約 374,270 件
https://w.atwiki.jp/mahoroa/pages/1360.html
既に参戦したファイターのページを大量作成した、『スマブラ』XX周年記念作品botを絶対に許すな!!
https://w.atwiki.jp/itan_seihaisensou/pages/271.html
【資料1】 二年前に作成された聖杯とその聖杯戦争について 約二年前、女王はヴァランレーヌが誇る科学力のみで"聖杯の器"を作成。聖杯実験と称して複数のサーヴァントを召喚したとされる。女王が聖杯の作成に着手した理由、またその使い道は軍事利用である。ヴァランレーヌを除く全人類・・・つまりアンティアや世界地図に名前すら記されないその他複数の集落の人類を、聖杯を用いた武力制圧によってヴァランレーヌに極力被害を生まず、禍根を残さず抹殺することで人類を間引こうというものだ。 度重なる聖杯実験を行う内に、聖杯の機能が不完全だと立証されてしまったが、更に研究を続けたことで、聖杯が本来予定されていた万能の願望機としての効力を発揮するには"器"だけではなく"中身"を強大な何かで満たし、動力源とする必要があった。 其処で女王は、聖杯実験に用いたサーヴァント召喚を応用し、消滅したサーヴァント達の魂を動力源とする儀式 聖杯戦争を考え付いたのだ。 しかし、儀式の仕組みを完成させる為には"魔術"の要素が必要不可欠。幾ら科学が長けていようと魔術方面に疎いヴァランレーヌのみでは力及ばない。 魔術に優れたアンティアの協力が必須だった。 一計を案じた女王は、アンティアに対して"世界平和とよりよい人類の繁栄を目的とした願望機の作成"と偽りの共同開発を提案。 一方、既に女王及びヴァランレーヌの不審な行動を察知していた、当時のアンティア魔導者である賢者アルガティアは女王の虚偽を見抜きながらも、直接探りを入れる為に敢えて協力の要請を受け入れた。 そして聖杯戦争はヴァランレーヌに所属する7人の魔術師達によって秘密裏に行われる筈だった。 しかしアンティア魔導者であるアルガティアによる介入で、マスター枠の3人とその令呪がアンティアに渡ってしまう。 女王の陰謀を見抜いたアルガティアは、儀式の妨害と聖杯の破壊を目的に最初から協力していたのだ。 破壊する前に、わざわざ儀式のシステム完成に手を貸したのは"聖杯の器"を壊す為には聖杯戦争を行う必要があったからだ。器だけの状態では聖杯はただの巨大な魔力炉でありサーヴァントを召喚する機構しか持たない代物であった。 聖杯から召喚したサーヴァントや魔力炉である聖杯を爆弾代わりに投下されてしまえば、アンティアは忽ち業火に焼かれ、全滅を免れない。 しかし聖杯を壊そうにも、余りに単純な仕組みの為に手の出しようがない。故に、完成ではなく破壊を目的として、アルガティアは付け入る隙を作る為に煩雑なシステムである儀式 聖杯戦争を完成させた。 この二年前の聖杯戦争が、世間に公表されなかった理由はヴァランレーヌ及びアンティアの国家転覆を狙う人間(ノクティスの父親であり、遥かかつて存在したルシス王国の血を引く男など)に、乱入される等して付け入る隙を与えない為である。 『ガランブルッグが発見した資料に、付け足されていたこと』 女王リュミノシテは、一つ勘違いをした。 聖杯の理論は間違ってはいない、聖杯が完成しない理由は魔術的要素の不足。 器もまた、科学の手ではなく魔術によって造られる必要がある、と。 魔術に疎い女王とその護衛は、当時アルガティアの妨害の意味に気付けなかったのだ。
https://w.atwiki.jp/infinityclock/pages/266.html
聖杯戦争のマスターには、 『戦うマスター』と、 『戦わないマスター』がいる。 だからといって、 『戦わないマスター』が弱いわけではない。 ♠ ♥ ♦ ♣ 偽りの世界の空が、抜けるような青から黄昏色へと変わりつつある頃。 陽が沈む頃までじっくりと休息する予定だった青木奈美は、思いがけぬ来訪によって叩き起こされた。 否、実際に叩いて起こされたわけではないが、それに近い衝撃をもたらされて目覚めたのだ。 『ルーラーからの、新しい通達だぽん』 まどろみから目覚めた時、見覚えのある生き物がそこにいたのだから。 『マスターに1人1人伝えて回ってたから、順番が遅くなっちゃったのは申し訳ないですぽん。 これより討伐対象の追加をお知らせしますぽん』 『ルーラーからの討伐対象の追加のお知らせ』という言葉も衝撃的ながら、奈美を心底から動揺させたのは、それを報せに訪れたのが『彼』だったということだ。 名前を知っている――ファルだ。 ご主人さまを知っている――あの実験施設ではともに戦った、白雪のように曇りのない魔法少女だ。 彼女は、それだけしか知らない。 魔法少女デリュージは、白雪の冬に届いた後の白黒(ファル)にしか面識がない。 デリュージは、『正義の魔法少女(スノーホワイト)のマスコット』としてのファルしか知らない。 『新しく討伐対象としてサーヴァント『ヘドラ』及びそのマスター『空母ヲ級』が設定されましたぽん』 しかしだからこそ、眠気など全てさっぱり吹き飛んでしまった。 そして、 「なんで貴方が、こんなことやってるんですかっ……!」 怒りを、露わにした。 そのマスコットのご主人さまは、デリュージにとって一番の恩人だった。 デリュージが知っている『本物』の魔法少女たちの中でも一番正しくて、善良で、一緒にいれば安心と勇気をくれる魔法少女だった。 悪い魔法少女を退治してくれるはずの、魔法少女だった。 その魔法少女のマスコットキャラクターが、相棒が、よりにもよって『血で血を洗う殺し合い(せいはいせんそう)』に加担している。 悪趣味な間違いだということにしたかった。 彼等まで『こちら側』にいるとなれば、世の中に『正しい魔法少女』なんていないも同然ではないか。 「偽物ですか!? 洗脳ですか!? 幻覚を見せる、嫌がらせのつもりですかっ!?」 インフェルノの『悪い魔法少女をやっつけろ』という願いを無下にするようなことをしている、マスコットが許せない。 『マスター(殺し合いの参加者)』としてここにいるデリュージだからこそ、許せない。 何より、『ファルがここにいるなら、あるいはスノーホワイトも……』と疑ってしまう己のことが嫌だった。 「それとも…………所詮はスノーホワイトも、『魔法の国』の魔法少女(ヒト)だったってことですか?」 デリュージの見てきた、インフェルノが信じた、スノーホワイト像が誤りだったのか。 現実には、『正しい魔法少女』なんて何処にもいなかったのか。 『違いますぽん』 しかしファルは、震えの混じった電子音声で否定した。 『ファルが仕えている魔法少女は、スノーホワイトじゃないぽん。ルーラーだぽん』 「ルーラー?」 『聖杯戦争を裁定するクラスだぽん。ファルはその伝達係。それ以上でもそれ以下でもないぽん。 ある時代では別の魔法少女に仕えたことがあっても、今のファルは裁定者の魔力で現界しているぽん。 サーヴァントがイコール生き返った英雄本人じゃないのと同じで、ここにいるファルも魔法少女アニメに自分をモデルにしたマスコットが出演してるような感じだぽん』 釈然とはしないまでも、その説明でどうにか理解はできた。 どうやらこの戦争に、スノーホワイトが関係しているわけではない。 その可能性が否定されたことで、少しは昂ぶっていた気持ちも落ち着く。 奈美が黙り込んだのを待って、ファルは『ヘドラ』とやらの説明を再開した。 これまでに何回も繰り返してきた文言をまた復唱するように、慣れたものだった。 『報酬はクエスト内での働きに応じて令呪一画、とどめを刺した主従には二画。 既に発令されている討伐令よりも、優先度は上ということですぽん』 言い切ると、マスコットキャラクターは消える直前にその輪郭をノイズで揺らめかせた。 まるで、もっと言いたいことがあると迷って、そしてできなかったかのように。 その不安定な揺らめきを見て、奈美の心はやっと落ち着いた。 少なくとも――今のファルは無慈悲な戦争運営者の命令を聞くだけの存在かもしれない。 だが、決してスノーホワイトと共にあった時のファルから変わってしまったわけではない。 マスコットキャラクターとは、『正しい魔法少女』の仲間で、困っている人達を助けるものだと聞いている。 かつて、スノーホワイトがファルと相談して事に当たっていた姿は、幼い頃にアニメで見た『正統派魔法少女』の姿そのものだった。 あの『正義』が、仕える相手しだいでそうそう変節するものではないと信じたい。 その証拠に、あのファルは『自分の仕えている主はスノーホワイトではない』と証言した。 本当に心から『ルーラー』に仕えているのなら、わざわざ『ルーラーの正体はこの人物ではない』と発言する必要はない。 英霊は、知識の上では生前の記憶をすべてぼんやり覚えているという。 ファルも同じなら、スノーホワイトのことを悪く言われることが嫌だったから、『スノーホワイトがご主人さまでは無い』とわざわざ言及したのだろう。 これでも、人間観察力だとか人を見る眼はある方だ。田中先生は見誤っていたじゃないかと指摘されたら言い訳しようもないけれど。 ファルは人間ではない。判断するには表情も声質も容姿も欠けている。 しかし、それらを差し引いた上で判断しても、悪意を持って通達をしているようには見えなかった。 だから、奈美は仮説を持った。 聖杯戦争の運営者は、一枚岩ではない。 少なくともあのマスコットキャラクターが、本意からルーラーに協力しているとは思えない。 この仮説をどう利用すべきかはまだ見えてこないけれど、これは青木奈美だけが手に入れた、自らを有利にするかもしれない手がかりだ。 一方で、通達された内容の方はただならぬ案件だった。 ヘンゼルとグレーテル以上に、優先して打倒しなければならない主従がこの地にいるという。 しかも、このまま看過すれば、このK市がまるごとヘドロに飲まれて消滅するかもしれないときた。 これは、『討伐令に参加するマスターの背中を狙う』という方針をかためたそばから、方針を転換しなければならない、かもしれない。 奈美が『ヘドラ討伐令に従おうとするマスター狩り』をしたところで、いずれ他のマスター達が『ヘドラ』を打倒して戦争は問題なく続いていくし、大勢に影響はないという可能性もある。 しかし、もし奈美が介入したせいで『ヘドラ討伐』が遅延して取り返しのつかないことになれば――奈美自身の行動のせいで、ヘドラが聖杯を獲得するか、聖杯戦争そのものが潰れましたなんて、最悪過ぎて笑えない。 まずは、念話でアーチャーに連絡しよう。 まだアサシンの起こした殺人事件についての調査はまとまっているか分からないが、それどころではない事実が判明したと相談しよう。 『そんなことを言って、外道な行為に手を染めるのを先延ばしにする口実が欲しいだけなんじゃないですか?』とか嫌味の一つでも言われるかもしれないが。 余計な心配は、無用だ。 そんな口実を欲しがるなど、もう諦めた。 私は、正しい魔法少女には、なれない。 ♠ ♥ ♦ ♣ 「やっぱり、家の外から見張ってても何もならないのかなぁ……」 右隣を不動産屋に、左隣を1階はカフェ、2階は探偵事務所というビルに挟まれた――ちょっと外装に年季があるけれど、ごく住み心地は良さそうなお宅。 表札に『松野』と書いてあるそんな家を、越谷小鞠と霊体化したセイバー・リリィは左隣のビルの影に隠れながら見張っていた。 なぜなら、マスターと思しき赤いパーカーの青年の跡をつけていけば、そこに帰宅したからだ。 もっと言えば、その青年が殺し合いに積極的ではない話し合いのできる人だったら、協力してもとの世界に帰りましょうと、同盟を持ちかけるためだ。 さらに言えば、それは下校の道すがらにリリィと話し合って、『次に学校みたいな事件が起こった時のためにも、いざという時に頼れる同盟相手がいるといいですね』と確認したからだった。 いや、ステータスを目視した限りでは、いざという時に戦いで頼りになるようなサーヴァントだとはとても思えなかったのだけれど。 それでも『殺し合いの世界で生き残らなければならない』というプレッシャーを幼い身空で背負っている小鞠にとって、同じ目的を持っている、しかも立派な成人男性のマスターと出会えれば、どれほど心やすらかになるだろうか。 リリィもそうであればと思っていたので、『あの人と話してみたいです』という小鞠の決断に賛同してここまで来た。 「それに、あの人って本当に大丈夫なのかな……さっきも道端に落ちてた五円玉を見つけて、『やっりぃ!』とか言ってぴょんぴょん喜んでたような人だし……」 『大丈夫。私もこれまでの道中で観察していましたが、目を見れば分かりますよ。 私の修行の旅路でも、同じ目をした方々に出会ったことがあります。 どの方もこころよく『訓練中のトラブル』だとか『くんずほぐれつの密着』とかさえあれば満足だとかで、無償で真摯に稽古をつけていただいた、いい方達でした』 「リリィさんそれ大丈夫だったんですか!?」 その人達と比較されるのって、わりと最底辺同士の争いのような……。 修行の旅とやらがぴんとこない小鞠でも、そう思う。 『それに、先刻の通達は彼の元にも届いているはずです。 今や、ほぼ全てのマスターにとっての脅威は『ヘドラ』とやらを倒すことにあるでしょう。 それならば、立場を決めかねているマスターの方であっても、協力し合えるのならばそうしようと言う気持ちに傾いているのではないでしょうか』 希望的観測ですけどね、と小鞠のサーヴァントは付け加えた。 慰めるようなその言葉を聞いて、小鞠の心も少しずつ軽くなっていく。 そう、大丈夫。たとえ何かがあったとしても、この人は私を守ってくれる人だ。 しかし、あのニュースで報道されていたことはやはり現実だったのだと思い出したのもまた確かだった。 あれを放っておけば、この世界中があのニュースのようなヘドロに変わってしまうかもしれない。 小鞠も、クラスメイトも、セイバーリリィも、この世界の越谷家も。父も母も。卓も。夏海も……そんなもの、想像したくもない。 『コマリ、扉が開きました』 「あ、本当だ、出てきた……」 また出かけてきマッスル!と大声が響き、『さっきの青年』が姿を現した。 今度は、少女のサーヴァントは連れていないようだ――霊体化させている可能性もあるが。 「い、行きましょう。リリィさん」 『はい、お供いたします』 青年は左肩にグローブのぶらさがったバットを担ぎ、右手には野球の硬球を握ったまま弾んだ足取りで歩いていく。『十四松』とネームの入った野球のユニホームを着ていた。 さっきは赤いパーカーだったのに……運動するから着替えたのだろうか。 しかも、帰宅した時とはどうもテンションが違っている。 変な人だ、と思いながらも、小鞠とリリィはこそこそと青年に追いすがった。 どこか人目につかない場所にでも行けば、そして善良な人格の持ち主だと確信が持てれば、話しかける機会が見つかるかもしれないと期待して。 ――その青年が、先刻まで尾行した青年とは別人だということに気付かないまま。 ♠ ♥ ♦ ♣ 予想はしていたが。 やはりというか、マスターはいまいち理解していないようだった。 「それって、1人で全員倒すのは面倒だから協力しましょうってことだよね? 願ったり叶ったりじゃない?」 そんな単純な話だったならばどれほど良かったか。 ひとまず、ハートの3を霊体化させずに帰って来るなんてあまりにも不用心だと説教――もとい忠言をして、その『同盟の申し入れ』がいかに怪しく油断ならず危険なものであるかを、マスターにも分かるように強く再説明する。 どちらかと言えば、ジョーカーこそ『なんで俺がわざわざ交渉に出向くような事態になったんだ』と怒られる覚悟をしてきただけに、拍子抜けを通り越して呆れるものがあった。 『あまりに危険が過ぎます。 いずれ敵対することは必定の関係であるにも関わらず、マスターの御身を晒すように脅迫し、一方相手方はマスターの身を晒すことを恐れておりません。 マスターを暗殺するための企みを持って交渉の席を設けたのだという疑いもあります』 「……でも、俺のことはシャッフリンちゃんが守ってくれるんだよね?」 『それは当然。どんな奇襲、搦め手にも対応できるよう、壁役のハートとスペードの精鋭たちで御身を固めますゆえ。交渉の際に選ぶ言葉も、慎重に吟味いたします』 マスターの家族が部屋に乱入してくるリスクがあるので、会話は霊体化を通して行っている。 虚空に向かって嬉しそうにペラペラと1人会話をしている姿は、これはこれで頭のおかしい人間の振る舞いかもしれないが、 マスターは周囲からも馬鹿だと思われているのが共通認識のようなので、変に怪しまれることはないだろう。 「要するに、交渉はジョーカーちゃんがアドバイスしてくれるから、俺はうんうん言って話を聞いて、それから相手のマスターと仲良くできるようにお喋りすればいいんでしょ。 それぐらい大丈夫だって。やること無くて退屈してたから、役に立てて嬉しいし」 だから、退屈とかそういう問題では無いのであって。 また言葉を尽くそうとしたが、マスターが切り出す方が早かった。 「あのさ、ジョーカーちゃん」 いつになく静かな声だった。 契約してから、初めて聞いたかもしれないぐらいに、しんみりとマスターは言った。 「…………なんか、ありがとうね?」 思わず、まじまじとマスターを見てしまった(霊視なので視力は良くないのだが)。 もしかすると、すごく唐突で、かつ意外な言葉を聞いたのだろうか。 「いや、俺はいいんだけど、シャッフリンちゃんたちはこの『戦争(ゲーム)』をやってる間だけの命なわけでしょ。 それなのに『マスターだから』ってだけで、俺のために命張ってくれて、今も全部俺のために盾になろうって考えてくれるわけじゃん? 俺、今まで足を引っ張る連中はいたけど、そこまでしてくれる相手っていなかったから」 照れたように、後頭部をぼりぼりと掻きながらそう言った。 『……恐れ多くも、ありがたきお言葉』 驚いた。 最初の『俺はいいんだけど』という言葉は不可解だったけれど、マスターがここまで真摯な言葉を発するとは。 生前のシャッフリンは、主人から一応は褒められたことこそあれど(その褒め言葉も半分は主人自身の手柄でもあるかのように話したものだが)、感謝の言葉を向けられたことなど無かったのもある。 「それで、さっき『ファル』とかいうのが言ってたことなんだけど」 切り替えるように、ニヘニへと明るい口調に戻ったものだから、つい話題に釣りこまれてしまった。 「シャッフリンちゃんだけでは、あのヘドラってヤツは倒すの難しいって言ってたよね? だったら、もし、『同盟』が成功すれば、協力してヘドラを倒すために何かできないかな?」 『…………』 これもまた意外だ。 マスターの口から、己が働きかけることで状況を変えたいのだという意思が出てきた。 マスターは確か、シャッフリンがヘンゼルとグレーテルを狙って討伐令に参加しようとした時は反対していたはずだ。 『先方のサーヴァントの耐久力は、我々の最大攻撃力をはるかに上回る頑健さを有しておりました。 その防御力をヘドラに対しても適用できるようであれば、あるいは対抗策の一つになり得るやもしれません』 「そっか……じゃあ俺、やっぱりその『同盟』に賭けてみたい。 スペードちゃんやハートちゃんたちも危ないけど、頑張ってくれるかな?」 しかも、『どうしても討伐令のヘドラを倒したい』ともとれるような意気込みを伺わせている。 どちらかと言えば喜ばしい意気込みだが、いったいどんな心境の変化があったのか。 はばかりながら、シャッフリンはおそ松へとその理由を尋ねた。 ♠ ♥ ♦ ♣ 『殺します。殺す以外にない』 マスターからの念話が届いたので、アーチャーはこちらからも報告したいことがありますと断りを入れた。 デリュージは『まさか、また誰かと接触したんですか?』とけげんそうなコメントをした後、ではまずはそちらから、と続きを促す。 しかし、『複数個体で一つのサーヴァントを為す、トランプのマークを身に着けた幼い少女たち』という特徴を伝えたとたんに、そのマスターは豹変した。 『そいつらはこれから図書館に来るんですね? 私もすぐ向かいます。皆殺しにしましょう』 そう言い切った青木奈美の語尾には、笑っているかのような震えがあった。 アーチャーは、奈美が笑っているところなどこれまでほとんど見たことが無い。 しかも、似たような声で笑っていた子どもなら覚えている。 レーベンスボルンで目にした『失敗作』のソレに似ていた。それも、仲が良かったべつの『失敗作』を失った者のソレだった。 『えー……お断りしておきますが、仮に同盟を結べたとすれば、他のマスターを探すのに大いに有利になる他、情報収集力の強化、戦力の大幅増加、マスターを奇襲できる可能せ『殺します』 皆まで言わせなかった。 ここまで憎悪に満ち満ちた声を聴いて察せないほど、ヴァレリアも愚かではない。 『奈美さん、お知り合いですか?』 『…………敵です』 『敵』だと答える前に、言葉を選ぶような沈黙があった。 『最悪の』とか『最低の』とか『忌々しい』と言った形容を付けようとして、そのどれもが彼等を表現するには生温いと判断したのかもしれない。 『それは復讐ですか?』 『いけませんか?』 むべもない。 彼女が、奪われたものを取り戻すためにここにいることは知っている。 それを奪った悪しき英雄が、あのトランプ兵士たちだったということなのだろう。 それも、よほどデリュージにとって残虐な奪い方で。 恐ろしい偶然があったものだ、とヴァレリアは念話では表すことなく独りごちる。 確かに、青木奈美の意向次第では、アサシンたちを最初の生贄にするという計画に路線変更することも考えてはいた。 しかし、そうなることも考慮して、初めてマスター立ち合いの元に本格的な接触をした最初の主従が、まさかマスターにとってこれ以上ないほど因縁の強い仇敵だったとは。 それとも、マスターとサーヴァントを引きあわせた聖杯とやらがそのように『選ばせる』ことを期待して配置したことだろうか。 だとすれば、聖杯はまるで黒円卓の副首領閣下のように性格が悪い。 『念のために確認いたしますが、我々の目的は聖杯を獲得して願いを叶えることであり、復讐ではない。 聖杯を手にすることができれば、仇もなにも、奈美さんの喪った者はそっくり取り戻せることでしょう。 そして、彼等と同盟することにはメリットがあり、敵に回すことには高いリスクがある。 付け加えるならば、サーヴァントはただの英霊の座から限界した霊体――戦争が終われば『座』に戻るだけの複製品であり、仕留めたとしても『殺害した』ことにはなり得ません。 それでも、敢えて復讐に命を賭けますか?』 自分で言うのもなんだが、これだけ長い前置きと念押しを、青木奈美はおそらく我慢して最後までは聞いてくれた。さらに、一考してくれるような間もあった。 そして、答えは変わらなかった。 『仕留めます。昔の私は、あの連中を怖いと思っていた。今ここで、そこから逃げる選択肢はない。 それに、連中もサーヴァントなら、マスターを勝たせるために動いているんでしょう。 人の仲間は殺しておいて、自分のご主人さまは幸せにしたいなんて、そんな身勝手は許せない』 『逃げない……ですか。なるほど』 ヴァレリアにとっては、悪くない答えだ。 そして彼女は、私情に憑りつかれているいるだけではなく、それが己を変えるために必要だと自覚している。 『では彼女らのマスターは? おそらく貴方がたの因縁とは無関係ですが、道連れに殺害しますか?』 『どのみち、聖杯を獲るためには殺すことになる相手でしょう?』 学校で会った時とうってかわって、殺意を剥き出しにしたデリュージは頼もしく、危うい。 当初は『聖杯を手に入れるためならば何だってする』という志だったけれど、既に『トランプのアサシンを殺害してから聖杯を手に入れる』という目的に変質しているようにも取れる。 ならば仕方ない。 この復讐が遂げられれば、彼女は真の意味で修羅に落ち、地獄道を共に歩める共犯者となっていることだろう。 自分が手綱を握り、マスターを操って、復讐劇の筋書きを書かせてもらうしかない。 『では、私に策を委ねていただけますか? いくら何でも、これから行われる会談の場で100%彼女らを皆殺しにする前提で事を進めることは難しい。 なぜなら、敵は何人いるかもわからな『53匹です』 『失礼、53名のサーヴァントとそのマスターを2人で相手することになるのですから、正面から迎え撃つわけにもいかない。 そもそも私の宝具は、私自身への攻撃ならばいざしらず、私以外の者を護ることには向いていない。 であるなら、頭を使い、順を追って彼女らを追い詰める段取りが必要だ。それはデリュージにもご理解いただけますね?』 敢えての魔法少女名で呼び、その現実を確認する。 『分かりました。ただし、策については全て私に聞かせなさい。 回りくどい手を使うのは構いませんが、近い将来に必ず連中を滅ぼすこと。 ここで令呪を用いることまではしませんが、それに匹敵する命令だと思いなさい』 『無論』 これでも聖杯を獲るという願いのために憎しみの暴走を抑えているが、それも決して長くは無いことが暗に伝わる。 『では教えてください、マスター。あの兵士たちの総数を。戦い方を。能力値を。弱点を。知っている限りの全てを』 『当然です』 彼女は既に、正しい魔法少女の道を放棄している。 馬鹿正直に討伐令に加わるのはもったいない、と指摘された時はあれほどに不快感を示したサーヴァントからの助言を、今や自ら恃んでいる。 ヴァレリアにとっても、良い傾向だった。 『アーチャー。初めて貴方に感謝しています。 あの復讐相手と、私を繋ぐ接点を作ってくれて』 生前は、滅多に前線には出たことのなかった黒円卓の第三位にして、首領代行。 その本領は、戦場での活躍よりも、策謀を用いての暗躍にあった。 人の行動を操り、選択肢を奪い、罠へと追い込み、潰し合わせる。 何よりこの聖杯戦争では、サーヴァント自身が強固でも、マスターを切り崩すという手段が使える。 信頼していたり、愛し合っている組み合わせだからといって、彼に引き裂けない関係など存在しない。 ♠ ♥ ♦ ♣ 「魔法少女ってことは……『トゥインクルシスターズ』みたいなのだよね! ほら、今夕方に再放送やってるアニメの……」 「あっ、その再放送ならわたしも見てるよ! 主人公が緑のヤツだよね」 「良かった、話通じた! わたし、アレに出てくるトゥインクル・ブラックが好きなの。 いつもは主人公と距離置いてるんだけど、ものすごく強くて……オレンジのカズホとはまた違う意味でかっこいいお姉さんキャラだと思うの」 「うん、ピュアエレメンツでも、黒は一番お姉さんのプリンセス・クエイクの担当なんだよ。 かっこいいリーダーで、恋愛相談とかも余裕で乗ってくれて……やっぱり黒ってクールなお姉さんポジがやるものだよね」 「うんうん。すごいなぁ、本物の魔法少女だぁ……鳴ちゃんもシスターズではブラックが好きなの?」 「んー……わたしは緑かなぁ。自分の衣装も白だけど緑色も入ってるし。でもブラックのあのキメポーズかっこいいよね」 「「邪悪な存在は、私が黒に塗りつぶす!」」 びしぃっ、と両手をクロスさせた決めポーズを同時に決めて、小学生二人が同士を見る眼で互いを見つめる。 ランドセルをおろして公園のベンチに座りながらだと、大学生のお姉さんが近所の子どもを相手に遊んであげているように見えなくもないけれど。 「えっと、蛍ちゃん。私もそういうアニメとかは昔見てたし好きだけど、今は聖杯戦争の話をした方がいいと思うなぁ」 「そうだね。もう夕方だから、せめてこれからの予定はまとめておきたいし」 互いの後ろに立っている中学生くらいの少女と、十代後半ぐらいの青年が苦笑いしながらそうとりなすと、小学生2人……一条蛍と、『東恩納鳴』と名乗った少女は、すなおに「「ごめんなさいっ」」と謝った。 最初はお互いの自己紹介から始めましょう、と簡素に始まったはずの話し合いは、気が付けばずいぶんと長引いてしまっていた。 遊具の下から地面に伸びている黒い影はだんだんと細長くなり、遊具自体も黄昏色にやわらかく包まれ始めている。 遊具と言っても、ブランコと滑り台と鉄棒と砂場――あとは木製のベンチが置かれた東屋ぐらいしかない。 どこの住宅街にも一つは設けられているような、子どもの遊び場所だった。 さすがに中学生ならまだしも小学生がこの物騒な時期に外で遊ぶのは推奨されていないらしく、子ども達もちらほらやって来た程度で、この時間帯ではそれもいなくなった。 「『これからの行動』って言われても……」 東恩納鳴が、言いにくそうに言葉を途切れさせた。 あ、まずい。これ話題を振られるやつだ、と身構える。 「そっちの人がどうするかだよね?」 やっぱり振られた。 東屋の外で少女たちと目を合わせないようにしながら猫たちに猫じゃらしを振るっていた 『そっちの人』――もとい、松野一松はあからさまに狼狽した。 東屋の中に立っているシップの方を必死に睨んで『俺の言いたいこと分かるよな?分かってくれ。頼む』と目線で懇願する。 彼のサーヴァントは、やれやれという顔で代わりに答えてくれた。 「あー……あたしらも依頼主のマスターには、自分達がマスターだってばれたくないんだわ。 だから、あからさまに『バイト』のアタシらまで怪しまれるような報告をするのは避けたいっす」 「でもでも、その『フラッグコーポレーション』さんに問い合わせたら、依頼をした人って分からないのかな」 シップと同年代ぐらいの外見をした『ブレイバー』とかいうサーヴァントが、おずおずと尋ねる。向こうもシップを同い年かそれ以下ぐらいだと判断したのか、敬語は取れていた。 ちなみに、外見もシップは黒いセーラー服であり、ブレイバーは白いスカートと灰色のセーラーの中学制服を着ているので、(最初に現界した時は緑色のきらびやかな衣装だったけれど、目立たないように人間らしい格好にもなれるらしい)この二人だけなら中学生同士の会話に見えなくもない。 「いや、それは無理があるっしょ。いくらウチのマスターが社長の知り合いだって言っても、プライバシーの保護とかあるし。秘密厳守もばっちしって感じのデカい会社だったし」 シップが『だよね?』と確認するようにこちらを見て首をかしげたので、ぶんぶんと首を縦に振った。 心なしか、その場にいる二組四名の視線が『この男の人は自分で話せないんだろうか……』という感じに刺さってくるので、一松はもう何度目かもわからない後悔の念に襲われた。 本当に、こいつらの尾行を継続するんじゃなかった。 せめて、学校にランサーのマスター――ステータスがやばい――が来た時点で、すごすごと引き返すべきだった。 いや、実際にそうするつもりだった。 しかし、ぽかんと驚いていたマスター同士がやがて何やら話を始め、二人(迎えにきたサーヴァントも入れて計三人)で校門を出て行くのを見て、気づいてしまったのだ。 これ、ハタ坊になんて報告すればいいんだろう。 一日、二日尾行してみましたが、何も異常は見つけられませんでした。 争い事に関わりたくないならば、そう報告して身を引くのが賢明だ。 なんせ、ハタ坊に依頼をした人物はマスターである可能性が高い。 自分はただのバイトで雇われた調査員であり、決してマスターではありませんと、そう怪しまれない報告をしなければならない。 しかし、だとすれば。 この後、もし――小学生たちは見たところ友好的そうだけれど――万が一にでも二人が戦いになったりして、どちらかが脱落したりすれば、『一条蛍の身辺には怪しいところは何もありませんでした』と報告したりすれば、きわめて胡散臭いものになってしまう。 せめて、この二人の接触がどうなるのかは見届けよう。 シップと二人でそう結論づけ、追いかけて小学校から出た。 しかし、とっくにばれていたらしい。 『いったい何の目的があって僕たちを尾行していたんですか?』 話し合いのために公園についた時点で、男性のサーヴァントから『そこにいるのは分かっている』と睨まれた。 そしてランサーを名乗ったサーヴァントにあれこれ尋問されたり、 その途中に『ファル』とかいう変な生き物が出てきたり、 『ヘドラ討伐令』の説明があって皆が驚いたり、 とにかく互いに戦う意思がないことを確認したり、お互いのサーヴァントやら行動方針やらを説明したりして、今に至る。 ちなみに、情報交換だけでここまで時間がかかった理由の一つめは、ファルの『討伐令』という予想外の報せがきたからであり、 二つ目は、好奇心旺盛な小学生二人が魔法少女やら勇者やらの話で盛り上がったからであり、 三つ目は、一松の応対があまりにしどろもどろだったせいだ。 結局、遣り取りのほとんどはシップに押し付けたままだ。 せめてサーヴァントには1人でも男がいて良かった。 これで自分以外は全員女の子に囲まれたりしたら、絶望しかない。 『なぜ彼女たちがサーヴァントだと分かった? いやむしろ、なぜ貴方は小学生の個人情報の資料なんかを持ち歩いていたんですか?』 もっとも、その紅一点ならぬ白一点の追求がいちばん厳しかったわけだが。 とても困った。 アルバイトとはいえ、身辺調査をしているのに依頼主について明かすなど言語道断。 ましてやバイトの話を持ってきたのは、NPCとはいえ幼馴染のハタ坊であるし、おいそれと情報を吐きだすわけには……。 『答えなければ、敵性マスターとして僕たちを探っていたと思われても仕方ありませんよ?』 はい、ばらしました。 やはり一松は、旧知の仲との信頼関係よりも保身を取る人間だった。 だってこのランサー、見た目年下なのにめっちゃ眼が怖いし。 語調は静かだけれど、有無を言わせぬ圧迫の仕方を心得ている感じもするし。 やはりサーヴァントというからには、ヤの付く業界かそれ以上に『そういうこと』には詳しいのだろうか。 「では、松野さんに聞きますが、その『一条蛍の身辺調査』……報告の期限はいつまでですか?」 そのランサーからシップをすっ飛ばして質問が来た。 しどろもどろになりながらも、答える。 「い、いちおう……明日の夕方には一度報告を入れる、って言った……と思う。 ハタぼ……社長は、何日も時間かけたくないって言ってた」 「では、相手方もギリギリ明日までは不審には思うまいというわけですね。 ヘドラという目下の脅威もある以上、二面に敵を抱えるのはこちらも避けたいところです」 「じゃあ、まずは先にヘドラをやっつけましょう。蛍ちゃんも、それでいい?」 ブレイバーが、自らのマスターへと確認するように問う。 「はっはい、正直、今でもちょっと怖いけど、その『ヘドラ』を放っておいたら、明日にも町が危ないんですよね? 私もそれがいいと思います!」 両手を拳の形にして胸の前でぎゅっと握り、蛍が何度も頷いた。 魔法少女トークのこともありすっかり元気になった――風にも見えるけれど、まだ目元には泣いた痕が赤く残っている。 なんせ、『どこかのマスターがあなたに目を付けて、あなたに関する全てを探り出すように依頼したんですよ』という話を聞いた時は大変だった。 『私がなにか狙われるような失敗したんでしょうか』とえぐえぐ泣くものだから、ランサーとブレイバーと鳴が三人がかりで落ち着かせた。 ただの小学生(見た目はともかく)が、いきなり『殺し屋(みたいなもの)に目を付けられました』と宣告されたのだから、そうとう堪えるものがあったらしい。 鳴もすっかり蛍のことを保護対象だと見なしたのか、ませた口ぶりでに会話に加わった。 「んー……わたしは先に『討伐令』されてたアサシンも気になるけど、でも目の前の蛍ちゃんを守る方が先だよね。 一番がヘドラで、二番目が蛍ちゃんを狙ってる敵を倒す。それでいいよ」 すっかり『蛍ちゃん』と呼ぶようになっている。 彼女のいた子ども会では、中学生であっても子どもは一律に君付けちゃん付けで呼び合っていたのだそうだ。 「ありがとう鳴ちゃん。狙われてるのは私なのに、守ろうとしてくれて」 「これでも魔法少女だもん。それに、狙われてるのが分かってるなら、やっつけちゃうのも難しくないよ。 魔法少女のアニメでもよくあるじゃん。悪の組織に情報を盗まれてるのを逆に利用して、嘘の情報でおびきよせて嵌める展開!」 「そっか、そうだよね。そういう作戦なら、狙われてる私でも役に立てるかも!」 互いに命懸けだとは分かっているだろうに、微笑ましい作戦会議が交わされている。 きっと、予選期間の間にも悩んだり役に立てることを探したりしながら、生きて帰ろうとする覚悟を固めてきたのだろう。 子どもなのに強いのか。あるいは、子どもだから正義は勝つのだと夢を見られるのか。 どっちにしても、彼女らはよいこたちだと思う。 それに引きかえ、松野一松はゴミだ。 子ども達がこんなに頑張っているんだから、大人である自分も……などと思えるほどに、人としてまっとうにできてない。 どうせ戦っても生き残れないのだからと諦めて、少しでも長くモラトリアムできる場所を探すうちにここに迷い込んでしまった。 今でも、悪いサーヴァントの打倒計画が練られているというのに、『俺もぜひ参加させてください』とも、 『悪いな。俺は自分の身が一番可愛いから抜けさせてもらうぜ』と拒否することもできずに、居心地悪く座っている。 むしろ、その場が『みんなで力を合わせて一緒に生き残ろうね』という空気で盛り上がっているからこそ、いっそう自分の道には先が無いように感じていた。 ヘドラとやらがどんなものか、見たことはない。 けれど、サーヴァントたちがファルを詳しく問い詰めたのと、シップが『深海棲艦』について知っていたことから、具体的な恐怖として知ることはできた。 予想するのは、簡単だ。 ソレの討伐軍にシップを参加させたりしたら、絶対に死なせてしまう。 ヘドラだけでなく、たいていのサーヴァントに勝てそうにないことは、ランサーやブレイバーのステータスを見るうちに察してしまったけれど。 たとえ他のサーヴァントと力を合わせて突撃させたところで、火力も圧倒的に足りていないらしい彼女では真っ先に溶かされるポジションに収まってしまうか、海岸付近で雑魚を相手にどんぱちさせるのが関の山だろう。 じゃあ、自分たちは単独では弱いからと、蛍や鳴たちに保護を求めればいいのかと言えば、その選択肢も決して見通しは明るくない。 メンタルも弱く、猫と仲良くなることぐらいしか取り柄が無いダメ人間のマスターと、 ほぼすべてのステータスがEランクの上に、資材を持たなければろくなサポートもできない船(シップ)。 同盟相手がただの小学生なら、資材の輸送などで役に立てることは無いだろう。むしろ自分たちこそが足でまといにしかならないお荷物だ。 今でこそ――少なくとも『身辺調査の依頼主』の件が解決するまでは――あれこれと話しかけてくれてはいるが、いずれ自分達を重荷に感じて見捨てる時が来るんじゃないか。 見捨てなくとも、同盟を組めばまずシップがウイークポイントとして扱われて、道連れに破滅する主従を増やすだけじゃないか。 「じゃあ、シップさん達には、どんな報告をしてもらいましょうか?」 「できるだけ、相手がぎょっとするようなのがいいんじゃないかな」 「めんどくさ……まぁ、アンタらの都合に合わせるけど、先方に突っ込まれたらボロが出るようなのは勘弁ね」 少なくとも『がんばりますから見捨てないでください』と懇願できるほど、自分の性格が可愛らしくないことは自覚している。 ランサーの追求が厳しめなのだって、頭の中では自分たちに見切りをつける算段をしているせいかもしれない。 こんな人間に生まれ育った時点で、一松は人生の色々な事を諦めてきた。 それは、友達の1人でも作ることだったり、若者らしく合コンに参加することだったり。 クリスマスに出会った恋人の二人を祝福したり、人の好意を素直に受け取ったり、こんなに善良に差し出されている手を取るだけのことだったり。 きっと、この戦争を生き残れるような強い人間がいるとしたら、それは彼女たちで。 松野一松は、ほんとうに、この戦争を生き残れるような人間じゃない。 きっと、この世に要るのはよいこだけだ。 聖杯戦争家族計画 氷血のオルフェン
https://w.atwiki.jp/sentakushi/pages/397.html
436 名前: ひとりぼっちの聖杯戦争 ◆IkOakw2geY [sage 時に弟者、完結させるって約束したら連載二本かかえてもOK?] 投稿日: 2006/10/29(日) 10 42 52 一、俺がもう一度遠坂を殺す。 憶えている。 遠坂凛という一人の少女を。 「おまえは、誰だ?」 「……衛宮君?」 遠坂に似たナニカは彼女によく似た顔でさえずる。声もとてもそっくりで、だからこそ浮き彫りになる違いが許せない。 イライラする。遠坂凛の誇りが、遠坂凛の生き抜いた人生が馬鹿にされている。あいつはあんなにも一生懸命で、駆け抜けた姿はとても綺麗だったというのに。 「下手な芝居はやめるんだ。お前は遠坂とは似ても似つかない」 「もう、どうしたのよ士郎。わたしはわたしよ、遠坂凛。士郎、忘れちゃったの?」 彼女は少し寂しそうに目を伏せた後、くすりと笑って、目を細めた。嬉しそうに、楽しそうに、ほんの少しだけ艶やかに、目の前のナニカはすり寄ってくる。 「あいつは絶対にそんな笑い方はしない。そんな優しい雰囲気は纏わない。そしてなにより、そんな楽しそうな仕種はしないんだ」 「……………………」 「お前は、知らないのか。あいつはな、もうとっくに決心してしまったんだ。魔術師として。冷酷で人でなしな生き物として生きようと」 一瞬だが、遠坂を騙るナニカの表情が歪んだ。仮面の下に、酷く、イビツで壊れた笑顔が見えた気がする。 「だからこそな、彼女はずっと悩んでいたんだ。苦しんでいたんだ。自分の外内面と外綿のギャップにな。……当たり前さ。なんだかんだいってあいつは、その実どこにでもいる普通の女の子だったんだから」 それでも、遠坂は絶対に弱音を吐かなかった。苦しみを表にださなかった。意地を張って、猫をかぶって。何でもないって顔で、当たり前のように前に進んでいったんだ。 「……正直、羨ましかった。俺は、ほら、とっくに壊れていたみたいだからさ。あいつのそんな泥臭い人間らしさとか、それなのに馬鹿みたいに意志が強いところとか。そばで見てて、格好いいって思ったんだ。駄々っ子みたいに依怙地になって颯爽と突き進んでいったんだから」 本当に遠坂は強かった。一度ぐらい泣いてもよかったのに。弱音の一つぐらいこぼしても罰なんてあたらなかっただろうに。遠坂はどう変わっても遠坂で、呆れるくらい眩しかった。 ―――そんな彼女を、俺は裏切ったんだ。だからせめて、あいつの守ったつまらない意地ぐらいは、最後まで守り通してやらないと。 「お前はそれを侮辱した。彼女の歩んだ道程を。遠坂が秘めていた決心を。だからさ、もうやめてくれ。おまえがその姿のままでいるのなら、俺はおまえを殺さなきゃいけない」 俺がそう告げると、今度こそコイツは、おぞましいぐらいの笑みで破顔した。 「残念ね、衛宮士郎。あなたがそこまで壊れていたなんて。私の舞台に人形の居場所はないの。消え去りなさい、不出来なガラクタ」 夜風に、血の嫌な臭いがこびり付いている。強すぎる月影が目に痛い。都会の夜空はとても明るくて、見上げても星なんて見えやしない。 「フフ……フフフフ…………、ふふっ、なんだ……、そうだったの…………」 さっきまで遠坂の形をしていたものが笑っている。穴の空いた肺で、切り裂かれた喉で。幾重もの件に貫かれハリネズミになったその姿で。 「悪くないわ。悪くない展開よ衛宮士郎。いずれ魔法の欠片に届きかねないこの躯も上物だったけど―――」 スイッチが切り替わった。明らかに人でないものの気配がする。辺り全体に充満する甘ったるい匂い。このとき、この場所は明らかに異界に変じた。 「衛宮士郎。オマエは壊れてなんかいない。コワレタふりをしているだけだ! フフッ、アハハハハハハッ―――! 素晴らしい。素晴らしいスバらしイスばラシイ―――! お前の恐怖は、お前の在り方はスバラシイ! お前に決めた。お前こそ適任だ。お前になれば、お前の恐怖をもとにすれば、私はかつてないワタシになれる!」 結局、どんな事件だったのだろうか。現れた片鱗はそう喚いてそれっきりで、遠坂の幻は塵に帰るかのように姿を消した。 街の違和感は拭われない。ざわめきが胸を襲っている。どうしようか。あいつとの戦いで大分消耗してしまったけど―――。 一、もう少し新都を調べてみる。 二、深山の方をまわってみる。 三、家に帰って休む。 投票結果 一 1 二 1 三 5 決定?
https://w.atwiki.jp/itan_seihaisensou/pages/12.html
ゲームルール 【ルール】 当企画はTYPE-MOON原作の「Fateシリーズ」の設定の一部を元にした、リレーSS企画です。同作中の魔術儀式「聖杯戦争」を元にし、参加者達が聖杯を賭けて戦う企画となっております。 参戦可能なサーヴァントは、原作同様に「セイバー(剣使い)」・「アーチャー(弓使い)」・「ランサー(槍使い)」・「ライダー(騎兵)」・「キャスター(魔術師)」・「バーサーカー(狂戦士)」・「アサシン(暗殺者)」の7種に限定されます。エクストラクラスの参戦は禁止です。 【設定】 原作である「Fate/stay night」とその派生作品とは一切の関連性を持たない並行世界が舞台です。 今回は「第二次聖杯戦争」に該当します。 時系列は「第一次聖杯戦争」終結から10年後。 舞台は「第一次聖杯戦争」同様に、関東地方某所の比良町が舞台となります。 「第一次聖杯戦争」での主催者は「神父(この世全ての悪/アンリマユ)」でしたが、今回は主催者は存在しません。 第二次では、【「第一次聖杯戦争」終結と共に消滅した「聖杯(神父の能力から分離したエネルギー体)」を『御三家』と呼ばれる3つの魔術派閥が再現し、「自らにとって都合の良い聖杯」を作りあげようとしたが、結局は可能だったのは「聖杯」の再現のみでシステム自体は御三家の力を持ってしても改竄出来ず、やむおえず聖杯戦争を開始した】事になります。 第一次では、神父の圧力によって魔術協会や聖堂協会が聖杯戦争に介入しませんでしたが、今回はその圧力も無い為、聖堂協会から「聖杯戦争の監督役」の神父が派遣されています。 【サーヴァント及びマスターについて】 自身のサーヴァントもしくはマスターが自分よりも先に死亡した場合、その生き残った片方は死んだ相方のゲーム時間の死後24時間以内に他の相方(サーヴァントかマスター)と再契約しないと強制的に死亡となります(単独行動スキルのあるアーチャーのみこれに96時間加算される)。 1人のマスターが契約可能なサーヴァントは1体のみ。契約を解除する為には、「マスターである自分が死ぬ」・もしくは「自分のサーヴァントが死ぬ」のどちらかしかありません。 【令呪について】 Fate本編同様にマスター7人にはそれぞれ自らの使役するサーヴァントに対して絶対的な命令権を行使できる『令呪』が3画支給されます。 令呪に関してはFateシリーズと大方同じ設定で進行されるので、その点は型月Wikiをご拝見下さい。 追加令呪の支給は原則ありません。 しかし他のマスターから令呪を奪取する事は可能です。 上述の奪取は、令呪を奪われる側のマスターが在命しているのなら、そのマスターの同意が無い限りは令呪の奪取は成立しません。逆に既に死亡しているマスターからは同意無しに無条件で令呪の奪取が可能です。 1人のマスターが保有できる令呪の最大数は3画です。 3画以上は如何なる状況にあっても獲得は不可能です。 サーヴァントよりもマスターが先に死亡した場合、そのマスターの死体の手には未使用の令呪が死後24時間に渡って残留します。 逆にマスターよりもサーヴァントが先に死亡した場合、そのマスターの手からは令呪が消失します。 【最大宝具の使用回数について】 ランクA以上の宝具の使用には1日毎に回数制限が存在します。回数制限はそのサーヴァントのマスターの魔力の供給ランクに比例し、以下の通りとなっています。 供給A→1日に3回まで(但し翌日の宝具の使用は1回のみ) 供給B→1日に2回まで 供給C→1日に2回まで(但し翌日宝具の使用が不可能) 供給D→1日に1回まで 供給E→2日に1回まで 【ダメージのダイス判定について】 最大宝具の使用等の「致命傷になりゆる攻撃が行われた」際には、それによるダメージがダイスによって判定されます。 ダイスを振るのは基本は「神父(監督役)」です。 ダイス判定時には、その攻撃を受けたサーヴァントもしくはマスターのステータスの平均値で「攻撃回避」の当たり目を決定し、逆に攻撃した側はスタータス関係無しに「クリティカル」の当たり目を1つ選択出来ます。 6面ダイスで、攻撃回避目が出た場合は「そのまま無傷で攻撃を回避」。クリティカル目が出た場合は「攻撃を受けた側に致命傷を与える事に成功(死亡確定)」。その他の目が出た場合は「重症」扱いとなります。 ゲーム時間の24時間の間に3回以上「重症」が出た場合は、無条件で「死亡」扱いになります(重症→瀕死→死亡)。
https://w.atwiki.jp/grailwar/pages/30.html
最大HP=耐久d6(自己申告制) セッションの開始時点ではHPは最大値。 ダメージ処理によって減少する。 ダメージ処理 ダメージ=攻撃側の判定数-防御側の判定数(ダメージが0以下だった場合、ノーダメージ) ダメージ処理は以下の手順で進行する。 防御側はダメージを算出する 防御側はHPからダメージを引く 防御側は残りHPを宣言する 攻撃フェイズに戻る 脱落 マスターかサーヴァントのHPが0以下になったマスター(PL)は脱落する。 乗騎のHPが0以下になってもマスター(PL)は脱落しない。 聖杯戦争の期間中に願い事を達成した場合等、「自害せよ、ランサー」のように自主的に脱落する事も出来る。 脱落したマスター(PL)はバッドエンドを公開し、それ以降、沈黙する。 GMウィンドウで雑談する事や、全てのPLウィンドウを観戦する事は出来る。
https://w.atwiki.jp/psyren_wars/pages/60.html
これって魔法みたいだね◆wd6lXpjSKY 肉体的疲労の影響が多い間桐雁夜は立ち上がるだけでも身体に痛みが走る、のが数十分前のこと。 ある程度木陰で休息を取っていたため日常的な動作に不備は生じない。走る選択を選ばないことに越したことはないが。 左手に握っているペットボトルに視線を移す。 何の変哲も無いお茶だ、不思議な箇所は見受けられないし感じられない。 だが入手手段に大きな問題が存在する。このお茶は貰い物だ、先ほど学生と思われる女性からの。 女性を疑っているわけでもなく、善意を無駄にする気はないのだが簡単に口に含む訳にはいかない。 『このお茶を渡した女性はサーヴァント』この一点が切っても切り離せないほど脳内に危険信号を響かせる。 何故サーヴァントが自分に接触してきたのか、行動を見れば善意にしか感じられない。 どうやら間桐雁夜をマスターと認識していない節があるようだが演技の可能性もある。 善意に甘え口に運び毒でも入っていれば一大事では済まないだろう。 (……毒の線は無い、な) 手元にあるお茶から魔術的な概念を施された形跡は見当たらない。 魔力を当て、感知してみるも反応は感じられない、つまり白。 科学的な可能性も否定しきれないが。 何にせよ敵から貰った物を疑うのは当然であり、口に運ばないのも仕方がない事だ。 女のサーヴァントが何を狙ったかは不明だ、不意打ちや奇襲の類だろうか。 ならばそのまま襲ってくるのが定石、と考えるのが筋なのだが。 (ゴムのサーヴァント、そして女のサーヴァント……。 どっちも俺が戦ってきたサーヴァントではない。 ゴムの方は女の子のマスターが「ライダー」と呼んでいた……あの豪傑ではない。 この聖杯戦争は俺が戦ってきた聖杯戦争とは違う……確定だな) 天戯弥勒と名乗る男が開催したと仮定するこの聖杯戦争は全てが不可思議に包まれている。 何らかの方法で構成された聖杯戦争を行うためだけの空間。 中立の立ち位置を取るわけでもなく願いを叶える、その一言。 彼は一体何のために、どのような力を用いて聖杯戦争を開いたというのだろうか。 (あのサーヴァントの言葉が正しいなら此処に救急車が来るはずだ) 女のサーヴァントは間桐雁夜にお茶を渡した後救急車を呼んだ旨、伝えて姿を消した。 救急車を呼んで貰った行為自体に問題はないが間桐雁夜に問題は在る。 一つに聖杯戦争に参加している今、目立つ行動は避けたい。 一つに蟲に侵されているこの身体を一般人の目に映ると何かと厄介事になってしまう。 一つに何が潜んでいるか分からないこの空間、密閉空間に招かれるのは危険であるということ。 つまり、現状はこの場から早く去らねば。 辺りを見渡せば平日の午前の影響か子連れが少々といった具合である。 足を動かしその場から離れようとするも耳に聞きたくない音が割り込んでくる。 シャットダウンしようにも強制に響くその音は彼の心を煽っていく。 日常生活でも一定の頻度で聞こえるその音は今、最も聞きたくない音であった。 「救急車……既に近くに来ていたか……ッ」 女のサーヴァントが善意か悪意か将又彼の知らない所で策が張り巡らされているのか。 決定を決めつけることは出来ないのだが、手配された救急車が近くにまで来ている。 今運ばれると目立つ、そして身体を見られれば間違いなく彼の存在が公になってしまうだろう。 蟲に侵された身体。自分が三流新聞記者ならばオカルト記事には持ってこいの逸材だ、軽く悪態をつく。 バーサーカーを使役したり蟲を使えば簡単に切り抜けられるが関係のない人々を巻き込みたくない。 しかし行動を起こさない限り事態は結局求めたくない解になってしまうため、理想だけを追い続けるのは不可能である。 救急車を視界に捉えると車体を停めている最中であった。 つまり人が降りてくる事を表している、そんなのは当然だ説明する必要もない。 この場を切り抜けるには――蟲を使役するよりもバーサーカーを使う方が早いだろう。 遠くで暴れさせて気を引けば自分から注意を反らせる、不本意だが仕方がない。 「この近くに『今にも死にそうな男が倒れている』はずだ」 「悪戯じゃないんですかねー、あの声の人多分まだ未成年だったし」 「軽口叩いてる暇があるなら手を動かせ! 何かあってからでは遅いんだぞ」 救急車から降りてくる会話が聞こえる。 彼らは視界に間桐雁夜を捉えると確信付いた何かを抱きながら彼に近づく。 (やっぱ一目で分かるもんか……) その反応に若干の寂しさを見せるも単なる甘えにすぎない。 間桐桜を救うという大義名分を勝手に掲げその身を好き好んで破壊したのは彼自身なのだから。 今更被害者面など都合が良すぎるが今の焦点はそんな所ではなくこの場の対処法。 バーサーカーを遠くに具現化させようと念話による命令を出そうとするも――。 「き、消えた……?」 一陣の風が吹き荒れる。 瞳を閉じた刹那の裏側、感じるは異様な風。 再度瞳を開けた時、目の前には誰も居ない。 救急隊員の呟きだけが残された。 ◆ 美樹さやかはバイクに跨がり風を切っていた。 詳細を話せば運転しているのは彼女ではない、後ろに座っているだけ。 バーサーカーの能力の一環で融合されたバイクに乗り救急車を追っている最中だ。 この先に誰が居るかは正直な話、不明である。 参加者ならば何かしらの接触になると思われる。 参加者ではなくても現状昼間から制服女子がバイクに跨っているという光景は珍しいだろう。 NPCではなく参加者ならば不自然と感じ、接触を試みるかもしれない。 確率を掴み取りその先に進むにはActionが必要である、ならば起こせ。 「――あ、見えてきたよバーサーカー」 「思ったよりも走ったが……公園、か?」 救急車が走っている先は公道から少し逸れた所、車を停めようと路肩に寄ろうとしていた。 その近くには公園、おそろく其処に患者或いは怪我人が居るのだろう。 参加者なら儲け物、それ以外ならドライブと洒落こんで納得するしかあるまい。 バーサーカーは救急車からある程度離れた後方にバイクを停めると己の身体と融合解除を発動する。 光に包まれたかと思えばたった一瞬だ、光が晴れれば目の前にはただのバイクが一台。 「これって魔法みたいだね」 「正しくその魔法なんだ……」 英霊となって具現化したサーヴァント、それを使役するマスターは少なからず魔術の因果に首を突っ込んだ形になる。 美樹さやかは元々魔法少女なのだから魔法に驚く事も見当外れに違いはないのだが。 「あの男の人かな……たしかに辛そう」 救急隊員達は公園の中に居る男に接触するようだ。 フードを被っている男、隙間から覗き見える顔は衰弱しているように見えないわけでもない。 確認するには距離が若干離れすぎているようだった。 「バーサーカー……あの人から何となくだけど感じる、かな」 「あぁそのようだ……当たりを引いた」 表情は確認出来ない、しかし魔術的な概念は感知出来たようだ。 美樹さやかの魔法とは違う異質な物だが、初の他参加者による接触の機会。 ある程度のリスクを背負ってでも、価値はある。 さて、どう接触するべきか。 声を掛けるのが一番手っ取り早く単純で簡単な行動だろう。 しかしあの男が危険人物なら先手を撃たれ劣勢になるかもしれない。 男を考える前に、一つ、疑問が浮かぶ。 「ねぇバーサーカー」 「どうした?」 「あの人何で救急車を呼んだのかな――ッ!」 救急車を呼んだ理由、通常ならば何か事故があったり危険な状況であったと推測出来る。 或いは悪戯、これが日常で溢れる理由だろう。 例えば。 魂喰い……一般人の命を代償に己の強化を図るのが目的ならば。 見過ごせる状況ではない、交渉や接触は二の次だ、此処で止める必要がある。 その旨バーサーカーと会話をするつもりだったがそれも中断。 近くで強い魔力を感じる。 己の主張が激しく、隠すつもりが全く感じられない。 「これって強すぎでしょ!? ねぇバーサーカー!」 「この感じはバーサーカーに近い……聖杯戦争に同じクラスは混在しないはずだが……」 本来聖杯戦争は七つのマスターが各クラスのサーヴァントを使役する物。 元々天戯弥勒の存在自体が不可解、と考えれば納得出来るかもしれない、がそれでもだ。 もう一つのバーサーカー、この情報だけでも十分収穫は在った、と言えるだろう。 「もう一度乗れ! ッ走るぞ!」 停めていたバイクを再度己の身体と共存させるバーサーカー。 彼が選んだ選択――マスターである美樹さやかも同じだった。 跨った主従は公園の中をフルスロットルで突っ切る。 風を切るだなんて生温い、彼らが一陣の風となりて突入する。 メットを被っていないため美樹さやかは瞳を力強く閉じている。 それでも振り落とされないようにバーサーカーにしっかりと腕を回し耐えていた。 バイクが目指すは男、あちらのバーサーカーのマスターを抑える。 狂戦士と云えどマスターにその刃を向けることは無い、と思いたい。 救急隊員の合間を突き抜けるとそのまま強引に左腕を伸ばす。 その速度は一般バイクの限界速度を超えており、強風で瞳を開けることは中々難しい物が在る。 結果、救急隊員は風が吹き荒れた感覚に襲われる、つまり人目に気づかれない。 バーサーカーが伸ばした腕はしっかりと男を掴む事に成功する。 そのまま抱え込むように己側に引き込み、肩を使い担ぐ形になった。 「お、おい!」 「今は口を動かすと舌を噛むぞ?」 突然拉致されたと言っても可怪しくない状況で間桐雁夜は言葉を紡ごうとする。 だが風で遮られ、高速で走っているこの最中口を動かす訳にもいかない。 「……あたしは美樹さやかって言います、それでこっちの男は――」 「君みたいな女の子がマスター……なのか。 時臣も神父も……どうやらマスターやサーヴァントは違うんだな。 でも、ごめん……君みたいな女の子が何で聖杯戦争に参加しているか分からない――バーサーカーァ!!」 話を紡ぎ交渉を試みる美樹さやか。 だが間桐雁夜にその言葉は届かない、いや届いてはいる。 彼は拒んだ、それは過去の聖杯戦争の影響か否か。 言えることは一つ。 彼という人間は美樹さやかと戦いたくない、言い換えれば子供に手を掛けたくないのだ。 だが矛盾が発生する。 間桐雁夜は既に鹿目まどかと交戦をしている。 たかが数時間で決意がブレるほどの弱い精神の持ち主なのだろうか。 彼と呼べる本質が本能で咄嗟に飛び出した言葉、それは子供と戦いたくない、という甘え。 決意は在る、他の参加者を殺してでも叶えたい願いが彼に在る。 だけど、でも、だけれど、それでも。 これを最後にするから、今だけは――。 「仕方ない、交戦するぞ」 「……うん、うん」 この状況に対応するしか無い。 バイクを停め、再度融合を解除、しかし間桐雁夜は近くに置いておく。 盾代わり、と言えば酷いがこれも策だ。 同じ狂戦士、されど正面からの対立はどちらも消費が激しく好ましくない。 戦闘は行う、避けられない。 だが、まだ少しだけ。 対話が出来る機会が生まれるかもしれない、それを片隅に置いて。 時間は正午寸前。 彼らは知らないが数分後に戦闘を強制的に中断される出来事が発生する。 それでも今は目の前の敵に対して抗うだけ、願いのために、血に染まれ。 【D-4・南西・一日目・午前】 【間桐雁夜@Fate/zero】 [状態]肉体的消耗(中)魔力消費(小) [装備]なし [道具]お茶(ペットボトル) [思考・状況] 基本行動方針:聖杯を取り、間桐臓硯から間桐桜を救う。 1.この場を切り抜ける。 2.女の子……だけど殺さなくてはならない。 3.間桐邸に向かい休息を取る [備考] ※ライダー(ルフィ)、鹿目まどかの姿を確認しました。 ※バーサーカー(一方通行)の能力を確認しました。 ※セイバー(纒流子)の存在を目視しました。パラメータやクラスは把握していません。 ※バーサーカー(不動明)、美樹さやかを確認しました。 【バーサーカー(一方通行)@とある魔術の禁書目録】 [状態]健康 [装備]なし [道具]なし [思考・状況] 基本行動方針:■■■■─── 1.───(狂化により自我の消失) [備考] ※バーサーカーとして現界したため、聖杯に託す願いは不明です。 【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ 叛逆の物語】 [状態]健康 [令呪]残り三画 [装備]ソウルジェム [道具]グリーフシード×5@魔法少女まどか☆マギカ、財布内に通学定期 [思考・状況] 基本行動方針:聖杯が信用できるかどうか調べる 1.目の前のバーサーカーと戦う、何とか対話に持ち込みたい。 2.与えられた役柄を放棄し学校に行かないことに加え、あえて目立つ行動をとり天戯弥勒や他の参加者の接触を誘う 【不動明(アモン)@デビルマン】 [状態]健康 [装備]なし [道具]バイク(盗品) [思考・状況] 基本行動方針:聖杯が信用できるかどうか調べる 1.目の前のバーサーカーと交戦する。 2.あえて目立つ行動をとり天戯弥勒や他の参加者の接触を誘う 3.マスターを守る [共通備考] ※マップ外に出られないことを確認しました。出るには強力な精神耐性か精神操作能力、もしくは対界宝具や結界系宝具が必要と考えています ※マップ外に禁人種(タヴー)を確認しました。不動明と近似した成り立ちであるため人間に何かがとりついた者であることに気付いています。NPCは皆禁人種(タヴー)の材料として配置されたと考えています ※間桐雁夜(名前は知らない)、バーサーカー(一方通行)を確認しました。 BACK NEXT 031 光の屋上 闇の屋上 投下順 033 戦争と平和 031 光の屋上 闇の屋上 時系列順 033 戦争と平和 BACK 登場キャラ NEXT 022 気絶するほど悩ましい 間桐雁夜&バーサーカー(一方通行) 036 誰がために命を燃やす 025 日常に潜む妖怪 美樹さやか&バーサーカー(不動明)
https://w.atwiki.jp/sentakushi/pages/1097.html
232 :隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM:2007/10/31(水) 04 24 37 ――冬木市教会 深夜にもかかわらず、電話のベルが鳴った。 雑務を全てこなし、ベッドに入ったばかりだと言うのにと、不機嫌この上ない状況であった。 とはいえ、この時間にも関わらず電話をしてくる以上緊急の事態でも起こったのだろうと考え、その事は微塵も声には出さず受話器を取った。 「……はい」 「シスター・オルテンシア、いや……今は司祭代行だったな、よろしいかね?」 「拒否したら切っていただけますか?」 「即答とは、可愛い声をして辛辣だね」 受話器の先の声は疲れ切っているが楽しそうで、それがまた勘に障った。 「切ってよろしいですか?」 「それは困るなシスター、冬木教会を取り仕切る人間としての職務、その依頼を行いたい、S市教会を取り仕切る立場の人間としてだ」 声のトーンが一段下がったのが分かった。 「……拒否権は無さそうですし、真面目な話のようですね、話を伺いましょう」 「うむ、現在冬木市市外において戦闘が行われている、規模は小さいがその戦闘圏内での戦闘は激烈なようだ、ついてはその後始末を行っていただきたい」 「現在の戦争はS市で行われていると言うことですし、業者の類はほぼ全てそちらに派遣されているはずでしょう、そちらで手配すればいかがですか?」 「できればやっているがね、こちらでも戦闘が各所で行われていてな、北部では嵐が吹き荒れているのが確認されたし、港近辺の海上では巨人が暴れているなんて言う冗談のような報告まで来ているのだ」 「……なるほど、それでは仕方ありませんね、具体的な位置をお願いします」 「感謝する、ではその位置なのだが……」 『ジェネラル、聞こえまして?』 念話を試みる。 大声を上げれば聞こえそうな距離ではあるが、砲撃音に遮られるであろうし、敵に聞かれ攻撃、あるいは奇襲を受ける可能性も考えそれは避けた。 『聞こえている、無事だったようだな』 明らかに安堵していると分かる声が、聴覚に因らずして脳内に響いた。 『当然の結果ですわ、それよりも、そちらはどうですの?』 実際の所、こちらが死亡していてもおかしくはない結果ではあるのだが、とりあえずそれは伏せておくことにした。 『膠着状態だな、敵は砲撃の合間合間に攻撃してきて、被害も少し出ている……流石にビルを崩すわけにもいかんからそう思いきった攻撃もできんしな』 『……つまり敵に関する情報はまるで得られずって事で良いんですの?』 サーヴァントに関する情報を手に入れる最大の相手を失ったのだとと言うことを漸く理解した。 『気配遮断能力からアサシンかとも思えるが、観測手であるマスターは倒したのだろう?』 『そのはずですわ、観測手がマスターでないというならば話は別にもなるでしょうけれどもそれは考えにくいですし……何かありまして?』 死体が倒れていたはずの場所に目を向ければ、そこには既に肉体は無く、着用していた服や骨の一部が残るのみだ。 『戦術に変化が全くないのだ、射撃の次の瞬間には別の場所に移動しているのか、こちらの攻撃で有効打となっている物は無さそうだ』 『だとすれば長期の単独行動が可能で遠距離攻撃を有するアーチャーと言う可能性もありますわね……近接戦闘、ビルの突入制圧はできませんの?』 『調べてみたが悪質な魔術トラップが満載で前進にかなりの時間が掛かっている、梯子を取り付けようとしたがそれは攻撃を受け破壊された、今工兵が一階のトラップを解除にかかっているが階段まで到達するのにすら暫く時間が掛かりそうとの報告だ』 『厄介ですわね……私と同行していた分隊はどうなりました?』 思考を始めた頭に同行していた分隊、そして己に襲いかかった敵を思い出し、忘れていた自分の迂闊さに己を殴りたい衝動に駆られた。 咄嗟に壁を背にして周囲を警戒するが、敵らしきものは見えない。 『そちらは吉報が届いている、敵を撃破したとの報告は受けた』 その言葉に警戒はそのままに、一度息を吐く。 考えてみれば、狙われているとしたら無防備な時間に殺されていただろうと思い至る。 勿論それで気を緩めて良いはずもないのだが。 『それは嬉しい事ですわね、それでは戻りますので、分隊を待機させていただけます?』 『勿論だ、階段が使えぬと言う報告なので梯子を用意させているのだが、不要かね?』 『……ええ、問題はありません』 階段が無いことで一時的に泡を食ったが、魔術の応用で自由落下を制御することを思いつく。 質量や気流の制御は彼女にとってそう難しい術式ではない。 舞を舞うようにエレガントに、とまでは行かないが、衝撃を緩和させて着地する程度ならスカートを押さえずに出来る自信があった。 『分かった、では気をつけて降りたまえ』 それだけ言って念話は途切れた。 「……さて、では参りましょうか」 そう呟いた彼女の耳に、砲火に混じり、別の音が聞こえてきた。 その音は彼女にとっては聞き慣れないが、知っている音だった。 聞いたばかりでは聞き間違えようもないその音はライダー、シャリフの駆るK1200Rの四気筒エンジンの発するエキゾーストノートだ。 それに混じる音は聞き慣れぬ物だったが、同じくバイクのエキゾーストノートだと言うことは理解できた。 さらに耳に神経を集中させれば、圧倒的すぎるエキゾーストに掻き消される程に僅かだが、銃声も混じっているようだ。 「敵ライダーがこちらに向かっていると言う事ね……もう一人のライダーの方はどうなっているのかしら?」 そう簡単にやられるわけはないとは考えていたし、事実無事ではあるのだが、情報が無い時は最悪のパターンも考慮しなければならなかった。 その辺りのことは生前絶望的な戦いを繰り広げたジェネラルも理解している。 ビルへの攻撃を続行しながら更に四個分隊を現出させ、音の向かってくる方向に向けて銃口を向けさせる。 ペピン:そこに二台のバイクが現れた オグデン:ジェネラルの耳元に通信波が舞い込んできた エイドリア:音はまだ遠方にあり、ここに至るまではまだ少々の時間を必要とするようだ
https://w.atwiki.jp/psyren_wars/pages/48.html
だからね、あたしは大丈夫だよ ◆BATn1hMhn2 地図でいうC-7に位置する病院――その屋上で一組の主従が柵にもたれかかり、地上を歩く人々を眺めている。 時刻は午前七時三十分。通勤や通学のために多くの人達が道を行き交っていた。 ぼんやりと地上の人々を眺めるマスター――美樹さやかに、バーサーカーは声をかける。 「さやか。きみは学校に行かなくていいのか?」 「うーん……本当なら行かなくちゃいけないんだろうけど、気分じゃないんだよね。 ったく、殺し合いをしろって言ってるのに学校にはちゃんと行きなさいだなんて、天戯ってやつもヘンなとこでマジメというかなんというか……」 ぶつくさと文句を言うさやかを見て、バーサーカーは微笑んだ。 美樹さやかという少女は、その小さく細い身体に見合わないほど巨大で苛酷な運命を背負わされている。 少なくともバーサーカーには、そのように見えていた。 だからさやかが歳相応に、学校になんか行きたくないと軽口を叩きだしたのを見て、少し安心したのだ。 (――まだこの子は、摩耗していない。この子の心は、きっとおれが守ってみせる) かつて守ることが出来なかった『美樹』と再び巡り合ったのは、誰が仕組んだ運命か。 だが、誰が何を考えていようと関係ない。今度こそ『美樹』を守ってみせると、バーサーカーは決意を新たにする。 一方で、さやかはこの聖杯戦争を仕組んだ男の真意を考えていた。 日常生活を送りながら殺し合いをしろという天戯弥勒の真意は一体何なのか。 「ねぇバーサーカー。あなたが知っている聖杯戦争は、こんな風に学生の真似事をしなくちゃいけないようなものだった?」 「いや、違うな。そもそもおれの知識にある聖杯戦争には、異なる地の人間を召喚するような仕掛けはなかったぜ。 聖杯を求める魔術師は己の意志で冬木に集い、聖杯戦争に臨む…… マスターであると周囲に気取られぬように魔術師であること、サーヴァントを従えていることを秘匿し、目立たぬ生活を送るのは確かに基本戦術の一つだ。 だけど遠く離れた地から召喚され、新たに与えられた身分と役柄を演じる必要があるなど聞いたことがないぜ」 バーサーカーの説明のおかげで、さやかの中で違和感は一層強くなる。 既存の聖杯戦争の形式を崩さないために新たに設けられたルールだと言われれば納得するしかないだろう。 しかしこのままでは、ただでさえ信用出来ない天戯弥勒――ひいては聖杯そのものに対しても不審の目を向けざるを得なくなる。 だからさやかは、敢えて学校に行かないという選択肢を選ぶことにしたのだ。 もしさやかの行動に対して天戯弥勒が干渉してくるのならば、与えられた役柄を演じることに意味があるということになる。 だが、さやかの行動を見過ごすようであれば―― 「どちらにしろ、天戯弥勒が何を考えてるかはっきりしないとあたしたちも動きようがないかぁ」 天戯弥勒の真意をはかりかねて、さやかは嘆息した。 さやかの目的はあくまでも悪魔になった暁美ほむらに対抗する手段を見つけることなのだ。 聖杯がその手段になるというのなら聖杯を手に入れるのも吝かではないが、如何せん聖杯の存在自体が怪しすぎる。 「……さやか。猿の手という話を知っているか?」 さやかの焦燥を見透かしたかのように、バーサーカーはさやかに語りかける。 猿の手――さやかも聞いたことがある。願いを何でも叶える、猿の手のミイラを巡る話だったはずだ。 猿の手は願いを三つまで叶えてくれる。だが、猿の手が叶えるのはあくまでも持ち主の願いの『結果』だけだった。 金が欲しいと願えば、息子が事故死し代わりに僅かな賠償金を貰い。 息子を生き返らせて欲しいと願えば、死んだはずの息子は怪異――おぞましい何かになり、家の門を叩く。 最後の願いで息子を再び墓に戻し――猿の手の持ち主は、多大な犠牲を払うことで元の日常を取り返した。 「バーサーカーは、天戯弥勒の言う聖杯は猿の手のようなものかもしれない――って言いたいの?」 「その可能性もあるという話だ。さやか、きみにどうしても叶えたい願いがあることはおれも分かっている。 だけどな、願いを叶えるその過程は、けっして間違えてはならないんだ。歪んだ手段で手に入れた結果は、また歪んでいく――」 ――知っていた。さやか自身、願いを叶えるために犠牲を払ったことがあるのだから。 そのときさやかが支払った代償は、人間をやめること。 魂をソウルジェムという器に移し替え、やがて魔女になることを約束された魔法少女になることでさやかは己の願いを叶えたのだ。 魔女と魔法少女の真実を知り、苛酷な現実に心身を擦り減らし魔女へと堕ちたこともあった。 身を引き裂くほどの悲嘆と絶望の中で、自分の選択を呪ったこともあった。 マスターであるさやかとリンクしたバーサーカーは、彼女の過去を感じ取り、己と重ね合わせる。 バーサーカーもまた、人間としての生を捨て人類を脅かすデーモンと同じ姿となり戦い続けてきたからだ。 だが、守るべき存在だったはずの人類は、デーモンの恐怖に錯乱し、残虐な暴徒と成り果てた! 暴走した人類は悪魔狩りと称し、同じ人間を拷問し、殺し始めたのだ。 そして『美樹』は――悪魔狩りの犠牲となり、その生命を散らしたのだ。 「――おれは、きみが傷つく姿を見たくないんだ」 「……ありがとう。心配してくれるのは嬉しいよ。だけどねバーサーカー。 あたしは――もちろん、人間やめちゃったことはショックなんだけど、それでも――魔法少女になったことは、後悔してないんだよ」 魔法少女になってしまったことを思い悩んだときもあった。 だけど今、さやかは魔法少女になってよかったと、そう思っている。 「あたしはさ、誰かを守りたい、救いたいと思って魔法少女になったんだ。それがあたしの根源なんだ」 さやかが得た力で、誰かが救われる。それだけでさやかは、魔法少女になった選択は間違いじゃなかったと思うことが出来る。 「だからね、あたしは大丈夫だよ」 そう言って、さやかは笑ってみせた。 バーサーカーにはその笑顔が、とても尊いものに見えた。 「……そうか。きみは強いんだな、さやか」 「そうだよっ! へへっ、なんたってあたしは、みんなの憧れ魔法少女なんだからね!」 ――たとえその身体が既に人間ではなくなっていたとしても。さやか、きみの心は間違いなく人間のそれだ。 誰にも伝えることなく、ただ自分の胸中でバーサーカーは呟く。 「さて、それじゃあそろそろ行きますかー」 んん、と背伸びをして、さやかは屋内へと続く扉に手をかけた。 「学校に行く気になったのかい?」 「ぜーんぜん! でも何もしないわけにはいかないでしょ。だったらとりあえず動こうよ」 「フッ、そうだな」 こうして、美樹さやかとバーサーカーの聖杯戦争は動き出したのだ。 【C-7・病院/一日目・早朝】 【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ 叛逆の物語】 [状態]健康 [装備]ソウルジェム [道具]グリーフシード×5@魔法少女まどか☆マギカ [思考・状況] 基本行動方針:聖杯が信用できるかどうか調べる 1.とりあえず動いてみる 2.与えられた役柄を放棄し学校に行かないことで、天戯弥勒の出方を見る [備考] 【不動明(アモン)@デビルマン】 [状態]健康 [装備]なし [道具]なし [思考・状況] 基本行動方針:聖杯が信用できるかどうか調べる 1.とりあえず動いてみる 2.マスターを守る [備考] BACK NEXT 020 Bとの邂逅/ネジレタユガミ 投下順 022 気絶するほど悩ましい 020 Bとの邂逅/ネジレタユガミ 時系列順 022 気絶するほど悩ましい BACK 登場キャラ NEXT 015 悪魔の証明 美樹さやか&バーサーカー(不動明) 025 日常に潜む妖怪
https://w.atwiki.jp/sentakushi/pages/1106.html
211 :隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM:2007/12/19(水) 05 07 00 『それ』に最初に気付いたのは伊藤惣太であった。 自身に走る異常と、周囲に走った異常は、一瞬の間であったが、彼の思考と動きを完全に止めた。 自失から立ち直ったときには既に回し蹴りが目前に迫り、咄嗟に両腕でガードするのが精一杯だった。 ダメージはほぼ完全に受けきったが、それでも衝撃そのものは殺しきれる物ではない。 そのまま空中へ叩き飛ばされる。 その次の瞬間、その場の全員がその『異常』に気付いた。 砲撃でボロボロになったビル。 それが、まるで一本の木が生長する様を早回しにしたかのような速度で蠢いた。 これは無論正確ではないが、少なくとも事情を知らぬ者達にはそう見えていた。 砲撃で穿たれた穴から枝が伸び、そして壁面には急速に蔦が這い回る。 吹き飛ばされながらもその蔦を掴み、ブチブチと切れながらも急速に伸び伝う蔦の音を聞きながら、惣太はその巨大な樹木の中に消えて行った。 その光景を眺めながら、シャリフは構えた銃を降ろした。 急速に伸び伝う蔦は既に枝どころではなく幹とさえ呼べる大きさにまで成長している。 あれでは銃弾は跳弾して勢いを失い、ただの合金の塊と化すだろう。 降ろした銃を虚空に仕舞い込み、そのまま着地する。 歪んだ空間の方向を見れば、既にエキゾーストノートは最早聞こえてこない。 どうやら無事に突入は出来たようだ。 直接助けに行けないのが歯痒く、信頼するしか無かった。 「やられたな」 声の方向を見やれば、ジェネラルが憮然とした顔を浮かべている。 その言葉の意味は正確には分からないが、ある程度は想像が付いた。 彼女は正確な『吸血鬼』を知っているわけではないが、それが超自然的な存在であることは言われるまでもなく知っている。 それがビルを覆うほどの木の中という――それそのものが不自然な物だが――自然の中に入ったのだ、それが敵を利すことは想像が付くし、逆にこちらを益するということは無いだろう。 「ええ、でも……」 「分かっている、相手が一つのエリアに留まってくれるなら、退路を塞いで袋叩きにするだけだ」 その時、兵士の一人がジェネラルに近付き、何事か呟くと去っていく。 「突入した連中から報告だ、樹木は内部もかなり埋め尽くしているが、木そのものは単なる樹木で、トラップの可能性は薄いらしい」 「それは良かったわ、それが魔術的な物なら手を出しにくい物ね……その子を使っても良いなら別だけど」 シャリフの視線の先にはルヴィアが居た。 「ああ、それで困るな……朝が来てしまえば退かざるを得ないし、そうなれば逃げられてしまうだろう」 そうなればゲリラ戦術で攻められる可能性がいつまでも残る事になる、その事態は避けたいというのは共通の見解だった。 無論、主を好んで危険にさらす真似をしたくないのも共通の見解であったが、ルヴィアを危険にさらす事に関してはシャリフはなんとも思わなかった。 ジェネラルとて桜を危険に曝す事に関しては何とも思わないし、そもそも現在の桜はSC空間内に居り、危険にさらされていると考えるのが普通だった。 「ところで貴男が相手にしていた狙撃手、正体についての検討は?」 「……発射された弾丸を調べさせたがM1903によるものだと推測できただけだな」 「スプリングフィールド社製の小銃ね……と言うことは、貴男と同時代の人間と言う事かしら?」 「まず間違いなく『近い』だろう、だがこいつは使われた時代が広すぎてな、絞りこめはせんよ、精々言うなら協商側の狙撃手、と言う程度か」 これが特注のM16であるならば想像も付くのだがね、とジェネラルは肩を竦めてみせる。 「ヒントにもなりはしないわね、独ソを除外できるって程度じゃ」 「ああ、その通り、だが接近してしまえば君ならば勝てよう?」 「……吸血鬼だけじゃなくてそっちの相手もさせようって言うの?」 楽をしすぎじゃないかしらという非難の視線を送るが、飄々とその視線を受け流す。 「無論、こちらも兵士を送り込むがね、君のことを期待しても良いのだろう? ……完全に隙のない人間など居ないのだからな」 そう言って軽く笑ってみせる。 つまり、敵を逃した際により困るのは『組織』を持たぬそちらだろうと言って見せたのである。 「……いいわ、やってあげる」 それは半ばの脅迫でありながら事実であったから、頷かざるを得なかい事だった。 冷酷さが互いの本意ではなかったが、それでも至上命題である『主を護り、勝利をもたらすこと』を違えるつもりはまるでなかった。 それ故の険悪なやりとりであったし、剣呑な視線の交錯であった。 毅然とした足取りで、ビルへと歩いていくシャリフの背中を見ながら、ルヴィアは問うた。 「……あれだけのことを言って大丈夫なの?」 「問題はない、利害は一致している、ただ『害があるとしたらそちらの方がより被害を被るだろう』と指摘しただけだからな、仮にここで短気を起こすようなら早期に切り捨てた方が良いのも事実ではあるが……それは無いさ」 それに応えたジェネラルの言葉に迷いはない。 「私としても、『二匹の精悍な狼が巨大なマンモスを引きずり倒して組み伏せている』なんて記事にはならない戦い振りは示すから、安心してくれると嬉しいね」 生前とは逆の立場になるとは思わなかったが、と言葉を切り、ジェネラルも麾下の部隊を更に展開する。 シャリフはそれを背後に感じながら―― メッサー:真正面からビルに入っていった フォッケ:屋上から侵入するべく蔦を蹴った