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「うーん……絶対捕まえてやるわ……むにゃ……」 「いい加減起きなさい、ヴァリエール」 うるさいわね、今フーケと戦っている最中よ、だいたい何でこいつが 「フーケはどこよ!他のみんなは?」 「フーケなら、あなたの横に簀巻きにされて転がってるわよ。 セッコは隅で寝てる、タバサは馬を引いてるわ」 気づいた時には、全てが終わっていた。 紆余曲折あって結局セッコが仕留めたらしい。 「わたしも、もう少し強くなれないものかしら」 「強いかどうかはあれだが、役には立ってるぜ。 おめーが見張りしてなかったら、全員ゴーレムに踏み潰されてたろうよ」 デルフリンガーが珍しく私を擁護する。 言ってくれるじゃない剣の癖に。ちょっとだけ嬉しいわ。 「そういえばミス・ロングビルはどこへ?」 「あなたの横に簀巻きにされて転がってるわよ」 「何言ってるのよツェルプストー」 ついに脳まで熱にやられたかしら。 けれど隣をよく見たら納得できた。 「ああ、そういうことだったのね」 学院長室で、オスマン氏は戻った四人を呼び報告を聞いていた。 セッコはよほど疲れていたのか全く目覚める気配がなく、仕方なくルイズの部屋に置いてきたので実質三人ではあったが。 「ふむ……ミス・ロングビルが土くれのフーケじゃったとはな…… 美人だったもので、何の疑いもせず秘書に採用してしまった」 「いったい、どこで採用されたんですか?」 側に控えていたコルベールが尋ねた。 「町の居酒屋じゃ。私は客で、彼女は給仕をしておったのだが、ついついこの手がお尻を撫でてしまってな」 「で?」 「おほん。それでも怒らないので、秘書にならないかと、言ってしまった」 「なんで?」 ほんとに理解できないといった口調でコルベールが尋ねた。 オスマン氏が突然真面目な顔になる。 「おまけに、魔法も使えるというもんでな」 「それって、決定的に怪しいですよね、オールド・オスマン」 「怪しい」 「怪しいわね」 「怪しいってレベルじゃあないわ」 全員の視線が、汚い物を見るような目つきに変わりつつあるのを悟り、オスマン氏は照れたように咳払いし、話題を変えた。 「さてと、君たちはよくぞフーケを捕まえ、[破壊の杖]を取り返してきた」 誇らしげに三人が礼をする。 「フーケは、城の衛士に引き渡した。そして[破壊の杖]は、無事に宝物庫に収まった。一件落着じゃ」 オスマン氏は、一人ずつ頭を撫でた。 「君たちの、シュヴァリエの爵位申請を、宮廷に出しておいた。 追って沙汰があるじゃろう。と言っても、ミス・タバサはすでにシュヴァリエの爵位を持っているから、精霊勲章の授与を申請しておいた」 三人の顔が、ぱあっと輝いた。 「本当ですか?」 キュルケが、驚いた声で言った。 「ほんとじゃ、いいのじゃ、君たちは、そのぐらいのことをしたんじゃから」 その言葉に、ルイズの顔が曇る。 「オールド・オスマン。わたしは……」 オスマン氏が力強く言い返した。 「問題ない」 ルイズの表情が少し戻った。 「さてと、今日の夜は[フリッグの舞踏会]じゃ。 このとおり、[破壊の杖]も戻ってきたし、予定どおり執り行う」 キュルケの顔が更に輝いた。 「そうでしたわ!フーケの騒ぎで忘れておりました!」 「今日の舞踏会の主役は君たちじゃ。用意をしてきたまえ。 せいぜい、着飾るのじゃぞ」 三人は礼をするとドアに向かった。 タバサは、二人が出て行ったのを確認して立ち止まり、オスマン氏に向き直った。 「何か、私に聞きたいことがあるようじゃな」 タバサは頷いた。そして、無表情なりに表情を険しくする。 オスマン氏は、何か察したのかコルベールに退室を促した。 コルベールが退室したのを確認して、タバサが口を開いた。 「オールド・オスマン」 「何かね」 「セッコのルーン。単体では意味のない破壊の杖」 タバサの脳裏に、嬉々として自分を試し、死地に送り出す上司の姿がちらりと浮かんだ。どこも似たようなものか。 少し考え直しその嫌な発想を振り払う。今回は志願だし。 しかし、もし志願者が私とキュルケだけだとしたら、オスマン氏は果たして許可しただろうか? オスマン氏は、少し深刻な、何か言葉を捜しているような表情になった。 「……オレも聞きてえな、校長先生よォォォ」 地の底から響くような声がし、部屋の隅から、寝ていたはずのセッコが現れた。 手に、不思議な金属の杖のようなものを持って。 オスマン氏の顔が更に険しく真面目になり、そして口を開いた。 「順番にじゃ、ゆっくりとな。それと、分かっているとは思うが他言無用じゃ」 「「……」」 無言で頷く。 「ミス・タバサ」 頷く。 「そのルーン文字については、まだまだ謎が多いのじゃ。じゃから、今は何も言えん。 それで[破壊の杖]じゃが、確かにそれだけでは役に立たん。じゃが、これだけは言わせてくれ。 教師が生徒を信用して、悪いことでもあるのかね?」 これ以上は、話す気がなさそうだ。 「ありがとうございます、オールド・オスマン」 「すまんの、ミス・タバサ」 セッコの話も興味深い。しかしオスマン氏の視線が、“出ていかなきゃ無理にでも退室させる” 凄みを放っていたので、仕方なく礼をして部屋を出る。 フリッグの舞踏会(で出される料理)を想像すると、少し心が安らいだ。 タバサが出て行くのを確認し、ヒゲジジイがこっちに向き直り口を開いた。 「質問に答える前に、それをどうして持ってきたか聞いてもいいかのう?」 「宝物庫に入って探して来た。正しく質問に答えて貰う為によお」 鋭い目でオレを見る。 「そうではない。私が聞きたいのは場所や理由ではなく、手段じゃ」 糞、食えねえヒゲだ。 「フーケと戦ってる間に思い出した、オレは地面や壁に潜れるってな。多分[左手]とは関係ねえ」 「思い出したとな?」 「オレは、自分についての記憶があいまいなんだ。理由は知らねえ」 「なるほどの。じゃが、その力は余り人に見せん方がいいのう」 んなこたあ言われんでも分かる、基本だろうが。 「てめーボスだろう。だから教えた」 ヒゲが妙に嬉しそうだ。 「そうかそうか、では質問を聞こうかのう。できるだけ力になろう」 「校長先生よお~、[破壊の杖]とこの[弾]の使い方を知ってんのかあ?」 「ああ。それがどうかしたかね?」 「オレは多分、ここじゃねえ場所の人間だ。それはオレが昔居た所の武器だ」 ……多分な。 「本当かね?」 多分な。 「それのことを知ってんだよな?なら、オレの記憶や居た場所についての手がかりも、何か教えてもらえるんじゃねーかと思って」 ヒゲがため息をついた。 「残念だが今は無理じゃ。それを私にくれたのは、私の命の恩人じゃ。 使い方を教えてくれたのもな。だから直接は知らんのじゃよ」 当てが外れたかなあ。 「そいつはどうなったんだ?」 「死んでしまった。今から、30年も昔の話じゃ」 畜生、結局振り出しか。 「うう……」 「すまんのう。だが、これなら知っておるよ」 ヒゲが俺の左手を掴んだ。 そう知りたいわけではないが、一つずつでも疑問が解決するのは気分がいい。 「ガンダールヴの印じゃ。伝説の使い魔の印じゃよ」 「伝説ぅ?」 伝説だから光るのかあ。確かにモグラやシルフィードの印は光ってなかった。 「そうじゃ。その伝説の使い魔はありとあらゆる[武器]を使いこなしたそうじゃ。[破壊の杖]について細かく分かったのも、そのおかげじゃろう」 推測かよ。 「うー、むぅ……」 「どうしてそうなったかは分からん」 ヒゲがきっぱりと言いやがった。知ってるつって形だけじゃねえか。 結局、オレは一体何なんだ。 「力になれんですまんの。ただ、これだけは言っておく。私はおぬしの味方じゃ、ガンダールヴよ」 ヒゲはそう言うと、オレの手を強く握った。 「よくぞ、恩人の杖を取り戻してくれた。改めて礼を言うぞ」 どいつもこいつも、何であれが杖に見えるんだあ? 「わかった」 「おぬしがどういう理屈で、ここに現れたのか、どうして記憶が抜け落ちているのか、私なりに調べるつもりじゃ。でも……」 「でも?」 「何も分からんでも、恨まんでくれよ。記憶を消す魔法や壊す薬はあっても、取り戻すものは現状存在しとらんしのう」 「……」 「なあに。ここだって住めば都じゃ。嫁さんだってさがしてやる。 あと、今日は[フリッグの舞踏会]がある。まあパーティじゃな。飯もうまいぞ」 それはいい。早速食いに行こう。ルイズに怒られる気はするが、正当な報酬だ。 ヒゲの目が再び鋭くなる。 「それとな、そいつを、[弾]をちゃんと元に戻しといてくれよ。こっそりとな」 このヒゲに逆らうのはやべえ、ルイズの次ぐらいに。本能が告げてやがる。 「……わかった」 食堂の上の階が、大きなホールになっている。舞踏会はそこで行われていた。 テーブルにつき、目の前の料理を貪る。 あれ……?甘くねえのにうめえ。 何故だろう、味覚が少し回復している。 何かがオレに起こっているんだろうか? 「お前、さっきから食いすぎじゃねえのか」 背中からデルフリンガーが話しかけてきた。 「あいつに比べたら普通だぜえ」 斜め向かいに視線を向けてやった。 黒いパーティドレスを着込んだタバサが、それにも拘らずオレと変わらない勢いで料理を平らげている。化け物か。 「おでれーた……」 その時、ホールの扉に控えている呼び出しの衛士が、ルイズの到着を告げる声が聞こえた。 「ヴァリエール公爵が息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢のおな~~~り~~~!」 随分と遅かったなあ、何やってたんだあ。まあ飯の方が大事だ。 テーブルに向き直り、食事を再開する。 少しすると、白いパーティドレスを着たルイズが声をかけてきた。 「楽しんでるみたいね」 いきなりだったのでちょっと料理がむせる。 「うおっ、おっ」 えーと、あれはどういう表現だったっけなー。 「胡麻にも衣装、じゃなくて……猫にも衣装、……は違う……うぐぐ……独楽にも衣装でもなくて、巫女の衣装……」 「何意味わかんないこと言ってるのよセッコ」 「ハハハ、[馬子にも衣装]だな、ちげえねえ相棒」 デルフリンガーが聞いてもないのに助け舟を出しやがった。知ってんだよお、ちょっと忘れてただけだあ。 「失礼ね」 「ヴぇ」 デルフリンガーが殴られる。正確に思い出せなくてよかったぜ。 「あんたもよ、セッコ」 「……いてえ」 全く、この体のどこにそんな力がありやがるんだ。 「ま、今回は許してあげるわ、セッコ、わたしと踊りなさい」 こいつ何言ってやがるんだ? 「オレはこの料理があればそれでいいんだがなあ」 「いいから」 「何でだよお、踊る相手なんていっぱいいるんじゃねえのかよ」 「あのね、ありがとう」 「はあ?」 わけがわからねえ。 「その……フーケのゴーレムに潰されそうになったとき。 助けてくれたんじゃないの?キュルケから聞いたわよ」 「それが仕事だってルイズオメーが言ったんじゃねえか」 「いいから。踊りなさい、命令よ!」 なるほど、ルイズなりの礼のつもりなのかあ。まあ腹ごなしに付き合ってみるか。 本当は飴の方が嬉しいんだけどな。 「わかった。……だがよお、オレは踊りなんてわからねえ」 「わたしに合わせてくれればすぐ慣れるわよ、あなたなら」 「わかった」 ……たまには悪くねーなあ。 そんな様子をテーブルに立てかけられたまま眺めていたデルフリンガーが呟いた。 「おでれーた!」 二つの月がホールに月明かりを送り、ロウソクと絡んで幻想的な雰囲気をつくりあげている。 「相棒!てーしたもんだ!」 踊る相棒とその主人を見つめながら、デルフリンガーはおでれーた!と繰り返した。 「主人のダンスの相手をつとめる使い魔なんて、初めて見たぜ!」 料理を胃に流し込みつつ、一部始終を見ていたタバサは思った。 使い魔的教育が一段落したら、シルフィードにダンスを教えてやろう。と。 To be continued…… 戻る< 目次 続く
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教室の一角。マントを羽織った少年少女達の間に、大男が倒れていた。 気を失っているようだが、それでもその雰囲気にはなにか語るべくないものがあった。 「へ、へいみん?」 「そもそも人間?」 「ゴーレムとかじゃない・・・よな?」 「ざわ……ざわ……」 筋肉質であり、マントや宝石などの小奇麗なものはつけていないことから、貴族ではないことはわかる。 しかし、彼の頭には角。彼の両肩にも角。人間ではないのか、人間、あるいは亜人だとしても平和的な人間でない可能性が 非常に高そうだとメガネの少女は冷静に分析した。 「ゼロのルイズ!なにを呼び出したんだ!」 「何度も失敗して、成功したと思ったらこれかよ!」 「まともに使える魔法はないのか!」 教室から少女に向けて野次が飛ぶ。 桃色の髪の少女が叫ぶ。 「こ、コルベール先生、やっぱりこの大男とも『契約』しなければいけませんか?」 「ミス・ヴァリエール、例外はありませんよ。」 少女は少し唸った後、諦めたように気絶しているであろう大男に近づく。 「き、貴族にこんなことされるなんて……普通は一生ないんだからね!」と気絶している大男に話し掛ける。 そして、彼の顔に顔を近づけ、唇をあわせた。 左手の甲が光る。 「ROOOOAHHHHHHH!!」 それとほぼ同時に大男が叫び声と同時に目を覚ました。 (な、なんだこの痛みはァーーッ!このような痛みは……例えるなら、そう『波紋』ッ! それに…なぜ俺はこんなところにいるッ!?) 叫び声をあげた大男の迫力から、本能的に命の危険を感じて逃げるようにして 教室の出口へ向かうものが現れる。 「女ァーーッ!俺になにをしたーーッ!」 少女はその叫び声に怯み、数歩下がりつつ答えた。その前にさりげなく髪の薄い男性が立つ。 「つ、使い魔のルーンを刻んでいるのよ。すぐ終わるから、あ、安心しなさいよ…」 左手の甲の光が収まり、痛みが治まった大男は状況を確かめようとする。 (俺は、『エイジャの赤石』を賭けて、ピッツベルリナ山神殿遺跡で、古代ローマの戦車戦を行い… ジョセフと戦った末……奴に敗れて死んだはず…… しかし、無い筈の両腕!両足!胴体!全て元通りだ……どうなっているんだ?俺は死んだのではないのか? 死んだことに悔いはない。一人のジョセフを戦士に成長させ、その戦士に全力を持って戦い、 敗れて死んだということは誇りでもあるし、名誉でもある。 が、しかし……生きている……死ぬ前の走馬灯という奴でもなさそうだ……) 彼は少女に向き直って強く問い詰める。 「女、ここはどこだ……俺に何をした。」 「さ、さっき言った通りよ。あんたを私が『サモン・サーヴァント』で召還して使い魔の契約をしたの。 つまりあんたは私の使い魔。わかった?平民だからわからない?」 「『サモン・サーヴァント』だと?確か人間どもの言葉で『召使』だったか……俺に召使をやれと?」 「だからさっきから使い魔だって言ってるでしょ。主人である私の望むものを見つけてきたり、守ったりするのよ。 使い魔は主人の目となり、耳となる能力を与えられるはずなんだけど……まだ契約して時間が短いからかしら、 なにも見えないし聞こえないけど……そうそう、もちろん主人である私には絶対服従ね。」 「先ほど召還などといったか……よくわからんが何か普通の人間どもとは違う能力を持っているようだな? 死の淵に居た俺を五体満足までに回復させるのだからたいしたものだ。場所もどうやらピッツベルリナ山神殿遺跡でもなさそうだ……」 「あ、あんた?魔法も知らないの?どこのド田舎のド平民よ!?ピッツベルリナ山なんて聞いたことないわよ! だいたいあんた、人の話聞いてないでしょ!あんたは私の使い魔になるの!わかってるの?」 少女はルーンを結べたこともあって面食らいつつも少し強気に出ていた。 が、使い魔に素直になる気を微塵も感じられないためにただでさえ常日頃バカにされている少女は 焦り、いらついていた。 が、やはり大男の返答は少女の望むものではなかった。 「体のいい召使い兼ボディーガードなどをなぜ俺がしなければならない?俺が従うのは強者だけだ。断る。」 「は、はぁ?あんた、人の話わかってるの?大体強者って……平民だか亜人だかしらないけど、 仮にもここは魔法学校。これだけの貴族に囲まれて勝てると思ってるの?」 「そう思うなら……試してみるか?力づくでここを出ても構わなんしな。」 大男はなめ回すようにクラス見る。その迫力に短く声をあげるもの、後ろに倒れるものなどがいたが、各自同じようなものであった。 「……が、この部屋には俺の相手をできるような者はいないようだな……そこの男は見込みがありそうだが、生憎リングがないものでな。さ、どけ」 「だ、誰がどくっていうのよ!私がどくのは道にマリコルヌが落ちてるときだけよ!」 少女は数歩後ろに飛びのき、杖を向ける。 「ミス・ヴァリエール!貴女は下がっていなさい!」 男が叫び大男に杖を向ける。ぶつぶつと何事か唱えた後に杖の先から炎の玉が大男へ向かう! しかし彼は、片手だけで、その巨大な炎の玉を払いのけた。 まるで、ハエを払うかのように。 普通の相手であればかわすのも難しいタイミング、威力も普通の相手であれば手で払いのけることなど選択肢にすら 入らなかったであろう威力。まさに絶妙な攻撃であった。 惜しむらくは、放った相手が普通の相手ではなかったことだ。 「ここの人間どもは波紋の一族とは違う……なにか不思議な能力を持っているようだな……魔法学校などといっていたが… これらを『魔法』と呼んでいるのか?だが、威力も工夫も足りなかったな。貴様でこの程度ならば……たかが知れるな」 彼は致命傷どころか火傷すらしていない。 怯む様子もなく、彼は起き上がった。そして、光、前の世界であれば忌むべきものであった光の差す 窓の方向へ走り出し、その方向にいた先ほど攻撃してきた杖を持った男に蹴りを放とうとするッ! 起き上がった勢いによる攻撃と脱出を同時に行う。彼の戦闘のセンスは失われていなかった。 1対1ならば確実に仕留めていただろう。1対多でも彼の神経が研ぎ澄まされた、彼が言えば激昂するであろうが 油断していない状況であればその蹴りは入っていたであろう。しかし、彼はその男以外を敵としてみなしていなかった。 伏兵は男の後ろの少女だった。 少女が叫ぶ。 「コルベール先生……下がるなんてできません……敵に……敵に背中を向けないやつを貴族と呼ぶんです! 『ファイアー・ボール』!」 先ほどの少女が大男に杖を向け、なにかを飛ばす。 大男は先ほどと同じタイプの攻撃であると断定し、同じ対処を試みた。 片手をなにかが飛んでくる方向に出し少女を見据える。 「馬鹿の一つ覚えかッ!MOOOOOO!!」 片手でそれを払いのけようとした…が!それが腕に着弾した途端!爆発をおこしたッ! 彼女の唯一の『得意技』である爆発が大男を包む! 轟音が部屋を包む。教卓の上の備品が少々吹っ飛ぶ。教卓も吹っ飛ぶ。しかし、それでも大男は立っている…はずだった。 その大男の類まれなる身体能力をもってすれば、この程度の規模の爆発では驚きすらしなかっただろう。 しかし、大男は立てなかったッ!爆発による煙が舞っている中、彼はひざまずいていた。 その爆発は『普通』の爆発ではなかった。 (か、体が痺れるッ!う、動けんぞッ!幸い体は無事のようだが……これはまるで『波紋』ではないかッ……MOOOOOO……! しかし、この少女…波紋戦士には見えん……シーザーのシャボン玉のような攻撃のように攻撃してきたなにかに波紋を含めているなら、 俺の体の神経は破壊されるはずッ!しかし、動けないだけでそれはない……さらに、無意識下の波紋戦士でもしているはずの 波紋の呼吸をしていない。そして、なによりもッ!戦いについて場数を踏んでいる雰囲気、こういった命の危険に大して無防備すぎる…… つまり、この程度の能力を持った人間はこのあたりにはいくらでもいるということか? ということは、俺に適うだけの戦士がまだどこかにいるのではないだろうか? 我が柱の男たちの敵は波紋戦士たちだけだと思っていたが……少し…興味がでてきた…この魔法とやらに) 強者と戦いこそ全てである大男は心境の変化とともに立ち上がった。 そして、煙がはれたのち、少女は立ち上がった大男に話し掛けた。 「これで貴族と平民の格の違いがわかったでしょう!おとなしく使い魔になりなさい!」 「……いいだろう……少しの間、その使い魔とやらになってやろう……」 「少しの間って…ま、今のところはまあいいってことにしておいてあげる。 じゃあ、使い魔には名前が必要ね。あんた、名前ある?」 風の戦士が、二度目の二〇〇〇年ぶりの目覚めを果たした。 「俺の名はワムウ。風の戦士ワムウだ。」 風と虚無と使い魔 召還潮流
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この世に『魔法』や『マジック』なるものが存在すると思います? 手品とかそういうのじゃあなくて、手を振りかざしたら炎が出るとか、そんな不思議な力のことです。 ファンタジーやメルヘンじゃあ あるまいし、そんなもの存在するわけがないと答える人が殆どだと思います。 あ、申し遅れました。 僕の名前は広瀬康一。今年4月に入ってから18歳になったばかりの高校3年生です。 まー、僕のプロフィールなんて覚えてくれなくても結構ですけどね。 肝心なのは、僕の名前でも歳でもなく、僕が持っている不思議な能力なんです。 『スタンド』という、超能力に似た能力で、僕が住んでいる杜王町には『スタンド』を持った人間が沢山住んでます。 この能力は、一般の人には見ることも感じることもできません。 だから、一般人相手には知らぬ間に傷をつけたり、物を盗んだりと、色々と好きほーだいできちゃったりします。 もっとも、僕は『スタンド』を悪用することはしませんけどね。 ところで、先ほど話したことですが、『魔法』の存在を信じますか? 僕は信じます。なぜなら、僕はそんな不思議な力が普通に使われてる世界に来てしまったからです。 いわゆる、『魔法の国』という所に。今考えれば、それほど在りえない話でもなかったんです。 なぜなら、僕も『魔法』に似た、『スタンド』という能力を持ってるのだから――。 ――ACTの使い魔―― 桜の花びらがシャワーのように降り注ぐ並木道。 桜だけでなく、タンポポやつくし、動物までもが浮かれるような春真っ只中の道を康一は歩んでいた。 いつも自分の周りに取り巻いてくる露伴や由花子の姿はなく、一人孤独に高校から自宅へと続く道を進んでいる。 家に戻ったらボケ犬の散歩や、山のように出された宿題を片付けなければならないため、その足取りはやや速い。 しかしこの後、康一が自宅に戻り、犬の散歩や宿題を片付けることはなかった。 自宅まで、後1km程という地点で、康一は『不思議な物体』を発見した。 体言するならば、キラキラと光る鏡のようなものと言ったところである。 幅1メートルぐらいの楕円形をしており、ほんの少しであるが宙に浮いている。 一般人ならば、これは一体なんだろうと思い、戸惑うところであるが康一は違った。 この鏡を発見した時に、康一が最初にとった行動は、自分のスタンドであるエコーズACT3を構えることだった。 道端に突如現れた、不自然な鏡のような物体。 こんな自然現象は見たことがないし、宙に浮いた物体なんて聞いたこともない。 ただ一つ、可能性があるとすれば、これがなんらかのスタンド能力であることだ。 スタンド能力であるならば、充分に注意して調べなくてはならない。 ましてや康一は、今まで新たなスタンド能力やスタンド使いには、嫌というほど危険な目に会わされている。 変な髪をしたキッチリ屋に矢をぶっ刺されたり、 姉を手篭めにしようとした変態バカ男に心の錠前を掛けられたり、 思い込みプッツン変人女に髪の毛で拉致されたり、 蜘蛛を平気で舐める変態漫画家に本にされたり、 手フェチの変態殺人鬼に殺されかけたり、 人のパンティーを勝手に取り出す変態少年に紙にされたり……。 大抵ロクな目に会っていないため、嫌でも警戒心は高まるものだ。 康一は、地面に落っこちていた石コロを拾って、鏡のような物体に投げてみた。 石ころは鏡の中に消えた。鏡の裏を見ても、何も落っこちていない。 次にエコーズACT2の尻尾の部分を恐る恐る鏡の中に入れてみた。 そのまま自分の元へエコーズACT2を戻しても、尻尾には何の変化もなかった。 この結果、この鏡のような物体は、どこか他の場所へ続いている『異次元への扉』のような物であると推測できた。 ここで康一は悩んだ。これからどうするべきか? 仗助や億泰などを呼んで、これが何なのか詳しく調べた方が安全であるが、目を離したスキに消えてしまったら元も子もない。 エコーズの尻尾を入れても何の変化もなかったことから、ちょっとくらいなら中に入って調べても大丈夫そうだった。 康一は、恐る恐る鏡の中に入り、中を調べようとする。 その瞬間、康一の体中に稲妻が走るような激しいショックが流れた。 ヤバイと思った時にはもう遅かった。後悔先に立たずとはまさにこのことである。 康一は、全身に痛みが走る感覚を覚え――そのまま気絶した。 「――で平民を呼び……する…」 「ちょ……間違った……」 大人数の人間の笑い声、女の人の話し声が康一の頭の中で響く。 浴びる程酒を飲んで、翌日、二日酔いで頭がズキズキするあの感覚の中で、康一は目を覚ました。 「ううっ……」 康一は頭を抑えながら、顔を上げて辺りを見回した。 黒いマントをつけた人間が、物珍しそうに康一のことを見ていた。 自分の目の前には、桃色がかったブロンドヘアーの女の子がいる。 透き通るような白い肌をしており、まるで人形のように美しかった。 「さすがはゼロのルイズだ!」 そう言って、爆笑の荒らしが沸き起こる。 そんな爆笑の渦の中、康一は何が起こってるのかわからず、ポカーンとしていた。 (ここはどこ? 外国? 異次元? スタンド攻撃? スタンドが作り出した幻? まさか夢ってことはないと思うけど……) 康一は、自分の頬っぺたを抓る。当然だが痛い。 夢ではないようだ。ということは、やはり何かのスタンド攻撃なのだろうか? 「ミスタ・コルベール!」 目の前に居た、ルイズという女の子が怒鳴った。 人垣の中から、変な中年男性が現れて、なにやら言い争っている。 その中年男性は、真っ黒なローブに大きな杖を持っており、まるでファンタジーに出てくる『魔法使い』のようだった。 中年とルイズの会話の内容は、康一には訳のわからない単語ばかりが飛び交っている。 『召喚』だとか、『使い魔』だとか、傍から見れば、頭がイカれてるんじゃあないかって会話である。 「平民を使い魔にするなんて聞いたことがありません!」 再び、康一の周りで爆笑の渦が巻き起こる。 そんな爆笑を無視して、康一は一体何のスタンド攻撃なのかずっと考えていた。 しかし、スタンド攻撃だったとしても、こんな訳の分からないスタンド攻撃なんて聞いたことがない。 幻を見せるにしても、康一を攻撃する目的なら、もっと凄まじい幻を作るはずだし、 何かの空間を作るスタンドだったとしても、こんなに大人数の人間が、スタンド空間の中に存在するのは不自然だ。 ありえそうなのは、『相手をどこかに瞬間移動させる』スタンドだ。 それならば変な格好をしている、大勢の人間に囲まれているのも辻褄が合いそうだ。 「ねえ」 「……」 ルイズが康一に話しかけるが、反応はない。 「ちょっと、聞いてんの!?」 ビクっと体を反応させ、組んでいた腕を解き、康一はルイズの方へと向いた。 「あ……は、はい!」 「あんた、感謝しなさいよね。 貴族にこんなことをされるなんて、普通は一生ないんだから」 貴族? 貴族ということは、どこかの外国の国だろうか? しかし、さっきからこの人たちは日本語を喋っているみたいだし……。 そんな風に康一が思っていると、ルイズが康一の目の前で杖を振り、 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 と呪文らしき言葉を唱えた。 そして、ゆっくりと唇を近づけてくる。 「え!? あ、あのー、何をす……」 「いいからじっとしてなさい」 そう言って、ルイズは康一の頭を左手で掴む。 「ちょ、あの、僕には、いちおう恋人がいて――」 「ん……」 ズキューンという効果音が康一の頭の中に響く。 「な、なんて……ことを……」 ファーストキスではないが、康一は見知らぬ女性とキスをしてしまった。 もしこの光景を髪の毛を自在に操る彼女が見ていたら、どうなっていただろうか。 康一は、この場に由花子がいなかったことに、心のそこからホッとした。 しかし、ホッとしている場合ではないことにすぐに気が付く。 「い、いきなり何をするんだ! ぼ、僕には恋人がいて、もしこの光景を見られてたら――」 ルイズはそんな康一の言葉を無視するかのようにそっぽを向いた。 その態度は無いんじゃない? と思いながら、左手の甲をさする康一。 (……? 何で僕、『左手の甲』なんてさすってるんだ? それに妙に体が熱くなってきたような――) そう思った瞬間、康一の体が炎で燃やされたように厚くなった。 「う、うわあああああッ! 体が熱い!」 (何で急に体が!? スタンド攻撃? まさか目の前にいる、僕より歳が低そうなこんな少女が本体?) そんな康一を気にする様子も無く、ルイズは苛立った声で言った。 「すぐ終わるわよ。待ってなさいよ。『使い魔のルーン』が刻まれているだけよ」 「使い魔のルーン? それがキミのスタンドの名前か? いくら女の子だからって、この攻撃をやめないと、こっちも攻撃するぞ!」 「は? スタンド? 何言ってるの?」 「くっ、エコーズACT3ッ!!」 康一は、エコーズACT3を呼び出して、ルイズにFREEZEの攻撃をしようとした。 しかし攻撃する前に、体中の熱が嘘のように消え、平静を取り戻せるようになっていた。 スタンド攻撃をやめたと思い、康一もFREEZEで攻撃するのをやめる。 「ハァハァ……。キミは一体何者なんだ! なぜ僕をここに呼び出した! 僕の体に何をしたんだ! ここは一体どこなんだッ!」 「ったく、色々とうるさい使い魔ね。 ここはトリスティンよ! ここはかの高名なトリスティン魔法学院!」 トリスティン? そんな地名、外国にあったかな? いや、その前に魔法学院? そんな学院なんてあるの? 手品の練習でもするのかな? そんな風に康一が思っていると、中年男性が人垣に向かって言った。 「さてと、じゃあ皆教室に戻るぞ」 中年男性はきびすを返すと、宙に浮いた。 他の生徒も、一斉に宙に浮き、城のようない石造りの建物へ飛んでいった。 康一は、その光景をポカーンとした表情で見ていた。 そして、すぐに我に返り、 「と、飛んだ……! ねえ、ちょっと! あの人たち宙に浮いたよ!」 と、宙に浮いている人々を指差して言った。 「ルイズ、『フライ』はおろか、『レビテーション』さえまともに出来ないんだから、歩いて来いよ!」 そう言って宙に浮いてる間も、ルイズをバカにし笑いながら飛び去って行く。 ルイズはその光景を、歯軋りしながら睨み付けていた。 そして、最後に残された面々は、ルイズと康一だけになる。 ルイズは、ため息をつき、康一の方に振り向いて怒鳴った。 「あんた、なんなのよ!」 「こっちが聞きたいよ! キミは一体何者なんだ! さっきの人たち宙に浮いたけど、全員スタンド使いなの!?」 しかし、ルイズは全く何のことか分かっていない様子であった。 「そりゃ飛ぶわよ。メイジが飛ばなくてどうすんの。 それより、さっきからスタンドスタンドって、一体何のことよ?」 しらばっくれてるのか? いや、もしかしたら単にスタンドという言葉で呼んでないだけかもしれない。 そう思い、康一はエコーズACT2を出す。 「こういう能力のことだよ。 僕はスタンドって呼んでるんだけど」 しかし、ルイズは?マークを浮かべるだけで、首を傾げている。 目の前でACT2の拳を振り上げても、驚く様子も、構える様子もない。 演技をしてるようにも見えない。本当に見えてない様子だった。 「キミ……見えてないの?」 「はぁ? 召喚した時に頭でも打ったの?」 「……」 じゃあ、何故こんな所にいるのだろう? 彼女じゃないとしたら、一体誰が? そう思った康一だが、ルイズが言った『召喚』という言葉が引っかかった。 「あの、今『召喚』って言ったけど、それって何のこと?」 「私が呼び出したのよ。 さっき儀式をしたでしょ? あんたは私の使い魔になったっていうこと」 康一はさっきの鏡のことを思い出した。 あの鏡は、この子が行った『儀式』で現われた亜空間のようなもので、その中に入ったからこうして召喚されたのだろうか。 しかし、康一はこの現実をあまり認めたくはなかった。 いきなり道端に現われた変な鏡を通ったら、そこはファンタジーの世界でした。なんて話は聞いたことがない。 「ハ……ハハ……まさか……大体、使い魔って言ったけど、僕は人間だよ? 冗談きついなぁ~、もう……」 「私だってこんな冴えない生き物は嫌よ……。もっとカッコいいのがよかったのに。 ドラゴンとか。グリフォンとか。マンティコアとか。せめてワシとかフクロウとか、この際、犬でも」 犬以下と認定された康一は、少しだけ悲しくなった。 そして康一は察した。この子はおそらく召喚ってやつに失敗して、僕を呼び出してしまったんだと。 さっき周りの人間たちに大笑いされていたのは、人間である自分を呼び出したからだろうと。 「はぁ……そうですか……」 全てを察した康一は、深くため息をつき、ガックリと肩を落とした。 「ため息つきたいのはこっちよ! とにかく、私は今日からあんたのご主人様よ!」 そう言われて、康一は再び深いため息をついた。 大和撫子のような、大らかでやさしい女性に召喚されたならともかく、 由花子と同じくらい扱いにくそうな女性に召喚されたとなったら、これからどんな気苦労があるか分かったものではない。 「ちょっと、聞いてるの!? 私は二年生のルイズ・ド・ラ・ヴァリエール。覚えておきなさい!」 「はぁ……えーと、ルイズさんですね……。 僕は広瀬康一って言います」 「変な名前。呼びにくいから 犬 って呼ぶことにするわ」 (犬は酷いよなぁ……。 はぁ~、何で僕、自分より年下っぽい女の子に敬語使ってるんだろ?) こうして康一は、ファンタジー世界へと呼び出された。 なお、これからもっと酷い苦悩に悩まされることになるが、この時の康一は全く気づいてなかった。 To Be Continued →
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品評会、当日 その日は朝から騒がしく、ドッピオはいつもより早く目が覚めました 「・・・会場作りか」 騒がしさの原因は品評会のステージ作りでした 席などが置かれ、ステージが作られていきます。おそらく魔法で作っているのでしょう 特別席のようなものもあります。夜に来たアンリエッタや王族の席といったところでしょうか ドッピオは自分のカードを使った手品の最終確認を行います 「・・・朝早いのね・・」 騒々しさにルイズも起きてきました。ここで着替えをさせるのはもはや日課と化しています 「ドッピオ、分かってると思うけど」 「もちろん、いいところ見せますよ」 それだけ確認するとルイズは 「そう。なら後は成功させるだけね」 そう言ってルイズは部屋から出て行きます 「あれ?どこに行くんですか」 朝食も取るにもまだ早く、食堂は開いていないはずです 「王族の人が来るから生徒一同は出迎え とりあえずアンタも来なさい。すぐに品評会は始まるから」 そう言って出て行くルイズについて行くドッピオでした 朝早いというのに廊下で人と会いました 「あら、ずいぶんと早いのね。ミス・ヴァリエール」 「そっちもね、ミス・ツェルプストー」 それだけ会話するとルイズはキュルケの横をさっさと通り抜けました 「出迎えのために生徒は集合って言っても早すぎるんじゃないかしら」 「そう?そんなに早くは無いと思うけど」 実際は早いのですがルイズは時間を見ていなかったのであまり気にしていませんでした 「まあ品評会の優勝はドッピオには悪いけど私が貰うわ」 「その吠え面、今日こそは叩きのめしてあげるわ」 ルイズとキュルケの間に火花が散ります もはや日常茶飯事のようなものなのでドッピオは遠くから見守っていました 言い合いはしばらく続きました 「・・・時間」 タバサがそう言うと言い合っていた両者は正気に戻り 「うわ・・もう並んでる。急ぐわよ!」 「どうして止めなかったのよ!ドッピオ!」 「いや・・なんか止めるのも悪い気がして」 四人は走って出迎えの場に行きました 出迎えの場に行くともう人だかりが出来ていました ザワザワと騒いでいますが王族の馬車が入ってくるとそのざわめきも静まりました そして馬車から降りてきたのは 「・・・アンリエッタさん」 アンリエッタとその御付の者たちが降りてきました 「ようこそ。トリステイン魔法学院へ」 オスマンがアンリエッタに頭を下げています その後、長ったらしい前置きを言った後 「それでは品評会を始めたいと思います!」 教師コルベールの言葉によって品評会は始まりました さまざまな使い魔たちがいろいろな芸をしていきます なかには地味なものやとても派手な芸まで 各々の使い魔の性質を示すかのような芸をしていきます 「大本命が来たわ」 ルイズの一言を聞いてから少しの間、ドラゴン、シルフィードが空を飛行します それに見とれるものが多数、その中にアンリエッタも含まれていました 「次は私たちの番ね。行くわよ!」 「はい」 ステージに上がり、あらためて人の多さを確認しました 「・・・ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール 使い魔の種族は・・・・平民です」 その言葉に静かに笑うものが多数 (・・ホラ!アンタが手品をするとか言ってやんなさいよ!) (僕が言うんですか?・・・分かりました) 少し深呼吸をして 「僕の手品を見せたいと思います。まずこの手品にはカードを覚えてもらう人物が必要となります ・・・女王アンリエッタ、少し手伝ってくれませんか?」 その発言に周りがざわつきます 「わ、私ですか?」 「はい。貴女が尤も信頼できます」 「そ、それでは」 ステージにアンリエッタが上ってきます 「・・・五十二枚、ジョーカーを抜いたカードです ご自由に一枚お選びください。僕と主はそのカードを見ません」 「・・・選びました」 「それではそのカードを観衆の皆さんに見せてください 貴女と周りが証人となります」 アンリエッタはカードを見せています カードはハートの10です 「それではそのカードを戻して混ぜてしまってください」 「え?いいんですか?」 「はい」 言われたとおりに混ぜるアンリエッタ 「・・これで僕と主は選んだカードが何であるか分からなくなりました そこで我が主に直感でそのカードを選んでもらいます」 「・・・え?」 「さあ、主。どのカードか勘で選んでください」 「ええ?!ちょっと待って!私そんなの分からない・・・」 (大丈夫です。必ずルイズさんの選んだカードはアンリエッタさんの選んだカードと同じになります) ドッピオは超小声でそう言いました (本当になるんでしょうね) (はい。だから選んでください) そう受け答えして (・・・これかしら) 一つだけ間隔があいているカードを選びました そのカードは・・・ 「女王アンリエッタ。貴女の選んだカードはハートの10ですか?」 「・・・すごい、その通りです!」 子供のようにはしゃぐアンリエッタ 「もう一回やってみてもいいですか?」 「どうぞ、何度でもあててみましょう」 こうして何度か続いてその正答率は百%と取られるぐらいにドッピオとルイズはカードを当てていきました 魔法を使っているのではないかと言う疑問は平民とゼロということでありえないと思われたようです 「では、これで僕の手品を終わりにしたいと思います」 その言葉を発したと同時に惜しみない拍手が浴びせられました (成功ですね。ルイズさん) (・・・ええ) 「それでは最優秀を発表したいと思います 最優秀は・・・タバサと使い魔シルフィードです!」 周りからもれる声は当然、妥当などの声でした 「それでは次に特別優秀を発表したいと思います!」 「特別優秀?」 いつもの品評会には無い賞でした 「特別優秀はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと その使い魔、ヴィネガードッピオです!」 「え?」 「二人は前に来てください」 ルイズはその言葉についていけていませんでした 「ルイズさん?行きましょう」 ドッピオから話しかけられてようやく気を取り戻して 「私たちが賞を・・取った?」 「そうですよ。さ、行きましょう」 「ルイズ。おめでとう。それとドッピオさん。もう一度手品を見せてくださいね」 「はい。もちろんです」 「あ、あの女王アンリエッタ。この賞は一体・・・」 「本当はこの賞は品評会とは関係ないんです。 ですけど賞の授与がたまたま品評会と重なってしまったのでこのときに一緒にやろうと思って」 コホンと咳払いをしてアンリエッタは 「このたびの破壊の杖奪還の件、真に大義でした そのことを賞しシュヴァリエの爵位を貴女に与えたいと思います」 特別優秀賞、その正体はフーケを倒したことに対する賞でした 「今夜はそのことを称してささやかなパーティーをしたいと思います 本当に大義でしたよ。ルイズ」 「・・・いえ、勿体無いお言葉です」 「それでは・・・」 「あ、あのドッピオには何も無いんですか?」 「・・・・今回の件での活躍は聞きましたが、彼は貴族ではないので」 「・・そうですか」 そう言って賞の授与は終わりました アンリエッタはこの後すぐに王都に戻ることとなり、品評会は終わりを迎えました
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翌日 「おはよう。使い魔君」 まだ酒の影響が抜けていないドッピオに朝っぱらから爽やかな声でワルドが声をかけてきました 「どうも・・・」 適当に挨拶し切り抜けようとしますが 「つれないな、僕たちは仲間じゃないか」 まだ絡み付いてきます 「仲間と言っても僕は貴方を信用してるわけじゃありませんから」 「君はアンリエッタ姫の選んだ人材を疑ってるのかい?」 「はい」 きっぱりと答えました 「・・・そこまで信用してくれないとは思わなかったよ さすがに始祖ブリミアの伝説の使い魔ガンダルーヴ。主しか信用してくれないか」 「・・・ガンダルーヴ?」 聞きなれない単語が出てきました 「おや、知らなかったのかい?じゃあ特別に教えてあげよう ガンダルーヴはありとあらゆる武器を使いこなす使い魔だったらしい そのガンダルーヴと同じルーンを君は宿しているんだよ」 初耳でした。実際、武器を使っての戦いもなく使いこなすと言うことはなかったのですから 「へえー、それはすごいですね」 「それで・・・だ。ルイズから聞いたんだが君は何か特別な力、魔法とはまた違う力を持ってるらしいね どうだい?この先その力だけでは切り抜けられるところは狭くなっていくかもしれない 剣でも使ってみたらどうだい?そのときの手合わせくらいならしてあげてもいいが」 遠回しに手合わせを望んでいるワルドですが 「お断りします。僕にはこの力だけで十分です」 「そうかい。だけどこの先の任務を同じくする仲間の正確な実力は知っておきたい そういう意味で手合わせ、願えるかな?使い魔君」 「お断りします」 「え?」 そういってドッピオはワルドの横を通り過ぎます 「どこへ行くんだい?」 「朝食を食べに行くだけですけど。その様子だともう食べたんじゃないですか? ついてくる必要ないと思いますけど」 「いや、僕も朝食は取っていない。一緒に食べよう」 食堂にいたのは食べ終わったルイズ 食後のワインを取っているキュルケ まだ食べているタバサの三人でした ギーシュはドッピオとワルドが話している間に起きたらしく三人で食堂に行くことになりました ドッピオはどうも食欲が湧きませんでした。昨日の酒の影響です スープとサラダを注文しているところを見てワルドが 「そうか、二日酔いなんだね使い魔君 二日酔いなら良い薬がある。これを飲んで元気になるといい」 「結構です。二日酔いじゃありません」 「そ、そうか」 実際はそうなのですがそのことはなぜか言いたくなかったドッピオです どうせ二日酔いがなくなったら手合わせを申し込むのでしょう 「違うのか・・・それならいったいどうしたんだ?」 「別にどうでもありませんよ・・・」 ワルドに対して適当に答えてドッピオはサラダに手を出しました 「・・・!」 突然タバサの目が光りました 「・・・?どうかしましたか」 「・・・別に」 別にと言うタバサですがこちらの動きをずっと見ています (・・・まあ気にしても仕方ないか) そう思いサラダに口にしました ドッピオが口にしたのは普通のサラダでした ですが、はしばみ草というとてつもなく苦い植物を液状にしドレッシングとしてかけたものでした 栄養価は高いもののその苦味から人々から嫌われていますが中には愛好家もいるようです 反応を示したタバサも愛好家の一人、最近は異世界間で出回っているタバ茶という異世界の自分が作ったお茶を飲むのが趣味となっています 現在、この世界のタバサはまだ青銅会員。このはしばみ草愛好会を知ってから日が浅く入っていきなり白銀会員などになれるほど甘くない 別世界の自分を超えるために日々出回るタバ茶を研究し自分も一つ開発に成功したのです 名はまだ決まっていませんが、はしばみ草をドレッシングに混ぜることにより通常のサラダをはしばみ草風味に はしばみ草自体にかけることによりその味はさらに引き立つと言うドレッシングですが (これは・・・まだ完成していない) このドレッシングは強い味で味の上書きをさせるだけの物 理想は共鳴、はしばみ草となんらかの食材を混ぜることによる共鳴 そのための研究は毎日続いていましたが自分ひとりでは行き詰っていました (・・・協力が必要) そう。協力者、自分以外の味覚を持ったアドバイザーが必要とタバサは考えていました そこで今、目に付いたのが彼・・・ドッピオでした (彼の・・・率直な感想が必要) はしばみ草ドレッシングをかけたのは他でもないタバサでした ドッピオはそれを口にし、何度か噛み、飲み込みました 「・・・どう?」 ドッピオはサラダを一口食べた後、タバサからそう聞かれました 「え?」 「味は・・・どう思った?」 「えっとこのサラダのことですか?」 コクリと首を縦に振りました 「ドレッシングの苦味がちょっと気になりますけど美味しいと思いましたよ」 「・・・そう」 彼が言ったのはサラダに関してでした。ドレッシングは苦味が気になると言った程度 「・・・ドレッシングもそれなりに美味しい類だと思いますよ」 「本当?」 「はい」 思ったことをそのまま言ったドッピオですが 「でもこのドレッシング、何かが足りないような気がするんですよ」 「貴方もそう思う?」 「はい・・・甘みと辛みはこの味に合わないし、しょっぱいのも違うんですよね・・・ 残るのはすっぱいものなんですけど・・・酢とか入れるとどうなるんだろう」 「酢・・・それだ」 「?」 足りないと思っていたものは酸味 そう、彼が提示した酢は研究に新たな道を示すものでした (この件が落着したら早速・・・) そう考えるタバサでした
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早朝。朝靄が立ち込める中、馬に鞍をつけている三つの人影があった。すなわち、ルイズ、ポルナレフ、そしてギーシュである。 「…結局見つかったんだな。」 ポルナレフが嫌そうな顔でギーシュに話しかけた。 「違うな。」 ギーシュが作業をとめ、チッチッとキザっぽく人差し指を振った。 「自分から志願したんだ。女の子が危険な任務を任されたんだ。黙って見てるわけにはいかないだろう?」 ポルナレフは舌打ちした。折角の金づるが…と思っているに違いない。 「ところでお願いがあるんだが…」 「何よ。」 「僕の使い魔も連れていきたいんだ。」 「あんたの使い魔ぁ?…別にいいけどどこにいるのよ?」 「ここさ。」 ギーシュが下を指差すと地面が盛り上がり、巨大なモグラが現れた。 「ヴェルダンデ!ああ、僕の可愛いヴェルダンデ!」 ギーシュが地面から出て来たそれに抱き着いた。 「あんたの使い魔ってジャイアントモールだったの?」 ルイズが驚いて聞いた。 「ああ。このつぶらな瞳が可愛いらしいだろ?」 ベタ褒めである。親バカというか何と言うか… 「なるほど、別にいいかもしれんな…モグラならスピードは馬ぐらい出るだろう。」 ポルナレフの言葉にギーシュは頷いた。だが、 「私達、これからアルビオンに行くのよ。地面を掘って進む生き物を連れていくなんて、駄目よ。」 ルイズはギーシュの案に反対した。 「アルビオン?昨日も言っていたが本当にあそこに行くのか?」 「そうよ。そういう訳だから、残念だけどモグラなんて連れていけないわ。」 「そんな…お別れなんて辛い、辛過ぎるよ……、ヴェルダンデ…」 ギーシュは再び抱擁しようとしたが、そのヴェルダンデはギーシュの抱擁から逃れるとクンクン嗅ぎながらルイズに近寄って行き、押し倒した。そしてそのまま体を弄びだした。 「ちょ、何すんの!このモグラ!」 ルイズは必死になって抵抗したが、相手は小熊程あるジャイアントモール。このSSではあくまでただの少女の肉体であり、現実は非情である。 「いやぁ、巨大モグラと戯れる美少女っていうのもある意味官能的だね。」 「手篭めにしてるのはお前の使い魔だがな。」 ポルナレフは鞍を取り付けながらギーシュにツッコミを入れた。 「こら、離しなさい…!姫様から貰った指輪から…!!」 ヴェルダンデはルイズがしていた指輪に鼻を近付けていた。 「なるほど指輪か。ヴェルダンデは宝石が大好きだからね。ヴェルダンデは貴重な鉱石や宝石を僕のために見つけて来てくれるんだ。『土』系統の僕にはこの上ない素敵な協力者さ。」 ギーシュが自慢するように言ったその時、突如突風が吹きヴェルダンデが吹っ飛ばされた。 「誰だ!」 ギーシュが愛する使い魔を吹っ飛ばされたのに怒って杖を取り出した。 ポルナレフはギーシュと対称的にまず冷静にルイズが無傷であるのを確認した。ルイズが無傷ということは敵ではなく増援か何かだろうと考え、ゆっくりと風のした方を見た。 靄の中から羽根帽子を被った長身の男が現れた。容姿から昨日、ルイズが見とれていた貴族であることが分かった。 その貴族は一礼してから名乗った。 「僕は敵じゃない。姫殿下より、君達に同行することを命じられてね。君達だけではやはり心許ないらしい。しかし、お忍びの任務である故、一部隊を付ける訳にもいかぬ。そこで僕が指名されたって訳だ。」 帽子をとった男はルイズより外見からして10歳は年上だろうとポルナレフは推測した。もっとも、ルイズの外見も考慮すると更に5歳ほど加算出来そうだが。 「僕は女王陛下の魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵だ。すまない……婚約者がモグラに襲われているのを見てみぬ振りは出来なくてね…」 「婚約者…?」 ギーシュが信じられない様子で呟いた。 ポルナレフも自分の予想を少し越えていて驚いたものの、中世の貴族社会ならこの程度の年齢差のある婚約も有り得るか、と思い納得した。 しかしワルドがばれないように股間を押さえているのを見て、やっぱりただの変態か、と思い直した。 ワルドは信じられないといった面持ちでいるルイズに駆け寄ると抱き上げた。股間はもう大丈夫らしい。 「久しぶりだな!ルイズ!僕のルイズ!相変わらず軽いな、君は!まるで羽根のようだね!」 「お久しぶりでございます。……恥ずかしいですわ」 ワルドに笑いかけられ、ルイズは頬を赤く染めた。 「おでれーたなあ、相棒。まさかあの娘っ子にあんな婚約者がいたなんてなあ!」 鞘から少しだけ刀身を覗かせていたデルフがポルナレフに話しかけた。 「ああ。あの若さで魔法衛士隊…多分メイジだけで構成された親衛隊か何かと思うが…その隊長で子爵だとはな。確かルイズは公爵家の三女…家柄だけを考えたら婚約者として相応しいかもしれんな。」 ポルナレフがそう言って頷く。 「君、何納得してるんだい!?魔法衛士隊は僕たちメイジの憧れなのだよ!その隊長と『ゼロ』が婚約者だなんて…」 ギーシュが喚いた。 「誰も魔力や性格について相応しいとは言って」 ポルナレフがここまで言ったとき、二人がいた位置に巨大なクレーターが出来た。 「…彼等は何なんだい?」 ワルドがクレーターの底で倒れている二人を指差した。 「あの金髪がギーシュ・ド・グラモンで」 「グラモン…ひょっとしてあのグラモン元帥の御子息かい?」 「はい。であっちの眼帯をしているのが…その……私の使い魔…ですわ。」 ルイズが恥ずかしそうに言った。 「あれが君の使い魔かい?人だとは思わなかったな」 ワルドの言葉にデルフはちょっとムカッとした。 「おいおい、人の相棒を悪く言うなよ。」 いきなり咎められて驚いたワルドは辺りを見回した。 「今の声は…?」 「あ、あの……私の使い魔の…剣です」 ルイズが怖ず怖ずとポルナレフの近くに落ちている剣を指差した。 「ひょっとしてインテリジェンスソードかい!?これはまた驚いたな。君の使い魔はまた変な武器を使うんだね!ところで彼と彼の剣は何て言うんだい?」 「使い魔はポルナレフで、剣はデルフリンガーです。」 「そうか、デルフリンガー君か。いやいや、持ち主の名誉のために抗議するなんて泣かせてくれるね。」 ワルドが芝居がかった口調でそう言うと、デルフはケッと言い捨ててから喋ろうとしなくなった。 「おいおい、僕は別に君や使い魔君を馬鹿にしたつもりは」 「子爵、早く二人を起こして出発しましょう。こうしてる間にもレコン・キスタは…」 「おっとそうだったね。」 ルイズに急かされたワルドはクレーターの底で倒れていた二人をたたき起こすと、口笛をふいて使い魔のグリフォンを呼び出した。その背中にひらりと跨がるとルイズに手招きした。 「ルイズ、おいで。」 ルイズはもじもじ恥ずかしそうにしていたが、ひょいと抱き上げられ、一緒にグリフォンに跨がった。 「では諸君!出撃だ!」 ワルドがそう勇ましく言ったが、ルイズから死角となっていたその顔はだらし無くニヤついており、ポルナレフ、ギーシュ、デルフの三者は「こいつ、本当に魔法衛士隊隊長なんだろうか」と不安にならずにはいられなかった。 ともあれ、四人はラ・ロシェールを目指して学院を出発した。 「まったく…魔法衛士隊の連中は化け物か?」 とある駅で馬を交換している時、ギーシュがポルナレフに話しかけた。 「まったくだ。半日近くもノンストップで駆けさせるとは…」 学院を出発してから既に半日が経過しており、二人共息を荒げていた。 「二人に先に行っててもらうよう言おうか?」 ポルナレフはギーシュにそう提案したが、 「馬鹿もほどほどにしたまえ。今アルビオンが窮地に立たされていることぐらい知ってるだろう?だから一分たりとも時間が惜しいのだよ。」 ギーシュはポルナレフの提案に反対した。 「確かにな…だが、俺達の体力も限界だ。」 「そうなんだよなあ。勘弁してもらいたいよ。まったく。」 ポルナレフは少し考えてから再度提案した。 「なら俺達もグリフォンに乗せてもらうことにしよう。」 「そんなの出来る訳無いだろう?君は本当に頭脳がマヌケだな。」 「それが出来るんだな。もっとも、誰にも言いたくは無かったんだが…」 ごそごそとポルナレフは鞄の中を探してあるものを取り出した。ギーシュはそれを見て目を丸くした。 「それは…?」 「これが俺達もグリフォンに乗ることを可能にしてくれる。ただ、他の奴らには言うな。いいな?」 「おーい、ルイズ。グラモン元帥の御子息と使い魔君は何処に行ったのか知らないかい?馬を交換するって言ってから全然見当たらないんだが…」 「彼等なら先に行くとか言ってもう出発しましたよ。」 「ははは。なんだ、先に行ったのか。…ところでその亀はどうしたんだい?」 ワルドがルイズが持っている亀を指差した。 「この亀も私の使い魔ですわ、子爵。」 ルイズがそう言うとワルドは笑い出した。 「あっはっは!おもしろいことを言うな、ルイズは!でも冗談は休み休みにしたまえ。時期が時期だからね。」 「いえ、本当ですわ。この亀にも、ほら、この通りルーンが…」 ワルドが見ると確かに亀にもルーンが刻まれていた。なるほど、ルイズが言っているのも嘘じゃないらしい。 「…まあ、いいか。早くその亀を連れてお乗り。すぐに彼等に追い付けるだろう。」 ワルドはルイズを抱き上げてグリフォンに跨がると再び疾駆させた。 「驚いた!君はこんな所で暮らしていたのかい?ポルナレフ」 ギーシュが部屋中を見渡しながら言った。 「ああ。寝るときはそこのソファでな…」 ポルナレフは椅子に座りながらけだるそうに返答した。 二人は今亀の中にいる。馬は疲れるし、その内置いていかれるのは明白だからだ。 「この箱はなんだい?開けたらひんやりするんだが…」 「冷蔵庫。中にいろいろな物を冷やしておける物だ。」 「マジックアイテムかい?」 「違うな…。どういう仕組みか詳しくは知らんが魔法で動いてるのではない。電気で動いてる。」 「ほ、本当かい?」 異世界の文明に触れて驚きっぱなしのギーシュ。 その内、壁に掛けてある矢に気付いた。 「ポルナレフ、ここに飾ってある矢はなんだい?」 ギーシュがそれに魅せられたかのようにフラフラと近寄って行き手に取ろうとしたその時、 「それに触るな!」 ポルナレフが一喝し、ギーシュはびくっと動きを止めた。 「いかなる者もそれに触ってはならないんだ…。」 ポルナレフは椅子に座ったままギーシュを睨んだ。 「さ、触るぐらい構わないじゃないか…」 睨まれたギーシュは大人しく矢から離れた。 「それでいい…世界にそんな矢など…力など…要らないからな…」 ポルナレフはフッと溜め息をついた。 「あと、そこの棚の上の物も触れるな。矢とそれらはこの亀の持ち主の仲間の遺品だからな。」 「遺品…」 棚の上には大きなジッパー、ヘアピン、タマゴの殻みたいな帽子、ナイフ等が飾られてあった。 「…よければ聞かせてくれないか?」 「何をだ?」 「『持ち主』と『遺品』の話をさ。」 ギーシュは真剣に聞きたがった。だが、知りたがったのは『持ち主』や『遺品』ではない。 それはポルナレフが先程口走った『矢』と『力』のことであった。 ギーシュはグラモン家の末っ子として生まれたため、ルイズほどではないが、二人の兄にコンプレックスを抱き、実力で二人を越えたいと常日頃思っていた。 だが、ドットの彼に作れるのは青銅のゴーレム、ワルキューレのみ…まだ子供だからしょうがないのだがそれでもなお悔しかった。 だが、今さっき、何らかの『力』が矢にある、とポルナレフは仄めかした。ギーシュはそれが喉から手が出るほど欲しく思った。その『力』なら兄を、いやひょっとしたら父をも超えれるかもしれないと考えたからだ。 だが、ポルナレフの台詞からしてそのままじゃ明かしはしないだろうと考え、話を『持ち主』と『仲間』の話にすり替えた。 きっと『持ち主』やその『仲間』は『力』に関係している。なら、そいつらの話から推測すれば『力』の手に入れ方も明らかになるはずだ…と考えたのだが、 「だが断る」 「はい?」 「俺は最後ぐらいしか関わってなくてな。だからほとんど知らんのだ。話は聞いてはいるんだが、俺ごときが喋っていい物じゃあないしな。」 「そ、そんなあ…」 「それより先は長いぞ。少しでも寝て精力を蓄えろ。」 そう言って口惜しがるギーシュをよそにポルナレフはソファーの上で横になった。 To Be Continued...
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(あー、私ったら本当にご主人様失格だわ…) ポルナレフがキュルケの部屋で熱烈なアプローチを受けている時、ルイズは一人部屋で自責の念にかられていた。 あの時、亀とだけ契約したつもりが、何故かポルナレフも一緒に契約されルーンが刻まれてしまった。 とすれば直接契約していないとしてもポルナレフも亀同様に自分の使い魔のはずなのに自分はポルナレフだけを追い出した上にそのポルナレフに、使い魔は亀だけで良い、と言った。 実際本人も嫌々していたようだし、自分も平民付きより亀だけの方がずっと使い魔らしくていいと思う。 しかしポルナレフが言った大切な物が何かは知らないが、亀ごとそれを取り上げ、全く行く宛も無いのに追い出してしまうのは外道以外の何でもない。 それを本当にやってしまうとは自分はなんて最悪な御主人様なんだろうか。彼に謝って、亀を返そう…。 そう決意するとドアを開け、廊下に出た。 暗くなっていたので、とりあえず誰かに探すのを手伝って貰おうと考えたその時、キュルケの部屋のドアをぶち破って男が出て来た。 紫の眼帯、ハートが半分に割れたような金の耳飾り、そして立てた銀髪。 ルイズが探そうとしていたポルナレフ本人だった。 更に部屋の中に下着姿のキュルケが見えた。 そしてポルナレフもキュルケもほぼ同時にルイズに気付いた。 時が止まる。 「あああ、あんた達何やってんの…?」 ポルナレフは激しく後悔した。もっと早く逃げるべき、いや、そもそも入るべきじゃなかったと。 「こ…これはだな、その…俺がそこの小娘の使い魔に連れられてな、中で立ち話していただけだ。何もしていないぞ。な?」 ポルナレフはキュルケの方を向いて、弁護を要請したのだが、 「いやぁ、あんたの使い魔、中々情熱的だったわ。結構ガッシリした体つきしてるし期待してたけど、期待以上だったわ。また貸してね。」 キュルケはそう出鱈目を言うと、部屋に戻り服を着ると呆然としている二人を置いてどこかへ去っていった。おそらくドアの代わりになるものを探しに行ったのだろう。 「まさかとは思うが…あいつの言ったことを信じてないよな?俺はこう見えても30過ぎてて、あんな小娘の色仕掛けになんか…」 ポルナレフは必死になって弁明した。 「…もういいわ、見苦しい。言い訳なら部屋で聞く。」 そう言って踵を返し、部屋に戻って行った。明らかにキレていた。 それから二時間ほどルイズの部屋から、鞭が空気を裂く音、それをナイフで切り裂く音、ルイズの罵声、ポルナレフの悲鳴に似た叫びが響いてきた。 「ハァ……つ、つまりあんたは…ハァ…単に誘惑されてた…ハァ…だけって事?」 ようやくルイズは息を切らせながらも納得したかの様に言った。ちなみにルイズの周りには切られた鞭が散乱している。 「ハァ…ハァ…そういうことだ…。」 ポルナレフは憔悴しきった様子で言った。たとえガンダールヴでも二時間も切り合いしてたら疲れたらしい。(本人は知らないが) 「ハァ…ハァ…!それならいいわ。しかしツェルプストーめ…私の使い魔にまで手を出すつもり!?」 ルイズは苛々した様子で爪を噛んだ。 「やれやれ、なんだ?『まで』って?なんか前にもあったのか?」 ポルナレフはルイズに尋ねた。 ルイズはポルナレフに自分の実家ヴァリエール家とキュルケの実家ツェルプストー家の数世代に及ぶ奇妙な因縁を話した。 「…という訳よ。ただでさえ国境を挟んで隣あってるのに、そのせいでヴァリエール家とツェルプストー家は有り得ないぐらい仲が悪いの。」 「そのせいであんなに怒ったのか。てっきり独占欲かと思ったがな。ほら、飼い犬が他の人になつくとムカつくって奴だ。」 ポルナレフがうんうんと頷く。 「その通りよ。だからあんたも他の女だったらいいけど、ツェルプストーの女だけは駄目よ。あんたは私の使い魔なんだからね!」 ルイズはズビシッとポルナレフを指差した。 「分かった分かった。まあ、女遊びはもうとっくの昔に卒業したんだがな…」 ポルナレフは若い頃は遊びほうけていたが、ディアボロに追い詰められて以来隠者みたいな生活を送っていたため、欲をセーブ出来るようになっていた 「分かればいいのよ。」 ルイズはそう言うと大きな欠伸をし、ネグリジェに着替えだした。もう見慣れた光景なのでポルナレフは無視してとっとと寝ようと藁の方に近寄った。 「あ、そうそう。ポルナレフ、これ。」 ルイズが何かを投げて寄越した。それは亀の鍵だった。 「…どういう風の吹き回しだ?」 「あんたさっきその中に大切な物があるって言ったでしょ?だから返してあげるわ。 それと中で寝ることも許してあげる。そのかわり明日その藁を捨ててきなさい。」 「ああ…そういうことか。すまないな。」 もっとも鍵を取られていた理由がわからんがな、とポルナレフはひそかに思った。 「なんであんたが謝るのよ。むしろ…私こそ亀だけでいいとか言って…部屋から追い出して…その…ごめんなさい…」 ルイズは赤面しながらぼそぼそとだが、ポルナレフに謝った。 ポルナレフはそんなルイズの態度に一瞬ポカンとしたが、すぐに微笑んだ。 ルイズが恥ずかしがりながらも精一杯謝るその姿は、ポルナレフにはまるで妹か娘の様で実にほほえましかった。 そしてその晩、ポルナレフは久しぶりに亀の中のソファで熟睡した。 To Be Continued...
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任務を果たし、フーケは気絶している間に校舎内にある牢の中で捕縛しておいた。 ジャッジメントを出せても、本体が動けなければ脱獄は不可能、という理由でだ。 つまり手錠でフーケを柱に固定してあるのは決してオスマンの趣味でも性癖でもない。たぶん。 「なるほど、スタンドか…」 校長室で任務を終えてきた4人の話を聞く。 「なにか心当たりでもあるんですか?」 キュルケがオールドオスマンに尋ねる。 「うむ、ないことも無いが、明言は避けておこう…じゃが、近いうちに何か伝えられるよう努力しよう。 そして、『土くれのフーケ』捕縛の功で『シュヴァリエ』の爵位申請を、宮廷に出しておいた。追って沙汰があるじゃろう。 ただし、ミス・タバサはすでに『シェヴァリエ』の爵位を持っているからにして、精霊勲章の授与の申請をしておいた」 三人の顔が輝く。タバサは無表情のままだったが。 「本当ですか!」 キュルケが声を上げる。 「ああ、本当じゃ。そして君達は今日の『フリッグの舞踏会』主役も勤めてもらう。明日からもその勢いで勉学も頼むぞ。 とにかく、我が友人の命を守ってもらったことについて、心より感謝させてもらう」 全員が感謝を言葉をオールドオスマンに投げかけ、全員が部屋から出て行こうとする。 「おっと、ミス・ヴァリエールには話があるので残ってくれないかな」 部屋を出ようとしていたルイズは怪訝な顔をしつつも、きびすを返す。 ルイズ以外は部屋から出て行き、扉が閉まる音がする。 ルイズは不安そうに尋ねる。 「も…もしかして、退学ですか…?」 オスマンは吹き出す。 「カッカッカ、そんな心配は無用じゃ。第一退学になる生徒のために爵位申請などするものか!」 ルイズの表情が和らぐ。 「話というのは、君の使い魔のことじゃ。ワムウ、と言うらしいが…彼は何者なんじゃ?」 「は、はあ…私にも少ししかわかりませんが…どうやら異世界から来たらしくて…」 その答えにオスマンは驚く。 「なんと、異世界からとな…もしかして『地球』だとか『ドイツ』などとか言っていなかったかね?」 「『ドイツ』はわかりませんが…『地球』を知らないのか、と尋ねられたことはあります」 オスマンは少し考え込む。 「実はな、あの破壊の杖も、護衛を依頼した男も異世界…つまり『地球』から来たらしいのじゃ。わしも 彼にその話を伝えておくから、君からも詳しい話を使い魔君から話を聞いておいてくれ」 「は、はい、わかりました…善処はします…」 命令をまったく聞かない使い魔を問い質すなどできるのだろうか、という思いが強いが一応承諾はする。 「そして…もう一つ…驚くと思うが…あの使い魔のルーンは始祖ブリミルの使い魔の一体、『ガンダールヴ』のものじゃ。 なんでも、どんな武器でも自在に操ると言う。この事は基本的に他言無用じゃ」 「ほ、本当ですか!」 ルイズは驚いて、過去のワムウを思い出すが武器を握っていたのは武器屋にいったときだけで、使いこなしていた描写を 思い出せない、というかない。あのボロ剣が使い手、とか言っていたような気もするがあの剣はそこまで博識には見えない。 「ああ、本当じゃ…まあこの話題はおいておいて、そろそろ君も舞踏会を楽しんでくるといい、ご苦労じゃった」 「はい、それでは」 ルイズが出て行き、扉が閉まる。 「それにしても…異世界の住民…ワムウ…超人的…男の言っていた『柱の男』そっくりじゃ……偶然とは思えんし、 もしかするとミス・ヴァリエールはわしらが思っていた以上にとんでもないものを召還してしまったんじゃろうか… まるで爆弾じゃな…ミスタ・コルベールすら相手にならない以上、湿気ってることはないようじゃしな…」 オスマンはため息をつき、窓の外の二つの月を眺めた。 * * * 「あら、退学じゃなかったの?」 律儀にルイズを待っていたキュルケとそれに付き添っていたタバサ。 「大きなお世話よ、それよりワムウしらない?」 「あら、あなた自分の使い魔も呼び出せないの?」 「呼び出せるだけのただのサラマンダーとは違いますからね」 「あら、言ってくれるわね?」 「なんたって、私の使い魔はガンダ・・・」 他言無用と言われたのを思い出して口をつぐむ。 「ガ、ガンダムなみに強いんですからね!」 その発言にキュルケが固まる。 (な、なにを言っているのこの子…?ルイズはこんなときに意味の無いことを言うような女ではない!) 「ど、どうしたのキュルケ急に黙っちゃって…?タバサ、なんで黙ったかわかる?」 (『機動戦士ガンダム並に強い』…『軌道戦士並に強い』…『軌道は強い波で戦死』…『この星の軌道が崩壊』!? そ、そうか…そういうことだったのか!!またも関わることになるというのか!!ノストラダムスの大予言!) 「私にだって…わからないことぐらい…ある……」 「そ、そう…」 そこにギーシュが入ってくる。 「やあ!フーケを倒した立役者!主役!ギーシュの登場の時間だよベイビー!」 「ねえ、ギーシュ、ワムウ知らない?」 「ワムウかい?見なかったが…そんなことより舞踏会がもうすぐ始まるよ?遅れる前に着替えてきたほうがいいんじゃ…」 ルイズは壁の時計を見る。 「あああ!もうこんな時間じゃない!ワムウとあんたのせいよ!早く着替えてこないと!」 なぜか意味もなく突き飛ばされるギーシュ。 彼はつぶやく。 「やれやれ、僕の見せ場はまだかなあ…」 * * 「ヴァリエール公爵の息女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールのおなーーりーーッ!」 衛士がルイズの到着を告げ、楽師が音楽を奏で始める。 周りの男が群がるが、全員断りバルコニーに行く。 「あら、ワムウあんた来てたの」 バルコニーの先の木に立っているワムウ。 「騒がしかったんでな、なんの騒ぎだこれは」 ルイズに尋ねる。 「舞踏会よ、ちょっと任務で活躍してね、私たちが主役よ」 「そうか」 「なによ、少しくらい誉めてくれたっていいじゃない」 「引き受けた役目を終えるくらい当然だ」 「言ってくれるわね、あんた、あとで部屋にちゃんと着なさいよ、話があるから」 「気が向いたらな、それよりお前は主役なら踊らないのか」 「掌を返して媚を売るような奴らしかいない間はお断りよ」 「表面しか見ないような奴など爆発させればいいだろう」 「やあルイズとその使い魔、ごきげんよう。どうだい僕と踊らないかい?」 空気を読まずにギーシュが話に割り込んで来る。 「あら、丁度いいわね、ワムウの言う通りにしてみましょうか?」 「その役目は私よ」 モンモンラシーが腕を組んでギーシュの後ろに立っていた。 「あらモンモンラシー、私もちょっと一番働いてないのに主役ぶってるのがちょっと鼻についててね… 『抜きな! どっちが速いか試してみようぜ』……ってヤツだわ」 「え…ちょっと待っ…」 「『爆風』で『発破』すると書いて『爆発』!」「ビンゴォ!舌を引きちぎった!」 ギーシュはバルコニーから吹っ飛び、墜落した。 「ひでぶッ!」 ワムウがギーシュに呟く。 「しかし人間よ、これだけは覚えておけ。人間負けてしまったら負けだ」 なぜかワムウも一発殴る。 ギーシュ――完全敗北。
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「なあ、一つお願いしたいんだが…」 アルビオンに向かうために馬に跨ろうとするルイズにギーシュが問い掛ける。 「なによ」 「僕の使い魔を連れて行きたいんだけど」 「好きにしなさいよ」 ルイズは興味を失い、再度馬に跨ろうとする。 「わかったよ、おいで!僕のヴェルダンテ!」 ギーシュが使い魔の名前を叫ぶ。 ギーシュの数歩前の土が隆起し、大きなモグラが姿を現す。 大きさは直径60サント程度だろうか。 「なにこれ、ジャイアントモール?これがあんたの使い魔?」 ルイズが尋ねる。 「そうさ、ヴェルダンテと呼んでくれ!ああ、僕の可愛いヴェルダンテよ!僕とワルキューレとヴェルダンテの 心が一つになれば僕らの正義は100万パワーさ!」 「そう、じゃあ66万パワーで妥協しなさい」 「ど、どういう意味だね、それは。使い魔を連れて行っていいと言ったんじゃないのか?」 「そんな大きなの馬のどこに積むのよ」 「決まってるさ、こう見えても地中を掘る速度は馬にも負けないんだ」 ルイズはため息をつく。 「あんた、姫様の話聞いてなかったでしょ?私たちはアルビオンに行くのよ?これ以上なにか言うなら「ひと言」につき 一発殴るわよ。「何?」って聞き返しても殴る。クシャミしても殴るッ。動かなくても殴る。あとで意味もなくまた殴る」 「ちょっと待ってくれ、最後のはなんだ最後のは」 「問答無用よ」 ギーシュに華麗に左アッパーを決めたとき、なんと使い魔のヴェルダンテがワムウに襲い掛かった。 ワムウは一応手加減しつつも反射的に殴り飛ばし、地面にモグラが転がった。 「な、何をするだァーーッ!」 「それはこっちの台詞だ、急に飛び掛かるなら殴られても仕方が無いだろう」 「うーむ、昨日アンリエッタ姫から貰った指輪に反応したんだろうね、僕のヴェルダンテは優秀な使い魔だから宝石を…」 ルイズが右頬にフックを叩き込む。 「これ以上使い魔の自慢をやるようなら大好きな使い魔と寝ててもらうわよ、急いでるんだから」 ギーシュは頬を抑えながら立ち上がる。 「ルイズ、君なんか変わったなあ…それにしても君たち、僕と使い魔になにか恨みでもあるのかね?」 「ないけどあるわ、さあそろそろ行くわよ」 やっと一行が出かけようとしたとき、朝もやの中から一頭のグリフォンが飛来する。 「やれやれ…どうやら間に合ったようだな」 グリフォンに乗った長身の男は声を漏らす。 「誰だッ!」 それにワムウが襲い掛かろうとする。 「やめてワムウッ!その人は敵じゃないわ!」 「やあ、愛しのルイズ。君の一行なかなか屈強だね、少しビビってしまったよ」 長身の男は明るく笑いながら一行に声をかける。 「お忍びの任務であるゆえ、一部隊つけるわけにはいかない。そこで、姫殿下から僕が指名されたというわけさ」 「ワルドさま…」 ルイズが声を漏らす。 ワルドはルイズに近づき、抱き抱える。 そして、二人のほうを向く。 「自己紹介が遅れたな、魔法衛士団グリフォン隊隊長、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドだ、よろしく頼む」 ギーシュは肩書きを聞き、肩をわなわなとふるわせる。 「あ、あのグリフォン隊の隊長だって!? ワムウはギーシュに尋ねる。 「そんなにすごいのか」 「ああ、『背中に目がある』『心臓が核鉄だ』『血管にドーピングコンソメスープが流れている』だのなんだの 言われてるぜ、半分は冗談だろうがもう半分はそうでも言わないと説明できない精鋭部隊さ。そこの隊長だったなんて…」 ワムウは姫の護衛についていることから精鋭部隊であることは察していたが、実戦でもそこまで恐れられているとは 思っていなかった。 「お褒めの言葉ありがとう、同行する仲間であるし、君たちの自己紹介もお願いできるかな?」 「ギーシュ・ド・グラモンだ、系統は土、二つ名は『青銅』です」 「ワムウだ」 ワムウは低く呟く。 「ふむ、もしかしてあのグラモン元帥の親族かい?」 「ええ、末っ子です」 「なるほど、それは心強いな、僕のは風のスクウェア、二つ名は『閃光』、よろしく頼むよ。 そして、そこのワムウくんは……どうやらメイジではないようだが…」 ワムウが答える様子が微塵もないのを察したルイズが代わりに答える。 「私の使い魔です、ワルド様」 ワルドが感嘆の声を上げる。 「使い魔とは思わなかったな、さすが僕のルイズ、こんな屈強な使い魔を召還するなんて! さすが僕のルイズだ!それにしても、なんて頼りになりそうな一行なんだ、 僕も胸を借りるつもりで同行させて貰うよ。さあ諸君、ではそろそろ出発するぞ!」 ルイズはヴァルキリー、ワムウは巨馬、ギーシュはヘイ!ヤア!という馬(名前のセンスがないとルイズにバカにされた) ワルドはここまで乗ってきたグリフォンに再度跨り、一行はまずは港町、ラ・ロシェールへ駈けていった。 * * * ラ・ロシェールまでは早馬で2日ばかり。ルイズは特技である馬術を生かし、ワムウの巨馬はなぜかスタミナ切れ知らずだったため 数時間おきに休めばワルドのグリフォンにもそれほど離されなかったが、ギーシュの馬および本体はすでに疲れきっていた。 「最後に休んでからいったいどれだけ立っているんだ…ええい!彼らの馬は化け物か!」 「私の馬もいい馬だけど、それだけじゃないわ。私のは『技術』よ、馬術には未知の部分があるわ」 「だいたい、なんで君の使い魔の馬はあんなに大きいのになんで疲れないんだね! 馬力のある馬ほどすぐ疲れるはずなんだ……『エネルギー』使うからなあ…」 「歩幅も大きいんだから大して変わらないわよ」 「いや…おかしい…これは辻褄が合わないッ!これが現実ではないッ!ほら、誰もいないはずの谷だってのに明るいし…」 「ギーシュ、しっかりしなさい」 実際にその谷は明るくなっていた。崖の上から松明が投げ込まれ、無数の矢が飛んでくる。 「奇襲だぞ、君たち!」 ワルドが叫ぶ。 ギーシュに向かってくる矢をワルドの魔法が弾く。 「た、助かった…」 しかし、息をつく暇もなく、二の矢が飛んでくる。 今度はワムウが左手でデルフリンガーを抜き、ギーシュとルイズに飛ぶ矢を弾き、右手で自分に向かってくる矢をつかむ。 「やあ相棒、やっと俺の出番が…」 二の矢が終わると、デルフをしまい、矢をもったまま右手を後方にしならせ、矢を崖の上の敵に向かって射出する。 「MOOOOOOOO!!」 数本の矢がものすごい勢いでワムウの手から崖の上まで飛んでいき、数人の体を貫いた。 「ほお、やるね」 ワルドが驚く。 一行が次の攻撃に備えていたが、急に矢の弾幕が収まる。 「だ、弾幕薄いよー、な、なにやってんだ敵さんは」 ギーシュが震える歯で強がりを言う余裕があるのは次の攻撃が来なかったからである。 竜に乗った少女が崖の上の敵に向かって小型の竜巻を放つ。 もう一人の女性が武装解除を徹底したのち、崖から転がり落とすと竜はこちらに向かって降りてきた。 「シルフィード!」 ルイズが竜の名前を叫ぶ。 竜の上からタバサとキュルケが降りてくる。 「お待たせ」 こともなげに数人の武器を剥いだキュルケが降りてくる。 「お待たせじゃないわよ!何しにきたのよ!これはお忍びの任務なのよ!」 「お忍びだなんて言ってくれなきゃわかんないわよ」 肩をすくめるポーズをとる。 「とにかく、感謝しなさいよね。危ないところを救ってあげたんだから」 ケガで抵抗の出来ない兵士に対してギーシュがいつもの尊大な態度で尋問を始める。 「子爵、こいつらはただの物盗りのようです」 「ふむ、最近は盗賊の集団化も進んでいるらしいしな、懸賞金に興味は無いし急いでいるし放っておこう。 もうすぐラ・ロシェールだ、あそこで一泊して朝一番の便でアルビオンに向かおう」 そして、彼らはもう明かりが見えてきたラ・ロシェールに向かって駆け出した。 To be continued.
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人は運命に使役される使い魔である。 「・・・・・・あれ?」 その日は年に一度の恒例行事、使い魔召還の儀。 彼女、ルイズ・フランソワーズ・ル・プラン・ド・ラ・ヴァリエールもまたほかの生徒と同じく使い魔を召喚しようとして、 ”失敗”した? 「あれ? え? え?」 机の影に隠れてた生徒たちが顔を出す。彼らもまた驚いている。 ”ゼロのルイズ”たるルイズの失敗など日常茶飯事だと言うのに。 それもそのはず、”爆発”が起きてないからだ。 数多の平行世界の彼女であってもここで爆発しないということは絶対にありえない。そのはずなのだが。 「おっほん、ミス・ヴァリエール。これは召喚に失敗したと見てよろしいのですかね? 「ま、まって下さいミスタ・コルベール。ま、まだ失敗と決まったわけじゃ」 その時 ヒュ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ン ドグシャア!! 「おべがげべはぁ!」 「うわああああああ、いきなり岩が落ちてきたー! しかも運悪くギーシュが下敷き!」 「ああ、でも見てっ! ギーシュの足元にいたカエルはなぜか無傷」 「これが波紋なのか!?」 これが彼女と”運命”との邂逅であった。 「ええっと・・・とりあえずギーシュはすぐに医務室に運びました。気を失ってますが命に別状はないそうです。」 「うーむ、あれだけのダメージを負って気を失う程度なのか彼は・・・」 そりゃ天井からあのサイズの岩石が落ちてくれば普通即死だろう。 とりあえず自分の失敗で死人を出さなかったことに彼女は安堵した。 「ミスタ・コルベール、やはりこれは私の使い魔なのでしょうか?」 「そうですね、ゴーレムが呼び出されること自体はそう珍しくないので十分あり得るでしょう。 ・・・少々珍しいゴーレムのようですがね、彼は」 そう言ってコルベールは岩に目を向ける。 その岩は見れば見ること不思議な岩だった。 まず球体だ。ほぼ完全な。岩を完全な球体にするなど、どこぞの中国四千年くらいしかできるものではない。 そう考えるとやはりゴーレムの線が濃いだろう。 ゴーレムに手や足はなく、ただ一部に変な模様が刻まれていた。 「ミスタなんなんでしょうこの・・・四角の一本線が足りないのに×印がついたマークは」 「ふうむ、私も始めてみる紋章ですね。あるいは何らかの文字でしょうか」 コルベールは知的探究心を刺激されたのか岩のあちこちを触って感触を確かめている。 「ミスタ・コルベール、どうやって契約を行えば・・・」 「おっと、失礼。使い魔の契約は口付けが原則ですが生憎このゴーレムには口らしきものはありませんね。 仕方ありません。とりあえずどこでもいいので口付けをしてみて下さい」 由緒と伝統のある使い魔召還の契約の儀式がどこでもいいでよかろうんだろうか。 ルイズは多少不安になりつつもそっと紋章のちょっと上に口付けた。すると ペキ ペキペキ ペキペキペキ 「やった!」 岩の裏側に使い魔のルーンらしき文字が彫られていく。 つまりこれは正真正銘私が呼び出した、私の使い魔だ。 「よろしい。これで全員が使い魔を召喚できたことになりますな。よかったよかった」 「つまんないの。これでルイズだけ留年したりしたら面白かったのに」 キュルケが野次を飛ばすがルイズは気にしない。 「よろしくね・・・ええっとあなたの名前何にしようか」 「さぁとりあえず学校を案内するわついてきなさい。あなたの名前も考えないといけないし」 しかし岩はピクリとも動かなかった。 「ちょっと、聞いてるの?今更知らんふりしたって無駄よ。あなたが私の使い魔だってことは分かってるんだから」 やっぱり岩は動かない。 「むむむむむむむ・・・もしかして何か動かす方法があるのかしら」 ルイズは手を組んでうんうん考えたが特に何も思い浮かばなかった。 それはそうだ。ゴーレムの知識など彼女は0だからだ。ギーシュじゃあるまいし。 「とりあえずこのままにしてく訳にもいかないし・・・ああもう! 」 ゴーロ ゴーロ ゴーロ クスクス ゴーロ ゴーロ ゴーロ ゴーロ なにあれ? 知らないの? ゴーロゴー 「・・・っぷ、何やってるのあなた?」 「・・・うるさい」 「大変ねえ。レビテーションなんてコモンマジックすら扱えないと。手伝ってあげましょうか?」 「結構。私の使い魔の面倒は私が見るわ」 「あらそう。でも、どうすんのここから」 なんとかルイズは岩を寮まで運んだが、ここからは階段だ。 ルイズの細腕ではとても運べるものじゃない。 「・・・いいのよ!こいつは入り口においてく! どうせまた明日授業に連れて行くんだし」 「・・・あんた毎日それ押して授業受けに行く気?」 「私の勝手よ! いいからあっちに行って!」 キュルケを追い返し彼女も部屋に戻った。 「はぁ・・・なんなのよもう」 正直使い魔の契約が出来たとき彼女は有頂天だった。 爆発も起こさず使い魔を召喚できた。魔法の成功自体彼女の人生の中では快挙だった。奇跡だった。 呼び出せたのは多少変なのだったが、文句を言うレベルではない。 だからこそ他人の嘲笑に耐えてあそこまで岩を運んだんだから。 「ほんとに・・・私の使い魔なのかな」 彼女がもう一度大きなため息をつこうとしたその時 ゴト 「きゃっ!?」 誰かいるの? ルイズが振り向いたそこには 「・・・あんた、もしかして自分で来たの?」 いつの間にか部屋には岩が鎮座していた。 「なによ、動けるんなら最初からいいなさいよ、バカ」 彼女は岩をパシンと叩く。手が痛いだけだった。 「そだ、あんたの名前考えたわ。可憐で高貴で素晴らしい岩と言う意味の・・・『ローリングストーン』よ。かっこいいでしょ?」 「・・・・・・・・・・・」 無論岩がその名前に不平を言うことも不満を言うこともなかった。 むろん違うだろ、と言う突っ込みさえも。 「おはよう、キュルケ。いい朝ね」 次の日の朝、授業が始まる前にルイズはキュルケに挨拶した。 いつもは目すら殆どあわせないのだが。 「あら、おはようルイズ。あなたの大事な使い魔さんは運べたの?」 「ご心配なくこれこの通り」 ぽんぽんと足元をたたくルイズ。そこには岩が昨日と変わらずその身を晒していた。 「・・・使えるようになったの? レビテーション」 「使い魔が主人に付き従うのは当然のことでしょ? わざわざそんな必要はないわ」 といいつつルイズも実はよく分かっていなかった。 岩を動くところも彼女は見たことはないからだ。ただいつの間にか”岩は側に立っている”のだから。 食事のときもいつの間にか足元にいた。パンとスープを与えてみたがやはり食べることはなかったが。 なんと忠義に厚い使い魔だろうか。彼女はその程度にしか考えてなかったが。 「ふーん・・・まあいいや。ところで聞いた? あの話」 「あの話?」 「実はね・・・」 「はい、皆さん席について。授業を始めます」 シュブルーズが教室に入ってきたことにより、その話は中断された。 「皆さん、春の使い魔召喚は、大成功のようですね。おめでとうございます」 授業は滞りなく進んでいく。ルイズが爆発したことも含め。さいわいシュブリーズに怪我はなかったようだが。 おかげで授業は途中で取りやめになった。ルイズは罰として教室の後片付けを命じられた。 当然ローリングストーンは手伝ってくれるわけもないため一人で片付ける。 「はぁ・・・今度はうまくいくと思ったんだけどなあ」 やっぱり召喚の時のあれは偶然だったのだろうか。教室を片付けながらルイズ昨日つけなかった分のため息をついた。 「はぁ~~~やっぱルイズはこうでなくっちゃ。スッキリしないわ」 「あら、そう。じゃあ昨日の分を貸し付けて失敗して差し上げましょうか?」 「うわ、ちょちょちょ、冗談よ冗談。あ、それより聞いた? あの話?」 「あの話?」 そういえば授業の前もいってたな。 「何の話?」 「アルビオンってあるじゃん。あの浮遊大陸の」 そんなの知ってる。少なくともゲルマニアなんかよりもよっぽど親交が深い。 そういえばアルビオンは現在内戦中だったと聞いたがなにかあったのだろうか。 「あそこの王子様さ、死んじゃったらしいわよ」 「死んだ? 王国が滅亡したの?」 「いやそれがね」 ・ ・ ・ 「事故死なんだってさ」