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568 : ◆u68XLQ0lCU :2007/03/12(月) 16 30 38 ID ??? 腕の良い庭師の職人の手が行き届いた池泉回遊式庭園。 琳とした空間に鹿威しの澄んだ音が響き渡る。 その池にかけられた橋の向こうで淑女が可憐な鼻歌を奏でていた。 「カモン♪ベビィ♪ドゥーザ♪ロコモーション♪」 皺一つ無い真珠のような艶やかな肌に、母性に満ちあふれた女神のような美貌。ふくよかな体つきのハリウッド女優顔負けのスタイル。 客観的にはとても195㎝の身長を誇る、長身の美丈夫の息子がいる一児の母には見えない。 「あ!」 その淑女、空条・ホリィ・ジョースターは脳裏に走った直感に思わず床の間の机の上に置かれた写真立てへ視線を向けていた。 その中に映った最愛の息子は口元に穏やかな微笑を浮かべ、凛々しい視線をこちらに向けている。 「今、承太郎ったら学校で私のこと考えてる……♪今……息子と心が通じ合った感覚があったわ♪」 そう言うとホリィは家事の手を一時休め、写真立てを大事そうに胸の中に掻き抱く。 「考えてねーよ」 「学校行ってないものね」 「残念だったな奥方」 いきなり上がった三者(?)三様の声に 「きゃあああああああ!」 と淑女は驚愕の叫びを上げた。 写真立ての中とはうって変わって最愛の息子は仏頂面でこちらを見ている。 その肩の上にはコートのような学生服を着た全身血塗れの少年が担ぎ上げられていた。 「じょ……承太郎……それにシャナちゃん……が……学校はどうしたの?そ……それにその、その人は!?血……血が滴っているわ。ま……まさか……あ……あなたがやったの?」 その質問には答えず承太郎はホリィに背を向ける。 「テメーには関係のないことだ。オレはジジイを探している……広い屋敷は探すのに苦労するぜ。茶室か?」 「え、ええ。そうだと思うわ」 確認すると承太郎は血だらけの少年を担いだまま檜の床を踏み鳴らして行ってしまった。 569 : ◆u68XLQ0lCU :2007/03/12(月) 16 35 09 ID ??? ホリィはその背中を心配そうにみつめる。だからシャナの視線に気づいたのはその後だった。 「な、なぁに?シャナちゃん?」 幼い外見に不相応な凛々しい顔立ちと視線だが、何分長身のホリィからすると小さいのでどうしても子供に話しかけるような口調になってしまう。 何よりその瞳に宿る色が昔の承太郎を思い起こさせたせいかもしれない。 「ごめんなさいね。新しい学校だもの。一人じゃ心細いわよね。学校には私の方から連絡を入れておくわ。今日は家でゆっくりしていて。 お昼は何が食べたい?何なら昨日みたいに外に行きましょうか?パパと承太郎も誘ってね」 ホリィの言葉を聞くだけ聞くとシャナはおもむろに口を開いた。 「他人の家族の事に口出しするのは趣味じゃないんだけど」 とまず前置きをし 「ホリィはこの件に関わらない方が良い。冷たい言い方になるけど出来る事ないと思うから。信じられないかもしれないけど、あの血だらけのヤツは私と承太郎を「殺し」にきたの。 承太郎やジョセフと同じ能力を持った人間。だから死にたくなかったら何も知ろうとしないことが得策よ。アイツもそれで何も言わなかったんだと思うし」 ホリィは黙ってシャナを見つめていた。「殺す」という言葉に驚かなかったと言えば嘘になるが目の前の圧倒的な存在感の小柄な少女は、 彼女なりに自分の事を気づかってくれているらしい。不器用だがそのやり方が承太郎と似ていたので思わず口元に優しい笑みが浮かんだ。 「ええ。解ってるわ。あの子は本当はとても優しい子だもの。今回の事だって何か理由があっての事なのよ。母親の私が信じてあげなきゃね」 「優しい、ね」 何故かシャナはその言葉に素直に同意出来ない。脳裏に見ず知らずの女生徒の為に全身血塗れになりながら花京院と闘った承太郎の姿が浮かんだ。 苦痛に耐えながら女生徒のために存在の力を削ぎ取っている姿も。 血糊はトーチで消したので今愛用の制服は新品同然になってはいるが、その傷痕はまだ生々しく残っている筈だ。 570 : ◆u68XLQ0lCU :2007/03/12(月) 16 37 42 ID ??? 「おい」 「はい?」 中庭に設置された花壇を挟んで振り返った承太郎が鋭い眼光でホリィを見る。 「今朝はあまり顔色がよくねーぜ。元気か?」 「…………」 その言葉にホリィはまるで初恋の少女のように顔を赤らめて胸に両手を当てると、 「イエ〜〜イ♪ファイン!サンキュー!」 と笑顔で可愛く手の平を広げたピースサインで応えた。 「フン」 鼻を鳴らして再び背を向ける承太郎を後目に、 「ほらね♪」 と、ホリィは笑顔でシャナに向き直る。 「まぁ、そういう事にしておくわ」 「我は奥方の賢明な育て方の賜だと」 短くホリィに答えると同時に何故か上がったアラストールの声にシャナがペンダントに視線を向ける。 「あ、いや、うむ」 少し熱くなったペンダントの中で紅世の王、天壌の劫火は咳払いをして押し黙った。 「オイ!シャナ!モタモタしてんじゃあねー!後で文句垂れても聞いてやらねーぞ!」 遠くになった承太郎が振り向いて叫ぶ。 「うるさいうるさいうるさい。誰の所為だと思ってるの!」 シャナは床を鳴らして踏み切ると軽々と中庭を飛び越えた。 571 : ◆u68XLQ0lCU :2007/03/12(月) 16 41 52 ID ??? 「だめだな、これは」 ジョセフは茶室の畳の上に寝かされた花京院を見下ろした。 「手遅れじゃ。この少年はもう助からん。あと数日のうちに死ぬ」 「死ぬ」という言葉に承太郎の視線が尖った。 「承太郎……お前のせいではない……見ろ……この少年がなぜDIOに忠誠を誓いお前を殺しに来たのか……?その理由が……」 ジョセフはいきなり花京院の前髪を手で捲り上げた。 「ここにあるッ!」 花京院の額の表面に異様な物体が蠢いていた。 弾ける寸前の木の実のような形をしているが、まるで生物のように脈動を繰り返している。 その触手らしき部分が花京院の額に埋め込まれ一部は皮膚と癒着していた。 「なんだ?この動いているクモみてーな肉片は?」 「それは彼の者の細胞からなる『肉の芽』、この小僧の脳にまで達している。 この『肉の芽』は生物の精神に影響を与えるよう脳に打ち込まれているのだ」 承太郎の問いにアラストールが答える。 「つまり「コレ」はコイツを思い通りに操る装置なのよ」 シャナが腕組みをしながら言った。 「常に脳に刺激を与え続け、自分を心酔し続けるように精神操作を行ってるの。コイツの養分を吸い取りながら動いてるから殆ど永久機関と変わらないわね。 時間をおけばおく程効果は倍増していって、最終的には自分の命令を麻薬のように追い求める奴隷の一丁上がりってわけ」 「手術で摘出しな」 シャナの説明に承太郎が短く簡潔に応える。 「それが出来たら苦労しないわ。これは脳の中の一番デリケートな部分に打ち込まれてる。 摘出する時ほんの僅かでも触手がブレたら脳は永遠にクラッシュしたまま再起動しなくなるわよ。 外科医は封絶の中じゃ動けないしね。そこまで計算して『アイツ』はこれを生み出したのよ」 「アイツ?」 思わぬシャナの言葉に承太郎の瞳が訝しく尖る。 572 : ◆u68XLQ0lCU :2007/03/12(月) 16 46 24 ID ??? 「どういう事だ?まるで会ったみてぇな口振りだな。あの男……『DIO』のヤローによ」 承太郎の言葉にシャナは俯いて言葉を閉ざす。 「承太郎よ……こんな事があった」 シャナの代わりにアラストールが語り始めた。 「四ヶ月ほど前……我らは北米の地で、彼の者『幽血の統世王』と邂逅したのだ」 「何だと?」 アラストールの言葉に承太郎の視線がますます尖った。 追憶の欠片が脳裏に甦る。 シャナは思い出していた。 自分の受けた「屈辱」を。 それはニューヨークのスラム街で犯罪者の魂を好んで喰らう 紅世の徒を討滅した帰りの事だった。 売店でクレープを買い目元と口元を綻ばせながらジョースター邸への 帰路についていたシャナの前にその男はいきなり現れた。 まるで定められた運命であるかの如く。 人気のない路地、煌々と点る夜の街灯の下にその男は背を持たれ 両腕を組んで静かに立っていた。 心の中心に忍び込んでくるような凍りつく眼差し。黄金色の美しい頭髪。 透き通るような白い肌。男とは思えないような妖しい色気が首筋に塗られた 香油によって増幅されている。華美な装飾はないが良質な絹で仕立てられた 古代ペルシアの王族がその身に纏うような衣服を着ていた。 シャナはすぐに解った。すでにジョセフと知り合っていたので こいつが大西洋から甦った男、DIOだと。 月影に反照し官能的に光る口唇をおもむろに開くと男は静かに シャナに向かって話し始めた。 573 : ◆u68XLQ0lCU :2007/03/12(月) 16 51 35 ID ??? 「古き友を訪ねてこの地に来たが……まさか君と逢えるとはな…… 初めまして『紅の魔術師(マジシャンズ・レッド)』……いや…… 『炎髪灼眼の討ち手』と言ったほうが良いかな……?」 その男を本当に恐ろしいと思ったのはその時だった。 その男が話しかけてくる言葉は心が安らいだ。 魔薬のように危険な甘さがあった。しかしだからこそ恐ろしかった。 「全く驚いたよ……私の配下の『幽波紋(スタンド)使い』達を始末した 魔術師が、まさか本当にこんな可愛らしいお嬢さんだったとは……」 DIOの言葉が終わる前にシャナは足裏を爆発させて跳んでいた。 刹那に身を覆った黒衣の内側から抜き出した大太刀、 贄殿遮那が空気を切り裂く空中で髪と瞳が炎髪灼眼に変わる。 「でやぁッ!」 DIOは至近距離で唸りを上げながら迫る大太刀の一閃を余裕の表情でかわす。 「性急な事だ……」 滑りながら道路に着地したシャナの黒衣の裾が舞い上がり、 真紅の髪が火の粉を撒いた。 「こいつ……『こいつがッ』!今!目の前にいるこの男がッ!」 その男はシャナが想像していたよりもずっと美しい風貌をしていた。 だが、その男の顔の裏側はどんな罪人よりもドス黒く呪われていた。 その瞳の奥はこの世のありとあらゆる邪悪を焼きつけ、 王族のように艶めかしい指は数え切れないほどの人の死と運命を弄んできた。 何年も。何年も…… 何人も。何人も…… そしてその存在が世界の歪みを増大させている。 574 : ◆u68XLQ0lCU :2007/03/12(月) 16 55 46 ID ??? 「私の目の前にいるこの男がッ!」 「馬鹿な……」 胸元でアラストールも動揺を押し隠せないらしい。 多くの紅世の徒、例え王であったとしても自分の存在は なるべく隠そうとするのが普通だ。自由に好き勝手に行動を続けていれば すぐに自分達フレイムヘイズに居場所を察知され、残らず討滅されてしまうからだ。 『封絶』も『トーチ』もその事を回避する為に生まれた術。なのに目の前のこの男は、 自分を追っている天敵の前にあっさりとその身を現した。 「この者が……幽血の……統世王……!」 「DIOッ!!」 シャナは大刀を両手に構え、大地に屹立した。 燃え上がる灼眼は鋭くDIOを射抜いている。 「封・絶!」 その小さな口唇から勇ましい猛りが上がると共に、 シャナの足下から火線が走り道路の上に奇怪な文字列からなる紋章が描かれた。 シャナとDIOを中心として紅いドーム状の陽炎が形成される。 「『封絶』……因果孤立空間か。なかなか面白い能力を持っているね? 君達『紅世の徒』は。ひとつ……それを私に見せてくれるとうれしいのだが」 穏やかな声に心臓の凍る思いがした。 しかし同時に心の一部分がその声に強く惹かれ形を蕩かす。 刹那とはいえ心を魅入られた自分自身に凄まじい、 まさに燃えるような怒りを感じ、風に靡く黒衣にそれを纏わせた。 (この男が全ての元凶!多くの王を下僕に誣いた全ての根元!) 燃え上がる使命感にDIOを見つめる瞳が灼熱の煌めきを増し、 髪から鳳凰の羽ばたきのように火の粉が舞い上がる。 (討滅!討滅する!!) 575 : ◆u68XLQ0lCU :2007/03/12(月) 17 02 06 ID ??? 足元のコンクリートを鋭く踏み切り、紅い弾丸のように飛び出したシャナは DIOの首筋に向けて空間に残像が映るほど高速の袈裟斬りを繰り出した。 周囲の空気を切り裂きながら星形の痣が刻まれた首筋に迫る白銀の刃。 意外。 DIOはそれをあっさりと右手で受け止めた。 戦慄の美で光る刀身が手の平の肉を音もなく切り裂き、骨に食い込む。 「っ!?」 驚愕。 全身が燃えるように猛っていてもシャナの頭の中はクールに冷め切っていた。 まさか『手で』受け取めるとは思わなかった。当然避けるものと考えていた。 その後の攻防の応酬果てに必殺の一撃を頭蓋に叩き込もうと 脳裏にもう数十手先の動きまで構築していたというのに最初の一撃で 全て計算が狂った。 速度はあったが様子見程度の撃ち込みだったので 手は切断されず中程まで食い込み刃はそこで動きを止める。 今までこんな敵はいなかった。 どの紅世の徒の中にも。王の中にも。 『贄殿遮那の一撃を真正面から素手で受け止めた相手は』 (こ、こいつバカ!?このまま刀を引き抜いたら、) 考えるのとほぼ同時に身体が動く。刀を掴んだDIOの手を支点にして 一瞬の躊躇もなくシャナは素早く柄を引いた。 だが。刀身は動かなかった。 まるで『その場で凍りついたように』動きを止めていた。 「貧弱……」 DIOの美しい口唇に絶対零度も凍り付く冷酷な微笑が浮かぶ。 貴公子の仮面に罅が入り残虐な本性がその姿を垣間見せた。 「貧弱ゥゥッ!!」 いきなり周囲に白い膨大な量の水蒸気が暴発したボイラーのように巻き起こった。 576 : ◆u68XLQ0lCU :2007/03/12(月) 17 04 54 ID ??? 大太刀『贄殿遮那』の刀身を掴んだDIOの手から肘の辺りまでが いつのまにか超低温に冷やされた鋼のような質感に変わっていた。 その腕から発せられる冷気に周囲の全てが凍り付く。 大気が凍り大地が凍り、贄殿遮那が凍った。封絶すら凍った。 「こ、凍る!?」 冷気が刀身を伝達して柄を握るシャナの手にまで侵蝕してくる。 「『気化冷凍法』。使うのは実に100年振りだ。 『波紋使い』以外に使うこともないだろうと思っていたが」 DIOは渦巻く冷気よりも冷たい微笑を浮かべてシャナの灼眼をみつめる。 冷気が柄を越えシャナの腕にまで達し熱疲労でその皮膚が引き裂かれる瞬間、 「ムゥンッ!」 胸元のペンダントを中心にして巻き起こった柔らかな炎が 一瞬でシャナの身体を包み込んだ。冷気で柄に張り付いた皮膚を、 アラストールが『浄化の炎』で解き剥がす。 「!」 アラストールに意識がそれたDIOの手から刀身を引き抜くと、 シャナは腕の温度の上がった部分を足場にし身軽に宙返りをして距離を取った。 「ありがと。アラストール」 水滴に濡れた手を黒衣で拭い、同じく水で濡れた大刀を 構えなおしながら短くシャナは言う。 「今のが彼奴の身体を流れる幽血の一端か。油断するな。 まだどんな力を隠し持っているのか予測がつかん」 「解ってる」 シャナは短く言うと刀身に付いた水滴を一振りで全て叩き落とした。 577 : ◆u68XLQ0lCU :2007/03/12(月) 17 09 19 ID ??? 「……ククク、100年も眠っていたので忘れていたよ。 己の力を存分に開放する事の出来るこの得も言われぬ充足感。 久しく戦いから離れていたので血が滾るというやつか?フフフ…… 凍てついた私の血も君の炎に炙られてどうやら融け始めたようだ」 DIOはその悪の華と呼ぶに相応しい美貌に邪悪な微笑を浮かべる。 「もっとくべてくれ。私の凍てついたこの心に。君の炎を。君の熱を」 そう言うとDIOは超低温の冷気に覆われた両手を前に差し出し、 緩やかに構えを執る。 その構えは華麗にて美しくそして流麗な力強さを併せ持っていた。 そしてそれに劣らぬ畏怖も。 それはシャナの両手に握られている贄殿遮那と全く同じ戦慄の美。 否、威圧感だけならそれを上回った。 「さあ!手合わせ願おうかッ!!」 そう叫ぶとDIOはいきなりアスファルトが陥没するほど 地面を強く蹴りつけ、一瞬でシャナの眼前に迫った。 「UUUUUUURYAAAAAAAAッッ!!」 周囲のガラスに罅が走るような奇声を上げながら シャナの身体に向け凍った掌で貫き手の連打を繰り出してくる。 着痩せして見えるその身体からは想像もつかない、 途轍もない怪力の籠もった強い撃ち込みだった。 だが砕く事を目的とした動作ではない、 明らかに掴む事を念頭においた撃ち方だ。 どこでもいいからシャナの身体の一部を掴み、 先程の冷気で全身を凍りつかせる為に。 578 : ◆u68XLQ0lCU :2007/03/12(月) 17 14 02 ID ??? 「っくう!」 素早く複雑な軌道を描く精密な足捌きで身体を高速で反転させながら DIOの暴風のような撃ち込みをかわすシャナ。 だが、同時に舞い上がる黒衣の裾にまで気を配らなければならないので 避けづらい事この上ない。 「フハハハハハハハハ!!どうした!どうしたぁ!! 自慢の炎は出さんのかッ!逃げてばかりでは永遠に私には勝てんぞッ! もっと私を楽しませろッ! UREEYYYYYYYYYYYYYYYーーーーーッッ!!」 更にDIOの心理状態が微塵も読めないので次の攻撃が全く予測出来なかった。 紳士然としていたかと思うといきなり何の脈絡もなく狂戦士のような風貌に変わる。 こんな異常な心理を持つタイプには今まで遭遇した事はない。 「こ、この!誰が逃げてなんか!」 負けず嫌いの性格故に思わず声が口をついて出るが、 確かにDIOの言うとおりだった。でも攻撃は出来ない。 どんなに鋭い斬撃だったとしてもこの男は躊躇せずにまた それ掴んでそこから冷気を送り込んでくるだろう。 『浄化の炎』があるにはあるが同じ手が二度通用するとは思えない。 それに次は恐らく胸元のアラストールの方が先に凍らされる。 しかし今のままだと防戦一方なので永遠に勝機は訪れない。 時間を置けば置くほど回避によって神経がどんどん摩耗していき 最終的には僅かに生まれた隙に全連撃を一気に捻じ込まれる。 (それなら……) 決意の光が灼眼が煌めく。 (『遅かれ早かれ擦り切れるなら!』) 579 : ◆u68XLQ0lCU :2007/03/12(月) 17 18 11 ID ??? 「はああぁっ!!」 鋭い猛りがシャナから上がる。 過負荷により神経の電気伝達がショートし目の中で火花が弾けた。 だがその甲斐はあった。 贄殿遮那の刀身が渦巻く紅蓮の炎で覆われていた。 火炎が刀身を焼き焦がし発する熱気が周囲の冷気を全て弾き飛ばす。 すぐさまに横薙ぎの一閃がDIOに向かって放たれた。 ガギュンッ!!と鋼鉄の城塞に灼熱の破城鎚でも撃ち込んだかのような 異様な音と共に重い手応えが柄を握るシャナの手に跳ね返ってくる。 「美しい……これが君の生み出す炎か。マジシャンズ!」 胴体に向けて放たれた炎刃の一撃を先程同様凍った掌で受け止めた DIOは炎に照らされた微笑でもって応える。 その手の中で冷気と熱気が音を立てながら互いに弾けた。 炎と氷の混ざり合った靄がDIOの内なる火勢を更に煽る。 かなり無理をしたがシャナのやった事は功を奏した。 受け止められはしたが今度は冷気が身体に廻ってこない。 これでようやくこちらからも攻撃出来る。 「おまえを討滅する!幽血の統世王!!」 シャナは凛々しく激しい瞳で眼前のDIOを射抜いた。 湧き上がる熱気と共にその全身が火の粉を撒く。 DIOは精神の高揚で牙が飛び出した口元に笑みを浮かべると 大刀を掴んだ手を振り払った。 怪力によって飛ばされたシャナは空中で体を返し軽やかに着地する。 「やあああァァァッッッてみろおおおォォォーーーーー!! 青ちょびた面のガキがあああァァァーーーーッッッ!!」 理性の仮面が完全に破壊されこの世のどんな暗黒よりもドス黒い 本性を剥き出しにした邪悪の化身、DIOは、 凍りついた両腕を広げ殺戮の歓喜に身を震わせながらシャナに向かって叫んだ。
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魔法少女?マジカルアリサ ◆1sC7CjNPu2 とある、海に近い一軒の民家の中。 魔法少女……の友人であるアリサ・バニングスはそこにいた。 「……大丈夫よ、なのはとフェイトがいるんだから。 二人ならあの時みたいに助けてくれる。私は足を引っ張らないようにしないと」 そう呟くアリサの表情に不安は無い。むしろすずかがいなくて安心したくらいだ。 なのは達は大丈夫。自分の知らないところで戦い続けていた親友ならきっとなんとかしてくれる。 なんとか合流して、足を引っ張らないように注意すればいいだけだ。 そう信じて、ランドセルの中の物を探っていた。自分の身くらいは自分で守るために。 最初に出てきたのは。 「……刀」 おもちゃではない、本物の刃物。おもわずアリサは息を呑んでいた。 綺麗な刃は、ここが殺し合いの場だという事を思い出させるのには十分だ。 だが、小学三年生のアリサが振り回すには大きすぎるし重過ぎる。護身用にさえなるかどうか。 説明書も見てみたが、自在法だのフレイムヘイズだのアリサには分からない言葉ばかり。 なのはなら知ってるかな、と考えて次を探る。 次に出てきたのは、袋。 「魔法少女マジカルアンバー特製マジカルアンバーミサイル」と可愛らしい文字で書いてある。 「もしかして……これで私も魔法少女に!?」 どこか間違った期待と共に袋を開けたアリサの目に飛び込んだのは、袋一杯の瓶。 首を傾げながら説明書を取り出して、絶句した。 ……この瓶、全てが火炎瓶。 「あ、危ないわね…… 下手したら今ここで死んでたかも……」 背筋に冷や汗が走る。取り扱いを間違って着火してしまっていたら…… というかこれのどこが魔法だなどとツッコミを入れながら慎重にしまい込んだ。 そして、最後に取り出したのは…… 『これはこれは、可愛らしいお嬢さんですね~』 割烹着が似合いそうな声で喋る、ファンシーな意匠の杖だった。 □□□□□□□□ アリサの顔は喜びに染まっていた。 彼女の三つ目の支給品、その名前はカレイドステッキ。 人工精霊マジカルルビーが宿る、正真正銘の魔法の杖である。 これで私も晴れて魔法少女、なのは達の足を引っ張りはしない。彼女はそう考えたのだ。 ……最初こそは。 「よくわかんないわよ……もっと分かりやすく」 頭を抱えながら唸るアリサ。表情は苦々しいにも程がある顔だ。 全く魔法を知らないアリサに、カレイドステッキからの説明は難解すぎた。 ……もっとも、「第二魔法」だの「魔術礼装」だの専門用語を連発されれば例えなのはでも理解できないだろう。 『うーん、ではもっと簡単に。 並行世界のアリサさんができることと同じことを今ここにいるアリサさんができるようにする。 それが私の能力です』 「だから、その並行世界ってのがよく分かんないのよ」 『そこからですか。 単純に言えば、ちょっとした違いからその後のことが大きく変わってしまった世界ですね。 例えばアリサさんがこの殺し合いに巻き込まれず、普通に暮らす世界もあるわけです』 「……運のいい私ね、それ」 『世の中には、選択肢がいっぱいあるわけです。 そしてその数によって生み出される分岐の数だけ、並行世界もあるんですよ。それこそ無限に。 言うならば、「イフ」の世界ですね』 「ふーん」 カレイドステッキからの解説に、納得したような納得しないような顔で頷くアリサ。 そのまま考え込むこと、数秒。突如彼女は閃いた。 「ちょっと、私が魔法少女になった世界って無いの!?」 『あると思いますけど』 「ってことは、その世界の私と同じ能力が得られれば!」 『はい、魔法少女になれますね~』 その言葉に、思わずアリサはガッツポーズをしていた。満面の笑みを浮かべて。 彼女にだって、魔法少女に憧れる気持ちはあるのだ。 いきなり現れて、目の前でバリアを展開するなのはとフェイトの姿はしっかりと覚えている。 それになにより、もし彼女達のようなことが自分にもできるのなら…… なのはが隠さず自分に相談してくれるように、頼りがいのある友人になれたなら。 そう、本気で願っていたこともあるのだから。 「乗った、契約してやろうじゃない! なるのはもちろん、魔法少女!」 『お話が早い。では早速行きますよ~。 Ja, meine Meisterin……! Offnunug des Kaleidoscops gatter――!』 「きゃ!?」 周辺が、光に包まれる。思わずアリサは目を瞑っていた。 しばらくして発光が収まり、アリサは目を開いたが……同時に、呟いていた。 「どうも……実感沸かないわね」 『そのうち分かります。あ、服装もお付けしましたよ~』 「え、ほんと!? どれどれ……」 そう言われて、慌てて洗面所へ走るアリサ。自分の姿を確認するためだ。 魔法少女としてのコスチュームに、期待を込めながらアリサが鏡の中に見たものは。 「な、なにこれ」 紺色のフードを目深に羽織った、凄く不審人物な格好だった。 「これ、魔法少女って言うより魔女なんだけど」 『何を言ってるんですか。これは魔法少女マジカルアンバーが着る由緒正しい姿です』 「誰よそれ?」 『合言葉はケミカル!マジカル!メディカル! 愛とか夢とか白い粉で周りの人々に笑顔を振りまく魔法少女マジカルアンバーですよ~?』 「それのどこが魔法少女よ!? ……って、まさかあの火炎瓶は!」 『アンバーミサイルですか? それもあったんですか、ちょうどいいですね~。 是非二代目マジカルアンバーを襲名しましょう、アリs』 期待を裏切られてご機嫌斜めなアリサは問題無用でカレイドステッキを壁に投げ付けた、が。 無駄に頑丈なステッキには傷一つない。 「じゃあこの服いらないわ! 服だけ元に戻してよ!」 『多元転身した場合にはそれに相応しい服装になる、というのが決まりです』 「……その世界の私はこんな服を着てるわけ?」 『いいえ、私の趣味ですよ~』 「……あんたねえ!」 今度はアリサにぐりぐりと踏みつけられるカレイドステッキ。 言うまでもなく、アリサが思い描く魔法少女の姿はなのはもしくはフェイトの様なである。 こんな格好なんて少しも思いつかないし、したくもない。 それゆえの攻撃だが、カレイドステッキに堪えた様子はやはり無い。 盛大に目尻を吊り上げながらも、アリサはランドセルから最初に取り出した刀を掴み取った。 「……じゃあ魔法少女じゃなくていいわよ。 この刀を使いこなせるようにして」 別に自棄になったわけではない。ちゃんと考えてある。 刀なら着せ替えられるのは多分着物だろう、そっちの方がまだマシだ……そう踏んだのだ。 だが、それを聞いたカレイドステッキは急に黙り込んでしまっていた。 苛立ったアリサは急かすために口を開いて。 「さっさとやりなさいよ」 『じ、実はですね…… この世界においては、私の力は制限されてまして…… 私に関係ある能力しかダウンロードできないんです』 「……は?」 その口はあんぐりと開いたまま止まった。 そんなアリサを知ってか知らずか、カレイドステッキは続ける。 救いはあると言わんばかりに。 『でも安心して下さいな。私は仕込み箒も使っていました。 刀を扱う能力は仕込み箒を扱う能力で代用できますよ~』 「……その時は、どんな格好をさせられるのよ」 『和風メイd』 カレイドステッキの言葉が紡がれる前に、アリサが振り下ろした贄殿遮那がカレイドステッキに直撃した。 【H-4 民家 1日目 朝】 【アリサ・バニングス@魔法少女リリカルなのは】 [状態] 支給品をクーリング・オフしたい衝動 [装備] 贄殿遮那@灼眼のシャナ カレイドステッキ(無傷)@Fate/stay night [道具] 支給品一式、マジカルアンバーミサイル×10@メルティブラッド [思考・状況] カレイドステッキぶっ壊す 【贄殿遮那@灼眼のシャナ】 シャナが持つ大太刀。 大太刀そのものに加えられる力や敵意による干渉、自在法を無効化する能力を持つ。 魔法やそれに類するものなら全て無効化できるか? 【カレイドステッキ@Fate/stay night(Fate/hollow ataraxia)+メルティブラッド】 女性限定の愉快型魔術礼装で、契約した術者に莫大な魔力を供給するマジックブースターのようなもの。 能力は多元転身(プリズムトランス)で、使用者に並行世界の使用者のスキルをダウンロードすることができる。 例えば紅茶を上手く淹れたいなら、どこかの並行世界にいる「紅茶を淹れるのが上手いアリサ」と同じ能力を得ることができる。 だが決まりごとがあり、多元転身した場合にはそれに相応しい服装になる。例えば、紅茶を淹れるならメイド服。 制限で、メルティブラッドの琥珀さんが関わりを持たないスキルはダウンロードできない。 できることも琥珀さんと同レベルまでが限界。 割烹着が似合いそうな人工天然精霊マジカルルビーが人工知能として搭載されている。 根底に刻まれた命令は『愛と正義(ラブアンドパワー)』。 マジカルルビーにとっての正義とは世の中を等しく、 (自分にとって)面白おかしくすることで、悪とは彼女に逆らうもの。 某ロワで大活躍中のカレイドルビーを作り出した張本人。 本来これと契約すると洗脳されるが、制限により無効。 これとの契約は呪いとまで言われており、契約解除は死ぬまでできない。 【マジカルアンバーミサイル@メルティブラッド】 ケミカル!マジカル!メディカル!が合言葉な、 愛とか夢とか白い粉で周りの人々に笑顔を振りまく魔法少女マジカルアンバーが振りまく火炎瓶。 ≪020 うつろな魂 時系列順に読む 022 闇と黒≫ ≪020 うつろな魂 投下順に読む 022 闇と黒≫ GAME START アリサの登場SSを読む 054 Alisa in Wonderland≫
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568 名前 ◆u68XLQ0lCU Mail sage 投稿日 2007/03/12(月) 16 30 38 ID ??? 腕の良い庭師の職人の手が行き届いた池泉回遊式庭園。 琳とした空間に鹿威しの澄んだ音が響き渡る。 その池にかけられた橋の向こうで淑女が可憐な鼻歌を奏でていた。 「カモン♪ベビィ♪ドゥーザ♪ロコモーション♪」 皺一つ無い真珠のような艶やかな肌に、母性に満ちあふれた女神のような美貌。ふくよかな体つきのハリウッド女優顔負けのスタイル。 客観的にはとても195㎝の身長を誇る、長身の美丈夫の息子がいる一児の母には見えない。 「あ!」 その淑女、空条・ホリィ・ジョースターは脳裏に走った直感に思わず床の間の机の上に置かれた写真立てへ視線を向けていた。 その中に映った最愛の息子は口元に穏やかな微笑を浮かべ、凛々しい視線をこちらに向けている。 「今、承太郎ったら学校で私のこと考えてる……♪今……息子と心が通じ合った感覚があったわ♪」 そう言うとホリィは家事の手を一時休め、写真立てを大事そうに胸の中に掻き抱く。 「考えてねーよ」 「学校行ってないものね」 「残念だったな奥方」 いきなり上がった三者(?)三様の声に 「きゃあああああああ!」 と淑女は驚愕の叫びを上げた。 写真立ての中とはうって変わって最愛の息子は仏頂面でこちらを見ている。 その肩の上にはコートのような学生服を着た全身血塗れの少年が担ぎ上げられていた。 「じょ……承太郎……それにシャナちゃん……が……学校はどうしたの?そ……それにその、その人は!?血……血が滴っているわ。ま……まさか……あ……あなたがやったの?」 その質問には答えず承太郎はホリィに背を向ける。 「テメーには関係のないことだ。オレはジジイを探している……広い屋敷は探すのに苦労するぜ。茶室か?」 「え、ええ。そうだと思うわ」 確認すると承太郎は血だらけの少年を担いだまま檜の床を踏み鳴らして行ってしまった。 569 名前 ◆u68XLQ0lCU Mail sage 投稿日 2007/03/12(月) 16 35 09 ID ??? ホリィはその背中を心配そうにみつめる。だからシャナの視線に気づいたのはその後だった。 「な、なぁに?シャナちゃん?」 幼い外見に不相応な凛々しい顔立ちと視線だが、何分長身のホリィからすると小さいのでどうしても子供に話しかけるような口調になってしまう。 何よりその瞳に宿る色が昔の承太郎を思い起こさせたせいかもしれない。 「ごめんなさいね。新しい学校だもの。一人じゃ心細いわよね。学校には私の方から連絡を入れておくわ。今日は家でゆっくりしていて。 お昼は何が食べたい?何なら昨日みたいに外に行きましょうか?パパと承太郎も誘ってね」 ホリィの言葉を聞くだけ聞くとシャナはおもむろに口を開いた。 「他人の家族の事に口出しするのは趣味じゃないんだけど」 とまず前置きをし 「ホリィはこの件に関わらない方が良い。冷たい言い方になるけど出来る事ないと思うから。信じられないかもしれないけど、あの血だらけのヤツは私と承太郎を「殺し」にきたの。 承太郎やジョセフと同じ能力を持った人間。だから死にたくなかったら何も知ろうとしないことが得策よ。アイツもそれで何も言わなかったんだと思うし」 ホリィは黙ってシャナを見つめていた。「殺す」という言葉に驚かなかったと言えば嘘になるが目の前の圧倒的な存在感の小柄な少女は、 彼女なりに自分の事を気づかってくれているらしい。不器用だがそのやり方が承太郎と似ていたので思わず口元に優しい笑みが浮かんだ。 「ええ。解ってるわ。あの子は本当はとても優しい子だもの。今回の事だって何か理由があっての事なのよ。母親の私が信じてあげなきゃね」 「優しい、ね」 何故かシャナはその言葉に素直に同意出来ない。脳裏に見ず知らずの女生徒の為に全身血塗れになりながら花京院と闘った承太郎の姿が浮かんだ。 苦痛に耐えながら女生徒のために存在の力を削ぎ取っている姿も。 血糊はトーチで消したので今愛用の制服は新品同然になってはいるが、その傷痕はまだ生々しく残っている筈だ。 570 名前 ◆u68XLQ0lCU Mail sage 投稿日 2007/03/12(月) 16 37 42 ID ??? 「おい」 「はい?」 中庭に設置された花壇を挟んで振り返った承太郎が鋭い眼光でホリィを見る。 「今朝はあまり顔色がよくねーぜ。元気か?」 「…………」 その言葉にホリィはまるで初恋の少女のように顔を赤らめて胸に両手を当てると、 「イエ~~イ♪ファイン!サンキュー!」 と笑顔で可愛く手の平を広げたピースサインで応えた。 「フン」 鼻を鳴らして再び背を向ける承太郎を後目に、 「ほらね♪」 と、ホリィは笑顔でシャナに向き直る。 「まぁ、そういう事にしておくわ」 「我は奥方の賢明な育て方の賜だと」 短くホリィに答えると同時に何故か上がったアラストールの声にシャナがペンダントに視線を向ける。 「あ、いや、うむ」 少し熱くなったペンダントの中で紅世の王、天壌の劫火は咳払いをして押し黙った。 「オイ!シャナ!モタモタしてんじゃあねー!後で文句垂れても聞いてやらねーぞ!」 遠くになった承太郎が振り向いて叫ぶ。 「うるさいうるさいうるさい。誰の所為だと思ってるの!」 シャナは床を鳴らして踏み切ると軽々と中庭を飛び越えた。 571 名前 ◆u68XLQ0lCU Mail sage 投稿日 2007/03/12(月) 16 41 52 ID ??? 「だめだな、これは」 ジョセフは茶室の畳の上に寝かされた花京院を見下ろした。 「手遅れじゃ。この少年はもう助からん。あと数日のうちに死ぬ」 「死ぬ」という言葉に承太郎の視線が尖った。 「承太郎……お前のせいではない……見ろ……この少年がなぜDIOに忠誠を誓いお前を殺しに来たのか……?その理由が……」 ジョセフはいきなり花京院の前髪を手で捲り上げた。 「ここにあるッ!」 花京院の額の表面に異様な物体が蠢いていた。 弾ける寸前の木の実のような形をしているが、まるで生物のように脈動を繰り返している。 その触手らしき部分が花京院の額に埋め込まれ一部は皮膚と癒着していた。 「なんだ?この動いているクモみてーな肉片は?」 「それは彼の者の細胞からなる『肉の芽』、この小僧の脳にまで達している。 この『肉の芽』は生物の精神に影響を与えるよう脳に打ち込まれているのだ」 承太郎の問いにアラストールが答える。 「つまり「コレ」はコイツを思い通りに操る装置なのよ」 シャナが腕組みをしながら言った。 「常に脳に刺激を与え続け、自分を心酔し続けるように精神操作を行ってるの。コイツの養分を吸い取りながら動いてるから殆ど永久機関と変わらないわね。 時間をおけばおく程効果は倍増していって、最終的には自分の命令を麻薬のように追い求める奴隷の一丁上がりってわけ」 「手術で摘出しな」 シャナの説明に承太郎が短く簡潔に応える。 「それが出来たら苦労しないわ。これは脳の中の一番デリケートな部分に打ち込まれてる。 摘出する時ほんの僅かでも触手がブレたら脳は永遠にクラッシュしたまま再起動しなくなるわよ。 外科医は封絶の中じゃ動けないしね。そこまで計算して『アイツ』はこれを生み出したのよ」 「アイツ?」 思わぬシャナの言葉に承太郎の瞳が訝しく尖る。 572 名前 ◆u68XLQ0lCU Mail sage 投稿日 2007/03/12(月) 16 46 24 ID ??? 「どういう事だ?まるで会ったみてぇな口振りだな。あの男……『DIO』のヤローによ」 承太郎の言葉にシャナは俯いて言葉を閉ざす。 「承太郎よ……こんな事があった」 シャナの代わりにアラストールが語り始めた。 「四ヶ月ほど前……我らは北米の地で、彼の者『幽血の統世王』と邂逅したのだ」 「何だと?」 アラストールの言葉に承太郎の視線がますます尖った。 追憶の欠片が脳裏に甦る。 シャナは思い出していた。 自分の受けた「屈辱」を。 それはニューヨークのスラム街で犯罪者の魂を好んで喰らう 紅世の徒を討滅した帰りの事だった。 売店でクレープを買い目元と口元を綻ばせながらジョースター邸への 帰路についていたシャナの前にその男はいきなり現れた。 まるで定められた運命であるかの如く。 人気のない路地、煌々と点る夜の街灯の下にその男は背を持たれ 両腕を組んで静かに立っていた。 心の中心に忍び込んでくるような凍りつく眼差し。黄金色の美しい頭髪。 透き通るような白い肌。男とは思えないような妖しい色気が首筋に塗られた 香油によって増幅されている。華美な装飾はないが良質な絹で仕立てられた 古代ペルシアの王族がその身に纏うような衣服を着ていた。 シャナはすぐに解った。すでにジョセフと知り合っていたので こいつが大西洋から甦った男、DIOだと。 月影に反照し官能的に光る口唇をおもむろに開くと男は静かに シャナに向かって話し始めた。 573 名前 ◆u68XLQ0lCU Mail sage 投稿日 2007/03/12(月) 16 51 35 ID ??? 「古き友を訪ねてこの地に来たが……まさか君と逢えるとはな…… 初めまして『紅の魔術師(マジシャンズ・レッド)』……いや…… 『炎髪灼眼の討ち手』と言ったほうが良いかな……?」 その男を本当に恐ろしいと思ったのはその時だった。 その男が話しかけてくる言葉は心が安らいだ。 魔薬のように危険な甘さがあった。しかしだからこそ恐ろしかった。 「全く驚いたよ……私の配下の『幽波紋(スタンド)使い』達を始末した 魔術師が、まさか本当にこんな可愛らしいお嬢さんだったとは……」 DIOの言葉が終わる前にシャナは足裏を爆発させて跳んでいた。 刹那に身を覆った黒衣の内側から抜き出した大太刀、 贄殿遮那が空気を切り裂く空中で髪と瞳が炎髪灼眼に変わる。 「でやぁッ!」 DIOは至近距離で唸りを上げながら迫る大太刀の一閃を余裕の表情でかわす。 「性急な事だ……」 滑りながら道路に着地したシャナの黒衣の裾が舞い上がり、 真紅の髪が火の粉を撒いた。 「こいつ……『こいつがッ』!今!目の前にいるこの男がッ!」 その男はシャナが想像していたよりもずっと美しい風貌をしていた。 だが、その男の顔の裏側はどんな罪人よりもドス黒く呪われていた。 その瞳の奥はこの世のありとあらゆる邪悪を焼きつけ、 王族のように艶めかしい指は数え切れないほどの人の死と運命を弄んできた。 何年も。何年も…… 何人も。何人も…… そしてその存在が世界の歪みを増大させている。 574 名前 ◆u68XLQ0lCU Mail sage 投稿日 2007/03/12(月) 16 55 46 ID ??? 「私の目の前にいるこの男がッ!」 「馬鹿な……」 胸元でアラストールも動揺を押し隠せないらしい。 多くの紅世の徒、例え王であったとしても自分の存在は なるべく隠そうとするのが普通だ。自由に好き勝手に行動を続けていれば すぐに自分達フレイムヘイズに居場所を察知され、残らず討滅されてしまうからだ。 『封絶』も『トーチ』もその事を回避する為に生まれた術。なのに目の前のこの男は、 自分を追っている天敵の前にあっさりとその身を現した。 「この者が……幽血の……統世王……!」 「DIOッ!!」 シャナは大刀を両手に構え、大地に屹立した。 燃え上がる灼眼は鋭くDIOを射抜いている。 「封・絶!」 その小さな口唇から勇ましい猛りが上がると共に、 シャナの足下から火線が走り道路の上に奇怪な文字列からなる紋章が描かれた。 シャナとDIOを中心として紅いドーム状の陽炎が形成される。 「『封絶』……因果孤立空間か。なかなか面白い能力を持っているね? 君達『紅世の徒』は。ひとつ……それを私に見せてくれるとうれしいのだが」 穏やかな声に心臓の凍る思いがした。 しかし同時に心の一部分がその声に強く惹かれ形を蕩かす。 刹那とはいえ心を魅入られた自分自身に凄まじい、 まさに燃えるような怒りを感じ、風に靡く黒衣にそれを纏わせた。 (この男が全ての元凶!多くの王を下僕に誣いた全ての根元!) 燃え上がる使命感にDIOを見つめる瞳が灼熱の煌めきを増し、 髪から鳳凰の羽ばたきのように火の粉が舞い上がる。 (討滅!討滅する!!) 575 名前 ◆u68XLQ0lCU Mail sage 投稿日 2007/03/12(月) 17 02 06 ID ??? 足元のコンクリートを鋭く踏み切り、紅い弾丸のように飛び出したシャナは DIOの首筋に向けて空間に残像が映るほど高速の袈裟斬りを繰り出した。 周囲の空気を切り裂きながら星形の痣が刻まれた首筋に迫る白銀の刃。 意外。 DIOはそれをあっさりと右手で受け止めた。 戦慄の美で光る刀身が手の平の肉を音もなく切り裂き、骨に食い込む。 「っ!?」 驚愕。 全身が燃えるように猛っていてもシャナの頭の中はクールに冷め切っていた。 まさか『手で』受け取めるとは思わなかった。当然避けるものと考えていた。 その後の攻防の応酬果てに必殺の一撃を頭蓋に叩き込もうと 脳裏にもう数十手先の動きまで構築していたというのに最初の一撃で 全て計算が狂った。 速度はあったが様子見程度の撃ち込みだったので 手は切断されず中程まで食い込み刃はそこで動きを止める。 今までこんな敵はいなかった。 どの紅世の徒の中にも。王の中にも。 『贄殿遮那の一撃を真正面から素手で受け止めた相手は』 (こ、こいつバカ!?このまま刀を引き抜いたら、) 考えるのとほぼ同時に身体が動く。刀を掴んだDIOの手を支点にして 一瞬の躊躇もなくシャナは素早く柄を引いた。 だが。刀身は動かなかった。 まるで『その場で凍りついたように』動きを止めていた。 「貧弱……」 DIOの美しい口唇に絶対零度も凍り付く冷酷な微笑が浮かぶ。 貴公子の仮面に罅が入り残虐な本性がその姿を垣間見せた。 「貧弱ゥゥッ!!」 いきなり周囲に白い膨大な量の水蒸気が暴発したボイラーのように巻き起こった。 576 名前 ◆u68XLQ0lCU Mail sage 投稿日 2007/03/12(月) 17 04 54 ID ??? 大太刀『贄殿遮那』の刀身を掴んだDIOの手から肘の辺りまでが いつのまにか超低温に冷やされた鋼のような質感に変わっていた。 その腕から発せられる冷気に周囲の全てが凍り付く。 大気が凍り大地が凍り、贄殿遮那が凍った。封絶すら凍った。 「こ、凍る!?」 冷気が刀身を伝達して柄を握るシャナの手にまで侵蝕してくる。 「『気化冷凍法』。使うのは実に100年振りだ。 『波紋使い』以外に使うこともないだろうと思っていたが」 DIOは渦巻く冷気よりも冷たい微笑を浮かべてシャナの灼眼をみつめる。 冷気が柄を越えシャナの腕にまで達し熱疲労でその皮膚が引き裂かれる瞬間、 「ムゥンッ!」 胸元のペンダントを中心にして巻き起こった柔らかな炎が 一瞬でシャナの身体を包み込んだ。冷気で柄に張り付いた皮膚を、 アラストールが『浄化の炎』で解き剥がす。 「!」 アラストールに意識がそれたDIOの手から刀身を引き抜くと、 シャナは腕の温度の上がった部分を足場にし身軽に宙返りをして距離を取った。 「ありがと。アラストール」 水滴に濡れた手を黒衣で拭い、同じく水で濡れた大刀を 構えなおしながら短くシャナは言う。 「今のが彼奴の身体を流れる幽血の一端か。油断するな。 まだどんな力を隠し持っているのか予測がつかん」 「解ってる」 シャナは短く言うと刀身に付いた水滴を一振りで全て叩き落とした。 577 名前 ◆u68XLQ0lCU Mail sage 投稿日 2007/03/12(月) 17 09 19 ID ??? 「……ククク、100年も眠っていたので忘れていたよ。 己の力を存分に開放する事の出来るこの得も言われぬ充足感。 久しく戦いから離れていたので血が滾るというやつか?フフフ…… 凍てついた私の血も君の炎に炙られてどうやら融け始めたようだ」 DIOはその悪の華と呼ぶに相応しい美貌に邪悪な微笑を浮かべる。 「もっとくべてくれ。私の凍てついたこの心に。君の炎を。君の熱を」 そう言うとDIOは超低温の冷気に覆われた両手を前に差し出し、 緩やかに構えを執る。 その構えは華麗にて美しくそして流麗な力強さを併せ持っていた。 そしてそれに劣らぬ畏怖も。 それはシャナの両手に握られている贄殿遮那と全く同じ戦慄の美。 否、威圧感だけならそれを上回った。 「さあ!手合わせ願おうかッ!!」 そう叫ぶとDIOはいきなりアスファルトが陥没するほど 地面を強く蹴りつけ、一瞬でシャナの眼前に迫った。 「UUUUUUURYAAAAAAAAッッ!!」 周囲のガラスに罅が走るような奇声を上げながら シャナの身体に向け凍った掌で貫き手の連打を繰り出してくる。 着痩せして見えるその身体からは想像もつかない、 途轍もない怪力の籠もった強い撃ち込みだった。 だが砕く事を目的とした動作ではない、 明らかに掴む事を念頭においた撃ち方だ。 どこでもいいからシャナの身体の一部を掴み、 先程の冷気で全身を凍りつかせる為に。 578 名前 ◆u68XLQ0lCU Mail sage 投稿日 2007/03/12(月) 17 14 02 ID ??? 「っくう!」 素早く複雑な軌道を描く精密な足捌きで身体を高速で反転させながら DIOの暴風のような撃ち込みをかわすシャナ。 だが、同時に舞い上がる黒衣の裾にまで気を配らなければならないので 避けづらい事この上ない。 「フハハハハハハハハ!!どうした!どうしたぁ!! 自慢の炎は出さんのかッ!逃げてばかりでは永遠に私には勝てんぞッ! もっと私を楽しませろッ! UREEYYYYYYYYYYYYYYYーーーーーッッ!!」 更にDIOの心理状態が微塵も読めないので次の攻撃が全く予測出来なかった。 紳士然としていたかと思うといきなり何の脈絡もなく狂戦士のような風貌に変わる。 こんな異常な心理を持つタイプには今まで遭遇した事はない。 「こ、この!誰が逃げてなんか!」 負けず嫌いの性格故に思わず声が口をついて出るが、 確かにDIOの言うとおりだった。でも攻撃は出来ない。 どんなに鋭い斬撃だったとしてもこの男は躊躇せずにまた それ掴んでそこから冷気を送り込んでくるだろう。 『浄化の炎』があるにはあるが同じ手が二度通用するとは思えない。 それに次は恐らく胸元のアラストールの方が先に凍らされる。 しかし今のままだと防戦一方なので永遠に勝機は訪れない。 時間を置けば置くほど回避によって神経がどんどん摩耗していき 最終的には僅かに生まれた隙に全連撃を一気に捻じ込まれる。 (それなら……) 決意の光が灼眼が煌めく。 (『遅かれ早かれ擦り切れるなら!』) 579 名前 ◆u68XLQ0lCU Mail sage 投稿日 2007/03/12(月) 17 18 11 ID ??? 「はああぁっ!!」 鋭い猛りがシャナから上がる。 過負荷により神経の電気伝達がショートし目の中で火花が弾けた。 だがその甲斐はあった。 贄殿遮那の刀身が渦巻く紅蓮の炎で覆われていた。 火炎が刀身を焼き焦がし発する熱気が周囲の冷気を全て弾き飛ばす。 すぐさまに横薙ぎの一閃がDIOに向かって放たれた。 ガギュンッ!!と鋼鉄の城塞に灼熱の破城鎚でも撃ち込んだかのような 異様な音と共に重い手応えが柄を握るシャナの手に跳ね返ってくる。 「美しい……これが君の生み出す炎か。マジシャンズ!」 胴体に向けて放たれた炎刃の一撃を先程同様凍った掌で受け止めた DIOは炎に照らされた微笑でもって応える。 その手の中で冷気と熱気が音を立てながら互いに弾けた。 炎と氷の混ざり合った靄がDIOの内なる火勢を更に煽る。 かなり無理をしたがシャナのやった事は功を奏した。 受け止められはしたが今度は冷気が身体に廻ってこない。 これでようやくこちらからも攻撃出来る。 「おまえを討滅する!幽血の統世王!!」 シャナは凛々しく激しい瞳で眼前のDIOを射抜いた。 湧き上がる熱気と共にその全身が火の粉を撒く。 DIOは精神の高揚で牙が飛び出した口元に笑みを浮かべると 大刀を掴んだ手を振り払った。 怪力によって飛ばされたシャナは空中で体を返し軽やかに着地する。 「やあああァァァッッッてみろおおおォォォーーーーー!! 青ちょびた面のガキがあああァァァーーーーッッッ!!」 理性の仮面が完全に破壊されこの世のどんな暗黒よりもドス黒い 本性を剥き出しにした邪悪の化身、DIOは、 凍りついた両腕を広げ殺戮の歓喜に身を震わせながらシャナに向かって叫んだ。
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想いは百秒で砕け散る◆S4WDIYQkX. 一人早く起きているリンクは皆の眠りを妨げぬよう、部屋の外に居た。 放送までの時間はそれほど無い。 仮眠に戻る事なくそのまま起き続け、思考していた。 自分が何をすべきなのか。 自分の役割が何であるかを噛みしめて、想う。 (僕の役目はみんなを護る事だ) それは間違いの無い前提だ。 リンクは仲間達を護らなければならない。 数多の戦いを乗り越えてきたリンクの最大の役目だ。 問題はナニから護るのかという事である。 (襲い来る敵、殺し合いに乗ってしまった人から。 あるいは“殺し合いそのもの”から) 殺し合いから護る、という言葉には二つの意味合いが有る。 殺し合いに巻き込まれ誰かに殺されてしまわないよう安全を護るという意味。 もう一つは、 (仲間が殺し合いに心を呑まれてしまわないように護らなくちゃいけない) 殺し合いに巻き込まれ誰かを殺してしまわないように精神を護るという意味だ。 それは殺人鬼に堕ちるような過激な意味ではなくとも、 殺し合いを許容し、仲間以外の全てを殺しても構わないといった危険な思想に染まらないよう護る意味でもある。 (高町なのは) その思想を否定したはずの仲間を連想する。 そう、彼女はリンクの目の前で危険すぎる思想を否定したはずだった。 なのに何時しか全てが嘘に包まれて見えている。 彼女は本当に殺し合いを否定してくれたのだろうか。 (君は一体、どんな想いを秘めているんだ) それすらも解らないままに想いを秘めて。 朝を待つ。 廊下の窓から外を見てみれば、もう東の空が白くなりはじめている。 放送は目の前に迫っている。 朝焼けだろうか、眩い輝きが木々の合間から見えて……。 (待て) まだ日は昇りきっていない。 朝日には少々早すぎる。 それならこの輝きは一体何だ!? 「何か、来る!!」 数秒後、光り輝く最悪の敵が廊下の壁をぶち抜いた。 「みんな起きて! 敵だ!!」 警告の叫びを上げてリンクは剣を抜き放つ。 コキリの剣。 子供の姿の自分にとっては丁度良い、長く使い慣れた剣だ。 自分の剣が手元に回ってきたのは幸運だった。 この島では愛用の武器と再会出来る可能性など極めて低いのだから。 大人の姿になれたなら最良の剣は聖剣マスターソードになるのだろうが、 (この姿の僕としてはこれが最良の剣だ) 子供の姿のリンクにとっては、コキリの剣こそ最良の武器だった。 自らの実力を引き出せる得物を手に敵を見据える。 濛々と上がる粉塵の中を視認する。 ソレは熱を帯びた赤銅の肌をしていた。 淡く輝く螢火の髪をしていた。 髪はまるで生き物のように蠢いて見える。本来の長さまで再生しようとするように。 絡み付いていた銀髪のウィッグが、伸びる髪に押されて落ちた。 喪服か、あるいはゴスロリ調の、黒いドレスを身に纏っている。 しかしズタズタのドレスだ。 心臓の直上には膨らみの無い肌が覗き、奇妙な黒い文字──∀IIIが浮かび上がっている。 左腕の袖も途中から無いし、他の部分もそこら中に破れ目が覗いている。 奇妙なことに、破れ目の下の赤銅色の肌には傷跡一つ見当たらなかった。 そして右手には巨大な突撃槍が握られていた。 穂先は何処かしら龍のような形状で凶悪な“顔つき”をしている。 怪物の手にあるそれは、ともすれば怪物の一部にも見える。 その石突から伸びる飾り布は途中からエネルギーに転じ、光り輝いている。 まるで太陽の光のような、美しい山吹色に。 ヴィクター・スリー……セカンド。 グレーテル。 残酷極まりない愉悦を浮かべて、少女の姿をした怪物は槍先を向ける。 幼き時の勇者へと、その切っ先を。 猛烈な殺意が吹き荒れていた。 知らない。 リンクはこんな怪物を知らない、はずだ。 だけどどうしてだろうか、見たことが有るように思える。 目の前の少女のような誰かと、何処かで戦った記憶、が。 (敵だ) 何にせよそれだけは判る。 残念ながら殺し合いを否定するしないという段階ではない。 目の前に顕れた怪物はきっと、この島に居なくとも人間を殺戮し愉悦とともに貪るだろう。 殺す気で挑まなければ殺されるだけだ。 リンクと、仲間たちが。 果たして怪物は歓びに歪めた口元から、天使のような声で囁いた。 「天使を呼んであげましょう」 襲来から十秒。 それが開幕のベルだった。 グレーテルは巨大な槍を手に突撃する。 リンクはそれを正面から迎え撃った。 半身だけずれて突撃を回避しながら、コキリの剣を振り下ろす。 グレーテルは、停止していた。 「くっ」 読まれた。いや、力ずくで止まられた。 小さく息を吐く。 槍が届く間合いで視線が絡み合う。 それでも体勢は崩れていない。コキリの剣は小回りが利く、振りを戻すのは一瞬だ。 槍が振るわれた。 剣が振るわれた。 速度はグレーテルの方が上だったが、技量を合わせればリンクも大差はない。 斬り合いに関して言えば互いの速度はほぼ同等、ほんの僅かにリンクの方が上だった。 つまり。 (ダメだ、押し切られる!!) 巨大な突撃槍を手斧の如く振るえる圧倒的な剛力分、グレーテルの方が上だった。 数合でリンクは後退り、それでも。 反撃に転じた。 相手が槍を振りかぶった瞬間に懐へと飛び込んで脱力感を堪えて剣を一閃し手応えを感じたその瞬間に 衝撃が走り視界が弾み白く染まり重力を見失い居場所を見失い状況を見失い──。 皆が眠る部屋の壁に叩きつけられていた。 「ぐぁ……!?」 戦況に理解が追いつかない。 視界が揺れて意識が酔いに冒される。 脳が揺れて体が動かない。 (一体……なにが……!?) 揺れる視界に映るのは胸元から出血するグレーテルの姿。 だけどあまりにも浅い傷だ。 手元を誤ったのか、いやそんなハズは無いと思考が巡る時間、さえもが惜しい。 襲撃から二十秒余り。 リンクが体勢を立て直すまではしばらくかかる。 グレーテルは槍を動けぬリンクに向けて飾り布のエネルギーを点火し一撃必殺の突撃を仕掛けようと。 「させるかぁっ!!」 すぐ横の扉が開き、アリサ・バニングスが飛び出した。 左手にステッキ、右手に秀麗な刀を握り締め、リンクの前に立って壁となる。 グレーテルはくすりと笑い、右手に突撃槍を握ったまま左手で何かを取り出した。 片手で握れるサイズの金属塊。 リンクにはそれが何かは判らなかった。 しかしアリサの気配が緊張に強張る。 それは、拳銃である。 引き金が引かれた。 轟音と共に銃弾が放たれる。 射線上にはアリサとリンク。 アリサが避ければ鉛弾はリンクの体を穿つだろう。 その状況でアリサの持つ贄殿遮那の白刃が。 受け止めた。 甲高い金属音が響いた。 続きカラカラと軽い音を立てて鉛の小粒が床を打つ。 カレイドステッキに支えられたアリサの剣技は、贄殿遮那の刀身で銃弾を凌いだのだ。 絶対不変にして堅牢無比なる贄殿遮那の刀身が有っての話とはいえ、 咄嗟に射線上に刀身を構え、銃弾の強烈な運動量を受け止め弾ききった膂力は見事という他にない。 グレーテルは驚愕に目を見開き、しかし表情を笑みに戻して、続けざまに数度引き金を引いた。 アリサには、それ以上は防げない。 その表情には銃弾への怯えが浮かぶ。 その足膝には恐怖からの震えが見える。 僅かに崩れた体勢が“付け焼刃の達人”の限界だった。 ならば二度三度繰り返せば良いだけだ。 引き金は引かれ、銃弾は二度三度と放たれて。 見えない壁に防がれた。 部屋から飛び出してきたのはアリサだけではなかった。 高町なのはも目を覚まし、転がり出るように部屋から出てその片腕をかざしていたのである。 プロテクション。 物理攻撃に強力な耐性を誇る魔法の壁が続く銃弾を防いでいた。 数瞬の攻防だった。 グレーテルは笑う。 哂う。 嘲り嗤う。 「森鹿のシチュー。フィッシュアンドライスに紅茶を添えて」 目の前にごちそうが並んでいると歓喜する。 拳銃を懐に戻し、突撃槍を両手で握り締める。 ヴィクター・スリーの手で振るわれる武装錬金の突撃ならば、プロテクションなど紙にも等しい。 戦車砲の如き一撃は障壁ごと三人を粉砕しても余りある。 「ブレックファーストには贅沢かしら?」 「ワケわかんないこと言ってんじゃないわよ!!」 させまいとアリサが突っ込んだ。 贄殿遮那が振るわれる。 銃弾を鎬で受け止めはじいても刃こぼれ一つ歪み一ミリ有りはしない。この刀は完全なる強度を誇っている。 その斬撃に襲われてグレーテルは突撃を中止した。 代わり槍が振るわれて、宝具贄殿遮那と武装錬金サンライトハートが切り結ぶ。 襲撃からはまだ僅かに三十秒。 力はやはりグレーテルが圧倒していた。 それでもアリサは耐え凌ぐ。 付け焼刃でも今のアリサは達人だ。 しかも最初から人外の達人の為に鍛えられた贄殿遮那を振るえる腕力も与えられている。 アリサの身長近い大太刀が鮮やかに舞い踊る。 人間を一薙ぎで粉砕する化物であっても、カレイドステッキの力があれば立ち向かえる。 斬撃が服を食み、刺突が髪を掠めても、致命傷だけは受けまいとする。 その殺陣にグレーテルは笑みすら浮かべ。 笑みは油断か、アリサの前に一瞬の隙が晒される。 (今だっ!) 殺人が良い悪いなど斬り合いの最中には考える暇も無い。 アリサは渾身の斬撃をグレーテルの胸部に叩き込み。 切れ味の悪い包丁で大型トラックのタイヤに斬りつければこんな感覚が返るだろうか。 「な……っ」 切れなかったわけではない。 確かに切れた。 リンクの付けたそれと交差する十字傷がグレーテルの胸元に走っている。 皮膚を切り裂き、何もかも違うのに変色していないことが奇妙に思えるほど真っ赤な血を噴き出している。 しかしその傷は、信じられないほどに浅かった。 「私は、殺せないわ」 果たしてグレーテルは恍惚とした笑みを浮かべて。 確信と信仰に満ちた笑顔で突撃槍を振りかざす。 そして、 「だってたくさん殺してきたんだもの。たくさん命を取り込んだんだもの」 破滅は振り下ろされた。 辛うじて贄殿遮那を間に挟み、それでも圧倒的な打撃が全身を駆け降りる。 腰が、膝が、体勢が崩れる。 ディバインシューターという叫びが響いた。 続く刺突が、突き立った。 アリサの右肩に深い傷が穿たれて、悲鳴と共に贄殿遮那を取り落とす。 「Never Die。そう、私たちはNever Dieなのよ」 更なる刺突が襲う二瞬前に、魔弾の一つがアリサの懐に飛び込んで一瞬静止して。 刺突が床を穿つのとアリサの体が跳ね飛ばされるのは同瞬だった。 なのはがアリサを受け止めて倒れこむ。 死んではいない、けれど。 グレーテルはコンクリート床に突き刺さった槍をあっさりと引き抜いた。 その視線が獲物の群れを品定めするように舐っていく。 リンクは立ち上がり、再び剣を構えていた。 事実上、現在グレーテルに立ちはだかれる敵は彼だけだった。 右肩から出血し粗い息を吐いて倒れているアリサは、既に戦力外だった。 出血量からして急ぎ治療しなければ命に関わるかもしれない。 奇妙なステッキがアリサさんと名を叫び、心配している様子だった。 遅れて起きてきたインデックスがアリサに駆け寄っている。 熱で消耗したその動きは遅く頼りなく、何の障害にもなりえない。 なのははアリサを抱き続けることもできず腕からこぼし、ただ呆然となっていた。 彼女は大凡無力だったのだから。 そう、高町なのははディバインシューターを放ちアリサを支援した。 グレーテルの攻撃を止めようとしたのだ。 放たれた魔力弾の数は三つに及ぶ。 しかし槍を狙った一つはグレーテルが振るう腕と交差しただけで砕け散った。 槍に直撃したもう一つが心臓を狙った槍の狙いを逸らし、 遅れた一つを使いアリサの救出したのは見事な芸当だったが、殆ど被害を与えられなかったのには変わりない。 なのはに殺意が無かった事など言い訳にもならない。 デバイス無しのディバインシューターはグレーテルを傷つけることすらできなかった。 ヴィクタースリー・セカンド。 その赤銅の肉体が恐るべき強度で攻撃を阻む。 高町なのはにデバイスやミニ八卦炉は無く、リンクに大人の体とマスターソードは無い。 襲撃から僅か一分足らず。 アリサは倒れ、グレーテルを斃しきるほど強力な武器は無い。 ──完全に追い詰められていた。 (どうすればいい!?) リンクは刹那の時間で疾く思考を巡らせる。 アリサの敗北を見て、リンクは一つ理解していた。 今のがさっきの自分だ。 リンクはグレーテルに斬撃を命中させた肌を切り裂いたが、グレーテルは意に介さず槍を振るったのだ。 その成果がグレーテルの胸元に付いた浅い十字傷と、アリサ達に助けられなければ確実に死んでいたリンクだ。 どこまでも一方的な蹂躙だった。 圧倒的な戦力差に歯噛みし、苦悩し、それでも。 剣を握り対峙する。 仲間を置き去りにして逃げるなんて選択肢にすら浮かばない。 どうやって仲間を逃がすかなら考えた。 それにインデックス達を逃がせば、一応勝ち目は有ると言えなくもない。 (傷を負わせられない相手じゃないんだ、一対一なら少しずつでも削り取っていけばいいっ) 恐ろしく困難だが完全に不可能とも言えないはずだ。 だけどそもそもの前提となる、仲間を逃す手段が思いつかない。 アリサは深手を負ったし、インデックスは高熱で消耗している。 足止めをするにしたって、まともな傷を付けられない現状では難しい。 やろうと思えば横合いからの脆弱な攻撃など無視して逃げる者を襲えるのだから、どうしようもない。 (せめて一度。一度でいいからもっと深手を与えなきゃいけない) そうすればグレーテルもリンクに背を向けられなくなる。 ゆっくりでも仲間が逃げる時間を稼げる。 問題は深手を与える手段だ。 腕に嵌っているリング、勇者の拳も考えてみたが、 緊張した状態から十分な威力を出す自信は無いし──リンクにはユーモアが足りない──攻撃の範囲も面だ。 当たりやすいのは良いけれど、一点は突けないし、相手の攻撃にも正面からぶつかってしまう。 ヴィクターと化し圧倒的破壊力を誇るグレーテルの突撃槍に正面から拮抗出来る者は、そうそう居ない。 剣の方が上手く立ち回れる。 だけど剣では硬すぎる。 (高い威力が無いなら……相手の弱いところを突いたら?) リンクの視線が、グレーテルの胸元で止まった。 アリサとリンクの剣戟が交差した、十字傷を刻まれた胸元だ。 十字傷分だけ皮膚が破れ肉が薄くなっている部位だ。 あの一点にもう一度刺突を打ちこめば? 上手くいけば瀕死の重傷に追い込めるほどの深手を与えられるのではないだろうか? (だけど、そんなこと出来るのか!?) 確かにリンクもアリサもグレーテルに一撃を命中させていた。 グレーテルの方も自らの強度を理解したのか、アリサに対しては威力を測りわざと隙を作った節がある。 それでも当てられるのは、どこかに当たれば良いという攻撃だ。 動いている相手の一点を正確に狙うのとは話が違う。 しかも全体重をぶつける必殺の突きでなければ話にならないだろう。 自殺覚悟で突撃しても成功するかわからなかった。 (せめて動きを止められれば) さっきもなのはの攻撃は槍先を狙い撃てた。 アリサにトドメを刺そうとした瞬間、遠距離からの攻撃は不意打ちの狙撃にも等しかったのだ。 だから当たった。 何らかの手段で動きを止めることさえ出来れば当てられる。 (そういえば、なのはは?) リンクは脇目でなのはを見て……息を呑んだ。 ◇ 「…………ごめんなさい…………」 高町なのはは呆然となっていた。 襲来したグレーテルを見て、思い出していた。 それが誰であるかを。 「ごめんなさい……ごめんなさい……」 自分が殺した一人の少年の事を思い出していた。 学校で遭遇した災厄の化身。 江戸川コナンを犠牲にしてまでして殺した少年。 髪の色も肌の色も違うし、少年でなく少女だけれど、決して見間違える事はない。 忘れられるはずもない。 彼と江戸川コナンは、高町なのはが初めて命を奪った相手なのだから。 友人であるヴィータの腕を焼いたのが地獄の始まりだった。 だけどもう一つ始まりが有るとすれば、自らの意思で三つの命を奪った学校の惨劇だろう。 ヘンゼルを殺すためにコナンを殺し、それでも救えない二人の片割れを助ける為に一人を切り捨てた地獄。 なのはは彼らの名前さえ知らない。 ただ、理解はしていたのだ。 わるい人だから殺していいわけじゃないし、そもそもわるい人でもなく、 ただ狂っていただけなのだと理解していたのだ。 それでも殺した少年だから、その死は高町なのはが背負わなければいけない死だった。 プロテクションで銃撃を防いだ時、その存在に気がついた。 アリサが殺されそうになって咄嗟にディバインシューターを放つことさえ戸惑いがあった。 例えどんな怪物であろうとも、高町なのはは彼女に対して罪を背負っている。 「さっきは撃ってしまってごめんなさい。 あなたを……ううん、お兄さんを殺してごめんなさい。 こんな言葉に意味を感じない人だって知っています。 あなた達がどういう人間なのかを知っています。 ずっと、生きることと殺すことが同じところに居たからそうなったことを知っています。 たぶん、わたしのことも仇じゃなくて獲物でしかないってことを知っています。 でも」 今のなのはにはどうすれば良いのか判らなかった。 こんな時、少し前のなのはなら殺そうとしていた。 あるいは打ち倒し、戦う力を奪おうとしていた。 なのははそれを、否定した。 その時点で、なのはの中には何の指針も残ってはいなかった。 アリサ達への友情はとても深いものだった。 インデックスもリンクもカレイドルビーも大切に思っていた。 本来の高町なのはらしく生きたいと思っていた。 生きて果たすべき目的は取り戻していた。 だけどそれでも、目的とするところへどう向かえば良いかがわからない。 当然の話だ。 だってなのはは、一人でもたくさんの人を救おうとしてたくさんの人を殺してしまったのだから。 誰かをたすけようと思って行動しても、誰かを殺してしまうかもしれない。 誰かをまもろうと思って行動しても、誰かを殺してしまうかもしれない。 誰かに生きてほしいと想って行動しても、誰かの命を奪ってしまうかもしれない。 なのはには最早、自らの判断の一切を信じることができない。 だからなのはは仲間にすがった。 『はやてに、謝ろう。コナンに、アイに謝りに行こう。 君はコナン達に一度も謝っていない。死んだ人たちに謝っていない』 なのはの脳裏に反響したのはリンクの言葉だ。 なのははリンク達に依存することで殺し合いを否定したのだ。 それによって、どんな人間でも殺すのはいけないことだと信じられた。 その結論がこの行動だった。 相手が狂った殺人鬼であることなんて、今のなのはにとっては判断材料にもならない。 なのはは目の前の相手に自分の言葉が通じるはずなんてないと、知識として知っている。 でもそんな知識に依存した末があの暴走だったのだ。 もう、なのははそんな末路を辿りたくはなかった。 理性ではなく感情に従いたかった。 リンクの言葉を信じたかった。 それが依存という歪なカタチでも、いつかほんとうのカタチを取り戻せると信じたかった。 「ごめんなさい。 でもおねがいです。みんなを殺さないで」 進む道を変えるために罪の意識を薄めてしまったこの心で、それでもあやまろう。 入れる中身の足りない薄っぺらな言葉でも、謝罪という行為は正しく必要なことだから。 彼女の家族を殺害したのだろうこの体で、それでもわたしの友達を殺さないでとおねがいしよう。 どれだけちぐはぐで筋の通らない行為でも、それが今のわたしだから。 自分らしく生きたいという歪な理由で、それでも話し合いをしよう。 この想いがどれほど身勝手で醜いとしても、戦わず話し合う行為は正しいはずだから。 一歩一歩にその想いを篭めて、ゆっくりと歩み寄る。 今度こそ話し合いを試みるために。 それがきっと正しい行動なのだと信じて──ううん、信じるために。 高町なのはは自らの意思で、高町なのはであろうとし続けていた。 その行為を前にしたグレーテルは驚きの表情と、次いで楽しげな表情を浮かべて。 なのははそれでも祈り続けて。 「あなた達にとってこんな話は笑い話なんだと思います。 それでも、おはなしを」 突撃槍が振るわれた。 高町なのはは叩きつけられように床に倒れた。 襲撃から八十五秒。 グレーテルが嘲嗤う。 高町なのはの愚かさと無謀を嘲う。 「ねえ、東の方の国に踊り食いっていうものがあるそうよ」 リンクには理解できない。 邪悪に過ぎてあまりに装飾的な言葉を、断片からは理解できない。 グレーテルはその可憐な唇から愉しげに続きを綴る。 「海産物を生きたままお刺身にしたり、殻を剥いて食べるそうよ。とっても美味しいそうね。 学校でも素敵な勇者さまでやってみたけど、この子も最後まで今の話を続けられるのかしら?」 「な……おまえ、まさかっ!?」 突撃槍が振りかざされた。 九十五秒。 そして、五秒間が始まる。 「くそっ」 リンクは仕方無しに距離を詰める。 それを予想していたグレーテルが向き直る。 結局リンクは十字傷の一点を貫く狙う術が見いだせない。 それでも一縷の望みに賭けて挑もうとして。 九十六秒。 「っ!?」 グレーテルの動きが鈍る。 殴り倒されたはずの高町なのはが倒れこむように這いずってグレーテルの腰にしがみついていた。 微かに聞こえるもうやめてというか細い言葉。 九十七秒。 「そのまま抑えてて!!」 リンクはそれを、高町なのはがグレーテルを抑えたのだと思い込む。 素養が、あったのだ。 なのはは迫真の演技で自らの本心を隠したのかもしれない人物だった。 だったらやはりこの行動も、グレーテルを油断させて嵌めたのかもしれないと思ったのだ。 (どっちにせよこれで狙えるもう少し抑えてくれればあの傷口をコキリの剣で──) 九十八秒。 「ぁ……」 高町なのはは何故か急速に薄れゆく意識の中でリンクの姿を見つめる。 剣を構えグレーテルに突撃する姿を見てまるで氷の刺が刺さったみたいな冷たい悲しみとかすかな失望が 胸に広がるのを感じてでもそれがどうしてかわからなくて意識が見る見るうちに暗く──。 九十九秒。 なのはが今度こそ崩れ落ちる。 開放されるグレーテルを見てリンクの心中に一瞬焦りが走る。 高町なのはを信じたのは失敗だったのか? すぐにそれを否定する。 彼我の距離はほんの僅か、動きを止められていたグレーテルが回避するには間に合わない。 だから間に合うはずだ。 貫けるはずだ。 果たしてリンクの刃はグレーテルの胸に届いた。 狙いたがわず正確に一点へと鋭い突きを叩き込む。 その動きは完璧でグレーテルの行動はそれに一瞬間に合わなくて。 襲撃から百秒が経過した。 ザッという音がした。 グレーテルが壁に開けた穴を抜け、人影が一つ飛び込んできたのだ。 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。 自称最強の悪の魔法使い。 リンク達を護るため、他の悪を討つために、魔女たちに同盟を示唆しながら四散させた張本人。 つい先ほどヴィクターと化す前のグレーテルと戦い撃退した、夜に生きる吸血鬼である。 彼女は変貌したグレーテルが工場の方角に向かうのを見て、それを追ってここに来たのだ。 しかしグレーテルがヴィクターの飛行能力を使いこなし始めた挙句にサンライトハートで加速したため、 彼女の飛行能力では若干の遅れが生じ、出発の時間差も含めて百秒の遅れが生じた。 たったの百秒だ。 例えば廊下など見晴らしの良い場所に出ず適当な部屋に隠れて、迎撃に出るのではなく待ち伏せれば過ぎ去る程度の時間。 救援の見込みなど薄いのだからそんな可能性は低かったが、一つ違えば何事も無く間に合ったほどの時間。 それだけの時差で彼女は戦場に辿り着き。 その光景を視た。 リンクの剣は確かに狙いたがわず一点を貫いた。 グレーテルが傷を負っていたその場所を。 そこからならリンクの刺突はグレーテルの肉を深く穿ち、上手くすれば致命傷に至る程の傷になっていたかもしれない。 その切っ先が、ほんの少し肉に埋まっただけで止まっていた。 リンクは幾つか気づくべきだった。 何よりも高町なのはが冷静な判断で戦術的行動を取っていたわけではない事に気づくべきだった。 この状況における高町なのはは何処までも無力な少女でしかなかった。 その行動に作戦を見てはいけなかったのだ。 高町なのはがグレーテルにしがみついたのは動きを抑えるためではない。 だから、その力は動きを妨げるにはあまりにも弱かった。 回避行動を妨げる事が出来ても、攻撃の邪魔まではできない程に。 そして今の高町なのはは人間的な感情に素直になった代償として、冷徹なまでの理性的判断力と観察眼を失っていた。 だから高町なのはは気づいていなかったし、 なのはの行動を信じられるかどうかという言ってみれば 戦闘とは無関係な方向に思考が逸れてしまったリンクも気づいていなかった。 背後で、アリサを安全な場所に運ぼうとしたインデックスがいつの間にか二人して倒れている事と、その理由。 それが何をもたらすのかに。 高町なのははヴィクターと化しているグレーテルにしがみつき、密着した。 高町なのはの意識を奪った最終的な要因は、ヴィクター化によるエネルギードレインである。 ヴィクターと化した者はそのエネルギーで武装錬金を振るい。 あるいは自らの肉体を再生する。 僅かに血が滲む程度の掠り傷など、ほんの数瞬なのはが密着していた分で十分だったのだ。 リンクの剣が届く前に再生は完了し、赤銅色の皮膚はリンクの剣を受け止め貫通力の殆どを奪い去った。 そしてさっきまでの様に、攻撃に頓着せず振るわれたグレーテルの突撃槍が。 リンクの頭部を粉砕していた。 紅い液体と赤い塊と白くて硬い欠片と白くて柔らかい欠片と灰色の塊と白く小さな球体と細い金糸の生えた肌色が リンクの頭部だった場所から四散して壁にへばりつき少女達を赤く紅く染めていた。 それが一つの結末だった。 「そういう、事か」 エヴァは呟く。 悲壮と共に。 怨嗟と共に。 哀哭と共に。 「やはりそういうものか」 絶望と共に。 苦痛と共に。 悲嘆と共に。 「やはり正義とは、勇者とは、そんなものか」 正義の勇者の敗北を、続けざまに知った。 その儚さと、無力さとを識った。 確かめ、実証されるところを観せられた。 何が悪の中ボスだろう。 全てが今この瞬間だけは、どうでもよくなっていた。 だから正直に、胸の奥から溢れくる感情に身を委ねていた。 「良いさ。貴様は私が殺してやる」 グレーテルに向けて氷のように凝固した憤怒を、叫んだ。 ◇ インデックスはそれを見ていた。 倒れ伏し、息苦しいほどに消耗しながら。 喘ぎ、悶えながら見ていた。 (ダメだよ、エヴァ……) そして恐怖していた。 襲撃者の持っている能力と、この状況がもたらす最悪の組み合わせに。 インデックスは戦いに巻き込まれないよう、なのはの腕から零れたアリサを仮眠室に引きずり込もうとしていた。 呻き声を上げていたが、出血で一時的に意識が飛んでいたのか抵抗は無かった。 その途中で急激な脱力感に襲われ倒れてしまったのだ。 戦況を観察し続けて、やがてその原因を理解した。 しがみつきすぐに倒れたなのはと、グレーテルの胸の傷を見て。 グレーテルは周囲から生命力を吸い上げて自らの傷を再生していた。 即ち、エナジードレインだ。 その生命力は戦う力にも使われているのだろう。 グレーテルはそこに居るだけで周囲の者達を衰弱させ、力を増し続けていた。 とはいえ、本来は至近距離でなければこうも即効性を持つ力ではなかった。 健康な者ならこの距離でやられはしなかったはずだ。 だがインデックスは高熱と貧血で消耗していた。 微弱なエナジードレインに耐える体力すら残っていなかったのである。 深手を負ったアリサも似たようなものだろう。 エナジードレインを直接受けて倒れたなのはに至っては言うまでもない。 インデックスもアリサもなのはもまともに行動出来ず、しかしまだ生きている。 それこそが最悪だった。 (私たちの事は見捨てなきゃいけないんだよ……) それは裏を返せば、生命力のまだある、無力な存在が転がっているという事だ。 インデックスはグレーテルが周囲から力を吸い上げている現象に気づき、その“最悪”に気がついた。 この戦場で戦う限りグレーテルは力を増し続け、回復を続けるのだ。 (いくらエヴァでも、ここじゃ勝てないんだよ……!) この消耗では警告を叫ぶことさえ難しい。 だからインデックスは祈る。 戦況が不利になれば、エヴァが苦渋の選択で自分たちを見捨ててくれる事を。 せめて一人でも生き延びてくれることを。 悪夢は百秒で訪れた。 【リンク(子供)@ゼルダの伝説 時のオカリナ 死亡】 【A-3/工場/2日目/早朝】 【グレーテル@BLACK LAGOON】 [状態]:健康、ヴィクター化、血塗れ、胸に小さな傷。 喪われた心臓の代わりに核鉄(サンライトハート)が埋め込まれている。 [装備]:サンライトハート@武装錬金 ソードカトラス×2(1+12/15)(銀10/15)@BLACK LAGOON、ソードカトラス専用ホルダー [道具]:基本支給品一式、塩酸の瓶×1本、毒ガスボトル×1個、ボロボロの傘 ソードカトラスの予備弾倉×3(各15発、一つだけ12発)、バット、 蝶ネクタイ型変声機@名探偵コナン、救急箱、エルルゥの薬箱の中身@うたわれるもの (カプマゥの煎薬(残数3)、ネコンの香煙(残数1)、紅皇バチの蜜蝋(残数2))、100円ライター スペクタルズ×8@テイルズオブシンフォニア、クロウカード『光』『剣』@CCさくら、 コエカタマリン(残3回分)@ドラえもん、 [服装]:いつも通りの喪服のような黒い服。胸の中央に大きな穴が空き、更に大きく十字に切られている。雨に濡れて湿っている。 [思考]:うふふ……あははは…… 第一行動方針:エヴァと周囲の連中を殺す? 第二行動方針:千秋との再会を楽しみにする。千秋が「完全に闇に堕ちた」姿を見届けたい。 第三行動方針:機会があればまた紫穂と会いたい。2人きりで楽しく殺し合いたい。 基本行動方針:効率よく「遊ぶ」。優勝後はジェダに「世界のルール」を適用する(=殺す)。 [備考]:シルバースキンの弱点(同じ場所をほぼ同時に攻撃されると防ぎきれない)に勘付きました。 「殺した分だけ命を増やせる」ことを確信しました。ただし痛みはあるので自ら傷つこうとはしません。 銀の銃弾は微妙に規格が違う為、動作不良を起こす危険が有ります。使用者も理解しています。 【エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル@魔法先生ネギま! 】 [状態]:全身に痛み、左腕が殆ど動かない、魔力消費(中) [装備]:フェアリィリング@テイルズオブシンフォニア [道具]:支給品一式、手足の無いチャチャゼロ(半永眠)@魔法先生ネギま! [思考]:殺してやる、殺してやるさ 第一行動方針:グレーテルを殺す 第二行動方針:リリスと遭遇することがあったら、リリスを倒し身柄を押さえ、情報を得る。 第三行動方針:ジェダの居場所に至る道を突き止め、露払いをする。 第四行動方針:ジェダを倒そうと挑む者たちの前に立ち塞がり、討たれる。 基本行動方針:ジェダ打倒のために暗躍。ただし仲間は作らない。誇り高き悪として、正義の前に散る。 [備考]:梨花の血を大量に吸いました。雛見沢症候群、及び女王感染者との関連は不明です。 ジェダ打倒を目指している者として、ニアの名前をグリーンから聞いています。 パタリロを魔族だと思っています。名前は知りません 紫穂の『能力』が、触れることで発動することを見抜きました。詳細までは把握していません。 雲に隠れていても満月による補正は有るようです。 【インデックス@とある魔術の禁書目録】 [状態]:高熱&貧血&エナジードレインによる消耗で行動不能、全身に軽度の凍傷、 背中に大きな裂傷跡と火傷、足裏に擦過傷(共に応急手当て済み) [装備]:水の羽衣(背部が横に大きく裂けている)@ドラゴンクエストⅤ [道具]:支給品一式(食料-1日分、時計破損)、ビュティの首輪、鉄製の斧@ひぐらしのなく頃に(?) [服装]:私立聖祥大付属小学校の制服の下に水の羽衣。背中と足にシルクの包帯。 [思考]:逃げて、エヴァ……! 第一行動方針:どうにか、したい 第二行動方針:ヴィータを捜し、説得する。 第三行動方針:ニケ達と合流する。 第四行動方針:紫穂の行方の手掛かりを探す。エヴァの説得も諦めていない。名前しか知らないヤムィヤムィが少し気になる。 第五行動方針:落ち着いたら、明るい所でじっくりビュティの首輪を調べたい。 基本行動方針:誰にも死んで欲しくない。状況を打破するため情報を集め、この空間から脱出する。 [備考]:拾った双葉の型紐が切れたランドセルに荷物まとめて入れています。 インデックス自身のランドセルは壊れているので内容物の質量と大きさを無視できません。 深夜12時の臨時放送を、完全に聞き逃しました。 【アリサ・バニングス@魔法少女リリカルなのは】 [状態]:全身に軽い火傷(右腕と顔は無事)、左腕出血(軽度打撲)、背中出血(深い切り傷)、以上応急処置済み。 精神負担中、足と両手に軽度の凍傷、右肩に深い刺し傷、腹部打撲、出血と軽度エナジードレインで行動不能? [装備]:カレイドステッキ@Fate/stay night [道具]:なし [服装]:パジャマ。変身を解いたらショーツ一枚。 [思考]:?????? 第一行動方針:この状況をどうにかしたい。 第二行動方針:リンク、インデックスと情報交換する。 基本行動方針:はやての遺志を継いで、なんとかする。(なのはと一緒に)ゲームからの脱出。 [備考]:深夜12時の臨時放送を、完全に聞き逃しました。 カレイドルビーは臨時放送を聞いています。 贄殿遮那@灼眼のシャナはグレーテルの足元に転がっています。 【高町なのは@魔法少女リリカルなのは】 [状態]:魔力消費(中)、両手首に浅い傷、背中に軽度の凍傷(治療済み)、頬骨と肋骨一本にヒビ、 胴部打撲、密着エナジードレインにより昏倒 [装備]:なし [道具]:なし [服装]:シーツでできた服 [思考]:………………。 第一行動方針:これまでに殺した人たちに謝る…… 基本行動方針:自らの罪を償う。自身の想いに素直になる。それから…… [備考]:深夜12時の臨時放送を完全に聞き逃しました。 ≪279 死が二人を分かつとも 時系列順に読む 281 それぞれの再会 -ongoing-(前編)≫ ≪279 死が二人を分かつとも 投下順に読む 281 それぞれの再会 -ongoing-(前編)≫ ≪273 つながり(前編) リンクの登場SSを読む GAME OVER インデックスの登場SSを読む 282 第二回定時放送≫286 怨鎖の雷と光の矢≫ ≪274 目撃者と追跡者 グレーテルの登場SSを読む エヴァの登場SSを読む ≪265 高町なのはの過ごした一日 高町なのはの登場SSを読む ≪254 ワスレナグサ アリサ・バニングスの登場SSを読む
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【作品名】灼眼のシャナ 【ジャンル】漫画 【名前】シャナ(漫画) 【属性】フレイムヘイズ(人外) 【大きさ】少女並 【攻撃力】贄殿遮那:大太刀装備。 炎を放ち、20m程度の植物を粉々に出来る。一瞬で数十m先まで届く。 地面を斬るだけでコンクリの床に2m程度のヒビを入れた。 蹴りで2m程度の生物を10m以上吹っ飛ばす。 【防御力】十数mの爆破に耐える。 【素早さ】常人には何をしたか全く分からない速度で、 3人の人間を斬る事が可能なソラト(3人は一気に斬られた訳ではなく胴体や両足等1人1人別の部分を斬った)と、 互角な戦闘が可能なマージョリー相手に、互角以上の戦闘が可能。 一瞬で数十mの移動及び跳躍が可能。 【特殊能力】 飛行可能。 封絶: 周囲との繋がりを絶ち、因果孤立空間を作り上げる。 紅世(異世界)に関わるモノ以外のあらゆる存在は停止する。思考も不可能。 封絶外から内部を認識するのは不可能。即発動可。有効距離半径数十m程度。 【長所】封絶が強い。 【短所】原作のシャナの方が遥かに強い。 参戦vol.118 vol.118 366格無しさん2017/12/28(木) 15 31 48.24ID g3ZqPdwN 367 シャナ(漫画)考察 反応は0.166秒くらいか 達人思考発動までは封絶からのフルボッコで勝てる ~○メイゼル・アリューシャ 瞬殺 ×久遠 雷撃で感電死 ○天ケ瀬大樹 直接殴り殺して勝ち ○草壁遼一 封絶から滅多切り勝ち ○ホオク 同上 ×草壁健一郎 霊能力負け ×沢渡真琴 奇跡負け ○斬山斬十郎 耐えて封絶からのフルボッコ勝ち ×ハウゼ 咆哮負け ×アッシュ 超振動負け ○沢渡憂作 耐えて封絶ry ○志村時生 封絶からのフルボッコ勝ち ○久世響希 ギリギリ勝てる ×皆人&結 祝詞負け 絶無VS霊峰… ×キャリー・ホワイト いくら熱耐性があっても体内発火は無理 ○しんちゃん 蹴っ飛ばされてぶっ飛んで、地面に叩き付けられる前に封絶発動して勝ち ○ガリアノス 耐えて封ry ○護塚御月 妖魔…じゃないよね、勝てる ×レイナ 真っ向からぶった切られ負け 虚無VS惑星… ×本郷猛 ライダーキック負け ×麦野ちか 酔拳負け 平原VS山脈… 流浪の戦士レイナ(漫画)>シャナ(漫画)>護塚御月 いやー美女三人が並ぶとは目のお正月だねー(一部から目を反らしつつ)
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【種別】 宝具 【初出】 V巻 【解説】 銀でできた水盤型の宝具。“紅世の徒”を、本来必要な“存在の力”を消耗させずに、この世に留め置くことができる。ただし“徒”は水盤の上からは動けず、外へと力を振るうこともできない。 かつて『天道宮』を建造した“髄の楼閣”ガヴィダが、ともにその作業に当たった人間の同志たちと永の語らいを持つために作った。『星黎殿』における『ゲーヒンノム』と同様、『秘匿の聖室』を含めた『天道宮』の制御機能も付与されていた。 彼の亡き後、天罰神“天壌の劫火”アラストールが『天道宮』ごとこれを受け継ぎ、新たな『炎髪灼眼の討ち手』の養成に当たっていた。 『天道宮』が[仮装舞踏会]のウィネが所持していた『非常手段』によって崩壊した際に、共に破壊されたと思われていたが、数年後に[仮装舞踏会]との決戦のためにヴィルヘルミナが再訪した際には自動修復が完了していた。『カイナ』それ自体に修復機能があるのか、修復機能を持つ『天道宮』の一部であったためかは詳細不明。 【由来・元ネタ】 名前の由来は、ダンテの『神曲』に登場する地獄界の第九圏「コキュートス」を構成する四つの円の一であるカイーナ(Caina)のことだろうか。 【コメント】 ☆アニメ版から登場・使用されていた。 ☆『天道宮』はアラストールが動かしているような描写も以前にあった。 ☆大太刀型宝具『贄殿遮那』の製作も相槌に“王”を据えたとあったし、案外人間と“徒”の交流はよくあったことだった。 ☆制作者であるガヴィダがこれを利用しこの世にとどまり、人間達(ドナートを含む)と芸術に関して熱き言葉を交わしていた風景が目に浮かぶな。 ☆ラミー師匠といい、こういう因縁や過去の出来事が散りばめてあると読者的にはいろいろ想像できて楽しいな。 ☆これ一人乗りかな? ☆↑一人乗りというか一人乗れるくらいの大きさに“徒”がなるんじゃないかな?じゃなきゃアラストールが実物(魔神)大の大きさで乗ってることになってしまうから・・・。小さい“徒”は知らんがな。 ☆これってトーチに組み込む形で使えたのかな。 ☆創造神“祭礼の蛇”伏羲がこの宝具に座っている姿を見たかったな。 ☆[宝石の一味]のコヨーテやフックスやトンサーイがこの宝具に絡んでいたら面白そうだったのにな。
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【種別】 宝具 【初出】 VIII巻(名称や機能は公式ガイドブック完結編『灼眼のシャナノ全テ 完』) 【解説】 [仮装舞踏会]の禁衛員“嵐蹄”フェコルーが腰に下げていた湾曲刀型の宝具。操作は目分量で行う。 その能力は「空間を越えて斬撃を放つ」という凄まじいものだが、この宝具をフェコルーが抜いたことは数度しかなかったようだ。 【由来・元ネタ】 「オレイカルコス(Oreikhalkos)」は、古代ギリシア・ローマの文献にしばしば登場する伝説の金属。オリハルコンとも呼ばれる。 ギリシア語で「オレイ」が山で「カルコス」が銅なので、直訳は「山の銅」となる。 【コメント】 ☆アニメ第2期とアニメ第3期では使用されなかった。 ☆フェコルーが“天目一個”に襲われた時に、とっさに自在法『マグネシア』でなくこの剣で受け止めることを選んでいれば、致命傷は避けられたのではないだろうか。本人も含めて、「フェコルー=『マグネシア』」という固定観念が強すぎたのかもしれないな。 ☆『マグネシア』の内側から、外側の敵を一方的に攻撃できる反則気味な宝具だ。しかし大抵の相手は『マグネシア』でどうにでもなる以上、ほぼ出番は無かった。この剣を抜くとしたら、『大地の四神』の一人センターヒルの『トラロカン』のような自在法を打ち消してくる相手かもな。 ☆フレイムヘイズ『炎髪灼眼の討ち手』シャナの『贄殿遮那』やフリアグネの『ラハット』やソラトと坂井悠二の『吸血鬼』との鍔迫り合いが見たかったな。 ☆『オレイカルコス』は明らかに遠距離攻撃用だろ。鍔迫り合いに持ち込まれるようなのは、使い方を間違ってる。 ☆『マグネシア』の内側から攻撃できるということは、逆説敵に使われると『マグネシア』が防壁の意味を為さなくなるという事でもある。フェコルーはこの宝具を、自身で使うためではなく、他人に使わせないために所持していたのではないだろうか。 ☆『棺の織手』ティスやノースエアや『儀装の駆り手』カムシンやザムエル・デマンティウスやゾフィー・サバリッシュやアレックス相手に使用していたら面白そうだったのにな。 ☆[とむらいの鐘]の『左翼』イルヤンカの『幕瘴壁』や『九垓天秤』ソカルの『碑堅陣』やダン・ロジャースの『プレスキット』とも対決していたら面白そうだったのにな。 ☆番外編『かぐやひめのしゃな』には登場しなかった。 ☆番外編『おじょうさまのしゃな』にも登場しなかった。 ☆番外編『さんじゅうしのしゃな』にも登場しなかった。
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【種別】 自在法 【初出】 XIII巻 【解説】 [仮装舞踏会]の禁衛員“嵐蹄”フェコルーの使用していた防御系自在法。彼が『偉大なる嵐の支配者』と呼ばれる理由と思われる。 臙脂色に色付く半透明の微細な粒子を数多生み出し、それを自在に流動・循環・凝固させ、粒子の嵐を形成した。 生み出された粒子はその細かさに反して、見た目の数十倍または数百倍という超重量を持ち、密度と流動の速度を上げることで、範囲内全域を吹き荒れる粒子の暴嵐を形成するという、鉄壁の防御陣。 圧倒的な「防御」によって攻撃をも行う、攻防一体の強力な自在法であった。 強力無比な防御系自在法として共に名が挙がる『幕瘴壁』との比較では、防御の硬さの面で優れているとのこと。「大きな盾のごり押し」と例えられた。 粒子の質量と速度によって、滝の落水で打たれて鑢がけされるかの如き強烈な打撃の濁流を、『マグネシア』の嵐の内部に留まろうとする者に常時与え続け、しかも粒子はぶつかったところにこびり付き、焼き払われても消滅することなく、その質量で飛行の枷となり続けた。 さらに粒子を凝固させて作り出された、トラックをも軽く一敷きする程の大きさの大質量の立方体も、粒子の暴嵐と共に猛烈なスピードで大量に放たれていた。 この嵐の内部に留まる者は、粒子の暴風による常時続く打撃によるダメージと、こびりつく粒子の質量、そして高速で舞う大量の巨大立方体による圧倒的な質量のごり押しにより、遂には押し戻されてしまった。 また、嵐を展開しなくとも、凝固させた粒子の立方体を飛ばすことによる直接的な攻撃も可能であった。 生成できる物体の大きさはかなりのもので、フェコルーが粒子を巨大な球状に凝固させた時、彼が上空にいたにも関わらず、御崎高校の校庭を押し潰し、校舎すらも半壊してしまった。 嵐の内部にいれば外部から業火に包まれても一切の影響を受けず、自分を中心に粒子を凝固させれば防壁の機能を果たすと共に、凝固させた粒子を球状に膨れ上がらせることで、生成の勢いで周囲のものを弾き飛ばし押し潰すこともできた。 その「防御」は、シャナとマージョリーの全力の炎を『万条の仕手』ヴィルヘルミナが融合・増幅・循環させた炎の溶鉱炉の破壊力すらをも軽く上回ってなお有り余るほどの圧倒的破壊力と防御力を持ち、さらにフェコルーはそれをほんの一拍で生み出すことが出来た。 大規模な展開も恐ろしく早く、ほんの一瞬で『星黎殿』を包む『秘匿の聖室』の内側を覆い尽くすことができた。 このように広範囲に薄く展開した状態でも、カムシンの大威力の攻撃『ラーの礫』やレベッカの爆破攻撃に小揺るぎもしない強度を誇った。 さらに、フェコルーが瀕死状態からの展開でも、ゾフィーが全力を注ぎ込んだ落雷蹴りを、嵐の表面を乱しもせず容易に弾くほどであった。 無風の「安全地帯」を作り出すことで味方も共に防御することができるが、その影響範囲の広さ故に、乱戦において仲間の位置を把握せずに使うと味方をも巻き込む危険があるという欠点も持っていた。 [仮装舞踏会]下位構成員に対して姿を隠しているフェコルーが、“嵐蹄”として彼らの前に姿を見せなければならなくなった時は、自らの身体をこの自在法によって生成した臙脂色の直方体で覆っていた。 【アニメ版】 原作と比べて、以下の違いがあった。 最初に登場した立方体がやたら巨大 通常展開時の粒子の数が少なく、数mほどの立方体も飛んでいなかった(帯のように粒子が集まって流れる程度) 粒子自体の性質が異なった(粒子というより小さな立方体、臙脂色でない、こびり付かないなど) そもそも防御用の自在法でなく、立方体で防御も可能、程度の自在法になっていた アニメ第3期では“天目一個”が自在法無効という特性ではなく、『贄殿遮那』で『マグネシア』を切り裂いていた(原作の設定では『贄殿遮那』で『マグネシア』を切り裂くのは不可能だと思われる) 【由来・元ネタ】 プラトンが著書『イオン』で言及した「マグネシアの石(magnesia lithos)」=磁石のこと。マグネシア半島は、ギリシア共和国テッサリア地方の南東部に位置する県。 「マグネシア」は、マグネット・マグネシウム・マンガンなどの語源ともなった(異説有り)。 酸化マグネシウムの通称「マグネシア」は、マグネシア地方で産出されたためと言われる。 性質は、悪魔フェコル(=フェコルー)の能力が由来と思われる。 →フェコルーの【由来・元ネタ】の項参照。 【コメント】 ☆瞬間的な攻撃力がトップクラスのゾフィーの蹴りさえ通じないとなると、あの化け物トーチ以外にこの防御を抜ける攻撃力の持ち主はいないんじゃないか? ☆↑シャナの『断罪』や[とむらいの鐘]の『右翼』メリヒムの『虹天剣』あたりなら「技の性質上」ぶち抜けると思うが、そのぐらいだろうな。 ☆[とむらいの鐘]の『左翼』イルヤンカの『幕瘴壁』や捜索猟兵レライエの『ニムロデの綺羅』と比べて、どれが一番強力だったかな。 ☆総合的防御力でなら、間違いなく『マグネシア』だな。 ☆風を操れるフィレスなら、嵐の中にむりやり無風地帯を作り出せるかもしれない。 ☆働きまくった後とはいえサイズも存在も強大なデカラビアを一撃で倒した落雷蹴りを瀕死の状態から余裕で防ぐ。相手からしたらふざけんなって言いたくなる防御力だよな。 ☆フェコルーとサブラクは、作者も殺しあぐねてあんな最期になったんじゃないかと思ってる。 ☆数少ない相性の悪そうな自在法は、豪雨の大結界『トラロカン』だろうか。元々範囲系自在法を消去する上に、その効果が効かないとしても、降りしきる雨で粒子が固まって泥になってしまいそうだ。 ☆普通なら宝具『オレイカルコス』だけでチートなはずなのだが、この自在法は『オレイカルコス』の存在すら霞ませる超級のチート。作中、通常の手段で破られることはついになかった。 ☆御崎高校の時、フェコルーはヘカテーに害が及ぶことをシュドナイに知られた場合を非常に恐れていたことから、狂乱状態のシュドナイはこの自在法すらぶち抜いてしまうのではなかろうか? ☆『棺の織手』ティスやノースエアや『儀装の駆り手』カムシンやザムエル・デマンティウスやピエトロ・モンテベルディやアレックスやドゥニやフランソワ相手に使用していたら面白そうだったのにな。
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「灼眼のシャナ?×テイルズ」タイアップ宝箱の期間限定再販売 アイテムショップにて「灼眼のシャナ?宝箱『炎髪灼眼』」の再販売を期間限定で開始しました。 宝箱「炎髪灼眼」には「灼眼のシャナ?」に関連するアイテムのみ出現します。 「灼眼のシャナ?×テイルズ」タイアップイベントや宝箱「炎髪灼眼」で取得できた一部アイテムを SHOWアイテムにリニューアルしました。 【販売期間】 2012年5月30日(水)メンテナンス後 〜 2012年6月13日(水)メンテナンス前 【販売内容】 ・宝箱「炎髪灼眼」1個 300P/30日 ・宝箱「炎髪灼眼」5個 1500P/30日 ・宝箱「炎髪灼眼」11個 3000P/30日 ・宝箱「炎髪灼眼」40個 10000P/30日 ■宝箱「炎髪灼眼」から出現する全アイテム 【リニューアルしたアイテム】 以下のアイテムをREALアイテムからSHOWアイテムに変更しました。 †ちっちゃなシャナ †ちっちゃなヘカテー †シャナ変身マント †シャナといっしょ †一美といっしょ †ヘカテーたん †みかん箱シャナB †シャナたん †りんご箱ヘカテー †贄殿遮那 †吉田専用(ルシアン) †吉田専用(ボリス) †吉田専用(マキシミン) †吉田専用(シベリン) †吉田専用(ミラ) †吉田専用(イスピン) †吉田専用(ティチエル) †吉田専用(ナヤトレイ) †吉田専用(ランジエ) †吉田専用(ジョシュア) †吉田専用(クロエ) 【その他のアイテム】 †漂うコキュートス †みかん箱シャナA †ちっちゃなヴィルヘルミナ †紅蓮の双翼 †ヘカテー帽子 †ドジっ娘専用 箱入りシャナ 箱入りヘカテー [炎の下級鍛錬]シャナ [炎の中級鍛錬]シャナ [炎の上級鍛錬]シャナ [炎の伝説鍛錬]シャナ [雷の下級鍛錬]シャナ [雷の中級鍛錬]シャナ [雷の上級鍛錬]シャナ [雷の伝説鍛錬]シャナ コキュートス アズュール エモーション(シャナたん)(30日有効) エモーション(ヘカテーたん)(30日有効) ※宝箱「炎髪灼眼」から出現する一部のアイテムはリサイクルすることが可能です。 【アイテムリサイクル手順】 宝箱「炎髪灼眼」から入手した一部のアイテムをリサイクルすることで、 新たにアバター宝箱「百花繚乱」を受け取ることができます。 1)宝箱「炎髪灼眼」から入手したアイテムを所持した状態で、 NPC「ゼリッP交換所」に話しかけます。 2)リサイクルメニューを選択します。 3)「アバターリサイクルチケット」を受け取ります。 4)「アバターリサイクルチケット」をダブルクリックした後、 宝箱「炎髪灼眼」から入手した装備アイテムにカーソルを合わせ、クリックします。 クリックすると「アバター宝箱交換チケット(補助券)」を1枚入手できます。 5)「アバター宝箱交換チケット(補助券)」を10枚所持した状態で、 NPC「ゼリッP交換所」に話しかけると、アバター宝箱「百花繚乱」を1個入手できます。 参考:「灼眼のシャナ×テイルズ」タイアップイベント りたーんず :「灼眼のシャナ×テイルズ」タイアップイベント 装備 今回、REALアイテムからSHOWアイテムに変更されたアイテムは、新規実装アイテムという形で、既存のアイテムがSHOWアイテムになる訳ではないので注意。 [部分編集] 取得場所 価格 耐久 硬度 突き 斬り 物防 魔攻 魔防 命中 回避 敏捷 Cri補正 合成回数 条件 交換可否 ルーレット(MR)費用/備考 †漂うコキュートス 効果 宝箱「炎髪灼眼」 Sell 47 47 2-5 2-5 1-4 2-5 1-4 2-5 2-5 2-5 2-5 MAX 無し 可 5,000,000MR券 10,000床置き可 †みかん箱シャナA 効果 宝箱「炎髪灼眼」 Sell 1,837,500 33 33 2-5 2-5 - 3-5 - - 3-4 3-4 1-4 MAX 無し 可 TOM可MR費用5,000,000遠隔券費用10,000seed †シャナたん 兜+ 宝箱「炎髪灼眼」 Sell - - - - - - - - - MAX 無し 不可 †ヘカテーたん 兜+ 宝箱「炎髪灼眼」 Sell - - - - - - - - - MAX 無し 不可 †ヘカテー帽子 兜+ 宝箱「炎髪灼眼」 Sell - - - - - - - - - - - MAX 無し 不可 †ドジっ娘専用 頭+ 宝箱「炎髪灼眼」 Sell - - - - - - - - - - - MAX 無し 不可 †贄殿遮那 体+ 宝箱「炎髪灼眼」 Sell - - - - - - - - - MAX 無し 不可 †紅蓮の双翼 体+ 宝箱「炎髪灼眼」 Sell 100 100 - - - - - - - - - MAX 無し 不可 †みかん箱シャナB 効果+ 宝箱「炎髪灼眼」 Sell - - - - - - - - - MAX 無し 不可 †りんご箱ヘカテー 効果+ 宝箱「炎髪灼眼」 Sell - - - - - - - - - MAX 無し 不可 †シャナ変身マント 効果+ 宝箱「炎髪灼眼」 Sell Locked 100 100 - - - - - - - - - MAX 無し 不可 見た目がシャナに変身 †ちっちゃなシャナ 効果+ 宝箱「炎髪灼眼」 Sell Locked 100 100 - - - - - - - - - MAX 無し 不可 見た目が小さいシャナに変身 †ちっちゃなヘカテー 効果+ 宝箱「炎髪灼眼」 Sell Locked 100 100 - - - - - - - - - MAX 無し 不可 見た目が小さいヘカテーに変身 †ちっちゃなヴィルヘルミナ 効果+ 宝箱「炎髪灼眼」 Sell - - - - - - - - - - - MAX 無し 不可 見た目が小さいヴィルヘルミナ変身 †シャナといっしょ 効果+ 宝箱「炎髪灼眼」 Sell - - - - - - - - - MAX 無し 不可 †一美といっしょ 効果+ 宝箱「炎髪灼眼」 Sell - - - - - - - - - - - MAX 無し 不可 †吉田専用(各キャラ11種) 効果+ 宝箱「炎髪灼眼」 Sell - - - - - - - - - MAX 無し 不可 イサック、アナイス以外 情報提供 ※ 情報提供以外の感想、質問等は別の掲示板等をお使いください。 名前 †みかん箱シャナA:遠隔券費用10,000seedでした --
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第278話:それぞれの思惑 作:◆Sf10UnKI5A 森の中に潜む魔術と芸術の集大成――ムンク小屋。 五人と一台が身を隠すその中での会話は、現在あまり友好的な雰囲気ではなかった。 「だから、それを大人しく渡しなさいって!!」 もっとも、敵意を剥き出しにしているのは赤い髪をした少女一人だけなのだが。 「元々君の得物だったとしても、今は俺が所有者で、この刀は必要なんだ。ただ一方的に寄越せと言われても困る」 全身黒ずくめの男が、壁に立てかけた抜き身の――元から鞘は無い――大太刀、『贄殿遮那』に片手を置いて答えた。 残る三人と一台は、それぞれ違う表情を浮かべながら二人の遣り取りを見ている。 それは、テッサとベルガーが小屋に入って来た時のことだった。 突然の訪問者にリナとシャナは警戒心をあらわにするが、 テッサがダナティアとの会話を説明し、瞑想を解いたダナティアがそれを保証した。 それで場は落ち着いたように見えた。 が、 「――ところで、その刀はどこで手に入れたの?」 唐突にシャナが、彼女とは対照的な色をした黒ずくめのベルガーに尋ねる。 「……俺の支給武器だ。全く、どうやってこんなバッグに入れていたんだろうな?」 親友の遺品だ、などと言って話を複雑にする必要もないだろう。 そう思い、ベルガーは軽口を交えつつ嘘をついた。 テッサもその意を汲み取ってか、特に口を挟まない。 しかし、シャナの次の言葉は、二人だけでなくリナやダナティアも驚かせた。 「そう。それじゃ、それを私に返して頂戴」 シャナの言い分は単純明快だった。 「私の物なんだから、私に返すのは当然でしょ? あなたに使いこなせるとは思えないし、早く渡しなさいよ」 半ば呆れてベルガーが答えた。 「嬢ちゃんだって、まあ……『普通じゃない』んだろうが、貴重な武器をハイそうですかと譲るわけにはいかないんでな」 「嬢ちゃんってのは何よオッサン。 まあ、どうしても武器が欲しいって言うのなら、代わりにこれあげるわ」 「俺はまだ二十代だ。それに、そんな一目でなまくらと解る物を貰ったって嬉しいわけがない」 「ともかく返しなさいよ」 「お断りだ」 延々と続く下らない口論。 テッサはただ戸惑うばかりだったのだが、リナとダナティアは少し違った。 ――どうやってこの小娘を黙らせ、二人をここに留めさせる? この二人の目的には差異があるが、どちらにしろ人数が多いに越したことはない。 しかし、シャナはいきなり交渉相手に自分勝手な要求を突きつけてしまった。 シャナ自身は、自分と悠二とアラストールが一緒になれば、この状況を打破できると思い込んでいる。 自分の力を過信した結果が、腹部に残った散弾だというのに。 「周りが全く見えていないわね……」 かつての自分とわずかに重なるシャナの姿に、ダナティアは嘆息する。 「あの、シャナさんもベルガーさんも落ち着いて……」 「うるさいうるさいうるさいっ! こうなったら、――力ずくで返してもらうっ!!」 叫ぶと同時、シャナは片手に提げたなまくら刀を一閃させた。 神速の踏み込み、そして斬撃。誰も反応することは出来なかった。 刃を返した峰打ちではあるが、骨折で済むかすら解らない一撃。 シャナはベルガーの片腕を潰すつもりで刀を打ち込んだ。 贄殿遮那は、不慣れな人間が片手で扱いこなせるものではない。 だから使用者を潰して、改めて自分の物にしてしまえばいい。 あれさえあれば、自分は一人でも生き残れるだろう。悠二を守る事だって簡単だ。 凶刃が狙う先は、ベルガーの左腕。右手に刀を提げていたからという、単純な理由。 最短距離を走る刃がベルガーの二の腕にぶつかり、そのまま肉を喰らう筈が―― ガギィンッ!! 「えっ――?」 響いたのは、骨を砕く音ではなく、何か硬いものがぶつかったような派手な音。 刀に振動が伝わり、持つ手に痺れが襲い掛かる。 戸惑うシャナ。しかしすぐにベルガーから離れようとするが、 「動くなよ、嬢ちゃん」 ベルガーの右腕が自分の喉を掴んでいることに気付いた。 わずかに力の込められた手は、その気になれば一瞬で喉を押し潰すだろう。 ほんの一瞬の戸惑いが、ベルガーに右腕を動かす時間を与えてしまっていた。 「そっちの二人も、実は殺す気でしたってクチか?」 シャナを睨みつけたまま、一瞬の出来事に呆気に取られる三人の方へ語りかける。 「ベ、ベルガーさん! ダナティアさんはそんな人では……」 「いいえ、テレサ。あたくしたちの落ち度です。 ……改めて言いますが、争うつもりは全くありません。 シャナ、刀を捨てて。言いそびれていたけれど、『アラストール』からの伝言を預かってるわ」 「アラストールの……?」 その言葉を聞き、シャナは大人しく刀を下に落とした。 ベルガーはシャナを解放すると、ポケットに突っ込んでいた左手を出し、彼女に見せた。 隠されていた左手を見て、テッサ以外の全員が驚きの表情を浮かべる。 「見ての通り義腕だ。――ま、揉め事には便利この上無い代物だな」 多少の皮肉も交えて、ベルガーはシャナにそう言った。 「まったく、人の話の途中で何を言い出すのかと思えば……」 「…………」 不機嫌さをあらわにするダナティアに対し、シャナはただうなだれている。 「もういいから、話の続きをしなさいよ。二人は水に流すって言ってくれたじゃない」 リナが促して、ようやくダナティアは話し始めた。 「先ほどはテレサとの話で止まってたわね。それで、その後――」 アラストールという巨大な存在。シャナはそれを身に宿していること。 アラストールの意思は『コキュートス』が無いと表に出せないこと。 その他諸々。 「それで、彼は最後にこう言ったわ。 『一方的な申し出になるが、我がフレイムヘイズ、炎髪灼眼の討ち手のことを宜しく頼む』と」 「で、あんたはどうしたのよ」 「勿論引き受けましたわ。大怪我抱えて走り回るような子はほうっておけません、と」 「でも、悠二は私が……」 「アラストールと悠二とやらが出会ったのは、一時間以上前よ。彼がどこに移動していてもおかしくないわ」 「なら、尚更――」 「あんたらの事情はよく判った」 ダナティアに食って掛かろうとするシャナの声を断ち割ったのは、 黙って話を聞いていたベルガーだった。 彼は時計を見て、 「十時まで寝かせてくれ。そしたら俺はここを出て行く。すまんがテレサのことを頼む」 「ベルガーさん!?」 「あなた、何を勝手な――」 「いいから聞け。ここに留まっているならば、出来ることってのは限られっぱなしだ。 だから俺が島を回る。探し人は出来るし、ケータイとやらの話し相手と合流したっていい。 それに、他にこのゲームをどうにかしようと、仲間を集めている奴がいるかもしれない。 あんたらがここにいる限り出来ないことを、俺が代わりに請け負ってやる。 その単車と大太刀を使わせてもらえるなら、完璧なんだがな」 「待ちなさいよ。アンタが殺人鬼と手を組んで帰って来る可能性だってあるじゃない」 リナの言葉に、ベルガーは冷静な返答を返す。 「否定は出来ない。だから、十時まではここで大人しく寝かせてもらう。 それまでに、あんたらの方でどうするか決めておいてくれ」 「そんな、ベルガーさん……」 「聞け、テレサ・テスタロッサ。 俺みたいなチンピラと二人で当ても無く歩き回るより、こいつらと一緒にいる方が安全だ。 大丈夫だ。約束通り、絶対探し出してやる」 「で、ですが……」 「それじゃ、十時になったら起こしてくれ」 そう言って、ベルガーは小屋の隅に寝転がり、すぐにイビキをかき始めた。 残った四人の間に、どことなく重苦しい空気が流れる。 「……なんだか尻ケツな雰囲気だね」 「…………もしかして、『シリアス』ですか?」 「そうそれ」 モトラドの言葉も、空気を変えるには至らなかった。 【G-5/森の南西角のムンクの迷彩小屋/1日目・08:40】 『目指せ建国チーム+2』 【リナ・インバース(026)】 [状態]:少し疲労有り。心に強い怨念。 [装備]:騎士剣“紅蓮”(ウィザーズ・ブレイン) [道具]:支給品一式 [思考]:仲間集め及び複数人数での生存。管理者を殺害する。 ベルガーをどうするか考え中。 【シャナ(094)】 [状態]:かなりの疲労。腹部に内出血(治癒中) 少し混乱。 [装備]:鈍ら刀 [道具]:デイパック(支給品入り) 携帯電話(リナから手渡された) [思考]:しばらく休憩後、見張り。 ダナティアの言葉に従うべきか迷っている。 [備考]:内出血は回復魔法などで止められるが、体内に散弾片が残っている。 手術で摘出するまで激しい運動や衝撃で内臓を傷つける危険有り。 【ダナティア・アリール・アンクルージュ(117)】 [状態]:左腕の掌に深い裂傷。応急処置済み。 [装備]:エルメス(キノの旅) [道具]:支給品一式(水一本消費)/半ペットボトルのシャベル [思考]:群を作りそれを護る。シャナ、テレサの護衛。 ベルガーをどうするか考え中。 [備考]:ドレスの左腕部分~前面に血の染みが有る。左掌に血の浸みた布を巻いている。 [チーム備考]:『紙の利用は計画的に』の依頼で平和島静雄を捜索。 また、島津由乃を見かけたら協力する。定期的に保胤達と連絡を取る。 【ダウゲ・ベルガー(078)】 [状態]:心身ともに平常 [装備]:贄殿遮那 黒い卵(天人の緊急避難装置) [道具]:デイパック×2(支給品一式) [思考]:十時まで寝る。以降は単独で人探しの予定。 天人の緊急避難装置:所持者の身に危険が及ぶと、最も近い親類の所へと転移させる。 【テレサ・テスタロッサ(059)】 [状態]:少し疲労 [装備]:UCAT戦闘服 [道具]:デイパック(支給品一式) [思考]:ベルガーの言うとおりにすべきか考え中。 2005/06/13 改行調整 ←BACK 目次へ(詳細版) NEXT→ 第277話 第278話 第279話 第266話 時系列順 第209話 第247話 リナ 第304話 第247話 テッサ 第304話 第247話 ベルガー 第304話 第247話 シャナ 第304話 第247話 ダナティア 第304話 第247話 エルメス 第304話