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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第14話 剣の誇り (前編) 奇怪宇宙人ツルク星人 登場! 「ウルトラ・ターッチ!!」 ルイズと才人のリングが合わさり、ウルトラマンAがトリスタニアの街に降り立つ。 メカギラスの襲来から一夜明けたこの日、トリスタニアは新たな脅威に晒されていた。 石造りの建物がバターのように切り裂かれ、崩れ落ちた瓦礫を巨大な足が踏みにじる。 それは、緑色の肌と爬虫類のような顔を持ち、両腕に巨大な刀をつけた怪物。 その名はツルク星人、かつて地球で数多くの人間を惨殺し、ウルトラマンレオを苦しめた凶悪な宇宙人だ。 「タアッ!!」 エースは構えをとり、ツルク星人を見据える。だが、いきなり攻撃を仕掛けることはしない。なぜなら、星人の 両腕に取り付けられた刀は、例え鉄でも軽々切り裂く恐るべき武器で、直撃されたらウルトラマンでも危ないからだ。 しかし、両者の均衡は、両手の刀を振りかざして猛然と襲い掛かってきた星人によって破られた。 「シャッ!!」 エースは宙に飛び、太陽を背にしてツルク星人に空中から攻撃を仕掛ける。星人は、慌てて空へ跳んだエースの 姿を追うが、真っ白な太陽の光がその視界を真っ黒に染め上げた。 「デャッ!!」 必殺キックが星人の顔面に直撃! ふらつく星人にエースは機を逃さずにパンチやキックを打ち込む。 だが、視力の戻った星人は猛然と両腕の刀で反撃に出てきた。 30メイルはあろうかという巨大な刃がエースに向かって振り下ろされ、間一髪エースは後ろへ飛びのいてかわしたが、 星人は蟷螂のように2本の刀を振ってエースを追い詰め、空気を切り裂く音が鳴る度に、建物が切り裂かれて 崩れ落ちていく。 こんなとき、格闘能力に優れたレオならば、星人の刀を受け止めて反撃をおこなえるが、残念ながらエースに そこまでの格闘センスはない。ただし、エースにもレオにはない武器がある。 そして、完全に調子に乗った星人は、一気にエースを仕留めるべく、両手の刀を同時に振りかざしてエースに 飛び掛ったが、実はこれこそエースの狙いであった。 闘牛のように突進してくる星人に、エースは両手をつき合わせて向けると、その手の先から真赤に燃える 灼熱の火炎がほとばしる!! 『エースファイヤー!!』 火炎は星人の顔面を直撃、突進の勢いでかわすこともできずに見事カウンターの形で命中したそれは、 トカゲのような星人の皮膚の表面を瞬時に気化させて、爆発まで引き起こさせた。 煙が晴れたとき、星人は顔面を黒こげにして両手で傷口を押さえ、反撃も忘れて金切り声をあげてもだえていた。 「テェーイ!!」 エースは、顔面に大火傷を負って戦意を失った星人に怒涛の攻撃を炸裂させる。 チョップ、パンチ、キックが星人のボディに次々と吸い込まれ、その体力を削ぎ取っていく。 「ダァァッ!!」 とどめに、エースは星人の右腕の刀の峰の部分を掴み、思い切り放り投げた。 瞬間、地響きを立てて星人は大地に叩きつけられる。そして、フラフラになりながらも立ち上がってきた星人に、 エースは体を左に大きくひねり、その両腕をL字に組んだ。 『メタリウム光線!!』 赤、黄、青に輝く美しい光線が放たれる。だが、なんということか、星人はメタリウム光線が放たれるよりも 一瞬だけ早く、残った力で宙へ飛び上がり、光線をかわしたかと思うとそのまま煙のように消えてしまったのだ。 (しまった! 逃げられた) まだ星人に逃げを打つ余裕があったことを読み違えたエースは、星人の消えた空を見上げたが、すでに 星人の姿はどこにもなかった。残ったのは、青い空と、廃墟となった街を駆け抜ける静かな風のみだった。 「……ショワッチ!!」 確かに深手は負わせた。だが星人はまだ死んではいない、飛び立ったエースの胸中には一抹の不安がよぎっていた。 「この犬ーっ!! あんたのせいで奴に逃げられちゃったじゃないのよー!!」 「えーっ!? なんで俺!?」 変身を解いた後、才人はなぜか激怒しているルイズの理不尽な怒りを一身に受けていた。 「普段役に立たないんだから、こういうときくらいきちんとサポートしてなさいよ。この、この!!」 「そう言われても、まさかあそこで逃げられるとは思ってもみなかったし。それに、俺普段からけっこう役に立ってるんじゃないか?」 腹が立って反論してみた才人だったが、これがまずかった。 「なあに、あんたご主人様に反抗する気? そう、昨日はあれだけ頑張ったってのに、あの事なかれ主義の 鳥の骨のおかげで姫様にまで心労をかけてしまって、これで勝てばお心も晴れると思ったのに、後一歩ってところで」 それで才人にもルイズの不機嫌の合点がいった。要は姫様命のルイズのマザリーニへの不満の八つ当たりだ。 鞭を振り上げるルイズに、こういうときどんな弁明をしても逆効果だと学習してきた才人はとっさに話題を変えた。 「ちょ、それよりも、逃げた星人のことが問題だろ」 すると、どうにか効果があったようで、ルイズは鞭を下ろすと少し考えて言った。 「ち、まあ、そうだけど……たいして強い奴じゃなかったじゃない。また来ても別に怖くないわ」 確かに、ツルク星人は両腕の刀を除けばたいした武器は持っていない。かつて宇宙パトロール隊MACは これに苦戦し、ウルトラマンレオも一度は敗退したが、当時のレオは地球に来たばかりで、それまでの ウルトラ兄弟と比べて格段に技量が劣っていたころだったし、MACも結成されたばかりで、実戦は マグマ星人と双子怪獣のみというあたりだったから仕方が無い。 ただし、才人が言おうとしているのはそういうことではなかった。 「あいつがヤプールの息がかかっているのはまず間違いない。けど、前回のメカギラスといい、なんで超獣じゃなくて 宇宙人を送り込んできたかってのが問題なんだ。大して強くもないやつを」 「? ……そりゃあ、超獣がいなかったからじゃないの?」 適当に言った答えだったが、意外にもそれは才人の考えを射抜いていた。 「実は俺もそう思う。ここに来る前に、ロングビルさんに話を聞く機会があったんだけど、ヤプールに 洗脳される直前に「今エースを倒せるほどの超獣を作り出せるほど余裕が無い」って言ってたそうだ。 多分、まだヤプールは次々超獣を作り出せるほど復活してないんじゃないかな」 「だから、手下の宇宙人を使ってるってこと?」 才人はうなづいた。 ヤプールは超獣だけでなく、多数の宇宙人をも配下にしていることは知られている。アンチラ星人、ギロン人 メトロン星人Jrなどである。近年ではテンペラー、ザラブ、ガッツ、ナックルの4大宇宙人を操って神戸の街を 破壊し、ウルトラ兄弟と激戦を繰り広げたのはまだ記憶に新しい。しかもこの場合は本人達も自覚せぬうちに 精神を支配され、操り人形にされていたというのだから恐ろしい。 また、そうでなくてもバム星人のように侵略の分け前を狙ってヤプールにつく宇宙人も大勢出てくることだろう。 だがルイズはまだことの深刻さを理解してはいないようだった。 「別にけっこうなことじゃないの? 超獣なら苦労もするけど、あんなやつしかいないならエースなら楽勝でしょ」 「そりゃ巨大化したならな、けど宇宙人は頭がいいから……」 「あーっ! もういいわよ。どっちみちまた出たならやっつければいいだけでしょ。それよりもうすぐ学院に帰る馬車の 時間よ。昨日のことはしょうがなかったけど、これ以上サボるわけにはいかないからね」 そうだ、ルイズはあくまで学生で、授業を受けなければならないという義務がある。そして、本来そちらが 怪獣退治より優先されるべきことなので、才人も強くは言えなかったが、どうしても逃げたツルク星人のことが 気になって、もう一度だけ頼んでみた。 「なあ、もう1日この街にとどまれないか?」 「だめよ、さっさと帰らないと授業についていけなくなるわ。あんたわたしを留年生にするつもり? 心配しなくても、 あれだけ深手を負わせたんだから当分出てこないわよ。出てきたらそのときは学院にも連絡が来るから、飛んで いけばいいでしょ。さっさと行くわよ」 残念ながらにべもなかった。 しかし、ツルク星人の行動パターンから、どうしても心のなかから不安が消えることはなかった。 そして、才人にはどうしても気になることがもうひとつあった。それは地球で2006年から2007年に異常に怪獣や 宇宙人が頻繁に襲来してきた時期、それが実はヤプールが特殊な時空波を使って呼び寄せていたためであり。 もし、ハルケギニアでも同じことをされたら…… その後、魔法学院に帰ったルイズ達は午後からの授業に出席し、その間才人はルイズの部屋の掃除や、 街であったことのオスマン学院長への報告、その後は食堂の手伝いをしてシエスタ達と夕食を食べて夜を迎えた。 「ふわぁぁ……じゃ、明日またちゃんと起こしなさいよね」 「ああ、お休み、ルイズ」 部屋の明かりが消え、ルイズはベッドで、才人はわら束でそれぞれ横になった。 それから数分後、ルイズが寝息を立て始めたのを確認すると、才人は静かに起きだして出かける支度を整えると、 部屋を抜け出してオスマンに会って事情を説明し、ロングビルに馬を一頭貸してもらうように話をつけた。 厩舎は、さすがに深夜のため静まり返っていたが、なぜかそこで見慣れたメイド服を見つけてしまった。 「シエスタ?」 「あっ、サイトさん! ど、どうしてこんなところに!?」 「それはこっちの台詞だよ。女の子がひとりでこんな人気の無い場所にいたら危ないだろ」 「い、いえわたしは同僚が急病で、代わりに厩舎の見回りに来てたんですが、サイトさんこそなんでこんなところに?」 どうやら、鉢合わせしたのは本当に偶然だったらしい。だが、これもなにかのめぐり合わせと、才人は 部屋に残したままのルイズのことを頼むことにした。 「そうだ、ちょうどいいや。ちょっと街まで行くから馬を一頭借りていくよ。学院長にはもう話を通してあるし、 何も無ければ朝には帰ってくる。けど、もし戻れなかったときはルイズによろしく言っといてくれ」 「えっ、どういうことですか!?」 「ちょっと気になることがあってな。あいつに授業サボらせるわけにはいかないから俺一人で行ってくる。 洗濯がどうとか言うと思うが、悪いけど適当に相手してやってくれ」 そう言うと、才人はロングビルに比較的大人しくて扱いやすいと言われた馬にまたがると、不慣れな手つき ながら手綱を握った。 「じゃあシエスタ、頼めるかな?」 「わかりました。事情はわかりませんが、何かお考えがあってのことですね。ミス・ヴァリエールのお世話は お任せください。けど、早く帰ってきてくださいね」 心配そうに見つめているシエスタに、才人は出来る限りの笑顔を向けると、ルイズの見よう見まねで馬に 鞭を入れて、夜の街道へと走り出した。 一方そのころ、トリスタニアの街では、深夜だというのに街中をたいまつやランタンを持った兵士が行きかい、 まるで昼間のように騒々しい体をなしていた。 「おい、そっちにいたか?」 「いや、こっちはいない」 「おい!! 5番街のほうでまた二人やられてるぞ」 「なに!? くそっ、これでもう15人目だ、いったいどうなってやがるんだ」 街中を右往左往する彼らの中を不吉な情報が飛び交っていく。 事の発端はこの2時間ほど前、酒場から自分の屋敷に帰ろうとしていた、ある中級貴族が突然襲撃 されたことから始まった。 襲撃者は、いきなり彼らの眼前に現れると、先導していた従者を斬り殺し、一行に襲い掛かってきた。 もちろん、その貴族は酔いを醒まし、即座に『エア・ハンマー』の魔法で迎え撃ったが、なんとそいつは ジャンプして空気の塊を飛び越すと、そのまま目にも止まらぬ速さで次の呪文を唱えている貴族を鋭い 刃物で胴から真っ二つにしてしまった。 残った使用人達は、主人が殺されるや、蜘蛛の子を散らすようにバラバラになって逃げ出した。そのうちの 一人が衛士隊の屯所に駆け込み、事を話すとただちに詰めていた20人ほどの衛士が現場に急行したが、 すでに犯人の姿は無く、無残な遺体を目の当たりにして、彼らは口を覆った。 だが、この夜の悪夢はまだ始まったばかりであった。 引き上げようとする彼らの元へ駆けて来た伝令が、2リーグほど離れた場所での同様の事件を報告してきた のを皮切りに、街のいたるところで貴族、商人、見回りから物乞いにいたるまで次々と殺人が起きていること が明らかとなり、衛士隊はこれが自分達の職務を超えていることを知って、王宮に救援を求めるとともに、 非番の者も召集してのトリスタニア全域の一斉封鎖を開始した。 しかし、千人近くを動員しての捜索にも関わらずに、犯人の行方はようとして知れなかった。 唯一、目撃者の証言によれば、悪魔のような風体をした亜人で、両腕に巨大な刀をつけていて、猿のように 身軽であることがわかっているくらいだった。 「おい、裏通りでまた一人殺されてる!」 「ちきしょう、いったいどこに隠れてやがるんだ」 彼らの必死の捜索も虚しく、犠牲者の数は増え続け、遂に首都全域に戒厳令が敷かれるにいたった。 「こちら、王立魔法衛士隊です。現在トリスタニア全域に戒厳令が公布されました。市民の皆さんは許可が あるまで決して屋外に出ないでください。外出している人は、すみやかに最寄の建物に入ってください。 こちらは王立魔法衛士隊です。非常事態により、現在トリスタニア全域に戒厳令が敷かれています……」 上空からヒポグリフやグリフォンに乗った騎士達が、鐘を鳴らしながら市民に呼びかけていた。 混乱を避けるために、正体不明の殺人鬼が徘徊していることは伏せられていたが、慌しく駆け回る兵士達の 姿を見たら、いやがうえでも住民の不安はつのる。もたもたしている時間は無かった。 だが、それから1時間後に、必死の捜索が実り、遂に街道近くの馬車駅で怪人を捕捉することに成功した。 「屋根の上だ、取り囲んで退路を塞げ!!」 「照明だ、奴を照らし出せ!!」 兵士達が駅の周りを取り囲み、魔法衛士隊が空中から目を光らせる。 そして、火系統のメイジが放った魔法の明かりがそいつを照らし出したとき、とうとう怪人はその禍々しい姿を 人々の前に現した。 歪んだ鉄のマスクのような顔と赤く爛々と光る大きな目、しかもその顔の半分はどす黒く焼け爛れていて 醜悪さを増し、さらに黒々とした体表と手の先にだけ毛を生やし、両手の先を死神の鎌のような巨大な刀にした 姿はまさに悪魔と言うにふさわしかった。 「あ、亜人?」 「いや、悪魔、ありゃ悪魔だ!!」 兵士達の間に動揺が走る。その隙を怪人は見逃さなかった。 「跳んだ!?」 壊れた弦楽器のようなこすれた声をあげ、怪人は屋根の上から人間の5倍以上はある跳躍を見せ、眼下の 兵士達に襲い掛かった。 たちまち逃げる間もなくふたりの不幸な兵士が鎧ごと胴体を真っ二つにされて息絶える。もちろん、怪人の 攻撃はそれで終わりはしない。 「む、向かい撃て!!」 隊長の叫びで、恐怖に支配されかかっていた兵士達は、それから逃れようと叫び声をあげて怪人に 斬りかかっていくが、その勇敢だが無謀な行為はすべて彼らの死であがなわれた。 「平民共、どけ!!」 あまりにも一方的な展開に、魔法衛士隊が高度を下げて参戦してきた。別に平民を助けようとか思ったわけ ではなく、兵士達がやられている間何をしていたのかと後で叱責されるのを避けるためだったが、結果的に 兵士達は逃げ延びる時間を得ることができた。 「エア・カッター!!」「フレイム・ボール!!」 魔法衛士隊は高度20メイルほどから攻撃を開始した。それ以上高くては闇夜で狙いを定められず、低くては 反撃を受ける恐れがあるための絶妙な位置加減だったが、怪人の身体能力は彼らの予測を大きく上回っていた。 怪人は、放たれた魔法を俊敏な動作ですべて避けきると、そのままジャンプして両腕の刀を二閃させ、 ヒボグリフとその主人を兵士達同様に切り裂いてしまった。 「そんな馬鹿な、あいつは本物の悪魔か!?」 王国最精鋭の魔法衛士隊ですら軽々と餌食にしてしまった怪人に、否応も無く兵士達の恐怖心はつのる。 残った魔法衛士隊は仲間のあっけないやられ様に怒りを覚えたが、同時に未知の敵への恐怖心も強く、 高度を上げて逃げてしまい、地上の兵士達は再び死神の鎌の前に差し出された。 「うわあっ、た、助けてくれえ!!」 すでに兵士達は逃げ惑う羊の群れでしかなかった。 怪人は、まるで狩りを楽しむかのように彼らの背後に迫っていく。 だがそのとき、怪人の足元に突然多数の銃弾が殺到して火花を散らせ、怪人の動きが止まった。 「王女殿下直属銃士隊、参る」 それは、王宮から急行してきたアニエス率いる銃士隊の放った援護射撃だった。 「第2射、撃て!!」 副長ミシェルの命令で後列に構えていた隊員達が銃を放つ。彼女達の装備している銃は前込め式の単発銃 なので連射するためには射手が複数いるか、あらかじめ銃を複数持っているしかないからだ。 だが、怪人は立ったままほとんどの弾丸をその身に受けたにもかかわらず、平然としていた。 「銃が効かんか、なら切り倒すまでだ、かかれ!!」 副長の命令で銃士隊は全員抜刀して怪人を包囲しにかかった。 銃士隊は、王女の直属警護部隊に抜擢されるだけあって、接近戦では一人で一般兵士の5人分に相当する 強さを見せるとも言われ、さらに集団戦法を用いれば無類のチームワークで凶暴な亜人とも渡り合うこともできる。 今回の戦法は、かつて辺境の村を襲ったオーク鬼を包囲し、集中攻撃で仕留めたときの布陣であったが…… 「やれ!!」 合図とともに二人の銃士隊員が同時に斬りかかる、しかし怪人はそれより早く動いて一人を切り伏せると、 返す刀でもう一人に襲い掛かり、とっさにその隊員が盾にしようとした剣ごと彼女を切り裂いてしまった。 「ミーナ、シオン!! おのれっ!!」 仲間を殺され、怒る隊員達の声が夜空に響く。だが、怪人はまるで殺しを楽しむかのように刀をゆらゆらと 降って余裕を見せてきた。 「なめおって、こうなれば一斉攻撃だ。全員かかれ!!」 ミシェルの声とともに隊員達は一斉に剣を振りかぶる。 だが、彼女が指揮を執っていることに気づいた怪人は隊員達が動くより早く、刃を彼女に向けて飛び掛ってきた。 「くっ!?」 とっさに剣を抜いて受け止めようとしたが、一刀で剣の刃を根元から切り落とされて、丸腰にされてしまった。 そしてその悪魔の刃が次に彼女の首を狙った、そのとき。 「待てーっ!!」 馬の蹄の音とともにやってきた叫び声が彼女達の動きを止め、怪人もそちらに注意を向けた。 「あいつは!?」 彼女達はその声と姿に覚えがあった。 「ツルク星人ーっ!!」 そう、2時間前に学院を出発した才人がようやくトリスタニアに駆けつけてきたのだ。 彼は、駅で暴れているのがツルク星人だと知ると、すぐさま馬を駆けさせ戦いに割り込んだ。 等身大ではすさまじく素早いツルク星人にはガッツブラスターは通用しない。彼はデルフリンガーを引き抜くと 馬から飛び降りた。すると、左手のガンダールヴのルーンが輝き、彼に銃士隊さえ超える俊敏さが備わり、 そのまま勢いのままに上段から思い切り振り下ろした。 「くっ!」 だがやはり正面からの攻撃では星人に避けられてしまった。さらに、体勢を立て直そうとしたところに 星人が右腕の剣を振り下ろしてくる。彼はなんとかそれを受け止めたが。 「相棒、伏せろ!!」 「!?」 デルフの声に従い、才人はとっさに身をかがめた。直後、彼の首のあった空間を星人の左手の刃が 風を斬りながら通り抜けていった。 「次は左だ!! かわせ!!」 息つく間もなく星人の攻撃は続く、才人はデルフの指示に従って、嵐のような星人の連続攻撃を しのぐ。自称伝説の剣であるデルフリンガーはなんとか星人の刀との打ち合いに耐えていたが、 ガンダールヴで強化された才人の動体視力を持ってしても、星人の2本の刀の攻撃は見切りきれずに、 どんどん追い詰められていった。 「うわあっ!?」 「相棒!!」 ついに才人は星人の剣撃に耐えられず、デルフリンガーごと吹っ飛ばされてしまった。 地面に倒れこむ才人にとどめを刺そうと星人の剣が迫る。そのとき!! 「でやぁぁっ!!」 突然飛んできた一本の剣が、いままさに才人に向かって剣を振り下ろそうとしていた星人の顔の 中央に突き刺さった。 その剣は、星人の頑強な皮膚に阻まれてほんの数サントしか刺さっていなかったが、それでも 星人は顔面を押さえて苦悶し、金切り声をあげると、夜の闇の中へと跳躍して姿を消した。 「や、やった……」 「隊長……」 その剣はアニエスが投げたものだった。彼女は星人の気配が完全に無くなったのを確認すると、 隊員達に負傷者の収容をするように命じて、才人とミシェルに向かい合った。 「また会ったな、少年。確か、ヴァリエール公爵嬢の使い魔だったか、先日はお前のおかげで大変 世話になったな」 「あ、その節はどうも」 どうやら、ルイズの爆発に巻き込まれて城の床で一晩越せさせられたのを根に持たれていたらしい。 しかし、嫌味はそのくらいにしてすぐさま本題に入ってきた。 「さて、お前はさっきあの怪物のことを"ツルクセイジン"とか呼んでいたな。しかも、ヴァリエール嬢は 魔法学院に帰ったというのに、使い魔のお前だけがこんな時間にこんな場所になぜいる? お前は 何を知っているんだ」 有無を言わせぬ強い口調と、嘘を許さぬ鋭い眼光でアニエスは才人に迫った。 才人は、ごまかしきれないと思い、知っていることを話すことにした。 「あいつはツルク星人、昨日城を襲ったバム星人と同じく、昔俺の国を荒らした奴の仲間で、多分 ヤプールの手下さ。昼間エースに深手を負わされたから、もしかして仕返しに来るんじゃないかと 思って来てみれば案の定だったよ」 「昼間エースに? あの怪獣のことか、だが奴はあれとは姿形がまったく違うぞ」 「ツルク星人は巨大化時と等身大時では姿がまったく違うんだよ。ただ、両腕の鋭い刀と、昼間の 戦いでエースの火炎でつけられた顔面の火傷の跡はそのままだったろ」 怪訝な表情をするアニエスに才人は、ツルク星人の特徴を説明していった。等身大と巨大化時で 姿がまったく違う星人には、他にカーリー星人、バイブ星人、ノースサタンなどがいて、どいつも 等身大時は並外れた格闘能力を誇る、おそらくは状況に合わせた星人なりのタイプチェンジなの だろうが、ツルク星人はその中でも特に凶悪で残忍な部類に入る。 「なるほど、わかった。しかし、ウルトラマンさえ取り逃した相手を、たった一人で止めようとは、 剣術に優れているのは分かるが、自惚れているのではないか?」 するとデルフが鞘から出てきて、カタカタとつばを鳴らしながらアニエス達に言った。 「確かにそうかもな。だがな、さっき相棒が飛び込まなかったら、そっちの副長どのは間違いなく 殺されていた、いやあ、そのまま全滅していただろうな」 「なに、貴様!!」 「よせミシェル、少し頭を冷やせ。それで、講釈はもうそれで十分だ。あと聞きたいことはひとつ、 奴の仲間は昔貴様の国で暴れていたと言ったが、そのときはどうやって倒されたんだ?」 さすが、現実的な思考をしているなと才人は感心した。あれだけの力の差を見せ付けられながら、 もう次に勝つ手段を模索しているとは。 「ああ、以前はウルトラマンレオ、エースの仲間だけど、彼が戦ってくれたんだが、最初の戦いでは 残念ながら星人に負けてしまったんだ」 「ウルトラマンが、負けた!?」 「ウルトラマンだって、別に神じゃない。あんたらもさっき見ただろう、奴は剣の一撃目をかわしても、 受けても、もう一本の刀で二段攻撃を狙ってくる。それをかいくぐって星人本体を狙うのは並大抵の ことじゃない」 「だが、最初の戦いということは、彼は次の戦いで奴に勝ったのだろう。言え、星人の二段攻撃を 破り、奴を倒したその戦法を」 才人は少し逡巡したが、やがて一言だけ口にした。 「三段攻撃だ」 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第一話 合体変身!! ルイズと才人 ミサイル超獣 ベロクロン 登場! 「怨念を晴らすまでは、幾度でも蘇る」 西暦二〇〇七年、地球を狙う恐怖の異次元人ヤプールはウルトラマンメビウスの活躍によって滅ぼされた。 しかし、その底知れぬ怨念は闇の中で胎動を続け、復活のときを待っていた。 だが、闇が動けば必ずそれを晴らそうとする光がある。 今、新たなるウルトラ伝説が始まろうとしている。 「宇宙の果てのどこかにいるわたしの下僕よ!! 光り輝き、気高い最強の使い魔よ、わたしは心より求めるわ! 我が導きに応じなさい!!」 その日、地球とは違う異世界ハルケギニアの一国、トリステインの王立魔法学院で、ひとりの少女が 使い魔召喚の魔法『サモン・サーヴァント』を唱えた。 彼女の名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、魔法成功率ゼロパーセントゆえ 『ゼロのルイズ』と屈辱的な蔑称を与えられている彼女の魔法は、結果として成功を収めた。 「あんた誰?」 爆発とともに現れた真紅の光、それが収まったときに姿を見せた一人の少年。 「誰って……俺は平賀才人」 彼の名は平賀才人、日本に住むごく平凡な少年だったが、この日を境に彼と、彼の主人となったルイズ、 そしてハルケギニアの運命は大きく変わることとなる。 誰も気づいていなかったが、召喚の際に現れた真紅の光は、消えずにそのままどこかへと飛び去った。 また、才人の手に使い魔のルーンが刻まれた時、はるか天空に歪みが生じ、不気味な声が響いた。 「ほほう、次元震の反応があって見てみれば、こんな次元が存在していたとは。地球にも負けない美しさだ、 住民も我らの奴隷となるにふさわしい。ふふはは……」 それからしばらくは才人とルイズにとって、波乱万丈なれど平穏な日々が続いた。 才人がルイズに犬扱いされるようになったこと。シエスタというメイドと偶然仲良くなったこと。 たまたまギーシュという貴族の少年の落とした香水を拾ってやったことから、彼とつまらないいさかいを 起こして、あげく決闘に臨むことになり、 青銅の騎士人形"ワルキューレ"を操るギーシュの前に才人は追い込まれるが、突然圧倒的な剣の腕を 発揮して奇跡的に勝利し、その後和解したギーシュと親交が始まったこと、など。 おまけで言えば、その際の騒動でシエスタとさらに仲良くなって、なぜかルイズの才人への扱いがより以上に 過酷になったことなどが付け加えられる。 だが、平穏な日々は突如として終わりを告げることになった。 ある日、ルイズと才人はトリステインの首都トリスタニアへと買い物に出かけた。 目的は、ギーシュとの決闘の際に人間離れした剣の冴えを見せた才人のために専用の剣を買うためだった。 なお、先日の件のお礼をしたいということで、シエスタが買出しついでについてきていたのがちょっとアクセントになっている。 「あっ、あれは何かな?」 「あそこは靴屋さんです。うちの厨房の人たちもひいきにしているんですけど、とても丈夫な靴を作ってくれるんですよ」 「じゃあ、あっちは?」 「刃物の砥ぎ師さんです。あそこで砥いでもらった包丁はとてもよく切れるとマルトーさんがおっしゃってました」 街を歩きながら才人は物珍しそうにあれこれとシエスタに尋ねてまわっていた。 ルイズとしては何がそんなに面白いのかさっぱり分からない、さらにあのメイドが何を聞かれても事細かに、 しかもうれしそうに説明しているのもなぜか気に入らない。 「はいはい、あんた達、おしゃべりはその辺にしなさい。サイト、目的の店はこの裏通りの奥よ。シエスタ、 あなたは分不相応なところだからしばらく待ってなさい、いいわね」 ようやく目的の裏通りの入り口にまで来たときには、ルイズの忍耐は限界ギリギリにまできていた。 「は、はい、じゃあわたしは別の買い物を済ませておきますね。ではサイトさん、また後で」 彼女はそそくさと駆けて行った。さすがにキレかけたルイズの雰囲気を察したようである。 「さて、さっさと行くわよ」 「あいよ、ご主人様」 裏通りにある小さな武器屋、そこが目的地である。 「おや、これは貴族の旦那、うちはまっとうな商売をしておりまさあ。お上に目をつけられるようなことは、 これっぽっちもしちゃいませんぜ」 「客よ」 店に入ったとたん、警戒心をあらわにしてくる店主にルイズは堂々と言い放った。 まあ、年のころ十五前後の貴族の少女とひ弱そうな少年の連れでは客と見られなかったしてもしょうがない。 だが、店主とルイズが次の句を繋ごうとした時、突然外から雷鳴のようなすさまじい音が響いてきた。 「な、なに!?」 とっさにふたりは外へと飛び出した。 そして、武器屋から出てきて空を見上げた瞬間、それは始まった。 突如、空がまるでガラスのように割れ、真赤な裂け目が現れたかと思うと、そこから全長五十メイルは 軽く超えるような巨大な怪物が街中に降り立ったのだ。 全身は禍々しく黒光りし、二足歩行でありながら鰐を思わせる顔、そして頭から背中にかけて無数に 生えた珊瑚のような赤い突起。 怪物は、開放されたことを喜ぶかのように巨大な咆哮を上げ、店を、家を踏み潰し、叩き壊しはじめた。 呆然とする人、逃げ惑う人を、まるで虫けらや石ころのように踏みにじり、蹴散らし、口から吐き出す火炎で焼き払っていく。 そして才人は、暴れまわるその怪物を見て愕然として叫んだ。 「そんなバカな!! あれはミサイル超獣ベロクロンじゃないか!!」 「なに、ベロクロン? あんたあの怪物知ってるの!?」 「俺の世界で、三〇年以上前に暴れまわっていた怪物だよ。でも、超獣はもうメビウスとGUYSが 全滅させたはずなのに、しかもなんでこの世界に?」 「そんなことはいいわ、行くわよサイト!」 「なに、ルイズ!?」 「国を荒らす敵に、貴族が背を向けるわけにはいかないでしょ!?」 「やめろ!! 逃げるんだ!!」 駆け出したルイズを、才人は慌てて追っていった。 そのころ、街の窮状にようやく王国の軍隊も動き始めていた。 空からはグリフォン、飛竜、ヒポグリフなどハルケギニアに生息する幻獣に乗った騎士やメイジが、 陸上からもトリスタニアに駐屯していた部隊が集結して怪物へと向かっていく。 「よりによって隊長が国境視察でいないこんなときに……だが、トリステインは我らが守る。怪物め、いくぞ!!」 グリフォン隊の隊長代理は部下を督戦すると、怪物の頭上を目掛けて突撃をかけた。 「全軍、一斉攻撃開始!!」 グリフォンや飛竜に乗ったメイジが空中から魔法攻撃をかけ、さらに空中から矢や槍が降り注ぎ、竜のブレスがほとばしる。 火が風が氷が鉄が無数の牙となって怪物を貫いたかに見えたが、なんとその皮膚にはかすり傷ひとつついてはいなかった。 「化け物め!!」 そのとき、怪物の口が開き、真赤な火炎が吐き出された。 火竜のブレスの一〇倍はあろうかという火炎に、避ける間も無く、三匹のグリフォンが主人ごと消し炭に変えられる。 「正面は危険だ、背後から攻撃をかけるんだ!!」 グリフォン隊の隊長代理は火炎の威力を見て、とっさに死角になるであろう怪物の背後をとる作戦に出た。 だが、その怪物に死角などというものは存在しなかったのだ。 突然、怪物の背中から頭にかけてびっしりと生えている赤い突起から無数の火の玉が撃ち出された。 「こんなもの!」 隊長代理は熟練した動きでその火の玉を回避した。 しかし、反撃に移ろうとしたとき、その眼は驚愕で見開かれた。なんと避けたはずの火の玉が進路を変えて追ってくる。 「ウワァァッ!!」 それは地球においてミサイルと呼ばれている兵器で、グリフォン、竜騎士、ヒポグリフ隊は半数は そのまま餌食となり、半数は避けようとしたが、追尾してきたミサイルによってやはり空の藻屑と消えた。 さらに、地上の部隊にもミサイルは降り注ぎ、彼らもなすすべなく全滅の憂き目にあった。 「離せ、サイト、離しなさいよ!!」 「だめだ!! あれは人間の敵う相手じゃない。殺されるぞ!!」 間もなくベロクロンの足元になろうかという場所で、才人はルイズを必死に抑えていた。 ルイズにとって逃げるという選択肢は存在しない。だが才人にとって、生身の人間が超獣に挑もうなど 自殺行為以外のなにものでも無かった。 「サイトさん、ミス・ヴァリエール、ここは危険です。逃げてください!!」 「シエスタ……あっ、危ない!!」 ルイズと才人の目に、ふたりを逃がそうと駆けつけてきたシエスタの背後から、今まさに火炎を吐き出そうと しているベロクロンの姿が見えた。 そのとき、ふたりは同じ行動に出た。シエスタをとっさに路地の影に突き飛ばしたのである。 自分が炎の餌食となることを代償に。 「才人さん、ミス・ヴァリエール……いやあぁっ!!」 道路を焼き尽くした熱波と熱風が路地にも吹き荒れ、シエスタは吹き飛ばされて意識を失った。 いまや、トリスタニアの城下町の半分が炎に包まれていた。 ベロクロンは悪鬼のごとく炎の中に君臨している。いまや奴を止める者は誰もいない。 トリステイン王女アンリエッタやその重鎮達は、城からその惨状をなす術なく見つめていることしかできなかった。 だが、突如怪物の頭上の空に真赤な亀裂が生じると、そこからおどろおどろしい声が城に、街に響き渡った。 「フハハハ、愚かな人間どもよ。我が名は異次元人ヤプール、この空に君臨する異次元の悪魔だ!」 誰もがあまりのことに空を見上げる。声はなおも続いた。 「我らはこの世界を必ずや我が物とさせてもらう。まずは、このトリステインとかいう小さな国からもらおうとしよう。 貴様らは、我らの誇る超獣ベロクロンによって皆殺しとなるか、 それとも我々の奴隷となるか、好きなほうを選択させてやろう。さあどうする? この国の主よ?」 「断ります!! 誇りを捨て、奴隷となって服従するなどするくらいなら死んだほうがましです。 私達は断固として戦い、この国を守り抜きます!!」 アンリエッタは勝ち誇るヤプールに向かって毅然と言い放った。 「フハハハ、愚か者よ。今日のところはこのくらいにしておいてやるが、次に来るときには容赦はしない。 次は貴様らの命とともに、貴様らの絶望、憤怒、恐怖から生まれるマイナスエネルギーを我らに 献上してもらおう。フフフフハハハ、フハハッハッハッハッ!!」 空の裂け目はベロクロンを飲み込むと、何も無かったかのように消滅し、呆然とするアンリエッタ達の 目の前には、地獄のように燃え盛るトリスタニアの街だけが残された。 破壊されつくした街、動く者さえいなくなった廃墟の一角に、物言わぬ姿となったルイズと才人が横たわっていた。 しかし、そんな彼らを新しい世界へと導こうとする者がいた。 どこからか現れた赤い光がふたりを優しく包み込み、やがてふたりは光り輝く不思議な空間に立っていた。 「ここは、いったい……はっ! サイト、サイトは?」 「俺はここだ……ルイズ、お前も無事だったか、よかったな」 「な、なによ。べ、別に心配なんてしてないんだけど、あんたも無事でよかったわね」 「残念だが、無事ではない」 「はっ、だ、誰!?」 突然語りかけてきた声に驚くルイズと才人の前に、ゆっくりと、銀色に輝く巨人が姿を現した。 そして、再びふたりの意識に、強く、気高い声が語りかけてきた。 「私は、ウルトラ兄弟の5番目、ウルトラマンAだ」 ふたりの前に現れたエースは、そう力強く言った。 「ウルトラマンA!? ほ、本当に!?」 「サイト、知ってるの?」 「知ってるも何も、俺の居た世界でウルトラマンAを知らない奴なんかいないよ。怪獣頻出期から今までずっと 地球を守ってきてくれたウルトラ兄弟の一人、あこがれのヒーローさ!!」 才人は怪訝な顔をするルイズにウルトラマンAのことを熱弁した。 かつて自分のいた世界では怪獣や宇宙人の脅威に晒されていて、そのとき人類を守ってくれた ウルトラマンと呼ばれる光の国の戦士達がいたこと。 だがあるとき、怪獣よりはるかに強い超獣を駆使して地球を襲ってきたヤプールという侵略者が現れ、 それと初めて戦ったのがウルトラマンAということ。 ヤプールはその後もたびたび復活したが、そのたびに歴代のウルトラマン達が撃退したこと。 最近もエンペラ星人の手先になって復活したが、新しいウルトラ兄弟の一員、ウルトラマンメビウスによって倒されたこと。 ルイズは半分も理解していないようだったが、才人の熱の入れように半分呆れながらも目の前の巨人への警戒心を解いた。 「……まあ、とりあえず敵じゃないみたいね。それで、無事じゃないってどういうことよ?」 「君達の肉体は、先のベロクロンの襲撃で死んでしまったのだ。今私と話している君達は精神体にすぎない」 「なんですって!?」 驚いて見下ろすと、確かに足元には傷だらけで横たわっている自分達、よく見てみれば、 今の自分達の姿はうっすらと透けている。 「ってことは、わたし達は今幽霊ってところかしら……で、そのウルトラマンAとやらが何用なの?」 ウルトラマンAは、ふたりを見下ろしながら、ゆっくりと語り始めた。 「この世界の少女よ。君はまだ気づいていないだろうが、あのとき君がこの世界に召喚してしまったのは、 その少年だけではない。この私もなのだ」 「へっ、あたしが? そんな憶え無いわよ」 自分が呼んだと聞かされて、まったく身に覚えの無いルイズはとまどった。 「彼が現れたときに、同時に赤い光が現れたのを憶えているか? 私達は遠くへ移動するときには 赤い玉となって飛行することができるのだ。私はヤプールの動向を偵察するためのパトロールの最中に、 君の作り出した空間の歪みを発見して、そこからヤプールの気配を感じて飛び込み、この世界に来た」 「えっ、それじゃあもしかしたら、あんたが私の使い魔になってたかもしれないってこと? ……ちぇっ、惜しいことしたわ」 「どういう意味だよ……」 エースはふたりのやりとりには構わずに話を続けた。 「どうやら、この世界は完全にヤプールに目をつけられてしまったらしい。原因ははっきりとは分からないが、 この世界ではあちこちで時空転移、君達の言う召喚儀式がおこなわれているために、その次元震が ヤプールに気づかれてしまったのかもしれない。奴らは手始めにこの世界を侵略し、力を蓄えた後に 地球へと侵略の手を伸ばすだろう」 「なんですって、ハルケギニアを侵略? そんなことさせるものですか!!」 ルイズは激怒した、自分の国をあんな怪物に蹂躙されて愉快なはずはない。 「悪いが、この世界の魔法とやらでもヤプールの操る超獣には歯が立たないのは実証されてしまった。 だから君達の力を貸してほしい」 「わたし達の? どういうこと」 「残念だが、私はこの世界ではこのままでは戦うことができない。だが君達の体と一体となれば、 私は短い時間ではあるがこの世界で戦える」 「わたしと一体に? じょ、冗談じゃないわよ!!」 ルイズは当然拒否した。だが、ウルトラマンの活躍を小さなころから見聞きしてきた才人は、 むしろわくわくした顔でルイズをなだめた。 「まあ落ちつけよ、体を貸すっていっても乗っ取られたりするわけじゃないし。それよりも、この世界では 戦えないってのはどういうことなんだ?」 「詳しくは分からないが、この星の太陽の波長が私とは合わないのかもしれない。地球で我々の 活動時間が三分に限られていたように、単独ではおそらく一分程度しかこの世界では実体を保てないだろう」 「なによ、それじゃまるで役に立たないってことじゃない」 ルイズの歯に絹着せない言葉に、才人はムカッとしたが、エースは構わず続けた。 「だからこそ君たちの力が必要なのだ。それに、君達と一体となれば、私の命で君達の命を救うことができる。 君達の記憶に立ち入るようなことは決してしない。力を、貸してほしい」 「俺はいいぜ」 「サイト!?」 あまりにあっさりと承諾した才人を見て、ルイズは困惑した顔を見せた。 「この年でまだ死にたくはねえし、ウルトラマンになれば、シエスタやお前、友達になりかけた奴らを守って やることができる。それに第一、俺はずっとウルトラマンにあこがれてたんだ!! こんなチャンスは二度と無いぜ!!」 「気楽でいいわね。けど、私もまだ死にたくはないし……わかったわ、それでどうすればいいの?」 エースは右手を高くかざすと、そこから光が走り、ふたりの手に小さな指輪がはめられた。 それは銀色で、 Aの文字をかたどったエンブレムが取り付けられているだけの簡素な、しかし美しいリングだった。 「銀河連邦の一員の証であるウルトラリングを今、君達に与えた。そのリングが光るとき、君達は私の与えた、 大いなる力を知るだろう!!」 ふたりの意識はそこでとぎれ、再び目をさましたとき、ふたりとも傷ひとつない姿で廃墟のなかに横たわっていた。 あれは夢だったのかと思ったが、その手に光るウルトラリングがあれは現実だったことを示していた。 その後、臨時救護所で再開したシエスタが最初、泡を吹いて倒れ、やがて目を覚ました後にふたりが 無事だったことを知って泣き崩れたのを見て、ふたりはようやく笑顔を見せた。 だが、休んでばかりもいられなかった。 王国は壊滅した軍の代わりに、対ヤプール用の王立防衛軍を設立することに決定した。 地球でいえばTACに相当する組織だが、その内容は最精鋭部隊がベロクロンによって全滅し、 他国への備えから各地の兵力も削るわけにはいかず、生き残ったわずかなメイジと兵、貴族や民間、 魔法学院からの志願者などを集めた寄せ集めだった。 ただし、その士気は高い。王女アンリエッタ自ら最高指揮官の位置に立ち、城を舞台に不退転の意志を 表したことで兵達から弱気は振り払われていた。 「今度の侵略者に対して、降伏や和平という道は最初からありません。それは、彼らが奪おうとしているものは 誇りでも、国でも、命でもなく、我々の人間としてのあらゆる尊厳をはぎとり、奴隷として貶めることで 愉悦を得ようとしていることだからです。私達が選ぶ道はただひとつ、戦って勝つことだけです。 この戦いの敗北はトリステインの人間の全滅、いえ、絶滅を意味することを忘れないでください。 そして、私と王家の人間はただひとりとして、あの超獣が地に崩れ落ちるときまで、この城から離れぬことを制約します」 王族自らが徹底抗戦の意志を固めたことで、防衛軍には続々と志願者が集まってきていた。 ベロクロンによって家族や友人を失った者から、貴族の誇りを守るために戦おうとする者、 これから家族を守ろうとする者、ほかの者も皆トリステインのために命を賭けて戦おうとしていた。 もちろん、そこにはルイズと才人がいたが、ほかにもルイズの悪友のキュルケやタバサ、 さらにはギーシュなどのクラスメイトたちの姿もあったことにふたりは驚いた。 「ツェルプストー、なんであんたがここにいるのよ。学院も無期限休校になったことなんだしゲルマニアに帰りなさいよ」 「いやぁ、あたしもそうするつもりだったんだけどね。あたしの恋人達がみーんな揃って防衛軍に 志願しちゃったもんでね、俺の死に水を君がとってくれるなら俺は誰よりも勇敢に戦える、なんて言われちゃ断れなくてね」 「……心配なのはふたりだけのくせに」 タバサが居るわけは分からなかったが、キュルケが関わっているのは間違いないだろう。 そして才人は、部屋の隅で柱を相手に落ち込んでいるギーシュに声をかけた。 「ギーシュ、お前はなんで?」 「僕は、軍の名門グラモン家の名誉のために当然ね、つまり家柄でしょうがなく、強制的に……」 「……」 「まあ、僕にも誇りはあるさ。ヤプールが次に狙ってくるとしたら間違いなくトリステイン城だろう? この城を落とされたらトリステインは顔を無くすようなものだからね。 王女殿下が命を賭けて城を死守しようっていうのに逃げちゃあ、貴族以前に最低だろ」 「だな、どこまでできるか分からないが、ヤプール相手には逃げ場なんかどこにも無いんだ」 才人は、本当にかつて地球防衛軍を全滅させたほどの相手と戦えるのかと不安になっていたが、 ここの学院の騒々しさがそのまま移ってきたような雰囲気に少し安心していた。 そして、二週間後、遂に再びベロクロンが姿を現した。 「ゆけえベロクロン!! 恐れを知らぬ人間どもに、我ら異次元人の悪魔の力を見せてやるのだ!!」 復興しかけた街を思うがままに蹂躙するベロクロンに、防衛軍は決死で立ち向かう。 空からはタバサの使い魔の風竜シルフィードをはじめとするドラゴンやグリフォン。 地上からは旧式火器や遠距離攻撃可能なメイジが、可能な限りの攻撃をベロクロンに叩き込んだ。 しかし、やはりベロクロンにはわずかばかりの痛痒も与えることはできなかった。 一回だけ、ベロクロンが口を空けた瞬間に急接近したシルフィードから、キュルケが全力の火炎弾を 口内に叩き込んで動きを止めたが、それも口内のミサイル発射菅をつぶしただけにとどまり、 反撃の火炎を受けて翼をやられて墜落してしまった。 防衛軍のあまりにもあっけない敗北だった。 勝ち誇るベロクロン、生き残った防衛軍がわずかな攻撃を続けてはいるが、ベロクロンの火炎と ミサイルの前にひとつ、またひとつと潰されていく。 やがて、防衛軍をあらかた叩き潰したベロクロンはその行き先を変えた。 すると、その眼前でまた空が割れていく。しかも尋常な大きさではない、幅およそ五〇〇メイル、 高さ二〇〇メイル、ベロクロンが一〇匹以上通っても余るほどの広さだ。 しかし、その割れた空間の先にあるものは異次元の真っ赤な裂け目ではない、その方向にあるものは…… 「やめなさい!! 学院まで壊すことはないじゃない!!」 ベロクロンの先、裂けた空間の先にはルイズたちの母校があった。 ヤプールは見せしめとするために、街と学院をつなぐ巨大な異次元ゲートを作り出したのだ。 「フフフフ、王女よ、勝利するときまで王城より離れぬと言ったそうだな。だったらそこからこの国が灰燼に 帰していく様をじっくりと見せてやろう」 「っ!! なんて卑劣な」 虚空から響くヤプールの声に、アンリエッタは憎悪を込めて睨み返したが、城の防御に完全配置した 多くの部隊はすぐには動かせない。 そのころ、ルイズは才人を連れてベロクロンの後を必死で追っていた。 ルイズにとっては決してよい記憶ばかりがあるところではない。むしろつらいこと、悔しいことが多くあったが、 それでも友と過ごし、自分をここまで育ててくれた思い出の場所なのだ。 「やい、あんたが私達にくれるって言った、大いなる力ってのは何よ! くれるなら今よこしなさい!!」 ルイズはリングに叫ぶが、リングは何も答えない。 「……学院を、やらすものですか!!」 ルイズと才人はベロクロンの後を追って異次元ゲートへと飛び込んだ。 風景が一瞬にして変わり、火災の熱気に包まれた空気から、学院周辺の緑の香りが鼻孔に飛び込んでくる。 ベロクロンはふたりの目の前を、ことさらゆっくりと学院へと歩いていく。しかしその距離はあと二〇〇メイルもない。 「逃げろ、みんな急いで逃げるんだ!!」 学院では突然の事態に慌てながらも、教師達が必死に生徒達を逃がそうとしていた。 だがあまりに突然の奇襲だったためにとても間に合わない。飛んで逃げることもできるが、 それではミサイルの餌食にされてしまう。 「この、悪魔めーっ!!」 少しでも足止めになればとルイズは魔法を連射する。ゼロのルイズの異名の通り、どんな魔法を使っても 派手な爆発しか起こさないが、教室ひとつを全壊させるくらいの威力がある。しかし、超獣ベロクロンには まるで爆竹のようなもので、あまりの巨体ゆえにまったく効果がない。 外壁上にはルイズたちの教師であるコルベールや、学院長のオスマンが最後の防衛線を引いている。 彼らも死ぬ気だ。 だが、ベロクロンの手が今まさに学院の外壁にかかろうとした、まさにそのとき!! 遂にふたりのリングが眩い輝きを放った。 「光った!?」 ルイズと才人はエースの声を聞いた。 今こそ、力を合わせて戦う時。 「ルイズ!!」 「サイト!!」 ふたりのリングが火を放つ!! 「「ウルトラ・ターッチ!!」」 光がふたりを包む。そして、光の巨人が光臨する。 ウルトラ兄弟五番目の戦士、ウルトラマンAの登場だ!! 「デャアッ!!」 天空から急降下してきたウルトラマンAのドロップキックがベロクロンに炸裂、ベロクロンは草原のはしまで吹き飛んだ。 「シュワッ!!」 エースはそのまま学院からベロクロンの注意をそらすためにベロクロンの後ろへと跳ぶ。 そして起き上がったベロクロンは、エースを敵と認識して雄たけびを上げた。 「な、なんだ、あの巨人は!?」 防衛軍やコルベールたち、兵を率いて出陣しようとしていたアンリエッタも突然現れた巨人に驚きの声を上げた。 あの化け物を巨人はやすやすと跳ね飛ばした。 幻獣やゴーレムの類ではない、そんなものとは醸し出すオーラがまったく違う。 なにより怪物と違って、あの巨人には禍々しさはまったく感じられない。 「私達のために、戦ってくれるのか……?」 (すげえ!! 俺ほんとにウルトラマンAになったんだ!!) (なっ、こ、これが私なの!?) ウルトラマンAへと変身をとげた才人とルイズは、それぞれ驚きの声を上げた。 今、ふたりの目はエースの目、耳はエースの耳。 そしてウルトラマンAの声がふたりに語りかけた。 (そうだ、今君達は私と視覚と聴覚を共有している。体の優先権は私にあるが、君達の意思は消えずに 君達のあきらめない強い意志が私の力となる。さあ、共に戦おう!!) (よーし、やろう!!) (もうこれ以上、私達の国を好きにはさせない!!) ウルトラマンは光の戦士、その力の源は決して折れない心の光。 今、才人とルイズの強き意志を得たエースの体には力がみなぎっていた。 着地したエースにベロクロンは向き直り、威嚇するように咆哮をあげる。 そして、ベロクロンの全身から炎が放たれた。ミサイルがエースに向けて全弾発射されたのだ!! しかし、エースは微動だにせずにその全てを体のみで受け止め、跳ね返した。 「す、すごい……」 「……信じられない」 地上では、キュルケだけでなくタバサまでも巨人の恐ろしいまでの頑強さに驚愕していた。 「シュワッ!!」 悔しがるベロクロンに向かってエースは再び跳んだ。飛んだのではない、跳躍力のみを使って跳んだのだ。 ゆうに三〇〇メイルは超えているだろう。 「デヤッ!!」 必殺キック、ベロクロンの顔面直撃!! ふらつくベロクロンにエースのパンチ、チョップの連続攻撃!! 「テェーイ!!」 さらに背負い投げで投げ飛ばす!! ベロクロンも体勢を立て直すと火炎をエースに向かって放つ、しかしエースはかつてのベロクロンとの戦いと同じ失敗はしない。 空へと立てた指先から光が走り、そのまま四角く空をなぞるとエースの前に巨大な光の壁が現れた。 『ウルトラネオバリヤー!!』 火炎はバリヤーに命中するも、押し返されて向こう側のエースにはまったく届かない。 ベロクロンは悔しがり、バリヤーが消えたとき、さらに光弾、破壊光線を放つ。 しかし!! 『スター光線!!』 前に突き出した両手の間から放たれた星型のエネルギー弾の連射が光弾を。 『タイマーショット!!』 胸のカラータイマーから放たれる一筋の光線とベロクロンの光線がぶつかり合う。 全弾相殺!! エースの連続発射した光線の前に、ベロクロンの攻撃はその全てが撃ち落されてしまったのだ。 「ヘヤッ!!」 今度はこちらの番だ、エースの広げた両手の間に雷のようなエネルギーがほとばしり、 それがエースの手のひらの間で小さなボールのように凝縮していく。 そしてエースは砲丸投げの玉のようになったそれを、一気にベロクロンへ向けて押し出すと、 玉は赤い三本の光線となってベロクロンを襲った!! 『パンチレーザースペシャル!!』 膨大なエネルギーの奔流はベロクロンの腹を打ち、その巨体を後方へと大きく吹き飛ばした。 もだえるベロクロン、エースはとどめを刺すためベロクロンに駆け寄る。 だがそのとき、ベロクロンの口から突然無数の泡が吹き出し、エースにまとわり付いていく。 「グッ、グォォッ、グッ、ヌァァッ!!」 それはベロクロンの体内の毒袋から放出される強力な溶解液、ベロクロ液だ。 本来ベロクロン二世の能力だが、ヤプールによって強化されたこのベロクロンもこれを持っていたのだ。 ベロクロンはここぞとばかりに反撃に出る。 むくりと起き上がったベロクロンはエースに突進を仕掛け、エースは避けられずにもろに受けて吹っ飛ばされてしまった。 さらに、振り下ろされる爪が、鉄柱のような足がエースを襲うが、苦しむエースは反撃することができず、 ベロクロンの攻撃を受けることしかできない。 そして遂に、ベロクロンの足蹴にされたエースのカラータイマーが鳴り出した。こうなっては エースのエネルギーはあとわずかだ。 (エース、頑張れ!! 超獣なんかに負けるな!!) (あんた!! でかいこと言っておいてその程度でくたばるわけ!?) 心の中から才人とルイズのエールがエースの心に響く。 (ああ、ウルトラマンはこんなことでは負けはしない!!) エースの心にかつてTACと共に戦っていたときの記憶が蘇る。 「デヤァッ!!」 エースは渾身の力を振り絞ってベロクロンを跳ね飛ばした。 そして、エースに向かって火炎を吐き出そうとしたその口をめがけて。 『パンチレーザー!!』 額のビームランプからの光線一閃!! ベロクロンは火炎が体内に逆流し、誘爆を起こして苦しむ。 今がチャンスだ!! 戦いを見守っていた誰もがそう思ったに違いない。 もちろん、エースも同様だ。 「デヤァッッ!!」 エースはベロクロンを持ち上げて天高く放り投げると、さらに落ちてきたベロクロンを受け止めて、 そのまま回転しながら投げ捨てる!! 『エースリフター!!』 強力なエースの投げ技炸裂!! ベロクロンは地に叩きつけられる。 とどめだ、エース!! エースは体を大きくひねらせ、腕をL字に組む!! 今こそ必殺!! 『メタリウム光線!!』 虹色の必殺光線がベロクロンに吸い込まれ、大爆発を起こす。 ベロクロンは断末魔の遠吠えを上げると、天まで届く巨大な火炎を上げて遂に消し飛んだ。 人々は、ある者は飛び上がり、ある者は泣いて喜んでいる、街を家族を誇りを、 何もかも踏みにじっていった悪魔が滅んだのだ。 ウルトラマンAは、その姿を見届けると静かに空を見上げて、飛び立った。 「ショワッチ!!」 ハルケギニア対異次元人ヤプールの戦いは切って落とされた。 すでにアルビオン、ガリアでも、超獣らしき巨大生物が確認されている。 ヤプールが侵略の手をハルケギニア全土に広げるのも時間の問題であろう。 アンリエッタ王女はヤプールに対抗するために、全国家の同盟を呼びかけはじめている。 いつ、どこに異次元人によって改造された恐るべき超獣の群れが、平和の破壊に現れるかもしれないのだ。 「んじゃ、平賀才人、定期パトロールに行ってきまーす」 「こら、なに言ってんの。私達は超獣が出ないときには学生のままなのよ。さっさと来なさい」 「いてて……ちぇ、冗談のわからない奴」 「なんか言った?」 「い、いえいえこちらの話で」 「あんた、最近ウルトラマンになれたからって気が緩んでるみたいだから、おしおきが必要かしらね?」 「い、いやその、わ、わたしが悪うございました!!」 「問答無用!!」 「ぎゃーっ!!」 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第四話 奪われた『破壊の光』 大蛍超獣ホタルンガ 登場! 「それで、君達3人がその現場を目撃したというのだね」 破壊され、内部を荒らされた宝物庫に、学院長オールド・オスマン、教師のコルベール、ルイズ、タバサ、キュルケの3人プラス才人が集まっていた。 「はい、フーケはゴーレムを使って宝物庫を破壊しようとしていましたので、わたしとタバサはそれを止めようとしました。 恥ずかしながら……返り討ちにあって危ないところでしたけど、間一髪ウルトラマンAが現れて助けてくれましたの」 「その後はわたしたちも見ていました。フーケはエースを見るや、ゴーレムを別の怪物に変えてエースと戦わせました。 ですがフーケは怪物で宝物庫を破壊すると、怪物を解体して時間を稼いでいるうちに『破壊の光』を盗み去ってしまいました」 キュルケとルイズが先程まで学院の中庭で起きていた戦いの顛末をそれぞれ説明した。 なお、フーケの作り出したアングロスが才人の世界の怪獣で、恐らくヤプールがからんでいるであろうことは伏せていた。 言っても信じてもらえないだろうし、そこから怪しまれてふたりの正体がばれても一大事である。 「概要は分かった。土くれのフーケ、手だれとは聞いていたがウルトラマンをも出し抜くとは……しかし、ほかの宝物ならともかく、よりによって『破壊の光』を盗んでいくとはな……」 オスマンは、壁の書置きと破壊された壁を見て苦々しげにつぶやいた。 「それで、学院長、『破壊の光』とは一体なんなのですか? 私も一度も見たことがないのですが」 話を聞いていたコルベールが興味を抑えられずにオスマンに聞いた。 『破壊の光』、それはコルベールが学院に赴任する以前より魔法学院に保管されている門外不出の代物であったが、普段はトランクほどの頑丈なケースに収められていて誰も実物を見た者はいなかった。 オスマンは少し考え込むと、昔を懐かしむようにしみじみと語りだした。 「わしが昔とある人物から譲り受けたものなのじゃが、そこからほとばしる光はワイバーンを一撃で倒すほどの威力を持っていた。 本当の名前も、どうやって作られたのかも分からないが、万一悪用されては危険すぎる代物ゆえ、『破壊の光』と名づけて厳重に保管しておいたのじゃ」 「では、フーケはそれを利用しようと? そんなものが盗賊の手にわたっては大変なことに!!」 「いや、しばらくは大丈夫じゃろう。あのケースは元々頑丈な上にわしが固定化を入念にかけてある。スクウェアクラスの錬金や、たとえゴーレムで踏みつけても壊れはしない。 鍵はわしが肌身離さず持っておるしな。ただし、時間をかければ話は別じゃが……」 部屋を陰鬱な空気が包んだ。 要するに、とんでもない爆弾を持ち去られてしまったようなものだ。しかしフーケの所在が分からない以上、手の打ち様がない。 この学院のまわりは手つかずの自然で包まれており、危険な魔物や動物を別にすれば隠れる場所はいくらでもある。 と、そのとき壊れた壁から一匹の鳩が飛び込んできてオスマンの肩に止まり、足につけていた紙切れを残して土くれに変わった。 「これは……フーケからの手紙? なんて書いてあるんですか?」 「うむ……『『破壊の光』の鍵、持ちて地図の場所まで来るべし。なお、夜明けまでに現れない。 もしくは小細工をろうしたる場合は、魔法学院の名声は地に落ち、ならびにトリステインにとって非常に不幸な結果になることを想像されたし。土くれのフーケ』」 手紙には学院周辺の簡単な地図が書かれ、北東の森の中に×印がつけられていた。 どうやらフーケはそこまで気の長い性格ではないのか、もしくは何か急をようする事態があるらしかった。 「なめられてますな。すぐに王室に連絡して衛士隊に応援を……」 「ばかもの、連絡をしているうちに夜が明けてしまう。ここから地図の場所まではおよそ4時間ほど、夜明けまではあと5時間しかない。第一、これは我ら学院の問題、我らで解決するのが筋というもの」 それを聞いてコルベールは目を丸くした。 「では、我らだけで奪還すると? しかし誰が!?」 だが、コルベールは一瞬後にさらに目を丸くすることになった。 なんとキュルケ、タバサ、それにルイズの3人が同時に杖を高く掲げて捜索隊に立候補していたのだ。 「き、君達!?」 「フーケには借りがありますわ、ここでおめおめ引き下がったらツェルプストー家の恥。手の内が分かった以上、同じ手は二度と食いませんわ」 「……右に同じ」 キュルケとタバサは雪辱に燃えている。ふたりがかりで惨敗したことがよほどの屈辱だったのは想像にかたくない。 「フーケの犯行を阻止できなかったのはわたしの責任でもあります。貴族の誇りをあの盗賊めに知らしめてやります」 ルイズの目にも、眼前で盗まれた上に逃げおおされた屈辱がありありとある。 オスマンとコルベールは止めても無駄だということを悟った。 「わかった。ではすぐに出発したまえ、夜明けまでには時間が無い。『破壊の光』必ず奪還してくれよ」 3人は「杖にかけて!」と同時に唱和した。 ルイズ達は馬車を用意している暇が無かったので、そのまま馬にまたがって出発した。 オスマンはコルベールといっしょに学院長室から遠ざかっていく馬を見つめていたが、やがてその姿が砂粒ほどに小さくなるとコルベールにおもむろに言った。 「さて、わしらも行くとするか」 「えっ!? い、今なんと?」 コルベールはオスマンの言う意味を理解できずに、思わず間抜けな返事をするにとどまった。 学院長は貴族としてミス・ヴァリエール達に『破壊の光』の奪還を指名したはずだ。ここで手を貸したりすれば彼女達の誇りを傷つけることになる、これは授業ではないのだぞ。 コルベールはついに学院長はボケたのかとまで思ったが、オスマンの顔はあくまで真剣であった。 「君は子供達だけでヤプールと戦わせる気かね?」 「……な、なんですって!?」 想像だにしなかった答えにコルベールは愕然とした。 今我々は土くれのフーケを追っているはずだ、なぜここでヤプールの話が出てくるのだ。 「わしは直接見てはおらんが、騒ぎはわしのモートソグニルが見ておった。途中からじゃがな、フーケはゴーレムを巨大な怪物に変化させおった。 しかもウルトラマンと互角に戦えるほどの強さを持ったやつにな。あんな魔法は少なくとも人間には不可能じゃ、しかもこのところのフーケの豹変と人間離れした事件の数々」 「それが、ヤプールがフーケに何かしたせいだと言うのですか?」 メイジは使い魔と感覚を共有できる。ルイズたちは気づいていなかったが、オスマンは間接的にあの戦いを見ていたのだった。 だが、あまりに飛躍した考えに、コルベールには到底納得できなかった。 「物的証拠は無い。しかし今人間をそこまで悪魔的な存在に変えられるとしたらヤプールくらいしか考えられん」 「そんな、まさか……」 「まさかと言うが、もしフーケが人間を超えた力を得ていたとしたら、この先どうなるか想像してみたまえ」 オスマンの問いかけにコルベールは口ごもるしか無かった。 ウルトラマンと互角に戦えるほどの相手に挑めば、結果は考えるまでもなく皆殺ししかない。 ガンダールヴの力に期待するという考えも一瞬浮かんだが、万一ヤプールが絡んでいたら超獣が現れる可能性が大だ。勝ち目は皆無に等しい。 「もしフーケがただのトライアングルクラスなら彼女達だけでも対処は可能じゃろう。そのときは我らはただ見守っておればよい。 しかし、もしそうでなければ、彼女達はまだ誇りより命を大事にすべき年頃じゃ、死ぬのは年寄りからと思わんかね?」 「わかりました。まあ、何も無ければそのまま帰ってくればよいだけですしね。及ばずながらお手伝いいたします」 コルベールが理解してくれたおかげで、ようやくオスマンも相貌を崩した。 「よし、そうとなれば急いであとを追うぞ。ミス・ロングビル、留守を……ミス・ロングビル、おかしいな、こんなときに現れないような人ではないのじゃが?」 オスマンは、留守を任そうと秘書のミス・ロングビルの姿を探したが、いつもならそこにいるはずの端正な姿が無くて怪訝な顔をした。 「夜逃げしたのでは?」 「馬鹿言いたまえ! 自慢じゃないがこんないい職場はトリステイン中探しても無いぞ。それに給料日は来週なのにその前に逃げてどうする?」 自分が女なら3日で辞表を出しますよと、コルベールは言いたいのを我慢した。 オスマン学院長のセクハラ癖は学院にいる者で知らない者はいない。 そして秘書としてもっとも近くにいるミス・ロングビルが最大の被害者となっているのも自明の理で、コルベールはつねづね彼女の境遇に同情していたのだった。 「はぁ、それはともかく急がなくては追いつけなくなりますよ。駿馬はまだありますから早く行きましょう」 それから早くも3時間が過ぎ、ルイズたちはうっそうとした森の中を走っていた。 もちろんその後ろからサイレントの魔法で足音を消したオスマンとコルベールがあとをつけていたが、彼女達には知るよしも無い。 「いてて、やれやれいいかげんケツが痛くなってきやがった。車と違って馬ってやつはどうしてこう」 「馬車を用意している暇が無かったんだからしょうがないでしょう。本来ならあんたなんか馬どころか歩いてついて来るのが筋ってものよ、犬のくせに」 馬に乗れない才人はルイズと同乗していた。はたから見ればうらやましい状況に見えなくも無いが、本人達にそんな気持ちは微塵も無かった。 いつ敵の奇襲があるかもしれない状況だというのに、ルイズと才人は例によって埒も無い言い合いをしている。 いや、才人の背中のデルフリンガーも合わせれば3人乗りかもしれないが、やがてふたりの言い合いが一段落したころ、それまで黙っていたデルフリンガーが突然ふたりに話しかけてきた。 「なあ、相棒。それに娘っ子」 なんだ、と、なによのふたつの声が同時に答える。 「おめえら、ウルトラマンAだろ?」 ふたりの心臓がいきなり人間に出しうる最大の心拍数まで上昇した。 否定する言葉を出すべきなのだろうが、頭が茹で上がり、口は鯉のようにパクパクするだけで声が出てこない。 そして、それはふたりの意思とは真逆に肯定の意味をなにより雄弁にデルフリンガーに与えることになった。 「ふーん、やっぱりな。最初から妙なふたりだとは思っていたが、さすがにそこまでとは思わなかったぜ」 「い、いつ気づいた?」 「阿呆、さっきウルトラマンAが現れたとき、俺を背中に背負ってたのはどこの誰だ? その後しっかり回収しておいて、鞘の中だから気づかれないとでも思ったか?」 才人は、このときほど自分の楽天主義を後悔したことは無かった。正体がばれたというよりも、まだ顔は見えないが、とてつもない殺気を放ってくる鬼に。 「心配するな、誰にも言いやしねえよ。言っても誰も信じねえだろうしな。しかしそれにしても、お前らいったい何者だい?」 ふたりは、観念してデルフにこれまでのことを説明しだした。幸いキュルケとタバサは少し前を走っており、小声で話せばひづめの音にかき消されて聞かれる心配はない。 召喚の際のことから、一度死んでエースに命を救われ、エースと同化したこと、その代わりにヤプールと戦うことを承諾したことなど。 「ふーん、なるほど。違う世界の戦いねえ、おめえらの10倍以上はゆうに生きてるが、長生きはするもんだねぇ。 まあ、超獣が出てきたとしたら俺は役に立たないだろうし、踏み潰さないように隅っこに置いてから変身してくれよな」 ルイズと才人は、ようやく安心して息をついた。 考えてみれば、ずっと身に着けて歩く以上デルフに正体がばれるのは時間の問題でしかない。 ふたりともあの武器屋のときにそれに気づくべきだったと思ったが、すでに後の祭り。 当のデルフは才人の背中でカタカタと音を立てて笑っていた。 (やれやれ……だが、さっきの戦いのときにエースが太刀筋を乱したのは、まさかとは思うけど……) 才人はふいに思いついた仮説に、思わず自分の左手のルーンを見ていた。 やがて、急に森が開けた。 学院の中庭ほどの広さの空き地の中に小さな掘っ立て小屋がある。地図の場所はここだ。 「ついたみたいね。しかしまあ待ち伏せには打って付けの場所ねぇ、フーケさんお待ちかねかしら」 そのとき、小屋の扉がさびた音を立てて開き、中から黒いローブと仮面で姿を隠した人物が現れた。 彼女たちとの距離はおよそ30メイルほど。 「あんたが土くれのフーケかしら!?」 「ああ……」 ルイズの問いかけにフーケは短く答えた。感情も何も無い機械的な声だった。 鍵は? というフーケの問いにルイズは金色の鍵を示して見せた。ここで鍵を持ってきていないことが知れたら逃げられてしまう可能性が大だからだ。 だが、これは取引ではない。 ルイズ達にとってはフーケを捕まえることができる唯一のチャンス、フーケはそれを見越してわざわざ自分の居場所をさらした、いわば駆け引きだ。 さらに、彼女達のプライドの高さからして偽物を持ってくるような小細工をするような確立は低く、合わせて制限時間をもうけることで判断の時間を奪うことまで考えに入れている。 勝負は、鍵をフーケが手に入れ、逃げおおせるか否かにかかっている。 「投げろ」 「わかったわよ、ほら!!」 ルイズは鍵を放り投げた。 フーケの視線が一瞬、鍵に集中する。4人は一斉に駆け出した。 「行くぞデルフ!!」 「あいよ相棒!!」 まずはデルフリンガーを抜いて身軽になった才人が正面から先陣を切った。 投げられた鍵を追い抜くほどの勢いにフーケは一瞬たじろいだが、すぐに正面に高さ3メイルはある土の壁を作り出して防御した。 だが、正面からの攻撃は果たして囮である。 「『ファイヤーボール』!!」 「『ウィンディ・アイシクル』」 キュルケとタバサの得意の攻撃呪文が左右から同時に襲う。 しかしこれも土の壁で防御されてしまった。 この壁を超えるにしても迂回するにしても5、6秒はかかるし、飛んで超えるにしても飛びながら魔法は使えない。 フーケは勝利を確信して鍵に手を伸ばしたが。 「『錬金!!』」 突然鍵がフーケの眼前で爆発を起こした。 爆発の閃光と轟音に視覚と聴覚を奪われたフーケはたじろぐ。 「今よ!!」 なんと、真正面の土壁からルイズを抱えた才人が飛び出してきた。先の爆発はルイズが鍵に錬金をかけたせいだ。 実は最初の囮こそが本命だったのだ。才人の身体能力とルイズの存在を計算に入れていなかったのがフーケの敗因である。 「うぉぉっ!!」 右手にルイズを抱えて、左手にデルフリンガーをかざした才人は動けないフーケに切りかかる。 だが、そのときフーケのそばにあのときの小さな光が現れた。 「見るな!!」 ふたりはとっさに目をつぶった。 同時にフーケの姿も見えなくなるが、あとは勘を信じるしかない。 デルフリンガーを峰に反すと才人は思いっきり振り下ろした。手ごたえあり。 「……やったの?」 地面に横たわったフーケの周りに皆が集まってくる。頭部を強打されたフーケは身動きしない。 「いや、殺してはいない。と思うが」 才人は不安げに言ったが、耳を澄ますとフーケの息遣いが聞こえてきたのでほっとした。 「なあ、それよりもそれは?」 フーケのそばには、あの小さな光を入れた籠のようなものがまだ残っている。 タバサが杖の先にそれを引っ掛けて持ち上げると、それの正体がわかった。 それは臀部を緑色に光らせた小さな虫、蛍であった。 ただし、普通の蛍と違って全身がささくれ立っていて気味が悪いことこの上ない。 「恐らく魔法生物の一種ね。そいつの光で人間を動けなくして餌食にしていたのね」 キュルケが吐き捨てるように言った。種が分かればなんということはない。 「ねえ、そんなことよりフーケでしょう」 「あ、ええ、そうね」 ルイズに言われてキュルケも意識をフーケに戻した。 まだフーケの素顔は仮面に隠れて分からない。 誰にも知られていない怪盗の素顔をこれから暴いてやろうとして、彼女たちの心音は自然に高鳴っていった。 だが、その仮面を外したとき、期待は驚愕に変わった。 「なっ!?」 「こ、この人は!?」 「……!」 「ミ、ミス・ロングビル!?」 あまりに意外な事実に、彼らは皆立ち尽くすしかなかった。 だが、暗い森の奥からその一部始終を見守っていた者がまだいたのである。 「やれやれ、見破られてしまったか。これではもう使えんな。仕方ない、ホタルンガよ、巨大化して暴れろ!! 皆まとめて踏み潰してしまえい!!」 呆然としている皆の目の前で、突然あの蛍が強く輝きだした。 「えっ、な、なに!?」 「まずい、捨てろ!!」 才人の叫びにタバサは籠を思い切り魔法で吹き飛ばした。 地面に落ちた籠は砕け、中から蛍が飛び出して、みるみるうちに巨大化していく。 やがて、昆虫の姿ながら二足歩行に、緑色に爛々と光る目、尻尾の付け根に巨大な緑色の発光体を持つ超獣へと変化した。 「大蛍超獣ホタルンガ……って逃げろーっ!!」 かん高い鳴き声を上げて向かってくるホタルンガから才人は全員を抱えて全速力で逃げ出した。 途中でルイズやキュルケが何か言っているが、聞いている暇は無い。 だが、ルイズはなおも暴れていた。 「この、サイト離しなさいよ! あいつはわたしが倒してやるんだから!」 「馬鹿か! 超獣がどれほど強いかお前だって知ってるだろう、軍隊でも敵わないやつにお前ひとりでなにができる」 才人は、あれだけ見てきてまだ超獣の怖さを理解していないのかとルイズを怒鳴りつけた。 「やってみなきゃわからないじゃない! 相手がどんなに強大だろうと、敵に後ろを見せない者を貴族と言うのよ!!」 「逃げても恥にならない相手っていうのもいるんだよ!! お前のは勇気でもなんでもない、犬死にの蛮勇って言うんだ」 才人にも、それなりに付き合っているだけあって、誇りを何より重んじるルイズの気持ちは少しは分からなくもない。 しかし、それでも何の策も無く超獣に挑むような自殺行為を黙認することはできなかった。 目の前の森に飛び込めば身を隠す場所もあるだろう、才人は必死で走った。 だが、タバサが杖で無言のまま才人の足を引っ掛けたので彼は盛大に転んでしまった。 「いってえ!! な、なにするん……!?」 怒鳴ろうとした才人の頭上を白い煙が猛烈な勢いで通り過ぎていった。 煙は、ホタルンガの頭から噴射され、才人が逃げ込もうとしていた森の一角を包み込むと、一瞬のうちに草木はボロボロに腐り果て、森が消滅してしまった。 彼らは瞬時に理解した。こいつだ、こいつが人間を溶かして喰っていたのだ。 「サ、サンキュー、タバサ」 もしタバサが足払いをかけてくれていなかったらもろに直撃されていただろう。 彼女は、それよりも逃げたほうがいいと、短く言っただけだったが、一応謝意は通じたようだった。 だが、どうも走ったくらいで逃げられる相手ではなさそうだ。 しかし、ホタルンガがもう一度溶解霧の発射口を彼らに向けようとしたとき、突然ホタルンガの左側面からキュルケのものより数段大きい火炎弾がホタルンガに命中して、炎で全身を包み込んだ。 「今のうちです!! 早く逃げなさい!!」 「オスマン学院長、それにミスタ・コルベール!?」 思わぬところからの援軍だった。ホタルンガは炎を振り払うと怒りを込めてふたりのほうへ向かっていく。 超獣の注意が自分達から逸れたことを確認すると、タバサは短く口笛を吹いた。 空からタバサの風竜シルフィードがやってきて目の前に着地する。 「乗って」 まずタバサが、続けてキュルケが乗り込む。 才人は、ルイズを抱えたままシルフィードに乗り込もうとしたが、手を伸ばした瞬間ルイズが腕の中からすり落ちてしまった。 「ルイズっ!? よせ!!」 さっきの忠告にも耳を貸さず、ルイズはホタルンガに向かっていく。 ホタルンガはオスマンとコルベールに気を取られてこちらに背を向けているが、そのくらいでどうにかなる相手ではない。 案の定、ルイズの魔法はホタルンガの外骨格にはじかれて派手な爆発をあげただけにとどまった。 第一プロのメイジであるコルベールの攻撃もまったく通用しないのに、学生のルイズの魔法が通用するはずがない。 「くっ、このっ、このっ!!」 なおもあきらめずに攻撃を続けるが、やはりまったく効果は無く、むしろ連続する爆発にいらだったホタルンガの注意を引く結果となってしまった。 ホタルンガの尾部の発光体が怪しく光る。 「なっ、きゃあぁぁっ!!」 「しまった……ルイズ!!」 才人の目に飛び込んできたのは、ホタルンガの半透明の発光体の中に吸い込まれてしまったルイズの姿であった。 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 15話 剣の誇り (後編) 奇怪宇宙人ツルク星人 登場! 軍民合わせて100人近い犠牲者を出した恐怖の夜が明けた。 市街地は警戒する兵士達が行きかい、戒厳令が解除された後は、それらのほかに、いくつも運ばれていく 棺や涙に咽ぶ遺族達の姿が人々の不安をあおり、平日だというのに出歩く人は少なく、用が済めば家に 立てこもって固く鍵をかけて閉じこもり、噂は噂を呼び、不安は幻影の殺人鬼像を作り出し、トリスタニア全域が 見えない恐怖に包み込まれていた。 そんななか、王宮内での兵士達の鍛錬場では、銃士隊隊長アニエス、副長ミシェル、そして才人が 抜き身の剣を構え、対ツルク星人のための作戦を練っていた。 才人からの情報により敵の正体は知れたものの、たった一体でトリステイン軍すべてを翻弄するような 相手には正攻法では勝ち目がない。そして、人間大で暴れまわる相手にはウルトラマンの援護も期待できない。 トリステインの人々は、今初めて自分自身の力のみで侵略者を打ち倒さなければならない事態に向き合おうとしていた。 「ひとつの技にはひとつの技で勝てる。しかし二段攻撃には三段攻撃しかない」 俊敏な動きと、両手の刀を使った二段攻撃を操るツルク星人を倒すには、かつてウルトラマンレオが用いた 三段攻撃の戦法を使うしかない。だが、ウルトラマンレオほどの身体能力の無い人間の身で三段攻撃を 習得するのは一朝一夕のことではない。 そこでアニエスが考案したのが、三段攻撃を変形させて一段を一人が受け持つ、三身一体の戦法であった。 これは、星人の第一刀を最初の一人が受け止めた後、二人目が星人の二段攻撃を防ぎ、間髪いれずに 三人目が星人にとどめを刺すといったものであった。 だが、現状唯一星人に対抗できそうなこの作戦が決定したとき、銃士隊の隊員達に別の意味での緊張が 走った。それは、この戦法が三人で行う以上、誰がやるのかということだった。剣技の順から考えて、隊長、 そして副長は間違いない、問題は三人目である。皆が息を呑んでアニエスの発表を待った、しかしその口 から出たのは信じられないような言葉だった。 「この作戦はまず、変幻自在に繰り出される奴の第一撃を受けられるかどうかにかかっている。その役目を 少年、お前がやれ」 「えっ、俺が!?」 いきなりアニエスに指名されて才人はとまどった。ツルク星人の討伐には参加するつもりではあったが、 手だれぞろいの銃士隊の隊員達を差し置いて自分が選ばれるとは思ってもみなかった。 当然、他の隊員達からもどよめきが起こる。大事な先鋒をいきなり現れたよそ者に任せるとは、隊長は何を 考えているのだ。 「奴の攻撃は並みの人間では見切りきれん。腹立たしいが、私の見た限り奴の太刀筋を見切れる動体視力を 持つのはお前だけだ」 「は……いえ、了解です!」 そうまで言われては才人にも断る理由は無かった。形ばかりの敬礼ではあるが、精一杯のやる気を示す。 隊員達も、昨晩のことを思い出して口をつぐんだ。押されていたとはいえ、まがりなりにも星人と打ち合いが できたのはこの少年だけ、隊長は現実的な判断をしたのだと。 「よし、二撃目はミシェル、お前だ」 これは妥当な人選であったので文句は出なかった。副長という肩書きが示すとおり、彼女の剣技はアニエスに 次ぐものであることは誰もが知っている。 「はっ! ですが、彼のインテリジェンス・ソードはともかく、我々の剣は奴の剣との打ち合いに耐えられませんが」 「王宮の魔法使いに依頼して『固定化』の魔法を限界までかけてもらう。一撃くらいは耐えられるはずだ。そして、 とどめの三撃目は私がやる。いいか、奴は今晩も必ず現れるだろう。それまでになんとしても三段攻撃を会得 しなければならん。覚悟しろ!!」 三段攻撃を会得できるまで地獄を見せるというアニエスの叱咤に、才人とミシェルは身を引き締めた。 そして地獄の特訓はスタートされた。 方法は、手だれの銃士隊員二人の連続攻撃を才人とミシェルが受け止め、アニエスの攻撃につなげると いうものだったが、当然真剣を使った実戦さながらのものであり、しかも三人の間に一糸乱れぬ完全な 連携が要求されたために、訓練は難航した。 「馬鹿者!! 反応が遅い、それでは二撃目に間に合わんぞ」 「小僧!! それでは二撃目をミシェルが受けるスペースが無いぞ!!」 「もっと剣の根元で受けろ、深く受け止めなくてはすぐに逃げられるぞ!!」 「本物の星人はもっと速いんだ、目を見開け!! 瞬きをするな」 アニエスの怒鳴り声がする度に最初からやり直され、日が高く昇るころには相手役の隊員達も10回近く交代し、 二人とも肩で息をしているような状態になっていた。 もちろん、アニエス自身も二人に合わせて攻撃できるように突進を繰り返し、全身汗まみれになっているのには 変わりない。相手役の隊員には代わりがいるが、この三人に代役はいないのだ。 だがやがて、あまりに過酷な訓練に隊員のひとりが根を上げて叫んだ。 「隊長、こんなことやっても無駄です。こんなことであの悪魔に勝てるわけがありません!」 隊員達の間には、昨夜の戦いの絶望的な様子が焼きついていた。人間をはるかに超えた星人に対する恐怖感は 地球人もハルケギニア人も変わりない。 すると、ほかの隊員達もそうだと言わんばかりにアニエスに詰め寄ってきた。 「魔法を軽く避けて、20メイルはジャンプするんですよ。人間に捉えられるわけがありません」 「そうです。それに、無理に相手しなくても、そのうち巨大化したところをウルトラマンAに倒してもらえばいいじゃ ありませんか、第一、元はといえばウルトラマンAがあいつを取り逃したのが原因なんですし!」 口々に特訓の中止を訴える隊員達を、アニエスは黙って聞いていたが、やがて大きく息を吸うと、剣を振り上げ これまでにない声で一喝した。 「黙れ!! 今弱音を吐いた奴、全員首を出せ。いつから銃士隊はそんな意気地なしばかりになった!! ウルトラマンに 任せればいい? 今荒らされているのは誰の国だ!! 我々は何のために陛下から剣を預かっているのか忘れたか」 阿修羅のようなアニエスの怒り様に、隊員達は完全に気圧されて言葉を失った。 「し、しかし……」 それでも、何人かの隊員はまだ食い下がろうとしたが、そこでデルフリンガーを杖にして休みながら見守っていた 才人が割り込んだ。 「恐らく星人はもう2度と巨大化しないよ」 「な、なに、なんでそんなことがわかる!?」 「巨大化したところでウルトラマンAには敵わないのがわかっているからさ。だから小さくなって直接人間を襲い にかかってきたんだろう。ずる賢い奴さ」 隊員達は絶句した。 確かに、ツルク星人はウルトラマンAの敵ではない。だがそれはエースと比較すればの話で、星人の身体能力と 武器は人間のそれをはるかに上回る。現に、たった一晩暴れただけでトリスタニア中が恐怖に包まれ、都市機能にも 影響が出始めている。 アニエスは全員を見渡して言った。 「このまま奴の好きにさせたら、1月と経たずにトリスタニアは人の住めない死の街になる。そうなれば、もう後は ヤプールの思うがままだ。魔法では奴を捉えられん以上、剣には剣を持ってあたるしかない。そして、それしか ないなら、我々がやらずに誰がやる!? 誰がやるんだ!!」 もう、反論できる者などいなかった。 「だがチャンスは、奴がウルトラマンから受けた傷が癒えていない今、おそらく今晩が限界だろう。それを逃したら、 もう奴を倒す機会は永遠にやってこない、不満を垂れる前に、自分達の剣にかかった重みを考えてみろ!」 「…………」 無言で、特訓は再開された。 誰も一言も発せず、ただアニエスのやり直しを命じる声だけが何度も響いていた。 そして、太陽が天頂に達したとき。ようやく休憩の許可が下りた。 「よし、午前の訓練はここまでだ。全員、食事と休息を充分にとっておけ」 アニエスはそれだけ言うと、訓練場を立ち去っていった。 銃士隊は、食堂を使うこともあるが、野戦の訓練もかねて訓練場で空を見ながら食事をとることも多い。 メニューは、黒パンに牛乳、あとは野菜スープと干し肉にチーズと、栄養価は考えられているが味気ない ものばかりだったが、学院でルイズに"犬のエサ"を食わされ慣れている才人には全然問題なかった。 それに、特訓のせいで疲れているからまずいなどという味覚はどこかに飛んでいた。空腹は最高の 調味料とはよく言ったものである。 いや、というよりも才人にとって味覚より視覚のほうが腹を満たしていたかもしれない。なぜなら、 いっしょに食事をとっている銃士隊の隊員達は全員若い女性の上に、一人の例外もなく美人揃いである。 そんななかに一人だけ男が混ざっていたら、どちらを向いても花畑でちょっとしたハーレムのようなものであった。 これを学院に残っているWEKCの少年達が見たら、死ぬほどうらやましがるだろうし、ルイズが見たら 灼熱怪獣ザンボラーのごとく怒り狂うだろうが、幸せいっぱいの才人の脳髄はそんなことに気を使うキャパシティはない。 やがて、食物を全部胃袋に放り込んで満腹になった才人は、次の訓練開始までできるだけ休んで おこうと芝生に腰を下ろしたが、そのとき突然後ろから声をかけられた。 「おい貴様」 振り返ると、そこには銃士隊副長のミシェルがいた。 「あ、なんですか?」 「立て……ふん、貧相な体つきだな。始めに言っておく、私は貴様のことが気に食わん、確かに貴様の 能力はこの目で見た。昨日結果的に助けられたのも認める。しかし私はどこの馬の骨とも知れん奴に 背中を預けて戦うつもりにはなれん」 「まあ、そりゃそうでしょうね」 頭をかいて苦笑しながら才人は答えた。 傷つく言葉だが、才人はミシェルの言葉を否定する気にはまったくなれなかった。自分の人並みはずれた 剣技はガンダールヴとかいう訳の分からない使い魔のルーンのおかげだし、昨日今日会ったばかりの奴を 信用して命を預けろというのがそもそも無茶なのだ。 「だが、隊長の命令である以上、私はそれに従って戦わねばならん、それが銃士隊副長である私の 義務だからな。しかし、お前は銃士隊ではなく、ラ・ヴァリエール嬢の使い魔だ。本来はこの戦いに なんの義務も責任もない。ならば貴様はなぜ主人を置いてまでここに来た? なぜ何の関係もないはずの 戦いに自ら命を張ろうとする。それだけは答えてもらおう」 才人は、ミシェルの問いに苦笑いすると、きまずそうに、だが真っ直ぐに目を見据えて答えた。 「別に、そんなたいした理由はないです。ただ、俺は知識から星人が等身大で人間を襲うことを知っていて、 トリスタニアの人々が狙われるかもしれないことがわかっていた。だから、どうしても不安でほっておくことが できなかった。それに、望んだわけじゃないけど、俺には人よりうまく武器を扱える魔法をかけられちまったから、 力が無かったから何も出来なかったなんて言い訳はもうできないんです」 「はっ、呆れたな、そんなことのために貴様は死ぬかもしれない戦いに駆け込んできたわけか」 ミシェルの見下す目がさらにきつくなった。 「だから、たいした理由は無いって言ったでしょ。まあ、強いて言うなら……命がけで俺達を守ってきてくれた ウルトラマンに、少しでも答えられるようになりたい、あんなふうに強くなりたいと思ったからです」 才人は心の奥にあるあこがれをそのまま口に出した。 「そうか、だがそのために死ぬことを怖いとは思わんのか」 「そりゃ怖いです。本当はみんなまかせて知らんふりをしていたい。けれど、ここで逃げ出したら、 俺は自分だけじゃなくて、ずっとあこがれてきた自分のなかのウルトラマンまで裏切っちまうことになる。 そうしたら、俺はもう俺じゃいられなくなる……ウルトラマンを真っ直ぐに見ることができなくなる」 ミシェルは、その答えをじっと聞いていたが、やがて呆れが呆れを通り越して感心にいたったように 苦笑いすると、やや声のトーンを落として言った。 「ふん、臆面も無くそんなことを言えるとはたいしたものだ。貴様はよほどの馬鹿か、それともよほどの ガキか……だがまあ想像していた以上の答えはいただけた。今回限りだが、貴様に私の背中を 預けてやろう」 「あ、期待にそえるように頑張ります!」 「だが勘違いするなよ。私はまだ貴様を信用したわけじゃない。この作戦の要は貴様が奴の第一撃を 抑えられるかどうかにかかっている。次の訓練で完璧にそれを身につけてみろ、いいな」 「はいっ!!」 元気良く答えた才人に、ミシェルもようやく相貌を崩してくれた。 「ふ、元気だけはいいな。そうだ、ついでにもうひとつ答えろ、ウルトラマンはお前のいた国とやらでも 人間を守って戦っていたそうだが、なぜ彼らは命を賭してまで人間のために戦うのだ?」 「それは、俺にも詳しくはわかりません。ウルトラマンが人間に語りかけることはほとんどないんです、 ただ……」 「ただ……?」 「ウルトラマンは……みんなすごく優しいから」 才人は目を輝かせてそう答えた。ウルトラマンは、ただ戦うだけの戦士ではない。悪意のない怪獣の 命は奪わずに、時には人々の命を守るために盾となって敗北をきしたり、卑劣な罠に落ちたりもする。 けれども、そうした無言の優しさがあるからこそ、人間もウルトラマンを信じて、共に力を合わせて 戦えるし、無条件のあこがれを向けることができる。 ウルトラマンは決して全知全能の神ではない。いや、むしろ人間にとても近い存在なのだ。だから、 言葉はなくとも、人々はウルトラマンと心をかよわすことができる。 「優しいから……か」 ミシェルは、少なからず自分の中の価値観が崩されていくのを感じていた。優しさ、ずいぶん長い間 忘れていた気がする言葉だった。 「じゃあ、俺からもひとつ聞かせてください。ミシェルさん、貴女はなんのために剣を握ったのですか?」 すると彼女は一瞬だけ悲しそうな表情を浮かべると言った。 「私は、恩人のためだ。私がすべて失い、存在すら無くなりかけた時、その人が私をすくいあげてくれたから こそ、今私はここにいられる」 それから数十分後、改めて特訓は再開された。 相変わらず、アニエスの怒声が飛び、同じことが繰り返されていたが、互いに腹を割って話し合った おかげか、才人とミシェルの間には午前中には見られなかったお互いへの配慮が感じられ、第一撃目から 二撃目へのつなぎ合わせがみるみる上達していった。 そのうち、依頼してあった固定化した剣がふた振り届けられた。見た目は変わらないが、強度は鋼鉄 以上に強化してある。これなら宇宙金属製のツルク星人の剣とも打ち合えるだろう。 そして、太陽が山陰に没しようとしている時刻、三人とも肩で息をし、隊員達もほとんどがへばっている そのとき。 「! できた!」 もう何百回目になるかの繰り返しの末、遂に三人の連携は完成を見た。相手役の隊員二人は 吹き飛ばされて芝生に横たわっている、アニエスの剣だけが訓練用の木剣でなかったら二人とも 死んでいるだろう。 「よし、今の感覚を忘れるな。いいか、今晩中にケリをつける、もうこれ以上一人の犠牲も出させはせん!!」 「はいっ!!」 ミシェル、才人、そして銃士隊員達の声が響き渡る。これで準備は整った、待っていろツルク星人。 そして、太陽が姿を隠し、再びトリスタニアに恐怖の夜が訪れた。 市街地は闇に包まれ、人の気配はない。人々は日が落ちると同時に家の鍵をかけて閉じこもり、 まるでゴーストタウンのようなありさまになっていた。 それだけではない。街を守るべき魔法衛士隊も兵士も、夕べの惨劇を思い出して捜索が及び腰に なり、いざ星人が現れても戦えるべくもなかった。 だがそんななかを、銃士隊は闇の中、目を梟のように研ぎ澄ませ、どこかに潜んでいるであろう ツルク星人を求めて警戒に余念が無かった。 凍りつくような時間がゆっくりと過ぎ、双月さえ地平に消える闇夜。 突如、闇夜に一発の銃声がこだました。 「出たな!!」 それは敵発見を知らせる合図であった。すぐさま街中に散らばっていた全銃士隊が駆けつける。 場所は、市街中心ブルドンネ街の大通り。星人はその中央にいた。 「いたぞ!!」 通りの両側から銃士隊員達が星人の逃げ道を塞ぐように布陣する。見ると、星人の顔面について いた火傷の跡が昨日に比べて小さくなっている。やはり、チャンスは今夜しかない。 連絡の銃を撃ったと思われる隊員は星人のそばに倒れていた。しかし死んではいない、斥候が 倒されることを避けるために、アニエスは前もって全員に『灰色の滴』というマジックアイテムを 渡していた。これは体に降りかけると、ごく短時間ではあるがその者の存在を近くにいる者の視界から 消し去る効果を持つ、欠点としてはその間一切身動きしなくては効果が無くなるということと、メイジの ディテクトマジックには見破られてしまうという点であるが、星人から隊士の命を守るには充分だ。 ツルク星人は、その隊員を探していたのだろうが、新たな敵を察知するとすぐさま臨戦態勢に入った。 「いいか、チャンスは一度、我々と奴、どちらの剣の重みが勝るか、思い知らせてやるぞ!!」 「「おうっ!!」」 アニエスの声とともに、3人は星人へ向けて突撃を開始した。 先頭に才人が立ち、デルフリンガーとともにガンダールヴのルーンが光る。未知の魔法の力で強化 された彼の視力は、振り下ろされてくる星人の右腕の刀を捉えた。すると、体があの特訓で鍛えた とおりに自然に動き、絶妙の位置で星人の刀を食い止めた。 すると、右腕を止められた星人は、左腕の刀で才人の背中に二段目の攻撃を繰り出そうとしたが、 そこへミシェルの剣が割り込んで、その自由を封じ込める。 「でゃぁぁ!!」「イャァァ!!」 次の瞬間、ふたりは渾身の力で星人の刀を押し返した。完全に虚を突かれた星人は、押し戻すことも できず、両腕を大きく広げ、胸を前にさらけ出す無防備な体勢を見せる。二段攻撃の姿勢が崩れた!! そして、今こそ三段攻撃完成の時。二人の後方から突進してきたアニエスが全力の突きを星人の 心臓を目掛けて打ち込む、星人は身動きを封じられている上に、火傷のせいで一瞬視界がぼやけ、 アニエスを発見するのがほんのわずか遅れた。 「くらえぇぇっ!!」 刹那。 アニエスの剣はツルク星人の心臓を打ち抜き、背中まで突き抜けていた。 「貴様が戯れに手にかけた人々の痛みを、知れ!」 そう言い捨てると、彼女は剣の柄から手を離した。 星人は、少しの間彫像と化したように固まっていたが、やがて短く鳴き声をあげると、両腕がだらりと 垂れ下がり、続いてその長身がゆっくりと後ろに傾き、やがて重い音を立てて地面に崩れ落ちた。 「や、やった……やったああ!!」 地に伏した悪魔の姿に、全銃士隊員の歓声が上がる。 侵略者の手先、仲間の仇、街の人々の仇、悪魔の化身を本当に人間の手で、しかも魔法衛士隊すら 敵わなかった相手を平民の手で倒した。 「隊長……」 「アニエスさん」 ミシェルと才人は気力を使い果たしたように、剣を下ろし、微笑を浮かべていた。 そしてアニエスも、二人に答えようと振り返った、そのとき。 「隊長!! 危ない!!」 突然、死んだと思っていたツルク星人が起き上がって、アニエスの背後から剣を振りかざしてきた。 丸腰のアニエスには避ける術はない。才人とミシェルは、とっさに星人とアニエスの間に割り込もうとしたが、 とても間に合わない。 (駄目か!!) 誰もがそう思い、絶望したその瞬間、いきなり星人の顔面、なにも無いはずの空間が火炎をあげて爆発を 起こし、星人の動きが止まった。今だ!! 「「でやぁぁっ!!」」 これが本当に最後の力、才人とミシェルの渾身の縦一文字の斬撃は、星人の腕を肩から斬り落とし、 今度こそ星人は仰向けに倒れ、その目から光が消えた。 「やっ、た……」 「隊長、ご無事ですか!?」 ミシェルが慌てて駆け寄ると、アニエスは自嘲しながら言った。 「すまん、勝ったと思ったとき一番隙ができるか。まったく、わかっていたつもりだったがこの様だ。私もまだまだ 修練が足りんようだ。迷惑をかけたなミシェル、それから……感謝する、サイト」 「いや、そんなこと……あ、そういえば初めてサイトって呼んでくれましたね」 「礼を尽くす価値のある者には、私はそれを惜しまん。見事な戦いぶりだった、戦友よ」 才人はアニエスに認められたことで、うれしいやら恥ずかしいやら、とにかく照れていたが、やがて大事なことを 忘れていたことに気づいた。いや、気づかされた。 「サーイートー」 「!! こ、この声は……ル、ルイズ!?」 振り返ると、路地の闇の中から浮かび上がるかのようにルイズの姿が現れた。 顔は、前にうつむいているせいで桃色の髪の毛に隠れて見えないが、本能的に才人は血の気が引いていくのを感じた。 「お、お前、なんでここに?」 「シエスタに、あの子に一日かけてようやく聞き出したのよ。まったくメイドのくせにはぐらかすのがうまくて何回 逃げられたことか。あ、心配しなくても手荒なことはしてないわよ。丸腰の平民に杖を向けるなんて貴族の名折れ ですものね」 口調は平静としているが、顔が見えないのでよけい恐怖心がかき立てられる。 そして一歩一歩近づいてくるのに後ずさりしたいが、あっという間に後ろは壁だ。 「それで、さっきの爆発は……」 「もちろんわたしよ。わたし以外にこんなことができる人間がいると思って? まったく、あんたというやつは、ご主人様を ほったらかして出かけたあげく、こんなところで戦って……あんたって、あんたってやつは!!」 ルイズの声が急に大きくなる。才人は鞭、いや、月まで届くほどの特大の爆発を覚悟して目を閉じた。 だが、2秒経っても5秒経ってもいっこうに痛みがやってこない。それどころか、なにやら胸のところに柔らかい 感触を感じる。才人がおそるおそる目を開いてみると。 「バカバカ!! サイトのバカ!! あんた、あんな化け物と戦って、死んじゃったらどうするつもりなのよ。わたしを 置いて、わたしのいないところで、そんなの、そんなの絶対に許さないんだから!!」 ルイズは、才人の胸に顔をうずめて泣いていた。怒りのためか、会えたうれしさのためか、小さなこぶしが 才人の胸板を叩く。やがて、胸に温かいものを感じて、それがルイズの涙だとわかると、才人は優しく彼女を 抱きしめ、耳元でささやくように言った。 「ごめんルイズ。でも、助けに来てくれたんだよな、ありがとう」 プライドの高いルイズの泣き顔を見ないようにしながら、才人はしばらくのあいだ、ルイズを抱きしめていた。 そして、それから十数分後。 「もう、帰るのか。せめて今晩くらい泊まっていけばいいのに」 ふたりは、ルイズの乗ってきた馬に乗って銃士隊に別れを告げようとしていた。 アニエスとミシェルの後ろでは、銃士隊の面々が残念そうに才人を見ている。共に死地を潜り抜け、もう彼を 素人と見下す者はいなくなっていた。 「いえ、お気持ちはうれしいですけど、一応俺はこいつの使い魔なんで、いろいろやることもありますから」 「そうか、だが今回の功労者は間違いなくお前だ。陛下に報告すれば勲章、いやシュヴァリエの称号も夢ではないぞ」 だが才人は笑いながら首を横に振った。 「せっかくですが、内密にお願いします。元々今回は俺の独断で出てきたんで、抜け駆けで表彰なんかされたら 仲間達に恨まれる。それに、使い魔なんかと並べられたらあなた方の今後にも不利でしょう」 アニエスは、才人の欲の無さと自分達への気配りに感心した。 「わかった。しかし私も銃士隊もお前に相当な借りができてしまったのは事実だ。何かまた困ったことがあったら うちに来い、出来る限り力を貸してやる」 その言葉には、ただ純粋な感謝のみが含まれていた。そしてアニエスに続いてミシェルも笑いながら才人に言った。 「お前、剣の振り方はまだまだだが中々見込みがある。今度みっちり鍛えてやろう、いやなんなら使い魔なんぞ やめてうちに来ないか、銃士隊は男子禁制だが、一人くらい多めに見てやるぞ」 「い、え、遠慮しときます」 「はは、言ってみただけだ。だが、見込みがあるというのは嘘じゃない、気が向いたらいつでも来い、私自ら 稽古をつけてやる」 彼女も、最初会ったときとは想像もできないような笑顔を見せている。 だが、黙って見守っていたルイズがそろそろ忍耐の限界に来たようだ。 「ちょっとあんたたちいいかげんにしなさいよ。そうやって朝までくっちゃべってる気?」 「あ、ごめん。じゃあアニエスさん、ミシェルさん、俺達そろそろ帰ります」 「うむ、また会える日を楽しみにしている。そうだ、ミス・ヴァリエール、貴公にも借りができたな、いずれこれは なんらかの形で返そう」 「かまわないわよ、平民を助けるのが貴族の責務ですから」 「いや、貴族にも誇りがあるように騎士にも誇りはある、借りは借りだ。サイト、お前の乗ってきた馬は後日 届けさせよう。では、壮健でな」 そして二人は、銃士隊に見送られて、星空の元を魔法学院へと帰っていった。 「ねえサイト」 「なんだ?」 学院へと続く街道を、二人きりで馬に揺られながら、ルイズは才人に話しかけた。 「あんた前に言ったわよね。次になにかするときには俺も連れてけって、でもあんたが何かするときに、わたしを 置いていっていいわけないでしょ」 「悪い、お前に迷惑かけたくなかったんだ。それに……」 すまなそうに答える才人に、ルイズはその言葉をさえぎって続けた。 「わかってるわよ。あんたが人の命を何より大事に思ってるってことくらい、でも、ご主人様に心配かけるなんて これっきりだからね」 「わかりました。次からはいっしょに来てもらいます、ご主人様」 「ふ、ふん、わかってるならいいのよ!」 二人は、たった一日会えなかったことを懐かしむかのように、双月の見守るなか話し続けた。 翌日、トリスタニアは大変なニュースで盛り上がっていた。 新設された女ばかりの騎士隊である銃士隊が、魔法衛士隊すら敵わなかった怪物を倒し、街に平和を取り戻した。 闇夜に潜む悪魔への恐怖におびえていた人々は、その活躍を褒め称え、朝日とともに戻ってきた平和を喜びあった。 そして王宮でも、銃士隊が王女アンリエッタの元で、果たした戦功にふさわしい対価を今度こそ得ようとしていた。 「トリステイン王女、アンリエッタの名において、銃士隊隊長アニエスをシュヴァリエに叙する。高潔なる魂の持ち主よ、 貴女に始祖ブリミルの加護と、変わらぬ忠誠のあらんことを」 アンリエッタの杖がアニエスの肩を叩き、シュヴァリエ叙勲の儀式が終わった。 シュヴァリエとは、王室から業績や戦績に応じて与えられる爵位で、これを与えられるということは貴族となると いうことを意味する。だが通常、貴族に与えられるのがトリステインのやり方で、平民がこれを得るということは まず無い。異例中の異例のことであったが、それだけの手柄を彼女があげているのも、また間違いない。 立ち上がったアニエスの肩にシュヴァリエの証である、銀の五芒星の刻まれたマントがかけられ、彼女の凛々しさに よりいっそうの磨きがかかったように見えた。 「おめでとうアニエス、まさかこんなに早くこれだけの手柄を立ててくるとは、わたくしも思いもよりませんでした」 「私達は、自分達のなすべきことをなしただけです。この称号は、いわば我ら全員で得たもの、私一人では 何もできませんでした」 あくまで謙虚なアニエスの姿勢に、アンリエッタは春の陽光のように優しい笑顔を彼女に見せることで答えた。 「いいえ、その強い団結力こそ何よりも誇るべきものでしょう。シュヴァリエのマントは一枚しか用意できませんが、 銃士隊全員にわたくしの名においてトリステイン全域での行動許可証を与えます。貴族と同格とまでは いきませんが、身分に関係なく魔法衛士隊などと同等に行動できるようになるでしょう」 儀式に立席した貴族達から声の無いどよめきが走った。平民にシュヴァリエを与えるだけでも異例なのに、 あまりにも破格の待遇だということだ。しかし、実際に王国の誇る魔法衛士隊の敗退した相手を彼女達は 倒している。表立って文句をつけられる者はいなかった。 「殿下……」 「驚くことはありません。貴方達は自らの力で剣が魔法に劣ることの無い武器だということを証明したのです。 これからも、その力をわたくしに貸していただけますか?」 「もとよりこの命、殿下のご自由であります」 最敬礼の姿勢をとり、すでに貴族としてふさわしい気高さを見せるアニエスに、アンリエッタはうなづくと 最後のトリステイン貴族入りの名乗りを命じた。 「ありがとう。それでは、新たなる貴族アニエスよ、その名を始祖の元へ報告を」 アニエスは、剣を抜くと天に向かって高くかかげ、高らかに宣言した。 「我が名はアニエス・シュヴァリエ・ド・ミラン、この命はすべてトリステインのためにあり!!」 その声は、城に響き、空を超え、天に届いた。 そして、雲ひとつ無い空に輝く太陽が、新たな勇者の誕生を祝福するかのように、何よりも気高く雄大に輝いていた。 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第27話 悪魔の忘れ形見 怪獣兵器 スコーピス 宇宙海獣 レイキュバス 登場! 「これがラグドリアン湖か、広いなー」 あの惚れ薬のどさくさから一晩が過ぎ、夜通し馬を駆けさせたルイズ、才人、ギーシュ、モンモランシー、 ギムリ、レイナールの一行は、目的地のラグドリアン湖の東岸にまでやってきていた。 時刻は地球時間で言えばおよそ午前10時過ぎくらい、一旦街に寄って食料を買い込み、馬に揺られながら 朝食をとりつつ来たために、けっこう遅くなってしまった。 陽光を浴びて、湖畔はダイヤの破片をばらまいたように輝き、馬に揺られ続けた疲れもいっぺんに吹き飛ぶ ようだった。が、一行が景色に見とれる中で、唯一余裕のないギーシュがせわしげに言ってきた。 「のんきなことを言ってないで、ここに水の精霊がいるんだろ」 いつもだったら旅行気分で幼子のようにはしゃぐのだろうが、さすがに今回ばかりは別のようだ。 ただ、それも裏を返せばギーシュの使い魔に対する愛情が本物だということにもなるので、焦るなと忠告は しても、誰もいらだつようなことはなかった。 だが、湖に着いたというのに、モンモランシーは景色を見るばかりで、水の精霊を呼ぶ儀式とやらを始める 気配はいっこうになく。やがて独り言のようにつぶやいた。 「……やっぱり、ちょっと湖の様子がおかしいわね」 「おかしいって?」 モンモランシーの言葉に才人やギーシュなど、ここに来るのが初めてのものは不思議な顔をした。 「今あなたが言ったとおりの意味、広い、広すぎるのよ。数年前来たときは、湖岸はもっと先だったはず。 見て、あそこから出てる尖塔、きっと教会の屋根よ。ここら一帯水没したってことね」 よく見てみれば、湖の底に家の影らしきものが見え隠れしている。才人は温暖化による水面上昇が ここにも、とか思ったが、当然ハルケギニアにそんなものはない。冗談である。 彼女は水の様子を探ってみると言って、湖水に手をつけて瞑想しはじめたが、意味のわからない才人は ルイズに説明を求めた。 「なあ、あれ何してるんだ?」 「水の精霊の意識を感じ取ってるのよ。メイジは自分の持つ系統の物質に対して敏感になれるのよ。 彼女は『水』系統の使い手だからね」 「はーん」 彼女はしばらくしてから立ち上がり、首をかしげた。 「どうやら、水の精霊は怒ってるみたいね」 「怒ってる? なんで」 「そこまではわからないわ。でも、交渉は難しくなりそうね……」 皆の顔が一斉に暗くなった。 それでも、水の精霊の涙がどうしても必要なことには変わりない。ギーシュが学院に居られるかどうかの 瀬戸際の上に、やり直しの効かないワンチャンス、いやがうえでもためらいがくる。 「どうする、あきらめるか?」 「……いや! ぼくのヴェルダンデの命がかかってるんだ、主人であるぼくがしっかりしなくてどうする! モンモランシー、頼む! 水の精霊を呼んでくれ」 覚悟を確かめるつもりでギーシュに鎌をかけてみた才人は、こいつにもこんな面があるんだなあと、 正直感心していた。 また、モンモランシーもそんなギーシュの一面に唖然としていたが、惚れた男のピンチなら女が助けなくて どうすると覚悟を決め、とにかく水の精霊を呼び出すことにした。 その方法は、彼女の使い魔のカエルのロビンを使い、湖底の奥底に眠っている水の精霊にまずは 来訪者のことを報告することから始まる。 「いいことロビン、あなた達の古い親友と連絡がとりたいの、盟約の一人がやってきたと伝えてちょうだい」 彼女は、自分の血を盟約の印として一滴ロビンに垂らすと、湖の中へと放った。 「これで……向こうが覚えていれば来てくれるはずよ……あれ? ルイズ、あんたなに青ざめた顔してんのよ」 まるで幽霊でも見たかのように真っ青な顔をしているルイズに、モンモランシーは具合でも悪いのかと、 額に手を当てようとしたが、ルイズはびくっと飛び上がって、瞬時に20歩分ほど後退して言った。 「カ、カカ、カエル触った手を、ちちち、近づけないでちょうだい!」 「はぁ? ……ん、もしかしてルイズあなた、カエルが怖いの?」 「そそそ、そんなこと、ななな、ないこともないけど……いいじゃない! 誰だって苦手なものの一つや二つあるでしょう!!」 今度は顔を真っ赤にして怒鳴るルイズに、全員の爆笑がラグドリアンの湖畔に響き渡った。 人は見かけによらないというか、バルタン星人にスペシウム、キングジョーにライトンR30、ベムスターに エネルギー爆弾、サーペント星人に塩、そしてルイズにカエル。意外なところに弱点があるものだ。 「あんたたち笑いすぎよ!!」 キレたルイズの渾身の大爆発が、一行ごと湖畔と森を揺さぶった。 一方そのころ、西岸ではキュルケとタバサを乗せたシルフィードが、任務の目的地であるラグドリアン湖の北西へ 向けて風のように飛んでいた。 旧オルレアン公領から北東へ、トリステイン国境と接するラグドリアン湖の西岸を、命令に記された場所に 向かってシルフィードは飛んだ。鳥を追い越し、水面にはねる魚を見下ろし、その穏やかな旅路は自然と眠気を 誘うものでもあった、この平和な光景の先に、王軍でも解決できない難題が待ち構えているとは信じがたいものがある。 あくびをかみ殺しながら、キュルケはこんなときでもしゃがんで本を読みふけっているタバサに、今回の任務の 内容を確認してみた。 「ふわ……ねえタバサ、今回の任務ってやつなんだけどさ、もう一度聞いておいていい?」 「……『ラグドリアン湖北西にて、原因不明の森林の立ち枯れと急激な砂漠化が始まっている。その原因を究明し、 原因を排除せよ』もうすぐ着くはず」 振り返りもせずに、事務的にタバサは答えた。 「砂漠化っていったって、気候はこのとおり穏やか、森林も青々と生命力に溢れて平和そのものじゃない。 そのイザベラって姫さん、寝ぼけてるんじゃないの? この先だってほら…………うっそ!?」 シルフィードの進む先を見て、キュルケは思わず息を呑んだ。 ラグドリアン湖の西岸に渡って延々と続いていた森林地帯や、青々とした作物を生らせていた畑が、ある一線を 境にまるでまったく違う風景画を切り取ってつなげたように、黄色い砂ばかりの砂漠に変わっているではないか。 これは……と、イザベラの書簡が正しかったことをキュルケも納得せずにはいられなかった。 砂漠は現在半径3リーグほどに渡って落ち着いているが、こんなものがあったのでは付近に住む猟師も農民も漁民も とても落ち着いて仕事などできないだろう。しかも書簡に追加されていた情報によれば、この砂漠は一週間前に 突然現れており、それからほんの1日で半径2リーグにまで拡大し日を追うごとに広がっているという、 これにより近辺の農業は大打撃を受けて、国境際という地理的条件もあり、早急な解決が望まれるということだった。 しかもそれだけではない。最初に調査に赴いた学者やメイジの調査団が、流砂にでも飲まれたのか、いくつも 行方不明となっているという。これは確かにタバサに回ってきそうな仕事だった。 「こいつは……確かに砂漠だわね。タバサ、ここに来るまで半信半疑だったけど、あなた一人でこれを どうにかできると思う?」 「……やれ、と言われれば内容を問わずにやり遂げるのが、わたしの使命……」 タバサは、以前火竜山脈で怪獣を倒したせいで、それなら今度は砂漠くらいどうにかできるだろうと思ったなと、 イザベラの心の中を読んだ。シルフィードも同じことを感じ取っているらしく、きゅい、きゅいと不愉快そうに 鳴いている。 ただし、馬鹿姫の目論見はどうあれ、今回の任務は一筋縄ではいかない仕事だ。 砂漠化を防ぐなら水を撒くのが一番手っ取り早いだろうが、下手に大掛かりな魔法を使って周囲の畑や人家を 破壊してはまずい、言うなら簡単だが、かつてトリステイン城の火災を消し止める際にタバサとアンリエッタが使った 疑似トライアングルスペルでも、その威力は城を覆いつくすまでで、効力は一時的なものだった。 それに砂漠には保水力がほとんどないし、本気で半径3リーグの広さを潤そうとするならスクウェアクラスが 何百人もいるだろう、現実的に考えて不可能だ。 「で、どうしようか? このままぐるぐる回っててもらちが開かないわよ」 「とりあえず、下りて調べてみる」 「まあ、妥当な線だわね」 とにかく、最初にやることはそれしかないだろう。調査隊が消息を絶ったのは砂漠の中だったというし、 もしかしたらここを砂漠にしたなにかが潜んでいるのかもしれない。調べ事は得意ではないが、ぜいたくは言って いられない。こういう時土系統のメイジがいてくれたならと一瞬思ってみたが、土系統の使い手の知り合いの 間抜け面が浮かんでそれを取り消した。 しかし、着陸しようと高度を落としたシルフィードの目の前で砂漠が地響きを立てて揺れ動き始めた。 「タバサ!!」 「上昇、急いで!」 きゅいと一声鳴いてシルフィードは翼を大きく羽ばたかせて急上昇に入った。 その一瞬後、彼女達が着陸しようとしていた砂漠の砂丘が、まるで風船が割れるかのように内側から はじけとび、砂煙の中に巨大な影がせりあがってきた。 「あれは!? 怪獣!!」 それは全身土色をした、とてつもない大きさの甲虫だった。 しかもただでかいだけの虫ではない。つりあがった目は赤く爛々と光り、口には鋭い牙が無数に生えている。 さらに、背中からはサソリのような長く、先端に巨大なとげのついた尾が生えている。 「こりゃ、どう見ても菜食主義者には見えないわね」 「調査隊をやったのも、多分こいつ……」 「ええ、ペルスランの言っていた。1週間前に降ってきた星っていうのは奴のことね……見て、体の半分と羽根が 焼け焦げてる」 その怪獣は、体の左半分にひどいダメージを受けていた。本来は飛べるのだろうが、これではまともに動くことも かなわないだろう。 だが、動けないまでも、その怪獣は自分の周りを飛び回るシルフィードを認めるや、凶悪な顎を開いて、口から 赤黒く光る毒々しい光線を撃ち出して来た!! 「危ない!」 間一髪、ぎりぎりのところでこれをかわしたが、外れた光線はそのまま飛んでその先の森に着弾し、すると どうだ、青々と茂っていた森が瞬く間に枯れて砂に変わっていく! 「あいつが、森を砂漠にした犯人ね。こりゃ、今は動けなくても、ほっておいたらそのうちトリステイン、いえハルケギニア中 が砂漠に変えられちゃうわよ!」 その光線の信じられないような凶悪さを見てキュルケは思わず叫んだ。 これまでベロクロンをはじめとして、数々の怪獣、超獣、凶悪宇宙人を見てきたが、こいつはそいつらとは根本から 違う。内に秘めた邪悪さは超獣の持っていた『侵略』という概念すら外れた、ただ破壊と荒廃のみをもたらす悪魔の 使いのようにすら感じられる。 「さて、どうしようかタバサ……やる?」 「……攻撃する」 「あ、やっぱりそういうことになるわけね」 なんのことはなしに言ってのけたタバサに、キュルケはやっぱりといった表情を見せたが、止めはしなかった。 どのみちこのままぼんやりと眺めていただけでは事態は変わらないし、タバサの立場上「だめでした」とは絶対に言えない。 第一止めたところでタバサが聞き入れるとは思えない。 「でも、あの光線を浴びたらひとたまりもないわよ、いくらあなたの風竜でも大丈夫?」 「なんとかする」 タバサにしては抽象的な答えだった。けれど、それもやむを得ない場合があろう。風竜は確かにハルケギニアで 最速を誇る生き物だが、かつてトリステインの竜騎士隊がベロクロンの前に全滅したように当たるときは当たる、 かといってそれが彼女の意思を揺らすものではないが。 キュルケは杖を取り出すと楽しそうに笑った。 「じゃ……久々に二人でやろうか」 「……うん」 タバサは自分も杖を構えシルフィードを降下させていった。 『フレイム・ボール!!』 『ジャベリン!!』 戦いが、始まった! また、時を同じくして、同じ湖の一角で大変なことが起きていると知るよしも無く、ルイズ達はようやく水の精霊を 呼び出すことに成功していた。 それは、水が意思を持っているかのように湖面から盛り上がって、スライムのように不定形に変形し、 モンモランシーが呼びかけると、彼女の姿を模した氷の彫刻のような姿に変わって落ちついた。 「これが水の精霊……液状生命体ってやつか」 才人は水の精霊の姿を見て、そう判断した。 全身を液体で構成した生命体は、液体大怪獣コスモリキッドやアメーバ怪獣アメーザのように地球でも いくつか例がある。言えば怒らせるだろうから、才人はそこのところは伏せておいたが、この水の精霊という やつは、それとは対照的に陽光を透明な体に輝かせて、美しくきらめいていた。 「水の精霊よ、お願いがあるの、あなたの体の一部を、ほんの少しだけわけてもらいたいの」 だが、やはり水の精霊の答えは冷たかった。 「断る、単なる者よ」 やはり、とモンモランシー達は肩を落とした。 だが、水の精霊が湖面に戻ろうとしたとき、ギーシュが意を決したように水辺にまで出て、湖水に頭を 浸るくらいまで下げて頼み込んだ。 「待ってくれ水の精霊! ぼくの友達が助かるためにはどうしてもあなたの一部が必要なんだ。そのためなら、 ぼくはどんなことだってする。だから、お願いだ!」 精霊は、しばらく湖面にとどまったままじっとギーシュの姿を見守っていたが、やがて再び元の姿に戻ると言った。 「わかった。単なる者よ、お前の体内を流れる液体の流れは嘘を言っていない。我は湖の水を通してそれを 知った。願いを聞いてやろう」 「本当か! ありがとう!」 「ただし、お前はどんなことでもすると言ったな。ならばひとつ条件がある。我は今、いくつかの悩みを抱えている。 そのひとつを解決してもらおう。ここより北の湖岸の地底に、最近不法な侵入者が居座って大地を荒らし、 それが湖にも影響を及ぼしている。そいつを退治してくるがいい。されば、我は我の一部を礼に進呈することを約束する」 それを聞いて、ギーシュは喜んだが、才人はその侵入者とは何者かと精霊に聞いてみた。 「我を悩ますのものは、太陽が7回巡る前に空のかなたよりここに降りてきて、森を枯らし、生き物を殺し、 大地を死なせる、巨大な悪意の塊のような怪物だ」 「て、ことは宇宙怪獣か……?」 「なんでもいい! とにかくそいつを倒せばいいんだな。だったらやってやろうじゃないか!」 こうして、一行は水の精霊の涙を手に入れるための交換条件として、謎の敵を倒すことになった。 が、そのとき水の精霊の体がぶるりと震え、一行は何事かと身構えた。 「どうやら、北西岸でそやつと何者かが戦い始めたようだ……」 「ええっ、もしかしてガリア軍か!?」 「違う……湖面に映った様子をここに映し出そう。見るがいい」 水の精霊が手を一振りすると、湖面が揺らめき、そこにまるでテレビ画面のようにはるか北西の岸での戦いの 様子が映し出され、暴れまわる巨大な怪獣と、それと戦っている者達を見て皆は仰天した。 「あれは……まさかシルフィード!? てことは乗ってるのは」 「あの赤い髪はキュルケだろ!」 「タバサもいるぞ、なんであの二人が怪獣と!?」 才人、レイナール、ギムリはそれぞれ見慣れたシルエットを見て、なんで!? と思ったが、二人が炎と氷の魔法を 駆使して戦っているのを見て、ただ偶然居合わせただけではないということだけは悟った。 「まずいわね。あの怪獣相当な強さよ、このままじゃ遠からずやられちゃうわ」 モンモランシーの言うとおり、シルフィードは高速で飛んで怪獣の吐き出してくる光線や光弾を避け続けているが、 怪獣のほうも半身に傷を負っているにもかかわらずにほとんど二人からはダメージを受けていない。 するとそのときギーシュが高らかに宣言した。 「助けに行こう! 友を見捨てては騎士の恥、どうせ戦いに行くはずだったんだ。二人を見殺しにはできない!」 「ギーシュ……」 きりっと構えて、凛々しく言ったギーシュの姿に、正直才人達はさっきまでとの変わりように度肝を抜かれていた。 特に、モンモランシーなどは顔を紅く染めてギーシュの顔を見つめている。 しかし、たった一人冷めた視線で成り行きを見守っていたルイズが言った。 「でも、ここからタバサ達が戦っている場所までは相当な距離があるわよ。湖岸を回りこんでいたら、馬でも とても間に合わないわ」 「うっ!」 それは盲点だった。いくら気合を入れたところで、タバサ達のいるところはこの東岸からは影も見えないかなた、 いくら急いだところで何時間もかかってしまう。 だが、それを聞いた水の精霊が手を湖にかざすと、湖面の上をまるで動く歩道のように北西へと続く水流の道が現れた。 「戦いに急ぐというのならこれに乗るがいい。沈まぬように凝結させた水を高速で北西に流している。この上をさらに 馬で駆ければ片時もせぬうちに着けるだろう」 それはまさに、ハルケギニアの人々が恐れる水の精霊の先住魔法の人知を超えた力のなせる技であった。 「よし、急ごう! 才人、ギムリ、レイナール、WEKC出動だ!」 「おう!」 一行は馬に乗り込み、タバサ達の待つ北西岸へと湖面の上の道に乗り出していった。 そしてそのころ、次空を超えた世界、地球でも勇者達が戦いを繰り広げていた。 今日も、ガンウィンガーでパトロール中のリュウとミライの元に怪獣出現の報が届いてくる。 〔リュウ隊長、東京N地区に空間のゆがみが発生しています。同時に強い生命反応を検知、怪獣が出てくるようです!〕 「なんだと! ヤプールの攻撃か」 〔いえ、ヤプールの異次元ゲートとは違うようです。どこか別の宇宙につながるワームホールのような……〕 「わかった、後はこっちで確かめる。いくぞミライ!」 「GIG!」 ミライがGUYSの復唱を力強く答え、ガンウィンガーは進路を変えて東京N地区へ向かった。 そうするとガンウィンガーは速い速い、あっという間に東京N地区に到着、街の上空に浮かんでいるブラックホールの ようなワームホールを発見した。 〔ワームホール拡大、怪獣が出てきます!〕 一瞬、ワームホールが大きく口を開け、そこから吐き出されるように巨大な生物が飛び出してきて、街中に墜落した。 「出てきたぞ! まるででっかいカニみたいなやつだ」 「リュウさん、あれは尻尾があるからエビじゃありませんか?」 「いや、ハサミもあるぞ、ならザリガニだ!」 「そうか、あれがザリガニなんですか!」 現れた怪獣は、まさに全身土色をした巨大なザリガニだった。 右のハサミは自分の身の丈ほどもある巨大さで、飛び出た目は真っ赤な色をしている。 怪獣は、現れてしばらく「ここはどこだ?」とでもいうふうに、周辺をキョロキョロと見回していたが、やがて狂ったように 巨大なハサミを振り回してビルを破壊し始めた。 「やろう! 好きにさせるか! 食らえ、ウィングレットブラスター!」 ガンウィンガーから発射された強力なビームが怪獣を直撃する。しかし怪獣の強固な殻に防がれてあまり効いていない。 「ちっ! フェニックスネスト。ガンローダー、ガンブースターただちに出撃。こいつは一筋縄じゃいきそうもねえぞ」 〔GIG〕 怪獣の強さを見て、リュウは迷わず総力戦を決断した。 「リュウさん。僕がいきます!」 ミライはメビウスに変身して戦おうとした。だが、リュウはそれを押しとどめた。 「ミライ、それにはおよばねえ。あんな奴くらい、GUYSの力だけで倒してやる。新生GUYSの強さ、お前に見せてやる」 『地球は、人類自らの手で守り抜いてこそ価値がある』、まだそれをやりとげるには人類の力は弱いが、いつかは 本当にそれをなしとげる。それがリュウの信念だ。 そして同時にそれは、ウルトラマンに頼るのではなく、同じ場所に立って、いっしょに平和のために戦うということになる。 ミライはそれをくみとって変身するのをやめた。今はウルトラマンメビウスとしてではなく、GUYS隊員、ヒビノ・ミライとして 戦うのが、リュウの気持ちに報いるただひとつの方法だ。 「ミライ、後ろから回り込むぞ!」 「GIG!」 怪獣は、口から火炎弾をガンウィンガーに向けて連発してくる。 リュウはそれをかわすと、ウィングレットブラスターを怪獣の顔面に叩き込む。 その光景を、GUYS総監サコミズ・シンゴはフェニックスネストのモニターごしに頼もしそうに見ていた。 そう、すべてはあのときから…… ガイガレードとの戦いの後、地球に降り立ったメビウスとヒカリは、再び地球人ヒビノ・ミライとセリザワ・カズヤの姿に なって、リュウやサコミズら懐かしい人たちと再会を果たしていた。 だが、フェニックスネストの作戦室で、二人から語られた話は彼らを驚かせるのに充分だった。 「ウルトラマンAが行方不明!? それに異次元人ヤプールが復活するだと!!」 その話を聞かされたリュウは怒りに震えた。ようやくエンペラ星人の脅威もやみ、怪獣の出現も少なくなって きているというのに、また平和を乱そうというのかと。 そして、二人がやってきた目的が、その現場が太陽系近海であることと、ヤプールとの交戦数が多く、 もっとも異次元研究の進んだ地球の力を借りるためだということを聞かされて、今度はどんと胸を叩いて 力強く言った。 「まかせておけ! ウルトラマンAには月で助けられた借りがある。喜んで、お前の兄さんの捜索に協力 させてもらうぜ」 「リュウさん! ありがとうございます」 リュウの頼もしい言葉に、ミライは満面の笑みを表して喜びを表現した。 エースだけではない、地球人はこれまでウルトラの兄弟達に返しきれないほどの恩を受けてきている。 今回は、地球人がウルトラマンを助けられるまたとない機会だ。第一、恩返しをするのに遠慮をする必要など どこにもない。 だが、事は隊長一人の独断で決められることではない、リュウはそれまで黙って話を聞いていたサコミズに 許可を得るために、姿勢を正して話しかけた。 「総監、GUYS JAPANはこれよりウルトラマンAの救助と、対ヤプール殲滅のための対策活動に入りたい と思います。許可をいただけますか?」 するとサコミズは、自らいれたコーヒーのカップをテーブルに置くと、自然体の表情ながらどこかしら 暖かみを感じられる顔をリュウに向けて言った。 「今のGUYSの隊長は、リュウ、君だ。君の好きなようにやればいいさ。ミライ、セリザワさん、君達はGUYSの 復帰隊員として身分を確定しておこう。ただし、君達がウルトラマンだということはすでに知られたことだから、 一般に不安を招くといけないから、このことはフェニックスネスト内だけの秘密ということで、しばらくは通したい と思う」 それだけ言うと、サコミズは再びカップをとり、コーヒーを口に運んだ。 「ようしミライ、そうと決まれば善は急げだ。カナタの奴もお前がまた来たと聞けばよろこぶぜ!」 「はい、またよろしくお願いしますリュウさん」 リュウとミライはまたいっしょに戦えることを喜び合うと、一礼して作戦室を出て行った。多分、これから フェニックスネストをまわって、新人隊員のハルザキ・カナタや、整備班長のアライソに挨拶しにいくのだろう。 残されたサコミズとセリザワは、テーブルを向かい合わせて、静かに語り合った。 「リュウも、また見ないあいだにたくましくなってきたな」 「君にとってはアーマードダークネスの事件以来か、当然だよ、彼もまた夢のために毎日を戦い続けている。 他のGUYSの仲間達といっしょに、離れていても、みんなの心は常に一つだ」 「そうだな……しかし、今度の事件は今までとは違った感じがする」 「どういうことだい?」 「ヤプールが復活を狙っているのは、我々が地球に来る直前の怪獣の襲撃からも、確証はないが確信に近い。 しかし、奴が真っ先に復讐の標的にするとしたら、この地球であるはずなのに、地球は平和そのものだ。 静か過ぎるのが逆に不気味だ」 セリザワの言葉にサコミズは眉をしかめたが、コーヒーに注いだミルクをスプーンでゆっくりとかき混ぜながら 自分なりの仮説を披露してみせた。 「ヤプールもばかではない。以前奴は不完全なまま復活し、中途半端なまま異次元ゲートを封鎖されてしまっている。 もし完全な状態で超獣軍団を送り込まれていたらどうなっていたか、そのときの教訓を取り入れたんじゃないかな?」 「嵐の前の静けさ、というわけだな」 「ああ、だが、嵐に備えて対策を打つことは出来る。それに、表立って動かなくても何か痕跡を残すことはあるだろう。 ヤプールの仕業としぼればそれも見つけやすくなる。どのみち、彼らならどんな障害でも必ず乗り越えていけるさ。 コーヒー、おかわりはどうかな?」 「いただこう」 GUYSの元隊長二人は、自分達の時代が移りつつあるのを感じながら、部屋に満ちる芳醇な香りを楽しんでいた。 「総監、横浜で謎の反応をキャッチしました。ただちに調査に出動します!」 さっそく事件の気配をかぎつけたリュウは、ミライを横浜に向けて出動させた。 だが、その一方で、ヤプールはハルケギニアのどこかで今日も超獣を作り続けている。 そのことを、この世界で知る者は、いまだいない。 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 12話 WEKC初陣!! 四次元宇宙人バム星人 四次元ロボ獣メカギラス 登場! 「サイト!!」 ルイズの絶叫とともに、火薬のはじける乾いた音が王宮の廊下にこだました。 フリントロック式の、地球ではもはや博物館かガンマニアの間でしか見れないようなハルケギニアの 銃でも、人一人殺すだけの力は充分にある。才人は、死を覚悟した。 「ぐはぁっ!」 心臓に鉛玉を撃ち込まれ、残った命をわずかに吐き出す不協和音が響き、ルイズは思わず目を覆った。 だが、断末魔を発したのは才人ではなかった。 「が……ば、ばかなぁ」 口から緑色の血を吐き、ギーシュ達に銃を突きつけていたバム星人達の体が床に崩れ落ちた。 ルイズがうっすらと目を開けたとき、そこには呆けたように立ち尽くしているギーシュたちと、自分の胸を 撫で回して弾が当たっていないか確認している才人、そして、彼らの前に本物の戦乙女のように凛々しく たたずむ女騎士達の姿があった。 「勝ったと思ったとき、もっとも隙ができるか。覚えておこう」 「アニエス!」 なんとそこには、あの銃士隊隊長アニエスが数人の銃士隊員達を連れて立っていた。 「な、なんであなたが?」 「そ、そうよ。姿を見かけないからてっきりあなたたちも一緒に出撃していってたと思ったのに」 さしものルイズやキュルケも突然現れたアニエスたちに驚きを隠せない様子だった。 「ふん、我等は元々王宮警護が任務だからな。普段はお前らの目に入らないところにいるのだ。だが、 あんなに派手に銃声をこだまさせていれば、我らでなくとも気づく」 まだ煙の尾を引かせている銃をしまいながら、アニエスは平然として言った。 「それよりも、こいつらはなんだ。傭兵が多数来るとは聞いていたが、妖魔や亜人の類が混ざっている などとは聞いていないぞ」 「あっ、そうだった! ちょうどいいや、実は……」 才人達は、ヤプールの手下が多数城内に入り込んでいること、そいつらが特殊な道具を使って怪獣を この城に呼び寄せようとしていることを急いで説明した。 「それで、そのバム星人という奴らが、その機械を使ってザントリーユ城を襲った怪獣をここに 呼び寄せようとしている。そういうわけだな?」 「ええ、信じて、いただけるでしょうか」 才人とルイズは、息を呑んで、厳しい目で睨んでいるアニエスの目を見つめた。 「……よかろう、信じてやる。残った誘導装置は4つなんだな?」 「! アニエスさん!」 ぱあっと、才人たちはギーシュ達も合わせて喜色を浮かべた。 だが、アニエスの後ろに控えていた青髪の女性騎士が納得できない様子でアニエスに抗議した。 「隊長、こんな子供の言うことを真に受けるんですか!?」 「ミシェル、この怪人どもを見るだけでも城内に敵が侵入しているのは明らかだ。それに、このふたりは 終始私の目を見て話していた。心に後ろめたいものがあるやつなら、目をそらすか、笑ってごまかすか するだろう。少なくとも、彼らはうそをついてはいない」 隊長にそうまで言われると、副長である彼女に言えることはなにもなかった。 「それで、それと同じ物を探し出せばいいわけか。だが、敵が人間と同じ姿に化けているとなると、やっかいだな」 「いえ、ミス・アニエス、どうやらその心配はなさそうですわよ」 キュルケが言うのと同時に、廊下の角からバム星人が3人飛び出してきて、こちらに銃口を向けた。 「死……」 しかし、星人たちが引き金を引くよりも早く、気配を察知していたキュルケとタバサの杖が閃いていた。 一瞬で炎と氷が怒涛の奔流となって星人たちを飲み込み、断末魔すら残させずに消滅させた。 「そう何回も不意打ちが成功するなんて思わないことですね」 例によって服だけ残して消えた星人達に、キュルケは杖を指揮者のタクトのようにかざしながら言った。 だがそのとき突然、城のあちこちから女性の悲鳴や兵士の叫び声が聞こえてきた。 それだけではない、ガラスの割れる音や重いものが床に叩きつけられる振動、さらには銃声までも があちこちから聞こえてきて、城の中だというのにまるで戦場のような喧騒になってきた。 「これは……」 と、そのとき通路の先からひとりの銃士隊員が駆けてきて、息せき切ってアニエスに報告した。 「隊長、城のあちこちに突然怪物が現れて、城中が大混乱に陥っています」 「なんだと!?」 それを聞いてアニエス達だけでなく、ルイズやギーシュ達も愕然とした。 「どうやら、正体がバレて強行手段に訴えてきたようですわね」 キュルケが言ったとおり、叫び声は城中から聞こえてくる。城内に侵入していたバム星人全員が正体を 現したとしか考えられなかった。 「なんてことだ、それで、姫様は?」 「謁見の間から先は我々が死守しております。敵の武装も我々と同程度なので突破される恐れはないと 思われますが、敵が城中に散らばっていまして」 アニエスはちっと舌打ちした。このトリステイン城はかなり広い、そこに敵が散らばっているとなると 完全に掃討するのは容易ではない。 けれどそのとき、それまで黙って話を聞いていたギーシュが突然薔薇の杖を高々と掲げて宣言した。 「そういうことなら僕達も黙って見ているわけにはいかない。国の平和を守る貴族の端くれとして、 我らも戦うぞ、諸君!!」 びっくりしたのはルイズ達である。今の今までギーシュ達のことを忘れていたから余計に驚いた。 だが。 「足手まといだ、引っ込んでろ」 と、アニエスに一刀両断されてしまった。 「し、しかし」 「銃を向けられて震えているような男はいらん。星人は我々が掃討する、お前らは黙って下がっていろ」 ギーシュの反論にもアニエスはにべも無かった。だが、そのときキュルケが出てきて諭すように アニエスに語りかけた。 「ミス・アニエス、言いたいことはわかりますけど、今はそんなことを言っている場合じゃないのではなくて? 夕刻にはザントリーユ城を破壊した敵がここにも来るのですよ。銃士隊だけでは手に余るのではなくて」 「ぬう、だが……」 「実力を心配しておいでなら、わたしとこの子は共にトライアングルクラス、そちらのぼうや達も、さっき みたいに不意を打たれたりしなければ遅れをとったりしませんわ。ダーリンだって剣の腕はすっごく 立つし、ルイズは……ともかく、ここにいる全員あなたが思っていますより頼りになりますわよ」 「ちょっとキュルケ、なんでわたしのときだけ言葉を濁したのよ」 目尻をすわらせているルイズから目をそらして、キュルケはアニエスに判断をうながした。 アニエスは、少し考え込むそぶりを見せたが、やがて副長と顔を見合わせた後、ギーシュの顔を 見て、ものすごく妥協した力の無い声で言った。 「仕方ない。今は猫の手も借りたい状況だ」 「藁にもすがりたい気分というところですか隊長、胸中お察しします」 「ちょ、ちょっと君達、いくらなんでもそこまで言うことないんじゃないかね?」 アニエスとミシェルのあまりにも期待していない目に、フェミニストを自称しているギーシュはかなり 傷ついた様子だった。 だが、事態はそんな感傷を許しておくほど甘くはない様子だった。敵がどこかで爆発物を使用した のか床と天井が揺れ、パラパラと埃が舞った。 「時間が無い。ミシェル、駐屯所の兵全てで城の北方の敵を掃討、同時に敵の持つ誘導装置を 探し出して根こそぎ破壊しろ!」 「はっ!」 青髪の副長は、一瞬だけ見事な敬礼をすると、マントを翻して駆けていった。 「さて、こちらも急ぐぞ。ぼやぼやするな! すぐに人数を集めろ!」 「はっ、はい!!」 アニエスに怒鳴られてギーシュ達は大慌てで水精霊騎士隊(WEKC)の皆を呼びに走っていった。 「我々も、できる限り城内の敵を駆逐する。城内の警備兵は不意を打たれて役には立たんし、 近衛兵は王族方を守るために動けん。今トリステインを救えるのは我らだけだと思え!」 「はいっ!!」 ルイズと才人もアニエスの剣幕には逆らえずに、思わず直立不動で返礼した。 ただ、キュルケは従いながらもわずかに微笑していて、タバサのほうは聞いてはいたようだが 顔色が変わらなかったので心境は謎だった。 しかし、だからといって状況に変化はない。 城の中は、人間に襲い掛かるバム星人と、それを迎え撃つ兵士、逃げ惑う人々などで混沌と 化しており、そこに銃士隊とWEKCが横合いから殴りこむ形となった。 「ファイヤー・ボール!!」 「エア・ハンマー!!」 WEKCの少年達は城への被害を抑えるために、攻撃魔法の中でも初歩の威力の低いものを 選んで使用したが、人間と身体能力がさほど変わらないバム星人にはそれで充分であった。 傷を負い、動きが止まったところにさらなる魔法の追撃、またはアニエスや才人が斬り込んで とどめを刺した。 もちろん、それと平行してメカギラスの誘導装置の探索も行われた。あるものは星人が隠し持っていたり、 あるものは部屋の隅の花瓶の横に立てかけてあったりしたが、見つかり次第次々に破壊されていった。 星人としては、どうせハルケギニアの人間にはわからないだろうと隠すこともせずに適当に 置いて回ったのだろうが、それが災いして銃士隊やWEKCは苦労せずに誘導装置を発見できていた。 そしておよそ30分後、城内のバム星人達をほぼ掃討し終わった銃士隊とWEKCの少年達は、 中庭に集合して戦果を報告しあっていた。 「見たかい僕の華麗な戦いぶりを、銃を向けてきた星人へ向かって3体のワルキューレで、 見事な連携での同時攻撃、うーんまるで芸術だったね」 「だから、それは僕が相手の気をそらしてたからだろうが」 「まったくだ。そこいくと僕なんか、敵中に突貫してこうバッタバタと……」 ギーシュ達は、自らが倒した星人の数を得意になって自慢しあっていた。それは、夏の森で 採った虫の数を競い合う子供達にも似ていたが、星人の切り札であるメカギラスの侵攻を 止めなくては勝利ではない。彼らは自分の戦果に酔うあまりそれを忘れていた。 しかし、戦闘のプロである銃士隊は違う。 「隊長、城北方の敵は完全に駆逐しました。隊員4名が負傷して医務室に運ばれましたが死者はなし。 王女殿下他王国首脳陣の方々も全員無事です」 副長ミシェルが見事な敬礼をしてアニエスに戦果報告を行った。 「ご苦労ミシェル。こちらも敵は全員撃破した。それで、例の装置とやらは?」 「はっ、衛士隊の駐屯所で一つ、武器庫で一つ発見、それぞれ見つけ次第破壊しました」 「それらは恐らく使用人に化けたやつが仕掛けたものだな。それで2つか、おい少年、 こちらで発見したものは?」 才人はアニエスに言われると、えーとと指を折って数えた。 「えーと、こっちは食堂で見つけたやつと、最初にメイドに化けてたやつが持っていた分…… 計4つ、ひとつ足りない!! 星人は5つ仕掛けたと言っていたんだ」 「なに!? ちっ、しかしもう城内はくまなく探したぞ。まだどこか見落としているところがあるのか」 すでに城のあらゆる箇所は捜索した。また、星人の残した衣類や持ち物も残らず調べた。 ほかに見落としている箇所があるのかとアニエスは必死で考えた。 (武器庫、駐屯所、重要区画はすべて調べた。奴らは最近雇われた使用人か、今日入ってきた 傭兵達に化けていたから城の中枢には入れないはず。ならば……他に部外者が入れるような場所は) 頭の中に城の見取り図を浮かべて、必死に考えたがどこも思い当たる節が無い。かといって極めて 目立つ形をしている誘導装置を見落としたとも考えがたい。 アニエスは思いつく可能性をひとつひとつつぶしていって考えていたが、考えているうちにいまだに 事態の深刻さを理解せずに自慢話を続けているギーシュたちの声が耳に障り、思わず怒鳴りつけていた。 「うるさいぞ!! 静かにしろ、そんなに騒ぎたいなら牢にでも叩き込んでやろうか!!」 とたんに、少年達は凍りついたように静かになった。 「まったく……ん、まてよ、牢……ミシェル、牢は調べたか?」 「はい、今日の混雑のなかで起きた揉め事で投獄された傭兵が数名おりましたので、念のために、 しかし念入りに調べましたが、ありませんでしたが」 「いや、西の塔の牢がまだ、ある」 「西の塔ですか? しかしあそこは貴人用の特別房です。傭兵や使用人がうかうか入り込める場所では ありませんが」 「確かにそうだ。だが、もし傭兵の中にメイジが紛れていたらどうだ?」 それを聞いてミシェルははっとした。メイジはほぼ全てが貴族だが、中には地位を失って傭兵に落ちたり、 家中で立場の低い者が自ら身を落としたりすることがある。そんな者達はその反動からかプライドが 高く、罪を犯しても平民と同じ獄舎につながれるのを頑なに拒む者もいる。そんなとき、看守はやむを得ず 貴人用の牢を使うこともあるという。 「急げ! 西の塔だ」 「はっ!」 「あ、待って!! わたし達もいくわ!」 アニエスとルイズ達は全速力で西の塔へと駆け出した。あっけにとられたギーシュ達は置いていかれた。 すでに太陽は大きく傾き、塔は紅く染められている。 バム星人が予告した時間は夕方、彼らは間に合ってくれと祈りながら、急な塔の階段を駆け上がり、 入り口の扉を蹴破った。 「遅かったな、人間ども」 そこには、やはりメイジの傭兵に化けていたのだろうしゃれた服を着た星人が、奴に倒されたのだろう 看守達を足蹴にしながら待っていた。 「動くな、命が惜しければ、誘導装置を出せ、貴様が持っていることはわかっている」 アニエスとミシェルは銃を星人に向かって構えた。 「ふふ、これのことかな?」 星人は動じるふうもなく、懐から誘導装置を取り出して右手で高くかかげた。 すかさず、アニエスの銃が火を吹き、誘導装置を撃ち抜く。誘導装置は星人の手から取りこぼされると、 床に落ちて一瞬スパークした後、煙を吹き上げた。 しかし、星人は慌てるそぶりも見せず、むしろ笑いながら言った。 「それで勝ったつもりか」 「なに!? 貴様らの持ち込んだ誘導装置はこれですべて破壊した。貴様らの負けだ!」 「くっくっくっ、確かにもう誘導装置でメカギラスをコントロールすることはできない。本来ならばメカギラスを この空間に呼び寄せた後、5つの誘導装置が動かすはずだったのだが、万一すべての誘導装置が事前に 破壊された場合は、最後に発信があった場所の周辺を無差別に完全破壊するよう切り替わることに なっている。城だけ破壊してやるつもりだったが、こうなれば街ごとすべて焼き払ってくれるわ!!」 「馬鹿な!! 貴様もいっしょに吹き飛ぶぞ」 「かまわんさ、どうせ任務にしくじった我に帰る場所はない。覚悟しろ、もう誰にもメカギラスは止められん!! ふはははは!!」 星人は哄笑しながら、左手に着けていた腕輪の宝玉を押し込んだ。すると、腕輪からピッ、ピッとまるで カウントするような電子音が流れ、それを聞いた才人は思わず絶叫した。 「みんな下がれ!! 自爆する気だ!!」 「なに!?」 アニエスとミシェルは、踵をひるがえととっさに階段へ転がり込み、才人もルイズを抱きかかえると階段に 飛び込んだ。そしてその直後、星人の体は大爆発を起こし、牢屋ごと粉々になって消滅した。 「くぅ、皆無事か?」 「大丈夫です、隊長」 もうもうとした煙の中からアニエスとミシェルの声が聞こえ、それを聞いた才人は暗闇に向かって返事した。 「俺達も……ん?」 「あんた、どこ触ってるのよ?」 「へ? 腹じゃない、の……か!?」 なんと、才人の右手はルイズを抱きかかえた拍子に、その胸をしっかりと握り締めていた。 才人の顔から血の気が引いた。 「ああああああ、あんた、つつつつ使い魔の分際で、ご主人様の胸をつかんで、しししし、しかもそれが 腹ですってえ!?」 「お、落ち着けルイズ、に、人間誰にでも間違いはあるから。そ、それに今そんな場合じゃないだろ」 「安心なさい。2秒よ」 「へ?」 「2秒で、地獄に落としてやるわあ!!」 夕焼けの空に、2度目の大爆発とともに城中に響き渡るほどの断末魔の叫びがこだました。 しかし、幸か不幸か才人はかろうじて死んではいなかった。 「あーあー、真っ黒こげになっちゃって。生きてる? ダーリン」 「……今回は過去最大級、記録更新間違いなし」 遅れて駆けつけてきたキュルケとタバサが、なかば階段にめり込んでピクピクと震えている才人を 引きずり出して快方すると、やがて才人は目を覚ました。 「ここは、天国?」 「あいにくまだこの世よ。しっかしルイズ、胸を触られたくらいでそこまで怒らなくていいじゃない。減るもんじゃなし、 あ、あんたの場合は減るものが最初からないか」 「ゼエ、ゼエ……お、お黙んなさいよ。これでもね、ずいぶんと手加減してあげたほうなんだから」 ルイズは荒い息をどうにか抑えて言ったが、加減したとは信じがたい。 すると、巻き添えで爆発に巻き込まれていたアニエスとミシェルもすすだらけの顔を拭いてようやく起き上がってきた。 「な、なんという破壊力だ。塔の先端が無くなってしまったではないか……ミシェル? おいミシェル大丈夫か?」 「はは……死んだ父さんと母さんが、お花畑の先に見えました」 「ミシェルしっかりしろ! まだそっちに行っちゃいかん!」 アニエスは慌てて放心状態のミシェルの肩を揺さぶった。 「はっ!? ここは、天国?」 「安心しろ、まだ現世だ……それより、星人の言っていたことが本当だとすると……」 だが、アニエスが言い終わるより早く、西の塔からさらに西方に300メイルほど離れた空に突然歪みが生じ、 そこからまるでにじみ出るように銀色の巨大な鉄の竜が姿を現した。 「あれは!?」 全員の目がその鉄の竜に釘付けになる。竜の全長はおよそ60メイル、直立し、尻尾を長く伸ばした姿は、 それが恐竜型怪獣そのものだということを示していた。 「四次元ロボ獣メカギラス、とうとう来たか」 才人が言うのと同時に、メカギラスは錆びた歯車のような鳴き声を上げ、ギクシャクと腕と足を動かしながら 城に向かって前進を始めた。 「こっちに向かってくるわよ!」 「まずい、全員退避!」 そのとき、メカギラスの頭部からミサイルが発射され、城壁に穴を空け、城の屋根の一部が吹き飛ばされた。 城のあちこちで兵や使用人の悲鳴や怒号が上がり、砕けた煉瓦やガラスの破片が宙へと飛び散る。 さらに、城のあちこちで火の手が上がり始めた。守る者のいない城は完全に無力でしかなかった。 だが、このまま星人のおもわく通りにこの城を破壊されるなど許すわけにはいかない。 ルイズは階段を駆け下りるアニエス達とは逆に、破壊された塔の先端まで駆け上がり、才人を背に メカギラスに杖を向けた。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、この国に仇なす者よ。これ以上の 狼藉はこの名にかけてわたしが許しません!」 高らかなルイズの宣戦布告。そしてそれに答えるように、ふたりのリングも光を放つ。 次の瞬間、メカギラスの放った破壊光線が、ふたりのいる塔の先端に直撃した。 「ルイズ! ダーリン!」 階下からふたりを追ってきたキュルケとタバサの目の前で、塔の頂上は今度こそ完全に粉砕され、 ふたりの体は天空へと舞い上げられた。 「キュルケ、危ない」 「お前達、早く逃げないか!!」 愕然とするキュルケの耳に、タバサとアニエスの声が虚しく響く、そしてメカギラスはそのミサイルの照準を 今度はキュルケ達に向けて合わせた。 だが、はるか上空へと飛ばされたふたりは、眼下にメカギラスと城をのぞみながら、まるで空を舞うかの ように引き合い、夕日のシルエットが重なるとともに、その手をつないだ。 「「フライング・ターッチ!!」」 夕闇照らす銀色の光、合体変身、ウルトラマンA!! 「きゃあああっ!!」 メカギラスの放った数十発のミサイルが塔へと迫る。それが命中すればこんな塔などそれこそ跡形もなく 粉々になってしまうだろう。 キュルケは思わず目を覆い、タバサも無念に唇を噛み締めた。 だが、ミサイルが着弾する寸前、塔とミサイルの間に突然巨大な影が立ちはだかった。 「シュワッ!!」 ミサイルは、次々と巨体に命中するが、まるで山のようにそびえ立つその巨体を揺るがすことはできない。 そして、恐る恐る目を開いたキュルケ達の目の前には、夕日を浴びてその身を金色に染めた光の戦士の姿があった。 「ウルトラマン……A!!」 「エースが、また助けてくれた……」 キュルケとタバサにとっては4回目。 「ウルトラマンA……本当に、また来てくれたのか」 「すごい……」 アニエスとミシェルにとってはベロクロンとの戦い以来、2回目のエースとの出会いだった。 ウルトラマンAは、彼女達の無事を見届けると、かん高い機械音をあげて迫り来るメカギラスへ向かって構えをとった。 「デヤッ!!」 銀色の巨人と銀色の巨竜、トリステイン王国の命運を賭けて、燃えるような夕日を背にした決戦が始まろうとしている。 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 前半部からの続き。 そして、時空を超えた場所でも、運命の歯車は一時も止まりはしていない…… 地球、日本アルプスの山岳地帯にCREW GUYS JAPANは出動していた。 日本でもこの季節は夏、アルプスの峰峰も草花に覆われて、自然の息吹を満喫している。 しかし、そんな美しい自然の空気を乱す者が、今この空に舞っていた。 「ミライ、そいつにビームは効かねえぞ!! 気をつけろ」 ガンウィンガーのコクピットからリュウの声が、地上で戦うメビウスに響く。 「ヘヤッ!!」 メビウスの上空を、一羽の巨大な怪鳥があざ笑うような鳴き声をあげながら飛んでいる。 そいつは、『凶獣、姑獲鳥(こかくちょう)』、天空を飛翔し、人間に不吉をもたらすという半人半鳥の姿を持つ妖鳥だ。 接近してくる姑獲鳥を見据え、メビウスは左手のメビウスブレスにエネルギーを集中させた。 「テヤァ!!」 この怪獣はどういうわけか、ガンウィンガーのウィングレッドブラスターを吸収してしまう。メビュームシュートでは 効力がないと判断したメビウスは、それならば光線ではなく、直接エネルギーをぶつけてやろうと考えた。 稲光を伴う強力な電気エネルギーがメビウスブレスに収束される。そして、敵の突進に合わせて、メビウスは溜め込んだ エネルギーを零距離で叩き付けた。 『ライトニングカウンター・ゼロ!!』 密着しての高電圧エネルギーの解放は、雷鳴の数十倍の輝きを持って姑獲鳥の体に吸い込まれていく。 しかし、奴はそれさえも飲み込んでしまった。姑獲鳥は電離層に住むプラズマ生物のために、電撃やビーム攻撃の 類は吸収されてしまうのだ。 エサをもらったに等しい姑獲鳥は、さらにパワーをあげてメビウスを跳ね飛ばした。 「ウワァ!!」 「ミライ!」 メビウスを吹っ飛ばした姑獲鳥は、あざ笑いながらまた上空へと駆け上っていく。 しかし、その前に青い閃光が立ちはだかった。 「セヤアッ!!」 ウルトラマンヒカリのナイトビームブレードの一閃が、姑獲鳥の左の翼を切り落とす。 翼を失ってしまえば、鳥はダチョウかペンギンでもない限り、行動力のほとんどを失う。この姑獲鳥も例外ではなく、 きりもみしながら山中の平原に落ちていった。 「ようし、とどめだ!」 墜落のダメージは意外に大きかったらしく、頭から落下した姑獲鳥は転げまわってもだえている。 今がチャンスと、リュウはメテオール、スペシウム弾頭弾の発射準備をしようとした。 だがその直前、フェニックスネストからの緊急連絡が彼の手を止めた。 〔隊長、その地点の上空に新たなワームホール反応、さらに大型の熱反応も検知、怪獣が出てきます!」 「なんだと! またか」 リュウが空を見上げると、青い空にぽっかりと空いた黒い穴から、まるでラグビーのボールに手足がついたような 怪獣がまっさかさまに落ちてくるのが見えた。 そして怪獣は、頭から岩肌に落下し、盛大に土煙を上げたあと、ゆっくりと起き上がってきた。 「こいつも……どっかの宇宙から飛ばされてきた奴なのか……?」 リュウは怪獣を見下ろしながら、苦々しげにつぶやいた。 地球は、ここのところ新たな怪獣頻出に悩まされている。以前戦った、新たなレジストコード・レイキュバスを始めとして、 突然開いたワームホールから見たことも無い怪獣が出現してくる事態が多発していた。先日も、突然次元の歪みから 子供の書いた恐竜みたいな怪獣が出てきて、ようやく倒したばかり。この事態に、メビウスとヒカリも遂に積極的に 参戦し、GUYSと協力して事態の収拾に当たっていた。かくいう、この怪鳥も日本アルプス上空に突然開いた ワームホールから出てきたのだ。 新たな怪獣は、体の中央に赤く光る一つ目がついていて、よく見れば体のあちこちが機械化されている。 どこかの星の怪獣兵器の類かもしれないが、ともかく放っておくわけにもいかない。 この怪獣、彼らは知らないことだが、名をラグストーンと言い、リュウの予測したとおりに怪獣兵器の一種で、 別の世界から時空のかなたに飛ばされて、ここにたどり着いたものだ。 「ミライ、セリザワ隊長、気をつけろ!!」 すでに姑獲鳥との戦いに時間を食って、二人のウルトラマンのタイムリミットはあまりない。 ラグストーンは、二人のウルトラマンの姿を見つけると、ラグビーかフットボールの選手が突進するときのような 前傾姿勢をとり、頭から猛然と突進してきた。 メビウスとヒカリは、これ以上戦いが長引くのは不利と判断して、ラグストーンの正面からそれぞれの必殺光線で 迎え撃つ。 『メビュームシュート!!』 『ナイトシュート!!』 二乗の光線は狙い違わずにラグストーンに命中した。しかし、ラグストーンはそれらの光線が直撃したにも関わらずに、 平然とそのまま突進してくるではないか!! 「ショワッチ!!」 二人のウルトラマンは、正面から受け止めるのは無理と、ラグストーンの頭の上をジャンプして飛び越えた。 勢い余ったラグストーンは、そのまま慣性の法則に従って突き進み、その先には不運なことにようやく起き上がってきたばかりの 姑獲鳥がいた。もちろん、ダンプカーのごとく突進するラグストーンは止まることはなく、正面衝突した姑獲鳥は盛大に 吹っ飛ばされた。 さらに、跳ばされた姑獲鳥が墜落したところに、なおも止まらないラグストーンが駆けて来て…… グシャッ!! 擬音にすればそういう表現がぴったり来るような見事な音を立てて、姑獲鳥はラグストーンに踏み潰されて あえなく最期を迎えた。 だが、残るラグストーンは手ごわそうだ。 「俺達の同時攻撃が効かないとは、なんて頑丈な怪獣だ」 普通の怪獣ならば木っ端微塵、少なくともダメージは与えられる攻撃に、この怪獣はビクともしない。 姑獲鳥を踏み潰したラグストーンは回れ右して、再び突っ込んでこようとスタートダッシュの体勢をとっている。 すでにカラータイマーも赤く点滅を始めて、光線技をあまり連射することはできない。けれど、メビウスはそんなことで 闘志を折ったりはしない。 「ヒカリ、僕があの怪獣の防御を破ります。その隙に光線を撃ち込んでください」 「あの怪獣の防御を破る術があるのか……よし、任せたぞメビウス」 ヒカリを後ろに残して、メビウスはラグストーンに向かって跳んだ。空中高く跳びあがり、右足を突き出してのジャンプキック攻撃だ。 「テヤァーッ!!」 真正面からまるで銀色の矢のごとく、メビウスのキックはラグストーンの赤いモノアイ部分に命中した。 けれども、頑強なラグストーンの体は目の部分でもメビウス渾身のキックに耐えられるほど硬く、その衝撃にも傷一つなく 平然と受け止めきってしまった。 が、メビウスの狙いはここからだ!! 「テイヤァァーッ!!」 メビウスの体がラグストーンのモノアイにキックを打ち込んだ姿勢のまま、まるでドリルのように高速回転を始める。 それはあまりの回転速度のために空気との摩擦で炎を起こし、さらに大地を抉り取る竜巻のようにメビウスのキックに 通常の何十倍もの力を与えた!! 『メビウスピンキック!!』 ラグストーンのモノアイが、とうとう耐え切れなくなり、貫通されて爆発を起こす。 これこそ、かつていかなる光線技も通じなかったリフレクト星人を倒すために、ウルトラマンレオ、おおとりゲンの教えを 受けてメビウスが独自に編み出した必殺キック、その威力はあのレオキックにさえ匹敵する。 「セリザワ隊長、いまだ!!」 ラグストーンはモノアイを破壊されて、火花を吹き上げてもだえている。あそこならば、光線技が効く。 リュウのかけ声を受けてヒカリは腕を十字に組んだ。 『ナイトシュート!!』 青い閃光が吸い込まれるように、ラグストーンのモノアイの亀裂に飲み込まれていく。 ラグストーンの外殻は確かに硬い、しかしその反面内部からの圧力も外に逃がすことができずに、電子レンジに 入れられた卵がはじけるように、内側から粉々の破片になって飛び散った!! 「ようっしゃあ!!」 「ショワッチ!」 「シュワッ!!」 新たなワームホールが開く気配はもう無い。 2大怪獣を撃破し、ガンウィンガー、メビウス、ヒカリは揃って飛び立った。 そして、勇躍してフェニックスネストへ帰還した3人を、サコミズ総監やトリヤマ補佐官、それにミサキ女史が温かく出迎えた。 別の隊員達は他の任務で出かけているが、それだけでも充分疲れは吹き飛んだ。 「ご苦労様、おかげで市街地に被害が出る前に怪獣を倒すことができた」 「いいえ、これが俺達の仕事ですから」 サコミズ総監のねぎらいに、リュウはすっかり隊長らしくなった様子で答えた。 そしてミサキ女史が、同じようにねぎらいの言葉をかけると、脇に抱えていた茶封筒から数枚の用紙を取り出して ミライとセリザワに渡した。 「ご苦労様。さっそくだけど、あなた方が出かけている間に異次元調査の途中経過の報告が来たから、目を通してみて」 「はい、ありがとうございます」 それはGUYSが独自に調査した、ウルトラマンAと異次元人ヤプールについての資料だった。 二人はそれにざっと目を通し、やはりエースが消えたとされる日に、木星の観測ステーションが異常な時空間の 歪みを観測していたことが証明された。 「やっぱり、エース兄さんはどこか異次元……別の宇宙へとさらわれたんでしょうか……あれ? これは」 ミライは、その資料をめくるうちに、最後のページに奇妙な記事があるのに目を止めた。 「平賀、才人?」 なんと、そこに記されていたのは才人の名前、そのものであった。 「ミサキさん、なんですかこれは?」 「読んでの通りよ。エースが消えたのと、ほぼ同時刻に地球上でも同じような時空間の歪みが観測されていたの。 こっちはかなり小さいし、すぐに消えちゃったんだけど……その日からその少年が行方不明になってるの」 「行方不明者って、それは警察の仕事では?」 「ところが、警察が聞き込みをしたところ、彼らしき人物が宙に浮かんだ光る鏡みたいなものに吸い込まれて、 そして消えてしまったと目撃者の証言を得たのよ」 それはまさに、才人がルイズのサモン・サーヴァントによって召喚された、その瞬間のことだった。 「まさか、ヤプールの仕業だと?」 過去にもヤプールは奇怪な老人に姿を変え、世界中の子供達を異次元へとさらっていったことがある。その 事件はドキュメントTACに、メビウスの輪を利用した異次元突入作戦によって異次元空間へ飛び込んだ北斗星司隊員の 活躍で解決されたとなっているが、真実はもちろんウルトラマンAによってヤプールが倒されたのである。 しかし、ミサキ女史は首を振った。 「いいえ、この異次元ゲートからはヤプールエネルギーは感知されていません。それに、事象はこの一回だけで 他には観測されていません。しかし、ゲートの性質はエースが消えたときのものとほぼ同質です」 GUYSの調査結果を読み、セリザワ=ヒカリも首をひねった。 「ならば、ほかの何者かの仕業か。しかし、この才人という少年、いったい何のために……?」 資料には才人のパーソナルデータも記されていたが、素行に問題は無く、補導暦もない。かといってこれといった 表彰もされたことはないが、交友関係もそれなりにあり、彼を悪く言うような者もいない、いたって普通の高校生を 絵に描いたような少年だった。 まさか、使い魔にするために異世界から魔法で呼ばれたなどとは想像できる者がいるはずもない。 「じゃあ、エース兄さんはいったいどこに……」 「メビウス、エースは異次元戦闘では兄弟一のエキスパートだ。きっと、どこかの宇宙で戦っていることだろう。 我々は、一刻も早くエースが消えた次元を探し出して、彼を救う方法を考えることだ」 セリザワは気落ちしそうなミライの肩を叩いて、そう励ました。 また、サコミズもミライに告げた。 「ミライ、そのためにこそ我々GUYSがいるんだ。焦るな、我々が希望を捨てない限り、希望も我々を裏切ったりはしない」 サコミズの、この落ち着いた声と穏やかな人柄に、これまで何度救われてきたことか、ミライは元気を取り戻して 気合を入れた。 「はい! 頑張ります。エース兄さんを必ず見つけ出してみせます」 この前向きさがミライのいいところだ。 「それにしても、この平賀才人って奴はなんなんだろうな。エースと同時刻に消えてる以上、事件とまったく無関係とは 思えねえし。ヤプールが目をつけそうなところはなさそうだけどなあ」 ただし、この少年に関してはまったく分からなかった。元々深く考えるタイプではないリュウは首をかしげるばかり。 だが、分からないことが重なるなど宇宙人がらみの事件にはありがちなことだ。 「まあとにかく、この混乱に乗じてヤプールにつけこまれないように警戒することも肝心だ。この少年……案外彼が 事件の鍵を握っているかもしれんな」 「じゃあ、彼の消えた場所から再調査してみましょうか? えーと、消えたところは、東京の秋葉原」 「よーし、それじゃあ行くぞミライ!!」 「はい、リュウさん」 どんなときでも、決してあきらめない。 知らず知らず、彼らは真実に一歩一歩近づいていっていた。 ちなみに…… 「なあ、マル……わしもいるんだけどなあ」 「補佐官、今回は空気を読まれたんですよ。次はきっと、補佐官の出番がありますって」 と、いじける二人がいたことを一応付け加えておく。 しかし、まさか自分の存在がGUYSで取り上げられているなどとは夢にも思っていない才人は、あっという間に 元の雑用中心の使い魔生活に戻って毎日を平和に過ごしていた。 ラグドリアン湖から帰ってきてから、早くも今日で6日、心配していたタバサとキュルケも2日後には学院に戻ってきて、 明日は週に一度の虚無の曜日の休日だ。 「よいしょ、よいしょ……っと」 学院のヴェストリの広場で、才人は風呂の準備をしていた。 この学院にも一応風呂はあるのだが、貴族用の大風呂には才人は入れず、かといって使用人用のサウナ風呂は 日本人の彼にはなじめないものだったので、食堂でもらってきた大釜を五右衛門風呂に仕立てての手作り風呂を 作り上げたのだった。 えっちらおっちらと、薪や水桶を抱えて何往復もする。疲れる作業だが、風呂に入らない不快感を味わうよりは ましだし、第一臭いとルイズに叱られては寝床がなくなる。まあ、いざとなったらデルフを片手に持ってガンダールヴの 力でスピード運送という手もあるが、無駄な手間をかけてこそ出来上がりが楽しいということもある。 「いよーっし、準備オーケーと」 釜に水を張り終えて、薪に火をつけるためにポケットに入れておいた火打石を取り出そうとごそごそとしていると、 太陽に変わって顔を出してきた月明かりの中から、誰かが近づいてきた。 「誰だ?」 「あたしよ」 返事が返って来るのと同時に、月明かりに照らされて、そのシルエットが浮き上がってきた。桃色がかったブロンドの 髪の色に鳶色の瞳、見間違えようもない、ルイズだ。 「どうしたんだ、こんなところに?」 このヴェストリの広場は学院の主要施設や通路から離れているために、生徒は滅多にやってくることはない。 そのため才人にとっても風呂に入るには都合のいい、憩いの場所だった。もちろん、ルイズが尋ねてくるなど はじめてのことだ。 「あんたこそ、何よこの大釜? 料理でもしようっていうの?」 「違うよ。これは俺専用の風呂、学院のサウナ風呂はどーも性に合わなくてな。自作してみたんだ」 「はー、妙なことするわねえ。まあ、別にいいけど清潔にはしときなさいよ。それより、あんた宛に手紙が来てるの」 「俺に?」 意外な用件に才人は一瞬ぽけっとした。見ると、ルイズは指に白い封筒を挟んで掲げている。 しかし、なんでルイズが持ってくるんだ? と、才人は不思議に思った。こういうものは、普通ならシエスタあたりが 持ってくるだろうに。 「わたしの部屋に伝書ゴーレムで直接届けられたのよ。誰からだと思う?」 「えーと、特に心当たりはないが……あっ、アニエスさんからだ」 ルイズから受け取った封書の裏には、確かにあの銃士隊隊長、アニエス・シュヴァリエ・ド・ミランの名で差出人の フルネームが書かれていた。 「なーんであんたに直接手紙が来るのよ。こういうことは主人であるわたしを通すのが筋でしょうに、まったくこれだから 平民あがりはいやなのよ……」 「余計な手間をかけるのを嫌う人だからな、まあ大目に見てやれよ」 自分がスルーされてぶつくさ文句を言うルイズをなだめると、才人は手紙を読みやすいように月明かりにかざした。 「久しぶりだな、あの人とはツルク星人のとき以来か……でも、わざわざなんだろうな……年賀状でもあるまいに、 もしかして俺に惚れた? ラブレターとか、ぐふふ」 手紙の封も切らずにあり得ない妄想に身をよじらす才人を、ルイズは汚物を見るような目で見て、その股間に 蹴りを入れてやろうかと思ったが、足を振り上げた時点で、ピーンともっとよい方法を思いついた。 「あっ、そう。じゃあ今度わたしからアニエスさんに丁寧にサイトが好きですかって聞いておいてあげるわ」 それはまったく、死の宣告に等しかった。 「さっ、さあ馬鹿なこと言ってないで、中身を見ないとな!」 この瞬間、拷問台のフルコースを味わわされたあげくに火あぶりに処せられる自分の姿を見たのは、単なる 幻覚ではあるまい。 滝のように冷や汗を流して、才人は震える手で封筒のふちをビリビリと破いた。 そして、恐る恐る手紙を開いて、そこに記されていたものは…… 「なんて書いてあるんだ?」 実は才人はまだハルケギニアの文字が読めなかった。 「仕方ないわねえ、貸してみなさいよ。えーと、『ヒラガ・サイト殿、至急知恵を借りたし、明日銃士隊詰め所まで 来られたし。銃士隊隊長、アニエス・シュヴァリエ・ド・ミラン』……ですってよ」 「へ……?」 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第24話 地球へ!! 彗星怪獣 ガイガレード 超巨大天体生物 ディグローブ 大ダコ怪獣 タガール ウルトラマンメビウス ウルトラマンヒカリ 登場! ゾフィーの命を受けて、ウルトラマンメビウス、ウルトラマンヒカリの二人の戦士は、 M78星雲を遠く超えて、懐かしい星地球のある太陽系へと、再びやってきていた。 「海王星軌道を通過した。ここまで来たら、もう地球はもうすぐだ」 太陽系内に入ったために速度を落とした二人のウルトラマンは、かつてゾフィーが タイラントと戦ったこともある青い惑星のそばをゆっくりと通過した。 まだ、このあたりには地球人はほとんど訪れたことはない。しかし、あと何十年、 何百年か後には人類も自在にこの星の海を駆ける日が来るだろう。彼らはそう信じている。 やがて、天王星軌道も通過し、特徴的な巨大な輪を持つ惑星土星を過ぎ、太陽系最大惑星、 木星のある空域に彼らはやってきた。 「ここから先は地球人の領域内だ。見つかって騒ぎになっても困る、地球につくまでは 彼らの目は避けていこう」 ヒカリがメビウスにそう提案した。 「わかりました……おや、ヒカリ、あれはなんでしょう?」 メビウスの指した先には、木星のそばを、その衛星とは違うなにか巨大な物体、 大きさは小惑星規模で、ガスの尾を引いていることから彗星のように見えるなにかが 通り過ぎようとしている姿があった。 「あれは、恐らくオオシマ第四彗星だ。メビウス、お前もGUYSの資料で見たことはないか?」 「思い出しました。以前、ザムシャーの乗ってきたオオシマ彗星や、僕の破壊した オオシマ彗星B群の兄弟星と言われてる、新彗星の一つですね」 かつて地球でGUYS隊員、ヒビノ・ミライとして働いていたころの記憶から、メビウスは それの正体を知った。また、ヒカリもかつて地球にいたころから、元GUYS隊長セリザワ・カズヤと 同化して行動していたから、彼の持っていた知識もあって、メビウスには心強い限りである。 「そうだ、前の二つと違って木星軌道を通過した後、太陽系外へ去っていく軌道を取っていたから、 防衛の観点からはあまりかえりみられてなかった星だ」 地球に影響が無いのであれば、GUYSが取り組む必要もなかったというわけだ。 思わぬ天体ショーを見物した後、二人は地球にもっとも近い惑星、今は基地建設が 大々的に推し進められ、スペシウムをはじめとする各種鉱物の採掘もさかんになっている 赤い星、火星へと向かった。 だが、飛び続けるうちに、彼らは異変に気がついた。 木星を飛び立って以降、はるか後方に置き去りにしてきたはずのオオシマ第四彗星が、 軌道をはずれて後ろからぴったりとくっついてくるではないか。 「メビウス、気づいているな?」 「はい、あれはただの彗星ではないようです」 自然の彗星が勝手に軌道を変えるなどありえない。それに、ウルトラマンの速度に ついてこれるわけが無い。このまま、この軌道であの彗星が進んだとすれば、その先には 地球がある。メビウスとヒカリは顔を見合わせると、速度を緩めて、彗星と平行になるように飛んだ。 間近で真横から見ると、オオシマ彗星はとてつもなく大きかった。なにせ小惑星規模であるから、 ウルトラマンといえども象とアリのようなものだ。もしこれが万一地球に衝突でもしようものなら 天文学的な被害が出るだろう。 そして、遠目では彗星を覆うガスによって分からなかったが、近くからガスを透かして見て 信じられないことが分かった。その彗星の丸い胴体からは、下前方に向かって突き出た、 地球の生物で例えるならアンモナイトやオウム貝のような巨大な頭がついており、後ろからは 長大な尾が生えている、これは、彗星などというものではなかった。 "この彗星は生物だったのだ!!" 「そんな!? 彗星が超巨大な怪獣だったなんて」 メビウスは驚きを隠せなかった。宇宙怪獣は多々いるが、天体規模のものとなると、 生きているブラックホールともいうべき暗黒怪獣バキューモンや、太陽を食べて無限に 成長する風船怪獣バルンガなどがいるにはいるが、ごく少数でしかない。しかし、現実に 目の前にいる以上、受け入れなければならない。 「落ち着けメビウス、こいつがなぜ進路を変えたのかはわからんが、どのみち地球に 向かわせるわけにはいかん。この規模では、GUYSスペーシーのシルバーシャークGも、 まず通用しないだろう。ここで食い止めるぞ!」 「はいっ、ですが、どうやって?」 普通の怪獣ならメビウスも躊躇しないが、相手はケタ違いに大きい。 彼らは知らないことだったが、こいつの名は【超巨大天体生物 ディグローブ】といい、 宇宙空間を回遊する、文字通り星並の大きさを持つ怪獣であり、攻撃能力こそ持たないが、 その体は頑丈極まりなく、並の攻撃では傷さえつかない。 「倒せなくとも、進路を変えさせることはできる。メビウス、奴の頭を狙うぞ」 ヒカリは、怪獣を刺激して、その進路を変えさせようと考えた。メビウスも了解して、 巨大怪獣の目の前へと飛んでいく。しかし、やはりでかい。クジラの前のプランクトンも こんな気持ちなのだろうか。 「奴の額に、攻撃を集中させよう」 「はい」 相手がこの大きさでは、ウルトラマンのパワーでも、殴ったりするくらいでは効果は ないだろう。ならば、二人の光線技を集中させれば、虫眼鏡で日光を集めた程度は 熱がらせられるかもしれない。メビウスとヒカリは、それぞれの必殺光線の構えに入った。 だが、二人はディグローブのあまりの巨体に気をとられすぎて、頭上から近づいてくる もう一つの存在に気がつくのが遅れ、メビウスの視界に、突如黒い影が覆いかぶさってきた。 「!?」 はっとして見上げたメビウスに向かって、何かが弾丸のように突っ込んでくる! 「メビウス、危ない!!」 ヒカリがメビウスを突き飛ばした次の瞬間、メビウスのいた空間を猛烈な勢いで 岩のような物体が通り過ぎていった。しかし、そいつはすぐに反転してくると、 再びメビウスとヒカリに向けて突っ込んでくる。 「あれは、怪獣!?」 それは全身が岩石のように強固な外殻で覆われた、見たこともない怪獣だった。 「くっ!」 とっさにメビウスは右手を左腕のメビウスブレスに当て、滑らせるようにして突き出した 右手の先から、怪獣に向かって矢尻型の光弾を放った。 『メビュームスラッシュ!!』 突進してくる怪獣の頭部へと、メビュームスラッシュは直撃して派手に火花を散らせた。 だが、爆炎の中からそいつは無傷で現れると、勢いそのままにメビウスへと激しくぶつかってきた!! 「うわぁっ!!」 直撃されたメビウスは、きりもみしながら彗星の上、すなわちディグローブの上へと落下していった。 「メビウス!!」 墜落していったメビウスを追ってヒカリもディグローブの上、大体首のつけねあたりに なろうかというあたりに着地し、怪獣もメビウスとヒカリの前へと降り立ってきた。 この怪獣は、まだメビウスたちのいた地球では確認されたことのない種類で、その名を 【彗星怪獣 ガイガレード】という。全身が鉱石のように硬質な、宇宙空間を超高速で 飛行可能な宇宙怪獣の一種だ。 着地したガイガレードは、手足を納めた飛行形態から、太い手足を持ち、地面の上で戦う 通常形態へと変形して、二人へ向かって強烈な咆哮を放ってきた。 「大丈夫かメビウス?」 「大丈夫です。心配ありません!」 元気良く答えたメビウスは、すっくと立ち上がると、ガイガレードに向かって構えをとった。 「どうやら、こいつが番人のようだな」 ヒカリの言うとおり、ガイガレードはディグローブに攻撃を仕掛けようとしたとたんに 襲い掛かってきた。こいつを倒さない限り、ディグローブの進路は変えられそうもない。 「やりましょう、ヒカリ!」 「よし、いくぞメビウス!!」 二人のウルトラマンは、凶暴なうなり声を上げるガイガレードへ向けて、果敢に挑んでいく。 一方、そのころ地球では…… 東京湾上空を、人類の地球防衛の要、CREW GUYS JAPANの誇る戦闘機、 ガンウィンガーが、翼にまとった炎のシンボルを雄々しく閃かせて飛んでいた。 「こちらガンウィンガー、現在東京湾上空NN地点を飛行中、怪獣の動きはどうだ?」 ガンウィンガーのコクピットから、現CREW GUYS JAPAN隊長、アイハラ・リュウの声が響いた。 地球では、エンペラ星人の脅威が去った後、一応の平穏は戻っていたが、それまでいた 怪獣がいきなりいなくなる訳もなく、その余波のようなものか、散発的ではあるがときたま 怪獣が出現して、GUYSはその処理に当たっていた。 〔現在、怪獣はGUYSオーシャンの攻撃により浮上中、まもなく顔を出すはずです〕 やがて、それまで鏡のように滑らかだった東京湾の海面が泡立ち、タコ焼き屋の のれんにでも書いていそうな、真赤な体をしたタコの怪獣が海上に現れた。 「こちらガンウィンガー、怪獣を確認した。データを送ってくれ」 〔ドキュメントZATに記録を確認、大ダコ怪獣タガールです。記録では、過去に大ガニ 怪獣ガンザと戦って敗退した後、行方をくらませています。足に生え変わった後と、 右目付近に大きな傷跡が確認できますから、恐らく同一固体ではないかと思われます〕 CREW GUYS JAPANの基地、フェニックスネストからの新人オペレーターによる 報告を受けて、リュウはコクピットで不敵に笑った。 「性懲りもなくまた出てきたってわけか、おもしれえ、焼きダコにしてやる!」 だが、そのときタガールの背後の海面から、地球の海を守るGUYSオーシャンの誇る、 ガンウィンガーのGUYSオーシャン版機、シーウィンガーが波を蹴立てて、己が守護する 大海と同じ色をした機影を現した。 「まてよリュウ、追い込み漁だけやらせて獲物を独り占めなんてさせねえぜ」 それは、GUYSオーシャン隊長、勇魚の操る機体であった。 彼とは、かつて宇宙有翼怪獣アリゲラが地球に襲来したときに共同戦線を組んだ仲であり、 パイロットしての腕前はGUYSメンバーにも勝るとも劣らない。 シーウィンガーは、タガールが吐き出してくる黒い墨攻撃をなんなくかわすと、リュウの ガンウィンガーの近くに並んできた。 「久しぶりだな、勇魚隊長。じゃあ海らしく、魚突きといこうか」 「面白い、一番銛はゆずらねえぜ」 リュウと勇魚はコクピットの中で、共にニヤリと笑った。 そして。 「メテオール、解禁!!」 その瞬間、ガンウィンガーとシーウィンガーの機体がまばゆい金色に輝きはじめた。 これこそ、ガイズマシンの切り札、超絶科学メテオールを発揮する形態、マニューバモードだ! 「スペシウム弾頭弾、ファイアー!!」 「スペシウムトライデント!!」 ガンウィンガーから四発の大型ミサイルが、シーウィンガーから二発の金色に輝く 三叉の矛がタガールの頭部へ向かって叩き込まれた。両方とも、火星の物質スペシウムを 利用して作られた兵器で、理論上ウルトラマンの光線と同等の威力を持つ、そんなものを 総計六発も叩き込まれては、鈍重な大ダコ怪獣に助かる道があろうはずもない。 連続した爆発がタガールを次々と襲い、弾力性に優れたタコの体とて、サンドバッグを 突き破るヘヴィ級ボクサーのマシンガンパンチのような攻撃に、頭部を黒焦げにして、 ズブズブと東京湾の底へと沈んでいった。 「怪獣殲滅完了、相変わらずいい腕だな勇魚」 「お前こそ、隊長に就任しても腕は鈍っていないみたいだな。あとの始末はGUYSオーシャンが 引き受けた。ご苦労だったな」 「なんの、久々の共同作戦、悪くなかったぜ。じゃあ、また会おうぜ」 二人は機体を寄せて敬礼しあうと、それぞれの役割を果たす場所へと別れていった。 だが、疲れてフェニックスネストに戻ったリュウを待っていたのは、ねぎらいの言葉ではなく、 慌てふためいたトリヤマ補佐官の叫びであった。 「あっ、リュウ隊長! たった今火星の観測ステーションからの報告で、木星軌道を 通過中であったオオシマ第四彗星が進路を変えて地球に向かっているそうですぞ!」 この人は、旧GUYSの時代からリュウとやってきた仲だが、リュウがあのころから だいぶ成長したのに比べて、非常時になると慌てふためく癖は治っていないようだった。 「なんだと、だが、まず迎撃するのはGUYSスペーシーの管轄でしょうに?」 「いやそうなんだが……いやいや、とにかくこれを見てくれ!!」 作戦室のスクリーンに、観測ステーションが捉えたオオシマ第四彗星の映像が映し出され、 やがてそれが拡大していくにつれて、その彗星自体が超巨大な怪獣であること、そして その怪獣の上で、メビウスとヒカリが怪獣と戦っている姿を見て、リュウは驚愕した。 「ミライ! セリザワ隊長!」 メビウスとヒカリは、ガイガレードの強固な外殻と、強力なパワーに苦戦していたが、 チームワークを駆使して互角に渡り合っていた。 「テヤァ!!」 二人のダブルキックがガイガレードの顔面に炸裂する!! 「テヤッ!!」 さらに、振り下ろされてきた腕をかわして、その腹に正拳突きをお見舞いし、返す刀で 二人でそれぞれ両腕をつかんで、息を合わせて思いっきり放り投げた!! 「セヤァッ!!」 ガイガレードはディグローブの上をゴロゴロと何度も転げまわった。過去に、地球でも ボガールとの戦い以来、幾度も力を合わせて怪獣と戦ってきた二人は、それぞれの隙を 補い合い、二人分以上の力を発揮していた。 ただし、ガイガレードもこのままでやられるつもりはないようだった。怒りの咆哮とともに 起き上がってきたガイガレードの腹に当たる部分がパクリと開くと、ブラックホールのように 揺らめく穴が現れて、そこから無数の岩石弾がメビウスとヒカリに向かって放たれた! 「ウワァッ!!」 ふいを打たれたヒカリは岩石弾を受けて吹き飛ばされた。この岩石は爆発性を持っている らしく、はずれたものも爆発して激しい火花を吹き上げてくる。 さらに、弾丸はメビウスにも襲い掛かってきたが、メビウスは両手を前にかざすと、 メビウスの輪の形をした金色のバリヤーを目の前に作り出した。 『メビウスディフェンスサークル!!』 岩石弾はバリヤーに当たると、粉々に砕け散った。 そして、その間に体勢を立て直したヒカリはメビウスの頭上を飛び越え、ガイガレードに ジャンプキックをお見舞いする! 「テヤァッ!!」 強烈な一撃に、ガイガレードはのけぞって、そのまま背中から倒れこんだ。 「メビウス、今だ!!」 「はい!」 ヒカリの声に応え、メビウスは倒れてもがいているガイガレードに駆け寄ると、その尻尾を 掴んで、ジャイアントスイングの要領で思いっきり振り回して、一気に放り投げた! 「ダアッ!!」 ディグローブの上に勢い良く投げつけられたガイガレードは、運動エネルギーの法則に従い、 その外殻でさえ耐え切れないほどの衝撃に全身を打ちのめされた。 しかし、それでも奴は強い生命力でしぶとく起き上がってくる。 メビウスとヒカリは一瞬目を合わせると、メビウスは左手のメビウスブレスに手を添え、 ヒカリは右手のナイトブレスを天にかざした!! メビウスブレスから金色の光がほとばしって、メビウスの頭上にメビウスの輪のマークが 形作られ、ヒカリのナイトブレスに青い稲光のようなスパークが輝く。 そして二人は同時にその腕を十字に組み、必殺の光線を放った!! 『メビュームシュート!!』 『ナイトシュート!!』 金色と青色の光線が、吸い込まれるようにガイガレードの腹の穴へと撃ち込まれていく。 けれどガイガレードの腹はそれらを吸い込むと、扉が閉じるように元の外殻に戻った。 通じなかったのか!? 二人がそう思ったとき、突然ガイガレードの体が凍りついたように硬直した。 刹那。 ガイガレードは空気を入れすぎた風船のように内側から破裂し、紅蓮の爆炎とともに 微塵の欠片となって飛び散った!! 「やった!」 「ああ、やったな、メビウス」 「はい、あなたのおかげです、ヒカリ」 勝利、その喜びを二人は公平に分かち合った。 二人とも見たこともない怪獣であっただけに、中々に手こずらされてしまった。もし一人だけで あったら、負けないまでもさらに時間とエネルギーを浪費してしまっただろう。 「そうだ! こいつの進路を変えなくては」 ガイガレードに関わって随分時間を浪費してしまった。地球に影響が及ぶ範囲に入る前に この巨大怪獣の進路を変えなくてはならない。二人がそううなずきあったとき、突如地面、 いや、彼らの乗っている巨大怪獣の上が地震のように揺れ動き始めた。 「いかん、脱出しよう!」 危険と判断した二人はとっさにディグローブの上から飛び立った。 そして、距離をとって振り返ってみると、ディグローブはゆっくりとであるが地球を目指した 進路から離れて、元来た方へとUターンを開始していた。 「これは、どういうことでしょうか?」 メビウスは怪獣の行動が理解できずにヒカリに尋ねた。 「……恐らく、あの怪獣が取り付いて進路を狂わせていたんだろう。渡り鳥が地磁気の異常で 目的地を見失うようにな。それが無くなったから、元の軌道に戻ろうとしているんだ」 「では、あの怪獣はもう無害だということですか?」 「そうだな」 「よかった、本当によかった」 思わず声を大きくしてメビウスは喜んだ。たとえ怪獣とはいえ、命を奪わずにすむなら それに越したことはない。 「しかしメビウス、我々が地球へ向かっているこのタイミングでのこの出来事、どうも偶然とは思えん」 「! では、これはヤプールの復活の予兆だというんですか」 「証拠はない。だが、急いだほうがよさそうだな。それから、このことはゾフィーにも報告しておこう」 ヒカリから放たれたウルトラサインの光が、遠くウルトラの星へ向かって飛んでいく。 「シュワッチ!!」 二人は、地球から遠ざかりつつあるディグローブを見送りつつ、再び地球へ向かって飛び立った。 そのころ、地球ではリュウがフェニックスネストの外で、空を見上げながら、友へと思いをはせていた。 「メビウスとヒカリが、ミライとセリザワ隊長が来る……」 彼の胸中には、懐かしさとともに、あの二人が揃って地球にやってくるとはただ事では ないだろうと、新たなる地球の危機を予感して、戦いの覚悟が燃えていた。 ウルトラ兄弟と地球、CREW GUYS JAPANが次なる戦いに望む日は遠からずやってくるだろう。 しかし、彼らもまさかヤプールが異世界で復活を遂げようとしているなどとは、想像だにできなかった。 時空の壁を越えて、再び異世界ハルケギニア。 ある日、トリステインの北西に浮かぶ、巨大な浮遊大陸国家アルビオンの首都、 ロンディニウムの郊外に、全長一〇〇メイルはあろうかという巨大な石柱が突如として出現した。 現在この国は、旧来の王政府と、有力貴族が結集して共和制国家樹立を目指す 『レコン・キスタ』と自称する反乱軍の二派に別れて内乱の真っ最中であり、王軍は一時首都を 追われたものの、大陸南端の城ニューカッスルに拠点を置き、現在は大陸中央の街 サウスゴータを奪還せんと、虎視眈々と機会を狙っていた。 むろん、これに対する反乱軍も占領した首都ロンディニウムを拠点として戦力をサウスゴータに 集結しつつあって、いつ両軍合わせて十数万に渡るであろう決戦が始まってもおかしくない状態であった。 だが、そんな状況でありながら、この国には毎日のようにトリステイン、ガリアをはじめとする 国々から、富裕層を中心とする人間が次々に流れ込んできていた。 通常は、戦時下の国からは人が出て行くものだが、この場合は特別な事情によるものがあった。 すなわち、アルビオンはどういうわけか超獣、怪獣の出現がほとんどなかったのだ。 ヤプールが現れた初期こそ、様子見のように超獣らしき巨大生物が出現し、反乱軍、 王軍が一時休戦して迎撃に向かうこともあったが、一週間もするとぷっつりと出現しなくなっていた。 そんなわけで、特に三度に渡って首都を破壊されているトリステインからは避難民が続々と 集まりつつあった。怪獣より人間のほうがましというわけだ。 そんななかのこの出来事であったが、それは、しばらくの間は物珍しがった人々の 好奇の目に晒されていたが、やがてその周囲をレコン・キスタの兵士達が固めて、 誰も近寄れないようになると、その存在の異様さにも関わらずに、人々はそれから急速に 興味を失っていった。 だが、一千近い兵士を動員して石柱の周りを固めさせたレコン・キスタではあったが、 不思議なことに彼らからその石柱を調査、もしくは移動、破壊しようなどという、一切の 動きは見られなかった。 もちろん、このあまりに不自然な石柱に興味を持ち、その調査を申し出た将や研究者は 少なからずいた。けれども、その意見具申はすべて戦時下であることにより余裕無しという 理由によって却下されたのだが、納得のいかない研究意欲旺盛な若い将校の一人が、 直接許可を得ようと、レコン・キスタ最高司令官、オリヴァー・クロムウェルの元を訪れていた。 「……そういうわけですから、調査費用などは全て私の個人資産から出しますので、 軍には一切ご迷惑をかけません。あの石柱はどう考えても自然に湧いて出たものでは ありません。何者かの意思によるものです」 「だとしても、それが我々にとって脅威だとどうして断定できるのかね? 私には、あれが 天から送られた我が軍の勝利を約束する神からの贈り物に見えるがね」 若い将校のうったえに眉一つ動かさずに、クロムウェルは小柄な体を指揮官用の椅子に 深々と沈めて答えた。 彼は、元々はアルビオンの一介の司教であったのだが、腐敗した王政府を打倒し、 新たに貴族達によってこの国を再建することが始祖の導きであると、貴族達を先導して レコン・キスタを組織し、首都を占領して新たに共和政府を樹立した手腕は高く評価されている。 が、当然納得できない若い将校は、あきらめきれずになおも噛み付いていった。 「納得できません。危険がないのでしたら、なぜ一千もの兵で守らなければならないのですか! いいえ、この際言わせていただきますが、このところの閣下の命令は納得のいくものでは ありません。王軍がここまで盛り返す前に、いくらでも撃滅する機会はあったはずですのに、 閣下は軍を再編成するとおっしゃって、その機会を逃してしまいました。それだけではありません、 今でも我らは王軍より戦力的には優勢であるはずなのに、サウスゴータの守備を固める一方で いっこうに攻撃をかけられません。まるで故意に戦争を長引かせているようであります!」 彼は怒りに任せて、これまでたまっていた不満を、言わなくていいことまで含めて一気に吐き出した。 ことの始まりは、一月ほど前に半死状態であったはずの王政府軍をニューカッスル城に 追い詰めたが、完全に包囲状態であったはずなのに、前線の指揮官達が次々と敵弾に倒れ、 指揮系統を失った包囲軍はあっけなく壊走、勢いを取り戻した王政府軍は各地の残党や 義勇兵を吸収し、いまや反撃に転ずるまでになってきていた。 この状況に、クロムウェルは消極的な策を場当たり的に打ち出すばかりで、初期の 積極さはどこにいったのか、まるで別人になってしまったような指揮ぶりに、不満を抱いて いるのは彼だけではなかった。 「事態は、小さな戦術の次元を越えて大きく動いているのだよ。若い君に理解できないのは 当然だから、心配しないで命令に従っていたまえ」 薄笑いさえ浮かべながらクロムウェルは言い放ったが、彼はもはや我慢の限界であった。 「いいえ、もはや納得することはできません! かくなる上は私個人の権限をかけて 石柱の調査を実行いたします!」 「命令に背くというのかね? 始祖の代理人である私の命に背くことは異端とされても 文句はいえないぞ」 「承知しています。元々私はこの戦いで家族を全て失い、身よりも守る家もありません。 それに、あれが本当に神からの贈り物であるにせよ、危険な代物であるにせよ、それを 確かめた功績はすべて閣下のものといたしますから、不利益もないはずです。私の身柄は その後いかようにでもなさるがよかろう。失礼いたします!」 彼はそう言い捨てると、部屋を足音荒く退室していった。 残されたクロムウェルは、彼が消えた後のドアをしばらく見つめていたが、やがてぽつりとつぶやいた。 「君はとても鋭いね。そして、正しく真実を見つめている。しかし、それが君のためになるとは限らないのだよ」 クロムウェルの目が、そのとき一瞬だけ鈍く紅く輝いた。 次の日、一人の青年将校が、首筋にダーツのような矢を突き立てられて殺害されているのが 郊外で発見され、王軍の送り込んだ間諜の仕業として処理されたことが、軍の記録将校の 日誌に短く載せられた。 しかし、これこそがこの浮遊大陸国家アルビオンに、そしてハルケギニア全土に恐るべき 災厄をもたらす悪魔の石であることに、この時点で気づいた者は誰も存在しなかった。 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第22話 踊れ! 怪獣大舞踏会 (後編) カンガルー怪獣 パンドラ、チンペ 歌好き怪獣 オルフィ 風船怪獣 バンゴ 玉好き怪獣 ガラキング 登場! 「怪獣が、4匹!?」 いまや、トリステイン魔法学院は上に下にの大騒ぎになっていた。 現れた怪獣は、パンドラ、オルフィ、バンゴ、ガラキング、際立った凶暴性を持つものはいないが、魔法学院の 10個や20個軽く破壊してありあまるほどパワフルな連中ばかりだ。 才人は、それらの怪獣達の記録を脳内の怪獣図鑑から探し出した。幸い、どれも見たことのある奴ばかりだ。 まずパンドラ、オルフィ、ガラキングはどれもZATの時代に出現した怪獣で、パンドラは山で遭難した人間を 助けてくれる優しい怪獣、オルフィは現在でも出現し、音楽が好きで、年に一度近隣の村人に一曲披露する 気のいい奴、ガラキングは多少やっかいだが、人間とバレーボールで勝負するなどなかなかの知能を 持った面白い奴、いずれも倒されずにウルトラマンタロウやZATによって棲み家に帰されている。 残るバンゴはMACの時代に出現した奴で、暴れはするが、凶暴というよりも幼児が面白がって遊んで いるだけのような奴で、ウルトラマンレオに宇宙のかなたに飛ばされている。 総じて、こちらから手を出さなければ危険性の低い奴ばかり、特にパンドラとオルフィは人間の味方といっても よかったが、なぜ好んで人間に危害を加える気のない怪獣がこんなところに現れたのか? あのパンドラと オルフィは地球のものと同じくおとなしいのか? 才人は迷っていた。 だが、その知識を持っているのは当然才人だけで、他の人間には、怪獣が4匹という脅威のみが映っていた。 明確な指揮官がおらず、その場のノリと勢いでやってきていたギーシュ達WEKCの面々は、どうしていい か分からずに、早々に便宜上戦術的撤退に追い込まれていた。 それは当然、彼らだけではなかったが。 「ひ、姫殿下、いったいどうすれば……」 精強を持ってなる空中装甲騎士団も、さすがにこれにはどうすべきかわからなくなっていた。 しかし彼らには幸か不幸か命令を下してくれる上官がいた。 「ひ、ひるむんじゃないわよ。2匹が4匹になったくらい大したことないわ! 攻撃続行!」 ベアトリスはなかばやけくそ気味に命令した。団員達は、そんな無茶なと思ったが、指揮官の命令は絶対 である。覚悟を決めて、ほぼ絶望的な戦いに挑んでいった。 だが、いざその気になると彼らもトリステイン屈指の実力者達である。大きさの程度こそ違え、トロールや オークなど、人間よりはるかに大きな相手との戦い方も心得ている。表皮の分厚そうな胴体などは避け、 目や鼻など急所に攻撃を集中した。 これは一見地味に見えるが、地球でも、かつて科特隊が怪獣バニラの目をつぶしてアボラスに倒させたり、 MATがツインテールの目をつぶしてグドンに倒させたり、またMACが鉄壁の防御を誇る怪獣ベキラの目を 集中攻撃して打撃を与えたりと、かなりの戦果をあげてきた戦法でもある。人間でも、目の前をハエやアブに 飛び回られたらうるさいのと同じことである。 20騎の竜騎士に顔を連打されて、驚くべきことに4匹の怪獣の進撃は学院の外壁の手前でぴたりと止まった。 「おお、止まった!?」 恐らくはまったく敵わずに、早々に蹴散らされて終わると思っていた才人は思わずびっくりして叫んだ。 そうなると現金なもので、浮き足立っていた生徒や教師達も、逃げることを忘れて声援をあげ始めた。 「がんばれー空中装甲騎士団ー!」 「すてきよー、ほれぼれしちゃう」 黄色い声援が飛んで、空中装甲騎士団の男達はがぜんやる気になった。まったく男という奴はこの世で もっとも救いがたい生き物である。 「ほーっほっほっほ!! 全隊、正面から集中攻撃! クルデンホルフの力を見せ付けておあげなさい」 ベアトリスも、調子に乗ってさらなる攻勢の強化を命じる。 だが、女生徒の声援に、余計な対抗意識を燃やして、よせばいいのに身の程をわきまえずに怪獣に突進していく 一団があった。言うまでもなくギーシュ達である。 「我らも負けるな! みんな突撃だ!」 さっきまで尻に帆かけて逃げ出していたというのに調子のいいものだ。しかし、以前王宮で初めて戦ったときには、 まがりなりにもアニエスという指揮官がいたが、今回は気持ちのおもむくまま、各人が好き勝手に戦っているものだから、 攻撃というより、また空中装甲騎士団の邪魔をすることになって、戦場を引っ掻き回すことになってしまった。 「邪魔だ! 学生の騎士ごっこは引っ込んでろ!」 「なにを! お前らこそ人の学院で好き勝手するな!」 とまあ、こんな調子であるから、助け合いなど思いもよらない。 しかし、彼らは功を争うのに夢中になって大事なことを忘れていた。 自分達が戦っているのは、怪獣だということを。 突然、空中装甲騎士団に攻撃を受けていたガラキングが口から火花を吹き出した。 「うわぁ!?」 顔に寄っていた騎士数人が、まるでナイヤガラの花火に巻き込まれたかのように撃ち落される。全身を覆う鎧のおかげで かろうじて軽傷ですんだが、騎乗していた竜は翼をやられてもう飛べない。 さらに、パンドラもうなり声をあげると、口から真赤な火炎を吐き出した。なぎはらうように炎の帯が右に左にと振り回され、 調子に乗っていた空中装甲騎士団も生徒達もあっという間に散り散りにされる。 「バカ! とうとう怒らせちまったか」 人間だって目の前を虫が飛び回れば不快になり、やがて怒り出す。 その有様に、とうとうキュルケとタバサも腰を上げた。 「もう見てられないわ。うちのバカ男達を連れ帰ってくる!」 ふたりはシルフィードに乗って、飛び出していった。それと同時にコルベールをはじめとする教師達も、生徒達の窮状を 救わんと、おのおの飛んでいく。 才人とルイズも、今度こそ飛び出そうと思ったが、やはりリングは光らない。 (エース、なにが足りないっていうんだ?) 今にも踏み潰されそうなギーシュ達を見るにつけ、才人は拳を握り締めて、その戦いを見守っていた。 怪獣達は怒って空中装甲騎士団とWECKを追い回している。ガラキングとパンドラの火炎はさして威力の高いものではなかった のが幸いしたが、オルフィやバンゴも怪力の持ち主であり、歩き回って腕をぶんぶん振り回すだけで充分武器になる。 生徒達や竜を失った空中装甲騎士団は必死になって逃げていく。だが、暴れるオルフィの行く先に、出していた ワルキューレをすべて踏み潰され、精神力の切れ果てたギーシュが根尽きて倒れこんでいた。 「危ない!!」 思わず才人は叫んだ。キュルケやコルベールも気づいたようだが、足が振り下ろされようとしている今、もう間に合わない。 しかし、思わず目を覆いかけたとき、オルフィは下ろしかけていた足を地面スレスレのところでぴたりと止めて、とっさに 後ろに重心をかけたためにバランスを崩して倒れてしまった。 だが、そのおかげでギーシュはなんとかつぶされずに助かり、それを見ていた才人は、彼らが暴れるためにやってきた わけではないことを確信した。 「人間を踏み潰さないように気を使った……やっぱり、あいつらは暴れるために来たんじゃない」 「だったら、なんでこんなところに来るの? なんでこの魔法学院に?」 ふたりにも、エースが言おうとしたことがわかってきた。怪獣だって生き物だ、行動にはなにかしら理由がある。 ならば、この学院に、怪獣を呼び寄せるような何かがあるということ、それが何かを突き止めることが、ただ怪獣と 戦うよりも大事なのだと。 あいつらのうち、少なくともパンドラとオルフィは魔法学院に用があるのは間違いない。だが、それが何なのか。 才人とルイズは考えた、必死に考えて、そしてかつて才人はパンドラが暴れたときの事件の概要を、ルイズは 先程ベアトリスが言った台詞を思い出した。 『ではここで我が空中装甲騎士団の武を披露したいと思います……さあ、獲物をこれに!!』 「……もしかして!」 同時にそう言ったふたりは、それぞれの考えを話すと、すぐに避難誘導に当たっていたロングビルを探し出して 話しかけた。 「ロングビルさん!」 「なに? あなたたちも早く逃げなさい。学院の裏手からなら安全に逃げられるわ」 「それよりも、あの空中装甲騎士団の連中、ここに何か持ち込みませんでしたか?」 思わぬ問いに、ロングビルは一瞬きょとんとしたが、すぐに記憶の泉の浅いところからその答えを探しだしてきた。 「ええ、なにやら大きな物をひとつ運び込んでたわね。幕がかけられてたから何かはわからなかったけど、かなり 大きな物だったわよ。それがどうかしたの?」 「やっぱり、すぐにそれを探してきてください。恐らく、あいつらを呼び寄せたのはそれです!」 「えっ!? なに、どういうこと?」 「とにかくお願いします。学院がつぶされるかどうかの瀬戸際なんですから」 ふたりは、ロングビルにそう頼むと、再びバルコニーに戻ってきた。 怪獣達は、バンゴとガラキングはドタドタ走り回りながら空中装甲騎士団を追い回している、こいつらは暴れている というよりただ遊んでいるだけだろう。だが、パンドラとオルフィは妨害を受けながらも、一心に学院の方向を目指して やってくる。 そのとき、ついにウルトラリングが光を放ち、ふたりはバルコニーから身を躍らせた。 「「ウルトラ・ターッチ!!」」 夜空を赤い光が裂き、光の戦士が光臨する。 「ウルトラマンAだ!!」 着地の勢いで高々と土煙を巻き上げて、エースは中庭に降り立った。 ギーシュ達以外の生徒達にはベロクロン戦以来となるエースの登場に、いくつもの歓声があがる。 「シュワッ!!」 エースは突進してくるオルフィとパンドラを正面からがっしりと受け止めると、そのまま外壁の外の草原にまで押し返した。 「ダアッ!」 2匹を押し戻し、エースは外壁の裂け目の前に、両手を広げて通せんぼをするように仁王立ちした。 それでも、オルフィとパンドラはなおもエースを押しのけてでも通ろうと突っ込んでくる。特にオルフィは攻撃能力こそ持たず、 性質もおとなしいものの、宇宙怪人カーン星人がZAT全滅のために利用しようとしたことさえあるほどの怪力の持ち主の ため、エースも苦戦する。 「セアッ!」 オルフィを相手に真っ向から力比べをしては不利だと、エースは力をうまく受け流し、巴投げをかけて吹っ飛ばした。 だがそこへパンドラの放った火炎攻撃が来たからたまらない。 「ヌォォッ!!」 直撃を受けてしまったエースは高熱に焼かれて苦しんだ。 さらにそこへ起き上がってきたオルフィに体当たりされ、エースは外壁を破壊しながら、背中から倒れこんだ。 (くそっ、殺すわけにはいかないから光線技は使えないし、こいつら相手に時間稼ぎはきついか) 学院を守りながら、怪獣達を傷つけないように戦う、背反する目的にはエースといえども苦しい。 しかしそこへ思いも寄らぬところから援軍がやってきた。 「WEKC全軍、ウルトラマンAを援護しろ!」 なんと、散り散りになったと思っていたギーシュやギムリ達WEKCの生徒達が再び集結して、オルフィやパンドラの後ろから 魔法をぶつけて気を引いていた。 しかもそれだけではない、これまで戦闘に参加していなかった男子生徒達が精神力の尽きたWEKCの生徒達と代わり、 さらに女子生徒達が精神力の尽きたり、負傷した生徒や空中装甲騎士団の手当てをしている。それは完全に統制が とれており、先程まで好き勝手に戦っていた者達とは思えない。 いったいどうして? とルイズや才人は思ったが、それは生徒達の中心に立って、全員を指揮している赤髪の少女と 頭上が寂しい1教師によって成り立つものだった。 「カリム、クルス、リッツォーはファイヤーボールで後方から攻撃! ルパート達はウィンドカッターで火炎をそらして! いい、怪獣を倒そうなんて大それたことは考えないで、学院を守ることだけ考えて行動しなさい! あとはエースが なんとかしてくれるわ!」 「ミス・モンモランシー、そちらの彼のほうが火傷がひどい、優先して治療してくれ。痛いだろうがもうしばらく我慢 するんだ、男だろう? ケティ君、この騎士殿に水を頼む。みんな、どちらの者でも関係なく治療するんだ、いいね!」 キュルケ、そしてコルベールが生徒達を見事に指揮して、まるで一級の軍隊のように見事に行動させていた。 それを見てルイズは思った。そうか、ツェルプストー家は何代にも渡ってヴァリエールと戦ってきた家柄、キュルケも 恐らくは将来ヴァリエールと戦うときのために指揮官としての修練を積んできたのかもしれない。しかし、それが 知らないこととはいえ、エースと同化したルイズを助けるために使われるとは、たいした皮肉だ。 一方のコルベールも、負傷した者を集めて適切な処置を施してゆく手腕は見事なものだった。彼の昔の素性は ほとんど知られていないが、どこかで指揮者として活躍していたのは容易に想像できた。 パンドラとオルフィは後ろからちくちくと撃たれるのにいらだってぐるぐる回りながらもだえている。その隙にエースは 起き上がって構えをとったが、よく見たら攻撃を受けているのはその2匹だけで、あとの2匹の姿がいつの間にか 見えなくなっているのに気がついた。 (あれ? ガラキングとバンゴはどこに行った?) 才人はエースの視覚を借りて周りを見渡すと、その2匹が学院から離れた草原の端で、何かを追いかけるように どたどたと大量の砂煙をあげながら走っているのを見つけた。 なにをしているんだ? 不可思議な怪獣達の行動に才人とルイズとエースも首をかしげたが、2匹の走る先から 蚊の羽音のような、か細く悲しげな声が聞こえてきて、そのわけを知った。 「たすけてくれー、なんでこの怪獣ぼくを追っかけてくるんだー!?」 なんと金髪で小太りな少年が、2匹の怪獣と必死になって鬼ごっこをやっていた。 (マリコルヌ……なーるほど、ガラキングは玉好き怪獣、あいつの丸っこい体が気に入られちゃったみたいだな) どうやらガラキングには彼の体型がボールのように見えているのだろう。じゃれついておもちゃにしようとしているの だろうが、追われるほうからすればたまったものではない。 (変わったものが好きな怪獣もいるものねえ。じゃあ、あっちの緑色の怪獣はなんで追っかけてるの?) (バンゴはなんでも面白そうなものを真似る習性があるらしいんだ。ガラキングが楽しそうだから自分も真似て 追いかけてるんだろう) (子供みたいな怪獣もいるのねえ。で、あれどうしましょうか?) (ほっとこうぜ、2匹も怪獣を引き付けてくれるんなら大助かりだし、ダイエットにもなるだろ) (そうね。こっちのほうが大事だし) 意外と薄情な奴らであるが、今はパンドラとオルフィを止めるほうが先決だ。 2匹は、火系統のメイジの作り出したフレイムボールの爆発の光、いわゆる閃光弾攻撃で視界を奪われて 立ち往生している。やるなら今だ!! (エース、今だ!) 才人のかけ声とともに、エースはキュルケ達に気をとられているオルフィを背中から担ぎ上げると、パンドラに向かって 思いっきり投げつけた。 「テャァ!」 たちまち2匹がもつれあい、転がって学院から少し離れた。 オルフィは目を回したらしく、ふらふらよろめいて尻餅をついてへたり込んでしまったが、パンドラはなおもエースに 向かって火炎を吹きかけてきた。 『ウルトラネオバリヤー!!』 だがエースは火炎をバリヤーで防ぎ、パンドラはやがて炎を吐き疲れて、ゴホゴホとむせた。 オルフィも、暴れ疲れたとみえて、地面に座り込んでゼイゼイと息を吐いていた。 「ようし、とどめを刺すなら今よ!」 2匹が弱ったのを見て取ったキュルケは全員に総攻撃を命じた。 しかし、生徒達が一斉に魔法攻撃を仕掛けようとしたとき、エースはその前に立ちふさがり、両手を大きく広げて 2匹をかばい、そして殺してはいけないと言う様に、ゆっくり首を横に振った。 「エース……どうして」 キュルケ達は、杖を下ろしたが、なぜ怪獣をかばうのかと納得できない様子でエースを見上げていた。 だが、そのときロングビルがホールの奥から黒い幕で覆われた高さ3メイル、横幅およそ4メイルほどの大きな 箱をオスマンに手伝ってもらいながら運んできた。 「みんな!! エースの言うとおり、そいつらは悪い奴じゃないわ。彼らは、この子を取り返そうとしていただけだったのよ!!」 そう皆に向かって叫ぶと、ロングビルは箱を覆っていた幕を勢いよく取り払った。 「あれは!? 怪獣の子供か!」 誰かがそう叫んだように、そこには鋼鉄の檻に、パンドラとそっくりの身長2メイル程度の小さな怪獣が閉じ込められていた。 パンドラはカンガルー怪獣というとおり、子育てをする怪獣だ。怪獣の中にも親子というのは意外に多く、どいつも 親思い子思いなものばかりだ。地球でも当時パンドラにはチンペという子供がいたのだが、子供を勝手に連れて行かれては そりゃあ親が怒って当たり前だ。 (やっぱり、チンペがさらわれたから、パンドラははるばるこんなところにまで取り返しにやってきたんだな。オルフィは気が いいから、パンドラを助けるためにいっしょに来たんだろう) 才人の言ったとおり、子供の姿を見つけると、それまで荒い息を吐いていたパンドラとオルフィはとたんに大人しく なり、檻の鍵が開けられてチンペが外に出てくると、エースは手のひらに乗せて優しくパンドラのもとに運んでやった。 親の元に戻ったチンペはパンドラに抱きしめられて、再会を喜び合い、オルフィもうれしそうに笑うような声をあげた。 「そういうことだったのね。やれやれ、これじゃあ、もう戦えないわね」 理由を悟ったキュルケ達は杖をしまい、楽しそうにじゃれあう親子の姿を見ていた。 しかし、そのどさくさに紛れて引き上げようとしていた、この事件の張本人を見逃してはいなかった。 「ところで、怪獣の子供をさらってきて、あげくこの学院に4匹も怪獣を招く結果になったのは、誰が原因なのかしらね?」 全員の視線が、後ろで小さくなっていたベアトリスに注がれた。 そうだ、そういえばこいつが余計なことをしなければ怪獣が学院を襲うことはなかったんじゃないか? 皆の視線は 一様にそう言っていた。 その視線に、ベアトリスは何も言えずに冷や汗を流して後ずさったが、そうはさせじと生徒達に囲まれてしまった。 「さて、それじゃあ説明してもらいましょうか。あの怪獣の子供を連れてきたのはあなたの空中装甲騎士団ね? 大方かませ犬にでも使うつもりだったんでしょうけど、なんでまた怪獣の子供なんて危険なものを連れてきたの? ことと次第によっては、ゲルマニアのフォン・ツェルプストーが相手になるわよ」 キュルケに鋭い視線で睨まれて、進退窮まったと悟ったベアトリスは、ついに開き直って声高にしゃべりはじめた。 「そうよ! あいつはクルデンホルフ領内で、死の山に住む魔物と恐れられている奴、この空中装甲騎士団にとっては この上ない獲物と思わない? 私はトリステイン貴族として、領民の害になりかねない獣の処理をしようとしていた のよ! なにか問題があって?」 「あれが魔物? どこに目をつけてそんなことが言えるわけ? 子供を取り返したとたんにおとなしくなったじゃない。 それに、魔物というんだったら、これまで領民が被害にあったとでも言うの?」 ベアトリスは反論できなかった。当然だ、パンドラもオルフィも、人間の側から手を出さない限り、一切他者に 危害を加えたりしない。魔物などという表現は、彼らの大きさと容姿から人間が勝手につけた実体のない幻に すぎない。 すると、周りの生徒達も口々にベアトリスに向かって非難の声をあげ始めた。 「そうだそうだ、危うく学院が壊されちまうところだったじゃないか!」 「トリステインの平和を守るが聞いてあきれるぜ、お前らが平和を乱してるじゃねえか」 「責任もってお前があいつらを連れて行けよな」 「そうだそうだ!」 一人が言い出すと、他の者もつられて次々に激しい非難をベアトリスにぶつける。その中にはこれまで彼女に こびへつらってきた者も大勢おり、空中装甲騎士団も全員戦闘不能になった今、ベアトリスは自分が孤立無援 であることを思い知らされた。 そして、もはや吊るし上げられてもおかしくないほどに空気が殺気だってきたとき、母親と再会を喜んでいた チンペがとことこと生徒達の元へと歩いてきた。生徒達の何人かは、驚いて杖を向けたが、エースがその間に 手をかざすと、彼らはそれを下ろした。 チンペは軽快な足取りでベアトリスの方へと歩いていき、彼女を囲んでいた人波がさあっと開かれた。 「ひっ!?」 小さくても怪獣である。ベアトリスは思わず後ずさったが、生徒達の壁に阻まれた。 周りを見渡しても、助けてくれる者は誰もいない。むしろ、いい気味だとこれまで見下してきた者達が 冷たい視線を向けてくるのに、彼女は足を震わせて立ち尽くしていた。 そして、ついにチンペが目の前すぐにまでやってきたとき、彼女は復讐される!! と思って目を閉じたが、 次の瞬間ベアトリスを襲ったのは、体を貫く痛みではなく、手のひらを包む温かい感触であった。 「え……?」 恐る恐る目を開いてみると、小さな怪獣は優しく彼女の手をとり、そしてきゃっきゃと笑いながら、その手を 引いてステップのように足踏みを始めた。 「えっ!? なっ、なに、なに?」 生徒達は、何が起きているのか分からずに、呆然とその様子を見ていたが、そのとき彼らの耳に、まるで 南国のタンゴのように、明るく軽快なメロディが飛び込んできた。 「歌?」 チンペは、それを待っていたように、メロディに合わせてベアトリスの手をとりながら、楽しげに踊り始めた。 ベアトリスも、始めはとまどっていたが、陽気なメロディと軽快なステップに、やがて自分もステップを踏んで 踊り始めた。 周りを取り囲んでいた生徒達も、その楽しそうな様子に、やがてこわばらせていた顔を緩めて、音楽に合わせて にこやかな顔になっていく。 「見ろよ、あの怪獣が歌ってるんだ」 そのメロディは、オルフィの喉から発せられていた。体を揺らしてリズムを取りながら、怪獣界の大音楽家は 陽気な平和のメロディを奏でていく。 「なんて気持ちのいいリズム、まるで春の野原にいるみたい」 それは、今まで殺気立っていた生徒達や、空中装甲騎士団からも、戦意を急速に奪っていった。 そうして、踊っているうちに、これまで野薔薇のようにとげとげしく張り詰めていたベアトリスの顔からも、 しだいに険が取れて野の花のように明るく美しくなっていく。 やがて、生徒達の中からも、ひとり、ふたりと、隣の人に手を差し出す者が現れてきた。 「なにか楽しくなってきたな。僕らも踊ろうか、モンモランシー」 「ギーシュ、ええ、いいわよ」 「タバサーっ、わたし達も踊りましょ。おら邪魔よ男ども!!」 「……まわるー」 踊りの輪は、しだいに大きく広がっていき、メロディも皆が共に歌う大合唱へと進化していった。 「ミス・ロングビル、その……」 「くす、よろしくてよ。ミスタコルベール」 皆、生徒も教師も、うまい下手など関係無しに、思い思いに体を動かしていた。 そのうち、学院からも、非難していた生徒やメイド達もやってきて踊りに加わり、空中装甲騎士団も鎧を 脱ぎ捨てて、貴族も平民も共に手を取り合って、広大な草原は巨大なダンスホールになっていった。 見ると、ガラキングとバンゴも、音楽に合わせて体を右に左にと振り動かしている。 なお、追っかけまわされていた小太りの少年、名前はマリコルヌという彼はというと、いっしょに踊ってくれる 相手を探していたが、ことごとく拒否をもらい、最後に壮年の女性教師といっしょにようやく輪に入れていた。 そして、それを見守っていたエースは、誰にも見られることなく、静かに変身を解いた。 「にぎやかだな」 「まったく、伝統あるフリッグの舞踏会がとんだことになったわね。これじゃ平民の村の夏祭りよ」 才人とルイズは皆を少し遠くから眺めていた。 そこには、ギーシュも、ギムリもレイナールもいる。シエスタもメイド仲間達や厨房のコック達と手をつないで 踊っている、その中にはアイの姿もあった。また、オスマンがパチンコ玉のように女子生徒の間をはじかれて 飛び回っているのも見える。 「夏祭りか、懐かしいな。なあルイズ、俺の世界には盆踊りっていって、夏になったらみんなでいっしょに 踊る習慣があるんだ。ちょうど、こんなふうにさ」 「へえ、あんたの国にも……まぁ、どうせ平民の踊りなんだから、気品もなにもないんでしょうけど…… よ、よかったら、あんたにも少し、貴族のたしなみってやつを、教授してあげてもよくてよ」 「え?」 ルイズはなぜか顔をうつむかせたまま、手を才人の前に差し出して、そして言った。 「わ、わたくしと踊っていただけますこと、ジェントルマン」 顔を赤らめてそう言うルイズの顔は、とても魅力的で可愛く見えた。 「俺、ダンスなんて踊れないぞ」 「わたしに合わせればいいわ。それより、どうするの」 「……喜んで」 ふたりも、皆の輪に入っていき、ドレスが泥で汚れるのも構わずに、へたくそなワンツーステップで踊り続けた。 そんななかで、楽しげな声にまざって、たった一言、目の前の相手にしか聞こえない声で、喉から搾り出すような 声が流れていった。 「ごめんなさい……」 権威と虚栄の仮面がはがれて、少女がひとつ、大人への階段を登ったことを、一対の人ならぬ目だけが見守っていた。 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第25話 甘い薬の恐怖 大モグラ怪獣 モングラー 登場! その日、才人は学院の水場で、いつもどおり洗濯に精を出していた。 「平和だなあ」 手を動かしながら、思わず才人はつぶやいた。 この日は天気晴朗にして、風は穏やか、日差しは温かく、湿度も良好、暑くも寒くもなく、平和そのものの陽気 であった。 水場の向こうの広場では、シエスタが何百枚になろうかという生徒達のシーツをうきうきしながら干している。 「晴れた日には布団を干すものです」 と、この間シエスタが言っていたことを思い出しながら、才人は夏の青空の下を風に吹かれてひらひらと舞う洗濯物と、 その間をスカートをなびかせて軽やかに駆けるメイド服の少女。この場にカメラがあったなら、百枚くらい撮って 末代までの家宝にできるのに、などと清純な自然の中で不純なことを考えていた。 これでは、もし撮られた写真の数だけ自分を増やせる二次元超獣ガマスが美少女の姿をしていたら、 才人はハルケギニアを滅ぼしていたかもしれない。まあそんなことをした日には、「焼却、ついでにあんたも燃えろ!」と、 ルイズにネガごと一片も残さず消し去られてしまうだろうから大丈夫だろうが、もし秋葉原なんかでそれを やられたら地球は……。 物語を戻そう。 あのフリッグの舞踏会から、早2週間、怪獣や宇宙人の襲来もあれ以来なく、ヤプールも中休みをしているのか ハルケギニアは平穏に包まれていた。 しかし、この日の夜。恐るべき事件が幕を上げようとは、まだ誰も知るよしもなかった。 夜もふけ、生徒達の誰もが自室に戻っていったそんな時間、女子寮のある部屋から、煌々とした明かりが漏れていた。 この部屋の主は、長い金色の巻き毛と青い瞳の少女。名前はモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ、 ルイズの級友の一人であり、水系統の使い手である。 ちなみに通り名は『香水』と呼ばれており、その通りに趣味と実益をかねて香水作りを得意としている。 かつて才人がハルケギニアにやってきた翌日に、ギーシュと決闘をする騒ぎがあった、その発端となった 香水も彼女がギーシュに送ったものであり、その後紆余曲折あったものの、王宮での活躍や先日のフリッグの舞踏会で いっしょに踊ったことなどもあって、ギーシュとはよりを戻し、一応彼氏と彼女という関係に落ち着いている。 今日も、彼女は放課後の日課である香水製作に打ち込んでいたが、この日は少々おもむきが違っていた。 いつも通りに香水の原料の薬草や魔法薬のビーカーやフラスコをランプの炎にかけているところは同じだが…… いや、年頃の女性の部屋がなかば化学の実験室のようになっている時点でかなり異様だが、問題はそこではない。 今、彼女が混合している薬品の種類や調合手順は、香水のものとはまったく違っていた。 端的に言うと、それは禁断のポーション、国の法で作成、所持を禁じられている代物、ましてや使用するなどはもってのほか。 しかし、趣味は道徳に勝る。あらかたの香水や魔法のポーションを作り飽きてしまった彼女は、好奇心のままに、 禁断のポーションの作成に手を出してしまったのである。もちろん、そんなことは言い訳にはならずに、発覚しようものなら 大変な罰金が科せられて、彼女の実家さえも危機に陥ることになるが、若さというのは恐ろしい。要するに、 興味本位で覚醒剤に手を出して破滅する中学生などと同じパターンだ。 さて、そんなリスクを背負っているとは自覚せずに、彼女は秘薬の製作の最終段階に取り掛かろうとしていた。 「竜硫黄と、マンドラゴラを同時に入れて、透明になるまでかき混ぜてっと……」 大枚をはたいて手に入れた禁断のポーションのレシピによれば、その作業がすめば、後はある特殊な秘薬を 混ぜれば完成とあった。 モンモランシーは胸をわくわくさせて、薬壷の中の液体をかき混ぜ続けた。なお、この姿を人が見たら、ランプの 薄暗い明かりに照らされて、笑いながら薬を混ぜている彼女はすごくコワく見えただろう。 そして、液体がレシピのとおりに透明になると、彼女はとうとう最後の、一番大事な秘薬を投入しようと、それを 入れてある香水の瓶を手に取った。これを手に入れるために払った代価はエキュー金貨にして700枚、平民が5、6年は 暮らせる額で、彼女の貯金のほぼ全額に当たる。それだけ高価で貴重だということだ。 容量も、小瓶の中にほんのわずかにあるだけで、失敗しても次はない。 「そーっと、そーっとよ……」 こぼさぬように細心の注意を払いながら、高鳴る心臓の音を抑えながらモンモランシーは小瓶をゆっくりと傾けていった…… と、そのときだった。 彼女の部屋のドアを、まるで太鼓を打ち鳴らすかのような激しいノックが揺さぶった!! 「モンモランシー、ぼくだ、ギーシュだ! 君への永遠の奉仕者だよ。このドアを開けておくれ」 「!?」 それはこの学院でもっともやかましい男にして、単細胞で、直情型で、その他いろいろあるが、とりあえずバカと言い捨てて 間違いではない男、ギーシュの突然の訪問であった。 だが、そんなことはこの際問題ではなかった。 「あ、ああ……」 今のショックで、モンモランシーの手元が狂い、一滴ずつ投入しなければならない秘薬がいっぺんに全部入ってしまった。 そのため、ポーションは過剰反応を起こし、静かにピンク色に変わるはずが、真っ赤になってポコポコと泡立っている。 これはどう見ても失敗だ。 「……ギ、ギーシュぅぅぅ!!」 精魂込めて莫大な労力と経費を費やしてきた実験を、たった一瞬で台無しにされ、彼女は抑えきれない怒りを、 無神経にドアを叩き続けているバカ男にぶっつけることを迷わず決定した。 開錠の魔法で、鍵が外され、扉が古びた木がきしむ音を立てて、ゆっくりと開いた。 「おお、ようやく君の美しい顔を見せてくれたね。実は、あのフリッグの舞踏会のときの君の姿を思い出したら我慢 出来なくなってしまってね。二人でいっしょに月夜を眺めながらワインでもと、こうしてやってきた次第さ」 まったく空気を読めずに、とうとうと自らの死刑宣告文を読み上げながら、ギーシュはきざったらしく語って いたが、モンモランシーはそんな台詞は1文字も耳に入れずに、ぽつりとギーシュに言った。 「じゃあギーシュ、わたしのお願いをひとつ聞いてくれる?」 「君の頼みとあれば、この命だって捧げるさ!」 「そう……じゃあ、死んで」 「へっ?」 一瞬何を言われたのか、理解できずにギーシュは間抜けに立ち尽くしたが、どす黒い声で呪文を詠唱する モンモランシーの姿に、はっと我に返った。 「モ、モンモランシー!?」 「ギーシュ、あなたはこの学院のバイキンなの、バイキンは消去しないといけないよね。だから、死んで」 ようやくギーシュは自分がとんでもなく危険な状況にあることを理解した。 モンモランシーに向かって、すさまじい強さの魔力が集まっていく。彼女は、メイジとしてまだまだ低級の はずだが、今の彼女から立ち上るオーラはトライアングルクラスはおろか、スクウェアクラスさえ凌駕しかねない ように見えた。まるで大いなる海の力が彼女に宿ったかのようだ。 空気中の水分が凝縮して、渦を巻く水の玉が形作られていく。 ギーシュは全身から血の気が引いていくのを感じた。いつものモンモランシーなら水の塊で溺れさせてくる 程度(それでも充分人は死ぬが)で済ませてくれるのだが、巨大な圧力をかけられた水は、鋼鉄すらも寸断する、 あんなものをぶつけられたら確実に死ねる。 「ま、まってくれ……ぼ、ぼくが悪かった。だ、だから……」 必死に命乞いをするギーシュだったが、モンモランシーは冷酷に言い放った。 「悪かったって、なにが?」 「だ、だから……そうだ、一年のシンシアといっしょに遠乗りに行ったときのことだろう、あれは違うんだ、 彼女から詩を送られて、そのお礼のために……」 ブチッ この瞬間、モンモランシーの堪忍袋を押さえていた、最後の細い糸が切れた。 「地獄に落ちろぉぉっ!!」 この瞬間、モンモランシーはルイズでさえ発揮したことがないほどの怒りを込めて、超圧縮された水の玉を ギーシュに投げつけた。 それは、まるで鉄のように命中しても砕けずに、瞬時にギーシュの体を壁に叩きつけ、そのまま勢いを 緩めずに壁ごとギーシュを外にたたき出した後、花火のように爆裂した。 「ぎゃあぁぁぁっ……」 石造りの壁をぶち破って、ギーシュは階下の地面に向かってまっ逆さまに落ちていった。 「はぁ、はぁ……はぁ……」 怒りを全部吐き出して、壁に大きく開いた穴から吹き込んでくる風に当たりながらしばらくするうちに、 モンモランシーはようやく落ち着いてきた。 そして熱狂が冷めて、自分のやってきたことを冷静に見つめなおしてみると、禁断のポーションを作ろうと していたのだという恐怖と罪悪感がいまさらながら襲ってきた。 もし、このままポーションが完成していたら、自分は使いたいという欲求に勝てなかっただろう。そして、 誰かに使用すれば、ここは魔法学院だから発覚するのは時間の問題、衛士隊に引き渡され、莫大な 罰金か牢獄暮らし、家名は地に落ち、一族郎党路頭に迷うはめに…… そう思うと、ギリギリのところで踏みとどまれてよかったと、どっと冷や汗が浮かんできた。 「結果的に、ギーシュに助けられたことになるわね。し、仕方ないから、明日会ったら許してやっても いいかな……」 ぽっと顔を赤くしてつぶやいたモンモランシーだったが、部屋に戻った彼女の目に、件の禁断の ポーションの失敗作が、不気味な泡を立てているのが入ってきて、顔をしかめた。 もう用済みで、さっさと処分したい代物だが、物が物だけに正規の処分法で学院の魔法薬の処理場に 持って行くわけにもいかない。 どうしたものかと考え込んだモンモランシーだったが、薬壷からただよってきた、失敗作の甘ったるい 臭いが鼻を突くと、とたんに面倒くさくなって、窓を全開にすると中庭に向かって力いっぱい薬壷ごと 放り投げてしまった。 「あー、これですっきりした。やっぱり悪いことはするもんじゃないわね。さっ、もう寝よ寝よ」 気分がさっぱりしたモンモランシーは、部屋の明かりを消すと、そのままベッドに入ってすやすやと 寝入ってしまった。 一方そのころ、スクウェアクラスの魔法の直撃を受けて、塔の上から落下させられたギーシュは、 奇跡的にもたいした傷もなく、女子寮から退去しようとしていた。 「あいたた……どうも今日は虫の居所が悪かったみたいだな。また出直すか」 信じがたいことに、平然とした様子で歩いていく、人間技とは思えないが、考えてみれば才人だって ルイズからの攻撃であれば、爆発の中心にいようとすぐに蘇ってくることから、男という生き物は、女性からの 攻撃に対しては特別な防御力を備えているのかもしれない。 これ以上ここにいては、さっきの爆音を聞きつけて誰かがやってくるかもしれない。校則で女子寮に男子は 立ち入り禁止になっているし、今は夜中、間違いなく疑われる。ギーシュは足早に女子寮から離れようとした。 と、そのときである。彼の前面の地面が盛り上がって、そこから体長2メイルくらいの大きなモグラが顔を出してきた。 「おお! ヴェルダンデ、ぼくのヴェルダンデじゃないか、おお、いつ見ても君は美しい。そうか、この不幸な 主人を慰めようとしているのだね。ああ、君はなんて優しいんだ」 それは、ギーシュの使い魔のジャイアントモールのヴェルダンデであった。特徴としては大きさの他には、 大きく突き出た鼻がチャーミング(と、ギーシュは言っている)もちろん、ハルケギニアの特有の種であり 地球には存在しない。 とまあ、ギーシュの言葉からもわかるように、主人に溺愛されている彼(オスである)だったが、 今回顔を出してきたのは、決して不憫な主人を慰めるためではなかった。 ヴェルダンデは、自分の台詞に酔っている主人をスルーすると、彼のかたわらに落ちていた なんともはや甘くていい臭いのする液体がこぼれている小さな壷に飛びつくと、それをぺろぺろと舐め始めた。 「あっ、ウェルダンデ、落ちてる物を口にしてはいけません! 行儀が悪いでしょう。食べ物ならきちんと ミミズをあげるからやめなさい!」 まるでママさんである。しかしヴェルダンデは、その液体の味がよほど気に入ったのか、その後も 押さえつけようとするギーシュを無視して舐め続け、両者の珍妙な相撲は夜が更けるまで続けられた。 が、そんな平和な光景もここまでだということを、まだ知っている者は誰もいなかった。 翌日、山裾から日が昇り、魔法学院にまた朝がやってきた。 小鳥のさえずりが朝を告げ、厨房からは早くも煙と湯気が立ち上る。 女子寮では、まだルイズと才人がぐーすかと眠っていることだろう。 そんななか、珍しく早く目を覚ましたギーシュは、特にすることもないからと、ヴェルダンデの顔でも 見ようかと、中庭へと下りていった。通常使い魔は専用の厩舎のようなところに住まわされるか、 主人の部屋と同居するかだが、ヴェルダンデはモグラ、地面の下ならどこでも自分の家である。 「ヴェルダンデー、ぼくのヴェルダンデー、顔を見せておくれ」 中庭の真ん中に立って、いつもどおり愛しい使い魔の名前を呼んだ彼の前に、ヴェルダンデは すぐにいつもと変わらない姿で現れた。 ただし、姿だけは…… 「ヴ、ヴェルダンデぇぇぇ!!」 ギーシュの絶叫が、誰もいない中庭に響き渡った。 この日、ギーシュは授業を欠席した。 「ミスタ・グラモン……いないのですか、では、ミスタ・エリュオン……」 教師は特に気にせずに授業を開始した。元々生徒のサボりは珍しいことではない上に、ギーシュが 特に熱心な生徒でもなかったために、他の生徒達もすぐにそれを忘れてしまった。 だが、放課後になると、どこからともなく現れたギーシュは、WEKCの少年達が溜まり場にしている 納屋で雑談をしていた才人、ギムリ、レイナールを学院から離れた森の中にひきずるように連れて行った。 「どうしたんだよギーシュ、今日は授業にも出てこないでどうした?」 連れて来られた森の奥で、なにやら切羽詰った様子のギーシュにレイナールが尋ねた。 「君達を……親友だと、絶対信用できる人間だと見込んで話があるんだ」 「なんだ、かしこまって……」 「またモンモランシーに浮気がばれたとか?」 レイナールもギムリも、どうせギーシュのことだから女がらみだとは思ったが、ギーシュの目は真剣だった。 「サイト」 「ん?」 「特に、君に話しておきたいんだ。君は、怪獣のことには詳しいんだよね?」 「まあ、それなりにはな」 どういうことだ? と才人は首をひねった。 どうもギーシュの様子がおかしい、いつもの彼なら、どんな大変な事態(他人から見たらくだらないことが多いが) に陥ろうが、生来のナルシストぶりを発揮して、窮地に陥った自分を美化して陶酔にひたるのだが、今回はそんな 余裕もないように見えた。きょろきょろと周りを見回し、人影がないか常に気にしている。 「3人とも、これから見せることは絶対秘密にしてくれると約束してくれるか?」 「……どうやら、ただごとじゃないみたいだな」 3人はふざけるのをやめて、顔を見合わせてうなづきあうと、「約束する」とギーシュに言った。 そして、3人の顔が真剣なのを見たギーシュはもう一度周囲を確認すると。 「……大丈夫だよ、出てきておくれ」 そう、森の一角に向けてささやいた。 すると、彼らの立っている地面が、いきなり地震のように揺れ動きだした。 「うわっ!?」 いきなりのことに、立っていられず彼らはひざを突いた。 やがて、目の前の地面がもこもこと小山のように盛り上がり始めると、彼らの目はそれに釘付けになり…… 「な、なんだあれは!?」 小山の頂上が突然崩れたかと思うと、そこからとてつもなく巨大なモグラの頭が顔を出してきたではないか! 「か、怪獣だぁ!!」 「お、大モグラ怪獣モングラー!?」 突如現れたモングラーの姿に、とっさに才人は懐のガッツブラスターを、ギムリとレイナールは杖を取り出して 目の前の大モグラに向けたが、その前にギーシュが両手を広げて立ちふさがった。 「待ってくれ! 撃たないでくれ! あれは怪獣なんかじゃない、ぼくのヴェルダンデなんだ!」 「ヴェルダンデ!? お前の使い魔か? だが大きさが全然違うじゃないか!」 言われてみれば、特徴的な鼻は確かにヴェルダンデのものだ。しかしジャイアントモールは2~3メイルが せいぜいだ、目の前のこいつは頭だけでも10メイル相当はある。 「ぼくにだってわからないさ。なんでか朝になったら、こんなに大きくなってたんだ。昨日の夜まではなんでも なかったのに……こんな姿が人に知られたら……」 普段能天気なギーシュとは思えないほどにがっくりとうなだれて、今にも泣き出しそうな表情に、 さしもの才人達も同情を禁じえなかった。 だが、事態が深刻なのはすぐにわかった。 これが2ヶ月前なら、お調子者のギーシュのことだから、きわめてレアリティの高い使い魔だとして大いに 自慢するかもしれないが、怪獣災害の多発するようになった今、怪獣を飼っているなど容認されるはずもない。 よくて没収されて魔法アカデミーの実験材料か、辺境への放逐、悪くすれば速攻で処分されてしまう。 もちろん、ギーシュの学生としての身分も、家名の立場も危うくなる。 先生方に相談することもできずに、半日の間にすっかりやつれてしまったように見えるギーシュだったが、 早々に名案などあろうはずもなく、とりあえず詳しく話を聞いてみることにした。 「とにかく、訳も無く巨大化するはずもない。昨日までは変わりなかったっていうけど、本当に何か変わった ことはなかったのか?」 「特になかったと思う……ヴェルダンデは、いつもはずっと土の中にいるから、ぼくも行動を完全に把握 できてはいないし」 確かに、ほかの使い魔たちならともかく、呼ばない限りめったに地上には出てこないモグラの行動を 把握することは不可能に近い。 「もしかして、ヤプールの仕業か?」 「ヤプールだったら大暴れするように改造するさ、ただでかくなっただけで、おとなしいものじゃないか」 ギムリの説を才人は一蹴した。ガランやブラックピジョンのようにヤプールが人間のペットなどを奪って 超獣化させた例では、どれも凶悪な超獣と化している。 こういうときは、仲間内の中で一番の知性派で良識派のレイナールの意見がほしいところだ。 「ギーシュ、昨日の夜から朝までの間に、何か違和感を感じなかったか? 使い魔と主人は感覚を 共有できるから、どちらかに大きな変化があったら、相手にも多少なりとて影響があるはずだ」 さすが、いいことを言うと才人とギムリは感心した。使い魔との契約を考えた見事な意見だ、だてに 眼鏡はかけていない。 「そういえば、昨日最後にヴェルダンデと別れて、眠る前にずいぶん体がだるかった気がする。あれは、 モンモランシーの愛の痛みだったと思っていたけど、もしかしたら」 「そのときだな、巨大化したのは」 レイナールのおかげで、問題は一歩前進した。ヴェルダンデが巨大化した原因は、その直前に何かが あったと考えるべきだろう。 才人は今のこともふまえて、もう一度ギーシュに質問をぶつけてみた。 「ギーシュ、その別れる前に何があったのかをよく思い出してみてくれ。多分そこで何かがあったんだろう。 例えば、何か妙なものを食べてたとか」 彼の脳裏には、かつて地球でモングラーとなったただのモグラが巨大化した理由が浮かんでいた。 「ええと……ええと……そうだ! あのときヴェルダンデは、地面に落ちてた薬壷からこぼれてた液体を 舐めてたんだ!」 「それだな。その場所に案内してくれ」 4人は、ヴェルダンデを地中に帰すと、ギーシュの案内で昨晩の場所へと駆けつけた。 「ここだ、ここだよ」 「ここって……女子寮のまん前じゃないか、こりないねえお前というやつは」 「そんなことはこの際いいから、その薬壷ってのは、これじゃないのか」 レイナールが、杖の先にひっかけて、泥に汚れた薬壷を拾い上げてきた。 すでに中身は空になっていたが、才人は中から漂ってくる甘い匂いをかいで、自分の考えていた仮説が 正しかったことを確信した。 「やっぱり、ハニーゼリオンだな」 ハニーゼリオン、それはかつて地球で開発された特殊栄養剤の一種であり、生物を急成長させる効果が ある。ただし、過剰に摂取すると、このようになんでもない生物を怪獣化させてしまう恐るべき副作用を持つ。 問題は、なんでそんなろくでもないものがこんなところに転がっていたのかだが、それは薬壷を見た ギムリがすぐに答えを出した。 「これは、モンモランシーの使ってる薬壷じゃないか?」 「そういえば……じゃあ、この薬を作ったのはモンモランシー?」 「そんな! 彼女がそんな恐ろしいことをするもんか!」 「するかどうかはモンモンに直接聞いてみればいいだろ。とにかく、手がかりは掴んだんだ」 ああだこうだと言いながらも、4人は揃ってモンモランシーの部屋に押しかけた。 ドアを激しくノックして、怒ったモンモランシーが顔を出したと思った瞬間、4人は部屋の中になだれ込み、 件の薬壷を彼女の前に突き出した。 「モンモン、この薬壷、お前のだよな」 それを見た瞬間、モンモランシーの顔色が変わった。突然の無礼な来訪者に怒って赤かった顔が、 見る見るうちに青ざめていく。才人達はそれで確信を持った。 「そ、そうだけど、それが何か」 「中に入ってた薬はなんだ?」 「う……た、ただの、失敗作の香水よ」 モンモランシーはうつむいて、たどたどしく冷や汗を流しながら答えた。やはり怪しい。 「目を見て言え、単なる薬じゃないだろ。相当やばいもんだろうが、今なら正直に話せば、先生方には 黙っていてやってもいいぞ」 「う、ほ、本当に?」 その一言で、もうやばいものを作ってましたと告白したようなものだが、4人はとりあえず揃って頭を 縦に振ってみせた。 「う……じゃ、じゃあ言うけど、絶対に他の人には言わないでよね、実は……」 遂に折れたモンモランシーは、とくとくと自白を始めた。そして、その薬の正体は、4人を例外なく 驚愕させた。 「ほ、惚れ薬ぃ!?」 そう、モンモランシーが作ろうとしていたのは、ご禁制の人の心を操る薬、惚れ薬だったのだ。 彼女は、好奇心のほかにも、浮気性のギーシュの気を引こうとしてこれに手を出していたのだ。 まったく女心というものは恐ろしい。 「なによ、そんなに驚かなくたって失敗しちゃったんだから別にいいじゃない!! 大体ギーシュ、 あなたがあっちこっちの女の子にやたら声をかけまくるのが悪いんだからね!!」 全然よくない。大麻草を栽培しようとして枯らしてしまったから無罪だなどということがありえないように、 彼女のやったことは重罪だが、逆ギレしてしまったモンモランシーは、溜め込んできた思いもあって、 ギーシュに八つ当たりをしていた。 そして、あんまりにも馬鹿らしい真実に、才人は呆れ返ってその様子を眺めていた。 「なるほど、惚れ薬を作ろうとして失敗したら、何がどうなっているのかハニーゼリオンができてしまった というわけか……」 ある意味、彼女は天才かもしれないなと才人は思ったが、別に探偵をやっているわけではないから、 犯人を見つけても事件は解決しない。 「それでモンモン、この薬の解毒薬はないのか?」 「え!? ないわよそんなもの、作ろうと思えば作れるけど、材料はこのバカのおかげで全部消費しちゃった から作りようがないの」 それを聞いた才人は、頭を抱えた。 「そうか、惚れ薬の失敗作で変化したなら、その解毒薬でなんとかなるかと思ったんだが」 「え? もしかして、あれを誰かが飲んじゃったの?」 モンモランシーの顔が引きつった。 「ギーシュ、この際彼女にも聞いてもらったほうがいいだろう。実は……」 事情を知らされたモンモランシーが天地がひっくり返ったほど驚いたのは言うまでもない。 「だからモンモランシー、ぼくのヴェルダンデの、ひいてはぼくがこの学院にいられるかどうかの瀬戸際 なんだ。どうか解毒薬を作ってくれ、お願いだよ」 ギーシュの普段のからは想像できないような切実な願いに、しかし、モンモランシーは苦しい表情をして、 言いにくそうに答えた。 「残念だけど、ほとんどの材料は揃えられるけど、一番肝心な『水の精霊の涙』が、どこももう売り切れで 手に入らないのよ。ただでさえとてつもなく高価なものだし、予約を頼んでもいつになることか」 「水の精霊の涙だって!? それは、確かに難題だな。魔法の秘薬のなかでも5本の指に入るほどレアな 代物、おまけに桁外れに高価ときている」 材料がなくてはどうしようもない。4人の顔は絶望に包まれ、ギーシュはもう死霊のようになっている。 「ごめんよヴェルダンデ、でも君を死なせはしない、どこまででもいっしょにいこう……みんな、短い間だった けど、楽しかったよ」 生気を失ったギーシュの独白が、その唇から零れ落ちた。 だが、そのときモンモランシーが、思い切ったように、驚くべきことを口にした。 「一つだけ、方法があるわ」 「えっ!?」 「ラグドリアン湖にいる、水の精霊に直接かけあって、涙を分けてもらうの。わたしの家系は、代々水の 精霊との交渉役をやってきたから、わたしにもその心得はあるわ。ただし、水の精霊はとても気難しい から、ちょっとでも機嫌を損ねたら、もう2度とチャンスはないわ」 それを聞いて、4人の顔に喜色が宿った。 「なんだ、そんな方法があるなら最初から言えばいいのに」 「馬鹿言わないで、そんな簡単に手に入るならわたしだって買ったりしないでとりに行ってるわ。いいこと、 水の精霊は気難しいだけじゃなくて、恐るべき先住魔法の使い手、うっかり機嫌を損ねて水の底に 沈められた先祖が何人いたことか……命がかかってると思いなさい」 4人は、背筋が寒くなるものを感じた。 特に才人以外の3人は、先住魔法という言葉に敏感に反応した。人間の系統魔法とは違う、圧倒的な 威力を誇る先住の魔法は、ハルケギニアの人間にとって恐怖の代名詞でもある。 「わ、わかった。じゃあ、善は急げだ、さっそく行こう」 「ちょっ、今から!?」 「地中にいるとはいえ、たまに呼吸のために顔を出すからいつ見つかるかもしれないんだ。それにどうせ 明日は虚無の曜日で休みだろ」 「わかったわよ。わたしの責任だし、けじめはつけるわ……やれやれ、野宿はお肌によくないのに」 モンモランシーは、ぶつくさ言うと、それでも旅支度を始めた。ここからラグドリアン湖まではゆうに 半日はかかる。 男達は部屋から出ると、それぞれの準備のために一旦自室へ戻っていき、才人はルイズにその むねを報告した。 「と、いうわけなんだが、行っていいかなルイズ」 「はぁ、あんたはどこまで厄介ごとを持ってくるのよ。ほんとにお人よしなんだから……あんなのほっとけば いい……とも今回は言えないか、仕方ないわ、すぐに準備するから手伝いなさい」 「えっ、お前も来るのか?」 意外なルイズの言葉に、才人は思わず声を大きくした。 「勘違いしないで、万一なにかあったら、あんた一人じゃ変身できないでしょ。第一、何かあったらお互いに 相手を連れて行くのがあんたとした約束、この際だから、旅の間にそのたるんだ根性を叩きなおして、 誰が主人で誰が下僕かわからせてやるわ」 口元を歪めて、愛用の乗馬鞭のほかに予備の鞭を3本もバッグに詰めたのは、馬に乗るときのためでは ないだろうと、才人は明るくない未来に祈りをささげた。 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔