約 7,119 件
https://w.atwiki.jp/kattenisrc/pages/347.html
128 :名無しさん(ザコ):2011/10/25(火) 20 52 09 ID 1kz1IEyM0 デューク=フリード(UFOロボグレンダイザー) 第二の故郷を守るため戦うフリード星の王子。 マジンガーシリーズの主人公だが、特殊な立ち位置のためマジンロボとの乗り換えはできない。 全体のステータスは鉄也と甲児の中間に位置し、格闘と射撃の平均が高いバランス型。 SPは必中鉄壁熱血と基本は抑えているが、それ以外は信頼友情愛とサポートのみで 切り払いも覚えないため、個人の戦闘力では鉄也や甲児と比べて多少見劣りしている。 しかし、その欠点はグレンダイザーの合体で帳消しにできる。
https://w.atwiki.jp/nisioisinnbr/pages/70.html
【名前】病院坂黒猫 【出展】世界シリーズ 【種族】人間 【性別】女 【声優】 【年齢】 【外見】 【性格】 【口調】 一人称: 二人称: 【呼称】 [[]]→ [[]]→ 【特異能力】 【備考】
https://w.atwiki.jp/nisioisinnbr/pages/24.html
地図 http //u1.getuploader.com/nisioBR/download/2/nisiorowa_MAP.jpg
https://w.atwiki.jp/nisioisin-cn/pages/3.html
カウンター 今日 - 人 昨日 - 人 合計 - 人 現在-人が閲覧中。 更新履歴 取得中です。
https://w.atwiki.jp/nisioisinnbr/pages/26.html
死亡者リスト 第一回放送までの死亡者
https://w.atwiki.jp/nisioisinnbr/pages/99.html
17話 海岸近くの崖、 隣のエリアに掘っ立て小屋があるものの、 それ以外は人工物がないように見える島。 「今更だが、ここで会うとは思わなかったぞ。気に入らない女」 「奇遇ね、わたしもそうよ。気に入らない女」 幕府に二人の鬼女あり。 偶然にも、その二人が顔を会わせていた。 「しかし、わたしが死んだ後、七花がよりにもよってきさまとくっ付いているとは…………」 おかっぱの白い髪のやや小さい女性が苦々しくそう言うのを、 「否定する—— 一応、同意の上での傷心旅行って事になってるわ」 顔の横に『不忍』と書かれた仮面を着けている外国人の様な女性が否定した。 十二単を二重に重ねた様な衣装を着たおかっぱの白髪のやや小さい女性は、奇策士とがめ。 自分を奇策しか使わないから奇策士だと言っている。 『不忍』と書かれた仮面を着けている金髪碧眼の女性は、否定姫。 如何なる物であろうと何でもかんでも否定するため、否定姫。 幕府の二人の鬼女。 ちなみに両方とも戦闘力は皆無に等しい二人は、 よりにもよって無人島、呼ぶ人は不承島と呼ぶ所に居た。 「…………で、どうする、気に入らない女」 「…………どうしようかしらね、気に入らない女」 状況は無人島で、どうやら二人しか居らず、 島から出るにも舟一つないため出る事も出来ない。 「ちっ、ここから出る手段は一つとしてなしか…………」 「否定…………しないわ」 「あら、そうですか?」 本当に困った事態である。 出る手段はないが、外の方は入る手段があるだろうから、 最悪、殺し合いに乗り気で説得が効かない相手では正しく話にもならない。 「「そうですか?」って、舟もないのだぞ?どうやって出る?筏でも作るのか?」 「筏なんか私達で作れる訳がないわ。ハッキリ言ってこの状況、打つ手無しよ」 「そうでもないですよ?」 二人で案を出しては否定して、あるいは容赦せずに没にしたり、 ハッキリ言って出る気があるのかと疑うような状況だが、 二人とも至って真面目であるのが更にややこしい。 「「そうでもないですよ?」だと?じゃあどうやって出るんだ?」 「誰かどこぞの忍者みたいに海の上でも歩ければ良いんだけど…………」 「いえ、わたしは海の上を歩いて来ましたし」 「冗談も大概に————ん?」 「冗談も大概に————え?」 二人が同時にそう言うのを二人が同時に不審に思い、 どうやらようやく二人して気が付いた様である。 何時の間にかもう一人会話に加わっていた事に、 他に誰も居ないはずのこの島に、 何時の間にかもう一人この島に居た事に。 しかもわざわざ二人の後ろから話しかけていたらしい。 遅い事この上ないが、 二人が後ろに振り向けば居たのは………… 「お久し振りですね、とがめさん。あと、はじめまして誰かさん」 邪悪そうに笑うとがめにとっては見覚えのある女性だった。 ここで簡単な説明を入れよう。 誰も居ないはずのこの島に、呼ぶ人は不承島と呼ぶこの島に、 どうやって奇策士とがめと否定姫以外の人間が一人来ていたのか? 言葉で表すにはこの上なく簡単な事である。 本人が言ったとおり、海の上を歩いた。 そう、言葉で表すにはこの上なく簡単な事を実行した。 実際にやる事は不可能に近いこの事を、 まるで簡単な事のように、アッサリとしたのである。 種を明かせば簡単な事ではないが、 彼女の持つ眼で、かつてこの島で戦った真庭蝶々から見取った、 ありとあらゆる物の重さを消す事ができる歩法の一種、 忍法足軽を使って自分と荷物の重さを消して歩いて来た。 既にあらゆる技術を自分の物にしている彼女だが、 地味に死ぬ前からよく使っている技術である。 「で、わざわざこの島まで歩いてきた事はわかったが」 「残念だけど七花くんはこの島には居ないみたいよ?」 顔見知りのとがめの方はおいておいて否定姫が自分の紹介を終えて、 とりあえず三人で話を始めた。 「早速だが一つ質問がある」 とがめは特に天才かつ天災的な彼女に物怖気する様子もなく質問する。 「向こうの、まあ、本土として置いて。 本土であった地図で言う赤神イリアの屋敷とやらであった爆音についての情報を持っていないか?」 不承島の砂浜のほぼ対岸に位置する屋敷で何度も会った爆音、 それを見る為に見晴らしの良い海岸に来た所で否定姫と出会ったと言う裏話は置いて、 素直に戦闘があったらしい場所の状況についての情報を求めた。 ちなみに気になってはいたらしい否定姫も静かに二人の話に耳を傾けている。 「え?あれですか?」 「うん、多分そのあれだな」 一応話してくれる気はあるようだ。 「三人ほど逃げらてしまいました」 どうやら戦闘を起こした本人の様である。 しかし微妙に会話がずれている。 「ほ、ほお?と言う事は何人か殺したのか?」 微妙に冷静で居られていないとがめである。 それもそうだろう。 一応、目の前の人物が殺し合いに乗り気である可能性が判明したのだから。 今後、自分達が七実に殺されない保障は何一つとしてない事をない事に。 実際に一度は殺され掛けた事があるとがめも、 一度も殺され掛けた事がないものの危険性は左右田衛門から聞いていた否定姫も、 二人の身体に若干の緊張が走っている様子である。 無論、大抵の物を見通せる七実に対して緊張を隠そうとも意味もなく、 あっさりと見破ったらしくクスクスと笑っている。 「大丈夫です。あなた達を殺すつもりは少なくとも今はありませんから」 笑いながらそう言う笑顔は、その笑顔は、 本当に悪そうで、どこまでも邪悪そうな笑顔だった。 「それでは、その館で一人殺して三人は逃げられたという事だな?」 一瞬、あまりに邪悪そうな笑顔に一瞬怯んだ物の、 その後、屋敷での戦いの様子の説明を求めた所あっさりと答えてくれた。 あまりにもあっさりと、何でもないかの様に。 しかし、その屋敷の四人の戦闘を見て来たと言う。 それぞれがそれぞれで異能を身に潜めた様な四人の戦闘を、 しっかりと、まじまじと、その四人の技術を、 七実は己の眼で、見た。 じっと。 ぎょろりと。 まじまじと—— 見る。 見切り。 見抜き。 見定め。 見通し。 見極め。 見取る。 見る——視る——観る——診る——看る。 観察するように——診察するように。 その四人の技を、技術を、経験を、見て来たと言う。 一人は全身、体のありとあらゆる部分に口を持った少女だったと言う。 幸か不幸か流石にそれは真似出来ないと言う事らしいが、 そんな化け物がこの戦いに参加している時点で笑えない。 一人は変わった服装の女性だったと言う。 幸か不幸かこれと言った珍しい技術は持って居なかったらしいが、 その胸に悪刀『鐚』が刺さってたと言う。 と言う事は四季崎記紀が作った変態刀が他の参加者の手に渡っている可能性が高い。 もしも前の持ち主の腕を超える者の手に渡っているとすると………… 一人はまにわにの忍者らしき人物だったと言う。 服装などを詳しく聞いた所どうやら真庭鳳凰で間違いが無さそうだった。 真庭鳳凰が殺し合いに参加しているのはわかってはいたが、 問題は真庭鳳凰の忍術を見て来たと言う事である。 ただでさえ恐ろしい七実が、あの真庭鳳凰の忍術を手に入れた。 ハッキリ言って恐ろしい事この上ない。 最後に唯一殺せたと言う若草色の和装の女。 この女の空蝉なる技術を見て来たと言う。 どのような技術かは身を持って場所を入れ替えさせられて教えられたが、 そのような技術を持つ者が他にも居るかも知れないと言う事。 七実よりもたらされた情報を纏めると、 どうやら主催者は殺し合いを本気でやらせたがっていると言う事、 この殺し合いの中には真庭忍軍並みかそれ以上の使い手が居るかも知れない事、 そして、このありえないはずの地図の地形はほぼ確実である事。 H-4にある赤神イリアの屋敷から海の上を歩いて、 今とがめが否定姫と共に居るH-2までまっすぐ海の上を歩いて来たと言う。 誰の屋敷かは知りはしないが、 この不承島の向かい側の陸地、深奏海岸に、 赤神イリアの屋敷と呼ばれる場所はない。 更に言えば、 不承島の近くに鎧海賊団の本拠地とも言える濁音港が、 こんなに近くにあるはずが無い。 不承島は場所で言えば丹後、濁音港は薩摩。 本来在り得る筈が無いこの地形がありえるのか? 濁音港はとがめと会う前に否定姫が港らしい場所があると言う事を視認したらしい。 ここで否定姫が嘘を言う意味は無い。それから考えればこの地図は本物である。 七実が嘘を付いていない事が前提ではあるが、 今の所、七実が妙に積極的である事を考えれば嘘を付いてはいなさそうである。 以上の事をふまえて考えた結果、 「ふん、それから考えれば願いを叶える云々はおいておいても」 「水倉神檎はとんでもない力を持っている、と言う事かしら?」 これが幕府の二人の鬼女が一緒に出した結論であった。 「ふふふ…………」 「あはは…………」 しかし、その結果が出た上でも二人は笑い出した。 「くはははははははは」 「あはははははははは」 まるで楽しそうに笑う、 「それでこそ」 無自覚に声を合わせながら、 「奇策の練りようがあるわ!」 「否定しようがあるわね!」 やはり幕府にありと言われるだけはある鬼女の二人。 二人とも水倉神檎に対する闘志が溢れていた。 目の前に居る七実を超える化け物かも知れないとわかっている上で、 天災と呼ばれた天才以上の怪物かも知れないとわかっている上でである。 その様子を七実は二人を笑いながら見ていた。 悪そうに、邪悪そうな微笑と共に、見ていた。 「さて、元日本最強の七実どのにわたしから頼みがある」 真剣な表情でとがめと七実は向かい合っていた。 とりあえず言うと七花が住んでいた小屋……ではなく、 場所は変わらず崖の近くの地面の上でである。 いくら天才七実と言えども海を歩いて渡って来て、 流石に疲れてあまり動きたくないとの事なのでである。 この殺し合いの中でも体力が無いのは相変わらずのようだ。 一応、真剣な話し合いではあるが、 場所が場所なので微妙に間が抜けた感じがしないでもない。 ちなみに否定姫は所在無さげに少し離れた位置からこちらを見ている。 とがめの交渉の行方を見守っている。 「わたし達と協力して貰いたい」 簡潔に、混じり気無く、一直線に交渉する。 目の前の天才に対しては小細工は通用しない。 文字通りそんな事をしても、見抜かれてしまうから! ちなみに「わたし達」と自分も勝手にとがめの仲間に入れられている事に、 無論、否定姫は気が付いているがあえて口を挟まない。 とがめはともかくして七実と共に行動が出来る事に損は無いと考えているためである。 「構いませんよ」 そんな周りの空気を知っていながら七実はアッサリと承諾した。 「いくつか条件がありますが」 と後に付け加えて。 流石にとがめの表情が曇る。 あの天才の七実が共に行動するに当たって付ける条件だ。 簡単な物ではないだろうと予想しながら、 それも計算通り、と密かにほくそ笑みながら、 「…………条件はなんだ?」 と、表面だけは苦々しげに聞いた。 それを恐らく見抜いているだろうが、条件を提示する。 「一つ目はお二人に関する事です」 一つ、まずは一つ目。 「お二人にはわたしにしっかりと協力して頂きます」 一つ目、いくつかある条件の内の一つ目は普通だった。 いや、あまりにも普通過ぎた。 簡単に言えば、 とがめからは思わず見惚れるような奇策を出してもらい、 否定姫はとがめの政敵だったと言うからとがめ並の頭はあるだろう。 だったら、使えるだろうから使う。 それ以上でも以下でもない。 役に立つだろうから使う、それだけである。 が、二人にとっては普通過ぎる条件に、 思わずとがめと否定姫が不審そうな表情を浮かべるのを見て、 「二つ目は支給品に関する事です」 あっさりと流した。ごくあっさりと何事も無かったように流した。 「お二人の支給品を見せて頂き、使えそうな物を頂きます」 二つ目も普通、普通にしっかりと自分の目的を出す。 あくまでも冷静に、自分の目的を表に出す事無く果たすために、 二人の支給品を見て、使えそうな物を貰う。 一見すれば当然の行為。 相手から自分にとって使える物、武器を手に入れる。 しかし、七実にとって武器など本当の意味で、 どうだっていい。 己を一本の刀に仕上げた虚刀流にとって、 銃などの遠距離武器以外は邪魔でしかない。 もっとも、今の七実は忍法撒菱指弾も見取っているから銃などもほとんど必要がない。 と言っても残念ながら今は撒菱は持っていないので使えないが、 石を撒菱の代わりくらいには出来るだろう。 今の目的は優勝する事でもなく皆殺しにする事でもなく、 あくまでも完璧な『再生力』を見取る事。 いくつもある吸血鬼の一部を集めて合わせて、 完璧な『再生力』を見取る、それだけである。 一応、七花に会って見たいと言う事もあるが、 ここに来てしまった事でこれ以上思い当たりはない。 ならば、思い当たりがありそうなこの二人と行動する事が一番良い。 「以上です」 二つ。この二つだけではあるが、この二つの条件に必要な事を全て詰め込んである。 しかも二人からしたら楽な条件であろうとちゃんと考えて。 自分にこれ以上ないぐらい良い条件を出しながら、 二人にとっても良い条件になるように考えて。 二人に断る理由が見付からないように、 「そうして頂ければお二人と共に行動しましょう。 ついでに可能な限りお守りもしましょう」 そうちゃんと付け加えて利益に目が眩むように、 自分と行動するの利益がしっかりと眼に見えるように、 頭脳労働専用と言っていた彼女達には破格の条件だろう。 言うならば、決して見逃したくないほどの条件を! とがめは苦々しげに、 「——————わかった。その条件、のもう」 しかし、心の中では踊り出しそうなほどの喜び様であった。 踊らないのは否定姫の前だからであり、 否定姫が居なかったら踊っていたかも知れない。 否定姫も否定姫で、 しばらくの間、左右田右衛門左衛門の変わりになる護衛が見つかった。 と、とがめと同じく踊り出しそうなほど内心で喜んでいた。 こちらもとがめの前だから踊らないのであり、 とがめが居なければ踊っていたかも知れない。 七実は二人とも踊り出しそうなまでに喜んでいる内心をしっかりと見破り、 一人、笑っていた。 悪そうに、邪悪そうに、笑っていた。 「それでは、交渉成立で」 ちなみに、 二人の支給品を見ても七実の目当ての物、 吸血鬼の一部は見付からなかったが、 「あら?これは…………」 一つ、変わった物に目が付いた。 「ん?これがどうしたの?」 すでに三人でとがめの支給品を見終えて、 今は三人で集まりながら否定姫の支給品を検分中である。 七実の眼に止まった『それ』、 「これによく似た服を悪刀『鐚』を刺していた人が着ていましたね」 『それ』の正体は………… エプロンドレス。 おまけなのか黒縁メガネ付きのエプロンドレス。 対ロングレンジ用の特別なエプロンドレス。 前の持ち主、千賀てる子。 七実と会っていながら逃走に成功した千賀てる子の服。 「これを着ていた方が良いですねよ」 無論、対ロングレンジ用の加工がされている事を見抜き、 否定姫に着るように勧めた。なぜかメガネも。 なぜ否定姫に着るように勧めたかと言うと、 とがめには大き過ぎて、七実には必要がないからである。 更に、ただでさえ目立つ髪と眼の色にこのエプロンドレス。 自分が狙われない可能性が上がる、とちゃんと考えての事である。 あくまでも自分が生き残るために。 最初は嫌がっていた。 いくら外国に対する理解があったもの、 防御力も全く無さそうにしか見えないこれは……と。 しかし、 対ロングレンジ用の加工がされている。と七実が言った所、 ならなぜ七実が着ないのか?と言う疑問を胸に入れたまましぶしぶ承諾した。 そして今、メイドの格好をした否定姫が誕生した。 頭に『不忍』と書かれた仮面を着けたままではあるが、 金髪に碧眼、更に黒縁メガネにメイド服。 ちなみに先ほどまで着ていた服は支給品が入っていた物に畳んで入っている。 今現在ここには居ないが某最悪と某最弱が見たら悶絶死する事請け合いであろう。 それほど妙に似合っていた。 外国の血が混じっているからだろうか? 否定姫本人に言ったらきっと瞬間的に否定する事であろう。 微妙に恥かしいのか若干であるが否定姫の頬が赤い。 「あら、お似合いですね」 「………………」 その姿を見て七実は褒めるが、とがめは後ろを向いて堪えていた。 笑いたいのを懸命に堪えていた、が、 「…………ぷ」 あえなくとがめの笑いを堪えるために出来ていた防波堤は決壊した。 それも見てからたったの十秒持たずに。 その時のとがめの笑い声は、 島の向こう岸に届いたとか届かなかったとか。 その後、 「そう言えば七実」 存分に笑い終えたとがめがふと思い出したように言った。 「なんでしょうか?」 「七実の眼でこの首輪はどう見える?」 わりと重要事項。全員に付いているこの謎の首輪の情報を聞いてみた。 ちなみに否定姫は少し離れた所で座り込んでいる。 否定しようがないほど笑われたのがショックだった様子であるが、 二人は何事もない様子で話を続けている。まさに鬼。 「………………」 「………………」 「………………」 沈黙、ただの沈黙が流れる。 七実の顔に何の色も見えないが、 それの意味を理解したとがめは黙るしかなかった。 まさか、天才七実の眼でもわからない事があるのか!? ただ単に驚く。 四季崎記紀の完成形変態刀の特性すら見抜いたその眼でも見通せない、 水倉神檎が作ったと思われる首輪に驚いた。 しかしあくまで驚いただけである。 「どう言った性質の物かはわからんか?」 諦め知らずの奇策士とがめである。 それに対して、 「わたしの眼だけでは情報が足りません」 とキッパリと言い切った。 「せめて首輪の中身が見れれば良いのですが…………」 「………………」 「………………」 「………………」 またも沈黙が流れる。 七実の眼を持ってしても首輪に対する打開策はなし、 「やはり、この殺し合いに乗るしかない。優勝するしか…………」 助かる方法はない、か。と、とがめが言い掛けた時、 「否定する」 少し離れた所に居たメイドの格好の否定姫が言った。 「否定するわ。気に入らない女」 ハッキリときっぱりと、気持ちが良いほどしっかりと否定した。 「あなたはさっき七実さんが話した話の内容を覚えていないのかしら?」 ゆっくりと近付きながらとがめを見下ろす様に歩いて来る。 ちなみに伊達メガネとメイド服を着たままである。 「さっき七実さんは言っていたわ。 本土の方の屋敷で若草色の和装の女を殺して来た、と。」 そう、しっかりと一人殺して来たと言った。 それも頭がなくなるぐらいにまで踏み潰して来たと言っていた。 「はい、ちゃんと摘んで来ましたよ?この通り支給品も全て持って来ましたし?」 それがどうしたと言わんばかりの言い方、 人を殺した事への後悔の様子はないが今は関係ない。 「その和装の女の首輪はどうしたの?」 「………………あ」 「………………あら」 二人とも忘れていたようである。 しかし否定姫からしたら、 「そんな事も忘れてたの?そんなんでよく奇策士なんて務まるわね?」 と言いたい放題言える上、先ほど笑われた恨みを晴らす機会である。 普段なら絶対に逃す訳がないのだが………… 「…………まあいいわ。 七実さんの眼があれば、その女の首輪を見れば何かわかるかも知れないから、 とりあえず、まずは本土の屋敷に向かう。それで構いませんか?」 ここまで正論を言われてはいくら奇策士と言えど反論出来なかった。 「わかりました。それでは——行きましょうか」 七実が立ち一声掛け全員が、と言っても七実の他は二人だけだが、 更に言えば座っているのはとがめだけだが立ち上がり、 幕府にありと言われた二人の鬼女と、天災級の天才は動き出した。 目的地は、H-4にある赤神イリアの屋敷。 目的物は、七実が殺した名前も知らない女の首輪。 目的は、自分達の首輪を外す。 今の所はそれだけである。 これから七実の肩に乗せて貰って海を移動しようとした時、 「そう言えば、知らない誰かに会った時はどうする?」 唐突にとがめが言ったのを、 「わたしが見て、役に立ちそうになかったらむしりましょうか?」 あっさりと答え、 「否定する——最初は殺さないで置きましょう。 役にたたなそうな人でも、情報を引き出してから殺す方がよっぽど合理的よ?」 否定した。 「それもいいですね。…………いえ、悪いのかしら?」 今の所、役に立たない人間は殺す方針に決定したようだ。 あらゆる事柄を見通す天才に、奇策と否定の二人の鬼女。 今回は刀集めではない上、手加減の欠片もないだろう三人組。 彼女達が通った後に残れる者は居るのか? 容赦なく奇策に貶められるか、 ありとあらゆる事を否定され死ぬか、 草のように摘まれて終わるか、 はたまた生き残れるか、 ある意味でもっとも凶悪な三人組が行く。 【1日目 黎明 不承島 H−2】 【鑢七実@刀語シリーズ】 [状態]健康 [装備] なし [道具]支給品一式、ランダム支給品(1〜2)、キスショットの心臓 闇口憑依の支給品(確認済み) [思考] 基本 二人を守りつつ吸血鬼のパーツを探す。 1 七花とあってみたい 。 2 完璧な『再生力』を見取るために吸血鬼のパーツを集める。 3 『再生力』を見取り自分の本気を出してみたい。 4 とりあえずこの二人と行動を共にする。 【奇策士とがめ@刀語シリーズ】 [状態]健康 [装備] なし [道具]支給品一式、ランダム支給品(1〜3) [思考] 基本 今の所はこの二人と行動を共にする。 1 鑢七花を探し、見付けたら護衛させる。 2 基本的に鑢七実に頼る。 3 とりあえず首輪を手に入れる。 4 奇策を練る。 【否定姫@刀語シリーズ】 [状態]健康 [装備] なし [道具]支給品一式、ランダム支給品(1〜2) 防弾エプロンドレスと黒縁メガネ(装備中)@戯言シリーズ [思考] 基本 今の所はこの二人と行動を共にする。 1 鑢七花と左右田右衛門左衛門を探し、見付けたら護衛させる。 2 基本的に鑢七実に頼る。 3 とりあえず首輪を手に入れる。 4 優勝したら願いが叶えるって、水倉神檎は何を考えているのかしら? *これから赤神イリアの屋敷に向かいます *不承島G-2にある鑢七花の住んでいた小屋には誰も入っていません 016← 017 →018 ← 追跡表 → 012 鑢七実 ― ― 奇策士とがめ ― ― 否定姫 ―
https://w.atwiki.jp/nisioisinnbr/pages/39.html
世界の終わり、正しくは始まり(後編) ◆ ◆ ◆ 呼吸の乱れは収まったものの、今度は身体の節々が今更のように痛みだしてきた。少女もまた同じような感じだったので、しばらくの間、林の中で身体を休めることにした。 ぼくは木にもたれるように座り、少女はデイパックを枕にして横たわった姿勢。 ちなみに地面に散らばった荷物は、すべて回収済み。ジャケットだけはもう着れた状態ではなかったので、デイパックの中に収納してある。スタンガンも、今は少女が持っている。 「言っておくけど」こちらを睨みながら言う少女。「後ろに誰かいるなんてハッタリかまして不意打ちなんて卑怯な真似、私は認めないわよ。私があなたより弱かったわけじゃないわ」 子供かこの娘。 最初に後ろから不意打ちかけてきたのは誰だとか、素手を相手にスタンガン振るってたのは誰だとか、突っ込みようはいくらでもあったが、確かに彼女の言うことも一理あった。 ぼくが最初に懐中電灯で殴った右手は、あの一発で既に相当傷んでいたらしく、払った足首に関しても同じようなものだったらしい。 つまり彼女はそんな状態であれほどの立ち回りを演じていたというわけで、頭こそよく打ったものの、両手両足が無傷のままのぼくより彼女のほうが疲弊しているのは、むしろ当然のことだった。 手加減する余裕がなかったとはいえ、女の子を相手に本気で殴りつけてしまったことについては、素直に申し訳なく思う。それも右手だけで三発。 「………ごめん」 殴り殴られはお互い様ではあったが、とりあえず謝っておいた。 「この世で最も誠意のない行為って、あなた、何だかわかる?」 「………何?」 「口先だけの謝罪よ」 容赦ねえ………。 正当防衛はむしろぼくのほうなのに………。 ところで、と仰向けのままこちらを向く少女。「あれってどこまで本気で言っていたの?」 「あれ?」 「あなたが撒き散らしてた数々の妄言よ」 「ああ——いや、もうほとんど当てずっぽうだったよ。何も考えずに、思いついた先から口に出していった感じかな。本気もへったくれもない。きみの言うとおり、妄言であってるよ」 結局あの銃声の正体はというと、スタンガンによる放電の音だったらしい。スタンガンの電流を乾電池にぶち込むことでスパークさせ、あの破裂音をかき鳴らしたのだとか。 無論、自分に火花などが飛ばないように、またぼくのほうに閃光が見えないように工夫しながら。 火の中に乾電池、コンセントの中にピンセット。 「……まさか本当に乾電池使ってたとは思わなかったよ」 人には散々妄言だとか言っておきながら………。 ほとんど正解しちゃってるじゃん。ぼくが一番びっくりだよ。 「火花とかすっごい飛ぶんだもの。びっくりしたわ」 当たり前だ。 「一度やってみたかったのよ。根暗のやる遊び」 だから遊びじゃ済まねえんだよ。 言うまでもなく、絶対に真似してはいけない。 ただ彼女の側としては、本気で銃声だと思わせるつもりは全くなかったらしい。銃でなくとも、武器としてスタンガンを所有していたわけだから、脅迫も戦闘もとりあえずは可能だったはず。 ただ「相手まで安全に近付けたら面白いな」みたいな発想の末、何となく思いついたあれを実行してみたら予想外にうまくいってしまったため、そのまま拳銃をもっている設定で押し通すことにしたらしい。 「言っておくけど」少女は言った。「私は『拳銃を持っている』と一度でも自分からはっきり言った覚えはないわよ」 そうなのだ。 結局、ぼくが一人で勘違いしていたといっても過言ではない。 ぼくがあれを拳銃だと誤認していようがいまいが、彼女にとっては関係のないことだったのだから。 そもそも、彼女がこんな面倒くさい真似をする気になった理由は、窓越しに見たぼくの第一印象が『どうとでもできそうな相手』だったからに他ならない。 要するに、ぼくはずっと彼女に弄ばれていたわけだ。 単なる思いつきの面白実験に、ずっと付き合わされていただけのことだったのだ。 彼女にとって一番意外だったのは、スタンガンの音を銃声と勘違いするなどという人間が存在したことより、ぼくが脅迫に屈せず反撃に出た事だったかもしれない。 確かに、まともな小説でこんなことをやっていたら、社会的には死刑に値するかもな……。 閑話休題。 疑問が解けた所で、まずは今更ながら自己紹介を始めることにした。 戦場ヶ原ひたぎ。 それが彼女の名前らしい。 「で、あなたの名前は?」 少女——ひたぎちゃんは当然のことを訊いてくる。 「別に聞きたくはないけど、礼儀として一応聞いておいてあげるわ。ただし記憶する気はあまりないから、どうしても憶えて欲しかったら、私が気に入るような名前を考えて名乗りなさい」 後半の台詞は、すべて当然のものではなかったが。 「……悪いけど、ぼくは人前では名前は名乗らないことにしてるんだ。個人的な理由なんだけれどね」 「何それ、馬鹿みたい」 予想通りの台詞を吐かれた。なんか、同じ台詞を似たような人に言われた記憶があるが……。 「そんなことを言ってるから、あなたは一生腐った魚と呼ばれるのよ」 一生の呼び名を宿命付けられてしまった。。 ていうか、今まででそんな呼び方をしたのはあなただけなんですけど。 「仕方ないわね、じゃあ今後あなたのことは『魚の腐ったような男』、略して『さっちゃん』と呼ぶことにするわ」 「………その愛称だけは、本気で勘弁して欲しいかな」 ある意味略さない方より嫌だ。 「じゃあ『細胞の死滅した脳を持つ男』、略して『さっちゃん』で」 「いや『さっちゃん』変わってないじゃん! 『さっちゃん』から離れろよまず!」 「じゃあ『有害で悪質な細胞を持つ納豆菌のように粘っこい男』、略して『害悪細菌』、さらに略して『さっちゃん』で」 「もう完全にわかってて言ってるだろそれ! 略しても略さなくても最悪の呼称だよ! てかどんだけ『さっちゃん』で押し通したいんだよ!」 「わがままね。あだ名すらつけて貰えない人間だって、この世にはいるっていうのに」 リアルに嫌な話だった。 「そんなに文句があるなら自分で決めなさいよ」 もっともだ。もっとも過ぎる。 「じゃあ、えーと——いっくん、で頼む」 自分の呼び名の中で、一番まともそうなのを選ぶ。 さっちゃんと大して違わないじゃない、などといいながらも、とりあえずその呼び名で納得してもらえた。 名前には、それほどこだわらない方なんだけどな……。 だからどんな能力だよ。 「ところで、ひたぎちゃん」 ばちぃ! 彼女の左手が閃光を放った。正しくは、右手から左手に持ち替えられているスタンガンの先端が。 「………何? びっくりするんだけど」 「気にしなくていいわ」事なげにいうひたぎちゃん。 「私の身体はある特定の条件を満たすと、自動的にスタンガンのスイッチを押すようにプログラムされているの」 特定の条件って……… 心臓に悪いんですけど。 「さっき、ここには強制的に連れてこられた、って言ってたけど」 ぼくはようやく本題に入る。 「きみは、このゲームに関しては何も知らないの?」 「知らないわよ。気がついたら変な所にいて、あれよあれよとここまで来ちゃった感じよ。詳しい説明も何もないし。死ねばいいのよ。死になさい」 だから何でぼくの方を見て言うかな。 ひたぎちゃんの話は、ぼくが経験した内容とほぼ一致していた。 連れてこられたといっても、その間の記憶はまったくないし、連れてこられる心当たりもなし。直前まで、極めて普通通りの生活を送っていたらしい。 ぼくもいたあの何もない空間で、知り合いと一緒にあの(訳のわからない)説明を受け、次の瞬間にはあの病院の前に立っていたという。 不可思議な現象。 不可思議な現状。 心当たりが全くないという点を除けば、確かにぼくと同じ境遇のようだった。 「本当に、殺し合いに乗る人なんているのかな……」 ぼくは何となく言ってみる。 「きみが言うように、自ら参加した奴ならまだしも、ぼくらには殺し合う理由なんてない。仮にあったとしても、こんなとこで見世物みたいな感じでやらされるなんて、不愉快以外の何物でもない」 「殺し合いに乗らなければ24時間後に皆殺し——みたいなことを言っていたわね。主催者の意向に逆らうような姿勢を取り続けた場合、あの時の人たちみたく首がどぐちゃぶしゅうな感じになっちゃうんじゃないかしら」 首が何だって? 「見せしめ、と言っていたしね」 勝者への褒賞、反逆者への刑罰。 極端なまでのアメとムチ。 闘いに乗る人間も、少なくはないと見るべきか。 「だとしたら、いつまでもここに居るのは危険だな………」 デイパックから時計を取り出す。零時五十五分。病室を出たのが、零時ちょい過ぎだったか。 夜が明ければ、この小さな雑木林では隠れる場所にはならない。林の外からでも見つかる可能性がある。 加えて、今のぼくたちは負傷している。ぼくは頭と肩と背中が痛む程度だが、ひたぎちゃんの方は足と利き腕を負傷してしまっている。殺意のある相手に当たってしまった場合、格好の標的にされるだろう。 「あなたがさせた怪我だけどね」 「………まあ、それはそうだけど」 「『あなたがさせた怪我だけどね』」 「………二重括弧でくくらなくても……」 「「「あなたがさせた怪我だけどね」」」 「さ、三重括弧でくくらなくても……!」 「。. * ・ ゚☆。. * ・ ゚★『あなたがさせた怪我だけどね』★。. * ・ ゚☆。. * ・ ・ ゚」 「デコしなくても!」 どんな技術だ。 「随分と余裕なのね」 「は?」 寝返りを打ち、向こうへと身体を向けるひたぎちゃん。 「ついさっきまで、命がけの状態だったっていうのに、スタンガンまで突きつけられたっていうのに、当の突きつけた相手の心配をするなんて、余裕もいいところじゃない? そんなに生き残る自信があるのかしら」 「いや………別にそういう訳じゃ——」 「そういう訳じゃないなら、他人の心配なんてよしなさい」 ぴしゃりと、叩き込むような声。 「余裕のない人間なら、心配すべきことは他にあるでしょう」 「………わかってるよ」 そう、最初から、言われるまでもなくわかっている。 いまのぼくには、ぼく自身を守るくらいの余裕しか、本当はないはずなんだ。 「そうよ、あなたはこのスレが過疎化して消滅しないかどうかだけを心配していればいいのよ」 「何言ってんの!?」 「今消えちゃったら、私の見せ場がないまま終わっちゃうじゃない」 「意味がわからない!」 「スレが安泰になってから、私の心配をなさい」 「結局自分も心配させるんだ!」 すげえぞ……この娘。 朽葉ちゃんどころじゃない。この攻撃力、もはや春日井さんに勝るとも劣らない。 この場に巫女子ちゃんがいたらと思うとぞっとする。殺し合いなんて目じゃないくらいの、核戦争並の大舌戦が繰り広げられていたに違いない。 「スレが消えるのが先か、私たちが全員消えるのが先か———これぞまさしく、究極の意味でのサバイバルだわ………」 声が真剣だった。不謹慎に真剣だった。 いかん、軌道を修正せねば。 そういえば、と、ぼくは新たな話題を打ち出す。「探してるきみの知り合いって、どこにいるかわかるのか?」 今までずっと、迷いのない足取りで——というより迷いのない命令口調で、ぼくに行き先を指示していたようだけれど、あれは知り合いの居場所を把握していたからでよかったのか? 「わからないわ」 わからないのか。 「知ってる名前の場所はあったけれど、そこにいるかどうかはわからないし——それに周りがどう見てもおかしいんだもの。不気味で逆に近寄りがたいわ」 確かに。あの病院の中で感じた不快感を、ぼくは思い出す。 「かといって、それ以外には手掛かりひとつ無いし、仕方がないから適当に歩き回ってただけ」 適当だったのかよ。 どうせ適当なら、適当な目的地くらい定めておけばいいのに。 ぼくは地図を取り出し、懐中電灯で手元を照らす。ぱっと見た感じは、普通の地図と大して変わらない。広げるとそれなりの大きさで、数字とアルファベットで64のエリアに区分けされている。 数少ない情報のひとつなのだから当然かもしれないが、かなり細部まで作り込まれている。 「作った人乙と言わざるを得ないわね」 「現在地はこのあたりだね」無視。「このまま行くと、心王一鞘流道場って所に辿り着きそうだけど」 小さな町をひとつ抜けて、いま雑木林にいるのだから——大体、E-3とE-4の境目くらいの所か。 ………しかし、本当にすごい地図だ。 所どころ、チェックポイントのように名前が振られているのだけれど、城から研究所からピアノバーまで百花瞭乱、もう統一性もへったくれもない。 ファンタスティック・ワールド。 ていうかもう、明らかにあり得ない名前の場所ががあり得ない所に存在していたりしてるんだけど。えらく見覚えのある固有名詞がそこかしこに点在してしまってるんだけど。 もう見ているだけで頭がおかしくなりそうだった。もしかしたら、既におかしくなっていたのかもしれないが。 つくづく思う。知らない場所より、知ってる場所が存在するほうが、この場合は精神的にきつい。 何度でも言おう。本当にふざけてる。 「こんなことして、一体何になるってんだ………」 そう、理由、理由だ。ここまでする理由はあるのか? どんな理由で、なんの目的で? この地図を見ていまだに自分が無関係だと思えるほど、ぼくは楽観的ではない。ここまで来ると、あてつけとしても酷すぎる。 いや——でも、他の人たちはどうなのだろう。 目の前で横たわる少女、戦場ヶ原ひたぎ。 例えば彼女も、地図の中に知っている場所があると言う。そっちに関しては、ぼくは名前すら聞いたことがない場所のようだったが、彼女の側にしても、ぼくに縁のある場所については全く知らないという。 ぼくと彼女とでは、ここに連れてこられた理由が違うのだろうか? ぼくと彼女に、共通の項目は存在するのか……? しかしひたぎちゃんは「主催者側の理由なんてどうでもいいわ」と素っ気ない。 「こんな倒錯した遊びの理由なんて、なぜ今の私は髪型をポニーテールにしているのかと同じくらいにどうでもいいことよ」 「まあ、確かにそれはどうでもいいけど———って危な!」 「あなたの頭蓋骨の耐久性に比べれば、少しは考える価値はあるとは思うけど」 「何で石が飛ぶの!?」 「それよりも、ここから生きて帰るための方法とかを考えるべきじゃないかしら。この下種な遊びを、さっさと終わらせる方法とかを」 一応、その方法を探るための思考ではあるんだけどな……まあ、その意見には完全に同意できるけど。 帰れるものなら、今すぐにでも帰りたい。 病院で感じた、あの不快感。 あの感覚はまだ、身体の中にこびりついている。 「もう三ヶ月以上、深夜の話ばっかり続いてるんだもの。飽きたわ」 「………」 あれ? また何か、控えてほしい気配が漂いつつあるような……。 無視するべきなんだろうか……。 「いっそ夢オチにしてやろうかしら」 「それは駄目だろ!!」 無視できなかった。 やっちゃ駄目だし言っちゃ駄目だろ。 「どうせこういう催し事って、長くやってるともう夢オチでしか収拾つけられなくなるくらいグダグダになっちゃうのが常なのよ。今のうちに終わらせちゃったほうが、きっと私たちも少しは報われるわ」 「いや、色々と報われないことのほうが多そうな気がするなぼくは!」 ていうか、まだ終わりにしたくないんじゃなかったのか。 「あなた冒頭で散々夢の話してたじゃない。あれが夢オチの伏線だったってことにしちゃえばいいのよ」 「いくねえよ! いい訳あるか!」 大体冒頭の話ってなによ。 「別にいいじゃない、どうせもう五人くらいしか読んでいやしないわよ」 「ひたぎさん!?」 「『投下乙です』くらい、私がいくらでも言ってあげるのに………」 「お願いだからそういう発言やめて!!」 もうなにがなにやら。 「何よ、さっきからギャンギャン犬みたいに噛みついて。見苦しいわよ」 「…きみは目の前に毒物を撒き散らしている人間がいたら、それを黙って見ていろというのか?」 「甘く見ないで。私の毒は百八式まであるのよ」 意味がわからん。 「うるさいわね、こういう設定をほのめかしておけば、重要キャラとして長いこと生きていられるのよ」 「だから何の話!?」 「あなたも精々アピールしておきなさい。あなた個性弱そうだし、次の人があっさり殺しちゃうかもしれないわよ」 「次の人って誰!? 何!?」 でも何か本当に大事なことのような気がする! アピールって、誰に対するアピール!? 「あのさ……ひたぎちゃん」 ぼくは正気を取り戻す。駄目だ、相手のペースに引き込まれ過ぎている。 ばちい! なぜかまたスタンガンが電撃を放出。そっちのほうはもう無視。 「さっきから全然話進まないんだけど……いい加減、真面目に話してもらえないかな……」 そろそろ怒られそうな気がしてきたし。 「私が不真面目だっていうの?」 「とても真面目にやろうって風には見えないな」 剣呑な目付きで、こちらを睨んでくるひたぎちゃん。 「そうね………確かに間違ってたわ」 また罵倒が飛んでくるかと思ったが、意外にも素直に自分の非を認めたようだった。 少し安心する。何だ、ちゃんと言えば伝わるんだ。 「最近では、むしろ重要度の高そうなキャラのほうが、意外性を演出するために途中でリタイアしちゃうことのほうが多いものね……あまり凝った設定を抱えてると、今では逆に死亡フラグとして扱われてしまうことを失念していたわ………」 「………………」 人との会話って、こんなにもままならないものだったっけ………? デイパックから水を取り出す。喋りすぎて喉が渇いた。さっきの立ち回りの後よりも疲れているような気がする。主に精神のほうが。 「………そういえば」 デイパックの中から、さらに一枚の紙を取り出す。ルーズリーフより簡素な見た目の、まっさらな一枚の紙。 これは何に使用すべきなんだろうか。与えられた荷物のうち、この紙だけよくわからないというか、「一応入れておいた」みたいな、どうでもよさげな空気を感じる。 筆記用具も入っているし、メモ用紙として使えとでもいうのだろうか。 つくづく意図が読めない。 「あなた、武器は持ってなかったの?」 水筒と紙を収納するのを見て、ひたぎちゃんがまた唐突に話かけてくる。 「ずっと素手のまま構えてたみたいだけど、武器になりそうな物、入ってなかったの? それともデイパックから出す暇がなかっただけ?」 「あれ、ぼくの懐中電灯取り出すとき、武器がないかどうか確認しなかったの?」 「忘れてたわ」 忘れてたのか。 ぼくは一体、どこまで軽く見られていたというのだろう。 「持ってるよ。ここにある」 ズボンのポケットから、ぼくは一本のナイフを取り出す。 手のひらにすっぽり収まるサイズの、いわゆるバタフライナイフ。見慣れているといえば見慣れているし、使い慣れてるといえば使い慣れてる武器。少なくとも、スタンガンよりはしっくりくる。 哀川さんから授かったあの刀子には遠く及ばないけれど、自分にあった武器という点では、それなりに当たりを引いたほうだとは思う。 「随分あっさり見せるのね。大事な手の内のひとつなのに」 「きみのも見てるし、五分五分だろ。大した武器ってわけでもないし」 「さっき、なんでそれ使わなかったの?」 「………別に。実はぼく、尖端恐怖症なんだよ」 あっそう、とだけ言い、再び黙るひたぎちゃん。何となく拗ねているように見えるのは、ぼくの気のせいだろうか。 バタフライナイフを再び、ポケットの中へと仕舞う。 もしさっきの闘いで、これを使用していたとしたら、ぼくは彼女を殺していただろうか。 あの時これを取り出していたら、ぼくは恐らく、自分の殺意を抑えることができなかっただろうと思う。身を守るためでなく、ただ殺すためだけに、それを振るうことを躊躇しなかったと思う。 一方で、もしそうしていたとしたら、殺されていたのはぼくの方だったかもしれない、とも思う。 殺意は新たな殺意を生む。そしてそれらが一度重なれば、どちらかが生き残るまで、どちらかが死ぬまで、その殺意は続く。 彼女がぼくに対し、殺意でなく敵意ばかりを向けていたことに、何か理由はあるのだろうか? あそこまで容赦なく他人に敵意を向けることができる人間が、殺意を向けることができない道理なんて、本来ならばないはずなのに。 ———一切の罪悪感なしに人を殺めることができる人間など、たとえ産まれたての赤ん坊でさえも決して有り得ることはない———。 戯言だ。 そんなもの、戯言でしかない。 「少しだけ、話を聞いてくれる?」 またしても、唐突に投げかけられる声。 いつの間にかひたぎちゃんは地面から身を起こしており、ぼくと同じように木に背中を預けて座っていた。 「少し前に読んだ小説の話なんだけどね」 こちらの返答を待たずに、彼女は話し始める。 「———とある学園を舞台にしたエンタメ小説なんだけど、その学園っていうのが色々と特殊な場所で、女子高生が策師を名乗ってたり、刃物に 病み付きな少女が徘徊してたり、もう首を吊ったようにパンキッシュな学校。その学校に捕われてる一人の女の子を救出するために、万能屋の女性と、無理矢理連れ出された冴えない男が学園へと乗り込む、っていう話」 「ふうん………?」 どこかで聞いたような気がするけれど。 ぼくも読んだことのある小説だろうか。 「そのうち、学校の中で人が殺されているのが発覚するの。バラバラ殺人。加えて密室殺人。結局、主人公が犯人を明らかにするんだけど、その犯人 っていうのが常人離れした技術の持ち主で、そのバラバラ殺人の他にも、学校内、学校外問わず、もう人間としてありえないくらい人を殺してしまっているの」 「………」 「その犯人が、主人公から殺した動機について問われた時に言った台詞なんだけれど——自分が何か酷い目にでもあっていたら、友達を殺されてた ら、強姦でもされてたら、大事な何かを奪われてたら、それで全部納得いくのか———人を殺すっていうのは、そういうことじゃない、って」 「………」 「小説にでてくる殺人犯って、大抵なにかの事情を抱えてたりして、探偵役の人にそれを吐露して終わったりするのがよくあるじゃない。それを あそこまではっきり切って捨てるような台詞を見たのって、その本が初めてだったから、とても印象に残ってるわ。人殺しはどうしたって人殺し、動機なんて同情を誘うための免罪符に過ぎない、みたいな潔さがあって、犯人に同情どころか、いっそ感心すらしちゃった」 彼女は語る。独り言のように。 「私の知り合い、阿良々木くんっていうんだけど」 アララギ君。 蘭? 蘭木? 「あの場所から、ここへ連れてこられる直前に、阿良々木くんが言ったの。『絶対に生きろ。お前が生きてる限り、ぼくも生きる』——って」 おお、なんて格好良い。男らしさ全開の台詞じゃないか。 「言われた時は、ただ嬉しいって思ったけど、あれってどういう意味で受けとるべき言葉なのかしら。どんな状況でも、どんな手段を用いてでも、 生き残ればそれでいいっていうこと? 他人を押し退けてでも、誰かを突き落としてでも、とにかく生きろっていうこと? 阿良々木くんもそうするし、私にもそうしてほしい、っていう意味として受けとるべきなの?」 ………。 「私は、阿良々木くんに生きてほしいと思ってる。それこそ、どんな手段を使っても、誰を殺してでも、生き残ってほしいと思ってる。阿良々木くんが生きてる限り、私も生きる。そう思ってるのは、私も同じ」 ………。 生きるということ。 それは同時に、誰かを生かすということで——— 同時に、誰かを生かさないということ。 「優しいのよ、阿良々木くんって」 彼女は言う。 「私にも、他の誰にでも。他人のために平気で傷付くし、傷付けた相手でも平気で助けようとする。傍から見てて、不安になるくらい、優しすぎるくらい優しい。だからきっと、自分が生きるために誰かを殺すなんて、阿良々木くんはしようとしないんだわ」 ………。 「私にはああ言っておいて、自分はそんな、自分より誰かの命の方を優先するような、中途半端な姿勢でいようとする人なのよ。そんなのって、卑怯だと思わない?」 「………」 ………成程。 彼女がなぜ、地図上に自分のよく知る場所を見つけながら、そこへ向かわなかったのか、ぼくは理解できたような気がした。 その場所に、その人がいるかどうかの確信がなかったから、ではおそらくない。 むしろそこにいる可能性が限りなく高いと思っているからこそ、そこへ向かうのを躊躇ったのだと思う。 何故なら、見てしまうかもしれないから。 もしその人が、そこへ向かっていたら、そこで自分を待っていたとしたら、見てしまうかもしれないから。 自分にとって大切な人の、その変わり果てた姿を。 最も望まぬ形での再会をしたくないからこそ、 見てしまう可能性が最も高い場所だからこそ、彼女はそこへ向かわなかったのだ。 「いっくん」 一瞬、自分が呼ばれたのだと気付くことができなかった。 「あなたの言う通りよ、いっくん。私じゃ——私たちじゃ、ここではきっと生き残ることはできない。遅かれ早かれ、同じような結果になるわ。それならいっそ、口先だけでも普通のままで終わりたいのよ」 すとん。 彼女の手から、スタンガンが滑り落ちた。 「生きるためでも、強要されたからでも、人殺しは所詮人殺しにしかなれないのよね。選択肢を押し付けられるのなんて、私だって真っ平ごめんよ」 ………………。 「ちょっと早いけど、私はここで終わりにしておくことにするわ。色々と悪かったわね、いっくん。スタンガン、欲しいなら持っていっていいわよ。………あ、もし阿良々木くんに会っても、私のことは伝えなくていいからね」 足枷にはなりたくないから。 そんなことを言って、彼女は独白のような語りを終えた。 再び、闇夜の中に訪れる沈黙。 「………」 ぼくは、彼女のことを何も知らない。 その知り合い——アララギ君とやらについても何も知らないし、そもそも自分の置かれている現状すら、よく理解できていない。 何も知らない。何もかも知らない。 足枷とは、誰に対する足枷のことだろうか? アララギ君の? それともぼくの? 自分のために誰かを殺す。誰かのために誰かを殺す。 自分のために自分を殺す。誰かのために自分を殺す。 それは、ある意味どちらでも正しく、ある意味どちらでも間違った選択。 正しくあるのは、正しいことなのか? 間違うことが、正しいことなのか? ———なにを考えてる? ぼくに、他人を心配する余裕なんてなかったんじゃないか? 「………小説の話じゃないけど」 沈黙を破り、ぼくは言った。 「少し前に、ぼくが知り合いから言われたことなんだけど………人生っていうのは、死んでも終わらない——んだってさ。そいつが死んでも、そいつの影響は残るから、本当は終わりなんてどこにもない。勝手に終わらせるな、って」 ぼくはそれに、そんなことわかりたくもない——と返したのだけれど。 「あんなこと言った以上、きみにこんなことを言うのは理不尽なのかもしれないけど——ひたぎちゃん。きみは、ぼくに会う前から、最初から終わりにしたいと思っていたんじゃないのかな?」 「………」 普通のままで終わりにしたいと彼女は言う。ならば、普通とは何だ? 人を殺さないということ? 人と殺し合わないということ? 人に、殺意を向けないということ? 「普通のままでいたいなら、普通のままで生き残ればいい。生き残る自信のない場所なんて出てしまえばいい。わざわざ乗っかってやる必要なんてない。踊ってやる必要なんてない。相手の都合なんて、相手に叩き返してやればいいんだ」 ——こいつは、一体どこまで勝手な言葉を吐き散らすつもりでいるのだろうか。 言えた立場か? 欠陥製品。 所詮すべて、戯言でしかない癖に。 「生きる方法なんて、魚だったら腐るほどにある。自分で選ぶのは当然のはずだ。きみもそう思うだろう?」 「………無理よ、そんなの」 彼女はうつ向きながら言う。 「そんなことがどれだけ不可能に近いか、あなただってわかってるでしょう? 殺さず、しかも生き残るなんて。仮に逃げ回って生き延び続けたとしても、最後の一人になるまで終わらないって、最初に言ってたじゃない」 ——やはり、彼女の本音はそこにあったか。 彼女は、誰も殺したくないのではない。誰かを殺したくないからこそ、初めから終わりにしたかったのだ。 「それに、さっきも言ったでしょう? 闘いに乗らなければ、結局殺されるのよ。24時間経てば、どっちにしろ——」 「24時間?」ぼくは言った。「それは永遠という意味かな?」 皮肉げに言ってはみたものの、ぼくが言うと、やはりいまいち様にならない。 「24時間も、ぼくらには猶予が与えられているんだ。状況を打開するには、十分すぎる時間だと思うけど?」 「………………」 何を言っているのかわからない、とでも言いたげな感じで、ひたぎちゃんはこちらを見ている。 ぼくだって、単なる楽観だけでこんなことを言ってるわけじゃない。 どんな手段を行使したのかは知らないが、ぼくが誘拐されたとすれば、ぼくがあの病院から消えたとなれば、その情報は十以上の確実性をもって玖渚の知るところとなる。玖渚がその気になれば今のぼくの居場所など、辞書で単語を引くような気楽さで調べあげてしまうだろう。 時間さえあれば、玖渚が必ずどうにかしてくれる。あいつをこの状況に巻き込むのは正直避けたい所ではあるが、今回はいくらなんでも、取れる手段が限られすぎている。 タイムリミットがある上に、尋常でないレベルで命が懸かっているのだ。形振り構ってはいられない。 ただし、玖渚だけに頼るわけにはいかない。 ぼくはぼくで、状況を打開するために動かなければならない。 「きみが本当にここで終わりにするつもりなら、ぼくにそれを止める権利はないのかもしれない。ただ、もしぼくの言葉がきみの選択肢を奪って しまったのだとしたら、可能な限りの選択肢を提示するくらいの責任は、ぼくにはある。押し付けるんじゃない。ただ提示するだけだ。きみには終 わりにする以外の選択肢があって、それを選ぶ余地がある。その上でまだ終わりにするって言うなら、ぼくにはそれ以上、言うことはないけれど———」 「………………」 ひたぎちゃんはぼくを見、ぼくはひたぎちゃんを見ていた。 言いようのない雰囲気を伴った沈黙。 ぼくにできることなんてたかが知れている。通りすがりの脇役に、取るに足らない道化役に、手のひらの上の踊り子に、欠陥製品の戯言遣いに、大したことなんて、何ひとつとして出来やしない。 だからこそ。 ぼくにできることは、すべてやり尽くさなければならない。 終わりにする前に、終わりになる前に。 たとえ、ぼくの行動に意味がなくても、ぼくの選択に意味がなくても、 ——そんなことは——— そんなことは、 どちらでも、同じことなんかじゃねえんだよ———。 本当に勝手だけれど、戯言だけれど、どうしようもなく欺瞞だけれど、自信も根拠も、滑稽なほどに皆無だけれど———、 後悔したまま、終わりにしたくなんてないから。 ………………。 ………………………。 長い沈黙。終わりを無くしたような、長い長い沈黙。 互いに見つめ合ったまま、互いを見据え合ったまま、時間だけがただ過ぎ去ってゆく。 言葉を失ったように、選択肢を見失ったように。 ここに来てから感じた幾つかの静寂。ぼくはその中で唯一、今のそれを息苦しくないと感じた。 「………………卑怯だわ」 永遠にも似た静寂は、彼女のか細い声によって打ち切られた。 「………そんなの、選択肢を奪うのと、大して変わらないじゃない」 相変わらずの、冷ややかな声色。今までと変わらぬ、剣呑な目付き。 ただ、放たれる敵意は既にない。 違いといえば、それくらいのものだった。 「あなた、やっぱりむかつくわ」 ぼくは苦笑した。「よく言われるよ」 「いっそ殺してやりたいわ」 「………よく言われるよ」 「いっそ納棺してやりたいわ」 「………………」 表現が迂遠すぎて逆に恐い。 何か急に生き生きしてないか、この娘。 「あなた、詐欺師になれるわよ」いっそ軽蔑するような声色。「本当、よく回る舌ね。回るだけ回してねじり切ってしまいたいくらい」 「………そりゃどうも」 「言っておくけど」彼女は言う。「生き残る道を選ぶからには、ただの希望や目標のままで終わらせるのは絶対に嫌よ。『やれるだけのことはやったからもう悔いはない』とか言って綺麗にまとめるような落とし方、地獄に落としてでも認めさせないからね」 ………認めないんじゃなくて認めさせないんだ。 言葉尻を揃える余裕があるのが微妙に恐ろしい。 「それと、ここまで選択の余地を削いでおいて『自分が選ばせた訳じゃない。自分は選択肢を提示しただけだ』なんて逃げ口上、通用すると思わないでよ。私に選ばせた責任、きちんと最後までとりなさい」 「………」 ………まあ、予想してはいたことだけど………結局そういうことになっちゃう訳か。 あーあ、なんだかなあ。 せめて、もっとスマートにできればいいんだけどなあ。 言うこと為すこと誤魔化しばかりで、結果はいつも空回り。 優しくなくて愚かしいだけ、男らしくなく女々しいだけで、格好良くなく不格好。 いつもいつも、そんなふうにしかできない自分に、正直腹は立つけれど。 「言われるまでもないさ、そんなこと」 ぼくは精一杯の毅然さを持って立ち上がる。 「必ず生き残る。希望でも目標でもない。それ以外は、絶対に認めない。きみと一緒に、生きたままここを出ることを約束する。きみが生きていてほしいと思う人がいるなら、その人たちも必ず一緒に」 ぼくは彼女へと歩み寄り、ゆっくりと手を差しのべる。 「きみが生きてる限り、ぼくも生きるさ。一緒に行こう。生き残るために」 差し出された手を、彼女はしばらくの間じっと見つめ、 「……格好良いなんて思わないわよ」 彼女の左手が、差し出された右手を掴む。そして彼女もまた、毅然と立ち上がる。 「私がそう思うのは、この世で阿良々木くんだけなんだからね」 そう言って、彼女はぼくに小さく笑いかけた。 初めて見る彼女のその表情は、見蕩れてしまうくらいに、魅力的な笑顔だった。 花火は見るより打ち上げろ。 砦は住むより打ち崩せ。 夢を見るにはまだ早い。 現実の夜はまだ明けぬ。 見てもつまらぬ祭りなら、踊らないのもまた一興。 さあ、戯言の始まりだ。 【1日目 深夜 E-4】 【戯言遣い@戯言シリーズ】 [状態] 頭部に軽傷、身体の数ヶ所に打撲(行動にそれほどの影響なし) [装備] バタフライナイフ@人間シリーズ(零崎人識が所有していたナイフの一つ) [道具]支給品一式、ランダム支給品(1〜3) [思考] 基本 ここから脱出する方法を探す。そのための協力者、情報を収集する。 1 協力者の第一候補として、まずアララギ君を探す。 2 戦闘に関しては、基本的に逃げの一手に徹したい。あるいはうまく丸めこんで、あわよくば仲間に引き入れる方向で。 3 ひたぎちゃんは、怪我が治るまでできる限りフォローする。 【戦場ヶ原ひたぎ@物語シリーズ】 [状態] 右手甲負傷(物がうまく掴めない程度)、右足首捻挫(自力で歩くことは可能) [装備]スタンガン@戯言シリーズ(哀川潤が使用していた物) [道具]支給品一式(懐中電灯の乾電池を除く)、ランダム支給品(1〜3) [思考] 基本 阿良々木くんと一緒に生きてここから出たい。 1 阿良々木くんに早く会いたい。 2 殺し合いには参加したくない。ただし阿良々木くんに害なす人間がいたら話は別。ていうか容赦しない。 3 生きて出るため、いっくんに協力する。 ※病院のくだりは、闇口濡衣たちが来る前の時系列ということで。 玖渚友が来ていることは、いーちゃんは可能性すら考えていません。 014← 014 →015 ← 追跡表 → ― 戯言遣い ― ― 戦場ヶ原ひたぎ ―
https://w.atwiki.jp/nisioisinnbr/pages/107.html
虚刀『鑢』対人類最終『橙なる種』 清涼院護剣寺、刀大仏が祭られる剣士達の聖地、そして無刀の姉弟達による決闘が果たされた地。 「はあ、なんでこんなとこに来ちまうのかね」 巨大な大仏を見上げながら、これまた大きな男、鑢七花は似合わぬため息を吐いた。 「まあ、元からどこに向かってるのかなんか全然わかってなかったけどさあ」 誰もいないながらも呟き続ける姿は不気味であるが、これは仕方の無いことだろう。 なんせ、さっきのさっきまで否定姫と話しながら歩いていたと思ったら、わけのわからない 場所へと放り込まれ、何かの説明がされたと思ったらここに一人放り出されてしまったのだから。 「誰もいないのかよ」 要するに七花は寂しいのである。いつでも道中には連れがいたのが今では一人。 どれだけ言葉を発しても返事してくれる相手が全くいない状況にまだ慣れてないのだ。 決して七花が悲しい性格だからではない。 「それじゃ、別の場所探してみるか」 別に誰も聞いてないのに、やっぱり寂しい七花は声に出して言う。 だが、別に七花は話し相手を探しているわけではない。確固たる目的があった。 (あの場所に確かにとがめが…いた) 自分が惚れ、そして守りきることが出来なかった女。自分の腕の中で死んでいった彼女が 確かにいた。 そんなはずがない。 とここに来る途中に何度も思った。 とがめはあの時に死んだ。 あの冷たくなった肌、消えていくぬくもり、死体から脱がせそして今自分が羽織っている形見の豪奢な着物。 全てが記憶に残っている。 けれど、確かにとがめはあそこにいた。 あの時のままの姿で あの時のままの格好で (あれは、間違いなくとがめだった) 死んだはずのとがめがなぜいたのか、考えれば考えるほどわからなくなっていった。 そもそも考えることは自分に向いていない。 それでも考えて、考えて、考えて、一つの結論に至った。 「会って、確かめるしかないよな」 単純ではあるが、一番確実な方法である。 考えぬかなきゃいけないようなことか?とかは思ってはいけない。 これでも七花もがんばったのである。 「けど、今俺どのへんにいるんだ?」 とがめを探すと言う目的に行き着いたが、重大な問題が出てきてしまった。 自分の現在地がわからないのである。 「さっき捨てたあの紙切れってやっぱ地図だったのか?」 と七花は気づいた時に持っていた紙と何かが入った袋のようなもののことを思い出した。 袋に関しては、開け方がわからないので全部置いてきたし、紙にしても読めない字がいくつも あるので捨ててしまった。 「全く、そうならそうと配る前にさっさと言えよ」 ちゃんと水倉林檎から説明があって、それをあの時七花はとがめに気を取られ聞き逃しただけなのだが、 それには気づかない。ついでにまにわにの首が吹っ飛ぶのも気づいてなかった。 まにわに哀れなり。 「ま、いっか、あの部屋にいた他の連中でも見つけてみるかな」 さらに信じがたいことだが、七花はこのゲームの説明にしてもあんまりよくわかってなかった。 とりあえず、うっとうしい首輪がつけられ色んな所に飛ばされた程度にしかわかってない。 とがめや否定姫がいないと駄目駄目な七花であった。 「それにしてもここにいると色んなこと思い出すよな」 この場所でのことも鮮明に覚えている。 血を分けた姉との戦い。 異端なる才能、そして最悪たる刀を携えた。紛れも無い最強の敵、勝てたことが今でも信じられない。 いや、正確には勝ったとはいえない。 とがめの奇策、そして虚刀流であるがゆえの宿命、刀の呪縛があればこそ、手に出来た勝利。 そこまでしなければ勝つことが叶わなかった許されざる天才。 「姉ちゃん…か」 七花が見つけたのは何もとがめだけではなかった。 あの天才もまたあの場所にいた。 あの時と同じ全てを見透かすような眼をして、 ちなみにまにわにに関しては誰一人として発見していない。 やはり哀れなり。 「やっぱり、俺のこと恨んでんだろうな」 とがめは七実は殺されたかったのだと言ってくれた。 けれど七花は納得できなかった。 なにせ姉が自分の腕の中で恨み言を言いながら死んでいくのを目の前で見てしまったのだから。 もしも、もしも姉とも出遭ってしまい、今度は憎悪を込めて襲ってきたら勝てるだろうか。 「勝てないだろうな…」 実力にしても当然ながら、姉が自分を殺したいと思っていたら殺されてもいいと考えてしまう。 こんな気持ちで勝てるわけがない。だが、負けてしまえばとがめを捜せなくなる。 「ええい、考えても仕方無いか!」 と七花は頭を振って考えを払いのける。 もしもの考えをめぐらせても答えなど出せるはずがない。そういうことには自分は向いていない。 「そろそろ行くか」 ここから早く出ないとまた考えてしまう。 そう判断した七花は最後にもう一度刀大仏をよく見ておこうと顔を上げ、眼に入ったのは 刀大仏の腹から突き出る漆黒の刀身だった。 「な…」 何が起きているのか理解出来ないうちに刀身を中心に亀裂が走り、大仏の腹がはじけ飛ぶ。 そして、 あたかも神の腹を喰い破る悪魔のように、 “それ”が姿を現した。 赤い、いや赤というには明るすぎる橙色の髪と同じ色の眼をした小柄な少女だった。 小柄な体に似合わぬ大振りの黒い刀を持ち、狂気に染まった眼で七花を睥睨する。 視るのでも診るのでも観るのでも看るのでもなく、ただじっと見つめる。 七花にはわからない。 この少女の名が想影真心ということも、 この少女が人類最終と呼ばれる存在であることも、 ただ解るのは 少女の持つ刀が『毒刀・鍍』であること、 そして 圧倒的な殺気。 「なんだよ…」 体が震える。 「なんなんだよ…」 足が、竦む。 「こんなの、こんなの」 この感触、過去に味わったことが、ある。この感覚は、 「あの時の姉ちゃんと同じじゃねえか…」 あの時に見せられた、姉自身ですら抑えられなかった姉の本気、その時と同じ殺意を その少女は放っている。 「げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら」 七花の心境をよそに真心は笑う、笑う、笑う。 心底おかしいように、心底嬉しいように、心底狂ったように。 そして目の前の獲物を見つめ、 次の瞬間に七花の目の前で刀を振り上げていた。 「な!?…くそ」 震える体を無理やり動かし、紙一重で刀の切っ先をかわし。後ろとびで距離を取り (なんて…速さだ!!) そして、さっきまで真心がいた場所を見上げ、 信じられないような光景を目にした。 大仏の腹に空いた穴から後ろの壁ではなく外が見えていた。 そのことから示される事実は一つ。 「外からここまでぶち抜いてきたってのか…」 あまりの常識破りの行動に言葉を失う七花に構わず、再び真心が切っ先をこちらに向け 飛び掛ってくる。 「っこの!舐めんな!!」 突き出される切っ先を体をわずかにひねる最小限の動きでかわし、構え、 「虚刀流『薔薇』!!」 迎え撃つように蹴りを放つ。 突っ込んだ勢いを抑えきれず蹴りをまともに喰らった真心の小さな体は後方に吹っ飛び そのまま床に叩きつけられ、 何事も無かったのように立ち上がった。 「嘘だろ!?」 今の一撃は完全に決まっていた。相手の速度を上乗せして叩き込んだ蹴りは相当の威力だったはずなのに、 「げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら」 真心は笑いを止めることなく再び突っ込んでくる。 「く…『杜若』!!」 七花もまた前に飛び出す。 だが、速さの差は歴然、真心が先に間合いを詰め刀を大上段から振り下ろす、 より先に七花が一気に加速して横に回り込む。 相手から見れば七花が突然消えたかのように見えるだろう。 この極端な加速の切り替えこそ、虚刀流の歩法『杜若』! 目測を誤って空振りし、隙が出来ている真心の横にそのままの速度で一気に突っ込み、身構え 「虚刀流奥義」 放とうとした瞬間、 真心の眼がぎょろりとこちらを向いた。 「なっ!」 本能的に七花は減速し後方に跳ぶ、 と同時に胸部を凄まじい衝撃が襲い、 胸を蹴られたと気づいたのは床に叩きつけられてからだった。 「なんてこった…」 今度こそ七花は驚愕する。 変幻自在の『杜若』がこんな早くに見切られた。 からでは無く 「今の攻撃、さっきの俺の『薔薇』じゃねえか…」 そう、真心の放った蹴りは紛れも無く自分自身が放った『薔薇』だった。 しかも 「なんつう威力だ…」 喰らう直前に後ろに跳んで威力を殺したはずなのにあばらが軋んでいる。 その痛みに気を取られる間も無く、 追撃してきた真心が再び刀を振りかぶる。 咄嗟に身構えた七花の前で、 真心が突然消えた。 (やばいっ!!) 考えるより先に体が動き、真横から振られた斬撃をかろうじてかわす。 が、 真心は刀を振り払った勢いをそのままに一気に加速し、再び『薔薇』で七花を蹴り飛ばす。 「ぐお!!」 今度は後ろに跳ぶ暇も無かった。 猛烈な衝撃が七花を襲い、まるで紙くずのようにその大きな体が大きく弾き飛ばされ、 壁に叩き付けられる。 (今の動きは『杜若』、間違いない…こいつ、俺の技を…) 痛みが全身に走りわたるのと同時に絶望感もまた広がる。 (冗談じゃねえ…これじゃ、まるっきり姉ちゃんと一緒じゃねえか) まだ一度しか見せていない自分の同じ技をより的確に繰り出す。 まさにあの姉に瓜二つ、いや、病魔による弊害が無いぶん、もしかしたら、あの姉より強いかもしれない。 そんな相手に、姉さえ凌駕しかねない、相手に勝てるだろうか? 否 勝てるはずがない。 あの時の姉には刀の呪縛と、そしてとがめの奇策が、守る物があったからこそ勝てた。 だが今度の相手は刀の呪縛があるように見えない、 なによりとがめが、守るものがいない、 (逃げるか…) 少し前の自分ならこんなこと考えもしなかった。 逃げるくらいなら最期まで戦うことを選んだろう。 だが、この敵はそんな信念すら覆す。 そんなことを考えている七花に、真心は歪んだ笑みを浮かべながらゆっくりと近づいてくる。 (遊んでやがんのかよ、ちくしょう!) その事に憤りを感じても、どうすることもできない。 奥義を出そうにもその暇すら与えられない。 最速の『鏡花水月』 なら繰り出せるかもしれない。 だが、威力に劣る『鏡花水月』では致命傷は与えられない。 逆に吸収され、そっくりそのまま返されるのが関の山だ。 逆にあの筋力で『鏡花水月』を喰らえば、間違いなくこちらが致命傷に至る。 まさしく八方塞がり。打つ手が無い。 (ここで殺されたらとがめに会えない) 今回の戦いは逃げることが許されている。 だったら逃げればいい。 勝てもしない相手に喰らいつき虫けらのように殺されることが自分の目的ではない。 そうだ、姉に会っても逃げればいい、逃げて逃げて逃げて、生き残れればそれでいい。 今の自分には目的がある。 信念より矜持より大事な目的が、 (一か八かで入り口まで走るか!) ここから出てしまえば、逃げることは難しくない。 七花は『杜若』の体勢のため体を縮め、 自分の着ている着物がざっくり斬られているを目にした。 さっきの斬撃をかわしきれていなかったのだろう。 そこにうっすら血がにじみ着物に染み込んでいる。 その光景は、あの日と似ていた。 とがめが炎刀に貫かれたあの日と、 その斬り口を七花はじっと見つめ、そして、跳んだ。 生き残るための出口へ ではなく、真心へ、眼前の敵へと! そしてその勢いで手刀を叩き込む!! (は、何が目的だ) その一撃に揺るぎもせず、真心は反撃の拳を叩き込んでくる、が、避けない! (何が生き残る、だ) 拳が腹にめり込み、鈍痛が走る。 それでも、 七花もまた揺るがず『薔薇』で真心を蹴り飛ばす。 (逃げて、逃げて、逃げて) 後ろに仰け反る真心に合わせ、七花もまた前に出る。 休ませないために、反撃する暇も与えないために、そしてなによりも 勝つために!! (それで一体どんな顔してとがめに会えるってんだ!!) きっと、そうやってとがめに会っても、もうマトモに顔を合わせることも出来ないだろう。 折れた刀など、なんの役にも立たない。とがめに折れた刀など使わせられる訳が無い。 例え、どんな化け物でも、それが姉でも、刀は斬る相手は選ばない!! 刀が斬ることを放棄したとき、刀の役目は終わってしまう。 一度守りきれなかった女を今度こそ守るために、それだけは許されない!! 「うおおおおおおおおおおお!!」 雄たけびとともに、体勢を立て直せていない真心に連続して打撃を叩き込む。 「げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら げらげらげらげらげらげらげらげらげら」 が、それほどの連撃を受けても全く動かず受けた打撃とそっくり同じ打撃で反撃に転じる。 充分な体勢でなくても、繰り出される攻撃は速く、確実に七花を捕らえる。 手数こそ七花には及ばないが一撃一撃が、重い、とてつもなく重い。 それらは七花の体に叩き込まれ、骨を軋ませる。 それでも、それでも七花は退かない。休むことなく攻撃を続ける。 これこそが虚刀流の本質! 虚刀流の技を余すことなく攻撃へと転化する!! これこそが虚刀流の防御を捨てた戦い! 「はあっ!!」 その気迫に真心ですら圧され、わずかに、ほんのわずかに隙が出来る。 それはほんの一瞬、けれど、七花にとっては充分だった。 瞬時に加速し、真心の右にまわり、構える。 「『雛罌粟』から『沈丁花』まで打撃技混成接続!!」 それは姉から教わった奥義、この天才に繰り出すにはふさわしい技だった。 一つ一つに人を殺せる重みを持った二百七十二種類の打撃が放たれ、あらゆる方向から 外れることなく真心を打つ!! 「が…!」 それらの攻撃を受けても、まだ、真心は倒れない。さすがにかなりの打撲を負ったようだが、 それでも、倒れない。 どころか、攻撃が終わった瞬間を狙い、直突きを叩き込む。 攻撃の直後の隙をつかれ、かわす間もなく直撃を受け再び七花の体が後方にすっ飛ばされる。 「やっぱ、あれじゃなきゃ、駄目か…」 荒い息の下で七花は呟く。 直突きが当たる瞬間に筋肉に力を込めて威力を抑えていなければ、腹をつぶされていた。 それほどの威力は抑えてなお体に激痛を走らせる。 ただの直突でこの威力、次に体勢を立て直され、何かの打撃を喰らえばそれだけで沈むだろう。 そのうえ手は爪がはがれ、甲の皮が向け 血が流れ落ちている。 あの体に二百七十二発の打撃を喰らわせた手が耐え切れなかったのだ。 もう長くは戦えない。 (次で決める!) 七花は満身創痍の体を無理に立たせ、『杜若』を構える。 幸い、今の相手ならばなんとか最後の奥義を繰り出すことができる。 「げらげらげらげらげらげらげら」 対する真心は全身に打撲を負いはしてるものの、全く衰えを見せていない。 狂ったように笑い続ける。 その姿を見て、七花は何かが腹の奥底から湧き上がってくる物を感じた。 限界の見えない敵への恐怖 ではなく、腹の底から煮えくりかえるようなこの感情は 「…ふざけんな」 そう、怒り。 「ふざけてんじゃねえぞ!!」 怒りがどんどんこみ上げてくる。 「そんだけの力があって、そんだけの才能があって、なんでそんなくだらねえ毒なんかに 振り回されてんだ!!」 始めは呪縛などないと思っていた。 だが違う、この少女は誰よりもこの刀に縛られている。 もし、最初から理性を保っていれば、ここまで食い下がることすら出来ていなかっただろう。 刀に縛られた才能。それは七花にとっての幸運。 けれど許せなかった。 同じような才能を力を、生き残るために毒を使ってまで抑え込んでいた人間を知っているから。 許せなかった。 姉が手にすることの出来なかった力を容易に振るいながらも毒に縛られるこの少女が。 「お前は、あんな、あんな刀鍛冶に負けるような奴じゃないだろ!!眼ぇ覚ませ!!」 その言葉が届いたのか、 それともさっきの二百七十二発の打撃を受け、毒刀に亀裂が走ったのが原因か、 「げ…げらげ…しきざき?げらげら…俺…様はっ…」 笑いが尻すぼみになり、少女は頭を抱え、うめく。 まるで、自分自身を取り戻そうかとするように。 それは絶好の好機、だが七花は動かない。 言葉をつむぎ続ける。 「お前は誰なんだよ、四季崎記紀か?」 「ちが…う………違う……違う違う違う違う違う!俺様は俺様は俺様はぁああああ!!」 叫びながら少女は手に持つ毒刀を柄を持っていないほうの手で刀身を掴み、 「俺様は……四季崎記紀なんかじゃ……無い!!」 万力の力を込め、刀をへし折った。 「俺様は………想影…真心だ!」 『毒刀・鍍』が破壊されたところで、一度まわった毒は消えはしない。 だが、少女の真心の眼からは狂気の光が消え始めている。 毒に打ち勝とうとしている。 「真心……か、いい名前だな」 皮肉でもなんでもなく、心の底よりそう言い七花は今度こそ身構える。 「来いよ真心、決着を付けようぜ、まあその頃にはおまえは八つ裂きになってるだろうけどな」 その言葉に真心もまた折れた毒刀を投げ捨て構える。 今までのめちゃくちゃな体勢ではなく、戦うための体勢を。 片や、人類の最終の存在『橙なる種』。 片や、完了変体刀の最終の刀、虚刀『鑢』 意味合いの違う二つの最終は、微動だにせず、にらみ合い。 「がぁああああああ!!」 「虚刀流七代目党首、鑢七花!参る!!」 ほぼ同時に動いた。 二人の距離は一気に詰まり、一瞬にして近接する。 至近距離で七花は『鈴蘭』の構えを取る。そこから繰り出されるのは『鏡花水月』虚刀流最速の奥義! 真心の攻撃より先に七花の嘗底が突きこまれ、さらにそこを起点に 『花鳥風月』 『百花繚乱』 『柳緑花紅』 『飛花落葉』 『錦上添花』 『落花狼藉』 それら六つの奥義を連続して繰り出す、これこそ、七花の最終奥義!! 「『七花八裂』!!」 七つの奥義は余すことなく真心に叩き込まれる! が (おかしい…) 最後に『柳緑花紅』 を放つ途中で七花は違和感に気づく。 『七花八裂』の最大の弱点、それは『柳緑花紅』の溜めの長さ、 そして、当然その合間に反撃されることを覚悟していた。 だが、反撃が来ない。 そしてその理由はすぐに判明する。 真心は両腕を大きく振りかぶっていた。 その構えが何なのか七花にはわからない。 だが確実なのは、あれを受ければ、自分が死ぬということだ。 (はめられた!) 恐らく、今出そうとしている技には『柳緑花紅』以上の溜めが必要なのだろう。 それを確実に当てるために、攻撃終了後に出来る隙をつく為に、わざと反撃を控えていたのだ。 さっきまでのように本能で反撃するのではなく、先を見通し反撃を控え、必殺の一撃を繰り出すための戦略。 気づいた時にはすでに遅く、攻撃は止められない。 そして、それが耐え切られることも七花には直感でわかった。 だが、それでも、それでも、七花は勝ちをあきらめない! 全身全霊最後の力を振り絞る!! 「『七花八裂』より『七花八裂(改)』へ奥義強制接続!!」 『柳緑花紅』を起点に『鏡花水月』、『飛花落葉』、『落花狼藉』、『百花繚乱』、『錦上添花』、『花鳥風月』の 順番でつながれる『七花八裂(改)』。 七つの奥義を最速のそして最大の威力を発揮する順序で放つ正真正銘の最後の奥義。 真心の前に構える暇が無かった『柳緑花紅』を『七花八裂』の最後に放つことで補った、 最終を始点にする、究極の強制接続! どの戦いでも、あの姉との戦いですら使わなかった、いや使えなかった自分の限界点。 それを七花の勝ちへの執念が打ち破る!! 「ちぇりおーーーーーっ!!」 大切な人から教わった掛け声とともに放たれた『七花八裂(改)』は、真心の攻撃の発動を許さずに 最大の威力を持って、真心の体を吹き飛ばした。 人類最終『橙なる種』と完了変体刀完成形『鑢』との戦いはここに幕を下ろした。 「はあ、ひでえ目にあった」 ボロボロの体をひきずりながら、七花は護剣寺の門の前でため息をついた。 その仕草はやはり似合っていない。 「ってか、あれからあんまり時間経ってなかったのかよ」 体感的には一晩中戦ってた気もするが、実際は月の位置がほとんど変わっていない。 「さて次はどこに行くかな」 体のあちこちに激痛が走るが、それでも休む気は無かった。 そんな時間も勿体無い。 「本当にめんどうだ」 口癖である言葉を言い、さらに自分の担いでいる物を見てさらに深くため息をつく。 「余計な荷物も増えちまったし」 そこには、橙の髪をした少女。 想影真心が背負われていた。 「全く、なんでとどめを刺さなかったんだ?俺」 『七花八裂(改)』を喰らい吹き飛んだ真心は、それでもまだ生きていた。 全身ボロボロで気を失って、それでも息をしていた。 本来ならば、その場でとどめを刺しておくべきだった。 だが出来なかった。 やろうと思えば、すぐにできることがなぜか出来なかった。 なぜだろう? 気絶した相手を殺すのは誇りが許さないからか? 相手が子供だからか? それとも 「とがめに、似てっからかな」 気絶して眠っているような顔は昔、自分の隣で眠っていたとがめを思い出させる。 本人が聞いたら。 「だれが童子属性じゃーー!!」 と突っ込まれてたかもしれないが、残念ながらとがめは不在だった。 「まあ、いいや」 どこかで村でも見つけて、そこで後の面倒でも見てもらえばいいか、と、 相変わらずゲームのことなど全くわかっていない七花であった。 「それにしても変わった格好だよな」 七花は出遭った時から感じていた感想を口にする。 見たこともないような材質の服に、下はもっとわからない構造の何かを履いている。 現代人ならこれがスパッツと言う物だとわかり、さらにちょっとアレな趣味の持ち主なら、 色々と感じることもあったのだろうが、七花にそんな趣味は無いので、変という感想しか浮かばない。 「なんで、こんなめちゃくちゃな力を持ってて、こんな変わった格好した奴のこと 知らなかったんだ?」 とがめと刀を捜して日本全国を旅している間もこんな奴の噂は全く耳に入ってこなかった。 「これなら日本最強も余裕で獲れそうなもんだけどな」 現日本最強であり、数々の戦いでほとんどかすり傷すら負ったことのなかった七花をここまでに できる実力ならば、日本でダントツの最強になっていてもおかしくない。 実際は真心は人類最終という日本どころか世界最強といっても全く過言ではない存在なのだが、 七花はそんな別世界の事情など知る由もない。 「別に考えなくてもいいか」 単純に欲がなかったとかそんな理由なんだろうな。 と、深く考えるのをやめる。何度もしつこいようだが、七花は考えるのが苦手なのである。 「おかげで心構えも出来たし」 真心と戦うことで、七花は吹っ切れた。 もし、姉と会い、憎悪の眼差しで見つめられても、逃げることはきっと無い、立ち向かえる。 「まあ、会わないに越したことはないけどさ」 立ち向かえるといっても、やはり実の姉とは戦いたくはない。 「否定姫のほうも捜さないとなあ」 今まで薄情にも忘れていた否定姫のことも今更のように思い出す。 一応、とがめ亡き後に旅を共にした間柄である。そちらも無視はできない。 「まあ、先に会ったほうと一緒に捜せばいいか」 結局適当にまとめて、七花は歩き出した。 とがめと否定姫を捜すために、 だが、この時点で七花は知らない。 捜すべき相手と会いたくない相手が共に行動していることを。 七花は知らない。 今背負っている少女がどれほどの存在なのか。 そして自分の現在地すら、七花はわかっていなかった。 「ま、歩いてりゃどっかに着くさ」 恐ろしく単調な思考で七花は行く。どっかに着くために。 七花が去り少し経って、護剣寺の門の上で立ち上がった者がいた。 「すごい…!すごいすごいすごいすごいじゃないさ!!」 その人物、体中に刺青のような紋様を付けた少女はさきほどの戦いを思い出し 興奮したように叫ぶ。 真心といい、この少女といい、よく少女に目を付けられる男である。 だが、正確には彼女は少女ではない。 彼女の名は真庭狂犬、ゲームが始まるより前、首をすっ飛ばされたまにわにの皆さんの 生き残りである。 「あの虚刀流をあそこまで一方的に…なんて娘なの、あいつ!!」 彼女は自分の意識を別の女性の体に移し変えることで永い時を生きてきた。 その彼女でさえ、あれほどの強さは見たことが無かった。 始めは七花の気をそらす程度の相手としてしか見ていなかった。気さえ反らしてくれれば、 後は背後から襲うつもりでいた。そのための囮と、 卑怯な戦法である。 だが、卑怯卑劣こそが忍者の売り、ましてや相手が虚刀流ともなればなおさらである。 だが、 すぐにそれは間違いであったと気づかされる。 実際には卑怯卑劣など入り込む隙間も無かった。 それほどの存在。 「く、全く、この体なのが悔やまれるわね」 もし、あの時の凍空一族に乗り移る前の体なら、あの瞬間に飛び出し体を乗っ取れていただろう。 だが、今の体は戦乱の時代の頃の体になっていた。 この体は隠密行動には向くが、速さが足りない。 いくら手負いとは言え、虚刀流に迎え撃たれてしまうだろう。 「けど、あきらめないわよ…」 あの体さえあれば、鳳凰と人鳥の二人以外の敵を殲滅することも夢ではない。 そして、最後に自分が死に。 優勝者となる者を二人で決めてもらえばいい。 仲間を目の前で殺した水倉林檎とやらに頼るのは癪だが、この際仕方ない。 どちらが勝ち残ったところで、真庭の里には永遠の繁栄が約束されたも同然だ。 里の未来のために、この命を投げ打てるなら悪くない。 そのためにも、 「あの体を…頂く!」 その決意と共に狂犬は七花の後を静かに追う。 狂犬らしく食い散らかすために。 【1日目 深夜 D-5清涼院護剣寺】 【鑢七花@刀語シリーズ】 [状態] 満身創痍(一応健康) [装備]捨てた [道具]捨てた [思考] 基本 とがめと否定姫を捜す 1 とりあえず姉ちゃんには会いたくないな 2 とりあえず、この女をどっかに引き渡さないと 3 なんで砕いた毒刀がここにあるんだ? 4 げーむ?るーる?何ソレ?食い物の名前か? ※参戦時期は否定姫と旅してる最中です。 ※ゲームがなんなのかわかってません ※毒刀に斬られました。 ※とりあえずこのままだと爆死の危険大です。 【想影真心@戯言シリーズ】 [状態] 現在気絶中 [装備] なし [道具]落とした(地図くらい残ってるかも) [思考] 基本 不明 ※まだ、毒が残ってるかも ※七花の繰り出した技は全て習得した? ※二人とも体に制限がかかってます。どっちも全力なら護剣寺消し飛んでました。 【真庭狂犬@真庭語】 [状態]健康 [装備]なし [道具]支給品一式、ランダム支給品(1~3) [思考] 基本 真庭鳳凰と真庭人鳥を勝ち残らせる。 1 隙を見てあの小娘の体を乗っ取ってやる 2 真庭の里にもう一度繁栄を ※参戦時期は七花に殺された後です。 ※体は戦乱時代の物です。 018← 019 →020 ← 追跡表 → ― 鑢七花 ― 015 想影真心 ― ― 真庭狂犬 ―
https://w.atwiki.jp/nisioisinnbr/pages/54.html
【名前】西東天 【出展】戯言シリーズ 【種族】人間 【性別】男 【声優】 【年齢】 【外見】 【性格】 【口調】 一人称: 二人称: 【呼称】 [[]]→ [[]]→ 【特異能力】 【備考】
https://w.atwiki.jp/nisioisinnbr/pages/46.html
阿良々木暦 No. タイトル 作者 000 オープニング ◆rOyShl5gtc 002 2話 ◆T7dkcxUtJw 戦場ヶ原ひたぎ No. タイトル 作者 014 世界の終わり、正しくは始まり(前編) ◆wUZst.K6uE 八九寺真宵 No. タイトル 作者 004 [めいろマイマイ]] ◆iaNM/KCMCs 神原駿河 No. タイトル 作者 002 2話 ◆T7dkcxUtJw 羽川翼 No. タイトル 作者 008 たかしフォックス 名無しさん 千石撫子 No. タイトル 作者 010 不運の結果(風雲の経過) ◆wUZst.K6uE