約 975,182 件
https://w.atwiki.jp/chaos-tcg/pages/2860.html
"水着"でも一緒「神無月 葵」 「葉月 クルミ」 読み:"みずぎ"でもいっしょ「かんなづき あおい」 「はづき くるみ」 カテゴリー:Extra/女性 作品:快盗天使ツインエンジェル~キュンキュン☆ときめきパラダイス!!~ 属性:水火 ATK:6(+1) DEF:2(+1) 【エクストラ】〔「神無月 葵」 「葉月 クルミ」〕 [自動]このキャラが登場かレベルアップした場合、自分のデッキの上から3枚までを見て、それらのカードを好きな順番でデッキの上に戻す。その後、カード1枚を引いてもよい。 『貫通』 遥さんが行くなら私も illust: TA-T18 収録:トライアルデッキ 「OS:快盗天使ツインエンジェル 1.00」
https://w.atwiki.jp/makotokidan/pages/78.html
初登場 ステータス 初登場 _ __ ;´ ., `―-ゝ、 _イ、 ;r ´ ヽ、ン、 ,'==- -==', i .,ヘ )) (( ,ヘ, .i ,ゝ、イ人レイム iイ i ハ/ '、ノ、レ「i ○ ○ 「i i,/ ヘ やったわ! /, ' ヽLi ""r-‐‐┐""Li`/ ' ,ゝ , ' ソ.i i.ゝ,ヽ、__,ノ_ノ, i iノ、ヽン´ `ヽ ,ノ ヽレノ /L只_」 ハワ´γ´ 小銭が落ちてるわよ! ル〈~ /ハヽ キレv' i;;;;;`´;`´;;;;;;;ミ / コ ノ ヽ ____________________________ |┏ SYSTEM ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓| |┃ ハクレイのミコ は 幸せになった! |┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛| . ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ __ _/ ヽゝ, _ _,.r--、_r'´___iァ'___ |(__ )「 `>' `ヽ、 \;`ヽ ノi_/ .... ヽ」( ハ }y' / i i i ヽ、 iヽ; ! / / i ハ ハ _,ニ_ハ ハ | \ / / ハ-ェ ;! V'´{ ,ハ!、! | ト、 ,.イ( イ i !Y'{ ハ `ー''´ 「_i i、_/(| L.へレ i 'ー' . "" ト┤イ ´ハ L.ヘ." - ,.イ| 7、 | | |. | | `7'ァ‐--r''´ .i/レ'⌒ヽ; ! | こ、これならおいしいご飯が食べられる・・・・\ | |ヘ.| !イ7 .// / ハ i i\.\ ,..、 |/ ! ヽiY[]、__/,./ /| | | \./ /ヽ._ ハ |/i/ .ハ i^ヽ、__ /、| | ハ | ! ' r !__Y !/ム__」/ ` - `ヽ7 ノ| |/ `ヽ、イ \'li/7 ハ,. '"-‐ ヽ ` ' | ! \,へ、/ / /! ', ヽ.,__ 、 '´ヽ、ヽ .. ,'」 ヽ、___ Y ,ハ_ l i ハ // ヽ,__rへ! / ヽ. ____________________________ |┏ SYSTEM ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓| |┃ ミコはお金を全て拾い終えた! |┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛| . ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 博麗神社の巫女さん。初登場は3スレ目の 908だが、その際のAAはあえて伏せる。 金欠ゆえに貧乏性らしく、戦闘中でも小銭に気を取られるという弱点を持つ。 普通の白黒魔法使いからの依頼で鎮圧することになったのだが、その際に誠から口説かれてコネクションになった。 【 V T R 】 _ __ , r= ――- r-、 {.廴. . >=、_ __ ,.ィネ. . . . . . . . . . . .L | }.i. . ._. -─´──-゙;.、. . . . . . . . . . . . . .k } ム. ´ ´ ̄ ̄ ̄ヽ `;.、. . . . . . . . . ;.行 ∠_ ヽ ` 、. . . . . / ,ス ´ ` \ `.、. . . 弋 / ヽ 、 ヽ ヽ. . . ,ソ __ / / / / | | 、 ヽ 、 ヽ、';∠_, . . .れ ' ! | { } | ヽヽ ハ ヽ 个ー─'´ . イ,ノ / .{ | { ハ ソ ト、 ハノヽ } ハ ヽ ハ . ム } |! ハ| ヽ ノ ヽァ==ミ、 ', } ! ヽ`テk'. ' | i |ハノ jノ 乂 〃て ら ア } ハ ! ヽ どうしよう・・・・ { | ! {,ィち ハ ノ 弋ソ ハ{~~゙|ノ リ ヽヽ. ! ハ ヽ ハゝ弋ソ }二| ヽ} jノ__ヽ \ゝヽ 、 j-=イ / ハ ;}! r‐ ヽf´`、ヽヽ ヘ _ _, イ | j イ / }ノ /´ヽ /´ ヽ ` ¨ヽ ` 、 ..イ | レイム / ! ./. / ´ゝ {_ノヽ ヽ ≧=- .._.. ´_ノ} !ハ .{ jノ { } / ヽ `ヽム-=イ{|!}´ ト、リ }__!_ ナンパなんて初めてなんだけど・・・・ | ! ヽ__ ゝ、 ', 」⊥! >'. . . . \ ,' ノ _Y_,ィ`ヽ ', /-‐-|!__〃´ /´ ̄ ``、. { ィ‐'´ / ハ } 〉‐‐〈| / . . / | 八 ,{ ,イ //} .iヽ' / |_/ . / | えっと・・・・・ / / .. . | / ゙ソ7./ ハ j .ヽ、/, イ}ヽ./ |_. / / ∧ / '1 . /./ ; ′ ヘ . . . . |. ,ら`ー-―-―'´″j 楽しませてよね? ! Y / .V {.| . ! l ; ′ .ト、 . . .j7==、_ _ .,′ ', | / ヽ !| . ! | ; ' .′\/ \_>- _ン ',.V´ } バ . | レ′ ヽ /. } ハ . ! イ \ +そして ____________________________ |┏ SYSTEM ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓| |┃ 3秒後メギドラ貫通 |┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛| . ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ しかしその後出番が無く、再登場したのは実に一月あまり(リアル時間)後の20スレ目でのことであった。 ステータス rz、── - 、 , .-‐zィ \ヽ _\___ ,,/ lシ } },>''´ ヽ lイ / \ j { // ヽl j _,,ノ / / / / ヽ ll 〉ー-..、  ̄// i l |ヽi 、 l ! l ! l i |ミj ヽ l | l | |Vーlト、 ヽト、|ヽ从 j_;ノ !、ー-、 l l/VVト=|/Yハ \j "´f" Yi ヽ,ゝ |ヽ / j } } 込ノ ー‐'' | !j | | | i| //ゞ゙ヘ 丶_ ,'iー'f ヽ ヽ l ヽ_ レl/ |\ `ー' // i | i 〉V ヾ三ニ= 〈/ ;'r‐ィ`i ー''_´jァl / ! ノ / , -l /ノ〈 ノY、´ レ' /イ ∨ rf  ̄`/ /∨厶イノ⌒i \イノ∨ 7 、 | ヽ/ / /_,,ノTヽj ∨┘ / \ _r┤ ` ー/ // / ヽ_/ ,' _,, ゝ─┐ <_,,,丿 |、 ,′ jゞ′ / ! \ ! ゝ´ l / 、\ | }〈 / l ァ │/ ,イ─ - 、 / ヽイ´l ヾ=ト, |,r-ィノ´ レj_,ノ /`ソ})、ー ''´ /  ̄ ̄`ヽ 〉┘ | ヾz=ゝ⌒´ / ヽ'´ ̄ \ ' `} ノ / 〉 ヽ / ヽ〈 \ _ / /、 , '_ ̄ ̄ `ヾ l ,′ !ノ、 ヽ _ l /´ | l ,、j〉、`ヽ、 __ // l l ,イ 〈ゝ、`''ー - . . ,,_ ̄二ニゞ/ | | l | , イ、j ┘/  ̄ ''' ─ ---/ ! ー' | | / ∪ l し'7| | ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 超人 ハクレイ=レイム N-N 地味にヴァルハラで古代の神々の帰還を待っている巫女。 ただしガイア教徒とはかかわりが薄い、というか興味がない。 お賽銭に困っており常に貧乏しているため、やや金に小汚い面が無くもないが基本的には 誰に対してもドライな人物。 その性格ゆえに余程のことがない限りは共闘以上の戦力としては成立しない。 敵ボス仕様と味方時にステータスがガラっと変わる典型例でもある。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【JOB】 巫女 【STATUS】 Lv30 HP108 MP200 ・破魔反射 ・呪殺半減 力 2 魔15 知10 速12 耐5 運4 【SKILL】 メディア・ザンマ・ジオンガ・メギド・マハンマ・ラクカジャ 【SPECIAL】 喰らいボム:相手の攻撃を無効化し、必中メギドで反撃を行う。 1日1回まで。現在MPの半分をメギドとは別途消費する。 何にも囚われない:全てのバッドステータスを無効化する(本人のみ有効) 好感度と友好度の上昇・下落幅が常人の1/10である 【EQUIPMENT】*更に全部の装備に洗礼が掛かっているため、維持費がかかる代わりに店売品より高性能とのこと 剣:雷神剣 体:テトラジャマーマリオンカスタム 頭:精霊前立て 腕:スターグローブ 足:鈴鳴の具足 一応普通に強い・・・・しかし強いからって本編に出れるとは誰も保証しない・・・・・!!!!! -- 1 (2011-05-21 15 03 51) そういやページ名が間違ってたのぜ・・・博麗 霊夢だよね -- 名無しさん (2011-06-21 21 21 51) 喰らいボムは自分が攻撃範囲に入っていれば何に対しても発動する。覚悟して打った攻撃も無効化して反撃を行う。HPが同Lv帯の悪魔と比べると低めなのが玉に瑕 -- 1 (2011-07-05 12 12 25) 元々は寝取られ展開のために生かされた人。が、最近活躍中。止からの逆寝取りなるか。 -- 名無しさん (2011-07-09 18 55 34) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/a-life/pages/690.html
agony/KOTOKO (TVA 神無月の巫女 ED) 屋根裏ポスト/three-weeks-old lovesick puppy (アーケード pop n music Sunny Park ほか収録曲) The Everlasting Guilty Crown/EGOIST (TVA ギルティクラウン OP2) EQUALロマンス/CoCo (TVA らんま1/2 ED2) 終わらない世界で/DAOKO (モバイルアプリ ドラガリアロスト 主題歌) 水の星へ愛をこめて/森口博子 (TVA 機動戦士Zガンダム OP2) 夢のヒーロー/坂井紀雄 (特撮 電光超人グリッドマン OP) ウルトラマンゾフィー/近藤光子,コロムビアゆりかご会 (特撮映画 ウルトラマンZOFFY ウルトラの戦士VS大怪獣軍団 主題歌) ミッション! 健・康・第・イチ/赤血球(CV 花澤香菜),白血球(CV 前野智昭),キラーT細胞(CV 小野大輔),マクロファージ(CV 井上喜久子) (TVA はたらく細胞 OP) 笑顔になる/リョウときりん(佐藤利奈と大亀あすか) (TVA 幸腹グラフィティ ED) Angel Night〜天使のいる場所〜/PSY・S (TVA シティーハンター2 OP1) 指望遠鏡/乃木坂46 (TVA マギ The labyrinth of magic ED1) Blue Destination/七瀬遙(CV 島﨑信長),橘真琴(CV 鈴木達央),松岡凛(CV 宮野真守),椎名旭(CV 豊永利行),桐嶋郁弥(CV 内山昴輝),葉月渚(CV 代永翼),竜ヶ崎怜(CV 平川大輔) (TVA Free!-Dive to the Future- 第12話ED) Good job!/シェリル・ノーム starring May n/ランカ・リー=中島愛 (CD Good job! VTCL-35289 )
https://w.atwiki.jp/beads/pages/74.html
言行の一族 「言行(げんぎょう)の一族」とは、高貴な存在である四聖獣と契約を交わすことを許された者のこと。 言行の一族となった者は四聖獣を召喚し、その力を使うことができる。 言行の一族となるには血縁など関係なく、八百万の神様が決めることが出来る。 しかし、ある程度の資格がないと神様は一族に加えようとはしない。 現段階で知られている言行の一族は水川神社の巫女、秋穂のみ。 秋穂は神無月の神様(10月の月神)、神無(かんな)から言行の一族に加えられた。 現在、秋穂は言行の一族として朱雀と共にすごしている。
https://w.atwiki.jp/sharlicia/pages/71.html
アリアンロッド・トラスト最終話 今回予告 自身を信頼してくれる人々の力を借り、ついに心の魔、ティオルジュとの決戦に挑んだシャルリシア寮生達。だが、その感覚共有によりティオルジュの能力を打ち破ったかに思えたのもつかの間、ティオルジュはその弱点を見破ると、シャルリシア寮生と生徒達をつないでいた、エーエルの魔力による鎖を断ち切ってしまい、シャルリシア寮生達は、その支えを失ってしまった。 もしこのままあの時の……初めてティオルジュに出会った時のような状態になってしまえば、もはや勝ち目はない。そしてティオルジュは今こそ、君達を屈させ、侵食を行おうとしているのだ。 君達は、どうするべきなのか?……いや。 君達は、全ての手段を失ったのか? そのように思いたくもなるかもしれない。でも、君達の人生には、最後の最後まで、残っているものはある。 この、全てが犠牲者となってしまう運命を受け入れないために。 人の心と言葉に応えるために。 自分の人生の価値を誇るために。 そう、私達は。 アリアンロッド・トラスト最終話「We trust…」。 君が望むべき全てが、君を待つ。 登場人物 ▼PC ミルカ・ハミルトン プリンセス・ミト クレハ レシィ・マナリス ジャック・アルマー ラピス・カルパンディエ ▼NPC セッション内容 ティオルジュの異空間にて、シャルリシア寮生達が戦いを繰り広げていたその頃、学園の外では、シャルリシア寮生達の肉体を奪取しようとするゴブリン、ヴァンパイア、魔族の混成軍に対し、エルクレスト・カレッジの関係者たちが必死の防衛戦を行っていた。 そして、ファムの放った呪文が、彼女の元に詰め寄ろうとしていたゴブリンの群れを吹き飛ばす。彼女と、ヴァリアス、カミュラ、カッツの4人組は、シャルリシア寮生達を守ろうと外で奮戦する生徒達の中でも際立った戦果をあげているのであった。 目前に迫る敵をひとまず掃討した一行は、カミュラの指示に率いられつつ、さらに別方面の敵を討つために行動を開始した……その直後、カミュラに向かって不意の一撃が襲い掛かる。それをとっさにカッツがこれまでの経験で培われた技術によって抑えたため、一行に大きなダメージが与えられることはなかったが、4人は突如自分たちの傍に現れたその存在への警戒心を高める。 そんな視線を悠々とした態度で受けながら現れたのは、老人のような男だった。しかし、明らかに人間ではない、その身に漂わせているオーラは、魔族のそれである。 そして魔族は、余裕を持った態度で、まだ学生であるはずのエルクレスト・カレッジ生徒達の予想外の健闘を称えつつも、それが無駄な抵抗であるとし、大人しく我が主のため、シャルリシア寮生達の体を渡せ、と勧告を行った。しかし当然、それに屈する彼女達ではない。魔族のその口ぶりより、この魔族こそ、この戦いの前に聞いていた「心の魔」の配下であるということを知った4人は、相手が魔族であるということにも決して怯む様子無く、真っ向から立ち向かってみせんといわんばかりの気迫を見せる。 その姿を見て、魔族は小馬鹿にするような笑いを上げる。魔族は、こちらにはまだ「本当の戦力」があると得意になっているようだ。その言葉に4人が反応したと同時に魔族が腕を振り上げると、その両脇の空間に、突如切り開かれたかのような闇の出入り口が姿を現す。そしてその中より姿を現したのは、ゴブリンにしては巨大すぎる体躯、そしてそれ以上に巨大すぎる斧を携えたゴブリンと、周囲に魔力によるイバラを引き連れた、仮面をかぶったヴァンパイアである。 その姿を確認した瞬間、4人には先ほど魔族を確認した時以上の戦慄が走った。とりわけ、その正体を悟ったらしいカミュラの衝撃は大きなものだ。そう、この2体こそ妖魔王。ゴブリンの王、ルアダン。そして、ヴァンパイアの王、ブレアスに違いなかったのだ。 少年少女たちの姿を見つめ、にやりと笑みを深めつつ、ずいぶんと調子に乗ってくれたようだ。と言うルアダンと、神妙な表情をしつつ、悩ましいな、勇敢さゆえの無謀か。と冷徹な言葉を発するブレアス。どちらも明らかに、自分たちを敵とみなしている。その威圧に気圧されつつある4人を見て、魔族はこの計画のため、助力を願っていた本命の戦力であることを高らかに宣言したのだった。 ……しかし、そこで一番に声を張り上げたのは、ヴァリアスだ。ここで逃げ出すはずがない。自分たちの背には、護らなければならない仲間が、友がいるから。 気迫を押し戻さん限りの雄たけびに、ルアダンはまたにやりと笑い、気に入ったぞ、楽に殺してやろうとついにその斧に手をかける。そしてブレアスも、相手が子供とはいえ、この計画にいつまでも時間をかけるわけにはいかないと、強大な魔力を手のひらに集中させようとしていた。 学生4人に対し、魔族一体に、妖魔王が2体。絶望的と呼んでいいであろう状況ではあったが、その時なぜか、カミュラの口角があがり、笑みを作った。そして言う。私達は、子供だけでもない、と。 思わずその言葉の意味を探ろうとした魔族たちであったが、その刹那、足元で突如、巨大な爆発が巻き起こる。 その一撃を為したのは、ナイルであった。彼曰くの、「錬金術のちょっとした応用」によって3体を巻き込んだ爆発は、それぞれへ確かな傷を与えることこそなかったものの、驚きと共にその攻撃動作を中断させる役割を果たしている。そして、そこにやってきたのは彼だけではなかった。 ライベルが。キキョウが。そして、エルヴィラが。ナイルに引き続く形で次々と現れる。敵の本命の戦力がついに現れたことを見ずとも察知していた彼ら先達者は、それに真っ向から対峙すべくここへ集まったのだ。そして、妖魔王と共にいる魔族こそが、ティオルジュ配下の者であることを彼女達も知り、その気迫をさらに高ぶらせている。 ……だが、一方で魔族の側は、決して士気が上がりきっているという状態でもない。というのも、学生達の上を行く、確かな強者達の登場に戦闘心が刺激されたらしいルアダンが、ブレアスが肉弾戦に秀でないことを嘲笑しつつ下がらせようとしたことにより憤りを買い、互いの相容れなさが表面化されつつあったからである。もとより、ゴブリンとヴァンパイア、その二つは同じ妖魔とはいえ、性質を大きく異とするものだ。妖魔王である彼らの個としての力はともかく、連携という点では、互いに味方と思いあって戦うというレベルにすら達していないといえる。 魔族はその様子に渋面を浮かべるのであったが、この方の手を煩わせるつもりはなかったがと言うとともに、もう一度先ほどの転移空間を開き、何かをこの場へと呼び出したようであった。……そして、三度現れたその闇の入口より、凶悪かつ醜悪な邪気と共に姿を現したのは、どこか蠅の特徴を残したような姿を持った、魔族である。……その正体は、腐敗と瘴気を何より好む、まさに悪魔的な魔力を持った上位魔族、ベルゼブブ。そしてそのことをこの場の大人たちはいち早く気づき、ファム達4人もまた、そのあまりにも邪悪なオーラに、ブレアスやルアダンよりさらに上と言える存在が現れたのだと直感的に察していた。 この場にいる者ほぼすべてからの驚愕の視線をその身に受けつつ、ベルゼブブはゆっくりと邪悪に笑い声をあげ、確かに、自分が呼び出されるだけの相手はいるようだと声をあげ、そして続ける。ここに自分が現れたのも、あくまでそこの魔族が伝えた人類の殲滅計画に興味があるまでであり、ここで立ち向かうのをあきらめ逃走するなら、今代の生程度は全うできるかもしれないぞ、と。 人間より圧倒的上位の存在であるが故の、優位と愉悦のこもった提案。しかし、それでもその場にいた人間たちの中に、その言葉に頷こうとする者は誰一人いなかった。そう。まだ冒険者にすらなっていないはずの、ファム達4人もだ。彼女達は、その身を案じて下がらせようとしたエルヴィラの言葉にも、こう答える。 そういうわけにはいきません。敵がこれほど強大であるとわかっているなら、私達の力は不可欠だ。とカミュラが。何より、こんな奴らは許せねぇ。一度ぶん殴ってやらなきゃな!とヴァリアスが。貧乏くじは今に始まったことじゃないし、ここで退く気はない。とカッツが言う。そして、勝ちましょう。みんなの力で。と敵を見据えて言い放ったファムの言葉で締めくくられた4人の決意の強さとその力を、ナイルも、ライベルも、キキョウも。……そして、彼女らの師であるエルヴィラも、認めざるを得なかった。 学生達ですら自分たちを前にして引き下がろうとしない。その様を実に愚かだと断じたベルゼバブは愉快そうに再度笑うのであったが、その一方で、ルアダンとブレアスに対してもこの場では手を取り合うよう仲裁をいれる。上位魔族の言葉とあれば、両名とも不服そうではありながらも当面は従わざるを得ず、少なくとも自陣営による同士討ちが起こることは阻止していた。 この状況下で、目の前にいる人間たちが勝てる道理などありはしない。そう確信しているティオルジュの配下は、シャルリシア寮生達のことも含めつつ、寄せ集めを行えば勝てるなどと言う愚かなことを、なぜ考えるのだと断じて叫ぶ。そして、戦闘は開始された。 ……その一方。この戦闘が開始されたことを報告として受け取る者達がいた。そしてそれを聞いたシャルロッテは、妖魔王に加えて上位魔族が敵の増援として現れたということに、絶望ともとれる声を上げてしまう。……ここにいるのは、彼女らエルクレスト・カレッジのプリフェクト達を含んで結成された、この戦闘における指揮権を持つ人員達である。 しかし、そんなシャルロッテを、意志を折ってはいけない。とすぐさま諫める人物がいた。シリルだ。エルヴィラ学長だけではない。ナイル、ライベル、キキョウといった、こちら側の戦力の中でも飛びぬけた力を持った人々が、その強大な力を感じてすぐに救援へ駆けつけていた。たとえ相手がそれほどの存在であったとしても、彼女達なら渡り合えるとシリルは信じているのである。……しかし、それでも懸念はある。 それは、こちらの戦力の実質大部分をその戦闘に割いたということは、今現在行っている、多数の敵に対しての防衛戦がかなり厳しくなるということだ。絶大な戦力を欠いたうえで、四方八方よりせまりくるゴブリンやヴァンパイア、そして魔族までもが混ざった軍団に対し、その一匹たりともシャルリシア寮生達の元へたどり着かせてはならない。それは、並大抵のことではないのである。 そのシリルの言葉に、シャルロッテは再度、現状の絶望感を言葉に出してしまおうとする。しかし、今度その言葉を押しとどめたのは、フィシルだ。 フィシルは、意思を折ってはならない。とシリルと同じ言葉を用い、そして続ける。例え、どれほど厳しい状況に今あるのだとしても。自分たちは何もまだ、失ってしまってなどいない。……失わないための戦いをしている途中なのだ。だから、ここで心を折り膝をつけば、その時こそ本物の絶望が、自分たちを支配するだろう。 だから、信じるのだ。シャルリシア寮生達を。シャルリシア寮生達のそばで戦っている人達を。……そして、そんな彼女たちのことを信じて、そのためにここに残った自分たちを。その決断が、自分が本当にするべきことを見出した本心から来たものだったことを。 自信と肩を並べる二人のプリフェクトの言葉を受け、シャルロッテは少しの間沈黙をしたが、再度その顔をあげた時には、その瞳には確かな闘志が宿っていた。わかりましたわよ!と叫ぶその口調こそやけくそ気味ではあったが、その直後に再度戦況を把握し、生徒達へと勢いよく指示を出していくその姿に、もはやかげりはなかった。 その姿を見て、そして愛する者の言葉を聞いて、シリルもそこで笑う。そう、負けるはずはないのだ、と。 自分たちは、人が未来に進んでいける権利を確かに信じている。そして、それを成し遂げるための仲間にも、こうして恵まれたのだから。 ……こうして、生徒達、そして学園に関わる大人達がそれぞれの敵を前にエルクレスト・カレッジ周辺で奮戦している中、その近隣であるエルクレストの街にも未だ、ゴブリンやヴァンパイアの姿が見られていた。作戦上、こちらの戦力はあくまで学園周辺へと街の戦力を向かわせないための陽動部隊であることもあってか、遺跡探索隊に属する冒険者などをはじめとした者達が対応に当たったことによって、街や住民に致命的な被害こそないようではあった。しかし、街は未だ、パニックの渦中といっていいありさまである。 だが、そんな中に一人、逃げ惑う人々も戦いの様子も、まるで意に介さないかの如く歩を進める人物がいた。その者は目深なフードがついたローブを着込んでおり、顔をはっきりと見ることは難しいものの、歩む方向は、あきらかにエルクレスト・カレッジを目指している。 不意に、一陣の風が吹く。それは男の頭のフードをはがすことはかなわなかったが、わずかに男の胸元の衣服を揺らし、刹那、その素肌をさらす。 そこには、「Ⅻ」の文字が刻まれているのであった…… 外の世界において激戦が繰り広げられているその一方。シャルリシア寮生達の精神を媒介してティオルジュの世界に入っていた生徒達は、驚愕と焦燥にかられていた。 一体何があったというのか。あの時、シャルリシア寮生達は自分たちの助力もあり、確かにティオルジュへと攻撃を行うことができ、ダメージも与えていたはずだ。勝利の可能性に沸き立ったその瞬間。ティオルジュが手を宙空に振りかざすと同時に、あまりにもあっけなく、先ほどまで確かにシャルリシア寮生達とつながっていたはずの感覚は断たれ、自分たちは今、ティオルジュに挑むために共に通り過ぎたはずの「入り口」へと戻されている。 しかし、その生徒達の戸惑いと疑問に答える者はいた。エーエルだ。彼女は先ほどまでと同様、外の世界より声だけを一同に届かせながら言う。断たれたのだ。と。 エーエルは彼女の魔力で、シャルリシア寮生達自身以外の意識を精神に付随させることにより、シャルリシア寮生達の認識を操るティオルジュの能力に対抗しようとし、そしてそれは確かに有効であったようだった。しかし、ティオルジュにとっては、そのエーエルの魔法自体が、シャルリシア寮生達の心には本来結び付けられてはいないものとして、その融合を遮断することができたらしい。それにより、シャルリシア寮生達と共にあったはずの生徒達の心も、その経路を失って、ここまで弾き飛ばされたのだと。 今、シャルリシア寮生達は、他の誰とも意識を共有できず、自分たちの精神のみでティオルジュと相対している。その現状がいかに危険な状況かを想像する生徒達へ追い打ちをかけるように、エーエルは言い放った。 全て、終わった。シャルリシア寮生達と、そしてここにいる生徒達のみならず、ここでシャルリシア寮生達が勝つことを信じようとした全ての者達は、敗北したのだ。と。それは、自分たちだけに都合のいい未来を、都合よく信じて行った行為の果てなのだと、エーエルは考えている。 もう、シャルリシア寮生達がティオルジュに完全に侵食され、破壊の化身となるのを止める手段はない。ここで目を覚まし、後はできる限り己の命を守ろうとするのが、知能ある生物として行うべきことだ。そう続けたエーエルは、「愚か者」達にせめての選択ができるようにと帰還のための出口を作ろうとする。……しかし、生徒達は苦しみと驚愕を未だ顔に浮かべたままながら、誰一人、その出口へ向かおうとしない。 そのことは、すでに「愚かな存在」を見せつけられたことで怒りを募らせているエーエルの感情を、さらに逆撫でしたことであったようだ。それゆえか、エーエルはさらに口調を荒げつつ、今この現状がかつてエンザが望んだことに始まったその「希望」と、それを信じようとした者がいたことが、そもそもの間違いであったことの証左であると断じて叫んでいる。……エンザ・ノヅキというのは、命を捨ててまで行ったことで誰かを救うどころか、むしろ被害を広げて見せた、完全なる大馬鹿者なのだと。 ……その言葉は、生徒達に大きな衝撃を与えた。しかし、その驚きの大部分はエーエルの罵りの言葉の内容ではなく、エンザが命を捨てた、という部分にである。……ここにいる中でも、シャルリシア寮生のいずれかと特別深い関係である者をはじめとし、何人かはすでにそのことを知ってはいたが、半数以上は、それまでエンザが帰ってこないことに心配や不審感を感じてはいても、本当に命を落としていたとは考えていなかった者達なのだ。……だが、そんな生徒達の悲しみと苦しみの渦巻く胸中になんら配慮することもなくエンザの死という事実を再度一同へ知らしめ、そして追い打ちをかけるかのように叫ぶ。 だから奴ら、シャルリシア寮生達もそうなのだ。何の解決になるわけでもないような、不確かで都合のいい妄想に流されることを拒もうとしなかったから、ここで人としての死を迎えることになる。 もう、「お前たち」の想いが適う猶予など、ない。 ……そのエーエルの糾弾が、空気も壁もないはずのこの空間の中で、あまりにも響き続けるかのように感じられた。 ……ティオルジュの眼前。そこにシャルリシア寮生達6人。ミルカ、ミト、クレハ、レシィ、ジャック、ラピスは立っている。そして、彼女達6人はまだだれも、ティオルジュからの攻撃を受けたわけでもない。 しかし、動けなかった。つい先ほどまでの、心通わせた生徒達が傍にいてくれる感覚があった時とは明らかに違う。視界が定まらない。力が失われる。自分の中から、自分がこれまで培ってきたことごとくが抜け落ちていくかのようだ。自分の意思によって、かろうじてそのうちのいくつかを繋ぎ止めようとすることに、必死にならざるを得ない。 途方もないほどの喪失感を受け続けている一同に対し、ティオルジュはもう無理だ。と宣告を行った。ティオルジュの干渉できない他者という守りを失った今、自身の深層といえるこの場において、すでにシャルリシア寮生達の意識と力はほぼティオルジュが制御してしまっている。この中でまともに戦うことなど、できようはずもない。 その言葉は、ティオルジュのハッタリではない。体と意識、その両方を襲う喪失感は、そのことをシャルリシア寮生達に否がおうでもわからせるほどのものである。……しかし、そこで最初にそのティオルジュの言葉に答えたのは、ジャックであった。ジャックは、急激に機能を鈍らせたはずのその義主たる左手にも剣を決死の心で握らせ、両刃のきっさきをティオルジュに突きつける。その姿を見て、レシィはまだ諦めてなどいる場合ではないのだと自身を奮い立たせ、6人は全員が、それでも抗い、戦うことを決意していた。 その6人の姿に、ティオルジュはまるで慈しむかのように瞳を閉じていた。そう、シャルリシア寮生達はいつもそうだった。どんな絶望的な状況でも。自身と仲間の望みのため、戦い続ける。……そんな人びとだからこそ、今ここにやってきてしまったのだ。 ティオルジュは、それが人の世界において尊いことだと理解しており、そしてそれを蔑むつもりもない。……だがそれでも、シャルリシア寮生達のその心に報いてあげることは、ティオルジュにはできないのだ。そのように意味を持たされて生まれ……これから永久に、そういった存在なのだから。 ここに至った以上、もはやシャルリシア寮生達を帰すこともできはしない。ここで、彼女達6人のすべては終わらなければいけない。 そう告げたティオルジュは、いよいよその攻撃の手を一同へと向ける。 人の想いを、蹂躙するために。 戦いの先手を取って攻撃を行おうとしたのは、やはりティオルジュである。しかし、それに対してシャルリシア寮生達は、クレハのシーフとしての技とスピードをいかしたかく乱術により、その一手を惑わせることを狙った。 ……これまでの戦いの中で、何度も何度もやってきたことだ。たとえどんな相手でも、ただ一撃をそらすことならば、やってのけてみせる。その自信と経験に裏打ちされたからこその行動であったが、ティオルジュの行動を制そうとクレハが構えた瞬間、その眼前が急にもやがかかったかのように霞んだ。対象とするべき、ティオルジュを探すことができない。それどころか、自身の意識が、自分でない何者かに乗っ取られそうになっている。 それは危機的な感覚だった。本当なら、とても戦えるような状態ではない。……しかし、以前にティオルジュと会ったあの時は、このように自分の意識や認識に介入を受けているという実感すら感じ得なかったのだ。だが今はこうして、その障害を感じ取ることができている。 その理由が、つい先ほどまで自分達と共にいてくれた、更なる仲間たちのおかげなのかどうかはわからない。だが、戦うことを決めた以上、この障害は、なんとしても打ち破らなければならないのであり、そしてそれができるということは、希望へとつながることのはずだ。クレハは……いや、シャルリシア寮生達はそれを信じ、腕の一挙一動、その全てにすら、死力を尽くして己の力をぶつけることを決意し……そしてその結果、放たれたクレハのナイフは、確かにティオルジュの一手をひるませていた。 自身の攻撃を制止されたティオルジュは、さほど驚きをその顔に浮かべてはおらず、相変わらず憐れむかのような視線をクレハ達に送る。ティオルジュは判断していたのだ。その抵抗が、ほぼすべてを奪われつつあるシャルリシア寮生達が、それでも持てる全てを消費しながらも行っていることであり……最後のあがきである、ということを。現に、ティオルジュのその憐みに対し、決して闘志を折らないと向かい立っているクレハも、先ほどの消耗を隠せてはいない。 そしてその直後、再度動いたのもまた、ティオルジュであった。今度はもうクレハがそれを制止することもできない。ティオルジュが振り下ろした腕に合わせるかのように、突如空間がぐにゃりと歪み、そしてその歪みは確かな重厚感を持って6人全員へと押し寄せてきた。……今の状態の自分たちでは、互いの連携によって完全な防護態勢を敷くことは難しい。故に先ほどのクレハが行ったように、敵の一撃一撃に対して、一人が死力を尽くしてでもそれを防ぎ切るのが理想だ。そこで、その攻撃に面と立ち向かったのはラピスとミトの二人。彼女たちは、先ほどのクレハ同様の絶望的なまでの境遇を受けながらも、その全力を尽くした魔力によって攻撃をそらし、防護によって仲間を護りきって見せた。 だが、ラピスだけでは反らしきれなかった敵の攻撃をまとめてその身に受けることとなったミトも、決して無傷というわけにはいかず。その体を揺るがせている。そして、本当なら修めていたはずの、闘気によって自身の体の異常を治す技も、今は使用できない。その場に転げ落ち、意識がさらに朦朧とするのを、即払拭する手立てはなかった。 ……しかし、それでもやはり、ミトは戦い、立ち上がることをあきらめようとはしてない。そんなミトに視線を合わせ、突然ティオルジュは、彼女へと語りかけた。 自分は、人間の価値観に詳しいわけではない。しかし、そんな自分から見ても、ミトは立派とよべるような人間であった。どんな時でも、必ず何かを守ろうとしていたのだ。 しかし、その思いだけで、全てを守ることはできないのだ。人である以上、抗いようのないものの前にいつか、沈む時が来てしまう。……エンザのことが、そうだったように。 そして、人とは本質的には孤独である。ミトが信じた人も、ミトを信じてくれると言ってくれた人も。こうして今、ここにやってくることはできない。 ならば……崩れ落ちるべき時を前にして。果たされない信頼を未だに信じて。その身に苦痛を受け続け、立ち上がろうとする意味はないのではないか。 自身に終焉を与えようとする魔族が、ミト自身の至らなさではなく、世界の無情を説きつつも降伏を勧告する。……それはある意味、ミトのこれまでの健闘をたたえようとしている行為だったのかもしれない。 だが、だとしても、ミトはその言葉には決して頷かない。その理由があるからだ。 自分はプリンセスだ。プリンセスとは、守るべきものが、守るべき人がいるからこその存在。 ……確かに、守れなかったものもある。しかし、だからこそ、もうあんな思いは決してしないということを決意し、そしてそのためにならば戦い続けて見せることを誓ったのだ。 ……確かに、今ここには、誰よりも深く信頼し合い、傍にいるといってくれた人、メギアムは傍にいない。しかし、自分は彼と約束をした。必ず、その傍に帰ると。例えその言葉を守れない状況に彼がいるのだとしても、そこで自分が約束を忘れ、全てを投げ出すことなどあり得ないのだ。 だから。自分は全てを受け止め、耐えきって見せる。例え今がどれほど絶望的であったとしても、この体で、全てを護りきる。 さあ、全力でかかってきなさい。 その力を多くを奪われているはずのミトが宣言した、あまりにも勇ましすぎるはずのその言葉に、かげりは一瞬たりとも存在しない。そしてティオルジュは、頷かざるを得なかった。もう、その誇りを汚すことはできない。その小さな体へ、全ての力を叩きつける。その他はないからだ。 ティオルジュの攻撃を耐え凌ぎ、ついにティオルジュ本体にも隙ができた。その一瞬を逃さず、最大効率の打撃を与えるために、レシィとラピスが仲間より先んじて動いて、クレハとジャック両名を強化する作戦にでる。 仲間に対する補助魔法を使用する際にも、やはりティオルジュからの妨害が行われている。だが、ラピスよりもさらに先に動いたレシィがまずそれを耐えきり、二人の武器へ神聖的な強化を授けることに成功して見せた。だが、その魔術の詠唱直後、消耗によって杖に体重を預けるようにふらつき、身体を震えさせているレシィの姿を見て、ティオルジュはまた、口を開いた。 ……1つ伝えておこう。 シャルリシア寮生達と、他の生徒達の意識の共有を断つ際、ティオルジュが狙ったのはその生徒達自身ではなく、それをつなぐあの魔女の魔力の方であった。……つまり、レシィが最も大切とする彼女をはじめとした人々も、無事な状態であるということである。今は、シャルリシア寮生達とのつながりをうしなったことにより、この空間の入り口まで引き戻されたことだろう。そしてそこまでいけば、そこから帰ることも不可能ではない。少なくとも現時点においては、レシィは大切な人たちを、自分たちのせいで傷つけずにすんでいるのだ。 それが、レシィの内心だったのではないのか。自分の事より、そして自分と共にいてくれることよりも、ただ、彼女自身が無事であってくれるなら、それが一番だと。 ……だから今、もう全ては終わったのだ。あと、レシィにできることは……あの娘の無事を、祈って消えることだけであるから。 ユエル達は無事。今すぐ逃げてくれているなら、これ以上危険にさらされることからも逃れられるかも知れない。 レシィはそのことを知った。しかしレシィはそのことに想いを馳せるまでもなく、ただ一つ、声を張り上げて反論して見せた。 終わっていない。 自分もまた、約束をした。ここから生きて戻り、そしてその先を、ユエルと共に生きていくと。 その約束は果たさなければいけない。絶対に、諦められるはずがない。だから、終わるはずがない。 その約束を刈り取るために、ここからどれほど熾烈な能力や攻撃が自分へ向けられたのだとしても、それによって自分たちが生きていくという約束が、失われることはない。 それは、大切な大切な人とかわされた、自分のすべてをかけてでも、この手の中に繋ぎとめるべきものであるから。 禍々しい力を漂わせるティオルジュをはっきりと見据え、レシィはもう一度体制を正し、決意を持ってその行動に対応するための構えをとる。 その姿にティオルジュはただ一言、本当に、強く成長したのだなと言葉を漏らした。……その侵略の手を緩めることはないままに。 レシィに続いて、ラピスもまた、クレハとジャックへ強化魔法をかけ、彼らの武器を操る技術を数段引き上げようとする。それはまさに彼女の十八番、得意技だ。 しかし、もちろんそこにもティオルジュの浸食は差し込まれる。途端に意識を失いそうになるような、朦朧とした感覚を受けつつも、ラピスもまたそれになんとか対抗して見せたが、やはりその代償は消耗となって表れている。もはや自分の行動すべてに意識を必死で保ち続けているといった様子のラピスへ、ティオルジュはやはり語り掛けた。 ……おそらく。君は多くの人々の中でも、特に悲しい人生を背負った人間だった。 他者より短命だとされた。身体的な欠陥を抱えた。周囲のものと理解し合うことができなかった。 そして、何よりも……それらを少しずつ、少しずつ取り戻し、今に至ってようやく、自分を支えてくれる人を見つけ出し、自分の人生を歩んでいくことができるようになったというのに、それが全て、夢であったことを思い知らなければいけないことがだ。 だが、それをもはやどうすることもできない。あるいは、ラピスがかつてのラピスのままであったなら、同じ絶望にしても、ラピス自身に与えられる苦難は和らいでいたのだろうかとすら、思えてくる。 ……結局のところ、ラピスは今でもなお、ただ一人だった。誰も、その人生を救う術など持ち合わせてはいなかったのだ。 それを聞くラピスの体は、震えていた。彼女はここで、今の自分が置かれている状況の絶望感と苦しみを確かに感じており、その表れであったといえる。 ……しかし、ラピスは言った。でも、それでいいのだ、と。それはもちろん、この状況を受け入れたあきらめの言葉ではない。 ここにくるまで、何度も何度も辛い時はあった。かつては、そんな経験を悲観してばかりでいた。しかし、今は違う。人は悲しみがあるから、喜びを感じ、その逆もしかりだとわかったからだ。 明けないはずの深い暗闇の中へ、自ら身を投じてしまった自分にすら、ガイブという明けの光はやってきてくれた。だから知っている。例え今がどれだけ辛く苦しくても、いつか夜は明ける。そしてその光を受け取るために、自分は生きているのだと。 ティオルジュは、今自分たちのいるここが明けない現実であり、心通じた人々のいるあの時が、夢であったというのだろう。しかし、自分にとっては違う。自分を救いあげてくれた人が、自分と共にいることを願ってくれたから。自分にとっての現実は、その場所にしかあり得ない。 だからここは、覚めるべき夢であり、闇だ。そこに、自分からとどまりにいくような真似など、もう決してしない。 ……息を途絶えさせつつも、その意志を確かに言葉にしきったラピスに対し、ティオルジュはもう、意識が途絶えた時に、どちらが現実であるかを知るしかないであろう、としか伝えることはできない。ラピスはそんなティオルジュへ、自分の意識が完全に途絶えるというのなら、自分の寿命を短く見積もるとしても10何年かはあるだろう、と軽口めいたことまで返して見せたが、ティオルジュはやはり憐れみを込めたような視線で、長すぎる、時間だなとつぶやくのみであった。 そして、ついにシャルリシア寮生達の攻撃が始まる。この状況下でも、ティオルジュを打ち倒すことを疑わずにまず前へと出たのは、ジャックだ。 明らかにパワーダウンしている左手の義手。そして、ラピスの援護によって敵の動き自体を捉えるのは容易になったとはいえ、定まらない視界。決していつも通りとは言えない脱力と困惑を受けながらも、ジャックはその剣を、今出せる限りの全力で解き放つ。その攻撃が認識操作により、もし自分へと向けられたら。そんな躊躇は一切なく、そしてその気迫と剛力によって、彼の剣閃は見事に、二度ともティオルジュを捉えた。先に攻撃した時と同様、ダメージを与えた手ごたえは確かにある。しかし、魔族特有の生命力を持つティオルジュはそれにこたえたようなそぶりは見せず、二度の攻撃だけでも大きく消耗し、そしてやはり、ままならぬ左手の様子に苦戦しているであろうジャックへと語り掛けた。 わかっているつもりだ。 君は戦うのだろう。何故なら、生家とのかかわりをその左腕と共に切り落としてからずっと、ジャックの人生とは常に、安寧に生き自らの平穏を守り続けるようなものではなく、何かとの戦いだっただろうから。 そしてその生き方の末、最後の相手となったのは自分、ティオルジュだ。ジャックは、その生き方ゆえ、勝ち目も勝算もない相手にでも、常に立ち向かっていかなければいけない。 もちろん、それについてはすでに知っている。だが、それを承知であえて言おう。もうそれ以上、その身に苦難と苦痛を与えることはない。全てはすでに、ついさっきの瞬間に終わってしまったから。 ジャックの人生とも呼べる、その戦いと、その力にもう意味はない。抗うという事が全てに通じるという事はない。それが世界というものだからだ。 ならばせめて。その最後の瞬間くらい、ジャック自身の意志で休み、安らかに受け入れてもよいのではないだろうか。 もう、一人で戦い続けることは、できないのだから。 その言葉に対し、ジャックはまず、頷いた。確かに、自分の中にいたというだけはあって、そのことをよく知ってはいるようだと。 しかし、それは決して、自分のことをすべて理解したということではない。そう断言したジャックに、ティオルジュは思わず関心をよせるような声をあげ、そしてジャックは続けた。 あの時……エンザが死の覚悟をし、そしておそらくは永久に分かれてしまったのだろう時に、エンザは自分たちへ、「生きろ」と伝えた。そしてジャックはそれを、エンザからの挑戦と考えた。それは、これから自分たちに降りかかるあらゆる困難に対し、その力で抗い、道を切り開いて見せてくれ、という願いを込めた言葉であり、そして自分は、それを受け取って見せたのだと。 だから今、ジャックの戦う相手とはティオルジュだけではない。そのエンザの願い……挑戦にもまだ、ジャックは向き合い続けているのだ。 そしてもう一つ。エンザの意志を受け止めた形となったジャックにとって思えるのは、エンザがティオルジュの実態を知ったとしたなら、そのあり方を変える……新たな生き方を教えようと考えていただろうということだ。 エンザの代わりに。そんなことを言い出すようなガラではないが、エンザの言葉を受け継いで生き、そしてここまでやってきた自分たちには、その意志もまた、叶えさせてやるべき責務はある。 だから、ここでそれを示すため、戦うのだ。この全力を尽くして。 ……シャルリシア寮生達の中で、ジャックは最も、エンザと打ち解け合おうとはしてない生徒だった。それは、ティオルジュも含め、ここにいる誰もが知っていたことだ。 しかし、ここでその戦う理由に、エンザからの言葉をあげたことが、彼もまた、エンザからの願いを確かに受け継いでいた人間であることを証明している。そう、彼の願っていたことは、無駄ではなかったことをその身で示そうとしているのだ。 その想いを、ティオルジュは悟っていた。ゆえに、もはや最後の瞬間まで、ジャックがその心を曲げずにいられることを祈るほかはなかった。 しかし、そんなティオルジュへ、ジャックは腕に力をこめ、しっかりとした軌道で剣の切っ先を向けなおす。 今自分たちの前に立ちふさがるというのならば、どんな相手であろうと、全力で打ち倒す。そんな気迫のほどは、言葉がなくてもその場の全員へと伝わっていた。 そして、次にティオルジュへ向けて攻撃を放ったのは、ミルカだ。ミルカの放つ魔術もまた、ティオルジュによる認識操作という妨害を受けることとなったが、これまでの他の寮生達同様、死力を振り絞ってそれを振り払って見せる。……しかし、ラピスからの支援魔法の効果は彼女の魔術攻撃には表れないこともあってか、それを回避しようとしたティオルジュをかすめるに終わった。……決死の想いをこめた一撃をかわされたこと、そして、この一瞬の間に自分が振り絞った力の消耗に対し、さしものミルカとはいえ悲痛を顔ににじませざるを得ない。そしてそんなミルカへ、ティオルジュは問いかける。 君には、酷なことを言う。 ミルカは、あの時、間違いなく勝てる、と言った。しかしそれは、ミルカのあまりにも独善的で、希望だけに偏った考え方だった。 ……あの時は、それでもよかったのかもしれない。それは、全てをあきらめるよりも、試す道を選ぶという。そのための理由付けであったのかもしれないから。 しかしその挑戦は、もう結果が出てしまった。今はもう、ここにはミルカたち以外誰もいない。ティオルジュに対してなすすべを持たず、勝ちうる方法などおよそもちえない者しか、存在しないのだ。 だからミルカは、今ここではじめて、膝を負っても、泣き出してもいい。それを非難できる者はいはしない。これまで、常に最善の道を、疑うことなく見据え続けていられたものだから。 終焉が来た今、その気丈さを崩れさせてしまっても、それはあってはならないことではないのだ。 そのティオルジュの言葉に対し、だがミルカは、毅然と首を横に振った。心の不安を掻き消すように、自らを奮い立たせるために声を張り上げるでもない。ただただ、それは自身にとって確かな答えであることを示すかのように。 まだ、結果は何も出てなどいない。そして、絶望的な状況にも、必ずチャンスは眠っている。自分たちが、心を折らない限り。 それは、自分がこのエルクレスト・カレッジでの日々を過ごしてきた中で学んだことの1つであり、そして、自分の中に確かに根付いているものだ。だから、それを疑う必要なんてない。 だから、何も心配されるようなことなどもない。ただ、この場で見届けていくといい。自分たちが得るべき、その結末を。 ……そのミルカの言葉を聞き、ティオルジュは、少し驚いていたようだった。 ミルカは、ただこの場で全力を尽くすこと、少しでも長く戦い続けることではなく、明確に、勝利することを誓っている。そう、今のこの状況に置いても。 その結末に至るための確かな道が、その脳裏に浮かんでいるというわけではあるまい。しかし、彼女はただ確信し、微塵も疑わないでいられているのだ。……自分たちが導かれ、手を取り合い、成長し……そして迎えた今が、ティオルジュの呪いすら乗り越えていくのだということを。 なぜそこまで確信しつづけることができるのか。その理由は、彼女たちの姿を眺めつづけていただけであるティオルジュにわかることはない。 ……だから、ティオルジュはやはり、そのミルカの確信に対し、自身の力という現実を押し付けることしかできないのだ。 一同の中で最後に動いたのは、レシィとラピスによる強化を待っていたクレハだ。しかし、もともと攻撃能力よりも身のこなしに特化した能力を持つクレハにとって、自身の持つ多くの技能を封じられた影響は、ジャック達以上に大きい。認識を操作されることへの抵抗に多大な消耗を払わなければならない今の状態では、全力を出せない自分の攻撃はむしろ消耗を早めるだけと考え、ティオルジュに接近するにとどまる。……しかしそれは当然、妥協の一手ではなく、この状況下で、なんとしてでも抗いぬくための一手なのであり、その証拠に、至近距離でティオルジュの姿を見つめるクレハの瞳は、決して絶望に染まってなどいなかった。そして、ティオルジュはそんなクレハへも、言葉を投げかける。 伝えておこう。 今こうしてクレハ達が他者の助けを失ったのは、決してクレハが、心から他者と手を取り合うことに対し、戸惑っていたからといった理由ではない。 ただただ、もうすでに、そういう次元の話ではなくなってしまっていただけなのだ。クレハ達が何をしようが。あるいは誰かが、クレハ達に何かをしてくれようが、すべての結末は決まっている。クレハ達は……いや人類は、決してティオルジュに勝つことはできない。 ……その意味では、かつてのクレハの懸念は、正しかったのかもしれない。他の誰が知ったところで、結局どうにもできないことなら、あの時のクレハのように、ただ自分の内にだけ、ことをとどめておけたほうがよかったのだろう。そうすれば、他者からの信頼も、気負いもなく。ただ自分自身が敗北するということだけを受け入れて、安らかに消えることができたのでは。……ティオルジュには、そう思えてならないのだと。 目前のティオルジュに対し、クレハは口を開き、答える。そう、確かに自分は、他の誰かに自分の問題に関わってもらうことが、怖かった。しかし今では、わかったことがある。 それは、自分のそんな態度はむしろ、他の誰かのためにはならないのだということ。誰かが悩み、立ち止まりそうになる時、それに手を差し伸べようとしてくれる人たちがいる。そんな、人と人をつなぐ、想いを伝えていける人間たちの存在を、受け入れていくべきだということだ。 だからもう今は、一人で抱え込む、悩み続けるようなことはやめた。そのことに迷いはない。……そしてそれは、お前にも言えることなのではないか。 クレハが唐突に突きつけたその言葉に対し、ティオルジュは自身に隣人や友などいようはずもなく、ゆえに一人で何かを抱えてしまっているなどと、思ったことすらないと答えたのだったが……その答えこそが、ティオルジュが悩みを抱え続けてしまっていることの表れである。なぜなら、本当に何も思い悩んでいないのなら、そんな風に考えるのをやめただけのような答えを返したりはしないからだ。 ……そこでティオルジュは、少しの間沈黙した。そして口をもう一度開いたときには、そのクレハの言葉に、頷いていた。何故なら、確かに、ティオルジュの中には、自分のしている行為に対し、空虚さのような感覚はあったからだ。それは、クレハのいう迷いによるものであるのかと問いかけたティオルジュへ、クレハは肯定と共に頷き返す。 ……しかし、だからといって、ティオルジュはその行動を変えることはない。それだけは確かなことだ。感覚ではなく使命に従って動き続けるだけの「呪い」の悩みを揺り起こしたとして、クレハは一体何を、あるいは、ティオルジュ自身になにをさせるというのだろう。そうつづけて聞いたティオルジュに対して、クレハは今度は言葉だけではなく、その片手に持った形見のナイフを、構えて、高らかに宣言する。 俺が。いや、俺達がその悩みを、解決して見せる。 その言葉の意味するところを、ティオルジュが理解していたとは、いえないだろう。 しかし、ティオルジュは頷き、告げる。来るがいい、次は、その全力で、と。 シャルリシア寮生達6人、その全員が、決意の理由に違いはあれど、この戦いを諦め、屈することは決して選んでいない。消耗した体に鞭を打ち、必死の思いでティオルジュと対峙し続けている。……そしてそんな彼女達の行動が全て終わった時……ふと、ティオルジュ立ち止まり、一同それぞれをやはり空虚な視線で眺める。 ここにいる全員が、確かに戦うことを選択した。それをティオルジュはすでに理解している。だから、もはや言葉を送ることもない。ここで自分が語ることは、もはや、シャルリシア寮生達への愚弄としかなりえないのだろうから。 ……あとはただ、自身も宣言通り、シャルリシア寮生達を討ち果たすための全力をぶつけるだけ。そうティオルジュが呟いた瞬間、6人の体をさらに強い脱力感が襲った。……また、奪われているのだ。この、立ち向かうだけで苦痛と思えるほどの状況の中で、戦い抜くために必死でつなぎとめた、わずかばかりの自分たちの能力を。そして、それだけではない、ティオルジュから与えられる威圧感も強化されている。おそらくは、それと同時にティオルジュ自身も、さらに強くなっているのだ。 絶望は、増大する。それを体現してみせたティオルジュは、その空虚な視線を投げかけたまま、容赦ない攻撃を浴びせようとしている…… 今この瞬間、シャルリシア寮生達は、蹂躙されていた。あとはいつまで戦いを続けられるかというだけであり、やがて全てを失って力尽き、ティオルジュの前に倒れるであろう。 ……そう。本当にもう彼女達しか、立ち向かう者はいなかったのであれば、だ。 かつてそれを知り、そしてそれを認めないために。一人の男が命をかけ、その半ばにして倒れた。 だが、その男が抱いた願いを、知る者達がいる。その者たちは今もなお、その願いの価値を、胸の中に抱き続けている。 だから、彼らもまた、戦えるのだ。 シャルリシア寮生達と同じく。その心が、自分が選ぶべき確かな道を指し示していることを、信じて。 「……いや。負けてなんていない。戦いもまだ、続いている」 エーエルの糾弾に静まり返ったかに見えた生徒達の中で、メギアムがそう言った。その言葉に思わずエーエルが聞き返そうとするが、メギアムはそんなエーエルに対してと言うより、この場の想いを一つに取り纏めようとするかのように、堂々と語り始める。 ミト達は、シャルリシア寮生は、屈することはない。エンザがその命をかけて、未来を願ってくれたから。そして何より……今この瞬間も、勝利を、未来を、そして、ここにいる、自分を含めたみんなのことも、信じてくれると誓ってくれたからだ。 エーエルは、その願いに導かれたことこそが過ちだったのだと、再度糾弾した。エンザの信じた、信頼などというものだけでは何も成せなかったという現実が、今この時なのだ。シャルリシア寮生は倒れ、ここにいる他人達にできることもない。だから、エンザ同様、ここにいる全てのものが、間違いの道を歩んできたのだ。 「違う!」 そう、叫び返す者がいる。ガイブだ。 例え、シャルリシア寮生達のためにエンザが命を落としたのが、本当の事だとしても。エンザは間違ってなんていない。そして、自分たちも。 だからできることは、あるはず。今この時でも、自分たちがラピスのために、シャルリシア寮生のためにできることが。 ……例えば。自分たちがまだ、この空間に存在することができているというのなら。もう一度ラピス達の元へ向かうことはできるのではないか。……そうすれば、この心をもう一度、彼女達へつなぎなおせるはず。 ガイブのその推論を、エーエルはやはり否定した。しかし、その否定の理由は、今ここにいる者達が、もう一度シャルリシア寮生達の元にたどり着くことが不可能だからではない。その元についたところで、エーエルの魔力と言う媒介を無力化された今、再度意識を共有できる見込みはないから、であった。 「なら、大丈夫!」 そしてそう聞いて、ユエルが決意を表情に浮かべ、力強く叫ぶ。 今度は、もう引き離されたりしない。ユエル達が、ちゃんとレシィ達を信頼して、今度は互いの心と心を、直接つなぎ合わせて見せる。 そのユエルの宣言は、エーエルを驚愕させた。すでに、直接意識を他者に預けることの危険性は説明していたはず、それなのになぜ、そのようなことを、当たり前のようにと。 しかし、そのユエルの宣言から堰を切ったかのように、生徒達は、その言葉をつないでいく。 「……そもそも、なぜ、ティオルジュは意識を分断する際、私達ではなく、それをつないでいたエーエルさんの魔術の方を狙ったのでしょうか?それは、私たちそのものを拒絶し引きはがすのは、ティオルジュにとってもそこまで容易なことではないからではないかとも思えます」 そう推論したのは、サーニャだ。 「ならば。今度は私達がみずから、シャルリシア寮生達と融合すれば、まだまだ勝ち目はありうるというわけだ」 部長がその推論を引き継いだ。 そこでようやく、エーエルは馬鹿を言うな!と叫び、今生徒達が実行しようとしている作戦を非難した。 そもそも、エーエルが生徒たちとシャルリシア寮生の間に施した魔法は、効率的に意識を共有し、ティオルジュの支配を届きにくくさせるためのものだったのだ。それが無力化されたからとはいえ、何の媒介もなしに無理やり意識を同化させようとしたところで、ティオルジュにまともに対抗できるようになるはずもないと。 「……あなたの言っていることは事実だったとしても……それでも俺達には、それ以上に信じているものがある」 しかし、ナタフがそう答える。 「小難しい理屈はともかく、心はちゃんと通うはず!だったら負けない!ぜーったい負けない!」 レイスが快活に笑う。 「……そ、そうだ……!少なくとも俺達が、あきらめちゃならねえ!」 アーゼスが、少し震えながらも、振り立つように叫んだ。 「……はい。ここには、これだけ彼らを信じている仲間が、いますから」 ミリティスが穏やかにほほ笑む。 「わ、私……できることがまだあるのなら、なんだってします!」 メンファは不安からか、どこか泣き出しそうではあったものの、その表情には決意が宿っている。 今、シャルリシア寮生達のためにできることがあるのなら、なんだってしてみせると。 「効率的な手段に頼れなくなったのなら、その分数と心でカバーしないとねー」 フェイエンが朗らかに、歌うような軽快さで言う。 「話はまとまったかぁ!?俺様はもーう我慢ができ、ないっ!」 イッシーはもう、論議の必要すらないと言わんばかりで。 「気が早すぎ……でもないな。結局やる事なんて1つだったわけだし」 ウィルテールもまた、それに同調するかのように笑みを浮かべている。 「……ジャックは、諦めてなんていない……約束した……から……」 「赤い服の」マリーが静かに、しかし確かに呟く。 「はい、行きましょう!ミルカさん達のところへ!」 そして、セイが、弱々しさなど微塵も見えない堂々とした声で、行くべき道を示した。 エーエルは、驚愕と共に絶句していた。 シャルリシア寮生達がまだ戦える状況にあるのか?ここにる生徒達が、シャルリシア寮生達と直接意識をつなぎ合うことができるのか?……最後に、ティオルジュと戦い、勝てるのか? 何一つ、わかっていることない。むしろすべて絶望的であり、客観的にそう判断するしかないのだ。だが……生徒達のその、不安や恐怖を払拭したかのような、決意に秘めた表情が、エーエルを荒ませていた。 ……どうして、「お前たち」はそうなのだ。 あてもなく、ただ無駄に終わるであろうようなことにすら、その命という無二のはずのものを差し出してしまおうとする。そのような生物としての愚行を選択しているというのに。 ……なぜそんなに、誇らしそうな顔をしていると、いうのだ。 少しは、自分を理論的に眺めて見せろ。エーエルはそう叫ぶ。 「……あなたの言うことは、間違っていない」 しかし、それに答えるシズナの声は、とても静かで、穏やかなものだった。 そう。かつては自分もまた、シャルリシア寮生達はただ滅びるだけの存在だと考えていた。だけど、今は知ってる。 一緒に、生きていく。そしてそのために、一緒に戦う。 その言葉を、自分に信じさせてくれた人の事をだ。 そして、その言葉をまた、繋げる者達がいる。 「我々の行動は、確かに理論的ではないだろう。だが、これもまた、自分の経験に基づかれた確固たるものだ」 チーフが、整然と答える。 「……彼らがしてきてくれたとを、彼らの強さを。ちゃんと思い出せるから、ちゃんと知ってるから、それを、僕たちは価値の判断基準に加えていける。そういうことだと思うんです。例え、エンザ先生のことを聞いたとしても……むしろ、その想いを、僕たちも継いでいきたいっておもえる」 デュフェールは、戦いに赴く確かな覚悟に胸を震わせた。 「そしてもとより、あの時フィシル・アリーゼが言ったように……私達は価値の優劣に、行動を預けるつもりもない」 マゼットもやはり、堂々と言い放つ。 「はい。私達は、常に自分がそうあるべきだと思うことのために、自分の意思で道を選んでいく存在ですから」 エンジェが、生徒達の想いを肯定し、その先を見た。 ……そんな生徒達へ、エーエルが再度、口を開こうとする。しかし、彼等の心はすでに、この場の問答などには向いていない。 「さぁ、あいつらがこんなことで諦めているはずはないギョ!この神の戦士の助けを待っているはずなんだギョ!」 ドゥーラが大きく胸(の部分)を突き出し、勇ましく語る。 「しかりだ……彼らはここにいる、皆のことを信じておる……!」 サイオウは、それに厳粛にうなずいていた。 「今行かなきゃ……僕は、僕たちは何もできないままなんだ。それに、それを受け取ってくれる人がいることに、疑いはないから!」 デアスの瞳の中にも、もう戸惑いはない。 「……そう。もう、何もできないで、後から泣くことなんて絶対にしたくない。私も、私のできることをする。……私の心を、ちゃんと伝えてみせる!」 ハナは、涙を流さない。やるべきことをもう、知っているから。 「……まーそういうのあんまりあたしのキャラじゃないし……正直今ショックだけど……でもさすがに、こんなところで尻尾撒いて帰れないしさ!」 そう言うマナシエではあったが、表情はちゃんと、笑顔であった。 もう、何も言い出せない。 エーエル自身が、自分の考えでは決してたどり着けない領域に向かう者達に対し今、エーエルは、かける言葉を失ったのだ。 そして、最後にメギアムが、エーエルの方を振り返る。 ……エーエル・ラクチューン殿。 我々は、あなたを軽んじているわけではない。だが、それ以上に、揺るぎなく信じているものが、この心の中にある。 そのためになら、何かができるはずだと。して見せるのだと。そう信じ、全力をかけることができるものがだ。 ですからあとはただ……それが成すものを見ていてほしい。きっと、結果となって表れるはずだから。 「さあ、行こう!」 その最後の号令を発したのは、誰だっただろう。いや、誰でも違いはないのだろう。 なぜなら、その心は、そしてその行先は、ここでその道を踏み出した、全ての者が同じとするのだから。 そして、エーエルはただ、それを見送ることしかできない。 その先に本当は何があるのか。それを間違いなく知っている者など、いなかったのだから。 一方。わずかに時をさかのぼり……ここは、あたりを暗闇に包まれた、不可解な空間だった。そして、そにはドラゴネットのメディオンとヒューリン、その二人の人物だけがいる。 そしてその時、メディオンの青年……ダバランは、何かを感じたかのように、伏せていた顔を上げた。そして、その行動を見、理由をといかけたヒューリンの青年、アルゼオに答える。……「心の魔」、ティオルジュの世界へ、誰かが、踏み入ったようだ、と。 そう。ここは、以前(第十二話参照)心の魔の配下の謀略に堕ち、そしてその心をアルゼオ自身の心と共に封印された、ダバランの内面世界だ。彼ら二人は、現実世界において眠り続けることを代償に、ここでダバランの心の汚染された部分を抑え続けているのだ。 しかし、それでもティオルジュに侵食されたものとしてのつながりを失っているわけではないダバランは、ティオルジュのいる世界に起こっていることを察知することができるらしい。故に、二人は今まさに、シャルリシア寮生達が、ティオルジュに挑むためその世界へ乗り込んだことを知ったのだった。 ついに、この日が来たのか。アルゼオは目を閉じ、悲しみとも、感慨深さともとれる表情でそう呟いた。かつてエンザから、生徒側において唯一事の全容を知らされており、そしてそれに共感してシャルリシア寮生達を見守り、導いてきた彼にとっては、その事実は一層意味の深いことだろう。だが……ダバランはそんなアルゼオに対し、彼らは勝てるのでしょうか、と問いかける。声と姿に、不安の震えをにじませているダバランへ、アルゼオは答えた。 シャルリシア寮生達は恐らくあれから、自分たちが何故この学園に集められたのかを知り、そして、エーエルに出会うことができたはず。……そこで、自分やエンザの言葉がどれほどまで、彼女達に伝わることができたのかまではわからないが、少なくともティオルジュの世界に行くことができたのならば、エーエルと出会ったうえでその力を借り、そして生徒達の力も募って決戦に挑むことができたということのはず。 ならば、恐れることはない。アルゼオは、そう確信していた。彼は、こうしてダバランの心の世界にとどまり続けることしかできなくなった状態でも、信じられていた。シャルリシア寮生達を、そして、エンザをはじめ、多くの人が築きあげてきた「願い」の行く末に。 ……だが、その一方で、不安材料もないわけではない。そう続けたアルゼオに、ダバランが怪訝な視線を帰すと、アルゼオはそれをまっすぐに見返し、告げる。 ……自分にできることはもはや、ここでシャルリシア寮生達が勝利することを信じ待つだけだ。……だが、ダバランは、そうではないのでは、と。 そのアルゼオの考えは、ダバランの全身を震わせ、その言葉を奪っていた。そう、確かに、ダバランも内心では理解していたのだ。 シャルリシア寮生達と同じく、ダバランもまた、ティオルジュの潜む空間への経路を、心の中に持つ者。だから、体ごと浸食された部分を封印し、純粋なその心だけとなった今なら、ダバランもまた、シャルリシア寮生達の元へかけつけることも、できるのではないかと。 ……そう。確かに、それは可能かもしれない。だが、そう考えると、ダバランの心には、後悔と絶望が吹き付けてしまう。 自分が行ったところで、何になるというのだろう。 自分は、ティオルジュに負けた。そしてその結果、アルゼオにもシャルリシア寮生達にも、あのような仕打ちをしてしまった。 すべて、自分のせいだ。自分が弱いから、自分が、シャルリシア寮生達の強さにあこがれるだけで、それを得ることもできなかったから。 今の自分には、シャルリシア寮生達に本当の強さがある事を信じることはできても、自分自身で、何かを成せるなどとは到底思えない。……それに、どんな顔で彼らに会いに行けばいいというのだろう。 ダバランは突如、堰を切ったかのように、嘆願するかのようにそう叫ぶ。心の中に未だに抱えた後悔と絶望。その一端を聞いたアルゼオは、しかしただ、断じる。 ダバラン。自分の罪に惑うな。と。 確かに、ダバランが陥ってしまったことは、少なくともダバラン自身にとっては未だ許されないことだろう。 だが、だから何もできないのだと泣くだけでは、永久に、誰に対しても、それを贖うこともできようはずはない。 そして、シャルリシア寮生達を信じるというのならば……信じると言葉にしたものにも、相応の行動が必要になる。なぜなら信じるというのは、自分ができることを、あるいはできたことを行った上で、その結果を預けられる者達に対してこその言葉だからだ。 こう語るアルゼオは、本当は知っていた。ダバランも、同じ思いを持っているということを。 自分が犯した罪は、自分によってはその肩から降ろすことはできない。だから、ここで他者からの言葉が必要になるのだと。 だから、アルゼオは、力強く示す。さあ、行ってくるんだ、と。 それはお前の償いであり、お前が行うべきことだから、とだ。 そして、「彼ら」の声を聞くべきだ。それがダバランが、これから生きていくことになる本当の未来に必要な、光になるはずだから。 ……アルゼオの言葉を受けたダバランは、しばらくの間、ただ無言だった。 しかし、申し訳なさそうに伏せていたその顔をあげ、アルゼオと視線を合わせた時、その瞳には、確かに決意が宿っていることをアルゼオは感じた。 だから、そこで振り返り、ここではない場所へ意識を向けたダバランの心の姿へ、アルゼオはただ、頷きを持って肯定するのであった。 そして、さらに場面は変わり、ここは現実世界の、とある小屋の中だ。 その小屋に設置されたベッドの上に、小柄で可憐な容姿を持つ一人のヒューリンの少女が座っている。……だが、苦々しくゆがめられたその表情を見てはそう評することもできはしないだろう。少女は、今現在の不機嫌さを隠そうともしていない。 そんなこの場所に突如、リュミル。と少女の名前を呼ぶ声がし、その声の主である男……ザムトが、ノックの音の後に入室してきた。 ザムトの姿を認めたリュミルは即座に、いつまで自分をここに閉じ込めておくつもりなんだ、と食ってかかるも、ザムトは開放を望む彼女に取り合おうとはしない。そんなザムトの態度にさらに苛立ちを募らせたリュミルは、ついに自身の武器である魔導銃をザムトに向けるが、リュミルと自分との実力差についてを理解しているからか、そんな剣幕すらも、ザムトは意に介していないようだ。 ザムトにとって、今ここでリュミルを抑えるのは、自分がシャルリシア寮生達を……というよりは、シャルリシア寮生達を信じることを決めた、自分のかつての仲間たちのことをまた信じ、その役目を受けたからにすぎないことである。ザムトは血気はやるリュミルへ、淡々とそう説明する。しかし、今ここにザムトがやってきたのは、そのようなことをリュミルに伝えるためでもないらしい。ナタフからリュミルのことを頼まれてしまったものとして、今この時、リュミルにある「療法」を試してみるべきではないかと思ってやってきたのだという。 自分が今、受けるべき療法。そう聞いたリュミルは当然疑問符を浮かべている。だが、転送魔術でも使用したのか、その次の瞬間に自分のすぐそばに接近していたザムトに腕をつかまれたかと思うと、ザムトからの一方的な移動宣言の直後、二人の姿はそこから消えさっていたのだった。 視界が再度開けた時、リュミルは仰天する。あたりでは武器と武器がぶつかりあい、気合と苦痛の叫びがこだまし、魔力の爆発が地面をえぐる。……そう、そこは戦場であった。 さしもの彼女として、怪我はほぼ治っているとはいえ一応療養状態であった状態からいきなり戦場の真ん中に連れてこられたことにすぐ順応はできずにいる。そしてその後、ザムトからの警告を受けてかろうじてどこからかの流れ弾を回避してから、ようやく感情の整理が追いついた彼女は、ザムトにどういうことだと怒鳴りつけるも、やはりザムトはそれに悪びれる様子もない。ただ、ここは戦場であり、敵はゴブリン、ヴァンパイアの妖魔軍団に、少数の魔族も存在することを伝え、それと戦うことを提言するだけだ。 なぜザムトがわざわざこのような戦場にリュミルを連れて来たのか?その理由は今のリュミルにわかろうはずもないのだったが、そんなリュミルに、ザムトはこの戦いは、エルクレスト・カレッジの関係者たちがシャルリシア寮生達を守ろうとして起こっているものであり、リュミル達もバウラスより聞かされていた「心の魔」の配下が仲間を集め、攻勢に出たらしいということを伝える。そして、ザムト自身は、魔族の有利となるようなことに事を運ばせないべく、戦うつもりであると。 そしてその上でザムトはリュミルに、お前はどうする。と問いかけた。だが、リュミルはその問いに対し逆に、自分が、シャルリシア寮生達のために戦うとでも思っているのか、と睨み返す。……そう。リュミルはまだ、心の魔による浸食を受け、死すべきのはずでありながら生き続け、そしてさらに言えば、自分にも痛手を与えたシャルリシア寮生達を、憎悪していたからだ。 だが、すでに場所は戦場の真っただ中。仮にも炎の使徒として戦ってきた人間であるリュミルにとっても、妖魔や魔族は敵だ。そして、それよりも優先してもう一度シャルリシア寮生達を襲撃するにせよ、妖魔たちと戦わずして済むという方法はないのだ。 そこまでわかっていながら、いけしゃあしゃあと口を開いているのであろうザムトを睨みつつ、リュミルは苛立ちに地面を何度も踏みしめ、次に会ったら今度こそ殺す、とシャルリシア寮生達への恨み言を口にする。しかし、手にしていたキャリバーが向けられた先の標的は、妖魔たちであった。 そしてザムトもまた戦場を見渡し、その腕に魔力を集め始める。……この行動がリュミルに、あるいはこの戦いにどのような意味を及ぼすのかは、さしもの彼とて知っているわけではない。だが、すると決めたことは、成し遂げなければならないからだ。 ……そして場面は再度、ティオルジュと相対するシャルリシア寮生達へと戻る。あらゆるものを奪われ続ける悪夢の戦いの中、それでも今からのティオルジュの攻撃に対応しようとする一同の頭の中に、突然、何者かの声が響いた。シャルリシア寮生達が、自身らにとっての支配者と呼べる存在、ティオルジュに対してなんの援護もなく相対しているという現状に、驚きと絶望を持った言葉をあげたその主は、ダバランであった。 ラピスは、自身はまだ心を折らないつもりでいたが、幻聴が聞こえるようにまでなってしまったのかとわずかに絶望しかけていたりもしたが、他のシャルリシシア寮生達は、方法はともかく、ダバランが自分たちの元に駆けつけてくれたらしいということを理解していたようだ。しかし、当のダバランはシャルリシア寮生達の戦いが想定していたよりはるかに危機的な状況になっていたことに対する絶望は、隠せないでいる。 しかし、それでも決してあきらめてはいないのか、ということをダバランはミルカに問いかけると、ミルカはまよいなくうなずいて見せた。確かに侵食はきつくなってきたが、まだまだ本当に全てがなくなってるわけではない。それに。 ここにダバランが駆けつけてくれたことには、希望につながる何かがあると思えるから、と。 その返答に、ダバランがかつてミルカの中に見た、強く、惑わない意思が存在していることを改めてダバランは知る。……だが、それでもダバランの声は震えている。それは、かつての後悔と、情けなさゆえだ。 自分があの時心を折ってしまったせいで、シャルリシア寮生達は今ここで、こうして戦うことになってしまった。自分は、してはいけないことをしてしまったのだ。 ……しかし、そんな自分にも、ほんの少しでも、できる何かがあるのかもしれないと思った。そして、今こそ憧れていただけではなく、シャルリシア寮生達の持つ心の強さを、確かに自分も持って戦いたいと思ったのだ。かつて、あのような仕打ちをした身で、こんなことを望むのはお門違いかもしれない。だが。 共に戦わせてほしい。シャルリシア寮生達のために、シャルリシア寮生達と一緒に。 そんなダバランの決意を、ミルカは微笑みと共に受け入れる。それがあなたの望みならば、私達はいつでも手を取り合うことができると。……例え、このように辛く、苦しい時でも。 それに続き、かつてしたことに取り返しがつかないなら、これから先くらいはよくしていくべきとラピスが言い。ジャックも、いずれにせよ、結果的にはティオルジュと戦うのが今か後かというだけのことだという言葉を送る。そしてレシィは、すでに許しているといわんばかりに、ここから帰ったら兵法について勉強させてほしいと伝えた。 シャルリシア寮生達から許しを受け、ダバランはただ、感謝の言葉を繰り返す。……しかし、その言葉にもう震えは無い。 自分も、全力で戦う。例え、それがほんの僅かな力であっても、その力を尽くして。 自身らと同じ運命を持ちながら、その運命に押しつぶされ、手を取り合うことのできなかった最後の一人。 その心は今間違いなくシャルリシア寮生達と1つになり、彼らと共に今度こそ、運命に立ち向かっているのだ。 ……そしてダバランの心が、シャルリシア寮生達と共有されたその時。ミト、ラピス、レシィの3人は、確かに声を聞いた。あまりにも遠く、かすかな音ではあったが、それを3人が聞き間違えるはずもない。なぜならそれは、まぎれもなく、それぞれの一番大切な人からの呼びかけであった。少なくとも、そう感じることができたから。 それは、3人にとっては漆黒の闇にさした光にも等しい、まばゆく、そして確かな希望だった。その喜びを思わず互いに確認しあい、表した3人の様子を見て、ダバランはふと、考えていた。 3人ともが聞いたというその「声」が錯覚ではないのであれば。その声の持ち主は、確かにまだこの空間に近しい場所にいるということのはず。 ならば、それはひょっとして、彼らがこの場所を目指して進むことができているからではないのか。 ……そのダバランの考えを証明して見せるかの如く、突如、ある声が聞こえたのだ。 ……入学( )以来これまで、様々なことが、あった。 依頼を受け、学園を駆けまわり。( ) 恋の争奪戦を勝ち抜いて。( ) 料理の入り乱れる激戦を制し。( ) ファミリアとの共生を一方的に蹂躙する思想をくじき。( ) 隠されていた学園の謎と脅威を暴き。( ) 愛を繋げ合えたキャンプをこえ。( ) 謎多き悪魔の片鱗を味わい。( ) 神の戦士に生き方を見出させ。( ) 砂漠の闘争に1つの団円をもたらし。( ) 国に巣食う邪悪の一つを消し去り。( ) 学園をあげた祭りを楽しみ。( ) ……大きな、悲しみを負って。( ) 世界の意志以上に、人の意志を強く持ち。( ) 異世界からの危機より、隣人を救い。( ) 自分たちに託された願いと、立ち向かうべき本当の相手を知り。( ) そして。仲間の存在と自分自身を信じ、今ここにやってきたのだ。( ) ……本当に、色々なことがあった。その中で彼女達シャルリシア寮生は、笑い、喜び……怒り、悲しみ……戦って、きた。 こういった経験は、彼女達を成長させてくれた。おそらく、同年代の冒険者見習い……あるいは冒険者と比べたとしても、その能力と心の強さは、決して劣るものではないはずだ。 ……しかし。本当に大切なのは、それだけではない。 こうした経験の中で得てきたものは、それだけではないのだ。そしてそれこそが、人が生きる中で、本当に見つけ出し、育んでいくべきものなのかもしれない。 だから彼らは、まるで光に導かれるかのように確実に。シャルリシア寮生達の元へやってくることができたのだ。 デュフェール、ミリティス。 サイオウ。 メンファ。 アーゼス。 マナシエ、ウィルテール、『赤い服の』マリー。 レイス、ビーク、ユエル。 デアス。 ドゥーラ、セイ。 ガイブ、マゼット。 メギアム、サーニャ、部長。 ナタフ、シズナ。 チーフ、イッシー、フェイエン、エンジェ、ハナ。 シャルリシア寮生が救い、そして信頼を築きあった仲間たちが、一人、また一人とシャルリシア寮生達の心の傍に表れ、そして、迷いも恐れもなく、傍にいてくれる。 それは、決して精神的な支えとなるだけではなかった。媒介に頼らず、直に結びつきあった彼らの心は、わずかにだが、彼らそれぞれの特性にあわせてシャルリシア寮生達を強化してくれており……そして、奪われた彼らのスキルもまた、その特性に辿られるかのように解放されていく。……一人一人では、それはごくわずかな助けでしかない。だが、信頼し合う仲間の助けを更に得ていくにつれ、シャルリシア寮生達の力は、むしろそれ以前よりも強力になろうとしていた。 アーゼスの到着により、一同がファミリアを再度得た(ことによって、ドゥ君が激しく自己主張をした)あたりで、シャルリシア寮生達の身に起こりつつある強化に明確に気付いたティオルジュは、再度シャルリシア寮生達とそれ以外の者の心の繋がりを断とうとするのであったが、今度は、それにより彼らが分け隔たれるようなことは起こらなかった。……あまりにも強い信頼によって、互いが手を取り合うかのように結びつきあった彼らを、ティオルジュの能力は切り離すことができなくなっていたのだ。 次々に生徒達が到着し、ついに、シャルリシア寮生達と共にここまでやってきた者と、そしてダバランを加えた全員がそこにはやってきていた。そしてその全員からの助力を得たシャルリシア寮生達の力は、もはや元通り、というレベルではない。 そして……彼女たちの懐の中に今も収められている、小さなメダルが突然、かすかな煌めきを放った。それと同時に、また、声が聞こえる。 (……がんばれ) (……俺の、願いは) (お前たちが、明日もまた、未来を信じて、生きていける、ことだから……) それは、ひょっとしたら幻だったかもしれない。 しかし、シャルリシア寮生達は、そう思わなかった。確かに、『彼』は、今ここで、最後の戦いを行っている自分たちのことを、見てくれている。 恩師に、恋人に、友に。自分と共に歩んでくれる全ての存在が、確かに傍にいる。もはや、精神的にも能力的にも、ここに来る直前までの力を遥かに凌駕するほど、シャルリシア寮生達は漲っていたのだった。 そして、そんなシャルリシア寮生達を前に、ティオルジュは圧倒されていた。それまで彼女達を苦しめた認識操作も、多数の意識を直に共有したシャルリシア寮生達にはもはや通用しない。そこでティオルジュは初めて認識をする。シャルリシア寮生達は今、ティオルジュを滅ぼしううる天敵としての能力を、ついにその身に宿したのだと。 ……そして理解する。この戦いはもはや、シャルリシア寮生を滅ぼすだけの戦いではない。真に、互いの存亡をかけて争うものになったことを。そして、それを成したのは、これだけの生まれや特性を異にする人々に、本気で信頼されるほどの行動を行ってきた、シャルリシア寮生達の人生の賜物であることをだ。 だから、ティオルジュが取るべき行動は、ただひとつ。 後の事、これからのことを考慮する余裕はない。ただ、自身に与えられた魔族としての力を全開にし、シャルリシア寮生達をねじふせる。 シャルリシア寮生達が抱く、希望や願いと、ティオルジュという、呪いの真っ向からの衝突。 本当の「最後の戦い」が、始まるのだ。 ……そして、彼女たちのいるその世界の外では。 妖魔王、そして上位魔族。腕利きの冒険者ですらかるく屠って見せるであろうその存在達に対し、エルヴィラ達は真っ向から渡り合ってみせていた。……そして、ファム達もまだ、倒れてはいない。自分たちにもてる力のすべてを発揮し、そしてできることを確実に受け持っていくことで、彼女達もまた、確かにこの戦場に対応して見せているのだ。 ……しかし、人間とはケタ外れの力を持った妖魔王と魔族に、焦りはなかった。ブレアスの冷徹な声による戦況分析に、ヴァリアスはすかさずまだまだやれる、と声を上げる。 だが、幾度もの打ち合いによって彼自身が疲弊し始めているのを、ルアダンは決して見逃さなかった。醜悪な顔をにたりとゆがめ、その若い命を害そうと、喜々として斧を振り上げ……それに対応するヴァリアスの動きが一瞬、遅れた。そしてその時、すかさずルアダンとヴァリアスの間に割って入る者がいた。カッツだ。 そう、それは確かに彼の役目であり、彼はその護衛術によって、幾度もパーティの危機を救ってきた。 ……だが、今目の前に迫るのは、大地すら抉り取ると言われる、あのルアダンの一撃なのだ。それをまともにうけたら、いかにカッツといえど。 覚悟を決めたように眼の前の攻撃を見据えるカッツと、それに防護の術をかけるため、ただ精神を高めるような……あるいは、祈るような表情で杖を握るカミュラ。まるで一瞬時間が止まったかのような極限の状態の中……閃光が、走った。 いや、それは本当の光ではなく、剣閃だ。美麗とすらいえるほど無駄なく、そして鋭く放たれた一振りの剣がルアダンの一撃をうちすえてそらし、そして、その刹那、絶妙なタイミングで振るわれた、2刀目による再度の剣撃がルアダンのバランスを崩させ、更なる踏み込みを阻害する。 ついさっきまで、この場にそのような技を、そして、2本の長剣を得物とした者はいなかったはず。しかし、まるで風のように突然にその場に現れ、カッツの危機を救ったのは、仮面をつけたヒューリンの女性だ。その存在に、そしてその技に驚愕したティオルジュの配下が、思わず何者と問いかける。彼女はそれに、名乗るほどのものではないが、と前置きをした上で答えた。 自身はただ、さる者の命を受け、かの者の力になるため参上した。呼び名が必要なら、仮面の騎士、とでも。と。 カッツの危機を救った仮面の騎士は、そのままエルクレスト・カレッジ一同の味方にと加わるようであった。 ……だが、一度とはいえ、妖魔王の一人として名をはせる、ルアダンの攻撃を捌き切るほどの力を持つ者がさらに敵に加わったとなっても、彼らは決して動じてはいない。所詮は塵芥のものといわんばかりに、ベルゼブブとブレアスが、その場にいる全員を飲み込もうとするほどの強大な魔力を解き放ち、追撃を加えようとする。その気配に、そこにいる全員が再度身構えた時……またも、そこにいる者達の外から飛んでくる力が、あった。 魔力をかき乱し霧散させる対抗呪文が、ベルゼブブの地獄のごとき腐敗の魔法が形になる前に相殺させ、正確に放たれた無数の弾丸が、ブレアスの放った無数の茨を撃ち落として被害を抑える。 それを行ったのは、ザムトとリュミルだ。くるやいなや、ザムトはこの場に揃った人間側の戦力がこれだけのものであるにもかかわらず、戦闘が長引いていた理由が上魔族と妖魔王によることを納得し、リュミルはこっちにくるなりいきなり全体攻撃に巻き込まれそうになった、と悪態をつきながらも、油断なく魔族や妖魔王……彼女の敵を見据えていた。 この一瞬の間に現れた見知らぬ3人からの加勢には、助けられた側であるエルヴィラ達もまた、困惑をせざるをえない。特に、仮面の騎士の時はなぜかその存在をすんなり味方として認めているようですらあったキキョウは、ザムトとリュミルには懐疑的な態度を向けている。だが、ザムトはその視線を受けてなお、自分たちは味方である、と答えてみせた。何故なら自分たちは人間であり、それを滅ぼそうとする魔族や妖魔と戦うべき存在であるから、と。 その言葉を、根拠あって信頼できる理由はなかっただろう。だがザムトが続けて言うように、今は人間同士の中で言い争いをしている場合ではないことは確かであり、そして、実際にその言葉通り魔に相対した彼ら二人は、まるで魔との戦争を幾度も潜り抜けて来た戦士であるかのような覚悟と風格を周囲の者に感じさせてすらいる。……ゆえに、キキョウの勘は、この二人もまた現在の味方と判断することを認め、その決断は他の人々にも伝わっていた。 そしてこの場に、人間とは持って生まれた力が圧倒的に違う種族であるものたちに対し、それでも守るべきもののため、その目的のために立ち向かう者達が、合わせて11人。 ルアダン、ブレアス、ベルゼブブ。それらの攻撃をいなした今が、反撃の好機。……今この場に、もう一度力の嵐が吹き荒れようとしているのだ。 ……数度の交錯があった。桁違いのはずの魔力と暴力をその身に向けられながらも……それでもまだ、エルヴィラ達は誰一人として倒れてはいない。いやそれどころか……時によっては押してすらいるように見えた。 ここにきて、彼ら妖魔王や魔族達は、目の前に立ちふさがる人間たちが、もはやただの獲物ではないことを認めざるを得なかったといっていいだろう。それでも、ベルゼブブ達はその余裕をまだ失ってはいなかったが、人間たちの思わぬ抵抗力に気圧されたのか、ティオルジュの配下は、焦るように口を開いた。例えここでどれだけ持ちこたえようが、作戦の真の目的が軍勢によるシャルリシア寮生達の身体の確保である以上、それはその守りを手薄にしているということなのだと。 ……そう。それは事実だ。先だって指揮陣営にてシャルロッテ達が案じていた通り、核となるはずの強大な戦力をかいた状態で、残りの生徒や教員たちだけでこのゴブリンとヴァンパイア、そして魔族すら組みこまれた軍勢をすべて防ぎ切るというのは、困難を極める。故にこの状況になっている時点で、戦いの勝利条件は自分たちのもの。ティオルジュの配下は、そう確信していたのだ。 しかし、それにザムトが切り返す。はたしてそうかな、と。 何故なら、つい先ほど自分たちが見てきた全体の戦況は、ティオルジュの配下の言っているものとは違うものであっただろうからだ。……その言葉に思わず聞き返そうとしたとき、突然、妖魔のうち1体があわただしく自らの主たちの元に飛来し、そして報告したのだった。 「本作戦に投入されていた我が方の部隊が、ほぼ壊滅状態にある」と。 その報告を聞き、ブレアスとルアダンは、驚きを感じていただろう。……確かに、ここにこうして首魁たる自分たちが赴いてきているとはいえ、それはあくまで、今目前にいる人間たちのような存在を警戒する、ティオルジュの配下に乞われてのことであり、引き連れた勢力まで総力を挙げたものだった、というわけではなかった。 しかしそれでも、その報告が事実と言うのならば、自分たちの軍勢が、まだ冒険者ですらない子供を主とする者達に破られたということになる。そんな妖魔王たちの考えを察しているのか、報告にやってきた妖魔は終始おびえた様子ではあったが、それでも続けて伝えた。……戦闘中、ある時を境に、敵の用兵が見違えるほど洗練されたものになったというのだ。……まるで、こちらの全てを知っているかの如く。 妖魔の語ったその話は、ブレアスやルアダンにとってだけでなく、ファムやエルヴィラ達にとってもまた、正直信じ固いことではあった。もちろん、防衛に残してきた仲間たちが敗北する、と思ってここに来ていたわけではないが、そのように戦況が一転する要因など、一体どのようなことだというのか。それに思い当たることは、彼女達にもまたなかったからだ。 ……だが、その真偽はともかく、更なる希望を描き、自らを奮い立たせるには悪くない情報であったともいえる。困惑の色をわずかな時間で取り除き、先ほどまで以上の気迫で魔を滅せんと勢いづく人間たちの姿は、仮にも魔族であるティオルジュの配下が、思わず一瞬怖気づいたほどの気迫だ。……しかし、その状況の中ただ一体、不敵な表情を浮かべ、崩さない存在がいた。そう、ベルゼブブである。 ベルゼブブは上位魔族にふさわしき圧倒的な邪悪さをもって笑い、いいだろう、と言い放った。その言葉の意味を、味方のはずのティオルジュの配下が問いただそうとしたとき、ベルゼブブは、その恐るべき力を解き放とうとしていた…… ……そこから、わずかに時を戻し。 シャルリシア寮生防衛隊の指令部、シャルロッテたちがいるその場所に今、それまではいなかったはずの一人のエクスマキナの男がいた。 男の周りには、球形をした無数の機械が飛び回っている。そしてそれはそこからは見えるはずのない、離れた場所の光景を男へと伝えており、男はまるで、この戦場のすべてをそこに居ながらにして知るかのようだった。そして、その口から伝えられるのは敵を倒す、あるいは効果的に足止めするための策であり、それはどれもが的確だ。この男の存在によって、防衛に回った生徒達は優勢を得たのである。 その唐突さと手腕に、半ば唖然としたシャルロッテが、何者なのだろうか、と思わずこぼしたが、それを聞いたシリルが、おそらく彼は「指導の達人」と呼ばれたエクスマキナ、ディアロであろうことを答えた。 シリルのその推測が事実であるなら、多くの冒険者や迷える者に助言や技術を与え、導いたとされる彼が自分たちに危害を加える可能性は高くはないのだろう。現に、彼は今こうして、シャルリシア寮生達と、ここに残ったその他の人びとも救っている。 ……だが、ずいぶん前にエルクレストから去ったと言われていた彼が、なぜ今この時に、あまりにもタイミングよく現れ、そして当たり前のようにシャルリシア寮生達や、自分たちを助けようとしてくれるのか?それは、無視し続けていい問題ではないはずだった。 そして、指示がひと段落したであろうタイミングを見計らい、この場にいた全員が持っていただろうその疑問を、フィシルは代表するかのようにディアロへ問いかける。何故、自分たちの味方をしに来てくれたのか、と。 自分たちよりも、はるかに高度な能力を持った存在であることは理解していただろう。しかし、それを聞くフィシルの声には、戸惑いのようなものはあったとしても、恐れや震えはなかった。そんな一人の学生からの問いかけに、ディアロは少しの間、満足そうな表情を浮かべたあと、答える。 まず1つ。自分自身がかつて、わずかながらにシャルリシア寮生達と交流を持つ機会があり、その結果、彼等のあり様を好ましく感じたからということ。 ……そしてもう一つ。自分には、本来この件に関して無関係というわけでもない身内がいるが、それがどうしても、戦いがあると知りながらもこの場にやってこようとしなかったことで、せめてその代わりにと思ったからだということを。 身内、という謎の存在が話に出てきたことで、シリルは反射的にそれを聞き返そうとしたが、対するディアロは、それについては話すつもりもなく、気にする必要はないとさらに答えた。結果として、確かな納得を得ることができなかったシャルロッテが、少し声を荒げつつも追求しようとしたのだが……その瞬間、空気が、変わった。 遠い。少なくとも今いるここからではない。 しかし、それは逆に言えば、それほど離れているはずなのにまるで全身を突き刺すような危機感を持って感じられる、強大な魔力だ。 その感覚に少しだけ眉を顰めつつ、ディアロは解説する。ベルゼブブが、本気を出そうとしている、と。 これまでは部隊や戦力によって駆け引きを行っていたが……いよいよ全てが面倒になって、自分の魔力による力づくですべて消し飛ばそうというのだ。 その解説を聞いたシリルが、珍しく嫌悪感を露わにし、所詮は魔族か、と悪態をつきながらも、対抗策をディアロに相談しようとする。しかし、ディアロは心配はいらない、といった。 今この場所に、最強の援軍が到着しようとしている。あとは「彼」に任せよう。 そのディアロの言葉が、具体的にどういう意味であるかを理解できるのは、その時には彼のほかにいない。だが、ディアロはそれ以上の説明は不要とばかりに、最後に指示を飛ばしていた前線の生徒達にも心配はいらない、というメッセージを送って周囲の機械をしまい、そしてその場を去ろうとする。次の目的地へ向かわせてもらう、と。 それを思わず引きとめようとするシリル達ではあったが、ここに自分がこれ以上留まることに意味はないとばかりに立ち去るディアロの足は止まらない。 ……しかし、その「次の目的地」に向かう途中、ディアロは一言だけ、呟いていた。 サタン。……まさか、本当に…… と。 ……ベルゼブブがその眼前に集約させた強大な魔力の塊は、それが炸裂すれば今ここにいる者達はおろか、学園自体を巻き込んだ全体へと被害を及ぼすのではないかというほど強大なものだ。 そしてそれは当然、ベルゼブブの味方側であるはずのルアダン、ブレアスとその軍までも巻き添えにしてしまうということであり、さすがに両者はベルゼブブへの反感をあらわにしたが、ベルゼブブは学生如きに抵抗を許すような戦力は、もはや腐り消えても何も問題はないと言い放ち、その蛮行を止めようとはしない。 もはや今から、その攻撃をやめさせる手段はない。その場にいるベルゼブブ以外の全員が、これから放たれる圧倒的災厄に何としても対処すべく防備を固めている。……だがその時、ザムトとリュミルが、この場に更なる異質な、そして強大な力が迫っていることを感じ取った。そして、二人に送れて他の者達もその「何か」に気づきその方向へ視線を向けたと同時に……ベルゼブブはその魔力を解き放った。 この世のあらゆる腐敗を内包するかのような、あまりにもどす黒く、穢れた魔力の塊は、ベルゼブブの手から離れるとともに一直線に飛び、エルクレスト・カレッジ関係者と妖魔、魔族達が戦う戦域全体の、ちょうど中心ともいうべき位置へ落ちる。そして、爆発の前兆と言うべき大きな脈動が走り、その腐敗は全てへと炸裂する--その瞬間だった。 鼓動する魔力の塊の周囲を、まばゆい輝きを放つ光の壁が、突如覆う。そしてその中でついに破裂した魔力が一斉に広がり始めるも、その光の壁は、邪悪たるその魔術をひとかけらたりとも逃がしはしない。 まるでその壁がこの世と地獄の境目であるかのような。そう思えるほどの禍々しき暗黒が、もだえるかのように激しく壁の中で跳ねまわり続けていたが、時がたつにつれ、それも終わりを迎えつつある。壁の中の闇がその色を薄れさせ、やがてそこにも通常の景色が見えるようになった時、そこに残っていたのは以前輝きを失わぬ、その壁だけであった。 ……ベルゼブブの魔術が抑え込まれたこの時、この場にいた人間たちが感じていた感情は、安堵と言うよりも驚愕に傾いていたといっていい。上位魔族の本気すら、単独で抑え込むほどの圧倒的神聖魔術。それを操る存在が、この場にやってきたことに。 そして、エルクレスト・カレッジの反対側から、確かにこの場所を目指して進んでくる、まだ遠い人影がある。だが、その距離からでも思わず目をそらせなくなってしまいそうなほどの、圧倒的な力のオーラ。奴こそが、この所業の行使者に違いない。それは、その者と深いかかわりのあったザムトとリュミルだけでなく、その場にいた全ての者が理解していた。 「神の武具」バウラス・ジーク・スヴァルエルトがやってきたということに。 その存在を認識した直後、ブレアスはすぐさまに、軍の撤退を判断し、配下へと通達していた。戦場のレベルは、もはや人類抹殺の一環として、ティオルジュの策謀をたわむれに手伝うというレベルを越えてしまったからだ。そしてそれに続き、ルダアンもまた、非常に不愉快そうな表情を浮かべつつ、ゴブリン軍団へ撤退を命じる。 ベルゼブブは愉悦のような困惑のような、なんともつかない声音で、まさか自分を震えさせるほどの人間がいたとは、とその存在を評する。……しかし、彼もまた、ティオルジュの配下の提案に戯れとばかりに乗りかけてここに来たのである。この状況下でバウラスと討ちあうことは得策でないと、その頭脳は理解をしていた。 こうして、こちら側の戦いの切り札であったはずの上位魔族と妖魔王を失うことになったティオルジュの配下は、悲鳴のような声で馬鹿な、と繰り返した。そして、その驚きと迷いを経て、ようやく冷静さを取り戻した時、この作戦を中断し、自分もまた撤退するべきだと判断したのであったが……そのわずかな遅れが、彼にとって凄惨なる結末を呼んでしまう。 何者かに掴まれた、ということを感じ振り向いたとき、その眼前にはバウラスがいた。ついさっきの瞬間まで、遥か彼方にいたはずの男が。 その現象に理解が追いつかず、思わず間の抜けた声を出してしまったティオルジュの配下であったが、彼にそれ以上の思考の時間は与えられなかった。その直後には、バウラスがもう片腕で振りかざしていたメイスによって叩き潰されていたからだ。断末魔の悲鳴をあげながらその頭部を損壊させたあわれなる魔族は、そのまままるで天に捧げるようにつるしあげられた跡、巨大な光の柱に呑まれ、跡形もなく消え去ったのであった。 ……ほんの数秒前まで、崩壊と混沌の予兆に満ちていたはずのこの戦場に、あまりにも唐突な静寂が訪れた。動ける状態にあった妖魔や魔族は、すでにその主らと共に撤退している。 その静寂の中、半ば呆気にとられたような表情ながら、ファムが戦いが終わったのであろうか、と口にし、それをきっかけに正気を取り戻したかのように、リュミルがバウラスへ、どうしてここにきたのか、と問いを投げかけたが……バウラスはそれに、答えることはなかった。 いずれにせよ、この戦場から心の魔の策謀に加担するものはいなくなった。それをナイルやライベルが確認すると、カミュラは、自分たちもシャルリシア寮生達のもとへ向かい、無事を確認するべきだろうかと提案した。そしてそれにキキョウがうなずいたが……彼女はその時、バウラスもまた、そこに向かおうとしていることに気づくのだった。 未だ一言も言葉を発しないまま、バウラスはシャルリシア寮生達のいる、行動を目指し進んでいく。だが、それに対して、杖を突きつけつつ制止しようとする者がいた。エルヴィラだ。 エルヴィラはまず、バウラスの助力に感謝の言葉を述べた。しかし、もしその進行目的が、シャルリシア寮生達を害することにあるのであれば、その先に進ませることはできない。 バウラスの全身から放たれる、あまりにも圧倒的な神気に圧倒されながらも、学園の長は決して怯まず、そう言い放つ。……しかし、バウラスは止まらない。また、エルヴィラの持っていた杖も、まるで空気そのものに叩き落されたかの如く、地面に転がされてしまう。その様を見て、リュミルは思わず、バウラスが本気でやるつもりだというのなら、それを止めるなどできるはずがないと口にしていた。 そして、ザムトもまたリュミルのその言葉にうなずくのであったが……しかし、と続けて、彼は言った。 今日にいたるまで、ここにいるエルクレスト・カレッジの先生、あるいは生徒達が行ってきた努力とは、ひとえに、心の魔にシャルリシア寮生が屈し、人を滅ぼす破壊の化身となってしまうのを防ぐための事だったはずなのだと、ザムトは知っている。 そして、それが本当に叶うとするのであれば。もはやシャルリシア寮生達は、人に仇なす存在を滅ぼす者である、バウラスの敵とされる理由がない。だから、ここでエルヴィラや、ファム達にとって大切なことは、もはやバウラスがシャルリシア寮生達の元へ、たどり着くかつかないかではない。 今日のことを含む、今までにやってきた全てのことと、そしてシャルリシア寮生達自身の強さが、心の魔に勝利し、その運命を切り開くのかどうか。ただ、それだけなのだ。 そのザムトの言葉を聞いて、少しの沈黙の後。その場にいる全員の心を代弁するかの如く、ファムは答える。 大丈夫。シャルリシア寮生達は。そして私達の仲間は、必ず勝つ。 その答えの後に、バウラスに続いて講堂へと向かっていく彼女達の姿に、迷いはないのであった。 それと時を同じくして。講堂内には、心がティオルジュの元へと戦いに向かい、おいてかれた肉体だけとなった生徒達の肉体と、そしてそれを不満げに見つめるエーエルがいた。そして、そこに一人、外からの参入者が現れる。ディアロだ。そして、彼は初対面となるエーエルに自己紹介を行うのだったが……その時、彼は自らを「ディアロ・トゥエルヴ」と名乗った。 ディアロがただ物ではないことは、彼が外で戦線の指揮をとった時にはすでに、エーエルは理解していた。そして、その力量とその名前、そして彼がエクスマキナであることが加わった時……エーエルはディアロを、ナンバーズデビルの……ハルファスの一員であることをすぐに思い立たせ、また、ディアロもそれを狙い、自らの真名を明かしたのである。 そして、そんなエーエルにハルファスは、自分はこの場所に、シャルリシア寮生とのわずかな縁と……ハルファスの代理としてやってきたのだということを明かす。 ハルファスはその性格ゆえ、自らとこの件のかかわりを否定し、決して関与することはないという姿勢を固辞していた。……だが、妖魔王と上位魔族という相手まで来ていたこの戦場に来ることを、あのハルファスが本来、そこまで断固拒絶する理由はないはずであり……つまるところ、かつて自分が見限った相手であるエンザの目的を、今さら助けてしまう形になることを嫌っていたのだ。しかし、そこまで心の中にエンザの行動のことが残されているのは……少なからず、ハルファスの中に思うところが、まだ残っているはずでもある。 しかし、それを告げても、ハルファスは決してそれを認め、ここにやってくることはないだろう。だから、自分が代理としてきたのだと、ディアロは言う。 ディアロがハルファスの代理として、勝手にこの場にやってきた。それ自体はいいだろう。だが、今エーエルが気にかけたのは、外にバウラスもまた、やってきているということについてだった。結果として、外の戦場にはこの二人がやってきたことによって、大きな被害すらなく状況を鎮圧させることができていた。……そして、自分はシャルリシア寮生達が、ティオルジュを倒すための手助けとなる行動を行ったのだ。 どういうことだというのだ。とエーエルは苛立ちながら叫ぶ。バウラスも、ハルファスも、エーエルも。全員が全員、エンザのやろうとしたことを見限ったから、エンザは仲間を失ったのではないのか。 だが、これではまるで……結局は3人ともが、エンザの願いを聞き入れてしまったようなものではないのか……そう感じてしまう感情のはぜりを、ディアロもまた、理解していたようだった。ゆえに彼は、エーエルに向かってこう投げかける。 確かに、それはエンザの選んだことを、愚かなもののままとして断じたかったエーエルにとって腹ただしいことなのだろう。だが、それはディアロにとっては、そこまでおかしなこととは思えないことだった。なぜなら、人の行動の結果は、一つのところに集結することが定められるものではないはずだと考えられるからだ。 確かに、エーエルもバウラスもハルファスも、エンザと決別し、見限った。しかし、エンザからはそうではなかったのだろう。 例え思想の違いからの決別を拒めなかったとしても……それでもエンザにとって、バウラス達は仲間だった。その力と心を理解し、そして頼ろうとしていた。そうできるよう願っていたのだ。 そして、エンザが死んだとしても、彼の残した道を受け継ぎ、それを信じてくれる者達がいる。だから、彼の願いもまた消えない。それがこうして、完全に別たれたかに見えた縁を、呼びよせているのだ。 願いは消えていない。ディアロはそういったが、エーエルはそれに対し、それももう終わる、と返した。エンザの道と願いを受け取った少年少女達……シャルリシア寮生は、ティオルジュに対抗する術を失ったのだから。 それを聞き、ディアロは一度頷く。確かに、状況は絶望的な局面にまで、ついに追い込まれたのかもしれない。だが、その絶望的な場面のはずながら、シャルリシア寮生達だけでなく、それに力を貸すためここで眠る生徒達の誰もが、まだ戻ってきてはいない。ティオルジュに立ち向かうためその元に向かった生徒達は、まだ一人として諦めていないのだ。 エーエルはそれを、自ら被害を拡大させる選択だ、と非難する。しかしディアロはこう口を開く。 エーエルという人物についての評判を聞くに、エーエルにとって、知識とは自分だけのものであればいいのだ。ゆえに、何かに教えられるという事に、感謝をする必要がない。加えて、自分にはその気になれば、ほぼすべてを知ること能力があるのだから、自分が今知りえない領域に、あえて興味を持つ必要もない。 だが、であればだからこそ。その自分の知りえない領域の中に、今の自分には気づけなかった価値がある事を教えてくれるものがいたら、そのものへの感謝を持ってもいいはずだ。それは、自分一人では、きっとたどり着くことのできなかった領域にであったはずだから。……ディアロは、そう考える。 ディアロのその言葉の意図をつかめず、エーエルはさらにいらだっているようであったが、ディアロはそんな彼女に構わず、冷静で、平穏な様子のままで続ける。つまり、ここで今エーエルがやっているように、自分の思う通りに人が動こうとしないことに、そこまでの苛立ちを感じる必要はないはずだと。 エーエルにとって、シャルリシア寮生達の失敗は、自身の思う通りになるということ。そして成功は、エーエルだけでは見いだせなかった、新たな境地に他ならない。 願うならそれもいいだろう。だが、恐れることはない。今のこの状況は、エーエルにとってそういう場面ではない。 エンザが命を懸けてつむぎ、シャルリシア寮生へと託された道が何を結ぶのか、それを見届ける心を持つ。それだけのはずだから。 ……そして、そこから先、ティオルジュとシャルリシア寮生、そしてその友人たちの戦いが終わるまで、二人は言葉を交わさなかった。 その身に友の、あるいは恋人たちの心と力を宿らせたシャルリシア寮生達を前にして、ティオルジュはもはや、これまでのように力を温存することはできない。ティオルジュは、シャルリシア寮生達がここに来るときに戦ったものとにた、シャルリシア寮生達それぞれの力の片鱗を持つ影を周囲に呼び出しただけでなく、ティオルジュ自身の力も、さらに増幅させていた。ここから繰り出される攻撃は、先ほどの比ではないだろう。シャルリシア寮生達がその全力を取り戻したとして、なお強大な敵である。 ……しかし、そこに加えられた信頼の力は、精神世界であるこの場において計り知れない力を彼女達にもたらしている。ティオルジュは確かに強く、しかもその力を、時間とともに増大させていく。ならば、今もてるこの力を、全ての思いをのせて全力でぶつけるまで。 最初にさしむけられたティオルジュの連撃と、そしてそれに続くように仕掛けられた影たちの攻撃のほとんどを、ラピスの魔術による強化と、ミトによる守護、何より自分を信頼した仲間たちの数だけ加えられた、運命の力で回避し、切り抜けた一同は、レシィによって強化された行動力を持って攻勢にかかる。ミルカによる、ティオルジュと影たちをすべて巻き込んだ魔術は、今持ちうるありとあらゆる力によって増強され、ティオルジュ以外の敵をほぼ消滅させることで口火を開き、脅威が軽減されたティオルジュのふもとへと、満を持してジャックが踏み込んでいく。移動の分だけ、その力は削がれているはずだが、今のジャックはそれを微塵も感じさせないほどの力をその身にたぎらせている。この二人の攻撃だけでも、ティオルジュは大きくその身を揺らがせざるをえなかった。シャルリシア寮生達と、それに心を預けた仲間たちの力は、今度こそ間違いなく、通用しているのだ。 そしてそのわずかな隙を逃さぬように、閃光の如きクレハの一撃がさらにダメージを奪った上で、ここが勝機とばかりに決死の行動力にてシャルリシア寮生達は再度の攻勢に入った。ティオルジュそれに呼応するように新たな影を増援として生み出すも、ミルカの連続魔法はそれをまたもまとめて薙ぎ払っていく。そしてそれによりさらなる傷を負ったティオルジュが怯みを見せた時……一瞬、世界が光に包まれた。 ……全てが光に包まれた中で、姿なき声がする。穏やかなようで……しかしどこか厳しい、女性の声だ。 声は言う。「あなた」の役目は、その名に示された通り、人類への毒となることである、と。 我が主は仰った。傲慢にして横暴なる、人と言う種族に滅びの鉄槌を、と。 「あなた」はその使命の通り、人を全て滅ぼすのだ。 ……しかし。 ほんの一瞬の間、その幻を見たシャルリシア寮生達であったが、この時にはもう、先ほどまでと同じ、ティオルジュとの戦いの場へと情景は戻されていた。……だが、どうやらそれが見えたのは、シャルリシア寮生達だけではなく……ティオルジュも同じであったようだ。そして、彼もまた、突如現れたその幻に困惑していた。それが一体なんであるのか……それを彼自身もまた、知らなかったから。 だが、戦いは終わらない。ほんの一瞬だけ戦いの手を止めざるを得なかった両者であったが、今がなお、決着をつけねばならぬ時であるのは、誰もが知っていたから。 そしてその意を表すかの如く、ジャックが再度、その剣を振りかぶった。今度の攻撃は、移動してからのものではない。解き放たれるその瞬間を待ちわびたかのごとき剛力の剣閃が、怒りの力を持ってティオルジュを撃ちすえる。一撃でも大地を割り裂くのではないかと思うほどのその攻撃を、ジャックは二度。そして、ミトの力を借りての再行動により、計四度繰り出し、ティオルジュに絶大的なダメージを与えていた。 ティオルジュが大きく揺らぎ、その表情をゆがませる。そしてその時……また、光が彼らを包んだ。 またこの光景。そして、聞こえてくる声も同じものだ。声は、先ほどの続きを語っているようだった。 主の下僕でありながら、私は思う。……人は本当に、滅ばなければいけないだろうかと。 確かに、主を陥れ、その命を奪って頂上種と言う覇権に酔おうとしたことは、制裁が下るに値する。しかし、その責を人類だと言うだけで他のあらゆるものに背負わせ……そしてあまつさえ、異世界の人類にまでそれを及ばせることが許されるのだろうか?……もはやそれは、行き過ぎた怨嗟としか、いえないのではないかと。 ……しかし、「あなた」がそうであるように、私もまた、創造主の意思に逆らうことはできない。そして、呪と怒りのままに命を落とした主の意思は、すでにそれのみが怨念となり、変わることがなく、その責を誰も、負わせることすらできなくなったのだ。 よって、「あなた」はこの世界に放る。そして、はじめはわずかに、いずれは致命的に人へ浸食し、人を増すばかりの絶望に染めて滅ぼすであろう。……だが。 もし、主が人を滅ぼすことを決めた原因となった、傲慢にして横暴に満ちた人の負の性質を。 自らの意思ではねのけ、そして、他者とも互いに調和し合っていくことで、よりよい未来を描いていくことができる。そして、「あなた」から与えられるあらゆる絶望をうけきって、なおまだその意志を失わずに支え合える。 そんな人びとが、もし本当に、いたとしたら。 その者達は、「あなた」を倒しうるかもしれない。そして、私はそれを正しいと考える。 なぜなら、それは主がありえないと断じた……滅ぼされるべきではない、「人の世界」を作れる者達のはずだから。 だから、私は『あなた』へ……破壊と滅びを与えることを快楽に思うのではなく、それを無為だと感じる感情を、あえて与えるのだ。 主から私に、私から「あなた」に、「あなた」から人類に。 救いなく与えられていく呪いが……もし、終わってくれる時が来たとき。 それが、「あなた」にとって悲しみではなく、「あなた」を含めた、全てに対する解放であるために。 そう、「あなた」が。 「あなた」を、滅ぼしうるものに対して…… ……これは、なんだというのだ。 ティオルジュは、愕然としていた。今の今まで、このような光景は全く記憶になかった。しかし、それはまるで……ティオルジュを生み出した者が、ティオルジュに残したメッセージのようで。 そして、それと同時に、この光景は自分たちとつながる、シャルリシア寮生達にも見せられていたものであることに気づく。彼女達から向けられる感傷的な視線を受けたティオルジュはさらに動揺していたが、ティオルジュはそれを振り切るように吠えた。 ……例え、自分が何者であったとしても。為すべき使命は、この体に残り続けている。そのために、必ずここでシャルリシア寮生達を倒す。 だが、それに対し、叫び返す者がいた。ラピスだ。 でも、それを空しいと思えるのなら。それは続けるべきではないはず。そう悲痛に語りかけるラピスを、しかしティオルジュは拒絶した。 何がしたいか、何をするか、ではない。それは全て定められている。 自分は生物ではない。目的のために作り出された道具なのだ。そしてそれはまだ振るわれている。ここではない、別世界の神の怨念によって。 ゆえに、壊れ果てるまで、もはや止まらない。……ティオルジュには、それしかないのだ。 ティオルジュはついに、己の持ちうる技の中で、最大級の脅威となるであろう攻撃を解き放とうとする。それは、自らが侵食した相手……シャルリシア寮生達から、その体力と活力……あるいは運命力ですら、強制的に吸い上げてしまう大技。それが使用されれば、一同はあらゆる面での衰弱をよぎなくされてしまう。 しかし、そこに対応して、クレハが動いた。いや、動いたのはきっとクレハだけではない。シャルリシア寮生達の中にいる、シーフの技を持つ全ての生徒達が、思いをひとつにし、それがクレハの行動を増幅させていた。 だがそれでも、全身から自分のすべてが吸い出されるかのような虚弱感の中、その足を駆けさせるのは大きな負担がある。クレハはティオルジュへその手を付けるまでの間、何度もその場に撃ち崩れそうになる。……しかし、その手は届いた。 そしてただがむしゃらにティオルジュを突き飛ばし、なんとか、その発動を妨害する。そこに、麗美さはない。ただただ、必死でやっただけだ。だが、クレハは自分たちはそれでいいのだと考え、自分たちの生きる意志が、この場に現れたのだと叫ぶ。 そして、ティオルジュもそれを認め、クレハへ敬意の視線を送り……だが自分たちがシャルリシア寮生達を倒すという主張を崩さない。しかし、その言葉尻は強くなっている。それは怒っているというより……ただ、止められないことを。そして、止めようとしないでほしいということを、表すかのようだった。 そんなティオルジュに、シャルリシア寮生達もまた、ただ戦うことでしか答えることはできない。ラピスが撃ちこんだ魔力の楔によって生まれたほころびへ、二度吸い込まれていくクレハのナイフは、避けようも防ぎようもなく、ティオルジュの体力を確かに奪っていく。だがそれでも、その動きは止まろうとはしない。シャルリシア寮生達全員をすべて吹き飛ばそうとばかりに、もう一度その手をかざそうとしたその瞬間……クレハの舞うような足運びに導かれ、ジャックがもう一度、その剣をふりあげた。 先ほどのジャック自身の攻撃によって、怒りの力を使い果たしたそれは、確かに威力を落としてはいる。しかし、それでもこの正念場、最終局面に振りかざされたその力は、まさに鬼神の如き攻撃だ。 だが、その二連撃を受けてもなお、ティオルジュは立っている。ジャックの剣が、ティオルジュの体に触れたままその勢いを止め、力を失う……そう、ティオルジュが感じた瞬間であった。 ジャックが吠える。そして、仲間たちもまた、その意志に己が心を託すかの如く、全ての想いをその剣へ集める。……そして、剣にもう一度、力が宿った。 全ての想いを載せて、ただひたすらに、そしてわずか少しに、その切先の先へと動いたジャックの剣は、ティオルジュの体を刺し貫く。その最後の衝撃を受けて、ティオルジュはついに、苦悶の声と共に、動きを止めたのだ。 全てを出し尽くしたとばかりに、肩を震わせながら、ジャックがその剣をティオルジュから引き抜くと同時に、ティオルジュは膝から崩れ落ち、その場へと倒れた。……戦いが、終わったのだ。 ……ティオルジュの体から、力が失われていく。その感覚に気づいたとき、ラピスはティオルジュの名を呼び、その傍に駆け寄った。……しかし、崩壊は止まらず、その体は少しずつ、粒子のようなものと化して薄くなっていく。 ……だが、そんな状態でありながら、ティオルジュの表情はとても穏やかであった。そして、ティオルジュは語る。 ……身体が崩れていくと同時に、自分の中にあった、黒く濁った何かが消えていくのも感じる。今、確かに終わったのだろう。 ティオルジュ自身も知らなかった。自分は呪いでありながら……ほんの少しだけ、願いを込めて、この世に生まれていたことを。 そしてその込められた願いは……シャルリシア寮生達のような人々を、ずっと待っていたのだ。だから、その光景がシャルリシア寮生達にも伝えられたのだろう。 そう。シャルリシア寮生達のおかげで、ティオルジュはようやく、知ることができたのだ。 なぜ、人類を滅ぼす呪いという使命を持たされていながら……それを無為に感じ続けたのか。 それは、とある神の怨念により始まってしまった、限りない憎しみを終わらせてくれるものに出会えた時。 それを成してくれた者の未来を、祝福するためだったのだと。 その言葉を聞いて、わかっているよ、と頷く。その涙にぬれた瞳に、ただ消えていくティオルジュを映しながら。 しかし、ティオルジュはそこで、ゆるやかな笑顔を浮かべて見せた。ラピスへ……そしてシャルリシア寮生へ、そんな顔をしないで、とばかりに。……それは、彼にとって、初めての表情だ。 ありがとう。 君達は、全てを解き放った。救ってくれたのだ。 その姿と言葉に対し、戦いの終止符をその手でうったジャックが厳かに祈り、呪いによって生きた生命が、生まれ変わりにて救いを受けることを願う。それを聞いたティオルジュが、自分のような存在に生まれ変わりが許されるのだろうかと言うと、それに、ミルカが答えた。 自分たちは、自分の、そしてみんなの願いの力で、これまでのことをやり遂げて見せた。 だから、今のあなたに願いがあるのなら……それも、きっと叶うはずだ、と。 そしてティオルジュは、もう一度笑った。そうだな、と頷く。今の自分なら、分かる。自分が何かを願うこと、そして、他者が願ってくれること。それは時に、奇跡を生むのだと。 ……そして、呪いは、終わる。 ティオルジュの姿の大部分が消え失せ、もうその表情も分からない。しかし、そこから聞こえる声は、穏やかなままだ。 これからの、君達の未来に。 幸あらん、ことを。 ……その言葉を最後に、シャルリシア寮生達の前にいた者の姿は、完全に消え去った。そして、シャルリシア寮生達と意識を共にしている生徒達は少しの間、現状況への戸惑いを見せたものの、やがて快哉を叫ぶに至った。……どうやら、シャルリシア寮生達とティオルジュが最後に何を話していたのかは、あの「声」の光景同様、見えなかったらしい。 しかし、それでもガイブやユエル、メギアムをはじめとした何人かは、シャルリシア寮生達が勝利の後も、何故か晴れやかとは言えない様子なのを見逃してはおらず、何があったのかを問いかける。……だが、シャルリシア寮生達は、今は多くは語らない。ただ、自分たちのやったこと、そして、呪いさえなければ、きっとわかり合えたのであろう心を持った存在のことを思うから。 そして、快哉が鎮まってきたころ……みんなの視線が、自然とミルカに集まった。そして、これまでプリフェクトとして、シャルリシア寮の先頭に立ってきた彼女は言う。 帰りましょう。みんなのいる、エルクレスト・カレッジに。 きっと、それ以上の言葉はなかった。今やるべき全てが、終わったのだということに対して-- ……エーエルとディアロの、そして、シャルリシア寮生とそれに付き従った生徒達の体がいる、エルクレストカレッジの講堂へ、一人の男がやってきた。それはもちろん、バウラスだ。そしてその後より、追うようにしてエルヴィラやファム達もやってきたが、バウラスは他に何も存在しないかの如く無造作に、エーエルへ状況を尋ねるのだった。 それに対し、エーエルは毒々しげに、心の魔への抵抗手段を奪われ、すでに勝ち目はないこと、しかし、シャルリシア寮生とその仲間たちは、それでもなおあがくことを選択したことを伝える。 ……そしてエーエルはバウラスに問いかけた。ここにお前が来たのは、世界に害なす存在となるだろう者達を滅ぼすためであるのだろうと。であれば、バウラスは今すぐに、ここにいるシャルリシア寮生達を……いや、その周りにいる者達も全員、殺すことによって禍根を断つべきではないかと。 そのエーエルの言葉を受けてもバウラスは無言ではあったが、やがて、その足を一歩、シャルリシア寮生達の方へと踏み出した。それを、背後にいたエルヴィラ達が押しとどめようとしたその時……今なお心を旅立たせたままであるはずの一同の体が、動いた。そして、それと同時に、エーエルは自分が干渉していた、シャルリシア寮生達の心の中につなげられている、ティオルジュの空間が消え去っていくのを感じたのだ。 まさか、本当に。そう狼狽するエーエルに向かって、ようやく、あんたのほえ面を拝むことができた、という台詞を投げかける者がいた。それはジャックだ。そして、他のシャルリシア寮生達と、生徒達も同様に、この世界に意識を取り戻し、立ち上がり始めている。 眠りから覚めたように立ち上がる彼女達は、みな、それ以前と変わる様子もなく……なにより、その表情に、仕草に、自分たちはやり遂げたのだ、という意思が宿っているようだった。それを感じたエルクレスト・カレッジの人々は、彼女達よりそう言われる間でもなく、勝ったのだ、という事実に湧き上がろうとする。……しかし。 その存在を知る者は、まだその喜びに浸りきることはできない。そう、バウラス・ジーク・スヴァルエルトが、まだこの場にいるからだ。その存在が、その力が何をこの後もたらすというのか、そのことを思えば、まだ決して、シャルリシア寮生達は安泰ではないように思えた。 そして、バウラスが先の出来事に一度止めた足を、もう一度進める。向かう先は、ミルカだ。彼は手を静かに伸ばし、その身に触れようとしている。 バウラスの動向を警戒していた人々は、その様子に思わず臨戦態勢を取る。……しかし、今まさにその行動が放たれようとする直前で、それは押しとどめられた。バウラスにではなく、ミルカの様子にだ。 ミルカは、近づいてくるバウラスを、恐れるでもなく、見つめていた。その時、ミルカが何を考えていたのか、それを知る者はいない。しかし、ただただそれを受け入れるかのような、静かながら厳かな様子に、みなは射止められたのである。 そして、それを止めるものもないまま、バウラスはその手と、ミルカへの距離を縮めていく。そして、それがついに、その体に触れるか触れないかとなった時…… (……大丈夫だ) ……そんな、声がした。それが本当に声だったのかはわからない。何故なら、それは音となって、耳によって聞き取ったものではない気がしたから。シャルリシア寮生達はそう感じていたが……その時、バウラスもまた、その動きを止め、まるで何かを探すように視線を一巡りしている。 (……お前にもう、そんなことはさせない。もう、しなくて、いいんだ) また、そう聞こえた。 幻聴ではないのか、と聞かれれば、それを否定しきることは難しいだろう。だが、シャルリシア寮生達と……そしてバウラスは、それが聞こえたとしか思えなかった。 バウラスが手を伸ばし、ミルカがそれをただ見つめたまま、数瞬の時が過ぎた。自分の直前まで迫ったその腕に、ミルカがわずかな鼓動のようなものを感じ取った時……それは、バウラスの体へと引き戻される。 そして、次に踵を返し……背中を向けて、講堂を後にしようとした。一瞬とはいえ、絶対なる威圧感で講堂を支配した男の、あまりに唐突な退場に、多くの者は疑問符を浮かべている。 だが、その背中へ言葉を投げかける者がいた。リュミルだ。 リュミルは何故だ、と叫ぶ。エーエルが言った通り、バウラスが来たのは、シャルリシア寮生達を、この世界を害するだろう連中を滅ぼすためのはずだ、と。 そして、バウラスはその言葉に対し、振り返りもせず、その必要は、もうない、と返す。 シャルリシア寮生達は、人類に害なす脅威に、そして、その身の堕落の危険性に、打ち勝ったのだからと。 ……そのバウラスの返答に、リュミルは認めたくないとばかりに首を振る。きれいごとばかりをのたまうような、この世界を下劣なものに貶めている者達に、活路が開かれたなんてあってはいけない、と。 しかし、バウラスがそう告げた以上、シャルリシア寮生達を滅ぼさなければいけない理由は、もうない。リュミルは、その怨念をぶつけるための、大義名分を失ったのだ。 ……だから、リュミルは一度手にかけた銃を、抜くことはできなかった。ふざけるな、といいつつ、その場にうずくまるだけだ。ザムトと……そしてナタフとシズナはそのリュミルの姿を見て、こちらも決着だ、と感じたのであった。 そして、バウラスが完全に講堂を去った後、ディアロもまた、久しぶりの再会になったシャルリシア寮生達への挨拶と、その健闘を称える言葉を送る。だが、彼はそれを言い終えると、もはやこれ以上、自分が干渉すべきではないといわんばかりに、その場を後にしようとする。そしてその去り際に、未だ驚愕と苛立ちが半々のような表情でシャルリシア寮生達を見るエーエルに対して、せめて、何か話をするべきではないのかとだけ告げていき……その後わずかな沈黙の後、エーエルは問いかけた。 どうして、勝てたというのだ。お前たちの判断が、正しかったというのかと。 未だに変わらぬエーエルのその様子に、さしもの一同も辟易していたところであろう。そしてその言葉に、レシィが困惑と呆れを持って見つめ返し……そして、ミルカは言葉で答えた。 私達の信じるべきものを、信じ続けたからだ、と。 エーエルは、その言葉に反論を失いながらも、それでも納得をしようとはしていなかった、往生際の悪いその様子に、ラピスはただ自分だけの考えにすがった独りよがりなあなたよりも、エンザ先生の方が正しかったという結果なのだということを、痛烈に突きつける。そうしたシャルリシア寮生達の言葉に対し……エーエルは、何も答えられない。 そして、ラピスは続けて、あの時の約束通り、エンザに、謝ってくれという要求をする。……かつて(第十五話最後のあたり参照)ラピスがそう求めた時には、心の中でもいい、という条件を付けていたはずのそのことを、ラピスはその時、意図的に省いていた。それは恐らく、自分たちはやり遂げてみせたのだということ以上に、エンザの意志を侮辱し続けたエーエルに対する怒りゆえだろう。 ……エーエルは、それにも何も答えない。しかし、その言葉を無視するでなく……そして、ラピスが約束の内容を変化させたことを指摘するでもなく……ただ、厳しい瞳で向けられるラピスの視線へ、その瞳を合わせかえす。 そしてまたわずかな沈黙の後……エーエルの瞳が揺らぎ、悔しさと……そして、屈服のようなものに、一瞬染まる。だが、その直後には、彼女は転移魔術にて、そこから姿を消していたのだった。 バウラス、ディアロ、エーエル。それらが去った時、仮面の騎士もまた、その姿を消していた。 エルクレスト・カレッジを去り、その外れにまでやってきた彼女の前にいるのは、一人の婦人……キャロル・アルマーである。その眼前で恭しく頭を下げ、仮面の騎士……フレイスは、ジャック達の勝利を彼女へと報告するのだった。 その報告を聞いたキャロルはうなずきつつ、誇らしさと寂しさをそれぞれにじませた表情で、ジャックがいるのであろうエルクレスト・カレッジの方角を見つめる。……だが、決してその足を息子の元へと向けようとはしないその様子に、フレイスはふと、よいのですか、という言葉をかけてしまうのだった。 キャロルはそれに、そんなことができるだろうか、と答える。キャロルがアルマー家にとしばりつけたつもりでいたジャックの運命は、その実、さらに大きなものに縛り付けられていたのだ。……しかし、そこでジャックは、そのことをキャロルへ伝えようとはしなかった。そこに、キャロルの存在の介在を望まなかったのだ。 だから、そこに自分の出る幕はない、キャロルはそう思っていたが……一体どうやったというのか、フレイスが独自に、ジャックが戦おうとしている相手とその事情を知らせて来た時に、どうしても、ここに来ずにはいられなかった。何かをせずにはいられなかったのだ。 しかし、やはりそれでも、今ジャックに直接出会うことはできない。ジャックが望まなかったかもしれないのにやってきてしまった自分に、その資格があると信じることは難しかったから。……そして、エルーラン(第十一話終わりごろ参照)での別れ際、ジャックが言ってくれたあの言葉だけでも、自分にとっては救いであり……そしてそれが、崩れるのが怖いからだ。 そんな自分の内面を語るキャロルに、従者たるフレイスは、もはや静かに聞き届けるのみであった。そこまで心の葛藤に揺れる主に、これ以上の苦悩を強いる決意は、今のフレイスにはまだないから。 だから、キャロルはその場から、動かずに祈るだけだ。ジャックに、これからも強く生きてほしいと。 そして、いつか、堂々と自分から会いに行けるようになりたい。ということをである。 去るべきものが去り、シャルリシア寮生達の勝利に湧く歓声もひと段落してきたころ……シャルリシア寮生達の前に、エルヴィラが進み出た。自信もまたシャルリシア寮生の勝利と帰還を祝うと同時に……これから、何か大切なことを伝えなければいけないわんばかりの様子に、講堂内は一度静まりかえり、その静寂の中、エルヴィラは語り始める。 心の魔、ティオルジュを倒し。シャルリシア寮生達は、自分の人生を取り返した。それは、シャルリシア寮生達自身にとってだけではなく、その人生が自由である事を願った人の願いも、また叶えられたということだ。 ……ゆえに、それと同時に、エルヴィラ達は、シャルリシア寮生達に確認をしなければいけないことがあったのだ。 シャルリシア寮は、エンザをはじめとした、エルクレストの人びとによって、シャルリシア寮生達が心の魔に打ち勝つまでの成長をしてもらうために作られた場所であった。すでに説明されていた通り、今のシャルリシア寮生達ができうる限りそこに集められたのはそういう理由である、 ……だが、その目的と願いが果たされた今となっては、シャルリシア寮生達の居場所は今一度、ひとりひとりの意思によって選ばれるべきなのだ。今ここにいない、エンザはかつて、全てが終わった時には、とそう主張しており、そしてそれは、エルヴィラ達も同様だった。 だから、エルヴィラは問いかける。 あなたたちにとって、シャルリシア寮とは何か。 そして、これからあなたたちは、どこに行くことを望むか、と。 ……学園に来てからこれまで、様々なことがあった。それは決して楽な事ばかりではなく、むしろ苦難も多くあったが……だからこそシャルリシア寮生としての日々は、自分たちを成長させてくれたのだと全員が実感できる。ミルカがエルヴィラに対して答えた、「自分にとっての、新しい故郷」という答えは、全員が同じく思うものであっただろう。 だから、心の魔の問題が解決し……真の自分の意思で居場所を決めなければならぬとしても、彼女たちはみな、今はここに残ることを決めていた。大切な人と日々を過ごし……そしてさらに、成長していくために。 だが、ミルカだけは、同じくここを卒業するまで在学するという意思は持ちながらも、少しの間だけ、学園を離れて旅に出ることを決意していたようであった。それは彼女自身のためではなく……ある人物と、約束をしていたからだ。 しかし、そうなるとその間、シャルリシア寮のプリフェクトは不在ということになってしまう。そこで俺の出番か、とばかりにお手製のタスキをひっさげ前に出てくるドゥさんやハクバを全力で無視しながら、その間誰がプリフェクトの役につくのかということで話し合う一同。そしてその中で、ラピスとミトが、最年長であり、頼りがいのあるジャックが代行するべきではないかと言い始めたところで、彼等の意図せぬ方向より、その様を愉快そうに眺めていたらしい、誰かの声がかけられた。アルゼオである。……そして、その後ろにいるのは、ダバランだ。 復活した二人の姿に、シャルリシア寮生達のみならずそこにいた全員から歓声が上がった。そしてアルゼオはそれを受けつつ、自分たちと、そしてシャルリシア寮生達自身を救ってくれた一同に対して深く礼をして回る。特に、シャルリシア寮ができる前より、互いに認め合う仲であったジャックと、その成長のために、彼が使うことを見越して兵法書を残していたレシィには。 そして少しすると、マルティンが二人の元に駆け寄り、その無事を涙を流して喜んでいた。……しかし、アルゼオがそれに笑顔で答え、自分たちが不在の間、ブルギニオンを取りまとめてくれていたことを感謝する一方、ダバランの顔は浮かない。それは、言うまでもなく、ダバランには敵の策略に堕ち、事態を悪化させてしまったという負い目があるからだ。 そのことに一言も触れず、ただ、自分の帰還を喜んでくれる親友に対して、ダバランは逆に、それを口に出さずにはいられなかった。しかし、そんな自分を何故迎えてくれるのかということに対する答えは、すでに出ている。 マルティンは言う。確かに、ダバラン自身にとってはそうでしかない出来事だったのだろう。しかし、それはきっと、そんなダバランに対して、本当に支えになることはできなかった、自分たちの責任でもあるはずなのだ。ダバランを、孤独に戦わせてしまったのだと。 そんなこと、と思わず返そうとしたダバランだったが、それを見つめ返すマルティンのあまりに真摯な瞳と……そして、マルティンが周囲を指すように広げた手の先の光景を見て、その言葉を失った。 みんながみんな、ダバランを真摯に、そして優しく見つめている。全てを許すように。……いや、心配するな、と伝えるかのように。 ここにいるみんなが、そう思っている。そのマルティンの言葉と、ここにいる全ての人の優しさに触れ、ダバランはただ、立ち尽くすしかできない。……そしてそこに、アルゼオが背中を押した。 お前はすでに、良き人々に恵まれた。あとは、伝えるだけだ、と。 ……そして、ダバランは叫んだ、聞いてほしい、と。 自分は弱かった。だから、強さに憧れ、してはいけない選択をしてしまった。 だが、ようやくわかった。力とは、自分の中だけのものではない。互いに信頼し合える者がいてくれるのなら、それをはるかにしのぐほどの、強い力になるのだと。 だから、ダバランは望む。自分が信頼する人々……今この場にいる、全ての者へ。 自分だけでは手に負えなくなる時、みんなに助けを求めることを、許してほしい。 そんな時、救ってほしいと願うことを、自分と共にある力になってほしいと願うことを許してほしい。 それを許してくれるなら、自分は、今度こそ。 自分自身を誇って生きていける。こんなにも素晴らしい人々に恵まれた人生を、自分は得たのだから、と…… ……そのダバランの叫びの後、少しだけ場は鎮まった。 それは一見にして、答えに対する困惑を表す沈黙にも見えたかもしれない。だが、そうではない。 それはただ、ダバランの言葉を、彼の本当の願いを、それを聞いたひとりひとりが、深く心に刻むための時間で。 ほんの数瞬の後、やがて静寂は、穏やかな拍手の音で破られる。そして、ダバランにもまたも、もう心配はいらない、とばかりに笑顔でかけられる言葉によっても。 ……ありがとう。ダバランは、このあまりにも暖かな人の心に、ただそういうことしかできない。 本当に、ありがとう。そう言葉にする彼の瞳からは、大粒の涙がこぼれおちていく。そして、それを咎めるものなど、ここにはだれ一人いようはずがなかった。 ……こうして、ダバランが許しを受け入れ、心の魔の存在によって始まった禍根は、すべて決着を見せたといえる。 この暖かな人の輪に。そして、自らが戻るべきと決めたこの場所に帰ってきた彼女たちは、これから何を選択していくのであろうか…… ラピスは、ガイブと共にいた。 自分たちと仲間の勝利を讃えあう二人。その距離は近く、互いの心の間にも一切の隔たりは感じられない。そして、ガイブはそんな二人の関係を表すかのごとく、これからずっと傍にいられることを笑顔で言葉にしている。 しかし、それに対するラピスは、顔をうつ向かせていた。その様子に、ガイブは一瞬、自分がラピスに拒絶されたのではないかと驚愕するのであったが、もちろんそのはずはない。……ラピスは、ハナに対して気遣っているのだ。 ラピスは以前(第十三話終盤参照)、ハナに対して、心の傷は時間をかけて癒していけばいい、ということを告げた。しかし、そう言った当の本人が愛する人を得て、その幸せを享受する日々を暮らしているとなれば、好きだった人を失ったことをまだ少なからず痛みとして持つであろうハナに対し、申し訳が立たないような気がしていたのであろう。 それゆえに、ラピスはガイブとの関係を、周囲にはまだ秘密にしておきたいのだ、と相談を持ち掛ける。それを聞いたガイブは、今のハナならばきっと、ただ純粋にラピスの幸せを祝福してくれるだろうとは答えるのだったが、ハナの心の問題を真正面から受け止めた相手である、ラピスからハナへの配慮があることは理解しており……そして何より、ラピスが自分に望んでくれることは、できる限りそうしてあげたいと思っていた。 ガイブの了解を聞くと、ラピスは周りに誰もいないこの空間で、その華奢な体をガイブに預け、肩へ頭を寄せる。ガイブはそのラピスの体と心を、柔らかな笑みを持って受け止めるのだった。 ……そして、二人の間に密約が交わされてより数日後。互いに手を握り合いたい気持ちを抑えつつ、なるべくただの友人のように図書館の近くを移動していたラピスとガイブを、突然呼び止めるものがいた。レイスである。 ちょうどいいところに、と満面の笑顔でにじり寄るレイスに対し、一体何事かと思う二人であったが、聞けば、このすぐ近くの部屋で、今ジェンガ勝負が開始されているのだという。それに参加しているレイスの次の相手はドゥーラであり、彼は厳しいジェンガ修行(本人談)を修めて自信満々らしい。 ……だから、ね? レイスがそこまで言ったところで、ラピスはぽん、と優しくその手をレイスにかける。そして言うのだ。 《フィジカルエンチャント(器用)》と。 そしてそれどころか、おまけどばかりにゴヴァノン神の加護まで与え、あふれる魔力の恩恵でもはや光輝いて見えるレイスが、ラピスに感謝と信頼の笑みを向けつつ、勝負へと挑んでいく。そしてそれを見たドゥーラはレイスを包む謎のオーラに審議を挟もうとするも、結局気のせいで押し切られていた。そしてついでにその裏では、レイスによるドゥーラのぎゃくさ……もとい試合を見守りつつ、「正直これって卑怯に当たらないか」と恋人に恐る恐る進言するガイブが、ラピスに「ジェンギストの間に卑怯と言う言葉はない」と返答されていた。 そして数分後、あまりにもあっけなく崩れ落ちた木の塔と一人のサハギンに、周囲から快哉やら笑いやら、様々な声がかけられている。そしてそれを見ていたガイブは、(内容自体はともかく)それぞれが楽しそうに遊ぶその様子を見て、今度は自分たちもやってみようか、と提案する。そしてそれに対し……ラピスは、それなら、自分の部屋で、二人だけでやりたい、とポツリとつぶやいたのだった。 女性の部屋で、二人きり。例えそこで行うのがジェンガであることはわかっていたとしても、なかなか魔力のこもった言葉であったといえるだろう。現に、それを聞いたガイブはわかりやすく狼狽えており、すぐにうなずくこともできない様子であった。 ……しかし、ジェンガに盛り上がる場の裏で交わされていた、その様子を見逃していない者がいた。ネフィである。彼女は、二人が思わず醸し出してしまった甘いやり取りに対し、「二人はいつからつきあっておられたのですか?」という疑問をぶつけてしまう。そしてその瞬間、その場にいた全員の興味が、再建されつつある木の塔から、ラピスとガイブへ向いていた。 どういうこと。レイスもドゥーラも、そしてそれ以外の生徒も。驚きと共にラピス達を見つめている。ガイブはその視線に焦る反面、なんとか頭をクールダウンさせ、ここで怖気ないことが大切だという判断を下していた。先ほどのネフィの問いは、少なくとも現段階では、疑惑に過ぎないはず。ならば、本心への呵責はあるものの、そんなことはない、と否定することで、まだラピスとの約束は守れる。そのために、ガイブは口を開-- 「何で知ってるんですか!?」 --くその瞬間。自分のすぐそばからそんな叫び声がした。もちろん、それを発したのはラピスだ。それと同時に、今まで視線を飛ばしてくるだけだった周囲の人々がガタっと動き出したときの音は、ガイブにはまるで、雪崩の決壊のように聞こえた気がした。 どういうことだ、一体いつ。そんな言葉と共にレイスが、ドゥーラが、そしてその他生徒達が押し寄せてくるにいたって、ラピスはようやく、自分の失言に気づいていた。ガイブを見、生徒達を見、そしてその失言によって引き起こされた事態にまでようやく頭が回ってから、ラピスはまるでゆであがったかの如く赤くなり。 《テレポート》 と、そう唱えていた。瞬時にして消えた恋人に、ガイブはもはや、せめて自分も逃がして欲しかったというツッコミをいれるしかできない。もはや、詰め寄る生徒の波にもみくちゃにされるまで秒読みといったガイブであったが、ふと、同じくラピスに置いていかれたらしいドゥさんと目が合う。 最近あいつ、逃げることにためらいがなくなってきたよな。そう語る恋人のファミリアに、ま、まぁ、色々と積極的な行動をするようになった証かなと思うと、あくまでポジティブな言葉を帰すガイブ。ドゥさんはそのガイブの度量に感心しつつ……そろそろ自分も本体に引かれて飛ばされる時間だから、と一方的なアディオスを告げ、消えていった。結局、ガイブをここより救い出す者はおらず……彼がこの後、身体も秘密も数の暴力にたたき出されたのは言うまでもないだろう。 そして一方。そんな彼氏の惨状に思いをいたらせるどころでなく、ただただ茹った思考回路を抑えるのに夢中で、ベットの上で足をバタバタするラピスの元へ、ドゥさんが帰還する。そして彼はラピスのそんな様子を見たあと、ふぅと一息ついて。 「悔しいけれど、アイツに夢中かぁ!?」 そう得意の台詞で決めたところに、馬鹿、とラピスが叫んだのであった。 ミルカは、セイの元へとやってきていた。皆で力を合わせたあの戦いのことをもう一度振り返った後、ミルカはセイにあることを告げる。それは、自分はシズナと共に、少しの間旅に出るということだ。 まだ、自分のがこれから生きていくべき世界のことを知れずにいるシズナのために、この世界の広さと、その多様性を見せてあげなければいけない。それが約束であり、ミルカの望みだった。……しかし、そうすれば同じく、自分を頼ってくれる相手であるセイと、しばらく離れ離れになってしまうのは致し方ないところであり、それゆえにミルカは、あらかじめ彼女へ伝えに来たのだ。 しかし、それを聞いたセイに狼狽える様子はなかった。彼女もすでにシズナのこと、そして、シズナがどういう状況にあるかは、おぼろげながら理解している。シズナを良く導くためには、一度ミルカと共に旅に出る必要があるということに対して異論はないし、必要な事なら、ミルカと離れ離れの日々も、再会を待ちわびながら過ごしていけるのだ。だが。 ……必要な事なら、といった。そう、必要なら、だ。セイは思っていたのである。 だが、そもそも自分がついて行ってはいけないということはないのではないか、と。 その言葉に、ミルカは思わず一瞬固まった。確かに、セイのいうことは一理ある。だが、それに二つ返事で頷いてあげることはできなかった。おそらく、未だに心の中の問題は残っているシズナが、心を許してくれたのだろう自分以外の人と共にいたとしたら、逆効果になりうるのではないかということを心配していたのだろう。 しかし、セイはしきりに、二人が旅に出るのなら、それについていきたいのだということを主張する。セイはセイなりに、シズナのことを理解し、今のシズナなら、旅の仲間が増えても大丈夫なはずということを信じてはいたようだが、やはりその動機は今の自分が何より信頼する相手、ミルカと共にいたいという気持ちが大きいのだろう。神の戦士という肩書はどこへやら、童女のように懇願するセイを、ミルカは扱いかねるように見るしかなかった。 ……しかし、そんな彼女に、残念ながら救いの神は今に限り見当たらないようだ。 二人の視界の隅に、ちらりと何か異質なものが映る。それに気づいた二人がその方向を見ると、身体は壁の向こうに隠してはいるものの……背中から伸びた、大きな翼がそこに収まり切れていない。そしてその翼の主は気づかれたことを察知したようで、迷うような少しの時間の後、やがて壁から全身を乗り出した。もちろん、そこにいたのはマゼットだ。 思わず無言になった二人に、マゼットは話は聞かせてもらった、と切り出す。ミルカがシズナとの旅に出るため、しばらくの間学園を離れるというのは、シズナのために必要なことであるし、そこにはミルカがいなければならないのも間違いない。そして、友の心のために、そこまで身を尽くして行動できるのは、さすがミルカだと敬服していることをマゼットは言う。……しかし。 ……それにセイもついていくというのであれば、自分もついて行ってはいけない理由はないのではないか?セイよりは幾分悩みつつ、彼女らしくもなくちらちらとミルカの顔色を窺いつつのようではあったが、マゼットもそう思っていたわけである。 二人は間違いなく、ミルカにとっても心の許せる友だ。しかし、セイに目的を伝えに来たミルカの当初の考えからすれば、今の二人はある意味では障害と言ってよかった。 だが、二人は決して悪意でその意志をミルカに伝えているのではなく、あくまで、自分もミルカと旅をしたいということ、そして、今のシズナなら、同行者が増えることにも問題はないはずと思えているからそう主張しているのである。そう聞いてもなお、ミルカにはまだここの二人を連れて行ってよいものか悩みを感じてるのだったが、結局、断り切ることはできないのだった。 ……その後、ミルカはシズナへ、話の展開を語っていた。それを聞いたシズナは、どうしてその二人もついてくるのだろう、と純粋な疑問を口にして、ミルカをまたも困らせるのであった。 しかし、ミルカのそうした表情を見て、シズナは自分のことで、ミルカが困ってしまっていることに思い当たったようでもあった。そしてシズナは、少し前の彼女では決して浮かべることのなかったであろう優しい微笑みを浮かべ、ミルカに大丈夫、と答えた。 マゼットもセイも、確かに特別親しいというわけではなかったが、自分と同じくミルカを、シャルリシア寮生を信頼する人々だということは、あの戦いの中でよくわかっている。 そんな彼女達とならば、共に旅をするということにも特段不安はないし、それに、彼女達のミルカへの信頼も知っているから、それを無視することもしたくはない。 シズナのそのあまりに柔らかな表情を見れば、ミルカもまた、全てを受け入れるほかはなかった。こうして、旅路は二人旅から一転、四人旅となり、彼女達はこの少し後、しばしの間エルクレスト・カレッジを離れるであろう。 生き方を見つける旅、というよりは、仲のいい生徒達での旅行、という風になってしまったことをミルカは気にしているかもしれないが、これはこれで、シズナにとっても悪くない可能性はあるだろう。 戦いと願いの末、人びとの優しさの輪に触れていくことを選択できた、今のシズナならば。 エルクレスト・カレッジの一室に、レシィはいた。彼は今まさに、かねてよりアルゼオより学びたいと願っていた兵法術についてを教えてもらっている最中である……のだが、その傍らには、レシィの大切な人である、ユエルもいた。どうも、すっかり隠れてエルクレスト・カレッジにやってくることに慣れてしまったようである。 しかし、今ここでアルゼオの前に堂々と姿を現していることからも分かるように、それを許可していたのはアルゼオであった。……といっても、彼とてあくまで一生徒なのだから、そこで許可したからといって、万事問題ないということはないはずなのだが……アルゼオが柔らかな笑みを浮かべながらユエルを認めるその言動には、何故か不安は感じないのだった。 しかし、唐突にやってきたユエルではあったが、ここで行われる「授業」を妨害してしまう気はないらしく、またアルゼオにも一度聞いてみたらどうか、と勧められたのもあって、結局、レシィへの授業は、生徒側にユエルを追加して予定通り行われることになった。 数十分の間、アルゼオはよどみなく講義を続け、レシィはそれに対し、勤勉な態度で向き合っている。そしてユエルはというと……聞いてはいたのだが、内容はよく理解できずにいるようだった。臆面もなく、わかりませんでした、とはっきり宣言するパートナーには、レシィもさすがに少々笑顔を引きつらせてしまうのであったが、そう返されたアルゼオは、講義をうまく伝えられなかったことを詫びつつも、そんな少女と少年の様子がほほえましいのか、笑顔は浮かべたままだった。 ちょうどいい区切りだ、と抗議はそこで、一時中断とされ、そしてアルゼオは、二人に対して将来の話をしようか、と持ち掛けた。まずは自分の事から、といい、アルゼオは将来、自分もまた、エルクレスト・カレッジの教師になるつもりであった、ということを語る。 レシィにとっても、それは大いにうなずける話だ。先ほどの講義も、ユエルはわからなかったらしいとはいえ、自分にとっては、相手にわかりやすく、要点を述べ、そして生徒が自分で考えることも優先してくれており、いい授業であった。そんな授業ができるアルゼオなら……いや、アルゼオの人となりと人望があれば、きっと立派な先生になれるだろう。そうレシィは断言してもいいくらいだった。 ……だが、シャルリシア寮生達や……そしてそれに力を貸し、立ち上がった生徒達の姿を見て、アルゼオはある確信を深めたという。それは、この学園にはもうすでに、素晴らしい心と素質を秘めた人々が大勢いるということだ。 そんな人たちがいてくれるから、この学園のことは、もう大丈夫だと、アルゼオは今、本心からそう思えていた。それに、この学園を卒業しても、先生となってこの学園に帰ろうと考えてくれていた人々は、自分だけではない。 ゆえに、アルゼオは少し考えをかえることにしたのだ、という。それは、自分は教師ではなく、エルクレスト評議会の一員となることで、エルクレスト・カレッジを含めた、この街をよりよくしていこうということであった。 ……実は、エンザがかつて、自身の計画を生徒側の人間として唯一伝えたことからもわかるように、教師陣よりの信任も厚いアルゼオは、卒業後に教師になることを暗に望まれていたという。しかし、今アルゼオは、自分の意思でその道ではなく、別の道を選んだ。自分の能力を、そして学んできたことを、この街のために役立てたいと思った。 そんなアルゼオの決意を聞けば、レシィも頷かざるを得ない。なんにせよ、アルゼオの将来を応援することを決めたレシィであったが、そんなレシィへ、今度はアルゼオから質問が返された。君は将来、何になりたいかと。 その言葉に、レシィはすこし狼狽える。まず、たくさん勉強して、ここを卒業するということは決めている。でもその先のこととなると、すぐには見つけられそうにはなかった。 答えを悩むレシィに、ユエルは笑いながら、だったら、一緒に冒険者をやろうか。と誘いをかける。ユエルはどうやら、これからも冒険者稼業を続けていくつもりらしい。 愛する人と一緒に、世界中を旅し、困っている人を助けて回る。争い事が好きな性分ではないレシィだが、ユエルと一緒であれば、そんな生活も決して悪くはないだろう。 一方、アルゼオはそんなユエルの提案を肯定しつつも、自分としては、と言って語ったのはレシィこそ、教師になるべき人かもしれないということであった。 勤勉で、他人の痛みを自分の事のように思う優しさがあり、そして、辛いことにくじけず前を向いていける精神をもっている。そんなレシィこそが、先の若者たちを導く存在になってもいいのではないかと。 二人はそれぞれが違う提案をしているが、それはあくまでレシィを困らせるためではなく、レシィの未来には、様々な可能性があるということを示唆するためのものだ。もし、レシィがこれから選んでいく道が二人の言ったもの以外の何かであったとしても、それがレシィの本心なら、間違いなくユエルも、アルゼオも。そしてその周囲にいる誰もが、それを認め、応援するであろう。 そのことを知っているからか……困ったようにしながらも、レシィの心には、不安はなかった。今自分の傍にいてくれる、大切な彼女がこの世界にいてくれる限り、これから先のどんなことも、何とかできると思えるから。そう。もっと強くなることも、様々なことを知り、学ぶことも。 ……そうしたら、いつか、「あの人」を迎えに行けるかもしれない。そう思えば、とりあえず当面のところの迷いはないのだと、レシィは考えていた。 レシィは、その時を信じ、日々を過ごす。一日ごとにゆるやかに、しかし確かに、成長を重ねながら。 サイオウ、ヴァリアス、アーゼス、それにクレハを加えた(自称)「男の鉄の絆軍団」は、とある一室にいた。今日、話があると言ってそれを呼び集めたのは、クレハである。いつになく真面目な様子のクレハに、一体何の話だろうかと思いを巡らせる3人。そして、わずかな静寂の後、クレハの口から語られたのは…… 「……なあお前たち、好きな人いるか?」 ……そのあまりにも青春的な問いかけに、返す態度は三者三様であった。 もちろん心に決めた人がいる。と豪語しているらしいのだが、口に出す恥ずかしさからからどもりまくっていてほとんどなにを言っているのかわからないサイオウ。 ふと視線を外し、誰かのことを考えてはいたようだが、やがて、まだ早いかもな、とさわやかに笑って見せたヴァリアス。 そして、いる、ということにしたいのだが、正直相応の女性とまともに話しあえたことすらないとヘタレ具合を隠せないアーゼスである。 そんな友人たちの反応に、クレハはそうか、とうなずいたあと、実は自分も、恋した相手がいるんだ、と打ち解けるのであったが、その告白は、3人に少なからずの衝撃を生んだようだった。どうやら、いつのまにか「100人の女性をもてあそんだ男」という噂がされていたらしい。いくら自分がかつてホストであったとはいえ、あんまりな評判にクレハは思わず表情を引きつらせる。 しかし、それでもクレハの想いは本物だった。そう語るクレハに、3人もその気持ちを推し量り、同じく真剣な面持ちになっていく。クレハがそれをここで自分たちに話したということは、その恋への応援を求めているからに違いあるまい。ゆえに、3人は二も三もなく、クレハのその想いを遂げさせることを誓って見せ……その上で聞いた。その相手は、誰であるのかと。そして、クレハは答える。 「……部長だ」 その瞬間、まるで妖魔王の奇襲を受けたかのごとき圧倒的危機感を感じ、3人は飛びのいていた。 聞き間違いか。まずそう考えた。しかし、3人が3人とも「その名前」を聞いたとしか思えないリアクションをしているし、それでいてクレハの様子も、やはり真剣そのものである。ゆえに、彼らは口々に、こう言うしかなかったのだ。 「目を覚ますんだ……!」 と。それだけ彼らは、「あの」部長に恋をするものがいることを信じられなかったのである。その英雄的ふるまいゆえ気にせずにいたが、思えばクレハはこれまで自分が生きられるかどうかの瀬戸際に立たされており、そしてそれからようやく解放されたばかりなのだ。その極限状況が、常識では説明のつかないほどの気の迷いを引き起こすこともあるのかもしれない。 だが、そんな3人からの呼びかけを受けてもなお、クレハの心は一切揺るがなかった。彼女のためなら、例え地獄の果てでも共に行く覚悟があると、ひとかけらの迷いもなくいいきり……そして、すでに部長への告白と共に渡すプレゼントさえ用意していたクレハに、3人はもはや戦慄めいた感覚を引き起こされつつも、その想いが断じて気の迷いなどではないことを認めるのであった。 そして、そんなクレハの覚悟を認めた3人がするべきことは、クレハから部長への告白を、どのように成功させるかということだ。正直、仮にエルヴィラ学長を相手にするとしても、その方がまだたやすく思えるほど、策を弄するのに困難な相手であると思えてならないが、クレハの想いに応えるには、それでもなんとかやって見せるほかない。ここが、男の絆の見せ所だ。3人はそう固く誓い、そしてクレハへ様々な案を出していく……はずだったのだが。 サイオウが一つ目の案を出したときに、わずかに聞こえるほど。 ヴァリアスがそれへの対案を口にした時に、確かな音となって。 アーゼスがその気配に気づいた時には……あまりに耳になじんでしまった、金属の重厚感をともなって、それは鳴り響いていた。 カシャーン……カシャーン……! アーゼスが振り向いたその瞬間、その眼前に飛び込んできた全身鎧の姿に、3人はもしや移動魔術でも使用したのではないかと思うほど唐突に、そして忽然と走り去っていた。そして、その去り際に、別たれた友、クレハへこう送る。 「クレハ……お前の人生スゲーよ……!」 そんな彼らの言葉に答える暇もなく、クレハは部長に声をかけられる。一体何の話だったのか、とそう聞く部長に対し、クレハは半ばパニックになりながら、様々なことを考えていたようだったが……やがて、その身を引き締め、懐に持っていたプレゼントを差し出し、伝える。 「あなたが、好きです」 ……少しの沈黙。そして、その後に答えた部長の言葉は…… 「……気は確かか?」 ……あんまりな言葉だ。確かに、部長は自分が、誰かから恋愛の対象とされるような存在ではないと自覚していたというのはあるだろう。それにしても、自分を好きだと言ってくれた相手に、そんな言葉がいえるものだろうか。 ……だが、クレハの想いは、その言葉一つでは全く揺るがない。それはきっと、クレハは部長が……彼女がどういう人であるのかを知っていたし、何より……自分が彼女と共に生きていけるなら、どんなことでもできるという決意が確かにあったからだ。だから、答える。 「はい。これから先、どんな時でも、必ずあなたの傍にいます」 そしてまた、沈黙が流れた。相も変わらず、その顔をフェイスガードによって覆った部長の表情はおろか、視線すらうかがうことはできない。しかし、クレハは真摯に、鎧の向こうにある、部長を見つめ続けていた。 そして、部長が動く。クレハから差し出されたプレゼントを、ゆっくりと、丁寧に受け取り……そして、言う。 自分も、考えていた。 これから生きていくうえで、もし一人のとある人の存在が傍にあったとしたら、それはどれだけ救いのある事で……幸せなことなのだろうか。 そして、その存在とはまぎれもない。クレハなのだと。 部長は感謝した。クレハが、どんなところにでも、必ず傍にいるといってくれたことが。部長は、自分自身がいずれ、また命の危険がある任務をこなさねばならないだろうことを知っていた。だが、そんな危険から帰ってくるための理由を……自分がそうしたいと思える活力をクレハが与えてくれることに、本心から感謝していたのだ。 全身鎧の、フェイスガードが解放される。その向こうには、あの可憐な狼族の少女が……いままでに見たことがないほど、優しげな、そして嬉しそうな笑顔をうかべていた。そして、部長は答える。 ありがとう、私は幸せ者だ、と。クレハの想いは、確かに届いた。互いの想いは、通じ合ったのだ。 その答えに、クレハもまた幸福を感じ……ているところに、部長からすっと、二つの帳簿が差し出された。一体なんなのか、と思わず質問したクレハへ、部長が答える。 自分と一緒に来てくれるというのなら、今後ネオ・ダイナストカバルに向かうこともあるだろうから、その中から好きなモチーフを選ぶがいい。 一聞して意味不明の言葉であったが、その帳簿の中身を確認すると、それを理解する。そこにあったのは、ネオ・ダイナストカバルの怪人モチーフ一覧だ。……しかし、それは部長なりの冗談であり、本心では、クレハを怪人にするつもりは(怪人になったら役立ちそうだとは思いつつも)ないという。だが、当のクレハはその帳簿を見せられても、動揺こそしたものの怪人になること自体については部長のためならと認めていたようで、その決意の深さには、さしもの部長も感嘆せざるをえないのであった。 ……ところで、帳簿は2つある。片方が怪人についてのものなら、もう片方はなんであろう?そのようにクレハが考えて、それをめくると、そちらには今日分の陸上部のトレーニングメニューが記されているのであった。……ただし、その内容量は、見間違いでなければこれまで行ってきたものの倍ほどの密度があるような気がする。果たして、これもジョークか。そう思って部長の可憐な顔を振り返ったクレハへ、部長は笑顔のままでいう。 自身の運命に決着をつけた今、今まで以上に精力的に鍛錬に打ち込めるというものだな、と。 さて、先ほど逃げ出したアーゼスも含め、そろそろ今日のトレーニングを始めるか。フェイスガードを再度装着しつつ、そう宣言する部長。またも陸上部のグラウンドに悲鳴の嵐が巻き起こる気配であったが……クレハは、その未来へ戦慄は感じながらも、そう言って進み始めた部長の後をついていくことに、迷いを見せなかった。 この学園にいる間も、そしてここを出てからも。自分がいるべき場所は、愛する人のすぐそばだ。 それを決めたから。そして、認めてもらえたから。 ジャックのいる場所に、訪ねてくる人物がいた。サーニャである。 ジャックの人生に課せられた、二度目の戦いが終わった。最初の戦いを決意で、第二の戦いをそれに加え、仲間との力で勝利したジャックをサーニャは讃え、そして問いかける。この先、ジャックはどのような人生を歩むのかと。 強大な敵との戦いの果てに、再度自身の手に取り戻した未来。この学園を卒業するという当面の目標はあるとしても、そこを巣立った後、自分は何をするのか。……ジャックはそれに対し、明確な答えを持っていたわけではなかった。しかし、それはジャックが、今焦る必要はないのだということを知っていたからなのだ。 ……今のジャックには、帰るところがある。学生としての務めを果たしたならば……その時は家に帰り、もう一度、自分と母の、自分とアルマー家の関係を見つめなおすのも、悪くはないだろう。 シャルリシア寮生となり、様々な経験を経る前なら。あのエルクレストでの一件(第十話B参照)を経る前のジャックならば、そのようなことは考えなかっただろう。彼もまた影響を受け、成長をしていたことを、その思考の変化ははっきりと物語っている。そして、それは未だにキャロルを元主人として案じるサーニャにとっても喜ばしいことであり、静かにそう語ったジャックを見る表情は、笑顔であった。 しかし、どうやら話はそれだけで終わりではないようだ。まだ、やるべきことを見定めていたわけでないのであればといいつつ、サーニャはジャックへ、将来の提案があったようだ。 私と共に、メギアム様方の御力となっていただけませんか。サーニャはジャックの目をまっすぐに見て、そう語った。 サーニャが言うには、メギアムはこの学園を卒業した後には、ジャック同様エルーランに帰還するつもりでいるとのことだ。しかしそれは、決して再度王族としての地位を得るためにではなく……エルーランという国を脅かす下劣な姦計や策略を監視し、そして阻止していくためであるという。……つまり、メギアムは王としての地位を完全に捨てた今となっても、国のために戦い続けるつもりでいるのだ。 ……そして、そのためには力がいる。メギアムの傍にはもちろん、最強の王女たるプリンセス・ミトという存在が寄り添い、いかなる時もその力となってはくれるだろう。しかし、彼らに必要な力はきっと、それにとどまることはない。メギアムの考えを主従を越えて理解した仲間が……彼らにとっての真の騎士もまた、必要なはずだ。 サーニャは、自身がそれになるということを決めている。そして、それと同時に、1つのことを願っていた。 その時、自分と共に並び立つ騎士として、ジャックがいてくれればと。 ……もちろん、それはジャックが力ある戦士であるからこその望みではある。しかし、サーニャはその機械の体に込められた、作りものではないもの……自分の心の中に、それと同じくらい……あるいはそれ以上の理由がある事を感じ取っていた。 それを全て説明することはできそうにない。しかし、サーニャはそれでいいと思った。大切なのは、自分が将来、ジャックと共にメギアムのための。エルーランのための力になりたいと思っている、そのことのはずだから。 そんなサーニャの言葉を、ジャックはどう受け止めたか。その心もまた、完全に解明することは不可能だろう。 ……しかし、まいったな。といって、いつもの厳かな雰囲気を、わずかに緩ませたジャックが。 ……サーニャに言われる以前から、メギアムの騎士となり、サーニャらと共に力を合わせて戦う自分の姿を、幾度か想像していたという自白をしたジャックが、サーニャから提案されたその未来を、望ましくないものと考えていたということはないだろう。 ジャックのその返答に、サーニャはもう一度笑う。それは、安心、喜び……人にとってのそういったものが混ざり合った、幸福の表情だ。 ……互いに、言葉の饒舌さではなく、心の真摯さを信じ彼らは、もはやそれ以上の会話を必要としない。 互いに視線を合わせ、そして、自らの信念を宿したる剣を掲げ、合わせる。 今より数年後、エルーランの精鋭騎士団をってしても、決して劣るところを見せぬ騎士たちが、その国の力となるだろう。 それはおそらく、確実なことだ。 園芸部部室に、ミトはいた。しかし、園芸部の部長たるデュフェールでなくとも、その光景には目を疑ったであろう。なんと、ミトは勉強していた。それも、多数の本に囲まれ、まるで学者の雰囲気だ。そしてそれにミリティスがよりそい、手助けをしているようである。 ポーションを作るというわけでもなさそうなのだが、一心に勉強に励んでいるミトの様子を、思わずデュフェールが見つめていると、やがてその存在に気づき、ミトから声がかかる。そして、彼女に発見されたデュフェールがその勉強の目的を聞くと、ミトは答える。 ミルカがしばらくの間旅に出るということで、彼女が戻ってくるまでの間、シャルリシア寮のプリフェクトの責務を誰かが負う必要がある。ミトは、その役につくのはメンバーの中でも最年長であり、頼り分も申し分ないジャックであると考えているのだが、一つ問題があった。それは、ジャックは戦士と言う職業がら、洞察力にはたけていても、知能労働に万能というわけではないということである。これまではプリフェクトがミルカであったため、そういう分野もそつなくこなしてみせていたが、ジャックがその関連で四苦八苦することになるかもしれないのは、確かに予想できることだった。 ジャックは、ミトにとって特に信頼のおける仲間であり、自身やメギアムにとっての騎士である。そして、騎士が苦しむのであれば、プリンセスもまたその苦しみを分かち合い、共に支え合うというのがミト流のプリンセス哲学だ。 よって、ミトはジャックがプリフェクト代行を任された時のために、自分が知識をつけることによって、ジャックの責務をフォローしようとしているのである。それは確かに立派な心構えと言えるだろう。……しかし、そう聞いたデュフェールは、ミトも決してそうした分野が得意というわけではないのでは、と内心考えることを止められないのであった。 だが、慣れない分野の勉学に苦心するミトに、傍らのミリティスは、見るだけで癒されるほどの優しい微笑みを浮かべつつ、その頭脳的疲労を緩和する菓子や茶を用意してあげるなど、本心から、疑いなくミトのその行動を応援している。 ミリティスは、ミトの心と、それが生み出す可能性を全面的に信じている。誰かのためにそうしたい、と思い行動するというのは、大きな意味のあることであり、そしてそれを為そうとするのがミトなら、どんな困難でも克服して、望む結末を得ることができるであろう。そして、そんな努力するミトの友人を自負する自分にできることは、それを疑いなく支えることだと、ミリティスは考えるのだ。 そしてそんなミリティスの想いは、確かにミトにも伝わっているようだ。彼女は、今の自分も認め、そして寄り添って応援してくれるミリティスの存在に感謝を感じている。そんな二人の心温まる関係を見ていると、最初は不安を感じていたデュフェールの心にも、やがて今ミトのしていることを、ただ応援していこうという気持ちが戻っていくのであった。 だが、そうして場の不安が消えようとしていた中、現れる一人の少年がいた。メギアムだ。ミトは彼が現れたというだけで表情を華のように輝かせ、メギアムもまた、自分が幸福でたまらないとばかりの笑顔を返すのであった。そんないつもの二人のやり取りを終えると、メギアムはふところをあさり、何かを取り出そうとしていた。 ……かつて図書館で忍んで勉強をしていた(第六話)ことからもわかるように、メギアムは実はかなりの勉強家である。ミトがジャックのために苦手な勉学に挑むと決めた時には、メギアムもまたそれを大いに認めており、そして自身もまたそんなミトの力になるために、たいそう張り切っていたのだ。 そんな彼が取り出したのは、一体どこにもっていたのかと言いたくなるほど、分厚い本のセットであった。それを全て読め、といわれたら、大抵のものは思わず後ずさってしまうであろう、そのくらいのボリュームがある。ましてや現在進行形で苦心中のミトにであれば、その心境は推して知るべしだ。 しかし、当然ながらメギアムに悪気はない。おそらく、ミトの目的を叶えるためにと、少々張り切りすぎてしまっただけなのだ。それをわかってか、あるいは相手が自身の一生のプリンス、メギアムであるからか。ミトはその圧倒的量の書物にも、ひるむことなく向かい合って見せる。……ただし。 これを読む時は、歌いながらでもいいでしょうか。とミトは言う。いくら彼女が歌の力でほぼすべてに対応できる技能の持ち主であるからとはいえ、それは本当に勉強と言えるのか悩ましいところではあったが、メギアムは君の美しい歌が久しぶりに聞けるのが嬉しいと純粋に喜びを表し、ミリティスも、自分にできる全てでメギアムの期待に応えようとする親友の姿を、ほほえましくみるのであった。 ……そんな勉強を続けつつも、ミトとメギアムが二人だけとなったある時、メギアムは、ミトに聞くのであった。 ミトの未来を覆う暗雲を打ち破った今、これからのミトと、そしてメギアムの将来を阻むものは、当面の間いなくなったのだろう。ならば、この学園での日々をいつか終えたあと、自分たちはどうするべきなのだろうか、と。 それに対し、ミトは答える。自分はプリンセスであり、メギアムはプリンスだ。王女と王子である自分たち二人がすべきことというのは、いつの時もおのずと現れるように思える。ゆえに、ミトはこれから先のことを、そこまで大きく考えてはいなかったのだという。 メギアムはどうか。そう問い返されると、メギアムは少しの沈黙の後、静かに語り始めた。 メギアムは、いつかまた、エルーランに帰ろうかと考えている。という。 当面に置いて最大の脅威、ジャムルは失脚させたとはいえ、王弟のケストナー等、脅威の可能性を見せているものもまだまだエルーランには存在する。エルーランが真にアンナ王女の元に心を集め、盤石なる平穏を築き上げるためには、いずれまた、あの時の自分たちのような影の力が必要になることもあるだろうと、メギアムは予測しているからだ。 ……しかし、それは自分の人生の困難にうち勝ち、もう戦いとは無縁の生活を送ることもできるようになったミトにも、汚い陰謀や策略との対面を強いることになってしまうことでもある。だから、メギアムはその考えを推し進めたいとは思っていなかった。彼にとっては、自分にとってただ一人の生涯のプリンセス、ミトの望みを叶えることが何よりも大切だからだ。 だが、メギアムのその考えを聞いても、ミトは全く躊躇しない。むしろ、ぜひそうしよう、とばかりの笑顔と決意で、メギアムに答えて見せた。……本当のところ、メギアムにもわかっていたのかもしれない。ミトはきっと、それに賛成し、心からそう望んでくれるのだろうと。 メギアムが、あの国に王族として戻ることはもうない。しかし、それでも自分たちは、かつて失われた王子と王女。自らの国を、よりよくするためにその力を尽くすべき存在なのだ。 あと数年。ここを二人が卒業するまでの間に、どのようなことがあるかはわからない。しかし、今は自分たちの未来に見える道標が、平穏と正義のために戦うプリンセスとプリンスであるということを、彼女達は疑いなく見つめていられる。 そして、これから先も、互いの傍に互いがいれば、大丈夫だと信じられたし、幸福だと思えた。 それがどんな日々でも、毎日を生きていくということが。 ……何かを決めて進んでいくのは、自分にしかできない。 だから、それを成そうとしたとき、人は他者の意思に軋轢を感じ、少なからず苦しむものだ。 だが、それでも他者のすべては、君を傷つけるものではない。 君のしていることが真摯であり、誰に対しても自分の信念として誇ることができ、そして君もまた他者を想えるなら。 君のやろうとしていることに声をかけ、必要ならばその手を差し出す。そんな人びともいる。 そして、純粋に自身へ願いをかけてくれる、そんな人びとに出会えたら、それに感謝するだろう。 そういった巡り会いは、自分だけで願い努力しても、叶えられはしないから。 そうすることで、自分の行くべき道に、さらに確かな光は指すから。 だからきっと、私達は信じている。 We trust us. 私達の作る、未来を。 --アリアンロッド・トラスト最終話 「We trust us」完-- link_anchor plugin error 画像もしくは文字列を必ずどちらかを入力してください。 このシナリオに登場したキャラクターまとめ シャルリシア寮生と意識を共有したキャラクター チーフ ガイブ ミリティス デュフェール メギアム サーニャ・リシア アーゼス・ジェセン イッシー・ハッター デアス・ヒム ドゥーラ マナシエ・バンガロック サイオウ・アマガシ マゼット レイス ダバラン・テレミナス エンジェ・ウィラン シズナ・ミナモリ 部長 ビーク メンファ・リン フェイエン セイ ナタフ ハナ・タウル・イヴィシル 「赤い服の」マリー 「歌歌い」ウィルテール ユエル・ケルフィン それ以外 ティオルジュ ファムリシア ヴァリアス・ヴァンガード カミュラ カッツ・バルゲル ルアダン ブレアス ティオルジュの配下 ベルゼブブ エルヴィラ・アルディリケ ライベル・ウィド キキョウ・アマザキ ナイル シリル・ゴールウィン フィシル・アリーゼ シャルロッテ・イエミツ ザムト・アンリ・ゲスト リュミル 仮面の騎士 エーエル・ラクチューン ディアロ・トゥウェルブ バウラス・ジーク・スヴァルエルト キャロル・アルマー マルティン・カナール ネフィ
https://w.atwiki.jp/vs-wiki/pages/2400.html
FAM/075 R 翼の巫女 ディアン/グラキエス 女性 パートナー アダマース中隊 ディアン/グラキエス 女性 レベル 2 攻撃力 2500 防御力 6000 【グラキエスの翼の巫女】《空》 【自】〔リング〕あなたのアタックフェイズの始めに、あなたのベンチに「アダマース中隊 ディアン」がいるなら、あなたは相手のベンチのカードを1枚選び、相手のリングのカードと入れ替える。 作品 『ラストエグザイル-銀翼のファム-』 2012年4月3日 今日のカードで公開 関連項目 『ラストエグザイル-銀翼のファム-』 アダマース中隊 ディアン/グラキエス
https://w.atwiki.jp/pkgc/pages/457.html
しろもも【登録タグ 【♀】 【ノーマルタイプ】 【ハピナス】 【擬】 【擬し】 【擬/学生】 【擬/甘党】 【神無月香】】 最終更新日時【2011-10-04 07 15 06 (Tue)】 シロモモ 親 神無月香 種族 ハピナス 性別 ♀ 所属 ホワイト 年齢 学生(16~17歳くらい) 性格 むじゃき 好き かわいい雑貨・甘いお菓子 苦手 暗くて重い雰囲気 一人称 わたし 二人称 あなた(~ちゃん、君、先輩) 台詞 「『しあわせ』って、なにかを『ステキ!』って感じることから始まるのよ!」 設定 ほんわりメルヘンな夢見る少女。 前向きで人当たりの良い性格。「やってみなければ始まらない」という精神で、何ごとにもポジティブな思考で立ち向かいます。しかし、闇雲に突き進むわけではなくて、きちんと自分の中で理由を持って行動しているようです。 外見やイメージなど、自分が他人の目にどう映るのかということを気にする面もあり、身だしなみや言動には気を配っています。 普段からの行いにより、奇跡や幸運は努力が運んでくれると信じています。 とある学園の女子学生で、学園寮と自宅バトルチームの間を往復する日々。 外見補足 ブルーグレイのぱっちりした瞳。 もともとウェーブのついた髪質で、全体的にふわふわでくるくるしています。前髪は毎朝、必死に伸ばしております。上の方のみ、左右軽く二つに結っていて、花飾りをつけています。 性格が明るいので、表情も基本は笑顔です。 すそ部分が二重になった桃×白のワンピースで、腰にベルト状の飾りを付けています。そのポケットにたまごっぽいものが入っています。足元はニーハイ+ショートブーツ。 身長は156cmで、甘いものが好きなので体型には気を使っている…つもりだけど、ぷにぷにしています。ダイエットは明日から!! 企画参加時の設定 ポケモンが人間に化けて、その社会の中で暮らしていく、という世界観の学園企画に参加していました。 所属:2年雪組 変化(人間に化けること)は、幼少時より周囲の大人などに鍛えてもらっていたため、安定しています。もともと、本来の姿がまるいことを気にしているところがあり、あまり変化を解きたがりません。学園で化け学をさらにしっかり身に付けることで、様々な世界を知りたいと思っています。 変化以外の授業も、まじめにとりくんでいるのでそれほど悪くはありません。しかし、勉強は特に好きではないので、花や緑に囲まれた屋外やかわいい雑貨にあふれた部屋でのんびりしたいなぁ、と思っています。 カードやボードを使ったテーブルゲームが得意です。こういった場合の幸運は、天の恵みだと冗談めかして笑っています。晴れた昼下がりに紅茶を飲みながらゲームをするのは、自身のくつろぎタイムの一つです。ただし、甘党なので紅茶は大量の砂糖を入れたミルクティー。お菓子も必須です。 テーブルゲームクラブ(卓上遊戯部)という、カード等を使ったテーブルゲームを楽しむクラブを立ち上げており、部長を務めています。トランプ、チェス、囲碁などが好きなようです。 制服のインナーには、フリルのついた白いブラウスに、濃いピンクのリボンを着用。もともと、リボンやレース等かわいらしい物を好んで身に付けます。飾りベルトは、フリルのついた太いものと細いもののの2本を交差させてサイドで留めています。また、太い方には変化媒体の卵型の宝石を付けています。足元は白いニーハイにロングブーツ。 コメント 名前 コメント 上へ
https://w.atwiki.jp/livetokai/pages/283.html
2004年10月~12月アニメ・特撮番組情報 このページは、東海エリアで放送されたアニメ・特撮番組の情報をまとめておくためのページです。 ※リンクは公式サイトです 月曜 放送予定時間 放送局 番組名 放送開始予定日 備考 25 25~25 55 CBC 砂ぼうず 10/04~ 25 30~26 00 三重 げんしけん/くじびきアンバランス 10/11~(全12話) 25 58~26 28 愛知 うた∽かた 10/04~ 26 28~26 58 愛知 下級生2~瞳の中の少女たち~ 10/04~ 火曜 放送予定時間 放送局 番組名 放送開始予定日 備考 24 30~25 00 三重 Legend of DUO 11/02~ 25 28~25 58 愛知 舞-HiME 10/05~ 26 28~26 58 愛知 ファンタジックチルドレン 10/05~ 26 43~27 13 名古屋 サムライガン 10/19~(全13話) 水曜 放送予定時間 放送局 番組名 放送開始予定日 備考 25 28~25 58 愛知 双恋 10/06~ 27 08~27 38 名古屋 神無月の巫女 10/13~(全12話) 木曜 放送予定時間 放送局 番組名 放送開始予定日 備考 25 28~25 58 愛知 遙かなる時空の中で~八葉抄~ 10/07~(全26話) 25 58~26 28 愛知 プリンセスアワー 10/07~(全13話) 金曜 放送予定時間 放送局 番組名 放送開始予定日 備考 24 10~24 40 岐阜 魔法少女リリカルなのは 10/01~(全13話) 土曜 放送予定時間 放送局 番組名 放送開始予定日 備考 26 20~26 50 三重 魔法少女リリカルなのは 10/02~12/25(全13話) 日曜 放送予定時間 放送局 番組名 放送開始予定日 備考 25 10~25 40 愛知 tactics 10/10~ 25 40~26 10 愛知 BECK 10/10~(全26話) 参考リンク 感想・要望など何かコメントをどうぞ 名前 コメント - 今日の閲覧者数: - 昨日の閲覧者数: -
https://w.atwiki.jp/magicman/pages/9156.html
護りの巫女トワイライト SR 自然 7 クリーチャー:スノーフェアリー 7000 ■W・ブレイカー ■このクリーチャーがアタックするとき、自分の山札を見る。その中からフェアリー・コマンド・ドラゴンを一体選びバトルゾーンに出してもよい。その後山札をシャッフルする。そのクリーチャーはスピードアタッカーを得、そのターンの終わりに破壊される。 作者:神風弐千 《超夢幻妖精ガイア・カチュア》 収録 DMTT-0C「月の変」 評価 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/aquarianagetcg/pages/700.html
Break Card [[極星帝国]] 3F/3C [[トライ]]/[[霊能者]] 5/5/4 1:[[メインフェイズ]]終了時まで、目標の≪あなたの[[支配キャラクター]]1人≫に±0/+X/-Xする。 2:メインフェイズ終了時まで、目標の≪あなたの支配キャラクター1人≫に±0/+(X)/-Xする。 2:メインフェイズ終了時まで、目標の≪あなたの支配キャラクター1人≫の[[耐久力]]に+Xする。 Xはあなたの[[ダメージ置き場]]のカード枚数に等しい。 No.1160/1176/1211 Rarity R/SP/VF Illustrator 大野哲也 Expansion 月光の秘儀 カード考察 上2つのエフェクトは(精神)攻撃力を上げる代わりに耐久力を下げてしまう。 下のエフェクトと合わせれば(精神)攻撃力のみを上げる事が出来るのだが3コストにもなる。 相手のキャラクターを目標に取れたなら耐久力0で落とせるのだがそんなに甘くはない。