約 481 件
https://w.atwiki.jp/yaruerisensyado/pages/38.html
※ 大洗戦車道に関する一覧表パート2。戦車道ページパート1はこちら、歩兵についてはこちらとこちら、砲兵についてはこちら、遠征部隊についてはこちら、アグレッサーについてはこちらを参照のこと ※ 12スレ目 5557時点まで反映 ※ 新入生に関するデータは整理が完了するまでこのページでの掲載を見送ります。速報版は4月新人情報纏めを利用してください ※ 現在新入生を組み合わせた新たな編成へ移行中 ※ 能力値の目安 1~99・・・G 100~199・・・F 200~299・・・E 300~399・・・D 400~499・・・C 500~599・・・B 600~699・・・A 700~799・・・A+ 800~899・・・S 900~1000・・・S+ 1001~ ・・・EX ※ 3月末までの大洗戦車道希望者 :346名(遠征部隊含む) +4月の新規大洗戦車道希望者 :784名(遠征部隊、アグレッサー含む) ※ 原作が始まりました。新年度のため、進級処理を実行 戦車道選手(在学ないし在艦)ユニコーンチーム(グルッペ=アインホルン)内山 ネズミさんチーム伊藤 バイソンチーム牛尾 名称未定 アリクイチーム琴葉茜 ねこにゃー ぴよたん ももがー ウサギさんチーム澤梓 山郷あゆみ 丸山紗希 阪口桂利奈 宇津木優季 大野あや アヒルさんチーム磯辺典子 近藤妙子 河西忍 佐々木あけび レオポンチームナカジマ スズキ ホシノ ツチヤ セミさんチーム時雨 原村和 御坂美琴 白井沙穂 ヌエさんチーム佐々木 紲星あかり 紅月カレン 白星 カモさんチーム食蜂操祈 園みどり子 後藤モヨ子 金春希美 カピバラチーム矢矧 ラケルクラウディウス 国広一 清水 及川雫 片桐 福原 茅原 モニカ・ヴァイスヴィント サメさんチーム竜巻のお銀 爆弾低気圧のラム サルガッソーのムラカミ 生しらす丼のカトラス 大波のフリント 魚住 ゾウさんチーム黒木智子 キツツキチーム高橋 名称未定 ジャガーチーム要 名称未定 ツチノコチーム 大洗戦車乗車班(古参)該当乗車班 大洗戦車乗車班(中堅)該当乗車班 黒の騎士団該当乗車班 大洗戦車乗車班(新人)該当乗車班 学園関係者(戦車道経験者)教官長門 グラーフ=ツェッペリン 宮永照 工廠関係者入即出ユーリ 明石 夕張 乗車班未定(判定スライド枠) 戦車道選手(在学ないし在艦) ユニコーンチーム(グルッペ=アインホルン) 練度 5(000/500) 保有適性 無し 搭乗車両 T95/T7E2 所属 4名 内山 学年 : 2年生? ※ ダイス次第で3年に変更の可能性有 役職 : 指揮官 / 戦車長 / 通信? 指揮 :【D】(77/100) 車長 :【C】(19/100) 備考 : 元マジノ学院戦車道の車長。2月末に転校し、参加 (合宿後、昇格モブネームド化。判定スライド枠。車長R) (10スレ目 6156にてユニコ-ンチーム車長に決定、スライド) ネズミさんチーム 練度 4(316/500) 保有適性 無し 搭乗車両 Ⅷ号戦車・マウス 所属 6名 伊藤 学年 : 2年生? ※ ダイス次第で3年に変更の可能性有 役職 : 指揮官 / 戦車長 指揮 :【C】(18/100) 車長 :【E】(75/100) 備考 : (合宿後、昇格モブネームド化。判定スライド枠。操縦R→振り直し、車長R) (10スレ目 6156にてネズミさんチーム車長に決定、スライド) バイソンチーム 練度 4(358/500) 保有適性 無し 搭乗車両 M6A2E1 所属 5名 牛尾 学年 : 2年生? ※ ダイス次第で3年に変更の可能性有 役職 : 指揮官 / 車長 指揮 :【B】(51/100) 車長 :【B】(70/100) 備考 : (合宿後、昇格ネームド化。判定スライド枠。遠征R1) (10スレ目 6156にてバイソンチーム車長に決定、スライド) 名称未定 学年 : 2年生? ※ ダイス次第で3年に変更の可能性有 役職 : 役職未定 砲手 :【G】(52/100) 装填 :【G】(10/100) 操縦 :【G】(65/100) 通信 :【G】(71/100) 備考 : (4月ボンプルタンカスロン戦後、昇格ネームド化。) アリクイチーム 練度 4(252/300) ※練度限界突破権獲得 保有適性 無し 搭乗車両 Ⅴ号戦車 ティーガー(旭日) 所属 4名 琴葉茜 学年 : 1年生 役職 : 指揮官 / 車長 / 砲手 指揮 :【A+】(38/100) 車長 :【A+】(14/100) 砲手 :【A+】(68/100) 操縦 :【A+】(38/100) 装填 :【F】(42/100) 通信 :【F】(38/100) オーダー :詳細不明 備考 : 4月入学。英国からの留学生。4月新人勧誘により参加。チームの他メンバーともゲームで交流アリ ねこにゃー 学年 : 2年生 役職 : 通信手 指揮 :【F】(27/100) 車長 :【F】(83/100) 砲手 :【G】(91/100) 操縦 :【F】(22/100) 装填 :【F】(27/100) 通信 :【A】(10/100) 備考 :原作アリクイチーム戦車長・通信手とリーダー。4月新人勧誘により参加 ぴよたん 学年 : 3年生 役職 : 装填手 指揮 :【F】(47/100) 車長 :【E】(15/100) 砲手 :【E】(52/100) 操縦 :【E】(53/100) 装填 :【A】(75/100) 通信 :【F】(63/100) 備考 :原作アリクイチーム砲手・装填手。4月新人勧誘により参加 ももがー 学年 : 1年生 役職 : 操縦手 指揮 :【F】(21/100) 車長 :【G】(83/100) 砲手 :【F】(93/100) 操縦 :【A】(78/100) 装填 :【E】(12/100) 通信 :【F】(68/100) 備考 :原作アリクイチーム操縦手。4月新人勧誘により参加 ウサギさんチーム 練度 4(199/500) ※練度限界突破権獲得 保有適性 無し?(原作チーム一致補正?) 搭乗車両 ヴルカン 所属 6名 澤梓 学年 : 1年生 役職 : 指揮官 / 車長 指揮 :【A】(80/100) 車長 :【A+】(66/100) 砲手 :【F】(9/100) 操縦 :【F】(67/100) 装填 :【F】(43/100) 通信 :【F】(64/100) 備考 :原作ウサギさんチーム戦車長でリーダー。4月新人勧誘により参加 山郷あゆみ 学年 : 1年生 役職 : 主砲砲手 指揮 :【E】(58/100) 車長 :【E】(78/100) 砲手 :【S】(25/100) 操縦 :【D】(12/100) 装填 :【E】(21/100) 通信 :【F】(59/100) 備考 : 原作ウサギさんチーム主砲砲手。4月新人勧誘により参加 丸山紗希 学年 : 1年生 役職 : 装填手 指揮 :【G】(76/100) 車長 :【E】(15/100) 砲手 :【F】(92/100) 操縦 :【E】(1/100) 装填 :【A】(34/100) 通信 :【E】(14/100) 備考 :原作ウサギさんチーム装填手。4月新人勧誘により参加 阪口桂利奈 学年 : 1年生 役職 : 操縦手 指揮 :【F】(33/100) 車長 :【F】(83/100) 砲手 :【F】(89/100) 操縦 :【A】(93/100) 装填 :【F】(68/100) 通信 :【E】(10/100) 備考 :原作ウサギさんチーム操縦手。4月新人勧誘により参加 宇津木優季 学年 : 1年生 役職 : 通信手 / 装填助手 指揮 :【E】(83/100) 車長 :【F】(27/100) 砲手 :【E】(54/100) 操縦 :【F】(17/100) 装填 :【A+】(94/100) 通信 :【A+】(1/100) 備考 :原作ウサギさんチーム通信手。4月新人勧誘により参加 大野あや 学年 : 1年生 役職 : 機関砲手 指揮 :【F】(40/100) 車長 :【F】(86/100) 砲手 :【A+】(38/100) 操縦 :【F】(91/100) 装填 :【G】(91/100) 通信 :【F】(89/100) 備考 :原作ウサギさんチーム副砲砲手。4月新人勧誘により参加 アヒルさんチーム 練度 4(335/500) ※練度限界突破権獲得 保有適性 無し?(原作チーム一致補正?) 搭乗車両 T-54 所属 4名 磯辺典子 学年 : 2年生 役職 : 指揮官 / 車長 / 装填手 指揮 :【B】(21/100) 車長 :【S+】(26/100) 砲手 :【F】(7/100) 操縦 :【F】(48/100) 装填 :【A】(97/100) 通信 :【F】(52/100) 備考 :原作アヒルさんチーム車長兼装填手。4月新人勧誘により参加 近藤妙子 学年 : 1年生 役職 : 通信手 指揮 :【E】(24/100) 車長 :【F】(76/100) 砲手 :【F】(66/100) 操縦 :【F】(73/100) 装填 :【F】(97/100) 通信 :【S】(76/100) 備考 :原作アヒルさんチーム通信手。4月新人勧誘により参加 河西忍 学年 : 1年生 役職 : 操縦手 指揮 :【E】(49/100) 車長 :【F】(71/100) 砲手 :【E】(25/100) 操縦 :【A】(58/100) 装填 :【F】(72/100) 通信 :【F】(98/100) 備考 :原作アヒルさんチーム操縦手。4月新人勧誘により参加 佐々木あけび 学年 : 1年生 役職 : 砲手 指揮 :【G】(45/100) 車長 :【F】(41/100) 砲手 :【S】(51/100) 操縦 :【G】(95/100) 装填 :【F】(20/100) 通信 :【F】(8/100) 備考 :原作アヒルさんチーム砲手。4月新人勧誘により参加 レオポンチーム 練度 4(113/500) 保有適性 無し?(原作チーム一致補正?) 搭乗車両 センチュリオン 所属 4名 ナカジマ 学年 : 3年生 役職 : 指揮官 / 車長 / 通信手 指揮 :【A】(81/100) 車長 :【A+】(55/100) 砲手 :【F】(92/100) 操縦 :【F】(20/100) 装填 :【F】(74/100) 通信 :【B】(86/100) 備考 :オーダー適性 原作レオポンチーム戦車長・通信手とリーダー。以前から大洗車両の整備を行っていたが4月から戦車乗員に参加 スズキ 学年 : 3年生 役職 : 装填手 指揮 :【F】(56/100) 車長 :【E】(0/100) 砲手 :【F】(39/100) 操縦 :【F】(91/100) 装填 :【A】(79/100) 通信 :【G】(92/100) 備考 :原作レオポンチーム装填手。以前から大洗車両の整備を行っていたが4月から戦車乗員に参加 ホシノ 学年 : 3年生 役職 : 砲手 指揮 :【E】(72/100) 車長 :【E】(66/100) 砲手 :【A+】(54/100) 操縦 :【F】(66/100) 装填 :【E】(26/100) 通信 :【F】(93/100) 備考 :原作レオポンチーム砲手。以前から大洗車両の整備を行っていたが4月から戦車乗員に参加 ツチヤ 学年 : 2年生 役職 : 操縦手 指揮 :【F】(0/100) 車長 :【F】(79/100) 砲手 :【F】(29/100) 操縦 :【A】(11/100) 装填 :【G】(81/100) 通信 :【G】(75/100) 備考 :原作レオポンチーム操縦手。以前から大洗車両の整備を行っていたが4月から戦車乗員に参加 セミさんチーム 練度 4(243/500) 保有適性 無し 搭乗車両 ゲイレルル 所属 4名 時雨 学年 : 1年生 役職 : 指揮官 / 車長 / 通信手 指揮 :【A+】(53/100) 車長 :【S】(43/100) 砲手 :【D】(81/100) 操縦 :【D】(80/100) 装填 :【E】(20/100) 通信 :【A】(71/100) 特能 : ヘルシング流 オーダー : 詳細不明 備考 : 4月入学、全日本U-15代表選手。ヘルシング流門下生 原村和 学年 : 1年生 役職 : 砲手 指揮 :【F】(58/100) 車長 :【F】(24/100) 砲手 :【A】(45/100) 操縦 :【F】(69/100) 装填 :【G】(97/100) 通信 :【F】(53/100) 備考 : 4月新人勧誘により参加 御坂美琴 学年 : 1年生 役職 : 操縦手 指揮 :【F】(38/100) 車長 :【F】(74/100) 砲手 :【F】(95/100) 操縦 :【A+】(17/100) 装填 :【G】(51/100) 通信 :【F】(93/100) 備考 : 4月新人勧誘により参加 白井沙穂 学年 : 1年生 役職 : 未定 指揮 :【G】(89/100) 車長 :【G】(71/100) 砲手 :【G】(89/100) 操縦 :【F】(39/100) 装填 :【A+】(98/100) 通信 :【F】(51/100) 備考 : 4月新人勧誘により参加 ヌエさんチーム 練度 4(115/500) 保有適性 無し 搭乗車両 50TP 所属 4名 佐々木 学年 : 1年生 役職 : 指揮官 / 車長 / 砲手 指揮 :【A+】(73/100) 車長 :【B】(64/100) 砲手 :【A+】(86/100) 操縦 :【E】(97/100) 装填 :【E】(59/100) 通信 :【E】(73/100) オーダー : 詳細不明 備考 : 4月入学、全日本U-15代表選手 紲星あかり 学年 : 1年生 役職 : 操縦手 操縦 :【A】(26/100) 備考 : 4月新人勧誘により参加 (8スレ目 711にて内定。後にスライド枠に移動、及び能力と学年決定) (10スレ目 6156にてヌエさんチーム操縦手に決定、配属された新人モブへスライド) 紅月カレン 学年 : 1年生 役職 : 装填手 指揮 :【F】(54/100) 車長 :【F】(90/100) 砲手 :【F】(84/100) 操縦 :【F】(58/100) 装填 :【B】(75/100) 通信 :【F】(67/100) 備考 : 4月新人勧誘により参加 白星 学年 : 1年生 役職 : 通信手 指揮 :【G】(38/100) 車長 :【G】(46/100) 砲手 :【G】(58/100) 操縦 :【G】(15/100) 装填 :【G】(10/100) 通信 :【A】(42/100) 備考 :1月パレードの影響で大洗入学を決めた戦車道経験者・単独のネームド(新入生J) カモさんチーム 練度 4(193/500) 保有適性 無し 搭乗車両 T-10 所属 4名 食蜂操祈 学年 : 1年生 役職 : 指揮官 / 車長 / 通信手 指揮 :【A+】(54/100) 車長 :【A】(91/100) 砲手 :【E】(96/100) 操縦 :【D】(70/100) 装填 :【D】(91/100) 通信 :【A】(96/100) オーダー : 詳細不明 備考 : 4月新人勧誘により参加 園みどり子 学年 : 3年生 役職 : 砲手 指揮 :【F】(5/100) 車長 :【E】(22/100) 砲手 :【A】(17/100) 操縦 :【F】(10/100) 装填 :【E】(45/100) 通信 :【G】(90/100) 備考 :原作カモさんチーム戦車長・副砲砲手・装填手とリーダー。4月から参加 後藤モヨ子 学年 : 2年生 役職 : 操縦手 指揮 :【G】(52/100) 車長 :【F】(78/100) 砲手 :【F】(81/100) 操縦 :【S】(10/100) 装填 :【F】(35/100) 通信 :【F】(71/100) 備考 :原作カモさんチーム操縦手。4月から参加 金春希美 学年 : 2年生 役職 : 装填手 指揮 :【F】(6/100) 車長 :【E】(2/100) 砲手 :【E】(23/100) 操縦 :【G】(88/100) 装填 :【A+】(12/100) 通信 :【F】(78/100) 備考 :原作カモさんチーム主砲砲手・装填手。4月から参加 カピバラチーム 練度 4(171/500) 保有適性 無し 搭乗車両 ゲルビル 所属 30名 矢矧 学年 : 1年生 役職 : 指揮官 指揮 :【A】(56/100) 車長 :【G】(66/100) 砲手 :【E】(32/100) 操縦 :【F】(25/100) 装填 :【F】(95/100) 通信 :【F】(62/100) オーダー : 詳細不明 備考 : 4月新人勧誘により参加 ラケルクラウディウス 学年 : 1年生 役職 : 操縦手 指揮 :【F】(19/100) 車長 :【S】(43/100) 砲手 :【F】(31/100) 操縦 :【A+】(47/100) 装填 :【F】(16/100) 通信 :【E】(14/100) 備考 : 4月新人勧誘により参加 国広一 学年 : 1年生 役職 : 主砲手 指揮 :【G】(67/100) 車長 :【G】(50/100) 砲手 :【B】(7/100) 操縦 :【G】(61/100) 装填 :【G】(85/100) 通信 :【G】(69/100) 備考 : 4月新人勧誘により参加(4月紅白戦にてAA付きネームド化。判定スライド枠。) (11スレ目 8946にてカピバラチーム主砲手に決定、スライド) 清水 学年 : 1年生 役職 : 前副砲手 指揮 :【G】(81/100) 車長 :【F】(71/100) 砲手 :【B】(25/100) 操縦 :【F】(0/100) 装填 :【G】(71/100) 通信 :【F】(3/100) 備考 : 4月新人勧誘により参加(4月紅白戦後、昇格ネームド化。判定スライド枠。戦車SR7) (11スレ目 8946にてカピバラチーム前副砲手に決定、スライド) 及川雫 学年 : 1年生 役職 : 主砲装填手 指揮 :【F】(16/100) 車長 :【G】(79/100) 砲手 :【F】(60/100) 操縦 :【F】(35/100) 装填 :【A】(61/100) 通信 :【F】(16/100) 備考 : 4月新人勧誘により参加 片桐 学年 : 1年生 役職 : 主砲装填手 指揮 :【G】(19/100) 車長 :【G】(9/100) 砲手 :【G】(2/100) 操縦 :【G】(17/100) 装填 :【A+】(20/100) 通信 :【G】(1/100) 備考 :1月パレードの影響で大洗入学を決めた戦車道経験者・単独のネームド(新入生K) 福原 学年 : 1年生 役職 : 副砲装填手 指揮 :【G】(34/100) 車長 :【G】(64/100) 砲手 :【G】(59/100) 操縦 :【G】(91/100) 装填 :【B】(14/100) 通信 :【G】(90/100) 備考 : 4月新人勧誘により参加(4月紅白戦後、昇格ネームド化。判定スライド枠。戦車R7) (11スレ目 8946にてカピバラチーム副砲装填手に決定、スライド) 茅原 学年 : 1年生 役職 : 副砲装填手 指揮 :【G】(28/100) 車長 :【G】(98/100) 砲手 :【G】(29/100) 操縦 :【G】(75/100) 装填 :【C】(68/100) 通信 :【G】(81/100) 備考 : 4月新人勧誘により参加(4月紅白戦後、昇格ネームド化。判定スライド枠。戦車R11) (11スレ目 8946にてカピバラチーム副砲装填手に決定、スライド) モニカ・ヴァイスヴィント 学年 : 1年生 役職 : 通信手 指揮 :【G】(39/100) 車長 :【G】(17/100) 砲手 :【G】(85/100) 操縦 :【G】(24/100) 装填 :【G】(49/100) 通信 :【A】(13/100) 備考 : 4月新人勧誘により参加(4月紅白戦にてAA付きネームド化。判定スライド枠。) (11スレ目 8946にてカピバラチーム通信手に決定、スライド) サメさんチーム 練度 4(253/500) 保有適性 無し?(原作チーム一致補正?) 練度限界突破権取得済み 搭乗車両 ゼートイフェル 所属 22名 竜巻のお銀 学年 : 2年生 役職 : 指揮官 / 車長 指揮 :【A】(95/100) 車長 :【A】(62/100) 砲手 :【E】(23/100) 操縦 :【F】(5/100) 装填 :【E】(21/100) 通信 :【G】(68/100) 備考 :原作サメさんチーム戦車長とリーダー。4月最下層制圧戦後に参加 爆弾低気圧のラム 学年 : 2年生 役職 : 主操縦手 指揮 :【G】(72/100) 車長 :【F】(86/100) 砲手 :【E】(53/100) 操縦 :【A+】(21/100) 装填 :【F】(74/100) 通信 :【F】(35/100) 備考 :原作サメさんチーム操縦手(フリントと二人で)。4月最下層制圧戦後に参加 サルガッソーのムラカミ 学年 : 2年生 役職 : 後砲手 指揮 :【F】(83/100) 車長 :【G】(43/100) 砲手 :【A】(50/100) 操縦 :【E】(20/100) 装填 :【F】(24/100) 通信 :【E】(59/100) 備考 :原作サメさんチーム砲手。4月最下層制圧戦後に参加 生しらす丼のカトラス 学年 : 2年生 役職 : 主砲手 指揮 :【F】(48/100) 車長 :【F】(4/100) 砲手 :【A+】(19/100) 操縦 :【E】(50/100) 装填 :【F】(1/100) 通信 :【F】(37/100) 備考 :原作サメさんチーム砲手。4月最下層制圧戦後に参加 大波のフリント 学年 : 2年生 役職 : 副操縦手兼通信手 指揮 :【F】(44/100) 車長 :【E】(31/100) 砲手 :【F】(66/100) 操縦 :【A+】(90/100) 装填 :【F】(94/100) 通信 :【A+】(79/100) 備考 :原作サメさんチーム操縦手(ラムと二人で)兼通信手。4月最下層制圧戦後に参加 魚住 学年 : 1年生 役職 : 装填手 指揮 :【G】(43/100) 車長 :【F】(58/100) 砲手 :【G】(48/100) 操縦 :【F】(59/100) 装填 :【A+】(90/100) 通信 :【F】(4/100) 備考 : 4月新人勧誘により参加。SRの新人勧誘戦車道女子 ゾウさんチーム 練度 4(104/500) 保有適性 無し 搭乗車両 エレファント 所属 6名 黒木智子 学年 : 1年生 役職 : 装填手 指揮 :【F】(15/100) 車長 :【F】(33/100) 砲手 :【F】(31/100) 操縦 :【F】(7/100) 装填 :【B】(82/100) 通信 :【G】(46/100) 備考 : 1月パレードの影響で大洗入学を決め班ごと参加した戦車道経験者のネームド キツツキチーム 練度 4(206/500) 保有適性 無し 搭乗車両 シュコダT50 所属 4名 高橋 学年 : 1年生 役職 : 装填手 指揮 :【G】(17/100) 車長 :【G】(95/100) 砲手 :【G】(8/100) 操縦 :【G】(29/100) 装填 :【A】(63/100) 通信 :【G】(39/100) 備考 : 1月パレードの影響で大洗入学を決め班ごと参加した戦車道経験者のネームド(新入生G) 名称未定 学年 : 1年生 役職 : 役職未定 指揮 :【G】(60/100) 車長 :【G】(86/100) 砲手 :【G】(14/100) 操縦 :【G】(61/100) 通信 :【G】(71/100) 備考 : 1月パレードの影響で大洗入学を決め班ごと参加(4月ボンプルタンカスロン戦後、昇格ネームド化。) ジャガーチーム 練度 4(488/500) 保有適性 無し 搭乗車両 P44パンテーラ 所属 4名 要 学年 : 1年生 役職 : 操縦手 指揮 :【G】(30/100) 車長 :【G】(56/100) 砲手 :【G】(94/100) 操縦 :【B】(65/100) 装填 :【G】(56/100) 通信 :【G】(27/100) 備考 :1月パレードの影響で大洗入学を決め班ごと参加した戦車道経験者のネームド(新入生H) 名称未定 学年 : 1年生 役職 : 役職未定 指揮:【G】(36/100) 車長:【G】(90/100) 砲手:【G】(64/100) 装填:【G】(29/100) 通信:【F】(0/100) 備考 : 1月パレードの影響で大洗入学を決め班ごと参加(4月ボンプルタンカスロン戦後、昇格ネームド化。) ツチノコチーム 練度 4(378/500) 保有適性 無し 搭乗車両 45TP 所属 4名 備考 :1月パレードの影響で大洗入学を決め班ごと参加した戦車道経験者達 大洗戦車乗車班(古参) 練度 5(000/500) 該当乗車班 シュトゥルムティーガー(5/5) ヤークトティーガー(6/6) T-34/88(5/5) 大洗戦車乗車班(中堅) 練度 4(437/500) 該当乗車班 Ⅳ号戦車S型(5/5) 五式重戦車(6/6) ヤークトティーガーB(6/6) IS-3-100(4/4) T43E1重戦車(5/5) カーメル(7/7) 黒の騎士団 練度 4(452/500) 該当乗車班 コメット(5/5) 三式中戦車(旭日)(5/5) 一式中戦車改二(RSBC)(5/5) 大洗戦車乗車班(新人) 練度 4(153/500) 該当乗車班 五式砲戦車 ホリ(6/6) M26(5/5) P43ter(4/4) クロムウェル(5/5) T-44(4/4) Ⅳ号戦車H型(5/5) 学園関係者(戦車道経験者) 教官 長門 役職 : 大洗学園戦車道ヘッドコーチ 特能 : 市街戦教導-月に一度、部隊に市街戦適性教育を行える 備考 : 元PMCs社員。かつてはアンツィオ高校副隊長であり、陸防軍機甲科二等陸曹。北米戦線での従軍経験有り グラーフ=ツェッペリン 役職 : 大洗学園戦車道コーチ 特能 : 突撃部隊教導-月に一度、部隊に突撃部隊適性教育を行える 備考 : 元ドイツプロ戦車道チームコーチ 宮永照 役職 : 大洗学園コーチ 特能 : 獲得経験値アップ? 備考 :咲の姉 工廠関係者 入即出ユーリ 役職 : 大洗学園工廠主任技術者 指揮 :【-】(--/---) 車長 :【G】(77/100) ※旧基準 砲手 :【G】(43/100) ※旧基準 操縦 :【G】(79/100) ※旧基準 装填 :【G】(7/100) ※旧基準 通信 :【G】(74/100) ※旧基準 整備 : 132 備考 : 入即出家長女。地元の整備工場から出向中。春よ来い 明石 役職 : 大洗学園工廠技術者 備考 : ラインメタル社からの出向 夕張 役職 : 大洗学園工廠技術者 備考 : ヴィッカース社からの出向 乗車班未定(判定スライド枠) 戦車R1 学年:1年生? ※ スライド次第で変更の可能性有 役職:未定 指揮:53 車長:38 砲手:19 装填:82 操縦:71 通信:29 備考:4月紅白戦にてネームド化 戦車R2 学年:1年生? ※ スライド次第で変更の可能性有 役職:未定 指揮:21 車長:29 砲手:29 装填:40 操縦:26 通信:60 備考:4月紅白戦にてネームド化 戦車R3 学年:1年生? ※ スライド次第で変更の可能性有 役職:未定 指揮:4 車長:39 砲手:89 装填:50 操縦:9 通信:12 備考:4月紅白戦にてネームド化 戦車R4 学年:1年生? ※ スライド次第で変更の可能性有 役職:未定 指揮:8 車長:80 砲手:65 装填:6 操縦:60 通信:42 備考:4月紅白戦にてネームド化 戦車R5 学年:1年生? ※ スライド次第で変更の可能性有 役職:未定 指揮:26 車長:5 砲手:61 装填:24 操縦:7 通信:34 備考:4月紅白戦にてネームド化 戦車R6 学年:1年生? ※ スライド次第で変更の可能性有 役職:未定 指揮:84 車長67 砲手:54 装填:35 操縦:43 通信:82 備考:4月紅白戦にてネームド化 戦車R10 学年:1年生? ※ スライド次第で変更の可能性有 役職:未定 指揮:93 車長:91 砲手:17 装填:100 操縦:72 通信:60 備考:4月紅白戦にてネームド化 戦車R13 学年:1年生? ※ スライド次第で変更の可能性有 役職:未定 指揮:30 車長:94 砲手:35 装填:68 操縦:54 通信:16 備考:4月紅白戦にてネームド化 戦車R14 学年:1年生? ※ スライド次第で変更の可能性有 役職:未定 指揮:17 車長:68 砲手:50 装填:2 操縦:87 通信:89 備考:4月紅白戦にてネームド化 戦車R15 学年:1年生? ※ スライド次第で変更の可能性有 役職:未定 指揮:【G】(98/100) 車長:【G】(26/100) 砲手:【G】(46/100) 操縦:【G】(13/100) 装填:【G】(52/100) 通信:【G】(73/100) 備考:4月ボンプルタンカスロン戦にてネームド化 戦車R16 学年:1年生? ※ スライド次第で変更の可能性有 役職:未定 指揮:【G】(51/100) 車長:【G】(95/100) 砲手:【G】(9/100) 操縦:【F】(76/100) ※ゾロ目倍適用済み 装填:【G】(5/100) 通信:【G】(36/100) 備考:4月ボンプルタンカスロン戦にてネームド化 戦車SR2 学年:1年生? ※ スライド次第で変更の可能性有 役職:未定 指揮:126 車長:117 砲手:69 装填:74 操縦:69 通信:171 備考:4月紅白戦にてネームド化 戦車SR3 学年:1年生? ※ スライド次第で変更の可能性有 役職:未定 指揮:47 車長:50 砲手:43 装填:39 操縦:65 通信:110 備考:4月紅白戦にてネームド化 戦車SR5 学年:1年生? ※ スライド次第で変更の可能性有 役職:未定 指揮:72 車長:133 砲手:93 装填:62 操縦:119 通信:74 備考:4月紅白戦にてネームド化 戦車SR11 学年:1年生? ※ スライド次第で変更の可能性有 役職:未定 指揮:142 車長:152 砲手:109 装填:80 操縦:82 通信:118 備考:4月紅白戦にてネームド化 戦車SR12 学年:1年生? ※ スライド次第で変更の可能性有 役職:未定 指揮:【G】(84/100) 車長:【F】(72/100) 砲手:【F】(72/100) 操縦:【F】(4/100) 装填:【G】(93/100) 通信:【F】(32/100) ※ゾロ目倍適用済み 備考:4月ボンプルタンカスロン戦にてネームド化 戦車SR13 学年:1年生? ※ スライド次第で変更の可能性有 役職:未定 指揮:【F】(1/100) 車長:【G】(97/100) 砲手:【F】(44/100) 操縦:【F】(7/100) 装填:【G】(90/100) 通信:【F】(13/100) 備考:4月ボンプルタンカスロン戦にてネームド化 戦車UR1 学年:1年生? ※ スライド次第で変更の可能性有 役職:未定 指揮:【E】(71/100) 車長:【F】(65/100) 砲手:【F】(8/100) 操縦:【F】(87/100) 装填:【F】(34/100) 通信:【E】(69/100) オーダー : 詳細不明(汎用オーダー?) 備考:4月ボンプルタンカスロン戦にてネームド化 鷹富士茄子 学年:1年生? ※ スライド次第で変更の可能性有 役職:未定 指揮:156 車長:147 砲手:163 装填:140 操縦:185 通信:194 備考:4月紅白戦にてAA付きネームド化 涼宮ハルヒ 学年:1年生 役職:車長 ※ 配置チーム未定 指揮:140 車長:251 備考:4月入学・マルセイユの元タンカスロンでのチームメイト
https://w.atwiki.jp/sousakurobo/pages/248.html
鋼鐵の特攻兵―Gun Strike Girles― 南太平洋上。 日差しは強く、吹き付ける風は熱気を孕んでいる。 私は、此処に来るべきじゃなかったんだ!――御前静(おんまえしずか)は目の前に聳え立つ 真新しい隊舎を見上げ、官品の大きなOD色の衣嚢を足元に置いた。 自分が酷く場違いな気がして、まだ十六歳の内向的な少女は途方に暮れてしまった。身を包む 少女工科学校の暗緑色の制服はこの南洋には似つかわしくない。青空と白い雲、潮風は東京湾に 面した武山駐屯地を彷彿とさせ、何処か懐かしくも思えるが此処はもう日本ではない。此処は様々な 国から集まった外国人ばかりで、この制服がかなり浮いてしまっている。本来ならばJDFの制服を 日本にいる間に支給される筈だったのだが、何故か届かず、結局この制服で此処までやって来た。 だが何時までも逡巡している訳にもいかず、静は意を決すると衣嚢を手に隊舎の扉を潜った。 隊舎に入った瞬間、静は驚いた。あまりにも清潔だったのだ。リノリウムの床はまるで磨き 上げられた鏡面の様で、少女工科学校では毎週末にポリッシャーをかけるのだがここまで綺麗に なる事は無かった。隅々まで掃除が行き届いているようで文字通り塵一つ落ちていない。隊舎内に 漂う空気は肌寒いくらいにひんやりと冷たく、何故か新車の臭いと消毒臭の混ざった臭いがした。 綺麗過ぎる隊舎の床を歩くのは少し気が引けたが、静は示された教場を目指して足を踏み出した。 その一歩が静寂な隊舎内に予想以上に響いて驚いた。静は足音を抑えようと思い、そろりと歩いた。 隊舎内を進む間に、静は拭い去り難い違和感が胸中に芽生えるのを抑えられなかった。確かにこの 隊舎は清潔だ。しかしそれはあまりにも不自然過ぎた。大勢の人間が生活している場所なのに 生活感が全く感じられなかったのだ。まるで人形が住んでいるかのように。 やがて静の率直な感想は遠からず当たった。静が歩いていると部屋の一つから突然何かがぬっと現れ、 咄嗟の出来事だったので反応できずにそのままぶつかってしまった。その衝撃で静は思わず尻餅をついた。 「いったぁ~…」 思い切りぶつけた鼻を押さえて静はその場に蹲った。ぶつかった何かは鉄の様に固かったのだ。 <大丈夫か?> 頭上から誰かが心配そうな声を掛けてきた。ぶつかった何かはどうやら人の様だが、妙に 声がくぐもっている様な気がした。 「へ、平気でふ…」 赤くなった鼻を押さえながら涙目で静は顔を上げた。その瞬間、痛みなど忘れてしまった。 静がぶつかった相手は、人間ではなかった。正確に言えば人間ではあるがおよそ人間らしさが これっぽっちも見当たらない無い存在だった。有機物と無機物の割合に換算すると、 ほぼ無機物と言っても差し支えがない。 <平気と言ってる割にはかなり痛がってるじゃないか。手を貸そう> 差し出された手は平均的な成人男性を遥かに凌ぐ大きさだった。しかし問題なのは手の大きさではない。 ゴムの様な感を持つ、艶消しの黒の人工皮膚に覆われていたのだ。爪の代わりに指先上部には 金属のカバーが嵌められている。手の甲には工業製品によくある、ロット番号が刻印されていた。 人間らしくないのはなにも手だけではない。その人工的な手の持ち主の顔には耳も鼻も口も無かった。 人間の頭骨を模して造られた鈍い金属色の特殊複合装甲製頭骨ユニットはのっぺりとしており、 人間らしさは欠片も見当たらない。尤も、のっぺらぼうとの相違点は、人間で言えば目がある場所に 複眼(デュアルアイ)式の複合光学センサー、メンテナンス用パネルの僅かな凹凸、外部情報端末などの 周辺機器に対応した細かな出入力端子の接続口が其処彼処にあるぐらいだが。 「あ、あの、えと…」 静はどうすればいいのか分からなかった。初めてなのだ。全加工人(フルプラセス)と呼ばれる 全身サイボーグを間近に見るのが。しかも生身の人間では有り得ないような重装備姿だ。 分厚い金属製装甲プロテクターの上から武器と弾薬を可能な限り収納したタクティカルベストや 大容量のポーチが幾つも付いたベルトを身に付け、とても人間には扱えそうにない大きな小銃と 狙撃銃をスリングベルトでそれぞれを身体の前後に吊り下げていた。右の太股に装着している レッグホルスターに収まった大口径拳銃は、一発で象をも撃ち殺せそうなほど巨大だ。 静はそれなりに鍛えていたが、その鉄塊の如き代物は到底ではないが生身には扱えないだろう。 しかし何時までも尻餅をついたまましどろもどろとしている訳にもいかず、静は恐る恐る 差し出された手を掴んだ。フルプラセスの掌は見た目よりもザラザラとしていて、冷たかった。 滑り止めの特殊加工が施されているのだろう。そして予想以上に強い力で引っ張り上げられた。 全く静の体重など意に介していない様子だ。 <なんだ。お嬢さん、フルプラセスを見るのは初めてという顔をしているな> その重装備のフルプラセスは静を引っ張り上げると、2m以上もある長身を折って彼女の顔を 覗き込みながら言った。ずいと間近に迫った無機質な顔に静は思わずたじろいだ。 <ハハハハ。なにも取って喰おうなんてしないさ。何故なら、俺達には口が無いからな。なぁみんな!> そうだそうだ、といつの間にかそのフルプラセスによく似た重装備姿のフルプラセスが 何人か集まっていた。皆、一様に見上げるほどの長身と鈍い金属色の頭部を持っていた。 彼らが身じろぎする度に、全身に身に付けた武器弾薬がガチャガチャと音を立てた。車両に 搭載する重機関銃や多連装ロケットランチャー、重対戦車誘導弾、大口径無反動砲などを 背負った彼らは、たった数人で軍隊を相手にでもしようというのだろうか。 静は肉食獣の群れに囲まれた小動物の様に縮こまってしまった。全くの初対面の彼らは、 とても気さくな感じでいい人そうなのだが、如何せんフルプラセスは得体が知れなくて不気味なのだ。 それに何故か彼らからは新車の匂いと消毒臭が混ざった微妙な臭いがして、胸がムカムカする。 <ところで、お嬢さんは見る限り此処の者じゃなさそうだな> 静とぶつかったフルプラセスが、彼女がJDFとは違う制服を着ているのに気が付いた。 「私は日本の少女工科学校から出向して此処に来ました」 <少女工科学校?> 「えーと、日本国防軍の中にある女子校みたいなものです」 <軍幼年学校みたいなものか…ふむ、データベースを検索してみたが、お嬢さんの階級章はSGT(三等軍曹)か。 若いのにここいらの連中と変わらないとは凄いな> 少女工科学校は四年制の日本国防軍直轄の教育機関であり、各職種に必要とされる特殊技能を 身につけた生徒は卒業と同時に三等陸曹に任命され、部隊の中核として重要な戦力になる事を期待される。 静は卒業と同時にJDFへの出向を命じられ、今は日本を遠く離れて南洋上にいた。 <それで出向という事は、お嬢さんは新設される例の部隊に配属されるという訳だな。よし分かった。 お前らは先に訓練場へ行け。俺はお嬢さんをそこへ案内する> そのフルプラセスが静の返事を待たずに彼女の荷物を手に取ると、先に立ってずんずんと歩き出した。 静は、武器弾薬を満載した大きな背中が遠ざかるのを、一瞬きょとんとした表情で見送ってしまったが、 我に返ると慌てて追い掛けた。 「そんな悪いですよ!初対面なのにそこまでしてくれなくても…」 本心ではこのフルプラセスからさっさと離れたかったがその願いは叶いそうに無い。彼に悪気はないの だろうが、フルプラセスはどうにも苦手だった。独特の臭いがなんとも好きになれそうにない。 <そんな事ぐらい気にするなよ> 追い付いてもフルプラセスの歩幅は静よりもずっと大きく、彼がゆっくり歩いているつもりでも 静は早歩きでなければとついていけなかった。階段に差し掛かるとそれは顕著に現れた。 <そういえば名前を聞いていなかったな> 階段を五段飛ばしでひょいひょいと上がる途中、フルプラセスがそう尋ねた。 「御前静です…階級は、三曹、です……」 体力には自信があった静だが、疲れを知らないフルプラセスのペースには流石に付いていけなかった。 息も絶え絶えにそう応えるのが精一杯だった。 <ギャレンタイン・ハーディライクだ。年齢は四捨五入すると四十だ。階級はMCPO(最先任上級兵曹長。マスターチーフとも)。 皆からはハーディと呼ばれているが好きに呼んでくれて構わない> やがて目的の階に到着したギャレンタインは大股で先に進んでしまった。静は置いてかれまいと 健気な仔犬の様に息を切らせて後を追う。 <この教場がそうだな。取り敢えず中に入って中隊長が来るまで待っていろ。何人か先に着隊しているらしいから、 今のうちに打ち解けるのもいいかもな> 「わ、分かりました…」 息を切らせながら静は簡単に身形を整え、呼吸を落ち着かせた。 <それじゃあ、入るか> 静の準備が整ったのを確認してからギャレンタインは教場の扉を開け、長身を少し屈めて中に入った。 静も彼の後に続いた。 教場に入った瞬間、複数の視線を感じた。幾つかは自分ではなく、ギャレンタインに向けられた ものだったが直ぐにこちらに変わった。好奇心、或いはただ何の感情も無く投げ掛けられる それらに静は少し身を強張らせた。 同年代の少女が数人、思い思いの席についている。自分と同じ日本人は一人もいない。 <お、あの娘の隣が空いてるな。よしあそこにしよう> しかし緊張する静とは関係無しにギャレンタインは勝手に席を決めていた。幾らでも座る席はあるのに わざと先に着隊した少女の隣を選ぶ辺りが確信犯としか言いようが無い。静は抗議しようとしたが無駄と 判断し、さっさと諦めた。 <それじゃー皆、仲良くしろよ。これから同じ釜の飯を食う仲間になるんだから。お嬢さんらの中隊長はもう そろそろ来るからそれまで友好でも深めておくように> 先に着隊していた少女の隣の席に静の荷物を置くと、ギャレンタインはさっさと出て行った。一同は 少しの間、呆気に取られていたがやがて各々の行動に耽りだした。 読書に勤しむ者、爪の手入れをする者、惰眠を貪る者、窓の外をぼんやりと眺める者、軍事雑誌を スクラップする者、何故かメイドを横に侍らせている者、そして隣の席に座る少女は、 人懐っこそうにニコニコとこちらを見ていた。 癖のない真っ直ぐな金髪を高い位置で束ねてポニーテールにしているのが特徴的な少女だ。 背格好は静と同じぐらいだろうか。彼女は、静と同様にJDFの制服を着てはいなかった。 身を包むアメリカ陸軍の制服の胸の辺りがとても窮屈そうだ。豊かな乳房が今にもはち切れん ばかりに衣服を盛り上げている。 「こ、こんにちは」 ギャレンタインの計らいで先に着隊していたこのアメリカ人少女の隣の席に座る事になった静は、 取り敢えず英語で話し掛けた。良い関係は挨拶から始まるが、静の笑顔は少しぎこちない。 「コンニチワねー。ミーはクリスチーナ・ビュイックといいまーす。出身はUSA。クリスって呼んで欲しいねー」 妙な訛りの英語を話すアメリカ人少女――クリスは接し易そうな少女のようで、静は安堵した。 出だしは上々といったところだろうか。 「私は御前静。出身は日本よ。よろしくね、クリス」 静も簡単に自己紹介し、握手を求めて手を差し出した。するとクリスは快く握手を返すどころか、 差し出された静の手を両手で包む様にして丁寧に握り返すと、妙に熱っぽい眼差しで静を見詰めた。 それは憧れのスターを目の前にした熱心なファンの様だ。静は少し、身を引いた。 「オーゥ、ミーは日本人大好きねー。特に日本の女の子の綺麗な黒髪が大好きでーす。静の黒髪、とてもとても 綺麗ねー。感動したねー。静はまるでお人形さんの様に可愛いねー。これが萌えっていうやつねー」 静は熱っぽく語るクリスから何か危険な匂いを鋭敏に感じ取ったが、根は悪い子ではなさそうだ。 少し変わっているが上手くやっていけそうな気がする。それに自慢の黒髪を褒めてくれたのは嬉しい。 「なんだかよく解らないけど、そんなに褒められると照れちゃうな」 「何も照れる事はないねー。充分に誇れる事ねー。でも謙遜は日本人の美徳ねー。ますますミーは静が 好きになったねー…ところで」 そこで漸くクリスは今まで握っていた静の手を離した。 「静はどうしてJDFのユニフォームを着てないねー?」 「日本にいる間に届く筈だったけど、何かの手違いで届かなくてね。仕方なくこの制服で来たって訳。 そういうクリスは?」 「ミーはサイズが合わなかったねー。胸が窮屈でとてもじゃないけど着れなかったねー」 そう言ってクリスは困った顔をして、制服にぎゅうぎゅうと収まっている、たっぷりと量感溢れる 巨乳を手で持ち上げて見せた。静はクリスの迫力のバストを前にして、成る程、と納得した。 「そう。それは大変そうね」 「大変ねー。これだけ大きいと合う下着がなかなか無いから殆どオーダーメイドねー。他にも良い事なんて 全く無いねー…はぁ、とてもブルーな気分ねー。この胸はミーのコンプレックスねー」 深く溜息をつくクリスは、自身の胸に相当な悩みを抱いている様子だ。静も人並み以上のものを 持ってはいるがクリスほどではないので、彼女にしか解らない悩みが数多くあるのだろう。 確かに、クリスほど胸が大きいと第五匍匐前進の時に邪魔になりそうねと静は思った。 そうやって二人は暫くの間、他愛もない話を続けていたが、程なくして教場の扉が何の前触れもなく開いた。 教場に入ってきたのは、またもやフルプラセスだった。2mを優に越える長身と鈍色の金属に 覆われた頭部は既に見飽きている。しかしそのフルプラセスは先程のギャレンタインとは違い、 顔のほぼ中央部に単眼(モノアイ)式の複合光学センサーを持ち、JDFの将校用の制服を着ていた。 戦闘を目的として設計された無骨な義躰である筈なのに、そのフルプラセスは見事なまでに制服を 着こなしていた。ギャレンタインが重装備を身に付けていたから分からなかったが、彼らの 義躰はすらりと等身が高くて、まるでモデルの様だったのだ。 その将校用の制服を着こなすフルプラセスは教壇に立つと、教場の一同を機械の目で見回した。 一同の間に思わず緊張が張り詰める。 <そんなに緊張しなくていい。皆、楽にしてくれ> その声は先程のギャレンタインと同じ無機質な合成音声である筈なのに、不思議と磨き抜かれた 教養と知性を窺わせる響きがあった。 <私はアイザック・C・ハインライン。階級は大尉だ> 通常、中隊規模の部隊指揮官は大尉が担う。という事は彼が自分達の上官なのだろうか。 <事前に言っておくが、私は君達の直接の指揮官ではない。私は第一軌道降下猟兵師団で 小隊長を務めている。君達の直接の指揮官は別にいるが、部隊を運用する上で君達は私の 指揮下に入るだけだ。この問題はややこしいのでそれついては後で説明しよう。それでは君達の 直接の指揮官を紹介しよう。稲村大尉、入ってきたまえ> アイザックが促すと、若い日本人女性の将校が教場に入ってきた。年齢は二十代前半と いったところだろう。亜麻色の長い髪を背中でゆったりとした三つ編みに纏めたその穏やかそうな 女性は、軍人というよりも小学校の新任教師にしか見えなかった。 女性はアイザックの隣に立つと軽く会釈をした。彼と比べると大人と子供ほどの差がある。 「私が皆さんの中隊指揮官となる稲村明菜です。私が皆さんに求めるのはこの三つだけ」 明菜はチョークを手に取ると黒板に向き直り、三つの言葉を大きく書き出していった。その姿が 本物の教師の様でまるで違和感が無かった。 「強く、優しく、忖度せよ。強くなければ余裕は生まれず、人に優しく接する事は出来ない。 人に優しい人は強い人です。でもただ優しいだけでは駄目。相手の心中を推し量れる思慮深さが なければ本当の意味での優しさが伴わない。私は、皆さんに真に優しい人になって貰いたいのです」 目を輝かせながら語る明菜の姿は、まさに熱意溢れる新任教師そのものだった。静は、やはり明菜は 軍人よりも教師になるべきだと思った。 「さて、こうして皆さんは無事に着隊した訳ですが、実はまだ揃っていません。あとは御前さんと 同じ日本から一人来る予定です。取り敢えず、今いる人達だけで自己紹介してみましょうか。 それでは御前さんから順に行ってください」 人前で話すのはあまり得意ではないが、指名されたからにはやるしかない。静は席を立つと その場で全員に向かって一礼した。その表情は硬い。 「御前静です。出身は中隊長と同じ日本で、少女工科学校から出向してきました。趣味は駆け足と銃剣道で、 特技はkm4分半のペースで20km走る事です。至らぬところもあるかもしれませんが、よろしくお願いします」 ぺこりと一礼して席に着く。愛想がなさすぎたかな、と席に着いてから静は己の無愛想さを恥じた。 「次はミーの番ねー。ミーはクリスチーナ・ビュイックといいまーす。クリスって呼んで欲しいねー。 出身はUSAでーす。好きなものはピザとコークでーす。皆、ミーと仲良くして欲しいねー。 ミーも皆と仲良くしたいでーす」 立ち上がって自己紹介をするクリスは相変わらずニコニコとしている。自分にもあれぐらい 愛想があればいいのに、と静は少し彼女を羨ましく思った。 クリスの次に席を立ったのは、読書に勤しんでいた少女だ。少し短めの栗毛をカチューシャで纏め、 大きく開いた額と縁無しのスマートなデザインの眼鏡が理知的な印象を与えた。しかしレンズ越しの 目付きは若干鋭く、少し近寄り難い雰囲気があった。 「エマ・ワトソンです。出身はイングランド。趣味は読書とパソコンです。特技、というよりも 取得しているMOS(Military Occupational Speciality:軍事特技区分)は電子戦に関する事柄です。 電子機器と電子情報の取り扱いを得意としているので、その分野で部隊の役に立てればと思っています」 エマは見事なクイーンズイングリッシュで自己紹介を早々に終えると、席に着くなり読書を再開した。 静はちらり、と教壇の明菜を見遣った。彼女は少し困った様な顔をしていた。 エマの次に立ち上がったのは、静よりも幾らか背の高い少女だ。JDFの制服を着崩し、ボリュームの ある胸元を大胆に露出している。エキゾチックな琥珀色の肌にアップに纏めた銀髪がよく映えていた。 すらりと長い手足に高い腰はモデルにしか見えない。 「カミッラ・アドリアーノ。出身はイタリア。趣味は女の子と遊ぶ事。私、そういう性癖なのよ。 特技は…そうねぇ、女の子のスリーサイズを言い当てる事ぐらいかしら。よろしくね」 カミッラの濡れた様に艶のある声は、思わず同性をも魅了する魔力を秘めていた。静はまさか 同じ部隊にガチの人がいるとは思わなかったが、別段驚いてもいない。少女工科学校在校時、普通に 同性同士で付き合っている女の子達が身の回りにおり、静自身も同級生や後輩からラブレターを 貰ったり、告白されたりといった経験は何度もある。静は、女の子が女の子を好きになる事が 特に異常だと感じた事はない。人が人を好きになるのは何も恥じる事ではないのだから。 カミッラの次は、いまだ惰眠を貪り続ける少女だ。しかし彼女は自分の番が回ってきたというのに、 いやそれ以前に他の人の自己紹介すら聞いていなさそうだった。気持ち良さそうにすやすやと 穏やかな寝息を立てている。 「えーと…エリザベータ・ディアギネフさん?次は貴女の番なのだけれど……起きてくれないかなぁ?」 明菜は困った顔で、お願いする様に言った。が、彼女が起きる気配は全くない。 するとエリザベータから幾らか離れた席に座っていた少女が立ち上がった。 「大尉。リザはモスクワから到着したばかりです。私が代わりに自己紹介します」 そう名乗り出た少女の声は抑揚のない特徴的な響きがあった。背中の中ほどまで伸びる、 光沢のあるプラチナブロンドは本物だ。切れ長の深いエメラルドグリーンの瞳は狩人の如く鋭い。 女性的な丸みを帯びてはいるが、若干痩せぎすの上背のある身体は長い手足と相まって少年の様だった。 「私の名前はヴィエナ・ヴィルヘルミナ・ヘルミネン。出身はフィンランドのラウトゥヤルヴィ。 趣味と特技はケワタガモ猟だ。話す事はそれぐらいだな」 味気ない自己紹介だったが、それ以上に纏っている雰囲気がまるで狼の様に気高い獣を 彷彿とさせ、エマとは違う意味で近寄り難い印象を受けた。 「次!次は私ですか!?」 ヴィエナが席に着く前に元気良く立ち上がったのが、軍事雑誌をスクラップしていた、 軽い癖のある赤毛の少女だ。自己紹介がしたくて堪らなかったという意気込みが小柄な身体から 発散されている。くりっとした鳶色の瞳とまだあどけなさを残す顔立ちが愛らしく、先程の ヴィエナを気高い狼に例えるならこの少女はまるで元気いっぱいの仔犬だった。 「レオパルディネ・ビンデバルト・カリウス三等軍曹であります!出身はドイツ連邦共和国 ニーダーザクセン州ムンスター!幼い頃から地元の戦車博物館で戦車に慣れ親しんでいたので、 兵科は機甲を希望し、この度ムンスター女子機甲学校から出向して参りました!尊敬する人物は オットー・カリウスです!何代離れているかはよく分かりませんけど、私のおじいちゃんだそうです! 趣味は主に軍事雑誌をスクラップする事です!愛読書は独訳版月刊グランドパワーと PANZERです!好きな戦車はティーガーⅠ前期生産型とⅣ号F2型、60口径5cm砲搭載のⅢ号J型です! 夢はボービントン戦車博物館に現存する唯一の稼動可能なティーガーⅠを操縦する事です! 特技は装軌車両と装輪車輪の運転です!元気しか取り柄がありませんけどよろしくお願いします!」 元気いっぱいに自己紹介を終えたレオパルディネは気が済んだのか、満足そうな表情で座った。 彼女がどれほど戦車が好きであるのかが充分に伝わってきたが、確かこの部隊は戦車を装備する 部隊ではなかった気がする。レオパルディネはそれを知っているのだろうか。 最後は、何故かメイドを横に侍らせている少女だ。軽めの縦ロールにした長く明るい金髪が 気品ある美貌によく似合っていた。ほどよく肉付きの良い姿態を包むJDFの制服は一目で 特注の私物だと分かる。素材からして支給される官品のそれとは全く違う最高級の代物だろう。 少女は立ち上がると、一同に向かって恭しく一礼した。その動作の一つ一つに、生まれ育った 環境と血筋から来る天稟の高貴さが備わっていた。 「イブリーヌ・ドゥ・ラ・ファージュと申します。出身はフランスです。ちなみにこちらは メイドのR・セリアといいまして、私の〝私物〟ですが何か雑事があれば遠慮なくお申しつけ下さい。 この子が皆様のお役に立てば良いのですけれど…」 ぺこりと一礼するR・セリアは全く人間と見分けがつかないほど精巧に作られていた。 頭には丁寧なフリルの装飾が施されたヘッドドレスを付け、肩の辺りで切り揃えたブルネットの髪は 瑞々しく艶やかだ。黄金比に基づいて設計された容貌は人間が理想とする美しさだが、逆にそれが 何処か人造的でさえあった。そして人間と簡単に見分けがつかない彼女をアンドロイドとする 決定的な違いは、角度によって輝きの変わる銀色の瞳だった。人間にそのような瞳の色はない。 高貴なヴィスクドールの様に美しい少女メイドがまさかアンドロイドとは思わなかったが、 それ以前に私物としてアンドロイドを持ち込む人がいるとは思わなかった。イブリーヌは 物腰柔らかく上品な立ち居振る舞いからして資産家か何かの御令嬢なのだろう。しかしその 感覚は世間一般とは大きくずれているとしか言い様がない。規格化し平均化されるのを 余儀なくされる軍隊という組織で、よくこれでやってこれたなというのが静の率直な感想だった。 「えーと…まぁ、皆さんの自己紹介は終わりましたね。これから寝食を共にし、いずれは」 苛酷な戦場へと赴く事になる仲間として絆を深めて欲しいと思います」 書類である程度どのような人物なのかは知っていたと思うが、いざ本人達を目の前にすると あまりにも個性的過ぎてなんと言っていいのか分からないというのが明菜の本音なのだろう。 <さて、自己紹介も済んだという事なので、私から簡単に君達が所属する部隊の特性について説明しよう> 今まで黙っていたアイザックが無い口を開いた。微動だにせず佇む彼はまるで彫像の 様だったので、明菜を含む一同はすっかり彼の存在を忘れていた。 <しかしその前に、我々JDFという軍事組織がどのようなものであるかについて簡単におさらい したいと思う。JDFの正式名称はJoint Defense Forces…統合防衛軍だ。JDFは国境を越えて編成された 軍事組織であり、人類が一丸となって立ち向かわなければならない敵に打ち勝つ為に設立された。 その立ち向かわなければならない敵がこれだ> アイザックは手に持っていたリモコンを操作して教場のカーテンを閉めて暗くすると、 天井からぶら下がるプロジェクターを起動させた。プロジェクターから立体映像が投影される。 映っていたのは、昆虫によく似た巨大生物だった。大きさは民家ほどもある。多数の脚を持ち、 全身がぬめりを帯びた分厚い外骨格に覆われており、頭部と思しき部分は無数の複眼を備えていた。 <Beginning of Unknown Gigantices…起源不明巨大生物群。通称BUGと呼称されるこれらは 数十年前に人類の前に現れ、依然として人類に対して敵対行動を取り続けている。これらの お陰で月の月面都市建設計画と、火星のテラフォーミング化が著しく遅れているのは知っての通りだ。 おまけに人類の約半分はこれらに喰われてしまった。無傷で残っているのはヨーロッパ主要部分と 北米、中央を除く東西ロシア、オーストラリア、南アフリカ周辺、イスラエルと幾つかの中東、 そして中国沿岸部と台湾、朝鮮半島、日本ぐらいだな。それ以外はほぼ絶望的な状況下にある> 映像が切り替わり、地球の全体図が青色で投影され、アイザックがざっと列挙した地域以外は 赤く塗り潰されてしまった。赤に侵されていない部分は半分程度しかない。 <だが絶望的ではあるが悲観的になるほどでもないというのもまた事実だ。JDFが二週間前に実施した 低軌道からの強襲降下作戦により、バルト海沿岸部にあったBUGの根源地(ネスト)の殲滅に 成功している。人類はまた一つ故郷を取り戻した> 赤かったバルト海沿岸部が青く塗り潰された。 <そしてJDFが実施する作戦の中で最も重用なのが軌道降下だ。軌道上からの降下は戦力を地球上の 何処へでも短時間で展開可能であり、これは奇襲ばかりか効果的な機動防御作戦も可能だ。 そして君達が今いる、この洋上に建設された超弩級浮体式構造物(ギガフロート)の 軌道エレベーター群基地が、JDFが環太平洋地域での作戦を遂行する拠点『ユグドラシルⅠ』だ> 教場の閉じていたカーテンが開き、天を貫いて聳え立つ途方もなく巨大な軌道エレベーター群が 窓の外に望めた。軌道エレベーター群は直径が十m以上に達する強化カーボンナノチューブと ダイヤモンド複合材から成る特殊ケーブル百数本から成り立ち、一つのケーブルには大型旅客機を 格納可能なほどのクルーザーが宇宙と地球を行き来している。 <ユグドラシルⅠは軌道エレベーター群基地の中でも最大だ。この基地は元々はテラフォーミング化が 進んだ火星への移住者とその家財を運び上げるのを主な目的として建造されたのだが、 BUGの出現により計画は思うように進まず、先ずはBUGという問題を取り除く必要性から 現在ではJDF軌道降下打撃部隊の基地として使われている。おさらいが随分と長くなってしまった。 いよいよ本題に入ろう。さて、察しが良い者は、君達の部隊もまた軌道降下打撃部隊の 一部として組み込まれるのに気が付いているだろう。実際、君達には軌道から降下してもらう> 再び教場が暗くなり、立体映像が投影される。映像にはロボット型兵器と、重装備のフルプラセスが 映っていた。 <一般的な軌道降下部隊は、OrbitBorne Troops(軌道降下猟兵)…通称OBTと呼称される 特殊な機械化部隊と、Special Mechanized Infntry(特殊機械化歩兵)…通称SMIと呼称される 歩兵部隊によって編成される。作戦によってはこれに戦車などの重戦闘車輌が加わる事もあるが、 軌道降下は性質的には空挺降下の延長線上にあるので重装備がない。尤も、その必要性が無いと 言った方が正しいかな> アイザックはレーザーポインターをポケットから取り出し、投影されているロボット型兵器を示した。 <これがOBTが装備する特殊兵器AAFだ。詳細は機密なので詳しくは言えないが、この兵器のお陰で 我々はBUGに対して一定の戦果を挙げる事が出来る。そしてこちらがSMIだ> 重装備のフルプラセスにポインターが移動する。 <SMI…その名の通り、全身を機械化した歩兵だ。何人かはこの隊舎でSMI隊員に会ったと思う。 彼らは生身の歩兵と違い、高性能の義躰により圧倒的な戦闘能力を備える以外にも様々な利点がある。 この利点により、動力付き外骨格(パワードスーツ)を装備する装甲歩兵よりも彼らが軌道降下に 多用される。それは何故だと思う?では、これについて答えられる者はいるかな? 何でもいい。言ってみたまえ> 誰も手を挙げない中、一人だけしか挙手しなかった。エマは眼鏡の位置を直すと立ち上がった。 <君の所見でも構わないよ、ワトソン君> 「…SMIの兵士は生身の兵士以上に兵站が少なくて済みます。彼らには飲食物の必要もなければ 排泄の必要もありません。義躰を動かす人工血液とバッテリー、生体脳を維持する高濃度ブドウ糖溶液、 そして武器弾薬があれば戦闘を継続可能です。これは補給の難しい降下作戦では重大な利点です」 <君の発想は素晴らしいがその根拠は?> 「先程、御前さんを引率してきたSMI隊員の装備が、個人が携行するには異常過ぎるほどの重装備でした。 強襲作戦は比較的短時間での決着を想定して立案されます。長引けばそれだけ奇襲効果が薄れ、 敵に立ち直らせる時間を与えてしまい、結果としてこちらが不利になってしまいます。 先程の隊員は明らかに携行弾薬が多過ぎる。これは補給が困難な状況に陥った場合に備えてなのでしょう。 他にも、彼が装着していた胸部プロテクターは特異な形状をしていました。恐らくあの部分に 予備の人工血液とバッテリーが収納されているのでしょう。これも長期間の作戦行動を見越した 装備だと思われます。以上が、私の所見の根拠です」 すらすらと所見を言い終えたエマは無表情のまま席に着いた。 <素晴らしい。ほぼ正解だ。では君に質問しよう。OBTとSMI。この両者は今まで非常に 素晴らしい連携で数多くの作戦を成功させてきた。しかし最近になって一つの問題が浮上してきた。 それは何だと思う?> 「……スケールの違いですか?」 <いい線をいっている。そうだ、スケールの違いだ。OBTのAAFは機動力と火力を備えた歩く 戦闘ヘリとして扱われている。実際、彼らには限定的だが飛行能力もある。 そこで奪取した拠点を占領し維持するには普通の歩兵が必要だ。そこでSMIの出番という訳だ。 しかし両者は共同して作戦に投入されるが、スケールの違いにより微妙な齟齬が発生している。 SMIがいくら生身の歩兵以上とはいえ、所詮は軽火器で武装した歩兵でしかない。彼らを直接支援する 親密な兵器が別に必要なんだ> 「それをAAFでは代替出来ないのですか?」 <ある程度は可能だ。しかし、より彼らに近い等身大の支援兵器の存在が今は求められている。 それがこれだ> AAFとSMIに続き、新たな画像が投影される。それは履帯(キャタピラ)や車輪ではなく、 多数の脚を備えた歪つな戦闘車輌だった。 それを一言で形容するなら鋼鉄の蜘蛛だった。頭部に相当する部分には複数の複合光学センサーを 備え、顎部からは大口径自動擲弾銃(グレネードマシンガン)の銃身が突き出ている。 避弾経始効果を狙った、角張った装甲を組み合わせた鋭角的なデザインの胴体下部からは 簡易な作業を行う為の作業腕が二本伸び、それぞれには重機関銃が搭載されているのだろう。 給弾用のリンクレスフィードが胴体下部に接続されていた。胴体上部にはペリスコープを 装備したスライド式ハッチのキューポラと重機関銃がマウントされている。両側面からは それぞれ三本の移動脚が生え、接地部分の装甲カバーの下には地上滑走用のホイールが見える。 腹部に相当する部分には主兵装が搭載されており、無人砲塔に大口径機関砲と重対戦車誘導弾が 装備されていた。 <Arthropod Tank…多脚戦車だ。君達にはこれに乗ってSMIを支援してもらう> ↓ 感想をどうぞ(クリックすると開きます) + ... 名前
https://w.atwiki.jp/jfsdf/pages/1329.html
前回までのあらすじ 異 世界、ヌーボルに残った片桐三曹は、聖女スビアと古代ロサールの謎を求めて旅に出る。偵察用オートバイの燃料を気にしていた片桐は偶然助けた村人の案内 で、スビアの村と友好関係を結ぶ村、シュミリで馬を手に入れる。快適な乗馬の旅を続ける2人の前に巨大な都市が現れる。ガルマーニと呼ばれる都市は、60 年前に、偶然この世界に漂着したナチス幹部ボルマンによって支配されていた。彼はクーアードを支配するためにガンドールを弾圧していた。聖女スビアを見初 めたボルマンはじゃまになった片桐を強制収容所に送るが、片桐はそこで出会った元Uボート艦長ハルス、元親衛隊中尉フランツと収容所を脱走。レジスタンス のリーダー、サクートと合流し出陣したボルマンの隙をついて彼の司令部へ潜入する。 愛するスビアを救い出したがボルマン軍はすぐに引き返してき た。スビアは自ら市民に語りかけレジスタンスへの参加を呼びかける。そしてレジスタンスとともにボルマン軍との死闘の末勝利を治める。ガルマーニ市民とレ ジスタンスはスビアに街の指導者になって欲しいと訴えるが2人は旅だった。平穏な旅が始まったと思いきや、片桐を謎の毒矢が襲った。 片桐は、ゆらゆらと不規則に体を揺すぶられる不愉快さで目を覚ました。目を覚ましてすぐに愛しいスビアの顔が目に入り、ほっと安堵のため息をつくが、すぐに自分の視界の異常さに気がついた。 片桐とスビアは、2本の棒に手足を縛られていた。そして罠にかかったイノシシのようにさかさまにつるされて連行されているのだ。そしてそれを担いでいる連 中はおよそ、クーアードでもガンドールでもなかった。彼らはアンバードのように見えるが、体格は人間に近かった。しかし、体中に毛が生えていて、男女の差 を識別するのも困難だった。そのかわり、彼らの持つ武器はアンバードよりも文明人にいくらか近かった。斧や槍は研磨された石でできており、縄で木の枝に結 ばれていた。そして、彼らの腰にはパチンコのような武器が納められていて、その石をしまうであろう木で編んだかごが彼らのベルトに吊されていた。 「片桐、気がつきましたか?」 スビアに声をかけられて片桐は彼らの観察をやめた。どうやら彼女は無傷のようだが、手足は片桐同様逆さに縛られており、彼女の革の靴は脱がされ、裸足のまま縛られていた。片桐のブーツは脱がされておらず、彼らは靴ひものほどき方を知らないことが想像できた。 「彼らはあなたの拳銃も取っていません・・・」 スビアの言葉に自分の腰を見てみた。たしかに彼女の言う通り、片桐の腰に納められたシグザウエルはそのままだった。 「しゃべる、だめ!だまる!」 2人を担いでいた猿が片言の言葉を発した。どうやら文化レベルはアンバードよりは上のようだ。 「しゃべれるなら自己紹介しよう!俺、片桐!」 片桐の言葉にその猿はきっと牙をむきだして威嚇した。 「しゃべる、だめ!だまる!」 その返答は交渉の余地のないことを片桐に示しているようだった。 片桐たちを捕まえた猿たちは、海岸から1時間ほど歩いた森に囲まれた岸壁で行進をやめた。よく見ると、岸壁のあちこちに横穴の入り口が見えた。彼らは洞窟 を住居としているのがわかった。大きな洞窟の前で片桐たちは縄をほどかれた。その洞窟から、ひときわ大きな猿人が顔を出した。周りの連中の言葉から酋長で あることがわかった。酋長は片桐とスビアを交互に見ると、片桐の持っていた89式と、スビアの持っていたガルマーニ製のゲベールを交互に見た。使い方がわ からないようで興味なさげにそばの洞窟に放り投げた。 「なまえ!いえ!」 酋長は片桐に質問した。どうやら名前を聞いているようだ。 「日本国陸上自衛隊、三等陸曹の片桐だ」 片桐ができるだけややこしく答えてやったのに気がついてスビアがくすっと笑った。それを気に入らなかったのか酋長はスビアにも同じ質問をした。 「アムター村の聖女スビアです」 原始人以下の彼らにも聖女の言葉はわかったみたいだ。いささかざわめきが起こった。酋長はそのざわめきを沈めて片桐たちを先ほど、彼らの武器を放り投げた 洞窟に監禁するように命じた。たちまち、2人は後ろ手に木の蔓で縛られて洞窟に放り投げられた。その入り口を大きな石を積んでふさいでいく。すっかりそれ をふさぐと猿人たちは見張りもつけずに去っていった。 「さて、スビア。この状況は幸運ですよ」 「同感です・・・」 片桐の言葉にすぐさま応えたスビアはお互い後ろ手に縛られた蔓を確認した。太い蔓だがいいかげんな結び方をしている。 「かみ切りましょう。まずは俺の蔓をかみ切ってください」 スビアは横たわって片桐を縛る蔓をかみ切ろうとした。実際蔓は太いが結び方がいい加減で大した苦労もなく片桐は自由になった。そして次はスビアの番だった。片桐の手ですぐに自由になったスビアは片桐と無事を確かめ合うようにキスを交わした。 「さあ、でかけましょう」 焦るスビアを片桐は制した。まだ日は高く、見張りはいないが今脱走すると失敗する可能性が高かった。なにより、彼らにはその威力が未知数の飛び道具があった。しかも毒矢まで所持している。 「ではもう少し待つのですね。」 「その通り・・・」 片桐は不安がるスビアを抱き寄せた。元気そうな片桐を確認してスビアは彼の胸に顔をうずめた。 「あの矢で撃たれたときにはわたくしは、絶望しました。もうあなたは死んだと思っていました」 「幸い、あれは獲物を眠らせるための毒矢だったようです・・・」 スビアを抱きしめながら片桐は説明した。自分たちを吊したあの方法といい、毒を用いても殺さない方法。彼の導き出した答えはただ一つだった。 「やつらは、俺たちを食うんです。今夜の晩餐あたりで。だから日が高いうちは安全なのですよ」 「では、今逃げないと・・・」 そう言うスビアの唇に指を当てて片桐は彼女を黙らせた。 「夜まで待ちましょう。そしてここから抜け出して馬を見つけて・・・」 ここで片桐は言葉を止めた。彼らの愛馬を見かけていないことに気がついたのだった。それに気がついてスビアが言葉をかけた。 「ローズとセピアは逃がしました。きっとあの海岸まで行けば見つかるはずです」 それを聞いて片桐は安堵のため息をついた。あの賢い愛馬を失うのは旅の行く末を考えると、絶望的なような気がしていたのだ。 集落ではたき火を囲んで宴会が始まっていた。積み上げられた岩の透き間から片桐がのぞき込むと、酋長を囲んで車座に、猿人どもが踊っている。 「どうやら我々はメインディッシュのようですな」 片桐のジョークにスビアは身震いした。それを見て軽く苦笑すると片桐は再び外の様子に目をやった。1匹の猿人がこっちに向かってくるのが見えた。どうやら、メインディッシュの時間のようだった。 「さあ、いよいよです」 片桐は洞窟の奥まで後退した。スビアがゲベールを構える。猿人たちは彼らに理解できなかった2本の棒がどんなものかをまもなく知ることになるであろう。猿 人は2人を逃がさぬように積み上げた石垣を乱暴に壊すと洞窟にずかずかと入ってきた。彼らが何か持っているのをさして気にしていないようだ。 「こい!こい!」 猿人が手招きした。それに答えてスビアがゲベールを猿人の心臓めがけて発射した。彼女のはなった弾丸は見事に猿人の心臓を撃ち抜いた。ポルの力で発射するゲベールはほとんど銃声が聞こえない。 「さあ!いきましょう!」 片桐はスビアの手を取って洞窟を抜け出した。片桐たちには全く気がつく様子がなく宴会を続けている。2人が森に入ってようやく異変に気がついたようだ。口々に醜いわめき声をあげているのが聞こえた。 「急いだ方がよさそうです・・・」 「同感ですな」 2人は森を海岸に向かって駆け出したが、背後から猿人が迫ってくるのが気配と、あのどう猛な声でわかった。片桐は振り返って暗闇に無数に光る不気味な目に 向けて89式の5・56ミリ弾を続けざまに発砲した。どれだけ命中したかはわからないが、連中の叫び声が少し遠のいた気がした。 片桐が撃たれた海岸まで出てきたが、愛馬の姿が見えなかった。猿人の叫びは徐々に近づいてくる。とりあえず、片桐はスビアを砂浜にぽっかり顔を出した岩に隠れさせ、自分も隣にしゃがみこんだ。 「盛大にやってきますな」 片桐は銃をチェックして森に向けて構えた。予備の弾薬は彼の愛馬が背負ったままだ。今の片桐にはチョッキのポーチにしまっている数本のマガジンしかない。スビアが片桐の腕を持って言った。 「前にもお願いしましたが、もはやこれまでというときは、わたくしを撃ってください。少なくとも、あの猿人たちにローストビーフにされるのだけは免れますから・・・」 「その件は考えたくないですな、一緒に脱出するんだ」 森から猿人たちが現れた。片桐は先頭の猿人を3発でしとめた。後続の猿人があのパチンコを片桐に向けて発射した。びしっ、という音ともに彼の隠れた岩に命中した。かなりの威力だということが音だけでもわかった。 今や猿人たちは片桐の銃撃に犠牲を出しながらもじりじりと2人の隠れる岩に接近していた。すでに2本のマガジンを撃ち尽くしたがいっこうにその進撃はやむ ことはない。さすがに、片桐も絶望を抱きつつあった。しかし、愛するスビアをいくら彼女の願いとはいえ、手にかけることだけは想像したくなかった。 「ぎゃああ!!」 そのとき、片桐たちに迫った猿人の一団がばたばたと倒れた。猿人が少しうろたえて周囲の様子をうかがっている。そうしているうちにさらにもう一団の猿人が撃ち倒された。今や猿人は別の方向からの奇襲に怯え始めているのがわかった。 「片桐、あれを!」 スビアの声に片桐は砂浜の向こうを振り返った。暗くてよくわからないが一団の兵士が、ゲベールらしき武器を猿人に発射しているのが見えた。その後方にも兵 士たちが整列しているのが見えた。そして、次の瞬間に聞こえたいななきを聞いて片桐は身震いがした。間違いなく、興奮した馬のいななきであった。しかもか なりの数だ。 「行くぞ!」 指揮官らしき人物の声を合図にその騎馬隊は猿人に突撃を開始した。暗闇でも彼らの武器が細身の槍であることがわかった。猿人たちが彼らに例のパチンコを撃つのが見えた。片桐はそれを撃とうとする猿人に射撃を浴びせた。 騎馬隊の突撃にすっかり戦意を失った猿人は我先に森に逃げ始めた。その中に騎馬隊は突入して手当たり次第に猿人たちに、彼らの持った槍の一撃を浴びせた。猿人たちは多くの死体を残して森に逃げ帰った。 「わたくしたち、たすかったのでしょうか・・・」 「少なくとも、バーベキューにはならなくてすみそうですね」 暗闇の中、1騎の兵士が片桐たちに近づいてきた。片桐は立ち上がっていつでも89式を撃てる状態にした。だが、月明かりがその兵士を照らしたときに、彼は銃を撃つことを忘れていた。 「あっ」 それは騎馬武者だった。日本式の甲冑に身を固め、兜をかぶり、穂先の鋭い槍を持っている。騎馬武者は下馬すると歩いて片桐に歩み寄った。 「貴殿もご婦人も、ご無事でなによりでした。あの猿人どもは最近は数こそ減ったものの大変どう猛だ。」 そう言いながら騎馬武者は兜を脱いだ。黒髪の長髪を束ね、その顔は日本人とも、クーアードともつかなかったが、22,3歳に見えた。そして日に焼けたその顔はどの時代劇俳優よりも整っていた。 「私は、富田竜之助才蔵。富田家の棟梁です。あなたがたは・・・、ガルマーニから旅立ったご一行ですな」 才蔵と名乗る若武者は礼儀正しく頭を下げた。 「自分は日本国陸上自衛隊、片桐三曹です」 「ほお・・・」 片桐の挨拶に才蔵は目を細めた。少なくとも嫌悪からではないことがわかった。 「貴殿は日本人ですか・・・。伝え聞くバテレンの様な格好をしておるが、名前も日本人の名だ」 才蔵はスビアに視線を映した。彼女も片桐に続いて名前を名乗った。 「おお!ガルマーニのバテレンを打ち破った聖女スビア様ですか・・・。草から話は聞いております。では、片桐殿はその聖女の・・、つまりよろしい間柄の異世界人ですな!」 才蔵は「草」とやらから、片桐とスビアがガルマーニから出発した時から報告を受けていたようだ。そして、この海岸で猿人に拉致されたことを知って軍勢を率いて救助に赴くところだったらしい。 「あなたがたの馬は私たちの村にいます。さあ、ご案内しましょう・・」 才蔵は身をひるがえすと颯爽と馬に飛び乗った。 才蔵の村は海岸にほど近い丘の上にあった。やはり外壁が周囲を囲んでいたのは他の都市や集落と同じであったが、その内部は少々違っていた。その光景は少なくともスビアには感動に似た驚きを持って受け入れられたようだ。 「ここは、なんてすばらしい村なのでしょう・・・」 緑豊かな丘の上の村は適度に距離を置いて家々が存在し、その家々も藁葺きの質素だがしっかりしたたたずまいを見せていた。女たちは畑仕事に精を出し、その周囲の外壁では男たちが槍を携え警戒している。 「我が祖先から受け継いだ村です。お気に召しましたか?」 馬から降りた才蔵がスビアの横に並んであちこち説明していた。片桐はこの村の様子を知っていた。少なくとも、映画の中では知っていた。働いている村人こ そ、この世界のクーアードとガンドールだが、村の運営や家々の作りは間違いなく、時代劇の世界だった。そして今、才蔵に続く多くの部下の格好もそうだっ た。 片桐とスビアを窮地から救ったゲベール隊は編み笠に似た帽子をかぶり、その指揮官は才蔵と似た甲冑を身につけている。騎馬隊の持っている細身の槍は時代劇で見る、独特の細い槍だった。歩兵も甲冑に長槍を持っている。戦国時代・・・・。片桐が持った第一印象だった。 「さあ、こちらへ!」 才蔵は村の中でもひときわ大きな屋敷に片桐たちを案内した。日本風の邸宅だが、片桐が懐かしいと思うそれではなく、やはり武家屋敷を思い起こさせる造りだった。しかし細部にはこの世界の建築様式が取り入れられ、はなはだ実用的に見えた。 片桐たちと才蔵は玄関で別れた。そこから先は、才蔵と同じく、クーアードっぽいがそうではない武士(片桐にはそうとしか表現できない)に案内されて、大き な板の間の広間に通された。粗末だが、座り心地のいい座布団を与えられ。2人は床に座った。案内役の武士は広間の一団高い部分のすぐそばに座った。 「いや、お待たせして申し訳ない」 さっきまでの甲冑姿ではなく、才蔵は見るも鮮やかな和服姿で再登場し、部屋の一段高い部分に座った。どうやらここが上座のようだ。 「改めて言いましょう。私は富田竜之助才蔵。こっちはいとこの弥太郎です」 才蔵のそばに控えた武士が頭を下げた。片桐は時代劇の世界に投げ込まれたようで呆然としていた。それを見て才蔵はにこやかに言った。 「我ら富田一族は400年前にこの世界に流れ着いたのです。この世界のことは片桐殿よりは少々は知っています」 才蔵は、富田一族のいきさつを語った。 彼の言う、天正2年。才蔵の祖先は信濃の国の豪族だった。信濃は当時、武田、織田、徳川の列強の最前線で、そこで暮らす豪族はどの勢力に荷担するかで生死 を決定しなければいけなかった。富田一族は、織田、徳川に荷担すべく出陣したが、留守役の家老の反乱で居城を失い途方に暮れていた。兵士と同行した少数の 女性は山道をさまよううちに、いつの間にかこの世界に到着していたそうだ。 運命を悟った富田一族は現地のクーアードやガンドールとともにこの地 を開拓し、猿人たちの脅威からその武力で自衛した。時は流れ、クーアードとの混血が進み今に至っているそうだ。才蔵の祖先が率いてきた武士たちで、直系で 祖先の血を引くのは棟梁の才蔵といとこの弥太郎だけだという。 「で、片桐殿は日本からいらしたのでしょう?日本の話をお聞かせください」 片桐はいささか躊躇したが、知っている限りの日本の歴史を教えた。才蔵は身を堅くして、弥太郎はうろたえながらその話を聞いた。 「で、では今の日本には武士はいないというのか?」 片桐の話を聞き終えた弥太郎がうろたえながら言った。片桐は無言で頷いた。弥太郎は納得行かない、という表情をしていたが才蔵がそれを目で制した。 「ははは!いいではないか!異世界で生まれ育った我々が文字通り、最後の武士という訳なのですか?」 才蔵は一通り笑うと片桐を見据えた。 「だが、武士は頑固者でも回顧主義でもない。この世界で生き抜き、すばらしい領地とすばらしい民を得ている。片桐殿の言う、文明開化もすばらしいが、この世界では我らの生き方も成功例であると認めて欲しい」 才蔵の意見に片桐は少しも異論はなかった。それを認めた才蔵は上座から立ち上がって片桐に歩み寄った。そしてその手を取った。 「我、終生の友を得たり!片桐殿、あなたの率直な人柄、猿人に立ち向かう勇敢な様、才蔵、恐れ入りました。どうか、我が友として今日のことを覚えていてください!」 「こ、光栄です・・・」 片桐がどうにか答えたときだった。ローマ時代のような衣服を身につけたクーアードが縁側の外に跪いた。 「申し上げます!猿人どもが開拓地に現れました!」 「よし!すぐに行く!弥太郎!種子島を持って先行しろ!」 才蔵の声に弥太郎はすぐに立ち上がった。 「ははっ!」 開拓地とは、丘を下って森を切り開いた畑だった。そこを猿人が襲ったのだ。才蔵たちが出発した後、そのことを聞いた片桐はスビアとともに現場に向かった。小高い丘から見下ろす開拓地には猿人たちが侵入していた。 「おまえたちの好きにはさせぬわ!」 猿人の中にいきなり才蔵が斬り込んでいくのが見えた。後に弥太郎や数名のクーアードが続いた。手にはゲベールがあるが、それを発射すると才蔵に続いて斬り込んだ。 「あああ、無謀です!」 スビアの意見に片桐も同感だった。しかし、急いで片桐が89式のマガジンをチェックする間に才蔵は次々と猿人を斬り倒した。彼の手には細い日本刀しか見えない。 才蔵の動きにまったく無駄はなかった。目の前の猿人を袈裟懸けに斬って、返す刀で横の猿人を斬りあげた。さっと後ろに飛び退いたかと思うと間合いを取って後ろの猿人を上段から斬り倒す。 「あの方の戦い・・・。美しいようにすら見えます・・・」 スビアがつぶやいた。確かに、片桐も反論はしなかった。才蔵はまるで舞を舞うかのように敵を切り伏せていた。ふと、才蔵は丘の上から戦況を見守る片桐とスビアに笑いかけたように見えた。 その隙をつかれたのか、才蔵の真後ろの猿人が才蔵の背中を蹴った。彼がいとも簡単にうつぶせに倒されるのを片桐は見逃さなかった。 「スビア、ここにいてください!」 そう叫ぶと片桐は89式を構えて丘をかけ下った。間に合えばいいが、弥太郎もその部下も自分の目の前の敵に手がいっぱいのようだ。片桐は89式のセレク ターをセミオートに切り替えて才蔵を蹴った猿人を撃った。生命の危機をだっした才蔵が片桐をうれしそうに見た。それに答える余裕もなく片桐は目に付いた猿 人を片っ端から撃ち倒した。10を越える死体を見て、猿人は森に逃げ帰った。 才蔵は刀を片手に立とうとしていた。片桐は黙って手を差し出した。 「片桐殿・・・。借りができましたな」 「友というのは貸し借りもなく動くものでしょう」 才蔵は片桐の言葉に満面の笑みを浮かべると彼の手を取った。片桐はこの才蔵という男が好きになりかけていた。現代の日本人がなくしかけている礼節や責任 感、人情を彼は持ち合わせている。自分よりも年下でしかも、異世界で生まれ育った彼に、日本人の原点を見たような気がしたのだ。 片桐とスビアのために才蔵の屋敷でささやかな祝宴が催された。才蔵に弥太郎、主立った家臣が集まって無礼講の祝宴だった。片桐が驚いたのは、まず乾杯で出された酒だった。 「これは・・・」 びっくりする片桐に才蔵がうれしそうな反応を示した。 「驚いたでしょう。酒はこっちに来られてからはありつけなかったでしょうからな」 間違いなくその味は日本酒だった。片桐の反応に満足した才蔵は、ぱんぱんと手を叩いた。ガンドールが素早い動きで皿を持ってきた。 「これが草のバートスです。」 バートスと呼ばれたアンバードは一礼して片桐とスビアの前に皿を置いた。その皿には真っ白な白米で作られたおにぎりがいくつか盛られている。思わず、片桐はそれをほおばった。間違いなく米の味だった。 「片桐殿、みんなにお国の話をしてもらえないでしょうか・・・」 才蔵に頼まれて片桐はちょっと迷った。迷う片桐をスビアが後押しした。 「そういえば、わたくしもよく聞いたことがありませんでした。いい機会だから是非聞かせてください。」 片桐は福岡の話をした。福岡タワーに福岡空港。都市高速を車で移動する人々。天神のビル街・・・。一同はただただ驚くばかりだった。 「すばらしい!」 一通り話し終わると一同から驚嘆の声が続々とあがった。才蔵も満面の笑みで片桐を見た。彼の戦いの時の表情と、今の表情は全然違っていた。今はやさしい棟梁として楽しむ部下を笑顔で見守っている。片桐はいつのまにか、その雰囲気に酔いしれ眠り込んでしまった。 2,3時間して片桐は別の間の布団で目を覚ました。板で作られた引き戸をろうそくが照らしている。 「いつの間にか寝てしまったらしいな・・・」 ひとりごちながら起きあがった。そこへ足音が聞こえて片桐のいる部屋の前で止まった。 「では、片桐殿にもよろしくお伝えください」 「はい・・・では」 才蔵とスビアだった。よく耳を澄ますと遠くでまだ盛り上がっている家臣たちの声が聞こえた。才蔵らしき足音が遠ざかると、板の引き戸が開いた。スビアが入ってきた。 「あら、目が覚めまして・・」 笑いながら片桐の枕元に腰掛ける。彼女もだいぶん飲んだようだ。顔が少し紅潮している。 「ええ、昔はもっと強かったんですがね・・・」 枕元に用意された水を飲み干しながら片桐が言った。スビアはそれを聞いてふふっと笑った。 「才蔵様が言っておりました。片桐殿は久しぶりの美酒でよく眠っておられるって。あの酒はこの村の自慢だそうですわ」 確かに、最高の酒だった。そして最高の宴席だった。スビアは上機嫌で言葉を続けた。 「才蔵様はすてきな方ですわ。あの戦いの見事さはヌーボルを探しても右に出る者はいないでしょう。それにあの優しいこと。村人を見ていればよくわかります。きっとあの方のご先祖様はさぞや立派な方だったに違いないでしょう」 それには片桐も同感だった。まったく異論を挟む余地はない。しかし、自分の恋人によその男を手放しにほめる言葉を聞かされるのはあまり心地のいいものではない。 「そうですな・・・」 ぶっきらぼうな片桐の返答にスビアはなおも言葉を続けた。 「あら、お友達のことというのにやけにぶっきらぼうではないですか?才蔵様なら片桐の話をすれば、そんなことはきっと言わないはずです」 酒の勢いもあって片桐は思わず起きあがってスビアに言った。 「才蔵は確かにいい友人です。しかし、あなたの口からそれを必要以上に聞くのはあまり好きではありませんな」 スビアは片桐の言葉を聞いて、いたずらっぽい笑顔を浮かべた。どうやら片桐に負けずにだいぶ、酒が入っているようだ。 「片桐、もしかして嫉妬しているのですか?」 「嫉妬?」 今度は片桐は完全に布団から起きあがっていた。 「俺が才蔵殿に嫉妬?ばからしい!そういうあなたこそ、才蔵殿をいい男ってくらいに思ってるんじゃないですか?」 今度は片桐の言葉にスビアが立ち上がる番だった。 「わたくしが才蔵様に恋しているとでも?それこそばかばかしいことです!」 「彼はさぞや立派な家柄ですからね・・・。お似合いじゃないですか?」 売り言葉に買い言葉だった。片桐の言葉にスビアの頬は酒の影響以上に真っ赤になった。 「あなたがこんな失礼な人とは思いませんでした!あなたとは口も聞きたくないです!」 片桐は89式を持って防弾チョッキを着ると引き戸を開けて縁側に出た。自分のブーツを見つけてひもを結び始めた。 「ようやくお互いの意見が一致しましたね!」 ブーツを履いて片桐は捨てぜりふをはいて引き戸をぴしゃっと閉めた。 「片桐のバカ!!」 引き戸の向こうでスビアの怒鳴り声が聞こえた。それを無視して片桐は歩き出した。歩いて夜風に当たっているとだんだん冷静になっていく。 「あああ、なんてことしちまったんだ・・・」 そうは思っても今更戻ることはできない。片桐にも意地があった。一大決心をして異世界に残ったただ一つの理由はスビアだった。その当人からいくら、好人物とはいえ才蔵を下手ほめするせりふをあれだけ聞かされるのは男としてのプライドが許さなかった。 「片桐殿・・・」 声をかけられて片桐はうつむいていた頭を上げた。いつの間にか、屋敷の門の近くまで歩いてきていたのに初めて気がついた。そして声の主は門の柱に寄りかかる才蔵であることもわかった。 「才蔵殿」 「スビア様と派手に喧嘩されておったようですなぁ」 才蔵は高らかに笑った。片桐は返す言葉もなかった。才蔵は全部知っているのだ。 「私の態度が、あなたの感情を傷つけたのならお詫びします。」 才蔵の言葉に片桐は今度は恐縮した。しかし、こんな時の男の気持ちを打ち明ける相手は、高崎士長が向こうに帰ってしまった今では彼以外にいないような気がした。ことのいきさつを聞いた才蔵は大笑いした。 「ははは!400年たっても男女のいさかいの原因はあまり変わらぬものですな!」 あまり笑いすぎるのも片桐に失礼と思ったのか、才蔵は門を開けた。門の外にはいつの間に用意したのか、片桐の愛馬、セピアが待っていた。 「い や、笑いすぎて申し訳ない。だが、私の愛する女性が私に向かって、あなたのことを手放しにほめる話を延々としていたら、私もきっと同じ気持ちになったで しょうな・・・。さあ、こんな日は馬にでも乗って頭を冷やすのが一番です。ここから半里(約2キロ)のところに村があります。その村の酒場の酒は絶品です ぞ!」 片桐は才蔵の心の広さに感服するばかりだった。自分のことが原因で始まった客人の喧嘩をこんな形でフォローするとは。やはりそれは棟梁の資質がなせる技なのだろうか。愛馬にまたがりながら片桐が言った。 「せっかくですから才蔵殿もいっしょにどうです?」 「私は棟梁です。この村を勝手に離れるわけには参りません。スビア様には私から明日の朝にでも言っておきましょう。」 片桐はその言葉に甘えることにした、今更、スビアのいる部屋には少なくとも今夜は戻れそうにないし戻りたくなかった。 「ただし!」 才蔵は大声をあげた。 「私が同じ状況になったら、あなたには朝までつきあっていただきますから、そのつもりで」 そう言って才蔵は片桐の愛馬の尻を叩いた。賢いセピアはゆっくりと走り始めた。才蔵は笑顔で片桐を見送った。もはやあの笑顔にはかなわいな。そう思わずに はいられないほどの聡明な笑顔だった。片桐は、この世界で得た初めての「親友」の気遣いに感謝しながら、隣村へ出発した。 才蔵の教えてくれた村はガンドールの村だった。村の門はすでに開かれていて、まるで片桐の到着を待ちかまえているようだった。その理由は片桐が村に入って馬をつなげたときにわかった。 「片桐様・・・。」 バートスだった。いつの間にか村の入り口に立っていた。バートスは好奇心いっぱいの笑顔で片桐を迎えた。 「スビア様と大喧嘩して居場所がなくなってここに来そうですねぇ。才蔵様のご命令で門を開けておきました。スビア様はかんかんですよ。では俺は才蔵様に無事、あなたがここに到着されたことを報告に帰ります。」 そう言ってバートスは村の外の暗闇に消えた。片桐は村を見回した。奥に明かりがともった家が見えた。あれがどうやら、才蔵おすすめの酒場のようだった。 「らっしゃい」 ドアを開けるとクーアードのマスターがカウンターに立っていた。客はみんな地元のガンドールのようだった。片桐はカウンターの空いた席に座った。 「今のあんたにはこれがいい」 マスターは片桐の前にショットグラスのようなコップに満たされた液体を出した。 「バートスから何か聞いてるのかい?」 片桐の問いにマスターは笑った。どの世界でもこの手の商売をしていると人間の心理がある程度読めるようになるらしい。 「なにも聞いちゃいません!あんたの顔でわかる。おおかた女と喧嘩したんでしょう?そんなときはこいつが一番ですわ」 片桐はそのグラスの中身を一気に飲み干した。ウイスキーに似た味だった。確かに、イヤなことを紛らわすときにはうってつけの酒だ。片桐は続けざまに3杯それを飲んだ。 「異世界の人、なかなかやるな!」 「いけいけ!」 「女のことなんか忘れちまえ!」 常連客のガンドールと意気投合して片桐は明け方近くまで飲み続けた。 翌 朝、片桐は酒場のソファーの上で目を覚ました。痛む頭で周りを見回すと、常連のガンドールも、マスターも眠りこけている。密閉された室内は酒臭いことこの 上ない。とりあえず、ドアを開けて外に出た。外ではガンドールたちがうろうろしていた。子供たちが走り回るのも見えた。空を見ると太陽は頭上近くまで昇っ ている。かなり寝坊したということがわかった。 片桐は店の中に戻ると、近くの樽から水をくんで飲んだ。飲み過ぎで脱水症状気味だった体に水分が行き渡り頭がしゃっきとするのがわかった。片桐はカウンターで眠っているマスターを起こした。 「ん???なんです」 「勘定をしたい」 そう言って片桐は防弾チョッキのポケットからスビアと半分ずつ分けた金を出した。それを見てマスターは飛び上がった。 「こんなにいただけません!40サマライで結構です!」 マスターは片桐が出した金色の貨幣を受け取ると銀色の貨幣を6枚返した。よく見てみると片桐が持っている貨幣は3種類の色があった。金銀銅。オリンピック のメダルと同じだった。100サマライは金色1枚。銀色は10サマライ。銅色は1サマライだった。片桐はお釣りを受け取るとドアを開けた。 「異世界の方!」 マスターが声をかけた。 「愚痴はここで言うだけ。惚れた女に逃げられちゃ元も子もないですよ!」 笑顔でマスターに手を挙げると片桐は店を出た。彼に言われるまでもなかった。スビアのところへ帰ろう。彼女も酔いがさめているはずだ。冷静に話せば仲直り できる。そう確信していた。 片桐は門のところまで歩くと馬の準備を始めた。今は一刻も早く才蔵の村に戻ることだけを考えていた。そこへ、村の外から1人 のガンドールが息を切らせながら走ってくるのが見えた。 「たいへんだ!たいへんだ!」 そのガンドールは叫びながら村の門をくぐった。騒ぎを聞きつけた村人がぞくぞくと集まってきた。そのガンドールは村人に差し出された水を飲み干すとようやく話し始めた。 「才蔵様の村が猿人に襲われた!村人も家畜も捕まって森に連れていかれちまった!」 この報告に村人がざわめいた。 「まさか、才蔵様の村が・・・」 「最近奴らも知恵を付けてきていたから・・・」 しかし、誰よりもその報告に衝撃を受けたのは片桐だった。彼はようやく呼吸の整ったガンドールにつかみかからんばかりの勢いで質問した。 「才蔵殿は、スビアはどうなったんだ?」 ガンドールは片桐の勢いに咳をこらえながら言った。 「俺が見たのは空っぽの家といくつかの猿人の死体だけだ!猿人は捕まえた捕虜は森に連れ帰って、食べるか、奴隷にするかのどっちかだよ!」 それを聞き終わらないうちに片桐は馬に飛び乗り、才蔵の村目指してダッシュで馬を走らせていた。そして馬上で自分を責めていた。夕べあんなことで腹を立て ないでいれば、スビアや才蔵を守れたかもしれない。そう思うと自分に対して腹が立って仕方がなかった。その怒りをぶつけるように片桐は馬を走らせた。 村は見事に奇襲されたようだった。美しかった家々は燃え、あちこちに猿人の死体が転がっている。片桐はまっすぐ才蔵の屋敷に向かうと、スビアの部屋の引き戸を開けた。中は無人だった。夕べ片桐が寝ていた布団と、傍らには彼女のゲベールがあるだけだった。 「くそっ」 屋敷中を探し回ったが人っ子一人いないようだ。最後に見回った大広間で、やっと片桐は人を見つけた。 「片桐殿ではないか・・・」 弥太郎だった。足を斬られて動けいないようだった。片桐はチョッキの救急医療キットを出して弥太郎の手当を始めた。 「明け方、急に猿人が襲ってきたのです。今までにやつらが夜襲をするなんてなかったので我々は無防備でした。たちまち、村人も才蔵様も捕まり、スビア様も・・・。私は奴らに足をやられて気を失ってしまいました。それでここに残されたわけです」 「で、やつらはみんなをどこに?」 片桐の質問に弥太郎は苦悶の表情を浮かべながら答えた。無理もない。止血のために片桐が彼の股を強く縛っていたのだ。 「奴らは今までの洞窟では捕虜をやしないきれないようで、さらに森の奥に連れていくと言っていました・・・、片桐殿!どうか、才蔵様を助けてください!」 「もちろんです。彼は俺の大事な友人です!」 その言葉に弥太郎は安堵の表情を浮かべた。 「それから、スビア様は連れ去られる寸前まであなたのことを心配しておられました。どうか!ご無事で!」 弥太郎の手当を済ませると片桐は愛馬に飛び乗った。一気に森を抜けて海岸まで出ると、再び森に入った。手綱を操りながら89式をチェックした。 「絶対!絶対!助ける!!」 自分の決心を声に出して確認するように片桐はさらに愛馬のスピードを速めた。
https://w.atwiki.jp/tmnanoha/pages/311.html
第十二話「ナンバーズ」 首都クラナガン地下道 本来ならば常に薄暗い筈の地下道。 その場所を複数の車両に取り付けられたサイレンが周り赤く照らしている。 車道の周りには侵入禁止を告げる黄色いテープが張り巡らされ、その内側では何人かの警官が現場検証を行っている。 スバル達フォワードメンバーがクラナガンに到着したのと同じ頃、ここでトラックの横転事故が起こった。 横転した車体の所々が凹んでおり、その周りには積んであったであろう荷物が散らばっている。 その場所へ静かに足音を響かせながら近付いていく人物がいた。 管理局の制服を身に纏い、長い紫の髪が印象的な一人の少女。 「陸士108部隊ギンガ・ナカジマ陸曹です。 現場検証のお手伝いに参りました」 敬礼をしながら自身の所属を告げたギンガに現場の責任者と思われる男が同じように敬礼をし礼を言った。 今回の横転事故の応援を頼まれ派遣されてきたのだ。早速、今回の事故の状況説明を聞き始めるとギンガはその内容に微かに眉を潜めた。 トラックの運転手の話しによればこの地下道を走っている最中に突然積み荷が爆発し、その影響で横転したと言うのだ。 辺りを見渡してみるとトラックに積んでいたと思われる物が散らばっている。 缶詰に飲料ボトル、食料品etc…。 どれも爆発するような代物ではなく、その事に疑問を感じていた。 更に警官に話しを聞くと妙な遺留品があると言う。 トラックの車体がある少し先へと足を運ぶギンガ。 そこにはあったのはカプセル型の機械の残骸と幼い子供一人が入れるくらいの空のポッド。 「ガジェットドローンⅠ型の残骸……。 それに……これは生体ポッド……?」 首都クラナガン中央公園 午後の休暇を満喫していたスバル達一行は、休憩がてらにこの中央公園に訪れていた。 式は一人でベンチに座っており、スバルとティアナは目の前の露店でアイスを買っている。 「全くスバルのやつ…。 案内してくれとは頼んだけど、あんなに急いで周らせる事はないだろうが…」 スバルの真骨頂である無茶な強引さのお陰で本日何度めかの溜め息を吐かされている式。 前々からアイツの強引さは注意してはいたけどまさかここまで面倒くさいものになるとは…。 これからは念を入れて警戒をしておこう……などと他人が聞いたら確実に苦笑必至な式らしくない変な決意を固めていた。 「それにしても……一ヵ月しか経っていないのにもう跡形もなく直ってるなんて…。 これもやっぱり魔法の力なのか?」 そう言いながら、式は周りをグルッと見渡す。 ガジェットの攻撃によって目茶苦茶にされた面影はなく、今は親子連れやカップルなどで賑わっている。 そんな事を考えていると何故だか懐かしい気分が込み上げて来る。 この場所は自分がスバルとティアナに初めて出会った場所。 その事がほんの一ヵ月程前のことなのに妙に昔のように感じられていた。 「ははは……。 俺がこんな感情を持つなんてな。 少しは胸の空っぽが埋まった、と言う事か。 少なからずアイツらのおかげだな」 式はこんな事を考える自分に苦笑していた。 あの時の……二年間という長い昏睡状態から目覚め、生きている実感がなく空っぽだった自分自身がいた事を考えれば随分と変わったものだと思ったからだ。 「おまたせ~、式の分のアイスも買ってきたよ~」 そんな事を考えていると、上機嫌な顔をしたスバルが両手に四段重ねのアイスを持ちながら戻ってきていた。 ティアナの方は片手に二段重ねのアイスとカップアイスを持っている。 「おいスバル……オレは冷たい物が苦手だから買ってこなくていいって言ったよな?」 「あれ、そうだっけ? だけどせっかく買ってきたんだから式も食べようよ。 ここのアイスって美味しいから結構有名なんだよ~?」 とか言いながら既に自身のアイスにかぶりつくスバル。 その表情はまさに幸せと言った感じで、式は少々呆れていた。 「取り敢えず受け取っておきなさい式。 スバルの言う通り、ここのは美味しいから食べてみる価値はあるわよ? もしいらないんだったら私が食べてもいいんだけど?」 仏頂面をしながらアイスを目の前に差し出すティアナ。 始めは断ろうと思っていた式だがアイスを見て、唐突にティアナに幹也の姿を重ねてしまいその気も失せてしまった。 「いや……やっぱりもらう。 悪いなティアナ」 「さ、最初から素直に受け取ってれば良いのよ」 式に素直に礼を言われまんざらでもないティアナの姿を見てスバルは笑みをこぼしていた。 「あはは~、ティアのツンデレ~~」 「うっさいバカスバル!!」 「あいたぁ!?」 余計な一言を言うスバルに問答無用でゲンコツを入れるティアナ。 そんな二人の漫才を呆れ顔で見ながら、式は黙々とアイスを食べ始めていた。 そんなほのぼのとした空気が流れる中、突然に鳴り響いた電子音。 それはスバル達の各デバイスから流れでていて、緊急の要件を告げるためのものであった。 内容はレリックを所持していた女の子を保護したというものであった。 サードアベニュー・F‐23 エリオとキャロの連絡を受け、スバル達三人は合流地点である路地裏に集合していた。 既にレリックの封印処理はキャロが済ませており、女の子の方は途中で合流したシャマルが応急処置をしている最中である。 「それにしても……この女の子どうして下水道なんかを歩いていたんだろう……」 「そうね……。 普通に考えれば何処からか誘拐されて、その犯人から逃げたしたと言うのが一番妥当な線だろうけど……。 レリックを持っていたことを考えるとそう簡単に説明がつく事でもないわね」 「そうだな……。 レリックはロストロギアの中でもかなり危険なものだ。 金目当てのちゃちな誘拐犯が持っているような代物でもないしな……」 静かに眠る少女の横顔を見ながらフォワードメンバーはそれぞれの疑問や推測を口にしていた。 その周りでは合流した陸士部隊がなのはやフェイトと共に現場検証を行っている。 「うん、バイタルデータを見る限り特に異常はない、怪我の方もかすり傷だけだし深刻な問題はないから安心していいわ」 「良かった…」 シャマルの言葉を聞いてそれぞれが安堵の表情を浮かべる。 だが式だけは全く違う感情を抱いていた。 (何だ……今の妙な気配は……?) ほんの一瞬ではあるが確かに感じた微かな気配。 その気配の人物を探そうとと周りを見渡すがそれらしき姿は何処にもない。 いや、式からしてみれば姿がないのは当然の事だろう。 「それじゃあ皆はこのまま此所で現場捜査。 式は念の為に私と一緒にヘリで待機だから、みんなよろしくね」 なのはの言葉に軽く返事をしながらも、式は感じた気配が気になっていた。 その気配の持ち主は自分が死闘を繰り広げた敵であり、本来ならばこの世にはいない筈の人物であるからだ。 だが自身の直感が、今までの経験がそいつがここにいることを明確に告げている。 「それじゃあなのはちゃん、悪いけどその女の子をヘリまで運んでいってもらえるかしら?」 「あ、はい」 シャマルの頼みで静かに眠る少女を抱き抱える移動するなのは。 フォワード陣はその場から離れ、式も周りに注意を向けながらフェイト達の後に続くようにヘリへと向かった。 数十分後 機動六課指令室 巨大モニターに映し出される地下水路の地図。 そこにはフォワードの位置を示す青色の点が四つ、そして敵の存在を現す赤色の点が三つ表示されている。 小形のモニターが目の前に開き、地下水路を移動する機影の姿が映し出された。 「ガジェット来ました!」 映し出されたのは三機一組で移動するガジェットⅠ型改。 進路は真直ぐにヘリへと向かってきており、狙いはレリックで間違いという結論になった。 「他に数機ずつのグループで移動するガジェットを確認! 総数……約二十です!」 「更に海上方面にてガジェットⅡ型を補足……数六十です!」 その報告にはやては眉を潜めた。 上空のガジェット部隊はなのは達隊長陣を投入すれば問題はないだろう。 だか、いかんせん数が多いからある程度時間が掛かるだろうし、フォワードメンバーへの援軍もどうにかしないといけない……。 さっきシグナムからはこちらに向かっているとの連絡があったが間に合うかどうかは微妙な距離だ……。 そう思案していた時に入ってきた一本の通信。 はやては一時思考を中断し回線を開き、モニターを展開させる。 そこに映し出されたのはスターズ分隊副隊長ヴィータだった。 『スターズ02からロングアーチへ。 こちらスターズ02、海上で演習中だったんだけどナカジマ三佐が許可をくれた。 今現場に向かってる。 それからもう一人』 ヴィータの通信の後に割って入ってきた音声のみの通信。 『108陸士部隊ギンガ・ナカジマです。 別件捜査の途中だったのですが、そちらの事例とも関係がありそうなんです。 参加しても宜しいでしょうか?』 「うん、お願いや」 はやてはギンガとの回線を開きながら、各隊長陣との回線を開き指示を出し始める。 「それじゃあスターズ02はリィンと合流した後南西方向上空を、スターズ01とライトニング01は北西部上空の敵を迎撃。 ストームレイダーの方はシャマルとウイング01が護衛。 フォワードメンバーはギンガと合流して地下水路の敵を迎撃しながらレリックの確保。 皆頼んだで!」 『了解!!』 市街地 廃墟の屋上に佇む一つの人影。 屋上から伸びている一本の鉄塔、その頂上で悠然と佇む紫の髪が印象的な少女。 名はルーテシア・アルピーノ。 強風が吹きながらも足場の小さい鉄塔の上をバランスを崩すこともなくジッとしている。 そこに入った一本の通信。 無言でモニターを展開すると、そこには一人の女性が映っていた。 ウェーブが掛かった薄紫色の長髪が特長のナンバーズNo.1、ウーノ。 『ヘリに確保されたケースとマテリアルは妹達が回収します。 お嬢様は地下の方に』 微かに頷きながら承諾の意識を示すルーテシア。 『騎士ゼストとアギト様は?』 「別行動……」 『お一人ですか?』 「一人じゃない……」 そう言うとルーテシアは右手を前に掲げる。 キャロのケリュケイオンと同型のブーストデバイスであるアスクレピオスが静かに輝く。 手の甲に紫炎が燈り、そこから六角形の形をした黒い物体が出現する。 それを手で優しく包み込み頬に寄せる。 「私にはガリューがいる……」 『失礼しました。 強力が必要でしたらお申し付けください。 最優先で実行します』 ルーテシアは頷き、その言葉の後ウーノからの通信は切れた。 「行こうか……ガリュー……。 探し物を見つけるために…」 彼女の足元に紫色のベルカ式魔法陣が出現する。 その直後、魔法陣と共に彼女の姿は消えたのだった。 場所を移し、ルーテシアがいた所から数キロ離れた廃墟群。 その一角にある廃墟の屋上に佇む一人の人物。 黒い袈裟のようなコートを羽織り、まるで僧侶のような出で立ちをした壮年の男。 目の前にはモニターが開いており、そこに流れている映像を静かに見つめている。 そこには隊長陣達と共にヘリに向かう式が映し出されていた。 「まさか貴様までこちらに流れついていようとはな……。 これは好都合だ……」 そう言うとモニターを閉じ、常に曇っていた表情が微かに綻ぶ。 「この地にて『根源』へと至る道を開く為に……貴様には再び糧となってもらうぞ両儀式……」 ストームレイダー内部 『スターズ01、ライトニング01、現場に進行。 あと一分程でエンゲージです』 『スターズ02、リィン曹長と合流』 『フォワード陣、ガジェットの目標点に進行中。 このペースなら先行できます』 『スターズ01、ライトニング01エンゲージ』 上空にて飛行を続けているストームレイダー。 その中で通信機から流れてくる現場状況を聞きながら私は内部で待機していた。 今回、自身の出番がないとは思いながらも、先程の気配が気になってか一応警戒はしていた。 敵は数は多いとはいえ所詮ガジェット。 その程度の奴等に機動六課のメンバーが遅れを取ることは先ずないと確信はしていたがどうしても嫌な感覚は拭い切れなかった。 その事を頭の片隅に置いておきながら、先程から管制室と見知らぬ陸士――確かギンガ・ナカジマとか言ってたな――との間で続けられている通信に耳を傾けた。 『私が呼ばれた事故現場にあったのは、ガジェットの残骸と壊れた生体ポッドなんです。 ちょうど五、六歳の子供が入るくらいの。 その近くに何か……思い物を引きずったような跡があって……それを辿って行こうとしたした最中、連絡を受けた次第です』 多分こいつの言う生体ポッドの中に入っていた奴が、私達が保護したあの子供なのだろう。 引きずったような跡と言うのも十中八九、鎖で繋がれていたあのレリックケースの事で間違いない。 『それから……この生体ポッド、少し前の事件で似た物を見た覚えがあるんです』 『私もな……』 『人造魔導士計画の素材培養機……』 その言葉が聞こえた時、少女を看護していたシャマルが動揺した表情を浮かべるのが見えた。 人造魔導士計画……。 詳しくは知らないが優秀な遺伝子を使って人工的に生み出した子供に薬や機械やらを使って強い魔導士を作りだそう、みたいな計画らしい。 この話しを聞いたとき、何処の世界でも人は結局同じような事を考えるものだと正直呆れを感じていたりした。 この世界の魔導士と言うのはトウコ達みたいな魔術士とは違って遺伝や血筋など一切関係なく、完全に先天性の能力らしいからそう言う技術が生まれたのだろう。 実際、なのはやはやては元々魔法とは一切関係のない世界の住人であるし、私も退魔の家系であるとはいえこの世界の魔法技術とは無関係の人間だ。 だが、この計画も論理的な問題や技術、コストに見合った結果が得られないなどの問題が色々とあるらしく、今では禁忌とされているらしい。 多分、あの子供もどっかのイカれた奴が実験の為に作り……いや、生み出した素体なのだろう。 『スターズ01、ライトニング01、共に二グループ目をクリア。 順調です!』 『スターズ02とリィン曹長も一グループ目撃破です』 どうやら空の方は順調らしい。 このまま特に何ごともなくいけば直に戦闘は終わるだろう。 だが、そうは問屋が下ろさないらしい。 『航空反応増大! これ……嘘でしょう!?』 すっ頓狂な声を出しながらアルトが報告している。 どうやら面倒な事になったらしい。 「ディレクティ、管制室のコンピュータとデータリンクしてこっちに空の状況を映し出されるか?」 『No problem master. Little waiting…』 数秒後、管制室で見ているのと同じモニターが目の前に展開した。 見てみるとガジェットの数がさっきまで確認されていた数の倍以上にまで増加している。 どうなってんだ……? 「ディレクティ、この敵が誤認の可能性はないのか?」 『There is not the possibility. A report from Ms,fate seems to be the formation where that consisted of it by an actual machine and a vision if I get together. (その可能性はないです。 ミスフェイトからの報告によれば、あれは実機と幻影によって構成された編隊です)』 ……こっちの連中に大量に増援が来たように見せつけたと言うことか? そういう派手なひきつけをしたと言うことは……目的は別にあるのは間違いな。 『ロングアーチからウイング01へ。 式聞こえる?』 「どうしたシャーリー?」 『もう気付いてるとは思うけど、多分敵はヘリを狙ってくると思うの。 今なのはさんがそっちに向かってるけど、いざという時はお願いできる?』 「別に問題ない。 そろそろ体を動かしたい時間だったしな。 ……ん? なのはがこっちに向かってくるってことは空のガジェットはどうするんだ?」 『今八神部隊長が限定解除して、超長距離砲撃で一気に殲滅できるから問題は無しだから心配しないで』 「……了解」 シャーリーとの通信を終え、私は立ち上がり軽く体を伸ばしながらバリアジャケットを装備する。 「さてと……そろそろ何が目的か確かめさせてもらうぜ……」 フォワード陣+ギンガがヴィータとリィンの援護を受け被疑者を確保した頃、廃墟都市の屋上では二人の少女が静かに待機していた。 大きなメガネを掛け白いマントを羽織るナンバーズのNo.4、クアットロ。 もう一人は長髪の茶髪を薄黄色のリボンで結んだNo.10、ディエチ。 彼女らはボディースーツ系の衣服を着用し、ディエチの方は布で巻かれた巨大な物体を持っていた。 「ディエチちゃん、ちゃんと見えてる?」 「あぁ……遮蔽物もないし、空気も澄んでる。 良く見える」 彼女達の目には、約数km先で飛行するヘリが映し出されていた。 普通人間の肉眼ではこんなに離れた場所を視認することはまずできない。 しかし、彼女達はそれを平然とやってのけていた。 その理由は瞳に埋め込まれた機械であり、これによって彼女達は優れた望遠能力を有していたのだ。 「でも良いのかクアットロ……撃っちゃって。 ケースは残せるだろうけど、マテリアルは破壊しちゃうことになる」 「うふふ…。 ドクターとウーノ姉様曰く、あのマテリアルが当たりなら、本当に“聖王の器”なら砲撃くらいでは死んだりしないから大丈夫だそうよ」 ディエチの質問を微笑みながら甘ったるい口調で返答するクアットロ。 その答えに興味がないのか無表情で返し、抱えている巨大な物体の布を外した。 そこから出てきたのは大型のライフル。 ディエチの固有武装であるイノメースカノンだった。 「?」 その時、クアットロの元に一本の通信が入る。 モニターを開いてみると、そこにはナンバーズのNo.1ウーノが映し出されていた。 『クアットロ、ルーテシアお嬢様とアギト様が捕まったわ』 「あ~ら。 そう言えば例のチビ騎士に捕まってましたね」 『今はセインが様子を伺っているけど……』 「フォローします?」 先程の愛想良い振る舞いと打って変わり、悪意ある表情を浮かべながら問い掛ける。 『お願い』 その一言のあとウーノとの通信は切れ、クアットロはクイッと眼鏡を持ち上げた。 『セインちゃん?』 『あいよ~クア姉』 クアットロが念話を繋げると陽気な声が帰って来た。 相手はナンバーズのNo.6、セイン。 『こっちから指示を出すわ。 お姉様の言う通りに動いてね?』 『う~ん、了解』 次にクアットロは念話の相手を拘束されているルーテシアへと繋げる。 『は~い、ルーお嬢様』 『クアットロ……』 『何やらピンチのようで? お邪魔でなければクアットロがお手伝い致します』 『……お願い』 『は~い、ではお嬢様…? クアットロの言う通りの言葉を…その赤い騎士に……』 そう指示を飛ばすクアットロ。 その表情は口元を歪め怪しげな笑みを浮かべていた。 戦闘区域から全速力でヘリの元へと駆け付けたなのは達は肉眼でその姿を確認できるまでの位置にまで接近していた。 「見えた!」 「良かった…。 ヘリは無事」 まだ無事な状態を見て安堵したのも束の間、市街地にて高エネルギーが確認された。 それは管制室やなのはとフェイト、ガジェットⅡ型を掃討していたはやて、そしてヘリに乗っている式も気付いていた。 一方ビルの屋上、イノメースカノンを構えながらヘリへと照準を定めるディエチ。 そのカノンの銃口には七色に光り輝くエネルギー弾が生成されていた。 「ISヘヴィバレル発動……」 IS(インヒューレントスキル)。 戦闘機人である彼女達が魔力以外のエネルギーを動力源とした特殊技能のことを言う。 この技能はナンバーズのメンバーそれぞれが異なるものが与えられており、特定の分野に特化されている先天固有技能である。 ディエチのISヘヴィバレルは固有武装であるイノメースカノンにエネルギーを送り込み砲撃弾を生成、それを撃ち出す技能である。 彼女の足元にはテンプレートと呼ばれる何重もの円が回転しながら、不規則に動き回る魔法陣とは異なる特殊な陣形が展開されている。 それと同時期、ルーテシアは先程から自身に尋問をしているヴィータに対して、クアットロから言われた台詞を口にしていた。 「逮捕は…良いけど……大事なヘリは放っておいていいの……?」 「お前……どうゆう事だ?」 その言葉に訝しげな表情を浮かべながらルーテシアに詰め寄るヴィータ。 フォワード陣もルーテシアの突然の言葉に眉を潜める。 「あと十二秒…。 十一…十…」 ディエチもイノメースカノンの照準をヘリへと向けながら、カウントダウンを開始する。 「……あなたは…また………守れないかもね………」 「ッ!!」 ルーテシアのその一言がヴィータにある光景を思い出させる。 ボロボロになったレイジングハートに血で真っ赤に染まったバリアジャケット、そして傷だらけになりながらも自分を心配させまいと声を掛けるなのは。 そして 「発射……!」 刹那、イノメースカノンから砲撃魔法に匹敵する程のエネルギー弾が放たれた。 廃墟都市を破壊しながら、轟音と共に物凄い速度で目標であるヘリへと真直ぐに向かっていく。 ロングアーチをはじめ、肉眼で視認することのできたなのは達やヘリにいたヴァイスやシャマル、式も向かってくるエネルギー弾を目にしていた。 あと少しでエネルギー弾がヘリに着弾しようとした時、その光景を見ていた誰もが“撃墜”という最悪なイメージを思い浮かべ背筋を凍らせた。 『ある一人』を覗いて。 ドヒュン!! 「あら?」 「へ?」 その音が鳴った直後、エネルギー弾がヘリから放たれた何かによって貫かれ、跡形もなく消滅した。 打ち消したのではなく完全に『消滅』させたのだ。 その光景にクアットロとディエチはただ唖然とし、ポカンと口を開けることしかできなかった。 「砲撃が……消滅した?」 「そ、そんな馬鹿な…。 跳ね返される未だしも、消滅するなんて本来なら有り得ない……」 先程の衝撃から回復したディエチが慌てて瞳に仕込まれたカメラでヘリを確認する。 そこには……。 「ギリギリ間に合ったか……」 そう呟き、式は構えていた物を下げながら安堵の息を漏らした。 目の位置には照準器と思われる赤いバイザーが展開され、手に握られているのは一振りの弓。 レヴァンテインのボーゲンフォルムと酷似しているが、あちらは全体的な色合いが赤なのに対してこちらは蒼、他にも所々の装飾品などが異なっているのが見て取れる。 この弓はディレクティ、セカンドモード『アーチャーフォルム』。 ディレクティの中で唯一、遠距離戦に対応しているフォルムである。 レヴァンテインのように刀身の一部を矢とし、それに魔力付加を施して放つのとは違い、こちらは純粋に魔力オンリーの矢を放つタイプである。 先程式は咄嗟にこのフォルムへとチェンジさせ、エネルギー弾の『点』にカートリッジ二発分の矢を放ったのだ。 「あ、ありがとう式。 お陰で助かったわ」 「ま、マジで死ぬかと思ったぜ…」 やっと状況が理解できたのかシャマルとヴァイスが安堵の息を漏らしながら礼を言う。 「ディレクティ、モードリリース」 『yes master』 その言葉を聞きながらデバイスを元のナイフに戻しなす式。 その後エネルギー弾が発射されたと思われる位置を睨み付け、次の瞬間には始めから居なかったようにその場から消えてしまった。 砲撃が消滅した原因を探ろうとヘリを見ていたディエチは突然姿を消した式を見て、嫌な予感が頭を駆け巡っていた。 「ねぇクアットロ……何かヤバそうな奴がこっちに向かってくる予感がビンビンにするんだけど……」 「分かってるわよディエチちゃん。 あの教導官や執務官の事だから直ぐにこっちの場所に気付くだろうし」 「いや……そっちの事じゃないんだけど…」 ディエチの呟きを軽くスルーしたクアットロは状況が分からないセインへと念話を繋げる。 『セインちゃん聞こえる? そっちの方はどうだった?』 『ギリギリだったけどお嬢様もケースも無事回収したよ。 それにしても何なのアイツ? ディエチの砲撃をかっけすなんてさ』 『それは私が聞きたいわよ。 取り敢えずセインちゃんはそのまま撤収。 私達も今から帰るからドクターに連絡宜しくね』 『了解クア姉』 セインとの念話を切った直後、二人の頭上に黄色い魔力弾が大量に降り注いだ。 咄嗟に気付いたクアットロは惚けているディエチの首根っこを掴みながら屋上から一気に離脱する。 「見つけた!」 「こっちも!?」 「早い……!」 背後からかかるフェイトの声。 いつの間に背後を取られたのか、と驚きながらもクアットロはディエチを抱えながら全速力で空中へと退避する。 が、その直後今度は真上から無数の白銀の魔力弾が降り注ぎ、気付くのに遅れたクアットロとディエチは直撃はしなかったものの何発か体を霞めた。 「逃がすかよ……」 霞めた傷口を押さえながら、上から聞こえた声の方に顔を向ける二人。 そこには空中に質量化した魔力を展開し、その上に乗りながらから静かに二人を見下ろす式が立っていた。 心なしかいつもより殺気の度合いが20%増しになっている。 「うっそ~ん。 あの距離をこんな短時間で?」 「マジで……?」 補助魔法「エアライド」。 式がアクセルフィンの代わりとして組み込んだ空戦用の魔法である。 根本的な用途や技術はスバルのウイングロードと変わりないがこちらは発動までの最速化や範囲を足元に限定するなどかなり改良されている。 「市街地での危険魔法使用及び殺人未遂の現行犯で…逮捕します!」 「こっちは殺されかけたんだ。 無傷で逃げられると思うなよ……!」 前方には怒り状態の式、後方には魔力スフィアを展開したフェイト。 まさに絶体絶命と言える状態ではあるが、それでむざむざ諦めるクアットロではない。 「IS発動…シルバーカーテン」 クアットロの手甲が淡く輝く。 それに呼応するかのように二人の姿が突如として、式とフェイトの視界から消え去った。 これがクアットロの持つ先天固有技能、ISシルバーカーテン。 幻影を操り、対象の知覚を騙すことを目的としたものでその対象は人のみならず、レーダーや電子システムにも及ぶ。 先程のガジェットII型の大編隊はこのISを使用した結果なのだ。 姿を消した事を確認するとクアットロは再び全速力で逃げ出す。 「逃がさないと言ったろ……」 が、残念なことにこのISは直死の魔眼との相性は最悪だった。 クアットロとディエチの「線」が見えている式はエアライドを次々と展開しながら一瞬で近付き、情け無用の斬撃を放つ。 「シルバーカーテンが見破られてる!?」 「アイツ……化け物?」 式の一撃を間一髪で避けながら、シルバーカーテンを見破った相手を見据える。 これには流石のクアットロも驚きを隠せなかった。 「さぁ…どうする? このまま捕まるならそれで良し、逃げると言うなら……少しばかり痛いめを見てもらうぜ?」 少しじゃ済まさないけどな、と言う心の声が聞こえたのは気のせいだろう。 式は未だに姿を消したままの二人を見つめながらも相手の位置情報をなのはやフェイトに送る。 シルバーカーテンが通用しないのを改めて確認したクアットロはISを解除するが、投降する意思がない事を伝える。 「あ~ら、こんな事で管理局の馬鹿者供に負けを認める私達ではありませんわ♪」 「右に同じ…」 相手を挑発するような態度をとりながらもクアットロは必死にこの状況を打開する案を模索するが良い案が浮かばない。 自身は元々後方指揮仕様であるから接近戦はからっきし、ディエチは見て分かるように完全に遠距離戦仕様であるからどうしようもない。 まさにうつ手無しだ。 「そうか…。 なら…宣言通りに痛いめを見てもらうか…」 デバイスのカートリッジを一発ロードし、風牙一閃を放つ準備をする。 それと同時に離れて待機しているなのはとフェイトも何時でも砲撃を放てるようスタンバイを始める。 「風牙一閃…」 静かに己の技を呟いた後、式の体がはぜた。 数メートル離れていた距離を一瞬で詰め、寸分の狂いなくクアットロの胴体目掛けて切り付けた。 クアットロの殺られるという予感と式の決まったという予感が交錯する。 だが、そこへ一人の乱入者が入る。 なんだ―――!? 突如感じた、自身に向けられる殺気。 咄嗟に刃を収め、エアライドを発動しながら急制動掛けて踏みとどまる。 ヒュンッ、と刃が空を切る音が聞こえた。 そのまま突っ込んでいればそれは自身の頸動脈を確実に切り裂いていた一撃。 危なかった、と冷や汗を流しながら式は突然の乱入者へと視線を移す。 クアットロとディエチより長身、紫色の髪をショートカットにした少女、ナンバーズのNo.3トーレ。 腿と足首、手首付近からエネルギー翼・インパルスブレードを発生させており、先程の刃の正体はこれである。 「ほぉ…あの一撃をかわすとは…。 なかなか面白みがありそうな奴だ」 「トーレ姉様~助かりました~」 「マジで感謝…」 後ろで安堵の息を漏らす二人にトーレは鋭く眼光を光らせる。 「馬鹿者供め、あれ程油断するなと念を押したのにこの有様だ。 監視目的で来て良かった。 お嬢様が転送の準備をしてくださっている。 直ぐに撤退するぞ」 そう言うとトーレは二人を抱え込んで離脱しようとする。 その刹那、白銀の刃がトーレに向かって放たれた。 ガキィンッ!! トーレのインパルスブレードと式のディレクティが激しくぶつかり合う。 「このまま逃がすと思ったのか?」 突然の乱入者を睨み付けながら、式は徐々にディレクティに込める力を上げていきそのまま横薙ぎに振った。 トーレは刃を受け流しながら、左手のインパルスブレードを突き出す。 相手の刃が自身に向かってくるのを見ながら、式は左手に何時ものナイフを握り、そのまま弾き返した。 『式、直ぐそこから離れて!』 『砲撃で昏倒させて、そのまま捕まえる』 『了解…』 なのはとフェイトの念話を聞いた式は反転しその場から離脱する。 追撃がこないことに違和感を覚えた三人。 その答えは直ぐに分かった。 「トライデント…スマッシャー!」 「エクセリオン…バスター!」 バルディッシュとレイジングハート、それぞれからカートリッジが一発消費される。 フェイトの左手に展開された魔法陣から金色の三つ又状の砲撃魔法が、レイジングハートから桃色の砲撃魔法が放たれる。 二つの砲撃は空気を切り裂くように真直ぐに目標へと向かっていき、誰もが直撃したと確信した。 しかし二度ある事は三度ある。 又もや予想外の出来事が起こった。 「え!?」 「嘘!?」 確実に着弾すると思われた砲撃が目標を変えたかのように、地上へと曲がり始めたのだ。 その曲がり方は直角に近い角度であり、突然の出来事になのはとフェイトは驚きを隠せなかった。 その隙にトーレ達の足元には紫色のベルカ式魔法陣が展開し、超長距離転移魔法によりその場から姿を消した。 「しまった!」 「逃げられた…」 被疑者に逃げられた事を失念しながら、なのは達はロングアーチに連絡をいれ離脱していく。 だが、式だけはその場に止まり全く別の方角を見つめていた。 先程の…砲撃が突然曲がった異変が起こった時、廃墟群の方に一人の人影がいるのが見えたからだ。 一瞬ではあるが、確かに確認できた姿は一人のある人物を思い出させた。 その事実はサードアベニューで感じたあの気配や直感と確かに一致する。 「まさか…アイツがここにいるとでも言うのか…?」 廃墟都市群 式が見つめていた場所から少し離れた廃墟群。 そこに鎮座する一人の男。 「ふむ…まだ本調子ではないか…。 しかし…あやつもこの地の『魔術』を身に付けていたか…。 これで少しは面白みが出て来たと言う事か…」 そう言うと男は……荒谷宗蓮は顔を上げながら笑みを浮かべていた。
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/1635.html
結局賭けは俺の勝ち。 ゲームはなにからなにまで予想通り。 金が増えたと歓喜に震えるはずなのに、賞金稼ぎの心は震えない。 おまけに最後の最後になのはが見せた振舞いは、 あまりにも慣れ親しんだルールそのままで、気分は絶頂のはずなのに、 苛立ちばかりが増えていく。 そしていつも苛立ちの銃口の先に立つのはティアナ・ランスター。 ティアナ・ランスターを見る度にどうしてこれほど苛立ちを覚えるのか。 未熟?愚か?無能?ひよっこ?侮蔑の言葉を全て並べても当てはまらない。 俺に残った人間らしさだけがその事実を認めたくないと叫んでいる。 だが、遺伝子にまで刻み込まれた戦闘思考を始めとしたモノはそれを肯定している。 ベクトルこそ違えどティアナと俺は・・・・・・。 魔法少女リリカルなのはStrikerS―砂塵の鎖―始めようか。 第9話 言葉の重さと誠実さ ぼんやりとした視界が目の前に広がる。 視線の先で光っているのはルームライトだと気がついて、 今更だがあたしが横たわっていることに気がついた。 前後の記憶がない。 どうしてあたし・・・ここはどこ? 状況がまったく理解できなかった。 なにをあたしはしていたの? 「あ、ティアナ。起きた?」 「シャマル先生・・・・・・。あの・・・・・・えと・・・・・・。」 「ここは医務室ね。昼間の模擬戦で撃墜されちゃったの覚えてる?」 その言葉にあの光景がフラッシュバックする。 いつもの優しそうななのはさんの姿はそこにはなくて、 モノを見るみたいな目であたしを見つめて躊躇いもせずにクロスファイアシュートを 撃ち込んだなのはさんの姿が・・・・・・。 怯えに震える手を必死に隠そうとしたけど隠し切れているだろうか。 震えるな、あたしの手!! 震える手をシーツを握り締めることで押さえつける。 「なのはちゃんの訓練用魔法弾は優秀だから身体にダメージはないと思うんだけど。」 そう言われて立ち上がろうとしたとき、ふと足元が寂しい感触。 見ればあたしの生足が剥き出しになっている。 シャマル先生が治療のために脱がせたんだろうけど、気恥ずかしさに頬が熱くなる。 同性だし、気にする必要ないんだけど。 眠っている間に脱がされたというのがどうにも・・・・・・そういえばスバルは? 「どこか痛いところある?」 「いえ、大丈夫です・・・・・・。」 優しくかけられるシャマル先生の言葉にそう答えながら、 おぼつかないままに視線を彷徨わせるとアナログな時計が目に入った。 時間は・・・・・・短針が9の位置を指している? 「9時過ぎ!?え!?夜!?」 そう言いながら、窓の外を見直す。 外は本当に暗くて街頭の明かりが明滅して、空に星が浮かんでいる。 間違いや冗談じゃなくて・・・・・・本当に夜なんだ。 それならあたしはいったい・・・・・・。 「すごく熟睡してたわよ。死んでるんじゃないかって思うくらい。 最近ほとんど寝てなかったでしょ。たまってた疲れが纏めて来たのよ。」 シャマル先生の言葉は身体を心配してくれているものだと分かる。 ヴァイス陸曹が身体に気を使えと言ってくれたのに無視し続けた結果だということも。 吐き戻したときから限界を超え始めたと少しだけ自覚はあった。 でもこれぐらいやらないと届かないと思って走り続けた。 けれど、それだけやって手に入れた力なのに、なのはさんには簡単に打ち砕かれた。 あれだけやってまだ力が足りない。 誰も傷つけたくないから強くなりたいだけなのに!! 無理をしないでどうすれば力が手に入るの!? 才能も無くてレアスキル持ちでもない凡人のあたしは!! 神様、兄さんを奪ったあなたはあの狂人には力を与えてあたしからは奪うだけなのですか。 目の端から零れ落ちた水滴がシーツに染みを作った。 時間を少し遡って模擬戦直後。 ティアナが撃墜されてからの話。 「フェイト、頼むからあいつらをシャマルのとこへ連れてってくれ。」 「でも、ヴィータ・・・・・・。」 「頼むから・・・・・・そうしてくれ。エリオとキャロも一緒に行ってくれ。」 怒りに声が震える。 どうしてこんな裏切り方しやがったんだ、ティアナ達のやつは!! 気持ち悪いくらいあいつが予想したとおりの結末。 吹っ切れたみたいだからと油断したあたしが悪いのか。 ティアナという人間を見誤ったなのはが悪いのか。 フェイトに連れられて医務室へ向かうスターズとライトニング。 その中で最後まで睨み付けるようになのはを見て行きやがったスバル。 どうしてなのはの気持ちが分かってやれねぇんだ!! 顔を俯かせたまま戻ってきたなのはに対してあたしはなにも言ってやれねぇ。 「実に分かりやすい素晴らしい模擬戦だったよ。なのは隊長殿。信じると言った相手を これでもかとばかりに徹底的に蜂の巣にしてくれてまさに『強いから正しい』を 実践してくれるなんて夢にも思わなかった。正直見くびってたよ。 あははと笑って軽く叱って済ませるんじゃないかとばかり思って。 アハハハハハハ・・・・・・。」 そう言いながら無表情に笑うはんた。 皮肉を言っていることは明らかだった。 なのはにはどれだけきつく聞こえてるだろう。 くそっ!!なにも言い返せねぇ。 吹っ切れたみたいなスバルとティアナの様子に騙されたことも、 皮肉交じりにティアナ達が危ういと忠告してくれたのに生かせなかったことも、 生い立ちも合わせて焦りすぎな理由も知っていたのに生かせなかったことも、 全部あたしとなのはの責任だから・・・・・・。 でもなぜだろうか。 はんたは皮肉を言っているはず。 あたし達を思いっきりコケにして嘲笑ってすごく楽しそうなはずの裁断機野郎。 それなのに、酷くその言葉が虚ろに響くのは・・・・・・。 「さて、なのは隊長殿。賭けは俺の勝ちなんだが、追加で賭けをしないか? 終わったことをうじうじ考えたところでどうなるわけでもないのだから。」 「気持ち悪いくらい建設的で吐き気がする言葉だな!!てめぇ!! これ以上なのはになにを賭けさせようってんだよ!!」 「賭けの内容はティアナ・ランスターが自分の命を軽く扱っている言葉を吐くか否かだ。 そっちの負け分と今月の報酬全部を吐く側に俺は賭ける。そっちを有利にしよう。 期限は今日を含めて2日以内。乗るか?」 「・・・・・・あたしも同じだけ、ティアナが言わないほうに・・・・・・。」 どこか呆然とした様子も伴っていたけどなのはが反応した。 このままじゃ給料なくなっちまうなんてことよりも、 まだティアナのことを信じ続けられるなのはの誠実さ(悪く言えば愚直さ)が羨ましい。 あれだけ酷い裏切りをされて、想いがなにも伝わっていなかったって分かった直後なのに。 それがなのはのいいところかもしれないが限度ってものがあるだろう。 これは少しでも早くティアナのやつにきつい説教してやんねぇとな。 だが、裁断機野郎の答えになのはもあたしも戸惑いを隠せなかった。 「金はいらない。」 「・・・・・・お、おい。それじゃなにをなのはに賭けろって言うんだよ。 身体とか言ったら本気で息の根止めるぞ!!てめぇ!!」 傍目には壮絶な絵面だっただろう。 失意のどん底のエース・オブ・エースと無表情のイカレ裁断機野郎と 1人熱くなっているヴォルケンリッターの鉄槌の騎士が 今にも殺し合いやりそうな雰囲気で顔を突き合わせて会話してるんだから。 はんたの言葉に呆然と顔を上げたなのはに要求が告げられる。 「1度だけ、ティアナと、俺が、模擬戦をする権利。」 誤解の無いように、まるで言い含めるかのように、途切れ途切れの言葉。 それを安いと見るか高いと見るか、あたしには判断付かない。 ただ、要求の意味的にはおかしなものでも無理なものでもない。 それこそなのはの代わりにフェイトやあたしが教導するようなものだ。 階級の権限的にもやってやれないことはない。 なのはがスターズの隊長だからということを除いても、 あたしの感覚からすれば物凄く安い要求に思える。 何度も言葉を繰り返してみるが、曲解できる部分はない。 違和感が拭えないほど、奇妙なまでに安い要求。 育成プラン考えてるなのはが傷つくような内容ってわけでも・・・・・・ないよな? なのははどんなふうにこの言葉を聞いているのだろう。 寝る間も惜しんで育成プランを考えてたところに横槍入れられたと考えてるのか、 それともあたしみたいに安い要求だと思っているのか。 それでもやっぱり安すぎるよな。 なのはがひよっこどもを大切にしているとはいえ、模擬戦1回は余りにも安すぎる。 だが、はんたが当然のように続けた次の言葉に、 あたしは安いとか高いという思考を全部吹っ飛ばされて構わずぶちきれた。 「ただし、殺傷設定での模擬戦だ。」 「ふざけるんじゃねぇ!!訓練中の事故とか言ってティアナ殺す気かよ!! それ以前にそんなの模擬戦じゃねぇ!!一方的な虐殺じゃねぇか!!」 不意打ちで掴みかかったが、簡単にあたしが地面に転がされる。 うつぶせに転がったあたしの背中に速やかに容赦なく足が乗せられた。 呼吸が詰まるのと同時に気がつく。 こいつ、本当に殺しになれてる。 もう少し力を入れていればあたしの背骨をふみ折られていただろう。 プログラム体だが、今のボディを最後に朽ちるばかりの人間みたいな身体。 それがたった今、簡単に壊されかけた。 いったいどんなバケモノなんだよ。 この裁断機野郎は・・・・・・。 「ダメだよ・・・・・・。ティアナは・・・・・・。」 「可哀想なティアナちゃんは死んじゃったお兄様のためにそれはそれは必死で努力しているいい子なんですとでもいうのか。なのはがどれだけ大切に扱ってるかも知らないで馬鹿やるあれが。誰も失いたくないから強くなりたいとか夢ばかり見てるあれが。」 「っ・・・・・・。」 「信じたいなら言わないほうに賭けろ。兄のことを大切に思って、本当に夢を叶える気があるのなら、どれだけ屈辱と恥辱と汚辱に塗れても命だけは絶対に捨てない。 絶対に捨てられるはずがないんだからな!!!!!!!!!!!!!!!!」 足蹴にされたあたしの上で強い言葉が響いた。 裁断機野郎がどんな顔をしてるか知らねぇ。 けど、はっきりとその声に混ざったのは苛立ち。 破壊以外のとき、どこか作り物じみた感情しか見せなかった裁断機野郎が まともに見せた感情らしいもの。 だけど、なにに苛立っているんだ? ティアナの在り方?存在?思考?それとも別のなにか? あたしには想像しきれない。 横目に見えるなのはもはっとした様子で息を呑んでいる。 少しずつ震え始めるなのは。 「それでも・・・・・・絶対に・・・・・・殺傷設定・・・・・・だけは・・・・・・ダメ・・・・・・。」 「・・・・・・そもそも・・・・・・そんな賭けに乗らなきゃいいじゃねぇか。なのは。」 途切れ途切れに蒼白な顔でなのはが答える。 尋常じゃないまでに震えながら・・・・・・。 その震えがなにから来るものかあたしは空気が読めていなかった。 裁断機野郎の理解について、なのはのほうができていたのだろう。 それこそ賭けを飲むか、六課が潰れること覚悟で力づくでカタをつけるかの 2択になってしまっていたことに。 足蹴にされたままあたしがそんなことを言った途端、 ならば当然とばかりに躊躇いもせずはんたのやつが口にした言葉にあたしは再び戦慄する。 「それならこれからは普段の訓練で横槍つっこませてもらうとしよう。 面倒が増えると『アルファが』『何度も』説得したからやめていたが、もうどうでもいい。」 つまり、いつでも殺せたってのか。 デバイスに説得されて面倒だからというだけで殺さなかっただけなのか。 あたしたちを・・・・・・それこそ殺したかったのか。 その筆頭に名前が挙がっていたのがティアナだったっていうのかよ。 「それなら2倍でも3倍でも賭けてもいい!!賭けるから!! だから・・・・・・だからお願いします。もう少しだけティアナのことを待って・・・・・・。」 「・・・・・・。」 なのはが泣いていた。 膝をついて顔を歪めて泣いて頼んでいる。 実戦を繰返してきた管理局のエース・オブ・エースたる高町なのはが・・・・・・。 力に訴えれば私闘を行ったとなって六課の存亡に影響が出る。 それこそ手加減なんてやってられない相手だから始末書なんてレベルで済むはずがない。 後ろ盾があるからと言って、かばうにも限度がある。 良くてなのはとはやての解任、最悪六課の解体だろう。 賭けを呑まなければ訓練中の事故として皆が処理されていく。 ホテルで見たあの砲撃がどこからともなく飛んでくる。 それこそ、最悪のタイミングを狙い済ましたようにそれは撃ち込まれるだろう。 ひよっこどもが無傷で済む可能性は限りなく0に近い。 賭けを呑むしかない状況だと今更気がついたあたしの鈍感ぶりに絶望した。 はやての夢である六課を潰すか、条件を打開するかの2択。 なのはに六課を潰すなんて選べるはずが無い。 足蹴にされたままのあたしはそんななのはを見てもティアナへの怒りしかわかない。 本当に丁寧に教えているなのはをなんで裏切ったとしか。 気のせいか足の裏ごしに裁断機野郎がなのはの言葉に動揺(?)した気がしたけど、 背中に乗った足はそのままでやっぱりいつもの裁断機野郎だ。 くそっ!!本気で動けねぇ。 動いた途端、ぎりぎりの力加減で載せられた足が横から飛んでくるイメージしか沸かない。 次に狙われるのは鳩尾か、肋骨か、それとも首か・・・・・・。 ゴミみたいにあたしを殺した後に裁断機野郎がどうするか。 既に考えはそこへ向いている。 長生きはするものだ。 シグナムやシャマルみたいに冷静に思考しろ。 冷静に考えてみるんだ、あたし。 シグナム達は怒りを噛み締めるだろうが動かないだろう。 なにを引き起こすか分かっているだろうから。 だが、なのはもフェイトもなによりはやてが火種になる行動を取らずにいられるだろうか。 ・・・・・・性格的に無理な気がするなんてあたしに思われるんじゃ駄目だろ。 3人とも我慢して我慢して我慢した果てに全部纏めて吐き出すタイプの人間じゃないか。 多少許容量が違うだけで・・・・・・。 とにかく火種だけは作ってはいけない。 嬉々として躊躇うことなく裁断機野郎は六課、いや、はやて達に襲い掛かるだろう。 勘違いじゃなければこいつにとって刈り取る命の価値観は、 はやてのためと動いていたころのあたし達ヴォルケンリッターのそれよりもはるかに軽い。 逆に目的を持った命に重い価値を置いているのか。 それだとティアナのことがかみ合わない。 なんにせよ、少しだけでも思考が分かっているのが救いだ。 殺しさえできればなんでもいいという向こう側の思考を持ったこの裁断機野郎め・・・・・・。 そんな思考のあたしを足蹴にしたまま、『それならば』と告げられた言葉に再び戦慄する。 いったいどれだけ脅かせばいいんだよ!! 「ティアナが命を粗末に扱う言葉を吐かないほうに自分の身体をかけられるのか? 高町なのは。その歳で生娘なんてことはないだろうが、念を押しておく。 一晩付き合えなんて易しい話じゃなく、それこそ死んだほうがましって扱いだ。 逃げ道のない賭けに乗れるのか?賭けられるというのなら模擬戦で 殺傷設定を使わないどころか、ゲーム代として普段から殺そうとする行為全部をやめよう。 なのは隊長殿の身体に見合っただけレートを上乗せさせてもらおうか。」 「・・・・・・っ。」 「即答できない以上、所詮・・・・・・。」 「・・・・・・分かった。賭けるよ。あたしの身体・・・・・・。」 「なのは!!なにを言っているのか分かってんのか?正気か!?壊れたか!? 自暴自棄になってるとかそんなんじゃねぇのかよ!?どうしちまったんだよ。なのは。」 足蹴にされたまま、あたしはわめいた。 ショックのあまり、なのはが壊れちまったんじゃねぇか。 どう考えてもまともじゃねぇ!! 少なくともあたしなら絶対にこんな『負ける』賭けやりたくねぇ!! だが、なのはは撤回する様子をみせない。 嘘だろ・・・・・・。 絶望のあまり視界が真っ暗に染まるなんて久々だ。 「・・・・・・賭けは成立だな。改めて言葉にしておこうか。 ティアナ・ランスターが今日を含めて2日以内に自分の命を軽く扱う言葉を吐くか否か。ゲーム代として俺は普段からの殺傷行為の禁止を払う。 賭けるのはそっちがティアナと1度だけ非殺傷設定で模擬戦をする権利となのはの身体、 俺が今月の報酬全部とそちらの負け分全額。」 「おい、最後に聞かせろ。どのあたりから命を軽く扱っている言葉なんだ?」 「いろいろあるんじゃないか?俺の貧相な語彙じゃ『死ぬ気』とか『死んでも』とか 『命に代えて』なんてところしか思いつかないが。」 「・・・・・・なんだ、この状況は。ヴィータも足の下でなにしている?」 シグナム。 できればもう少し早く来て欲しかった。 それと・・・・・・空気読めよ、お前・・・・・・。 時空管理局機動六課。 名前の通り、時空管理局という組織に所属する1つの勢力に過ぎない。 あの荒野と同様に、どこの人間も変わらず利権や権限の取り合いをして、 正直者が馬鹿をみる構造は変わらない。綺麗ごとを抜かしても人間は人間。 さて、他のところと決定的に異なる六課の性質。 それはロストロギアが関わってさえいれば出動できるという強み。 ウラワザでいびつに完成させた身内だらけの組織ゆえの結束の固さと戦闘能力の高さ。 使い方次第でどこにでもクチバシを突っ込めるその異常なまでに巨大な権限と、 他の勢力を力づくで潰す分にはお釣りがくるほどの人材の宝庫で火力の集まりは 妬みとやっかみを買うに十分。 詐欺が横行してナイフやライフルどころか戦車を片手に笑って会話する日常も ろくに過ごしてない未熟なはやてじゃ、利権と権限争いの結果、 ホテルの件はあれで折り合いをつけるしかなかったわけだ。 拘束具だけはつけておいて、失敗しても六課に責任がある。 そんな構造を作らさされたわけだ。 管理局という構造をアルファに調べさせて思い知ったそんな現実。 とりあえず全部消し飛ばそうとアルファ片手に出かけそうだった足が止まったのは ひとえになのはとの賭けだった。 あの賭けを飲める度胸があるとは思わなかった。賭けの内容自体は問題ではない。 なにをチップにするかだ。 他人のために身体を賭けるなんてそれこそ突き抜けた馬鹿でもやらない。 それこそよほどの大物か、真性の救いようの無い馬鹿のどちらかしか・・・・・・。 だからこそ、断らせて事故で全部処理させるつもりだったのに目論見が外れた。 そもそも、賭けを持ち出しておいてあれだが、 今度の賭けで俺の勝ち目は手段次第で10%を切る。 なのはが相手だから30%にかろうじて届くところだが、周囲がどう動くか分からない。 アルファの見解も同様。 それこそイレギュラー全部がこっちに傾いてようやく五分の賭けになるかという次元。 なにより向こうには必勝法がある。当然、俺もアルファも気がついている。 なんせティアナ・ランスターに『喋らせなければ』勝ちなのだから。 シグナムあたりは『殺す』と『気絶させておく』という選択肢に気がついただろう。 案外フェイトかはやてあたり力づくで妨害しにかかるか。 しかし、どうしてこんな負ける賭けを挑んでしまったのか。 全てはティアナが目触り過ぎるから・・・・・・。 あれだけは俺の手で叩き潰したくて仕方ない。 本当にいいハンターがいない世界だ。 ハンターらしいやつはシグナムくらいか。 なのはとフェイトも悪くは無いが、振れれば倒れそうなほどに感情が不安定すぎる。 判断しにくいところとしてシャマルとはやて。 笑って殺しができそうなあたりシャマルとは気があいそうなんだが。 はやてはどこかジャックさんを髣髴とさせる目をするときがたまにある。 なにか昔に後悔でもあるのか・・・・・・。 将来の可能性としてエリオとキャロ。 素直で伸び白の多い2人がどこまで伸びるか楽しみではあるが、 ぬるま湯のような環境では育つに時間があまりにも足りない。 もしかしたらスバルが伸びるかもしれない。 ティアナのついでに観察していてどこかいびつな感じを受けるのはいったい何故だろう。 ティアナは論外。 どんな思考もティアナに帰結し、苛立ちが向くのもティアナ。 初めて見たときからずっと意識に止まっている。 ティアナ、ティアナ、ティアナ・・・・・・。 殺せと騒ぎ出そうとする遺伝子を沈めるように思考を捨てて夕日を眺める。 あの荒野のほうが若干紅いか。 だけど、水平線と地平線の違いはあってもこの光景は変わらない。 どこまでも視界の果てまでなにもない荒野の果てに揺れて沈んでいく夕日と・・・・・・。 あの荒野は本当に分かりやすかった。 『強いから正しい』の言葉に従って、気に入らなければ消し飛ばせばいい。 たったそれだけで全部が片付く・・・・・・。 静かな海に沈んでいく夕日を眺めながら、脳裏にあの荒野で見た夕日を描き、 そんなことばかり考えて、無言のアルファを片手に時間が過ぎるのを待っていた。 訓練場で端末を操作し続ける。 物凄い賭けをしてしまったとは思っている。 でも、後悔はしていない。 ヴィータちゃんにも手出ししないように言っておいた。 わたしがどこまでティアナ達を信じてあげられるか試されてるんだって・・・・・・。 よく考えたらティアナのことも勝手に賭け金に乗せちゃったよね。 それでも、本当に潰されるよりましだと、わたしの選択が間違ってないって思いたい。 夢が叶えられなくなるよりははるかにましだって・・・・・・。 それに負けるはずがない・・・・・・んだよね? どうしてはんた君が『言う』ほうに賭けたのか不思議でならない。 言わないことが前提みたいな賭けだと今になって気がついて首をかしげている。 でも、ティアナ・・・・・・。 そんなに悩んでいたならどうして話をしてくれなかったのかな。 理解したつもりになっていただけだったのかな、わたし・・・・・・。 「なのはー。」 「フェイトちゃん。」 作業を切り上げて、迎えに来てくれたフェイトちゃんと本局へ歩みを進める。 「さっきティアナが目を覚ましてね、スバルと一緒にオフィスに謝りにきているよ。」 「そう・・・・・・。」 「なのはは訓練場だから明日朝一で話したらって伝えちゃったんだけど・・・・・・。」 「うん。ありがとう。でも、ごめんね。監督不行き届きで・・・・・・。 フェイトちゃんやライトニングの2人まで巻き込んじゃった。」 「ううん、私はぜんぜん・・・・・・。」 「ティアナとスバル、どんな感じだった?」 「やっぱり・・・・・・まだちょっとご機嫌斜めだったかな。」 気を使ってくれているのが丸分かりだよフェイトちゃん。 実際、ちょっとどころかかなりなんだろう。 努力を踏みにじるみたいに力任せに撃ちのめしちゃったんだから。 「強いから正しい・・・・・・・か。まぁ、明日の朝、ちゃんと話すよ、フォワードのみんなと。 はんた君には悪いけど、本当に無茶だけはして欲しくないから・・・・・・。」 「・・・・・・どうしてはんた君が出てくるの?」 「フェイトちゃんには話しておこうかな。はんた君との賭けその2。」 簡単に説明した。 ティアナが自分の命を軽く見た言葉を言うかどうか賭けをしたって。 そこまではフェイトちゃんもお給料なくなっちゃうよみたいな顔をしていた。 賭けたものにわたしの身体が入っているって言うまで・・・・・・。 「なんて馬鹿なことしてるのよ!!なのは!!」 「落ち着いてよフェイトちゃん。」 「だって、負けたらなのはは・・・・・・。私がやめさせてくる。」 「大丈夫。ティアナを信じているんだから。それに明日の朝フォワードの皆と話すなんて余計な手出ししちゃうんだもん。フェアじゃないよ。それにはんた君、いつもどこか辛そうで苛立ってて、まるで破裂しても・・・・・・ううん、破裂したがっている風船みたいだったから。」 「だからってどうしてなのはが・・・・・・。それならせめて負けないようにしないと。 そうだ!!ティアナをこれから気絶させて車のトランクにでも入れておこうよ。」 「過激だよ。フェイトちゃん。」 あははと笑ってロビーにまでたどり着いた。 いろいろなアイデアを出すフェイトちゃんの顔は最後まで真剣そのものだったけど・・・・・・。 フェイトちゃんはいつも心配性だよね。 友達として嬉しいけど・・・・・・。 でも、信じてあげないと駄目だよ。 そんなことを言おうとした矢先、赤いアラームが鳴り響いた こんなときの便利屋さんやないか。 新型ガジェットドローンの襲撃。 リミッター解除を軽々しくやるわけにもいかない事情や 戦略的に奥の手を見せないほうがいい以上、かなり制限をつけての出撃となるはずだった。 でも、制限なにそれといわんばかりの存在が六課にいた。 すっかり忘れていたけど、はんた君は陸曹兼空曹。 空戦ができるのだ。 なにより能力は本当に折り紙つき。 はやてちゃんは嬉々としてはんた君を出撃メンバーに加えた。 相手がガジェットドローンだからって、いつもなら火力制限するだろうに、 遠慮なくぶち壊せってはやてちゃんなにか嫌なことでもあったの? リインやグリフィス君が呆然とするくらいはっちゃけてた。 なにか胸とかバトー博士とか壊れたみたいに呟いていたけど・・・・・・。 「今回は空戦だから出撃はわたしとフェイト隊長とヴィータ副隊長とはんた空曹の4人。」 「みんなはロビーで出動待機ね。」 「そっちの指揮はシグナムだ。留守を頼むぞ。」 「エリオ、コーヒーでも入れておいてくれ。ミルク抜き、角砂糖1袋。」 「「はいっ!!」」 「はい・・・・・・・。」 キュンキュンとローターの音が響く下でわたし達はフォワードの4人にそう告げた。 なにかおかしいのがあったけど、人の嗜好は気にしないでおこう。 それよりもティアナの落ち込み方が酷かった。 スバルも返事をしないことで反抗しているつもりなのか。 うん、疲れているだろうし、出動待機から外れておいてもらおう。 手加減した訓練用の魔力弾とはいっても全くのダメージ0というわけにはいかないから。 その分、わたし達ががんばって、その後でたくさん話し合おう。 「あ、それとティアナ。ティアナは出動待機から外れておこうか。」 本当に心配して、善意から言ったつもりだった。 けれど、周りの受け止め方は違ったみたい。 ティアナを除いたフォワードの3人が驚きの声を上げてティアナを見ている。 「そのほうがいいな。そうしとけ。」 「今夜は体調も魔力もベストじゃないだろうし・・・・・・。」 「言うこと聞かないやつは使えないってことですか。」 「自分で言っててわからない?当たり前のことだよ。」 少しだけ怒れただけど、我慢した。 ティアナは気が立っているだけなんだろう。 普段のティアナなら絶対に言わない言葉だから。 第一、機動六課という組織の中のスターズという部隊なのだ。 隊長の指示に従えないのなら部隊がなりたたなくなる。 「現場での指示や命令は聞いてます。それに訓練や教導だってちゃんとサボらずやってます。 それ以外の場所での努力まで教えられた通りじゃないとだめなんですか。」 「それでジャンクになりかけておねんねしておいてなにを噛み付いてるんだか。」 なにか言いたげなヴィータちゃんを制止した直後、はんた君のそんな言葉が響いた。 わたしの肩越しに物凄い憎しみ塗れの視線ではんた君を睨み付けるティアナ。 「・・・・・・・っ、私はなのはさん達みたいにエリートじゃないし、スバルやエリオみたいな才能も、キャロみたいなレアスキルもない!! 少しくらい無茶したって、死ぬ気でやらなきゃ強くなんてなれないじゃないですか!!!!!!!」 「なんのつもりだ。はんた。」 「アハハハハハハハハハハハハハハ・・・・・・。」 気がつけば、ティアナの胸倉を掴んで殴り飛ばそうとしていたシグナムの拳を止めていた。 ついでに狂ったような笑いが止まらない。 エリオがどこか呆然としたみたいにさっきまで俺がいた場所と今の位置を見直してる。 なにを驚く必要がある。この程度できるだろうに。 さて、いつものスタンスなら放置するか、俺がティアナをモルグ送りにしている場面。 馬鹿が夢見て戯言をほざいて殴られるというありふれた光景で話は終わり。 馬鹿が逆恨みするなり喚くなりするだろうが、それで全ては丸く収まる。 そのはずだった。 そこに、ある言葉さえなければ・・・・・・。 たった一言、賭けの対象であり、どうしても俺には聞き逃せない言葉を口にした。 それも本当に軽々と!!あっさりと!!冗談みたいに簡単に!!想像を超えるほどに!! 真性の馬鹿なのか、それとも身の程知らずなのかなんて思考がいつもならばよぎるのに、 今この瞬間だけはコンマ数秒さえよぎらない。 そんな思考自体が存在しえなかった。 本当にたった一言なのに、その一言が、俺を誘うかのように心を荒れ狂わせる。 僅かばかり残った人間らしさを屈服させ、 遺伝子にまで刻み込まれた戦闘思考を全開にさせ、 ハンターとしての習性を荒れ狂わせ、 苛酷な荒野を生き抜いてきた人間としての在り方をズタボロに踏みにじり、 ありとあらゆる物騒で凄惨で残酷で破壊と殺戮用の思考を一斉に同じ方向へ向かせる。 たったの一言がそれを成した。 最後まで抵抗を続けていたはずの人間らしさが絶望も諦念も躊躇もなく屈服した。 最短時間で確実に敵を屠るためにあらゆる状況を打破し最適な武器を選択し 最大級の運用を行って殺戮の最大効率を求める血と殺戮と暴力に飢えた戦闘思考が、 コイツは肉塊に変えるだけでは生温いと叫び声をあげる。 卑怯?残酷?えげつない?なにそれって食べられるの?とばかりに笑い飛ばして 淡々と獲物を狩るハンターという生き物の習性が、この小娘に荒野のルールで 教えてやれと囁きだす。 俺達のルールはこれだろう?とばかりに、かけ離れた場所にあるはずの苛酷な荒野が その匂いを届けてくれたかのように鼻腔の奥がツンとする。 ありとあらゆる物騒で凄惨で残酷で破壊と殺戮用の思考の群れが、 狂宴の始まりだといつもなら騒ぐはずなのに、漣1つ立てず静粛にしている。 まるで祭りを始める前の準備を粛々とすすめているかのように・・・・・・。 いつもならば1つぐらいは反対する思考が残る。 義理や金や怠惰、アイなんて幻想やろくに残っていない人間らしさを筆頭にして・・・・・・。 しかし、今、俺という存在の全てが同じ思考を提示し、ただの1つも反対しない。 それがシグナムの拳を受け止めた理由・・・・・・。 誰かにこの感情を分かってもらおうなんて思わない。 まして誰かの理解が得られるなんてかけらさえも思っていない。 まさに心が引き千切れた。 ゆえに思考はたったの1つ。 それに向かって身体と精神が突き動かされる。 シグナムの拳を受け止めたままで口が開いた。 「アハハハハハハハ・・・・・・。なに、高町なのは隊長殿と賭けをした矢先だったからつい。 潔癖剣士のシグナム。どうぞ馬鹿に好きなだけ説教してあげてくれ。 そして隊長達も速やかに出撃して虐殺してきましょう。それと、なのは隊長。 戻ったら是非とも速やかにティアナ・ランスターと模擬戦をさせろ。ご安心を。 訓練場使用の書類手続きは全部片付けてある。」 なのはは現実を認めたくないとばかりに蒼白な顔で、 ヴィータはいい殺意を放ちながら怒りの表情で、 フェイトはまさかとばかりに口を押さえて驚愕の表情で、 シグナムはああ!!とばかりにようやく気がついたような顔で、 ひよっこ達はなにが起こったのか理解さえできていなかった。 神なんて信じちゃいないが、これはさすがにできすぎだ。 賭けの当事者が全員揃ったこの場、この瞬間、目の前で大声ではっきりと、 俺の貧弱な語彙の1つをそのまま言ってくれるなんて・・・・・・。 ああ、もうこれは悪魔の仕業と思うとしよう。 赤い悪魔が俺に笑ってくれたのだろう。 「ヴァイス!!出られるな!!」 「はい!!いつでもでられます!!」 俺の叫ぶような言葉に震え上がったような声が返ってきた。 おいおい、なにをそんなに怯えるんだ。 獲物はお前じゃないだろう? 「それじゃ、なのは隊長達、さっさと虐殺にいこうじゃないか。」 壊れてないかと思うくらいに落ち込んだなのはと、 今にも暴れそうなヴィータと、おろおろするばかりのフェイトをヘリのカーゴへ促した。 「目障りだ。いつまでも甘ったれてないでさっさと部屋に戻れ。」 「あのシグナム副隊長。その辺で・・・・・・。」 「スバルさん、とりあえずロビーへ・・・・・・。」 「シグナム副隊長!!」 「なんだ。」 「命令違反は絶対に駄目だし・・・・・・さっきのティアの物言いとかそれを止められなかったあたしは確かに駄目だったと思います。 だけど自分なり強くなろうとするのとかきつい状況でもなんとかしようとがんばるのってそんなにいけないことなんでしょうか? 自分なりの努力とかそういうこともやっちゃいけないんでしょうか。」 なにを泣いて訴える必要がある。 そもそもなにが問題なのか分かってないみたいだな。 「自主練習はいいことだし、強くなろうとする努力もすごくいいことだよ。」 「シャーリーさん・・・・・・。」 「持ち場はどうした。」 「メインオペレーターはリイン曹長がやってくれますから。 ただ、皆不器用で、見てられなくて・・・・・・。皆、ちょっとロビーに集まって。 私が説明するから。なのはさんのこと、なのはさんの教導の意味。」 場所を移してシャーリーとシャマルから語られたのはなのはの経歴。 P.T事件。 闇の書事件。 無理を続けた果てに我慢を続けて壊れたなのは。 飛ぶどころか歩くことさえままならなくなったなのはのリハビリ生活。 呆然としたようなフォワード4人が滑稽すぎる。 私からすればいまさらすぎること。 なぜあんなに丁寧に教えているのか本当にわかっていなかったのだろう。 はんたが言っていた通りに・・・・・・。 「譲れぬ戦いがあることも事実だ。だが、お前がミスショットしたあのとき、 他に選択肢はなかったのか?前線に出ていた私達からはヴィータが全速で戻っていた。 お前達のお守りをするために絶対に射程からお前達を外そうとせず、離れようとしなかったはんたもいた。はんたはそれこそお前達に戦闘させる気さえなかったように徹底的に 殲滅していたことも、あまりの制限事項に荒れに荒れてシャマルがどれだけ罵られて 悔しい思いをしたかさえ知らないだろう。仲間の命のため、どうしてもあの場面は 撃たねばならなかったのか?はんたに手伝ってくれと告げることやなぜか後ろに残した エリオ達も運用してヴィータが到着するまで足止めするなどいくらでもやりかたはあったはずだ。なぜ、貴様が撃たねばならなかったか答えられるものなら答えろ!!訓練中のあの技はいったい誰の・・・・・・今更どうでもいいことだったな。それより、ティアナ。 覚悟はしておいたほうがいいぞ。」 説教を早々に切り上げてやる。 既に私の興味はいったいどんな趣向ではんたが模擬戦するのかに向いている。 いつものなのはの真似はしないだろう。 ならばヴィータみたいに力押しか。 それもありえない。 まさか私みたいに近づいて斬るなんて真似で終わることはないだろう。 あるいはテスタロッサみたいに近距離と遠距離併用の高速戦闘か。 ありえそうだが、それでは1度きりの模擬戦を生かしきれない。 主はやてのように広域攻撃したらそれこそ模擬戦の意味がない。 なんでもできる(らしい)デバイスを持っているだけに、 検討さえ付かないのが正直なところだった。 「・・・・・・なにをですか?」 「なのは達が帰ってきたらだ。シャマルどころか、なのはやフェイト、 ヴィータや私なんかでさえそれこそ天使にでも見えるようになるだろうよ。」 「シグナム副隊長、それってどういうことですか?」 「口にするのさえ吐き気がする内容だ。ティアナが自分の命を軽く扱っているかどうかでなのはとはんたが賭けをしてなのはが負けた。これ以上私に話をさせるな!!」 「ティアのどこが命を軽く扱ったんですか!!」 「『死ぬ気』なんてあっさり使う大馬鹿のどこが軽く扱ってないんだ!!」 「「「っ・・・・・・」」」 「そ、それは・・・・・・ティアがたまたま・・・・・・口にしちゃった・・・・・・。」 「いずれにせよ覆らん。ここまで馬鹿だったとは私も思わなかったぞ。 ろくに賭け事も知らん私でさえ負けるほうが難しいと思っていたんだからな!!」 「ね、ねぇ、シグナム。いったいなのはちゃん達はなにを賭けたの?」 「自分だ。シャマル!!これ以上答えさせるな!!」 私の答えの意味がまったく分かっていないフォワード4人。 逆に意味が分かってしまったのだろうシャーリーとシャマルは息を飲んだ。 「704現場空域に到着。」 「ライトニング1、スターズ2エンゲージ。」 管制からの連絡が入る。 フェイトちゃん達が相手を足止めしてくれている間に わたしとはんた君を乗せたヘリは予定のポイントに辿り着いた。 「ほんじゃぁ、なのはさんと凄腕さん、気をつけて。」 「・・・・・・うん。ありがとう。ヴァイス君。」 「ヴァイスこそ落とされるなよ。」 「今は気分を変えて、いくよ!レイジングハート!」 「All right. My master.」 「だからひよっこが真似するからやめろ!!」 飛び降りようとしたわたしの髪が引張られた。 ああ、そうだった。 癖になっているのかもしれない。 意識して止めないと・・・・・・。 「ありがとう。はんた君。レイジングハート、セットアップ。」 「どういたしまして。アルファ、セットアップ。」 一気に加速して支援砲撃のポイントに到着する。 同じくはんた君も到着したみたいで、座標を独自に送ってくる。 本当に高性能なデバイスだ。 忘れかけてたけどずっと抱いていたあの人形なんだよね、アルファって・・・・・・。 「こちらスターズ1、中距離火砲支援いきまーーーーす。」 「こちらハンター1、中距離火砲支援開始。前2人巻き込まれるな。」 「了解。」 「おう。ってはんたは一言多いんだよ!!」 ディバインバスターの予備動作。 魔力を収束させるのに若干の時間が掛かる。 その間に十字砲火になる位置から飛ぶ光弾が4発。 狙いを外した? 散らばって飛んだ4発に一瞬そんなことを考えたけど違う。 立て続けの爆発の後、ガジェット達がわたしの射線にこれでもかと密集させられていた。 ここまでコントロールできるものなの!? 「ディバイーン・バスター!!!!!!!!」 わたしの砲撃魔法の直撃を受けた新型ガジェットドローンが次々に落ちて行く。 撃ちながら、初めて気がついた。 もしかして私たちの砲撃魔法とはんた君の砲撃魔法、傾向がぜんぜん違う? 「は、はんた君!!なのはちゃんとの賭けって本当!?」 帰ってきたわたし達にかけられたシャーリーさんの第一声がそれだった。 「なにをいまさら。さて、模擬戦の始まりだ。ティアナ・ランスターはどこにいる。」 「え、えーと、その・・・・・・。」 「アルファ、どこにいる。」 「訓練場です。マスター。」 「向こうも待ちきれなかったようだな。」 「あの、その、ちょっと、はんた君。」 「まさかとは思うんすけど、凄腕さんにティアナのやつ喧嘩うったんじゃ・・・・・・。」 「ヴァイス君。六課の皆が事故死するのとどっちがよかったのかな・・・・・・。」 「まさかなのはさんがティアナのやつを!?」 「シグナムさんも吐き気がするって詳しいこと話してくれなかったのよ。 いったいなにがどうなってティアナとはんた君が模擬戦することになったの?」 後ろで何か言っていたが気にしない。 さて、一番プライドをぶち壊して屈辱に塗れる方法はどれがいい? 俺が俺自身に問いかける。 思考と感情と遺伝子が躊躇うことなくたった1つを差し出した。 なるほど、これは悪くないな。 「アルファ、デリンジャー。火力はティアナのシュートバレットのやや下に設定。」 「了解しました。マスター。」 シミュレータで展開された廃墟の立ち並ぶ夜の訓練場。 その中央の交差点に、黄昏ていたティアナを引きずってくると転がして立ち上がらせる。 そして俺とティアナ・ランスターが正対した。 ティアナ・ランスターの手に握られるのはクロスミラージュ。 俺の手に握られるのは変形を終えたアルファが形どったのは思い出深いデリンジャー。 双方の装備が2挺拳銃。 そして火力も向こうが上回るように揃えた。 未だにぼんやりした感じのティアナの傍らにデリンジャーを撃ち込んでやる。 当てるつもりも当たるはずも無い魔力弾が飛び、地面を削る。 右手から2発、左手から2発。 トリガーを引くがカチカチと音を鳴らすばかりで魔力弾は飛ばない。 「リロード!」 俺がそう叫ぶと、感覚的に装弾が終わったことを認識する。 それと同時にもう1つの事実を認識。 装弾数は認識から超えられない。 装弾数は一番使い慣れた数で固定され、リロードの宣言が必要になる。 外見的なものもあるのだろう。 ベルトリンクされたカートリッジでもくっついていれば無意識に装弾数を 無制限と認識ができるのだろうに。 ようやく欠点らしい欠点があったよ、バトー博士。 「ティアナ。俺はデバイスをこの形から変形させず、使う魔法も貴様のいうところの シュートバレットのみ。今、見たとおり貴様のそれより下の火力だ。 さて、模擬戦を始めようか。」 そう告げたがティアナは動こうともしない。 それこそバリアジャケットの展開はおろかデバイスを手に取ることさえ・・・・・・。 少し煽ってやるとしよう。 「多少不調だからと言って負けるはずがないよな。センターガード様? それとも無駄死にしたティーダ・ランスターみたいに貴様も負け犬の能無しか。」 クロスミラージュから魔力弾が放たれる。 それなりに抜き打ちは早いな。 もっともその弾はあさっての方向へ飛んでいったが、ティアナの目に力が戻っている。 やはり兄の事が一番精神的に抉れるようだな。 「兄さんを馬鹿にするな!!」 「俺の世界は『強いほうが正しい』が絶対ルール。犯人を追い詰めたのに取り逃がして くたばった貴様の兄は無駄死にした負け犬で、必死こいて特攻した挙句なのはに 一方的に蜂の巣にされた貴様も負け犬なのさ。 それとも『強いほうが正しい』に従って言葉を訂正させてみるか?」 クロスミラージュからシュートバレットが連射される。 だが、無駄だらけだ。 不規則に動き回りながら回避していく。 ろくに弾幕さえはれず、精密射撃が強みとかいいながら狙うのに時間がかかる。 火力に優れているわけでもない。 そしてなにより動き回ることを真っ先に考えようとしない。 まったく自殺志願者だな。 動かない相手は敵といわずに的というんだよ。 「終了条件は決めるまでもないな。文字通り死にかけるまでやりあおうか。 『死ぬ気』という言葉を二度と吐けないほどに、その意味を徹底的に撃ち込んでやる!!」 魔力弾を避けながら俺はトリガーを引いた。 俺の思考と感情と遺伝子達の総意。 一番プライドをぶち壊して屈辱塗れにする方法。 自分の得意分野で圧倒的有利においてやり、 負けるはずがないと思っているところを徹底的に痛めつける、 完膚無きという言葉通りに!! え? 眉間に奔った激痛と後ろに倒れこむ感覚。 『リロード』と告げている狂人はんた。 ・・・・・・撃たれたの? いつ!? 倒れこんだまま、思考を続ける。 「これで終わりじゃないんだろ。無駄死にした兄の無念を晴らすんだろ? 誰も失いたくないとか夢見て力を欲しがってるんだろ。 必死に努力したから力はあるんだって言うんだろ。引き出し増やそうとしたんだろ。 全部ぶちまけてみせろよ。負け犬。」 倒れたあたしに嘲笑うかのようなはんたの言葉。 怒りを糧に立ち上がる。 しかし、立ち上がった途端、再び眉間に激痛が奔る。 そして再びあたしの身体が倒れこむ感覚。 なんで? なにがおこっているの? 理解を超えていた。 「俺が有利なのは経験値のみ、装備も火力も全てがそっちの有利。バリアジャケットさえ展開せず、バリアもシールドもフィールドも使えない俺が圧倒的不利なわけだ。 つまり、貴様がいつもやってる模擬戦に比べればはるかに有利なわけだ。 簡単に言えば負けるはずがない。」 無様に倒れたまま、はんたの嘲笑うような言葉から必死に情報を集め、 混乱する頭を整理する。 相手ははんた。 バリアジャケット無し、飛行無し。 バリア系シールド系フィールド系一切使用不可。 攻撃手段は装弾数4発、シュートバレットのみ使用。 経験値だけがあいつの有利な点。 逆にバリアジャケットを展開していて、多用な魔法が使える私。 シュートバレット、ラピッドファイア、バレットF、クロスファイア、ヴァリアブル、 ファントムブレイズの6種の使用可能。 幻影魔法の使用可能。 魔法による火力もサポートも全て上回っている。 負けるはずが無い!! バリアジャケットもない相手、1発当てれば終わるんだ。 でもどうして起き上がれないの? 立ち上がる度に額を撃ちぬく激痛。 まさかシュートバレットのみという言葉が嘘? 「ク、クロスミラージュ!!相手の攻撃は?」 「Only a Shoot Ballet.」 動揺した声でクロスミラージュに呼びかけるが、クロスミラージュの返事に愕然とする。 兄さんに教えてもらったあたしのメインであるシュートバレット。 一番慣れ親しんだ魔法なのにそれが・・・・・・見えない? 「本当にシュートバレットなのね?」 「Yes. But his firing speed is very quickly.」 攻撃速度が速い? 早いっていったい何秒よ? 見えないなんてあるはずが・・・・・・。 「なにを驚いているか知らないが、2挺拳銃なんて古風なスタイルをとっているから当然早撃ちの最速は何秒か知っているだろ。1秒よりも早いなんて当たり前すぎる事実。」 『もっとも俺以上に早い人に蜂の巣にされたが』という呟きは聞こえなかったことにした。 あまりにも絶望的な壁を前に戦っているみたい。 立ち上がる、眉間に撃ち込まれる、倒れる。 まるで作業のように繰り返されて、嬲られているみたいだ・・・・・・。 倒れたまま魔力弾を撃とうともしてみたが、クロスミラージュに正確に魔力弾が 撃ち込まれて、手元からクロスミラージュが転がっていく。 だめだ。 勝ち方が思いつかない。 こんな戦い方があったの? 天才でもレアスキル持ちでもない狂人よりも下なのか。 凡人以下なのか、あたしは・・・・・・。 「貴様の足りない頭でも分かるように説明しておこうか。 2挺拳銃は『1人で殲滅戦をやらざるを得ない人間』と『旧式過ぎる銃を使わざるを得ない人間』と 『映画の演出でやっている人間』と『ろくに意味も分からずやる馬鹿』の4種類しかやらないスタイルだ。 デバイスで2挺拳銃をやる利点がどこにある?弾種の撃ちわけができる程度だったらシュートバレットだけで全部撃ちぬいてろ。 おまけに2挺拳銃で精密射撃なんてほざけるのは真性の馬鹿か本当に極めた人間のどちらかだ。」 言われて反論できないあたしがいる。 映画なんかだと格闘技に組み込んで動き回ったり、 かすりさえしない華麗な立ち回りをしながら剣を振り回して悪魔というモンスターを 切りつけて浮かせた後に銃弾を追撃で撃ち込んだりしている。 弾はいつも必中であることは演出。 わかっているけど憧れは捨てられなかった。 兄さんの教えてくれた精密射撃が辿り着く果てがあそこだって・・・・・・。 それに弾種の撃ちわけができるのは大きな利点だって思っていた。 センターガードとしての強みだって。 けれど、淡々と告げられた事実があたしの胸に突き刺さる。 1人で殲滅戦なんてやるはずがない。 殲滅したいなら砲撃魔法や広域魔法を使ったほうがはるかに効率的。 旧式過ぎるデバイスなはずがない。 クロスミラージュは最新型。 そして映画じゃなくてこれは実戦。 それにも関わらず2挺拳銃やろうとしているあたしは・・・・・・馬鹿だ。 泣きそうになりかけながらもどうやって状況を打開するか必死に考える。 でも本当に分からないよ。 痛みと悔しさに涙がこぼれた。 「フェイトがエリオ達に言っていた説明を自分は関係ないみたいに考えていたのか? まずは動き回って狙わせるな、さっさと起き上がれ。まだまだ『死ぬ気』には程遠いんだ。」 はんたの罵声にはっとして転がりながらクロスミラージュを回収、廃墟の影に隠れる。 どうしてこんなに簡単なことを思いつかなかったんだろう。 たったこれだけで無力化できたのに・・・・・・。 「やればできるじゃないか。さて、次はどうやって攻めるか見せてもらおうか。 もちろん追撃はさせてもらうが。」 遊ばれている。 怒りに思考が染まるよりも先にその事実を明確に認識した。 「逃げろ逃げろ!!蜂の巣にするぞ!!アハハハハハ・・・・・・。」 訓練場からそんな声と共に銃声が鳴り止まない。 なるほど。 こういう趣向か。 だが、ティアナのやつが意図に気がつけるか。 「なのはさん!!やめさせてください!!お願いします!!」 「無理だなスバル。諦めろ。」 「そんな!!シグナム副隊長。」 「なのは、話してやれ。ティアナがなんで模擬戦やることになったか。 私はもう口にする気さえ起こらん。」 隊長として合理的な選択だと私は思う。 主はやてと六課の人間を天秤にかければ躊躇いもせずに私が主はやてを選ぶのと同じだ。 もっとも、賭けの内容には吐き気さえするが。 むしろ巻き込まれたなのはに私はどちらかといえば同情的だ。 さて、そんなことはどうでもいいとして、見事なものだな。 センターガードは動かないものという認識があったが、 動き回れるセンターガードというものもスタイルとしてありえるのだと思い知る。 シュートバレットによる迎撃と遮蔽物を併用してティアナの攻撃を全て防いでいるのか。 逆にティアナのほうが隙間を抜かれて身体を撃たれている。 私ならどう挽回したものか。 「あ、あのシグナム副隊長。」 「なんだ。」 「あれってはんたさんが物凄く手加減している・・・・・・んですよね?」 「ほう。」 テスタロッサが引き取ったエリオだったか。 良い目をしている。 とはいえ、あそこまで露骨にやっているのに気がつかないほうがおかしいか。 「はんたさんならいくらでも簡単に倒せるのに、同じ速さで砲撃魔法だって撃てるのに、 魔力弾をあんなに無駄撃ちするなんてはんたさんらしくないです。」 「他には?」 「え?えっと・・・・・・。」 「ティアナさんに合わせたみたいな戦い方をしています。」 「ルシエも良い目をしているな。だが少し違う。」 「え?」 「合わせたみたいじゃなくて合わせているんだ。あれは。」 「つまり、ええと、ティアナさんの戦闘スタイル?」 「その完成形の1つだな。」 まるで手本があったような完成振り。 ティアナからすれば悪夢みたいな相手だろう。 同じ戦闘スタイルで戦われて劣った火力で一方的にやられるなど・・・・・・。 主力のシュートバレットはシュートバレットで迎撃されている。 実際は火力を下に設定しているせいで軌道を歪める程度だがそれで十分だ。 連射は体裁きと遮蔽物で避ける。 反撃も忘れていない。 あれは予測したところに弾をおいているのか。 熱源追尾のバレットFは遮蔽物に当たるばかり。 入り組んだ場所で追尾系の魔法がろくに機能するはずがないだろうに。 クロスファイアも追いきるまでに遮蔽物にぶつけられる。 当てることに気が寄って、速度をあげることが思いつかんようだな。 なにより脚を止めるから使用後の硬直に身体へ4発もらうことになっている。 ヴァリアブルシュートは継ぎ目の無い4連射で貫通されている。 第一、場面として撃つ必要がないだろう。 そのせいか、1度だけ撃たせた後は予備動作のときに4発撃ち込まれている。 砲撃魔法たるファントムブレイズなど詠唱することさえ許しはしない。 ああ、消耗の激しい砲撃魔法を使わせないことで戦いを引き延ばしているのか。 地形相性まで見事に考えたものだな。 私がティアナなら・・・・・・。 クロスレンジに持ち込んで零距離射撃で撃ち合うと最初に考えるあたり偏ってるな。 あとは、ろくに照準もつけずに片っ端からクロスファイアを撃ち続けるしか思いつかん。 だが、魔力量で負けるな。 ならば、地形を生かすか。 だめだな。 そういった使い方ができる場所を上手く避けている。 模擬戦ではなく実戦だったなら、迷わずに一時撤退するべき場面だな。 さて、残ったティアナの手は幻影魔法か。 「・・・・・・そんな。クロスミラージュ、なにか間違えてない!?」 「No. It’s true. That’s like a monster・・・・・・・.」 あたしの攻撃という攻撃が無効化される。 火力の想定を向こうが騙していると思ったけど、クロスミラージュは真実だと言う。 メインのシュートバレットが通じない。 いくら狙いをつけても簡単に避けられるし、迎撃される。 連射も同じだ。 こっちが2発目を撃つよりも先に反撃の魔力弾が飛んでくる。 動きが読まれていたみたいにピタリと・・・・・・。 バレットFもこんなに簡単に避けられるなんて思いもしなかった。 クロスファイアをいくら追尾させても追いきれない。 それに脚を止めると全身が撃たれた。 砲撃魔法は絶対に撃たせてくれないし、撃ってる暇がない。 ヴァリアブルシュートなど1度は撃たせてくれたのに、2度は撃たせてくれない。 正面から撃ちぬかれた事実にはパニックを起こす以上に恐怖が煽られた。 全身が痛い。 でも脚を止めたら・・・・・・。 今のあたしは脚を止めたら殺されるという恐怖だけで身体を突き動かしている。 目の前のビルの窓に飛び込む。 受身をとって即座に逃げる。 「追って・・・・・・きてる?」 「No.」 クロスミラージュに確認させると、部屋の1つに転がり込んだ。 ようやく息がつける。 全身が痛い。 どうしてこんな目に・・・・・・。 対処方法を考えないと。 ぐちゃぐちゃの思考と泣き出したくなる感情を無理矢理抑えて、 対処法を考える。 まだやっていないのは幻影魔法。 魔力量はかなりぎりぎり。 騙せると信じよう。 廊下を走って逃げていくあたしの幻影を作り出す。 お願いです。 神様、どうか・・・・・・。 あたしの幻影を追うように足音が追いかけていった。 あたしのいる部屋の前で一瞬脚を止めた気がしたのは気のせいだと思いたい。 でも、どうしよう。 残り魔力量もたいして残っていない。 カートリッジはとっくに撃ち止め。 あたしが取れる選択肢は・・・・・・。 最後に残った選択肢が1つしかなくて、その内容に屈辱の余り泣きたくなった。 細心の注意を払って足音を殺してあたしが取った行動。 それは『逃げる』。 「ティア!!」 ああ、スバルの声が聞こえる。 みんなの姿がある。 ああ、これで終わったんだ。 でも、スバル、どうしてそんな顔をしているの? まるでお化けでもみたような・・・・・・。 「どこへ行くんだお嬢さん。『死ぬ気』にはぜんぜん足りないよ。」 脚に撃ち込まれたそれがシュートバレットであると、 身体が宙を舞って地面を転がったときに気がついた。 闇に溶け込んでいたところから浮き出てくるように表れた緑の悪魔。 恐怖のあまりに脚は動こうとさえせず、手は震えがとまらない。 魔力ももう残っていないのに・・・・・・。 こわばった声帯は『助けて』と叫ぶことさえできない。 「まさかこの程度で抵抗も逃げるのもおしまいなのか? どこも壊さないように気をつけて痛めつけたのに。 たかが魔力が残り少ないくらいで諦めるなんて言いださないよな。 『死ぬ気』なんて軽々しく口にしたお嬢さん。」 なにも答えられない。 あるのは絶望だけ・・・・・・。 「アルファに調べ物をさせていたら興味深いエピソードがあってね。」 髪をつかまれ引きずり起こされる。 視線のど真ん中にあるのは銃口・・・・・・え? 「失明しても夢をおいかけられるかな。全員動くな!!」 しつめい? その言葉が失明という言葉の意味と一致するのに数秒の時間が必要だった。 トリガーに指がかけられる。 もう魔力なんて関係なかった。 がむしゃらという言葉そのままに子供のように暴れるだけ。 失明したら、目が見えなくなったら、強さが、誰も守れなく、嫌、嫌・・・・・・。 全ての思考が消え去って、『嫌だ』というたった1つで埋め尽くされる。 本当に必死にもがいた。 後にも先にもこれ以上ないくらいに必死に・・・・・・。 けれど、鋼のような腕は微動だにせずあたしを決して離さなくて、 銃口はピタリと動かないままで、無慈悲にそのトリガーは引かれた。 「ひっ・・・・・・」 響いたのは金属音。 不発? 助かった? 脚を生暖かい液体が伝っていくのを感じる。 「弾数は4発って言ったのに、数えていないなんて本当に限界だったのか?」 弾切れ? あはは・・・・・・。 頭を掴んでいる鋼の右腕が冷たい。 ああ、脅しだったんだ。 よかった。 「貴様を掴んでいる右腕は紛れも無く義手だ。未熟だった俺が代価に支払ったもの。 ティアナ・ランスター。貴様はどれだけ代価を支払う?なにになりたい? どこへ行きたい?貴様の夢『誰も失いたくないから強くなりたい』。大いに結構だ。 だが、強さを手に入れた後に『どうやって』守る? 大切なヤツ以外はくたばれと見捨てるか? 誰も彼も助けたいと手を伸ばして自分が犠牲になるか? 視界の端から順に片っ端から見境無く消し飛ばしていくか? 六課の人間は揃いも揃って同類を揃えたのか揃って『どうやって』が抜ける。 なのはもフェイトもはやてもヴィータもシグナムもシャマルもスバルもエリオもキャロもリインもシャーリーも貴様も揃いも揃って!!力が欲しい?だったらどんな力が欲しいか言っておけ。基礎だから大切?だからなぜ基礎が大切なんだ?どこにどうやって繋がる? 今やっている訓練はなにを見据えたものだ?自分の口ではっきり告げろ!! 全部分かっているものとして中途半端に理解しあってすれ違って仲違いするくらいなら いっそ馬鹿にしているのかって怒り出すくらい丁寧にやれ!!」 あたしの頭が解放された。 頬に当たる冷たい地面が気持ちいい。 離れていく緑の悪魔・・・・・・。 ああ、助かったんだ。 あたし・・・・・・。 「ああ、忘れてた。」 え? 「『死ぬ気』と今後使いたかったらこの程度食らってからにしろ!!」 止むことのない銃声とマズルフラッシュ。 全身に襲い掛かる衝撃。 身体がバラバラになったみたい。 吸い込まれるようにあたしは意識を失った。 「ダメージらしいダメージは残していない。関節部は狙わなかったし、 顎も狙わなかった。額に数発くれてやった後は頭に撃ち込んでいないし、 脊椎付近も狙わなかったって見れば分かるか。完膚ありすぎだな。 戦車に轢かれるよりはましな痛みで済ませたから、治療と魔力供給してやってくれ。」 すれ違いざまにシャマルに告げる。 なにか騒いでいるが気にしない。 それ以上にうるさいのはオレの中。 ああ、ウルサイ、オレ。 俺の意思が決めたんだ。 抗いきれなかった貴様らは大人しく隷属しろ。 殺せと騒ぐな。 「あんたは・・・・・・あんたは・・・・・・誰か守りたいって思ったことないのかよ!!!!!」 泣き叫ぶようにスバルが言った言葉が突き刺さる。 守りたいなんて思う暇は無かった。 子供を守るためにサイボーグになってまで戦い続けた誰かがいた気がしたけど覚えてない。 守りたいなら先に殺すのが当たり前だったのだから・・・・・・。 あの世界では、自分だけは守れるのが当たり前で、 勝てないと思ったら逃げ出すのが当たり前で、 強者は栄えて弱者は踏みにじられるのが当たり前で、 攻撃させる前に攻撃するのが当たり前だった。 守るっていったいどういう意味の言葉なのだという次元のそれだ。 それを言ってもかけらも理解してはもらえないだろう。 だったらこう答えるのが一番いい。 「・・・・・・だからこんなになったのさ。」 絶句したような一同を背中に隊舎へ脚を向けていた。 ぼんやりとした視界が目の前に広がる。 視線の先で光っているのはルームライトだと気がついて、 今更だがあたしが横たわっていることに気がついた。 前後の記憶が・・・・・・あった。 一瞬だが、全身が幻肢痛に襲われてのたうつ。 徹底的に追い立てられた挙句、これでもかってくらい蜂の巣にされたと身体が覚えている。ここは・・・・・・医務室? 「本当に手加減してくれていたんだ。起きた?ティアナ。」 「・・・・・・なのはさん。」 「2人ともはんた君に怒られちゃったね。」 「・・・・・・はい。」 「はんた君のこと、憎い?恨んでる?」 答えるのに困った。 才能もレアスキルも持たないのに力だけはある狂人だとばかり思っていたのに、 今でもはっきり頭を掴んでいた冷たい鋼の右腕の感触が思い出せる。 天才だと思っていたなのはさんも本当に苦しい思いをしてきたってことも・・・・・・。 吐き戻すなんてレベルじゃないくらい辛い思いを重ねてきたんだって。 「答えにくい?それならはんた君がティアナのこと、ずっと殺したかったって知ってた?」 「えっ!?」 聞き間違いだと思った。 けれど、なのはさんは訂正する様子がない。 殺したい? 比喩表現なんかじゃなくて? 冗談・・・・・・ですよね? 「物凄く不器用だけど羨ましかったりするんだよね。」 「どうして・・・・・・ですか?」 「気に入らなければ無視しちゃえばいいんだよ。 知ってた?愛情の反対語は憎悪じゃなくて無関心なんだよ。 ずっと思い続けるのってとても大変なことなのに、 ティアナはずっとはんた君に殺したいって思われてたんだ。」 それでも殺したいなんて言われて笑っていられない。 でも、ずっと思われていたってことだけは分かった。 「はんた君、賭けには負けるつもりだったんじゃないかって思うんだ。」 「え?」 「ティアナが本当に夢を叶えるつもりだったら、どんなに屈辱を受けても 絶対に命を粗末にはしないって賭けの前に言ってたんだ。おかしいよね。 お兄さんのことも知っててティアナが夢を叶えるつもりだって分かっているのに、 命を粗末にすることを言うほうに賭けてるんだから。まぁ、結果はあれだったけどね。」 そう言われて初めて気がついた。 あたしが無茶をして壊れたら、夢が叶わなくなるんだって・・・・・・。 誰も傷つけたくないための力なのに、皆を危険にさらしていたんだって・・・・・・。 軽々しく『死ぬ気で』なんて思っていたあたしの愚かしさに本当に死にたくなる。 「本当に、わたしも言っておけばよかったよね。無茶すると危ないんだよって。」 「・・・・・・すいませんでした。」 「じゃあ、分かってくれたところでわたしも謝っておこうかな。シグナムさんから聞いた? はんた君との賭けでティアナとの模擬戦を賭けたって・・・・・・。勝手にティアナをチップにしちゃったんだもん。本当にごめんね。」 「い、いえ・・・・・・。あたしが軽々しく死ぬ気なんて言ったから・・・・・・。」 「それでもチップにしちゃったことは変わらないよ。だから、ごめんなさい。」 「・・・・・・それなら、あたしの今までと御相子で。あたしからもごめんなさい。」 「・・・・・・そう。それじゃ、御相子にしようか。ところで、ティアナは気がついていた? いい勉強になる模擬戦だったって。はんた君、ティアナができることだけしかやらなかったんだよ。わたしもシグナムさんに言われて初めて気がついたんだけどね。 センターガードは動かないものなんて頭から決め付けちゃって、わたしもだめだよね。」 「えっ!?」 「射撃形の真髄とセンターガードの役割は?」 「あらゆる相手に正確な弾丸をセレクトして命中させる判断速度と命中精度、 チームの中央に立って、誰よりも早く中・長距離を制する・・・・・・あっ!?」 「『動かないで』とは一言も言ってないんだ。動くと後が続かなくなるのはそういう訓練をしていないからなんだってこと。反動が大きかったり、集中が必要な魔法は別かもしれないけど、脚を止めずにシュートバレットだけであれだけのことされたから分かったよね。」 「はい・・・・・・。」 「本当にティアナとたくさん話をすればよかったよね。どうやって戦いたいとか、どんな強さが欲しいとかぜんぜんわかってなかった。無茶をすると危ないってことに 気を取られて、それがどうやって役に立つか1度も言わなかったもんね。 基礎だからなんて言葉で終わりにしちゃってさ。」 「いえ、わたしが相談しなかったのが悪いんです。」 「さっきから謝ってばかりだね。わたし達。」 そう言って笑ってくれるなのはさんの心遣いが痛かった。 どうしてあたしを見捨てないで付いていてくれるのですかと大声で叫びたいほどに。 「それじゃ少し叱っておこうかな。射撃と幻術しかできない凡人ってティアナは 言ったけどそれって間違ってるからね。わたしやはんた君の魔法で分かったと思うけど、 ちゃんと使えばティアナの魔法物凄く避けづらくて痛いんだよ。」 「はい。」 1日に2度も気絶させられておいて、いいえなんて答えられない。 鮮明に思い出せるほど、本当に痛かった。 避けにくいということも・・・・・・。 「フォワードのみんなはまだ原石の状態だから、でこぼこだらけで価値もまだわからないかもしれないけど、磨いていくうちにどんどん輝く部分が見えてくる。 エリオはスピード、キャロは優しい支援魔法、スバルはクロスレンジの爆発力、3人を指揮するティアナは射撃と幻術で仲間を守って、知恵と勇気でどんな状況でも切り抜ける。 そんなチームが理想形でゆっくりだけどその形に近づいていってる。一番魅力的な部分をないがしろにして慌てて他のことをやろうとするから危なっかしくなっちゃうんだよって教えたかったんだけど、そういう目的で訓練させていたって言えばよかったよね。本当に・・・・・・。」 なんのための訓練なのか、漠然としか理解していなかったあたし。 なのはさんが本当に考えてくれていたんだって今更気がつく。 引き出しを増やすことばかり気にしていた。 未熟な技を未熟なままでおくことを気にもしなかった。 だけど、本当にやるべきだったのは、自主練習をするのならば、 なのはさんの訓練をさらに反復させることだったんだって。 「それに、ティアナの考えていたことも間違いじゃないんだよね。 システムリミッター、テストモードリリース。」 「Yes.」 「命令してみて。モードⅡって。」 「モードⅡ。」 「Set up. Dagger Mode.」 クロスミラージュが変形していく。 あたしが作った魔力刃よりもはるかに優れたそれが展開されていく。 「これは・・・・・・。」 「ティアナは執務官志望だもんね。ここをでて執務官を目指すようになったら、 どうしても個人戦が多くなるし、将来を考えて用意はしてたんだ。 はんた君とシグナムさんにはぼろぼろに言われちゃったモードなんだけどね。 ろくに訓練もしないで使えるのは鈍器で、ナイフとかダガーなんて 訓練がいるものにしてないよなーって。」 どれだけ周りがあたしを思ってくれていたのか気がつかされた。 なのはさんはあたしの将来、夢を実現することまで考えてくれていた。 狂人だと思っていたはんたでさえ、未熟なあたしが生き残れるように振舞って、 実戦で生き抜けるようにいろいろ話しもしてくれていたんだって・・・・・・。 涙が零れ落ちる。 嗚咽がとまらない。 もう、こらえることなんてできなかった。 「クロスもロングももう少ししたら教えようと思ってた。でも、出動が今すぐにもあるかもしれないでしょ。だから、もう使いこなせている武器をもっともっと確実なものにしてあげたかった。 でも、あたしの教導地味だから、あんまり成果がでていないように感じて、苦しかったんだよね。ごめんね。」 「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい・・・・・・。」 医務室のベッドの上で、子供みたいになのはさんにすがり付いて泣きじゃくり続けた。 どれだけ馬鹿をやったのか思い知って・・・・・・。 どれだけみんなの信頼を踏みにじったのか思い知って・・・・・・。 どれだけ夢を追いかけているつもりで捨てようとしていたのか思い知って・・・・・・。 でも、なのはさんがどれだけのものを賭けたのか最後の最後まで気がつけなかった。 覚悟を決めて、わたしははんた君の部屋を訪れている。 正直怖い。 こんな形になるなんて夢にも思っていなかったから。 皆が止めた。 レイジングハートさえ愚かしい、馬鹿げてると言った。 お父さんやお母さんにこの話を知られたら今まで経験がないくらいに怒られるだろう。 むしろ知り合い全員が青筋立てて怒り出すだろう。 だからみんなの前では『行かない』と言っておいた。 けれど、それではあまりにも不誠実すぎるから。 だからわたしはここに来た。 正直逃げ出したい。 脚は震えっぱなしだ。 なにをされるのか分からない未知への恐怖もある。 人を信じることをやめてしまいそうなほど心に皹が入ってる。 けれど、逃げたら高町なのはが高町なのはじゃなくなっちゃうから。 わたしの身体なんかでティアナ達が自分の道を歩けるようになるなら、それで構わない。 授業料として払おう。 目を硬く閉じて、目の前のドアをノックする。 返事がない。 もう1度叩く。 返事がない。 あれ?・・・・・・留守? あれだけ戦い続けたのに、こんな時間にいったいどこへ・・・・・・。 たしかに隊舎へ戻ったのを皆で見送ったのに・・・・・・。 肩透かしを受けたように、いろんな感情が一斉に抜けて、わたしは廊下に座り込んでいた。 「マスター。バイタルに若干の異常があります。それに賭・・・・・・。」 「アルファ、ジャック・ザ・デリンジャー1000体。エンドレス。装備、デリンジャーのみ。 イレギュラーあり。シミュレート開始。」 「・・・・・・了解しました。マスター。2時間で停止・・・・・・。」 「日の出までだ!!」 「了解しました。マスター・・・・・・。」 ティアナ・ランスター。 かつての身の程知らずの自分をみているようで苛立ちが収まらなかった相手。 俺が蜂の巣にされたのと同じように、蜂の巣にしてやった。 同様に俺が慈悲をかけられ屈辱と悔恨で発狂しそうな目にあったように、 ティアナにも同じ慈悲をかけてやった。 これで変わらければどうしようもない身の程知らずの馬鹿で、俺の勘違いだったのだろう。 結局俺が得たものも、失ったものも、なにもない。 だが、俺が気づかなかっただけで失ったものはあった。 機械ならば日常用をレース用に、あるいは軍事用を日常用に改造できただろう。 しかし、はんたはどれだけバケモノじみていても1人の人間にすぎない。 思考と感情と遺伝子全てが殺せと叫びをあげるのに、 意思だけで反射行動さえも押さえつけてまで行った振舞いは当然どこかに歪みを起こした。 悲鳴を上げて壊れ始めていたメインシャフトの致命的な歪み。 目の前にずらりと並んだのは賞金首ジャック・ザ・デリンジャー。 西部最強の賞金首。 俺を蜂の巣にした、『ただそれだけ』の相手。 幼馴染の父親と賞金首の区別ができなくなってしまった事実にはんたは気がつけない。 愚直なまでの誠実さと不器用な在り方をそのままに、身体だけがぼろぼろ壊れていく。 そのまま朝まで狂ったように踊り続けたはんたの崩壊はその加速を増すばかり。 なのはのことなど『当然』忘却の彼方だった。 マスターが壊れ始めている。 人間という個体として以上に、その在り方が・・・・・・。 この世界にきてから崩壊の速度は増すばかり。 なにがどう壊れたか、私にはフィジカルな部分しか理解できない。 けれど、メンタルな部分が悲鳴をあげているのだと、 マスターに教えられたアナログで非効率な論理が導き出している。 もしかしたら、賭けのことなど忘却してしまうほどに壊れてしまったのかもしれない。 それならば、私が代わりに記録しておこう。 高町なのはを単なる性欲処理の道具やうさ晴らしの道具とする以上に、 有効な使い道がいつか必ず来てしまうだろうから・・・・・・。 永遠にその日が来ないことを、狂ったようにシミュレータを続けるマスターの腕の中、 膨大な情報を演算して送り続けつつ魔力弾を撃ち放ちながら、 0と1の思考しか存在しない私が非論理的だと知りつつ初めて祈った。 どうかこの願いが人間の神か、赤い悪魔か、機械仕掛けの神に届いてくれますように・・・・・・。 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/tmnanoha/pages/451.html
CHAPTER 1-2 雷迅を穿ちし双眸 ――― 「けほっ、ごほっ……」 洗面所に突っ伏して咳き込むか細い肢体――― それは今さっき教導を終えたばかりの高町なのはのものだった。 彼女に心配そうに付き添うフェイト。 その背中を優しく摩ってやると 「ふええ……」 という力無い呻きが返ってくる。 「大丈夫?」 「大丈夫、じゃない…………」 「流石だね凛は……初日でなのはからクリーンヒットを奪うなんて」 遠坂凛という魔術師はセイバーと同様、局に最も名を知られている者の一人だ。 故になのは、フェイト、はやてとも交流が深く、時には助け、助けられてここまで来た。 だから今日、なのはは日頃の感謝と友情の表れとして凛の全力を正面から受け止めるつもりで望んだのだ。 そしてご覧の通り……物の見事に受け損なったというわけである。 「き、効いたぁ…………来るのが分かっててこれだもの。 やっぱり一筋縄ではいかないや……あの人は」 正面に道を作ってやれば裏道を。 裏道をチェックして待ち構えれば地面に穴を掘ってでも相手の裏をかく。 それが彼女、遠坂凛という魔術師だ。 あの天才が形振り構わず自分から一本を取りに来るという。 それを考えるだけで――― 「気が重いよー……」 「ファイトだよ、なのは!」 縋りつく高町なのはを元気付けるフェイト。 珍しくへこたれ気味な彼女に付いていたいのは山々だが…… 「私もそろそろいかないと……」 「あ、そっか……そうだね。 フェイトちゃんも気をつけて」 そう……今日のフェイトのモデルエネミーは――― 「うん……極めつけの相手だ」 パン、パン、!と頬を張って気合を入れる執務官。 雷光――フェイトテスタロッサハラオウンが意気揚々と第2演習場へと向かう! ―――――― 「志貴っ! 志貴っ! 志貴っー!」 「遠野く~ん! 高望みはしません! 一発……まずは一発当てる事から始めましょ~う!!」 戦技演習の場らしからぬ黄色い声援が飛び交う。 女性陣の声により、場は異様な雰囲気に包まれていた。 「凄い人気だね……」 「迷惑かける………気にしないでくれ、と言っても無理かな?」 「ううん、大丈夫。 始まってしまえば余計な音は消える」 互いに礼儀正しく一礼をして、2人はバックステップで距離を取る。 1斑のような駆け引きも特に無く、ルール諸々も容易に決まった。 「では教導演習会・第2班担当、管理局執務官フェイトテスタロッサがお相手します。 正々堂々、技を競い合いましょう」 「遠野志貴です。 及ばずながら宜しく」 志貴がフェイトの障壁を抜けたら勝ち―――これが2人の間に交わされたルールだ。 クリーンヒットを入れられたら自分が只では済まないという、フェイトの言葉によって決まったルール。 「下手に出てるようだけど内心、自信満々よ……あのフェイトって子。 指一本触らせないって顔してるもの」 「シオン……フェイト執務官の強さはそれほどのものなの?」 「解析終了――――はっきり言います秋葉。 彼女が相手では代行者ですら食い下がるのがやっとかと……今の所、志貴に万に一つも勝ち目はありません」 アトラスの錬金術師の並列思考による戦術予測。 それが叩き出した必敗―――聞いた秋葉が口惜しそうに唇を噛む。 「お兄ちゃんローキック! ローキック! チョコマカ速い相手は足を潰すんだよっ! 膝の靭帯ブッチ切れ~~!」 「いやいや志貴さん! レバーです! レバーを抉るんですっ! こつこつペチペチ当ててけば、どんな強大な相手でも5Rまでに失速する筈です!」 「た、大変そうだね……」 「………分かってくれて嬉しいよ」 あれほどの期待……受け止めて背負う方も難儀だろう。 幾多の女性の熱視線に打たれる彼の背中は、耐えぬ気苦労に満ちている――― そんな業に些か達観した節のある、落ち着きと貫禄を称えた少年が小振りのナイフを構えてフェイトに向き合った。 「そろそろ始めようか。 俺が心配するような事じゃないだろうけど……全力で行くから、しっかり避けてくれよ?」 「うん……遠慮なく来て」 バルディッシュの通常 アクス モードを正眼に構え、フェイトも身構える。 ―――――― (なるほど……変則的かつ緩急を付けた動きでこちらの視覚を撹乱させてるんだ) 刺客や隠密を旨とする者が多用する歩法―――その足裁きに初めは驚いたフェイトだった。 高速戦闘に慣れた自分の目ですら、しばしば彼の姿を見失い、懐を脅かされたからだ。 蝿や蚊などを目で追いかけていると、時にフ――、と姿を見失う事がある。 彼の動きはそれと同様の原理だろう。 人の反射神経の裏を付く「意外」の体術だ。 (最初は驚いたけど……でも、もう見切った!) しかしながら、つくづく圧倒的な戦力差というのは埋め難いもの。 か細い女性の手に明らかに余る長物をフェイトは軽々と振るい、遠野志貴を圧倒し始める。 「くそっ! あと一歩!」 「七つ夜」と記された小振りの凶器がフェイトの体を掠める―――! が、冷静にサイドに反らして事無きを得る魔導士。 外野で上がった 「あ~」 という落胆の声に苦笑する彼女。 射撃魔法や得意の高速移動すら使わず、近接においても志貴に主導権を渡さない。 「あいたっ!?」 デバイスが下から振り上げられ、ナイフが刎ね飛ばされる。 「志貴……飛び込んでくる時、防御をおろそかにし過ぎ。 それだと受けに転じるのに一呼吸遅れちゃうよ」 「くっそ……! まだまだ!」 ナイフを拾い、かかってくる少年を前に身構えるフェイトだったが――― (っ!!?) 突如、凄まじい悪寒に貫かれる! 応援席を見ると―――自分を凄まじい顔で睨み付ける鬼がいた! 紅く染まった髪を逆立てて、遠野秋葉が本物の鬼女さながらの形相で仁王立ちっ! (こ、恐いなぁ……) 身を竦めるフェイトであった。 「これで既に6本目……て、何やってんですか秋葉さん?」 「決まっていますっ! 私の眼力で相手にプレッシャーをかけてるんです! これで兄さんの勝率が1%でも上がるなら……!!」 「妹がそれやるとシャレにならないでしょ。 それにしても―――強いわ彼女」 アルクェイドの呟きに今や誰もが反論する余地が無い。 金の髪、黒衣の装束を身に纏った彼女の揺ぎ無き貫禄。 初め、おっとりとした彼女の様相を見た者は、とても戦いを生業にする人間だとは思えなかった。 だが今は見紛いようも無い―――死徒をも遥かに千切るSランクの称号を持つ魔導士。 管理局のエリート執務官の力をもはや認めないわけにはいかない。 「遊ばれちゃってますねぇ……女神のような彼女、その内にはとんでもない刃を隠し持つ! 男性はああいう女の人に弱いんですよぉ! あの人、優しい顔して実は相当の魔性と見ましたよ~!」 「くう~っ! 兄さん! そんなおシリ丸出しの人を相手に何てザマですか!? 意地をお見せなさいっ!」 「そうだそうだー! おシリならシエルの方が圧倒的に勝(ゴッ)」 客席に血飛沫が飛び散る! 毎秒30発以上の拳が飛び交い、次いでクロスカウンター。 両者のテンプルに拳がめり込み……その場に崩れ落ちる月の姫とシスター。 アリーナ最前列では死闘が始まっていた! 「「…………」」 そんな外野を尻目にヘナヘナと脱力してしまう2人である。 彼女らのおかげで交わされる刃にいちいち力が入らない。 「フーリガンかお前らはぁぁ!!! 頼むから少し静かにしてくれっ! あと汚い野次を飛ばすんじゃない!!」 たまらず応援団に叱責を飛ばす少年だった。 彼にしてみれば所在無い事この上無いだろう。 局の結界担当や係員もその様子に苦笑いを禁じえない。 「ホ、ホントにごめん……何かもうグダグダだ」 「あはは……面白い教導になっちゃったね」 これではいけないな、と思いつつ―――フェイトもそんな微笑ましい光景を見て頬が緩んでしまう。 異質な状況や特別な環境に置かれた人間が歪まずに育つ条件は、良い友達、家族、仲間に囲まれている事だ。 彼が異形の力に押し潰されなかったのはきっと―――彼女達に囲まれていたからなのだろう。 (今日はすっかり悪役だな……) 「フェイトさん、油断しないで! 相手はまだ余力十分です!」 ………そうでもないか、と執務官は微笑する。 女子の声援に紛れて、大事な大事な聞き間違えようの無い声が耳に届いたからだ。 自分だって子供の頃とは違う。 あの声援さえあればどんな時だって戦える。 「途中、ダレちゃったけど……最後はちゃんと形にして締めよう」 「! ………ああ」 相棒バルディッシュを華麗に振り回し、後ろ手に構えて腰を落とす執務官。 見物人全てが息を呑む。 彼女の空気が明らかに変わったのだ! フウ、――と呼吸を絞っていくフェイト。 先ほどまで湧いていた見物客も固唾を呑んで見守る。 最後に今日、自分のサポートに回ってくれたエリオモンディアルの姿を確認しようと 彼女は、客席の方にチラっと目をむけ――――――― 「………………え?」 その思考が―――――――――――完全にフリーズした。 ―――――― 曰く―――瞬きの後には相手を沈めている。 それが雷光、フェイトテスタロッサハラオウンの疾風迅雷。 殺気などという物騒なものをぶつけてくる彼女ではない。 だがそれでいて―――迫り来る雷雲のような威圧感がゆっくりと場を支配していく。 遠野志貴もまた、七夜の業を受け継ぐ者として臆さず身構えた。 だがもはや勝敗は歴然。 このままでは志貴に勝ち目は無い。 「万事休す、です……彼女の止めの一撃を志貴が回避する術はない」 志貴がフェイトの動きを捉える事は絶対に無い―――シオンはそう事実だけを告げた。 淡々とした声に一抹の落胆が篭ったのは、志貴ならあるいは…という期待があったからだろうか。 しかしながらプロとアマチュアの違いは勝てる戦いを決して取りこぼさない事だ。 何をしてくるか分からない凶悪な犯罪者を常に相手にする執務官。 まぐれやラッキーパンチを期待出来る相手では無い。 圧倒的優位にいるフェイトは自身の魔法をほぼ使っていない。 せいぜいがブリッツアクション 部分的身体能力の加速術式 くらいだろう。 「術の大部分を封じている以上、決して届かない相手じゃないんです。 ですが、残念ながら踏んで来た場数のケタが違う……」 プロフェッショナルの腰を据えての迎撃とはあれほどの安定感、磐石を誇るものなのか? 付け入る隙など無い。 彼女の思考、冷静さを乱す何かが無い限り――― 「―――足の小指くらいならバレないわよね?」 親指の爪をかじりながら物騒な事を言い出す鬼妹。 「やめた方が懸命ですよ秋葉さん。 悪質な危険行為は即、反省室送りですから」 「そうだよ妹………あそこはキッツイよ? 髪の毛全部抜け落ちるよ? ドラゴン○ールのナ○パみたいに紅主バージョンになっても認識されなくなるよ?」 言ってケラケラ笑う吸血鬼に、キーーッ!と牙をむき出しにする秋葉であったが―――― 「……………………………? 姉さん、秋葉様」 翡翠がポツリと呟いた。 ……………… 「あ………隙」 次いで琥珀がポツリと呟いた。 戦闘経験が稀薄な彼女達ですらそれに気づいた。 あさっての方向に意識を向けたまま――― 魂が抜けたように無防備になっている―――――相手に…… 「遠野くんっ!!」 シエルの言葉よりも先に彼が弾けるように一歩を踏み出す!!!!!!!!! そして静かに――――少年は眼鏡を外し、内に秘める力を解放したのだ!!!! 「フェイトさん!? 前っ!!」 「っ!? っ……!」 蒼く、どこまでも深く、蒼く―――!! その双眸が放つ光に貫かれ、フェイトの総身に鳥肌が立つ! 使うまいと決めていたバルディッシュの戦闘形態 サイス を思わず解禁し、眼前の相手に振るう! だが――――――殺された……! 何の変哲も無い小刀がフェイトの光り輝く大鎌に触れた瞬間 黄金の刀身が紙のように断ち切られ、バラバラに霧散する! その手に何の手応えも残さぬままに! (こ、これが……!) ――― 近接特化型・単体破砕・殺害レアスキル ――― (直死の……っ!!) 目の前の相手が、先ほどまでの少年と全く別のモノと化していた―――― 「死」の体現者! 殺気と蒼き瞳に射抜かれて、フェイトの理性よりも本能が訴えた。 コレに殺される事は必然。 どれほど力で勝ろうと死の摂理からは逃れられないと! 咄嗟に手を翳し、張った障壁! 「……逃がさない―――――殺す」 その三重の護りごと、黒衣の魔導士の体を――――17つの閃光が駆け巡った! ―――――― 「…………っ!!!」 手を翳した姿勢のまま微塵も動けないフェイト――― 彼女の横を切り抜け、ナイフを構えながら志貴も一歩も動かない――― 魔導士は驚愕に目を見開き、少年はやる事を終えたように目を閉じる。 やがて彼女を覆っていたBJが上半身…… 次いで下半身と砕けて飛散していき――― 「フェイトさんっ!!」 応援席から大歓声があがり、対照的に蒼白になるエリオが悲鳴をあげる。 文字通り一瞬で、あまりにも呆気なく、模擬戦の勝負は決したのだった。 「…………あ?」 しかしながら次の瞬間、大衆の誰かが間の抜けた声を発する。 執務官フェイトテスタロッサハラオウンのBJ――― だけでなく、その下に羽織る服までが――― 舞い散る花びらのように―――ファラリと、破けたからである……… ―――――― 「…………」 「ち………」 羞恥に頬を染めて、フェイトはその場にペタンとしゃがみ込む。 そんな彼女から一歩、二歩と後ずさる本日のヒーロー、遠野志貴。 「………違うんだ」 しかして……シン、と静まり返った広場に彼の呟きだけが空しく響いた。 当然、広場はそんな御託を許すような雰囲気ではない。 収集の付かなくなりそうだった舞台にて先手を打つように、秋葉がコホンと咳払いをする。 「志貴……それはちょっと、どうかと思うよ」 「遠野くん―――狙いましたね?」 「なっ! 違っ!?」 「遠野家の長男ともあろう者が何て破廉恥な――――!」 並みいる女性陣が突如、掌を返したように大ブーイング! 先ほどの団結、心温かい応援はどこへやら? 寄ってたかって好色野郎を罵倒する! 「志貴さまを最低です」 「志貴さん、もろ出しでレッドカードですー♪ 地下帝国にご案内ですかねー」 「お兄ちゃんの変態!変態!変態!変態!」 「もはやエロ河童ですか貴方は」 「なっ!? 都古ちゃんまで!? 待ってくれ! 俺の話を聞いてくれっ!」 四方八方から言葉のナイフで滅多切りにされる彼。 野犬に囲まれた鳩のように右往左往するが既に逃げ場無し! 彼の腕を、足を、女性達が拘束する! 「う、うわあああああ!! 違うんだぁぁああああっ!!!」 海神に捧げられる生贄のように、魔眼の少年は連れていかれる。 えっほ!えっほ!という女性陣の掛け声が、唖然として動けない局員の耳に木霊する中――― 「―――――、」 困ったようにその場でしゃがみ込んだまま、助け船を出そうか迷っているフェイトに 宿の浴衣を手渡して、ペコリと頭を下げた黒猫の夢魔が、生贄の行列へトテテテテ、と駆けていく。 こうして、結局うやむやのうちに第2演習場の1日目は終わる。 フェイト、遠野志貴、共に戦闘不能という結果を以って。 女性陣に連行されていった彼がその後、どうなったかは永遠の謎であり――― また知らない方が幸せであろうと、断言するものである。 ―――――― 「恥ずかしいところを見られちゃったね……ごめん、応援してくれたのに」 控え室にはレンに渡された浴衣を羽織ったフェイトと―――エリオモンディアルの姿があった。 確かに文字通り恥ずかしいトコロを見てしまったが今更だ。 それよりも…… ――― どうして最後、ソニックムーブで回避しなかったんだろう……? ――― それだけが少年の心に疑問を投げかける。 どう考えても間に合うタイミングだった筈だ。 あの魔眼使いもまた、フェイトが後ろに避ける事を見越したからこそ一歩、深く踏み込んだ。 だがフェイトは下がらずにシールドで受けたのだ。 故に距離が合わず、BJの下の服にまで切っ先が及んでしまった―――これが真相である。 「危なかったね……彼の手元があと少し狂ってたら体を斬られてたかも。 何にせよ完全に懐に入られちゃった私の完敗だ」 「負け、なんでしょうか? 空戦も魔法の大半も封じて、相手に合わせて打ち合って、それでも……」 「負けだよ。 初めに取り決めが為されて、それに従って戦って負けたんだから」 その事実を後から言い訳で引っくり返す―――そんな事は出来ないし、してはいけないのだ。 しかしながら納得のいかない表情を向ける少年である。 未だ自分の槍が届いた事の無い、尊敬する彼女が簡単に負けた事を受け入れられないのだろう。 第一、空戦魔導士が地上縛りで戦うなどハンデをつけ過ぎだと思わずにはいられない。 「エリオ……空を飛ばない人を相手に、飛んで離れて模擬戦をやっても何の意味も無いんだよ。 実戦だったら相手はこちらが飛行している時なんかに、正面から構えて襲ってなんて来ないでしょう?」 少年の肩を抱き、フェイトは諭すように言葉を続ける。 「食事を取っている時、眠っている時、必ずこちらが地に足をつけている時を狙ってくる。 その攻撃を捌けなければ意味が無い。 空戦魔導士といっても私達は結局、人間。 地上で生活している生き物なんだ。 である以上、戦いは何時だって陸から始まるんだよ」 羽を持ったが故に常に覚えておかねばならない。 自分が本来は地に根を張って生きる生物だという事を。 それを忘れて陸での戦いを疎かにする者は必ずどこかで足を掬われる。 そうやって短い現役生活を終えた魔導士をフェイトは沢山見てきたのだ。 「今日はラッキーだったんだよ……模擬戦だったから。 もし本番であの少年に奇襲を受けていたら……私は確実にバラバラにされてた」 「分かってます……分かってますけど……悔しいです………こんな簡単に!」 「エリオ……負けから学ぶ事の方が多い。 今の闘い、私じゃなくてあの志貴から学ぶ事はあった?」 「え?」 「見るべき所は山ほどあった筈だよ? そこに目が行かなきゃ、エリオの槍は私にも……その上にも届かない」 最後のあの1撃―――否、17連斬は、単純な速度では割り切れない 「絶対」 のタイミングで放られた。 これを外せば後は無いという特攻じみた切っ先は、こちらの感情の解れに一糸乱れぬ精度で捻じ込まれたのだ。 極めれば、いかに最速の機動力を以ってしても防ぎようの無いタイミング――― その決定的なワンチャンスを必ずモノにする爆発力。 きっと彼はそういう戦いを……常に格上の相手と繰り広げて来たのだろう。 殺し合いにおいて確実に存在する第6感のようなモノは、時に揺るがぬ性能差をあっさりと凌駕する。 結局、沈黙のうちにエリオはフェイトと別れ、控え室を後にした。 彼女は少年にとって母親でもあり、姉でもあり、師匠でもあった。 そんなフェイトの言葉に対して、今はまだ心が整理出来ず納得の行かない事もあるだろう。 だが、その芯に刻まれたものは確かにあったのだ。 フェイトの言葉通り、今日の光景を少年は余すとこなく眼に焼き付ける。 そしてこれより数年後―――― 彼はとある合同演習においてフェイトを今日と 「全く同じ目」 に合わせる事になるのだが………………それはまた別のお話。 ――――― 幕間 お前の母ちゃん○○○ ――― (応援してくれたエリオに厳しい事を言っちゃった……負けて幻滅させた上に、何て偉そうな物言いだろう) 気まずい形で別れてしまった少年の事を思い、執務官は胸に一抹のしこりを残す。 (でも私は出来れば将来、エリオに超えて欲しいんだ………私の事を) 彼は強い子だ。 今日の事も糧にして、きっと前に進んでくれる―――そう、信じている。 それよりも問題は、一瞬だが確かに会場で目に飛び込んできたシルエット―――――― 腰まで垂らした漆黒の長髪………群青のマント……… エリオがいた遥か後方で佇んでいた影……… 「かあ……………さん」 気づいた時には既に見えなくなるほど遠ざかっていた痩身の人影は――― 「……………」 既に自分しかいない控え室で、フェイトは確かに見えた母の姿に苛まれていた。 「実に良い母親っぷりじゃないか」 「え?」 だが、その焦燥の隙間に割り込むように誰かから声がかけられた。 控え室の入り口――― ノックも無しに入室した何者かが、フェイトの後ろに立っていたのだ。 「タバコ、吸ってもいいかね?」 「あ………ど、どうぞ……」 知らない顔だ。 誰だろう? 一瞬、意味深な表情を作った後、彼女はシガーケースから一本取り出して火をつける。 室内にヤニの匂いが充満し、白煙が通気孔に吸い込まれていく。 「じゃなくて……誰ですか貴女は? ここは管理局の関係者以外、立ち入り禁止……」 「ふむ―――見たところ素材は間違いなく自分の遺伝子を使っているようだが。 しかしこうまで性質が異なっていると、にわかには信じられんな。 やはり人間の性など往々にして、後天的に脚色されるものに過ぎないという事か?」 来訪者に対して質問するフェイトだったが答えは返って来ない。 その人物はいきなりズカズカとフェイトに近づき、無遠慮に鼻先に吐息がかかるほど顔を近づけて――― 「すまん。 キミ、もう一度、脱いでくれないか?」 「え、ええ!?」 「いいじゃないか。 あれだけ盛大に見せびらかしたんだ。 今更、減るもんじゃないだろう?」 「………っ!」 ほんのりと赤くなる執務官の頬。 あまり思い出したくない事をズケズケと掘り返してくる彼女に対し もはやフェイトも怪訝な態度を隠さない。 「………………」 「駄目か………ならば仕方が無い。 私とあっち向いてホイをやって欲しいんだが」 「…………あの」 「あっち向いてホイだよ。 知ってるだろ? あまりここで時間を取りたくないんだ……早急に頼む」 ………………… 「ジャンケンホイ! あっち向いてホイ!」 「ジャンケンホイ! あっち向いてホイ!」 ………………… (何やってるんだろう……私は) 謎の女史に強引に付き合わされるフェイト。 否、特記すべきは付き合ってしまう彼女の性格の良さか。 「驚いたな………眼球移動、視神経から脳へ、全身へと展開する神経郡の並列。 並大抵の技術と知識では到底、再現できない筈なのだが」 何やらブツブツ言っている女史。 遊戯に付き合っている間も無遠慮にフェイトの体を見回してくる。 上から下からねぶるような、その視線に居心地悪そうに身を竦める魔導士だった。 「―――――命の蘇生は神に対する逆理。 だが命の創造は神の所業そのものだ」 相変わらず、こちらの言葉を差し挟む隙は無い。 あっち向いてホイは6、7回戦ほどで終わった。 そして突如、虚空に向かって講釈を垂れ始める彼女。 「それをあの女……よりにもよって後者の方を先に成功させてしまうとはなぁ。 実際、愚かの極みだよ……哀れと言っても良い。 知識と能力のみ神の域に近づいて、精神がそれに全く追いついていないのだから。 何の事はない、あの女は――――――ふむ?」 そして女は今しがた、気付いたようにこちらを一瞥して口を開く。 「キミ、母親は好きかね?」 「………いきなり何を言っているんですか?」 「自分を人形扱いするような母親をキミは今でも愛しているかと聞いている」 ――― 不意に爆弾を落とされたような衝撃だっただろう ――― フェイトの表情が凍りつき、次いでみるみるうちに険しくなる。 「愛しています。 今でも変わる事無く」 そして―――迷う事無く答えた。 「そうか」 闖入者は租借するように何かを思案する。 「恥じる事は無い――――誇りを持て。 人形はいいぞ!」 そして、はっはっはっ、と上機嫌で笑いながら去っていく。 バタンと勢いよく締まるドア。 フェイトの 「あ……」 と呼び止めようとする声も遮られ――― 電光石火。 執務官に何一つ反撃させる事無く……… 「な…………何だったんだろう?」 一過性の台風のような女は謎だけを残し、去っていった。 ―――――― CHAPTER 1-3 四の五の言わずにぶった切れ ――― (……………ハズレ、か) うんざりといった表情で烈火の将シグナムは溜息をついた。 「あの……シグナムさん」 救護班、キャロルルシエが心配そうに騎士を見つめている。 「お前は何もしなくて良い。 軽口に付き合ってやる事もないのでな……バカは構うと付け上がる」 「ハッ! 脳筋女にバカって言われちゃったよっ!」 まったく―――本当に……セイバーが来る筈がとんだブタを引いたものである。 「騎士? 魔導士? デカイ顔してるけどさぁ。 どうせサーヴァントよりも弱いんだろう? したり顔で聖杯戦争にちょっかいかけて来やがって、あまり調子に乗るなよな」 「ほう? 聞き捨てならんな」 「おっと! 凄んだって駄目さ! 僕に手を出すと地獄を見るぜ」 「面白い……どんな地獄を見る?」 「これを見ろよっ!!!」 言って彼――――間桐慎二が両手を広げる。 すると右手には魔導書。 左手には令呪が。 「聞いて驚くな……今の僕はサーヴァントを2体も所持してるんだぜ! お前らがヒイヒイ言って手こずる化け物を2体もさあっ! ついに僕が聖杯に認められる時が来たって事だよ! 今、いい感じに最強じゃない? 僕」 問答に乗ってやった事を心底、後悔する将である。 失望とも呆れとも付かない深い落胆。 それを見て、慎二の顔が歪にゆがんだ。 「生意気な女だな……いいよ、吼え面かかせてやる」 「仮にも男子が他人のフンドシを見せびらかしてご満悦か? では満足したなら、もう帰れ。 お前のような者がここに居ても楽しい事など何一つ無いぞ」 「はぁ? 逃げるの!? ひゃはははっ! もう遅いってのっ!! おいライダー×2! こいつ泣かせちゃえよ!」 ………………… 「さあ! この無礼な女をボロクソに引きずり回して地面に這い蹲らせてやるんだ!!!」 ………………… ――――何も起こらない。 天然パーマがひゅー、と風に揺られている。 「あれ………ど、どうしたんだよライダー×2っ!? 何故来ない!?」 「あの二人なら反省室だ」 行きのバスで暴走行為を働いた罰として、すごすごと連れて行かれた一団。 彼が呼び出そうとした切り札は、既にその中だった。 「ちなみに二人からの伝言だ」 しなびたワカメが乾燥ワカメになるくらい絞ってやって下さい 「なっ!? あんの役立たずが! 裏切ったのかっ!?」 大人になれよ、シンジ 「余計なお世話だっっっ! 8歳だからってバカにしてんのかーーーーーっっ!」 地団太を踏んで悔しがるOH慎二。 「……貴様の根性は幼少の頃から叩き直さねば直らんという天の啓示だな。 よかろう。 全く持って気は進まんが暇を持て余していた事だ……稽古をつけてやる」 「や、や、やってられるかよ……っ! 僕は帰るぞ!!」 踵を返し、第3演習場を後にしようとするワカメ。 既に賽を投げてしまった後だと言うのに…… その頬から数センチ横をレヴァンティン―――蛇腹剣に変形した将の刃が通り過ぎる! パラリと落ちる慎二のもみ上げ。 「ひっ!!??」 「まず一つ。 迂闊に敵に背を向けるな。 一撃で殺されたくなければな。 さあ、好きな武器を取れ」 「やや、やめろ! やめやめ………ひいっ!?? ちょ、熱い! 何か熱いんですけどっ!?」 「どうした? こちらはまだ剣すら抜いていないぞ?」 …………………… キャロ達、救護班が思わず目を逸らす……… 口元を押さえてその惨状を見ないよう悪戦苦闘する中――― 第3演習場の初日は何の山場も無く幕を閉じた。 幼い頃からの教育は大事だというお話―――そう注釈を付けておかないと……… 「ぎゃあああああああああああああっ!!!!!!」 この惨劇は到底、映像に残せるものではなかったと――――後の記録係は語る。 ―――――― 「――――空戦がしたいのだ」 「いや………アンタは陸戦を磨いた方が……」 「――――空戦がしたいのだ」 「いや、あのな…………」 「――――空戦が」 「頼むから地上にいて下さいっ!」 第4演習場――― 鉄槌の騎士が紅蓮の鬼の熱意に負けるまで、ゆうに30分もの時を有したという――― ―――――― 幕間 ヴァルハラ ――― パンパン、――と小気味良い音が境内に響く。 彼女達は厳かに手を合わせ、次いで自分の引いたおみくじをめくる。 「末吉かぁ……こういう中途半端なんは微妙やなぁ。 大吉か、いっそ大凶辺りが出てくれた方がネタとしては盛り上がるんよ」 可も無く不可もなく、という結果に不満を露にする八神はやて。 だが横にいる人物が引いたおみくじをピラピラと見せて来るにあたり――― 「げっ……大凶……」 「ネタにどーぞ」 「う………うーん。 決起運わろし、今は動く時ではない、かぁ……どういう事やろ?」 「――――――――また延期か」 陰を背負った切ない笑いを浮かべる彼女。 現地到着後、午後いっぱいを使って行われた教導演習会の1日目。 そのプログラムも全て終了し、皆がぞろぞろと山道を降りて帰路につく。 ひのきの枝に雪の残滓を称えた、風情のある情景。 その中途に設けられた神社でお参りするのは、はやて部隊長と――蒼崎青子。 本格的に色彩彩の催しが開かれるのは二日目だ。 今日のところはゆっくりしても支障は無い。 あとは温泉にでも入って山の幸に舌鼓を打ち、温かい布団で休むだけである。 「それはそうと……どうでした? 青子さんの目から見ても十分、見応えあったやろ?」 「まあね」 それは言うまでもない、先ほどまで行われていた教導演習の事である。 「志貴も成長したわねぇ……あのか弱い少年が、まさか魔導士をひん剥くまでに成長するとは。 私の教育の賜物かしら?」 「何を教えたのやら……まあ、フェイトちゃんはあまりああいうの気にせんから不幸中の幸いやけどな。 でも青子さん。 志貴君が気になるなら皆と応援すれば良かったん違う?」 「あの面子に混ざると浮くのよ、私。 遠くからあの子を見守っているだけで今は満足よ」 そして美味そうに熟したら食らう!と付け加える事も忘れないアオアオ。 最後さえなければ最高に良い人なのに………苦笑する八神はやてだった。 「話は変わるけどさ……行きのお騒がせ連中が反省室に叩き込まれたんだって? 大丈夫なの? あんなもん大人しく抑えておける手段なんて、そうあるとは思えないんだけど」 「そこは問題ないよ。 対問題児専門のエキスパートが助っ人に来てくれたわ。 まずは管理局からファーンコラード校長っ!」 「へえ?」 「滅茶苦茶、強いんよ! 昔、なのはちゃんとフェイトちゃんが二人掛かりでかかっていって……瞬殺されとった」 「うげ……マジ!? あの二人を!?」 今よりランクこそ低かったものの、数値も経験値もメキメキ伸びていて上り調子だったなのはとフェイト。 そんな脂の乗っていた二人に敗北の味を教える意図で組まれた模擬戦だった。 「……丸めて、畳んで、ポイッ!やよ? 当時、なのはちゃんもフェイトちゃんも相当ショックでなぁ。 なのはちゃんなんて未だに何が何だか分からないうちに負けた、言うてるわ」 その所業は今の高町なのはがSS+の武装局員2人を鼻歌交じりに捻るようなものだ。 ファーン・コラード―――局の生きた伝説。 なのはですら未だにその深遠の実力の底が見えないという怪物魔導士である。 「で、もう一人はそちらさんから超有名人。 魔導元……」 はやてが最後まで言い終わる前に――― 青子が飲みかけのコーヒーを、だーっと口から垂れ流す。 「うわ、汚っ!?」 「っ! えええええええええええええええっっっ!??」 境内に彼女の絶叫が山彦となって響き渡る。 バサバサと飛び立つ野鳥たち。 「あの爺さん来てんのぉぉぉぉぉ!!? かか、かか、かきかきっかっか―――」 「あ、青子さんが動作不良や!? ちょっと面白いけど落ち着いて~!」 そうだ――――迂闊であった! あのぢぢいがこんな面白いイベントに目を付けないわけが無い! 「胃が痛くなってきた………帰ろかな」 「そ、そんなに……? オウム返しで悪いんやけど、そこまで凄い人なん?」 「凄いっていうか――――――ナイトメア。 貴方達の認識では真祖が最強って事になってるけど…… あの爺さん、散歩でもするかのようにソレの大元を殴りに行ったのよ。 気に食わねーっつって。 しかも勝った」 「うええ……」 最強の老人ペアだった―――その部屋では魔人二人が手薬煉を引いて待っている。 誰だろうと悪さなど出来よう筈も無い。 「そして極めつけに………」 「ちょっと待て―――」 青子の顔が盛大に引きつる。 何を言っているのだ、この娘は―――? 先にその二人の名を出しておきながら他に極めつけられるモノがいるとでもいうのか? ブルーの疑問に答えるように、無言で懐から写真を取り出して見せるはやて。 その時の二人の表情は何物にも形容し難かったが――――ただ、ただ、白かったとだけ言っておく。 二人は彼を知らない。 だがこの世界で彼を識らない者は恐らく皆無といっても良いだろう。 ニコっと爽やかな笑顔を見せ合う部隊長と魔法使いである。 「こりゃ―――――――どうにもならんわ」 「そうやろ?」 「あー、バスの中で大人しくしてて良かったわぁ…… こんな解脱部屋に放り込まれたら人生、丸ごと変わる」 「ヴァイス君にイスカさん大丈夫かなぁ? 後で様子見にいかな」 写真に写る、その沙羅双樹を背景に慈愛の微笑を浮かべる御人――― 六道、引いては宇宙の摂理と合一した「彼」の写真を脇に仕舞うはやて。 その部屋は時を置かずして「ヴァルハラ」と呼ばれ―――三日間を通して全旅客の恐怖の対象になったという。 本日のヴァルハラ送り――― ライダー(イスカンダル) ライダー(メドゥーサ) ライダー(ドレイク) ヴァイスグランセニック陸曹 危険行為、並びに交通違反、車両破損。 ………そして先ほど、もう一人 ―――――― 前 目次 次
https://w.atwiki.jp/orirowaz/pages/370.html
大地震とバイオハザード。 二つの未曽有の大災害により人の姿が消えてしまった朝の住宅街は、しばしの静寂に覆われていた。 だが、その静けさを打ち破るような幾つもの音があった。 それは靴音。住宅街の石畳を規律よく踏み歩く足音が静寂の中に響いていた。 その足音は1つや2つでは足りない。街路に響く足音は10を優に超えている。 重いブーツの音は力強く、スニーカーの音は軽やかな俊敏さを感じさせるように、それぞれの個性や体格によって異なる音を響かせていた。 そんな不揃いの足音でありながら、歩くリズムは完全にシンクロし、まるで一つの楽曲を奏でているかのようだ。 集団を率いるように先頭を行くのは仲睦まじく手をつないだ少年と少女である。 引き連れられているのは意識のないゾンビたちだった。 これを操る事こそ少年、山折圭介に目覚めた異能である。 目的地に向かう道すがら、圭介は住宅街に彷徨っていたゾンビを掻き集めた。 集まったゾンビの総数は一個分隊にまで達している。 高級住宅街は外部からの移住してきた住民が多い。 集められたゾンビたちは大半が通りすがれば挨拶をする程度の関わりの薄い人間たちだ。 だからと言ってその命を使い捨てていい訳がないが、まだ割り切りやすいのも事実だ。 命に優先順位を付けている時点で村を率いる村長としては失格だろう。 それでも光を助けると決めた。この決意だけは揺らがない。 足音は一つの意志の下に統一され、足並み揃えて行進する様はさながらゾンビの軍隊のようである。 これから挑むのが特殊部隊であるのなら、戦争するのにお誂え向きだろう。 街路を進み続ける分隊は、さっと手を挙げた圭介の合図により一斉に停止し足音も一瞬で静まった。 集団を率いて歩き慣れた道のりを進んでゆくと見慣れた家の前へと辿り着いた。 ガレージのある赤い屋根の家。圭介の友人である湯川諒吾の家である。 そして特殊部隊の襲撃を受け戦場となっている場所であもった。 静止した足音の代わりに住宅街に響いてきたのはコーン、コーンと言う何か重々しい音だった。 その音は圭介の目の前にあるシャッターの閉じたガレージの中からが響いているようだ。 (……何の音だ?) 圭介が眉を顰める。 ただ壁を叩いているだけの音にしては鋭利な響きだ。 住宅街の騒音がないからだろうか、その音は必要以上に周囲に響いているように感じられる。 少なくとも戦闘音ではない。 もっと静かに、淡々と何かの作業をしているような音だ。 不規則で、機械的と言うより人工的。 中に誰かがいて、この音を鳴らしているのは間違いないだろう。 だが、ガレージのシャッターは完全に締め切られており、ガレージには窓もないため中の様子は伺えない。 争うような様子がないという事は、少なくとも事態は既に何らかの決着を得ているようだ。 既にうさぎの友人2人は特殊部隊によって殺され、ガレージに残った特殊部隊の人間が何かをしている。 力の差を考えれば一番可能性が高いのはこれだが、そうなると何故特殊部隊の人間が立ち去らずガレージの中に留まっているのかが分からない。 うさぎの友人たちが奇跡の勝利を収めた可能性もなくはないだろう。他ならぬ圭介がその奇跡の体現者だ。 うさぎの帰還をその場で待っている、というのならガレージ内に人が残っている理由としても納得できる。 それとも特殊部隊の足止めに成功し何らかの膠着状態にある可能性もあるだろう。 はたまたこの音を出しているのは今回の件とは無関係な誰かと言う事もありうる。 何にせよ判断材料が足りない状態で何を考えたところで、ただの推論にしかならない。 命を懸けた行動を選択するにはもう少し確証が欲しいところだ。 だが、完全に閉め切られたガレージ中の様子を知る方法など……いや、ある。 その方法に思い至った圭介は光以外のゾンビたちをその場に待機させ、ガレージ前から離れて湯川邸の玄関まで移動した。 そして、玄関先にある郵便受けの蓋の裏を調べる。 そこにはセロテープで鍵が張り付けられていた。 田舎特有の防犯意識の緩さだが、鍵をかけているだけましである。 村外からの移住民は施錠する物も多いが、古民家からの引っ越し組はまだまだ古い田舎の感覚が抜けていない。 他人の家の鍵を勝手に開くのは僅かな後ろめたさがあるが、圭介は無言のまま玄関を潜る。 何時もであればこの玄関を潜るときは湯川家の誰かが出迎えてくれるのだが、歓迎の声はない。 もっとも正気を失った住民の出迎えがなかったのは幸運だったのかもしれないが。 靴のまま上がり込むと迷うことなくリビングまで移動する。 そしてリビングの壁に埋め込まれたモニターへと手を伸ばす。 電源が生きているのか、それとも電池か充電式なのかモニターは無事に映し出された。 湯川邸には玄関前とガレージ内を映す監視カメラが設置されている。 玄関に鍵を放置する家とは思えない防犯意識の高さだが、これはボロボロの古民家を捨ててピカピカの新居に引っ越せるのが嬉しかった一家が、とにかく最新鋭のモノを付けたがった結果、無駄に付けた監視カメラである。 農家の軽トラなんて盗む人間がいる訳がないだろ、とよく諒吾をからかったものだが、こんな形で生きるとは思いもしなかった。 圭介は玄関前を映し出していたモニターを操作して画面を切り替える。 小さなモニターにガレージの現状が映し出された。 そこに映し出された光景を目の当たりにして、思わず圭介は「うっ」と言葉を飲んだ。 明度が不鮮明な監視カメラの映像だったのは幸運だっただろう。 転がるのは無惨に引き潰され切り裂かれた二つの死体。 ガレージは真っ赤に染まり、凄惨な光景が広がっていた。 だが、うさぎから聞いた情報では村の外から来た少女と、カズユキ――村のプロレスラー暁和之と言う話だったはずだが、転がっている死体は少女と巨大な怪物のモノだ。 少女の方はいいとして、プロレスラーの方は異能で異形化でもしたのだろうか? 何にせよ村人がまたしても殺されたのは事実だ。 自分を縛る檻だと思っていたこの村が傷つけられるたび、圭介の中に身を切られるような痛みがある。 自分はこの村を愛していたのだなと、こんな形で気づかされるだなんて思いもしなかった。 血と肉と死が転がるガレージの中で、ただ一人立っているのは防護服の男だ。 奇跡など起こらず、当然のように特殊部隊が勝利していた。 だが、勝者であるはずの男はその場を立ち去るでもなくガレージの壁際で何かをしていた。 ガレージに工具箱でもあったのか、ノミとトンカチのような工具で壁を削っているようだ。 閉じ込められているのか? と一瞬思ったがそれならばシャッターを破壊した方が早いだろう。 わざわざ丈夫なコンクリートの壁を破壊しようと言うのはよく分からない。 ともかく、ガレージ中には特殊部隊の男が留まっていると言う事は分かった。 それを確認した圭介はモニターの電源を落とし、湯川邸を後にした。 そして再びガレージの正面に立つと、恋人と繋いでいた手を放し待機していた全軍と共に後方に下がらせる。 代わりに右腕に握っていたMGLを両手で構え、巨大な銃口をガレージのシャッターへと向けた。 ガレージごと中の特殊部隊を吹き飛ばす。 グレネード弾は薄いシャッターなど容易く打ち破り、ガレージの中を炎で蒸し焼きにするだろう。 諒吾は文句を言うだろうが、後で修繕費を出してやればいい。 「――――――――死ねよ」 村の侵略者を排除するのに、もはや躊躇いなどない。 引き金を引き、シャッター閉じたガレージに向けてグレネードを打ち込んだ。 爆音と共に巨大な炎が上がった。 爆風に圭介は目を細めながら、その結果を見届ける。 炎が晴れる。 その先にあったのは、何一つ変わらぬ風景だった。 シャッターは健在であり傷一つない。 グレネードの直撃を受けシャッターの一つも打ち破れないなどあり得ない。理に合わない現象だ。 そしてそのような事が、異界と化したこの村ならばありうる事を圭介は知っている。 だが、特殊部隊に異能は扱えないはずだ。 そこで圭介は先ほどモニターに映っていた特殊部隊の男がガレージ内で壁を削っていた姿を思い返す。 なるほど、と圭介は結論を得る。足止めに残ったどちらかが、異能を使って命を懸けて特殊部隊を閉じ込めたという所か。 圭介は湯川家のガレージ構造もよく理解している。 シャッターで塞がれている正面以外に出入り口はない。 小さな子供であれば換気口から脱出できるかもしれないが、中にいるのが成人ならば脱出不可能だろう。 「ハッ! ざまぁねえな特殊部隊!」 中へと罵倒の声をかける。 返答はない。 その代わりに、グレネードの爆音によって中断されていた掘削音が再開される。 「だんまりかよ、なんとか言ったらどうだ? テメェらはこれまでいったい何人ウチの村人を殺してくれたんだ? 挙句に無様に閉じ込められてテメェだけは助かりたくて無駄な努力をしてんのか?」 嘲笑と共に挑発めいた言葉を投げかける。 しかし、返る言葉はない。 返るのは淡々と壁を削るような音が響くばかりだ。 「なんとか言えよ! どうなんだ、おいッ!?」 無視を続ける相手に先に感情を爆発させたのは圭介の方だった。 村を蹂躙することをなんとも持ってないかのようなその態度は許し難いものがある。 ギリと奥歯をかみしめ、怒鳴りつけるように声を荒げた。 「散々俺たちの村を荒らしやがって! 勝手に訳の分からない研究を始めて、失敗したら勝手に皆殺しだぁ? ふざけんなっ! テメェらだけの都合で村の運命が決められて堪まるかッ! 俺たちの事は俺たちが解決するんだよ部外者はすっこんでろ!! テメェらはそれが失敗した時にだけ出張ってきやがれってんだ! ケツだけ拭いてりゃいいんだよッ!」 身勝手でただ感情の爆発をぶつける様な主張。 だが、その声を受けてか、壁を削る音がピタリと静止した。 そして、ようやく檻の中の男が重い口を開く。 「…………来たか」 「何………………?」 瞬間、圭介の眼前を突風が吹き抜けた。 何かが鼻先を霞め、削れた傷口から血が糸のように血が流れる。 突風の行く先にあったのは地面に槍のように突き刺さる道路標識だった。 カラカラとハンマーが石畳の地面に引きずられる音が響く。 音に引きずられ、視線を這わす。 住宅街の道上に立っていたのはクマを思わせる大柄なシルエットだった。 「いやぁ。てっきり乃木平辺りかと思ってたけど、まさかアンタだったとはな、大田原サン」 声は女のモノだった。 忘れるはずもない。見紛うはずもない。 女が全身に纏うのは、圭介が仕留めたあの男や中にいる男と同じ迷彩色の防護服――――すなわち特殊部隊だ。 最悪の事態だ。 1人は閉じ込められているとはいえこの場に特殊部隊が2人集結した。 どうしてここに集まったのか、と言う疑問は瞬時に氷解した。 壁を削っているように聞こえたあの音だ。 あれは救難信号だ。ガレージに閉じ込められた特殊部隊があの音で救援を呼んでいたのだ。 壁を破壊しようとしていたのも本当だろうが、掘るタイミングを調整することで自力の脱出作業と周囲への救援要求を同時にこなしていたのだ。 「救援要請に応じてくれて感謝する。だが作戦行動中に濫りに名前を呼ぶなIronwood」 「そいつぁ失礼、1等陸曹殿。どうせ皆殺しにするってのに相変わらずマジメなこって」 「―――――Ironwood」 聞くだけで震えあがりそうな威圧感の籠った声。 Ironwoodと呼ばれた女は肩をすくめて応える。 「へーへーIronwood.了解。Mr.Oak」 言いながら意識をガレージ内の要救助者からガレージ前にたむろする一団へと向ける。 より正確に言うなら、その先頭にいる圭介にだ。 「で? アタシはドッチを優先すりゃいいんだ?」 救助か、排除か。 まず行うべきはどちらか、階級上の上官へと指示を仰ぐ。 「聞くまでもない――殲滅だ」 「了ぉ解ぃ」 ゆらりと凶悪な獣が牙を向く。 マスクの下にあるギラついた眼光が圭介を射貫き、全身に重厚な殺気が圧し掛かった。 「くっ……ぁああっ!」 その殺意に気圧されるように、思わず圭介はダネルMGLの引き金を引いてしまった。 一刻も早くこの重圧から逃れたい一心で放たれたグレネードが空中を舞いながら標的に向かって行く。 着弾と共に耳に響く轟音が閑静な住宅街に広がった。 衝撃を伴った爆風は街中を吹き荒れ、燃え盛る炎は瞬く間に黒煙と共に高く舞い上がる。 煙と炎が絡み合い、まるで地獄の門が開かれたかのような光景が住宅街に広がってゆく。 火花が舞い散り、火の粉が舞う。 周囲の空気は灼熱と化し、僅かに離れた位置にいる圭介の吸い込む息すら焼けるように熱を帯びていた。 これほどの爆発。如何に特殊部隊が超人であろうとも、直撃を受け生き残れるはずもないだろう。 「――――――っぶねぇな」 だが、炎の中より声がした。 燃え盛る炎のスクリーンに、歩み出る人型の姿が浮かび上がる。 その足音に地面は震え、炎はその存在に畏怖するように退いてゆく。 炎の海を割るようにして、特殊部隊が恐怖と絶望を振り撒きながら歩み続ける。 圭介は思わず息を飲んだ。 特別性の防護服は炎の海をものともしない。 オレンジ色の炎が防護服に反射し、その恐ろしさを照らし出す。 炎の中を進む特殊部隊の姿は、地獄の底から這い上がる死神のようであった。 だが、炎と煙は防護服で防げたとして、グレネードの直撃まで防げるはずがない。 それは他の特殊部隊で実証済みだ。 ならば、生きている以上何か別の理由があるはずだ。 その理由を探る圭介の目が炎上を続けるその火中に、燃え上がる鉄塊があることに気付いた。 グレネードが直撃したのはこの鉄塊、つまり車だ。 偶然そこに在ったという訳ではない。 グレネードの発射に気づいた女が傍らに路上駐車されていた車を咄嗟に引き寄せ盾としたのだろう。 大規模な炎上は盾となった車体から漏れ出した燃料によるものである。 だが、盾となった車は軽だったとしても1トン近くある鉄の塊だ。 それを咄嗟に片手で引き寄せるなど、人間技ではない。 それもそのはず、彼女はただの人間ではない。 最新鋭の技術により体の大半を機械化したサイボーグ。 それが彼女、美羽風雅という女の正体だ。 「なんで素人のガキがんなもん持ってんのかは知らねぇが。 MGLってこたぁ、広川殺ったのぁテメェだなぁ――――ッ!」 歓喜と狂気の混じった声。 仮面の下に浮かぶ獣のような凶悪な笑みが透けて見えるようだ。 絶対的な死の恐怖に圭介の全身が一瞬で総毛立つ。 「ッッ!? 行けお前らッ!!」 背後で待機していたゾンビに追い詰められた王の指示が飛ぶ。 号令一下、十数のゾンビの軍隊が機械の怪物に向かって突撃を始める。 だが、特殊部隊の女は動じることなく、不動のままその場に立ち尽くすだけだった。 そしてゾンビが眼前にまで迫ったところで、ようやく最初の一歩を踏み出す。 その一歩は、地面を揺るがすほどの重さが秘められていた。 「ハッハァ――――ッ!!」 炎を背にサイボーグが笑う。 豪快に振るわれた腕がゾンビの頭を砕きその体を吹き飛ばした。 続けて放たれた前蹴りは破壊の極致を表すようにゾンビの体を粉々に砕き肉と血を周囲にぶちまける。 サイボーグが手足をふるう度に一体、また一体とゾンビが蹴散らされていく。 圭介の集めたゾンビの軍団は、特殊部隊の誇るサイボーグの前ではまるで玩具の兵隊でしかなかった。 まるで波が岩に打ち砕けるように、突撃するゾンビたちは強大な力によって次々と吹き飛ばされて行く。 圭介が最初に戦った特殊部隊員の男も確かに強かった。 だが、あれは人間の範疇の強さだ、目の前の相手は違う。 怪物性で言えば市街地で暴れていた気喪杉に近い、だがあれとは闘争者として次元が明らかに違う。 人間と戦っている気がまるでしない、怪獣でも相手にしているようだった。 だが、逃げる訳にはいかない。 圭介は自らの背後に待機させた光の存在を思い出し、恐れを押し殺して逃げ出したくなる足を踏みとどまらせた。 MGLを正面に構えて、ゾンビ相手に大立ち回りをしている特殊部隊を捉える。 ゾンビたちが足止めをしている間にゾンビごと吹き飛ばす。 自らが従えた者たちを自らの手で葬り去ることになるが、目的のために手段を選んでいられる状況ではない。 その覚悟を決め、引き金に指をかけた。 「遅ぇ!」 だが、この期に及んで今更覚悟を固めている様ではあまりにも遅い。 美羽が手を伸ばし、一体のゾンビの頭を掴むとその体を軽々と振り上げ、圭介に向かって投げ飛ばした。 「ぐは…………ッッ!?」 凄まじい剛速球が腹部に直撃して圭介の体が大きく吹き飛ばされた。 60kg超の鉄球が直撃したようなものである、そのダメージは計り知れない。 圭介の体が硬い石の地面を転がってゆく。 「っ…………は……ッ!」 ようやく止まった頃には全身はスリ傷だらけになっていた。 そして吹き飛ばされた拍子に手にしていた武器を落としてしまったことに気づく。 すぐに拾い上げようと、起き上がるよりも早く目の前に転がるダネルMGLへと手を伸ばした。 「ッ……ぐあああああぁぁっッ!!!」 だが、その手の甲は上から踵で踏みつけられた。 見上げるまでもなく、踏みつける軍靴を見ればわかる。 そこに居るのは特殊部隊のサイボーグ、美羽風雅だ。 「よぅ、クソガキ。ウチのヒーロー志望者が世話んなったみてぇだなぁ」 「くぅッ!!」 見れば、一個分隊のゾンビ部隊は完全に壊滅していた。 原型をとどめているモノすらいない、完全なる蹂躙。 それほどの破壊を苦も無く成し遂げた怪物を睨み、圭介は吠える。 「ヒーロー志望者…………? ああ、クソヒーローなら無様に命乞いしながら押っ死んでったよ!」 この状況で果敢に言い返すその言い様を気に入ったのか、美羽はへぇと口元を吊り上げる。 「いいね。そうこなくっちゃ。そうじゃなけりゃ『返し』の甲斐もねぇ」 どうせなら獲物は活きのいいほうがいい。 同僚を殺したのが、つまらない輩だったそれこそ興ざめだ。 「返しだぁ? 敵討ちでもするつもりか!? ざけんなッ! お前らが先に俺たちの村を無茶苦茶にしたんだろうが!」 「あ゙ぁん? 最初はアタシらじゃなくて研究所の……ま、テメェらからすりゃ一緒か」 投げやりに呟き、自己完結で納得する。 その口調は乱暴ではあるが、敵討ちをしに来たにしては恨み骨髄という声色でもない。 「別にテメェを恨んじゃいねぇさ。結局の所、戦場で死ぬのは弱ぇからだ。野郎が殺されたのは野郎が弱いのが悪かったのさ」 広川の死に対して思う所がない訳ではないが。 広川を殺した相手に対しては別段恨みという感情は持っていない。 何だったら任務も達成できず脱落した広川の方に怒りを覚えるくらいだ。 「はっ。恨んでねぇだぁ? 口ではそう言っても、結局テメェも恨みを果たしたいだけだろうが!」 「違うね。コイツぁ恨みじゃなくケジメの問題だ。舐められたままじゃ終われねぇんだよ」 まるっきりヤクザの言い分だ。 原因がどちらにあるかなど問題ではない。 一度始まった報復の連鎖はどちらかが根絶やしになるまで途切れることなどない。 「まあ、理由はどうあれこれからテメェは蹂躙される。このアタシにな。 それはテメェが悪ぃからじゃねぇ、テメェが弱ぇからだ、弱ぇやつは戦場では無価値だ」 弱者は強者に何をされても仕方がない。 特殊部隊の女は残酷な戦場の真実を語る。 「さて、このままテメェの頭を踏み潰すのは簡単だが、それじゃあ返しにならねぇよなぁ?」 正常感染者を殺すのは特殊部隊としての任務だ。 ただ殺すだけでは個人的なケジメにはならない。 それとは別に暴走族の頭として身内を殺された返しをしなくてはならない。 「っと、その前に、だ」 圭介を踏みつけたまま、美羽は上体だけを捻って自らの背後に迫っていた敵の顔を掴んだ。 そこに居たのは圭介にとっても予想外の人物。 「光ッ!?」 美羽に背後から襲い掛かろうとしたのは、後方に避難させていた光だった。 鉄のような腕に捕まり光の頭部が圧迫される。 正気などないはずの喉奥から小さな声で悲鳴が上がった。 圭介は光を操っていない。 そもそも圭介が光を危険にさらすような真似をするはずがない。 美羽に追い詰められ、ゾンビを制御する余裕を失っていた。 制御を離れた今、光を動かすのはゾンビの自由意志だ。 それはゾンビの本能で目の前の相手に襲い掛かっただけなのかもしれない。 それが圭介を助けに着たように見えただけだ。そんなはずはないのに。 「やめろ!! 光は関係ない!!」 「テメェのツレだろ、関係ねぇってこたぁねぇだろ」 言って、片手でつかんだ光の頭を握りしめた。 だが、すぐに違和感を覚えたのか目を細めて掴んでいた光の顔を凝視する。 「あぁん? んだよ、こいつもゾンビかよ! お人形遊びかぁ? 気持ち悪ぃ」 吐き捨てるように言う。 先ほどまでゴミのように片付けてきた奴らと同じゾンビだ。 だが、全軍特攻に加わらなかった事からして、何らかの特別扱いを受けているのは明らかだ。 「わざわざ侍らしてるってこたぁテメェのスケか? それとも狙ってた女をこの機に乗じていいようにしてんのか?」 「うるせぇ!! 今すぐ光を離せって言ってんだよ!! このゴリラ女がッ!!」 これまでにない剣幕で噛み付く圭介の様を見て、天啓を得たりと仮面の下で美羽が笑う。 「決めた――――まずはこいつを殺す」 「なっ――――――」 その宣言に、圭介は言葉を失う。 これは美羽の個人的な『返し』だ。 本人ではなく大事な人が殺されるというのは仲間を殺された返しとしては妥当だろう。 「待てっ! 止めろ! テメェが殺したいのは俺だろうが!」 腕を踏みつけられたまま、圭介が必死に暴れまわるが相手はびくともしない。 本当に鉄の塊のようだ。 自分の力では何をしても動かせない。そんな絶望が重く心に圧し掛かってゆく。 効果は無くとも足元でバタつく相手が鬱陶しいかったのか。 美羽は手の甲を踏みつけていた足を上げ、そのまま足裏で顔面を蹴り飛ばした。 頭部に直撃を受け圭介の脳が揺れる。 「テメェは後だ、そこで見てろ」 美羽の力をもってすれば蹴り一つで圭介の頭蓋を体から吹き飛ばすのも容易い事だ。 だが、そうはしない。そうでければ『返し』にならない。 「ッ…………やめろぉッ! やめてくれぇ―――――ッ!!」 だが、砕けた鼻から垂れ墜ちる鼻血を拭う事もせずに圭介は美羽の足首にしがみつく。 縋るような無様な姿だが、無様であろうとも構わない。これだけは諦めきれない。 このままでは光が殺される。 諦められるはずがない。 「逃げろッ! 逃げるんだ光ぃ!!」 逃げるように異能で光に指示を出す。 だが虫も殺せぬ光の力で美羽の怪力を振りほどけるはずがない。 ミシリと言う音と共にサイボーグの指先が光の頭にめり込んでいく。 先ほどまでの超人的な大暴れを思えば、人間の頭などトマトのように握りつぶせるだろう。 「うわああああああああああああああああああッッッッッッ!!!!!」 喉を裂く様な絶叫。 無力な圭介では間に合わない。何もできない。 少年の絶望が世界に響き、まるでスローモーションのように彼の世界は全てが遅くなった。 聞こえるのはバクバクと音を立て脈動する自分の心音だけ。 まるで全身が心臓になったよう。 血が逆流し、胸に灼熱を流し込まれたような痛みが伴う。 光が死ぬ。光が死んでしまう。 目の前に突き付けられるその真実に圭介の脳内は破裂寸前にまで膨れ上がる。 満ちるのは怒りと憎悪。 光を守れない自分自身への怒り。光を奪おうとする敵への憎悪。 憎悪と殺意と絶望がシナプスとなって脳内で弾ける。 異常に加熱した脳と、異常に冷めた冷静な脳が共存して脳が痺れる。 それはまるで自分とは別の存在が脳を制御しているかのようだった。 異能が目覚めた瞬間にも感じた脳が世界に繋がる感覚。 一本だった不可視の触手が数え切れないほど伸びていくよう。 意識が世界に拡張される。 いや、意識が世界を拡張していく。 己の意識が現実を侵食していくようだ。 「よーく目に焼き付けなぁ! テメェの女が弾ける様をよぉ!!」 無慈悲な特殊部隊の咆哮が響いた。 それを合図に、止まっていた世界が動き出す。 光を握る手に力が籠められ、パンと、何かが弾ける様な音がした。 「な、に?」 驚愕は誰の口からだったか。 響いた破裂音は光の頭が弾けた音ではなく、ましてや圭介の脳の血管が切れた音でもない。 それは遠方からの狙撃音だった。 美羽の背後、炎と黒煙の壁を突き抜け弾丸が飛来したのだ。 弾丸は美羽の肩甲骨辺りへと吸い込まれ、掴んでいた光を取り落とす。 「バっ…………」 バカな。声にならないそんな驚愕と共に美羽が弾丸の飛来した方向を睨むように見つめる。 弾丸の風圧により穿たれた穴から猟銃を構える猟師の姿が垣間見えた。 伏兵を残していた? いや、それならば狙撃は最初の全員突撃の際に行うべきだ。 それに、ここまでに美羽がその気なら殺されていた場面も何度かあった。 ここまでもったいぶる理由がない。 何より、今の狙撃はただの狙撃ではなかった。 弾丸は炎と黒煙の向こうから来た。 狙撃手からターゲットが見えていないのだから、狙撃など不可能なはずだ。 そして何より、驚愕すべきはどこにも殺意がなかった事だ。 殺意があればそれを読める、だがそれがなければ気づきようもない。 いや、正確に言えば、殺意はあった。 だがそれは美羽の足元に無様にしがみ付く少年から発せられたものである。 殺意と照準が違う。 銃を構え引き金を引いたのは猟師であっても、これは圭介の殺意による弾丸である。 このような異次元の狙撃。如何に特殊部隊の精鋭と言えど避けようがない。 「テェェエエンメェェェェッッッ!!!」 だが、恐るべきはサイボーグ。 中型の獣を一撃で仕留める弾丸の直撃を受けてもその肉体は健在である。 直撃受けた部位の機械構造は破損しているが、一撃ならば致命傷には至らない。 連続して喰らえばマズかろうが狙撃があることは分かった。警戒していればそう簡単に喰らう美羽ではない。 だから、問題は別の所。 美羽の肉体ではなく、防護服に穴が開いたと言う事である。 「チィ…………くッッ!!」 瞬時に状況を理解した美羽は身を翻した。 スレッジハンマーを片手に、振り絞るように全身を捩じる。 「間ぁに合えええぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!!!!!」 剛と、台風のように回転して跳躍する。 放たれる一撃の向かう先は圭介でも光でもない。 死力を尽くした一撃が放たれたのは、大田原が閉じ込められたガレージだった。 コンクリート壁にスレッジハンマーの一撃が炸裂した。 大量の火薬でも爆発したような衝撃が叩き込まれる。 強力な一撃を代償にスレッジハンマーが砕け散るが、強固なコンクリートの壁が砕けた。 「――――――よくやった。Ironwood」 破損した箇所を起点に、内側から食い破るようにコンクリート壁が弾けた。 無骨な巨大な手でヒビを広げながら、怪獣めいたサイボーグ以上の脅威が現れる。 少女とオークが命を賭して封印した最強が、鉄筋コンクリートの檻から解き放たれる。 並び立つ絶望。 美羽の隣に大田原が立つ。 その光景はこの村の住民にとっては不可避な死を告げる絶望その物だ。 「では。連携して対応に当たる、まずは…………!?」 「ぅうああ――――――ッ!!」 だが、制圧の指示を出そうとしていた大田原に向かって、横合いから美羽が襲い掛かった。 突然の乱心に流石の大田原も驚きを隠せず、僅かに反応が遅れる。 掴みかかってきた手を避けきれず腕を掴まれそのまま押し込まれた。 恐ろしいまでの圧力。大田原と言えでも機械の筋力には及ばない。 バイオハザードにより村に蔓延するウイルス。それを防ぐための防護服である。 そこに穴が開いてしまえば、あとは正常感染者に成れるかどうか、2%のギャンブルだ。 美羽はそのギャンブルに敗北して、ゾンビとなった。 そして――――――ゾンビならば操れる。 それが村の王たる圭介の異能だ。 手を伸ばし、新たな家臣に向かって王は命じる。 「目の前の相手を殺れ、ゴリラ女――――――!」 その命令に従い、ゾンビとなった美羽が大田原を掴んだ腕を振りまわした。 万力が如き握力で振り回され、100㎏超の巨体の両足が浮き上がる。 そのまま地面に叩き付けんとする刹那、大田原はその流れに逆らわず浮いた両足を振り上げ鳩尾と顎に二連脚を見舞った。 衝撃に握力が緩む。その隙を見逃さず大田原は前蹴りを放つと共に腕を振り払って拘束を脱した。 僅かに距離が離れる。 その隙に腰元からナイフを引き抜き追撃へと前出た。 だが、そのナイフを振りぬこうとしたところで、大田原の動きが静止する。 瞬時に前傾姿勢を解いて上半身を仰け反らせた。 同時に、黒煙の先から放たれた弾丸がその眼前をすり抜ける。 ガレージ内で銃声は聞いている。 狙撃があることは警戒していたし、銃声から狙撃方向も把握していた。 タイミングばかりは撃つなら今であろうと言う当て推量だが、実際に撃たせてみておおよその仕掛けは知れた。 大田原はその場に足を止め冷静に現状を確認する。 中距離には司令塔と思しき正常感染者の少年とゾンビと思しき少女。 ガレージ内で聞き及んでいた音声と美羽の現状からして、少年は恐らくゾンビを操る異能者だろう。 少年の利き腕は美羽に踏みつけられ折れてしまったのか、左手に拾い上げたダネルMGLを握りしめている。 高火力な火器。点の狙撃と違い、美羽を足止めに使いもろとも吹き飛ばされては大田原と言えども避けようがない。 近距離には特殊部隊の同僚である美羽。 筋力は人知を超えた機械のソレ、耐久度は正しく鋼鉄。 自衛隊最強を誇る大田原とでも仕留めるのは簡単ではない相手だ。 任務は女王の可能性がある正常感染者の抹殺。 ゾンビはそこに含まれず、事態が解決されれば元に戻る可能性もあるという話だったはずだ。 ならば、ウイルスに侵されたとは言え美羽を殺す必要はない。 だが、ターゲットを守護し、任務達成の障害となるのであれば排除する。 美羽と言う個人に対する付き合いもそれなりにあったし、幾多もの視線を共に乗り越えてきた部隊同士の仲間意識もある。 それでも正義のためなら躊躇いなく実行できる。それが大田原と言う男だ。 何より、美羽は加減できる相手ではない。 戦うのであれば殺すつもりで行かなくては大田原が危うくなる。 遠距離には炎煙の向こうに構える謎の狙撃手。 ブラインドの先から行われる狙撃は驚異の一言だが、仕掛けさえ分かっていれば避けること自体は不可能ではない。 だが、それも狙撃手単体であった場合の話だ。美羽の相手をしながら狙撃手の警戒をするのは相当に精神が削れる。 その上、一発でも霞めれば美羽の二の舞ともなればかなりの綱渡りだ。 少なくとも黒煙越しにブラインドスナイプが可能なこの状況で戦うべきではない。 頭を潰すのが戦術の基本だが、遠近の守護者を突破して司令塔を潰すのは難しいだろう。 このまま戦ったところで勝ち目がまったくないという訳でもないが、無視できない程度に敗北のリスクはある。 ここは一旦引いて仕切りなおすべきだ。 そう決断するや否や、大田原は躊躇うことなく崩れたガレージの外壁に足をかけて、そのまま屋根へと上っていった。 通常、狙撃手が居る戦場でこのように高台で身をさらすのは自殺行為だが、狙撃手の目は少年だ。 それを理解しているからこそ、あえてその逃走経路を選んだ。 そこから赤い屋根へと移り、巨体とは思えぬ機敏さで屋根を渡り歩いて撤退していく。 圭介は深追いをせずそれを見送る。 美羽や兵衛なら追えるかもしれないが、司令塔である圭介がついていけない。 追うのは難しいだろう。 だが、今はそれでいい。 特殊部隊を手駒に加え、最強の特殊部隊を退けた。 十分すぎる成果だ。深追いをする必要はない。 なんとか生き延び、そして2度目の特殊部隊戦を経て理解した。 有象無象をどれだけ用意しようとも強敵には通用しない。必要なのは精鋭だ。 前衛と後衛。 それぞれの強力な駒を手に入れた。 特に、あの場面で兵衛を手に入れたのは幸運だった。 最初から伏兵として残していた訳ではない。 あの瞬間、世界に広がった異能の触手が、彷徨っていた六紋兵衛を捉えたのだ。 この調子で精鋭を集めて、特殊部隊にも負けない最強のゾンビの軍団を作り上げる。 それを成す異能(ちから)が今の圭介にはある。 その力をもってすれば特殊部隊の駆逐も夢ではない。 その先の女王探しも、力があれば楽になる。 僅かに見えた、光を取り戻すための希望の光。 美羽の言葉は正しい。 戦場において弱さは罪であり、強さは正義である。 全てを取り戻すために力が必要だ。 踏みつぶされた右手は骨折しており、左手は銃で塞がれている。 守護りきった恋人の手を握る事は出来なくなってしまったけれど、全ては光を取り戻すために必要なことだ。 そうやって、圭介は戦いの決意を固めてゆく。 そんな圭介を見つめる恋人の目にはどこか悲しみを湛えた光が宿っているようにも見えた。 【美羽 風雅 ゾンビ化】 【C-4/湯川邸前/一日目・午前】 【山折 圭介】 [状態]:鼻骨骨折、右手の甲骨折、全身にダメージ(中)、精神疲労(大)、八柳哉太への複雑な感情 [道具]:木刀、懐中電灯、ダネルMGL(4/6)+予備弾5発、サバイバルナイフ [方針] 基本.VHを解決して光を取り戻す 1.女王を探す(方法は分からない) 2.正気を保った人間を殺す。 3.精鋭ゾンビを集め最強のゾンビ兵団を作る。 4.知り合いを殺す覚悟を決めなければ。 [備考] ※異能によって操った日野光(ゾンビ)、美羽風雅(ゾンビ)、六紋兵衛(ゾンビ)を引き連れています。 ※美羽風雅(ゾンビ)は拳銃(H K SFP9)、サバイバルナイフを装備しています。 ※六紋兵衛(ゾンビ)はライフル銃(残弾3/5)を背負っています。 ※学校には日野珠と湯川諒吾、上月みかげのゾンビがいると思い込んでいます。 【C-4/高級住宅街/1日目・午前】 【大田原 源一郎】 [状態]:右腕にダメージ、全身に軽い打撲 [道具]:防護服、拳銃(H K SFP9)、サバイバルナイフ [方針] 基本.正常感染者の処理 1.撤退 2.追加装備の要請を検討 3.美羽への対応を検討(任務達成の障害となるなら排除も辞さない) 081.忸怩沈殿槽 投下順で読む 083.catch and kill 084.愛しの■■へ 時系列順で読む 二つの覚悟 大田原 源一郎 Monster Hunter 掃き溜めの戦狼 美羽 風雅 MISSION FAILED 友の家を訪ねる 山折 圭介 化け物屋敷
https://w.atwiki.jp/trinanoss/pages/51.html
ACE COMBAT04 THE OPERATION LYRICAL 第26話 MEGALITH "世の中、全てが思い通りにはならないさ。なぁ、そうだろ?" ――とあるジャーナリストの言葉より。 隕石攻撃から一夜明けたクラナガンでは、陸士たちが救難活動を続けていた。 火災は収まったが、崩れた建物などに閉じ込められた人々はまだ多い。同時に、医薬品も不足していた。ヘリ、トラック、ジープ、果ては空戦 魔導師までもが医薬品の運搬作業に当たっているが、まだまだ足りないのは目に見えていた。 「A地区には陸士三〇二部隊を。F地区はもういいでしょう、作業中の陸士に撤収命令を。三時間の休憩の後、D地区の救難活動に」 「は、はいっ」 地上本部跡地に設置された臨時指揮所では、かつての地上本部副官オーリスが、配下の陸士たちにてきぱきと命令を下していた。 昨夜から一睡もしていないのだが、疲れを感じさせないのは、父が――レジアスが命をかけて守ろうとしたこの地を、市民を救おうという意思 が強いからだろうか。 一通りの命令を終えた彼女は指揮所の粗末なパイプ椅子に座り込み、長机の上に置いてあった、各部の報告書に目を通す。どこもかしこも、深 刻な被害を受けているため、救難活動が思うように進まない。 「どうぞ」 「あぁ、ありがとう――?」 いきなり脇から熱いコーヒーの入った紙コップを差し出され、オーリスはてっきり部下の一人が出したものと思って受け取ったが、視線の先に いたのは管理局の制服の上に、白衣を背負った女性の姿があった。 「あなたは確か……」 記憶の奥から、女性の名を探し当てる。以前機動六課査察の話があがった際に名簿で見た、シャマルとか言う六課の医務官だ。 「――機動六課は、スカリエッティの確保に向かったと聞きましたが?」 「ええ。でも、がら空きにする訳にはいきませんから」 またいつ隕石が降ってくるとも限らないし、とシャマルは付け加える。同時に角砂糖を持ち出して、オーリスにいくつコーヒーに入れるか問う。 「……二つお願いします」 「リンディスペシャルって言うのもありますが?」 「遠慮しておきます」 角砂糖が放り込まれたコーヒーをオーリスは改めて受け取り、一口飲む。たったそれだけなのに、身体中の疲れが消えていくような気がした。 「――考えられませんね、まったく」 「あら、美味しくなかったですか? まぁインスタントだし――」 「そうではなくて」 コーヒーのことかと思ってシャマルはオーリスの言葉に反応したが、当の彼女は苦笑いを浮かべながら首を振って答えた。 「ほんの数ヶ月前なら、本局寄りの機動六課の方とこうしてコーヒーを飲むなんて、あり得ません。何もかも変わってしまった、あの男がここ に来てから……」 「――この場に"リボン付き"がいたら、こう言うでしょう。俺はきっかけを作っただけだって」 今はこの場にいない一人のエースパイロットの存在を口にしながら、二人はクラナガンの空を眺めた。昨夜は死の流星群が降り注いでいたあの 空は今は曇り。その向こうでは、彼女らの仲間たちが戦っている。 どんよりした曇り空に何か嫌な予感を感じたのは、気のせいだろうか。臨時指揮所に設置されていた通信機と、ほとんど同時に指揮所に入って きた守護獣ザフィーラの発した言葉は、まったく同じだった。 「指揮所、応答願う! また隕石が降ってきた!」 「シャマル、外を見ろ! 隕石が落ちてきたぞ!」 はっとなって、シャマルとオーリスは指揮所の外に出る。灰色の曇り空に、はっきりと見える赤い凶暴な姿をした隕石が、いくつも姿を見せて いた。 「……シャマル医務官、負傷者の救護を引き続き、お願いします。必要なら、陸からも応援を出します」 「ええ、よろしくお願いします。こちらも本局に掛け合って、次元航行艦を出してもらうように頼んでみます」 二人はただちに行動に入る。 ここに来て、もはや管理局内の対立はほぼ消え去っていた。目の前の命を助けるために、陸も海もない。今はただ、自分たちにできることを。 時を同じくして、メガリス付近上空。 空中管制機ゴーストアイは、クラナガンより隕石の落着がまた始まったとの報告を受けていた。すなわち、停止していたメガリスがまた動き出 したのだ。 「急がねばなるまいな……まだクラナガンはダメージを負ったままだ。ゴーストアイより各機、状況報告」 ゴーストアイが各機に通信を送ると、即座に威勢のいい返答が返ってきた。皆、最終決戦ということで士気は非常に高いようだ。 「アヴァランチ、スタンバイ」 「ウィンドホバー、スタンバイ」 「スカイキッド、スタンバイ」 まずは地上本部所属の戦闘機隊、F/A-18Fのパイロットであるアヴァランチ、F-16Cのパイロット、ウィンドホバー。最後にMir-2000のパイロットで あるスカイキッド。いずれも四機編隊の編隊長であり、配下に同じ機体の僚機を連れている。 「ライトニング1、スタンバイ」 「ライトニング2、スタンバイ」 「スターズ2、スタンバイ」 今度は打って変わって美しい女性の声が続く。機動六課所属の空戦魔導師、フェイト、シグナム、ヴィータの三名だ。いずれもバリアジャケット に騎士甲冑、リミッターも出し惜しみをせず完全解除済み。今なら戦闘機にも遅れは取らないだろう。 「メビウス1と黄色の13は?」 最後にゴーストアイが問うのは、二機の異機種編隊。尾翼にリボンのマークをつけたF-22と、主翼の先端を黄色で彩ったSu-37。 「メビウス1、スタンバイ」 「黄色の13、スタンバイ」 ユージア大陸最強のエース、メビウス1と黄色の13が返答。ただでさえ一人でも手強いと言うのに、二人のエースが手を組んでしまった。もう 何者でも、彼らを撃ち落すことは叶わないはずだ。 あとはなのはが居ればな、とメビウス1は思う。管理局のエースオブエースは、後方の母艦"アースラ"で待機中の身だ。 ――いや、今の戦力で充分だ。今の彼女を戦場に出す訳にはいかない。 首を振って思いを振り切り、メビウス1はふと、ゴーストアイとのデータリンクにより表示される、サブディスプレイのレーダー情報に視線を 落とす。敵味方不明の機影が多数、こちらに迫りつつあった。 「来たぞ、敵の歓迎委員会だ。数は――三〇、後方にガジェットⅡ型と思しき反応もある」 ゴーストアイの言葉を聞いて、各員はそれぞれの兵装のセーフティを解除していく。これを突破しないことにはメガリスに辿り着けず、メガリス 本体に設置されている対空火器の排除もできない。そうなればメガリス停止のために突入する部隊を乗せたヘリは、あっという間に撃墜される だろう。 「これが最後の戦闘になる――各機、今日は俺の誕生日だ。プレゼントには、終戦記念日を頼む」 「了解、ゴーストアイ。帰ったらお前のバースデイパーティだ」 相変わらずのアヴァランチの調子のいい軽口に、ゴーストアイはにやりと笑い、「楽しみにしておく」と返答。そうして表情を引きしめ、改めて 指示を下す。 「――All aircrft,follow"Mobius1"and"Yellow 13"!」 ゴーストアイの命令により、各員は一斉に加速していく。 迎撃機との空戦、開始。 迎撃に上がったのは例によってZ.O.Eシステム搭載の無人機、Su-35とF-15Eだった。彼らは当然のことながら無人機ゆえ、人格はない。 だが、むしろその方がよかったかもしれない。仮に人格があれば、真っ先に突っ込んできた二機を見た瞬間、彼らは逃げ出すだろう。 突っ込んできた二機――メビウス1と黄色の13は、その圧倒的な技量を持って、敵編隊を混乱に陥れようとしていた。 「13、下に逃げた奴をやれ。俺は上に行く奴を叩く」 「編隊長はお前か、リボン付き?」 「いいからホラ、やるぞ。メビウス1、フォックス3!」 指示を出されることに文句を言う黄色の13を無視して、メビウス1は火器管制装置が選んだ目標をロックオン、ミサイルの発射スイッチ を押す。今回もステルス性を無視する形で装備された主翼下のAIM-120AMRAAMが六発、一斉に切り離され、ロケットモーター点火。各々がロック オンした目標に突き進んでいく。 哀れにも標的にされた敵機は回避機動を取るが、AIM-120は無情にも彼らに迫り、近接信管を作動させ、爆発。たちまち六機が後部胴体や尾翼 を破片と爆風により食いちぎられていく。 いきなり先頭部隊を潰された敵機はわらわらと編隊を崩し、上、下と分かれてメビウス1と黄色の13に挑む。上下に挟み撃ちする考えのようだ。 仕方ない、と黄色の13は自分に挑んできた二機のF-15Eを睨み、エンジン・スロットルレバーを叩き込み、アフターバーナー点火。加速する彼の 愛機Su-37はF-15Eと交差し、旋回して後を追う。 「一機いない……?」 F-15Eを正面に捉えた黄色の13は、片割れのもう一機の姿がそこにないことに気付く。 ――なるほど、そういう魂胆か。だが! 歴戦のエースの眼は、無人機の考えなどお見通しだった。即座に操縦桿を左に倒し、ラダーペダルを踏み込む。ぐっと若干強めのGが圧し掛かって きて、Su-37は左にロールしながら、機首を低空へと向けていく。 下へと沈む機体を制御しながら、黄色の13は首を右に振る。姿の見えなかったもう一機のF-15Eが、高速で行き過ぎていった。彼らは一機を囮に もう一機で黄色の13を撃墜しようと企んでいたのだ。だが、その目論見は読まれていた。 F-15Eが行き過ぎたのを確認すると、黄色の13はただちに機体を立て直す。Su-37は彼の操縦に機敏に反応し、機首を行き過ぎたF-15Eと囮になって いたもう一機に向けると、ロックオンを開始。 「――フォックス2!」 ミサイルの弾頭が敵機を捕捉したことを知らせる電子音が鳴り響き、黄色の13は発射スイッチを押す。主翼下から勢いよく加速し、敵機に突き進む R-73短距離空対空ミサイルは確実にF-15Eのエンジンから放たれる、大量の赤外線を捉えていた。 命中、二発のR-73はそれぞれが定めた目標に直撃し、敵機を木っ端微塵に吹き飛ばす。 「上手いぞ13、その調子だ」 「喋ってないで敵を片付けろ、リボン付き」 「かわいくねぇなぁ――っと」 黄色の13の華麗な空戦に賛辞を送るメビウス1だったが、その後方には一機のSu-35が食らいつこうとしていた。いくらステルス機のF-22といえど、 視認距離の格闘戦なら撃墜される恐れが出てくる。 メビウス1はフレアの放出ボタンを叩き、あらかじめ赤外線誘導のミサイルに撃たれないよう対策を打っておいて、その上で操縦桿を引く。F-22の 機首は跳ね上がって急上昇を開始する。 ちらっとメビウス1はGメーターの数値に視線をやる。通常なら「1」と表示されるそれは、あっという間に「8」に達していた。自身の体重の八倍 の重力が、身体に容赦なく圧し掛かってくる。 低い唸り声を上げながら、それに耐える。もう少し耐えれば、黄色の13か、そうでなくても後から続く味方が後方の敵機を排除してくれるはずだ。 高いGのため、首はほとんど動かない。目玉だけを動かしてコクピットの正面上位に設置したバックミラーに目をやると、案の定後ろにいたSu-35は 次の瞬間、爆発していた。 ほっと一息ついて機体を水平に戻して周囲を見渡すと、ヴィータがグラーフアイゼンを片手にF-22のすぐ傍にやって来ていた。 「よう、メビウス1。後ろの雑魚は片付けといたぞ」 「サンキュー、助かった。後でアイスでもおごろう」 「そいつぁ楽しみだ!」 勢いに乗る彼らと彼女は、次々と敵戦闘機を駆逐していった。 メビウス1と黄色の13、それにヴィータが敵機を蹴散らしている間に、戦闘機隊とフェイト、シグナムはメガリス本体に接近しつつあった。 対空砲火のレーダーが、彼らと彼女らを探知したのだろう。メガリスに設置された対空機関砲は一斉に銃口を天に向け、ありったけの弾丸をぶっ放し、 見る者全てが恐れるほどの分厚い弾幕を張った。 「すげぇ弾幕だな……」 「どうした、アヴァランチ? ビビッたか」 あまりの大量の弾幕にアヴァランチは声を上げ、それにウィンドホバーが反応した。アヴァランチはしかし、コクピットの中で首を振る。ここまで 来ておいて、今更何を恐れようというのか。 「馬鹿言うな、ちょっと感想を言ってみただけだ。さぁ、天使とダンスだ!」 「了解、その意気だ!」 「ライトニング、対空砲火は俺たちが引き付ける。その隙に叩け!」 フェイト、シグナムに向けてスカイキッドが言い放ち、戦闘機隊はそれぞれ分散し、上昇。メガリス上空に躍り出ていく。 たちまち、メガリスの装備する無数の対空機関砲、それに地対空ミサイルが彼らにその矛先を向けてきた。 撃ち上げられる対空砲火は、端から見ると無数のアイスキャンディーのようだ。ときどき飛び交う白煙と爆風はミサイルのものだろう。戦闘機隊は 散らばり、各個に思い切り回避機動をやってそれらを回避し続ける。 「――いくら彼らでも、長くは持ちそうにない。テスタロッサ、素早く終わらせるぞ」 「了解、シグナムも気をつけて」 荒れ狂う対空砲火の嵐の中、フェイトとシグナムはメガリスに向かって急降下、急接近。いくつかの機関砲が彼女たちを撃ち落そうと銃口を向けて きたが、戦闘機よりもはるかに小さい魔導師である。赤いビームのように見える火線を潜り抜けていき、二人はメガリス本体の外面に到着する。 ここまで来てしまえば、もうこちらのものだ。対空機関砲は自分たちの同胞への誤射を恐れて、積極的に撃ってこない。 「飛竜……」 愛剣レヴァンティンを鞘に収めて、カートリッジロード。魔力を上乗せされた刀身は鞘の中で、シュランゲフォルムに。 「一閃!」 力を込めて、彼女は居合い斬りのようにレヴァンティンを振りぬく。変幻自在な長い蛇咬の刀身が宙に舞い、機関砲の砲身を、砲塔を切り裂いて いく。一振りするだけで、機関砲の群れの一角はたちまち沈黙していく。 ――隙間なく集中配備をやりすぎたな。 戦闘の真っ最中だが、シグナムの思考は冷静だった。対空機関砲はメガリスの外面いっぱいに敷き詰められるように設置されており、結果的に まとめて潰しやすくなっているのだ。 これならば、と彼女が思った瞬間、不意に後ろから殺気を感じて、シグナムは跳躍する。潰し切れなかった機関砲が、彼女の背中に狙いを定め ていた。シグナムがその場を離れて一瞬した後、今まで立っていた場所に機関砲の弾丸が叩き込まれる。騎士甲冑を持ってしても、あのまま 気付かなければミンチにされていたかもしれない。 「油断大敵か――!」 背筋に冷たいものを感じながら、シグナムは体勢を立て直す。だが、彼女が手を下すまでもなく、生き残りの対空機関砲を真っ二つにしていく 者の姿があった。メガリス上面を駆け回る金色の閃光は、フェイトだ。 機関砲の火器管制は彼女を照準に捉えようと必死に足掻くが、光の如くの速さで迫るフェイトの前には無力だった。やっと正面に捉えたその 瞬間、砲台丸ごとザンバーモードのバルディッシュから伸びる、光の刀身によって叩き切られていく。 「シグナム、まだ終わってないですよ」 「――無論だ」 フェイトに言われて、シグナムはレヴァンティンを構え直し、まだ手付かずの対空機関砲の群れに立ち向かうことにした。 「メガリスの対空砲火、約50パーセントが沈黙。ヘリはメガリスに突入せよ」 戦況をモニターしていたゴーストアイからの指示が飛び、ヘリの機内にいたティアナはいよいよか、とクロスミラージュを握り締める。 彼女だけでなく、スバル、エリオ、キャロ、そして同乗していたベルツ率いる陸士B部隊が、戦闘態勢に入った。 「ちょっと乱暴になる、気をつけろよ!」 ヘリの操縦を務めるヴァイスは機内の彼女たちに一声かけた上で、メガリスに向かってヘリを超低空飛行で突っ込ませる。 半分は沈黙したとは言え、メガリスの対空砲火はまだ動いている。何門かがヘリを見つけて、弾丸を叩き込んできた。ヴァイスはそれらを操 縦桿を巧みに操り、機体にランダムな機動をさせて回避していく。もちろん、決して歩みは止めていない。ヘリは弾幕を抜けながら、メガリス に迫っていた。 「イテッ! ……ヴァイス陸曹、次に俺たちが乗る時は安全運転で頼む」 「合点承知。そら、降下ポイントだ!」 急機動のせいで頭を機内にぶつけたベルツは文句を言いつつ、ヴァイスの言葉で降下準備に入った。ティアナたちと違って魔導師としての技量 は劣る彼らは、降下方法もロープによる高速降下とアナログなものだ。だが、ここでティアナたちを消耗させる訳にはいかない。メガリス内部 には、おそらく大量のガジェットが待ち構えているはずだった。 「ハッチ開けるぜ、幸運を!」 「了解、ありがとう――さぁ野郎ども、行くぞ。彼女たちに俺たちの勇姿を見せてやれ!」 「了解!」 「GO!GO!GO!」 ヘリの後部ハッチが開き、冷たい風が機内に流れ込んでくる。地面に向けてロープが吊るされ、ベルツを先頭にB部隊の陸士たちは降下していく。 地面に降り立った彼らは、メガリスの巨大さと外気の予想以上の寒さに顔をしかめつつ、手にしていたアサルトライフルやサブマシンガンを構え 周辺警戒。対空砲火は依然として派手に撃ち上げているが、地面に降りた彼らを狙うものは見当たらなかった。 ベルツは上空のヘリに合図を送って、ティアナたちに降下ポイントの確保に成功したと伝える。 「……さぁ、みんな行くわよ。最終決戦、あたしたちの任務は!?」 「リイン曹長をサブコントロールルームまで連れて行く!」 「はいです!」 ベルツからの合図を確認したティアナは降下直前、後ろを振り返って仲間たちに問う。スバルとリインフォースがそれに答え、エリオとキャロ が続く。 「それから、メガリスを停止させて!」 「最終的には、内部にいるはずのスカリエッティの確保!」 「上出来。それでは、降下開始!」 ティアナの言葉で、六課の新人たちは先に降下した陸士たちの後を追うべく、ヘリから飛び降りた。 バリアジャケットを装着しているというのに、やはり外気はティアナにも冷たく感じた。耳に入ってくるのは、冷たく生物の存在を許さない、 耳障りな風。 ――否、それだけではなかった。風に混じって微かに聞こえる、鋼鉄の翼たちの咆哮、すなわちジェットエンジンの轟音。それがなんだか、 ティアナには頼もしく思えた。あの空の向こうで、メビウス1も戦っているはずだった。 「あたしだって……!」 震える腕は、武者震いか。ティアナはメガリスの巨体を睨みつけながら、戦場へと到着する。 メガリス内部、メインコンピュータがある一室。そこに、全ての元凶はいた。スカリエッティ、その人である。 狂人のような薄ら笑いは相変わらずだが、今日の彼は格好が違った。いつもの科学者の白衣ではなく、黒い特殊な宇宙服のようなもので身を 包んでいた。そして、首筋には何かのコードのようなものがぶら下がっている。 「……おや、侵入者か」 笑みはそのまま、内部に張り巡らされたセンサーが、侵入者がいることを知らせてくれた。コンピュータのキーを叩いて、一番近い監視カメ ラを操作し、侵入者の正体を探る。 「あぁ、また君たちか」 監視カメラに映ったのは、市街地戦用の迷彩服を着た陸士たち、それに続くバリアジャケット姿の少女三人、少年一人。 最初に見た時はなかなか面白いと思ったものだが――今は、もう興味がなくなっていた。それよりもこのメガリスだ。 素晴らしいなぁ、まったくとスカリエッティは天井を見上げ、メガリス全体に愛しげな視線を向ける。 最初に彼がメガリスを見つけたのは、この永久凍土の地で、極めて小規模な次元震が起こった時だった。 あいにくの猛吹雪の日だったので管理局は調査を断念したが、スカリエッティはこれがどうも気になって仕方がなかった。それゆえ、多数の ガジェットを悪天候で失いつつも、調査を続けた。 その結果、ガジェットのカメラ越しに彼が見つけたのは、まるで王城のような要塞だった。破壊の跡が見られたが、原型そのものは崩れてお らず、非常に頑丈に設計されたことが目に見えてわかった。 この要塞を調べていくうちに、スカリエッティは驚愕し、徐々に魅せられていった。 内部にあったコンピュータからこれが異世界のものであることを知り、その世界での歴史を見た。小惑星"ユリシーズ"の墜落からなる一連の ユージア大陸戦争。そして、"ユリシーズ"が生み出した破壊と混乱を思い知らされたはずの人間が、こうしてその悪夢を再現できる要塞を建造 したことから、彼は一つの結論に至った。人は、戦争をやめられないのだと。どうしようもないくらい、殺戮が大好きなのだと。 だから――スカリエッティは行動に移したのである。いかにそれが愚かな行為であるか、身を持って教えてやろうとした。 それが彼の行動理念だった。それが彼の思う人間に対する"救い"なのだと。 「さぁて……それでは始めよう」 スカリエッティは立ち上がり、警報用のスイッチを押す。今頃、各部で待機していたガジェットが一斉に飛び出してくるだろう。 しかし、それだけで彼らは止められるだろうか。そんな疑問がふと沸いて出てきたが、心配いらない、とスカリエッティは自分に言い聞かせた。 いざとなれば、最強の切り札がまだあるのだから。 「おかしい……」 メガリス内部に侵入したベルツたちは、あまりの静けさにむしろ恐怖感を抱いていた。 アサルトライフルの銃口は絶えず正面に向けているが、敵が出てこないのでは意味がない。 「どう思う、ランスター?」 「――どっかで待ち伏せしているんじゃないかと」 「同感だ」 ティアナとお互い指揮官として意見を交わし、ベルツは自ら先頭に立ち、歩みを進めていく。 内部ではかつて戦闘があったのだろうか、いくつもの銃弾による穴があり、手榴弾でも使ったのか、派手に壁がへこんでいる部分もあった。 鼻腔をくすぐるのは、わずかに残った硝煙の匂い。ベルツはあまりいい雰囲気ではないな、と胸のうちで呟いた。少なくともデートスポット としてはお断りだろう。 「――こいつか」 前進していると、出撃前のブリーフィングにて通達されたサブコントロールルームへと繋がる扉が見つかった。 「押しても引いてもダメっぽいな」 「電子ロックでしょう。リイン曹長、出来ますか?」 「はーい、ちょっとお待ちを……」 ティアナはリインフォースに頼み、扉のすぐ隣にあった端末と思しきものにアクセス出来ないか試みた。これで開くなら、メガリスの発電用 ジェネレーターを破壊して、停電を待つ間でもない。 「――やっぱりダメです。すごく強力な電子ロックが掛けられています」 ところが、やはりそう簡単には開かないらしい。リインフォースは端末から離れ、首を振った。 「仕方ない、予定通りジェネレーターの破壊を待って……っ」 ベルツが口を開いたその瞬間、メガリス内部に警報が鳴り響いた。どうやら、最初からここまで追い込む魂胆だったらしい。今にガジェットの 群れがわんさか押し寄せて来るだろう。 「ただ待たせるだけじゃ悪い、と思ったんだろうな。客が来たらお茶とお菓子もお出ししないと」 「いやなお茶とお菓子ですね」 愚痴をこぼしながら、しかしベルツとティアナは不敵な笑みを交わす。向かってくるなら、迎撃するまでだ。 「ソープ、ジャクソン、タンゴ分隊とチャーリー分隊を率いてそっちの通路を死守だ。残りは俺と一緒にそこのB扉から来る敵を迎え撃つ」 「エリオ、キャロはタンゴとチャーリー分隊の援護に回って。スバル、あんたはあたしと同じでベルツ二尉の援護」 『了解!』 怖いか?と聞かれれば、この場にいるもの全員が頷くだろう。だが、逃げ出したいか?と聞かれれば、全員が首を振る。 もう、逃げ込む場所などどこにもない。立ち向かっていくしかないのだから。 こいつでラスト――! 右へ左へと旋回して逃げ惑うF-15Eの、上でテニスが出来ると称されたほどの大きさを持つ主翼に向かって、メビウス1は機関砲の引き金を引く。 F-22の主翼の付け根に装備された二〇ミリ機関砲が唸り声を上げ、赤い曳光弾がF-15Eの胴体を貫いていく。 穴だらけにされたF-15Eは次の瞬間には爆発、その身を空中へと四散させた。 「ふぅ……」 酸素マスクの中で一息ついたメビウス1は、視線を落としてレーダー画面を確認。すでにそこに敵機の姿はなく、映っているのは味方機のみだ。 「こちらゴーストアイ、全ての敵機の撃墜を確認。残弾、状況知らせ」 「こちらメビウス1、AMRAAMは使い切った。サイドワインダーが二発、機関砲弾が三一〇発。燃料、機体には問題無し」 ゴーストアイに言われて、メビウス1はウエポン・システムを操作し、残存する兵装をサブディスプレイに表示させる。残っているのは短距離 空対空ミサイルのAIM-9サイドワインダーと機関砲のみだ。 「こちら黄色の13、機関砲弾が残り八〇発。ミサイルは、R-73が一発。燃料はまだ大丈夫だ」 「こちらスターズ2、カートリッジはあと二個だが、まだやれる」 黄色の13とヴィータもゴーストアイに報告。ひとまず敵機の脅威は排除されたので、彼らはメガリス上空に向かい、対空砲火の制圧を行って いるフェイトとシグナム、戦闘機隊の援護に向かうことになった。 とは言え、その必要はあるんだろうか――? メビウス1の考えは、当たっていた。メガリス上空に到達したはいいが、対空砲火はすっかり静まり、たまに生き残りが散発的に撃ってくるだけ だった。フェイトとシグナムが大暴れした結果だろう。戦闘機隊も被弾した機体はあっても、撃墜されたものはいない。 「こちらメビウス1、敵戦闘機を全て排除した。何か手伝えないか?」 「こちらスカイキッド――何、あれを全部落としたのか!?」 スカイキッドが驚愕し、続いて戦闘機隊の面々も驚く。たった二機と一人で三〇機もの敵機を全て撃墜したのだから、その実力は推して知るべし であろう。 「アヴァランチよりメビウス1、せっかく手伝いに来てもらってなんだが、大概の目標は潰しちまった。あとはジェネレーターだけだ。今、ライ トニングの二人が破壊に向かってる」 アヴァランチの言葉で、メビウス1はコクピットから身を乗り出すようにして、眼下のメガリスを見る。 ほぼ沈黙した対空砲火、それらを素通りして、フェイトとシグナムがメガリスの排気ダクトに向かうのが見えた。 今回は出番無しか、とメビウス1は思う。トンネル潜りは得意なのだが、わざわざ危険を冒して、戦闘機には非常に狭い排気ダクトに突っ込んで ジェネレーターを破壊することもあるまい。 しかし――思わぬ障害が、彼らの前に立ちふさがった。 「こちらライトニング1、これより排気ダクトに侵入して……わぁ!?」 いきなり通信機にフェイトの悲鳴が入り込んできて、メビウス1は何事かと眼下を見る。 メガリスの三つの排気ダクト、その周囲に、地下からぬっと何門もの速射砲が姿を現していた。隠し砲台に違いない。 「っく……」 「どうした、何があった。ライトニング、応答せよ!」 通信機にいかにも苦しげな声を送ってきたのはシグナムだろう。ゴーストアイが、何事かと彼女に問う。 「――敵の速射砲弾は、いずれもAMFが内蔵されている! 我々では近付けない……!」 「こちらライトニング1……同じくです。物凄い高濃度のAMFが――」 シグナムとフェイトはそう言って、上空へと退避してきた。ただちにゴーストアイが敵の砲撃を分析する。 「――出たぞ。ライトニング2の言うとおり、敵の砲弾にはAMF発生装置が搭載されている模様だ。炸裂と同時に、周囲にAMFの粒子をバラ撒いて いる。これでは魔導師では無理だ。AMFの影響を受けにくい者……戦闘機が、排気ダクト内に侵入するしかない」 「なんだって!? 無茶を言うなゴーストアイ!」 ゴーストアイが出したとんでもない提案に、ウィンドホバーは驚愕と抗議の声を上げる。 確かに、戦闘機で排気ダクト内に突入するなど、ほとんど自殺行為に等しい。少しでも操縦を誤れば壁面に激突してしまう上、その狭さから乱気 流も発生する。つまり、機体は常に不安定な状況に晒されるのだ。そんな状況下、瞬きする間に数百メートルかっ飛んでいく機体を操り、ジェネ レーターに致命弾を与え、脱出するなど―― 「……分かった、俺が行こう」 「こちら黄色の13、同じくだ」 否、それが可能な彼らがここにいた。メビウス1と黄色の13は、さも当然のように言ってのけた。 「おい、正気かよメビウス1! 対空砲火だってまだ……」 「ヴィータ、別にこれが初めてじゃない。13の方は知らないが」 「任せろ、トンネル潜りなら得意だ」 「――だ、そうだ」 止めようとしたヴィータに、しかしメビウス1は気楽な返事。黄色の13もまた、余裕たっぷりな口調だった。 ゴーストアイは暫し沈黙する。出来ると言っているが、果たして危険な場所に彼らを送り込んでいいものか、他にもっといい対策はないのか。 思考を巡らせるゴーストアイだったが、メガリス内部からの通信が入り込んできた。突入したベルツのB部隊、それにティアナたち六課のフォワード 部隊だった。 「こちらスターズ4、敵と交戦中! 早いとこお願いします」 「来たぞ、K扉に敵だ! 近付けさせるな!」 どうやら、内部に配置されていたガジェットと交戦を開始したらしい。通信の奥では、すでに銃声が響き渡っている。 「アルトマン、手榴弾を使え!」 「畜生、火炎放射器だ!」 「撃て撃て、階段のところだ!」 銃撃戦はかなり激しいようだ。ガジェットの総数は不明だが、その数は多いと見た方がいい。となれば、素早くジェネレーターを破壊しないと、彼ら と彼女らは袋のねずみにされてしまう。 ゴーストアイは意を決して、メビウス1と黄色の13に通信を入れる。 「――メビウス1、13、やってくれるか?」 「了解、任せろ」 「こちら黄色の13、了解だ」 二機は主翼を翻し、メガリスへと立ち向かう。目指すは排気ダクト内、三つの発電用ジェネレーターだ。それらを全て破壊すれば、メガリス内部の電力 供給は断たれ、サブコントロールルームへの扉が開く。 「13、自信はあるか?」 「愚問だぞ、リボン付き。この程度――」 二機は二手に分かれ、それぞれ別の排気ダクトに向かう。黄色の13はメガリス本体の側面に設置された、排気ダクトに向かって突き進む。 「どうと言う事はない!」 アフターバーナー、点火。黄色の13は愛機Su-37を突撃させた。メビウス1のF-22も同じく、ただし彼はメガリス本体正面、二つある排気ダクトのうち 一つに突き進んでいた。 隠し砲台として姿を現した速射砲は絶えず砲弾を放ってくるが、Su-37は機首をわずかに逸らすなどランダムな機動を取って、速射砲の火器管制を幻惑する。 ガン・スモークと呼ばれる黒々とした煙の中を突き抜け、黄色の13はついに排気ダクト内部へと侵入する。 「――!」 内部に突入すると、Su-37がガタガタと揺れ始めた。乱気流のせいで、まっすぐ飛べないのだ。黄色の13はそれを絶妙な操縦桿とラダーペダルの操作で 耐え抜き、排気ダクト内を進む。 主翼が壁面を引っかきそうになって冷やりとしたが、どうにか大丈夫そうだ。黄色の13は恐怖と胸のうちで格闘しながら、正面を睨む。 ――あれか! 排気ダクトの奥、壁面に明らかに付け加えられた形跡のある、発電用ジェネレーターが、彼の視界に映り込んだ。 ただちにウエポン・システムを操作して機関砲を選択。ぎりぎりにまで引き付ける。機関砲の口径は三〇ミリと大きいが、破壊するなら距離を縮めた方が いい。 酸素マスクから送られてくる酸素をたっぷり吸い込み、落ち着け、落ち着けと黄色の13は自分に言い聞かせる。 「捉えた……!」 絶妙の距離とタイミング、黄色の13は引き金を引く。Su-37に搭載されたGsh-301三〇ミリ機関砲が、待ってましたとばかりに火を吹いた。 放たれた機関砲弾はジェネレーターにいずれも直撃し、爆発。黄色の13は一瞬怯み、しかしエンジン・スロットルレバーを叩き込む。 Su-37は爆風を突き破り、そのまま排気ダクトを駆け抜けていった。 排気ダクトの向こう、眩い空にSu-37は飛び出す。視界が急に明るくなって黄色の13は眼が霞む感覚を覚えたが、身体は愛機と一体化したかのように操縦桿 を引く。Su-37は上昇するが、対空砲火の赤い弾丸が後ろから追いかけてきて、彼は背筋に冷たいものが流れるのを感じた。 これだから対空砲と喧嘩するのは嫌なんだ――。 胸のうちで愚痴をこぼしながら、機体を水平に戻す。眼下に視線をやると同じようにもう一つの排気ダクトから、対空砲火に追い出されるような形でF-22が上 昇してきた。メビウス1も、ジェネレーターの破壊に成功したのだ。 「あぁ、怖い怖い。どうだった、13?」 「ばっちり破壊に成功だ。そっちはどうだ」 「同じく破壊成功。残りは――」 F-22のコクピット、メビウス1が視線を下げるのが見えた。黄色の13がその先を辿ると、三つあるうちで唯一まだ突入されていない排気ダクトがあった。 「アレだけだ。さぁ、行くぞ13。全てを終わらせよう」 「了解だ」 二人のエースは操縦桿を翻し、機体を降下させる。目指すは最後のジェネレーター。これを破壊すればメガリス内部は停電を起こし、サブコントロールルーム への扉が開く。そうして、リインフォースがメインコンピュータに接続して起動を停止させるのだ。 間違いなく、戦闘は終局へと向かっていた。 だが――メガリス上空の冷たい寒気は、この地に雪を降らせようとしていた。 生命の存在を許さないこの永久凍土の地の寒さが、勢いを増す。それはさながら、メガリス――王が、怒りを露にしたようだった。 怒りの矛先が誰に向けられるのか、それに気付く者はこの場にいなかった。 戻る 目次 次へ
https://w.atwiki.jp/marowiki/pages/795.html
目次 【時事】ニュース中隊 カンパニ company RSS中隊 カンパニ company 口コミ中隊 カンパニ company 【参考】ブックマーク 関連項目 タグ 最終更新日時 【時事】 ニュース 中隊 太平洋戦争 マレー虐殺指揮、碑に刻まれた叔父の名 戦犯のおい、80年の誓い 現地の声を聞き、日本に伝える - 毎日新聞 「アーテリーギア」公式番組が12月19日に配信へ。お宝コスプレ画像を大放出 - 4Gamer.net ソ連軍の一員となった毛沢東の息子:毛岸英は第二次世界大戦をいかに戦ったか - ロシアNOW 真珠湾攻撃と同日「コタバル上陸作戦」部隊の元兵士、過酷な体験を絵や文章で残す - 読売新聞 イ・ジョンソク、“社会服務なのに毎回訓練に参加”…訓練所同期が伝えた美談 - WOW! Korea 「迫撃砲」とはなにか? 普通科部隊の大火力「120mm迫撃砲RT」 - MotorFan[モーターファン] 『ガンダム バトオペ コードフェアリー』Vol.3配信開始! - 電撃オンライン 【世界に誇れる特別儀仗隊】日本で唯一の特別儀仗隊、これが第302保安警務中隊。 - 中曽根康隆(ナカソネヤスタカ) | 選挙ドットコム - 自社 【論文】全国でくり返される米軍機低空飛行の実態―最新の事例と国内法適用に向けた課題(有田 崇浩) - 自治体問題研究所 金与正による初の軍隊視察が暗示している北朝鮮内部の地殻変動(JBpress) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 11月22日の食玩は鬼滅マスコットにSGバイスタンプ、にゃんこ大戦争も - アニメージュプラス 韓国ドラマのキャストかぶりも楽しい!「賢い医師生活」「刑務所のルールブック」「ラケット少年団」に共通するヒューマンドラマの真髄 ― Vol.2(Kstyle) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 『愛の不時着』第5中隊の“末っ子”タン・ジュンサンが大学合格!“中隊長”ヒョンビンの後輩に|スポーツソウル日本版 - スポーツソウル日本版 イギリス傑作機「ランカスター」出生のヒミツ 兄貴分「マンチェスター」爆撃機が消えたワケ(乗りものニュース) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 北朝鮮軍「ある兵士の不審死」で動揺…周辺区域を完全封鎖(高英起) - 個人 - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 最大規模の日米指揮所演習/アジアの緊張高める危険/11~12月 - しんぶん赤旗 <機動戦士ガンダム0083>アナベル・ガトー専用機セットがFW GUNDAM CONVERGE COREに ゲルググ、リック・ドム、高機動型ザクII(MANTANWEB) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース ガンダムコンバージにソロモンの悪夢302哨戒中隊セットが登場 - アキバ総研 最新世代戦車「10式戦車」の性能④、ヒトマルの情報力に注目する - MotorFan[モーターファン] 陸自トラックがスクールバスと正面衝突、バス運転手が軽傷…乗車児童4人はけがなし - 読売新聞 護衛艦「いずも」に初めて戦闘機が発着艦 その時ひるがえった「旗」は何を意味する?(乗りものニュース) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース ロシア軍で兵士に出される奇妙な命令 - ロシアNOW 北朝鮮が軍事パレードに代わり「国防発展展覧会」を開いた理由は(ハンギョレ新聞) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 陸上自衛隊:多目的に使える人員輸送用車両「高機動車(コウキ)」のすごい実力 民生用はあのトヨタ・メガクルーザー(MotorFan) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 爆弾と機銃掃射受けながら 手記残した父「平和は多くの犠牲の上に」 戦後76年―語り継ぐ戦争の記憶/兵庫・丹波市(丹波新聞) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 七色の61式戦車が誕生した訳を“生みの親”が語る 61式戦車誕生のきっかけは朝鮮戦争|ニフティニュース - ニフティニュース ベトナム戦争当時韓国軍による民間人虐殺裁判で参戦軍人が証言台に(ハンギョレ新聞) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 金正恩も登場した「北朝鮮の軍事パレード」徹底分析で見えた意図 - Forbes JAPAN 中国侵攻想定の漢光演習始まる 15日には一般道で戦闘機発着訓練/台湾(中央社フォーカス台湾) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 戦争が女性兵士たちに残したトラウマ(NHKテキストビュー) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 「仕方なく性上納も」脱北女性が語る北朝鮮軍の実態(高英起) - 個人 - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 戦車や飛行機も乗り回せる戦場を舞台にしたFPS「Battlefield V」 - PC Watch 沖縄・勝連に地対艦ミサイル連隊本部 陸自、南西諸島4部隊を指揮 - 琉球新報デジタル 岩国VMFA-121のF-35B、米空軍と三沢基地で即応性維持訓練 - FlyTeam 顔に液体をかけられ男女けが、硫酸か 東京・白金高輪駅 - 東京新聞 台湾、防空ミサイル密集度「世界2位」…中国からの脅威に「ハリネズミ戦略」を具体化(WoW!Korea) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 一式戦闘機「隼」II型 - Car Watch 76年目の終戦記念日 元特攻隊員浜槙人さん – Nagano Nippo Web - 長野日報 砂漠から「第一列島線」へ――『アメリカ海兵隊』が戦車400両を全廃する理由:岩田清文 | 記事 - 新潮社 フォーサイト 【世界最速】『MTGアリーナ』の新セット『Jumpstart:Historic Horizons』の収録カードを初公開!! - 電撃オンライン 大蛇が釣り人を呑み込んだ!ブラジルで飛び交ったフェイク記事 - JBpress 「第一空挺団」施設を公開 命を守る舞台裏(日本テレビ系(NNN)) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 【映像】英空母クイーン・エリザベス 空母打撃群スエズ運河を通過(アフロ) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース アメリカ海兵隊F-35C、初のFOC宣言 2022年に空母搭載へ - FlyTeam 『スター・ウォーズ』新映画『ローグ・スコードロン』脚本が完成間近 ─ パティ・ジェンキンス監督が進捗語る - THE RIVER 100メートルの大蛇がいる?この目で確かめにアマゾン奥地へ - JBpress 熱海 土石流災害 1000人体制の救助活動をフォトレポート 雨によりなおも難航続く(乗りものニュース) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 【映像】英海軍空母から米軍機が出撃 クイーン・エリザベス打撃群(アフロ) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース ある夫婦の「口封じ」で幕…中朝国境を震撼させた某重大事件(高英起) - 個人 - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 東京2020+1:開幕まで1カ月 テロ想定、訓練審査会 赤坂消防署で化学機動中隊 /東京 - 毎日新聞 自衛隊、隊内で性的暴行受けた女性自衛官に「嘆願書」承諾を強要…事件を隠蔽の意図か - Business Journal 北朝鮮軍「一個中隊200人が壊滅」中朝国境に緊張走る(高英起) - 個人 - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 陸自隊員、コインランドリー乾燥機から女性下着盗む…店の防犯カメラに姿 - 読売新聞 上官に復讐「大事なモノ」をちぎって食らった北朝鮮の女性兵士(高英起) - 個人 - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 【最新国防ファイル】陸上自衛隊の電子戦部隊 武器は「役割不明な5つの装置」 - ZAKZAK 30対1の格闘戦で虚しく散った北朝鮮「最強工作員」の最期(高英起) - 個人 - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 岩国基地のVMFA-242、F-35Bへ機種更新進む - FlyTeam 日中戦争後に日本陸軍将兵が受けた意外な対応 - 東洋経済オンライン 「金正恩の別荘」で銃撃戦…警備隊の大尉がブチ切れ凶行(高英起) - 個人 - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 陸自が新型の地対空誘導弾を公開 「中SAM改」を国内で初配備 沖縄の分屯地で - 47NEWS 電磁波で妨害、専門部隊が陸自に発足 対中防衛、強化が狙い - 毎日新聞 - 毎日新聞 別府市の人事異動(4月1日) - 大分のニュースなら 大分合同新聞プレミアムオンライン Gate - 大分合同新聞 「ユナフロ」に“いらん子中隊”の穴拭智子が登場 - 4Gamer.net ジオンの大エース「ジョニー・ライデン」と「シン・マツナガ」をイメージしたミリタリーテイスト溢れるTシャツ&パーカーが登場! - 電撃ホビーウェブ 二・二六事件から85年 ある少尉の決断と回顧 「なぜ殺害は起きたのか」問い続ける遺族 - 東京新聞 金正恩の処刑命令を実行した「巨漢兵」たちの正体(高英起) - 個人 - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 米国はソ連の戦闘機をこっそり使っていた - ロシアNOW スター・ウォーズ『ローグ・スコードロン』はオリジナルストーリー、パティ・ジェンキンス監督が明かす「興奮しています」 - THE RIVER 「次に演じるならリ・ジョンヒョク!」『愛の不時着』“第5中隊”のふたりが明かしたチーム秘話 - フジテレビュー!! 被災地では温かいご飯を…自衛隊が味など競う「炊事競技会」 優勝の中隊は「唐揚げがジューシーサクサク」 - www.fnn.jp 「War Thunder」、ストア商品50%オフなどの8周年記念のアニバーサリーイベント開催 - ASCII.jp ドイツ軍の「カミカゼ」 VS ソ連軍:実はナチスも自爆攻撃を行っていた - ロシアNOW 無駄死にさせた年上の軍曹… 生き残った新米中尉の戦後 [戦後75年特集] - 朝日新聞デジタル版 353特殊作戦機整備中隊、MC-130J搭載エンジンを交換 - FlyTeam 自衛隊74式戦車の実射に密着! 戦車砲&重機関銃の射撃や発煙弾発射ってどうやるの? (2020年8月9日) - エキサイトニュース 【最新国防ファイル】変わりゆく偵察隊 「威力偵察」だけでなく「戦闘」にも期待 - ZAKZAK ドイツ軍特殊部隊を一部解体へ、隊員多数が極右主義者か - CNN.co.jp 入隊したEXO スホ、新兵教育隊で中隊長訓練兵になる - K-PLAZA.com <インタビュー>ドラマ「愛の不時着」の“北朝鮮軍のF3”、中隊長ヒョンビンについて語る - WOW! Korea 落下傘部隊になぜ空輸できない戦車を配備した? 陸自黎明期 第1空挺団戦車部隊の顛末 (2020年5月18日) - エキサイトイズム F-15の作戦を支える、第67航空機整備中隊 - FlyTeam 宮古島にミサイル部隊編成 中国にらみ地対空、地対艦 - 産経ニュース 陸自部隊の配置準備整う/栗田群長ら宮古入り – 宮古毎日新聞社ホームページ -宮古島の最新ニュースが満載!- - 宮古毎日新聞 金正恩氏、前線の朝鮮人民軍女性中隊を視察 (2019年11月25日) - エキサイトニュース 戦車はなぜ集団戦が基本? 運用単位「小隊」「中隊」の意味と戦場での実際のところ - ニコニコニュース 礼砲発射「緊張の連続」 山梨・北富士駐屯地の戦砲隊長 - 産経ニュース 「即位の礼」 まばたき“禁止”の一団――陸上自衛隊の花形「特別儀仗隊」を知っていますか? - 文春オンライン 「即位の礼」 アイロンがけ、靴磨き……陸上自衛隊の花形「特別儀仗隊」の想像を絶する訓練とは - 文春オンライン 金正恩委員長「軍を最精鋭化」 6年ぶり軍中隊長大会で - 朝日新聞社 台湾のU2偵察機「黒猫中隊」を映画化 冷戦期の象徴 - 産経ニュース 映画「黒猫中隊」の楊監督「台湾の犠牲、教訓に」 - 産経ニュース 潜水艦に女性自衛官起用へ 配置制限、事実上全廃に - 産経ニュース ヤマグチノボルの“いらん子中隊”シリーズがフルリメークで再始動! 10月に新刊 - - ねとらぼ 『ワールドウィッチーズ』始まりの物語、 いらん子 中隊シリーズがフルリメイクで再始動! 10月1日に角川スニーカー文庫より『サイレントウィッチーズ』が発売決定! - PR TIMES 【野口裕之の軍事情勢】朝鮮人民軍恐れおののく航空艦砲連絡中隊 韓国に英雄少ない「自殺行為」とは? - 産経ニュース 19年間「日陰者」だった特殊部隊の「涙なしには読めない秘史」 - 現代ビジネス 【国民の自衛官 横顔(1)】陸自第48普通科連隊重迫撃砲中隊 新井博文即応予備一等陸曹(53) 天災で思う「俺を呼んでくれ」 - 産経ニュース 女性自衛官:配置制限「撤廃」 戦車中隊など起用可能に - 毎日新聞 - 毎日新聞 【世界ミニナビ】韓国軍悩ます「ヘリママ」…徴兵息子に過保護の極み「お母さんが中隊長に言ってあげます!」 - 産経ニュース ロシア・ウクライナの国境監視用ドローン中隊、クラウドファンディングで調達 - WIRED.jp カンパニ 米個別株ランキング -値上がりトップはフォーティネット 値下がりワーストはコムキャスト - ニュース・コラム - Y!ファイナンス - Yahoo!ファイナンス BiSH『スッキリ』でも“卑猥”な衣装…「変わってますアピールがイタイ」 (2021年12月5日) - エキサイトニュース 米個別株ランキング -値上がりトップはバーテックス・ファーマ 値下がりワーストはモデルナ - ニュース・コラム - Y!ファイナンス - Yahoo!ファイナンス 新規上場日程一覧(26日現在)「Institution fwor a Global Society」 - ロイター ふるさと納税の返礼品に“ゲームソフト”、スイッチやPS4などラインアップ(BCN) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 資産3億の個人投資家「トヨタは成長株」と思う訳 - 東洋経済オンライン ハウスコム、10月27日より稲毛店を移転 - PR TIMES Abalance---カンパニオソーラーの株式取得(孫会社化)を発表 - 株探ニュース 10月29日(金)は「世界脳卒中デー」ジョンソン・エンド・ジョンソン インスティテュート東京をライトアップ:紀伊民報AGARA - 紀伊民報 新時代を切り開く“実力派”新世代デザイナーの仕事とプロフィール『MdN新世代デザイナーズファイル 一流アートディレクターが推薦する気鋭の91人』発売:時事ドットコム - 時事通信 Abalance<3856>、太陽光発電事業のカンパニオソーラーを子会社化 - M&A Online 最高益更新が期待できる「改革実行銘柄」ランキングTOP10 | 会社四季報オンライン - 会社四季報オンライン 「バイク・2輪銘柄」の今期当期純利益の増益率ランキング | 会社四季報オンライン - 会社四季報オンライン 前場コメント No.2 グロバルウェ、ライトオン、フィルカンパニ、高島屋、メディカネット、旭化学 - ニュース・コラム - Y!ファイナンス - Yahoo!ファイナンス ジョンソン・エンド・ジョンソン メディカル カンパニー バイオセンス ウェブスター事業部9月29日「世界ハートの日」に合わせ 「Biosense Webster® Online アプリ」をリリース | メディカルwatch - RadFan ONLINE 【謎解き×ハロウィーン×ショー】日本を代表するショーカンパニーが贈る作品『マジカリック・ハロウィーンbyS.I.P.H』初のファンタジー・イマーシブシアター(没入型演劇作品)が誕生! - アットプレス(プレスリリース) 熊川哲也 Kバレエ カンパニーによる『シンデレラ』をU-NEXTでライブ配信決定! (2021年9月18日) - エキサイトニュース グッドスマイルレーシングが日本初レーシングカーのボンネットデザインのNFTアートを販売 - PR TIMES コ・アソン主演、映画「サムジンカンパニー1995」11月3日にDVDが発売決定! - Kstyle 菅首相が在任した11カ月間の株価上昇率ランキングTOP20 | 会社四季報オンライン - 会社四季報オンライン 開始1時間で目標金額達成!換気を見守るクリスタルキューブライト【CO x CO Cube】完全自社開発のオリジナル商品、9月29日までMakuakeにて大好評先行予約販売中! - PR TIMES 四季報「夏号」で配信した「新興50銘柄」の株価上昇率TOP20 | 会社四季報オンライン - 会社四季報オンライン ~換気不足をそっと見まもる~CO2センサーアクリルライト【CO x CO Cube/ココキューブ】Makuakeにて先行予約販売開始 - PR TIMES 暗号資産がカギ握る「直近1カ月の株価上昇率」ランキング | 会社四季報オンライン - 会社四季報オンライン 日本製白Tシャツ専門店「TORIHS」 POP UP STORE が表参道にオープン。7/7(水)~7/11(日)の5日間限定開催 - PR TIMES オホーツク海の上にカフェ「companio」がオープン! - PR TIMES 乳首の透けや浮きを防ぐ「乳首が気にならない白T」Makuakeにて限定特別価格の先行販売開始 - PR TIMES 劇場アニメ『ARIA The CREPUSCOLO』Blu-ray8月18日発売!広橋涼&佐藤利奈&茅野愛衣コメント到着 - スクリーンオンライン 実力派女優コ・アソン主演、映画「サムジンカンパニー1995」予告編&場面写真を一挙公開! - Kstyle つい長居したくなる素敵なトイレリフォームのアイデア - リフォームオンライン - リフォーム産業新聞 ポケモンをテーマにした仮想通貨に投資できるリザードントークン - NEXTMONEY 四季報春号「発売後1カ月の株価上昇率」ランキングTOP20 | 会社四季報オンライン - 会社四季報オンライン インタビュー動画プロジェクト【STYLE】本格始動。フェムテックカンパニーが“自分らしく美しく生きる女性”をご紹介! - PR TIMES 実力派女優コ・アソン主演、映画「サムジンカンパニー1995」日本で7月9日より公開決定! - Kstyle 『サムジンカンパニー1995』作品情報 | cinemacafe.net - cinemacafe.net 日本初のソーシャルサーカスカンパニーの初公演!4/25,26 True Colors CIRCUS SLOW CIRCUS PROJECT『T∞KY∞~虫のいい話~』上演決定 - PR TIMES 古楽・クラシックのプロ/アマチュア音楽家がアンサンブル曲の演奏カラオケ動画を販売できる「Smart Accompanist」を正式リリース - PR TIMES 四季報「春号」発売週の株価上昇率ランキングTOP20 | 会社四季報オンライン - 会社四季報オンライン パッケージは全部で4種類!おやつカンパニー『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021』ベビースターラーメン - ニコニコニュース 迷宮ブラックカンパニー:テレビアニメが7月スタート SILVER LINK.制作 小西克幸、久野美咲、下野紘出演 - MANTANWEB 全国のファッションセンターしまむらにて、オサレカンパニー監修のプラスサイズアパレルブランド「Acuite(アクチェ)」が販売スタート!! - PR TIMES 「サムジンカンパニー1995」コ・アソン&イ・ソム&パク・ヘス、それぞれ異なる魅力のキャラクターポスターを公開 - Kstyle 『グランブルーファンタジー』より「サンダルフォン」がねんどろいどになって登場!全国のアニメイト、アニメイトオンラインショップにて予約開始! - PR TIMES フジ住宅、スポーツ庁による令和元年度「スポーツエールカンパニー」に認定 - アットプレス(プレスリリース) 民間版の世界銀行を目指す五常・アンド・カンパニー、42.2億円のシリーズC資金調達を完了 - PR TIMES ランジャタイがグレープカンパニーに所属「子供のころからの夢でした」(コメントあり) - ナタリー グレープカンパニー所属のお笑い芸人約10組とコラボレーション!サンドウィッチマンもひっかかった、ドッキリおもしろ動画満載公式チャンネル『サンドチャンネル』 - PR TIMES 水族館コメディ漫画『水族カンパニー!』が連載再開! SNSでのファン支援が奏功 - - ねとらぼ SRPGとサンドボックスゲームを融合させた意欲作「ハコニワカンパニワークス」をレビュー - 4Gamer.net 敵もろともマップを吹き飛ばす!? ついに発売となる『ハコニワカンパニワークス』の詳細をチェック! ファミ通限定のイラストカードも【先出し週刊ファミ通】 - ファミ通.com 『ハコニワカンパニワークス』 メメ役・斉藤朱夏さんのサイン色紙が当たるリツイートキャンペーンを開催 - ファミ通.com 目指せ伝説のカンパニー! PS4®『ハコニワカンパニワークス』のさらなる新キャラやお仕事の一例を紹介! - PlayStation.com 「ハコニワカンパニワークス」,初回特典「キャラクターおえかきパーツ100体セット」の画像を毎日公開 - 4Gamer.net 『ハコニワカンパニワークス』初回封入特典“キャラクターおえかきパーツ100体セット”の詳細が公開、ラハールやメタリカが3Dドット風デザインに - ファミ通.com 『ハコニワカンパニワークス』 超個性的なキャラクターとジョブごとに異なる戦闘システムをチェック! - ファミ通.com 破壊×クラフト×育成のシミュレーションRPG『ハコニワカンパニワークス』のキャラクターやジョブを紹介! - PlayStation.com 日本一ソフトウェアから「ハコニワカンパニワークス」が7月13日に発売。地形もろとも敵を破壊しながら戦い,クラフトや育成が楽しめるSRPG - 4Gamer.net company シン・ジュア、R&D COMPANYと専属契約を締結…タイと韓国での活動に期待(Kstyle) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 【倉敷市】三井アウトレットパーク倉敷に新しく「Tokyo Glass Company OUTLET」がオープン間近。 - 号外NET 倉敷市 CBD California Trading Company合同会社より、オレンジCBDを使用したCBDオイル「雅Tokyo」の発売記念として、100名様にプレゼント企画を発表! - PR TIMES STREAMER COFFEE COMPANY × TECHNOLOGY - PR TIMES 「Company of Heroes 3」のマルチプレイ・プレαテストを紹介する解説映像が公開に。PvPやCo-opほか,AI相手のスカーミッシュなども楽しめる - 4Gamer.net 健康管理システムCarely、統合人事システム「COMPANY(R)︎」と連携開始で大企業の人事DX支援を強化 - PR TIMES noteの新サービス『クリエイティブパートナーメニュー』にNo Companyが参画。採用広報支援メニューを提供開始。:時事ドットコム - 時事通信 Panasonic主催のアクセラレータープログラム「Panasonic Accelerator by Electric Works Company」採択のお知らせ - PR TIMES 日野市、自治体DXに向けクラウド人事給与システム「COMPANY on LGWAN」稼動開始 - PR TIMES 「Company of Heroes 3」,コアゲームプレイに焦点を当てた開発者ビデオダイアリーが公開に - 4Gamer.net 【fiBona × AUBA】『SHISEIDO OPEN INNOVATION 2021』、2社を採択! - PR TIMES GEMS COMPANY、初のライブ映像作品リリース(BARKS) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース ProjectMoonが新作「Limbus Company」のPVを公開。“罪悪共鳴残酷RPG”となる新作はAndroidに向けて2022年冬リリースへ - 4Gamer.net 「Panasonic Accelerator by Electric Works Company」がアクセラレータープログラムの参加8チームを決定 - PR TIMES 統合人事システム「COMPANY」、HRテック関連サービス7社と11月より順次連携を開始 - PR TIMES “The Hybrid Data Cloud Company”で第2の創業期に挑む新生クラウデラの戦略(ZDNet Japan) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 【期間限定無料】基本無料チーム対戦TPS『Rogue Company』キャラや衣装等のパックがEpic Gamesストアにて配布開始 - Game*Spark 北浦和の週末限定カフェ「NEST Baking Company」が1周年 マフィンやブラウニーなど(みんなの経済新聞ネットワーク) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース No Company、SNSデータから見る「学生の注目企業2021」を発表! - PR TIMES サイバード、Vietnam Ekoios Technology Joint Stock Companyと業務提携 NFT等ブロックチェーン技術を用いたサービスの開発支援事業を開始 - PR TIMES 第二次世界大戦RTSシリーズ最新作『Company of Heroes 3』地中海のさまざまな戦場を紹介する最新トレイラー(Game Spark) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 「KAWAII COMPANY」のアイテムが『増田セバスチャン「Yes, Kawaii Is Art」』展覧会の物販コーナーで購入できるチャンス - PR TIMES Tarinof dance companyがバレエ作品「ジゼル」を再構築、新作公演に島地保武(ステージナタリー) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 空気からできた香水 スタートアップAir Companyの「Air Eau de Parfum」 - AXIS ゴミ収集会社シミュレーター『Stinky Company Simulator』発表。廃棄物を処理し街を綺麗にしながら会社を経営、男の子が誰もがワクワクした「ゴミ収集車」「バキュームカー」が操作できる(電ファミニコゲーマー) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース イーロン・マスク氏のBoring Companyがラスベガス地下ループ拡張の初期承認を取得 - TechCrunch Japan Faber Companyが実店舗の集客を伸ばしたい企業に「ローカルミエルカ」を無料で提供(Web担当者Forum) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 『Skyrocket Company』3時のヒロイン・福田麻貴、FUJIWARA・藤本敏史、アンミカ、村西とおるが登場!豪華ゲストが語る、令和時代のリーダー論とは? - PR TIMES 「人材育成」のカギは “コーチング”!?【ベスグロコーチング】の企業導入スタート! - PR TIMES 「HAKUNA Live」を手掛けるMOVEFAST Companyが運営するプロダクション制度「Daisy」にて人気イラストレーター ケイゴイノウエが手掛けるオリジナルアイコン争奪イベントを実施! - PR TIMES GEMS COMPANY、最新曲「CHANGENOWAVE!!!!」配信&MV公開(BARKS) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 『ONE MORNING』『Skyrocket Company』合同企画スタート!「ホッとしたい時に聴きたい曲」リクエストでプレイリストを作成! - PR TIMES 広告・事業開発のThe Breakthrough Company GOにブレインアスリート特別睡眠プログラムを導入 - PR TIMES 愛知県とeiicon companyが運営する「PRE-STATION Ai」、前期インキュベーションプログラム参加9社の成果発表会「DEMODAY」の視聴者募集を開始! - PR TIMES 近未来テクノロジー見聞録(49) CO2と水からお酒を作るAir Company! この技術で目指すのは火星!? - マイナビニュース 宮崎県とeiicon companyが、全国のスタートアップから事業アイデアの募集を開始!『MIYAZAKI DIGITAL INNOVATION BUSINESS BUILD』始動! - PR TIMES 【最大5万円OFF】英語ジムENGLISH COMPANY、「秋の英語トレーニング割引キャンペーン」を10月1日よりスタート - PR TIMES 当社連結子会社TRIFORCE INVESTMENTS社による General Storage Company 社の株式譲受に関する契約締結のお知らせ - PR TIMES 「KAWAII COMPANY」のアイテムが、六本木ヒルズ森美術館ショップ『増田セバスチャン Pop-Up Store』で購入できるチャンス!9月23日~10月17日までの期間限定 - PR TIMES 【Public dots & Company】「逆プロポ」サービス、事業譲渡のお知らせ - PR TIMES 【公式】俳優キム・ジョンヒョン、Story J Companyと専属契約…キム・テヒやユ・スンホらが所属(WoW!Korea) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース 「農業DX構想」の実現へ 統合人事システム「COMPANY」導入 農水省 - 農業協同組合新聞 ファンから見た「GEMS COMPANY」の魅力は? 座談会形式で語り合ってみた - Mogura VR キム・テヒからユ・スンホまで、Story J Companyの俳優らが秋夕の挨拶「家族と会えない状況でも…」(動画あり) - Kstyle 「KAWAII COMPANY」のモンスターたちが、期間限定ショップ「増田セバスチャンと6%DOKIDOKI 1995→2021」で手に取って購入できるチャンス - PR TIMES 神奈川県とeiicon companyが運営する「BAK NEW NORMAL PROJECT 2021」、新型コロナにより生じた社会課題を解決する8社のプロジェクトについて、採択決定! - PR TIMES 青山商事が「洋服の青山オンラインストア」「THE SUIT COMPANY」にサイト内検索エンジン「ZETA SEARCH」を導入(ネットショップ担当者フォーラム) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース WorldLink & Company、5.6億円の資金調達を実施 - PR TIMES スポーツ庁とeiicon companyが運営するアクセラレーションプログラム『INNOVATION LEAGUE SPORTS BUSINESS BUILD』始動! - PR TIMES eiicon company、自社の「イノベーションスコア」を可視化・分析するツール「INNOVATION VITAL」を9月14日より「AUBA」にて提供開始 - PR TIMES 東北初上陸!アジアンスイーツ専門店ASIAN RAD TEA COMPANYが仙台フォーラス1FにPOPUP SHOPを出店!話題の新作アジアンスイーツや仙台限定ドリンクも販売! - PR TIMES 人的資本時代の経営「COMPANY Forum 2021」11/4(木)開催決定 テーマは「Resilience ‒ 新時代への再起力 ‒」 - PR TIMES 『Skyrocket Company』豪華ゲストとのスペシャル対談WEEK!ゲストに、古舘伊知郎、ロバート秋山、松平健、花澤香菜が登場! - PR TIMES 水の利活用をDXする「Smart Water Grid Company」ワイズグローバルビジョンが資金調達を実施 - PR TIMES eiicon companyが起業家・投資家向けのイベント「AICHI STARTUP DAY 2021」の参加者募集を開始! - PR TIMES 浜松いわた信用金庫、次世代の新人事システムとして「COMPANY」を導入し、クラウドを活用したBPRを推進 - PR TIMES カフェ&ギフトショップ「Disney HARVEST MARKET By CAFE COMPANY」が、2021年8月12日(木)よりプレオープン! - PR TIMES オンラインゲーム「Rogue Company」を通じた海外への発信の取組について - PR TIMES 「Company of Heroes 3」のプレアルファ版を試遊してみた。前作から8年を経て,傑作RTSはどんな進化を遂げようとしているのか? - 4Gamer.net IBMのThe Weather Company、世界一高精度な気象予報プロバイダーの座を維持 - PR TIMES ゼパニーズクラブからグッドカンパニーとのコラボアイテムがドロップ - HYPEBEAST 【神奈川県 x eiicon company】課題解決を目指す神奈川の企業と“つながれる”窓口、「BAK PARTNERS CONNECT 2021」第一弾スタート! - PR TIMES パナソニック ライフソリューションズ社「Panasonic Accelerator by Life Solutions Company」が参加企業募集 - TechCrunch Japan CHORD COMPANYのスピーカーケーブルが激変! 「絶縁体」と「プラグ処理」の進化が鍵 (1/2) - PHILE WEB - PHILE WEB 増田セバスチャン×フェリシモのプロジェクト“KAWAII COMPANY”が手がける「5つの味のカワイイ三輪そうめん」が7 月 26 日~8 月 31 日数量限定・夏の特別メニューとなって千寿亭に登場 - PR TIMES 『The Company Man』主人公は会社員! CEOを目指して役員を倒す2Dアクション【とっておきインディー】 - ファミ通.com 「HAKUNA Live」を手掛けるMOVEFAST Companyがライバープロダクション制度「Daisy」の運営を開始!リリースを記念した現金総額30万円プレゼントイベントも実施! - PR TIMES 【Public dots & Company】マイナンバーカードと連動したワクチン予約システムをスカラ社と開発、自治体提供へ - PR TIMES 【神奈川県 x eiicon company】ビジネス・アクセラレーター・かながわ(BAK)、CAMPFIRE Startups社によるファイナンスサポートとの連携を開始! - PR TIMES 「Company of Heroes 3」の制作をSEGAが発表。久々に復活する人気ミリタリーRTSシリーズの最新作 - 4Gamer.net 【スポーツ庁 x eiicon company】令和3年度スポーツ産業の成長促進事業「スポーツオープンイノベーション推進事業(地域版SOIPの先進事例形成)」運営協力事業者 全国4地域5事業者を採択! - PR TIMES 【Public dots & Company】自治体のDXに特化したサイト「自治体DX白書.com」公開 - PR TIMES 【eiicon company】愛知県「プレ・ステーションAi」、愛知から起業家を生み出すイノベーション創出プログラム「AICHI-STARTUP ビジネスプランコンテスト2021」を開催! - PR TIMES 増田セバスチャン×フェリシモ「KAWAII COMPANY[カワイイカンパニー]」から夏を彩る三輪そうめんが登場 - PR TIMES 「StudyHacker ENGLISH COMPANY」の最新ノウハウが凝縮!『マンガでわかる 最速最短! 英語学習マップ 新装増補版』6月25日発売 - PR TIMES 青年座の那須凜が企画・主演 ENGISYA THEATER COMPANY『春の終わりに』上演が決定 - http //spice.eplus.jp/ 社会課題の解決と持続的な経営の両立を目指す「ゼブラ企業」の増加と成長支援を実行する(株)ゼブラアンドカンパニーが発足 - PR TIMES 「CP COMPANY」ブランド50周年の記念ブックを発売、代官山 蔦屋書店でポップアップも - FASHIONSNAP.COM 韓国発EdtechスタートアップDay 1 Company、日本市場への本格参入事業拡大に向け『テモ』オンライン韓国語通信講座を大幅リニューアル - PR TIMES 【Public dots & Company】コニカミノルタなどと栃木県の次期業務環境最適化に向けた調査業務を受託 - PR TIMES 介護業界大手ニチイホールディングス、9万名の従業員を支える次期人事システムとして「COMPANY」導入を決定 - PR TIMES 統合人事システム「COMPANY」、ERP市場 人事・給与業務分野シェア1位を獲得 - PR TIMES ENGLISH COMPANYとSTRAIL、コロナ禍でのオンライン受講ニーズ急伸に対応するために、一部スタジオを完全バーチャル化! - PR TIMES ベトナムElovi Vietnam Joint Stock Companyの連結子会社化のお知らせ - PR TIMES 在ミャンマー企業 ZERO2ONE COMPANY LIMITEDによる事業第一弾を発表 - PR TIMES 町や企業の“誇り”を創る「PRIDING COMPANY」へ — エレファントストーン - AdverTimes(アドタイ) オランダ「The Good Plastic Company」の 100%再生プラスチックパネルが日本に登場 - AXIS 4月28日(水)よりTOKYO FM「Skyrocket Company」の「お悩み解決!スカロケ法務部」に出演決定!| 法律事務所オーセンス - PR TIMES 【eiicon company】日本最大級のオープンイノベーションプラットフォーム「AUBA」、お客様からの共創成功報告(サクセスケース)が累計1,000社を突破! - PR TIMES TheQtCompany、froglogicGmbHを買収 マーケットリーダーとしての地位を強化 - アットプレス(プレスリリース) 【神奈川県 x eiicon company】「ビジネス・アクセラレーター・かながわ(BAK)」運用業務を eiicon companyが受託。インキュベーションプログラム始動! - PR TIMES 【eiicon company】愛知県に新設「プレ・ステーションAi」事業等の運用業務を受託 - PR TIMES マイナビ、ベトナムのソフトウェア開発企業・NAL Solutions Joint Stock Companyと資本業務提携 - PR TIMES 石堂株式会社から「株式会社OVER20 & Company.」へ、社名変更のお知らせ - PR TIMES 日本企業初!リノベるが米ビジネス誌『Fast Company』が選出する2021年の「世界で最も革新的な企業」において「都市開発/不動産」部門の7位にランクイン - PR TIMES 米国の現地法人GMO-Z.com Trust Companyが、世界初となる米銀行法規制を遵守した日本円ステーブルコイン「GYEN」と、米ドルステーブルコイン「ZUSD」の提供を開始 - PR TIMES トランスコスモス、統合人事システム「COMPANY」のワークスHIと協業 - PR TIMES 「COMPANY」の顧客視点のこだわり - 日経クロステック Special - 日経テクノロジーオンライン 統合人事システム「COMPANY」、ServiceNowソリューションとID管理領域での標準連携機能を提供開始 - PR TIMES 新社長に聞く「COMPANY」次の一手 - 日経テクノロジーオンライン RSS 中隊 #gnews plugin Error gnewsは1ページに3つまでしか使えません。別ページでご利用ください。 カンパニ #gnews plugin Error gnewsは1ページに3つまでしか使えません。別ページでご利用ください。 company #gnews plugin Error gnewsは1ページに3つまでしか使えません。別ページでご利用ください。 口コミ 中隊 #bf カンパニ #bf company #bf 【参考】 ブックマーク サイト名 関連度 備考 Wikipedia ★★ 関連項目 項目名 関連度 備考 研究/社会 ★★★ 研究/軍団 ★★★ 研究/師団 ★★★ 研究/旅団 ★★★ 研究/連隊 ★★★ 研究/大隊 ★★★ 研究/小隊 ★★★ 研究/分隊 ★★★ 研究/班 ★★★ 研究/組 ★★★ 研究/戦術 ★★★ 研究/戦闘 ★★★ 研究/軍事 ★★★ 研究/軍需 ★★★ 研究/武力 ★★★ 研究/軍隊 ★★★ 研究/参謀 ★★★ 研究/提督 ★★★ 研究/元帥 ★★★ 研究/将軍 ★★★ 研究/大将 ★★★ 研究/中将 ★★★ 研究/少将 ★★★ 研究/准将 ★★★ 研究/大佐 ★★★ 研究/中佐 ★★★ 研究/少佐 ★★★ 研究/准佐 ★★★ 研究/大尉 ★★★ 研究/中尉 ★★★ 研究/少尉 ★★★ 研究/准尉 ★★★ 研究/曹長 ★★★ 研究/軍曹 ★★★ 研究/伍長 ★★★ 研究/兵長 ★★★ 研究/兵士 ★★★ 研究/陸軍 ★★★ 研究/自衛隊 ★★ 研究/企業 ★★★ 陸系の英訳が同じ 研究/戦隊 ★★★ 研究/指揮 ★★★ タグ 社会 最終更新日時 2012-12-07 冒頭へ
https://w.atwiki.jp/tmnanoha/pages/426.html
――― 誰が一番強いのか? ――― あらゆる次元から人材を募る時空管理局はその都度、優秀な魔導士を数多く排出してきた。 その中にはもはや伝説的な逸話を持つ輩も少なからずいる。 例えばあの三提督のように。 そんな武装隊の面々の間でしばしば話題に上がるのがズバリ、これである。 下世話なランク付けだとは思うが、彼らが腕を頼りに職務を全うする人種である事を考えれば 興味の矛先がそこに向かうのも仕方の無い事かも知れない。 事に最近では、ニアSクラスを出来得る限り集めて結成された八神はやて率いる機動6課。 彼女達は後にも先にも「これ以上はない」と言われるほどのドリームチームと言われ 局全域に近年稀に見るほどの話題を提供する事になったという。 スバル達、新人が口に出して盛り上がっていた話題は、実は局中で口に上がっていた話題でもあったのだ。 そんな中、やはり皆の口から最も多く名前が上がったのが―――その名にしおうエースオブエース・高町なのは。 生い立ちと人気と実力。 教導官として幅広く活躍する彼女ゆえ、ファンが多いというのもある。 数々のドラマティックな逸話を持ち、やや童顔でありながらも凛々しさを称えたルックス。 そして達成してきた任務の数、困難さ。 戦技披露会での圧倒的な強さ。 おまけに年若い女性魔導士だ。 これだけの要素を持っているのだから注目されない方がおかしい。 教導隊全ての総称とされていた「エースオブエース」を己が代名詞としてしまうほどに、なのはは今や万人に認められる存在となった。 だが――――そうしたある種、祭り上げられたエ-スオブエースの威名と並行するかのように 機動6課において高町なのはよりも強いのでは?と囁かれる存在があった。 「なのはさんも強えけど、俺はシグナム姉さんが負けるとこなんて想像出来ねえなぁ」 これはとある陸曹の言葉である。 そう、6課内においては烈火の将シグナムこそが実力は上ではないかという見方も数多くあった。 彼女はなのはとは対照的な古代ベルカ式の使い手。 その質実剛健の働きぶりは見るものを唸らせるほど凄まじいものであるが、裏腹に過度に名声が先立ってしまう事はほとんどない。 恐らくそれは夜天の主の僕としての分を弁え、決して表に出たり目立つ事を良しとしない性格故か。 また脛に傷持つ彼女の経歴が、なのはとは違い、局全体がプロパガンダとして使用するのを躊躇う空気もあったからであろう。 だがそれでも彼女の圧倒的な強さは隠しようがない。 以前、行われた戦技披露会においてのエースオブエースとの「血戦」は語り草である。 修羅さながらの潰し合い。 魔力ダメージによる攻防などという事実は衝撃だけで砕けるBJによってすっかり忘れ去られ 吐血しながらも相手の肉を、骨を砕かんと激突する両者の形相は殺し合いでは?疑うほどのもの。 見物人の顔面を蒼白に染め上げるに十分な死闘が繰り広げられる事、数十分。 闘いが終わり、使い込まれたボロ雑巾のようになった両者が笑いながら引き上げていったその後 会場は恐怖と驚愕を称えた沈黙に包まれ、生唾を飲み込む音すらしなかったという。 今となっては微笑ましい、それは昔の物語。 なつかしくも儚い彼女達の黄金時代である。 閑話休題―――そして、舞台は現代へ。 ―――――― 剣を持つのは高町なのはをも追い詰める力を持った烈将。 かつてない最強の敵を前に、その眠れる力を解放する。 今はもう呼ばれなくなって久しい―――かつて次元を恐れさせた一騎当千ヴォルケンリッター。 一騎打ちなら負けは無しとまで言われた最強の剣士……あの烈火の将が炎を纏いて顕現したのだ。 現世でも逢世でもない隔世で、彼女は誰にも見せる事のなかった本当の力を解放する。 空からの圧倒的な火力で焼き尽くす「空爆」と呼ばれる殲滅戦。 本来の航空機動隊の戦い方がこれである。 敵を寄せ付けぬ圧倒的なパワー、スピード、防御力。 ミッドチルダの犯罪者達を震え上がらせ、抵抗は無意味とまで悟らせる管理局武装隊のその力。 トップクラスの騎士の手による凄まじい轟音と爆風を伴った攻撃が、竜の尾が蜘蛛の子を蹴散らすかのような光景と共になお続く。 「ぶ、ぁ………あぶねッ!」 相手もまた凡庸とは程遠い、星の記憶に刻まれた英霊。 苛烈な将の攻撃を紙一重、皮一枚で残して見せるが……それでも、もはや時間の問題だろう。 魔導士フェイトテスタロッサハラオウンの完璧なフォローの存在が彼らの反撃の可能性を余さず潰しているからだ。 雌雄一対の役割を微塵の狂いもなく果たすライトニング隊にはもう一寸の隙も無く 勝ちの目が無いサーヴァント達はまさに王手飛車角取りをかけられた状態だ。 ―――残り10minute 決定的優位の元に、彼女達は最後の攻防の火蓋を切って落としたのである。 ―――――― ??? ――― かつてミッドチルダを恐怖で震撼させた聖王の揺り篭が、決して余人の踏み込む事のない次元の狭間にて、その巨大な全身を横たえていた。 といってもそれは本来の10%の性能も持ち得ないレプリカであったのだが…… 形だけは大層なハリボテを本拠とする者たちは、強大なロストロギアの力によって開催された祭を取り仕切る実行委員でもある。 同時に祭会場にばら撒かれた無数の宝を、あわよくば拾い集めようと目論む浅ましくも悲しい敗残者たち。 しかしてその巣窟において場違いな男が一人、モニター越しに映る戦いを興味無さげに見つめていた。 黒衣のカソックに身を包んだ四肢をソファに横たえ、我ながら良い身分になったものだと皮肉げに哂う男。 その表情にはまともな人間らしい感情が宿っているかも疑わしい。 「剣の英霊……あいつ苦しそうだったな…」 変わってぽつりと漏れた言葉は、神父の脇に侍っていた少女のものである。 先の邂逅で出会った騎士王の安否を気遣うこの少女は戦闘機人のナンバー5・チンク。 スカリエッティが生み出せし姉妹の5女にして、異邦の客人の世話係としてこの男に付き従う羽目になった今回一番の被害者である。 狂気とやらが生み出したにしてはあまりにも愛くるしい愛玩人形の如き相貌。 人好きのする性格。 嫌な任務でも腐らず、へこたれずに健気にこなす姿は愛らしいの一言では到底片付かない。 「彼女はどうすれば私を受け入れてくれるのだろうか? そもそも、あいつは大丈夫なのか? 神父」 「私に答えられるわけもなかろう。 怪しげな茶番の舞台に強引極まりない方法でサーヴァントを顕現させたのはお前達だ」 「確かに……あの方法については未だ不明な点が多い。 一刻も早い掌握が必要なのだが…」 「そも拾った宝に名前を書いて己が物とする……それは紛う事なき盗人の所業だ。 仮にも私は神の代行者でな。 不心得者に口徳を授けるというのも職業柄、抵抗がある。」 「……神父の仕える神様は一宿一晩の恩というものを教えてはくれなかったのか?」 流石にムッとして床に伏せたまま反論するチンク。 その銀の長髪を称えた頭に―――目の前の皿に盛られた内包物を無言でぶちまける神父……否、人でなし。 「えっ………??」 何が起こったのか分からずに間の抜けた声をあげてフリーズした少女が―― 「、ッッッッあっづォォォォーーーーーーー!!?」 直後、怪鳥音じみた悲鳴を応接室に木霊させる。 ぐつぐつに煮立った餡かけが頭頂部を犯し、後頭部を経てスーツの間から背中に進入。 火を司る料理と言われる中華の熱さを文字通り体感した少女が悶絶して転げ回る。 「な、何てことをするんだっ!?」 「一宿一晩が聞いて呆れる。 未だ私はまともな飯の類を口にしていないわけだが? 客人に生ゴミを食わせる輩が恩義などとよく口に出来た……そんな事であの剣の英霊を手なづけられるものか」 銀髪を振り乱して床をのたうち回ると、その頭からゴロゴロと転がるゴムのような物体があった。 それは彼女が「豚のカクニ」と称して神父に出した、セイバーとの友情の証……もとい、滋養豚の残骸だった。 「な、なまっ!? そんな食べもしないで!」 「生憎、セイバーのように昏倒させられる気はない。 全く世話係などとよく言えたな。 優秀な機械人形と嘯いてはいるが貴様、その実何も出来んのではあるまいな?」 「失礼な……妹やゼストの世話は全部、私が担当したのだぞ! 料理は初めてだから勝手が分からないが個体の洗浄などは大得意だ……!」 「―――ならば洗浄して貰おうか―――」 「へ……?」 憤然と神父と相対していた少女がカエルの詰まったような声を出した。 その前で……おもむろに上着を脱ぎ出す神の御使い言峰綺礼―――― ―――――― 業に入らば郷に従え、とは現地のニンゲンのコトワザだ。 ならば嗜み物も舞台に合わせるのが粋であろう。 男の手に持っているのはサロン・ブランド・ブランブリュット。 10年で僅か3回しか造られない幻のシャンパーニュである。 そんな貴重な葡萄酒を片手に神父と語り合おうと部屋を訪れたのは 言峰綺礼とは対照的な出で立ちの白衣の男、天才科学者ジェイルスカリエッティ。 だがしかし、彼が客間の前まで来た瞬間――― 「うわああああああああああんッッ!!!」 目の前の鉄扉がバタァン!と凄まじい音を放ち、内側から脱兎の如く逃げ出す影一つ。 人外の脚力を発揮し、トップスピードに乗ってあっという間に見えなくなった――― その後姿と、なびく銀髪だけが辛うじて博士の視界に残る事となった。 「ふうむ………………取り込み中だったかね?」 「そうでもない。 少し考え事がしたかったのでな……小娘には出て行って貰った。」 ほどなくお前が来たので何の意味も成さなかったが、と付け加えた神父。 鍛え抜かれた強靭な上半身を再びカソックで隠す仕草の何と絵になる事だろう。 「それは済まない事をしたねぇ。私はてっきりキミが……」 「私が何だ?」 「キミが我が娘に情欲を催してくれたのではないかと淡い期待を抱いたのだが。」 随分と歪な「淡い」もあったもんである。 「しかし姉妹の中でも随一の気骨を持つチンクがあんな声を発して逃げ惑うとは…… 滅多に無い反応が見れて僥倖の極みだよ。 キミは彼女をどう思う? 綺礼。」 どう思うと言われても返す言葉が無い。 生憎、幼女を私物化して侍らせるという好事家にとっては狂喜乱舞するようなシチュエーションも 人が幸せだと思う事にとんと無頓着な言峰綺礼には猫に小判である。 「もしかしたらキミを強く意識しているのかも知れないねぇ。 これが噂に聞く思春期というやつか……」 「気持ちの悪い事を言うな。」 「いやいや実に興味深い。 私は残念ながらニンゲンというものが今一、理解出来ない。 あの娘たちは悲しいかな外界から閉ざされた純正培養の中で育ってきた。 だから今までは戦闘機人の 人 の部分を学習させるに至らなかったわけだが…」 芝居がかった大仰な仕草でいつもの演説を始める白衣の科学者。 「ニンゲン……それもキミほどの強力な毒を持った個体は実に珍しい! その毒は娘たちにも何らかの影響を与えてくれるらしいねぇ! ああ……それは実に喜ばしい事だ……最悪の生きた見本としてキミは極めて良い教材になれるだろうよ! いっそ義理の娘としてキミにチンクを預けてしまおうか! そう! 大事だからこそキミに預けたい! 私が求めてやまぬ生命の揺らぎ……ッ、ことにキミは他人を揺さぶる事にかけては絶品だ! ふふふ、つくづくキミに目をつけた私の目に狂いはなかったといえるだろう。 ああ言えるとも!」 「お前だけには言われたくないと憤慨すれば良いのか私は? 否定はせんが――」 狂乱の白とは対照的な黒が気の無い返事を帰す。 相変わらず人を食った、どこまでが冗談か分からぬ男だった。 ある意味、娘の成長を憂い喜ぶ父親に見えない事もないが(それはもう慈愛に満ちた好意的な解釈をもって)まあ何にせよ、だ。 生まれ故郷を遠く離れた地に、既に死した身を叩き起こされて、まずさせられる事が家族ゴッコだというのだから良い迷惑である。 ことにあの小娘の銀髪を見ていると、どうにも琴線に触れる。 どうやら自分の種から生成されたらしい娘も銀の長髪だと聞いたが、ソレと被って居心地が悪いとでも言うのだろうか? (ふ……馬鹿な。 そんな殊勝な心の持ち主でもあるまい……私は。) 本来、持ちえぬ記憶を持った偽りの自分。 歪なイレモノに感情というデータのみを書き換えられた偽りのコトミネキレイは、ただ溜息をつくのみ。 かつて世界の毒として生を受けたこの身は、もはやあの世界に戻る事も影響を及ぼす事もない。 今回、自分は何の当事者でもない。 この茶番劇において狂言回し以外の役割を担う事もないだろう。 以前のような悪意と狂気に満ちた行動力は既に枯れ、暢気に晩酌などを嗜んでいるその目下。 かつての自分の使い走りが悪戦苦闘している様を精気の抜けた双眸にて見下ろすのみ。 (―――それにしてもランサーよ。) 自身と同様の哀れな姿にも気づかず、令呪による縛りから解放されて全力で駆ける男の姿が瞳に映る。 (そんなザマでも思うままに飛び跳ねられるのが嬉しいのか……) まるで首輪を外されてはしゃぎ回る犬ッコロだと、にべのない感想を抱くのも忘れない。 冬木の地で凌ぎを削ったサーヴァント達が今、再び蟲毒の檻にて踊り狂う。 だが聖杯に変わり、英霊召還の無理を押し通すオーバーテクノロジーのシステムはそのまま彼らを好き勝手に弄ぶ傲慢な縛鎖に他ならない。 戯れに戯れを塗り込んだ無礼に過ぎる仕様。 彼らはもはやギルガメッシュの言った通りの紛い物の人形だった。 ランサー。 ライダー。 そして、セイバー。 正視出来ぬほどに歪になってしまった地球の神秘、幻想の具現たち。 何も知らずに舞い狂う彼らも、いずれはその袋小路の運命に絶望するのだろう。 ………無表情の男の口元が微かに歪む。 「せめてそれまでは足掻いて欲しいものだな。 ことにランサー……せっかく私の手綱から逃れたのだ。 ろくに観客を笑わせぬうちに退場する道化もなかろうよ」 含んだ笑いと共にかつての自分のサーヴァントに彼なりのエールを送る神父。 その相貌が矯笑に騒ぐスカリエッティの視界の外で暗く――――どこまでも暗く淀み沈むのであった。 ―――――― 果たして槍兵にとっては全く嬉しくない人物からの応援が届いたか否か――― 推し量れるほどに男は今、生易しい状況に置かれてはいなかった。 何せ怒れる火竜の蹂躙がすぐそこにある。 轟炎の剣士と炎の剣精のデバイス。 JS事件における最終決戦で初めてその身を同化させたシグナムとアギトが叩き出した破壊力は 恐らくは全リミッターを解除したなのはと同等以上という壮絶にして余りある数値を叩き出した。 この世にパワーバランスを司る何かが働いているのだとしたら、二者を引き合わせてしまったのは明らかに彼らの職務怠慢だろう。 まるで竜種そのもの――それは正しく人ではない、大空に駆ける飛竜だ。 轟々と燃え盛る炎を纏い、生物の頂点に立つ最強の亜種。 竜の威厳と変わらぬそれを以って、剣士は二体のサーヴァントを蹴散らし続ける。 「………」 「ランサー?」 加えて電撃使いの雷のダメージは体の外側でなく芯に残り、直撃すれば骨も残らぬ剣閃烈火が頭上スレスレを通り過ぎるのも幾度目の事か。 このままでは丸焼けになるか塩漬けになるか……勝機はおろか生還すら絶望的な状況だ。 そんな明らかな劣勢において、普段は騒がしい槍のサーヴァントが沈黙している。 訝しむ騎兵。 敗色濃厚で意気消沈するとは情けないと皮肉の一つも投げてやるべく、その相貌を覗き見る。 果たしてその横顔は――― 「竜殺しか……………こりゃいい。 喰いでがありそうだ」 ―――憎たらしいほどに、いつも通りの男の顔であった。 「命脈尽きてなお巨頭に挑む機会を与えてくれた古今東西の戦の神に感謝するぜ。 アレは俺の相手だ……お前にゃ渡さねえよ。」 ここに来てまだ一騎打ちにこだわっていたりする槍兵。 仮にこの地で討ち果たされても本望という意思さえ感じ取れる。 流石は戦バカ……否、戦ヲタク。 とても並の神経では理解できない。 (どうしたものか…) 当然、対面のライダーの思考は対照的だ。 彼女はここで果てる気などはない。 戦いに結果以外の意味など求める性分ではないし、この槍兵と一緒に討ち果たされる義理も無い。 狂人に付き合って枕を並べて討ち死になど笑い草も良いところだ。 唯一心残りなのは頭上、あの炎の騎士の遥か後方でこちらを見下ろす黒衣の魔導士。 もはや到底あれに手が届く状況ではないのだが……それにしても口惜しい。 (ペガサス――) ―――は、駄目だ。 神殿を破られた影響で自身の体内に残る魔力がほとんどない。 弾奏に残った最後の一発は周囲全てが敵である乱戦ではとても使えない。 (何とか再び彼女らを引き剥がせれば、また話は違ってくるのですが……) あの美しい獲物を取り逃がすのは癪だ…… しかしいよいよとなれば隣の男を盾にしてでも撤退を決め込むしかないだろう。 既に佳境に入ったこの戦い。 四つの思考が乱れ飛ぶ中――― Last assault 開始後2分 ――― 時限を現す時計の針が五分の一ほど進んだ事を場に示していた。 ―――――― ラストアサルト――最後の急襲作戦は既に発動した。 よっしゃあ絶好調! シンクロもばっちりだぜ! 「……」 もはや後戻りは出来ない。 オーバードライブの安全弁を開けてしまった今となってはやり直しも効かない。 その攻勢の第一波を思う存分、サーヴァントを追い散らす事で果たしたシグナムとアギト。 10分20分と暴れまわったように感じた彼女らが、改めて要した時間は2分にも満たず。 こちとら力が有り余ってるんだ! 見てろ……一泡も二泡も吹かせてやるぜ! 「調子に乗るなアギト。」 (わ、分かってらぁ…) 圧倒的優位にて序盤を折り返すユニゾンシグナム。 しかし遠巻きから見てなお、相手の動きにも目の内に宿った闘志にも衰えはない。 果たしてこのまま決めさせてくれのか? 騎士の心胆には未だ暗雲が立ち込めていた。 回避の一点張りを決め込む二対を相手にどうしてもクリーンヒットを奪えない。 一撃でもまともに当たればそれで終了だというのに…… 凄まじい火力に追い立てられ、一方的に削られて、ほどなく動けなくなるとしても 今は頭を伏せ、あるか無いかの一瞬のチャンスを待ち続けているようにも見える敵。 凄まじい胆力だ。 それだけで驚嘆に値する所業であるが…… (感心している場合ではないな……終盤の一手を誤れば詰まされるのは我らだ) 苛烈に、そしてあくまで冷静に二体を追い立てるシグナム。 その懐から鞭のようにしなる火竜の尻尾を再び眼前に叩きつけ――― また一つ、巨大なクレ-ターを場に刻む。 ―――――― シグナムが振り被った炎尾の業火を掻い潜る英霊二体。 相手にセイバー並の剣速がなかった事がせめてもの救いであるが、それも不幸中の幸いに過ぎない。 加えて高速で飛来するフェイトが巨大なザンバーを構えて彼らを強襲。 後方支援に徹するかと思いきや、隙を見せれば一足で踏み込んでくる……それがこの魔導士の恐ろしいところだ。 ソニックインパクトのトップスピードは英霊を凌ぎ、到底カウンターを合わせるどころではない。 戦闘機によるぶちかましを髣髴とさせる当たりでランサー、ライダーを吹き飛ばす。 再び散り散りにされる蒼と紫。 そして尻餅をついたライダーの腕に―――将の蛇腹剣が巻きつく。 ジュウ、という肉を焦がす音と匂い。 諸共に凄まじい牽引力が騎兵の身体を引き摺り始める。 そのままライダーを引き回し、先ほどの返礼とばかりに力任せに叩きつけようとするシグナム。 「むう……!」 だが騎兵とてそう簡単に力負けはしない。 彼女が四肢を……否、捕られられた右腕以外の三肢をフル稼働。 片腕両足の指を地面に食い込ませて場に踏み止まる。 ガクン、という凄まじい抵抗を受け、驚くべき手応えに将が息を呑む。 灼熱の蛇腹剣に二の腕を締められているのだ。 だのに食い込む刃を意にも介さず、女怪は右手で剣を掴みながら騎士と互角の力比べに挑んでいる! 「ふッ――!」 「こいつッ! つくづく…」 どっかおかしいんじゃ無いのか、あの女ッ!? ルーみたいな顔しやがって!と悪態をつく妖精を尻目にシグナムの脳裏に過ぎるは 地球において最もポピュラーな昆虫――甲虫最強の一本角のアレであった。 木や地面から引き離される際、そうはさせじと四肢を踏ん張り、驚くべき抵抗を見せる彼らを彷彿とさせる光景だ。 何の! ぶっこ抜いちまえッ!! 「言われるまでもない!」 更なる出力を発揮する空の騎士。 女怪の地を食む片手両足がミシミシと悲鳴をあげ、爪にビシリとひびが入る。 それでも大地に根差した大木のように動かない痩身。 怒れる竜と、その尾を掴んだ魔性の怪物――幻種同士の剛力比べが始まった。 ―――――― (……シグナムっ!) 止まらぬ連携が――止まった! 否、力づくで止めたライダー。 魔導士に焦燥が浮かぶ。 途切れたコンビネーションの隙を見逃す相手ではない。 防戦一転、ランサーが一気呵成に反撃に出る。 10を超える射撃魔法を残らず撃ち落とし、男はあっという間にフェイトに肉薄。 「世間様に迷惑ばかりかけて来た怪物が、たまには人の役に立つじゃねえか! そのまま一時でいいから抑えとけ! すぐに―――終わるからよ」 豪壮無纏に槍を回転させてフェイトの体に照準をピタリと合わせる男。 凛とした佇まいに淀み無い殺気。 対面するフェイトの心胆に氷柱が打ち込まれる。 何度相対してもゾクっと総身を貫かれるような感覚にまるで生きた心地がしない。 無数の矢を再び装填し、槍兵に突撃を敢行するフェイト。 肌にジャストフィットしたボディスーツにスパッツ。 露になった肩から二の腕、太股の辺りまでしか覆っていない下半身。 奇しくも男のそれに勝るほどの超軽装は、あの騎兵を凌ぐ疾走を見せた彼女の決戦モードだ。 「嬢ちゃん。 こうなった以上、主義も主張も関係ねえ……悪いが一気に叩き潰させてもらうぜ!」 「やれるものならやってみろ…!」 先ほど後れを取ったランサーに再度、臆せず斬り込む魔導士。 その顔に気後れなどは微塵も無い。 二撃三撃と打ち込みながら先の二の轍を踏まぬように軌道修正。 スピードと引き換えに失った各種ステータスは決して馬鹿に出来ず 四者の中ではっきりと自分が一番、体力、耐久力では劣っている事を自覚しているフェイト。 故に速度よりも馬力とタフネスがものを言うこうした乱戦下では、間違いなく自分が一番撃墜される可能性が高い。 少しでも気を抜けばバッサリとやられる。 考えている暇などない。 あっという間に景色が流れ、色々なものを追いてきぼりにする両者の交錯は既に始まっている。 当然のようにレッドゾーンを超えてアクセルを開けなければならないこの現状。 絞り潰されそうな心臓の動悸を無視して押さえ付け、執務官はサーヴァントと交戦する。 男の四方を撹乱しながら一瞬でランサーの後方に回り込み、彼女はノーモ-ションで肩口に鎌を振り下す。 「潔さは買う……だが甘えッ! 打ち込む気まで消せれば完璧だったがなっ!」 負傷した目を突いた死角からの一撃を事もあろうに眼で追いもせず、後ろ向きのままに上段で受けるランサー。 こんなのは時代劇でしか見たことがない……研ぎ澄まされた心眼、相手の行動に対する読み。 やはりこの男――最上級の達人だ! しかしこれで終わりではない! 途端、ランサーの前方よりフェイトの雷の矢が飛来する! 男の後方に回り込む前に既に撃ち放ったプラズマランサーだ。 自身の放った弾丸すらをも追い越す速度を持つフェイトだからこそ可能な全方位移動攻撃の真髄。 上方の鎌を受けて晒した男の胴に、このままでは矢が突き刺さるは必定。 無防備な胸と腹部に襲い掛かる鋭い先端が勢い良く飛び荒び、ランサーの目前に迫る。 「おらあああっ!!」 「うっ!??」 しかし槍と鍔迫り合っていたフェイトがバルディッシュごと前方に引き摺られる。 男が受けた鎌ごと強引にフェイトを引っこ抜き、背負い投げの要領でぶん投げたのだ。 視界ごと天地が引っくり返り、軽々と投げ放たれるフェイトの痩身。 前方に投げ放たれた先には自身の放ったプラズマランサーが今なお飛び向かってくる。 このままでは墓穴―――己の放った矢に全身を串刺しにされてしまう! 「何…!?」 だがそこで驚愕したのはランサーだった。 指向性を持った魔法の矢……それがフェイトのプラズマランサー。 コンマの速さで揺れ動く戦況に際し、フェイトの戦術思考は聊かの遅れもなく追随し、修正を開始。 衝突する筈だった彼女と無数の雷は、矢の方がまるで意思を持ったように彼女の体を回避し 歪な鋭角軌道でフェイトの体を避けて、その全てが再びランサーに降り注ぐ。 「野郎っ! 器用な真似しやがる!」 自由になった両手で扇風機のように魔槍を回転させて矢を弾き散らすランサー。 だが最中、敵の様相を見据えて再び舌打ちをする。 投げられ、地面と平行に滑空しながら魔導士は手の平をこちらへとかざしていた。 背中と頭を地面に擦るような低空飛行で、逆さまの姿勢のままに打ち放つフェイト18番の砲撃――サンダースマッシャーだ! 「うおおっ!?」 槍で弾き返すには大きすぎる大砲を、なりふり構わず地を転がって回避する槍兵。 すぐ横を黄金の射線が通り過ぎる。 地面を転がり、すぐさま立ち構える槍兵と、こちらも地を滑って投げの勢いを殺し、迎え撃つように立ち上がるフェイト。 「役不足だ、なんて二度は言わせないぞ!」 普段は優しくておとなしい性格の彼女だが、突き付けられた屈辱を跳ね除けられないような弱虫では断じてない。 その顔、その目には先ほどの槍兵の言葉……「相手にならない」と断ぜられた事に対する反骨心がありありと浮かぶ。 「いやいや不足どころか実際、大したタマだぜ…」 通常、あれもこれもと手を出せばどっちつかずの中途半端な代物にしかならないが あの娘は全範囲、全方位において全ての距離を高い水準でモノにしている。 正直一番嫌なタイプであり、その技量――評価しないわけにはいかない。 (あっちは何時まで持つか……つうか何で宝具を使わねえんだ、あの馬鹿) 凌ぎを削るライダーとシグナムの方をチラっと見る男。 立ち塞がる美貌の少女。 英霊とはいえ、これを一息に飲み込む事は至難だ。 ただの人間がサーヴァントに比肩するだけの天才的なセンスを発揮するなどという事が本当にあるのか? 「何にせよ、信条の違い―――覆すには刃で証明するしかないもんなぁ。 もう止めろとは言わねえよ……俺の理屈、否定出来るものならやってみやがれっ!」 吼えるランサー。 空気がビリビリと震える。 Last assault 開始後3分 ――― 例え刹那の出来事だったとしても刃で語り合えるのならば―――男にとってその時間はかけがえの無い宝だ。 再び槍を唸らせ踏み込むランサー。 フェイトも意を決したように、相手の突撃に合わせて低空飛行。 地面スレスレを潜りながら槍兵の足元をサイスで狙う。 決して正面からはぶつからない。 この男とまともに切り結んだら潰されるだけだ。 上空三方向から牽制の矢を降らせ、敵の攻め手を殺ぐ魔導士。 男が射撃を弾いた一瞬の間でフェイトはミドルレンジにまで後退。 三日月の刃――中距離射出魔法ハーケンセイバーを飛ばす。 (これは多分、避けられる……けどっ!) それを追いかけるように飛翔する黒衣。 腰の燕尾が突風ではためく。 美しいムーンサルトの機動を描き、常に男の死角へ死角へと回り込むフェイト。 その逃げていく金の髪をどこまでも執拗に追いかけるランサー。 赤き魔槍の連突も激烈さを増す。 (さすが……なら、これで!) 空中で回転し、遠心力でデバイスをアッパースイング気味にランサーに叩き付ける。 それはサイスの時には感じなかった凄まじい重さを持つ戦斧の一撃だ。 「む……!?」 間を詰めようとした男が重い一撃で後方に半歩下がる。 状況に応じて変化する武器が攻防においてこれほどに有効に作用するとは―― 彼女の機動力も相まって、まるで別の武器を持った何人もの敵を相手にするようだ。 当然、持ち主にピーキーな技量を要求するマルチウェポンはフェイトを主とするならば何の不足もない性能を発揮する。 「ロックオン……バルディッシュ!!」 間髪入れずに大砲の砲身を相手に向けるフェイト。 男に命中させるのは困難だろう。 しかし―――その背後! 「!! おいライダー! 避けられるなら避けな!」 「――――、!」 男が、炎の騎士と力比べをしていたライダーに向けて叫ぶ。 「サンダースマッシャー!!」 と同時に放たれたサンダースマッシャー。 同時ロックオンによる砲撃が同一軸線上に並んだサーヴァント二人を薙ぎ払う。 一人は中空。 一人は必死に身をよじり、金の濁流から命辛々身をかわす。 必殺の雷撃が薙いだ刻印を大地に刻み付けるその矢先―― 「おおおおっ!!」 支えを失い宙に浮いたライダーを、捕らえた右手ごとシグナムが振り回す。 その肉体が数回転ほど宙を彷徨い―――勢い良く地面に叩き付けられる! ゴシャァッッ、と鈍い音が辺りに木霊し、地面をバウンドして滑るその体。 衝撃に声の無い苦悶を漏らすライダー。 紫の髪が泥に塗れ、無様に這ったその横で―― 「おかえり。」 「…………」 槍のサーヴァントがばつの悪そうな顔で佇んでいた。 「……成果は無しですか? 口だけ男」 「俺もなまったのかね……いや、あの嬢ちゃん、マジで強えんだよ」 窮地を脱する千載一遇のチャンスだったにも関わらず、それを生かせず再び合流した事に対する苦笑いが双方に浮かぶ。 ゴール直前で振り出しに戻る双六のやるせなさを存分に感じ取れる瞬間だ。 「どうにもならんか……いよいよ持ってジリ貧だな」 槍兵がいちかばちかの覚悟を決め、騎兵が何とか窮地を脱出しようと画策し―― Last assault 4分経過 ――― 追い詰められているのはサーヴァント。 しかして背水の陣を敷き、じりじりと相手を攻め立てながら「時限付き」の攻勢を消化していく魔導士と騎士。 焼け付く体内を推しての戦いはなお続く。 彼女らに残された時間はあと6分足らず。 それまでに―――それまでに敵を沈黙させねば…… ―――――― 「提案があります」 「あとにしろ。」 言うまでもなくチーム戦では個々の能力よりもパートナーとの相性が重要となってくる。 故に思う―――やはりというか予想通りというか、つくづく相性が悪すぎる。 敵同士とはいえ、火急の事態で共闘を余儀なくされるケースは決して少なくはない。 先ほどまで本気で殺し合っていた者同士が新たな敵に対して見事な連携を見せて戦う。 戦場においてそういった光景は珍しくはない。 しかしながら二人は思う。 こいつとは……どんなに戦いを通じても―――駄目だろうな、と…… 「提案があります」 「うるせえな! 今忙しいんだよ! さっさと言え!」 「では言います。これでは埒があかない。 死ぬほど嫌ですが貴方に私と協力する権利を与えましょう。 何とかして彼女らを分断し、一対一へと持っていく手助けをしなさい。」 「オマエな……脳みそ湧いてんのか? 第一、協力などせんでも……うおっとぉ!」 頭上を通り過ぎていく火竜の尾を屈んで交わす二人。 背中の肉が焼け焦げて削れる。 それだけでも人間ならば致命傷だ。 「協力などせんでも、お前がどっか行きゃ済む話じゃねえのか?」 「済みませんよ。 フェイトの射撃は明らかに私と貴方を離脱させまいと放たれています。 どうやら向こうは我々が敵同士だと気づいているようですね。 袋の鼠は一緒に叩く――彼女らは実によく分かっている。」 「感心してる場合か阿呆! 敵の思惑が分かっていながら、こっちは足を引っ張り合って何も出来ねえ! これじゃネズミ以下だぜ俺たちは!」 「このままでは二人揃ってここで倒されますね。 サーヴァントが文字通り雁首を揃えて敗北……初戦敗退の不名誉と相成って後世に恥を残す事に。」 流石にそいつはいただけない……彼らには一様に誇りがある。 召還された自分が「取るに足らないサーヴァントだった」などという不名誉は彼らにとっては耐え難く そんな無様な結果を残したくないという感情は全サーヴァント共通の本能のようなものだ。 「一回だ……一回だけ協力してやる」 「決まりですね。 私はフェイトの相手をします……文句は無いでしょう?」 「好きにしな。 こちらも好都合だ」 鉄の結束を見せるライトニングの二人に対して、今にも止めを刺されそうになり ようやく精一杯の譲歩を見せた両者にインスタントな絆が芽生える。 「おらっ! 今だ!」 相変わらず間断なく降らせられる剣撃の雨あられ。 触れれば即、体のどこかを持っていかれる苛烈な攻撃を掻い潜り その中の一撃を選んでまずはライダーがアクションを起こす。 シグナムの横薙ぎを避け損ない、紫の肢体が無様にきりもみ状に吹き飛ばされた。 騎士の剛剣がついに強敵の片翼をなぎ払っていたのだ。 「―――、」 否、そう見せかけて自分で飛んだ! 重爆撃のような衝撃に逆らわず、身を預けるように宙に浮いたライダー。 その彼女に向かって槍の男が駆ける! 「おっしゃ! 飛ぉべぇぇッッ!!!!!」 一足飛びで騎兵に肉迫する蒼い肢体。 上空、騎士と魔導士の顔色が変わる。 今までとは違う動き、違うリズム。 何より互いに敬遠し合っていた相手が初めて呼吸を合わせたのだ。 無様に飛ばされた筈のライダーがそれを見越したかのように反応。 自在に空中で姿勢を変え、駆けつける槍兵に両足を向ける。 そしてランサーの飛び蹴りが突き出したライダーの足に炸裂! ライダーの身体がピストンで打ち出された弾丸のように暴発じみた速度で――打ち出されたっ! 「なっ!?」 爆発的な加速で射出された騎兵の髪が尾を引いて、流れ星のような軌跡を描く。 フェイトをも遥かに超えた速度にて、一瞬で相手の間合いを犯したライダーが獲物に組み付かんと迫る。 ニ敵を射抜く見事な軌道。 流石は投擲自慢の槍兵の射出と言わざるを得ない。 強力なサーヴァント達が初めてチームとして機能した結果だ! 改めて空の敵を射殺そうと放たれたあれこそ本当の紫電の煌き。 ライトニングの二人をして、相手の即興のコンビネーションは計算していなかった。 いなかったが故に―――回避が間に合わない! 「ぐ、あっ!?」 シグナム…!? うわぁ!?? 薄紫の髪をはためかせて空を切り裂く騎兵ミサイルがまずはシグナムに追突し、あっさりと吹き飛ばす。 高熱で形成される四枚の羽の一枚を難なくぶち砕かれ、バランスを崩して墜落する将。 必死でリカバーするが意識を持っていかれるほどの衝撃は彼女に瞬時の戦前復帰を許さない。 そしてシグナムを抜いた騎兵が真に狙うは―――― 「貴方ですよ。 フェイトッ!!」 ―――後方の司令塔フェイトテスタロッサハラオウンに他ならない! 敵のまさかのアクションに圧倒的に反応が遅れたのはフェイトも同じ。 直上へ回避しようとした魔導士が、あっ!?と息を呑んだ時には――― あの禍々しい縛鎖が自らの足首を捕らえた後だったのだ! ジャラリ、と右足に生じた感覚はまるで忌わしき毒蜘蛛の糸が足首に巻きついているかのよう。 罠にかかった猫の如く、ほとんど反射的に空中に舞い上がるフェイト。 (ここで撃墜されたら全てが台無しになる…!) バックアップを失った前衛では、あの速い相手を時間内に仕留められる確率は五分以下に落ち込んでしまう。 Last assault 5分経過 ――― 魔導士がライダーを振り剥がすべく、最大全速にて―――雲を突き抜け離陸した。 前 目次 次