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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第23話 無限と光の旅立ち!! ウルトラの父 ゾフィー ウルトラマンタロウ ウルトラマンメビウス ウルトラマンヒカリ 登場! 双月も山影に沈み、しんしんと、優しい闇が学院を包んでいた。 フリッグの舞踏会は、魔法学院始まって以来例を見ない盛り上がりのうちに幕を下ろした。 踊り疲れて、草原に人々が倒れ伏したとき、オルフィの歌も終わり、チンペもパンドラに迎えられて母親も元へと 戻っていった。 そのとき、あのベアトリスがパンドラに向かって深く頭を下げていたのは、彼女を見る大勢の人の目を別のもの に変えていた。 そうして、パンドラとオルフィは、再び草原の土を掘り返すと、地底の怪獣の世界へと帰っていき、大勢の人々が 「またこいよー」と手を振って見送った。 ガラキングとバンゴは、こっそり隠れて変身したエースによって、バンゴの体に大量の特殊ガスが吹き込まれて、 まるで本物の風船のようにまあるくなると、ガラキングは長年追い求めた恋人を見つけたかのように、大喜びで 飛びつこうとしたが、エースはバンゴのボールを、サッカー選手のようにタンタンとリフティングしてかわし、 そして大空のかなたへ向かって思いっきりシュート!! お星様になっていくバンゴを追って球形に変形したガラキングも また、エースに蹴り飛ばされて、お騒がせな二大怪獣は宇宙のかなたへ飛んでいった。 「またこいよー」 「こいつらは来なくていい!!」 散々追い回されて、疲労の極致に追い込まれたマリコルヌが怒鳴っていた。 そして、すべてが収まり、草原に静けさが戻ると、エースも夜空を見上げ、満天の星空へと飛び立っていった。 「ショワッチ!!」 エースも夜空に消えてゆくと、皆はそれぞれのいる場所へと帰っていった。 多分、また明日からは貴族と平民、従える者と従えられる者の関係が始まるのだろう。 しかし、この日この時、身分も人種も性別も、国籍も、人間と怪獣でさえ共に過ごした時間があったことは、 確かに彼らの胸に刻まれたに違いない。 才人とルイズは、床に入る前に、星明りだけが部屋を照らすなか、互いにシルエットのみしか見えない 相手を見ながら語り合っていた。 「楽しかったな」 「まあね、国のお父様やお母様が聞いたら怒るだろうけど、こんなに踊ったのは生まれてはじめてよ」 社交のためのダンスではなく、相手と楽しむための踊りなど、子供のころ以来だったと、ルイズの声にも 自然と懐かしさがにじみ出ていた。 まあ、口に出せば、どこが子供のころと成長したんだと言われそうだから、そこのところは言わなかったが、 同時に、またいっしょに踊りたいとも言い出せなかった。 「それに、今回は一匹も倒さないですんで良かった。あいつらも、無事に帰れてればいいな」 才人は、パンドラとオルフィが、今度は誰にも邪魔されずに平和に過ごせることを祈った。 「あんたは、帰りたくないの?」 「え?」 ルイズがぽつりと言った言葉を、才人はうまく聞き取れなかった。 「あんたは、元の世界に帰りたくないの? ここに来て、もうすぐ2ヶ月になるわ、元の世界に帰る方法を探そうとは 思ってないの」 それはまったく、唐突で衝撃的な質問だった。 そうか、ここに来てもう2ヶ月か……望郷の思いが才人の胸をよぎり、思わず部屋の隅に大切に保管してある、 この世界に召喚されたときにいっしょに持ってきたノートパソコンを取り出した。 「そりゃ、日本には母さんも父さんもいるし、学校もある。こいつでネットもしたかったし、照り焼きバーガーも ずいぶん食ってない」 ほこりを払って、黒々としたノートパソコンの画面を見ながら才人は言った。まだ使えるだろうが、バッテリーの 量がギリギリなので電源を落としたまま、長いこと起動させていない。 「じゃあ、やっぱり帰りたいんだ」 「ああ、帰りたい。ろくなもんじゃなかったかもしれないが、大事な俺の居場所だったからな」 暗がりで、お互い表情のわからないままふたりの会話は続いた。 「じゃあ、なんで帰る方法を探そうとしないの?」 ルイズは、思い切って才人にそう尋ねた。それほど故郷を思いながらも、帰る努力をまったくしていない ことが、彼女には理解できなかったからだが、才人の答えはルイズの予想を超えていた。 「実は、あてがひとつあるんだ」 「えっ!?」 思わず驚きの声がルイズからもれた。 実は、才人には内緒にしていたが、ルイズは暇を見て学院の図書室にこもり、サモン・サーヴァントで 呼ばれた使い魔を帰還させる方法がないか、調べていたのだが、そうした手立ては何一つなかったのに、 いったいどうした手があるというのか。 「ウルトラマンダイナの話を聞いた後に思いついたんだが、この世界と違う世界が無数にあるなら、 この世界から直接地球に帰れなくても、地球につながっている世界に入れれば、そこから地球に 帰れるかもしれない」 「あなたの世界とつながっている世界って、まさか」 「そう、ヤプールの異次元世界さ。あいつは、ハルケギニアを征服した後、地球も攻めると言っていた。 だったら、あの異次元世界は地球とハルケギニアを結ぶことができるってことだ。これから、どうなるかは わからないけど、ヤプールとの決戦は異次元空間に乗り込んでやることになるだろう。俺が帰るチャンスが あるとしたら、そのときだ」 それは、ルイズには想像もつかなかった方法であった。皮肉なことだが、今この世界を侵略しようとしている 敵の存在が、才人を元の世界に戻す唯一の希望となっているとは。 「だから、当分はお前の使い魔をやりながら、ヤプールと戦っていくつもりさ。もうしばらくよろしく頼むぜ」 「……」 ルイズは答えることができなかった。 才人が元の世界に帰る方法が見つかったのはいい。そのために、ヤプールと戦ってくれるのもいいだろう。 しかし、いつの日か、ヤプールを倒すことができた日には、それが才人との別れということになる。 当然才人もそれはわかっているだろう。しかし、そのとき才人は自分を捨てて、さっさと元の世界に帰って いってしまうのだろうか。 使い魔だからと引き止めることはできる。しかし、才人にも自分と同じように家族もいれば帰る家もある。 それから無理に引き離す権利が自分にあるのか、ルイズの心は散々に乱れた。 しかし、才人の元いた世界では、ふたりの思いをも超えて、事態は大きく動き出そうとしていた。 青く輝く美しい星、地球。 そこからはるか300万光年離れた宇宙にウルトラ戦士達の故郷、M78星雲、ウルトラの星はある。 ここは、通称光の国と呼ばれ、全宇宙の平和をつかさどる宇宙警備隊が、日夜星々の平和を守るために働いているのだ。 美しく整えられた超近代都市には、人工太陽プラズマスパークから常に光が送られ、夜がやってくることはない。 その中央、ウルトラタワーで、今宇宙警備隊大隊長ウルトラの父が、宇宙警備隊隊長ゾフィーからの報告を受けていた。 「それでは、エースの行方はまだわからんというのか」 「はい、四方手を尽くしているのですが、いまだ手がかりらしきものはなにも……」 「そうか、エースのことだ、無事でいるとは思うが」 ウルトラの父は心配そうな声でそう言った。 今から1ヶ月半ほど前に、地球近辺のパトロールについていたエースが突然消息を絶ち、ゾフィーは宇宙に 散っているウルトラ兄弟達の力も借りて、あちこちの星々を捜索していたが、エースの行方はいっこうに 掴めていなかった。 また、ゾフィーにはもうひとつ気がかりなことがあった。 「それに、エースが消息を絶つ寸前に送ってきたウルトラサインも気になります。『ヤプールの復活のきざしを 見つけた』と、それが確かだとすれば、由々しき事態です」 「うむ、ヤプールの復活は全宇宙にとって極めて危険だ。しかし、それらしい兆候は発見できていない」 「ヤプールのことを一番知っているのはエースです。間違うとは思えません」 ゾフィーはエースへの信頼を込めて、父にそう言った。 「そうだな。ヤプールのことだ、またどんな恐ろしい方法で襲ってくるかわからん、エースはその一端を 掴んだのだろう。ゾフィーよ、こうなってはもう猶予はない。一刻も早くエースを探し出し、ヤプールの 復活を阻止せねば、ようやくエンペラ星人の脅威から解放された宇宙がまた闇に閉ざされることになりかねんぞ」 「はい、ですが現状、我々に打つ手は……」 苦しげに言うゾフィーに、しかしウルトラの父は力強く道を示した。 「ゾフィーよ、希望は地球にある」 「地球に!?」 「そうだ、エースが消息を絶ったのは太陽系の近辺だ。ならば地球人達は何か掴んでいるかもしれん。 それに、異次元研究に関しては、彼らは我等の一歩先をいっている。地球人達の力を借りて、必ず この事態を解決するのだ」 「はい、ウルトラの父!」 胸を張って答えたゾフィーに、ウルトラの父は大きくうなづいた。 そして、ゾフィーの召集指令を受けて、ウルトラタワーに若き戦士が呼び寄せられた。 「お呼びですか、ゾフィー兄さん」 「メビウス、よく来たな」 彼こそは、若い身体に純粋な心と正義の意思を秘めたウルトラ兄弟10番目の戦士、ウルトラマンメビウスである。 「さっそくだが、エースのことはお前も承知しているな。地球近海で消息を絶ってから、もうすぐ2ヶ月になる。 しかも、その寸前にエースはヤプールの復活を知らせてきている」 「はい、ヤプールとは僕も戦いましたが、奴は本当に恐ろしい相手でした」 メビウスの胸に、地球でヤプールと戦ったときの思い出が蘇ってきた。 4人の宇宙人を操り、究極超獣Uキラーザウルス・ネオとなって兄弟達とともに神戸で戦ったときは、ゾフィー兄さんと タロウ兄さんが駆けつけなくては4兄弟ごと全滅していたかもしれない。 さらにその後も、赤い雨とともに復活し、バキシムを操ってGUYSの全滅を計ったり、ドラゴリー、ベロクロンと 次々に強力な超獣を送り込んできた。 ようやくGUYSの新兵器、ディメンショナル・ディゾルバーで異次元ごと封印することに成功したのもつかの間、 エンペラ星人の率いる四天王の一人となって三度復活、卑劣な戦いを挑んできたが、仲間達との思いを 受けて立ち上がり、メビュームバーストで今度こそ葬ったはずなのだが。 「奴はマイナスエネルギーの集合体、完全に抹消することはできない。恐らくはまた力を蓄えて我らウルトラ兄弟、 そして地球への復讐を狙っているに違いない。メビウス、地球へゆけ、そして地球人達と力をあわせ、ヤプールの 復活を阻止するのだ」 「地球へ!? わかりました、必ずヤプールの企みを食い止めてみせます。そして、必ずエース兄さんを探し出してきます」 「うむ、頼むぞ」 元気よく答えたメビウスを、ゾフィーは頼もしそうに見つめた。 だがそのとき、旅立とうとしたメビウスをひとつの声が押しとどめた。 「待て、メビウス」 「! ウルトラマンヒカリ」 そこに現れたのは、青き体を持つウルトラの若き勇者、ウルトラマンヒカリであった。 「ゾフィー、地球へは私も共に行こう」 「ヒカリ」 「あのエースまでが消息を絶つ事態だ。しかも相手はあのヤプールという、一人では危険だ、用心はしすぎることはない。 それに、調査であれば私の科学者としての知識が役に立てるかもしれん」 ウルトラマンヒカリは、今は宇宙警備隊員であるが、元は高名な科学者としてウルトラの星でも知られた人物だった。 ゾフィーのものと同じく、大きな功績を残した者にのみ与えられる勲章、胸のスターマークがその証拠だ。 ゾフィーは一度に二人もウルトラの星を離れることを危惧したが、ヒカリの言うとおり、一人で動いてはエースの 二の舞になる可能性がある。それに、ヒカリの能力も確かにこの任務にはうってつけだ。 「わかった、ヒカリ、君にも頼もう。しかし、充分用心するのだ、何かあったらすぐにウルトラサインで知らせろ。 この任務は、正直何が起こるかはわからん」 「了解した。では、よろしく頼むぞメビウス」 「こちらこそ、お願いします。ウルトラマンヒカリ!」 メビウスとヒカリは、固く握手をかわした。 「よし、それでは行くのだ!!」 「はいっ!!」 二人の若き勇者は、M78星雲の空へと飛び立った。 目指すは、かけがえのない星、地球。 (頼むぞ、ふたりとも) ゾフィーは二人を見えなくなるまで見送った。 そして、二人が空のかなたに消えたとき、ゾフィーの背後から、聞きなれた声が聞こえた。 「行きましたね。弟達が」 そこには、今ウルトラの国にいるひとりのウルトラ兄弟、今は宇宙警備隊の筆頭教官として働いている、 ウルトラ兄弟6番目の戦士、ウルトラマンタロウの姿があった。 「うむ、あの二人なら、きっと使命を果たしてくれるだろう」 「そうですね。彼らはもう立派なウルトラの戦士ですから」 タロウは、いまやはるかな空にいるであろう、かつての教え子、メビウスに心の中でエールを送った。 宇宙警備隊のルーキーであったメビウスが、地球に派遣されていったときのことは、まだ昨日のことのように 思い出せる。最初のころはウルトラの星から冷や冷やしながら見ていたものだが、戦う度に強くなる彼の成長の 速さには驚いたものだ。 特に、エンペラ星人の尖兵、インペライザーが来襲したときには、命令に背いてまで地球に残り、遂には 自分のウルトラダイナマイトでさえ倒せなかったインペライザーを倒してしまった。しかも、その後はウルトラマンで あることを知られながら、なおも仲間として地球人とともに戦い続けるという、兄弟達の誰一人としてできなかった ことをやりとげてしまった。 「しかしタロウ、これは嵐の前の静けさかもしれん。お前も心しておけ、もしかしたら、エンペラ星人にも匹敵するかも しれない脅威の前触れかもしれん」 「はい」 タロウは、ゾフィーの言葉に黙ってうなづいた。 ヤプールの恐ろしさは、タロウも身をもって知っている。かつてタロウが地球の守りについていた時代、エースに 倒されてわずか1年も経たないというのにヤプールは復活をとげ、改造ベムスターを始めとする怪獣軍団でタロウに 戦いを挑んできた。その威力はものすごく、タロウも一度は手も足も出ずに撤退を余儀なくされたが、勇敢な 地球の青年やZATの助けもあって、2度目は怪獣軍団ごとヤプールを再び撃破している。 ゾフィーは、確信にも似た予感を感じていた。ヤプールは、復活の度に怨念を蓄えて強力になっていく、一度は エンペラ星人配下の邪将に成り下がったが、エンペラ星人亡き今、独自に動き出すことは間違いない。 「宇宙に散ったウルトラの戦士達よ。新たなる戦いの日は近い、心せよ!」 ゾフィーは全宇宙に散らばったウルトラの兄弟をはじめとする戦士達にウルトラサインを送った。 それは宇宙の闇を裂き、ウルトラマン、セブン、ジャック、レオ、アストラ、80、さらなる戦士達の元へと飛んでいく。 「タロウ、我々もこうしてはおれんぞ」 「はい、ゾフィー兄さん」 ゾフィーには宇宙警備隊隊長として、タロウにも次の世代を担う戦士達を育てる教官としての任務が残っている。 旅立った弟達に未来を任せ、二人はそれぞれの戦いの場へと戻っていった。 だが、ウルトラの父、そしてゾフィーの予感は、不幸にも的中していた。 地球を目指すメビウスとヒカリの姿は、ヤプールの監視の目に掛かっていたのだ。 「動き出したかウルトラ兄弟、だが邪魔はさせぬぞ。今度こそ、貴様らと地球人どもに復讐を果たしてくれる」 ようやく平穏を取り戻した地球にも、再び嵐が訪れようとしていた。 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第五話 大ピンチ!! ルイズを救え 大蛍超獣ホタルンガ 登場! 「ルイズ!! くっそぉ!!」 超獣ホタルンガの発光体の中に取り込まれてしまったルイズを見て、才人は背中のデルフリンガーを抜くと走り出した。 剣を抜いたとたん、彼の左手のルーンが輝きだし体が信じられないほど軽くなっていく。 「ダーリン!? 無茶よ!!」 「……もう止められない、飛んで」 シルフィードがキュルケとタバサを乗せて飛び立った。 フーケのゴーレムに翼に傷を負わされているはずだが、それでもさすがに風竜の飛翔能力は高かった。 ホタルンガの正面では、オスマンとコルベールが幾つかの詠唱時間の短い呪文でうまいぐあいに右に左にと注意を引いている。 もしどちらか一人に注意が集中したら、あっというまにあの溶解霧で溶かされてしまうだろう。キュルケとタバサは普段頼りなく見える二人の教師の巧みな戦い方に、その評価を改めていた。 しかし、一歩一歩と歩み寄ってくるホタルンガに、その戦い方も限界に来ようとしていた。 「やはり、通常魔法程度では何発当たっても効き目がないですか。このままでは」 「仕方あるまい、お互い本気を出さねばならぬ様だな。幸い相手は超獣じゃ、遠慮する必要もないじゃろ」 ふたりは決意を確かめるように顔を見合わせると、呪文の詠唱に入った。だが、これまでのものと違って詠唱時間が長く、一見して上級スペルだと分かる。 ホタルンガは至近まで近づいたためか、溶解霧を使わずに二人を踏み潰そうと迫ってくる。だが。 「待ってください!! あの超獣の中にミス・ヴァリエールが閉じ込められていますの!!」 ふたりの教師が何かとんでもない魔法を使おうとしていることを悟ったキュルケが大声で叫んだ。 「何ですと!?」 とっさに攻撃を解除したオスマンとコルベールは詠唱をフライに変えて飛びのいた。今いた場所が巨大な足で踏み潰されて大きくへこむ。 ふたりはホタルンガの反対側へと跳んだが、昆虫の複眼からはそう簡単には逃れられず、ホタルンガは再び二人に襲い掛かっていった。 だが、そのときようやくホタルンガに追いついた才人は、ルイズの閉じ込められているホタルンガの発光体へと斬りかかっていた。 「でやぁぁっ!!」 渾身の力を込めて、斬る、斬る。 しかし、かつて青銅のゴーレムを切り裂いたことのある才人の剣を持ってしても、半透明のプラスチックのような発光体は、わずかな切り傷がつくだけでまったく刃が通らない。 それでもあきらめずに斬りつけるが、そのとき振り下ろされてきた尻尾によって才人は10メートルは吹き飛ばされてしまった。 「うわぁっ!!」 体が落下の瞬間受身をとって衝撃を最小限にしたが、緩和しきれなかった分の衝撃が彼の体を貫いた。 「いててて……」 叩きつけられた背中がひどく痛む、とっさにデルフリンガーで受け止めたのと、下が草地でなかったら立ち上がることさえできなかっただろう。 だが、ホタルンガはまだオスマンとコルベールに向かっていて、彼に背中を見せている。 「ちっ、奴にとっては俺の斬撃なんか蚊が刺したほどにも感じねえってのか」 才人は毒づいたが、剣なんかで斬れる相手ならそもそも苦労なんかしないことは分かっている。ただし、それはあきらめる理由にはならない。 「今度こそぉ!!」 立ち上がった才人は再びホタルンガへと斬りかかっていった。 両手に構えて全力で発光体へと振り下ろす。しかし、発光体はゼリーのように柔らかそうな外見とは裏腹に、前よりわずか1センチ程深くしか刃をめり込ませてはくれなかった。 「うわあっ!!」 再び才人は尻尾を横から受けて吹き飛ばされた。 「大丈夫か!? 相棒」 「な、なんのそのこれしき」 デルフには強がって見せたものの、あちこちすりむいて血がにじんでいるだろう。 まだ骨には来ていないが、打撲で体の節々が痛い。 「まだやるのか?」 「ご主人様のピンチに助けるのが使い魔の仕事だろ。それに、ルイズには後で言ってやりたいことが山ほどある。蹴られようと鞭で打たれようと、どうしてもこれだけは言ってやりたい言葉がね」 「真面目だね」 「冗談、俺はその言葉とは対極の人間だよ。まあ、強いて言うとすれば……」 「なんだ、興味あるね。言ってみな」 からかうようなデルフの言葉に、才人はやや自嘲的に答えた。 「小さいころから憧れてきたヒーローたちを裏切るようなことだけはしたくねえ!! 俺だって、ウルトラマンだ!!」 そのころ、ホタルンガに取り込まれたルイズはようやく意識を取り戻していた。 「う、ううん。こ、ここは? ……はっ、そうだ、わたしは超獣に」 何があったかを思い出したルイズはあたりを見渡した。 真夜中だったというのに周りはやたら明るい、どうやら小部屋のようなところに閉じ込められているようだ、そして地震の最中であるかのように激しく揺れる。 だが、窓のように外が見える先に、見覚えがある尻尾が揺れ動いているのを見て、彼女は自分が最悪の状況に置かれていることを悟った。 とっさに脱出の方法を考える。だが自分は武器になるようなものは持っていないし道具の持ち合わせも無い。 ある物といえば杖だけだが、自分にできるのは爆発を起こすだけ、しかもこの狭さでは巻き添えを喰ってしまう。 「……っ、くっ……」 冷静に考えれば考えるほど、自分のふがいなさばかりが思い出されて、悔しくてたまらなくなってくる。 サイトは自分を散々止めたのに、自分はといえば大きなことを言って飛び出してきたというのにあえなく捕らえられてしまった。 生意気な使い魔の言ったとおり、自分の行為は蛮勇でしか無かったのか? それを認めたくなくて自然に涙があふれてきた。 だが、ルイズの口から嗚咽が漏れる前に、すぐそばから小さくうめくような声が聞こえてきた。 「うっ……くっ、こ、ここは」 「!? あなたは、ミス・ロングビル……いえ、フーケ!!」 なんとすぐ足元に、あの土くれのフーケが倒れていた。 ルイズは気づいていなかったが、彼女が吸い込まれた際に、偶然近くに倒れていたフーケもまたホタルンガに飲まれていたのだ。 意識を取り戻したロングビル、フーケにルイズは必死で恐怖を押し殺しながら杖をかまえた。 「あなたは、ミス・ヴァリエール?」 「ち、近寄らないで!! このヤプールの手先め!!」 「……!? ヤプールの、手先!?」 ルイズの言葉を聞いて、フーケは愕然とした。 そして同時に、ぼやけていた記憶が蘇ってくる。あの夜、私はヤプールと名乗る黒衣の男に捕まった。それからいったい私はどうしていたのだ? 「あんた、まさか何も覚えていないの?」 フーケは黙ってうなづいた。そしてルイズの口から、あの夜から今まで自分が何をしてきたのかを聞かされて慄然となった。 「大量、殺人鬼……?」 「そうよ、貴族も平民もお構いなしに、女子供、それこそ赤ん坊にいたるまでね!!」 「……そんな……っ」 あの夜、ヤプールはフーケに言った。「復讐したいか」と。 答えはイエスだ、貴族など、存在を見るだけで吐き気がする。苦しみ、悔しがる姿を見て大いに愉快になったこともある。 だが、その怨念と執念をヤプールに利用されて、いいように操られてしまった。 確かに復讐は望んでいた、だがこんな血塗られた方法を望みはしなかったはずだ。獣のようにむさぼり歩く道など望みはしなかったはずだ。 「く、ああぁぁっ!! ヤプールぅぅっ!!」 ぶつけようのない、怒りと屈辱、決してここまでは踏み越えないと決めていた一線を破らされた罪悪感が彼女のなかをかけめぐった。 「……」 ルイズも言葉を失った。 フーケの事情は分からない。しかし、どのみちここにいれば遅かれ早かれ生きてはいられないだろう。 結局何の名誉も誇りも得ることも守ることもできなかった。 あの使い魔は、自分が死んだら自由になってどこかにいくのだろうか、そう考えると、なぜか不思議とまた涙があふれてきた。 だが、かすんでいく視界のなかに、その使い魔が自分の捕らえられている場所を目掛けて、剣を振りかざして突っ込んでくるのが映ると、ルイズは涙を振り払って立ち上がった。 「サイト!? 来ちゃだめぇ!!」 声など届くわけがない。しかし彼女は叫ばずにはいられなかった。なぜなら彼はたった剣一本で超獣に挑みかかろうとしているのだ。 不規則に振り下ろされる尻尾と踏み鳴らされる足、どちらも直撃したら人間などひとたまりも無い。 けれども、彼は超人的な身のこなしでそれを回避すると、ルイズの閉じ込められている発光体へと剣を振り下ろした。 「あんた、わたしを助けるために……? あっ、危ない!!」 振り下ろした剣ごと押し返されて才人は再び飛ばされた。だが、それでも彼は立ち上がって向かってくる。 しかし、疲労とダメージは蓄積していっているのは確実で、今度は近寄る前に尻尾で跳ね飛ばされてしまった。 「も、もういいわよ!! これはわたしの責任だからもうやめなさい!! あんたもうボロボロじゃない!!」 叫べど届かないのは分かっている。しかし、泥と血にまみれてなお立ち上がってくる姿を見たら叫ばずにはいられなかった。 またサイトが跳ね飛ばされる。そして起き上がって向かってくる。 「もういい……もういいから……」 いつの間にか、ルイズの両目からは大粒の涙があふれていた。 「く、くそぉ、なんて頑丈さだ」 もう何度目かの突撃と撃退の後、才人はデルフリンガーを杖に、肩で息をしながらつぶやいた。 「ガンダールヴの力を持ってしても斬れないとは、ありゃほんと化け物だねえ」 「ん、ガンダールヴ? なんだそりゃ。いや、それよりも、もう一回いくぞ」 「待て、今度しくじったら本当に死ぬぞ、あいつを切り裂くのは俺でも無理だ」 「だったら、どうしろって言うんだよ!?」 「ちったあ考えろ、押してもだめなら引いてみろってね。剣は斬るためだけにあるわけじゃねえだろ」 デルフの言葉に、才人は考え込むと、はっとして柄を握りなおした。 たったひとつ、方法がある。しかししくじればルイズも巻き込んでしまう危険性もある。 「自分の力を信じろ。そうすりゃ、不可能と思うことも可能になることもある」 「この無責任野郎、万一ルイズに傷でもつけたらへし折ってやるからな。覚悟しろ、行くぞ!!」 デルフリンガーを水平にかざし、才人は最後の突撃に打って出た。 ホタルンガはまだオスマンとコルベールに気が向いている。しかし暴れまわるホタルンガの尻尾の動きはさらに激しくなっている。 「うぉぉっ!!」 だが、彼はそれを自分でも信じられない動きで回避すると、発光体に全力を込めてデルフリンガーを突き立てた。 「刺さった!!」 才人渾身の刺突は、見事発光体を打ち抜き、内部に5センチほど切っ先を覗かせていた。 しかし、彼のふんばりもそこまでで、体を大きく振ったホタルンガの遠心力には耐えられず、才人はデルフごと再び振り飛ばされてしまった。 「サイト!! バカバカ、あんた本当に死んじゃうじゃない。やめなさいって言うのに」 ルイズの叫びも届かず、サイトはギーシュとの決闘のときより無残な顔になりながら立ち上がってくる。 「やめろって……いうのに……くっ」 ルイズはとっさに杖を壁に突き当てた。 ここで自分がなにを唱えても、結果は爆発しか起こらないことは分かりきっている。しかしそれでもじっとしていることだけはできなかった。 「ファイヤー……」 「待ちなさい」 呪文を唱えようとしたルイズの肩をフーケがつかんで止めていた。 「無駄よ、この壁には通用しないわ」 「だから何よ!! わたしの使い魔が死にそうになってまで戦ってるのよ!! 主人のわたしが、わたしが黙っているわけにはいかないじゃない!!」 精一杯虚勢を張っているが、ルイズの顔は涙で崩れて言葉とは釣り合わない。 「あの使い魔は、あなたにとってなんなの?」 「えっ……な、なんでもないわよ!! つ、使い魔は使い魔じゃない!!」 突然のフーケの言葉に、ルイズは今度は顔を真っ赤にして目を白黒させる。 「そう、そういうこと……」 「って、あんたはどうなのよ!! あんたみたいな盗賊には、どうせ守りたいものなんか何も無いんでしょう!! 誇りも、人も」 「……誇りはすでに捨てたけど、人はまだあるわよ」 「えっ」 ルイズの答えを待たずに、フーケはルイズの杖に自分の手をそろえた。 「な、なによ?」 「頑強な壁も、わずかなほころびから崩れるものよ」 フーケはルイズの手をとって、さっき才人がつけた壁面の傷を杖で指した。 「その傷に私が錬金をかけて土にするわ、おそらく一瞬しか効かないだろうから、その瞬間にあなたの錬金を打ち込みなさい」 「……なぜわたしを手助けするの?」 「さあ、なんででしょうね。それより、早くしないとあなたの使い魔君死んじゃうわよ」 「!?」 才人は足を引きずるようにして向かってくる。このままでは確実につぶされてしまうだろう。 「いくわよ。3、2、1、『錬金!!』」 「『錬金!!』」 物質変換と破壊の魔力が相乗し、分子と原子を揺り動かして、その結合を引き裂く。 その瞬間、ホタルンガの尾部から巨大な爆煙が吹き上げた。 (私としたことが、貴族に手を貸すなんて、所詮盗人にはこんな最後がお似合いなのかもね……ごめん、もう帰れないけど、許してくれるよね……) 爆発の逆流に飲み込まれ、フーケは自分を笑いながら意識を失った。 だが、才人、ルイズ、フーケの決死の攻撃は、ついにホタルンガの発光体を貫いて風穴を開けさせることに成功した。 「ルイズー!!」 「サイトー!!」 開いた穴は直径20サントにも満たない小さなもので、小柄なルイズでさえ通り抜けられないものであったが、ふたりの心をつなげるには充分だった。 伸ばした手と手が結ばれて、ふたりのリングが光を放つ。 合体変身!! 闇夜を切り裂く正義の光、ウルトラマンA参上!! 「テェーイ!!」 巨大化したエースが背中からホタルンガを跳ね飛ばした。 ホタルンガは頭から地面に叩きつけられて這いずりもがく。 「ウルトラマンA!!」 「やっぱり、来てくれたのか」 体力が限界にきかけていたコルベールやオスマンがエースの登場に快哉をあげた。 同時にタバサとキュルケも、再び見るエースの勇姿に喜びと期待のまなざしを向ける。 エースは離れた場所にフーケを下ろすと、ホタルンガに向かって構えをとった。 「デヤッ!!」 戦闘態勢をとるエース、対してホタルンガも怒りの咆哮をあげてエースを威嚇する。戦いのときは来た。 今、双月の夜を舞台に、ウルトラマンAとヤプールの第2ラウンドが始まろうとしている。 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第11話 危機迫る!! トリステイン王国最後の日 四次元宇宙人 バム星人 登場! ルイズと才人はウルトラマンAに、バム星人が誘導装置を使って、ロボット怪獣メカギラスを トリステイン城に呼び寄せようとしていることを教えられた。 メカギラスは、かつても地球防衛チームUGMを翻弄し、ウルトラマン80を苦戦させた強力な 怪獣だ。そんなものに襲われたらトリステイン城はひとたまりもなく破壊されてしまう。 (装置がこれ一個とは限らない。急いで探すんだ!) (わ、わかった) エースはふたりを叱咤すると、再び心の中へと戻っていった。 「ちょっと、ルイズ、ダーリン、急に黙り込んだりして、どうしたの?」 ふたりはキュルケの声を聞いてはっとした。エースとの会話はふたりの心の中のことなので、 外から見ているキュルケたちには、ふたりがただ立ち尽くしているようにしか見えないのだった。 「はっ、あ……ごめん、ちょっとこれのこと思い出してたもんで、実は……」 才人はエースに聞いたことをキュルケたちにもわかるように噛み砕いて説明した。 「それで、その妙な機械がザントリーユ城を襲ったやつを呼び寄せるためのものだっていうの?」 「ああ、だけどこれ自体はたいして強いやつじゃない。きっと他にも無数にこれが仕掛けられている 可能性がある……と思う」 才人はそこまで言うと発信機の横についているスイッチを切った。 「でもねえ、急にそう言われても、そんなもので怪獣を呼ぶなんて信じられないわよ。特に これといって魔法がかけられているわけでもないようだし。ね、タバサ?」 「……」 無理も無い、魔法が万能のこのハルケギニアでは電波の存在どころか電気のことすら 解明されていない。魔法の助けを借りない道具という概念自体がそもそも無いのだ。 逆に言えば、地球で「これは魔法の杖です」と言って信じてもらえるかということに等しい。 才人とルイズはもどかしさを感じたが、エースに聞いたということを明かすわけにもいかず、 かといってふたりを説得している時間も無かった。 「わかった。けど、この城の中に敵が入り込んでいることは確かだ。俺達はこいつが他に 仕掛けられてないか探すから、お前らはみんなや城の人に知らせてくれ」 「えっ? ってルイズ、あなたはこんな話を信じるの!?」 「信じるも何も、ヤプール相手にこれまで常識の範疇ですませられることがあった? それに、 こいつは言いつけを破ってほいほい女の子のところに行っちゃう大嘘つきだけど、少なくとも ヤプールに関することは嘘をついたことはないわ」 キュルケはルイズの態度に驚いたが、これはルイズもエースの話を聞いていたからに 他ならない。 「と、言う訳で、俺達は装置を探して根こそぎ破壊する。これが無くなれば敵も攻めて これなくなるかもしれない」 才人は、まだ困惑しているキュルケにそう言い残すと、すでに杖を取り出して待っている ルイズを振り返った。 だがそのとき。 「そうはさせぬぞ」 声がすると同時に、彼らのいる通路の両側から鎧姿の男達がぞろぞろと出てきて、4人に フリントロック式の銃を向けた。 「こいつら、わたしたちと同じく置いてけぼりを食らった傭兵部隊?」 「いや、どうせこいつらもバム星人の変身だろ。さっさと正体現せよ!」 才人が怒鳴ると、傭兵たちのリーダーと思われる男がぶるっと首を振り、黒々とした 星人の正体を現した。 「よく我らの正体に気づいたな。武器を捨てろ、この距離なら銃のほうが速いぞ。それに、 この数に狙われては逃れる術もあるまい」 「ちっ! 仕方ない……」 星人の数は片側に8人、狙っている銃口の数は2丁構えている奴も合わせて45門。 (ガッツブラスターでも、この数じゃ……) 才人はガッツブラスターを見えないように懐に忍ばせたままデルフリンガーを、 3人は杖をそれぞれ投げ捨てた。 「利口だな。人間にしては上出来だ」 「やっぱり、お前達の狙いはこの城か?」 「ふふふ、そのとおり。ヤプールはこの世界を侵略した暁には、この国を我らに割譲 してくれることを約束してくれた。こんな城、我らがスーパーロボットを持ってすれば 破壊するのはたやすいが、余計な邪魔が入ると面倒なのでな。兵士たちは はるかかなたへおびきだせてもらった。この城のあちこちに仕掛けた合計5個の 誘導装置がメカギラスをこの次元に呼び寄せ、無防備な城はあっという間に人間どもの 見ている前で灰となる。人間どもは絶望し、我らはたやすくこの星を征服できるだろう。はははは」 星人は武器を捨てさせたことで勝利を確信したのか、実に気分よさそうに聞いてもいないことまで ぺらぺらしゃべってくれた。まるで酒場の酔っ払い親父だ。 「そうか、その誘導装置を仕掛けるために、外部の人間が大勢入り込めるこの日を選んだわけか。 だが、なんでわざわざ発信機を仕掛けるような真似をした? 以前のメカギラスは 自由にどこにでも出現していたはずだろう」 「ふん、あいにく我らは人手が足りなくてな。自動コントロール装置までは手が回らなかったのだ」 星人は痛いところを突かれたのか、開き直ってふんぞり返って答えた。 実はメカギラスはバム星人の完全な自作ではなく、かつてもさらった地球人を働かせて 組み立てるという宇宙人らしからぬセコイ方法で作られていた。 矢的隊員もこの経緯で異次元に連れさらわれたわけだが、その結果星人の基地は矢的隊員に よって壊滅している。それを反省して今度は星人だけで組み立てたのだろうが、技術力はあっても、 工業力がないために、せっかくの超兵器も完全なものとはいかなかったようだ。 「だが、それでもパワーは以前の物に勝るとも劣らん出来だ。夕方には、誘導装置から発せられた 時空波が、この城へメカギラスを呼び寄せる。そうなったらこの国は終わりだ」 「夕方!? あと1時間もないじゃない!」 「ふん、心配には及ばんよ。どうして我々の計画に気づいたのか知らんが、貴様らを生かしておくわけ にはいかん、ここで死んでもらうぞ。なに、すぐに城の人間全員あとを追わせてやるさ」 星人たちは構えている銃の引き金に力を込めた。 (くそっ、変身さえできればこんな奴ら) ウルトラマンAに変身できれば、バム星人ごとき一掃できる。しかしここにはキュルケとタバサがいる。 変身するところを他人に見られるわけにはいかない。 こうなれば、一か八か彼女達をかばいながらガッツブラスターを乱射してやろうかと思った そのときだった。 「ワルキューレ!!」 なんと、突然星人と才人の間の床が盛り上がり、青銅製の人形となって銃口の前に立ちふさがった。 驚いたのは星人達である。とっさに銃を撃つものの、前込め式の旧式銃の威力では分厚い 青銅の壁を突破できず、跳ね返されて壁や天井に次々とめり込んだ。 もちろん驚いたのは才人たちも同じであるが、彼らはそれの正体を知っていたので、すぐさま 我に返ることができた。 「今だ!!」 才人が叫ぶと同時に4人はそれぞれの武器へと飛びついた。 星人達は慌てて銃を彼らに向けなおすが、当然単発銃から2発目の弾は出はしない。侵入する ときに怪しまれないために、この世界の武器しか持ってこなかったことが完全にあだとなっていた。 「おお、ようやく出番か相棒!! もう使ってくれないものかと思ってたぜ!!」 「言ってる場合か、いくぞデルフ!!」 才人はデルフリンガーを鞘から引き抜いて星人に袈裟懸けに斬りつける。 「ファイヤーボール!!」 「ウェンディ・アイシクル!!」 キュルケとタバサも杖を拾うやいなや、自身のもっとも得意な呪文を星人に叩きつける。 たちまち8人の星人が炎に焼かれ、氷弾に貫かれて消滅していく。 しかし才人は3人の星人を倒したものの、銃を捨てて剣を取り出した星人5人に囲まれて 苦戦していた。 だが、そのおかげで星人からノーマークにされていたルイズが、杖を一番後ろにいる星人に向けた。 今だに成功せずに、普段は才人を吹き飛ばすくらいしか役に立たないルイズの魔法だが、 破壊力だけは下手な攻撃魔法より強力だと自信があった。 「錬金!」 爆発が、食らった星人だけでなく周辺にいる星人まで巻き込んで吹き飛ばす。 「相棒、今だ!!」 「おおおっ!!」 才人の左手のガンダールヴのルーンが光る。一閃、二閃、三閃、瞬きするような刹那の間に、 デルフリンガーが、上、下、斜めから次々と星人を切り裂き、5人目の星人は鎧ごと胴体を真っ二つに 切り裂かれて倒された。 「ば、馬鹿な……」 断末魔を残して、バム星人達は消滅した。 「ふぅ、助かった……しかし、今の魔法は確か」 青銅の人形、才人にとって忘れようの無い魔法だった。 「やあ諸君、無事でなによりだったね!!」 「やっぱり」 通路の奥から現れたのは、想像どおりのギーシュと大柄な少年と眼鏡をかけた少年だった。 ふたりともついさっき創立されたばかりの水精霊騎士隊(WEKC)の隊員で、名前は才人の記憶では、 大柄なほうがギムリ、眼鏡をかけてるほうがレイナールだったと記憶している。 「ギーシュ、どうしてお前が?」 「君達の帰りがあんまり遅いからちょっと様子を見にね。そうしたら君達が怪しい連中に絡まれてたから 捨てておけずにね。感謝したまえよ、この距離でワルキューレを作り出すのはけっこう大変だったんだ」 「そうだったのか、ありがとよ。おかげで命拾いしたぜ」 「なんの、平民や女性を守るのが貴族の使命だ。礼には及ばないさ、はっはっはっ」 感謝してほしいのか、礼はいらないのかどっちなんだと才人やルイズは思ったが、例によって、 薔薇の花の形の杖を得意そうにかざしながら笑っているギーシュを見たら突っ込む気もうせてしまった。 するとそれまでギーシュの右と左で呆れたように見守っていたレイナールとギムリが、本当に呆れた ように彼に言った。 「なに言ってるんだ。様子を見に行こうと言い出したのは僕で、彼らを見つけたのはギムリじゃないか」 「そうだぞ。それに第一、怪人どもを見たとたんに尻込みして逃げ出しかかってたのはどこの誰だ、 ワルキューレだって、俺達が花びらをうまく見つからないように飛ばしたからできたんだろうが」 「ぐ、き、君達、こういうときはそういうことは伏せておきたまえよ」 抗議すれどもすでに遅し、さっきまで感謝の念であふれていた(ギーシュにはそう見えた)才人たちの 顔は、すっかりしらけムードに陥ってしまっていた。 「ぬぬ……い、いや諸君、今はそんなことを言っている場合ではないだろう。先程の怪人達との会話 は聞かせてもらった。今はトリステインの一大事じゃないのかね!」 「はっ! そ、そうだった。早く誘導装置を解除しないと大変だ!」 「そうだろうそうだろう、思い出してくれてよかった」 お前が余計なことを言ってたせいだろうが、全員が激しく思ったが、理性を総動員して押さえ込んだ。 「それで、どうするの?」 「手分けして探そう。そんな小さなものじゃない」 才人は窓から空を見上げた。日はだいぶん傾いてきている、もはや時間がない。 「よし、僕らも全員でその誘導装置とやらを探すぞ、WEKCの初仕事だ。この城を壊させるわけにはいかない!」 「ああ、じゃあ俺達はこっちを……ギーシュ、後ろだ!!」 「え?」 だが、ギーシュが振り向くより早く、彼とギムリとレイナールの後頭部に冷たいなにかが押し当てられた。 「動くな、こいつらの命が惜しいなら武器を捨てろ」 なんと、いつの間に現れたのか、再び別のバム星人達がギーシュ達の後ろから銃を突きつけていた。 なぜ気づかなかったのかと、その場の全員が思ったが、星人たちの服装を良く見たら合点がいった。今度は 使用人に化けたものだったために、先程までの傭兵に化けた星人たちの鎧姿で動く音に耳が慣れてしまって いたから、革靴の柔らかい足音に気づけなかったのだ。 「ギーシュ、くそっ! 人質をとるとは卑怯な」 「ふはは、あれで全員倒したと思ったのが運のつきだ。冥土の土産に覚えておくがいい。勝ったと思ったとき、 人間はもっとも隙ができるのだ」 才人たちは歯噛みをしたが、星人に卑怯は常套手段だ。過去には「卑怯もラッキョウもあるものか!」と豪語した 星人もいたくらいだ。 「ひ、ひょくん、ぼ、僕に、かかか構わずに、こいつらをやってしまえ。き、貴族たる者、人質にとられるくらいなら、 し、しし、死を選ぶ」 「ギーシュ、まったく、そういうわけにもいかねえだろう。それに、震えながら言っても説得力はねえぞ」 「サ、サイト……き、君ってやつは」 泣いて感激しているギーシュにため息をつきながら、才人はデルフリンガーを放り出した。 「ハハハ、聞き分けのいいやつよ。なら、貴様から先に死ね!」 「なに!?」 星人は、隠し持っていたもう一丁の銃を才人に向けた。 「サイト!!」 ルイズの絶叫に一瞬遅れて、乾いた音が城内に響き渡った。 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 8話 ダイナミック・ヒーロー! 宇宙有翼怪獣アリゲラ ウルトラマンダイナ 登場!! 西暦2017年代 地球最大の危機、邪神ガタノゾーアの危機を乗り越えた人類は、その夢見る心のままに大宇宙へと歩を進めるネオ・フロンティア時代を迎えていた。 だが、突如宇宙から人類を狙う謎の敵、スフィアが地球に来襲、地球平和連合TPCはチーム・スーパーGUTSでこれに対抗した。 彼らは、人類の前に姿を現したティガに続く二人目の光の巨人とともに、地球の平和を守り抜いていった。 しかし、遂に姿を現した究極の敵、暗黒惑星グランスフィアの前に冥王星をはじめとする太陽系の惑星は次々と飲み込まれていく。 これに対し、スーパーGUTSは封印された兵器、ネオマキシマ砲での最終決戦を挑む。 そして、彼らは勝利した。ただし、その代償として光の巨人はグランスフィアの生み出したブラックホールの中へと消え、消息を絶った。 だが、彼は死んではいなかったのだ!! 「光の……巨人」 誰も知らない深い森の奥で、真紅の巨大な飛竜の前に銀色の体に金色と赤と青をあしらった巨人が立ちふさがっていた。 その名はダイナ、かつて異世界の平和を守りぬいた二人目の光の巨人。 「デュワッ!!」 ダイナは森の中に立ち、甲高いうなり声を上げてくる怪獣に構えをとった。 その怪獣はゴツゴツと角ばったワイバーンのような体から生えた、まるで鉈のような翼を広げ、背中のジェット噴射口から炎を吹き出して飛び立った。 怪獣の名はアリゲラ、異世界で時空波に導かれてウルトラマンメビウスと戦った宇宙怪獣の同族。 「シャッ!!」 ダイナも跳んだ。向かってくるアリゲラに右足を向けてのジャンプキックだ。 激突! アリゲラの右肩から火花が飛び、その巨体が森の中に滑り込んでいく。 「おおっ!!」 地上からその様子を眺めていたオスマンは、アリゲラが倒れたのを見て思わず歓声を上げた。 だが、アリゲラは倒れたままその尾の先をダイナに向けると、そこから真っ赤な火炎弾を放った。 「危ない!!」 「シュワッ!!」 思わず叫んだオスマンの目の前でダイナは両手をまるで押し出すように前方にかざすと、そこに薄く輝く光の幕が現れた。 『ウルトラバリヤー!!』 火炎弾はバリヤーに当たると粉々に砕け散った。 オスマンはその光景を唖然として眺めていた。ファイヤーボールにしたら1000発分には匹敵しよう火炎弾を巨人は軽々跳ね返したのだ。 しかし、驚くのはまだ早かった。 ダイナが両手を十字に組むと、その右手からまばゆい光の束がほとばしる。 『ソルジェント光線!!』 輝く光の奔流がアリゲラを襲い、右肩から胴体までの外骨格を爆砕した。 アリゲラはガラスを引っ掻くような鳴き声をあげて苦しんだ。しかし強靭な生命力を発揮してまだ戦意を失っていない。噴煙の中から炎を吹き上げて、空へと飛び上がっていく。 「ヘヤッ!!」 ダイナは2発目のソルジェント光線を放つが、マッハで飛ぶアリゲラには当たらない。 アリゲラはそのまま急降下するとダイナに体当たりを仕掛けてきた。 「グワァッ!!」 超音速の体当たりにはさしものダイナも持ちこたえきれずに吹っ飛ばされてしまった。 アリゲラはその後Uターンして、起き上がったダイナの背中へと再び激突した。 「グワァァ!」 地響きを立てて地面に崩れ落ちるダイナ、そのときダイナの胸のカラータイマーが赤く点滅し始めた。 「頑張れ!」 オスマンは固く拳を握り締めて名も知らぬ巨人の苦境を見守っていた。 そしてダイナはその声が届いたのか、ひざを突きながらもゆっくりと立ち上がった。 アリゲラはよろめくダイナに安心したのか今度は真正面から突っ込んでくる。マッハ3、いや4、ものすごいスピードだ!! 「デヤッ!!」 だがダイナはまっすぐアリゲラに立ち向かう。 「危ない、避けるんだ!」 このまま直撃されたら今度こそ危ない。しかしダイナはまったく避けようとはしない。 正対するアリゲラとダイナ、もう両者とも避ける隙はない。 そのときだった。ダイナの額が眩く輝いたかと思うと、その身が一瞬にして燃えるような真紅に包まれた。 『ウルトラマンダイナ・ストロングタイプ!!』 赤いダイナはアリゲラの突進を正面からがっちりと受け止めた。 「ヌォォォッ!!」 突進の勢いで大地をガリガリと削りながらもダイナはアリゲラを離さない。そして100メイルほどすべったところでアリゲラの突進は完全に止まった。 さらにダイナはアリゲラの首根っこを掴んで、その巨体をハンマー投げの様に振り回した。 『バルカンスウィング!!』 回る回る、アリゲラの巨体がまるでプロペラのようだ。さらに、1万1千tの体重がもたらす遠心力によってアリゲラの体は千切れんばかりのGに襲われる。 そして思うさまにぶん回した後、ダイナはアリゲラの体を大地に思いっきり放り投げた。 「ダァァッ!!」 地響きとともに7、80本の木をへし折ってアリゲラは大地に叩きつけられる。 さらにダイナはフラフラと起き上がったアリゲラに強烈なストレートパンチをお見舞、残った左肩の砲口も叩き潰される。 「赤い巨人は、力の戦士……」 今のダイナの前には強固な外骨格も何の役にも立たず、もはやアリゲラには武器も戦意も残ってはいない。 そして、ついに敵わぬと悟ったアリゲラは、残った力を振り絞って空へと飛び上がった。 「デヤッ!!」 逃げるアリゲラを見据えながら、ダイナは胸の前で拳を突合せた。 するとダイナのカラータイマーを中心にエネルギーが集まって巨大な火球と化していく。 「ダァァァッ、シュワッ!!」 ダイナの半身を覆い尽くすほどに火球は巨大化した、そしてダイナはそれをアリゲラに向けて一気に押し出す。 『ガルネイトボンバー!!』 火球はアリゲラに向けて一直線に飛び、飛ぶのがやっとのアリゲラにはそれを避ける力はもはやない。 直撃、開放されたエネルギーの奔流がアリゲラを焼き尽くす。一瞬後、アリゲラは断末魔の遠吠えを残し、大爆発を起こして粉微塵に吹き飛んだ。 「やった!」 「シュワッ!」 オスマンとダイナは、共にガッツポーズを決めた。 そしてダイナは腕を下ろすと仁王立ちのポーズをとった。 「ダッ!!」 ダイナの体が一瞬輝いたと思うと、その体が光の粒子へと変わって小さくなっていき、やがて元の人間の姿へと戻っていった。 「じいさん、無事だったか」 彼は駆け戻ってくるなり、先程までの戦いがうそのようなまばゆい笑顔でそう言った。 「あ、大丈夫じゃとも、それよりおぬしこそ大丈夫なのか? あれだけやられたのに」 そのあまりにまっすぐな瞳にオスマンも警戒心を解かれて問い返した。 「え、ああ見られちまってたか。まあ、この世界ならいいか……なんてことはないよ、いつものことさ」 「いつものことって! おぬしはいつもあんな化け物と戦っておるのか!? 君はいったい何者なんじゃ?」 すると彼はニッと笑って。 「いや、名乗るほどの者じゃないさ……って、一度言ってみたかったんだよねー。俺はアスカ、スーパーGUTSのアスカ・シンさ。あー、と、言ってもわからねえか……」 「スーパー……ガッツ? いや、ともかく君はアスカ君というのだね。わしはオスマンという。あの巨人の姿は……いやいや、そんなことはよいか、ともかく君はわしの命の恩人じゃ、本当にありがとう」 「いいってことよ。それに、ウルトラマンダイナのことは正直俺もよくは知らねんだ。それよりも、またあんなのが来る前に、急いで帰ったほうがいいぜ」 見ると、そろそろ日の光が赤みを帯びてくるような時刻だ。 「ああ、本当にありがとう。それで、よかったらわしのうちに来てはもらえんかね? せめてもの礼がしたいんじゃ」 だが、アスカは残念そうな顔をして首を横に振った。 「悪いけど、俺も急いで国に帰らないといけないんだ。仲間が待ってるからな」 「国にって、とても遠いのじゃろう、あてはあるのか?」 「正直あんま自信はない。ただ、必ず帰るって約束したんだ。俺は約束は絶対破らない。だから、俺はずっと前に進み続ける」 そう言って、空の果てにあるという彼の故郷を見つめるその視線には一点の迷いも無かった。 「わかった。そういうことなら止めはせん。旅の無事を祈ってるよ」 「ああ、じいさんも元気でな」 オスマンは名残惜しさを振り切って別れようとした。だがそのとき自分の杖がどこかに行ってしまっていたのに気がついた。 「しまった、わしの杖……弱ったのう、あれがないと」 メイジの使える魔法はとても便利だが、反面杖が無いとその一切が使えないという欠点もある。 多分戦いのさなかに怪獣の巻き起こした突風で飛ばされたのだろうが、この深い森の中を探すのはちと困難だった。 「なんだ、うっかりしてるなあ。この森を丸腰で帰るのは厳しいぜ……しょうがない、これ持っていけよ」 アスカはそう言って腰の銃をオスマンに差し出した。 「い、いかんいかん、そんなもの受け取るわけには、それに君はどうするのだね?」 「俺は平気さ。そいつの使い方はこっちの銃とたいして変わらないからわかるよな。まだエネルギーは十分残ってるはずだ。じゃあ、元気でなじいさん!」 「あ、待ってくれ! 君はいったいどこへ行くつもりじゃ!」 「さあな、けどまたいつか会おうぜ!」 アスカは大きく手を振りながら、森の奥へと消えていった。 「アスカ……ウルトラマンダイナ……」 オスマンは、その手に残った銃を握り締めながら、彼の去っていった森の奥をいつまでも見つめていた。 そして現代、昔話を語り終えたオスマンは、椅子に座りなおすと才人とルイズに視線を戻した。 「それが、30年前にわしが体験したことの全てじゃ。あんなまっすぐな目をした若者をわしはこれまで見たことはない。 その後わしはこの銃で身を守りながらなんとか学院へ帰ってきた。 銃はそのときもまだ使えたが、下手な魔法よりはるかに危険なために『破壊の光』と名づけて封印したんじゃ」 「エース以前にも、ウルトラマンがハルケギニアに来ていたのか」 (だけど、ダイナなんて名前のウルトラマンは聞いたことないぞ。エース、あなたは知ってますか?) 才人は、自らのなかに眠っているエースへ向けて呼びかけた。 普段エースはふたりの傷の治療もあって、ふたりの心の奥深くでじっとしているが、ふたりが同時に強く願えば答えてくれる。 (いや、私も聞いたことがない。しかし、学院長の話を聞く限りでは彼もまた異世界から来たのは間違いない) (どういうことよサイト、ウルトラマンはあなたの世界の戦士なんじゃなかったの?) ルイズもエースごしにテレパシーで才人に聞き返してきた。エースが表に出てきているときだけの特典だ。 (そう言われてもなあ。ダイナってウルトラマンもそうだが、スーパーガッツなんてチームも聞いたことがない……) (なによそれ、あんたがわかんなきゃわたしが分かるわけないでしょうが、この犬) そう言われても分からないものは分からない。才人が困っているとエースが助け舟を出してくれた。 (考えられる可能性としたら、パラレルワールドというやつだろうな) (パラレルワールド?) (このハルケギニアと地球、ヤプールの異次元世界があるように、ほかにも私たち光の国の住人とは違う、 ウルトラマンのいる世界があるのかもしれない。もしかしたらハルケギニアはそうした世界の境界が薄い世界なのかも) それはかつてのTAC隊員北斗星司としての経験と知識から導かれた仮説だった。 単純に異次元世界とは言っても、ヤプールの異次元世界のほかにも、四次元怪獣ブルトンや異次元宇宙人イカルス星人の異次元はそれぞれまったく別のものだ。 (と、いうことは、あなたやそのダイナ以外にもウルトラマンが現れる可能性があるってこと?) (可能性はあるだろうな) (おお! ウルトラ兄弟以外のウルトラマン!? そりゃ燃えるぜ!) (なに喜んでるのよ、このバカ犬!) と、テレパシーで話し合っているが一応表面上は静かなものだ。 「それで、そのアスカって人はその後どうしたかわかりますか?」 才人はとりあえずオスマンにそう聞いてみた。 「うむ……わしもその後これを返そうと四方手を尽くして探してみたのじゃが、とうとう見つけることができなかった。 あれほどの力を持つのじゃから、もしものことはないと思うが、おそらくは彼の国へと帰ったのじゃとわしは思う」 「そうですか、これでなんとか元の世界への手がかりが見つかるかと思ったのですが」 地球への手がかりが見つかるかと思っていた才人はがっくりと肩を落とした。 もしハルケギニアがどこかの星ならウルトラマンAなら飛んで帰ることは簡単だが、星空にはエースの知っている星は地球とM78星雲を含めてひとつも無かった。 ダイナがどういう世界から来たのかは分からないが、帰れたにせよ帰れなかったにせよ、もうこの星にはいないだろう。 するとオスマンは、何かを考え込むような仕草を一瞬見せた後、才人の目を見据えて驚くべきことを言った。 「君は、ミス・ヴァリエールの召喚でここへ来たのだったね。すると君もまた異世界の住人なのだろう、ウルトラマンA」 「え!?」 「え、い、サイトがエース、な、なんてそんなわけないじゃないですか!」 突然のオスマンの指摘にふたりは驚いた。しかし才人はまだしもルイズはごまかしが下手すぎる。 「やはりの、エースが現れて消えるまで、ずっと君達ふたりだけがいないままで、エースが消えたとたんに戻ってきた」 もはやごまかしようも無かった。 才人とルイズは仕方ないと自分達とエースの関係を簡単に説明した。 「なるほど、君達そのものがウルトラマンなのではなく、その体を貸しているだけというわけか」 「あの、学院長、このことは」 「わかっておる。誰にも言いはしない、かつてダイナに救われたようにエースはわしの恩人じゃ」 オスマンはにっこりと笑って見せ、才人とルイズもほっと胸をなでおろした。 それを見たオスマンは、一回咳払いをして呼吸を整えると、また才人に向かって話しかけた。 「それから、もうひとつ伝えておくことがある。サイト君、君の左手のルーンについてじゃ」 「俺の?」 「うむ、それはガンダールヴ、伝説の使い魔のルーンじゃ。伝承ではあらゆる『武器』を使いこなしたと言われている。君にも心当たりがあるのではないか?」 「ええ、まあ……」 才人は、その質問には適当にお茶を濁しておいた。 ギーシュとの決闘からホタルンガに斬りかかったときまで心当たりは大有りだったが、それよりもやはりこのルーンがエースにも影響を与えたのだということを、改めて確信していた。 (たかが使い魔のルーンがウルトラマンに影響を与えるとは、まあプラスなんだから別に悪くは無いか) 疑問はまだ残っていたが、元々ひとつのことをいつまでも深刻に考える性質ではなかったので、才人はガンダールヴのことを「まあいいか」で済ませた。 「ともかく、その『破壊の光』はここではとても危険なものです。二度と盗まれないように厳重に保管してください」 この世界に来てからいくつかの攻撃魔法を見てきたが、単純な破壊力だけでなく、射程、使いやすさ、奇襲性など汎用性で 『破壊の光』は完全にそれらを上回っている。悪用されたとしたらトライアングルクラスとやらでもまず止められまい。 そのことを承知している才人は、オスマンに強く訴えた。しかしオスマンの返答はまったく予想外なものだった。 「いや、この武器はサイト君、君が持つべきだろう」 「えっ!? な、なんですって」 30年間守ってきた恩人の宝を譲る。信じられないオスマンの言葉に才人は仰天し、ルイズはまっこうから反対した。 「オールド・オスマン! この犬! い、いや使い魔に学院の秘宝をなんて!」 「ミス・ヴァリエール、わしではこれは扱いきれん。しかしウルトラマンであり、ガンダールヴである彼ならこれを正しく使ってくれるじゃろう。 受け取ってくれサイト君、そしてミス・ヴァリエールととともに、ハルケギニアを守ってほしい」 最後にオスマンは深々と頭を下げた。 ルイズは、こんなのに頭を下げる必要はないですと慌てているが、才人はオスマンの態度が真剣であることを感じて、無言で『破壊の光』を手に取った。 すると、彼の左手のルーンが光り、『破壊の光』の使い方やその他の細やかな情報が頭の中に流れ込んできた。 「ガッツブラスター……」 「おお、それがそれの本当の名前なのか。どうか、大切に使ってやってほしい。一応わしが固定化の魔法で保護してあるから元より頑丈だろうし、下手な手入れもいらんじゃろうが、ただし一つだけ……」 「わかってます。おおっぴらに使ったりはしませんよ」 学院の秘宝を一平民が持ち歩いてると知れたらいろいろとまずいだろう。それを察した才人はそう言ってオスマンを安心させたが、実はそれだけではなかった。 本当のところ、ガッツブラスターにはもうあまりエネルギーが残っていなかったのだ。20発以上は撃てるだろうが、これからのことを考えると余裕のある数字ではない。 その不安が顔に出ていたのか、オスマンは少し強い調子で才人に言った。 「不安なのじゃな。無理もない、じゃが、ウルトラマンダイナはたった一人でもあきらめずに常に明るく前に進もうと頑張っておった。君もウルトラマンなのじゃろ、ならもっと心を強く持ちなさい。そうすれば、彼のように必ず道は開ける」 「……わかりました。よーし、ヤプールなんか俺が八つにたたんでやるぜ!」 才人はウルトラマンとしての重圧を感じていたが、すでに2匹超獣を倒していることだしなんとかなるだろうと、もちまえの気楽さを発揮して答えた。 「そうか、申し訳ないがよろしく頼む……この部屋にはいつでも入れるようにミス・ロングビルに話をつけておこう。何か困ったことがあったら遠慮なく来たまえ」 「はい。では、この辺で失礼します」 「うむ、ヤプールはまたいつ攻めてくるかわからん。今夜はゆっくり休みたまえ……ああそうだ、サイトくん、 実は1週間後にここで『フリッグの舞踏会』というものが執り行われるんじゃ。本当ならもっと前にやるはずじゃったのだが、 ベロクロンの襲撃のせいで延期になっておったんじゃ。君もメインで参加できるよう取り計らっておこう。楽しみにしていたまえ」 『フリッグの舞踏会』とはこの魔法学院の行事のひとつで、娯楽の少ない学院では大勢の生徒が楽しみにしている食べて踊れるお祭り騒ぎだ。 しかし普通の学生であった才人はあまり興味はないようだったが、それを察したオスマンは才人の耳元でぼそっとささやいた。 「学院中の女子生徒が着飾って踊りを楽しむぞ、もちろん手を取り合ってな」 「ぜひ参加させていただきます」 「聞こえてるのよ、この馬鹿犬!!」 その後、ルイズと才人は学院長室をあとにした。 すでに夜もふけて廊下も静かなもので、ふたりの足音だけが響いていた。 「やれやれ、おーいて」 「学院長の手前、蹴り一発で許してやったんだからむしろ感謝しなさい。ったく、この色ボケ犬!」 ルイズはカッカッと怒っている。 才人は、相変わらずのルイズの態度に辟易していたが、やがて思い出したようにルイズの肩を叩いた。 「なによ?」 「あとで言うことがあるって、言ってあっただろう?」 ルイズの顔が固くこわばった。 あのときの無茶は、正直どんな弁明をしても正当化できようはずもない。身構えるルイズに才人はやがて口を開いた。 「今度は俺も連れてけ」 「は?」 「お前が俺の言うことなんか聞く気がないのはわかってる。だったら次からは俺も連れてけ、多少はお前より頑丈なんだから盾くらいにはなってやる、俺はお前の使い魔なんだろ?」 「……」 あまりに意外な言葉にルイズは絶句していた。 ウルトラマンは決してひとりで戦っているわけではない、信じられる仲間たちがいるからこそどんな強敵とも戦い抜いてこれたのだ。 しかし、他人を信じようとしないルイズでは、先のように命の投げ捨てに行くようなものだ。 頑ななルイズにそのことを説いても聞き入れはしまいと分かっている才人は、あえてそういう言い方をしたのだった。 (ダイナも、仲間の元へ帰ろうとしていた。ウルトラマンがなんで強いか、いつかこいつもわかってくれる……かもしれないな) 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
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「ウルトラマンメビウスTV本編終了後の世界」から「ウルトラマンA」を召喚 第1話 合体変身!! ルイズと才人 第2話 黒衣の悪魔 第3話 見よ! 双月夜の大変身 第4話 奪われた『破壊の光』 第5話 大ピンチ!! ルイズを救え 第6話 双月夜の大決闘!! 第7話 降り立つ光の巨人 第8話 ダイナミック・ヒーロー! 第9話 WEKC結成!! 第10話 変身宇宙人の謎を解け!! 第11話 危機迫る!! トリステイン王国最後の日 第12話 WEKC初陣!! 第13話 落日の決闘!! 第14話 剣の誇り (前編) 第15話 剣の誇り (後編) 第16話 間幕、タバサの冒険 第一回、タバサと火竜山脈 (前編) 第17話 間幕、タバサの冒険 第一回、タバサと火竜山脈 (後編) 第18話 遠い星から来たお父さん (前編) 第19話 遠い星から来たお父さん (中編) 第20話 遠い星から来たお父さん (後編) 第21話 踊れ! 怪獣大舞踏会 (前編) 第22話 踊れ! 怪獣大舞踏会 (後編) 第23話 無限と光の旅立ち!! 第24話 地球へ!! 第25話 甘い薬の恐怖 第26話 悪夢を砕く友情の絆 第27話 悪魔の忘れ形見 第28話 ウルトラマンエースVS異形の使い魔! 第29話 ガリア花壇の赤い花 (前編) 第30話 ガリア花壇の赤い花 (後編) 第31話 宇宙正義の守護者 (前編) 第32話 宇宙正義の守護者 (後編) 第33話 怪獣は、時空を超えて 【前半】/【後半】 第34話 老いた龍 第35話 あの超獣の闇を撃て!! 第36話 シルフィを返して!! (前編) 二大怪盗宇宙人参上 【前半】/【後半】 第37話 シルフィを返して!! 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(前編) 第39話 シルフィだって怪獣は退治できるのね! (後編) 第40話 ふたつめの虚無 第41話 奪われた虚無 第42話 囚われのティファニア 第43話 ハルケギニアの果てへ 第44話 大切なもののために 第45話 母のために、娘のために 第46話 揺るがぬ意志との戦い 第47話 進化の道筋 第48話 さらば、古の古戦場よ 第49話 堕ちた聖地 第50話 退場者と入場者 第51話 タバサの最後の冒険・ジョゼフからの挑戦状 第52話 優しすぎる悪夢 第53話 悪夢を越えたその先に…… 第54話 共鳴する悪の波動 第55話 撃滅! 怪獣軍団 第56話 打ち砕かれた架け橋 第57話 闇に打ち勝つ選択 第58話 ぬくもりは、あの人のそばに 第59話 聖者と死神のはざまに 第60話 決着の必殺剣 第61話 未知なる世界の空を目指して 第62話 新造探検船オストラント号 第63話 鋼鉄の亡霊 第64話 激突! 東方号vs戦艦大和 (前編) 第65話 激突! 東方号vs戦艦大和 (後編) 第66話 東方号再建計画発動 第67話 眠れる大戦艦 第68話 不思議な風来坊 第69話 東方号爆破指令 第70話 プライド・オブ・レディース (前編) 第71話 プライド・オブ・レディース (後編) 第72話 東方号完成、三日前 第73話 悪魔に魅入られた姉妹 第74話 あの星空に願いよとどけ 第75話 人の闇 ヤプールの哄笑 第76話 アシタにサヨナラ 第77話 ウルトラマンの背負うもの 第78話 涙は愛の言葉 第79話 砕けよ絶望! 希望の光、その名はセブン!! 第80話 さらばハルケギニア! 東方より愛をこめて! 第81話 全速前進! 包囲網を突破せよ!! 第82話 バラーダの神殿 第83話 ネフテスの青い石 第84話 守護鳥獣VS三億年超獣 第85話 ヤプール総攻撃! ネフテス首都アディール炎上! 第86話 超獣軍団陸海空! アディール完全包囲網完成 第87話 六千年の溝 第88話 わたしが生まれてきた意味 第89話 たったそれだけのこと 第90話 目を開いて見る世界 第91話 不屈の希望 第92話 光の再来 第93話 地上の太陽 第94話 アディール最終決戦! 最強怪獣を倒せ!! (前編) 第95話 アディール最終決戦! 最強怪獣を倒せ!! 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(後編) 第8話 聖都ロマリアの夜 第9話 ガリア軍動く、戦塵を呼ぶロマリアの影 第10話 ひび割れた誇り、才人を待つ地下墓地の槍 第11話 最強の雷! 陸上自衛隊決戦兵器出撃 (前編) 第12話 最強の雷! 陸上自衛隊決戦兵器出撃 (後編) 第13話 シェフィールド侵攻兵団全滅! 怒りに焦げる正邪の攻防 第14話 戦い終わって、はじまりへ 第15話 遠い母の記憶 ウルトラマンダイナvs金属生命体 第16話 空飛ぶ海月 第17話 導かれる世界 第18話 引きちぎられた絆 第19話 はるかな時代へ 第20話 彼の人はブリミル 第21話 無能王、英雄王 第22話 必殺必中! 暁の矢 第23話 あの湖に希望を込めて 第24話 希望と絶望の伝説 第25話 狙われたサハラからの使者 第26話 魂のリレー 第27話 届けられた誇りのメッセージ 第28話 夜の支配者 第29話 サビエラ村の惨劇 第30話 その一刀は守るために 第31話 ひとりぼっちの世界女王 第32話 君の名は勇者 【前半】/【後半】 第33話 暗殺指令 賞金首はあのコッパゲ!? 【前半】/【後半】 第34話 水妖精騎士団 【前半】/【後半】 第35話 死闘! 神よ、乙女たちのために泣け 第36話 五十万エキューの転成 第37話 強襲キングザウルス! 東方号緊急発進せよ! 第38話 海神の目覚め、巨砲鳴動ラグドリアン 第39話 世界は混ざり、世界は混ざる 【前半】/【後半】 第40話 才人からの贈り物 第41話 悪夢への子守唄 第42話 ブリミルの秘宝の秘密 【前半】/【後半】 第43話 勝者なき戦争のはじまり 第44話 再来の捕食王 第45話 守護者なき世界 第46話 深淵への出発 第47話 激闘! トリスタニア防衛戦 第48話 あの闇の中へ進め 第49話 あなたの声が聞こえたから 【前半】/【後半】 第50話 帰ってきたタバサ 第51話 始祖降臨 第52話 ハルケギニアの夜明け 第53話 始祖という人 第54話 ここは夢の星だった 【前半】/【後半】 第55話 ブリミルとサーシャ 愛のはじまり 第56話 守れなかった希望 【前半】/【後半】 第57話 虚無を超えて 【前半】/【後半】 第58話 この星に生きるものたちへ 【前半】/【後半】 第59話 予期せぬ刺客 第60話 ジョゼフからの招待状 【前半】/【後半】 第61話 魔法学院新学期、アラヨット山大遠足! 【前半】/【後半】 第62話 そのとき、ウルトラマンたちは 【前半】/【後半】 第63話 魅惑の妖精亭は今日も繁盛Ⅱ 第64話 湖の舞姫 第65話 剣下の再会(前編) 第66話 剣下の再会(後編) 第67話 未知が風の銀河より 第68話 仇なき復讐者 第69話 その呪いも抱き留めて 第70話 夢の先の旋律 第71話 タバサのイーヴァルディ 第72話 天然物にご用心 第73話 湯煙旅情、露天風呂だよ全員集合! 第74話 水精霊騎士隊、暁に死す 第75話 嵐を呼ぶ怪獣エレキング 第76話 狙われたサーカス 第77話 170キロを捕まえろ! 第78話 アナタはアナタ(前編) 第79話 アナタはアナタ(後編) 第80話 大怪獣頂上決戦 第81話 世紀末覇王誕生 ウルトラマンAについて 名前 ウルトラマンA (エース) 身長 40メートル 体重 4万5千トン 年齢 1万5千歳 飛行速度 マッハ20 変身アイテム ウルトラリング 得意技 メタリウム光線ウルトラギロチン他 ウルトラ兄弟5番目の弟でウルトラの父の養子 初めて地球に来たときは西暦1972年、異次元人ヤプールの侵略を阻むために銀河連邦から派遣されてきた 地球での姿は北斗星司と南夕子、後に北斗星司一人で変身するようになった 現在では北斗とエースの意思は同一化している 西暦2007年に兄弟達と共にエンペラ星人と戦った後に光の国に帰還した 光線技、超能力の豊富さでは全ウルトラ戦士随一であり、技のエースの異名を持つ
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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 前半部からの続き。 しかし、そんなことは露知らぬ才人達は、シルフィードがねぐらにしている森のちょっとした広場で、 首輪をつけたシルフィードを森の木に鎖で結んで、犯人が現れるのを今か今かと待ち構えていた。 「きゅーい、きゅーい!!」 あからさまに囮役にされているシルフィードは、よせばいいのに悲しげに泣き喚いている。 そんなことをしてもかえって犯人を呼び寄せるだけなんだが、離れた藪の中から見張っている才人達は 心の中でそう突っ込んでいた。 「さーて、見え見えの囮作戦だけど、果たして引っかかってくれるかな?」 我ながら、下手な作戦だと思うが他に方法がないので仕方が無い。なお、当然のことであるがギーシュのほうに 期待を寄せている者は、モンモランシーも含めて一人もいない。 「けど、犯人はどうやって学院の誰にも気づかれずに使い魔達を根こそぎさらって行ったのかしら?」 待っていて退屈な間、キュルケがタバサに何気なく尋ねた。いくら適当に管理されている学院とはいえ、 メイジが大勢おり、学院自体一種の城砦となっている、そんなところから誰にも気づかれずに使い魔を根こそぎ さらっていくなど、どういう手品を使ったのか。 「私も少し調べてみたけど、厩舎あたりで魔法が使われた形跡はなかった。それに、人間より大きなヒポグリフや バグベアーみたいなのまで一度に消えてる。正直に言えば、見てみないとわからない」 「なるほど、そんなに簡単に分かればすぐに捕まえられてるわね。それにしても、同じ使い魔なのに、なんで ダーリンは狙われなかったのかしらね?」 キュルケにそういう目で見られ、才人はぽりぽりと頭を掻いた。 「そりゃ人間だし、使い魔と見られなかったんだろう。まあ、俺のところに来たらギタギタにしてやるけどな」 ガッツブラスターを握り締めて、不敵な笑みを浮かべる才人の背中で、「なあ俺を使ってくれよ」とデルフが わめいているが、長剣とビームガンではどっちが頼りになるか言うまでもない。ただし、ガッツブラスターの 残弾にはもうあまり余裕がないので、ここぞというときまでは使うまいと心に決めていた。 そんな意気込む才人を見て、ルイズは冷ややかに言った。 「ま、仮に使い魔が狙われているとしても、あんたみたいに無能な使い魔、だれも狙いはしないでしょうけどね」 「む、どーせ俺は掃除洗濯しかとりえがありませんよーだ。火とか吐けなくて悪かったね」 わざとらしくふてくされる才人の態度にルイズも調子に乗る。 「ふんっ、そーんなどうしようもない使い魔をずっと保護してあげてるあたしってば、なんて慈悲深いのかしら。 あんたみたいな無能者は、このルイズ・ド・ラ・ヴァリエールが精々保護してあげるわ」 「よっ、胸はないけど器はでかい」 「なぁんですってぇーっ!!」 「ぐばぁ!!」 例によってルイズのストレートパンチが才人の顔面に炸裂する。ほんとにこいつは一言多いというか、傍目で 見ていたキュルケやモンモランシーも、いつまで経っても変化の無い二人に呆れるしかない。 「はいはい、夫婦漫才はそのへんにしておいて、しっかり見張りしなさいよ。いつ犯人が現れるか分からないん ですからね」 「ちょ、誰が夫婦漫才よ!! え? あ、ああ、あたしとこいつが、夫婦!? それってつまり、あたしとこここ、こいつががが」 急にパニックに陥ってしまったルイズは照れ隠しのように才人の体をげしげしと蹴る。それがまた皆の笑いを 誘うことになっているのだが、才人はいい迷惑としか言いようがない。 だが、そうして待っているうちに、シルフィードに怪しい影が近寄っていた。 「みんな、あれ、あれ!!」 藪の中から目だけ出して、全員がシルフィードに近寄る影を見つめた。 そいつは、真っ黒な服とマントをはおい、さらに黒い帽子をかぶった老人の姿をしていた。才人とルイズは一瞬 ヤプールの人間体かと思ったが、ヤプールのような禍々しいオーラは感じないから別人だと判断した。 「あいつが、あたしのロビンやギーシュのヴェルダンデを?」 「しっ、まだ分からないわ。もう少し様子を見ましょう」 男は足早にシルフィードに近寄って、値踏みするように右から左からじろじろと眺めている。シルフィードは 自分を観察してくる怪しい男に嫌そうに顔を背けるが、男はそれでもぎょろりと目を見開いて観察を続けている。 もはや、限りなく黒に近いグレーだが、確証がつかめるまではと一行は息を呑んでそれを見守る。 だがやがて、男はシルフィードの前に立つと、にやりと笑った。 「ふよふよふよふよふよふよふよふよふよ」 意味不明な言葉を男がつぶやいて、バッとマントを翻すと、なんとシルフィードの巨体が手品のように消えうせてしまった。 「なに!?」 見守っていた才人達も、あまりに驚くべき出来事に愕然とした。しかし、男が踵を返して逃げ出すと、はっと我に返って 藪から飛び出した。 「あいつが犯人だ!!」 「逃がさないわよ!! あたしのフレイムを返しなさい!!」 「あたしのロビンもよ!!」 叫び声をあげて一行は黒マントの男を追いかける。しかし、男はふよふよと奇怪な笑いを立てながら、どんどん 加速していって全力で走ってもまったく追いつけない。 「なっ、なんて逃げ足の速い奴!?」 走っても追いつけないと知った一行は、『フライ』の魔法で飛翔して追うことに切り替えた。飛べないルイズに いたっては才人が抱えてガンダールヴで突っ走る。なお、前回脇に抱えたのが不評だったために、今回はルイズを お姫様だっこしている。しかし、荷物扱いよりはましだが、やっぱりすごく恥ずかしい。さらに、抜き身じゃ危ないからと ガンダールヴ発動のためにガッツブラスターを使われてデルフがいじけている。というか、背負えばいいのではないのか? だが、そうして馬で走るくらいの速さまで加速したというのに黒マントの男には追いつけない。時速に換算すれば 優に60キロは出ているだろう。 「ありゃ人間じゃない」 どこの世界に時速60キロで突っ走れる人間がいるものか、そうと分かればなおさら逃がすわけにはいかない。 「しめた。この先は学院よ、追い詰めてしばりあげてやるわ」 学院に行けば、もはや勝手知ったる自分の庭、他の生徒もいることだし逃がしはしまいとキュルケは不敵な 笑みを浮かべた。 しかし、森を抜けて西日が彼女達の目を焼いて、もう一度目を開いたとき…… 最初は道を間違えたのかと思った。 目をこすってみると、この時間は学院の尖塔ごしにしか見えないはずの夕日がはっきりと見える。 けれど、学院のあるべき場所には、大きな四角形の穴が空いているだけで、他には何も無い。 そこには何もない、だだっ広いだけの平原が広がっていたのだ。 「がっ……学院が……ないいぃぃっ!?」 一行は夢でも見ているように、穴のふちに止まって学院があったはずの場所を眺めた。 黒マントの男も穴の手前で止まって笑っているが、もうそれどころではない。 だがそのとき、突然頭の上から不敵な笑い声が降ってきた。 「フフフフ……ハーハッハッハッ!」 「誰だ!?」 その声の主は、夕焼けの光の中から姿を現すと、黒マントの男の頭上で停止した。 そいつは黒いマントをつけて、真っ黒い仮面のような顔に大きな赤い目のついた怪人、一目見ただけで 即座に宇宙人だとわかるスタイルをしていた。 「君達だね? この星を守っているのは」 宙に浮いたまま、怪人は悠然とそう言い放ってきた。 才人は、こいつは俺とルイズがウルトラマンだと知っているなと思ったが、それには答えずに目の前の 見たことも無い姿の宇宙人に言った。 「お前が学院を消したのか?」 「いかにも、私の名はヒマラ、ここの他にもトリスタニアの街のいくらかもいただかせてもらったよ。次はガリア あたりに行こうかなと予定しているんだ」 「お前も、ヤプールの手先か!? シルフィードや他の使い魔達をさらって行ったのもお前らか」 「ヤプール? あっはっはっ、あんな芸術を理解しない無粋なやからといっしょにしないでくれ。まあ、成り行きとは いえ、この世界の存在を教えてくれたことだけは感謝しているが、私は何もこの星を侵略しに来たわけではないのだよ。 そういう野蛮なことは私の趣味ではないのでね。それに、私は生き物は専門外でね」 すると、今度は追ってきた黒マントの男が笑いながら大きな頭部を持つ宇宙人の姿になった。 「ふっふふ、私はスチール星人だ。お前たちの飼っている珍しい動物たちは、私が全部いただいた」 スチール星人、こいつなら才人もエースも知っている。かつて同族が地球のパンダを全部盗んでいこうとして やってきたという、数いる中でも特に妙な趣味をしていた宇宙人。なるほどこいつなら並の動物園真っ青の 使い魔達に目をつけたとしてもおかしくは無い。侵略ではないとはいえ迷惑な奴だ。 しかし「いただいた」と言われて、「はいそうですか」とあげる奴はいない。キュルケはもちろんタバサも 珍しく怒気を見せて杖をスチール星人に向けた。 「ふっざけんじゃないわよ、このこそ泥!!」 「シルフィードを……返して!」 けれどもスチール星人は、恐らく笑っているのだろう、頭を微妙に上下に揺らしながら言った。 「ふふふ、お前たちにできるかな? それに、しばらく観察していたが、人間共はお前達が使い魔と呼んでいる 動物達を粗雑に扱っていたのではないか? ならば私が大事に飼ってやったほうが彼らのためではないかね」 確かに、ここにいる者達のほかの生徒達は使い魔の世話を真面目にしているとは言いがたい。けれど、 そんな盗人猛々しい詭弁に揺り動かされるほど彼女達の怒りは生やさしくは無い。 「泥棒が偉そうなことほざくんじゃないわよ! 人のものを勝手に盗っていくような奴が何を大切にできるっていうの、 丸焼けにされる前にさっさとみんなを返しなさい」 「ぬぅ……」 今にも爆発しそうな彼女達の気迫は、星人さえも黙らせるには充分だった。 だが、ヒマラはそんな様子を見下ろしながら含み笑いを浮かべていた。 「ははは、威勢のいいお嬢さん達だ。けれども、一度目をつけたものはどんな手を使ってでも手に入れるのが コレクターというものだから、返すわけにはいかないねえ」 「コレクターですって?」 「ああ、彼とはこちらで会って意気投合してねえ。ものは違えど美しいものを愛する者同士に壁はないのさ。 それに、私も見つけてしまったのさ、実に美しいものをね。この星には、この広い宇宙でも、ここともう一つの 星にしかない美しいものがある、なんだか、分かるかね?」 「……」 才人らが答えずにいると、ヒマラは誇らしげに語り始めた。 「それはね、夕焼けの街だよ。私は一目で心を奪われた、私は気に入ったものは手に入れることに決めている。 だから、私が美しいと思ったものはすべて、私のものなのだよ」 どこまでも自分勝手なヒマラとスチール星人に、才人達もついに怒ってそれぞれの武器を抜く。 「なんだと!! ふざけるな、そんな勝手が通るか、学院のみんなをどこにやった」 「ふふ、悪いが夕焼けの街は前に手に入れそこなったことがあるので、私も引けないのだよ。それと、人間達は 余計だったな。見苦しいので後でまとめてどこかにポイしてしまうつもりだよ。フフフ、ご希望とあれば案内するよ」 そう言うとヒマラは手を大きく広げると、ぐるりと体の前で回し、一行の視線がそれに集中したとき。 「ハアッ」 突然、ヒマラの額からビームが放たれた! 「危ない!!」 とっさに才人はルイズを突き飛ばしたが、その代わりに才人がビームをもろに受けてしまった。 「うわっ!?」 「サイト!!」 ルイズははっとして才人を見るが、才人の体は一瞬発光すると煙のように消えてしまった。 「ええっ!?」 「ちょっ、サイトをどこにやったのよ!?」 「ハッハッハッハ、彼はリクエスト通り仲間のところに送ってあげたよ」 慌てて怒鳴るが、ヒマラとスチール星人は笑いながら、すぅっと消えていってしまった。 そして才人は、ヒマラの放ったテレポート光線によって、どこか別な空間へと飛ばされていた。 「あいてて……こ、ここは?」 見渡すと、そこは夕日に照らされた見慣れた広い芝生の上に立つ巨大な幾本もの塔、魔法学院の前であった。 けれど、学院から離れた場所にはトリスタニアの街並みがそびえ、見慣れた風景とはまったく違う。 というか、あっちこっちにオランダの風車やイースター島のモアイ像、パリの凱旋門からタイの寝仏、はては 巨大なタヌキの置物まで訳の分からないものがずらりと並んでいて何て言えばいいかわからない。 「消された街か……コレクションするっていうのは、こういうことかよ」 すると、彼の目の前にヒマラが今度は巨大な姿となって現れてきた。 「ようこそ、私のコレクションルーム、『ヒマラワールド』へ、ここは外界から隔絶された擬似空間だ。私の集めた 美しいものを、ぜひ君も見物していってくれたまえ」 「そうはいくか、こんな贋物の世界、すぐにぶっ壊してみんなを元に戻してやる。なあルイズ!! ……ルイ……」 そこで才人は、大変な事実に気がついた。ここに飛ばされたのは自分だけだ、ルイズは元の世界に置いて きたまま、つまり。 「し、しまった!!」 変身……できない。 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第二話 黒衣の悪魔 宇宙同化獣ガディバ 登場! ルイズと才人がウルトラマンAの力を得て、異次元人ヤプールの尖兵たる、ミサイル超獣ベロクロンを倒してから2日が過ぎた。 2人を含む魔法学院の関係者達は、平時には通常通り学業に専念するようにとの指示が出、破壊された街も、勝利に喜ぶ民達によって、急ピッチで復興されていっていた。 が、当の二人はといえば、ウルトラマンの宿命として正体を明かすわけにもいかずに、結局は『ゼロのルイズ』と『犬のサイト』の元の鞘に納まってしまっていた。 「はぁ、俺本当にウルトラマンになれたのかなあ?」 例によって水場で洗濯物の山と格闘しながら才人はぐちっていた。 彼としては、子供のころからTVや本のドキュメンタリーや記録映像で見た科学特捜隊やウルトラ警備隊の隊員達のように、颯爽と怪獣と戦うのにあこがれていただけに、相も変らぬ使い魔生活にいまいち実感が湧かないのである。 だが、地球を守ってきた歴代のウルトラマン達にも人間としての生活はあった。 才人と一体化しているAだって、北斗聖司と呼ばれていたころにはアパートに一人暮らししていたころもあったし、当然衣食住は自分で管理していた。 さらに中には血反吐を吐くような猛特訓をこなしたり、教師やボクサーを兼業したウルトラマンもいたが、さすがに才人にそれを求めるのは無茶であろう。 「いつも大変ですね才人さん」 振り向くと、黒髪の愛らしいメイドの娘が洗濯籠を持って立っていた。 「ああ、シエスタ、君も洗濯かい?」 「はい、私はそんなに多くないので、お手伝いしますよ」 才人は喜んでと言うと、さっきまでの憂鬱はどこへやらで、うきうきと洗濯にはげみはじめた。 そのはげみぶりはアクセルがかかりすぎたようで、たいした量を持ってこなかったはずのシエスタの分が終わる前に自分の分が終わってしまった。 仕方が無いから逆にシエスタの分を手伝うことにしたが、それでも彼はうれしそうだった。 「平和ですねえ」 「え?」 「つい2日前くらいには、トリステイン中この世の終わりかもって雰囲気だったじゃないですか。けど、今私達はこうして安心して洗濯をしていられる。平和って本当にいいものですね」 「……ああ、本当に平和っていいもんだな」 才人は幸せそうに笑うシエスタの顔を見て、「ああ、俺がこの笑顔を守ったんだな」とようやく実感した。 虚栄や見返りではない、ウルトラマンや歴代の防衛チームが命を賭けて守ろうとしたものの一端が、少しずつ才人にも芽生えつつあった。 「それもこれも、ウルトラマンAさんのおかげですね」 「ああ、ウルトラマンAのおかげ……あれ? なんでシエスタがウルトラマンAのこと知ってるの!?」 才人は、まさか正体がばれたのではと、内心冷や汗をかきながらシエスタに問いかけた。 「いやですね。才人さんとミス・ヴァリエールがそこかしこでウルトラマンAウルトラマンAって話し合っているじゃないですか、その名前、もう軍のほうで決まったんじゃないんですか? もう学院中の人がその話題でもちきりですよ」 そう言われて才人ははっとした。 そういえば最初の変身の後から今まで、やれ魔法を使わずにどうやったらあんなことができるのとか、あんたのとこにはあんな強いのがいっぱいいるのとか、 いろいろ場所を選ばず、控えめに言っても議論を交わすといったことをしていた気がする。 (噂千里を走るとは、昔の人はうまいことを言ったものだ) 彼はとりあえず正体がばれていなかったことにほっとしながら、ウルトラマンAにこの国の人が変な名前をつけなかったことにもほっとした。 「でも本当にウルトラマンAは私達の恩人です。街でも、いわく、王家が隠していた伝説の幻獣、いわくはるか東方の聖地よりやってきた正義の使者、はては始祖ブリメルの化身などなどすごい話題になってますよ」 街でもなの!? 才人はつくづく自分の軽率さを呪いたくなった。 これからはウルトラマンの話題はルイズとふたりだけの時にしようと、心に誓った。 シエスタは、妙に顔色が悪くなった才人を不思議に思いながらも、そんな才人さんもすてき、などと蓼食う虫も好き好きなことを考えていた。 そして、全部の洗濯物を洗い終わって洗濯籠を抱えあげたとき、当のルイズが現れた。 「ん? ルイズどうした、洗濯なら今日はこのとおり何事も無く終わったぜ」 「あ、そう。今日はおしおきの新バージョンを用意していたのに残念ね。って、違う違う、あんた忘れたの? 今日は虚無の曜日でしょうが」 「……ああ、そうか悪い悪い、すっかり忘れてたよ」 「ったく、記憶力の無い鳥頭なんだから、暗くなる前に帰るから急ぐわよ」 「了解っと、しまった、洗濯物が」 「サイトさん。私がやっておきますから急いでください」 「サンキュー、おみやげ買ってくるから待っててくれよ。おーい、待てよルイズ!!」 ルイズを追って才人の後姿が遠ざかっていく。 シエスタはふたり分になった洗濯物をよいしょと持ち上げると、その平和の重みをかみしめながら歩いていった。 一方そのころ、トリステインの王宮においても、先日の事後処理がようやく一段落付いて、国の重要人物を集めた会議が開かれようとしていた。 「やれやれ、こうも会議会議じゃ老骨にはこたえるのお」 その席の一角にオブザーバーとして招かれていた魔法学院のオスマン学院長がいた。 彼がいるのは防衛軍に少なからぬ数の生徒が志願兵としていることからであったが、貴族同士の会議に口を出すほどの権限は無い。 「皆さん、我々が半月前に現れた未知の侵略者、ヤプールの脅威にさらされているのはもはやハルケギニア全土に知れ渡った事実であります。 けれども我々は、総力を結集して対ヤプール軍を組織し、この脅威に対抗しようとしています。しかし、今回は新たに浮上した重要な案件について話し合うべく、集まっていただいた次第です」 枢機卿マザリーニが、会議の口火を切った。 ヤプールに次ぐ新たな課題、すなわち銀色の巨人、ウルトラマンAのことについてだ。 その正体については誰もはっきりとした答えを言えた者はいなかったが、その人知を超えた力については大いに彼らの興味を引いていた。 あの超獣ベロクロンでさえトリステインの誇っていた軍を敵ともせず、いかなる魔法攻撃にもびくともしなかったのに、あの巨人はその攻撃を易々と跳ね返し、その腕から放たれた光はその巨体を粉々に粉砕してしまった。 だが、議論すべき要点はそこでは無かった。 「こほん、皆さん。その問題はそのあたりでよろしいでしょう。結論として、我々では到底及ばない強大な力を有していることははっきりしています。肝心な問題は、あれが我々の敵か味方か、ということです」 枢機卿がそう宣言した瞬間、場の空気が変わった。 だが。 「無駄なことじゃのう」 と、水をかけたのは他ならぬオスマンだった。 「なんですと、オスマン殿、それはどういう意味ですかな?」 「敵なら我々はとっくに滅ぼされていますよ。それに、あの巨人、ウルトラマンAは我々を守るように現れたし、街にも民にも被害は与えずに飛び去った。第一、仮に敵だとして、超獣以上の力を持つ相手に打つ手などあるのですか?」 言われて見ればそのとおりである。 喧々轟々の議論を予想していたマザリーニにとっては意表を突かれた形だが、周りの貴族達も効果的な反論などはできずに、せいぜいオスマンの無礼を非難する程度であった。 もっともそれも、オスマンがあっさりと非礼を詫びたために貴族達もそれ以上の言及はできなかった。 「おほん、ではこれにて会議を終了いたします。方々にはそれぞれの領地の軍属の精鋭を防衛軍に派遣なさいますよう。 今のままの寄せ集めでは所詮急場しのぎですし、ヤプールが優先して狙うとしたら、ここしか無いでしょうからな」 会議は時間をかけた割には、わら半紙数枚分の密度の内容で終わった。 ただ、この会議からウルトラマンAの名が急激にトリステイン全体からハルケギニア全体へと広まっていくことになったことについては、意味があったと言えよう。 さて、ウルトラマンAのことで国が揺れているとは露知らず、当のルイズと才人は今、虚無の休日を利用して久しぶりに街に繰り出してきていた。 「相変わらず人が多いな。復興が順調だって証拠だ」 「当たり前よ。トリステインの人間はそうそう簡単に国を捨てるほど軟弱じゃないわ、むしろ復興のための資材を運ぶために普段より多いくらい。何度も言うようだけどスリには気をつけなさい」 「はいはい、ところで目的の武器屋はこの先だったよな。このあたりは被害が少なかったから無事だとは思うけど、開いてりゃいいな」 ふたりは路地裏へと入っていった。 目的はベロクロンの騒ぎのせいで買いそびれてお預けになっていた才人の剣の購入、そして目的の店は幸いにも以前と変わらない形でそこにあった。 「おや、これはこの間の貴族の旦那、お久しぶりでやんすね」 店の主人も以前と変わらなくそこにいた。 「失礼するわね。この店、もしかしたら踏み潰されてるんじゃないかと思ったけど、なかなかしぶとい様子ね」 「あっさり死ぬような奴はこの世界じゃやっていけませんやな。そいで、前回は顔見せしたとこで超獣のやろうが出てきてお流れになりましたけど、武器をご所望で?」 「私じゃないわ、使い魔よ」 ルイズはかたわらで物珍しげに武器を眺めている才人をあごで指した。 「へえ、最近は貴族の方々も下僕に武器を持たせるのがはやっておりましてね。毎度ありがたいこってす」 「貴族が武器を? そういえば以前来たときに比べて武器の数が減ってるわね。やっぱりヤプールのせい?」 「それもあります。今、国では壊滅した軍の再建のために武器の類が飛ぶように売れとりましてね。まあ、あまり役に立つとも思えませんが」 主人の言葉にルイズは少々不愉快になったが、言葉にすることはできなかった。 確かに、剣や槍を何万本揃えたところで、あの小山のような超獣に勝てるとは到底思えない。 「ですが、理由はもうひとつありましてね。最近このトリステインの城下町を盗賊が荒らしてまして」 「盗賊?」 「へえ、名前は『土くれ』のフーケって言いまして、貴族を専門にお宝を盗みまくる怪盗でしてね。あの超獣騒ぎで大人しくなるかもと思われたんですが、 むしろ騒ぎに乗じて派手に動くようになりましてね。貴族達も対抗しようにもヤプールのおかげでそれどころじゃないってんで、実質やりたい放題ですな」 「国が大変な時期だってのに、皆の足を引っ張るなんてひどい奴がいたものね」 ルイズは、国のために貴族も平民も必死になっている時に、そんなことをする奴が同じ国の中にいることに憤りを覚えた。 「まあまあ、それで貴族達も自衛のためにこうして武器を下僕にまで与えて身を守っているってことです」 主人は「ま、役に立ったという話はとんと聞きませんが」という一言を我慢して飲み込んだ。 そのとき、武器を物色していた才人が一本の長剣を持ってきた。 「サイト、気に入ったのでもあった?」 「ああ、おじさん、この剣はどうかな?」 才人はその剣を主人に見せたが、主人はだめだだめだというふうに首を横に振った。 「坊主、それはやめとけ、そいつは見た目切れそうに見えるが実際は重さと力を利用して敵を叩き潰す、いわばこん棒に近い武器だ、お前さんの細腕じゃ扱いこなすのは無理だ」 それは決して親切心からではなく、後で貴族にクレームをつけられることを恐れての忠告であったが真実であった。 才人はがっかりした様子でその剣を元に戻した。 「ちぇっ、なかなかかっこよさそうだったのに、残念だなあ」 実は、才人は特に考えた訳ではなく、その剣が少し日本刀に似ていたから手に取っただけであった。 だが、そのとき突然かたわらのガラクタの山の中から、調子のはずれた声がした。 「生言ってんじゃねーよ、坊主。おめーは自分の体格も理解してねーのか、そんなんじゃ武器を持っても即あの世行きがオチだ、そっちのガキんちょを連れてとっとと帰りな」 「なんだと!」 「誰がガキんちょですってぇ!!」 ふたりは悪口が飛んできた方向を見たが、そこには2足3文でしか売れないような数打ちのぼろ刀が並んでいるだけで人影は無かった。 「どこを見てるんだ。ここだここだ、目の前だよ」 なんとぼろ刀に混ざっていた一本のこれまた錆と汚れだらけの長剣が、カタカタとつばを鳴らしながらしゃべっている。 「これって、インテリジェンスソード? こんなところにあるなんて」 「なんだい、それ?」 「一言で言うと魔法で意思を持たせられた剣のことよ。でもそんなにありふれた物じゃなくて、私も見るのは初めてよ」 驚いているルイズをよそに、才人は好奇心のおもむくままに、そのしゃべる剣を手に取った。 「へえ、見た目は普通の剣と変わらないな。お前、名はなんつうんだ?」 「けっ、人に聞くときは自分から名乗るものだ……ん、まさか……おでれーた、お前『使い手』か」 「『使い手』?」 「なんだ、そんなことも知らねえのか。まあいい、これも何かの縁か、俺の名はデルフリンガー、お前はなんていう?」 「平賀才人、よろしくなデルフリンガー。ルイズ、俺こいつにするよ」 才人の意思決定にルイズは露骨に嫌そうな顔をした。 ぼろい、汚い、切れそうに無い、おまけにうるさいとルイズとしては気に入る要素が無かったからだが、結局は才人の。 「でもしゃべる剣なんて珍しいだろ」 の、一言でやむなく承諾した。 「感謝しなさいよ。使い魔のわがままを聞いてあげる主人なんて、普通いないんですからね」 それ以前に主人にわがままを言う使い魔自体が普通いないが。 「感謝してるよ。お前もそうだろデルフリンガー?」 「デルフでいいぜ、よろしくな譲ちゃん」 「譲ちゃんじゃないわよ! たかが私の使い魔の、そのまた下の剣の分際でなれなれしく呼ばないで、下僕らしくルイズ様とお呼びなさい!」 「へーへー、分かったよ譲ちゃん。ん? そういえばお前ら、さっきから妙に思ってたが変わった気配を放ってるな」 「えっ!?」 デルフの思わぬ言葉にルイズと才人は思わず固まってしまった。 「なんつーか、長年人を見続けてると気配を読むのがうまくなってな。なんというか、ふたりだけなのに3人に思えるような、それでいてふたりでひとりのような」 「なな、なに言ってるんだよ、そんなことあるわけ無いだろう!」 「そ、そうよ。何言ってるんだか、ずっとガラクタといっしょに居たからボケたんじゃないの!」 ふたりは慌ててそれを否定したが、冷や汗を流して言葉を震わせて言っても説得力がない。 「ま、そういうことにしといてやるよ」 デルフに顔があったらニヤリと笑ったに違いないだろう。 才人は、この新しくできた奇妙に鋭い同居人を選んでしまったことを少々後悔しはじめて、さらにそれ以上の殺気を送ってくるルイズに、今晩はメシ抜きかなあと思わざるを得なかった。 しかし、ヤプールの魔手は平和を取り戻そうとしている人々の願いとは裏腹に、闇の中から静かに動き始めていたのである。 その夜、月も天頂から傾きだすほどの深夜、とある貴族の屋敷から音も無く現れる人影があった。 長身で細身のようだが、黒いローブを頭からすっぽりとかぶって容姿は分からない。 だが、石畳の上をまったく音も立てずに歩む様は、それが常人ではありえないということを暗に語っていた。 「まったく、ちょろいもんだよ。貴族なんてのはどいつもこいつも、兵隊の数こそアホみたいに揃えてるくせに配置も甘いし居眠りしてる奴もいる。警戒してるつもりなんだろうけど、芸が無いったらないね」 そいつは少しだけ振り返ると、今出てきた貴族の屋敷を見てせせら笑った。 見上げた姿に、わずかに風が吹いてローブの下の顔が月明かりに晒される。なんとそれの正体は女性であった。 年のころは20から30、緑色の髪がわずかにこぼれて美しいが、整った顔には凄絶さが漂っている。 彼女こそが土くれのフーケ、トリステインを騒がせている怪盗その人である。 「まあ、この国のレベルも貴族の体たらくがこれじゃたいしたことは無いね。けど、まだ済まさないよ、忌々しい貴族ども……」 フーケはその腕の中に、今奪ってきたばかりの宝石類を握り締めながら、憎しみを込めた眼差しを貴族の屋敷に向けていた。 と、そのとき。 「復讐したいかね?」 「!! 誰だ」 突然背後からした声に、フーケはとっさにメイジの武器である杖を抜いて身構えた。 「ふふふ」 そこに立っていたのは、コートからマント、帽子にいたるまですべて黒尽くめで身を固めた一人の男だった。 年齢は壮齢と老齢の中間あたり、わずかにしわの刻まれた顔を歪めているが、目はまるで笑っていない。 (そんな、この私がまったく気配を感じられなかった!?) 自身も相当な場数を踏み、熟練の傭兵やメイジ相手にも渡り合えるだけの実力はあるはずだ、だがこの男が現れるのはまったく予期できなかった。 「何者かと聞いているんだ!?」 フーケは胸の動揺を抑えながらも、つとめて冷静に男に問いかけた。 「なに、怪しい者じゃ無い。ただ、君の願いをかなえてあげようと思って来たんだ」 「願い、だって?」 「そう、君は憎いのだろう? 貴族が、君からすべてを奪っていった者達が、だからこんなことをしている……だが、こんなものでいいのかい?」 「なに?」 「いくら秘宝を盗んだところで貴族からしてみれば微々たるもの、時が経てば埋め合わせされてしまう。それよりも、もっと深く、もっと血の凍るような恐怖を奴らに与えてやりたいとは思わないかね?」 「殺人鬼にでもなれって言うのか、寝言は寝て言いな!!」 男の言い口に怒りを覚えたフーケはすばやく呪文を唱え、杖を振るった。 たちまち男の周辺の地面が盛り上がって腕の形を取り、男をむんずとわしづかみにする。 「おやおや……」 「あたしはあんたみたいなのと関わってる暇は無いんだよ。死にな!!」 フーケが力を込めると土くれの腕が男を締め上げる。普通ならこれですぐさま圧死してしまうはずであった。 しかし。 「まったく、気の強いお嬢さんだ」 「ば、馬鹿な!?」 なんと男は鉄柱でさえ握りつぶしてしまうほどの圧力を込められながらも笑っていた。 そして、男が軽く腕に力を込めると、土くれの腕は内圧から粉々に砕け散った。 「くっ、化け物め!!」 フーケはとっさに目の前の地面に魔法をかけて砂埃を発生させ、そのまま踵を返して走り出した。 悟ったからだ、この男は普通じゃない、このままでは危険だと本能が警鐘を鳴らしていた。 だが、走り出そうとしたフーケは10歩も走らぬうちに立ち止まってしまった。 「な、なんだ、ここはどこだ!?」 なんと周囲の風景が一瞬のうちに変わっていた。赤や青の毒々しい空間が回りを包み、今まで居たはずの町並みも貴族の屋敷も何も見えない。 「無駄だよ。ここはもう私の世界だ、どこにも逃げ道などはありはしない」 「なにっ、ぐわっ!?」 振り向く間もなくフーケは男に首筋を捕まれて宙へ持ち上げられた。フーケは振りほどこうとしたが男の手はびくともしない。 (なんて力……いや、それよりなんだこいつの手の冷たさは!? まるで体の熱が全部持っていかれるみたいだ……) 「やれやれ、大人しくしていれば手荒なことはしなくてもよいのに。言っただろう、私は君の味方だ、もっとも私の場合は貴族だけではなくて、人間という種そのものが嫌いだがね」 (やっぱり、こいつ人間じゃない!?) 抵抗する力を失っていきながら、フーケははっきりと恐怖を感じ始めていた。 だが、それでも残った勇気を振り絞って彼女は言った。 「な、何者だ、お前は?」 「おや、そういえばまだ名乗っていなかったね。失礼、私の名はヤプール、いずれこの世界を破壊する者だ」 「ヤ、ヤプールだと!?」 フーケもその名を知らないわけが無い。突然現れてトリステインを壊滅寸前に追いやった侵略者。 彼女はその様子を他人事、むしろいい気味だと思って見ていたのだが、なぜそいつが自分のところへ来るのだ。 「そう、我々はこの世界を見つけて手に入れることにした。ベロクロンは君達の国を難なく滅ぼせるはずだったのだが、あいにくこの世界にも邪魔者がいてね」 「邪魔者だと? それって」 フーケの脳裏に、あのウルトラマンAと呼ばれている銀色の巨人の姿が浮かび上がった。 「そう、ウルトラマンA、我々の不倶戴天の敵さ。奴を倒さなければ我々はこのちっぽけな国さえも奪うことはできない。だがあいにく今我々にはAを倒せるほどの超獣を作り出せるほど余裕が無くてね。そこで君に協力してほしいのさ」 「協力? ふざけるんじゃないよ!!」 「だから代わりに君の願いも叶えてあげようというのさ。なに、君はこれまでどおり怪盗をしていればいい。君には新しい力と、強い味方をつけてあげよう」 ヤプールがそう言うと、その手のひらに小さな光と、続いて黒い霧のようなものが吹き出して、黒い蛇のような形をとった。 小さな光はフーケの肩に止まり、黒い蛇はフーケの首筋に巻きついてうれしそうに首を揺らしている。 「ふっふっふっ、そうか、そいつの心の闇は気に入ったか」 「な、何をする気だ?」 フーケは恐怖に怯えながらもかろうじてそう言ったが、ヤプールはおぞましげな笑いを浮かべると冷酷に黒い蛇に命令した。 「さあ、乗り移れ、ガディバ」 「ひっ!! やっ、やめろぉーーっ!! わぁぁぁーーっ!!」 異次元空間にフーケの絶叫とヤプールの哄笑が響いた。しかし、誰もそれを聞いていた者はいない。 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第10話 変身宇宙人の謎を解け!! 四次元宇宙人バム星人 登場! 一兵士によってもたらされた、ザントリーユ城陥落の報はたちまちのうちにトリステイン城全体を駆け巡った。 ただちに、稼動全軍による奪還作戦が提案されて、王女アンリエッタやマザリーニ枢機卿ら、 王国首脳陣はこれを承認、城の中は先程までの集会の雰囲気も吹き飛び、出撃準備に追われる 貴族や兵たちでごった返していた。 しかし、魔法学院の生徒達には予備兵力として出撃の命令がかからず、生徒達は肩透かしを 食らった気分で仕方なく片隅に避難していた。 「まったく、せっかく手柄を立てるチャンスだっていうのに軍は何考えてんのよ。せっかくわざわざ 呼びつけたのはいざというときに使うためでしょうが」 「俺に言ってもしょーがねえだろう。移動用の幻獣も馬も足りないっていうんだから。それに ロングビルさんも言っていただろう? 学生をいきなり軍に入れても役に立たないって」 ルイズと才人は壁に寄りかかりながら、ぶつくさとぼやいていた。いや、正確にはルイズが ぼやいているのを才人が退屈そうに聞いていた。 ほかの生徒達はといえば、ギーシュは何人かの生徒たちといっしょになって宮廷の女官などの 値踏みをしてキュルケに白い目で見られたり、抗議しようと出て行った何人かの生徒は忙しく 駆け回っている衛士や傭兵に邪魔だと怒鳴られて、すごすご隅に引っ込んだりしていた。 「そういえば、お姫様は?」 「姫様なら、とっくにお下がりになられたわよ。そういえば、あんたはアンリエッタ姫殿下を 近くで見るのは初めてだったっけ?」 「ああ、以前ベロクロンに対抗するために集まったときはまだ大勢いたから、豆粒くらいにしか 見えないところでしか見られなかったからな」 才人はそう言いながら、間近で見たアンリエッタ王女の姿を思い起こしていた。一言で言うなら 清楚で可憐。王女様とかお姫様とかいう言葉がぴったり来る美少女だったことには間違いない。 もっとも、前に出てきたのは最初の演説のときだけで、後はマザリーニの後ろに控えていた だけだったから才人が感じた印象はその程度だった。 「姫様、少し痩せていらっしゃるようだったわ。きっと、国政に追われて苦労なさっておいでなのね。 おいたわしや、わたしにもっと力があれば、その苦しみの一端でも代わりに受けてあげられるのに」 ルイズはまるで自分の身が切られたかのように、沈痛な表情で祈るようにつぶやいた。才人は、 それがルイズがつねづね言っている『貴族の義務』なんだろうなと勝手に解釈して、そんなことより あれで痩せてるんだとしたら、元はどれだけふくよかな体つき、特に胸をしていたんだろうかと不埒な 想像をしてほおをゆるめながら、目の前の混雑に眼を向けた。 人の流れは、おおむね出撃のために外へ向かうものと、居残りで城に残るために城内の詰め所などに 向かうものの二通りに分かれていた。出番が無くて同じようにふてくされた表情を浮かべた傭兵が 何人か城の奥へと入っていく。 やがて、城外から竜やマンティコアの羽音、馬のひづめの音が一斉に響いてきたかと思うと、 ゆっくりとそれが遠ざかっていった。 ほとんどの部隊が出払ってしまった城内は、水を打ったかのようにしんと静まり返っていた。 生徒達は、予備軍という名目上、城の一室を与えられて不貞寝したり仕方なしに雑談で時間をつぶしたりしている。 才人とルイズはそんな中で簡素なベッドに腰を下ろして、才人はあくびをしながら、ルイズはイライラとシーツの ほつれをむしりながらすごしていた。 「留守番部隊か、退屈だねえルイズさん」 「言わないで、みじめになるだけだから……ああ、まったく腹が立つ!」 「おっ、おいルイズどこ行くんだよ」 突然立ち上がり、大股でどしどしと出口へ向かうルイズを才人は慌てて呼び止めた。 「見回り、城内に不貞なやからが入り込んでいないか見回るのも陛下の臣の仕事よ。この際あんたも来なさい!」 「あっ、いてて! 耳を引っ張るな!」 どう見てもうさばらしでしかないが、同じように退屈していたキュルケはこれを見逃さず、すかさず タバサの手をとって立ち上がった。 「ダーリーン、出かけるならあたしも連れてってえ。ねえタバサ、あなたも行きましょ、こんな部屋にいたって腐るだけよ」 「……(黙ってついて行く)」 こうして男くさい部屋を抜け出した4人は、見回りと銘打った退屈しのぎの散歩に出かけた。 だが、城というのは若者の目を楽しませるようにはあまりできていないうえに、重要な箇所には当然 見張りの兵がいて、中庭や広間など当たり障りの無い場所をぐるぐると回るだけで、すぐに飽きが来てしまった。 「異常なしと、退屈だねえルイズさん」 「言わないで、みじめになるだけだから……てかあんたわたしにケンカ売ってるの!?」 しれっと他人事のように言う才人に、ルイズの怒りはもうやばいところまで来ていたが、爆発を起こす ことだけはなんとか理性がストップさせていた。ここでもし派手に才人を吹き飛ばして王宮に損害でも 与えたら立場が悪くなるのは自分である。またあの銃士隊のようなのに取り囲まれるのはごめんこうむりたい。 また、退屈なのはあとのふたりも同じなようで、キュルケは器用に歩きながら化粧をして、タバサは本から まったく目を離さず、しかし頭にレーダーでもついているのか正確にキュルケのあとを着いてきていた。 「ねーえルイズ、あんたいつまでぐるぐる回ってるつもり? いい加減歩きつかれてきちゃったわよ」 見ると、太陽がずいぶん西に傾いている。地球時間にしたらおよそ4時、今頃は出撃した部隊も目的地に たどりついているころだろう。 「…………」 ルイズは答えない。いや、耳を澄ますとギギギギと歯軋りをする音が聞こえる。さすがの才人もそれが 危険信号だということに気がつき、さりげなく2歩ほどルイズから距離をとった。 と、そのとき通路の正面からひとりのメイドが現れた。 「ん、おおお!?」 才人は反射的にそのメイドに視線が釘づけになってしまった。なぜなら、その娘は淡い金髪を後ろで ポニーテールにまとめて、大きな瞳に小さな唇の美しい少女で、なにより胸がキュルケに匹敵するほどあった。 さらにそんな娘がメイド服で、なにやら荷物らしい重そうな木箱をよいしょよいしょと健気な顔で一生懸命 運んでいる姿を見せられては、一般的な青少年である才人が反応してしまうのも無理ないところであろう。 ただし、それが彼一人だけのときであればよかったのだが。 「ちょっと、そこの使い魔ぁ! いや、犬! ご主人様が大変だってときに、何を見てデレデレしてんのよぉぉ!!」 殺気を感じたときにはもう遅い、むしろ下手に距離をとっていたために助走距離がついたルイズの鞭が、 振り返る暇も無く才人の後頭部にクリーンヒットした。 「だはっ!!??」 ルイズの怒りの直撃を受けた才人は目の前が真っ白になっていくのを感じながら、前方へ向かって吹っ飛ばされた。 それはもう、才人が野球のボールだったらホームラン間違いなしといった勢いで、その結果彼はバックスクリーン ならぬ、当のメイドに頭から突っ込んで、もみくちゃになりながら大理石の床に投げ出された。 「あーあ。ルイズったら、少しは手加減ってものを覚えなさいよね。大丈夫、あなた?」 キュルケはルイズの怒りのとばっちりを受けることになってしまった不運なメイドに手を差し伸べた。 本当は才人に手を貸したかったのだが、今のルイズの怒りは触れば火傷どころでは済みそうに無い。 火遊びは引き際を心得ていてこそ楽しめるのだ。 「ああ、ありがとうございます。ちょっと野菜が散らばっちゃっただけですから」 そのメイドは、上品に会釈して、木箱の中に入っていた野菜を集め始めた。キュルケも、見ているだけ なのもなんなので手を貸して人参やらトマトやらを拾い集めた。 「やれやれ、ずいぶん広く散らばっちゃってるわね。これとこれと……あら? これはなにかしら」 散らばっている野菜の中に、ひとつだけ妙な金属光沢を放つ物体を見つけて、キュルケは思わずそれを 手にとって見た。大きさは長さ20サント、直径10サントほどの銀色の円筒系、すみのほうには妙な突起物が いくつも飛び出ていて、他にも無数に取り付けられた赤や青の小さなガラス球が内側から明滅していた。 キュルケは、それがなんなのかあちこちから観察してみたが、自分の知っているなにとも似ていないそれに、 ただ首をかしげて、本の虫で知識量なら自分を超えていると思っているタバサにもそれを見せてみたが、 無言で首を横に振られ、仕方なく持ち主であろうメイドの少女に、それを返して聞くことにした。 「ねえ、あなた。これそこに落ちてたけど、あなたのかしら?」 「え? ……あ、か、返してください!!」 メイドの少女はまるでふんだくるようにキュルケの手から、そのカプセルを取り上げた。 「うわぁっ!? ちょ、何するの……よ!?」 キュルケは、そのメイドの顔のあまりの変わり様に驚いた。先程までの清楚な雰囲気は無くなり、眼が 血走り殺気だって奪い取ったカプセルを大事そうに抱えている。 「も、申し訳ありません。これはわたしの国の大事なお守りなんです。だから、貴族様といえどもこれだけは」 「そ、そう。すまなかったわね」 彼女の剣幕に、さしものキュルケも押されてそれ以上の追求はできなくなってしまった。違和感は残るが、 どこかの地方のお守りと言われれば自分が知らなくても仕方が無い。 それに、メイドをいじめて喜ぶなどという三流貴族のようなつまらない風評が立つのはまっぴらだった。 だがそのとき、ルイズにせっかんされていたはずの才人がふたりの間に突然割って入ってきた。 「いや、ちょっとそれ見せてくれないか?」 「え?」 「俺の国の道具にちょっと似てるんだ。よかったら見せてくれないかな、よく見たらなんのための道具なのか わかるかもしれないから」 才人はそう言って、にっこりと笑いながらメイドに向かって手を出してみせた。 「サイトぉ、あんた人が言ってるそばから! よっぽど死にたいようね!!」 「ルイズ、ちょっと黙っててくれ!」 「え!?」 普段の才人なら決して見せない強い言葉に、思わずルイズも鞭を振りかざしたままその場に止まってしまった。 そしてキュルケとタバサは気づいた。今才人はメイドに向かって笑顔を見せているが、それはいつもの しまりの無いでれでれしたものではなく、冷たく貼り付けられた作り笑いであることに。 「なあ、別に取りはしないさ。少し見せてくれるだけでいいんだ。それとも、見られたらまずい訳でもあるのか?」 その言葉に、メイドはカプセルを握り締めながら、明らかに顔から血の気が引き、冷や汗を流し始めた。 「い、言っていることの意味がわかりませんが……」 「そうか、それなら……」 才人は1歩、2歩とゆっくりと後ろへ下がり、懐へ手を伸ばし、そして。 「これなら分かるだろう!!」 すばやくガッツプラスターを取り出し、銃口をメイドに向けて構えた。 「!?」 ガッツブラスターを見たメイドは一瞬恐怖を顔に浮かべて、まるではじかれるかのように後ろへ飛びのいた。 だが、それより速く、才人の左手の、あらゆる武器を使いこなせるというガンダールヴのルーンが光り、 照準をメイドの胸へ向けて正確に合わせ、その瞬間ルイズたちも才人がなにを考えているのか瞬時に理解した。 「ダーリン、何を!?」 「……!?」 「サイト、やめ……」 しかし、ルイズの静止の言葉が放たれる前に、才人の指はガッツブラスターの引き金を引き絞り、 怪獣にも傷を負わせられるエネルギービームがメイドの心臓を貫通した。 「……がふっ」 メイドは短く断末魔を残すと、ゆっくりと前のめりの倒れ、絶命した。 「……あああああ、あんた、いいいいいい、いったいなにをしたのかかかかかか」 ルイズはあまりの出来事に言葉がうまく出てこない。タバサとキュルケも才人がまさか気がふれて、 しまったのではないかと、ただ呆然と突っ立って見ているだけだ。 それに対して、人をひとり撃ち殺したはずの才人はいつもと変わらない様子でメイドの死体を見下ろしていた。 「あああ、あっ、あんた、自分が何をしたかわかってるの!? 恐れ多くも王宮を人の血で汚すなんて! あんたなんて、もう使い魔でも何でもないわ! この人殺し! こうなったら、せめてわたしの手で、あんたを 殺してやるわ!!」 ルイズはがくがくと震えながらも、怒りと絶望の混じった声で才人に杖を向けていた。 しかし才人は毅然として態度で。 「人の血ね。だったら、こいつをよく見てみろ!」 才人はメイドの死体に足を引っ掛けると、うつぶせに倒れているそれを勢い良くひっくり返した。 「なっ!?」 その死体の顔を見てルイズとキュルケだけでなくタバサまで驚愕に顔を引きつらせた。なんと、メイドの顔は さっきまでの少女のものではなく、冷えた溶岩のように黒々とした皮膚に節穴のような目鼻がついた怪人の それへと変わっていたのだ。 「あ、亜人?」 「……違う、ハルケギニアにこんな姿の種族はいない」 キュルケとタバサも愕然として怪人の死体を見つめていた。そして、怪人、いままでメイドだったものは 突然青白い炎に包まれると、まるで空気に溶け込むように服だけ残して、跡形も無く消えてしまったのだ。 「な? ななななな、なんなのよ、これはあ!?」 あまりに信じられない事態に、ルイズはパニックに陥りながらも才人に問い詰めた。 「落ち着け、驚かせて悪かった。説明してる余裕がなかったんだ。こいつは、ザントリーユ城に現れた奴が メカギラスだとすると、多分四次元宇宙人バム星人だ」 「ヨ、ヨジゲンウチュウジンバムセイジン?」 「あー、無理せずバム星人っていえばいいから。星人っていうのはウルトラマンと同じ、遠い星から来た 奴らの総称で、バム星ってところから来たからバム星人っていうんだ。姿は記録にないんだけど、 昔メカギラスを操って俺の国を襲ってきた宇宙人だ」 才人は昔見た怪獣図鑑のメカギラスの写真の隅に書かれていた宇宙人の名前を思い出して、 できるだけルイズたちにわかりやすいように説明してみた。 バム星人は、地球の資料にはその姿が残されていない。なぜなら、彼らは四次元空間に潜み、 メカギラスのみを現実世界に出現させて攻撃するという戦法をとっていたからで、残されている資料も そのとき偶然バム星人の異次元空間へ迷い込んだ、UGMの矢的猛隊員の証言が元になっているからだ。 「そいつが、メイドに化けて城に侵入してきてたっての。でもよくあんたこいつの正体がわかったわね」 「それは簡単だ、これさ」 才人は、星人の服の下から例のカプセルを取り出した。 「こんな機械、ハルケギニアの技術力じゃ絶対作れっこない。そんなものを大事に抱えていたら怪しいさ」 「けど、もし間違っていたらとか考えなかったの?」 「だから、わざわざガッツブラスターを抜いて見せ付けてやったんだ。おまえらも最初にこれを見たときは レーザーガン……いや、そんなすごい武器だとは思わなかったろ。大慌てで逃げ出したから、こいつは 人間じゃないと確信したんだ」 なるほどと、3人は目を丸くした。 「あんたって、たまに冴えてるわよねえ。で、それって一体なんなの?」 だが、そう言われても、ただの学生であった才人に宇宙人の機械の正体なんぞわかるわけも無い。 才人は何も言わずに指で自分の胸をトンと突いた。心の中のエースを呼び出すときの合図だ。 (エース、聞こえてますか?) ふたりは同時に、心の中に眠っているウルトラマンAへ向かって呼びかけた。 (ああ、一部始終は君達の目を通して見ていた。しかし才人君、無茶をするな。相手が脆弱な宇宙人 だったからよかったもの、相手によっては殺されていたぞ) (す、すいません……) 思わぬ手厳しいエースの言葉に、才人は父親に叱られたときのようにびくりとなった。 パム星人は変身能力がある以外は人間並みの身体能力しかない弱い宇宙人である。 実際以前も矢的隊員ひとりに敵わずに倒されてしまっており、同じような変身能力を持つ星人や怪獣は おおむね戦闘能力の低い者が多いが、中にはバキシムやコオクス、アンタレスといった強豪もおり、 そんな相手に下手に武器を向けたら返り討ちにあって皆殺しにあう可能性も否定できないだろう。 しかしルイズにとってはそんなことはどうでもよく。いいかげんにイライラしてきているようだった。 (あーもう!! ちょっと! この馬鹿犬はあとでわたしが叱っておくから、結局その機械はなんなの!?) しびれを切らせたルイズの怒鳴り声がエースと才人の耳を打った。いや、精神での会話だから テレパシーでなのだが、それでも怒ったときのルイズの声の迫力はすさまじかった。 (そ、そうだな。恐らく、それは誘導電波の発信装置の一種だ。TACに居たころ兵器開発部の梶隊員が 同じようなものを作っていたのを見たことがある) エースはウルトラマンであると同時に、地球人北斗星司でもある。彼がTAC隊員として培ってきた 経験と知識は今でも健在だ。 (誘導装置? ってことは、奴らはこれを使ってメカギラスを!?) (多分そうだろう) 才人はエースから装置の正体を教わり、バム星人たちの企みを知って冷や汗が出てくるのを感じた。 しかしルイズは誘導装置とか言われても、なんのことやら意味がわからず困惑していたが。 (ちょっと、あなたたちだけで納得してないで、ちゃんと説明しなさいよ) (簡単に言えば、怪獣を呼び寄せる機械だよ) (なるほどね、最初からそういえば……って、えええええ!?) 簡単も簡単、とてつもなくわかりやすい答えだった。 (そうだ、ザントリーユ城を襲撃したのは、辺境へ軍の主力をおびき寄せる陽動だ。バム星人の 狙いは手薄になったこのトリステイン城だ) (ちょっと! ここには王女殿下や王室の方々や国の重鎮が揃ってるのよ。魔法衛士隊もほとんど 出払ってる今を狙われたら!!) 魔法衛士隊が残っていたなら、最悪城は破壊されても王室関係者らは逃すことができるだろう。 しかし、完全に城が無防備な今を襲われたら、トリステインは間違いなく今日この日を持って 歴史に幕を閉じることになる。 (装置がこれ一個とは限らない。急いで探すんだ!) (わ、わかった) エースはふたりを叱咤すると、再び心の中へと消えていった。 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第32話 宇宙正義の守護者 (後編) サボテン超獣 サボテンダー ウルトラマンジャスティス 登場! 超獣、それは異次元人ヤプールが惑星攻撃用に地球の生物と宇宙怪獣を超獣製造機で合成して作り上げる 生物兵器で、文字通り怪獣を超えた生物である。 今、力を取り戻しつつあるヤプールは異次元世界で新たに開発した超獣製造機を使い、ベロクロン、ホタルンガを はじめ、次第にその数を増しつつ、ひそかに地上に送り込んでいた。 このサボテンダーもその一つ、しかしまだ不完全な力しか持たないヤプールは最初から完全体としてサボテンダーを 作り出すことができず。エネルギー充填のために小さなサボテンの姿で送り出した。 奴は可憐な花で人の目を騙しながら人から人へと渡り歩くたびに、昆虫、動物、さらには人間を次々に捕食しながら 成長し、遂にこのウェストウッド村でスコーピスのエネルギーを吸収することによって完全体となって巨大化したのだ。 しかし、その前には宇宙正義の守護者、ウルトラマンジャスティスがいた。 今、時空を越えた宇宙正義と宇宙悪との最初の戦いが始まろうとしている。 「ダアッ!」 サボテンダーに向かってウルトラマンジャスティスは果敢に挑みかかっていく。本来ならその星の原住生物との 交戦は避けたいところだが、明確な敵意を持って向かってくる以上迎え撃たないわけにはいかない。それに、 この怪獣をそのままにしておいてはウェストウッド村にまで被害が出るだろう。 「ファッ!!」 胴体の棘の隙間を狙ってジャブの連撃を見舞う。 ジャスティスにとっては軽い攻撃だが、一撃一撃は岩をも砕く鉄拳だ、巨大なバチで叩かれる太鼓のように 柔らかいサボテンの表皮がへこまされていく。 そう、ジャスティスの戦い方は常に真っ向勝負、いかなる敵であろうとも正面から戦って粉砕する。 しかしサボテンダーもやられっぱなしではなく、鋭い棘で覆われた腕を振り下ろして反撃に出てきた。 「シャッ!」 とっさに受け止めると、腹に蹴りをくれてジャティスはサボテンダーを引き離した。 けれど、距離が開いたのを見るとサボテンダーは全身の棘をまるでミサイルのようにジャスティス目掛けて 放ってくる。 「!?」 側転してかわしたジャスティスのいた場所にトゲミサイルは着弾して、派手な爆発を引き起こす。 しかも、発射した棘は後から後からいくらでも生えてくる。触るな危険みたいな見た目をしているにも反して 意外にも飛び道具も豊富なようだった。 けれど、そのときジャスティスの耳に子供達の応援する声が届いてきた。 「頑張れー! ウルトラマーン」 「負けるなーっ!!」 「怪獣をやっつけてー!!」 その声援を背に受けて、ジャスティスはトゲミサイルを乱射するサボテンダーに向き直り、右手から必殺の 破壊光弾を一瞬の虚を突いて放った! 『ジャスティスマッシュ!』 光弾はトゲミサイルとぶつかり合い、これを粉砕しながら前進してサボテンダーの腹に命中! 牽制程度の 技だが、命中の爆発でサボテンダーは痛覚神経を熱と衝撃で過剰労働させてもだえた。 もちろん、その隙を見逃すようなジャスティスではない。 「デュワァッ!!」 猛々しい叫びをあげると、サボテンダーの胴体の中央部に向けて必殺のパンチを炸裂させる。 これはさっきの様子見のジャブではなく、渾身の力を込めた正拳突きだ。拳の形に大きく胴体をめり込ませ、 内臓破壊にまで達する超重量級の一撃に、サボテンダーははじかれるように吹っ飛ばされる。 だが、ジャスティスは追撃の絶好の好期であるにも関わらずに、立ち尽くしたままじっとサボテンダー を見ていた。 (これでもう敵わないのはわかっただろう。早く逃げるがいい……) なんとジャスティスは目の前の怪獣を殺す気は最初から無く、力の差を見せ付けることで逃がそうと 考えていた。宇宙の調和を守る存在であるがために、スコーピスのような完全な悪はともかく、多少凶暴で あろうと現住生物の無用な殺戮はすべきではない。 それは、ジャスティス自身の使命感と……かつて会った怪獣保護という夢を追い続け、信じれば夢は 叶うということを教えてくれたある男に対する礼の気持ちもあった。 だが、その怪獣は自然と調和することのできる怪獣ではなく、悪意から産み落とされた破壊の権化、超獣だった。 奇声を上げ、地面で這いつくばっていたサボテンダーの体から手足と尻尾が引っ込み、見る見るうちにその姿が 怪獣型から球状のサボテンの形に変形していく。 「ヘヤッ!?」 いぶかしむジャスティスの前で、サボテンダーは球体の体をまるでサッカーボールのように飛び跳ねさせると、 空中からジャスティス目掛けて体当たりを仕掛けてきた! 「ヌウォッ!?」 とっさに受け止めて放り投げるが、サボテンダーはまるで見えないゴム紐でつながっているように再び ジャスティス目掛けて飛び掛ってくる。これは避けきれないと判断したジャスティスは、向かってくる サボテンダーに渾身の蹴りで迎え撃った! 「ヌウァッ!!」 超重量の物体同士が高速で衝突する轟音と衝撃波が、夜の森とティファニア達の顔をしたたかにひっぱたいた。 サボテンダーの球体は蹴られた衝撃で、サッカーボールのように飛んで森の木々を巻き込みながら転がり、 なおもUターンしてジャスティスへと迫ってくる。 「クッ!」 ジャスティスがうめいた。 だめだ、このままでは埒があかない。それにしても、この怪獣はいったいなんなのだ? 動物と植物の 特徴を合わせ持っているだけでなく、恐るべき凶暴性を持っている。 (ともかく、このまま放っておくわけにはいかん) 普通の怪獣とは何かが違う……そんなひっかかるものを感じながらも、ジャスティスは転がってくる サボテンダーに向かって身構えた。 「ヘヤッ!!」 突進を正面からがっしりと受け止め、渾身の力で勢いを殺す。 「ヌゥゥ……デヤァッ!!」 止まった球体を、そのまま大地に叩き付けて動きを封じる。 しかし、サボテンダーはその叩き付けられた衝撃さえ利用して、鞠のように空高く跳ね上がった。 「ヌッ!?」 思わず空を見上げるが、さしものジャスティスも頭上は死角だ。まっ逆さまに落ちてきたサボテンダーを 受け止めきることができずに、強風を受けた看板のように弾き飛ばされてしまった。 「ウォォッ!!」 思わぬ攻撃を受けてしまったジャスティスは、膝を突いてダメージになんとか耐えようとした。 超獣の恐ろしいところは、単にそのパワーが怪獣を超えているということではない。兵器として改造された、 その特有のトリッキーな特殊能力の数々がやっかいなのだ。 もし、普通に怪獣としての形態のままで戦えば、サボテンダーはジャスティスにとってそれほど面倒な相手では なかっただろう。しかし、相手の虚を突く超獣との戦闘経験が無かった事がジャスティスにとって不利な要素と なっていた。 「がんばってーっ、ウルトラマーン!」 「立ってーっ」 けれど、そんな中でも子供達のウルトラマンを応援する声はやむことはなかった。 みんなウルトラマンの勝利を信じて、テファも子供達を守りながら、ぐっと目をそらさずに戦いを見守っている。 (だめだ、逃げろ!) しかしジャスティスはそんな声援をうれしく思いながらも、それが危険であると感じていた。 なぜなら、ジャスティスに聞こえるということは怪獣にも聞こえるということだからだ。 「わっ、超獣がこっちに来る!」 「みんな、逃げて!」 球形から怪獣型に戻ったサボテンダーは、村のほうへ向けて進撃を開始した。 聞き苦しい鳴き声をあげながら、鋭い牙の生えた口が不定形に不気味によだれをたらしてうごめく。 だが、そうはさせじとジャスティスは背後からサボテンダーに飛びついて歩みを止めようとする。 「テヤァッ!!」 後ろから羽交い絞めにし、村へと向かうのを阻止し、そのまま無理矢理に振り向かせて、首根っこを押さえて 地面に引き倒す。 が、サボテンダーもただではやられない。仰向けに倒れこんで、追撃をかけるためにジャスティスが覗き込んだ 瞬間、木の洞のような口から真赤な鞭のような舌が伸びてきてジャスティスの首に絡まって締め付け始めた。 「ウォォッ!!」 鉄塔でもつぶしてしまいそうな圧力で首を絞められて、ジャスティスは首を押さえてもだえた。 その隙にサボテンダーはむくりとビデオの逆再生のように起き上がると、右に左にと舌を振り回してジャスティスを 苦しめ、投げ捨てるように勢いをつけて放り出した。 「ガァァッ!!」 森の木々を巻き込みながら、吹き飛ばされたジャスティスは森の中に倒れた。 なんという怪獣だ……倒れたジャスティスの脳裏に、長年の戦闘経験が警鐘を鳴らすが、首を絞められたダメージで 頭が朦朧とし、なかなか立ち上がることができない。 その間にも、サボテンダーは絶好の餌場とみなしたウェストウッド村へ、ティファニアと子供達の元へと迫っていく。 「ウルトラマンがやられたっ!」 「わっ、こっちに来るな!」 「お姉ちゃん、怖いよお」 悲鳴をあげて逃げていく子供達の後ろから、サボテンダーは彼らの家や畑を踏み潰しながら迫ってくる。 「みんな、頑張って走って!」 ティファニアは子供達の背を押しながら、隠れる場所のある森のほうへと走っていく。 けれど、サボテンダーはジャスティスを絞め倒した長い舌を伸ばして、子供達を捕まえようとしてきた。 「みんな、伏せて!!」 とっさに子供達の上に圧し掛かって、地面に押し倒したティファニアの上を毒々しい赤い舌が風を切りながら 通り過ぎていった。あと一瞬遅ければ、5、6人はまとめて捕らえられていただろう。 けれど、空振りしたはずの舌はそのままその先にある一本の立ち木に絡みつくと、深く根を張っているはずの それを、まるで雑草のように軽々と引き抜き、ティファニア達の上に大量の土を降らせた。 「わーん!!」 そのとき、恐怖に押しつぶされそうになった一人の子が、ティファニアの腕を振り切って走り出してしまった。 「待って!! そっちに行っちゃだめ!!」 その子は怖さのあまり、見晴らしのいい畑のほうへと逃げ出してしまった。 当然、サボテンダーがこれを見逃すはずはなく、子供の足では速さもたかが知れている。獲物を狙う蛇のように、 長い舌がスルスルとその子の背後から迫った。 「やめてーっ!!」 ティファニアの絶叫が森にこだまする。 だが、食欲に濡れた舌が、子供の小さな体に巻きつく寸前、ティファニアの手がその子の体を突き飛ばし、畑の 柔らかい土の上に倒れこんだその子は無傷で助かった。 しかし…… 「あっ!! テファお姉ちゃーん!!」 そう、狙った獲物を空振りしたはずのサボテンダーの舌は、その代わりにもっと大きくてうまそうな餌を捕らえていた。 飢えて唾液に濡れた舌がティファニアの華奢な体にがっしりと巻きつき、その身の自由を完全に奪って、そのまま 奴の口の中へと抗いようもない力で引き込み始めた。 あの鋭い牙の生えた口の中に放り込まれたら、人の体などひとたまりもなく噛み砕かれてしまうだろう。けれども、 自らの命が危機に立たされているというのに、ティファニアの口から出たのは悲鳴ではなく、最後まで子供達の ことを思う言葉だった。 「みんな、早く逃げて!!」 「お姉ちゃーん!!」 子供達は喉も割れんと叫ぶが、どうすることもできない。 そして、ティファニアの体がサボテンダーの口に飲み込まれようとした。その瞬間!! 「デヤァァッ!!」 まさに刹那、立ち上がったジャスティスの腕がサボテンダーの舌を掴み、寸前のところでティファニアが飲み込まれる のを防いでいた。 「ジュリ……さん」 「ウルトラマーン!! お姉ちゃんを助けて!!」 子供達の心からの叫びがジャスティスの耳を打つ。 その拳に渾身の力を込めて、ジャスティスはティファニアを捕まえたサボテンダーの舌を引きちぎった!! 「ヌォアァッ!!」 はじける音とともに、サボテンダーの舌は真っ二つに千切れ飛び、神経の集合地を破壊されたサボテンダーの 脳はキャパシティを大幅に超える激痛に襲われて、敵のことも忘れて地面をのた打ち回った。あれでは しばらくは反撃してはこれないだろう。その間に、救い出されたティファニアはジャスティスの手のひらに乗せられて、 子供達の前にゆっくりと降ろされた。 「ありがとう……ございます」 ティファニアは、自分に抱きついて泣いて喜ぶ子供達の背を抱きとめながら、ジャスティスの姿をいとおしげに 見上げて、心からの礼を言った。 そして、ジャスティスの心にもティファニアの姿がかつての記憶と重なって見えていた。 (自らの命を犠牲にしても……仲間のために……これが、この星の生命か!) このとき、ジャスティスはティファニアの中に、未来へつながる希望を持つ者の姿を見た! サボテンダーは、発狂するほどの激痛にもだえながらも、それをジャスティスへの怒りと憎しみに変えて 猛然と突進してくる。 だが、ひとつの決意を定めたジャスティスは悠然と立ち上がると、迫ってくるサボテンダーへ向けて両腕を 顔の前に構え、全身のエネルギーをそこに集中させた。 「フゥゥ……」 エネルギーはジャスティスの目の前で、太陽のような眩い輝きを放つほどに凝縮されていき、一瞬の 覇気とともに両腕を突き出したとき、それは金色に輝く超破壊光線となってサボテンダーに向かった!! 『ビクトリューム光線!!』 正義の光の鉄槌が、邪悪な超獣に下される。 命中の瞬間、膨大な熱量と衝撃を送り込まれたサボテンダーは、全身から炎を吹き上げながらのたうち、 やがて雷に打たれた巨木の最後のように、ゆっくりと倒れると、その破片の一片すら残らないほどの火炎に 包まれ、大爆発を起こして吹き飛んだ!! 「やったあ!! ウルトラマンが勝った」 「かっこいい!!」 微塵となったサボテンダーの炎に照らされて、子供達ははじめて見るウルトラマンの戦いと勝利に興奮して、 飛び上がらんばかりに喝采をあげている。 しかし、戦いには勝ったが、ジャスティスの心は晴れなかった。 (やったか……しかし、この怪獣はなんだったのだ?) 自然に生息する怪獣とは違い、ただ破壊と食欲にのみ従って動く生物、確かに宇宙にはそうした凶悪怪獣の 類は存在するが、この星に元々生息していたとは思いにくい。 不可解なものを残し、ジャスティスはこのままこの星を立ち去ることをよしとは思えなかった。 「デュワッ!!」 ジャスティスの体が光のリングに包まれると、それが収束して、やがてジュリの姿へと戻っていった。 「ジュリさーん!!」 ティファニアと子供達が息を切らせて走ってきた。 「無事だったか」 「はい、おかげさまで……ありがとうございます」 誰もこれといって怪我などはしていないようだ。特に子供達はあれだけのことがあったというのに、ジュリに 囲んでうれしそうに、テファお姉ちゃんを助けてくれてありがとうと元気そうにはしゃいでいる。 「お前達、私が怖くないのか?」 「えっ? なんで」 「テファ姉ちゃんを助けてくれた人が悪い人なわけないじゃない」 「すっごくかっこよかったよ!」 試みに聞いてみた問いだったが、何の屈託もなく子供達はジュリの存在を受け入れていた。 ここの子供達には、未知のものを受け入れるだけの器の深さがある。それは本来人間誰もが持っている ものだが、成長するにつれて徐々に好奇心より恐怖心が勝っていく。けれど、彼らにはまだそれが残っていた。 「よい親を持ったものだな」 「えっ?」 「なんでもない……それよりも、お前も無事でよかったな」 ジュリにそう言われ、ティファニアは泥と唾液で汚れた自分の服を見て、改めてジュリに頭を下げた。 「さっ、先程は本当に、命を助けていただいて、どうもありがとうございました。みんなが無事なのは、 ジュリさんのおかげです」 「私は自分の使命に従っただけだ。子供達を守ったのは、テファ、お前だ」 それはジュリの偽らざる本心だった。たとえ戦う力がなくとも、誰かを守ろうとするために立ち向かう勇気は 何にも変えがたい強さとなる。 「だが、テファ……このあたりにはああいう怪獣が出ることがあるのか?」 「いっ、いいえ、これまでには一度も……アルビオンには超獣は出ないって、行商人さんも言ってたんですけど」 「超獣? 怪獣ではなくてか?」 聞きなれない単語にジュリの眉が触れる。 「はい……私も人づてに聞いた話なんですけど……今、違う世界からヤプール人っていう人達が、この世界を 侵略しようと、超獣というのを送り込んでくることがあるそうなんですが、わたしはこの森から出たことが ありませんので……それ以上は」 「ヤプール人……か」 なるほど、あの怪獣も侵略用の怪獣兵器の一種だと考えれば、特異な能力や際立った凶暴性も納得がいく。 しかし、この星に怪獣を改造して兵器化できるほどの科学力があるとは思えない……違う世界からの侵略者、 異星人による侵略攻撃かと、ジュリは判断した。 それに、そういえばスコーピスがこの星へと進路を変えたのも突然だった。偶然にしてはできすぎている。 となれば、この星にさらに多くの宇宙怪獣がやってくる可能性もある。 「どうやら、このまま戻るわけにはいかなくなったようだな」 宇宙正義を守る者として、侵略行為を見過ごすわけにはいかない、ジャスティスはその侵略を阻止するべく、 この星に残ることを決意した。 だが、その言葉を拡大解釈したティファニアと子供達は、ジュリがこの村にずっといてくれるものと思ってしまった。 「えっ、ジュリさん、ずっとここにいてくれるんですか!? よかった」 「ぬ? いや、私はこの星にとどまると言ったのだが」 しかしティファニアはともかく、子供達のほうの喜びはすごかった。口々に歓声をあげてジュリに抱きついて、 話を聞いてくれそうもない。 といっても、それで考えを変えるほどジュリの意思は弱くない。子供達が落ち着くまで少し待って、改めて ティファニアに言った。 「……この星になにが起こっているのか、私は見てまわるつもりだ。悪いが、お前達といっしょにはいてやれない」 「あぅ……やっぱり、そうですか……」 とたんに、ティファニア達の顔が暗く沈んだ。 しかし、侵略者の存在が明らかになった以上、ここに居続けるわけにはいかない。一刻も早く侵略者の正体を 掴まなくては、宇宙の秩序が暴力によって捻じ曲げられてしまう。 「それで、これからどこに?」 「特に定めていない。しかし、敵の目的がこの星そのものであるならば、いずれ出会うこともあるだろう」 ウルトラマンであるジュリ、ジャスティスにとって時間というものはさして問題のあるものではない。食事や睡眠も、 特に必要とはしないために、そのあたりの感覚がティファニア達とは違ったが、それを聞いたティファニアは、 はっと思いついたことを思い切って言ってみた。 「じゃ、じゃあ……ずっといてもらうのは無理でも、この村を、きょ、きょ……拠点にしてみてはいかがですか?」 「どういうことだ?」 いぶかしげに聞くジュリに、勇気を出してティファニアは説明を続けた。 「えっ、えっと、この村は大陸の真ん中にあって、どこに行くにも便利ですし……行商人の人もあちこちの情報を 持ってきてくれますから、探し物にはちょうどいいんじゃないかと……わたしもここに来る人に、今度からいろいろ 聞いてみますから、ここを中心にすれば効率よく探せるんじゃないかな、と思ったんですが」 「ふむ……」 確かに、むやみに探し回るよりはそのほうが情報を得やすくはある。 ジュリはティファニアの顔をじっと見つめた。世間知らずそうで、実際そうなのだが、頭の回転は人並みに あるようだ。いや、その中に隠された本当の気持ちは見え見えなのだが…… 「あの……」 ティファニアと子供達のじいっと見つめる目がジュリに集中した。 数秒か、数十秒か、ジュリの答えを待つ沈黙の時間が流れ、そして。 「わかった。ずっとは無理だが、定期的にここに立ち寄ることにしよう」 「!! はい!! よかったねみんな」 子供達はそれを聞いて、今度は万歳三唱しながら喜んだ。 しかし、これからは約束どおりに情報収集でジュリの役に立たなければならない。ティファニアは、これまで ハーフエルフだからということで、できるだけ外の世界と触れ合わないようにしてきたが、これからは村の 外には出れなくとも、外交的に人を招いて話を聞かなくてはならない。 ただ、ズレているという点ではある意味ジュリもいっしょのようだった。 「では、私は出発する」 「ええーっ!!」 一斉に抗議の大合唱が唱和された。当然である、まだ夜も明けていないのだが、ジュリにとっては昼も夜も 関係がない。人間とは視点が大幅に違うゆえの感覚のズレだった。 かといって、引き止めるにも相応の理由がいる。ティファニアはここぞとばかりに、普段使っていない頭を 総動員して考えた。 「ちょ、ちょっと待ってください。あの、出発する前に……わたしたちの家が、さっきの戦いで壊れちゃったんですが、 建て直すの手伝ってもらえませんか?」 「なに、そうか……だが、私には寄り道をしている余裕はないぞ」 「はい……エマの家はジュリさんが倒れこんだときに壊れたのに……裏の畑についた足跡は……」 「……」 ジュリは返す言葉を失った。超獣を倒すためには仕方なかったとはいえ、厳然たる事実だからだ。 子供達も、そうだそうだと言わんばかりに無言でジュリを見ている。色々言われるよりも、その視線のほうが 責任感の強いジュリにはとても堪えた。 こんなとき、彼なら破壊された建物を修復できるのにとジュリは思ったが、あいにくジャスティスにはそういった 能力は残念ながらなかった。 「ふぅ……家を建て直したら、すぐに出立するからな」 やった!! という大合唱がジュリを取り囲んだ。 してやられたか……と目の前でにこやかな笑顔を浮かべている長い耳の少女を見つめてジュリは思った。 宇宙正義の厳格な執行者も、たった一人の少女と子供の前には形無しだった。 「あの、ジュリさん?」 「なんだ」 「ジュリさんのこと……その、お姉さんって、呼んでいいですか?」 「……好きにしろ」 こうして、ウルトラマンジャスティスと、ハーフエルフの少女のティファニアは運命的な出会いを果たした。 この邂逅が、その後のハルケギニアの運命をどう動かすのかはまだわからない。 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第三話 見よ! 双月夜の大変身 土塊怪獣アングロス 登場! ルイズ達が学院に戻ってきて4日が過ぎた。 このころになると、さすがにヤプールやウルトラマンAの話題も下火になりだし、人々は元の生活を取り戻しつつあった。 その日、昼食を終えたルイズは才人をともなって教室への廊下を歩いていた。 もっとも、この日は少々不本意な同行者もいたが。 「だからさぁ、なんと防衛軍じゃこのあたしを一個小隊の戦闘隊長にしてくれるんだってさ!! ゲルマニア出身のあたしをだよ? やっぱベロクロンのやつに一発食らわせてやったのがよかったのかなあ、それとも、そこまでしなきゃなんないほど人材が枯渇してるってことかしらね」 まずは赤髪がまぶしい『微熱』のキュルケ。 「……前者が2割、後者が8割」 もうひとりは正反対にブルーのショートヘアが涼しげな『雪風』のタバサ。 ふたりとも、平たく言えば腐れ縁の仲だ。 ルイズはあまり付き合いたくはないのだが、目的地が同じなのでしぶしぶ話を聞き流しながら歩いていた。 ちなみに才人は「しゃべるな!!」と命令されているために、話したくてうずうずしているのを我慢している。破ったらグドン張りの残酷鞭ラッシュの刑。 と、そのとき曲がり角でばったりシエスタと出くわして、途中まで道筋がいっしょということで5人で談話しながら歩くことになった。 キュルケとタバサでは話に乗れないルイズも、シエスタが相手なら多少は話ができる。というかシエスタが才人に話しかけるのを絶対阻止したいようだ。 「ところで皆さん、『土くれ』のフーケの話、ご存知ですか?」 「フーケ? まあ名前だけはね。貴族を専門に盗む凄腕のメイジらしいとか、けどまだ正体は知られていないんでしょう」 シエスタが突然振った話にルイズ達4人は怪訝な顔をした。街ではけっこう騒がれているらしいが、彼女達にとってはこれまで他人事だったからだ。 「ええ、ですが最近そのフーケが変わってしまったらしいんです」 「変わった?」 「はい、何でもこれまでは盗みを働いても貴族や家の者には無用な危害は加えなかったらしいんですが、この間入られた2件のお屋敷では秘宝を盗まれただけではなく、 家の者全員、主人からメイド、赤ん坊にいたるまで皆殺しにされていたそうです」 その話を聞いて、ルイズ達は惨状を想像して思わず口を押さえた。 「……突然の豹変……フーケの名を語った模倣犯の可能性もある……」 唯一タバサだけが冷静に客観的に見た推理を言ったが。 「いえ、現場に残されていたフーケの書置きはこれまでのフーケのものとまったく同じだそうです。それに宝物庫を破った錬金の手口も同じです。 こんなことができるのはふたりといませんよ」 「確かにね、そりゃフーケ本人が突然変わったとしか考えられないか。けど、盗むだけならともかく皆殺しとなると屋敷の人間全部相手にしたってことでしょ。 フーケはトライアングルクラスらしいとは聞いてるけど強すぎない?」 キュルケもトライアングルクラスのメイジだけに、トライアングルクラスがどの程度の強さというのは知っている。たとえ自分がやってみても返り討ちが落ちだろう。 だが、シエスタの口から返って来たのは彼女達の想像をはるかに超えるほど凄絶なものだった。 「はい、確かに強さはもはやスクウェアクラスと言っても過言ではないようです。ですが、これは私も申し上げにくいのですが、襲われた家の人たちは、全員皮も肉も無くなって白骨、つまり骨だけにされていたそうです」 「ほ、骨だけぇ!?」 「はい、まるで何かに食い尽くされたかのように……そのあまりに残虐な惨状に、今では平民達もフーケを恐れています。ミス・ヴァリエールも高名な家柄ですし、私心配で……」 「……あなた」 シエスタがわざわざフーケのことを教えてくれたのはそのためだったのだ。 ルイズは、私の家にはたとえスクウェアクラスが乗り込んできても大丈夫な備えがある、余計な心配だとシエスタに言った。 高慢な物言いだが、そこにはプライドの高いルイズなりの謝意と、シエスタを安心させようという優しさが隠されていた。 「そうですか、そうですね、いくらフーケが無謀でもヴァリエール家に手を出そうとは思わないですよね。出すぎたことを言いました。では、私はここで失礼いたします」 シエスタは頭を一回下げると立ち去っていった。ルイズは顔だけ不愉快そうに見送っていたが、不安は彼女の心にも一抹の影となって残っていた。 と、そのとき。 「貴方達、もうすぐ授業が始まるわよ。急ぎなさい」 「はい!! あ、ミス・ロングビル」 そこにいたのは学院長オスマンの秘書のミス・ロングビルだった。 緑色の髪に眼鏡が知的な印象を与える人で、仕事振りもよく学院内での評判も高い。 学院に来たのはベロクロンが現れる少し前だったそうだが、ベロクロンの学院襲撃の後も職を辞さずに続けていて、今ではルイズ達にもすっかりなじみの顔になっている。 「どうもすいません、急ぎます」 「よろしい。けど廊下は走らないようにね」 「はい……あれ、ミス・ロングビル、その虫かご、蛍ですか?」 ルイズはロングビルが片手に小さな虫かごを持っているのに気がついた。中には一匹の黒い虫、季節外れの蛍だった。 「ああ、これ? 知人にもらって部屋で飼ってるのよ。飼ってみるとなかなか可愛くてね。よくエサを食べてすくすく成長するの」 ロングビルは蛍を見てうれしそうに笑っていた。 「おっと、それどころじゃないでしょ。遅刻するわよ」 「あっ、はーい!!」 ルイズ達は回れ右をすると駆け足で教室へ向かっていった。 「なあ、ルイズ」 「なに、しゃべるなって言ったでしょ」 教室で席についたルイズに才人は小声で語りかけた。まだ教師は来ておらず、周りの生徒も私語に夢中で誰も聞いてはいない。 才人は周りを確認すると、ルイズの命令を無視してささやきかけた。 「さっきのシエスタの話、どう思う?」 「どうって、フーケのこと? たかが盗賊ひとりがなんだっていうの」 ルイズは才人の仕置き用の鞭に手をかけたが、気づかない才人はさらに続けた。 「おかしいと思わないか?」 「おかしい?」 「盗賊が突然強盗に豹変するっていうのはそう珍しい話じゃない。けど、手口が異常すぎる。死体を白骨にするなんて普通の人間には不可能だろ」 「……まあ、そりゃ確かにね。けど、それがなんだって言うの? はっきり言いなさいよ」 「ヤプールが絡んでるんじゃないか、そう思うんだ」 才人の言葉を聞いてルイズは「はぁ?」とでも言うような顔をした。 「何言ってるのよ。あんなでっかい超獣を操れる奴が、なんでたかが盗賊ひとり使ってちまちま強盗働きしなきゃならないの。普通に街で暴れさせればいい話じゃない」 「俺も確証はねえよ。ただ、昔ヤプールが暗躍してたころは、超獣が現れる前に人間技じゃ不可能な奇怪な事件がよく起こっていたらしいんだ。 それに、超獣には人間を食べてエネルギーを蓄える奴が何匹もいたそうだから、もしもと思ってな」 才人の脳裏には、昔怪獣図鑑で見たサボテンダーやアリブンタといった超獣の姿が浮かんでいた。 超獣に限らずとも、ケロニア、サドラ、コスモリキッド、サタンモア、タブラなど人間を主食とする怪獣は数多い。嫌な話だが怪獣から見て人間は適当な栄養源に見えるようだ。 「じゃあ、一連の事件はヤプールが超獣を育てるために人間を襲わせてたって言うの。けど、なんでわざわざフーケを使って?」 「ヤプールは人間の心の暗い部分につけこむことが得意なんだ。フーケみたいな盗賊が狙われたとしても不思議じゃない」 「それじゃあ、近いうちにまた超獣が現れるかもしれないってこと? でも、その前に叩くとしてもフーケは神出鬼没の怪盗よ、捕らえられっこないわ」 「フーケは貴族のところから秘宝を盗むところは変わっていない。ここらでフーケが狙いそうな貴重な魔法道具を持っているようなところはないか?」 才人の問いにルイズはやれやれと、指で下を指しながら答えた。 「……ここ、魔法学院ね。自慢じゃないけど、ここの宝物庫には並の貴族なんか及びも付かないほどの貴重品が眠ってるわ。 けどね、宝物庫にはスクウェアクラスのメイジが固定化の魔法をかけて保護してるし、教師から生徒までそれこそピンからキリまでメイジがいるわ。 いくらフーケでも、そんなオーク鬼の巣に飛び込むような無謀な真似をするかしら?」 ルイズは、そんなことは川が下から上へと流れるようなものだというふうに笑った。 だが、才人は納得していなかった。 「今までのフーケならそうかもしれない。だが、もしフーケがヤプールに操られてるとしたら、奴には超獣がついてるかもしれない。そして、ヤプールの目的が超獣を育てることだとしたら学院は絶好の餌場かもしれない」 ルイズは、学院が超獣の餌場という言葉に背筋にぞっとするものを覚えたが、教師が教室に入ってきたことで頭を授業の方に切り替えることにした。 「私は考えすぎだと思うけどね。とにかく確証が無い以上深入りはやめときなさい……ああ、それと」 「なんだ?」 「しゃべるなって命令、破ったわね。あんた夕飯抜き」 ルイズは抗議しようとする才人の目の前に鞭をちらつかせて黙らせると、教師の話に耳を傾けはじめた。 しかし、悪い予感というものの的中率は往々にしてよく当たり、多くの場合予感よりさらに悪くなるものであるらしかった。 その晩、眠っていたルイズは大気を揺り動かすような衝撃で目を覚まし、窓の外に宝物庫の塔を攻撃する巨大な土のゴーレムを見た。 全長およそ30メイル、さすがに超獣には劣るがそれでも生身の人間からは圧倒的な威圧感があった。 「サイト、行くわよ!!」 「お前、あんなのに向かっていく気か? それよりも先生たちに連絡したほうが……って、おい、聞いちゃいねえな」 ルイズはすばやく着替えると部屋を飛び出した。才人もデルフリンガーを背負って後を追う。 そのとき、隣の部屋のドアが開いて、まばゆい赤毛とサラマンダーが飛び出してきた。 「あらぁ、ルイズ、あんたも行く気なの? ゼロのあんたじゃあれの相手は無理よ。あたしらに任せて下がってなさい」 「ツェルプストー、言うに事欠いてわたしに下がってなさいですって? 貴族が盗賊風情に逃げ隠れするなんて恥辱を超えて死んだようなもの、あれはわたしが倒すからあんたこそ下がってなさい」 「ふーん、そう言われちゃあこっちも下がるわけにはいかなくなったわね。じゃあ、競争といきましょうか」 「臨むところよ!!」 売り言葉に買い言葉、キュルケの挑発はルイズは簡単に乗ってしまった。 「じゃあ、お先にね」 キュルケはそう言うと、突然窓から飛び降りた。 フライで先回りする気か、と思ったのもつかの間、下にはいつの間にかタバサとシルフィードが来ていてキュルケを乗せて飛んでいってしまった。 「すげーチームワーク、以心伝心ってのはあーいうのを言うんだろうな」 「うぬぬ、キュルケだけじゃなくタバサまで、抜け駆けは許さないわよぉ」 怒ってみても飛べないルイズは階段を駆け下りるしかない。ルイズはせめてキュルケにだけは捕まるなとフーケに本末転倒なエールを送っていた。 さて、シルフィードで一足先にゴーレムの元へとたどり着いたキュルケとタバサは、ゴーレムの肩にたたずむ黒衣の人影を見つけていた。 「あれがフーケで間違い無いわね。顔は見えないけど、さてどうしてやろうかしら」 キュルケは杖を取り出して攻撃魔法の準備にかかっている。 タバサもいつでも戦闘態勢に入れるが、相手は全長30メイルのゴーレム、まぐれでも一発喰らったら即あの世行きだけに下手な手は打てない。 「宝物庫を破壊してお宝を頂戴する腹みたいね。今のところ固定化が効いてるみたいだけど、いつまで持つか」 「……時間が無い。ゴーレムの真上に出るから、おもいっきり撃ちおろして……」 「なるほど、真上には攻撃もしずらいからね。さすが冴えてる。んじゃ善は急げといきますか!」 タバサの案に納得したキュルケはすぐに魔法の詠唱を始めた。 シルフィードはゴーレムの真上、腕を振り上げても届かない高度に遷移する。 「『ファイヤーボール!!』」 火炎弾が90度の角度でまっ逆さまにフーケに向かって落下する。 「燃えちまえ!!」 フーケは避けるそぶりさえ見せない。 だが、フーケは命中直前片手を振り上げ、そこから小さな光が現れたかと思うと火炎弾は何かに衝突したかのように散り散りになってしまった。 防御魔法? それとも魔法道具か? だがそんなものを使うそぶりは見せなかったはずだ。 キュルケとタバサは一瞬我を忘れて、シルフィードに退避の命令を出すのが遅れてしまった。 「岩よ……」 フーケがつぶやくとゴーレムの体から無数の岩石の弾丸が発射された。 「きゅいーーっ!!」 ふいを突かれたシルフィードは避けることができずに、もろに岩石弾を食らって撃ち落されてしまった。 「く、やられた……けど、まだよ!!」 「……大丈夫、傷は浅い」 シルフィードの影で直撃を免れたふたりはシルフィードをかばいつつ戦闘態勢をとる。 だが、そのときふたりの目の前に小さな光の点が現れて、緑色の光を発したかと思うと、突然ふたりの体が動かなくなってしまった。 「な、これ、なんなの? 体が動かない……」 「……今まで襲われた貴族たちは、みんなこれにやられたのね……」 杖を振るうことができなければ魔法で防御することもできない、ふたりは自分達が罠にはまってしまったことを悟った。 フーケのゴーレムが宝物庫への攻撃を一時中断して巨大な腕を振り上げる。 そこには明確な殺意があった。 「く、ちくしょう、動け、動けよあたしの体!!」 「……不覚……」 ゴーレムの拳が近づいてくる。 死ぬ前は時間の流れが遅くなるというが、いやに土くれの拳が近づいてくるのが遅く見えた。 「キュルケ!! タバサ!!」 ようやく寮から飛び出してきたルイズと才人は、今まさに潰されようとしているふたりの姿を見た。 体中の血が熱くなる、あの拳を絶対に振り下ろさせてはいけない。 そのとき、ふたりの意思に呼応するかのように、ウルトラリングが光を放った。 「ルイズ!!」 「サイト!!」 強い思いが叫びとなり、強い叫びが光を呼ぶ!! 「「ウルトラ・ターッチ!!」」 合体変身、ウルトラマンA登場!! 「テェーイ!!」 強烈なエースの体当たりが炸裂!! 4万5千tの質量にフーケのゴーレムは学院の外壁まで吹き飛んだ。 「デュワッ!!」 立ち上がったエースはゴーレムへ向けて構えをとる。 「ウルトラマンA!! 来てくれたんだ!!」 「……わたしたちを、助けてくれた……」 キュルケとタバサは死地から脱した開放感から、思い切り抱き合って喜んだ。どうやらフーケが吹き飛ばされたことで金縛りも解けたらしい。 エースはふたりに向かって「逃げろ」と言うようにふたりを一瞥して後ろを指し示した。 「わ、わかったわ。タバサ、シルフィードは?」 「翼をやられた……飛ぶのは無理だけど、走るのはなんとかなる。レビテーションで手伝って」 「お安いごよう。痛むだろうけどもう少し頑張ってね……エース!! 頼んだわよ!!」 ふたりはシルフィードを支えながら、後ろでかまえるエースにエールを送った。 (ツェルプストーに頼むわよって言われてもね。まあ、わたしが言われたわけじゃないんだしいいか) (キュルケにタバサ、間に合ってよかった。フーケめ、許さないぞ!!) (落ち着け、まだ奴は倒したわけじゃない。なにか不気味なものを感じる。気をつけろ) エースの心の中で3人にしか聞こえない会話がささやかれる。 やがて、粉塵の中からゴーレムがフーケを乗せてゆっくりと立ち上がってきた。 フーケはウルトラマンAを目の前にしながら、ゴーレムの肩で身じろぎもしない。 (こいつ……やはり) そのとき、フーケが杖を頭上から一直線に振り下ろした。 すると、フーケのゴーレムが音を立てて形を変え始めた。 人型だったものが四足歩行になり、さらに周辺の土くれを吸収して巨大化していく。 (これは、まさか!?) 才人の脳裏に、以前ウルトラマンメビウスと戦った、ある怪獣の姿が浮かび、眼前の土くれはまさにそのとおりの姿へと変貌していった。 モグラのような姿と鋭いドリルを持った鼻、鋭い角に赤く凶悪な目つき。 土塊怪獣アングロス。 (やっぱり、フーケにはヤプールがからんでいたんだ!!) この世界の人間がアングロスの存在を知るわけが無い。 そしてアングロスは本来サイコキノ星人が超能力で土くれから生み出した怪獣、理屈ではフーケのゴーレムと同じものだ、ヤプールがそれを再現させたとしてもおかしくはない。 (気をつけろエース、そいつはメビウスもやられそうになったほど強力な怪獣だ!!) (わかった! 行くぞ!) アングロスは叫び声を上げ、ドリル鼻を振りかざして猪のように突進してきた。 エースは飛び掛ってくるアングロスを受け止めて、地面に叩きつける。 「イヤーッ!!」 土くれでできたアングロスの角が折れ、背中が歪む。 だがアングロスが起き上がると、壊れた体のパーツが体から生えてきてあっという間に元通りになってしまった。 「ヘヤッ?」 (無駄だ、アングロスは泥人形といっしょだ、いくら攻撃しても効果はない。フーケを捕まえて術を解かせなければだめだ!!) アングロスとの戦闘経験の無いエースに才人がアドバイスを飛ばす。 (フーケは……あっ、あそこよ!!) エースの目で周りを見渡したルイズが外壁の一角を指した。フーケはそこに悠々とたたずんで戦いを見守っている。 (エース、捕まえるんだ!!) (よし!!) エースはフーケを捕らえようと手を伸ばす。だがその間に当然のようにアングロスが立ちはだかった。 ドリル鼻を振りかざして突進してくるアングロスをエースはなんとか組み伏せようとする。しかしアングロスの力は強く、エースのほうが振り飛ばされそうになってしまう。 なんとか距離をとったエースは、このままではフーケを捕らえられないと思った。 (だめだ、どうにか一時的にでも怪獣の動きを封じなくてはフーケに近寄ることはできない) エースは光線技を使ってアングロスを吹き飛ばそうと考えたが。 (だめよ!! あなたの力で、もしはずしたら学院が吹き飛んじゃうわ) ルイズの言うとおり、メタリウム光線どころかパンチレーザー程度の技でも学院を木っ端微塵にするには有り余るほどのパワーがある。 しかし、エースの得意技は光線技だけではない。 (ならば、これだ!!) エースは右手を高く掲げ、念を集中させる。 無から有を生み出すウルトラ念力の力を見よ。 『エースブレード!!』 エースの手の中に念力で生み出された長刀が握られる。 「テヤァァッ!!」 横一線、エースブレードを振りかざし、アングロスへ突進をかけていくエース。 アングロスもドリル鼻を振りかざして向かってくるが、エースよりは格段に遅い。 このままいけばアングロスは胴体を真っ二つにされ、身動きを封じられるはずであった。 だが、エースブレードを斬りつけようとした瞬間、エースの体に奇妙な感覚が沸き起こった。 (なんだ、これは!? 体が急に軽く、いや軽すぎる!! 勢いが、止まらない!?) 突如体が羽のようになってしまったかのような感覚に、エースの太刀筋が狂ってしまった。 エースブレードはアングロスの左前足を切り捨てるにとどまり、バランスを崩されたアングロスは宝物庫に直撃、 宝物庫は固定化のおかげで倒壊を免れたが、鋭いドリル鼻の貫通を許してしまった。 (しまった!?) エースはなんとか体勢を立て直す。 不思議な感覚はエースブレードが無くなった瞬間に消えていたが、アングロスは鼻を引き抜くと切られた足を再生し、再びエースに向かってきた。 『フラッシュハンド!!』 エースの両手がスパークする高エネルギーに包まれる。 威力を増したエースの攻撃はアングロスの体を打ち砕いていく。 だが、そのときエースも、ルイズと才人も完全にフーケのことを忘却してしまった。 突然アングロスの体がはじけ、粉塵が周囲に立ち込める。 (しまった、何も見えない!?) 視界がまったく利かない、いくらエースでもこれでは戦いようがなかったが。 『透視光線!!』 エースの眼から放たれた光が砂煙の闇を吹き払う。 しかし、すでにアングロスは陰も形も無く、フーケの姿もどこにも見えない。 (逃げられたか……) エースはかまえを解いて周りを見渡した。 (ああっ!!) (どうしたルイズ!?) 驚くルイズの目の先にあったもの、それは宝物庫の壁に刻まれた『破壊の光、確かに徴収いたしました。土くれのフーケ』という書置きであった。 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔