約 24,297 件
https://w.atwiki.jp/hiroki2008/pages/73.html
機関のレポート 次の日、職場で受け取った書類の量はまじにハンパではなかった。古泉は三百ページはありそうなA4用紙の束をドンと机の上に置いた。 「十一年前の七月七日から、あなたに関する情報を抜粋したものです。これでも全体の十パーセント程度に減らしてあります」 古泉はこれ見よがしに前髪をさらりと跳ね上げ、 「フッ。オレっちはこれが仕事じゃけんのう……、ってイケメンの僕になにを言わせるんですか!」 まあ俺が頼んだことなんだが、似合ってるぞ広島弁。
https://w.atwiki.jp/hiroki2008/pages/70.html
ハルヒの無限ループの部分 古泉とハルヒのウエディングは後日別の話でまとめるので使われなかった部分 「恋愛は恋愛、フォロー役とは別です。あなたにはあなたの役割を担っていただかないと」 「むぅ……」 この野郎、ジョンスミスの名前を封印しろとまで言ったくせに都合のいいときだけ逃げを打つのか。歴史を書き換えてまで役を譲った俺の苦労はなんだったんだ。 「じゃあハルヒはいったいどうしたいんだ」 「この状況からして、涼宮さんは自分が花嫁じゃないことに不満なんじゃないでしょうか」 「ハルヒが長門に嫉妬してるってのか」 「いえ、そういう意味ではなくて“自分が花嫁衣装を着ていない”ことが不満なのではと」 自ら仕切るから任せろと言っておきながら自分が主役じゃないと気に入らないのか。まったくわがままなやつだな。 「それはもう、この披露宴なら誰でも主役になりたいものです」 「そうなんですか?朝比奈さん、喜緑さん」 「ええ」 「そうですね」 二人とも異口同音に同じ反応をした。 「ということはだ、古泉。もうやることは分かってんじゃないか」 「えっ、と申しますと?」 「ここでハルヒにプロポーズしちまえ」 墓穴を掘ったな古泉。お前が自らの理屈で自分の首を絞めることになろうとは笑いが止まらん。 「それはいくらなんでも無茶が過ぎると思いますが」 「んなこた分かってるさ。だがこのループを抜け出せる方法がそれ以外思いつかん」 「よそ様の披露宴でプロポーズなど聞いたことがありませんが」 「いいんだよ、ハルヒに前例なんて適応できるわけないだろ」 「いくらなんでも早すぎます、無茶ですよ……」 「俺に任せろ。ここからは俺が仕切る」 目が裏返ったかのような画面蒼白の古泉がブツブツとつぶやいていた。今までずっと無茶を通してきた俺にはもう怖いものなんてない。人生がすべて計画通りのお前とは違ってだな、行き当たりばったりの俺には定石なんてものは存在しないんだ。 俺は古泉にハルヒを押し付けようとして、古泉は役柄のおいしいところだけを引き受けようとする。二人とも相手に嫌な仕事をさせようとしているのが見え見えなのだが、まあ今までの半分くらい肩代わりさせてもバチは当たらんだろう。 「長門、唐突ですまんのだが」 「……心得た」 なにが必要かすでに分かってくれているらしい。 「……鉛筆」 なぜこんなもんが俺のポケットに入っているのか、虫でも知らせたんだろうかね。 「一本でいいか」 「……十分足りる。あと、貴金属」 「古泉、そのカフスボタンとタイピンをよこせ」 「これですか」 古泉が安物のアクセサリーを着けるわけはないし、たぶん金かプラチナだろう。 長門が詠唱すると鉛筆が宙に浮かび、印刷された部分が剥離し、木が二つに分離し、芯だけが残った。その芯が白熱化しキラキラと光る小さな粉になって螺旋を描いた。一瞬だけ光る球になって広がり、やがて小さくなって長門の手の上に降りた。キャラメルくらいの大きさの透明な石が乗っている。カフスボタンとネクタイピンを握り締めて手を開くとやたら豪勢なダイヤの指輪が現れた。 「な、長門。これはちょっと大きすぎるって。せめて一とか二カラットくらいにしてくれ」 「……そう」 「いいじゃありませんか、大きいことはいいことです」 「しかしこのサイズのダイヤの値段を知ったら目んたま飛び出すぞ」 「僕の涼宮さんはそれくらいじゃ驚きませんよ」 余裕かまして言ったなこの野郎。じゃあこれで行こうじゃないか。そのへんのセレブでも持てないようなカラット数のダイヤモンドでな。 俺はハルヒからヘッドセットを取り上げ、長門にキューサインを出し披露宴タイマーをリスタートした。 『れでは、アレ?』 「はなはだ異例だとは思いますが、ここで新郎より媒酌人へのサプライズがあります」 ふつうは両親への手紙とか友人一同からのプレゼントなんかがサプライズなのだが、祝い事だからまあこういうハプニングもありだろ。 「ハルヒと古泉、ちょっとステージに上がってくれないか」 「なんなのよこれは。ぜんぜん聞いてないわよ」 ハルヒがブツブツ言いながら着物の裾を気にしつつ歩いてきた。俺はマイクに向かってしゃべった。 「ハルヒに、古泉。お前達にはいろいろと世話になったが、今までこれといったお礼もしていない。だからこれは俺たち二人からのお返しだ」 俺は長門手作りのダイヤの指輪を古泉に渡した。 消失長門の思い出 三章が書かれる前に七章に存在していた断片 白い透き通るようなウエディングドレスをまとった長門の隣に、もうひとりの影が見えた。ぼんやりとかすんで、俺が涙目で姿がにじんで見えていたのかそれとも本当にそこにいたのか。メガネをかけた長門だった。目をこすってよく見ようとすると、そいつは俺を見て少しだけはにかんで、スッと消えた。ずっと前に、長門が世界を改変してしまったあとに生まれた人間の長門。あいつのことはずっと心のどこかで消化不良のままひっかかっていた。メガネの長門はあれからどうなったんだろう。もしかして向こうの世界はまだ存在していて、俺が消えたあと一人ぼっちで暮らしているんじゃなかろうか。そんな心残りがいつまでも漂っていた。 あのときの長門はお前の記憶の中にいるのか、それとも別の存在だったのか。それをこのヒューマノイドの長門に直接尋ねたことはなかった。 長門は怪訝な表情で俺を見ていた。 「……なに」 「い、いやなんでもない。古い知り合いがいたかと思ったんだが気のせいだった」 たぶん長門には分かっていたんだと思う。なにも言わなかったが、ただうなずいていた。
https://w.atwiki.jp/nagato3/pages/19.html
長編 * 長門有希との再会 長門有希との再会 2 長門有希との再会 3
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5050.html
第5章 幻想 彼が消え、要を失ったSOS団は空中分解した飛行機のようにバラバラになり、わたしは再び1人になった。とっくに下校時間は過ぎていたが、椅子に座わり机の上に顔を伏せて、自分でも驚くぐらい泣き続けた。泣けば少しは楽になるかと思ったが、まったく楽にはならなかった。この世界には希望がない。生きる目的も失った。わたしはどうすればいいのだろう。気がつけば辺りは暗く、学校にひとけはない。 時刻は3時10分前。世界改変からちょうど3日が経っていた。 『世界改変の3日後、同じ場所、同じ時間に同じ動作をしてほしい。再び世界改変をやる必要はない。マネだけでいい。そこで初めてあなたはこの改変の意味を知る』 未来のわたしはそう言った。その3日後がまさしく今だ。今頃、パラレルワールドにいるもう一人のわたしは校門前に立ち再改変の成功を祝っているのだろうか。わたしは部室から出て校門に向かう。もしかしたら、何か起こるかも知れないという淡い期待もあった。 校門前に立つ。音のない世界に舞い降りたのではないかと錯覚するほど、街はしんと静まりかえっている。3日前のわたしは何を思い改変を行ったのか。そう、彼が好きだった。彼に愛されたい、その一心だった。 無意味とわかっていたが、世界改変をした場所に立ち右手を挙げて呪文を唱えた――が何も起こらない。 当然だ。辺りは残酷なほど静かだった。 もう一度彼に会いたい。 その時、何もない闇の中から彼が現れた。物陰に隠れていたわけではない。本当に何もない空間から姿を現した。人間は何もないところから現れることはできない。何より彼はもうこの世界に来ることはできない。幻覚だとわかった。 「よう。俺だ。また会ったな」 幻覚の彼は声をかけ歩み寄った。ここ数日、わたしを驚愕させる出来事が立て続けに起こった。それはあまりに刺激的でわたしにエラー情報を蓄積させたのだろう。要するに疲れていたのだ。エラー情報の蓄積により異常動作が発生し、わたしに幻覚をもたらした。 幻の彼は言う。 「お前のしわざだったんだな」 彼はやりきれないような、悲しむような表情を浮かべた。 「やっぱりアッチのほうがいい。この世界はしっくりこねえな。すまない、長門。俺は今のお前じゃなくて、今までの長門が好きなんだ。元に戻してくれ。お前も元に戻ってくれ」 その言葉に押しつぶされそうだった。わたしはあなたに愛されたかった。愛して欲しかったのに彼はわたしを見ていなかった。なのに、なんで今更そんなことを言うのだろう。せめて改変する前にその言葉を聞きたかった。 「また一緒に部室でなんかやってようぜ。こんな要らない力を使って、無理矢理変わらなくていい。そのままでよかったんだよ」 わたしも元の世界に戻りたい。もう一度、元の世界に戻ってSOS団として部室で過ごしたい。涼宮ハルヒの元気な声も、古泉一樹の微笑も、朝比奈みくるのコスプレも何もかも懐かしく思える。世界改変を行ったことを後悔した。もし、もう一度やり直せるならわたしは絶対に世界改変なんてしない。でも、今それがわかってもどうすることもできなかった。 「すまん」 彼は突然謝り、ピストルをわたしに向けた。 この場で撃ち殺して欲しい。たとえこれが現実で、ここで死ねことになってもいっこうに構わない。今のわたしに生きる意味などあるのだろうか。 しかし、わたしの思いと裏腹に、彼は引き金を引くことに躊躇し、銃が震え、彼の顔が歪んだ。その表情はあまりにリアルで、わたしのこころをえぐった。 早く引き金を引いて欲しい。そう願っていたのに、わたしが撃たれる代わりに幻覚は体が凍り付くような恐ろしいものを見せつけた。彼が刺されたのだ。朝倉涼子に。彼の脇腹にナイフが刺さっていた。地獄絵だった。 殺人鬼と化した朝倉涼子はわたしが創り出した。気が変になりそうだった。 「ふふ」 朝倉涼子は不気味な笑みを浮かべ、わたしを見る。 「そうよ長門さん。わたしはちゃんとここにいるわよ。あなたを脅かす物はわたしが排除する。そのためにわたしはここにいるのだから。あなたがそう望んだんじゃないの。でしょう?」 違う! わたしはそんなこと望んでいない。やめて、お願いだからやめて! わたしはもがく。 しかし、幻覚は終わらない。 わたしの願いは届かず、朝倉は不敵な笑みを浮かべナイフを振り上げる。 「トドメをさすわ。死ねばいいのよ。あんたは長門さんを苦しめる。痛い? そうでしょうね。ゆっくり味わうがいいわ。それがあんたの感じる人生で最後の感覚だから」 お願い! 目を覚ませ! この悪夢から覚めろ! わたしは叫ぶ。 その時、 振り下ろされるはずのナイフはピタリと止まり、砂と化していく。 そこに立っていたのは『もう1人のわたし』だった。 「そんな……なぜ?あなたが望んだんじゃないの。どうして」 朝倉涼子は消えていった。 わたしの願いが通じたのだろうか。 しかし、彼はすでに致命傷を受け、みるみる顔色が悪くなっていく。その彼の体を朝比奈みくるが揺らす。そのうしろに朝比奈みくる(大)、そして、もう1人の彼。そしてわたし。いつしかわたしの目の前には多くの人がいた。わたしの機能停止も近いのだろうか。幻覚の世界は混沌として何がなんだかわからなくなってきた。 わたしに再び銃口が向けられる。銃を持っていたのは『もう1人のわたし』だった。 そしてなんのためらいもなく引き金を引いた。 しかし、弾が込められているわけではなく、わたしは傷つくことも、倒れることもなかった。幻覚だから当然だ、と考えるわたしにもう1人のわたしはこう言った。 『目を覚ませ。これは幻覚ではない。あなたは元の世界に帰還した』 わたしは驚き、辺りを見直す。意識を失い倒れている彼。わたしを見るもう1人の彼。健やかに眠る朝比奈みくる。すこし緊張した面持ちで様子を見守る朝比奈みくる(大)。 すべてが幻覚ではなく現実のように見えた。幻覚ではない? 元の世界に帰還? そんなことはできるはずがない。しかし、この状況は…… わたしには訳がわからなかった。 「同期を求める」 「断る」 わたしは今置かれている状況が理解できない。次に何を行動すべきかもわからない。 「なぜ」 「したくないから」 「情報統合思念体の存在を感知できない」 「ここにはいない。わたしはわたしが現存した時空間の彼らと接続している。再改変はわたし主導で行う」 再改変? やはりわたしは今、再改変の現場にいるのだろうか。しかし、どうやって。 元の世界に戻れることを心から望んだ。しかし、なんの前触れもなく、いきなり戻りましたと言われても混乱するだけだ。やはり幻覚なのだろうか。そんなわたしの困惑をよそに『もう1人のわたし』は、続けて言う。 「再改変を行う。再改変後、あなたはあなたが思う行動をとれ」 わたしが思う行動??何をどうすれば?などと考えている暇もなく、時空が歪み世界が暗転し、地球上の元素構成が書き変わっていった。 世界再改変が行われた。 ◇◇◇◇ 救急車のサイレン。 階段から落ちた彼が搬送される。 それを傍らで見守るわたし。 12月18日早朝、世界改変および再改変が発生。その日の午後、彼が階段から転落。救急車で運ばれ、現在病院で入院中。偽りの記憶が刷り込まれていた。 目が醒めるとそこは、マンションの一室だった。明かりはついておらず、暗闇が広がるリビングの真ん中にわたしは座っていた。元の世界に帰って来られた。しかし、わたしが元の世界に戻ることができた理由は何一つわからなかった。 『パーソナルネーム、長門有希。連絡事項がある』 情報統合思念体からの連絡。 『情報統合思念体の存在を抹消した罪に処分を下す。重大な罪のため処分内容を主流派だけで決定することはできない。処分内容は現在協議中。追って連絡する。それまでマンションを空間閉鎖する。その場で謹慎せよ』 わたしは覚悟した。おそらくわたしが再び観察者として活動することはできないだろう。情報統合思念体を抹殺したのだ。それは避けられない。 でも…… 再改変後、あなたはあなたが思う行動をとれ わたしの言葉がよみがえる。わたしにはやらなければならないことがある。処分が下りこの世界からいなくなる前にどうしてもしなくてはいけないこと。 一言でいい。彼に謝りたい。 わたしは情報統合思念体の命令を無視して玄関に向かう。玄関の扉は厳重に空間閉鎖されており外に出られないことは自明だった。それでも、冷静さを失ったわたしは扉を引っ張った。お願い。開いて。力一杯扉を引くが扉はびくともしない。 ねえ、お願いだか開いてよ。わたしは扉に向かって叫んだ。外気に接し冷えきった扉はわたしの叫びに耳を貸すことなく前に立ちはだかった。それでも扉を引っ張った。何度も、何度も引っ張った。 その時、 ガチャ 光が射す。 そして光は人影を映した。扉の向こうに喜緑江美里が立っていた。 「長門さん。今は事情を話す暇はありません。今すべきことは、あなたが一番よくわかっているはずです。こうしているうちに主流派の刺客が来ます。とにかく急いでください」 わたしは彼女の言葉に甘え、走り出した。 わたしは彼のいる病院に向かった。面会時間はゆうに過ぎていたが、幸い彼の病室が個室だったので誰にも見つかることはなさそうだ。 ドアを開けると、待ち構えていたかのように彼はわたしを見ている。ついさっきまで一緒にいたのだが、久しぶりに会う懐かしさを感じた。しかし、今は感傷に浸っている場合ではない。わたしは端的に言った。 「すべての責任はわたしにある」 彼は優しい眼差しでわたしを見た。 「ごめんなさい」 謝るわたしに 「脱出プログラムを残してくれただろ。充分だよ」 彼は怒るどころか、微笑み、礼をした。 そんな彼の顔を見るのもこれが最後になるだろう。 「わたしの処分が検討されている」 「誰が検討してるんだ?」 彼は一転鋭い目付きでわたしを睨んだ。 「情報統合思念体」 「くそったれと伝えろ」 彼は手を伸ばし、わたしの手を取った。 「お前の親玉に言ってくれ。お前が消えるなり居なくなるなりしたら、いいか?俺は暴れるぞ。何としてでもお前を取り戻しに行く。俺には何の能もないが、ハルヒをたきつけることくらいはできるんだ。そのための切り札を俺は持っている。ただ一言、『俺はジョン・スミスだ』と言ってやるだけでいいんだ。ああ、そうとも。俺にはヘチマ並みの力しかないとも。しかしハルヒには唐変木な力がある。お前が消えちまったら一切合切をあいつに明かしてすべてを信じさせてやる。それから長門探しの旅に出る。長門の親玉が何をして長門をどこに隠そうが消し去ろうが、ハルヒなら何とかする。俺がさせる。ついでに古泉と朝比奈さんも巻き込んでやろうじゃないか。宇宙のどこにいるのかも解らん情報意識体なんぞ知ったことか。んなもんどうでもいい。お前は俺たちの仲間だ」 彼はわたしを強く見据え続ける。 「つべこべぬかすなら今度こそ世界を作り変えてやる。あの三日間みたいに、お前はいるが情報統合思念体なんぞはいない世界をな。さぞかし失望するだろうぜ。何が観察対象だ。知るか」 彼は怒り、そしてわたしの手をさらに強く握りしめた。彼の言葉には流れ出す強い力があり、彼の手からは暖かさが伝わった。 「伝える」 わたしは多くの時間、彼と行動を共にしてきた。彼のことはなんでも知っているつもりだった。しかし、これほど激しく怒る彼を見たことはない。このときほど彼が頼もしく思えたことはないし、いとおしく思ったことはない。わたしは本当に嬉しかった。わたしは感謝の気持ちをめいいっぱい込めて、言った。 「ありがとう」 わたしの言葉を聞いた彼は優しく手を握り直して微笑んだ。 12月22日。真っ青な空。大地を照らす太陽。すべてがすがすがしかった。 わたしは学校に向かっている。 昨日、彼と別れた後、情報統合思念体から処分が下された。その内容は、 『引き続き涼宮ハルヒの観察を続行』 情報統合思念体の存在を消し、さらには謹慎の命を破り彼に接触したわたしに処分が下されなかった理由は1つ。彼の言葉がわたしを護ってくれたから。彼には感謝してもしきれない。 放課後、わたしは1人部室で本を読んだ。SOS団の部室で。 突然、扉が開いた。 「涼宮さんは?」 喜緑江美里だった。 「今、彼のお見舞いに行っている。今日の活動は休み」 「そう。あなたは行かないの?」 「行くつもりはない」 「冷たいのね」 喜緑江美里は笑みを浮かべそう言ってから、部屋の隅にあるパイプ椅子を広げ、そこに座った。 「お疲れさま」 「ありがとう」 「どういたしまして」 わたしと喜緑江美里は、互いに笑いあった。 「でも、どうして、あなたがわたしを助けてくれるのかがわからない」 「今日はその話できました。過去のあなたが世界改変を実施するように促す必要があります」 「過去のわたしには世界改変をしてほしくない」 「世界改変は必要です。穏健派にとっても、あなたにとっても」 「どういうこと」 「世界改変をしたことで、あなたはSOS団を守ったから。あなたは知らないでしょうが、情報統合思念体の中で急進派の主張が勢いづいていました。観察対象涼宮ハルヒの情報創造能力が弱まっています。そのことに業を煮やした主流派は急進派と組み、新たな情報爆発を人為的に発生させることを考えたんです。計画は11月ごろから進められました。長門さんはエラーが蓄積し、計画の妨害を行う可能性があるため、計画を隠すようにしろと言われていました。わたしたち穏健派はこの計画に反対でした。しかし、情報統合思念体の大勢が賛成に回り、意見を覆すことはできませんでした。そこでわたしたち穏健派はあなたに賭けることにしました」 「わたしは何をすれば」 「何もする必要はありません。すべて済みましたから。主流派の計画は中止です。なぜだか分かりますか?彼の言葉です。『彼』の言葉によって、このまま計画を進め、SOS団に危害を加えれば涼宮ハルヒが自らの能力を自覚し、情報統合思念体と敵対する危険性があるという意見が大勢を占め計画は中止になりました。つまり、SOS団を護るために、彼の言葉を引き出す必要があり、そのためには、世界改変が不可欠だったんです」 「世界改変をしなくても彼に直接事情を話せば済む」 「それはできません。彼に情報統合思念体がSOS団に危害を加えようとしていると伝えると、情報統合思念体とSOS団に対立関係を生む可能性があります。ですからあなたには世界改変をやってもらわなければなりませんでした」 そんなことが起こっていたなんて全く知らなかった。以前、古泉一樹が言っていた情報統合思念体の活動が活発になっているという情報はこのことを示していたのか。とにかく、わたしがこれからもSOS団の団員として活動できることは何より嬉しかった。 しかし、ただ喜んでいるわけにはいかない。わたしには解明しなければいけない難問がある。 「あなたに聞きたいことがある。私が改変された世界からこの世界に戻って来られたこともあなたが関係しているのか」 「どういうことかしら?」 わたしはこの4日間の出来事、すべてを話した。 喜緑江美里はしばらく考え 「私はその件に関しては何も把握していません。長門さんの話から推測すれば、脱出プログラム動作後に何者かの力によって3日前に時間遡航したと考えるのが妥当ですが」 「それはない。何者かが時間操作をしたならば気がつくはず。そのような形跡は全くなかった。それにその世界ではタイムマシンは存在しないはず。時間遡航は不可能」 「困りましたね。何かヒントがあればいいのですけど」 その言葉がどこか突っ掛かるような気がした。何か大切なことを忘れているような…… 結局答えは出ず、喜緑江美里は帰って行った。 わたしは、いつものように金魚にえさをやろうとしてえさが空箱になっていることに気付いた。そう言えば餌を買うのを忘れていた……ん?何かがおかしい。えさが無くなったのは、改変された世界のことでこの世界ではない。たしか世界改変前には、少しは残っていたはずだ。 まさか……わたしは部屋の隅に積んである本を持ち上げた。 そこにはこの世界に存在するはずのないものがあった。 やはり。そういうことか。 でも、どうやって? 『何かヒントがあればいいのですけど』 喜緑江美里の言葉をふいに思い出す。 ヒント……? そうか。わたしはとんでもないミスをしていた。あんな重要なことを忘れるなんて。 世界改変前、未来のわたしはこう言っていた。 『もし、困った事態に直面したら、彼とはじめて出会ったときのことを思い出して 欲しい。彼に対して行ったこと、それが鍵になる』 どうして今まで気づかなかったのか。これは明らかに未来のわたしからのメッセージだ。彼とはじめて出会ったときのこと。思い出すも何も、今でもはっきり覚えている。彼とはじめて会ったのは今から3年前の7月7日。彼は朝比奈みくると一緒にわたしの住むマンションに訪ねてきた。そのとき、彼に対して行ったこと。 そうか。そういうことだったのか。欠けていた最後のピースがパチリとはまった。 なぜ、わたしが元の世界に帰って来られたのか。 なぜ、朝倉涼子を復活させる必要があったのか。 なぜ、脱出プログラムの期限が3日以内だったのか。 なぜ、彼が階段から転落し入院するという偽の記憶が創られたのか。 すべての謎が1本の線に繋がった。 そして、わたしが何をすべきかも解った。彼と世界改変の現場に行き、やらなければならない。彼も朝比奈みくるも。過去のわたしをも欺く世界再改変を。 第6章につづく
https://w.atwiki.jp/777townforandroid/pages/1652.html
デザイン 機種 フィーバー涼宮ハルヒの憂鬱 アニメーション あり スキル効果 精算時に使用すると35,000発以上で勲章が獲得できる 消費SP 30 入手方法 2016/10/27(木) 16 00~2016/11/4(金) 14 59開催のハルヒイベント チーム戦上位入賞 LvMAX経験値 ? 限界突破素材 限界突破先 限界突破元 備考
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2997.html
The ecstasy of Yuki Nagato 長門の夢を見た。ほっそりとしたお姫様の格好をした長門が白いドレスを着て、悪の帝王に捕まっていた。 「悪の帝王、ユキ姫を返せ!」 「キッヒヒヒ。欲しかったら力ずくで取り返してみなさい」 「おう!望むところだ」 俺は蛍光灯のように光るサーベルをブンブンと振り回して、ハルヒ扮する悪の帝王を倒した。 「ユキ姫、俺とケッコンしてくれ」 「……それは、できない」 「なんでだよ。ほかに好きな男がいるのか」 「……わたしは、あなたの妹」 まさかそんな。今になってそれはないだろう。 長門の顔が妹の顔とダブった。 「キョン君、早く起きて」 昨日ハルヒがあんなことをやらせるから悪いんだ。俺はブツブツ言いながらベットから這いずり出た。おかげで学校に遅刻してしまった。 気が付くと、いつのまにか四限が終わっていた。授業中の記憶がない。俺はカバンから弁当を取り出したが、これまた食欲もない。箸がなかなか進まなかった。メシの味がしない。 「キョン、あんた熱でもあんの?」 ハルヒが俺の額に触れた。 「いや、なんでだ?」 「今日はずっとぼーっとしてるし、あ。」 ハルヒがニヤリと笑った。 「なんだよ」 「あんた、有希のこと考えてんでしょ」 な、なんで分かったんだ。 「図星でしょ。目を見てれば分かるわよ。トロンとして、どこを見るでもなく焦点が合ってないもの。ときどき思い出し笑いするし」 そこまで見られてたのか。うかつだった。 「実は今朝、夢を見たんだが」 悪の帝王から長門を救い出したことを話すと、ハルヒは腹を抱えて笑った。 「あんた、ヒーロー願望があんのね」 「お前が映画のロケなんかさせるからだ」 「キッヒヒヒ。夢も正夢ね。この映画、当たりそうだわっ」 思えばあのドレス、似合ってたよなあ。俺はまた夢の世界に逃避していた。 「あーもう、見てらんないわね。ほら、二人で映画にでも行ってきなさい」 ハルヒはぷいと横を向いたまま映画のチケットを二枚押し付けた。こいつもたまには気が効くな。 「さ、サンキュ。週末にでも行ってくるわ」 「週末じゃなくて今から行くの!」 「まだ授業があんだろ」 「愛のためならそれくらいさぼりなさい。いい?デートの基本はお忍びよ」 その割には、こっそり跡をつけられたりしてるがな。 教室のドアがガラリと開いて長門が顔を出した。カバンを肩にかけている。 「……準備、できた」 「って、お前ら二人で勝手に決めてたのかよ」 「いいじゃないの。たまにはこういうのもいいものよ」 ハルヒはクラス委員長と保健委員を呼んだ。 「委員長、熱病により早退一名様ご案内~」 人をマラリアみたいに言うな。しょうがないな、行ってくるか。どうせ授業も身に入らないし。俺が食いかけた弁当にフタをしようとすると、ハルヒが指差した。 「キョン、その弁当食べないならよこしなさい」 そんなわけで、今日は長門と仲良く下校、じゃなくて人目を忍んでさぼりだ。 「手……つなぐ」 今日はじめて長門がそう言った。 「そ、そうか」 俺は長門の左手を取った。こいつが積極的に俺の手を取るのは、これはいい兆候かもしれんな。 俺は、そろそろ本格的な恋愛の段階に進めてもいいんじゃないかと、そんな気になっていた。しかし俺は熱病のせいか相手がアンドロイドであることをすっかり忘れていた。それが思わぬアクシデントを招くことになったのだが。 坂道を下る途中、二人とも会話がなかった。今日は突然だったんで心の準備もなかった。 「今日、ずっとぼーっとしててな。実は今朝、お前の夢を見たんだが」 「……どんな夢?」 俺はまた悪の帝王の話をした。帝王を倒して長門をかかえて逃げるシーンはちょっと脚色した。英雄になる気分はいいもんだ。 「……あなたには、英雄の資質がある」 「そ、そうかな」 長門は微笑を浮かべた。俺は急激に、なんとなくだがヒーローになれそうな気になった。単純なやつだな。 長門は私服に着替えるというのでマンションに寄った。デートだから衣装は別なのだそうだ。俺は制服のままでいい。 長門は和室でごそごそと着替えていた。気のせいか、長門の衣装のバリエーションがだいぶ増えた気がする。もうひとつの部屋は衣裳部屋になっていた。 お姫様ドレスとはいかないが、白いブラウスに、ギャザーの入った膝下くらいのスカートに身を包んでいた。俺は夢に出てきたシーンを妄想した。 「それ、すごく似合うと思う」 「……そう」 髪にブラシをかけ、軽く化粧をしていた。ピンクの口紅を薄く塗った。口紅を塗る長門を見るのははじめてだった。俺はツヤのある長門の唇を見て、はあぁと切ないため息をついた。女ってのはこうやって変わっていくよなぁ。 デートスタイルになった長門は、もう完璧に美人だった。これで町を歩けば、道行く野郎共が振り返って見るだろう。 「俺だけ制服って、なんだかバランス悪いよな」 「……」 長門は衣裳部屋に引っ込み、紺のジャケットを持ってきた。 「……これ、着て」 「俺のために?」 「……わたしのを、今修正した」 なるほど、早いな。最近は裁縫もやるのか。 俺は金ボタンのジャケットを羽織った。型もサイズもちょうどいい。ネクタイを外して、洗面所の鏡の前で長門と並んでみた。 「こうして二人で立っていると、まるで……デートみたいだな」 何言ってんだろうね俺は。 二人でマンションを出た。長門は俺の腕を取って歩いた。俺が言うのもなんだが、ときどき建物のガラスに映る二人は実によく似合っていた。 今日は気分を変えて、いつもとは逆の西行きの電車に乗り換えることにした。もしかしたらハルヒと古泉に付けられてるかもしれん。映画のチケットを見ると、某ターミネーターだった。とうとうパート四が出たらしい。ハルヒのやつ、俺たちにSF映画を見せて役作りでもしろっていうんだろうか。 一時間半ばかし映画を見てから、二人で繁華街を歩いた。 「映画どうだった?」 長門は少し考え込んでいた。 曰く、「……あれは流体力学的に無理がある」 液体金属でも熱交換や質量を無視できない、らしい。液体の場合、固体より遠心力や制動力の影響を受けやすい。形を変えずにふつーに走り回るのはありえない、らしい。液体の分子同士が結束力を維持しようとすると摩擦熱が生じる、んだとかなんだとか。物理の点数が悪い俺にはちょっと難しい話だ。 「ちょっと早いけど、晩飯食うか」 「……そう」 ファミレスに入ると、家族連れで溢れ返っていた。俺は順番待ちリストに名前を書いて、長門をベンチに座らせた。 長門は無邪気にはしゃぐ子供を見ていた。長門の家族の付き合いってどんなもんだろうか。姉がいるのは知っているが、情報統合思念体はあんまり家族の団欒とは縁がなさそうだ。長門には子供の時代というのがないんだろうな。 名前を呼ばれて席に案内された。バイキングメニューで好きなだけ選んでいいぞと言うと、長門は喜びいさんで皿を山盛りにしてきた。わしわしと食べる長門を見てると、なんだかこちらまで幸せになる。 「バイキングだからどんどんおかわりしていいんだぞ」 しかし、よく食べる。食ったものが核融合反応炉にでも放り込まれてる感じだ。 俺はふと考えた。長門がもしターミネーターみたいなやつだったら、それでも好きになってただろうかと。ナノマシン集合、液体金属ロボットみたいな長門有希。時に応じて床を這いまわったり、壁と同化して消えてしまったり。 もしかしたら長門も変身できるのかもしれないなと、その顔を眺めていた。 「……なに」 「長門は体の構造を変えるなんてできるのかな」 「……構成情報を書き換えることはできる。だが実体化後、固形として安定するのに時間を要する」 なるほど。つまり化粧のノリが悪いってことか。 「わたしも分子構造の再編の時期が来ている」 「というと?」 「今のわたしは十五歳仕様。近いうちに十八歳に変更しなければならない」 「そ……そうなのか。十八歳仕様ってどうなるんだ?」 「……身長、体重を追加。体系を若干変更」 ちょっとだけ大人になる長門か。想像して萌えた。 もくもくとサラダを食う長門の唇を見ていた。いい形をしている。長門のデザインはいったい誰の趣味なのだろう? 「長門は甘いもの好きなのかな?」 「糖分の過剰摂取はわたしの体に変調を来たす。でも、好き」 ミニケーキをほお張る長門を眺めた。その辺はやっぱりふつーの女の子だよな。バイキングはたいてい味付けが濃くしてあって、そうそう食えるもんでもないんだが、長門の食欲は止まらなかった。 気が付くと、トレーがあらかた空になっていた。 「な……長門、店長が青い顔してるから、もうそのへんで」 すいません、店長。正直これ、止まりません。食欲を……持て余す。 そのまま帰るのももったいない気がしたので、海岸の公園を散歩することにした。 長門の色白の肌に水面から反射する夕日が当たって、それはもう、いい絵になっていた。また手を繋いで、そろそろと歩いた。 いい雰囲気だったんで、俺も魔が刺したのだろう。というか前からチャンスをうかがってはいたんだけど。 「長門、キスしてもいいかな?」 手すりにもたれたまま、長門を横目で見ながら聞いた。 「……」 無言だった。 「もし、嫌ならそう言っていいから」 俺はできるだけ平静を装って言った。しかし、俺の血中アドレナリン値が急上昇していたことを、長門には悟られていたに違いない。 「……したことがない」 そうか、そうだよな。 「じゃあ、目を閉じて」 俺が長門を階段の一段上に立たせて抱き寄せると、細い手がおずおずと俺の肩をつかんだ。それから長門の頬を両手でそっと包んで、唇を近づけた。形のいい、淡いピンク色の唇に触れた。 その瞬間、これがアンドロイドの唇だろうかと思うくらい暖かく、柔らかい感触を味わった。すべての音が消え、風も、波も、飛ぶ鳥も、超低速再生のビデオのようにゆっくりに感じた。永遠に近いこの数秒間が、すべての宇宙時間より勝っていると俺は思った。 唇をゆっくりと離して、もう目を開けてもいいぞと言おうとした。きっと長門の頬はピンクに染まってるに違いない。 ところがである。長門の様子がおかしい。 「……この情報は、……負荷が……」 長門は途切れ途切れに呟いた。ガクガクと体を痙攣させ、目を見開いたまま俺の腕に倒れこんだ。 「長門!おい長門!どうした!」 いったい何が起こったんだ!? 痙攣は治まったが長門は気を失って倒れた。俺は力の抜けた長門の体を必死で支えて、とりあえずベンチに寝かせ、近くの水道でハンカチを塗らしてきた。 額がものすごく熱い。前にも同じようなことがあったぞ、ええと、あれは雪山の山荘でだ。あのとき長門はなんて言った?この空間はわたしに負荷をかける、そう言った。医者を呼ぶか、いやアンドロイドを医者に見せるのはまずいだろ。あのときはクイズを解いたんだった。長門、これもクイズなのか。ええいくそ、落ち着け俺。誰か、アンドロイドの病気に詳しい人は。 そのとき、俺は以前にも助けてもらったもうひとりのアンドロイドの顔を思い出した。携帯を取り出して、ああ、あった。喜緑江美里さん。手が震えて通話ボタンがなかなか押せない。 「もしもし、キョンです」 「何があったんですか。すぐ行きます、場所を教えてください」 喜緑さんはいつでも前置きがなくて助かる。俺は正確な場所を伝えた。ベンチに腰掛け、長門の頭を膝の上に置いた。 「長門がんばれ、もうすぐ喜緑さんが助けに来るからな」 話し掛けてはみるが、瞳孔が開いたまま、いっこうに反応がない。 「長門、俺を置いて死んだりしねーよな」 なんだか泣けてきた。それでも喜緑さんなら、喜緑さんならきっとなんとかしてくれる。 公園の端にタクシーが止まった。ドアが開いて喜緑さんが出てきた。 「喜緑さん!こっちです」俺は手を振って叫んだ。 「何があったんです?」 「ええと、実は長門とは以前から付き合ってて、今日はデートだったんです」 俺は映画を見て、ふつーにご飯を食べ、海沿いを散歩していたことを話した。 「それだけですか?」 「ええと……実はキスをしたらいきなり痙攣して倒れてしまって」 「なんてことしたんですか!」 俺は反射的にスイマセンと謝った。 喜緑さんは地面に膝をついて、長門の額に手を当てた。 「機能不全を起こしています」 じっと目を閉じ、長門の頭の中を探っているようだった。 「十七時十二分四十秒付近で膨大な量のエラーが記録されています」 「ちょうどその時間だと思います」 「一秒間に一万二千件ものエラーを出すなんて、あなたいったいどんなキスをしたんですか!」 「あの、ふつーにテレビのメロドラマにあるような軽いやつで。けして舌をからませたり吸い込んだりしたわけじゃなくて」 なんて露骨な説明してんだ俺は。 「長門さんはこういう処理系に適してないんです。つまり人間の言葉でいうと、ウブなんです」 「そうだったんですか」処理系って何だろう? 「神経系統に数アンペアの電流が走ったためナノマシンが死んでいます。あなたも感電するところでしたよ」 喜緑さんは長門の腕を軽く噛んだ。俺もこれ、何度か経験したことがある。ナノマシンの注入だ。長門がゆっくりと目を開けた。まず喜緑さんを見て、それから俺を見た。 「気が付いたか」 「……」 「長門さん、過負荷ですよ。あなたのログは修復しておきました。エラーはとりあえず圧縮して別領域に保管してあります」 「大丈夫か長門。俺が分かるか?」 長門は終始無言だった。とはいっても、喜緑さんとは特殊な言語で通信していたのかもしれないが。 「長門さんも、自分に適していない処理があることくらい分かっているでしょう」 長門はひとことだけ呟いた。 「……夢を、見ていた」 「キョン君、長門さんにあまり強烈な刺激を与えないでくださいね」 「ほんとにほんとに、すいませんでした」 ペコペコと謝る俺はまるで医者に怒られる不摂生な患者のようだった。 「それから、これ。あなたに渡しておきますから」 喜緑さんはハードコンタクトレンズの容器のような、直径二センチくらいの小さな瓶をくれた。振ってみると、水色の液体が入っている。 「これ、何ですか」 「液状のナノマシンが入っています。もしものときはこれを人肌くらいに暖めて飲ませてください」 「分かりました。ありがとうございます」 喜緑さんには何度も何度も、十回くらい頭を下げてから帰ってもらった。往復のタクシー代だけは受け取ってもらった。 「長門、ごめんな。まさか気絶するとは思わなくてな」 ベンチから起こそうとしたが、長門が俺の腕を抑えた。 「……しばらく、このままがいい」 俺は座って長門に膝枕をしてやった。火照った頬をゆっくりとなでた。 記録によれば、長門が気を失った後に数秒間だけ記憶が残っていたらしい。こいつにしては永遠に近い時間とのことだが。 「……あの数秒は、夢のようなもの」 「どんな夢を見たんだ?」 「よく分からない。綿が連なるように白いものが降っていた」 「雪か」 「……たぶん、そう。わたしが地球上に降りてきたとき、見たものがそれだった」 「お前が書いた詩にもあったな」 「……そう。それが、わたしの名前になった」 膝の上が暖かい。長門の頬が薄くピンクに染まっていた。二人で無言のまま、しばらく星を眺めた。 「そろそろ帰ろうか。俺は家に帰って心臓発作でも起こすことにするよ」 あとで長門がこっそり耳打ちしてくれたことだが、あの電流が走るような感覚は心地よかったと言った。視界がホワイトアウトする瞬間に、温かいなにかに包まれている感じがしたのだという。 それはいいが、あんまり何度も気絶されると俺の身が持たん。次は喜緑さんが三体くらい現れて、俺は首を締め上げられるだろう。 それでも、長門のぽわんとした夢うつつのような表情を見ていると、結果よかったのかもしれないなと俺は思った。 END 目次へ 脚注:キスシーンの断片を同じタイトルで長門朝倉スレに貼ったことがあります
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4733.html
第5章 幻想 彼が消え、要を失ったSOS団は空中分解した飛行機のようにバラバラになり、わたしは再び1人になった。とっくに下校時間は過ぎていたが、椅子に座わり机の上に顔を伏せて、自分でも驚くぐらい泣き続けた。泣けば少しは楽になるかと思ったが、まったく楽にはならなかった。この世界には希望がない。生きる目的も失った。わたしはどうすればいいのだろう。気がつけば辺りは暗く、学校にひとけはない。 時刻は3時10分前。世界改変からちょうど3日が経っていた。 『世界改変の3日後、同じ場所、同じ時間に同じ動作をしてほしい。再び世界改変をやる必要はない。マネだけでいい。そこで初めてあなたはこの改変の意味を知る』 未来のわたしはそう言った。その3日後がまさしく今だ。今頃、パラレルワールドにいるもう一人のわたしは校門前に立ち再改変の成功を祝っているのだろうか。わたしは部室から出て校門に向かう。もしかしたら、何か起こるかも知れないという淡い期待もあった。 校門前に立つ。音のない世界に舞い降りたのではないかと錯覚するほど、街はしんと静まりかえっている。3日前のわたしは何を思い改変を行ったのか。そう、彼が好きだった。彼に愛されたい、その一心だった。 無意味とわかっていたが、世界改変をした場所に立ち右手を挙げて呪文を唱えた――が何も起こらない。 当然だ。辺りは残酷なほど静かだった。 もう一度彼に会いたい。 その時、何もない闇の中から彼が現れた。物陰に隠れていたわけではない。本当に何もない空間から姿を現した。人間は何もないところから現れることはできない。何より彼はもうこの世界に来ることはできない。幻覚だとわかった。 「よう。俺だ。また会ったな」 幻覚の彼は声をかけ歩み寄った。ここ数日、わたしを驚愕させる出来事が立て続けに起こった。それはあまりに刺激的でわたしにエラー情報を蓄積させたのだろう。要するに疲れていたのだ。エラー情報の蓄積により異常動作が発生し、わたしに幻覚をもたらした。 幻の彼は言う。 「お前のしわざだったんだな」 彼はやりきれないような、悲しむような表情を浮かべた。 「やっぱりアッチのほうがいい。この世界はしっくりこねえな。すまない、長門。俺は今のお前じゃなくて、今までの長門が好きなんだ。元に戻してくれ。お前も元に戻ってくれ」 その言葉に押しつぶされそうだった。わたしはあなたに愛されたかった。愛して欲しかったのに彼はわたしを見ていなかった。なのに、なんで今更そんなことを言うのだろう。せめて改変する前にその言葉を聞きたかった。 「また一緒に部室でなんかやってようぜ。こんな要らない力を使って、無理矢理変わらなくていい。そのままでよかったんだよ」 わたしも元の世界に戻りたい。もう一度、元の世界に戻ってSOS団として部室で過ごしたい。涼宮ハルヒの元気な声も、古泉一樹の微笑も、朝比奈みくるのコスプレも何もかも懐かしく思える。世界改変を行ったことを後悔した。もし、もう一度やり直せるならわたしは絶対に世界改変なんてしない。でも、今それがわかってもどうすることもできなかった。 「すまん」 彼は突然謝り、ピストルをわたしに向けた。 この場で撃ち殺して欲しい。たとえこれが現実で、ここで死ねことになってもいっこうに構わない。今のわたしに生きる意味などあるのだろうか。 しかし、わたしの思いと裏腹に、彼は引き金を引くことに躊躇し、銃が震え、彼の顔が歪んだ。その表情はあまりにリアルで、わたしのこころをえぐった。 早く引き金を引いて欲しい。そう願っていたのに、わたしが撃たれる代わりに幻覚は体が凍り付くような恐ろしいものを見せつけた。彼が刺されたのだ。朝倉涼子に。彼の脇腹にナイフが刺さっていた。地獄絵だった。 殺人鬼と化した朝倉涼子はわたしが創り出した。気が変になりそうだった。 「ふふ」 朝倉涼子は不気味な笑みを浮かべ、わたしを見る。 「そうよ長門さん。わたしはちゃんとここにいるわよ。あなたを脅かす物はわたしが排除する。そのためにわたしはここにいるのだから。あなたがそう望んだんじゃないの。でしょう?」 違う! わたしはそんなこと望んでいない。やめて、お願いだからやめて! わたしはもがく。 しかし、幻覚は終わらない。 わたしの願いは届かず、朝倉は不敵な笑みを浮かべナイフを振り上げる。 「トドメをさすわ。死ねばいいのよ。あんたは長門さんを苦しめる。痛い? そうでしょうね。ゆっくり味わうがいいわ。それがあんたの感じる人生で最後の感覚だから」 お願い! 目を覚ませ! この悪夢から覚めろ! わたしは叫ぶ。 その時、 振り下ろされるはずのナイフはピタリと止まり、砂と化していく。 そこに立っていたのは『もう1人のわたし』だった。 「そんな……なぜ?あなたが望んだんじゃないの。どうして」 朝倉涼子は消えていった。 わたしの願いが通じたのだろうか。 しかし、彼はすでに致命傷を受け、みるみる顔色が悪くなっていく。その彼の体を朝比奈みくるが揺らす。そのうしろに朝比奈みくる(大)、そして、もう1人の彼。そしてわたし。いつしかわたしの目の前には多くの人がいた。わたしの機能停止も近いのだろうか。幻覚の世界は混沌として何がなんだかわからなくなってきた。 わたしに再び銃口が向けられる。銃を持っていたのは『もう1人のわたし』だった。 そしてなんのためらいもなく引き金を引いた。 しかし、弾が込められているわけではなく、わたしは傷つくことも、倒れることもなかった。幻覚だから当然だ、と考えるわたしにもう1人のわたしはこう言った。 『目を覚ませ。これは幻覚ではない。あなたは元の世界に帰還した』 わたしは驚き、辺りを見直す。意識を失い倒れている彼。わたしを見るもう1人の彼。健やかに眠る朝比奈みくる。すこし緊張した面持ちで様子を見守る朝比奈みくる(大)。 すべてが幻覚ではなく現実のように見えた。幻覚ではない? 元の世界に帰還? そんなことはできるはずがない。しかし、この状況は…… わたしには訳がわからなかった。 「同期を求める」 「断る」 わたしは今置かれている状況が理解できない。次に何を行動すべきかもわからない。 「なぜ」 「したくないから」 「情報統合思念体の存在を感知できない」 「ここにはいない。わたしはわたしが現存した時空間の彼らと接続している。再改変はわたし主導で行う」 再改変? やはりわたしは今、再改変の現場にいるのだろうか。しかし、どうやって。 元の世界に戻れることを心から望んだ。しかし、なんの前触れもなく、いきなり戻りましたと言われても混乱するだけだ。やはり幻覚なのだろうか。そんなわたしの困惑をよそに『もう1人のわたし』は、続けて言う。 「再改変を行う。再改変後、あなたはあなたが思う行動をとれ」 わたしが思う行動??何をどうすれば?などと考えている暇もなく、時空が歪み世界が暗転し、地球上の元素構成が書き変わっていった。 世界再改変が行われた。 ◇◇◇◇ 救急車のサイレン。 階段から落ちた彼が搬送される。 それを傍らで見守るわたし。 12月18日早朝、世界改変および再改変が発生。その日の午後、彼が階段から転落。救急車で運ばれ、現在病院で入院中。偽りの記憶が刷り込まれていた。 目が醒めるとそこは、マンションの一室だった。明かりはついておらず、暗闇が広がるリビングの真ん中にわたしは座っていた。元の世界に帰って来られた。しかし、わたしが元の世界に戻ることができた理由は何一つわからなかった。 『パーソナルネーム、長門有希。連絡事項がある』 情報統合思念体からの連絡。 『情報統合思念体の存在を抹消した罪に処分を下す。重大な罪のため処分内容を主流派だけで決定することはできない。処分内容は現在協議中。追って連絡する。それまでマンションを空間閉鎖する。その場で謹慎せよ』 わたしは覚悟した。おそらくわたしが再び観察者として活動することはできないだろう。情報統合思念体を抹殺したのだ。それは避けられない。 でも…… 再改変後、あなたはあなたが思う行動をとれ わたしの言葉がよみがえる。わたしにはやらなければならないことがある。処分が下りこの世界からいなくなる前にどうしてもしなくてはいけないこと。 一言でいい。彼に謝りたい。 わたしは情報統合思念体の命令を無視して玄関に向かう。玄関の扉は厳重に空間閉鎖されており外に出られないことは自明だった。それでも、冷静さを失ったわたしは扉を引っ張った。お願い。開いて。力一杯扉を引くが扉はびくともしない。 ねえ、お願いだか開いてよ。わたしは扉に向かって叫んだ。外気に接し冷えきった扉はわたしの叫びに耳を貸すことなく前に立ちはだかった。それでも扉を引っ張った。何度も、何度も引っ張った。 その時、 ガチャ 光が射す。 そして光は人影を映した。扉の向こうに喜緑江美里が立っていた。 「長門さん。今は事情を話す暇はありません。今すべきことは、あなたが一番よくわかっているはずです。こうしているうちに主流派の刺客が来ます。とにかく急いでください」 わたしは彼女の言葉に甘え、走り出した。 わたしは彼のいる病院に向かった。面会時間はゆうに過ぎていたが、幸い彼の病室が個室だったので誰にも見つかることはなさそうだ。 ドアを開けると、待ち構えていたかのように彼はわたしを見ている。ついさっきまで一緒にいたのだが、久しぶりに会う懐かしさを感じた。しかし、今は感傷に浸っている場合ではない。わたしは端的に言った。 「すべての責任はわたしにある」 彼は優しい眼差しでわたしを見た。 「ごめんなさい」 謝るわたしに 「脱出プログラムを残してくれただろ。充分だよ」 彼は怒るどころか、微笑み、礼をした。 そんな彼の顔を見るのもこれが最後になるだろう。 「わたしの処分が検討されている」 「誰が検討してるんだ?」 彼は一転鋭い目付きでわたしを睨んだ。 「情報統合思念体」 「くそったれと伝えろ」 彼は手を伸ばし、わたしの手を取った。 「お前の親玉に言ってくれ。お前が消えるなり居なくなるなりしたら、いいか?俺は暴れるぞ。何としてでもお前を取り戻しに行く。俺には何の能もないが、ハルヒをたきつけることくらいはできるんだ。そのための切り札を俺は持っている。ただ一言、『俺はジョン・スミスだ』と言ってやるだけでいいんだ。ああ、そうとも。俺にはヘチマ並みの力しかないとも。しかしハルヒには唐変木な力がある。お前が消えちまったら一切合切をあいつに明かしてすべてを信じさせてやる。それから長門探しの旅に出る。長門の親玉が何をして長門をどこに隠そうが消し去ろうが、ハルヒなら何とかする。俺がさせる。ついでに古泉と朝比奈さんも巻き込んでやろうじゃないか。宇宙のどこにいるのかも解らん情報意識体なんぞ知ったことか。んなもんどうでもいい。お前は俺たちの仲間だ」 彼はわたしを強く見据え続ける。 「つべこべぬかすなら今度こそ世界を作り変えてやる。あの三日間みたいに、お前はいるが情報統合思念体なんぞはいない世界をな。さぞかし失望するだろうぜ。何が観察対象だ。知るか」 彼は怒り、そしてわたしの手をさらに強く握りしめた。彼の言葉には流れ出す強い力があり、彼の手からは暖かさが伝わった。 「伝える」 わたしは多くの時間、彼と行動を共にしてきた。彼のことはなんでも知っているつもりだった。しかし、これほど激しく怒る彼を見たことはない。このときほど彼が頼もしく思えたことはないし、いとおしく思ったことはない。わたしは本当に嬉しかった。わたしは感謝の気持ちをめいいっぱい込めて、言った。 「ありがとう」 わたしの言葉を聞いた彼は優しく手を握り直して微笑んだ。 12月22日。真っ青な空。大地を照らす太陽。すべてがすがすがしかった。 わたしは学校に向かっている。 昨日、彼と別れた後、情報統合思念体から処分が下された。その内容は、 『引き続き涼宮ハルヒの観察を続行』 情報統合思念体の存在を消し、さらには謹慎の命を破り彼に接触したわたしに処分が下されなかった理由は1つ。彼の言葉がわたしを護ってくれたから。彼には感謝してもしきれない。 放課後、わたしは1人部室で本を読んだ。SOS団の部室で。 突然、扉が開いた。 「涼宮さんは?」 喜緑江美里だった。 「今、彼のお見舞いに行っている。今日の活動は休み」 「そう。あなたは行かないの?」 「行くつもりはない」 「冷たいのね」 喜緑江美里は笑みを浮かべそう言ってから、部屋の隅にあるパイプ椅子を広げ、そこに座った。 「お疲れさま」 「ありがとう」 「どういたしまして」 わたしと喜緑江美里は、互いに笑いあった。 「でも、どうして、あなたがわたしを助けてくれるのかがわからない」 「今日はその話できました。過去のあなたが世界改変を実施するように促す必要があります」 「過去のわたしには世界改変をしてほしくない」 「世界改変は必要です。穏健派にとっても、あなたにとっても」 「どういうこと」 「世界改変をしたことで、あなたはSOS団を守ったから。あなたは知らないでしょうが、情報統合思念体の中で急進派の主張が勢いづいていました。観察対象涼宮ハルヒの情報創造能力が弱まっています。そのことに業を煮やした主流派は急進派と組み、新たな情報爆発を人為的に発生させることを考えたんです。計画は11月ごろから進められました。長門さんはエラーが蓄積し、計画の妨害を行う可能性があるため、計画を隠すようにしろと言われていました。わたしたち穏健派はこの計画に反対でした。しかし、情報統合思念体の大勢が賛成に回り、意見を覆すことはできませんでした。そこでわたしたち穏健派はあなたに賭けることにしました」 「わたしは何をすれば」 「何もする必要はありません。すべて済みましたから。主流派の計画は中止です。なぜだか分かりますか?彼の言葉です。『彼』の言葉によって、このまま計画を進め、SOS団に危害を加えれば涼宮ハルヒが自らの能力を自覚し、情報統合思念体と敵対する危険性があるという意見が大勢を占め計画は中止になりました。つまり、SOS団を護るために、彼の言葉を引き出す必要があり、そのためには、世界改変が不可欠だったんです」 「世界改変をしなくても彼に直接事情を話せば済む」 「それはできません。彼に情報統合思念体がSOS団に危害を加えようとしていると伝えると、情報統合思念体とSOS団に対立関係を生む可能性があります。ですからあなたには世界改変をやってもらわなければなりませんでした」 そんなことが起こっていたなんて全く知らなかった。以前、古泉一樹が言っていた情報統合思念体の活動が活発になっているという情報はこのことを示していたのか。とにかく、わたしがこれからもSOS団の団員として活動できることは何より嬉しかった。 しかし、ただ喜んでいるわけにはいかない。わたしには解明しなければいけない難問がある。 「あなたに聞きたいことがある。私が改変された世界からこの世界に戻って来られたこともあなたが関係しているのか」 「どういうことかしら?」 わたしはこの4日間の出来事、すべてを話した。 喜緑江美里はしばらく考え 「私はその件に関しては何も把握していません。長門さんの話から推測すれば、脱出プログラム動作後に何者かの力によって3日前に時間遡航したと考えるのが妥当ですが」 「それはない。何者かが時間操作をしたならば気がつくはず。そのような形跡は全くなかった。それにその世界ではタイムマシンは存在しないはず。時間遡航は不可能」 「困りましたね。何かヒントがあればいいのですけど」 その言葉がどこか突っ掛かるような気がした。何か大切なことを忘れているような…… 結局答えは出ず、喜緑江美里は帰って行った。 わたしは、いつものように金魚にえさをやろうとしてえさが空箱になっていることに気付いた。そう言えば餌を買うのを忘れていた……ん?何かがおかしい。えさが無くなったのは、改変された世界のことでこの世界ではない。たしか世界改変前には、少しは残っていたはずだ。 まさか……わたしは部屋の隅に積んである本を持ち上げた。 そこにはこの世界に存在するはずのないものがあった。 やはり。そういうことか。 でも、どうやって? 『何かヒントがあればいいのですけど』 喜緑江美里の言葉をふいに思い出す。 ヒント……? そうか。わたしはとんでもないミスをしていた。あんな重要なことを忘れるなんて。 世界改変前、未来のわたしはこう言っていた。 『もし、困った事態に直面したら、彼とはじめて出会ったときのことを思い出して 欲しい。彼に対して行ったこと、それが鍵になる』 どうして今まで気づかなかったのか。これは明らかに未来のわたしからのメッセージだ。彼とはじめて出会ったときのこと。思い出すも何も、今でもはっきり覚えている。彼とはじめて会ったのは今から3年前の7月7日。彼は朝比奈みくると一緒にわたしの住むマンションに訪ねてきた。そのとき、彼に対して行ったこと。 そうか。そういうことだったのか。欠けていた最後のピースがパチリとはまった。 なぜ、わたしが元の世界に帰って来られたのか。 なぜ、朝倉涼子を復活させる必要があったのか。 なぜ、脱出プログラムの期限が3日以内だったのか。 なぜ、彼が階段から転落し入院するという偽の記憶が創られたのか。 すべての謎が1本の線に繋がった。 そして、わたしが何をすべきかも解った。彼と世界改変の現場に行き、やらなければならない。彼も朝比奈みくるも。過去のわたしをも欺く世界再改変を。 第6章につづく
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4698.html
プロローグ 夏の記憶 1章 消失前夜 2章 1日目 3章 2日目 4章 3日目 5章 幻想 6章 すべてを解く鍵 エピローグ その後の話 以下おまけ(本編と関係ないので読み飛ばしていただいて結構です) 「ちょっとキョン!どういうこと。あたしがほとんど出てこないんだけど。団長をなんだと思ってるの」 「まあ。落ち着け。今回は『涼宮ハルヒの消失』を長門視点で書いた話で長門が主人公なんだから仕方ないだろ。長門は人気ある割にここでは主人公になることが少ないから、たまにはおまえの出番が少なくても大目に見てやれ」 「有希は無口キャラだから主人公にすることを敬遠されるのはわかるけど。それにしても、私の出番が少なすぎよ。だいたい、あたしの出番が喜緑さんより少ないのはどう考えてもおかしいじゃない。喜緑さんなんて『消失』に一回も出てないし」 そう言われればそうだな。やたらと喜緑さんが活躍している気が。まさか情報操作が……まさかねえ 「たしかにお前が憤慨するのも分からんでもないが、『涼宮ハルヒの消失』はおまえが消失する話なんだから、どうしても出番が少なくなっちまうんだよ」 「まあ、そうだけど……そもそも、『消失』を長門視点で書いた話ってどうなの。ベタだし、意外性の欠片もないわ。もっと斬新な発想っていうのが出てこないのかしら」 「そういう文句は作者に直接言ってくれ」 「とにかく、あたしが活躍する場面をもっと作ること」 「おいおい。そんな身勝手な」 「別に、あたしが目立ちたいから言ってるんじゃないんだからね。この作品をよりよいものにしようとする一読者の貴重な意見よ」 「だそうだ。作者さん。いまからハルヒが活躍する話に書き直してくれ」 「そうそう。言い忘れてたわ。プロローグの夏祭りで喜緑さんが有希と会話するシーン。あれ必要ないわ。カットしなさい」 「おいおい。それじゃあ、ただの八つ当たりじゃないか」
https://w.atwiki.jp/hiroki2008/pages/68.html
長門の後見人の部分 使われなかった別パターン 古泉の本業をハルヒに告げたものかどうか懸念している 翌朝、俺はハルヒのニヤニヤに遭遇しないうちに古泉を捕まえて男子トイレに引っ張っていった。 「古泉、ちょっと相談があってな」 「なんなりと」 「昨日、長門と入籍した」 「婚約の間違いですか?」 「いや、入籍だ」 「まじっすか、失礼。それはまた電撃的ですね」 「大声じゃいえないんだが、住基ネットに入り込んで戸籍を書き換えた」 「なんということ、それは重大な発言ですよ。こともあろうにシステム構築会社のスタッフがハッキングだなんて」 「実は長門には正式な戸籍がなくてな。ついでだっていうんで婚姻情報も書き込んでしまった」 「そうだったんですか。長門さんらしいですね。まあ知られなければ構わないでしょう。わが国のセキュリティ事情なんてその程度のもんです」 「さっきと言ってることが違うような気もするが、今のは聞かなかったことにしてくれ」 「分かりました。それで、相談というのは?」 「入籍したはいいが、まだ婚約すら両親に話してなくてな。可及的急ぎで結婚式をやらねばならん」 「それは順序が逆というか、また急な話ですね。まあ、なんとかならないこともないでしょうが」 「それで、長門の後見人というか、親族代表を誰かに頼めないだろうか」 「ああ、それならお安い御用です。うちの機関にも長門さんのファンがおりましてね」 「そうだったのか」 「年齢的にも新川さんあたりがよろしいかと。彼も長門さんの大ファンです」 うーむ。闇の組織に長門の隠れファンがいたなんて、ちょっと不安だ。 「長門さんのお父さんの役でどうでしょう。イメージ的にぴったりだと思いますよ」 「そうだな。新川さんに頼もう」 「承知しました。打診しておきます」 「それからな、これは無理なら断ってもいいんだが」 「水臭いですよ。なんでも言ってください」 「式場がな、図書館がいいと思うんだ」 「中央図書館ですか。面白い試みですね」 「休館日に場所を借りれないかと思ってはいるんだが、どうだろう」 「ほかでもないあなたと長門さんの頼みです。なんとかしますよ」 「無理言ってすまんな」 「こういうことにかけては、うちの機関はお安い御用です」 なんだかSOS団御用達の便利屋稼業をやらせてしまってる気がするが。スマン幹部、そのうち埋め合わせはする。気が向いたらな。 「それにしても、あなたがよもや長門さんと結婚されることになるとは。正直驚きました」 「高三の頃から付き合ってたのは知ってるだろう」 「僕が言うのは、宇宙人製アンドロイドと婚姻関係を結ぶということがです」 「俺にとっちゃあいつの素性がなんだろうが関係ないんだ」 「さすがですね。ときに、長門さんのどこがよかったんですか」 「なんというかな。ハルヒはひとりででも勝手に暴走していられるだけのエネルギーがあるが、長門には、ひとりにしてはおけないと思わせるものがあるんだよな」 「長門さんには強力なバックボーンがあるじゃないですか」 「そりゃあ長門には何度も窮地を助けてもらった。だが、完璧を期しているはずのアンドロイドがだ、感情を処理できなくて暴走したり、人間的な自我に目覚めたりで、誰かがフォローしてやらないといけない。お前はそうは思わないか?」 「なるほど。もしかしたら、それは彼女の計算の上でのことかもしれませんよ……」 そうなのか……。少し不安になってきた。 「冗談ですよ。彼女はあなたが好きなんです。それは僕にもずっと前から分かっていました」 「どれくらい前から?」 「例の、暴走したときでしょうか。あれはどう考えてもあなたへの熱いメッセージですよ」 やっぱりそうか。俺は少しだけ考え、思い直して言った。 「もしあいつが計算の上でやったとしても、俺は長門と一緒にいるほうが、自分が必要とされていることを感じていられる」 「あなたが言うと実に真に迫ってますね。さすがです」 「お前のほうはどうなんだ?ハルヒとはうまくいってるのか。あれから浮いた話すら聞かないが」 「僕たちは幸せそのものですよ。ですが、ひとつだけ気がかりなことがありまして」 「なんだ、ハルヒに初恋の相手でも現れたのか」 「いいえ、そんなことではなくて。僕の本業のことを話したものかどうか迷っているんです」 「それは懸念材料だな」 前にバレたときは自ら記憶を消しちまってるからな。 「確かにこのところ、閉鎖空間の出現は減少傾向にあります。このまま消えてしまうのかもしれません」 それは前にも何度もあったし、そのたびにパワー上昇して俺たちは慌てふためいたんじゃなかったか。 「長期的に見ればそれもありですが、僕が先回りして閉鎖空間発生のきっかけを解消しているために減少しているものと見受けられます」 「ということは、このままいくとハルヒの能力がなくなっちまうってことか」 「その懸念もあります。いえ、むしろ喜ばしいことかもしれませんが」 そうなると、機関は解体、古泉は本業を失うことになるな。ハルヒが呼び出した長門や朝比奈さんはいったいどうなるんだろう。 「やっぱり現状維持がいいんじゃないか」 俺は適当に自分勝手な意見を述べた。 「ええ、その辺も含めて、機関の上層部では揉めに揉めています。もしも、涼宮ハルヒがただの人になったら我々の存在意義はどうなるんだ、と」 ハルヒがただの人になっちまったら世界は安定し時空震も情報フレアもタイムパラドックスも起らないだろう。だが俺はハルヒのパワーが自然消滅なんて、しないほうに賭けるね。だってそのほうが面白いからな。 長門の後見人の部分 誤算の執筆より前に書かれた部分 古泉がハルヒと付き合うことになったので修正 「もしあいつが計算の上でやったとしても、俺は長門と一緒にいるほうが、自分が必要とされていることを感じていられる」 「さすがあなたですね」 「お前のほうはどうなんだ?お前自身の色恋沙汰はいっこうに耳にすることがないが」 「僕ですか。僕にはバイトがありますから。それを分かってくれる人でないと無理でしょうね。より良き理解者は、まだ当分現れそうにありません」 余裕かましてるよ、こいつは。
https://w.atwiki.jp/sfcat/pages/12.html