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CoD MW2 雰囲気意訳wiki
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登録日:2011/03/11 Fri 01 44 53 更新日:2021/09/23 Thu 21 56 58 所要時間:約 5 分で読めます ▽タグ一覧 AC-130 COD CoD EMP MW2 やたら落ちるヘリ キルストリーク ペイブロウ 攻撃ヘリ 核兵器 核兵器=カップラーメン1個分 爆撃 自爆 アナウンス「UAV、スタンバイ。繰り返す。UAV、スタンバイ」 俺(うるせえなあ…) キルストリークとはCALL OF DUTYシリーズに登場する連続キルボーナスのことである。 どれだけ死なずに敵を殺せるかによって報酬が変わってくる。 ここでは『CALL OF DUTY MODERN WARFARE 2』に登場するキルストリーク報酬を紹介する。 【3キル】 ☆UAV UAV 無人偵察機を出現させる。 ミニマップに敵の位置を赤点で示すようになる。 序盤は有利かもしれない。 ちなみに『UNMANNED AERIAL VECHICLE』の略(別表記もある)。 【4キル】 ☆救援物資 CARE PACKAGE 空中マーカーで救援物資を要請する。 中には『緊急空中投下』、『戦術核』を除くキルストリーク報酬のいずれかが入っている。 もしくは弾薬(いらない)。 救援物資がポンポン跳ねて激突して死ぬときがある。 ヘリめ、狙っているのか。 ☆カウンターUAV COUNTER-UAV 無人偵察機により、敵のミニマップをジャミングさせる嫌がらせ兵器。 MW2では爆撃だらけなのでミニマップが見えないとスゴく辛い。 敵のUAV発動に合わせて使えば幸せになれる。 【5キル】 ☆自動機銃 SENTRY GUN 空中マーカーから自動機銃を要請する。 設置すると機銃が勝手に敵を蜂の巣にしちゃう優れもの。 設置者も被弾するので横切るのはよした方がいい…。 ちなみに撃ちまくると冷却のために一定時間撃たなくなる。 ☆プレデターミサイル PREDATOR MISSILE 空対地ミサイルをPC上から遠隔操作出来る。 一旦加速すると止まらないので、よく狙うべし。 自分、または敵の航空支援をも壊す。 だからなぜ自分もなのだ。 敵のプレデターミサイルがミニマップに表示されたら味方は散り散りになった方がいい。 密集してるとみんな吹き飛ぶ。 ちゅどーーーーーーーーーーん 自動機銃、プレデターミサイルはどちらも優秀なのでお好みで。 【6キル】 ☆精密爆撃 PRECISION AIRSTRIKE 空爆地点を指示し、指向性の爆撃を三機に渡って行う。 建物に当たると悲しいので、広いステージか、少なくともひらけた場所で使おう。 もちろん自爆あり。 どういうことなんだ。 【7キル】 ☆ハリアー攻撃 HARRIER STRIKE 爆撃地点を指示し、二機のハリアーがまず爆撃。 そのあと三機目はその場所にとどまって敵に攻撃する優秀支援。 さらに三機目は敵の航空支援をミサイルで撃墜までする。 精密爆撃を要請するならあと1キルがんばってハリアーを呼んだ方が効率はいいだろう。 まあよく撃墜されるが。 ☆攻撃ヘリ ATTACK HELICOPTER 敵を勝手に殺すヘリを呼ぶ。 ハリアーが嫌いらしく、見つけると撃墜しようとする。 ハリアー三機目の滞在時間よりは断然長いので、同じキルストリークとしては一長一短かもしれない。 やっぱりよく撃墜される。 【8キル】 ☆緊急空中投下 EMERGENCY AIRDROP 空中マーカーから救援物資を4つ要請する。 緊急になるのはその4つの取得であり、敵が群がる時もあって大変。 味方に分ける寛大さがあって初めて使えるキルストリークであろう。 救援物資に当たって死ぬ確率も上がる。 ちなみに『救援物資』と違って『EMP』は出ない。なぜだ。 【9キル】 ☆ペイブロウ PAVE LOW 『攻撃ヘリ』の上位互換で、攻撃も結構すごい。 ハリアーのミサイルにも耐えるので、多くのキルを見込めるだろう。 攻撃ヘリの立場がない。 ☆ステルス爆撃機 STEALTH BOMBER 指定した方向に向かって爆撃を浴びせる。 敵のミニマップに表示されないのが魅力であり、恐怖である。 ごぉぉああああああああああみたいな音はするので、そしたら覚悟しよう。 【11キル】 ☆AC-130 AC-130 ガンシップを操縦できる。 弾は25mmガトリング、40mm機関砲に105mm榴弾砲を装備していて、切り替えが可能。 上から一方的に狙えるため便利。 それぞれリロードが必要なので撃ち尽くしたら切り替えていくのが良いかもしれない。 敵の航空支援を簡単に撃墜出来るので気持ち良い。 「上空に敵のACー130!」は聞いていて飽きない ☆ヘリガンナー CHOPPER GUNNER ヘリに乗って機銃を操作できる。 弾も無限なのでバンバン撃ち込める。 ただAC-130と違って撃墜が簡単。 味方皆で銃を撃ち込めばすぐ墜ちます…。 【15キル】 ☆EMP EMP 『ELECTRO-MAGNETIC-PULSE』の略で電磁パルスのことである。 電磁パルスの発生により、敵の(そしてもちろん自分のも)航空支援を撃墜。 さらに光学照準、ミニマップ、クレイモア、とにかく電子機器を一定時間遮断する。 15キルまで来てこれかよとか言わないで。 いわゆる最大の嫌がらせ。 【25キル】 ☆戦術爆撃 TACTICAL NUKE 戦術核とも。 ロマン。 最大のキルストリーク報酬であり、最後の手段。 起動後10秒で核爆発が起きる。 アナウンス「戦術爆撃だああああああ」 敵、起動者、味方が全滅し(起動者キル扱い)、起動者のいるチームが勝利となる。 洒落にならないほどで、味方だろうが敵だろうがカウントダウンが始まると「は?(・◇・)」となる。 上手い人は三分程で獲得してしまうので、味方敵とも楽しめずに終わり、敬遠されがちである。 逆転勝利を狙えば清々しいのではあるが。 とにかくカウントダウン開始後は皆することがなくなるので銃乱射、ジャンピングなど奇行も見られる。 以上が『MODERN WARFARE2』におけるキルストリーク報酬である。 続編『BLACK OPS』に比べると派手で爆撃で爆発な報酬が多い。 上手い人に当たると対人よりも航空支援での死が多くなることもしばしば。 さすが現代戦といったところか。 三分程で戦術核を起こす強者もいるので視聴してみてはいかがだろうか。 アナウンス「戦術爆撃だああああああああ」 俺「カウントダウンの間なにしろっていうのだ」 追記・修正はタスクフォース141に入隊後お願いします。 △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/nato-base/pages/22.html
現在のクラン方針(MW2) チームデスマッチ 基本のルール みんなうまくなって回線悪くなければだいたい勝てる そろそろ縛りプレイで遊ぶ時期か ドミネーション 基本戦術はwiki参照 http //www15.atwiki.jp/modernwarfare2/pages/72.html 自動機銃がいい仕事をするのでオススメ 精密爆撃もおすすめ、敵に拠点を取られそうになったら、そこに爆撃することでマルチキルがけっこうできる。(特に地上戦の場合) 装備は旗とり装備と旗守り装備の最低2つ作るべし デモリッション オススメ戦術 1.戦術マーカーの活用 2.ハードラインを装備してUAV,C-UAV,セントリーガン連発 3.SMG,マラソン,ライトウェイ装備作っておけば死んでもすぐ防衛に戻れる 防衛時はケースバイケースだが、なるべく3 3で2つとも守ろう。 装備は攻めと守りで最低2つ作るべし サポタージュ 詳しいルールはこちらで http //www15.atwiki.jp/modernwarfare2/pages/37.html#id_acd60925 基本的にデモと同じ感じ。味方と一気に攻めないと結構きつい。 ヘッドクォーター・プロ 前作COD4の司令部と同じである。司令部が現れる場所は決まっているので次に現れる場所はある程度予想できる。よってキルストリークは「自動機銃」、「精密爆撃」などがおすすめ。また次の司令部が現れてから占領できるまで一定時間占領できないようになっている。 サーチ&デストロイ オススメ装備 1.FAMAS or M16A4(ホロサイト) 2.爆発物 3.忍者、サイレンサー 冷血は好み 守備時はクレイモアあると心強い(自分が死んでも残る) 装備は攻めと守りで最低2つ作るべし 守りのほうが圧倒的に有利なので守りを一個でも落とすとかなり痛い キルストリークはあまり高いものより低いもののほうがよい。 案外冷血がいらない(あまりUAVがあがらないので) 死んだ後のVCは相手にも聞こえるので注意。 キャプチャー・ザ・フラッグ チームをフォワードとディフェンスで分ける 自軍の旗下にクレイモア置いておくといい仕事をしてくれる ハードコア:チームデスマッチ 普段マップが表示されていないので、サイレンサーがいらない UAVがあがるといつもの左上のマップが表示される サードパーソン・チームズ・タクティカル 照準を合わせるのがかなり難しい。まったく別のゲームとおもったほうがよい。
https://w.atwiki.jp/ibok/pages/70.html
真の漢のみが集う戦場。 クラン名はibok。 クランメンバーはhoro・rabit・ponpon・g。
https://w.atwiki.jp/trinanoss/pages/196.html
――その日、街は平和だった。 「なぁ、シュガート。聞いたか?」 ひゅ、と軽い手つきでグローブ片手に白い球を投げる兵士は、キャッチボールの相手に向けて口を開く。 聞いたって、何さ。シュガートと呼ばれた相手は、無言でそう訴えた。返事と共に、ボールを投げる。パンッと爽やかとさえ言えそうな音が響き、質問の主のグローブに投げられたボールが収まっ た。空は夕焼けに染まりつつあり、日差しはそこまできつくない。サングラスを外した二人の今の服装もズボンこそ迷彩だが、上は緑のTシャツ一枚だった。二人は陸軍所属の軍人だったが、軽やか な服装、休日だからこそ許されているものだ。 キャッチボールの合間を縫うようにして、彼はシュガートに向けて話の続きを口にする。 「何でもよ、戦争になるかもしれねぇって話だ。相手はあのミッドチルダ――例の空港での虐殺事件、ニュースで見たろ。あれの犯人らしい遺体が、アメリカ人だったもんだから……」 「剣と魔法とドラゴンが攻めてくるって言うのか、ゴートンは」 口数の少ない相棒は、言葉を挟むようにしてようやく自分の意見を言った。ミッドチルダと言えば最近その存在が公になった時空管理局のお膝元で、ミッドチルダの意見はそのまま管理局の意見 になると言ってもよい。例えば彼らが地球のみんなと仲良くしようと言えばそうなるし、お前らなんて大嫌いだ、みんな死んでしまえとなれば管理局はそのために行動する。そのミッドチルダの民 間空港で、虐殺事件があった。犯人グループの一人が遺体で発見され、さらにアメリカ人であったものだから、今あちらの世論は火がついたように『アメリカ討つべし』となっている。 「しかし、本当に攻めて来るのかねぇ。俺が聞いた話じゃ、宇宙には管理局の侵攻に備えて人工衛星が常時監視してるって話じゃないか」 「奴さんたちは転送魔法とやらで、俺たちのすぐ隣にやって来ることも出来るらしいが、それだと大兵力を送るのは無理らしいからな。魔法の力にも限度はある」 合衆国と時空管理局は同盟を結んだが、少なくとも合衆国は腹の底から異世界の住人たちを信じた訳ではなかった。彼らがその気になれば次元航行艦で兵員を運び、いざとなったら地球に降下作 戦を実施できると分かってからは、特に宇宙空間への監視及び攻撃手段が整えられていった。複数の人工衛星が地球軌道上を監視し、不審な影あらば地上からミサイルが放たれる。守りは強固、こ れを打ち破りたければ管理局は相当な損害を覚悟せねばならない、と彼らは聞かされていた。もっとも、そうして降下してきた『魔法使い』たちには従来通りの火器兵器で挑まねばならない。新装 備の開発は――例えば、魔法による防壁を貫通させる新型銃弾など――うまく進んでいないようだった。 「まぁ、来ないだろう。もし来るなら、今頃とっくに衛星が連中を見つけてる」 「違いない――おっと」 ゴートンのグローブのすぐ上を、白い球が飛び越えていく。取り損ねた。収まるべきところに収まらなかったボールは頭上を通過し、地面を二回ほどバウンドして転がっていき、ようやく止まる。 やれやれ、まずったな。拾いに向かう彼の背中に、シュガートの声が届く。 「そんな調子じゃあ、魔法使いの連中は容易く侵入してくるぞ」 「まったくだ、気をつけないと」 ――二人は知る由もない。この時、自分たちの言葉がすでに現実になっていることに。 Call of lyrical Modern Warfare 2 第6話 Wolverines! / 東海岸、炎上す SIDE 米陸軍 第七五レンジャー連隊 四日目 時刻 1745 ヴァージニア州北東 ジェームズ・ラミレス上等兵 気付けたはずなのだ。何者であれ、合衆国本土に近付く者は高度な監視システムによって発見され、領空と領海、どちらにも足を踏み入れる前に撃退される。少なくとも司令部の間ではそういう 構想の元に現在の防衛計画は練られていたのだし、末端の兵士たちもそれを信じて訓練に従事してきた。 だけども、今目の前に広がっている光景は、そんな構想など完全に無視された状況だった。いったい誰が、想像しえただろうか。合衆国本土が、異邦人によって直接蹂躙されているなど。 天を覆う、SF映画に出てきそうな大量の空飛ぶ船。まるで宇宙船だ。その宇宙船から、白いパラシュートがいくつもいくつも降りてくる。輸送艦はそれこそSF映画のようなデザインであるのに、 やって来た異邦人たちは、肝心の降下作戦をずいぶんとアナログな――と言うより、地球の軍隊が行うそれとほとんど同じだ――方法で行っているのだ。着陸した後は、見境なく撃ちまくる。撃っ て来るのは銃弾ではなく、魔法の弾だけども。 ほんの少し前、偶然通信室に用事のあったラミレスは、はっきりと覚えている。最初はのん気な会話を続けていた司令部の様子が、一気に様変わりする様子を。 ――サンド・ブラボー。こちらNORAD(北アメリカ航空宇宙防衛司令部)だ。そちらの空域で一七〇の飛行物体が確認されている。 ――こちらサンド・ブラボー。冗談ならよしてくださいよ。いい天気です、異常なし。 ――もう一度確認してくれ。本当に何も映ってないか? ――上空はクリアですよ。そちらの誤表示では? ――確認しよう。ズール・エクスレイ6、そちらに映っている一〇〇の飛行物体はどうだ? ――こちらのレーダーには異常なし。太陽風の干渉かな、今日は黒点活動が激しいようですし。 ――シエラ・デルタ、あー、ACSに軽微の不具合がある模様だ。そちらから確認を……。 ――何だ、人が空から降ってきた!? ――確認しろ。 ――九五号線上空に人だ! 人が空を飛びながら何か撃って来てる! 大型の宇宙船らしきものも確認! ――待機しろ、最寄部隊と連絡を取る! ――こちら第七五レンジャー連隊第一大隊、ハンター2-1のフォーリー軍曹です。何事ですか? ――全基地へ通達。衛星監視網が無効化されている! SOSUS及びフェーズドアレイレーダーも機能していない! これは演習ではない! あり得るのだろうか。合衆国を護る監視網の全てが無力化。しかも、侵攻してきたのは異邦人。ミッドチルダ。時空管理局。同盟者。昨日までの友人。 軍用車両のハンビーの助手席で様々な思いを巡らせるラミレスの思考の片隅に、ふと帰ってこなかった男の顔が浮かぶ。アレン上等兵。学生時代からベースボールの先輩で、花形部隊とやらに引き 抜かれた。それっきり、連絡はない。極秘任務にでも就いているのか。いずれにせよ、今彼がこの場にいれば頼りがいがあっただろうに。彼に投げてもらうはずだった白いボールは、ロッカーの中 に入れたままにしている。 ――思考中断。兵士たちを乗せた車列は、住宅街に入った。すでにほとんどの民間人は逃げ出したはずだが、それでもなお敵の攻撃は止まらない。奴らは、街を占領する気などないのだ。ただ破壊 の限りを尽くし、恨みと憎しみを合衆国に叩きつけるだけ。そのためにやって来たのだ。 前を行くハンビーの銃座に就く兵士が、何かを見つけた。家屋の屋根に運悪く引っかかってしまった、敵の魔導師だった。パラシュートを使って降りてきたと言うことは、きっと飛行魔法などは使 えない類の者なのだろう――以前、管理局と合同で次元世界の治安維持に当たった時、ラミレスは幾らか彼らの武器装備などについてレクチャーを受けた――彼は、本当に運が悪かった。パラシュ ートの金具は絡まっており、ちょっとやそっとでは脱出できないでいた。 ハンビーの銃座に装備されていた機銃が、魔導師に向けられる。銃口を向けられたことに気付いたのか否か、彼は慌てだした。次の瞬間、銃声が唸る。機銃が放った赤い火線は容易く動けない目 標を捉え、容赦なく滅多撃ちにした。悲鳴が一つ上り、哀れな敵は沈黙。 「敵だ、降りろ!」 ハッと、正面に振り返る。分隊長のフォーリー軍曹の声が無ければ、反応は遅れていただろう。ラミレスが目撃したのは、竜だった。人間などよりはるかに巨大な、二階建ての家屋くらいはありそ うな紛れも無いモンスター。一瞬、脳が現実を認識しなくなる。俺は、誤ってRPGの世界に紛れ込んだりでもしたのだろうか。 だけども、それは間違いなく現実だった。前方にいたハンビーが、炎の塊を叩きつけられ、爆発炎上。衝撃と熱風が、これは夢ではないと言う事実を突きつける。ゲームやアニメのドラゴンと同 じように、目の前に現れた竜は、口から火炎弾を吐いたのだ。獰猛な眼、頑丈そうな皮膚と鱗、何もかも引き裂く爪。竜は雄叫びを上げた時、本能が認識した。こいつには、勝てない。逃げた方が いい。 ラミレスはハンビーから飛び降りた。彼だけでなく、ハンビーに乗っていた兵士全員が同じ行動を取り、逃げ出していた。ひとまずは敵の視界の外、住宅街の裏へ。駆け出す頃には竜が再び火炎 を吐き、彼らの乗っていた軍用車両を木っ端微塵に吹き飛ばす。幸い、逃げる歩兵まで相手する気はないらしい。燃え上がる二輌のハンビーを一瞥した後、竜は地面を揺らしながら歩き、住宅街の 奥地へと消えていく。 「オーヴァーロード、こちらハンター2-1。航空支援を求む」 「こちらオーヴァーロード、航空機はみんな出払っている。追加の地上部隊が向かっているが、激しい抵抗にあっている」 「了解――我々は敵の竜と遭遇し、車両を失った。現在徒歩で移動中」 「オーヴァーロード、了解。健闘を祈る、アウト」 部隊本部との通信を終えた分隊長の黒人、フォーリーは前進を指示。任務に忠実な彼は、あんな化け物と遭遇しても背を丸めたりしなかった。とは言っても、全員が彼のように勇敢で、かつ任務 に忠実で文句を言わないはずがない。分隊副官のダン伍長が、そういうタイプの兵士だった。 「軍曹、まさか本部は手前で何とかしろと?」 「その通りだ」 短い肯定に、くそ、とダンは漏らす。どの道、行くしかない。留まっているのは危険だ。すでに住宅街は全域が敵の攻撃対象だった。 分隊は、住宅街の裏、道なき道へを進む。敵には遭遇しなかったが、そこかしこに遺棄されたパラシュートが残っており、敵が間近にいるのは明らかだ。少なくとも、徒歩で会いに行けるくらい には近くにいるのだろう。 と、その時だ。前を行くフォーリーが、伏せろ、の指示。考える前に兵士たちはバッと身を伏せる。数瞬した後、50メートルも離れていない距離にあった正面の家屋が、突如として爆発。燃え盛 る破片がパラパラと伏せたラミレスの前に降り注ぎ、紅蓮の炎の向こうに、先ほど姿を消した竜の姿が垣間見える。奴らは、無差別に街を破壊しているのだ。竜は召喚魔法によって魔導師たちに使 役されているはずだが、コントロールする側が「自由に暴れろ」と命令すれば言われた通りに暴れ回る。 「あれに気付かれたら終わりだ」 分隊長に言われるまでもない。分厚い皮膚と鱗は、肉や魚のそれとは訳が違う。おそらくは歩兵の小火器では対抗は実質不可能に違いない。ここは黙ってやり過ごすのが適切だ。 分隊は進む。東の方向に見える黒煙が、彼らの目指す場所だ。そこに『ラプター』と呼ばれる政府要人が取り残されている。駆けつけた友軍部隊によって何とか一命は取り留めているが、今度はそ の友軍ごと包囲されてしまったと言うことだ。包囲網を破り、彼らを救出するのが今回の目的となる。 幸いにも、あの竜は裏通りをこそこそと進むネズミを見つけられないでいるらしい。手当たり次第に住宅街を、破壊の限りを尽くしながら進んでいく。B級映画でも今時お目にかかれない光景だ。 怪獣が、自分たちの故郷を破壊しながら進むなど、いったい何の冗談だろう。とは言えこれは現実だった。吹き付けてくる熱風、爆発音、時折降り落ちてくる瓦礫の欠片がそう言っている。 裏道が行き止まりに差し掛かった。ここから先はいよいよ、あの竜の前に出てやり合うことになるが――改めて、ラミレスは自分の装備を確認する。SCAR-Hと呼ばれる七.六二ミリ弾の小銃に、 拳銃のベレッタM92F、手榴弾、スモークグレネード。とても竜に真正面から立ち向かえる装備ではない。対戦車ミサイルのジャベリンは、ハンビーもろとも木っ端微塵になっていた。他の分隊員た ちも、装備は似たり寄ったりだ。 「ラミレス、スモークだ」 だからこそ、フォーリー軍曹は素直に竜の相手はしないと決めた。奴が同じ生き物であるならば、視覚に頼ってこちらを捕捉するのは当然だ。ならば、視界を煙幕で覆ってやればいい。分隊長の 指示通り、彼はピンを引き抜き、スモークグレネードを路上で依然として暴れ回る竜の足元に投げつけた。一発では足りないと思い、念のためもう一発投げる。 カァン、と金属音がアスファルトの地面の上で鳴った。竜は最初は無視していたが、突然足元をモクモクと白い煙が覆い始めてようやく、敵から何かをされているのだと気付いた。前に進む足を止 めて、警戒するように周囲を見渡す。だけども、その真下に視線は届かない。見えないのだ。今のうちだ、と竜の様子を見て取ったフォーリーが前進を指示し、分隊は煙のカーテンの中に突っ込む。 怪物が、彼らの進行に気付いた様子は最後までなかった。手近な路地を見つけて潜り込んだ分隊は、やがてスモークが鬱陶しくなってきたのかその場を離れる竜の背中を見送った。後ろから不意 討ちをかませば、とラミレスの心の片隅に馬鹿な発想が浮かび、彼はすぐに揉み消した。行き過ぎていった竜は、大地を力強く踏みしめながら再び破壊の暴君と化している。 細い路地は、幸運なことにまっすぐ進めば救助目標『ラプター』のすぐ近くに出ることが判明した。銃を構えて、兵士たちは前進。煙幕もさすがに届かない距離に至って、ラミレスは正面に蠢くも のを目撃する。 「コンタクト!」 敵だ。パラシュートで降下したばかりと思しき、敵の魔導師。金具が引っかかったのか、慌てて取り外そうと試みている――バッと彼は振り返る。手には空挺降下用に短縮された全長を持つ、魔法 の杖。それが何なのかを、ラミレスは知っていた。魔導師たちの多くは、攻撃する際は杖から弾丸を放つのだ。文字通りの、魔法の弾丸を。 だったら俺たちのは鉛の弾丸だ。SCAR-Hの銃口を跳ね上げ、照準、引き金を引く。タンタンッと七.六二ミリ弾特有の高い銃声が鳴り響き、あっと魔導師は悲鳴を上げて倒れる。投げ出された杖から は、魔法の弾丸が放たれることはない。 とは言え、敵がここにいると言うことは――ラミレスの予感は的中する。銃声を聞きつけ、すでに着地し展開していた魔導師たちがワラワラと分隊の元に集まり始めた。どうやら、敵の主力とまと もにぶつかることになったらしい。 「突破するぞ。ダン、撃ちまくれ!」 「合点承知!」 銃弾と銃弾の交差。ただし、こちらが放つのは金属製だ。あちらは魔法。しかも、厄介なことに奴らは『魔法使い』であるということだ。放った銃弾は、正面に立つ防御魔法担当の魔導師たちが 光の壁で弾き返し、その後方から攻撃を担当する魔導師たちが杖を突き出し、射撃魔法を行使してくる。空を飛べるものはいないようだが、それはこちらも同じことだ。何より、こっちは魔法など 使えない。弾から身を庇うには遮蔽物に隠れるか、必死に当たらないよう祈るくらいしかない。 フルオートで、ラミレスは銃弾をぶっ放す。威力の高い七.六二ミリ弾を毎分約六〇〇発の速度で、三〇発のマガジンが空になるほどに叩き込む。放った攻撃の意思は、しかし防御魔法に阻まれ、赤 い火花を散らすのみ。こん畜生、と悪態を吐き捨てガソリンスタンドの陰に身を寄せるが、敵の弾丸は否応無しに殺到し来る。建物の壁がえぐれ、舞い散る粉塵が灰色の迷彩服を汚す。う、と悲鳴が 聞こえて視線を飛ばせば、同じ分隊の若い一等兵がひっくり返っていた。弾の雨の中を掻い潜って首根っこを掴んで引きずり寄せるが、撃たれた一等兵の瞳にすでに光はなかった。 くそが、と呟く。死んだ一等兵の無念を晴らすべく、彼は遺体から手榴弾を二つ頂戴した。軍曹、と向かいの建物に身を寄せるフォーリーに声をかけ、掴んだ爆発物を見せる。アイ・コンタクト、 意思はすぐに伝わった。ピンを抜き、一、二、三とカウントして、陰から手榴弾を投げる。敵の姿は見えなかったが、地面を一度バウンドしてから転がっていく手榴弾は、うまい具合に魔導師たちの 足元にまで辿り着いた――直後、爆発。衝撃と爆風が敵に襲い掛かり、魔法の壁を食い破らんと牙を突き立てる。無論、それだけでは彼らの防御網を破ることは出来なかっただろう。しかし、魔導師 たちが突然の爆風に驚き、それを防いだことで一瞬でも気を緩めたとしたら。答えはすぐに出た。炎と黒煙が収まった直後、すぐに二個目の手榴弾がカラカラと転がりながら、魔導師たちの目前に 迫る。 ドンッと、市街地に爆発音が鳴り響いた。魔法の壁は、ついに破られた。古代ギリシャの兵士たちのように隊列を組んでいた魔導師たちの一列目の隊形が乱れて、綻びを生んだ。そこに、質量兵器 の雨が浴びせかけられる。バッと飛び出した第七五レンジャー連隊は、一斉に逆襲を仕掛けたのだ。唸る銃声、弾け飛ぶ薬莢。バタバタと薙ぎ倒されていく魔法使い。一列目の防御魔法に依存してい た攻撃魔法担当の魔導師たちはただちに反撃するが、前にいる味方が邪魔であまり撃てない。そこに突け入る隙が生じ、分隊は一気に距離を詰める。 「ラミレス、来い。奴らに白兵戦を教えてやるぞ!」 「りょうか――な、ちょっと、ダン伍長!?」 鬱憤が溜まっていたのかは定かではない。が、分隊副官のダン伍長は銃を撃ちまくりながら一人先に出て突撃を敢行。戸惑いながらも追いかけるラミレスが彼に追いつく頃には、文字通りの殴り合い の距離にまで肉薄していた。銃床で相手の顎を粉砕し、蹴りで容赦なく吹き飛ばす。魔導師たちも抵抗の構えは見せるが、この距離ならば得意の魔法も詠唱が間に合わない。零距離での銃撃や格闘 の方が、ずっと速いのだ。この場に魔導師で言うところのベルカ式の者がいれば、そうもいかなかったかもしれないが――。 最後の一人に銃弾を撃ち込み、制圧完了。残りは散り散りになって逃げるかどうかしたようだが、彼らにとっては衝撃的だったことだろう。まさか、地球の軍隊が殴り合いを挑んでくるとは。 「人の家に土足で上がってきたんだ、礼儀を教えてやらんとな」 とは言え、ダンの眼は明らかに燃えていた。復讐の炎だ。ラミレスには、彼の気持ちが分からないでもなかった。 誰だって、自分たちの土地をよそ者に好き放題されれば、復讐の念の一つや二つは持つのだから。 住宅街を抜けた先には、レストランやファーストフード店が並ぶ。人々の暮らし、人々の営みが築かれる街だ。普段はのどかで、休日となれば楽しそうな笑い声でも響いてそうな街並み。しかし、 現在街で響くのはそういった平和なものではない。銃声、怒号、爆音。この三つで事足りる。悲鳴は聞こえなかった。死する者たちの最期の叫びは、全て掻き消されてしまっている。 救助目標『ラプター』は、輸送ヘリで飛行中に運悪く管理局の侵攻部隊に襲われた。護衛もなく、まともな防御火器もないヘリはなすすべ無く被弾したが、パイロットは決して無能ではなかった。 機体を最後まで制御し、何とか住宅街への墜落を防ぎ、大通りに不時着させた。機体と彼はバラバラになってしまったが、積荷である『ラプター』はかろうじて生還し、急行した陸軍部隊に保護され た。これから生還できるかは、第七五レンジャー連隊の手際にかかっている。 「あそこだ、あのレストランに目標がいる」 フォーリー軍曹が自ら先頭に立って、大通りに面したレストランを指差して分隊に前進を指示。眼を凝らさずとも、レストランの窓や扉からは発砲炎と思しき光と銃声が確認出来る。おそらく、先 に到着した友軍が戦っているのだ。火線が伸びる先には、建物の陰から反撃するようにして光の弾丸がレストラン目掛けて放たれている。これはいよいよ、友軍は救助目標を抱えたまま包囲されつつ あると見た方がいいだろう。 敵の攻撃の合間を縫うようにして、分隊はレストランに辿り着いた。屋内に入る直前、「スター!」と合言葉を言うのを忘れずに。合言葉は「テキサス!」と返ってきて、疲れきった様子の上等兵 がラミレスたちを迎えた。ここに、彼より階級が上の人間はもういないのだ。 「状況を報告しろ、『ラプター』はどこだ?」 「厨房の奥、冷凍室に……あそこなら、弾は通らんかと」 「容態は?」 「不明です。衛生兵がやられちまって」 チッと短く舌打ちしたフォーリーは、ダン伍長を呼んだ。分隊副官は衛生兵ではないが、多少なりとも医学の心得を学んでいた。呼び出されたダンは事情を理解し、ただちに厨房の奥へと駆け足で 向かっていった。 「他に何かないか」 「屋上に空軍の連中がばら撒いていった、補給物資があります。けど、人数が足りなくて」 「ラミレス、屋上に上がって確認して来い!」 了解、とラミレスは短く返答し、梯子を昇ってレストランの屋上へ。高いところだけあって、周囲の状況がよく見えた。破壊されていく街、我が故郷アメリカ、炎上する東海岸。くそ、くそ、くそ。 くそみたいな状況だ。怒りをぐっと堪え、彼は数人の戦友たちと共に上等兵の言う補給物資を確認する。屋上に転がるコンテナ、詰め込まれていたのは各種弾薬からM14EBR狙撃銃、医薬品、食料、そ れからM-5セントリーガン――セントリーガン(無人機銃)だって? 思わぬ珍兵器の登場に、一瞬表情があっけに取られたものになる。だが、こいつはありがたい。数的不利を、少しでも埋めてくれる 上に、セントリーガンは弾幕に晒されても恐怖を感じることは無い。まさしく無人化された銃座なのだ。 戦友たちと共に、ラミレスはこの無人機銃を担いで屋上の端、北側にセットした。スイッチをオン、たちまちターゲットを自動で捕捉するセントリーガンは首を傾け、レストランに接近を図る管理 局の魔導師たちに容赦ない銃撃を浴びせていく。一人を撃ち倒せば次の一人、さらに一人と文字通り機械的な作業。無人化すべきだな、とラミレスは思わず兵士という自己の存在すら否定しかけた。 だけども、機械は全てにおいて万能ではない。設計された当初の構想に入っていないものには、極端に弱い。だから、どこからとも無く飛び込んできた魔力弾が、セントリーガンの首を貫き機能停止 に追い込んだ瞬間、さっきまで猛獣のように唸り猛っていた銃口が即座に沈黙した。あれ、と思った時にはさらに追加の魔力弾が屋上に浴びせられ、あっと短い悲鳴を上げて味方が一人撃ち倒された。 なんだ、どうなってるんだ――魔力弾が飛んできた方向に眼をやる。敵影は見えない。しかし、パッと何かが光ったと思った次の瞬間、屋上の縁の一部が砕かれ、コンクリートの粉が舞い散った。 畜生、と身を乗り出すことなくSCAR-Hの銃口だけを大地に向けて、引き金を引く。グリップはしっかり握っていたが、それだけで七.六二ミリ弾の反動は抑えられなかった。いくつも鳴り響く銃声に 自分のそれが加わり、反動で暴れる銃口から発砲炎が上がる。照準も何も無い滅茶苦茶な銃撃だったが、効果はあったのだろうか――お返しの激しい魔力弾の雨が、屋上に向けて浴びせかけられる。 たまらず身をすくめる分隊員たちは、恐怖した。敵が、どこにいるのか分からない。その上で、敵はこちらの位置をほぼ正確に掴んでいる様子だ。とてもイーブンとは言い難い状況。 「そうだ、狙撃銃」 咄嗟に、ラミレスは屋上のコンテナの中にM14EBRがあるのを思い出した。狙撃スコープで探せば、敵の位置が分かるかもしれない。匍匐前進でコンテナに辿り着き、M14EBRとマガジン、弾を引っ張 り出して装填、銃に命の息吹を吹き込む。再び匍匐前進で屋上の端にまで辿り着き、思い切って身を乗り出す。両手にずしりと来る頼もしさ、M14EBRを構えてラミレスは狙撃スコープを覗き込む。 「ラミレス、危ないぞ。撃たれちまう」 「隠れてたって同じことだ、アレン先輩ならこうしてる」 戦友が危険だと言って下がらせようとしたが、彼は無視した。その時、狙撃スコープを覗いて初めて気付く。このスコープは、赤外線スコープだ。白黒の映像の中、熱を持つものをしっかり映し出す。 危険を冒して索敵を行うラミレスに、果たして神が微笑んだのか否か。大通りの中を、堂々と敵の魔導師らしい白い影が隠れようともせずこちらに近付いてくる。それに、狙撃銃を使わずとも狙える 距離だ。何だあいつは、とスコープから右目を外し、肉眼で目標を見ようとする――見えない? そんなはずは、と再びスコープを覗くが、やはり白い影はそこにいる。一人ではない、ざっと数えて 一ダースほど。一個分隊だ。隠れもしないで堂々と。だが、肉眼では見えない。 「そうか、そういうことか。おいみんな、敵の姿が見えない理由が分かったぞ。あいつら"プレデター"みたいになってんだ」 「プレデター? 無人機がどうした」 「馬鹿、映画のやつだよ。透明になれる怪物が人間を襲うってシュワルツ・ネッガーのあれ!」 何だって、と信じられないような顔をする戦友たちだったが、実際に夜戦用の赤外線ゴーグルなどで確認してからはなるほど、と納得してみせた。 映画『プレデター』に登場する宇宙怪物プレデターは光学迷彩によって透明化し、次々と屈強な兵士たちを惨殺していく。まさか管理局の奴らが怪しげな魔法でプレデターを召喚したとは思えないか ら、この場合、きっと彼らは光学迷彩的な魔法を使っているに違いない。セントリーガンでも、透明になった魔導師たちは見つけられなかった。とは言え、正体が分かれば怖いものではない。 M14EBRを構えなおし、まさか見られているとは思いもしていない様子の透明魔導師をラミレスは狙う。赤外線機能付きの狙撃スコープは、彼らの魔法を白い影にして見事見抜いていた。照準よし、 引き金を引く。パンッと乾いた銃声と肩に来る反動、スコープの向こうでひっくり返る敵の影。何事かと魔導師たちは動きを止めて、それが墓穴を掘ることになった。浴びせられる銃弾、戦友たちの 放つ攻撃がバタバタと透明人間たちを撃ち抜いていく。最後の一人を撃ち倒して、ラミレスは隣にいた戦友の一人と拳を合わせて勝利のグータッチ。 「やったぜベイビー、俺たちの勝ちだな」 「ざまあみろ、魔法使いめ。地球舐めんな!」 「何人でも来いよ、相手してやるぜ」 戦友たちは、勝利を分かち合う。ラミレス自身も、喜んでいた。この場にアレンがいてくれたら、もっと喜ばしかったことだろう。 ――しかし、勝利の美酒を味わうには、彼らはまだ早いと言うことを思い知らされる。 「ハンター2-1から各員、ただちに逃げろ! あの竜が来やがった!」 フォーリー軍曹の叫びが、通信機に飛び込む。片方の耳に突っ込んだイヤホンが、警告で鼓膜を揺らす。振り返れば、大通りを侵攻する巨大な影がいた。 赤い鱗、一〇メートルは超えようかと言う巨体、獰猛な眼、鋭い爪。竜、龍、ドラゴン。ゲームの中でしか見たことの無い、最悪の怪物が、姿を見せていた。 喜びが、即座に絶望へと変わる。竜の視線は、レストランの屋上に向けられていたのだ――すなわち、ラミレスたちの方へ。まずい、と本能が知らせる。何も確証は無かった。しかし、結果としてそ の考えは当たりだった。駆け出し、梯子も使わず屋上から飛び降りた。直後、竜の口から狙いすました火の玉が放たれる。 衝撃、爆音、炎。意識の途絶える寸前、彼の五感が見て聞いて感じたのは、この三つだった。 ――ラミレス! 起きろ、ラミレス! 頭の中で、誰かが自分を呼んでいる。幻聴か、しかしそう判断することは出来ない。そのくらい、彼の思考はまだ目覚めたばかりだった――目覚めた? 俺は死んだんじゃないのか。疑問が湧いて、 そこでようやく、彼は覚醒する。燃え盛るレストラン、敷地内にあった草地に横たわる自分、誰かの叫び声。死んでいない。俺は、まだ生きている。 「ラミレス! 生きているなら返事しろ!」 ハッと、我に返った。暑い。燃えるレストランのすぐ傍にいるのだから、当然だ。炎が間近に迫っているのを見て、身体を起こす。痛い、落ちたのだから当たり前だ。それでも焼け死ぬよりはマシだ と自分に言い聞かせて、兵士は立ち上がる。今の声は、通信機に飛び込んできた電波に乗ったものだ。おそらく、フォーリー軍曹のものに違いない。 「はい――こちらラミレス」 「無事か! すぐにそこを離れろ、向かい側のハンバーガー屋に来い! いいか、走れ! 竜がすぐそこにいる!」 竜――竜。そうだ、レストランの屋上にいたらあの竜が火の玉を吐いたんだ。直前で飛び降りたから助かったものの、気を失って倒れていたのだ。どれほどの間意識を消失していたのか定かではない が、おそらくそう長くはあるまい。現に、背後で身の毛もよだつほどに恐怖を感じさせる咆哮が上がっていた。一瞬だけ、振り返る。あの竜だ。管理局が召喚魔法か何かで送り込んできた化け物。歩 兵が一人で相手出来るようなものではない。分隊長は走れ、と言っていたけども、あんなものを見たら嫌でも走って逃げるしかない。 ラミレスは、駆け出す。草を踏みしめ、レストランの柵を乗り越え、アスファルトの地面に着地。そこからは一切振り返らずに、まっすぐ走った。言われた通りの、大通りの向かい側にあったハン バーガー屋だ。ブーツが鉛のように重い。一歩を踏みしめる度に、高いところから落ちたダメージが回復しきっていない身体が悲鳴を上げる。それでも走る。生命の危険が、彼の身体を前へ前へと押 し出していた。 ドンッと、何メートルか後ろで爆風と衝撃があった。運が悪いことに、竜は必死に逃げる哀れな兵士に狙いを定めたのだ。一撃目が外れたのは不幸中の幸いか、それとも奇跡か。二撃目の火の玉が また背後で着弾。火の粉が舞い散りアスファルトの大地を焼く。うわぁああ、と情けない悲鳴が口から出てしまう。 三撃目が来る――そう思った瞬間、再び衝撃と爆音があった。しかし、ラミレスは違和感を覚える。着弾地点が、えらく遠いような気がした。走る足を止めずに振り返って、結局足を止めてしまう。 竜が、恐ろしい咆哮ではなく、明らかに甲高い悲鳴を上げていた。鱗の一部が完全に吹き飛んでおり、剥き出しになった肉を庇うようにして動きを止めていた。その竜の背中に、煙と雲が入り混じっ た夕方の空から何かが降り注ぐ。ラミレスには、天から剣が降ってきたようにも見えた。もっとも、剣は突き刺さった瞬間爆発などしないのだが。轟音が鳴り響き、怪物が悲痛な叫びを上げた。舞い 散る赤いものは鱗なのか血なのか、ここからでは検討もつかない。トドメのもう一撃が降ってきて、ようやく彼は自分を救った天空からの剣の正体を知った。対地ミサイル、AGM-114ヘルファイアだ。 ミサイルを浴びた竜は、最期に断末魔とも呼べないような小さな声で鳴き、そして倒れた。あれほど暴虐の限りを尽くしていた怪物の、あまりにあっけない最期だった。呆然とするラミレスの肩を 誰かが叩いて、ハッと振り返る。黒人兵士、フォーリーだった。手には、何かの遠隔操作端末のようなものを持っている。 「よし、生きてるな。お前がまっすぐ走ったおかげであの竜は動きを止めた。おかげで狙いやすかった」 「……あの、軍曹、それは」 「無人偵察機のプレデター、その操作端末だ。あの上等兵に竜に対抗できる武器はないかと聞いたらこれがあると。部隊が散り散りになったせいで、どこに行ったか分からなかったそうだが」 「それって、俺を囮にしたってことですか?」 フォーリーは、答えない。ポンポン、と労わるように肩を叩いて行ってしまった。その行動が、彼の答えなのだと知った時、ラミレスは思わずため息を吐いた。何だよ、要は囮に使ったんじゃないか。 とは言っても、あのままでは竜に踏み潰されるか燃やされるかのどちらかだっただろう。その事実を知っているだけに、余計に彼のため息は深いものになった。 「ダン、『ラプター』はどうだ?」 「生きてますよ。隣にあったスシ・バーに移動させましたから――お迎えが来たようですぜ」 どうやら、この地での任務はひとまず終わりらしい。遅れてやってきたハンビーと装甲車からなる車両部隊が大通りに現れ、スーツを着た『ラプター』と一緒にに第七五レンジャー連隊の回収にや って来た。兵士たちはハンビーに乗り込み、弾の補給と装備の受け取り、そしてわずかばかりの休息を受けた後、再び戦場へ向かう。 「分隊各員、まだ民間人が二〇〇〇人取り残されている地域がある。家族がそこに含まれている奴はツイてるぞ、俺たちが直接助けるんだからな!」 民間人――他ならぬアメリカ国民。彼ら彼女らは誰かの家族であり、そして誰かの友人であり、誰かの恋人でもあった。彼らはみんな、戦場に取り残されている。 今や、合衆国本土が『戦場』なのだ。 戻る 次へ
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Call of lyrical Modern Warfare 2 第18話 Paratrooper / "救出作戦" SIDE Task Force141 七日目 0831 グルジア・ロシア国境付近 ゲイリー・"ローチ"・サンダーソン軍曹 カチ、カチと通信機のスイッチを音を鳴らしてオンとオフを繰り返す。森に潜む身としてはそんな些細な音でさえ隠してしまいたいところだが、ローチにとってはそれが唯一の希望でもあった。孤立無援、追われる身とあっては例えほんの一筋であっても、希望の光に手を伸ばすことが生きることに繋がっていたからだ。 かすかに、朝を迎えてまだ数時間も経っていない深い森の中で、人の気配を感じた。登っていた木から飛び降り、着地の音に顔をしかめながらも衝撃を受け止め、茂みに身を隠す。こちらの武器はアサルトライフルのACRの他は持っていない。森に逃げ込むまでの逃避行で、いくつかの装備はすでに無くしてしまっていた。感じた気配が敵であるなら、今はひたすら隠れてやり過ごすしかない。ACRにしても残弾は心細い領域に至っていた。 どうか敵ではありませんように――祈るような気持ちで茂みに伏せていて、ローチはふと仮に敵が来たのならどっちの"敵"なのだろうと考えた。もはや敵は、マカロフ率いる超国家主義者たちだけではない。ゴーストを撃ち、ティーダや他のTask Force141隊員を焼いたシェパード将軍とその私兵も敵だった。 自分たちの司令官であった男が何故こちらを追ってくるのかは分からない。しかし敵は、間違いなく焼いた遺体を律儀にも数えていた。その数が合わないと見るや、黒尽くめの兵士たちが連なって生き残りを探しにやって来た。生き残りとはすなわち、ローチ自身だ。 くそ、冗談じゃないぞ。胸のうちで悪態を吐き捨てて、彼は銃のグリップを握り締めた。訳も分からないまま、殺されてたまるか。チェストリグのポーチに詰め込んだ手帳は、戦友の形見だ。こいつを渡すべき人が、俺にはいるんだ。 茂みの中から視線を張り巡らせて、ついに気配の正体が分かった。分かった瞬間、ローチは息を吐いて心の底から安堵した。人の気配だと思っていたのは、実際にはクマだった。とりあえず敵ではない。しかもクマはこちらに気付いた様子もなく、鼻を鳴らしてのっしのっしとその巨体を進めていた。まるで森の主だった。 森の主である野獣は、最後までローチには眼もくれなかった。彼が通信機のアンテナを伸ばして登っていた木を不思議そうに見た後、再びのっしのっしと歩いて何処かへと去って行った。向かってきたら銃で応戦するほか無かったが、クマは気付かなかったのか、それとも無視したのか、とにかくどこかに行った。案外、ローチが隠れているのは知っていたけども見逃してやったのかもしれない。 「すいませんね、クマさん。もうちょっとあんたの森にお世話になるよ」 茂みの中から立ち上がり、ローチは再び木に登った。通信機のスイッチを弄り、周波数をずらしてまたオンとオフを繰り返す。モールス信号のように間隔を置いたり置かなかったりの電源のオンとオフは、まさしくモールス信号だった。ジッパー・コマンドと言って通信機のスイッチオンとオフを繰り返した時の音で「了解」の意を伝える行為を応用し、彼はSOSを発信していたのだ。アフガニスタンにまで届くよう、道中で見つけた敵の――この場合は超国家主義者だ――遺体から通信機を剥ぎ取り、バッテリーを抜き取って出力を上げた。もしもマクダヴィッシュ大尉やプライスが生きているなら、この信号を拾ってくれるはずだ。あえてモールス信号にしたのは、直接音声でやり取りすれば敵に傍受されて自分の生存がすぐバレてしまうからだ。いずれにしてもこれがSOSを示すモールス信号であることは分かってしまうだろうが、こちらの生存に気付かれるのを遅らせることは出来る。 とはいえ、アフガニスタンに向かったマクダヴィッシュ大尉たちの部隊がどれほど生き残っているかはローチにも分からなかった。この信号に気付いたとしても、救援が来るとは限らない。おそらくは彼らも同じように、シェパードの私兵に攻撃されているのは分かっていた。それでも、と万に一つの可能性に彼は賭けたのだ。 万に一つ――その可能性は、現実のものとなる。 SIDE 時空管理局 機動六課準備室 七日目 0832 グルジア・ロシア国境付近 ポール・ジャクソン 元米海兵隊曹長 酸素マスクと一体になったヘルメットで頭部を覆っていても、唸り声を上げる風の音は聞こえてきた。風圧から眼を保護するためにバイザーを下ろしていたジャクソンは、視界いっぱいに広がる大地をずっと眺め続けている。 時間が経つに連れて、大地に立つ木々や流れる川、聳え立つ山の表面が少しずつ明確なものになっていく。時折右腕に装着した高度計に眼をやって、予定高度にまで降下するのを待つ。 彼は降下していた。地球の重力に引かれ、真っ逆さまに大地に向かっていたのだ。時速は二〇〇キロを超えており、このまま行けばジャクソンは地面に激突して潰れてしまう。無論そうならないための装備は備えており、彼の他に同じく降下する二人の仲間も同様の状況にあるのだが、常人であれば少なからず恐怖を覚えることだろう。しかし、降下していく兵士に動揺の様子は見られない。冷静に高度を見極め、大地をまっすぐ見据える姿はまさしくプロフェッショナルだった。 いいや、そうじゃない――ジャクソンは脳裏によぎった思考を否定する。怖いさ、怖くてたまらない。誰だってそうだ。俺は特別じゃない。ただの兵隊、やろうと思ったことをやってるだけだ。 「開傘まで残り三〇秒。準備はいいか」 通信機と繋がったマイクに向けて、声を発する。二人の味方からは間髪入れずに「問題無し」「いつでもいいぜ」と返答があった。頼もしい仲間、しかしこれから向かう先は"敵地"だ。いかに優秀といえど、たった三人の兵士が立ち向かうのは無謀過ぎる。それも作戦のうちなのだが。 高度計に目をやる。安全に降下出来る高度まで、残り一〇秒を切った。ジャクソンは腰にあるフックを掴み、酸素マスクの内で声に出して残り時間をカウント。 「五、四、三、二、一、今!」 フックを引く。途端に、迷彩色が施されたパラシュートが背中に背負うパックよりスルスルと伸び、勢いよく開いた。グッと身体を引っ張られるような衝撃を感じた後、風のうなり声が弱まるのを確認した。眼下に迫る木々や川といった風景も、明らかにゆっくりと流れていく。降下速度は大きく落ちた。これなら安全に着地出来る。 上を見上げてパラシュートの展開を目視して、それからジャクソンは周囲を見渡した。同じように、開かれたパラシュートが左右に一つずつ、合計二つ見える。仲間たちも問題なく降下出来るようだった。 木々に串刺しになったりしないよう、適当な着陸地点を探す。右下の斜面に適度な空き地を見つけた。本当は平地が望ましいが、贅沢は言っていられない。指で味方に着陸地点を指示し、パラシュートを巧みに操って降下していく。 慎重に操作した甲斐あって、着陸は難なくこなせた。地面に足が接地し、捻挫しないようあえてジャクソンは崩れるようにして転んだ。ドシンッと着地の衝撃はあったもの、身体に異常は感じない。巻きついたパラシュートを手早く外し、見つからないよう素早く手元に手繰り寄せる。 一通りの撤収が済んだ後、ヘルメットを脱ぎ捨てた彼は腰の後ろに回していたM4A1カービン銃を構えた。フォアグリップとダットサイト以外は装備していない、いたって平凡なもの。 周辺を警戒してみたが、どうやら敵はいないらしい。その間にも二人の味方が彼のすぐ傍に降下してきて、同じように着陸してパラシュートを手早く畳んでいる。それが済むと、二人は銃を手にしてジャクソンの下に集まった。 「どうやら上手く敵の目は欺けたようだな」 G36Cを持つ白人のこの男はギャズと言う。イギリスSAS出身の精鋭だ。 「らしいな。不可視の魔法をかけると言われた時は怪しいと思ったが」 M249機関銃を持つ黒人男性はグリッグ。ジャクソンと同じく、米海兵隊出身だ。 グリッグの言う不可視の魔法と言うのは、降下作戦前に彼らの仲間がかけてくれた文字通り魔法のことだ。発見される可能性の低いHALO降下を選んだが、それだけでは不完全と睨んだ彼らの指揮官が提案した。降下中は仲間内にしか見えなくなるものだと言われ半信半疑だったが、ここに至るまで"敵地"であるはずの大地に何も動きが見られなかったのを見るに、機能を果たしたのだろう。 「俺はまたお前だけはぐれて余計な一手間があると予想していたぞ」 「よせやい、人のトラウマほじくり返すんじゃねぇ」 ジャクソンに言われ、グリッグは露骨に顔をしかめた。降下作戦で、この黒人兵士はいい思い出がない。今回は上手く行っただけに、なおのこと過去のことは触れて欲しくないに違いなかった。 「それで、例のローチとかいうのはどこにいるんだ」 じゃれ合いに興味のないイギリス人が淡々と任務に関わることを口にして、二人のアメリカ人は顔を見合わせ黙った。 「敵がまだそいつを探してるってことは見つかってないんだろうが、こっちにも分からないとなれば…」 「だから、敵を利用するんだ。この先に超国家主義者たちが使っていた拠点がある。今はシェパードの私兵部隊がそっくりそのまま使ってる」 チェストリグのポーチから地図を広げて、ジャクソンはギャズに見せ付けた。赤い印をつけているところが、まずは目指すべきシェパード私兵部隊の拠点だ。 「"アースラ"からの上空偵察では、敵は一度捜索を終えると必ずこの拠点に戻っている。たぶん捜索記録か何かあるはずだ」 「ずいぶん詳しいな、ジャクソン」 「敵も元米軍だろうからな」 なるほど、とギャズは納得し、立ち上がった。ジャクソンとグリッグも合わせる。三人は銃を構え、一列縦隊で歩き始めた。目指す拠点まで、約五キロの道のりだった。 地上でも不可視の魔法の効果が続いてくれればよかったのだが、そう都合よく物事が進むものでもない。ジャクソンたちは息を殺して山を下り、目的地へと向かっていた。 途中、何度か黒尽くめの兵士の部隊と遭遇しそうになり、その度に彼らは木陰や草むらに身を寄せ、やり過ごしていた。絶対的な戦闘能力では機動六課準備室の魔導師たちの方が圧倒的に上だが、彼ら兵士は目立たないというのが最大の利点だった。実際、白やら赤やら目立つ色をしたバリアジャケットや騎士甲冑では発見されていたかもしれない。不可視魔法は案外長続きせず、魔力も案外消費が激しいため、隠密任務という点ではジャクソンたちの方がずっと適任なのだ。 時間をかけて目的地であるシェパードたち私兵部隊の拠点、山中にぽつりと建てられたロッジに辿り着いた頃には昼近くなっていた。草むらに潜むジャクソンは敵が先にローチを発見してしまうことを恐れたが、どうやらその様子はない。ロッジの周囲に立つ黒尽くめの兵士たちに、撤収や警戒を敷いている気配を感じられなかったからだ。 「奴ら、緊張感が足りないようだぜ。タバコ吸ってる奴もいる」 「もうここらに敵はいないと思ってるんだろう。ギャズ、いつものだ。頼む」 隣にグリッグを残して、ジャクソンはギャズにロッジの裏に回るよう頼んだ。元SASの彼は同時に機械の扱いにも手馴れており、小細工が得意だった。 ギャズが傍を離れてからも双眼鏡でロッジの様子を確認する。派手な銃撃戦をやらかした後らしく、ロッジの壁は銃弾の痕が蜂の巣のように生々しく残っていて、窓ガラスも割れたままだ。入り口はいくつかあるようだが、正面玄関には大破した軍用車両が放置されている。おそらくは超国家主義者のものだろう。 肩を叩かれて、ジャクソンは振り返る。グリッグが「あれを見ろ」と指で方向を示していた。正面玄関から左側、長い斜面を下った先だ。何かが燃えているらしく、黒い煙が上がっていた。 双眼鏡で煙の元を見たジャクソンは、露骨に顔をしかめた。燃えているのは人だ。黒尽くめの兵士たちが、死体に油をかけて燃やしていた。すでに黒焦げになったものの上に、新しい死体を積み重ねている。その最中に、かろうじて焼け残った部隊章を見つけた。人間の頭蓋骨に剣と翼を彩った部隊章。Task Force141のものだ。シェパードは自分の部下を裏切るばかりか、ゴミでも焼くようにしている。そう思うと、腸が煮えくり返る思いだった。 「ギャズ、配置に就いた。いけるぞ」 双眼鏡から眼を離し、通信を聞いたジャクソンは突入準備に入る。この怒りはまずロッジにいる敵兵たちに受けてもらおう。 サイレンサー装備のM4A1を持ち出すと、グリッグも準備OKと合図してきた。ギャズに突入用意よしと伝え、戦闘開始。 ロッジの裏から、何かが飛び出してきた。正面玄関の大破した車両とは対照的な、まだ真新しい様子のジープだ。運転席には誰も乗っていないが、アクセル全開で斜面を下っていく。シェパードの私兵たちの視線は、否応無しに無人のジープに向けられた。「誰が運転してるんだ?」「おい、止めろよ」と完全に思考は釘付けにされていたのだ。 直後、彼らを草むらから放たれた静かな殺意が襲う。あっと短い悲鳴を上げて黒尽くめの兵士の一人が倒れ、隣で慌てふためく仲間の背中にも弾丸が叩き込まれる。 「GO!」 ジャクソンはグリッグと共に草むらを飛び出した。先の戦闘で爆破されたせいで扉のない正面玄関に突っ込み、リビングでテーブルの上に地図を広げていた私兵たちに銃口を向けた。敵も銃を引き抜き抵抗しようとしたが、奇襲で面食らったその動きは緩慢なものでしかない。歴戦の海兵隊員が二人がかりで正確かつ素早い銃撃を叩き込み、片っ端から敵兵たちを沈黙させていく。最後の一人は逃げ出そうとして、割れた窓から侵入してきたギャズのG36Cに撃たれて死んだ。 あっという間に静かになったロッジの中で、ジャクソンの目論見は見事的中した。テーブルに広げられた地図に、ご丁寧にすでに捜索した地域とそうでない地域が塗り分けされていたのだ。捜索隊のローテーションまで残されていたのはまさしく幸運だろう。 「捜索範囲は五つに分けられているな。AとB、それからDとEはすでに捜索済みか」 早速グリッグがローチがいそうな場所に目星をつける。残るCのエリアはまだ捜索されていない。ローチが潜んでいるとしたら、そこだろう。 「捜索隊は今Eエリアから帰還中のようだ。まずいな、帰還する旨を伝えた無線はもうだいぶ前だぞ。ここに戻ってこられると俺たちの存在がバレる」 「罠を仕掛ける時間も無し、だな。ギャズ、動く車両があるなら運転してくれ。Cエリアに行こう、連中より先に」 ジャクソンに言われてギャズは頷き、早速裏口にあるトラックを一台玄関へと回してきた。目立つが、動く車両は他にない。今は敵に気付かれる前に動き、ローチを見つけることが最優先だった。 SIDE Task Force141 七日目 1011 グルジア・ロシア国境付近 ゲイリー・"ローチ"・サンダーソン軍曹 静かな森の中で、不意に発生した自動車の音に鼓膜を叩かれて、ローチはハッとまどろみの中から現実に舞い戻った。どうやら居眠りしてしまっていたらしい。追われる身という立場はそれだけで精神を磨耗し、ましてや来るか来ないか分からない援軍を待つというのは想像以上に過酷なものだった。いかに鍛えられた兵士と言えど、眠ってしまうのも無理はない。 ――それでも、失態だったには違いない。くそ、間抜けめ。ローチは身を伏せたままアサルトライフルのACRを構えなおし、自分を罵った。命の危険に晒されているのに、居眠りする馬鹿がどこにいる。自動車の音は彼への警告だった。敵がいよいよこの付近の捜索を始めたのかもしれない。 疲れきった身体は起き上がるにもいちいち抗議の声を上げるが、強引に押し切り、音の根源を探りに行く。もしかしたら通りがかった民間人かもしれないし、シェパードの私兵部隊であれば早急に隠れるか逃げるか、何かしらの対処をせねばならない。相手を迎え撃つ、という選択肢は念頭に無かった。時間稼ぎのために森の中に設置した罠を駆使して、ひたすらに逃げる。ACRの残弾はあまりに心細い状態だったからだ。 太い樹木に身を寄せて、少しばかり周囲より盛り上がった地面から森の外の様子を伺う。はるか向こうで、何かが蠢いていた。肉眼だけでは敵なのかどうか区別がつかないが、トラックらしき車両が止まっているのが見えた。見るからに軍用のそれは、おそらくはシェパードの私兵部隊のものだろう。ということは、ついに奴らがこの森にまで捜索の手を伸ばしてきたのだ。自分を殺すために。 くそったれ、簡単に殺されてたまるか。ローチはその場を離れ、まだ手元に残っていた一発の手榴弾を持ち出した。ピンとワイヤーを繋いで、適当な木と木の間に括り付ける。なんのことはない、ワイヤーに気付かず足を踏み入れればピンが抜けて、手榴弾が爆発する古典的トラップだ。本来ならクレイモア地雷を駆使して敵の出鼻を挫きたいところだが、手持ちの装備で出来ることはこれが限度だった。 罠の設置が完了すると、自分が設置したそれに引っかからないよう注意しながら足早に森の奥へと急いだ。こうしている間にも、あの黒尽くめの兵士たちは迫っているかもしれない。 その時、片方の耳に突っ込んでいたイヤホンに応答があった。通信機と繋がっているそれは、何処から放たれた電波を拾ったのである。 ≪ローチ、聞こえるか? こちらは……あー、プライスとソープ、マクダヴィッシュ大尉の要請を受けてやって来た救出部隊だ。応答してくれ≫ 自分の耳を疑う、とはこのことだ。通信機に飛び込んできた電波の主は、プライスとマクダヴィッシュの名前を出してきた。おまけに救出部隊と来た。一日経っても見つからないローチの捜索に業を煮やしたシェパード私兵部隊は、ついにプライス大尉とマクダヴィッシュ大尉の名を利用して誘き出すつもりなのか。いずれにせよ、この状況で唐突に救出部隊といわれても信用できるはずがなかった。否、長く追われる身として過ごしたローチはもはやプライスかマクダヴィッシュの本人たちでなければ信用できなくなっていたのだ。脳裏には、シェパードに撃たれた瞬間の仲間たちの姿が焼きついていた。ゴースト、そしてティーダ。 ≪応答してくれ、頼む。俺はジャクソンという。ソープとは戦友だ。今から森に入る。撃たないでくれよ≫ ――しかし、もしも本当に救出部隊だったとしたら? ほんの一筋の疑問が、ローチの胸に宿る。設置した罠は敵味方の識別なく作動する。もしも呼びかけてくる彼らがその罠にかかれば、自分は今度こそ本当に孤立無援となるだろう。誰も助けに来てくれない。降伏は無駄だった。黒尽くめの兵士たちはTask Force141の兵士たちの死体を集め、その数をきっちり数 えている。 森に入ってくると言う彼らは敵か、それとも味方か。ローチに、判断する術はなかった。 SIDE 時空管理局 機動六課準備室 七日目 1012 グルジア・ロシア国境付近 ポール・ジャクソン 元米海兵隊曹長 とうとうローチからの返答は無かった。ギャズもグリッグも森の中に入るのは躊躇ったが、それでもジャクソンが先頭に立って足を踏み入れると渋々従った。 「足元に注意しろよ。精鋭特殊部隊の生き残りだ、罠も設置してるはずだ。知ってるか、日本語で窮鼠猫を噛むって――」 ピン、と金属音がかすかに響いた。得意げに日本語講座を開いていたグリッグがギョッとなって足を止める。見下げた先には何も無いように見える――あくまでそう見えるだけだ。実際のところではよほど注意深く見ていなければ分からない細いワイヤーが落ちている。 ジャクソンは落ち葉と土に混じったワイヤーを見つけることは出来なかったが、ピンが抜けた手榴弾がすぐ傍の木の幹にテープで貼り付けられているのを偶然目撃していた。そこだけ人の手が入ったような形跡があったのだ。 躊躇うことなく飛びつき、テープごと手榴弾を木の幹から引き剥がす。勢いよく宙に放り投げたところで爆発。黒煙が森の最中で炸裂するも、ジャクソンもグリッグも無傷だった。 「無事か!?」 「お蔭様で。悪い、助かった……」 「ローチ! 聞こえるか! もう一度言う、俺たちは味方だ! お前を助けに来た、出て来い! 置き去りにしちまうぞ!」 反射的に地面に伏せたグリッグの無事を確認するやいなや、ジャクソンは首元のマイクに向けて怒鳴った。今の罠は明らかにローチが仕掛けたものだ。救出対象に殺されるなど冗談ではない。 ≪――本当に、味方なのか。あんたら、いったいどこから……≫ 爆発音は森中に響き渡った。無論、ローチにも聞こえていたのだろう。自分の設置した罠に殺されかけて、それでもなお怒りはしても見捨てはしない様子のジャクソンたちを見て、ようやく彼は通信に応じてきた。 「ああ、味方だ。どこから来たって? 空からだ。いいから出て来い、お前を確保さえしたら増援を呼べるんだ」 ≪本当か…≫ 苛立ちながらも、ジャクソンは電波に乗って飛んでくる救助対象の声に安堵の雰囲気を纏っているのを感じ取っていた。それもそうだろう、昨日からずっと追われる身でようやく助けが来たのだ。 その時、後ろで警戒配置に就いていたギャズから通信が飛び込んだ。 ≪こちらギャズだ、悪いニュースがある。黒尽くめの連中が森の中に入ってきた。どうも気付かれたようだ≫ 「何だって、早すぎるぞ――さっきの爆発音が聞こえたか」 舌打ちし、ジャクソンは自身が手にするM4A1を見た。弾は装填してある。銃撃戦を覚悟しなければいけないだろうか。 パン、パンとまさにその瞬間、銃声が響いた。ギャズのいる方向からだ。 ≪くそ、見つかった。現在応戦中――おい、ジャクソン! ローチとか言うのを早く連れて来い、敵は多数だ!≫ 「分かった! グリッグ、ギャズの援護に行ってくれ!」 グリッグが頷くのを確認した後、ジャクソンは前へと駆け出した。 予定ではローチを確保でき次第、上空で待機している『アースラ』に応援を要請することになっている。百戦錬磨の機動六課準備室の魔導師たちなら、敵の殲滅は容易い。しかし今回の任務は殲滅ではない、救出だ。派手にやりすぎればシェパードの眼に止まり、米軍が動く。『アースラ』はローチ収容のため低空に下りて来るが、対空砲火に晒されて被弾すれば今後の行動に支障を来たす。可能な限り最短でローチを収容する必要があった。 罠が設置されているであろう森の中を駆けるのは勇気無しでは到底不可能だったが、それでもジャクソンは足を速めた。通信機に「早く出て来いローチ」と怒鳴った上で。 草と木が視界を埋め尽くす中で、ふと右端の方に黒いものがよぎるのが見えた。何だと思って足を止めると、黒尽くめの兵士たちだった。奴らは別ルートでもやって来たのだ。悪いことに、彼らの視線もこちらに向けられていた。 銃口が跳ね上がるのは同時、引き金を引くのはジャクソンの方が速かった。サイレンサー装備のM4A1から静かな殺意の塊が弾き出され、シェパードの私兵部隊に飛び掛る。当たりはしなかったが、怯ませることは出来た。この隙に移動する。 敵の側面に回りこんだジャクソンは、再びM4A1の銃口を向ける。私兵部隊の兵士たちは慌てて銃を構えなおすが、もう遅い。実戦で鍛えられた正確な照準によって放たれる弾丸が、黒尽くめの兵士たちを次々と射抜く。悲鳴が上がり、何名かはたちまち崩れ落ちるようにして倒れた。 近くにあった木の幹の陰に飛び込み、反撃に備える。予想通り、生き残った黒尽くめの兵士たちが撃ち返してきた。太い木の幹は銃弾を身をもって弾き返してくれるが、撃たれるのは気持ちのいいものではない。敵の銃撃が一瞬止み、ジャクソンはすぐさまわずかに身を乗り出しての銃撃を叩き込む。撃ち、撃たれの繰り返し。とはいえ数は敵の方が上だった。このまま正面から撃ち合っていても勝てる見込みはない。 その時、ドッと爆発音が響き渡った。何事かと銃口と共に顔を突き出してみれば、黒煙が黒尽くめの兵士たちの辺りで漂っている。悲鳴が上がり、片足のない敵兵が仲間の手で引きずられていく。ローチの仕掛けた罠に、奴らも引っかかったのだ。可哀想だが、こちらにはチャンスだ。 思い切って、木の幹から飛び出す。手榴弾の爆発で動揺する敵に、あえての接近。ジャクソンが飛び出してきたことに気付いた私兵部隊はただちに応戦の構えを見せたが、M4A1からありったけの銃弾を叩き込まれ、次々と沈黙させられていく。 カチンッと小さな機械音による断末魔。M4A1が弾切れになった。すかさずM1911A1拳銃を引き抜き、銃撃を絶やさず前進続行。負傷した兵士を後方に下げていく者には手を出さず、まだ健在な者だけを狙った。 M1911A1の最後の一発が一人の黒尽くめを撃ち抜いて、敵の全員後退を確認。即座にジャクソンは再び駆け出す。戦場と化した森の中、硝煙の匂いと銃撃音を肌で感じながらローチを探す。 視界の片隅にある草むらの中で、動きがあった。走りながらリロードしたM4A1の銃口を向けるが、出てきた者を見た瞬間、彼は銃口を下げた。草むらから出てきたのは、グレネードランチャー付きACRを持った兵士。憔悴した様子でこちらも銃口を突きつけてきたが、やはり同じように銃口を下げた。本能的に、彼らは察したのだ。こいつは敵ではない。 「ローチか」 「そうだ。あんたは」 「ジャクソンという。ソープの戦友だ。まだ戦えるか」 「弾さえ分けてくれればな」 手短な自己紹介の後、ジャクソンはチェストリグのマガジンポーチからマガジンを一つ取り出し、ローチに渡す。受け取ったローチはACRにそいつを叩き込み、コッキングレバーを引いて戦闘準備完了。 「救援が来るまで持ちこたえるぞ。救援さえ来たら俺たちの勝ちは決まりだ」 「ずいぶん自信あるんだな。そんな大戦力なのか?」 にんまり笑って、ジャクソンは肯定の意を返す。見れば驚くぞ、とでも言いたげに。ローチは曖昧に頷くだけだった。 SIDE Task Force141 七日目 1044 グルジア・ロシア国境付近 ゲイリー・"ローチ"・サンダーソン軍曹 ジャクソンと名乗った兵士と合流し、さらに森を駆け抜けていくと、黒尽くめの兵士たちがわらわらと押し寄せてくるのが見えた。数では圧倒的に上の奴らがしかし攻めあぐねているのは、たった二人の特殊部隊隊員が必死の防衛線を展開しているからだ。ギャズとグリッグ。もっともローチは彼らの名前をまだ知らない。 黒人兵士が、軽機関銃で弾幕を張って私兵部隊の頭を上げさせないでいる。キャップを被った髭の兵士がこれに呼応する形でG36Cを叩き込み、敵の進軍を食い止める。しかし彼らは気付かない。その後方に、文字通り裏をかいてやろうと忍び寄っていた黒い影がいることに。 ジャクソンとローチ、二人の兵士は顔を見合わせ、意向をすり合わせるまでもなく銃口を敵に向けた。それぞれが見定めた目標に向かって銃撃。裏をかくはずが思わぬ方向からの攻撃を受け、黒尽くめの兵士たちは死者を出しながら後退していく。 「遅いじゃねぇか」 M240軽機関銃を撃っていたグリッグが、口では抗議しつつ笑顔で二人を出迎えた。悪いな、とジャクソンがひとまず謝り、防衛戦に加わる。 ローチは黒尽くめの兵士たちに向かって銃撃しつつ、ジャクソンが通信機に何か言っているのを眼にした。通信を終えて、次にギャズに信号弾を上げろ、と怒鳴った。それが救援に来る者への合図なのだろう。 ギャズはG36Cから手を離し――代わってローチが銃撃する。Task Force141の仲間の敵討ちのために――太く短い銃身の信号銃を上空へと打ち上げた。木の枝を掻い潜って空で赤色に炸裂したそれは、さぞや目立ったに違いない。 ダットサイトの照準を合わせ、突き進んできた黒尽くめの兵士にACRの銃弾を叩き込む。撃ち倒したのを見届けたところで、ACRがカチンッと機械音を鳴らして弾切れを告げた。もう弾薬は残っていない。 「誰か、弾をくれ!」 叫んだところで、ふっと視界が暗くなった。視線を上げれば、すぐそこに黒尽くめの兵士。いつの間に迫ってきたのだ。至近距離にも関わらず、そいつは銃撃よりも銃による殴打を仕掛けてきた。咄嗟にローチは弾切れしたACRを盾にする。ガッと腕に衝撃が走り、銃が弾き飛ばされた。黒尽くめはチャンスと見てか、ナイフを抜く。ジャクソンが気付いて銃口を向けたが、間に合わない。 その瞬間、黒尽くめの兵士に黒い物体が飛び掛ってきた。毛むくじゃらの大きな、黒い生き物。クマだ。ナイフを持った黒尽くめの兵士は悲鳴を上げながら抵抗するが、ナイフよりもはるかに鋭い爪と牙、何よりも人間が勝てるはずのない腕力の前に勝機があるはずもなかった。クマの豪腕による一撃は、一発で黒尽くめの兵士を吹き飛ばした。 ローチは、すぐに逃げ出す。不思議とクマは追ってこなかった。もしかしたら、森を荒らす私兵部隊の兵士たちに怒り狂っていたのかもしれない。森を四つん這いで駆け、銃撃などものともせずに敵兵たちを薙ぎ払っていく。 「ローチ、無事か」 「何とか――あれか、救援って」 「いやぁ、さすがにクマに友達はいないな」 苦笑いを見せるジャクソンは、ふと上を見る。あれだ、と指差す先に、青空をバックに閃光が舞い降りてくる。桜色、金色、赤色、紫色、青色、水色、少し遅れて緑色と閃光の色は様々だ。まるで航空ショーのアクロバットチームだが、見せる演技は演技ではなかった。 桜色と金色の閃光が、宙で止まる。じっと眼を凝らせば、浮いているのは人だった。若い女、もしかしたらどちらも二十歳も超えていないかもしれない。それぞれ杖のようなものを持って、地面に向けている。 彼女らの行動を観察していたローチは、あっ、と短い声で驚愕した。宙に浮かぶ二人の少女が、杖からそれぞれが纏っていた色をしたビームとも言うべき破壊の力を振り下ろしたのだ。その先には、森の外に集結しつつあった私兵部隊の車列がある。いずれも軍用の防弾が施されたトラックだったが、放たれた光の渦は物理法則を無視したように車列をまとめて薙ぎ払っていく。黒尽くめの兵士たちは、逃げ惑うしかなかった。 続いて、赤色と紫色、そして青色の閃光が地面に降り立つ。ハンマーを持った幼い少女に、若い女剣士、尻尾と耳を持った獣のような屈強な男。森に展開していた私兵部隊の中心に降り立った彼女らと彼は、怯えきった兵士たちの銃撃もまるで無視して、暴風のように暴れ回った。ハンマーで殴られた者が吹っ飛び、防御する間もなく剣で切り伏せられる者がいて、拳と蹴りの殴打の前に倒れていく者。傍目に見れば虐殺だが、これで一人も死んでいない。せいぜい気絶だろう。 「もしかしなくても、魔導師か」 ローチの思いのほか冷静そうな声に、「何だ、知ってるのか」とジャクソンは驚く様子を見せた。 「Task Force141にも一人いたんだよ、管理局の魔導師が。シェパードに殺されたが……」 「なら、生き延びて敵討ちといこう。ほら、お迎えだ」 遅れてやってきた緑色の閃光が、彼らの元に着陸。現れたのは、戦場には場違いなロングスカートの女だった。 「ジャクソンさん、怪我は!?」 「俺は大丈夫だ。シャマル、それより彼を診てくれ、急ぎ『アースラ』に収容を」 「はい、お任せ!」 親しげな様子で会話するジャクソンとシャマルという女に、ローチはつくづく場違いなものを感じざるを得なかった。 とはいえ――生き残ったには違いない。Task Force141は、かろうじてまだ三名が生存することになる。 上空から、船が降りてきた。宇宙船だ。正しくは次元航行艦『アースラ』という。ローチたちを回収するため、衛星軌道から降下してきたのだ。すでに私兵部隊は圧倒的な魔導師たちの力の前に撤退を余儀なくされつつある。 「さぁ、お迎えだ」 『アースラ』を見上げて、ジャクソンは自分の船でもないにも関わらず、得意げに言う。 「ようそこ、機動六課準備室へ。同じ死に損ない同士、よろしく頼む」 戻る 次へ
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Call of lyrical Modern Warfare 2 第9話 The Only Easy Day... Was Yesterday / 奪還作戦 第三段階 SIDE 時空管理局 機動六課準備室 五日目 0705 宇宙空間 次元航行艦『アースラ』 ポール・ジャクソン 元米海兵隊曹長 並べられた銃火器を見て、ジャクソンが真っ先に感じたのは途方もないくらいの違和感だった。何しろ、例えば彼が手に取って持つのはM4A1と言うカービン銃の一種であるが、レイルシステム と呼ばれる近年増え続ける銃への付属品の取り付け台が、完璧な状態で装着済みであった。銃身の下側にあるフォアグリップはもちろん、ダットサイトも標準装備。しかもただ装備しているので はなく、ほとんどが九七管理外世界の一流メーカーのブランド品ばかり。これをどれでも、好きなだけ持っていっていいと言うのだから本来は喜ぶべきところだろう。 しかし、と銃を手放して彼は思う。ここは、地球の武器庫ではない。所属していた米軍の装備品展示博覧会でもない。魔法で動く次元航行艦の艦内だ。そこにこの大量の、魔法の魔の字もない ような大量の銃火器である。ケーキと紅茶で彩られたお茶会の最中で、極厚のステーキをむしゃむしゃ食べる者を見つけてしまったような気分だ。 もっとも、そのステーキを食べる者は自分やギャズ、グリッグと言った九七管理外世界の軍人メンバーたちのことなのだが――ギャズは一番のお気に入りだと言うG36Cを見つけて夢中になって その感触を確かめているし、グリッグも以前使用していたM240軽機関銃を手にして早速機関部の中を確認していた。俺も似たようなものだな、とやや自嘲気味な笑みが浮かぶ。 「しかしまぁ、よぉこんなに集めたなぁ」 独特のイントネーションを持つ言葉で、感嘆とした声を上げるのは八神はやて。身長も年齢も屈強な兵士たちより下だが、こう見えて彼らのボスは彼女になっていた。銃にはあまり慣れていな いはずだが、はやてでなくとも誰だって、ずらっと並んだ銃火器の群れを見たら感情の一つも動く。いや、ひょっとしたら見慣れてない分、彼女たちの方が驚いたかもしれない。 集められた銃火器は、全て"ミスターR"と言う人物からの支援だとジャクソンは聞かされた。あのオッサン、どこにこれだけの銃を保管していたのだろう。とは言えありがたいことには変わりな い。これから彼らが挑むのは敵地も同然であり、しかも極寒と言う厳しい環境の下での戦いとなる。使える武器は多いに越したことはない。 「けど、さすがに集めすぎな感じもするね……これ、なんて銃です?」 一方、呆れたような眼で並んだ銃見て、そのうち一つ、比較的手頃そうな拳銃を持った――それにしても手と銃の大きさが不釣り合いだった――少女が、ジャクソンに問う。名前を、高町なのは と言った。はやてが長を務める機動六課準備室の一人にして中核メンバーで、管理局の中では特に『エースオブエース』と呼ばれるほどの魔導師。そうは言っても、明らかに手に持つ拳銃が似合わ ない少女であるには変わりなく、魔法が使えなければ彼女もはやてと同じ、本当に普通の女の子だ。 「そいつはデザートイーグルだ。当たれば熊だって一撃で仕留められる――ここにいるお嬢さん方には似合わないが」 「重たいですしね……私はやっぱりレイジングハートの方がいいな」 大型拳銃を手放して、代わりになのはは「ね」と首元に引っ掛けていた赤い宝石に呼びかける。「YES」とか言って、レイジングハートと呼ばれた赤い宝石は答えた。インテリジェントデバイスと 言う人工知能を持ったいわゆる『魔法の杖』だそうだが、目の前に並ぶ無口な銃火器たちには対抗心でも抱いているのだろうか。どうも口調が強いような気がした。 ともあれ、戦力はこれで整った。『アースラ』は現在、地球への報復作戦に懐疑的だった者たちの中でも特に高い階級と指揮権を持つクロノ・ハラオウンを報復強硬派から奪取すべく、進路を まっすぐ第四一管理世界"キャスノー"に向けていた。現地は永久凍土の土地が大半を占める寒さを持った世界であり、しかも監視と警備は厳しいものがある。そこに少数の彼らが忍び込むのだ。 「ところで、あの小僧が囚われているって言う監獄の警備は誰がやってるんだ? 強硬派は慎重派を根こそぎ逮捕したから、戦力不足って聞いたぜ」 G36Cの半透明のマガジンに早速五.五六ミリ弾を詰め込みながら、ギャズがはやてに問う。小僧、とは無論クロノのことだ。彼の言う通り、ミッドチルダ臨海空港での虐殺事件を端に発した管理 局によるアメリカ合衆国への報復作戦は、報復強硬派が証拠不十分として作戦に賛同しない慎重派を逮捕することで指揮権を握っている。おかげで二分されていた戦力はさらに少なくなり、この 『アースラ』を奪還する際にしても監視と警備の戦力は非常に少ないものだった。その後の追撃だって、影も見せていない。にも関わらず、彼らは監獄に厳しい監視の目を築いていると言う。 「早い話、傭兵よ。ミスターRとその補佐につくミスRって人が教えてくれた」 はやてはすでに、答えを得ていた。地上本部から六課を支援するミスターR、さらにその補佐についたと言うミスRからの情報だった。強硬派は地上本部の戦力を次元航行艦に載せて降下作戦を 実施するつもりだったらしいが、その地上本部の総司令官レジアス中将が報復に反対し、しかも彼の場合逮捕しようにも権限が及ばなかった。自前の陸戦隊も、決して数は十分ではない。そこで 彼らは傭兵を雇った。傭兵と言っても、いきなりアメリカに攻め込むのに必要な数を集めようとして真っ当な者が揃えられる訳がない。結果として、傭兵たちのほとんどは報酬に目がくらんだ者 やほとんど犯罪と傭兵稼業をスレスレのところで行うゴロツキ共ばかりになった。米軍は彼らを相手に奮戦しているが、それでも奇襲を受けたダメージは拭えず、まだ撃退には至っていない。 「それじゃあ、例の監獄を守るのは傭兵か。そいつらは撃っていいんだな」 「人命は守らなあかん――けどそうも言ってられなさそうやな」 渋々、と言った様子の声ではやてが言う。彼女らは魔法と言う非殺傷も可能な武器があるが、ギャズやジャクソンたちは違う。「殺すな、しかし無力化はしろ」と言うのは状況が許さなかった。 「しかし分からないのは」 ジャキ、と金属音を鳴らして、M240に弾を入れる動作をさせるグリッグが口を開く。本当に弾は入れていない。彼は銃を握って何もない虚空を狙う振りをして、引き金を引く。カチン、と小さ な金属音が鳴って、M240は火を吹かないまま動作を終える。 「どうして管理局は俺たちの国に易々と侵入出来たんだ? 人工衛星はちゃんと監視してたはずだろう」 「そこはまだ分からんけど――ミスターRとミスRが情報収集中やし、それを待つしかないな」 「ああ、そのことなんだが」 不意に、ジャクソンが口を開き、皆の注目が彼に集まった。これは極秘事項なんだが、と前置きした上で、彼は言う。 「少し前に、うちの監視衛星が姿勢制御にエラーを出してな。ロシア領内に落ちてしまったことがある」 「フムン。で、その落ちた衛星がどうしたんだ」 「グリッグ、お前がロシアの超国家主義者の一員だったとして、その衛星はどうする」 「そりゃ、拾ってバラして中身を拝借して――ああ、なるほどな」 黒人兵士は納得した様子で頷く。おおむね、彼の言わんとすることが見えたようだった。つまり、ロシア領内に落ちた米軍の人工衛星は情報を引っこ抜かれて、超国家主義者か、あるいはロシ ア軍内部の不届き者の手で闇市かその他のルートで売り捌かれたのだ。それとも売ると金が動いて目につくから、別の無害そうなものに偽装して譲渡が行われたのかもしれない。譲渡された側は その分、便宜を図ってやると言うことだ。 「だとしたら、ますます厄介なことになるなぁ」 「しかもややっこしい、ね」 はやてとなのはの表情が歪む。仮に売り捌かれたのではなく超国家主義者からの譲渡だとしたら、管理局は見事に米軍との同盟関係を自分自身の手で破壊してしまったことになる。祖国ロシアを 追われ、数多の次元世界に逃げ込んだ超国家主義者たちは、自分たちの敵を潰し合わせる気なのだ。 急がねばなるまい。指示が下りて、『アースラ』は次元の海を進む速度を上げた。一刻も早くクロノを奪還し、指揮権を取り戻さねば。アメリカも、管理局も、取り返しのつかないほどの大打撃 を被ることになる。その時笑うのは、狂犬だ。超国家主義者たちのリーダー、マカロフが。 SIDE Task Force141 五日目 0548 ロシア ヴィホレフカ 第36石油採掘リグ ゲイリー・"ローチ"・サンダーソン軍曹 そこには、暖かいコーヒーも安心して眠れるベッドも無かった。否、本来であれば人間はそこでは生きていけない。それほどにまで厳しい環境の下であっても、彼らは戦いに身を投じなければ ならなかった。つくづく、人間とは業の深い生き物なのだなと実感させられる。まったく、戦争など暖かくて過ごしやすい、快適な気候の下でやるべきだろうに。 「戦う場所など、どこにでもある」 そう言って、彼らの指揮官、シェパード将軍は出撃を命じた。一応、「君たちを肉挽機に送り込むような作戦だとは承知しているが」と無茶を言っている自覚がある様子だったが、それにして も酷いものだ。肉挽機と言うよりは、冷凍庫と言うべきだろう。我々はTシャツ一枚でマイナス三〇度の冷凍庫に放り込まれたようなものだ。しかしそうは言っても、まだ海中の方が暖かいと言う のだから洒落にならない。 ローチは今、海中に身を置いていた。防水、防寒どちらも完璧でなければたちまち凍死と溺死を一度に両方味わえそうな、北の海だ。カムチャッカ半島近海。その東側に位置する石油採掘リグ が、今回の目標だった。つまり、敵はロシアということか。アメリカ合衆国が異星人に侵略されている最中にある最中にあると言うのに、シェパード将軍は同じ地球人と戦争をする? 「進む方向が違う気がします、将軍。我々も戦いに加わるべきでは」 隊の分隊長であるマクダヴィッシュ大尉もこれはおかしい、と考えた。だけども、最初にシェパードが言った言葉を聞かされて、彼は納得した。それと同時に、自身が部下の手前で無神経なこ とを言ってしまったのだと気付き、顔をしかめた。部下の一人、今はローチと同じく潜水服を着て海中に身を潜めるティーダ・ランスター一等空尉は表情を変えなかったが、決して機嫌よさげと 言う訳でもなかった。彼の出身は異世界ミッドチルダ、現在アメリカを蹂躙している時空管理局のお膝元なのだ。Task Force141は地球の各国軍隊から集められた精鋭のほかに管理局からも優秀な 者を引き抜いて構成されたが、それはアメリカと管理局の同盟が崩れるより前の話だからこそだ。ティーダの立場は、言ってしまえば裏切り者であるに違いない。 それでも彼がTask Force141の任務に付き従うのは、この戦争が裏で仕組まれたものだと知っているからだ。ウラジミール・マカロフ。ロシアの超国家主義者の新たなリーダーにして、アメリカ と管理局を潰し合わせる狂犬。 部隊は南米で彼と取引のあった武器商人を捕らえ、『尋問』することで情報を得た。マカロフは、ある人物を憎んでいると同時に恐れている。『囚人627号』と呼ばれるその人物は、現在ロシア の収容施設にて投獄されていると言う。 しかしそれなら、何故ロシア政府に連絡しないのだ。海中の中、目の前を泳いでいく魚の群れを横目に眺めつつ、ローチは最初にその話を聞き、それから任務を通達された際に感じた疑念を脳 裏に蘇らせていた。超国家主義者との内戦にどうにか勝利したロシア政府は疲弊し、しかし囚人一人も差し出せないほど落ちぶれているとは思えなかった。 そこで見せ付けられたのが、数枚の衛星写真だった。収容施設らしい古めかしい城と、その進路上に立ち塞がるように存在する海上の石油採掘リグ。これらにはいずれも対空ミサイルが設置され ており、迅速な移動に欠かせない空路にとって大きな脅威となっていた。ロシア軍ではない。超国家主義者たちが、地球に戻ってきたのだ。彼らは内戦終結後も未だロシア内部に残る超国家主義者 たちを支持する一部の軍官僚の手引きで、『囚人627号』までの道を遮る構えを見せていた。マカロフは、おそらくこちらが『囚人627号』の存在と居場所を捉えたのを知り、ただちに阻止の構えに 入ったのだ。 ならば、排除するのみ――マカロフを表舞台に引きずり出し、合衆国の身の潔白を証明し、誤解を解かねばいつまでも管理局とミッドチルダの人々は憎悪の炎を消さないだろう。かくして部隊は 動き出し、まずは経路上に存在する石油採掘リグの脅威の排除に乗り出した。 空からの侵入は手っ取り早いが、対空ミサイルに迎撃されるリスクを考えれば避けられるべき手段だ。米海軍第六艦隊の支援を受け、Task Force141は海路からの侵入を立案し、実施した。ロー チは、その急先鋒に任命されたのだ。あぁ、楽だったのは昨日まで。おかげで俺たちゃ冷たい海中でお魚ゴッコ。まったく泣けてくる。 「USSダラス、チーム2発進。作戦開始」 「ホテル6、目標まで残り六〇メートル」 魚雷のような形をしたSDV(SEAL輸送潜水艇)に乗って、ローチたちTask Force141は潜水艦より発進。ディープブルーの海中を静かに素早く進行し、途中、潜水艦『ダラス』より発進した友軍と 合流。挨拶もそこそこに、まっすぐ石油採掘リグへ向かう。 最初のうちに見えるのはひたすらに青い海であり魚であり、聞こえてくるのは鯨の鳴き声の他は友軍の交信程度だった。しかし観光気分には浸れない。一〇分もしないうちに、視界には明らか に人工物であると思しき柱が海中より突き出ている光景が映る。この上が目標の石油採掘リグだ。前の席でSDVを操作していた隊員は直下に到達するなり、操縦席を離れて上を指差しながら泳いで 海面まで進んでいく。ローチも付き従い、すでに操る者がいなくなったSDVより離れた。ヒレをつけた足で水を蹴って、上昇。途中でスピードを緩めて、ゆっくりと海面から頭を出す。 ようやく海中から頭だけ抜け出せた。最初に頭上に見えたのは、石油採掘リグの床。少し進めば、吹き抜けになっている部分で背中を晒した敵兵士の姿が見えた。超国家主義者の手下だろう。 一応海中からの侵入を警戒して配置されたのだろうが、あまり真面目に勤務している様子ではない。ロシア語の会話が聞こえる。おそらくは同僚同士で愚痴を吐いているのだ。 「配置に就いた、タイミングは任せる」 通信機に、マクダヴィッシュ大尉の声。そうか、二人いるなら同時に始末せねば通報されてしまう。納得して、ローチは出来る限り波や水音を立てないようゆっくり、敵兵の足元にまで迫る。 銃で撃ち殺すのもありだが――ここは敵地だ、弾薬の欠乏は非常にまずい。ナイフを引き抜いて、タイミングを図る。チラッとでも敵が海面を見下ろせば気付かれる距離、しかしローチは大胆 にも水を蹴り、勢いをつけて海面から上半身を出す。と、その時一瞬早く、向こう側にいた敵兵の背後に黒い影が走った。あ、と短い悲鳴と共に、水中に引きずり込まれる敵。何だと自分が狙う 相手も驚き身構えたが、もう遅い。兵士の手が伸び、彼の衣服を掴んで海中へと引きずり込んだ。 「!?!?!?!?」 誰だって、いきなり水の中に放り込まれたらパニックに陥るだろう。ローチが引きずり込んだ敵兵が、今まさにそんな状況だ。ごめんよ、と形式ばかりの謝罪の言葉を胸のうちで呟き、彼はナイ フの刃を敵の首に突き立てた。一閃、青の世界に文字通りの血の赤が広がり、じたばたと抵抗していた敵の動きが止まる。そのまま海底に向けて放り投げれば、身じろぎ一つせず落ちていく。まず は第一関門突破。哀れな死体を見送って、ローチは先に浮上し石油採掘リグに上がった仲間の手を借り、上陸を果たす。 すでに送り込まれたTask Force141の隊員たちは潜水装備を排除し、各々銃を構えて鋭い視線で周囲を警戒していた。副官のゴーストは脱ぐのが面倒なのか黒尽くめのまま、いつもの骸骨を模し たバラクラバで顔を覆っていた。指揮官マクダヴィッシュ大尉は、わざわざ重ね着してきたのだろう、迷彩が施された野戦服の上にチェストリグなど装備一式。 ティーダはどうしたのだろう、と思ってローチは階段を上りつつ視線を泳がせれば、先に上の階でバリアジャケットを着た魔法使いが警戒待機に就いていた。そういえばこいつ、水中ではこち らと同じ潜水服を着ていたはずなのだが。 「へい、ティーダ。お前さんのその服、万能じゃなかったのか。それとも水には潜れない?」 「いいや、潜れるさ。大事な一張羅を濡らしたくないだけで」 なるほど、魔力の節約ね。勝手に納得しながら、歩みを進める。 どうやら敵は完全にこちらの侵入に気付いていないようだ。すでに二名の歩哨が殺害されたにも関わらず、まったく迎撃に出てくる様子がない。ついに一名、手すりにもたれ掛かった超国家主義 者の手先を見つけたかと思いきや、暢気にタバコを吸っていた。やる気がないのか、それとも休憩中なのか。どちらにせよ、ローチたちがやることは同じだった。 「交戦を許可する。消音のみでやれ」 マクダヴィッシュの指示。言われるまでもなく、ローチはサイレンサー装備のM4A1、M203グレネードランチャー付きにレッドサイトの豪華な小銃を構えて、敵を狙う。プシュ、と気の抜ける小さ な音がして、頭を撃ち抜かれた敵は悲鳴もないまま手すりの向こう、海に落ちていった。グッナイ、底でお仲間が待ってるよ。 続いて、部隊はすぐ近くの扉に駆け寄った。情報では、この石油採掘リグで作業に従事する民間人がみんな人質になっているという。第二の関門、人質救出作戦だ。もっとも、闇雲に突入すれば 超国家主義者たちは躊躇いなく人質を殺すだろう。そうなればロシア政府は今後のTask Force141の国内での活動を拒否するかもしれない。 出番だ、とゴーストに肩を叩かれたのがティーダだった。魔法で、扉の向こうの敵と人質の配置を調べるのだ。目立たぬよう陰に伏せて、ティーダは魔法陣を展開。少しの間眼を閉じたかと思え ば、扉の方に向き直ってその奥を見据える。どのように見えているかは分からない。けども、大事なのは情報だ。 「右の入り口側に二名、左の入り口に四名、中央に一名。人質は二人いるな、左右に一人ずつ」 「上出来だ。ゴースト、ティーダは右から。俺とローチが左。あとは周辺警戒、突入後に人質保護だ」 指揮官の指示が飛んで、各員は配置に就く。ローチは壁に張り付き、マクダヴィッシュの合図を待つ。彼がやれ、と眼で訴えたところで、爆薬を持ち出した。扉にセットし、起爆。轟音と爆風 が一度に巻き起こり、それに怯むことなく、兵士たちと魔導師一名は一気に突入。 飛び込んだ先でローチが最初に見たのは、手足を縛られ目隠しされ、オレンジの作業服を着た民間人。彼を盾にするような形で、白い雪原迷彩を着た敵兵たちが四人、各々突然の襲撃にうろた えながらも反撃の姿勢を見せている――ふざけるな、人質を盾にとは卑怯者め。M4A1のレッドサイトに、民間人を前に突き出し、それでも隠しきれていない敵兵の姿を捉える。引き金を引けば軽 い反動と共に弾が放たれ、敵を殴り飛ばす。素早い、しかしスローモーションのように見える銃口の移動でもう片方を同じように射殺。左側は残り二人、視線を右に向ければマクダヴィッシュの 持つM4A1の銃身が、すでに敵を捉えていた。銃撃、残った敵も掃討される。右側にいた敵は、とさらに視線を向ければ、ゴーストとティーダが各々の得物でテロリストどもを鎮圧していた。 クリア。敵の排除と人質の救助に成功した。ただちに後方で待機していた味方がやって来て、民間人の傍に駆け寄る。彼らは酷く怯えている様子だったが、怪我はなさそうだ。 「セクション2-Eの人質を確保した。チーム2、このまま人質の保護と脱出を。俺たちは上に上がるぞ」 「了解です、大尉。ご武運を」 その場をチーム2に任せて、部隊はさらに階段を上る。まだ、人質はこれで全員が救助された訳ではなかった。北の海で、戦争はまだ続く。 つくづく思う。超国家主義者たちは国を追われ、数多の次元世界に逃げ出した。彼らはそこで息を潜めて活動し、管理局や米軍の眼を掻い潜って生き延びてきた。しかし、それならもっと奴ら は貧乏であるべきではないのか。だから、どうして、国を追われたテロリスト風情が、ヘリコプターなんぞ持ってくるんだ。 二回目の人質を、先ほどと同じように扉を爆破して突入し敵を制圧、救助したところで、彼らは耳障りなローター音を耳にした。屋内から窓の外に眼をやれば、本来アメリカ製であるはずの小 型ヘリ、OH-6が飛び回っているではないか。そのままでは非武装の偵察ヘリゆえにそこまで脅威にはならないが、超国家主義者たちは無論それでは手ぬるいとして、ミニガンを搭載していた。い くらTask Force141が精鋭とは言っても生身の歩兵には違いなく、武装したヘリが掃射を始めたらひとたまりもない。おかげで、彼らの行動はずいぶんと制限されてしまった。具体的には、迂闊に 前に出れないでいる。 悪いニュースは、もう一件。人質はさっさとチーム2が連れ出してくれたはよいが、倒した敵兵の中に無線機を持っている奴がいた。スイッチを入れっぱなしにしてくたばったらしく、ロシア 語で慌てふためく声を誰もが耳にしていた。 「大尉、こりゃあ団体さんが来ますぜ」 「手厚く歓迎してやろう。ローチ、プランBだ」 またですか、大尉。雪山でもそうだったじゃないですか。ぶつぶつ文句を言いたくなるのを我慢しつつ、ローチはC4爆弾を持ち出した。哀れにも亡くなった敵兵の死体にそいつをセットして、起 爆装置を持ち出したままにその場を立ち去る。「何だよ、プランBって。バカのB?」といまいち言葉の意味を知らない様子のティーダも連れ出して。 部隊は各々物陰に隠れた。しばらく前方を監視していると、武装したOH-6の援護を受ける形で超国家主義者たちがわらわらと押し寄せてきた。皆、銃を構えているがこちらの存在に気付いた様子 まではない。おそらく人質を監視する仲間との交信が途絶えたので、警戒しながら様子を見に来たのだ。何も知らない彼らは吹き飛ばされた扉を見て驚き、人質がいた部屋に入っていく。 敵兵たちはそこで目撃しただろう。仲間の死体と、それにセットされた爆弾を。人間爆弾とはこのことだ。 「スタンバイ…スタンバイ……ローチ、やれ」 機を見て、マクダヴィッシュの合図。起爆装置のスイッチを押せば、敵兵たちが入っていった部屋で爆風が巻き起こった。割り散らされるガラス、吹き出す黒煙。中にいた者がどうなったのか は、神のみぞが知るというところだ。 爆発があがったのを見て、ようやく敵もこれが罠であることに気付いたらしい。一斉に後退を始め、ひとまず建て直しを図ろうとする。その背中に、Task Force141はありったけの銃弾を叩き 込んでいく。銃声、怒号、悲鳴。もはやこちらの存在を隠し通すのは不可能となった。 「司令部、こちらホテル6! 敵にバレた、交戦中!」 「了解、ホテル6。まだ最上階に人質がいる、そこを制圧しなければ屋上の対空ミサイル排除は不可能だ」 よかったのかな、人質いるのに派手に爆破しちゃって。雑念がちらりと脳裏を掠めて、しかしローチは目の前の戦闘にまずは集中する。M4A1を前に突き出し、前進しながら銃撃、銃撃、銃撃。 カチンッと銃が小さな機械音を鳴らして、薬室がオープンになる。すかさず物陰に伏せて、チェストリグから新しいマガジンを引き抜き、マグチェンジ。コッキングレバーを引いて、銃に新たな 命を叩き込み、再び銃撃を開始しようとする。レッドサイトの向こうに、ヘリのライトが眩く光ったのはその瞬間だった。まずい、と生存本能が警鐘を鳴らす。 盾にしていた物陰が、鋼鉄のコンテナだったのは幸いだった。敵のOH-6が、ついにその牙を剥いたのだ。唸る銃声は、獣の咆哮の如くだ。ミニガンが放つ銃弾の雨は、石油採掘リグの一部分を 滅茶苦茶に蹂躙してしまう。うわぁ、と情けない悲鳴が上がった。自分の声だった。 「ローチ、下がれ! そこじゃ身動き出来ないぞ!」 ゴーストの声が通信機に響くが、それが出来たら苦労はしない。辺りを見渡しても、遮蔽物はこのコンテナくらいだった。一〇メートルも後退すればマクダヴィッシュたちのいる物陰もあるが 敵は見過ごしてくれないだろう。牽制の銃撃を頼もうにも、そうすれば今度は撃った方に猛攻が浴びせられることになる。 いきなり、目の前に何かが落ちてきた。何だ、と見てみれば、対戦車ロケットのRPG-7ではないか。何故これが急に。よくよく視線を辿れば、橙色をした一見ロープのような、しかし明らかに魔 法の類いと思われる縄がRPG-7を引っ張っていた。縄の根源を眼で追っていけば、ティーダがいた。彼も銃撃に晒されないよう隠れながら、しかしワイヤーガンの要領で手近にあったRPG-7を魔法の 縄で掴み、戦友の元へ寄越したのだ。 「飛び上がって奴さんの注意を引く。そいつで落としてくれ」 「おい、ティーダ」 「頼むぜ」 一方的かよ、勘弁してくれ――制止も聞かず、ティーダは文字通り物陰から"飛び"上がった。魔法使いだけに許される空中浮遊、飛行魔法だ。武装ヘリは突然舞い上がった、コスプレ紛いの妙な 格好をした魔導師に一瞬呆気に取られ、しかしすぐに敵と認識。ミニガンの銃口を、ティーダに向けた。回転する銃身、放たれる赤い曳光弾。魔法使いは左右に飛び回って照準をかわすが、いつ まで続くか。危なっかしい奴だ。RPG-7を受け取ったローチは、敵がそっぽを向いている隙に狙いやすい位置に移動し、構える。 ヘリのパイロットと、視線が合った気がする。照準した瞬間、ローチはそんなことを考えた。さぞかし驚いたことだろう。引き金を引けば、そんな雑念は文字通り吹き飛んだ。放たれた対戦車 ロケットは何の躊躇いもなくOH-6のコクピットに突っ込み、直撃、爆発。胴体もローターも木っ端微塵に砕け散って、武装ヘリはその場で解体された。 「奴は逝っちまった。ナイスショット」 「時間を食ったな…急ごう。ティーダ、降りて来い。歩調を合わせてくれ」 「了解、大尉殿」 仲間の声を聞きながら、ローチはRPG-7の発射機を投げ捨てた。やれやれ、撃墜したのは俺なのに。何だかあいつがみんなイイとこ持っていった気がする。 「やっぱりプランBはまずかったんですよ! BはバカのBですよ、もう!」 「ローチ、分かった、俺が悪かった、だからとりあえず今その怒りは敵にぶつけろ」 煙幕の中で、男たちの怒鳴り声が響く。銃声と爆音に負けないくらいの声だった。そのくらい、ローチは現在の状況に怒りを覚えていた。マクダヴィッシュに八つ当たりするほどだ。彼も彼で 面倒くさいものを見るような眼をして適当にあしらい、煙の向こうにいる敵を撃つ。当たったのか当たってないのかは分からない。全て煙が邪魔していた。 ヘリを撃墜し、敵の妨害を撥ね退けながら、ついにTask Force141は最上階に到達した。だが、ここで敵は最後の抵抗を試みた。ありったけのスモーク・グレネードで煙幕を張って、サーマルゴ ーグルを装備した狙撃手を配置し、ローチたちの視界を奪ったその状態で一方的な銃撃を行ってきたのだ。おまけに、狙撃手の援護を受けて敵は勢いづき、煙幕の中を突っ切って進んで来る。 絶対これあれだ、プランBで派手に爆破したからだ。気付かれたから敵に準備させちゃったんだ。畜生。見えない敵に向かって適当に銃撃しながら、ローチはとにかく煙幕を突っ切った。何しろ 敵は、ようやく煙が晴れてきたと思ったらまたスモークをばら撒いて来るのだ。立ち止まっていたらいつまでも撃たれる。そこで闇雲にでも進んだのだが、視界は限りなく悪い。後悔しようにも、 もう敵陣深く入り込んでしまっていた。 ふと、煙の奥に誰かいる。敵か、味方か。こういう時、野戦であるなら合言葉を言うのだが。こっちが「スター」と言えば、相手は「テキサス」と言う。もし言わないなら敵であるから撃って しまえ、と言う具合に。しかし、発声して位置がバレたら。ほんの一瞬の躊躇が、彼に前進を命じた。もっと近付いて確認しよう――煙を突っ切って、銃床を振りかざしながら突っ込む敵兵だった。 ガッと、とっさに構えたM4A1に衝撃が走る。超国家主義者の振りかざした銃床を、どうにか受け止めたのだ。しかし、奇襲を受けたことでローチの動揺まではカバーし切れない。じりじりと押さ れ、片膝をついてしまう。くそ、こんなところで固まってたら敵のいい的だ。サーマルゴーグルで狙われるぞ。 パンッと銃声が響き、不安が現実になった。わっと悲鳴が上がり、ローチは姿勢をついに崩す。撃たれた。被弾はしてないが、足元に跳弾した弾は彼を驚かすのに充分なものだった。好機と見た 敵はすかさず追加の一撃を加えようと、また銃床を振りかざす。振り下ろされる質量、寸前で繰り出したキックがそれを弾き飛ばす。怯んだ敵兵はそれでももう一撃を加えようと――パンッ、とま た銃声。しかし、今度は違う。橙色の、魔力弾が飛び込んできた。横からの思わぬ一撃に、敵兵はひっくり返って動かなくなった。直後に、白い煙の向こうから新たな人影。今度は味方だ、ティー ダとゴーストだった。 「無茶するな戦友。ちょっとそこで伏せてろ」 「ティーダ、敵の位置を教えてくれ」 二人はローチを助け起こすと、ただちに煙幕の向こうに各々銃を構えて銃撃開始。煙のカーテンに視界を遮られても、魔法使いには見えるのだ。ティーダの指示の下、ゴーストが銃撃。あっと 向こうで短い悲鳴が上がり、それが終われば次の目標をまた探して撃つ。敵の狙撃手はまさかこちらが見えているとは思わなかったことだろう。そのツケが今、魔導師の眼によって払われている。 やがて、狙撃は止んだ。突っ込んでくる敵もついに力尽きた。今度こそ煙の中を走って、最後の扉に辿り着く。最初と同じように、ゴーストとティーダが片方を、もう片方をマクダヴィッシュ とローチがやる。爆薬セット、起爆。一気に突入し、内部を制圧する。 人質は全員無事だった。と言うのも、敵はいなかった。代わってびっしりと、C4爆弾が設置されていた。手を出せば爆破するつもりだったのだろうか、しかしその爆破する者がいない。二階に 上がって、真相を見た。起爆装置を持った敵兵が、ひっくり返って息絶えていた。おそらくティーダとゴーストのコンビに撃たれたのだ。 「司令部、人質を全員確保。回収地点Bに移動する」 「よくやった、ホテル6。これより米海兵隊が屋上のSAMを解体する。諸君は回収のヘリを寄越す、それに乗れ」 また"B"か――ローチは苦い記憶が脳裏に広がるのを感じ取った。もうプランBは勘弁だな。お迎えのヘリはOH-6だった。先ほど撃墜したのと同じアメリカ製、今度は味方であったが。 楽だったのは昨日まで。北の寒風に晒されるのを承知で、Task Force141はOH-6の外に剥き出しになった座席に腰掛けて移動する。 対空ミサイルはこれで無力化した。次はいよいよ、『囚人627号』だ。 戻る 次へ
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SIDE 時空管理局 機動六課準備室 七日目 1800 地球 衛星軌道上空 次元航行艦『アースラ』 ポール・ジャクソン 元米海兵隊曹長 『アースラ』はアフガニスタンへ向かっていた。この戦争を仕組んだ真犯人の一人、シェパード将軍を討ち取りに向かったプライスとソープの援護のためだ。 しかしながら、彼らは一つの問題を抱えていた。アフガニスタンに向かうと決めたは良いが、あの砂漠の大地は広大だ。プライスとソープが果たしてどこで戦っているのか、その居場所は彼らには伝えられなかったのである。艦は急行する傍らで、地球上の電波情報を収集することでプライスとソープの位置を、あるいはシェパード将軍の位置を掌握しようとしていた。 「――待って、今の電波戻して!」 米軍の通信情報解析に協力していたジャクソンは、艦橋のオペレーターたちの中から聞き覚えのある声を耳にした。印刷された情報から眼を離して通信端末に噛り付いていた彼ら彼女らを覗き込むと、『アースラ』主任オペレーターのエイミィ・リミエッタが、いつもの能天気な雰囲気を感じさせない真剣な表情でキーボードと格闘していた。 「何か見つかったのか。エイミィ」 「ちょっと待って。今捕捉した電波、音声通信じゃなかった気がしたの」 艦長席から離れてやって来た『アースラ』艦長、クロノ・ハラオウンがエイミィに問う。答えるのももどかしげに彼女はキーボードを叩き、ディスプレイに細くした電波の波長を表示させていた。ジャクソンには彼女が何をしているのかおおよその予測しか付かなかったが、おそらくは電波の内容を解析しているのだろう。音声出力される形で再生された電波は最初のうちこそただの雑音にも等しかったが、幾度も再生される度にフィルターを通し、人間の声であることが分かってきた。音紋分析が行われ、ついに誰の声であるかがはっきりする。 ≪――ここに記録しておく。歴史は勝者によって記されてきた。ゆえに嘘で満たされている≫ プライス大尉だ、とジャクソンは声の主を確信した。しかし、誰かと通信のやり取りを行っていると言う雰囲気は感じない。おそらくは事前に録音したのだろう。オペレーターたちは発信源の特定を急いでいる。 ≪もし奴が生きて俺たちが死ねば、奴の"歴史"が記される。俺たちのはゴミだ≫ 「出ました、発信源特定!」 「大型スクリーンに表示だ。全員に見えるように」 オペレーターの一人がキーボードを叩き、クロノの指示で艦橋正面の大型スクリーンに発信源を表示する。地球、衛星軌道上、廃棄されたまま宇宙と地球の狭間を漂っていた軍事衛星。データが併せて表示されたが、だいぶ古い物のようだ。冷戦期に当時のソ連が打ち上げたものらしい。冷戦終結と共に軍縮の煽りを受けて使用されなくなったのだろうが、機能はまだ生きていた。だからプライスはこの軍事衛星を選んだのか。 ≪シェパードは英雄になるだろう。一つの嘘と血の運河で世界を変えた。この史上最大の陰謀がこのまま進めば、奴は"歴史"になっちまう≫ 軍事衛星は、プライスのメッセージ以外にも重要な電波を放っていた。一見しただけでは単なる雑音に過ぎないその電波は、モールス信号だったのだ。発信のタイミングと時間を設定することで、シェパード将軍の詳細な位置がそこに記されている。 もし、自分たちが失敗した時は『アースラ』がこの情報を得ることを期待したのだろうか。ジャクソンはそんな推測を脳裏に走らせたが、次のメッセージを耳にした時、少し違うなと考えた。老兵は、全部自分たちでやるつもりなのだ。シェパードの位置情報は"ついで"に過ぎない。 ≪俺たちが奴の息の根を止めない限り≫ Call of lyrical Modern Warfare 2 第20話 Endgame / 戦友たち SIDE Task Force141 七日目 1810 アフガニスタン "ホテル・ブラボー" ジョン・"ソープ"・マクダヴィッシュ大尉 洞窟を駆け足で進んでいると、川が流れているのが見えた。ここを拠点にしていたシェパード、あるいはPMCの水源地だったのかもしれない。 川には船着場が設けられていて、モーターボートが配備されている――数人が、そのうちの一隻に乗り込もうとしていた。黒尽くめの兵士たちに護衛されて、軍服の男が急げと指示を下している。間違いない、シェパードだ。 先頭を行くプライスがシェパードを狙って発砲するが、銃弾は当たらず、洞窟の奥の光に吸い込まれていった。おそらくは川を下れば洞窟の外に出られるに違いない。ということは、奴は洞窟の外に脱出手段を用意しているのだ。 「ソープ、ボートに乗れ! 操舵は任せる!」 仇敵を乗せたモーターボートが、護衛の手によって緊急発進してしまう。しかし、彼らは大きなミスを犯した。ソープとプライスの追撃を恐れるあまり、残っていたもう一隻のボートを無傷のままにしていたのだ。 上官に言われるまでも無く、ソープはモーターボートに飛び乗った。エンジンをかけ、プライスが乗り込むと同時に急発進。水面を弾き飛ばすようにして、ボートは猛加速しながらシェパードたちを追う。 風を切って、洞窟内を流れる川を突き進む。途中で出くわしたつり橋の上で、敵兵たちが待ち構えていた。ソープは右手で操舵と加速を行いつつ、左手で道中拝借したUZI短機関銃を敵に向かってぶっ放す。モーターボートはつり橋の下を通過。UZIはカチンッと小さく断末魔を上げて弾切れを知らせたが、同時に敵兵の悲鳴も聞こえた。倒したか否かを確認する術はない。 「RPG!」 老兵の警告を受けて、咄嗟に舵を左に切った。直後、右舷で爆風と水飛沫が巻き起こる。舵をただちに右へと切って針路を戻せば、正面左側の船着場に黒尽くめの兵士たちがいた。その手にはRPG-7、もう一発を再装填しようとしている。すれ違いざま、プライスがSCARの引き金を引いて銃撃を浴びせた。アッ、と短い悲鳴が上がり、RPGの弾頭が敵兵の手から滑り落ちる。モーターボートは構わず川を下り続けた。 いた――二人の兵士、復讐に燃える男たちの眼が、先を行くモーターボートの影を捉えた。それぞれが銃を構えて滅茶苦茶に発砲するが、敵も必死だ。狭い洞窟内の川で右へ左へ蛇行し、放たれる殺意はことごとくが水面を叩くのみに終わる。もっと距離を詰めなければ。 暗い洞窟を抜けて、ついに眩い太陽の下へ。すでに日は傾きつつあった。水面を夕日が紅く照らす。まるで血のように。 川を下って追撃を続行するソープとプライスの前に、左右から一隻ずつ別のモーターボートが現れた。乗っているのは言うまでもない、シェパード指揮下のPMCだ。犬どもめ、とその忠誠心に呆れながら、ソープは左舷に現れた敵に向かってUZIを構える。 敵も撃ってきた。ピュンピュン、と弾が掠め飛び、水面に連続した小さな水柱が上がる。ソープの構えたUZIの銃口は弾を吐き出しながら、矛先を敵のボートの鼻先へと向ける。カンカン、と金属音が鳴り響いたかと思った次の瞬間、制御を失った敵のボートは舵を切れずに水面から突き出ていた岩へと正面衝突。敵兵たちが空高く舞い上げられ、川の底へと叩きつけられた。UZIの弾が舵に当たるよう未来位置を予測して狙ったのが功を制したのだ。 もう一隻、右から。ガッ、と船体に衝撃が走った。高速で駆け抜けるモーターボートが速度を落としそうになる。左へと意図せず傾いた針路、当て舵で強引に修正。咄嗟に視線を向ければ、敵兵を載せたボートが右舷より再び接近しつつあった。体当たりしてでもこちらを止めるつもりだ。 「ソープ、ぶち当ててやれ!」 プライスの激が飛ぶ。この野郎、と怒りを込めてソープは舵を右へと切った。ボートとボートが互いに衝突し合い、川に投げ出されそうになる。その一瞬の隙を逃さず、プライスがありったけの銃弾を敵兵たちに向けて放った。左手で身体を支えながら、右手のみで銃を構える強引な射撃姿勢。それでも弾丸は黒尽くめの兵士たちを次々と射抜き、ボート上の敵を一掃することに成功する。 これで妨害はもう終わりか。ほんのわずかな安堵を確信しかけたところで、頭上をバタバタと騒々しいヘリのローター音が駆け抜けていった。くそ、と悪態を漏らす。ミニガンを抱えたOH-6リトルバードが、彼らの行く手を遮るようにして立ちはだかる。 「潜り抜けろ、ミニガンが回る前に!」 言われるまでもなく、アクセルを全開にした。ドッと船首が跳ね上がる勢いでボートは加速し、立ちはだかったヘリに真正面から突っ込んでいく。プライスが生き残る道を見出したのは、敵のOH-6が抱えているのがガトリング方式のミニガンということだ。ガトリングは回転してから銃撃が始まるまで、わずかだがタイムラグがある。 機械音が鳴る。死神の鎌が風を切る音。ミニガンが放たれれば、モーターボートなどボロ雑巾のようにもみくちゃにされてしまうだろう。その寸前、二人を乗せたボートはOH-6の真下を通過した。一瞬遅れて野獣の唸り声のような銃声が背後で上がるが、放たれる銃弾の雨はすでにいなくなったプライスたちを狙って水面に降り注ぐばかりだった。 ヘリの攻撃を避けたと思った次の瞬間、いきなりボートが空中に放り投げられた。うわ、と情けない悲鳴が上がり、一度、二度とボートは水面に叩きつけられる。水飛沫をもろに被り、二人は水浸しになった。急流に入ってしまったらしい。それでもアクセルは緩めない。シェパードの乗るボートは、依然として視界内にあった。 ≪アバター1、状況は?≫ ≪回収の準備をしろ、敵は目前だ!≫ ≪三〇ノットを維持してください、回収します≫ その時、片方の耳に突っ込んでいたイヤホンに敵の通信が紛れ込んだ。これは敵の通信士とシェパードの声だ。回収の準備、もう用意していた脱出手段が間近に迫っているのか。 再び、ヘリのローター音が頭上に響いた。OH-6の軽い音とは違う、もっと重々しい大馬力のローター音。水飛沫の最中でソープが眼にしたのは、大型のヘリだった。MH-53ペイブロウ輸送ヘリ。こいつで逃げる気か。 まずいことに、敵のヘリのパイロットの腕は絶妙と言わざるを得なかった。シェパードたちの乗ったボートを追い越したかと思いきや、その場でわずかに機首を上げて減速し、高度を下げた。後部ハッチを開いて機体がわずかに水面に触れる程度にまで降下し、突っ込んできたボートをキャビンへと収容してしまう。離脱すらも鮮やかだった。急流に飲まれないよう、MH-53は急速上昇で離脱を図る。 逃げられる――焦燥が思考を染めた。ヘリを撃墜できるような火器を自分たちは持っていない。ソープはただ、高度を上げていくシェパードの乗ったヘリを見上げるしかなかった――プライスが銃を構えるまでは。 「ソープ、安定させろ! 船を揺らすな!」 「何をする気だ、プライス!?」 「撃墜する!」 無茶だ。川は急流に入っており、必死に舵を操作してどうにか転覆を免れているに過ぎない。離れていくヘリを、小銃でしかないSCARで撃墜するというだけでも無理難題であると言うのに。それでもこの男はやるつもりなのだ。これまで戦い抜いてきた老兵の眼が言っている。俺を信じろ。 ソープは舵を握りなおし、何とかして船体の安定に努めた。叩きつけられる濁流は容赦なくボートを揺らすが、エンジン全開でバックさせることでかろうじて勢いを相殺することに成功する。ボートの上は今、ギリギリのところで水兵を保っていた。 「そのまま――そのまま!」 パン、パン、パンと乾いた銃声が三つ。プライスのSCARが火を吹いた。放たれた銃弾は銃撃した男の意志が乗り移ったかのようにヘリに向かって突き進み――ドン、とシェパードの乗ったMH-53はローターから爆発を起こした。グルグルと制御を失い、はるか向こうへと落ちていく。 やった。本当にやりやがった、このじいさん。奇跡としか言いようがない超精密射撃を目の当たりにして、思わずソープは言葉を失った。そして、あっと気付く。この川の向こうは滝だ。このままでは水面に向かって落ちてしまう。 「下がれ、バックだ、バック!」 「やってるよ、掴まれプライス!」 エンジンはとっくに全開だ。しかし、これまで水平を維持していたのが仇となったのか、出力は上がらない。次々と襲い掛かる激流はボートを前へ前へと押し込み、船首の向こうに空が見えた。次の瞬間、宙に浮くような感覚が二人を包んだ。 駄目だ。身構える。ボートは真っ逆さまに水面へ落ちる、落ちる、落ちる――ドン、と衝撃が走った後、目の前が真っ暗になった。 激しく咳き込んで、ソープはどうやら自分はまだ生きていることを自覚した。滝から落ちた後、ボートから投げ出されて運よく陸地に打ち上げられたようだ。 立ち上がろうとして、身体が痛みの声を上げる。どこが、ではない。全身が痛んだ。苦悶の表情を浮かべつつ、激痛と格闘しながらどうにか立ち上がった。 視界はぼやけ気味、銃は手放してしまった。ナイフ一本が唯一の武器だ。鞘から引き抜いて、左手で逆手に持ったまま進む。プライスはどこだ。自分は生きて陸地に打ち上げられたのだから、あの不死身の老兵もきっと近くにいるはずだ。 はっきりしない意識が覚醒したのは、数メートルほどをふらつく足取りで進んだ時だった。アフガニスタンの砂の大地で、何かがメラメラと燃えている。そういえば、目を覚ました時にヘリのローター音を耳にしたような気がした――ヘリ。そうだ、プライスが撃墜したあのMH-53はどうなった。シェパードは。 燃えている何かの正体を確かめるべく、警戒しながら歩みを進める。とはいえ、武器はナイフ一本だ。銃を持った敵がそこにいたら、太刀打ちするのは至難の業だろう。一歩一歩、足を進めるたびに向こうの様子を伺う。 地面で何かが蠢いている。敵兵だ。ハッとなったが、よくよく見ればそいつはもがき苦しむようにして這いずっていた。武器を持っている様子も無い。おそらくは、撃墜されたヘリに乗っていた一人だろう。ということは、この先で燃えているのはやはり。 地面を這っていた敵兵が、上を見上げる。目出し帽とヘルメットで覆われた顔に、ソープははっきりと恐怖を見出した。ジタバタともがいて逃げようとするが、もはや立つことも出来ない敵の命運は明白だった。背中に向けて、ナイフを振り下ろす。あっ、と短い悲鳴を上げて、哀れな敵兵は事切れた。 たった今殺害した敵の死体を乗り越え、さらに進む。燃えているのは、やはりヘリの残骸だった。グシャグシャにひしゃげた機体はまだ小規模な爆発を繰り返しており、つい先ほど墜落したものだと分かる。シェパードはどこだ。死体を確認しなければ、終わったことにはならない。 残骸のすぐ傍に、突き出た岩があった。その上で、またも敵兵が一人息も絶え絶えな様子で動けないでいる。目が合って、やはり敵の表情は恐怖で染まった。今度の奴は、手に拳銃を持っていた。まずい、とソープは焦るが、最後の力を振り絞るようにして向けられた銃口は彼を捉えていた。 カチンッ、と小さな機械音。拳銃を持つ敵兵は信じられない表情で何度も引き金を引くが、弾は出ない。マガジンが抜け落ちていたのだ。気付いた時にはすでに遅く、振り下ろされた刃が喉を貫いていた。返り血を浴びながら、ソープは殺した敵の死体よりナイフを引き抜く。 ヘリの残骸から発せられる鉄の焦げるような匂いに、呼吸系をやられた。ゲホッ、と咳き込んでしまい、肺が痛むのが分かった。歯を食いしばって視線を上げることが出来たのは、彼が鍛え抜かれた兵士だからだ――その兵士の眼が、残骸の奥に誰かがいるのを見出す。いた、シェパードだ。 「貴様……!」 鬼のような表情を浮かべ、痛む身体も無視してソープは前へと駆け出した。ゴーストも、ティーダも、Task Force141の部下たちも、みんな奴に殺された。それなのに、プライスが撃墜してなお奴はまだ生きているではないか。こんなことは許されない。 シェパードはゴホ、ゴホと咳き込みながら、しかしソープと違ってさほど酷い怪我は負っていないようだった。残った体力と気力を振り絞るようにして駆けるソープが、逃げる奴の背中に追いつけないでいる。そのまま奴は、残骸の付近にあった廃屋の方向に向かって逃げていった。 くそ、どこだ。どこに行った。あの野郎。文字通り血眼になって、最後の敵を探す。見失ってしまったのは大きなミスだが、奴も決して無傷ではない。それほど遠くには行けないはずだ。荒い呼吸のまま、脳に命の糧を送り込んでシェパードを探す。 ――いた。廃車の陰、痛む身体を庇うようにして潜んでいる。殺してやる。懺悔の言葉の一つも残せないうちに。 「復讐がどうなるのか知っているだろう――墓穴を用意しておけ、二つだ」 飛び出すようにして、ソープはナイフを持ったままシェパードに襲い掛かった。奴の呟く戯言は、耳に入らなかった。 ナイフが振り下ろされ、シェパードの胸を――貫かない。ガッと逆に腕を握られ、反応できないうちに今度は後頭部を抑え付けられた。そのまま廃車に向かって額をガツンと叩きつけられる。衝撃が脳を揺さぶり、立っていられなくなった。ドサッと砂の大地に倒されると、墜落した直後とは思えない勢いでシェパードが自分のナイフを引き抜く。 まずい。しかし身体は言うことを聞かない。グサリと胸に焼けるような鋭い痛みが走り、ナイフが突き刺されたのはその直後だった。あまりの激痛に、ソープの意識はほんの一瞬暗闇の底へと落とされた。 「数年前のあの日――私は一瞬にして三万人の部下を失った」 遠のいていた意識が、痛みと言葉で返ってくる。目を開いて最初に見えたのはシェパードと、その手に握られた大型のリボルバーだった。 「にも関わらず、世界はそれを傍観しているだけだった……!」 ピン、ピンと金属音が鳴り響く。リボルバーから空の薬莢が指で落とされ、弾薬が再装填されていた。奴が自分を殺す気なのは、死に掛けた頭でもすぐ理解出来た。 「これからは、志願兵の不足は無い。愛国者もな」 「――全て、貴様の手中のうちで、か。満足か、アメリカ(祖国)を戦場にして」 ふん、とシェパードが鼻を鳴らす。これから死ぬ男の言うことなど、戯言にしか考えいないのだろう。 数年前のあの日が、中東の核爆発のことなのは明白だ。シェパードは当時、侵攻部隊の司令官だった。大勢の部下が、核の炎に焼かれて死んだ。なのに世界は変わらなかった。軍人という者たちを見る目は以前のままだったのだ。こいつはそのために、この戦争を起こした。 踏み荒らされる祖国を守るため、軍人が命がけで戦って異世界からの侵略者を叩き出す。確かに、軍人という立場は大きく見直されるかもしれない。 「お前なら分かるだろう?」 リボルバーの銃口が突きつけられる。ハンマーが起こされた。あとは引き金を引くだけで、ソープは撃たれ、そして死ぬ。しかし、彼はなおシェパードの思想を拒否した。そんな世界、クソ喰らえだ。プライスもきっと、そう言うはずだと信じて。 引き金が引かれる――その直前、視界の隅から誰かが飛び出してきて、シェパードを弾き飛ばした。パン、と銃声と共に放たれた弾丸は明後日の方向に飛んでしまう。この土壇場で、自分を救ってくれた者は誰だ――言うまでもない。プライス大尉だ。 「生きていたか、プライス大尉」 「一人で死ぬつもりはない」 ガッ、とプライスの拳がシェパードの頬に叩き込まれる。たたらを踏んで耐えるシェパードは、反撃の膝蹴りを老兵の腹部に叩き込んだ。老いた兵士、軍人としての生き方以外出来ない二人の男の殴り合いが始まった。 援護しなければ。プライス一人に任せられない――胸に深く刺さったナイフはそのままに、ソープはもはや麻痺しつつある身体を必死に制御した。足に力は入らない。這い蹲って向かう先には、シェパードが手放したリボルバーがある。律儀に全弾装填されていたから、弾はまだ入っているはずだ。 ズリ、ズリと砂の大地を這って進む。視界の向こうでは、肉弾戦の激しいぶつかり合いの音が響いてくる。ドサッ、と目の前にプライスが吹き飛ばされてきた。まだ息はあるようだが、このままでは二人とも殺される。早く銃を拾わねば。リボルバーまであと少し、左手がついにグリップに届いた。 いきなり、アーミーブーツが目の前に現れた。握りかけた銃が、そいつのせいで蹴飛ばされる。くそ、と見上げた先には唇の端から血を流す敵の老兵。ガッと顔面に蹴りを入れられ、再び意識が遠のいてしまう。 三度目の覚醒。しかし、今度ばかりはもう動けない。意識も途絶え途絶えで、頭が上手く現実を認識しない。視界に映るのは、なおも殴り合いを続けるプライスとシェパード。拳と蹴りの応酬。プライスが押しているように見えたが、ほんの一瞬視界が暗く染まり、明るさを取り戻したと思った時には形勢が逆転していた。プライスが倒れ、シェパードが馬乗りになって老兵の顔面に拳を叩き付けている。 何か無いか。武器を。何でもいい。プライスを助けねば。何か、何かあるはずだ――その時、ソープが見出したのは、自分の胸に突き刺さったままのナイフだった。これだ。もうこれしかない。指先の感覚はとうに失せていたが、信念が沈黙していた神経を叩き起こした。ぴく、とわずかに指が動いたかと思うと、右手がナイフの柄を握る。 ナイフを引き抜こうとする。その瞬間、麻痺していたはずの体に激痛が走った。異物を除去する痛みは視界を点滅させ、胸の傷からは赤々とした流血が噴出す。それでもナイフは抜けない。左手さえも使って、ソープは呻きと唸りが入り混じった声を上げる。早く、早く、早く。 スパッ、と胸の痛みが一瞬引いた。血が飛び散り、突き刺さっていたはずの刃が今は自分の右手の中にある。チャンスは一度きり、これを外せば本当に何もかもが終わる。 手のひらの上でナイフを回転させる。目標は、シェパード。奴がこちらに気付く様子は、ない。 ゴースト、ティーダ、部下の皆――脳裏に仲間たちの顔が浮かぶのと、ナイフをダーツのように投げ飛ばしたのはほとんど同時だった。 ハッとシェパードが顔を上げた。放たれた殺意の刃は、そのまま奴の目玉を貫き、脳にまで達した。驚くほどあっけなく、シェパードは死んだ。プライスの上で馬乗りになったまま、二度と動かなくなった。 あばよ、くそったれ。続きは地獄でな。 風が吹いていた。認識できるのは、ただそれだけ。任務達成の満足感はなかった。今度こそ、意識が遠のく。もう覚醒することは無いだろう。 ゲホ、と誰かが咳き込むのが聞こえた。消えかけた意識が、かろうじて繋ぎ止められる。誰だ。プライス大尉? 「ソープ……!」 あれだけ殴られたにも関わらず、老兵は自力で起き上がった。乗っかったままのシェパードの死体をどかし、ふらついてでも歩いてソープの元へ。 「ソープ……!」 呼びかけには答えられない。もはや口も動かせないのだ。視線だけを動かして、自分は死んでいないことを伝える。気のせいか、わずかに老兵の表情が緩んだように見えた。 チェストリグが脱がされ、迷彩服の下にプライスの治療を施す手が入る。手持ちの衛生キットで出来ることはわずかだったが、しばらくはまだ死なずに済むかもしれない。 「喋るな。お前は死なす訳にはいかん」 プライス、と口だけ動かすと、彼はそう言って自分も負傷しているはずなのに、戦友の身体を抱えようとした。しかし、どこに行こうと言うのだ。 その時、ソープは目にした。アフガニスタンの砂の大地の向こうから、黒い影がいくつも飛び出してくるのを。武装した兵士たち。シェパード支配下のPMCの連中だ。まだ生き残りがいたのか。 「くそ」 ソープを担いだまま、プライスが吐き捨てた。黒尽くめのPMCたちは、銃をこちらに突きつけている。主人が死んでなお、この忠実なる犬どもは自分に課せられた任務を果たそうというのだ。 これはいよいよ駄目か――思考に絶望の二文字が走りかけた。パン、と銃声が響いたのは、その直後。自分たちを取り囲む敵兵たちの一人が、身体をくの字に曲げた末に倒れる。何事だ、と正体不明の銃撃を目の当たりにして焦る黒尽くめの兵士たち。次に彼らに襲い掛かったのは銃弾と、青白い魔力弾だった――魔力弾? 敵兵たちがバタバタと倒れていく。幸運にも生き残った奴らは逃げ出していくが、ソープとプライスのの前に飛び出してきた兵士がその背中に向けてM14EBRを叩き込んでいく。ひとしきり撃ったその兵士は、そこでようやく二人に視線を合わせた。 「マクダヴィッシュ大尉!」 ローチ――信じられないものを見る目で、ソープは現れた兵士の名を声なき声で呼んだ。ゲイリー・"ローチ"・サンダーソン軍曹。ソープの部下、Task Force141の数少ない生き残り。何故ここにいる。 「すまない、今回は出番が無かったな」 「ジャクソン、お前か。それに、クロノ?」 「ええ。ご無沙汰してます、プライス大尉」 続けて現れる兵士と魔導師。ジャクソンとクロノ、どちらも二人のかけがえの無い戦友たちだった。 ヘリのローター音が鳴り響いてきた。砂を撒き散らしながら、はるか空中よりヘリが降りて来る。OH-6リトルバード、パイロットはニコライ。着陸し、ロシア語訛りの英語を話すこの男はプライスたちの下へ。 「片道飛行と言ったはずだが」 「私もそのつもりだったんですがね。彼らが納得しないもので」 ふん、と鼻を鳴らすプライスに、ニコライはローチ、ジャクソン、クロノの三人を見渡しながら苦笑いを浮かべた。 ごほ、とその時、プライスに担がれるソープが強く咳き込んだ。血の味が口の中に広がる。応急処置を施したとはいえ、深手を負ったことには変わらない。 「行こう。ソープが危ない」 「ああ、いい医者を知ってる。ニコライ、乗せてやってくれ」 「合点だ」 ジャクソンが肩を貸して、プライスと共にニコライが乗ってきたヘリにソープを送る。ローチとクロノがそれに付き添った。 「大尉、死なないで下さいよ。俺が生き残ったんです、貴方も生き残るべきです」 「ソープ、彼の言う通りだ。弱気になるなよ」 分かってるさ。離陸するヘリの機内で、ソープは部下と戦友からの励ましに胸のうちで答えた。 OH-6は離陸。一路、次元航行艦『アースラ』へと向かう。 Call of lyrical Modern Warfare 2 END To be continue……"Modern Warfare 3" 戻る
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SIDE 時空管理局 二日目 時刻 0715 第三三五管理世界 フェニックス前線基地 クロノ・ハラオウン執務官 砂漠の早朝は、驚くほどに冷え込んだ。気候の安定した故郷のミッドチルダや、空調の効いた次元航行艦と比べると、改めてここは最果ての地なのだなと実感する。 とは言え、屋内にいれば寒気など別の世界の出来事だ。寝起きの脳はエアコンからの暖かい、それでいて気候に悪影響を与えることのない空気を受けて、またウトウトと眠りにつこうとする。 コーヒーを一杯飲んで眠気覚まし、そこから書類を見ながらカロリーブロックで朝食。クロノ・ハラオウンの一日の始まりは、異世界においても一緒だった。忙しい身分ゆえに、仕事と食事は平行 して行うことがしばしばあるのだ。 彼が目を通すのは、昨日行われた米軍、管理局の合同部隊の救出作戦の報告書。紛争の絶えない管理世界を偵察していたところ、管理局に反発する現地武装勢力に襲撃させられ、孤立。ただちに米 軍は救援部隊を送り込んで、孤立部隊を救出したと言う一連の流れが、細部に渡ってまとめられていた。 紙媒体じゃなくてこっちならもっと早いのだが――報告書を読み通していく思考とはまた別に、脳裏でふとした雑念。こっち、とはすなわち魔法のことだ。ブラウン管でも液晶でもない、文字通り 魔法のクリアなディスプレイは電源要らず、どこにでも展開できる。にも関わらず報告書が紙なのは、魔力資質を持たない米軍兵士と都合を合わせるためだった。 コンコン、とその時である。扉がノックされて、その魔力資質を持たない者が現れた。装具や銃こそないが、米海兵隊の迷彩服を着た屈強そうな兵士。襟元には曹長の階級章。ポール・ジャクソン 在ミッドチルダ米軍連絡官が、よぉ、と気さくな朝の挨拶と共にやって来たのだ。 「朝からご苦労様だな。どうだ、陸軍(アーミー)の連中の手並みは」 「報告書を読む限りでは、上等なものだと思う。あの中将が自ら最前線に立ったのはどうかと思うけど」 あぁ、とクロノの言葉を受けて、ジャクソンは苦笑い。将軍はそういう人さ、と答えながら、部屋にあったコーヒーポットを少しばかり拝借。紙コップに注いで、湯気の上る熱いコーヒーをグビリ と一杯。 「このシェパード将軍か。優秀な兵士を引き抜いて、独立部隊を作ろうとしてるのは」 「Task Froce141」 「――何だって?」 「あの将軍が作ろうとしてる部隊の名さ。混成部隊(タスク・フォース)。その名の通りうちの陸軍(アーミー)、海軍(ネイビー)、海兵隊(マリーン)、イギリスのSAS、管理局の魔導師。国境どころか 世界すら跨いだ史上最強の特殊部隊」 なるほど、確かに最強と呼ぶに値するかもしれない。ジャクソンの解説を受けて、クロノは納得。同時に、ふと妙な既視感のようなものを覚えてしまう。各方面から精鋭を引き抜いて編成された独 立部隊。どこかで似たようなものを、聞いたような気がした。 脳裏の奥に探りを入れて、それが表面化した時、ふっと彼は唐突に笑う。そうか、確かに『彼女』が似たような部隊を編成しようと張り切っていたな。 いきなり笑みを浮かべた戦友に、ジャクソンは怪訝な表情。どうしたよ、と尋ねると、いいや、と前置きして問われた青年は答えだす。 「最近、管理局(うち)の方でもそんな部隊を作ろうって話がある部署から上がって来てね。僕も計画立案にいくらか携わってるんだ。メインはあくまで向こうだけど」 「何だと、そりゃ初耳だな――なんだ、何がおかしい、ん?」 コーヒー片手に、人の顔をニヤニヤと見られたら誰だってジャクソンのような反応を起こすだろう。クロノはしかし、明確な回答を避けた。暗に思わせぶりな答えしか寄越さない。 「いや、何。君もよく知ってる人だよ、立案者は。と言うか、その様子だと何も聞かされてないんだね」 「おいおい、もったいぶるなよ――まぁ、いい。それよりもだ」 がらりと、海兵隊員の持つ雰囲気が変わる。声色こそ変わらず、挙動も変化なし。だが、クロノは彼の持つこの雰囲気を知っていた。身近にさえ感じたことだってある。 すなわち、戦場の空気。死線を共に潜り抜けてきた戦友は、銃を手に敵と対峙している時の持つピンと張り詰めた匂いを漂わせていた。ここから先はおふざけなし、真面目で、ともすれば生死に関 わる話、と言う訳だ。 ジャクソンは、クロノが持つそれとは別の報告書を何枚か持参してきていた。今朝方、参謀本部から届いたものだと解説をつけて手渡す。 「第三三五管理世界の武装勢力より鹵獲した、武器装備の調査報告?」 「知っての通り、奴らは地球から密輸したらしいロシア製の銃火器を多用している。出所を探ったのさ」 なるほど、米軍にしてみれば自分たちの世界にしか存在しない武器を敵が持っているのだ。当初は粗悪なコピーかと思われていたが、実際に鹵獲された武器弾薬を調査すると、地球で製造されたも のであることが判明する。彼らが持つ報告書は、その続報と言ったところだ。 しばらく報告書を読み、そしてクロノが顔を上げた。まさか、と疑いの意味を込めての視線。しかし、戦友は首を横に振って否定。間違いないとも付け加えさえした。 「武器の売買に、超国家主義者たちが関与している。こんな馬鹿な話があるか、僕は確かに――」 「ああ、俺もあの場にいたからな。超国家主義者のリーダー、イムラン・ザカエフはお前に撃たれて死んだ。綺麗に頭をぶち抜かれて」 だったらどうして。当時、まだ少年だった執務官は口に出さずともそう言いたげな様子が見て取れた。手のひらに甦るM1911A1の反動、放った銃弾は間違いなくザカエフを仕留めていた。 「超国家主義者にも、いろいろ派閥があるそうだ」 もう一枚、ジャクソンは報告書を取り出した。こちらは写真付き、ある人物に関する調査報告書のようだ。 写真に写っていたのは、一人の男だった。ザカエフと同じように鋭い眼光を持った、しかし鮫のように無表情な男。 ザカエフの写真にはまだ感情が見て取れた。西側諸国に身を売る祖国を奪還しようと、そのためなら世界を滅ぼすことも辞さない一種の狂気。だが、この男は違う。写真を見ただけでは、本当に何 を考えているのか分からない。ひたすらに無。何者にも読み取れないと言う事実を叩きつけられたような怖ささえあった。 「新しい超国家主義者のリーダーってとこだ。こいつが残党を纏め上げて、率いてる」 「名前は」 「マカロフ」 SIDE C.I.A 二日目 時刻 0725 大西洋 米海軍ヴァージニア級潜水艦『アリゾナ』 ジョセフ・アレン上等兵 まさか、潜水艦の艦内でスーツを着るとは思ってもみなかった。真新しい背広は、野戦服と違ってパリッとしており、何だか落ち着かない。 最新鋭とは言えこの『アリゾナ』は、潜水艦の常識から出ることなく狭い。少なくとも陸兵であったアレンにとって、四方八方を鉄に覆われた空間は酷い閉鎖感を伴っている。しかも、壁の向こう は海なのだ。一度浸水が起これば、あっという間に飲み込まれてしまう。何事もなく任務に従事する水兵たちが、とても勇ましくすら思えた。 では、俺は何なのだろう――居心地が悪そうにネクタイを緩めて、アレンは物思いにふけりながら艦内の通路を進んでいく――狭い潜水艦に押し込められ、浸水の恐怖に震える臆病者? いいや、俺 は臆病者などではない。臆病者であるなら、自分が"選ばれる"はずがない。仮に臆病者であったにしても、戦場ではそういう奴の方が長生き出来ることもある。 「どうです?」 士官室を間借りする形で設けられた『司令部』に足を踏み入れ、アレンは彼を待っていた男に訊ねた。自分の選んだのはその男であり、任務を命じたのもまたこの男なのだ。背広が似合っているか どうか、聞いても罰は当たるまい。 「まさに"悪党"だな」 男は――海軍の艦内であるはずなのに、陸軍の将官用制服に身を包んだ男、シェパード将軍は、一言で感想を述べた。それはよかった、と質問者も納得した様子で頷いてみせる。 一方、壁にもたれ掛かって退屈そうにしていた青年が一人。背広を着てやって来たアレンに「遅いぞ」とでも言いたげな視線を飛ばし、鮮やかな橙色の髪を掻き揚げた。 「悪いな、ティーダ。ネクタイなんて就職活動の時以来だったから――失礼、ティーダ・ランスター1尉」 「ティーダでいい――んだよ、お前。銃の撃ち方は分かるのに、ネクタイの締め方は分かんねぇのか」 「銃を撃つ方が簡単だからな。狙って、引き金を引く。これだけさ」 開き直ったような兵士の態度に、ティーダと呼ばれた青年は怒ることも忘れて苦笑い。出会ってからまだ一日だが、一度共に死線を潜り抜けた瞬間から、彼らは戦友と呼べる間柄だった。 「まぁ、潜入任務にはうってつけじゃないか。で、将軍? ご褒美は"マカロフ"ですか?」 戦友との会話もそこそこに切り上げ、ティーダは本題に入るようシェパードに訊ねる。無表情のまま、この戦うことを生き甲斐とする軍人はプリントアウトした写真を持ち出し、机の上に広げた。 写真に写っていたのは、一人のロシア人。鮫のように無感情な瞳をした男――マカロフ。超国家主義者たちの、新たなリーダー。 「こいつがそんな上等なものに見えるか。金のためなら平然と人を殺す、ただの狂犬。売女(ビッチ)だ」 なるほど、と将軍の証したマカロフの人物像を聞いて、アレンは納得する。 前リーダーのザカエフは、文字通りの狂信的な国家主義者だった。かつてのソ連の指導者スターリンを崇拝し、強いロシアを取り戻そうとした。 だが、マカロフは違う。彼は、長い内戦の末に疲弊してしまった祖国に、見切りをつけた。かつての大国ロシアは超国家主義者たちの大半を駆逐することに成功すれど、二度と力を取り戻すには至 らないまでに荒れ果ててしまったのだ。だからこそ、この狂犬は国家よりも信じられるものに目をつけた。すなわち、金だ。 運悪く時空管理局の存在が明るみに出て、地球と他の世界との行き来が可能になり始めた頃、彼は九七管理外世界より姿を消す。紛争の絶えない他の世界を渡り歩いては、ある時は傭兵、ある時は 武器を売買する死の商人として動くためだ。先日の第三三五管理世界における現地武装勢力との戦闘も、この男の存在が何らかの形で関与している。 「それよりも、新しい"素性"を叩き込んでおけ。ロシア語は話せるな?」 「大学時代は語学を専攻しましたから」 ならいい、と問いかけに答えたアレンに対し、シェパードは頷いてみせた。それから、ティーダとアレンを交互に見渡し、改めて彼らを迎え入れる。 「ようこそ、"141"へ。史上最強の特殊部隊だ」 「はい閣下、光栄であります」 大した感動を見せることなく、ティーダがラフな敬礼と共に適当な返事を口にする。将軍が、それに対して機嫌を損ねた様子はない。彼は兵士に素行の良さを求めてはいない。ただ任務を遂行する ことだけを求めていた。 「で、他の連中はどこへ? まさか我々だけ、という事ではないでしょう」 「無論だ。彼らは落下したACSモジュールの回収任務に就いている――アレン上等兵はこのまま命令があるまで待機。ティーダ1尉には、彼らのところに行ってもらおう」 「了解しました――は? 今からですか? どこに?」 質問したら、思わぬ命令が回答に付け加えられてきた。戸惑う青年に、シェパードはやはり無表情のまま告げる。 「想像してみろ、今にも凍りつかんとしている場所だ」 Call of lyrical Modern Warfare 2 第3話 Cliffhanger / "プランB" SIDE Task Force141 カザフスタン共和国 天山山脈 ゲイリー・"ローチ"・サンダーソン軍曹 超国家主義者たちは、ロシア本土より大半が駆逐された。結果としてかつての大国ロシアは荒れ果てたが、ひとまずのところ内戦の可能性は消えたと言える。 だが、中にはしぶとく居座る連中もいる。彼らが目指す旧ロシア空軍基地は、まさしく超国家主義者たちの残党が潜む"敵地"だった。基地司令は奴らとグルになっており、テロリストを匿っている。 本題は、ここからだ。まずいことに、姿勢制御のソフトに深刻なエラーが発生したことから、米軍の監視衛星が落下してしまった――よりにもよって、この天山山脈で。彼らの目的は、墜落した監 視衛星の姿勢制御を司るACSモジュールの回収であった。 敵地への潜入のため、侵入ルートは限られる。極力人目につかず、敵の監視網に入らない、要するに『まさかここから来るはずがない』と言うルートを通る必要があった。 ――だからと言って、こんなところを通ると言うのはどうなんだ。 寒さは、文字通り身体を凍てつかせるかの如く厳しい。吐いた息が瞬時に冷却され、口の周りを白く汚す。グローブに覆われた手で時折払いのけるが、時間が経てばまたすぐ同じことを繰り返す。 おまけに、だ。もうずいぶん高いところにまで昇ったが故、チラッとでも視線を下げれば、吸い込まれるようにして広い雪の大地が眼下に広がっている。足を一歩踏み外せば最後、あっという間に あの世行き。これでもまだ、目的地は今より高い場所にあると言うのだ。もう少しマシなルートはなかったのか、誰もがそう考えてしまう。 「休憩は終わりだ、ローチ」 しかし、この男だけは違うようだ。頭上を駆け抜けていったMiG-29、おそらくは目指す空軍基地から発進したと思われる戦闘機を見送り、吸っていた葉巻を奈落の向こうへ投げ捨てる。タバコのポ イ捨て、などと批判することは出来ない。どう見ても道ではない、狭い足場を顔色一つ変えずに渡り進んでいく度胸を見れば、誰だって口を噤んでしまう。 ホント、超人過ぎるよマクダヴィッシュ大尉は――ため息を吐いて、ゲイリー・"ローチ"・サンダーソン軍曹は立ち上がる。上官が足を進める以上は、自分も行かねばならない。 登山靴に装着したアイゼンと呼ばれる爪は、しっかり氷の地面に食い込む。うっかり足を滑らせて、と言う事態を避けるためだ。とは言ったものの、何しろ背中を預ける雪山の斜面は、狭い足場を 進む兵士の背中を押すようにして聳え立っている。なるべく視線を下げないようにして、ローチは壁に背を向けて摺り足で進んでいく。 「ここで待て、氷の状態を見る」 途中、先を行くマクダヴィッシュが居心地悪そうにぶら下げたM21EBR狙撃銃をずらし、同じくぶら下げていたピッケルを持ち出す。二本のうち一本、右手で持つ方を目指す氷の壁に突き刺し、大胆 にもこの上官は、狭い足場でくるりと一八〇度、身体の向きを回転させた。昇るべき壁面と向き合った後、左手のピッケルを上へと突き刺し、グッと腕に力を込めて身体を引っ張り、登っていく。 あとは右、左、右、左と交互にピッケルを壁に抜き差しして、アイスクライミング。 「よし、氷はいい感じだ。ついて来い」 はーい、と声には出さず行動で返事。マクダヴィッシュとまったく同じ要領で、ローチはピッケルを氷に突き刺し、彼の後を追っていく。 右、左、右、左と単調な作業の連続だが、完全装備で垂直の壁を登っていくのは簡単なことではない。否応なしに呼吸が荒くなり、吐息がまたしても口の周りを白く汚しだす。くそ、と悪態の一つ でも漏らさなければ、とてもじゃないがやってられない。 その時、上空で轟音。ドッと腹に響くほど大きなジェットエンジンの唸り声を撒き散らしながら、敵のMiG-29がすぐ頭上を駆け抜けていった。 侵入に気付いた訳ではあるまい、単に離陸していっただけだ。もっともおかげで、轟音と衝撃で割れた薄い氷の破片が目下登山の真っ最中の兵士たちに降り注ぐのだが。何だと思って、動きを止めた のは幸いだったかもしれない。バラバラと降ってくる氷の雨を耐えしのぎ、ローチはアイスクライミングを続行する。 ようやく登り切った。足場があることの素晴らしさ、感動を覚えてしまうほどだ。しかしながら、ここはまだ目的地ではないらしい。先に登頂していたマクダヴィッシュは、彼の到着を確認するな り頷き、「それじゃあ、あっちで会おう」とか言い出した。 「大尉?」 「幸運を」 何を言ってるんですか。呼び止めようとした頃には、何を思ったかこの上官、いきなり走り出して霧の向こうに姿を消したではないか。慌ててローチが霧の奥に目を凝らすと、白いカーテンの向こ うで、ピッケルを氷に突き刺す音が聞こえた。崖の向こうで、マクダヴィッシュがジャンプした末に壁に飛びつき、その状態でアイスクライミングを始めたのだ。 ちょっと待て。ローチは、足を止めてしまう。大尉は、「あっちで会おう」と言った。つまり、自分も同じことをやらねばならない。その通りだ、とでも言わんばかりに、霧の向こうにいる人影が 壁に引っ付いたまま、手招きしていた。 ええい、ままよ――今更ながら、上官が「幸運を」と言っていた理由が分かった。上手く壁に引っ付けるかは、運による。雪山との運試しだ――助走をつけて、兵士は駆け出す。地面がぎりぎり途 絶える寸前、足に力を込めて一気に跳躍。 氷の壁は、あっという間に目の前に迫ってきた。両腕のピッケルを、躊躇なく力いっぱい突き刺す。食い込みが悪い。予想以上に硬かったのだ。ズルズルと見えない手に足を引きずられるようにし て、ローチはピッケルを突き刺したまま氷の壁の上を落ちていく。 「踏ん張れ、持ち堪えろ!」 マクダヴィッシュの指示が飛ぶ。言われなくても、力いっぱい踏ん張っていた。それでも落ちていく身体は――止まった。右手で握るピッケルは弾かれるようにして壁から離れてしまったけども、 左手のピッケルが危ういところで、持ち主の身体を引き止めていた。 とは言え、いつまで持つか。うっかり視線を下げてしまったことを、ローチは深く後悔した。このピッケルを手放せば、後は地面に向けて落ちるだけ。にも関わらず、氷に食い込んだはずのピッケ ルは少しずつ、壁に押し出されるようにして外れかけている。 あぁ、これもう駄目だ! 諦めが脳裏をよぎったのと、ピッケルがついに外れたのはほぼ同時。重力に引っ張られる己が身体、しかし一瞬遅れて視界に現れるのは太く鍛えられた腕。 「おっと。逃がさないぜ」 パシッと、落ちかけた身体の左腕が掴まれ、引き止められる。マクダヴィッシュが、危険を冒して助けに来てくれたのだ。 「た、助かりました。すいません、大尉――」 「礼と謝罪は後回しだ。昇れるな?」 こっちもなかなかきついんだ。そう語る上官の顔に、辛さは見えない。 この人とならどこにだって、どこまでもだって行ける。ローチは、胸に勇気が溢れかえるような気がした。 アナログ極まる方法でアイスクライミングをやり遂げたローチを次に待っていたのは、最先端のデジタルだった。 「ローチ、心拍センサーを見てみろ」 ひとまずまともな足場に辿り着くなり、マクダヴィッシュが命令を下す。これですね、とローチはACRアサルトライフルを構え――米国のマグプル社が原型のMASADAを開発し、レミントン社が軍用モデルを製造する新世代ライフルだ――銃の中ほど、機関部に付属していたパネルを開く。 電子装備の登場により、現代戦は複雑さを増している。彼が開いたこの心拍センサーも、まさしくその最中で登場した索敵のための装備だった。事前に登録を受けた者の心音、つまり味方は青色の 点で表示し、そうでないもの、例えば敵などは白い光点で表示する。これなら視界が極端に悪い環境であっても、敵味方をしっかり識別した上で見失うことはなくなる。 「青が俺、それ以外が白だ。簡単だろう」 「白い奴だけ撃てばいいんですね、分かります」 ならいい、と上官は前進の指示。危険な道のりを乗り越えてきたが故、敵の哨戒網に引っかかることなく目標の空軍基地に接近することができた。もうすぐそこ、左に視線をやれば霧の向こうに滑 走路らしい人工の大地と、誘導灯と思しき光がチラチラ見えている。 とは言え、基地のすぐ傍となれば敵兵がうろついているのも充分にあり得る話だった。現に銃を構え、腰を低くして前進していくマクダヴィッシュとローチの前に姿を見せたのは、AK-47やFAMASを 担いだ敵兵士。間抜けに後姿を晒していたが、無視して進もうにも進行方向が被っていた。 「あの様子じゃ、奴さんたちは俺たちが間近にいるなんて考えもしてないだろう。落ち着いて、確実にやる」 了解、とマクダヴィッシュの命令に頷き、ローチははるか向こうでトボトボと歩いていく敵の背中に銃口を向けた。歩哨の数は二人、どちらか片方を撃てば残った片方が気付き、騒いでしまう。あ くまでも同時に、二人まとめて射殺する必要がありそうだ。 「お前は左をやれ。3カウントだ」 上官は、サイレンサーを取り付けたM21狙撃銃を右の敵に向ける。指示通りにローチはACRの照準を左の敵兵士に向け、狙う。 引き金に指をかけて、幾つかの呼吸。すっと息を吸い込み、そのまま閉じ込めるようにして呼吸を止めた。 「1、2、3――撃て」 引き金を引く。銃床を押し付ける肩に、軽く小刻みな反動が数回響く。ACRの銃口から放たれた複数の五.五六ミリ弾はサイレンサーで銃声を消された上で、敵兵の背中に襲い掛かった。あっと悲 鳴も上がらぬままに崩れ落ちる敵。隣の兵士は何事かと振り返ろうとした瞬間、マクダヴィッシュの放った弾丸によって仲間の後を追う。 敵兵排除、再度前進。道中、同じように遭遇した歩哨もこれも同様の手筈で難なく排除し、さらに彼らは進んでいった。 基地の外壁に到達すると、マクダヴィッシュがここで「二手に別れよう」と提案してきた。狙撃銃とサーマルゴーグルを持つ彼は高台に上り、観測手となる。ローチは単独で基地に潜入し、上官の 指示と援護射撃を受けながら進んでいく。 しかし、単独か。一瞬不安そうな表情を見せた部下に、ベテラン兵士は安心しろ、と言う。 「この吹雪じゃお前は幽霊みたいなもんだ。よほど近寄らんと、敵は見えんさ」 「理屈はそうかもしれませんが……」 「センサーを頼りに進め、幸運を」 "つべこべ言うな、行け"ってことですね、ハイハイ――そうは言っても、つい先ほどの命の恩人の言うことだ。心拍センサーは正常に機能しているし、何より大尉の言うとおり、さっきから辺りを 漂う雪に風が入り混じりつつある。風、と呼ぶには生温いかもしれない。これはもう吹雪、雪風だ。こうして壁の影に身を潜めている間にも視界は悪化していき、もう五メートル先は真っ白で何も 見えないほどだった。 銃口を正面に突きつけ、ローチは姿勢を低くして進む。ちらりとACRのパネルに目をやるが、白い光点ははるか向こうだ。気付かれた様子もなく、抜き足差し足で忍び込んでいく。 ――っと、危ない。肉眼では白い闇に阻まれ何も見えないが、センサーは正確だ。真正面に、こちらに向かってくる白い光点が一つ。傍らにあった資材に身を潜め、一旦敵の視界から逃れることと する。何も知らない敵兵は、ふんふんとのん気に鼻歌を歌いながら道を行き、ローチが隠れる資材の影にも目をくれず、行き過ぎていった。 プシュッと、聞こえたかも定かではないほど小さな音がその時、彼の耳に入った。視線を上げると、先ほど鼻歌を歌って行き過ぎた敵が道端で倒れ、動かなくなっている。 「忘れてくれ」 片方の耳に突っ込んだイヤホンに、マクダヴィッシュ大尉の声。なるほど、さては狙撃したに違いない。サーマルゴーグルがあるとは言え、この吹雪の中で大したものだ。感嘆として、ローチは前 進を再開する。 さすがにこっそりと侵入しただけあって、敵の警戒網はさほど厳しいものではなかった。詰め所の中でストーブに当たっている敵兵を見つけた時は、羨ましいとも思いつつ無視して先を行く。こっ ちは山登りの果てに、吐息も凍る寒さの中で戦争をやっていると言うのに。 心拍センサーに映った白い光点をやり過ごし、あるいは観測手に狙撃してもらい、着実に進んでいく。その途中、マクダヴィッシュから指示が飛んだ。 「ローチ、敵の通信を傍受した。南東に給油所があるようだ、プランBのためにC4をセットしてこい」 プランB? それって何にもないって意味じゃ――首をかしげて、しかし命令は命令だ。敵の合間を掻い潜って進んでいくと、やたらと広い空間に躍り出た。地面を見ると、アスファルトが敷き詰め られた人工のようで、「35」と番号が書かれていたり、矢印が描かれていた。なるほど、どうやら滑走路のようだ。進んでいる途中に敵の戦闘機が飛び上がったり降りてこないかとも思ったが、さ すがに視界が悪いせいかそれはなさそうだ。駐機されているMiG-29に、離陸しようとする気配は見られなかった。着陸機も、真っ白い虚空の向こうからジェットエンジンの轟音は聞こえてこない。 指示通りに進み、行き止まりにぶち当たる。否、赤いハンドルやパイプ、火気厳禁の標識が立ち並んでいるのを見るに、ここが給油所であるに違いないだろう。バックパックから粘土のようなプラ スチック爆弾"C4"と信管、起爆装置を持ち出し、貯蔵タンクと思しきものにセット。これでプランBの準備は整った。 「大尉、プランBの用意ができました。今どこです?」 「待て、また敵の通信だ――よし、衛星の保管場所が判明した。南西にある格納庫内だ、手前で落ち合おう。競争だ」 競争って、ちょっと大尉。問いただそうにも、無線の相手は「通信アウト」と一方的に宣言し、回線を切ってしまった。あ、とローチが声を上げる頃には、すでに移動を開始したに違いない。 フライングとは卑怯な。雑念を脳裏によぎらせつつも、再び心拍センサーを頼りに彼は進みだす。目指すは南西、目的の回収対象である衛星が保管されているらしい格納庫だ。 それなりに急いだはずだったのだが、目的地の格納庫裏に辿り着く頃には、すでに心拍センサーが青い光点を映し出していた。 一応警戒しながら進み、屋根の下に入れば、どこで拾ったのかAK-47に持ち替えたマクダヴィッシュの姿があった。 「観光ルートでも通ってきたのか?」 「吹雪で何にも見えやしませんよ」 フムン、それもそうか。ローチに答えに妙に納得した様子で頷いた上官は、しかしすぐにGOサインを下す。今度は自ら先頭に立って、格納庫に通じる扉を開けて突き進む。 扉を抜けると、短い廊下に出た。まっすぐ進んで突き当たりを行けばいよいよ格納庫中心部であるに違いない――が、フラフラと歩いて何者かが正面に現れた。白い迷彩服に、AK-47を担いだ、紛 うことなき敵兵だった。咄嗟に、ローチはACRの銃口を跳ね上げ、敵に向ける。その直前、前を進んでいたマクダヴィッシュがダッと駆け出した。 止める暇もないほど、あっという間の出来事。ベテラン兵士の体当たりを受けた敵はいきなり訳も分からず、廊下の壁に並んでいたロッカーに叩きつけられる。上に置いてあった段ボールが転げ落 ちて、ロッカーの扉が開いて金属音を鳴り立てた。ひっくり返った敵兵に向けて、マクダヴィッシュはナイフを引き抜き、首の急所を一刺し。素早く抜いて、何事もなかったかのようにまた進む。 野獣か、この人は――哀れにも犠牲となった敵兵士の死体を踏み越えて、後を追う。 格納庫中心部に到達すると、彼らを待ち構えていたのは所々に焦げ目がついてしまった、ボロボロの人工衛星だった。これが目標のものであるに違いないが、人工衛星そのものは回収対象には入っ ていない。どの道、いくら訓練された兵士だからと言って二人で敵地から盗みだせるようなものでもない。 「上に行ってACSモジュールを持って来い」 上官の言うとおり、回収すべきは姿勢制御を司るACSモジュールと呼ばれる部品だ。迷彩服の懐に入ってしまうようなサイズでしかないが、今回の任務はそもそもACSモジュールに深刻なエラーが発 生したが故に生起したものだった。 指示を下す傍ら、マクダヴィッシュは手近にあった電動ドライバーを人工衛星の蓋に押し当て、解体を始めた。どこを調査されたのか調べるためだ。ローチは何も言わず、指示されたとおりに二階 へと続く階段を上る。 警戒しながら進んでみたが、誰もいない。二階に上がった彼を待ち受けていたのは、しんと静まり返った部屋。奥の机の上に、無造作に置かれたACSモジュールがあるのみだった――否、それ以外 にもう一つ。格納庫内部は外とさほど変わらない寒さであるにも関わらず、妙にこの二階だけは暖かい。ストーブが設置されていたのだ。 ACSモジュールを懐に入れて回収、わずかばかりストーブに手を当てて暖を取る。ついつい「はぁー、あったけぇ……」と口に漏らしてしまった。 ピッ、とちょうどその時電子音。ん? と怪訝な表情でストーブに当たったまま手元を見ると、ACRのパネル、心拍センサーに反応があった。白い光点が一つ、二つ、三つ――ちょっと待て。 機械音が鳴り響いたのは、その直後だった。ガコッと扉が開かれるような音。心拍センサーに映る白い光点も、もはや数え切れないほどの数に膨れ上がる。 「ローチ、見つかった」 マクダヴィッシュの声が、通信で届く。 駆け出し、ローチが目撃したのは開かれた格納庫の扉と、その幅いっぱいに広がる敵兵たちの群れだった。中央にいる拳銃を持つ将校らしき男は、おそらく指揮官。ひょっとしたら基地司令かもし れなかったが、そんなことはどうでもいい。敵兵たちはいずれも銃を構え、照準をすでに合わせているようだった――手を上げ、身動き出来ないでいるマクダヴィッシュに。 助けなきゃ。そう考えるのは、誰にだってあり得る。しかし、どうやって。こっちはアサルトライフルが一丁、向こうは何十丁もある。下手に発砲しようものなら凄まじい弾幕がこちらを襲うであ ろうし、何より大尉は身動きできない。 「私は当基地司令、ペトロフ少佐だ! 両手を挙げて出て来い!」 将校らしき男、指揮官は拡声器を手にそう告げた。わざわざ名を名乗るのは、自己顕示欲の表れだろうか。ともかくもローチは物陰に身を伏せたまま、敵の動向を伺う。 「侵入者に告ぐ、貴様の仲間は捕らえた! 上にいるのは分かっている、降伏すれば命は助けてやろう!」 やっぱりか。ACRの引き金に指をかけたまま、彼は状況を整理する。敵は、マクダヴィッシュ大尉を人質に取ったつもりでいるのだろう。そして、"上にいるのは分かっている"ということはつまり、 こちらの詳細な位置は概ねでしか掴んでいないのだ。分かっているならさっさと大尉は射殺して、二階に踏み込んでくるに違いない。 とは言え、どうしたものか――フルオート射撃でビビらせないだろうか? いや、発砲炎で位置がバレるだけだ。最初の一瞬は驚くにしても、すぐに体勢を立て直して反撃してくる。たかが一人の 射撃では、その程度が限界なのだ。上官が射撃に加わってくれればまた違ってくるかもしれないが、何度も言うように大尉は手を上げていて、身動き出来ないでいる。 「ローチ、プランB」 ――ああ、なるほど。そういえばその手があったか。 囁くようにして入った通信は、当のマクダヴィッシュ大尉からだった。すっかり忘れていた、まだ手はある。 ローチがスイッチを取り出したのと、相手が反応を見せないのに苛立った敵の指揮官が、また拡声器で声を張り上げだすのはほぼ同時の出来事。 「五秒だけ時間をやる! 五、四――」 しかし、上手くいくだろうか。不安が一瞬、脳裏をよぎる。敵が驚いてくれなければ、全ては水の泡と化す。大尉は撃たれて死に、おそらくは自分も後を追う羽目になるだろう。 「三、二――」 ええい、ままよ。半ばヤケクソ気味な勢いで、ローチはスイッチを押す。 「一――!?」 プランB、発動。格納庫の扉の向こう、滑走路よりも先にある給油所で、派手な火の手が上がった。爆発、炎と衝撃のカーニバル。その場にいた誰もが、何事かと後ろを振り返った――今だ! C4爆弾を遠隔操作スイッチを放り投げて、ローチはバッと物陰から身を乗り出す。ACRのセレクターをフルオートにセット、引き金を引いて射撃開始。デタラメな照準、しかし突如として降り注ぐ 銃弾の雨は、一瞬の隙を見せた敵兵たちにとって脅威と呼ぶほかなかった。何名かはウッと短い悲鳴を上げて倒れ、大部分は驚き怯え、反撃もままならないまま逃げ出そうとする。 直後、格納庫内に、ローチのACRとは異なる銃声が響き渡る。拝借したAK-47の連続射撃音、マクダヴィッシュが反撃に転じたのだ。二人の一斉射撃を受けた敵軍は、数で勝っているにも関わらず片 っ端から薙ぎ倒されていく。 やった、うまく行った――階段を下りて、ローチは上官と合流。ついでに空になったマガジンを投げ捨て、予備のマガジンを差し込み、コッキングレバーを引く。息を吹き返したACR、銃口を前に構 えて彼はマクダヴィッシュに指示を仰ぐ。 「ローチ、ついて来い! 駐機されてる敵機を盾に、滑走路を突っ切るぞ!」 「了解!」 銃声、爆音、悲鳴、怒号。吹雪のみが唸りを上げていた雪山の空軍基地は、戦場の姿へと一変する。 敵の妨害射撃を切り抜け、銃撃に巻き込まれて引火したMiG-29の爆風に晒されそうになりながら、二人は敵地の中を突き進む。 「GO! GO! GO!」 上官に言われるまでもなく、ローチはひたすら前を行く。途中で時折振り返って、なおも追撃を仕掛けてくる敵に向かって五.五六ミリ弾を叩き込む。怯んだ隙に走って走って、背中を撃たれる恐 怖に打ち勝てなくなったらまた振り返って交戦するの繰り返し。 先を行くマクダヴィッシュも、考えなしに逃げ回っていた訳ではない。滑走路の向こう側、基地の外に繋がる斜面は一気に飛び降りれば、自分たちを回収するヘリとの合流地点に向かうことが出来 る。部下と共に雪と氷でコーティングされた斜面を滑り降り、すぐさま振り返って迫る敵を撃つ、撃つ、撃つ。 敵も黙って撃たれる訳ではなかった。彼らはスノーモービルを持ち出し、二人一組となってローチたちの進行方向に先回りを図る。が、一両が雪上を駆け進んでいたところで、小屋の影に潜んでい たマクダヴィッシュの強烈なピッケル攻撃を浴び、ひっくり返った。投げ出された敵兵はあえなく死亡してしまったが、彼らが乗ってきたスノーモービルは健在だ。 「ローチ、こいつを奪え。一気に脱出だ!」 「俺スノーモービルなんか運転したことありませんよ!?」 「だったら尚更、いい機会だ!」 無茶苦茶だ――しかし、徒歩よりはるかに速いには違いない。結局座席に跨り、上官を後ろに乗せてローチはアクセルを回す。元の持ち主を殺されたにも関わらず、スノーモービルは元気よくエン ジンを吹かし、猛然と雪の上を加速していった。機械に感情はないはずだ。 「キロ6-1、第一回収地点には到達不可能! 予備の回収地点へ向かう、オーバー!」 「こちらキロ6-1、了解。第二回収地点に向かう、アウト」 通信機に向けて怒鳴る上官をよそに、ハンドルを握るローチの思考は運転に精一杯だった。頬を痛いほどに叩く風、耳元で唸る空気の流れていく音、吹っ飛んでいく雪山の風景。スノーモービルは アクセルを吹かせば吹かすほど速度を増し、白銀の世界を駆け抜けていく。 パッパッとその時、はるか正面で地面に降り積もった雪が弾けるように舞うのが見えた。すぐに視界の片隅に流れて消えていってしまう、そのくらい一瞬の出来事だったが、間違いなく見えた。サ イドミラーに目をやれば、同じく銀の世界を駆け抜け追って来る敵兵たちのスノーモービルが一両、二両とチラつく。くそったれ、追撃してくるのか。安全運転だけで精一杯なのに。 「大尉、後ろ、後ろ! 後ろに敵!」 「見えてるよ、前を見てろ」 突き進むスノーモービルのすぐ傍らを、弾着が駆け抜けていく。それでも後席の上官は冷静とものん気とも取れる回答。グロック18Cを持ち出し、片手で構えて敵に向かって弾をばら撒く。さすがに 照準の余裕はない。とにかく撃ちまくって、敵をビビらせ射撃をやめさせるほかなかった。 悪いことは、さらに続く。歩兵の持つ小口径の弾丸は雪を舞い散らせる程度だったのだが、背後から突如降り注いだ炎の矢は進行方向にあった木を吹き飛ばし、叩き折った。咄嗟にハンドルを切って 回避するも、耳元で唸る風の声に混ざる形で聴覚に飛び込んできたのは、ヘリのローター音。味方であると思いたかったが、先ほどのロケット弾射撃はどう見ても誤射ではなく狙ったものだ。 「後方にハインド! ローチ、スピード上げろ! GO! GO! GO!」 分かってます、分かってますからあんまり怒鳴らないで集中できない! 泣き出したくなる衝動に駆られ、ローチはひたすらスノーモービルの操作に集中する。背後より迫るヘリは、Mi-24Dハインド。 生身の人間二人に攻撃ヘリまで投入とは、よっぽど敵さん頭に来たらしい。何でだよ、ちょっと落し物を拾いに来ただけなのに。 もちろん、嘆いたところで状況は変わらない。降り注ぐロケット弾と銃弾の雨、被弾しないのが不思議なくらいの攻撃を掻い潜り、彼らを乗せた鋼鉄の馬は雪山の白い斜面を乗り越える。妨害に現 れた進路上の敵もひき殺すような勢いで加速し、突き進んでいたところで、今度は斜面を下りに入っていく。 速い――たまらず、ローチはアクセルを握る手の力を緩めた。しかし、それでもスノーモービルは加速していく。坂道を下っているのだから、当然ではあるのだが――速い、速い、速い、速過ぎる! どうするんだこれ、止まれないぞ! 向こうは、崖だ! 「ローチ、まっすぐだ! この先が回収地点だ!」 「はぁ!? なんですって!?」 「まっすぐだ!」 落ちるでしょうが! 上官からの指示に、しかしローチはどの道逆らえない。今更ブレーキをかけたところで、間に合うはずもない。そのくらいスノーモービルは加速しきっており、もはや止まるこ とを知らない暴れ馬と化していた。敵の銃火も途絶えてしまった。完全に振り切ってしまったのか、この先はもう崖であることを知っていたのか。 バッと、彼らを乗せたスノーモービルは崖を飛び越えた。加速していた車体は慣性の法則に乗っ取り、地面を離れてなお前に進む。 あ、これ、ひょっとしたら助かるんじゃないか。ほんの一瞬、胸のうちでローチは生存の可能性を見出した。なるほど、マクダヴィッシュ大尉は最初からこれを目論んでこのルートを。ごめんな さい大尉、俺大尉のことを勘違いしてました――崖の向こう側、地面に辿り着くほんの五メートルほど手前で、スノーモービルは下を向き始める――くそったれ、信じた俺が馬鹿だった! 「落ちるぅ!!」 「落ちねぇよ!!」 あぁ!? ともはや生きることを諦めヤケクソになった彼が顔を上げる。視界に映ったのは、人。こっちに手を差し伸べる、人間の男だった。いや、本当に人間なのだろうか。こいつが人間であると するなら、何故こちらは重力に引っ張られて絶賛落下中だと言うのに、こいつは宙に浮いていられるのか。 されど、全ての疑問は後回し。ハンドルから手を離し、ローチは突如現れた空中浮遊する男が差し出した腕を掴む。男はそれだけでは飽き足らず、後席にいたマクダヴィッシュにも手を伸ばしていた。 何も言わず、彼は男の差し出す手を掴み、落下現象から脱出。スノーモービルだけが見えない腕に引っ張られるようにして、底も見えない崖の下に落ちていった。 「キロ6-1、二人の回収に成功した。これから連れて行く!」 「キロ6-1了解。ティーダ1尉、早めに頼む。燃料が限界近いんだ」 あいよ、とヘリとの交信を終えた空中浮遊の男は、次に自分が抱える二人の兵士を見た。 「……妹へのお土産にしちゃあ、ちょっと無愛想だな。礼の一つも言ってくれよ」 「――すまない、お前の言うとおりだ。助かった、ありがとう。管理局の魔導師か?」 「お、分かる?」 マクダヴィッシュは彼のことを何か知っているようだ。しかし、ローチの方は、もちろん何がなんなのかさっぱりな状態である訳で。 何でもいいから早く下ろしてくれ――眼下に広がる雪の大地、白一面の銀世界は、無表情に彼を見つめていた。 戻る 次へ