政府に行ってきた。後に米軍も慈善事業の一環からこれに加わり、学校建設と教育は大幅に進ん でいった。 もっとも、アレンたちが突入した小学校ではすでに授業など行われていない。子供たちの遊ぶ声や勉学に励む姿はそこになく、代わりに居座っているのは暫定政府による統治を拒む武装勢力だ。飛 び交うものも勉強に関する質問や教師の熱弁ではなく、弾丸や手榴弾と来ている。 「BCT1、聞こえるか? こちら救援のハンター2-1だ、学校内に侵入した。抵抗は――」 分隊支援火器のM249軽機関銃による味方の援護射撃を受けながら、学校内に突入するなりフォーリーが通信機に向かって呼びかける。応答は、ない。銃弾の雨が歓迎するように廊下の奥から降って くるだけだ。積み上げられた土嚢の陰に飛び込み、何とか逃れる。通信は中断、応戦開始。 廊下で騒ぐなって先生に教えられなかったのか、こいつら。滅茶苦茶に撃ちまくってくる敵に場違いな嫌悪感を覚えながら、アレンは手榴弾を持ち出した。隣にいたダン、フォーリーに目配せし、 二人がこちらの意を理解して頷いたのを確認した上で、ピンを"抜かずに"手榴弾を廊下の奥へと投げる。悲鳴にも似た警告らしい声が上がると同時に、バッと兵士たちは飛び出す。 作戦はうまく行った。いきなり手榴弾が投げ込まれたことで驚いた敵兵たちは、ピンが抜かれていないとも知らず我先に逃げ出そうとしていた。それが罠だと気付いた時にはもう遅く、逃げる背中 に五.五六ミリ弾が容赦なく叩き込まれる。そのまま一気に前進、敵との距離を詰めていく。 指揮官の命令を受けて、アレンは先頭に立った。二階に昇る階段に辿り着くと、右半身だけ銃口と共に曲がり角から身を乗り出す。階段を今まさに駆け下りようとしていた敵がダットサイトのど真 ん中に自ら入り込んで、引き金を引く。二秒ほどの短い連射、響く銃声、放たれる弾丸。アッと短い悲鳴を上げて、敵はひっくり返った。 階段クリア、と手短に後方に向けてサインを送り、二階へと昇る。武装勢力の連中は外で援護射撃を続ける味方に気を取られ、みんな窓の外に銃を向けていた。いちいち忍び寄るような真似もせず アレンたちはM4A1やSCAR-Hの銃口を無防備な背中に突きつけ、銃弾を叩き込んでいく。 さらに奥へと進むが、通信にあったBCT1らしい姿は見えてこない。代わりに現れたのは、学校の机や椅子などで築かれた防御陣地と――パッと白煙と閃光が上がるのと、誰かの警告が飛ぶのは果た してどちらが早かっただろうか。次の瞬間、学校全体が揺れたとも誤解しそうなほどの爆風が巻き起こった。衝撃波が分隊を襲い、まとめてアレンたちを薙ぎ払う。 「うわぁ!?」 コンクリートの壁に叩きつけられ、意識が数瞬ほど飛んだ。グラグラと揺らぐ視界の最中、灰色の迷彩服を着た兵士たちが同じように吹き飛ばされ、それでも立ち上がろうとしているのが見えた。 フォーリーとダンに違いないだろうが、それよりもアレンの意識は廊下の奥へと集中する。フラフラの頭が見出したのは、対戦車ロケット、RPG-7を再装填しようとしている敵兵たち。 奴ら、屋内でRPGを使ったのか――下手をすれば味方も巻き込みかねない攻撃に、しかし彼らが泡を食らったのは事実だ。 フラつく身体に喝を入れて立ち上がろうとするアレンだったが、脳震盪を引き起こしたらしい。ぼやける思考は敵兵よりも、爆風と衝撃で千切れた天井の電気ケーブルが、バチバチと火花を散らし 垂れ下がる方ばかりを鮮明に映し出していた。 ――その火花の真下に、光の球のような物体が浮かんでいることに気付く。何だあれは、と疑問が脳裏をよぎるよりも早く、物体は文字通りの魔法の弾丸となったように急激に加速。RPG-7の再装 填を終え、憎き米軍兵士たちにトドメを刺そうとしていた敵兵に突っ込む。悲鳴と同時にひっくり返る敵、放り投げられる対戦車ロケット。 「伏せてろ!」 唐突に、背後から浴びせられた若い男の声。振り返るまでもなく、アレンは兵士の本能に従い身を廊下に横たえた。直後、頭上を自分たちのそれとは明らかに異なる弾丸の群れが、廊下の奥、敵の 築いた防御陣地に向けて降り注がれる。 一発一発が高初速、大威力の弾丸に襲い掛かられた防御陣地は無力だった。机や椅子は簡単に弾け飛び、その向こうにいた敵兵すらもまとめて殴り倒す。隠れるところがなくなった武装勢力は銃を 構えて抵抗を試みるも、続いて飛び込んできた弾の雨が彼らを問答無用で沈黙させていった。 最後の一人が手にした銃を無茶苦茶に乱射し、結局は正体不明の奇妙な弾丸を頭に受けてひっくり返って動かなくなった時。ようやく、アレンは身を起こしてゆっくりと振り返る。助けてくれた以 上は敵でないことは明らかだが、心のどこかで恐れにも近い感情があったのだろう。 そんなことは露とも知らず、彼の背後に立っていた若い男は笑みを浮かべて、彼に手を差し伸べる。「よう戦友、大丈夫か?」とこちらを気遣う声さえ投げかけてきた。 アレンは、差し出された手は握らず――自分で立てると、無言の意思表示だった――M4A1の銃床を杖のようにして立ち上がる。ここで初めて、助けてくれた男の顔を見る。 男の顔は一言で言って、端整な顔立ちだった。まだ二〇代も前半の若者、しかし瞳に宿る光は自信に満ち溢れているように感じた。こんなくそったれな戦場には似合わない、白い戦闘服がそれに拍 車をかける。管理局の魔導師かと思ったが、手にしているはずの魔法の杖は杖の形をしていなかった。代わりに、彼が持っていたのは拳銃。もっともこれも、アレンの持っているベレッタM92Fに比 べれば玩具のようなデザインだったが。 「助かった。米陸軍第七五レンジャー連隊のアレン上等兵だ」 「アレン君だな? 俺はミッドチルダ首都航空隊所属の――ああ、今はBCT1に派遣されているティーダ・ランスターと言う。ただいま歴史の授業をサボり中」 「BCT1だって?」 いきなり、自己紹介に割り込んでくる黒人の声。振り返れば、フォーリーがダンに助け起こされる形ですぐ傍まで来ていた。 「……失礼、俺はフォーリー軍曹、こっちはダン伍長だ。我々はBCT1の救援に来た」 「なんだ、あんたたちか。ありがとう、ちょうど人手が欲しかったんだ」 「人手?」 聞き返すダンに、ティーダと名乗った管理局の若い魔導師は頷く。こっちだ、と案内されるがままについて行くと、扉が閉められた教室に辿り着く。 扉を開けば、米軍所属の灰色主体の迷彩服を着た兵士からバリアジャケットの管理局の魔導師が数名、各々武器を手に彼の帰還を待っていた。いずれも負傷しており、中には床の上に横になって完 全に戦闘能力を消失した者もいる。 「学校の中の敵はおおむね制圧した。悪いが、重傷者を運び出すのを手伝ってくれ。治療魔法にも限界があってな」 「なるほど、了解だ――しかし、お前は無傷なんだな」 「当然さ、俺は綺麗好きなんだ」 ニヤリと調子のいい笑みを浮かべるティーダを余所に、兵士たちは言われるがまま重傷者を教室から運び出す。 学校内の敵は制圧したが、外ではまだ銃声が響いている。友軍との合流を急がねばなるまい。 「――負傷者は私のヘリに乗せろ、急げ」 屋外でまだわずかに残っていた敵を掃討した後、友軍と合流するなり、アレンは聞き覚えのある声を耳にした。 見れば、護衛の兵士たちと共に歩み寄ってくる将校の姿。首元に縫い付けられた星は、大きい上にでかい。何より目に付いたのは、ホルスターに収められた大型のリボルバー拳銃だ。橋を渡る直前 で、自分を助け起こして喝を入れていた将軍。なんと言ったか、確か名前を―― 「シェパード将軍」 答えは、意外なところから出た。共に学校からの脱出に成功した、ティーダの口からだ。知ってるのか、と聞くと、彼は「ああ」と素直に答えた。「俺をスカウトしにきた、お目の高い方だ」とも 付け加えて。 「よくやった、アレン上等兵、ティーダ一尉。これより諸君らは私の指揮下に入る。詳細はヘリの中で話そう」 「…はい? なんですって?」 いきなり告げられた命令に、頭は混乱してしまう。おまけに、隣の若者は自分よりもはるかに階級が上と来た。視線を振り向ければ大して悪びれた様子もなく、彼にとっての魔法の杖たる拳銃を手 のうちでくるくる回すティーダの姿があった。 戸惑う兵士を余所に、シェパードと呼ばれた将軍は彼らをヘリへと案内し、こう言った。 「ようそこ、"Task Force141"へ」 戻る 次へ
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――俺には、何が正しくて何が悪いのか、分からなくなっちまった。 ――俺の故郷、ミッドチルダの臨海空港で起きた無差別テロは、地球の超国家主義者たちの仕業だ。マカロフって言う、シェパードの大将曰くの"狂犬"だ。 ――奴が狂犬だって言うのはまったく同意だ。罪もない人々を、どうして撃ち殺せる。しかも子供も年寄りも関係無しだ。狂ってるとしか思えない。 ――だけど、その無差別テロに、うちの隊から派遣された奴が加わっていたと聞かされた時、俺は愕然とした。 ――アレン。お前とは顔を会わせてちょっとだけどよ、いい奴だってのはなんとなく分かってた。是非俺の家族に、唯一の妹に紹介したいくらいだ。 ――だってのに、どうしてお前が。シェパードの大将の命令だってのは知ってる。奴らの中に潜り込んで、情報を得ようとしていたってのも聞いてる。そのための作戦だったんだろう? ――けどよ、それで何人死んだんだろうな。挙句、アレンだって戻ってこなかった。マカロフは知っていたんだ、アイツがうちから派遣されたスパイだってことを。 ――俺たちへの、Task Forece141への信頼はアレンと共に死んだ。今は、その信頼を取り戻そうと行動中だ。地球の、南米ってとこに向かっている。マカロフへの切符が、そこにあるらしい。 ――けど、俺にはそれが正しいことなのかどうか分からない。シェパードの大将は、マカロフが無差別テロを起こすのを知っていて、その上でアレンを送り込んで加担させたんだ。 ――ティアナ。俺の可愛い妹。兄ちゃんはもう、何が正しいのか、何が悪いのか、分からなくなっちまった。どうしてそんなことを言うのかって? 決めたからさ。 ――マカロフを倒したら、次に俺が狙うのは、シェパードの首だ。無差別テロを起こしたのはマカロフだが、知っておいて"情報"のため、黙って見過ごした奴も同罪だ。 ――だってそうだろう。そうでなけりゃ、アレンが浮かばれない。だから俺は、マカロフを倒したら、今度はシェパードを殺す。それまでは、絶対に死ねない。 ――ティアナ。お前は、俺みたいになるなよ。兄貴として、お前だけは、真っ当で幸せな人生を送って欲しい。 ヘリの機内で手帳にペンを走らせていたティーダは、ふと視線に気付いて顔を上げる。合流して自己紹介を終えたばかりの同僚が、怪訝そうな表情でこちらを見ていた。 名前はなんと言っただろう。確か、ローチとか言ったか。いや、これはコールサインだ。本名はゲイリー・サンダーソンとか言う。それにしてもローチ(鮭)とは間抜けなコールサインだ。 「さっきから熱心に、何を書いてるんだ?」 ティーダが間抜けと評したコールサインとは裏腹に、ローチの声はローター音が響くヘリの機内であってもよく通るものだった。席に座って休んでいた何人かの同僚たちが、一度目を覚ます程度に は。結局彼らはまたすぐ眠りに戻っていくのだが、ローチは気にせず、怪訝な顔を崩さなかった。 パタンッと手帳を閉じて、ティーダは努めて簡潔に答える。日記みたいなものだ、と。質問者はへぇ、と意外そうな表情を浮かべた。 「魔法の世界出身って聞くから、日記ももっとこう、魔法でパパーッと書くのかと思ったぜ。それともアナログ主義なだけか?」 「何でもかんでも魔法にする訳ない。お前らだって、銃弾でお料理したりしないだろ?」 違いない、とローチは笑い、こちらから視線を外した。ホッと安堵のため息をティーダが吐いたことに、気付く様子はない。手帳の内容が知られれば、謀反の疑いありと拘束されるのは目に見えて いたからだ。どんな内容だ、と聞かれる前に彼は手帳を管理局の制服の胸ポケットに戻す。 大西洋上から精鋭部隊"Task Force141"を載せたヘリは、進路を一路、南米のブラジルに向けていた。そこに、マカロフへの切符があると言う情報を頼りに。 世界大戦、なんてものじゃない。文字通り世界と世界がぶつかり合う、次元間戦争はもうカウントダウン目前だ。阻止するのは、どうしてもその"切符"が必要だった。 Call of lyrical Modern Warfare 2 第5話 Take down / 切符 SIDE Task Force141 四日目 1508 ブラジル リオ・デ・ジャネイロ ゲイリー・"ローチ"・サンダーソン軍曹 マカロフへの切符。常に神出鬼没、どこに姿を見せるか見当もつかない狂犬の居場所を探るには、彼の『お友達』に尋ねるのが一番だった。 シェパード将軍は言う。ミッドチルダ臨海空港で行われた奴らのテロは、いずれもアメリカ製の銃火器を使用して行われた。そこにアメリカ人の死体を――アレンのことだ――置いて、見事に民間 人大量虐殺の汚名をアメリカ合衆国に被らせた。ミッドチルダは反米感情、と言うよりはもはや反地球感情とも言うべき報復を望む声が半数以上を占めて、今にも戦争が始まりそうだった。昨日ま での同盟と言う繋がりは、今日では導火線と化している。 だが、真相を知るTask Force141は知っていた。マカロフたちの使った銃はアメリカ製でも、使用された弾薬までもはアメリカ製ではなかったのだ。製造国は南米、ブラジル。マカロフはブラジル にいる武器商人を通じて、弾薬を調達していたと言うことになる――その武器商人こそが、マカロフへの切符だ。 「ゴースト、ナンバーが一致した。間違いなくロハスと敵対する一味の奴らだ」 「了解。奴の"右腕"は?」 「姿を見せていない」 出来れば観光で来たかったな、と現地調達した車の中で、助手席に座ったローチは流れ行く町並みを見て思う。片耳に入れたイヤホンでは上官とその部下が、すぐ前を行く監視対象の車について 話し合っていたが、もう追跡を開始して一時間は経過している。もちろんローチはしっかり見張りを続けているが、任務の最中にほんの少しの雑念くらい許されたっていいだろう。運転席に座る同 じTask Force141の黒人兵士など、ダッシュボードの上に腰をフリフリさせるハワイアンな人形を置いているくらいだ。実にセンスがいいと思う。 「おい、止まったようだぞ」 後部座席に座っていた異邦人の言葉を受けて、ハッとローチは意識を切り替えた。ほら、と身を乗り出して指差してくる時空管理局所属の――Task Force141は混成部隊だ、各方面の精鋭が集まっ ている――ティーダ・ランスター1尉の声に導かれるまま、ずっと尾行を続けていた車の様子を見る。なるほど、ずいぶん豪勢な玄関を持ったビルの正面に追い続けていた車が、ついに停車してみ せた。これはいよいよ、出番が来るかもしれない。 今回の作戦の第一段階は、つまるところ『将を射んと欲すれば先ず馬を射よ』だ。マカロフの『お友達』こと武器商人、アレハンドロ・ロハスは言ってしまえば、ギャングたちの頭領のような存在 だ。現地では彼と敵対する一派も多いらしく、ローチたちが尾行していたのもそういった連中だ。彼らはまずロハスの右腕と称される人物に襲撃を仕掛けるつもりらしい。そこにTask Force141が 横から割り込み、ロハスの右腕を確保する。そして『お話』を聞かせてもらい、最終的にロハスの居場所を確認すると言うことだ。マカロフまでの切符を手に入れるのは、いくつも駅を乗り継いで 行く必要がある。 ビルの玄関前で止まった尾行中の車から、二人の男たちが出てくる。私服のラフな格好だったが、その目つきはいかにもチンピラと言った具合だ。ホルスターすら持たず、拳銃をそのまま手に持 って歩いていくのがさらにチンピラと言う印象を強めた。彼らは尾行に気付かぬまま、ビルの玄関に足を踏み入れようとする。 「出てきたぞ、だがお友達ではなさそうだな……」 離れたところで様子を見守る現場指揮官、マクダヴィッシュ大尉の声が通信の電波に乗って耳に飛び込む。二人のチンピラの前に、こちらも私服でラフな格好をした男が姿を現したのだ。すかさず ローチは手元のファイルに視線を下ろし、男の顔と事前に配布された写真を見比べる。特徴一致、間違いなくロハスの右腕だ。尋ねてきたチンピラたちと違って、骨のありそうな奴だった。 チンピラの一人が、何か言った。それに対し、"右腕"の男も何かを言い返す。チンピラたちは――最初からそのつもりだったに違いない――言葉を返さず、代わりに持っていた拳銃の銃口を、男の 眼前に突きつけた。確かに、マクダヴィッシュの言う通り友達ではなさそうだ。 まずいな、情報を得る前に"右腕"が殺されるんじゃないか。ローチの懸念は、しかし杞憂に終わった。チンピラが突き出した拳銃は、素早く男によって奪われる。あっという間に形勢逆転、"右腕" の男は奪った拳銃の引き金を引いてチンピラを射殺し、もう一人にも銃を構えさせずに発砲、これも射殺。鮮やかな手並み、「すげぇ」と運転手の黒人兵士が呟いてしまうほど。 「ゴースト、状況発生だ――ローチ、伏せろ!」 ローチたちにとって予想外だったのは、"右腕"の男が奪った拳銃をそのまま、こちらに向けてきたことだった。マクダヴィッシュの警告が耳に入る頃には銃声が響き渡り、フロントガラスが甲高 い断末魔を上げて割れる。舞い散る鮮血、銃弾をもろに浴びた運転席の黒人兵士は悲鳴もないまま倒れ、ハンドルに力なく寄りかかった。鳴り響くクラクション、不快な警告音はまるでローチにさ えも発せられているようだった。 「馬鹿、伏せろってんだろ!」 後部座席から伸びてきた手によって、強引に彼は狭い車内で頭を下げる羽目になった。ダッシュボードにゴンッと頭を打つ。痛い。だが、死ぬよりマシだ。運転手の私物だったハワイアンな人形は 銃撃によって主人と共に倒れ、それでも腰をフリフリさせていた。シュールな光景、だが現実だった。 銃撃は止んだ。顔を上げれば、ロハスの右腕は身軽な格好を生かして交差点を抜け、街中に飛び出していくのが見えた。直後、耳をつんざくような悲鳴と銃声。拳銃を撃って、市民たちの間にパニ ックを引き起こさせたのだろう。混乱に乗じて逃げるつもりか。 「奴が逃げる! 追え、ローチ、ティーダ! ゴースト、運転手が死んだ! ホテル・リオに向かえ、奴を生け捕りにしろ!」 「了解、向かってます!」 「ほら、ローチ、何やってる。マクダヴィッシュ大尉のご命令だぞ」 「あぁ、分かってる。急かすな」 後部座席からすでに抜け出したティーダに言われるまでもない。蹴飛ばすようにドアを開けて、車から降りたローチは走りながら銃を持ち出し、セーフティを解除する。ACR、Task Force141で多く の隊員が使用しているアサルトライフルだ。ティーダも臨戦態勢に入り、バリアジャケットを起動。私服の上にタクティカル・ベストやサポーターを装備するローチたちと違って、そちらはいかに も魔法使いと言った様子だった。空を飛べるはずだが、今は自分の足で走った方が速い。 表通りに出ると、街は悲鳴と逃げ惑う人々で溢れていた。運悪くブレーキを踏み損ねたらしい一般車が、公衆電話に頭から突っ込んで火を上げてすらいた。どうか爆発しませんように、と銃を構 えたまま走るローチはそのすぐ脇を駆け抜け、混乱の渦の中にあったリオ・デ・ジャネイロの街並みを走っていく。 「奴は路地に逃げ込んだ、すぐ右だ!」 「何で分かる」 「魔法で追跡してんだよ!」 なるほど、便利だな。共に走るティーダからのアドバイスを受けて、彼は道路を右に曲がった。人通りのない小汚い路地裏、視線を素早く走らせる。いた、ロハスの右腕! 一目散に逃げている! その時突然、ロハスの右腕は急停止し、方向転換するような仕草を見せた。まるで障害にでもぶち当たったような――否、彼にとっては本当に障害だ。ソフトモヒカンの屈強そうな男と、顔を"お 化け"のように彩った兵士が路地裏の奥から姿を現し、その行く手を阻んだのだ。マクダヴィッシュ大尉と、その部下ゴーストだ。 「ローチ、足を狙え!」 逃げ場を失った"右腕"の男は、こうなればと持っていた拳銃を出鱈目に発砲。たまらず皆物陰に身を隠すが、それでも上官からの指示が飛ぶ。無茶苦茶な、と胸のうちで悪態を吐き捨てるローチは しかし、隣にいた魔法使いの青年にアイ・コンタクト。援護しろ、と視線で伝えて、ACRを構えて飛び出す。 ロハスの右腕は、飛び出してきたローチに当然、銃口を向けた。その銃口が、乾いた魔力弾の発砲音と共に、上空に跳ね飛ばされる。ティーダの、拳銃のような形をした『魔法の杖』が放った文字 通りの魔法の弾丸によるものだ。武器を失った標的に向けて、ローチはACRのダットサイトを照準。引き金を引き、銃撃。小さな五.五六ミリ弾特有の反動が銃床を当てた肩を揺らし、銃声と共に "右腕"の男はその場に崩れ落ちた。致命傷にならないよう、足のみを撃ち抜いた精密射撃。 「倒した。よし、拷問だ。とにかく拷問にかけろ」 「意外と物騒ですね、大尉」 「これが英国紳士流さ」 足を押さえてくぐもった悲鳴を上げるロハスの右腕を引きずり起こし、マクダヴィッシュとゴーストは妙に楽しそうに会話を繰り広げる。 「なぁ」 「ん?」 「お前んとこの上官って、みんなああなのか」 拳銃型デバイスの銃口を下ろし、何とも言えない微妙な表情をするティーダからの問いかけに、ローチは答えることが出来なかった。 最低限の応急処置を足に施されたロハスの右腕は、マクダヴィッシュたちの手によって近くのガレージにまで連行された。もちろん、撃たれた足を治療するためではない。その証拠に、ゴースト が車から外したバッテリーのコードを持って、バチバチとこれ見よがしに火花を散らしていた。これを治療用の道具と呼ぶには、いささか無理がある。 「ローチ、ティーダ。俺とゴーストは彼と大事な"お話"がある。ロイスとミートと一緒に、貧民街を調査してくれ。ロハスの手掛かりがあるかもしれん」 それだけ告げて、マクダヴィッシュはシャッターの奥に姿を消していった。「あの、ちょっと」とシャッターが下りる直前にローチは呼び止めようとしたが、聞こえなかったらしい。 傍らにいたティーダと顔を見合わせ、言葉を発さないコミュニケーション。お互い、言いたいことは顔に書いてあったのだ。「あれで大丈夫かね」と。結論は出ない。今はマクダヴィッシュの言う "お話"にロハスの居場所が含まれることを祈るばかりだ。 「さぁ行くぞ、貧民街は北だ。この辺りはロハスの勢力下にあるチンピラがウロウロしてる、注意しろ」 コールサイン"ロイス"のTask Force141隊員は、そう言って先頭に立った。小汚い路地裏をコールサイン"ミート"の兵士とローチ、それにティーダを含めたたった四名の精鋭が突き進んでいく。 ロハスの支配下にある貧民街と言っても、住んでいる者は文字通りのチンピラから抵抗力のない民間人までと様々だ。歯向かってくる者は容赦なく射殺してもよいが、民間人まで巻き込むのはよろ しくあるまい。そんなことをすれば、自分たちはマカロフと一緒になってしまう。 「ミート、民間人に逃げるよう言え。スペイン語は出来るな?」 「あいよ」 貧民街の入り口に達した時、早速ロイスがミートに指示を飛ばす。前に出た兵士は、持っていたMP5Kの銃口を天に向け、異国の言葉で辺りにいた民間人たちに警告を発する。 「Estoy en peligro aqui.!Escape!(ここは危険だ、逃げろ!)」 同時に銃の引き金を引いて、空に向けて警告射撃。突然の銃声に驚いた人々は、悲鳴を上げながら我先にへと逃げ出していった。それだけなら任務はやりやすかったはずなのだが、性質が悪いのは 逃げるのを由としないチンピラどもだ。彼らは何よりも、自分たちのテリトリーを侵されることを嫌う。案の定、アロハシャツや短パンのままで銃を手に四方八方から、チンピラたちが飛び出して 来た。ローチたちを血走った目で見つけた彼らは、早速歓迎パーティーを開始する。ただし、クラッカーとケーキのお持て成しはない。銃弾の雨で歓迎だ。 「くそったれ、地球人どもはみんな野蛮人か!」 「お前が言うな」 互いの死角をカバーし合いながら、ローチはACRを、ティーダは拳銃型のデバイスを敵に向けて撃つ、撃つ、撃つ。貧民街に響き渡る銃声。照準の向こうで狙いを定めたチンピラたちが、引き金を 引く度にバタバタと倒れていく。所詮、奴らはまともな訓練も受けていないのだ。とにかく滅茶苦茶に撃って、相手をビビらせる程度しか能がない。怖いのは流れ弾くらいかと思われた。 ――しかし、ここは敵地だった。蜂の巣のど真ん中と言ってもいい。 突然、ティーダが振り返る。同時に、拳銃型デバイスの銃口を振り抜くようにして向ける。敵に向かって。貧民街は奴らの地元だ、目標の背後に回りこむ道なども心得ているのだろう。だけども その目論見は断たれた。乾いた銃声が二発響き、放たれた魔力弾がチンピラを殴り飛ばして大地に沈める。 「なんで気付いたんだ」 「忘れた? 俺、魔法使いだぜ」 尋ねると、発砲は止めずにティーダがどこからともなく、宙に浮かぶ光の玉のようなものをローチに見せ付けるようにして呼び寄せる。センサーのようなものか、と文字通り未知との遭遇を果たし た兵士は光の玉の用途を理解。用事が済んだと分かるなり、魔法使いは行ってこい、と空いていた左手を振って光の玉を貧民街の奥地に飛び込ませた。 「ロイス、状況を報告しろ!」 「出てくるのは地元のギャングどもばかりです、ロハスはいません!」 ちょうどその時、通信が舞い込んできた。マクダヴィッシュ大尉からだ。応答したロイスはMP5Kをフルオートで撃っても撃っても沸いて出てくるチンピラどもを蹴散らすが、彼の言う通り肝心の ロハスはいない。ひょっとしたらもう一緒に撃ち殺してしまったのでは、と一瞬その場にいたTask Force141隊員全員が思うが、奴は曲がりなりにも一味の頂点に立つ男だ。そうそう簡単に、前線 に出てくるとも考えにくかった。 アッと、短い悲鳴が上がる。振り返れば、民間人たちに警告を発したミートが被弾し、力なく地面に横たわっていた。咄嗟に、それを見たローチは駆け出す。背後で彼を止める声があったが、聞く はずもなかった。よせ、と手を伸ばすティーダに、逆に指示を飛ばす。 「援護しろ! ミートを助ける!」 「…馬っ鹿野郎が!」 飛び出してきたローチに、ギャングたちが容赦ない銃撃の雨を浴びせる。足元を銃弾が跳ね飛び、砂埃が舞う。死神が耳元で笑っている。走りながら照準も適当にACRの引き金を引き、敵に銃撃を 返すが、それで静かになるほど生易しいものでもなかった。かろうじて、援護のため魔法使いの放った弾丸が家屋の上に布陣するチンピラを数名薙ぎ倒し、ローチは被弾した味方の元に辿り着く。 首の根っこを片手だけで掴み、手近にあった家屋の中へ引きずっていく。しっかりしろ、とミートの身体を起こそうとするが、無駄だった。彼は、すでに事切れていた。 くそ、と罵りと悔やみの言葉を吐き出し、家屋を裏口から飛び出した。ギャングたちの、思わぬ方向から攻撃する魂胆だった。予想は当たり、敵はティーダやロイス、そして見えなくなった自分に 向けて銃撃を続けており、間抜けに背中や側面を曝け出している。 ACRの銃身に装着していた、M203グレネードランチャーを構えて敵に向けた。吹き飛ばしてやる、と引き金に指をかけたところで、左の路地から早口の英語ともスペイン語とも思しき、慌てた様子の 声が耳に入った。咄嗟に振り向けば、遅れてやってきたギャングの一人だった。対応は、お互いにどちらも一瞬遅れる。ギャングはまさかこんなところに敵がいるとは、と思わず、ローチは出てき たのがギャングが、それとも逃げ遅れた民間人だったのか判断がつかなかったからだ。まずい、と言語は違っても両者に同じ意味の言葉が脳裏を流れる。 結果として、ギャングはローチに打ち負けた。小銃のFALの銃口を構えるより早く、彼の放ったM203のグレネード弾が敵の身体を弾き飛ばしていたのだ。爆発はしない、近距離だったため信管が作動 しなかった。 「くそ」 とは言え、貴重な時間を食われたことだけは変わらない。タクティカル・ベストから取り出したグレネード弾を再装填、今度こそ最初に選んだ敵に向かって構える。 「ローチ、被弾した!」 構えた瞬間、ロイスの声が通信機に飛び込む。なんてこった、また味方がやられたのか。歯を噛み鳴らし、引き金を引く。ポンッと軽い発射音、放たれたグレネード弾は家屋の屋上にいた敵兵たち のど真ん中に飛び込み、炸裂。舞い散る破片と、呼び起こされた爆風の衝撃が否応なしにギャングどもを薙ぎ払う。奇襲だった。背後から撃たれた敵は恐怖し、人数では圧倒的に上回っているにも 関わらず退却へと移る。 敵が退いていく。今のうちだな、とローチは思い、路地を駆け抜け、ティーダたちと合流を果たした。だが、出迎えは決して敵を撃退したことへの賞賛ではなかった。肩から血を流し、壁に背中を 預けて苦しそうに呻くロイスと、懸命に治療に当たる――治癒魔法は苦手だ、と止血剤とモルヒネを用いていた――ティーダは、賞賛どころではなかったのだ。 「俺はいい、自分でやる。行ってくれ」 ロイスは、治療を続けようとする治癒魔法の使えない魔法使いの手を押し退ける。自分の持っていた手榴弾やフラッシュバンを持って行け、と渡しさえした。しかし、彼をここに放置すれば、また ギャングどもが戻ってきた時、果たしてどうなるか。いかに精鋭部隊の一員と言えど、負傷の身で、かつたった一人で置いて行かれれば。それでもロイスは行け、と言う。撃つぞ、とMP5Kの銃口を 仲間たちに向けようともした。 「行こう」 ローチは、頑なに指示に従わないティーダの肩を掴んだ。くそ、と吐き捨て、渋々魔法使いは立ち上がる。それでいい、と言ったロイスの顔を、二人は忘れることができなかった。 たった二人になってしまった追跡部隊は、貧民街を駆け進んでいく。その背後で、一発の銃声が響き渡っても、振り返ることなく。 SIDE Task Force141 四日目 1606 ブラジル リオ・デ・ジャネイロ ジョン・"ソープ"・マクダヴィッシュ大尉 ロハスの右腕は、なかなかに見上げた忠誠心だった。何度"お話"しようとこちらが提案しても、彼はあくまでも拒んでみせた。耐え難い苦痛を何重にもして浴びせかけているのに、主人の居場所 を喋ろうとしなかった。副官のゴーストでさえ、露骨に苛立ちを見せるほどだった。 それでも、結局のところ人間は苦痛には逆らえない。とうとう、奴はボスの居所を口にした。だからもうやめてくれ、と何度目かの"バッテリー接続"を拒むようにして。約束通り、ソープとゴース トは彼を解放してやった。解放と言う名の、放置である。椅子に縛り付けたままだが、警察には電話を入れておいた。あとは無事、発見されることを祈るばかりである。 ――それにしても、空からの援護があればもっと楽なんだがな。 部下と同じ、ACRを構えて貧民街を別ルートから突き進むソープは、軽機関銃の激しい銃撃に晒されながら、どこか他人事のように空を見上げる。青空と、ブラジル名物のキリスト像。だが彼が見出 していたのは観光名所ではなく、そこにはいない戦友のことだった。ほんの数年前、共に戦火を潜り抜けたあの魔導師の少年がいれば、心強かったに違いない。そう思いかけて、いや、やはりダメ だろうと考え直す。魔導師なら部隊に新しく加わっている。彼もかつての戦友と同様、空を飛ぶことが出来る。だが、この弾幕だ。地上でさえ、少し遮蔽物から身を乗り出すと、途端に銃弾の雨が 降り注ぐ。こんな状況で空に上がろうものなら、いい的になってしまう。 「ゴースト、お前はそのままロハスを追え。こっちも何とかして追いつく」 「大尉はどうするんで?」 「何とかするさ」 援護を提案してきた副官に対し、かつての新米SAS隊員は、数年前では浮かべることもなかった不敵な言葉を通信で送る。タクティカル・ベストからフラッシュ・バンを持ち出し、ピンを引き抜 き、身を潜める壁から腕だけ出して放り投げた。 爆発音。隠れていても分かるほどの閃光と、それに伴う轟音が鳴り止むのと同時に、ソープは飛び出した。視界に入ったのは、目や耳を抑えて苦しむ敵兵たち。右に一名、左の屋根に二名、中央の 屋根に一名――数えながら、銃を持った腕は動いていた。ダットサイトで、敵を照準。引き金を引けば、短く軽い反動と共に銃声が高鳴り、チンピラどもが薙ぎ払われていく。右の一名を排除、左 の敵も射殺、中央の一名、短い銃撃、これも倒す。立ちはだかるギャングを一掃し、先に進む。 「マクダヴィッシュ大尉、ティーダが上からロハスを探すって言ってます!」 銃口を前に突き出しながらも急ぎ足で駆け、その途中でローチからの通信。同行する魔導師、ティーダが飛び上がろうと言うのだ。 「ダメだ、上空に出たら的になる」 「覚悟の上です、大尉。最悪、囮にはなる。地面で這い蹲って死ぬのは御免です」 「死ななきゃいいんだ。頭を冷やせティーダ、通信アウト!」 ティーダとの交信を、一方的に切った。命令を聞くだろうか。いや、聞くはずだ。言うことを聞かないほどの子供でもない。 ロハスの右腕によれば、ボスの居場所は貧民街の西に向かっているという。Task Force141は、これを三つに分けて追跡していた。ローチとティーダのチーム、ゴースト、そして自分だ。貧民街は小 高い丘の上に沿って立ち並んでいるため、標的を追い詰めるとすれば上へ上へと追い込んでいくのがもっとも手っ取り早く効果的だ。そして、作戦は現に目論見通りになりつつあった。 「こちらゴースト! 大尉、奴は屋根の上を進行中です、すぐ近くです! ローチ、ティーダ、追い込め! 俺も行く!」 屋根の上、か。ソープは、部下の言葉を聞いて一旦立ち止まった。周囲に視線を走らせ――運がいい、梯子がある。ACRを肩に引っ掛けて、上に昇る。筋肉が軋み、悲鳴を上げるのにも構わず、彼 は家屋の屋上に上がった。この辺りではそこそこに大きな、周辺の家屋の屋根を全てを一望できる程度には高い位置だった。目を凝らすまでもなく、下に向けて銃を撃ち下ろし、時折反撃を喰らっ ては倒れていくギャングたちが見えた。その最中で、必死に逃げの様子を見せる明らかに怪しい人影が一つ。奴だ、ロハスだ。重たそうな黒いバックを抱えているが、あれではスピードは出まい。 ようし、先回りだ――進行ルートを読んだソープは、屋上から一段低い隣の家屋の屋根に飛び移る。跳んで走って、屋根を乗り越え、大地に戻ると駆け出し、また屋根に昇る。二階建ての家屋に入 った時は体当たりで扉を突き破ってベランダに出て、そこからさらに隣の一軒家の屋根へと飛び移って進む。 途中、屋根の上から一瞬ではあったが、ローチとティーダ、その反対方向からゴーストの姿が見えた。ロハスは、彼らに挟み撃ちにされることを知らず、逃げ続けている。このまま確保出来るか。 だが、寸前で奴は気付いた。正面から迫るゴーストと、背後から来る兵士と魔導師のチームの挟撃は、横に逃げることで回避されようとしていた。 「逃げられる!」 ゴーストの声。その声が通信機に飛び込んだ時、ソープは一瞬、口元に笑みを浮かべた。不敵な笑みだった。 「そうはさせんさ」 ガッと、扉をぶち破る。三階建ての家屋の最上階に侵入した彼は、そこで出会った。目標、ロハスと。奴は、驚き竦むような表情を見せていた。そのわずかな間の恐怖が、彼の動きを止め、隙を生 み出してしまう。一切の躊躇なく、ソープは標的の身体に飛びつくと、そのまま窓ガラスをぶち破って大地へ急降下。 幸いにも、下には車があった。屋根が思いのほかクッションになり――そう呼ぶほど柔らかいものでもないが、少なくとも死なない程度には落下の衝撃を抑えた――ロハスの確保に成功。ひぃ、と 怯える標的に向けて、拳銃、かつての上官から受け継いだM1911A1を引き抜き、銃口を突きつけた。ホールドアップ、これでもう逃げられない。 遅れてやってきたローチとティーダが、ぽかんと間抜けに口を開いてこちらを見ていた。ソープは二人の視線に気付き、言う。 「これぞ英国流さ。皆、ご苦労だった。さぁ、マカロフについて知ってることを喋ってもらおう」 戻る 次へ
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【★☆★本格的♂森下一家のオンラインシューティングのお知らせ★☆★】 日時:毎週日曜日20時(いわゆるPM8時)&他日時 ソフト:12月3日の集会はMW3。 目的:パーティを組んで世界中の猛者共に突撃 お約束:ふざけろ・祖国合戦(ケンカ)禁止 本格的♂にイキます♂ 時間は記載した通り20時です。 参加が可能な方は私のIDである「yoruo-530」に「出来ます」「ヤリます♂」 とでも好きに送って下さい。 集会では記載した通り4、MW2、BO、MW3でパーティを組んで世界の猛者に様々なルールで突撃していきます。 希望があればプライベートマッチで内戦を行うこともあります。 毎週土曜日もやりますが、希望があれば、他にも集会を入れるつもりです。 そう希望があったらこのスレに「○○日○曜日○時にCOD ○○で集会やらないか」 とでも書いて下さい。 VCとスカイプは使っても良いですし、使わなくても良いです。 テキストチャット部屋を立ててやっていくのも構いません。 説明は以上となります。
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Member only ページのメインメージです。 Custom Class(2/3) FAメンバーが構想するそれぞれのプレイスタイルに基づいたカスタムクラスなどを公開する場。 兵装・装備・Perkはもちろん、自分が考えるおすすめキルリストークを載せよう! Key Point(2/4) MAPによっては超絶角見ができるところ、ウマウマポイントが存在します。 ”皆に公開できる範囲”のポイントは載せちゃって下さい。 MAP愛称などもあります。 <<operation_room>>(5/24) クラン戦に挑むにあたって、話し合いの上で決定した作戦やMAP名称 TIPs(工事中) CoD4の豆知識。 today - total -
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武器一覧 プレイヤーのHPは100 ハードコアの場合は30 ストッピングパワー装備時は威力が1.4倍。 ヘッドショットした場合は威力が1.4倍。 ただしスナイパーライフルのみ1.5倍となる。 アサルトライフル 名前 画像 威力 近−中−遠 サイレンサー装備時 装弾数/予備弾数 Exmag装備時 備考 解除Lv M4A1 30-30-20 30-20-20 30/60 45/45 フルオート。威力は低いがブレが少なく、射撃レートが高いので近中遠距離すべて対応できる。ACRとよく似ているが、こちらのほうがレートが高い。リロード時間や武器切り替え時間も短く使いやすい。 4 FAMAS 40-40-30 40-30-30 30/60 45/45 3点バースト。ストッピングパワー装備時なら、どの距離でもワントリガーで倒せる事が出来る。M16と比較しても、リコイルが小さいため使いやすい。 1 SCAR-H 40-40-30 40-30-30 20/40 30/30 フルオート。ブレが少なく、アイアンサイトが非常に見やすいため、使いやすい。だが弾数が少ないため、スカベンジャーが必須。射撃レートも低い。 8 TAR-21 40-40-30 40-30-30 30/60 45/45 フルオート。威力が高く、射撃レートも高いので近中距離にとても強い。ブレが強いため遠距離は苦手だがバーストで十分対応出来る。 20 FAL 55-55-35 55-35-35 20/40 30/30 セミオート。アイアンサイトがとても見にくいため、アタッチメントにはサイト系必須。特殊な威力設 定なので、ストッピングパワーを装備しても近中距離のヘッドショットが一撃必殺になるだけなので、パーク2は選択肢が増える。ただしホログラフィックサ イトを装備した場合は最低威力が40に上がるため、ストッピングパワーを装備した場合、全距離2発で仕留められるようになる。サイレンサーを同時に装備し ても同じ。 28 M16A4 40-40-30 40-30-30 30/60 45/45 3点バースト。FAMASとよく似ているが、こちらの方がリコイルが激しいため使いにくい。ただし、ホログラフィックサイトを装備するとリコイルが小さくなる。/td 40 ACR 30-30-20 30-20-20 30/60 45/45 フルオート。全くと言っていいほどブレがないので使いやすい。だが威力が低く射撃レートも低いので火力不足を感じる事が多い。ストッピングパワー必須。 48 F2000 30-30-20 30-20-20 30/60 45/45 フルオート。射撃レートが非常に高く近中距離で力を発揮する。だがリコイルが激しいので、遠距離以上になると使い物にならない。SMGのような立ち回りが要求される。 60 AK-47 40-40-30 40-30-30 30/60 45/45 フルオート。威力が高くブレも少ないので使いやすい。射撃レートはSCAR-HとTAR-21の間くらい。だが、ACOQスコープ以外のアタッチメントを装備するとブレが大きくなるため、アタッチメントを付けないほうが使いやすい。 70 SMG 名前 画像 威力 近−中−遠 サイレンサー装備時 装弾数/予備弾数 Exmag装備時 備考 解除Lv MP5K 40-20-20 40-20-20 30/60 45/45 威力と射撃レートともに高いが、ブレが激しいため中遠距離以降は使い物にならない。だが近距離は全武器も中でもトップクラスの性能をもつ。 4 UMP45 40-35-35 40-35-35 32/64 48/48 特殊な威力設定なので、ストッピングパワーを装備しても近距離で倒す弾数が3発から2発になるだけなのであまり意味がない。サイレンサーと冷血を装備して裏をかくのにもっとも相性のいい武器といえる。SMGの中でも射撃レートが低いので接近戦は比較的苦手。 1 Vector 25-20-20 25-20-20 30/60 45/45 射撃レートはP90とMini-Uziと並んで最速。ただしラピッドファイア装備時はこれらの武器よりも上昇率が高くもっとも最大となる。威力が非常に低いため弾の消費も早い。若干ブレもあるため中距離以降は厳しい。 12 P90 30-20-20 30-20-20 50/100 75/75 射撃レートが高く、ブレも小さいため、中距離以降も対応できる。弾数も多いため弾切れすることが少ない。ラピッドファイアを装備しても、レートはほとんど変わらないので装備しないほうが良い。 24 Mini-Uzi 30-20-20 30-20-20 32/64 48/48 Vectorと似ているが、こちらのほうが威力が若干高い。腰だめの集弾率が高くアキンボとの相性も良い。若干リロードが遅めでリロードキャンセルのタイミングも難しい。前作に比べたらリコイルが軽減されたため、使いやすくなった。 44
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無限ケアパケの使用者タグ一覧 savan0000 [JSF]tomoya8982 BAW19 RADmonchy FUTAKI x KANATA majikitisan JP SHINKAI 7 DX tui cobra na01207 plute X mist beach markcity2014 Ja Paul Smith S2S2S2S2S2S2S2S2S KEn12823 Lovery kirby nao1204 minaduki06 erwin volker [YKT]kumakumataiyou FUUGA 0515 [sfz]ZABIEMON peso3601 onikage18 ciell flavor0407 Erich x Hartman CandyLife Asiss777 EXILE ENTER AISAKA X TAIGA
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プロローグ 「スタンバイ……スタンバイ……GO!」 ――それは、兵士たちの記憶だった。 激戦の最中、決して歴史に記されることのない、兵士たちの戦いの記憶。 「――あんたらだな? こっちの"世界"の、特殊部隊と言うのは」 「大尉、誰なんです」 「私か? 私は――レジアス・ゲイズだ。所属は、君らに言っても信用してもらえないだろうからな、言わないでおこう」 ――チェルノブイリ。悪党たちの巣食うかつての悲劇の、そして今はゴーストタウンと化した街。 兵士たちは銃を手に持ち、ある一人の"危険な男"への狙撃任務を遂行する。 「目標を倒した、ナイスショットだ少尉!」 「プライス、俺と一緒に狙撃で数を減らすぞ。レジアスは近付いてきた敵を」 「ろくでなしよ、安らかに――」 任務は、成功したかに思われた。目標に、対物ライフルの狙撃が直撃。 スコープの向こうで、飛び散った鮮血と吹き飛ぶ腕は決して幻ではなかったはずなのだ。 ――だが、戦いは終わっていなかった。 時を経て、兵士たちの戦いは若者たちへと受け継がれる。 「よぅ、お宅も足止め食らった落ち? 目的地によっては、他のルートを案内してやれるぜ」 まさか、彼らは考えもしなかった。 「――それじゃあ、お願いするかな。あ、自己紹介が遅れた。僕はクロノ、クロノ・ハラオウンだ」 「クロノ、だな。俺はジョン・マクダヴィッシュと言う」 ひょんなことから出会った少年が。 偶然から知り合った青年が。 「――クロノ!?」 「ジョン!? なんでここに……」 互いに武器を持つ者であるということに。 銃と魔法。 握る得物に違いはあれど、目的は同じ。 ――つい先ほど何かが… ――被害は甚大である模様です… ――どうやら自国内で核兵器と思しき何かを爆発させたようで… ――アルアサド本人も、この爆発に巻き込まれたか現時点では不明ですが… ――自爆攻撃であったのでは、という見方も… ――現在も非常に大きな範囲で燃え続けている模様で… 決して交わるはずのない線が交わったことで、皮肉にも死すべき運命から逃れられた兵士が一人。 「ポール・ジャクソン、と読めばいいのか?」 拾った命だ、と彼は思う。本来なら死んでいたはずの身。生き残ったのは運命の悪戯か、それとも単なる偶然からか。 生き長らえた海兵隊員は若者たちと合流し、一五年前に死ぬべきだった"危険な男"の行方を追う。 「同胞の血が、無数に大地に滴り落ちた。"私の血"も……奴らの手で」 "危険な男"は、激怒した。我が息子を奪われた憎しみは、やがて世界を崩壊させる炎の矢となって、遠く離れた土地へ目掛けて放たれる。 照準は、アメリカ合衆国東海岸。予想される死者数は、四一〇九万六七四九人。世界経済の中心であるかの地が壊滅したとなれば、被害はさらに広がる可能性だってあった。 言葉に偽りは一切ない。世界はあの時、崩壊寸前にまで至っていたのだ。 兵士たちは、立ち上がった。若者も、老兵も。 「各員、聞いた通りだ。もはや一刻の時間もない――行くぞ。GO! GO! GO!」 「ゲームオーバーだ」 激戦の末、響き渡るは一発の銃声。放たれるは、一発の銃弾。 元凶は断たれた。 戦いは終わった。 歴史に彼らの名が記されることはないが、彼らは後悔しないだろう。 それによって得られた安息は、今日に至るまで続いているのだから。 ――もっともそれは、仮初なのかもしれないが。 時は流れて数年後。かつての若者たちは、それぞれが日常を送っていた。 SIDE U.S.M.C 二日前 時刻 0725 ミッドチルダ 首都クラナガン ポール・ジャクソン 米海兵隊曹長 在ミッドチルダ米軍連絡官 クソのような日々とは、よく言うけれども。決して、鼻歌交じりで愛車のハンドルを握るこの海兵隊員の気分は、間違ってもクソとは言えないほどに華やかなものだった。 何しろ、この魔法の世界は本日よく晴れていた。出勤途中の道であるということがもし忘れられたなら、このままピクニックにでも行きたいほどに。 連絡官に就任してからと言うもの、銃弾の雨に晒されることはなくなったが、今度はデスクワークの嵐に襲われるようになった。積み重なっていく書類を山を見て、これをまとめてグレネードで吹 き飛ばすことが出来ればなんと爽快な気分になれることだろうと思ったこともある。それも数十回ほどだ。 だが、今日からそんな日々とはおさらばだ。書類の山を誰かが吹き飛ばしてくれた訳ではないが――と言うか、以前にも増している――少なくとも、彼にはそれを一時でも忘れさせてくれる存在が このミッドチルダ、魔法の世界と言う割りに建物はどこかニューヨークや日本のトーキョーなどに似た場所にやって来たのである。 交差点を曲がって、ビルが立ち並ぶ風景から住宅街へ。ミッドチルダの交通は不思議と快適であり、混雑するのは緊急事態の時くらいだ。空気もいい。彼がハンドルを握る車だって現地のディーラ ーに勧められて買ったものだが、排気ガスが出ないと言う優れものである。魔法ってすげーな、とは同僚である黒人兵士の言葉。まったくだと胸のうちで同意しながら、ジャクソンはお目当ての家 を発見する。 彼の視線の先にあったのは、真新しい新築の家屋だった。すでに住人はいるはずなのだが、玄関に並ぶ花や植木鉢くらいしか出迎えてくれない。 海兵隊の制服のポケットから、携帯電話を取り出す。番号は登録済みなので、スイッチ一つですぐ繋がった。二回ほどのコール音が耳に入った後、打って変わって聞こえてくるのは優しいソプラノ のような女性の声。 「はいもしもし、八神です」 「やぁ、その声はシャマルだな」 「あ……ジャクソンさん!?」 電話の向こうで、通話相手がパッと表情を輝かせる光景が目に浮かぶ。 今何してるんだい、と言う何気ない問いかけにも、相手はウキウキルンルン、テンションがほどよく上がった様子で答えてくれた。 「今ですか? 今ですねー、ちょうどお料理の途中で」 「あぁ……またモツ煮が食べたいな。今度頼むよ。"オベントー"に入れてもいいな」 「"お弁当"ですよ。発音は大事に……ひゃあ!?」 ん? とジャクソンは唐突な悲鳴に怪訝な表情。何やら、電話の向こうで激しい銃撃戦に勝るとも劣らない賑やかな音が響き渡っている。 ガタガタ、ドッテンバッチャン、ガチャンガチャン、ガッチャーン、グワッシャーン。アナータナカタサーン! ワレナガラ、モウアイダグナイ……ツナミボーン。 大丈夫かなこの携帯。思わず、耳から携帯電話を離して機能を確認してみる。なんだか、いろいろ聞こえちゃいけないものまで聞こえた気がした。俺が疲れてるのかな、とこめかみをぐりぐりやっ てみたが、特におかしなところはない様子。 しばらく奇妙でファンキーな騒音が続き、それがようやく落ち着きを見せたところで、再びソプラノボイスが聞こえるようになった。えらく疲れたようではあったが。 「――し、失礼しました。ちょっと、お皿割っちゃって」 「君の家のお皿はずいぶん賑やかな音立てて割れるんだな」 「えへへ、面白いでしょう?」 いやそうじゃなくて。 思わず突っ込みを入れそうになったアメリカ人であるが、ここはグッと我慢する。いい加減話を進めねば、出勤に遅れてしまう。 「ところで、今どこにいるんです? 約束のお弁当、出来上がってますよ」 「近いところさ。玄関前に車が止ってないか」 直後、家の窓に受話器片手に姿を現したのは金髪にエプロンが似合う一人の女性。あら、と天使もビックリな優しそうな笑顔を浮かべて、彼女もこちらを見つけたようだ。 しばらく待てば、玄関から包みに入ったお弁当片手に女性――シャマルが出てくる。車から降りて、ジャクソンは海兵隊らしいビシッとした敬礼を行うも、すぐにその表情は崩れて笑顔になった。 彼女の手料理を「美味い」と言って食えるのは、今のところこの世界では彼ぐらいなもんである。作った料理はことごとく不味い不味いと酷評される一方だったシャマルが、そんなジャクソンを見 つけて果たして好意を抱かずいられるだろうか。疑問の答えは、今目の前に存在している。 「よくあんなもん食えるよなぁ、ジャクソンは」 「言ってやるなヴィータ。黙っておいてやれ」 「せやせや、シグナムの言う通り。シャマルは今、我が世の春を迎えとるんよ。邪魔しちゃあかん」 「……ところでいつまで我々は隠れているのでしょうか、主」 玄関の奥から八神家の面子が面白そうな顔して見ていることなど、二人は知る由もない。 何故って? 愛に国境線も次元世界の壁もないんだよ、OK? SIDE 時空管理局 二日前 時刻 0955 ミッドチルダ 首都クラナガン 地上本部訓練センター クロノ・ハラオウン執務官 銃声はともかく、硝煙の匂いはいくら嗅いでも慣れるようなことはなかった。辺りには、鼻を摘んでも否応なしに突っつくような刺激臭が漂っている。 神経を刺激するのは、匂いだけではなかった。目の前に広がる住宅街ではひっきりなしに銃声が響き渡り、小銃で武装した兵士が一軒一軒家の中に突入して中を調べては発砲し、敵を制圧すれば後 方にいる味方に「クリア」と合図を送っていた。 そんな訓練風景を見つめるのは、黒髪に黒いバリアジャケットと言う異様な風体の青年。名をクロノと言い、時空管理局本局より派遣されてきた訓練監督官だった。 彼は手元に開いていた文字通り魔法によって投影されるディスプレイを覗き、フムン、と小さく唸った。気難しそうな表情を浮かべていたので、傍らにいた米軍将校が声をかける。 「提督、どうかしましたか?」 「いえ……どうも、なかなか上手くいかないものだなと」 ディスプレイに映るのは、ある一軒家の屋内に設置されている監視カメラの映像。家の中には簡素にではあるが家具が置かれ、あたかも人が生活しているような状況を生み出している。その間に立 ち並ぶのは銃を持ったテロリストを模したホログラフであり、あるいは銃撃禁止対象とされている民間人を模したホログラフ。屋内に突入した兵士たちはこのホログラフをテロリスト、民間人と識 別した上で当然、テロリストのみ射撃して倒す訳だが、その兵士たちの動きはどうにも鈍い。 「やむを得ないでしょう。練度はまだまだこれからです、つい最近まで銃を持ったことすらない者たちだったのですから」 そんなものかな、と米軍将校からの釈明を聞き流し、しかしクロノの懸念は尽きない。宙に浮かぶ半透明のディスプレイの中では映像が切り替わり、別の監視カメラが捉えた映像が表示される。兵 士が銃口をホログラフに向けるが、それは民間人だった。慌てて照準をすぐ隣のテロリストに切り替えるも、実戦なら彼はもう生きていまい。撃たれて死ぬ。残るは死体だけだろう。 "戦力の底上げのため、魔力適性のない局員には米軍より銃の扱い方から戦い方まで学んでもらう"――地上本部司令官、レジアス・ゲイズ中将の発表は、管理局を賛否両論で割った。 九七管理外世界の一大国家、アメリカ合衆国と管理局は同盟関係を築き、他の次元世界において紛争調停や災害復興を共同で行っている。もちろん、そこで得られた資源や利益はアメリカを中心と する九七管理外世界にも行き渡るようになっていた。管理局としても、管理世界の数に対する戦力の不足は長年の課題であり、米軍の投入はそれらの問題を大きく解消するに至っていた。 特に、先述したレジアス中将は九七管理外世界との連携をより深めて今後の管理世界の治安維持に当たるべきだと主張しており、そのために米軍装備の導入も積極的に行っている。クロノが今見て いるものもその一つであり、米軍指導の下に魔力適性のなかった管理局員に対し銃の射撃方法と戦闘術を教育するのが目的だった。 ところが、これに異を唱える一派が管理局内には存在した。米軍装備などははるか昔より管理局が禁忌と定めていた質量兵器に当たるとして、レジアスの行動を批判する者が本局には多くいたので ある。彼らの大半はアメリカとの同盟にも懐疑的であり、これまで通り次元世界の治安と安定は管理局のみで行うべきだと主張していた。 クロノは本局所属だが、数年前のある事件で米軍、それにイギリスの特殊部隊と共闘した経験がある。質量兵器と言っても結局は持つ者の意思が全てであり、自分たちが使う魔法だって邪悪な意思 を持つ者が持てば、それはあっという間に殺戮の道具と化す。逆を言えば、質量兵器でも持つ者が善であれば、何も問題はない。むしろ先天的な素質によるところが多い魔法と違い、安定した戦力 供給を行うことが出来る。 ゆえに彼は実戦経験者として訓練監督官となり、この場にあったのだ、同時に、実際に質量兵器と何度も交戦したがゆえに、訓練を受ける兵士たちの動きに苛立ちにも近い感情を抱いていた。 「よぉ、おい。クロノ」 不意に名前を呼ばれ、未だ監視カメラからの映像を表示し続けるディスプレイから目を離す。包み片手に、曹長の階級章をつけた制服姿の米軍兵士がピッと敬礼を送っていた。 「やぁ、ジャクソンじゃないか。君も来てたのか」 思わぬところで、戦友との再会だった。数年前、共に生死を潜り抜けた海兵隊員、ポール・ジャクソン。当時は軍曹だったが昇進して曹長となり、同時に管理局のお膝元であるミッドチルダに米軍 が展開することが決まってからはずっと、現場レベルでのパイプ形成などを行う連絡官に就任していた。仕事場は同じミッドチルダのはずなのだが、顔を会わせるのはずいぶん久しぶりである。 元気だったか、とありふれた挨拶に、海兵隊員は書類に殺されそうだった、と結構真剣な表情で答えた。大変だな、と苦笑いを浮かべるクロノだったが、ふと彼が持っている包みが気になった。 「ジャクソン、それは?」 「これか。"オベントー"だ、出勤前にシャマルに作ってもらった」 あぁなるほど。クロノは納得する。そういえば、八神家の面子は丸ごと地球の海鳴市からこっちに移り住んだと聞いていたのを思い出した。 とは言え、彼はなんと言った。"オベントー"? 正しく発音するならお弁当か。シャマルに作ってもらったとも言っていたが――え、何だって。シャマルの作ったお弁当? 「美味いぞ。昼になったら一緒に食うか」 「い、いや……遠慮しておくよ」 僕だってまだ死にたくはないし。言葉の外にそっと胸のうちで付け加えて、若き執務官は戦友の持つ包みから目を離した。まるで、臭いものには蓋をするかの如く。 当のジャクソンはと言えば特に気にした様子もなくそうか、とだけ答えて、ふと思い出したように改めて口を開く。 「そういえばクロノ、ソープはどうしてるかな。あの若造、大尉になったと聞いたが」 「あぁ――」 彼ならいつも通りだよ、とクロノは答える。そうか、いつも通りかと海兵隊員は頷き、特にそれ以上追及することはなかった。 彼らには、それで十分だった。誰しもがあの事件の後、日常を送っている。日常の種類は、人によって異なるけれども。それでも本人にとってはいつもと変わらない、普段の日々なのだ。 そう、例えば雪山のど真ん中にあったって。 SIDE Task Force 141 一日前 時刻 1523 カザフスタン 天山山脈 ゲイリー・"ローチ"・サンダーソン軍曹 洒落にならない寒さだった。 凍てつくような空気はただでさえ剥き出しになった頬を突き、吐息は真っ白に染め上がると言うのに、吹きつく風には雪が混じる。時折グローブに覆われた手で顔面に張り付いたそれを払い落とす が、一〇秒もすればあっという間にまた顔に白く冷たい粉が張り付きだす。この野郎、と悪態を吐き捨てるが、それで状況が変わるはずもないのがまた苛立ちを募らせた。 見上げれば、天高くそびえ立つ天山山脈。雪と氷に覆われた死の世界、生物が存在することを許されない場所。こんな場所に、テロリストたちは基地を作ったと言うのか。補給の問題はどうしてい るのだろうと、任務に関係のない雑念が沸いて出てしまう。 「ローチ、頑張れ。ほら、もう少しで休憩地点だぞ」 だと言うのに、だ。こちらは昇るだけでいっぱいいっぱいなのに、先を行く男はまったく疲れを見せなかった。それどころか、遅れがちになる部下を励ます余裕さえ見せた。 何者なのだろうと、必死に男の背中を追いかけていくうちに、ローチの胸で――妙なコールサインをもらったものだ。"ローチ(鮭)"とは――疑問が沸く。出会った時からただならぬ雰囲気を持って いたのは理解できるし、おそらくは何度も死線を潜り抜けてきたベテランなのも分かる。 だが、それだけでは説明できない。この男には、言葉では説明できない、もっと別の"何か"がある。なんと言うか、まるで昔の自分を見ているかのような。だけど、男の背中は決して今の自分のよ うに疲れを見せることがない。この矛盾が、彼に説明できない理由を生み出していた。 ふと、男の右太ももに装着されていた拳銃用のホルスターに目が留まる。収められていたのは、M1911A1。自動拳銃の傑作であり、原型の初登場はすでに一〇〇年も前に及ぶ。威力に優れた、しかし 旧さは拭いきれない拳銃。USPやグロック、ベレッタM92など拳銃は他にも新しくていいものがあるだろうに、何故か男はあえてM1911A1を選んだ。 疑問の答えは浮かばず、そして沸いて出てくる疑問の数もまた尽きることなく。物思いにふけっていたローチは、そこでようやく男との距離が離れてしまっていることに気付いた。思わず、彼の名 前を口に出し、自身も歩みを速めることにする。 「待ってくださいよ、マクダヴィッシュ大尉」 Call of lyrical Modern Warfare 2 目次 次へ