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「サイト! 助けて!」 ルイズは絶叫した。 呪文が完成し、ワルドがルイズに向かって杖を振り下ろそうとした瞬間……。 礼拝堂の壁が轟音と共に崩れ、外から烈風が飛び込んできた。 「貴様……」 ワルドが呟く。 壁をぶち破り、間一髪飛び込んできた才人らしき人物が、ワルドの杖をはっしとデルフリンガーでうけとめていた。 そしてルイズを横抱きに抱えて、ワルドから距離をとる。 なぜ「らしき人物」かというと、飛び込んできた人物は覆面のようなもので顔の下半分を覆っていたからだ。 「大丈夫かっ!?」 「サ……サイト……助けに来てくれたんだ……」 「ルイズの使い魔め! 邪魔だてするか! この変態めが!」 ワルドは絶叫する。 まあ、無理もあるまい。 そのサイトらしき人物は上半身はランニングシャツ、下半身はトランクス一丁という、有り体に言って下着姿だったのだから。 「ちっ…違う! そ、それがしは才人でも才人に憑いている物でもないっ!! 全くの別人だッ!!」 「どっから見てもサイトそのものじゃないのよっ!!」 「いやっ違うっ!! とてもよく似ているが違うのだあっ!!」 才人(仮)は冷や汗を流しながら叫ぶ。 「それがしは……それがしは……ルイズの使い魔そっくりの人間が大勢住むツカイマ星からやってきた宇宙人、 ツカイマンだああっ!!」 無論神族の一員である韋駄天ツカイマンにワルドごときが敵う筈もなく、ワルドは捕らえられた。 クロムウェルもシェフィールドもフーケも捕まった。 彼らの証言でガリアの「無能王」ジョゼフが裏で糸を引いていることがわかり、アルビオン王党派・トリスティン・ゲルマニアの連合軍がガリアに攻め入り、ジョゼフを討とうとしたが、ジョゼフは「逃げるんだよォォォォォォ!」と叫びつつ走り去っていった。 そしてジョゼフの行方は杳としてわからないという。 いろいろあったけど、ハルケギニアはおおむね平和だった。 完。 -「GS美神極楽大作戦!」から韋駄天八兵衛を召喚
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前ページ次ページ鋼の使い魔 せっかくの虚無の曜日が暮れてとっぷり。 トリステイン魔法学院内にある大会議室はオールド・オスマンを首座に座らせて教師という教師が集まり、非常に重たい空気を作っていた。 陽も落ちかけた頃に突如として現れたゴーレムが宝物庫を破壊し、収蔵されていた無二のマジックアイテム『破壊の杖』が 盗賊『土くれのフーケ』によって盗み出されてしまった。 その慎重にして大胆な犯行に学院の管理者たる教師たち一同は責任の所在と今後の対策について、 議論とは名ばかりの自己保身や責難に明け暮れた。 「当直のものは何をしていたのだ!」 「衛兵など当てにならぬ!今後はこのようなことが無いよう国軍に警護をまかせるべきではないか」 「当直を行っていなかったミセス・シュヴルーズには損失の弁償を…」 「そんな!私だけじゃなく他の方々も満足に当直なんてなさっていなかったでしょう!」 「国軍を安易に学院内に留まらせるのは学院の自主性の放棄じゃないか?!」 まさに議会踊って進まず。このような状態が3時間は続いていた。 好々爺の姿勢を崩さずそのやり取りを見守っていたオールド・オスマンであったが、さしもの業を煮やし取り乱す教師たちを一喝する。 「静まらぬか。皆の者」 半ば立ち上がりながらも喧々と口角泡を吹いて立ち回っていた教師達は、齢300とも称されるこの老メイジの放った覇気に当てられて 喉を詰まらせた。 「ここにおるほぼ全員が学院に賊が入り込むとは考えていなかった。無論、宝物庫の壁には強固に固定化を仕込んでおったが、所詮人の技。 事実盗賊めにまんまと破られて『破壊の杖』を持っていかれた。 詰まる所、今回の責任は学院の管理者たる我々全員にあると、わしは思うが如何かねミスタ・ギトー」 「お、おっしゃるとおりに……」 一際激しく責任者を探すべくなじっていたギトーは名指しされて鼻白んだ。 オスマンは咳払い一つ、いくつか空いた席が置かれて座っているコルベールに聞く。 「で、賊を直接目撃したものはおるのかね」 「はい。こちらに集まってもらってます」 コルベールは平素と変わらぬ態度で――ただし、その顔は幾分か険しい――会議室の隣に繋がるドアを叩き、中の者を呼び寄せた。 開けられたドアから入ってくるルイズ、ギュス、キュルケ、タバサ。 本来はギーシュも広場に居たため目撃していたはずなのだが、ゴーレム倒壊による負傷のため現在は医療室へ運ばれている。 ただし、勤務医の報告によると、ギーシュ・ド・グラモンは土砂崩落に巻き込まれた負傷に付随して、一種の欠乏症からくる 健康障害も患っていたことをここに記しておく。 閑話休題。オスマンは立ち並ぶ四人に対して暖かい目で迎えた。 「ふむ。詳しく話してくれるかの?」 一礼して一歩進み出るルイズ。他方ギュスターヴにも教師達の視線が集まってくるが、それは学院の会議室という厳かな場所に許可を与えたとはいえ平民が入り込んできている、という事への不快さを露にしたものだった。 「私はあの時、広場で魔法の練習をしていました。偶然広場に居たギーシュが塔の上に人影が見えたと言って、その後地鳴りが起こって 壁の向こうから大きな土のゴーレムが入ってきました。私はそれを撃退できないものかと遠くから魔法を打ちましたが、何度目かに命中して ゴーレムが崩れました。落ちてくる土から逃げる為に建物の中に一度はいり、土煙が収まってから外に出た時には、土の山だけで 賊が居なくなっていました」 「賊の特徴は覚えておるかの」 「黒いローブを身に着けていましたが、顔はおろか男か女かも分かりません……」 杖を振って賊を追い払うことに夢中で賊の顔形が頭から無かった事を心深くからわびるルイズに、あくまでも教師として 優しさと厳かさの混じった声で語りかけるオスマン。 「よいよい。生徒でありながら勇敢に杖振るったことを褒めてやろう。しかし一歩間違えば命の危険もあったのじゃ。そのことを忘れぬように」 はい、とルイズ。オスマンは教師達へ向きなおし、彼らに問う。 「さて。手がかりらしいものが何も残されておらぬ。どうするべきかのぅ」 「王宮に報告するべきではないでしょうか」 当直であったために最も非難を浴びていたミセス・シュヴルーズが積極的に手を上げる。 「ならぬ。先ほど言ったように今回の責任は我々全員にあるのじゃ。この件で王宮の官吏どもから非難と処罰があれば、我々は 責任を取らされて職を辞し、学院の管理運営は最悪アカデミーの傘下に吸収される、という事もありうるじゃろう。 そのような事があってはならぬ。ゆえに我々だけでフーケを捕縛、ないし『破壊の杖』を奪還せねばならぬのじゃ」 アカデミーとは学院と同じく国が置いた王立の機関の一つであるが、その目的は学術的な意味での魔法に関する研究である。 ただし学院とは違い、積極的な宮廷や地方貴族らからの寄付や義捐などを募り、内部の党派閥の激しい機関であることが知られている。 そのような連中に次代の貴族を育てる学院の運営を任せられない、ましてや不祥事をきっかけにしてなど。 オスマンの言葉に色を無くす、シュヴルーズ始め教師達。ことは己の職の安否にすら繋がるものと恐々とし始める。 ただなお、首座のオスマンは冷静にこの大事な会議の場に欠席する秘書の存在を気に掛けた。 「そういえば、ミス・ロングビルの姿がおらぬのう」 「どこに行ったのでしょうか。自室にはご在宅ではありませんでした」 明確に答えることが出来ないコルベールはそう言うしかない。 そこに勢い良く会議室の両開きの扉をと開け放って飛び込んできた人影があった。そこに室内の全員が視線を集める。 「遅れました!申し訳ありません皆さん」 「ミス・ロングビル!大変ですぞ!賊が侵入して宝物庫を荒らしていきましたぞ!」 「存じておりますわ。私、真っ先に宝物庫を確認して賊の後をつけるべく調査して参りましたの」 息を切らせ汗ばみ、額に髪が張り付いていたミス・ロングビルは、コルベールの言葉に答えながらたたずまいを直してオスマンの元に寄った。 「仕事が速くて助かるのぅ……」 「で、結果は?」 ミス・ロングビルは懐からなにやらメモ書きのようなものを取り出してそれを読み上げる。 「近在の農家などに聞き込みをしてみましたところ、ここから馬で4時間ほどの場所にある廃屋に、近頃見知らぬ人の出入りがあるとのこと。 ゴーレムの侵入した方角とも合わせて、おそらくそこがフーケと名乗る賊の棲家ではないかと思われます」 「上出来じゃ、ミス・ロングビル」 報告に満足したオスマンは再度教師陣に目を移し立ち上がった。 「さて諸君。再度言うがこの件は我らだけで解決せねばならぬ。故に今からフーケ捜索の有志を募る。我こそはと思うものは杖を上げよ」 オスマンの言の後、無言の時間が流れた。オスマンは大きく咳払いをしてもう一度教師達をみたが、教師達は互いに見合わせるだけで 何もする事が無い。そうして四半刻がゆっくりと流れた。 流石のオスマンも苛立ってくる。 「ええい、この中にフーケを捕らえようというものはおらんのか?貴族の威信にかけて汚名を雪ごうというものは」 ぐ…と杖を握る腕を震わせる教師一同。相手は巨大なゴーレムを作り出せるほどの優秀なメイジあることは明白。 しかも今から賊の住処を荒らしに行くというのだ。よっぽど自分に自信のあるものでなければ杖を上げることは出来ない。 オスマンはコルベールを見た。目を伏せ、ただじっとしている。汗一つ、震え一つ見せないその姿をオスマンは無念そうに眺めていた。 やがて上げられた杖がまず一つ。それは教師達からではない。 「ミス・ヴァリエール!」 「行かせてくださいミセス・シュヴルーズ」 会議室の隅に立ったまま待機していたルイズはじめ四人。一歩進み出てルイズは制止しようとするシュヴルーズに応えた。 「貴方は生徒ではないですか。ここは我々教師達に任せておくのです」 「そうは言っても、だれも杖を上げないではないですか」 たじろぐシュヴルーズ。そのとおりだ。現に止めるシュヴルーズ自身、杖を上げなかったのだ。ルイズを止めておける資格が無い。 そのやり取りを見ていた後の二人も杖を掲げた。 「ミス・ツェルプストー!それにミス・タバサも!」 「ヴァリエールには負けていられませんもの。でもタバサ、貴方はいいの?」 キュルケは脇に立つ友人に目を向けた。タバサは一旦掲げた杖を少しおろし、ルイズに、そしてキュルケに向けて一言。 「心配」 言葉少ない友人の気持ちに心を暖めるキュルケだった。 そんなやり取りをじっと見ていたオスマンは、ふむ、と一言言って教師達へ話した。 「では、彼女ら3名を捜索隊として遣わす」 「オールド・オスマン!」 「それとも君がいくかね?ミセス・シュヴルーズ」 「ぃ……いえ、私は…」 「彼女らは一度賊を見ておる。それにミス・タバサはシュバリエの称号を持つ優秀なメイジじゃし、ミス・ツェルプストーもゲルマニアの 高名なメイジの家系として優秀なトライアングルメイジじゃ」 シュバリエとは国が貴族へ与える爵位の一つだが、領地を与えられぬ無領地爵位でありながら、実戦能力等の実力によって 与えられるものであり、優秀なメイジの証でもある。 しかし、とオスマンは言葉切ってルイズを見る。 「ミス・ヴァリエール。本当に捜索隊に志願するかの」 「……はい!」 ルイズの目ははっきりと開かれオスマンを見ている。その態度に満足したオスマンは、 「うむ。では明朝未明より捜索隊として君達に外出許可を出す」 「「「「杖に賭けて」」」 「ミス・ロングビルには道案内をたのむぞ」 声をかけられたミス・ロングビルは心穏やかにそれを了承した。 「了解しました」 誰にも分からぬほどに笑いながら。 明朝、捜索隊として集められた一同は、用意された馬車に乗り込み、朝の澄んだ空気の中、出発した。 道中は森まで街道を行き、途中から徒歩による探索になるという。 「ミス・ロングビル。手綱など御者に持たせればよろしいのに」 案内人のミス・ロングビルは自ら馬車の手綱を取る事を願い出て、二頭引きの馬車を操っている。 「いいのです。私は貴族の名を捨てたものですから」 「よろしければ、事情を教えてもらえます?」 沈黙が二人に流れる。ロングビルは少しだけ、表情を曇らせたが、努めて空気を汚さぬように振舞った。 「……とある事情で廃名されまして。家族を養わなければなりませんので街に出て働いていたのですが、そこをオールドオスマンに 秘書として雇ってもらいましたの」 興味津々に聞いていたキュルケのシャツが何者かに引かれている。キュルケが振り向くと、小柄な友人が首を振って言った。 「野暮」 「それもそうね。ごめんなさいな、ミス」 「いいえ。慣れていますので…」 その言葉にほんの少し憂いを残す。 一方、馬車の別一角。ルイズは無理矢理同行させたギュスターヴの愚痴を叩き伏せるのに夢中だった。 「何も自分から厄介を拾いにいくこともないだろうに」 「何言ってるのよ。学院に賊が入ったのよ。これを放置するのは貴族の名折れよ」 「いつの時代も貴族ってやつぁ、大変だーな嬢ちゃん」 研ぎ終わったデルフがギュスターヴの腰に指されている。短剣とつりあうように左右に指された剣はギュスターヴの心象に 一応の安心感を与えていたのだが、この場においては多方向からの言葉に対応しなければいけない分、不利である。 「しかしだなぁ。何で俺まで引き連れるかね」 「ギュスターヴ。あんたは私の使い魔なんだから。腕に覚えがあるんでしょ?手伝って当然でしょ」 「当然って言われてもなぁ…」 「ま、いいじゃねーか。俺様は賛成だぜ。相棒の腕が早く見てーからな」 「……昨日みたいにでかいゴーレム出されたらあんまり出番もないんじゃないかなぁ……」 「ぶつくさ言わないの!使い魔だと分かってるなら主人の助手くらい承諾しなさい」 「そうだぜ相棒。もう馬車は出てるんだから嫌嫌言ってもしょうがねーぜ」 サラウンドで会話をするのは非常に面倒である。朝早くから馬車に揺られてそんなことをするのは気が削がれていく。 「分かったよ…」 うんざりしながらも渋々と首を縦に振るギュスターヴなのだった。 馬車が進んで3時間半。街道を外れた森の手前で馬車を止め、そこから徒歩で森に入って奥、ほんの少しだけ開かれた場所に あばら家が見える。 「農家からの聞き込みでは、おそらくここと思われます」 森の茂みの中、わずかにうねって身体を隠しておけるところに集まった5人。 「で、中はどうやって確かめるの?中に賊が居れば外におびきだす囮になってもらわなくちゃいけないけど」 キュルケは作戦を立てた。まず一人ないし二人で小屋に近づき、中にいれば陽動して外に出して挟撃する。 居なければ小屋の中で待ち伏せて賊の帰りを待つ、というものだ。 それを聞いたタバサは杖でルイズを指し示す。 「行くべき」 「私?」 そう、と答える。 「一番最初に杖をあげた。私もついて行く」 その言葉にキュルケが不思議そうにタバサを見た。 (自分から他人に近づいていくタバサって珍しいわね) 「引き受けたわ。見てなさい」 ルイズはタバサをつれて茂みを遠回りして廃屋に近づいていく。 残された三人は、周囲に賊が張り付いていないかを探す。 「ミス。つかぬ事をお聞きしますが、属性とクラスをお教えいただけます?」 「土のラインです。……!」 「なにか?」 ロングビルが何かに反応した。 「何か人影のようなものが見えましたわ。ちょっと見てきます」 険しい顔でロングビルが森の奥へ入って行き、木々の陰に見えなくなった。 キュルケはふと、自分がギュスターヴと二人きりになれたのを好機に話しかけて、自分への興味を持ってもらえないだろうか、と思い始めた。 「ミスタ・ギュスは今回の事件どう思われて?」 「…なぜ俺に聞く?」 ギュスターヴは腕を組んで木に寄りかかって聞いている。 「この捜索隊にあまり乗り気じゃなさそうだったみたいだし」 「そうだな…もし、俺が賊だったら。こんな中途半端な距離にある廃屋に潜んだりしない。 夜を通して移動して国境を越える。そうすれば追っ手はひとまずこないからな」 (あら、結構口が辛いわね。でも年の割に若々しい感じで素敵) キュルケは暗に自分の立てた作戦の不備を突かれているのだが、本質的に賊捜索に真剣なわけではないから気にしないことにした。 むしろ、このあばら家を探し出したロングビルの情報元があやしいかも、なんて思い始めた。 「では、この情報はガセ?」 「そうとも言えない。……そうだな。例えば賊が何らかの事情で現場から余り離れることが出来ないとか、或いは……」 「或いは?」 「…何か目的を持ってここに潜み、捜索隊を待ち伏せるとかな」 あばら家に徐々に近づいていくルイズとタバサ。ルイズは足元に罠があるかも、と観察しながら歩いていたが、 よく見ると自分達のほかに、あばら家の周りには真新しい足跡がいくつかついている。 「ボロボロの小屋なのに人の使ったような跡があるわね。賊が使っていたに間違いなさそうね……」 そっとあばら家の外壁に張り付いて窓からそっと中を覗く。中は薄暗いが人の気配はない。 タバサが近づいて、杖先でゆっくりドアを開ける。古い蝶番が軋みを上げて動き、仄かな日光があばら家の中へ入るが、やはり中に人が居ない。 慎重に慎重を重ねて覗き、人が居ない事を再度確認して中に入ったルイズとタバサ。あばら家の中にも新しい足跡は残されていた。 ほかには腐りかけの藁や農具のようなものが置かれていて、その中に比較的綺麗な布で包まれて立てかけられているものがあった。 ルイズはそれを手にとって開いてみる。中には不可思議な装飾の施された、杖。 「これが『破壊の杖』?普通の杖に見えるけど……」 次の瞬間、あばら家の外から轟音が聞こえる。地鳴りのような振動があばら家の弱りきった土台越しに足元を震わせる。 「何?なんなの?!」 「ここは危険。脱出する」 飛び出そうと二人は出入り口に駆け寄ろうとした寸前、出入り口に土の塊がぶつかる。土の塊は砕けて出口を塞いでしまった。 「ゴーレム!」 ルイズの叫びが中に響く。 外で待っていた二人には静かな時間が流れている。ミス・ロングビルは人影を探しに行ったきりで戻ってこない。 もしかしたら迷ってるのかしら、などと考えていたキュルケは、あばら家の更に奥の森からごごご…と音を上げて 持ち上がっていく土の山が見えたとき、緊張に身体をこわばらせた。 やがてそれは草木交じりの身体をした巨大なゴーレムに変形し、小屋を見下ろしている。 ギュスターヴは腰の剣に手をかけ、キュルケも杖を構えた。 「昨日のと同じゴーレム?!」 「多分な。二人を小屋から脱出させるぞ」 小屋に駆け寄る二人、しかしわずかに遅く、ゴーレムの拳があばら家に落ちる。落ちた拳は切り離されて土砂の塊となって あばら家の出口を塞いでしまった。 「タバサ!ルイズ!」 叫ぶキュルケ。ギュスターヴはキュルケの脇に立ちデルフを右手で抜いた。 「ゴーレムをひきつけるぞ!」 鞘から抜かれたデルフリンガーは、握りにも新しい布が巻かれ、丁寧に研ぎ澄まされた刀身が日光を受けてきらりと光る。 「俺様の出番だな。期待してるぜ相棒!」 袈裟斬り気味に振りかぶってゴーレムに飛び掛るギュスターヴ、キュルケも杖をゴーレムに向けて唱える。 「フレイムボール!」 「『かぶと割り』!」 ファイアボールよりも巨大な火球が発射してゴーレムの胸に当たり、露出していた樹木の枝が焼けて落ちる。 ギュスターヴの剣戟が腹に当たって衝撃が土を抉るように削り落とした。二人の攻撃で大きく一歩半、ゴーレムはよろめいた。 その振動は気を抜けば足首を痺れさせて立てなくさせる。 ガッシャン、と小屋から窓の割れる音が二人を振り返させる。背に背負ったあばら家の窓を割って這い出してきたタバサとルイズ。 その手にはしっかりと『破壊の杖』が握られている。 「ふひー」 「ルイズ!」 「『破壊の杖』を見つけたわ!あとはフーケだけよ」 そのやり取りを見逃さない。ゴーレムの拳が降ってくる。ギュスターヴは急いでゴーレムの足元から逃れた。 「ギュスターヴ!」 「ここは危険だ。一度引くぞ」 口笛を吹くタバサ。森の上空に青い軌道を残して飛ぶするシルフィードがゴーレムを中心に何度も旋回し、ゴーレムの動きを阻んだ。 鬱陶しそうに両拳を振り回すが、シルフィードの動きについていけないゴーレム。 「今の内」 「逃げるわよルイズ。『破壊の杖』は回収できたんだから長居する必要は無いわ」 あばら家を背に森の中へ逃げ込もうとするキュルケとタバサ。少なくとも盗まれたものが手元に戻ってきた以上、危険であれば それ以上する必要は無い、というのは正常な判断に思われて、ギュスターヴはそれに倣う。しかし、 「ルイズ?」 「私は引かないわ」 ルイズは逆だった。注意が上に向けられているゴーレムをじっと見る。 「私は貴族よ。賊を恐れて逃げ出すなんて出来ないわ」 「駄目だルイズ。見るんだ。ゴーレムの上に賊が乗っていない。フーケは森に潜んでゴーレムを動かしてるんだろう。 ゴーレムを倒しても賊が見つからないんじゃ意味が無い」 きゅいーっ!と上空のシルフィードが悲鳴を上げる。巡航速度以上のスピードで狭い空間を飛び回るのは飛行に長けた風竜でも限界がある。 「そうよルイズ。第一まともに魔法が使えない貴方じゃゴーレムの足止めも出来ないわよ 「黙りなさい!」」 吼えるルイズ。 「貴族とは、魔法を使えるものを言うんじゃないわ。敵に背中を向けないものを貴族というのよ!」 ルイズの目にはゴーレムしか写っていない。ゴーレムに走り寄りながら杖を向けた。 「ルイズー!」 「見てなさい!フレイムボール!」 キュルケの制止を振り切って詠唱、やはり爆発。ゴーレムの胸が爆発の衝撃で抉れ飛ぶ。 しかしこれがゴーレムの注意をシルフィードから足元へ移させてしまった。 「もう一度!フレイムボール!」 なおも詠唱、爆発。ゴーレムのわき腹が吹き飛ぶが、痛みを感じないゴーレムにとって身体を支える程度の強度があれば問題は無い。 ゆっくりと片足を上げてゴーレムがルイズの頭上に迫る。 「フレイムボール!フレイムボール!フレイムボール!」 遮二無二連発するルイズだが、ゴーレムの体がいくら傷つけられても、落ちてくる足が止まることはない。 「ルーイズ!」 キュルケの悲壮な叫びが森に響く。降ろされたゴーレムの足がルイズの居た場所を踏み潰していた。 「無茶はしてもらいたくないな。ルイズ」 「はぇ…」 ルイズはその時、ギュスターヴの片腕に抱かれて意識を朦朧とさせていた。 ギュスターヴはとっさに駆け出し、ゴーレムの足が落ちる寸前、ルイズを捕まえて脱出したのだ。 抜き身のデルフリンガーが『左手』に握られて、右腕にしっかりとルイズを抱きしめている。 左手の甲に刻まれたルーンが、仄かに光っている。 「おお、思い出したぜ相棒!」 「何?」 「…ちょ、ちょっと、ギュスターヴ!さっさと私を降ろしてよ!」 「ああ、ちょっと待ってろ」 ひとまず抱き上げたルイズを降ろす。 「で、何だって?デルフ」 「思い出したぜ相棒。お前さんは『ガンダールヴ』だ」 「「『ガンダールヴ』?」」 ルイズとギュスターヴ両方の質問の声が重なる。 「あらゆる武器を使うことができる伝説の使い魔ってやつよ。心を奮わせて俺を握りな。体から力を引き出してやれるぜ」 試しにギュスターヴはぐっと強くデルフを握り、呼吸を変えて神経を集中させると、ルーンが一層の輝きを増す。 「ルーンが光ってる……」 「嬢ちゃん、ここは相棒に任せて下がりな。使い魔が賊を倒せたら主人の手柄になるんじゃねーの?……それでいいだろ、相棒」 「仕方が無いな…下がってろ、ルイズ」 「ギュスターヴ……。…ごめんなさい」 再度シルフィードで撹乱されていたゴーレムは、シルフィードがあばら家の前に下りると首らしき部分を下に向ける。こちらを見ているようだった。 「タバサ。皆を乗せて森を出るんだ」 「貴方は?」 「少しばかり時間を稼ぐ」 「ギュスターヴ!……ちゃんと帰ってきなさいよ」 無言で頷くと、シルフィードは飛び上がって馬車を留めた場所に向かって飛んでいった。 「さて相棒。どうするかね?こんなでかいゴーレムを」 ゴーレムは足を落とす、腕を落とす。それを『ガンダールヴ』の力を試すように動き回りかわしていく。 「とりあえずルイズ達が安全な位置まで移動できる時間を稼ぐぞ。タバサの使い魔が飛んで馬車の準備が出来るまでだ。その後は」 「後は」 「……あれを壊す。覚悟しろデルフ。折れるんじゃないぞ」 「まかせときな」 ギュスターヴは、このとき初めて左手でデルフを構えた。ゴーレムは足元のギュスターヴを認識して拳を落とそうと踏み込むが、 ギュスターヴは自分から踏み込んで、ほぼゴーレムの真下に立つ。 袈裟に構えて腰を落とす。両足から両脚、膝、腰、背筋から腕、そして手首にかけてに神経を集中させる。 「『ベアクラッシュ』!!」 一声。高く飛び上がったギュスターヴの一撃が、ゴーレムの肩に叩きつけられた。炸裂音にも似た衝撃がゴーレムの右肩を走る。 ギュスターヴの剣技の中で一、二を争う剛剣は、『ガンダールヴ』の力も合わさって深々とゴーレムの身体を進み、深く入った亀裂が 右腕を支えきれなくなって折れる。落ちる右腕を確認してからゴーレムの身体に食い込むデルフを抜いて、ゴーレムの体の上を走る。 飛び上がるようにジャンプし、デルフをゴーレムの胴体に振り込んだ。 「『天地二段』!」 削撃音を響かせてゴーレムが切り裂かれていく。地面に達した瞬間にデルフを水平に払うと、ゴーレムの足首が切れ飛んで、 衝撃で仰向けにゴーレムは倒れた。倒れることで森が揺れて、驚いた鳥達が一斉に飛び立っていく。 「まだだぜ相棒。ゴーレムは再生できる。操ってるメイジが居る限りな」 「その通りよ。とはいえ只の平民が私のゴーレムをここまで壊せるなんてね」 背後から声かけられたギュスターヴ。声の主はミス・ロングビルだったが、彼女はギュスターヴの背中にナイフを突きつけている。 「ミス・ロングビル。何を」 「その名前はちょっと違うねぇ。私の名は、『土くれのフーケ』さ」 握っていた剣を降ろすギュスターヴ。振り向くことも出来ず、ただ背中からの声に耳を傾けた。 ギュスターヴは抑揚の無い声で話しかけた。 「近くに居るだろうとは思っていたが、賊の正体が貴方だったとはな」 「主人を逃がすために一人で戦うなんて立派だねぇ。でもここまでさ。アースハンド!」 地面から延びる土の腕がギュスの足を絡め取る。 「何!?」 次に崩されたゴーレムが盛り上がって山になる。そして先ほどより小さいゴーレム――それでも、3メイルはある――が2体、形成されて ギュスターヴの前に立った。 「そこで暫く遊んでな。私はあの嬢ちゃんたちから『破壊の杖』をもらってくるから」 フーケは悠々と森を出て行く。足を止められて追うことが出来ないギュスターヴは、拳を突き出してくる2体のゴーレムをデルフでいなすしかない。 「どうするんだよ相棒。このままじゃやばいぜ」 「少し時間が掛かるが始末は出来る。あとはそれまで、ルイズたちが無茶をしないでくれていれば……」 シルフィードが森を抜けて馬車を止めた場所で降りた時、丁度ミス・ロングビルが森から飛び出してルイズたちの視界に入った。 「ミス・ロングビル!ご無事ですか?」 「はい。ゴーレムが見えたので一度森を脱出しようと思いまして。……その手のものが『破壊の杖』ですね」 「はい」 ルイズは手にしっかりと『破壊の杖』の包みを握っていた。 「改めさせていただきたいので、こちらへ……」 破壊の杖を持ってルイズはロングビルに近寄った。ルイズがロングビルの手に届いた瞬間、羽交い絞めにするように押さえつけられたルイズの首に、ロングビルの手に 握られたナイフの刃が当てられる。 「ミス・ロングビル?!」 「大人しくしな!じゃないとこいつの首が落ちるよ!」 粗野な言葉遣いと目の前に出来事に動くことが出来ない。 「あなたが賊……土くれのフーケだったのね」 「そうさ」 ルイズが苦しげにロングビル……土くれのフーケに言った。フーケはひたひたとナイフを当てながらけらけらと笑って話す。 「頑丈な宝物庫の壁を壊してくれて例を言うよおちびさん。でもね、せっかく手に入れた『破壊の杖』なんだけど、使い方がさっぱり分からなくてね。 どう見てもただの杖なのに振っても何をしても反応が無い。だから人の来ないこの森まで捜索隊をおびき出して襲えば、 『破壊の杖』を使うやつがいるんじゃないかと思ったんだけど…どうやら、無駄だったみたいね」 「わたしをどうするつもり?」 「ひとまず私が馬車で逃げるまで大人しく捕まってな。後で馬車から降ろしてやるよ」 フーケの顔が嗤っている。あの穏やかで美しかったロングビルの豹変にルイズをはじめ三人は戦慄した。 「嘘よ。薄汚い賊が離しなさい。キュルケ、構わないで私ごとフーケを打ちなさい!」 「そんなことできるわけないでしょ!」 「賊に捕まって好きにされる方が屈辱よ。早く打ちなさい」 ルイズが盾になってキュルケの魔法はフーケに届かない。そのことにキュルケは歯噛みしていたが、タバサはなぜか視線が少しずれて森を見ていた。 「麗しい友情ってところかい?まぁいいさ。そこで私が逃げるのを大人しく見守ってておくれよ」 フーケはルイズを引きずりながら馬車に向かって移動する。タバサがじわりと詰め寄ろうとすると、ルイズを引き寄せてナイフを首に当てなおす。 「動くんじゃないよ!本当にこいつを殺すよ」 「タバサ、やめて。ルイズが死んじゃう!」 キュルケは何も出来ずに叫ぶ。しかしタバサの目は冷静だ。静かに声を出す。 「大丈夫。彼がいる」 「彼?」 キュルケの脳裏にいまだ森から出てこない平民の使い魔が浮かぶ。フーケはそれを見越していたのだろう。可笑しくてたまらないとばかりにニヤニヤしている。 「あの平民の使い魔だったら、今頃森の中で私のゴーレムと殴り合いをしているよ。暫くは動けないはずさ」 「それはどうかな?」 背後に背負った森から何度か聞き覚えのある声が聞こえて、不意にフーケは返事をしてしまった。 「え?」 振り返った瞬間に視界に入り込んだものは、突進するギュスターヴ。手にはデルフリンガーではなく手製の短剣を握っている。 ギュスターヴは短剣を立てず、寝かせてフーケに当てて体勢を崩した。 「あうっ!」 それを逃さず倒れたフーケに剣先を突きつける。ルイズがフーケの腕から逃げてギュスターヴの背中に隠れた。 「『追突剣』……もう逃げられないぞ、フーケ」 ギュスターヴの空いた手にはフーケの杖が握られている。『追突剣』の際にフーケの懐から奪い取ったのだ。 フーケは起き上がってナイフを構えたが、背後に杖を構えたキュルケとタバサが間合いを詰めると、やがてナイフを捨てて両手を挙げた。 前ページ次ページ鋼の使い魔
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前ページ次ページ死人の使い魔 第三話 グレイヴを召喚してから数日が過ぎた。ルイズとグレイヴの生活にも 一定のパターンができあがってきていた。 朝、ルイズがベットで目覚めるとともにグレイヴは初日に与えられた イスで目を開く。特に本人からの要望はなかったのでイスが彼の寝床と なった。寝床兼生活スペースかもしれなかった。ルイズの部屋にいる間は、 ほとんどをそこに座って過ごしている。 案外気に入っているのかしらね。そんな風に思う。 グレイヴとの生活が始まってからルイズの目覚めはよくなった。 一度寝坊しかけて彼に起こされたときは心臓が止まるかと思った。 割と本気で。それ以来、彼より早く起きるように心がけている。 朝の準備を終えるとルイズは朝食をとるために食堂へと向かう。 グレイヴは食事をとらないため、授業まで部屋で待機させている。 授業の時間になると教室でグレイヴと合流する。 恐らく、グレイヴは教室に移動するときまで、部屋のイスに 座りっぱなしのはずだ。確認したことはないが正しいと思う。 もしかして私が部屋を出たあと、私のベットでゴロゴロしてたりして。 そんなことを想像する。 ……ありえないわね。万が一それが真実だったとしてもその場面だけは 目撃しないようにしないと。私の今後のために。 グレイヴは喋らない平民の使い魔として学院で少し知られてきた。 ときどき、本当にときどきだが彼の正体について言ってやりたくなる ときがある。 昼食の時間になると再びグレイヴと別れる。部屋で午後の授業まで 待たせているのだが、コルベールに呼ばれ彼の研究室、もしくは トレーラーに行くことがある。少しでも手掛かりが欲しいらしいが 結果は芳しくないようだ。 そんなある日、コルベールは彼の左手に目をやる。 召喚されたものにばかり気を取られていましたが、珍しいルーンですね。 一応メモしておきましょう。 その日の夜、彼はそのルーンが伝説の『ガンダールヴ』のルーンと 同じであることに気づく。すぐにオスマンに知らせたが、彼も頭を 抱えていた。 『ガンダールヴ』とは始祖ブリミルの使い魔であったされるものだ。 あらゆる武器をつかいこなし、その強さは並みのメイジでは歯が 立たないくらいだったとされている。 「ただでさえ厄介なのにこのうえ『ガンダールヴ』じゃと」 「とりあえずこれも秘密じゃな、ミス・ヴァリエールにもな」 「彼女にもですか?」 「これ以上秘密を抱えさせるのもかわいそうじゃろ、それに、この問題は ひょっとしたらガーゴイルということよりもやっかいかもしれんしな、 他言無用じゃ」 「わかりました」 最近というかグレイヴを召喚してからルイズは、彼のことを考える時間が 多くなった。もちろん、恋などではない。グレイヴの正体についてだ。 彼はなんのために作られたのだろうか?そう彼が人為的に生み出されたの ならきっと何か目的があるはずだ。それも並大抵ではない。なんせ人の血で 動くのだ。家事などをするために作られたのだとしたら、ちぐはぐ過ぎる。 人の生き血をすする召使い。ありえないわね。 しかし想像はつく。ミスタ・コルベールも気づいているだろう。 彼は戦うために生み出されたのではないか?その想像はきっと正しい。 想像を裏付けるものの一つとは彼の持っている鞄と棺桶だ。 非常に重いのだ。それを軽々と持ち運ぶ怪力。鞄の中に入っている二つの ものは鈍器なのでは?棺桶もなんらかの武器かもしれない。 そう考えると彼が鞄を手放さない理由もわかる。戦うために生み出された 彼が武器を手放すわけにはいかないのだ。 両手にあの鈍器を持って戦う彼を想像する。少し、いや大分かっこ悪い気がする。 ちゃんとした武器を与えたほうがいいかしら?見栄えのする大剣とか。 でも買う前にミスタ・コルベールに相談したほうがいいかもしれないわね。 剣を持たせるなどとんでもないと反対されるかもしれないし。 しかしそれは杞憂に終わった。彼は特に反対しなかった。 コルベールは相談されたことについて考えていた。グレイヴに剣を持たせる。 彼は『ガンダールヴ』でもあるのだ。どんな反応をするか、持ち前の好奇心が うずいた。 彼が剣を持つ危険についても考えてみたが、剣を持たせるくらいは 大丈夫な気がする。ここ数日、彼と付き合ってみての印象だ。少なくとも 学院の人々に危害は加えないと思う。もしかしたらこの学院で一番 グレイヴを信用している人物は彼かもしれなかった。 虚無の曜日になりルイズはグレイヴを連れ剣を買いに出かけた。 遠出をするとグレイヴに伝えると、彼はいつもの鞄に加え棺桶まで 持っていこうとした。あんなもの馬に乗せられるわけないと置いてこさせたが、 鞄はしっかり持ってきている。 トリステインの城下町を武器屋に向けて歩いているが、グレイヴはやはり 目立っていた。長身に加えてあの格好である。かなり目を引く。 それに彼の雰囲気を感じてか、微妙にだが周りの人が道を譲ってくれている ように思える。見た目だけでも護衛の役目を果たしているわね。そんなことを 考えながら歩いていると、武器屋に到着した。 どんな剣がいいか分からないので、グレイヴに選ばせてみる。 「グレイヴ、好きな剣を選んでいいのよ」 しかし彼は何も選ばない。イライラし声をかけようとすると、不意に声が 聞こえた。 「迷っているなら俺を買え、おめえさん『使い手』だろう?体格も立派だし、 雰囲気もただもんじゃねえ。是非とも、おめえさんに使って貰いてえ」 グレイヴは声のほうを向く。ルイズには彼が驚いているようにみえた。 そこには一本のボロボロの剣があった。ルイズも最初驚いたが インテリジェンスソードと知って納得する。 それよりもグレイヴの反応が気になった。いつもと明らかに違う反応。 もしやあの剣の言ったことに何か関係しているのだろうか?確か『使い手』 とか言っていた。 本当はインテリジェンスソードの存在を知らなかったからの反応だったの だが、ルイズには分からなかった。まさかインテリジェンスソードの存在を 知らないとは思いもしなかったのだ。 よし、これにしよう。 見た目はみすぼらしくグレイヴに持たせたくはなかったが、彼の正体を知る きっかけになるかもしれない。インテリジェンスソードを買い、グレイヴに 持たせる。デルフリンガーというらしい。 帰る道中デルフリンガーにグレイヴのことや、『使い手』のことを尋ねて みるが、どうにも要領を得ない。 グレイヴも特に反応はしないし、あの剣を買ったのは失敗だったかしら? 学院に着くとルイズはグレイヴを連れて中庭に向かう。そこでルイズは グレイヴにデルフリンガーを抜かせてみた。詳しいことは分からないが様に なっているようにみえる。するとデルフリンガーが気になることを言う。 「おでれーた、相棒、おめえさん人間じゃないな?それに心も感じられねえ」 ルイズが驚きながらに言う。 「あんたグレイヴのことが分かるの?教えなさい。今すぐ、できる限り詳しく」 「待て、待て、落ち着け、俺もそんなに詳しく分かるわけじゃねえ。 ただなんとなくそう感じただけだ」 「なによ、当てにならないわね。でもグレイヴが人間じゃないってことは 秘密だからね、誰にも言うんじゃないわよ。それからグレイヴのことが何か 分かったらすぐに教えなさい。いいわね」 「いいともさ、俺も相棒のことを言いふらしたりはしないよ」 そんな会話の中、グレイヴは突然デルフリンガーを地面に突き立てる。 「おーい、相棒?」 アタッシュケースを開けケルベロスを手に取る。 何をしたいのかしら?ルイズは疑問に思うが、デルフリンガーは気づいた ようだった。 「そりゃないよ、せっかく俺を買ったんだから俺を使ってくれよ。銃より剣の ほうがいいぜ」 「あれって銃なの?」 あんな形の銃など見たことがない。そういわれてみれば引き金らしきものがある。 「ねえ、グレイヴ、一発撃ってみなさい。どれくらいの威力があるか 見てみたいわ」 横でデルフリンガーが銃なんて邪道だ、などと言っているが無視する。 しかしグレイヴは撃たない。何故かしら?目標を決めてないから? 周囲を見ると丁度いい目標があった。本塔の壁である。確か固定化の魔法が かかっていて、そのうえ厚みもあり凄い丈夫なはずだ。いい的だと思ったのだ。 そのときは。 変な形をしているし片手で扱う銃のようなので、かなり距離のある的まで 届きすらしないかも、そう思い気軽に言う。 「ほら、撃ってみてって」 グレイヴが本塔の壁に銃を向ける。 せめて届いてほしいわねなどと考える 引き金が引かれる。 轟音が響き、思わず耳を押さえる。本塔に近づき銃弾のあとを確かめようと する。しかしそんなに近づかずとも本塔の壁にヒビが入っているのが見えた。 「嘘……」 思わず声が漏れる。あれがあの変な銃の威力?信じられない威力だ。 「おでれーた、これが相棒の銃の威力かい?」 デルフリンガーも驚いている。 突然、グレイヴの気配が変わった。持っていたデルフリンガーを投げ捨て、 先ほど撃った銃を一丁ずつ両手に構える。下からデルフリンガーの苦情が 聞こえてくる。 どうかしたの?と聞こうとするが、その言葉を発する前に巨大な土ゴーレムが 現れた。ゴーレムはルイズ達のことなど気にもせず、本塔のヒビの入っている 壁を殴り、穴を開ける。 ルイズはあまりのことに頭がついていってなかった。グレイヴも銃を構えた まま動かない、様子をうかがっているのかもしれない。 それからゴーレムは学院の外へと歩き出す。 我に返ったルイズがあわてて言う。 「あそこは確か宝物庫だったはずよ、急いで追いかけないと」 「もう無理だ、追いつけないって。ずいぶん離されちまった」 デルフリンガーが引き止める。しかし追いつけなくとも、何か手がかり くらいは見つけられるかもしれない。ゴーレムの逃げたほうへ走り出す。 グレイヴもついてくる。 「お~い、置いていかないでくれえ」 後ろでデルフリンガーが叫んでいたが気にしている余裕はない。 上空には何か飛んでいるのが見える。あの盗賊の使い魔だろうか? 空を飛んで逃げられたら絶対に追いつけない。焦りながら懸命に走る、 すると遠くでゴーレムが突然崩れるのが見えた。 空を飛んでいた何かも、いつの間にかいなくなっていた。崩れたゴーレムに 追いついたが、そこには土の山があるだけだった。 こういうときこそ、落ち着かなくては。そう自分に言い聞かせ事態を 整理する。 あのゴーレムは本塔にあったヒビを殴っていた。その結果穴が開き、 宝物庫が襲われた。つまり襲われた原因、少なくとも穴が開いた原因は あのヒビのせいということになる。あのヒビの原因は考えるまでもない。 盗賊について思いだそうとするが離れていたこともあり、黒いローブに すっぽり身を包んでいたことくらいしか分からない。 盗賊には逃げられ、手がかりもない。ルイズは頭を抱えた。 前ページ次ページ死人の使い魔
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一人! 使い魔が征く! 人気の無い寺院の中、承太郎はルイズを抱き上げて振り返ると、 いつの間にか扉の前に立っていた個性的な髪型の男に気づく。 「承太郎さん……これからどうする気っスか? 七万の軍隊を足止めしないと、連合軍は壊滅確定っスよー」 「仗助か……。丁度いいところに来た、頼みがある」 「おッ! さっすが承太郎さん! 何か『策』があるんスねッ!」 もう勝利したも同然とばかりに楽観的な笑みを浮かべる仗助を連れて、 承太郎はルイズをお姫様抱っこしたまま寺院から出た。 そこには仗助の風竜アズーロが待っていた。 「仗助……。お前はルイズを連れて、ギーシュかシエスタのいる艦に戻れ」 「……援軍を呼ぶんスか? それはちょっと難しいんじゃ……」 「アルビオン軍は……俺一人で足止めする」 「……は?」 仗助は耳を疑い、顔をしかめた。 「すいません……ちょっと言葉の意味が理解できなかったっつ~か……」 「聞こえなかったのか? アルビオン軍は俺一人で足止めする。 お前はルイズを連れて艦隊に帰って、一緒に逃げるんだな……」 あまりにもプッツンした発言に仗助はめまいさえ起こした。 あの冷静で判断力に優れる承太郎さんが、なぜ自殺まがいの戦いに挑むのか? 「いったいどうしちまったんスか!? そんな無謀なセリフ、承太郎さんのキャラクターじゃないっスよ~!! 無敵のスタープラチナとガンダールヴでも、敵は七万、絶対殺されるっス!」 「何を勘違いしてやがる、俺はおめーの知ってる空条承太郎じゃあねえ。 お前と同じ高校生で、ガンダールヴの承太郎だ」 承太郎はルイズを仗助に向かって差し出すが、仗助は受け取ろうとしない。 「冗談じゃないっスよ~! 例え十七歳の承太郎さんでも、 俺にとっては誰よりも頼りになって尊敬できる人なんスから!」 拒絶の意を示した仗助を見ると、承太郎は無言でルイズを地面に寝かせた。 「俺は馬で行く。ルイズをここに置いてくっつーなら勝手にしな」 「……グレート。他に言葉が出ねー……」 「あばよ、仗助」 馬に乗るべく承太郎が仗助に背中を見せた瞬間、仗助はスタンドを出し殴りかかった。 「ドラァッ!」 間一髪、承太郎は半身を引いて拳を回避したが、 学ランにつけてある鎖を根元近くから真っ二つに割った。 ジャラジャラと音を立てて鎖が地面に落ちると、承太郎は鋭い双眸を仗助に向ける。 「力ずくで止めるつもりなら……相手になるぜ」 しかし仗助は両手を上げて降参の合図。 「いえ、奇襲が失敗した今……スタープラチナに肉弾戦で勝てるとは思ってないっス。 ルイズさんは責任持って艦に送り届けますから……死なないでくださいよ」 身長の低いルイズを小脇に抱えながら、仗助はちぎれた鎖を拾ってポケットに放り込む。 「それじゃ、ルイズさんは責任を持って預からせていただきます」 「……適当に引っ掻き回したら逃げるから安心しな。 おめーとは日本に帰ってから、改めて話をしたいからな……」 承太郎は馬に、仗助はルイズを抱えて風竜に。 承太郎は戦場へ、仗助は撤退する艦へ。 逆方向へと分かれ、向かっていった。 地図に記された小高い丘の上、朝日が暗闇に光を与えていった。 視界が開け、眼下にはタルブの村のような美しい草原が広がっている。 さらにその向こう、朝もやの中からアルビオンの主力軍が進行してきた。 承太郎は馬を逃がすと、デルフリンガーを抜く。 「意外だねぇ。相棒は精神を操作されてるってのが嫌だったんだろ? なのに何でこんな事するのかね。相棒は強いのは認めるけど、間違いなく死ぬぜ」 「……だろうな。だが、俺は仲間を二度と死なせたくない……。 その気持ちだけは、ルーンに操られたものじゃあない俺の意志だと確信を持てる」 「その確信のために戦うのかね。いや、立派、お見事。 そんな相棒のために俺がとっておきのアドバイスしてやる。 真っ直ぐ突っ込め。こうなったらどっから行っても同じだからよ。 そんでもって指揮官狙いまくれ、頭をやれば身体は混乱するし足も止まる。 一日ぐらいの時間は稼げるかもよ。時間を止めながらなら何とかなるだろ」 「……行くぜッ!」 「おうッ!」 朝もやをついて突っ込む承太郎に最初に気づいたのは前衛の捜索騎兵隊ではなく、 後続の銃兵を指揮する士官の使い魔のフクロウだった。 「……何、一人だと?」 敵が一人である事をいぶかしく思いながらも、馬のような速力に驚き、 銃兵に弾込めを命じた。その間に承太郎は捜索騎兵隊を斬り飛ばす。 あまりの速さに騎兵隊はタイミングを見誤り、一方的に馬から落とされてしまった。 さらに銃兵が弾を装填する前に仕官を発見すると、杖を持っている手を剣で切断。 慌てて銃兵達が承太郎に向けて発砲するが、 気がついたら承太郎は土煙を残して消え去っていた。 使い魔を使役し上空から承太郎の姿を見ていたメイジ達は、 承太郎が物凄い勢いで空に跳び上がった事に驚愕した。 「オラァッ!」 腕からわずかにスタープラチナの腕だけを浮かせた承太郎は、 銃弾を指で弾き四方八方へと飛ばして使い魔と思われる鳥を次々に撃ち落とす。 承太郎が地面に着地するタイミングを見計らって他のメイジが魔法を放つも、 それらはすべてデルフリンガーの口に吸い込まれて消えてしまう。 着地した承太郎は一足飛びに騎兵隊の隊長へ肉薄してスタープラチナの拳を叩き込んだ。 承太郎は時に跳び、時に駆け、敵軍を翻弄する。 単騎であったため同士討ちを避けるべく銃や投射武器の発砲が禁止され、 メイジ以外の兵隊はガンダールヴの承太郎相手に接近戦をしいられた。 だが兵士達は平民には見えないスタンドの拳の弾幕により四方八方へ吹っ飛ばされる。 吹っ飛んだ兵士の重量を受け、他の兵士にまで被害が及ぶ中、 メイジ達は次々に承太郎へと魔法を放った。 さすがにガンダールヴの速度を持ってしても受け切れない数だが、 スタープラチナの髪の毛が逆立つと同時にそれらは空中で停止した。 「スタープラチナ・ザ・ワールド!!」 氷の矢、炎の球、風の刃、すべてが静止した中、承太郎はスタープラチナで地面を殴る。 「オラオラオラオラオラオラオラオラッ!!」 あっという間に承太郎の周囲はめくり返された土で覆われ姿を隠すと、 地面すれすれを駆け抜けながら銃弾を指で弾き飛ばし、ターゲットに向かって疾駆する。 時が動き出した直後、突然現れた土の幕に魔法が命中する。中身は当然空っぽだ。 承太郎を見失ったメイジ達は慌ててその姿を探すが、その身体に突然銃弾が命中する。 時間を止めている間に承太郎が放ったものだ。 当然銃声など無く、メイジ達は何にやられたのかすら理解せぬまま倒れた。 「オオラァッ!」 マンティコアにまたがった偉そうな騎士を発見した承太郎は、 デルフリンガーを横薙ぎにして周囲にいた兵士を吹っ飛ばす。 騎士はマンティコアを承太郎にけしかけるが、 鋭い牙を生やした口がスタープラチナのアッパーで無理矢理閉じられ、あごが砕ける。 マンティコアから落っこちた騎士の足をデルフリンガーで深く斬りつけた承太郎は、 続いて槍ぶすまを作っている部隊へと跳躍した。 槍ぶすまを飛び越えられ、指揮官のメイジは咄嗟に詠唱するが間に合わず、 スタープラチナで顔面を踏みつけられて昏倒、顔を足場にして承太郎は再び跳躍した。 弓兵隊を指揮していた若い士官は慌てていたため、誤って弓の発射を命じてしまった。 上空から舞い降りる承太郎は自分に命中する矢だけを狙い、 スタープラチナの拳の弾幕で撃ち落とす。はずれた弓は味方に辺り同士討ちが始まった。 お礼とばかりに承太郎は銃弾を指で弾き飛ばし、弓兵隊の仕官の肩を射抜く。 着地した承太郎は、近くにいた兵士達を剣で薙ぎ払った。ただし峰を使ってだ。 「相棒! さっきから致命傷を与えねーように戦ってねーか!?」 「俺の敵はクロムウェルとレコン・キスタだ! アルビオン軍じゃねーぜ!」 まるで流星のように承太郎は戦場を駆け抜ける。 近距離をデルフリンガー、中距離をスタープラチナ、遠距離を銃弾で攻撃し、 敵軍の放つ魔法を回避しきれない状況に陥った時のみ時間を止める。 突然消え、突然現れ、あるいは気がついたら倒されていたりと、 アルビオン軍は時間の経過に比例して混乱を高めていった。 その混乱が、歯車を狂わせる。 完全に指揮を失ったメイジ達が、連携も何もない滅茶苦茶な魔法を放った。 時間停止は、一度行うと再び行うためには数呼吸分の休息が必要だ。 だから時間停止せずに対処できる攻撃はできる限りスタンドとデルフリンガーで防ぐ。 そのようにして承太郎は斜め前方から飛んできた無数の氷の槍を拳の弾幕で叩き落し、 左側から飛んできた巨大な炎の球、恐らく火の三乗くらいの威力だろう、 それをデルフリンガーの口で素早く吸い込ませる。 直後、右の脇腹が突然裂けた。 「な……にィッ!?」 隊列を乱してしまい偶然承太郎の背後を取ったメイジが、エア・カッターを放ったのだ。 承太郎、スタープラチナ、デルフリンガー、三つの目を持つ彼等が、 戦場の中で偶然生んでしまった死角にそのメイジはいたのだ。 「今だ! やれ!」 メイジの一群の中から号令が聞こえ、メイジ達が次々と魔法を放つ。 氷の粒を孕んだ風が左足を切り刻み、スタープラチナの右肩を火球が焼く。 「くっ……スタープラチナ・ザ・ワールド!!」 咄嗟に時を止め、先程号令をかけた男へと向かって承太郎は跳び上がる。 あれほどの数のメイジに守られている男、恐らくこの大軍を率いる将と見た。 ならばそいつさえ倒せば軍の混乱は頂点を極めるだろう、後は逃げるだけだ。 しかし負傷のためか、連続して時を止めて戦った疲労のせいか、 敵大将を射程圏内に納めるよりも早く時間停止は解除される。 突然前方から飛んで迫ってくる承太郎の姿に気づいた将軍は、素早く杖を抜いて詠唱。 妨害すべくスタープラチナで銃弾を一発弾き飛ばすが、 将軍はその弾道を見切ると杖で叩き落すした。 承太郎と将軍の距離が詰まる。 「スタープラチナ!」 「エア・カッター!」 風の刃がスタープラチナの強靭な肉体を切り裂いていく、 それでも承太郎は止まらず将軍に拳をマシンガンのように浴びせると、 着地に失敗してその場に転がった。 将軍も吹っ飛ばされ気絶してしまったため、連合軍撤退までの時間稼ぎは成功した。 が、この場で戦闘不能に陥った承太郎の末路はたったひとつしかなかった。 「ぐっ……」 学ランを血でにじませる承太郎に、将軍の周囲を固めていたメイジ達が杖を向ける。 (これ……までか……) デルフリンガーを握っていても、身体の痛みは引かないし力も湧いてこない。 「もう駄目だね。相棒、さよなら」 別れを告げるデルフリンガー、メイジ達の詠唱が終わるのを待つ承太郎。 その時、ほんのわずか……誰も気づかない程度だが、承太郎達の身体に薄い影が落ちた。
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前ページ次ページ毒の爪の使い魔 暖かな陽光が照らす朝。 朝食をとる為に食堂へと向かい、朝日が差し込む廊下を歩く影が二つ。ルイズとその使い魔=ジャンガだ。 「はぁ…」 「…何度目だよ、そのため息は?」 ルイズのため息にジャンガは顔をしかめる。 「仕方ないでしょ……他の皆は使い魔とのコミュニケーションもとっくに終えて、共に過ごしているっていうのに、 私は召喚から”4日”も経った今日、初めてアンタを連れているのよ?」 ”4日”の部分を強調し、ルイズは振り返らずに答える。彼女が憂鬱なのもまぁ無理も無い事ではある。 ジャンガは召喚から三日三晩経った昨日の時点で目が覚めてはいた。 だが怪我はまだ完治しておらず、念の為にともう一日休息を入れたのである。 その為、召喚から計4日と言う開きが出てしまったのだ。 ただでさえ皆に馬鹿にされている彼女にしてみれば、これは非常に致命的な弱みでもあった。 このまま食堂に行けばどうなるか…考えただけでも更に気持ちが沈む。 「はぁ…」 更に鬱な気分になり、彼女の口から再びため息が漏れた。 学生達が食事をする『アルヴィーズの食堂』は既に大勢の生徒で賑わっていた。 三つ並んだ、やたらと長いテーブルにはロウソクやら花が飾られ、所狭しと豪華な料理が並んでいる。 ちょっと油断をすれば直ぐに腹の虫が鳴き出す香ばしい匂いの中、ルイズはジャンガを引きつれ足を進める。 案の定、周りからは嘲笑が聞こえてきたが、彼女は全力でそれらを無視。 ジャンガに席を引かせると着席する。 「で?」 「”で”……って?」 「俺は何処に座ればいいんだ?」 ルイズの左右の席には既に着席している生徒が居る。 自分の席は何処かと辺りを見回す。ルイズはそんな彼のコートの裾を引く。 振り向いた彼にルイズは床を指差した。 ジャンガが視線を向けると、そこには罅の入った皿が一つあり、豪華な料理とは比べる事などできないほど、 粗末なスープと如何にも硬そうなパンが乗っていた。 「おい…何だこいつは?」 「この席に座っていいのは貴族だけなの。使い魔は本来なら外で待っているのよ? あんたは私が特別に計らってあげたから床。感謝しなさいよ?」 「……」 無言のままジャンガは床に座った。――額にハッキリと青筋を浮かべながら…。 朝食が終わり、午前の授業が始まった。 食堂でもそうだったが教室に入った途端、ルイズは生徒達に嘲笑や罵声を浴びせられた。 それにも彼女はやはり無視を決め込んだ。 そんな彼女と生徒達の様子を見つつ、ジャンガは他の使い魔達と共に教室の後ろの方で壁に凭れ掛かっていた。 暇潰し程度に授業の内容を聞きながら、ただ呆然と時間が過ぎるのを待った。 やがて暇を潰すのにも飽き、船を漕ぎ出した時、生徒達が急に騒ぎ始めた。 「んだぁ…?」 騒がしい声にジャンガは顔を上げる。 見ればルイズが席を離れ、先生(ミセス・シュヴルーズとか言ったか?)の方へと歩いていく。 そんなルイズに周囲の生徒達は一様に鬼気迫る表情を浮かべ、「やめて、ルイズ」などの言葉を投げかける。 食堂や教室に入って来た時などの嘲笑とはまた違うその雰囲気にジャンガは不可解な物を感じた。 「なんだってんだ…一体?」 そうこうしているうちにルイズは教卓の前に立った。 「では、ミス・ヴァリエール。錬金したい金属を強く思い浮かべるのです」 優しく促す教師=ヴァリエールの言葉にルイズは緊張の面持ちで教卓の上の石ころを見つめる。 その様子を静かに見ていたジャンガだが、ふと一人の生徒が扉を開けて出て行くのに気付いた。 ゆっくりと扉を閉め、タバサは教室を後にする。 ルイズが魔法を使おうとすればどうなるかは誰もが承知の事実。 故に誰もが必死にルイズを止めようとしたのだ。 あの教師は少し気の毒だが、今年就任したばかりで彼女の事を知らないのだから致し方ない。 それにタバサにしてみれば気に留める必要もない。…何せいつもの事なのだから。 教室を離れた後は読書をしつつ、次の授業の事を考えればいい。 タバサは本に目を落としながら、静かに読書できる場所へと歩みを進める。 「授業中に抜け出すたぁ、良くねぇな~?」 唐突に聞こえてきた聞きなれない声にタバサは顔を上げた。 見れば壁に凭れ掛かりながら、こちらに顔を向けている長身の男が立っていた。 左右で色と見開き方の違う月目が自分を見つめている。 「…ジャンガ?」 「キキキ、嬉しいねぇ…俺の名前を知っているたぁな?」 何時の間に先回りしたのだろう?多少気になったが、タバサの興味をさらうほどではない。 タバサは本へと目を戻し、ジャンガの前を通り過ぎようとする。 「おいおい、無愛想だな…?」 「……」 タバサは最早顔も上げず、読書を続けながら歩みを進める。 そんな様子に舌打するジャンガ。 「まだ授業は終わっちゃいねぇぞ…?不味いんじゃないのか?」 「…いいの」 「おいおい…」 「多分…授業続けられない」 「そりゃ、どうい――」 ――その時、ジャンガの声を遮り、学院内を揺るがす爆発音が響き渡った。 「な、なんだぁ?」 突然の事にジャンガは両目を見開き、爆発音の聞こえてきた方向=教室の方を振り返った。 タバサは全く動じずにその場を立ち去ろうとする。その背にジャンガは声を投げかけた。 「お、おいっ!?今の何だ?」 「…彼女の魔法…」 タバサは振り向かずに一言。 「はっ?」 「…行ってみれば分かる…」 そう言い残すと彼女は今度こそ、その場を後にした。 ジャンガはその背を暫く見送っていたが、やがて教室へとその足を向けた。 「……」 教室へと舞い戻ったジャンガは言葉を失った。 あの爆発音からある程度予想はしていたが、目の前の状況は多少それを上回っていた。 教室内は爆発の名残であろう煙が充満し、壁や天井には罅が無数に入り、窓ガラスは残らず割れていた。 床や机には砕けた壁や天井の欠片が散らばっている。 ふと、目を向けた先の床ではシュヴルーズが倒れている。 時折痙攣しているところから目を回しているだけのようだ。 爆発の状況などから考えて、おそらくは爆心地に近い所に居たのだろう。 不幸と言えば不幸だが、これだけの大爆発の爆心地にいて目回している程度で済んでいるのは幸運と言える。 と、シュヴルーズの近くの煙の中から人影が立ち上がった。…ルイズだ。 顔は煤だらけ、服やスカートはボロボロ、路地裏で生活している奴と比べても大差無い…いや寧ろ酷い。 ルイズはこんな状況下でありながら、全く動じる気配を見せず、取り出したハンカチで顔の煤を拭き取る。 「慣れてるな…」 ある意味、感心したジャンガは思わず声を漏らした。 「だから言ったのよ!」 突然、響き渡った声にジャンガは目を向ける。キュルケが怒鳴り散らしているのが見えた。 しかし、やはりルイズは動じる気配を見せずにハンカチを動かす手を止めない。 「ちょっと失敗したみたい」 そんなルイズに生徒が一斉に騒ぎ出す。 「どこがちょっとだよ!」 「今まで成功の確立ゼロじゃないか!?」 「ゼロのルイズ!!」 『成功の確立ゼロ』……その言葉にジャンガは彼女が何故『ゼロのルイズ』と呼ばれるのかを知った。 (なるほどねぇ…) ジャンガは小馬鹿にするような笑みを浮かべ、ルイズを見た。 (ゼロ……つまり”無能”って事か…。キキキ…ピッタリじゃねぇか) 前ページ次ページ毒の爪の使い魔
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Mathieu まてゅー 委員長の魔女の手下。その役割はクラスメイト。 足に履いたスケート靴で糸の上を優雅に滑走するが それぞれは魔女が糸で操ってるだけであり意思を持たない。 概要 委員長の魔女・Patriciaの使い魔。 Patriciaの縮小版のような使い魔で、ひざまくらという商品を彷彿とさせる。 プリーツスカートを穿いた下半身のみの姿をしており、空から大量に降ってきたり、Patriciaのスカートから発射されたりする。一応外敵を邪魔しているようだが、落ちてきて糸の上をスケートするだけで、攻撃らしい攻撃はしてこない。 親の魔女と違いスカートの中身が見放題だが、ちょうちんブルマを穿いているので視聴者のご期待には添えない。 劇団イヌカレーによれば「魔女といえどもパンツチラリは許しません」とのこと。 その上、Mathieuは男性名である。女装が疑われるが、姓に使われることもあるので断定はできない。 ポータブルでのドロップアイテム MathieuはAGI強化ポイントをドロップしティーチャーはDEX強化ポイントを落とす。 ティーチャーについては詳細はないのでまとめて表記する。 名前 コメント
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前ページ日本一の使い魔 「ダーリーン。」 ルイズにとって忌々しい声が聞こえる。早川に飛びつくキュルケ。キレるルイズ。我関せずで読書のタバサ。 「なによツェルプストー。何してるのアンタ?」 「あらヴァリエール、いたの?私はダーリンに会いたくて来たの」 早川は苦笑いを浮かべキュルケを見ると、背中に見事な見た目の剣を背負っている。 女性が持つにはかなり不釣合いな為、早川は尋ねた。 「この剣はどうしたんだい?」 「これは何処かのケチな貴族が、ケンにみすぼらしい剣を贈ったって言うじゃない? 私はケンにはこの剣がふさわしいって思ったから。この剣は差し上げますわ」 ケンは贈り物を受け取り礼を言うと、これから起こる事を考えそっと移動する。 「だ、誰がケチな貴族でっすって?何で人の使い魔に許可無く渡してるの?」 早川は両手を広げ肩をすくめる。 すると、タバサが早川の隣にやって来て何かを渡す。 「なんだい?くれるってのかい?」 コクリと頷き呟く。 「シルフィードがお世話になった」 二人の様子にルイズとキュルケは言い争う事を忘れる。 「ほぉー、きれいなペンダントだ。ありがとう。」 タバサの手をとり、軽くしゃがみ手の甲にキスをする早川。頬を染めるタバサ。 「「えぇぇぇーっ」」 「そろそろ帰りましょうかツェルプストー」 「そ、そうねヴァリエール」 二組はそれぞれ学院に帰るのだが、キュルケは思った。 「(私にはキスしなかったはね。ケンはタバサみたいなのが好みなのかしら、でも私がダーリンを)」 そしてルイズは考えるのをやめた。 そしてデルフリンガーは鞘に入れられたまま忘れられていた。 学院についた早川は二本の剣を交互に握り、自分の体の変調を確かめるように振るっている。 「なぁ相棒よ」 「なんだデルフリンガー」 「俺の事はデルフって呼んでくれ、それよりもよ相棒だって気が付いてるんだろ?その剣がナマクラだって」 「まぁな、でも言ったらレディが可哀想だろ?」 「相棒はキザだねー」 遠くから徐々に争う声が聞こえ肩をすくめる。 「お客さんだ」 「大変だな相棒」 ルイズとキュルケの二人が杖を相手に向け、叫ぶ。タバサは早川の横で興味無さそうに立っている。 「「決闘よ!」」 なぜこうなったかと言えば、早川には二本も剣は要らない。どちらの剣を使うのが相応しいのか 言い争い、それが拗れて決闘騒ぎになったのだ。 キュルケは『ファイヤーボール』を唱え、 ルイズは火球をかわし、『ファイヤーボール』を唱えるが火球は現れず見当違いの場所に爆発が起こる。 自分のファイヤーボールが避けられた事にムキになったキュルケは、もう一度火球をルイズ目掛け撃つ。 キュルケは後悔していた。このままだと自分がムキになって放ったファイヤーボールがルイズの顔に命中してしまう。 しかし、何かが目にも留まらぬ速さで火球を掻き消した。 早川はこのままではと思い、煌びやかな大剣を投げる。左手のルーンが光り、 想像していた勢いを上回る速さで飛んでいく。 投げた大剣が火球を掻き消し勢い衰える事なく学院の壁に亀裂を作り大剣が砕ける。 その様子に四人は 「(やりすぎたか、それにしてもこの力)」 「(ダーリン凄いわ!)」 「(あそこは宝物庫……)」 「(えぇー100%変身いらないじゃん)」 その様子を陰から見ていたロングビルは驚愕した。 「なんなんだい、あの使い魔。まぁ、せっかくのチャンスだし、利用させて貰うよ。出ておいでゴーレム!」 ロングビルが杖を振ると巨大な土人形が現れ、宝物庫の壁を殴る。 「な、何なのよアレ?」 「私に聞かれたって知る訳ないでしょ?タバサは何か知ってる?」 「おそらく『土くれのフーケ』のゴーレム。そして狙いは宝物庫」 「止めなくちゃ!」 ルイズが杖を振るうと、壁を殴るゴーレムの右腕に爆発が起きる。それに続けとばかりに、 タバサが『ウィンディ・アイシクル』、キュルケは『フレイム・ボール』を唱える。 しかしゴーレムの一部を吹き飛ばすが、すぐに修復してしまう。 邪魔者に気付いたゴーレムは三人を踏み潰そうと足を上げる。 タバサとキュルケは状況を冷静に判断し、退却という選択をする。 しかし、手柄を立てようと躍起になっていたルイズは判断を誤り退却が遅れた。 「ルイズのバカ!何やってんの!」 無常にもゴーレムは虫けらを踏み潰すかのように踏みつける。 顔をしかめるキュルケとタバサ。しかし、この男が黙って見ているはずが無い! 「チッチッチ、無茶はいけませんぜ。」 ルイズが目を開けると、ゴーレムが踏み潰した場所から数歩離れた所で早川に抱きかかえられている。 早川がデルフリンガーを片手に構え、テンガロンハットのつばを上げ 「デルフ、デビュー戦だ」 「おうよ!相棒!」 フーケは早川の処分が先決と考え、早川を始末するようゴーレムに命じる。 振り下ろされる巨大な拳、踏みつける足。なぎ払う掌。 その全てを後方宙返り、バックステップ、前方宙返りなどと華麗にかわしながら切りつける。 しかし、剣で切りつけただけでは再生するゴーレムには焼け石に水であった。 その様子を後方で見ていたルイズは、前に出てゴーレムに向かって杖を振る。 丁度、ゴーレムが早川を払おうと振り回した腕がルイズのいる場所に、ルイズの目線に土の塊が迫ってくる。 土の塊が徐々に大きくなり、もうダメだと目をつぶると横から衝撃を感じる。ふと目を開けると早川が放物線を 描き飛んでいく様が見えた、地面に叩きつけられ転がっていく自分の使い魔。 とっさに早川の元へと走る。キュルケもそれに続く。 「「ケーーーーン!」」 邪魔者がいなくなったゴーレムは壁を数発殴り穴を空ける。ぽっかりと空いた穴に黒いフードを被った 人物が入り、何かを抱えてゴーレムの肩に乗る。三人への攻撃を警戒していたタバサは、シルフィードを呼び ゴーレムを追いかける。しかしゴーレムが学院の壁を越えるとゴーレムはただの土くれに姿を変えた。 ゴーレムの主は森の木々に隠れ姿を消していた。 ─────ボツネタ───── ゴーレムに吹き飛ばされ、意識が飛びながらも立ち上がる早川。 敵を正面に保ったまま、両手を右側へ水平にピンと伸ばす。 そして、伸ばした腕を左斜め上までゆっくりと回し、静止させる。 そこから右腕のみを引き拳を握り元の場所へと突き出しなだら左腕を腰に構える。 高らかに叫ぶ 「変ー身!V3ァーーーー!」 ルイズ「絶対ダメーーーー!あんた(作者)!絶対叩かれるわよ!反応良かったら 使って見ようかなとか思ってるんでしょ!ダメだからね!!」 前ページ日本一の使い魔
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前ページ次ページ暗の使い魔 「ちょっと、何してるのよ。さっさとしなさい!」 「五月蝿いな、こんな人ごみじゃ仕方ないだろう」 細い路地にいるルイズからの催促に、官兵衛が答える。 ごった返す人ごみを掻き分けながら、ずた袋を引っさげた官兵衛がようやっとルイズの元にたどり着いた。 路地に入り込んだ二人は、元来た道を見返す。と、そこには見渡す限りの人の波。 幅5メイル程の街道に所狭しと人が並んでいた。 ここは首都トリスタニアのブルドンネ街、その大通り。 虚無の曜日――魔法学院の生徒にとって休日にあたるこの日。 官兵衛とルイズはある買い物をするために、ここ首都トリスタニアまで出てきていた。 事の始まりは、昨晩の会話である。 「この野良犬―――っ!よりにもよってツェルプストー相手に尻尾を振るなんて!」 あの後、ルイズに部屋まで連れ戻された官兵衛は、いきなり犬呼ばわりされた。 キュルケとの現場を最悪のタイミングで押さえられたためだ。挙句、鞭で散々叩かれそうになる始末。 「落ち着けお前さん――って、犬呼ばわりか!一体何だってんだ!」 ルイズがなぜキュルケとの接触をこれほどまでに怒るのか。それは、官兵衛にとっては何も関わりの無い因縁のせいであった。 聞けば、ツェルプストー家とヴァリエール家は国境を挟んでの隣同士。 トリステインとゲルマニアの戦争の度に殺しあった因縁の仲なのだとか。 さらには、ルイズにとってはこちらが重要らしいが、先祖代々ヴァリエールはツェルプストーに、散々恋人を奪われてきたらしい。 曰く、ひいおじいさんの妻が奪われた。曰く、ひいひいおじいさんの婚約者を奪われた、等々である。 とどのつまりは、これ以上ツェルプストーには小鳥一匹だって渡すわけにはいかない。そういうことらしい。 「わかった!?とにかくツェルプストー家は、ヴァリエール家にとって不倶戴天の敵なの!」 「へいへい。要は小生が近づかなきゃいいんだろう。あのキュルケに」 官兵衛はやれやれと手をすくめた。しかし、それには一つ問題がある、それは。 「向こうから接近してきたらどうする?強行手段に出られたらさっきみたいに監禁されかねんぞ」 「そうね、それにキュルケを慕う男達も黙ってはいないでしょうね」 ルイズが顎に手を当てながら言った。官兵衛も腕に自信が無いわけではない。しかしながらこの枷である。 闇夜に不意打ちでもされたらたまったものではない。何れにせよ、なにかしら身を守る手段が必要であった、そこで。 「わかったわ。あんたに剣を買ってあげる」 「えっ?」 ルイズが意外な提案をしてきた。官兵衛が素っ頓狂な声を上げる。 「確かにキュルケに好かれたら命がいくつあっても足りないわ。降りかかる火の粉は自分で払えるようにしなさい」 ルイズがツンと上を向いて言った。 「いやしかしだな!小生のこの枷で剣なんかあっても……」 「でもあんたこの前言ってたじゃない。剣があればもっと手早く済むって」 そうであった、と官兵衛は天井を仰いだ。確かに彼は、ド・ロレーヌとの決闘の後、そんな言葉を口にしたのだ。 「まあ無いよりはマシでしょ?」 「そりゃそうだが……」 「決まりね」 そんなこんなで、ルイズと官兵衛は剣を買うために、はるばる首都まで出てきた訳である。 因みに官兵衛の枷と鉄球と鎖は、白い布に包まれている。 流石にあのままでは目立って歩きにくい、と考えたルイズが用意したのだ。 傍から見れば、白い大きなずた袋を担いでいるようにしか見えず、上手くカムフラージュされていた。 ブルドンネ街の大通りを抜け、狭い路地を入る。 やがて四辻に出、そして剣の形をした看板の店を見つけると、ルイズと官兵衛はその中に入っていった。 その様子を、二つの影がそっと見ているのに気付かずに。 暗の使い魔 第七話 『魔剣とゴーレム』 ルイズと官兵衛が入ると、そこは、狭い屋内に様々武具が並んだ、薄暗い店であった。 カウンターの奥に座った店主が、こちらに気付き、胡散臭げな目で官兵衛達を見た。 「貴族の旦那。うちは全うな商売してまさあ。お上に目をつけられる事なんかとは無縁でっせ。」 「客よ」 ドスの聞いた声でそういう店主に、ルイズが一言で返す。と、店主は驚いたようにルイズを見やった。 「こりゃあ驚いた。若奥様が剣なんぞ握られるんで?」 「使うのは私じゃないわ。こいつよ」 ルイズが官兵衛を目で指す。店主は納得いったように手を打った。 「ははあ成程。近頃は下僕に剣を持たせる貴族の方々も多いようで」 相手が客だと分かると、店主は商売っ気たっぷりに愛想を振りまきながらそういった。 「剣をお使いになるのはこの方で?はあ、これはまた逞しいお方で。鍛え上げられた肉体が岩のようでさあ」 店主が、まじまじと官兵衛を見ながら、世辞を述べる。 そんな店主の言葉を、ルイズは煩わしく思いながらも静かに先を促した。 「このような方がお使いになる剣といえば、かなり大振りなものになりやすが?」 「構わないわ。私は剣の事なんて分からないし、適当に選んで頂戴」 「へい、かしこまりました」 そういうと、店主はいそいそと店の奥へ引っ込んだ。 こりゃ鴨がネギしょってやってきたわい、と内心ほくそ笑みながら。 そんな中、官兵衛は店内に置かれた刀剣類一つ一つを手に取り眺めていた。 しかし、まともな使用に耐えるような物はこの店ではそうそう見つからないようであった。 官兵衛が短くため息をつく。その時、店の倉庫から店主が大剣を油布で拭きながら現れた。 「こいつなんかどうです」 店主がドンと大剣をカウンターに置いた。 見ればそれは、なんとも煌びやかな大剣であった。所々に宝石が散りばめられ、両刃の刀身が鏡のように輝く。 刀身も大きく、1,5メイルはあろう大きさであった。成程、貴族の従者が腰に下げるにはもってこいの逸品らしかった。 官兵衛も傍により、手にとってまじまじと見た。 「こいつを鍛えたのは、かの高名なゲルマニアの錬金術師シュペー卿で。魔法だって掛かってるんで鋼鉄なんか一刀両断ですぜ」 官兵衛が熱心に見てるのをいい事に、早速売り込もうとする店主。ルイズも満足したように、その剣を眺めている。 「おいくら?」 ルイズが早速店主に値段を尋ねる。店主が淡々と値段を告げた。 「エキュー金貨で二千。新金貨で三千」 「立派な家と森つきの庭が買えるじゃないの!」 ルイズは声を荒げた。いくらなんでもこれではぼったくりではないか、と抗議するも。 「名剣は城に匹敵しやすぜ。屋敷で済めば安い方かと」 店主が笑いながらそういった。その言葉に、困ったように黙り込むルイズ。 しかし、まじまじ見ていた官兵衛がようやっと口を開くと。 「こんなナマクラで金とろうなんて、たしかにぼったくりが過ぎるな。お前さん」 店主に向かってそう言った。 「な、なんでい!いい加減な事言うなド素人が!」 今度は店主が顔を赤くして、官兵衛に怒鳴った。しかし官兵衛は冷静に言う。 「鋼鉄だって斬れる?こいつじゃあ土塊にすら劣るぞ」 そう言いながら、官兵衛は興味なさそうに大剣をカウンターに戻した。 「斬れないな。飾りだ」 そう言われると、店主は怒ったように剣を引っつかみ、店の奥へと消えていった。 官兵衛も、落ちぶれたとはいえ一介の武将である。刀剣の良し悪しを見る目は確かであった。 加えて彼は、小田原城主北条氏政より賜った名刀『日光一文字』を所有していたこともある。 名刀を見分ける目は玄人であった。 ルイズがだまされた事を悟り、わなわなと震える。 「貴族相手にナマクラを売りつけようだなんて!」 「落ち着け。向こうも商売人だ」 官兵衛がルイズを宥める。といっても今回のは流石に度が過ぎるとは官兵衛も思ったが。 「とりあえず出るか」 先程から店主も戻って来ないし、このままでは埒が明かない。と、店の外に出ようとしたその時であった。 「よう兄ちゃん!おめえ結構いい目してるじゃあねえか!」 唐突に狭い店内に声が響いた。 官兵衛とルイズが見回すも、辺りには誰もいない。 「どこ見てんだよ。こっちだこっち」 とりあえず声のする方向へ目を向けるも、積み上げられた剣があるのみ。人影らしい人影はどこにも無かった。 「おめえ!やっぱり目は節穴か!」 その時、官兵衛は驚き目を見開いた。なんと声の主は、一本の剣であった。 乱雑に積みあがった剣の束の中の一本の剣。正確に言えばその柄の部分から声が発せられていたのだ。 ガサゴソと乱暴にその剣を引っつかむ。 「おいおい!慌てんなって。もう少し優しく扱いな」 口と思わしき柄の部分がカタカタと震えた。 「それって、インテリジェンスソード?」 ルイズが戸惑いながら、その剣を見やった。 「いんてりじぇんす?」 「海を隔てた南蛮の――じゃない、魔法によって意志を与えられた剣の事よ。珍しいわねこんな所で」 ルイズが妙な電波を受信しながら、官兵衛に説明する。 「何でも有りか、魔法ってのは」 剣が喋るという事実にも驚きである。しかし何よりも、物に意志を与えるというデタラメな魔法の力に官兵衛は舌を巻いた。 「やいデル公!またおめぇは!」 いつの間にかカウンターに戻ってきていた店主が、手に持った剣をみるやいなや怒鳴った。 「デル公っていうのか?お前さん」 「ちがわ!デルフリンガー様だ!」 「へぇ、名前だけは立派ね」 ルイズがデルフリンガーをじろじろ見ながら言った。確かに名前は立派だが、当の剣はさび付いていてボロボロである。 長さは先程の大剣と大して変わらないが、それでも先程のものから比べると大分見劣りした。 それでも官兵衛は興味深げに、デルフリンガーを見回す。 「おいお前さん。喋れるってことは色々知ってるのか?」 「剣に尋ねる時はテメエから名乗りやがれ」 「それもそうだな、小生は官兵衛。黒田官兵衛だ」 「そうかいカンベエ、俺の事はデルフでいいぜ。」 なにやら嬉しそうに剣に話しかける官兵衛を、ルイズは怪訝な顔で見つめていた。 「なによあんた、その剣気に入ったの?もっと綺麗なのにしなさいよ」 彼女がそう言うも、官兵衛はデルフとのおしゃべりに夢中で取り付く島もない。 仕方無しにとルイズは店主に向き合う。 「あれはいくらなの?」 「あれなら100で結構でさ」 「あら安いじゃない」 「こちらからしたら厄介払いみたいなもんでして。何しろそのデル公と来たら、客にケチ付けるは罵るわ、ともう散々で」 「え~」 ルイズは再び嫌そうな顔をする。しかし官兵衛はあの調子だ。 「カンベエ!どうするのよ!」 「ん?ああ、買うぞ」 ルイズは肩を落とした。官兵衛が懐から袋を取り出し、カウンターの上に中身をぶちまける。 店主が、慎重に金貨を数え終わると、頷いた。 「毎度」 ルイズは深く深くため息をついた。 「よろしく頼むぞデルフ」 「こちらこそな、いやしかしおでれーた!こんな所で『使い手』に拾われるたぁな!」 「使い手?」 なにやらまだ官兵衛と剣はおしゃべりしているようだが、ルイズはさっさとこの店を出たかった。 さっさと出るわよ、と官兵衛を無理やり店の外に押し出すと、ルイズもそれと同時に出て行った。 薄暗い店内が再びしんと静まり返る。 「やっと厄介払い出来たか」 店主がカウンターに頬杖をつきながら、短くそう呟いた。やれやれ、と言いながらパイプを吹かす。 パイプの煙が天井に届くのをぼぅっと見る。 「まあせいぜい元気でやれよ。デル公」 店主は何とも言い知れぬ静けさに、そんな言葉をつぶやいた。 店を出てから、ルイズはずっと機嫌が悪かった。官兵衛が理由を問えば。 「本当にそんなので良かったの?」 と、剣についての文句しか言わなかった。 町に繰り出したは良いものの、さび付いた剣一本しか手にはいらなかった事が余程腹に据えかねたのだろう。 「思ったより丈夫そうだ。剣として使う分には問題ないだろう」 「同じ剣でも喋らないのが沢山有るじゃない、なんでわざわざそれにしたのよ。」 加えて、インテリジェンスソードなどという迷惑な代物であった事も一因していた。 「喋るからいいんだろうが。こいつなら色々情報を持ってるかも知れんしな」 「ふ~んそう」 官兵衛の言葉に、ルイズは心底つまらなそうであった。 二人がそんな会話をしながらブルドンネ街を練り歩いていた、その時であった。 「あれ、なんの人だかりかしら?」 ルイズが通りの正面を指差した。官兵衛もそちらを見る。 すると、そこにはおびただしい数の人々が何かを囲んでいるのが見えた。 このまま行くと間違いなくあの群衆にぶつかるだろう。しかし通りの人の流れは激しく、回り道をしている余裕などない。 ルイズ達は仕方なく、前へ前へと進んでいった。 「ええい、見世物ではない!散った散った」 ざわめきに混じって衛士が怒号を飛ばしているのが聞こえる。 そして人ごみの隙間から、衛士達が木でできた担架で、布に包まれた何かを運んでいくのが見えた。 一体何なのかと、一番後ろに並んだ男性に話を聞く。すると、驚くべき答えが返ってきた。 「ああ、メイジの死体が出たんだとさ」 男性はルイズに答える。その言葉にルイズは息をのんだ。 「死体って、殺されたの?」 「どうやらそうらしいな。今月に入って二件目だとさ、ひでぇ話だ」 あまりに物騒な話に、ルイズは顔色を変えた。 「なんだってメイジが殺されるんだ?この世界じゃ貴族を手にかけるなんざ重罪じゃないのか?」 官兵衛がルイズに問う。 もちろん貴族でなくとも殺人は重罪である。 しかし官兵衛は、この世界の頂点に君臨する貴族がなぜ殺されたのか疑問に思ったのだった。 「わからないわ。今回殺されたのは貴族なの?」 ルイズが再び男に話を聴いた。 「いいや、貴族じゃない。身元知れずのメイジさ」 成程、確かに殺されたのが貴族であったのなら、このような騒ぎでは済まない筈だ。 しかし、官兵衛は男の答えに疑問符を浮かべた。 「メイジが全員貴族なわけじゃないのか」 「そうね。メイジにも色々あって傭兵に身をやつしたり、泥棒になったりするケースがあるわ。 貴族は全員がメイジだけど、メイジ全員が貴族じゃあないのよ。それにしても――」 官兵衛の問いに答えた後、ルイズは考え込んだ。 「メイジが立て続けに二人も殺害されるなんて、いったいどうしてかしら?」 メイジ同士のいざこざであろうか。 身元不明のメイジであれば大方盗人の類であろう。つまりは、裏社会の事情によるものかも知れない。 もしそうであれば、自分たちには関わりの無い事だ。ルイズはそう思った。しかし、彼女は何かが引っ掛かっていた。 現場処理が終わり、人の群れがまばらになってきた所で、官兵衛とルイズはようやく歩き出した。 「はぁ、大分遅くなっちゃったわね。帰りましょう」 「おう」 二人は馬を預けている駅へと向かった。 ルイズと官兵衛は、馬で約三時間の道のりを走り、学園へ戻ってきた。 その頃にはすでに日が落ち、辺りには夜の帳が降りていた。 官兵衛はまずルイズの部屋に戻るなり、デルフリンガーを鞘から出して会話を始めた。 彼がデルフを選んだ理由は主に二つ。一つは勿論武器としての役割。もう一つは情報収集であった。 こちらに来てからまだ一週間。官兵衛は、この世界の世情について疎い部分が多くあった。 勿論シエスタ達との会話や、日ごろの授業から情報を得ている。 しかしながら、それらの情報源だけでは得られるものに限りがあった。 図書館の利用も考えたが、そこは貴族専用で自分のような平民は入る事すら許されない。 そんな時、彼はデルフリンガーを見つけたのである。 トリステイン中心部の武器屋に眠っていた、意志を持った魔剣。何かしらの情報が得られると官兵衛は踏んでいた。 彼は日本に帰る為にも、一つでも多くの情報を欲したのであった。しかし―― 「なぜじゃあああああああっ!」 「まあまあそう騒ぐなって相棒」 「誰が相棒じゃ!」 またしても切ない叫び声が夜空に響いた。頭を抱え、その場にうずくまる官兵衛。 「おいおいどうしたってんだよ相棒。そりゃたしかに俺様は忘れっぽい。長い間眠ってたからな、うん。 でもそれがどうした?それを差し引いても俺様はそこらの名剣に劣らないぜ。後悔させねえ、絶対」 「後悔だらけだこの錆び錆び!何聞いても忘れた、知らねぇだの、お前さんを買った意味が半分無いじゃないか!」 「よくわかんねぇが、半分あるならいいじゃねぇか。仲良くやろうぜ」 官兵衛はガックリと肩を落とした。官兵衛は肝心の情報を、デルフリンガーから全く得られなかったのだ。 忘れっぽいと言うことは思い出す可能性も無きにしも非ず。だが、今のところそれには期待できそうになかった。 「だから言ったじゃない。もっと普通の剣にしときなさいって。」 ベッドに腰掛けたルイズが頬を膨らませてそう言う。 と、その時であった。 「はーい!ダーリン!」 キュルケが突如、ルイズの部屋のドアをこじ開けて現れた。官兵衛を見るや否や抱きつく。 そして後から、青い髪の少女が本を読みながら入ってきて、ちょこんと官兵衛の隣に座った。 「ちょっとツェルプストー!何勝手に人の部屋に入ってきてるのよ!」 ルイズが立ち上がり、がなり立てる。それに対して、ルイズに今やっと気がついたかのようにキュルケはニッコリ笑う。 「あらルイズこんばんは。生憎だけど今日は貴方に用は無いの。私はダーリンに用があって来たのよ。ねっ、ダーリン」 「だ、だありん?よく分からんが小生に何の用だ?」 官兵衛がおずおずとキュルケに尋ねる。 しかし、昨日の今日で随分なアプローチの仕方だ。恋のためならどこへだろうと現れる。他人の部屋だろうとこじ開ける。 これがツェルプストー流の恋の方法だとしたら、本当にとんでもない家系だ。 官兵衛は、二の腕に押し付けられる胸の感触に苛まれながら、そう考えた。 キュルケがシャツをめくり上げ、スカートの中から何かを取り出した。それは一冊の本であった。 頑丈そうなカバーに包まれ、丁寧に鍵まで掛けられている。随分と重要そうな書物だった。 「これをね、ダーリンに・あ・げ・る」 キュルケが色気たっぷりに、その本を手の中に包ませた。 「な、なんだコイツは?」 「フフ、これはね、『召喚されし書物』って言う代物なの。我がツェルプストー家に伝わる家宝よ」 「何!召喚された書物!?」 官兵衛が驚愕し、手の中の本を見やる。 「そうよ。もしかしたらダーリンの助けになればいいなって。私からのささやかな贈り物よ」 バッと頭上に書物を掲げる官兵衛。目を輝かせ、彼は肩を震わせた。 もしこの書物が日本から、いや官兵衛の世界から召喚された物なら、大きな手がかりであった。 彼が元の世界に帰るための、これ以上ない程の。 「どういうつもりよキュルケ」 「あら、貴方こそ。ダーリンに剣なんかプレゼントしちゃって」 「何よ、使い魔に最低限必要なものを買い与えるのは、主人である私の務めよ」 「必要なものねぇ」 キュルケがチラリと官兵衛の横に置かれた、錆び付いた剣を見やった。ぷっと吹き出しながらルイズに向き直り。 「大方お金が足りなくてあんなものしか買ってあげられなかったんじゃあないの?」 「違うわ!カンベエがあれでいいって言ったのよ!必要なら私がもっと立派な剣を買ってあげたわよ」 「あら、それはダーリンが気を使ったのでなくて?お金の無い貴方に。 まったく使い魔にお金の心配をされるなんて、主人として情けないわね?」 ルイズの眉が釣りあがった。握り締めた拳がわなわなと震え出す。 と、突如ルイズは官兵衛の持つ本をバッと取り上げた。 オイ!と官兵衛が抗議する間もなく、ルイズは本をキュルケに突っ返した。 「いらないわよこんなもん!」 「それは私がダーリンにあげたの。貴方にあげたんじゃないわ」 「使い魔の物は私の物。私の物は私の物よ!あんたからは砂粒ひとつだって恵んで欲しくないんだから」 官兵衛が横でふざけんな!と抗議するが聞く耳持たずである。 「全く、こんなんじゃダーリンが可哀想よ。 彼は貴方の使い魔かもしれないけど、意志だってあるのよ?そこを尊重してあげなさいな」 そうだぞ!と官兵衛が繰り返す。キュルケが再び官兵衛に寄り添った。 「ねぇダーリン、こんな自分勝手なルイズより私のほうがいいわよね?私なら貴方に何だって望むものを与えられるわ。 勿論、貴方を送り帰す方法だって」 キュルケの言葉に官兵衛はハッとして、彼女を見やった。 何故それを知ってるんだ、と言葉が出かかったが、フレイムとの感覚共有のことを思い返し口を閉ざした。 「何よ余計なお世話よ!それにこいつを送り帰すのは主人である私の勤めよ!ゲルマニアで相手にされなくなったからって、 トリステインに越してきた色ボケは引っ込んでなさい!」 「言ってくれるじゃない……」 キュルケの目が据わった。ルイズが勝ち誇ったように言う。 「何よ、本当の事じゃない」 二人の視線がバチバチと火花を散らした。二人が同時に杖に手を掛けた。 すると、それまでじっと本を読んでいた青髪の少女が、すっと杖を振るった。つむじ風が舞い上がり、二人の手から杖を吹き飛ばした。 「室内」 表情を変えず、少女が淡々といった。おそらくはここで杖を抜くのが危険だと言いたいのだろう。 「なにこの子、さっきからいるけど」 「あたしの友達よ。タバサっていうの」 タバサは再び座り込むと、官兵衛のとなりで相も変わらず本のページをめくり始めた。 官兵衛はタバサを見やる。年の程は13~4程だろうか。赤い縁の眼鏡を掛けた、幼そうな顔立ちの少女であった。 官兵衛の視線を気にも留めず、彼女は淡々と読書をしている。 「(随分無口な娘っ子だ、だが――)」 官兵衛はこの少女の立ち振舞いに違和感を感じていた。そう、何者をも寄せ付けない雰囲気。 彼が日ノ本で幾度と無く感じた、あの冷たい気配。例えるなら、豊臣秀吉の左腕として活躍していた男、石田三成。 それを思い出させた。 ふと、タバサがこちらを向いた。それに対して慌てて目を逸らす官兵衛。 「(気のせいか……)」 見ればまだ表情あどけない少女である。自分の感じた違和感は気のせいだろう。そう思うことにした。 「止めなくていいの?」 「えっ?」 タバサがすっと前を指した。見るとそこには、怒りをむき出しにして睨み合う二人の少女がいた。 「「決闘よ!」」 二人が同時に叫んだ。 「おいおい何言い出すんだお前さん達――」 「「カンベエ(ダーリン)は黙ってて!」」 二人の少女、いや鬼女に凄まれて官兵衛はすごすごと引き下がった。 「いいこと?勝ったほうがダーリンにプレゼントを贈るのよ!」 「上等よ!絶対負けないんだから!」 女同士の決戦の火蓋が切って落とされた。 「でだ……何で小生がこうなるんだあぁぁぁぁっ!」 官兵衛は気がつくと、学園内の本塔の上からロープで吊るされていた 先程部屋で急に眠くなり、意識が無くなり、気がついたらこのザマであった。恐らくは魔法で眠らされたのだろう。 自分の遥か下に地面が見える。そこは学院の中庭であり、キュルケとルイズが官兵衛を見据えて立っていた。 そして上空には巨大な竜が舞っているのが見えた。タバサの使い魔のシルフィードであった。 彼女は、シルフィードに乗りながら吊るされた官兵衛の真上を旋回していた。官兵衛の落下に備えてである。 「いいこと?先にロープを切ってカンベエを落とした方が勝ちよ」 「わかったわ」 キュルケとルイズが杖を構えた。 「いやいやお前さん達。決闘したい理由は分かった、譲れない訳がある事も。でもな、こんな形で小生を巻き込むなっ!」 官兵衛が精一杯叫ぶも、皆どこ吹く風であった。 「降ろせ!降ろしやがれ!」 「ハァーイ!待っててダーリン。今私が降ろしてあげるわ!」 キュルケが官兵衛に目配せする。 「ちょっとキュルケ!先攻は私よ!」 ルイズが杖を構えながら言う。 「わかってるわよ、ヴァリエール」 ルイズは官兵衛が吊るされたロープを慎重に見やった。 風によって左右にゆらゆら揺られるロープを切るには、最適な魔法は何であろうか。 いや、最適な魔法以前に自分が魔法を成功させられるのだろうか? ルイズは考えた、しかし考えるだけでは埒があかない。 ルイズは意を決すると、慎重に詠唱を始めた。呪文が完成し、杖をロープ目掛けて振るう。 「(あたって!)」 ルイズは祈った。だがしかし、どおんと爆発の音が響き渡った。 見るとルイズの狙いは外れ、本塔の壁に大きな亀裂が走っただけであった。 キュルケが壁を指差しながら笑う。 「あっはっは!ルイズ!貴方ってば本当に爆発しか起こせないんだから」 ルイズが悔しさに唇を噛み締めた。 「じゃあ次はあたしの番ね」 そう言うと、キュルケが余裕たっぷりに前へ進み出た。 そのまま手馴れた様子で詠唱を始める。すると、杖の先に徐々に炎が集まり、30サント程の炎の塊となった。 膨れ上がった炎をロープ目掛けて放つ。そして、ボッという一瞬の音と共にロープに命中した。 「やったわ!」 キュルケが喜びの声を上げる。ルイズはそれを歯噛みしながら見ていた。 炎が命中した部分のロープが一瞬で炭化する。そのまま重力に従い、官兵衛は真っ逆さまに地面へと落下していった。 「うおぉぉぉぉっ!」 風竜に乗ったままタバサが急降下し、即座に官兵衛に『レビテーション』の魔法を唱える。 と、官兵衛の身体は空中で一瞬止まり、徐々に地面に降りていった。 「くそっ!お前ら、あとで覚えてろよ!」 地面に無事着地した官兵衛は、忌まわしげにそう言った。 と、その時であった。 「ちょっと!何あれ!」 キュルケが官兵衛とは反対側の方角を指差した。即座にルイズが振り向く。タバサの視線が鋭く捕らえる。 官兵衛が驚愕に目を見開いた。 彼らが見る方向、そこには見るも巨大な影が、地鳴りとともに形成されていく光景が映っていた。 見る見るうちに隆起し、巨大な人型を形作る。やがて影は、30メイルはあろうかという高さにまで成長した。 それは非常に巨大な、土で形作られたゴーレムであった。 「ゴーレム!」 ルイズが叫んだ。それと同時に、ずしん!と辺りに振動が走る。巨大な人型がゆっくりと、その歩みを始めた。 そしてその歩みは、着実に本塔の壁に入った亀裂へと進んでいた。 「おいおい!冗談じゃないぞ」 未だ縛られて動けない官兵衛の元に、巨大な塊がゆっくりと迫ってきていた。 「おい誰か!こいつを解いてくれっ!」 官兵衛が叫ぶも、その声を誰も聞いてはいない。 キュルケは足早に逃げて行ってしまった。タバサは空に見当たらない。しかし、ルイズは。 「ちょっと!何で縛られたままなのよ!」 いち早く官兵衛の元へと駆けつけた。 「お前さんらのせいだよ!」 相も変わらず理不尽な主人に抗議しながら、官兵衛は迫ってくる巨大な塊を見やった。 「こいつはまさか、メイジが動かしてるのか?」 「そうよ!あの大きさ、少なく見積もってもトライアングルクラスのメイジの仕業ね。 ってそんな事より何で解けないのよっ!」 ルイズが焦りながら言う。ずしいん!とより近くで振動が走った。ゴーレムはもう目と鼻の先に接近してきていた。 そして、とうとうルイズと官兵衛の上に影がかかった。ゴーレムがゆっくりと片足を上げた。 「お前さん!逃げろ!小生なら大丈夫だ!」 「いやよ!使い魔を見捨てるメイジなんてメイジじゃないわ!」 ゴーレムの足が上から迫る。天が落ちてくるようなその迫力に、官兵衛とルイズは成すすべなく頭を伏せた。 と、突如二人の間に風が吹きぬけた。体が持ち上がり、上昇する感覚に二人は頭を上げた。 「タバサ!」 気付くと、二人はタバサの操る風竜の背中に居た。間一髪でタバサが使い魔を降下させ、二人を救い出したのだ。 「ありがとう!助かったわ」 ルイズが礼を言う。タバサは短く頷くと、ゴーレムに目をやった。 ゴーレムは亀裂が入った本塔の壁の前に立っていた。 ゴーレムはゆっくりと拳を構えると、その拳を目一杯強く本塔の亀裂に叩き付けた。拳が衝突の瞬間、鋼鉄に変化する。 どおん!と凄まじい衝撃が、本塔全体に広がった。亀裂の入った壁は耐えられず、ガラガラと無残に崩れ落ちた。 「いったい何なのあのゴーレム!本塔の壁が粉々じゃない!確かあの場所って――」 ルイズが動揺しながら言おうとした言葉を、タバサが短く引き取った。 「宝物庫」 と、突如壊れた壁の中から、黒いローブにフードを被った人影が現れた。 腕に何か筒状の物を抱えており、それを持ったままゴーレムの肩に飛び乗った。 「あの人影!あれがゴーレムを操っているメイジね」 ルイズが言うと、それを証明するかのように人影が杖を振るった。 すると、ゴーレムは足早にその場から逃げるように移動し出した。そのまま城壁を跨ぎ、森の方へと歩き出す。 「逃がしちゃダメ!あいつ、今何かを抱えてた。きっと宝物庫から盗み出したのよ」 そのまま風竜で追跡を始めるルイズ達。しかし―― 「あれ?」 突如、森に入る手前でゴーレムがぐしゃりと崩れたではないか。 「一体どうしたのかしら?メイジは?」 ゴーレムだった土山の上を、風竜で旋回する。しかし、あたりに人影らしい人影は無い。 「どうなってるの?」 「消えた」 タバサが短く呟く。 ルイズが目を凝らしながら辺りを見回すも、無駄であった。 「まんまと出し抜かれたな」 官兵衛が未だ縛られたままで言った。ルイズが悔しそうに口元を歪ませた。 翌朝、大騒ぎする教師達は、宝物庫に空けられた巨穴をあんぐりとしながら眺めていた。 そして次に、宝物庫の壁に書かれたメッセージに憤慨していた。 壁に書かれたメッセージはこうであった。 『破壊の杖、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』 前ページ次ページ暗の使い魔
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早朝、朝靄が漂う魔法学院の玄関先に私とルイズは立っていた。ただ立っているわけではない。王宮からの馬車を待っているのだ。 王女アンリエッタとゲルマニアの皇帝アルブレヒト三世との結婚式はゲルマニアの首府ヴィンドボナという場所で、2日後のニューイの月の1日に行われる。 その結婚式の場でルイズは巫女として『始祖の祈祷書』を手に、式の詔を詠みあげなければならない。 つまり、ルイズはヴィンドボナに行かなければ行かなければいけないのだ。お姫様がヴィンドボナへ行く際、一緒に行くことになっている。 そのためお姫様のいる宮殿から王宮の馬車が迎えに来るというわけだ。学院に帰ってくるのは大体1週間後だろう。 ちなみに私はルイズの使い魔ということで随伴しなければいけないらしい。 ルイズは『始祖の祈祷書』を胸に抱えながら、私はデルフを使って足元にいる猫を地面に押し付けあることを考えながら時間を潰していた。 あることというのは無論最近の生活についてだ。特に生活が苦しいところは無い。『幸福』ではないが前に比べ随分と充実している。 しかし、不満が無いわけではない。今私が大いに不満に思っていることはルイズと同じベッドで眠っているというところだ。 なぜルイズなんかと一緒に寝なくちゃいけないんだ?ルイズがキュルケのようにボンキュボンならむしろ喜んで一緒に眠るがルイズにはそういった魅力が感じられない。 ルイズは13歳か14歳ほどだろうから当然かも知れない。だが、そうなると一緒に寝ているときは邪魔なのだ。何故他人のことに配慮して眠らなくちゃいけないんだ。 一人で好きなときに好きな体勢で眠りたい。つまり自分のベッドがほしい。それが今の切実な願いだった。 剣を売った金で画材を買おうと思っていたが変更してベッドを買ったほうがいいかもしれないと本気で思っている。安物なら買えるだろう。 それと、 「ルイズ」 「なに?あ、ヨシカゲ!あんた何時までいじめてんのよ!」 「ミー!」 そう言ってルイズは猫を助けようとデルフを蹴飛ばそうとしてくる。 だが、デルフに蹴りを当てさせるわけにはいかないので、猫をいじるのを止めデルフをルイズの蹴りの場所へ移動させる。 猫はその隙をつきどこかへ走り去っていった。しかし、これでいい。猫をヴォンドボナへ連れて行く気がなかったので離れてくれて助かった。 「まったく、趣味悪いわ」 「そんなことはどうでもいい。ルイズ、トリステインに帰ってきてからでいいんだが、服を買ってくれないか?」 「服?」 「そうだ。私の服だ」 そう、服。今現在私は衣服の替えを持っていない。それはなかなか由々しきことだ。この先一張羅で生きていくわけにもいかない。 人が寝しまっている間に自分の服を洗濯したり、夜じゃあまり乾かないので生乾きで着たりと面倒くさいしな。 「そういえば、あんたそれしか服持ってなかったわね」 「ああ、さすがにもう色々と限界だ。使い魔に必要なものぐらいは買ってくれるよな?」 「ま、まあ……今までよく働いてくれたからそれぐらいしてあげてもいいわね。それと同じ服を何着か作らせればいいんでしょ」 「ああ、助かる。ついでに手袋と帽子の予備もあればもっと助かる」 よし、衣服の問題は無事解決したな。しかし、こういったことはルイズが私に賃金をくれれば起こらないんだがな。だが、自分の使い魔に金を渡す奴がいるか?いるわけがない。普通使い魔ってのは下等動物(竜やなんかは例外だ)だ。 そんな文明もない奴らに金を渡しても意味がないからな。私は人間だが、使い魔だからルイズは金をくれない。わかりやすい方程式だ。わかりやすくてむかついてくる。 幽霊でも金が要る世の中なのに金が手に入らないなんて。剣を売れば自分の自由な金が手に入るが所詮一回こっきりだしな。どうせならルイズに賃金でもくれるように交渉してみるか? 「あれ?だれかしら?」 「あ?」 交渉するべきか否かを悩んでいる所に、ルイズの声が聞こえてきた。その声に反応しルイズを見るとルイズは玄関外の朝靄を見つめている。 いや、人影を見詰めている。人影はこちらになかなかの勢いで近づいてきている。やがて朝靄が薄れ始め、人影がはっきりし始めた。 「あれは……、王宮の使者だわ」 「王宮の使者?」 王宮の使者は髪を振り乱し必死の形相でこちらへ走りよってきた。尋常と言える様子ではないことは一目瞭然だ。使者は私たちに気がつくと私たちに近寄ってきた。 「ハァハァハァハァ……き、きみたち」 「ど、どうかしたんですか?」 ルイズも使者の様子におどいた様子で少し焦っている。 「オールド・オスマンは今どちらに?と、取り急ぎ伝えねばいけないことが……」 そういえばオスマンは今何をしているのだろうか?オスマンも私たちと一緒に宮殿へ行くことになっていたはずだ。準備に手間取っているのだろうか? 「オールド・オスマンなら学院長室にいるかと」 「ありがとう。では急ぐので」 そう言うと使者は学院長室を目指し走っていった。 「ねえ、いったいなにがあったのかしら」 「さあな。少なくともいいことではなさそうだったけど」 あの使者の眼にあったのは焦りと悲しみだった。そんな感情を抱いている時点でいいことのはずがない。 「なんだか胸騒ぎがするわ。わたしも行ってみる」 「じゃあ私はここで王宮の迎えを待っておこう。迎えが来たときに誰も居なかったじゃあっちもこっちも困るからな」 というか、いくらよくないことが起ころうと、私に害が及ばない限り知ったこっちゃない。 「……わかったわよ!勝手にしなさい!」 ルイズはどこか怒ったような声を出すと使者のあとを追っていった。やれやれ、何を怒っているんだか…… まあ、そんなことはどうでもいい。迎えが来るまで暇だな。何をして時間を潰そうか……。デルフと喋るか?そうだな、そうしよう。 デルフを完全に抜きはなつ必要は無い。喋れる程度に抜けばいいんだ。そうすれば不意に見られたとしても怪しまれる心配は殆んどない……と思いたい。 さて、何を話そうか。いや、そんなの考える必要は無いな。会話の内容は重要じゃあない。真に重要なのは会話をするということなのだ。 デルフを喋れる程度に引き抜く。 「おはよう相棒」 「ああ」 「相棒ってよ。あれか?好きな子ほどいじめたいってやつか?」 は?抜いて早々何を言ってるんだこいつは? 「何で?って顔だな。だってよ。相棒はあのこねこのことが好きなんだぜ。なのにいじめてるじゃねえか。もし好きじゃねえって言うなら相棒が気づいてないだけさね。ってか、これ前にも話したような気もするけどな」 デルフ、お前はあの猫が気にっているのか?なかなか話題に出すことが多いが、まさか気に入っているのか? ちっ!私は別に好きだからいじっているわけではない!猫自体は……まあ、デルフほどではないが愛着を感じ始めていることは確かだ。 だが、勘違いするな!暇だからいじっていただけだ!それだけなんだぞ! なんてことは口が裂けてもいえない。だから私は、 「ふ~ん」 とだけ返しておいた。自分が好感を抱いている者に素直な感情を発露するには多大な勇気が必要だ。私も早くそんな勇気を身につけたいものだ。 そんなとき、不意に何かが私の足に触れた。下を見るとそこには、 「ほら、こいつも相棒のことが好きだとよ」 どこかへ去ったはずの猫が私の足に前足を乗せ私を見上げている。 「……肩、乗るか?」 「ニャー」 ……首輪を買うのもいいかもしれないな。 そんな気持ちを黙殺しようと努力しながら私は猫を抱き寄せた。
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少女、ルイズ・フランソワーズ・ルブラン・ド・ラ・ヴァリエールがもう幾度と無く失敗したサモンサーヴァント。 担当教官であるコルベールに 『時間が押しているから、この次ダメならまた後日改めて儀式を行いなさい』 と言われてしまった最後のチャンス。 詠唱・爆発、そして煙が晴れたところには、緑とも黄色ともつかぬ不思議な輝きをした 高さ3メートルほどの【鏡】が“浮かんで”いた。 鏡の中の使い魔 「ロック、そっちの計器の様子はどうだい?」 「あぁ、問題ないよ。ちゃんと正常値だ。【剣】の様に『こちらへ広がる』兆候は見られないね」 【生きている岩】が起こす現象を解析し、【入口】と【出口】として活用する技術である【ゲート】。 『【岩】は新しい宇宙を生み、それが【剣】から我々の宇宙へ侵食、入れ替わる』 ニンバスやオメガが引き起こした事件は、【ゲート】が実用化されて既に長い年月がたつ現在においても 連邦最悪の出来事の一つだ。 それゆえ、当時を知る唯一の人物であるロックは、ごくまれに連邦の研究機関に招かれることがある。 今回もそんな、ある意味『確認試験』のようなもののはずだった。 突如【岩】が活性化するまでは! 「ゲートはどうなっている!」 研究員の一人が叫ぶ。 「多少活性化しているようですが、何かが『落ち込む』と言った現象は今のところ発生していません」 「エスパーたちは!」 「岩とコンタクトを試みているようですが反応無いようです」 【岩】は何万年単位で“生きて”おり、活性化する時期も期間も条件もほとんどわかっていない。 【岩】が持つ力【第3波動】を使うエスパーも連邦内には数は少なくとも存在する。 この実験の際には必ず1人は常駐しているが、 彼らですら【岩】と【会話】できずにいるこの状況は非常に危険だ! 「僕が岩にコンタクトしてみます。そちらは実験用ゲートの終息を」 「すまん、ロック」 ロックがスタッフの一人に告げ岩のセクションへ向かう。 果たして、岩はパリパリと放電のような現象を起こしていた。 「テレパスで接触する。最悪【剣】が発生したら、僕が戻っていなくても【ゲート】で【剣】を消滅させてくれ」 そう言って【ラフノールの鏡】を張って“接触”する。 ロックが岩の宇宙に転移したと感じた瞬間、岩は非活性化し、後には、沈黙した【岩】、そして 『ロックが入ったままの鏡』 が残された。 「なにこれ、鏡?」 出てくるわけのない代物が現れて、ルイズは困惑していた。 「サモン・サーヴァントで生き物でもないものを召喚するなんて、さすがはゼロのルイズ」 などと言った囃子声が聞こえるがそれすら頭に入ってこない。 鏡を覗き込む。自分の姿が映る、当たり前だ。 しかし、当たり前でないモノが見えてギョッとした。 『鏡の中に、見たこともない顔の、刺々しい髪形をした青年が倒れている』のだ! 驚いて後ろを振り向く。いない。覗く。いる。ふりむく、いない、のぞく、いる。 「おばけーーーーーーー!」 叫んだ、そりゃもう大声で。お化けの苦手なタバサ(この当時はルイズと交流なし)が気絶するくらいの勢いだ。 「どうしました? ミス・ヴァリエール。大声を上げるとははしたないですよ」 おっとり刀で近寄ってきてコルベールがそう言うが、 「ミミミミ、ミ、ミスタ・コルベール? か、か、かが、鏡の、な、中に…」 そういって腰を抜かしながら鏡を指差すルイズにつられて、他の生徒も鏡を覗き込む。 「!!!!」 コルベールはともかく、生徒はパニックになった。 せっかくたった今契約したばかりの使い魔が逃げ出しているのにも気づかない生徒までいる。 と思うと、皆の頭の中に声が響いた。 “ここはどこですか?” さらにパニックになる生徒たち。 「先住魔法?」「エルフ? エルフが攻めてきたのか」などなど口走りながら どこに逃げるでもなく駆け回っている。 “言葉が通じないかと思ってテレパスで話しかけたんだが、失敗したかな?” 微妙にのんきに聞こえるまた同じ声が響く。 唯一正気を保って辺りを見回していたコルベールがまさかと思い鏡を覗き込んだところ、 先ほどまで倒れていた若者が起き上がって微笑んでいるではないか。 「今の声は君かね?」 意を決して話しかける。話ができるなら生徒が怖がらなければならない道理もないはずと思いながら。 “ええ。ちょっとうまくコントロールができていないようで。脅かしちゃったみたいですね” 「まずはパニックを抑えたい。君が幽霊の類や危害を加えるものではないことを証明したいのだが」 “なるほど。ならちょっと目をつぶってください” 「何をする気だね? 生徒に危害が加わるようでは私は君を打ち倒さなくてはならない立場だ」 “え~と、催眠術のようなものです。みんなには眠ってもらいます” 「害はないのだな」 “ありません” ふむ、と逡巡する。【炎蛇】の二つ名を持つコルベールだが、これほどの広範囲で生徒を眠らせる術はない。 水系統のメイジに眠りの秘薬でも使ってもらうか、風系統に眠りの雲を使ってもらうか。 「信用する、やりたまえ」 “ありがとう。では目を” カッ! というほどの一瞬の光を閉じた目にも感じたコルベールが再び目を開くと、確かに生徒たちは皆眠っているよ うだ。使い魔もそれに応じてパニックから脱し、主人の元に戻ってくる。 『ふむ、流石に幻獣はただおとなしくなる、というわけでも無い様だな』 タバサのシルフィードなどは主人を守るように警戒しているのが目に入った。 “君はシルフィードと言うのかい。ごめんよ、君の大好きなご主人様を傷つけるつもりは無いんだ” 「君は幻獣とも話ができるのか!」 コルベールはシルフィードが風韻竜であることを知らない。 『ミス・ヴァリエールはいったい何を召喚したのだ?』との、危惧に近い感情が肥大する。 “えぇと、今の、聞こえちゃいました?” 鏡の中の青年がちょっと困ったような顔をしている。 “テレパスが漏れているのか。サイコ・ブラストに近い現象かな。 ユージンが言っていたのは本当だったのかもしれない” 「何だねそれは、そもそも君はなにものなんだ?」 “詳しい話はきちんとします。その前に彼らを遠ざけるか僕がどこかへ行かないと。 たぶんそろそろ目を覚ますかと” 「君は自力で移動できるのかね?」 “ええ。どうしましょうか?” 「ならば…、ミス・ヴァリエール、起きなさい! オールド・オスマンのところにこの【鏡】を案内して、私が行くのを一緒に待っているのです」 いきなり起こされたルイズは目の前にまだ先ほどの鏡が浮かんでいて、 相変わらず鏡の中だけにいる青年にびびりまくっている。って言うか半泣きに近い。 「ミスタ・コルベール。そんな…」 「ミス・ヴァリエール、この鏡は君が召喚したのだ。この儀式は神聖なものであり、 例外を認めるわけにはいかない。だからと言ってこのままでは皆がパニックになる。 ですから、早くオスマン師の元へ行ってください」 立て板に水で反論の余地はない。気味は悪いがこうなったらもうどうしようもないのだろう。 どんよりとしたオーラを背負ってこの場を離れるルイズと、その後ろをふわふわ漂う鏡。 ある意味とてもシュールだった。 「ところで」 “なんだい? 確かミス・ヴァリエールだっけ” 声だけ聞くと優しそうなんだけどな、とか場違いなことを考えるルイズ。 「ルイズよ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。アンタ名前あるの? 【鏡】なんて呼びにくくていけないわ」 “ロック。ただのロックだよ” これが【虚無】と【超人】の邂逅であった。