約 6,956 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8501.html
前ページ次ページゼロのペルソナ 死神 意味……別離・再生 「風吹く夜に」 「水の誓いを」 それが恋人たちの合言葉だった。 「きみが好きだ」 「わたくしだって、お慕いしております」 「きみと太陽のもと……、誰の目もはばからずに、この湖畔を歩いてみたいものだ」 「ならば、誓ってくださいまし」 「迷信だよ。ただの言い伝えさ」 「迷信でも、わたくしは信じます。信じて、それがかなうのなら、いつまでも信じますわ。いつまでも……」 それは全て、双月を映しこむ美しき湖でのことだった。 ルイズはラグドリアン湖から戻ってきてトリステイン魔法学院の自分の寝室にいた。 そして手持ち無沙汰となっていたルイズはトリステイン王家から送られて来た『始祖の祈祷書』を読むことに決めた。 もともと『始祖の祈祷書』はゲルマニア皇帝とトリステイン王女であるアンリエッタ姫との婚約の儀で 詔を読み上げられる任を頂いたルイズに、その文を作るために送られて来たのであった。 しかし、その『始祖の祈祷書』を読む前にルイズは忌まわしい事件に巻き込まれてしまいそれどころではなくなってしまった。 思い出すだけでどこであろうと奇声を発したくなるような羞恥の記憶。 ルイズが水の精霊のもとから帰ってきてすぐに『始祖の祈祷書』を読もうと決断したのはルイズの勤勉さの表れではなく、 なにかしらの仕事に集中して嫌なことを忘れようという意志の表れだった。 そして『始祖の祈祷書』はルイズの願いは十全にかなえてくれることとなる。 ベッドの上で行儀悪くうつぶせになりながら『始祖の祈祷書』を開いた。 祈祷書の中には白紙のページが続くばかりということは聞いていたが、 今のルイズはただ時間を潰すことの出来る言い訳があればなんでもよいという気分だった。 しかしページの中には古代ルーン文字が躍っていた。それを見た瞬間、ルイズはわけもわからぬほど、それに引き込まれてしまった。 序文。 これより我が知りし真理をこの書に記す。この世のすべての物質は、小さな粒より為る。 四の系統はその小さな粒に干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる呪文なり。その四つの系統は、『火』『水』『風』『土』と為す。 ルイズの知的好奇心が爆発的に膨れ上がる。読み始めた不純な動機はルイズの心の中から消え去っている。 神は我にさらなる力を与えられた。四の系統が影響を与えし小さな粒は、さらに小さな粒より為る。 神がわれに与えしその系統は、四のいづれにも属せず。我が系統はさらなる小さき粒に干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる呪文なり。 四にあらざれば零。零すなわちこれ『虚無』。我は神が与えし零を『虚無』と名づけん。 ルイズにはもうページをめくろうとする意志に抗うことはできない。たとえ目の前で戦争が起きようともルイズは構わず読み続けるだろう。 これを読みし者は、我の行いを受け継ぐもの、あるいはそれに抗するものなり。『虚無』を扱うものは心せよ。 『虚無』は強力なり。我はこの書の読み手を選ぶ。たとえ資格なきものが指輪を嵌めても、この書は開かれぬ。 選ばれしものが指輪を嵌めても、この書は開かれぬ。選ばれし読み手は『四の系統』の指輪を嵌めよ。されば、この書は開かれん。 ブリミル・ル・ルミル・ユル・ヴィリ・ヴェー・ヴァルトリ ルイズはさらに急かされるようにページをめくるが、後のページには白紙が続くばかりであった。 本を閉じ、ルイズは半ば呆然としながらも先ほど読んだ内容のことで考え込んだ。 読んでいるうちに、いつの間にか横になっていた身を起こしていた。 何も書かれていないという『始祖の祈祷書』には文字があった。 いや、この書物は読むものを選ぶという。もしかして自分だけにしか見ることができないのか。 ルイズは指に嵌めた水のルビーを見た。それはアルビオンへ行く前にアンリエッタから譲られたものだ。 トリステイン、アルビオン、ガリアそしてロマリアに始祖の時代から伝わるという指輪。これが『四の系統』の指輪なのであろうか。 今まで自分が魔法を使えなかったのは自分の系統が虚無だったからであろうか。だが、読めたといっても序文だけである。 ということはやっぱり自分はただの落ちこぼれで、自分が虚無であるなどというのはただの妄想なのであろうか。 その後、ルイズは真剣な表情で考えこんでいるかと思えば、うんうん唸ったりと頭の中で思考の堂々巡りを繰り返した。 完二はいつも以上に厨房などで学園で働く平民たちと食堂で時間を潰し、部屋に戻ってきた。。 時間が経つに連れ恥ずかしさも実感できるようになってきたので、最悪の場合、ルイズから八つ当たりでもされるのではないかと思っていたからだ。 だが却ってルイズのボーッとした様子に心配することになってしまった。 次の日もルイズは、始祖の祈祷書と虚無について考えこんでいるばかりであった。 今日一日ルイズがおかしいと思ったキュルケは夕食後、半ば強引にテラスに誘い、 半ば強引に付いて来たクマと食後のデザートを楽しみながらルイズに質問を投げかけていた。 ところがルイズときたら、「はあ」だの「そう」だのまるで気のない返事ばかりだった。 惚れ薬が効いている間のことをからかってみても似たような反応であった。これにはキュルケは驚愕した。 ルイズはわりといや、かなり粘着質な性質なのだ。そのルイズが惚れ薬で痴態を晒していたことをすぐに忘れるはずがない。 いつものルイズならこれだけで一年はからかうネタに困らないだろう。 「ねえ、ルイズ、あなた今日一日、その古びた本を読んでるだけじゃない?」 「そう」 それまでと同じように気のない返事をしたルイズは突然、はっと思いついたような顔をした。 「キュルケ!この本読んでみて!」 ルイズはその手に持っていた本をキュルケに渡した。 もう一人の自分の親友と同じように無感情になっていたルイズの突然の感情のほとばしりにキュルケはたじろいだ。 「え、なによ……ってこれ、なにも書かれてないじゃない」 このピンク髪の友人は一日何も書かれていない本を読んでいたのであろうか 。もしかしてモンモランシーの惚れ薬の悪影響を受けているのでは? とキュルケが頭の具合を心配する少女はさらに自分の指に嵌めていた指輪を抜き取りキュルケに突き出した。 「これつけて読んでみて」 「それに何の意味が……」 「いいから!」 気おされたかのようにキュルケはおとなしく言うとおりにして指輪を嵌めてもう一度白紙だった本を見てみる。当然、今も白紙だ。 「読めないわよ……」 「古代ルーン語が読めないから?何も書かれていないから?」 キュルケは片眉をつり上げた。 「古代ルーン語……?なんでそれが出てくるのよ?」 「つまりなにも書いてないように見えるのね?」 「見えるも何も書いてないじゃない」 「そう……そうなのね……」 ルイズはそう言うとなにか得たものがあるというな顔になり、本と指輪を返してくれとキュルケに言った。 本と指輪を返しながら、キュルケは一日何も書かれていない本を読んだ挙句、 指輪を付けてそれを読めと言いう奇態な言動をする友人のことを本気で心配した。 そしてあとでモンモランシーを問い詰めることも心に決めた。 ところでルイズのぶんのデザートまで無心に食べていたクマだが、着ぐるみは着ていない。 召還されて最初のころは着ぐるみを脱ぐのを嫌がったものだが、最近は脱ぐのに抵抗がなくなったようだ。 未知の場所なのでクマにとって最も完全に近い姿を保っていたかったのかもしれない。 つまり今はこの世界になじんだということだ。 そこへ完二がやって来た。 「おい、キュルケ、クマ。タバサと花村センパイが帰ってきたぜ」 「あら、本当?じゃあ、迎えに行きましょうか」 「あ、ちょっと、モグモグ、待って欲しいクマ」 クマはクリームを飛ばしながら立ち上がったキュルケに言った。 完二はその二人とは別にもう一人同じテーブルに座っている少女に躊躇いがちに言った。 「な、なあルイズ、お前も行っとくか?」 ルイズの返答はなかった。それだけみれば昨日の夜と同じだったが、なにか黙考しているようであった。 「ごっくんペロリ。それじゃ迎えに行くクマよー」 顔をクリームでペイントしたクマが言った。キュルケがしょうがないとばかりにナプキンで顔を拭いた。 考え込んでいるルイズも無理矢理連れて一行は塔を出た。 4人が行った時、タバサと陽介はちょうど馬車から降りようとしていた。 「タバサ、数日ぶりね!」 そう言いながらキュルケは馬車から降りたタバサをその豊満な胸に押し付けるように抱きしめた。タバサはなされるがままだった。 完二とクマも数日ぶりに会う仲間を出迎える。 「センパイ、お疲れっス。つかどこ行ってたんスか?前もこんなことあったよな」 「どーこ行ってたクマ?さーさー、吐きんしゃい」 「んー、いや悪いな秘密なんだわ」 「ムムム、何か怪しい香りが……。でも陽介が秘密って言うならしょーがないクマね」 「ま、センパイがそーいうなら」 陽介の言葉に納得できたわけではないが、一年以上の深い付き合いだけあって完二とクマは踏み込むのをやめた。 タバサを抱きしめていたキュルケは、視界を去ろうとする馬車を見た。 タバサたちが乗ってきたものだが、それには交錯する二つの杖の紋章、ガリア王家の証が記されていた。 この子がガリア王家の馬車で?この子とガリア王家にどういう関係が? だが、キュルケの思考は、小さな友人とは別の方向へと進んだ。 それは昨日ラグドリアン湖で感じた違和感、そして馬車と王家。それらがキュルケの頭の中で化学反応を起こした。 「なあ、クマちょっと話が……」 「ああああ!!」 キュルケの突然の大声に、話を遮られた陽介はもちろん周りの人間は全員驚いた。 その腕の中にいたタバサも彼女にしては珍しくビクリと小さく肩を震わせた。 「ちょっと、なんなの!?」 今まで帰ってきた二人との会話に参加せず、思考の海を漂っていたルイズも怒ったようにキュルケに言った。 タバサを解放してキュルケは真剣な表情を浮かべてルイズを視界の中央に納めた。 「昨日、わたしなにかひっかかりを感じてたのよ。水の精霊からアンドバリの指輪の話を聞いてから……いえ、正確に言うならそれ以前かしら……」 「ちょっと何を勝手に納得しようとしてるのよ!わたしにもわかるように説明しなさい」 さきほどのテラスでの会話で自分も同じようなことをしておきながらルイズは悪びれている様子はない。 キュルケはルイズの要求の身勝手さを気にはしなかった。もとより意趣返しのつもりもない。 「ならはっきり言うわ。昨日、ウェールズ皇太子の姿を見たわ」 その場に居た一同は言葉を失った。もっともタバサはいつもの寡黙なのかもしれないが。 「どこで?」 やはり一人驚愕とまではいたらなかったのかタバサはキュルケの簡潔な説明の詳細を簡潔に求めた。 「ここからラグドリアン湖へ向かう途中で馬車とすれ違ったの。 やけにいい男が乗ってると思ったんだけどその人がウェールズ皇太子だったのよ」 「な、なんでもっと早くに気付かないのよ!?」 「しょうがないじゃない。男の顔なんていちいち覚えていないわ。 というか死んだものと思ってたのよ、ニューカッスル城にいた人間は全員殺されたって聞いてたし」 「ま、まあよかったじゃん?皇太子さん死んでなくてさ」 陽介がキュルケに噛み付くルイズをなだめる。 クマと完二も陽介と同意見である。 「よかったクマー!王子さま生きてて。クマも頑張ったかいがあるってもんです!」 「ああ、まったくだぜ」 しかしキュルケの顔はウェールズの生存を喜んでいるようではなかったので、完二は尋ねる。 「なに渋い顔してんだ?ちったあ喜ばーねのか?」 「生きてるなら喜ぶわよ。もし生きてるならね……」 キュルケの言葉にルイズだけがはっとした顔になった。 「もしかして、あんたアンドバリの指輪で甦らせられたって言うつもりなの?」 その言葉でようやく完二とクマもキュルケの言わんとしていることを理解した。しかし陽介とタバサは話がつかめない。 「ちょ、待ってくれ。いったいなんの話をしてんだ?」 「ラグドリアン湖で水の精霊から死んだ人間を操るアンドバリの指輪が盗まれたのよ」 これでわかるでしょ。というようにキュルケは端的に情報を告げた。タバサは瞬時に理解し、陽介も少し遅れて理解する。 「つまり皇太子はアンドバリの指輪で操られている?」 タバサが要点をキュルケに問いかける。 「確信はないわ。ただ、もしあの皇太子が誰かに……いえ、操っているならレコン・キスタでしょうね。そうなら狙いは……」 「姫さま……!」 キュルケの出す結論をルイズは言った。キュルケはこくりと頷き、ルイズの推論と同意見であることを示した。 ウェールズ皇太子をわざわざ生き返らせてトリステインに送り込んできている。 彼はアンリエッタの恋人である以上、最もシンプルで効率的なのはアンリエッタを誘拐することだ。 公の場に死体であるはずのウェールズを出すことはできない。種がバレてしまう危険も大きい。 しかし密会し、トリステインの重要人物をかどわかすなら?その重要人物が王女ならば? 恋人であったウェールズにならばそれが出来る。 「行くわよ、手遅れになる前に!」 太陽が地平へと消えようとする時刻、ルイズを先頭に6人は馬を駆り王都トリスタニアに向かった。 アンリエッタは王宮にある寝室にいた。本来ならもう就寝してもいい時間だがここ最近は寝つきが悪くなってきている。 理由は彼女自身分かっている。彼女の恋人であるウェールズ皇太子が戦死したことだ。 恋人は死に、そして自分は政略結婚のためにゲルマニア皇帝に嫁がなければいけない。 アンリエッタは自分が、あの下賎な国に嫁がなければいけないことを考えると情けない気持ちになる。 自分はかつてウェールズが言ったように政略結婚をしなければならないのだ。 ただ、それでも彼の一言があれば救われる気がした。 14歳の夏の短い間、一度でいいから聞きたかった言葉。 「どうしてあなたはあのときおっしゃってくれなかったの?」 目が自然と水気を持ってくる。アンリエッタが目元を拭っていると、扉がノックされた。 「誰ですか、こんな夜中に?」 「ぼくだ」 その声を耳にした瞬間アンリエッタの顔から表情が消えた。 「いやだわ、こんなはっきりと幻聴が聞こえるなんて……」 「ぼくだよアンリエッタ。この扉を開けておくれ」 アンリエッタの鼓動は早鐘のようになる。そして扉へと駆け寄る。 「ウェールズさま?嘘。あなたは反乱軍の手にかかったはずじゃ……」 「それは間違いだ。こうしてぼくは、生きている」 「嘘よ。嘘。どうして」 「ぼくは落ち延びたんだ。死んだのは……、ぼくの影武者さ」 アンリエッタはまるで現実ではないかのように感じられた。 手足の感覚が感じられなくなり、空間に存在していることが強く感じられる。 扉の向こうからウェールズの言葉が聞こえた。 「風吹く夜に」 ラグドリアン湖で、何度も聞いた合言葉。 アンリエッタは合言葉を返す余裕などなく、ドアを急いで開け放つ。 湖畔で見た笑顔がそこにあった。 「おお、ウェールズさま……よくぞご無事で……」 その先は言葉にする事が出来ず、ウェールズの胸でむせび泣いた。 「泣き虫は相変わらずだね、アンリエッタ」 「だって、てっきりあなたは死んだものと……」 「敗戦のあと、巡洋艦に乗って落ち延びたんだ。ところでアンリエッタ、水のルビーはまだルイズが持っているのかい?」 突然の質問にアンリエッタはきょとんとした顔になる。もっともその顔は涙で崩れきっていたが。 「水のルビーですか?あれはルイズに譲渡したものですが……。なぜ指輪の話を?」 「いいや、なんでもない」 強引にウェールズは話を打ち切った。 アンリエッタは疑問を持てないでなかった。今のアンリエッタには瑣末なことであった。なにせウェールズが生きていたのだから。 「アンリエッタ、ぼくはアルビオンに帰るつもりだ。いや帰らなければいけない」 アンリエッタははっとした。 「ばかなことを!せっかく拾ったお命を、むざむざ捨てに行くようなものですわ!」 「それでも、ぼくは戻らなくてはいけない。だから今日、ぼくはきみを迎えに来たんだ」 「わたしを?」 「アルビオンを解放するためにはきみの力が必要なんだ。一緒に来てくれるね」 「わたしは……」 突然のことにアンリエッタは混乱する。 愛する人が自分を求めているのだ。何をためらう必要がある。 しかしそれは感情で、理性は王家として果たすべき義務を語りかけている。 「愛している。アンリエッタ。だからぼくといっしょに来てくれ」 ウェールズの言葉は理性を吹き飛ばした。 ウェールズとアンリエッタは唇を重ねる。 アンリエッタは幸福感に包まれながら、眠りの世界へと落ちていった。 前ページ次ページゼロのペルソナ
https://w.atwiki.jp/darthvader/pages/2.html
メニュー トップページ プラグイン メニュー 更新履歴 召喚~コントラクト・サーヴァント 朝~授業 昼食~ギーシュとの決闘 決闘その後~フーケ登場 決闘が終わり~城下町で買い物 フーケ討伐~舞踏会 第2部OP~アンリエッタ登場 ワルド登場~ワルドとの決闘 街中散策~フーケ来襲 空賊来襲~頭目の正体判明 入港~結婚式 対決~アルビオン脱出 第3部OP~タバサの講義 探索~タルブの村の鬼退治 依頼~発見『竜の衣』 手紙~竜の羽衣輸送 呼び出し~恋文疑惑 開戦~竜の羽衣飛翔 追跡~竜騎士殲滅 ワルド再戦~戦艦撃沈 災厄襲来~本当の名前 迎撃~合流 祈祷書~黒衣の英雄 発動~帰還 エピローグ @ウィキ ガイド @wiki 便利ツール @wiki 更新履歴 取得中です。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7339.html
前ページ次ページ異世界BASARA 火竜に跨ったアルビオンの竜騎士達は、村の家々に火を付けて回った。 元々、メイジに対抗する事なんて出来ない平民達。しかも相手はかの有名なアルビオンの竜騎士隊である。 タルブの村人は、ただ悲鳴を上げて逃げ惑うしかなかった。 容易い仕事だと、竜に乗る騎士の1人が思い、次の家に火を付けようと高度を下げた。 「必殺!!!!」 突然であった。 頭上からの声に騎士は顔を上げた時、彼は既に得物を眼下の敵に振り下ろしていた。 「無敵斬りいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」 振り下ろされた刀は、恐るべき切れ味で騎士と、火竜の体を一度に真っ二つにした。 容易い仕事と余裕を決め込んでいた騎士の1人は、その生涯をここで閉じてしまった。 「わしがいる限り!この村を目茶苦茶にする事は許さん!! 無敵の力を恐れぬ者は、かかって来いいぃぃぃーー!!!!」 彼……シエスタの父は地面に着地すると、空を飛び回る竜騎士達に向かって叫んだ。 しかし運が悪かったのか、それとも彼の家系の宿命なのか…… 彼の活躍はこの後続く事はなかった。 「ぬぅ?」 ふと、一体の風竜がこちらに近づいて来るのが目に止まった。 「無敵のわしと一騎打ちをする気か?面白い!!」 刀を構え、竜騎士に向かって彼は名乗りを上げた。 「わしは無敵じゃあ!ちょっとでかいトカゲ如きに負ける筈がな」 彼が迫り来る竜騎士に名乗りを上げていた最中であった。 竜が、突如スピードを上げたのだ。 彼の元いた世界には竜などいなかった。 その為、それがスピードに優れた風竜だと分からなかったのである。 (速い!?) 彼は避けようとしたが、竜の方が素早かった。 竜は彼を咥え上げると、そのままグングンと高度を上げていった。 「うおおぉぉぉ!?」 竜に咥えられて空高くまで連れて来られると、突然彼を勢いよく放り投げた。 「む、む、無敵のわしが……」 彼が叫んだ時には、竜に乗った騎士……“閃光”のワルドはウィンド・ブレイクの呪文を完成させ、放っていた。 「吹き飛ばされるだとおおぉぉぉぉぉ~~!!??」 その呪文の直撃を受け、シエスタの父は自身の言った通りに吹き飛ばされてしまった。 結局、彼の活躍は竜騎士1人を倒したところで終った。 無敵なのにやられてしまったのだ。 トリステインにある急報がもたらされる少し前…… ルイズは、眠っている幸村の隣で本を開いていた。 といっても、その本には文字も絵も書かれていない。国宝の始祖の祈祷書である。 ルイズはこの祈祷書を手に、アンリエッタの婚礼の詔を考えていた。 だが、どうしても言葉が浮かんでこない。 いや、そもそもルイズは祈祷書を開いてはいるものの、別の事を考えていたのだ。 それは……今もベッドで眠っている自分の使い魔……幸村の事である。 あれから幸村はずっと眠り続けている。まったく目を覚ます気配がないのだ。 治療にあたったメイジは一命は取り留めたとは言っていたが…… “もしかしたら、このままずっと目を覚まさないのではないか?” 白紙のページを見ながら、ルイズの心中に嫌な考えが過る。 そんな訳ないと、ルイズは首を激しく振って今思った事を忘れようとした。 そして、再び始祖の祈祷書に目を戻した。 (……あれ?) と、祈祷書を見たルイズは首を傾げる。 白紙である筈のページに、一瞬文字のような物が見えたのだ。 ルイズはもう一度目を凝らしてそのページを見つめる。 その時だった。急に外が騒がしくなったのは…… トリステインの王宮に、国賓歓迎のためラ・ロシェール上空に停泊していた艦隊が全滅したという報せがもたらされたのは、それからすぐのことであった。 ほぼ同時に、アルビオン政府から宣戦布告文が急使によって届いた。 不可侵条約を無視するような、親善艦隊への理由なき攻撃に対する非難がそこには書かれ、 最後に『自衛ノ為神聖あるびおん共和国政府ハ、とりすていん王国政府ニ対シ宣戦ヲ布告ス』と締められていた。 ゲルマニアへのアンリエッタの出発でおおわらわであった王宮は、突然のことに騒然となった。 「タルブ領主、アストン伯戦死!」 「偵察に向かった竜騎士隊、帰還せず!」 「1人で奮戦していた村民も行方が分かりません!!」 「そんな平民はどうでもいい!!アルビオンから何か連絡はないのか!?」 次々と情報が王宮内に入ってくるが、会議は一向に進まず、不毛な議論を続けるばかりであった。 怒号が飛び交う中、アンリエッタの心にはある男の言葉が浮かんでいた。 “兵に守られるのが総大将ではない。兵を守るのが総大将だ。それを忘れるな” そしてあの日、自分はこう誓った。“自分は勇敢に生きよう。勇敢に生きて、皆を守ろう。”と…… そう決心した筈ではなかったのか? 愛するウェールズが勇敢に死んでいったのならば…… 自分は勇敢に生きて、皆を守ると…… 「……あなた方は、恥ずかしくないのですか」 アンリエッタは静かに、だが強い意志を込めた声で、議論を続ける重臣達に言った。 「国土が敵に侵されているのですよ。ここで議論を続けるより、もっとやらねばならない事があるでしょう」 王女の言葉に、その場がシンと静まり返る。 重臣の1人が、おもむろに口を開いた。 「し、しかしこちらの誤解やも知れませぬぞ。ここは先ずアルビオンに特使を派遣して話し合いの場を設けてから……」 「そんな話をしている間に!1人で戦っていた民が行方知れずになったのですよ!!」 アンリエッタはドンッ!と強くテーブルを叩いた。 その音と彼女の迫力に、一同はビクッと体を震わせる。 「あなた方は怖いのでしょう?アルビオンは大国、反撃に出たとしても勝ち目は薄い……敗戦後、責任を取らされるであろう、反撃の計画者になりたくないというわけですね?」 重臣達は答えない。いや、反論出来なかった。 殆どの者が彼女の言う通り、自身の保身を考えていたからだ。 アンリエッタは一度皆を見回すと、深く息を吸って言った。 「ならば私が戦います。あなた方はここで終らない会議を続けていなさい」 「「「な!何ですとおおぉぉ!!??」」」 アンリエッタの言葉に、一同は一斉に叫んだ。 「いけませぬぞ姫殿下!!お輿入れ前だというのに!!」 マザリーニが必死でアンリエッタを押し留めようとするが、もはや叶わない。 「あなたが結婚なさい!!結婚よりも、民を守る方が重要です!!」 そう言って、アンリエッタは会議室から駆けだして行った。 会議室から飛び出したアンリエッタは、中庭に向かっていた。 「姫殿下!」 と、急ぐアンリエッタの元へルイズが駆け寄ってきた。 「はぁはぁ……姫殿下、アルビオンが宣戦布告したというのは本当ですか!?」 肩で息をしながらルイズはアンリエッタに尋ねた。 「はい、どうやら彼等は最初から約定を破るつもりだったようですね」 「そんな……」 ルイズは言葉を失う。 しかし、アンリエッタは落ち着いた様子で話し出した。 「これから、アルビオンとの戦いが始まります。あなたは実家に戻った方が良いでしょう」 アンリエッタはルイズにそう勧める。 だが、ルイズは首を横に振った。 「……姫殿下……殿下はこれから戦いに行くのですね?」 「……トリステインの王女として、私は前線で指揮を取るつもりです」 「ならば、私も一緒に戦わせて下さい」 ルイズの言葉に、アンリエッタは驚く。 「私の使い魔……ユキムラだってきっとそう言うと思います」 「ルイズ……」 (そうでしょう?ユキムラ……) 未だ目覚めぬ使い魔に言うように、ルイズは心の中で呟いた。 アルビオンの宣戦布告がトリステイン魔法学院に届いたのは、翌日の事であった。 これを受けた学院長のオスマンは無期限の学院休校を行った。 「遂に……僕の特訓の成果を見せる時がきた!」 多くの生徒が実家に帰る予定の中、ギーシュは1人戦う決意を胸に燃やしていた。 「戦争ですって、私達も実家に帰るしかなさそうね」 オスマンの話を聞いていたキュルケは髪を弄びながら、利家に言った。 「……?トシイエ?」 だが利家が返事をしない。 気になったキュルケが目を向けると、いつもの彼らしくない、険しい表情で考え込んでいる。 「……タバサ。忠勝と王宮に行っていいか?」 しばらく考え込んでいた利家は、顔を上げるやいなやタバサに言った。 一方、トリステイン王宮…… この王宮の一室で、幸村は未だ深い夢の中にいた。 (……むら…………幸村) 深いまどろみの中にいる幸村を誰かが呼んでいる。 懐かしい……とても懐かしい声だった。 (目覚めよ……目覚めるのじゃ幸村) 再度その声を聞いた幸村は、カッと目を開く。 そこに立っていたのは、大牛を思わせるような兜を被った大男だった。 前ページ次ページ異世界BASARA
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1496.html
「虚無って……何、これ」 アンリエッタも、ウェールズも、ルイズの疑問に答えることは出来なかった。 ルイズが更にページをめくり『始祖の祈祷書』を読み進めようとすると、よりいっそう『風のルビー』が強く輝いた。 「風のルビーが、輝いている」 アンリエッタがルイズの手にはめられた『風のルビー』を見ると、ウェールズの言ったとおり、不自然なほど強く光を反射して輝いていた。 「本当…ねえ、ルイズ、『始祖の祈祷書』を私にも……」 アンリエッタが試そうとするが『始祖の祈祷書』には何の文字も現れない。 もしやと思い『風のルビー』をはめて試すが、やはり何の文字も現れなかった。 「ルイズ、私の『水のルビー』でも読めるか、試して?」 「…………」 ルイズは無言のまま、アンリエッタの差し出した指輪を受け取り指にはめた。 「読める……読めるわ……」 『始祖の祈祷書』には、『風のルビー』をはめた時と同じように文字が浮き出ていた。 「まさか……私が、そんな、そんな」 ルイズは顔を押さえ、狼狽えた。 この本に書かれていることが本当なら、私は虚無の使い手。 今までの魔法の失敗は、私が系統魔法ではなく虚無の魔法の使い手だったからだと考えれば納得がいく。 だが、納得できない。 『なぜ吸血鬼になる前に教えてくれなかったのか!』 と、怒りにも似た感情が『始祖の祈祷書』に向けられる。 だが、本はそのまま、本として無機質な顔を見せたままだった。 アンリエッタから水のルビーを借りて、始祖の祈祷書を読もうとしていたウェールズだったが、自分には読めないことが分かると、顎に手を当てて何かを考えていた。 「アンリエッタ、この本がニセモノである可能性は?」 「ウェールズ様が疑われるのも無理はありません、ですが、『始祖の祈祷書』は過去に魔法学院やアカデミーで研究されているはずです。この本には『固定化』以外になんの魔法も付加されていないはずですわ……」 アンリエッタの言葉は少し震えていた。 ルイズの言葉が本当なら、伝説だと思われていた『虚無』の手がかりが現れたことになる。 そして、ルイズを悩ませていた魔法失敗の原因が、今解明されるかもしれないのだ。 アンリエッタは王女として、一人の友人として、期待せずにはいられなかった。 「そうなのか……ならば、石仮……いや、ミス・ルイズ。虚無の魔法とはどんなものなのか、確かめられるような魔法は書かれていないのか?」 正直なところ、ウェールズはまだ『虚無』に対して懐疑的だった。 アンリエッタやルイズを信用してはいるが、虚無の魔法ともなれば、その内容を確かめてからではないと信用は出来ない。 『伝説の虚無系統を、この目で確かめてみたい』というのが本音かもしれないが…… 虚無の魔法に対して懐疑的なのは、ルイズも同じだった。 あまりにも突然の出来事で、頭が混乱しているのかも知れない。 だが、今は『これが虚無である』と確かめられるような呪文を探すのが先だ。 ルイズは一心不乱にページをめくり、文字を探した。 「……以下に、我が扱いし『虚無』の呪文を記す。初歩の初歩の初歩。『エクスプロージョン』……意味は、爆発?」 爆発と聞いて、ルイズとアンリエッタが「あっ」と声を上げた。 ルイズはいつも、呪文を唱えると、爆発を起こしていた。 あれは、ここに書かれている『虚無』ではないだろうかと、思い当たったのだ。 考えてみれば、爆発する理由は誰も答えられなかった、ラ・ヴァリエール家の教育係も、両親も、姉も、誰もその疑問には答えられなかった。 ただ、彼らの望む結果を出せなかったから、ルイズの魔法は『失敗』で片づけられていたのではないか。 ルイズは更にページをめくる。 こんな所で爆発を起こしてしまったら、それこそ大問題だ。 別の何かはないかと、必死になって探した。 ルイズは本を凝視し、精神を集中させた。 ふとページをめくる手が止まる。 光と共に文字が浮かび上がり、別の呪文が姿を現した。 「初歩の初歩……〝イリュージョン〟……描きたい、光景……強く心に思い描くべし、なんとなれば、詠唱者は、空をも作り出すであろう…………かしら」 ルイズは、静かに詠唱を始めた。 それはアンリエッタとウェールズも聞いたことがない、長い呪文。 だが、ルイズにとっては、なぜか懐かしく、そして心落ち着く呪文だった。 ルイズは思い描く。 アンリエッタとウェールズの姿を思い描く。 テーブルの上に、二人が並んで立っている姿を想像して、詠唱する。 詠唱する。 詠唱する。 詠唱する…… テーブルの上に雲のようなものが集まり、徐々に人間の形を成して、色が浮かび上がっていった。 テーブルの上に立つのは、高さ15サント(cm)程のウェールズ、アンリエッタの姿。 ……だけではない。 羨ましい程のスタイルを持つ赤毛の女性。背丈より高い杖を持ち眼鏡をかけた水色の頭髪の少女。薔薇の造花を持った金髪の少年。長い髪の毛を綺麗にロールさせた女性。 ぽっちゃりとした体型で肩に鳥を乗せた少年。黒い頭髪と瞳を持つメイドの少女。眼鏡をかけた緑色の頭髪を持つ女性。逞しい肉体と髭をたくわえ豪華な鎧を着た男。ルイズを金髪にして眼鏡をかけたような女性。ルイズと同じ髪の色で目つきの優しい女性。 ほかにも沢山の人の姿が、まるで人形を並べていくようにテーブルの上に形作られていった。 「すごいな……、少し、確かめさせて貰うよ」 テーブルの上に作られていく人形に向けて、ウェールズは『ディティクト・マジック』を唱える。 光り輝く粉のような物が舞い、その存在を調査していく。 「手で触れることはできないが、ディティクト・マジックにすら反応しない幻……これが虚無なのか…」 「水でも、風の系統でもありませんわ、これが『虚無』の初歩なのね、ルイズ…………ルイズ?」 ウェールズが感心する一方、アンリエッタはルイズの表情に影が差していたのを見逃さなかった。 コンコン と、応接室にノックの音が響く。 「姫さま、会議の時間が迫っておりますが……」 アンリエッタは、ウェールズの処遇と、ワルド子爵の裏切りについて会議があるのを思い出した。 「ルイズ、後でまたお話ししましょう。すぐに部屋を一つ準備させますから」 ルイズはうつむいていた顔を上げ、アンリエッタを見て言った。 「は、はい……あ、私のことは、どうか誰にも言わないで」 「大丈夫ですわ、貴方がウェールズ様を守って下さったように、わたくしも貴方を守りましょう」 「……ありがとう」 アンリエッタとウェールズの二人は応接室を出ると、外で待機していた侍女がアンリエッタの言付けを受けて、すぐに上等なゲストルームへとルイズを案内した。 侍女が恭しく一礼し、ゲストルームを出て行くと、ルイズは糸が切れたようにソファに倒れ込んだ。 『イリュージョン』を唱えた影響なのか、ルイズの精神は思ったよりも疲弊していた。 侍女が出て行った途端、緊張の糸がほぐれたのだ。 ルイズは目と口を半開きにしたまま、意識を手放した。 夢の中で、ルイズは魔法学院にいた。 『ツェルプストー!見てみなさい、ふふーん、アタシは虚無に選ばれたのよ!』 『へー、すごいじゃない。でもその胸なら納得よね』 『ああああアンタ!エクスプロージョンでぶっ飛ばしてやるわよ!』 『ミス・ヴァリエール……貴方にお願いがある』 『え?お願いって……』 『タバサがお願いだなんて珍しいじゃない』 『虚無なら、ハシバミ草を育てる魔法があるはず』 『そ、そんなもん、無いわよ』 『……ふぅ』 『何よその落胆したようなため息はー!虚無よ虚無!凄いのよ!伝説よ!』 『ハハハ、ミス・ヴァリエール、君が虚無に選ばれただなんて、なんの冗談だい?』 『えい、金的』 『ウッギャー!』 『ちょっとルイズ!あたしのギーシュに何するのよ!』 『あれぐらい当然の罰よ、罰』 『駄目なの!ギーシュを罰していいのは私だけなのよ!』 『モンモランシー…あんた本当にギーシュが好きなのね。ならプレゼントよ”イリュージョン”』 『えっ、あ、ギーシュが一人、二人、三人……や、そんな、そんな沢山のギーシュに見つめられるなんて、私…ぽっ』 『あら、ヴァリエールったら、本当に虚無の魔法を使えるのね』 『ふふん、やっとツェルプストーも私の力を認める気になったのね』 『でも私はもっと派手なのがいいわ、心の底から恋を焦がすような、熱と光は無いの?』 『あるわよ』 『ふーん、じゃあやって見せなさいよ、ゼロのルイズ』 『ほえ面かいても知らないわよっ!”エクスプロージョン!”』 洪水のような熱と光に、魔法学院と級友達、そして自分自身が焼かれ、ルイズは目を覚ました。 ソファから身体を起こして窓を見る。 外には見慣れた月が二つ浮かび、ゲストルームをうす明るく照らしていた。 「……夢?」 自分の身体を触り、焼けこげていないか確かめる。 服を確かめても、夢の中のように魔法学院の制服は着ていない。 ルイズは「ふぅ」とため息をついて、再度ソファで横になった。 「戻りたい」 学院に。 「戻りたい」 人間に。 ルイズの小さな呟きは、誰にも聞かれることなく、月明かりに消えていった。 その頃、会議を終えたアンリエッタは、ルイズの作り出した幻のを思い出していた。 あの幻で作られたのは、ルイズの父母、姉達、魔法学院の制服を着た人々。 「子供の頃から、強がってばかり……」 空に浮かぶ二つの月を見上げると、月は一つの球体が二つに分裂するかのように位置をずらしていた。 アンリエッタは『おともだち』を、どんな手を使ってでも守ろうと決心していた。 ウェールズと再会できたのも彼女のおかげなのだから。 アンリエッタの表情は、いつもよりも遙かに堂々としていた。 沸き上がる『自信』も『決意』も、『おともだち』がくれたものだと思っていた。 「アニエスなら……ルイズに協力してくださるかしら?」 会議では、ウェールズの亡命を受け入れるには至らなかったが、親衛隊の新設が決定された。 ワルド子爵の裏切りが、親衛隊の新設を後押しする形となり、『銃士隊』の結成が決定されたのだ。 その隊長として、アンリエッタが選んだのは「アニエス」という平民の女性。 元傭兵のアニエスは、今はトリステインに所属する軍人として並々ならぬ功績を上げている。 アンリエッタは彼女に『シュヴァリエ』の位を与えたかったが、まだ他の貴族からの反感も大きく、実行には移せていない。 だが、機会を見てアニエスを中心とした『女性だけで構成された近衛兵』を集めるつもりだった。 「私も、私のお友達も、ずっと子供のままなのかもしれませんわ……」 アンリエッタは、ルイズと同じ月夜を見上げていた。 そして、数日後。 トリステイン魔法学院では、ある変化が生徒達を驚かせていた。 『風が最強だ!』と耳にタコができそうな程繰り返していたギトーが、どこか大人しくなり、傲慢さがなりを潜めてしまった。 それどころか、属性の使い分けと、連携を中心として授業が進められていく。 その変化に驚いたある生徒は『魅了』で記憶を改ざんされたのではないか……と言い出す程だった。 もう一つの変化は、シエスタの変化だった。 いつもより堂々と、自信に満ちた笑顔を見せて、授業を受け、実技に挑戦し、キュルケ達との会話にも物怖じしない、それは女性としての自信と言うより、戦士としての自信だったのかもしれない。 もっとも、それに気づいているのはキュルケとタバサぐらいのものだが。 元は平民なので、シエスタはどの貴族に対しても丁寧に接していたが、そのせいかマリコルヌが何かを勘違いして得意げにしていたのは秘密だ。 だが、いかに治癒の力を持つとはいえ、シエスタは元平民。 平民と貴族が同じ授業を受けるなど、馬鹿馬鹿しいと言って、シエスタに敵意を向ける者も存在していた。 シエスタは空を飛べない。 そのため、魔法学院の外で規模の大きい風の魔法を実習する時など、走ってその場まで移動する。 他の生徒達は『フライ』の魔法を使って移動している。 単独で空を飛行する魔法、風の基礎中の基礎、『フライ』すら使えないシエスタを馬鹿にする者も多かった。 だが、キュルケ達は違う。 ルイズが死んだ罪悪感からか、それとも純粋にシエスタの『治癒』の力を認めているのか、『フライ』が使えないからといってシエスタを馬鹿にすることは無かった。 キュルケ達と仲の良いシエスタを見て、ある生徒がこんなことを呟いた。 『キュルケは、平民上がりのメイジを飼っている』 その噂は瞬く間に広がり、キュルケとシエスタは侮蔑と好奇の混じった視線に晒された。 だが、元々同姓から羨まれ、恨まれるキュルケは気にしていない。 シエスタもそれがどうしたと言わんばかりの、堂々とした態度でいつもの生活を繰り返している。 そうなると面白くないのは、噂を広めた当人達。 キュルケとシエスタへ向けられていた好奇の視線、それが少なくなるに従って、今度は二人の人気が高まっていった。 姉のように振る舞うキュルケ。 優しい妹のようなシエスタ。 二人の人気を妬む、一部の生徒の『危険な』嫌がらせが実行されるのも、時間の問題だった。 To Be Continued → 25< 目次
https://w.atwiki.jp/narikirikikaku2/pages/43.html
【 Capacity 】 [統率:0][武力:5][知力:10+3][交渉:1][幸運:4] 【 Remarks 】 知る人ぞ知る、悪名高き外道法典・魔導書ネクロノミコンの原本 獣の咆哮(キタブ・アル=アジフ)とも 幻想記Ⅰの折にラナリキリュート大陸へ来訪し、今代の所有者アレルと出会う 現代よりおよそ半年ほど前、アレルと共にニクノラーシュ大陸を訪れたが…… 自身の最奥、“鬼神招喚”の呪法は未だ快癒せず 大陸にて遭遇した、流血祈祷書 無い筈の書 を名乗る血の怪異との遭遇 挙句、アレルが覚えの無い咎で指名手配を受けてしまう、と何かと鬱憤を溜め込む事に 現在はインディゴス地方はフェレ領公子、ロイの元で食客として厄介に 性に合わぬと毒づきながらも、乱破の真似事をして大陸を飛び回わる毎日を送っている
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2249.html
プロシュートに掴まる。それは、わたしの敗北を意味する。 わたしは覚悟を決め杖を振る。 「ファイアーボール」 爆発が起こるがプロシュートは避けながら、こちらに向かって来る。 「ファイアーボール」 また避けられた!狙い通りに爆発してるのに。 「どうして当たらないのよ?」 「どこが爆発するか分からない。だが、その場所さえわかってしまえば 避けるのは、そう難しい事じゃねえ」 「わかるのッ!」 「お前の魔法は杖と視線の交差する場所が爆発するんだッ!」 「ファイアーボール」 プロシュートが爆発を避けながら、こちらに向かってくる。 言われてみれば爆発は杖と視線の先。 プロシュート、ただ単に強い能力を使うだけじゃない。 わたし自身気がつかなかった特性を冷静に分析している! わたしはギーシュの様にゴーレムを作れない。 わたしはキュルケの様に火を打ち出す事ができない。 わたしはタバサの様に風を起こす事ができない。 何を唱えても爆発しか起こらない。 どうする?その爆発がよけられたら打つ手が無い! 気がつけば目の前にグレイトフル・デッドが! しまった考え込んでいた隙に。掴まる! 「エア・ハンマー」 タバサのエア・ハンマーがプロシュートとグレイト・フルデッド共々叩き付けた。 「こっちへ」 タバサは、わたしの手を取りモンモランシーの部屋に行こうとする。 「悪いけどそっちには行けない。わたしは自分の部屋に行かなきゃいけない」 「知ってる。シルフィードで空から行く」 その手があったわね。わたしは頷くとタバサの後に続く。 他の皆も部屋に入るがギーシュは、その場に残りゴーレム達を作り出した。 「何してんの、早く来なさい」 「僕はここで足止めをする!ルイズ、君には『対策』を調べる時間が必要だ」 「偏在すら見えないあんたが足止めなんて出来るわけ無いじゃない」 「わかるとしたら」 ギーシュはグレイトフル・デッドを指差した。 「あそこにいるのだろう」 「見えているの?」 「いや見えない。だけど僕が錬金した油が浮いているからもしやと思ったんだ」 スタンドは見えないけど油は見えるって訳ね。 「ギーシュ、あんた確実に死ぬわよ・・・恐くないの?」 「そりゃ恐いさ。だがもっと恐ろしい事は・・・ ここにいる女の子達が全員老いて死んでしまう事だッ!」 一体のワルキューレがわたしを抱え上げた。 「ちょ、ギーシュッ!」 「言い争ってる暇は無い。ラ・ロシェールの時と一緒だ!」 あの時は、わたしの意志なんか関係無かった。状況に流されていただけだ! また、このまま流されるの・・・でも時間が・・・ 「絶対死なないでよギーシュ」 それだけ言うのがやっとだった。 「薔薇はまだ全ての女性を楽しませてはいない・・・ だから、まだこんなところで枯れ果てる訳にはいかないッ!」 ワルキューレは、わたしをモンモランシーの部屋に押し込めドアを閉めた。 「さあ行けッ!うおおおおりゃああああぁあああ」 ドカ バキ ドグシャーッ 「ちょっとルイズ早くしなさいよー」 既にシルフィードに乗ったキュルケが急かしてくる。 「今行くわよ」 タバサの風に包まれるとシルフィードの背中に移された。 「きゅいぃ」 なんだか鳴き声に元気が無い、シルフィードも年を取ってるのね。 「飛んで、割れた窓」 ああ、キュルケのファイアーボールが窓を突き抜けていたっけ。 シルフィードが旋回しながら上昇していくと、すぐに割れた窓が見つかった。 乗った時と同じ様に風に包まれ部屋の中に移動した。 部屋の中は酷い有様だった。 タバサのウィンディ・アイシクルで壁や家具は穴だらけで水浸しだった。 床に残っていた氷を手に取り握り締め少しでも老化の進行を抑える。 それを見たキュルケとモンモランシーも慌てて氷を掻き集めだした。 始祖の祈祷書と水のルビーは確か机の引き出しに・・・あった! 「デルフリンガー。これから、どうすればいいのよ?」 「まず指輪を嵌めな」 指輪を嵌めた瞬間、水のルビーと始祖の祈祷書が光りだした。 「祈祷書を開いてみな。きっと読めるはずだ」 言われなくても既にページを捲っていた。 こんな時だというのに好奇心が抑えられない。 古代のルーン文字で書かれていたが読める・・・ わたしには、これを読むことができるッ! 「ねえルイズ、私には何も書いて無いように見えるけど本当に読めてるの?」 キュルケが祈祷所を覗き込みながら話し掛けてくる。 「ええ読めるわ」 「その水のルビーを嵌めると読めるのかしら」 「いや、それじゃ読めねえ」 キュルケの呟きをデルフリンガーは否定する。 「担い手が水のルビーを嵌めないと読めないんだよ」 「何よそれ、条件厳し過ぎない?」 デルフリンガーとキュルケの言合いも気にせずにページを捲っていく。 「真っ白になったわよ」 「気にせずページを捲りな、必要な呪文が読める様になってんだよ」 いわれるままページを進めると光り輝くページを見つけ手をとめる。 ディスペル・マジック(解除) わたしは祈祷書を閉じ顔をあげた。 「それでルイズ、何が書いてあったの?」 モンモランシーが神妙な顔つきで尋ねてきた。 「プロシュートを止める魔法よ」 一刻も早くプロシュートを止めなくちゃいけない。学院の皆が老化で死ぬ前に。 わたしは、意を決しドアを開けると廊下に一人の老人が倒れていた。 ローブを被っており老化が進み過ぎているので誰かわからない。 こちらに気が付いたのか顔を上げる。 「ううう・・・君達、早く非難しなさい・・・ 私達は先住魔法の攻撃を受けている・・・」 男の先生・・・?こんな場所に・・・ わたしの疑問を余所にモンモランシーは男の傍に駆寄った。 「もう大丈夫です。すぐに助けますから」 モンモランシーが氷をくっつけようとした時、その手を男に掴まれた。 「いいや・・・助からないさ!ただしお前がだ・・・モンモランシー」 「え?」 その台詞は!! 「モンモランシーそいつから離れて!早くッ!!」 「グレイトフル・デッド!」 ズギュウウゥゥゥン 「ぎゃあああああぁ」 「『直』は素早いんだぜ、パワー全開だ~」 言っておくべきだった・・・ 未確認の情報、自分自身も老化することが出来る事を。 「離れなさい。ファイアーボール」 「ちっ」 プロシュートはモンモランシーから手を放し爆発から距離をとる。 「プロシュート・・・ギーシュはどうしたのよ?」 「さあな・・・あの高さだ、無事じゃねーだろ」 曖昧な言い回し・・・直接手を下した訳じゃなさそうね。 「プロシュート。クロムウェルの支配から開放してあげるわ」 杖を構え解除の呪文を頭に思い浮かべる。 「クロムウェルの支配か・・・ 魔法に疎いオレに教えてくれないか。人を呼び出し強制的に使い魔にする事と 死人を生き返らせ操るのは一体なにがどう違うんだ?」 え? 「な、何を言っているの?だって自分は使い魔だって言ってたじゃない」 違う。こんな事が言いたいんじゃ無い。考えが上手く纏らない。 「オレが好き好んで使い魔をやっていたと思うか? お前のダメージがオレのダメージになるから守ってただけだ 何を勘違いしてたのやら。御目出度いガキだなオメーはよォ」 わたしは何をやってたというの?わたしは何処に立ってるの? わたしは何処に向かっているの?わたしは何処に向かえばいいの? わたしは わた わた わ 「掴んだ」 あっ、グレイトフル・デッド。 「エア・ハぐふッ」 「同じ手は食わねえ」 「タバサッ!」 「グレイトフル・デッド」 ズギュウウゥゥゥン わたしの体が、頭が、心が危険を訴えてくるが・・・杖を振るどころか 指一本・・・動かすことが出来なかっ
https://w.atwiki.jp/7stars/pages/174.html
BOSSアクセサリー ※2008/10/22、公式HPよりBOSSアクセサリーの一部に於いて修正があったことが発表されました。(詳細はこちら ) Lv アクセサリー名 効果 LV20 ブンブンのオニックスネジ 力+7 体力+7 敏捷+7 瞬発+7 LV30 修道院長の祈祷書 精神力+10 知能+10 魔法攻撃力+30 LV35 怪力の環 力+15 体力+5 近距離攻撃力+30 LV35 守護者の閃光 瞬発力+10 敏捷+10 回避+20 LV40 ブラッディーロードの目 知能+10 命中+30 HP+250 LV50 墜落した騎士のペンダント 敏捷+10 体力+10 MP+400 LV55 ニッドホッグの怒り 力+10 敏捷+10 HP+300 LV55 リンドブルムの狂気 瞬発力+10 体力+10 HP+300 LV55 虚無のカメオ 精神力+15 知能+15 HP+200 LV60 神獣の魂 力+15 知能+15 敏捷性+15 HP+200 LV60 荘厳なる死の翼 力+15 敏捷+15 体力+15 LV65 黒い天使のスタッフ 体力+15 知能+15 精神+15 ラコン4F Lv アクセサリー名 効果 LV60 シャインソウルピースブローチ 敏捷+15 体力+15 遠距離攻撃力+100 LV60 シャインソウルピース腕輪 体力+15 瞬発+15 近距離攻撃力+100 LV60 シャインソウルピースネックレス 知能+15 精神+15 魔法攻撃力+100 LV60 シャインソウルピース指輪 力+15 敏捷+15 物理+50 LV60 ダークソウルピース腕輪 体力+20 敏捷+20 瞬発+20 LV60 ダークソウルピースネックレス 体力+20 知能+20 精神+20 LV60 ダークソウルピース指輪 力+20 体力+20 敏捷+20 LV65 デスカイゼルの紋章 敏捷+30 HP+200 近+100 物理+40 LV65 ヘルカルゴの紋章 知能+30 精神+30 MP+100 LV65 レビゲルの紋章 敏捷+25 瞬発+25 命中+30 回避+30 LV65 ルインテの紋章 体力+15 近距離攻撃力+300 LV65 ストゥラトゥスの紋章 力+20 体力+20 近距離攻撃力+100 命中+30 LV65 ベルゼブの紋章 体力+10 敏捷+5 遠距離攻撃力+300 LV65 バルシオンの紋章 体力+25 知能+20 物理+30 魔法+30 LV65 グロトの紋章 力+20 体力+20 敏捷+15 物理+30 LV70 イグシルトの心臓 体力+20 HP+1000 MP+500 特殊な計算のダメージからステータスに依存するダメージへと変更されたアクセサリー 修道院長の祈祷書 怪力の環 ベルゼブの紋章 ストゥラトゥスの紋章 ルインテの紋章 デスカイゼルの紋章 シャインソウルピースネックレス シャインソウルピースの腕輪 シャインソウルピースブローチ シルバの羽根 シレフィスの羽根 シリア・ロンの羽根 シュリエルの羽根 シレフィスのアミュレット シリア・ロンのアミュレット シュリエルのアミュレット シルバの目 炎のダイヤモンド 炎のサファイア 炎のトパーズ 炎のスピネル 虚無の逆十字 怠惰の首輪(30日) 怠惰の塊(7日) 貪欲の首輪(30日) 貪欲の塊(7日) 怨念の首輪(30日) 怨念の塊(7日)
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1005.html
戦勝! 城下町でお買い物 その① 王宮にやって来たルイズを、女王になったアンリエッタは思い切り抱きしめた。 女王になったせいで気苦労が増大したそうな。 そして異国の飛行機械で上げた戦果をアンリエッタは褒め称えた。 本来ならルイズは領地どころか小国を与えられ、大公の位にしてもいほどだ。 承太郎にしても貴族の身分を与えていいとまで言っている。 だが、アルビオン艦隊を壊滅させた光の正体を知ると、前言撤回せざるえなかった。 ルイズが虚無の担い手だという事は、アンリエッタはすぐに信じた。 伝説の虚無は本来王家の中にその力を行使する者が現れるらしく、ヴァリエール家は王の庶子でありトリステイン王家の血を引いている。それが理由。 しかし、アンリエッタがルイズに恩賞を与えたら、ルイズ達の功績を白日の下にさらす事となってしまう。すなわち虚無の力を。 それはあまりにも強大であり、一国でさえ持て余すほど。 敵に知られたら間違いなく狙われるし、味方に知られても私欲のために利用しようとする者が必ず現れるに違いないのだ。 そのため、アンリエッタはルイズに虚無の力の事は秘密にするよう約束させた。 そして始祖の祈祷書はルイズに預ける事となった。 虚無と、ルビーと、始祖の祈祷書。みっつそろってなければ真の力は発揮できない。 それに始祖の祈祷書はもう不要の物なのだ。 なぜならアンリエッタとゲルマニア皇帝との婚約は解消されたからだ。 アルビオン軍に勝利したアンリエッタは『聖女』として崇められ、ゲルマニアとも十分対等で強硬な態度で接する事ができるようになっている。 アルビオンの脅威に怯えるゲルマニアにとって、トリステインは今や決して同盟を切ってはならない強国なのだ。 という訳で始祖の祈祷書を与えられたルイズは、今後虚無の事を隠しながらも色々と動きやすいようにと、アンリエッタ直属の女官に任命され、許可証を渡された。 王宮を含む国内外へのあらゆる通行と、警察権を含む公的機関の使用を認められており、つまりすごくやりたい放題やれるという訳だ。 何せ女王の権利を行使する許可を得たのだから。 「あなたにしか解決できない事件が持ち上がったら、必ずや相談いたします。 表向きには、これまで通り魔法学院の生徒として振舞ってちょうだい」 ルイズにそう言ったアンリエッタは、続いて承太郎に向かった。 「これからもルイズを……わたくしの大事なお友達をよろしくお願いしますわね」 と、アンリエッタは身体中のポケットを探り、金貨や宝石を取り出すと、それを承太郎の手に握らせる。 「……何のつもりだ?」 「本当ならあなたを『シュヴァリエ』に叙さねばならぬのに、それがかなわぬ無力な女王のせめてもの感謝の気持ちです。 あなたはわたくしと祖国に忠誠を示してくださいました。報いるところがなければ――」 「勘違いしてもらっちゃ困るぜ。 俺はあんたやトリステイン王国のために戦った事は一度も無い。 忠誠なんて持っての他だ。俺は王国にも女王にもルイズにもかしずくつもりは無い。 あれはあくまでタルブの村と村人のために戦ったんだ……」 金貨と宝石を突き返され、アンリエッタは表情を曇らせた。 それを見てルイズは慌てて承太郎の学ランを引っ張る。 「なな、何言ってんのよ! 姫様からもらった物を、突き返すなんて!」 「……俺は金のために戦った訳でも、国のために戦った訳でもない。 それなのに金を受け取るって事は……俺のプライドに傷をつける」 ああ、これはもう駄目だとルイズは思った。 説得不可能。承太郎は自分の意思を曲げないだろう。頑固者め。 だがアンリエッタはしばし悩み、パッと表情を輝かせる。 「ではこれは、わたくしの国にあるタルブの村を救ってくれたお礼として差し上げます。 そしてわたくしの命や、数多くの兵達の命を救ってくれたお礼でもあります。 あなたがいなければ、わたくし達はアルビオン軍に敗北していたでしょう。 ですから、これを受け取ってください。報いではなく、純粋な感謝の気持ちです」 「断る。礼ならタルブの連中に十分してもらった。じゃあな」 こうして承太郎は一人でさっさと退室してしまう。 ルイズは全力で謝罪したが、アンリエッタは怒る事なく、今度はルイズに金貨と宝石を受け渡した。 「ルイズ。このお金は、あの使い魔さんのために使って上げてください」 「は、はい。解りました」 こうしてルイズは承太郎の後を追いかけて王宮を出て行くのだった。 「ねえジョータロー。あんた、これからどうする気?」 道中、ルイズは好奇心から訊ねてみる。 もう日食はすぎてしまって、元の世界に帰る手がかりは無くなってしまったのだ。 だが、さすがは承太郎しっかり手がかりを掴んでいた。 「竜の羽衣は……東から飛んできたと言われている。 だったら東……東方とやらに行けば、何か手がかりが掴めるかもしれねー。 竜の羽衣がどうやってこの世界に来たのか解る可能性もある」 「……でも、戦争始まっちゃったし、トリステインを放って行けるの?」 「…………さあな……」 もう置いて行かれるのは嫌だ、とルイズは思ったけれども、 そんなの絶対口に出して言えないし、考えた事すら知られたくなかった。 いっそ承太郎が自分から望んで手伝ってくれたら嬉しいんだけど。 と、悩みながら歩いていると、ルイズはいかつい男にぶつかってしまった。 「イテェなコラ! どこ見て歩いてやがる!」 どうやら傭兵崩れらしいその男は、手にした酒のビンを見るにそうとうデキてるようだった。 ルイズは無視して脇を通り抜けようとしたが、腕を掴まれてしまう。 「待ちなよ、人にぶつかっといて謝りもしねーで通り抜けようってのか? アァン?」 この騒ぎに傭兵の仲間達も気づき、ルイズの羽織ったマントを見て貴族だと解ると、 酔った傭兵の男をなだめ始めたが、男は逆にこう言った。 「今日はタルブの戦勝祝いの祭りだぜぇ? 無礼講だ! 貴族も兵隊も町人もねーよ。 ほら、貴族のお嬢ちゃん、俺に一杯つげや。ホレ」 「放しなさい! 無礼者!」 その言葉を聞いた途端、男の顔が凶悪に歪んだ。 「アァン!? てめー、誰がタルブでアルビオン軍をやっつけたと思ってんだ!? いいか! 『聖女』でもてめえ等貴族でもねえ! 俺達兵隊なんだよ!」 「ほーう、そいつは初耳だ。具体的に言ってみな」 ルイズを掴んでいた傭兵の手が、承太郎の手で掴まれる。 「何だてめえ!? 引っ込んでやがれ!」 「俺が知っている兵隊は……アルビオン軍のメイジが作ったゴーレムに恐れをなし、 タルブの村人を放って逃げ出した臆病者くらいしか心当たりがないんでな……」 酒に酔ってただでさえ赤かった顔が、さらに真っ赤になる。 「て、てめえ! 何で知ってやがる!」 「何だ、本当に逃げ出した奴等の一味だったのか。やれやれ」 馬鹿にした物言いに、完全に男はプッツンした。 「てめー! ぶちのめしてやるぁあああッ!!」 ルイズを突き飛ばして、傭兵の男は承太郎に拳を振り上げる。 が、承太郎の膝蹴りが男の腹部にめり込み、呆気なく這いつくばってゲロを吐いた。 「う、ウゲゲゲッ……て、てめー! もう勘弁ならん! ぶっ殺す!」 その頃、某武器屋にて。 「あっ! 今、俺を買ってくれる人が近くにいる! 心が通じ合った感じがしたぜ!」 「寝言は寝てからほざきな、デル公よぉ~」
https://w.atwiki.jp/vipdeeb/pages/10.html
アイテム 装備レベル 効果 ドロップ ドヴァリンの鏡 20 攻撃時一定確立でクリダメ+9% リーファントの隠れ家 見透かす目 22 攻撃時一定確率でクリティカル命中力+90 忘却の草原 オーディンの彫刻像 26 被弾時一定確率で全能力+90 不安定な桜の森 揺れ動く卵 30 被弾時一定確率で防御力+600 古代の遺跡 流星の破片 36 攻撃時一定確率でクリティカル命中力+120 br;効果時間15秒 CT45秒 灼熱岩丘 追従者の祈祷書 38 攻撃時戦闘力+180 魔法増幅+120 38レベルのクエ報酬 性能はオーディンの彫刻が一つ二つ抜けてる からオーディンとろかね なお上記は黄色の場合の性能 青、紫とともに性能は上がる 例;オーディン黄色はALL+90 青はALL+120 紫はALL+150
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8925.html
前ページ次ページゼロのドリフターズ ウェールズを乗せたシャルルとその風竜は全速で飛び続ける。 しかし魔法による補助を加味しても、重量の分だけ距離は確実に狭まりつつあった。 アルビオン皇太子という、ある種の枷と重圧こそあれ、シャルルにとっては恐れるほどではなかった。 追撃は二騎ぽっち。引き離せないのであれば殺すという選択になるだけである。 それが例え精強なアルビオン竜騎士であったとて―― 「殿下、迎撃に入りますので振り落とされぬようお願いします」 「・・・・・・わかった、よろしく頼む」 ウェールズは素直に従う。シャルルの表情に焦りなどが見出だせなかったからだった。 竜の上での戦闘において、ウェールズは殆ど門外漢に近い。 高速で飛行する中での攻防は、相応の修練を必要とする。 俄かな連携は邪魔にしかならず、精神力の無駄遣いだけに留まらなくなる。 「ユビキタス・デル・ウィンデ」 シャルルは『遍在』の魔法を唱えた。 ――その意思によって自らの分身を複数創り出す、風のスクウェアスペル。 シャルルがもう一人増えて、竜の上は三人となる。速度差が命取りにもなる空中戦において、遍在は一体が限度であった。 しかしメイジが一人とメイジが二人とでは雲泥の差が生じる。 本体のシャルルは巧みに竜を操り、防御と回避に専念する。 遍在のシャルルは『ファイアー・ボール』をいくつも放つ。 攻撃と防御を完全分担することが出来るのが『遍在』の最大の強みであった。 基本的に魔法は一つの詠唱、一つの魔法が原則である。 "掛け捨て"は種類が限られるし、そうでない魔法の同時行使には多大な集中力を必要とする。 魔法による攻撃と防御を切り分ける。二つの魔法を同時に扱える。 人の動きを超える動きが出来て、単純な数を作るにも効率が良い『クリエイト・ゴーレム』とも違う。 遍在もまた本人であるゆえに、完璧な連携でもってあらゆる状況に応じた戦闘の展開を可能とする。 それこそが風の『遍在』であり、単一メイジながら複数メイジを擁せられる数の優位性である。 ――十数発目の『火球』が放たれる。 撃たれた数だけ回避行動をとり続けた敵竜騎兵達の歪んだ動きの瞬間。 シャルル達の乗る竜が突如として急上昇した。 急激に落ちる速度、敵との間合、そしてタイミング、全てが符号する。 その僅かな機を、さも予定通りと言わんばかりにシャルルは『ウィンディ・アイシクル』を形成出来た分だけ全てを叩き込んだ。 ウェールズは無数に串刺しにされた騎士と竜の墜落を見つめながら、その美事な戦い方に感嘆した。 『遍在』というスクウェアスペルを使える、メイジとしての確かな実力。 乱れなき空中機動を難なくこなして見せる熟練の竜捌き。 そして夜空でもはっきり目立つ、追尾性能と爆発性能を備える『火球』でもって、敵を誘導しまんまと嵌めた。 敵の二騎陣形を崩し、孤立させたところを待ち構え、『氷矢』の弾幕で仕留める。 それら一連の流れが漏れ一つなくシャルルの計算通りであり、掌の上の出来事だったのだ。 これほど完璧にこなすには、力量・頭脳・経験、三拍子全てが揃ってなければ不可能な芸当。 しかも平然とこなしてみせる絶対の自信と揺るがぬ胆力。 元とはいえ同じ四王家に連なる一族として。単純に一人の武人として。 嫉妬を抱かずにはいられないほどの、才能と努力の両輪あってのことだろう英傑―― ――シャルルが駆る風竜は、次いで分断された残る敵竜騎兵へ向け、一転して翻るように急降下した。 『風盾』による障壁をいくつか張ることで、不可視の誘導路を作り出す。 高度差と速度差を利用して、シャルルは正確無比な一撃を相手に見舞うと即座に離脱した。 二騎を確実に墜としたのを確認し、遍在を消したシャルルはすぐさま速度を戻して竜を操る。 増援なども考えれば、早急にトリステイン領内まで向かわねばならない。 味方でありながらも、ウェールズはその身を震わせる。 多数であれば一対一の状況を作り出し、そうなればかくも容易く打ち倒す。 確実を期してかつ消耗を抑えた戦い振り。元ガリア王族にして、トリステイン首都警護にあたる雄。 正規軍ではないとはいえ、我がアルビオン国の竜騎士を赤子の手を捻るかの如く屠り去った。 精鋭中の精鋭でも、太刀打ち出来るのかと疑問視してしまうほどの実力者。 「少々荒れましたが、大丈夫でしたか?」 「大丈夫だ、何も問題はない」 ウェールズが答える。あの程度で気分を悪くなろうものなら、武人の名折れというものである。 それにあれでなお同乗している自分に気遣った竜機動であったことくらいは、ウェールズとて気付けた。 たった今見せつけられたシャルルの強さを鑑みてれば、我々に危険が及ぶことはもはやないだろう。 後は船に残った皆の無事を"祈る"ことしか、ウェールズに出来ることはなかった・・・・・・。 † ――ルイズは目を必死に瞑って"祈る"ことしか出来なかった。 魔法も使えない、銃器も扱えない。自分は足手まといでしかない。 だから何にでも縋るように思い続けるしかなかった。 始祖の祈祷書を胸に、神に祈る――始祖ブリミルに祈る―― 祖国に――姫さまに――家族に――友人に――そして使い魔に。とにかくなんだって良かった。 (お願い・・・・・・) 修羅場の音に畏怖し、足が竦んで動かないながら・・・・・・ルイズは導かれるように目を開く。 瞳に映ったのは戦場の光景ではなく、指に嵌めた水のルビーと始祖の祈祷書であった。 どうしてか惹き付けられる。今にも死ぬかも知れないのに、引き寄せられるように祈祷書を開く。 すると水のルビーが輝き、始祖の祈祷書のページまでもが光りだしたのだった。 わけがわからない・・・・・・わからないけれど、何か意味がある確信だけは脳髄を打つ。 古代のルーン文字を読み進める。周囲の状況など遮断されるほどに終始する。 そこに書かれていたことは、ルイズの半生の中で最も驚愕し衝撃を受けたことだった。 ――この世の全ての物質は小さな粒で構成され、火水風土の四系統はその粒に干渉する。 ――『その力』は小さな粒を構成するさらに小さな粒に影響を与えて変化させる。 ――それは"四"ではなく"零"。『虚無の系統』と名付けられた。 (嘘・・・・・・?) でなければ夢としか思えない。いや実はもう自分は死んでいるのかともすら思う。けれど心のどこかでは理解していた。 つまるところ始祖ブリミルが使ったとされる伝説の系統『虚無』について、序文として記されてあること。 しかし――もしこれが"本物の始祖の祈祷書"であれば、書かれている内容そのものへの疑問は不要であった。 6000年も前に始祖ブリミル本人が、その手で書いたものと思うと感動を通り越して絶句する。 ルイズはただひたすらに、考えるのは後にして、無心でさらに読み進める。 (わたしが・・・・・・) ――始祖の祈祷書を読む者は、始祖ブリミルの行動・理想・目標を受け継ぐ者であること。 ――伝説の『虚無』の系統を扱い、"聖地"を奪還すべくこと。 ――『虚無』は膨大な精神力を消費し、時に命を削ることがあるということ。 ――ゆえにこそ才ある者が指輪を嵌め、始祖の秘宝をその手に持つことで授かるということ。 (わたしなんかが・・・・・・選ばれた?) 始祖の祈祷書に書かれていた内容を見れば、ルイズは虚無魔法の行使者として選ばれたということになる。 四系統の魔法が今まで使えなかったのも、召喚されたブッチが『ガンダールヴ』を刻んだのも―― 全て自分が"虚無の担い手"だからなのだと認識する。 そして続く文面に、今まで欲してやまなかったことが記されていた。 ――初歩の初歩の初歩の虚無の呪文。『爆発』 エクスプロージョン 。 コモン・マジックはほんの少しだけではあるが使えるようになった。 しかして四系統魔法は依然として使える気配すらなかった。 だが今は火・水・風・土の四系統を飛び越えて、伝説の虚無を扱えるのかも知れない。 (もしかして・・・・・・魔法を使うたびに爆発してたのも――) それもまたヒントだったのかも知れない。火系統が使う爆発とも違う性質。 学院の教師だけでなく、色々と詳しいシャルロットもついぞ説明出来なかった。 (つまりシャルロットも・・・・・・) 虚無の担い手なのだろうか。キッドが『ミョズニトニルン』を刻んだ。 四系統魔法を使えず――わたしのように乱発するようなことはなかったが――爆発していた。 『虚無』は伝説だ。シャルロットですら、自分達が虚無なのではという大それた予想はしなかった。 ブリミルが聖地に降誕して6000年。以降使う者がいなかったとされる伝説。 『虚無』そのものが荒唐無稽とさえ密かに噂されるほどであり、同時に畏れ多いものでしかない。 しかし今――ここにその伝説が具現したのだ。いや・・・・・・これから証明される。 詠唱のルーンを眺めるだけで自然と頭に入る。否、既にあった記憶を掘り起こすかのように馴染んだ。 ルイズの唇の端が上がる。劣等感に苛まれ続けてきた人生とは、もう御然らばだと。 もうわたしは足手まといじゃない。みんなを――今まで馬鹿にしてきた連中を見返せると。 心の中の何かが溶けていくような感覚の後に、ルイズは確固たる瞳を空へと移す。 一丸となって戦っている皆の姿。見ているだけだったこれまでを、変える。 (・・・・・・大丈夫) ガンダールヴ――ブッチ――が守ってくれている。だからわたしは気兼ねなく詠唱出来る。 ルイズは杖を取り出し視界を閉じた。あとはその口が詠ってくれる。 「エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ――」 ゆっくりと、確実に、溢れ出るほどの魔力が体中を駆け巡る。 これがいわゆる――自身に合致した系統を使うと感じるらしい――うねる感覚だろうか。 詠唱を紡ぐほどに加速していき、もはや己に不可能などないといった気分になっていく。 始祖の祈祷書を読んでいた時のような集中力で、周囲の音が完全に消える。 長く続く詠唱の途中でルイズは気付く。何故だか頭の中で、"これで充分"とわかったのだ。 暗く無音の世界から、感覚を解放し、周囲を把握する。 仮に長い呪文を完全に詠唱を終えていたなら、たった一人で戦術兵器足り得るその威力。 その気になればあらゆる物質を消滅可能な、文字通り『虚無』の魔法。 初歩の初歩の初歩で、これほどのものなのかとルイズは戦慄する。 だが幸いにも『虚無』は言わば"武器"であった。『虚無』そのものに意志はない。 要は使い手次第ということ。"武器"を手に持つ者の意思次第なのだ。 一度放てば全てを無慈悲に飲み込むわけではない。生殺与奪はわたしが握っている。 ルイズは杖を振り下ろし、『エクスプロージョン』を開放した。 杖の先の虚空で、夜を照らす小さな光球が一瞬だけ停滞した後に急激に膨張する。 目が眩まんばかりの光の中で、ルイズは母胎の内にいるような安らかな心地を覚えていた。 そしてルイズは選択する――敵は殺さず――敵船の風石を消す――大砲と砲弾を消す。 ――味方は殺さず――ブッチも乗っている竜騎兵は殺さず――船の燃えている部分を消す。 数瞬の内に光球は収束し・・・・・・全てが終わっていた。 風石という推進力を失った敵船は墜落する。下は海であり、当然この高度から落ちれば粉々になるだろう。 願わくば乗員が『浮遊』なり『飛行』なりで脱出してくれることをルイズは思う。 「すぅ・・・・・・はぁ・・・・・・」 ルイズはじんわりと呼吸を繰り返す。未だ残滓があるような夢見心地。 落ち着いてきて周囲へと耳を向ければ、無事生き延びた皆が動揺で叫んでいた。 自分達のことだけで手一杯だったのか、わたしがやったこととはバレていないようである。 唯一人を除いては―― 「やるじゃねえかよ」 ブッチは敵竜騎兵を脅して甲板へと降ろす。 その重量だけで船は傾き、この船も長くないようであった。 「さっさと全員乗れ。ギリギリ行けんだろ」 船の火事は止めたものの既に損傷酷く墜ちかけ。ウェールズ達の安否も心配である。 さらなる敵の新たな追撃なども危惧すれば、ここはさっさと退避するのが良い。 トリステイン特使達も早々に合流し、次々と『浮遊』で乗って行く。 しかし虚無に目覚めど系統魔法は使えないルイズには、ブッチが手を差し伸べた。 二人は互いに不敵な笑みを浮かべ合う。ガシッとルイズはその手を掴むと、一気に引っ張り上げられた。 「もうちょっと優しくしてよ」 「はっ、もうそんなタマじゃねえだろうが」 絶体絶命の状況下で戦果を示した少女に、ブッチは相応の評価をしていた。 ただ一度の実戦が少女を目覚めさせ、戦士としての成長を促したのだ。 全員が乗ったのを確認すると、風竜はゆっくりと落ちていく船を下に眺めつつ、大空を窮屈そうに舞った。 晴れやかな表情を浮かべるルイズの胸の内は、今いる夜空のように澄み渡っていた―― † シャルロットとキッドは証拠品の羊皮紙とメンヌヴィル小隊のセレスタンをシティ・オブ・サウスゴータにて引き渡した。 その後、然るべき日にトリステインへ戻って来たのは――結婚式予定日のおよそ四日前であった。 アルビオンのロサイスから、港町ラ・ロシェールへ。 さらに首都トリスタニアへ到着する頃にはかなり日にちが経っていた。 通信連絡用の魔道具人形で、ある程度の情報を相互交換して警戒していた。 が、道中の襲撃もなく、特に何事もなく、極々普通に、無事戻って来れた。 さらに事の仔細は、アルビオン側からトリステインに伝わっている為、改めて報告の必要もなかった。 歓待の為にパーティを催してくれているというので、間を置かずに城へと向かう。 急ぎ正装に着替えて会場へ向かうと、慎ましいがそれでも豪華なパーティが始まった。 わざわざシャルロット達の到着を待っていたことに恐縮しつつも、心遣いを素直に受ける。 キッドとブッチは普段お目にかかれないほどの料理と酒を存分に楽しむ。 シャルロットはひとまず王女と王子に挨拶し、報酬の件について後々話す約束を取り付けた。 次に父シャルルと話した後に、最後にルイズの元へと向かった。 二人は無言でワイングラスを鳴らして乾杯する。 「おかえり」 「ただいま。お互い大変だった」 「うん・・・・・・」 シャルロットはルイズの煮え切らない――浮かない顔に首を傾げる。 「どうしたの?」 「ちょっと待って」 そう言うとルイズはグラスの中身を一気に飲み干す。その勢いのままにルイズは言った。 「後で部屋に行くわ、話したいことがあるの」 「・・・・・・? わかった。ただ先にアンリエッタ様と話すことがあるから、私がルイズの部屋に行く」 † "交渉"を終わらせた後、シャルロットはルイズが泊まっている客室へと招かれる。 「ごめん、遅くなった――それで、どうかしたの?」 ベッドに座るルイズの横に、シャルロットは腰掛ける。 下を向いていたルイズはゆっくりと顔を上げると、シャルロットを見つめて言った。 「・・・・・・虚無――」 シャルロットは心臓が一度だけ大きく高鳴る。ルイズは開口一番何を言うのかと。 先の交渉の中でも、アンリエッタにすらテファのことは話していない絶対の秘密だ。 "虚無"という単語が出たことに、シャルロットは必死に声色を保つ。 「――が、どうかしたの?」 「使えるようになっちゃった」 「ッ・・・・・・えっ」 一瞬呆ける。聞き間違いかと思って確認するが、ルイズは確かに虚無を使ったことを肯定した。 「そうなんだ」 「うん、・・・・・・あまり驚かないのね?」 既にテファがいたからなどとは言えない。彼女のことは例え半身のジョゼット相手であっても言わない。 「ブッチさんにも秘密に」とキッドにも言い含めてある。信用していないわけではないが、秘密とはそういうものだ。 「これでも驚いてる。・・・・・・おめでとう」 「ありがとう。でも・・・・・・その、なんか裏切りみたくなっちゃってごめん」 「何を言ってるんだか――」 シャルロットはルイズのおデコをコツンと軽く小突く。 確かに互いに同じ境遇で一蓮托生みたいな節はあったがそれは全くの別問題だ。 「うぐ・・・・・・だけど・・・・・・」 (あぁ、きっと――) ルイズはこちらに驚きこそなく、微妙だった私の表情を読んだのだろう。 伝説の虚無なんてものに先んじて覚醒したということに、私の不可解な態度を勘違いした。 だからこそ何か居心地の悪さのようなものを感じたのかもと。 もちろん嫉妬や劣等感は全く無いとは言わないが、そんなことは些末なことであった。 シャルロットが微妙な表情だったのは、単純に立て続けに判明した虚無を扱う者の存在そのもの。 ティファニアだけに留まらず、ルイズまでも―― 「確かに羨ましくはあるけど、気にすることない。私はルイズの成長に素直に嬉しいと感じるから。 それに裏切ったと言うのなら・・・・・・地下水でまがりなりにも魔法を使えてた私の方が先」 「別にそんなことは――」 ――ない、とはっきりは言えなかった。 心情的に裏切られた気持ちがなかったと言えば嘘になる。 だかこれでお互い様だとルイズは完結する。気にするなと言われれば気にしない。 余所余所しいほうが、かえって居心地悪くなるのは逆でも同じだと。 そして虚無が発現した流れを、ルイズはザックリと語った。 帰国の船で襲われたこと、その中で始祖の祈祷書に書かれていた大まかなこと。 その上で虚無系統に覚醒し、実際に虚無の魔法を使って撃退に至ったということ。 「なるほど、そっか・・・・・・ルイズが――」 改めてシャルロットは意識する。二人目の『虚無』。二人目の伝説。 「そうなの、だからシャルロットもきっとそうなんじゃないかって」 ルイズは始祖の祈祷書を取り出すと、シャルロットに渡す。 「ルビーもいい?」 「構わないわ」 土のルビーが贋物である可能性も考えて水のルビーを借りる。 少し前には土と風が並び、今は土と水が美しく並んでいた。 そしてシャルロットは書を開いて集中して見るものの、目に映ることはついぞ何もなかった。 「・・・・・・ルイズには読めるのね」 シャルロットは目を閉じると、半ば諦めたように祈祷書と水のルビーを返す。 幼き頃の香炉の時も、ついこの前のオルゴールの時も一緒であった。ルビーも祈祷書も、何も起こる気配すらなかった。 「その・・・・・・さ、シャルロットもその内目覚めるわよ。わたしも襲われて初めて目覚めたんだし!!」 妙な言い回しで、姫さまから下賜された始祖の祈祷書を押し付けるように渡そうとしてくるルイズ。 何やらおかしな感じになっていることにシャルロットは苦笑する。 「いやいや、それは結婚式で使うでしょ」 「あっ、それもそうね」 シャルロットは丁重にお断る。考えなしのルイズのその気持ちは嬉しい。 しかしアンリエッタ姫殿下から親愛なるルイズへと、渡された秘宝を受け取るなんて出来るわけもない。 「それに私のところにも、始祖の香炉があるし」 正確にはジョゼットの持ち物だが、言えば貸してくれる。 とはいえ6000年前の物だから偽物という可能性も無いとは言えないが―― 「ルイズの読める内容――詳しく聞いてもいい?」 ルイズは頷いて書を開く。夜も更けて既に三日後に控えた結婚式。 その際に読み上げる詔のように悠然と朗読する。 オルゴールの歌と違って直接的な文言。 その語られる言葉が、6000年前もの偉大な始祖ブリミルのものだと思うと不思議な感覚だった。 メイジの礎を築いた伝説の人が書いたことを、実際に耳の当たりにしていることが感慨深い。 ルイズが読み上げた内容を聞きながら頭で整理しつつ、シャルロットはナイフの中の意思へと心の中で語り掛けた。 (どうなの? デルフリンガー) (あ~・・・・・・まぁあのエルフの娘っ子だけじゃなく、こっちの嬢ちゃんも目覚めるとはね) (つまり複数人いる可能性はあったと) (そうだね、相棒ももしかしたら覚醒する可能性あるかもね。あくまで可能性だけど) そう――可能性はあるのだ。と、シャルロットは自分に言い聞かせる。 なければないで不便はない、嫌なことだが既に慣れてしまっていた。 (内容については?) (んー、とりあえず必要に迫られた時に目覚めるってことかな) (つまり?) (おっぱい大きい娘っ子も、ちっちゃい娘っ子も――) (・・・・・・・・・・・・) (――本当に欲しい時に使えた。そういうこった) (・・・・・・今の私には必要ないから、秘宝はうんともすんとも言わないと) (かもね、本当に相棒が"虚無の担い手"なら・・・・・・だけど) (歯切れが悪い) (そりゃあ変に期待持たせて、ガッカリするのなんて見たくないかんね) シャルロットはデルフリンガーとの会話を閉じて黙想――しようとする。 (いや・・・・・・考えるのは後にしよう) 今はルイズがいるし、"もう一つ考えておくこと"もある。 すぐに考え込もうとするのは悪い癖であった。過ぎたるは猶及ばざるが如し。 考え続けるのは大事だし、思考を止めるのは駄目だが、"込む"のは良くない。 少なくとも今は、ゆっくりじっくり悩むのを後に回す。 「『爆発』・・・・・・」 始祖の祈祷書の内容では初歩の初歩の初歩らしいが、テファの『忘却』と比べれば攻撃的だ。 必要に応じて必要なものが示されるというのは、まさにこういうことなのか。 ティファニアも絶体絶命の状況だったからこそ、『忘却』に目覚めて危機を脱した。 『爆発』でなかったことは、使い手の気性でも反映でもされているのか。 秘宝が一体どういう情報を、どのように受け取って、どう判断しているのかは謎であるが―― 「そうよ、光が一切合切包み込んでわたしは選んだの。その気になれば全てを消せたけど、風石だけを消すって」 「便利・・・・・・と同時に恐ろしくもある」 「確かに恐いけど、使い方を間違えなければ大丈夫よ」 さらにルイズは詳しく状況を語ってくれた。 ルイズ自身はあまり覚えてないそうだが、ブッチ達が報告した統合情報を伝え聞く。 (・・・・・・んん?) シャルロットはふと気付く。全てを包み込んだという光球を生み出した『爆発』。 そんなものを一体どこから捻り出したというのか。そもそも虚無に"クラス"があるのかと。 系統一つのドット、二つのライン、三つのトライアングル、四つのスクウェア。 それぞれ一度に掛け合わせる系統の数に応じて、メイジのクラスは決定される。 "ランク"が上がるごとに、概ね使える精神力の総量や消費量も変化する。 個人差はあれど、一般的にラインよりはトライアングルの方が魔力も多く、より効率的に魔法を扱える。 「ルイズは今も四系統は使えない?」 「そうね、でもコモン・マジックは何故か完璧に出来るようになったわよ」 そう言うとルイズは唱えてみせる。確かに未だに半端なシャルロットのコモン・マジックとは別物であった。 虚無の覚醒が完全なスイッチだったのか。ルイズは自信に満ち満ちていた。 そしてテファ同様、ルイズも系統魔法に関しては一切使えない。 つまりは虚無と火水風土を掛け合わせるようなことはないということだろうか。 であれば、虚無のみを掛け合わせる・・・・・・ということになるのか。 「ルイズは虚無のドット――ということ?」 「・・・・・・? どうかしら、そもそもラインとかトライアングルがあるのかすらよくわからないわ」 一つの疑念が湧き上がる。どうして今まで調べようとしなかったとも思う。 「ルイズ」 「なあに?」 シャルロットは地下水を抜くと刃の方を持って、柄をルイズへと向けた。 ルイズは疑問符を浮かべながら、差し出されたナイフを反射的に持ってみる。 「どう? 地下水」 「・・・・・・そういうことか。少なくとも今のシャルロットよりは多いな」 ルイズは地下水がいきなり喋ったことに少しだけ驚く。 インテリジェンスアイテム自体は珍しくもないし、フーケの時に話は聞いていた。 そしてシャルロットはやっぱりと、得心したように頷く。 さらに"もう一つの共通点"。 地下水は持ち手のそれを自分に上乗せすることによって、魔法をより強力に使える。だから大まかに測ることも出来る。 続く闘争で大分目減りしていても、私のそれはまだまだ他のメイジの追随を許さぬほど膨大で余裕がある。 ――にも拘わらず、ルイズは今の私よりも多いと地下水は言った。 「どういうこと? 何が多いの?」 「ルイズも私同様、精神力の底が見えないってこと――いえ、私がルイズ同様と言ったほうがいいのかも」 シャルロットは地下水をしまいながら、もうちょっと早く思いついていればと悔やむ。 テファにも触れてもらっていればより確実な共通点になったかも知れないのにと。 「それじゃあ・・・・・・」 「まぁ状況証拠に過ぎないけど――」 「間違いないわ!!」 ルイズの満面の喜色にシャルロットも楽観的に嬉しくなる。 ――『ミョズニトニルン』という使い魔――系統魔法が使えないこと―― ――魔法を使えば失敗し爆発すること――膨大な魔力を蓄える器―― これほど合致していて違っていたらむしろおかしいとさえ思う。 あとは恐らく"必要に迫られる"という条件だけだ。 (必ず習得して見せる) 新たな決意と同時にシャルロットの気がどこかで一本抜けた。 召喚の儀の前までは絶望しかなかった・・・・・・今は揃った前提が違い過ぎる。 「でもこのことは誰にも言わないで。姫様であっても」 「へ? あぁうん、でもどうしてよ?」 ルイズは疑問符を浮かべる。アンリエッタさまにすら言わないで欲しいとはどういう了見なのだろうか。 「実際に使えるようになったら全然構わない。でも変に期待されるのだけは・・・・・・ね」 ルイズはハッと気付く。それは自分も持ち続けてきた悩みだ。 ラ・ヴァリエールの娘として幼き頃から期待をされていた。 なまじ姉二人が優秀だった為になおのことである。 学院に入学してもしばらくは続いた。傍から勝手に期待されて落胆される辛さ。 幻滅されるくらいなら最初から期待されない方がマシであった日々のこと。 双子のジョゼットがいるシャルロットも同じなのだ。 「わかったわ」 ルイズははっきりと約束する。やむを得ない事情でもない限りは言うことはない。 それがたとえ姫さまであったとしてもだ。 そんなルイズの固い瞳にシャルロットは「ありがとう」と小さく告げた。 「それにしても・・・・・・『虚無』、か。図らずも『ゼロ』のルイズの二つ名がピッタリになるなんて」 シャルロットはフフッと笑う。成功率"ゼロ"のルイズが"虚無"のルイズと重なる。 「ぐっ・・・・・・いい思い出はないけど、確かに今となってはむしろ相応しいのかしら」 「誰が最初に言い出したかは知らないけど、ある意味先見の明があった」 二人でクスクスと笑い合う。あれほど馬鹿にされたルイズが伝説に目覚めた。 あまつさえ揶揄の為の二つ名が、まさにお誂え向きなものになるとは痛烈な皮肉だ。 今まで馬鹿にしてきた連中に、丁寧な感謝の言葉でもって言い返してやりたいところであったが―― 虚無は伝説であり、同時に戦術兵器であることがわかった。 ゆえにアンリエッタ達の判断で、公にすることは禁じると厳命された。 とはいえシャルロットやキッドなど、事情を知り秘密を守れる近しい人ならば問題ない。 シャルロットの可能性を考えて、今宵は話すことに決めたのだ。 (私の――) 二つ名は何になるのだろうとシャルロットはふと考える。 自分はルイズと同じような立場であり、成功率も"ゼロ"だった。 しかし周囲を黙らせる程に、魔法以外の修練に励んできた。 意地っ張りで良くも悪くも向こう見ずなルイズと違い、失敗するとわかっていて魔法を使うことはなかった。 地下水の存在もあって、精神力の無駄にもなると、結果が同じことを繰り返すような真似はしなかった。 ただそれだけの違い。だがそれゆえに未だに二つ名がついていない。 ジョゼットが無理やり名付けて、流行らせようと画策したこともあったが当然拒否した。 (いつの間にか浸透しているもの・・・・・・か) 出来るならば――本人を象徴するようなものは勘弁願いたいと思う。 二つ名とはそのメイジたる由縁。『雪風』然り『微熱』然り、その特性によって付けられるのが慣例だ。 術者の名を知らしめるものであると同時に、その性質を聞く者に暗に伝えてしまうことにもなる。 ゆえに用心深いシャルロットにとって手の内を知られるような二つ名は好ましくない。 今の内に適当な魔法を大仰に使って二つ名を――なんてどうでもいいことを考えていると、ルイズが口を開く。 「ねぇ、シャルロットの方の話も詳しく聞かせなさいよ」 「・・・・・・ん。でもどこから話したものか」 「時間はたっぷりあるし、最初からでいいわ」 シャルロットは頷く。――今はこの時間を楽しむことにしよう。 夜も更けに更け、酒も入っている体。 揃って意識が落ちるその瞬間まで、二人は語らい続けたのだった―― 前ページ次ページゼロのドリフターズ