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前へ その日の夜、さっそく千聖から電話があった。 「明後日、レッスンが終わってからはどうかしら。次の日はCDイベントの打ち合わせがあるから、私の家から一緒に行けるわ。」 家族みんなが集まっているみたいで、電話の向こう側からテレビの音が聞こえてくる。大きい声で何か言い合ってるのは、弟くんとあっすーかな? やっぱり千聖の家って面白そう。すごくわくわくしてきた。 「あぁっ!ちょっと、ダメよ!そのイチゴはお姉ちゃんが食べるの。ダメだったら!返してちょうだい」 私と電話しながら、千聖もちょっかいを出されたらしい。デザートに、大好きなショートケーキでも食べてたのかな。 お嬢様言葉のまま、バタバタと走り回る音が聞こえる。 「ああ・・・ごめんなさい、愛理?」 「ケッケッケ、にぎやかだねー。じゃあ明後日にお邪魔するね。」 「ええ、それじゃ・・・あ、ちょっと待って。母が、愛理のお母様とお話ししたいって。」 「ほーい。」 私はリビングにいたお母さんにケータイを持って行った。あらあらとかまあまあとか言いながら、お母さんは受話器の向こうの千聖のママにぺこぺことお辞儀して何やら話し始めた。 私が千聖の家に泊まりに行くと言った時は、何だかすごく驚かれてしまった。そんなに仲がいい印象がなかったらしい。 確かに、インドアな私とアウトドアな千聖では遊びが合わないと思われるのは仕方がない。実際、前は私たち自身もお互いそう決め付けていたところはあったと思う。 心が通い合うようになったのは、千聖が頭打ってお嬢様になる少し前ぐらいだった。 千聖は私の考えてることが難しすぎて、わかりあえないと思って怖かったといい、私も千聖のものすごくストレートな性格にとまどっていたことを打ち明けあった。 でも実際、千聖は私が思っていたほど単純な性格じゃなかったし、私は千聖が思ってるほど難しい人間でもなかった。 それを認め合うことができて、昔よりずっといい関係になれそうだった。 階段から落ちたのはその矢先の出来事だった。私は平静を装っていたけれど、せっかく距離の縮まった千聖がまた別人になってしまったことを恐れた。 まあ、でもそれは杞憂というもので、お嬢様になった千聖とも、こうして打ち解けることができている。 キャラが変わっても、千聖は私の大好きな千聖に変わりはないのだ。 「・・・はい、はい。ええ、じゃあ愛理をお願いしますね。千聖ちゃんにもどうぞよろしく。」 大人たちのお話ももう終わったみたいで、お母さんは「何か手土産を考えないとね」なんて言いながら携帯を返してくれた。 「何かドキドキするよ~千聖んちってどんなんだろう~ケッケッケ」 「お母さんもドキドキ~ケッケッケ」 親子でクネクネする私たちを、男性陣が白い目で見ていたのはご愛嬌。 その日から2日、私は遠足の前日の小学生みたいに、興奮して眠れない日々を過ごした。 何を話そうかな、何て想像しただけで胸がドキドキする。たった一泊させてもらうだけなのに、私はものすごく浮き足立っていた。 そして、お泊り当日。 「愛理、それじゃ千聖ちゃんに迷惑かけないようにね。お土産持った?着替えは?」 「大丈夫だよぅ」 いつもよりだいぶ大荷物の私は、若干よろよろしながら、いつものレッスンスタジオの前でお母さんの車を降りた。 「おはよ、愛理。どうしたのー?荷物多くない?」 入り口でポンと肩を叩かれて、振り向くとえりかちゃんがいた。買い物でもしてから来たのか、たくさんショップバッグを抱えている。 「えりかちゃんこそ、バッグいっぱい。」 「なんかね、買い物してたら似合いそうな服があったからつい買ってきちゃった。・・・千聖に。」 そう言って軽くバッグを撫でるえりかちゃんは妙に優しい顔をしていて、私はどこか釈然としない気持ちになる。 「ふーん・・・そっか」 私の流し目に何かを察知したのか、えりかちゃんは「なっ何その顔は!」と言いながら、ドエームと戦うときみたいなポーズを取った。 「千聖といえば、今日ねえ、私千聖の家に泊まりに行くんだ。」 「へー・・・ってええ!そうなの?な、なぜ?」 なぜ?って。えりかちゃんはお母さんと同じ反応をした。そんなに珍しいことかな? 「だって私たち仲良しだもん。今日はいーっぱいいろんな話するんだーケッケッケ。」 「それは・・・お手柔らかにお願いします。」 今日のえりかちゃんは察しがいい。いろんな話、の中に、自分のことも含まれてるのはわかってくれたらしい。 「そうだ。・・・一個だけ聞かせて。えりかちゃんは、千聖を好き?」 「好きだよ。大好き」 「うん、そか、わかった。ありがとうね。」 えりかちゃんは私の問いかけに、迷いのない目で間髪いれずに答えてくれたから、私はとりあえずこの話を切り上げることにした。あとはラジオの時にでも。 「えり愛理おはよー!」 「おはようございますー」 後ろからご機嫌な舞美ちゃんと千聖の声が追いかけてくる。私たちは歩くのを止めて、犬の兄弟みたいにジャレあう2人を待った。 「うわあウケるー!愛理、家出?とかいってw」 千聖とお泊りまであと数時間。舞美ちゃんにまで大荷物を突っ込まれながら、私の胸のドキドキは高まっていった。 次へ TOP
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そんなわけで私は今、ちっさーが家に来るのを待ち構えている。 ついに念願のメイド・・・と思ったのだけれど、あの時「連れてってください」と言ったちっさーの顔がやけに畏まっていたのが気になる。 ちっさーは、妙に気を使うところがあるからな。本当は行きたくないなら、うちで楽しく遊んで帰るんでもいいと思う。 もっと腹を割って話そうじゃないか、ちっさー! 「舞美~、千聖ちゃんが来た。なんか雰囲気変わった?日傘差してたけど。」 「えっ!いやいや、そんなことないよいつもの元気なちっさーだよ!ししゅ、しすゅん期は気持ちが変わりやすいからそのせいじゃない?」 あっ今のはわざとらしい。どうも私は嘘がつけない。 「?そう・・・下でお待たせしてるから、早く行きなさい。」 呼びに来てくれたお母さんの横を通り抜けて、階段を駆け下りていく。 「舞美さ・・・舞美ちゃん!遅くなってごめんねぇ!これお土産!」 「おーちっさー!」 何となく察してくれたのか、元気なちっさーを装って、ぶんぶん手を振ってきた。 私の家は駅からちょっと歩くから、ちょっとバテた顔をしている。おでこに浮かんだ汗の粒を手で払ってあげると、ちっさーはでへへと恥ずかしそうに笑った。 「暑いねぇ。お母さん、冷たいお茶入れてー!」 ちっさーお気に入りの水色の日傘(フリフリがかわいいから私もひそかに真似してピンクを買った。でもいつも差し忘れる)を玄関の隅に置かせて、2人で私の部屋に直行する。 「どうぞ、千聖ちゃんのおもたせでもうしわけないけど。ゆっくりしていってね。」 「はーい!ありがとうございます!・・・・舞美さん、今日はお招きありがとうございます。」 お母さんの姿が見えなくなると、すぐにちっさーはお嬢様の顔に戻って、ゆっくり頭を下げてきた。 「あーいいよそんなぁ。私とちっさーの仲じゃないか。・・・それより、大丈夫?本当に今日行きたい?」 ちっさーが持って来てくれたクレープを突っつきながら、私はちっさーの目を覗き込んだ。 「ええ、もちろん。楽しみにしてました。」 ふわふわ笑う顔には嘘は見当たらない。 「でも何か、緊張してるじゃないか。無理しなくたって別にいいんだよ。」 「・・・舞美さん、私。」 ふいにちっさーは笑顔を封じ込めて、潤んだ上目づかいに変えた。 「私、ケガをしてから、何だかいろいろなものを失くしてしまった気がして。」 「うん。」 「それを少しずつ補っていきたいので、なるべく新鮮な体験をたくさんしたいと思っているのです。 直接的な効果がなくても、私がその体験から何か得ることができれば、今後の私を構築していくための云々」 うわー漢字がいっぱいだ。私のボキャブラリーではとてもついていけない。 後半はもはや右耳から左耳にトンネルしてしまったけれど、ようするに 「ちっさーはいろいろ体験することで、もっと人間として深くなっていきたいということだね!」 「は、え、えと、そうです。」 いいことじゃないか!舞ちゃんとの逃避行も、愛理とのデート(まあこれは普通の買い物か)も、自分を豊かにするために、ちっさーが自らに与えた試練なのか。 「何かかっこいいね、ちっさー。私もできる限りなんでも協力するよ!・・・で、まずは、服装なんだけどね。」 今日のちっさーは薄いピンク×黄緑色のツートーンカラーのワンピースに、愛理とおそろいの赤いネックレス。避暑地のお嬢様って感じだ。 「可愛いんだけど、その格好はメイド喫茶のお客様っぽくないなあ。」 「そうですか・・・私、以前の洋服があまり好きではなくて。新しい服を買い揃えたいのですが、いろんなバリエーションの服を買うには少しお金が。」 「ふっふっふ。ちっさー。これを見るがいい!!」 私はベッドの正面にある大きなクローゼットをガーッとスライドさせた。 「まあ・・・・!」 千聖が両手で口を押さえて、目を丸くしている。 「最近こっち系にもハマっててさあ。」 メイドカフェの一件から、私はゴスや甘ロリに少しずつ手を伸ばしていた。 例によって私に甘いお兄ちゃんたちがホイホイと買い与えてくれて、私のクローゼットはフリフリモサモサゴスゴス混沌としていた。 外に着ていくほどの勇気はないから家族相手のファッションショーでしか着る機会がなかったけれど、ついにデビューの時がきたのかもしれない。 「やっぱり、こういう格好がふさわしいと思うんだよね。あの空間には。」 「え、あ、え、でも、私、きっと似合わな」 あは、うろたえてる。 「ちっさー!バンザイ!」 「は、はい!きゃあああ!?」 とっさに両手を上げたすきに、ワンピースのすそを持ち上げて一気に脱がしにかかる。 「あの、大丈夫ですから!自分で脱ぎます!舞美さぁ~ん・・・」 む、胸のとこでつっかえてる。生意気な! 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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前へ 「・・・もうマジで信じらんない」 「うるさいなー、さっきから謝ってんじゃん!」 「何その態度!謝ってる態度じゃにゃ△×★#!!!」 「ちょっとうるさい千聖・・!・・・・もー、千聖のせいで怒られちゃったじゃん!」 「何で千聖のせいなんだよ!だいたいさぁ、普通ひとにツバかけたりしないでしょ!?しかも顔にかけるとか信じらんないんだけど!千聖が同じ事やったら怒るくせに」 「いや怒らないよ。嬉しいです」 「うわぁ・・・・とにかく、もうこういうことしちゃだめだから!」 「ケチ!あのね、あれはマーキングなの!」 「は?」 「これは舞のだよって印つけといただけだし。何か問題ある?」 「舞のって何それ」 「だって千聖、いっつもふらふらふらふらいろんな人に尻尾振っちゃってさ」 「そんなこと言うなら千聖と遊んでよ!ふらふらしてるのは舞ちゃんのほうじゃん!あいりんとおそろいのパンプスとか!あーあ千聖も舞ちゃんと買い物行きたかった!」 「そ、それとこれとは話が」 「同じだよっ舞ちゃんのばーかばーか!千聖がこんなに舞ちゃんのこと好きなのに冷たくするんだもん!」 「はあ?舞だって千聖のこと大好きだけど?舞にいじめられて嬉しいくせにばーかばーか!」 「ああそうさ嬉しいさ!ばーか!」 「ばーか!もうっ愛しちょるよちしゃとー!」 「舞ちゃぁん!!」 ***** うぜえ・・・。 私は読んでいた文庫本を閉じて、前の座席に向かって咳払いをした。 何で朝も早ようから、バカップルの痴話喧嘩を聞かされなければならないケロ! 仲がよろしいのは大変結構ですが、後ろで砂吐いてる人間がいることをお忘れなく!ああちきしょうめ、できることなら私もみぃたんと・・・!! 「もう、舞にはちしゃとだけだからねー・・?」 「本当ー?信じちゃうよー?舞ちゃんちゅーっ」 うっせえ、爆発しろ。 私はケータイを片手に、“ちさまいICLV(イチャラブ)フォルダ”にデスメールを更新し始めたのだった。 ばーかばーかバカップル! 次へ TOP
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明日菜、明日の準備はできていて?忘れ物をしてはだめよ。」 返事ができない。いろんなことが頭の中で整理しきれなくて、自分がおかしいのかお姉ちゃんがおかしいのかわからなくなってきた。 「明日菜。こっちおいで。」 タイミング良くパパが呼んでくれたから、お姉ちゃんの手から逃れるように体を離した。 「パパ。」 「うん、大丈夫だ。何にも心配ない。」 私はまだ何にも言っていないのに、全てを見透かしたかのようにパパは笑って頭を撫でてくれた。 「明日菜も疲れただろ。お姉ちゃんが無事で本当に良かったな。」 「・・・うん。」 部屋に戻ってぼんやりしていると、お姉ちゃんが「まあ。」とか言ってる声が聞こえた。 ちょっと気になって廊下に出たら、ゴミ袋を両手に持ったお姉ちゃんにぶつかりそうになった。 「何やってんの。」 「整理整頓を。私ったら、どうしてこんなに散らかしていたのかしら。恥ずかしいわ。」 「・・・手伝う。」 ゴミ袋を奪い取って、玄関に運ぶ。 お姉ちゃんの部屋を覗いたら、ママにゴミルームとまで言われていた空間が、すっかり綺麗になっていた。 そして、やっとこのキャラがお姉ちゃんのいたずらじゃないことを理解した。いつも部屋の片付けから逃げまくっているお姉ちゃんが、悪ふざけのために大嫌いな掃除までするはずがない。 「手伝ってくれてありがとう。」 「別にいいよ。布団敷いてくるから、どいて。」 お姉ちゃんを押しのけるようにして寝室に入って、乱暴に布団を敷き始めた。 こんなことが、現実にあるんだ。頭打って性格が変わっちゃうなんて。まるでマンガみたいだ。心臓がドキドキする。 「明日菜ねーちゃんこえー。布団ぐっちゃぐちゃじゃん。」 「うっさいよ。早く寝るよ。」 絡んでこようとする弟を上掛けで押さえつける。ギャーギャー騒いで、全然言うことを聞かない。 「どうしたの、2人とも。お布団が乱れてしまってるわ。」 そこに、お姉ちゃんがひょっこり現われた。弟は標的を私からお姉ちゃんに変えたのか、腰をかがめて突進していく。 ちょ、ちょっと待って。その人は今までのお姉ちゃんとは- 「もう、暴れては駄目でしょう?」 押し倒されてベソかくかと思っていたら、お姉ちゃんはまた弟をギュッと抱いて止めてしまった。 「もう寝ないと駄目よ。また明日遊びましょう。お布団直してあげるわね。」 私達は逆らえずに、お姉ちゃんが手際よく整えた布団にねっころがった。 「お休みなさい。」 部屋の明かりをちっちゃい電球1個だけにして、お姉ちゃんが出て行った。 「ねえねえ、お姉ちゃんのことなんだけどさ。」 隣で寝そべってる弟に小さい声で話しかけた。 「今日のお姉ちゃん、どう思う?キモいよね?もっと男っぽかったよね?」 「それより、さっきちさと姉ちゃんにギューッてされた時顔におっぱいが当たってさあ。やっべー」 「あっそ。」 だめだ。男子って本当頼りにならない。バーカ。 中学生のおっぱいやべーとかずっと言ってる弟を無視して、お姉ちゃんが後で寝るスペースに視線を移した。 枕元に、薄いピンクの可愛いパジャマが綺麗に畳んで置いてある。 昨日まで着ていたTシャツ短パンが恥ずかしいと急に言い出して、ずっと前にママが買ってきたっきり一度も着てなかった女の子っぽいやつを、クローゼットから出してきたらしい。 あのよくわからないお姉ちゃんが、今日は隣で練るのか。いや、それどころかこれからずっと一緒に暮らしていくのかと思うと、なんかげんなりしてしまった。 変わってしまったお姉ちゃんが嫌だというより、自分がこれからどうしたらいいのかわからない。 リビングからはパパとママ、お姉ちゃんの笑い声が聞こえる。 ドアの隙間から覗くと、リップとパインを膝に抱いて微笑んでる姿が見えた。 うちのわんこたちは、結構人見知りだ。ああやって大人しく抱っこされているんだから、犬達から見たら今までどおり、優しくて可愛がってくれるお姉ちゃんなんだろう。 普段と何も変わらない風景の中に、性格だけ別人なお姉ちゃんがすっぽりと入り込んでいる。 あのまま家族になじんでしまうのかな。 パパとママはあんな調子で、弟はアホで、私だけがこうやってグズグズ悩んでいるみたいだ。 「もうそろそろ寝ますね。本当に今日は心配をかけてしまって、ごめんなさい。」 ヤバいな。そろそろお姉ちゃんがこっちに来そうだ。もうとっくに寝息を立ててる弟の方に体を詰めて、寝てるふりをした。 しばらくして、細く開いたドアの隙間から、お姉ちゃんがそっと入ってきた。 「もう、寝崩しちゃって。お腹が冷えてしまうわ。」 私と弟の夏がけを直してから、手早くパジャマに着替えたお姉ちゃんは、すぐに横になって眠ってしまった。 私や弟のスペースが狭くならないように、端っこの方で丸まっている。 それを見ていたら何か切なくなってきて、私は2人を起こさないように静かに部屋を出た。 「パパ。ママ。」 「明日菜。まだ起きてたの?寝られない?」 「ちょっと、話がしたいんだけど。」 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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「ン・・・ちしゃと・・・」 それから私は、そのエッチビデオのことを思い出しては、夜な夜な悶々とする日々を送る羽目になった。 あれは、ストーリーのことを考えなければ、結構実用的(・・・)だと思う。ファンの人にもメンバーにも散々言われてることだけど、私は多分S。こうやって好きな人をネチネチいたぶるみたいなのは、元々嫌いなわけがない。 「んん」 目を閉じて、千聖の顔を思い浮かべる。 “やめて、舞さん” 「んっ」 “お願い、許して” 「・・・ちしゃとぉ」 千聖は泣き虫だから、泣き顔のサンプルはいくらでも頭の中に残っている。・・・こんな形で再生することになるとは思わなかったけど。 布団の中でタオルケットを足の間に挟んで、もそもそと足を閉じたり開いたりしてみる。頭がボーッとしてきた。 痴漢はアカン!だけど心は自由でしょ?実際にしなければいいのではないでしょうか。でも好きなプレイが痴漢(しかもする方)って萩原舞完全終了のお知らせレベルだろ。・・・何を言ってるんだ私は。頭の中にいろんな主張が入り乱れて、支離滅裂。 「あ、あ、あ」 ――そろそろやめないとまずい。こうしてアソコを刺激するの自体は初めてじゃないけれど、いつも怖くて中途半端なとこでやめていた。やめなければ、取り返しのつかないことになりそうな気がしたから。 でも、体が言うことを聞いてくれない。千聖の髪に顔をうずめるように、タオルケットに鼻先を押し付けて声を殺す。 「うー・・・」 どうしよう。ヤバイ。 これ以上のことは、したことがない。なのに、勝手に指がジャージの中に進入していく。 “舞さん、だめ” 「――――っ」 ~♪♪♪ その時、枕元に置いていたケータイが、大音量でメールの着信を告げた。 それは、私が千聖専用にしている“僕らの輝き”。 一緒に歌っている曲でもいいんだけど、やっぱり千聖にはこの曲が一番似合っていると思う。 今の私の状況にもっとも似合わない、そのさわやかで元気な歌声が、頭を冷静にさせてくれた。 「ふぅ・・・」 ベッドに正座して、ゆっくりとケータイを開く。 最近、私たちは喧嘩をした。 私が千聖に、えりかちゃんとのお泊りを中止するよう迫ったのが原因。お嬢様の千聖は優しいけれど、何でも舞の言うことを聞いてくれるっていうのとは違う。“それは、嫌よ。”と思いがけず真面目な顔で言われて、私は「千聖は無神経だ」なんて当り散らしてしまった。 実は今、千聖の誕生日に向けて、みんなで大きなドッキリを企画している。大好きな千聖を喜ばせるための重要なプロジェクトなのに、つまらない意地を張っていてもしょうがない。わかっているけれど、今更どうやって謝ればいいんだろう。 しかも、喧嘩してる相手でエッチな妄想とか・・・・私はダメ人間だ。 千聖からのメールには、無神経なことをしたのならごめんなさい、と謝罪の言葉が書いてあった。 でも、千聖から謝ってくれたっていうのに、私の心は晴れない。だって、結局千聖はえりかちゃんのところに行ってしまうんだから。 千聖は結局、根本的なことはわかってくれていない。いくら好きだと伝えても、その“好き”の意味は伝わっていない。 「千聖がえりかちゃんを好きなように、舞も千聖が好きなの。」 こういう風に言えば確実に伝わるだろう。でも、私にだってプライドがある。こんなことを口にすれば、自分が惨めな気持ちになってしまうのは明らかだった。 千聖は舞のもの。 いつも疑うことなく、そう信じてきたけれど、ここにきてその自信は揺らいでいる。 千聖が今はえりかちゃんを好きでも、最後に舞を選んでくれるなら、本当は嫌だけどまあそれでかまわない。それぐらいの譲歩はできる。でも、今は千聖の気持ちが見えない。 えりかちゃんとあんなことしてるくせに、頼まれれば私にも同じことをする、その胸の内が。 だから私は、せっかくのメールだけど、返事は返さないことにした。 私はいつでも、千聖には素直でいたい。それがいいことでも悪いことでも。だから、こんな気持ちのまま、表面的にだけ仲直りするぐらいなら、このままでいい。 じゃあどうしたら私の気が済むのか、というのはまだわからないけど。 火照りかけていた体は、そんなことを考えていたらいつの間にか静まっていた。 でも下着の中は、ちょっと不快感。もう遅い時間だけど、せめてシャワーだけでも浴びようと、私は静かに部屋を出た。 前へ TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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アハハッ ウフフッ ギギギッ 楽しげに高級ジュエリーをショーウィンドウ越しに覗く2人を、阿修羅怒りの面で歯軋りしながら電柱の陰から覗く舞様。 「・・・中華街、行くって行ってたのに。さっさと移動しなさいよね。買いもしない首輪だの耳輪だのずっと見てて楽しいわけ?全く、女の買い物はこれだから」 「いやいや、舞ちゃんも女の子・・・・あっ、移動するみたいだよ!今度はバッグのお店入っちゃった。」 「もー!!」 舞ちゃんはバンバン足を踏み鳴らして、不愉快そうにため息をついた。 カフェを出た二人は、舞ちゃんの予言(?)どおりに中華街のほうへ行くと思いきや、立ち並ぶ雑貨屋さんや洋服屋さんを散策し始めた。 前にショッピングモールでデートした時に思ったけれど、千聖の買い物時間はそれほど長くない。結構パッパッと決めてしまう。 だけど、えりかちゃんはファッションに関してはじっくり慎重に見定めるタイプだから、当然千聖もそのペースに合わせる。そうして時間がどんどん経っていくにつれ、舞ちゃんの眉間の皺も深くなっていく。 私は結構、人の流れとか見ながらボーッとするのが好きなほうだから、別に苦じゃないけど・・・隣で舞ちゃん周辺の空気がどんどん澱んでいくのが恐ろしい。 「あれって、やっぱりおそろいのもの探してるのかな・・・。」 千聖とえりかちゃんは今度はかばん屋さんに入って、カラフルなディスプレイを熱心に見ながら、いろんな色のキーホルダーとか革のストラップを手にとって話し込んでいる。 「舞、千聖と2人だけのおそろいの物とか持ってないんだけど。・・・負けた気分。」 「あれは旅行の記念っていうか、お土産みたいなものじゃない?」 「そうかなあ・・・」 普段は強気なわりに、舞ちゃんは急にしおらしくなったりするのがかわいいと思う。 「千聖の性格からして、おそろいを持つこと自体にそんなにこだわりはないと思うよ。なっきぃとだって、おそろいのストラップつけてたじゃん。あれはよかったの?」 「だって、なっきぃはちーに優しいし変なことしないし。いや、でもあのデスメールではおなっき・・・」 「デス?」 「ううん、こっちの話。愛理、ありがとうね。・・・ね、舞達も何か見に行かない?」 「いいの?」 「舞のちーセンサーによると、まだ当分2人はこのあたりでうろうろするはずだから。」 千聖センサー・・・そりゃ頼もしい。 「ね、行こ?こっそりだよ。」 「ケッケッケ、こっそりね。」 抜き足差し足なんてしたって全然意味ないのに、変にテンションの上がった私たちは、背中を丸めてスパイのようにその場を立ち去った。 「ところで舞ちゃん、どうして今日の2人の同行を把握してるの?舞ちゃんの千聖センサーが優秀だからって、具体的にわかりすぎじゃない?」 「あーうん・・・実は、なっきぃに密偵を頼んだの。ちーは舞がこの旅行に反対してるの知ってるし、えりかちゃんも教えてくれなそうだから、なっきぃにね」 なっきぃかぁ。確かに、千聖と仲良しななっきぃなら、日程について聞き出すことぐらいできるだろうけど・・・ 「もちろん直接聞いたら怪しいから、さりげなく横にいて会話から推測してもらったんだけどね」 「えー・・そうなの?」 何か、不思議な感じ。なっきぃの性格を考えたら、密偵なんかしないで、直接千聖かえりかちゃんにストレートに聞きそうなのに。 「なっきぃは、しばらく舞からのお願いは断れないから。探る方法も、舞がお願いしたとおりにやってもらうんだ」 「断れないって、どうして?」 「どうしても。ふっふっふ」 「・・・」 さっき舞ちゃんが言いかけた、デスメールというなぞの単語が脳裏をよぎる。・・・舞ちゃん、やっぱり恐ろしい子! * 「いいの、千聖?」 「え?」 目を上げると、えりかさんが少し顔を近づけてきていた。胸がトクンと音を立てる。 「舞ちゃんたち、追いかける?」 「あ・・・」 いつのまにか、店外の柱の陰にいたはずの舞さんと愛理は姿を消していた。 何色も種類のある、動物の形のキーホルダーを夢中で選んでいたから、気がつかなかったみたいだ。 「やっぱり、カフェでお見かけしたときに声をお掛けした方がよかったかしら。」 「いやー、あの時は掛けなくて良かったと思うよ。多分」 「そうですか・・・」 舞さんの姿を見つけたときは、少しだけヒヤッとした。 “えりかちゃんと旅行に行くのやめて”舞さんの言葉がふと脳裏をよぎったから。“千聖のためにならない”とも言っていた。 まさか、止めに・・・?だけど、えりかさんが「大丈夫。」と手を握ってくれたから、そのまま気づかない振りを続けた。 舞さんは、私のことを好きと言ってくれた(でも同時にとてもひどい行為を・・・)。今は元通り、仲良しなちさまいコンビに戻ることができたけれど、私は結局何も答えられないままだった。 このまま、いつまでもなあなあにしておくことはできない。でも、どうしたらいいのかわからなかった。だって私は・・・ 「千聖、買うの決めた?」 「ええ、これを・・」 「いいね。それなら色も結構種類あるし、値段もちょうどいいね。割り勘で大丈夫?」 「もちろんです」 えりかさんの手が、商品を持つ私の手ごと優しくつつんだ。 「旅行のおみやげって、こんな近場でおかしいかな?」 「でも、皆さんに差し上げたいのでしょう?」 「うん。急にお揃いのものとか増やしたくなっちゃって。・・・ね、それ買ったら、中華街の前にちょっと行きたい所があるんだけど。近くだから、付き合ってくれる?」 「ええ。もちろん」 ピンク、黄色、オレンジ、緑、青、紫。いろんな動物の形の皮のキーホルダー。今日のお土産に、キュートのみんなに私たちからのプレゼント。 「千聖と舞美は犬なんだね。イメージどおり。舞ちゃんは猫?わかるわかる!」 「ウフフ、そんなに意識して選んだわけではないんですけれど・・・」 両手をお皿みたいにしてキーホルダーをレジへ運ぶ私の肩を、舞美さんがいつもするように、えりかさんは優しく抱いてくれた。 「エアコン、効いてるね。寒くない?肩が冷たくなってるみたいだけど」 「ありがとうございます、大丈夫です」 今日のえりかさんは、何故か私の体によく触れる。普段はどちらかと言えば、適度な距離感を持つ方なのに。柔らかくて滑らかな手の感触に胸が高鳴る。 (思い出づくり・・・?) ふと、考えないようにしていた言葉が心を通り抜ける。・・・やめよう。せっかく誘ってくださったのに。 「千聖?」 「あ・・・ごめんなさい、お待たせして。今、包んでいただいてるので、店内で待ちましょう」 「そか。じゃあ、バッグの方行かない?気になるのがあるんだ」 「ええ。そうしましょう」 今度は腰に手が回って、触られるとムズムズするウエストの辺りをつつかれた。 「きゃんっ!」 「ムフフ」 「・・・もう、えりかさんたら」 いたずらっ子みたいに笑う表情は、えりかさんの大人っぽい顔立ちと対照的で、つい見とれてしまう。 「あ・・・やっぱりパスケースも見たいな。行くよ、千聖。」 「はい。」 いつも優しいえりかさんが、少し強引に、当たり前みたいに私の手を引いてくれるのが嬉しい。 熱心に小物に見入るえりかさんの綺麗な横顔を、すぐ傍でジーッと見つめることができて、幸せだった。 前へ TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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前へ これは一体どういうことだろう。 階段落下事件から3日後、ダンスレッスンに現れた千聖は何と日傘を差していた。 「ごきげんよう、愛理さん。」 「あ、はい、ごき、げんよう。」 えりかちゃんが視界の隅でマックシェイクを噴射した。 「私、もっとお肌のお手入れに気を使おうと思いまして。良いお化粧品に心当たりがあったら教えてくださいね。」 「あ、はい、よろ、こんで。」 千聖はにっこり笑うと、着替えのためにロッカー室に入っていった。 ・・・緊張の糸が解け、私は床に座り込んだ。 「愛理、大丈夫?」 「うん・・・えりかちゃんも口の周り拭いてね。」 正直、今までのやんちゃで明るい千聖のことは、同い年なのにちょっと子供っぽいと思っていた。 一緒にふざけたりすることはあっても、真面目に語り合ったりできるのかな?とそういう場面では千聖を遠ざけていたかもしれない。 でも今日の千聖ときたら、見慣れたショートパンツでもTシャツでもない。 淡いピンクのシフォンブラウスに細かいフリルのついたスカートという、ファッションまで変わっていた。 本当に、変わってしまったんだなぁ。思わずため息を漏らす。 「やっぱショックだよね。もうまるで別人じゃない?千聖。」 「う、うん。」 心底悲しそうに呟くメンバーを尻目に、私は少しわくわくしてきていた。 新しい千聖はどんな子なのだろう。 ファッションの話やお化粧の話にも乗ってきてくれるのだろうか。 もっといろんな話ができるようになるだろうか。 元に戻らなかったからっていつまでも嘆いていたくはない。 私は今の千聖を受け入れることに決めた。 男の子っぽくてもお嬢様になっちゃっても、私は結局千聖が好きだから。 「お待たせいたしました。」 「千聖、こっちでいっしょにストレッチいたしましょう?」 私は丁寧にお辞儀をしてレッスン室に戻ってきた千聖の手を取って、あっけにとられる皆の前を通り過ぎた。 次へ TOP
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「はー!疲れたぁ。」 カレー、ご飯、丸パン、そしてアイスをたっぷり食べて、みんなでゲームをやって、撮影が終わった。 盛り上がりすぎて少し時間が押してしまったから、とりあえず一度千聖とコテージに戻った。 「元気な人は後で舞美たちの部屋に集合!」なんてまだまだ元気な舞美ははしゃいでたけど、うちらはどうだろうか。 今日はいろんなことがあって疲れてしまったから、ちょっと厳しいかもしれない。 私はベッドにダイブして、お隣の様子を伺った。 「千聖?寝るなら着替えた方がいいよ。風邪引いちゃうからお布団入って。」 「んー・・・」 千聖は私服のワンピースのまま、小さく丸まって横になっている。喋るのも面倒なのか、完全に生返事だ。 「ほら、千聖。」 しかたないなあ。私はもたもた起き上がると、千聖のベッドに移動した。 「着替え手伝うよ。はい、バンザイして」 背中のリボンを緩めて、頭側からガバッとワンピースを脱がせる。 あらあら、今日のおブラは白ですか。薄いピンクのフリルが可愛い。 仕事上、メンバーの下着姿なんて見慣れているけれど、わざわざ自分で脱がせたりなんだりするのはやっぱりちょっとドキドキする。 「パジャマ、バッグに入ってる?」 「・・・」 返事がない。目を閉じたまま、むにゅむにゅと口だけが動いている。寝言モードにまで入ってしまってるなら、これは当分起きそうにないな。 私は千聖のかばんを探った。前みたいにTシャツ短パンが入ってるのかと思いきや、 「・・・ねぐりじぇ。」 丈の長い、薄いブルーのお姫様みたいなお召物が鎮座していた。なんだこれは。パフスリーブとプリーツが可愛らしい、いかにも高そうな柔らかい素材だった。舞美が好きそう、こういうの。 「えーこれ、どうやって着せたらいいんだろう。」 私もネグリジェは何枚か持っているけれど、こんなお値段の張りそうなのは持っていない。きっとママにおねだりしたか、お小遣いをためて買ったんだろう。これは、間違っても破いたり汚したりしたくない。 かといって、このまま下着で放置するわけにも・・・ええい、仕方ない! 私は自分のバッグから、パジャマ代わりの水玉のガウンを取り出した。 これなら着脱も簡単!腕を通して、帯を締めるだけ。 あっという間に着替えを終わらせて、掛け布団をかけてあげれば、千聖の就寝準備は終わりだ。 あ、私?私は、前になっきぃからもらったミカン野郎Tシャツがあるから大丈夫!LED発光だから暗闇でも光るよ! 本当はお昼の続きをしたかったけれど、疲れた千聖を起こしてまでやることじゃない。こんな風に、寝顔を眺めてるだけでも満足。 “えりかちゃんは、ちっさーのことが好きなんだよ” 「いやっ、そんなわけない!違う違う!」 さっきの栞菜の妄想劇場を、必死で頭から振り払う。 私ももう17歳。恋というのがどんな感情なのか、さすがに理解しているつもりだ。 恋っていうのはもっと、甘くて苦くて切なくて苦しくて、心が張り裂けそうなものだ。 千聖にエッチなことするときに生まれる感情は、そんなんじゃない。 正直千聖のちっちゃくてふにふにした体はとても抱きごこちがいいし、ずっと腕の中に閉じ込めていたくなってしまうのは否めない。あの子供みたいな顔が気持ちよさにとろけていくのを見るのも好き。お嬢様のくせに、びっくりするほど色っぽい声を出すのもなんかいい。 でもそれはドキドキじゃなくて、どちらかといえば和みや癒しの感情に近いと思う。だからこれは恋じゃない。恋であってはいけない。 “そういう愛の形だってあるんだよお姉ちゃん” 「ああーうるさいうるさい!お黙り、栞菜!」 私は脳内で語りかけてくる栞菜を追い払って、シャワーを浴びにいくことにした。 家から持ってきたバブルバスの素で、浴槽をもっこもこにする。大好きな薔薇の香りがただよい始めて、ちょっと興奮していた私の心も落ち着いてきたみたいだ。 ピンクの泡に体を沈めて、しばし考え事にふけることにした。 どうしようかな、これからの私と千聖のこと。 栞菜はおかしなことをいいつつも全面的に私の味方のようだし、愛理も面白がってはいるものの、千聖が決めることだと言っていた。 舞ちゃんはあんなことを言ってるけれど、実際に私たちが何をしているのかわかっていない。ていうか、中学1年生の女の子の考えが及ぶような行為じゃない。多分。舞美はもっとわかってない。 なっきぃとは結局あの後じっくり話す時間が持てなかったから、誤解を解くことも意見を聞くこともできてない。 本当になっきぃの言うように、私のしていることが千聖にとってよくないことなら、それは即やめなくちゃいけないとは思う。 でも私の本音を言えば、しばらくこの関係を続けていたい。 千聖を救って癒してあげる行為だと思っていたけれど、本当に心を癒されているのは私の方かもしれない。 “えりかちゃんは、ちっさーのことが好きなんだよ” 「・・・・わかんないよ、そんなの」 さっきまでは、違う!と否定できた脳内栞菜の囁きに、今は即答できない自分がいた。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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栞菜にお話ししたいことがあるの、とちっさーからメールをもらって、二人の家から中間地点ぐらいにある駅へ私は向かっている。 このごろちっさーは名前呼び捨てだけでなく、敬語をやめてくれつつある。 もちろんとても丁寧に話すことに変わりはないのだけれど、わたしはそれを密かにとても嬉しく思っていた。 それに、何ていうか…私は最近ちっさーのことばかり考えてしまっている。 ちっさーともっと一緒にいたい。いろいろなちっさーを見たい。 ちっさーが私や愛理以外のメンバーと話をしていると悶々としてしまう。 一人っ子だったからか、私はとても甘えん坊で独占欲が強い。 特に強く愛情を持った人とはいつも触れ合っていたいし、いつも自分といてほしいと思ってしまう。 今までも舞美ちゃんや愛理にベタベタしすぎてちょっと怒られたりしたことがあった。 そういう経験を通じて、自分なりに大好きな人との距離の取り方を学んでいたつもりだった。 でもまだまだ未熟だったみたいで、今はとにかくちっさーに近付きたい気持ちでいっぱいだ。 …こんなことだからレズキャラだなんて言われてしまうんだろうな。 なんてことを考えているうちに、待ち合わせの改札に到着した。 まだ待ち合わせ時間まで三十分もある。 お茶でも飲んでようかと構内のカフェに入る寸前、 「栞菜。」 後ろから呼び止められて、ポンと肩を叩かれた。 「千聖!えーっ早いね!」 今まで千聖は待ち合わせギリギリに「かんちゃんごめんねー!グフフッ」とか言いながら走ってくることが多かったから、なんだかびっくりしてしまった。 「栞菜と会えるのが楽しみで、早く来てしまったの。」 「ちっさー…」 はにかみ笑顔で言われて、思わず抱き付いてしまった。 ああ、だめだだめだ私。 「それで、話って?」 手をつないで歩いている途中に聞いてみると、 「あぁ。」と少しためらった後に千聖が言った。 「私、キュートを辞めた方がいいのかしら。」 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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“あんあん、そこはだめよ” “ぐへへへ、口では嫌がっていても××はすっかり××だぜ” 深夜1時。 私は毛布を頭からかぶって、自室のテレビをひたすらジーッと見つめていた。 画面に映るのは、舞ちゃんの運命を変えてしまったあのエッチDVD。高校のクラスメートの誰かが、いたずらで私の机にしのばせたやつだ。 部屋の前には、トランクやミニテーブルでバリケードを作った。万が一でも家族に知られるわけには行かない。こんなDVDを持っているだけでも問題ありまくりなのに、ましてやそれを見ているだなんて知られたら・・・・ “へっへっへ、お前の××、×××ぜ” “あーん、イクー” アホか。そんなんでイクーってなるわけないじゃない。 本当に、なんて内容だ。男の身勝手な妄想をぐちゃぐちゃに捏ね繰り回して凝縮させて、女の子の気持ちなんて全然考えないで、物みたいに扱ってる。信じられない。こんなのまともに見ていたら、恋愛観とかおかしくなっちゃいそう。 現に、舞ちゃんはこのビデオに感化されて、千聖に無理やりエッチなことをしたらしい。 もう仲直りはしたらしいけど、だからといって、このエッチビデオを一緒に見ようと舞ちゃんに持ちかけた私の罪が消えるわけじゃない。 私はドーンと凹んで、落ち込んで、どうしようもない状態になっていた。 といっても、仕事中は何とか平静を保つことができた。別人になりきる、お芝居という仕事だったのがラッキーだったのかもしれない。 だけど、本番が終わって、反省会が終わって、帰り支度をする頃には、また落ち込んだ気持ちが心を侵食していっていた。 一体、舞ちゃんは千聖に何をしたんだろう。 本人はもちろん、千聖にだってそんなことは絶対に聞けない。千聖は最近、いきなり明るい方の千聖に戻ったり、心が不安定になっているような気がする。 今更仲違いの原因を穿り返せば、辛かった気持ちを思い出させてしまうだけだ。 だから、私は舞ちゃんの行動のヒントを求めて、また夜な夜なこのDVDを再生しているわけだけれど・・・ 「舞ちゃぁん・・・これ犯罪だよぅ」 わかりきったことだけれど、私は間抜けな独り言を漏らした。 最初に見たときは、衝撃が強すぎて、ほとんど内容は頭に入ってなかった。ただ、無性に息が荒くなっていたのは覚えている。 逆に、舞ちゃんは冷静だったと思う。もともと、年齢のわりにかなり大人っぽいところがあるから、冷めた目で見ていたのかと思っていたんだけれど・・・ むしろ、心の深い部分を刺激されてしまっていたのかもしれない。 舞ちゃんは千聖のことが大好きで、大好きすぎていじめることが昔からよくあった。 お嬢様の千聖にはあんまりそういうことはしないけれど、喜怒哀楽の激しい明るい方の千聖のダイレクトな反応は、舞ちゃんのツボだったんだろう。 どっちかっていうとドエームな私には、よくわからない感覚だけど・・・やりすぎだと感じれば、止めに入ることもあった(その時の舞ちゃんのブリザートスマイルといったら!)。 多分、私の予想だと、千聖はそれほどMではないと思う(えりかちゃんが“ベッドの中では(ry)と言っていた。殴った)。Sでもなさそうだけど。 だから、戯れ方を間違えれば、いくら相棒の舞ちゃんだって許してもらえないこともあるんだろう。ましてこんなビデオを参考にしたんじゃ・・・ “へへへ、次は××を××してやるぜ” 相変わらず、画面ではキモイ系の男の人が、ニタニタ笑いながら女の人を辱めている。 舞ちゃん、一体何をしたの?「へへへ、次はちしゃとの××を××してやるでしゅ」って? 「あぁあ~・・・」 私は頭を抱えた。舞ちゃん本人が言うように、“遅かれ早かれ千聖にそういうことをしていた”のかもしれない。だけど、私がこんなものを見せなければ、回避できたことだったはず。 どうしよう、もういっそ私から千聖に謝って・・・いや、そんなことをしたらいろんな経緯が明るみに出て、余計に千聖を傷つけることになるか。 “ひっひっひ、××が××で××××” 「あー、うるさい!!」 人がまじめに考えているっていうのに、痴漢男の不愉快な声が邪魔をする。私は一旦DVDを消した。ベッドには戻らず、毛布を体に巻きつけて丸くなる。 そうして改めてその内容を頭に思い浮かべると、ゾッと鳥肌が立つ。 やだやだ、好きでもない人に、あんなことされるなんて絶対ありえない。あんな・・・ “ちしゃと、××が××でしゅよ。××な子でしゅね。舞が××してあげましゅ” 舞ちゃんの短く切りそろえられた爪が、千聖の小麦色の肌を優しく引っかく。真っ赤になって悶える千聖。やがて、その指は千聖の豊かな胸に 「ああああ!違うって!もう!」 一人絶叫していると、うるさい!とばかりに隣の部屋のお姉ちゃんが壁をドンと蹴った。・・・やばい、こんなところで自爆するわけにはいかない。 どうしよう、こんなこと考えちゃだめだってわかってるけど、妄想が止まらなくなってきた。頭の中で、“かまわん、続けろ”となぞの声が指令を出す。 私は毛布を頭からかぶった。外の音も全部遮断されて、完全に自分だけの世界。もう一度あのDVDの内容を思い起こしてみる。・・・今度は、痴漢の顔を舞ちゃんに、女の人を千聖に置き換えて。 「はぁ・・・」 あ、さっきより全然いいかも。使える。最近は妄想の中でみぃたんにお世話になる(・・・)ことが多かったから、これは新鮮だ。 ―私、自省のためにエッチビデオ見てたはずなのに、何でこんなことやってるんだろう。そう思っても、ピンクのもやもやに占拠された頭と、そっとソコをなぞる指が止まらない。 「うー・・・」 でもこれ、一体何目線なんだろう。寝取られ目線?痴漢目撃者目線?そもそも舞ニー?それともちさニー?いっそちさまいニー?・・・もう何でもいいや。とりあえず、始めてしまったから終わるまで楽しもうっと。明日から顔を合わせるのが、ちょっと気まずいけれど。 TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -