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番号 名前 好きなゲームタイプ VC 状況 PSNID 通称 役割等 一言 ↑をコピーしてテンプレートとして使ってください 1 さくら☆○○○ ドミ 有 活動中 f-sakura さくら 肩書きだけリーダー この表どうですか?わかりにくかったら変えます。 5 はにまる [オオカミ組] ????? 有 活動中 hanimaru227 はにー ????? みんなで一緒にしましょ^^ 6 onsight@13a ドミ・グランド 有 活動中 souraikai オン 砂・アサルト なんとかなれたはいいがデスが多い><!みかけたら気軽に呼んでください!最近砂の要領が少しわかってきたかも!(^^)!
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彼らは、ほとんど同じ境遇にあった。奇妙なことだが、文字通り世界を跨いだ先で、似たような状況に陥っていたのだ。 身も凍るような寒さは、間違いなく彼らの身体から自由を奪っていた。捕虜として最低限度の人間の扱いはされているが、指先は軽い凍傷のような症状を見せていた。食事はパンとスープのみが いつもの献立で、まれに出てくる乾燥された肉や少しばかりの野菜がひどく贅沢な一品のように思えたほどだ。餓死しない程度の、そういう食事だった。 常人なら、とっくに音を上げて降参しているところだろう。不思議なことに、彼らを捕らえた敵の者たちは、本来敵対すべき者同士であるのに、彼らにそれぞれ、似通ったような要求を突きつけ てきた。 片方の要求は「管理局の全軍に、地球への侵攻命令を出せ」というものだった。現状、時空管理局はミッドチルダ臨海空港での虐殺テロに端を発したアメリカへの報復強行派に主導権を握られて おり、しかし彼らの行き過ぎた行動は各地で反発の声を招いていた。そこで彼らは、捕らえた提督である『彼』に、自身の名で侵攻命令を出せと言うのだ。虐殺テロにまだアメリカの手によるもの だったのか疑問が残るとして報復には慎重だった一派の中でも、特に高い階級を持つ『彼』までもが報復にGOサインを出せば、全軍も従うだろうと考えたのだろう。 もう片方の要求は、「西側諸国の各国軍隊の兵士に対し、自分たちの戦争犯罪を認めるよう言え」というものだった。祖国であるはずのロシアを追われ、次元世界を漂流する身となった超国家主 義者たちは、何とかして自分たちを流浪の民へと追いやった地球の西側諸国にダメージを与えようと考えていた。こちらの『彼』は歴戦の軍人であり、出身国の英国は元より米軍でも上層部にその 名を知る者は多い。その『彼』が超国家主義者たちの要求に屈したとなれば、西側諸国の特殊作戦の指揮官たちは少なからずショックを受けるだろう。ついに『彼』までもが、超国家主義者たちの 手に堕ちたのだと。 だが、どちらの敵も、大きな過ちを放置していたことに、気付く様子はなかった。例え動きを封じられようと、苛酷な環境に放り込まれようと、彼らは歴戦の戦士だった。目的のためなら泥水を すすり、草の根を噛んでも生き延びる。そういう人種だったのだ。檻に入れ、武装した兵士の手で監視したところで、彼らの心が折れることはない。 椅子に縛り付けられ、手首に食い込む手錠の痛みに耐えながら、彼らはじっと、待っていた。 Call of lyrical Modern Warfare 2 第10話 The Gulag / 脱出 後編 SIDE Task Force141 五日目 0757 ロシア ペトロパブロフスク ゲイリー・"ローチ"・サンダーソン軍曹 人間が、飛び出してきた標的に対して銃を構え、狙いをつけ、引き金を引いて撃つと言う一連の動作を終えるのに、何秒かかるかご存知だろうか。正解は、平均で四秒と言われている。つまり、 この理論に従うのであれば、身を守る遮蔽物から遮蔽物に移動する際、四秒よりも早く辿り着ければ、撃たれないで済むと言う事だ。逆もまた然りであり、四秒よりも早く照準し、射撃すれば狙っ た標的を遮蔽物に隠れる前に撃てることになる。特殊部隊に属する兵士たちは射撃にもっとも訓練の時間を費やすのは、以上のような理由があってのことだろう。 もっとも、遮蔽物が無い、と言うような状況となれば話はまた別である。ローチたちTask Force141は、まさにそういった状況下に放り込まれていた。 「ローチ、左から来る! 撃ちまくれ、迎撃しろ!」 マクダヴィッシュ大尉の指示が飛ぶ。ローチは狭い武器庫の中、M4A1を構えて左を向いた。渡り廊下の向こう側、空になった独房の前を何人もの敵兵たちが進んでいる。間もなくそれぞれ配置に 就いて、こちらに対する銃撃を開始するに違いない。冗談じゃない、こっちは身を隠す遮蔽物なんてほとんど無いぞ。 銃口を敵に向けて、照準もそこそこに引き金を引く。M4A1の、五.五六ミリ弾が火を吹いて放たれ、敵兵たちのうち何人かを薙ぎ払うかのようにして撃ち倒す。それでもローチの銃撃を生き延び た敵兵たちは前進を続け、武器庫に立て篭もるTask Force141を取り囲むようにして布陣。隊は必死の抵抗を試みるが、敵は数的有利にあった。たちまち、銃声と跳弾の火花が空間を支配する。 うわ、あち、畜生。被弾していないのが不思議だった。悲鳴を上げながらでも、ローチは頼りない武器庫の小さな物陰に身を寄せ、近くにひっくり返っていたAK-47を拾い上げた。銃口だけを武器 庫の外に向けて、出鱈目に引き金を引く。AK-47は本来の持ち主である超国家主義者たちの手先に向けて火を吹き、弾を撒き散らした。カチン、と機械音が鳴ったところで銃を引っ込め、マガジン交 換はしないでまた新たに転がっていたAK-47を拾い、同じように撃つ。どれほど意味があるかは分からなかったが、まったくの無抵抗では敵の包囲は破れない。 「ゴースト、早く開けろ!」 同じように遮蔽物に身を寄せて銃撃を凌ぐマクダヴィッシュが、通信機に怒鳴っていた。武器庫は現在、封鎖されている。扉のロックさえ解除できれば、部隊は渡り廊下を渡って敵の布陣する独 房の前にまで移動できる。そこまで行けば、今は包囲するようにして攻撃してくる超国家主義者たちも迂闊に撃てなくなるはずだ。 ところが、先ほどから武器庫と渡り廊下を繋ぐ扉は中途半端な位置で開くのを固辞していた。前進も出来ず、後退も出来ない。 「ちょいとお待ちを…くそ、このシステムは化石かよ。古すぎるぜ!」 決して、今は監視制御室にいるTask Force141の副官ゴーストも遊んでいる訳ではない。彼は古びた監視システムを、それもロシア語で描かれたものを前に悪戦苦闘しながらどうにかして武器庫の 扉を開こうと努力していた。 マカロフが憎み、そして恐れるという囚人627号は、この収容所に捕らえられている。本来ならロシア政府の手で早々と特定され解放されるはずだったのだが、超国家主義者たちが先回りして収容 所を占拠した。Task Force141は囚人627号の確保のため収容所を襲撃し、今はこうして地下にまで潜っている。ゴーストが監視制御室に入って履歴を当たったところ、囚人627号は東の独房に移送さ れたと言う事実が判明し、隊は現在近道である武器庫を通って目的地を目指していた。そこに敵が押し寄せてきたのだ。 銃撃が激しさを増す。ローチが盾にしていたコンテナに弾が当たって、いよいよ駄目になる。代わりの遮蔽物を、と言っても周囲にそんなものはなかった。M4A1を銃口だけ突き出して引き金を 引き、抵抗を試みるがやはり敵の勢いは止まらない。くそ、せめて遮蔽物がもう少しあれば。 ふと、彼は武器庫の中にある人物の姿がないことに気付く。ティーダ・ランスター、ミッドチルダ出身の魔法使い。あいつどこ行ったんだ、まさかもうやられたのか。地面に這いつくばって、銃 弾の雨を必死の思いで潜り抜けながらティーダを探すと、いきなり目の前にドンッと、盾が置かれた。視線を上げれば、目的の人物がそこにいた。ティーダだ。盾など持って何をしている。 「遮蔽物が足りないんだろ!」 ティーダは足元で伏せているローチの視線に気付き、彼の抱いていた疑問に怒鳴って答えた。魔導師が持ち出したのは、ただの盾ではない。ライオットシールドと呼ばれる類のこの透明な盾は、 透明という見た目の割りに拳銃や短機関銃程度の弾なら防ぐ機能を持つ。そうだ、ここは武器庫。ライオットシールドが転がっていても、なんら不思議ではない。 「お前防御の魔法とか持ってないのか、バリアとかそういう便利なものは!」 「俺は当たらなきゃどうってことはない主義でよ」 なんだよ、魔法使いの癖に――そうはいっても、ティーダの持ち出したライオットシールドは、間違いなく効果を上げていた。武器庫内に降り注ぐ銃弾が、透明の盾によって明らかに弾き返され ているのだ。敵が狭い屋内ゆえに銃火器を短機関銃ばかり選択していたのも幸いした。魔導師の行動が呼び水となって、Task Force141はシールドで即席の防御陣地を築いていく。 せーの、と戦友との共同作業で決して軽くはないライオットシールドを重ねたローチは、ようやくM4A1を普通に構えた。飛び交う敵弾が盾を叩き、表面にひび割れが走るが、怖がってもいられな い。重ねたシールドの隙間から銃口を突き出し、ダットサイトに捉えた敵兵を撃つ。反撃開始、照準の向こうで敵がひっくり返る。 遮蔽物を得たことで、苦境に立たされていたTask Force141は息を吹き返した。マクダヴィッシュは片手で撃てるMP5Kを右手に、ライオットシールドを左手に持って敵弾を弾きながら移動し銃撃 し、ローチたちも続く。ティーダの拳銃型デバイスから放たれた魔力弾は正確に目標を射抜き、超国家主義者たちを蹴散らしていった。 ようやく敵の勢いが陰りを見せたところで、突如、武器庫の扉が開かれた。ゴーストからの通信が入る。 「やりました、大尉! 扉がオープンです!」 「よくやった、ゴースト! 分隊、武器庫から出るぞ!」 監視制御室のゴーストは、化石並みに古い監視システムをようやく操れたようだ。マクダヴィッシュが歓喜の声を上げて、ただちに自身が先頭に立って渡り廊下に出る。ライオットシールドはこ こでも威力を発揮した。突進する分隊指揮官は戦車のように銃弾を弾きながら突き進み、あろうことか渡り廊下から繋がる独房への入り口にいた敵兵をドッと盾で殴り飛ばした。映画の『300』み たいだ、とローチの思考の片隅に雑念が走る。スパルタの兵士が、鍛え抜かれた肉体を駆使して盾で押し迫る敵を薙ぎ払ったように。 もっとも俺たちはスパルタ兵でもないし、得物だって槍とは違うが――雑念を捨てるようにして、空になったマガジンをチェストリグのマガジンポーチに突っ込む。弾の入ったマガジンを持ち出 して、M4A1に突っ込む。息を吹き返す銃は、再び火を吹く。包囲網さえ突破してしまえばこっちのものだった。 最後の敵兵を撃ち倒したところで、Task Force141は独房の中を見て回った。誰かが最近までいた様子はない。やはり、囚人627号は別の独房のようだ。 「ゴーストです。大尉、囚人627号の詳細な位置が判明しました。隔離独房のようです。そこからロープで地下に降りてください、それが一番近い」 「監視カメラで様子を探れないか?」 「無理です、電源が落ちてます」 通信を終えたマクダヴィッシュが、分隊に暗視ゴーグルを出せと指示を下す。地下の隔離独房はおそらく暗い。真っ暗闇の中をさ迷い歩くような真似は誰だってしたくないだろう。 「ティーダ、お前暗視ゴーグルは…」 「そんなロボコップみたいになる代物いらないよ。俺は魔法使いだぜ」 念のため予備を持ってきたのだが、ローチの差し出した暗視ゴールの受け取りをティーダは拒否した。それから格好つけるように目元を叩いてウインクなんかしやがった。何だ、こいつ。さっき は盾を持ち出して物理的に防御を図ったのに。 とは言え、魔導師が暗闇でも見えるのは本当のようだった。ロープを引っ掛けて降下した先はまさしく暗闇そのもののようだが、彼は躊躇なく、Task Force141がみんなロープで降下していく最中 に一人だけ"飛び降りた"。着地も華麗に決めたのだから恐れ入る。まったく味方でよかった。 SIDE 時空管理局 機動六課準備室 五日目 1200 第四一管理世界"キャスノー" ポール・ジャクソン 元米海兵隊曹長 果たして偶然か否か、味方でよかったと思う兵士がここにも一人。雪と氷が支配する死の世界にある収容所にて、ポール・ジャクソンは走っていた。 周囲はすでに戦争でも始まったかのように騒然としており、警報が響き渡っている。時折駆け足で進む収容所の警備兵がいて、相当慌てている様子がすぐに伝わってきた。レーダー制御室に留ま って収容所内の様子を探るギャズの報告によると、司令室も事態の掌握が出来ておらず、未だに侵入者の存在に気付いていないらしい。突然のレーダーの電源ダウンも、故障と思われているようだ った。 まぁ、そうなるのもやむを得ないだろうな――サイレンサー装備のM4A1を手に持ち、防寒装備に身を包むジャクソンは一旦壁に張り付き、走ってきた傭兵たちをやり過ごす。傭兵たちは管理局の 武装隊の装備をしていたが、ジャクソンに気付かないあたり練度はあまり高いとは言えないのだろう。報復強行派の行き過ぎた行動は、明らかに人手不足を招いている。 練度が低いことばかりが問題ではなかった。たまに上空を見上げると、桜色の閃光と金の閃光が飛び交っていた。収容所のどこかから対空砲火らしい魔力弾が撃ち上げられているが、その数はあ まりに少なく貧弱だ。そうでなくとも、二つの閃光はまるでエースパイロットの駆る戦闘機のような機動を見せ、撃ってきた対空砲火に向けて砲撃魔法を叩き込んでいる。レーダーの無力化により 探知されることなく接近できた、高町なのはとフェイト・T・ハラオウンの二人だった。高練度の空戦魔導師が、辺境の世界の収容所に襲い掛かっている。 「派手にやるなぁ、おい」 ジャクソンに同行する黒人兵士グリッグが、上空で繰り広げられるワンサイドゲームを見て呟いた。これでも彼女らは敵の注意を引くのが目的のため、ずっと手加減しているのだという。確かに 凄い。こんな化け物みたいなエースを揃えて、機動六課準備室の室長こと八神はやてはいったい何をする気だったのか。世界を破滅を防ぐ? なるほど納得だ。どんな破滅の時も裸足で逃げ出すに 違いない。釣り合わないよな俺たちじゃ、とジャクソンはひっそりと苦笑いした。 しかし上を飛び回るエースのお嬢さんたちにも出来ないことはある――どう見ても、彼女らは目立っていた。雪の降る灰色の空であっては、桜色も金も目立つのだ。その点、彼らは優れていた。 なんと言っても、移動は徒歩であるから光を放ったりしない。 行くぞ、とジャクソンはグリッグに合図して進む。ギャズの寄越した情報により、目標の囚人627号の――皮肉にも、Task Force141が求める人物と同じ番号だ――居場所はこの先六五〇メートル にある政治犯、凶悪犯罪者を収容する独房だ。さすがにこちらの方は警備が緩いということもあるまい。敵の中にはそろそろ、こちらの目的を見抜く者がいてもいい。 銃を正面に向け、曲がり角では一旦壁に寄り添い、必ず敵の有無を確認してから進む。後方のグリッグは背後をカバーし、時折位置を入れ替えてジャクソンが後ろを見張る。 前進は途中までは順調だったが、何度目かの入れ替えでジャクソンが前に立った時、雪と霧の白い視界の奥に、黒く蠢く何かがいるのが見えた。隠れろ、と彼がグリッグに合図しかけたところで 白いカーテンの向こうから、警備用の傀儡兵が姿を見せる。人間サイズのいわば魔法で動くロボットだったが、こいつもこちらを視認したに違いない。機械音が鳴って、手にしていた魔法の杖、デバ イスを構えようとする――遅い。相手が傭兵ならともかく、傀儡兵を前にしたジャクソンの動きに躊躇いはなかった。踏み込み、M4A1の銃床で傀儡兵の頭を殴る。 衝撃を受けた傀儡兵は、頭部のセンサーが狂ってしまったのだろう。目標が目の前にいるというのに、デバイスから放つ魔力弾をあらぬ方向に撃ち上げてしまった。それでも姿勢を持ち直そうとす る。ジャクソンはM4A1の銃口を突きつけ、引き金を引いた。発砲、命中、貫通、破壊。今度こそ沈黙する傀儡兵。 まずいな――雪の地面に倒れるロボットを目の当たりにして、しかし兵士の顔は晴れない。傀儡兵は目標を発見すると、自動的に周囲の仲間にその位置を発信する。倒した傀儡兵が、どうかこちら の存在を発信する前に沈んでくれたことを祈るばかりだ。 前進を再開しようとして、突如、背後で声が上がった。グリッグだ。M240軽機関銃の発砲音が、同時に響く。 「コンタクト!」 ジャクソンが振り返る。予想は的中した。祈りは届かなかった。グリッグが叩き込む銃撃の先に、西洋の騎士のような甲冑を纏った傀儡兵たちがぞろぞろと集まり始めていた。機関銃の射撃を受け て次々と倒れていくが、奴らの取り柄は数だった。どこからともなく集まり始めて、二人の侵入者の包囲を始める。 どうする、こういう時は――迷うことはなかった。M4A1を正面に構えなおしたジャクソンは、グリッグに向けて言う。強行突破だ。 M4A1の引き金を引いて、銃撃。ダットサイトに捉えた傀儡兵は、それだけで倒れていく。対抗するように放たれる魔力弾が身を掠め飛ぶが、止まってはいられない。銃撃、前進。ガン・パレード。 至近距離に迫った傀儡兵を強引に殴り飛ばして、二人は進む。目的地の独房まで、あと三〇〇メートル。決して遠くはない。 そのはずは、突如として側面から浴びせかけられた魔力弾によって潰えた。足元の数センチ先に光の弾丸が弾けて飛び、たまらずジャクソンはたたらを踏んでブレーキし、無様に転ぶ。ただちに グリッグが助け起こし、目に付いたトラックの陰へと引きずり込んだ。その間にも魔力弾が浴びせかけられ、盾になるトラックはあっという間に穴だらけになっていく。被弾に恐れながらも様子を 伺うと、白く染まりがちな視界の向こうに人影が見えた。目を凝らせば、傀儡兵ではなく生きた人間、傭兵であることが分かる。こいつらはロボットとは違う。練度が低いと言っても、プログラム された通りの動きしか出来ない人形に比べればずっと、判断力も状況への対応力も持っていた。 人を撃つ。それ自体に、躊躇はもう無かった。あの娘は――彼らに射殺許可を出した八神はやては、そのくらいの覚悟を持ってジャクソンたちにこの任務を託した。それに応えねば、自分たちは 彼女の覚悟を無駄にすることになる。だが、問題はそうではなかった。生きた人間は彼らがトラックの陰から出てこないと見るや、回り込むような仕草を見せ始めた。 挟み撃ちは御免だな。そう思って彼らの行動の阻止にかかるジャクソンだったが、M4A1で少しばかり銃撃をしたところで、傭兵たちの動きは止まらなかった。傀儡兵が盾になっているのだ。グリ ッグが代わって機関銃の弾をありったけ叩き込むが、そうすると敵は一発に対して一〇発の勢いで撃ち返して来た。遮蔽物のトラックがあまりの被弾に揺れて、パンクした車体が車高を下げる。身 を守る盾が小さくなってしまい、たまらず二人の兵士は地面に這う。 「どうするジャクソン、この調子だと俺らも収容所に入るぞ。俺が囚人628だ、お前が629」 「何でお前の方が数字が若いんだ」 「そりゃお前、イカした男の順番ってことで」 ほざけ、"黒んぼ定食"でも食ってろ。こんな状況下でも、彼らは軽口を欠かさなかった。海兵隊は、諦めない。例え"元"であってもだ。 そんな二人の兵士に、救いの手が現れた。救いと言うほど、慈悲に満ちたものではなかったかもしれないが。傭兵たちの背後に突然、黒い影が現れて、彼らに襲い掛かった。 奇襲を受ける形となった傭兵たちは、なすすべも無かった。小柄な赤い影から振り上げられた鉄槌が一人を殴り飛ばし、もう一人に直撃。ボーリングのピンのようにして巻き添えを喰らい、次々 吹き飛ばされていく。残った者も抵抗を試みようと赤い影にデバイスの矛先を向けようとして、今度はそのすぐ傍に紫の閃光が現れる。あ、と思った時には剣が振るわれ、片っ端から傭兵たちが斬 り伏せられていった。 傀儡兵たちも、傭兵たちがさんざん全滅させられた後になってようやく、背後からの奇襲に気付いたようだった。いかにも機械を感じさせるたどたどしい足取りで方向転換し、襲来した影と閃光 に攻撃の意思を見せかけたところで、側面から振り抜かれた爪が彼らに襲い掛かる。薙ぎ払われ、悲鳴も無く沈黙する傀儡兵たち。運よく生き残った一機がデバイスを構えようとして、野獣の牙が その意思を噛み砕く。 援軍。話には聞いていたが、このタイミングでやって来るとは。ジャクソンは立ち上がり、周囲を警戒しながらトラックの陰から出る。白い視界の向こうから、見覚えのある影が出てきたのはそ の時だった。 「怪我は無いですか、ジャクソンさん?」 「やぁシャマル。怪我はない、この通りだ。よく来てくれた、ヴォルケンリッター」 戦場に似つかわしくない、ふわりとした緑の衣装。優しげな声を持つ女性こそが、彼が見た影の正体だった。名前をシャマルという。治癒と支援が主な任務の、ヴォルケンリッターの後方担当。 「遅くなってすまないな」 「おいジャクソン、あたしに挨拶はなしかー?」 続いて現れる烈火の将、剣の騎士シグナムと、一見子供のような姿をした鉄槌の騎士ヴィータ。ジャクソンが初めて会った魔法の使い手たちであり、古代ベルカの名を引き継ぐ心強い援軍だった。 「追っ手が来るぞ、気をつけろ」 最後に、雪の大地を踏みしめながら姿を見せたのは守護獣ザフィーラ。狼の姿のまま、傀儡兵の部品の一部をまだ口に咥えていた。ペッと吐き出し、敵の来る方向を睨む。 今更、ジャクソンが驚くようなことはなかった。数年前、アル・アサドによる中東での核爆発で死に掛けた自分を介抱してくれたのは彼女らであり、もはや家族と言ってもいい間柄だった。特に シャマルとは料理の味を褒めたのが契機になってか、男女の仲にまでなっている。置いてきぼりなのはグリッグで、M240の銃口を垂れ下げて、あんぐりと口を開けていた。 「なぁ、ジャクソン。お前知ってたのか? その、この女戦士アマゾネスの皆さんの強さを」 「誰がアマゾネスだ、誰が」 「まぁまぁ、ヴィータちゃん」 アマゾネス、と言われてシグナムが苦笑いし、ヴィータは露骨に口を尖らせ、シャマルがそれをなだめる。ザフィーラは興味がなさそうだった。ジャクソンはまぁな、と曖昧な返事だけをして、 それからシャマルに向き直る。遊んでいる暇は無い。高町なのはとフェイト・T・ハラオウンの二人が引き付けているのにこの襲撃は、敵の戦力が予想以上であることを証明していた。 「目標はもう少し先、ここから三〇〇メートル先になる。クロノの坊主はそこだ。負傷していたらシャマルの出番だ、悪いがついて来てくれ」 「お任せを。シグナム、ヴィータちゃんとザフィーラと一緒にここをお願いね」 「心得た」 愛剣レヴァンティンを構えてみせて、シグナムが頼もしい表情を見せる。ヴィータもザフィーラも、共に彼女に付き従った。 白い視界の向こうで、ざわざわと蠢く影が見え始める。行け、と烈火の将が剣を振り向かせて無言で言う。ここは我らに任せろ、と。ジャクソンは頷き、グリッグ、シャマルを引き連れて前進 を再開する。目的の独房まであと三〇〇メートル。足を止める理由は、どこにもなかった。 戻る 目次 次へ
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バグ使い以外の悪質なプレイヤーまとめ タグ どのような事をしたか marjlyn manson 1887アキンボしか使わない、プロフィールが気持ち悪い Sonozak1 S1on ゲーム中にずっと付きまとい粘着妨害を行為をおこなう 隣で銃乱射をする人間デコイ、視界を塞ぐ等妨害行為など
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SIDE Task Force141 五日目 0819 ロシア ペトロパブロフスク ゲイリー・"ローチ"・サンダーソン軍曹 今更ながら、ローチは気付かされていた。戦場では、敵より厄介なものがいる。無能な味方がそれだ。ある意味では有能な敵より厄介と言える。敵は問答無用で撃てばいいが、無能であっても味 方は味方であるため、発砲してはフレンドリーファイアになってしまう。もちろん、フレンドリーファイアとは"友好的な射撃"と言う意味ではない。 突如として収容所の地下を襲った衝撃と轟音は、Task Force141の兵士たちを派手に転倒させた。先陣を切るマクダヴィッシュのみがどうにか崩れかけた城の壁に手をついて持ちこたえ、通信機 に向けて怒鳴り声を上げている。 「シェパード将軍、今のは何ですか!? 海軍に砲撃をやめるよう言ってやってください!」 戦友たちに助け起こされて、ようやくローチは突然の衝撃が作戦を支援する米海軍による艦砲射撃だったことを理解する。くそが、打ち付けた頭をぶるぶる振って、正気に戻る。味方撃ちで死ぬ なんて冗談も過ぎる。そういえば、ヘリからこの城に降り立つ前も海軍の戦闘機がかなり際どい戦闘機動で飛び交い、危うく墜落しそうになった。ゴーストは「アメ公め」と怒りを露にしていたが 今ならその気持ちを一〇〇パーセント理解できる。 通信機から、電波に乗って届けられたシェパード将軍の声が響く。だが、どうにも歯切れが悪い。彼は今次作戦の指揮官であるはずなのだが、作戦を支援する米海軍とは指揮系統を別にしていた。 「話が出来る雰囲気ではないが――」 いいからやれ、とその場にいた誰もが思った。指揮官は今頃暖房の効いた空母のCICにいる。こっちは冬のロシアで寒さに震えながら戦争中なのだ。通信機の向こうの雰囲気をそれとなく察した のか、シェパードは渋々海軍に話をつけた。 「海軍は攻撃の一時中止を了承した。しかし彼らはさっさと引き上げたい様子だ。マクダヴィッシュ大尉、急げ。私の指揮下に諸君らを直接支援出来る部隊はいない」 「了解。分隊、急ぐぞ」 やれやれ、と重い腰を上げて分隊は前進再開。米海軍は、Task Force141への支援にあまり乗り気ではないのだ。艦砲射撃も支援はしてやったぞ、とアピールが主な目的の投げやりなものだった のかもしれない。彼らは一刻も早く、こんなロシアの僻地なんぞより時空管理局に蹂躙される祖国アメリカの救援に向かいたいのだろう。 電源が落ちた区画を進み、やがて電灯が生きている区画へ。暗視ゴーグルを外して、警戒しながらさらに前進。 三〇フィートほど進んだところで、こちらの動きを監視制御室からずっと追いかけているゴーストより連絡が入った。どうやら近道があるらしい。 「大尉、ゴーストです。そこの壁、左側です。壁の向こうに古いシャワー室があります。一番奥に627号のいる独房に通じる穴があります」 「壁の向こう? ……なるほど、豪快に行くか」 ローチ、とマクダヴィッシュが彼を呼んだ。前に出たローチは、ここの壁を爆破して突入しろと命ぜられる。豪快に行く、とはつまりそういうことらしい。ローチは準備にかかりながら、ついで に魔導師のティーダを呼んだ。最初に突っ込むので、続いて援護しろと言う。 「爆破すんのか。地球の兵士たちはなんつーか……」 「野蛮って言うなら違うぞ。これは立派な作戦だ」 ティーダの顔が、苦笑いで染まる。その間にも野蛮と思われた手段を実行すべく、地球の兵士は爆薬を壁にセットする。 配置に就いて、スタンバイ。顔を見合わせ、アイコンタクト。準備が出来たところでローチはマクダヴィッシュに目をやり、彼が頷くのを見てから爆破のスイッチを押す。 ドッと、爆破された壁が突き破られる。突入するローチは、視界がやけにゆっくりと動くことに違和感を覚えた。自らの息遣い、鼓動、銃を構える腕の感触。突然の爆風に吹き飛ばされ、シャワー 室で屯していた敵兵たちの驚く顔がはっきりと見える。それらのダットサイトの照準が合わさることで、ようやく視界内の動きが現実に還った。 引き金を引く。フルオート射撃。パパパパッとM4A1の銃口が火を吹き、五.五六ミリ弾の薬莢が弾き飛んでいく。背後の壁から、それも爆風の直後にいきなり浴びせかけられた銃撃に対応出来る 敵兵はほとんどいなかった。悲鳴もそこそこに薙ぎ倒されていく敵。 装填されているマガジンの弾を撃ち切ったところで、ローチは手近にあった柱の一つに飛んだ。マグチェンジ、空のマガジンを外して予備のそれに切り替える。その間にも生き残った敵が復讐の 銃撃を開始するが、遅れてやって来た橙色の奇妙な弾丸に撃たれ、沈黙させられていく。チャージング・ハンドルを引いて再装填が終える頃には、ティーダに続いてTask Force141の分隊がシャワー 室に流れ込んできた。隣の柱にいるティーダにグッと親指を立てると、橙色の弾丸の持ち主はかすかに笑い、それからすぐに拳銃型デバイスを持って柱から半身を出し、射撃を再開する。 完全な奇襲により出鼻を挫かれた超国家主義者たちだったが、決してそのまま押し込まれるような容易い敵ではなかった。囚人たちの利用するこのシャワー室は上から監視できるよう、二階建て になっている。敵兵たちがわらわらと繰り出し、二階から撃ち下ろしてきたことで分隊はまたしても激しい銃撃に晒されることになった。 ライオットシールドを置いてくるんじゃなかったな――かすかな後悔を振り払うようにして、ローチの手がM4A1の銃身に装着されていたM203グレネードランチャーに添えられる。二階に向けて照 準、引き金を引く。ポンッとおよそ兵器にしては間の抜けたような発射音の後、二階の廊下でグレネードが炸裂。爆風と衝撃が敵兵たちを吹き飛ばす。 二発目を放つつもりで、彼はM203の砲身をスライドさせた。空の薬莢を外そうと手をかけたところで、盾にしていた柱がバキバキと砕かれるようにして銃撃を浴びる。たまらず、グレネードの薬 莢を落としてしまった。マクダヴィッシュの方を見ると、指で正面に敵、と合図していた。わずかに身をよじってシャワー室の奥を見ると、ライオットシールドにMP5Kで武装した敵兵を複数視認。 くそ、今度は敵が盾持ちだ。 グレネードをぶち込めば、いかにライオットシールドと言えど吹き飛ばせるだろう。だが、敵は二階にもいる。先ほど撃ち込んで吹き飛ばした奴らはほんの一部だ。Task Force141の仲間がM4A1 を撃ち上げて二階の敵の動きを阻害するが、彼自身もまた銃撃に晒され、短い悲鳴を上げて倒れた。駆け寄って容態を診ようとするが、無駄だと気付く。すでに事切れていた。 ティーダ、とマクダヴィッシュの声がシャワー室でエコーする。名前を呼ばれた空戦魔導師は即座に分隊指揮官の意図するところを察し、文字通り飛び上がった。二階へと、飛行魔法で。魔法 使いの突然の乱入に驚く超国家主義者たちは、そのまま魔法の弾丸で撃ち倒されていく。もっとも彼らは運がいい。人を殺すのをよしとしない彼の放った弾は、全て非殺傷設定だった。当たれば しばらくの気絶は免れないが。 二階からの銃撃が弱まったことで、ローチはM203にグレネードを再装填。マクダヴィッシュの銃撃をライオットシールドで弾きながら、着実に距離を詰めてくる敵の足元目掛けて照準、射撃。 放たれたグレネード弾は敵兵たちの足元で起爆し、破壊の限りを尽くした。宙に舞う敵、割れるシールド。チャンスを逃さず、分隊はこの隙に一気に前進する。 それにしても――戦争の真っ只中で、ローチの思考に雑念が走っていた。このシャワー室、どっかで見たぞ。たぶん、映画で。その映画では最後、爆撃を中止するよう緑のスモークを焚くこと になるのだが――まさか、ね。シェパード将軍の要請で、海軍は攻撃を中止しているんだ。映画は映画だ。 雑念は、ほんの一瞬だった。シャワー室を突破した分隊は、指示された通り独房に通じる抜け穴に向けて飛び降りる。 SIDE 時空管理局 機動六課準備室 五日目 1228 第四一管理世界"キャスノー" ポール・ジャクソン 元米海兵隊曹長 "こちらの"囚人627号ことクロノ・ハラオウンが収容されている独房に到着したジャクソン、グリッグ、シャマルの三人は、お行儀よく正面の扉から入った。壁を爆破して突入も考えたが、それ をやるには独房の壁が分厚すぎたのだ。敵が待ち構えている可能性があると知っていても、独房には正面から入るしかなかった。 行くぞ、と視線のみでジャクソンが二人に合図する。黒人兵士と湖の騎士は――傍から見ると奇妙なことこの上ない。防寒装備で機関銃を持った兵士と、ふんわりしたスカートの魔導師の組み合 わせ――頷き、彼の突入に続いた。 扉を開く。中に入って最初に眼にしたのは、二機の傀儡兵と、その傀儡兵たちに何かを口頭で指示していた一人の傭兵だった。こちらを見た傭兵は一瞬遅れて敵の侵入に気付き、モタモタとデバ イスを構えようとする。無論その動きを許すジャクソンではなく、M4A1の銃口がすぐに火を吹いた。傀儡兵には数発の銃撃を浴びせて倒し、親指がセレクターをフルオートからセミオートに切り替 え、傭兵には一発のみの銃弾を叩き込む。傭兵はあっと悲鳴を上げてひっくり返るが、即死はしなかった。魔法の杖を弾き飛ばされ、床に転がる。 グリッグ、と彼は戦友を呼んだ。頷いた黒人兵士はジャクソンの意図するところを読んでおり、床に転がり苦しむ傭兵を蹴って仰向けにさせる。M240の銃口を額に押し付け、ドスの利いた声で言う。 「囚人627号はどこだ?」 「し、知らん、俺はただの雇われた傭兵だ」 ガッと、グリッグは傭兵の腕を踏んだ。ちょうどジャクソンに撃たれた部分だった。血が噴出し、傭兵は苦痛の悲鳴を上げる。たまらずシャマルが止めようとするが、ジャクソンが彼女の動きを 制する。でも、と彼女の瞳は訴えていた。いくら敵だからって、これでは拷問ではないか。 「言わなきゃもっと踏むぞ。ただし言ったらそこの優しいお姉さんが治癒魔法をかけてくれる。どうだ」 「ろ、627号は、107号室だ、そこに見張りと一緒にいる、た、頼む、痛いっ」 「上出来だ」 飴と鞭、とはよく言ったものだ。グリッグが傭兵から足を離す。無論、銃口はしっかり向けたまま。途端にシャマルが駆け出し、淡い光で撃たれた傭兵の腕に治癒魔法をかけ始めた。 「いくら何でも、これはやり過ぎじゃ…」 「急がなきゃならん。殺さないだけマシさ」 結局、シャマルは従う羽目になった。治療しておいてなんだが、一応バインドによる拘束魔法で傭兵を動けないようにしておいた。 ジャクソンは近場にあった地図で、107号室を確認。どうやら二階に上がるようだ。収容施設は全体で見ればかなり広いが、凶悪犯罪者や政治犯を収容する独房となればこのこじんまりした建物 だけだ。M4A1を構えて、自ら先頭に立って二階へと上がる。 外の様子はどうかな――鉄格子が設けられた窓から、ちらっとだけ眼をやる。もはや収容所は手がつけられないほどの大混乱のようだ。時折、派手な爆発と黒煙が上がる。桜色と金の二つの閃光 は相変わらず飛び回っているが、彼女らの攻撃で爆発が起きている様子ではない。混乱した傭兵たちが誤射で暴発したか、それとも騒ぎに便乗した本当の囚人たちが暴れているかだ。もっとも彼ら が脱獄する心配はまずない。ここは雪と氷が支配する死の世界だ。鍛え抜かれた兵士でもしっかりとした準備がなければあっという間に凍えて死ぬ。皮肉にも囚人たちが生きるには、この世界には 収容所以外に安息の地がなかった。 では不当に逮捕された囚人はどうしているのだろう。クロノのことだ、大人しく捕まっていることなどないと思うのだが。 M4A1のダットサイトの向こうに、107号室と記された独房が見えたのはその時だった。シャマル、とジャクソンは彼女を呼んだ。銃口はしっかり周囲を警戒するように辺りを探りながら、魔導師 にしか出来ない頼みごとをする。 「探索魔法で、ここに本当にクロノがいるか調べてくれ。見張りがいるかどうかも」 「はい、了解――手荒な真似は避けてくださいね。クロノ提督、たぶん衰弱してるでしょうから」 そんなに乱暴者に見えるかな、俺。恋人の言葉に少しだけショックを覚えながら、ジャクソンはシャマルによる探索魔法の結果を待った。 数秒して、彼女が「間違いない、います」と言ってきた。見張りも一緒に、とも付け加える。この107号室の中に、クロノがいるのだ。ジャクソンはグリッグと共に、突入準備に入った。 手荒な真似は避けてくれ、と言われたばかりだが――少しばかり後ろめたいものを感じつつ、爆薬を扉にセットした。ただし、救出目標もろとも吹き飛ばしては意味がない。扉を破壊できる最低 限の量に留める。これなら大丈夫だろ、とシャマルに眼で訴えた。彼女は悩むような表情を見せたが、爆薬の量が最低限であることを見て、結局承諾した。 起爆スイッチを握る。壁に張り付き、カバーポジションに就いたグリッグが親指を立てて準備OKであることを示す。あとはジャクソンの心の準備だけだ。もっともこちらも、すぐに完了する。 爆破、突入。 SIDE Task Force141 五日目 0831 ロシア ペトロパブロフスク ゲイリー・"ローチ"・サンダーソン軍曹 SIDE 時空管理局 機動六課準備室 五日目 1237 第四一管理世界"キャスノー" ポール・ジャクソン 元米海兵隊曹長 果たしてそれは、偶然で済ませてよい代物であったのか。奇妙に奇妙が重なり、やがてそれは必然となる。 二人の兵士は生まれも育ちも国籍も違う。所属も違う。居場所に至っては、別の世界ときた。同じものと言えば、どちらも銃はM4A1を持っていたこと。ただしこれも、ローチの方はM203が装着 されているのに対し、ジャクソンのそれはフォアグリップが取り付けられていた。 それなのに、二人の目的と見たものは、ほとんど完全と言っていいほどに一致していた。無論、戦っている敵が違うと言うなどいくつかの相違点はある。だが、それすらもが些細なものでしか ない。そのくらい、二人はまったく同じ動きをしていた。 ローチは、囚人627号を確保すべく、壁に爆薬をセットして起爆し、突き破られて出来た穴から突入した。 ジャクソンは、囚人627号を救出すべく、扉に爆薬をセットして起爆し、突き破られて出来た穴から突入した。 二人がそこで眼にしたのは、まず敵の見張り。だが、その背後に誰かいる。誰か、とはすなわち囚人627号だった。彼――正しくは彼らは捕虜と言う立場に置かれ、どちらも厳しい環境に置かれ ていたにも関わらず、突入してきた襲撃者に対し、見張りを羽交い絞めにして盾にすると言う行動に出ていた。 ローチは、銃を撃つ。銃弾は全て、見張りの超国家主義者の身体によって受け止められた。 ジャクソンは、銃を撃つ。銃弾は全て、見張りの傀儡兵の身体によって受け止められた。 何だ、いったい――疑問を持つタイミングまでもが同じだった。次の瞬間、穴だらけになった見張りの身体が投げ捨てられ、握り拳が自身の顔面に叩きつけられる。悲鳴も上げられないまま、 ローチもジャクソンも、地面に打ち倒されてしまった。視界が一瞬、黒く染まる。 次に視界が回復した時、ようやくここで、二人の見ているものが違った。あるいは、そこが分岐点だったのかもしれない。 ジャクソンが見たものは、予想通りクロノ・ハラオウンだった。息を切らし、明らかに痩せてしまっているが、眼光の鋭さは戦場で見た彼そのものだった。見張りの持っていたデバイスを奪い、 こちらに向けている。 しかし、ローチが見たものは、予想とは違った。否、もともと予想などしていなかったのだ。囚人627号がどのような人物なのか、具体的な情報は一切なかったのだから。 ニット帽を被ってはいるが、髭面は隠しようがない。纏った歴戦の雰囲気も同様だ。彼を知る人物ならば、誰もがその名を口にするだろう。プライス大尉、と。 SIDE Task Force141 五日目 0832 ロシア ペトロパブロフスク ゲイリー・"ローチ"・サンダーソン軍曹 その、髭面の男は、見張りの持っていたAK-47を奪い、こちらに向けていた。荒い呼吸をしているが、眼はしっかりとこちらを睨んでいる。まるでこちらが敵か味方か、品定めしているようだっ た。 「銃を捨てろ!」 マクダヴィッシュ大尉が、拳銃、M1911A1を髭面の男に向ける。その瞬間、男の表情が変わった。懐かしいものを見たような、ともすれば安堵とも受け取れるような表情だった。 「ソープ…?」 「――プライス大尉?」 どうやら、知り合いらしい。マクダヴィッシュの姿を見るなり、明らかに髭面の男の警戒が緩んだ。 ソープ、と呼ばれたマクダヴィッシュは眼を丸くしていたが、やがて話は後だ、と言わんばかりに、手にしていたM1911A1をクルリと回し、プライス大尉と呼んだ男に渡す。まるで、借りていた 物を返すかのような仕草だった。それも、尊敬する上官に接するような態度を伴って。 「お返しします、貴方の銃です」 プライス大尉は、何も言わず、さも当然のようにしてM1911A1を受け取った。それも、信頼する部下から受け取るようにして。 訳も分からず見守っていたローチだが、すぐに後からやって来たティーダに助け起こされる。畜生、殴られた顎がまだ痛い。この爺さん、マジで何者だ。 「ソープって誰です?」 会話を聞いていたティーダが、疑問を口にすると、収容所に再び衝撃と轟音が走ったのは、果たしてどちらが先だったか。この衝撃は、経験がある。それも割りとつい最近だ。海軍の奴ら、と 思わずローチは口走った。 「そんなことより脱出だ、行け!」 マクダヴィッシュの言うことは、もっともだった。囚人627号こと髭面の男、プライス大尉をメンバーに加えてTask Force141は駆け出す。ここがどこであるか、などは二の次だ。辺りはもう崩 壊が始まっており、留まっていては崩れる瓦礫に巻き込まれてしまう。 走る。途中、哀れにも崩落に巻き込まれた敵兵を見かけたりもしたが、助ける余裕も義理もなかった。どうにか収容所の外へと通じる道を見つけ出すと、彼らを載せてきたOH-6の姿が見えた。 パイロットが、必死に手招きしている。危険を冒して、迎えに来てくれたのだ。希望を見出したように、分隊はヘリに向けて走った。 その行く手を、突如として崩れ落ちてきた瓦礫の群れが阻む。くそ、ともはや誰のものかも分からない悪態の言葉が吐き捨てられた。「引き返せ、引き返せ!」と叫ぶマクダヴィッシュの声に 従うまでもなく、全員が踵を返して来た道を戻る羽目になった。 「ブラボー6、海軍の奴らが攻撃を前倒しで再開させた。これが終わったら連中は支援を切り上げるといっている」 今更遅い! ローチはたまらず叫んだ。シェパードに言われるまでもなく、崩落の原因が海軍の艦砲射撃にあることは分かり切っていた。おそらく、航空機による爆撃も再開されているはずだ。 何故そんなことが分かるのか。目の前に、不発弾が転がっていたからだ。転がっていたと言うよりは、瓦礫の中に埋もれていたと言うべきか。ともかくも、不発弾がぶち抜いてきた穴を見上げれ ば、灰色でも眩い外の世界が見えた。なんとかここから出られないものか。 「大尉、ここです! ここからヘリに回収してもらいましょう!」 「聞こえたか、6-4!? 我々の現在地が見えるか、どこにいる!?」 「こちら6-4、ブラボー6、確認できない――」 おい、頼むぜ。瓦礫で生き埋めなんて俺は御免だぞ――そう思った瞬間、天から何かが降ってきた。気付いた時には視界がすでに真っ黒で、意識が消えかかっていた。 あ、駄目だ、これ。俺もう死んだ。 「何でもいいがなソープ! さっさとやらんか! そこの魔導師、手伝え!」 どうやらゲームオーバーはしてないらしい。真っ黒だった視界が晴れて、代わって見えたのは自分に圧し掛かってきた瓦礫を取り除くプライスと、そして肩を貸して起き上がらせるティーダ、 それから不発弾によって出来た脱出路に向けて信号弾を打ち上げるマクダヴィッシュの姿だった。 しっかりしろ、とよろめきながら立ち上がるローチに、ティーダとプライスが喝を入れる。ヘリはどうやらこちらを視認出来たようだ。真上に来ているのは分かるが、それからどうするのだ。こ こまで降りてくるには不発弾が作った穴は小さいはずだ――なるほどね、と殴られた頭でも分かった。ヘリからワイヤーが落とされたのだ。マクダヴィッシュがお手本になって、ただちにフックを かける。ローチ、プライスもそれに続いた。ティーダだけが自前で飛べるので、ワイヤーを無視した。 ヘリが上昇する。途端に、ワイヤーが上に引っ張り上げられた。兵士たちの身体が浮かび上がって宙吊りになり、天空へと引っ張られていく。最後にティーダが、飛行魔法でそれに続く。 まるで彼らの脱出が終えるのを待っていたかのようにして、収容所となっていた古い城は巨大な爆風を上げた。 SIDE 時空管理局 機動六課準備室 五日目 1249 第四一管理世界"キャスノー" ポール・ジャクソン 元米海兵隊曹長 脱出劇は、こちらでも繰り広げられていた。救出されたばかりのクロノ・ハラオウンはシャマルの手で最低限の治療が施されたものの、一人で飛べるほど回復し切った訳ではない。ジャクソン が肩を貸して共に走り、その周囲をグリッグ、ギャズ、それからシグナム、ヴィータ、ザフィーラが援護しながら後を追う。シャマルは走りながらでもクロノに治癒魔法をかけていたが、それで 足が速くなる訳でもなかった。 「すまない、僕一人のために」 「お前一人じゃない。俺の国のためでもある」 クロノの言葉に、正直な気持ちでジャクソンは答えた。提督と言う要職にある彼が、管理局の主導権を握る報復強行派に異議を唱えれば沈黙させられている慎重派は活気付く。やがてはアメリカ と管理局による無益な戦争を終わらせられるだろう。祖国アメリカのためにも、クロノはジャクソンにとって必ず助け出せねばならない戦友だった。 敵の追撃は執拗だったが、上空援護が極めて強力なおかげで振り切るのに時間はかからなかった。回収地点に到達したところで、二つの閃光が舞い降りる。なのはとフェイトだ。やぁ、と弱々し い挨拶をするクロノに、フェイトが涙目になって寄り添ってくる。 「クロノ! よかった、無事だったんだ…」 「無事とは言えないが、何とか生きてる――君たちは、僕を助けに?」 「そうだよ。はやてちゃんが主体になってね」 クロノの問いに、なのはが答えた。はやてと聞いて、救出されたばかりの提督は目を丸くする。はやてが? 疑問に答えるようにして、上空に巨大な影が現れる。部隊を回収しにやって来た、次元航行艦『アースラ』だ。かつてのクロノの艦。どうしてここに、と彼は肩を担ぐ戦友、ジャクソンに目で 問いかけた。 「俺たちの拠点さ。ようこそ、クロノ提督。機動六課準備室へ」 戻る 次へ
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SIDE Task Force141 六日目 1546 グルジア・ロシア国境付近 ゲイリー・"ローチ"・サンダーソン軍曹 制圧されたロッジを隅々まで探索したが、ついにマカロフが潜んでいることはなかった。敵の死体をひっくり返してみるが、やはりマカロフの死体はない。元より二分の一の確率でしかなかったが、マカロフはこのロッジにはそもそもいなかったということである。 そう結論付けたところで、ならばもう片方にはいるかもしれない、とTask Force141の誰もが思った。情報によればマカロフが潜伏しているのはこのロッジか、それともアフガニスタンであるとされていた。そのアフガニスタンには、プライス大尉とマクダヴィッシュ大尉からなる残り半分のTask Force141が向かっている。 あまりいい気分はしないがな、と悔しそうに呟くゴーストの声を、ローチは聞き逃さなかった。彼は、プライスのことを快く思っていない。はっきりと言えば、信じていなかった。ゴーストにしてみれば、プライスはロシアの潜水艦に突入し、独断で核ミサイルを発射させた男でしかない。その意図が東海岸上空に居座る管理局の次元航行艦隊の殲滅と降下部隊の装備壊滅だったと理解してからも、やはり彼はプライスのことが気に入らないようだった。 それでも確認はどうしても必要であり、ゴーストもその辺りは理解してか通信機のスイッチを入れる。 「こちらゴースト、こっちは外れだ。プライス大尉、そちらはどうです?」 ≪外れだ。傭兵が五〇人ほどいるが……マカロフは見当たらん≫ 誰のものともなく、ため息が聞こえた。こちらは数名の戦死者も出しているのに、肝心の目標がどちらにもいなかった。情報が間違っていたとしか言いようが無い事態だ。 しかし、まったく収穫がない、ということでもないのもまた事実だった。ゴーストがちらりと目配せすると、彼の隣にいたスケアクロウという兵士がチェストリグのポーチからデジタルカメラを取り出す。レンズが向けられた先には、ロッジのリビングにあったテーブルだった。その上には地図、名簿、取引記録、ありとあらゆる情報が無造作に放置されている。 「情報ならここに。このロッジはお宝だらけだ、今スケアクロウが写真を撮っている…」 ≪ゴースト、シェパードだ≫ 通信に割り込みが入った。Task Force141の創設者にして最高司令官、シェパード将軍だ。 ≪そこにある情報をかき集めろ。名簿、取引記録、地図、コンピューターの記録、全てだ≫ 「了解。すでに取り掛かっています。もう奴に逃げ場なんてありませんよ」 ≪そうだろうな…五分後に回収部隊が出動する。データを持ち帰れ、以上≫ 通信終了。通信機を元に戻したゴーストは、それからてきぱきと指示を下す。 「ローチ、DSMをコンピューターにセットだ。隠しファイルまで根こそぎ頂くぞ」 「Zipで保存しますか…冗談です、やりますよ」 指揮官に睨まれて、ローチはいそいそとデータ転送用のDSMを目の前にあったデスクトップのPCが並ぶテーブルにセットした。電源を入れればあとは機械が勝手に中身を引っこ抜いてくれる優れものだ。問題は引っこ抜く中身がどれほどの容量を持っているかだが、作動音を聞いているとどうにもその辺りは芳しくない。ちょうど重いファイルをネットからダウンロードしている途中のPCのようだった。これはしばらく待つ必要がありそうだ。 ふと、魔法使いのティーダが写真を撮っていたスケアクロウに断りを入れ、テーブルの上にあった地図をじっと見ているのに気付く。DSMから離れて、ローチは戦友に近付いた。 「よう、どうした」 「見ろよ、これ」 地図を指差す魔法使いの声に、少なからずの怒りを感じたのは気のせいではなかった。ティーダの睨むような視線も、地図を見ればすぐに分かる。そういう代物だったのだ、彼が見たものは。 地図は、ミッドチルダ臨海空港の詳細な見取り図だった。赤いラインが引かれており、どう進み、どう動くのかが記されていた――誰が進む? 誰がこんなものを必要とした? 決まっている、マカロフだ。奴はこのロッジで、あの虐殺テロを計画したに違いない。 赤いラインはいずれも、空港内で人通りが多いと予想出来る場所を通過する形で引かれていた。それもそのはずだ、奴らの目的は潜入ではなく、こそこそと爆弾を設置することでもない。全て、空港にいた民間人を皆殺しにするため。 ローチは眼で赤いライン、奴らが進んだであろう道筋を追う。始まりは手荷物検査場から。エスカレーターを進んで飲食街を抜けて、ロビーへと向かう。そこで行われたであろう虐殺の 光景が、自分はその場にはいなかったはずなのに、まざまざと脳裏に浮かぶ。悲鳴を上げ、逃げ惑い、殺されていく人々。人の情など欠片も残していないように、表情を一片たりとも変えないマカロフによって行われる殺戮行為。そこから始まった、唯一残ったアメリカ人の遺体によって起きた戦争。 「……終わらせよう、早く。そのためにもここの情報が必要だ」 「分かってる」 おそらくは、Task Force141でもっとも虐殺テロに強い憤りを抱えているであろう魔導師はそれだけ言って、テーブルを離れた。足取りは早く、何か強い決意を感じさせるものだった。 と、その時である。パサッ、と軽い音がローチの耳に入った。振り向けば、床に小さな手帳が一つ落ちていた。拾ってみるが、名前が書いてない――いや、どこかで見たことがある。誰だったか、ヘリの機内で手帳にペンを走らせていた奴が一人いたような気がする。 あれは確かリオデジャネイロに行く途中で、と思考が記憶を掘り起こそうとして、その寸前で通信が入る。 ≪こちらスナイパーチーム、敵が来るぞ≫ ロッジ内の兵士たちが、一斉に顔を上げた。 ≪多い、多いぞ…一個中隊以上はいるな。ローター音も聞こえる、ヘリもだ≫ 「スナイパーチーム、ストライクチームだ。ロッジに来い、合流しろ」 ゴーストが通信機で指示を飛ばし、振り返る。言われずとも誰もが理解していたが、指揮官は改めて指示を下す。 「おそらくロッジにある情報が俺たちに奪われるのを防ぎに来たんだろう。最悪でもDSMだけは守り通せ、行くぞ。配置に就け、地雷と機関銃を用意だ」 一気に慌しくなった。敵が大勢やって来る。それに対して、Task Force141はいくら精鋭と言えど、わずか一個分隊程度の戦力しかない。回収部隊の到着まで、なんとしても持ちこたえねば。 ここらがいよいよ、この戦争の山場かな――地雷設置へと急ぐローチは、頭の片隅でそんなことを考えていた。 敵が襲来するまでの時間は、ほんのわずかなものでしかなかった。Task Force141が築いた防衛ラインは、短い時間の中で築かれたものとしては精一杯のものだった。 来たぞ、と合流したギリースーツ姿のスナイパーチームの隊員が知らせた途端、全員がロッジ及びその周囲にて各々が伏せ、物陰に隠れ、銃を構える。彼らの視線の先には、警戒しながら接近してくるマカロフの手下たちの姿があった。 ローチはロッジの一階、リビングにある窓から敵の様子をACRのダットサイト越しに伺っていた。距離は三〇〇メートルほどに縮まっており、とっくに山を下ってくる超国家主義者たちは射程に入っている。それでも撃たないのは、指揮官の号令がまだ出ないからだ。横目でチラッとゴーストを見れば、彼も窓から敵の様子を伺っている。 待て、まだ撃つな――ゴーストの無言の命令を、心の中で発して自分に刷り込む。引き金に指をかけていたローチだが、力は入っていなかった。 窓の向こう、ロッジに迫る敵兵が足を止めた。彼らの道行く先に、何かが置いてあったのだ。警戒を強めて、敵はそれを調べる。放置してあったのは、最初にTask Force141に待ち伏せ攻撃を仕掛けてきた敵兵の死体だった。映画でよくあるように、その死体を裏返すと手榴弾が仕掛けられており、爆発する。ローチたちの用意した罠は、しかし見破られた。敵兵たちはかつての仲間の骸を慎重に裏返し、出てきた手榴弾に驚くことなくピンを握り、遠くに投げ込んだ。ドンッと離れた位置で手榴弾は起爆するも、土砂を巻き上げただけで何も傷つけられなかった。罠を処理した超国家主義者たちは、ロッジに向かって再び前進を開始。 ここで初めて、ゴーストが動いた。通信機のスイッチを入れて、首元のマイクに向かってただ一言言い放つ。 「オゾン、やれ」 直後、連続した轟音が立て続けに鳴り響いた。山を揺るがすかのような勢いで起爆したのはクレイモアという地雷だった。七〇〇個の鉄球とC4爆薬が内蔵されており、爆発すればそれらが一斉に二五〇メートルに渡って破壊と殺戮の限りを尽くす。今回はロッジの外で隠れていたTask Force141隊員のオゾンによるリモコン操作による起爆だった。 先頭を歩いていた敵兵たちは、クレイモアの洗礼を一身に浴びる羽目になった。爆風で吹き飛ばされ、鉄球で肉を食い破られ、巻き上がった土砂すらもが加速し、砂の一粒さえもが凶器となった。ズタズタに引き裂かれた彼らの中に生存者はなく、後から進んでいた敵兵たちは前進停止を余儀なくされる。 「撃て! 撃て! 撃て! 射撃開始!」 ゴーストはこの時を待っていたのだ。囮の手榴弾で敵の注意をそちらに逸らし、安心させたところでクレイモアの一斉爆破で出鼻を挫く。動きが止まったところで、ありったけの火力を撃ち込む。幸い、弾薬は豊富にあった。ロッジの地下に、多種多様な武器弾薬が保管されていたのだ。 照準の必要は無かった。ローチはとにかく銃口を敵がいる方向に向けて、引き金を引いた。ACRが火を吹き、薬莢が弾け飛び、弾丸が放たれる。発砲を開始したのは無論、彼だけではなかった。 ロッジの内外に伏せていたTask Force141の全隊員が、一斉に銃撃を始めたのだ。敵兵はバタバタと倒れていった。 カチンッ、と小さく銃が断末魔を上げる。弾切れだった。ただちに窓から離れたローチは空になったマガジンを外し、ダストポーチに投げ込むと新たなマガジンをチェストリグに装着していたマガジンポーチから取り出す。リロード、再装填。銃が息を吹き返す。時を同じくして、ゴーストが前に出て敵を迎え撃っていた兵士たちに後退の指示を下していた。回収のヘリが来るのだから、ラインの維持にこだわる必要はどこにもない。とにかくDSMがデータのダウンロードを終えるまで、ロッジに敵を入れなければよいのだ。その後はひたすら後退し、敵の攻撃を凌げばよい。ヘリがこちらを回収してくれるはずだ。 命令通り、ロッジを出て玄関の方角で待ち伏せしていたTask Force141の隊員が数名、後退を開始する。と、その時、銃声が響いた。同時に悲鳴も。ローチが窓から下を見下ろせば、味方の一人が撃たれていた。周囲の仲間たちが彼を引っ張ってロッジの中に連れ込み、それを残った数名が銃声のした方向に向かって撃ちまくる。 「ゴースト! 一人やられた! 意識不明、手当てが必要だ!」 「地下に運べ、手当ては今は最低限だ! ティーダ、診てやれ!」 精鋭部隊だけあって、Task Force141は衛生兵ほどではないにせよ、全員がある程度の応急処置の技術を持っていた。ましてや魔導師のティーダなどは、得意分野ではないと本人は言いつつも治癒の魔法が使える。比喩ではなく、本当に治癒魔法が使えるのだ。しかし、そのための時間は今は無い。撃たれたということは、一度打ちのめしたはずの敵が盛り返してきているのだ。 ローチは窓から銃口を突き出し、敵を探す。いた、自分たちが出発した辺りからだ。ぞろぞろと、数えるのも嫌になるくらいの敵兵たちが銃を手に、山を降りて森林を抜けて迫ってくる。潰した敵兵たちは、ほんの尖兵に過ぎなかったのだ。 パリンッと窓が割られて、ワッと思わず悲鳴を上げる。慌てて伏せると、ピュンピュンとすぐ頭の上を銃弾が掠め飛んだ。敵がいよいよ本腰を入れてロッジに攻め入ってきた。怯んでいる場合でないのは明白だった。ACRを持ち上げて、銃口だけを窓の外に突き出し、撃ちまくる。せめてもの抵抗だったが、果たしてどれほどの効果があったものか。敵の銃撃は勢いを増し、ロッジの窓と壁は銃弾の雨に晒された。 くそ、と悪態を吐き捨てて、彼はDSMを見た。ダウンロードはまだ終わらないのか。確認してみれば、数値は五〇パーセントにも達していなかった。どうした不ッ細工、もっと頑張れと喝を入れるが機械は無口だった。どうあっても、敵を止めるしかない。 撃ち切ったマガジンをダストポーチに放り込み、再びリロード。必死に撃ち返しているゴーストに、鳴り響く銃声に負けないよう大声で声をかける。 「ゴースト! 俺が前に出ます! 敵の前進を食い止める!」 「一人で行っても無意味だろうが! ティーダ、手当てはどうなってる!?」 ゴーストも負けずと大声で返事をして、首元のマイクに向かって同じく大声で怒鳴るようにしてティーダを呼ぶ。彼は地下で負傷した味方の手当てに当たっていたはずだ。 ≪手当ての必要なんてあるか! 死体は甦らせられないぞ! 今そっちに行く!≫ 駄目だったか。仲間が一人死んだ事実に打ちのめされそうになるが、しかしローチの闘志は折れなかった。ここで諦めれば、死んだ仲間の犠牲が無駄になる。マカロフは生き延び、その分死体は増えるだろう。 地下から階段を使って上がってきたティーダが、ロッジ内に飛び込んでくる銃弾を避けて飛び込むようにして彼らの元にやって来た。ゴーストは彼にローチの突撃を支援しろと伝え、それから他の兵士たちにもとにかく今は踏ん張れ、と命じる。 「頼むぞ、ローチ。生きて帰れたらビールの一杯でもおごってやる」 「ラガーで頼みますよ、キンキンに冷えたやつ」 ハッ、と指揮官が笑い、自分のチェストリグにあったマガジンポーチからマガジンをいくつかローチに渡す。彼はこれから、敵の真正面に自ら飛び出るのだ。 「ティーダもな。戻ったらまずはロンドンだ」 「フィッシュアンド何とかって料理があったろ、あれを頼むよ」 フィッシュ&チップスな、と故郷の料理の名前をゴーストが訂正する。ティーダがその答えを聞いたのかは定かではない。ローチがすでに駆け出し、ティーダもその後を追ったからだ。 残されたゴーストは立ち上がり、飛び交う銃弾を前にして怯むことなく銃を構え、窓の外に向かってありったけの銃弾を叩き込んでいった。 銃撃戦を避け、裏口から出たローチとティーダは木と生い茂った草で身を隠しつつ、ロッジへの銃撃を続ける敵軍に近付いていた。超国家主義者たちが最初、ローチたちを迎え撃った再に待ち伏せしていたのを、今度はローチたちがやるのだ。精鋭とはいえたった二名では出来ることなどたかが知れているが、放っておけばロッジにまで敵は踏み込んでくるだろう。出来る限りのことをするしかない。 木の陰に一旦身を寄せたローチは、わずかに首だけを出して敵兵たちの様子を伺う。数は二〇名から三〇名といったところか。いずれもロッジに向けて銃撃しては前進を繰り返しており、ゴーストたちが撃ち返しているのであろう飛来する弾丸には怯みもしない。数の優位が、奴らの思考から後退や停止と言った二文字を消しているのだ。 ローチは後ろで同じように隠れているティーダに向けて、合図をする。せっかく敵の側面に気付かれることなく回りこめたのだ。無線といえども声は極力出したくない。指だけで意思疎通を行い、相棒の魔導師に作戦を伝える。彼は最初、ローチの提案した作戦に否定的な表情を見せていたが、「やれ」と指で言われると、渋々ながら頷いた。ティーダが危険に晒されるのではない。ローチが危険な行動を、あえて行うからだ。 ACRのマガジンを交換し、残弾を確認。ゴーストが渡してくれたものを含めて、残ったマガジンは三〇発入りが五つだ。これを撃ち尽くせば、あとは敵のAK-47と比べれば頼りない拳銃のみとなる。それでもローチは飛び出した。側面を曝け出す敵兵たちに向かって、たった一人で攻撃を仕掛ける。 照準を合わせ、引き金を引く。薬莢が弾け飛び、銃弾が放たれる。側面からの奇襲は、数で勝るはずの敵にとってその優位性を覆すものだった。たった一人の兵士の銃撃に、たちまち何人もの敵兵たちが撃ち倒されていく。 カチンッと銃が小さな断末魔を上げたところで、彼は素早く木の陰に身を寄せた。直後、反撃の弾丸が彼の隠れた木に一斉に浴びせられる。太い幹は銃弾からローチの身体を守ってくれたが、それでも何発かは表皮を削り取り、彼の身体を掠めた。自ら立案した作戦である以上今更引けないのだが、ローチは恐怖に染まった短い悲鳴を上げるのを我慢できなかった。 「ティーダ、撃ちまくれ!」 聞こえたかどうかは定かではない。だが、きっと彼の意思は届いていたのだろう。上空から、木の枝に生える葉を軒並み吹き飛ばすような勢いで、文字通りの魔法の弾丸の雨が放たれていった。側面からの奇襲を受け、しかし即座に立て直してローチを狙っていた超国家主義者の奴らも、今度ばかりは何も抵抗できなかった。貴重なカートリッジをロードし、魔力を爆発的に高めたティーダの射撃魔法の弾丸が、機関砲の如く降り注いだ。逃げることもままならず、敵兵たちはほとんどが弾丸を浴びて倒れていく。もっとも彼らは幸運な方だった。魔導師は例え敵でも人命を奪うのをよしとせず、非殺傷の設定をかけていたのだ。弾を喰らえば、数時間は起きないだろうけども。 嵐のような上空からの銃撃が終わると、葉の無くなった裸の木の枝の間を縫って、ティーダがローチの傍に下りてきた。「ナイスコンビネーション」と疲れた笑みで褒めるローチだが、ティーダは拳銃型デバイスを構えたまま、警戒を解こうとしない。 「気のせいならいいんだがな。下りる直前、嫌な音を聞いたんだ」 「嫌な音ってどんな」 兵士の問いかけの答えを、空は用意していた。ブレードが風を切り裂く音。ヘリのローター音が、猛スピードでこちらに近付きつつある。これだよ、と魔導師がデバイスから用済みとなった空のカートリッジを吐き出し、機械音を鳴らして排出させる。 見上げれば、飛来したのはMi-28攻撃ヘリ。NATOコードネームで『ハボック』と呼ばれるこの機体は、前継機であるMi-24ハインドと違って兵員輸送能力がない分、より高度な攻撃力を保有している。例えば、機首の三〇ミリ機関砲など――冗談じゃない、とローチは駆け出した。あんなものに撃たれたら、木に隠れていても丸ごとミンチにされてしまう。しかも、よりにもよってMi-28の機関砲は、まさしくローチたちに向けられていた。 炎を煌かせて、機関砲が放たれる。大地を削り取る勢いで弾丸が破壊の限りを尽くし、腕より太い幅を持つ木々が易々と折れていった。情けない悲鳴を上げながら走って逃げるローチは、ほんの周囲数メートルに降り注ぐ弾が当たらないのが奇跡に思えた。一瞬一瞬が全てそうだった。 ふと、ティーダがいない。どこに行ったんだアイツ。まさか、と考えたところで逃げながら周囲を見渡すが、死体は見当たらなかった。代わりに上を見ると、上空に飛び上がった人影らしきものが見えた。あの魔法使いは、攻撃ヘリに空中戦を挑む気なのだ。 普通に戦えば、ミッドチルダの首都航空隊のエースであるティーダが負ける要素はどこにも無かったはずだ。ましてやMi-28のパイロットにとって、敵はこれまで対決した経験がないであろう魔導師である。しかし、敵機の機動は巧妙だった。ティーダが放つ魔力弾を回避するばかりか、後ろを取って機関砲による銃撃を浴びせかけるような真似をやってのけた。 クソ、とローチは片方の耳に突っ込んだイヤホンに、魔導師の苛立ちの声を聞いた。銃声が空で鳴り響き、間違いなく魔力弾は敵機に命中しているのだが、Mi-28は落ちない。ローチにとっても、攻撃ヘリという機種との対決は初めてだった。 ≪ローチ、ほんの少しでいい! こいつの気を引いてくれ!≫ 気を引くって、お前――ACRを撃ったところで、Mi-28がこちらに振り向くとは思えなかった。もっと強力な、敵機のパイロットに「こいつを放置すれば撃墜される」と一瞬で分かるような武器が必要だった。ローチは見るも無残な光景になった山の倒れた木々を見渡し、哀れにもその下敷きになっていた敵兵たちの装備を見つけた。そうだ、もしかしたら。駆け出し、大急ぎで武器を漁る。やはりあった。RPG-7対戦車ロケット。弾は一発だけだが、命中させる必要はないのだ。とにかく敵機に向けて撃てばいい。 敵から奪ったロケットを担ぎ、ローチは空を見上げた。魔導師と攻撃ヘリの空中戦はまだ続いている。今助けるからな、とRPG-7を構え、Mi-28に向ける。当てるつもりはなかったが一応の照準を行い、引き金を引く。発射。尻を引っ叩かれたような反動があって、白煙を吹きながらロケットが空に向かって撃ち上げられる。 驚いたのは敵機のパイロットだろう。いきなり、真下から味方が持っているはずのRPG-7を撃たれたのだから。風に弱いロケットの針路は当たらないと分かっていても、回避機動を取らせるのに充分過ぎるほどの恐怖を含んでいた。結果としてRPG-7はMi-28から大きく逸れて飛び去っていったが、代わりに何かが飛び込んできた。ティーダだった。あろうことか敵機に飛び付き、スタブウイングにしがみ付いてしまっている。 敵機は取り付いた魔導師を振り落とそうと急機動を繰り返すが、ティーダは離れない。大地から祈るような気持ちでそれを見ていたローチは、魔導師が手に持つ拳銃型デバイスに何かを装填させるのを目撃した。彼は知る由もなかったが、ティーダはこの時最後のカートリッジをデバイスに装填していたのだ。そいつをMi-28のエンジン部に押し付け、引き金を引く。一際大きな銃声が響き、直後、ティーダは空中へと投げ出された。 一方、エンジンを撃ち抜かれたMi-28の末路は悲惨なものだった。パイロットは必死に機体を立て直そうとしたに違いないが、心臓にも等しいエンジンを撃ちぬかれているのでは手の施しようがない。グルグルと制御が利かなくなった機体は急激に高度を落とし始め、見えない手に引っ張られるようにして地面へと落ちていった――ローチの方向に。 「嘘だろ、おい」 黒煙を引きながら落ちてくる敵機の姿を見て、ローチは走り出すと同時に呻いた。倒木を乗り越え、草を踏み倒し、少しでも墜落するMi-28から離れようとする。数秒後、背後で轟音が鳴り響いたかと思うと、彼の姿は巻き上がった土煙に紛れ、見えなくなっていった。 SIDE Task Force141 六日目 1627 グルジア・ロシア国境付近 ティーダ・ランスター一等空尉 いかど空を飛ぶことを本業とする空戦魔導師といえど、空中で思い切り遠心力をつけられた状態で放り投げられれば、慌てもするし着地も上手く行くはずもない。 Mi-28に最後のカートリッジを使った大口径高威力の魔力弾を零距離で撃ち込み、撃墜したティーダだったが、その身体はロッジの窓を突き破る形でゴーストの元に帰還を果たした。無論、窓に突っ込む直前に何とか制動を利かせたものの間に合わず、窓を割った後は即座に床に叩きつけられる羽目に陥ったが。 「ティーダ!」 驚くゴーストだったが、仲間が目の前に吹き飛ばされてきたとあっては助け起こすのが当然だった。声にならない悲鳴を上げて動けないでいる魔導師に手を差し伸べ、肩を貸してどうにか起こす。 「ゴースト……ローチは……っ」 「通信は途絶えたままだ。オゾンもスケアクロウもやられた、残っているのは俺たちだけだ――いい、喋るな! 回収のヘリがもうすぐ来る!」 みんな死んだ。ローチも、オゾンもスケアクロウも、他の皆も。最強の精鋭部隊Task Force141の戦力のうち、半分が戦死した。あの攻撃ヘリは強敵だったが、あれに気を取られすぎたのだ。半ば強引にロッジから連れ出されるティーダは、己の無力感を嫌というほど味合わされた。 しかし、彼を連れ出すゴーストの眼はそのコールサインと対照的に、まだ光を失っていなかった。サングラス越しに見える瞳には、何がなんでも生きて帰るという強い意思の炎が宿っていた。マカロフの持つ全ての情報を引き出すDSMを持って、帰還する。そうなれば、今度こそマカロフに逃げ場はない。生き延びて、奴を討つことこそが、死んでいった奴らへの出来る限りの手向けだった。 そのDSMはと言えば、すでに設置されたコンピュータからのデータの吸出しは完了していた。すぐ傍に弾切れになった銃を握ったまま息絶えているTask Force141の隊員の遺体があった。スケアクロウだ。認識票だけでも持って帰ってやるべきだろうが、動けない重傷者であるティーダのほかにまともに戦えるのはゴーストだけとなれば、そんな余裕すら無かった。すぐ近くで、ロシア語の怒鳴り声が聞こえる。追っ手がもうそこに迫っていた。DSMのみゴーストが回収し、持っててくれとティーダに渡す。 ゴーストに連れられ裏口よりロッジを出たティーダは、一度仰向けの形にさせられ、そこから引きずられる形で回収地点へと運ばれていった。ふと、彼はさっきまで手にしていたはずの拳銃型デバイスがないことに気付く。どうやらヘリから放り出された際、不覚にも手放してしまったらしい。諦めようとしていたところで、先ほど出たばかりのロッジの方向に何かが蠢いているのが見えた。まずい、敵だ。 「敵だ……ゴーストッ、敵がそこに……」 「何だと、クソ!」 ロシア語の怒鳴り声が聞こえたのと、ゴーストが一旦ティーダの身体から手を放したのはほとんど同時だった。地面に横になったティーダは、ゴーストがACRを構えて発砲するのを見て、デバイスを手放したことを後悔した。何か武器があれば、この身体でもまだ適当に撃ちまくることは出来るのに。何か無いか、と本能的に手元を探る。固く冷たい金属質の何かに指が触れた時は、思わず神の存在を信じそうになった。AK-47、ロシア製の自動小銃だ。敵が落としていったものに違いないだろう。完全な質量兵器であり、管理局員がこのような兵器を使うのは禁じられているが――構うものか。今は生き残ることだけを考えろ。 AK-47を手に取ったティーダは、痛みを堪えながら何とか銃口を敵に向けて、引き金を引く。照準も何も無いデタラメな射撃だったが、撃たないよりはずっとマシだ。ティーダが撃ち始めたことで、ゴーストは彼を引きずりながらの後退を再開出来た。 デタラメな銃撃で敵を威圧しながら、ティーダは視界の片隅に自然のものではない妙な色をした煙が上がるのを見た。赤色のスモーク。ゴーストが何か言っている。サンダー2-1、林の切れ目に赤いスモークを焚いた! 掃射してくれ! 痛みのあまりか、ぼやけがちになってきた視野と聴覚でも、はっきり見えたし聞き取れた。小型のヘリがゴーストからの通信を受け取るなり背後から飛び出してきて、卵みたいな外見に似合わない凶暴な音を立てる機関砲で、迫る敵を薙ぎ払っていく。圧倒的な火力差の前に、追い迫っていた敵兵たちは後退を余儀なくされていた。 「さぁ、立つんだ!」 促され、AK-47を放り投げたティーダはゴーストの肩を借りて立ち上がった。引きずられるような形は相変わらずだが、山の斜面をかろうじて歩いて下ることは出来た。背後では味方が敵の追撃を塞いでいる。もう敵に撃たれることはないはずだ。 斜面が終わると、回収地点に辿り着いた。すでにヘリが待機しており、見覚えのある軍服姿の男が護衛を伴い、ティーダたちを待っていた。ティーダは軍服の男の名前を知っている。シェパードという、Task Force141の司令官。マカロフを討った後の次に、弾丸を撃ち込むかもしれない男。 「DSMは確保できたか?」 「ここに!」 まともに受け答えの出来ない魔導師に代わって、ゴーストがシェパードからの問いに答えた。ティーダの懐に隠してあったDSMを受け取ったシェパードは、その厳つい表情にほんの少しだけの笑みを見せた。その微笑が、酷く歪んだものに見えたのは、決してティーダの気のせいではなかった。 銃声が響く。何が起こったのか分からなかった。ただ、目線を下げれば、どういう訳か自分の胸にぽっかりと穴が開いていて、中からどろりと赤い血が噴出し、リボルバーを持ったシェパードが―― 「何を…!?」 咄嗟の防衛本能で銃を構えようとしたゴーストの動きも、間に合わなかった。シェパードの持つリボルバーの銃口が彼の眉間に向けられ、銃弾がゴーストの額を撃ち抜いた。 何だ。いったい何が起こったんだ。俺とゴーストは、任務を果たした。大勢の犠牲を出して。オゾンもスケアクロウも、皆も、ローチも死んだ。だがDSMは守りきって、シェパードに渡した。なのに、何故。 全てをティーダが悟った時、全てが遅かった。DSMは持ち去られ、撃たれた二人は放り投げられ油をかけられた。まだティーダの意識はあったというのに。咥えていた葉巻を投げ捨て、火を点けたのは他ならぬシェパードだった。 やはり、奴だったんだ。この戦争は、マカロフ一人の手で始まったんじゃない。シェパードも、加わっていたのだ。最初に討つべきは、奴だった。しかし、彼には手段も、そして時間も残されていなかった。身を焼かれる最中、最後の力を振り絞って遺せた言葉は、唯一の家族、妹の名と、謝罪だけ。 「ティアナ、すまん――お前の兄貴は、帰れない」 SIDE Task Force141 六日目 1635 グルジア・ロシア国境付近 ゲイリー・"ローチ"・サンダーソン軍曹 嘘だ。嘘だ嘘だ、嘘だ。こんなの嘘に決まってる。どうしてゴーストが、ティーダが。シェパード将軍、嘘だ。嘘でなけりゃ悪夢か何かだ。 どれだけ目の前の事実を否定しようとしても、それは事実だった。ローチは、二人が撃たれ、焼かれていく瞬間を、ただ見ているしかなかった。墜落したヘリの残骸に巻き込まれかけ、それでもかろうじて生き延びれた矢先、この事実だ。受け入れられないのも、無理は無い。 俺はどうしたらいいんだ。俺は、どうしたら。銃を持って、仇を討つべきなのか。最初に思いついたのはそれだったが、しばらく森の陰からシェパードたちを監視し続けていると、それは無理だと分かった。黒い服を着たシェパードの護衛、否、私兵と呼ぶべき兵士たちが、ロッジの中から何かを運んでいる。死体だった。それも敵ではなく味方の。Task Force141の兵士たちが、本当に全員戦死したのかを確かめているのだ。 兵士の一人が、「数が合わない」と言っていた。作戦参加者のうち、あと一人だけ死体が見つからないと。報告を受けたシェパードが、「では探せ」と指示を出していた。全員が戦死してもらわなければ困る、とも言っていた。ただちに私兵たちが銃を手に、山へと入っていった。つまり、ローチを探しに。この時点で彼は、降伏しても命は助からないことを悟った。シェパードにとって、Task Focre141はすでに邪魔者なのだ。 彼は、逃げ出した。今は逃げなければ。一刻も早く安全な場所に行き、アフガニスタンにいるマクダヴィッシュ大尉とプライス大尉に知らせるのだ。安全な場所、どこにそんなものがある? ≪ゴースト! ティーダ! 誰か応答しろ、こちらプライス! シェパードの部隊に襲われている!≫ ハッと、通信機を見た。プライスの声だ。やはり、彼らもすでに攻撃されていたのだ。 ≪シェパードを信用するな、奴は敵だ! …っ、ソープ、伏せろ!≫ 通信に応じようとして、そこで声が途切れてしまった。やられたのか。あのプライス大尉が。まさか。 不意に、背後に気配を感じた。振り返れば、話し声が聞こえる。自分を探しに来た死神の群れだ。もうこんなところにまで迫ってきたのか。 逃げ出そうとしたが、ふと、胸の辺りに違和感があった。何かが入っている。チェストリグの内側に手を突っ込んでみれば、ロッジで拾った手帳だった。誰のものか忘れたが、見覚えのある手帳。こんな悠長なことをしている場合ではないのだが、しかしどこか確信めいたものがあり、彼は手帳を開く。中にあったのは手書きで綴られた日記と、写真が一枚。ティーダと、そして彼と同じ髪の色をした幼い女の子が笑い合って映っている。 逃げよう。どこに? どこでもいい。とにかく今は、生き残らなければ。俺にはその義務がある。生き残る義務が。この手帳の持ち主のためにも、絶対に。 歯を食いしばり、ローチは音を立てないよう慎重に、しかし可能な限り迅速に逃走を開始した。生き残るための逃走であり、闘争を。 サイモン・"ゴースト"・ライリー中尉 ティーダ・ランスター一等空尉 状況:K.I.A(戦死) ゲイリー・"ローチ"・サンダーソン軍曹 状況:M.I.A(作戦行動中行方不明) 戻る 次へ
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ジャベリンバグ使用者タグ一覧 ※悪評推奨、証拠の無いものの書き込みは禁止です ●タグ名 ●証拠URL ●ライブID ●所属クランHP等 KURAYOSHIMASA http //iup.2ch-library.com/i/i0034174-1259989211.jpg http //live.xbox.com/ja-JP/profile/profile.aspx?pp=0 GamerTag=KURAYOSHIMASA kool janne http //www.nicovideo.jp/watch/sm8994517 http //live.xbox.com/ja-JP/profile/profile.aspx?pp=0 GamerTag=kool+janne MAROYAKAkun http //www1.axfc.net/uploader/S/so/63289.avi http //live.xbox.com/ja-JP/profile/profile.aspx?pp=0 GamerTag=MAROYAKAkun [XIII]RockDino http //iup.2ch-library.com/i/i0033946-1259927771.jpg http //live.xbox.com/ja-JP/profile/profile.aspx?pp=0 GamerTag=RockDino http //maximum13.blog78.fc2.com/ [XIII]KMT03 http //iup.2ch-library.com/i/i0033955-1259928685.jpg http //live.xbox.com/ja-JP/profile/profile.aspx?pp=0 GamerTag=KMT03 http //maximum13.blog78.fc2.com/ [Sox]a en0717 http //up3.viploader.net/game/src/vlgame008462.jpg http //live.xbox.com/ja-JP/profile/profile.aspx?pp=0 GamerTag=a+en0717 http //aen0717.blog63.fc2.com/
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バグ使い以外の悪質なプレイヤーまとめ タグ どのような事をしたか などを書き込んでください。 ※ここでの暴言とは明らかに度の超えた物です *ワンマンorスカベンデンクロ/RPG ada reign asoko peropero1996 AttendedBU AyasikiHC BESTAKU1031 CHEBARU CHOCHOPOLICE curo pikurusu erlic x bonobo gikoemon GM Hiro Gyofunori HaShiRiYa3 hydrangeas JINN01 KindaSasaking08 MARU3KAKU4KAKU MelancholiCro Mogu6130 natsu0401 nikuzyaga Mk2 POTATO3104 pthiuspubis rarapo86 S2S2S2S2S2S2S2S2 Scale795 SEASONS42 Sig Ks simoheyhe sin2dx Sleepybog skyt SnivellingVenus Sonozak1 S1on Taka HERO 7 TestiestBijcccc the ogre40ma xKADCAMPx xONE MEN ARMYx xxemiruxx wisdom415 Yutta is a pen 暴言ボイスチャット/メッセージの送信 AISAKA X TAIGA bitmen ENZO Ferrari JP http //ime.nu/up3.viploader.net/game/src/vlgame009038.jpg GM Hiro Gunningshaft XT hpoo I PANSON work I ITAMESHI R18 JUN0122 numontyuga007 http //ime.nu/up3.viploader.net/game/src/vlgame009038.jpg O0o mutturi o0O orz30 QLTY VIP STAR sinadaaaaa TestiestBijcccc Tofinformation Tr1pStrip xNEEETx xRoadxRunnerx66 xSkyGTRx XxKAZUHIDExX yamadaihuku YSKGTRXXX Yutta is a pen *オンライン対戦での談合(boost行為、苦情報告によるアカウントBAN対象) blackwave66 Dkidz10 Don my Quality ELMNH003 JAPAN SASUKE Northerly Crime snoopy1128 TERPSFAN313 ume307 xWALTZ *ハードコアルールにおけるチームキル Ace Mcgoo DamageINCoz DarkLoadXquizit NiteKreeper Sonozak1 S1on *ルール無視のキャンプ行為、及びキル稼ぎ行為 Ai chan jp AISAKA X TAIGA BESTAKU1031 CHEBARU Gyofunori Keichi2 Mogu6130 naoya0417 natsu0401 rian117 Scale795 TestiestBijcccc yakisova Mk2 *被害者多数 特に注意するべきプレイヤー AISAKA X TAIGA BESTAKU1031 Gyofunori MARU3KAKU4KAKU pthiuspubis SEASONS42 sho1011 sin2dx Sonozak1 S1on TestiestBijcccc xONE MEN ARMYx xKADCAMPx xxemiruxx Yutta is a pen c7
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シェパード将軍曰く、この戦争は今日で終わりにするらしい。奴の手には全軍を指揮する権利が与えられて、もううちの部隊が支援に困ることはないそうだ。 しかし、どうにも胡散臭い気がする。奴はブリーフィングで「我々は民間人を巻き込むような真似はしない」と言っていたが、俺は知っている。いや、Task Force141に所属する者は全員知っているはずだ。この戦争の発端となった、ミッドチルダ臨海空港の虐殺テロ。現場に残されていた、テロ実行犯の一人と思われるアメリカ人の死体。あいつは、うちの部隊から送り込まれたスパイだった。ジョセフ・アレン上等兵。 アレンと話をしたのはほんの少しだが、いい奴だってのはなんとなく分かっていた。たぶん、本当は軍人なんて向いてない優しい奴だったんだろう。どっちかと言えば教師の方が似合いそうだ。だから、スパイとなって奴らの虐殺行為に加担することになった時、あいつが何を思ったのか、どう感じたか、なんとなく想像はつく。しかしそうしなければ、スパイの任務は果たせない。 だから俺は、シェパード将軍が胡散臭いと思う訳だ。「我々は民間人を巻き込むような真似はしない」だって? アレンが虐殺に加担することになることを知っていたんじゃないか、奴は。何しろテロの実行犯――超国家主義者とか言うテロリストたちのリーダー、マカロフの元にアレンを送り込んだのは、シェパード将軍自身だ。 今日の作戦は、マカロフの居場所と思われる二つあるテロリストたちのアジトのうち、隊を半分に分けて両方一気に畳んでしまおうというものだ。俺はローチやゴーストと一緒に、アジトと思われるグルジアとロシアの国境間にある山中のロッジに攻め込むことになった。あの髭の爺さん、プライス大尉とかいう奴はマクダヴィッシュ大尉ともう片方のアジト、アフガニスタンに行く。あの爺さんは凄まじく強いらしいが、ゴーストが彼と組むのを嫌がったんだ。核ミサイルを発射させたから、って。 何はともあれ、とにかくTask Force141はこの戦争の真の元凶であるテロリスト、マカロフをとっちめに行く。確率は二分の一だから、俺の方かマクダヴィッシュ大尉の方か、どちらかにはいるはずだ。殺すか生け捕りにして、シェパード将軍はこの戦争の真実を明らかにするんだろう。 作戦自体に異議はない。前にもこの手帳に書いたが、マカロフがやったのは紛れも無いテロだ。罪も無い人を何人、何十人と殺してる。しかも俺の故郷、ミッドチルダで。許せる訳がない。出来るなら俺が最初に奴を撃つつもりだ。 だけど――これも前に書いたが、俺はこの作戦が終わったら、シェパード将軍にも問い詰めるつもりだ。返答次第ではタダじゃおかない。奴がマカロフのテロを知っていて、その上でアレンを送り込んでいたのなら、その時は奴も撃つ。 ティアナ。俺の唯一の家族、妹よ。兄ちゃんはもう、生きて帰って来れないかもしれない。もちろん無駄に死ぬつもりはないが、そのくらいの覚悟はしてる。だから、この手帳はいざとなったら、信頼出来る奴に託そうと思う。そして、ティアナに渡すよう伝えるつもりだ。 もちろん、生きて戻ったならそんな必要は無いがな。だけどもしそれが出来なくなった時のために、ティアナに俺からのメッセージだ。 ティアナ、今までありがとう。幸せになってくれ。出来るなら、いい男を見つけて恋をして、結婚して、母親になってくれ。あぁ、もちろんいい男ってのは、最低でも俺と同レベルだぞ? 手帳を書き綴っていた青年は、そこまで書いて筆を置いた。馬鹿だな俺も、と自嘲気味な苦笑いを浮かべて、魔導の羽衣ことバリアジャケットのポケットに手帳をしまう。 青年を乗せたヘリは、いよいよ目的地にまで迫りつつあった。接近を悟られないよう、レーダー波に引っかからない低空飛行を続けていたが、それももう間もなく終わる。ETA(到着予定時刻)まで、残り一〇分だった。 Call of lyrical Modern Warfare 2 第16話 "Loose Ends" / 生き残る義務 SIDE Task Force141 六日目 1536 グルジア・ロシア国境付近 ティーダ・ランスター一等空尉 草と木が生い茂る山の中に、彼らの姿はあった。ヘリから降下した後、徒歩にてこの作戦開始の予定地点にTask Force141が投入し得る戦力のうち、半分がこの地に集結していた。 さすがに世界各国の精鋭特殊部隊の中から、さらに優秀な者を引き抜いて編成されたというだけあり、遅れた者は誰一人としていなかった。銃を構えて待機する兵士たちは多少なりとも山道を歩いてきたはずなのに、少しも疲れた様子を見せなかった。彼らにしてみれば、今回の作戦も一種、『いつものこと』なのかもしれない。 しかし、今度ばかりはいつものことでは済まされない。ティーダは自身の得物である拳銃型デバイスを手に――同じTask Force141の兵士たちの持つ銃の中でも、特異な形状だった。悪い言い方をすれば、玩具じみたデザインのよう――スライドを引き、故郷ミッドチルダで一部の魔導師たちの間で流行っている追加装備の確認を行う。ベルカ式カートリッジシステムと呼ばれる、本来彼が使うデバイスには無い装備だ。魔力の篭ったカートリッジを装填することで発動する魔法のリソースを瞬間的にでも爆発的に増加させ、攻撃力や防御力の向上に繋げるための装備。 この世界での任務において、今のところカートリッジシステムは使わないで済んでいる。ティーダはカートリッジの効果は知りつつ、しかしあえて使わない方針を執っていた。確かに射撃魔法の威力向上は素晴らしいものがあるのだが、このシステムは本来ベルカ式という、彼が持つ魔法とは種類が異なるもののために開発された。ミッドチルダ式を使う空戦魔導師に、ベルカ式のカートリッジシステムはいわば強引に組み込んだ装備なのだ。過度な使用は、身体に負担をかける。過度に使用しなければいい、というのは安易な発想だ。一度使えば、おそらくはその威力の高さから乱用する自分が眼に見えている。本来所属する時空管理局では首都防空隊のエースなどと呼ばれてるが、ティーダは自分にそこまでの強い意志があるとは思えなかった。 だが、今回ばかりは使うかもしれない――ガシャ、と機械音を鳴らせて拳銃型デバイス、分かりやすく言ったところのティーダ式"魔法の杖"にカートリッジを込めた。今回の敵は、そういう敵だ。 ウラジミール・マカロフ。Task Force141から派遣された米軍出身のスパイを殺害し、自身がミッドチルダで引き起こした臨海空港の虐殺テロの現場に遺体を残し、アメリカ合衆国に汚名を着せた男。ミッドチルダを事実上の本拠地世界とする時空管理局は報復のために艦隊を出撃させ、ついこの間まで同盟関係にあった管理局とアメリカは戦争状態だ。それこそがマカロフの狙いであり、ロシアから逃れてきた超国家主義者たちテロリストを総括するリーダーはこれを機に、管理局もアメリカも共倒れさせる気だ。 マカロフを倒せば両者の不幸な誤解は解けて、戦争は終わる――本当かよ、と疑いたくなるティーダだが、どうやら管理局はロシアで起きた核ミサイルの"暴発事故"により、侵攻艦隊が壊滅的打撃を被ったらしい。ティーダにとってしてみれば、大勢の同僚が死ぬことで皮肉にも管理局は一旦攻撃を中止せざるを得ず、ここで真実を明らかにすれば、戦争終結の兆しが見えてくるだろう。死体の上に築かれた平和、しかしこれ以上死体を重ねる訳にもいかない。断腸の思いで、彼はTask Force141に残ることを選んでいた。 ≪スナイパーチーム、配置についた≫ 開きっぱなしにしていた念話という魔導師なら誰でも使える基本的な通信魔法の回線に、若干の雑音が入ってから通信が飛び込んできた。Task Force141の、後方支援部隊だ。振り返ってよく眼を凝らせば、木々が並ぶ山の斜面の最中に蠢く緑の塊と、そいつが持つスナイパーライフルが見える。ギリースーツを着込んだ狙撃班が、M14EBR狙撃銃を構えて配置についていた。 「よし、ストライクチームは前進だ。マカロフは発見次第射殺しろ」 指示を下すのは指揮を任されたTask Force141のナンバー2、ゴースト。骸骨のバラクラバとサングラスで顔を覆ったイギリス陸軍特殊部隊SASの出身で、階級は中尉。ゴーストというのは、無論コールサインだ。階級的にはティーダの方が上なのだが、Task Force141では階級よりも適性と経験がモノを言う。事実、ティーダは自分に指揮官適性はあまりないことを認めていた。管理局でも、基本的に編隊を組まない一匹狼だ。 了解した、とまた雑音が入ってからのスナイパーチームからの返答が聞こえた。どうもこちらの世界の通信機と自分の念話は相性が悪いらしい。とはいっても聞こえないというほどではなく、何より指揮官のゴーストにはしっかり届いているのだから問題あるまい。 「行くぞ。ローチ、俺と一緒に進め。ティーダは後方一〇メートルからついて来てくれ」 「先に飛んで偵察してこようかと思うんだが」 「いや、目立ちすぎる。それに直接支援がいなくなる」 空戦魔導師らしい提案をしたのだが、もっともな理由で却下された。仕方ない、足並みを揃えて進まなければ火力で圧倒される恐れもあるのだ。 そう自分を納得させているのだが、表情に出てしまっていたらしい。意識しないうちに少しばかり不満げな顔をしていると、ほら行くぞ、と肩を叩かれた。叩いたのはローチという兵士だ。能力は間違いなく一級品なのだが、何かと危なっかしい奴だ。何の巡り会わせか、ティーダとは行動を共にすることが多い。 戦友に促されて、ティーダは拳銃型デバイスを構えて進みだした。距離はきっかり一〇メートル、先を行くゴーストとローチの背中を見据えて。さらにその先にはTask Force141の 兵士たちが数人いて、銃を構えて警戒しながら進む。 目標はこの斜面を下った先にあるロッジだそうだが――山を下りながら、魔導師の眼が普通なら見えない先の向こうまで見渡す。視覚魔法で、視力を強化したのだ。はるか前方に、確かにロッジがあった。玄関先に停車しているトラックが二両見えるが、人影は見当たらなかった。 静寂に包まれた山中を、部隊は進む。聞こえてくるのは川のせせらぎ、進む兵士たちのかすかな足音、風に揺れる草木がこすれる音――何だ今のは、とティーダは顔を上げた。風が吹き終わった直後、不自然なタイミングで草が揺れ、葉がこすれるような音がした。ひょっとしたら気のせいかもしれないが、聴覚強化の魔法を行使。歩行は止めないまま、しっかりと周囲の音に耳を傾ける。 スゥ、ハァ、スゥ、ハァと自分のものではない呼吸音が聞こえた。方向は、左から。おかしい、左は崖が立ち塞がっているだけで、隠れようもないはずだ。それとも、あるいは彼には思いもつかない方法で隠れて息を潜めているのか。隠れているなら、何者だ。否、問いかけるまでもない。この状況で隠れている者と言えば―― 「っ……」 息が詰まった。小さな金属音が鳴り響き、地面から飛び出してきた謎の円盤を目撃した時、「何だこれは」と言いかけて、生存本能が円盤の正体を即座に見抜いていた。 これは、地雷だ。跳躍地雷。踏むと空中で炸裂し、四方八方に鉄球をばら撒いて破壊と殺戮の限りを尽くす無差別攻撃兵器。 伏せることが出来たのは奇跡だった。すぐ真上で巻き起こった爆発と、草や土を薙ぎ払う勢いで放たれた鉄球は、しかしギリギリのところでティーダに危害を及ぼさなかった。だが地雷は彼の前だけでなく、前進中だったTask Froce141全体に襲い掛かっていた。 爆発、轟音。たちまち、世界のどこに出しても恥ずかしくないレベルだったはずの精鋭の兵士が数名、一発の銃弾を撃つ間もなく吹き飛ばされた。生き残った者も頭を上げられないでいる。そこに、銃撃が降り注いだ。左の崖の上と、正面から。敵は待ち伏せしていたのだ。 「敵だ! 左から、左から来る!」 爆発のせいで聴覚が完全に回復しきらない最中、耳鳴り混じりで拾うことが出来た声はゴーストのものだった。完全な奇襲を受けたにも関わらず、指揮官が真っ先に立ち上がって反撃を開始していたのだ。 クソ、と吐き捨てた悪態は銃声と爆音に掻き消された。ティーダは立ち上がらず、あえて無様に地に伏せた姿勢のまま、拳銃型デバイスを構えた。土煙と銃撃で揺れる木々の向こう、敵に向かって魔力弾を乱射する。タンタンタン、タンタンタンとデバイスは拳銃らしい外見とは裏腹に、機関銃のような連射速度で魔法の弾丸を放った。敵に当たったかどうかは分からない。そこまで確認する余地がなかった。 先に反撃を開始したゴーストが、指揮官陣頭を体言するかの如くアサルトライフルのACRを乱射しながら突っ込む。奇襲攻撃に出鼻を挫かれたTask Force141だったが、恐れを知らないように突き進むゴーストの背中を追って銃弾の雨の中を前進する。無論、反撃の弾丸を叩き返しながらだ。左の崖の上に見える敵兵たちには一人がグレネードランチャーを撃ち込み、大 きく怯ませた。 「押せ押せ押せ! 負けるな、撃ち返せ!」 指揮官が士気を鼓舞するために怒鳴り、その声でようやくティーダは立ち上がった。地面に伏せていた時は見えなかった超国家主義者たちの姿が今度ははっきり見えたため、銃口を向ける。引き金を引いて、今度は一発ずつ的確に狙って撃つ。詠唱の必要すらないただの魔力弾であったが、正確な照準により放たれたそれは、敵兵を容赦なく殴り飛ばす。 不意に、声をかけられた。ティーダ、と誰かが自分を呼んでいる。銃口は前に突きつけたまま、視線だけを動かしてみれば、同じく銃を前に構えていた兵士の姿が見えた。ローチだ。こんな時に何の用だ。 「何だ、また助けが欲しいのか!」 「そうじゃない、無事かどうか確認しただけだ! 返事があるなら生きてるな!」 「死人は返事しないだろ!」 怒鳴り声に、こちらも怒鳴って返す。とは言え、戦友がそこにいるというのはありがたい。チームワークは重要だ、互いに自分の代わりに撃たれる奴を得られる。もっともティーダにしてみれば、ローチを身代わりにするつもりなどまったく無い。彼とはこれまで共に何度も死線を潜り抜けた。今回もそうだった。 敵は待ち伏せと奇襲によってTask Force141を最初の一撃で殲滅してしまう魂胆だったのかもしれないが、詰めが甘かった。否、相手が他の部隊であれば目論見通りにいったことだろう。 今回は相手が悪かった。ロッジを守る超国家主義者たちにとっての敵は、よりにもよって世界各国から選りすぐりの精鋭の、さらにその中から選抜して選んだ精鋭の中の精鋭だったのである。それがTask Force141という部隊だった。 突然、木の陰に隠れていた敵兵の一人が、見えない誰かに殴られたようにして吹き飛ばされた。彼だけでなく、身の隠し方が中途半端だった者は容赦なく撃ち倒されていった。ローチやゴーストが撃ったものではない。ティーダも同様に身に覚えが無い。何のことは無い、後方で射撃位置に就いていたスナイパーチームが援護してくれているのだ。そこにゴーストからなるストライクチームが突っ込んでくるのだから、超国家主義者たちは精一杯の弾幕でせめてTask Force141の侵攻を遅らせる程度のことしか出来ない。先手を打ったはずの敵の防衛ラインは、もはや崩壊しつつあった。 敵の張った煙幕を抜けて、目標のロッジが目の前に迫る。と、その時、ティーダはロッジの前に停めてあったはずのトラックが消えていることに気付いた。ほとんど時を同じくして、ロッジの裏口から二両のトラックが猛スピードで駆け出していく。誰が見ても分かりやすく、敵は逃げ出しているに違いなかった。 Task Force141は飛び出してきたトラックに集中砲火を浴びせるが、銃弾はいずれも車体に赤い火花を散らすだけで、トラックのスピードは緩まない。窓ガラスにも弾丸は命中しているはずなのだが、やはりトラックが止まる様子は無かった。 「くそ、防弾だ! ティーダ!」 諦めることなくACRを撃ち続ける傍ら、ゴーストが自分を呼んだ。具体的に何をしろ、とまでは言わなかったが、彼には指揮官があのトラックを止めろと言いたいのは即座に理解出来た。そのために他の兵士より目立つ分火力の高い"魔導師"がいるのだ。 名を呼ばれたティーダは即座にデバイスを構え、スライドを手動で引いた。弾丸を込めるような動作に伴い、己の身の内で何かが爆ぜるようにして溢れ出そうになる。ベルカ式カートリッジシステムを作動させたのだ。溢れ返りそうな魔力をもって、その全てを放つ弾丸に叩き込む。 ファントムブレイザーという名を持つその魔法の弾丸は、もやは通常の射撃魔法の範疇に収まらない。ティーダの持つ砲撃魔法だった。 轟音と共に放たれた鮮やかな橙色の弾丸は、防弾加工がなされていたはずのトラックをミニチュアでも蹴飛ばすかのように吹き飛ばし、道路の向こうへと派手な横転を四回も繰り返させた。もう一両は必死に逃げようとするが、これも放たれた二発目の砲撃が命中し、大きく宙に浮いたかと思った瞬間、逆さまになって大地へと叩きつけられた。 よし、とティーダは己の戦果に満足し、しかし次の瞬間には小さな満足感を捨て去った。ロッジから敵が逃げ出していたということは、マカロフがトラックの中にいるかもしれない。ゴーストの指示を受けてスケアクロウ、オゾンというコールサインを持った兵士がほとんど残骸と化したトラックに探りを入れるが、二人は二両とも調べた後に首を横に振った。マカロフはいない。どうやら囮だったようだ。 「報告、マカロフはいない。繰り返す、マカロフはいない」 「了解した。スナイパーチーム、そっちはどうだ」 ≪ロッジを監視しているが、トラックが出た以外は誰も出入りしていない≫ 二つの報告を受けて、ゴーストは周囲にいた部下たちを見渡し、何も言わずに頷いた。それだけで意思は伝わった。ならばロッジを制圧し、マカロフを探す。 Task Force141のストライクチームは、あらかじめ偵察衛星の撮影した写真でロッジの全ての入り口を把握していた。兵士たちは全ての入り口の前に立ち、一斉に突入するため合図を待つ。その合図とは正面玄関の担当であるゴースト、ティーダ、それにローチの三人の突入そのものだ。 ゴーストが右につき、ローチが左に。ティーダは少し離れてバックアップポジションへ。三人は顔を見合わせ、アイ・コンタクト。突入準備が完了したところで、ゴーストが「GO!」と指示を出した。間髪入れずにローチが持っていた爆薬を扉に仕掛けて起爆。爆風と衝撃で強引にこじ開けられた正面玄関に、三人は一斉に突入する。 お行儀よくロッジの玄関から突入して、最初に見えたのは扉の爆発で吹き飛ばされた敵兵だった。その背後で、彼の仲間たちが慌てた様子で迎撃の構えを見せつつあって――させるか。精鋭部隊の名に恥じない迅速さをもって、ティーダたち三人は立ち並ぶ敵兵たちに瞬時に銃口を向けていた。銃声が響き渡り、敵は一発も撃ち返すことなく薙ぎ払われていった。 正面玄関の制圧から数秒後、ロッジの中で再び複数の銃声が、それぞれ異なる方向から鳴り響いてきた。こちらの突入を合図に突っ込んだ味方だ。最初の奇襲攻撃で見せた勢いが嘘のように、超国家主義者たちは瞬く間に制圧されていった。 戻る 次へ
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Call of lyrical Modern Warfare 2 第12.5話 休息と情報 SIDE 時空管理局 機動六課準備室 六日目 0730 宇宙空間 次元航行艦『アースラ』 ポール・ジャクソン 元米海兵隊曹長 いくら屈強な兵士たちと言えど、結局は人間であることには変わらない。戦い続ければ疲れるし、腹も減るし眠たくもなる。ましてや大きな作戦を終えた後となれば、一晩くらいゆっくり休み たくはなるものだ。それはジャクソンとて例外ではない。 その日の朝、睡眠から目覚めた彼は、ここがいつも寝泊りしていた在ミッドチルダ米軍連絡所の自分の部屋ではないことに気付く。そうだ、あの部屋はもう引き払った。当分戻ることは出来な いだろう。祖国アメリカから至急本国に帰還せよとの命令は届いていたが、ジャクソンはそれを無視し、この機動六課準備室に加わった。この戦争には単に管理局とアメリカだけの戦争に止まら ない、何かがあると知らされたからだ。結果として、その判断は間違いではなかった。機動六課準備室は独自に情報を収集し、ついこの間まで同盟の関係にあった管理局とアメリカの仲を引き裂 いた者がいるという事実を突き止めたのである。 もちろんそれはそれとして――ベッドから上半身を起こす。割り当てられた部屋は狭いが、一応一人部屋だった――彼女らと撃ち合う訳にもいかないからな。特に愛しの彼女とは。右手がベッ ドの上を無意識に探るが、何も掴めない。視線をやれば、部屋には彼一人が残されていたことに気付く。残された。そう、もう一人いたはずだ。女性のものと思しき金の糸のような髪の毛が、枕 元に何本か抜け落ちているのが何よりの証拠だった。 とりあえず、ジャクソンは野戦服を持ち出した。昨日の作戦で使用したものは洗濯に出したので、今日は予備の物だ。艦内で装具を身に着けるはずもないので、ずいぶん身軽な格好だと感じた。 部屋を出て、通路を歩く。就寝前、目が覚めたならまずはブリーフィングルームに集まるように、との通達があった。腹はすいていたが、朝食は後でも食える。真っ先に目的地に向かった。扉 を抜ければ、すでに三人ほどがブリーフィングルームに集まっていた。 「あ、おはようございます、ジャクソンさん」 「おはよう、フェイト」 挨拶の言葉をかけてきたのは流れるように綺麗な金髪が印象的の少女、フェイト・T・ハラオウンだった。歳は一五歳かそこらだと聞いているが、昨日の作戦、彼女の兄を取り戻す任務では囮役 を担った。ジャクソンは地面からしか見れなかったが、フェイトの魔導師としての強さは見ているだけでも強いと分かる。おそらくはベテランパイロットの駆る新鋭戦闘機にも匹敵、もしくはそれ 以上かもしれない。何にしても頼りになるが、微笑を浮かべて朝の挨拶をしてくる少女は、本当に見た目はただの女の子だった。 「おはようございます、ジャクソンさん。よく眠れました?」 「おはよう、タカマチ――ああ、おかげさまで」 続いて、明らかに東洋人と見て分かる少女、高町なのは。日本人だと聞いていた。彼女もフェイトと同様、一見普通の女の子に見えるが、実際は昨日の任務でフェイトと共に収容所上空で派手に 暴れまわって囮の任務を立派に果たした。砲撃魔法を自在に操るらしく、時折収容所に降り注いでいた巨大な光の渦はどうも彼女が放ったものだそうだ。下手をすれば砲兵一個大隊分の火力をなの は一人で賄えるのでは、と真面目に思う。 「朝から美人と挨拶できるとは幸運だ。そうは思わないか、ジャクソン」 「俺もそう思う」 最後に、こいつは一目で自分と同じ軍人だなと分かる男と手馴れたように会話を交わす。ギャズという、地球のイギリス陸軍から機動六課準備室に参加した兵士だ。世界でも屈指と呼ばれる同国 の特殊部隊SASの出身であり、昨日の作戦ではジャクソンと行動を共にした。 集合時間にはどうやらまだ余裕があったらしく、しばらく席に座って彼らは何気ない雑談を交わしながら暇を潰した。そこで得た情報によれば、どうも朝食はこのままブリーフィングルームに運 ばれてくるらしい。てっきりジャクソンは、昨夜遅い時間に食べた夕食が食堂であったことから、朝食もそこになるだろうと考えていた。 やがてしばらくして、ブリーフィングルームに機動六課準備室の主要たるメンバーが集まってきた。先頭に立ってやってきた少女は、八神はやて。機動六課準備室の室長、実質的な指揮官である。 「やぁやぁ、おはようさん。昨日はみんなご苦労様やったな」 「あぁ、ケツが冷えて仕方なかったぜ。寒冷地での作戦はこれっきりにしてくれ」 軽口で答える黒人兵士がグリッグ、ジャクソンの海兵隊時代からの戦友だ。はやてが苦笑いで返している。昨日の作戦、第四一管理世界"キャスノー"は雪と永久凍土に覆われた世界だったからだ。 「何だよ、あのくらいで。鍛え方が足りねーんじゃないのか?」 「うるさい、お子様は黙ってろ」 ニヤニヤと文字通り子供のような笑みを浮かべながら、グリッグの軽口に横からけん制を入れたのがヴィータ。特に幼い外見をしてはいるが、戦闘能力は侮れない。 「一回シグナムの訓練に付き合ってみろよ。寒さなんか忘れるから」 ヴィータに言われて、皆の視線がシグナム、と呼ばれた落ち着いた雰囲気の女性に集まった。「私か?」と彼女も彼女で、満更でもなさそうだった。グリッグがたまらずうへぇ、と言ってしまう 辺り、シグナムが普段どれほど鍛錬を重ねているのかは周知の通りだった。 「勘弁してくれ。女戦士アマゾネスと訓練なんて命がいくつあっても足りない」 「それはそれで随分な物言いだな」 苦笑いするシグナム。ともかくもグリッグは彼女の訓練に付き合うのは本当に御免といった様子だった。それを見て皆が笑う。 「主、シャマルが遅れてきます。朝食の準備を手伝っているとのことで」 最後に、狼が人間の言葉を発した。何も知らなければ驚くべきことだろうが、みんなこの狼のことは知っていた。ザフィーラという守護獣で、半獣半人という変わり者だった。寡黙だが、その分 淡々と必要なことはこなす。今この瞬間も、残り一名が遅れてくることをはやてに報告していた。 「ほいたら、シャマルはまた後で話すとして」とはやてがブリーフィングを始める。昨日の作戦は成功した。その後の方針を、これから述べるのだ。 「まずは、クロノくんの奪還は成功。せやけどまだやっとスタート地点に立ったってだけやな」 「本局の報復強行派を抑えるには、さらなる手立てが必要か――手はあるんだろうな」 ジャクソンからの問いかけに、はやては頷いて返す。それから宙に浮かぶ半透明のディスプレイ、魔法技術の結晶を展開させて、それを皆に見えるよう大型化した。液晶ともブラウン管とも異な る画面に映し出されたのは、管理局のお膝元である次元世界ミッドチルダ、その首都クラナガンにある建物。 「中央放送局」 フェイトが建物の名を言った。ミッドチルダ中央放送局、民放ではあるがラジオからテレビ、新聞、ネットとあらゆる情報伝達に必要な媒体を手にする一大企業だ。支社は他の次元世界にまで 及び、時空管理局とも提携して航海中の次元航行艦に貴重な娯楽を提供している。 もっとも現在、その中央放送局は報復強行派の手によって抑えられていた。「正確に、ありのままに事実を伝えよう」という姿勢から今回の事態の発端となった臨海空港の虐殺事件でも、彼ら はあくまで犯行現場にアメリカ人の遺体が残されていたこと、使用された銃器はアメリカ製であることだけを伝えた。他の局が『世論調査』と称してあからさまに報復を支持する中、中央放送局 だけはそうしなかった。だから強行派に抑えられたのだ。現在放送されるのは、ミッドチルダ市民にアメリカへの敵愾心を煽るものが中心だった。 「皮肉だな。事実を追うマスコミが扇動装置に早変わりか」 「戦争の最初の犠牲は真実ってな。今回も例外なくだ」 ギャズの言葉に反応したグリッグだったが、皆から集まった視線は奇妙なものだった。「お前の口からそんな真っ当な発言が出るとは」とでも言いたげな。なんだよ、と黒人兵士は不機嫌そう に言うが、誰も答えなかった。 「機動六課準備室は、次にこの放送局を奪還する」 「奪還して――クロノ君に、事実を話してもらう?」 そういうこと、となのはの問いにはやてが肯定の言葉を返した。 彼ら彼女らが奪還したクロノ・ハラオウンは提督という立場にあり、事実確認の追求を放置したまま報復を行おうとする強行派と違い、そもそも空港の虐殺事件を引き起こしたのは誰なのかを 掴んでいた。アメリカへの怒りで我を忘れて報復一色の世論に染まりつつあるミッドチルダに、一石を投じるのだ。市民からの支持が揺らげば、強行派もあまり強い行動には出れなくなるだろう。 「そのことなんだが――」 唐突に、ブリーフィングルームの扉が開かれると同時に、若い男の声が響く。皆が一斉に振り返り、そして驚いた。先日救出されたばかりのクロノ・ハラオウンが、まさにそこにいたのだ。 「地球に協力出来そうな部隊があるようだ。ソープも参加してるらしい……何だ、死体でも見たような顔して」 「そういう訳ではないがな。いいのか、起きてて?」 席から立ち上がり、ジャクソンがクロノの元に駆け寄った。昨日まで監禁状態にあった人間なのだ。命に別状はないと認められたものの、衰弱しているため療養が必要と診断されている。その 彼が、あろうことか付き添いもなしに一人でやって来たのだ。 否、付き添いそのものは遅れてやって来た。扉の向こうから「ちょっと、クロノくん!」と若き提督を呼び止める声があり、すぐに"アースラ"主任オペレーターのエイミィ・リミエッタが姿を 見せた。おそらくは、病室から抜け出してきたのだろう。 続けて、呆れた表情を浮かべながら白衣の女性が現れた。シャマルという、衛生と後方支援を担う守護騎士の一人だった。 「まったくもう。療養が必要だって言ってるでしょう?」 「分かってはいる。だが状況が状況だからね」 「男の人って何でみんなこうなのかしら。ねぇ、ジャクソンさん?」 咎められても従う気のない様子を見せるクロノに、シャマルはジト目で、何故だかジャクソンの方を睨んできた。なまじ自覚があるだけ、たまらず屈強なはずの兵士は視線を逸らす。話題を変え ようと考えて、先ほどクロノが言いかけた言葉を思い出す。 「それでクロノ、ソープが参加してる部隊ってのは?」 「あぁ、Task Force141というらしい。地球の各国軍隊の精鋭、それに管理局の首都防空隊からも優秀な者を集めて編成した部隊だ。彼らは今、例のテロの首謀者を追っている」 「Task Force141、ですか?」 反応したのはシグナムだった。聞き覚えがあるらしい。詳しくは聞いた訳ではないが、と前置きして彼女は話す。 「その、首都防空隊から引き抜かれたという者の名前は聞いたことがある。ティーダ・ランスター一等空尉だ」 「あ、私も聞いたことあります。ランスター一等空尉、防空隊のエースって」 同じ空戦魔導師ゆえか、なのはもその名に聞き覚えはあったようだ。Task Force141なる部隊の詳細はこの場にいる人間には誰も知らされていないが、ともかくその部隊が地球に実在し、管理局 の魔導師が指揮下に組み込まれているのは間違いない。 フムン、とここではやてが、ブリーフィングルームの大型モニターのスイッチを操作する。投影されるのは地球、その北米大陸。画像が大きく拡大されていき、アメリカ東海岸を映す。各地で 黒煙が上がり、戦場となっているのがはるか高空からでも確認できるほどだった。 「行ってみよか、地球に。そのTask Force141とやらが、本当にクロノくんの言う通り、例のテロの首謀者を追っているなら、共同戦線を築けると思う」 「"アースラ"なら地球の衛星軌道上まで一日もかからないよ。もちろん、どこかで補給の必要はあるけど」 「せやったな…あぁ、そこは大丈夫。ミスターRとミスRが用意してくれるやろうから」 ん? とその時、クロノが首をかしげる。エイミィの声に反応したはやての言葉の中にあった、ミスターRとミスRという単語に反応したのだ。 「何者なんだ、そのミスターRとミスRは」 「クロノくんもよー知っとる人よ。特にミスRは」 誰だ、とクロノが視線を宙に泳がせて、答えを求める。誰も目を合わそうとしてくれなかった。面白そうに笑うだけで。 一人だけ釈然としない様子のまま、ブリーフィングルームに朝食が運ばれてきた。時間がないゆえ、このまま現状確認と今後の方針について細かい打ち合わせを行いながらの食事となる。もっと もそれだけでは息が詰まるので、多少の雑談も交えながらだった。 ジャクソンの元にも、朝食が運ばれてきた。焼いたトーストとミルクをかけたシリアル、ハムとベーコンのスクランブルエッグ。食事は各自の嗜好や好み、出身地に合わせたメニューとなって いた。なのはやはやてはご飯と味噌汁だったし、フェイトはサンドイッチだった。同じアメリカ人のグリッグはドーナッツとミルク、イギリス人のギャズは目玉焼きに揚げパン、そして欠かせな い紅茶。隣の席の者と異国の朝食を比べあったりして、楽しい朝食だった。 ところで、ジャクソンの隣に座ったのはシャマルだった。二人は恋人関係にある。 「はいジャクソンさん、あーん」 「…シャマル、皆が見てる」 「見せ付けてあげればいいんですよ。あーん」 「それもそうか。あーん」 っけ、と誰ともなく呟いた悪態の声がブリーフィングルームに響くが、二人の耳には届かない。そうでなくとも、二人は自分たちの空間を築き上げ、もはや何者の侵入も許さない様子だった。 「そのスクランブルエッグ、私が作ったんですよ」 「あぁ、それで朝起きたらもうベッドにいなかったのか。美味いよ。昨日の君と同じくらい素敵だ」 「やん、もう、ジャクソンさんったら」 うぇ、と気持ちが悪そうな声が上がる。二人に一番近かったヴィータが、たまらず口元を押さえていた。「カニの食べられないところみたいな味がする…」と力のない声で呟き、自分が一口だ け食べたスクランブルエッグを指差して。どうやらシャマルが作ったものらしい。 「ちょっとー、二人ともー、その辺にしいやー」 「はぁ…私もユーノくんに会いたいなぁ…」 「な、なのはには私がいるよ!」 「俺知ってるぜ。あの二人を日本語で"リア充"って言うんだ」 「グリッグ、余計なことを言うな。紅茶がまずくなる…」 朝から甘ったるい光景を見せ付けられて、"アースラ"の士気は一時的に低下したとかしていないとか。 ともかくも一路、機動六課準備室は補給を受け取るため、そしてTask Force141との接触のため地球へと向かう。 戻る 次へ
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Call of lyrical Modern Warfare 2 第17.5話 隠れ蓑より SIDE Task Force141 六日目 1801 アフガニスタン "砂漠の隠れ蓑" ジョン・"ソープ"・マクダヴィッシュ大尉 四発のT-56エンジンは、時折咳き込むようにしてプロペラを回しながら、それでも何とか止まることなく稼動していた。 航空機にとってエンジンとは心臓と同義であり、これが止まるということは心肺停止に等しい。つまり、止まれば地面に真っ逆様だ。ここまで来て墜落死など御免被るが、パイロットを務めるニコライに不安そうな様子は無い。エンジンの調子が悪くなると、決まって不機嫌な表情を露にして「ポンコツが。これだから中古は」と愚痴を呟いているくらいだった。 ソープは、ひとまず座席に腰を落ち着けて、C-130輸送機の窓の外に広がるアフガニスタンの砂漠を眺めていた。日が傾き始めた砂漠の大地を見ていると、まるで火星にでもいるかのような気分になる。いっそ本当にここが火星なら、シェパードの追っ手も及ばないはずだった。 シェパードの私兵とマカロフの手下の挟撃から逃れ、すでに一時間以上飛行が続いていた。ソープは自分が敵の立場なら、戦闘機を出撃させてニコライのポンコツ輸送機を撃墜させると考えていたが、今のところは輸送ヘリとすらもすれ違わなかった。シェパードはすでにアメリカ全軍の指揮権を得ているから、空軍に戦闘機を出させるのは何ら難しくないはずなのだが。 「よし、この辺りだ。二人とも、着陸するぞ」 操縦席に座るニコライの声で、思考を断ち切る。しかし、着陸といわれたが相変わらず窓の外は砂漠の世界だ。飛行場どころか道路の一本も見えなかった。 「ニコライ、どこに降りる気だ」 「この下だよ」 言われて、改めて窓の外に眼をやる。よくよく眼を凝らせばポツリ、ポツリとではあるが、人家と思しき建物が建っていた。砂漠の大地もよく見れば、平坦でかろうじて着陸出来なくもない。 ニコライが操縦席で、何かを操作している。すると、地面にある建物から緑の光が数回点滅した。発光信号だというのは即座に見抜けたが、直後に人家がころころと動き始めたのを目撃した時は、さすがに驚かざるを得なかった。 要するに、人家は偽装で、移動可能なよう工作されている。ここはニコライの経営するPMCsの緊急着陸場なのだ。上空から見れば、ただ人家がいくらか存在する普通の砂漠にしか見えなかった。 C-130はゆっくりと砂漠の滑走路に着陸。さすがにアスファルトの滑走路と違って砂地のそれは着陸時の衝撃がきつかったが、ここまで飛んできたポンコツ輸送機は無事、大地へと降り立つに至った。 安堵のため息もそこそこに、地上で待ち構えていたニコライの部下たちに誘導されて駐機場に――ほとんどただの空き地で、厳重に偽装のネットを被せるだけだ――入ったC-130からソープは降り立った。死地を離れ、ひとまずの生還。しかし休む間はない、彼にはやるべきことがある。 「プライス、さっきの通信の続きをやろう。ニコライ、通信所はあるだろ」 「あるぞ。部下に案内させる――プライスの旦那、報酬はどのくらい貰える?」 「額はあとで交渉してくれ。ジンバブエドルで払ってやるぞ」 操縦席から返事は来なかった。代わりにプライスがC-130から降りてきて、「行こう」とソープに促す。ニコライの部下が先導してくれた。それにしても彼の給料はちゃんと出るのだろうか。 通信所は地下にあった。移動可能な偽人家の傍に設置された通信アンテナで交信するのだ。アンテナは見ようによっては洗濯物を干す物干しに見えなくも無かった。 通信所に入って、ソープは機内で行われた通信の相手を呼び出すべく、専用の周波数を入力し、電波を送信させた。 放たれた電波はデジタル暗号変換され、さらにいくつかの通信衛星を経由して発信源の特定と傍受を防ぐ。最終的に辿り着く先は、アフガニスタン上空にいる次元航行艦『アースラ』だった。 指揮官に裏切られ、多くの仲間を失い、今や追われる身となったTask Force141に通信を寄越してきたのは、異世界からの艦だった。 SIDE 時空管理局 機動六課準備室 六日目 時刻 1830 地球 アフガニスタン上空高度一〇万メートル 次元航行艦『アースラ』 ポール・ジャクソン 元米海兵隊曹長 待ちわびた通信が飛び込んできて、『アースラ』の通信室にて待機していたジャクソンとクロノは休めていた身体を跳ね起こした。機動六課準備室の主要メンバーたちは固唾を飲んで、彼らのやり取りに耳を傾けている。 Task Force141とのコンタクトにようやく成功した彼らだったが、事態はあまり思わしいものではない。先の通信で、Task Force141の司令官であるシェパード将軍の裏切りが発覚し、この戦争は仕組まれていたものだと言う事が判明している。ソープ、プライスを除いてTask Force141の隊員はほとんどが戦死し、生き残った二人も今や追われる身となっていた。ミッドチルダ臨海空港での虐殺事件の首謀者であるマカロフを追うため共闘を望んでいた機動六課準備室としては、寝耳に水に等しい状況だった。 輸送機で一旦戦場を離脱したソープとプライスとの通信はそこで終わり、一度もっと設備の充実した通信所で改めて連絡を寄越す手筈になっていた。『アースラ』の電子通信能力は地球のそれを上回っており、傍受に成功しても暗号変換されているため解読は出来ないが、それは受け取る側の話だ。ソープたちが送る通信はそうもいかなかった。 ≪こちらソープ。ジャクソン、クロノ、聞こえるか≫ 聞き慣れた戦友の声を耳にして、ジャクソンはまずはほっとした。とりあえず、彼らは設備の整った通信所に辿り着けたらしい。 「こちらクロノだ。聞こえるぞ、ソープ。ジャクソンもいる」 通信に答えたのはクロノだ。つい先日まで管理局の報復強硬派の手で幽閉されていたが、ハキハキとした口調と眼の輝きはとっくに執務官クロノ・ハラオウンの復活を表していた。 ≪あぁ…こうして話すのも久しぶりだな。出来れば紅茶でもてなしてやりたかったが、こっちはアフガニスタンでな≫ 「こっちも高度一〇万メートルだ、第二戦闘配備だしお茶は出せない――プライス大尉は」 ≪ピンピンしてるぞ、このじいさんは。今代わろう≫ 久しぶりの戦友との会話。笑顔の一つでも交わしたいところだったが、戦況がそれを許さない。早急に今後の対策を打ち立てる必要があった。 通信機の向こうで、人の動く気配があった。ソープに代わって、プライスが通信の席に入ったのだろう。それを証明するかのように、野太い声が『アースラ』の通信室に響いた。 ≪こちらプライスだ。クロノ、幽閉されていたと聞いたが≫ 「ええ。そちらも同じようにされていたと聞きました。大丈夫なんですか?」 ≪小僧に心配されるほど老いてもいない≫ クロノが苦笑いをジャクソンや後ろの仲間たちに向け、皆も似たような表情で応じた。この老兵にしてみれば、今や提督の座にまで上り詰めた執務官でさえ小僧なのだ。 「すまん、ちょっといいか」 その時、通信機とクロノの間に一人の兵士が割り込んできた。ギャズだった。彼はプライス大尉とSASに所属していた頃からの旧知の間柄だ。声を聞いて、久しぶりに話をしたくなったのだろう。 「プライス大尉、俺です。分かりますか?」 ≪その声は……ゴースト、ではないな。ギャズか。そこにいるのか≫ 「ええ、そこの八神のお嬢さんに誘われて。ここはなかなか居心地がいいですよ、言うことさえ聞いていればあとは好き放題だ。スタウトも飲める」 ≪楽しくやっているようだな、お前は変わらん≫ 「大尉、よくぞご無事で」 ≪ギャズ、生きて会えればまたロンドンに行くぞ≫ 見えるはずがないのに、ギャズは通信機の前で英国式の敬礼を送った。プライスがどうしているかは分からないが、ジャクソンには通信機の向こうで老兵もまた答礼しているように思えた。かつての上官と部下の信頼は、今でも変わっていない。 挨拶もそこそこに、再び通信機の前に立ったクロノがプライスと今後の対策について協議を始めた。 SIDE Task Force141 六日目 1845 アフガニスタン "砂漠の隠れ蓑" ジョン・"ソープ"・マクダヴィッシュ大尉 ひとまず、クロノの方から『アースラ』にプライスたちを収容しよう、という提案があった。状況を鑑みれば、その選択は妥当だった。Task Force141は行方不明となった者を除けばソープとプライスのみであり、そして彼らのいるアフガニスタンはシェパードが指揮権を握った米軍がいる。今でこそ見つかっていないが、このニコライの用意した隠れ家もいつまで持つか。 しかし、プライスはその提案を承諾しなかった。彼の眼は依然として、獲物を狩ろうとする虎のそれだった――仮に通信機に画面があれば、クロノはプライスを「レジアス中将のようだ」と評したに違いない。 「俺とソープはシェパードを倒す。位置はもう分かっている、マカロフと取引した」 ≪何を無茶な…マカロフと取引? いったいどうして≫ クロノの自分の耳を疑う声が、通信機から響いた。それも当然だろう、と会話を聞いていたソープは思う。この戦争のそもそもの原因である空港虐殺事件、その首謀者とプライスが突然取引した、などと聞かされたら戸惑うのは当たり前だ。 「シェパードの狙いは戦争の拡大だ。マカロフを倒せばどの道ミッドチルダにも侵攻してくる」 ≪どうやって。地球側にミッドへの転移方法なんて無いはずだ≫ 「では聞くが、マカロフたちはどうやって地球を脱してミッドチルダに行った。ミッドチルダだけじゃない、超国家主義者たちはもはや次元世界のいたるところに潜伏している」 通信機が押し黙る。確かに、マカロフたち超国家主義者がいかなる手段を用いて次元世界を行き来しているのかは、開戦前にアメリカと管理局の合同で行われた調査でも不明のままだった。逆を言えば、超国家主義者たちは管理局ですら掴めない方法で時空転移の手段を持っているということになる。 マカロフを倒し、超国家主義者を滅することが出来れば、奴らが時空転移に使用していたその手段をシェパードは得るだろう。米軍の指揮権を得た彼は英雄としてさらなる戦いを進め、戦火は地球はおろか次元世界にまで拡大していく。攻め込むのは星条旗を掲げた軍隊。兵士たちは、二度と祖国を戦場にすまいと愛国心で闘志を燃やしているはずだ。 「順番が少し変わるだけだ。まずはシェパードを倒す、俺たちの手でな」 ため息が漏れた。通信機の向こうからだ。諦めとも受け取れる形で、クロノはプライスの提案を承諾した。この戦うために生まれてきたような根っからの戦士を止める術を、若き提督は持っていなかった。 しかし、とソープはプライスに問題を提起する。シェパードを倒すとしても、彼らは二人だけだ。ニコライはバックアップに徹してもらうつもりだった。 「こっちには機関銃が一丁、あっちには一〇〇〇丁ある。マカロフが渡した情報が正しいかどうかも分からない――どうするつもりだ」 「案ずるな、やり方はある。若干古いがな」 プライスはその"古いやり方"で戦うようだが、付き合う身としては戦力は多いに越したことは無い。老練の上官からマイクを少し強引に奪い取り、クロノとの通信を代わった。プライスは不機嫌そうに髭で覆われた口元を曲げたが、長い付き合いゆえかマイク自体は素直に譲った。 「クロノ、ソープだ。このじいさんにはじいさんなりのやり方があるらしいが、それだけで勝てるとも思えん。戦力が必要だ。ジャクソンはいるか」 ≪待ってくれ、今代わる。ジャクソン、君を呼んでる≫ わずかな間を置き、通信機から響く声が、若い青年のものから鍛え抜かれた軍人のものに変わる。かつて彼らと共に戦った戦友、ジャクソンだった。 ≪ソープ、俺だ。プライスはシェパード将軍を今から倒しに行くつもりなのか≫ 「そのようだ。ここまで来たら俺も付き合うが、戦力は多い方がいい。お前だけでも来てくれれば――なんだ、この音は。回線に割り込みか?」 カチ、カチとこれまで雑音もなく通じていた通信に、妙な音が割り込んできた。ソープは眉をひそめたが、その後も妙な音は定期的に響いてくる。 「ジャクソン、そっちの方で何か弄ってないか。さっきから妙な音がするんだが」 ≪何だ、そっちじゃないのか。いや、こっちは何もしてない。今、エイミィが来た。音源を解析してくれるはずだ≫ エイミィ、なる人物が何者かは分からなかったが、音源を解析というくらいだからおそらくは通信に関しての『アースラ』のエキスパートなのだろう。 しばらく待っていると、通信機に『アースラ』の方から電波が入った。しかし、解析結果を聞かされてソープはプライスと顔を見合わせる。 ≪音源が分かったぞ。どうやら通信用周波数に片っ端から断続的に電波を飛ばしているようだ。発信源は、グルジアとロシアの国境付近だ≫ グルジアとロシアの国境付近。マカロフを追って二手に分かれたTask Force141のうち片方、ゴーストを指揮官にしてティーダ、ローチたちの部隊が向かった先だ。こちらからいくら通信で呼びかけても返事が来なかったことから、全員死んだと思われていたのだが。 電波に乗って届けられるジャクソンの声は、続いて驚くべき事実を伝えた。 ≪これは……モールス信号のようだな。内容は、"SOS R"だ。これを三回繰り返した後、別の周波数にも同じものを送っている≫ SOSの意味は、言うまでもない。Rが何を意味するかは分からないが――ソープだけは直感的に、通信を送ってきたものが誰なのかを見抜いた。 「ローチだ、プライス。奴はまだ生きてるんだ、助けを求めてる」 「あの状況で生き延びているとは思えんが……」 「奴は俺の部下だ、間違いない。ジャクソン、クロノ、こっちには来なくていい。俺の部下にローチという奴がいる、通信はそいつからだ。助けに行ってくれ」 ソープにとってそれは、半ば願望にも近いものがあった。指揮官であるゴーストや、隊で唯一の管理局の魔導師だったティーダならまだ理解は出来る。しかし通信を送ってきたのは新入りの部類に入るゲイリー・ "ローチ"・ サンダーソン軍曹だ。味方であったはずのシェパードに裏切られ、その後も奴の私兵が残って律儀に死体の数を数えているであろうにも関わらず。 それでもジャクソンやクロノに救援を頼むのは、ローチは彼にとっての部下だからだ。大尉という階級にまで昇り、かつてのプライスと同じ立場に立ったソープにとっての部下は、単なる部下では無かった。出来ることなら一人でも多く助けたい戦友だった。 「ソープ」 「このくらいは好きにさせろ、プライス。あんたも俺を見捨てなかったろ」 「……好きにしろ」 プライスが一瞬浮かべた苦笑いは、部下の成長を喜ぶものだったのか、それとも強引なソープのやり方に呆れたものだったのか。答えは彼のみが知っている。 SIDE 時空管理局 機動六課準備室 六日目 時刻 1901 地球 アフガニスタン上空高度一〇万メートル 次元航行艦『アースラ』 ポール・ジャクソン 元米海兵隊曹長 「それで、そっちはどうするんだ」 ソープからのローチ救出を承ったジャクソンは、マイクに向かって言った。プライスには何か方法があるらしいが、いかに地上でもっとも精鋭の特殊部隊に属する二人でも、二人は二人に過ぎない。 「やっぱりローチを救出して、それから俺たちがシェパードを倒すのに加わった方がいいんじゃないか。こっちは戦力的には申し分無しだ、なんたって美人で強い魔導師が何人もいるからな」 後ろで事の成り行きを見守る機動六課準備室の面子にちらっと眼をやる。特に誰に視線を向けたという訳ではなく、強いて言えば全体に向けたものだったが、偶然にも六課準備室室長こと、八神はやてと眼が合った。任せといてや、と微笑を浮かべるはるかに年下の少女が、とても頼もしい。 ≪いや、俺たちだけでやる≫ 通信機の発する音声が、ソープのものからプライスのものに切り替わった。あくまでもこの老兵は二人でシェパードに挑むつもりらしい。地球最強の軍隊、アメリカ合衆国軍全軍の指揮権を得た男に向かって。 ≪むしろお前たちはローチを救出するのに専念してくれ。派手に暴れてもらえばシェパードの眼はそっちに行くだろう――奴に目玉が三つあれば、話は別だが≫ 「目玉が飛び出るほど驚かせればいいんだろ。しかし、本当に大丈夫なのか」 ≪やるかやらないか、の問題だ。それに、そちらと合流する時間はもう無さそうだしな≫ どういうことだ、とジャクソンが口にしようとした瞬間、通信機のスピーカーがソープ、プライスの二人とは違う第三者の声を拾った。ロシア訛りの英語だった。聞き覚えはあまり無いが、どうもプライスたちに何かを伝えたらしい。 スピーカーはその後ロシア訛りの英語の主とプライスの会話を出力していたが、距離が遠いのか会話の内容までは聞き取れなかった。もっともあまり芳しいものではなかったのは次に入ってきたプライスの声でおおむねの予測は出来た。 ≪シェパードの追っ手がこっちの位置を嗅ぎつけたらしい。もう撤収が始まる、この通信所も爆破して隠滅するそうだ≫ 「何? プライス、場所はどこだ。おいクロノ、早いとこ『アースラ』をプライスたちのところに――」 ≪無駄だ、間に合わん。今爆薬をセットした。ソープ、スイッチを入れろ。これから俺たちはシェパードを倒しに行く。生きていたら連絡する≫ 「プライス、おい!」 返答は無かった。代わってスピーカーに一瞬の炸裂音が響き、それっきり通信電波は途絶えた。本当に爆破したらしく、何度か呼びかけてみたが応答は無かった。 マイクを置いて、ジャクソンはため息を吐きながら傍にいたクロノに向き直った。彼らはすでに発ったのだ。ならば、こちらも託されたことを成すしかない。 「クロノ、準備するぞ。艦を例のモールス信号があった地点に向けてくれ」 「了解だ。皆、聞いての通りだ。ローチを救出する」 『アースラ』は一路、グルジアとロシアの国境付近上空を目指す。プライスたちもシェパードの元へ向かった。 このままでは消されてしまうだけの、この戦争の真実を取り戻すために。今、一つの局面が終わりを迎えようとしていた。 戻る 次へ