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家に帰るとまず、財布の中から慎也にもらったネックレスを出した。 ヤツには言わないが実はずっと肌身離さず持っている。 何かこんな高価なものを家に置いておくのは…心配というか。 あ、いや別に泥棒が入るとかそういうことを見越しているわけではないのだが。 はぁぁぁぁぁぁ。 正直しんどいなぁ。慎也と二人で居るの。 前まではそんなこと一切無かったのに。イライラすることはあったけど。 …心臓が持たん。 あっ、今のなし!!! って俺は何をまた一人でごちゃごちゃと…。 俺は気を紛らそうと携帯を開いた。 新着メールが一件着ている。誰だ? 開くと、それは慎也からだった。 『俺のせいで気分悪くしてごめんな。でもお前のこと好きなのは絶対変わらねえから』 だから何で普段はちゃらけてるくせにたまにカッコいいんだよ! こういうことされるからどうしていいか分からなくなる。 気付くと携帯を投げ捨てていた。 「旭くん、ご飯だよ」 ついさっき仕事から帰ってきたみぞれが部屋の前で俺を呼んだ。 部屋から出るとみぞれが待ち構えていた。 「ねぇねぇ旭くん、それキレイだね」 みぞれは俺が持っていたネックレスを物珍しそうに見た。 あ、持ってきてしまった。まぁいいか。 ついでに手に持ってたら邪魔になるから付けとこう。 「それどーしたの? 旭くんの?」 まるで、"欲しい"と言っているかのようにみぞれは俺に質問攻めしてくる。 「ああ、コレな。慎也にもらった。えっと…ほら前に学校来てくれたときに会っただろ?」 「慎也お兄ちゃんに? ふうん…」 もらえないものだと分かったのかみぞれはしゅんとなり、それ以上は何も聞かなくなった。 リビングに向かうと父さんと母さんが既にいて、晩ご飯の用意が出来上がっていた。 ちなみに両親にもこのネックレスのことを聞かれた。 答えると驚愕されたのは言うまでもない。 「普通恋人にあげるもんでしょ?」 「慎也くんって、小学校から一緒の? 旭のことが好きなのか?」 こちらも質問攻めだ。っていうか父さん、最後のその質問はやめてくれ。 「へぇ…彼女がなかなか出来ないって思ってたら、そういうことだったのね」 と母さん。 何その変な解釈! 違う俺はホモじゃないんだ!! 「大丈夫だ、俺も明美さんもそういうことに偏見を持ったりしないから」 明美とは母さんの名。ちなみに父さんは俊彦さん。 ってこんなことを言っている場合ではない! 確かに父さんは心からそういってくれているみたいだけど、一番重要なのは"俺はホモではない"。 ってことなんだ。 …誤解しないでください。頼むから。 そして、一週間後。 ほらな!! 一週間経つのはあっという間だって言っただろ。 べ、別に間を埋めることのネタが切れたとかそういうのじゃないんだぞ。 今日に限って学校ですよ。 慎也はどこの空港から行くかは言ってくれたけど、何時かは言ってくれなかった。 何回聞いてもはぐらかされた。 慎也~、まぁ向こうでも頑張ってきてくれ。 俺は見送りにいけないけど…ごめん。 … … やばい! 俺マジで行ってほしくないって思ってるよ!! どうしよ、イヤだ。せめて見送りくらい行きたいよ。 でも何時かわからん。もしかするともう旅立っているかもしれないし…。 自分の席でうなだれていると、担任の先生が入ってきた。 「みんな知っていると思うが、中田が今日アメリカに旅立つそうだ。離陸時間は…12時半だったかな」 先生、後半ナイス! …でも学校終わってない時刻だ。 フケるか。いや、でも待て。 慎也が俺に出発時刻を伝えなかったのは、来て欲しくないからじゃ? 俺は授業が始まったのも構うことなく考え続けた。 行きたい、けど…。 ずっとこの思考を廻りきらしている。気付いたら40分近く経っていた。 よし、 …行こう。 行かなきゃ後悔するに決まっている。 やらない後悔よりやった後悔っていうしな! その結論に達した時、授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。 「旭、早く行かなきゃ!」 一時間目が終わると間もなく葵が俺を急かした。 「わかってる! 今から行くから」 「僕が先生に言っててあげるからね」 「ありがと」 成田空港まで少なく見積もっても1時間半はかかる。 時刻は9時30分を差しているが、2時間目も授業を受けていては確実に間に合わん。 俺は制カバンを教室に置き去りにし、財布だけを持って飛び出した。 財布には常に慎也からもらったネックレスを入れてある。 俺は走りながらそれを取り出すと、首につけた。 特急電車に飛び乗ってやっと冷静さを取り戻した時だ。 「あ…、携帯忘れた」 ポケットをまさぐるが携帯はない。 やばい…どうやって慎也を見つけるんだ、広い空港内で。 俺…ってホントにバカだ。バカ以外の何者でもない。 もしかしたら慎也に会えないかもと思うと、涙が出そうになった。 引き戻ることも出来ない。なぜならこの電車、一気に終点まで向かうから。 そこから戻っていたらたぶん間に合わなくなる。 どちらにしても駄目じゃないか。 とりあえず行こう。 会えると信じて行こう。 お願いします神様、俺にありったけの運をください。 空港までどうやって行ったか覚えていないほど俺は茫然としていた。 慎也、どこだろう。 今頃手続きとかしてるだろうから、カウンター付近にいるかな? 自動ドアが開いてすぐ、俺は回りの目も気にせず、 「慎也ぁぁッ!」 と彼の名を叫んだ。 「そんなに大声出さなくてもここにいるよ」 すると驚いたことに後ろから慎也の声が聞こえた。 「うわあ!!」 お前って本当に背後から俺を脅かすの好きだな。 「葵くんが、電話でお前が来るって教えてくれたんだ。だから早く会いたくて入り口近くにいたってわけ」 「あ、あ、葵ぃぃ~!!」 俺は泣きそうになりながら慎也に抱きついた。 葵サマ、お前ってばなんて…なんていいヤツなんだ!! 「何で葵くんなの。そこは俺の名前のはずだろ?」 「だって俺っ…あお、葵のおかげで…ッ慎也に会え…だって、うれし…っだもん」 うわ、ホントに涙が出てきた。 しゃっくりを上げながら慎也を我も忘れて抱きしめていた。 「そういう姿勢でしかも泣き顔でそういうこと言われたら下半身暴走するぞ?」 「な、最低!」 慎也のその一言で俺は一歩下がり、ついでに涙も止まってしまった。 今日初めて、慎也の顔をじっくり見た。 落ち着いて周りの状況を把握してみると、女性の方々がちらちら慎也を見ている。 やっぱりカッコいいんだな…こいつは。 …何で俺なんか好きなんだろう。 「で、手続きとか終わったの?」 空港内にある喫茶店に俺たちは入った。 「終わった。あとは荷物検査して搭乗するだけだ」 ウーロン茶をすすりながら慎也は言う。 そっか。やっぱりもう…本当にいくんだな。 「エマさんと義人さんは?」 「先に行ってる。昨日から」 「そ、そうなんだ」 何か信じられない。俺だったら一人で海外なんかとてもじゃないけど行くことが出来ないと思う。 英語も全然ダメだし、そもそもどうやって行くのか分からないし。 慎也ってすげー。 「やべ、もう行かなきゃな」 そう呟くと慎也はシャツの袖をめくり、腕時計を見た。 俺も同じように腕時計を見る。ちなみに葵にもらったやつ。 11時半ちょっとすぎ。あと一時間くらいってところかな。 「それ、付けてきてくれありがとな」 慎也は俺の首もとのネックレスを指差した。 そういや、つけてきてたんだっけ。 「予約の証だから。帰ってきたら結婚申し込むからな」 …ん? 慎也、今何て言った? 結婚申し込む。 つまり、プロポーズ。 プロポーズぅ!!? 「え、ちょっ、ええ??? なっ何言ってんの??」 俺は思いっきり動揺した。 だって結婚申し込むって、…俺一応17年間男として生きてきたはずなんだけど。 「帰ってきたら俺も旭も21歳だろ。結婚適齢期だ」 あれぇ? 結婚適齢期って20代後半じゃねーの? いや、いやいや、突っ込むところはそこじゃないぞ俺。 「…とりあえず外出ようぜ」 俺が慎也の言葉に翻弄されている間に、慎也は俺の分のウーロン茶代も払った後に俺の腕を引っ張って喫茶店から出た。 やっと我に返り、慎也に金を払ってもらったと知った俺はいそいそと財布から小銭を出す。 それを慎也に渡そうとすると、 「いらない。奢る」 と断られた。 「いや、悪いよそんなの」 「しょーもないことで気を遣わなくいい。奢るって言ってんだから奢られろ。…見送りに来てくれたお礼」 あ、ちょっと笑った。そういえば空港についてから慎也の笑顔、みてなかった気がする。 それに…こんなに人がいるのにいつもの変態ぷりを発揮しないんだな…。 どうなってんだろ。 いつもならちょっと出るとこ出ている人見かけたら触りに行こうとしてたのに。 「何か、いつもの慎也と違うな」 思ったとおりのことを気付くと口にしていた。 「いつもの俺って?」 「その…いきなりフラッと見知らぬ人に抱きつきに行ったり触りに行ったりセックスしようって言いに行ったり」 「あはははっ、そうだな」 さっきよりも慎也はより笑顔になった。 するとまたもや俺の心臓は高鳴る。 「そりゃあ、今は旭だけが好きだからな」 やばい…どんどん心臓の動く速さが増してくる。 本当に俺、慎也のこと…好きなんだろうか。 こんな変態なのに? …嘘だ。 「何で俺なんか好きなんだよ?」 お前のその顔だったらもっといい人、いくらでも見つかると思うけどな。 「旭だから好きなの」 「いっ、いつから?」 「初めて抱いたとき」 うわ!!! 今絶対俺顔赤い! また慎也に可愛いとか言われちゃうフラグなんだ。 …恥ずかしすぎる。溶けそう。 冷たいはずの手のひらで顔を押さえつける。やっぱり顔面、熱い。 「旭」 知らぬ間に、パスポートを提示する場所まで来ていた。 これ以上先には俺は入れない。 慎也は名前を囁くと俺を自分の胸元へ抱き寄せた。 「や、一般人がっ」 いるんだぞ。それもたくさん。 って言おうとしたけど言えなかった。 今回ばかりは慎也のやりたいようにさせてやろうと思った。 「最後にキスしてもいいか?」 「はっはぁ?? お前、好きな人としかするなって何回も言ってるじゃねーか」 「うん。だからしていいか聞いてんだろ」 それって好きか? って聞いてることと同じになるんじゃ? 好き…。キスされても良い? う~~ん…。キスされるのはもう…不快には感じない。 それ以上のことを何度もされたし。 「早く答えて。もう行かなきゃならないんだから」 そんなに急かされてもだなぁ! や、やばい…周りの人がこっちを見だしている。 するならさっさとしないと、公衆の面前で男にキスされるのをさらけ出すことに…いや、早くしなくてもそれは一緒か。 「わ、わかった。しても良い。しても良いから早く」 自分でも信じられない答えを俺は出していた。 慎也の唇が俺の唇にあたる。と、すぐさま温かいザラッとした舌が口の中に入り込む。 「は…ッ、ぁん」 口の中を慎也の舌が這うと、嬌声を出さずにいられない。 「し…ん、んぁッ」 くちゅ、ちゅぐ… 何か色んな水の効果音が聞こえて俺は耳から脳髄まで痺れそうだった。 なかなか唇を離そうとしない。 何度も入れる角度を変えては、慎也は俺の口内を舐め続けた。 「あ…っぁ、ん…」 慎也の唾液。キス。 甘くてとろとろで、濃厚で…気持ちが良い。 周囲の目など、もうあまり気にならなくなっていた。 それほど彼のキスの心地が俺の脳内を占領していたからだ。 「…ふぅ」 やっと開放されると、ポタポタ流れ落ちた唾液を俺はふき取った。 そこで俺は周りの痛い視線に気付く。 …やってしまった…公衆の面前でこんなこと。 前に電車の中でいちゃいちゃしていたカップル見て気分が悪くなったことがあったけど、俺も同じことしてるじゃねえか。 「旭、顔真っ赤だね」 慎也は笑いながら、からかうように言う。 「う、うるせぇ…」 「可愛いな」 「可愛いっていうな!」 またこのパターンですか。いつになったら卒業できるんだ。 「じゃ…、俺はもう行くよ」 名残惜しそうに慎也は言うと、くるりと俺に背を向けた。 あ…。 行っちゃう。慎也が行ってしまう。 何か言いたいこと、いっぱいあったはずなのに、何一つとして思いつかない。 慎也…慎也! 俺、やっぱりお前のこと… 「す、好きだ!」 こぶしを握り締め、ついでに目もぎゅっと瞑ったまま俺は叫んでいた。 「…?」 目を開けると驚いて振り返った慎也の顔が見えた。 ど、どうしよう。 勢いで言ってしまったが、後が続かない。 暫し沈黙タイムが流れる。 「今なんて?」 慎也は再び俺のところへ寄り添った。 「あ…その、うー…。えと、……待ってるから、絶対帰ってきたら連絡しろ…よ」 とりあえず、それだけは言えた。 恥ずかしくて溶けるどころか沸騰してそのまま水蒸気になってしまいそう。 その言葉を言った後、俺はまた慎也に抱きつかれた。 「嬉しすぎる。もう旭、可愛すぎ」 続いて耳元で、 「帰ったら四年分、抱いてやるから覚悟してろよ」 と囁かれた。 俺は一気に顔の温度が上昇した。 ぼす、と慎也を突き飛ばす。 「さ…っさっさと行けよッ」 顔の紅潮を紛らそうと、ついでに俯く。 「じゃ、今度こそ本当に行くからな」 「う、うん…」 慎也はまた向こう側を向くと、そのまま係の人にパスポートを見せた。 そして、扉の向こうに入った。 その瞬間、もう、俺の手には届かない所に行ってしまったんだ。 ただ俺は茫然と、慎也の姿が見えなくなるまでその場に突っ立っているだけだった。 慎也は去り際にほんの少しだけ俺に微笑んで見せた。 次の瞬間にはもう慎也は俺には見えなかった。 行っちゃった…。 行ってしまったんだな、本当に。 脱力とともに、目元から涙が伝い落ちる。 俺は首につけてあるネックレスを握った。 慎也。 失ってから気付くものってやっぱりあるんだな。 俺、やっぱり、お前のことが好きだったんだ。 声も上げることなく、ただ涙だけがぼろぼろ零れ落ちる。 慎也のアホ。俺のこと好きとか言うくせになんでアメリカ行っちゃうんだよ。 …って言っても仕方ないけどさ。 とぼとぼ歩いていると手続きをするための待合室みたいなところに出た。 待合室…っていうかもう広場みたいな感じのところ。"室"ではないな。 そこの真正面にある大きなガラス張りの窓から滑走路が見えた。 せめて慎也が乗る便、見送っていこう。 俺はそこにあるシートに腰掛けた。 『ニューヨーク行き、12時30分発…』 待合場に女声のアナウンスが流れた。 アーカンソー州に行くにはニューヨークとか大都市を経由するはずだから、慎也が乗るのはこれのはず。 しばらくボーっと窓の外を見ていると、キィィィンと音がして飛行機が大きく見えた。 あー。 つぎに会うのは四年後か。 まぁお互い携帯は持ってるし、連絡はできるけど。 慎也は俺の家の住所知ってるはずだし、手紙送ってくれたらこちらも送られるし。 飛行機が空の彼方へ行ってしまった後、俺は空港を後にした。 カバン、取りに行かなくては。 帰りの電車の中でふと思う。 今大体1時半くらいだから、帰ったら3時頃かな。 6限目の途中くらいか? …学校サボったので怒られるかな。 まあ良いか…怒られたってどうでも。 脱力して適当に色々なことを考えていると、電車は俺の降りるべき駅に止まっていた。 「雪代、あとで職員室に来い」 授業中の教室にいきなり入ってクラスメート全員の視線を浴びた上、担任の授業だったので俺は即行呼び出しを喰らった。 やっぱり、ね。 自分の席に着くと、隣の葵がニコッと笑った。 「間に合った?」 「うん、葵のおかげでな」 「そう、良かったぁ」 小声で以上の会話を済ませる。と、 「立花、雪代。授業中だ」 先生にばれてしまった。 俺は先生に目を向けて謝罪がてらに軽く会釈をすると、カバンの中から現在の授業である世界史の教科書を取り出した。 授業を受け始めてから30分もしないうちに終業のチャイムが鳴った。 礼をすますと一気に教室内が騒がしくなる。 「旭ぃ、寂しいね…」 「っていうか何で葵は見送りにこなかったの?」 確かに寂しいな、と相槌を打ちながら俺は聞いた。 「だってさ、二人の邪魔になるようなこと僕したくないもん」 葵が瞼を瞬かせてそう言った。 …ホントに俺の友達にしたらもったいないくらい健気で良いヤツだ。 「雪代」 終礼ホームルームが終わったとき、先生は俺を見て手招きした。 招かれるがままに先生の後を付いていく。 「中田には会えたか?」 先生の言葉は、俺の予想に反するものだった。 「え? あ、ああ。会えましたけど…」 「そうか。良かったな。まぁ…学校抜け出すのは悪いことだが、今日は許してやる」 先生は俺の緊張を解くべく笑った。 「中田ってあんなんだろ? みんなに避けられているし、内心担任するの不安だったんだ。 だけど雪代はあいつと仲良いからな。血相変えて雪代が空港に向かうの見たときは本当に良かったって思ったんだ」 「そうですか…」 俺の方も自然と笑顔が浮かんだ。 先生、というか第三者にそういってもらえると嬉しい。 慎也はいつも知り合いからは避けられていたから。性癖からすると仕方の無いことだけど。 「これからも連絡取り合ったりはするんだろ?」 「はい」 「海外に行ったってなんだって、俺は中田もC組の生徒だと思っているからな」 「そ、それはありがとうございます」 別に俺のことではないが、一応お礼を言っておいた。 この先生、今年度になって始めて見たけど、良い先生だな。 慎也…それでももう、四年後が待ち遠しいよ。 続き
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とりあえず疲れた。 空港の近くにある、慎也が予約していたホテルの一室のソファに俺はなだれ込んだ。 「ていうか俺なんか来て良かったのか?」 荷物も全部放り出して俺は慎也に聞く。 普通のシティホテルだけど、ベッドが二つ、キレイなままであるとそれは豪華に見える。 「そのために二人って予約したんだぞ?」 にこやかに答えると俺がいる隣に慎也は座った。 …さっき俺にどこ行きたいか聞いたとき、俺が違うところ言ってたらどうするつもりだったんだろう、と少し思った。口にしないけど。 雀華さんと葵は仲良く二人で帰っていった。 初対面であれほどまで仲良く出来るのは、雀華さんの能力だと思う。 「やっぱり付けてくれてるんだな、それ」 慎也にネックレスのこと指摘されると少し照れる。 何でしつこくこれをつけるのか分からない。けど付けていたい。 彼がいない間、手放したことはなかった。 「旭、キスしたい」 「…ふうん」 「旭は?」 何で聞くんだよ。したいって言わせたいってか? よし、ここは慎也を驚かせるようなこと…予想外のこと言ってやろ。 俺の言葉にたまには動揺するが良いさ。 「キスで足りんのか? 四年間分抱いてみろよ」 慎也は目を見開いた。 あっはっは、ホントに驚いてやがる。愉快なことですね。 って違うだろおおおおお!! 何慎也を挑発するようなこと言っちゃってんの俺! バカだよバカ。前から知ってたけどやっぱ俺バカだよ! 「…へえ。旭がそんなこと言うとはな。それってちゃんと責任もって言ってる?」 やっぱ突っかかってきた! あああ当たり前だろアホかよッ!! ずいずい俺に顔を近づける慎也と、彼の言葉に当惑する。 「ごッ、ごごごごごごめんなさ……」 慎也から顔を遠ざけると自然にソファの上に寝転がった状態になった。 その俺の上を慎也はまたぐ。 …や、やば。来ちゃったよ久々のセックスフラグだよ。 「まぁ旭に言われなくてもヤるつもりだったけどな」 服をするっと脱がされる。 かと思いきや、慎也は立ち上がって俺の腕をぐいっと引いた。 反動で俺の身体はもちろん起き上がる。脳内にクエスチョンマークを浮かべていると慎也にそのままどこかへ連れて行かれた。 素直についていく。 え? いや、もうヤられることは間違いないから抵抗することに体力を使いたくないだけですよ。 「さ、服脱げ」 つれてこられたのはシャワー室だ。 シティホテルのシャワー室だから、二人入ると結構狭い。 脱衣場に放り込まれると慎也は入り口のドアを閉めた。 「え、何?」 「まずはお前のアナルきれいにしてやる。セックスはそれからな? ついでに身体も洗ってきれいにしよ」 「ちょ、ちょっと待っ…」 「高2の合宿以来だな、一緒に風呂入るのは。覚えてるか? あの時も洗ってあげたよな?」 うん、覚えてるよ。いやいやいやいや違うぞ何言ってんだ。 シャワーでアナ…ゴフッ…。 わー慎也の目がマジだぁ。これって俺、身を任せるしかないのかなぁ? ………。 「四年間分抱いて欲しいんだろ?」 俺が四苦八苦していると来ていたシャツのボタンに慎也は指をかけた。 指が長くてキレイでさかむけ一つない手だ。漫画で言えばあのキラキラトーンが背景に貼ってある感じ。 「や…、自分で…脱ぐよ」 何か人に脱がされるのって嫌だ。何か嫌だ。 パッと慎也の指を払うと代わりに自分でボタンを外そうと試みた。 「ズボンも…?」 脱ぎながらしどろもどろ聞くと、 「当たり前だろ。そのまま浸かって何着て帰るつもりだ?」 はい、その通りですね。 普通にすぐ帰ると思っていた俺は着替えなんて持って来ていない。 慎也は恐らく何枚か替えがあるだろうが、俺が慎也の服合うわけないし。 …てことは下着も……。恥ずかしくて今なら俺、死ねるかもしれない。 ゆっくり、確実に肌が露になる。変態慎也はその様子を余すところなくじっくり見ていた。 だから見るなよやりにくいだろが。 慎也に目を合わせられなくて、自然を装って後ろを向いた(つもり)。 「ぬ、脱いだ…ぞ」 衣服を全部、備え付けてあったかごに入れると俺はようやく振り返った。 うっわ俺、慎也の目の前で全裸なんだ。何か想像すると鳥肌が立つ。 ふと、首につけてあるネックレスに気付いた。これ付けて風呂に入るのはさすがにちょっと。 「取るなよ」 俺が外そうとすると慎也は腕を掴んでそれを阻止した。 「っ、でも錆びるかも…」 「錆びない。大抵のアクセサリーは錆びないようになってるだろ」 腕を掴まれたまま、慎也は俺の唇を塞いだ。 「ん…んッ」 いきなりの、懐かしい慎也のキスだ。 舌を舐められるとその感覚が脳まで行き渡る。最初、第一波はくすぐったい。 「ぁ…はぁッ」 徐々に口のなかが潤いだすと、慎也の舌はスムーズに奥まで入りこむ。 俺はどうしていいかわからず、ただ口を開けっぱにしているだけだった。 第二波。気持ちよくて色々痺れそうだ。 「んふッ、ふぁ…」 お互いの唾液のせいでくちゅ、と何度も聞こえた。 すっかり口内を這いずりまわせた後、慎也は唇に触れるだけのキスをしてやっと開放してくれた。 束の間の休息を与えてくれたあと、慎也は俺の頭を撫でながらこう言った。 「じゃ、お前が俺の服脱がせてくれ」 脱がせる。脱がせんのかよッ!? じゃ、ってなんだよ。何のついでだよ?? うわぁ目がマジだ二回目。断るとどうなるんだろ。うん、想像したくない。 「…じゃあ、手あげて」 慎也が着ているのはTシャツだ。脱がせにくいんだ、前にボタンが付いてる服にしろよ。 俺が言ったとおり慎也は両腕を上げた。 シャツをめくり上げてそのまま脱がせようとするけど、身長が高いのでなかなか脱がせ辛い。 …俺なんでこんなことしてるんだろ。 「早くしてくれ。俺のおかれてる状況分かってないだろ。全裸の旭が目の前にいるんだぞ?」 「んなこと言うなら自分でやれよッ! お前デカイからやりづれーんだよ!」 そういうと半分だけ肌蹴たTシャツを慎也は脱ぎ、衣服をいれるかごに投げ入れた。 「下は出来るだろ?」 すみませんが逆に下の方が難しいかもしんない。 俺は意を決して中腰になり、ベルトを外してチャックを下ろすとそのまま一気にズボンをずり下げた。 説明するのが恥ずかしいから一息で言ったのではありませんよ…。 「ありがと。よし、じゃあ入るか」 全部脱がせ終わると慎也は俺の頬を撫でた。 温かい。流石平熱37℃。それだけが原因じゃない気もするけど。 バスタブの前にかかっているビニール製のカーテンをシャッと開ける。 もちろんだが湯は張っていない。 シャワーの蛇口をひねった。最初は水。段々水温が上がっていく。 「まず身体、洗ってやるよ」 と言いながら慎也はにっこり笑った。 「あ、あッ…もういいよッ、くすぐった…」 ソープで泡立ったスポンジを何度も俺に押し付けてくる。 慎也も俺も泡だらけだ。 「…ぁ、何でそこばっか…ッ」 チクビ周りを重点的にこすり付けやがる。わざとだろ。絶対わざとだろ! 他のところも触られるとくすぐったいけど、そこは特にだ。 「旭感じすぎ」 身体をぴくぴく反応させて顔が赤らんでる俺を見て慎也はくすくす笑う。 「あッ!!」 遂に彼は下半身に手を伸ばした。 「そ、そこ…洗わんでいいッ、っぁ」 スポンジを俺の陰茎に充てたまま慎也は後ろに指を滑り込ませる。 「んッ、や……しん、やッ」 泡だらけの慎也の指は音を立てて俺の内部へ入った。 「や…ぁ、あッぁあ」 指は奥まで達しないが、中で動くたび泡がグチュグチュ音をたてる。 高2の時の合宿で味わった感覚だ。 前も後ろも慎也に攻められて気が狂いそうだ。 泡が自分の体内に残る感触は抜きにして、気持ちがいい。 「あ、ぁん…ッん…」 ダメだイきそう。こう少し思ったとき、慎也は手を止めた。 「はぁ…はぁ…」 「旭だけ気持ちよくなるなんてダメだからな。洗い流したら俺のも扱いて?」 シャワーのトップから出る水を俺に当てながら慎也は言う。 水圧でイっちゃいそう。 「旭、後ろ向いて?」 慎也は俺の腰に手を添えて言った。 「い、やだ…」 ケツを他人に向けるなんてそんなAV女優みたいな真似できない。恥ずかしくて。 「大丈夫。俺しか見てない」 「それがイヤなのっ恥ずいだろ」 「恥ずかしがんなよ。俺は恥ずかしがってなんかないぜ?」 「お前と俺じゃ違うんだよ! 自分基準で考えんなッ」 「でもこのままじゃ穴の奥まで洗えないぞ」 うっ、それは…。 確かにアソコが泡でぬるぬるして気持ち悪い。 ていうかそれって慎也がやったことなんですけどね!? 「じゃあさ、このまま俺にもたれて?」 俺が行動を起こす前に慎也は身体を引き寄せた。 すとん、と慎也の肩に倒れこむ。 …あったけー。体温プラスシャワーの湯の温度でカイロみたいに温かい。 成程雪山で遭難した時にハダカで抱き合うのもわかるよ。 これなら生き延びられそうだからな。 「ちょ、慎…っ」 慎也はシャワーのトップを俺の背後に持って行った。 そして、泡が塗りたくられているソコに湯をあてる。 くすぐったいが気持ちいい。何か腑に落ちないけど。 「あ……慎…也ッ」 ぐいぐいと慎也はトップを押し込む。先だけ少し、穴に入ってきた。 「ッや、あ…ぁん」 内部で圧力の強い湯があたって、泡が流されると共に快感が襲った。 でも、イクほどの強さじゃない。 …もっと、欲しい。快感が。 "旭だけ気持ちよくなるなんてダメだからな" ふとさっきの慎也の言葉を思い出した。 確かに、俺ずっと(絶頂に達してないものの)気持ちいい思いしてるけど、慎也は俺に構ってばかりで何も施してないよな。 慎也のことだからまた焦らしプレイと称して我慢してるだけなのかもしれないけど。 シャワーが止まった。 今までシャーシャー水の音がしてたのに、一気に静かになる。 俺は不意をついて慎也の下半身に触れた。 「…あ、」 ぴくんと彼の身体は反応する。 「何だ…いきなり?」 「…扱けってお前が言ったんだろ」 もう一度それに触れる。というか今度は指を滑らせてみた。 「……ッ」 いくら攻めポジションだからって、慎也もここを触られると感じるだろう。 それは俺と同じだと思う。 顔を見ると目は閉ざされ、頬が赤らんでいる。 やはり、感じてるんだな。 俺の施しで慎也がその表情を浮かべているのだと知ると、途端に嬉しくなってきた。 しゃがみこむと、慎也のモノを口に含んだ。 「あ、…さひ」 やばい。慎也…俺に感じてるんだ。嬉しい。 なるほど、これが攻めキャラが感じてる優越感か。 こんなこと常に感じやがって! 全国の受けキャラの皆様、俺がリバというものを慎也(攻めキャラ)に見せ付けてやります!! 「ん…ッ」 舌で俺はそれを弄った。 その度慎也は反応してくれる。いい気味だぜ。 「あ、旭…ちゃんと、…剥けよ」 はぁ、余裕かましてくれちゃって。 こっちが"ムカつく"っていう感情を抱くことわかってねぇなコイツ。 「ん、ふ…ひんぁ」 銜えたままだと喋りにくいと判断した俺は一旦、口に含むのをやめた。 ぴちゃっと音を立て、唾液でその先端はべとべとだ。 「慎也、…俺のも…やれよ?」 なーはっはっは! このセリフ、ちょっと言ってみたかったんだよね!! こう、こっちが上下関係としては上だぜ?的な。そういう体験が夢だったのだ! …まったく自分でも虚しい夢だと思うけどな。 俺のその言葉に慎也は微笑みながら頷いた。 ああ、いい気持ちだ。優越感とは素晴らしい。 慎也のモノを俺は再び扱き始めた。 「ん…ぁ、」 施しに忠実に嬌声を上げてくれる。まぁ俺もそうなんだが。 「あさ…ひ、出る…」 そう告げた直後に、彼の下半身の先端から精液が飛び出した。 ビニールのカーテンにべっとりかかる。 束の間の優越感をあとで後悔するとは、この時はまだ思わなかった。 「…もうそろそろ上がろうか」 バスタブを綺麗に掃除し終わると、慎也はカーテンを開け、新品のバスタオルを取った。 「え…」 下半身の処理やってくれないのかよ。 少し思ったが言葉に出すのはあまりにも恥ずかしすぎるので黙っておくことにする。 「イきたいって思ってるだろ? 心配しなくてもベッドの上でたくさんいじめてやるからな」 慎也はくすっと嘲笑して続けた。 「旭のことだから俺の、抜いてくれた時優越感に浸ってたんだろ。お前が、俺より"上"だと思うなんて許さない」 得意の下あごを持ち上げる仕草をすると、くちゅ、と一方的にキスをした。 「ん、な!?」 「まぁ営む前にせっかく成人したんだから酒でも一緒に飲もうぜ、な?」 営む言うな。ホントに下ネタ好きだな! 下半身が脳内支配してるよ。特上カバチで言ってたよ。 まぁでも、慎也と酒を酌み交わすのは悪くない。 俺はそんなに酒を飲むほうではないが、やはり大人になった以上その付き合いは必須だ。 増してや…ゴホン。す…好きな人となら。 バスローブを棚から取ると慎也は俺に渡してくれた。 ていうかホテルで男二人でバスローブなんて思い切りゲイカップルじゃねえかよ。 …と突っ込みたいがそれはちょっとやめておく。 「ワインとか頼もうぜ」 「え、頼むのか?」 頼むってもちろん、ホテルのボーイさん的な人に"注文する"ってことだよな。 で、持ってきてくれるときはもちろん部屋に入らないまでも姿は見られるわけで。 ……ってこんな姿見せるわけにいくかあああああ!! 俺が慎也に諌言する前に、慎也は既にフロントに電話していた。 「スパークリング2本欲しいんですけど持ってきてくれますか? 部屋? あ、704ですけど。 はい、グラス2つ。…わかりました、じゃあお願いします」 「頼んでんじゃねえええ!!」 慎也が受話器を置いたのを確認すると俺は平手で彼の頭を叩いた。 「何で? 飲みたくないのか」 「飲みたい飲みたくないの問題じゃねーよ! ボーイさんがこの状況見たら苦笑するしかねーじゃねえか!! お前はもうちょっっっと世間体っつーもんを気にしろバカ!!」 「…はぁ、じゃあ俺が部屋の外で待ってるよ。それじゃ問題ないだろ?」 うんざり、って感じで溜め息をつく慎也。 まったく溜め息つきたいのはこっちだよ。 神様は確かに慎也に顔も頭も極上のモノを与えたけど、性格だけは今ひとつだな。 やっぱり完璧な人間は製造不能だよ、うん。 俺が妙な納得をしていると、慎也はほぼ裸に近い、バスローブ姿で部屋の外に出ようとしていた。 「ちょ、ちょっ」 びっくりして慌てて慎也を引き止める。 「何だよ、今度は?」 「お前その格好で外出るのか!? 結局ボーイさん苦笑じゃねえか」 「何がいけないの? …旭の考えてることはよくわからん」 お前に言われたくないよ! 俺の中では世界で一番思考が読み取れない人物だよ慎也は! あああダメだ。突っ込みどころが満載すぎて頭痛がしてきた。 重い頭を抱え込んでいると、ドアチャイムの音が部屋内に響いた。 はい、最悪のパターン来ました。慎也と争っているうちに従業員の方がスパークリングを持ってきてくれた、っていう。 「もういいじゃん。旭、見られるのが嫌なら隠れてれば? 俺が受け取るからさ」 うん、そうだな。そうするよ。っていうかそうするしかないようだ。 本当に慎也は半裸のまま酒を受け取った。 …しかも相手の従業員さん、女性じゃねえか。まったく信じられない。 「……慎也」 「何?」 慎也はスパークリングを俺に注いでくれた。 炭酸の泡が上ってく、赤紫色をしたワインをグラスの側面から見つめながら俺は呟く。 「慎也ってさ、…裸を他人に見せることに何の躊躇いもないんだな」 ワインを一口呑み込んでから言ってやった。 言うとすぐにまた二口三口とワインを飲む。あ、言っておくが俺は21歳だ。 酒は二十歳になってからだぞ。 「どういうことだ?」 慎也も同じようにスパークリングを嗜みながら俺に聞き返した。 「さっきだってさぁ」 一旦アルコールを口にすると、どんどん進む。 グラスの中は一気に空になった。 もうない、と分かった俺はボトルのワインを注ぎ足した。 「あの女の人から半裸でワインもらったじゃん」 俺はまるで麦茶を飲むようにグラスのワインを一気に飲み干した。 「そーいうの、平気なんか? …俺は」 三杯目。だけど普段はこんなに飲まない。 先輩からのみに誘われたとしても、せいぜい生中一杯だけで終わったりする。 「俺は、俺はだなぁ。他人がお前を見るの、嫌だ」 「…何て?」 「だーかーら。慎也は俺だけが見てればいい、っつーことだよ」 「何て? もう一回」 「だからぁ、俺だけが慎也を見ていたいの。他の人には見せたくない。っていうかお前コラ。わざと言わしてるだろ!?」 完全に酔ってるな、俺。 そんな俺と言った言葉に慎也はくすくす笑っていた。 続き
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episode8 ――プルルル、プルルル リビングで愁ちゃんと宿題を解いていると電話がなった。 「ハイ、柊です!」 「――あ、ナオ?お母さんだけど――」 電話から聞こえた声はお母さんからだった。 「どうしたのー?」 「今日仕事が溜まってて帰り遅くなりそうなのよねー。お父さんには連絡しとくから、愁君と何かご飯食べといてくれる?」 「はーい。わかった!」 電話を切った後、愁ちゃんに事情を伝える。 「――そっか、じゃあ夜ご飯は外にでも食べにいく?」 んーそれもいいけど……。 あ。 ふと、ある考えがひらめいた。 「……オレが作ってあげる!」 愁ちゃんはあからさまに驚いた顔をする。 「えっ!? ナオ料理なんて出来たっけ!?」 「前、調理実習でカレー作った事あるもん。愁ちゃん何が食べたい?」 胸を張って愁ちゃんに答える。 まあ、班ごとに作ったから俺がした仕事はルーを入れてかき混ぜただけだったんだけど。 一応作り方は学んだし大丈夫だと思う。……多分。 「じゃあそのカレーのお手並みを拝見しようかな。俺も手伝うよ」 「いいよ! 愁ちゃんにはいつも勉強教えてもらってるからオレが一人で作る! 愁ちゃんは座ってて!」 愁ちゃんを無理矢理ソファーに座らし冷蔵庫を見ると、野菜、お肉、カレールーと基本的な材料は揃っていそうだった。 オレは棚からいつもお母さんが使っているエプロンを取りだし、キュッと紐を後ろ手で結んだ。 みんな最初に何をしてたっけな……。 ……拓也が遊んでばっかりいた事はよく覚えているんだけど。 「えーっと……まず肉を炒めて……? イヤ、野菜を煮るのが先だったっけ?」 「……野菜の皮を剥くのが先じゃない?」 ブツブツとじゃがいもを手に取りながら呟いていると、 愁ちゃんが見かねてフォローを入れてくれた。 そう! 皮剥き! うん。わかっていましたとも。 包丁なんて握るの初めてかも。 愁ちゃんはオレん家にくる前はよく自分で作ってたって聞いたことがある。 ――オレだって、美味しいカレーをパパッと作って愁ちゃんに褒めてもらうんだもん! オレは包丁とじゃがいもをグッと握りしめて気合を入れた。 最初の一、二個は緊張したけれど、慣れてくるとスルスルと皮を剥けるようになった。 オレ……上手いかも? 調子に乗ったオレはフンフンと鼻歌を歌いながらじゃがいもの皮を剥き続ける。 よし、これで最後の一個だから次はニンジン……。 そう思った瞬間、支えていた手が滑り、ザクッとイヤな音が身体に響く。 「……っ! 痛ぁ……!!」 「ナオ!?」 鋭い痛みに思わず大きな声をあげると、声に反応して愁ちゃんが駆け寄ってきてくれた。 「ぅー……指、切っちゃった」 ジワジワと真っ赤な血が浮き上がり、ツゥと指先を流れてゆく。 「……やっぱり俺がすれば良かった。今、救急箱持ってくるから」 「ううん。そんなに深くないし舐めてれば大丈夫だよ」 音にビックリして包丁を持つ手を瞬間的に引いたので、幸いにも傷口は浅いようだった。 指先をペロリと舐めていると、愁ちゃんがオレの手を取った。 「……貸して」 「ぁっ」 そのまま愁ちゃんの口に運ばれ、指を咥えられる。 「ナオの味がする」 「ふっ……ぁ」 チュゥ……。 指を舐められているだけなのに、ジンジンと感じてしまう。 舌が絡まり、傷口をそっとなぞられるとピリリとした痛みが走る。 ……だけどその痛みはすぐに快感へと変化し、オレの身体を熱くさせる。 「は……ぅ」 息が甘くなるのが自分でもわかる。 目線を指から愁ちゃんに移すと、目が合いニコリと微笑まれる。 愁ちゃんは口から指を抜くと、掌、手首へとキスを移してゆく。 「ん……愁、ちゃん……」 手を舐められてるだけなのに、どうしてこんなに感じてしまうんだろう。 夕御飯の準備の事なんか飛んでしまった。 愁ちゃんとエッチしたいという欲望と期待が、オレの頭の中をどこまでも占領していく。 そんなオレの期待をよそに、愁ちゃんはオレの頬にチュッと軽くキスをして身体を離した。 「よし、もう血は止まったみたいだけど、念のため消毒しときなよ? ご飯の続きは俺がやるから。ナオはもう包丁触らずに大人しくしといて」 そう言って愁ちゃんは次々と残りの野菜達を手際良く切ってゆく。 ――ちぇ……もっと続けて欲しかったのに。 愁ちゃんを眺めながら、まだ濡れている指を今度は自分の口でパクリと咥える。 ――まるで愁ちゃんとキスをしてるようで、また少しだけ身体が熱くなった。 × 「いただきます」 「いただきまぁす」 テーブルの上には美味しそうなカレーだけではなく、サラダ、スープまで並んでいる。 どれも美味しそうでコクリと喉が鳴る。 早速カレーを一口スプーンに取って口に運ぶと、こないだの調理実習で作ったものとは比べものにならないくらい美味しい。 「……! 美味しー……!」 「ほんと? 良かった」 愁ちゃんはオレの感想を待ってふわりと柔らかく微笑んでから、自らも食べ始める。 ……一体愁ちゃんには不得意なものとかなんてあるんだろうか。 あ、甘いものはダメって前言ってたけど。 「愁ちゃんってさ」 「何ー?」 「勉強もできて、料理もできて……何か不得意なものって、無いの?」 「え、別に勉強も料理も得意だと思った事はないよ。うーん……。あんまり走ったりするのは苦手だけどね。疲れるし。サッカーとか、もう全然ダメだよ。」 へええ。それは意外。 サッカーと聞いて、拓也がパッと思い浮かんだ。 拓也が愁ちゃんに勝てる事があったなんて変な感じ。 つい口元が弛んでフフフッと笑ってしまった。 「何笑ってんの」 「フフ、何でもないよー。このスープも美味しいね」 「……変なナオ。指、もう痛くない?」 愁ちゃんは心配そうに身体を気遣ってくれる。 「うん。もう全然痛くないよ」 「ほんとに? 俺が食べさせてあげよっか。ナオ、あーん」 愁ちゃんはそう言ってオレにスプーンを向ける。 オレは愁ちゃんの意外な行動に、一気にカアアッと顔が熱くなる。 「……愁ちゃん、オレをからかって楽しんでるでしょ」 「うん。すごい楽しい。ホラ、あーんして?」 オレが恥ずかしそうに睨んでも愁ちゃんは全く動じずに、にっこり笑いながらスプーンを揺らして口を開けろと促してくる。 ま、いっか……。と半ば諦めながら口を開けると優しくスプーンを運んでくれる。 モグモグと口を動かしてる間も愁ちゃんは優しく見つめていて、つい目を伏せてしまう。 恥ずかしくて、もう味なんてわかんないよ……。 「……愁ちゃんもっ、ハイ、あーんっ!」 オレが恥ずかしいなら、愁ちゃんだって恥ずかしいはず! そう思い、お返しにとばかりにカレーをすくって愁ちゃんに向けると、愁ちゃんは照れる様子もなくパクリとスプーンをくわえる。 それどころか、そのままスプーンを持つ手を掴んで手の甲にチュウとキスまでされてしまった。 手の甲に唇をつけたまま「ナオの考えてる事なんてお見通しだよ」と笑われて、ますます顔が熱くなる。 ぅー……またオレが逆に照れちゃったじゃん……。 「も、もう自分で食べるよっ!」 パッと手を払って、慌ててカレーを口に運ぶ。 ……もうそれからはまともに愁ちゃんの顔が見れなくて、黙々とご飯を食べ続けた。 もちろん食べながらも頭の中ではグルグルと愁ちゃんの事を考えていて。 愁ちゃんにとってはただの愛情表現かも知れないけど、ほんの軽いキスでもオレの欲望を煽るのには充分すぎるから。 ――愁ちゃんとギュッてして、キスして、エッチしたい……。 チラリと愁ちゃんを見ると、愁ちゃんと目が合う。 オレが下を向いてた間、ずっと見られてたみたいでドキリと胸が鳴る。 「な、何?」 「いや、ナオが何考えてんのかなー、って思って」 「……ご飯食べたら、しよ?」 真っ赤になってうつむきながら小さく言うと、愁ちゃんがカタンと椅子をひき、俺の後ろまで回り込むとギュッと抱きしめてくれた。 「もー……、ナオ、ほんとに、可愛いすぎ……」 「愁ちゃ、ん……っ、ふぁ」 ――そうしてオレ達は深く唇を重ねた。 「んっ……ん、ふ……」 息をするのも忘れて深く舌を絡ませると、頭の奥が甘く痺れてゆく。 やっと二人の唇を離すと、ツゥと銀色の糸が繋がる。 全身から力が抜けそのまま愁ちゃんに身体を委ねると、フワッと椅子から抱き上げられた。 「わっ……!」 「……しょっと、……ナオを抱っこ出来るのも今年が限界かなー」 これ……、お姫様抱っこ……!? まだ力の入らない足を揺らして慌てて愁ちゃんの腕の中でもがく。 「ゃあっ……降ろし、て」 「ダメー」 暴れると落ちるよ、と愁ちゃんは笑いながらリビングを抜けてオレを抱っこしながら階段をゆっくりと登っていく。 ……確かに愁ちゃんが階段から落ちたら大変だ。 オレは諦めて愁ちゃんの首にソロリと腕を回す。 間近で愁ちゃんと目が合い、にこりと微笑まれる。 顔から火が出そうで、愁ちゃんの首元にギュッと顔を埋めた。 「自分から誘ったのにね」 ヨシヨシと埋めた頭を撫でられる。 ……そうなんだけどっ。 まさかお姫様抱っこでベッドまで行くとは思わないじゃんか普通っ。 「どっちの部屋、行きたい?」 「愁ちゃんの、方……」 ぎゅ、と愁ちゃんの服を掴む。 愁ちゃんの部屋で、愁ちゃんの匂いに包まれたい。 オレを支えながら片手でドアを開け、そのままベッドへと進む。 ポフッと仰向けにベッドに降ろされ愁ちゃんがオレの上に乗ると、キシリとスプリングが沈む音がした。 そのままジッと上から見つめられる。 恥ずかしさに耐えきれずにフイッと横を向き目線を外すと、両手で顔を挟まれて正面に戻される。 「ナオ……ちゃんと俺を見て?」 愁ちゃんの顔がどんどん近いてくる。 オレの心臓は早鐘のように早くなっていく。 オレは愁ちゃんの言葉を無視して反射的にギュウと目を瞑ってしまう。 「ナオ、照れすぎ。……じゃ、このまま目瞑ってていいよ」 そう言って、愁ちゃんの手がオレの目に被さると同時に、口にぬるっと舌が入り込む感覚がした。 「ふっ……、んく、ん」 愁ちゃんの手で視界が遮られて全く何も見えない。 ただ感じるのは熱い舌が絡まる感触と、愁ちゃんの体温。 長いキスが続き、やっと唇が離れた頃にはオレの息はすっかり上がっていた。 「愁ちゃ、ん……見えないよ……」 手を伸ばすと、サラサラとした愁ちゃんの髪の毛に指が触れる。 「次に何されるか分かんないからドキドキするでしょ?」 目が見えないから、他の感覚に頼るしかなくてオレの身体は一層敏感になったみたいで。 スルリと首を撫でられただけで甘い息が漏れてしまう。 愁ちゃんは決して強い力で押さえている訳ではないから、オレが本当に嫌がれば手を外すことは簡単にできる。 ……でも、そうしないのは……多分、オレが望んでいるから。 感じている恥ずかしい顔を愁ちゃんに見られたくないっていう理由もあるけど……。 プチプチと着ているシャツのボタンが外される音がして、肌が空気に触れる。 もう冬も近づいているので部屋にいても少し肌寒いくらいの気温。 それでもオレの火照った身体には心地よい涼しさだった。 上半身に不意に暖かくヌルリとした感覚が襲ってきて、甘い声が自然と出てしまう。 「は、……んやぁっ」 「ここ、もう固くなってる」 胸の突起を舌で転がされると身体に軽い電気が走り、腰がビクンと浮いてしまう。 その隙間に手が入り、腰を上に引き上げられる。 そのままズボンに手を掛けられ、下着ごと器用に片手でずらされてしまった。 「……こっちも固くなってるけど、まだ触ってあげない」 下腹部に掌を当てられると、じんわりと愁ちゃんの温かさが伝わってくる。 そこからオレの太腿を滑るように手を這わされると、くすぐったいようなむず痒い気持ちになってくる。 「愁ちゃ……ん、……はや、く」 もどかしい愛撫が続くと、早く中心に触ってほしいとでも言うように体が揺れてしまう。 その間も舌で上半身は舐め続けられていて、オレは愛撫だけで登りつめてしまいそうだった。 「……んああっ!」 いきなりそれを握られて、身体が仰け反る。 何も見えないまま手で空をかくと、愁ちゃんの首らしき部分に触れたのでぎゅっと掴んで快感に耐える。 緩急をつけて上下に扱かれると、クチュクチュと水音が耳に聞こえてくる。 「ナオ、この音聞こえる?」 「や、っだあ……ぁぁっ……あん」 突起と同時に攻められてあっという間に意識が飛びそうになる。 堪えたいのに、まるで自分の身体のように愁ちゃんは気持ちいいポイントばかり攻めてきて。 カリッと突起に歯を立てられた瞬間、強い電気が身体を走り、愁ちゃんの手の中に白いものを射精してしまった。 まだビクビクと波打っている腰をそっと優しく撫でながら、ようやく愁ちゃんは目を覆っていた手を退かしてくれた。 そっと薄く目を開けると久しぶりの光で眩しく感じる。 愁ちゃんは自分の上着を脱いでいて、パサリとベッドの横に投げる。 ……今からがむしろ本番だと思うと、さっき出したとは思えないぐらいに血液が下半身に溜まっていくのがわかる。 愁ちゃんと目が合って、にこりと微笑まれる。 ――いつも目が合うと微笑んでくれる、愁ちゃんのこの表情が大好き。 身体を起こして愁ちゃんに抱きつくと、愁ちゃんの肌と直接密着して、心地よい温かさが伝わってくる。 耳を当てると、トクントクンと心臓の音が重なる音がする。 「目隠ししてると、ナオ、いつもより気持ちよさそうだったよ」 「そっ……そんな事ないよ!」 「そうなの?」 「……いつも気持ちいいもん」 素直に自分の気持ちを言うと愁ちゃんはアハハと笑って抱きしめ返してくれる。 「また、腰痛くなっちゃうかもよ?」 「……そしたら、愁ちゃんに湿布貼ってもらうから大丈夫」 痛くならないようにするね、と肩にキスを落とされながら先程出した液を拭うように下半身に指を絡められる。 腰を持ち上げられ、指をゆっくりと入れられていく。 「ぁ、あ……あっ、」 指は自分の液でさほど抵抗感なく深い所まで入ると、縦横無尽にうごめいて少しづつ中の容積を拡げてゆく。 「っ……んあっ、愁っ……ちゃ、んっ」 一本、二本、三本……。 ジュプジュプと卑猥な音を大きくしながら指が足されていくのが感覚でわかる。 「はぁ……んゃ、ぁ……」 恥ずかしくて足を閉じようとしても、愁ちゃんに押さえられてて動かせないし。 ひたすらシーツを握って快感に溺れそうになるのを耐えるしかなくて。 「力、このまま抜いててね」 「……ん、んぁ、あっん!」 愁ちゃんは祖反り返った自身のものを取り出し、ほどけきった部分に指を抜いて当てると、ゆっくりと前に進めていく。 「ナオの中……熱い……」 「ひゃっ……ぁあっ……ぁぅっ」 自分の体内に、内臓を押し避けながら柔らかく固い物体が少しずつ侵入してくる感覚。 ……一回目は絶対入らないと思っていたから、恐怖感があったけど。 二回目の今回は入ってくる快感で気絶しそうなほど。 力抜いて、なんて愁ちゃんは言うけど、身体が自動的に収縮しちゃうんだもん。 ……でも、あんまり締め付けたら愁ちゃんが痛くなっちゃうから精一杯息を整えようと口を開けて酸素を吸い込む。 「……っ……ナオ、動くよ」 そう言って愁ちゃんが腰を動かし始めると、もう息さえまともに出来なくなる。 「ひゃぁっん、ぁんっ! んぁっ! ……ぁっ、んぅっ!」 奥まで腰を打ち付けられると、まるで女の子みたいな高い声が喉から出てきて、その声に一層羞恥心を煽られる。 愁ちゃんに触れたくて手を伸ばすと、愁ちゃんが指と指を絡ませて手を握ってくれた。 「んゃっ……しゅ、ちゃっ、んっ! ぁっん!」 喘ぎながら愁ちゃんの名前を呼ぶと、手を握り返して答えてくれて。 愁ちゃんと繋がったまま、顔を近付けて熱いキスをする。 「ナオ……っ、好きだよ」 「オレ……も……愁……ちゃん……」 抱き合っていると二人のお腹でそれぞれのものが挟まれて、ヌチュヌチュと擦れて音を鳴らす。 「んっ! あぅ……やぁ……ん、ぁっ! オ、レっ……も……限界……」 前と後ろ両方の刺激が強すぎて、我慢の限界が来てしまった。 「……っんぁ……!」 ――お腹の中に熱いものが広がる感覚がしたと同時に、オレは意識を手放した。 × × × 続き × × ×
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476: 名前:刹那☆05/13(木) 22 43 39 そもそも達也君はどうして私に協力したの? 透君の仇を取るため? それともその犯人を捜すため? いらない生物はいない? 何言ってるの? それは全部きれいごとよ。 奈々は私の彼を取った。いらないモノ。 悠も奈々が好き、浮気をした。いらなイモノ。 お母さんもいらナイモノ。 透君もイラナイモノ。 そう、全ては必要なかった。 じゃあ私は必要とされている? 人殺しをした? 人を失わせてしまったから? 私は……? ‘‘イラナイモノ,,――――……? そんな思いが脳裏をよぎる。 477: 名前:刹那☆05/14(金) 21 55 09 刹那、私を孤独感が覆う。 その瞬間すごく不安になった。 何で……。 何で私がこんな思いをしなくちゃいけないの? あれもこれも……。 全て達也君のせいだ。 達也君がいなくなれば私は楽になる。 開放される。 フッと笑い、私は達也君の眠るベットへと向かう。 「あんたも所詮、イラナイモノなのよ……」 荒れる息を殺して、私は達也君の首に両手を伸ばした。 478: 名前:刹那☆05/14(金) 22 02 37 震える手で、私は達也君の首に、狙いを定めた。 何で絞めれないの。 こんなやつ絞めてやればいいのよ。 さぁやりなさい香織。 私は薄笑いを浮かべた。 こんなやつ、たったの一捻りよ。 コロッと楽に逝かせてやりなさい。 さぁ……殺れ。 目の色がキッと変わった。 覚悟を決めて指先に力を入れる。 達也君を……殺す。 「私は――」 …………。 「私はいらないものなんかじゃない。いらないものなんかじゃない。いらないものなんかじゃない」 そう無意識に唱えるように言う。 479: 名前:刹那☆05/14(金) 22 07 41 「う……」 達也君の息が荒れだした。 うっすら目をあけて、 「か、織ィ……?」 力のないその声で言われても通じないわよ。 「何し……うぁ……」 「私はいらないものなんかじゃない。いらないものなんかじゃ……」 達也君はその言葉を聞いたからだろうか。 「やめろ!」 その一言で、私は止まった。 何で? 何で止めるの……? 殺されたくなかったから……? 「お前はいらないものなんかじゃないよ」 「う……そ……」 達也君は私の両手を包んでいった。 「俺は香織が必要なんだよ」 そう真剣に私の方を向く達也君。 480: 名前:刹那☆05/14(金) 22 12 20 瞳から一滴の雫が垂れた。 「あ……何で……」 ぬぐってもぬぐっても、雫は出てくる。 収まるどころか、増すばかりだった。 あっという間に私の顔を濡らしてしまった。 達也君は私を見てニカッと笑う。 「お前も折れが必要だろ?」 まるでさっきの顔とか対照的に。 「…………」 私は達也君を睨んだ。 少し視界が歪んでいるけど。 「何だ?」 少し間抜けな声を出して、言った。 481: 名前:刹那☆05/14(金) 22 14 54 「そんな顔で睨まれても、怖かねーよッ」 そんな言葉を発した。 「…………」 それでも私は睨み続ける。 観念したのか達也君はもう一度言った。 「何なんだよ」 そう穏やかに。 「達也君に……」 「俺に?」 達也君は私の言葉の続きを待つ。 少し間をおいて言った。 「泣かされた」 482: 名前:刹那☆05/14(金) 22 18 33 「はぁッ!?」 表情が一変する。 「何で俺がお前を泣かさなきゃなんねーんだよ!」 顔を真っ赤にして言った。 「……タコ」 「ばッ……うるせー!」 それから私と達也君との言い合いが始まった。 「……バカ、アホ、ボケ、落ちこぼれ、赤点常習者」 「な……! 本当可愛げのねーやつだな!」 「可愛くないもん……」 「え……」 私はまた泣いてやった。 ちょっと達也君をいじめてみたくなっただけ。 483: 名前:刹那☆05/14(金) 22 22 56 すぐに達也君は私を慰めにはいる。 「ああ、ごめん。俺が悪かったよ。お前は可愛いって。うん本当可愛いよ」 「また泣かされた……」 私は涙声で言う。 「ああ、悪かった! 泣かせたのは俺だよ!」 「クスクス……」 「お前何笑って……」 私は顔をあげて笑顔でピースをした。 舌も出して。 「単純」 そう言い残して私はトイレへとダッシュした。 「なッ……お~ま~え~」 また達也君の体温が急上昇したみたいだった。 484: 名前:刹那☆05/14(金) 22 27 07 「騙したな~!?」 その言葉を背中に受けながら。 私はトイレで嗚咽を漏らす。 「う……ぁ……」 また達也君にこんな思いを……。 嘘泣きなんて嘘よ。 本当は泣きたかった。 でも私は泣くことを許されなかった。 小さい頃からそんな教育を受けてきた私。 「泣く」、その行動、意味も覚えなかったから。 私が泣く居場所もなかった。 次々と雫があふれ出す。 こんなの、とても達也君には見せられない。 バレるのが、嫌……。 485: 名前:刹那☆05/14(金) 22 30 28 本当、バカ……。 私が達也君に泣かされるなんて。 必要と思われているなんて。 予想外……。 そうよ、私は必要な人間よ。 私はぐしぐしと顔を服の裾で拭う。 鏡を見て、頬をパンパンと数回叩いた。 「しっかりしろ私」 鏡の自分を指差して言った。 「お前は、お前だろ」 うん。これでいいわ。 今までは達也君のせいで気持ちが沈んでいただけ。 486: 名前:刹那☆05/14(金) 22 34 45 私は私よ。 自分らしくいればいい。 たったそれだけよ。 今まで私は何をしていたんだろう。 無駄な時間を過ごしてしまったわ。 私はもう一度部屋へダッシュ。 そこには達也君が普通に座っていた。 「達也君、準備はいい!? 出かけるわよ!?」 「あ……」 「何よ、文句ある?」 そこにいたのはいつもの私。 「あ、いや。おま……短時間で切り替え早すぎじゃね?」 487: 名前:刹那☆05/14(金) 22 37 55 「別に、いつも通りよ」 達也君はしばらく私を眺めた。 「達也君と一緒にしないでくれる?」 「ああ、その毒舌っぷりはいつもの香織だ」 「は?」 「でも……」 達也君は続けた。 「香織が元気になって良かった」 と……。 その言葉にまた涙腺にくる。 「さ、さぁ早く!」 私はそれを隠すため180度体を回転させた。 489: 名前:刹那☆05/22(土) 22 06 20 「おいッ香織! 出かけるっていってもどこへ行くんだよ!」 そう隣で喚いているのはお馴染みの達也君。 「お母さ~ん? 出かけてくるね~」 私は母に言い残し、玄関を出た。 「香織、質問に答えていない」 ぷくーと達也君の頬は膨れ上がってフグみたいになる。 「……出かける? どこへ?」 「お前が言ったんだろッ」 「……ただの口実よ」 静かに言って、私は足を進める。 どこかへ。目的地の定まってないまま。 「口実?」 「母を油断させるためよ」 490: 名前:刹那☆05/22(土) 22 12 20 「……ふぅん」 口実、口実……といいながら達也君は考え事をしているみたいだった。 「で? どこ行こっか?」 「俺ッッ!?」 「どこでもいいわ。暇つぶしの……なるべく時間がかかるやつ」 また考え込む達也君。 「俺は駅前のゲーセ……」 「分かった。公園でいろいろ話し合いましょう」 達也君が言い切る前に私は言う。 「俺の話はどうなっ……」 「さ、行きましょう」 達也君の右手を掴み、そのまま公園に向かって前進。 「あの……俺そんなことされなくても、歩けるんですが」 491: 名前:刹那☆05/22(土) 22 19 03 私はその言葉に反論する。 「だって達也君って行動の一つ一つが遅いんだもん。こうでもしなきゃ、私がいらついてくるの」 「そうか!」 さぁ、今夜のことを話し合いましょう。 私たちは公園のベンチに座って、語る。 「お前さぁ」 達也君は口を開いた。 「本当に殺すのか? 自分の……母親。お前はその母親から生まれたんだろ?」 「母親ってうるさいものよ。勉強しろ。お風呂入りなさい。ご飯食べなさい……。本当何でも命令口調」 黙って聞いている達也君。 「上から目線。私だって……みんなはもう大人よ」 「俺は、母親が大好きだったよ」 いきなり話し出した達也君に私は驚く。 「ちょっと厳しいけど、優しい母親だった」 大好き……? 優しい……? 492: 名前:刹那☆05/22(土) 22 25 54 どうしてそんなことが言える? 何の根拠があってそんなこと言える? 私はそんな感情持たなかった。 でも最後の達也君の言葉が気になる。 「だった……?」 過去形になっていることを。 「俺の母親は、俺が7歳の時に亡くなったんだ。急性……なんとかの病気で」 達也君にそんな過去が? 「すんげえ悲しくてさ。何でいなくなっちゃったのって。泣いた、多分体中の水分がなくなるほど泣いた」 続ける。 「お母さん、悲しそうだった。病気で亡くなったならまだいいよ。でも愛する子供に殺されるってどうなんだよ」 うるさい。 493: 名前:刹那☆05/22(土) 22 31 42 「お母さん、悲しむと思う」 「悲しまない。悲しませない」 だって私は愛されてもなかった。 私をぶったりした。 ずっと前には人殺しの犯人と疑った。 本当に愛しているならそんなことが言えるの? 冗談にしてはキツすぎると思うわ。 どうして……。 フッと鼻で笑う。 「私は、それでも消す。……消すわ」 黒い笑みを浮かべて。 「香織は後悔しないのか? いなくなるんだぞ? 俺みたいになるんだぞ?」 「後悔はしないわ。でも――」 「でも何だよ」 一呼吸おいて言った。 「達也君みたいにはなりたくないわね」 「な、おま! どういう意味だ~!」 私ハ悪クナイ 続き16 未完
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1: 名前:都粒☆2012/01/16(月) 19 16 02 ――廊下。 ひんやりしていて、体育の後に座り込むと、涼しい空気と冷たい地面に癒される。 隅っこには埃くらいしかないけど、私はその場所が好きだった。 3: 名前:都粒☆2012/01/17(火) 16 52 42 1. 上履きのかかとを踏んで、ぺたんぺたん音を鳴らしながら階段を下りると、2、3メートル先の廊下に、壁に寄りかかりながら寝ている男の子を見つけた。 その男の子は膝を立てて部活用の大きなスポーツバックを抱え込んでいる。 鞄に頭を預け、こちら側に顔を向けているから寝ている事がすぐにわかった。 その姿はまるでお気に入りのぬいぐるみを抱いて寝る小さい子供のようだった。 廊下は夏らしくなくひんやりとしていて気持ちいい。 風も余ることなく、また足りなくもなく、一本の道を気取って通り抜ける。 時々ポロシャツの中に入り込んできたりする。 私のお腹がちらっと見えた。 そんな些細なこと、普通なら気にしない。 5センチ足らずの肌色を外に露出したからって動じる可愛らしい女ではないのだ。 しかし、この時はとっさに手が出た。 ポロシャツの端をひっぱって伸ばし、スカートとの隙間を埋める。 その行動をとったことで何か恥じらいが生まれたのか、次第に顔が熱くなっていくのがわかった。 湿り気の無い空間にじんわりと額に水滴ができる。 私は鞄からハンドタオルをとり出し、それを拭った。 男の子はまだ寝ている。 確認するとほっとした。 その男の子は、誰にも起こされることなく、ただその行動を一生懸命に続けているように見えた。 何の目的もなく、ただただ廊下で寝るだけ。 誰にだってできそうな行動かもしれない。 しかし、この廊下でぽつんとひとり座り込み、愛らしく寝ることなんて、きっと私にはできないだろうなぁ。 そう思うと、何だかその光景を見てわけもなく嬉しくなってきた。 「奏」 下駄箱で待ちくたびれたといわん顔で恋人が待っている。 「帰っていいって言ったのに」 「だって、一緒に帰りたいんだもん」 しかも、こんな言葉までかけてくれる。 私は幸せものだ。 廊下にはまだ寝ている男の子の姿があった。 少しだけ気になったが、目の前にいる好きな人のもとへと行く方がいいと思い、私は後ろ髪を少し引っ張られながらも、靴を履き替え昇降口を出た。 4: 名前:都粒☆2012/01/17(火) 17 05 08 2. 廊下の窓を開ける。 すると風がよそよそしく入り込んできた。 わた埃が移動する。 お菓子の袋が移動する。 朝市の廊下はいつも汚かった。 私は廊下にいることは好きだが、汚いからって自分できれいにしようとは思わない。 そんなことは暇すぎて毎日校内を散歩するだけしかない校長がやってくれる。 ひとつひとつゴミを拾い、箒とちり取りを片手に持ちながらさっさと掃除をしていく。 楽しそうではないものの、その動作は単純かつ日常的だった。 やって当たり前、やらなきゃいけないこと。 これもこの人の生きがいなんじゃないかと思う。 それをいち生徒の私が邪魔をしてはいけない。 廊下をきれいにするよりも、勉強をしてあげた方が校長は喜ぶだろうなと思う。 まぁ、勝手に解釈しているだけなんだけど。 でも校長は楽しそうにも見えた。 校長がきれいになった廊下を眺め、小さく頷いたからだ。 廊下で寝る人もいるくらいだから、やっぱりきれいにしていてもらった方がいい。 感謝の気持ちは持っていてあげよう。 私はきれいになったのを見計らってゆっくりと腰を下ろした。 できる限り足を伸ばし、壁に寄りかかる。 静かに目をつぶれば、この間寝ていた男の子の気持ちがわかるような気がした。 足に伝わる廊下の冷たさ、壁伝いに響く人の会話、鼻を軽く蹴飛ばす涼しい風。 固くて居心地悪いのもまた病みつきにさせる要素だった。 「パンツ見えるよ」 目を開けると、目の前に痩せた女の子が立っていた。 手を差し伸べ私を見下ろしているのはクラスメートの槙だった。 「見せてるのよ。でも残念ながら見る人はひとりもいないけど」 「奏は変態だね」 いつものやり取りなのに、槙とやると楽しくて仕方がない。 静まりかけたテンションがまたくすぶり始めた。 槙の手をとり、よっこいしょ、と年寄り臭く立ち上がると、槙はババ臭、とまた笑ってくれた。 「先生もうすぐくるよ」 「ん、教室いこ」 スカートを軽くはらう。 そして校長がきれいにしてくれた廊下を名残惜しく思いながら後にした。 5: 名前:(-∀・*都粒*・∀-)☆2012/01/17(火) 17 18 42 3. 私の席はもちろん廊下側の一番後ろ。 誰にも邪魔をされずに廊下を眺めることができる特等席だ。 埃が舞う瞬間とか、ひたひたと誰かの足音を響かせる時とか、誰も気にしないようなことを喜びと思える私はすごいと思う。 教室に行っても私は廊下にいる気分だった。 「これから美術だよ。移動移動」 いつの間に席に来たのか、美術道具を抱えてはしゃぐ槙が私の腕を引っ張っていた。 槙は絵がめちゃくちゃ上手い。 前に色んなコンテストで賞をもらった経験があると自慢げに話していた。 槙にとって絵は槙自身だと熱弁されたこともある。 「今日は説明なしですぐに絵に取り掛かるんだって」 そんな話をいつしてたんだろうと思いながら、鉛筆やら絵の具やらを大きめの袋に入れていった。 入れ方が乱暴、とか言いながら槙は笑って入れるのを手伝ってくれた。 「学校内で気に入った場所を描くらしいよ」 「ふーん」 「奏はどこにする?」 決まってる。 私は絶対にここを描くだろう。 校長がきれいにしてくれた廊下。 どこか親しみを感じる廊下。 あの名前の知らない男の子が寝ていた廊下。 とにかく、私は廊下を描く。 「廊下」 単発的に答える。 「廊下なんか描くの?」 「いけない?」 「ううん、別に」 槙はそういって私のカバンをとり、いそいそと美術室に向かい始めた。 私は槙の背中を見ながら、何も持たない手をぶらぶらさせて風を受けた。 少しだけ、熱を下げるための動作だ。 さっきの会話で廊下をバカにされたようで、私は内心むかっとくるものがあった。 それを下げるための意味ある動作。 あんたに廊下の価値がわかるのか、と呑み込んだものが口をついて出てこないようにするための動作。 「奏、ほら、手遊ばせてないで自分の荷物持って」 「槙が勝手に持ってったのに、理不尽だなぁ」 「いいからいいから、はい」 軽そうに見える袋は結構重かった。 びっくりしている私を槙はふっと軽く笑う。 こんなものいつまでも持っていたくないと思い、ぺたんぺたん上履きを鳴らしながら小走りで美術室へと向かった。 6: 名前:(-∀・*都粒*・∀-)☆2012/01/17(火) 20 40 26 4. 一度私は廊下で死にかけたことがある。 特別何か悪さをしていたわけじゃなく、ただ普通に教室に向かって歩いていただけなのだ。 しかし、運悪く私は被害を受けてしまった。 ただ普通に歩いていただけなのに。 廊下を道路に例えると、人が車にも歩行者にも例えられる。 その中で私は道路交通法をきちんと守る歩行者だった。 簡単に言えば、私は交通事故に巻き込まれたのだ。 死にかけたというのは、走る人にぶつかった衝撃で、勢い余って窓に頭をぶつけてしまったせいだ。 ぶつかった人は去り際にすんません、と軽く謝っていた気がする。 しかし、事態は思いのほか深刻だった。 窓ガラスはひびが入ったところと割れたところがあり、私の頭に刺さっているのもあった。 私は頭から血を流し、ただ何が起きたかすら理解できなくて、その場にぼーっと突っ立っていた。 はたから見ればおかしな光景だっただろう。 私は平気な顔をして頭から血を流している。 私をはねた人はどこかへと走り去って姿がない。 ひき逃げだ。 周りの女子はきゃーきゃー叫んでうるさくて仕方がなかった。 泣き出してしまう人までいた。 「あのときは本当にびびったよね」 槙がその人。 「てか何であそこで槙が泣くのよ。おかしいでしょ」 私は笑いながらつっこんだ(結構ショッキングなことを今では笑い話にしてしまうとは、大概私もいい加減な奴だなと思う)。 私の問いに槙は心外そうに、だって奏が死んじゃうかもしれないと思ったんだもん、とぼそぼそと答えた。 怖いことを可愛らしく言ってくれるじゃない。 「縁起でもないこと言わないでよ」 「でも後遺症とかなくてよかったよね。本当にたくさん血出てたからさ」 「まぁね。きっと日頃の行いがいいからよ」 「ははっ、奏はラッキーガールだ」 そのあと、槙の泣いている姿を見て私の意識はどこかに飛んだ。 気がついたら病院のベッドで、これまた泣いている私の母と、泣いて謝る男の子が二人、私の傍に立っていた。 ごめんなさい、とか言われても痛いもんは痛いままだし、刈ってしまった髪は短いまま……。 そのことが流血したことよりも私を落ち込ませた(髪を伸ばしている時だったから)。 「それでも廊下嫌いにならないよね」 槙は私の思考がわからない、と口をへの字にして考え出した。 言われてみればそうだなと思いながら、嫌いにならない事が不思議と当たり前のように思えた。 「んー、嫌いになるというか、廊下での思い出が増えてますます離れられなくなったんだと思うな、うん」 「そうなの、何か変なの」 「変で結構よ」 でも確かに、あそこで私が廊下嫌いになっていたらどんな気持ちで今いるんだろう。 色んな考えを巡らせながら出もしない答えを必死に探した。 ぺたんぺたん上履きが響く。 被写体になる廊下はその音を取り込んでもまだ閑散としたまま私を待っていた。 7: 名前:(-∀・*都粒*・∀-)☆2012/01/18(水) 15 47 54 5. 美術なんてかったるくてやってられない。 かかとを踏まないでちゃんと上履きを履くくらいかったるい。 「やっぱダメだ」 廊下を目の前にして、急にガス抜けしたみたいにさっきまでのやる気がぷしゅーっと。 立っていることすら億劫になってきた。 「何がダメなの?」 鼻歌交じりに槙が聞く。 というか、なぜ槙がいるかというと、「廊下なんか描くの?」とか言っておきながらひとりじゃ寂しいからって私についてきているのだ。 槙が私になついてから、私と一緒の行動をとらない日はない。 トイレも未だひとりで行ったことがないくらいだ。 だから、いつも私はトイレの前で待ちぼうけている(これが結構恥ずかしい)。 まぁ、甘えられるのは嫌じゃないんだけどね。 「ダメ。イメージ……ってかやる気が出ない」 「ははっ、美術のときは必ずそう言ってるよ、奏」 そうだったっけ、ととぼけ顔をして槙から視線を逸らし、廊下に腰を下ろした。 壁に寄りかかりながらずるずると座るのが密かに私のマイブームとなっている。 美術室を出て左に曲がって階段を下りて真っ直ぐ。 廊下と昇降口が1:1の比率で目に入るこのアングルが一番のお気に入り。 一方向に歪むことなくすっと伸びた道。 風が葉を揺らして、葉が音を生み出す。 それを廊下は流れ作業であたり一面に響かせる。 目を閉じれば、きっと誰もが廊下であることを忘れて寝てしまうだろう――――と思っていたら、今はそれを槙が邪魔した。 「もううるさいなぁ」 前も言ったと思うが、槙は絵がめちゃくちゃ上手い。 しかし、反対に歌はものすごく下手なのだ。 いつもなら心地よく鳴り響くヒーリングサウンドのみが私の耳に届くのに、今は槙の統一感のない鼻歌がことごとくそれを打ち砕き、1秒たりとも届かない。 こんな残酷なことはない。 これじゃ廊下にいる意味がない。 「えー、うちの学校の校歌じゃん」 「そんなのどうでもいい。とにかく私寝るから静かにね」 奏ひどい、寝ちゃうの、絵描かないの、と槙はひたすら不満を呟いていた。 静かにね、だけじゃ槙のおしゃべりは止まらないらしい。 ひとつ学んだ。 こんなことならこっそり抜け出して廊下に来ればよかった。 ああ、後悔先に立たず。 しかし、廊下の冷たさがありすぎる私の熱を奪っていき、次第に槙の小言も遠のいていった。 あの男の子もこんな気持ちのいい眠気を感じながら寝ていたんだろうな、と思ったら、そのあとすぐにすとんと意識がなくなった。 8: 名前:(-∀・*都粒*・∀-)☆2012/01/19(木) 14 37 29 6. いつの間にか槙はどこかに行ってしまっていた。 槙の美術道具もない。 気がつけば私はひとりぽつんと廊下に取り残されていた。 私が起きたのは美術の授業が終わる10分前くらい。 美術の時間は2時間続きだから、結構な睡眠が取れて私の頭はいくらかすっきりしていた。 だから、槙が私を起こさずに姿を消していても腹立たしいとは思わなかった。 むしろこんな廊下でひとり寝ていた自分がおかしくてたまらない。 思わず口元を歪めてにやけてしまった。 「こんなところで寝るなんて君もかなりの変人だね」 すっきりしていても起きたての脳みそは働かない。 しかも滅多に使わない脳だ。 ちゃんとものごとを考えて対処できるようになるまでには相当な時間がかかる。 何せ私の脳みそだし。 早く思考を働かせるなんて無理無理。 目の前に立って私に話しかけている人が誰かなんて、考えられない。 「顔に寝あとついてる」 槙の声じゃない。 男の人の声だ。 私の頭の上に容赦なく降り注いでる。 目線を自分の膝辺りから上に移す。 白くて大きいスポーツバッグ。 声からは想像しにくい幼顔。 この間寝ていた男の子が私の目の前でやわらかく笑顔を作っていた。 まるで仲間を見つけたみたいに、一緒の価値観をもった人間がいる喜びを前面に出していた。 「わ、若い肌はすぐに直るからいいのよ、こんなの」 「はは、そんなこと言ってるわりにめっちゃこすってるけどね、君」 やっぱり変な人だ、と男の子はくすくすと笑って、私のこすりすぎて赤くなった頬に軽く触れた。 こんなことを異性にされたのは初めてだ。 当然、ぱっと顔を逸らして頬を触る手をはらう。 「別にいいじゃん、いちいちうるさいよ」 「ああ、ごめんごめん。何か僕と結構近いものを感じるからついね、嬉しくて」 今どきの高校生――――らしくない彼は、とてもじゃないけど恥ずかしくていえないような言葉を何の躊躇も見せずに平気で口にした。 それともただ単に私が今どきの高校生を知ってないだけなのか。 しかし、私の中の彼のイメージが目の前で笑う彼と寸分の狂いもなく重なる。 この人はきっと人からストレスを感じたことのない人だろうなぁ。 人ができそうにないことを軽々とやってのける、そういうみんなが羨ましがるような素質を持った人なんだ、と思ってさっきのことは忘れてあげた。 まぁ、想像通りの変人だけど。 「てかチャイム鳴るよ。教室行かなくていいの?」 「あなたこそ」 「僕はもう今日は帰るからいいんだ」 「え、まだ午前中だよ。授業ないの?」 「いや、サボり」 変人はマイペースが多い気がする。 だから、みんなの和から外れてしまう。 そうすると必然的に変人に見えてしまうのだろう。 またひとつ学んでしまった。 「それじゃね」 少しの間もなくさよならを言う彼に、私はちょっと、と言って呼び止めた。 しかし、その先の言葉がどこかに埋まってしまって出てこない。 何となくおぼろげに思っていた人が急に現われて急に去ると、あまり親しくもないのに急に寂しさが生まれる。 そんな女の子らしい感情が無意識的に変な行動を取らせ、声を喉でせき止めた。 「疾風」 「え」 「僕の名前、篠崎 疾風。まぁ、忘れていいけど」 超能力者か、はたまた読心術者か。 私の考えている不透明なものをクリアーにして意図も簡単に答えを出してしまった。 「じゃ、お腹出して寝て風邪引かないようにね」 とっさに自分の腹を見る。 ポロシャツはふくらみのある肌色をちゃんと隠していた。 安心してもう一度顔を上げると、疾風という男の子の姿は廊下にはなかった。 あの男の子は私のペースには合わない人だ、と多少呆れながら、しかし、また会えることを期待して、私はしばらく廊下でぼーっとしていた。 そのすぐあとにチャイムが鳴って、私は慌てて教室に戻るはめになったのは言うまでもない。 9: 名前:(-∀・*都粒*・∀-)☆2012/01/19(木) 14 38 11 7. 寛ちゃんが耳まで赤くして私に告白をしてきたのはちょうど今日みたいな空模様の日だった。 どんより落ちてきそうな厚い雲に、風が横殴りに吹いている。 木が折れてしまいそうなくらいしなって、葉はものの見事に吹き飛ばされていた。 廊下の窓から外を眺めてこれじゃ自転車で家に帰れないなぁ、と思ったときに、寛ちゃんが私の名前を呼んだのだ。 「渉」 私は基本的に名前があだ名みたいな人だから、知っている人で苗字を呼ぶ人はあまりいない。 「ん?」 ほらね。 知っていそうで知らない顔。 きっとクラスは一緒になったことないな、と脳みそに刻まれるほんのちょっとの記憶を調べてみた。 私が寛ちゃんの顔をじっと見ると(記憶を調べるため)、寛ちゃんは今にも高血圧で倒れてしまいそうなくらい顔を真っ赤にした。 耳まで赤く染める人を私は人生でそんなに見たことがない。 貴重な人だな、この人。 「何?」 「え」 「えじゃないよ。私に用があるんじゃないの?」 「あ……」 ドラマでよく見られるコテコテの戸惑い方。 寛ちゃんは今にも泣き出してしまいそうだった。 「私バスの時間近いし。それじゃ」 変な人だな。 私との会話は(会話と言えるのか?)一方的に問いかけて答えを充分に得ないまま終わろうとした。 その時だ。 私がカバンを取りに行こうと教室のドアをがらっと開けたとき。 「渉」 「はい、何ですか?」 「え、あ、だから……」 またさっきのように寛ちゃんはもじもじし始めた。 私ははぁーっと深いため息をついて、返事もせずに教室に入っていこうとした。 「待って」 「あぁ、もう、何なのよ!」 少々強めに返事を返すと、寛ちゃんは数歩後ずさりをした。 しかし、数歩下がってからは何かを心で決めたらしく、目をつぶってようやく言いたいことを言い放った。 「え、その……スカートのファスナー開いてる!」 そんなことで顔を真っ赤っ赤にしちゃうとは、この人も初心だね。 と余裕を見せて失礼、と寛ちゃんに謝りながら、恥ずかしさで泣きたいのを堪えてファスナーをじーっと上げた。 「はぁ、良かった。3限目くらいから気になってたんだけど、どうしても言えなくて」 3限目といえば2クラス合同生物実験だ。 そんなときから私は皆々様方にピンクのチェック柄を(見たくもないのに)見せていたわけか。 あぁ、穴があったら永久的に入ってしまいたい。 「あ、大丈夫。きっと気付いてる奴少ないと思うから」 ポロシャツで隠れるし、と泣きそうな私を慰める寛ちゃんをこのとき思いっきり抱きしめたくなった。 いい人だ、変人じゃなくて、いい人じゃん。 そんなこんなで私は1時間おきにくるバスを1本逃し、帰れない、と寛ちゃんにぼやいたら、寛ちゃんがお父さんを呼び出して(お坊ちゃんだ)私も寛ちゃんに誘われるままご一緒させてもらった。 車の中で他愛のない話をして下らない話もして意気投合した私たちは、いつの間にか愛の告白もないまま付き合うことになった。 すべては廊下でのあのへんてこな会話からだ。 廊下に感謝。 10: 名前:(-∀・*都粒*・∀-)☆2012/01/19(木) 21 40 11 8. 授業参観なんてものはやって意味あるものなのだろうか。 いつもなら教室のにごった空気から脱出できる廊下も、この時ばかりは教室よりも空気が悪い。 ファンデーションや香水の匂いがぷんぷんとたちこめている。 神聖な廊下を汚されたみたいで私は内心怒り心頭していた。 しかし、大人(しかも中年の女性)相手に化粧をするな、香水をつけるな、とは怒れないだろう。 個々人で肌トラブルは起きているに違いないし、それに老化で潤いをなくしつつある肌をあらわにする勇気を持てと強要もできない。 加齢臭だって近くに行けば誤魔化しようがないし。 だから、その1日は廊下に出たい欲求を抑えないといけない。 これほど辛いことはない。 ストレスの行き場がなくて、いつも授業参観の日は1日中不機嫌オーラを発して過ごす。 若い肌には悪い環境だ。 周りもいらいらしている私のせいでおどおどして過ごさないといけなくなる(意外にびびられてるんだよね、私)。 とにかく、授業参観が近づいてくると私は憂鬱で仕方がなかった。 槙との会話も、あの男の子との会話も、寛ちゃんとの会話も、すべてが黒いカーテンに覆われて一筋の光も通さない。 私の心は真っ暗闇で溢れかえってしまうのだ。 「奏、もしかしてこの間のこと怒ってる?」 不機嫌に加えていつになくテンションの低い私を槙は気遣う。 こういう優しさっていくらか安らぎになるんだよね。 「この間って?」 「美術の時間。私何も言わないで帰ってきちゃったでしょ。それ怒ってるんじゃないかと思って」 槙はあれこれ言い訳をしていたが、私は深く聞こうとしなかった。 そんなこと気にしてないし、怒る体力も気力も何にもなくて、脱力しっぱなしの脳みそが理解できないと思ったから聞き流したのだ。 それでも槙が今にも泣き出しそうな切ない顔をするので、私は何で、と聞いてやった。 すると槙は、だって奏眉間にしわ寄ってるんだもん、と半べそになりながら答えた。 「あぁ、違う違う。槙のせいじゃない。むしろこの間は感謝してるくらいだし」 あの男の子が私に興味を持ってくれたのは、槙が私を廊下にひとり取り残してくれたおかげだ。 感謝しているという言葉に嘘はない。 その言葉を聞いて、槙は信じられないというような顔をして、それから花が開くように目を見開き瞳を輝かせた。 私がどうして槙に感謝をしているのか、槙はその理由を聞きたがった。 ああ、やっぱり余計なことを言うんじゃなかった。 槙はすがるようにして私のそばで輝く瞳を見せ続けた。 何とも面倒くさい。 「あぁ……んと、酸素不足の頭がすっきりして頭痛が治ったんだよね」 これで誤魔化せたら槙は相当の阿呆だ。 「そうなの? 私って奏の役に立ってるんだ」 あらら、槙ちゃんそんなに喜ばなくても。 本当のことを言えない私は槙の笑顔で良心をぱっくり割られた気分だった。 またどんどんと気持ちが暗くなる。 ちくしょう、何もかも授業参観のせいだ。 隣ではしゃぐ槙を横目に、私は机にうな垂れるようにして突っ伏し、そのまま眠気に身を委ねてしまった。 あぁ、授業参観まであと3日。 憂鬱な日々はまだ続く。 11: 名前:(-∀・*都粒*・∀-)☆2012/01/19(木) 21 41 28 9. 廊下に立たされるなんて、今どきありえないことだと思う。 そんなことを素直にする人がこの時代にいるのだろうか。 いくら私が廊下好きだからって授業中立たされるのは心持ちが悪い。 よし、逃げ出すに限る。 幸い現国の先生(ミスター現国)は廊下をうかがう様子を見せない。 自分の授業に酔っているから話を聞かない対象外の私を気にかけようとはしないのだろう。 はは、居眠りバンザイ。 「あぁーあ、何やらかしたのさ」 よつん這いになりながら階段へ向かう途中、あの男の子が私の行く道を阻んだ。 「え」 「て言うかそんな格好してたらパンツ見えるよ」 こらこらこら。 男の子が女の子にそんなこっぱずかしいことを平気で口にするんじゃない。 私はばっと後ろのスカートをひっぱって、ぺたんとその場に座り込んだ。 槙に同じことを言われてもさらっと流せてしまうのに(まぁ、同姓だからね)この男の子が指摘することは全て恥ずかしく思える。 滅多に顔を出さない私の中の乙女がこの男の子のせいで目覚めてしまうのだ。 「静かにしてくんない? バレたらあなたもやばいよ」 「何が?」 すっとぼけるか、このやろう。 「え、だから、サボってるのばれちゃうよって」 「あぁ、別にいいけど」 よくないでしょうと思っても口には出さなかった。 この男の子には何を言っても通用しない。 逆に私の存在がどんどん小さくなっていくだけだ。 そう呆れと諦めをため息に混ぜて外に吐き出し、今度はよつん這いではなく中腰になって、しかもおしりに手を当てながら男の子を避けて通り過ぎた。 ようやく階段が見えてきた。 ここまで来ればミスター現国には見つからないだろう。 さっきまで夏目漱石の素晴らしさを長々と語っている声が聞こえたから。 相当酔ってるぞ、自分に。 「君、本当に僕の名前忘れた?」 階段を一段下りたくらいで、後ろからまた男の子の声が聞こえた。 「覚えてない?」 「何でそんなこと聞くの?」 「だって、君は僕をあなたって呼ぶじゃん」 「て言うか何でついてく」 「僕が質問してるの」 あぁ、また男の子のペースにはまってしまった。 抜け出すのは不可能に近いな。 それに忘れているわけじゃない。 忘れるわけがないのだ。 どんなに私の脳みそがつるつるのしわなしでも、この男の子のことは忘れたりしない。 だた、思い出すのがむず痒いだけなのだ。 「……篠崎 疾風」 「はい、よくできました」 そう言いながら男の子は私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。 ほら、また私は恥ずかしくて逃げ出したくなる。 本当に予測不可能。 謎の多い、篠崎 疾風。 やめて、と手をはらう前に、男の子はにっこりと笑顔を見せ、何も言わずに階段を下りていった。 するとチャイムが鳴る。 現国の授業が終わったらしい。 ミスター現国は廊下に私の姿がないことに気付き、階段で呆けている私はあっという間に見つかった。 そしてあとあと呼び出しを食らった(当然だ)。 こっ酷く叱られ、大量の宿題(夏目漱石についてレポート10枚)を言い渡され、私はあの男の子を思った。 恨むぞ、ちきしょう。 出会うとろくなことがないぞ、ちきしょう。 しかし、やっぱりどこかまた会えることを期待して、廊下をとぼとぼと歩いて次の授業に向かった。 12: 名前:(-∀・*都粒*・∀-)☆2012/01/19(木) 23 12 55 10. 今日、4限目の教室に家庭の害虫が一匹、背中を黒く光らせ私の足元に突如として現われた。 廊下側の後ろの隅っこにある掃除用具箱の中からかさかさと這い出てきたようだ。 ところで皆さん、ここで思い出してみよう。 私の席はこの教室のどこに位置していたか……。 私はそれ(もう名前も言いたくない)の姿をなるべく視界に入れないように、静かに席を立ち廊下へと非難した。 非難して数秒、教室からは叫び声が聞こえた。 あぁ、そういえば槙もあれ苦手だったと思う。 泣いてなければいいけど。 みんなごめんね、知らせないで。 心の中で呟く。 放心状態で廊下を歩いてみる。 幸い昼休みに入っているから授業の心配をする必要はない。 ゆっくり歩いて、あれの姿かたちを忘れることに専念しよう。 魂が少しばかり抜けている気がした。 ちゃんと地面に足がついているかわからない。 あれのせいだ。 というか、何であれが私の足元に、よりにもよって私の足元に……。 泣き叫んでしまいたい。 「あれ、奏。どうしたのこんなとこで」 あ、寛ちゃんだ。 ぼーっとする頭でそれだけ確認すると、何だか視界が曇って鼻がつーんとしてきた。 「か、寛ちゃ……」 「え、何、どうしたのさ」 不甲斐ない。 こんなことで泣いてしまうなんて。 「あぁ、とりあえず涙拭いて」 寛ちゃんはきれいに畳まれたハンカチを差し出した。 私は寛ちゃんの姿に安心したのか、(ハンカチを無視して)ぼろぼろ泣いてしゃくりあげてしまった。 そんな私を見た寛ちゃんは、もうしょうがないなぁ、と笑いながら私の頬の水滴を拭ってくれた。 なんて優しい奴。 少し落ち着いた私は思わず寛ちゃんに抱きついてしまった。 「奏?」 「やぁー……もうあれ嫌い……」 「あれ?」 「黒い、むし……」 「は? ……あぁ、ゴキブリね」 それで泣いてたのか、奏も女の子だね、と寛ちゃんは笑って私の頭を撫でてくれた。 ざわざわと周りがざわめく。 そりゃそうだよ、廊下で抱き合っている男女なんて青春真っ只中の子たちにはいい噂話になるでしょうよ。 私は寛ちゃんから離れた。 顔が熱い。 「落ち着いた?」 あぁ、それでも周りなんか気にしないで優しくしてくれる寛ちゃん、やっぱり大好き。 私はこくりと頷き、お腹に手を当てた。 するとそれに答えるかのようにぐーっと音が鳴った。 「はは、いい音」 はい、と言って寛ちゃんは飲みかけのいちごミルクを差し出した。 私はちゅるちゅるとそれを飲む。 「おいしいでしょ。腹の足しにはならないけどね」 「……ううん、ありがと」 それじゃ帰りにね、と言って寛ちゃんは爽やかに去っていった。 私はため息をつく。 寛ちゃんのいいところを見つけられた今日に、満足しすぎて漏れたため息だ。 明日の授業参観も何とか乗り越えられそうだと思えた。 13: 名前:(-∀・*都粒*・∀-)☆2012/01/24(火) 16 52 16 11. 学校へ向かう足取りがとても重い。 なかなか前に進んでくれない足を必死に動かし、教室についた頃にはもうくたくただった。 机をじーっと見つめる。 鞄は中身を出さずに机の横にかけたまま。 正直に言おう、私は今日授業を受ける気はない。 朝のHRが終わったらすぐに保健室に逃げるつもりだ。 そう、それは今日が授業参観だから。 廊下からただでさえ空気の悪い教室にまできっと汚染は広がるだろう。 想像しただけで息苦しい。 はぁ、憂鬱。 昨日の寛ちゃんの優しさから元気をもらったつもりだったけど、それすら敵わないほどマダムたちの老いへの抵抗は激しい。 廊下でくつろぎに学校へきている私にとっては苦痛以外の何者でもない。 ため息を何回吐いたかわからないくらいだ。 「かーなーで」 何かいいことでもあったのかね、この子は。 いつも以上ににこにこしてスキップしながら私の席に来た。 「んーはよ」 ため息混じりの生返事。 「おはよ。ねぇ、今日奏のママ来る?」 「来ない来ない。来るわけないじゃん」 「何で?」 「だって面倒くさがりだもん、うちのママ」 「そうなんだ、残念だね」 何が残念だか。 槙は俯いて少しだけしょんぼりした。 「槙のママは?」 「もちろん来るよ。それにパパも来るし」 あらまぁ、お父様までいらっしゃるの。 槙は私と正反対に授業参観が好きだ。 それはただ単にパパとママが大好きなだけなんだけど。 「あぁ、早く逃げ出したい」 「ん?」 「なんでもない」 槙は今日授業のある科目すべての予習をしてきたとノートを広げて自慢気に見せた。 苦手な数学までびっしりと解かれている。 苦労したんだ、という槙の声がだんだんと遠のいていった。 あぁ、今すぐ保健室行きたい。 担任の先生はまだ連絡事項を伝えていた(誰も聞いてないけどね)。 14: 名前:(-∀・*都粒*・∀-)☆2012/01/27(金) 16 14 09 12. 100円玉を自動販売機に入れる。 ボタンが一斉に光りだした。 ボタンを押すとがしゃんと麦茶が落ちて、ついでに10円玉がことんと落ちる。 うちの学校の自販機は貧乏高校生に優しい、どれも1本90円。 「本当、給料日前だと助かるんだよね」 ぷしゅっと隣で音がする。 思わず私は麦茶を落としてしまった。 あの男の子がスポーツドリンクを腰に手をあて飲んでいる。 いつの間に隣に……神出鬼没だぞ、篠崎 疾風。 足元にはこれでもかというくらい麦茶が入っている大き目の買い物袋(環境に優しい)。 何なんだ、この大量の麦茶は。 「麦茶あげないよ」 いらないよ。 「これで1ヶ月しのぐんだから」 どうぞご勝手に。 くすくすと人を小ばかにしたような笑い方。 私は男の子から視線を逸らし、自分の麦茶を拾って保健室に向かおうとした。 関わるとろくなことないのは経験済みだ。 早々と退散した方がいい。 「こら待て」 私は腕を掴まれた。 「その麦茶、もう飲めないでしょ。1本あげるよ」 「あ」 冷たすぎて気付かなかったが、私の持っている麦茶はさっき落としてしまってあっちこっちに穴が開いて零れだしていた。 手がびしょびしょ、スカートもびしょびしょ。 「いらないよ」 私は男の子の手を振り解いた。 また麦茶が落ちる。 「あげるって」 足元で麦茶が飛んだ。 「いらない、もう飲みたくないもん」 「僕はあげたいの」 さっきはあげないって言ってたくせに、本当に理解不能だ。 ここで負けてはいつものパターン、負けるな自分。 「いらな」 「はい」 男の子はにこにこして私に麦茶を渡した。 あぁ、結局また同じパターンで押し切られた。 憂鬱がレベルアップした気分だ、最悪。 でも、何だかほっとした。 「これからどこに行く気?」 押し付けられた麦茶を開ける。 私は麦茶を一口含んで、男の子を無視してすたすたと歩き始めた。 きっと保健室のベッドは埋まっているだろうな。 「どうせ保健室に逃げるんでしょ」 この時私は〝逃げる〟という言葉に異常に敏感になって反応した。 図星なんだけど。 「そんなんじゃ」 「一緒においで」 「は?」 「ほら、手」 男の子は右手にあのたくさん麦茶が入った袋を持ち、左手で私の右手を掴んだ。 振り払おうとすれば振り払えたはずだ。 しかし、私の中にそんな意志はどこにもなかった。 ただ、この男の子のことをもっと深く知りたい。 この男の子に対する好奇心だけが、私の中でのた打ち回っているだけだった。 15: 名前:(-∀・*都粒*・∀-)☆2012/01/28(土) 14 30 25 13. 今どきちゃぶ台なんてあるんだ。 3畳分の畳の上に布団がきれいに畳まれている。 テレビにラジカセ(古臭い)、机に本棚に、それと箪笥に小さい冷蔵庫。 少し昭和ちっくのお部屋が私の目の前に広がっていた。 しかし、ここは学校。 今使われている校舎と少しばかり離れたところにある旧校舎へと繋ぐ架け橋。 連れてこられたのは、誰も入ることのできない閉ざされた渡り廊下。 「僕のハウスへようこそ」 いやいやいや、ちょっと待て。 突っ込みどころ満載のこの光景を私はどこから潰していけばいいのか。 「あぁ、ちゃんと上履き脱いでからあがって。掃除するの面倒くさいから」 この状況にうまく順応しろというのか、篠崎 疾風。 無理な注文に私は戸惑いを隠さなかった(めちゃくちゃおろおろしてみせた)。 私は確かにこの男の子のことをもっとよく知りたいと思った。 突然現われ、私のぱんぱんになった心に余裕の隙間を与えて、何事もなかったかのように去っていく。 まるで物語の中のヒーロー的存在(そして私がヒロイン)。 この特別で奇怪な(やたらと絡んでくる)男の子のことをもっと知れたら刺激的で楽しい毎日を送れるかなとは思っていた。 しかし、これはまた現実離れした事実が露骨に私の脳内に侵入してくる。 受け止めきれない場面が、許容範囲を悠に超えて私に迫ってきている。 となれば話は別だ。 ファンタジーへの扉が開かれそうな非現実的なことを私は求めていない。 そんな事実いらない。 「あ、犬嫌い?」 思考回路をフル回転していて気付かなかったが、子犬が1匹、私の手をおもちゃにじゃれていた。 「いや、きらいじゃないです」 「そう、よかった」 何がいいのかわからない。 あぁ、そうか。 私は保健室で寝ているんだ。 そしてこれは夢だ。 何だ、よかったよかった、早く覚めろ。 「わんちゃんかわいいねぇ。ちょっと爪が痛いけど」 ……痛いってさ、夢じゃないじゃん。 自分で自分がかわいそうに思えてくる。 「学校で拾ったんだ」 んなわけがあるか! と大人気なく突っ込むのはやめた。 これはもう本人に聞くしかない。 考えていても(心の中で突っ込んでも)埒が明かない。 はい、紅茶、と男の子は来客をもてなすのに夢中になっていた。 どうやらここにきたのは私が初めてのようだ。 ずっと笑顔を絶やさない。 出された紅茶を静かにすすり、とりあえず気持ちを落ち着かせようと努めた。 そしてふうっとため息をついて、私は男の子を見つめた。 聞こう、一体あなたは何者なのか。 男の子はにこにこと私の顔を眺めていた。 16: 名前:(-∀・*都粒*・∀-)☆2012/01/28(土) 14 32 24 14. 「僕が君に惹かれたのは、この渡り廊下から見える景色の異変に気付けると思ったからなんだ。 この部屋は、ただ単に誰にも知られず僕だけの憩いの場を作るために、家から色々持ってきて作っただけ。 何の仕掛けもからくりも秘密も隠されてない。 平凡で普通の部屋。 君がなぜこれくらいで目を丸くするのか僕にはわからい。 理解できないよ。 だって君は廊下で寝る事ができるじゃない。 廊下が一番居心地がいいと思っているんでしょ? だったらこの静かで快適な空間が誰にも邪魔されずにただ在しているだけなんてもったいないと思うはずでしょ。 その思考が働けば自ずとこういう風景が誕生するわけさ。 驚くことはない。 僕の気持ちは君の気持ちとほぼ同じだからね。 いい廊下を見つければ廊下を自分なりに過ごしやすくしたいという願望が湧く。 そして、ここは普通の廊下じゃない。 旧校舎と唯一繋がっている渡り廊下だ。 刺激されるでしょう。 古すぎず、真新しすぎず、誰にも邪魔されないし気付かれない。 鍵もついてるから盗難の心配もない。 平凡な暮らしを一転させる興奮があるでしょう。 保健室でサボるよりこっちの方が何億倍も快適だしのびのびできるし。 だから、保健室に行こうとしてる君を見て、君にだったら知られてもいいと思ったから連れてきた。 それと最初にも言ったように、ここから見える景色の異変に気付いてもらいたくて、連れてきたんだ。 君がその異変に気付いてくれれば、僕の個人情報をあなたに提供します。 何でも話してあげる。 だからさ、秘密を共有しよう、奏」 19: 名前:(-∀・*都粒*・∀-)☆2012/01/30(月) 16 58 10 15. 犬はいつの間にか布団の上で丸くなっていた。 散々人の手をひっかいたりかじったりして大暴れしていたのに、今じゃぬいぐるみのようにその場にいるだけ。 動きを誰かにとられてしまったみたいだと思った。 紅茶の匂いが、この不可思議な部屋に立ち込める。 チャイムの音も、生徒の話し声も、廊下に響く足音も、この空間には入ってこれない。 私と……疾風だけの空間になっている気がした。 何だか、とても眠くなる。 「紅茶のお代わりいかが?」 男の子……疾風はにこにこしながらティーポットを傾け、私の返事を待たずに紅茶を注いだ。 よほどその動作が気に入ったのか、自分のカップを空にしては注ぎ、満足そうに笑みを浮かべ、飲み干してはまた同じ流れを繰り返していた。 ちゃぶ台の上にはせんべいが山のように積まれて辛うじて木のお皿に収まっている。 これは1枚取るのに相当な神経が必要だろう。 少しでも揺らせば崩れてしまいそうなほどてんこ盛りになっている。 どうやって積んだんだ。 「せんべい食べたかったら食べていいよ」 廊下は止まれない 続き
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83: 名前:+椎名+☆04/07(木) 07 50 52 門の前には先生が立っていた。 先生は大声で急げ急げと言っている。 私は全速力で学校に駆け込んだ。 「ぜぇ…ぜぇ……」 「おっ、凄いな渡辺!残り1分だったぞ!」 すごくはないと思うけど… 「かーなーー!」 すると校舎から私を呼ぶ声が聞こえた。 窓から手をふっていたのは…唯科だった。 私も笑いかけてピースサインする。 あぁ、こんな日々が続くと思ったのに… 私の人生はどうして…どこで狂ってしまったんだろう… 84: 名前:+椎名+☆04/07(木) 08 00 03 昼食の時間、(早いですが…) 私は唯科と2人机を並べて食べる。 うわ、今日の弁当ラッキー! 私の好きなポテトサラダ、唐揚げ、海老しゅうまいが入ってる! お母さんにありがとう!と心の中で感謝しながら食べる。 まずはポテトサラダ。 うちのポテトサラダは甘味を入れるためにりんごを入れる。 私はそれがとても好きだ。 次に唐揚げ。 いつもより小さめな唐揚げだったが、塩胡椒でしか味つけしてなく、 カリカリしていて美味しい。 最後は海老しゅうまい。 これは一口で食べ終わる。 私はあっという間に弁当を食べ終わる。 「早!」 「今日は大好きなものばっか入ってたんだぁ!」 「ええ、こっちは大嫌いなもの毎日ひとつ入ってるから…」 唯科は箸で冷凍グラタンを指す。 へー…グラタン嫌いなんだ… ていうか毎日とかうらやましい…… 私はこの後、授業中唯科と手紙をまわしたりして楽しんだ。 しかしもうすでに私は不幸せだ。 85: 名前:+椎名+☆04/07(木) 08 12 40 家に帰るとお母さんが出迎えてくれる。 「ただいまー!」 「おかえりー。あっ、香菜!鳥かごあけっぱなしだったわよ?」 お母さんがサラリと言う。 あっ、寝る前にあけっぱなしで出て行ったんだ… 私の可愛がっている小鳥はピィちゃん。 とても可愛くて私の相棒だったり。 ていうか、あけっぱなしってことは…逃げてる!? 私は部屋に鞄を置いて隣の部屋に行く。 ピィちゃんを置いているのは隣の部屋だ。 私の部屋に置く場所がなかったからとりあえずここに置いておいた。 ドアを開けると開いた鳥かご。 しかし部屋には何もいない。 やば…逃げた…… 私は慌てて外に出ようとする。 するとお母さんに呼び止められる。 「香菜、お母さん用事あるしついでに探しておくから洗い物しててくれる?」 こんな時にうちの母親は…! 私は渋々了解し、お母さんを見送る。 「お母さんってば…仕方ない!やりますか。」 私は台所に行き、洗い物をする。 家事は得意な方だからあっという間に終わった。 そして横にはピカピカの食器。 完璧! 私はごみをごみ袋に捨てようとした。 でも私は一瞬手を止めて固まった。 中に多数のピィちゃんの羽と赤黒くて肉片の少しついた骨があったから… 91: 名前:+椎名+☆04/09(土) 22 03 57 1時間後、お母さんが帰ってくる。 「ただいまぁ…ピィちゃん見つからなかったわ…」 微妙に微笑んで私に言う。 その言葉を聞いて私はピィちゃんの羽を見せる。 「…これ、ごみ袋にあったんだけど… 母さんがやったの?」 お母さんは少し黙りこんでから言う。 「そうよ~!美味しかったでしょ?」 お母さんは買い物袋からたくさんの服を取り出しながら言う。 私はまったく意味がわからなかった。 まさか… 「か•ら•あ•げ•は。ねぇ?」 そう、私が食べた唐揚げ… あれがピィちゃんだったのだ。 鏡の前でポーズしながら服を合わせるお母さん。 服をよく見ると襟のところに機械がついている。 「母さん…それ……」 「どう?似合う~?お店からひったくってきちゃった。」 高笑いしながら私に数々の服を見せる。 あぁ、どうしてしまったの…? 幸せになれたはずなのに…また狂ってしまった…… 92: 名前:+椎名+☆04/09(土) 22 25 11 次の日、私は母さんのひったくってきた服をすべて袋にいれ、出かける。 そう、店に返しに行くところだ。 多分私が疑われる。 それでもいい。 母さんは…本当は苦しいと思うから…… 何があったかはわからないけど… きっといつか元に戻ってくれる… 私はそう信じていた。 店の名前は値札の裏に書いていたのですぐにわかった。 [ KOMOMO ]… それは有名な洋服店でもあり、可愛い服がたくさんあった。 私が店に入るとセンサーが反応してブーブー!と警報が鳴る。 まあこうなるよね…… 店員はすぐに入り口に来て辺りを見回す。 そういえば…外から入ってきたから…… 盗む場合は中から外に出るはずだから…… 逆じゃん。 私はあの…と店員に声をかける。 「君、どうしたの?犯人見たの?」 「はい。ですから店長と話させてください。 犯人なんて…知らない。 機械を鳴らしたのは多分私だけど… 店員は私を店の奥へと連れて行ってくれた。 ……これで本当によかったん…だよね? 97: 名前:+椎名+☆04/12(火) 23 09 34 「で、私が店長ですが…」 店の奥の部屋には30代ぐらいのおじさんがいた。 「あの…ごめんなさい!これ、母が盗んだ物です!」 私はお母さんが盗んだ物を出す。 そして店長は品々を確認する。 「確かに…これは盗まれた服ですね。 ちなみにあなたのお母様の特徴は…」 「えっと…黒のロングで右目の下に黶が…」 店長はテレビ画面を見て確認する。 そこには防犯カメラのと思われる映像があった。 そこにはお母さんが服を詰めて店を出る姿がちゃんとうつっていた。 醜いかも…… 「確かに…でもなんで君が?」 「母は…昔とは変わってしまったんです。 でも戻ってくれると信じてるから…私は…」 店長はやれやれという顔で言う。 「…今回は君が正直に返してくれたから警察には通報しないよ。 でもお母様にちゃんと注意しててください。」 私はまさか許してくれると思わなかったので一瞬固まってしまった。 「あ、ありがとうございます!」 よかった… 私はお辞儀をしてから店の外に出る。 でもお母さんはどうしてしまったのか… 帰りながら考えていた私は…なんで別のことを考えなかったんだろう… …私の家の前にパトカーが止まってるのに… 98: 名前:+椎名+☆04/13(水) 16 02 33 「え……」 家の中から複数の警官が1人の女性を取り押さえてる。 それに対して女性は必死に抵抗し、暴れる。 「か、母さん!」 私が叫ぶと警官がこっちを見る。 そして1人の偉そうな警官が私に近づいてくる。 「渡辺間弧(お母さんの名前)の娘さんかな?」 私は警戒心を持ちつつも頷いた。 「君が盗んだ物を店に返してくれたそうだね。 店長さんも嬉しそうにしていたよ。」 えっ? 待って… 嬉しそうにしていた? 「店長と…会ったんですか?」 「会ったというか通報してくれたのは彼だよ。」 そう言うと後ろにいた男性がこっちを見る。 あの店の店長…… 「君のお母さんはね、暴行や窃盗で逮捕状もでているんだ。」 じゃあ私のやったことは…無意味? 母さんは結局…罪があったから……結果は同じだったの? そんな… 「店長さん…約束してくれたじゃないですか…」 私が涙をこらえて言うと店長は大笑いする。 そして私を警官から離して小声で言う。 「犯罪者をほうってはおけないだろう?それに娘がきたんだ。 聞き出して警察に通報すれば株が上がって店の人気があがる。 たかが約束なんかで筋通るわけないだろ。 約束は裏切るためにあるんだよ!」 店長はそういうと警官にニコッと笑いかけて駆け寄る。 約束は……裏切るために… その言葉だけが深く突き刺さる。 ねぇ、 私はもう…何を信じたらいいの? 103: 名前:+椎名+☆04/29(金) 22 27 14 「おはよー。香菜!」 いつも通りに学校に行く。 でも…あんなことがあった後だ… みんな何も知らない。 「…………うん。」 「暗っ!どうしたんだー香菜?」 何も知らないくせに…何言ってんの…… 私は友達の唯科でさえ腹がたった。 その時だった。あの言葉を思いだしたのは。 約束は裏切る為にある。 裏切り…… そうか…ははっ…そうだよね。 この世の中嘘しかないんだ。 どうせ唯科も同じなんでしょ… 「唯科、あんたの目的は何?」 「……え?」 「私と仲良くなって何すんの? 何かおごらせる?それとも盗ませる? 私と仲良くなっていらなくなったら捨てるんでしょ?」 そうだ…こんなこと前にもあったよね。 岼華と同じ…… 「あんた何言ってんの!?あたしそんなこと考えてない!」 「嘘…どうせ世の中嘘ばかり… だって約束とかは裏切るためにあるんだもんね。」 もう誰も信じられない。 私のまわりにいる友達、クラスメイト、隣人… 全員どうせ同じなんだから… 7日間の醜いゲーム。 続き6
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31: 名前:(㍊^∀^㌶)☆07/28(水) 02 17 10 ルール 1.まず1.2.3.のそれぞれ2枚、 合計6枚のトランプを両者が所持 2.1ターンにつき両者1枚ずつ出し、例えば自分が偶数ならば、相手のカードと自分のカードの合計が偶数ならば自分の勝ち。奇数なら相手の勝ち。 3.自分が偶数ならば偶数を、奇数なら奇数をより多く出した方が勝ち。 「どう?やる?」 「上等だコラァ!! 勝って、お前を犯してやらぁ!」 34: 名前:(㍊◎ω◎㌶)☆07/28(水) 12 09 37 「じゃあ、やりにくいだろうけど、その6枚をシャッフルして伏せて」 俺はDが言うままにカードをシャッフルし、伏せた。 Bも同じようにシャッフルし、伏せた。 「あなたのめくったカードと、あたしのめくったカードの合計が奇数なら、あなたの勝ち。偶数なら、あたしの勝ち。いい?」 「ああ」 35: 名前:(㍊◎ω⌒㌶)☆07/28(水) 12 35 24 「あたしはこのギャンブルにコインを5枚賭ける。あなたは?」 「10枚全部やるよ。 俺に勝てたらな。」 D side 彼のこの自信がどっから来るかは知らないけどまあいいわ。あたし、こういう勝負は慣れてるのよ。 「へえ。随時自信があるのね?」 「無駄口叩いてないでさっさと始めろよ」 「はいはい。じゃあめくるわ。あたしは…2ッ!!」 「糞ッ!!俺も2。偶数か…」 「じゃあ次は…3」 「また偶数かよ!! 俺も3だ…」 こんな感じでゲームは進んでいき、結果 偶数が出た回数4 奇数が出た回数2 一回目合計4 二回目合計6 三回目合計3 四回目合計3 五回目合計4 六回目合計4 36: 名前:(㍊^ω^㌶)☆07/28(水) 12 52 02 「あたしの勝ちね。コイン全部、もらうわ。」 あたしはBの手からコインを奪い、小箱に入れた。 ガチャッ と音がして、 箱が開いた。小さな鍵が入っていて、それで首輪を外した。 「おめでとうございます。予定より早く勝敗が決まりましたので、B様のタイマーを早送りさせていただきます。」 「ぐッ!! あぅッ!! く、苦し…」 「さようなら。あなたとセックスできなくて残念だわ。フフフ」「そ…だッ、楽、しみに、うぐっ… してるって、言ってたよな?だったら… 最期に……ッ、 ガアアアアアアアア!!」 BはDを苦し紛れに 押し倒した。 37: 名前:(㍊^ω^㌶)☆07/28(水) 13 12 09 「ちょっ、止めてッ、あたしは、あなたが勝ったらって」 「た…のしみ…してた…だろ…ぉッ」 Bは足でDの両腕を踏みつけ、Dの胸に両手を置いた。 「ッ!!何すんの、この変態!!」 BはDの胸に手を置いたまま、指を動かし、揉む。 「キャアアアアアアアア!!止めろ変態ぃぃ!!」 Dの顔にBの舌が涎を垂らしながら近づいてきたが、触れる寸前で止まり、Bの眼が白くなっていた。焦点が定まってない。 「カハッ」 その涎はDの頬に垂れ落ちた。 そのまま前に倒れた。 39: 名前:(㍊⌒ω⌒㌶)☆07/28(水) 13 24 00 Dは頬の涎を拭きながら、さっきの部屋へ戻った。 すると、若い男が言った。 「今の勝負はフェアな勝負じゃない。お前の方が高い確率で勝てるよう仕組まれたゲーム。そうだろ?」 40: 名前:(㍊◎ω◎㌶)☆07/28(水) 15 35 30 「何を根拠に?」 「例えば1が出た場合 1+1=2 1+2=3 1+3=4 例えば2が出た場合 2+1=3 2+2=4 2+3=5 例えば3が出た場合 3+1=4 3+2=5 3+3=6」 「それがどうかしたの?」 「ここまで言ってまだしらばっくれるのか? この全ての合計数を考えればわかるだろ。 1の場合 2.3.4 2の場合 3.4.5 3の場合 4.5.6 偶数5つ 奇数4つ 偶数のが多いだろ?」 41: 名前:(㍊◎ω◎㌶)☆07/28(水) 15 58 51 「つまり、偶数が出る確率5/9 これはさっきのゲームを3枚でやった場合。さっきは6枚だったから、10/18だな。」 「そんなちょっとの確率で大きく差がつくワケないでしょう?仕組むならもっと高い確率で勝てるゲームを仕組む物じゃない?」 「だったらさっきのトランプかりて何回かやってみるか?」 そしてその男はさっきのトランプを持って来た。 何回かやったがそのほとんどがその男の言った通りになった。 「ほら。何回かやったけど、偶数が勝つことが多かったろ」 Dは笑いながら、拍手をした。 「フフフ…ハハハハ…アハハハハハハハ………。よくデキました~。ハハハハ。 で?だから何?反則とでも言いたいワケ?」 「いや?勝負方法は何でもいいっつってたしな。ただそうじゃねーかな?って思っただけ。」 50: 名前:(㍊゚_゚㌶)☆08/04(水) 21 36 29 Dの女は不適な笑みを浮かべていた。 途端に部屋のドアが大きな音をたてながら、ゆっくり開いた。スローモーションのようにゆっくりな足取りで、仮面の男が入って来た。その後ろからは、 ライフルを持ったサングラスの男達が9人入って来た。 「おい」 静まった中で口を開いたのは、先程Dのイカサマゲームを見破った男。Xだ。 皆の視線が一気にそこに集中した。 低いドスのきいた声で男が口を開いた。 「何でしょう?」 「お前等の目的は何だ?何故こんなことをさせる?」 51: 名前:(㍊゚_゚㌶)☆08/04(水) 21 43 27 男はしばらく黙っていたが、ようやく口を開いた。 「娯楽ですよ。我々のね。」 「どういうことだ?」 肉親を殺された人間が犯人へ向けるような、獣が餌を前にした時のような、鋭く光った眼をXは仮面の男に向けた。 63: 名前:(㍊゚д゚㌫) (HackerOF.g)☆08/26(木) 01 48 50 途端に、部屋の隅のドアのドアノブが降りた。そのまま、ゆっくりとドアが開いた。 「これより、外にある屋敷へと移動します。」 そして皆は、目隠し、猿轡もされずに、ドアをくぐった。 しばらく廊下を左に曲がったり、右に曲がったりしながら進んで行くと、ある部屋に辿りついた。その部屋に入ってすぐ右側に、階段があった。 階段が長いのと、部屋が暗いこともあり、その階段がどこまで続いてるかわからない。 「ここで何かするのか?」 沈黙の中、口を開いたのはXだった。 「いいえ、この階段を登り、外へ出ます。先程も申し上げた通り、次のゲームは、外にある屋敷で行います。 64: 名前:(㍊゚д゚㌫) (HackerOF.g)☆08/26(木) 01 59 04 「次のゲーム………。こんなことをいつまで続ける気だ?」 「お答えしかねます。」 そのまま男はその階段を登って行った。 それに続き、Xが登って行く。後の全員も、それに続いた。 しばらく階段を登り、ようやく外へでた。 すると、そこには大型トレーラーが三台、用意されていた。 そこで猿轡と手錠をされ、トレーラーに乗せられた。 目隠しはさせられなかったが、トレーラーの中の窓にはブラインドがかけられ、外の様子を伺うことは出来ない。手錠、そして足をロープで縛りつけられている為、窓を開けることも出来ない。 65: 名前:(㍊゚д゚㌫) (HackerOF.g)☆08/26(木) 02 16 29 トレーラーはしばらく走行していたが、ザザッと音を立て止まった。トレーラーの中のスピーカーから男の声がした。 「到着致しました。トレーラーから降りて、屋敷の中へお入り下さい。」 ここでまた人が死ぬのか。いや、死ぬのは自分かも知れない。 そう考えると、皆の心中は穏やかなものでは無かった。 屋敷の中へ入ると、そこはだだっ広い居間だった。居間の隅には階段があり、その階段の上には3つの扉があった。左から順番に、A、B、Cと大きなゴシック体で記されていた。 66: 名前:(㍊゚д゚㌫) (HackerOF.g)☆08/26(木) 02 28 52 「それでは、皆様から、先程まで使用していた、アルファベットカードを回収致します。かわりに、ナンバープレートをお渡しします。」 先程亡くなったA、Bを除く全員にナンバープレートが配られた。 「そのナンバープレートで、1から8の方をAチーム、9から16の方をBチーム、17から24の方をCチームと致します。」 「今から、皆様にやって頂くゲーム、それは」 ジョーカー ダウト ルール 1.A、B二択の質問をこちらが提示 2.その二択に答え、Aだと思う人が多くなるか、Bだと思う人が多くなるかを当てる。 3.A、Bで比べ、少数派が勝利。 67: 名前:(㍊゚д゚㌫) (HackerOF.g)☆08/26(木) 02 37 15 「ルールはわかりましたね?では、問題はあした提示致します。今日は疲れたことでしょう。Aチームの皆様はAの部屋、Bチームの皆様はBの皆様、Cチームの皆様はCの部屋で、お休み下さい。」 それだけ言い残し、男は去って行った。 69: 名前:(㍊゚д゚㌫) (w4S6EbhENA)☆08/26(木) 02 52 54 「おっと、一つ言い忘れていました。 もし少数派が最後の一人だった場合、その人物には敗者に対し、3つの選択肢があります。 1.次のゲームへ進ませるか 2.死なせず辞退させるか。 3.敗者として殺すか。 また、その人物も、辞退するか、次のゲームへ進むかは自由です。」 70: 名前:(㍊゚д゚㌫) (HackerOF.g)☆08/26(木) 02 56 42 「そして、皆の答えが一致した場合は、仕切り直しとなります。」 死のゲーム 続き2
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提供:pon(OMANKO/6GA)、HOYA ななたん(????年?月?日-)はピコ森のご意見番と言われる。 歯に絹着せぬ物言いのため敵も作りやすいが、 その卓越した独自の理論に基づく明晰な意見は誰もが一目置くもの であり、多くのピコ森住人より圧倒的な支持を得ている。 情報技術などの知識も豊富。 その他 スレ進行は基本sage。 目立ちたくないのだろうか。
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旭が泥酔してしまったので、地の分は第三者目線となります。 「笑うなっての! 真剣なんだぞ、俺は」 真っ赤な顔をして旭は慎也をにらみつけた。 が、そんな攻撃は慎也に通用しない。さらっと笑顔でかわすだけだ。 「旭がそんなこと言ってくれるなんて。…嬉しいな」 「なーにが嬉しいだよ。大体お前、本当に俺のこと好きなんか? 四年間もほったらかしにしやがって」 旭はなおもスパークリングを飲み続けている。 もう意地になっているようだ。 慎也の方はというと、一杯目から殆んど口をつけていない。 たぶん、酔わずにこの光景を覚えておきたいのだろう。…酔ったら記憶がなくなってしまうから。 「寂しかったのか?」 にやりと笑って慎也は言う。…言わしたいのだろう、寂しかったと。 「あ? 俺に聞いてんのか? どーせ"寂しかったぁ"って言わせたいって思ってるんだろ」 「ふ、よく分かったな」 「お前はそういうことしか頭に無いんだな。あとは下ネタ。ろくな大人になんねえぞ」 「もう大人だ」 「人の揚げ足をとるな! 嫌われっぞ」 持っていたグラスを、テーブルの上に静かに置くと、慎也は身を前に乗り出した。 「俺は、お前に好かれていたらそれでいい」 低音の美声で旭の鼓膜を貫くように囁くと、旭はスパークリングを飲む行為を一瞬止めた。 「好きだよ、旭。好きとか言う次元じゃない。言葉では言い表せない。死ぬほど愛してる」 旭の頬が紅潮したのは、アルコールを摂取したからだけではないようだった。 「…俺も」 目はとろませ、顔は赤らみ、心臓は爆発するくらい高鳴っている。 それでも旭は最大限に勇気を出し、次の言葉を発した。 「慎也のこと、大好きだ。…ホントに、本当に寂しかったんだ」 涙腺が緩んで視界が見えなくなっているようだった。 俯きながらも旭は言葉を紡ぐ。 「お、…お願いだ。もう…もう俺を置いてアメリカなんて行かないでく…ッ」 最後の一文字、"れ"が言えなかったのは、慎也が旭の唇を塞いだためだった。 熱く溶けそうな舌を慎也が突っ込むのを、旭は慣れない舌遣いで懸命に応える。 口元から唾液がだらだらこぼれた。 「は…ん、んぅ」 椅子から離れ、旭の身体を抱きしめたまま慎也はダブルベッドへ飛び込んだ。 「ん…っぁ」 更にキスを続ける。 慎也の性格で四年間も性行為を我慢してたのだから、歯止めが利かないのはおよそ当たり前のことだ。 「…ふぅッ、ぁ」 旭に息継ぎの時間を与えてやるとまた、彼は口内にむさぼるように舌を入れる。 舌が舌を這うとそれは気持ちが良いようで、旭の感覚神経はがくがく刺激された。 「…愛してる。もうダメだ。抱いていい?」 唇を離すと今度は耳攻めだ。というか言葉攻めか? 「聞くなよ…っ」 酒に酔っている旭は、慎也の目にはいつもの百倍は妖艶に見えた。 「旭、俺に"抱いてくれ"って言ってみろ」 「何なんだその宣言プレイは。お前好きだな、そういうの」 「抱いて欲しいのか、欲しくないのかどっちだ?」 一旦言わせると決めた慎也は一歩も譲ろうとしない。 気になる女の子をからかう小学生男子のような心持ちの中に慎也はいた。 「……欲しい」 旭はバスローブのタオル地をぐっと掴んで言った。 「ん? 聞こえないな」 「んなワケねーだろっ」 じっと自分を見つめる慎也を旭は睨み返す。 それを見て慎也は笑った。 「あはは、悪い。冗談だよ。お前が可愛すぎるからからかってみたくなっただけだ」 心臓が勢い良く波打って血潮が身体全体に伝わる。 特に顔。クーラーをギンギンに効かせてあるのに、旭の顔は発熱したように熱い。 「旭、好きだ。…アメリカに一人で行ったのは謝る、ごめん。お前と一緒に暮らすために色々準備とかしてきた」 慎也は俯き加減にそういった。 言った直後に、旭が着ているバスローブのタオル地の紐を解く。 「ごめん…」 いろんな意味の謝罪の言葉を言うと、慎也は旭の身体に触れた。 「ぅあ…っ」 すぐに旭の身体は反応する。さっき、風呂の中でイけなかった分、快楽に敏感になっているのだ。 「あ…ぁんッ…ん…」 肌を慎也の舌が這うと、旭は堪えずに素直に嬌声を上げた。 「し、慎也」 チクビが唾液で濡れ始めたころ、旭が何かを思い出したように慎也の名を呟いた。 「何だ?」 「今日…お前の、誕生日…」 そう、9月11日は慎也の誕生日である。 「そんなこと…今言わなくていい」 「ご…ごめっ、俺…何も用意してない」 アメリカに行っても慎也は旭に誕生日プレゼントやクリスマスプレゼントを贈っていた。 旭もそうだったのだが、肝心な今日、忘れていたことに腹が立っていたようだ。 「何も? 最高のプレゼントがあるじゃねえか」 「…え? 何だ、それ?」 きょとんとする旭の耳元で、そっと慎也は呟いた。 「旭」 「おまっ…よくそんな恥ずかしいことを…」 それを聞いた旭の顔は更に赤みを増す。 「抱かれることだけ考えてろ、お前は」 にっこりと微笑むと、再び行為を再開する。 既に感じて尖ったチクビを慎也は甘く噛んだ。 「ッあ…、ぁあ!」 チクビでこれだ。下半身を今刺激されるとどうなるのだろう。 バスローブ姿の旭はもちろん、下着なぞ付けているわけもなく、性器がむき出しになっている。 慎也の愛撫でそれはどんどん大きくなった。 快楽をどこに表現してよいかわからず、旭はぎゅっとシーツを掴む。 その握力のせいでシーツはしわくちゃになっていた。 旭の下部分に指を這わせると、本体の方はびくびくと跳ねる。 面白がって慎也は何度も同じように指を使って愛撫した。 「イきたい?」 「…イか、ッせて」 指のみでそれを刺激し、快感の絶頂へ誘導する。 間もなくして白い精液がその先端から飛び出た。 「あ…はぁ、ッはぁ」 身体のいたるところが痙攣しているのが、徐々に落ち着いてきた。 「慎也…ッ」 求めるように旭は愛しい人の名を呼ぶ。 「何?」 「い、挿れて…ッ」 旭は蕩けそうな甘い顔で言った。 「慎也が…欲しい」 「お前は…俺を萌え殺す気か?」 口元を緩ませ、小さな声で慎也はこう呟くと、旭の穴の入り口部分に触れた。 「…ぅあッ…あ、ん…」 そこはくぷっと慎也の指を簡単に吸い込んだのだった。 「旭…、何でこんなに緩いんだ?」 「ッや、ぁ…な、…んて…?」 「誰かとヤったのか、俺がいないうちに?」 慎也は怒声をあげてそこに触れるのを一旦止めた。 「は…? 何言って…?」 「俺以外のヤツとセックスしたんなら正直に言え」 「はぁ!? ヤってねえし!!」 「じゃあ何でこんなに緩い?」 旭の内部を、指三本でかき回す。 と、そこはくちゅくちゅ鳴った。 「あ…慎ッ、やめ…」 「…ヤったのか? 俺以外の誰かと」 その慎也の声には怒りは含まれてなかった。 代わりに、とても不安そうに、悲しそうに聞こえた。 「違う、違うんだ…。お…お前と一緒だよッ」 いきなり大声を上げた旭の頬は紅潮しきっていた。 慎也はというと、旭の言った言葉の意味が理解できていないようだ。 「その…、だから! し…慎也を想って………察せよ、言うの恥ずかしいから」 慎也はきょとんとした目をしていたが、旭がそういった三秒後にはゆるやかな目付きに変わっていた。 「…どうしよう、旭。俺、嬉しすぎて心臓ドキドキ言ってる」 頭をかきなで、ついでに旭の口元にキスを落とす。 「悪かった、疑って。旭を愛するが故だ」 「アホなこと言ってないで早くしろ」 「わかったよ」 と言って頷き、慎也は旭の両脚をぐいと引き寄せた。 慎也の下半身を旭は軟膏の助け無しにいとも簡単に飲み込んだ。 「んッ…」 奥部に先端があたって旭は嬌声を漏らす。 「可愛い…旭」 初めはゆっくり、徐々に速く腰を動かす慎也。 その度に淫猥な音を立て、その部分はもう精液でぐちゃぐちゃになっていた。 「い…ぁ、ッあ…ん…」 突かれるごとに旭は快楽へ堕ちていった。 「あさ…ひッ、」 下半身を抜くことなく慎也は全裸の旭の身体を抱きしめた。 お互いにお互いの体温が感じられる。 行為が性行為なだけに平熱より確実に肌は熱い。 「…ん、やぁ」 密着した二人の距離はわずかに5センチと言ったところだ。 「慎…也……」 抱きしめられた状態で、旭は慎也の唇にキスをした。 旭自らキスするのは初めてだ。 酔った勢いなのか、それともシラフか、分からないが確実に唇をふさいでいる。 「ん…ふ、ぁ…」 された側の慎也は戸惑ったが、すぐに旭のキスに応えた。 舌をかき回す、深いキス。 愛しい人と過ごす最高に幸せの時間を二人は感じていた。 ………どうも、雪代旭です。 ようやく正気に戻りました。醜態を見せてしまって申し訳ない。 俺はもともとそんなに酒に溺れるタイプじゃなかったのになぁ。 …え? 溺れたのは酒じゃなくて慎也? すみません、今は突っ込む気には…。 あー、腰が痛い。ケツも痛い。 「おはよう旭」 普段より数段明るい声で横に寝ていた慎也が言った。 「…おはようってなぁ、一睡もしてねえだろ」 「でも朝だからおはようだろ?」 こっちはこんなにも体力奪われてるのに、何で慎也はこんなに元気なの? 不公平だ。 「つかお前、一晩に4回って何考えてんだ」 「4年分抱けって言ったじゃん、お前が。一年に1回は少なすぎるだろ」 「一気にヤるんじゃねーよ! こっちの身にもなれボケが」 俺はそう吐き捨てると慎也とは逆の方を向いてわざとらしく掛け布団をかぶった。 「ごめん、無理させちゃった? でもお前が誘ったんだぞ」 誘った…まぁそうかもしれないけど。 アルコールの摂取は気をつけないといけないな。 と俺は痛感した。 「さっさと着替えろ。お前の家に行くんだからな」 俺に笑顔を振りまくと慎也はベッドから降り、シャワールームに向かった。 「え…本気かよ…」 「当たり前だ。チェックアウト9時だから早くしろ」 やべ…止めないと俺、親に勘当されてしまうかもしれない。 こんな変態、ほっといたらダメだ。 「あーさーひー。早くー」 全裸からすぐに服を身に着けた慎也は俺を急かす。 あぁもううるせーな。こっちは疲れてるんだよ一晩中突かれまくって。 ようやく俺が着替え終わると、キャリーを持った慎也はすかさず手を引いて部屋を出た。 「ちょ、…なんだよ」 イヤに急く慎也に疑問を抱く。 「善は急げって言うだろ? 旭のご両親に早くお会いしたいんだよ」 そういや会ってなかったかも。 俺の方は会ったけど。 善は急げじゃねえよ。今から起ころうとしてることは全然"善"じゃねえよ。 カウンターにいる従業員さんに向き合ってチェックアウト と支払いを済ませる。 一応俺は慎也に言った。 「俺も半分払う」 幸い財布は持ってるし。 だが答えは、 「いらん。俺が予約したんだからお前が払う必要はない」 だ。 まぁ予想はしてたけど。 一旦そう言われるとテコでも揺るがないと思うので、俺はそれ以上言わなかった。 電車に乗った。 休日の昼間なのに珍しく車内は空いていて、二人とも座ることが出来た。 「お前のそれ」 慎也は俺の首元を指差して言った。 「前にも言ったかもしれないけど、婚約指輪がわりな」 「おま…っちょ、バカか!!」 もう一度言う。電車の中だ。 だから普通のトーンでそういうこと口走るな!! 空いてるっていっても乗客がいるんだ。一般人に聞こえたらどうする。 ……って、もう慎也には言うだけ無駄だけど。 はぁ。 その溜め息をついてからは、俺は慎也が喋りかけるのに"うん"とか"ああ"とか、曖昧な言葉でのみ返した。 疲れるぜ。私生活ならいいが、公共の場でコレだと、精神的に色々やられていく。 諦めるしかないってか? 「昨日の旭は可愛かったなぁ。俺を誘う姿勢がもう。な、また一緒に酒飲もうぜ?」 …どうやらそのようですね。 「ちょ、ちょっと待て。本気なの!?」 半ば強引に俺の家に入ろうとする慎也、を俺は必死で止めようとしているところだった。 「俺が冗談言ってると思うのか?」 いや、ま、今からやろうとしている行為は慎也ならやりかねないんだけども。 冗談言ってる姿ではないってことも分かるけども。 「大丈夫。絶対分かってくださると思うよ?」 「いやいやいやいや、お前は俺の両親の何を知ってそう言ってるんだ? 大体俺、慎也と…結婚するとか……言ってないけど」 「…そうか、"プロポーズ"忘れてたな」 慎也は歩を止め、少し考え込んだ。 それからキラキラした目で俺を見つめ、こう言った。 「旭、名字を"中田"にしろ」 「…は?」 俺は疑問の表情を浮かべる。 「ダメか。もっと違う言い方…」 また慎也は熟考し始めた。 ……そんな考え込まなくても。俺、結婚とか言われても…ピンと来ないんだよなぁ。 「旭。俺は浮気はしない。…子育ては出来ないけど、家事も手伝う。お前が"帰れ"って言った時間に必ず帰る。 経済面も、お前に苦労は絶対にさせない。だから、俺と結婚してくれ」 真剣な眼差しで慎也はそういう。 長い付き合いでよく分かる。コレは冗談を言っている目ではないと。 確かにアメリカなら州によっては同性でも結婚できるけど。 いやでも、男が男にプロポーズなんて違和感にも程があるってものだ。 俺はこういう場合、何て言えばいいんだ? 幸せにして下さいと言って慎也に右手を差し出すか。 ごめんなさいと頭を下げるか。 迷った俺の脳裏にこんな考えが過ぎった。 「…じゃんけんしよう」 「じゃんけん?」 「ああ。それで決める。慎也が勝ったら言うこと聞くよ」 「俺が負ければ別れるってことか?」 怪訝そうに慎也は問う。 「違う。俺はお前のこと、好きだか……そういう意味じゃなくって! 結婚とか考えないでオツキアイしましょうってことだ!」 ポロっと出てしまった本音に羞恥を覚えた俺は意味なく言葉の後半、大声を出してしまった。 「そんなことで運命を決めるのか?」 「いいんだよ、じゃんけんに決められることが運命なの!」 全然自分でも言ってる意味が分からない。 「じゃ、俺が勝ったら速攻ご両親に挨拶だからな」 「うっ…それは…」 俺は言葉を詰まらせた。 それとこれとは話が別…でもないか。 はぁ…、ま、なるようになればいいさ。 頷くと慎也は利き手を前に差し出した。 一発目で出たパーとチョキ。 "最初はグー"無しでやったのになぁ。 チョキは形を作りにくいから、相手が第一回目に出すのはグーかパー。 つまりパーを出しさえすれば負けることがないという戦法がある。 まして、"最初はグー"を行っていないとなおさら効果があるらしい。 だがその勝利方法はあっけなく崩された。 「最初はグーは無し、って言うからだろ。バカか」 慎也はくすくすと笑いながらからかうように言った。 …うん。そういわれるとそうだ。俺、頭悪すぎる。 だが。 じゃんけんに負けたことで一瞬は悔しいと思ったが、不思議と俺の心にマイナスな感じの気持ちはなかった。 「よし、じゃあ行くぞ」 今まで立ち止まっていた慎也は再び俺の家に入ろうとする。 「あ…、あー……」 俺がちょっと待って、とか言う間もなく慎也は俺の実家の扉を開けた。 あ、よい子は他人の家のドアを勝手に開けたりしちゃダメだぞ。 「お邪魔します」 ハキハキした声でそう言い、脱いだ靴を揃えると俺より先に慎也はずかずかと奥に進む。 一応、礼儀と言うものは携えてるんだな。 きれいに揃った靴を見て俺は思った。 アメリカで暮らしてたので土足で上がるのではないかとさえ思ったが、それは杞憂だったようだ。 「あーっ、慎也お兄ちゃん!!」 来客者を見に来たみぞれが嬉しそうに声を張り上げる。 「みぞれちゃんか? 成長したな。色々」 上から下まで視線をずらした後、慎也はみぞれの胸部に触れた。つーか揉んだ。 「何やってんだコラ。しばかれてえのか!?」 何だこのエロオヤジみたいなヤツは。そういうところは変わってねーんだな。 俺は平手を構え、慎也をはたこうとした。 「や…、くすぐったいよ」 しかしみぞれの方はそれを特に嫌がることなくけらけら笑っている。 ………おい。いいのか、妹よ。 思い返してみるまでもないが、中学生になった今でもみぞれは俺と一緒に風呂に入りたがったりする。 いや、入ってませんよ!? 流石にアレなので俺の方から断るくらいだ。 性に無頓着というか…。恥を感じないというか。 そのうち変なヤツに口車に乗せられてAV女優になっちゃうんじゃねーか? …はっ、これは失言だな。悪い、みぞれ。 まぁみぞれのことは置いといて。 来たこともないのに慎也はまるで住んでいるかのように家の構造を把握し、リビングに通じる扉を開けた。 え? 偶然だよな?? 休日とあって両親とも家にいる。 母さんも父さんもテレビを見ていた。 慎也が入っていくと二人とも酷く驚いた。 そりゃそうである。インターホンを鳴らさずして見知らぬ男が入ってきたのだから。 後から俺が追いかけるように部屋に入ると、両親は元の表情に戻った。 「お邪魔します。俺は中田慎也と申しまして――」 「えっと…ああ! 旭と恋人同士の? アメリカから帰省なさったんですね」 母さんがにこやかに言う。気のせいか必要以上に慎也を見つめながら。 …だから恋人同士とか誤解だって! 大分前に変な誤解をされたまま、両親とも俺と慎也は恋人だと思い続けているらしい。 いや、間違いでは…ないのだけども。 「ご存知だったんですね。なら話が早いです」 ぱっと顔が明るくなって慎也が言う。 「長旅お疲れでしょう? どうぞお掛けになってください」 と、父さんが椅子を引く。 すみませんと告げ、慎也は座った。遠慮知らずだ。 「それにしても…おキレイな顔立ちですね」 「お褒めいただいてありがとうございます」 みぞれは自分の部屋に戻ってしまって、ここには四人しかいない。 で、四人中三人がにこにこと笑顔。俺だけがフクザツな顔を浮かべて黙って座っていた。 「もう。ウチの息子なんかのどこに惹かれたんですか? 慎也くんとは全然不釣合いなのに…」 「そんなことはありません。俺にとっては物凄く魅力的に見えます」 …それってお前以外の人からは魅力的に見えないってことか? 何か腹立つな。 あと普通に慎也と、如何わしき会話を普通にしている両親もどうなのだろう。 こんなに楽観的な人たちだったっけ? 「実は旭とのことでお話があって今日、うかがったのですが」 うわ来たよ。二言目にはアレですよ。 いいじゃんもう! いい加減腹決めろよ、俺。 「お父さまお母さま、俺と旭の結婚を許してください」 はい言ったー。俺、今人生最大の難関を感じてるんじゃね? 俺は恐る恐る、目の前にいる二人の顔を見た。 もちろん、驚いている。そりゃそうだ。 「結婚? ではアメリカで暮らすということですか?」 「はい。旭には何の不自由もさせません。絶対幸せにします」 両親はお互い、顔を見合わせた。 そして、次の瞬間には…驚いたことに笑っていたのだった。 「あはははは、それはいいですね!」 へ? はぁ??? 何、何が起こってんの? 俺が驚愕すること、分かってくださいますよね? だって普通、同性愛はどうしても偏見をもたれるから、世間体とかを気にして絶対反対だといわれると思ったんだ。 実際、俺が男である慎也を好きだってことを両親は親戚にも誰にも言わなかった。 家の中でたまに話題に出ることはあったが、俺は両親とも内心不安を感じているのではと思い込んでいた。 結婚となると、いつかみんなにバレるんですよ? いいのか、両親。 「アメリカに住んで英語が喋れるようになったら、旭も少しは賢く見えるわよ」 「いやぁ、就職先がなかなか見つからなかったからなぁ。でも嫁ぎ先が見つかってよかったなぁ」 二人とも朗らかに笑いながら言ってる。 …こんなに呑気な人たちだったんだ。 21年間付き合って初めて知ったよ。 「では、許してくださるということですか?」 「こちらからお願いしたいくらいですよ。もう人間一人いるのといないのでは全然かかるコストが違いますもの」 コストって何だ。 っていうかいいのか? それでいいのかー? 「ありがとうございますッ!」 椅子から立ち上がり、大袈裟に慎也は礼をした。 「旭も慎也くんと一緒に暮らす方が良いだろう?」 と、父さん。 …え。頷く場面じゃん。 ここで頷かなければどんだけ空気の読めないヤツであることか。 俺は父さんの問いかけに渋々頷く。 あ、ごめん。訂正。本気もかなり交じっている。 「じゃあ早速手続きを始めさせていただきます。旭、パスポートって持ってる?」 もう始動するのか? と聞く前に俺は慎也の質問に答えた。 去年に研修旅行でイタリアに行ったから、パスポートは持っている。 「良かった。じゃあ向こうに持って行く分の荷物、まとめてくれるか? まとめさえすれば後は俺がするから」 何か展開早いなぁ。 わかったと頷き、俺は物置に向かった。ダンボールを引っ張り出してくるためだ。 「俺も手伝うよ」 慎也はそういうと、両親に向かって再び頭を下げて俺の後ろについてきた。 旭は何も心配しなくて大丈夫。俺が全部やるからな。 慎也がそう言ったとおり、一週間もすれば俺がアメリカに移住するための手筈が整っていた…らしい。ピンとこないが。 荷物は全て、新居に既に届けてあるという。 俺は財布やらパスポートやらを入れるための小さめのカバンのみを持ち、空港に到着した。 みぞれと父さん、母さんも付いてきた。 向こうで2、3日過ごすらしい。 「ごめんね、慎也くん。新婚なのに邪魔しちゃって」 「いえ、とんでもございませんよ」 またもや慎也と両親は呑気に喋りあっている。 「わーいッ! あたしお仕事以外で外国なんて始めて~」 みぞれは無駄にテンション高い。 まぁそんなこんなで搭乗時刻になった。 ずっと前は置いていかれた搭乗口に差し掛かる。 今日は…慎也と一緒。 スーツケースを預け、パスポートと搭乗券を提示していざ、飛行機に乗る。 出発準備は完璧だ。あとは寝て待つのみ。 「旭、愛してるよ」 エコノミーの指定席に座り、シートベルトを締めて一息ついたときに慎也は俺にそう言った。 「…あっそ」 普通の人がたくさんいるんだぞ、とはもう突っ込まない。無駄だ。 「お前のセリフは"あっそ"じゃねえだろ?」 「は? 相槌打つ以外に何やればいいって言うんだ?」 「俺もだよ、とかさぁ」 「ハイハイ、俺もだよ」 溜め息つきつつ俺は面倒くさそうに言った。 すると慎也はいきなり俺の顔を自分の方に向け、おもむろにキスを始めた。 「は…っん、……?」 突然の事で驚く。が、慎也は気にしていない。 「ん…ぅ、」 くちゅっと口の中をひと舐めすると、慎也は唇を離した。 「ぷはぁッ、…いきなり何だ?」 「旭、愛してる」 慎也は真剣な目でもう一度そう言った。 「え…? あ、えっと…」 視線は自然にそれて言葉もどもる。 「お、俺も…愛してる、よ…」 そう言わないと何度でもやってきそうだからな。慎也は。 「よし、よく出来ました。向こうについたら嫌になるまで抱いてやる」 そう勝ち誇った笑みで言うと、俺の頭をくしゃくしゃ撫でた。 …あぁ。 なんでこんなに変態なんだ。 普通だったら警察に速攻御用になるくらいの変態さ。 人目を気にしない傍若無人っぷりで根拠はたくさんあるけど自信家で。 でも俺はそんな慎也が、好きなんだよなぁ。 向かうは自由の国。これからは今までの比でないくらい変態生活が待っていることだろう。 しかし俺は、想像して恥ずかしいと思うことはあっても、嫌だ、とはもう思わなかった。 完 完結後 番外編
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2: 名前:ゆいもん☆03/11(金) 18 02 26 君の目の前にはいつも愛梨がいる。 私の前には君がいる。 芽瑠の前には宙斗がいる。 私はどうすればいいの? 君は私の思いに気付いてくれない。 鈍感だね…… 私は君に気付いてほしいんだよ 3: 名前:ゆいもん☆03/11(金) 18 27 25 第1話 君への思い 「ふぁぁぁぁ……」 私は加田 柚希(かだ ゆずき)! どこのでもいそうな14歳。 「おーい早く起きなって」 姉の柚花が朝ごはんを作るので私は急いで、制服を抱えスクールバックに教科書を詰め込んだ。 「はーい!」 私はドタドタと階段を下りた。 柚花はフライパンを持ちながら私を待っている。 私は和室の仏壇の前で手を合わした。 「お父さん、お母さん。今日も一日頑張ります!」 そういうとテーブルの椅子にあわてて座り、トースターにパンを詰め込んだ。 読者のみんなも疑問に思わない? そう!うちのお父さんとお母さんは、買い物の途中で事故って私と柚花だけが生きちゃった。 いつものように朝ごはんを食べ、慌てて玄関を出た。 「言ってくるね、姉ちゃん!」 「言ってらっしゃい!」 私たち二人はこうして父と母の死を乗り越えた。 4: 名前:ゆいもん☆03/12(土) 08 41 41 私には好きな人がいる。 小学2年から思い続けてた私にとって大事な人。 朝、その子が私のバックに掴みかかってきた。 「……! は、はらしょー!」 『はらしょー』っていうのは『原島 省多』の略。 「よっ!かっだー!」 『かっだー』加田柚希の苗字あだ名。 はらしょーとは、2年の時からの親友。 だけど…… 好きなんだ…… 「あのさ、今日あのカフェ行かねぇ?」 「う、うん……」 ふ、二人きりーーーー!? 「あ、くっきーも、誘ったから!」 あ、やっぱり。二人っきりって話がよすぎ! 私はそう思いながら朝の通学路を歩いた。 「ゆずぅー!」 「ま、愛梨!」 愛梨は、私の親友。 そして、一番私の恋を押応援してくれる神! その代わり、私も、愛梨の恋を応援している! 「あっ! 省ー多ぁ……!」 「愛梨ぃ……!」 「「わーッ!」」 これは毎朝愛梨と、省多が喧嘩交えて鬼ごっこする光景。 楽しくやっているみたい。 愛梨って私がスキって知ってるよね? そう思うと胸が苦しかった。 漫画でよくある、喧嘩する男女は、両思い。 それを信じる私もおかしいけど、ホントかもしれない。 そういう気持ちを顔に出さないように 私は無理やり笑った。 学校についても二人は私を置いて 走り回っている。 「愛梨ぃぃぃぃぃ!」 「きゃー! 食べられるぅぅぅぅぅ!」 「ハハッ! 頑張れ―愛梨!」 私は無理やり笑って愛梨を応援する。 ―――ホントに私の恋、応援してるの?でも信じてる。 ―――ホントは応援なんかしてないサッ!本当は好きなんだよあいつのこと! 私の心は真っ二つ。 愛梨を信じるか信じないか…… すると、別の心が生まれた。 ―――馬鹿ッ!なんで愛梨を信じないの?親友と思ってるなら信じなきゃ! そうだよ……私の親友は愛梨だけ。信じないと! 私はその追いかけっこを見るたび心の中で唱えていた。 5: 名前:ゆいもん☆03/12(土) 08 53 00 「おいっ! 愛梨ー!」 「あ! 姉ちゃん! 今から行くから」 愛梨は姉の琴梨のとこへとかけて行った。 ―――やっと愛梨が消えたぁ ……!?この心は何?消えたって…… こういう自分が情けなくて、恥ずかしくって。 ときどき消えたいって思ったこともある。 でも、それを止めてくれたのは…… 宙斗。 元林宙斗。愛梨の好きな人。 いつもS・Mになる。 私がSで宙斗がM。 私が元気をなくすと、いつも心配してくれる。 といっても私は恥ずかしくって 「何心配してんの!? あんたに心配されたくないし―」 そう言ってごまかしたりする。 如何して素直になれないのかな? 馬鹿な私。 「おいっ! 早く行こう」 はらきょーはそう言って私の腕を掴んだ。 ドキっ…… こういうときが一番幸せ……。 何だけど…… 私は知ってしまった。 6: 名前:ゆいもん☆03/12(土) 09 04 05 第2話 宙斗の好きな人 「……!」 「……!」 私は見つけた。私の獲物ちゃん、元林宙斗! 宙斗は私に気付いたのか、即どっかへ行ってしまった。 「おはよーッ! そうそうそう!大ニュース」 「何……?」 「あのね……」 私の友達、平戸玲羅は私の耳元で囁いた。 「えぇーッ!?」 「本当本当! 隆吉が言ってた!」 玲羅はそういうと仲間と走って行った。 皆知りたい? 玲羅が言ったこと。 宙斗が私は好きってこと。 ないないない。 ってか、もし仮に好きでも私は避けないといけない。 愛梨がかわいそうだから。 私はその日から宙斗を避けるようになった。 7: 名前:ゆいもん☆03/12(土) 09 18 31 だけどやっぱり宙斗が気になっちゃって。 愛梨と二人で帰るたびに宙斗と、隆吉とあってしまう。 愛梨は宙斗とはあんまり喋らなくてついつい私と話す。 そして、愛梨を応援するたびに宙斗を…… 好きになって行く気がするんだ……。 そんな自分が大っ嫌い! 自分の気持ちがわからなくて、後悔する。 そんな時 8: 名前:ゆいもん☆03/12(土) 09 31 02 第3話 大きな転機 「えっと、机どうしよっかなー」 先生が独り言をつぶやいた。 すると委員長がその声に反応した。 「えっ? 誰か来るんですか?」 「はい……転入生が来るんですよ」 「……えぇ!」 委員長はびっくりしている。 もちろん私も。 「いつ決まってんですか!?」 「一昨日かな……」 「へえ」 私は転入生をすごく楽しみにしていた。 9: 名前:ゆいもん☆03/12(土) 09 57 44 翌朝 「今日から仲間です! 井藤君入りなさい」 「……えっと、井藤大貴です! 宜しくお願いします」 「「「宜しくお願いします!」」」 井藤大貴君はすっごくイケメンで背は高かった。 放課後 「どうしたの? 顔赤いよ」 「い、いやーね? あたしそのー」 「まさか大貴君、好きになったとか?」 「そうっ!」 やっぱり…… すると、また心がしゃべりだした。 ―――愛梨応援しないと! ―――宙斗に気使わなくてもいいね! ちがう!私は愛梨が大好き! 省多も……? 私は自分の気持ちが分からなくなった。 10: 名前:ゆいもん☆03/12(土) 10 13 23 第4話 揺れる恋心&決心した気持ち 「ねぇ! 好きな人教えてよ」 私は帰り、ずっと、宙斗に言っていた。 本当かどうか。 「じゃあ質問するからね」 「それならいいけど」 宙斗はすんなりいいよと言ってくれた。 私はどんどん質問した。 「クラスは一緒?」 「一緒」 「どっち方面に住んでる? ○○方面? △△方面?」 「△△方面」 「地域は宙斗と違う?」 「違う」 「はらしょーの身長より上? 下?」 「上」 全部私に当てはまる。 私のクラスの女子は17人でそのうち私ともう一人。 益々好きな人が気になってきた。 まって!私の気持ちはどうなるの? 今決めなきゃ自分も困るし…… 私はずっと考えていた。 11: 名前:ゆいもん☆03/15(火) 20 58 40 私はまだ知りたいよ。 君の好きな人。 私はまだ知ってないよ。 君の好きな人。 ################# 翌朝 「おはよー!」 愛梨が肩はドンと叩いてきた。 私はびっくりした。 「やっぱり今は宙斗より、大貴君?」 「……うん」 「ふーん」 私はそれだけ言うとすたすたと歩いて行った。 「ちょ、ちょっと待ってよー!」 愛梨が5メートル先にいる私めがけて走って来る。 「ねえどうしたの……?」 「ううん、ちょっと悩み事」 私はそういうと普通に歩いて行った。 少し行くと向こうに宙斗がいる。 私はいつものように『ドS』スイッチが入った。 私が蹴る寸前のポーズをとると 宙斗は大きく叫びながら向こうへと走って行った。 「うわぁぁぁぁ!」 「ハハハッ!」 こう笑ってごまかしているけどホントは辛いんだよ。 私の気持ちは 宙斗から避けて行くうちに 宙斗に向いていた。 省多の気持ちは どこに行ったのだろうか。 あのウキウキは何なんだろうか。 今更自分に問いかけてみたが 何も分からない。 この気持ちはどう撤去すればよいでしょうか 誰か教えてください。 12: 名前:ゆいもん☆03/15(火) 21 25 25 放課後、柚希はいつものように宙斗にくっ付いて帰っていた。 もちろん愛梨と、隆吉も。 柚希は、前の玲羅から聞いた話と一緒の噂を何件か聞いていたので、探偵風にふざけながら宙斗の好きな人を明かしていった。 「まず……この前質問した人と変わってないね?」 「うん」 「じゃあ……その質問で絞られた女子は2人」 「その人は私と里香」 「そして噂で聞いたことを照らし合わせると1人になるの。その人は……」 「おーい! ここまでおいでぇ」 「!? あぁぁぁぁぁ!」 愛梨は隆吉の言動にいらっと来たのか一目散に走り寄った。 すると、宙斗が 「今ならいいよ」 「うん……えっと、わ、私?」 13: 名前:ゆいもん☆03/16(水) 18 07 12 「うん……えっと、わ、私?」 「……うん」 私はそう答えた、宙斗に眼差しを向け、思いっきり叫んだ。 「わーいッ! 推理当たってた!」 「えぇ!? 誰? 誰なの?」 「おっしえなぁい」 「えー!」 そう笑った……けど、また生まれる複雑な気持ち。 もし……はらしょーと愛梨がくっ付いたら……? もし……私と宙斗がくっついたら……? また嫉妬が生まれるのかな……? 私は決めた。 宙斗と くっ付くことを。 私は、そっと宙斗に耳打ちをした。 「付き合って」 14: 名前:ゆいもん☆03/16(水) 18 29 52 私はそう言った。そして宙斗の胸のところにメモ紙を突っ込みこう叫んだ。 「これに返事ねッ!」 私は一目散に掛けて行った。 宙斗が見えなくなるまで振り返らずに。 私はいつの間にか家の前まで来ていた。 「はぁ、はぁ、はぁ……」 明日の返事にドキドキの気持ちと 省多への複雑な気持ち。 その気持ちが入り交ざって変な気持ちが生まれた。 私は最低なやつ。 省多と 愛梨のあの姿を 勝手に 両想いって決めつけて、 それにその気持ちをかき消すために 宙斗を使う―――…… でもそんな私を きっと宙斗は 受け止めてくれるはず。 ごめんね省多 ごめんね宙斗 そして ごめんね 省多を好きだった 前の自分。 15: 名前:ゆいもん☆03/16(水) 19 02 29 翌日 私は朝、教室に入ってすぐに 宙斗に声をかけた。 「ねえあれは?」 「う、うん」 宙斗は机の中をガサゴソと探し始め、やっと私のもとに渡した。 その時の顔は真っ赤に染まっていた。 私はゆっくりとメモ紙を開いた。 『いいよ、僕から言いたかったんだけど 先に言われた。だから一応恋人ね』 「フフフッ」 「な、何で笑うの?」 「いいから……」 私はそのメモ紙をポケットに突っ込んで 気分よく教科書を机に入れた。 次の日の昼休み 「ねえ一緒食べない?」 「うん、いいけど人目の付かないところにね」 「うんッ!」 私は弁当箱を取り出し、宙斗と少し離れて 体育館の裏にある木漏れ日のかかる中庭で食べることにした。 私が少し休憩していたら手元に小さいがぬくもりを感じた。 手元を見るともうひとつの手が握っていた。 その手の先をゆっくり見て行くと リンゴみたいに真っ赤になっていた、宙斗の姿があった。 「あ、あの好きだから」 「へ?」 「まだちゃんと僕から言ってないから」 「うん……じゃあ食べよっか」 「そうだね」 それから黙々と食べ始めた。 そして最初に口を開いたのは私。 「あのさ、デートいつにする?」 「明日の9時」 「明日?土曜日か……」 それから食べ終わるまで黙っていた。 「それと皆の前ではいつものようにね。あと柚って読んで」 「うん。分かった。僕のことは宙でいいから」 「じゃあもどろっか」 私たちはそれから何も話さなかった。 20: 名前:ゆいもん☆03/18(金) 18 16 10 第5話 目の前で起きた嫉妬 デート当日。 「楽しみだね」 「そうだな」 私と宙斗はバスに乗って、デートで有名なところに来ていた。 私は手を掴んでいた。 自分がこれからどうなって行くのか怖くて怖くて掴んでいる。 私は無理やりエスカレーターに乗せ、一番最上階まで連れて行った。 「おいっ! どこ行くの?」 「いいから!」 私が連れて行ったのは雑貨屋。 ナチュラルな雑貨がいっぱい並んでいる。 私は宙斗を引っ張ってカンケースの所に目を付けた。 「ねえ、どれがいい?」私は少し上目づかいをした。 「どれでも……「良いから選べ! ……!」 私はデート中は「s」スイッチ切ったつもりなのにぃぃ! 「ごめん……えらんで?」私は機嫌を戻すように言った。 「じゃあこれ」 「じゃあ買うね」 私は宙斗が選んだカンケースを二つ取り、レジへ向かった。 意外にすいていたすんなり払えた。 私は手をさっきと同じようにつかむ。 そしてゲームセンターにプリクラを取りに行こうとしたときに私は見た。 「ねえ似合うかなぁ」 「似合うんじゃない?」 「だよね」 私が見たのは仲良しそうに肩を並べ、歩いている 愛梨と省多。 愛梨と省多は腕に、色違いの腕時計。 愛梨はピンク、省多はブルー。 「……!」 「ど、どうしたの?」宙斗は私を心配そうに見ている。 「あ、あっち行こう……」私は予定していたところの反対側に向かって歩いた。 後方からまた賑やかな声が聞こえる。 「絶対似合う!」 「だな」 その声を聞いたとき私の頬に一筋の涙が流れ落ちた。 そのあとにもどんどんと流れ落ちる涙。 ――私、省多諦めたはずでしょ? 今宙斗と付き合っているはずでしょ? 何で今更嫉妬するわけ? 自分の気持ちがわからないっ! 私の心はいろんな気持ちで満ち溢れていた。 嫉妬、憎み、幸せ、羨ましさ。 この気持ちは全部私の本音。 これからどうすればいいでしょうか 21: 名前:ゆいもん☆03/19(土) 12 39 29 私がしばらく考えていた時。 「柚……? 本当にどうしたの?」 「…………!あっ。ご、ごめんいこっか」 私は強く強く握っていた。 ゲームセンターにプリクラを取りに。 ゲームセンターは結構賑わっていて声も通らないほどだった。 「あ! あのさ! あっちだよ! プリクラ機!」 「じゃあ! あっちいこうか!」 私は引っ張り引っ張りしながらいった。 22: 名前:ゆいもん☆03/19(土) 14 08 20 『3、2、1、パシャッ!』 柚希と宙斗はプリクラを撮っていた。 『右から進んで落書きコーナーに移ってね♪』 柚希たちは言われた通り行った。 「あ、あのさ、柚の顔いつもより全然元気ないよ? どうしたの?」 「……ん? え?」 宙斗は落書きするために画面に映し出されているプリクラと 今の私を見比べている。 「顔が……その……泣いているっていうか…… 悲しそうな眼してる」 「……!」 「誰かをまだ引きずっているような……」 宙斗は本当に心配そう。 だけどその時の柚希は思ったことを言ってしまった。 「誰も引きずってないっ! なんで彼女疑うの!? ひどいよ! そんな人だとは思わなかった……じゃあね……」 柚希はバックを取り、ゲームセンターを出ようとした。 「ちょ、ちょっと待てよ! 柚!」 宙斗は出る寸前の柚希を止めた。 すると歩いていた柚希が立ち止った。 「もう……帰るぅ……」 振り向いて言った言葉。 大泣きしていた。 23: 名前:ゆいもん☆03/21(月) 10 38 54 柚希がドタドタとゲームセンターを出たとき 入ろうとしてた愛梨と省多と肩がぶつかった。 「す、すいません……」 柚希は泣いている目をシャツの袖で拭きながら言った。 「あっ! すいません」 省多は持っていた、バックの中身をぶちまけた。 「……柚希?」 愛梨が省多の荷物をかき集めている柚希の顔を覗き込む。 それに気付いた柚希は、 「……っ!」 走り出した。 24: 名前:ゆいもん☆03/21(月) 11 17 40 「いやぁぁぁぁっ!」 「可愛い子猫ちゃん。静かにしてくれないかなぁ?」 「お兄ちゃんたち困っちゃうよぉ」 ************** 皆の視線が私に集中しているのがわかる。 何故ならぼさぼさの髪に裸足。破れているワンピ。 さっきチャライ男にナンパされて暴行された。 あっけなくそいつらは別の女めがけてどっかいったけど 私は身も心もボロボロだった。 蹴られて、殴られて、宙斗のために買ったワンピも荒らされて…… そして今日何よりつらいのが 唯一頼っていた宙斗にまで疑われて。 省多と愛梨が一緒にいるの見て。 もう嫌だ。 ――死のうかな? そしたら楽になれるかな もう迷惑かけないよね。 私は空きビルの屋上めがけて走り出した。 雨も降って来た。涙が雨と交じっている。 私は屋上に着いた。 屋上の淵までふらつきながら行く。 下では私のよううを見てざわついていた。 だが私はそんなの気にしない。 今は死ぬことだ……け……。 『ドンっ』 鋭い音が私の耳元で大きく聞こえた。 「キャァァァッ!」 通行者の悲鳴も聞こえる。 すると通行者の中に見覚えのある顔…… その人はこう叫んでいた。 「柚ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ!!!」 私はそのまま気を失った。 25: 名前:ゆいもん☆03/21(月) 11 35 01 あっ! 今きづきました! プロローグの「芽瑠」は愛梨です(笑) いつの間にか芽瑠になっていましたww すいません(/・△・;) とりあえず今まで書いてきた中で出てきた人を書きます! 遅いですが。 登場人物 ☆加田柚希 活発でボーイッシュな女の子。 男子のある一部では「ドSの女王」、「柚姫様」などど 呼ばれている。前は原島省多が好きだったが今は宙斗が好き。 ★元林宙斗 優しくてイケメンだが、皆からはいじられキャラ。 柚希からはいつも蹴られているが、柚希が好き。 ★原島省多 イケメンだが、イマイチ性格がはっきりとしない。 柚希とクラスは小2から親友。 省多の好きな人は誰にも知らない。 ☆木藤愛梨 柚希の親友。 頼りになるお姉さんだが時には甘えてくる。 いわゆるツンデレ。宙斗が好きだったが転入生を好きになった。 こんな感じです! 4人って多く感じますがそこも含めて見てくださいっ! 26: 名前:ゆいもん☆03/21(月) 11 58 17 ではでは改めてスタート! ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 第6話 新しいスタート 「柚……」 誰かがそう言っている。 だが私の目の前は真っ暗。 何も見えない。 すると向こうに光が見えた。 私はそこに走って行った――。 「……!」 「柚……!」 目の前にいたのはさっき通行者の中にいた男の子。 ココは病室。 えっと…… 元林宙斗。 良かった覚えてて。 「1週間ずっと寝てたんだよ!?俺とお姉さん、二人で交代交代見てた」 有難う…… 私は自然に涙が出た。 「ねえ何かしゃべってよ」 ん?今ありがとうって言ったんだけど。 「おーい! 大丈夫?」 大丈夫だって!こんなに元気元気! 「……?」 何で無視するの? 宙斗は病室を出た。 聞こえないの?宙の耳がおかしくなった? 私はベッドの横にある鏡を見て叫んだ。 「んー……!」 ……!何で声が出ないの? 声にならない声。 「あの! お姉さん! 柚が何もしゃべらないんだけど……」 「えぇ!? なんで?」 お姉ちゃんが部屋に入ってくる。 宙斗もそれに続いて入ってくる。 「おーい! 柚希! どうしたの?」 私は元気だよ? こんな風に! 私は腕をモリモリと動かし、笑顔を見せる。 どうにか伝わらないかな? 「い、一応元気みたいだけど……先生に聞いてみるね」 お姉ちゃんは先生を呼びに出て行った。 「ねえ、ちょっとこの髪に言いたいこと書いてみて」 宙斗は私の前に紙を出す。 私はカリカリと書いた。 【なぜかしゃべれない。 だけど全然元気だよ(^▽^)/】 「そっか……まあ良かった……」 私は笑顔を見せた。 だけどなんでしゃべれないの? 一生しゃべれないって 訳じゃないよね? 27: 名前:ゆいもん☆03/23(水) 19 54 26 1週間たったある日。私は退院することになった。 意外と怪我は浅いほうで、右、足手を骨折。 毎日宙斗とお姉ちゃんが来てくれるので退屈はしなかった。 でも一人になると、寂しい時もあった。 私は、明日から学校に出ることになる。 お姉ちゃんが宙斗に朝一緒行ってというお願いをしたみたい。 「有難うございました! また会った時はよろしくです」 「いえいえ! またね!」 私担当の看護師さんが挨拶をする。 私とお姉ちゃんはタクシーに乗り込み進み始めた。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ちょっと切ります! 30: 名前:ゆいもん☆03/24(木) 08 36 18 翌朝。 「一緒いこっか」 宙斗が私の手を引っ張る。 若干顔を赤めているが、手を握ったのはあっちだもん。 「ちょっと待って」 私は宙斗を呼び止めた。 私も顔が赤い。 「やっぱいこ」 私は少し遅れを取りながらも 松葉杖をとんとんと鳴らした。 ちょうど、教室の前に着いたとき、やけに騒がしい。 宙斗がドアを開けた。 すると、一気に教室は静かに。 黒板には 【宙斗と柚希って付き合っているらしいよ! しかもHまでしたって! M・K】 と書かれていた。 私まだHしてない! そう思うのが私のせい一杯だった。 「Hだってよぉきもー」 「早すぎね?中2でHとか」 「あの二人ヒミツで付き合っていたって」 コソコソしゃべる声聞こえる。 やはりHのこと。 「……ッ……俺たちHなんかしてねぇーよっ付き合ってるだけだ」 「じゃあこれは何? 誰が書いたの」 一人の女子が黒板をとんとんと叩く。 それは、愛梨。 「……しらねーよ!」 そう言った時私は一つのことを注目した。 「あのさぁ、『M・K』って誰?」 「そうだな! こんな嘘着いたの誰だよっ!」 皆考え始めた。 私も考えた。 M・K? M…… あっ! 「……一人いたよ」 私は低い声でしゃべった。 「誰だよっ! 31: 名前:ゆいもん☆03/24(木) 08 40 57 「誰だよっ!」 「愛梨……」 「愛梨?」 愛梨の顔は青ざめていた。 「おいっ! お前柚希の友達じゃねえのかよ!」 「私は柚希が羨ましかった。柚希なんか大っ嫌いッ!」 「……! ひどいよ!」 私は教室中に響くような鳴き声を上げた。 34: 名前:ゆいもん☆03/24(木) 12 02 46 あッ!30れす目の 4行目と7行目の所! あれ口パクです! 恋と嫉妬と友情と 続き