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魔法少女リリカルなのはStrikers 外伝 光の騎士 第四話 「っておい!スバル!!」 突然自分の手を振り解き地上へと降りたスバルに、ヴィータは咄嗟に叫び彼女を止めようとする。 だが、ガンダムを前にしたスバルの耳には彼女の叫びは届く事は無く、マッハキャリバーで砂煙を上げながら真っ直ぐに駆け出した。 「ったく・・・あの馬鹿・・・帰ったら敷地30週だ!!」 既に彼方へと走り去ったスバルに向かってヴィータは叫びながら怒りを露にする。 だが、露になった怒りも直ぐに消え、歳相応に相応しい笑みへと変っていった。 スバルの話を聞いていて分かってはいた、彼女も自分達と同じく、ガンダムによって救われた一人なのだろうと。 本当なら独断行動をした以上、追いかけてぶん殴って正座させて説教のフルコースなのだが、今回は仕方が無い。 「(・・・・はぁ。まぁ、昔のあたしだったら間違いなくスバルと同じ行動をしていただろうし・・・大目に見るか)」 今回は大目に見ようと思った。 『ふふ、何だかんだいっても、ヴィータちゃんも嬉しいんじゃないんですか』 ユニゾンを解き、本来の姿に戻ったリインフォース・ツヴァイはヴィータの表情を覗き込みながら訪ねた。 否、尋ねる必要など無い。ユニゾンしていたため、彼女の気持ちは既に分かっている。 ガンダムという騎士に会える事をどんなに楽しみにしているのか、そして、どんなに嬉しいのかが十分理解できた。 「まぁな、嬉しい反面、帰ってくるのが遅すぎた事に腹も立ってる。まぁ帰るっていう約束は守ったから許してやるか。 そういやリインは話は聞いてるだろうがナイトガンダムに会うのは初めてだよな?まぁ当然か、生まれる前だもんな」 「はいです!お姉ちゃんやはやてちゃん達から聞いたことがあるです!優しく強い騎士、皆を救った勇者、背中を安心して預けられる好敵手!」 「・・・・・最後は間違いなく戦闘馬鹿(シグナム)だろうな。まぁ間違ってはいないな。あいつがいなかったら今のアタシらは間違いなくいなかった。 あいつ自身は『過剰評価』って言っていたが誰もそんな事は思ってない、アタシもそう思ってる一人さ」 今思い出すだけでもゾッとする。あの時、ガンダムがいなかったら自分達は愛する主を殺していたに違いない。 否、それ所がなのは達、そして海鳴市そのものも奴の餌食になっていた筈だ。 そんな絶望的な状況から主や仲間、そして自分を救ってくれたのはナイトガンダムだった。 皆を闇の呪縛から救い、家族の一人であるリインフォースから闇のみを取り除き、共にいる時間を与えてくれた騎士。 自分は共にいた時間でなら、彼を知っている中では一番少なかった方に入るだろう。それでも彼の評価に間違いは無いと自身を持って言える。 「でしたら、はやてちゃんに早く連絡をしましょう!とても喜ぶ筈です!」 「いんや、もしかしたら別人って可能性も無くは無いから一時保留だ、先ずは会ってみないとな」 「ス・・・スバル・・・それは・・・本当なのか・・・・」 スバルが何気なく言った10年という歳月、到底信じられるものではない、だからこそ聞き返す。 驚きのあまり声が震えてしまう、頭が理解に追いつかない、「嘘であってくれ」と願う自分がいる。 そんなガンダムの表情にスバルもまた驚き、声を詰まらせる。 『冗談を言っているのではないのか?』一瞬その考えが頭を過ぎったが直ぐに打ち消す。 ガンダムの表情を見れば嫌でも理解できる、彼が現状を信じられないという事が。 だが黙っているわけにもいかない、今の自分に出来る事はガンダムの問いに嘘偽り無く答えるだけだ。 「・・・・・うん、そうだよ。ガンダムさんがスダ・ドアカ・ワールドに帰ってから10年が経ってる・・・それは間違いないよ」 ガンダムから体を離し、真っ直ぐ彼を見つめながらゆっくりと答える。 彼女の瞳を見据えその言葉を聞いたガンダムは確信した・・・・・彼女が本当の事を言っているという事を。 否、スバルの姿を見た時点で可笑しいとは気付いていた。いくら何でも2年であそこまで成長する筈が無い、相応の年月が経過しなければ不可能な事だ。 「・・・ありがとうスバル、教えてくれて・・・そしてすまない、みっともなく慌ててしまって」 「謝る必要なんて無いよ!!だって、ガンダムさんには2年前の出来事なのに、此処では10年も経っていたんだよ!慌てない方が可笑しいよ! だから・・・ガンダムさんは悪くは無いよ・・・・帰ってくるって約束を守ったガンダムさんは悪くない!!」 スバルは再びガンダムに抱きつく。まるで自分を慰めてくれるかの様な暖かな抱擁に、ガンダムは自然と身を任せてしまう。 ガンダムにとって、今は彼女の暖かさが何よりの救いだった。 「おっ!いたいた!」 上空から二人の姿を確認したヴィータは嬉しそうに声をあげながらツヴァイと共にゆっくりと降りる。 そして改めてスバルの隣にいる騎士を見据えた後、多少緊張気味に声を掛けた。 「あ~・・・・・・・オッス!!久し振り・・・・だな」 「ああ、また会えて嬉しいよ、鉄鎚の騎士ヴィータ。本当に久し振りだね」 微笑みながら挨拶を返すガンダムに、ヴィータは内心でホッとする。 この感じ、間違いなく自分達が知っているナイトガンダムだ。先ほどまでの緊張が自然に解けてゆくのを感じながらも、ナイトガンダムへと歩み寄る。 そして右手にグラーフアイゼンを展開、彼の隣にいるスバルの方を向き、ゆっくりを振り上げた後 「スバル、罰だ」 軽くスバルの頭をごついた。 「この馬鹿、勝手に行くなっていっただろ!罰として帰ったら敷地30週だ!!」 「あ・・・・あはは・・・・わかり・・・ました」 流石に自分でも悪いと思っていたのだろう。観念し、力なくうな垂れるスバルに満足した笑みを浮かべた後、再びナイトガンダムへと顔を向ける。 だが、いざ再開したものの、彼との会話や共にいた時間が極端に少なかったヴィータは先ず何を話していいのか迷い、言葉を詰まらせてしまう。 「(あ~・・・・まいったな、世間話でもしたいんだがガンダムと一緒にいた時間って極端に短いからな・・・・・話題が・・・・・)」 もしも目の前にいる相手が仕事での付き合いだけの人物なら、適当に言葉を並べればいいか 彼にそんな事はしたくはない・・・・正直に、思ったことを話したい。 数秒考えた結果、とりあえず先ず目に入った彼の姿について尋ねることにした。 「しかしお前は鎧が変ったな・・・こう、カッコよくなったな」 「ああ、この鎧のことかい?向こうで色々あってね、昔着ていた鎧と霞の鎧、そして力の盾を組み合わせて作った物だよ。 バーサルの称号を貰ってからは『バーサル・アーマー』と名付けられたんだ」 「(あの神器を使いこなしてるのか・・・・さすがだな)バーサルの称号?何だそれ?」 「ああ、『騎士の中の騎士に送られる称号』だそうだよ・・・ん?そのこは・・・リインフォースに似ているけど・・・・」 恥ずかしいのか、それとも緊張しているのか、ユニゾンを解除してからずっとヴィータの後ろでこそこそと様子を伺っていたツヴァイ。 だがナイトガンダムに見つかり目が会った瞬間、怒られたかの様に体をびくつかせ、ヴィータの後ろへと隠れた。 「ったく・・・なに緊張してんだお前は・・・」 「だって~・・・緊張しますよ~」 弱気な声をあげならもツヴァイはゆっくりをヴィータの後ろから姿を現す。 目の前にいるのは皆が心から信頼して止まず、主や騎士達、そして姉であるリインフォースを救ってくれた騎士。 ツヴァイからして見れば、本の中から突如現われた勇者の様な人物である、緊張するなという方が無理があった。 そんな態度を取るツヴァイをガンダムは純粋に可愛いと思いながらも、慌てる彼女を見据えると同時に跪き、頭を垂れた。 「お初にお目にかかります。私、ラクロア騎士団所属、バーサルナイトガンダムと申します」 「あ・・・あわわわわわ!!?わ・・・私は八神家の末っ子・・・じゃなくて・・・いえいえそうでもありますけど!!?! じっ時空管理局本局!古代遺物管理部!!機動六課所属!!リインフォース・ツヴァイ曹長でございますですぅ!!」 舌が回らずに声が裏返りながらも、ヴィータの前に出て敬礼をし、大声で自己紹介をする。 そんな彼女の姿を微笑ましく思いながらも、彼女を見た瞬間に感じた疑問をぶつけてみた。 「よろしくおねがします、リインフォース・ツヴァイさん。所でリインフォース・ツヴァイさんは彼女、リインフォースにそっくりですが・・・・・」 「はいです!ガンダムさんの事はお姉ちゃん・・・じゃなくて姉であるリインフォース・アインから聞いています。 それと敬語なんて使わなくてもいいですよ、私の事もリインと読んでください。ですけど本当に聞いたとおり、皆が認める騎士様ですね~、 こう言う紳士な所はヴィータちゃんもみなら(ゴン!!」 ヴィータの拳がツヴァイの脳天目掛けて振り下ろされ、鈍い音が辺りに響き渡る。 頭を押さえ、悶絶するリインを一瞥した後、唖然とするガンダムとスバルを無視し何事も無かったかのようにヴィータは一度咳払いをし、無理矢理場の空気を誤魔化した。 「悪い、手が滑った、許せ」 「そんなわけないじゃないですかぁああああああああ!!」 まだダメージが残っているのだろう、頭を抑え、涙目になりながらも突然の暴挙に出たヴィータに抗議をするツヴァイ、 だがヴィータは最初から聞こえていないかの様に無視を決めこむ。 「まぁ、リインが言ったことに間違いは無いな」 「ヴィータちゃんが紳士じゃないって所ですかぁ~?」 先ほどのお返しなのだろう、挑発するように言い放ッた後、直ぐにガンダムの後ろへと隠れる。 流石にガンダムを押しのけてまで鉄拳制裁をする気にはなれないのだろう、悔しそうにガンダムの後ろからニヤニヤと様子を伺うリインを睨みつけた後、 諦めたかのように深く溜息を一回、自身の怒りを仕舞い込んだ。 「皆が認める騎士って所さ、それに関しては間違っていないとはっきり言えるな」 「そんな事は無いよヴィータ、私はまだまだ未熟、皆が思っているような騎士ではないよ。このバーサルの称号も私にはもったいない位だと今でも思っている」 その発言に真っ先に噛み付いたのはスバルだった。誰が見ても分かるほどに口をへの字に曲げながら抗議を開始する。 「そんなこと無いよ!ガンダムさんは騎士の中の騎士だよ!誰がなんと言おうと・・・・・ガンダムさん本人がそうで無いと言っても私は曲げないよ!ガンダムさんがバーサルナイトだって事実は!!」 「スバルの言う通りだ、お前はもう少し偉ぶってもいいぞ・・・つーか少しは偉そうにしろって。 だけどそうなると今度は『バーサルナイトガンダム』って呼ばなきゃ駄目か?・・・・・・うん、長いから却下だ。だけどシグナムが黙って無いだろうな。 お前の今の姿、そしてそのバーサルの称号の由来、ガチの模擬戦は覚悟した方がいいぞ」 「ははは・・・でも彼女も元気そうでよかった。シグナムとは一対一での戦いを約束しているからね、一人の騎士として彼女との戦いは楽しみだよ」 「ああ、出会って早速申し込まれるかもしれねぇな、『いざ勝負!』って。なんたって10年ぶりなんだから・・・どうした?」 『10年』、その言葉が出た途端スバルとガンダムは押し黙ってしまう。 何か不味いことでも言ってしまったのか?ヴィータは慌てて会話の内容を思い出すが、ガンダムは無論、スバルも押し黙ってしまう様な事は言ってはいない。 考えても分からない以上、聞くしかない。早速ヴィータが聞こうと口を開こうとするが、それより先にスバルがヴィータを見据え、話し始めた。 「・・・・そうだったのか・・・・・ごめんな、ガンダム。辛いのに無神経で」 「謝らないでくれヴィータ、話を切り出さなかった私に非がある」 「・・・そう言ってくれると助かる、だがお前の世界では2年でこちらでは10年・・・・・・此処まで時間の流れが違う世界なんて聞いたことが無いぞ。 まぁお前の世界そのものが未だに未発見の次元世界だ・・・・常識なんかが通用しないのかもしんない・・・ああ、めんどくせぇ話は後だ!」 帽子に守られていない後頭部を乱暴に書きながら無理矢理話を終らせる。 先ずは『何故ガンダムが来たのか』より『ガンダムが帰ってきた』という報告をする方が優先順位(関係者限定)としては圧倒的に先だ。 だからこそヴィータは空間モニターを開き通信を開始した、自身の主『八神はやて』が指揮する後方支援隊『ロングアーチ』へと ・機動六課管制室 ほの暗い機動六課管制室に鳴り響く通信音、オペレーターの一人アルト・クラエッタは即座に対応、 直ぐに後ろで指揮をしている、部隊長・八神はやてへと回す。 「八神部隊長!現場に向かったスターズ02・ヴィータ副隊長から通信です!」 「ありがと、直ぐに回して」 時間からしてそろそろだと思っていた。 おそらく・・・否、間違いなくうちの子達と自慢のストライカーズ達は任務を成功させてくれているに違いない。 だが、万が一という事もある、特に今回は急な出撃、現場で活動できたのは結果的にストライカーズ達とヴィータ、そしてリインだけの筈だ。 その上今回はガジェット殲滅だけではなく自然保護局員達の救出も含まれている。正直戦力的に完遂は難しいと思う、ある程度の被害は覚悟した方がいいかもしれない。 色々と頭の中で被害の予想を立ててしまうが、予想を立てた所で結果は変らない。 「(・・・あかんな、ネガティブな考えは・・・・・部隊長が隊員を信じなくてどうするんや)」 少しでも部下や家族を信じなかった自分に自己嫌悪しながらも、直ぐに気持ちを切り替え、画面に映るヴィータに瞳を向けた。 結果から言えば、ヴィータが報告した内容は心配した自分が馬鹿らしく思える程完璧な内容だった。 ガジェットはすべて破壊、保護対象だった自然保護局員達は無論、ストライカーズやヴィータ達にも怪我は無い、オマケにレリックも回収、 文句のつけようの無い完璧な結果を齎してくれた。 「さっすがヴィータ副隊長とリイン曹長!!そして六課が誇るストライカーズ!!」 指を鳴らし、皆の心境を代表するかのように歓喜の声をあげるシャリオ・フィニーノにグリフィスは満足そうに頷き、 アルトとルキノは互いを見据え嬉しそうに微笑む。 はやてもまた、早速モニターに移るヴィータに労いの言葉を掛けようとしたが、ふと彼女のバツが悪そうな表情に言葉を詰まらせた。 「・・・?ヴィータ?どないしたん?」 『あ~・・・・いや、実はアタシらが来た時にはすべて解決してたんだ。ガジェットを全滅させたのも、 自然保護局員達を助けたのも、レリックを守りきったのもアタシらじゃない』 歓喜に包まれたロングアーチが一瞬で静かになる。否、固まったといった方が正しい。同時に皆が疑問に思う、『誰がやったのか』と。 「(ヴィータ達やない?・・・・・せやけど此処までの事をするとなると相当腕の立つ人に間違いは無い。それに人命救助やレリックを大人しく渡した以上、 こちらの敵ではないと見るべきか?もし怪しい人物ならヴィータが黙ってるはずが無いし・・・・・一応警戒はしとこうか)ヴィータ、詳しい報告を。 出来ればその人にも会ってみたい・・・・お願いできる?」 隊長であり、主でもあるはやての頼みに、ヴィータは『まってました!』と言いたそうな表情で答える。そして 『経緯なら直接聞いてくれ、10年ぶりに帰還したアタシらの勇者に!』 『えっ!?ヴィータ!!?何を!?』 ヴィータに無理矢理空間モニターの前に引っ張られたため、ナイトガンダムは慌てた声をあげながらその姿を映像越しにロングアーチの前に晒す事となった。 突如現われた小さな傀儡兵の様な物体、皆が言葉を詰まらせるは当然だ・・・・一人を除いて ガタッ!! 沈黙するロングアーチに響き渡る物音、全員がその音がした方向へと振り向く。 クリフィスにいたっては近場にいたため、その音が何なのかが直ぐに分かった。はやてが急に立ち上がった結果、座っていた椅子が後ろへと倒れた音だ。 そして全員がはやての表情に驚いてしまう。目を見開き、心から驚いている表情。この様な表情は此処にいる誰もが見たことがない。 だが唯一分かる事がある、それはははやてが今映し出されている傀儡兵の様な者を知っているという事。 そんな皆の予感は的中する。内から湧き出る驚き、懐かしさ、嬉しさを必至に堪え、はやては名を呼ぶ・・・・・その騎士の名を 「ガン・・・ダム・・・さん・・・・・なんか」 『ガン・・・ダム・・・さん・・・・・なんか』 空間モニターに移る女性に名を呼ばれたガンダムは、直ぐに返事をすることが出来なかった。 自分を驚きの表情で見据える女性・・・・・自分は彼女の事を知っている。 あの時は車椅子が無いと動くことも出来なかった少女、だがそれも10年という歳月の前では過去の出来事だ。 今ではで二本の足でしっかりと立ち、美しい女性へと成長した夜天の主 「・・・・はやて・・・・八神はやて・・・・本当に久し振りだね・・・・」 驚くはやてとは対象に、ナイトガンダムは笑顔でその女性の名を呼んだ。 「ほんまに・・・ほんまにガンダムさんなんやな!!?嘘付いたら承知せんよ!!?」 『ああ、君たちにとっては10年ぶりだね・・・・・けどスバル同様、元気に、美しく成長した』 世辞などの感情が一切感じられない心からの言葉に、はやては顔を赤くし、てれを隠すかのように俯く、 だが、ふとガンダムが呟いた言葉に引っ掛かりを感じたため、再び顔を上げ彼を見据えた。 「ちょいまって!?ガンダムさん、さっき『君たちにとっては10年ぶり』って・・・・どういう事や!?」 『横から失礼するぞ、それについては後で話すよ。あたしやスバルは無論、ガンダムでさえあたしらと同じ・・・いや、それ以上に不可解に思ってるからな。 とりあえす、積もる話は六課に戻ってからで・・・』 横から割り込み、話に区切りをつけたヴィータに、はやては高ぶる感情を抑えこむと同時に、今後の指示を簡潔に伝える。 そしてもう一度モニター越しに写るガンダムの姿を名残惜しそうに見つめいた後 「それじゃ、六課でまっとるから・・・なのはちゃんの台詞を取るけど、色々おなはしきかせてぇな・・・」 通信を切った。 「・・・ふぅ~・・・」 通信を終えた後、はやては深く息を吐くと同時に既にグリフィスが起こした椅子に倒れこむ様に座る。 だがその表情は心からの嬉しさがにじみ出ている笑顔、常に顔を合わせているグリフィスでさえ、その笑顔に自然と心を奪われ見惚れてしまう。 「なんや~グリフィス君?私の顔じっと見てぇ~?」 既にグリフィスの視線に気が付いたのだろう、はやては悪戯心満載の笑みで隣にいるグリフィスを見つめる。 目が合った瞬間、グリフィスは面白いように慌てふためき、後ろへと下がりながら必至に否定しようとするが、根が真面目な分、言い訳の言葉が出で来ない。 そんな幼馴染を可哀想に思ったのか、シャリオが『自分も混ざってからかいたい』という感情を押し殺し、助けに入った。 「ですけどはやてさんはあの・・・・人?のことをご存知なのですか?」 「私も気になります!?見たことも無い種族でしたし・・・それに八神部隊長の凄く嬉しそうな表情・・・是非教えてください!」 シャリオに加え、アルトもまたガンダムについての説明を求める。ルキノも声には出さないものの、気になっているのだろう、二人と一緒にはやての方へと顔を向けた。 「う~ん、詳しい事は本人の紹介と一緒でな。まぁ簡単に言うと、私や守護騎士の皆、そんでなのはちゃんやフェイトちゃん達を救ってくれた勇者様って所やな」 「み・・・・皆さんを・・・ですか?」 ようやく我に返ったグリフィスを含め、はやて以外のロングアーチの面々はその言葉に只唖然とする。 外見で判断してはいけないのだが、見た感じではどう見ても強そうには見えない。 だが、ヴィータの報告からして今回の事件を解決したのはそのガンダムという騎士だ、はやての言葉は嘘では無いのだろう。 「なんや?皆疑っとるんか?まぁ、初めてガンダムさんを見たら強そうって印象は抱かないかもしれない・・・・・私も可愛いっておもっとったし。 せやけどな、ガンダムさんは強いでぇ~。ちなみに分かりやすく言うとな、シグナムが好敵手と認め、私達と本気の戦いが出来る程度って所や」 余りにもわかりやすい例えに、皆は唖然としながらもガンダムの評価を改める、同時に『見かけで判断してはいけない』と言う事を再認識した。 「・・・・・(バーサルナイト・・・ガンダムさんか・・・)」 ストームレイダーの嵌め殺しの窓から空を見ながら、ティアナは楽しそうにスバルと会話しているガンダムの姿を瞳だけを動かして見つめる。 副隊長であるヴィータが現場に向かってから数十分、彼女は見たことも無い種族と一緒に帰ってきた。 先ず彼らを迎えたのは自然保護局員の皆だった。全員が彼の無事を喜ぶと同時に助けてくれた事への感謝の言葉を贈る。 その中にはキャロの姿もあった。彼女からしてみればこの異邦人の騎士は家族も同然の自然保護局員達を助けてくれた恩人だ、当然といえば当然の行動だと思う。 その後、キャロとエリオのライトニング組はこの場に残る事となった、名目は『襲撃時の事情聴取のため』 本当は既に事情聴取は終了しており、その様な事をする必要など無かった。だがヴィータ副隊長が気を利かせたのだろう。 「久し振りに会えたんだ、ゆっくり、じっくり話をしてこい・・・・・・でも夜までには帰ってこいよ」 つまりは『久し振りにゆっくりして来い』という事だ。ちなみにチームでの行動という事でもあり、エリオも一緒に残る事になったのだが、 彼を見た瞬間、女性の自然保護局員達からは好奇の視線、一部男性の自然保護局員達からは妙な敵意を感じたのは気のせいだろうか? そのため、今ストームレイダーに乗っているのはヴァイス陸曹とリイン曹長にヴィータ副隊長、スバルにバーサルナイトガンダム、そして私、ティアナ・ランスターだ。 「はじめまして皆さん、私、ラクロア騎士団所属バーサルナイトガンダムと申します」 自分達の前で跪き頭を垂れるという初対面の挨拶の仕方に度肝を抜かれながらも、彼はストライカーズの面々とは直ぐに打ち解けていた。 彼の態度は無論、スバルやヴィータ副隊長の説明(スバルにいたいっては思い出話全開だった)もあったからだろう。 だが私はそれだけではなかった、私が自分の名を紹介した時だ、あの時 「ティアナ・ランスター・・・・もしかしてディータ殿の妹君ですか?」 兄の名が出たときには正直驚き、声を詰まらせた。そして、それが引き金になったかの様に昔の出来事を思い出す。 それはまだ兄が生きていて・・・・・そう、十年前の誕生日の時。 あの時自分は貰ったプレゼントに夢中になって兄の話を余り聞くことは無かった、だが『やさしい騎士に会った』という言葉は覚えていた。 そして数日たった日のあの夜、物音に起きた自分が見たのは、自身のデバイスを持ち出かけようとする兄の姿だった。 どう見ても遊びに行くような格好ではない事は当時の自分にでも十分理解できた、だからこそ聞いた、何処へ行くのかと。 兄は自分を起こしてしまった事を謝りながら、腰をお降ろし、自分と同じ視線で答えてくれた。 『友である騎士を助けに行く』と、そして明日には帰ってくるといい出かけていった。 おそらく・・・・いや、間違いなくあの時兄が言った『優しい騎士』そして『友である騎士』というのはガンダムで間違いないだろう。 時間の経過、そして彼が私の名前を聞いただけで兄の妹だと分かった事、疑いようが無い。 正直、兄が言っていた騎士に会って見たいとは思っていたし、兄もまた自分を紹介する予定だったらしい。 だが彼は一ヶ月も経たずに自分の世界に帰り、兄も帰らぬ人となった。 「(その騎士が目の前にいる・・・・神様も面白ことをしてくれるわね)」 兄は無論のこと、ヴィータ副隊長やリイン曹長、そしてスバルの態度からしてあの騎士がどんな人物なのかは大体予想が付いた。 簡単に言うと『とてもいい人』だと思う、そうでなければ皆の接し方に納得がいかないからだ。 「(・・・・・今度・・・お兄ちゃんの事聞いてみようかな・・・・・)」 いつの間にか視線だけではなく顔そのものを窓から見える風景から楽しく話す二人へと向けていた。そんなティアナの視線を感じ取ったスバルが 楽しそうに手招きをし、自分を誘う。 本当ならスバルの誘いに乗りたい。だが、自分が会話に参加するとなると、必ず伝えなければいけないことがある、兄『ディータ・ランスター』の死を。 もしこの事を伝えたらスバルは無論、おそらくバーサルナイトガンダムも自分の事の様に悲しむだろう。そしてこの場の空気を濁してしまうに違いない。 今の同僚の気持ちを駄目にはしたくは無い。この事を伝えるのはいつでも出来る。 だからこそ、ティアナはわざと空間モニターを出現させ、事後報告書を入力し始める・・・参加しない事を表すために。 「挨拶は済ませたから私は後にしておくわ。それに、今のあんたの事だから事後報告書とか忘れそうだしまとめてやっておく・・・・後で苺パフェ奢りなさい」 「ティア・・・・うん!ありがと。ジャンボサイズ奢るね」 「アンタの言う『ジャンボサイズ』はやめてね・・・・普通でいいわ・・・・・ん?」 スバルが言うジャンボサイズを想像した瞬間、顔を引きつらせながらも律義に通常サイズを頼むティアナ、 そんな彼女の瞳が偶然、ガンダムの後ろの嵌め殺しの窓から、ある光を捉えた。 青空と白い雲しか映さない窓、その中に現われた一つの桃色の光。何も知らない人なら警戒などをするだろう。だが、知っている側からすれば警戒をする必要など無い。 あの光・・・魔力光を放つのはあの人しかいないからだ。 おそらく既に着艦することを伝えたのだろう、後部ハッチが開き、強風がガンダム達を襲う。 そしてその風に先導されるように一人の人物が降り立った。 ティアナにとっては完璧とも思える隊長 スバルにとっては憧れの存在 そしてバーサルナイトガンダムにとっては10年ぶりに再会する強い意思を持った少女 降り立った女性は、スバルの隣にいるガンダムを見つめると同時に瞳に涙を溜めながら笑みを浮かべる、そして 内から湧き出る思いを抑えきれずに駆け出し、ガンダムに抱きついた。 突然の隊長の行為にスバル達は唖然とする、だがそれ以上に抱きつかれたガンダムは突然の事に何が起こったのかさえ分からない。 だが直ぐに冷静さを取り戻し、何が起こったのがを瞬時に整理する。 自分は先ほどヘリコプターに入ってきた女性に抱きつかれている。そして、自分はその女性に見覚えがある。 あの時はまだ少女だった、真っ直ぐな気持ちと強い心をもった魔法使い。その身からは信じられないほどの魔力を秘めながらもその力に溺れる事無く、皆のために振るった。 はやて同様彼女も大きく、そして美しく成長した・・・・そんな彼女達を見るたびに自分が時間に取り残された感じに陥るが それ以上に彼女達が元気に成長した嬉しさの方が遥かに大きい。 「(フェイトやユーノ、クロノにギンガ、アリサにすずか・・・・彼女達と出会うたびに驚くのだろうな・・・・)」 そんな事を思いながら、ゆっくりと彼女の体を離し、顔を見据える。そして指でそっと流れ落ちそうな涙を掬う。 「・・・・駄目だよ、隊長がベソなんかかいては」 「ガンダムさんが・・・悪いんだよ・・・皆を待たせるから・・・心配するから・・・」 「・・・すまない・・・でも、これだけは言わせてほしい・・・・ただいま、なのは」 「うん、お帰りなさい、ガンダムさん」 「そっか・・・・ヴィータちゃんが驚くなって言っていたけど・・・そんな事が・・・」 「ああ・・・・・だけどすまない、こんなに時間が経つとは思っていなかった・・・・」 「ガンダムさんが謝る必要なんて無いよ、約束を守って、無事に帰ってきてくれたんだから」 邪魔をしてはいけないと思ったのだろう、ガンダムとなのはの会話をスバルはティアナの隣でニコニコしながら聞いており ティアナは視線を窓から見える街の景色に向けながらも、その瞳は街ではなく窓に映るガンダム達の姿を、そして両耳でしっかりと会話の内容を聞いていた。 正直な所、ティアナは驚いていた。 自分は隊長である『高町なのは』を『完璧な人間』だと思っていた。 魔法の才能、若くしての今の地位、そして誰もが認めるカリスマ性、どれをとっても遠い存在、自分とは住む世界が違う人間だと思っていた。 だが今の彼女はどうだろうか? 楽しそうに微笑み、驚いた表情をし、声を出して笑う、其処には自分が感じていた『高町なのは』は微塵も感じられない、友達と話す只の少女だ。 そう感じると同時に自分自身の視野の狭さに情けなくなる。 確かに『高町なのは』は自分が思っている様な『完璧な人間』だという考えは変らない。だがそれだけではないのだ。 彼女は優秀な魔道師であると同時に自分達と同じ女の子、決して仕事や戦いの世界だけで生きる人間ではない。 もしそんな人間なら、この様に心から楽しく笑ったりすることなど出来る筈が無いからだ。 「(・・・楽しそう・・・なのはさんも普通の女の子だったんだな・・・・)」 強さや功績などが原因で彼女を『強い魔道師』として見る者は多い、自分もその一人だった。 だがいざ戦いから離れれば、自分達とそう歳が変らない女の子なのだ。 「(今度・・・・スバルと一緒に誘ってみようかな・・・・・・)」 最近見つけた美味しいケーキを出してくれるお店、今度の休みになのはを誘ってみようと思う。 仕事や訓練の話しは一切無し、、一人の女の子として高町なのはという人物と話してみたい。 数時間前の自分だったら『図々しい』『すむ世界が違う』などと理由をつけてそんな事考えもしなかっただろう。 だが今はそんな気持ちは微塵も無い、今まで自分が無意識に隔てていた壁を崩したい。だたその気持ちで行動しようとしている自分がいる。 「まったく・・・・・馬鹿スバルの猪突猛進振りが移ったのかしかね?」 「・・・ん?なんかいったティア?」 最後の言葉だけは自然と口に出してしまった。 小さな呟きだったのだが、近くにいたスバルには聞こえたのだろう、キョトンとしながら自分を見つめるスバルに、 ティアナは誤魔化すかのように軽くデコピンを一回、そして 「スバル、やっぱりパフェじゃなくてケーキにするわ、一人前多くね」 デコピンをされたオデコを抑えながら何が起きたのか混乱しているスバルをよそに、ティアナは予定変更だけを良い再び視線を窓の外に戻す。 その視線の先には、これからストームレイダーが降り立つであろう自分達の本部、機動六課本部隊舎が見えてきた。 ヘリポートにゆっくりと着陸したストームレイダーを待っていたのは、待機していた整備員数名、そして 「来たわよ!ザフィーラ!!」 「気持ちは分からんでも無いが落ち着け」 白衣を羽織った女性と蒼い毛並の大きな狼、傍から見れば妙な組み合わせだが、そう思うのは彼女達を知らない者だけ、 此処に配属されてる以上、待機している整備員達は無論知っている、 夜天の主にして此処の部隊長『八神はやて』の守護騎士『湖の騎士シャマル』と『盾の守護獣ザフィーラ』 此処では無論、管理局の中でも知名度は高い。 そんな二人が仕事(シャマルは医務官、ザフィーラははやての警護)を中断してまで此処に来ることに疑問を感じるのは当然である。 だからこそ緊張する者、そして「誰かが大怪我をしたのか?」「凶悪犯を捕まえたのか?」などと、こそこそと小声で話したりする者達がいても可笑しくは無い。 ヘリの後部ハッチと操縦席が開く、先ず出て来たのはスバルとティアナ、そして操縦席からはヴィータ。 整備員達が『お疲れ様です』と敬礼で労うと同時に後部ハッチから部隊長のなのは、そしてバーサルナイトガンダムが出てきた。 隊長であるなのはにも挨拶をしようとしたのだが、彼女の隣にいる小型の傀儡兵のような者を見た瞬間、敬礼をしようとした手を止め、言葉を詰まらせてしまう。 ナイトガンダムに関しても、傍から見れば変った傀儡兵にしか見えないだろう。だがそう思うのは彼を知らない者だけだ。 当然今固まっている整備員達は彼の事を知らない、だからこそこの態度も当然といえば当然である。 中には「何だ?」「秘密兵器か?」など、好奇の視線を向けながらヒソヒソを話し出す者も出てきた・・・・その時 「言いたい事があるならはっきりと言え!!(言いやがれ!!)」 ザフィーラとヴィータの怒声が周囲に木霊し、ヒソヒソ話をしていた整備員達と一気に黙らせた。 一気に押し黙りうな垂れる整備員を他所に、シャマルとザフィーラは小走りにナイトガンダムへと近づく、10年ぶりの再会を祝うために。 「おかえりなさい・・・ガンダムさん。本当に久し振り」 「よく無事に戻ってきた、騎士ガンダム。主共々、お前の帰りを心待ちにしていたぞ」 「ああ、ただいま、湖の騎士シャマル、そして盾の守護獣ザフィーラ・・・・二人とも変らず元気でよかった」 シャマルが一歩近づき、腰を下ろす。そしてゆっくりと優しくガンダムを抱きしめる、突然の彼女の行動にビックリしながらも、 自然とガンダムも彼女を抱きしめる、互いに再開の喜びを分かち合うかの様に。 「ごめんなさい・・・整備員達の態度に不快な思いをさせてしまって」 「気にしないでくれ、MS族が確認されていないんだ、彼らの態度は当然だよ」 「ったく、相変らず甘いって言うか易しいって言うか・・・・まぁ、それがお前のいい所でもあるんだけどな・・・だけどこの視線はどうにか何ねぇのか? こんなんじゃ体がもたないだろう?」 ヘリポートでの再開の後、ガンダムはヴィータとシャマルに連れられ六課本部隊舎の中を歩いていた。 やはり自分という種族が珍しいのだろう、その上此処では有名な守護騎士達と歩いているのだ、すれ違う人々は整備員達が向けたような視線を向ける。 だが仕方が無いと思う、自分の様なMS族は珍しいし、10年前も本局でこのような体験はした。言ってしまえば慣れてしまった。 「心配してくれてありがとうヴィータ、やはり君は優しい子だね」 「なっ・・ば・・馬鹿!!何言ってんだよ!!あ・・あたしは報告書書かなきゃいけないから行くぞ!!あとはシャマルに連れて行ってもらえ!!!」 純粋に褒められた事に、ヴィータは顔を真っ赤にしながら怒鳴り散らした後、機械の様な動作で回れ右、全力疾走でその場から逃げるように離れた。 あっという間に視界から消えたヴィータをポカンとした表情で見ていたガンダムはゆっくりとシャマルの方へと首を動かす。 「・・・私は・・・彼女を怒らせるようなことをしたでしょうか?」 「ガンダムさん、世の中には恥ずかしくて素直な気持ちを表せない子もいるのよ。ちなみにああいうのを『ツンデレ』って言うらしいわ」 「『つんでれ』・・・・・ですか」 「そう『ツンデレ』。ちなみにティアナとアリサちゃんが該当するわね・・・・・あとシグナムもかしら・・・何でも『萌え属性』に必要不可欠だとか」 もしこの場にシャマル以外の人物がいたら『変な知識を与えるな』の声と共に彼女を殴り倒しても喋らせる事を止めただろう。 だがこの場にいるのはガンダムとシャマルだけ、彼女の知識の供給を止める者は誰もいない。 その結果、二人が部隊長室に付くまでの数分間、ガンダムの頭の中に無用な知識が幾つも加わる事となった。 「さっ、此処よ、中に八神部隊長・・・はやてちゃんが待ってるわ」 二人の前の前には部隊長室の扉、その扉は自動式であり、あと一歩踏み出せば空気が抜ける様な音と共に自動で扉が開くようになっている。 だが直ぐに入ると思っていたシャマルの予想に反し、ガンダムは踏み出そうとはしない、扉をジッと見据えている。 不審に思いながらも、自分が先に入ろうと一歩踏み出そうとする・・・・だが 「・・・・お待ちを」 静かに・・・だが否定を許さない声でガンダムは右手を差し出し、彼女の動きを止める。 そして差し出した手を腰に回し、バーサルソードの剣柄を握った。 ゆっくりと引き抜かれるバーサルソード、その突然のガンダムの行為にシャマルは一瞬唖然とするも、説明を求めるため尋ねようとする。 だがそれより早く、ガンダムは一歩踏み出した。自動ドアのセンサーが反応し扉が開く ガキッ!! シャマルが聞いたのは扉が開くときに聞こえる空気が抜けるような音ではない、何か金属が激しくぶつかり合った音。何が起きたのか分からず唖然としてしまう。 結果的に状況を理解するのに数秒を要した・・・・・とても簡単な答えだ。入り口にいるシグナムが扉が開くのと同時にガンダム目掛けてレヴァンティンを振り下ろしたのだ。 正に不意打ちと言っても良い攻撃、だが彼女が振り下ろしたレヴァンティンはガンダムのバーサルソードによって受け止められていた。 「・・・・・よく気が付いたな、殺気は無論、気配すら消していたのだがな」 「周りと違って扉の前が静が過ぎた・・・・まるで故意に場の空気を消したかの様に・・・それで怪しいと思っただけさ」 「ふっ、その腕、衰える所が磨きがかかっている、さすがは我が好敵手だ」 「ありがとう・・・といいたいけど、さすがに手荒すぎる気がするな」 流石に今の行為は度が過ぎてると思ったため、ガンダムはさりげなく指摘する。 指摘されたシグナム本人も流石にやりすぎたと思ったのだろう、声を詰まらせた後、素直に謝罪した。 そして謝罪後、ゆっくりと腰と落とし、シャマルやなのは同様ガンダムを優しく抱きしめた。 「よくぞ帰ってきた、騎士ガンダム。好敵手として、共として、帰還を心から祝おう」 「ありがとう、そしてただいま、烈火の将シグナム。貴方の美しさは変らず、強さにはより磨きがかかった」 「ふっ、お前にそう言われるとこそばゆいな・・・だが悪くは無い」 『積もる話は中に入ってからしましょう』というシャマルの言葉に3人は部隊長室へ。 流石に機動六課を取り仕切る部隊長の専用室、部屋の広さは指令室並、はやてとリインフォース・ツヴァイの机の他に、 来客用の大型テーブルと数人は軽々と座れるソファーが備え付けられている。 そのソファーに座り、今か今かとガンダムの到着を待っていたはやては、彼の姿を確認するないなや立ち上がり駆け足で近づく そして皆と同様に抱きつき、心から再開の喜びを表した。 「あ~!やっぱりガンダムさんや!ほんまお帰り!!」 「ああ、改めてただいま、はやて。もう走れるほど歩けるようになったんだね、本当によかった」 「当たり前や、もうあれから10年たってるん・・・・・・そうやな、早速で悪いんやけど先ずはそれについて教えてくれない?」 途中遅れてきたなのはとツヴァイも加わり、今部隊長室には重要な会議を行えるほどの人物が揃っていた。 それぞれがソファーに座り、シャマルが入れてくれたお茶を味わいながらひと段落着く。 そして頃合を見計らったところではやてが話を切り出した。 皆が沈黙し、注目する中、ガンダムはゆっくりと10年前、皆と別れてからの出来事を話し始めた。 伝説の巨人との戦い、ガンダム族の末裔達との出会い、そしてなぜか記憶が途切れ途切れになっているジークジオンとの戦い。 時間にして約一時間、静まり返る部隊長室にガンダムの声だけが響き渡った。 「・・・・これが私がスダ・ドアカ・ワールドから帰り、今この時までに体験した事です」 「・・・色々聞きたいこともあるけど、先ずは時間の流れやな。ガンダムさんはスダ・ドアカ・ワールドに戻ってから再び此処に来るまでに要した時間は2年。 せやけど私達が再びガンダムさんに会うまでに10年かかっとる・・・・ぶっちゃけありえへん」 次元世界同士が近い場合(航行艦を使わない程度)時間の流れに変化は無い、だが航行艦を使う距離を、転移に関する特殊な能力が無い人間が次元間移動をすると 時間の歪み(俗に言う浦島太郎の様な効果)が発生することは確認されている。 それでも『往復したら数十年経過していた』という事は無く、精々数分程度の歪みなのは実証されていた。 「次元航行、次元間移動での時間差は確認はされているけど精々数分程度、それにガンダムさんの話からしても私達の世界とスダ・ドアカ・ワールドの 時間軸はほぼ変り無い・・・・もしかして此処へ次元間移動する時に何かが起きたとしか考えられへんな」 「ありえない話しでありませんね、そのスダ・ドアカ・ワールド自体が未だに見つからない次元世界、我々の常識が通用しないのかもしれません。 それに手掛りが無い以上、ガンダムが体験した時間の歪みを解決する事は・・・・無理かと思います」 シグナムは遠まわしに結論付け、この話を切り上げ様とする。この話題には興味があるが原因を解明する材料が不足している。 それ以前に彼が無事に帰ってきた、それで十分ではないか?この場にいる全員がその意見に無意識に同調した。 「だけど、伝説の巨人にガンダム族・・・そしてムーア界、向こうでも色々とあったんだね。でもガンダム族か。 その『アレックス』って言う騎士もガンダムさんと同じガンダム族なんだよね?何か知らなかったの?」 「いや、アレックス殿もガンダム族の末裔は自分を含めたアルガス騎士団のみといっていた。だがラクロアにもガンダムの伝説があった以上、 スダ・ドアカ・ワールドの何処かにその末裔がいても可笑しくは無いとは言っていたよ・・・・・ただ」 突然言葉を詰まらせ、俯くガンダムに皆が視線を向ける。 おそらく話そうか話すまいかと迷っているのだろう。彼らしくない言動に先ほどまで話していたなのはが切り出す 「?・・・・どうしたの?」 「これは・・・・『何となく』という曖昧な感覚なんだが・・・・・最近、自分は元々、スダ・ドアカ・ワールドの者では無いような気がしてきたんだ。 いや、今ではそんな気がしてならない・・・・・何故だか分からないが・・・すまない、忘れてくれ」 「それって・・・ガンダムさんが次元漂流者って事でしょうか?」 「う~ん・・・・そないな曖昧な感覚なら気のせいやと思うんやけど・・・・・発言者がガンダムさんやからな。気のせいで終らすには出来んな。 スダ・ドアカ・ワールドにも地球に来た時同様、次元漂流の結果とかやったらガンダムさんの『何となく』も解決するんやけどな。 何より『気付いたら記憶が無く、景色に全然見覚えが無い』って事自体、次元漂流者の症状そのものやからな。せやけど・・・・ガンダムさん」 「いや、仮に自分の事や住んでいた世界が分かっても今更帰るつもりは無いよ・・・ただ、自分の正体が不可解なのは気持ちのいいものじゃないから・・・・・それに」 頭の中に過ぎったのはあの光景、最初に自分を保護してくれた人達。 そして涙を流し、帰るなと言ってくれた少女、自分はあの時約束したのだ・・・必ず帰ると。 彼女はどうしているだろうか・・・元気だろうか。 「他の・・・・皆は元気なのかい?」 「勿論や!フェイトちゃんとリインフォースは今は用事でこの場にはおらへんけど連絡はいっとる筈や。 ユーノ君は無限書庫ってとんでもない図書館の司書長をやっとる。女性から見ても妙に美人さんに育っとるからおどろくなや~。 あとクロノ君はエイミィさんと結婚したんよ。今では二児の父!あとで連絡をいれとかんとなぁ」 はやての楽しそうな話し方からするに、皆無事に成長し、日常生活を送っているのだろう。今は会えずとも、それを聞けただけで安心感に満たされる。 「(プレシア殿に関しては・・・・フェイトとアルフに最初に話そう)皆無事でよかった・・・それで(あ~まちまち!!!」 そして、必ず帰ると約束した子達の事を聞こうとするが、それより早くはやてが大声を上げ手を差し出す。まるで自分の発言を遮るかのように。 「実はな~、ガンダムさんにお願いがあるんや、今度うちらとスバル達ストライカーズが聖王教会からの任務で、ある世界のある場所に数日滞在する事になったんや」 ガンダムは突然の会話変更に要領をつかめないが、それ以外の人物ははやてが何をしたのかが直ぐにわかり、笑みを浮かべる。 「そんでガンダムさんにはその世界でお世話になる人のところへ行って挨拶をして来てもらいたいんや・・・・頼めるか?」 「えっ?ああ、構わないけど。でも私が言っても余計混乱するだけじゃないかな?六課の誰かが行った方がいい気がするのだけれど」 「それなら心配あらへん、なんたってガンダムさんにぴったりの任務やからな・・・・ちなみにその場所というのはやな」 机から身を乗り出し、ガンダムに顔を近づける。そして目が会った瞬間悪戯を成功させた子供の様に微笑んだ。 「場所は第97管理外世界『地球』。日本の街『海鳴市』在住の現地協力員『月村すずか』のお宅や」 月村邸裏庭 転送を終えたガンダムはゆっくりを瞳を開ける。 目に映るのは10年前、この家で庭師の仕事をしていた時にいつも見ていた光景。 まるで森の様に木々が生い茂げ、風がふくたびに揺れてさわさわと音をたてる。 これが一家庭の庭だと聞いたら誰もが驚くだろう・・・・現に自分も始めて聞いたときは驚いたものだ。 あの時、この場所で過ごした事を思い出しながらゆっくりと歩み始める。 転送ポットから半分ほど歩いただろうか・・・・いつの間にか周りには自分と一緒に歩くかの様に猫が数匹ついてきていた。 「此処は変らず猫達の楽園なのだな」 庭で仕事をしている時、剣の鍛錬をしている時、そしてリビングで寛いでいる時、そのすべての時に必ずと言っていいほど猫が一緒だった。 気まぐれといわれている猫にしては主人やここに住む住人には忠実であり、共にいることはあっても、何かの作業をしている時に邪魔をされた事は一度も無かった。 「案内をしてくれるのかい?」 その問いに数匹いる猫の内の一匹が元気よく鳴き、小走りに前へと進む。 返事をする様に鳴いたあの猫、あの時月村家で保護された時に自分を起こしてくれた猫によく似ている。 もしかしたら子供なのかもしれない。その子にまた導かれると思うと妙な運命すら感じてしまう。 暫く歩くと森を抜け、開けた庭へと出る。先ず目に付いたのはこの森とも思える庭の持ち主が住む月村邸。久し振りに見るその外観に改めて驚き、そして懐かしさを感じる。 そしてその近くから聞こえる歌声にガンダムは和らいできた緊張が一気に元に戻った感覚に襲われた。 今いる位置から聞こえる歌声、あそこは自分がすずかのために花壇を作った場所だ。其処に誰かがいる・・・否、もう聞こえる歌声で分かったしまった。 拳を力強く握りしめ、無理矢理緊張を打ち砕く。 だが不安に思う、彼女は自分の事を覚えているだろうか、待っていてくれているだろうか、緊張に続いて襲い掛かる不安に狩られながらも ガンダムはゆっくりと歩き出す・・・そして 「これでよしっ」 日課の水遣りを終えたすずかは如雨露を両手で持ち直し、先ほどまで水をやっていた花々を見つめる。 10年前、とても大切な人が作ってくれた花壇、今では季節ごとに色とりどりの花を割かせてくれる。 何時見ても心を穏やかにしてくれる。そんな花々を見つめながらも、ふと今後の予定を思い出し腕時計を見る 「たしか・・・・はやてちゃんの部隊から挨拶に来る人がそろそろ来る頃かな、今はファリンもイレインもいないし、お茶の準備をしなきゃ」 お茶とお茶菓子は何がいいだろうと考えてる最中、後ろから聞こえる猫の鳴き声に自然と振り向く・・・そこには 歌声が聞こえていた方へと向かったガンダム。角を曲がり正面を見つめる、其処で見たのは花壇に水をまく一人の女性だった。 あの頃とは違い、大きく、美しく成長した・・・・今も昔の様に紫のロングヘアーがよく似合う。 記憶にある十年前の姿と重なったがそれも一瞬、ガンダムの目の前には美しく成長した一人の女性『月村すずか』がいる。 「えっ・・・?」 目の前の光景に頭が追いつかない、如雨露を落とし、中に入っていた水が足に盛大にかかるが今はそんな事気にもならない。 夢なのか?幻なのか?それとも本当の出来事なのか? 10年前とは違い、鎧が変ってはいるが瞳を見れば分かる間違えるはずが無い。 怯えていた自分を勇気付けてくれた、再び会うことを約束してくれた、あの強く優しい瞳を。 情けない事に未だ頭が混乱し、声を上手く出す事ができない。話したい・・・名前を呼びたい・・・そんなことも出来ない自分に腹が立つ だが、彼女が言葉を発するより先に、彼が自分の名を呼んだ 「すず・・・・か」 それだけで十分だった、目の前にいるのは幻ではない、自分が見ている夢でもない。 彼は約束を果してくれた、かえって来てくれたのだ、それが分かっただけで無意識に体が動き走り出す。 突然走り出した自分に彼が驚いた表情をしている、だが10年も待たせたのだ、驚かせたって罰は当らないだろう。 そして、スバルの時の様に走り出した時の勢いそのままに、ガンダムに抱きついた。 「うわっ!?」 走る勢いを殺さずに抱きついてきたすずかに、ガンダムは彼女を受け止める事が出来ずに後ろへと倒れてしまう。 スバルの時は勢いやマッハキャリバーのスピードなどから、受け止められるように体に強化魔法を施していたが、今回は何もしていない。 無論、掛ける暇はあったのだが、女性だから大丈夫だろうと思ってのが間違いだった。 すずかも夜の一族の血を色濃く引いているため、通常の力は人間の比ではない、勿論日常生活を送る時には自然とリミッターを掛けてはいるが 今回はそんな物を無視してしまうほど感情が高ぶってしまい、結果、ガンダムを押し倒す形となった。 「ガンダムさん!ガンダムさん!!本当に・・ほんと・・・う・・・・」 名を呼びながらまるで絞め殺す勢いですずかは抱きしめる。だが、名前も徐々に嗚咽に変り、抱きしめる力も緩んでくる。 ガンダムも最初はすずかの行動に驚き、抱きしめるとは程遠い絞めつける行為にも顔を顰めた。 だが同時に思う、今彼女が泣いているのは自分が原因だという事だ。 一度目を瞑り、心を落ち着かせる。そして両手を彼女の背中に回し、優しくすずかを抱きしめた。 泣きじゃくる彼女の背中を優しく叩き落ち着かせる。それだけで泣き声は嗚咽へと変り・・・・・次第にそれも収まってゆく。 そして、完全に収まった後、すずかは体制はそのままでゆっくりと体を起こした。 至近距離から互いを見つめる二人・・・互いに何を話していいのかわからない・・・だが言いたい事は互いにあった。それは只の挨拶 「ただいま・・・・すずか」 「おかえりなさい・・・・・ガンダムさん」 あの別れから10年・・・・少女と騎士は再び再会を果した。
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日本が最後の一兵まで戦う覚悟ならアメリカは日本を無条件降伏させることは不可能だったんですか? 原爆の投下があったかないかでオリンピック作戦の有無は変わったんでしょうか 日本軍の兵士が降伏して捕虜になった事がバレた場合、その兵士の家族が社会的制裁を受けるって本当ですか? ソビエトの満州侵攻の際、関東軍って居留民を助けることなく一番に逃げ出したと巷で言われていますが、信じていいのかな? アメリカに負けたのは、物資力や軍事力ではありません。皇国史観が、民主主義に負けたのです。 ポツダム宣言は無条件降伏ではなくて有条件降伏だったって本当でしょうか? 太平洋戦争末期にソ連の捕虜になった日本人の中で、男はソ連の女兵士にレイプされたという話を聞いたのですが本当ですか? 大戦後に日本国が賠償金を払った国を教えてください。 第二次世界大戦での日本の降伏って、原爆投下とソ連対日参戦のどちらのほうが決め手になったのでしょうか? 山本五十六元帥は、戦犯訴追されたでしょうか。 関東軍って70万人以上いたのに何故あっという間にソビエトにやられたのですか? 日本軍はマリアナ沖海戦で破れ,サイパン,テニアン,グァムが落ちた時点で何故,降伏し講和条約を結ぶような政策をとらなかったのですか? 日本はいつごろから降伏の検討はじめたの? 太平洋戦争でどうしてアメリカは日本の希望通りの一億総玉砕をさせなかったんですか? 日本は天皇陛下の命の保障を条件に降伏したと聞いたけど、ポツダム宣言内に天皇の命の保障を行う旨の分が無い様なのですが、命の保障を条件に降伏ってのはうそですか? イタリアが第2次大戦の戦勝国として,日本が降伏の調印式をした戦艦「ミズーリ」の上に来てたって本当ですか? 山下将軍が,連合国記者たちの圧倒的無罪予想に反して死刑になったのはなぜなのでしょうか? 仮に東京裁判において当時の日本の国内法を適用するとしたら,A級戦犯として裁かれた人々は何らかの形で有罪の判決を受ける可能性はあったのでしょうか? ドイツや日本の部隊が降伏の軍使を送ってきた時、ソ連兵は何故即座に撃ち殺したのでしょうか? 関東軍の話です。南方に移動する最中に終戦になったというのは本当ですか? 仮に昭和20年8月15日に停戦に至らなかったとしたら、何日後くらいに本土決戦になっていたのでしょうか? 終戦の日がお盆時期なのは偶然ですか? 終戦になり米軍が降伏勧告に来たとき、降伏の交渉にあたった海軍部隊副官・中村虎彦中佐の対応ぶりに感服した米司令官は何に感服したのですか? 韓国が二次大戦終了後、戦勝国となったというのは本当ですか? 何で日本あんな屈辱的な条約を飲んだんですか? 第二次大戦末期に、駆け込みで日本に宣戦布告してそのままの国って有るんでしょうか? 「巣鴨の刑務所」とは一体なんですか? 第二次世界大戦でアメリカが日本に原爆を落としたのは、日本の土地をロシアに取られないため? 太平洋戦争中期に日本の軍部は絶対国防圏を定めたわけですが、あ号作戦でマリアナで完敗し、サイパンを奪取されて絶対国防圏は崩れたわけですから、 なんで東京裁判では陸軍に重く海軍に軽かったのでしょうか? シベリアに強制連行された日本兵は日中戦争で徴兵された人も連れて行かれたんですか? 1946年の極東委員会について質問です。 アメリカは原爆を落とす前に忠告をほのめかすようなことはなかったのですか? 宮城事件ですが、当時の憲兵隊はいったい何をやっていたんでしょうか? 終戦時に近衛師団と厚木航空隊で反乱が起きたのは有名ですが、ほかに大規模な部隊で反乱・決起行動を行った例というのはあるのでしょうか? よく「原爆投下が無くても海上封鎖を続ければその内日本は降伏した」と言われますが、そうなったら大量の餓死者が出るんじゃないんですか? 日本の軍部や政治家は、「本土決戦」をどのように捉えていたのでしょうか? 連合国と講和の可能性はあったの? バーンズ回答は「国体の保障」に暗黙の了解をしていたの? サイパン戦で負けたあとに、高松宮が「陛下、もう勝ち目は100%無いから講和を」と言ったのに、昭和天皇が「もう一度大戦果を挙げてからでないと難しい」と言ったの本当ですか? 原爆投下されなければ、日本は降伏する気になりませんでしたか? 耐え難きを耐え忍び難きを忍び…って玉音放送の一部だよね? ソ連は北海道に侵攻するつもりだったの? 先の大戦で日本が降伏せず、本土決戦を行っていたらいつまでもちましたか? 日本政府がソ連に米英との講和の仲介を働きかけていたのは諜報機関が無能だったから? 玉音放送の後も戦おうという人たちはいなかったんですか? 市町村レベルでは「終戦の詔勅」はどの時点で、どの程度の関係者に事前に通達されていたのですか? 太平洋戦争末期、戦略爆撃の後に行われたB-29の機雷散布が実質日本にとどめを刺したと聞きました。 外地で一番遅くまで、旧軍の組織を維持していた部隊(いわば最後の旧軍)はどこ? 復員するまで外地にいた部隊は、武装解除されてもずっと旧軍のままの組織、命令系統でいたの? 中央政府の意向を無視して日中戦争を引き起こして戦線を拡大しまくった関東軍が、なんであんなにもあっさりと終戦と停戦を受け入れたの? 日本が最後の一兵まで戦う覚悟ならアメリカは日本を無条件降伏させることは不可能だったんですか? 最後の一人まで殺されちゃったら、誰が降伏するの?っていう突っ込みじゃだめかな。 冗談はさておき、ゲリラ戦をやるには通常 1.休養や訓練が可能な安全地帯 2.地元住民の支持 3.武器や弾薬、食料などを供給してくれる大国の支援 の三つが不可欠といわれます。 アフガンのムジャヒディンにとってはパキスタンが安全地帯にあたり ソ連軍およびその傀儡政府への反発から、住民からの支持が得られ かつアメリカや他のムスリム諸国による大規模な援助がありました。 終戦間際の日本軍じゃ、せいぜい住民の支持くらいしかないので、 到底ゲリラ戦の継続は不可能じゃないでしょうか? (61 予備語学陸曹見習い) ベトナム戦争をモデルケースとして考える事は可能でしょうか? 檜山 良昭という人の書いた「日本本土決戦」という本を読みましょう。 ほぼ、この本に書いてあるのと同じ展開になったはず。 (93 570) ベトナム戦争時の中ソのような潤沢な支援をしてくれる国が無いし、 アメリカも政治的配慮なんてことはせず遠慮無しで来るので、 ベトナムを参考にするのは無理があると思われ。 (93 571) 原爆の投下があったかないかでオリンピック作戦の有無は変わったんでしょうか アメリカ側の言い分(トルーマンの演説)では「オリンピック作戦を不要にするために原爆を投下した」とのこと (76 534) 日本軍の兵士が降伏して捕虜になった事がバレた場合、その兵士の家族が社会的制裁を受けるって本当ですか? 対戦国の赤十字が日本赤十字に捕虜にしたというのを 通達して、その結果あーだこーだというのはあったらしいな。 真珠湾の酒巻少尉の場合もそういうパターンだと聞いたことがある。 何の本で読んだか思い出せないのでソースは出せない。ごめん (85 216) いわゆる「村八分」レベルの社会的制裁なら有りうると思うが、漏れは実状を 書いた資料は知らないでつ。 ただ、捕虜になった日本兵を尋問する際の最も効果的な脅し文句は 「白状しないとお前が捕虜になったことを日本へ知らせるけど、それで良いの?」 だったらしいでつ。 (文藝春秋「日本兵捕虜は何をしゃべったか」より) (85 241) ソビエトの満州侵攻の際、関東軍って居留民を助けることなく一番に逃げ出したと巷で言われていますが、信じていいのかな? 関東軍の各要塞守備隊は最後まで頑強に抗戦、赤軍を足止めする事に成功しています。 また、樺太及び千島諸島での抗戦が無ければ北海道は人民共和国になっていたでしょう。 (91 196) まあ実際は南方戦線に戦力を抽出しちゃったおかげで、精強ソ連軍相手にしちゃ、ろくに戦える兵力が残ってなかったってのが正解。 残ってた連中は 196 にもあるように、猛烈な抵抗を見せたのもいる。「虎頭要塞」あたりでぐぐってみてくれ。 もちろんとっとと逃げちゃったヤツもいたんだが… (91 199) アメリカに負けたのは、物資力や軍事力ではありません。皇国史観が、民主主義に負けたのです。 このような主張をしている人をがいるのですが彼の言う事は正しいのでしょうか? そもそも皇国史観と民主主義が正面から対立する概念なのか? (93 317) 史観というか、国家・国民のシステムでも効率の悪いものだったし、 それとは別に資源も軍事力も無かった。 それらは互いに連動し、影響を与え合うナマモノだから、 民主主義のみを取り出して勝敗の最大の理由にはできない。 例えば民主主義とはほど遠い旧ソビエトでも、 民主主義国家の代表を自称するアメリカと 半世紀にわたって軍事的均衡を維持できていました。 仮に戦前の日本が超良質の民主主義国家だったとしても やっぱりアメリカ相手には勝てなかっただろうし。 (そういう国ならそもそもあんな無謀なことはしなかったでしょうけれど) (93 318) 非常に価値観が絡むので、ここですべき質問ではないかもしれません。 ただ、よく旧軍と米軍の対比で言われているのは、 旧軍は、兵站管理の観念が著しく欠如していた。 行動にあたっての計画の前提になるべき、情報収集・分析を軽視していた 戦闘においても精神主義と白兵突撃に偏重し、火力や科学的態度を軽視しすぎた 精神主義偏重の傾向は、米軍のようにドクトリンを柔軟に変更・発展させるための学習的態度をスポイルした …などということでしょう。 これらは、皇国史観と民主主義などという価値以前の問題でしょう。 軍事における科学的態度や合理性の欠如・不足が敗因だったと言えるのではないかと思われます。 まあ精神主義の偏重に皇国史観が影響を与えているとも言えるでしょうけれど…。 (93 319) ポツダム宣言は無条件降伏ではなくて有条件降伏だったって本当でしょうか? 第13条にはっきり「無条件降伏」って書いてありますね。 (94 44) 太平洋戦争末期にソ連の捕虜になった日本人の中で、男はソ連の女兵士にレイプされたという話を聞いたのですが本当ですか? 歌手で元浪曲師の三波晴夫はソ連抑留時代に女性士官にケジラミの治療をする からフンドシを下ろせっといわれてスッパダカになったらレイプされたそうです。 (108 48) 大戦後に日本国が賠償金を払った国を教えてください。 賠償金の一般的な定義、つまり戦勝国による敗戦国からの徴収、という意味であれば サンフランシスコ条約によって連合国側は対日賠償請求権を放棄しており、 したがって払われた賠償金はありません。 (109 system) 極東委員会の主張は、GHQと違って「国民投票の実施」を要求したと聞きましたが、本当ですか? 憲法の制定については、「国民の自由意志を明確に表す方法による」と極東委員会は考えていました。 また、何故極東委員会の主張が無視されたのですか? GHQと極東委員会の関係については、豊下楢彦『日本占領管理体制の成立』 岩波書店でも読んでください。 かなり詳しく述べられています。 あと、国会における第9条の論争は、日本国憲法案が衆議院に上程される時から既に起きていたというのは本当ですか? 憲法第九条に関する想定問答集を法制局が作成してることからして本当。 ポインタは面倒だから示さない。本気で勉強したいと思ってるんだったら 国立国会図書館のwebページにある「日本国憲法の誕生」読めばいい勉強になると思う。 (109 172) 第二次世界大戦での日本の降伏って、原爆投下とソ連対日参戦のどちらのほうが決め手になったのでしょうか? 間違いなくソ連参戦。 軍の一部ではソ連を仲介にして連合国との和平交渉を進める案があったから、 それが反故になったソ連参戦は日本の戦意を砕いた。 (111 26) ちょっと調べればわかることですが、原爆の投下は日本首脳部の戦争指導に、 ほとんど影響を与えていません。 それに対して、ソ連の参戦は非常に大きな打撃を与えています。 理由は 26氏の言うとおりです。ただ、軍の一部ではなくて、政府全体が、 ソ連を仲介とした和平交渉に一縷の望みをつないでいたわけですが。 (111 29) 原爆投下がほとんど政府の戦争指導に影響しなかったってのはどうかね? たしかに1発目の後は「こんなの一回こっきりに決まってる」てんで 影響はあまり無かったかもしれんが、2発目の後は 「やばい、3発目、4発目の可能性がある。 次を東京に落とされたら国体の継続が(ry」ってのがあった。 (111 47) 山本五十六元帥は、戦犯訴追されたでしょうか。 されていません。 (116 798) 関東軍って70万人以上いたのに何故あっという間にソビエトにやられたのですか? 戦争末期、関東軍は南方に精鋭を引き抜かれガタガタだった。 ソ連軍は大量の優秀な戦車を保有し、機甲戦力で圧倒的な差があった。 砲兵戦力においても圧倒的な差があった。 勝てる理由が存在しない。 (124 709) 赤軍が投入できる戦力が限られ こちらの戦力がそれなりに充実してれば ある程度戦えるのは北方での戦いが 一応証明してるのかな (124 710) 1.関東軍の精鋭部隊、装備の優れた部隊は、南方戦線に増援として送られたり本土決戦 に備えて日本本土に引き上げられたりして関東軍は全体的に戦力、装備が低下していた 2.既に日本が負けかけてることは関東軍の将兵も察していたので、戦意が極端に低く、 ソビエト軍の侵攻開始と共に総崩れになった 3.なにより軍首脳部が一番に逃亡してしまい、指揮系統が崩壊していた為 マトモな作戦指揮がなされず、各個撃破された 4.ソビエト軍の兵力、装備は圧倒的で、戦う前から勝負がついてる状態 といったところ。 正直、精鋭部隊が充分な装備で事前にソビエト軍の侵攻を察知し防戦を準備していても、 装備(特に戦車の性能差が圧倒的)、兵力(特に砲兵の兵力差が壮絶だった)で勝り、 ドイツとの戦闘で経験豊富なソビエト軍仁対しては鎧袖一触だっただろう。 ただ、在満邦人を避難させる時間を稼ぐことぐらいはできたかもしれない。 一応、徹底的に抵抗しソビエト軍を足止めした部隊も存在はした。(虎城要塞、で検索するべし (124 711) 関東軍 24個師団、1個旅団、9個独立混成旅団、2個戦車旅団 航空機230機 兵力約75万人(実質8個師団程度の戦力) ソヴィエト 80個師団、40個戦車、機械化旅団、(戦車5250両) 32個飛行師団航空機5171機 総兵力約157万人 (124 712) 関東軍からは以下の部隊が抽出されました(昭和19年10月以降 昭和19年 10月第23師団(ルソン)、12月第12師団(台湾)、 昭和20年 1月第71師団(台湾)、3月第11師団(四国)第25、57師団(九州) 戦車第1師団(本土)、第111、112師団(南朝鮮) 穴埋めの為に20年初頭から121~128師団までの8個師団と4個旅団を編成。 5月には中国戦線より軍司令部1個、4個師団を編入 更に在郷軍人25万人を動員しています。 全般に装備が貧弱で関特演時の1/2~1/3程度の火力しかなかったようです。 (124 713) 711 内蒙古での独立混成第2旅団(響兵団)も入れていただければと (124 714) 日本軍はマリアナ沖海戦で破れ,サイパン,テニアン,グァムが落ちた時点で何故,降伏し講和条約を結ぶような政策をとらなかったのですか? ウェデマイヤー・レポート(ウェデマイヤー著「第2次大戦に勝者なし」)によれば チャーチルとルーズベルトが無能だったから。 無条件降伏など要求しなかったら早期講和が可能だったはずであり、 ソ連の牽制にもなって冷戦そのものもなかったはずだとしている。 ナポレオン戦争と第一次世界大戦を比べても、民主主義は戦争には強いが、 戦争の理性的解決には不向きだとわかる。 激高した民衆がいかに困ったものかは日露戦役で経験ずみ。 講和と言うのは負けている側から切り出す場合、それ相応に不利な条件となるのは当然ですし 国民は未だ日本が勝っていると信じ込まされており 更にさほど大規模な戦闘を経験していない陸軍が講和を受け入れるとは考えられません。 「日本」と簡単に一言で言っても、意思決定に国内の複数の組織や人間の考えが絡んできて 単純に決定を下せるものではありません。 また米国側にしても、フィリピン等の植民地を押さえられた状態での講和を受け入れるのは困難でしょう。 その後の戦いの惨禍や犠牲が結局は空しかったという考え方は、全て戦後に生きる我々だからこそ可能なものであり それを持って 「あの時戦いをやめていれば」 と軽々に考えるのは、後世に生きる我々の傲慢と言えるかも知れません。 (270 925-968) 日本はいつごろから降伏の検討はじめたの? 昭和20年4月くらいからはソ連経由での講和が模索されてるけど、 ソ連経由の講和が絡まない方法での降伏が検討されてるのは 昭和20年8月くらいから。 1945年2月に近衛文麿が天皇に降伏交渉を上奏。 しかし天皇は「もう一度戦果をあげてからでないと話は難しいと思う」と拒否。 (実際8月でさえクーデター騒ぎが起っているし・・宮城事件) その後の半年のうちに、沖縄戦、各地の空襲、原爆投下があって、南方戦線でも多数の餓死が発生。 多くの日本の戦死者、とくに民間人犠牲者のほとんどはこの半年に集中して死んだ(- 人 -) (降伏遅すぎスレ176-178) 太平洋戦争でどうしてアメリカは日本の希望通りの一億総玉砕をさせなかったんですか? 日本の希望通り まずこれが間違い。 戦争末期の日本の上層部の意図は有条件降伏を勝ち得るまでの継戦派と 無条件降伏を呑んでも終戦にしたい講和派に分かれていた。 が、両派とも可能ならば有条件の方が望ましかったのはいうまでもない。 それが可能だったかどうかは別として。 一方、アメリカの上層部は政治的にも自由が利く無条件降伏を強いる方針で ほぼ固まっていたといってよい。 アメリカにとってみれば日本の敗北は必至だったので、 わざわざ妥協してもメリットがなかった訳だ。 で、アメリカとしては勝ちが決まっている以上、 余計な消耗や政治的な負い目を背負いたくない。 民族浄化が目的の戦争だった訳でも無し、 もし日本が無条件降伏してくれる事になったなら それ以上の戦いは無意味でしかないからな。 つまり一億玉砕とかいうのは国民を煽ってただけ? 朝日新聞がね (初心者スレ472) 日本のマスコミも政治家も軍部も天皇も 責任があるのは間違いないだろう (軍事板FAQ作成本部2) 日本は天皇陛下の命の保障を条件に降伏したと聞いたけど、ポツダム宣言内に天皇の命の保障を行う旨の分が無い様なのですが、命の保障を条件に降伏ってのはうそですか? ウソっていうか、そのへん複雑なんですよ。 日本側「天皇制は維持できるんならポツダム宣言を受領するよ」 連合国「天皇および政府の国家権限は連合国最高司令官にsubject toされるものとする」 日本・外務省「subject toは「制限の元におかれる」だよ。天皇制維持はOK、さあ調印しようぜ」 日本・陸軍省「subject toは「隷属する」だ!天皇制は維持できない!徹底抗戦だ!」 まあなんとかなったのですが、「天皇制の保証」があったのかなかったのかは微妙な所です。 外務省の絶妙な訳はともかく、subject toってのはわりと強い言い方ですので 「保証はされてはいなかった」というのが実際でしょう。 一応ダレスを通じて保証めいたものはあった。 ただ天皇を処分しようとする親中派がいたから、 完全にアメリカ内部がまとまってたわけではない。 グルーなんかが必死で頑張ってくれたおかげでなんとかなったけどね。 (162 357-358) イタリアが第2次大戦の戦勝国として,日本が降伏の調印式をした戦艦「ミズーリ」の上に来てたって本当ですか? イタリアは戦勝国とは言えません.. 終戦直前にイタリア内でファシスト党政権を倒したことから,「敗戦」したのは「ファシスト・イタリア」であり,それを倒したイタリアは「戦勝国」だ,ということになってはいますが,ソ連に1億ドル,アルバニアに5000万ドル,エチオピアに2500万ドル,ギリシャに1億5000万ドル,ユーゴスラビアに1億2500万ドルの賠償金を支払い,全ての海外植民地を失い,トリエステは1953年まで連合国の占領下に置かれるなど,実質的には敗戦国扱いでした. 「ミズーリ」の調印式に代表を送った連合国は,合衆国,中華民国,大英帝国,ソビエト連邦,オーストラリア連邦,カナダ連邦,フランス共和国,オランダ王国,ニュージーランド自治領の9カ国で,イタリア王国は含まれていません. (永遠の青 ◆V9k1yZSe4M in 世界史板) 山下将軍が,連合国記者たちの圧倒的無罪予想に反して死刑になったのはなぜなのでしょうか? マッカーサーの個人的な復讐. 彼が総督時代に貯めた個人資産が山ほどあるフィリピンで,最後の最後まで粘られたから,心中は穏やかでは無いだろう. マッカーサーとマッカーサー一族はフィリピンでマニラを中心に一大コンツェルンを築いていた. 中心に親族が経営する高級ホテルと銀行があり,フィリピン経済の一角を占めていた. 日本軍はフィリピンでのアメリカ権益を解体した. マッカーサーはこのせいで,合衆国での多数派工作に失敗しており,合衆国議会や大統領を経由させず,直接海軍に接近して自分の目標を通すというテクまで編み出している. 後,自分がやったマニラへの無差別爆撃を彼に押し付ける為. 他にも,海軍部隊が,将軍の出したマニラ無防備都市宣言に従わず居残ってやったマニラ防衛戦,果ては末端の兵士の残虐行為まで押し付けた. こう言う公私混同は,マッカーサーを知る者にとっては別段珍しくない. フィリピン上陸を格好良く写す為に上陸後に撮影させたり,その時の銅像を作ったりと,枚挙に暇が無い. 故に下は一兵卒,上は大統領にまで嫌われた. 仮に東京裁判において当時の日本の国内法を適用するとしたら,A級戦犯として裁かれた人々は何らかの形で有罪の判決を受ける可能性はあったのでしょうか? 例えば陸軍,海軍刑法などで有罪を宣告されることとなったんでしょうか? 東京裁判とは違う日本の自主的な裁判で有罪の判決を受ける可能性はありました. 日本側にはもともと自主裁判による戦犯処理の構想がありました. ポツダム宣言の第十条に戦争犯罪人の処罰が明記されていることや,ドイツのニュルンベルク裁判の開廷に関する情報などから日本でも同様の戦犯処理が行われるであろう事は予想されていました. 45年9月11日に東條英機などが逮捕されるに至った後,9月13日には重光外相がマッカーサーに自主裁判の申し入れが行われましたが,マッカーサーはこれを拒否しています. その後も「バターン死の行進」の責任者であるとされた本間雅春中将の礼遇停止など,自主裁判を行う動きを見せますが,これらはすべて徒労に終わっています. (名無し軍曹◆Sgt/Z4fqbE) ドイツや日本の部隊が降伏の軍使を送ってきた時、ソ連兵は何故即座に撃ち殺したのでしょうか? 1)敵の降伏を認めないという、命令が下されていた。 2)政治将校がいたりして、教条的な戦闘に終始していた軍隊なので、 現場で対応する事が不可能なくらいに硬直した命令体系が、そうさせた。 3)下手にものを考えると、粛清される可能性が大きくなるから。 こんな感じでしょうか。 (25 26) 関東軍の話です。南方に移動する最中に終戦になったというのは本当ですか? 関東軍は大戦勃発から徐々に南方へと抽出されています。 昭和19年以降は在満師団17個のうち10個が南方に転用されました。 故に、将校は中隊長一名の歩兵中隊とか砲兵連隊なのに砲はないと言う状況になりました。 此処にいたって、関東軍は守りに転じました。 年末には僅か精鋭4個師団のみ。 それも昭和20年3月には転出し、関東軍は根こそぎ動員を掛けざるを得なくなりました。 24個師団を作りましたが、それまでの精鋭を1として当時の戦力は8.5個分にしかならなくなっています。 (26 眠い人 ◆ikaJHtf2) 同様に大陸に派遣された戦車連隊も、戦車を南方に抽出され戦車のない 戦車連隊になり、所属兵員は海軍に配属されました。 機械に明るいだろうっていう理由で、学童疎開輸送船の機関部員になり 無事復員し、去年末他界なされました。 第17戦車連隊第3中隊で、戦友会は白梅会でした。形見分けで資料(戦後の 会報など)を頂きました。中にはシナで作戦別の戦死者数もありました。 まだ全部見てませんが、中国での記録は少ないようです。 オモシロイのはお袋ので、赤十字引き揚げ作戦の簡単な記録かな。 (26 一等自営業 ◆kawD31MU) 仮に昭和20年8月15日に停戦に至らなかったとしたら、何日後くらいに本土決戦になっていたのでしょうか? 米軍の本土上陸は9月下旬から10月に予定されておりました (36 814) 終戦の日がお盆時期なのは偶然ですか? お盆に重なったのは、偶然としか言い様がありません。 原爆投下のタイミングは、ソ連の対日参戦をけん制するものでしたし、ソ連の対日参戦 は、ナチスドイツの降伏と不可分だからです。 (38 111) 終戦になり米軍が降伏勧告に来たとき、降伏の交渉にあたった海軍部隊副官・中村虎彦中佐の対応ぶりに感服した米司令官は何に感服したのですか? 海兵同期の吉田俊雄氏が氏を激賞しており、光文社NF文庫の「指揮官たちの太平洋戦争」などの 著作にたびたび掲載されているので、それを読んでいただいたほうが早いと思います。 ttp //www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4769821344/qid=1043672271/sr=1-11/ref=sr_1_2_11/250-3012153-1122634 大雑把に言えば、武装解除を担当した米軍が守備隊に戦利品として日本国旗などを要求した際、 中村氏は米軍指揮官に要求の非礼さを説き、米軍が自分の非を認め、中佐の言に感服したというところでしょうか。 (62 174) 韓国が二次大戦終了後、戦勝国となったというのは本当ですか? 大韓民国の建国は1948年。それまでは半島は日本の領土。 (61 855) 亡命政府らしきものが、上海にあり(後に重慶に疎開)軍隊らしきものも存在していたらしいが 1945年に大韓民国の成立がなかったことでわかるように 泡沫組織だったらしい。 (61 859) サンフランシスコ講和条約を調印した国は日本を含む46カ国です。 その中には大韓帝国もしくは大韓民国は含まれていません。 また、日本と韓国には日本国と大韓民国との間の基本関係に関する条約 (日韓基本条約) が締結されており、戦争状態などではありません。 (61 868) 何で日本あんな屈辱的な条約を飲んだんですか? 理由はいろいろあるけれど、戦争は全滅するまでやるようなモンではない。 人間はケモノじゃないんだから理性で引き際を悟れる。それでもあれは遅すぎたかも知れんが。 ふつう、戦争で自軍の損害が総数の10%を超えたら、勝っていても手放しでは喜べない。 自軍被害が全体の15%を越えたらもう危険、20%を越えたらレッドゾーン。30%に達したら降伏すべき。 状況にもよるが、一応はそれくらいの感覚でいたほうがいいよ。ゲームじゃないんだし。 (66 78) 第二次大戦末期に、駆け込みで日本に宣戦布告してそのままの国って有るんでしょうか? 確かソ連(ロシア)とは講和条約が締結されていないはずです。 (68 眠い人 ◆gQikaJHtf2) 「巣鴨の刑務所」とは一体なんですか? 巣鴨プリズンは東京裁判の際に戦犯の収容所となりました あなたのおじいさんは、おそらくBC級戦犯だったのではないでしょうか? ただ、憲兵隊員が戦犯に問われた例は極めて珍しいというか、私は実例を 知らないので違っているかもしれません (75 600) 第二次世界大戦でアメリカが日本に原爆を落としたのは、日本の土地をロシアに取られないため? 原爆を落としたため、その後始末のため、日本はアメリカの支配下になった。 原爆投下には一般的に ソ連を牽制するため 日本本土での地上戦(本土決戦)を避けて日本を屈服させるため 原子爆弾の実地実験 などを中心に、さまざまな理由付けが史家によって行われています。 ただ、 原爆を落としたことの後始末 という説は寡聞にして聞きません(「後始末」の指す意味も明確ではないですし)。 ネット上では一般的に受け入れられがたい説も跳梁していますので、 何でもネットに頼るより、素直に冷戦前後を扱った歴史書を 探すことをお薦めします。概説書から始めるのでも構わないので。 (91 90) そうだね。原爆の投下と関わりなく半島の分割は決定されていた。 日本もそうなる恐れはあったが、当時既にその萌芽を見せていた 東西対立の結果、太平洋で主導権を握っていた西側陣営に属することになった。 というところでしょう。もう半年早ければ、ソ連の占領軍が 北海道に傀儡政権をでっち上げていたかも知れず。原爆投下云々よりも 日本が8月15日まで粘ったことが、統一された日本を保証した といってもばちは当たらないでしょう。 (91 91) 日本政府は別に粘った訳じゃない。 和平工作でソ連を当てにしていたら、そのソ連に攻め込まれたので、 やむなくポツダム宣言を受け入れただけ。 当時の外交関係者のそれに関する本を読んでごらん。 もしソ連の侵攻が遅れていたら、第3の原爆投弾もありえただろうし、 九州上陸作戦ないし関東上陸作戦が行われていた可能性もある。 (91 95) ちなみにソ連軍は日本が無条件降伏したあとも平気で侵攻を続けている。 不凍港目当てに北海道を狙っていたからね 北海道に赤旗が立たなかったのは占守島で大失敗したから (91 100) 太平洋戦争中期に日本の軍部は絶対国防圏を定めたわけですが、あ号作戦でマリアナで完敗し、サイパンを奪取されて絶対国防圏は崩れたわけですから、 なぜこの時点で大本営は敗戦を認めなかったのでしょうか? 絶対国防圏ってのは、ひょっとしてただのお題目にすぎなかったと? まあ、お題目、建前といってしまえばそれまでなんですが…。 とは言え、東條内閣の倒閣運動に繋がっているわけですから、 決して政治的な衝撃は小さくありませんでした。 (同時期のインパール戦の敗北と合わせてになりますが) 海軍も空母を失って大敗勢の上、 ようやく飛び立てるくらいにまで育てた、 空母艦載機の搭乗員に壊滅的ダメージを受けました。 実際のところ、もはや敗戦を認めてもおかしくはない状況です。 実際、東條内閣の倒閣によって成立した小磯内閣は、 ソ連およびスイスを和平の仲介を打診し始めます。 しかしながら、少なくとも英米は1943年のカイロ宣言で、 枢軸国の無条件降伏まで戦争を継続するという路線で一致していました。 そして、ソ連はソ連で、日本の和平仲介の要請をのらりくらりの態度でいなし、 その一方で、対独戦の貫徹を期しています。 そして、よほど対独戦の状況が悪くもならない限り、基本的には反枢軸の態度は、 揺るぎがなかったでしょう。 すなわち、絶対国防圏を突破されたことで敗勢を認めて、和平したい… しかし、各国は、もうそんなことは認めない… そういう外交条件、戦略条件となっていたわけです。 (95 173) なんで東京裁判では陸軍に重く海軍に軽かったのでしょうか? 陸・海以前に東京裁判は戦争責任を追求したモノだから。 実際は戦争責任つーか見せしめ的要素が強いことは今日もよく知られていますが。 (99 331) 戦争責任は別に戦った当事者だから罰するというようなものではないから。 海軍が米国の主な相手だから海軍を主に罰する、なんて無意味な事はしない。 処罰された人の役職、果たした役割で見るように。 (99 339) アメリカは「シビリアンコントロール」を重視していますが それを根底から覆す「統帥権」の徹底排除のため陸軍に 比重を置いたものと本で読んだ事があるなぁ (99 342) 有罪の判定を受けた訴因別に調べれば役職が低い被告の極刑の理由もわかる。 ちなみに開戦時の軍令部総長、永野修身は裁判中に病死しているのでセーフだとは限らない。 (99 348) シベリアに強制連行された日本兵は日中戦争で徴兵された人も連れて行かれたんですか? いらっしゃると思います。そういった方々は、一度除隊後再召集・再々召集を受けて 戦地に送られた人です。 兵士は除隊後予備役に編入されましたが、これは即召集が可能であり再召集・再々召集を 受けた方は多くいました。 徴兵された日本人の学歴はどうなのですか? ピンきりです。尋常小学校しか出ていない人もいれば、学徒出陣で出征した一兵卒の大学生もいますし。 最も、当時の日本では中学以上に進学するものはそう多くいませんでしたが。 陸軍では中学校以上を卒業しているものには可能な限り幹部候補生の試験を受けさせて 士官や下士官への道を開いていました。 10代20代なのですか? 徴兵は満20歳からです。ただし昭和18年から満19歳に繰り下げになりました。 パイロットや戦車兵など専門教育が必要な部隊には18~19歳の兵士もいました。 再召集・再々召集を受けた方には30代の方も多く、末期(昭和18年以降)には45歳までは 徴兵が可能だったため、(当時として)かなりの年配の方もいたようです。 (105 名無し軍曹 ◆Sgt/Z4fqbE) ソ連軍が満州に侵攻した時点で関東軍に属し、かつ捕虜または投降した軍人が抑留された。 戦前及び中期までは関東軍は帝国陸軍でも精鋭部隊だったが、南方の戦況の悪化に伴ってどんどん兵員を引き抜かれた。 さらに末期には本土決戦に備えさらに兵力が引き抜かれたため、 現地に入植していた日本人から徴兵する状態になっており、戦力は大幅に減少していた。 たとえば司馬遼太郎(本名福田定一)が将校として勤めていた戦車部隊も、末期に日本に呼び戻されている。 このため侵攻直前まで民間人だったのに、徴兵されたばかりにシベリア抑留の憂き目に会った日本人も多い。 (105 509) 1946年の極東委員会について質問です。 各国が日本国憲法を策定する際、極東委員会の主張は、GHQと違って「国民投票の実施」を要求したと聞きましたが、本当ですか? また、何故極東委員会の主張が無視されたのですか? 当時の日本を実行支配していたのは米軍のGHQで、極東委員会は単なる勧告機関に過ぎないので マッカーサーが眉を逆立てると何を言っても無視される無力な存在に過ぎません またマッカーサーは朝鮮戦争で失態を犯すまでは米大統領のトルーマンですら取り扱いに困るほど 絶対的権威を得ていたまさに「現人神」的存在だったのです (109 166) アメリカは原爆を落とす前に忠告をほのめかすようなことはなかったのですか? やってるよ 日本向けの放送や宣伝工作ビラで、近く戦争の行方を決定づける新兵器を投入するって 繰り返し警告してて、日本側にも新兵器とは原爆ではないかと推測した人も少なからずいた でも、当時の日本じゃいつどこに核を投下されるか完全にわかっていてもどうしようもなかったさ (367 812) 宮城事件ですが、当時の憲兵隊はいったい何をやっていたんでしょうか? 森師団長・白石中佐殺害した畑中少佐は、クーデター沈静後も昼に自決するまで皇居周辺でビラまきなどをしていたようですが。 事件参加者達もとくにお咎めが無いようですが、首相官邸を襲撃しようとした国民神風隊のある学生は警察に逮捕されて 実刑判決服役したらしいですが・・・軍人はOKで民間人はダメだったんですかね 陸軍省は基本的に終戦時の違法行為はすべて不問に付す方向で動いていたようです。 したがって、海軍や民間人と比べて訴追者がほとんどいないという結果になっています。 国民新風隊を率いた佐々木武雄大尉は右翼団体との繋がりがあったためかねがね警戒されていましたが、 鈴木首相宅襲撃の後はいったんは憲兵隊に出頭したものの、原部隊での監視が妥当として 返された後に逃亡しています。 ところが民間人グループは警視庁に引き渡されてしまい、裁かれて実刑判決をうけて服役しました。 佐々木大尉は憲兵隊や警察に追われたものの逃亡に成功、放火の時効まで逃げ切って 後に大山量士を名乗り、 「亜細亜友の会」の理事長を務めています。 (358 567 名前:名無し軍曹 ◆Sgt/Z4fqbE) 終戦時に近衛師団と厚木航空隊で反乱が起きたのは有名ですが、ほかに大規模な部隊で反乱・決起行動を行った例というのはあるのでしょうか? 有名なところでは、佐々木武雄大尉が率いた「国民新風隊」がありますね。 横浜警備隊の隊長だった佐々木予備大尉は、終戦の動きを聞いて首相官邸を襲う計画を立てましたが、 彼の上官はかねてから彼の不審な動きを警戒していたために、彼の部下はほとんど その計画に賛同せず、やむを得ずわずかな兵と、勤労動員に来ていた学生その他の民間人と共に 首相官邸と鈴木首相私邸に重油をまき放火、鈴木邸が全焼しています。 その後彼らはいったんは憲兵隊に出頭したものの、原部隊での監視が妥当として返された後に逃亡しています。 ところが民間人グループは警視庁に引き渡されてしまい、裁かれて実刑判決をうけて服役しました。 佐々木大尉は憲兵隊や警察に追われたものの逃亡に成功、放火の時効まで逃げ切って 後に大山量士を名乗り、 「亜細亜友の会」の理事長を務めています。 (525 911 名無し軍曹 ◆Sgt/Z4fqbE) 比較的組織的な例としては、茨城県水戸の教導航空通信師団の例があります。 陸軍航空通信学校を部隊風の編制に切り替えた師団で、 そのうちの教導通信第二隊の学生100人が、16日夜に師団司令部などを襲撃し将校若干を殺傷。 翌17日に中隊長の一人(少佐)が指導して、学生400人を集めて武装させ1個大隊を編成。 水戸駅で列車をハイジャック、東京へ向かって上野駅手前で下車し、上野公園を占拠しました。 その後、近衛師団の決起組などと連絡を取ろうとし、廃帝・皇太子即位なんて檄を飛ばしたり。 どうも突発的行動だったようで、近衛師団がとっくに鎮圧されていたことを知らなかったようです。 かえって近衛師団決起騒ぎの関係者である石原参謀が説得に派遣されてきています。 航空本部の説得も受け、恭順派が多数になるのですが、 一部に強硬派が残っており、石原参謀を射殺。 その射殺犯は恭順派によりその場で斬殺。残る強硬派も自決して、反乱部隊は水戸へ帰還しました。 その後、大隊を指揮した少佐はじめ反乱に関与した幹部3人は、自決勧告を受けて自決。 中心人物が全員死亡するという悲惨な結末になり、今でも事件の詳細は不明です。 なお、師団長は、玉音放送直後に不穏な空気の部隊を捨てて単身上京してしまっており、 司令部襲撃の際の難は逃れていますが、重謹慎15日の懲罰処分を受けています。 (525 981 ◆yoOjLET6cE) よく「原爆投下が無くても海上封鎖を続ければその内日本は降伏した」と言われますが、そうなったら大量の餓死者が出るんじゃないんですか? 餓死者数の推計まであるかはわからんが、 まとまった研究では、アメリカの戦略爆撃調査団がまとめたものがある。 大井篤が資料にしてるのも主にこれ。 終戦前6月頃に日本の内閣がまとめた「国力の現状」って資料もあるようで、 ある程度は参考になると思う。 あとは農林水産関係の統計データからの研究もあるかもしれないが、知らぬ。 ちなみに、1945年の作況指数は、 統計上のマジックもあるのかも知れんが、67というとんでもない数字になってる。 (598 920) 日本の軍部や政治家は、「本土決戦」をどのように捉えていたのでしょうか? とにかくただひたすら抵抗して、「大日本帝國」が一日でも1秒でも長く続けばいいと思っていたのか 莫大な損害を与えて、講和する時にすこしでも条件をよくする為の材料にしようと思っていたのか? それと、関東地方が制圧されたら、長野の松代もそんなに安全な所ではないと思うのですが、大本営はまた疎開したのでしょうか? 「大日本帝國」が一日でも1秒でも長く続けばいいと思っていた人、 講和の際、国体=天皇の地位の保証を得るため、連合国軍に損害を与えたかった人、 とりあえずなんか前動続行の人など、色々居たかと思われます。 これらの合計が講和を考えていた人よりも多かった、という感じかと。 また1945年6月までに 軍令を司る方面軍司令部 軍政を司る軍管区司令部 行政を司る地方総監府 がそれぞれ設置されまして、中央からの命令が途絶した後も抗戦を継続できるように なっていましたので、よしんば大本営はなくてもどうにかなったかも知れませんです。 (324 541) 前段については後者です。 全世界の中で日本だけが戦っている、しかも、本土で米軍は大損害を与えられている と言う状態を作ることによって、米国の中の人たちに厭戦気分を蔓延させ(実際、硫黄島 の戦いや沖縄戦でそうなりかけた)、講和に持って行こうとしています。 勿論、国体は護持するというのが絶対条件です。 後者は、最後は建前上、一億玉砕ですから、この地が事実上最後の抵抗線になった 可能性があります。 但し、玉座自体はほかにも日光に皇太子がおりますので、更に抵抗を行う可能性は あるかもしれません。 ただ、首都より地方の方が厭戦気分が強いのでその辺がどう作用するかわかりませんが。 (324 眠い人@出張先 ◆gQikaJHtf2) 連合国と講和の可能性はあったの? ミッドウェー海戦で勝利してたら・・とか アメリカの主張はハルノートであり、ミッドウェー後には新造艦が大挙して完成する ミッドウエーに上陸すると兵站が維持できんのですわ。 あとミッドウェー占領ぐらいで講和しようとするなら、 講和条件はハルノートかそれ以上の譲歩が必要になりますです。 1943年11月の段階でカイロ宣言がでていますから、それ以降の講和は無理だと思います。 カイロ宣言の内容 「右の同盟国(引用者註:米・英・中)の目的は、日本国から、1914年の第一次世界戦争の開始以後において 日本国が奪取し又は占領した太平洋における一切の島しょを剥奪すること、並びに満州、台湾及び澎湖島のような 日本国が清国人から盗取した一切の地域を中華民国に返還することにある。 日本国はまた、暴力及び貪欲により日本国が略取した他の一切の地域から駆逐されなければならない。 前記の三大国は、朝鮮の人民の奴隸状態に留意し、朝鮮を自由かつ独立のものにする決意を有する。 」 (317 316-323) バーンズ回答は「国体の保障」に暗黙の了解をしていたの? 「日本国民が自由に表明する意思」という表現で、「国体の保障」をしているの? http //ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9D%E3%83%84%E3%83%80%E3%83%A0%E5%AE%A3%E8%A8%80 天皇免訴が決まったのは、終戦後のことでそもそもバーンズ回答が曖昧すぎると 御前会議でも再度問い合わせろという意見があったんだよ。 御前会議のメンバーも免訴も国体の維持も何の保障もないことは理解して 決をとったから、同数になり、天皇の決断に繋がってるんだよ。 さらにいうと戦後、GHQは検閲を行って、日本国民の自由な意見の発表を 制限してたわけだし、何の保障にもなってないよ。 (650 746) サイパン戦で負けたあとに、高松宮が「陛下、もう勝ち目は100%無いから講和を」と言ったのに、昭和天皇が「もう一度大戦果を挙げてからでないと難しい」と言ったの本当ですか? ソースは? 藤田尚徳『侍従長の拭想』 http //hc6.seikyou.ne.jp/home/okisennokioku-bunkan/okinawasendetakan/syowatennohatugen.html http //web.sfc.keio.ac.jp/~gaou/cgi-bin/mondou/html/009630.html 原爆投下されなければ、日本は降伏する気になりませんでしたか? 本土決戦のために設置されていた広島の第二総軍司令部が一瞬にして壊滅したことに より、ある種の諦めに似たムードが形成されたのは事実です。 仁科研の調査により原子爆弾と判明した時点で陸軍は爆撃されたら白いシーツやレイン コートを着用すれば熱線によるやけどは防止できると発表し、原爆は1発だけだろうから 怖れるるに足らずとの見解でしたが、長崎に2発目が投下され陸軍の強気ムードも一気に 瓦解しました。陸軍大臣であった阿南大将も降伏条件について話し合うことが可能になった (652 639) 耐え難きを耐え忍び難きを忍び…って玉音放送の一部だよね? 「終戦の詔書」というのが正しい。 俗に言う「玉音放送」というのは、 「天皇陛下による大日本帝國臣民への終戦の詔書」 をラジオで放送したもの、ということ。 本来は天皇陛下が肉声で語ったものを放送することを「玉音放送」 と言うのであって、この「終戦の詔書」だけが「玉音放送」ではない。 (295 82) ソ連は北海道に侵攻するつもりだったの? 保阪正康氏の本土決戦に関する著作を読めばわかることですが、 ソ連の太平洋艦隊とウラジオストクに待機している200機の爆撃機が 1945年9月に北海道侵攻することは「決定事項」でした。 それを止めさせたのがトルーマン大統領による「原爆落とすぞ」という最後通告でそ。 (666 763) 先の大戦で日本が降伏せず、本土決戦を行っていたらいつまでもちましたか? 仮想戦記よりややマシな程度だが、米軍がやった本土決戦のシミュがいくつか翻訳されている まぁもっとも楽観的な、いや米軍からみれば悲観的か、結果でも日本は1947年まで持たない そして北海道、東北、北関東辺りまでソ連に占領されているという推測が多いから 米ソ代理戦争は朝鮮半島でなくて、日本が舞台になるだろうな (292 163) 日本政府がソ連に米英との講和の仲介を働きかけていたのは諜報機関が無能だったから? 「諜報機関が無能」ではありませんでした。 スウェーデン駐在陸軍武官がソ連参戦の情報を報告しています。 陸軍内部で握りつぶされて、鈴木総理には届かなかったようですが。 「小野寺電報」とは終戦間際、小野寺信帝国陸軍武官が任地スウェーデンからヤルタ協定によりドイツ降伏三ヶ月後、 ソ連が対日参戦に参加するとの密約の内容をポーランド亡命政府の情報網から入手し陸軍参謀本部に送った秘密電報である。 あのルーズベルトの天皇宛親電を握りつぶした瀬島龍三氏もこの電報の行方を、そして誰が握りつぶしたかを知らないと語り、永遠の眠りに着かれた。 小野寺電の中にはしばしば国運を左右するものがあり、軍事機密扱いとなって握りつぶされた可能性があると元陸軍の方は語っているらしいが」 下記、小野寺秘密電を参照ください。 http //plaza.rakuten.co.jp/pinkladylove/diary/201004200000/ http //elamor.blog61.fc2.com/blog-category-13.html (671 霞ヶ浦の住人 ◆1qAMMeUK0I*一部修正) 玉音放送の後も戦おうという人たちはいなかったんですか? 終戦の終戦詔書(所謂玉音放送)を阻止して戦争継続を図ろうとした人たちはいた。 陸軍の一部中堅幹部が起こしたもので、終戦前夜(8月14日夜)、近衛師団長森越中将を 殺害して偽命令を出し、近衛師団を出動させて15日未明、皇居を占拠するとともに、別動 隊がNHKや鈴木貫太郎首相官邸・私邸及などを襲撃。 NHKにある詔書の録音レコードを奪い、ラジオ放送を阻止しようとしたが、目的のレコード を発見できないままに夜が明けてしまい、鎮圧。首謀者らは自殺して終わった。 (286 777) 市町村レベルでは「終戦の詔勅」はどの時点で、どの程度の関係者に事前に通達されていたのですか? 「流言・投書の太平洋戦争」と言う本をご一読ください。 基本的には、前日のラジオ放送で、「重大放送」が有ると言うことは国民に知らしめられていました。 また、当日朝のニュースでは、天皇陛下が直々にマイクの前に立つと言うことを知らせています。 また、政府はポツダム宣言受諾決定の直後から敗戦後の治安と秩序維持のため、取締まり方針を策定し、 8月14日には、その最終方針を全国に通達しています。 そこには、「廟議決定の方針を曲解し又は異議を唱え、或いはこれに矛盾するが如きもの」、「政府の態度、 方針、時局を誹謗するが如きもの妄りに既往の戦争責任者の追求」等の言動が抑圧対象となり、右翼、左翼 関係者、朝鮮人に対する視察を強化するよう求めています。 更に新聞社に対しても、新聞の配達は玉音放送の後に行うように厳重に指導されていました。 ちなみに、空襲を受けた地域とそうでない地域では、国民の時局の受け止め方に温度差が非常に あり、地方の代議士などでは、政府の弱腰を批判する発言をしています。 確か、米国戦略爆撃調査団の世論調査では、日本国民の25%が、戦争には勝つと考えていたそうです。 (168 眠い人 ◆gQikaJHtf2) 太平洋戦争末期、戦略爆撃の後に行われたB-29の機雷散布が実質日本にとどめを刺したと聞きました。 この機雷散布の被害についてはあまり聞かないのですが、どういった状況だったのでしょうか? 出先なので具体的な数値は出せませんが、 「飢餓作戦」「スターベーション作戦」でぐぐってみてください。 関門海峡は繰り返し敷設され、いくら掃海しても間に合わない状態でした。 瀬戸内海全体でも被害が出てますし 佐世保・舞鶴も封鎖されています。 博多・仙崎・敦賀・七尾・伏木・新潟・酒田・船川など、 日本海の主要港が主な標的で、八戸が最後に掃海完了となりました。 (174 鷂 ◆53cmjHPmWw) 外地で一番遅くまで、旧軍の組織を維持していた部隊(いわば最後の旧軍)はどこ? 支那派遣軍や南方軍等の日本軍の主要な軍は、大抵9月中には降伏している 外地の主要な軍として最後に降伏したのは10/25の台湾だが、連絡が行き届かない末端の小島なら、降伏を知らずにいるかもしれん (俺初質スレ2049 542) 復員するまで外地にいた部隊は、武装解除されてもずっと旧軍のままの組織、命令系統でいたの? 指揮官が降伏に同意すれば、当然その指揮官は指揮権を喪失する つまり降伏時点で全員が降伏相手の捕虜になるから、もう日本軍としての命令系統は存在しない 降伏相手の指示に従うだけだ (俺初質スレ2049 558) 中央政府の意向を無視して日中戦争を引き起こして戦線を拡大しまくった関東軍が、なんであんなにもあっさりと終戦と停戦を受け入れたの? 1945年時点での関東軍は、ソ連参戦の場合は満州国の3/4は放棄して朝鮮国境付近で 持久という方針であったから。大本営もソ連軍侵入で早々に作戦目的を「皇土朝鮮の保衛」に 切り替えている。 (俺初質スレ50505 984)
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第一部 第十二話『病院。林檎と一時の休息』④ 早朝からシャマルは幽霧の身体を診断していた。 「クラールヴィント」 起動した瞬間、シャマルの指にはめられた指輪が微かに発光する。シャマルは「クラールヴィント」を起動させた状態で幽霧の足を撫でた。 「……内出血は既に治まり、全体の筋繊維も修復しています」 シャマルの口から出た診断に幽霧は安心した。 逆に診断を下したシャマルは驚いていた。 「私は一週間と見積もりましたが…それは筋繊維が修復するのに必要な時間です……まさか一日で修復するとは思いませんでした……」 驚きながら呟くシャマルの言葉に幽霧も驚いた。今までは完治するまで長い時間がかかった肉離れが今回はたった一日で完治したのだ。驚くにも無理が無い。 幽霧のカルテを書きながらシャマルは宣告する。 「かなり早いですが…リハビリテーションをしますか。訓練室を貸切にしておきます」 「はい」 「じゃあ。もう良いですよ」 幽霧はアサギに車椅子を押して貰うことで診療室から出た。 廊下ではアキとアルフィトルテが待っていた。 「どうだった?」 「リハビリをしても良いそうです」 アルフィトルテに車椅子を押されながら答える。 幽霧の言葉にアキはにやりと笑う。 「俺たちの出番か」 アキは歩きながら指を鳴らし、アサギは野太刀を振るう。 「おっと。幽霧の相手は俺がやる。アサギはやるなよ」 「なんでだ~」 やる気になっている所でアキに止められたアサギはむくれる。 アキは真顔でむくれるアサギに言う。 「お前に任せたら幽霧を壊しかねない」 「壊すわけ無いじゃないか~」 内心、焦りながらもアサギは微笑む。 微笑むアサギをアキは冷たい目で見る。 「そう言って、何十人を病院送りにしたか覚えているか? アサギ」 「ぐっ……」 流石に現状についてを持ち出されると歯噛みするしかないアサギ。 アサギを言い負かしたアキはにやりと笑う。 そうこうしている内に四人は訓練室に到着。アキがスライドドアを開ける。 幽霧は訓練室の大きさに感嘆の声を上げた。 訓練室の中は何も無いが、中は結構広いからだ。 「さて。やるか」 アキは幽霧から距離を取って対峙する。 「はい。篠鷹アキ戦技教導官」 車椅子から降りた幽霧は久しぶりの地面によろめく。しかし瞬時に体勢を整える。 幽霧は床を踏みしめながらアルフィトルテの名を呼んだ。 「……アルフィトルテ」 少女の身体が粒子となって崩れ、幽霧の手に一丁の拳銃が握られる。 対峙する幽霧とアキの中間に立ったアサギは片手を上げた。 「始め!」 幽霧は「アルフィトルテ」の射程範囲に入る為に接近する。 それに対し、アキはただ突っ立っているだけだ。 走りながら幽霧は親指で撃鉄を上げ、引き金を引いた。銃口から灰色の魔弾が撃ち出される。 魔弾が撃ち出された衝撃によって、幽霧の手と腕に痺れるような感触が残った。 「ぐっ……」 腕に痺れから幽霧は自身の未熟さを感じた。 アキは柔軟に身体をそらし、灰色の魔弾を回避すると同時に幽霧に接近。 接近するアキに幽霧はあいているほうの拳を握って拳撃を叩き込む。 しかしアキは姿勢を低くする事で幽霧の拳撃をギリギリでかわす。かわすと同時にアキは幽霧の後ろに回り、すくい上げるように背中を打つ。 背後からの拳撃で幽霧の身体が打ち上げられる。衝撃と共に鈍い痛みが幽霧の背中を襲う。 打ち上げられた幽霧は重力に従って落ちる。 アキは落ちてくる幽霧を蹴り上げる事で再度、幽霧を打ち上げた。 「ぐぶっ!」 幽霧の口から酸素が押し出される。 重力に従って幽霧の身体は地面に叩きつけられるかと思われたが、今度はアキが幽霧の身体をお姫様抱っこした。 「まだまだ本調子じゃないな」 アキは幽霧をお姫様抱っこしながら呟く。 お姫様抱っこされた幽霧は表情を変えない。 「まあ。リハビリの開始だからな。ココで切り上げるか」 幽霧を車椅子に座らせるアキ。 「でも……」 「怪我をした状態で限界を超えようとしても逆に身体を壊すだけだ。自愛したまえ~」 車椅子から身を乗り出す幽霧をアサギが制す。 アサギの言葉で冷静になったらしく、幽霧は車椅子に座り込む。 「さあ。部屋に戻ろうじゃないか」 「……はい」 アサギはグリップを握り、幽霧の乗る車椅子を押した。 乗ったエレベーターの中でアキは呟く。 「汗臭くなったから風呂に入りにいかないとな」 「……はい」 「でも、幽霧ってどっちに入れるべきなのだろうか?」 「……」 アサギの言葉にエレベーター内が凍りつく。 「まあ。106号室に戻ってから考えるか」 エレベーターの扉が閉まらない様に押えながらアキは幽霧たちに言う。 アキの妥協案に幽霧たちも無言で肯定した。 幽霧たちがエレベーターから出た時、沢山の人が廊下に詰め掛けていた。 「……」 幽霧たちはいやな予感がした。 「はい。はい。道を開けろ」 アキは廊下に詰め掛けた人を掻き分け、アサギは車椅子を押す。 扉の周辺まで来た時、部屋から声が震えてきた。 「んぁ。首筋なんか舐めないで……ひゃうっ!」 「感じているの? びちょびちょだよ。萌夜」 聞こえてきた声は幽霧にとって聞き覚えのある声であったので、硬直する。 「あっ……明日陽…」 「霜焼けになった所。気持ち良いの?」 アサギの顔に笑みが浮かぶ。無理矢理作った笑顔には青筋が浮かんでいた。 幽霧は目をつぶりながら溜め息をつき、アサギは青筋をぴくぴくさせながら「雷鮫」に手をかけた。 廊下に押しかけていた人たちは幽霧とアサギから飛びのく。 なぜなら幽霧は死んだ魚の様に濁った目で極寒地獄のように冷たい殺気を放ち、アサギは笑顔で周囲にいるものを焼き尽くすような熱い殺気を放っていたからだ。 車椅子のフレームを押し、床に足を付いて立ち上がる幽霧。 幽霧から放たれる殺気が揺らめく。 「立った…幽霧が……立った…」 周囲にいた人たちが呟いた。 裸足で106号室の前に立つ幽霧。 「アルフィトルテ」 幽霧の一言によってアルフィトルテは拳銃の姿をとる。 しかしアサギが幽霧を押しとどめる。 「お前が手を汚す必要は無い。入院患者は入院患者らしく療養したまえ~」 幽霧はしばらく考えてから瞼を閉じる。幽霧の瞳は元の茶色に戻った。 何かを諦めたかのようにアキは106号室のスライドドアを開ける。 アサギは106号室の中に入る。 規則的に置かれた病室の白いベッド。病室にある窓の側で男の背中と女の素足が律動する影。ベッドの上では、女性の上半身がトランポリンに乗っているように上下する影。 獣の様にほえる男の声。艶混じりな女の嬌声。絶頂を示す悲鳴が途切れ、そしてまた再び、くぐもった喘ぎに連鎖する。スプリングと水音。そして肉同士がぶつかり合う音が空間を満たしていた。 そして混沌とした匂いが空間を包む。やたらと甘ったるく、それでいて鼻の奥がつんと痺れるような奇妙な臭気が病室から廊下へ流れていく。 幽霧も感覚的にわかった。いや諜報部に所属する幽霧にとっては分かりやすく、慣れ親しんだ様な匂いであった。この匂いは人を無条件で狂わせてしまう匂いだ。 大股でアサギはのしのしと病室に入っていく。男女が絡み合う隠微な空間の前で立ち止まり、彼女は鞘を付けたまま野太刀の柄を握る。 「グッドモーニングだ~。弥刀餅二等陸士。久世萌夜司書官」 アサギの矮躯が病室という空間の中を奔る。手にした野太刀が一閃する。 最後までアサギに気づかなかった青年の頭に野太刀が叩きつけられた。 そして円運動を描くように青年を薙ぎ払い、その隙間に見えた女性にアサギは後頭部に突きを入れた。 ほとんど一瞬でカップル一組を昏倒させたアサギがぎょろりともう一組のカップルを見てた。 カップルは小さく悲鳴を上げる。そのカップルはレン・ジオレンス陸曹長と明日陽。 悲鳴を上げた二人にアサギは獰猛な獣のように歯を剥きながらニヤリと笑う。そして死刑宣告するように言った。 「頭を冷やしたまえ~」 アサギの野太刀が煌めく。明日陽には鞘をつけた野太刀で軽く首筋を叩き、レンにはすくい上げるように下から叩きつけた。 愛の営みに勤しんでいた四人を昏倒させたアサギは窓を全開にさせる。 病室の中に漂っていた無条件で狂わせてしまう匂いは外に流れ、代わりに冷たい空気が病室に流れ込む。 流れ込んだ空気の冷たさにアサギは呟く。 「ちょっと風が冷たいな」 四人を昏倒させたのにのんびりと呟くアサギに一種の恐怖を感じた。 幽霧は部屋の中に入り、昏倒している四人の服装を直す。 四人の服装を直す幽霧にアサギは苦笑する。 「そこまでしなくてもいいと思うのだがね~」 「トラウマが残ったら大変でしょう」 幽霧の言葉にアサギは黙るしかない。 無言で幽霧は四人の服装を直し、ベッドに頭を乗せて寝ているような姿勢にさせる。 まだ体が労働に慣れていないらしく、幽霧の額には汗が光っていた。 「ご苦労さん」 アキは汗をかく幽霧に声をかけ、車椅子に座らせる。 そしてわざと音を立てながら車椅子は病室に入った。 軋む様な音で弥刀と萌夜は目を覚ます。 「………ひいっ!」 車椅子に座る幽霧の隣にたたずむアサギに二人は悲鳴を上げる。 「……そんな顔をして、どうしたのですか?」 幽霧は悲鳴を上げた二人に首を傾げた。 二人は震える指でアサギを指差す。 「さっき殴られ……」 「気のせいだと思いますよ。アサギ戦技教導官はずっと自分の側にいましたし……」 「じゃあ……あれは夢かぁ…」 弥刀は微かに赤いこめかみを触りながら言う。 「きっとそうですよ」 「そっか」 幽霧の言葉に納得したらしく二人はそれ以上、何も言わなかった。 「…策士だ……」 「こんな所に策士がいるぞ……」 廊下から幽霧と二人の会話を見ていた人たちが口々に呟いた。 「弥刀二等陸士はともかく、久世萌夜司書官。よく来れましたね」 「知り合いの御見舞いと言って逃げてきたわよぉ~」 「……勘弁して下さい…」 うんざりとする幽霧。前も同じ事があったらしい。 萌夜はにっと笑い、持ってきた紙袋からラジオを取り出す。 「はい、幽霧。ラジオよ。病室は暇でしょ?」 胡散臭そうな感じがした幽霧はラジオの後ろ側を見る。何故か『広報部備品持ち出し厳禁』と書かれたラベルが貼られていた。 幽霧は窃盗ではないかと思った。窃盗品を受け取っても良い物なのか。 硬直している幽霧からラジオを奪い、萌夜はラジオの電源が入る。 「皆様、こんにちらぐぅ~♪ 蔵那クロエのらぐラジで~す」 ちょうどクロエが司会進行をするラジオが始まった。 「こんにちは。何故か「広報部のアイドル」と呼ばれる涼香です」 「涼香さん!?」 106号室にいた全員が驚いた。 「今回は広報部の様々な諸事情によって亜梨雨さんが出張なので、しばらくは私が担当です」 「という事で、この前送られてきたお便りの説明からはじめます」 ラジオのスピーカーから微かに紙擦れの音が聞こえた。 どうやら資料が見つからないらしい。 「ごめんなさい。クロエさん……資料が待ってて下さいね。お願い」 幽霧はラジオを聴きながら思う。この前のような波乱が起き無くと良かったと。 しかしクロエの探している資料によって大波乱が起きる事を幽霧は知らない。 「らぐぅ~! 見つかったよ~」 資料が見つかったらしく、クロエの嬉しそうな声がスピーカーから聞こえてきた。 クロエは資料を読み上げる。 「前回のお便りの中に『局内で捜査課所属の風切羽捜査官の貞操を狙っている方を教えて下さい』というお便りがありました」 「……」 幽霧は開いた口が塞がらなかった。 「『壁に隠しカメラ。障子に盗聴機』のキャッチフレーズで有名な諜報部のご協力によって判明しました。しかし流石に名前を晒すのも可愛そうなので、PNで読み上げます。 『アバ』~。『ラグ~ンな人』~。『真っ黒な王様』~。『とある次元航行部隊の人と同じ名前の人』~。『常にステルスの人』~。『某淫乱』~。『某熱血漢』~」 スピーカーから流れるPNだけで幽霧は誰が誰だか分かった。 何故なら、その情報収集をした局員の一人が幽霧なのだから。 幽霧は思う。馬鹿なことをする人が多いものだと。 突然、スピーカーから騒がしい音が聞こえ始める。 「風切羽捜査官!? どうしたの…」 「連閃剛衝ぉ!」 スピーカーから何かが壊れる音が響く。 「風切捜査官が暴走したぞ!」 「僕は……一筋で…ら…光になれぇっ! …真…魂……剣……」 ノイズや物が壊れる音で羽の言葉で重要な部分が聞こえなかった。 羽がスタジオの中で暴れているらしく、徐々にノイズの音が大きくなっていく。 「らぐぅ! 負けないよぉ~! 偽カラスのしっぽブレード!」 クロエもデバイスを抜いたらしく、ノイズと共にリロード音がスピーカーから流れる。 「黄金弾槍だらぐぅ! ついでに、もってけにゃんこ! 紅針弾槍!」 どうやら物量作戦で行くらしく、機関銃のような音が聞こえてきた。 すでにラジオ番組じゃなくなっている気がすると、幽霧は冷や汗をかきながら思った。 幽霧の隣では、アサギがすごく楽しそうな笑みを浮かべている。物騒極まりない。 そして遂には音すら聞こえなくなる。 「とりあえず、別のチャンネルにするね」 106号室内を一瞬でも沈黙にするのが恐ろしいからか、萌夜は慌ててラジオのチャンネルを切り替えた。 「謎の……ヒツジラジオだぉ~」 「ヒツジさん!?」 スピーカーから聞こえた暢気な声に弥刀はぎょっとする。 暢気な声と共にロック調の音楽が流れる。 常に無表情な幽霧以外の人たちは暢気な声と反して趣味は激しい事に驚いている。 「今回はゲストとして、広報部のラジオ番組でアシスタント役をしている亜梨雨さんと亜梨雨さんの恋人であるMIRUKUちゃんだぉ~!」 「広報部のラジオ番組でアシスタントをしている亜梨雨です」 「亜梨雨の彼女をしてるMIRUKUだよ! よろしくね!」 聞こえてくるBGMがかなり激しいが、さっきよりは幾分か平和だ。 「では行くんだぉ~。最初のお便りは「某蜜柑の姪」さんからのリクエストで、ミッドチルダの歌姫と呼ばれるアーティスト。え~まひよ~さんの「それでもあなたを愛してる」だぉ」 スピーカーから孤独な哀しさの中にも力強さを秘めた壮大なバラード曲。 片想いの彼に気持ちを伝えたいけど、不器用な私はドキドキするばかりで恋の一歩が踏み出せない。 一人の夜は寂しく、そんな時こそ貴方が側に居て欲しいと想う女性のせつない感情。 例え貴方がどんな過去を背負っていたとしても、私はあなたを好きになってしまった。 スローテンポの中にも感じ取れる力強いメロディーが、聞いた人の心に響かせる愛の歌。 流行に疎い幽霧でさえ、スピーカーから流れる曲には感嘆してしまった。 微かな余韻を残して曲は終わる。 「次のリクエストが来るまで雑談トークだぉ」 「リクエストはPCのメールでのみ受け付けております」 スピーカーから雑談トークが流れ始める。 萌夜はリクエストをするためにノート型PCを持っている人がいないか周囲を見回す。 そして萌夜は見た。ノート型PCを取り出そうとするレンを。 狙われているような視線に気づいたレンは隠そうとするが、萌夜のほうが早かった。 レンのノート型PCをゲットした萌夜は電源をつける。 いきなりパスワードを記入する画面が出た。 渋い顔をする萌夜に対し、レンはにやりと笑う。 「パスワードか。ちょっと貸したまえ~」 「ハッキング出来るんですか? アサギさん」 PCを取り上げたアサギはニヤリと笑う。 「ん? ハッキングは出来ない。でも、私はフェイト・T・ハラオウン執務官に比べたら、欠陥電流も良いところだ~」 レンは嫌な予感がした。 「しかし、ちょっとした磁気でプログラムを騙す事くらいなら出来る」 アサギの指から微かに紫電が出ると同時にPCのパスワードが解除される。 「…………変態」 「そうだな~」 「レン・ジオレンス陸曹長……」 明日陽の変態発言にほぼ、全員が同意した。 なんとレンの使っているPCの壁紙は捜査課所属の風切羽捜査官の写真だったのだ。 それもネコミミとネコの尻尾装備。更に猫のように四つん這いになって片手を可愛く上げている。 「違うっ! 違うんだっ! それは……フェイルの悪戯で」 じろりと睨みつける明日陽にレンは弁解する。 「ちょっと、貸して下さい」 幽霧はアサギからレンのPCを受け取る。そして真黒なUSBメモリーを突き刺す。 「一体、何をしているんだね?」 嫌な予感がしながらもアサギは幽霧に尋ねる。 「諜報部標準装備の強力なスパイプログラムで、壁紙に似た画像をリストアップです。ちなみに長月部隊長のカスタムで、強力な電子精霊が入っているらしいです」 淡々と答える幽霧。アサギの顔がひきつった。 レンの顔は某画家の描いた絵画のような真っ蒼な顔になる。 リストアップが終ったらしく、電子音が鳴った。 壁紙に似ている画像ファイルの件数は、一万二千五十三件。 「レン……覚悟はいいよね?」 「手に持っているそれ……何?」 青ざめた顔でひきつるレンに迫る明日陽の手には沢山のトゲがついたボールにチェーンがつけられたものだった。 笑顔で迫りながら明日陽は答える。 「バケツプリンを作ってあげるという条件で、ガーランドちゃんに貰ったの……私でも扱える超小型の…モーニングスター」 逃げようとするレンだが、背後は壁。もう逃げることはできない。 汗を滝のように流しながらレンは明日陽にいう。 「誤解だ…違うんだ……」 「うそだっ!」 「あーーーーーーーーっ!」 106号室から断末魔に似た叫びが響く。 近くの部屋にいた入院患者たちはその叫びを聞きながら敬礼をする。 そして呟いた。 「……レン・ジオレンス陸曹長………無茶しやがって…」 そのまま黙祷がささげられた。 幽霧はラジオから流れてくる音を聞きながら、ぼんやりと外を見ていた。 その近くでアサギは抜いた「雷皇麒」を磨き、ケーキ屋が乗っている雑誌を読んでいる。 アルフィトルテは幽霧の膝の上に頭を乗せながら眠っている。 弥刀と萌夜は呼び出しをくらってしまったので、もういない。 ちなみにレンは治療中だ。自業自得とはいえ、恋人の操るモーニングスターによって重傷となってしまった事は同情するしかない。 ゆるやかに時間だけが過ぎていく。 その空気を破るように病室のスライドドアが開く。そして幽霧に突っ込んできた。 「ゆ~ぎりっ!」 いきなり抱きしめられた幽霧は怪訝な顔をする。 「スバル・ナカジマ一等陸士……」 入ってきたスバルは幽霧の身体を触りまくる。 「仕事は大丈夫なんですか? スバル・ナカジマ一等陸士」 「大丈夫だよ。ちゃんと半休は取ってきたし、緊急時以外は大丈夫だよ~。それにしても良かったよ。幽霧が無事で」 「ええ。まあ……」 最近は人の抱き締められる事が多いと幽霧はしみじみ思った。 何故か身体を触るスバルの手つきがはやての手つきに似ていたが。 「元気そうだから、模擬戦しよっか」 笑顔で言うスバルに雑誌を読んでいたアキはギョッとする。 経験上、リハビリも無茶を重ねると治せるものも治せない事をアキはよく知っていたからだ。 アサギは「雷皇麒」を磨く手を止めてニヤリと笑う。 「分かりました」 あっさりとした幽霧の答えにスバルは嬉しそうな顔をする。 「俺たちはちょっと知り合いと会ってくる」 そう言ってアキはうずうずとしているアサギを引っ張っていく。 アサギは慌てて「雷皇麒」を納める。 「ちょっ! アキ……」 「夕方にカリムさんと今後の為に面会するのを忘れたのか」 「まだ時間があるじゃないか~」 幽霧と模擬戦をしたくてしょうがないアサギにアキは溜め息をつく。 「カリムさんにケーキを買わないといけないじゃないか」 アサギはアキの話を全く聞かず、駄々をこねている。 病室を去る前にアキはスバルに忠告した。 「無茶するなよ。スバルさんも幽霧は病み上がりという事を忘れないでくださいよ」 「分かってますって」 「そんじゃあな。行くぞ、アサギ」 アキも全く気にせず、ズルズルとアサギを引き摺っていく。 幽霧は無言で二人を見送る。 「そんじゃあ、いこっか」 スバルは幽霧に笑顔で言う。 「はい」 幽霧は頷いた。 「アルフィトルテ。起きて」 「うにゅぅ……」 寝ぼけているらしく、アルフィトルテは寝返りを打っている。 眠いならしょうがないだろうと思い、幽霧はスバルに言う。 「行きましょうか」 スバルは幽霧を抱きかかえ、車椅子に乗せる。そして訓練所へ移動する。 訓練室は余り使う人がいないのか、人が全くいなかった。 「じゃあ、やろっか」 「はい」 スバルは部屋の奥まで走り、幽霧と対峙する。 車椅子のフレームを押すことで身体を押し出し、幽霧は床を踏みしめる。 「いくよ」 拳を握るスバル。 顔が一瞬にして、真剣な目つきとなる。 「……お手柔らかに」 スバルは地を踏み込みながら蹴ることで幽霧に接近。 握られたスバルの右拳が幽霧の顎を狙う。どうやら一発で幽霧を沈めようとしているようだ。 しかし幽霧はスバルの拳が顔に触れる前に膝を曲げることで身体を落とし、スバルの拳を避ける。 そのまま地を踏みしめ、掌底で顎を下から突き上げようとするが、スバルに腕を掴まれてしまった。 「病み上がりにしてはいい動きだね」 「ありがとうございます」 幽霧は淡々とした口調で言う。 「でも……」 スバルは幽霧の着ているパジャマの裾を掴み、身体を半回転させて一本背負い。 幽霧の身体が宙を舞い、地面に叩きつけられる。 受身を取れないまま、幽霧は地面に叩きつけられる。 「でもまだキレが足りないね」 仰向けで天井を見上げる幽霧にスバルは笑いかける。 「……すみません」 背中に鈍い痛みを感じながら幽霧はスバルに謝る。 「良いよ。幽霧はまだ病み上がりなんだから。これは提案なんだけど……聖鎧布を使ってみない?」 「聖鎧布……ですか?」 「うん」 スバルの提案に幽霧は困ってしまった。 聖鎧布は幽霧が編み出した肉弾戦専用の魔法。 ベルカ式の防御魔法であるパンツァーガイストの様に身体を結界で包み込み、ブースト系の魔法で一時的な肉体強化を行う一種の複合魔法。 確かに未完成でも、他人を無慈悲に蹂躙するが如くの戦闘力はある。 しかしその代償は計り知れない。 まだ完治していないのに聖鎧布を使用するのは危険ではないかと幽霧は考える。 幽霧は目をつぶりながら深い息を吐く。 開かれた幽霧の瞳は死んだ魚の様に濁った瞳に変わり、極寒地獄のような冷たい殺気が放たれる。 瞳が変わるとほぼ同時、幽霧の足元に魔法陣が浮かび上がる。 その魔法陣はミッドチルダ式でもベルカ式でも無い独特な形状をしていた。 まるで讃美歌を謳う様に幽霧は冷たい声で呪文を紡いだ。 「其は鎧にして布。其は全て難から御子を守る者。それが故に御子の守護者………」 展開されると同時に幽霧の全身に奇妙な紋様が浮かび上がり、瞬時にその紋様は消え失せる。 見た目に全く変化が無いところから、幽霧の発動した魔法が失敗したかのように思えた。 しかし幽霧の身体から放たれる魔力と肌をやすりで削られるような緊迫感は尋常ではない。 スバルは頬をゆるませて笑う。何故なら、幽霧の魔法が発動していることを肌で感じたからだ。 その隙を幽霧が逃すわけが無い。幽霧が一瞬にして間合いを詰め、スバルの懐に入る。 幽霧は右の肘を後ろに下げる事で額に照準を合わせる。 右手は親指に中指を引っ掛ける形となっている。幽霧は中指に力と魔力を注ぎ込む。 スバルは額に冷や汗が流れる。 指に魔力を纏わせたデコピンがスバルの額を捕らえる。幽霧の指から放たれたデコピンは常人ではありえない轟音と威力をたたき出す。 喰らったスバルは額で何かが爆発したかのような衝撃に襲われた。 スバルは上反りになるが、その類まれなる筋力で身体を起こす。 距離を取る為にスバルはバックステップで下がるが、幽霧はそんなスバルを逃がさない。 幽霧は聖鎧布を纏わせた連撃をスバルに叩き込みながらただ真っ直ぐに突き進む。 その拳撃は刹那を超え、認識を超え、知覚を凌駕した認識領域で幽霧の拳が繰り出される。 聖鎧布を纏った拳と大気が爆砕する。その拳撃の一発が既に砲撃魔法の一発分に匹敵している。 爆砕した大気が暴風を生み、質量を伴った残像が顕現する。繰り出す拳は無限数。穿たれ、抉られ、放たれた拳撃がスバルに叩き込まれる。 しかしスバルも幽霧の拳撃を何発も受け流す。 その時、ガラスが割れるような音共に幽霧の聖鎧布が解除される。 スバルはその隙を逃がさなかった。身体を落とし、渾身の力で幽霧に足払い。 足を刈られた幽霧はバランスを失い、重力に従って転倒する。 聖鎧布を発動していた時と比べたら、拍子抜けするくらいであった。 「私の勝ちだね」 「……参りました」 幽霧は少しよろけながらも立ち上がる。 「今回は大丈夫だったみたいだね」 「……少し疲れました」 笑いかけるスバルに幽霧は荒い息を吐く。 幽霧は身体中から汗を流し、お世辞にも大丈夫だとは見えなかった。 精神面では慣れているのかもしれないが、病み上がりに近い身体ではまだ慣れていなかったのかもしれない。 「汗もかいたことだし、お風呂にでもいこっか」 「……はい」 幽霧は今も尚、荒い息を吐きながらスバルの提案に賛成する。 「車椅子に乗る?」 「これ以上、身体がなまったら困るので返しに行きます」 幽霧は車椅子を押しながら歩く。そのおぼつかない足取りは、すぐに倒れてしまいそうな危うさがあった。 「そっか」 スバルは苦笑しながら幽霧の後についていく。もし途中で幽霧が倒れても介助できるようにする為だ。
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「アメリカから見た日本(June 7, 2019)」より / 本当におかしなことに、そして悲しいことに、日本では国民の生命と財産を命をかけて守って下さる自衛隊を蔑む風潮がある。 そして、その風潮を作る旗手のマスコミによって我々は支配されている。 自衛隊という名ではあれど、軍事技術をとっても、隊員の練度、民度をとっても世界最高水準の「軍隊」であることは間違いない。 軍隊というものはどの国においても最高の敬意を払われる。 アメリカでは退役軍人の日もあり、その1週間くらい前から町中に大きな星条旗がはためき始める。 何かパレードがあれば必ず退役軍人が参加し、その方達が自分の前を通る時は、それまで持参してきた簡易チェアにどっかりと座ってパレードを見ていた人達も自然に立ち上がり割れんばかりの拍手を送る。 そういう姿を見ると私は悲しくなる。 日本を守るために、そこに住む家族を守るために、自分の命はもう無いものとして地獄のような大東亜戦争を戦い抜き、何とか生きて帰って来た軍人さんの中で、この様に日の目を見ることができた方々はどれくらいいたのだろうかと。 今でも元気に生活される退役軍人の方もおられるが、この方々が最大の敬意を持ってテレビに出演されているのを私は見たことがない。 自然災害が多い日本列島に住む日本人は、平成時代に改めてその脅威を幾度も体験し、その度に自衛隊のありがたみを痛感した。 (※mono....中略、詳細はサイト記事で) / 自衛隊の事故と言えば、今から20年前にある高校の近くの川岸に自衛隊機が堕ちた事故があった。 二人の自衛隊はその事故で亡くなった。 幸いにも川岸に墜落したのでその周辺に密集する家屋や学校には被害が及ばず誰も死傷することはなかった。 その時の事故を非難するマスコミの報道は酷いものだったが、その事故の真相を知っている一人の校長が言葉を残していた。マスコミが一切語らなかった衝撃の事件の裏側だ。 その校長先生の手記を紹介したい。 静かな気持ちで読んでみて欲しい。 ■『出典:藤棚 狭山ヶ丘高等学校 学校通信 1999/12/1』 人間を矮小化してはならぬ 小川義男 校長 (※mono....以下詳細はサイト記事で) .
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第一部 『眠れない二日間』⑨ 〈二十三時三分 綺璃斗〉 少女からこっとんを守るように立ったスバルは冷静に指示を出す。 「君は逃げて。ココは戦場になるから」 「でも……」 数分前まで少女と戦っていただけに戦線を離脱する事を躊躇うこっとん。 そんなこっとんにスバルは叫んだ。 「はやくっ!」 その怒鳴り声にこっとんはビクリと背中を震わせ、『ライトニングブルーム』にまたがる。 機械で出来たワニのような穂が開口し、魔力を勢い良く吐き出す。 こっとんの周囲に風が巻き起こり、こっとんが空を飛ばす。 水色の魔力を吐き出しながら飛んで行ったこっとんにスバルはくすりと笑い、『リボルバーナックル』を嵌めた右手を、左の掌に叩き合わせる。 そして、スバルは少女に言った。 「あたしが君を助けるから」 「……」 少女は無言で靄で作られた漆黒の鎧を纏い、巨大な騎士の姿となる。 かすかにスバルは口元を緩ませる。 「……ちょっと、我慢してね」 そう言って、「リボルバーナックル』を構えるスバル。 顔は既に幾つもの困難な任務を乗り越えてきた局員の顔になっていた。 騎士は靄を集めて槌を形成。スバルを殴り飛ばすために槌を振り回す。 「はああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」 スバルは『リボルバーナックル』で、騎士の鎚を打ち砕く。鎚どころか、騎士の両篭手までが弾け飛ぶ。 その隙にスバルは間合いを詰めようとする。 騎士は鎧から太くて鋭い棘を無数に生やす。 スバルはバックステップで避けようとするが、間に合わない。 瞬時にバリアを張り、漆黒の棘を防ぎにかかる。 バリアを張ったおかげで間一髪の状態で棘を避ける事に成功した。 しかし時間差できた錫杖を防ぐことが出来ず、吹き飛ばされる。 「マッハキャリバー!」 〈Wing Road〉 スバルは空中で〈ウィングロード〉を張り、足場を作る。 「ん~」 〈ウィングロードで体勢を整え、スバルは考える。 騎士の攻撃を迎撃するのは可能であるが、懐に飛び込んだ瞬間にカウンターで棘がくる。 このままだと戦況が千日手に陥る事は間違いない。 「……マッハキャリバー」 〈Ignition〉 スバルの意を感じ取った『マッハキャリバー』はカートリッジロード。 「リィボルバァァァァ…」 カートリッジロードによって『マッハキャリバー』に圧縮された魔力によってスピナーが高速回転する。 スバルは腰を極限まで捻って構える。 「シュゥゥゥゥトっ!」 前方に『リボルバーナックル』を叩きつけように突き出す。 放たれた衝撃波が騎士の装甲を吹き飛ばし、吹き飛ばした装甲を粉々に粉砕して黒い靄へと返す。 しかし今、スバルが戦っている敵は作り出した武器や装甲をただ壊すだけでは話にならない。 周囲に漂っている黒い靄は精神力が強くない人を狂気に飲み込んで狂わせ、時間が経てば再び騎士の武器や装甲となる。 例えスバルの精神力が強くても、それは時間が経過すればするほど心を侵食して理性を溶かしていくのだ。 その上、騎士は周囲に漂う黒い靄を元に武器を作り出す。いわば騎士の周囲にある空間自体が武器であるとも言える。 騎士を倒す手段は三つ。一つは絶対的な攻撃力を持って瞬時に倒す事。二つ目に遠距離から砲撃魔法を叩き込む事。三つ目は核である少女を何とかする事。 「マッハキャリバーっ!」 〈All Right Buddy!!〉 カートリッジで圧縮された魔力を開放。その魔力を持って『マッハキャリバー』のホイールが毎秒に回転する数を増やす事によって加速。 更に道路をジグザグに走る事で動きを撹乱しつつも騎士に接近。接触ギリギリで跳躍し、右足を横へ薙ぐように蹴る。 「エアリアル……ファングっ!」 鞭のようにしなった蹴撃が風鳴りを伴いながら騎士の横腹に突き刺さり、回転し続けるホイールが装甲を抉り取った。 装甲を深く抉った右足で地面を強く踏み、そのまま兜と胴体部分の隙間に右手の五指を入れて身体を半回転。ほぼ右腕の力で強引に一本背負い。 騎士の身体が宙を舞い、砂埃と黒い靄を周囲に撒き取らして地面に叩きつけられる。 そこでスバルは容赦なく振り上げたリボルバーナックルに魔力を込め、振り下ろすと同時に圧縮した魔力で上体から拳を強化し、更に拳の全面に硬質のフィールドを生成。 フィールドごと衝撃と圧縮した魔力を地面にへばりついているような感じの騎士に撃ち込む。 轟音を立てながら地面にクレーターらしきものを作り出し、その威力を持って黒の装甲を霧散させる。 核らしき少女と辛うじてくっ付いている騎士の残滓は大きくバウンドして、スバルから少し離れた所に落ちた。 グチャ、と言う耳障りな音でスバルはやりすぎたと思って少女に駆け寄る。 しかしそこで気を抜いてしまったのが間違いであった。 上から黒い球体が落下し、スバルの頭を打つ。その球体は一瞬だけスバルの意識を奪い、行動を微かに鈍らせた。 スバルの頭を襲った球体の落下を合図に漆黒の球体が雨のように落下してスバルの身体に叩き付けられる。 球体の半分ぐらいが地面にめり込むくらいの威力を孕んだそれは、少女へと駆け寄ろうとしたスバルを跪かせた。 身体が鈍い痛みを訴える中で、スバルはとある肉弾専門の教導官の技を思い出した。 それは魔力を「重さ」に変換するという稀少な気質を持つ篠鷹アキ教導官の〈星堕ちつ日《スターライトフォーリングダウン》〉。 物量と落下速度によってスバルを跪かせた球体は少女の周囲に集まって新たな形となる。 球体が泡を立てて膨らみながら空中で回転し、黒い靄を纏う漆黒の鮫を生み出す。 どうやら篠鷹アキ教導官とその相棒である和泉アサギの合体魔法である〈破軍鮫陣《ストレイト・オーヴァ》〉まで再現できるようだ。 少女が腕を横に大きく振り抜いたのを合図に、黒の鮫は鋭い牙を見せつけるように大きく口を開けてスバルへと迫る。 半分は弾丸のように突っ込み、残りの半分はその身を跳躍させて自重で相手を潰しにかかった。 鈍痛に耐えながらもどうにか立ち上がったスバルを突っ込んできた鮫たちが押し倒し、跳躍した鮫がスバルの身体に圧し掛かった後に粘り気のある物体に変化して身動きを取れないようにする。 少女は靄を集束させ、巨大な篭手を作りながらスバルの方へ歩み寄る。その瞳は白と黒が逆になり、法衣に似た衣服が風に揺れている。 顔に笑顔を貼り付け、口からは壊れたレコードのように笑い声を吐き出す。 そして抜け出そうとするスバルの顔をマウントポジションで容赦なく殴り始める。 腕も黒い物で塞がっている為に防御姿勢すら取る事が出来ない。 ただ、殴られるだけ。 スバルの顔を鈍痛と衝撃が襲い、その威力は絶えず地面を打ち鳴らす。 絶え間なく打たれているせいで気絶する事も許されない。 打ち込まれる拳によってスバルの顔は微かに腫れ上がり、頭蓋骨は軋むような音を立てる。 下手すれば少女の乱打によって頭を潰されて脳漿と血液を撒き散らかして無残に死亡する危険性もあった。 そこで生存本能と言うものがスバルの身体にあるリミッターを解除した。 スバルの目が金色に変わり、身体から放出された青い魔力が身体を拘束していた黒い物体と少女を吹き飛ばした。 「マッハキャリバー。バリアジャケット以外はモードリリース」 〈What suddenly?〉 戦況が悪い状態にモードリリースを告げられた『マッハキャリバー』は抗議の声を上げる。 「ごめん、マッハキャリバー。あの状態で戦うから、きっと壊しちゃう」 自身の相棒に謝罪するスバル。 〈……Ok. Buddy. For the fortune of war〉 『マッハキャリバー』は主であり、相棒でもあるスバルの意思に従い、バリアジャケット以外はモードリリースする。 蒼い石に戻った『マッハキャリバー』にスバルは言った。 「ありがとう、相棒。今―――征くから」 そう呟いたのとほとんど同時だっただろうか。 数十歩の間合いをスバルは何の足捌きも見せずに地面を滑走してのけたのは。 少女の懐に飛び込むと、そのまま両手を捻り上げ、掌から肘の外へと騎士の手を滑らせる。 ねじり合わせた両手から鎌を振り下ろすが如く手刀を落とす。 その威力に少女はひるむと、スバルは更に半歩踏み込む。 腰と両足をしぼりつつ、アッパーカットを思わせる形で右手を突き上げる。 微かに浮いた少女の内懐に滑り込み、踏み込んだ脚がアスファルトの地面を雷鳴のように打ち鳴らす。 同時に繰り出された掌底が少女の胸板を直撃する。その破壊力は胸元で手榴弾が炸裂したかの如き威力。 吹き飛ばされた少女の身体は宙を舞い、勢いよく地面に叩きつけられる。受身など取る事も出来なかった。 スバルは無言で少女の方へ歩み寄る。 元々能力が暴走している為に少女の意識が在る無しに関係なく能力が勝手に発動。 空間内にある靄が集束して分厚い壁を作り出す。 しかしスバルは壁に身体を密着させて攻撃を叩き込む。 ぱぁん、と聴覚を不能にするような轟音。それはまるで渾身の正拳突きを叩き込んでいるかのよう。 スバルは手の甲が壁に密着した状態で、装甲に拳撃を叩き込んでいたのである。 拳法を使う者たちのパンチは腕の力のみで放たれるものではなく、大地を踏む両足の力に、腰の回転、肩の捻りなども相乗し、全身の力を総動員させて放つものである。 その技術の極点を極めた者にとっては肩から先の運動が果たす効果は全体に比べたら微々たるもの。必要であれば拳を標的に密着した状態でも十分な打撃力を発揮する。 それはとある流派では『寸頸』と呼ばれる絶技であった。 壁にクレーターと巨大な亀裂が生まれ、砕けると同時に靄へと戻っていく。 その技は肉体を武器とする者は両足がしかと大地を踏み締めているだけで危険である事をその威力が証明していた。 そしてスバルが『マッハキャリバー』をモードリリースした理由もその扱う技の威力にあった。 二年前に起きた『J・S事件』の後にスバルは対AMF戦と魔法を使わない物理破壊の方法を探究する為にとある戦技教導官に教えを乞いた。 その戦技教導官によってスバルは様々な流派の技を得た。その一つに『浸透頸』と呼ばれる技術があった。 『浸透頸』とはとある武術の秘伝として存在する技で、特殊な打法を用い身体の表面ではなく、その内部に波動を『浸透』させて破壊する。 スバルはその『浸透頸』に目を付けたのだ。 ようは先天性の固有技能である『振動破砕』を改良して編み出した技である『打震』を波動として打ち込んで内部から一時的な行動不能にする事を考え付いたのだ。 仕込まれた技はある程度ならば使用出来るが、完璧に使いこなしているわけではない。 だから『浸透頸』を用いる時に『打震』が『マッハキャリバー』や『リボルバーナックル』に『浸透』して破砕する危険性がないとは言えない。 その為、スバルは大事を取って『相棒』をモードリリースさせたのだ。 時間の経過で薄くなってきた靄を突き抜けて黒いナイフを持った少女が突っ込んできた。 しかし細くて長いスバルの右手の指が、少女の右手首を掴む。 身体を蛇さながらのしなやかさで低く屈め、少女の右腕の下へ滑り込ませる。次の瞬間、まるで怪我人に肩を貸すかのような姿勢で、スバルは少女の右腕を肩の後ろに背負い込む。 スバルの身体が少女の腰に密着すると同時に折り曲げて突き出した左腕の肘が少女の鳩尾に入り、左足は少女の軸足を鮮やかに刈り払う。 『打震』を浸透された事による全身の激痛と痺れで、少女を行動不能に出来ると踏んだスバル。 しかしスバルの予想は綺麗に外れた。 『神よ。何故、私に重荷を課した』の能力は少女の身体を強引に動かす事によって、限界を超えた動きを可能にした。 少女の身体は地面に叩きつけられてバウンドすると同時に宙で身体を回転させ、まるで獣のように手と足を地面について着地する。 そして両足で立ち上がると、足の筋力を限界まで酷使してバックステップで下がる。 「マッハキャリバー」 〈Ok. Buddy〉 スバルの声に従って瞬時に『マッハキャリバー』は起動する。 右腕に『リボルバーナックル』が装着されるのを確認したスバルは術式を謳うように詠唱する。 「行くよ! 其は幾千の災いを受け流す者にして、其は幾千の難を穿ち抜く者」 『リボルバーナックル』のシリンダーが高速回転する。回転するシリンダーから周囲に漂う魔力が吸収される。 徐々に、肩の付け根ぐらいまで蒼く染まっていく。それと比例して、シリンダーの回転する勢いが増していった。 「其は幾千の万象を断つ……」 左手に魔力球が精製され、『リボルバーナックル』と同様に周囲の魔力を吸収していく。 集束されていく魔力が荒れ狂い、制御主であるスバルに襲い掛かる。 ボロボロの身体に魔力制御による負荷がかかりスバルの口から血が垂れた。 しかしスバルは魔力の集束と濃縮し、その魔力球を制御する事を止めない。 「……殲滅の剣となれ」 周りに漂う魔力がスバルの右腕と魔力球に集束し、最終的に空のような蒼から濃い群青色に変わる。 少女は靄を集束させ、手に巨大な突撃槍を作り出す。どうやらそれでスバルを貫くつもりであるらしい。 周囲から靄で作った槍を射出させ、少女はスバルに特攻をかける。 それをスバルは右足で地面を蹴って跳躍。着地と同時に渾身の力で少女の懐に踏み込んで、足で顎下から蹴り上げる。その一撃は少女を打ち上げるには十分過ぎた。 「我は不屈の魂を持って其を振るう………」 ちょうど少女が落ちて来た所でスバルは群青色の右拳を宙に浮いている魔力球に叩きつける。 「フラガ………ラッハああああああああああああああああ!!」 魔力が濃縮された魔力球から魔力の奔流が放出された。その魔力の奔流の形状はまるで剣。 放出された魔力の奔流は少女の中に巣食っていた能力と黒い靄と共に身体を突き抜け、そのまま周囲に霧散した。 周囲が目の眩む様な閃光と濃い粉塵に包まれる。 閃光と粉塵が晴れた時、そこにはスバルと少女の姿があった。 『リボルバーナックル』より先の地面は深く抉られ、スバルの腕の中には一人の少女が収まっていた。 「んっ……」 ゆっくりとまぶたを開く少女。彼女の目はさっきのように黒目と白目が反対になってはいなかった。 「もう。大丈夫だよ」 腕の中に収まる少女にスバルは笑顔を浮かべながら言う。 少女の表情が不意に変化する。それはある種の恐怖に満ちた顔。 「ん? どうしたの?」 スバルは少女の表情に首を傾げる。 恐怖を感じている彼女の目には黒い靄がスバルの背後で集まっていくのが見えたからだ。 「逃げて下さいっ!」 「え……?」 少女の言葉の方が早かったか遅かったか。 どすっ、という鈍い音がした。 スバルと少女の身体に何かが貫通する。 それは真っ黒な槍であった。 「……ぐ…はっ…はっ………」 喀血するスバル。 スバルの吐き出した血が少女の顔を汚す。 「お姉ちゃん……」 少女の目から涙がこぼれる。漆黒の槍が少女の身体の中に飲み込まれていく。 眼球が再び、白と黒が反対となる。 漆黒の槍が完全に少女の身体に飲み込まれた時、スバルの身体が崩れ落ちる。 少女の口がガクンと大きく開く。 「zくぁあくぇrちゅいおぱsdfghjkl;:zcvbんm、。・fvtgbyhぬjみ、こl「:¥」!!」 それは何を言っているのか分からないが、それは一種の咆哮。 しかし、その咆哮には悲哀が混じっていた。 クラナガンの空を疾駆する黒い影。 それはメイド服を纏う女性。スカートの裾と共に漆塗りの黒髪と髪を縛っている臙脂色のリボンが風ではためく。 時空管理局第二十一番特別編隊。通称『ナイツ』ブレイブ分隊隊員。恭耶陸曹長。 それが彼女の名前と役職であった。 彼女は建物の壁を蹴りながら自由自在に宙を舞う。 宙を舞うように走る彼女は黒い軌跡を描く。 そして彼女は大晦日でありながらも司令部で警護任務のサポートを行っているオペレーターに指定された場所へとたどり着く。 指定された場所には陸士部隊特別救助隊のスバル・ナカジマが倒れていた。 恭耶はスバルを抱き上げる。抱き上げたその身体は異様に軽かった。 腹部からはおびただしい出血痕があり、既に目の焦点が幾分か合っていない。 口からはヒュウヒュウと笛のような音を出していた。 「スバル・ナカジマ一等陸士っ!」 掛けられた声に気づいたスバルは恭耶に顔を向ける。 しかし目はまだ焦点が上手く合っていないような感じであった。 きっと今のスバルは話しかけてきたのは誰なのか分かっていないであろう。 「…あの子…を……助けてあげて………」 それだけ言って、スバルの意識は途切れた。 スバルの手が地面に落ちる。 「恭耶陸曹長っ」 武装した局員がスバルの方に駆け寄ってきた。 どうやら敗北したスバルの救援に来たようだ。 「……スバル・ナカジマ一等陸士を頼みますわ」 駆け寄って来た局員にスバルを預け、恭耶は走り出した。
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魔法少女リリカルなのはSpiritS 第一話「蒼き新星(後編)」 ぷらん、ぷらんと揺れる青。 さながら海か空の色を、そのまま結晶化させたようなもの。 透き通るような青色の、縦長の六角形の水晶体。 リスティのすみれ色の瞳の中では、そんなものがぷらぷらと揺れていた。 「それ、何……?」 やや控えめな声で尋ねる。 環状の紐で吊られたそれを、ぷらぷらと揺らす歳上の少女へと。 つぶらな瞳を持ち上げて、水晶と同じ色をした、青い髪の少女へと問いかけた。 「これ? これはね、あたしの相棒のマッハキャリバー」 返ってきたのは朗らかな笑み。 にっかと満面の笑顔を浮かべたスバルが、銀髪の娘へと誇らしげに言う。 「さっき一緒に戦ってた、ローラーブレード型デバイスの待機モードなんだ」 『正確には“使っていた”と表現するのが正しいかと。私はあくまでマスターの武器であり、所有物に過ぎませんから』 「あ、またそういうこと言う。そういう道具扱いするのは嫌だって、何度も言ってるじゃん」 機械的なインテリジェント・デバイスの音声に、ぷぅっと頬を膨らませるスバル。 先ほどまでリスティに向けられていた視線が、じと目になってマッハキャリバーへと向かった。 そんなごく自然なやりとりが、クラナガンの廃ビルの一角にて繰り広げられていた。 否。むしろ逆に、自然であることが異常に感じられる。 黒い長袖のジャケットに、ジーンズのミニスカートとスパッツ。既に正体を隠す必要はなくなったので、マントは脱ぎ捨てられていた。 ややボーイッシュであることを除けば、普通の年頃の少女の出で立ち。 だがスバルはその数十分前に、圧倒的な強さを見せつけ、2名の戦闘機人を蹴散らしたばかりなのだ。 「こうして見ると、本当にただの子供にしか見えないんだがな……」 信じられない、と語尾に小さく付け足しながら、俯瞰するリスティの父親が呟いた。 何せ筋骨隆々としたこの男でも、手も足も出なかった連中を、あっという間に叩き潰した豪傑である。 その彼女が見せている歳相応のあどけなさは、戦闘中とのギャップがあまりにも大きすぎた。 鬼神のごとき戦いぶりが、今ではまるでハイスクールの休み時間のようだ。 「ストライカー、ってのは知ってるか?」 困惑するひげ面の男へと、すぐ隣に腰掛けたサングラスの男が確認する。 中骨中肉といった印象の上半身は、今は包帯によって覆われていた。 肩に受けた銃創の手当ての跡だ。 このご時世、薬品の類は貴重品だが、リスティら父子を救おうとした男を、無下に放置するわけにもいかない。 結果として応急処置が施され、今では出血も止まっている。 「ああ。ゼスト何とか、って奴がそう呼ばれてたな。どんな困難な状況も突破し、勝利をもたらす優秀な魔導師……だったか?」 「大体そんな感じだな。一騎当千のワンマンアーミーがエースなら、組織戦で全体を引っ張るのがストライカー、ってところだ」 確認で返してきた男へと、サングラスの若者が説明した。 言うなれば、エースとストライカーとは剣と盾だ。 他を寄せ付けぬ圧倒的な技量の下に、単身で戦端を切り開き道を作るエース。 迫り来る脅威に立ち向かい、戦線の中核となって味方を守り抜くストライカー。 「で、話を本題に戻すが……管理局は先の戦争で、そういう優秀な魔導師をかなり失うことになっちまってな。 そこで戦力の質を増強するのと、後は、新たな旗印として扱える人材を生み出すために設けられた、徹底された戦技教導…… 通称“ストライカーズ養成計画”と呼ばれるプログラムの下に生まれた新人の1人が、あのスバル・ナカジマだ」 「未来のストライカーとして鍛え上げられたエリート、ってことか……だが、何でエースじゃないんだ?」 「そこは、ホラ、求めてるものが違うんだろう」 サングラス男の言葉に、ああ、とフィリスの父は納得した。 現在の管理局残党の頭数は、到底芳しいと言えるものでないに違いない。恐らくは、士気に関しても同様のはずだ。 ならば単独で切り込むエースよりも、共に戦ってくれるストライカーの方が、皆の支えにはちょうどいいのだろう。 加えて同じ戦線の主軸であっても、ある程度周囲の援護を頼れる位置で戦うストライカーの方が、孤高のエースよりも大成が早い。 「まぁ、ペラペラと喋っちまったが、一応スカリエッティ達には内緒の極秘プロジェクトだからな。あんまり言いふらさないでくれよ?」 言いながら、腰掛けていた瓦礫から若者が立ち上がる。 上半身裸の右肩に上着を引っ掛け、左手でズボンの尻についた埃を払った。 管理局の機密事項。 それをさらりと口にした男に、ひげ面の親父はぎょっとしたように目を見開く。 「で、どうすんだスバル? そろそろ連中も出てくる頃だろ?」 そしてそんな様子は露も気にせず、若者はスバルへと声をかけた。 「あ……やっぱり、そうなる?」 「たりめーだ。こんだけ派手に暴れた奴を、そのまま放置しておくわけないだろ。 多分ここらの親玉自ら、徒党を引き連れてやって来るだろうな」 「そっか。そう、です、よね……なはは、はは……」 たらり、と冷や汗を流しながら。 今度はスバルの表情が、困ったような苦笑へと変わった。 スカリエッティが支配したクラナガンで、管理局の魔導師が、戦闘機人相手に乱闘を繰り広げたのだ。 しかもその戦闘の果てに、2名の戦闘機人が撃退され、人間ごときに拘束されている。 連中からすれば、放置しておく理由がない。 自分達に脅威をもたらす者を排除するため、そして自分達の立場を示すためにも、本腰を入れて始末にかかるはずだ。 後先考えずに突っ込んだ結果、この場所により強大な戦力を呼び込む羽目になってしまったのだ。 「仕方ねぇっちゃあ仕方ねぇ状況だったがよ……ここがクラナガンでも、隅っこの方だったのが幸いだったぜ」 がしがしと頭を掻きながらサングラス男がぼやく。 スカリエッティ支配下の都市の中でも、首都クラナガンは特殊な場所だった。 駐留する戦闘機人達が一箇所に固まって支配するには、この街はあまりにも広すぎるのだ。 よって市内を計15ブロックに分割し、それぞれをそれぞれの派閥のテリトリーとすることで、この街の戦闘機人は均衡を保っている。 要地である中央に近ければ近いほど派閥の規模は増し、外側になればなるほど他の派閥からの援護を受けづらくなる。 周囲に示しをつけるというのも、隅の方が対処しやすいというのも、どちらもそういう事情あってのことだ。 「それで、結局どうすんだよ? 人数上の不利は変わらねぇし、乱戦になりゃ周囲への被害も馬鹿になんねぇぞ?」 きっ、と。 サングラスの男の問いかけに呼応し、緑の双眸が細められる。 へらへらと緊張感なく笑っていたエメラルドの瞳が、一瞬にして厳しく引き絞られた。 そうだ、この顔だ。 1人のスバルという少女のそれではない、管理局員スバル・ナカジマの戦士の顔だ。 「ボスが来るっていうのなら、そいつを一騎討ちで倒します」 決然と、言い放つ。 真剣そのものの気配を、静かに語気に滲ませて。 「一番強い奴に勝てば、あたしが奴らの誰よりも強いと証明できる……少なくとも、そう見せかけることができる」 「お前自身を牽制役とすることで、この地区の戦闘機人全員を大人しくさせようってか……だが、連中が素直に乗るか?」 「いくら仲間を倒されたからって、そう簡単に油断は抜けないはずです。 昔倒した管理局の魔導師くらい、自分1人で倒せる……むしろそうでなければ、奴らのメンツも立たない」 「連中のプライドを利用するってことだな。 確かに考えてもみれば、たかだか魔導師1人を集団で囲って倒すなんて、みっともねぇ真似もできねぇだろうよ」 そうと決まれば善は急げだ。 若者が言い終えると同時に、スバルがミニスカートの腰を浮かせた。 迫り来る敵を迎え撃つべく、廃ビルの外へと向かわんとする。 と、その時。 ぴくりと眉を動かして、歩みは不意にあっさりと止まった。 何かの視線を感じたのか。怪訝そうな表情と共に、少女の顔が下方へと下がる。 「………」 気配の主はリスティだった。 小さな娘のすみれ色の瞳が、不安げにスバルを見上げていた。 ふるふると震える小さな肩。 触れれば砕けそうな華奢な体躯が、より儚さを増すようにして怯えている。 また危険な目に遭わされるのではないかと。 迫る脅威を予期したかのように。 「……大丈夫」 にっこり、と。 顔つきを緩め、笑顔を浮かべて。 倍近い背丈の身体をしゃがませ、視線と視線をそっと合わせて。 「なんにも怖いことはないよ。怖いのは全部、お姉ちゃんがやっつけてあげるから」 今は先ほどまでリスティに見せていた、等身大の少女の顔へと戻り。 差し出した右手を頭に当て、銀色の髪をくしゃっと撫でた。 ふっ、と。 サングラス男の口元も、自然と軽い笑みに緩む。 戦士として鍛えられたスバル・ナカジマが、失うことなく残していた、人間らしい優しさに。 「なぁ……お前、一体何者なんだ?」 と、その時。 野太いひげ面の男の声に、不意に現実へと引き戻される。 恐らくは鳩が豆鉄砲を食らったような、きょとんとした目つきをしているであろう顔を、リスティの父親へと向けた。 「管理局の秘蔵っ子と知り合いで、おまけに機密事項まで知ってるなんて……」 この中年男を驚かせたのは、それだ。 管理局残党に関わる者以外は、誰一人として知らぬはずの極秘プロジェクトを認知し。 その養成計画の下に鍛え上げられた、虎の子の新人エリートとも顔なじみ。 どう考えても、一般人であるはずがない。 これほど事情に通じた人間が、そこらのスラム住まいのガキであるはずがない。 であれば、この男は一体何者なのか。 「ヴァイス・グランセニック」 にっと不敵な笑みを浮かべ。 ゆっくりとサングラスを取り払い。 短く切られた茶色の髪を、軽く揺らしながらその名を名乗る。 「しがない管理局のヘリパイロットさ」 ばたばた、とはためく漆黒のジャケット。 ゆらゆら、と揺らめく青色の短髪。 ひび割れたアスファルトの上に立つのは、両腕を組んだスバル・ナカジマ。 歳の割に発育のいいふくよかなバストが、ぎゅっと押し付けられている。 鋭い眼光も相まって、さながら男のような風貌だ。 それだけの威圧感を感じさせる何かを、彼女は確実に内に秘めていた。 「分かってるよな、スバル」 横合いからかけられる、若い男の声。 完全に上着を羽織った、サングラス男改めヴァイスが、離れた位置からスバルへと言う。 「一番強い奴と戦うってことは、一番倒しづらい奴と戦うってことだ」 「覚悟の上です」 「やれるか?」 「やれるやれないじゃない――やるしかない」 スバル・ナカジマは揺るがない。 このエリアを支配する敵の中でも、最も強い敵と戦わなければならなくとも。 最も巨大な困難に、たった1人で立ち向かわなければならない状況であろうとも。 決意の瞳は揺らぐことなく、地平の果てを睨み続ける。 一切の恐怖も不安もなく、勇敢な眼光を燃やし続ける。 何物にも動じぬ戦士の形相は、さながら不動明王か。 どんな敵が相手であろうとも、人々を必ず守り抜いてみせる。 気配にも滲み出るその覚悟には、なるほど確かにストライカーの片鱗が浮かぶ。 「こんな子供に、世界の命運を背負わせることになるとはな……」 故に、その背中が痛ましかった。 あまりにも大きく見えるその背中が、ひげの男には痛々しく映った。 見れば見るほど不自然な子供だ。 普段は歳相応の娘と変わらぬ、笑顔の似合う女の子。 されどひとたび戦場に出れば、厳しい表情を浮かべた戦士。 二律背反の表情だ。 その両方を持ち合わせるのは、しかし15の少女には、あまりにも荷が重過ぎるのではないか。 1人の娘を持つ父親の目は、その背に言い知れぬ危うさを捉えていた。 「言うなよ。あいつ自身が受け入れた道だ……周りのせいにされるのは、あいつも居心地が悪いだろうよ」 そう言うヴァイスの言葉には、微かに苦いものが混じっていた。 改めてリスティの父親は、この茶髪の若者の姿を見る。 包帯の上に羽織ったジャケットは、確かに改めて見てみれば、管理局のフライトジャケットだ。 そしてそれなりに整った顔立ちの眉に、微かな皺が寄せられている。 彼女を利用せんとする管理局に所属しながら、必ずしもそれを本意として受諾してはいない。 この男は信用できる。 ヘリコプターのパイロットを名乗った、この若者なら信用できる。 率直に、そう感じた。 「来た」 ぽつり、と。 小さく、短く。 スバルの声が囁いた。 落とした視線を持ち上げる。 中年男がそうしたように、同じく遠巻きにスバルを見守っていた住民達が、一様に彼女の向く方へ視線を向けた。 かつり、かつりと響く音。 劣化したアスファルトを叩くのは靴音。 たった1人のそれではない。合計10人分はあるだろうか。 見れば視界の彼方には、ぞろぞろと人影が浮かんでいる。 男性型、女性型。筋肉質に低身長。多種多様なものが入り混じっているが、どれも身に纏うのは同じフィットスーツ。 戦闘機人だ。とうとう奴らがやって来た。 生意気な管理局の魔導師を粛清すべく、この場所へと足を踏み入れたのだ。 「ほぅ、これは大層なお出迎えだ」 そして彼ら軍団の中、一歩先を歩む者がいる。 残る9人を従えるかのごとく、集団の先頭に立つ者がいる。 黒い短髪に、ひょろりと伸びた細い手足。 黒きマントから覗く体躯は、背丈の高い痩せっぽち。 されど、油断は禁物だ。 その暗色のスーツと黄金の瞳が、彼もまた戦闘機人であることを証明している。 その残忍かつ尊大な笑顔が、彼の集団の中での地位を物語っている。 間違いない。 この男がボスだ。 あの赤茶と金髪を従えていた、リスティ達の住むエリアの親玉だ。 「201号と273号をやったという魔導師はお前だな?」 「そう言うお前がこのエリアのボスか」 「そうだ。俺がクラナガン第11区を率いる、戦闘機人第98号機だ」 静かに。それでいて得意げに。 右手を灰色の胸元へと添えながら、漆黒の戦闘機人が名乗りを上げた。 「その親玉様としては、何としてもあたしを排除しておきたい、と」 「何せ俺達の事情もなかなか複雑でな」 スバルの問いかけに対し、98番目の戦闘機人が、おどけるようにして肩を竦める。 「弱い奴には従わない……戦闘機人の間では常識だ。 示しをつけなければ侮られる。そうなれば俺の支配するこの庭も、他の連中にいつ掠め取られるか分からないのさ」 対するは沈黙。 嫌味な笑みを浮かべる98号とは対照的に、スバルは冷静な無言で受け止める。 見下したようなゴールドと、射抜くようなエメラルド。 黒髪の男と青髪の女が、真っ向から視線をぶつけ合わせる。 ふ、と。 不意に、98号の笑顔が軟化した。 自らの力を誇示し他者を威圧せんとする表情に、異なる感情の色が混ざる。 「しかし、お前もよく逃げずにいたものだ。その言い草からして、俺達が来ることは分かっていたんだろう?」 それは嘲笑。 愚かなる思考を嘲笑う形相。 反逆者を駆逐するために、いずれここに戦闘機人達がやって来る。 それを分かっていたにもかかわらず、逃げようともせずにこの場に残った。 確実に叩き潰すべく、徒党を組んでやって来ると、分かっていたにもかかわらずだ。 誰の目にも明らかな多勢に無勢。 10人の戦闘機人を相手取るなど、無謀にも程がある愚行。 どう考えても勝てるはずもない負け戦。にもかかわらず、スバルはこの場に留まった。 これを身の程知らずと呼ばずして何と呼ぶか。 げらげら、げらげらと。 背後に並ぶ機人達からも、次々と下品な笑いが上がった。 「確かに、あたし1人で全員を相手にするのは厳しいかもしれない……でも、お前1人だけなら倒せる」 「ほう、決闘をご所望か?」 「格下の魔導師を袋叩きにする、なんてのもみっともないでしょ?」 面食らったような顔の98号へと畳み掛ける。 僅かに丸くした双眸を振り返らせ、同じく丸くなった部下の瞳と見合わせる黒髪の機人。 ここまでは事前の計画通りだ。 現状敵の勢力規模は、管理局残党よりも圧倒的に大きい。 いわば戦闘機人は魔導師以上の格上の存在であり、格下とはすなわち慢心と自尊心を抱く対象だ。 それを再認識させて、一対一という状況へと引きずり込む。 敵の中でも一番強い奴を叩きのめし、より効果的に相手に衝撃を与えるために。 「……確かに、一理ある」 にぃ、と。 痩せたマント男の口元に、再び浮かんだ三日月模様。 「お前を確実に葬る手段はいくらでもある。 圧倒的物量を以って嬲り殺すなり、民衆を人質に取って身動きを封じるなり、な…… ……だが、どの部隊の何者とも知れぬ雑兵に、そこまでムキになるようでは、俺の面子もがた落ちだ」 ぱちん。 細い針金のような指を鳴らす。 ぞろぞろと蠢くは配下の連中。 合図に応じた戦闘機人達が、スバルを取り囲むようにして円形に並んだ。 ギャラリーに当たるリスティ達民衆からすれば、さながらスタジアムのフェンスのようだ。 「お望み通りに応じてやろう。逃げも隠れも許されない、一対一の真剣勝負だ」 邪悪な笑みが浮かべられた。 一組の男女を囲う壁は、せめてもの保険のつもりだろうか。 たとえスバルが逃げようとしても、そこでせき止められるようにするために。 あるいは、たとえ98号が追い詰められても、すぐに援護に出られるように。 「勝負をする前に、1つ聞きたいことがある」 「いいだろう。俺の知る限りのことなら、死ぬ前に1つくらいは答えてやる」 目の前の戦う相手へと、問いを発するスバル。 98号がそれに応じたのは、絶対的優位にあると確信してやまぬ自信故か。 ゆっくりと。 一度閉じた口が開かれる。 唇の紡ぐ言葉は。 少女の口から発せられた問いかけは。 「――“高町なのは”を知っているか」 一瞬。 その名が紡がれた、まさにその一瞬。 全ての時間は静止した。 その場に居合わせた人間の、あらゆる思考が凍りつく。 発せられたその名前に、全員の体感時間がストップした。 「昔管理局に所属していた、伝説のエース・オブ・エースだ。あの人が今どこにいるか……知っていたら、その居場所を教えてほしい」 そして一瞬のインターバルの後、改めて問いの内容を認識する。 ああ、知っているとも。 その名前だけならば、誰もの記憶に残っているとも。 リスティの父親はそう思った。 ヴァイスもそう思っているはずだ。 恐らくこの場の全員が、まず間違いなくそう思ったはずだ。 かつてエース・オブ・エースと謳われた、高町なのは一等空尉。 時空管理局の魔導師の中でも、最高の技術と戦績を有した者に送られる、最強の中の最強の称号。 おおよそこのミッドチルダに住む者の中で、彼女の名を知らぬ者など1人もいない。 「……ッ……ククク……」 ああ、それでも。 「くはっ、はははは……何を言い出すかと思えば、そんなことか……!」 答えるべき男は笑っている。 漆黒のマントを羽織った肩を、さぞ滑稽そうに揺らしている。 おかしくてたまらないと言わんばかりに、腹を抱えて嘲笑している。 「知らないはずがないだろう!? わざわざ俺が言わずとも、お前にもとっくに分かりきっていることだろう!?」 そうだ。 そうなのだ。 かつてのエース・オブ・エースは。 前大戦を駆け抜けた、最強最後の守り手は。 「高町なのはは既に死んだ! あの月面での最終決戦で、俺達戦闘機人が抹殺した! それが唯一の真実だ!」 高町なのはは、もういない。 「無様なものだな……偉そうに振舞っておきながら、過去の栄光にすがりつき、残酷な現実から目を背けることしかできないとは」 「違う! なのはさんの死亡はまだ確認されていない! お前達が勝手に言ってるだけだっ!」 これまで以上に意地悪く、狡猾な笑みを浮かべる98号。 これまで以上に熱くなり、荒い語気をぶつけるスバル。 「違わないさ。彼女は死んだ。エースの翼は、偉大なる創造主――Dr.ジェイル・スカリエッティに食い千切られた」 そうだ。 それが奴らが発表した、エース・オブ・エースの辿った末路だ。 かつての時空管理局とスカリエッティの戦争。 その最後の舞台になったのが、天上に浮かぶ2つの月。 月面に陣取った科学者の城塞・聖王のゆりかごへと、決死の突入を仕掛けた月面攻防戦だ。 背水の陣の覚悟で決行された作戦は、しかし管理局の敗北に終わった。 そして撤退する残存兵力を逃すべく、殿を買って出た高町なのはは、奴らの手にかかり命を落とした。 戦後2年近くが経った今でも行方が知れず、管理局に戻ってくる気配もないのが、その何よりの証明だ。 「こんな具合になぁッ!」 瞬間、絶叫。 急激に男の語気が強さを増す。 冷徹な嫌味を込めた口調に、燃え滾るかのような勢いが宿った。 そこに込められたのはすなわち気合。 振りかぶられた右腕に、ちかと輝く光がある。 ぱっと煌く紫の閃光。 ばちと轟くプラズマ音。 一瞬の出来事だった。 それら2つの現象を、リスティの父は同時に知覚していた。 否。 同時にしか知覚できなかった。 それが一般人の限界だ。 それが敵のエネルギー弾であったことも。 それが手下の包囲の穴を縫って、リスティ目掛けて発射されていたことも。 それが自分達の理解よりも遥かに早く、スバルによって防がれていたことも。 突き出された左手を見た瞬間に、ようやく理解できた事象だった。 くわ、と。 98号の瞳が見開かれる。 黄金色の機人の瞳が、これ以上ないほどの驚愕に染まる。 だがそれは、己の一撃を防がれたことによるものではない。 「お前……その、手は……!」 きっと自分達が抱いているものと、全く同じ衝撃のはずだ。 そこに突きつけられたのは、にわかには信じがたい残酷な真実。 「ふ……ははは……ファハハハハハハハ! そうか、そういうことだったのか!」 機人の男が大笑する。 今度こそ滑稽だと言わんばかりに、思いっきり大声を上げて大笑する。 98号の攻撃を受けた左手は、ひどく焼け爛れていた。 当然だ。 恐らくは防御魔法を展開する余裕もないままに、反射的に素手で防御を試みたのだ。 それだけならば普通の人間と同じ。特に驚くことはない。 本当に驚くべきはこれからだ。 引き裂かれた皮膚から覗く傷口から、流れ出すのは真紅の血液。 通常の人間であるならば、真っ赤な筋肉が見えるであろうその場所からは。 「まさかお前まで俺達と同じ――戦闘機人だったとはなァッ!!」 鋼色を放つ金属パーツと、断線したコードから放たれるスパークが覗いていた。 ああ、とうとうばれてしまったな。 できることならばこのままずっと、隠し通していようと思ったのにな。 煙の上がる左手を見やり、スバル・ナカジマは思考する。 されど、結局こうなってしまった。 リスティを守ることこそできたが、結局己が正体をさらす羽目になってしまった。 「そうだ。製造ナンバー、タイプゼロ・セカンド……あたしは一番最初に設計された、お前達と同じ戦闘機人だ」 こうなってしまっては仕方がない。 これ以上隠し通すことなどできない。 故に、その名を口にする。 誤魔化しきれない正体を、はっきりと声に乗せて言い放つ。 「くくっ、そういうことか……2人がかりでも倒せなかったのは、そういうからくりがあったからか……」 くつくつと。 嫌な笑顔を浮かべながら、嫌な視線を向けてくる。 何度向けられても気に食わない、この98番目の戦闘機人の嫌な表情。 人を見下すことしか知らない目。 人を嘲笑うことしか知らない口。 「お前も……戦闘機人、だったのか……」 野太い声が背後から聞こえる。 リスティのお父さんの声だ。 見た目通りのがっしりとした声が、しかし今は震えている。 彼の声を皮切りに、人々が静かにざわめきだした。 刺すような視線を肌に感じる。幾十もの声音を耳に感じる。 「お……おい、お前らっ! こいつは……こいつはなぁッ――!」 「いいのっ!」 立ち上がるヴァイス陸曹が張り上げた声を、それ以上の声で制止する。 「スバル……」 「いいんです……分かってたことですから」 その優しさは嬉しいと思う。 正体を知られた自分を庇おうとしてくれたのは、心底ありがたいとは思う。 それでも、その気持ちだけで十分だ。 中途半端な言い訳だけでは、届くことはないと分かっているから。 他人の口を通した言い訳が退けられた時ほど、惨めで申し訳ないことなどないのだから。 ちら、と振り返る。 緑の双眸に映るのは、すっかり様変わりしてしまった人々の表情。 当然だ。 こうなると分かっていたからこそ、正体を知られたくはなかった。 無用な刺激を与えることは、避けなければならないと思っていた。 エース・オブ・エースの名を知らぬ者がいないように、戦闘機人を嫌わない者などいない。 恐怖。憤怒。憎悪。 十人十色の負の感情が、明確な拒絶として発せられているのが分かる。 それだけのことをしてきたのだ。 自分達戦闘機人という人種は、それだけ嫌われることをしてきたのだ。 「っ……」 リスティのすみれ色の瞳を伺う。 つぶらな少女の双眸は、目に見えて恐怖に震えている。 一番分かりやすい例じゃないか。 彼女は前の戦争で、お母さんを戦闘機人に殺されていた。 本当なら、こんな顔をさせなくて済んだだろうに。 怖いものは全部やっつけてやると約束したのに、自分で怖がらせてしまっては話にならないじゃないか。 思わず苦笑が浮かんでいた。 「裏切り者の戦闘機人よ……お前は何故俺達に刃向かう?」 戦闘機人の親玉が問いかける。 地獄の悪魔のような声音が、そっと囁くようにして発せられる。 「人間に味方する理由がどこにある? 世のため人のためと戦っても、彼らはお前を認めはしない。 民衆から憎み恨まれ蔑まれ、管理局にも体よく利用され、無惨に屍を晒すだけだぞ? それでもお前はその道を歩み、この俺に牙を剥こうというのか?」 そうかもしれない。 確かにそれは正論かもしれない。 早々に人間達を見限り、スカリエッティの軍門に下った方が、ずっと楽な生き方ができるかもしれない。 「あの人に出会ったから」 ああ――それでも。 「あの人に救われて、大切なことを教えられたから」 止まることはできないんだ。 今歩んでいるこの道を、踏み外すことなどできないんだ。 「かつてこの機械の身体は、あたしにとって絶望の象徴だった。 戦って傷つけられることも、誰かを傷つけてしまうことも、怖ろしくてたまらなかった……」 戦うことは好きじゃない。 暴力を振るうことが好きになれない。 かつての幼い頃の自分は、人間ならざる身体を持ちながら、戦闘機人としても失格だった。 強すぎる力を誰かに振るって、不要に傷つけてしまうのが怖かった。 「……だけど、今はこの身があたしの希望だ」 だけど、今なら戦える。 あの日あの場所であの人と出会った、今の自分なら戦える。 「人でない戦うための機械の身体が、あたしの力を支えてくれている」 首元のマッハキャリバーが声を発した。 蒼穹色の水晶が発光した。 全身に纏った衣服が即座に分解され、代わりにこの身を戦装束が包む。 大切なあの人のものにも似た、純白の輝きを放つバリアジャケット。 漆黒の鉄拳リボルバーナックルと、音速の具足マッハキャリバー。 「守るために、振るう力を」 力の意味は一つじゃない。 何かを壊し誰かを傷つける、暴力だけが力ではない。 「だから、あたしはお前達と戦う。そしてあの人を見つけ出す」 壊すための力があれば、守るための力もある。 誰かを壊したくないということは、誰かを守りたいということ。 自分が生まれた研究所では、決して知ることのなかったこと。 それを教えてくれた人々を守るためなら、自分は戦うことができる。 壊すための力でなく、守るための力なら、いくらでも振るうことができる。 戦闘機人の機械の身体が、それを実現するだけの素質を与えてくれている。 「それを教えてくれた人に――高町なのはに会いに行く!」 白いはちまきが締められると同時に、スバル・ナカジマは宣言した。 一切の迷いなき視線と共に、アームドデバイスの鉄拳を構えた。 エメラルドの視線に宿るのは決意。 たとえどれほどの拒絶を受けようとも、世界の全てに否定されようとも。 人々を守り抜くためならば、この地獄のごとき世界の中でも、敢然と戦い抜いてやるという意志。 「上等」 ゴールドの視線が引き絞られる。 不敵かつ獰猛な笑みが浮かぶ。 「ならばこの俺直々に、お前の旅路を締めくくってやろう」 漆黒のマントが翻った。 布地の裏側を染め上げる、鮮血のごとき赤が躍った。 「何せ幻のタイプゼロだ。俺1人の力で捕らえたとあれば、その分手柄も増すというもの……」 目の前に立つのは許されざる敵。 たとえ命を賭けてでも、全力で否定しなければならない悪。 最も許せないと思った、壊すための暴力の権化だ。 必ず倒してみせる。 この地に生きる人々のためにも、降りかかる火の粉は払ってみせる。 こんな奴のために流れる涙を、もうこれ以上見たくなんてない。 人の幸せを奪う敵は、何人であろうとも薙ぎ倒してみせる。 「さぁ、来るがいい! 裏切り者の戦闘機人よ!」 宣言を聞き届けると同時に、マッハキャリバーを加速させた。 まるで蝶を追うような感触だ。 拳を振るう少女の顔に、少しずつ焦りの色が浮かんでいく。 右のストレートを勢いよく突き出し、続いて回し蹴りを叩き込めば。 敵はそれら双方を、ひらりひらりとかわしていく。 先ほどからこれの繰り返し。 どれほどの剛拳を打ち込もうと、目の前の男には掠りもしない。 余裕ぶって回避するたび、ひらひらとはためく漆黒のマント。 こちらが少しでも隙を見せれば、即座にエネルギーの弾丸を撃ち込んでくる。 さすがにこの11区の戦闘機人を束ね上げるボスだけのことはあるか。 覚悟はしていた。だが、これほどまでにやりづらい相手だとは思わなかった。 潰された左手は使えない。握力がほとんど残されていない。 その差が決定的な差になる前に、何としても敵の動きを読まなければ。 「無様だな、ゼロ・セカンド。報告にあった通りの力任せ……見た目にも色気がないときた」 右手より弾丸を放つ98号が、嘲笑と共に口を開いた。 煌く閃光。引かれるトリガー。 回避は間に合わない。反射的にプロテクションを展開。 ばちっ、と鳴り響く反発音。 紫色の光球と、空色の魔法陣が激突する。 電気のスパークのごとき烈音と共に、視界一面に迸る激烈な光輝。 青と紫の衝突が止んだ。目にも眩しき闇が晴れた。 その、瞬間。 至近距離に感じる、黒と黄金。 「俺が“女”を教えてやろうか?」 指先が顎を伝う、感触。 ほぼゼロ距離に感じる、吐息。 少女の顔に差し込む、影。 「っっ!」 顔が赤くなっていたかもしれない。 眉間には皺が寄っていたに違いない。 びゅん、と空を切り裂いて。 一瞬ムキになったスバルが、目前でせせら笑う男の顔へと、瞬速のアッパーを突き出した。 「ははっ! 安心しろ。俺はお前を手篭めになどしない。なにせ、お前の身柄はドクターに献上しなければならないのだからな」 されど、黒を捉えるには至らず。 白装束の振るう拳を、ひらりと飛び退り回避する黒装束。 捉えどころのないこの仇敵は、さながら暗黒の蜃気楼だ。 「お前は何のためにあたしを欲しがるんだ!」 「決まっている! 力のためだ! 製造者不明・所在不明のタイプゼロ……最高の被験体を探し当てたとなれば、俺は更に強くなれる! 創造主たるドクターの手による、更なる改造を望むことができる!」 「何のために力を! これ以上暴力を振るうべき相手なんて、お前達にはもういないだろっ!?」 「敵ならいくらでもいるさ! そうとも、こんな小さな箱庭になど収まるものか…… 俺はまだまだ強くなる……全てのライバルを踏み台にし、“原初の11人”をも引きずり落とし……最強の戦闘機人へと上り詰めてみせる!」 「っ……お前はぁっ!」 拳が震えた。 怒りに奮えた。 澄んだ緑色の双眸に、燃え盛るマグマの憤怒が宿った。 「戦い、倒し、強くなる! それが俺達戦闘機人の、唯一無二の存在意義だろう!」 「ふざ、けん……なあぁぁぁっ!」 轟、と。 右手の白銀の歯車が回転。 二層に連なる回転刃は、破壊力を高めるナックルスピナー。 魔力を動力へと変換し、火花と共に大気を引き裂く。 鋼鉄の駆動音を掻き鳴らし、瞬発攻撃力を増幅。 「あたしはお前を許さない……」 こんな奴らをたくさん見てきた。 高町なのはを探しながら、世界中を巡る中で、自分はこんな奴をごまんと見てきた。 己の嗜虐心を満たすために、いたずらに暴力を振るう者。 己の出世欲を満たすために、被験体と称して人々を引き離す者。 そうして誰かを悲しませる者達が、かつてこの地獄を作り上げた者達だ。 そんなふざけた連中のために、平和に生き続けたいだけの誰かが、常に涙を流している。 許せない。 許せるものか。 「そんな自分勝手な理由のために、誰かを傷つけるお前達を……あたしは絶対に許さないッ!!」 怒れるスバルの鉄の拳が、弾丸のごとく唸りを上げた。 金属色の咆哮。白銀が巻き込み切り裂く虚空。 螺旋を描くリボルバーナックルが、抉り込むようにして98号へと殺到。 これまで以上の一撃だった。 遥かに鋭い拳速。 遥かに重い拳圧。 遥かに強い気迫。 「っ……!」 その三拍子の一撃が、僅かに標的の読みを上回った。 より威力を増した右ストレートが、僅かに目測よりも早く届いた。 これまで掠りもしなかった攻撃が、揺らめくマントへと叩き込まれた。 左の脇腹のすぐ傍を掠め、はためく布地へと吸い込まれる。 回転は暴力的な破壊力を生み、薄い生地へと風穴を空ける。 漆黒の裏側に広がる赤は、真に鮮血のごとく瞳に映った。 「く……!」 戦闘機人の顔が青ざめる。 これまでの余裕に満ちた笑みが掻き消え、頬を一筋の冷や汗が伝う。 ただの一撃だ。 たった一撃が当たりそうになっただけだ。 ただそれだけであるにもかかわらず、顔は引きつり色は失せ、98号は顔面蒼白となった。 おかしい。 明らかに異常だ。 この常軌を逸した反応は、誰の目にも異常に映った。 「スバル!」 そして。 ただ、1人。 その異常の正体へと、思い至った者がいた。 「相手が回避に徹してるのは、防御に自信がねぇからだ! ドデカい一撃をぶち込めば、間違いなく一発でブッ潰せる!」 遠巻きに見ていたヴァイスの声が、鋭くスバルの鼓膜を打つ。 ち、と。 同時に鳴った音さえも。 戦闘機人の鋭敏な聴覚は、消え入るような舌打ちさえも、敏感に感じ取っていた。 言ってしまえば、この男の戦闘能力は、その外観から受ける印象と全く同じだ。 ひょろりとした痩せ気味の体格は、さながら柳や暖簾のように、攻撃を回避することには長けている。 だが、一度でも当たれば終わりだ。 枝葉をへし折るのはあまりにも容易。薄布を切り裂くのはあまりにも容易。 薄っぺらなその身体は、とことん堅牢性に欠けているのだ。 その98号自身の舌打ちが、この仮説を裏付ける何よりの証拠だ。 「だが……それだけではこの俺は倒せん!」 ばっ、と。 細く伸びた両腕が広がる。 阿修羅のごとき剣幕で、敵を睨みつける戦闘機人が、背中のマントを大いに広げる。 「教えてやろう……この俺がこの11区の中で、何ゆえ無敗を誇っていたかを!」 刹那、跳躍。 だんっ、と両足が大地を蹴る。 思いっきりジャンプした98号の身体が、廃墟の上空へと舞い上がる。 否。 これはただの跳躍ではない。 跳ぶ、ではなく。 飛ぶ、ということ。 すなわちこれは―――――――――飛翔! 「空戦型かッ!」 忌々しげにヴァイスが叫んだ。 空を自在に飛び回る技術は、魔導師の専売特許ではない。 魔導師風情に並べぬようでは、戦闘機人が存在する理由などない。 奇跡の力を巧みに操る、魔法の力があるように。 機械仕掛けの兵士には、人工の奇跡の力が宿る。 先天固有技能――インヒューレント・スキル。 「そう……俺のIS(インヒューレント・スキル)は飛行能力!」 威勢を取り戻した98号が、力強く天空に叫びを上げた。 虚空にはためく黒のマントは、さながら蝙蝠の翼のようだ。 爛々と黄金の瞳を光らせ、廃ビルの狭間に浮かぶ姿は、まさしく恐怖の蝙蝠男。 「高度30メートル! 陸戦型揃いの下僕共にも、お前にも手の届かぬ不可侵の聖域だ! 地べたを這いずる戦闘スタイルが災いしたな……ククッ、見ているがいい……俺の全力の空爆で、襤褸雑巾のようにしてくれる!」 高らかに笑った。得意げに両腕を突き出した。 内側より湧き上がる紫のエネルギーが、開かれた十指へと宿る。 出力マックス。エネルギー全開。 この高度ならば届かない。どれだけ防御が薄かろうと、敵の射程外に逃げれば怖くない。 ならば勝負はこちらの勝ち。 敵の攻撃は届かない。こちらは攻撃し放題。 圧倒的手数で制圧し、一気にケリをつけてやる。 「――甘いよ」 そう、思っているのだろう。 とでも、言わんばかりに。 「っ」 にやり、と顔に浮かぶ微笑。 笑ったのだ。 この瞬間、初めて。 戦闘機人第98号だけでなく、戦闘機人タイプゼロまでもが。 この戦闘が始まって以来、初めてスバルが笑みを浮かべたのだ。 何のつもりだ。 ハッタリのつもりか。 98号の笑顔は掻き消え、怪訝の一色が顔面を支配する。 できるわけがない。 飛び道具に乏しいベルカ式の、それも空を飛べない陸戦型が、自分を倒すことなど不可能なはずだ。 「魔法技術は日々進化してる……空飛ぶ術を持たないばかりが、ベルカの陸戦魔導師じゃない!」 そう、思っていたのだろう。 この、瞬間までは。 ぎゅん、と。 ナックルスピナーの唸りと共に、鋼の鉄拳が振り上がる。 手のひらに集束されるは魔力。 黒いグローブに浮かぶは蒼天の煌き。 握り締めた右の拳が、勢いよく眼下へと叩き落とされる。 スバル・ナカジマの背中には、憧れたエース・オブ・エースのような、天翔ける翼は生えていない。 地に足をつける陸戦型には、忌まわしき漆黒の機人のように、宙を舞うことなどできはしない。 それが古代のベルカ式なら、陸戦騎士が空を飛ぶなど、到底できるはずもなかった。 されど、彼女は違う。 幾多の先人達の努力の下、脈々と培われてきた近代ベルカ式魔法は、絶えず進化を続けてきた。 もはや翼を持たないことと、空を飛べないことはイコールではない。 空を翔けるための翼がないのなら。 空を駆けるための道を作ればいい! 「ウィング――ロォォォォードッ!!」 がん、と響く硬質な音。 ごう、と轟くスバルの叫び。 拳がアスファルトを揺らすと同時に、空色の閃光が立ち昇った。 その様は昇竜。 さながら雄叫びを上げる青き竜蛇が、天空高くへと飛び上がるようだ。 されど、魔力で形成されたそれは、伝承の竜と同じではない。 翼なき者が空を飛ぶためといえど、わざわざ竜を呼ぶ必要はない。 「何だ、これはぁぁぁっ!?」 驚愕も露わな声が上がった。 くわ、と瞳を見開きながら、翼持つ機人が絶叫した。 それは道だ。 猛然と迫り来るその輝きは、まさしく天へと昇る道だ。 薄っぺらな橋のごとく形成された魔力が、徐々に自らの身体を伸ばし、天上の標的目掛けて殺到しているのだ。 スバルの家系に代々伝わる、移動魔法ウィングロード。 人が空を飛べないのなら、空に道をかければいい。 御伽噺の虹の架け橋を、実現させてしまえばいい。 そんな馬鹿げた絵空事を、大胆にも実現してみせた奇跡の業だ。 日々邁進する魔導師達の、努力と探究心の果てに辿り着いた奥義だ。 「ふんっ!」 ばっ、とスバルが跳躍する。 その高度はあまりにも低い。宙に浮かぶターゲットに比べれば、10分の1の高度にもなりはしない。 だが、それだけで十分だ。 道に乗れさえすればいい。 後はこの光り輝くウィングロードが、行くべき道を築き上げてくれる。 「く……来るなっ!」 男がみっともなく叫んだ。 狼狽する98号の両手から、紫電の弾幕が解放された。 襲い来る紫色の弾丸の嵐は、さながら熱帯雨林のスコールのようだ。 並の人間であるならば、到底無事ではいられない。 避けることも防ぐこともできず、あっという間に蜂の巣にされる。 されど、今まさに天上を目指す者は、そこらのひ弱な一般人ではない。 未来の管理局を担う存在として、徹底的に鍛え上げられた、正真正銘の超人だ。 カット、カット、カット。 さながら金髪の巨漢相手の戦闘の焼き回し。 迫り来る猛威の間を縫うように、マッハキャリバーの軌道が曲がる。 ウィングロードの示す道筋は、スバルの求める道筋と同じ。 術者の思考と正確にリンクし、かくかくと複雑な軌跡を描く。 敵が紫の豪雨なら、こちらはさながら青き稲妻。 雷のごとき軌道を描き、猛烈な速度で標的へと肉迫。 「くぅっ……!」 逃げようとする。 98号が後退を図る。 そうはさせない。 逃がしてたまるか。 「!?」 蝙蝠の翼が逃れるよりも、魔法の道が届くのが早かった。 ぐわん、と青き道筋は曲がる。 ぐるんぐるんと鳴るかのように、光が描く軌跡は螺旋。 天上に描かれたスパイラルは、悪しき罪人を幽閉する牢獄。 回り込んだウィングロードが、敵の逃げ道を完璧に塞いだ。 「や、やめろッ! 来るな……来るなぁぁぁぁッ!!」 その願いは聞き届けてやらない。 散々命乞いを無視してきたお前の、その命乞いだけは絶対に聞かない。 がしゃん、と重厚な音を立て、デバイスのカートリッジシステムを起動。 魔力を圧縮した弾丸が、更なるエネルギーを解放する。 吹き出るスチームと共に満たされてく、強く眩き青の閃光。 「リボルバアァァァァァ――……ッ!」 振りかざすのは正義の鉄拳。 灼熱の魔力に覆われた、一撃必殺のストレート。 距離が詰まる。 拳が持ち上がる。 残された距離は数メートル。 それもやがてゼロへと変わる。 乾坤一擲の気合と共に。 疾風怒濤のごとき拳を。 まっすぐに。 叩き、つける。 「キャノオオオォォォォォォ―――ンッ!!!」 刹那、世界は爆裂した。 蒼穹色の激流が、視界の全てを塗りつぶした。 フィットスーツの腹部にて、眩いばかりのエネルギーが爆裂。 千々に引き裂かれた極光には、天地鳴動の破壊力。 「がああぁぁぁぁぁっ!」 野獣のごとき荒々しき悲鳴が、拡大する光を破り裂いた。 青き閃光が掻き消える中、悲痛な唸りを上げた男が、ゆらりと重力に引かれて落ちた。 ぷすぷすとたなびく灰の煙。さながら襤褸雑巾のような翼。 羽を焼かれたイカロスは、ただ地上へと落ちるのみ。 「ク、クククク……」 消え入るような嘲笑が、微かにスバルの鼓膜を突いた。 「精々みっともなく足掻くがいい……貴様らごときが、どう足掻こうと……世界は……変えられはしないの、だから……」 みっともない負け惜しみを吐いた大将は、鈍い音と共にアスファルトへと沈んだ。 訪れるのは静寂。 あれほど口やかましかった漆黒の機人も、もはやその口を開くことはない。 死人に口なし、ということだ。もっとも、本当に死んだかどうかは定かではないのだが。 重要なのは生死よりも、彼と彼女の勝負の決着。 「ボ、ボスが……」 「あたしらのボスが、やられた……」 クラナガン第11区の中でも、最強を誇った親玉が、敗北したという事実だ。 群れなす戦闘機人達にとっては、それが唯一の真実だった。 ざわめきが生じる。 あれほど振りまいていた自信と邪気が、みるみるうちに萎縮していく。 最強無敗が負けたということは、勝者はそれ以上に強いということ。 最強以上の最強に、雑兵が勝てる道理などない。 そしてこの激戦を制した強者は、彼らと敵対する存在だった。 ウィングロードが大地へと向かう。 純白と蒼穹の色の拳士が、ゆっくりとアスファルトへと着陸。 にっ、と。 不敵な笑みが、向けられる。 「……で、どうする?」 ぱし、と軽快な音を立て。 リボルバーナックルの鉄拳が、爛れた左手へと収まった。 スバル・ナカジマのその仕草と、その笑顔がとどめの一撃となった。 「う……うわああぁぁぁぁぁーっ!」 戦闘機人は実力主義。自分より弱い奴には従わない。 ひっくり返せばそれはすなわち――自分より強い奴には逆らえない、ということ。 彼我の戦力差は絶望的だ。 少なくとも、彼らにそう認識させるには、この大立ち回りのインパクトは十分過ぎた。 あれほど威張り散らしていた戦闘機人が、我先にと悲鳴を上げて退散する。 恥も外聞もない恐慌と共に、蜘蛛の子を散らすようにして逃げ去っていく。 あっという間に戦場から、暗色のフィットスーツの影が消えた。 後に残ったのは1人の少女。 負傷した左手に入れたパンチが、ぴくりと笑顔を引きつらせる。 新たなチャンピオンの誕生にしては、少々しまらない顔つきではあったが。 クラナガンに住まう人々の視界には、ただ1人の魔導師のみが残っていた。 一夜明けて、朝。 暗い宵闇が訪れ過ぎ去り、再びクラナガンの街に朝が来る。 ひび割れた道路やビル群を、穏やかな陽光が照らしていた。 本当に、穏やかな朝だ。 昨日の激戦以来、この街に現れた強者を恐れる戦闘機人は、すっかり暴れる様子もなく静まりかえっていた。 「召集、ですか?」 そして彼らを黙らせた少女はというと、きょとんとした表情で、ヴァイスの言葉を反芻した。 スバルが一夜を明かした場所は、小ぢんまりとした無人の不動産屋。 当然、住む者は誰もいない。 正体が割れるまでは、リスティの親子の寝床を借りる算段がついていたのだが、 戦闘機人であることが知れ渡った今、無用な刺激を避けるためにも、彼女は1人でここに転がり込んでいた。 そして夜が明け、職場の上司に玄関先にて呼び出され、お互い瓦礫に腰掛けながら話すという現状に至るというわけだ。 「そうだ。いよいよそれなりに反撃の準備が整ったらしい。 本格的に活動を開始するってことで、お前ら4人に、ちょうど一ヶ月後――5月の8日までに帰還しろ、って命令が出てる」 それを伝えるのが、ヴァイス・グランセニックに与えられた任務だった。 通信手段を使うことなく、わざわざ直接出向いたのは、通信傍受の可能性を避けるためらしい。 ストライカーズ養成計画の存在が極秘なら、彼女らを集めるのも極秘。 そこから情報が漏れ、手を打つ前に打たれてしまっては話にならない。 こういう時に幸いしたのが、彼の持っていたバイク免許だ。ヘリコプターを飛ばすよりは、隠密性も高いだろう。 「そっか……また、みんなに会えるんだ」 自然と、スバルの表情が綻ぶ。 当然といえば当然だ。 みんなというのは言うまでもなく、同じ養成計画のカリキュラムを受けてきた仲間達である。 戦闘機人という正体を知った上で、それでも仲間として接してくれているのは、現状管理局残党に関わる面々だけだ。 そしてその中でも特に、残る3人の同期達との絆は深い。 スバルには養父と姉がいると聞くが、彼ら3人に抱く信頼と愛情は、その家族へのそれとほぼ同等と言っていいだろう。 「………」 ヴァイスもまた、彼女の愛すべき友の姿を思い浮かべる。 これから1人ずつに伝令を伝え、全員が集合した後も、彼が面倒を見ていくことになる若者達を。 銀の二挺拳銃を携え、橙色のツインテールをたなびかせる少女。 燃えるような赤毛を揺らし、大仰な騎士の槍を振りかざす少年。 両手にブースト手袋を嵌め、召喚獣を使役する桃色の髪の少女。 スバルは一体彼ら以外に、何人の仲間を作ることができるだろう。 この呪われた身体に生まれた少女を、一生のうちに何人の人間が理解し、支えようとしてくれるだろう。 スバル・ナカジマは孤独な少女だ。 誰も信頼できる相手がいないわけではない。 同じ戦闘機人の姉はいるし、研究機関から救出された彼女らを保護してくれた父親もいる。 管理局の上官や同僚は理解を示してくれたし、親友と呼べる人間も3人いる。もちろん、ヴァイスも彼女の味方だ。 だが、彼女には敵が多すぎた。 戦闘機人を憎む人間が、この世界にはあまりにも溢れすぎてしまった。 戦争を起こし、自由を奪い、暴力と恐怖で管理世界を支配する彼らを、民衆はそう簡単には認めないだろう。 左手に巻かれた包帯を見る。時間をかければ、自然治癒でもある程度は回復が望めるらしい。 しかし事実として、彼女は左手に傷を負った。 知られれば拒絶されると知っていたのに、躊躇うことなく肉体にも傷を受けた。 自分を恐れ憎む者達を救うべく、独り心と身体をすり減らし、死と隣り合わせの戦場に臨む。 誰からも理解されることない、誰からも敵と見なされる――まさに、地獄だ。 「俺はあと2日も養生したら、次の奴の居場所に向かうつもりなんだが……お前はどうする?」 できることなら、無理やりにでもここから連れ出したかった。 一箇所の集落に住まう人間全員から、恐怖と憎悪をぶつけられる苦痛。 一体その笑顔の裏で、どれほどの痛みと苦しみを、その細く華奢な身体に抱えているのか。 ヴァイスに知る術はない。されど、人間には想像が可能だ。 想像するだけで、ひどく吐き気をもよおした。 世界中のどこにも逃げ場がないことは分かっている。スバルにとってこの世界は、尽きることない無間地獄だ。 それでも、せめてこの場ぐらいからは、彼女を遠ざけてやりたかった。 「んーと……」 身体は機械でできている。されど心は人間だ。 今もこうして、歳相応の人間らしさを見せる彼女に、これ以上の痛みを背負わせたくない。 本来ならば、戦う必要もなかったであろう彼女を、苦しみの中に放置しておきたくはない。 「?」 と、その時。 不意に目を丸くしたスバルが、脳内で紡いでいたであろう思考を打ち切る。 背後から気配を察したのか。ちょうどヴァイスの位置からでは彼女自身に隠れて見えない、何者かの存在を感じたのか。 怪訝そうな表情を浮かべ、首を後ろへと傾ける。 こんなことは、昨日にもあった。 ボスとの戦いに臨むスバルが、今と同じ状況を体験したことがあった。 「………」 振り返った先にいたのも、その時と同じ人間だった。 銀色の髪とすみれ色の瞳は、あの塞ぎ込んでいたリスティだ。 おずおずとした幼子の視線が、数歩分の距離を置いて、じっとスバルを見つめている。 当然だ。 彼女は戦争で母を喪った。戦闘機人の手によって殺された。 リスティにとって戦闘機人とは、最も恐怖と憎悪を抱く対象であって然るべき存在であるはずなのだ。 かつり、かつりと靴音が鳴る。 最も嫌いな人種へと、しかし彼女は歩み寄る。 歩幅の小さい、ゆっくりとした歩みであっても、着実にスバルの元へと近づいていく。 遂に彼女の座る瓦礫へと到着。 スバルとリスティの間の距離は、数歩分からゼロへと縮まった。 す、と。 小さな右手が持ち上がる。 時折震える短い腕が、恐る恐るといった様子で伸ばされる。 歩みの倍近くゆっくりと伸びた手は、漆黒のジャケットの裾をぎゅっと掴んだ。 ようやく彼女の元へと歩み寄り、ようやく手を伸ばしたリスティの顔は。 それまでどこか遠慮がちな、複雑な表情を浮かべていたリスティの顔は。 次の瞬間には――笑っていた。 にっこりとした微笑みが、眩い光を放っていた。 一瞬、スバルは面食らったような表情になる。 何せあれほど怯えていた少女の笑顔だ。予期せぬ行動と反応に、目を丸くして硬直する。 だが、しかし。 そこに込められた意図を察したのか。 その無言の笑顔に込められた、感謝と親愛の意を察知したのか。 次の瞬間には、スバルもまた、満面の笑顔で応じていた。 「……もう少し、ここに残ろうと思います」 ヴァイスの方へと振り返る。 心からの笑みを浮かべたスバルの顔だ。 「連中に牽制を効かせておかないといけませんし……ギリギリまでは、ここでなのはさんの手がかりを探そうと思います」 なんて眩しい笑顔だろう。 素直に、感動すらも覚えた。 そうだ。やはりこの娘には、こういう顔が一番似合う。 この弾けんばかりの笑顔こそが、人間スバル・ナカジマが持つ、何よりも強い一番の武器だ。 「そっか」 自然と、彼も笑っていた。 立ち上がり、リスティの手を握り返したスバルが、共にアスファルトを歩いていく。 互いににこにこと笑い合う背中を、同じく立ち上がって見送る。 ふと視線を傾ければ、あの幼子の父親がいた。 大柄な筋肉質の中年男は、相変わらずひげを伸ばしていて、相変わらずタンクトップを着ていた。 「俺は戦闘機人が嫌いだった」 すぐ横へと歩み寄ったヴァイスへ向けて、野太い声が紡がれる。 リスティが母を喪ったということは、彼もまた妻を喪ったということ。 厳つい男の厳つい視線が、伴侶の命を奪った仇と同じ、戦闘機人の背中へと注がれる。 「だが俺が嫌ってたのは、スカリエッティの戦闘機人だけだったらしい…… 一晩明けて、頭が冷えて……そしたら、不思議とあの子を嫌おうとは思えなくなってたんだよ」 向ける目つきは穏やかで。 呟く口元は、笑っていた。 「あの子に伝えてやってくれ。娘を助けてくれてありがとう、ってな」 ああ、それだけで十分だ。 そのたった一言だけで、あの少女はどれだけ救われたことだろう。 その理解と笑顔だけで、彼女の心にかかった闇が、どれほど晴れることだろう。 自分のことのように喜び、微笑を湛えるヴァイスの姿があった。 「……戦闘機人の中にも、あんな子がいたなんてな……」 男の口が言葉を続ける。 視線の先に立っているのは、にこやかに笑うスバル・ナカジマだ。 「あの野郎はああ言ったが、あの子ならきっと、世界を変えることができる……平和な世界を取り戻せる……そんな気がするんだよ」 彼の愛娘を抱きかかえた少女は、互いに笑顔を浮かべながら、言葉を交し合っている。 その笑顔につられるようにして、行き交う街の人々もまた、笑顔で彼女に声をかける。 憎むべき戦闘機人であったはずのスバルは、この街にすっかり溶け込んでいた。 彼女の振りかざした拳と正義が、真に人々を救ったのだ。 「ああ――違いねぇ」 心底、同意した。 強く優しいあの娘ならば、今この目に映る笑顔を、世界中の人々に与えられるはずだと。 きっと世界を変えるのは、心無い圧倒的な暴力ではなく。 いかな苦痛にも挫けない、優しき不屈の心だと思うのだ。 彼女の名はスバル・ナカジマ。 高町なのはを目指す者。 自由と平和を取り戻すために戦う、不屈の心を受け継ぎし者。 To be continued... 予告 その手に銃を取る者がいる。 亡き肉親の遺志を引き継ぎ、双銃のデバイスを手に戦う者がいる。 彼女の名はティアナ・ランスター。 スバルと志を同じくする、もう1人の若きストライカー。 忌むべき邪悪を打ち砕くべく、今、奴が牙を剥く。 魔法少女リリカルなのはSpiritS 第二話 【スカーフェイス・ガンスリンガー】 あたしは全ての悪を駆逐する者――あんた達みたいな悪党への、復讐者よ。前へ 目次 次へ
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第一部 第十二話『病院。林檎と一時の休息』⑦ 幽霧たちが106号室に戻ると、アサギと銀髪の女性がパイプ椅子に座りながら読書をしていた。読んでいたのは、幽霧霞総受け集。 色んな所に出回っている事に、幽霧はどうしようも無い心境に襲われた。 女性は幽霧たちに気づき、パイプ椅子から立ち上がる。 「アインさん」 「御久し振りです。幽霧霞三等陸士」 そしてアインはナタネの方を向いて微笑む。 「御久し振りです。白き大地の騎士。千年振りでしょうか?」 「そうですね。夜天の王」 ナタネは無表情で返す。 どうやらアインとナタネは過去に会った事があり、出会った場所も余り良くなかったらしい。 幽霧の目には二人がにらみ合っている様に見えた。 徐々に気温が下がっていき、魔力が顕在化していく。 魔法陣でも展開して、戦闘でも開始しそうな雰囲気だ。 まさしく一触即発。 アインとナタネの戦闘力は人づてで聞くばかりであるが、この部屋が壊滅する事位は安易に予想がついた。 辛うじて二人を止められるかもしれないアサギはというと、幽霧霞総受け集を熟読している。 間違いなく、106号室で戦闘が始まってしまうだろう。 どうしたものかと考える幽霧。 「ひさしぶり。アインおねえちゃん」 アルフィトルテは一触即発の空気の中で挨拶をする。 「久しぶりですね。私の可愛い妹」 アインは微笑みながらアルフィトルテの頭をなでる。 さっきまで殺伐とした空気が一瞬で無くなったような気がした。 106号室が壊滅するという事態が起きなかったという事に幽霧は安心した。 アルフィトルテの頭を撫でていたアインがノインを見る。 「貴女は……」 「はじめまして、アイン秘書官。無限書庫所属の久世ノインです」 ノインはアインに自己紹介をする。 「話はクロノからよく聞いています。久世ノイン無限書庫副司書長。無限書庫の副司書長にして置くには惜しい人材であると」 一瞬だけノインが驚くが、すぐに営業用のスマイルで取り繕う。 「お褒め頂き光栄ですと、クロノ・ハラオウン提督に御伝え下さい」 「了解いたしました」 空気がいくらか和らいだ所で、幽霧はアインに尋ねた。 「さっき読んでいた冊子はどこで手に入れたのですか?」 「ベッドのテーブルに乗っていましたが?」 首を傾げるアインに幽霧は安堵した。どこから手に入れたわけではなかったらしい。 しかし安堵するにはまだ早い。106号室の中にある幽霧霞総受け集は二冊ある。 一冊はレンのものだと思うが、アサギの呼んでいるもう一つは何なのだろうか。 「アサギさん……それを一体どこで……」 幽霧が話しかけると、アサギは答えた。 「実はもう一冊持っていたようだ。唾液かなんかでちょっと湿っているけどな」 アサギが自ら幽霧霞総受け集をどこかから入手してきたわけではないらしい。 安堵する幽霧にアインはろくでもない事を呟く。 「これを作る人たちの気持ちが分からない訳でもありませんね」 アサギはアインの意見に同意する。 「そうだな~。あの幽霧だからな~」 アインとアサギの呟きに幽霧は珍しくギョッとした。 微笑みながらアインは幽霧に告げた。 「私も初めて会った時、女の子だと思っていました」 「うん。男には見えなかった」 「……そうですか」 声からでも分かるくらい、幽霧は落胆した。 ノインとナタネは幽霧に同情してしまった。 沈んでいる幽霧を慰めるようにクーラーボックスを差し出す。 「とりあえず、アイスでも食べましょうか」 「……そうですね」 それでも幽霧の声は沈んでいた。 「アイス♪ アイス♪」 アルフィトルテは楽しそうにクーラーボックスを開ける。 何かには色とりどりのアイスが詰まっていた。 「どれにしますか?」 クーラーボックスからアイスの入ったカップを取り出しながら尋ねる。 「バニラで」 「私もバニラをお願いします」 幽霧とナタネはバニラアイスを選択する。 「いちご~!」 「ミントで」 アルフィトルテはイチゴ味。ノインはミントを注文する。 「みかん味でっ!」 突然の声に全員がスライドドアの方を見る。 そこには血のついた包帯の塊もとい包帯でグルグル巻きにされたレンがいた。 「レン・ジオレンス陸曹長……生きていたんですか」 「フェイトさんの補佐官になるまでは……そう簡単には死ねませんよ……それに……」 レンの目が光る。 「君を襲うまでは~!」 某泥棒も驚くくらいの俊敏な速度で衣服を脱ぎながら幽霧にダイブ。 しかし類稀なるシンクロでナタネとアインがレンに魔力を纏った回し蹴りを叩き込む。 「……グレイヴ・オブ・クラウン」 ノインのデバイスから出てきた無数の鎖がレンを絡め取り、一気に引き寄せる。 「よっこらせぇ~ぃ!」 アサギがレンの身体をキャッチし、上反りになってレンを窓の外に投げ飛ばす。 数秒後には何かが折れた様な音と断末魔に似た何かが聞こえてきた。 「さて、アイスでも食べるか。このチョコレートアイスを貰おうじゃないか~」 アサギは怪我人であるレンを外に投げ飛ばしたというのに、暢気にアイスを食べ始める。 「レン・ジオレンス陸曹長……大丈夫なのでしょうか……」 「フェイト・T・ハラオウンの魔法を直で喰らっても生きているような奴だぞ。大丈夫じゃないか~」 そう言ってのんびりとチョコレートアイスを食すアサギ。 よく考えれば朝も窓の外に吹き飛ばされても生きていたのだ。多分、今回も大丈夫だろう。 「そういえばアイン秘書官はアイスを作るのが上手いですよね?」 ミントアイスを食べながらノインはアインに言う。 「過去に一度、紅の鉄騎に作ったのですが……割と好評だったので」 紅の鉄騎という単語は聞き覚えが無かったが、幽霧はその時の同僚の事だろうと判断した。 しかし幽霧にはアイスの事以外にも疑問点があった。 「アインさん」 「何でしょうか?」 幽霧に呼ばれたアインは不思議そうに首を傾げる。 「アインさんは何故、アルフィトルテの事を妹と呼ぶのですか?」 一瞬だけきょとんとするアイン。そして幽霧の問いに答えた。 「幽霧さんのアルフィトルテは私と同じ機構で創られているという事は前も説明しましたよね?」 「ええ」 「私たちの身体は特殊な魔導機構を核にして創られているのですよ。詳細については作成者から喋らない様に言われてます」 アインの説明で少なからず幽霧は納得した。 同じ魔導機構を使用されているから、アインはアルフィトルテを妹と呼ぶのだろう。 魔導機構が収められているのだろう胸部に手を当てながら呟く。 「今では、リインフォースⅡよりアルフィトルテや白き大地の騎士の方が繋がりが深いかもしれませんね」 「リインフォースⅡ空曹長とお知り合いだったのですか?」 「ええ……まあ……」 何故か言葉を濁すアイン。過去に色々とあったのだろう。 無理に聞き出す必要も無かったので、幽霧はこれ以上は追求しなかった。 「そういえば、長月部隊長からこれを渡すように言われました」 アインはバッグから大きなビンを取り出す。中には虹色の物体が詰められていた。 「ユグドラシルの蜜ですか……懐かしいですね」 「ユグドラシルの蜜?」 アサギとアインは首を傾げる。 「長月部隊長特製の……一種の栄養剤ですね。自分やノインたちが風邪を引いた時、よく舐めさせて貰いました……」 ビンの表面を幽霧は懐かしそうに撫で、ふたを開ける。中から微かに甘い匂いがした。 「皆さんも食べますか?」 「……いただきます」 アインはあまったスプーンをビンの中に突っ込み、粘液状の中身を取り出した。 水飴の様に糸の引くそれには光沢があり、窓から差す日差しで虹色がより輝く。 虹色に輝くそれをスプーンで巻き、アインは口に入れる。 口の中に甘みと鼻を突き抜けるような爽やかな感じが広がる。徐々に身体も温かくなってきた。 「仕事上、なかなか帰れませんから本当に懐かしいです」 ノインも懐かしそうにぽつりと呟く。 「これがお前たちの住んでいた長月家の味か」 「……そうですね」 アサギの言葉に答える幽霧の声は何故か暗い。 長月家から出て、一人暮らしをしている事に後ろめたさがあるのかもしれない。 三人も暗い幽霧に何も言うことが出来なかった。 目の前が赤い。それは炎の赤であり。血の赤。そう。目の前の全てが赤に染まっていた。 赤い世界の中で逃げ惑う人の姿はない。 絶え間なき悲鳴。叫び。泣き声。恐怖。混乱。痛み。 しかし様々な音や声が不協和音として、赤き世界に響く。 炎が車内を焼いている。無理やり溶かされた内壁が奇妙な匂いをあげる。 そして周辺にはおびただしい数の死体が転がっている。そのいくつかの死体は炎に飲み込まれて、タンパク質の焦げる嫌な臭いをあげていた。 真っ赤に染まりきった世界。その中に一人の人が立っている。 その人はただ呆然と、上を見上げる 隣には墓標があった。それは死者の名が書かれた柱でも、杭でも無く、一振りの刀だった。 その墓標は人間の心臓を貫いている。貫かれた「人間」はカラカラに乾いて、黒い炭と化している。ここまで来ると「人間」ではない。ただの「モノ」だ。 墓標が刺さった「モノ」の周辺には銃の形をした機械が落ちていた。その周囲にはコードや銃弾が散らばっている。 その近くには一人の紅い女性が倒れているのを見つけた。血のように紅い髪が床に散らばり、まるで血が飛び散っているようだった。 しかし頭の辺りから流れているのはまさしく血。 幽霧はそれをどこかで見たような気がした。 上を見上げる人の背中から切なさと寂しさを感じた。 まるで、何かを強く祈るかのように。 墓標が刺さった焼死体の隣で上を見上げていた人が振り向く。 黒いインナーに黒い革ズボン。羽織るは真紅の外套。 三つ編みに編まれた白銀の長い髪。 開かれた瞼の中に収められるは鮮血を閉じ込めた様な真紅の双眸。 足元には鮮血のような真紅の魔法陣。 振り向いた人の顔に幽霧は驚く。 何故なら瞳の色が真紅に変わろうとも、それは幽霧自身だったのだから。 幽霧はベッドから跳ね起きる。 大量の汗で着ていたパジャマが肌に張り付き、いつの間にか荒い息を吐いていた。 隣ではアルフィトルテがすやすやと眠っていた。 汗を拭かずに慌てて外の方を見る幽霧。天気は晴れ。夢の中にあった紅い世界の風景が嘘のようだ。 開いた窓から入ってきた風が汗だくの幽霧を撫でる。その風が気持ち良い。 そして幽霧は自身の左手を胸に当てる。心臓は早鐘を打つようなリズムを刻む。 「はぁ……」 目の前にあるのが現実にいる事を実感し、幽霧は深い溜め息を吐く。 「はぁ……はぁ……」 何故か周囲から自身とは違う荒い吐息が聞こえてきた。 幽霧は荒い息がするほうを見る。 そこには幽霧を見ながら荒い息を吐くレンがいた。 「着衣が乱れたかすみたん……はぁはぁ……いぃぃっ!」 レンの身体が震え始める。そしていきなり青虫が蝶に脱皮する様に服を脱ぐ。 「ふるふる幽霧いただきま~す!」 全裸で幽霧に飛びかかる。 「ディバインバスター」 幽霧の目の前に虹色の閃光が通り過ぎる。 飛びかかろうとしたレンは虹色の閃光によって、開いた窓から外に放りだされる。 身体が落ちて地に叩きつけられる運命。しかしまだ迫撃は続く。 「アクセルシューター……シューっトっ!」 今度は桃色の魔弾がいくつも通り過ぎていった。 桃色の魔弾は一発残らずレンの身体に着弾する。 「おぅ! めるしぃ!」 魔弾が打ち込まれる痛みにレンは叫ぶが、妙に嬉しそうだ。 虹色と桃色の魔弾が幽霧の目の前を何十発も通り過ぎていく。 そのたびにレンが絶え間なく襲われる痛みで鳴き、同時に魔弾の威力で身体が浮く。 「其は呪いの魔弾。我はその呪いを持って我が怨敵を穿つ」 歌うように呪文が紡がれた途端、無数の紅い魔弾が出現する。 声がする方を見るとさっきまで眠っていたアルフィトルテが人差し指と中指を立て、宙に浮かされているレンに向けていた。 それと同時に無数の紅い魔弾が出現する。その数、五十以上。 使用者の感情に呼応するかのようにその魔弾は強い光を放つ。 「其は呪いの魔弾《ガンド》……ファイア」 紅い呪いが燈色の山に放たれる。その一撃でもはや光弾。もはや暴力。 それが五十発以上。まともに喰らってしまったら常人なら耐え切れるとは思えない。 「ちょっ! おまっ! すげっ! いいっ……それっ……いいっ! たまんねっ! もっとぉ……もっとだぁぁ!」 変態の領域まで達したレンの言葉に魔弾の放出が止まる。 レンは落下し、地面に叩きつけられた。数秒後には阿鼻叫喚が聞こえてきた。 「……」 幽霧は呆然としながら窓の方を見る。 ハラオウン執務官の魔法を直で喰らっても生きているような人だとはいえ、大丈夫なのだろうかと幽霧は心配になった。 「こんにちは。幽霧くん」 「おねえーちゃん。こんにちは~」 幽霧は声がした方を見る。そこには妙に清々しい顔をする高町なのは一等空尉とヴィヴィオ二等空士がいた。 「……こんにちは」 「意識不明の重体で運ばれたと言っていたから心配しちゃった。でも大丈夫みたいだね」 汗びっしょりな幽霧に笑いかけるなのは。 なのはの無邪気な笑顔に幽霧は無表情を保っているが、内心は戸惑ってしまう。 「ヴィヴィオ。ちょっと頼みたいけど……良いかな?」 「うん!」 膝を曲げる事でヴィヴィオと視線にあわせ、頼み事をするなのは。 ヴィヴィオは笑顔で頷く。 なのははポケットから小さなお財布を取り出し、ヴィヴィオに手渡す。 「ちょっとジュースを買ってきてくれないかな? 好きなものを買っても良いからね」 「うん。わかった! いこっ! アルフィトルテちゃん」 ベッドに座るアルフィトルテに歩み寄り、 廊下に足音を響かせながらヴィヴィオとアルフィトルテは自動販売機へ走って行く。 病院の廊下を走るヴィヴィオの足音を聞きながらなのはは幽霧に言う。 「汗かいてるよ……」 「ちょっと夢を見てしまったせいで寝汗をかいてしまいましたので……」 「拭いてあげるね」 なのははベッド横にあるキャビネットからタオルを取り出す。 まるでそこにタオルが入っているような感じだった。 「はいっ!?」 突然の事に幽霧は動揺する。 その間になのはは備えつきの水道から水を汲み、湿らせたタオルを絞る。 「じゃあ……脱いでくれないかな?」 そう良いながら幽霧の着ているパジャマを脱がしにかかるなのは。 「な……なのはさん!?」 かなり強引な行動に出たなのはに幽霧は抵抗する手段はなかった。 幽霧のシャツまで脱がしたなのはは露になった背中を撫でる。 「ひゃうっ!」 なのはの指の冷たさに幽霧は女の子の様な悲鳴を上げる。 「やっぱり幽霧くんって……女の子みたいだよね」 「……そうですか」 言われ慣れてしまったからか、幽霧の声は淡々としていた。 なのはは幽霧の背中を絞ったタオルで拭う。 タオルの冷たさがじんわりと身体に広がっていく。 「幽霧くんの身体……綺麗だよね。傷跡が一つもない……」 「昔から怪我の治りは早いんですよ」 なのはに背中を拭かれながら幽霧は答える。 幽霧の身体を拭うタオルが徐々にぬるくなっていく。 「そう言えば幽霧くん……」 「何ですか?」 「どんな夢を見たの……?」 なのはの問いに幽霧を言葉を少しだけ溜める。 「自身が紅い世界の中にいる夢です。様々な音や声が不協和音の様に響き、全てが紅く染まった世界」 背中を拭くなのはの手が止まる。 窓から空を見る幽霧。目の前に広がる空は青くて広い。 幽霧は青い空を見上げながら呟く。 「もしかしたら自身はあの紅い世界に帰らないと思っているのかもしれませんね」 なのはが手を止めた事に気づいた幽霧は背を向けながら言った。 「タオルを頂けないでしょうか?」 幽霧がそう言っても、なのははタオルを渡そうとしなかった。不審に思った幽霧は後ろに振り向こうとしたが、背中にかかってきた負荷にその行為は中断されてしまう。 「……なのはさん?」 幽霧の背中に抱きつくなのは。 そっと柔らかに幽霧の首に腕を絡め、消え入るような声で言った。 「少しだけ、この状態でいさせて」 「……なのは、さん」 心臓の音が聞こえた。 幽霧自身の心臓の音となのはの心臓の音。 どちらの心臓も、早鐘の様に早いリズムを刻む。 何も言えず、口も開けない。 振り向く事も出来ない。 そのまま、ただ、時間だけが過ぎ去っていく。 沈黙だけが106号室という空間を液体の様に満たしていった。 「……の……くんの……で……」 最初に口を開いたのはなのはだった。 「幽霧くんの身体は、幽霧くんの身体で……」 少しぎこちなく幽霧の髪に触れるなのは。市販のシャンプーしか使っていないと思うのに、幽霧のこげ茶色の髪は妙にサラサラだ。 「掛け替えの無いものなんだよ……もっと自分の身体を大切にしてね……」 不健康そうな幽霧の白い肌を撫でるなのは。見た目が女の子っぽいので、薄幸の美少女に見えてしまう。 なのはは幽霧の髪を撫でる。こげ茶色の髪は引っかかる事無く、綺麗に流れる。 「……お願いだから、私の様に堕ちないで……」 「……」 幽霧はなのはに返せす言葉が思い浮かばなかった。 かなり間を置いてから幽霧は答えた。 「……はい」 「ママ~!」 廊下に無邪気な子供の声と騒がしい足音が響く。 なのはは弾かれた様に幽霧の身体から離れる。 「ジュース買って来たよ!」 スライドドアが開き、ヴィヴィオとアルフィトルテが入ってくる。 「ママ……顔が赤いよ?」 頬が微かに高潮したなのはを見ながらヴィヴィオは首を傾げた。 「き……気のせいだよ……」 ヴィヴィオの指摘に動揺するなのは。 動揺するなのはを見て、ヴィヴィオは更に首を傾げた。
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●2011年7月2日~3日にかけ、一佐殿ご本人が2chの書き込みに反応を示しました。 自業自得とは… 2011-07-02 00 02 03 http //blog.goo.ne.jp/fujioka2650/d/20110702 (魚拓) http //megalodon.jp/2011-0702-0101-09/blog.goo.ne.jp/fujioka2650/d/20110702 追伸…自業自得の意味 2011-07-02 07 02 21 http //blog.goo.ne.jp/fujioka2650/e/49cba89db694b270dcc1d9166c5e96d6 (魚拓) http //megalodon.jp/2011-0702-0714-04/blog.goo.ne.jp/fujioka2650/e/49cba89db694b270dcc1d9166c5e96d6 煽り、煽られて… 2011-07-03 05 25 06 http //blog.goo.ne.jp/fujioka2650/e/ecca8e9daf7074ebb9198363485993be 書き換え前 (魚拓) http //megalodon.jp/2011-0703-0736-37/blog.goo.ne.jp/fujioka2650/e/ecca8e9daf7074ebb9198363485993be 書き換え後 (魚拓) http //megalodon.jp/2011-0703-1643-30/blog.goo.ne.jp/fujioka2650/e/ecca8e9daf7074ebb9198363485993be ●2011年7月12日、再度一佐殿ご本人が2chの書き込みに反応を示しました。 どうやら、舐めるようにスレッドを巡回し情報を得ているようです。 その割にはいちいち苦言を吐いています。 事実を知るにつれ…2011-07-12 00 36 10 http ///blog.goo.ne.jp/fujioka2650/e/0ead412800231719c3f28baae53ba4a1 (魚拓) http //megalodon.jp/2011-0712-0109-21/blog.goo.ne.jp/fujioka2650/e/0ead412800231719c3f28baae53ba4a1 正しく読み込まず批判すること如何に…2011-07-12 19 56 51 http //blog.goo.ne.jp/fujioka2650/e/ffbcdc538cceff7c1ee0319a8c2e7a16 (魚拓) http //megalodon.jp/2011-0712-2306-12/blog.goo.ne.jp/fujioka2650/e/ffbcdc538cceff7c1ee0319a8c2e7a16 正しく読み込まず批判すること如何に…その2 2011-07-12 21 32 09 http //blog.goo.ne.jp/fujioka2650/e/acb8ace5027080fa182515d0558bc161 (魚拓) http //megalodon.jp/2011-0712-2308-57/blog.goo.ne.jp/fujioka2650/e/acb8ace5027080fa182515d0558bc161 ●2011年8月9日、またまた一佐殿ご本人が2chの書き込みに反応を示しました。 今回も一度書いたエントリーを修正してまで何か言いたいようです。 一切反論したことないとか書いてます。 討論・論争と議論 2011-08-09 00 50 55 http ///blog.goo.ne.jp/fujioka2650/e/f160f1f892a2e66b5f3f328d283e11e1 書き換え前 (魚拓) http //megalodon.jp/2011-0809-0637-53/blog.goo.ne.jp/fujioka2650/e/f160f1f892a2e66b5f3f328d283e11e1 書き換え後 (魚拓) http //megalodon.jp/2011-0810-0115-16/blog.goo.ne.jp/fujioka2650/e/f160f1f892a2e66b5f3f328d283e11e1 ●2011年8月10日、どうやら楽しんでいるようですw http //twitter.com/#!/fsunrise/status/101056728862429185 @fsunrise 籠球太郎 やっぱり乗ってきましたね♪チャネラーの方… 内容も吟味せず、論点も整理せず、相手を批難 するだけの論調は相変わらずですね。さすがです。 こちらも参考に撤回の撤回の撤回の撤回 ----- 自衛官ニュース ----- 空自三沢基地の1等空尉を逮捕 児童ポルノ製造容疑 /岩手 - 毎日新聞 ローンを組みやすい「自衛官」、老後のために58.3%が「資産運用」を実施 ~自衛官103名対象「マンション経営」に関する調査実施~|不動産投資の健美家 - 健美家株式会社 「能力不足感じ自信喪失していた」夜中に駐屯地抜けだし 実家 へ…母連絡し発覚 21歳自衛官を停職処分(北海道ニュースUHB) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 頑張る理由は「元カノとヨリを戻したい」突然の電話で直談判するが...!?:CHOTeN - テレビ東京 MBCニュース | 「飲酒運転ゼロ」「被害者に支援を」長男亡くした女性の願い - 南日本放送 「性的衝動を抑えられなかった」コンビニ駐車場で下半身露出…37歳男性自衛官を 停職 女性目撃し通報(北海道ニュースUHB) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース アフガン撤退の教訓を肝に銘じよ! 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