約 374,268 件
https://w.atwiki.jp/2jiseihaisennsou2nd/pages/148.html
遠坂凛&ランサー ◆F61PQYZbCw 妹が離れ父が死亡し母が狂った。 これが彼女の親族の成れの果てであり独り残された少女は似たように構成された住居で泣いている。 見知らぬ場所だが知っている、この家は彼女の家であるのは間違いない。 方舟に構成された限りなく現実世界に近い空間で彼女は独り……泣いていた。 ここは聖杯戦争……運命の崩壊を引き起こした根源であるあの記憶の亜種。 舞台と役者は違えようど彩る装置は変わらず願いを餌に殺戮を強要する。 少女の名前は遠坂凛、由緒正しき遠坂の実縁に該当する正式後継者だ。 幼いながらも初歩魔術を行使出来る程の天才であり、彼女もまた自分でその才能を理解している。 順当に行くならば偉大な魔術師に昇り詰めた父に全てを叩きこまれ立派な後継者になるはずだった。 だが聖杯戦争と呼ばれる奇跡を覗かせた永遠の闇に全てが飲み込まれてしまった。 父――遠坂時臣は聖杯戦争に参加、そのサーヴァントはアーチャーと呼ばれ彼の優勝は固いはずだった。 能力値だけでは世界を語れない、運命とでも呼べばいいのだろうか。彼は全てにおいて見放されていた。 手駒に成り下がらないサーヴァント、暗躍する陰謀、裏切りを引き起こす弟子、そしてサーヴァント……。 負の連鎖は止まることを知らず彼がこの世を去るのに時間は必要何て存在しなかったのだ。 残されたのは彼女と妹、そして母。 妹は養子として家系を離れていた。 母は父を失ったこと、そして重なる幼馴染とのすれ違いから崩壊を起こしてしまった。 残る家系は幼い彼女のみだ。しかし少女に全てを背負わせる現実は過酷の領域を軽く超えている。 されど退路は無く進むしか無い。少女は悲しみを背負いながら確実に歩を進めていた。 何時まで泣いていられない、例え誰も彼女を見ていなかろうが次期当主の沽券に関わる問題だ。 少女は強くならなければならない。遠坂の名を落とす訳にはいかないのだ。 奮起する少女を誰が咎めようか。悲しみを背負いながらも走り続ける遠坂凛を誰が笑うだろうか。 「私はもう泣かない……遠坂家の名を背負って聖杯を手に入れるの……!」 彼女の父である遠坂時臣は聖杯を求めた。それは遠坂家の悲願であり魔術師としての地位を飛躍させる。 父が成し得なかった願いを娘が引き継ぐ――凛は当主の名の下に聖杯を目指す。 彼女が何故聖杯戦争に参加を、資格を得たのだろうか。 そもそも彼女の父が参戦した聖杯戦争から確実に歳月の経過が足りなく聖杯戦争はまだ開戦されないはず。 彼女が今宵の月を背に願望を望ませる聖杯戦争に参加理由――それは『神父』から送られたアゾット剣だ。 神父は亡き父の弟子であり凛もよく知っている人物、その名を言峰綺礼。 彼は凛に生前父から授かったアゾット剣を形見代わりに引き渡した。その箱だ。 箱の構成物質は『木片』であり今回の聖杯戦争に参加する資格の一つ。 彼女はこの事を知らず結果として意思とは関係なく聖杯戦争に身を委ねる事になってしまった。 しかしそれは遠坂家の悲願であり彼女としても退く理由はないのだ。 恐怖はある。 家族の崩壊を引き起こした聖杯戦争に自分が参戦してしまったのだ。 これから待ち受ける運命は過酷の領域ではない。恐らく幼い彼女には支え切れぬ重圧。 独りの少女に乗り越えられるだろうか――独りではない。 「おい、泣き終わったか?」 決意を決めたマスターを見計らって彼女のサーヴァントが姿を表わす。 その性は男、クラスはランサー。 現界するとそのままマスターの元へゆっくりと歩き出し始めた。 「な、泣いてなんかいないもん! ……ありがとう」 「あん? 礼を言われるような事なんざやってねぇ」 「……私に気を遣って姿を消していたんでしょ?」 凛の言葉を聞き足を止めるランサーの表情は強張っていた。 その言葉の通り彼は少女に気を遣い姿を消していたのだ。彼なりの優しさである。 幼いながらマスターの将来性は高いようで魔力の素質も充分過ぎる領域であった。 「……ガキはガキらしくしといた方がいいぜ?」 ステンドグラスから差し込む月光が少女と男を照らす。 マスターとサーヴァント、その関係は主従、戦争に選ばれた運命共同体。 「これからはよろしくねランサー……辛い戦いになると思うから」 「へっ、上等だぜ」 弱気なマスターの声に反逆するように当然の返しを行うランサー。 元より聖杯戦争に生半可なサーヴァントは存在しない、楽な道など最初から在り得ないのだ。 今宵の宴は戦争で彩る野蛮なアンサンブル、望む所と言わんばかりの決意。 「これは遠坂家の悲願……私が、遠坂凛が成し得てみせる……ッ!」 遠坂家。この単語を聞いたランサーの表情は急に血相を変えた。 今このガキは何と言ったのか、遠坂家だ。遠坂、あの『遠坂』と言うのだろうか。 ランサーは英霊として呼ばれたサーヴァント、つまりこの世には既に別れを告げている。 その彼が遠坂家を知っている理由はあるのだろうか、在る。 『彼は聖杯戦争に参加するのは二度目であり、この生は三度目になる』 ランサーは過去に聖杯戦争に参加している、それもマスターの父である遠坂時臣が参加していた時ではない。 遠坂凛が参加していた聖杯戦争――彼女の未来の姿が参加していた聖杯戦争に参加していた。 その戦績は優勝に辿り着くことは無く彼もまた再びこの世を去っていたのだ。 これは何の因果だろうか。元々二度目の聖杯戦争を体感するサーヴァントは極稀である。 その資格を得ただけでも奇跡の領域だが彼のマスターは『彼の知っている人物の過去の姿』だ。 聖杯とはどの時代でもロクでもない代物だ、最初から解り切っていた。 月とは名に付いているがその本質は彼がよく知る悪趣味な器と変わりはない。 ならば今宵の戦争も強者との戦いに身を馳せ参じるのみ――願いはない、マスターにくれてやる。 三度目の生に興味など無く男はこの高鳴りを満足させるべく少女と共に月の夜を駆け巡る。 「小娘め……俺は歳取って出直して来いと言ったんだがな……ガキになって来るとは面白れぇじゃねぇか」 【マスター】遠坂凛@Fate/Zero 【参加方法】ムーンセルによる召還(木片はアゾット剣の収納箱) 【マスターとしての願い】遠坂家の悲願である聖杯を持ち帰る。 【weapon】アゾット剣…柄の先に宝玉がある短剣。対象に刺した後に魔力を込めることで貯められた魔力を開放する。 余談ではあるが凛の父である遠坂時臣を殺害した武具である。 【能力・技能】五大元素使いであり幼い身でありながら既に初歩魔術行使できる。 その才能、素質共に最高の魔術師になれるであろう 【人物背景】偉大な魔術師である父を持っていたが聖杯戦争で父は死亡し、それがきっかけで母も人格に異常を起こしてしまった。 唯一残された彼女は由緒正しき遠坂家のためにも立ち止まることはなく魔術師としての鍛錬を怠らない。 【方針】遠坂家の悲願である聖杯を持ち帰るためにランサーと一緒に生き残る。 【クラス】ランサー 【真名】クー・フーリン@Fate/stay night 【パラメータ】筋力B 耐久C 敏捷A 魔力C 幸運D 宝具B+ 【属性】秩序・中庸 【クラス別スキル】 対魔力:C…第二節以下の詠唱による魔術を無効化する大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない 【保有スキル】 戦闘続行:A…往生際が悪い。瀕死の傷でも戦闘を可能とし、致命的な傷を受けない限り生き延びる。 仕切り直し:C…戦闘から離脱する能力。不利になった戦闘を戦闘開始ターン(1ターン目)に戻し、技の条件を初期値に戻す。 ルーン:B…北欧の魔術刻印・ルーンの所持。 矢よけの加護:B…飛び道具に対する防御。狙撃手を視界に納めている限り、どのような投擲武装だろうと肉眼で捉え、対処できる。ただし超遠距離からの直接攻撃は該当せず、広範囲の全体攻撃にも該当しない。 神性:B… 神霊適性を持つかどうか。高いほどより物質的な神霊との混血とされる。 【宝具】 『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)』 ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:2~4 最大捕捉:1人 突けば必ず相手の心臓を貫く呪いの槍。ゲイボルクによる必殺の一刺。 その正体は、槍が相手の心臓に命中したという結果の後に 槍を相手に放つという原因を導く、因果の逆転である。 ゲイボルクを回避するにはAGI(敏捷)の高さではなく、ゲイボルクの発動前に運命を 逆転させる能力・LCK(幸運)の高さが重要となる。 『突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)』 ランク:B+ 種別:対軍宝具 レンジ:5~40 最大捕捉:50人 ゲイボルクの呪いを最大限に開放し、渾身の力を以って投擲する特殊使用宝具。 もともとゲイボルクは投げ槍であり、使用法はこちらが正しい。 死棘の槍と違い、こちらは心臓命中より破壊力を重視し、一投で一部隊を吹き飛ばす。 【weapon】なし 【人物背景】 正体はケルト神話における大英雄で、アイルランドの光の皇子・クー・フーリン。 かつては聖杯戦争に招かれ最終的には言峰綺礼のサーヴァントとなり凛達と戦いを繰り広げた。 その最後は令呪の結果にも反逆を起こし奇跡を成し遂げた上での脱落、遠坂凛に全てを託した。 何の因果か、今度は幼い遠坂凛のサーヴァントとして三度目の生を受け取った。 【サーヴァントとしての願い】 三度目の生に興味はない、強いて言うならばマスターに捧げる。 【基本戦術、方針、運用法】 マスターを守りながら自分の気が赴くままに聖杯を戦争を生き抜く。 BACK NEXT 010 岸波白野・ランサー 投下順 012 ミカサ・アッカーマン&ランサー 010 岸波白野・ランサー 時系列順 012 ミカサ・アッカーマン&ランサー BACK 登場キャラ NEXT 参戦 遠坂凛&ランサー(クー・フーリン) 044 POINT OF VIEW
https://w.atwiki.jp/sentakushi/pages/1073.html
460 :隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM:2007/08/20(月) 04 48 00 「士郎、サクラとの時間を邪魔して悪いのですが、少しよろしいですか?」 映画の終わる頃、ライダーに声をかけられた。 正確にはまだ終わっていないが、ああこれで終わりなんだなと分かるほど幕が下りかけている。 「あー……いや、どうしたんだ?」 少し名残惜しかったが桜の膝枕から起き上がる。 ちらりとテレビの方に目を向ければ、明らかにラストだと分かるほど盛大に決戦の舞台のビルが崩れ、主人公達が必死になって脱出している。 『私達 人類 は選択を誤ってしまった、それでも……』 ……ホラーだったのになんで最後はバトル物になるかなぁ? 趣向は凝ってたし、戦闘中もホラー演出満載だったけど、それでも純粋なホラーとして見ているとね。 まあ、実際震え上がるほど怖かったし、あのままホラー方面で突っ走られたら気が狂いそうではあったんだが。 「はい、実は彼女が私達に話があると言うことでしたので」 彼女、と言われてライダーの視線の先を追うと、シャリフさんが小さく手を振っていた。 ふと思ったのか、その姿を見ただけの僅かな時間で改めて考えた結果なのかは分からないが、みんなの前で話した『ライダーの妹』と言う表現は正しいのかもしれない。 彼女は今回桜の元に召還された『ライダー』であり、肉親と言っても良いほどにライダーによく似た女性である。 そう言った意味で考えれば妹、という表現は実に正しく思えた。 ……まあ、桜から聞いた『銃で戦う』という点から判断すれば似ても似つかないのだが。 「なんですか?」 立ち上がり、彼女に近寄る。 寝てままだったからなのか微妙に頭が痛い。 「……ここで話すよりあの倉庫で話した方が良いでしょう、三人共こっちに」 そう言うとすたすたと歩いて行ってしまった。 彼女の言う倉庫というのが土蔵のことだ、と分かるまで数秒かかった。 「……なんでしょうね?」 「正直、見当もつかない」 ひそひそと桜と言葉を交わす。 結論など出ようはずもなく、視線を向ければ土蔵の入り口の前でシャリフさんが待っていた。 ……そういえば道場に行ったとき電気がついていたが、それと何か関係があるんだろうか? 「一体どうしたんだ?」 近付いて開口一番、用件を聞くことにする。 「そうね……言うなればプレゼントね、貴方への」 「はい? 私ですか?」 手の平を向けられた先、ライダーが声を上げる。 「この家の家主は貴方、そして私のマスターは貴方、だから二人にもついてきて貰ったのよ」 そう言うと、振り返って土蔵の扉を開ける。 そこには昼間彼女が乗っていたあのバイク――BMWのK1200R――と、そして布で覆われている何かが置かれている。 形からすれば、バイクだろうか? 「バイク、ですか?」 「そう、この子を見つけて思わずね……私はこれがあるのに、ね?」 そう言って僅かに微笑む仕草と、幸せそうな眼差しはライダーが時折見せる物と同じだった。 「……取っても?」 そろりと近付き、布を指差す。 「ええ、勿論」 その言葉を待っていたかのように、ライダーが封を外し始めた。 「……なんでしょうね?」 「思わず、って言うくらいだから……クラシックバイクとかかな?」 以前ライダーがバイクを欲しがった折に、二人で一緒に色々と調べた事がある。 その時は結局買うことはなかったが、結局ライダーがその時免許を取ってしまった。 ……一番苦労したのは身分の偽造であったが、その時は色々と大変だった。 封が剥がされ、逸る心のまま布を一気に外した。 それから数秒後、それが何であるかを理解した直後に、衝撃を受けた。 直接的な衝撃ではなく、もっと心理的な、例えば街中で仕掛けられた爆薬を突如見つけてしまった時のような、そんな衝撃だった。 「こ、これは……」 「あれは……」 呟きは二つ。 ライダーが一度欲しいと言い、即座に諦めたモンスターマシン。 「MTTタービン、スーパーバイク……」 ライダーの声が震えている。 「Y2Kだって……? なんであんなもんが……」 このモンスターマシンのことは見間違えようもない。 恐らくディーゼルエンジン用の軽油でも使用可能なようにセッティングが変更され、それでも尚300馬力を超えるパワーを誇る――本来は輸送ヘリ等に搭載される――ロールスロイスのターボシャフトエンジンが搭載され、最高速度は400km/hを超える。 加速も凄まじく、公式記録では365km/hまで15秒、非公式ながら飛行状態の戦闘機に滑走路での直線勝負で勝ったとか、そんな逸話まである。 その加速性能からなのか、後方の確認の為のバックミラーを搭載して居らず、代わりにリアビューのカメラが搭載されている。 ついでに乾燥重量は230キロ程度、パワーウェイトレシオは他のバイクや車と比べて余りにも馬鹿げた値となる。 だが何よりも問題は―― 「シャリフさん、真面目に聞きます、これをどうやって手に入れたんですか?」 価格だ。 以前のアメリカ国内での価格ですら150000USドル、つい最近では185000USドルに価格変更、日本円にすれば2000万円を超える。 日本に輸入するとなれば――本体価格に比べれば雀の涙ほどだろうが――更に価格は増大するだろう。 ライダーがこれが欲しいと言いながら価格の欄を見てあっさりと諦めたレベルの代物である。 その質問に、シャリフさんは笑う。 「最初の質問がそれって事は……以外と物知りなのね」 腕を組み、笑ったままに答える。 「私は殺し屋よ……お金だけは持っているの」 そしてちらりと、桜の方を見やり。 「貴方達の基準で言うならば……反英霊、かしら」 少しだけ真面目な顔になって言った。 曰く、彼女はその途上、与えられた任務を逸脱し、生きるために世界秩序を滅茶苦茶にしたのだという。 「……まあ、それが召還された理由かは分からないけど、ね」 そう言って、シャリフさんはライダーを見やる。 それだけで浮かれていた頭は冷めたらしい。 「ともあれ、心遣いに感謝します」 一度頭を下げ、それから 点火:「……エンジンを掛けても大丈夫ですか?」逸る心のままにそう問うた 呼吸:「――壊したら大変ですからね」逸る心を抑え、深呼吸した 停止:「とりあえず、今はここまでにしましょう」出来るだけ冷静に、そう言った
https://w.atwiki.jp/nijiseihaitaisen/pages/107.html
冬木教会。 その名の通り、冬木の郊外、新都の丘の上に広い敷地を持つ大規模な教会である。 極東の地方都市に過ぎない冬木市にここまで本格的な教会が存在するのは、外来人居留者の多い環境に由来する。 歴史も比較的古く、前身となる教会は戦前に建てられたという記録が残っている。 ……無論、"聖杯"戦争の地に建つ教会が、ただの教会である筈がない。 この冬木教会は、かの宗教の一側面である『聖堂教会』と呼ばれる組織が冬木の地に建てた拠点である。 実際のところ、かつて冬木に降臨した聖杯自体は、神の子の杯そのものではないとの確証は取れている。 だが、聖杯戦争の熾す火を民衆の前に晒すわけにはいかないという目的の前に、魔術師との密約の下この教会は『聖杯戦争の監視役・監督者』の住処として作られた。 今回の電子の海での聖杯戦争においても、非戦闘ゾーンとしてこの建物は再現され、内部には管理者が存在する。 これ自体は、マスターたちには最初から公表されている事実である。 ところでこの建物。 現実の冬木市では、管理者の名前を取って『言峰教会』とも呼ばれていたのだが―― ◆ セレスティア・ルーデンベルクとの一線を終え、フロントに戻ってチェックインし、部屋を取った後。 ホテルの一室で一息を吐いたジョセフ・ジョースターは、途中の売店で購入した品を確認していた。 まずは冬木の市街地図。 隅から隅まで読み込み、ジョセフの頭脳へと叩きこんでおく。 都市部での戦いである以上、これから戦う土地の地図は非常に重要なものだ。 実際DIO打倒の旅においても、DIOの送り込んで来たスタンド使いの刺客、"女帝《エンプレス》"との戦いにおいては地図が重要な役目を担った。 更に言えば、ジョセフのサーヴァントである天龍の本質は軽巡洋艦だ。 水場を戦場に選びたいこと……そして後々河川や海を見に行きたいことを考えると、やはり地図の確認は急務と言ってもよかった。 「とはいえ、ウ~~~ム……やっぱ海の面積なんて限られとるの」 冬木市は海に面する都市である。 それは吉事ではあるが、やはり一都市における海が面する割合など限られている。 常に海辺で行動することなど難しい以上、全ての戦いで海を戦場に選ぶのは無理だと考えていい。 幸い、冬木は南北を河によって横切られ、東西に区切られている。 この河を戦場に選ぶのも考えれば、選択肢は広がってくる。 「……つーかよぉ。オレが海で戦うのはいいけど、ジイさんは大丈夫なのかよ?」 「うん? どういうコトじゃ?」 「オレが海に陣取っても、ジイさんはそうはいかないだろ。 孤立したところを襲われてたら仕方ない」 「ああ、なるほど。 心配せんでいい。波紋を用いて水面の上を歩くのは、波紋の修業では初歩に教わることじゃ。 流石に若い頃みたいにはいかんが、逃げるくらいならなんとでもなるわい」 「そいつはスゲぇな。も一つ見直したぜ、ジイさん」 地図の確認を終えると、ジョセフは次に新聞を取り出す。 買ったのは地方紙の朝刊。 この都市で何らかの変事が起こっていないかの確認のためだった。 が、しかし、新聞に載っている限りの記事では、そういった明らかに異常な事件はほぼ確認できない。 あるいは事故記事の幾つかは聖杯戦争絡みのものなのかもしれないが、それを確認する手段などなかった。 (聖杯戦争が始まらんうちは、派手な事件はない……ってとこかの) ただし、事件などよりも、余程ジョセフの意識を引いたことが、一つある。 それはそもそも記事などではなく。 『新聞の発行された日付』。 「……2015年、か」 2015年の冬。 それが新聞の示す、『今日』である。 最初は新聞の誤字をジョセフは疑った。 だが携帯端末やTVニュースを確認し、そして先程のセレスとのやり取りを思い返すことで、ジョセフはある確信へと至る。 (妙なところはあった。あの嬢ちゃんがわしとのギャンブルで使おうとした『ユーロ』という通貨。 そしてギャンブルの後に聞いてきた質問……どれもわしの知らん話だった。最初は単にわしが日本に疎いだけかと思っとったが……。 『未来』じゃ……あれは『未来について知っているか』の質問ッ!) エジプトで戦った、DIOの操るスタンドの能力をジョセフは思い返す。 『時を止める能力』。 時を操るスタンドがあるのだから、時を未来に進めたり、あるいは過去にする能力があってもおかしくはない。 (……つまりわしは、タイムトラベルしちまったってワケか? いや違う、ムーンセルとやらについての説明を信じるならここは『未来を再現した世界』……、 あの嬢ちゃんはわしにとって未来にあたる世界からやってきたマスターってコトかッ!?) 完全に違う文明に放り込まれたわけではないのだから普段に問題はないだろうが、しかし『自分の知らないことがあるかもしれない』というのは、情報戦ではやはり不利となる。 ジョセフの世界は1989年。26年分の誤差は、そう意識してしまうと小さくない。 (現に電話やテレビは結構進歩しとるみたいじゃしの……今じゃ音楽聴くのもウォークマン要らずってワケかい。 この携帯端末とやらも、今の時代じゃ普通に使われとるみたいじゃしな) 慣れない手つきで、ムーンセルに渡された携帯端末を操作するジョセフ。 インターネットやメールなどの機能を完全に把握したわけではないが、『情報のネットワークがかなり発達している』ということはそれでもわかる。 流石にこれ一つでなんでも把握できるわけではないだろうとは考えたが、それでも慣れないジョセフと慣れているセレスでは情報の入りは違ってくるということは自明の理だ。 (とはいえ……無理して差を埋めようとしても仕方あるまい。 やはりわしのやり方でやるしかないか) 聖杯戦争を積極的に戦うつもりはジョセフにはないが、しかしそれは聖杯戦争に対して無策でいることを意味しない。 戦わなければならなくなった時、無策のままであることは愚者の行い。 なにより、戦いに際しては策を以て望む、それが『ジョセフ・ジョースター』の流儀だった。 「……聖杯戦争の情報も集めておきたいな。 あとで情報屋と接触しよう」 「情報屋? いるのかよそんなモン」 「あのお嬢ちゃんがギャンブルで稼いだ、と考えるならば、それは違法な賭博場でと考えるのが自然じゃ。 この国じゃカジノは違法のようだし、そもそも彼女は成年しとるかも怪しいからな。 となると、この市には違法ギャンブル場を生かすだけの裏社会の基盤があることになる。 情報屋の類がいてもおかしくはない」 「成る程。スジは通ってる」 「ま、それはあくまでも後でじゃな。まずは出発しよう」 納得した様子のアーチャーを尻目にしながら、ジョセフは再び外出の準備を整えた。 出先で買った荷物は置いていく。これは再びこの部屋に戻って来ることになった場合のものだ。 「ああ。水場の確認と準備か、資材の確保か、だっけ?」 「いや……その前にひとつ確認しておきたいことができてな。 まずは教会に行くとしよう、車を借りんとな」 「教会? 戦いの前にお祈りでもするのか?」 「教会には管理役が常駐している、って話だったろう? 少し話を聞いてみたくなったんじゃよ」 ◆ 太陽が中天を僅かに離れた頃、ジョセフ・ジョースターとそのサーヴァント・アーチャーの姿は冬木教会へと続く坂道にあった。 所持品の準備を整えた後に昼食や車の調達に時間を取り、出発したのは12時を過ぎた頃。 一度目の通達を受けた後だった。 そして今、教会へ向けて車を運転するジョセフが考えているのも、その放送の事である。 たった三行の連絡事項。 誰でも感じることであろうが、通達された情報が少な過ぎる。 参加しているマスターとサーヴァントの数の情報だけでもそうだ。 陣営ごとのサーヴァントのクラスすら明らかになっていない。何なら陣営を限定して味方陣営のサーヴァントだけでも教えるという手段もあっただろうに。 "連絡路"についてもそうだ。 本当に団体戦をやらせたいのなら、このようなまだるっこしいやり方より、一度陣営のマスターを一同に集めるか、あるいはマスターの情報を渡すなりしてもいいはずだ。 まるで……そう、まるで意図的に情報を絞っているかのようだった。 もしも本当にこれが意図的だとしたら、狙いはなにか。それを次にジョセフは思考する。 団体戦を円滑に進めるならば味方陣営の情報は絞らずに積極的に公開するべき……ならば逆に、団体戦を円滑に進めさせたくない、という可能性。 そして団体戦が上手くいかない場合、どうなるか。 (同士討ち……そして残った主従は消耗するじゃろうな) 本当にそれが狙いならば、何故ムーンセルはマスター達を消耗させようとするのか。 いや、そもそも。これはムーンセルが課したルールなのかさえも、ジョセフは疑った。 この月の聖杯戦争は、ムーンセルが地上の参加者を観測するための実験だという。 そこに黒幕がいるという可能性もないとはいえない。 (もっとも、事態がそこまで深刻に絡んでいるなら安全に抜けるのなんて不可能じゃろうし、 できれば遠慮したいがね……) 【……おい、ジイさん】 実体化したまま後部座席に座っていたアーチャーが、不意に運転中のジョセフに念話を飛ばした。 それに反応し、ジョセフはすぐに路肩に車を停めた。 アーチャーを実体化させたままにしているのは、何も不注意からではない。 その索敵範囲を買ってのことである。 元よりアーチャーのサーヴァントには、クラスの特徴として、スキルとして備わっていなくともある程度の千里眼があることが多い。 ましてや天龍は元は軽巡洋艦の逸話から形造られたモノ。 電探こそ装備していないが、その索敵範囲はけして狭くはない。 そのアーチャーがジョセフに声をかけた、――それも他人に聞かれることのない念話で――、というのはつまり、何らかの異常が発生したということだ、とジョセフはすぐに察した。 【……新手のサーヴァントかの?】 【みたいだな。この道の先にいる。 ……動かねえな。こっちには気付かれてるかもしれない】 【ふむ……】 念話の相槌を返しながら、ジョセフは対応を思考する。 この道路は教会へと続く一本道だ。迂回することはできない。 となると待ち伏せだろうか、とまずは考えたが、わざわざ教会という管理役の目の前で待ち伏せなどしたいだろうか、と言われると難しい。 仮令待ち伏せが目的だとしても、いきなりの遠距離攻撃や攻撃的な接近を受けていない以上、手当たり見境なく襲いかかる輩ではないだろうと推測する。 あるいは希望的な観測をすれば、ジョセフと同じように教会の管理役に話を聞きたいマスターという可能性もある。 最悪敵対的な接触を受けたとしても、相手の向こうを突破すれば教会だ。 非戦闘区域まで辿り着ければ、追撃を受ける可能性はなくなる。 賭けではあるが、有利な賭けであるようにジョセフには思われた。 【接触してみるか。警戒を頼む】 そうアーチャーに指示して、ジョセフは車を再発進させた。 少し進んだ先、地平線の向こうに、おそらくはアーチャーが感知したのだろうサーヴァントの姿が見える。 紅い外套を纏い、弓を構えた浅黒い肌の男。 陣営は黒。クラスは改めて確認するまでもないだろう。 (天龍もアーチャー、セレスと名乗ったお嬢ちゃんのサーヴァントもアーチャー。 そしてここでもアーチャーか。アーチャーに縁でもあるのかね、わしは) 「止まりたまえ。止まらないならば、敵対の意思有りと見て攻撃に移らせてもらう」 赤衣のアーチャーが、ジョセフ達の乗る車両へと警告を飛ばす。 ジョセフは素直に車を停めて、アーチャーと共に外へ出た。 交渉しようというのならば車からは外に出るのが礼儀だろうし、サーヴァント相手に乗用車が役に立つとも思えない。 「まずは敵対陣営でありながら、問答無用にその矢を撃って来なかったことに礼を言おう。 そして。出会い頭に攻撃してこないなら、交渉の余地があるということでよろしいのかね?」 そう問いかけながら、ジョセフは赤衣のアーチャーを観察する。 サーヴァントに年齢など関係なかろうが(実際、ジョセフのサーヴァントである天龍は彼女の話が本当ならばジョセフよりも年上だ)、年は思ったよりも若い。 肌色から中東人かとも思ったが、遠くから顔立ちを見る限りではむしろ東洋人、孫である空条承太郎や旅の仲間だった花京院典明に近い。 もしも本当に東洋出身の英霊ならば、日本の文化に疎いジョセフの知識では正体を推測するのは難しい。 「そちらの目的次第だな。こちらの方向に何の用事だ?」 「何の用事と言われても、教会に行きたいだけなんじゃがね。そっちの方向にはそれくらいしかないじゃろう?」 弓を構えたまま問う赤衣のアーチャーに、ジョセフは平静を保ったまま答える。 「問い直そう。何が目的だ? 今この段階で教会に行ったとして、聖杯戦争の役には立たないと思うが」 「その聖杯戦争から抜けたいんじゃよ。わしゃ聖杯には興味もないのに巻き込まれてな。他にも色々と聞きたいこともある」 更なる問いに、これもまた冷静にジョセフは回答。 「――巻き込まれた? ……いや、月の石のみが基準ならば確かにその可能性はあるか。 だが、私の知る限りでは月の聖杯戦争に中途で離脱する方法はないぞ。敗者はムーンセルに消去されるルールだ。 この聖杯大戦ではサーヴァントが敗北しても残留を許されるようだが、やはり自らの陣営が敗北すれば帰還は不可能だろう」 その答えに赤衣のアーチャーは一瞬思考し、しかし現実的な答えを返した。 「悪いが、そう言われてハイそうですかと言えるほど素直じゃあないんでの。 勿論降りかかる火の粉は払わせてもらうし、脱出の手だてが勝利以外にないならば戦うがね」 「最終的に敵となるならば、ここでその芽を潰しておくのもいい手だろう?」 「本気でそう思っとるなら、待ち伏せしておいてこちらに話しかける理由はないのう。 その弓で車ごと狙撃すればいい。陣営を確認する手間をかけたにしろ、敵陣営とはっきりしたなら言葉を交わす必要はない。 ここまで悠長に話をしているのは、最初から交渉をするつもりだからではないかね?」 確認を兼ねた質問に、赤衣のアーチャーの否定は無い。 それを確認してから、ジョセフは続けた。 「そしてわしも、そちらと話をしたいと思っておる。どうやら君……あるいは君のマスターは、聖杯戦争に詳しいようじゃからな」 赤衣のアーチャーが、動きを止める。 ジョセフはその表情から思考を読み取ろうと試みたが、失敗した。 (カマかけてはみたが反応がわからんのォ~~……失敗じゃったか?) 『目の前のサーヴァントは、ムーンセルから与えられたもの以外の聖杯戦争に関する知識を持っている』。 無論、ジョセフも何の根拠もなくカマかけなどしたわけではない。 それなりの理由があっての行為だが、賭けには違いない。 外していればマヌケにしか見えないだろうし、そうでなくとも悪印象を与えかねない行為だ。 だが、それを押してでも、聖杯戦争に関する知識を持った主従と接触できる機会は貴重だとジョセフは判断した。 それ故に、ここまで話を早く進めたのだが―― 「……いいだろう」 その結果は、不意に沈黙を破った、――あるいは、沈黙している間マスターとの念話を行っていたのか――、赤衣のアーチャーからの返答となって表れた。 「ついてくるといい」 赤衣のアーチャーが弓を降ろし、ジョセフと天龍に背を向ける。 それを許可と取ったジョセフは、離れていく赤衣のアーチャーを追う。 「またオレの出番はなしかよ」 愚痴っぽく独り言してから、天龍もそれに倣った。 ◆ 赤衣のアーチャーのマスター――ロード・エルメロイII世は、自らのサーヴァントが連れてきた主従を観察した。 マスターは白人の男性。既に老人と言っていい域の年齢に入っていることは外見から窺えるが、体格のよさ、そして立ち振る舞いの隙のなさからして只人でないことは一目でわかる。 時代錯誤なアクション映画じみた服装も、この男が着ているならばむしろ当然。現代に生きるインディ・ジョーンズにすら見えてくる。 おそらくは魔術師ではない。が、油断ならない相手だ、とエルメロイII世は判断する。 サーヴァントである"白"陣営のアーチャーは、ある意味それとは真逆。 少女の姿にハイスクールの制服のような衣装は年相応のそれにしか見えないし、装備しているヘッドパーツや帯刀も、コスチューム・プレイの一種と言われたら納得してしまう可能性もある。 さらに目視で確認できる限りでは、ステータス・パラメータも低い。エルメロイII世のサーヴァントである赤衣のアーチャーもパラメータのスペックだけを見るならば低い方に位置するが、それよりも尚低い。 冬木における第四次聖杯戦争にも参加したことのあるエルメロイII世ではあるが、それでも彼女より低いパラメータのサーヴァントは見たことがない。 だがやはり、サーヴァントとはパラメータひとつで判断していい相手ではない。 「こうして話す機会をくれてありがたい。わしの名はジョセフ・ジョースター」 「私は……、ロード・エルメロイII世、と。今はそのように呼ばれている」 「II世? 貴族には見えんが……ああいや、失礼」 「構わない。過ぎた名だとは、自分でも思っている」 帽子を脱ぎ礼の姿勢を取るジョセフに、エルメロイII世もまた同じく礼を取る。 「ここまで足労させてすまないが、まずはこちらから質問させていただく。 何故我々が聖杯戦争に対する知識を持っている、と判断したのか。お聞かせ願いたい」 「フム」 機先を制する形で発された、エルメロイII世の質問。 それに、ジョセフは軽く考える姿勢を取り、答える。 「まず第一に、教会前で待ちの姿勢を見せていたこと。 わかっておると思うが、教会の付近は待ち伏せに適してはおらんな。もしも教会側に逃げられれば非戦闘エリアで取り逃がす可能性もあるし、戦闘の余波が教会の敷地にまで及べばルーラーに目をつけられかねん。 確実に仕留めたいならば――そうじゃな。ビルの上にでも陣取って、橋を渡ろうとするサーヴァントを狙い撃つくらいした方が効率はいいじゃろう」 「アーチャーを擁するならば効率が悪い、と」 「そう。そこでもしかするとわしらと同じ目的かもしれん、と考えた。 二つ目は、その赤衣のアーチャーの口ぶりじゃ。先程の会話で、そのアーチャーは『"月の"聖杯戦争』、そして『"この"聖杯大戦』と言った。 まるで"この""月の"聖杯戦争以外の聖杯戦争を知っているかのような口ぶりじゃった」 赤衣のアーチャーが肩を竦める。 「失言だったか」 「ともあれ……あと幾つかの態度も小さな根拠ではあったが、それで、『何らかの事情がある』『聖杯戦争について、この月で得られる以外の情報を持っている』 と推測した。わしたちにそれを聞かせてもらいたい。交換条件は……『君達の陣営に属するマスターとサーヴァントひと組の情報』でどうかね」 ジョセフ老人が切り出したその条件に、エルメロイII世は目を細める。 味方陣営の主従の情報。それは確かに魅力的な条件だ。 この聖杯大戦、陣営戦とは言っているが、味方陣営に関して与えられる情報は少なくなっている。 それがII世がこの聖杯大戦に不信を抱く理由のひとつでもあるのだが、今はそれは重要ではない。 昼の通達の後に連絡路も確認してはみたが、今のところ他マスターと接触できそうな情報は皆無だった。 同じ陣営と接触できる機会がある、となれば、興味はある。 「そちらにとっては敵陣営の情報を持っていると?」 「昼前に接触した相手じゃ。情報収集を優先していたらしく、一時的に交渉相手として認めてくれた。 同盟とまではいかんがな。……これ以上はそちらが取引に応じるならば話そう」 「ふむ」 虚偽ではあるまい、とII世は判断する。 ここまで来て虚偽を話して情報を引き出そうとするほど、目の前の老人は短絡的ではないだろう、と。 ならば、交渉に応じても問題は無い。 聖杯戦争から脱出することが目的ならば、こちらの目的にも協力してくれる可能性はある。 「了解した。こちらの知っていることを話そう。 ……まずお聞きしたいが、魔術について知っていることは?」 「ない」 先ずの質問に、ジョセフ老人は断言しての否定を返した。 これはII世にも予想できた答えではある。 「だろうな。私は魔術師だ。そして、聖杯戦争とは本来魔術師の参加する魔術儀式である、とまず承知いただきたい」 「……オイオイ。わしゃあ魔法使いの知り合いなんかおらんぞ。せいぜい占い師の知己が……いた、くらいじゃが」 「あなたが魔術師ではないだろう、というのはわかっている」 II世のこの言葉は嘘ではない。 目の前の老人には、魔術の気配を感じない。 場慣れした雰囲気から、何らかの戦闘者、あるいは異能者である可能性はあるが。間違いなく魔術師ではない。 「場合によっては"素養がある"というだけでもマスターとして選ばれることはあるが……。この聖杯大戦のような事例は、私も聞いたことがない。 その他にも、この聖杯大戦には私の知る聖杯戦争との差異が多々ある。この聖杯戦争は、魔術師から見れば明らかに異常な要素が多すぎる。私の目的はその調査となる」 「……なるほど。で、わしらが脱出する手立てはあるのか? まずはそこを聞きたい」 「本来聖杯戦争に、マスターの命を奪う必要はない。戦争である以上、殺し合いは常ではあったが」 そう。聖杯戦争にマスターの命は必要ない。 第四次聖杯戦争は、マスターの内4人が死亡する(そして、最終的には一人しか残らなかった)殺し合いではあったが、勝者以外は死ぬということはない。 もしもそうであれば、II世はこの場には生きていない。 「この聖杯大戦がマスターの死を確定させているのは、ムーンセルから出ることができるのは勝者のみだからだ。 故に、この聖杯戦争から脱出するならば、まずムーンセルから脱出する手段が必要となる」 「フム。その方法は?」 「……調査中だ」 「……Oh,my god.」 「元々ムーンセル自体、謎の多い構築物だ。このような聖杯戦争を開く理由自体、はっきりしていない」 「つまりは何にもわからんってコトか? ……よくそれでここまで来たもんじゃな」 悪態を吐くジョセフに、II世も同じく溜息を吐きそうになる。 元より、II世がここに来てしまったのも事故のようなものだ。事前の調査が足りないと責められれば、それを否定することはできない。 話題を転換する必要があった。 「……。ところで、黒陣営のマスターの情報だが」 「名前はセレスティア・ルーデンベルク……と名乗っとったが、ありゃ偽名じゃな。多分日本人じゃ。 ゴスじゃったか? コッテコテな服装したお嬢さんじゃよ。サーヴァントはアーチャー。 おそらく、聖杯を手に入れるのを目的にしている主従じゃろう」 「ふむ……」 顎に手を当てる姿勢を取りながら、II世は情報を吟味する。 もしも現実の冬木と同じく、黒の陣営の聖杯も"この世全ての悪"に汚染されていたならば、黒の陣営に聖杯大戦を勝利させるわけにはいかない。 ゆえにII世は、『真面目に聖杯戦争を戦うつもりの』『同じ陣営の』主従と組むことはできない、という普通のマスターならば有り得ない十字架を抱えている。 ジョセフ老人が情報を持っているマスターとも、本来の目的まで交えての協力関係は望めない。 それを考えると、目の前の老人と陣営を越えた協力関係を築くことは有益だとII世は判断した。 「脱出の手がかりはなくとも、調査の手がかりくらいはあるんじゃろう? わしらはそれに同道か、協力させてほしい。 その途中で脱出の手段がわかれば万々歳じゃからな」 「……こちらからも頼みたい。こちらにも事情がある、おいそれと協力を頼めることではない。 敵対陣営であっても、こちらの事情をある程度汲んでくれる同盟相手は歓迎しよう」 「ありがたい」 無論、陣営を越えた同盟関係にはリスクもある。 裏切り者と見なされれば、敵陣営のみならず味方陣営からも追われる身となるだろう。 だがやはり、ここで機会を逃すというのは、II世も、そしてジョセフにも考えられないことではあったのだった。 「このまま教会へ?」 「そうしよう。元々私達もその予定だった。そちらもそうだろう?」 ◆ 「こんにちは。監督役の"間桐サクラ"です」 「同じく。監督役の……"エンリコ・プッチ"、だ」 冬木、聖堂教会。ステンドグラスから差し込む光が、ある程度の広さを持つ教会堂と、その中に並べられた席を照らす。 祭壇前に運び込まれた椅子に座った"二人の監督役"は、昼間からの訪問者――エルメロイII世とジョセフ――へと向けて、そう挨拶した。 片方は、黒衣の少女。むらさきの髪を長く伸ばした、整った美貌。 もう片方は、黒人の神父。剃り込みの入った白髪に、落ち着いた風貌。 (教会に神父……ってのはわかるが、隣の女子はなんじゃ? ズイブン刺激的なカッコしとるがのォ~~) いぶかしむジョセフの横。エルメロイII世は、顔を顰め動きを止めている。口を開く様子はない。 黙っていても仕方ない、と溜息し、ジョセフは先に質問することにした。 「わしはジョセフ・ジョースター。今回は聞きたいコトがあってここまで来た。 この聖杯戦争から、戦わずに抜ける方法は?」 「ありません。貴方のサーヴァントも、そう答えたはずですよね? このムーンセルから抜け出す方法は、聖杯戦争に勝利することだけ」 にべもない否定。 もっとも、ジョセフにも予想できたコトではある。 ここで"ハイ、抜けられます"などと言われたら、そちらの方が拍子抜けだし、疑わしい話だ。 「ムーンセルの管理とは、そんなに厳しいモンなのか? 正直適当に呼び付けられたとしか思えない身としては、疑わしい話なんじゃがね」 「ムーンセルは真性管理の怪物。その演算能から逃れ得るモノは、同じくムーンセル由来のモノのみです。 月の石に呼び寄せられてしまったことには、同情しますけど……」 「いや、そもそもわしは、アレが月の石とは……」 そこまで言って、ジョセフは言葉を止めた。 そもそもあの月の石は、どのように入手したものだったか。 苦難の連続であったエジプトへの旅、その最後、DIOの館から押収した……そう。 あのDIOが、月の石を持っていた。 その事実に、今更ながら、ジョセフは符合を感じずにはいられない。 (偶然……いや、DIOが"たまたま"月の石を持っていて、それが"たまたま"聖杯戦争への切符だった? そんな都合の悪い偶然が、たまたまあるものか?) 無論、すでにDIOは消滅した。 そこに何らかの企みがあったとして、ジョセフにそれを知ることはできないし、企みを持つ本人が消滅したのだから意味は無いかもしれない。 しかしそれでも、何らかの不気味さを感じるのは、事実だった。 「……ジョセフさん?」 「あ、ああ失敬。わしの質問は終わり……いや、もうひとつあった」 いきなり言葉を止めたのを首を傾げるサクラに、ジョセフが動揺を取り繕うように次の質問へと移る。 「マスターがいなくなったサーヴァントのコトじゃ。 マスターが先に殺されたり、あるいは――それが可能なら、じゃが――聖杯戦争から離脱したりしたとして……マスターを失ったサーヴァントはどうなる? あるいは、サーヴァントのマスター権の受け渡しなどはできるのか?」 「マスターがいなくなり魔力の供給を受けられなくなったサーヴァントは、魔力を使い果たし次第消滅します。 令呪を持ったマスターならば、マスターなきサーヴァントと契約するコトも可能でしょう。 ただし、聖杯からマスターへと行われるサーヴァントへの魔力供給の補助は一騎まで。魔力の素養がないマスターがサーヴァントを二騎従えるのは危険です。 そして、マスターが他のマスターにサーヴァントの所持権を譲り渡すコトですが、令呪を持ったマスター間ならばこれも可能です」 「わかった。ありがとう」 一見不可解な質問に、首を傾げる素振りでサクラは返答する。 それに礼を言って、ジョセフは隣に譲るように一歩下がった。 「では、私から質問させてもらってもいいだろうか」 入れ替わるように、エルメロイII世が前に出る。 「どうぞ。ですが、あなたが聖杯戦争について質問することは特にないのでは?」 「ああ。私が質問したいことは、聖杯戦争そのものについてではない。 ……この教会の管理者は、言峰綺礼、あるいは言峰璃正ではないのか?」 教会に入った途端にエルメロイII世が顔を顰めた理由。 それは、予想とは違う人物が教会の監督役を務めていたからに他ならない。 ここに来るまでII世は、ムーンセルはおそらく、冬木の聖杯戦争を極力再現して聖杯大戦を行おうとしているのだろう、という仮説を立てていたのだ。 となれば当然、教会で待っているのは第五次冬木聖杯戦争の監督役、言峰綺礼……そうでなくとも、その親である言峰璃正と予想していた。 しかし現実には、教会の監督役は見知らぬ神父と、そして間桐桜――第五次聖杯戦争当時の冬木にいた関係者ではあるが、教会とは何の関係もない――だった。 違和感がある。言葉には上手く出せないが、頭の隅に引っかかるタイプのそれだ。 そしてこういった違和感は往々にして、後々災難として降りかかってくる。 「そうは言われても、私達が監督役なのは事実でね」 椅子に座ったまま、プッチ神父が応じる。 その表情は淡々として、内になにを秘めているかどうか推し量れない。 「私は記録を見ただけだが……元々のこの教会の管理者であったというコトミネキレイは、不正を行っていたそうだ。 その前代も、聖杯戦争の裏で特定の陣営と協力関係にあったと記録にある。 たとえNPCとはいえ、そういった人物を管理者側に置きたくないという推測はできないかな?」 「……ふ、む」 確かに、言峰綺礼は第五次聖杯戦争、その黒幕と言ってもいい人物の一人ではあった。 第四次の監督役であった言峰璃正にしても、遠坂のマスターと裏で支援関係にあったコトは記録からはっきりしている。 ムーンセルの重んじる、公平さ、とは確かに離れた人物ではあろう。 (であるならば、監督役から外されるのは道理には適っているのか……?) 違和感は完全には拭えないが、一応の答えが示され、そしてそれに対する反論は今のII世にはできない。 これ以上の追及は無理か、とエルメロイII世は判断した。 「……了解した。今回はこれだけにしておく。すまない、時間を取らせた。行くとしよう、ジョースター氏」 「ああ」 質問を済ませたならば、ここに用は無い。 ジョセフもエルメロイII世も、教会に長く留まる気分にはなれなかった。 陽が当たっている癖に、ここはやけに昏い。 「……ジョセフ・ジョースターさん」 監督役の二人に背を向け、教会堂の扉に手をかけたジョセフに、黒人の神父――プッチ神父が声をかける。 「あなたは"引力"を信じるか?」 「……は?」 唐突な質問。 呆気に取られたジョセフに、プッチは首を振った。 「いや……無用な質問だった。忘れてくれていい」 ◆ 【……おい、ジイさん】 【なんじゃ】 教会堂を離れ、住宅街の坂道をエルメロイII世に少し遅れて下るジョセフ。 そこに、霊体化して追走する艦のアーチャー、天龍が念話をかけた。 【オレにあんまり気を遣わなくていい。オレはジイさんのサーヴァントで、艦だ。道具なんだからな】 教会にてジョセフが行った、第二の質問。それは、ジョセフが天龍を慮ってのコトに他ならないというのは、当人にもわかった。 脱出を目的とするジョセフがムーンセルからの脱出に成功すれば、サーヴァントである天龍は取り残される。 もしその時に天龍が脱落するしかないならば、天龍の願い――戦うこと――は果たせなくなっていた。 無論、ジョセフの質問によって、そのようなコトが起きないのは確認できたわけだが―― マスターであるジョセフを守るのは己の役目。それをマスターに気を遣われるのは、正直天龍にすればむず痒く、そして不甲斐無い気分だった。 【そうかい。じゃが、なあに。できる範囲でやれるコトをやっとるだけじゃよ。このままだと、最後には覚悟を決めて戦わねばならんようじゃしな】 だというのにはぐらかされる。 実際の年齢で言えばどっこい、あるいは天龍の方が年上だろうに、まるで子供のように扱われている気がしてならない。 【……そうかよ。じゃあ、その時こそ、この天龍サマの出番だな】 ならば。天龍の役目――アーチャーのサーヴァントとしての役割を、十全と果たしてやるしかあるまい。 元より軍艦として、戦うコトこそが彼女の存在意義なのだから。 マスターの配慮には、サーヴァントとしての奮戦で返そう。 「すまない、ミスター・ジョースター」 艦のアーチャーの決意の外、エルメロイII世が、ジョセフへと声をかける。 「この後は一旦別行動を取りたいが、どうだろうか。現状で敵陣営同士で行動しているのを見られても、あまりいいことにはならないと思う」 「フム。確かにそうじゃな……」 敵陣営の者と一緒に行動しているのが知られれば、不審、疑惑の的となりかねない。 連絡先だけを交換し、適宜連絡を取り合う形にした方が、揉め事は少なく済むだろう、というのはジョセフとII世の共通の結論となった。 「では、私はホテルへと向かいセレスティア・ルーデンベルク嬢に接触する。そちらは……」 「ちと事情があってな、実際に目で確かめたいコトがあるのでそちらに向かう。ホテルには後で戻る予定じゃから、直接話したいコトがあればその時にしよう」 「了解した。車には乗せてもらわなくて結構、徒歩で向かおう」 そう言って、II世とその後に続く赤衣のアーチャーは北――ホテルの方向へと歩き去る。 それを見届けてから、ジョセフは海へと向けてハンドルを切った。 [C-10/教会近くの住宅街/一日目 午後] 【ジョセフ・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険(第3部)】 [状態]健康 [陣営]白(月) [令呪]残り三画(右手の甲に存在。二つの茨が絡み付く星の形状) [装備]義手 [道具]携帯端末、カメラ、最低限の旅支度(義手の整備用具、キャッシュカードなど他)、トランプ×2、レンタカー [所持金]大富豪級 [思考・状況] 基本行動方針:脱出し、娘の待つ家に帰る。 1.海や河川の下見をしておく。 2.脱出のための情報や仲間を集める。陣営に拘るつもりはない。 3.資材の確保もどこかで行いたい。 4.機会があれば改めてセレスとの情報交換も考える。 5.聖杯についての情報を集めたい。 [備考] ※B-9近くのどこかに空条邸@ジョジョの奇妙な冒険 が再現されています。そこに休暇で来ている設定ですが戻るつもりはありません。 具体的な場所は後続の方にお任せします。またSPW財団は再現されていませんでした。 ※セレス、アーチャー(セッツァー)を確認しました。パラメータと陣営を把握、セレスは偽名で日本人と看破。 ※アーチャー(無銘)のパラメータ、陣営を把握しました。 ※B-9のホテルにチェックインして部屋をとりました。 ※エルメロイII世と連絡先を交換しました。 【アーチャー(天龍)@艦隊これくしょん】 [状態]健康 [陣営]白(月) [装備]刀 [道具]特に無し [所持金] [思考・状況] 基本行動方針:マスターの指揮の下、存分に闘う。 1.とりあえずジョセフに従う。 [備考] ※帯刀していますがNPCは特にそのことに触れていません。 怖がって聞けないのか、気付いていないのか、仕様なのかは後続の方にお任せします。 [C-10/教会近くの住宅街/一日目 午後] 【ロード・エルメロイII世@Fateシリーズ】 [状態]健康 [陣営]黒 [令呪]残り三画 [装備]魔術礼装の葉巻をいくつか所持 [道具] [所持金]不明 [思考・状況] 基本行動方針:聖杯戦争の調査及び、ムーンセルからの脱出。 1.ホテルへ向かい、セレスティア・ルーデンベルクに接触する。 2.聖杯に関連する調査を行う。できれば仲間を増やしたいが、黒の陣営に事情を明かしていいかは思考中。 [備考] ※ジョセフと連絡先を交換しました。 ※アーチャー(天龍)のパラメータ、陣営を把握しました。 ※住居や冬木市における役割については後続にお任せします。 【アーチャー(無銘)@Fate/Extra】 [状態] [陣営]黒 [装備]『無限の剣製』 [道具] [所持金] [思考・状況] 基本行動方針:現状はマスターに従う。 1.マスターに従い行動する。 2.黒と白のルーラーに対しては……? [備考] 投下順で読む Next.[[]]
https://w.atwiki.jp/grailwar/pages/18.html
聖杯戦争の舞台となる都市の主要建造物等。 移動フェイズでマスター(PL)は隣接するエリアへ移動し、他のマスター(PL)とエリアが重なったら遭遇フェイズへ移行する。 エリアは全部で7つ。下図のように配置され、中心の1エリアは霊地である。 それ以外の6エリアをセッションの開始前に任意の名称で作成する。 霊地の位置は変更出来ない。 霊地 中心に配置されているエリア。 移動フェイズで霊地に移動して(あるいは霊地に留まって)遭遇フェイズが発生しなかった場合、ターンの終了で宝具の使用可能回数が回復する。 遭遇フェイズが発生した場合、宝具の使用可能回数は回復しない。 宝具の使用可能回数は回復しても、2回以上使用可能になる事はない。 移動 移動フェイズで隣接するエリアに移動出来る。 隣接していないエリアには移動出来ない。 現在地のエリアに留まる事も出来る。 エリア作成例
https://w.atwiki.jp/smashbros3dswiiu/pages/36.html
デデデ (画像) ジャンプ回数 n回 攻撃力 空中移動 長所 (キャラクターの長所を記述) しゃがみ移動 重さ 復帰力 三角飛び つかみ間合い ジャンプ 短所 (キャラクターの短所を記述) 分類 壁張り付き リーチ 移動速度 基本キャラクター 滑空 総合性能 基本ページ / キャラ別対策
https://w.atwiki.jp/yggdrasillwar/pages/117.html
求める未来を目指せ ◆7CTbqJqxkE 「休憩入りまっす!」 商業地区の食事処。そこで日雇いのアルバイトとして働いている葛葉紘汰は、朝の忙しい時間を終えたこともあり、来る昼の書き入れ時に備えて束の間の休息に入った。 《――――セイバー、朝食に来た人たちの中でマスターらしい奴はいたか?》 《いや、少なくともサーヴァントの気配を伴った来客はなかった。見れる範囲で令呪がないかも見て回ったし、あの中にマスターはいなかったと思う》 《そうか……悪いな、せっかく調べてもらったのに》 《別にコウタが悪いわけじゃないさ。すぐに見つかるわけも無いんだし、焦らずにいこう》 休憩室に入ってすぐ、紘汰は霊体化した状態で隣にいる自身のサーヴァントに話しかける。 その会話の内容は、今朝の時点で他のマスターを見つけることができたかどうか、というものだ。 聖杯戦争を、殺し合いを食い止めるという目的を持つ紘汰にとって、いくら必要なことであるとはいえただ無意味にバイトをしているわけにもいかない。ただでさえ昨夜のアーマードライダーらしき強盗を見つけることができなかった今は、出遅れている状況なのだから。 そこでパートナーであるドルモンに、霊体化した状態で朝食に来た客の手の甲など体の露出している箇所を確認してもらってマスターがいないかを探ってもらったのだが、残念ながら収穫はゼロだった。 しかし駄目で元々のつもりで行った、気休めのような調査である。だから空振りであったとしても気にすることはないとドルモンは紘汰を気遣う。 《それはわかってんだけど…………でも……》 《特級住宅街や行政地区で起こった爆発が気になるのもわかるし、歓楽街でなんの手がかりも得られなかったことが悔しいのもわかる。 だからって急いだところで状況が好転するわけじゃないんだし、今はできることを一つずつしていこう。コウタと俺なら、きっと聖杯戦争を止めることができる》 《セイバー…………そうだよな、こんなところでウジウジ考えててもしょうがないよな!》 昨夜、商業区で起きた強盗騒ぎが聖杯戦争と関わっているのではないかと踏んで紘汰たちが歓楽街を探索している間に、特級住宅街と行政地区で火災や爆発が発生していた。 仮面とベルトという言葉に紘汰がアーマードライダーを意識し、歓楽街で徒に時間を浪費しなければ、あるいはどちらかの現場を押さえることができたかもしれない。 追跡が空振りに終わり、消沈して戻った今朝爆発の話を聞いてから、紘汰はそのようなことをずっと考えていた。 だがそれはあくまでも仮定の話に過ぎないし、もし歓楽街を探索しなくても行政区や特級住宅街に足を運んでいた可能性は低かっただろう。 ならば過ぎたことを悔やむよりも、今できることをしていくことで確実に歩を進めるべきなのだ。 そんなドルモンの理詰めの慰めが、自分が単純であると理解している紘汰にとっては有り難いものであった。 (そうだ、セイバーの言うとおりじゃねえか。どうせ俺たちがやることは変わりないんだし、だったらそれを全力でやるだけだ!) 「よぅしっ!! やってやるぜぇ!!!!」 《コウタ、あんまり大きな声で叫んだら――》 他の人に聞こえるよ。そうセイバーが続けようとしたその前に、ある男の横槍がそれを遮った。 それはセイバーも聞いたことがある声だ。だが、紘汰にとっては、おそらくこのユグドラシルにいる誰よりも聞き馴染んでいる声であった。 インターネットラジオのDJとして何度も耳にしたその声。 更にはユグドラシル側の人間の――そして、ユグドラシルでさえ与り知らぬヘルヘイムの森の真実を知る者の言葉として、聞いたことのある声。 「――――本当に聖杯戦争を止めることができると思ってるのか?」 聖杯戦争の開幕にも携わった、その声の主の名は―――― 「な!? あんた――――サガラ!」 「よっ」 サガラ。そう呼ばれた男は、友人に挨拶するような気軽さで紘汰に応えた。 「なんでここに……? いや、それよりなんなんだよあの放送! あんたここで何をしてる? 何を企んでるんだ?」 そんな男の応答に若干毒気を抜かれつつ、紘汰はサガラに疑問を投げつける。 聞きたいことは山のようにあるが、まずはこの男の真意についてだ。 「何も企んでなんかいないさ。俺はただお前たちの戦いを見守り続ける。それだけだ。 それにあの放送だって、お前たちマスターに聖杯戦争の情勢を連絡する監督役としての大切な『役割(ロール)』の一環だ」 「ロールって…………じゃあやっぱりあんたも」 だがその疑問も、やはり軽い調子であしらわれる。腹の底は一切見せないつもりらしい。 しかしそんな答えにも二つの情報が含まれていた。それはサガラがこの聖杯戦争の監督役であるということ。 そしてそれが自身のロールであると認識しているということだ。それはつまり―――― 「ああ、聖杯に召喚されたマスターの一人って訳だ。おっと、勘違いするな。別に戦いに来たんじゃない」 サガラもマスターとして聖杯戦争に参加している。その事実が男の口から告げられた時にはすでにセイバーはドルモンの状態で霊体化を解いていた。 あの放送も手伝ってか、ドルモンは敵意を隠そうともせずに牙を覗かせ、サガラを睨みつけている。 「その言葉を信じろっていうのか?」 「セイバー……」 「戦いに来たんじゃないなら何をしに来た。まさか目的も教えずに信じろなんて言わないよな?」 棘のある言葉で男がここに来た目的をセイバーが問い質すと、男は肩を竦める素振りをひとつ打ち、再び軽い調子で話し始める。 「お前のサーヴァントは随分と疑り深いみたいだな。 なに、ちょっとした忠告だ」 「忠告?」 そう紘汰が聞き返した途端、男がそれまで纏っていたふざけた雰囲気は消え―――― 「ああ……聖杯戦争を止めようだなんて無謀なことを考えている、お前たちへな」 さきほどまで話していた男とは別人と思わせるほど真面目なトーンで、紘汰たちへ語り始めた。 「さっきも聞いたが、お前たちは本当に聖杯戦争を止めることができると思っているのか?」 「当たり前だ。俺とセイバーは必ずこのふざけた殺し合いを止めてやる。 それに、希望の対価に犠牲を要求するこの世界のルールを壊せって言ったのはあんただ」 「確かに俺はお前にそう言った。だがな、聖杯戦争ってのは真に犠牲なくしては成り立たないルールでできているんだぜ」 そこでサガラは含むように間を置くと、微かに表情を引き締めて続きを述べる。 「誰も脱落することがなければ、そこでご破算だ。誰も奇跡を手にすることはできない」 「それこそ望むところだ。犠牲を強いるような奇跡なんて、俺は欲しくない」 それが紘汰の偽らざる気持ちだ。 如何なる奇跡を実現できようと、そこに犠牲を求める聖杯を認めることなどありえない。 いっそ無くなってしまった方が良いと、紘汰は本気で考えている。 しかしそんな紘汰の答えに対し、サガラは先ほどとは異なる笑顔を貼り付け再び語り始める。 「ふ、そうか」 「なにがおかしい!」 「犠牲を強いる奇跡を拒むのはお前の希望だ。お前の力があればそれを叶えることもできるかもしれない。 だが他のマスターは違う。どれだけの犠牲を払ってでも叶えたい希望を胸のうちに宿しているやつだっている。 サーヴァントを失わない限り、そいつらはお前たちの前に立ちはだかり続けるだろう」 「……だったらその度に、俺たちは戦うだけだ。どれだけ牙を剥かれても、絶対に犠牲になるような人を出しはしない」 「そうしてお前は、自分の希望のためにそいつらの希望を踏み躙るのか」 「なに……?」 サガラの指摘に紘汰は理解が追いつかず、言葉を失う。 しかしそんな隙を見逃してくれるほど、今回のサガラは甘くは無かった。 「言われなきゃわからねぇか? 聖杯戦争は万能の願望器を巡る戦い。単なる力を求める果実の争奪戦とは違う。奇跡を求めて集まったのは私利私欲に走る極悪人だけじゃなく、中にはのっぴきならない理由に覚悟を決めた善人だっているわけだ」 わかりきったことを出来の悪い生徒に言い聞かせるように話していたサガラはそこで視線を下げ、セイバーを一瞥する。 「自分のサーヴァントを見ればわかるだろ。この樹と繋がった世界は一つだけじゃない。中にはヘルヘイム以外の脅威に晒されているところも―― お前の安っぽい正義感で邪魔された結果、滅びる世界もあるかもしれないんだぜ?」 「――っ!」 容赦のない物言いに、今度こそ紘汰は言葉を失う。 考えもせず、目も向けなかったエゴを突きつけられて。 紘汰たちが戦いを止めるのも結局、暴力で自らの主張を押し付けているのに過ぎず。 そんな方法で他者の希望を取り上げることに、どんな正当性があるのだと。 「そ、それは……」 「――違う」 言い淀むしかなかった紘汰の代わりに、サガラの詰問に応える声があった。 「コウタが誰も止めなければ、結局殺し合いの末に残った一人以外の希望は叶わない! そんなの絶対に間違っている。だからこそ、俺たちは聖杯戦争を止めるんだ!」 「セイバー……」 力強く断言する相棒に、紘汰は思わず声を漏らす。 紘汰より余程理性的である彼が、この程度の命題に気づいていなかったはずはない。 それでも何の逡巡も見せず、己を信じてくれたセイバーの姿に紘汰は胸を打たれ――そしてサガラは、新たな興味を惹かれたとばかりに笑みを零す。 「間違っている……か。だったらお前たちが正しいという証拠はどこにある? 他の全てのマスターの希望を絶ち、自分たちの希望を押し通す。その結末は最後に残った一人と何が違うと言える?」 「命だ」 何ら竦むこともなく。ドルモンは己が信じた道を行く理由を、飾ることなくサガラに示す。 「俺たちは命を守るために戦う。すべての命が生きられるようにする。ただそのために、俺たちは戦うんだ」 「生きられる、か。ならば願いを叶えなければ死んだも同然のようなマスターはどうする?」 「それでも、だからって他の命を犠牲にして良い訳じゃない」 「聖杯の奇跡に縋らなければ助けられない命があるかもしれんぞ。ここに残ったマスターのためにその命は切り捨てるのか?」 「詭弁だ」 「詭弁じゃないさ。確かに憶測の話でしかないが、もしそんな願いを持ったマスターがいた場合にお前たちはどうする。 ここにいるマスターたちを殺したくないし殺させたくないから、悪いが死んでくれとでも言うのか?」 「それは違う! マスターたちも、その救いたい人も、誰も犠牲になって良いはずがないって言っているんだ!」 「違わないさ。お前たちは気安く聖杯戦争を止めると言っているが、その意味をもっと理解するべきだ。 ま、お前はまだわかっている方みたいだが……」 そこでセイバーが更に反論する前に、サガラは彼から視線を外した。 それを辿って、セイバーもまた首を巡らせ…… 「……コウタは」 「え?」 舌戦の渦中から離れた場所にいた紘汰は、不意に両者の注目を浴びたことで思わず声を漏らしていた。 「コウタは、どう思う……? こいつの言っていることがもし本当になったら、コウタならどうする?」 「そう、お前ならどうする葛葉紘汰? 結局最後にどうするかを決めるのは、マスターであるお前なんだぜ」 共に歩む者と、疑問を投げかける者と。意見を戦わせていた二人は、今は等しく紘汰を見守っていた。 己の命一つ思うがままにならない人間に、未来をその手で選べるか――その重荷を背負えるのかと。 マスターとして選ばれた運命に抗えない者に、それでも答えを見出せと。 数多の命を左右するかもしれない決断を下せと、求めていた。 「俺は……」 言い淀む。視線が落ちる。 しかしその落ちた視線の先――戦う覚悟を決めた時、友の形見を身に着けている部位を目に収めて、紘汰は決意を取り戻す。 「俺も……どうしたらいいのかわからねえ。聖杯でしか助からない命があるんだとしたら、その命を救うために聖杯を使ってほしい」 「それはつまり、お前は聖杯戦争を容認するということか」 「でも…………でもよ! 俺は誰かが犠牲になるなんて嫌だ。そんなの見過ごすなんて絶対できない! だから、だから俺は……! 俺は、聖杯戦争を止めるっ!!」 言い切った。 既に吐いた唾は飲み込めない。最早訂正は効かない。そして他の誰より、自分自身を欺けない。 それをわかっているのだろう。サガラは満足げにほくそ笑んだ。 「なるほどな。お前は他のマスターの希望を砕く覚悟をしたわけだ」 「そんな覚悟、できちゃいない……だからって、何もせずに傍観するなんてできるわけない。 だから答えが出るその時までは、迷いながらでも、俺は戦い続ける。あるのはその覚悟だけだ」 聖杯でしか救えない命があるのだとしても。ならば聖杯に焼べられる命を救えるのは今、自分達しかいないのだから。 すべての命が生きられる未来を実現するには、今、目の前の命を諦めるわけにはいかないのだ。 「……答えというには些か足りないものがあるが、それがお前の決めた道ということか。 そいつは茨の道を往くよりも険しい道のりだぜ。そのことはわかってるんだろうな?」 サガラの問いに、紘汰は一瞬の躊躇いもなく頷きを返した。 「いいだろう。だったら止めはしない。だがな、世界ってのはそんなに優しくはできていない。 予選の時と同様に、お前たちの手が届かない命ってのは必ずある。 それにもしも聖杯戦争を停滞させることができたとしても、その時はお前たちも討伐対象とされるだろう」 「討伐対象……?」 「ああ。聖杯戦争の運営を阻害する事態になれば、その原因を取り除こうと考えるのは当然のことだろう。 ついさっきも中学校で大きな戦闘があってな。その場にいたあるサーヴァントが討伐対象となったばかりだ」 「……なんだって?」 サガラから伝えられた情報は、紘汰にとって青天の霹靂といえるものであった。 「まあ詳しくは正午の俺のホットラインで連絡するが、結構な数の死傷者が出たことでユグドラシルの維持に問題が生じる可能性ができた。同じ事を繰り返されないようにするためにもその芽を摘む、という名分だ。 さあどうする葛葉紘汰? お前たちがちんたらしてる間に、聖杯戦争は着実に進んでいっている。死んだ連中の大半はNPCだろうが、ひょっとしたら予選脱落者も中にはいたかもな」 「NPCも予選脱落者も関係ない! でも……そんな…………」 聖杯戦争は基本夜半に行われる。予選の時もそうだった。 人目につくような昼間にサーヴァントが戦闘を行えば……どうなるかは想像に難くない。 だというのに―― 「まさかこんな白昼堂々と人が密集している施設に襲撃をかけるようなやつがいるとは思ってもいなかったか? つまりはそれだけ本気のやつらがいるということだ。お前らも本気で聖杯戦争を止めたいってんなら、遊んでる時間なんざありはしないぜ」 「くそ……! 行こうセイバー!」 「そう急ぐな。あともう一つ、お前らマスターに連絡することがある」 駆け出そうと背を向けた紘汰をサガラがなおも呼び止める。 気にすることなく行こうとした紘汰だが、マスターとしてならば先ほど以上に衝撃的なその内容に立ち止まり、振り返らずを得なかった。 その内容とは。 「聖杯に起こった不具合についてだ」 聖杯戦争の基盤である聖杯に、不具合が生じているというものだ。 聖杯など必要としない紘汰でさえ、無視するには大きすぎる情報だった。 「……」 「聖杯の……不具合?」 「ああ。お前のサーヴァントならそれがなんなのか大体察していると思うが――――――今は聖杯から英霊に関する知識を得られない状態になっている」 「な、なんだよそれ!?」 幸いなことに一定時間内に誰も脱落しなければ全員助からないとか、そのような最悪の事態ではなさそうなので一安心しつつも。 なぜ、そのようなことが起こったのか――そんな真っ当な疑問を抱いた紘汰は、なぜセイバーがそのことについて察していると言われたのかまでは、この時まだ思い至らなかった。 「ちょっとしたイレギュラーが紛れ込んでてな。図書館からも英霊に関するデータが閲覧不可能になってしまっている。 中には他の英霊が関わる自身の宝具の発動条件すら把握できないやつまで出てくる始末でな。 とはいえそのイレギュラーが消滅すれば自動で聖杯の情報にサーヴァントはアクセスできるようになるし図書館も利用可能になるから、真名を隠し続けなければいずれ不利になるという事実は変わらない。 まあこの連絡は、すでに戦闘を行って敵のサーヴァントの情報を調べようとしているマスターから苦情が来るのを防ぐただの予防線だけどな」 「まあ、その程度なら別にいいけどよ……」と呟く紘汰を尻目に、サガラはわざとらしく聞こえる程度までボリュームを下げた独り言を漏らした。 「これも、ムーンセルの精一杯の抵抗なんだろうな」 「抵抗? どういう――」 「とにかく急ぐことだな。誰も死なせないというなら、当然討伐対象となったマスターも助けるんだろう?」 紘汰の追求をわざとらしくはぐらかすと、サガラはいつものように飄々とした笑みを見せた。 「早めに見つけておかないと、駆けつけた時には手遅れなんてことになりかねないぜ」 「あ、おい!」 そして言うが早いか。紘汰が呼び止めた時には既に、サガラの姿は手品のように失せていた。 「消えた……コウタ、あいつはいったい何者なんだ?」 「……俺にもわからねえ」 警戒心を抱いたセイバーの問いに、満足に答えられない己を紘汰は不甲斐なく思う。 「……でも、サガラの言ってることが本当なら、急がねーと不味い」 だが、そんな感傷や逡巡にばかり構ってはいられないのだと、決意したばかりであったことを思い出した。 「バイトなんかしてる場合じゃねぇ!」 叫ぶまま、勢い良く仕事着を脱ぎ捨てた紘汰は、自らの剣となってくれた英霊に改めて呼びかけた。 「行くぜ、セイバー。これ以上誰かが犠牲になっちまう前に、今度こそ!」 「――ああ、行こう!」 かくして、覚悟を決めた一人と一匹の主従は駆け出した。 すべての命が、あるがままに生きられる――自分達の求めた未来を目指して。 【C-6/商業地区・商業地区と学術地区を繋ぐ橋近辺/一日目 午前】 【葛葉紘汰@仮面ライダー鎧武】 [状態] 普通 [令呪] 残り三画 [装備] 戦極ドライバー [道具] オレンジロックシード [所持金] やや貧乏(一日分のアルバイト給料) [思考・状況] 基本行動方針: ユグドラシル(聖杯戦争)を許さない 1. 中学校に向かい、関わったサーヴァントを見つけ出し、討伐令に備える。誰にも誰も殺させない。 2. 昨夜の強盗(アーマードライダー?)のことも気になるけど、今は中学校だ! 3. 味覚を取り戻す方法、魔術都市なら………ないよなぁ [備考] ※ズボンの右腰にオレンジロックシードをつけてます。他のロックシードの手持ち状況は、後の書き手の皆様にお任せします ※職場を紹介した鯨木かさねの『罪歌』の洗脳を受けているかは不明です ※アーマードライダーがユグドラシルにいる可能性を考えてます ※バイトを途中で抜けました。無断なので多分解雇されます。 【セイバー(アルファモン)@DIGITAL MONSTER X-evolution】 [状態] 普通(ドルモン状態) [装備] なし [道具] なし [所持金] なし [思考・状況] 基本行動方針: 命を受け継ぎ、生き、託す 1. 紘汰と一緒に中学校に向かい、これ以上の犠牲を防ぐ。 [備考] ※戦闘時以外は魔力の消費を抑えるため、ドルモン状態でいることにしました 【共通備考】 ※第一回放送で討伐令が発令されることを知りました。 ※聖杯の不具合で、現在サーヴァントに関する知識を得られなくなっていることを知りました。 ◆ 「……悪いが俺は誰の味方でもなければ、誰の敵でもないんでね」 そんな二人とのやり取りを終えたばかりのサガラは、どことも知れぬ場所にその姿を現した。 誰に向けたものかも知れぬ、能書きのようなものを嘯きながら。 「不利な奴を見てると、つい肩入れしたくなっちまうのさ」 遠からず自らの行う放送により窮地に立たされるイレギュラーを思い描いた彼は、不意に苦笑する。 「……ま、それも何の誤解もないまま事が運べば、だがな」 葛葉紘汰とそのセイバーを炊き付けはしたが、すべての真実を伝えたわけではない。 嘘を吐いたわけでもないが……果たして彼らは、大量の死者が出る原因となったというサーヴァントと、何の衝突もしないで済むだろうか。 「世界ってのは果てしないもんだ。全てが誰かの思うが侭、なんてことにはならないのさ」 そんな、最強の黄金聖闘士と衝突する可能性のあるサーヴァント――ルーラーですら見通せない空白の席の主の神話を思い返して、サガラの口調に真剣な成分が戻った。 数多の世界を渡って来たサガラでさえも、不確かな伝聞でしか知らぬその神話を前にすれば、余裕でばかりはいられない。 「……ユグドラシルが暴走を始めようとしたならば、アレが召喚されても不思議ではないかもしれんが…………まさか禁断の果実の一部を取り込んだ今の葛葉紘汰でも、十全の力を発揮させることができんとはな」 名高きオリンポス十二神族とも拮抗する力を携えて、イグドラシルの下に秩序を守る聖騎士たちへの抑止力――本来ならば、サーヴァントの規格になど到底納まるようなものではない。 そんなものが召喚されているというのも、おそらくは聖杯を悪用されたムーンセルの抵抗の一つなのであろう。もっとも無理やりに規格を落とした分、竜の因子は正しく機能もしていないようであったし、おそらくはパラメーターにも少なからぬ影響が出ているのであろうが…… それだけグレートダウンをしたところで、その存在が規格外であるということに変わりはない。 如何にオーバーロードの域に達しているとしても、禁断の果実そのものを手にしていない今の葛葉紘汰程度では、手に余るのもむしろ必定と言ったところか。 おまけに自身も前衛として戦おうとする葛葉紘汰の性格も手伝って、上手い具合に他のサーヴァントでも抗し得る可能性が出来ている。 「――いや。葛葉紘汰の拘束具としては、あれぐらいでなければ足りないということか」 此度の聖杯戦争において、マスターには純粋な戦闘能力だけでならサーヴァントに拮抗、もしくは凌駕する力を持つ者も数こそ少ないがいるにはいる。 その大半は、力でこそ勝っていようと英霊の生涯が培った技能や経験、そして英霊が英霊たる意志の前には及ばないのだとしても……中には例外となる者もいるだろう。 その筆頭候補こそが、葛葉紘汰だ。 もはやその身は幻想へと足を踏み入れており、下手なサーヴァントを宛がおうものならばその性能に関わらず、自らの力のみで戦い抜くことも可能なバランスブレイカーだ。 ――だからこそ、彼にはアルファモンが与えられた。 アルファモンの圧倒的なまでの力は、葛葉紘汰でさえも満足な魔力を供給することが適わぬ足枷となり、そして葛葉紘汰自身の力をも封じる足枷となる。 互いが互いの足を引っ張り合うというのは、この世界樹に集った主従の中でも最良といえる関係を持つ彼らに対しての最高の皮肉と言えるだろう。 とはいえ、それでも彼らの戦闘能力はやはり頭一つ飛び抜けている。仮に聖杯を掴もうと望んだならば、その願いが叶う公算は極めて大きいかもしれない。 だが力だけではどうしようもない戦いへと彼らは身を投じている。それも、限りなく勝算の小さい戦いだ。 この先、何度も何度も辛酸を舐めることとなるだろう。 「それでももし、おまえ達が自らの希望を貫き通せたなら、その時には――――――」 彼らが求める未来を、その手で実現させることができたなら。 「――――その時こそ、俺がマスターとなったことに意味ができるということかもな」 自らに架した話を進める者としての役目。それは間違いなく彼らの行く末と衝突することになる。 バーサーカーがセイバーに力で勝つことなど不可能。だが、魔力供給というただ一つの差が、彼らと自らの間に絶望的なまでの差を生んでいた。 精霊による守りは、力を削がれていてはアルファモンですら突破することは叶わないだろう。 神樹の化身となった勇者に、抑止の騎士は敗れ去る――それが彼らの最期に辿る未来だ。 「因果なもんだね……ま、それも――あいつの思惑通り運んでいたら、だけどな」 アルファモンの敗北――しかしその未来は、サガラたちと葛葉紘汰たちの主従が、一騎打ちした場合の話だ。 葛葉紘汰たちが求めた未来を実現した時、彼の傍にいる者たち次第では、覆ってしまう想定に過ぎない。 それこそ、いくら半神の勇者であっても――究極の聖騎士(ロイヤルナイツ)と、最強の黄金聖闘士(ゴールドセイント)、二人の神殺しを纏めて相手取ることになってしまっては、敵う道理などありはしないのだから。 「さて……アーチャーにご執心なのは結構だが、周りにも気をつけておかないとこの聖杯戦争――――――本当にご破算になっちまうかもしれないぜ?」 この場にはいない同業者に語りかけるように、冗談めかした言葉を残しながら……サガラもまた、自らの役割のために歩み出した。 【サガラ@仮面ライダー鎧武】 [状態]普通 [令呪]残り三画 [装備]??? [道具]??? [所持金]??? [思考・状況] 基本行動方針:聖杯戦争の進行を見守る 1. 次の放送に備える 2. 葛葉紘汰の動向が気になる(無自覚) [備考] ※現在位置は不明ですが、転移できるのであまり関係ありません。詳しくは後続の書き手さんにお任せします。 [全体の備考] ※第一回放送にて、聖杯の不具合(サーヴァントの情報閲覧の制限)についても言及される予定です。 BACK NEXT 空戦 -DOG FIGHT- 投下順 ホライズン 空戦 -DOG FIGHT- 時系列順 - BACK 登場キャラ NEXT 強盗と仮面とベルト 葛葉紘汰 空白の騎士と暗黒の騎士 セイバー(アルファモン) カーテン・コール サガラ 第一回定時放送
https://w.atwiki.jp/itan_seihaisensou/pages/36.html
逢廻愛亞(第三次) 【名前】逢廻 愛亞(オウミ メア) 【サーヴァント】 【性別】女 【性格】感情行方不明。但し前回の聖杯戦争やその後の生活?の影響で「友達」に対しての態度は非常に優しい。冷静にいようとは心がけるが結構抜けてるんだとか…。 【出典】オリジナル 【属性】秩序/中庸 【ステータス】 筋力 E 耐久 C 敏捷 D 魔力 B+ 幸運 D 供給 B+ 【詳細】第二次聖杯戦争の生き残り。基本的な戦闘スタイルは変わらず、武器に何かの能力を付与するもの。但し拳銃だけではなく、ナイフなども使用する。 生き残った後、父親が死に、母親はそれが原因で精神が不安定になってしまった為に家は没落し、苦労したのだそう(ちなみに親崇拝は変わらずです)。そんな中、手助けをしてくれた人もいたのだが、結果的にその人は亡くなってしまい、結局ひとりぼっち。前回の聖杯戦争から殆ど精神は成長していないらしい(感情あんまりないけど)。 聖杯に願うのは「また友達と一緒にいたい」というもの。今回は自分の為に戦う、のだそう。でも、絶対他人には言わないらしい。(ちなみに子供っぽい、自分勝手な願いだと自覚している) 「…僕は……今度こそ、聖杯を手に入れてみせます…今度は、自分の為に」
https://w.atwiki.jp/psyren_wars/pages/66.html
【英数字】【あ行】【か行】【さ行】【た行】【な行】【は行】【ま行】【や行】【ら行】【わ・を・ん】 【バイク】 この聖杯戦争で盗まれることの多いもの。 原作でもパロロワでも道具の現地調達はよくあることである。 しかしNPCの存在する聖杯戦争では対価を支払わなければそれは窃盗行為となり、警察などに追われることになりかねない。 にもかかわらずバイクを盗む参加者は少なくない。 まず開幕話で夜科アゲハ&纏流子が盗んでいる。不良コンビらしい動きである。 つぎに美樹さやか&不動明が盗む。元不良学生不動明があえて目立つために取った行動だ。 午後には紅月カレン&リンク。戦略的撤退のためアゲハたちが盗んだバイクをさらに盗んでいる。 誘引や撤退、足の確保などの戦術的理由もあるが半数は素でやっている。 ちなみに主犯のサーヴァントの属性は秩序、もしくは善が含まれている。属性については明が作中で語っているがそれでもこれは…… なお全員そろって男女の組み合わせ+二人乗り+学生なので警察に見つかると確実に厄介なことになる。タダノさんこっちです。 【バーサヤカー】 今企画においては美樹さやか バーサーカー(不動明)組のこと。 美樹さやかは本編において痛覚を遮断してダメージを考慮せず闘うなどという無茶をしており、その際の言動から彼女個人を指してバーサヤカーと言うこともある。 事実彼女は過去に別の聖杯戦争企画にバーサーカーのクラスで参戦している。 加えてとある企画の登場話候補には彼女をバーサーカーのマスターとするものが三作投下された。 同キャラが登場話候補に投下されるのは散見されたが、三作投下されその全てでバーサーカーのマスターだった、加えて並行世界とはいえ同一人物とのコンビが複数作投下されたのは彼女だけである。 美樹さやかをはじめとする魔法少女は魔力消費や負の感情が過ぎると魔女と言う理性のない怪物になってしまうのだが、そんな彼女に消費の激しいバーサーカーをあてがうところに書き手の愛情(?)を感じる。 しかし、多くのロワに参戦するたび不遇になることの多い彼女も今回は「叛逆の物語」出展の成長したさやかちゃんというレアケース。 加えて相棒はバーサーカーのくせに狂化が真っ当に機能しておらず喋りまくり、さらに考察までやってのけており、意外と今企画では今までと違う未来が待っているかもしれない。 【ほーむレス】 暁美ほむら&キャスター(フェイスレス)組のこと。 由来はほむらの愛称(?)、ほむほむとフェイスレスから。 ちなみに制作:シャフトではよくあることだが、ほむらの自宅は奇抜なオブジェが置かれたり個性的な遠近感をしたりしていたためか、愛称にあやかって一部でほむホームと呼ばれる。 そんな背景もあってほーむレスと称されたと思われる。 ちなみに暁美ほむら、開幕話において家に帰らず遊園地で野宿でも構わないとガチのホームレス発言をしている。 彼女の出展作で宿無しらしき魔法少女は別にいるが、彼女から生活の仕方でも教わっていたのだろうか。
https://w.atwiki.jp/psyren_wars/pages/134.html
巨人が生まれた日 ◆wd6lXpjSKY 扉を開けたエレン。彼を待っていたのは年上の教師ではなかった。 一人の少女が此方を向いて立っていた。 彼は小萌先生なる存在の見た目を把握していなかったが、目の前の少女が先生ではないことぐらい解る。 ミカサのように綺麗な黒髪の少女を無言で数秒見つめた後に、声を出した。 「えっと、誰だ」 自然と出て来た疑問は何故目の前に少女が居るのか。 学園は事件が起きた背景もあって、職員室に入るまでは人影一つなかった。 そもそも小萌先生は何処に居るのか。 それらをまとめて一言で少女に投げ掛けた。 「私は美樹さやか。貴方と同じクラスの……保健委員よ」 髪をかきあげながら名乗った美樹さやかは真剣に彼を見つめていた。 吸い込まれるような瞳は何処か強い自己主張を秘めているようで視線を逸らす気はないらしい。 「美樹さやか? 俺はエレン・イェーガー……あれだ、ドイツから来た」 「勿論知っているわ。体調を崩して休んでいる所悪いのだけれど少し用事があったの」 彼は本来ドイツとは関わりのない世界から聖杯戦争に望んでいる。 長い間、閉じ篭もり蓄えた知識によって彼は文明を超えて会話が出来るようになっている。 前までの彼なら出会い頭に調査兵団だのトロスト区だの言い放っていただろう。 しかし壁の内側でもない世界ではただの妄言にしかならない。 聖杯戦争に置いて自分を隠すには文明の知識を得ることが一番利口だろう。 エレンは用事があると言った彼女に対し、中身を聞き出すため口を開く。 「用事ってなぁ美樹さやか。こんな時に呼び出すか普通?」 「逆に聞くけどこんな時に呼ばれたら普通は来るかしら」 (うわっ……) 感じの悪い女だ。 短いやりとりの中でエレンが感じた美樹さやかの印象である。 元々呼び出したのは彼女であり、応じたのが自分だ。つまり発端は彼女。 可怪しいのは彼女で自分は寧ろ被害者ではないのか。 けれど応じた自分も自分であり、言い返せない状況が歯痒い。 「まぁいいわ。それで、貴方はなんで休んだのか聞かせてもらうわ」 「それは体調を崩したってお前も言っていたよな。その通りだよ」 嘘である。 堂々とサーヴァントに外出するなと言われたので学園を休みましたなど言えるはずがない。 適当且つそれらしい言葉で取り繕うしかないだろう。 「でも元気よね」 「よ、夜だしな。薬飲んで一日寝てれば大分治るだろ」 「随分と重い荷物を持っているようだけど、病み上がりの人が持てるかしら」 エレンが腰にぶら下げている謎の装置を指さしながら美樹さやかは疑問を述べた。 この場を流したい彼は立体機動装置についてどう説明するか迷っている。 適当な言葉が見つからず、頭を回転させるがそれらしい解答は浮かんでこない。 沈黙は流石に疑われてしまうため、何とか返したいが喉元で全てが詰まってしまう。 「よくみたらワイヤーかしら……それに刃も」 「――っ!」 「そのジャケットの裏の翼……まるで何処かの軍隊みたいね」 「か、かっこいいだろ!」 「そうかもしれないけど私には武器を持った兵士にしか見えないわ。 日常とはかけ離れている装備なんて何処から入手したのかしらね。 貴方が独自のルートで手に入れたか、ゲームやアニメの世界に憧れてコス――」 「そう、コスプレだよ! 俺は調査兵団に憧れてるから立体機動装置や自由の翼を持っているんだ!」 「――プレなんて有り得ないわ。導かれる答えは最初から貴方が聖杯戦争の参加者であることしか考えられないわ」 美樹さやかの言葉を聞き終えた時、エレンの鼓動は一瞬止まり、一拍も置かずに激動する。 頭の回転もままならないまま解答を続けていた。 それが間違いだったのだろうか。今の彼にそんなことを考えている余裕はない。 沈黙は肯定に繋がる。現状だと嘘を憑いていると認めてしまうことになるため焦っていた。 出てくる言葉は解答になっておらず、幼い子供のように単純で会話にならない程に短い。 挙句の果てに立体機動装置や自由の翼など、他の世界には存在しない単語を使ってしまう。 自分で焦っていることに気付くが、止めることは出来ずに穴へ嵌っていく。 身動きが取れなくなっていたところに告げられる聖杯戦争の響き。 何故美樹さやかが聖杯戦争を知っているかは不明だが、自分の所在が知られている。 この事実が彼の心を煽り、焦りと不安と恐怖心。負の感情を加速させていた。 「せ……聖杯戦争ってなんだ……?」 「とぼけないで。どんなに嘘を並べようと貴方の身ぐるみを剥がして令呪を見れば一発で解るのよ?」 「身ぐるみを剥がすって物騒だな……」 (やばいやばいやばい、なんだこいつ、どうして俺が聖杯戦争に参加していることを知っているんだ!? 今まで接触した人はそんなこと一つも言わなかったし襲いもしなかった……) 美樹さやかの意識を聖杯戦争から逸そうととぼけるが、彼女は譲らない。 会話の主導権を握られてしまい、強く言葉の端を切られると、声が震えてしまう。 この状況はエレン・イェーガーにとってメリットは存在せずに。 美樹さやかと名乗った少女によって優しい世界は残酷な世界へと変貌し始める。 「サーヴァントは何処にいるのかしら。紹介しなさい」 「だからサーヴァントってなんだよ!? 俺は何も知らないぞ!? 令呪とか聖杯戦争とか……お前はさっきから何を言って――マジかよ……」 せめて声量だけでも彼女を圧倒するように声を張り上げるエレン。 守ったら負けてしまう。唯でさえ主導権を握られている今、受け身のままではいずれ崩されてしまう。 ならば、強引にでも押し切ってしまえば流れを何とか此方に引き寄せれると思ったが、世界は其処まで優しくないらしい。 「私に時間は無いの――もう一度聞くわ。貴方のサーヴァントは何処にいる」 「銃……ッ」 時間が無いと告げた美樹さやかはエレンに銃を向ける。 黒光りがまるで先の見えない今後を示すような闇で意識が奪われてしまう。 引き金を引かれれば間違いなく死ぬ。 どうにか銃口を逸らさせようと口を開くも肝心の言葉が出て来ない。 何を言えばいいのか解らないのだ。どう説得すれば彼女を落ち着かせれるのか。 思考の海に飛び込むも見つかる宝はどれも説得力に欠ける瓦礫のようで。 そもそも時間が無いと告げた美樹さやかが待ってくれるはずもない。 「サーヴァントの居場所を教えればそれだけで貴方は解放されるの」 (どうする……素直に言うか? でも俺はアサシンの居場所を知らない。 でも、黙ってれば撃たれる……のか、っくそ解かんねえ。大体なんでこいつはサーヴァントの情報を欲しがってんだ……) 時間が無いと彼女は言った。 何か急いでいると考えるのが普通であり、エレンもその線が最初に思い浮かんだ。 時間は夜、それも日付が数時間で変わる深夜帯で何を急ぐというのか。 (朝に弱い……あれか、吸血鬼って奴。 暁美ほむらは吸血……有り得ないな。こいつはサーヴァントじゃない) テレビやネットを介してエレンには様々な知識が蓄積されている。 本来彼の知らない世界の文明を把握しているのは、家に閉じ籠もっている間が暇なため。 (普通の人間が吸血鬼みたいな生物なわけが……まてよ、俺は巨人だ) サーヴァントならば人外が居ても可笑しくはないと考える。 しかしマスターは完全に人間かどうかとなった時、エレン自身の存在が浮かんでくる。 彼は巨人になれる人間である。この聖杯戦争には多くの世界から参加者が招かれているらしい。 ならば吸血鬼になれる人間が居ても不思議ではないのだろうか。 (……解るわけ無いよな……ははっ) 心の中で自分を対象に笑う。 考えても答えは出ない。今まで何度も感じている。 この場面は考える場面ではなく、銃を向けられている現状に抗う場面である。 そのためにも暁美ほむらの興味を何とか逸らす必要があるのだが彼女は止まらない。 「言えないのかしら……解らないなら解らないと言いなさい……。 貴方のサーヴァントは何処かしら、エレン・イェーガー……はやく言いなさい!」 美樹さやかが話している間に校庭から聞いたこともない轟音が響いて来る。 その音を聞いてから、彼女の言動が荒くなった。 黙っているエレンに対して優しい言葉を掛ける訳でもなく、再度通告する。 どうやら聖杯戦争関係者と特定されているのは確定事項らしい。 どう取り繕っても意味が無いと判断したエレンは覚悟を決める覚悟をしながら口を開く。 「そうだ……今は何処にいるか知らない」 「呼び出すことは可能よね、呼びなさい」 「喧嘩……したんだ」 「黙りなさい。私は子供と話しているつもりはないの。 喧嘩したから呼べない? 貴方は何のために聖杯戦争に参加しているのか知りたいわね。 率直に言うわ、帰りなさい。喧嘩の一つで自分のサーヴァントに見限られる人間が生き残れるとは思わない」 「……そんなの解らないだろ」 「それも子供みたいな発言ね……まぁいいわ。 今日はごめんなさい、そして――さようなら、エレン・イェーガー」 ごめんなさいとさようなら。 その言葉の意味を理解する時間は無い。 まるで少しの間、たった数秒の感覚を失った気になる。 その光景が突然ワープしてきたようで、瞳を閉じたつもりはないが信じられない。 「あ、アサシン……!?」 エレンの目の前には美樹さやかではなく、彼のサーヴァントであるアサシンが立っているのだ。 ■ (エレン・イェーガー……使えない男) エレンと会話をしている時、暁美ほむらは苛ついていた。 サーヴァントが見当たらないと思えば、喧嘩したと言っている。 そんな子供の言い訳が通用すると考えたかは不明だが、正直に言って馬鹿だ。 聖杯戦争においてサーヴァント無しで勝ち抜くなど不可能である。 そうでなければ自分がこうして必死に新しいサーヴァントを探す理由が無い。 (令呪を使用させてでも呼んでもらう) 令呪の命令は絶対である。 強制的にサーヴァントを呼び出しさえすれば此方の勝ちである。 時間を止めて背後を取る。後部に銃口を押し当てサーヴァントと交渉する。 従わなければエレンを殺す、と。 自分と契約を交わさせ、エレンは公衆電話で聖杯戦争から退場してもらう。 (手始めに――) 時間が止まる。 暁美ほむらだけが認識を許された隔絶世界の中で、彼女は一人歩く。 楽にエレンの背後を取ると、銃口を持ち上げ、瞳を大きく開く。 意味が解らない。 目の前に存在する男の姿を見た彼女が本能で感じた感想。 この空間つまり職員室には暁美ほむらとエレン・イェーガーの二人しか存在しない。 少し前に天戯弥勒が居たがそれは今になれば関係のない話。 暁美ほむらが数分前に立っていた場所で剣を持つ男が一人、首を狩り取るように武器を振るっていた。 西洋の剣よりは短く、かと言ってナイフよりは長い得物。 黒き男は何時現れたのか。 暁美ほむらとエレン・イェーガーが問答をしている間に扉は開いていない。 無論窓も開いておらず、この場に侵入するのは不可能である。 可能性が在るとすれば天戯弥勒のように突然現れる方法だろう。 サーヴァントならばワープの一つや二つ出来ても不可解ではない。 目の前に起こる非現実は全て現実であり、受け入れる必要が在る。 「時間と止めていなかったら私は死んでいた……ッ」 汗が身体全体を包み込む。 偶然だ、この生命は偶然助かった。 時間を止めていなかったら自分は首を斬り落とされて死んでいた。 サーヴァントはアサシン。 暗殺者ならば背後を取るのも容易なのか。 少なくとも気配を感じなかったため、彼女が知りうる中では最上位の強者。 狂戦士はその名の通り圧倒的破壊力を証明するならば、暗殺者は音を、全てを殺せるのだろう。 「勝てない……っ、此処まで来て……私には時間が無いのに」 撤退。 彼女が選んだ行動である。 エレンを人質に取ったところで、サーヴァントに勝てる自信が沸かない。 問答無用で殺しに掛かる暗殺者と交渉出来る気がしないのだ。 残された時間は少ない。 しかし死んでしまえば全てが終わる。 願いを叶えるどころか、明日を迎えることも出来ない。 職員室の扉を雑にこじ開けると彼女は廊下へ飛び出した。 校庭ではサーヴァント同士の戦闘が起きている。 それも感じる魔力の強さから宝具でも開放したのだろうか。 彼女の本能が告げている、この場所は危険だ、と。 とりあえず玄関の近くへ足を運び、周囲の様子を伺う。 学園内に侵入されていれば窓からでも這い出て逃げればいい。 階段を飛び降りた矢先、暁美ほむらは一つの異物を見つける。 「これは……血……保健室に向ってる?」 ■ 「アサシン……なぁ、アサシン。お前何で……ひっ」 自分の前に現れたサーヴァントを見てエレンは声を掛ける。 美樹さやかが消えた事には驚いたが、それよりもアサシンへの対処である。 自分は黙って家を飛び出した。言い付けを破り外へ出た。 アサシンの出方を伺おうと声を出すが返ってきたのは無言で睨まれる行為。 鋭い眼光は対象を殺す機械のように冷たく、無機質で潤いのない瞳。 自然と声が漏れてしまう。やばい、自分は何かされると。 「……逃げるぞ」 「は……え?」 「……」 「わ、わかったよ……」 剣を懐に戻しながらアサシンは短く呟くと顎で扉を指しエレンを誘導する。 殴られるぐらいの覚悟をしていたエレンだったが少なくとも痛みを感じなくて済むようだ。 何に対して逃げるかは解らないがアサシンが言うからには危険なのだろう。 ならば黙って扉を抜ければいい。 思えば今日は色々なことがあった。いや、外に出れた。 一度外出を試みた時、アサシンに止められた時は情けなかった。 現実と現状に戸惑う自分が小さくて、それでも暖かさを感じながら一人腐ってる自分が情けなかった。 この世界にみんなが居れば。 どれだけ幸せだろうか。巨人の居ない優しい世界に。 聖杯を勝ち取れば、世界から巨人を駆逐出来る。 壁の外で堂々と暮らせる日が、大切な存在を奪い続けた巨人を駆逐出来る日が来る。 だから自分一人で腐る訳にはいかない。 幻覚を見た時、自分の気合を入れ直した。 逃げない。みんなが巨人と戦っているなら。 「俺はこの聖杯戦争で戦い続けてやる」 「なら戦ってこい、エレン・イェーガー」 何が起きたか解らなかった。 聞こえた声に反応することもなく立ち止まっていた。 首根っこをアサシンに掴まれ後ろに投げられた。 机の上に置いてある小物をぶち撒けながら壁に激突した。痛え。 アサシンは軽く跳躍してから誰かを斬ろうとしていた。 いや、頭に剣を刺そうとしている。 美樹さやかが帰ってきたと思ったけど、違うみたいだ。 頭が大分回って来た。 気付けば魔力をたくさん感じる。 美樹さやかと話していた時は気にしていなかったけど。 バチバチと電流が走るような音が響いた。 見ればアサシンの剣が何かに防がれている。 サーヴァントの攻撃を防ぐってことは相手もサーヴァントだな。 俺は顔を出して覗いてみた。 サーヴァントならある程度目視出来るからどんな奴か見てやる。 「サーヴァントじゃない……!?」 「俺は天戯弥勒……知っているよな?」 ■ 浅羽は夜風を浴びながらフェンスを掴んでいた。 アーチャーと一緒に学園近くのビルの屋上に上がり、フェンスの隙間から世界を覗く。 人通りは思ったよりも多くない。架空世界は都会なイメージがあったが、学園事件の関係で人が少ないようだ。 フェンスから数歩離れると、近くで弓を引いているアーチャーに視線を移す。 得意料理みたいな手際の良さで、弓矢を発現したアーチャーは学園を対象に弓を引いている。 浅羽の目からすれば学園で赤い光が動いているようにしか見えない。 尋常無い魔力を感じたため、サーヴァント同士の戦いだと解ったが、本来は何も気づかなかっただろう。 夜の学園に潜入して花火で遊んでいる生徒が居る。そんな感覚だ。 アーチャーは何か考えているような表情だった。 具体的に言えば若干口元が緩んでいるけど、其れ以外は真剣其の物。 浅羽は自分で何を考えているか解らなくなるが、アーチャーは何か考えているのだろうと思う。 聖杯戦争でも浅羽をリードしてくれているため、常に物事を考えているのだろう。 「さようなら――御老人」 小さく呟くと、アーチャーは矢を離し必殺の一撃が放たれた。 その瞬間だけ時間が止まったかのように空気や音が消えた。 小さい頃耳元で縄跳びを力一杯振り回すとふぉんふぉんと風を斬る音が聞こえる。 アーチャーが矢を離した時、この辺りを包む風を斬っていた。 近くから音が消える感覚には慣れそうにもないと浅羽は思った。 しばらくしてからアーチャーは苦い表情を浮かべて浅羽に話し掛ける。 「殺せなかったみたいだ。千里眼でもあれば大分確率は上がるんだろうけど」 その言葉にどう反応すればいいか解らなく、浅羽は下を向いてしまった。 聖杯戦争を勝ち抜くには誰かを殺すのは必然になる。その現実が重くなる。 矢では殺せなかったようだが、これからは戦闘する機会も増えるだろう。 御老人と言っていた。この世界で出会った特徴的な老人は病院の屋上で会っている。 聖杯戦争の参加者だった。学園で戦っていたのはどうやらあの老人だったようだ。 顔を知っている人間を殺す。その感覚や感触はどんなものなのか。考えたくもない。 出来れば誰も死なない世界が望ましい。そんな綺麗事が実現する筈もない。 「……もう少し此処に居ようか」 黙っている浅羽に気を遣ってアーチャーは時間を取る提案をした。 その言葉に浅羽は首を縦に振り、再びフェンスに近づく。 穴に指を入れて力強く覗いてみる。 学園に先ほどのような赤い光はなく、この場所からだと平穏に見えていた。 「此処なら戦闘が起きても有利に戦えるからね」 隣に来たアーチャーはタンクを指差しながら発言した。 ビルの屋上にはスプリンクラー用の貯水タンクが備わっている。 それが有利に戦える理由になるらしいが浅羽は何も知らないため疑問に思う。 ふと空を見上げてみる。綺麗な夜空だった。 月がはっきりと見える雲一つ無い綺麗な満月の夜。 「……誰だろう?」 もう一度学園を見下ろしてみると校庭に誰かが来たようだ。 戦っていた人物か、新しく来た人かは解らない。 などと考えていたら、急に光に包まれていた。 後に浅羽は思う。 この時、自分は何で暗い校庭で人影を見つけることが出来たのか。 ■ セイバーに抱えられたカレンは保健室で止血を行い、包帯で自分の腕を包んでいた。 肉が露見しているため、現状でも応急処置にしか過ぎず、病院に行く必要が在る。 セイバーはカレンの手当を申し出るが、これを一蹴……でもないが断った。 自分のミスで怪我をした。 だからこの傷は自分で処置をする。 不覚だった。 ウォルターと呼ばれていた老人は優れた身体能力を持ち合わせていた。 見た目からは想像出来ない速さで此方に近付き、ワイヤーを自在に操っていた。 銃弾をも躱す動体視力は信じられず、まるでギアスの加護を受けているかのようであった。 圧倒的戦力差を感じ取ったカレンは何も出来ないまま、右腕を粉砕されてしまった。 「情けない……悔しい……ッ!」 使える左拳を強く握る。 銃弾を躱す人間に勝てる程カレンは強くない。負けるのは必然であった。 けれど何も出来ずに負けてしまった自分が情けない。 勝率など存在すらしていないが、それでも正面から負けた。 「生かされた……」 ウォルターは自分を殺すことも可能だった。簡単なまでに。 それでも殺さなかったのはランサーが戦闘を楽しみたいから。 マスターが死ねば基本サーヴァントも消えてしまうから。それだけの理由。 自分には何一つ関係なく、敵の娯楽のために生かされている。 戦争で戦う戦士にとってそれは侮辱と変わらない。 「――」 その姿を見てセイバーは何を思うのか。 宝具まで発動した戦闘はランサーとセイバー、共に大きな傷は負っていない。 必中の魔槍と放たれる弾幕、吸血鬼のような赤い瞳と鋭い牙。 ランサーの正体は確定に近いが、この先どうすればいいのか。 カレンを連れたまま戦闘を行うのは無理だ。 傷つけてしまったのは己の実力不足が原因である。 また戦闘が始まれば助けれる保証など存在しない。だから。 「バイクで病院に向かう?」 セイバーの提案にカレンは反応した。 ランサーの目を盗み、バイクを回収し腕を診てもらう打算らしい。 その提案にカレンは喜ぶが、言葉には出さない。 心の中で何度も、運ばれている時に何度も思っていたことを口に出す。 「この傷は病院に行っても行かなくても変わらないよ。 完治するには数日じゃ足りない、聖杯戦争は終わっているかもしれない」 セイバーの提案を断ったカレンは更に紡ぐ。 「私には……私の日本には時間が残されていないってのは言ったことあるよね。 ルルー……セロも居なくなった今、黒の騎士団は壊滅状態に近いの」 自分で自分を苦しめながらカレンは喋る。 「聖杯があれば日本を取り戻せると思った。願いが叶えられるんだからね。 でも、この怪我じゃ無理。セイバーの足を引っ張るだけ。だから私は自分に出来る事をする」 自分に出来る事。それは小さいけれど夢へ繋がる大きな一歩。 「やっぱり聖杯に頼るのが可笑しかったよ……はは。 私は元の世界へ帰って、自分の力で黒の騎士団を再建して、日本を取り戻す」 本来通りに努力することだ。 夢物語を追いかけないで、自分の手で届く範囲から地道に頑張っていく。 人生は長い、そして積み上げが大切である。 世界中に住んでいる人間全員がギアスを持っているワケでもない。 「ごめんね……最後までわがままで」 自分の不甲斐なさに謝罪をするカレン。 セイバーには迷惑ばかり掛けていた聖杯戦争であった。 恩の一つも返せないまま退場と考えると、本当に情けない。 その言葉にセイバーは責めることもなく、優しい笑顔で返答した。 カレンの心は暖かくなるが、余計に自分の無力さを感じてしまう。 けれど引き摺る訳にはいかない。 彼女にはこれから日本を取り戻すために再びブリタニアと戦わなければならない。 黒の騎士団のエースとして、何時迄も席を開けている訳にはいかないのだ。 ゼロが失脚し、恐らく藤堂を始めとする戦力もブリタニアに大きく削られている筈。 自分だけが平穏な学生生活を送る訳にもいかない。 「でも聖杯戦争から還るにはサーヴァントを失わなければならない」 「誰!?」 保健室に響く知らない女の声に振り向いたカレンはメスを握り叫んだ。 拳銃は校庭に忘れてしまっため、先手を撃つことは出来ない。 セイバーも剣を取り出し、その対象に注目していた。 「私は暁美ほむら……サーヴァントを失ったマスターと言えば解るかしら」 其処には黒い髪を持った少女が一人。名は暁美ほむらと言うらしい。 サーヴァントを失ったマスター。 天戯弥勒の言葉を信じるならば、その身体は六時間後に消滅すると言う。 そしてその六時間以内に再契約を結べなかった場合、身体は灰になる。 回避するには公衆電話を使用し元の世界へ還るか、新しい契約を結ばなくてはならない。 「……私は突然現れたあんたを信用出来ない」 「でしょうね。立場が逆なら私もそう思うわ」 「でも」 「それでも」 「私はあんたを信用しなくちゃいけない」 「貴方は私を信じるしかない」 ■ 剣を引き抜いた後、壁を蹴りもう一度攻撃を加える。 質量を持った光に阻まれ失敗、床を削るように後退し相手の出方を伺う。 「サーヴァント。 その攻撃が一般人と思われる俺に通用しないのはどんな気分だ?」 魔術とは違う異能を操る天戯弥勒は目の前のアサシンを挑発した。 本来サーヴァントの攻撃を人間が防ぐのは有り得ない……話でもないが普通は有り得ない。 元々天戯弥勒の正体が不明なため、明確な答えを導くことは不可能だが主催者特権だろうか。 「向かってくるか」 アサシンは天戯弥勒の言葉に耳を傾けずに、再度接近する。 その速度は普通の人間の肉眼では捉えられない速度である。 吸血鬼のレミリアと違って夜の恩恵を絶大に活かせはしないがアサシンは闇を生業とする。 深夜の影響によって彼の身体は本来の時間、つまり自分の世界を思う存分発揮出来る時。 天戯弥勒が飛ばす光の枝を剣で流し、懐に飛び込む。 首を掻っ切ろうと横に振るうが、枝に防がれてしまう。 剣と枝の衝突を支点とし、右足で床を力強く蹴ると、下半身を上に上げる。 そのまま回らず、空中で体勢を維持しながら、力を下方向へ流し、下半身を元の場所へ戻す。 つまり勢いを利用した踵落としを天戯弥勒の脳天へ叩き付ける。 その一撃は大きな轟音を響かせる。 衝撃の余波は職員室に置かれているデスク類を振動させ一部を壊滅させる程。 人間ならば頭蓋骨粉砕、死へ直結するが天戯弥勒は生きている。 しかもダメージを喰らった素振りを見せず、アサシンの足首を掴んだ。 子供が落ちている石を拾い投げるような軽さでアサシンを投げ飛ばす。 アサシンは壁に激突することなく、足と腕を壁に貼り付け、力だけでもう一度天戯弥勒に向かう。 腕を振るい、机の上に残ってある小物を天戯弥勒の視界にばら撒く。 目眩ましになれば儲け物だが光の枝は全てを貫いており、無意味。 別の机を蹴り飛ばすも、天戯弥勒は拳で殴り返すように机を返す。 この攻撃にアサシンは剣で机を一閃。 二つに裂けた机は窓ガラスに直撃し、破裂音を響かせながら外へ落ちていった。 「俺を殺してみろアサシン」 接近してくるアサシンの攻撃を天戯弥勒は枝で防いだ。 両者、身体は近く、手が届きそうな範囲ではあるが、攻撃は届いていない。 「黙っていろ、直ぐに殺してやる」 アサシンの刃が届くよりも早く、天戯弥勒は力の収束場を己に展開させる。 つまり、自分の身体を中心にエネルギーフィールドを球体状に発現させ、アサシンを吹き飛ばした。 見たことのない攻撃を受けたアサシンは受け身を取り、転がることなく立ち上がる。 戦闘を見ているエレンは別次元を感じ、黙って立体機動装置を装着していた。 落ちている椅子を天戯弥勒へ投げると、球体のフィールドはこれを弾いた。 防壁となっているようだ。 接近戦しか行えないアサシンには邪魔な壁となるが、関係ない。 自分達の前に現れた主催者。碌な事が起こらないだろう。 今すぐにも無力化し、今回の聖杯戦争に問い質したいところだが、無理そうだ。 「さて、少しは話させてもらおうか」 気付けばアサシンは無数の光の枝に包囲されていた。 少しでも動けば己を刺し殺すために一斉に動き出す、と言ったところか。 自然にエレンの前を陣取り、異常事態に備えるアサシン。 どうやらこの場は天戯弥勒の言うとおりにするしかないようだ。 「エレン・イェーガー。お前は聖杯戦争で何をした」 「……俺?」 「そうだ、お前に聞いている。お前の言葉で答えろ」 突然の指名に驚いたエレンはアサシンの背中を見つめる。 此方に振り向く素振りを見せないため、信頼でもされているのだろうか。 天戯弥勒は自分の言葉で答えることを所望している。ならば。 思っていることをありのままにぶちまけてやる。 「俺はアサシンに命令されて……無理やりずっと家に閉じ籠もっていた」 「……!」 「そうか……ならお前は何のために聖杯戦争に参加している」 思っていることを、あったことをありのままに言葉にする。 アサシンの身体が少し動いたようだが気にしない。 「巨人を駆逐するのに聖杯を手に入れるためだ」 「では戦え」 「別に俺達が全員倒す必要はないだろ」 「力無き者に聖杯が勝ち取れると思っているのか」 「俺一人じゃ巨人を全て駆逐することは出来ない。それと一緒だ」 天戯弥勒の煽りを流しつつ、エレンは返答する。 思ったよりも頭は透明に物事を考えられるようになっている。 理由としてはアサシンに責められなかったことが大きい。 子供の考えではあるが、説教を覚悟していため、それが無いと気分が楽になっているようだ。 戦闘を目の前にしても、自分の考えを主張出来るぐらいにはなっている。 「そうか……お前が望めばサーヴァントを変えてやろうと思っていたが……どうする」 マスターを縛るサーヴァント。 行動を制限するサーヴァント。 従者としての立場を超越した行いはマスターに多大な精神的負担を掛ける。 エレンも戦争と平穏の狭間に揺れ、仲間の幻覚を見る程に精神を摩耗させていた。 その小さな亀裂につけ入れるように割り込んでくる天戯弥勒の提案。 エレンにとってその提案は受け取るべき物だ。 この提案を受け入れれば自分は楽になる。楽に行動出来る。自由に行動できる。 アサシンは振り向くつもりはないようだ。武器を構え硬直状態である。 エレンは思う。 答えは最初から決っている。ありのまま思っていることをぶち撒けてやる。 アサシンは嫌な奴だ。 それでも俺のことを思ってくれる大切なサーヴァントだ。 「うるせえ……うるせえ! 俺と一緒になったサーヴァントにケチつけてんじゃねえ!!」 怒号を聞いたアサシンはエレンへ振り向かないまま口元を緩めた。 何を言うかと思えばこの男は……とでも思っているのだろうか。 誰にも知られない感情を抱いたまま、アサシンは天戯弥勒のフィールドを壊すために仕掛ける。 どうやらタイミングは奇跡的にエレンの言葉と重なったらしい。 演出にしては出来過ぎているぐらいに丁度いいこの瞬間、アサシンの宝具発動と重なっていた。 アサシンの宝具は任意では発動出来ない。強いて言えば常に発動している事象だ。 その効果を発揮するのは確率の問題であり、その方程式は不明である。 また確率も高い訳ではない。 剣を手元で何度か回し真上に投げる。 綺羅やかに刀身は職員室の全てを映し出し、アサシンの手元に再び収まった。 「……は?」 「宝具か……来い死神」 エレンは己の目を疑った。 アサシンが剣を手元で回し、それを投げて手に取るまでの間。 彼の身体が影のように何重にも見え、分身が誕生しているようだった。 けれど目を擦ってもう一度見ると、当然のようにアサシンは一人であった。 天戯弥勒の呟きからすれば宝具らしいが、聞く前に光の枝が動き出していた。 枝はアサシンを貫くために一斉に彼へ動き出した。 鋭利な先端は床や机を貫きながら、勢い衰えること無くアサシンへ向かうがそれは無意味。 枝が全て動き切った時、その場所にアサシンは存在していない。 「お前を――引き摺り出す」 アサシンが現れたのは天戯弥勒の背後、それも真上。 暗殺者の名に恥じること無い隠密行動、気配を消した移動は戦闘中でも発揮される。 球体を破壊するために彼が振り下ろす剣は宝具を帯びた必殺の一撃である。 一瞬。 たった一瞬である。 運良くその光景を目撃した人物は皆口を揃えて言う。 あの暗殺は一振りの攻撃でありながら無数の一撃を加える必殺の一撃、と。 「死ね」 球体を全方位から攻撃するように無数の斬撃が天戯弥勒へ襲い掛かる。 アサシンが右斜めから落下するように攻撃したかと思えば、左上に現れもう一撃加える。 その後も何度も何度も、肉眼で捉えられない速度で攻撃を繰り返す。 音だけが響く中、エレンが気付いた時には天戯弥勒を包んでいたエネルギーフィールドは破壊されていた。 その瞬間はたった一秒にも満たない刹那である。 死神――暗殺者であるジャファルの異名だ。 指令は絶対であり、得物は確実に殺す黒い牙が誇る四牙の一人死神ジャファル。 彼の瞬殺は相手が認知することなく無数の斬撃を浴びさせ絶命させる必殺の一撃である。 「次はお前を殺す」 身体を包むエネルギーフィールド――PSIが崩れた今、天戯弥勒を守る壁は存在しない。 光の枝が展開されるよりも早くアサシンは剣を握り、天戯弥勒の首を狙う。 必殺の宝具は発動しないが、人間一人の首を取るには容易い状況であるはずだったが流石主催者と言うべきか。 光の枝がアサシンに急速で向かっていたため、これを防ぐために剣を引き戻す。 正面から防ぐことには成功するが、急な防御であるため、踏ん張ることも出来ずに飛ばされてしまう。 その方向は窓、アサシンは窓ガラスを突き破り外へ飛び出してしまった。 「アサシン! っくそ!」 飛ばされたアサシンを心配して声を張り上げるが、エレンに助ける余裕は存在しない。 ブレードを取り出すと、天戯弥勒を視界から逃がさないように捉える。 次にやられるのは自分だ、一瞬の隙も見せてはならない。 「話の続きだが……お前は閉じ籠もっている間、何をしていた」 「随分と戻るな。俺はテレビ見てたり寝てたりしてたよ」 「元の世界でもそんなことをしていたか?」 「は? テレビ何て存在してないし毎日存分寝れる生活はしていない」 「聖杯戦争の生活――ずっとしたくはないか?」 「――っ」 言葉が詰まってしまう。 これが漫画やアニメの世界ならばかっこ良く言い切る場面だろう。 そんな生活は要らない、俺に必要なのは仲間だ。青臭い言葉を叫ぶ場面だ。 だが言葉が素直に出て来ない。 エレン自身、今の生活は悪くなかった。 出来るならば、この世界に全員招待したいぐらいだった。それ程までにこの世界は優しい。 「お前が望むなら一生生活させてやることも可能だ」 「……ミカサやアルミン達はどうなる」 「お前の仲間か? 望むならお前が指定した人間全てをこの世界に召喚……招くことも可能だが」 天戯弥勒の発現にエレンの心臓が跳ね上がる。 今、この男は何を言った。 「え……もう一回」 「お前が望むなら仲間と共にこの生活を提供してやる」 その言葉は儚くて、永遠に求めていた神の一声だった。 「……い、いいのか」 「俺の条件を飲めば、な」 エレンは何も考えること無く本能が赴くままに発言していた。 それはアサシンの命令に従って何もせずに時間を流していたあの日々と一緒だった。 今のエレンは天戯弥勒の言葉に踊らされている。 現実に直面している筈だが、甘い夢が近くに現れ難しく考える事を放棄していた。 天戯弥勒の条件とは何なのか。 エレンに思い当たる節など存在しないが、早く発言しろと本能が叫んでいる。 何だってしてやる、ダカラ早く、早く喋ろ。 天戯弥勒が口元を緩ませた時、エレンは唾を飲み込んだ。 「エレン・イェーガー……黙って死んでくれ」 「――は?」 頭が嘘なくらい真っ白になった。 追い打ちを掛けるように自分へ伸びてくる光の枝を防ぐためとりあえずブレードを構える。 しかし枝は無常にもエレンの両肩を貫き、鮮血が宙を舞う。 「あ、あああああああああああああああああああああああああああああ」 痛みで我を取り戻したエレン。 肩に刺さっている枝を見つめた後、痛覚が反応し、痛みによって叫び声を上げてしまう。 天戯弥勒の条件に言い返すことも出来ずに、意識を失わないように踏ん張るだけで精一杯であった。 下がった顔を上げると天戯弥勒は嗤っていた。 その笑みは邪悪で、それでも純粋のように見えるドス黒い笑顔。 天戯弥勒が何を考えているか何て解りたくもないが、彼の発現は気になる。 天戯弥勒は宙に浮かびながらエレンに話し掛ける。 「俺と世界のために死んでくれ、エレン・イェーガー」 「は、っあ……あああああ……ックソォ!!」 光の枝はエレンに刺さったまま移動を開始し、窓ガラスを突き破りエレンを外に連れ出した。 「本日二回目の外だ、喜べ巨人」 天戯弥勒の煽りに反応することは出来ない。 自分の呼吸を整えていたエレンは周囲を見渡す。 両肩に刺さった光の枝を支点として、自分は宙に浮いているらしい。 足が大地に着いていないため力が入らない。 立体機動装置で宙をかけることは度在ったが、黙って留まることは少ない。 妙な感覚に違和感を感じながらも、エレンは口を頑張って動かす。 「し、死んでたまるぁ……」 「なに、いずれ死ぬ運命を少し早めるだけだ。 俺と俺が望む世界のためにお前には光の礎となってもらう」 誰がお前のために死んでやるか。 言い返したいが、意識が薄れていく。 「エレンッ!!」 地上ではアサシンが無数の光の枝に対抗しながら叫んでいる。 エレンを救出に向かいたい所だが、枝がその道を阻み、邪魔している。 グラウンドを縦横無尽に駆け回り、枝を斬り裂いているがその数は衰えない。 「誰も助けることは出来ないぞ、このまま死ぬか」 「誰が死ぬかよ……」 「なら代りにお前の世界に残っている奴らを殺す」 「――」 「お前のために何人死んだと思っている? 今更な話だろう。お前が俺の条件を断ったから殺す。 今までと変わらないんだよ。お前のために仲間が死ぬ、それだけだ」 「――」 何を喋ればいいか解らない。 「――」 この男、天戯弥勒は今何と言ったのか。 自分の耳が痛みによって可笑しくなったのではないかと錯覚したいぐらいだ。 「――」 お前の世界に残ってい奴らを殺す。 天戯弥勒は言った。言葉通りならミカサやアルミン達を殺すのだろうか。 許されるか、許される筈がない。死んでいい生命などあるものか。 「ふざけるな」 自分のために何人死んだ……それは解らない。 巨人になれる自分のために多くの犠牲があったのは事実である。 リヴァイ班を始めとする多くの調査兵団がエレンのために死んでいる。 だけど。けれど。そのために更なる生命が無駄になっていい理由にはならない。 「させるもんかよ」 仲間はもう誰も失いたくない。 母のように、マルコのように、リヴァイ班のように、自分のために犠牲になってくれた人のように。 もうこれ以上自分のために死ぬ生命を見たくない。 そのためには巨人を駆逐する。そしてその前に目の前の男を殺さなくてはならない。 しかし今のエレンは無力な人間である。両肩を固定され宙に浮いているこの状況で何をするのか。 立体機動装置での一撃はおそらく無力だろう。アサシンの攻撃を防ぐ天戯弥勒に自分の攻撃が通るとは思えない。 頼れるアサシンは地上で天戯弥勒の枝――生命の樹と戦っているため、加勢は不可能である。 自分に出来る最大火力と言えば――考えるまでも無かった。 (ミカサ、アルミン、みんな……俺、間違ってた) この生命を救うために犠牲になった人々。 彼らは何のために自分を守っていたのか。 (聖杯戦争での日常……これがずっと続けばいいと思ってた。 でも、この世界は別に優しい世界じゃなかった) 囚われたこの地平を、壁に包まれた世界を巨人から取り戻すための希望だから。 (俺だけずっとこのままでいい……ははっ、ジャンに殺されちまう。 本当は平和な世界何て何処にも存在しないのにさ。 壁と巨人が無くなればすっかり腑抜けになっちまった……死に急ぎ野郎と言われた俺が) 自分には何が出来る。 巨人を駆逐するために自分だけに出来ることは何だ。 殺すための技術か、いいや違う。 お前にはお前だけの翼が在るはずだ。籠の中では物足りない大いなる翼が背中に宿っている。 自由の翼は飾りではない。調査兵団の意地を、人類の意地を見せつけろ。 (もう少し待っててくれ……俺だけがこんな平穏な世界に浸っているわけにもいかないしな。 聖杯を持ち帰って、みんなで明日に怯えること無く笑顔で過ごそうぜ。 俺はお前らに海を見せてやりたい。なぁ、アルミン……海は本当に綺麗で何処までも広がっていたよ) 右腕を自分の顔に近付けるエレン。 痛みで少しでも動かすと激痛が走る。しかし甘えてはいけない。 此処で自分が踏ん張らなければ仲間が死んでしまうのだ。 これ以上天戯弥勒の言葉に踊らされてたまるか。意地を見せろ、男の挟持を果たせ。 (だからまずは――天戯弥勒を殺すッ!) 無意味な死で在ったと言わせない。 自分のために死んでくれた人々のためにも死ぬわけには行かない。 エレンには元の世界へ帰り、人類の希望を巨人から取り戻す努めが在る。 巨人を駆逐すると誓ったあの日から。 握り締めた決意は左胸に宿っている。人類のために犠牲になる覚悟が。 その努めを果たすためにも自分だけこの優しい――どうしようもない残酷な世界で死ぬ訳にはいかない。 「ははっ……っし」 右腕を口元まで寄せたエレンは天戯弥勒を睨む。 その眼光にはお前の思い通りには絶対ならねえ。強い意志が込められている。 呼吸を整えるように、一息吸い込むとエレンは叫んだ。 仲間の元へ声を届けるぐらいの大声で。 「俺は死なねえ、テメェを殺してやる……殺してやる!!」 その決意、殺せるなら殺してみろ。 (なんでこんなに熱くなってるか意味分かんないな……いや、聖杯戦争自体意味分かんないか) 考えれば不可解だらけである。 自分は何故、聖杯戦争に参加しているか。最初の時点で謎が多い。 それを解明するためにも天戯弥勒の口から真実を聞かなくてはならない。 つまり、どの道こんな所で死ぬわけにはいかないのだ。 エレンの発言に対し、天戯弥勒は嗤っていた。 その顔は当然のように笑み。何かを企んでいて、見透かしているような笑み。 エレンは息を再び大きく吸い込むと自分の右腕に囓り付いた。 己の身体に傷を与え、彼に与えられた神秘の力を此処に魂現させるために。 「そうだ……その力を俺に見せてみろッ! お前は俺が選んだ一つの鍵、その力を発動してみせろ! クハハ……ハハハハハハハハ!! 選ばれた巨人、エレン・イェーガー」 一筋の雷鳴が轟いた時、この物語を終焉へと動かす一つの歯車が回った。 BACK NEXT 050-a 月夜を彩るShuffle Beat 投下順 050-c 紅蓮の座標 050-a 月夜を彩るShuffle Beat 時系列順 050-c 紅蓮の座標 BACK 登場キャラ NEXT 050-a 月夜を彩るShuffle Beat 天戯弥勒 050-c 紅蓮の座標 アサシン(ジャファル) エレン・イェーガー 暁美ほむら アーチャー(モリガン・アーンスランド) 浅羽直之&アーチャー(穹徹仙) ウォルター・C・ドルネーズ&ランサー(レミリア・スカーレット) 紅月カレン&セイバー(リンク)
https://w.atwiki.jp/itan_seihaisensou/pages/252.html
キャラシート(神父用) 【名前】ジャック・バッティ 【性別】男 【性格】 冷静の一言に尽きる。 女王を崇拝しており、また愛に近い感情を抱いている。 【出典】 オリジナル (名前はアーマード・コアⅤのキャラより) 【属性】秩序・中庸 【ステータス】 筋力 B (40) 耐久 A (50) 敏捷 C (30) 魔力 E (10) 幸運 C (30) 供給 ー (0) 合計 160 【詳細】 此度の聖杯戦争の監視者。 積極的に干渉する気はなく、監視に徹しようとしている。 女王の側近の1人であり、また腹心の部下である。 女王が此度の聖杯戦争を開催する際、誰が監視役をするか聞いてみた。 しかし、誰1人として立候補する者が居らず、女王は適当な人材を監視役に当てようと思案する。 だが、彼だけは違った。 彼は唯一、監視役をすると名乗りを上げ、此度の聖杯戦争の神父役となる。 何故彼がこんな危ない役を買って出たのか、それは女王ですら把握し切れていない。 なお、彼は魔術はからっきしの為、基本武装は拳銃(FiveseveN)とバレットナイフ。 ジャック・バッティ裏設定