約 3,475,764 件
https://w.atwiki.jp/sentai-kaijin/pages/6202.html
【名前】 エンジェリード 【読み方】 えんじぇりーど 【声】 福圓美里 【登場作品】 仮面ライダーガッチャード 【登場話】 第20話「微笑む天使、笑えぬ真実」第21話「マッドウォリアー!黒炎のヴァルバラド!」 【分類】 ケミー 【属性】 オカルト 【レベルナンバー】 4 【ガッチャンコ】 ワープテラ 【説明文】 まるで天の遣いのようなケミー。迷える者を導くマジの天使! 【鳴き声】 「エンジェリー」 【モチーフ】 天使 【名前の由来】 エンジェル+リード 【詳細】 レベルナンバー4のオカルトケミー。 翼のような形状の双眼と身体に幾つもの光輪を持つ天使型のケミー。 迷える者を導くとされる。 第20話に登場し、グリオンの悪意人形と結合しエンジェルマルガムにされてしまう。 「迷える者を導く」という性質を持つエンジェリードであるが、エンジェルマルガムは迷える黒鋼スパナの両親を何度も組成させ眼の前で苦しめた挙げ句殺害するという形で絶望の底に突き落としていたことから、最悪の形でケミーとしての能力を利用されてしまっている。 仮面ライダーヴァルバラドへ変身したスパナによってエンジェルマルガムが撃破された後解放され、よほど自身の能力を悪用されたことが苦しかったのか、スパナの両親を一時的に蘇らせ親子の会話を演出した。 劇場版ザ・フューチャー・デイブレイクではレプリケミーとなったレプリエンジェリードが登場。 ヘルクレイトが所持し、一体化することでエンジェルマルガムへと変身する。 【余談】 声を担当する福圓美里女史はホッパー1の声も担当している。
https://w.atwiki.jp/duoigunis/pages/29.html
喜屋武汀。鬼切部守天党の鬼切。現在、トウコから齎された仕事により協力関係となった一つ年下の少女。 ……ん、少女というのは言い過ぎだろうか。彼女は平均のそれである私の身長よりも高く、二十歳を過ぎていると言われれば、きっと不信がらずに受け入れてしまえるほどには色々な面において大人だった。 そのギャップなのか、彼女はあえて嘘やからかいを用いる。口八丁手八丁を以て良しとする汀は、普段から本心を奥深くに隠しこんでいる。彼女のふるまいの七割がたが嘘であり、残りの三割は冷酷さと、そしておそらくはひた隠しされた優しさで出来ている。 例えば、そう。人は肉を食す。その時殆どの人間が生きている牛やら、豚、鳥を思い浮かべながら食べることはないだろう。己の世界を守るために、肉を牛肉、豚肉、鶏肉と称しながらも決定的に生きている動物に繋げようとしない。当然の自己防衛機能である。きっと、その現場を見せられれば思うだろう。「可哀そうだから殺さないでやって」と。 だが平気で食卓に出された肉は喜んで食べる。弱肉強食、この場合、弱者である牛は人間が生きるための糧となる。それは食物連鎖による仕方のない事だ。だが一度、屠殺場の中で行われる儀式を目にすれば、人は今まで当然と食していたそれを準備しているモノたちを恨む。 彼らに罪はない。むしろ彼らは普通の人達が出来ない事をやっているのだ。讃えられこそすれ、貶されなければならないところなどない。だが目の前で起こった悲しい出来事に、自身から湧き上がるエゴによって、「あの人たちがやってしまったことだから仕方がない。食べ物を粗末にするのはいけないことだから食すのだ」と、もっともらしい理由をつけて責任をすべて屠る側の人間へと丸投げする。 だからこそ、屠殺場の存在は隠されている。一般人にその現場が目撃されないように、知らずにいられるようにと。 つまるところを言えば、喜屋武汀という女性の立ち位置は一般人ではなく、貶される屠る側にあった。 一般人が襲われることが無いように、平和に暮らす人々に危険が及ばないようにと鬼を狩る。 まだ高校2年生という若さで彼女は修羅の道を歩んでいた。それもおそらくは幼い頃より。でなければこのような地まで《剣》を取り戻すために派遣されるはずがない。私の直死の魔眼に頼らなければならないほどの神代の呪物を相手にいくら人手不足とはいえ、ただここ数年鍛えてきた少女が鬼切部守天党の代表として選ばれるはずがないのだ。彼女が普通ではなく、異常を抱える人間なのだということはそんな現実からも汲み取れる。 助けたはずの相手に恨まれる、なんて日常茶飯事なのだろう。ここ数日、鬼の踏み石を監視していた際に見た彼女の冷たい視線は、普段のそれから見れば完全に別人級だ。無感動に切り捨てる。仮に吸血鬼に血を吸われ、鬼となった友人がいたとしても、彼女は躊躇わずに友人だったソレを切り捨てるだろう。 だがそれは彼女に感情がないというわけではなく、優先順位が存在するというだけの話だった。第一に鬼は殺す。私情は彼女にとって二の次なのだ。 普通の人間から見れば破綻した核である。彼女はそうやって育ち、育てられてきた。切った後に相手の事を考えて悲しむ。それが最後に残された彼女の優しさ。とはいえ、そんなことが続けば彼女が普段から彼女の普通でいられるはずがなかったのだ。 仮面を被る。人懐っこく、だけど猫のように急にじゃれてきたと思えば、興味が失せるとすぐ他の対象へ、その視線を向ける。飄々とした、人を振り回す性格。 とってつけられたチグハグさ故にこそ、真実は綺麗にオブラートに包まれる。 汀の事は好きだった。人間として、彼女の有り様に興味がある。だけど、必要以上に仮面を被っている姿を見るのは苦手だった。先程、青城の連中と話しているときの汀が正にそれだった。 焦っているのだ。きっと本人は気付いていないのだろう。だからこそ空回りする、余裕がない。彼女は焦っている。それも今の彼女にとって、一割にも満たしていないかもしれない優しさによって。 一般人を巻き込むことを良しとしない。鬼切である汀にしてみれば、厄介のお荷物が大量に現れた、ということになる。しかも全員の安全を考えて節介を焼いているというわけだ。彼女から余裕がなくなるのは仕方がない事だと思う。かといって、空回りし続ける彼女を見続けるのは御免であった。 「まったく、メンドくさい……」 どうやら私と関わる人間はいつだって普通ではないらしい。類は友を呼ぶとか、そういうつもりじゃないけど、黒桐幹也という普通すぎる異常さを持つ少年と出会ってからの私は、おかしい。 まあ、考えても仕方のない事だけど。 そういえば――幹也は今頃何をしているのだろうか。トウコの散らかした資料をまとめているか、それとも鮮花にじゃれつかれているか。……考えてみると、何故だかムカついて、イライラしてくる。心が乱れる。いつだって、私がおかしくなる原因の中心点には黒桐幹也がいた。いてもいなくても彼は私の心を引っ掻き回すのだ。 「………」 溜息を一つ。和尚の声が襖越しに微かに聞こえる。おそらくは部屋を案内しているのだろう。甲高い声も入り混じって聞こえてくる。 それも暫く経つと、女子の声しか聞こえなくなった。それに混じってもう一つ。こちらへと真っ直ぐに向かう足音。だが気にすることはない。これはここ数日で聞き慣れた音だ。 「式~寂しかった?」 先ほどまで頭を過っていた女性、喜屋武汀が部屋に戻って来たのだった。 「……別に」 「つれないなぁ。どうしていきなり帰っちゃったのよ?」 「興味がない」 本当は汀の余裕のない態度を見ていたくなかっただけなのだが、正直に吐露するのも癪だ。 「ふーん。ま、いいけどね」 深くは聞いて来ず、その代わりに―― 「……なんだ?」 私に向かって汀は手を差し出していた。 「今からちょいオサ達の頃に話し合いに行く必要があるのよ。だから式も一緒にね」 「……オサ?」 ああ、あの気難しそうな少女の事か。 「小山内梢子、愛称オサ。なんかぶすっとした純黒のおかっぱ頭がいたじゃん? ほらほら! それに負けず劣らずぶすっと座ってないでさっさと立つ!!」 そういって半ば強引に私の手を汀が掴む。まったく……しょうがない奴だ。 「…行くとはまだ言ってない」 「――む。式ってあの子たちの事、嫌い?」 「言ったろ?興味がない」 これは本当。彼女等がどうなろうと、どうしようと勝手だし、こちらに迷惑が掛からないというのなら何をしようが構わない。 「興味がないってことは嫌いというわけでもないわけだ」 まあ、それはそうだけど。 「じゃ、いいわね」 有無を言わさず歩き出す。だから、私は行くとは言っていないんだけど。 だけど、何故だろう。彼女に強引に引かれることにひどく落ち着いている自分がいた。 「………」 ――喜屋武汀。本当に可笑しな奴だった。 するりと伸びた手が襖を迷うことなく開けた。 それと同時に視界に現れる一人の少女。彼女の手は宙で中途半端に止まっている。 ああ、彼女が襖を開けようとしたときに、ちょうど汀が先に開けたのか。か弱そうに見えるその少女の奥にいる――これは逆に気の強そうな――に視線を定めて汀が手を軽く上げる。 「ちわー」 「どうも」 目を細めて作り笑いをする汀と警戒しているのか小さく後ずさりしながらも返事する黒髪の少女――この人がオサか。 「何か用事ですか?」 「愛想悪ーっ」 たしかに聊か以上に汀は警戒されていた。まあ、最初からこんな調子の汀を相手にしているのだから、当然と言えば当然の反応だが。 「オサ先輩のこういうところは、今に始まったことじゃないですけど」 「何だ、それなら、まあ、いいか」 後輩と思われる少女からのフォローにすぐに立ち直る汀。相変わらず思考を切り替えるのが上手い。 「…………」 「で、葵先生からオサに伝言」 「……オサ?」 自分に使われた愛称に訝しげにオサ――小山内さんが反応する。 「最初ぐらいは礼儀正しく、『小山内さん』とか呼ぼうと思ったんだけど、呼び方途中で切り替えるのってタイミング難しいじゃない?」 別に長い間一緒というわけでもあるまいし、そこまで気を使う必要もないと思うのだが。…ま、汀にそれを言っても無駄か。 「とはいえ最後まで『小山内さん』だと長いし、まどろっこしいし」 ……長いか? 「で、同じ年だから『先輩』なんかの敬称も略」 「いいけどね、それで」 軽く溜息を吐いた後、小山内さんが妥協する。 「ま、あたしのことも適当に呼んでいいからさ」 「それではあたしは『きゃんきゃん』と」 「そうきたかっ!?」 年下である少女からの一言にさすがの汀も項垂れる。目には目を、歯には歯をというが、これは酷い。 「きゃんきゃん?」 「きゃんきゃん……」 小山内さんを除く残りの二人が反芻する度に見えないが汀に突き刺さる。 「きゃんきゃんか……」 少し悪乗りしてみるとする。 「……式までそう呼ぶの!?」 こちらを恨めしそうに見た視線を、次は事の中心に坐する少女へと向ける。 「なんかその『弱い犬ほどよく吠える』って感じの響きが、個人的にちょっと嫌なんだけどー」 毒を以て毒を制す、夷を以て夷を制す。言い方は様々あるわけだが。武術を生業にしている汀には一番ダメージがある言葉を無意識に使うこの少女は一体何者だろうか。 「あのさ、百ちー。もうちょっとスタイリッシュでカッコ良さげっぽくなったりしない?」 「では『ミギーさん』一択で」 「…………」 またもや項垂れる汀。どうやらこの少女は汀の天敵であるようだ。 「『きゃんきゃん』とか『みぎやん』とかよりは、シャープな感じだと思いませんか?」 色々と比べるものを間違えているような気がするのだが。 「あー」 どうしたものかといった態度で、短めの髪を指の隙間に、頭を書いていた汀は。 「……ま、いっか」 「いいんだ」 「…いいのか?」 意外にもあっさりと受け入れた。途中、私と小山内さんの声がはもる。 「オサも式もミギーって呼んでいいわよ?」 「……普通に汀って呼ばせてもらうわ」 「オレも小山内に同意見だ」 名字の呼び捨てが気になったのか、一瞬小山内さんと目が合う。だがその視線は眩しいものを見た時のようにすぐに外される。 「そう?」 少し残念そうな響き。 「両儀さんはえーっと」 次は私に矛先を向けたのか、こちらをマジマジと少女が見つめる。 「考えなくていい」 生まれてこの方、愛称なんてつけられたこともないわけだし、必要とも思えない。 「式っちとか、両ちゃんでどうです?」 いや、話はちゃんと聞け。 「………」 無言で軽く睨む。 「――うわ、もしかして私睨まれてます?」 それ以外になんだというのだ。 「百子、いい加減になさい」 軽く小突かれ窘められる百子。小山内さんも大変そうだ。 「式はほら、ちょっとお固いからさ。あまり愛称とかあだ名はねー」 「必要なことでもないだろ」 「それはそうなんだけど。もう少し愛想良くってもいいのよ?」 その言い方がなんとなく、しばらく会うことが出来ない青年のものに似ている気がして、あたしはいっそう仏頂面になる。 しかもそいつの声が私の中でリフレインするのだからムカつくことこの上ない。『式、君は女の子なんだから』。言葉遣いを気をつけろと毎度毎度世話を焼く彼に心の中で毒づきつつ、私はいつもの言葉を呟く。 「……オレの勝手じゃないか」 まったく、幹也も汀もへんなところでずるい。 「……で、先生からの伝言って?」 少女、秋田百子の反省を確認した小山内さんは閑話休題とばかりにずれていた話を元に戻す。 「先生、代打に任せて一休みするから、予定通りに進めておいてって」 「代打?」 「イエス、代打」 バットを振るゼスチャーを織り交ぜ答えた後に、立てた親指で自分の胸元を指し示す。 そして、暫くするとその自身に向けた指をこちらにも。…話が見えない。 「ま、あたしと式なんだけどさー」 「先生に買収でもされましたか?」 「んー、当たらずとも遠からず。合宿中は和尚の食事も、まとめて一緒に作るんでしょ?」 「はい、その予定です」 か弱そうな少女が答える。ああ、つまりは――。 「なんだ、飯を条件に買収されたのか」 「身もふたもない言い方しない!」 まぁ、材料を自分で買いに行く手間が省けるのならばその条件もありだと思うけど。 ここ、咲森寺は田舎であると同時に人気のない所に建っている。仕方のない事ではあるが、2日に一回の食事の材料の買い込みは歩きとバスを駆使せねばならず、中々に面倒だった。 それを考えれば、少々面倒な事を押し付けられようと共同した方が効率的であり。 「まあ、オレはどっちでもいいけどさ」 汀の判断に委ねることにする。……もう決定事項なんだろうけど。 「ぶっちゃけあたしと式だけ除け者なのは寂しいじゃない?」 いや、これといって特には。 「ご飯を炊くにしても、お味噌汁を作るにしても、別々にやると、いろいろ勿体ないですしね」 先ほどのか弱そうな子が同意を得て、汀の調子が上がる。 「そういうわけで、葵先生と和尚とあたしの三人で打ち合わせた結果――」 ひとり、ふたり、さんにんと、人差し指から順繰りに薬指まで持ち上げて数え上げ。 さっとその手をひるがえすと、立てた三本の指は親指一本と入れ替わっており―― 「あたしと式も一緒にご相伴にあずかる」 「ギブ」と自分の胸元を、その親指で指し示し。 「代わりにあたしたちも可能な限り、そっちに混じって作務をする」 「テイク」と再び手をひるがえし、ぱっと開いたてのひらを、私たちの方へと向けて差し出す。 「そんな結果になりましたとさ。よっろしくー」 向こうも異論はないようで、小山内さんが一度周りの部員を見渡したあと、汀が差し出した手を握り返した。交渉成立ということだろう。 「それで、先生は?」 「働き手は確保したから、もう先生の出る幕じゃないわね……と、お風呂に」 それでいいのか、教師。 「ちなみに咲森寺のお風呂は温泉だったりして」 「温泉!?」 素っ頓狂な声を百子――秋田百子が上げる。 「上水道を引くみたいに、源泉から温泉水を引いてきたりもできるのよ」 有名な火山が県内にあるこのあたりでは、そう珍しいことではない、と付け足しつつ説明する汀。毎回思うけど、汀って説明好きだよな。 「なかなか、最高なご身分ですねぇ」 「あたしがそそのかしたんだけど、先生なんだから別にいいでしょ?」 犯人はお前か。 「まあ、そうね」 「で、オサ。これからどうするわけ?」 「まずは仕事の分担からかしら」 「妥当な判断だな」 「……あ、ありがとうございます」 「別に敬語じゃなくていいよ。……どうせ汀から年とか聞いたんだろうけど。その当の汀だって溜口だろう?」 「えっと、はい。じゃあ、そうさせてもらうわね」 「ああ」 こちらをちらりと見ながら小山内さんは、振出しに戻る。 「……食事の支度に最低限の人数だしたら、後は全員掃除に回らなきゃって思ってたんだけど――」 「百子ちゃんが脅かすので、もっと掃除甲斐のあるお部屋を想像してました」 「あ、わたしもです……」 和尚が予め手を入れてくれていた故に、既に部屋はこざっぱりと掃き清められていて、寝起きするには文句のない状態にまで整えられていた。 古びてはいても汚くはなく、色の失せた畳などは、好き嫌いの別れる藺草の青臭さを薄めていて、かえって万人向けの居心地の良さに貢献していた。 「部屋の掃除は、必要なら後からそれぞれやればいいってレベルよね。 わざわざ人手を割くことないから――」 言葉を一旦止め、小山内さんは開かれた襖の先に見える風景を見据えた。 私と汀も一緒になって境内を見る。ここ数日で見慣れたいつもの風景。和尚ひとりでは手に余るだろう広々とした敷地。夏にもかかわらず真っ白な地面。 小山内さんは真っ白な――夏椿が散った地面を眺めて。 「とりあえず、今日の所は境内辺りからかしら」 そう言って他の部員に確認した。 山と積まれた白い花は、まさに掃いて捨てるほど、放って置けば腐るほどあるのだ。掃除場としてはうってつけ……とはいえ。 掃除しても次の日にはまた山が出来ているのだろうな。なんて考えてしまうと、徒労に終わる労働が億劫になるのは仕方のない事である。 「それで手一杯だろうけど、廊下とか広間とかは、するなら迷惑にならない範囲で」 「その場合は、和尚さまに確認をとるようにします」 「うん、そうして」 まあ、ここで意見を出したところで剣道部の連中は掃除する気満々なようで。ちらりと汀を見てみれば普通に手伝う気みたいだし。 「お風呂は先生が入ってるから、特に手を付ける必要なし」 ちなみに二十四時間風呂である。まあ、源泉かけ流しの温泉だし。 「後は食事の支度ですから――」 桜井さんの口から出た“食事の支度”という単語に反応してか、部員全員の視線がか弱そうな少女へと向けられる。つまりは―― 「ほう?」 部員と一緒に彼女を捉えていた汀は、視線だけでは足りぬとばかりに、そのまま一歩二歩と歩みを進め、物理的に距離を縮めると。 「あ―――っ!?」 何を企んでいるのかと思えば、いきなり彼女の顔の両側をがっしり両手で挟み込み、自分の顔を近づけた。 「……え?」 汀の落とす影の下、被捕食者はきょとんと眼を見張る。……というか、いきなりそれは止めろ。 「なるほどねー、これはいかにもお菓子作りとかやってそうな顔だわ」 「え? え? ええ?」 戸惑う少女と笑顔で這い寄る変質者。そんなイメージが頭の中に沸き立つ。……なんか無性にムカついてきた。 「ちょーっ! ミギーさん何をーっ!?」 汀を捕まえようと動こうとした足が隣からの悲鳴によりピクリと止まる。 「やすみんの観察」 対する汀は平然と言い放つ。観察っておまえ、観るだけに飽き足らず触れてるだろう。 「ちょっちょっちょっ、ちょーっとスキンシップ過剰なんじゃないですかーっ!?」 その必死な形相に気付けば、私の中に沸いたもやもやした感情は形を潜めていた。が――。 「オサ先輩! ぼーっと見てないでざわっち助けてあげてください!」 次はおまえの顔が小山内さんと近すぎるぞ、秋田さん。 それもいつものことなのか、小山内さんはひとつ大きなため息を吐くと、か弱い――いや、保美だったか。相沢保美――と汀の間に割って入った。 「手伝ってくれるのはありがたいけど、うちの部員に変なちょっかい出さないでよね」 「良いじゃない、減るもんじゃないし」 「減るわよ。神経だとかやる気とか」 顔を赤く染めた相沢さんとジト目で汀を見る秋田さん。 「うわー、何気にひどーい」 それにプラスして、情け容赦ない小山内さんの一言が汀にダメージを与える。 汀は冗談めかして嘆いて見せると、大人しく両手を放した。私といるときもそうだが、やはり汀は初対面から馴れ馴れしすぎると思う。――そう、やっぱりアイツみたいだ。 ふと、またもや黒縁眼鏡が視えた気がして、私はいっそう仏頂面になる。 ――ま、幹也はこんな嘘でこりかためたりとかはしないんだけど。 寧ろ、真正面過ぎて恐れ入る。 「なら、情報ぐらいはちょうだいよ。やすみんが剣道部の料理番長って認識でオーケー?」 「えっと……」 不貞腐れる汀にはにかみつつ視線を泳がせる相沢さん。 「ざわっち印の美味しいごはんは、ほっぺた落ちる出来映えですよ?」 何故か、かわりに隣にいた秋田さんが自慢を始めた。 「ほほう」 「それはもう、寮のごはんを作ってくれる、調理師のおねーさん達が嫉妬するほどなのですよ」 「百ちゃん、それ言い過ぎ……」 「いーや、ンなこたァないね! ありませんね!」 いや、なんでおまえがそこまで自信たっぷりなんだよ? 「へー、本当なら大したもんね」 どうやら私に対しても所見は疑っていたようだが、私みたいなタイプやお嬢様学校に通う目の前にいるお嬢様たちは料理が出来ないというレッテルが汀の中では貼ってあるようだ。 「オサは知ってた?」 「話というか噂はね。私は自宅通学だから」
https://w.atwiki.jp/seriale/pages/2403.html
11/08/20(土)14 47 51 No.6972248 del ■コズミックホラー■ 『猿の坑』 残された手記の一部(1/2) ―私はあの坑の全てを知ってしまった。これは真実である。だが、まともでいたい者は読んではいけない。 まともでいたいならば、関わってはいけない。 この街に古くから伝えられる神隠し……妻が行方知れずとなった時、私はそれが真実であると直感した。 そして……あの坑に何かがある事に、行き着いてしまった。 坑の中で私が見つけたものは、奇妙な四角い塊だった。それをよく調べようと近づき、ライトで照らした。 ……人間だ。あれは四角く固められた生きた人間だ。僅かなうめき声と肉のこすれる音が聞こえた。 11/08/20(土)14 49 24 No.6972251 del ■コズミックホラー■ 『猿の坑』 残された手記の一部(2/2) そして私は……ああ、見つけてしまったのだ。その肉の塊の中に、私が妻に贈った指輪を! 私に何が出来ただろうか?何も出来はしない。坑の主人達が帰ってくる前に逃げ出すしかなかったのだ。 去り際に私は見た。あれは猿などではない。捻れた手足と複数の眼光、甲高い鳴き声! あの肉の塊は奴らの餌なのだ。そして恐らく、奴らを見てしまった私もその一部となるだろう。 これが読まれている時には、私は死んでいるだろう。奴らの鳴き声が聞こえるのだ。 私の死を知った人よ。そして我が友人よ。私の唾棄すべき我儘を許して欲しい。 どうか、どうかあの坑を(文章はここで途切れている)
https://w.atwiki.jp/dq_dictionary_2han/pages/9277.html
DQⅧ Ⅷに登場する地名。 切り立った崖に囲まれおり、上陸もままならない未知の島。 世界から切り離された状態にあるため、「隔絶された台地」と呼ばれている。 通常の海路で上陸することはできず、【ひかりの海図】を使用することで発生する光の航路を辿って上陸することになる。 この島には【レティシア】と【神鳥の巣】、【レティシア南の高台】があり、 大地にある空間の裂け目から【闇の世界】へ行くことができる。 フィールド上には【ちいさなメダル】、【マジカルメイス】、【万能ぐすり】、 【エルフの飲み薬】、【ごうけつのうでわ】が入った宝箱(ちいさなメダル以外は最後の鍵が必要)がある他、 【レティス】が頻繁に目撃されるという丘の上に「レティスの止まり木」と呼ばれる鳥居のような形の大きな岩がある。 また、スカウトモンスターの【ギーガ】、【ヒロミン】、【バハロー】、【すぎやん】、【アキーラ】がここに居る他、 【はぐりん】の出現ポイントの一つもここにある。
https://w.atwiki.jp/12odins/pages/260.html
装備可能ジョブ 駆出 戦士 僧侶 騎士 盗賊 神官 パラ 部位 種類 コスト 売却値 最大Lv スキルと効果 進化 武器 槍 9 3000 30 [特殊通常攻撃] 光属性の通常攻撃 熾天使の槍 基礎能力 HP - MP - 物攻 9 俊敏 - 魔攻 - 回避 - 回魔 - 命中 - 物防 4 会心 3 魔防 - 属性 光 基礎能力(LvMAX) HP - MP - 物攻 44 俊敏 - 魔攻 - 回避 - 回魔 - 命中 - 物防 8 会心 17 魔防 - 属性 光 ルーン生成 生成結果 確率 闘争のルーンⅢ 50% 猛撃のルーンⅢ 25% 神気のルーンⅢ 25% セット装備 セット効果 なし 障害耐性 毒 0.0% 妨害 0.0% 混乱 0.0% 麻痺 0.0% 暗闇 0.0% 睡眠 0.0% 幻惑 0.0% 封印 0.0% 石化 0.0% 即死 0.0% 属性耐性 物理 0.0% 魔法 0.0% 火 0.0% 冷 0.0% 水 0.0% 雷 0.0% 土 0.0% 光 0.0% 風 0.0% 闇 0.0%
https://w.atwiki.jp/livingdeaddoll/pages/323.html
没年月日 1904年7月27日 ポエム(原文) Jack and Jill Went to the hill out to kill. ポエム(日本語訳) ジャックとジルは 丘へ 殺しに出かけた。 死亡証明書(原文) Jack and Jill went up the hill, To fetch a pail of slaughter. Jack fell down the well, that led to hell For Jill was satan s daughter. 死亡証明書(日本語訳) ジャックとジルは丘に登り、 血でいっぱいのバケツを取りに行った。 ジャックは井戸に突き落とされ、 地獄へと堕ちていった ジルはサタンの娘だったのだ。 付属品 血でいっぱいのバケツ 備考 マザーグースの"Jack and Jill went up to the hill"がモデル。 チップボードポエムと死亡証明書の文章も、その歌詞を文字っている。 Jack and Jill went up the hill to fetch a pail of water Jack fell down and broke his crown And Jill came tumbling after. Up got Jack, and home did trot As fast as he could caper He went to bed and bound his head With vinegar and brown paper. その他情報 白黒:2004年7月発売。 赤黒:2004年8月発売。 白黒はサンディエゴコミコン限定品、赤黒はクラブメズコ限定品。 どちらのバージョンもそれぞれ1300セット限定発売。 それぞれ1300セットの中に200体限定で蓄光血飛沫バージョンが存在する。ただし未開封の状態では二人とも黒い死体袋の中に入っており、開封するまで通常か血飛沫バージョンか分からない仕様になっている。
https://w.atwiki.jp/gundamwar/pages/2905.html
取り残された戦士達 月下の戦塵 / エクステンションブースター OPERATION O-49 緑 1-2-0 C (戦闘フェイズ):《(1)》このカードは以後、ターン終了時まで、{UNIT、地形適性「地球」、2/1/2}としても扱われる。このユニットは、セットカードをセットできず、テキストも追加されない。 ユニット化する能力を持つオペレーションサイクルの1枚。 緑は、ザクII《4th》になれる。 テストパイロット参戦!と違って射撃力を持っているが、その代わりに片適性。アタッカーとしては少し優秀になったと言えるが、少なくともブロッカーとしては役に立たない。 また、「月下の戦塵」環境当時はまだドップがクイックを持っていたので、展開力的な特徴もあまり評価されなかった。 ブースタードラフトでも、ほぼ同様の評価。 ただ、通常構築よりも片適性を多用する環境であるため、ブロッカーとしてはもう少し役に立てる様になっている。 リロールインアタッカーとして積極的に使っていって、早め早めにチャンプブロックして貰うのが効果的な使い方だろう。 効果の解決後は、ユニットとしてもオペレーションとしても扱われる。アドバイスでは破壊できるのに、より汎用性が高いはずの黒い覇道では対象に取れないという不思議なカードとなる。 参考 「月下の戦塵」の、ユニット化するオペレーションサイクル 「エクステンションブースター」にも揃って再録された。 テストパイロット参戦! 隠れハイザック 御神体
https://w.atwiki.jp/299nobe/pages/572.html
だが、その歩みも止められる。 ふいに頭が熱くなり、突き落とされるようなめまいがセシルを襲った。グラグラと世界が揺れ、 徐々に周囲の景色が大きくなっていく。おまけに身体の自由が利かない。 ようやくその意味に気づいた時には、彼の身体はどす黒い蛙の姿へと変わっていた。 「思い知ったか!!」 いつのまにか背後にいた黒魔導士が、セシルを乱暴につかみ上げる。憎しみの炎で瞳をギラつか せた魔導士は、思うさま彼を地に叩き付けた。 「どうだ! 何か言うことがあるか!?」 そういったところで、出てくるのは蛙特有の低い鳴き声だけである。その惨めな様子を楽し そうに嘲笑い、また魔導士はセシルを嬲りつづけた。 気づけば周囲には人だかりが出来ている。取り囲むように事の成り行きを傍観している彼らの なかには、嘲笑う者、喝采する者もいれば、ただ無表情に眺める者、不愉快そうな表情で目を 背ける者もいた。ただ、誰一人としてその暴行を止めようとする者はいなかった。 復讐に燃える魔導士の熱情はますます暴れ回る。魔導士は、泥まじりの水たまりを見つけ、 そこにセシルを押し付けた。 「ほぅら、お前にはそこがお似合いだよ」 蛙の身体と言っても、魔法によるまやかしの代物である。すぐに息がつまり、セシルは身を よじって抵抗したが、いかんせん無駄な試みであった。 遠くで群衆の笑い声を聞きながら、セシルの意識は遠ざかっていった。 「やめよ!!」
https://w.atwiki.jp/fromg/pages/190.html
天童の車 沙織「どこなの?」 天童「何が?」 沙織「死体を捨てる場所よ、どこなの?」 天童「この山道を行った先だよ。」 沙織「どこなの?」 天童「ほら、今山を登ってるだろう?このガードレールの下、人なんか絶対に来ない場所だぜ。ここに突き落とす。」 沙織「…。」 天童「どうした?胸が痛むか?」 沙織「…。」 天童「でもこいつが見つかったら、あんたは破滅だぞ?」 沙織「わかってるわよ。」 天童の車が走る。 その後ろを透の車が走る。 山道 街頭はほとんどなく、月明かりだけの薄暗い場所。 ガードレールの向こう側は崖となっており、崖下は漆黒に包まれている。 車から降りてぼんやり月を眺める二人。 天童「…満月がキレイだな。」 沙織「…。」 天童「さあ、始めようぜ。」 車のトランクから死体を出す天童。 天童「おい、お前も手伝えよ。」 沙織、天童と一緒に死体を車から降ろす。 ガードレールに死体を立てかける。 少し離れたところから透が見る。 天童「おい、最後にもう一度、顔見るか?」 沙織「見ないわよ。」 天童「冷たい女だねえ、一度は愛した男だっていうのに、それじゃあ、もういいな?」 沙織、小さく頷く。 天童、神田の死体を崖から突き落とす。 沙織「…!」 透「…!?」 天童「よし、終わりだ、これで…。」 天童が沙織を振り返った瞬間、沙織が天童を崖下へ突き落した。 天童「うわっ!」 透「…!」 山道にただ一人取り残された沙織。 陰からそれを見てパニックになる透。 しばらくして天童の車に乗り込む沙織。 後部座席に置いてある50万円の封筒を手にする沙織。 その場に立ちすくむ透。
https://w.atwiki.jp/changerowa/pages/329.html
← ○ 神楽の話が終わり、病院内には数度目となる沈黙が訪れた。 定時放送の直後、一人離れた神楽と追いかけた悲鳴嶼。 終ぞ善逸と再び会えなかったしのぶとの間に何が起きたのか。 全容を知った一同は、何を発すべきか即座には浮かばない。 数分か、或いは数十秒か。 ゆっくりと、しかしハッキリ聞こえるように問い掛けるのは戦兎だ。 彼の言葉を皮切りに沈黙は再び去って行く。 「悲鳴嶼は、何て言ってたんだ?」 「…私に謝ってたネ。自分がもっとちゃんとしてればって。……んなわけねーダロ。私が、馬鹿やったせいヨ…」 最も怒り狂い、復讐に走っても不思議の無い男は神楽を許した。 そればかりか悪いのは自分の方だと言って頭まで下げたのである。 確かに状況を聞けば、悪意があってしのぶを殺したのではない。 新八を含めて四人の仲間の死を一辺に知らされ、それでも冷静さを保てと言うのは流石に酷というもの。 けれど、神楽がしのぶを手に掛けたのは紛れも無い事実。 そう簡単に自分を許せはせず、だから償いとして悲鳴嶼が生きて帰れるように尽力するつもりだった。 結果は先の戦いの通り、すぐ傍にいながらDIOに殺されるのを防げなかったが。 「あ、あの…!神楽、さんは、悪くないよ……」 乾いた声で己を責める神楽に、異を唱える者。 先程からずっと顔色の悪い甜花に視線が集まる。 注目されているのに思わずビクリと震えるも、意を決したように口を開いた。 「悪いのは……甜花、だよ……」 「は…?何言ってるネ?お前はあの時いなかったアル」 「ち、違う、の…!甜花、本当はしのぶさんと…会った事があるから……」 どういうことだと目で訴えられ、甜花はたどたどしく説明する。 まだDIOの洗脳下にあった時、PK学園を訪れた参加者がいた。 しのぶとデビハム、二人との間にいざこざがあり戦闘に発展したのはハッキリ覚えている。 姉畑の乱入で二人が逃げた後も学園での一騒動後、再びしのぶ達と遭遇。 デビハムは自分達の目の前で壮絶な最期を遂げ、しのぶは姉畑に連れられ姿を消した。 きっとそれから間もなく、神楽が語った通りの出来事が起きてしまったのだろう。 「甜花が襲ったりしなかったら、しのぶさんはちゃんと病院に戻ってたはずで……。で、でも…甜花のせいで、そうならなくて……。だか、ら、しのぶさんが、し、死んじゃったのは…甜花の……せい……」 「…馬鹿も休み休み言えアル。お前は全然悪くないダロ」 「え……」 罪悪感で泣きそうになる甜花に返って来たのは、呆れを大いに含んだ否定。 ポカンとして顔を上げると、何を言ってるんだと言いたげな目の神楽が自分を見ている。 「悪いのはお前じゃ無くて、あのDIOだかイボだか言う野郎じゃねーカ。女をコマしてやりたい放題なんざ少年ジャンプ追放ヨ、ヤンマガにでも行ってるがヨロシ」 「え?えっと……で、でも……」 「でもも何も無いアル。どう考えたってお前を洗脳してたイボのが悪いネ」 尚も自分を責め兼ねない甜花にピシャリと言い放つ。 甜花がしのぶと既に会っていたのは驚きだが、その件で責めるつもりは神楽に全く無い。 粗方の事情は察していたがやはり悪いのはDIOではないか。 しのぶが死んだのだって実際に手を掛けたのは自分であり、甜花の罪を問うのはおかしいだろう。 「ピ、ピカ!(あ、あの!)」 また一人、声を張り上げ会話に入り込む者が現れた。 涙の痕が残る顔で、善逸は自身の思いを皆に告げる。 「ピカ…ピカチュウ!ピカピ!(俺も、二人は悪くないと思う。しのぶさんの事は悲しいし悔しいけど、でも、二人を責めるのは何か違うっていうか…。うまく言えないけど、あんまり気に病まないで欲しい!)」 善逸もまた、事情を知って神楽を責める気にはなれなかった。 悪意を持ってしのぶを殺したのなら怒りを見せただろうけれど、現実にはまるで違う。 しのぶ殺害を強く後悔し今も自分を責める彼女をこの目で見ては、怒れる筈が無い。 甜花にしたってそうだ。 悪いのは彼女を洗脳したDIO、もっと言えば殺し合いを始めたボンドルド達だろうに。 人語を話せないのがもどかしい。 しかし善逸の必死な身振り手振りで何を伝えたいかは察してもらえたらしい。 「……うん。あの、ありがとう……」 「…でも私は……」 神楽はまだ納得した様子が無い。 そんな彼女へ、黙って様子を見ていた戦兎が話しかける。 「やっぱり、すぐには自分を許せないか?」 「当たり前ヨ。そんなん簡単に納得できる訳無いアル…」 「そうか……。まぁ、気持ちは分かる」 「気休めなんて――」 いらない、言葉は急に途切れ最後まで続かない。 自分を見る戦兎の顔が真剣そのものだったから。 「…俺も、前に人を殺したことがあるんだ」 「えっ……」 衝撃の告白だった。 神楽も、甜花も、善逸も目を見開き戦兎を見る。 ただ一人、杉元だけは意外そうにしながらも余計な口は挟まず黙って続きを促す。 皆の視線を集めながら戦兎は静かに語り出す、過去に犯した大きな過ちを。 それはまだ三都がパンドラボックスを巡り戦争をしていた頃。 今でこそ頼れる仲間だが、当時は北都の仮面ライダーとして戦兎達とは敵対関係にあった猿渡一海、それに彼の舎弟である北都三羽ガラスとの戦い。 終わりの見えない戦争を一刻も早く終わらせるべく、スクラッシュドライバーを手にした万丈が北都へ侵攻しようとした時だ。 防衛ならまだしも侵略には猛反対の戦兎は万丈を止める為に、彼と一海達との戦闘に乱入。 しかし当時のビルドではスクラッシュドライバーの変身者達や、スマッシュの強化態であるハザードスマッシュには歯が立たずに苦戦。 焦る戦兎は禁断のアイテム、ハザードトリガーに手を出してしまう。 それがどんな結果を齎すかも知らずに。 ハザードトリガーとは万能強化剤により使用者の戦闘力を爆発的に高める、ビルドの拡張システム。 使用すればハザードレベルを大幅に上昇させる反面、大きなリスクも存在する。 戦闘が長引けば脳が強化剤の刺激に耐え切れず理性を失う。 そうなれば最早変身者の意思は関係無い、敵味方の区別なく目に映る全てを破壊する殺戮マシーンと化すのだ。 ビルドとして戦い慣れていた戦兎とて、ハザードトリガーのデメリットからは逃れられない。 暴走状態となったビルドは万丈を叩きのめし変身解除に追い込んだ。 悲劇はここからだ、尚も暴走の止まらないビルドの次の標的は北都三羽ガラス。 内の一人、青羽へと必殺の蹴りを叩き込み、直後どうにか万丈が制止に入った事でようやく暴走は治まった。 既に手遅れだったが。 「あの時は戦えないどころか飯もロクに食えなくてさ…。色んな人に迷惑かけちまった」 「……それから、どうなったアルか?」 青羽を殺した精神的なショックは余りにも強く、戦兎はビルドとしての戦いを放棄。 万丈が一人で戦いに行くのを見ても、再起の兆しは微塵も存在せず。 更には罪悪感で青羽の幻を見て取り乱す程に追い詰められていた。 だが殺し合いでの戦兎からはそういった様子は見られない。 打倒主催者を強く決意し、DIO達にも果敢と戦いを挑む、正義のヒーローを体現した姿。 一体どうやって立ち直れたのか。 「死にたいぐらい痛くて、苦しくても、戦うしかなかったんだ…」 記憶を奪われ、創られた偽りのヒーローだったとしても。 守るものがあるから、信じた正義の為に戦う。 自分達を欺き裏切った男に言った言葉を、その男からそっくりそのまま返されたのだ。 どれだけ逃げたくても、自分の信じた正義だけは裏切れず戦兎は再びビルドドライバーに手を伸ばした。 何より戦兎は一人では無い。 戦兎を消滅させてハザードフォームの暴走を止めるよう懇願されても、断固として拒否した美空。 再び暴走した戦兎を、スクラッシュドライバーを使いこなし決死の思いで止めた万丈。 仲間の存在が、まだ残っているものがあるから戦兎は仮面ライダービルドである事をやめなかった。 新世界を創り青羽を含めた多くの人の死が無かったことになった今でも、犯した罪を忘れた日は一度も無い。 「神楽、胡蝶の事を吹っ切るのは相当難しいと思う。けど自分にまだ残ってるものがあるんだったら、それを投げ出して後悔する羽目にはならないで欲しい。…俺も何かが違えば、そうなってたかもしれないからさ」 尤も再起の切っ掛けを作ったのがそもそもの元凶である男なのには、今でも苦い思いが抑えられない。 「……」 自分にまだ残っているもの。 銀時と新八が死んで、カイジ達が死んで、悲鳴嶼が死んで銀時の肉体も失われた。 取り零し続ける自分にまだ残っているもの、戦う理由はあるのか。 そんなの、沢山あるじゃあないか。 この地で出会った仲間、広瀬康一とゲンガーはまだ生きている。 殺し合いの打破を共に志した彼らを存在を無視し、自暴自棄になどどうしてなれようか。 自分の体だってそうだ。 オレンジ髪の航海士を本人の元に戻さなければ、ロビンに一生顔向けできない。 死んでしまった彼女へしてやれる事は残されていなくても、彼女の仲間を助けるチャンスはまだ失われていない。 何よりも、自分が帰らなければ誰が銀時達の死を伝えられると言うのか。 万事屋銀ちゃんに一匹残された定春はどうなる? もう二度と帰って来ないのに、いつかひょっこり戻って来ると有り得ない希望を妙に持たせるのか? 銀時の盟友であるロン毛は事情を察するかもしれないけど、それでも死んだとはっきり伝えるべきでは? 『こんな僕らの力でも必要としてくれている人がいる』 『僕らにも守れるものが今ある』 『いつだって、何かを守るために僕らは強くなってきた』 『きっと僕らは、また一つ強くなれる』 思い出すのは嘗て新八が言ってくれた言葉。 最初の放送の後で冷静さを失った自分を落ち着かせてくれた、忘れられない大切な記憶。 ああそうだ、戦兎の言う通りじゃないか。 自分は確かに多くを失った、だけどまだゼロではない。 罪悪感と喪失感は容赦なく心を痛め付け、今だって痛くて泣きそうだ。 だけどまだ残っているものがある、守りたいと思える人がいる。 戦う為の、拳を振るう理由が自分にはある。 「そうアルな……私はまた忘れてたみたいネ……」 つくづく情けない己に苦笑いが浮かぶも、そこに自暴自棄の色は無い。 完全に吹っ切れたかと言えばそんな訳はなく、きっとこの先も蝕まれる痛みと付き合わねばならないのだろう。 だがそれは戦いを止める理由にはならない、止めるつもりもない。 「ごめん、もう大丈夫アル」 明るい、とまではいかないが幾分光を取り戻した瞳。 神楽の様子に場の空気も和らぐ。 「あー…ちょっといいか?」 少々遠慮がちにその空気へ割って入る声。 バツが悪そうに頭を掻きながらも、重要な話なのか瞳は真剣味を帯びている。 後回しにするよりは今の内に言うべきと判断したのか、杉元が話し始めた。 「水を差すようで悪いけどよ、早目にはっきりさせときてぇ。…胡蝶はどうするつもりだ?」 「どうするって……そりゃここに置きっぱなしには…」 そうじゃねぇと戦兎に返し、自分の首を指でトントンと叩く。 杉元が何を言いたいのかが瞬時に分かり、思わず顔が強張った。 「おい杉元、それは…」 反論の言葉が口を突いて出るも、現実的な思考が待ったを掛けた。 首輪なら脹相が既に入手しており、合流時に譲って貰えば良い。 しかし首輪を多く手に入れるのは決して悪い考えとは言えない。 首輪の解除には首輪のサンプルを解析し、どういった構造になっているかを知る必要がある。 当然、サンプルとなる首輪は多い方がより成功の確率を高められるだろう。 もし一つ目の解析に失敗しても、もう一つあれば問題無い。 仮に首輪一つで解析に成功した場合であっても使い道は残されている。 モノモノマシーン、首輪の投入と引き換えに何らかの道具を提供する主催者が設置した機械。 殺し合い促進の為に置かれた装置を使うのは余り気分が良いものではない。 だがDIOやエボルトが健在であり、未だ全容の分からない主催者との戦いも控えている状況だ。 戦闘の助けとなる武器や道具を入手する機会を、一時の感情のみで捨て去れば後々困るのは自分達の方ではないのか。 新たな首輪を手に入れるメリットは大きい。 但ししのぶの首を斬り落とすという、避けては通れない作業を行う大前提の上でだが。 「ピカピ……」 善逸が小さな体を震わせ、動揺を露わにするのは無理もない。 幾ら首輪が必要だとはいえ、仲間の死体を更に傷付ける真似をするのだから。 正確にはしのぶ本人の体ではないものの、どうやったって抵抗は大きい。 善逸の様子に戦兎の中では、しのぶの首輪は手に入れるべきではない方へ傾く。 彼女の仲間の前でこんな話をするだけでも酷だろうに。 やはりしのぶの首輪は必要ない、既に脹相が手に入れたものだけで十分。 杉元にそう返そうとし、 「ピカ…ピカチュウ(分かった……)」 重々しく、されど肯定するように善逸が頷いた。 「良いのか…?首輪を手に入れるには胡蝶の……」 「ピカピー、ピッピカチュウ。ピカ…(正直滅茶苦茶嫌だけど、でも必要な事だって俺も分かるし…。それに多分、しのぶさん本人もそれで良いって言うと思うから…)」 鬼との戦いとは、無惨との戦いとは犠牲無しで終わらせられる優しいものでは決してなかった。 煉獄が上弦の参に殺されたように。 無惨との決戦で柱を含めた多くの隊士が命を落としたように。 彼らの死を悲しむのは誰も否定しない、しかし死者に足を取られるのは良しとされない。 折れた刀を手放し、遺された刃を拾い上げ突き立てるのを死者は憤慨するだろうか。 否、逝ってしまった自分達でも役立てれるならと喜びを見せるだろう。 しのぶもきっと同じだ。 生きる仲間の為に首輪が必要と知れば、仮の体となった少女へ申し訳ないとは思うだろうけれど。 感傷で拒否するより、生きている者達の為に首輪を手に入れる選択を望むはず。 「ピカァ…ピカ……(俺に気とかは遣わなくて大丈夫…だから……)」 何と言っているのかは分からないが、伝えたい事は分かった。 最もしのぶの首を斬るのを拒否するだろう少年がそう言うのであれば、神楽も甜花も口出しできない。 戦兎もまた暫しの沈黙を挟み、ややあって承諾する。 「……分かった。じゃあ少し、席を外して来る」 しのぶの死体を抱き上げ、善逸達に背を向ける。 流石に皆の見ている前で首を斬る訳にはいかない。 どこか別の部屋で首輪を手に入れる、そしてその役目は誰に言われるまでも無く戦兎が引き受けた。 死体の破壊に抵抗が微塵も無いと言えば嘘になる。 しかし首輪のサンプルを手に入れねばならない以上、遅かれ早かれこうなると分かっていた。 決して進んでやりたいものではない、だが他の者に押し付けるつもりも無い。 やけに重く感じる足を一歩一歩進める背が、廊下の奥へと消えて行き、 「いや、それは俺がやる」 いつの間にか横に並んだ少女が、戦兎の歩みを止めた。 「杉元…?」 「最初に首輪の話を持ち出したのは俺だ。なら俺がやるのが筋ってもんだろ。それにまぁ、俺のが慣れてるしな」 何でもない風に言う杉元に一瞬言葉が詰まる。 杉元が明治時代の元軍人だとは聞いた。 PK学園での戦闘でDIOを撃ち殺した事から、殺しに躊躇を抱かない男だとも察しは付く。 戦兎の世界で起こったパンドラボックスが絡んだ戦争とは違う、超常の存在が介入しない教科書に載っている戦争を経験した男だ。 だから「慣れている」との言葉にも納得はいく。 だからといって、じゃあやってくれと気軽には任せられない。 手を汚す役目だけを押し付け自分は首輪だけを手に入れるというのは、流石にどうなのか。 自分がやるから大丈夫だと返答を口にしかけ、 「桐生」 名前を呼ばれ、再び口を噤む。 こちらを射抜く真紅の瞳から目を逸らせない。 威圧されてはいない、怒気や殺気など以ての外。 ただ話を聞かねばならないと思わせる力強さが、戦兎の瞳を捉えて離さない。 「お前は、やらない方がいい」 「――――」 杉元は知っている。 いや、最初に会った時から分かっていたのかもしれない。 桐生戦兎は善人で、信用できて、殺し合いを肯定する馬鹿な真似はしない男。 ただ根本的な部分で自分とは違うのだろうと。 自分のみならず、金塊の争奪戦に関わった大半の人間と違う。 人を殺す、杉元ならば即座に実行に移せるソレへ戦兎はきっと躊躇する。 さっきの話を聞いて確信に変わった。 人を殺した事実を重く受け止める戦兎を、甘いだの何だのと吐き捨てる気は毛頭ない。 だって、その反応こそが正しい在り方だろうから。 異端なのは日露戦争が終わって尚も、銃声と怒号が犇めくあの地へ心を置き去りにした自分の方だから。 なればこそ、今から戦兎がしようとしているのはきっと、彼がするべきではない。 誰よりもその役目を果たすのに相応しいのは、人の死に慣れ過ぎた自分だ。 死体を破壊するのだって、刺青人皮を剥いで来た自分で十分だろう。 多くは語らない。 けれど短い言葉にどれだけの重みが込められているのか。 こちらを見上げる白髪の少女、見下ろす位置にありながら戦兎は不思議と対等に視線をぶつける男の姿を一瞬幻視した。 ○ 「悪い、押し付けちまって……」 「だから謝んなくていいって。こっちは気にしてねぇんだからよ」 よく謝る奴だとつい呆れ笑いが浮かぶ。 気にしていないのは本当だ、だからそっちも引き摺らなくて良いのに。 現在彼らがいるのは一階ロビーから離れた場所に位置する部屋。 入院患者の遺体を一時的に保管する霊安室である。 しのぶをこの部屋に運び、杉元が彼女の首を斬り落とし首輪を回収。 ベッドに寝かせられた遺体に黙祷を捧げ、目的は果たした。 なのだが戦兎は自分がする筈だった首を斬る作業を杉元にやらせたのに、申し訳なさを抱いているらしい。 こうまで気を遣われるというか、謝る奴は自分の周りではほとんどいないので何処か新鮮な気分。 というか若干の居心地の悪さを感じる。 良くも悪くも自分の周りは切り替えが早い連中が多い。 このままずっと引き摺られるのも困るので、一つ提案を口にする。 「代わりにって言うのも変な話だが、こいつを貰っても良いか?」 「それをか?…まぁ別に良いけど」 戦兎からの承諾も得たソレを腰に差す。 元々は戦兎のデイパックにあった三つ目の支給品。 しのぶの首を斬るのにも使った刀は、杉元が知る男が振るっていた名刀。 これを譲ってくれと言ったのにそう深い理由は無い。 歩兵銃もコルト・パイソンも弾の数には限りがあり、炎の弾幕とて霊力の消費を考えれば無制限には放てない。 武器がもう一つあって損は無いし、刃物を使う機会は何かと多いと考えてのこと。 前々から持ち歩いている三十年式銃剣でないのは残念だが、そこは仕方ない。 「これでもまだ気にしてるってんなら、首輪を外してくれりゃそれで良いさ」 「…ああ。そっちは任せてくれ」 自身の首を指さす杉元へ力強く頷き返す。 何はともあれ首輪は手に入った、後は実際に外せるか否かの問題。 主催者に握られた命を解放し、連中との戦いに備える為にも首輪解除は必須だ。 ならここからは頭を切り替えねばと、霊安室を出てロビーに戻る。 帰って来た二人を見ても、あれこれ追及する者はいなかった。 ただ無言で視線を寄越す善逸に一度頷き、向こうも言葉無く首を縦に振った。 「後回しになっちまったが、まずは全員の手当てが先だ」 悲鳴嶼のデイパックからはしのぶの死体以外に、予想通り傷の処置に必要な道具一式が見つかった。 提案に反対する者はいない。 と言っても異性のいる前で肌を曝け出すのは双方にとって流石に気まずい。 よって一人ずつ別の部屋に移動し手当てを受ける事となった。 「よろしくお願い、します……」 「おう」 診察室で制服の上を脱いだ甜花にテキパキと処置を施す。 肌を晒け出した少女を前にしても、杉元から邪な感情は一切感じられない。 真面目な顔で包帯を巻き、精神は男でも体は女なのもあって、妹の下着姿を見られる抵抗感はある程度薄れていた。 「あ、あの、杉元、さん……」 「ん?どうした?」 外見は自分と近い年頃の少女でも佇まいや口調から恐らく大人の男性と判断。 恐る恐るさん付けで話しかけると、特に不審には思われず反応してくれた。 「えっと、ありがとうございます……」 「…?手当てしてることか?」 「そ、それもだけど、あの、甜花のこと助けに来てくれて……」 思えばこの少女とまともに会話をするのはこれが初めてだ。 最初にPK学園を訪れた時から互いの存在は把握していたものの、呑気に会話をしてられる状況では無かった。 甜花が正気に戻ってからも姉畑の乱入やDIOの復活やらで、双方自己紹介の余裕も皆無。 これまで杉元から見た甜花という少女は思考をおかしくされ、DIOに心酔していた時が大半。 病院に戻って来てからようやっと素の彼女を見れた気がする。 「礼なら俺より桐生に言ってやれ。お前をずっと心配してて、助けるのに一番張り切ってたしな」 「え、あ、そ、そうなんだ……」 離れている間も気に掛けて貰えたのは純粋に嬉しい。 そこまで自分の事を考えてくれていたと聞くと、少々照れくさくもある。 恥ずかし気に目をあっちこっち泳がせる甜花の処置を終え、次の仕事に取り掛かった。 やがて全員の手当てが済むと一行は再びロビーにて顔を突き合わせる。 甜花から話したいことがあると言われ、こうして腰を落ち着け聞く体勢に入った。 その前に戦兎以外の面子とは改めて自己紹介もしておく。 DIOに操られなければ彼らとももっと早くから親交を深め合えたのだろうけど、言った所で今更な話だ。 甜花が話すのはDIOの元にいた時に何があったか。 もしかしたら戦兎達にとって必要となる情報があるかもしれないし、何より甜花自身が伝えておかねばならない事実がある。 自分の犯した間違いを語るのは楽ではないが、意を決して一つずつ説明していく。 ナナの運転する車で戦兎達が学園から逃げた後。 一回目の定時放送が終わり少し経ってから、PK学園にやって来たしのぶとデビハムの二人と戦闘になった。 先程話した時よりも細かく説明する。 自分はメロンを被った仮面ライダーに変身し、貨物船と共にデビハムを相手取った。 「甜花がデビハムと…」 「う、うん。あのベルトで、色々変身できたから……」 思ったよりも戦極ドライバーを使いこなしているらしい甜花に、戦兎は複雑な心境だ。 彼女が変身する必要がないよう守ろうとしたのだが、結局は戦いへと引き摺り込んでしまった。 先の戦いで決意の言葉を聞いた為、もう戦うなと水を差すつもりは無いが。 複雑ではあれどそれ以上話の腰を折らずに続きを聞く。 戦闘はDIOがエターナルに変身し猛威を振るい優勢に持ち込み、貨物船が二人にトドメを刺そうとしたのだと言う。 その直後だ。 別の意味でDIO以上の危険人物、姉畑支遁が乱入したのは。 「いきなりあの人が出て来て……それで、貨物船、さんを……甜花にも…う、うぅ……」 「あー…無理しなくていいぞ大崎。何があったかは大体分かる」 色んな意味でショッキングな光景を思い出してか、目尻に涙を浮かべガタガタ震える。 嫌悪と恐怖がこれでもかと顔に現れた甜花へ杉元が助け船を出す。 反応だけで姉畑が何をしたのか察しが付く。 杉元同様に姉畑の異常性を知っている善逸もまた、顔を青くし縮こまっていた。 「先生のことだ、大方あのデカい猿とウコチャヌプコロしたんだろ。無理に話さなくていい」 「グスッ、うん……え?ウコチャ……え?」 「んなヤベー奴だったアルか、あのネオアームストロングジェットアームストロング大猿王銃(キングコングガン)は」 「その長ったらしい名称は何なんだよ…」 姉畑に関して詳細に語るのは甜花の精神衛生上良くないので次に移る。 しのぶ達が撤退した後、残された姉畑はDIOと二人きりで話をし、そこで具体的に何が起きたかは甜花も知らない。 ただ次に見た時にはもう象の下半身を持つ怪物へ変貌しており、貨物船を捕まえ逃走。 何をされたのか怒り心頭のDIOと共に貨物船を追いかけ、再びしのぶとデビハムに遭遇。 今度はもう一人、氷を操る青髪の少女の姿もあった。 「ヴァニラ・アイス…それがあの女の子の名前なのか?」 「う、うん。部下だってDIOさ…あの人は言ってたよ……」 「承太郎って奴はまだ分からねぇが、もう一人はこれでハッキリしたな」 空条承太郎とヴァニラ・アイス。 最初に会った時DIOが口にした二名の内、後者の正体は判明した。 DIOの部下、つまり自分達にとっても相容れない敵。 ヴァニラとはPK学園で交戦経験のある杉元からも皆に説明をしておく。 校舎内で戦った時に見せた能力についてだ。 曰く、髑髏のような口に自らを飲み込ませ姿を消し、壁や床を削り取る謎の攻撃。 姿が見えない間は気配が完全に消失しており、五感を総動員しての回避は非常に困難。 但し向こうも敵の姿は見えておらず、片っ端から攻撃するしかない。 敵の撃破を確認する為に髑髏から顔を出した瞬間のみ、攻撃を当てられる。 弱点があっても強力無比な能力の持ち主だ。 加えて戦兎達を凍らせた力も使う危険な相手がDIOの部下。 DIOの脅威がより一層高まったのを嫌でも感じ取った。 甜花の話に戻る。 しのぶがどうやってDIOの元から逃げたのか。 そしてデビハムと貨物船の最期、どちらも戦兎達には意外な内容だ。 DIOかしのぶに殺されたと考えていたデビハムは自害を選び、おまけにしのぶと姉畑を逃がしたのも彼。 行動の真意も本人が死んでしまった以上、問い質すのは不可能。 二回目の定時放送が流れた後はPK学園に戻り、そこからは全員が知っている通り。 ただDIOは次の目的地として街から南東に位置する地下通路に向かうつもりだったとのこと。 何故地下通路を選んだのかは安易に予想が付く。 新たに導入された殺し合いを促進させる設置物、モノモノマシーンを利用する為だろう。 禁止エリアに阻まれ遠回りを余儀なくされる網走監獄よりは、地下通路の方がスムーズに行ける。 デビハムと貨物船に加え、悲鳴嶼と姉畑、更には鳥束の首輪も回収されたに違いない。 貨物船を殺し使用権を得ているのもあって、DIOは計6回もモノモノマシーンが使用可能。 ただでさえ厄介な相手が今以上に戦力を強化するのは全員にとって悩みの種に他ならない。 阻止したい気持ちは山々だがナナ達をほったらかしにも出来ない。 悔しいが今は体力の回復と仲間達との合流を優先、戦力を整えてから改めて対策を考えるべきだ。 これでDIOと共にいた際の動向は全て話し終えた。 しかし甜花にはまだ言わねばならない事が残っている。 むしろこれから話すのが本題と言っても良い。 「あのね…最初の放送で空助って人が言ってた、誰がどの体になってるか分かる名簿を見たの…」 精神と肉体の組み合わせ名簿。 参加者を殺した者のみが手に入れられるボーナス支給品は、貨物船が入手したらしい。 戦兎と杉元は直接現場を見ていないが、貨物船は教室で鳥束を殺害している。 手に入った名簿を主であるDIOに献上し、甜花も一応確認の為にと名簿を見た。 そうして知ったのは甘奈以外にも知っている人物が巻き込まれているという、決して望まない事実。 「千雪さんと、真乃ちゃんの名前があって……」 真乃の体に入った精神の名に甜花は聞き覚えが無い。 ダグバなる人物は戦兎達にも初耳で、残念ながら詳細な情報は得られなかった。 せめて殺し合いに否定的な人物であると願うばかりだ。 問題は前者、千雪の体に入っている参加者の方。 「甜花…それは間違いないのか?」 「う、うん……。その、戦兎さんが前に教えてくれたエボルトって人、じゃなくて、宇宙人が千雪さんの…体に入ってる、みたい……」 思いもよらぬ情報に言葉を失くし頭を抱える。 「最っ悪だ」と普段の口癖を言える余裕は無く、ため息すら出せない。 エボルトが戦いとは無縁の一般人の肉体に入っている可能性を、微塵も考慮していなかったと言えば嘘になる。 しかしだ、よりにもよって甜花と同じ事務所の、所属するユニットも同じで縁の深いアイドルがエボルトに与えられた体。 最悪どころの話ではない。 組み合わせを考えた主催者へふざけるなと怒鳴り付けてやりたい気分だった。 「そんなにヤバいアルか?その厨二くせー名前の天人は」 「…ああ。俺が知る限りじゃ間違いなく最悪の相手だ」 「や、やっぱり……千雪さんの体で殺し合いに……!」 直接会っていなくとも、戦兎の反応を見ればどれだけ危険な存在かが分かる。 そんな男が千雪の体を使って参加者を殺して回っているかもしれない。 想像するだけで気絶しそうなくらいにショッキングな光景だ。 どうしてあんなに優しい、自分と甘奈が本当の姉のように慕っている人の体をそんな風に扱うのか。 不安と怒りと悲しみで意識せずとも顔が歪む。 「いや……エボルトが殺し合いに乗っているとは限らないと思う」 意外な所から否定意見が飛ぶ。 発したのは戦兎、エボルトの危険性を最も知る男にも関わらずエボルトは殺し合いに乗っていないと言う。 知っているからこそと言うべきか。 「アイツがロクでもねぇのは本当だ。けど、自分の状態を軽く見て考え無しに動くような馬鹿でもない」 エボルトという男は非常に狡猾である。 10年以上も地球に潜伏し、嘘と真実を交えて信頼を作り、自らの立場をのらりくらりと替え、己の望む方向へと人間達を掌で転がす。 ジーニアスフォームの力で感情を植え付けてしまってからは計画に遊びを入れる傾向が多く見られたものの、用意周到さと臨機応変に対応するアドリブ力の高さは健在。 何よりあの男は必要とあれば敵である戦兎達に手を貸す柔軟性も持ち合わせている。 最上やキルバスが起こした事件の時が分かり易い例だ。 そのような男が石動惣一よりも非力な女の体にされた現状で、馬鹿正直に優勝を目指すだろうか? 可能性は低い。 エボルトの立ち回りの上手さを考えれば戦兎や殺し合いに反抗する者を利用し脱出を目論むか、仮に優勝するにしてももっと慎重に動く筈。 むしろ今のエボルトは千雪を最悪の状態で人質に取っているようなもの。 素直に殺し合いに乗るよりも、迂闊に千雪の体へ手出し出来ない現状を有効活用する方へ舵を切るだろう。 例えば自分の首輪解除を戦兎に要求したりだとか。 「まぁそういう奴だから、確実に殺し合いに乗ってるとは言い切れねぇ」 「つっても警戒するに越した事はない相手だろ?悪知恵が働く分、下手に暴れられるより面倒な野郎だな」 渋い表情で言う杉元に戦兎も同意する。 体が千雪である以上、戦って倒すという方法でどうにかなる相手では無い。 敵対者には容赦ない杉元と言えども、甜花の前でいざとなれば自分が殺すなどとは口にできなかった。 体を取り戻すのは殺し合い当初から考えていたがエボルトの情報を得て、より重要性が増した。 いずれ向こうから接触を図りに来るだろうが好都合。 殺し合いに乗っていないかもしれないとはいえ、千雪の体でおかしな真似に出ない保障も無い。 監視の為にもエボルトをなるべく早く発見したいところだ。 「甜花、エボルトの事は俺に任せてくれ。アイツに好き勝手馬鹿な真似はさせたりしない」 「…うん、分かった。戦兎さんのこと、信じてるから……」 DIOの言葉に安心を得た時とは違う。 偽りの愛情ではない、本心から戦兎を信じられる。 不安が消えたわけではなく、だけど甜花は知っているから。 桐生戦兎は優しくて、誰かの為に戦える本当のヒーローのような人だと。 「なぁ大崎、その名簿って今も持ってたりするか?」 組み合わせ名簿があれば誰の体が参加しているかが一発で分かる。 アシリパや白石の体が巻き込まれているのを危惧する杉元としては、甜花の手元に名簿があるなら見せて欲しいと頼み込む。 戦兎や善逸も同様だ、仲間の体が無事か否かは確認しておきたい。 「あ、その…甜花は持ってなくて……他の人の名前も、ちゃんと覚えてない……」 名簿はDIOが所持したまま、記載されていた名前も全てをはっきりとは覚えていない。 見れないのは残念だが甜花を責める真似は誰もせず、別の機会に見ればいいと話は落ち着いた。 伝えたい内容はこれで全てだ。 話が終わり肩の力を抜いたからだろう、どっと疲れが甜花を襲う。 思わず椅子に深く腰を沈めた時、くぅと可愛らしい音がお腹から聞こえた。 「あ……。あ、あの、こ、これは…その…」 「何あざとい反応してんだオメーは。ニセコイどころかエセコイじゃねーカ。マガジンのラブコメにでも帰れコノヤロー」 「ピカピ~…(何でそんなに厳しいのこの人…)」 空腹を訴える音を鳴らしてしまい、羞恥で顔が真っ赤に染まる。 微笑ましい姿の甜花へ神楽が向ける態度は何故か辛辣だった。 それはともかく殺し合いが始まってから入浴や睡眠は取ったが食事はまだなのだ。 腹が減るのはごく自然なことだろう。 「まぁ話も一段落着いたし、何か食べて休んで良い頃合いかもな」 「それなら丁度……いや何でもねぇ!なにも無かった!」 「急にどうした…?」 デイパックを開きかけ、慌てて取り繕う杉元に訝し気な目を向ける。 話す気は無いのか目を逸らし何でもないと言い張るのには、困惑するしかない。 とはいえ杉元がそんな反応をするのは無理もない話だ。 悲鳴嶼のデイパックに入っていた鍋。 それを温め直して食べようという提案は、鍋の正体に思い直し無かった事にしたのである。 以前白石や尾形、谷垣にキロランケと五人で食べたラッコ鍋。 あれの香りに中てられてしまい色々と、本当に色々あった。 正直あの時に起きた事は永遠に忘れてしまいたい。 神楽に疑いの目を向けられた悲鳴嶼と脹相がどことなく余所余所しい態度だったのにも納得がいく。 きっと彼らはラッコ鍋を食べ、嘗ての自分達と同じ目に遭ったに違いない。 果たして二人が未遂で終わったのか、はたまたイクとこまでイってしまったのは本人達の名誉の為にも気にしないでおこう。 とにかくラッコ鍋の恐ろしさを知っているが故に、ここにいる面子に食べさせられはしない。 善逸はまだしも、女である甜花と神楽、女の体の自分がいて心身共に男なのは戦兎一人。 もしもあの時と同じ事が起きてしまえば、流石に気まずいとかでは済まない事態に発展しかねない。 ラッコ鍋のせいで殺し合いに反抗する陣営が崩壊などとなっては目も当てられない。 かと言って捨てる気にもなれない、ラッコ鍋という料理自体には何の罪も無いのだから。 デイパックの奥深くに封印しておくのが吉だろう。 「い、いや、あれだな!折角なら体があったまるもんとか食いたいよな!」 「それなら、丁度良いのがある…かも……」 誤魔化す為に言った温かい食事。 それに当て嵌まるものを甜花は見付けていた。 →