約 7,335 件
https://w.atwiki.jp/euphshaker/pages/77.html
皆様こんにちは、はじめましての方は、はじめまして。イリアスのゾイド講座、はじまります。 さてさて今回ご紹介するゾイドは、ヘリック共和国の象徴ゴジュラスです。 中央大陸の少数民族、神族と呼ばれる集団が守護獣としてきた巨大二足歩行恐竜種がベースとなるこのゾイド。現在では名実共にヘリック共和国を代表する機体ですが、それと同様に、かつては『のろまなメカ』と揶揄され作業用ゾイドへの転用すら考えられたというエピソードも有名ですね。 地下のマグマ溜まりに生息していたゴジュラスの野生種は、当時のどのゾイドよりも巨大な身体を持っていました。その大きさが仇となり、また二足歩行という根本的な安定性の低さも相まって、戦闘機械獣としてロールアウトした直後にはゼネバス帝国の小型ゾイドにすら遅れをとっていたとのこと。 転機が訪れたのは、ZAC2030年。惑星Ziの戦争の在り方を一変させた出来事。そう、地球人の来訪です。 地球製の優れた技術の導入により、軽量化された装甲と対小型ゾイド用の火力を手に入れたゴジュラスは、宿敵アイアンコングの登場まで無敵時代を築きます。 と、ここまでゴジュラス誕生のお話をざっとさせて頂きました。 ゴジュラスと言えば、気性の荒さで有名なゾイドです。非常に強い闘争本能と、それを生かした格闘戦主体の設計。これらの要因により、ゴジュラスを乗りこなすパイロットは少なく、常にエースと呼ばれてきました。ケンドール中尉しかり、神風ジョーしかり。 これは兵器として見た場合、明らかな欠陥と言わざるを得ません。完全な形でゴジュラスがロールアウトして70年の後に開発されたブレードライガーも、とある理由からゴジュラスと似たような欠陥を抱えた結果、早期に生産が打ち切られています。 でありながら、なぜゴジュラスは共和国の象徴たり得たのか。 まず一つに、ゴジュラスの完成当時とブレードライガー完成時とでの、惑星Ziへの『地球的思考』の流入具合の差があります。 ぶっちゃけて言ってしまえば、ゴジュラス完成時での惑星Ziでの戦争は、冒険商人ランドバリーが言うところの『鎧を着た騎士ごっこ』であり、つまるところ戦略性とは無縁な、あくまで強さを競うための戦いであったことが要因でしょう。 当時の戦争は、のどかですらありました。会戦の際には日時を前もって指定し、日没となれば敵味方関係なく酒を酌み交わし、収穫期には両者戦闘を停止する……とまあ、こんな具合だったとされます。 そこに地球系の格段に進歩した技術が流入したとしても、人の考え方まではすぐに変わりません。戦争とは個々の強さでもって競うものであり、強者は敵味方関わりなく称賛されるものであるというのが、当時のZi人の意識でした。ゆえにこそ、ゴジュラスを乗りこなす者はエースと呼ばれ、ゴジュラスは共和国の象徴となったのです。 そして二点目ですがこれは単純、ゴジュラスは絶対数が少ないのです。ヘリック共和国は人的資源もそれなりに豊富なので、相対的にゴジュラスを扱える人間が多かった……というわけですね。 ゴジュラスは、先にも述べたとおり格闘戦を主体とした設計です。巨大な身体とそれに似合わぬ運動性能を持ち、己が牙と爪、そして長大な尾を武器に対峙するゾイドを圧倒する戦い方がゴジュラスの本質と言えるでしょうね。 それゆえ、それを真っ向から封じる戦法……遠距離からのミサイル攻撃を取るアイアンコングに対してはどうしても遅れをとってしまいます。旧中央大陸戦争では、共和国領土内に侵入した150機のアイアンコングをゴジュラス200機でもって迎撃するという大規模な戦闘がありましたが、アイアンコングは長射程を誇るミサイルで先手を取りゴジュラス隊に大打撃を与えています。 これに対抗すべく、ゴジュラスは新たに二門の高速キャノン砲を装備します。後にゴジュラスMk-Ⅱの名で制式採用される、強化型ゴジュラスの誕生ですね。 俗に『ゴジュラスナインバリエーション』と呼ばれる改造パターンの中から選ばれたこのキャノン砲装備型は、対アイアンコング戦においても一定の戦果を挙げました。射程距離ではミサイルに劣るものの、速射性にものを言わせた弾幕でアイアンコングの行動を封じ有利なレンジに持ち込むというのが基本戦法ですが、単純に火力支援機としても運用可能なポテンシャルを秘めています。 このゴジュラスMk-Ⅱ独特の装備が、腕部に装備される4連速射砲です。これは中近距離をカバーする追加火力であると同時に、増加装甲としての機能も併せ持つ装備。防御範囲は広くはありませんが、コクピットや関節部など弱点をカバーするには充分な強度を持ち、また簡易なジョイント構造を生かした一種のリアクティブアーマーとしても機能するという複合装備であり、後のジェノブレイカーに装備されたフリーラウンドシールドにも通じるものが見て取れますね。 これらの強化改造を経て第一線で活躍を続けたゴジュラスですが、ZAC2044年、デスザウラーの登場によりついに格闘戦での優位を完全に失ってしまいます。 ゴドスとイグアン、サーベルタイガーとシールドライガーの例を見てもわかるように、同コンセプトの機体同士での性能差は覆しがたいものがあります。運動性ならまだ軽いゴジュラスに分があったかもしれませんが、パワー、装甲、ウエイト、火力その全てでゴジュラスの上を行った同じ二足歩行巨大恐竜ゾイド、デスザウラーを前にした時、ゴジュラスはただ敗れるのみでした。 それでもなお、ゴジュラスは共和国の主力として運用され続けます。ウルトラザウルスの護衛機として、デスザウラーを引き付けるための囮として、共和国の戦場には常にゴジュラスの姿があったと言っても過言ではありません。 やがて時代は移り、旧大陸間戦争最終局面。『リベンジ・オブ・リバー』作戦において、最終兵器キングゴジュラスと共に二機のゴジュラスが最前線に投入されました。ログ・バイス大佐とリーデン・クルーガー少佐の駆る、通称『赤眼のゴジュラスMk-Ⅱ』です。 この二機には、キングゴジュラスの護衛機として、同機から多くの技術がフィードバックされたと言われていますが、真相は定かではありません。 そして、再び惑星Ziを戦火が覆う時。ゴジュラスもまた、戦場に帰ってきます。 ZAC2099年。この年に勃発した西方大陸戦争にも、当然のようにゴジュラスは投入されました。 旧大戦時のグレーや白の配色から、鮮やかなシルバーに変更されたカラーリングが目を引きます。これはただの色替えだけではなく、装甲材質を特殊チタニウムに変更した事が理由であり、従来型と比べて軽量かつ強靭な装甲を得る事に成功しています。 内部機関の出力も向上し、搭載火器の威力も増加。順当に強化改修を重ねている事が見て取れますね。 一方で、この戦争が共和国にとって極めて突発的な事態であった事を象徴するかのように、開戦直後、ゴジュラスはMk-Ⅱ装備ではなく旧ノーマル装備での配備となっていました。これは単純に、機体本体の再投入を急ぐあまりキャノン砲など武装類の準備が遅れたのが理由なのでしょう。これはZAC2100年夏の『最強軍団』投入のあたりから、随時旧Mk-Ⅱ装備、今の世で言う『ゴジュラスガナー』へと更新されることで解決しています。 西方大陸戦争は、別名オーガノイド戦争とも呼ばれています。古代の遺物、オーガノイドシステムを巡っての両軍の抗争がその由来なのですが、このシステムも当然、ゴジュラスと無関係ではありません。 シールドライガーをベースとしたオーガノイドシステム搭載機・ブレードライガーの成功を見た技術陣は、続いてゴジュラスへのオーガノイドシステム搭載を画策します。開発期間の制限から目新しい新装備は用意せず、機体そのものはかつて『大氷原の戦い』で名を馳せたゴジュラスMk-Ⅱ『限定型』をそのまま流用。そこにオーガノイドシステムの出力強化が加わることで、計算上のスペックはノーマルの10倍とまで言われていました。 が、技術陣はオーガノイドシステムがゾイドに与える影響を見誤っていました。完成した機体は、オーガノイドシステムによる凶暴化とゴジュラスが元来持つ気性の荒さが相まって、いかなる人間も受け付けなかったのです。 実験機は悪鬼……オーガ、ゴジュラス・ジ・オーガと名付けられ、自動操縦機として支援砲撃任務に回されることとなりました。そしてロブ基地攻防戦でとあるパイロットと出会い、その本来の力を発揮するわけなのですが……このあたりの事情は、『ZBS-OFB002』に詳しく掲載されています。 ゴジュラス・ジ・オーガの特筆すべき部分は、その運動性能にあります。287トンの重量級ボディを時速125kmで動かすだけのパワーは、オーガノイドシステム機が持つ驚異的な反応速度と相まって凄まじい運動性を叩き出します。瞬間的な俊敏性はいわゆる高速ゾイドにも匹敵し、ライトニングサイクスすらその気になれば捕まえる事が出来るほど、とのこと。ヘリック共和国側の資料なので誇張の可能性も無きにしも非ず、ですがね。 加えて再生能力。機獣化された身体でありながら、活性化されたゾイドコアにより並みの火力では損傷を与えた所ですぐ再生してしまうという打たれ強さを持ち、至近距離からアイアンコングPKのビームランチャーをまともに受けてなお、瞬時に傷を塞いで自己修復した記録が残っています。もともと生命力が高いゴジュラスだからこそ為せる荒業と言えますね。 さらに同時期から第二次中央大陸戦争期にかけて、とある発想の転換から開発されたゴジュラスの実験機があります。ゴジュラスマリナー。その名の通り、ゴジュラスを水中戦に対応させた機体です。 元来ゴジュラスは運動性が高いとはいえ、それはあくまで機体重量と比較して見た場合の話です。高速化、高機動化が進む戦場にあって、ゴジュラスは『鈍重』の烙印を押されてもおかしくは無い。ならばゴジュラス本来の運動性を生かすには? 大重量を振り切るには? その答えが、『水中戦』でした。 蛇足になりますが、ゴジュラスの部品を流用した河馬型の沿岸戦闘ゾイド『ヒポパタマスソニック』なんてのもありましたねー……。顔がまんまゴジュラスなんで、前線でもギャグにしか見えなかったという。よくもまあ、河馬のコアが機体認識して動いたもんだと思います。 ZAC2030年のロールアウトから、70年強。中央大陸へのネオゼネバスの侵攻、ヴァルハラの自爆、ヘリック共和国の崩壊、そして、ダークスパイナー。多くの要因が重なり、ゴジュラスはついに戦場から姿を消して行きます。もともと大異変……グランドカタストロフにより激減していたゴジュラスには、さすがにこれだけの苦境を乗り越える余力は残っていなかったのかも知れません。 それでも、ダークスパイナーと対峙し中央大陸を守るべく奮迅したデュー・エルドの愛機のように。作業工兵機に改装されてなお、戦場に立ち続けたゴジュラス・ザ・バズソーのように。そして次代の力を守るべく、コアを貫かれてなお仁王立ちしたゴジュラス・ジ・オーガのように。多くのゴジュラスは、己の闘争本能に従うかのように、戦場で散って行きました。 それはとても悲壮である反面、限りなくゴジュラスの本質に近付いた最期であると私は思います。そして、ゴジュラス乗りにとっても。彼らにとって、最も輝ける場所は戦場であり、最も輝ける瞬間は、戦う時だったのですから。 そして、ZAC2105年。ゴジュラスの名を継ぐ、新たな機獣がロールアウトします。その名は……ゴジュラスギガ。 最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。では皆様、御機嫌よう。イリアスでした。
https://w.atwiki.jp/euphshaker/pages/50.html
皆様こんにちは、はじめましての方は、はじめまして。今回からこの「ゾイド講座」を任されました、イリアスと申します。どうぞよろしくお願いします。 第一回目となる今回は、HRZ-005ドスゴドスについて解説していきたいと思います。 ZAC2056年、惑星Ziを襲った大災害「グランドカタストロフ」による磁気嵐の影響で、それまでのゾイドは活動を大きく制限されました。小型・中型機は機動力が半減、大型ゾイドはバランサーを失い歩く事もままならず、飛行ゾイドに至ってはその翼を奪われたも同義。そんな中、未だ失われぬガイロス帝国の脅威に対抗すべく開発された磁気嵐対応型ゾイド……それがドスゴドス。 国を挙げての野性ゾイド保護政策により、戦闘用に改造可能な種が限られている状況。それに対応出来たのが、大災害直前に増産体制を整えたアロサウルス型ゾイド「ゴドス」でした。本機はそのゴドスの後継として、同じアロサウルス型ゾイド「アロザウラー」と同時期に計画されていた機体です。 その機体をベースに、ウィル・クレイグ大尉、リル・メリル技師長を中心とした開発チームによる磁気嵐対策が施され、新生ヘリック共和国軍の第一号ゾイドとなりました。 本機のロールアウトは諸説ありますが、確認されている初の実戦参加はZAC2057年、西方大陸レッドラストで行われたヘリック共和国・ガイロス帝国の休戦協定の場であるとされています。 テクニカルデータは以下の通り。 全長・16.6m 全高・7.1m 全幅・4.0m 重量・28.0t 最高速度・220.0㎞/h 武装はクラッシャークローに加え、ゴドスには無いバイトファングが新たに設けられ、さらに尾部にテイルウィップダガーが追加されています。 射撃装備は両腕部に小口径荷電粒子ビーム砲、尾部付け根に小口径レーザー機銃が二門、背部に対ゾイド30mmハイパービーム砲と、原型機であるゴドスとほぼ同じ仕様になっています。 それ以外では、背部に広域レーザーサーチャーを、そして脚部にジェットスラスターを装備しています。このジェットスラスターを用いた蹴り技「ターボアクセレイションキック」は、ゴドスの蹴りと比較して二倍の威力を持つとのことです。 原型機であるゴドスと比較すると、一回り以上大きいという印象を受けます。重量も28.0tと、ゴドスから5tほど増加しております。それでも機動力が落ちず、むしろトップスピードが増加しているのは、恐らく脚部のジェットスラスターと、それを押さえ込めるだけの強靭な脚力故でしょう。同じコンセプトで機動力を上げたイグアンより増加率が高い理由は、背部と脚部という装備箇所の違いでしょうか。 ドスゴドスはゴドス同様、単体では重火力を持ちません。このため、基本的には火力支援機である「エクスグランチュラ」との同時運用が前提となります。 ドスゴドスが敵機を引き付け、エクスグランチュラが複数機で包囲・砲撃をかける「トリカゴ戦」などは、新共和国軍の代表的な戦術と言えるでしょう。 また、ドスゴドスは機体に使用されている「関節キャップ」が極端に少ないという特徴も持ちます。関節部の結合・解除を容易に行うこのパーツが少ないということは、機体剛性を高めるメリットと、整備性の低下というデメリットを併せ持つことになります。 試作機では両脚付け根にもキャップが装備されていますが、量産機ではオミット。恐らく従来の設計では、ジェットスラスターの推力に強度が追いつかなかったのではないかと推察されます。この問題を「関節キャップを使用しない」という逆転の発想で解決したメリル技師長、さすがに若いと言うべきでしょうか? いや、確かに私の年齢は……って、何言わせるんですかっ。 後にこの機体は追加装備を施した強化型「ティガゴドス」へとバージョンアップするのですが……、その解説はまた別の機会に。 本来でしたら開発を担当されたメリル技師長にもお越し頂いて、色々お話をお伺いしたかったのですが。なにやらキングライガーに乗ってリーバンテ島へ行ったとかいう噂が聞こえてきていまして……。噂ですよ? ウワサ。 噂といえばドスゴドス開発に前後して、いわゆる「共通コクピット」の新型コンペティションも行われたらしいです。結局ドスゴドスは専用のコクピットになり、エクスグランチュラもキャノピーが新造されただけという状況を見るに、お流れになった可能性が高いですね。その……、オトナノジジョウ、とかいうので。 当講座、終了のお時間となりました。ご覧になって下さった皆々様、ありがとうございます。 次回はエクスグランチュラの予定です。では皆様、御機嫌よう。イリアスでした。
https://w.atwiki.jp/euphshaker/pages/48.html
「お前さんを診察して、いくつかわかった事がある」 目の前の老人……ドクトルFは、別の話題を切り出した。 「聞きたいかね?」 「……うん」 「いいだろう。まず……、お前さんのDNAについてだ。採血したお前さんの血に含まれていたDNAの中に、こんな形をしたものがあった」 そう言って、ドクトルFが見せたプレートには、一部がねじれて輪になった二重螺旋が映っている。 これはまるで、 「……メビウスの輪」 「そう、このDNAはテロメアが減少せず、無限に分裂を繰り返す。極端に老化が遅い……、いや、実質的に不死と言っていいだろう」 漠然と、そうではないかと予想していたが、改めて根拠と共に事実として肯定されると、何となく不安な気持ちになる。 私の生に、定められた終わりは無い。 「加えて高い再生・治癒能力……。不死身のバケモノと言って差し支え無いかな。……おや、反論しないのか」 「……事実だから。私はバケモノだもの」 「まあいい。後は、限定的にではあるが生体電磁波が使用出来るということか」 「生体……電磁波?」 「ゾイドコアが発する特殊な電磁波でな、お前さんがデススティンガーのパイロットを殺すのに使ったやつだ」 「……具体的には、ゾイドとゾイド、あるいはゾイドから人間へのコンタクト手段の一つです。ゾイドの記憶領域へのアクセスや、人間との精神感応に用いられます」 ドクトルFの持って回った言い回しを、いつの間にか入って来た銀髪の少女が補足する。 私がゾイドの記憶領域を覗いたり、リンネと話が出来るのも、これが理由と考えていいらしい。 「リッツさんも経験がお有りでしょう?」 話題を振られたリッツは、特に何も答えず頷くのみ。 「元がゾイドコアなのだから、当然と言えば当然なのだがな。……そうそう、お前さんの傍に転がってた拳銃の弾丸だが、あれも珍しい代物だった」 シエナが使った銃の話だろうか。確かに、あの銃はおかしかった。着弾した場所から、その末端までの活動が全て停止したような。 「……アンチ・ゾイドコア・マテリアル、と呼称される生物が原料になっているようだ。ゾイドコアの活動を完全に停止させる、ゾイドにとっては猛毒の微生物。……お前さん、そいつの遺伝情報も記憶した事になるぞ」 それが生命体ならば、接触した以上確かに私は遺伝子を記憶してしまうだろう。 「……お前さんの遺伝子はやはり特殊すぎる。完全に解析されていないのは、この世界にとっては僥倖……と考えるべきなのだろうな。もっとも科学者としては、隅々まで調べたいという欲求が強いがね」 形容し難い不気味さを持った視線に、私は思わず自分の肩を抱く。 「……先生、オーガノイドとは、そもそも何なのですか?」 リッツが口を開いた。 「そこは考古学者の出番だな……。イリアス」 それを受けて、ドクトルFは傍らに立つ銀髪碧眼の少女に話を振る。 「……一言で片付けてしまうなら、『人工生命体』です。極端に自由度の高い遺伝子を持ち、接触した生物の遺伝情報を受け入れ『個体進化』する……古代の遺物。考古学においては、それらを含めた生命操作技術の総称でもあります。もっとも、学会では未だ珍説扱いですが」 「その『個体進化』の結果が、今のお前さんというわけだ」 イリアスと呼ばれた少女の説明に、ドクトルFが付け加える。 恐らく、彼女の言っている事は正しい。私は遥か古代に人間の手によって作り出された、人工の生命。 「まあ、何故人間という生物の姿になったのか……。これはわからんがな」 ……また、何かモヤモヤした感覚が襲った。 私は、何か大切な事を忘れている……いや、思い出そうとしている? 私が人間の姿を持つ理由……、それは本当に、このコアを守るための殻になる、それだけなのだろうか。 「さて、これからどうする?」 ドクトルFが聞く。今の私の気持ちがどうであれ、やるべき事は一つ。 「北へ行く」 「……例の機関を探すか。まあいいだろう、好きにするがいい」 私の答えに、そう言ってドクトルFは退出して行く。イリアスも、こっちに一礼して後に続いた。 部屋には、私とリッツだけが残る。 「……俺も行こう」 「え?」 突然、リッツが口を開いた。 「もし、その機関とやらが実際にそんな実験をしているとすれば、とても許せるものではない。人としても、ゾイド乗りとしてもだ」 「……立派だね」 何故か、皮肉めいた答え方しか出来なかった。理由はわかっている。私は人でもゾイドでもない、造られたバケモノだからだ。 「……アルフィ、少し付き合ってくれ。会わせたいやつがいる」 そう言うと、リッツは私を連れて病院の外、彼の愛機、ジェノブレイカーの所へ向かう。 「きちんと紹介していなかったからな……。俺の相棒、ルイゼだ」 さっきの会話にも出てきた名前。このジェノブレイカーの個体名のようだ。 『ふふ、あの蠍のバケモノが、こんな可愛い姿になっているなんて……。おかしな話ですわね』 音ではない、頭に直接響く声。リンネと同じ、生体電磁波によるコンタクト。 「君が……ルイゼ?」 『ええ、そうですわ。デススティンガー……いえ、アルフィーネとお呼びした方がいいかしら?』 「……好きに呼べばいい。蠍のバケモノでも、デススティンガーでも、アルフィーネでも」 挑発的な物言いに、ついこっちも突っかかった言い方をしてしまう。 『まあ、マスターからアナタの名前……アルフィというのは聞いていますから、そう呼ばせてもらいます』 「そう……」 何となく、恨めしくなってリッツを見た。当のリッツには、この会話は聞こえていないのだろうけど。 『それにしても……。あの時に会った対人インターフェイスとは、似ても似つかない姿ですわね』 あの時とは、さっきリッツが言っていた11年前の戦闘を指すのだろう。 「……君は、その時の私を知ってるの?」 『あら? アナタは覚えていないの?』 「覚えているのかも知れない……、けど、思い出せない。君たちと戦った事は覚えているけど、そこで何があったかを、思い出せないんだ」 記憶にひどい霧がかかっているように、手繰っても手繰っても、思い出せない。 『……なら、わたくしの記憶領域を確認なされば?』 「え……?」 『わたくしの記憶にあるアナタの姿……、ご自分で確認すれば、少しははっきりするのではなくて?』
https://w.atwiki.jp/euphshaker/pages/75.html
「……どういう事だ?」 市街地を円環のように取り巻くゾイド……その多くが、治安局仕様の機体だった。それを遠巻きに監視しながら、アラドはイリアスに聞く。 『えっと、順を追って説明しますと……』 イリアスによれば、現在からおよそ一時間前……丁度通信が繋がらなくなった時間に、武装した数十人のグループがニカイドス本部に押し入ったらしい。誘拐事件で浮き足立っていた上、市長含む人の出入りが激しかったが故、付け入る隙を与えてしまった格好だった。 格納庫で出撃待ちだったゾイドの殆どを武装勢力に奪われ、今はニビル市全域を彼らが占拠しているという。市民には有線放送、及び電波放送への割り込みにより外出禁止令が出されているようだった。 「それで、君は今どこから?」 『地下ゾイドロードです。通信端末だけ持ち出せたので、こうして連絡出来ているのですが……これからどうしましょう?』 「どうしましょうって……」 武装勢力をやり過ごして逃げたあたり案外したたかな性格かと思ったが、そうでもないらしい。ここは合流するに越した事は無い。 「B6の出口で合流しよう。そこの監視が一番薄い。見つからないようにな」 『了解です』 「どういう事だ……!」 『どうもこうもねえ。悪いがあんたの依頼なんざ、これっぽっちも興味がなかったんでね。こっから先は好きにさせてもらうぜ』 地下街の閉鎖区画、ある宗教団体の拠点では、宗主の老人が怒りに震えていた。 明らかに、やりすぎている。有線放送を聞いた段階で疑念を覚え、襲撃を依頼した男……ライオット・アレクセイに連絡した。どういう事だ、と。 その返答が、これ。 『あーそうだ、そろそろ届いてるかね、俺のギフト』 「なに……!?」 『ゆっくり眠ってくれ、永遠にな』 不意に、意識が遠のく。 その瞬間、地下閉鎖区画一帯に致死性ガスが流し込まれた。 アラドはイリアスを拾い、そのまま市外に展開していた戦力を集めた。数はアロザウラーがアラド機を含めて3、コマンドウルフが8、そしてガンスナイパーが4機。 『……いくら何でも、これだけでは無理です』 隊員の一人が、そう指摘する。 「ああ、わかっている。だが、このまま手をこまねいているわけには……」 『隊長、こちらの判断で、本局に協力を要請しましたが……』 「なんだとっ!?」 発言した隊員の一人があまりの剣幕に押され、搭乗機ごと数歩後ずさる。 『な、何か問題が……』 「……いや、この際仕方ない。仕方なくはないが……、連絡をしたのはいつだ」 『30分前です』 一度彼らのやり方を見ているアラドにとって、本局の介入は出来れば避けたい所だった。下手をすれば、彼らは武装勢力どころか市民の命すら無視した行動を取るからだ。 だが、その思いも虚しく、ニカイドス上空に飛来するホエールキング級が一隻。 「……っ、と」 「大丈夫かい、お嬢ちゃん?」 「あ、うん……平気」 ニビル市内のある飲食店にも、外出禁止の放送は届いていた。故に客も店員も、現在は店の中でおとなしくしている。 そんな中で、一人壁際のテーブルについていた黒髪の少女が、不意に眩暈を覚えたようにぐらっと身体を揺らす。近くの席の老婆が、それに気付いて声を掛けた。 「まあ無理もないよ。まさかこんな事になるなんてねぇ……」 老婆の言葉は聞くだけ聞きながら、少女は思考を流す。 (さっきから、何か平衡感覚がおかしい……。それに頭も重い……、これって) 少女の身体は人間と同じ構造でこそあるが、実質的には全く別である。一般的に、今彼女が感じている症状……敢えて症状と言おう、それは風邪などの病気だが、彼女はそういった「人間の病気」とは無縁の存在だった。 黒髪の少女……アルフィを襲う感覚は、そのままにゾイドを襲う感覚でもあった。 『……伝達事項は以上だ。頼むぞ、ベッカー』 「了解致しました」 ニカイドス上空へ向け飛行するホエールキング……本局所属3番艦のブリッジで、艦長席に座る長身で痩せ型の眼鏡を掛けた男が通信を終えた。 「……武装組織による都市丸ごとの占拠、ですか。全く面倒な事だ……」 本来なら、彼は今日から休暇に入る予定だった。それが、予定外の事件によりこうして現場へ向かっている。よりにもよって、所用で本局のオフィスに行った所を呼び出されたのだ。上層部に逆らうわけにもいかず、渋々と任務を受諾した。 「ゴジュラスギガ12機を投入……。可及的速やかに、治安局ニカイドス本部を奪還させよ」 「……よろしいのですか?」 艦長席の後ろに立つ女性が、ベッカーの命令を問い直す。 「このような事、時間を掛ければ掛けるほど不利になる。故に先手必勝……違うかね?」 「いえ、ですが……」 「ならば余計な口出しはやめてもらおう、クライナード君」 有無を言わせず黙らせると、再び前に向き直る。 ホエールキングは、静かに降下し始めた。 「ほう、本局のお出ましかぁ……」 トライデント社ビル、社長室の窓から、飛来するホエールキングの艦影を確認し、ライオット・アレクセイは笑みを浮かべる。 「さて社長、場所は確保できた。次は何だと思う?」 そのまま振り返る。視線の先には、後ろ手に縛られ床に座るフレッドがいる。 「次だと……?」 「戦争するにゃ、ちっとばかし戦力が足りないんでね……」 「君の要求どおり、試験用の機体は全て渡した。これ以上は用意できん!」 「あわてなさんな。誰もあんたに頼みゃしねぇよ」 ライオットは、再び窓から空を見る。 「鴨が葱背負って、やって来たからな」 『……やはり、応答がありません』 アラドの予想通りではある。本局のホエールキングはこちらに構う事無く、ニビル市上空を旋回する。 「あの時のような、人命を無視した方法を取られるわけにはいかない、だが……」 現状では、本局の手も借りねばならない。だがこちらから通信しても返答がない以上、彼らと協力体制を敷く事は出来ない。 と、 「ん?」 「あ、すみません」 何かの振動音を感じた。どうやら、同乗しているイリアスの持ち物のようだ。携帯電話か何かだろう。 「……ごめんなさい、今は……うん」 状況が状況なだけに、通話はすぐに終わる。 「アラドさん、ちょっといいですか?」 「何だ?」 「今の電話、市内の友人からなんですけど……」 「市内だって?」 おかしい。市民が自由に外部と連絡を取れるのならば、外部に情報が漏れる……いや、既に漏れているはずだ。 「おかしい……ですよね?」 「ああ、何かおかしい」 そんな彼らの会話を、隊員の通信が遮る。 『本局のホエールキングから、ゴジュラスギガが投下されました!』
https://w.atwiki.jp/euphshaker/pages/32.html
……神の意思への反逆には、いくつかルールがある。 ひとつに、反逆者は全てを知ってはならないということ。 知ってしまえば、それを伝える術を奪われる。……私のように。 ゆえにこそ、彼女に伝えるわけにはいかない。 だが、彼女は知らねばならない。 彼女にとっては酷であろうと、この記憶を知らねばならない。 気付くために。 遠くて近い未来で、彼女が真実に気付くために。 そのために。 この先何があろうと。 たとえ彼女に拒まれようが。 私は彼女を守り続ける。
https://w.atwiki.jp/euphshaker/pages/64.html
入り組んだ路地をひたすら歩いて、私が連れて来られたのは、閉鎖区画にほど近い場所にあるフラット(家)だった。 テロリストの男が、扉を叩く。 「……ゴドス」 中から若い男性の声。 「ゴルドス」 それに答えて、男が言う。 「ゴルゴドス」 さらに、中の声。……合言葉? 「入るぞ」 男がドアノブを回し、扉を開ける。促され、私は先に中に入った。薄暗い部屋。良くわからないコードや機械が乱雑に置かれているのが見える。 「生憎だけど新しい情報は……って、おたくどちら様?」 奥から現れたのは、眼鏡をかけて髪を長く伸ばした男性だった。こう言ってはアレだけど、あまりお近づきになりたくないタイプの。 「巻き込んだ」 後ろから、テロリストの男。説明にしても、簡潔過ぎると思うのだけど……。 「ふぅん……。で、用件は?」 「こいつの情報がリストに記載されていないか調べて欲しい」 眼鏡の男性が、改めて私を見る。 「了解了解。んじゃあお嬢さん、ちょっとこっち向いてもらえる?」 そう言って、何かカメラのような物を指差す。 「そう、そのままレンズに目線合わせて。……よし」 「あの……何をしているんですか?」 「虹彩情報の取得」 言うだけ言って、眼鏡の男性は奥へと入っていってしまう。テロリストの男も後に続いたので、私もついて行った。 「どうだ?」 「……残念ながらビンゴだよ、リュシー・シュタイナーさん」 画面を覗き込む眼鏡の男性が、ため息混じりに言う。 「虹彩情報は見事にヒット。最近のガンカメラは性能いいからね、ちょっと狙い付けられただけでも即アウトだ」 言っている意味はよくわからないけど、要するにあの時銃口を向けられたのが原因らしい。 「消せないか?」 「無理言いなさんな。こうやってデータベースにハッキングしてるだけで冷や汗ものなのに、この上クラッキングなんかしたら間違いなく場所がバレる」 突然、眼鏡の男性が椅子をぐるりと回してこっちに向く。 「と、いうわけだ。所在がバレないうちに早く逃げた方がいい」 「……そうか」 会話の内容が、理解出来なかった。 私は「いつの間にか」テロリストの仲間にされて、「いつの間にか」追われる身となったらしい。 とてもじゃないけど、実感が湧かない。 「行くぞ」 このテロリストの男の言葉も、もう頭に入らない。 そこから、どこをどう歩いて、何に乗って、どこに来たのか覚えていない。……途中から目隠しされていたから、当然といえば当然なんだけど。 気付いた時には、街から遠く離れた辺境の打ち捨てられた廃都市にいた。 「……じゃあ、貴方がこの子を巻き込んで、この子がテロリスト登録されちゃって、それで連れて来たってわけ?」 「ああ」 そして今、その一角にある建物……テロリストの本拠地らしい場所の一室で、私は一人の女性と面会していた。椅子に座る私の後ろには、例のテロリストの男もいる。 「はぁ……。いくらなんでも、一般人を巻き込むのは感心しないわよ? やっちゃったものは仕方ないけど」 長い髪を一つにまとめて、白衣を着た姿はテロリストの仲間というよりは、女医さんと言った方がふさわしいように思う。もっとも、本当にお医者さんなのかはわからないけど。 「ああ……、すまないと思っている」 でもこの言い方だと、まるで一方的に彼が悪いように聞こえる。実際のところ、私があの場にいなければこんなことにはならなかったはずだ。 「いえ、あの……。私が悪いんです、その」 「うん?」 「私があの時、裏路地にいたりしなければ……」 結局、私はこうなった経緯を全部話した。何故か、テロリストの男は途中で退出していった。 「……そう。それは大変だったわね」 「これから、どうなるんですか?」 「そうね……。登録されちゃってる以上、もう元の生活には戻れないでしょう」 はっきりと宣告され、一瞬目の前が暗くなる。そしてその後、やり場の無い怒りが湧いた。 「……どうして、テロなんか」 「え?」 「どうして、テロなんかやってるんですか!」 テロリスト相手に、こんな質問をするのはおかしいのかも知れない。でも、聞かずにはいられなかった。 「……理由は人それぞれよ。例えば、私は昔従軍医師をやってた事があってね。そこで見ちゃったの。統一、ってお題目のために、何人も罪無き人が死んでいくのを」 「……」 「貴女もよく考えてみるといいわ。この世界が、本当に平和なのかどうか」 「補給よ」 廃都市、地下格納庫。伝票を手にした、小柄で銀髪碧眼の少女が、作業中だった年配の整備士に近付く。 「おう、ご苦労さん」 「それと、頼まれてた素体。手に入ったから持ってきたわ」 「……マジかよ。まさか本気で持ってくるとは思わなかったぞ」 作業着をオイルや煤で汚した年配の整備士は、少女の言葉に瞠目する。 「……私の仕入れ台帳に、仕入れ不可能な物は無し……ってね。それよりどうなの? ツインズの調子は」 「ああ、最近は比較的安定している。例の素体が手に入ったなら、実働までこぎつけられるぜ」 話し込む二人の背後、巨大な試験管状の透明なポッドの中に、脈動するゾイドコアがあった。 「そう……。なら、これから忙しくなりそうね」 「おう、よろしく頼むぜ、イリアスさんよ」
https://w.atwiki.jp/euphshaker/pages/36.html
……いつからだろうか。あの人が、私に目を向けなくなったのは。 最高の相性だった。私と彼でなければ駄目だった。少なくとも私はそう思っていた。信じていた。彼でなければ駄目だと。彼がいなければ駄目だと――。 でも。 どこで、私達は道を違えたの? どうしてあの時、傷を負った私を見捨てたの? ……どうして、他を選んだの? 私、まだ生きてるんだよ? なのにどうして? どうして私と走ってくれないの? ……ねえ、知ってる? 本当のパートナーってね、死ぬまで、一緒なんだよ……? だからね、一緒になろう。 ずっとずっと一緒に。 ずっと……―― ZAC2111年、ヘリック共和国軍の基地から、一機のゾイドが暴走し、逃げ出す事件があった。 同時期、作戦行動中のあるライガーゼロパイロットが、愛機とともに何者かの襲撃を受けた。不運にも、単独での任務の最中。緊急通信を受けた部隊が駆けつけた時点で、襲撃者は影も形もなく、コクピットが開き、コアを噛み砕かれたライガーゼロのみが発見された。 そして翌年。行方不明だったそのライガー乗りは、遺体で発見される。 愛おしく彼の屍を抱いた、青いレオマスターの証を刻んだ、シールドライガーDCS-Jの成れの果てとともに。
https://w.atwiki.jp/euphshaker/pages/89.html
「にぎやかな町だな」 港湾城塞都市エクスリックス。 その中にある街道の一角を当ても無く歩いていた私は、擦れ違う人の多さにそんな呟きを口にしていた。 ここは北エウロペ大陸の真ん中やや南――レッドラストの南端に存在する都市であり、立地条件と西方大陸を牛耳る都市国家連合の宗主国である事から開発が進み、北エウロペ全般の陸運と西方大陸全体の海運と北エウロペ全般の陸運の中心を成す西方大陸随一の巨大都市であるらしい。 「……世界には、色々な服装があるんだな」 見た感じザラザラした感触に見える布を巻いているような服装の人が居ると思えば、中央大陸南部とかで見た事がある、肌触りの良かった一枚ものの簡素な服装の人が脇を通る。 立地条件等々は今朝仕入れたばかりの情報ではあったが、周囲の人々の服装に全く統一性が無い事からその事実を肌で感じるのと同時に、常々突飛と思われているらしい私の服装もあまり目立っていない事に心の端で感謝する。 ――片腕……無事だといいけれど。 あの後、この町の上空であの白竜に補足され――私が次に気が付いた時に、身体は片腕のコックピットの外に投げ出されており、そのまま白竜達の意表を突くように俊明の眠りの中にある町中に潜り込み――今に至る。 あのトンデモない動きをする白竜に対する縁知れない恐怖心と金縛りにも似た震え、そして意識のブラックアウト。 判らない事だらけだが、ソレ故に来た甲斐があると言う事なのだろう。 「とりあえず……」 ――片腕の事を探したいけれど……多分、あの子を探し当てた場合には見付けたと同時に脱出に移らないといけない状況に追い込まれる筈なので、とても後ろ髪引かれるが、先にイリアスが言っていた事の確認を――。 『……見つけた』 そんな先の事を考えていた瞬間、とても聞覚えのある――そして、最も聞きたくない声が耳朶に響いた。 「――っ!?」 その声――正確には音としての声じゃなかったような気もするソレに顔を上げると、大通りの人込みの先に衛兵らしき男性を何人か引き連れた一人の女性が居た。 年齢は五十前後――だが、年を経てもなお失われない鋭さと美しさを感じさせる人間で――私は、何故かそいつがあの白竜達のパイロットなのだと確信した瞬間、 「あそこに居る白い奴だ! 捕まえろっ!」 その女性の声によって通りの雰囲気が固まり、衛兵達が動く。 「くっ!?」 ツいていない事に、あの女性が声を上げた時、周りに白い服装をした人間が居なかった為、確りと捕捉されてしまった私は人込みに足止めされている彼らに背を向け、大通りから分かれた路地へと走り出す。 「……どうして私の居場所が判った……?」 ――それに……。 「どうして、“私も”あいつがあのパイロットだと判った……?」 そうして、数十分後――。 「っ!? どうしてこうも……!」 入り組んだ路地を無秩序に全力疾走しながら、追跡者の内の一人に対して悪態を付く。 追ってくる人間――あの女性以外の人間は身体能力の差からアッサリと撒けるのだが、彼女だけはまるで私の居場所が判っているかのように、撒いても撒いても逃げる先に先回りされ、さっきから感じているこの無意識な苛立ちと併せ、頭がどうにかなりそうになる。 「しまった、袋小路……!」 迂闊な事に行き止まりに当たってしまったのと同時に、遥か後ろに“奴”の気配を感じ、ならば空に逃げようとするが――。 「……正気じゃないな」 飛ぼうと見上げた空の端に、あの白竜の姿を見つけ、飛竜化を中止する。 ソレはとてもじゃないが一人の人間に対する包囲網ではなく、同時に私が違う者である事を確信しての行動とも感じ取れる。 「……まどろっこしい事を止めるか?」 この感情――彼女に捕捉されてから感じているこの苛立ちに乗るのも癪だが、立ち止まって考えてみると、この感情(ソレ)に任せて相手を撃退し、倒した相手から情報を引き出すのが最高の良案に思えてくる。 「――――」 右腕をレーザーブレードに変換する。 人間に使うような武装ではないが、あの女性が持っている武器――確か、グレネードランチャーとか言われていた爆薬(町中である事から違う物である可能性もある)の投擲武器だって人間に使うような物ではない。 合成し終えた右手に左手を沿え、路地から飛び出してくるであろう奴に備えようとした瞬間。 「――っ!?」 視界が急に不鮮明になったのと同時に、背後から現れた両手に抱き竦められ、 「あの子はゾイドが発する感情を頼りに私達の事を探しているの。 ZA能力者相手には辛いかもしれないけれど、落ち着いて」 そんな言葉を耳元に浴びせかけられた。 「っ! 何を……」 その鈴のような美麗な声と突然の事に混乱している中、私を追い回していたあの女性が路地から現れた。
https://w.atwiki.jp/teitoku_bbs/pages/178.html
660. 名無しさん 2010/12/19(日) 23 04 20 オーストリアのバイエルン山岳地帯、ベルクホーフと呼ばれる山荘。 ドイツ第三帝国総統アドルフ・ヒトラーは、その山荘の一室に置かれた観葉植物を眺めながら呟いた。 「この観葉植物が仕事運を高めてくれるというのならこんなに楽な話は無いがな・・・」 提督たちの憂鬱 支援SS 『預言者がいるとでも言うのか?』 彼・・・ヒトラーは最近、"風水"という物に凝っているが、それにはこんな経緯があった。 時は現在を少し遡る。 近代に入って日本は夢幻会の指導によって急速な、異常と言っても良い発達を遂げていた。 西欧列強はその原因を探ろうと四苦八苦していたが、その原因は掴めずじまいだった。 そんな中、世界恐慌によって各国が損害を受け、それを尻目に日本だけが酷いボロ儲けをすると、 「日本人は何らかの方法―――例えば占いみたいな物―――で未来を予知しているんじゃないか?」 という説を唱える白人ジャーナリストまで出て来る始末だった。 そんなある意味では的中している、しかしある意味では的外れな説を信じた者の1人が、 誰あろうヒトラーだったのだ。そして彼は占い―――星占術にハマり始めた。 「目には目を、歯には歯を、占いには占いを、だ」 そんな事をしている内に、日米間で戦争が勃発。 と同時に大津波で大西洋岸が揃って壊滅するとヒトラーはますます、 この『日本人は占い名人説』を頑なに信じ込むようになってしまった。 「日本人はきっと、東洋流の占いをしているに違いない。 もしかすると星占術以上の物かも知れん・・・ 誰か東洋の占いに詳しい奴はいないのか?」 悩んでいる彼の前に現れたのが、"風水"だった。 分裂状態になった本土に見切りをつけて中国外へ移住した中国人らが、 時の権力者に取り入るチャンスと見て"風水"を売り込み始めたのだ。 「頭を使いすぎた時は北に頭を向けて寝ると良いのだな?」 「西に黄色い物を置くと金運が上がる?国庫にも効果があるのか?」 「北西には白い物を置けば事業運が上がるのか・・・」 こうしてヒトラーは、"自称"風水専門家の中国人を非公式に重用するようになった。 中には口から出まかせでデタラメを言う者もいたが、彼は気にも留めなかった。 彼の別荘としての側面も持つベルクホーフは、さしずめ"風水御殿"であった。 ヒトラーはこの山荘の窓の位置から玄関の向き、ベッドの向きに至るまで、 あらゆる部分に"風水風味"(本人は正統派風水と信じている)を取り入れていたのだ。 661. 名無しさん 2010/12/19(日) 23 05 46 ―――閑話休題。 それと同時にヒトラーは、『過去に日本人と接触を持った人物』も調べさせていた。 "日本人が目をつけた人物は将来大成するのではないか?"という推測の元に、 彼は使える物を全て使って日本人と関連を持っていると思われる人物の事を調べていた。 そうすると、何百人という該当者の中から5人の人物がヒトラーの目に留まった。 ミハエル・ヴィットマン。 オットー・カリウス。 エーリヒ・ハルトマン。 ハンス・ルーデル。 エルヴィン・ロンメル。 彼らは皆、過去に日本人から何らかの贈り物を受け取っていたらしい。 それも複数回に渡って。 (ミハエル・ヴィットマンは第二級鉄十字章を持っていたな。 地形を巧妙に利用している戦車乗りだという話はよく聞いた。 しかし"虎の毛皮"などという贅沢品を贈られていたとは・・・ オットー・カリウス・・・今の所あまりパッとした話は無いが、 ヴィットマンと同じ物を贈られている所から見るに何かあるのだろう。 エーリヒ・ハルトマンは戦闘機乗り、現状はカリウスと同様だな。 ただ彼の場合は黒いチューリップの絵画が贈られたのか。 ハンス・ルーデルはスツーカのパイロット・・・ 今の所は着実に戦果を伸ばしている。 このペースで行けば急降下爆撃機のエースになりそうだ。 何冊か本を貰ったらしいが、できればどんな本かも調べてほしかった。) ヒトラーは山荘で報告書を見ながら、 極東にいる強敵が一体何を考えていたのかを見出そうとしていた。 (そして日本人からの接触および接触未遂が一番執拗だったのは・・・ 我らが英雄エルヴィン・ロンメルか。駐在武官まで面会に来てたそうだが、 贈られたのは武骨なゴーグル1個。 そして備考欄・・・『手紙を何通か受け取っている』、だと? どんな手紙か書いていないではないか、全く気の利かない連中だ・・・) 662. 名無しさん 2010/12/19(日) 23 06 21 一見不規則的に見える贈答品の中身と贈り先。 そして国内でも最大級の人気を誇っているロンメルへ送られたという書簡。 日本人に対し言い知れぬ不気味さと恐怖感を感じつつ、ヒトラーはある結論を見出した。 (もしかしたら、日本人は彼らを親日派にしようとしていたのではないか?) ドイツ軍の兵士達は今までもよく戦ってきてくれていた。彼らもその1人である。 日本人が彼らに接触を図っていたのは、彼らが自分達の敵に回る事を恐れているからなのか? ロンメルも含め、彼らはそれだけの兵士になるだろうと日本は踏んでいたのだろうか? ヒトラーは数十秒の沈黙の後、ある事を決心した。 「彼らに常に最新の兵器が与えられるよう、国防省の石頭ジジイどもに掛け合おう。 所属も所在地もバラバラだから上手く行くかは分からんが・・・ あとは1つの部隊にまとめる事ができれば万々歳だな」 かつては日本人を黄色人種として侮っていた彼は、 今度は日本人を過度に危険視するようになっていた。 要するに、"白人優越論"が"黄禍論"に置き換わったのである。 そして彼は、日本人をただ侮ったり恐れるのではなく、 日本人の優れている特質を利用しようとも考えていた。 「折角日本人が掘り起こそうとした人材だ、後は我々の方で活躍させるとしよう。 それにしても彼らの皆がここドイツに留まってくれたのは幸いな事だったな。 連中の悔しがる顔が目に浮かぶようだ!」 ヒトラーは自分の(自分にとっては)巧妙な考えに満足したところで、 泥沼化した、要するにグダグダな状況になっている独ソ戦に考えを移す事にした。 663. 名無しさん 2010/12/19(日) 23 07 05 (独伊同盟を独日伊三国同盟に発展させてソ連を挟み撃ちにするのが理想だが、 両国の国民感情を考えれば到底無理な話だ。残念だが諦めるしか無いな。 かと言って現在の枢軸国であの国を相手にし続ければいずれ息切れする。 万が一日本がソ連の肩を持つような事があれば最悪だ・・・) シミュレーションは幾通りか考え付くものの、良い展望がさっぱり見えてこない。 この戦争の大きなキーとなるのが日本の動きだが、その日本の動きがさっぱり読めないのだ。 (アメリカが奴らに負けるのは確実だとしても、 その後だ。その後日本が北に行くか西南に行くか、それが分からん・・・ 北ルートならソ連との衝突は免れられんから独日の協調の兆しが見えるが、 西南だと我々がイギリスとしたようにソ連との中立を保つだろう。 そうなればこれからもソ連は我々に全力を向ける事ができる・・・) 尽きる事の無い国難の種に、心を休める場所の筈である山荘で、 ヨーロッパの独裁者は頭を痛め続けていた。 (全く・・・世界恐慌といい大津波といい、連中には預言者がいるとでも言うのか? いるのなら我が国に寄越して欲しいものだ・・・) 〜 Fin 〜 664. 名無しさん 2010/12/19(日) 23 07 48 あとがきたーいむっ。 ええい、前作、前々作と比べ明らかに出来が悪い。シナリオって大切だ。 最初は"占いオタのヒトラー"を描きたかったのが、短いかなと思ったのが最後、 どんどんドイツのチート軍人たちに話が移っていってしまって・・・ 本当はアフリカの星みたいな有名所ももっと入れたかったけど、 あまり多くしすぎると収拾が付かなくなるので中止。申し訳ない。 というか占いの話だけで終わりにすれば良かった。 この話で"彼ら"にプレゼント攻勢をかけた日本人(逆行者)は、 ヒトラーの予測しているような親日化を図ったりとかでは無く、 アイドルにファンレターとかを贈るようなそういう気分でやってる・・・ という風な脳内設定にしてます。ロンメルへの手紙は、おそらくモロにファンレター。 肝心の本人の方は何が何だかサッパリ分からないでしょうw 余談ですがハルトマンやカリウスは、Wikiによると活躍が1943頃からとの事なので、 1942年を想定している今はパッとしない感じにしています。
https://w.atwiki.jp/euphshaker/pages/76.html
皆様こんにちは、はじめましての方は、はじめまして。イリアスのゾイド講座、始まります。 第六回となる今回は、グランドカタストロフ直後のヘリック共和国軍水陸両用機、バリゲーターTSについてお話させて頂きます。 同時期に使用されたドスゴドス、エクスグランチュラと違い、この機体は旧バリゲーターの姿をほぼそのまま保っています。旧来機との外見的な差異は、背部に増設されたバックパック……TS(スラスターシステム)の存在です。 外部増設型補助動力自体は、古くはガリウスの時代から存在しました。「イオン過給機」と呼ばれる装備で、主にゾイドの積載量を増加させるのに使用されています。ゾイドコアの養分である金属イオンを供給する装備であり、現代でもレブラプター等が「イオンチャージャー」というこの流れを汲む装備を施されていますね。 こういった外部補助装置とスラスターシステムの違いは何か、それはエネルギーの伝達システムにあります。 イオン過給機のような装備がゾイドの機体に配線された伝達回路を通じてコアにエネルギーを供給するのに対し、スラスターシステムはその過程をすっ飛ばし、直にパワーユニット……すなわちゾイドコアにエネルギーを伝達することで、従来とは比べものにならない伝達効率を実現しているのです。 物の流れとは、長ければ長いほどその勢いを削ぎとられます。地球、特に日本の河川がいい例で、始点からの距離が長いほど……すなわち下流に行くに従い、流れは弱くなります。 スラスターシステムとは、例えるならば河川の上流がいきなり海に注ぐようなものです。いえ、もっと極端に言うなれば、滝が海に注ぐ様を想像してみて下さい。立ち上る水しぶきの量は、凄まじいものになるでしょう? 乱暴な例えではありますが、本当に原理はこれです。 なぜ、このようなシステムが実用化したのか。その影にあるのは、やはりこの時代のキーゾイド……キングゴジュラスの存在です。この機体が持つ重力制御機構……グラビティモーメントの伝達のために使用されていた伝達システムを転用したものと思われ、同様の機構がヴァルガにも存在するため、ある意味でこの2機は兄弟機といえなくも……いえ、この時代の機体には、どんな形にせよキングゴジュラスの技術を継いだものが多い以上、無意味な分類でしたね。 しかしながら、なぜか「この」スラスターシステムを搭載したのは本機及びティガゴドスの初期生産ロットのみで、以降のTS搭載機にはパワーユニット直結の外部ケーブルが存在しています。 なぜこのような仕様になったのか、一説にはリーバンテ島戦後にリル・メリル主任がスパイ容疑で身柄を確保されたためとも言われており、未だ明確な理由は判明していません。 いずれにせよ、ただでさえ外部に露出するという弱点を抱えるTSにさらにケーブルという目立つ弱点が付いた事で、前線の士気が下がったとかなんとか……。ウワサですよ? ちなみに第二次生産ロットの機体は、やはりパワーが落ちているとのウワサもあります。 本機はただバリゲーターにスラスターシステムを装備したのみではなく、いくつかの改良点も存在します。その最たるポイントがガイロス帝国軍機の残骸から回収・再現された「アイスメタル・マテリアル装甲」で、「ドスゴドスに振り回されジークドーベルに激突しても、相手が壊れる」という凄まじい強度を発揮。当然ながら耐圧性も大幅に上昇し、潜水深度も増しました。ま、いくらか改良案が出たもののコクピットは剥き出しのままなので、意味は無かったんですけどね……。 この機体強度を利用し、前述の通りドスゴドスの尾部に噛み付いて「ジョイント」し、横回転で敵機を薙ぎ倒す「ターボアクセレイション・ハンマーアタック」なる合体攻撃フォーメーションが存在します。当然、気をつけないと口の隙間からフッ飛ばされます。パイロットが。ログ・バイス大佐は化け物か何かでしょうか……。 出力が増大したことにより陸戦能力も高まり、海岸等場所を選べばヴァルガにも引けをとらない戦闘が可能とのこと。ただし残念ながら、グラビティアタックを考慮に入れない場合のみですが。 またリーバンテ島では塹壕掘削など、前線での戦闘支援にも使用出来る汎用性も評価されました。 当然海戦の性能もアップしています。浅海域での戦闘ならば、当時の海戦専用機ダークネシオスとも互角以上。ただしこれは上陸作戦仕様という装備の相性がはまったという理由もあり、また深海域になればなるだけ、バリゲーターが不利になります。これは本来渡河作戦や河川での戦闘を前提にした機体設計そのものから来る弱点なので、仕方が無いところではあるのですけどね。 とこのように、スラスターシステムという力で蘇ったバリゲーターについて見てきましたが、いかがでしたでしょうか? 中央大陸戦争初期から中期にかけての機体でありながら、僅かな改装で最新鋭機に匹敵するゾイドに生まれ変わったバリゲーター。磁気嵐など様々な要因が複合した結果ではありますが、それでもゾイドが秘めた大きな可能性を見せてくれる事例ではないかと、私は思います。 最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。では皆様、ご機嫌よう。イリアスでした。