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前ページ次ページ鋼の使い魔 トリステイン魔法学院の敷地内で、もっとも広い中庭に集められた生徒達が、それぞれに整列して、教師達を待っている。 やがてそこに学園長オールド・オスマンを筆頭に、教師達は生徒に対面するように並んだ。 オスマンは拡声の魔法をかけた杖に両手を乗せて、集まった二百人近い生徒達に向かって声をかける。 「諸君。本学院の今年度上半期の学期は、本日の正午をもって終了し、ふた月ばかりの休暇に入るわけだが、本年度は隣国との紛争などもあり、領地に帰っても休まらない生徒もおるだろう。 そこで儂は、通年確保しておる夏季休暇中の在学許可の枠を広げ、例年より多くの生徒や教師が学院に残れるように準備しておる。勿論、係累等後見人の承認は要るがの。 この休暇をどのようにつかうのも諸君らの意思次第である事を言っておこう。避暑に赴くもよし、独自に何がしかの研究に励むのもよいじゃろう。しかしこの学院の責任者として、 諸君らが壮健であって次学期を迎えられることを切に願っておる。 ふた月後にまた会うとしよう」 生徒側から感謝の拍手が送られ、次に教師達を先導とした移動が始まる。移動は学院の内壁正門で止まり、再び整列する。オスマンはそこで正門に向かって杖を構え、魔法で厳重な鍵を掛けた。 この鍵は原則、次学期の始業式まで掛けられたままになっている。裏門や脇の出入り口がいくつかあるから、学院に残る者たちにとって不便というほどでもない。 祭事の時に鳴らされるいつもとは少し違った鐘の音が学院に響いた。 終業式が終わり、生徒達は各々の予定に従って行動しはじめる。既に学院の裏門の前には生徒達を迎えに来た大小の馬車が並んで待っているのである。ルイズ・フランソワーズはまず、私物をトランクに詰め込むところから始めた。 「といっても、大したものはないのよね。姉さまのところに大体揃っているし」 ルイズの夏季休暇は、王都トリスタニアでアカデミー研究員をしている姉エレオノールが住むヴァリエール家所有の別宅で過ごす予定である。暫くの寄宿だが昔から使い慣れた勝手知ったる場所で、 わざわざ持っていかなければならないものはそれほどない。 したがって、ルイズの手荷物は貴族の旅荷としては比較的軽量な規模に収まった。 それを運んだシエスタ曰く、 「えぇ。ミス・ヴァリエールのお荷物はとてもよく纏められていて、他のお嬢様達が大型トランクを三つはお使いになるのに、ミス・ヴァリエールはお一つしか使われてませんでした」 人一人は優に入るトランクを引っ張るシエスタを連れて、ルイズは学院の本棟から少し離れた小塔に向かう。そこはコルベールが自分の為に学院で用意した研究室だ。 塔の脇に建てられた小屋からは細く煙が煙突より伸びている。ルイズが小屋の中に入ると、壮年の男が小屋の奥に作られた炉の火を落としているところだった。 「早かったじゃないか。手伝いに行こうと思ったんだが」 「煤けた格好で手伝いに来られても迷惑だわ」 「聞いたかい相棒、嬢ちゃんは使い魔である相棒の手なんて借りたくないってさ」 「それは困ったな。明日から職の手を探さなくちゃならないな」 「あんた達……!」 ルイズの癇癪が弾けると同時に炉の中に残っていた小さな火がかっと燃えて弾けた。溜まった煤が炉口から噴き出して二人と一振りに降りかかる。 二人は盛大にせき込んで、ルイズは息を吐いた。 「まぁいいわ。あんたはもう準備できてるの?」 「そこに置いてある荷物で全部だな。あとはコルベール師に挨拶して終わりだ。あの人は休みの間も学院にいるらしいな」 「休暇の時くらい家に帰ればいいのにね。何処の出身なのか知らないけど」 壮年の男は己の荷物が入った背負い袋を身体にくくりつけた。月日に焼けた金髪を長く後ろに撫でつけ、その動きは実年齢よりもいくらか若々しい。身なりからみて貴族ではない。しかし平民らしからぬ振る舞いに、 どこか気品がにじみ出ていた。 コルベールは自室に居た。窓の少ない塔の中は、埃っぽさと熱気が入り混じって、入ってくるものを立ち竦ませる不快さを感じさせた。 しかし塔の主人はそんなことはまったく気にしておらず、訪問者を快く迎え入れてくれる。 「おや、ミス・ヴァリエールにギュスターヴ君。今日は何か……?」 「はい。私はルイズについてここを離れますので、その間小屋の管理をお願いしたいのです」 自分の使い魔はこの禿頭の教師と仲が良いな、とルイズは前から思っている。趣味が合うのだろうか? そんな少女の呟きも知らず、コルベールは壮年の男――ギュスターヴの要請を聞きいれてくれた。 「ではお二人とも、休暇の間息災で」 「ありがとうございます。では」 「そう言えばシエスタは休まないのか?」 「メイド仲間のうちで何人かはこの機会に帰省するみたいですけど、私は残ってお仕事しますよ。お手当ても出るんですから」 「学院長も太っ腹よね」 裏門までの道でそう話していると、三人を誰かが呼びとめる。 振り向けば、赤髪の娘と青い髪を短く刈った少女が木陰から手招きしていた。 「ハァイ」 「なによキュルケ。私達急いでるんだけど」 赤髪のキュルケと言われた娘はルイズの険のある言葉に肩を竦ませた。 「ちょっと声掛けただけじゃない。もう少し肩の力抜いたら?」 「どうでもいいでしょう。で、何か用?」 「私達休暇中も学院に居るんだけど、何か休みの間予定があったら教えて頂戴、遊びに行ってあげるから」 「遊びに行って『あげる』ですって?」 ルイズのこめかみがぴくぴくと動いているのがギュスターヴから見える。この娘は感情の波が激しいことこの上ない。それを知っているくせに、キュルケはこう言い放った。 「だって貴方の事だもの。どうせ帰っても相手してくれるのがギュスだけじゃ、流石にギュスがかわいそうでしょう?」 「そ、そんなこと……」 「そんなことは、ないさ」 言いよどみかけたのを遮って、ギュスターヴは自信満々といった風に言った。 「俺たちはトリスタニアに行くんだ。ヴァリエールの末娘なら顔くらい見たい貴族だっているだろう。それほど暇じゃないかもしれないぞ」 「そうかしら?」 「そうさ。……だから遊びに行きたいなら素直にそう言ったらどうだ?」 「う……」 口ごもってキュルケは隣に居て沈黙を守る青髪の少女タバサに向けられた。 見返すタバサの目に表情はない。それが鏡を覗きこむような気分にさせた。 「……そうね。実はねルイズ。寮に残るのは女生徒ばっかりで男が全然いないの。当然よね、戦争になりそうなんだもの。だから退屈になったら、貴方のところにいってもいいかしら?」 ルイズは煮えかけた頭がだんだんと冷めてくるのがわかった。要するにキュルケは寂しいから構ってくれと言っているのだ。そう思えばほんの少し、自尊心がくすぐられる。 「来てもいいけど、姉さまも一緒にいるから居心地は保証しないわよ」 「あのお姉さんはいじり甲斐がありそうでいいわね」 キュルケの答えにルイズはさらに頭が冷めていくのであった。 寄越した馬車に乗せられたルイズとギュスターヴが到着するのが見えて、エレオノールは階下のロビーに降りることにした。 ヴァリエールの別邸は、王都の高級住宅街に数ある貴族の邸宅の中でも、上から数えた方が早い位に豪華な屋敷である。勿論ヴァリエール領にある本家と比べれば慎ましい出来であるが、調度品や建築の見事さは是非に及ばない。 ロビーでは使用人に荷物を託したルイズと、使用人について屋敷の奥へ行こうとするギュスターヴの後ろ姿があった。 それがちらっと見えただけでエレオノールは胸の奥がかっと熱く打たれてしまうのだ。 (あぁ、あの人もここで過ごしてくれるのね……) 一目会ったその日から、密かにエレオノールはギュスターヴへ思慕の情を募らせており、一時期は暇さえあればギュスターヴが立ち上げた百貨店に通いつめて、ギュスターヴの姿が無いか歩いたものだった。 ……その姿は周囲から「貴族の婦人が通い詰めるほど百貨店は良い店なんだ」というというように見られていたりする。おかげで店を切り盛りするジェシカは右肩上がりの左団扇である。 「……姉さま?」 出迎えに来てくれたらしい姉があらぬ方を見たままぼうっとしてるので、ルイズは手持無沙汰のままロビーに立たされる羽目になったのだった。 正気に戻ったエレオノールはルイズを連れて談話室に入ると、テーブルで薬湯と菓子を啄みながら学院での生活について事細かに聞き出し、オスマンが休暇中の寮滞在を認めた話を聞いて関心していた。 「よくそんな財布の余裕があったものね。アカデミーなんて予算を削られてしまうんじゃないかって汲々としてるのに」 「どうして?」 「軍備に国費がかかるからよ。アルビオンの奇襲で軍艦はほぼ全滅で、タルブでの合戦では勝ったけど王軍も被害甚大だそうだから」 そういうエレオノールに相槌をルイズは打てない。王軍の被害の一端は自分が行った虚無の発動が原因やも知れないから。 「王軍はタルブ戦役で功あった傭兵部隊を正規軍に組み入れたと聞くし、トリステインの格が落ちるというものよね。アンリエッタ女王には頑張ってもらいたいわ」 「姉さま、陛下を助けるのが私達貴族の義務でしょう?」 「当然よ。現にヴァリエール家は王家に資金と人足を供出したし、私もアカデミーでアルビオン軍が残した船から見つかった、砲弾の解析に駆り出されてるもの。うちで何もしてないのはあんたとカトレアだけよ」 「……仕方がないでしょう、まだ学生なんだもの……」 だがルイズは先日、内々にアンリエッタから彼女直属の女官としての権限を与えられているのだ。いざ王女からの命令があれば一目散に駆けつけなければならない。 その時は意外に早く訪れるのだが、ルイズとギュスターヴが別邸に着いたその日の夜、ギュスターヴはあてがわれた部屋で背中を伸ばしていた。 部屋を見渡すに一応、使用人用の部屋らしい。質素なベッドと椅子、テーブルと小さな衣装箱が一つだけ置いてある部屋だ。 「あまり歓迎されてないようだな、俺は」 独り言に答える声が荷物から帰ってくる。 「まぁ、仕えてる貴族のお嬢様がどこの馬の骨ともしれない男を連れてきているんだから、歓迎はされないわな」 答えたのは荷物に収まっている一振りの剣だった。知恵ある魔剣インテリジェンス・ソードの一つであり、古の虚無の使い魔『ガンダールヴ』が使っていたと自ら主張するデルフリンガーである。 「時に相棒よ。あんたはこれからどうするんだよ?お嬢ちゃんはひと夏ここで過ごすわな。その間それにつきあっているつもりかい?」 「そこなんだ、デルフ」 ベッドから起き上がって荷物からふた振りの剣を引っ張りだすと、それぞれをテーブルに乗せた。一方はデルフだが、もう一方は石でできた長剣だ。 「俺がルイズにアニマの使い方を教えたのは、一つにはそれがルイズの未来につながるものだと思ったからだ。この世界ではアニマの術を使えるものは居ない。ただ一人のアニマ術師になる。 あとはそれを自分で使いこなせるだけの精神を持っていれば自由に生きられるだろう」 世間知らずでわがままなルイズだが、ギュスターヴはそれが出来ると信じている。 「一つってことは、もうひとつあるんだな」 「始祖の祈祷書とやらが変化した卵型のクヴェルが気になる。鉛の箱にしまってあるが、あれは尋常な代物じゃない」 「アニマとやらが無い相棒に解るのかよ?まぁ、俺っちもありゃやばい代物だと思うどな……」 虚無に使われる立場のデルフから見ても、卵形と化した祈祷書は異常な存在なのだという。 「もしあれを再びルイズが手にする時があれば、ルイズ自身で制御できるようにならなきゃいけないだろう」 「それまでの訓練、ってことかい?」 「そんな時が来ないに越したことはないんだがな……」 ちらりと目が白い石剣を映す。 「嬢ちゃんに対する理由はそれでいいとして、あんたはその、なんだ……サンダイルってところに、帰りたくないのかい?」 「……帰りたいさ。帰って友人達に謝りたいな、黙っていなくなって済まないってさ」 「相棒は妻子居ないんだろ?その年でやもめたぁ、寂しいよなぁ……」 そこまで言って、デルフは何か閃いたようにカタカタと鳴った。 「解ったぜ、相棒がこっちに後ろ髪引かれて元の世界に帰る方法を探し渋っている理由。あんたは嬢ちゃんを自分の娘か何かみたいに思えて仕方がねぇんだ」 「ルイズが娘だって?」 「そうさ。手元で大事にしたいって気持ちがあるんだろ。だから離れるのを渋ってるのさ」 得意そうに魔剣は笑った。 だがそう指摘されたギュスターヴは、怒るでも笑うでもなく、むしろ神妙に表情を暗くして考え込んでしまうのだった。 「ど、どうしたよ?」 「……これが親の気持ちという奴のなのか?」 「いや、そうなんじゃないかって思っただけだよ。実際のところは知らないね」 そう言ってやるとギュスターヴはますます悩み深げにうつむいた。 皺を寄せて黙っている相棒をどうしたものかとデルフが考えていると、夜更けだというのに部屋を尋ねる者が居た。 「客だぜ相棒」 ノックにギュスターヴが答える間もなく訪問者は勝手にドアを開け部屋へと入ってくる。 部屋着に着替えたルイズだった。ルイズは部屋を一瞥し、自分の使い魔の境遇に文句をつけた。 「こんな貧しい部屋がこの屋敷にあったなんて知らなかったわ。私の使い魔に相応しくないと思うの」 「それで嬢ちゃんはどうするのよ?」 「明日から家令に言いつけて他の部屋を用意させるわ」 「別にこの部屋でいいだろう。気を使われると居づらくなる」 「あんたはそれでいいかもしれないけど、それで召使たちに舐められているんなら許しがたいわ」 部屋にやってくるなり青筋立てて息を巻くルイズに、先程まで考えていた事を頭に押しやり、ギュスターヴは言った。 「わざわざこの部屋に文句をつけにきたのか?」 「あっ、そうだったわ。姉さまと夕食を済ませた後、私宛に手紙が来たの」 これよ、とルイズが懐から出したのは小奇麗な封筒だった。送り主の名前はなく、ただ宛名だけが記されている。しかし、封蝋等の格式から見て、貴族の使う梟便で運ばれたものらしい。 「梟便?」 「伝書用に調教された梟に手紙を持たせて送るのよ。貴族の屋敷なら梟を受け入れる鳥小屋が天井裏にあって、そこに手紙を持った梟が入ってくるのよ。学院には何十羽も入ってこれる梟小屋が置いてあるわ」 「わざわざ梟に持たせるなんて手間暇かけるもんだな」 「中には自分の使い魔にやらせる人もいるけど……って、そんなことはいいのよ。問題はこの中身よ」 言ってルイズは剥がされた封蝋の下から便箋を取り出して見せた。その様子なら既に中身は確認済みなのだろう。 「読んでも構わないか?」 「汚さないでよね」 ギュスターヴは受け取ると、便箋に目を走らせる。ジェシカと手紙のやりとりをするようになって、一応日常の読文に支障はない。 「なんて書いてあるんだい?」 「かいつまんで言えばお茶のお誘いさ」 「茶ぁ?」 「もっと上品に言ってくれる?陛下からわざわざ謁見に来るようにという申し渡しよ。内々に送ってくるところを見ると、何か任務を与えられるんじゃないかしら」 一見、そう冷静にルイズは言っているが、内心では働ける事に喜んでいるに違いないと、ギュスターヴは思った。この娘のアンリエッタ女王への尊敬とトリステイン王国への忠誠は揺るがないものらしい。 「この手紙の日付を見ると明後日になっているな」 「そうよ。それまでに身の回りの物をそろえなくちゃいけないわね。明日は忙しくなるわよ」 「どうして?」 「休み一杯任務に費やすかもしれないから、明日のうちにめいいっぱい遊んでおくのよ。あと、買い物とか」 にひ、と意地の悪い顔をするルイズを少し疲れた気持ちでギュスターヴは見た。女の買い物に付き合うのはいつ何時でも大変なのだから。 前ページ次ページ鋼の使い魔
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前ページ次ページ死人の使い魔 第三話 グレイヴを召喚してから数日が過ぎた。ルイズとグレイヴの生活にも 一定のパターンができあがってきていた。 朝、ルイズがベットで目覚めるとともにグレイヴは初日に与えられた イスで目を開く。特に本人からの要望はなかったのでイスが彼の寝床と なった。寝床兼生活スペースかもしれなかった。ルイズの部屋にいる間は、 ほとんどをそこに座って過ごしている。 案外気に入っているのかしらね。そんな風に思う。 グレイヴとの生活が始まってからルイズの目覚めはよくなった。 一度寝坊しかけて彼に起こされたときは心臓が止まるかと思った。 割と本気で。それ以来、彼より早く起きるように心がけている。 朝の準備を終えるとルイズは朝食をとるために食堂へと向かう。 グレイヴは食事をとらないため、授業まで部屋で待機させている。 授業の時間になると教室でグレイヴと合流する。 恐らく、グレイヴは教室に移動するときまで、部屋のイスに 座りっぱなしのはずだ。確認したことはないが正しいと思う。 もしかして私が部屋を出たあと、私のベットでゴロゴロしてたりして。 そんなことを想像する。 ……ありえないわね。万が一それが真実だったとしてもその場面だけは 目撃しないようにしないと。私の今後のために。 グレイヴは喋らない平民の使い魔として学院で少し知られてきた。 ときどき、本当にときどきだが彼の正体について言ってやりたくなる ときがある。 昼食の時間になると再びグレイヴと別れる。部屋で午後の授業まで 待たせているのだが、コルベールに呼ばれ彼の研究室、もしくは トレーラーに行くことがある。少しでも手掛かりが欲しいらしいが 結果は芳しくないようだ。 そんなある日、コルベールは彼の左手に目をやる。 召喚されたものにばかり気を取られていましたが、珍しいルーンですね。 一応メモしておきましょう。 その日の夜、彼はそのルーンが伝説の『ガンダールヴ』のルーンと 同じであることに気づく。すぐにオスマンに知らせたが、彼も頭を 抱えていた。 『ガンダールヴ』とは始祖ブリミルの使い魔であったされるものだ。 あらゆる武器をつかいこなし、その強さは並みのメイジでは歯が 立たないくらいだったとされている。 「ただでさえ厄介なのにこのうえ『ガンダールヴ』じゃと」 「とりあえずこれも秘密じゃな、ミス・ヴァリエールにもな」 「彼女にもですか?」 「これ以上秘密を抱えさせるのもかわいそうじゃろ、それに、この問題は ひょっとしたらガーゴイルということよりもやっかいかもしれんしな、 他言無用じゃ」 「わかりました」 最近というかグレイヴを召喚してからルイズは、彼のことを考える時間が 多くなった。もちろん、恋などではない。グレイヴの正体についてだ。 彼はなんのために作られたのだろうか?そう彼が人為的に生み出されたの ならきっと何か目的があるはずだ。それも並大抵ではない。なんせ人の血で 動くのだ。家事などをするために作られたのだとしたら、ちぐはぐ過ぎる。 人の生き血をすする召使い。ありえないわね。 しかし想像はつく。ミスタ・コルベールも気づいているだろう。 彼は戦うために生み出されたのではないか?その想像はきっと正しい。 想像を裏付けるものの一つとは彼の持っている鞄と棺桶だ。 非常に重いのだ。それを軽々と持ち運ぶ怪力。鞄の中に入っている二つの ものは鈍器なのでは?棺桶もなんらかの武器かもしれない。 そう考えると彼が鞄を手放さない理由もわかる。戦うために生み出された 彼が武器を手放すわけにはいかないのだ。 両手にあの鈍器を持って戦う彼を想像する。少し、いや大分かっこ悪い気がする。 ちゃんとした武器を与えたほうがいいかしら?見栄えのする大剣とか。 でも買う前にミスタ・コルベールに相談したほうがいいかもしれないわね。 剣を持たせるなどとんでもないと反対されるかもしれないし。 しかしそれは杞憂に終わった。彼は特に反対しなかった。 コルベールは相談されたことについて考えていた。グレイヴに剣を持たせる。 彼は『ガンダールヴ』でもあるのだ。どんな反応をするか、持ち前の好奇心が うずいた。 彼が剣を持つ危険についても考えてみたが、剣を持たせるくらいは 大丈夫な気がする。ここ数日、彼と付き合ってみての印象だ。少なくとも 学院の人々に危害は加えないと思う。もしかしたらこの学院で一番 グレイヴを信用している人物は彼かもしれなかった。 虚無の曜日になりルイズはグレイヴを連れ剣を買いに出かけた。 遠出をするとグレイヴに伝えると、彼はいつもの鞄に加え棺桶まで 持っていこうとした。あんなもの馬に乗せられるわけないと置いてこさせたが、 鞄はしっかり持ってきている。 トリステインの城下町を武器屋に向けて歩いているが、グレイヴはやはり 目立っていた。長身に加えてあの格好である。かなり目を引く。 それに彼の雰囲気を感じてか、微妙にだが周りの人が道を譲ってくれている ように思える。見た目だけでも護衛の役目を果たしているわね。そんなことを 考えながら歩いていると、武器屋に到着した。 どんな剣がいいか分からないので、グレイヴに選ばせてみる。 「グレイヴ、好きな剣を選んでいいのよ」 しかし彼は何も選ばない。イライラし声をかけようとすると、不意に声が 聞こえた。 「迷っているなら俺を買え、おめえさん『使い手』だろう?体格も立派だし、 雰囲気もただもんじゃねえ。是非とも、おめえさんに使って貰いてえ」 グレイヴは声のほうを向く。ルイズには彼が驚いているようにみえた。 そこには一本のボロボロの剣があった。ルイズも最初驚いたが インテリジェンスソードと知って納得する。 それよりもグレイヴの反応が気になった。いつもと明らかに違う反応。 もしやあの剣の言ったことに何か関係しているのだろうか?確か『使い手』 とか言っていた。 本当はインテリジェンスソードの存在を知らなかったからの反応だったの だが、ルイズには分からなかった。まさかインテリジェンスソードの存在を 知らないとは思いもしなかったのだ。 よし、これにしよう。 見た目はみすぼらしくグレイヴに持たせたくはなかったが、彼の正体を知る きっかけになるかもしれない。インテリジェンスソードを買い、グレイヴに 持たせる。デルフリンガーというらしい。 帰る道中デルフリンガーにグレイヴのことや、『使い手』のことを尋ねて みるが、どうにも要領を得ない。 グレイヴも特に反応はしないし、あの剣を買ったのは失敗だったかしら? 学院に着くとルイズはグレイヴを連れて中庭に向かう。そこでルイズは グレイヴにデルフリンガーを抜かせてみた。詳しいことは分からないが様に なっているようにみえる。するとデルフリンガーが気になることを言う。 「おでれーた、相棒、おめえさん人間じゃないな?それに心も感じられねえ」 ルイズが驚きながらに言う。 「あんたグレイヴのことが分かるの?教えなさい。今すぐ、できる限り詳しく」 「待て、待て、落ち着け、俺もそんなに詳しく分かるわけじゃねえ。 ただなんとなくそう感じただけだ」 「なによ、当てにならないわね。でもグレイヴが人間じゃないってことは 秘密だからね、誰にも言うんじゃないわよ。それからグレイヴのことが何か 分かったらすぐに教えなさい。いいわね」 「いいともさ、俺も相棒のことを言いふらしたりはしないよ」 そんな会話の中、グレイヴは突然デルフリンガーを地面に突き立てる。 「おーい、相棒?」 アタッシュケースを開けケルベロスを手に取る。 何をしたいのかしら?ルイズは疑問に思うが、デルフリンガーは気づいた ようだった。 「そりゃないよ、せっかく俺を買ったんだから俺を使ってくれよ。銃より剣の ほうがいいぜ」 「あれって銃なの?」 あんな形の銃など見たことがない。そういわれてみれば引き金らしきものがある。 「ねえ、グレイヴ、一発撃ってみなさい。どれくらいの威力があるか 見てみたいわ」 横でデルフリンガーが銃なんて邪道だ、などと言っているが無視する。 しかしグレイヴは撃たない。何故かしら?目標を決めてないから? 周囲を見ると丁度いい目標があった。本塔の壁である。確か固定化の魔法が かかっていて、そのうえ厚みもあり凄い丈夫なはずだ。いい的だと思ったのだ。 そのときは。 変な形をしているし片手で扱う銃のようなので、かなり距離のある的まで 届きすらしないかも、そう思い気軽に言う。 「ほら、撃ってみてって」 グレイヴが本塔の壁に銃を向ける。 せめて届いてほしいわねなどと考える 引き金が引かれる。 轟音が響き、思わず耳を押さえる。本塔に近づき銃弾のあとを確かめようと する。しかしそんなに近づかずとも本塔の壁にヒビが入っているのが見えた。 「嘘……」 思わず声が漏れる。あれがあの変な銃の威力?信じられない威力だ。 「おでれーた、これが相棒の銃の威力かい?」 デルフリンガーも驚いている。 突然、グレイヴの気配が変わった。持っていたデルフリンガーを投げ捨て、 先ほど撃った銃を一丁ずつ両手に構える。下からデルフリンガーの苦情が 聞こえてくる。 どうかしたの?と聞こうとするが、その言葉を発する前に巨大な土ゴーレムが 現れた。ゴーレムはルイズ達のことなど気にもせず、本塔のヒビの入っている 壁を殴り、穴を開ける。 ルイズはあまりのことに頭がついていってなかった。グレイヴも銃を構えた まま動かない、様子をうかがっているのかもしれない。 それからゴーレムは学院の外へと歩き出す。 我に返ったルイズがあわてて言う。 「あそこは確か宝物庫だったはずよ、急いで追いかけないと」 「もう無理だ、追いつけないって。ずいぶん離されちまった」 デルフリンガーが引き止める。しかし追いつけなくとも、何か手がかり くらいは見つけられるかもしれない。ゴーレムの逃げたほうへ走り出す。 グレイヴもついてくる。 「お~い、置いていかないでくれえ」 後ろでデルフリンガーが叫んでいたが気にしている余裕はない。 上空には何か飛んでいるのが見える。あの盗賊の使い魔だろうか? 空を飛んで逃げられたら絶対に追いつけない。焦りながら懸命に走る、 すると遠くでゴーレムが突然崩れるのが見えた。 空を飛んでいた何かも、いつの間にかいなくなっていた。崩れたゴーレムに 追いついたが、そこには土の山があるだけだった。 こういうときこそ、落ち着かなくては。そう自分に言い聞かせ事態を 整理する。 あのゴーレムは本塔にあったヒビを殴っていた。その結果穴が開き、 宝物庫が襲われた。つまり襲われた原因、少なくとも穴が開いた原因は あのヒビのせいということになる。あのヒビの原因は考えるまでもない。 盗賊について思いだそうとするが離れていたこともあり、黒いローブに すっぽり身を包んでいたことくらいしか分からない。 盗賊には逃げられ、手がかりもない。ルイズは頭を抱えた。 前ページ次ページ死人の使い魔
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前ページ次ページ鋼の使い魔 泣き腫らした瞼が、風に当たってひやりとする。 ルイズがそんな感想を抱きながらも、背中の問答を特に気にもしないシルフィードは悠々と空を飛び、眼下には馴染みの魔法学院が見える。 シルフィードはいつものように、手近な広場に下りようと旋回を始めた瞬間、翼の端に『何か』が当たったと思った。 その『何か』は今度は当たった翼の端から伸びてシルフィードの頭に影を作るように覆いかぶさってくるようだった。 シルフィードは焦った。このあたりで自分と同じ高さを飛べるものはそれほど居ないはず。 動転した幼生竜は背中の主人達を一瞬忘れて、大きく傾斜して旋回し、自分に当たりそうになった『何か』から逃れようとした。 疲れで気が抜けていた背中の四人は、急な動きを見せるシルフィードに驚き、傾いていく竜の背中から落とされないように手近い背びれに捕まる。 キュルケはびっくりしてぎゅっと、目の前のこりこりとした触感のひれを抱きしめ、ギュスターヴは少しざらつくうろことひれの前のこぶを掴んで踏ん張った。 タバサもシルフィードの首根元に抱きつき、急に動き出した使い魔を叱咤しようと考えていた。 そしてルイズは………泣き疲れていたせいか、三人よりも反応が遅かった。 シルフィードの背中の何処にも捕まる事ができなかった。 「あ……」 遠心力に流れるように自分が竜の背中から引き剥がされた時、ルイズは浮遊感の中で一瞬愉しんだ。しかし次の瞬間、落下する感覚と風の音に恐怖した。 「あーーーーーー!!」 「ルイズーー!」 いち早く気付いたギュスターヴが手を伸ばすも、指はルイズに届かない。 どんどんと加速する落下速度がルイズに死の恐怖を与えつつあった次の瞬間、ルイズの体に掛かっていた落下加速が落ち、地面に近づくほどに落下が緩やかになる。 地面に付いた時、ルイズはぺたん、と尻をついただけで傷一つ負わなかったが、流石に腰が抜け、全身から脱力してへたり込んだ。 「は……はぇ……」 へたったルイズに近寄るのは、後退した壮年の男性。 「大丈夫ですかな?ミス・ヴァリエール」 コルベールその人だった。彼は広場に出ており、片手には糸を巻いた棒のようなものを握り、もう一方の手には魔法を使うための杖を持っていた。 落ち着いたシルフィードが広場に下りると、背中の三人は腰が抜けたままのルイズに駆け寄った。 「大丈夫なのルイズ?」 「も…もう落ちるのはいや……」 アルビオンから脱出した時もかなりの高度から落下したため、今のルイズは落下浮遊にかなり敏感になっているようだ。 ギュスターヴに手を引いてもらいどうにかこうにか、小鹿のような足取りで立ち上がったルイズに、コルベールは緩く頭を垂れた。 「いやぁ、申し訳ありませんミス・ヴァリエール。実験中のカイトが風に流れてしまって。ミス・タバサの風竜を驚かせてしまったようですね」 どうやらコルベールは空にカイト(凧)を飛ばしてなにやら実験をしていたらしい。そそくさと糸を巻き取り始めると、鳥のように左右に羽を広げた形のカイトが降りてきて、 器用に地面に落下させる。 「一体何の実験をしていらしたんですの?」 「え?…それは…まだ、ナイショですぞ」 コルベールはばつが悪そうに笑った。 カイトを回収したコルベールは咳払いを一つしてならぶルイズ、キュルケ、タバサを見た。 「しかし、ミス・ツェルプストーとミス・タバサはともかく、ミス・ヴァリエール。貴方は今まで何処へ行っていたのです?」 「え?…それはその…」 ルイズは密命ということで早急ぎ、楽員に休む旨の知らせをせずに学校を起った為、ここ数日は無断欠席の扱いになっていたのである。 もちろん、ここで密命をうけていたことを話すわけにはいかない。 「…い、今からオールド・オスマンへ報告してきますわ!では失礼!…行くわよ、ギュスターヴ」 まだ足腰がはっきりしないルイズがぐいぐいとギュスターヴの腕を引く姿は、遠めに見てもおかしなものだった。 『百貨店 建設』 それより3日後、トリステイン内にアンリエッタ王女殿下と帝政ゲルマニア皇帝アルブレヒト三世との婚約、それにあわせて両国の軍事協約を結んだ事が発表された。 さらにその翌日、アルビオン貴族連合『レコン・キスタ』はアルビオンの『統一』を宣言、国号を『神聖アルビオン共和国』と改名し、その初代皇帝としてレコン・キスタの首魁 オリヴァー・クロムウェルが新設された貴族統一議会の満場一致で就任した。 クロムウェルは皇帝として就任すると、アルビオン新政府は瞬く間にアルビオン国内の騒乱を鎮圧し、最も近いトリステインとゲルマニアに対し『不可侵条約』を打診した。 王政を打破して士気が上がっているはずのアルビオンからの打診に両国はそれを受諾する旨を共同して発表。トリステイン・ゲルマニア軍事協約が発効する翌月 ニューイの5日までには不可侵条約に関する三国共同の文書を作成する確約をとった。 各国の首脳陣はそれらの折衝に追われる日々を過すのだが、国に暮す人々にとっては概ね平和な時間が流れることになった。 勿論それは、トリステイン魔法学院の中も例外ではなかった。 アルビオンから帰還して数日経ったある日の夜のことである。 ギュスターヴは相変わらずルイズの部屋で寝泊りしていた。ルイズ本人も何も言わないから余人がとやかく言うことも出来なかった。 とはいえ、多少の住環境の改善がされているらしく、始めの頃毛布一枚だった寝床が、ルイズのベッドと並べられるようにマットが置かれるようになった。 「なぁルイズ」 「なによ」 ルイズは寝間着で机に向かって本を読んでいた。振り向けばギュスターヴは、見慣れない真新しい帳面を広げている。 「商売を始めたいんだが…」 「そう……?…商売?!」 「ああ」 一瞬聞き流しかけたルイズだが、ぐっと抑える。 「どうしたのよいきなり」 ギュスターヴも佇まいを少し直し、ルイズを見て話した。 「ルイズの使い魔をやり続けるにしても帰る道筋を探すにしても、色々と資金が居るだろうと思ってな」 「……やっぱり、帰りたいんだ…」 ルイズの声色がよろしくない、と思いながらも、ギュスターヴは包み隠さず話した。 「そりゃあ、帰りたくないといえば嘘になる。此処には俺を本当に知っているものは誰も居ないんだから…」 ギュスターヴの言葉にルイズはくしゃ、と顔を崩す。そしておもむろに立ち上がって、ベッドに身を投げた。 「勝手にすればいいんだわ。どうせ私は使い魔も御せないだめなメイジなんだもん。使い魔に相応しいメイジじゃ、ないんだもん…」 綺麗に敷かれたシーツに顔をぐりぐりとしているルイズは稚い。 「そんなことを言うなよ。…少なくとも、こうやってルイズ、お前の隣に居るのは嫌いじゃあないんだ」 ギュスターヴは、そんなルイズの頭を撫でてやった。年の割に発育の悪いルイズは、そうされていると幼児のようにも見えるのだった。 「……じゃあ、どうしてよ。どうして帰るかも知れないなんていうの。ずっと居るって言ってくれないの…」 自分が甘えているという自覚を持ちつつもルイズは聞かずに居られない。 寝物語を聞かせるように、ギュスターヴは優しく話した。 「…俺はサンダイルで、過分にも色々と人の上に立って人生を過してきた。俺が居なくなってもう、一月以上になるだろう。 俺が居なくなった後、サンダイルがどうなったのか興味があるのさ」 ギュスターヴの脳裏に、アルビオンで死地に赴いていったウェールズの姿がよぎる。 あれは俺だ。ルイズに呼ばれなかった時の俺だ…。 ウェールズは自分が死んでも何かが誰かに託されるだろうことを願って、戦場に逝った。 サンダイルの覇王ギュスターヴもまた、あの砦の炎の中で死んだのだ。 ならば、俺が社会に投げ込んだ鉄鋼は、どうなっていくだろう?誰かが引き継いでいってくれるものなのだろうか? 優しく撫でられていたルイズは、まどろみを感じながらぶちぶちしている。 「…皆魔法が使える中で、魔法の使えないあんたがどうして人の上に立てるのよ…嘘ばっかり…本当はこんなところからさっさと逃げ出したいんでしょう……」 重くなっていく瞼に抗えない。 「本当…嫌になっちゃう…商売がしたいんなら……勝手に……やりなさい……よ……」 「ありがとうルイズ。……おやすみ」 寝付いたらしいルイズからギュスターヴが離れる。 「でも……っちゃ……や…ん……」 「ん?」 ルイズが何か言っているかとギュスターヴは振り向くが、既にルイズの意識は落ちて静かな寝息に変わっていた。 ギュスターヴはルイズの許可をもらうと、フーケ捕縛時やモット伯告発で得た資金を元手に、まず最も近場である王都トリスタニアの経済状況を調べた。 しかし、そこで困ったことが判る。トリスタニアを中心とする首都経済圏の規模が、ギュスターヴの予想のそれを下回っていたのだ。 トリスタニア『を含めた』周辺の村や町を含めて23,000人程度の経済圏では個人の起業参入の選択肢がかなり限定される。 (因みにサンダイルのハン・ノヴァは1260年代で40万人弱の人口に膨らんでいた) ギュスターヴは以前トリスタニアを歩いた時に見た光景を思い出した。大小の商店が店を構える中、その軒先を露天商が有料で借り受けて商売をしていた。 露天商とはいえやはり商売人なら立派な店を持ちたいのが人情だろう。 ギュスターヴの発想。それはそのような露天商達を相手に商売をすることだった。 まず、ブリトンネ街等を始めとする商店街の一角に数階建ての建物を用意する。次に露天商を勧誘し、そこで店を開いてもらう。 張れて店もちになった商人達には売り上げの一部を場所代として支払ってもらうのだ。 この案を現実にするにはいくつかの問題があった。まずトリスタニアの商工ギルドの許可がいる。 これについてはコルベールやマルトーといった知己の協力を得て事なきを得た。 次に、露天商が招けるような建物の取得である。これが一番の問題で、結局取得できた物件を大幅に改装して用意する事になった。 後は建物に呼べる露天商と、常在できないギュスターヴの変わりに管理をしてくれる人間の手配である。 この問題ではなんとシエスタから意外な援助をもらうことが出来た。 「王都には親戚の親子がお店を持ってるんですよ。お手伝いになるか判りませんけど、紹介の手紙を書いておきますね」 シエスタの手紙と簡単な地図を手に王都に出かけた折、ギュスターヴは『魅惑の妖精』亭を訪ねた。 「そうね。そのお店でうちの店の宣伝とかもできるし、優先的になにか利用させてくれるなら全然オッケーよ」 『魅惑の妖精』亭オーナー、ミ・マドモワゼルことスカロン氏は独特な風貌であったが悪人ではなさそうだ。 「露天商の誘致と管理が出来る人間ね。ちょうど良い子がいるわよ」 そう言って奥のドアから現れ、紹介されたのはスカロン氏の娘ジェシカ嬢であった。 「この子もそろそろ商売人として独り立ちさせたかったし、人の使い方も巧いわよ。ジェシカ。あんたこの仕事できそう?」 言われて計画を書いた書類をまじまじと見たジェシカはにっと笑って答えた。 「面白そうだね、お父さん。ギュスターヴさん、だったっけ。このお店の開店までの手配、私に任せてみてくれないっかなっ?」 どうにょろ?と言いたげなジェシカの眼を見て、ギュスターヴは応と答えた。 それからの行動は殆どジェシカの独壇場だった。商店街から腕利きの露天商を引っ張り込み、店舗の改装にも着手。あれよあれよという間にブリトンネ街の一角には 地上3階建て、半地下の一階、内3階に計6人の店主が店を構える驚異の新商店が誕生する事になった。 それから後日、或る日のコルベール研究塔にギュスターヴはルイズを訪ねた。 ぼわん、と開けられた出入り口から砂埃を吐き出して、埃にまみれたルイズとギーシュが出てくる。 「げっほ、げっほ…ミスタ・コルベール!持ってきて欲しいものってこれですか?」 ギーシュとルイズは二人がかりで埃塗れの布に包まれた謎の物体を引っ張り出していたのだ。 「ギーシュ、あんた『レビテーション』で持って行きなさいよ」 「こんなかさばるもの一人で『レビテーション』かけても持っていけるわけないじゃないか」 「まったく、なんで私がこんな目に…」 二人に呼ばれていたコルベールは、自分の研究塔の脇に設営した大きな天幕から姿を現す。 「いやいや、ご苦労様でしたミスタ・グラモン、ミス・ヴァリエール。手が離せなかったもので」 「なんなんですかこれは?」 目の前に置かれた物体の布を剥ぐ。それは黒塗りにされ、一方から取っ手の付いた棒が張り出した『箱』だった。 「以前ゲルマニアに行った時に買ったきりで放置してたものです」 一応状態を確かめたコルベールは、二人係りで引っ張り出してきたものを軽々と引き上げる。 「これを取り付ければ…」 そういって大きく開けられた天幕に箱を引き込む。天幕の中にはレンガや土壁で出来た人一人入れるようなドーム状の建物のようなものが作られていた。 コルベールは箱を立て、建物のようなものの脇にくっつけた。 「ふむ。これで完成ですぞ」 「ミスタ・コルベール。これは一体…」 いぶかしむギーシュにコルベールは自慢げに答えた。 「これはですね。ミスタ・ギュスより伝授していただいた製鉄法を用いた溶鉱炉なのです」 「「溶鉱炉?」」 声を揃えるルイズとギーシュ。 「二人に持ってきていただいたのは箱型のふいごですよ。火入れはまだですが、これが使えればトリステイン産の鋼材よりも質の高い錬鉄が作れるようになります」 「しかしなんでまた自前の溶鉱炉なんて作るんですか?」 「今私のやっている実験は色々と複雑な要素が絡んでおりましてな…詳しくはまだ、秘密です」 なんとなく不満気なルイズとギーシュであった。 「でも最初に聞いた時は驚いたね。露天商にわざわざ店自体を貸して営業させるなんて」 天幕の外に簡易なデッキセットが置かれ、そこでギーシュが葡萄水を飲んでいた。 彼はルイズ達が留守にしている間、ちゃっかりコルベールの助手として居座っていた。モンモランシーやケティから逃げるにも体が良いからだ。 シエスタはこまごまと給仕をして回っている。 「店の名前はどうするんだい?」 「ん?…そういえばまだ決めてなかったな…」 手の手紙を弄びながら答えるギュスターヴ。 手紙には店舗の準備、商人の手配が出来たこと、4日後に控えた開店には顔を出して欲しい旨が書かれていた。 「開店直前まで店の名前が決まってないって、どういうことよ」 「でもこういうお店って何屋さんっていうべきなんでしょう?」 手紙には誘致した商人が主に扱っている商品についても書かれていた。日用品、食料、アクセサリー、などなど。変わったところでは 床屋と香水の計り売りなんてものも名前の中に入っていた。 「ギュスターヴ、ちゃっちゃと決めなさいよ」 「そうだなぁ……『百貨店』、なんていうのはどうだろう」 「「「ひゃっかてん?」」」 コルベールを除く三人が聞き直す。 「いろいろな物を置いているって感じがするだろう?」 「ま、いいんじゃない?」 「いいですね」 「うーん、僕なら『七色の薔薇園、五色の敷石、三色の川の流れる場所』とか名づけるなぁ」 まるで『明日の天気は晴かな』くらいの気軽さで言ったギーシュの言葉に、シエスタとルイズは冷たい声で答えた。 「それはないわ、ギーシュ」 「ないですね」 「えぇ?!ひどいなぁ」 「略すと七五三だな」 「なんだかもっと馬鹿にされている気がする?!」 そう言ったギュスターヴも特に他意のあるコメントではなかったりする。 そんな風に談笑がされるコルベール塔前に、風鳴りをして一体の竜が降りてくる。青い鱗のその竜に、蒼紅の二色の髪が風にはためいていた。 「ハァイ?お元気」 「ミス・ツェルプストー!」 シエスタはキュルケを認めると、サッと輪の中から一歩下がってみせたが、キュルケは手を振って制止した。 「あら、大丈夫よ?今日は談笑したいところだけど、ちょっと用事が違うの」 「用事?」 「私の用というか、タバサがね…」 キュルケが振り返ると、タバサはシルフィードから降りて談笑の輪に近づいていった。その手にはいつも持っている、身の丈を越える長い杖が、ない。 「貴方に」 「僕?」 声をかけたのはルイズでもギュスターヴでもなく、ギーシュだった。 「貴方に決闘を申し込む」 悠長にグラスに葡萄水をかっくらっていたギーシュは、貴族の息子らしくなく含んでいたものを盛大に噴出した。 前ページ次ページ鋼の使い魔
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前ページ次ページ風の使い魔 MUROMACHI歴155年――両親を亡くした少年は、己の命と人生を懸けるに足る力と出会った。 MUROMACHI歴157年――諸国に戦乱の兆しあり。いち早く戦の臭いを感じ取った男は、 素質ある若者達を『虹を翔る銀嶺』に招集した。時代を動かす力、最強の武術『忍空』のすべてを携えて。 彼らはそれぞれの決意を胸に、一人、また一人と時代のうねりに漕ぎだしていく。 次々と邂逅を果たす十二人の弟子達によって、次なる忍空の歴史が刻まれようとしていた。 風の使い魔 1-3 「……なるほど。そして戦後、君は師の遺した畑の面倒を見つつ、故郷で暮らしていた。 収穫したトウモロコシをかつての仲間に届ける旅の途中、現れたゲートを潜ったと、こういうわけじゃな?」 学院長、オールド・オスマンは、机を挟んで立つカエルと見紛う顔の少年に語りかけた。 少年は幼く、まだ十二かそこらであるが、彼が見た目通りの少年でないことは、部屋にいる誰もが知るところであった。 少年――風助はオスマンの問いに、照れ笑いで頷く。とても戦闘集団の一隊長として戦場を駆けたとは思えない顔である。 「ああ、道に迷って腹減らしてたから、なんか食い物ねぇかと思って覗いたら吸い込まれちまってた」 あまりに馬鹿馬鹿しい理由に一同溜息。しかし、一番溜息を吐くべき少女は、いつもの無表情で風助の横に立っていた。 それは広場での騒動の後、タバサが風助と話そうと思った矢先のこと。駆けつけたコルベールによって、 タバサと風助は半ば強制的に院長室に、当事者だと主張して、ルイズとキュルケも強引に付いてきていた。 「未だに信じられません。あれが魔法でないということよりも、君が少年兵……しかも、 一部隊の隊長として戦場に立っていたことが……」 同席したコルベールは、風助の過去を聞いて苦い顔した。オスマンもそれには頷く。 風助はとても人を殺せる、殺した経験があるとは思えなかったからだ。 キュルケは感心した様子で、ルイズは半信半疑といったところか。相変わらず、タバサの表情は読めない。 しかしほんの一瞬、タバサは表情を強張らせた。両親は戦争で死んだ――さらりと、事もなげに風助が言った瞬間だった。 タバサの心情など知る由もなく、オスマンは引き続き風助を質問責めにする。 「それを可能にしたのが、忍空という武術なのかのう……。風助君、その忍空とやらを使える人間なら、 みんなあのような竜巻が出せるのかの?」 そもそも忍空とは何か。まずはそこから説明しなければならなかった。風助は拙い表現で説明したが、要約するとこうなる。 忍空――それは忍者の『忍』、空手の『空』。スピードとパワー、両者の長点を併せ持ち、増幅・発展させた武術。 武装は基本的になく、持ってナイフといったところ。 「強力な忍空技を使えるのは、隊長クラスだけだぞ。それに、空子旋を使えんのは俺だけだ。他は炎や氷、大地みてぇに使える力が違ってんだ」 そして忍空組とは、天下分け目の大戦において数千数万を相手取り、縦横無尽の活躍を示した部隊である。 隊員は約百人程度。子~亥の十二支に対応した部隊に分けられ、それぞれの隊の頂点に立つのが『干支忍』と呼ばれる十二人の隊長。 「なんとまあ……。すると他の隊長も、それぞれ自然を操る能力を持っておるわけで。 あれほどの現象を詠唱もなしに引き起こせる。そら恐ろしいことじゃの」 干支忍は単純な戦闘力においても、並の隊員をはるかに上回っているのは勿論、子忍の風、酉忍の空といったように自然を操る能力を持っている。 それこそが、忍空が忍空たる所以である。 「風助君、あの竜巻は魔力で出したのかね? 君には魔力がないはず……となると精霊との契約なのか?」 と、これまで黙っていたコルベールが割って入った。 「せーれーってなんだ? 忍空の技は、龍さんの身体を触って使うんだぞ」 コルベールは首を傾げる。そもそも、風助は精霊の概念を理解していなかった。 「竜? ドラゴンかね?」と、言ったのはオスマン。今度は風助が首を傾げた。 「風助君、その竜について聞きたいんだが……」と、次にコルベール。 長くて、でかくて、太くて……と、とりとめのない説明に、一同首を傾げる。頭上に?をいくつも浮かべるルイズ、 妙な想像に微笑むキュルケ、やっぱり無表情のタバサ、それぞれである。 が、よくよく話を聞いてみると、どうやら自然の中に宿る力のようなものらしい。 龍の身体、突く部位によって異なる技が発現するとのこと。 「しかし、一口に竜と言っても、こちらとは造形が違うのですな。文化圏が違うようですし、東国の辺りなのでしょうか……」 しかし、風助は自分のいた国の名前も知らないらしい。場所も国名も分からないのでは、推察しようがなかった。 拙い説明で辛うじて理解できたのは、三年前MUROMACHIからEDOに年号が変わったこと。 技術レベルは比較的近くとも、文化は違うということだけ。 「ふぅむ……、自然に宿る竜、もとい龍か……」 「おそらく、精霊に近い存在と見ていいと思われます。万物に宿る意思、力の源……そういったものの力を借りて行使する点では、 先住魔法と似ていますね」 意志と魔力で法則を歪めるのでなく、自然の力を引き出す術。その点では、確かに先住魔法に近いと言えよう。 「第一に必要なのは天賦の才。素養があっても、大抵は修行により龍を感じることで初めて見られる。 そして力を借りるに至り、自在に操れる域にまで達するには更なる修行……か」 修行、修行、また修行。頂点まで登り詰めることができるのは、ほんの一握りにも満たない数名。面倒臭さ、育成の手間では魔法以上か。 やはり、それほどの使い手はごく僅からしい。 オスマンは、ほっと胸を撫で下ろした。遠い遠い他国といえど、そんな怪物が何十人もおり、量産も可能となれば、 一国どころか大陸を制することさえ容易い。あのレベルの使い手が十二人でさえ、一国には十分対抗できる可能性を有しているのだろうが。 ルイズとキュルケは、それぞれ目を丸くしていた。あの小さな身体に、どれだけの力が秘められているのか。正直疑わしかったが、 つい先刻の竜巻を見せられては信じるしかなかった。 「しかし風や大地はともかく、炎や氷はそうそう手元にあるわけでもあるまい。その辺りはどうなっとるのかね?」 オスマンがそんなことを問う理由は、系統魔法で最も破壊力が高いとされるのが火であるからだ。戦場においても活躍する系統。 火種や氷、ないしは水を常に持ち歩かないと力を発揮できないとなれば、風や大地と比べて利便性は格段に劣る。 炎と氷と聞いて、風助が思い出すのは二人。 一人は垂れ目の男。何時でも何処でも、火事の中でさえ寝ている、放浪の絵描き。 一人は長い金髪の美形。虚弱体質でしばしば貧血を起こす、突発性自殺癖持ちのピアニスト。 どちらもオスマンの想像とはほど遠いだろう。 癖は強いが実力も結束も強い。今でも親しい干支忍の内の二人、炎の辰忍『赤雷』と、氷の午忍『黄純』だった。 「よく分かんねぇけど……龍が見えなくても、どっちも空気を操って氷や炎は出せる……みてぇに赤雷と黄純が言ってたっけかな」 そう語る風助は、実に楽しそうな顔をしていた。 破壊力に優れた火が制限されるなら、個々はともかく戦においての戦闘力はそれほどでもないかと思ったが、甘かったか。 ますます隙がないと感心してしまう。 しかも、聞く限りでは四系統魔法の仕組みと共通している部分もあるかもしれない。まだまだ世界は広いと、この歳でしみじみ思う。 「じっちゃん……まだ聞くのか? さっきから説明ばっかで疲れちまったぞ」 思案に耽っていると、風助がぼやいた。じっちゃん呼ばわりは違和感があったが、不思議と悪い気はしない。 「おお、すまんがもうちょっとじゃ。さて、ここからが本題。あれだけの騒動じゃ、君ら四人が頑張った結果、死傷者が出んかったのは僥倖。 被害が樹二本で済んだのは奇跡と言うより他ない」 オスマンの視線が、風助とタバサを捉える。髭に隠れた口から出るのは、威厳と風格を併せ持った声。 風助がごくりと息を呑む音が、タバサにも聞こえた。タバサも内心では緊張している。 「しかし、風助君、ミス・タバサ。君ら二人には、なんらかの罰が必要になる」 未だにああなった経緯が理解できないルイズは傍観。キュルケもよほど重い処分でもなければ黙っておくつもりだった。 そしてタバサは、やはり沈黙。そんな中、一列に並んだ四人から一人、オスマンに進み出る者がいた。 「待ってくれ、じっちゃん! 悪ぃのは俺だ、タバサは関係ねぇ! だから、罰なら俺だけにしてくれ!」 真っ先に進み出た風助は、自分でなくタバサの罰の軽減を訴えた。 タバサ――初めて名前を呼ばれた。それだけ、自分は風助とのコミュニケーションを疎かにしていたのに。数えるほどしか会話していないのに。 「風助君、君の言い分は尤もかもしれんが、使い魔の責任は主の責任じゃ。主人と使い魔は一蓮托生。それは全うしてもらわんといかん」 「頼む、じっちゃん!」 タバサは、下げた頭をなおも低くしようとする風助を、 「別に構わない」と手で制した。 そんな主人を何故、そうまでして庇うのかは分からなかった。ただこの瞬間、初めてこの使い魔を信じてもいいと思えた。 「まあ聞きたまえ。不服を言うのは、それからでも遅くはないだろう?」 コルベールが風助を諫め、一同オスマンの裁決を待つ。 オスマンは長い髭を撫で摩り、 「そうじゃの……今後、学院内での忍空の使用は厳禁。後は……樹が二本じゃから、向こう二ヶ月の奉仕活動とでもしておくかの」 と急に気の抜けた声で言った。危うく学院を崩壊させるところだった騒動の罰としては軽いものだ。 「ほうしかつどう……ってなんだ?」 「平たく言えば、掃除を始めとする学院の雑用じゃな。内容は必要な時に沙汰しよう」 タバサは安堵よりも、その意図を疑わずにいられなかった。だが、そう思っていたのはどうやら自分だけらしい。 ルイズとキュルケは、互いに目を見合わせ苦笑。風助はいつも丸い目を、更に丸くしていた。 「そんだけでいいのか……?」 「当座はそれだけ、としておこう。手始めに、広場の樹の残骸を処分してもらおうかのう。 おお、それと図書館の司書が蔵書の整理をしたいと言うとったな。そっちはミス・タバサが得意じゃろう」 無邪気な笑顔の風助が、オスマンの座った机に飛び乗って手を握る。 「サンキュー、じっちゃん! 俺がんばるぞ!」 「ほっほっほ……これ、机に乗るでない! 隠しきれるものでもあるまい。教師連中には私から説明しておこう」 タバサの魔法としておく手もあるが、トライアングルで出せる魔法でもない。何よりも、風助が許さないだろう。 今は様子を見るべきとの判断だった。 風助の嬉しそうな顔にコルベールも、ルイズもキュルケも微笑んでいる。そんな顔を見せられてはタバサも、 疑問は一時保留しておこうという気分になってしまった。 無邪気な風助にコルベールが、 「忍空の使用を禁止されても困ることは少ないだろうが、使い魔としての役割も頑張りたまえよ。 困ったことがあれば、私もできる限り力になろう」 「ああ。それでおっちゃん、使い魔ってのはどうやったら終わりなんだ?」 その答えに、室内にいた全員が固まった。 「は……?」 「え……?」 「まさか……」 「ふむ……」 最初にコルベール。続いてルイズ、キュルケ。オスマンまでもが、意外そうに唸る。 驚きの目が集中しているのに、風助は気付かない。一人、決意も新たに拳を握って意気込んでいる。 「俺、頑張って使い魔終わらせるぞ。けど、どうすりゃいいんだ? おっちゃん」 「まさか君は知らないのか? ミス・タバサ……君も説明してないのか?」 コルベールが風助からタバサへ視線を移す。タバサはぶつかった視線を一旦は受け……やや気まずそうに外した。 しまった。 顔は平静を装っていても、彼女がそう思っているのは誰から見ても明らかだった。 使い魔は召喚された時から自分の役割を理解していると文献にはあったが、風助は何一つ理解していなかった。 だというのに、面倒だったので説明を簡潔に済ませてしまっていたのだ。 ルイズは口に手をやって驚き、キュルケは悩ましげに額に手を当てた。 きょろきょろと周囲を見回す風助にコルベールが告げる。気まずく、この上なく言い辛そうに。 「風助君……使い魔とは、メイジを一生サポートするパートナーなのだ。つまり……死ぬまで終わらない」 風助の顔が歪み、 「うぇぇええええええええ!!」 学院中に聞こえるかと思うほどの声がこだました。 そのうち帰れるだろうと楽観的に考えていただけに、風助はこれ以上ないほど仰天した。 それはもう、筆舌に尽くし難い顔芸で、驚愕を露わにしたのだった。 「君の国に帰れる方法も探しておこう。それまでは我慢してくれたまえ」 コルベールに苦笑いで送り出された風助。その横にタバサ、後ろをキュルケとルイズが歩く。 前を歩く二人は、珍しく困り顔だった。 「一生は……ちょっと困ったぞ。ばあちゃんと……お師さんの畑もあるしなぁ」 親代わりでもある隣の老婆は身体が弱く、臥せりがちである。最近は元気だし、村の人間は仲がいいので、しばらくは心配いらないだろうが。 畑も面倒を見てくれる当てはある。忍空の里の忍犬、ポチはちょくちょく里を抜け出しているので、戻らなければ面倒くらいは見てくれるだろう。 どちらも焦る必要はないと分かっていても、心配には変わりなかった。 一方、タバサは申し訳ない気持ちを抱えていた。今更になって、自分のらしくなさが悔やまれた。かと言って、掛ける言葉も見つからない。 見かねたキュルケは空気を変えようと、 「しかし、ヴァリエールはともかく、なんであなたは人間を召喚したのかしらねぇ?」 「ちょっと、ツェルプストー! わたしはともかくってどういう意味よ!!」 敢えてケンカを吹っ掛けてみる。案の定、ルイズはすぐに乗ってきた。 意図を汲み取った上で怒ってくれているのか、それとも天然なのか。多分後者だろうが、どちらにせよありがたい。 「カエルみたいな顔してるから、亜人と間違えられちゃったのかしら……なんて」 「そんなわけないでしょ!」 怒るルイズ、さらっと流すキュルケ、いつも通りのやり取り。見ていた風助も、いつの間にか笑顔になっていた。 「んじゃ、俺は広場の片付けに行ってくるぞ。俺がやったんだから、俺一人でいいや」 風助は三人と別れて外に出る。タバサは迷った末、彼の背中にたった一言問う。 「いいの?」 それは広場の片づけを一人でさせることに対してか、使い魔を続けることに対してなのか。 言ってから、また言葉が足りなかったかと不安になったが、 「まぁな。くよくよしてもしょうがねぇし。それにここはここで、いろいろ面白ぇぞ」 今度はちゃんと伝わったらしい。どちらの意味にも取れたが、きっと後者だろう。 能天気な笑顔の裏に秘められた逞しさをタバサは感じ取った。 「……わたしも次の講義は休むわ。先生には伝えておいて。治療の魔法の準備をしてもらわなきゃ」 あんなバカ犬でも使い魔は使い魔だからね、と言い残してルイズも去っていく。残されたタバサとキュルケは暫し逡巡したが、 大人しく講義に向かうことにした。 風助が迷いながらヴェストリの広場にたどり着いたのは学院長室を出てから約十分後。広場には杖を持った教師が二人と、 手作業で樹の破片を拾い集める男が二人、既に作業を始めていた。二人は貴族ではなく、いわゆる用務員。敷地の整備や雑務を担当する仕事らしい。 四人に風助も混じり、散乱した木切れを集める。突然、子供が手伝いをしたいと現れたので教師達は訝しんでいたが、 コルベールから話は聞いていたらしく、事情を話すと驚きと共に迎えられた。 作業は順調に進み、始めてから三十分後には広場は綺麗さっぱり片付けられた。へし折れた樹の幹は、 教師達が魔法で掘り起こし焼却。二人は土のメイジと火のメイジなのだそうだ。 「やっぱ魔法って凄ぇなぁ。なんでもできんだな」 風助の素直な賛辞に教師は照れ臭そうに笑い、これには他の二人も頷いていた。 作業を終えて四人と別れると、ぐぅぅと控えめに腹の虫が鳴くので、厨房に向かってみる。 この時、食後からまだ一時間も経っていないのだが、風助には関係なかった。 厨房に向かい扉を開けると、マルトーが昼食を片付けていた。その隣ではシエスタも手伝っている。 「おっちゃーん、なんか食わせてくんねぇか?」 「おお、風助坊……っておめぇまた来たのか」 振り向いたマルトーが呆れ顔で溜息を吐く。片やシエスタの表情には、感嘆と驚きと、ほんの少しの怯えが表れていた。 「あ……風助君、いらっしゃい……」 「ったくおめぇはどれだけ食うんだ……まぁ、ちょうど残りがあったところだ。食わせてやるから、座って待ってな」 「ありがとな、おっちゃん」 呆れながらも準備を始めるマルトー。手近なイスに腰掛けると、こちらを見ているシエスタの視線に気付く。 「ねぇ、風助君。さっきの竜巻って風助君がやったの……? 風助君ってメイジだったの?」 おずおずと話し掛けてくるシエスタ。流石の風助でも、声に帯びた不安の色を察した。 その対象が自分であることも。 「ああ。けど俺はメイジってのじゃねぇぞ。あれは忍空ってんだ」 「にんくう……?」 「ちょっと失敗して、あんなことになっちまったんだ。けど、もうここじゃ使わねぇから心配すんな」 「そうなんだ……」 シエスタが躊躇いがちに頷く。詳しい説明を省いたからか、シエスタの不安は完全には払拭されなかった。 だが、たとえ力を持っていたとしても、風助が弱い者を傷つけるとも思えなかった。 そこへマルトーが大きな器をドンとテーブルに置いた。入っているのは琥珀色に透き通ったスープ。 先程のシチューと違い、如何にも上品そうだ。 「ああ、シエスタから聞いてるぜ? やるじゃねぇか、ケンカの仲裁でどでかい竜巻を起こしたとかなんとか……それが魔法じゃなく忍空ってのか?」 マルトーは、竜巻の暴威を目の当たりにしたわけではないので、特に畏れもしない。 「おー、罰として奉仕活動をしなきゃなんねぇんだ」 「奉仕活動? そりゃ難儀だなぁ。こんなガキをこき使おうなんざ、まったく貴族ってのは……」 「気にしてねぇぞ。することなくて退屈してたんだ、ちょうどいいや。元いたとこじゃ畑耕してたし、ただで飯食わせてもらうのも悪ぃと思ってたしな」 子供っぽく笑う風助に、シエスタも次第に警戒心を解いていく。不思議なものだ、今日出会ったばかりだというのに。 「人の五倍は食べるもんね、風助君。また手伝ってくれると助かるな……」 スープを掻き込みながら、 「おー、なんでも言え」とスプーンを振り上げて宣言した風助だったが、不意にピタリと食事の手を止めた。不意に背後のマルトーを振り向く。 「そういや気になってたんだよな。おっちゃんは、じっちゃん達のこと嫌ぇなのか?」 「嫌ぇって言うかだな……」 マルトーは言葉に詰まった。この場合、風助の言うあいつらとはオスマン達個人の好き嫌いだからだ。 「じっちゃんも、坊主頭のおっちゃんもいい奴だったぞ。罰も軽くしてくれたしな」 貴族は嫌いだ。我が儘で横暴で、身分を鼻に掛けている連中がほとんど。それはこの学院の生徒教職員も決して例外ではない。 しかし、貴族は嫌いだが、生徒や教職員達に特別恨みがあるわけではなかった。 平民と貴族の関係ではあるが、教師とも時には関係を深め、連携を取ることはある。そうでなければ仕事も円滑にいかない。 豪勢な料理だって、栄養には十分留意している。育ち盛りの生徒の健康を管理しているのは自分だという自負があった。 何より、自分の料理を美味そうに食べる生徒達を見ると悪い気はしない。 口ではなんだかんだ言っても、学院の食を司る身としては、すくすくと育ってくれるのは感慨深いものである。 つまるところ、嫌いなのは貴族という身分であって、彼らではない。そこまで嫌いなら、どれだけ給料が良くても貴族の学院でなど働かない。 故に、改めて嫌いなのかと聞かれると――。 「コック長……口に出てますよ?」 「おっちゃんも、やっぱいい奴だなぁ」 どうやら柄にもなく考え込んでいると、口に出てしまっていたらしい。呆れ混じりの微笑むシエスタと、舌を出して笑う風助。 顔を真っ赤にしたマルトーは、 「よせやい! こっ恥ずかしいこと言わせるんじゃねぃよ、このベロ!!」 言いながら風助の後頭部にゲンコツ。思いのほか強い力に風助が、 「ん~!! 前が見えねぇぞ」 「きゃー! 風助君、顔! 顔がはまってます!!」 顔面からスープの器に突っ込む。ぴっちり顔にフィットした器は、風助が顔を上げても取れなかった。 「ふぃ~、死ぬかと思ったぞ」 「ははは、悪かったなぁ、風助坊」 ようやく器を外した風助の背中を、マルトーがバンバン叩いた。スープ塗れになった服は脱いで干し、今の風助は上半身裸。 にも拘わらず叩くものだから、背中に赤い手形が付く。 「いて! 痛ぇなぁ、おっちゃん」 マルトーをジト目で見る風助に、シエスタが尋ねる。 「そういえば風助君……さっきは名前が出なかったけど、ミス・タバサは風助君から見てどうなの?」 「タバサは……無口でよく分かんねぇけど、いい奴だぞ。飯も食わせてくれるしな」 「風助君はご飯を食べさせてくれたらいい人なの?」 「まぁな。少なくとも、俺が腹減らしてた時、飯食わせてくれたおっちゃんやおばちゃんは、みんな優しくてあったかかったぞ」 戦前、戦後と国は荒れ、民衆は貧しく、その日食べるものにさえ困窮する者もいた。 そんな時勢で、誰とも知れない子供に食べ物を恵んでくれるようなお人好しは十分信頼に値する。 いつからかそう思うようになっていた。無意識的ではあるが、それは風助の人を見分ける術の一つだった。 「いつだったか……行き倒れてた俺に飯食わせてくれたおっちゃんは、どっかおっちゃんに似てたかもしんねぇな。飯は凄ぇくそまずかったけど」 「飯のまずい野郎と俺を一緒にすんじゃねぇよ! いい度胸じゃねぇか、このベロ!」 またも風助がマルトーにヘッドロックされ、その頭を小突かれる。 「悪ぃ悪ぃ、けどおっちゃんの飯はうめぇぞ。ほんとだ」 どちらも顔は綻んでおり、それが新愛の表現であることは、傍目にも明らか。 シエスタは感心してしまった。風助は、たった数十分でマルトーの心に入り込んでしまったのだ。 「おっちゃんもシエスタもタバサも、俺にとっちゃみんないい奴だ。だから困ったことがあったら、言ってくれりゃ手伝うぞ」 それは自分も同じ。彼に抱いていた恐怖心、警戒心はものの数分で氷解していたのだから。 「うん、私はもうちょっとしたらサイトさんの看病のお手伝いに行くから、風助君手伝ってくれる?」 「その前に、こっちは薪でも割ってもらいてぇな」 「よし、そんじゃやるか」 意気込む風助は裸のまま、マルトーと厨房の扉を開いて出ていく。彼が開いた扉からは爽やかな昼下がりの風が吹き、 見送るシエスタの髪を揺らした。 時刻が夕刻に差し掛かる頃、風助はシエスタを伴ってルイズの部屋に向かう。手にはシエスタの用意した、大きな器一杯の湯。 何しろ、風助はタバサの部屋に帰る道ですら迷う始末。一人では無駄な時間を食うばかりだった。 ルイズの部屋の前まで来ると、僅かに開いたドアの隙間から光が漏れていた。二人は互いに顔を見合せて、隙間から覗きこむ。 ベッドに横たわった才人。その横に教師らしき壮年の男性が立ち、隣には両手を組み合わせるルイズ。 「何やってんだ? あれ」 「サイトさんの治療中みたいだね。ちょっと待ってよっか」 小声で会話しながら治療を見守る。やがて教師がルーンを唱えると、才人の身体を淡い光が包む。 「おお……むぐっ!」 塞がる傷に感嘆の声を上げかけた口を、シエスタの手が塞ぐ。 「風助君、静かに。お邪魔になるわ」 「すまねぇ……。しっかし凄ぇんだなぁ……」 子供のように(実際子供なのだが)目を輝かせる風助に、シエスタも微笑を漏らす。シエスタからすれば、風助も相当凄いことをしているのだが。 「あ、終わったみたい」 二言、三言ルイズと会話を交わし、教師が向かってきた。二人はたった今来たように振る舞い、一礼してすれ違う。 改めてドアを叩くと、ノックから数秒遅れて声が返る。 「誰?」 「あ、その、シエスタです。サイトさんのお湯をお持ちしました」 「開いてるわ、入って」 「失礼します」 入ると、真っ先に部屋の奥のベッドが目に入る。ベッドに横たわる才人、隣にルイズが腰掛けていた。 振り向いたルイズは、一緒に入ってきた風助を見るなり、 「何よ、あんたも来たの?」 「おー、才人はまだ寝てんのか?」 「見ての通りよ」 答えるルイズの口調はどこか棘があった。否、どこかではない。ピリピリと明らかに張り詰めた空気を、シエスタは感じた。 風助は知ってか知らずか、ベッドでいびきを掻いている才人の頬を軽く突く。「しっかし……変な顔して寝てんなぁ」 瞬間、ルイズの眉がピクリと跳ねた。同時に、シエスタの肩も寒気で跳ねた。 「ねぇ……シエスタって言ったわよね」 「は、はい!? 何かお手伝いすることはありますか!?」 「今は特にないわ。ちょっとこいつと二人にしてくれない……?」 「え……と……こいつって風助君ですか?」 この場合、才人は数に入るのだろうか。シエスタは答えに窮したが、ルイズは無言。となると、おそらくは正解。 狭い室内を支配する重圧は、更に重みを増す。 ルイズが何を言うのか、大方の察しはついていた。しかし、シエスタには何も言えない。 事実だからだ。彼女の抱く怒りも、これから風助にぶつけるであろう言葉も。 「それじゃあ、失礼します……」 一礼して去っていくシエスタを確認したルイズが、風助に顔を戻す。目を離した隙に、彼は仰向けで寝ている才人に跨って、 傷を確認しながら身体のあちこちを指圧していた。空気の読めるシエスタとは大違いだ。 「……何やってんの?」 「身体の回復力を高めるツボってのがあるんだ。ちょっとはましになるだろ」 「ふーん、それも忍空ってやつ?」 「まぁな」と言いつつ、風助は才人をひっくり返して背中も指圧する。 されるがままの才人は苦しそうに唸っているのだが、二人とも特に気に止めていない。 返答から暫くして、ぽつりと呟くようにルイズは話しだす。 「……あんたが、なんだか知らないけど凄いってのは分かるわ。 だったら、あんな大騒ぎしなくてもこの馬鹿犬を助けられたんじゃないの?」 才人を指差す。爆睡中の使い魔は二回、三回と転がされても起きる気配はまるでない。 「死にかけたのよ? そいつもギーシュも、それにあの場にいた全員も」 少しでも歯車が食い違っていたら、未曾有の大惨事になっていた。才人も、ギーシュも、タバサも引き裂かれていた。 暴風に絡め取られ、風龍の顎に噛み砕かれた広場の樹のように。 一人になって想像すると、怒りにも似た感情が湧いてきたのだ。 分かっている。止めようともしなかった観衆と、止められなかった自分の代わりに、彼は進み出た。 それを咎める資格はないのかもしれない、と。 理解していても、やり場のない気持ちは溢れてしまう。唇を噛んだルイズは黙して風助を見た。 「そうだな……すまねぇ、余計なことしちまった。俺が手出しなんかしなくても、多分才人は勝ってたと思うぞ。 ただ、放っときゃこいつは死ぬまでやりそうだったからな」 「嫌味? 別にそんなつもりで言ったんじゃないわよ」 「俺だってそんなつもりで言ったんじゃねぇぞ……っと」 才人を元の姿勢に戻した風助は、ベッドから飛び降りてドアに向かう。勝手に帰ろうとする風助を、ルイズは慌てて呼び止める。 「ちょ、ちょっとどういう意味よ!」 「俺にもよく分かんねぇぞ」 ただ、あの暴風の中でギーシュを掴んでしがみ付くのは簡単ではない。ましてや満身創痍の身体で。同じことができる人間は、そうはいないだろう。 そして何より、剣を握り締めて立ち上がった時の才人の表情が、力強い闘気が風助に確信を抱かせた。完全な直感であり、理屈は分かるわけもない。 またしても頭上に? を浮かべるルイズに、風助は笑いながら問う。 「と、そうだ。一つ聞きてぇんだけど……」 ベッドに寝た少年の傍らに座る少女。ここでも、ルイズの部屋と同様の光景があった。違うのは、 少年に外傷はなく、少女は心配などしていないという点。 「う~ん、苦しい……。まだ回ってるような……君の水魔法で助けておくれよ、モンモランシ~」 「はいはい、元はと言えばあなたのせいでしょ。付いててあげるだけでもありがたいと思いなさい」 「いや……これは僕のせいじゃなくて、あのタバサの使い魔が……」 「なんでそこでタバサの使い魔が出てくるのよ。言い訳なんて男らしくないわねっ!」 ベッドの中から助けを求めるギーシュの手をぺしっと払い、そっぽを向くモンモランシー。 浮気をされて傷ついた彼女のプライドと機嫌はまだ直っていなかった。 ギーシュが決闘で重傷と人伝に聞いたので駆けつけてみれば、なんのことはない、目を回して吐いただけだった。 今は流れで付き添っているだけ。こっちが負った傷は、かすり傷のギーシュなんかよりもはるかに深いのだ。 ギーシュは泣きながら、起こし掛けた身体を横たえた。あの場にいなかったモンモランシーには、 何度事情を話しても理解してもらえなかった。聞いてさえもらなかった。 「うぅ……どうして分かってくれないんだい、モンモランシー……」 ギーシュはわざとらしく大げさに落ち込む。意外なことに、これが効を奏した。 気障な男が自分だけに見せる情けなさ。不覚にも母性本能をくすぐられそうになる。計算ではないのだろうが、天然だとしても大したものだ。 「まぁ……私も鬼じゃないしね。いいわ、聞いてあげる。話してごらんなさいな」 「あぁ……嬉しいよ、モンモランシー! 実はね……」 今度は伸ばした手が振り払われない。 重ねた手に、きゅっと力を込める。 見つめ合う二人。近づく距離。 「えーっと……ここで合ってんのか?」 そこへ、ノックもせずに闖入者が現れた。モンモランシーは素早く手を引っ込めた。心なしか顔は赤らんでいる。 寝転んだ状態で手を伸ばしていたギーシュは、 「ぅぅぅうわぁぁあああああ!! タ、タバサの使い魔ぁぁぁぁ!!」 一瞬でベッドから跳ね起き、壁に張り付く。 「なんだ、元気そうじゃねぇか。才人があんなだかんな、おめぇは大丈夫かって心配してたぞ」 竜巻に巻き込まれた恐怖は、ギーシュの精神に半ばトラウマとして焼き付けられていた。 それこそ使い手の顔を見た瞬間に拒否反応をもよおすほどに。 が、風助はまったく気付いてない。ギーシュの言動に疑問は呈したが、彼自身に恨みがあるわけでもなく、 巻き込んだ立場なので見舞いに来ただけだった。 「ぼ、ぼ、僕になんの用だ……まさかここで決闘の続きを……」 「なにこんな子供相手に怯えてるのよ。タバサの使い魔の……あなた、何しに来たの?」 モンモランシーは、事情を知らなかった。竜巻が発生した時も広場から遠く離れていたので、大変な騒ぎがあったとしか。 「さっきはすまねぇな。それを言いに来たんだ」 「……へ?」 ぺこりと素直に頭を下げた風助に、対するギーシュは間の抜けた声。 それもそのはず。ギーシュにとって風助は、決闘に割り込んで痛いところを突いてきた奴。自分を挑発し、本気で怒らせた愚かな子供。 その程度の存在でしかなかった。竜巻を発生させ、自身を含めた三人を諸共に巻き込む瞬間までは。 「おめぇのことも気になってたから、才人の見舞のついでに部屋を聞いてきたんだ」 今では畏怖の対象ですらあったが、それが何故か謝罪している。よく分からないが、自分が優位にあると知ったギーシュは咄嗟に取り繕い、 「なんだ、そんなことか……。ま、いいだろう。子供の不始末にいつまでも腹を立てているのも大人げないからね。 見ての通り、僕はあの程度では"まったく"堪えていないよ」 「さっきまで泣きついてたくせに、何言ってんだか……」 髪を掻き上げて、精一杯の虚勢を張ってみせる。突っ込みには聞こえない振りでOK。 「おお、よかったぞ。そんじゃさっきの続きなんだけどな……」 風助の言葉に、さぁっと血の気が引く感覚。 あれから冷静に考えてみたのだ。才人を担いだ状態で一瞬にして背後に回り、竜巻の中では二人を支えていたと聞く。これは流石に分が悪い。 青ざめたギーシュは、必死で説き伏せようと試みる。 「いや待て! じゃなくて待ってくれ!! 僕はもう気にしていない。君の無礼な振舞いは水に流そうじゃないか。 僕にも、その、ほんの少しは落ち度があったわけだし……」 「才人の傷が治ったら、またケンカの続きをしてくれていいぞ。俺はじっちゃんと約束しちまったからできねぇけど、 今度は才人一人でいい勝負になるかもしんねぇからな」 「はぁ……」 怒りも水――もとい風に流されて、そもそも何故決闘をしたのかも忘れかけていたところである。 もう戦う理由もなかったギーシュであったが、屈託なく笑う風助に乗せられたのか、理由も分からず頷く。 そして呆気に取られている内に、 「じゃあなー」 風助は去っていった。台風の過ぎ去った後のように、二人は呆然と言葉もなく開け放たれたままのドアを見ていた。 前ページ次ページ風の使い魔
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前ページ次ページ赤目の使い魔 雲ひとつ無い空、まさしく晴天の天気の下で、おおよそ似つかわしくない爆発音が響く 音源は、荘厳な造りの、西洋の王城を思わせる建築物。 しかし、それは城ではなくれっきとした『学校』であった。 名を、トリステイン魔法学院。その名の通り、魔術の教育を行う場である 今も、その建物の中では授業が行われている。それも、今後の成績、学校生活、ひいては人生さえも大きく左右する内容のものが。 そこに再び響く爆発音。 生徒が一人、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの、通算12回目の「サモン・サーヴァント」失敗であった。 ● ● ● 「………ぅぅぅぅぅうううううううっ!」 もうもうと立ち込める煙の中、桃色の髪を振り乱し、童顔の美少女ルイズは、その容貌に不似合いな癇癪を起こし、人目もはばからず歯噛みし、地団太を踏む。 彼女の視線の先、いち早く煙が晴れた爆発の中心には、前後で変わらず何も無い。それは、「サモン・サーヴァント」の失敗を如実に表していた。 その様子を見て、担当教師であるジャン・コルベールはかぶりを振る。 「ミス・ヴァリエール。残念だが、今日はここまでとしよう」 口調は諭すように優しいものであったが、それを聞いたルイズはびくりと体を震わせて、必死に食い下がる。 「そんな!お、お願いですミスタ・コルベール!どうか、続けさせてください!」 その必死な様子に周りの生徒から失笑が漏れるが、気にしている余裕は無い。 ほかの生徒が皆使い魔を連れている中、たった一人でいる自分へ向けられるだろう嘲り、侮蔑を思えば、何倍もマシだった。 「時間も押している。それに、他の方達のことも考えるんだ」 彼の言うとおり、最初こそ生徒たちもルイズが失敗をするたびに、馬鹿にした笑い声を上げていたが、 五回目を超えたあたりからそれらも成りを潜め、顔に浮かんでいた嘲笑も、十回目を越える頃には単調な場景に対する辟易としたものへと変わっていた。 しかし、ルイズも引くわけにはいかない。 「お願いです……、どうか、後一回だけ…」 懇願するような彼女の様子を見て、コルベールは困ったように唸る。 彼とて、このまま彼女だけを未遂のまま終わらせるのは忍びない。 しかし、教師としての責務も軽々しく無視するわけにはいかない。 しばらく、彼は俯いて考えていたが、 「……これで最後だよ。必ず成功させなさい」 結局、天秤は生徒への情の方に傾いたらしい。 「は、はい!」 顔を輝かせて返事をするや否や、ルイズは直ぐに真剣な面持ちで魔方陣へと向き直る。 ワンチャンス。そう自分に言い聞かせ、彼女は大きく深呼吸をする。 「宇宙の果てのどこかにいる私の僕よ! 神聖で美しく、そして強力な使い魔よ! 私は心より求め、訴える! 我が導きに、応えなさい!!」 唱えるというよりは、叫ぶに近い彼女の呪文。 その後、暫しの沈黙が流れた。 成功か、とルイズは顔を輝く。 しかし、そんな彼女の目前で通産13回目にして本日最大級の爆発が起きた。 爆風を身に受けながら、ルイズは膝をついた。 自分への情けなさ、恥ずかしさ。そのすべてがこみ上げてきて、その双眸に涙が浮かぶ。 「うぅ…」 思わず両手で顔を覆う。 おそらく、あと少しもすれば周りから貶され、罵倒され、蔑まれるのだろう。彼女は身をこわばらせた。 しかし、何時まで経っても周りから言葉らしい言葉はかけられない。 ざわ、ざわ、と聞こえるのはどよめきのみ。 流石におかしい、彼女はそう思って、恐る恐る顔を上げる。 そして見た。煙の中で揺らめく、確実に先程までなかったモノの姿を。 「あっ!」 ルイズの表情が歓喜にあふれた。 さっきまで浮かんでいた絶望の色は、最早顔面のどこにも見受けられない。 視界が晴れるのに比例して、彼女の期待も右肩上がりで上昇する。 知識の象徴であるグリフォンだろうか。はたまた力溢れるドラゴンだろうか。前置きの長さの分、上昇の比率も倍加する。 そして、煙が完全に消えた先にいたのは、 「…………………人間?」 それは、うつ伏せに倒れた人間であった。 体系から見るに男だろうか。茶色でセミロングの髪を紐でくくり、貴重となる上着、ズボンはどこと無く赤黒く、襟元は真紅となっている。見る人によると中世の貴族のような印象を与えるが、そう判断できる人物は少なくとも『この場』にはいなかった。 彼らにとって一番重要だったのは、それが魔獣でもなんでもなく、ただの人間であったこと。 そして二番目に重要だったのは、その者が貴族の象徴であるマントを身につけていなかったこと。 即ち、 「平民?」 遠めに見守っていた生徒の間で聞こえたこの一言。 まるで、それが起爆剤になったかのように、彼らの間で先程までの爆発にも劣らない大きさの笑い声が起こる。 「おいおい、何かと思ったら平民かよ!」 「少し期待しちゃったじゃない!」 ……あんまりだ。 罵声を受けながら、ルイズは肩を落とした。 散々焦らしておいて、召還されたのは只の平民。これならば、延期してでも万全の調子で臨んだほうが良かった。 恨みますよ、始祖ブリミル。 「ミスタ・コルベール、儀式のやり直しを…」 「出来ない。残念だが」 最後まで言えずに否定された。 往生際が悪いと彼女自身も感じる。が、しかし、平民を使い魔にするなんてものも彼女にはありえない選択肢だ。 「お願いです!明日でも明後日でも幾らでも延期してかまいませんから!」 「伝統なんだ。ミス・ヴァリエール」 にべもなくコルベールは続ける。 「召喚された以上、平民だろうがなんだろうがあの人間には君の使い魔になってもらうしかない。これは絶対の掟だ。」 万事休す。八方塞。ルイズは方と共に頭も垂らした。 のろのろふらふらとした足取りで、魔方陣の中心へと向かう。 男は相変わらずうつ伏せのまま動いていなかった。 ルイズは溜息をつくと、男の体を揺り動かす。 「ほら、起きなさい」 それでも、男はピクリとも動かない。 しばらく手を止めなかったが、数分経ったところで我慢の限界が来た。 「いい加減に…」 しなさい、と言う言葉と共に、男の腹に手をまわして無理やり仰向けにしようとする。 しかし、 どろり。 手の広に不愉快なぬめりと暖かさを感じた。 「えっ?」 生理的な嫌悪からか、ルイズは素早く手を引っ込める。 見ると、手は袖口まで真っ赤に染まっていた。 「あ」 そこで、気付いた。 男の服の一部が切り裂かれており、服の赤黒さはそこから広がっているという事。 男の体の下から少しずつ赤い領域が広がっている事。 男が少しずつ、しかし確実に死へと向かっている事。 「あ、あ、あぁぁぁあああっ!」 取り乱したルイズを見て、コルベールが慌てて駆け寄る。 「どうした!ミス・ヴァ…!」 そして、目の前の惨状に気付いた。 驚愕して目を見開くが、年長者というだけあって状況の判断も早かった。直ぐに大声で周りの生徒に呼びかける。 「水系統のメイジを!他の者は救護室に向かえ!」 何事かと覗き込んでいた彼らも、状況に気付くと血相を変えた。ある物は魔方陣のもとに走り、またある物は校舎へと戻っていく。 「あ……あ…」 見ると、ルイズはまだ冷静を取り戻していなかった。 コルベールは落ち着かせんと彼女に駆け寄る。 「ミス・ヴァリエール、冷静になれ。出血は酷いが、まだ生きている」 彼の言うとおりその男の首筋はまだかすかに赤みが差している。 それを見て、ルイズもいくらか落ち着きを取り戻し、呼吸も落ち着いた。 そこに、 「う…ぁ………」 男の口元から、くぐもった呻き声が漏れた。 「だ、大丈夫!?」 いち早く反応したのはルイズだった。 男に顔を寄せ、大声で呼びかける。 男が顔を上げ、その目がゆっくりと開いていく。 そして、彼女と目が合った。 「…え……?」 当惑の声を発したのは、ルイズ。 男の顔は、どちらかと言えば端正なほうだ。まだ若く、青年と呼ぶのがちょうど良い。 服の調子と相まって、どこか高貴な雰囲気を感じさせる。 混乱の原因は、男の目にあった。 本来白いはずの部分は、すべてが真紅に染められており、瞳は逆に淀みのない純白。 色相を反転したような眼球の中心に、すべてを飲み込むような漆黒の瞳孔。 明らかに、異常。 しばらく視線を交わしていたが、やがて男が静かに口を開く。 そこに見えたものによって、ルイズの頭は強制的に驚愕から恐怖へと変換された。 男の歯は、その全てが鋭く研ぎ揃えられた八重歯であった。 普通ならば切歯や臼歯が存在する場所にも、等しく槍のような犬歯が生えている。 その青年がいた場所では、その外見からしばしば「吸血鬼のようだ」と言われていたが、『この場』の吸血鬼はまた違う外見をしているため、そのような言葉を発するものはいない。 しかし、それ故にその容貌は周囲の人間を理解不能な恐怖へと叩き落す。 口を開いた青年は暫しひゅうひゅうと呼吸をしていたが、 やがて、笑った。 笑うと、生えそろった八重歯がうまく噛み合わさり、その不気味さがさらに増す。 しかし、青年の顔に浮かんでいるそれは、まさしく微笑みといっていいほどに穏やか。 異常なコントラスト。周囲にいた人間はみなそう思った。 そして、青年は言葉を紡ぐ。 「やぁ…………」 あくまでも、優しく、朗らかに。 「友達に…ならないか?」 前ページ次ページ赤目の使い魔
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前ページ次ページ鮮血の使い魔 武器を失ったガンダールヴなど平民の小娘でしかない。 嗜虐の笑みを浮かべるワルドと、残りひとつとなった遍在。 一方、ウェールズとルイズはまだ杖を持っている。 先に言葉を始末し、遍在と二人がかりでルイズ達を殺すか? 雑魚を適当にあしらい、反撃する能力を持つルイズとウェールズを殺すか? ワルドの選択は、ルイズが決めさせた。 「ワルド!」 チェーンソーを破壊されたため言葉が無力化してしまったと理解しているルイズは、 言葉を守るため、注意を引くべく、ワルドに杖を向け詠唱を始めた。 失敗でも何でもいい、爆発を起こして、起死回生のチャンスを生み出さねば。 そんな動きを見せるルイズを、先に始末しようとワルドは決めた。 「エア・ハンマー!」 空気の塊を叩きつけられ、ルイズは石造りの壁に向かって吹っ飛ばされる。 壁に直撃すれば骨折程度ではすまない、打ち所が悪ければ死の可能性もある。 だからウェールズは、咄嗟にルイズに向けてレビテーションを唱え、ブレーキをかけた。 その隙に遍在がエア・ニードルを唱えながらウェールズに飛びかかる。 ウェールズはルイズの前に立ちふさがり、自らの肉体を盾として守ろうとした。 (さようなら、アンリエッタ――) 死を覚悟した男の背中を、ルイズは頼もしく思うと同時に、悲しくも思った。 自分のせいでウェールズが死ぬ。死んでしまう。 アンリエッタの大切な人を死なせてしまう。 (誰か――!!) 助けて、と思うよりも早く、彼女は来た。 エア・ハンマーで吹っ飛ばされたルイズを見て、言葉に動揺が走った。 裏切ったはずなのに、ああ、どうして自分は、こんなにも。 何とかしなければならない。しかし武器はもう無い。ガンダールヴの力は使えない。 武器を持たず飛び出しても間に合わない、ただの女子高生の力ではどうしようもない。 ウェールズが魔法をかけたのか、ルイズは壁に激突する前に止まったが、 その二人に向かって遍在が飛びかかる。エア・ニードルで杖を凶器として。 手を伸ばしても届かないと理解していながら、言葉は手を伸ばした。 何かを掴もうとして、虚空しか掴めぬ現実に打ちのめされる。 (私は、ルイズさんが殺されるのを、見ているしかできない) 絶望の中、憎しみを、悲しみが上回った。 その瞬間、床から光と共に、剣が飛び出してきた。 正確には生えたと表現すべきだろうか? 石畳を材料に剣が構築され、言葉の前に現れたのだ。 錬金? 土系統の魔法? 誰が? どこから? 何故? 世界を裏切った言葉に味方するものなど、何も無いはずだった。 しかしその女は確かに、言葉のために魔法を行使した。 教会の扉の陰から様子をうかがっていた、フードで顔を隠した女メイジ。 そのメイジの名は、土くれのフーケといった。 虚空を掴むしかなかったはずの手が、魔法で作られた剣を掴む。 左手のルーンが今までにないほど力強く光り輝いた。 感情の昂ぶりに呼応して力を発揮するガンダールヴのルーン。 今、ルーンは言葉の何の感情に呼応しているのか? 憎悪? 悲哀? 激怒? 確かなのは、ワルドへの敵意ではなく、ルイズへの情だという事。 風は烈風。すべてを切り裂く死の刃。 烈風となった言葉は、ウェールズの胸元を今にも貫こうとする遍在を一瞬にして一刀両断した。 かつて居合いを学んでいた言葉にとって、 剣という武器は日本刀ほどでないにしろずっと使いやすい獲物だった。 ノコギリやチェーンソーといった工具に頼っていた自分が馬鹿らしく思えるほどに。 そして、彼女が習得している居合いの真価は初太刀の後にある。 居合い斬り。大道芸として知られるこの技は、素早く抜刀して斬りつけるものだ。 しかし本物の居合いは違う。 抜刀をしての初太刀にすべてを込める一撃必殺の剣というのは間違いだ。 一撃で仕留められなかったら死に体という致命的な隙を作る? そんなもの剣技ではない。 居合いとは抜刀と同時に攻撃する技術であると同時に、 二の太刀、三の太刀を如何に素早く的確に放つかを追求している。 初太刀で相手を倒せなかった場合を想定せず抜刀する居合い術など存在しない。 初太刀でけん制し、二の太刀以降の攻撃で敵を仕留める事が多かったとさえ伝えられる。 刃を止めず、流れるように、様々な体勢から、様々な状況に対応し、臨機応変に敵を斬る。 それがい居合いだ。 だから、言葉は遍在を両断した直後にはもう、本物のワルドに向かって疾駆していた。 「ライトニング――!」 斜めに斬り上げる。向けられた杖を、ワルドの右腕ごと斬り落とす言葉。 悲鳴が上がるよりも早く、身を守ろうとして出された左腕を三の太刀で斬り落とす。 両腕を失ったワルドは、ようやくカエルのような悲鳴を上げてよろめいた。 そのワルドの視界の端で銀光がきらめく。 首筋に鋭い感触。 眼前で酷薄な笑みを浮かべるガンダールヴ。 「死んじゃえ」 ワルドの首筋にあてがわれた剣が、素早く引かれる。 「あ……」 呆けた声を漏らし、一拍置いてから、ワルドの首から噴水のように血が飛び散る。 白目を剥きいて糸の切れた操り人形のように崩れ落ち、鮮血の結末を迎えた。 「こ、コトノハ……」 背後からルイズの声がする。 振り向きたい思いに駆られながら、言葉は眼前の死体に手を伸ばした。 その懐からはみ出ていた手紙、かつてアンリエッタがウェールズに送り、 任務を受けたルイズが回収しにきたそれを、言葉は自らの制服のポケットにしまう。 「コトノハ、大丈夫?」 心配げな、ルイズの声。 世界を、この世界のすべてを裏切ったはずなのに、 ルイズも、そして今手に持つ剣を与えてくれた者も、言葉に手を差し伸べてくれている。 その手を握る資格など無いのに。 「さようなら、ルイズさん」 振り向かずに、別れを告げる。 「裏切ってしまった私は、もう貴女の側にいられません」 そう言って、言葉は誠の入った鞄を取りに行こうとし、教会全体が揺れた。 外が騒がしい。怒声と破壊音が響く。 「始まったか……レコン・キスタとの戦いが!」 ウェールズが言い終わると同時に、教会の天井が崩れる。 ワルドの死は悲しかったが、それよりも言葉とウェールズの無事をルイズは喜んだ。 ようやく話ができる余裕ができたと言葉に声をかけたが、返ってきたのは拒絶だった。 直後、ワルドとの戦いで気づかなかったが、 すでに始まっていたレコン・キスタとの戦いが、教会を襲った。 天井にヒビが入り、破片が落下し出す。小さな石でも、頭に当たれば大怪我をする。 そんな中を言葉はガンダールヴの脚力で椅子を飛び越えて誠の入った鞄を掴むと、 ルイズ達を振り返らず一直線に教会の戸を開け放ち走り去った。 「コトノハ!」 このまま行くつもりだ。レコン・キスタへ、クロムウェルの元へ。 アンドバリの指輪を求めて、独りで。 ルイズを裏切って。 (もう――戻ってこないつもり?) フーケと通じていた、ワルドと通じていた、という裏切りよりも。 これが言葉との別れなのかという予感が、悲しかった。 「ミス・ヴァリエール、ここは危ない」 茫然自失となったルイズの腕を掴んだウェールズは、 教会が本格的に崩れ出すよりも早く脱出する。 そこはすでに戦場となりかけていた。 言葉の姿を探したが見つけられない。 「ミス・ヴァリエール、君のために船を用意してある。 手紙は、ミス・コトノハが持っていってしまったが……君は逃げてくれ」 「ウェールズ殿下……」 「君はアンリエッタが心を許したかけがえのない友人。 僕の代わりに、彼女の支えとなっておくれ」 「……しかし、私は」 ルイズは唇を噛んだ。血がにじみ出るほどに。 任務を果たせず、ワルドは裏切った末に死に、言葉は裏切って手紙を持って逃亡した。 戦いが始まり、足手まといの自分は、やはりアルビオンから脱出するべきなのだろう。 でも。 ――裏切ってしまった私は、もう貴女の側にいられません。 あの声は、今にも泣きそうなのをこらえているように聞こえたから。 振り返らなかった言葉。どんな表情をして、どんな瞳をしていたろうか。 レコン・キスタに行って言葉はどうするのだろうか。 誠が生き返ったらどうするのだろうか。 もう帰ってこないのか。 「私の、所に、もう」 頬が濡れた。 第15話 さようなら、ルイズさん 前ページ次ページ鮮血の使い魔
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■ パートⅠ 使い魔は静かに暮らしたい ├ 使い魔は静かに暮らしたい-1 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-2 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-3 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-4 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-5 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-6 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-7 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-8 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-9 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-10 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-11 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-12 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-13 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-14 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-15 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-16 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-17 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-18 └ 使い魔は静かに暮らしたい-19 ■ パートⅡ 使い魔は今すぐ逃げ出したい ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-1 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-2 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-3 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-4 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-5 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-6 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-7 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-8 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-9 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-10 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-11 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-12 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-13 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-14 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-15 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-16 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-17 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-18 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-19 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-20 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-21 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-22 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-23 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-24 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-25 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-26 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-27 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-28 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-29 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-30 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-31 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-32 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-33 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-34 └ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-35 ■ 使い魔は今すぐ逃げ出したい外伝 『ラ・ロシェールにて』 ├ ラ・ロシェールにて-1 ├ ラ・ロシェールにて-2 ├ ラ・ロシェールにて-3 ├ ラ・ロシェールにて-4 ├ ラ・ロシェールにて-5 └ ラ・ロシェールにて-6 ■ パートⅢ 使い魔は手に入れたい ├ 使い魔は手に入れたい-1 ├ 使い魔は手に入れたい-2 ├ 使い魔は手に入れたい-3 ├ 使い魔は手に入れたい-4 ├ 使い魔は手に入れたい-5 ├ 使い魔は手に入れたい Until It Sleeps ├ 使い魔は手に入れたい-6 ├ 使い魔は手に入れたい-7 ├ 使い魔は手に入れたい-8 ├ 使い魔は手に入れたい-9 ├ 使い魔は手に入れたい-10 ├ 使い魔は手に入れたい-11 ├ 使い魔は手に入れたい-12 ├ 使い魔は手に入れたい-13 ├ 使い魔は手に入れたい-14 ├ 使い魔は手に入れたい U.N.Owen ├ 使い魔は手に入れたい-15 ├ 使い魔は手に入れたい-16 ├ 使い魔は手に入れたい-17 ├ 使い魔は手に入れたい-18 ├ 使い魔は手に入れたい-19 ├ 使い魔は手に入れたい-20 ├ 使い魔は手に入れたい-21 ├ 使い魔は手に入れたい-22 ├ 使い魔は手に入れたい-23 ├ 使い魔は手に入れたい-24 ├ 使い魔は手に入れたい-25 ├ 使い魔は手に入れたい Love ├ 使い魔は手に入れたい-26 ├ 使い魔は手に入れたい-27 ├ 使い魔は手に入れたい-28 ├ 使い魔は手に入れたい-29 ├ 使い魔は手に入れたい-30 ├ 使い魔は手に入れたい-31 ├ 使い魔は手に入れたい-32 ├ 使い魔は手に入れたい-33 ├ 使い魔は手に入れたい-34 ├ 使い魔は手に入れたい-35 ├ 使い魔は手に入れたい-36 ├ 使い魔は手に入れたい Can't Stop? ├ 使い魔は手に入れたい-37 ├ 使い魔は手に入れたい-38 ├ 使い魔は手に入れたい-39 ├ 使い魔は手に入れたい-40 ├ 使い魔は手に入れたい-41 ├ 使い魔は手に入れたい-42 ├ 使い魔は手に入れたい-43 ├ 使い魔は手に入れたい-44 ├ 使い魔は手に入れたい 21st Century Schizoid Man ├ 使い魔は手に入れたい Le Theatre du Grand Guignol ├ 使い魔は手に入れたい 21st Century Schizoid Man-2 ├ 使い魔は手に入れたい Le Theatre du Grand Guignol-2 ├ 使い魔は手に入れたい 21st Century Schizoid Man-3 ├ 使い魔は手に入れたい Le Theatre du Grand Guignol-3 ├ 使い魔は手に入れたい 21st Century Schizoid Man-4 ├ 使い魔は手に入れたい Le Theatre du Grand Guignol-4 ├ 使い魔は手に入れたい 21st Century Schizoid Man-5 ├ 使い魔は手に入れたい Le Theatre du Grand Guignol-5 ├ 使い魔は手に入れたい Sad But True ├ 使い魔は手に入れたい No Remorse ├ 使い魔は手に入れたい Dive in the sky ├ 使い魔は手に入れたい-45 ├ 使い魔は手に入れたい-46 ├ 使い魔は手に入れたい-47 ├ 使い魔は手に入れたい-48 ├ 使い魔は手に入れたい-49 ├ 使い魔は手に入れたい-50 ├ 使い魔は手に入れたい-51 ├ 使い魔は手に入れたい-52 ├ 使い魔は手に入れたい-53 └ 使い魔は手に入れたい-54 ■ パートⅣ 使い魔は穏やかに過ごしたい ├ 使い魔は穏やかに過ごしたい-1 ├ 使い魔は穏やかに過ごしたい-2 ├ 使い魔は穏やかに過ごしたい-3 ├ 使い魔は穏やかに過ごしたい-4 ├ 使い魔は穏やかに過ごしたい-5 ├ 使い魔は穏やかに過ごしたい-6 ├ 使い魔は穏やかに過ごしたい外伝『バッカスの歌』 ├ 使い魔は穏やかに過ごしたい-7 └ 使い魔は穏やかに過ごしたい-8 ■ Shine On You Crazy Diamond ├ Shine On You Crazy Diamond-1 ├ Shine On You Crazy Diamond-2 ├ Shine On You Crazy Diamond-3 ├ Shine On You Crazy Diamond-4 ├ Shine On You Crazy Diamond-5 ├ Shine On You Crazy Diamond-6 ├ Shine On You Crazy Diamond-7 ├ Shine On You Crazy Diamond-8 ├ Shine On You Crazy Diamond-9 ├ Shine On You Crazy Diamond-10 ├ Shine On You Crazy Diamond-11 ├ Shine On You Crazy Diamond-12 ├ Shine On You Crazy Diamond-13 ├ Shine On You Crazy Diamond-14 └ Shine On You Crazy Diamond-15
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「では授業を始める。知ってのとおり、私の二つ名は『疾風』。疾風のギトーだ」 その教師はそう自己紹介をした。 教室中が静かになる。どうにも慕われているというより、嫌われているので目を付けられたくないかららしい。 だがおれにはそんな事関係ない。 おれが考えているのはただ一つ。あの教師の長い黒髪を思いっきりむしりたい。コレだけだ。 前にやったときは頭に飛びついた時点で反撃を受けたからな。 今度は慎重にやる必要がある。我慢だ、おれ。 そんな風に自分を抑えていると、キュルケが立ち上がってギトーに向かって炎の玉を作り出し、打ち込んだ。 俺の獲物に手を出すな! と言いそうになったがその前にギトーが風を起こし、炎の玉を掻き消し、キュルケを吹っ飛ばした。 おいおい大丈夫か?キュルケのヤツ。 それはそうとヤツの武器は風らしい、 風はすべてを吹き飛ばすとか言ってるがそんなのは相性によっていくらでも覆される。 だがおれのザ・フールでは相性が悪いだろう。 この前気づいた事だがスタンドと魔法は相互干渉するらしい、 だから風で吹き飛ばされれば固めてる状態ならともかく砂の状態で操れなくなってしまうだろう。 やはり死角から飛びついて杖をなんとかしてからだろうか。 「もう一つ、風が最強たる所以は…」 お、また一つ手の内を明かしてくれるらしい。風が強くてもコイツはバカだな。 ギトーが詠唱を始め、呪文を唱える。 そしてギトーは分身した。 「うわ、スゲー何アレ?」 おれがつい声をあげると、ルイズに睨まれた。黙ってろって?分かったよ。 ギトーが分身の説明をしようとするが出来なかった。 変な格好の教師が入ってきたからだ。 頭にある金髪ロールの髪、それを見ておれは理性を失った。 「うおりゃああぁぁぁ!」 飛びついてむしる。だが失敗した。頭に飛びついた瞬間その髪がズレたのだ。 新手のスタンド使いか!? そう思ったが違うらしい。ただのカツラだ。 「チクショーーーーー!」 騙された恨みを晴らすべくそのカツラをズタズタに引き裂く。 「あぁ~それ高かったのに~」 情けない中年の声なんか気にしない。 みんなは真似しちゃDANEDAZE♪ ってあれ?教室中が静かだぞ?何で? おれはこの重い沈黙を破る方法を探した。だがおれにはどうしようもない。誰かなんとかしてくれ。 そして動いたのはタバサだった。そのカツラ野郎の頭を指差して 「滑りやすい」 途端に大爆笑が起きる。ナイスフォローだタバサ。 よく見るとカツラ野郎はコルベールだった。髪だけ見てたから気づかなかったが服も変な物を着ている。 具体的に言うとレースの飾りやら刺繍とか、絶対変だ。 「いいセンスだ…」 おいギーシュ、本気で言ってるのか? 「それで?何の用ですかな?ミスタ・コルベール」 「ああ、そうだった。今日の授業はすべて中止です」 歓声があがった。どこの学校でも授業というのは潰れて欲しいものらしい。 「中止の理由は何ですかな?」 ギトーが不機嫌そうに尋ねる。自分の見せ場を潰されたんだし当然だろう。 「本日がトリステイン魔法学院にとって良い日になるからです。何と…」 そこでもったいぶって言葉を切る。 なかなか続きを言わないので煽ってみる。 「早く言えよハゲー」 あ、ヤベ、睨まれた。 「恐れ多くも、アンリエッタ姫殿下がこの魔法学院に行幸なされるのです」 その言葉で教室がざわつく。それに負けないような声でハゲ…じゃなかったコルベールは続ける。 「したがって、粗相があってはいけません。今から歓迎式典の準備を行うので今日の授業は中止」 なるほど、そういうことか。 「生徒諸君は正装し、門に整列する事」 そう言い残してハゲベールは出て行った。 アレ?名前これでいいんだっけ? ルイズにこれから来る姫殿下の事を聞いてみた。必要な事をまとめるとこんな感じだ。 まず名前はアンリエッタと言い、他に兄弟はいないらしい。以上。 名前と他の兄弟の事。大事なのはこれだけだ。 何故かというと他に兄弟がいない、 それはつまりいつかは『王』になると言う事だ。 ここがおれとアンリエッタの共通点。 コイツをどう叩きのめすかが問題になってくる。 そんなワケで敵情視察だ、とは言っても正門にルイズと一緒に並んでみるだけなんだが。 お、馬車から降りてきた。 外見はかなり美人。よし、あれも部下にしよう。 馬車を引いてるのはユニコーンだな。あいつらから聞き込みが出来ないだろうか。 周りの警備は…四方を囲んでいる奴らがいる。けっこう強そうだがおれの敵じゃあないな。 よし、情報集めはこれでいいだろう。 戦闘面ならともかく、今回のような事ではは見るだけで得られる情報は少ないからな。 そう思ったおれは周りの連中の反応を見ることにした。 「あれが王女?ふん、勝ったわね」 胸の事か?おれもそう思うぞキュルケ。 「……」 お前はいつも通りだな、タバサ。 ルイズは…驚いてる?何を見てるんだ? おれはルイズの見ている方向を見る。 おっさんがいた。あいつは誰だろう? その夜。おれがどうやってアイツを蹴落とし、地位を手に入れるかを考えているとドアがノックされた。 初めに長く二回、それから短く三回。 それを聞いたルイズは 「このノックは!?」 ノックだよ。聞けば分かるだろ? 「合言葉を言わなくちゃ」 合言葉?ああそういう合図なのか。 「ノックされてもしも~し」 「ハッピー、うれピー、よろピくねー」 よく分からない合言葉の後、ルイズがドアを開けた。 入ってきたのはアンリエッタだった。 こんな所に王女が来るのは不思議だったが どうにもルイズとアンリエッタは昔馴染みらしい。 さっきから抱き合ったりしている。 そしてふと悲しそうな顔になったが、少しルイズと会話して何かを決意したらしく、何かを話し始めた。 「わたくしは同盟を結ぶためにゲルマニアの皇帝に嫁ぐ事になったのですが…… 礼儀知らずのアルビオンの貴族たちはこの同盟を望んではいません。 二本の矢も束ねずに一本ずつなら楽に折れますからね。 したがって、わたくしの婚姻を妨げるための材料を血眼になって探しています。 もし、そのような物が見つかったら…」 「姫様、あるのですか?」 「……はい、わたくしが以前したためた一通の手紙なのです。それがアルビオンの貴族達の手に渡ったら… 彼らはすぐにゲルマニアの皇帝にそれを届けるでしょう」 「どんな内容の手紙なんですか?」 「それは言えません。でも、それを読んだら、ゲルマニアの皇帝はこのわたくしを許さないでしょう。 婚姻はつぶれ、トリステインとの同盟は反故。となると、トリステインは一国にてあの強力なアルビオンに立ち向かわ ねばならないでしょうね」 「その手紙はどこにあるのですか?」 「手元にはないのです。実はアルビオンに…」 「アルビオンですって!ではすでに敵の手中に?」 「反乱勢ではなく反乱勢と戦っている、王家のウェールズ皇太子が…」 「ウェールズ皇太子が?ではわたしに頼みたい事とは…」 「無理よルイズ。アルビオンに赴くなんて危険な事、出来るわけないでしょう」 「姫様の御為とあらば、何処へでも向かいますわ!このルイズ、姫様の危機を見過ごすわけにはまいりません!」 ルイズがこっちを向いた。 「行くわよ!イギー!」 「え?どこへ?」 つい反射的に答えてしまう。 「話聞いてた?」 「翠星石は俺の嫁、までなら」 ルイズに蹴られそうになったが、そうはならなかった。 ドアから新たな人間が入って来たからだ。 「姫殿下の話を聞かないとは何事かー!」 ギーシュだ。 おれはすぐにデルフリンガーを抜く、するとルーンが光り体中に力がみなぎる。これがガンダールヴの力らしい。 ギーシュから三メイルほどの所で地面を蹴って飛び上がり、頬を蹴り込む。 「必殺!デルフリンガーキック!」 「おれ関係ねー!」 デルフの残念そうな声を聞きながらギーシュが倒れるのを見届ける。 だがギーシュは立ち上がってきた。もいっぱつ蹴ろうかと思ったがルイズの声が先だった。 「ギーシュ!今の話を立ち聞きしてたの?」 ギーシュはそれを無視してアンリエッタに話しかける。 「バラの様に見目麗しい姫様のあとをつけてみたらこんな所へ…そして様子を伺えば何やら大変な事になっているよう で…」 そういって薔薇を振り、ポーズをとりながら次の言葉を言った。 「その任務!このギーシュ・ド・グラモンに仰せつけますよう」 図々しいヤツだ。 「グラモン?あの、グラモン元帥の?」 「息子でございます。姫殿下」 「あなたも、わたくしの力になってくれるというの?」 「任務の一員に加えてくれるのならこれはもう望外の幸せにございます」 どうやらギーシュも参加するらしい。 おれも乗り気になっていた。 その手紙をおれが回収すれば何らかの切り札になるかもしれないしな。 To Be Continued…
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次の日の朝 銀時は雑用を終えて、部屋でゴロゴロ二度寝していた。 「ギントキ、街にいくわよ」 突然入ってきたルイズは言った。 「は、何で?」 眠ったままの体勢で銀時は心底めんどくさそうに言った。 「剣を買いにいくのよ、その木刀だけじゃあ私の事護れないじゃない」 「別に『洞爺湖』だけでも十分だろう、休みの日ぐらい休ませろよ」 「いいから仕度する!!」 ルイズの金切り声に銀時はむっくり起き上がる。 「へいへい、まあくれるつうならもらうけどよ・・」 「タバサ。今から出掛けるわよ! 早く支度しちゃって頂戴!」 「虚無の曜日」 キュルケは朝起きた後、再び銀時にアプローチしようとルイズの部屋に行ったがもぬけのからだった。 昨日、銀時に冷たくあしらわれたせいで、キュルケの情熱の炎はさらに勢いを増したらしい。 今までの男達はキュルケに無条件にチヤホヤし、夢中になっていった。 キュルケ自身もそれが当たり前だと思っていたが、銀時は違った。 ―私今まで子供だったのね、男はやっぱりああいう大人の魅力をもってなきゃあ。 銀時の出すダルさを大人の魅力だと解釈したらしい。 ずいぶん過大評価されたものである。 銀時とルイズが馬で出て行くところを見たキュルケはすぐさまタバサ部屋に行き 今に至るというわけである。 キュルケの友人であるタバサはいかにもめんどくさそうに答えた。 しかしキュルケはそんな友人の読んでいる本を取り上げ、掲げた。 「わかってる。あなたにとってこの日がどんな日かあたしは痛いほどよく知ってるわよ。 でも、今はね、そんなこと言ってられないの。恋なのよ、恋!」 タバサは首を振るだけである。 「あぁもう! 恋したのあたし! ほら使い魔のサカタギントキ、それであの人があのにっくいヴァリエールと出掛けたの! だからあたしはそれを追って突き止めなきゃいけないの! わかった?」 タバサは坂田銀時という言葉に少し反応を示した。 「わかった」 「あら、貴方にしてはずいぶん物分りがいいのね、とにかく馬に乗って出かけたのよ。 貴方の使い魔じゃなきゃあ追いつかないのよ!助けて」 タバサは何もいわずに準備を始めた。 「ありがとう! じゃ、追いかけてくれるのね!」 友人のキュルケの頼みというのもあるが、タバサ自身坂田銀時に興味を持っているからだった。 その後2人は、タバサの使い魔、風竜、シルフィードでルイズ達を追った。 「腰が痛てえ・・」 「情けないわね、これだから平民は」 「仕方ねえだろ、久しぶりなんだから」 ルイズにつれられて馬に乗った銀時だったが、攘夷戦争時代は良く乗ったが 最近はもっぱら源付のため腰を痛めていた。 トリステインの街並みを見渡す。 銀時は前にやったヴァーチャルリアルティーのRPGを思い出した。 街はそのときの街にそっくりである。 ただ違いがあるとすればここは間違いなく現実(リアル)であるということだ。 銀時はキョロキョロ何かを探すように街を見る。 「何やってるの、あまりキョロキョロしない、田舎者みたいで恥ずかしいわ」 「長老とかはいねえのか、いたら武器にしようと思って」 「は?あんた何言ってるの?」 相変わらずこの男のいってることは分からないと思った。 「狭めえ」 銀時は大通り歩きながらいった。 かぶき町の大通りはこれの5倍ぐらいあった。 主に通るのが人だからだろうか。 「この先にはトリステインの宮殿があるの」 「へ~、宮殿に行けば魔王を倒すイベントでも起こるのか」 「わけわかんない、女王陛下に拝謁してどうするのよ」 「いたいけな使い魔がご主人様からドメステックバイオレンスの被害を受けていることを訴えるな」 「ドメ?意味わかんないけどなんかむかつくわね、それより財布は大丈夫」 「ああ、ここに、あり?」 銀時は懐を探るが財布の感触が無い。 「まさか、すられたの」 良く見るとルイズ達から逃げるように去っていく男がいた。 「俺の財布!!」 ルイズの財布だけなら銀時は怒らなかっただろう、ただ銀時の数少ない私物である財布も一緒に すられたのだ。 厨房の手伝いをすることで小遣い程度の銅貨が入っている。 一旦そうと決めたら銀時の決断は早かった。 ちょうど目の前に止まっていた馬車に乗り込み走らせる。 「ああ、馬車どろぼう!!」 馬車の本来の持ち主が後から叫んだが銀時はこれを無視した。 ルイズはただ呆然としていた。 一時間後 ガド!! 衛士の詰め所の壁を蹴り飛ばす銀時の姿があった。 「たく、なんでスリ捕まえたのに説教されなきゃならないんだ!!この腐れ衛士」 横にいるルイズは怒りで震えている。 「あんたね!!私が貴族じゃなかったら説教どころじゃすまなかったのよ」 結局銀時は馬車を街中で暴走させた挙句、捕まえたスリを半殺しにしたのだ。 衛士たちが駆けつけ、捕まったのは銀時の方だった。 ルイズのとりなしで何とか逮捕は免れた。 「スリが出るのはてめえらの職務怠慢だろうが、この税金泥棒。 ああ、むかつく、ションベンかけていこう」 銀時はチャックを開けてションベンを詰め所にかけようとする。 「きゃあぁぁ!?ちょっと何出してんのよ」 ルイズは顔を真っ赤にして目を手でふさいだ。 「何って?ナニですけど」 「そういうこと聞いてじゃないわよ、ホント最低!!」 しばらく2人で歩いていると隣にいたはずのルイズが消えた。 「あれ?まいったな、あいつ迷子か」 自分が迷子になったという発想は銀時にはなかった。 「あら、こんなところにいたのね、ギントキ」 突然不意に呼ばれて振り返る銀時。 そこには赤と青の髪を持つ少女がいた。 ―これで金髪がいりゃあ信号みてえだな。 どうでもいい事を考える銀時。 「ああ、たしかキョンと谷口」 銀時、その間違え方はいろいろやばいから。 「キュルケよ」 「タバサ・・(怒)」 2回も間違えられ心なしか怒っているタバサだった。 タしか合ってないし。 「そういえば、タバサのことは知ってるの」 「ああ、前ちょっとな、って言うかこんなところまで何の用だ」 「もちろんダーリンに会いに来たのよ」 「おれは鬼ごっこで宇宙人に勝って地球を救った男じゃねーぞ」 「・・・よくわかんないけど、おごるわよ、ダーリン」 その言葉に銀時はビクンとする。 「それはパフェ的なものでもいいのか・・」 「ええ、何でも」 「そうか、そいつは良い、ぜひ行こう、早速行こう」 逆に銀時の方がキュルケのほうを引っ張るようにメシ屋に入っていった。 「・・・うん・・うめえ・・あ、お姉ちゃんパフェおかわり・・」 銀時に呼ばれたウェイトレスはこいつまだ食うのかよという顔で注文を受ける。 ちなみにこれでパフェ10杯分だ。 「ダーリンが甘党なんて知らなかったわ、でもそこが可愛い」 恋は盲目とはこのことである。 ―でもこれはチャンスよ、これでダーリンをうまく餌付けして、そこから・・ キュルケがあらぬ妄想に入ってたが急に袖を引っ張られたのに気づいた。 「何、今ちょっと大事なことを考えてるのよ」 タバサは目をむかいのほうに向ける。 向かい合っていたはずの銀時がいないのだ。 「え~!!ちょっとダーリンは・・」 「帰った」 パフェを15杯食ったところで銀時は満足して『ごっそさん』とだけいってそのまま店から出てしまった。 タバサはこれには呆れたが止めるまもなく行ってしまったのだ。 「あ~、うまかった、満足、満足」 どこにあったのか爪楊枝で歯をシーハーさせながら歩く銀時。 「あー!!ギントキ、勝手にどこ言ってたのよ」 銀時ははぐれていたルイズに見つかった。 「あれ、ルイズ、おめえ迷子だったじゃあ」 「迷子なのはあんたのほうでしょう」 「俺は迷子じゃねえ、人生という道には迷ってるけどな」 「全然うまくないわよぉぉ!!いいから行くわよ」 ルイズにつれられて銀時が来た所は街の裏通りだった。 日も当たらず不衛生なそこに銀時はかぶき町の裏通りを思い出した。 「ビエモンの秘薬屋の近くだったから、この辺なんだけど・・」 ルイズはキョロキョロ探す。 「あ、あった」 目的の武器屋を見つけたルイズはそこの扉を開けた。 武器や入るとしょぼくれた感じの店主がパイプを吸っていたがルイズを見ると あわてて猫なで声で対応した。 「旦那、貴族の旦那、うちは全うな商売してまさぁ、お上に目をつけられることなんか、 これっぽっちもありません」 そう言ってる時点で全うな商売はしていないといってるも同然なのだ。 銀時は大都市江戸一番の繁華街かぶき町で商売をしている。 もちろんそこでやっている商売は全うな物ではないものがたくさんある。 おかげで銀時の嗅覚は鋭くなっている。 実際こんなところで武器屋を開いている時点で胡散臭い。 ―うさんくせぇ、雑誌の裏にある『私はこれで幸せになりました』ってかんじで札束の風呂に入っている 広告よりうさんくせぇ。 そんなことは知らないルイズは店主に適当に見繕うように言っている。 銀時はとりあえず剣を見たがどれも使えないナマクラばかりだった。 腐っても侍の銀時である。 日本刀と西洋剣の違いはあれ刀を見る目ぐらいはある。 店主はルイズにレイピアを見せ高く売りつけようとしていたが奥から ガツーン、ガツーンと音がしているのに気づいてそっちを見ると なんと銀時が剣を片っ端から机や壁に切りつけ何本かの剣は折れている。 「ちょっとぉぉぉ!!あんた何してんのぉぉぉ!!」 店主は絶叫した。 「試し切りだけど・・」 「試し切りって・・・」 店主は折れた剣を見て呆然としている。 「それよりどれもナマクラじゃねえか、まともな剣はねえのかよ」 銀時のただならぬ雰囲気に気づいた店主はそのまま奥から剣をとってくる。 「これなんかいかがですか」 店主が持ってきたのは1.5メイルほどある立派な剣だった。 「これいいわねえ」 ルイズはこの剣が気に入ったようである。 店一番の業物といわれたのが良かったようである。 しかし、銀時はやたら派手派手しい外見とその大きさに実用性のなさを感じた。 「つーか、これ駄目だろう、高そうだしでけえし・・・」 「良いの、これにするの」 ルイズは逆にむきになっている。 「使うのは俺だぞ」 「うるさいわね、おいくら?」 店主はもったいぶって散々この剣がいかに立派か語った後、 「エキュー金貨で2千、新金貨で3千」 「立派な家と森付きの庭が買えるじゃない」 ルイズは目を丸くする。 「新金貨百しかもってないわ」 「馬鹿、言うなよ」 銀時は小声でいった。 ここは強引に値切るところである。 それゆえに相手に弱みを見せてはいけない。 ―こいつ一人で買い物したことないな。 この世界の貨幣価値は分からないがルイズのたとえから相当高いのが分かる。 銀時の世界の刀も高いがそこまでではない。 ふと銀時は腰にぶら下がっている『洞爺湖』を目にやった。 『洞爺湖』は通販で売られている消費税込みで11760円の代物であり 恐らくこの世界の金貨一枚分もしないであろう物だがそれでも 銀時にとってはたいそうな買い物である。 銀時は『洞爺湖』をみてニヤリと笑った。 「へ~、そんなに高いなら相当頑丈なんだろうな、この木刀で試し切りしてもいい」 「へい、かまいませんが・・」 ―何いってるんだ、この男、木刀が剣に勝てるわけないだろう。 この時店主はたかをくくっていた。 『洞爺湖』を台で固定し銀時は思いっきり剣を振る。 折れたのはその大剣のほうだった。 「あーーー!!!」 店主は信じられないものを見るようね目で絶叫した。 「何これ、鉄も切れるんじゃなかったの、銀ちゃんだまされたよ、非常に傷ついたよ 精神的慰謝料請求したろか、こら」 「い・・いいがかりだ!!被害者はむしろあっしのほうだ!!」 店主はほぼ逆切れしている。 「ぶひゃひゃひゃひゃ!!今までいろんな客見てきたけどおめえみてえに面白い客ははじめてだ」 急に店の奥から声が聞こえた。 「何だ?」 店主はそれを聞いて頭を抱えている。 「おいここだよ、ここ」 なんと声の主は一本の剣だった。 「げ、剣がしゃべってやがる、気持ちワル!!」 「初対面にむかって気持ちワルはねえだろうがぁぁぁ!!てめえも死んだ魚みたいな目で 気持ち悪いんだよ」 「うっさい!!天パー」 「天パーはてめえだろうがぁぁぁ!!」 「いや精神的にモジャモジャしてるっていうか」 「わけわかんねえぇぇよ!!なんなんだこいつ」 銀時と剣とやり取りに呆然としているルイズと店主。 「それってインテリジェンスソード」 剣の名前はデルフリンガーという意思を持つ魔剣らしい。 「それよりおめえなかなか剣を見る目があるな、その上『使い手』か、 こいつは良い、俺を買いやがれ」 「おめえさびしがり屋ですか、大丈夫だよ、おめーなら一人でもやっていけるさ」 「てめえに俺の何が分かるっていうんだよ!!馬鹿かてめえは」 「馬鹿って言うほうが馬鹿なんです~」 「ガキか!!てめえは!!」 銀時のデルフリンガーの言い争い最早わけのわからなくなってきていた。 しかし、今まで見ていた店主はついに切れた。 「出てってくれー!!その剣やるから出てってくれー!!」 銀時達はデルフリンガーもったまま追い出された。 「これでおめえとは相棒だ、よろしくな」 「別にいいんだけどな、っていうかあの店主から慰謝料請求できなかったじゃねえか」 「おめえはどこまで強欲なんだ」 街を銀時はデルフをもったまま歩く。 「何、おめえはしゃべれるんなら何か必殺技とか使えるんだろうな」 「何だ、必殺技って・・」 「卍○とかだよ」 「何だよ、○解って・・」 「できねえのかよ、ちっ、使えねえな」 「ものすごく理不尽な理由で俺見下されてねえか」 「おめえの名前はマダケンだな」 「なんだよ、マダケンって」 「まるでだめな剣の略だ」 「ふざけんなー!!俺にはデルフリンガーっていう立派な名前があるんだよ」 「うっさい!!マダケン」 「ちょっと私をさっきから無視するんじゃないわよー!!」 ルイズの声が街中に響いた。
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Michaela みひゃえら 芸術家の魔女の手下。その役割は作品。 魔女によって命を奪われた人間は その体の一部分を盗まれ、この中に組み込まれてしまう。 概要 芸術家の魔女・Isabelの使い魔。 鉛筆のクロッキー画のような姿をしているが、顔はでたらめな線で描写されている。 戦闘時はゾンビのような動きで襲いかかる。 第10話で登場し、1周目の鹿目まどか・巴マミと戦闘。マミのリボンに拘束され、まどかの矢で一掃される。 出自が魔女に襲われた人間であることが明かされている数少ない例である。 魔女Isabelの作品は「どこかで見たようなものばかり」だということだが、使い魔すらどこかから「盗ま」なければ創り出せないということなのだろうか。 魔法少女まどか☆マギカポータブルにも登場。 通常の人型の他にムンクの叫びをモチーフにした個体が存在し、人型は相手のHPを吸収し、ムンクの叫びは遠距離から相手にダメージだけでなく幻覚にさせる雄叫びを発する。 ポータブルでのドロップアイテム アニメ版にも登場した代表作はVIT強化ポイントを、意欲作は万能薬をドロップする。 名前 コメント