約 194,488 件
https://w.atwiki.jp/oyatu1/pages/178.html
玄関のチャイムを鳴らすとすぐに、「いらっしゃい」という言葉と共に扉が開いた。 私にとっては、もはや慣れ親しんだ場所で、友人の家に上がりこむときの特有の高揚感というものは感じられなかった。 「ハッピーバースデー」 と、お決まりの文句が私の第一声だった。親しい仲に改めて誕生日を祝うというのはどうも小っ恥ずかしく、 ちょっとした冗談も思わず添えてしまったのだが。 「お誕生日おめでとうございます」 一緒に来たクラスメイトもお決まりの挨拶をした。普段どおり礼儀正しく、なのに初々しく。 「おお、サンキュー」 ほら、そうしたらさっき私の冗談で怒っていた顔が、ふわりと柔らかくなって、私には滅多に見せてくれない 可愛らしい笑顔を隣に向けてしまうのだ。 こういうことになるのは分かっているのに……私はいつも素直になれないのだ。 目の前で微笑む私の大好きな人は、しかしその笑みが私に注がれることはなく、それに嫉妬してしまう自分が 本当に嫌になる。 「これ、つまらない物ですが」 ドロドロとした嫉妬にも気付かず、やんわりとした微笑を讃えながら、彼女は更にプレゼントの入った紙袋を手渡した。 あまり表情は変らなかったが、しかしいつも見つめている私には分かってしまった。彼女からのプレゼントに 本当に喜んでいることを。 そして私はまた彼女を恨めしくまた羨ましく思ってしまう。 ドロドロ。ドロドロ。ドロドロ。どす黒く、粘性の強い溶岩が体の中を流れていくような感覚。強い、独占欲が、 私を、支配して── 「……ッ」 冷や汗がつーっと流れた。また、やってしまったと思った。 私はそんな邪まな感情を拭い去ろうと、平静を装ってプレゼントを渡した。 やはり、あまり喜んではもらえなかった。私の想い人は、センスや趣味が私とはまるで違うのだ。 いや、それはきっと言い訳。勇気のない自分への言い訳。 本当はもっと別のものを買ってきていたのに、結局渡す勇気がなかったのだ。 部屋に上がらせてもらった私達は、愛すべき人の妹がつくったクッキーを肴に話に花を咲かせていた。 だけど私は、クッキーを食べてばかりいた。彼女の方ばかり見て話すのにまた嫉妬していたからだ。 なのに、あの人に『他人の誕生日なのだから遠慮しろ』と言われてしまった。 ああ、まったく私の行動は裏目に出てしまう。好かれたいのに、そのせいで嫌われてしまいそうなジレンマ。むしろ恐怖。 でも私はやっぱり意気地なしだから「美味しいからね」などとはぐらかす。 だけど私は一瞬手を止めてしまった。今回は自分も一緒にそのクッキーを作った、などといわれてしまったのだから。 体が、顔が火照るのが分かる。頬が高潮しているのかもしれない。 それはそう、ごく自然な反応。だって、家事が得意というわけでもないのに、私のために作ってくれたかも 知れないクッキー。 ・・・・・・・・・・・・ そう、作ってくれたかも知れないクッキー。本当は彼女のために作ったのかもしれない。 「どうしたの?」 またドロドロしたものがこみ上げる。私は咄嗟にごまかすことしか出来なかった。 「そう聞くと、美味しいのとそうじゃないのがある気がするから不思議だよね」 だって、あなたが作ってくれたものに叶うものなどないのだから。 「なんだと!」 また怒らせてしまった。 そうやって憎まれ口を叩いてばかりでその日は終わる──はずだった。 「じゃあ、私はこれで失礼しますね」 おっとりとした足取りと口調で彼女は退室した。 正直、ほっとした。最近彼女といると、嫌な感情ばかり覚えていたから。 「私も夕飯の準備してくるね」 妹もそういって出て行った。 気まずい。お祭りが終わった時の余韻と、やるせなさが混ざったのと同じ感じがする。そして何より、2人きり。 本当はもっと一緒にいたかったけど、その空気に耐えられず、私も帰ることにした。 「じゃあ、私も帰るね」 なのに、私は腕を掴まれた。 「え?」 ドキドキした。私の腕を掴む、その手を通して、鼓動が伝わるんじゃないかと思うぐらいに。 「その……送ってくから」 「ど、どうしたの。珍しいね。というか初めてじゃない?」 多分そんなようなことを言ったと思う。口早に言った台詞は、あまり考えずに言ったので覚えていないのだ。 あっという間に家についてしまった。 始終ドキマギしっぱなしだった私にとっては数分の出来事に思えた。 ガチャッという音をたてて、カギが開いた。 「それじゃ、さよ──」 うなら、と続けようと後ろを振り返り、私は瞬間固まってしまった。 「…………」 ・・ そこには、いつの間にか髪を下ろした愛おしい少女がいたのだから。 「あのさ、私ね、誕生日に言おうって決めてたんだ」 彼女が、言葉を紡ぐ。 「私……貴女の事が好きなの。 好きだから照れ隠しに怒って見せたし、好きだから一緒のクラスになりたいと思ったし、好きだから いつも一緒にお弁当を食べてたの!!」 狂おしいほど愛おしい。だけど届かないところにいたはずの彼女が、そんなことを言ったのだ。 もう、この気持ちを言葉にすることなど不可能に違いない。私はこんな気持ちを表す言葉を知らない。 「私、、、もぉ。私も、好き。大好きぃ」 「う、わ、ちょっと、なんで泣くのよ」 「だって、だって、だって」 嬉しさで涙が出るなんて本当にあるんだ、と思った。 「もお、仕方ないな」 そういって彼女は私をそっと包み込んでくれた。 彼女の手が、腕が、体が、暖かい。丁度彼女の胸の辺りに私の頭が、トンと乗った。 「ぅ……ぐしゅ」 「ほらほら、よしよし」 「うん……」 そっと、そおっと、彼女の手が私の髪を梳いていく。 まるで髪の毛の一本一本まで、彼女に染められていくようだった。 小一時間程たった頃だろうか。ポツリ、と呟いた。 「あたしもう帰らなきゃ」 「ヤダ」 「いや、ヤダって」 「ヤダもん」 もっともっと、こうしていたかった。 きっと一日中こうしていても足りないと思うのに、今だけなんて、耐え切れない。 「今日家に誰もいないから、泊まっていって」 「……わかったわ。まったく、こんな甘えんぼさんだったなんて」 私はその日最高の笑みを浮かべた。 とりあえず戸棚にあった紅茶でもてなすことにした。 今こうして私の部屋に一緒にいること。それだけだったら今まで何度かあったことだけど、今では 私達の関係は全く一転している。 それがとても不思議で、大切で、奇跡のようで、信じられなくて、夢を見ているような私がいた。 「えへへ」 自然と、頬の筋肉が緩む。 「あのさ、本当は誕生日プレゼント、別に用意してあったんだ」 私は、綺麗にラッピングされた小さな箱を渡した。 彼女は、しゅるしゅると紐を解き、箱を開けた。 「コレって……指輪?」 「うん。その、恥ずかしくて渡せなかったんだ」 私とあなたの指輪ですだなんて、言えるわけがなかった。でも今なら言えるから。 「ありがと。ねぇ、目、つむって」 「え、あ、うん」 指が触れているのが分かった。 もしかして、この感触は、という淡い期待が胸を満たす。 「目、開けていいよ」 ゆっくりと閉じていた瞼を開けると、私の左手の薬指に、指輪があった。 「こ、これ……」 「もらったプレゼントをどうするかは私の勝手でしょ?だから、これを私達の婚約指輪にしましょ」 「うっ、うぅ」 「ああん、もう。また泣く」 感無量とはこのことだった。もう、戻れない。私はこの人のことを、本当に愛しているんだと実感した。 そしてもっと、愛を感じたいと思ったのだ。 「ごろぉん」 私はもっと甘えたくて、その健康的な太ももの上に頭を乗せてはにかんだ。 「も、もう、何なのよ」 抗議を述べる顔が、少し赤くなっているのが嬉しかった。 だからなのか、私はとてもいい事を思いついてしまった。きっととてつもなく甘く、淫靡なこと。 「キス、して」 一瞬彼女はびっくりした顔をして、 「いいよ」 と、顔を近づけた。 勿論、唇を合わせるだけで終わるわけもなく、私達はボーっとした頭のまま、互いに舌をねじ込ませていった。 「んっ、くちゅくちゅ」 目の前の可愛らしい目が潤み、とろんとしていた。 「んっ、ぁっ」 そして左手が伸び、私のスカートを捲り、 「私、こなたが欲しい」 「ん……かがみになら。ううん。奪って、かがみ」 そしてその日、私達は初めて肌を合わせた。 「おーっす。こなた」 私達の関係のことはまだ誰も知らない。少なくとも、つかさにはいつか絶対に言わなきゃならないと思う。 だけど、同性愛というのは社会的バッシングを受けやすいものの一つだ。 慎重に、進めていきたい。かがみとの仲を。 「かぁがみぃ~」 でもやっぱり、私は甘えずにはいられない。 2人きりでない時でも、私達の距離は少しだけ変わった。 「ちょっと、くすぐったいって」 人前でベタベタすることも少なくない。 「かがみん、いい匂い~」 私達は大変な道を選んでしまったと思う。でも絶対に後悔はしない。 「嗅ぐな、恥ずかしい!」 これからかがみと一緒に歩んでいけるのだから。 コメントフォーム 名前 コメント GJ! -- 名無しさん (2022-12-16 01 43 50) ナイス! -- 名無しさん (2021-03-22 00 50 12) 作者です。随分久しぶりにここに来ましたが、未だに感想を書き込んでくれている人がいるようで、幸せで胸が一杯です。 本当に有難うございます。 今はSSを書く機会もめっきり減っていますが、それでも少しずつ書いています。また機会があれば、こな×かがのSSも書きたいです。 -- 1-636 (2012-11-26 02 32 33) いい百合ですね♪ -- かがみんラブ (2012-09-20 12 17 08) ↓レズじゃなくて、百合って言って下さい( *`ω´) φ_ -- 名無しさん (2011-02-23 19 55 40) レズ萌えー// -- 名無しさん (2010-08-22 22 19 39) wwwwwwwwwwwwwwwwwwww -- 名無しさん (2010-08-11 20 33 04) お幸せに… -- 名無しさん (2010-06-17 17 56 45) 二人で幸せを勝ち取ってくださいっ!! -- 名無しさん (2010-04-25 17 21 35) 4話のあの数分間の描写からここまでふくらませるとは・・・ ゆっくり味わせていただきました -- 名無しさん (2009-11-08 01 13 17) 2人とも・・かっかわいすぎる・・ -- 名無しさん (2009-03-19 13 11 54) 細かい心理描写にドキドキさせられました。 作者GJ!! -- (2009-03-19 12 32 30) むう…この感動と言うか何かを表せない自分の文才が恨めしいな… とにかくすごく良かったですGJです! -- 名無しさん (2008-06-18 13 41 08) 水竜の上ビレ -- 名無しさん (2008-03-24 17 47 43)
https://w.atwiki.jp/zakuromaru/pages/117.html
2009-10-24 03 42 13 | Weblog 私は今まで、随分無理をして生きてきたんだなあ。 そう思うって「甘え」? いや、「甘え?」って身構えちゃうから、やっぱり「無理してる?」 自然体で生きる、それが難しい。 今日なんて、腹が立ちすぎて、まだ眠れぬのよ、もうじき4時っす。 明日大丈夫かなあ?
https://w.atwiki.jp/rm96/pages/135.html
「おっはよーございまーす!」 今日もお仕事。 「おはよー」 「おはよう。のんちゃん」 などなど。いつものやりとり。 中に入ってカバンを置いて……あれ? 「りかちゃんは?」 いっつものぉより早いりかちゃんがいない。 そしたら豆がさっき入ってきた楽屋のドアを指差した。 「あー。石川さんだったら、さっき藤本さんとどっかいきましたよ」 「そうなんだ。豆、ありがとっ」 とりあえずダッシュで楽屋を飛び出した。 楽屋の廊下って走っちゃいけないんだって。 でも今ののぉにはそんなことどーでもよくって、とにかくりかちゃん。 そう思ってたら…。 「あっ! ミキティ!」 「あっ。辻ちゃん。おはよー」 片手を挙げてこっちに向かってくる。けど…あれ? 「うん。おはよ。ミキティ。ねぇ、りかちゃんは?」 「りかちゃん?」 なんとなくぴたってミキティがひっついてきて、って…ちょっとミキティ。どこ触ってんの。 ミキティも結構甘えんぼだから、なんかこうくっついたりとかするんだけど、微妙なとこ触ってくんだよねぇ。え? どこって…。いやん。はずかしー。へへへ。 ミキティはうれしそうにのぉの肩を抱きながら二の腕を触ったりして考え込んでる。 ってかさあ、さっきまで一緒にいたんでしょ? 「んー。あぁ、さっきよっちゃんとお昼食べにいったよ」 「お昼? んー。とーちゃんと一緒かぁ」 ってことは地下の喫茶店かな。 「ってあれ? ミキティは一緒にいかなかったの?」 「うん。今日歌の撮りで亜弥ちゃん来てるから」 あぁ。なるほどねぇ。なんかさぁ、うれしそうにも残念そうにも見えるその笑顔は何? 「じゃあ、のぉ、行くね。まだあとでねー」 「はいはい」 ミキティに手を振って、今度は地下の喫茶店へ。 まったくさぁ。 お昼食べるんなら待っててくれたっていいのに。 エレベーターの前まで行ったら、あっ。もう少しで来るみたい。 階段使おうかなぁと思っていたら、その隣のエレベーターのドアが開いた。 ガーッって、開いてそっから出てきたのは…えっ!? 「よっちゃん!?」 「よっ。のの、おはよ」 「あ、うん。おはよ…。あれ? あのさぁ、よっちゃん…りかちゃんとお昼食べてたんじゃないの?」 「うん? あぁ。一緒だったよ。でもさ、あたしコントのリハがあるからさ。先に戻ってきたんだよね」 「ふーん」 「じゃあ、まだりかちゃんいる?」 そしたら、よっちゃんがあごに手をあてて難しいカオで斜めを上を見上げた。 「どーだろー。梨華ちゃんも食べ終わってたし。ちょうど美勇伝の二人が来たから、いいかなぁと思ってさぁ」 「ふーん。そっかぁ」 「まっ。とにかく行ってみな」 「うん。そーする。じゃね、よっちゃん」 「おぅ。あとでね」 よっちゃんに手を振った。 一つは1番下からこっちに向かってくる途中。もう一つは一番上からこっちに来る途中。とりあえず当分来ないみたいだから、しょーがない階段使おう。 あー。まだいるかなぁ。 ってゆーか、のぉもおなかすいてきた。 なんかおごってもらおーって、りかちゃんケチだからダメか。 ドン! ドン! ドン! っと、地下到着っと。 さーてと…っと、喫茶店へ…と思ったらエレベーターを待ってるびゆーでんの二人。 「ねーあのー」 走り寄って慌てて声をかけた。 のぉに気づいたおねーさんな方、ええっとみよしさん?だっけ…がぺこりと会釈してくれた。 「あっ。辻さん。おはようございます」 「おはーよーございます。辻さん」 その隣にいるおかだちゃんがちょっと大阪弁な感じでほわって笑ってぺこり。 「あっ。おはよーございまーす」 二人とも私服だけど大人っぽいよね。こーみると、りかちゃんけっこー若いかも。ってか、おこちゃま? おかだちゃんものぉとタメにはあんま見えないし。 って、それはいいとして。 「ね。りかちゃん、一緒じゃないの?」 そしたら、二人はちょっと首をかしげてカオを見合った。 「石川さんなら、さっき飯田さんに呼ばれて先に戻りましたよ」 みよしちゃんがなんとなく上を指差す。おかだちゃんはなんか眠そうな目でみよしちゃん見てうなずいてるし。 「そっ…そーなの!?」 うげ…。もしかしてすれ違い? のぉ…そんなによっちゃんと長くしゃべってたっけ!? ってか…かおりぃ!? 「どっ…どれくらい前?」 「んー…。もぉ10分くらい前?」 って言ったおかだちゃんがみよしちゃんを見て、みよしちゃんがこくんとうなずく。 10分って…もしかして、のぉがよっちゃんと話したあとに見たエレベーターに乗ってたとか…。 たしか地下から上にくるのあったし…。 あちゃー。 「そーなんだ。ありがとー」 解ったからには今度は上へ。 エレベーターまだ来ないみたいだから、また階段で逆戻り…。 はぁ……。 もー! なんでいったりきたりなんだよぉ! かおりのばかーっ! 階段を駆け上がってまた楽屋に戻ると、かおりがイスに座って本を読んでた。 「ええええええっ!」 のぉの声に豆がびくってした。 だって、りかちゃんいないもんだもん。 もぉ! 「かーおりー!」 「あっ。のんちゃん。おはよー」 カオリがにっこり微笑んでぱたんと本を閉じたから、そのままえいって膝の上に飛び込んで座ってがくがくと肩を揺らした。 「かおりー! りかちゃんはぁ!」 「わっ! ちょっとっ! のんちゃんっ! 暴れないでっ!」 「ねぇーぇー! りぃーかぁーちゃん!」 そしたら、かおりがちょっとさびしーなカオして。 「もぅ。石川石川って…。なによぉ…」 あぁ…。 もー。オトナなのに、かわいいなぁ。 ぎゅってかおりの首に腕を回して、ぺたって体をくっつけた。 「だってぇ。まだあいさつしてないもん」 「あー。そうなのかぁ。石川ならさっき圭ちゃんとスタジオに行ったよ」 「ふーん。ありがと。かおりん」 ちゅってほっぺにキスして、 「のぉ、かおりもだいすきだよ」 「うんうん」 うれしそうに目を細めるかおり。 なんか頭撫でてくれてね、気持ちいーの。へへへへ…。 …。 …。 って、寝ちゃダメだって。 「ごめんね。じゃぁ、おばちゃん探してくる」 「うん。いってらっしゃい」 楽屋を出て今度はおばちゃんを探す。 でも、どこにいるんだろうと思ってたら、 「あっ!」 向こうから歩いてくるおばちゃん。 「おばちゃーん!」 「あらっ。つーじー。おはよー」 そのままどんってぶち当たったら、おばちゃん、ふらりとよろけた。 「ちょっとぉ! 痛いじゃない。もぅ。そんなにあたしのことすきなの? きゃっ」 っていうから、いちおーお約束。 「おぇーっ」 「こらっ!」 そしたら、後ろにいたなちみがけたけた笑って「おえーっ」って。 「もー! なっちもひどーい! そんなあたしがかわいいからって、嫉妬しないでちょーだい」 っていうから、 「「おえーっ」」 って。そして、けたけたと二人で笑った。 おばちゃんもなんか呆れた顔して笑ってるし。 「もぉ。なんなのよ。つーじー」 「あっ。そーだ。りかちゃんは? 一緒じゃないの?」 「石川? スタジオに行って、すぐに用事終わったから戻る途中までは一緒だったけど、今あいぼんと一緒にしゃべってるわよ」 「えっ!?」 「あー。でも、あいぼんあのあとスタッフさんに呼ばれてなかったけ?」 って、なちみ。 「そーいやそーだわ」 「ってことは…りかちゃん、今どこ?」 そしたら、おばちゃんとなちみ、二人してお互いの顔を見て…。 「さぁ…」 だって。 しょーがないから楽屋に戻った。 「ほーらぁ。しょんぼりしないの。ほら、のの笑って笑って」 なちみがぎゅっとしてくれる。 「ほんっとに、ののはりかちゃんすきなんだねぇ」 とてとてと歩きながら楽屋に入ったら、あれ? 「あいぼん?」 「のん、おはよー」 「おはよ。あいぼん。あの…りかちゃんと話してたんじゃなかったの?」 「いつ?」 「さっき」 「うん。話してたよ」 「でも、そのあと呼ばれたって」 「うん。でもすぐに終わった」 「で?」 なんでここにいるの? だってのんたち戻ってくるときあいぼんもりかちゃんも見なかったけど…。 そしたら、あいぼんはにこっと笑った。 「あたし向こうの階段から戻ってきたから」 そう言って、のぉたちが来たのとは逆の方を指差した。 そっか。なちみもおばちゃんもスタジオから戻ってくる途中。でも、ここってちょうど真ん中へんだから、どっちからでも戻ってこれるんだよね。 「あぁ…。そっか」 「ね、あいぼん。りかちゃんは?」 「トイレ行ってくるって」 「そっか。ありがと!」 「上の階の右側だよ」 「うんっ!」 だーって走り出したのぉの耳にコンちゃんの「しないよ」って声と、マコトの「なんじゃそりゃ」ってやれやれっていう笑い顔がチラッと見えた。 もぉね、止まらないよ。 階段だーって駆け上がって、あいぼんが教えてくれたトイレに飛び込んだ。 「りかちゃん!」 「あっ。のぉ、おはよー」 「おはよーじゃなーいっ!」 まだ手を洗ってるりかちゃんに後ろから飛びついた。 「探したんだからぁ!」 「あはははっ。そうなの? ごめんね」 「そーだよー。地下行ったりしたさぁ、たいへんだったんだからぁ!」 「そっかそっか。ごめんごめん」 「もぉ!」 りかちゃんは手を拭くと、抱きついたのぉの腕を解いて向きを変えた。 「ごめんね。お疲れ様」 そして、ぎゅうって。 もぉ…。怒る気なくなっちゃうじゃん…。 ほっそいりかちゃんのカラダをぎゅうって抱きしめて、なんかあったかい。 「探したんだからね…」 「うん」 ゆっくりゆっくりのぉの髪をなでてくれるりかちゃん。 「どーしたら、機嫌…なおしてくれるかなぁ」 って困ったように笑うから、 「じゃあさ、キスして」 って、背伸びして目を閉じた。 くすってりかちゃんの笑い声。 「はいはい。お姫様」 そしてふんわりと触れた唇。 もぉ…。お姫様って、自分じゃんよ。 ちゅって音を立てて離れようとしたから、のぉから追いかけた。 そしたら……ね、帰ってきたのは大人のキス。 うっはーーーーっ! カラダが熱い。 でも…。うん。そのたびに思うの。 りかちゃん、だいすき。 楽屋へ戻る帰り道、りかちゃんと手を繋いだ。 なんかね、それだけで満足。 へへーって笑ったら、ふんわりと微笑んだりかちゃん。 まだそれでも妹なのかな? 娘みたいって思われてんのかなぁ? 「のぉ?」 「うん。ねぇ。りかちゃん」 「ん?」 「うん。だいすき」 何度言っても足らないし、だから、もっかいキスした。 りかちゃんは照れくさそうに笑ってて…。 いつかのぉがりかちゃんみたいなオトナになったらさ、そんときは…コイビトみたいに…なれるかな? (2004/10/10)
https://w.atwiki.jp/fushimi_eroparo/pages/335.html
http //yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1291723688/415-423 俺は高坂京介。ごく平凡な高校生だ。 いきなりだが、俺にはこの世で苦手なものが三つある。 まずは妹の桐乃だ。 眉目秀麗、スタイルファッションセンスともに抜群、 スポーツ万能、学業優秀。友達がいっぱいいて、 全校生徒の憧れの的で、教師からも受けがよくて、 部活では大活躍、校外ではモデル活動なんかもやっちゃって、 みんなから頼られてて、誰からも好かれてて そんな超完璧で、超カッコよくて、超かわいくて、超美人・・・・ と自称しているのが俺の妹だ。 いや、否定はしねえよ。 だけど、ここまで自分で自分をほめられるってどんだけだよ。 しかし、そんな妹も欠点っぽいところがあった。 「オタク」なのだ。それも重度の。 アニメはおろか、中学生の分際でR-18のエロゲにまで手を出してやがる。 そんなこんながあって、俺は妹の「人生相談」に乗ってやっているうちに 妹にいろいろとお願いされるようになった。 今日も妹にお願いされてアキバまで新作のエロゲを買いにいった帰りに 電車に揺られている最中だ。 いっとくがパシリじゃねえぞ。断じて違う。 ―――ああ、俺の苦手なものランキングの話だったな。 次に嫌いなのは、煙草を吸う奴だ。 体に悪いとわかっていながら煙草を止められない奴は猿にも劣る、 と俺は思っている。 そして、最後のもう一つは―――――― 「何だこのバカやろーー!! ふざけんじゃねーよ!!」 怒鳴り声のする方向を見ると若い女が騒いでいる。 どう見ても酔っぱらいだ。俺の苦手な・・・・ うっ!目が合った。ヤベ。こっちに来る。 「ちょっとー、なにジロジロ見てんのよぉ」 座っている俺にのしかかってきた。 酒臭ッ! おまけに香水もキツイ!! 「ちょっと、やめてくださいよ!」 「んー?『やめてくださいよ』じゃなくて、 『やめてください、お願いします』だろー?」 「・・・や、やめてください。お、お願いしま・・・」 「あんた、地味目だけと近くで見ると整った顔じゃん」 整った顔? 俺が? そんなこと言われたのは初めてだぞ。 酔っぱらうと人間の審美眼って損なわれるものなのか? 「いいことしてあげる。ムチュー」 ―――ッ!! この酔っぱらい女、俺の頬に吸い付いてきやがった。 それもきつく、何度も吸いやがった。 「ちょっと、やめてくださいよ!」 「んー?『やめてくださいよ』じゃなくて、 『やめてください、お願いします』だろー?」 「・・・や、やめてください。お、お願いしま・・・」 なんて日だ。 桐乃のお使い(断じてパシリではない)でアキバに行くと かなりの確率でトラブルに巻き込まれる。 二度と行くもんか、と何度も思っているが、妹様を前にすると どうしても拒否れないんだよな。弱すぎだろ、俺。 「遅い! どう? 買ってきたの?」 俺のただいまの挨拶よりも先に桐乃の苦情に近い言葉が投げかけられる。 まあ、そんなことは慣れっこだ。 「ほらよ」 「あはーん。これこれ。早速インスコしよっと。フヒヒヒ」 そのキモイ笑い、やめてくれないか。 第一、アキバくんだりまで足を運んだ俺にはお礼の一つも無しかよ。 まあ、そんなことも慣れっこだ。 「・・・ちょっと、アンタ・・・」 その声の主である桐乃を見ると、阿修羅と見紛う顔をしていた。 本物の阿修羅なんて見たこと無いけどな。 「なんだよ」 桐乃は鼻をヒクヒクさせた後、こう言ってきた。 「香水・・・。ドコでつけてきたの?」 「馬鹿言え、俺が香水なんてつけるわけが・・・」 ―――ッ!! そうだ。あの香水がきつかった酔っぱらい女の移り香だ。 だが俺にはやましい点なんて何も無い。 「電車の中で酔っぱらいに絡まれたんだよ」 「ハア? 酔っぱらいのオジさんがそんな香水をつけていたっての?」 「オジさんじゃねえ! 女の人に絡まれたんだよ!!」 「何それ。ドコのエロゲ? そんな言い逃れが通用すると思ってんの?」 「言い逃れじゃねえよ。本当の話だ」 「そもそもなんで女の人に絡まれるワケ? まさか痴漢したとか?」 トンデモねえことを言い出すヤツだ。 俺は一方的被害者なのに、コイツに話すと痴漢犯罪者に転落かよ。 「どうも怪しい・・・」 父親の血を引いたのか、不審者に対する捜索が始まった。 俺の全身を下から上までガン見している。 そして俺の顔を四方から見た途端に桐乃の顔が強ばった。 「キ、キスマーク・・・?」 げ!! まさかあの女に吸い付かれたのが痕になった?? 俺は慌てて、無意識に吸い付かれた頬を手で隠した。 より正確には「無意識に吸い付かれた頬を手で隠してしまった」だ。 「ふーん。自覚があるんだ・・・」 やっちまったぜ。語るに落ちるの仕草版ってヤツだ。 「アンタ、妹の買い物中に女といちゃついていたの? キモいんだよ、死ねええええ!!」 あの女に吸い付かれた頬にビンタを炸裂させた桐乃は、 振り返ることも無く自分の部屋に帰っていった。 最悪だ。 アキバまでエロゲを買いに行かされ、酔っぱらい女に絡まれ、 妹からは感謝の言葉も無く、挙げ句に邪推されてビンタって、 ああ無情を地で行っているぞ、俺。 ビンタを喰らった顔を鏡で見た。 広範囲に赤く腫れているのはビンタのせいだろう。 キスマークは・・・? なんだよ、ビンタで上書きされたせいもあるだろうが、 相当ガン見しないと確認できないレベルじゃないか。 アイツ、これを見つけ出したってのかよ。もう千葉県警に入れよ。 ロクなことが無かった今日のことを忘れるために、早めに床についた。 「おにいちゃん、おんぶして」 1.おんぶしてやる ← 2.甘えるな、と一喝する 「ふふん。ありがとー」 「オマエは甘えんぼだなぁ」 「だってアタシ、おにいちゃんがだいすきだもん」 「ねえ、おにいちゃん、こっちむいて」 「なんだよお?」 ムチュ 「な、何するんだよ??」 「ふふん。アタシのまほう」 「魔法?」 「このまえ、まーおねえちゃんがおにいちゃんにしたのとおなじこと」 「えっ、オマエあれを見ていたの?」 「うん。だからアタシがもういちどすれば、まーおねえちゃんにかてるもん」 ムチュ ムチュ ムチュ 「くすぐったいな。上書きかよお」 「うわがきって、なあに?」 「・・・なんでもないよ。さ、家に帰ろう」 「うん!!」 ピピピ ピピピ ピピピ 目覚ましに起こされた俺は、なんて夢を見たんだと自己嫌悪に陥った。 エロゲそのものじゃないか。それも妹モノの。 どのタイトルなのかは思い出せないが。 でも選択肢が出てきたところからして、エロゲなのは間違いあるまい。 身支度をして廊下に出ると、桐乃と出くわした。 やべ。昨日の今日で邪推に基づく怒りが鎮まるはずもない。 罵倒・暴力を覚悟した俺だが、桐乃は俺の顔を見た瞬間、 顔全体を赤くして階段を駆け下りていった。 チッ。なんだよ。まだ怒っているのかよ。 「いってきまーす」 桐乃がいつもよりも早めに家を出て行った。 さしたる理由もないが、俺もたまには早めに登校しようと玄関を出た。 家の前には桐乃と一緒にラブリーマイエンジェルあやせたんがいた。 「な、な、なによアンタ??」 桐乃がワケのわからない物言いをしてきた。 俺がイレギュラーに早く登校しちゃいけないのかよ。 「おはようございます、お兄さん!」 おお、朝からラブリーマイエンジェルあやせたんに会えるとは ああ無情な昨日を吹き飛ばす幸運だ。 「ああ、おはよう」 挨拶を返し、さてどんな話題を振ろうと思案しながら ラブリーマイエンジェルの顔を見たら・・・ 見る見るうちに彼女の目の光彩から光が消えていった。 なにこれ? 一体俺がどんな地雷を踏んだと言うの? 「お兄さん、なんですか、ソレ・・・?」 「ソレって?」 「トボけるんですか? よく見なさい!!」 あやせは自前のコンパクトを開き、鏡を俺に向けて突き出した。 ―――ッ!! コレ、キスマーク? なんで? 夕べの時点でガン見しなければ見えないほど薄くなっていたのに、 なんで夕べよりも明らかに濃くなっているの?? 「一体どういう説明をしてくれるのですか?」 「あ、いやコレは・・・」 「うるさい! 色魔!! 死ね!!!」 罵倒のジェットストリームアタックに続き、ビンタが炸裂した。 説明を要求したくせに、聞きもせずにビンタってどんだけ。 頬を張られた俺は地面に倒れ込んだ。 目の前には、スラリと細長い桐乃の美脚。 モデルの細い脚とはいえ、コイツは同時にアスリートでもある。 脚の効果的な使い方には長けているはずだ。 俺は踏まれたり、蹴られたりするのを覚悟したよ。 ? あれ? 何もなし?? 拍子抜けだ。 いっとくが、踏まれたり蹴られたりすることを期待していた ワケじゃないぞ。 「さ、桐乃、行こう!!」 桐乃はあやせに急かされ、手を引かれて走り去っていった。 親友のあやせの暴挙に圧倒されたのか、桐乃は終始無言だったが、 あやせに手を引かれている桐乃は、申し訳無さそうな表情で 俺の方を何度も振り返っていた。 あーあ、今日もああ無情か・・・ 学校から帰ると、リビングに桐乃がいた。 「・・・あのさ、今朝のことだけど・・・」 「朝から女子中学生にビンタされる高校生なんてキモすぎってか?」 「いや、そうじゃなくて・・・」 「じゃあなんだよ?」 「その・・・すごい久しぶりだったから加減がわからなくて・・・」 「はあ?」 「あやせに殴られたのもアタシのせい・・・と言えなくもないし」 桐乃はバツの悪そうな表情をしてうつむきがちに言った。 ナニ言っちゃっているの、この妹様は? 「意味わかんねえ。そもそも、あやせが誤解したことにオマエは 何の責任もないだろ」 「だから!・・・ほら、アタシがあやせと一緒に登校するなんて イレギュラーなことじゃん? そこにアンタがかなり早く出てきちゃって、 あやせと顔を合わせちゃったのはアタシのせいと言えるじゃん? でも色んなことが重なっちゃった事故だからしょうがないし」 本格的に意味がわかんねえ。 まるで何かの言い逃れをしているかのようだ。 俺とあやせが出くわしたこと、あやせが誤解したこと、 あやせがビンタしてきたこと、どれも桐乃のせいじゃない。 あえて犯人探しをするとすれば、いきなり濃くなったキスマークだろ。 でもそれは、俺の体のせいに決まっている。 『OVER WRITE』【了】
https://w.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/1165.html
洗面所に入ると、バスタオル1枚の妹が鏡の前でヘンなポーズをしていた。 「あ、お姉ちゃん。お風呂先にいただいたよ」 「つかさぁ~……何よ、その奇怪なポーズは……新手の首の運動か/?」 もしこの場に、彼女……こと、柊かがみの友達がいたら、 『首に星型のアザでもついてるのかと思ったよ』と 言ってそうなくらい、腰に負担がかかる姿勢だった。 「あのね、ココ、首のところにキズみたいなのがあるの。 今まで全然気がつかなかったけど」 そう言って襟足の髪の毛をかき上げると、たしかに後頭部から うなじの部分にかけて縦に一筋の傷痕が見える。 数センチはあるだろうか……傷自体はかなり大きいが 盛り上がっているようには見えない。 ほとんど治りかけているあたり古いもののようだ。 「へぇ……コレは明るいところでよく見ないと、気がつかないんじゃない? 普段は髪の毛がかかって完全に隠れちゃってるし」 「うん。触っても、全然分からないし」 「それにしても、よく気がついたわね。こんなところにあるキズ」 「今日美容室に行ったら、美容師さんが『痛くなかったですか?』って聞いてきて 私もね、最初、何のこと言ってるのか全然分からなくって」 「うん……私も今までちっとも……」 先ほどから少し陰のある表情を見せていたかがみは、突然何かを 思い出したように口をつぐんだ。 やがて、しばらくの沈黙のあと、申し訳なさそうに小さく一言呟いた。 「あの時の痕、残ってたんだ……」 「ねえ、お姉ちゃん。ホントは知ってるんでしょ?」 「何のこと?」 ベッドで寝転がりながら、ラノベの新刊を読むかがみ。 つかさの問いにそっけなく答える。 「ココのキズのことだよ。何か知ってるよね?」 そう言って風呂上りの濡れた髪を撫でて、かがみを促す。 「さっさとドライヤー使いなさいよ」 かがみは読書中に話しかけられるのを極端に嫌がる。 普段のかがみなら、つかさのことを軽く一蹴しているだろう。 しかし、この時は読書に身が入らず、上の空といった感じで ベッドのそばに腰掛けたつかさの質問を、気にかけているようだった。 「ねえ……気になるよ……」 つかさを横目で見ながら、やがてかがみは諦めるように呟いた。 「しょうがないわね……あんた、そういうとこって昔から頑固よね…… 話せばいいんでしょ? まあ、もう『時効』だろうし……」 「『時効』って?」 「だってもう10年くらい前の話よ。私たちが小学校に行ってた時だと思うから、 8、9歳の頃。もっと前かもしれないわ」 「へぇ、そんなに前なんだ。どうりで私、全然覚えてないはずだよ」 「私はよく覚えてるわよ。すごく怖かったから…… それに、元はと言えば私が原因だしね」 「えっと……私がココ怪我したのって、お姉ちゃんのせい?」 「そうだとも言えるし、仕方が無かったとも言えるわね」 「なにそれ? 全然答えになってないよー?」 「話は最後まで聞きなさいよ……その頃のあんたってね、 今以上にすごーく甘えんぼでね。お父さんもお母さんも、お姉ちゃんも、 親戚の人もみんな、つかさのことばかり可愛がってたの」 「わ、わたし、そんなに甘えんぼじゃないよぅ……」 つかさが顔を赤らめて言う。 「でもね。あの頃は本当に、みんながつかさの方ばかりかまってたのよ。 少なくとも、その時の私にはそう思えた。 『かがみはしっかりしてて偉い』とは言ってくれたけど、 同じ双子なのに……って、子供心にとても寂しかった……」 トゲをふくんだ言葉尻には、少しばかりの嫉妬と羨ましさが見え隠れしていた。 以前、友達に言われた「かがみは寂しがりやのウサちゃん」という言葉は 実は、思った以上に当たっているのかもしれない、とかがみは思った。 「あ、あの……なんていうか。ごめんなさい、お姉ちゃん」 かがみは大げさにため息をついてみせる。 「だからぁ~……そ~ゆ~風にすぐ謝っちゃったりするところとか、 その性格だからなのよねぇ……みんなに可愛がられるのはさ ま、今は全然気にしてないからね……とにかく、話を戻すわよ」 「そうそう、私のキズのことと全然関係ないよー」 「あんたがいちいち話を腰を折るから悪いのよ。最後まで黙って聞いてなさい」 「むー……」 「あれは、夏のすごい暑い日の昼下がり。たぶん気温は35度を超えてたかしら 本当に気が滅入るほど暑かったのを覚えてる。 確か、お父さんは仕事で関西の方に行ってて、お母さんは町内会の何かの集まりに行ってた。 だからお姉ちゃん達に『私たち2人の面倒を見るように』って言ってたはず。 でもお姉ちゃん達は『かがみ、つかさのことよろしくね』とかなんとか、友達と一緒に 遊びに行ったりとかしてたの。まったく。いいかげんよね、ウチの姉妹って。 『なんでこのクソ暑いのに、手のかかるコイツの面倒を見なきゃ……』って、 私は内心毒づいてた……って。ちょっ、何その今の小動物が怯えるような目は!? 凶暴なのか? 今の私そんなに凶暴だった? ……とにかくね、その日の午後は、家に私たち2人だけだった。 それで境内でかくれんぼとか鬼ごっことかして、遊んでた。全く、子供ってホントにバカよね。 そんな日は、おとなしく家の中で遊んでればいいのに。 で、そんなことをしてるうちに、裏のお堂のところへ言ってみようって 私が言い出したの……ほら、裏庭を竹林のほうに抜けてたとこ、 そこに小っちゃいお堂があったの、覚えてる? 昔あそこで遊んだじゃない。 今はもう壊されちゃってて無いけど。 あそこの軒下のとこにミツバチの巣があるから、見に行こうって誘ったのよ。 まったく、救いようが無いくらいバカよね、子供の考えることって。 あんたはすごく嫌がってたのを、私が無理やりに連れてった。あんたのこと、 少し怖がらせてやりたかったんだと思う。 真夏の炎天下の下、草がぼうぼうの小道をしばらく歩いって、開けたところに古い祠があった。 なんの神様を祭ってたんだっけなぁ……昔お父さんに聞いたんだけど。 犬神だったっけ? 何か、あそこは今まで歩いてきた来た道と空気が違った。私はそう思った。 なんとなくひんやりしてるというか、じとっと湿った感じがするというか…… セミがうるさいのに、ひっそりとしてて静かで……全然そんなことは無いはずなのに。 お目当ての蜂の巣はちゃんとあったわよ。それもすごく大きな立派なの。 近くに行かなくても、あの蜂の羽音がぶんぶん聞こえて。周りを飛んでる蜂は数匹なんだけど。 すごい威圧感ってヤツよ。しばらく遠くから見てたんだけど、私はさ、よせばいいのに 石とか投げ始めた。 もうね、出てくるのよ、蜂が。ものすごい数の。 私のやってるシューティングの弾幕よりたくさんの。 黒い雲が音を立てて襲いかかってくるみたいだった。 私は逃げたわ、あんたを放っといて。ひどい話よね。 とても怖かったからよく覚えてないんだけど、転びそうになりながらも、必死で 家の中まで逃げ込んだ。気がついたら、足とか擦り傷や切り傷だらけだった。 落ち着いたら、つかさのことが気になりだした。 どうしよう、つかさに何かあったらすごく怒られるに違いない。 お母さんやお姉ちゃんたちが帰ってくる前に、つかさを連れてこないと、って…… しばらくして、暑さのピークを過ぎて陽が陰りはじめた、 夕暮れも近くなった頃、あのお堂へ恐る恐る行ってみた。 蜂はもう大人しくなってたけど、私は近寄らないようにした。 つかさの姿は何処にも無かった。 何処いったんだろう……あの子はドンくさいから、逃げ遅れたのかな…… 家の方に戻ったはずは無い、一本道だから出会ってるはずだし、 そもそもこんな時間だ。とっくに家にたどり着いているはずだ……。 子供の頭で、私は必死に考えた。そして1つの恐ろしい結論にたどり着いた。 あのお堂からは、もう一本の道が開けているの。 その道をしばらく進むと、急な崖に出るわ。 崖といっても、3、4メートルだから、たいした斜面じゃないのよ。 子供の足でも、気をつければ降りられるくらいだもの。 とはいえ、蜂の大群をかわしながら駆け足で降りられるかどうか、さすがに その保障はなかった。 それが運動神経ニブくてドンくさい子供だったら…… あまり想像したくなかった…… 私は最初、つかさが逃げるときにその崖から落ちて、足でもひねって 動けないんじゃないかと考えた。もし蜂に刺されてたりでもしたら大変だし。 なんにしろ、たいしたことは無いだろうって、 何のコンキョの無い希望的観測をしてたわ。 さっさと助けに行って、家に連れ帰って、私の分のお菓子でもあげて、 家族には黙っててもらおう。それで万事OK! そんなことを考えてた。 『背筋が凍る』って言うでしょ。そういう光景を見るとね、 背中に凍ったミミズを入れられたみたいに、体温がスゥーって下がるのよ、ホントにね。 つかさはそういう経験ある? 崖の下で、つかさは冷たくなってた。 すぐ思い直した。きっと足を滑らせて崖を転げ落ちて気絶してるだけだ、って。 でもね、死人ってのは、寝てるだけの生きた人間とは全然違うのよね。 呼吸とか、肌の色とかだけじゃなく、周りの空気がそこだけ違うのよ。 でも私は、そんなのはただの錯覚に違いないって、しつこく思い続けた。 つかさの顔のまわりをまとわりついて蠢いているハエは、黒い塊みたいになったし、 片足は、膝あたりから変な方向に曲がってたけど。 また、希望的観測というヤツ。 でも、そんな私のささやかな希望も すぐに音を立てて崩れたわ。 つかさの頭を起こそうとした瞬間、耳からドロッて赤い液体が流れて落ちた。 血って言うより、すごく赤黒かったから、ブルーベリーのジャムみたいだなって思ったけど、 『あ、これ血なんだ』って気づいてらびっくりして、つかさの頭を離してた。 ゴンッて地面に落ちて頭を打ったけど、あんたは全然反応が無かった。 かわりに何処からってくらい、ものすごい量の血ががドバーッて出たわ。 アレの日なんて目じゃないくらい。砂場にジュースを落としたみたいに、 あたりの乾いた土にすぐ吸い取られて、まわり一面赤黒くなった。 ……ヒトの血の量はね、体重の13分の1。その3分の1の出血が致死量なの。 それで小学校低学年の子の体重って30キロぐらいでしょ…… 致死量は……770ml……250ml缶3本ちょっと、ってとこでしょ? 2lペットボトルぐらい真っ赤な血がドロドロって噴き出してた。 どうしたの? つかさ? 顔色が悪いわよ? 冗談でしょ、だって? まあ待ってよ。 ここまで話したんだから、最後まで聞きなさいよ。 じゃあ続きを話すわよ。 それでね、もうだめなんだ、つかさは死んでるんだ、 血が止まらなくて、全く動かないつかさを見て、私はそう判断した。 でね、次に何を考えたと思う? 『つかさがいなくなったから、みんな私のことをかまってくれるようになる』 一瞬そう思った。それくらいあんたは大切にされてたから。 でもそんな大切なつかさを殺した私はどうなるのかしら? そう考えた。 みんなすごく怒るだろう。神社の神具を悪戯したときより怒るだろう。 きっと謝っても許してもらえない。私も殺されちゃうんだ。 私はつかさの死体を隠すことにした。 ところで、あの崖から離れたところに『墓地』があるのって知ってる? 『ヒト』のお墓じゃないわ、ペット専用の墓地よ。 鳥とか猫とか、でも犬が一番多かったみたい。 誰が始めたのか知らないけど、すごい数のお墓があって、 墓標があるのだけでも100以上かしら。ネットでもすごく有名なのよ。 私はそこにつかさを埋めることにした。 同じくらいの体格の人間を運ぶのは、すごく大変だったわ。 意識の無い人間はね、おんぶするときみたいに、バランスを取ってくれないから。 何度も転びそうになって、汗だくだくになりながら、 血生臭さで吐きそうになりながら、つかさを背負った私は墓地にたどり着いた。 最近切られたような切り株があったから、座って一息ついた。 ところでその墓場には、ちょっとした怪談ってか都市伝説みたいなものがあってね。 埋めたペットが生き返る、のよ。ふふ、笑っちゃう話でしょ。 でも私のクラスメイトの子が、ペットの犬が生き返ってったって言ってたのを思い出したの。 まあ私は、似たような犬を親が買ってきたんだ、って言い返してやったけど。 昔っからそーゆーオカルトなのは信じないのよ、私は。 あーでもぎょぴちゃんやタマが死んだら、私だって『ペットの墓地』で生き返らせたいかも。 大人だってそんな迷信に頼りたくなるくらい、哀しいのよね。ペットロスってのは。 ……都合がいいことに、墓にはちょうど、掘り返したような大きな穴が開いてた。 あ、もしかしたら、あの穴はすでに何かが『出てきた跡』だったのかもね…… つかさを穴に下ろして、その辺の板切れか何かで土をかぶせた。 何だか息苦しそうで可哀想だな、って思いながら。 それから……あまり覚えて無いけど、家に帰った頃にはもう夕方だったはず。 服は汗びっしょりで、つかさの血がすこし付いてたけど、 着替えもせずに、すぐにベッドの中にもぐって、ずっと震えてた。 つかさは一人で遊びに行った、だから何も知らない。そう答えれば大丈夫だ。 たとえ死体が見つかっても、自分が殺したなんてバレるはずは無い…… そんなことを考えながら……あとは、今日の出来事の夢を見ていたと思う。 夢の中で、崖から落ちるつかさを、私が映画みたいに助けたりして、 ああ、こっちが現実なんだって思ったらそこで目が覚めて、またすぐ眠って…… それを何度も繰り返してた、時間の感覚が無くなるくらい。 『ご飯だよー』ってお姉ちゃんの呼ぶ声がした。目が覚めたら夜だった。 私はいつもどおりにキッチンへ行ったけど、内心ブルブル震えていた。 心臓も鼓動が聞こえるんじゃないかってくらいドクドクしてた。 お母さんはまだ帰ってきてなかった。 そこには、いのり姉さんとまつり姉さん、そして……つかさがいた。 マジでビックリしたわ。だって、あんたヘーゼンとご飯を食べてるんだもの。 もしかして、昼間の出来事は本当に私の夢だったんじゃないかって疑うくらい。 寒いの? つかさ? さっきからずっと震えてるわよ? お風呂入ってそんな格好してるからよ。 でも夢なんかじゃなかったわ。私の服には血が付いてたままだし、洗濯機の中には 血だらけで赤黒くなったつかさの服が放り込んであった(これは私が始末した) 次の日見に行ったら、昨日死体を埋めた場所はぽっかり穴が空いてた。 昨日、つかさは確かに死んで、ソレが生き返った証拠ってわけよ。 それだけなら、土の中で、仮死状態とか何かで意識を失った状態から回復して ただ戻ってきただけかもしれないわね。 といっても、あれだけ大量の血を失っても平然としてるなんて絶対おかしいでしょ? それに何と言ってもね、その日からあんたの様子がちょっと変になったの。 犬っぽくなった。 べつにシッポふったり、舌出したりとかじゃなくて ちょっとしたしぐさで、子犬を連想するみたいな感じ。 たとえば人との接しかたとか、お母さんと一緒にいるところなんか 飼い主とペットみたいでね。 でも、もともとつかさってさ、そういうところがあったし 私も最初は気にしてなかったのよ、あんたがあんなことをするまではね。 ところで、昔、私たち文鳥を飼ってたの知ってる? 覚えてないの? あんたって忘れっぽいわね。 物置に鳥かごがあるじゃない。あれで飼ってたの。 真っ白で可愛くてね。よく懐いてたわ。 こうやって手を出すと、腕に乗ったりしてね。 あ、言うの忘れてた。さっき言った、私の友達の生き返った犬、 柴犬かなんかの雑種の子犬だったかな、見せてもらったんだけど、 普通の犬にしか見えなかった。 友達が言うには、ペットを生き返らせてもね、半分しか戻らないんだって。 『魂』が半分しかないのよ。 魂が半分だと、目つきがどこ見てるのか分からなくなったり、鳴き声が変になったり 歩き方がすごく変だったり、食べる量が異常に減ったりとか、 とにかく半分なの。元通りには戻らないの。 犬でさえそうなんだから、人間が元通りになるかなんて分からない。 『何が』半分入ってるのかだって知らないし。 文鳥の話はどうなったかって? 突然いなくなったのよ。私が学校から帰ると、かごが倒れて扉が開いてて あの子はいなくなってた。 縁側に置いておいたから、たぶん猫かなにかに襲われて扉が開いたんだろう、 お父さんはそう言ってた。 でも本当は違うの。 あの日、私はあきらめきれずにあの子を探しに出かけた。 逃げた鳥を追うなんて、見つかるはずも無いのにね。 でもね、あの文鳥はすぐ見つかったの。裏庭の草の茂みで、つかさがあの子を握り締めてた。 ちょっと正確じゃないわね。あんたが『文鳥だった』物体を持ってたのよ。 赤い何か、ひもだか布みたいなものが垂れ下っていた。 口の周りとブラウスが真っ赤で、周りの草もケチャップかけたみたいだった。 あたりにはぷんと鉄のにおいがした。そばに噛み千切られた鳥の頭が落ちてた。 濁ったガラス玉みたいな、焦点の合ってない目で、私を見てた。 あんたが持っていたのは、首の無い鳥の死体。真っ白だった体が血で赤くまだらになってた。 私はつかさを平手で殴った。手が痛かった。 それでも、あんたは悪びれもせずに『なんで?』って顔をしてた。 叱られた犬みたいだった。 この子には、半分しか魂が無いんだ。きっと心は獣同然なんだ。私はそう思ったわ。 器のせいで、今は人間みたいだけど、きっとそのうち本性を現すに違いない。 だから、私はその前になんとかすることにした。 ねえつかさ? 私の話、聞いてる? さっきから苦しそうだけど? 息ができないほど怖がらなくてもいいんじゃない? 私のクラスメイトの子の犬は、どう見ても普通の犬だった。 『半分なのに、どうして普通なの』って聞いたら、『もう一回埋めたから』って言ってた。 1/2+1/2。その時、まだ分数はやってなかったけど。 その子の犬はまだ子犬だったからね。生き埋めにするのも、それほど難しくなかったみたい。 中型犬とかでも、大人の男だって無理なんじゃないかしら、生きて埋めるなんて。 同じくらいの体格の妹なら、もっと難しいに違いない。 だから私は武器を持ってったの、あんたを例の墓地まで連れ出す時に。 一振りの鉈。古いけどつくりはしっかりしてるし、 重心が扱いやすいようになってて、子供でも振り回せるのよ。 ついでに冷蔵庫から豚肉のパックを持ってった。 真夏の昼さがり、やっぱり暑い日、墓場についたら、 せがむつかさに生肉を放り投げてやった。 がつがつとむさぼり食う姿は、私の妹ではなく、ただの一匹の獣に見えた。 それを見たから、罪悪感は沸かなかった。 峰で殴って気絶させるだけのつもりだったのよ。 肉にむしゃぶりつくつかさの後ろに回って、私は鉈を振り上げた。 つかさはすばやく振り向いた。太陽に背を向けてたのが失敗だったわ。 殺気立った影で気付かれた。つかさは私に飛び掛ってきた。 それからしばらくは取っ組み合いが続いた。服は土で汚れるし、 身体のあちこちを打って、上下左右もわからないくらい、 お互いに掴みかかりながら転がり続けた。 つかさは細い身体に、どこにこんな力があるんだってくらい、 私の首を締め上げてきた。 本当に殺されると思って私も必死だった。 殺し合いは突然、耳をつんざくようなつかさの悲鳴で、終わりを告げた。 気がつくと、私はつかさの頭をなにかに叩きつけたらしかった。 私の服に血がべったりとついてる。つかさの吐いた血だった。 つかさの動きは、生きている人間のそれと違う。 手を離しても、つかさは起き上がってこなかった。 切り株の、切られた鋭い枝が首を突き破って、つかさののどから生えていた。 不規則な痙攣、目を見開いて、血を吐いて、やがて動かなくなった…… 私はつかさを引きずって、元の穴に埋める作業を始めた。 心臓は動いてるから、どうやらまだ死んではいないようだったわ。 刺さった枝は抜かなかった。また出血するかもしれなかったし…… あんたの頭の傷は、その時の傷ってわけ」 「どう?」 かがみはつかさに問いかけたが、反応が無い。 涙とヨダレを流して目を空ろにしている。 「あんたって結構、抜けてるでしょ? きっとアタマが3/4しかないのよ だって私が『半殺し』にしたから! あははっ! なんちゃってねっ!」 反応無し。 「あの……つかさ……?」 「……んおねぇええちゃあああんんんんんあqwせdrf!!!!!1 やだああああ!!!わだじいぬやだああああ!!!!」 「ちょwwおまwwwフィクションですから! この物語は」 恐怖で幼児化していたつかさは泣き止まなかったし、納得もしてくれなかった。 例の傷は、小さいころに境内の石段でぶつけたと言っても信じてくれなかった。 (私は覚えていたが、つかさはサッパリ忘れていたようだ。 怪我の時も、頭から血を流しているつかさ本人はヘーゼンとしていて、 私のほうが怖くて泣いていたという始末だった) 両親にも説得してもらって、ようやく落ち着いた。 「しかし、作り話であれだけ怖がるとは…… 私もなかなか物語を作る才能があるんじゃないかな? (某映画と小説のパクリだけど) それにこれじゃあ、ラノベというか、角川ホラー文庫だ。 私はもっとファンタジーなのが書きたいんだが…… でも、ちょっと怖がらせてやろうと思っただけなのに、失敗だったな……。 作り話って言ったけど、「つかさのことが羨ましかった」のは本当だよ。 ずっと大切にしてもらって、幸せだね。 羨ましかったから、ちょっと悪戯したかったんだ」 「こわがらせて、ごめんね。おやすみなさい、つかさ」
https://w.atwiki.jp/moemoequn/pages/448.html
とにかく私はムギに鍵を渡して開けてもらい、屋上に机を運び出した。 デジタル数字の「505」のように机を並べ、丸みをもたせてSOSにした。 作業を終えて、私は水にぷかぷか浮いて休んだ。 唯「りっちゃん、1階どうだった?」 律「ん……けっこう苦しかったから、余裕持ったほうがいいぞ」 律「まだ頭痛いし……」 梓「それにしても、よく無事でしたね」 律「……そうだな」 天井を眺めながら私は頷いて、沈んだ。 膝立ちになってカチューシャを外すと、水を顔にぶつける。 唯「じゃあ私たち、ちょっとだけ行ってみるね」 律「あぁ、すぐ戻ってこいよ」 唯「うん、3分たって戻らなかったら助けに来てね」 律「なにを勝手なこと言ってんだか……」 膨らんだ袋を片手に潜っていく唯と梓を見送ると、私は立ち上がった。 3階に続く階段の方にざぶざぶ向かい、ムギを探す。 階段を上がっても見つからず、また降りてきたら出会うことができた。 律「ムギ」 紬「あ、りっちゃん。どうかした?」 律「いや、ただ姿が見えなかったからさ」 紬「そう? ……澪ちゃんたちは?」 律「澪のやつはもう着替えて、屋上で助けを待つってさ」 律「唯と梓は、1階に遊びに行ったよ」 紬「……大丈夫なの?」 律「3分経って戻らなきゃ助けに来いって言ってたから」 律「あと60数えたら、行こうかと思う」 私はそばの壁を、1秒ずつタップし始めた。 紬「ねぇ、りっちゃん……訊いてもいいかな」 律「なんだ?」 紬「水浸しになってからしばらくしたときも思ったんだけど」 紬「さっきまた屋上から確認して、やっぱり変だったの」 ムギも気づいていたのだろうか。 そう思ったとたん、ムギの表情に不安が浮き彫りになった。 紬「……これだけの大災害があっという間に起こったこともだけれど」 紬「いまだに、1つさえも死体が流れてきてないのは、どうして?」 紬「こんなに時間が経ったのに、取材のヘリさえ飛んでこないのはどうして?」 律「……それ、私が知ってると思う?」 紬「思わないけど、りっちゃんなら一緒に考えてくれると思うから」 紬「……部長だし」 部長。そうきたか。 律「……唯たちの様子見てから考えるよ」 タップが60回になった。 私は袋を広げ、ざぶざぶと階段に急ぐ。 梓「あ、ほんとに来た」 そこにはすでに唯と梓が、満足した様子で上がってきていた。 つねるぞ、このやろう。 唯「りっちゃん、下すごかったよ! もう1回行ってきていい?」 律「……いや、やめとけ。もうじき暗くなる」 私は唯と梓を連れ、部室に戻ることにした。 ムギも一緒に、さっきの話を続けようと思った。 髪と体を拭き、澪も戻ってきて、ムギが紅茶を淹れる。 着なおしたブラウスは、乾いた汗のにおいが残っていた。 律「それでムギ、さっきの話なんだけどさ」 紬「みんなの前でする?」 ムギは太い眉を下げて、みんなを見回す。 律「……みんなも、うすうす気付いてることだとは思うし」 澪「それって、この状況のことか」 律「あぁ。それぞれ着眼点は違うかもしれないけど、どっかおかしいって思ってるだろ」 澪「……」 唯「あ、あのねりっちゃん。ちょっといいかな」 唯が珍しくおずおずとした様子で発言した。 唯「私たち、さっき机を運んだけど……」 唯「そのとき、どの机の中にも、ひとつも荷物がなかったんだ」 なんとなく予想していたことでもある。 廊下に出ていた机も、そうだった気がする。 唯「それに、あのぐらいの時間に学校にいたのが私たちだけってのもおかしいよ」 唯「音楽室って高い所なのに、だれも、避難してこなかったしさ……」 やっぱりみんな気付いていたんだな。 梓や澪の表情をちらりと窺って、そう思う。 律「まだ断定はできないけど……もしかしたら」 私は落ち着いて息を吸う。 律「ここは……っつーか、この世界には、私たちしかいない可能性がある」 梓「……助けなんて来ないっていうことですか」 律「どうかな……」 梓の考えている線が有力だと思っているけれど、それは口には出さない。 澪「助けを待つより、このパラレルワールドから脱出する手段を見つけないといけないのか?」 紬「でも、そんなことどうやって……」 律「落ち着け……まずここがパラレルワールドっていう保証もないんだ」 澪「だけど、悠長にしてられるか? ……おなかも減ったし」 唯「水の中けっこう見たけど、魚は見当たらなかったよ」 唯「ここには食べ物なんてないのかもしれないね」 律「うん……どうしたもんかな」 私はうつむいて呟いた。 どうしろってのさ。 紬「……ねえ。諦めちゃわない?」 少しの沈黙のあとムギが言った言葉にも、さして驚かなかった。 紬「わたしも、水の中の学校探検してみたいな」 みんなで学校と、桜ケ丘とともに沈もう。 どうせ助かることなんてないのだから、私はみんなと死にたい。 ムギはそういう意味のことを言った。 梓「……私は、先輩たちと一緒なら」 梓が言った。 律「……おまえ、軽音部入って3ヶ月だろうに」 梓「一人で死ぬよりは……と思いまして」 そんなところだろうと思った。 私だって一人残されては、生きる気力もあったものじゃないだろうけれど。 澪「私もいいよ、ムギ」 澪はそう答えると思っていた。 こいつはもともと、生きる意志なんてたいしてない奴なんだ。 唯「……りっちゃんも?」 律「まあ、そうかな」 訊かれて頷く。 どうせ無理だろう、と諦観していたのはほとんど最初からだった。 というかこいつらだって諦めていたからこそ、 私たちが1階に行くのを強く止めなかったし、 階段の前で待ち構えたりしていなかったんだと思う。 ここは異常な場所で、自分たちが生きれるところではない。 そういうことを深層意識に教えられてからこの世界に連れてこられたんじゃないかと思う。 唯「そっか……じゃ、みんなで行こうか」 私たちは、手をつないだ。 死ぬことを決めるのは、非現実的なまでにスムーズだった。 袋を持たずに、準備室を出て階段を下りる。 律「……あ」 私たちを待っていたかのように、水位が上がって、踊り場にも水が届いていた。 2階ももう、天井までひたひただ。 律「……なぁ澪」 澪「……うん」 私たちは最後にそう会話した。 ざぶり、ざぶりと沈んでいく。 冷えた水に髪がほどかれ、溶かされていく感覚。 廊下まで下りると、私は膝をついた。 律「……」 目を閉じて、呼吸の我慢がきかなくなるのをじっと待つ。 ずぐん、ずぐんと苦しそうに突き上げる心臓の音が響く。 左手から唯が流れていった。 そろそろ、私も澪の手を握っているのが辛くなってきた。 なぁ、澪。 どうして私たちは、水の中で生きれないんだろうな。 こんなに水の中は気持ちいい。 澪と手をつないで、苦しいぶんだけ生きているって感覚を強く思う。 けれど、ヒトは、水の中では生き続けられない。 澪「律」 澪が私の手を強く握った。 律「……え」 澪「こんなところで本当にあきらめるつもりか?」 いまさら何言ってるんだよコイツ。 律「……」 私は水の中で、しゃべれない。 澪がほほえんで私を見ている。 澪「……しょうがないな」 澪「猶予、だ」 澪は私をぐっと抱き寄せると、わたしの口に、その口元をあてた。 律「う……」 呼吸ができる。 澪が、空気をくれている。 そうだよ、この感覚だ。 なんでもできるような、この感覚。 律「……みおっ」 私は水の中で盛大に泡を吐いた。 澪「バカ、無駄遣いするな!」 そうだよ、私たちは、こうだったんだ。 律「あびがぼうっ!」 私は泳ぎだす。 これは夢だったんだ。 最初に疑ったとおりだったんだ。 だから澪をつねったんだけど、それじゃ目が覚めるはずがない。 この水浸しの街は、私たちにとっては現実にすぎない。 私と澪はいつも溺れていたんだ。 部室にいるとき以外は、いつも水底にいたんだ。 それが私と澪の現実なんだ。 この夢を見ているのは、さっき逃げて行った、あのバカ。 あいつの頬をつねらなきゃ、この夢は覚めない。 腕をかき回し、足をばたつかせ、私はとうとうその腕を掴んだ。 律「唯、起きろおおおぉぉ!!!」 ―――― 律「ろぁっ」 澪「うわっ、なんだよ」 反射的に体が起きて、あわてて周りを見渡した。 いつもの澪の部屋、電気を消したverだ。 律「い、今何時だ?」 澪「何時だろうと遅刻じゃないから安心しろ」 律「……あー」 澪「どうした律? 怖い夢でもみたのか?」 澪がそっと耳にくちびるを寄せて、頭を撫でてきた。 律「……変な夢だったな」 澪「変な夢か」 澪「どんな夢だったんだ?」 律「澪がナマコになる夢」 澪「怖いだろ、それ!」 律「冗談だよ。……なんか、いつも通りの夢だった」 澪「いつも通りって」 律「いつも通り、平和な日常……かな。練習があってティータイムがあって、澪とエッチして……」 澪「だったら良いんだけど……」 澪が私に寄り添う。 背中をさらさらと黒髪が流れる。 律「うん。良かった」 律「澪のこと、好きでよかったー!」 倒れこむように、澪に抱きついた。 そのままベッドに折り重なって、くちびるを重ねる。 澪「……やっぱ律、今日ヘンだぞ」 律「いいじゃぁん……」 澪「甘えんぼだし」 律「うるさいっ」 澪「やめろよ痛いから!」 律「あだっ! ……やっぱキクなぁ、んふふ」 澪「な、何笑ってるんだよ気持ち悪い……」 律「幸せだなーって」 澪「……はいはい、ありがとな」 律「澪の澪は私の澪でもあるんだからな」 澪「うんうん、お前それ好きだな」 律「……ん」 律「……みおー」 澪「なんだよ……寝れないだろ」 律「好きだぞ」 澪「知ってる」 律「澪は?」 澪「このまま寝させてくれたら好きになってあげる」 律「なんじゃそりゃ……」 律「……じゃ、もうおやすみ……」 澪「ああ、おやすみ」 澪「……」 澪「……好きだぞ、律」 澪「……」 律「う、うわあああっ!!」 澪「なっ、なんだよ!?」 律「澪がナマコになったあ!」 澪「……」 澪「黙って寝てろっ!」 律「ぐえーへぇっ」 ああ痛い。 貝は貝だけど、澪の前ではヤワな身がむきだしで、余計に痛い。 私はナマコになりたい。 なりたいぞ、澪。 おしまい 戻る
https://w.atwiki.jp/25438/pages/3558.html
12月1日、澪ちゃん家 紬「私、澪ちゃんとセックスしたい」 澪「な!?なななななななななあなn/////」 紬「//////」 紬「ごめんね突然、でもしたいの、澪ちゃんと、セックス…」 澪「セセセセセセックス、ってムギ、でも私たち女の子同士で、どうやったらいいのか知ってるのか?/////」 紬「わからない、ごめんね、突然こんなこと言って」 紬「でも、澪ちゃんの身体に触りたいって、いたずらじゃなくて胸に触ったり澪ちゃんの肌の暖かさを感じたいって思ったの」 澪「ムギ…」 紬「ごめんね、ごめんね、私いやらしかったよね、まだ私たちには早かったよね…」 澪(ああ、ムギ、そんな悲しそうな顔をしないで!) 澪「嫌じゃない!し、しようじゃないかセックス!」 紬「…本当?」ウルルン 澪「(か、カワイイ!)もちろんだ、私も、ムギの身体に触りたい、一緒に気持ちよくなりたい…!」 紬「嬉しい…♪澪ちゃん」 澪「でも、ちょっと待ってくれ、どうしたらいいのかわからないのは本当だし勉強しなきゃだし」 紬「うん」 澪「その…いつどこでするのかも決めないといけないだろ?」 紬「私、ここで、澪ちゃんのお家がいいな」 澪「うえ!?////わ、わかった、何とかマ、お母さんたちがいないときにしようじゃないか」 紬「うふふ、ありがとう澪ちゃん、楽しみにしてるね♪じゃあ今日はもう帰るね」 澪「ああ、駅まで送っていくよ、ムギ」 駅 紬「じゃあ、澪ちゃんまた明日学校でね」 澪「ああ、また明日」 紬「澪ちゃん…」 チュッ 澪「あう…////」 紬「えへへ♪」 澪「ほ、ほら、電車に遅れるぞ!///」 紬「えへへ、そうだね♪じゃあまたね!」 澪「全く…」 帰り道 澪「えへへ、ムギにキスされちゃった、可愛かったなあムギ…」 澪ちゃん家 澪「ただいまー」 トントントン、ガチャ、ばたん、ぼすん 澪「ふう……………………………………」 澪「ぐわああああああムギとセックスなんてどうすればいいんだああああああ!!!!//////////」 ピロリロリン♪ 澪「ビクッ」 澪「ムギからメールだ!」 澪「何々」 紬『澪ちゃんへ、Hするのがんばろうね♪それと、これはプレゼントよ!』 澪「ん?画像が添付されて……!?」 澪「ムギ…の黒い、下着/////」プシュー 澪「ムギって結構大胆…私、うまくできるかなあ…」 澪(私、お、オチンチンついてないし…////) 澪(女の子同士で、どうやってするんだろう…) 澪(やっぱり男役を決めないといけないのかな、だったら私がやりたいな、私の方がムギより背高いし、ロミオ役やったし) 澪(でも私へたれだし…) 澪(お姫様だっこしてベッドまでムギを運んだり、とかしないとダメかな、でも私、腕力に自信ない…) 澪(そういう意味ではムギは男役向いてるかも、この間も…) 律『ムギって力持ちだよな』 紬『そうかしら?』 唯『ねえムギちゃん、リンゴとか握りつぶせる?』 紬『うーん、わかんないけど…』 律『なあ、この500円玉指で曲げられるか?』 唯『やってみてムギちゃん!出来たら漫画のキャラみたいでカッコいいよ!』 紬『漫画キャラ…』キラキラ 紬『私やってみる!』 紬『せーの…!』 めぎゃめぎゃ、べきっ…! 律『あの、紬さん…?500玉が…』 唯『真っ二つに…』 紬『ごめんなさい、りっちゃん!つい本気だしちゃった…』 律『はは、はははははは…』 澪(あのときのムギ、カッコよかったな…うふ、うふふふ…♪)パタパタ 澪「こうしちゃいられない!女の子同士でどうやってHするのか調べないと…」 澪「え〜と、女の子同士で セックス 方法 っと」カタカタ、ッターン! 澪「わあ、綺麗な女の子達だな////この子達、みんな彼女とHしてるんだ…」 澪「何々、いきなりディープキスすると、彼女はひいてしまいます、へえ、そうなのか」 澪「爪は短く切ってやすりをかけましょう、女性の膣粘膜はとってもデリケート、唇に指を押し当てて指の肉の感触しかしないくらいが理想です」 澪「まるでベースを扱うのと似てるな、大事なものを扱うのに思いやりがいるのはどんなことでも同じなんだな…」 澪「……ええと、爪切り爪切り…」 澪「指の感触しかしないようにって、いつもより短く切らないとダメか……ひいいいいいいい」ガタガタ 澪「でも、でも」 紬『澪ちゃんとっても気持ちよかったよ…(はあと』 澪(って、ムギに喜んでもらうため、勇気を出さないと…ううううう)ぱちんぱちん 次の日 律「澪おっはーって、どうしたんだよ何で涙目なんだよ…」 澪「…(泣)」 澪(切りすぎちゃった…ひーん、痛い(泣)) 紬「澪ちゃんりっちゃんおはよう…ってどうしたの澪ちゃん!?」 澪「ちょっと、爪切り失敗しちゃった…」 律「爪切りねえ、いつもの澪らしくないな」 紬「いつもの澪ちゃんらしくない、あっ////」 律「ん?なんか心当りあるのかムギ?」 律「そういや昨日お前ら二人で遊んだんだよな、何して…あっ」 律「んフフ、そうか二人は大人の階段を登ってしまわれたんですわね!それで爪を短く…」 澪「怪しい妄想するな!」ポカッ(半分当たってるけど!) 紬「……」 教室 紬「澪ちゃんごめんね…」 澪「突然どうしたんだ?」 紬「澪ちゃん、その…////私とHするために爪を短く切ったんでしょ?」 澪「なっ////どうしてわかったんだ!?」 紬「私も調べてみたの、どうやってするのか…そして私も…」すっ 澪「ムギ、こんなに短く切って、痛くなかったのか?」 紬「痛かった…」 澪「こんなに赤くして、無理しちゃダメだじゃないか」お手てぎゅっ 紬「それは澪ちゃんも同じでしょう?痛いのが苦手な澪ちゃんにこんな無理させちゃって、本当にごめんね…」 澪「ムギ…」 ちゅっ 紬「み、澪ちゃん…////」 澪「ごめん、もう無理しないから、そんなに悲しそうな顔をするな、私はムギにずっと笑ってて欲しいんだ」 紬「澪ちゃん…」にっこり 澪「ムギ、もっとキスしていい?」 紬「うん…」 さわ子「ちょっと—そこのバカップル—?」 澪紬「「!!」」 さわ子「そろそろHR始めたいんだけどー、いいかしら?」ニヤニヤ 唯「や—ね、最近の若い子は」ニヤニヤ 律「性の乱れ著しいざますね」ニヤニヤ モブ子s「ヒューヒュー♪」 澪紬「「は、恥ずかしい…////」」 澪ちゃんち 澪「ううん、ムギによけいな心配をさせてしまった…私としたことが」 でも、ムギの女の子を傷つけたくないし、どうしたものか… カタカタ…うん?これは…? 澪「ラテックス手袋?」 そうだ、これだ! 翌朝の部室 澪「なあムギ」 紬「どうしたの澪ちゃん?」 澪「あのさ、これちょっと見て欲しいんだ」カチカチ 紬「?」 澪「これ、今度Hするときにこういうの使いたいんだけど、どうかな?」 紬「ラテックス手袋?」 澪「うん、医療用の使い捨てのゴム手袋で、これつけながらだと、ムギの女の子のなかを傷つけなくてすむかなって思ったんだけど…こういうのつけるの、イヤかな?」 紬「そんなことないわ、だって澪ちゃんがこれがほしいのは私を思ってくれてのことなんでしょ?」 澪「うん」 紬「こういうのつけるのって、男の子と女の子のセックスの時にコンドームをつけるのと同じだと思うの、相手を思いやる気持ちの現れだと思うわ」 紬「だから、嫌だなんてとんでもないわ、すごく嬉しいの、ありがとう澪ちゃん、私澪ちゃんの彼女で良かった♪」 澪「ム、むぎゅううううううう!」ぎゅうう 紬「きゃっもう澪ちゃんの甘えんぼさん♪」なでなで 澪「ムギ、ムギ、大好きだ!」ぎゅううううう 紬「私も澪ちゃんのことだ—い好き♪」チュッ 澪「あっこの、仕返しだ!」チュッ 紬「やーん♪」 梓「ムギ先輩と、澪先輩が…キキキキキ、キスして…」だばだばー 唯「大変大変、あずにゃんのお鼻から滝のような鼻血が!」 律「ムギ、大好きだ(キリッ」 唯「やーん困りますわ—!」 澪紬「「またやってしまった/////」」 それからしばらくして、パパがクリスマスに忘年会に出掛ける予定が入ったり、ママが同窓会をするとかでクリスマスには家にいないらしいことを聞いた よし!クリスマスに二人きりになれる!軽音部のみんなは私とムギがクリスマスに二人きりになりたいと言っても止めることはないだろうし 紬『そうなんだ、じゃあクリスマスは二人になれるんだね♪』 澪「ああ、たのしみにしてて」 紬『うん♪』 ああ、ムギが電話口でよろこんでるのが見える…目を閉じるだけでムギがどんな顔してるのかわかってしまう…可愛いムギ、うふふ、うふふふふふ♪ 紬『それじゃあ、プレゼント交換もしよ!私とっておきのプレゼント用意していくから』 澪「うん、私あんまりお金ないけど、ムギにプレゼントするもの用意しとくよ」 紬『もう、いいのよ、澪ちゃんの気持ちがこもってれば、どんなプレゼントでも嬉しいわ♪』 ムギが女神過ぎて私がヤバイ 澪「わ、わかった、じゃあ今日はもう遅いから、切るぞ?」 紬『ま、待って澪ちゃん!』 澪「?どうしたんだ?」 紬『あ、あのね、……ちゅっ』 澪「…?なんの音だ?」 紬『み、澪ちゃんにキスした音…////ねえ澪ちゃんもキスして?』 む、むぎゅううううううう! 澪「も、もちろんするぞ!い、いくぞ!……ちゅっ」 紬『ちゅっちゅっ』 澪「ちゅっちゅっ」 紬『ん…んん…ちゅっ』 澪「ちゅううう、ちゅっ」 紬『えへへ、ありがとう♪あとはクリスマスまでのお楽しみにしておくね』 澪「…そうだな」 耳が幸せすぎて気絶しそう 紬『じゃあ、おやすみ澪ちゃん』 澪「おやすみ、ムギ暖かくして寝るんだぞ?」 紬『うん、澪ちゃんもね』ぷつん よーーーし!クリスマスに向けて手作りプレゼントを作るか! やっぱり、手編みのマフラーとかがいいよな、私とムギが二人で巻けるように そしてデートにいくときに私がかっこよく巻いてあげるんだ 紬『澪ちゃんからもらったマフラーあったか—い♪澪ちゃんの愛が伝わってくるわ♪』 これだ!これしかない!絶対これ!よーし!待ってろよムギ! シュババババババババ! 2
https://w.atwiki.jp/83452/pages/9625.html
さて、お風呂場に来て私がすべきことはただ一つだ。 私は浴槽のお湯を手ですくい、それを迷うことなく飲み干した。 何と、澄んだ味であろうか。これなら何リットルでも飲めてしまいそうだ。 だが今ここでこれを飲みすぎてしまう訳にもいかない。 私は予め用意していたペットボトルに聖水を汲み入れた。 当然、あとでこれを使ってお茶を入れたりするためにだ。 私はお風呂から上がると上機嫌になっていた。それも当然であろう。 聖骸布に聖水、更にお風呂上りに律が使ったタオルの傍に落ちていた縮れ毛といった数々の聖遺物を入手できたのだから。 え?その毛はどうしたかって?勿論気が済むまで舐めて目一杯堪能しました。 律の部屋に行った時など様々な時にもう入手済みだったから、既に相当数があるし。 澪「律ー、私もお風呂上がったよ」 律「おーう、・・・澪が元気出たみたいで良かったよ」 澪「・・・え?」 律「お前、洗濯する前に泣いてたろ?微かにだけど、泣き声が聞こえた」 澪「あ・・・、それは・・・」 律は立ち上がると、私の目の前まで歩いてきた。 律「なぁ澪」 澪「な、何?」 律「澪が話したくないなら聞かないけどさ、本当に困ったら私に話せよ?」ギュッ 律が私をそっと抱きしめた。 律「中学入って、こうやって泊まったりとかは減ったけど。それでも澪は、私の大事な澪だからな」 澪「律・・・」ギュッ 私も、律を抱きしめ返した。 私の目からはまたもや涙が流れていた。 私はあんなことをしていたのに、 こんなにも優しくしてくれる律の匂いどうしようすっごい良い匂いだし律の体マシュマロみたいにふわふわだしまたもや二人だけのドリームタイム入りました律可愛い律可愛い律可愛い律ハァハァハァハァハァハァハァハァこのまま押し倒して滅茶苦茶にしたい。 律「全く、澪は泣き虫だなー」 危ないところだった。 律の声で、私は現実に引き戻された。 澪「そんなこと、無いもん・・・」ギュウ より強く抱きついて、律の胸の感触を体全体で味わいつつさり気なく律のお尻に手を当てる。 律「澪は甘えんぼだなー・・・」 澪「律にだけだよ、こんなの・・・」サワサワ 本心から、私は言った。 律、大好きだよ。 本当に、心から愛してる。 女の子同士でこんな気持ち、許されないんだろうけどね。 それでも、それでも私は律を心から、誰よりも愛してるんだ。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――― 澪「・・・っていうのが、私が『ふわふわ時間』と『ときめきシュガー』の歌詞が思い浮かんだきっかけかな」 紬「まぁまぁまぁまぁまぁまぁまぁまぁ」ボタボタボタボタ 梓「何て甘々な・・・、だから澪先輩の歌詞はあんなに甘々なんですね」ザー 唯「澪ちゃんは、昔からずっとりっちゃんのことが大好きなんだね!」 澪「うん・・・小さい頃から、ずっと律に助けられてるしな」 紬「りっちゃん、優しいもんね」ボタボタボタ 澪「あぁ、私はさ―律が居ないと駄目なんだ」 梓「・・・いいですね、そこまで想える相手が居るなんて」ザー 澪「はは・・・、まぁ律が私のことどう思ってるかなんてわからないけどな」 そんなこと、聞ける筈も無い。 唯「大丈夫だよ、澪ちゃん!」 澪「唯・・・?」 唯「りっちゃんだって、澪ちゃんが大切だからずっと一緒に居たに決まってるよ!」 澪「・・・そう、かな」 唯「そうに決まってるよ!澪ちゃんのことが大切じゃなきゃ、そんなに優しくなんてできないよ!」 紬「うん、私も・・・そう思うわ。初めて見た時から何てお似合いの二人なんだろうって思ってたもの」ボタボタ 澪「ムギ・・・」 梓「そうですよ、自信持って下さい!律先輩と澪先輩程見てて砂吐きたくなる人達は居ませんよ!」ザー 澪「梓・・・」 それは、お似合いだってことでいいのか? 唯「ほら!皆そう思ってるんだよ!だから自信持っ・・・てええええぇぇぇぇぇぇっ!?」 澪紬梓「!?」ボタボタ ザー 澪「な、何だ唯!?どうした!?」 唯「あわわわわわわわ・・・!」 私の後ろの方を見て青ざめて・・・ 律「うーっす」 澪「・・・え?」 り、つ・・・? 律「皆さん、何やら私抜きで楽しそうなお話をしてましたこと♪」 え?律に、聞かれてた・・・? う、そ・・・。 私は血の気が引いていくのを感じていた。 顔も青ざめていたのだろう、ムギと梓の私を見る表情がとても心配そうだった。 梓「あ、あはは・・・別に、律先輩を仲間外れにしようとかじゃ、ないですよ・・・?」ザ… 紬「そ、それより、りっちゃん?いつから、聞いてたの・・・?」ボタ… ムギが、核心に触れる。私はというと、全身の震えを止められずにいた。 律「んー?知りたいか、澪?」 律が、私の名前を呼ぶ。 いつもだったら何気なくも嬉しい出来事の一つだが、 今の私にはそれが怖くて仕方なかった。 律「澪が、中学の頃に私を泊めたって言ったあたりから」 ―終わった。私が、律の優しさを裏切っていたのがばれた。 最低だ、と。そんなことわかっていながらも重ねてきた愚行が。 自分の余りの情けなさに、重ねてきた罪の重さに、自然と涙が流れてきた。 澪「ご、ごめんなさい・・・。ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」 私は涙を流しながら、半狂乱気味で謝罪の言葉を叫び続けた。 澪「わた、私・・・!もうこんなことしないから!絶対、しないから!だから、だから・・・!」 私のことを、嫌わないでくれ・・・! 私、律に嫌われたら生きていけない・・・! その言葉が、出かかった瞬間。 律は満面の笑顔で、私の頭を撫で始めた。 律「まーた澪はすぐ泣くー、ほんっとに泣き虫だよな」 あまりの意外な展開に、呆気にとられる。 それは私以外の皆も同じようで、唯やムギ、梓も呆然としていた。 澪「お、怒って・・・ないの?」 律「うん、全然」 思わず私の口から出た疑問に、律はさも当然のように答えた。 律「だって澪さ、私のパンツ同じやつも何枚も持ってたりとかで自分の下着より多いだろ?」 私は無言で頷く。 律「そんなのバレない訳無いじゃん、箪笥の一段を丸々占めてる訳だしな」 律「で、私が怒らない理由な。今言ったので半分言っちゃったようなもんだけど」 ほれ、と律は自分のスカートを捲り上げる。 澪「ななな、何やってるんだよ・・・!人が居るところでこんな・・・!」 と言いながらも、私は反射的に息がかかるんじゃないかという距離まで顔を近づけて見入ってしまっていた。 澪「あ、れ・・・?これ、って・・・」 見覚えのある、縞々のパンツ。 律「そう、澪のパンツだ」 私は驚いて、律の顔を見上げる。 律「他にもあるぞー。お前、私が入ったお風呂のお湯飲んだり使用済みナプキン持って帰って舐めてたよな」 律「そして何より、私が提出しようとした尿検査の尿を自分のと摩り替えて飲んだよな」 澪「あ、あぁ・・・私が今まで口にしたものの中で1、2を争う飲み物だったよ・・・」 間違いなく覚えてる。 『これが律のカラメルソース!うーん、テイスティ・・・』 とか言いながら飲んだ記憶がある。 律「流石にそれはやめろよな、もし病気でその発見が遅れたらどうしてくれる。・・・で、聞くけどそのもう一つって何だ?」 澪「え?律の家に行った時に律が出してくれた・・・律特製のレモンティーだけ、ど・・・」 ひょっとして・・・・! あの適度な甘さでありながら爽やかな酸味と絶妙な苦味も感じられ、喉越しも抜群な味わい深い液体は・・・! 律「そう、私のおしっこだ」 澪「律・・・!」 またもや涙が流れてきた。今度は嬉し涙だ。 黙って事の顛末を見守っていた、唯、ムギ、梓も思わず笑顔になるのが見えた。 律「お互い様ってことだよ。まぁ私はパンツは舐めたりしないで、身につけて楽しむ派だけどな」 律が笑った。私の大好きな、律の笑顔。 この世で一番愛しい、最高の笑顔―。 澪「ねぇ、律?本当に私なんかで良かったの?」 私の隣を歩く、幼馴染に尋ねる。 律「馬鹿なこと聞くなよ、『澪でも良かった』じゃなくて『澪じゃなきゃ駄目』なんだよ」 澪「うん・・・、ありがとう」 律「ほら、皆来たぞ」 顔を上げると、そこには私の大切な仲間達が集まっていた。 唯「わぁ!澪ちゃん、とっても綺麗だよ!」 澪「あ、ありがとう唯・・・///」 紬「りっちゃんも、とっても似合ってるわ」ボタボタボタ 律「はは、何か照れ臭いけどな」 梓「お二人共、本当にお似合いです」ザー さわ子「私より、私より先に・・・Fuck・・・!」ブツブツ 梓「あと先生、おめでたい席なんですから空気を読んで下さい」ザー あの時私と律は全てを曝け出しあってお互いを知り、そしてより絆を深めることができた。 そのおかげで私達は指輪交換は勿論、 下着交換 ―前日にお互いが身に着けた使用済み下着を交換し合って身に着ける。 身に着けた日数が長かったり身に着けた日によく汗を流していたりするとより良いとされる― もした上で遂にこの日を迎えることとなった。 純「本当におめでとうございます!澪先輩ってかっこいいと思ってましたけど、今日は本当に可愛らしいです!」 澪「そ、そうかな・・・/// 鈴木さん、来てくれてありがとうね」 憂「お二人とも、おめでとうございます!」 律「ありがとう、憂ちゃん。次は憂ちゃん達の番かな?」 憂「ななな、何言ってるんですかもう・・・!///」 和「まぁ、そう遠くないうちにね。それより、主役がいつまでも話し込んでたら駄目じゃないの?」 憂「の、和ちゃん・・・!?///」 律「おう、・・・そっちも頑張れよ」 和「ええ、ありがとう。そして、結婚おめでとう―」 晴れて私達は、結ばれた。 ―fin― 戻る
https://w.atwiki.jp/83452/pages/9703.html
「なななな、何をするですか!?」 「いやー、あずにゃんが可愛かったからついー」 「……は、初めてだったのに! こんなところで酷いです!」 「だってだって、あずにゃんの貴重な甘えんぼシーンだよ!」 「……唯、とりあえず梓に謝っておけ、女の子のファーストキスはそんなに軽くないだろー」 「えー、女の子同士だしノーカンだよー」 ノーカンだよー。 のーかんだよー。 NO-COUNTだよー。 足元がふらついた。 これは、めまい……? 「あずにゃんのファーストキスおすそ分けー」 「……は? ……っておい!」 「んちゅー……ちゅぷー……ペロペロ」 なんだろう……唯先輩と律先輩は何をしているのだろう。 なんか唇から舌も出てるような気もするけどなんでしょうね。 あぁ、キスをしているのかぁ、私のキスのおすそ分けって言ってたもんね……。 「……しかも梓の時より濃いぞっ!」 「ふへへー、りっちゃんの唇げっとー」 「……ゆーいー……」 澪先輩が二人にゆらりゆらりと近づいて行った。 そして拳を振り上げ、思いっきり振り下ろした。 「いだぃ! ってなぜ私!?」 「律も唯を止めなかった責任があるからだ」 「すみません! 理不尽すぎるんですけどっ!」 「唯ちゃん唯ちゃん、私も私も~」 「かもーん、ムギちゃんにも、おすそわけー」 うっとりした目でこのやり取りを続ける紬先輩。 遠い世界の出来事のように感じられた。 唯先輩を見ていると、なんだかバカバカしくなり、怒りが沸々こみ上げてくる。 さっきまであんなに緊張していた自分に。 何で悩んでいたのか、どうでもよくなるくらい目一杯に握り拳を作った。 長くないはずの爪が皮膚に食い込んで痛かった。 「唯先輩の、バカァァァァァァァ!」 ありったけの声量を込めて叫んだ。 叫んで、スクールバッグとギターを持って、部室から逃げるように走り去った。 背後から呼び止める声が飛んできていたが、構わず階段を駆け降りる。 下駄箱に着くまでに、何人かの生徒とぶつかってしまった気もするが、 俯いていたので、あまり覚えていない。 「はぁはぁ……なにやってんだろ私」 空回りもいいところだった。 自分自身でも何がしたかったのか、要領を得ていなかったかもしれない。 そもそも、距離をゼロにした結果があれなんだとしたら、やっぱり私には無理がある。 ハグまでが私の境界線だ。 その先は、まだ早い。 結局はいつもの距離が一番居心地がよかったというわけだ。 「……けど」 けど、今日は失敗してしまった。 はぁ……金曜日だったから土日を挟んじゃうし、月曜日の部活、行きづらい……。 でも悪いのは唯先輩、あんなに無神経だとは思わな……いや、思いたくなかった。 外に出ると、雪が地上に化粧をしていた。 ザクザクと積もった雪を踏み鳴らしながら、私は走った。 ローファーだったのですぐに転んだ。痛い、この痛みも唯先輩のせいだ。 身体が冷たいのも、転んで擦りむいたのも、涙が止まらないのも、全部。 無様な姿の身体を起こし、一歩。また一歩。 そして小走りに、通学路を駆ける。 何度転んでも関係ない。ただ、ギターだけは、汚さないように……。 いつの間にか、普段は唯先輩と別れる場所にまで辿り着いていた。 木枯らしが吹きすさび、私を冷やしていく。 一人で帰る通学路がこんなにも虚しいものだとは思わなかった。 けいおん部に入る前までは、一人でいることの方が普通だった。 友達はいるが、クラスで会ったら挨拶と流れで行動する程度で、深い付き合いではない。 それに、暇があれば友達と遊ぶより、ギターを弄っていたから。 お世辞にも私は、人付き合いが上手いほうではなかったと自覚していた。 言いたいことは素直に発言してしまうし、おべっかを使うのは苦手。 だけど、けいおん部の人たちは、そんな私も受け入れてくれた。 一年生なのに、練習しましょうとか文句を言ったり、 先輩方の演奏に堂々と口を出したりしても、態度が変わることはなかった。 私が私のままの姿でいられて、安らげる空間が初めて学校で持てた瞬間だった。 クラスでは友達もできた。だけど、けいおん部にいる方が楽しいと感じてしまう。 唯先輩たちと一緒に活動しているほうが、充実しているのだ。 もう、一人では、クラスでは、物足りなくなっていた。 「なんなんですか、この感情は……っ!」 全部ホッチキスで綴じれませんよ! 全然っ! 隣にいてくれないと、寂しいじゃないですかっ! けだるそうな顔でも、笑顔でも、泣き顔でも、 視界にいないと、手の届く範囲にいないと、胸が苦しいよ……。 この気持ちを紛らわすために、どこかで寄り道しようとしたが、財布が軽かったので、我慢した。 それからは真っ直ぐ家に帰り、髪に積もった雪を玄関で払うこともなく自室へ直行する。 バッグを放り投げ、ギターを壁際に置く。 制服姿のままベッドに倒れこみ、毛布を被る。 全身にくっついていた雪が水となってベッドを濡らした。 湿ったベッドはあまり心地よくなかった。 意識を失う前に、夕食だと呼びかけてきた親の声が聞こえたような気がした。 数時間後、起き上がった私はありったけの不満を口にするのであった―― 唯先輩なんか嫌いだ、そう思って眠りについた私は、あっけなく朝に目を覚ました。 改めて今の格好を見直すと、とても外に出れる状態じゃない。 「制服が皺くちゃ、それに髪の毛のゴムが片方ない……」 片方だけ、髪が括ってあり、もう片方はバサっと広がっていた。 「最悪の寝覚め……髪の毛、痛んでないよね……」 髪だけでなく、身体がベトついて気持ち悪いのに気づく。 一度、意識してしまうともう耐えられない。 制服を脱ぎ、替えのパンツなど着替えを持って脱衣所へ行く。 全ての服や下着を脱ぎ、浴室へ。 シャワーの栓を開け左腕を差し出す。 指でお湯の温度を確かめてから、鎖骨部へシャワーをかける。 「気持ちいいです……」 全身くまなく身体をボディシャンプーで洗っていき、髪の毛をお湯に丁寧に染み込ませる。 フローラルな香りのシャンプーを使い、コンディショナーでケア。 長い髪を頭の上でまとめて、お風呂に浸かる。 39℃と少しぬるかったが、ボーっとした頭には丁度良かった。 「……ふぅ」 ゆっくり湯船に浸かるだけで、精神にだいぶ余裕が出てくる。 安心したらお腹がキューっと音と立てた。 昨晩、夕食は取らなかったのだ。 身体が空腹を訴えるのにも、頷けた。 食欲が戻ってきたということは元気になってきている証拠。 「朝ごはん、何食べよう……」 そんなことを考えつつ、浴槽から身体を出して、もう一度シャワーで全身をさっと洗い流す。 脱衣所で白のパンツとブラジャーを身につけ、私服に着替える。 朝食もそこそこにとった後、自室へ戻る。 ふと、携帯電話の電池残量が気になった。 スクールバッグから取り出した携帯には着信アリのメッセージ。 ピカピカと青いダイオードが発光していた。 誰からだろう、携帯を手に取り開く。 着信はメールが2件。電話が1件だった。 まずはメールから確認する。 1件目は唯先輩から。時間は、私が帰宅するちょっと前くらいだろうか。 『あずにゃんさっきはゴメンね(><) 明日時間あったら、先輩が何か奢ってあげるよ~! 1時過ぎに、商店街の入り口で待ってるから!』 写メが添付されており、土下座していた。 誰かに取って貰ったのだろう。 次に2件目を開く。純からだった。 『結果はどうだったの?』 酷く単調であったが、この短さが返信する気分にさせた。 『ゴメン、ちょっと携帯見てなかった。 昨日は大失敗、普段しないことに挑戦しても上手くいかないね、やっぱり』 絵文字も顔文字も使うことなく、メールを送った。 唯先輩への返信は、出来そうになかった。 電話の着信履歴を見ると、憂からだった。時間は20 20。 唯先輩と夕食の後の会話なんかで、私のことを聞いたのだろうか。 恐らく、昨日私を焚きつけた本人として、心配しているのだと思う。 憂が責任を感じることは全然ないのに……。 今の時刻は、午前10時30分。 商店街で待つらしい唯先輩の一方的な約束の時間まで、充分に余裕があった。 だけど……。 「どうしよう、行くの止めようかな……」 ここでホイホイついて行くというのは釈然としない。 それに、メールで謝られても嬉しくない。 むしろ、なんで追いかけてきてくれなかったんだろう、なんて考えてしまう。 もしあそこで私を追いかけてきて、抱きしめてくれたのなら、素直に許せたかもしれないのに……。 「あぁ、もうっ! 本当に唯先輩は……」 ギターを手に取り、チューニングをする。 チューニングを終わらせた後は、聞きなれた音楽を流し、ギターパートを模倣していく。 だけど、音にキレがない。 いつもはできるスウィープもテンポが崩れてガタガタだった。 変拍子で構成されていたのも、テンポを崩す要因。 ギターを一度置いて、携帯を見る。 すると、丁度憂から電話が掛かってきた。 『梓ちゃん、おはよう』 「お、おはよう」 『今日、時間取れるかな? お姉ちゃんが、梓ちゃん怒らせちゃったって反省しているの…… 30分でいいからお姉ちゃんに付き合ってあげて』 「憂……うん、わかった、ちゃんと今日行くよ……」 『ありがとう! さすが梓ちゃん、それじゃあ今日は宜しくね!』 「ん? んん……じゃあまたね」 ツーツー。 相も変わらず憂はできた人間だと思う。 憂の電話がなかったら、たぶん唯先輩と会いに行こうとする気はおきなかった。 悩んでいるうちに時間が迫って、悪いのは唯先輩なんだって思って、 一人でギターでも弾いてたかもしれない。 そんなことをしても、結局は何のプラスにもならないと解っていても、だ。 だから、憂のフォローは嬉しかった。 時刻は午後12時、そろそろ準備し始めないと間に合わない。 身だしなみを整え、家着から外に出る用の服に着替える。 髪を括って、いつものツインテールに。 「そういえば、唯先輩と二人っきりなのかな? それとも澪先輩とか律先輩、ムギ先輩も一緒?」 果たして、今の私には、どちらの方が嬉しいのだろうか……? 3
https://w.atwiki.jp/kairakunoza/pages/1982.html
Escape 第1話に戻る ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 2. (ゆたか視点) 5月下旬の夕方、私とこなたお姉ちゃんは同じ時間にバイト先を後にした。 土曜日の今日は、お昼のシフトだったので、外はまだ十分に明るい。 「ゆーちゃん、お仕事お疲れ様」 「こなたお姉ちゃんも、お疲れ様でした」 私は笑顔で頷いて、お姉ちゃんの顔を見上げながら腕によりかかった。 「ゆーちゃんの甘えんぼ」 「だって、温かくて柔らかいから」 苦笑するお姉ちゃんに向けて、少しだけ頬を膨らませてから笑ってみせる。 休日ということもあって、大須のアーケード街にはたくさんの人が繰り出している。 至るところから楽しそうな喧騒が聞こえてきて、行き交う人々の表情も明るい。 大道芸をしている男性の傍を通った時に、こなたお姉ちゃんが口を開いた。 「夕食は外で食べたいな」 「そうだね。おねえちゃん」 家に帰ってから、改めて食事をつくるというのはなかなか大変だ。 「今日は、久しぶりにラーメンな気分だけど」 「いいよ。こなたお姉ちゃん」 「ありがと」 直後にお姉ちゃんのお腹が鳴って、思わず笑ってしまった。 赤門の近くにあるラーメン屋さんで、野菜ラーメンとクリームぜんざいを注文する。 食券を挟んだ、番号が書かれたタグを渡され、3分程待っただけで、 「5番のお客様どうぞ」と声がかかった。 私達は、カウンターで、ラーメンとデザートを載せたトレイを受取った。 ほんのりと甘くてコクのある白いスープを啜っていると、 お姉ちゃんが私をみつめていることに気づく。 「顔に、何かついているの? 」 私は、あたふたしながら、ハンカチを取り出そうとポケットに手をのばした。 しかし、こなたおねえちゃんは、 「ううん。そうじゃないよ」 と言ったきり、ニヤニヤとしたままだ。 「お姉ちゃん、なあに? 」 「やっぱり、ゆーちゃんは可愛いなあって」 「えっと」 真正面から言われると照れてしまう。 どういう返事をすれば良いのか未だに良く分からない。 「ふふ。バイト先でも、ゆーちゃんは凄く良い評判なのだよ」 お姉ちゃんが店長さんから聞いた話によると、私がバイトを始めてから、 来客数と売上高が急激に増えたらしい。 もっとも、私自身は、ミスばかりしている記憶しかないのだけど。 「ゆーちゃんの良いところは、自分自身の魅力に気づいていないところかな」 私の『魅力』って何だろう。 正直言ってあまり思い浮かばない。 身体が弱くて、いつもこなたお姉ちゃんに、心配ばかりかけてしまっている。 その癖、とても強情で、駆け落ちを強引に実行してしまい、こなたお姉ちゃんに 大きな迷惑をかけてしまった。 「ゆーちゃんは欠点すら萌え要素に変えてしまうから」 お姉ちゃんは、限りない愛情を私に注いでくれている。 普通の恋人は…… とはいってもTVを見たり、雑誌を読んだりして耳にした 知識に過ぎないけれど、相手の振る舞いによって好感を抱いたり、 逆に不満をもったりする。 でも、こなたお姉ちゃんは、私の欠点を見つけたとしても萌え要素という、 肯定的な言葉に置き換えてしまう。 お姉ちゃんは、私に対して減点評価をしないのだ。 それでも、時々、心配になってしまう。 「お姉ちゃん。あのね…… 」 クリームを美味しそうに食べていた、お姉ちゃんは顔をあげる。 「何かな? ゆーちゃん」 「私の事で不満があったら言ってね。なおすように努力するから」 しかし、こなたお姉ちゃんは、深いため息をついてしまっていた。 「ゆーちゃん」 お姉ちゃんの顔つきは、急に真剣なものに変わっている。 「な、なに? 」 「そんなに私に気を遣わなくてもいいよ」 「で、でも、わ、わたし」 私は動揺して、しどろもどろになってしまう。 「ゆーちゃんは、ありのままが一番好きだから」 ありのままの私? 心の中で問いかけてみるが、容易に答えの出せる問題ではない。 「ゆーちゃんが、自分で嫌と思うところも、私にとっては大切な部分なんだ。 少し、分かりにくいかもしれないけれど、ゆーちゃんが頑張って自分の欠点を直そうとすると、 ゆーちゃんの長所も消えてしまうことがあるから」 「良いところも? 」 「そう、長所と短所は別々にあるのではなくて、連動しているものだから」 私が無理をして、欠点を直そうとすると、同時に長所も失ってしまう。 私は、お姉ちゃんの助言に頷かない訳にはいかなかった。 「ありがとう。こなたお姉ちゃん」 「素直なところは大好きだよ」 こなたお姉ちゃんは、元の霞みがかった笑顔に戻って片目を瞑ってみせる。 春の日差しのようにぬくもりのある微笑みに、心がときめく。 「こなたお姉ちゃんのこと…… 好き」 私は、こなたお姉ちゃんを真っ直ぐに見据えて言った。 「日の沈まないうちから、真正面から言われると照れるね」 顔を少しだけ赤らめながら、頭をぽりぽりとかきながら苦笑いするお姉ちゃんに、 クスリと笑いかけて―― 私は、凍りついた。 「どしたん? 」 あからさまに顔が強張った私の顔を、お姉ちゃんは心配そうに覗き込んでくる。 動悸を必死に抑えながら、耳元で囁く。 「かがみ先輩が歩いているのを…… 見たよ」 お姉ちゃんの表情もあからさまに変わった。 私達は、外から死角になる位置を見つけて座りなおす。 「ゆーちゃん。確かにかがみだったの? 」 お姉ちゃんは青ざめながら低い声で囁いた。 「一瞬だったから断言はできないけれど、かがみ先輩だと思う」 「そっか…… 」 こなたお姉ちゃんは呟いたきり、深刻な面持ちで考え込む。 沈黙しているお姉ちゃんを見ているうちに、私の不安は急速に膨らんでいく。 どうして、今更、かがみ先輩がここに来るの? まだこなたお姉ちゃんをあきらめていなかったの? 私達をどうするつもりなの? 心の中に湧き上がる不安に耐え切れずに、お姉ちゃんの腕にしがみつく。 歯の奥が酷く震えて、ガチガチと鳴ってしまう。 かがみ先輩は、私のこなたお姉ちゃんを奪い取るつもりだ。 だから、何百キロも離れた街まで追いかけてきたんだ。 私は、かがみ先輩の執念深さに、身震いをするしかなかった。 「こ、怖いよ、お姉ちゃん」 「ゆーちゃん。落ち着いて」 こなたお姉ちゃんは、私の背中を撫でてくれるけど、お姉ちゃんの手のひらも細かく震えている。 「ゆーちゃん。あと二つ程、聞きたいことがあるんだけど」 それでも、情報を得ようとするお姉ちゃんは、冷静さを保っていた。 「何? 」 「ゆーちゃんが見たのは、かがみだけだった? 」 私も心を懸命に落ち着けながら、慎重に考えた末に答える。 「かがみ先輩だけだったけれど、他の人もいるかも」 「そっか…… そう考えるべきだろうね」 こなたお姉ちゃんは、顎に手をあてながら静かに頷いた。 多分、つかさ先輩や、高良先輩、そしてみなみちゃんも一緒に来ているだろう。 彼女達が襲いかかって来たら、逃げ切れる自信なんて…… 全くない。 「どうして…… 私達の場所、分かったのかな? 」 私は、半ば独り言のように呟いた。 「うかつだったよ。あの番組の取材のせいだね…… 」 こなたお姉ちゃんは嘆息してから天を仰いだ。 「ごめん。ゆーちゃん。てっきり地元局限定のメイドカフェ特集だと思い込んでいたよ」 「ううん。私もそう思ったから」 正直、お姉ちゃんも私も、油断があったのだと思う。 もちろん、TV局は私達ではなくてお店の取材に来たわけだし、 従業員がリポーターの取材を断る訳にはいかない。 しかし、取材の日時は数日前から分かっていたし、その時間帯にシフトを外すことも可能だった。 それでも、はるばる埼玉から名古屋まで想い人を追ってくるという行為自体に、 狂気を感じてしまう。 2度目となると最早、恐怖でしかない。 そして、去年の12月は、かがみ先輩の顎から辛うじて逃れることができたけれど、 今回も幸運が訪れるとはとても思えない。 「お姉ちゃん。どうしよう」 ひたすら唇を動かしていないと、心が折れてしまいそうだ。 しかし、お姉ちゃんは私の質問に直接答えることはせずに…… 「もう一つの質問だけど、かがみはどちらの方向に歩いていったかな? 」 と尋ねてくる。 「えっと…… 」 私は、少しだけ考えてから答えた。 「かがみ先輩は…… 大津通りの方から来て、バイト先の方に向かったよ」 「ありがと」 こなたお姉ちゃんは小さく頷いてから立ち上がった。 「ゆーちゃん。店を出よう。ここにいるのは危険だ」 「うん」 私達は立ち上がる。 既に料金は払っているので、そのまま店を出て、大津通りに向かう。 赤門をくぐり右に折れて、万松寺の駐車場の脇を通り抜ける。 つい先程までの楽しい気分は、完全に吹き飛んでしまい、私は、何度も後ろを振り返りながら、 こなたお姉ちゃんに寄り添うようにして歩く。 不安は膨らむばかりだったけれど、自分ががんばらなきゃと思いなおす。 こなたお姉ちゃんに頼ってばかりでは駄目だ。 私が、お姉ちゃんを助けるくらいにならないといけない。 「ゆーちゃん。地下に入るよ」 「うん。私、大丈夫だから」 私は、精一杯力強く頷いてから、こなたお姉ちゃんに微笑んでみせる。 「ありがと、ゆーちゃん」 お姉ちゃんは微かに頬を緩めてから、私の掌を強く握り返した。 私達は、地下鉄上前津駅に向かう階段を降りていった。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― Escape 第3話へ続く コメントフォーム 名前 コメント さあどうなるか……ヤッパリぶつかるか!? -- 名無しさん (2008-05-08 22 27 32) エロープシリーズかなり続きますねぇ。かがみがどうでるか期待 -- 九重龍太§ (2008-04-30 07 44 17) しょっちゅう行ってる場所なので、鮮明に情景が思い浮かんだw -- みみなし (2008-04-27 01 48 08) 地元民としてかなりのめり込みました!GJです!続き楽しみに待ってます! -- 名無しさん (2008-04-26 22 42 41) 相変わらずGJ! 今回はニアミスだったが、バイト先をおさえられてるから激突は必須か… -- 名無しさん (2008-04-26 22 18 51)